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日本人アルツハイマー病の早期発見に有効な血漿バイオマーカー

 血漿バイオマーカーは、アルツハイマー病(AD)の診断において、アミロイドPETや脳脊髄液(CSF)バイオマーカーに代わる有望な選択肢となる可能性がある。慶應義塾大学の窪田 真人氏らは、ADの診断および病期分類における複数の血漿バイオマーカーの有用性について、日本人コホートを用いた横断研究により評価した。Alzheimer's Research & Therapy誌2025年6月7日号の報告。 評価対象とした血漿バイオマーカーは、Aβ42/40、リン酸化タウ(p-tau181/p-tau217)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)であり、それぞれ単独または併用により評価した。Aβ42/40の測定にはHISCLプラットフォーム、その他のバイオマーカーの測定にはSimoaプラットフォームを用いた。参加対象者は、アミロイドPET画像および神経心理学的検査に基づき、健康対照群、AD群(AD発症前段階、軽度認知障害[MCI]、軽度認知症)、非AD群に分類した。ROC解析により、AβPETの状態、センチロイド値(CL)と認知スコア、ADの各ステージにおけるバイオマーカーの比較を予測した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、健康対照群69例、AD発症前段階群13例、MCI群38例、軽度認知症群44例、非AD群79例。・AβPETの状態を予測するAUCは、Aβ42/40で0.937、p-tau217で0.926、p-tau217/Aβ42で0.946であり、DeLong検定の結果、これら3つの指標の間に有意な差は認められなかった(各々、p>0.05)。・認知機能正常群のAUCは、Aβ42/40で0.968、p-tau217で0.958、p-tau217/Aβ42で0.979であり、認知機能障害群のAUCは、Aβ42/40で0.919、p-tau217で0.893、p-tau217/Aβ42で0.923であった。・健康対照群およびAD群におけるCLとの相関は、Aβ42/40で−0.74、p-tau217で0.81、p-tau217/Aβ42で0.83であった。・健康対照群およびAD群において、Aβ42/40レベルは2峰性の分布を示し(カットオフ値:0.096)、PET陽性閾値32.9CLに対して19.3CLで高値から低値への変化が認められた。・p-tau217は、疾患進行とともに直線的な増加が認められた。・すべてのバイオマーカーは、論理記憶スコアとの強い相関が示された。 著者らは「血漿バイオマーカーであるAβ42/40とp-tau217、とくにこれらの比であるp-tau217/Aβ42は、AD診断におけるアミロイドPETの代替手法として大きな可能性を秘めていることが示唆された。HISCLプラットフォームベースの血漿Aβ42/40は、アミロイドPET画像診断よりも、より早期にAβ沈着を検出可能であり、早期診断マーカーとして有用であると考えられる」と結論付けている。

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『認知症になる人・ならない人』著者が語る「最も驚かれた予防策」とは?

 CareNet.comの人気連載「NYから木曜日」「使い分け★英単語」をはじめ、多くのメディアで活躍する米国・マウントサイナイ医科大学 老年医学科の山田 悠史氏。山田氏が6月に出版した書籍『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(講談社)は、エビデンスが確立されている認知症予防法や避けるべき生活習慣を、一般向けにわかりやすく紹介した1冊だ。エビデンスで示す“認知症の本当のリスク因子” 本書は、1. 認知症になる人の生活習慣2. 実は認知症予防に効果がないこと3. 認知症にならない人の暮らし方4. 認知症になったときの対応という章立てになっている。 1章の「認知症になる人の生活習慣」としては、・1日中座りっぱなし・タバコを吸う・塩分を摂り過ぎる・目や耳の老化による不調を放置するといった項目が並ぶ。 著者の山田氏は「本書で紹介した内容は、Lancet誌の認知症委員会が4年ごとにアップデートしている、認知症予防に関する情報を基にしています。長期にわたるエビデンスが確立している内容が中心なので、医療者の方にとって目新しいものは少ないかもしれません」と語る。 一方で、「部屋の換気をしない(と認知症リスクが上がる)」という項目は、読者からの反響が最も大きく、新鮮に受け止められたようです」と語る。ガスコンロを使ったときに発生するPM2.5や二酸化窒素などの微粒子、消臭スプレーや漂白剤などの使用によって屋内の空気に不純物が増える。多くの人は1日の4分の3程度を屋内で過ごすと言われており、通気性の悪い室内環境が脳血管疾患や生活習慣病を介して認知症と関係する可能性が示唆されている。そのため、こまめに換気をして屋内の空気を新鮮に保つことが重要になるという。 また、「1日に缶ビールを2本以上飲む」という項目も反響があったという。「お酒を飲み過ぎると、健康状態や認知症リスクに影響しそうだ、という意識はあっても、具体的な数値に落とし込んだことでインパクトがあったようです」(山田氏)。過去の研究によると、週に168g以上のアルコールを摂取する人はそうでない人に比べて認知症のリスクが約18%高くなるという。このアルコール量を換算すると、1日当たり350mLの缶ビール2本以上となる。「意識していなければすぐ超えてしまう量なので、お酒好きの方には知っておいてほしい。患者さんへの節酒のアドバイスの際にも取り入れてみては」(山田氏)。 ほかにも、「超加工食品」を食べ過ぎないことも、簡便かつ効果的な予防策として紹介されている。米国在住の山田氏は「米国では超加工食品が社会のすみずみまで浸透しており、すべてを避けるのは難しい。私自身もまずは目に付くソーセージやハム、ベーコンをなるべく避けるようにしている」と語る。「認知症予防にエビデンスがないこと」も紹介 本書では、認知症リスクを高める習慣と同時に、認知症予防にとって意味のないことも紹介している。ここでは、「プロバイオティクス」「オメガ3脂肪酸」「イチョウの葉エキス」などの具体例を挙げつつ、現時点では有意差を示す報告がないことを紹介している。また、健康食品などの宣伝文句に「エビデンスをすり替えた」ものがある点についても解説する。ほかにも「脳トレ」や「高価な自由診療の認知症検査」などについて、現時点での研究報告に沿ってエビデンスが低いことを紹介している。 「結局、認知症予防のために特定のサプリを大量に摂ったり、◯◯食だけを守ったりするよりは、野菜や果物、魚、全粒穀物などをバランス良く取り入れ、超加工食品や過剰な糖分・脂肪分を控える習慣をできる範囲で継続していくことの大切さが、エビデンスベースでも裏付けられているのです」(山田氏)。 本書の終盤では、「認知症になったあとの対応」にも触れている。家族のために認知症の段階を把握する指標、本当に入院が必要になるケース、介護のために必要となる費用の目安などが紹介される。ここでは、米国の「Hospital at Home」(HAH)の取り組みにも触れている。これは入院診療チームを自宅に派遣し、患者を自宅で“入院相当”の管理下で診るという仕組みだという。「日本ではまだ医療保険や介護保険制度上の制約が多く、実現は難しい点も多いものの、せん妄や生活機能低下を避けるためには自宅が望ましいケースも多い。今後の在宅医療を設計する上で参考になる点があると思う」(山田氏)。一般向けの内容だが、医療者にとっても自身のため、親のため、患者説明用の資料としてなど、さまざまな面で参考となる1冊となりそうだ。書籍紹介『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』

