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湿布と間違えた!何の中毒?【中毒診療の初期対応】第11回

<今回の症例>年齢・性別89歳・女性患者情報アルツハイマー型認知症および高血圧にて、精神科クリニックで1日あたりリバスチグミン貼付薬18mgおよびアムロジピン5mgを処方されていた。救急搬送2日前に腰痛を訴えたため、長女と整形外科クリニックを受診しケトプロフェンテープ40mg 10袋(7枚入り)、およびアセトアミノフェンが600mg分2(28日分)で処方されていた。搬送当日の16時頃、長女が買い物から帰宅すると、意識が朦朧とし嘔吐を繰り返していたため、救急要請された。初診時(17時)は気道開通、呼吸数20回/分、SpO2 96%(室内気)、血圧166/94mmHg、心拍数128bpm、意識レベルJCS20、瞳孔左右1.5mm同大、対光反射±、体温36.6℃であった。傾眠状態で、嘔吐を繰り返し、発汗著明、便失禁を認めた。腹部の聴診では腸蠕動音の亢進を認めた。検査値・画像所見末梢血では、WBC 12.40×103/mm3、Hb 12.8g/dL、Ht 36.6%、Plt 124