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難聴への早期介入には難聴者への啓発が重要/日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、本年11月15~26日にわが国で初めてデフ(きこえない・きこえにくい)アスリートのための国際スポーツ大会「東京2025デフリンピック」が開催されることを記念し、都内でスポーツから難聴を考えるメディアセミナーを開催した。セミナーでは、難聴のアスリートである医師の軌跡、高齢者と聴力と健康、難聴への早期介入の重要性などが講演された。 東京2025デフリンピックは、上記12日間の日程で都内を中心に、約80ヵ国のアスリート3,000人を迎え、21競技で開催される。医師として働き、はじめてわかった難聴の課題 「難聴者・アスリートそして医師としての道のり」をテーマに、難聴を有するバレーボールのアスリートである狩野 拓也氏(十全総合病院耳鼻咽喉科)が、デフリンピックの概要の説明と障害を持つ医師としての苦労などを語った。 デフリンピックは、1924年から開催され、パラリンピックよりも歴史は古い。出場条件としては、「裸耳で良聴耳が55dB以上であること」、「先後天性など難聴の種類は問わない」、「競技中に補聴器を使用しない」が必要とされる。競技ルールは健聴者競技とほぼ同じであり、競技開始はランプの点灯などで行われる。狩野氏は、過去2回バレーボール選手として、デフリンピックに参加している。 狩野氏は、先天性両側重度感音難聴を患い、生後半年から補聴器とともに過ごしてきた。そして、医師として働く中でマスク着用により相手の読唇ができないこと、電話対応、雑音環境での聴力の低下などに悩まされたという。そこで、2020年に左耳に人工内耳埋め込み手術を受けた。その結果、静寂下での話音明瞭度は術前31.7%だったものが術後88.3%へ、雑音下では術前13.3%だったものが術後48.3%へ向上したという。 狩野氏は終わりに「難聴には先天性のほか、遺伝性、薬剤性などさまざまな原因があり、その対策として薬物療法、外科手術、補聴器などがあるので、耳鼻咽喉科で適切な診断と対策を行ってほしい」と述べた。「聴こえない」は運動能力に悪影響をもたらす 「高齢者における聞こえと健康長寿」をテーマに桜井 良太氏(東京都健康長寿医療センター研究所)が、難聴が運動機能に影響を与え、健康のリスクとなることを説明した。 カナダからの報告では、加齢性難聴者が抱える問題では、「俊敏性」と「移動能力」が多く、5人に3人が足腰の機能に不安を感じているという。また、加齢性難聴の進行に伴い、歩行機能が低下するという自験例を報告した1)。 足音も重要な感覚情報であり、聞こえ方で歩き方が変わる、足音が失われると普段の歩き方ではなくなるという報告もある。そのほか加齢性難聴と転倒の関連について、13の研究(2万5,961例)のメタ解析では、転倒リスクは2.39倍増加するという報告もある2)。 その機序は、聴覚情報遮断により回避行動にばらつきが増大することで、転倒リスクが増加すると推定されるという。桜井氏は、これらの研究報告などから「早期に補聴器などの装用による運動面の改善をすることは、転倒への不安を和らげる可能性があり、安全で質の高い生活を実現するために重要」と示唆し、講演を終えた。わが国の難聴者の医師への相談率や補聴器の普及率は低い 「難聴医療におけるPathwayの課題と難聴への早期介入の重要性」をテーマに和佐野 浩一郎氏(東海大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 主任教授)が、高齢者が抱える難聴の課題と聴こえに対する治療について説明した。 一般に加齢とともに難聴は進行し、70代では1/4が、80代では1/2が中等度以上の難聴となるという自験例を報告した3)。 加齢性難聴になると社会的孤立やうつなどの疾患や転倒のリスク、フレイルへの進展などが懸念される。また、難聴の放置は「認知症」の最大のリスクであり、難聴への早期介入により発症を予防するまたは発症を遅らせることができるとされている4)。 加齢性難聴対策は、社会的疾病負荷の軽減や患者の身体的影響など考慮すると積極的に取り組むべき課題であるが、わが国の難聴自覚者からの医師への相談率は先進国の中でも40%止まりとかなり低い。 実際に難聴を有する人はどのように考えているのかについて、コクレア社が2024年にわが国を含む4ヵ国の25歳以上の成人4,000人(うち日本人1,200人)にアンケート調査を行った。日本人では「難聴を感じたとき」に「医師の予約をとる」が40%で1番多かったが、「何もしない」(高齢だから当然と診療をしない)が16%もいた。 補聴器や人口内耳については、「治療費が高い」が30%、「相談先がわからない」が23%、「加齢で仕方がない」が21%の順で多かった。重症度別の割合では、実際の難聴割合と自覚率の間に大きな差があることが判明し、難聴の自覚がない難聴者ほど心身の機能が低い傾向あることがわかった5)。 課題として高齢者の健康診断では聴覚検査が含まれておらず、問診すらされていないケースもあると和佐野氏は指摘し、「耳鼻科における早期からの適切な診断を一般化していきたい」と抱負を述べた。 また、わが国の補聴器の普及率は10%に満たず、先進国の中でもとても低く、欧米とのその差は現在も拡大している。 こうした現状から同学会では、「難聴を感じても耳鼻科を受診しない市民」、「難聴患者に補聴器を提案しない医師」、「必要な助成が整備されていない社会環境」、「質の高い調整を提供できていない補聴器販売店」の4つの「ない」の改善に取り組むとしている。そのために、2024年には『聞き取りづらさを感じて受診した患者さんに対する診療マニュアル』を作成し、補聴器での聞き取りに問題があれば人工内耳の手術の検討を勧めているほか、現在『軽中等度難聴に対する診療ガイドライン』を作成しているという。 この人工内耳手術については、アメリカでは100万例に対し544件が施行されているが、わが国は100万例に対し122件とその施行数も少ない上に、そもそも人工内耳を知らない人も多いという。人工内耳装用で高齢者は、聴力の変化により社会参加が増加し、フレイルの予防対策が進めやすくなるほか、良好な医療経済効果も期待できるという。 和佐野氏は、進行する加齢性難聴の放置はさまざまな問題につながる可能性があること、「年齢のせい」と考えずにまずは耳鼻科医に相談してほしいということ、医師からのアドバイスに応じて補聴器や人工内耳を装用することで、健康寿命を延ばすことができる可能性があることを挙げ、適切な診断に基づいた適切な介入が重要であることを強調して講演を終えた。■参考文献東京2025デフリンピック1)Sakurai R, et al. Gait Posture. 2021;87:54-58.2)Tin-Lok Jiam N, et al. Laryngoscope. 2016;126:2587-2596.3)Wasano K, et al. Biomedicines. 2022;10:1431.4)Livingston G, et al. Lancet. 2024;404:572-628.5)Sakurai R, et al. Arch Gerontol Geriatr. 2023;104:104821.

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WHO予防接種アジェンダ2030は達成可能か?/Lancet

 WHOは2019年に「予防接種アジェンダ2030(IA2030)」を策定し、2030年までに世界中のワクチン接種率を向上する野心的な目標を設定した。米国・ワシントン大学のJonathan F. Mosser氏らGBD 2023 Vaccine Coverage Collaboratorsは、目標期間の半ばに差し掛かった現状を調べ、IA2030が掲げる「2019年と比べて未接種児を半減させる」や「生涯を通じた予防接種(三種混合ワクチン[DPT]の3回接種、肺炎球菌ワクチン[PCV]の3回接種、麻疹ワクチン[MCV]の2回接種)の世界の接種率を90%に到達させる」といった目標の達成には、残り5年に加速度的な進展が必要な状況であることを報告した。1974年に始まったWHOの「拡大予防接種計画(EPI)」は顕著な成功を収め、小児の定期予防接種により世界で推定1億5,400万児の死亡が回避されたという。しかし、ここ数十年は接種の格差や進捗の停滞が続いており、さらにそうした状況が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって助長されていることが懸念されていた。Lancet誌オンライン版2025年6月24日号掲載の報告。WHO推奨小児定期予防接種11種の1980~2023年の動向を調査 研究グループは、IA2030の目標達成に取り組むための今後5年間の戦略策定に資する情報を提供するため、過去および直近の接種動向を調べた。「Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)2023」をベースに、WHOが世界中の小児に推奨している11のワクチン接種の組み合わせについて、204の国と地域における1980~2023年の小児定期予防接種の推定値(世界、地域、国別動向)をアップデートした。 先進的モデリング技術を用いてデータバイアスや不均一性を考慮し、ワクチン接種の拡大およびCOVID-19パンデミック関連の混乱を新たな手法で統合してモデル化。これまでの接種動向とIA2030接種目標到達に必要なゲインについて文脈化した。その際に、(1)COVID-19パンデミックがワクチン接種率に及ぼした影響を評価、(2)特定の生涯を通じた予防接種の2030年までの接種率を予測、(3)2023~30年にワクチン未接種児を半減させるために必要な改善を分析するといった副次解析を行い補完した。2010~19年に接種率の伸びが鈍化、COVID-19が拍車 全体に、原初のEPIワクチン(DPTの初回[DPT1]および3回[DPT3]、MCV1、ポリオワクチン3回[Pol3]、結核予防ワクチン[BCG])の世界の接種率は、1980~2023年にほぼ2倍になっていた。しかしながら、これらの長期にわたる傾向により、最近の課題が覆い隠されていた。 多くの国と地域では、2010~19年に接種率の伸びが鈍化していた。これには高所得の国・地域36のうち21で、少なくとも1つ以上のワクチン接種が減っていたこと(一部の国と地域で定期予防接種スケジュールから除外されたBCGを除く)などが含まれる。さらにこの問題はCOVID-19パンデミックによって拍車がかかり、原初EPIワクチンの世界的な接種率は2020年以降急減し、2023年現在もまだCOVID-19パンデミック前のレベルに回復していない。 また、近年開発・導入された新規ワクチン(PCVの3回接種[PCV3]、ロタウイルスワクチンの完全接種[RotaC]、MCVの2回接種[MCV2]など)は、COVID-19パンデミックの間も継続的に導入され規模が拡大し世界的に接種率が上昇していたが、その伸び率は、パンデミックがなかった場合の予想よりも鈍かった。DPT3のみ世界の接種率90%達成可能、ただし楽観的シナリオの場合で DPT3、PCV3、MCV2の2030年までの達成予測では、楽観的なシナリオの場合に限り、DPT3のみがIA2030の目標である世界的な接種率90%を達成可能であることが示唆された。 ワクチン未接種児(DPT1未接種の1歳未満児に代表される)は、1980~2019年に5,880万児から1,470万児へと74.9%(95%不確実性区間[UI]:72.1~77.3)減少したが、これは1980年代(1980~90年)と2000年代(2000~10年)に起きた減少により達成されたものだった。2019年以降では、COVID-19がピークの2021年にワクチン未接種児が1,860万児(95%UI:1,760万~2,000万)にまで増加。2022、23年は減少したがパンデミック前のレベルを上回ったままであった。未接種児1,570万児の半数が8ヵ国に集中 ワクチン未接種児の大半は、紛争地域やワクチンサービスに割り当て可能な資源がさまざまな制約を受けている地域、とくにサハラ以南のアフリカに集中している状況が続いていた。 2023年時点で、世界のワクチン未接種児1,570万児(95%UI:1,460万~1,700万)のうち、その半数超がわずか8ヵ国(ナイジェリア、インド、コンゴ、エチオピア、ソマリア、スーダン、インドネシア、ブラジル)で占められており、接種格差が続いていることが浮き彫りになった。 著者は、「多くの国と地域で接種率の大幅な上昇が必要とされており、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは大きな課題に直面している。中南米では、とくにDPT1、DPT3、Pol3の接種率について、以前のレベルに戻すために近年の低下を逆転させる必要があることが示された」と述べるとともに、今回の調査結果について「対象を絞った公平なワクチン戦略が重要であることを強調するものであった。プライマリヘルスケアシステムの強化、ワクチンに関する誤情報や接種ためらいへの対処、地域状況に合わせた調整が接種率の向上に不可欠である」と解説。「WHO's Big Catch-UpなどのCOVID-19パンデミックからの回復への取り組みや日常サービス強化への取り組みが、疎外された人々に到達することを優先し、状況に応じた地域主体の予防接種戦略で世界的な予防接種目標を達成する必要がある」とまとめている。

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月1回投与の肥満治療薬maridebart cafraglutide、体重を大幅減/NEJM

 月1回投与のmaridebart cafraglutide(MariTideとして知られる)は、2型糖尿病の有無にかかわらず肥満者の体重を大幅に減少させたことが、米国・イェール大学のAnia M. Jastreboff氏らMariTide Phase 2 Obesity Trial Investigatorsによる第II相試験で示された。maridebart cafraglutideは、GLP-1受容体アゴニスト作用とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体アンタゴニスト作用を組み合わせた長時間作用型ペプチド抗体複合体で、肥満症の治療を目的として開発が進められている。第II相試験では、2型糖尿病の有無を問わない肥満成人を対象に、maridebart cafraglutideのさまざまな用量、用量漸増の有無における有効性、副作用プロファイルおよび安全性が評価された。NEJM誌オンライン版2025年6月23日号掲載の報告。2型糖尿病の有無別に肥満者を11群に無作為化、52週の体重変化率を評価 研究グループは、11グループを含む2コホートを対象に、第II相の二重盲検無作為化プラセボ対照用量範囲試験を実施した。 18歳以上の肥満者(BMI値30以上または27以上で少なくとも1つの肥満関連合併症を有しHbA1c値6.5%未満、肥満コホート)を、maridebart cafraglutideの140mg、280mg、420mg(いずれも4週ごと漸増なし投与)群、420mg(8週ごと漸増なし投与)群、420mg(4週ごと投与で4週ごとに用量漸増)群、420mg(4週ごと投与で12週ごとに用量漸増)群またはプラセボ群に3対3対3対2対2対2対3の割合で無作為に割り付けた。 また、2型糖尿病を有する肥満者(肥満・糖尿病コホート)を、maridebart cafraglutideの140mg、280mg、420mg(いずれも4週ごと漸増なし投与)群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから52週までの体重変化率とした。体重変化、2型糖尿病なしは-12.3~-16.2%、2型糖尿病ありも-8.4~-12.3% 2023年1月~2024年9月に592例が登録された(肥満コホート465例、肥満・糖尿病コホート127例)。両コホートの各投与群間のベースライン特性は類似していた。 肥満コホート(女性63%、平均年齢47.9歳、平均BMI値37.9)において、treatment policy estimand(ITTアプローチ法)に基づく52週時におけるベースラインからの平均体重変化率は、maridebart cafraglutide投与群が-12.3%(95%信頼区間[CI]:-15.0~-9.7)~-16.2%(-18.9~-13.5)の範囲にわたり、プラセボ群は-2.5%(-4.2~-0.7)であった。 肥満・糖尿病コホート(女性42%、平均年齢55.1歳、BMI値36.5)において、treatment policy estimandに基づく52週時におけるベースラインからの平均体重変化率は、maridebart cafraglutide投与群が-8.4%(95%CI:-11.0~-5.7)~-12.3%(-15.3~-9.2)の範囲にわたり、プラセボ群は-1.7%(-2.9~-0.6)であった。また、本コホートにおけるtreatment policy estimandに基づく52週時におけるベースラインからのHbA1c値の平均変化(%ポイント)は、maridebart cafraglutide投与群が-1.2~-1.6%ポイントの範囲にわたり、プラセボ群は0.1%ポイントであった。 消化器系の有害事象がmaridebart cafraglutide群で多くみられたが、用量漸増および開始用量の低減により発現頻度は低下した。 安全性に関する新たな懸念はみられなかった。

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たこつぼ型心筋症の患者では再入院リスクが高い

 たこつぼ型心筋症は、精神的・肉体的なストレスに起因する新しい概念の心筋症である。今回、たこつぼ型心筋症の患者は一般集団と比較して再入院のリスクが高いとする研究結果が、「Annals of Internal Medicine」に3月25日掲載された。 たこつぼ型心筋症は、精神的・肉体的なストレスに起因する一過性の左室機能不全が特徴で、発作時の左室造影所見が「たこつぼ」に見えることから、1990年に日本で提唱された疾患概念である。この疾患では急性期を過ぎると、左室の駆出率は完全に回復するものの、発症後の長期生存率が低下することが報告されている。スコットランドのたこつぼレジストリ研究から、この長期生存率の低下は心血管疾患による死因に起因するという報告がなされた。しかし、たこつぼ型心筋症の回復後に生じる詳しい疾患とその重症度に関しては十分な調査が行われていない。このような背景から、英アバディーン大学およびNHSグランピアンのAmelia E. Rudd氏らは、コホート研究により、たこつぼ型心筋症患者の再入院率とその原因について調査を行った。 たこつぼ型心筋症の620人は、スコットランドのたこつぼレジストリより、2010年以降に診断された患者を無作為に抽出した。対照群は、最近傍マッチング法に基づき年齢・性別・地理的条件が一致するスコットランドの一般集団2,480人と、2013~2017年に実施されたHigh-STEACS Studyに含まれる急性心筋梗塞患者620人で構成された。再入院のハザード比(HR)と95%信頼区間(95%CI)はCoxの比例ハザードモデルより推定された。 入院総数1万2,873件のうち、再入院の発生率は、たこつぼ型心筋症患者で1,000人年あたり743件、スコットランドの一般集団で365件、心筋梗塞患者で750件だった。 次に、各群における再入院の原因を比較した。その結果、たこつぼ型心筋症の患者は一般集団と比較して、全原因による再入院リスクが約2倍高かった(HR 1.96〔95%CI 1.78~2.17〕、P<0.001)。特に、心筋梗塞(HR 3.11〔95%CI 2.11~4.57〕、P<0.001)、心不全(HR 4.92〔95%CI 3.06~7.93〕、P<0.001)、不整脈(HR 3.56〔95%CI 2.55~4.98〕、P<0.001)といった心血管疾患での再入院リスクが有意に高くなっていた。また、精神疾患、脳卒中、肺疾患、神経疾患、感染症、胃腸疾患、末梢血管疾患による再入院リスクも高かった。 一方で、たこつぼ型心筋症の患者を心筋梗塞の患者と比較すると、心筋梗塞(HR 0.27〔95%CI 0.19~0.38〕、P<0.001)、心不全(HR 0.55〔95%CI 0.37~0.83〕、P=0.004)、不整脈(HR 0.65〔95%CI 0.47~0.91〕、P=0.011)の再入院リスクは低くなっていたものの、脳卒中や心血管系以外の原因(精神疾患、肺疾患、がんなど)で再入院するリスクは同程度だった。 著者らは、「今回の結果により、たこつぼ型心筋症の患者では脆弱性が高まっていることから、退院時の適切なアドバイス、退院後の経過観察、そしてこの疾患特有の治療戦略を組み立てることの必要性が浮き彫りにされた。たこつぼ型心筋症とその他の心血管系疾患との共通点や違いを理解するには、さらなる研究が必要だ」と述べた。

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SGLT2阻害薬が脂肪肝の改善に有効か

 SGLT2阻害薬(SGLT2-i)と呼ばれる経口血糖降下薬が、脂肪肝の治療にも有効な可能性を示唆する研究データが報告された。慢性的な炎症を伴う脂肪肝が生体検査(生検)で確認された患者を対象として行われた、南方医科大学南方医院(中国)のHuijie Zhang氏らの研究の結果であり、詳細は「The BMJ」に6月4日掲載された。 論文の研究背景の中で著者らは、世界中の成人の5%以上が脂肪肝に該当し、糖尿病や肥満者ではその割合が30%以上にも及ぶと述べている。脂肪肝を基に肝臓の慢性的な炎症が起こり線維化という変化が進むにつれて、肝硬変や肝臓がんのリスクが高くなってくる。 一方、これまでに行われた複数の研究から、尿中へのブドウ糖排泄を増やすことで血糖値を下げるSGLT2-iに、脂肪肝を改善する作用のあることが示されている。ただしそれらの研究では、画像検査や血液検査によって脂肪肝の存在が推定される患者を対象としていた。それに対して今回報告された研究は、脂肪肝の中でも慢性炎症が起きている、よりハイリスクな状態である代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)を、生検によって診断した患者を対象に行われた。著者らによると、生検でMASHが確認された患者を対象としてSGLT2-iの効果を検討した研究は、これが初めてだという。 中国国内の三次医療機関6施設で、MASHと診断された成人154人をランダムに2群に分け、1群をSGLT2-iの一種であるダパグリフロジン(10mg)群、他の1群をプラセボ群として48週間介入した。参加者の平均年齢は35.1±10.2歳で、BMIは29.2±4.3であり、2型糖尿病が45%を占めていた。また、肝疾患の活動性を表すスコア(NAS)は6.0±1.1で、肝線維化ステージはF1が33%、F2が45%、F3が19%だった。 主要評価項目である、肝線維化の悪化(線維化ステージの進行)を伴わないMASHの改善(NASが2点以上低下、または3点以下になること)は、ダパグリフロジン群では53%、プラセボ群では30%に認められ、前者で有意に多かった(リスク比〔RR〕1.73〔95%信頼区間1.16~2.58〕)。また副次評価項目として設定されていた、肝線維化の悪化を伴わないMASHの寛解は、同順に23%、8%(RR2.91〔同1.22~6.97〕)、MASHの悪化を伴わない線維化の改善は、45%、20%であり(RR2.25〔1.35~3.75〕)、いずれもダパグリフロジン群に多く認められた。なお、有害事象によって治療を中止した患者の割合は、1%、3%だった。 著者らは、「われわれの研究結果は、ダパグリフロジンが肝臓の脂肪化と線維化の双方を改善し、MASHの経過に有意な影響を及ぼす可能性を示唆している。これらの効果を確認するために、より大規模かつ長期間の臨床研究が求められる」と述べている。

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夏の暑さから身を守る――救急医のアドバイス

 気温が高くなる夏季に、屋外に出なければならない――。そんな時に身の安全を守るための重要なヒントを、米ヒューストン・メソジスト病院の救急医であるNeil Gandhi氏が同院のサイト内に6月17日公開した。同氏は「この季節は、暑さに湿気、そして、しばしば異常気象が重なるため、事前の『備え』が特に重要な季節だ」としている。 Gandhi氏によると、「屋外で過ごすことには、心身の健康増進をはじめ、多くのメリットがある」という。しかし、夏季の屋外活動に関しては「リスクもあるため気をつけなければならない」と述べ、以下のような注意点を挙げている。 「猛暑の中に、いきなり飛び込まないことだ。屋外で活動を始めるには、慣れるまで少し時間を取ってほしい」。Gandhi氏はこのように語り、屋外活動を始めるに際しては、最初は短時間にとどめ、徐々に時間を長くしていき、体を暑熱環境に順応させるようにすることを勧めている。 また同氏は、「高温多湿な環境では発汗が増加するため、水分補給にも気を配る必要がある」と、脱水予防対策の必要性を指摘。その水分補給には、「水を飲むことが最も良い」とのことだが、「炭酸水、あるいはスイカなどの水分を多く含む果物も役立つ」と付け加えている。ただし、加糖飲料やアルコール類は脱水を助長する可能性があるため、避けることを推奨している。 Gandhi氏が次に着目するポイントは、衣類だ。暑い夏季に最適な衣類は、綿や麻などの通気性のある生地で作られた衣類だという。また、衣類は日焼け対策としても重要な意味を持つ。「日焼けはゆっくりと進行するため、重度になるまで気付かないこともある。肌に日焼け止めを塗った上に紫外線保護指数(UPF)の高い衣類を羽織れば、日光からの防御層をもう一層加えることになる」とアドバイスする。 さらに、体に熱が蓄積されて、熱中症のリスクが生じ始めている状態を認識することの大切さに言及。熱中症のハイリスク者として同氏は、屋外労働者や夏季のイベント・スポーツ大会に参加する人を挙げ、また小さい子どもや高齢者も該当するとしている。そして、めまい、筋肉のけいれん、意識の乱れ、発汗の異常といった、熱中症の警告サインに注意するよう呼び掛けている。 最後は、熱中症の警告サインを認めた場合の対応について。Gandhi氏は、「もし自分に警告サインが現れたり、そのような症状が現れている人を見かけたりしたら、すぐに涼しい場所に移動する/させること、水分を補給する/させること、症状が回復しない場合は医師の診察を受ける/させることだ」と話している。

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抗菌薬、点滴か内服かを選ぶ基準は?【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第7回

Q7 抗菌薬、点滴か内服かを選ぶ基準は?抗菌薬を投与する際、内服・点滴のどちらにするか悩むことがたびたびあります。 炎症数値が非常に高い場合などは点滴投与とすぐに決められますが、 微妙な数値の時などは結構迷います。

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洞性頻脈、心房頻拍を理解しよう!【モダトレ~ドリルで心電図と不整脈の薬を理解~】第5回

洞性頻脈、心房頻拍を理解しよう!Questionジギタリス中毒を起こすと、時として以下のように心臓内の刺激伝導が異常を来し、心房頻拍※と房室結節での刺激伝導の抑制を強める作用が混在して生じることがあります。では、ジギタリス中毒を生じて心房側が心房頻拍(150回/分)となり、房室結節は心房からの刺激伝導を2回に1回心室へ通すとしたら、どのような心電図波形となるでしょうか?※:その機序は静止電位が低くなること、活動電位持続時間の短縮、自動能の亢進に由来するとされますが、解説すると長くなり混乱必至ですのでここでは割愛します。画像を拡大する

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第271回 遅れた厚生労働省幹部人事、「保険局長案、官邸『NG』」報道を深読みする

保険局長の人事を巡って官邸と厚労省の間でひと悶着こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。参議院選が公示されました。全国紙いくつかの序盤の情勢分析によれば、自民党は苦戦中で議席を減らすものの50議席はなんとか確保、非改選議席75席を合わせて参院過半数の125席は超えそうだとのことですが、一方で大苦戦との報道もあります。選挙戦後半に向けて自民党はまだまだ気が抜けないようです。ところで、争点の一つの物価対策ですが、与党は消費税を堅持、野党は消費税減税・撤廃と対照的な主張をしている点が気に掛かります。社会保障(とくに医療)の持続可能性を考えれば、消費税の撤廃は到底考えられない選択です。「国民一律2万円給付」もどうかと思いますが、今回限りの“ワンショット”で済みます。かたや消費税減税・撤廃は税収減が中長期に渡って続くことになります。そう考えると、本当に“目先”しか見ていないのは野党に思えるのですが、皆さんいかがでしょう。さて、今回は参院選公示直前の7月1日に厚生労働省が発表した幹部人事について書いてみたいと思います。恒例の夏の中央官庁の幹部人事、厚労省は今回、他省庁よりも発表が遅れました。これに関連して7月2日付の日本経済新聞朝刊は「厚労省、人事発表遅れ 年金法案で国会が混乱 保険局長案、官邸『NG』」と題する興味深い記事を掲載しています。どうやら保険局長の人事を巡って官邸と厚労省の間でひと悶着あったようなのです。何があったのでしょうか?「高額療養費制度の見直し」、「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」、「2025年度診療報酬改定」などの難題を解決するには厚労省が推した“別の幹部”では力不足と判断か?7月1日に発表された厚労省幹部人事(7月8日付発令)の主な内容は、伊原 和人事務次官、次官級の迫井 正深医務技監、大坪 寛子健康・生活衛生局長が留任、保険局長に間 隆一郎年金局長、医薬局長に宮本 直樹審議官(健康、生活衛生、総合政策担当)、城 克文医薬局長は辞職、鹿沼 均保険局長は社会・援護局長に──というものでした。日本経済新聞の記事は、「他省庁より公表は遅れ、その背景には年金制度改革と高額療養費の負担上限引き上げを巡る先の国会での混乱があった。医療保険制度を担う保険局長の人事案を首相官邸側が突き返したもようだ」と書いています。国会での混乱とは、本連載の「第254回 またまた厚労省の見通しの甘さ露呈?高額療養費制度、8月予定の患者負担上限額の引き上げも見送り、政省令改正で済むため患者団体の声も聞かず拙速に進めてジ・エンド」、「第265回 “米騒動”で農水相更迭、年金法案修正、医療法改正案成立困難を招いた厚労相の責任は?」などでも詳しく書いた、年金制度改革法と高額療養費制度の見直しを巡って起きたドタバタ、言い換えれば厚労省の失策の数々を指します。同記事は、「厚労省は新任の年金局長について、先の国会で(年金制度改革)法案が成立した場合としなかった場合の複数案を抱えて官邸と調整した。不成立だった場合は、継続性を重視して現職の間隆一郎氏を留任させる腹づもりだったとみられる。(中略)法案は5月末に衆院を通過し、成立のメドが立ったことで間氏の続投は消えた。人事公表が遅れたもう一つの要因は保険局長の人選だった。新局長は間氏が年金局長からスライドすることになった。だが、厚労省はもともとは別の幹部を充てる考えだった。複数の政府関係者によると、官邸中枢が差し替えを指示したという」と書いています。来年に向けて保険局は、懸案の「高額療養費制度の見直し」に加え、三党合意で決定した「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」や「2025年度診療報酬改定」など重要な政策案件が目白押しです。それらの難題を解決するには、厚労省が推す“別の幹部”では力不足と判断され、年金制度改革法案をなんとか成立にこぎ着けた間氏に保険局長を任せることにした、ということのようです。厚労省が推した“別の幹部”は鹿沼・前保険局長か?では、厚労省が推した“別の幹部”とは誰だったのでしょう。具体的な名前についてはどこも報道していません。しかし理詰めで考えれば、高額療養費制度の見直しが決着していないことから継続して取り組ませようとした鹿沼・前保険局長(今回人事で社会・援護局長に横滑り)ではなかったかと想像されます。高額療養費制度の負担限度額引き上げは法律の改正は必要なく、政令改正で行える(国会での審議マターになりにくい)という“手軽さ”から削減候補となり、国もなるべく目立たないよう、コソコソと事を進めようとしました。社会保障審議会・医療保険部会の議題には挙げたものの患者団体のヒアリングを実施せず、閣議決定に至りました。その後、患者団体を含め各方面から猛反対が沸き起こり、最終的に患者負担上限額の引き上げは見送りとなりました。見送り決定直後、石破 茂首相は「検討プロセスに丁寧さを欠いたとの指摘を重く受け止めねばならない」と語りました。重要政策ゆえ最終決着まで任せるのが筋と考えられますが、さすがに“検討プロセスの丁寧さを欠いた”張本人である前保険局長に、もう任せておけないというのが官邸「NG」の理由だったとみられます。この件については、自民党や厚労大臣にも大きな責任があるはずです。とは言え、役人がまず責任を取るのは、“宮仕え”ゆえ仕方がないことかもしれません。保険局長と言えば、事務次官への最有力ポストと言われますが、これで筆頭候補だった前保険局長の事務次官への道はなくなったと考えていいでしょう。老健局長時代に介護報酬改定で訪問介護のマイナス改定を断行した間保険局長一方、新任の間保険局長は、逆に大きな責任を負うことになります。年金制度改革法の修正で味噌をつけたものの、保険局長として「高額療養費制度の見直し」、「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」、「2025年度診療報酬改定」をすべて成功裏に進めることができれば、事務次官の目も出てくるかもしれません。ちなみに間保険局長は、老健局長時代の2024年、介護報酬改定で訪問介護等にマイナス改定を断行した人物です。診療報酬よりも高い+1.59%という介護報酬の改定率を勝ち取った一方で訪問介護の基本報酬を下げ、さまざまな批判を浴びました。その是非論はさておいて、次期診療報酬改定においても大胆な改革を行うのではないか、という憶測も一部には出始めています。参院選後、秋から始まる診療報酬改定の議論の行方に注目したいと思います。

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看護師の貢献が病院経営を救う?【論文から学ぶ看護の新常識】第22回

看護師の貢献が病院経営を救う?看護師の経済的価値を検証した最新研究で、看護業務において最も大きな経済的インパクトを与える領域は、「健康教育」と「医療安全」であることが示された。Daniel Barcenas-Villegas氏らの研究結果であり、Journal of Nursing Management誌2025年3月19日号に掲載された。臨床看護師による病院の効率性と経済的持続可能性への貢献:システマティックレビュー研究チームは、看護専門職による病院の効率性と医療の持続可能性への貢献に関するエビデンスを分析することを目的に、システマティックレビューを行った。4つのデータベース(CINAHL、PubMed、Scopus、WOS)で2013年から現在までの英語およびスペイン語の研究を検索し、経済評価に関する一次研究およびシステマティックレビューを対象とした。質の評価にはCASPツール、CHEERSチェックリスト、STROBE声明を用いた。主な結果は以下の通り。3,058件の記録のうち、9件の研究(333,597例)が適格と判断された。病院が提供する健康教育は費用対効果が高く、1 QALY(質調整生存年)あたり10万ドル未満の費用に収まる可能性がある。看護の専門性、高度実践看護師、および医療安全への投資は、入院や病状悪化の数を減少させる。看護業務の中で最も大きな経済的インパクトを与える領域は、健康教育と医療安全であることが示された。看護の専門性と高度実践看護師の導入は、より経済的に持続可能なモデルを推進するために、医療システムが注力すべき分野であることも示された。近年の研究では、医療現場での看護師の貢献が、病院の効率性や経済的持続可能性の鍵を握ると示唆しています。これは、従来の「Evidence Based Medicine(EBM;根拠に基づく医療)」が重視する臨床的効果に加え、医療が患者にもたらす「価値」を費用対効果で測る「Value Based Medicine(VBM;価値に基づく医療)」の考え方に合致します。(EBM、VBMという用語自体は本論文中に直接記されていませんが、その概念は本研究の議論の基盤です。)その「価値」を定量化する主要指標が、QALY(質調整生存年)です。前回の記事でも解説がありましたが、今回はその具体的な考え方と、海外での評価基準について触れておきます。QALYは、生存期間だけでなく生活の質も加味して費用対効果を評価する指標であり、1QALYあたりにかかるコストが低いほど「費用対効果が高い」とされます。例えばオーストラリアでは、1QALYあたり3万~6万豪ドルが許容目安とされています。本研究では、「健康教育」や「医療安全」、「専門看護師および高度実践看護師(Advanced Practice Nurse:APN)」への投資が、入院や病状悪化の減少、ひいては医療経済への肯定的な影響、費用削減につながる可能性を強く示唆しました。APNは、特定領域でリーダーシップを発揮し、再発・再入院を減らすことでコスト改善に貢献しています。ただし、各国の医療制度や経済状況は大きく異なります。そのため、評価基準も多様であり、引用論文の一部には「結果を私たちの環境に適用できない」との指摘もあります。このため、結果をそのまま日本に適応することはできません。日本においても、看護師の専門性が医療経済に与える影響を、国内のシステムに即した形で具体的に評価し、その真の価値を引き出す戦略が必要不可欠だと考えます。論文はこちらBarcenas-Villegas D, et al. J Nurs Manag. 2025:3332688.

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日本の実臨床におけるフレマネズマブの2年間にわたる有効性と忍容性

 獨協医科大学の鈴木 紫布氏らは、日本の実臨床におけるフレマネズマブの2年間にわたる長期的な有効性と忍容性を明らかにするため、レトロスペクティブ観察単施設コホート研究を実施した。Neurological Research and Practice誌2025年6月3日号の報告。 対象は、フレマネズマブ治療を行った反復性片頭痛(EM)または慢性片頭痛(CM)患者165例。主要エンドポイントは、ベースラインから1〜24ヵ月までの1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD)の変化量とした。副次的エンドポイントは、片頭痛評価尺度(MIDAS)スコアの変化量、有害事象、治療反応率、治療反応予測因子、治療継続率。 主な結果は以下のとおり。・コホート全体におけるベースラインからのMMDスコアの変化量は、3ヵ月で−7.2±4.7日、6ヵ月で−8.1±6.3日、12ヵ月で−8.4±5.1日、24ヵ月で−9.6±6.0日であった(p<0.001)。・50%以上の治療反応率は、3ヵ月で57.0%、6ヵ月で63.6%、12ヵ月で63.5%、24ヵ月で69.0%。・全体、EM群、CM群のいずれにおいても、MIDASスコアの有意な低下が認められた。・月1回投与群と四半期ごとの投与群との間に、有効性の有意な差は認められなかった。・有害事象は13.3%の患者で発現(主に注射部位反応)、副作用のために治療を中止した患者は2.4%であった。・治療反応不十分患者、早期治療反応患者、超遅発的治療反応患者との間で、精神疾患合併、薬物乱用性頭痛、脈動性頭痛などの臨床背景の違いが認められた。・治療継続率は12ヵ月で73.5%、18ヵ月で65.4%、24ヵ月で58.0%であり、四半期ごとの投与群のほうが月1回投与群よりも治療継続率が高かった(p<0.001)。 著者らは「日本の実臨床において、フレマネズマブは、長期的な片頭痛予防に有効であり、忍容性も良好である」と結論付けている。

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PPI・NSAIDs・スタチン、顕微鏡的大腸炎を誘発するか?

 顕微鏡的大腸炎は、高齢者における慢性下痢の主な原因の1つであり、これまでプロトンポンプ阻害薬(PPI)や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、スタチンなどの一般的に用いられる薬剤との関連が指摘されてきた。しかし、スウェーデンで実施された全国調査の結果、これらの薬剤のほとんどは顕微鏡的大腸炎のリスクを増加させない可能性が示唆された。本研究は、Hamed Khalili氏(米国・マサチューセッツ総合病院)らの研究グループによって実施され、Annals of Internal Medicine誌オンライン版2025年7月1日号で報告された。 研究グループは、スウェーデンの65歳以上の住民280万例超の処方、診断、生検データなどを用いて本研究を実施した。本研究ではtarget trial emulationのデザインを用いて、顕微鏡的大腸炎との関連が指摘されているPPI、NSAIDs、SSRI、スタチン、ACE阻害薬、ARBの各使用群と非使用または代替薬使用群を比較した。主要評価項目は12ヵ月、24ヵ月時点における顕微鏡的大腸炎の累積発症率とした。 主な結果は以下のとおり。・すべての群において、12ヵ月、24ヵ月時点の顕微鏡的大腸炎の累積発症率は0.5%未満であった。・PPI(vs.非使用)、NSAIDs(vs.非使用)、スタチン(vs.非使用)、ACE阻害薬(vs.カルシウム拮抗薬)、ARB(vs.カルシウム拮抗薬)の使用は、顕微鏡的大腸炎の発症リスクを上昇させなかった。・12ヵ月時点における顕微鏡的大腸炎の発症リスクは、SSRI群がミルタザピン群と比較してわずかに高かった(リスク差:0.04%、95%信頼区間:0.03~0.05)。ただし、SSRI群は大腸内視鏡検査の施行率が高く、サーベイランスバイアスの可能性が示唆された。 本研究結果について、著者らは「顕微鏡的大腸炎の引き金となることが疑われてきた薬剤の大半について、因果関係を示すエビデンスは得られなかった」と述べている。

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呼吸機能のピークは何歳?

 呼吸機能は健康の重要な指標であるが、生涯を通じた呼吸機能の経過に関する知見は、年齢範囲が断片的なデータに基づいている。そこで、スペイン・バルセロナ国際保健研究所のJudith Garcia-Aymerich氏らの研究グループは、複数の大規模コホート研究のデータを統合し、4~80歳の呼吸機能の経過を解析した。その結果、1秒量(FEV1)および努力肺活量(FVC)は2段階の増加を示し、20代前半でピークに達した後、プラトーになることなく、ただちに低下し始めることが示された。また、1秒率(FEV1/FVC)は4歳から生涯を通じて低下し続けた。本研究結果は、Lancet Respiratory Medicine誌2025年7月号に掲載された。 本研究は、欧州とオーストラリアの一般住民を対象としたコホート研究8件のデータを統合した加速コホート研究である。呼吸機能、喫煙状況、BMI、喘息診断に関する2回以上の記録がある3万438例(女性1万5,703例、男性1万4,735例)を対象として、4~80歳のFEV1、FVC、FEV1/FVCの経過を調べた。 主な結果は以下のとおり。・FEV1とFVCはいずれも2段階の増加を示し、女性は20歳、男性は23歳でピークに達した。男女別のまとめは以下のとおり。【FEV1】女性:13歳まで234mL/年、その後20歳でピークに達するまで99mL/年の速さで増加し、以降は26mL/年の速さで低下した。男性:16歳まで271mL/年、その後23歳でピークに達するまで108mL/年の速さで増加し、以降は38mL/年の速さで低下した。【FVC】女性:14歳まで232mL/年、その後20歳でピークに達するまで77mL/年の速さで増加し、以降は26mL/年の速さで低下した。男性:16歳まで326mL/年、その後23歳でピークに達するまで156mL/年の速さで増加し、以降は42歳まで22mL/年、その後は36mL/年の速さで低下した。【FEV1/FVC】FEV1/FVC比は、男女共に4歳から生涯を通じて低下した。 ・喘息が持続している集団は、喘息歴のない集団と比較して、男女共にFEV1のピークが早期化した(女性:17歳vs.20歳、男性:19歳vs.23歳)。また、喘息が持続している集団は成人期を通じてFEV1が低く、生涯にわたりFEV1/FVCが低かった。喘息が持続している集団におけるFVCのピークの早期化は、女性のみで観察された(18歳vs.25歳)。・喫煙を継続する集団は、喫煙歴のない集団と比較して、男女共に30代半ば~後半からFEV1およびFEV1/FVCの低下が加速した。

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GLP-1/アミリン受容体作動薬amycretin、良好な安全性と忍容性、減量効果も/Lancet

 過体重または肥満の治療において、新規単分子GLP-1受容体/アミリン受容体作動薬amycretinは、安全な投与が可能で高い忍容性を有し、プラセボと比較して用量依存性に良好な体重減少効果をもたらす可能性があることが、デンマーク・Novo Nordisk A/SのAgnes Gasiorek氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年6月21日号で報告された。米国の単施設の無作為化プラセボ対照第I相試験 研究グループは、成人の過体重または肥満の治療におけるamycretinの安全性、忍容性、薬物動態特性、薬力学的効果の評価を目的に、米国の単施設においてヒトで初めての二重盲検無作為化プラセボ対照第I相試験を行った(Novo Nordisk A/Sの助成を受けた)。 本試験は4つのパート(パートA~D)で構成され、対象は年齢18~55歳の男女(妊娠可能女性を含む)で、パートAとBはBMI値25.0~34.9、パートCとDはBMI値27.0~39.9とした。 パートAは単回投与であり、6つの段階に用量を漸増した経口amycretin(1、3、6、12、18[12+6]、25mg)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けた(各用量群6例ずつ、プラセボ群12例、合計48例)。パートBは複数回投与であり、3つの段階に用量を漸増した経口amycretin(3、6、12mg)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けた(各用量群9例ずつ、プラセボ群9例、合計36例)。パートC/Dでは、3つの用量漸増投与法(パートC1:3mgから50mgまで、パートC2:6mgから2×50mgまで、パートD:3mgから2×25mgまで)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けた(C1、C2、D群は16例ずつ、プラセボ群12例、合計60例)。 主要エンドポイントは、1日目(ベースライン)の投与開始前から試験終了時の受診日(パートA:22日目、パートB:31日目、パートC/D:105日目)までの試験治療下で発現した有害事象(TEAE)の件数とした。TEAEは62%に、消化器症状が多い 2022年5月~2024年1月に144例(内訳は上記)を登録した。パートA~Dの全体で、TEAEは89例(62%)に364件発現した。内訳は、パートAが22例(46%)に53件、パートBが20例(56%)に69件、パートC/Dが47例(78%)に242件であった。TEAEの重症度はすべて軽度~中等度で、用量依存性に頻度が高くなった。 最も頻度の高いTEAEは消化器関連(364件のうち180件[49%])で、89例中72例(81%)に発現した。主な症状は悪心と嘔吐で、食欲減退もみられた。死亡の報告はなかった。また、amycretinの血漿濃度は、すべての治療群で用量比例性(dose proportionality)を示した。パートC/Dの全用量で、良好な体重減少 パートBでは、1日目から11日目に、プラセボ群と比較してすべてのamycretin群で大きな体重減少を認めた。パートC/Dでは、85日目の時点で、プラセボ群に比べすべてのamycretin群で優れた体重減少を確認した(体重の変化量のプラセボ群との差:amycretin 50mg群-9.2%[95%信頼区間[CI]:-12.0~-6.5]、同2×50mg群-11.8%[-14.6~-9.0]、同2×25mg群-11.1%[-13.8~-8.3])。 また、パートC/Dでは、85日目の時点でBMI値、ウエスト周囲長、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値、空腹時血漿グルコース値のいずれもが、プラセボ群に比べてすべてのamycretin群で改善した。 著者は、「このヒトで初めての第I相試験の結果は、amycretinの体重減少効果の特性に関して、さらに調査を進めることを支持するものである」としている。

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自転車に乗ることは認知症リスク低下と関連

 移動手段として定期的に自転車に乗ることは、あらゆる原因による認知症(以下、認知症)リスクの低下と関連することが新たな研究で明らかになった。自転車の利用は、記憶に関わる脳領域である海馬の体積が有意に大きいこととも関連していたという。華中科技大学(中国)同済医学院のLiangkai Chen氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に6月9日掲載された。 Chen氏らは、2006年3月13日から2010年10月1日までの間に収集されたUKバイオバンクのデータを用いて、移動手段と認知症リスクや脳構造との関連を検討した。対象者の総計は47万9,723人で、平均年齢は56.5歳、女性が54.4%を占めていた。参加者の移動手段は、「通勤・通学を除き、過去4週間において最もよく利用した移動手段は何ですか」という質問により調査されていた。その回答に基づき、1)車や公共交通機関などの非活動的移動手段を利用、2)徒歩、3)徒歩と非活動的な移動手段を併用、4)自転車単独および自転車と他の移動手段を併用、の4群に分類された。主要評価項目は、認知症の発症(若年性認知症と遅発性認知症を含む)、副次評価項目は、アルツハイマー病などの認知症のサブタイプや、MRIで評価された脳構造などであった。 中央値13.1年の追跡期間中に8,845人(1.8%)が認知症を発症しており、このうち3,956人(0.8%)がアルツハイマー病だった。解析の結果、自転車単独および自転車と他の移動手段を併用していた群では非活動的移動手段を利用していた群と比べて認知症リスクが19%(調整ハザード比0.81、95%信頼区間0.73〜0.91)、アルツハイマー病リスクが22%(同0.78、0.66〜0.92)、有意に低下していた。一方、徒歩で移動していた群ではアルツハイマー病リスクがわずかに上昇していた(同1.14、1.01〜1.29)。 研究グループは、「この結果は、活動的な移動手段、特に自転車の利用の促進が中高年の認知症リスクの低下につながる可能性があることを示唆している。認知機能の維持のために利用しやすく持続も容易な習慣を奨励することで、公衆衛生に大きなベネフィットがもたらされる可能性がある」と述べている。 ただし、自転車利用と認知症リスクの関連には、遺伝的素因(APOE ε4)保有の有無が影響することも示された。具体的には、自転車単独および自転車と他の移動手段を併用していた群の中でAPOE ε4を持たない人では認知症リスクが26%、遅発性認知症リスクが25%有意に低下していたが、APOE ε4を持つ人では、リスク低下は統計的に有意ではなかった。 さらに、脳のMRIスキャンデータが利用可能だった4万4,801人を対象に、移動手段と脳構造との関連を調べた結果、自転車の利用は海馬の体積が大きいことと関連していることが明らかになった。このほか、興味深いことに、車の運転は公共交通機関の利用と比べて、認知症に対してある程度の予防効果があることも示唆された。 本研究をレビューした米ノースウェル・ヘルス老年医療サービス部長のLiron Sinvani氏は、「自転車に乗ることは中等度から高強度の運動であり、バランス感覚も必要だ。ウォーキングよりも複雑な脳機能を必要とするため、認知症リスクの低減効果が高いと考えられる」と述べている。同氏はさらに、「単に、運動を習慣化すればいいわけではなく、どう生活するかを考えることが大切だ。つまり、どこかへ出かける際には車ではなく自転車を使うというように、活動的な移動手段をライフスタイルの一部として取り入れることが非常に重要になる」と述べている。 ただしこの研究は観察研究であり、自転車の利用と健康的な脳の老化の因果関係が明らかにされたわけではない。それでもSinvani氏は、「認知症のリスクを減らすための方法について患者や家族、友人から尋ねられるたびに、私は、『外に出て何かをするべきだ』と伝えている。身体活動だけでなく、バランス感覚を維持し、脳のさまざまな部分を活性化させることが大切だ」と話している。

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健康的な食事は体重が減らなくても心臓を守る

 健康的な食生活に改めたのに体重が減らないからといって、イライラする必要はないかもしれない。体重は変わらなくても、健康的な食生活により心臓の健康には良い影響を期待できることを示唆する研究結果が、「European Journal of Preventive Cardiology」に6月5日掲載された。 この研究は、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のAnat Yaskolka Meir氏らの研究によるもの。論文の筆頭著者である同氏は、「健康のために減量が欠かせないとわれわれは刷り込まれてきており、体重を減らせない人に負の烙印を貼ってしまいがちだ。しかし今回の研究は、食生活を改めることで、たとえ体重が減らなくても代謝が改善し将来の健康リスクを下げられることを示しており、これまでの捉え方を根本から変えるものだ」と述べている。 Meir氏らは、研究期間が18~24カ月に及ぶ3件の大規模な生活習慣介入研究のデータを統合して、食生活改善が体重や心臓の健康に影響を及ぼす検査値の変化を検討した。解析対象者は合計761人で、平均年齢は50.4歳、男性89%、介入前のBMIは30.1だった。研究参加者は、低脂肪食、低炭水化物食、地中海食などの食事スタイルにランダムに割り付けされていた。 介入前後での体重の変化は全体で-3.3kg(-3.5%)であり、-5%以上の体重減を達成した「減量成功群」が36%、体重が減らなかった(または増加した)「減量抵抗群」が28%、そして変化率-5~0%の群が36%だった。減量成功群は、心臓の健康に関する検査値も3群の中で最も大きく改善していた。しかし減量抵抗群であっても、内臓脂肪面積は有意に低下し(-7.15cm2、P<0.001)、HDL-C(善玉コレステロール)は有意に上昇(+1.16mg/dL、P=0.008)。また、脂肪細胞から分泌される食欲に関連するホルモンであるレプチンにも、有意な影響が認められた。 Meir氏は、「解析結果は介入による代謝の大きな変化を表しており、このような変化は心臓の健康に影響を及ぼし得る。つまり、体重が減らなくても、健康的な食生活には効果があることが示された」と述べている。 一方、この研究では、5%以上の減量達成に関連のあるDNAメチル化部位(遺伝子発現に関わる可能性のある部位)が12カ所特定された。この点について、論文の上席著者である同大学院のIris Shai氏は、「この発見は、同じ食生活を送っていても異なる反応を示す生物学的素因を持つ人がいる可能性を示している」と解説。そして、「減量に成功するか否かは、単に意志の力や自制心の問題ではなく生物学の問題と言え、われわれは今、その理解に近づきつつある」と付け加えている。

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HPVの自己採取検査の郵送は検診受診率を高める

 女性にヒトパピローマウイルス(HPV)感染の有無を調べるために、検体を自分で採取する自宅用検査を郵送で提供したところ、電話のみで検診を促す場合と比べて、子宮頸がん検診の受診率が2倍以上に増加したことが新たな研究で示された。論文の筆頭著者である米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのJane Montealegre氏は、「本研究結果は、自宅用検査が子宮頸がん検診へのアクセスを向上させ、ひいては米国における子宮頸がんの負担を軽減する解決策となる可能性を示している」と述べている。この研究の詳細は、「JAMA Internal Medicine」に6月6日掲載された。 子宮頸がんは、ほぼ全てがHPVによって引き起こされる。本論文の付随論評によると、米国では毎年約1万1,500人の女性が子宮頸がんと診断されている。その半数以上は、HPV検査を受けたことがないか、まれにしか受けていないという。クリニックでの子宮頸がん検診はほとんどの場合、骨盤の内診により行われるが、一部の女性はこの手法に不快感やストレスを感じる可能性があると論評は指摘している。また、検査を受けるための時間を確保し、クリニックまで行く方法を見つける必要もある。 HPVワクチン接種と医療機関での検診の普及によって子宮頸がんの罹患率は大幅に低下したものの、人種や地域、所得による格差は根強く残っている。2025年5月、米食品医薬品局(FDA)は、子宮頸がんの初の自宅用検査を承認した。今回の研究は、この検査がリアルワールドでどのように機能するかを調べる目的で実施された。対象は、米ヒューストン地域在住の30〜65歳の女性2,474人(平均年齢49歳)で、そのほとんど(94%)は人種・民族的マイノリティに属していた。研究グループはこれらの女性を、1)医療機関での子宮頸がん検診受診を促す電話をかける、2)電話に加え自宅用検査キットを郵送する、3)電話と検査キットの郵送に加え、キットが返送されない場合にフォローアップの電話をかける、のいずれかの群にランダムに割り付けた。 ランダム化から6カ月後での子宮頸がん検診の受診率は、電話のみの群では17.4%(144/828人)であったのに対し、電話+キット郵送の群では41.1%(340/828人)、電話+キット郵送+フォローアップ電話の群では46.6%(381/818人)であったことが明らかになった。受診率は、電話のみを受けた群に比べて、電話+キット郵送の群では2.36倍、電話+キット郵送+フォローアップ電話の群では2.68倍高かった。 検査キットを郵送され検診を受けた女性のうち、84.6%(609/721人)が自己採取した検体を返送していた。それらの女性の13.8%(84/609人)は高リスク型HPV検査で陽性反応を示し、追加検査が必要になった。 Montealegre氏は、「米国で自宅用HPV検査が利用可能になるにつれ、それをどのように展開していくかの指針となるデータを集めることが極めて重要になる」と述べ、医療を受ける障壁が最も高い人々をケアする診療所や医療センターでこの検査を利用できるようにすることの重要性を強調している。 研究グループは今後、さまざまなプライマリケアの現場にこの検査をどのように統合するかを検討する予定だ。付随論評を執筆した米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のEve Rittenberg氏は、「自宅用HPV検査の目下の課題は、臨床の現場で安全かつ効果的に導入するための方法だ。特に、異常な結果が出た場合に、臨床医と医療制度がどうすれば適切なタイミングでフォローアップ検査と治療を提供できるかについては明確になっていない」と述べている。

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がんサバイバーの脳卒中・心血管死リスク、大規模コホート研究で明らかに

 がんと診断された人(がんサバイバー)は、そうでない人と比較して心血管系疾患(CVD)を発症するリスクが高いことが報告されている。今回、がんサバイバーの虚血性心疾患・脳卒中による死亡リスクは、一般集団と比較して高いとする研究結果が報告された。大阪大学大学院医学系研究科神経内科学講座の権泰史氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association;JAHA」に5月15日掲載された。 近年、医療の進歩により、がん患者の生存率は大幅に向上している。しかし、その一方で、CVDが新たながんサバイバーの懸念事項として浮上している。CVDはがんサバイバーでがんに次ぐ死因であることが明らかになっており、疫学研究では、CVDによる死亡リスクが一般集団の約2倍であることも報告されている。従来の研究では、CVD全体による死亡リスクが調査されてきたが、特定のCVDに焦点を当てた研究は限られていた。そのような背景を踏まえ、筆者らは「全国がん登録(NCR)」データベースを用いて、国内のがん患者におけるCVDによる死亡リスクを調査するコホート研究を実施した。CVD全体のリスク評価に加え、虚血性心疾患、心不全、大動脈解離・大動脈瘤、虚血性脳卒中、出血性脳卒中といった特定のCVDについても解析を行った。 解析対象は、NCRデータベースに含まれる、2016年1月~2019年12月の間にがんと診断された患者とした。対象者の死因は、国際疾病分類第10版(ICD-10)に基づき、死亡診断書に記載された情報からNCRに登録されたコードを用いて特定された。がん患者と一般集団のCVD死亡リスクを比較するため、標準化死亡比(SMR)とその95%信頼区間(CI)を算出した。また、特定のCVDにおいてもがん種ごとのSMRを算出した。 本研究には397万2,603人(うち女性は45.8%)の患者が含まれ、621万2,672人年の追跡調査が行われた。CVDのSMRは2.39(95%CI 2.37~2.41)で、がん患者は一般人口集団と比較してCVD死亡リスクが2.39倍高かった。SMRは男性より女性で高くなっていた。CVD死亡リスクをがん種別にみると、全てのがん種でSMRが1.0を超えて上昇していた。SMRは非リンパ系造血器悪性腫瘍が最も高く(4.32〔95%CI 4.15~4.50〕)、前立腺がんが最も低かった(1.52〔95%CI 1.48~1.57〕)。 次にがん種ごとに特定のCVDのSMRを調べた。その結果、特定のCVDのSMRはがん種によって異なることが明らかになった。虚血性心疾患と心不全では非リンパ系造血器悪性腫瘍のSMRが最も高かった(それぞれ3.15〔95%CI 2.87~3.45〕、7.65〔95%CI 7.07~8.27〕)。虚血性脳卒中、大動脈解離・大動脈瘤、出血性脳卒中ではそれぞれ膵臓がん(5.39〔95%CI 4.79~6.05〕)、喉頭がん(3.31〔95%CI 2.29~4.79〕)、肝がん(3.75〔95%CI 3.36~4.18〕)のSMRが最も高くなっていた。 本研究の結果について著者らは、「がん患者はCVDによる死亡リスクが高く、非リンパ系造血器悪性腫瘍ではその傾向が顕著だった。また、死亡リスクは、がんの種類やCVDの種類によって大きく異なることが明らかになった。特定のがん種と心血管疾患関連の死亡率との関連性を理解することは、高リスク集団を特定し、がんサバイバーに対する長期的な管理戦略の策定に役立つだろう」と述べている。 本研究の限界点については、NCRに記載のICD-10コードはまれに不正確であること、本研究が観察研究であり、がんとCVDの因果関係を確立するできないこと、などを挙げている。

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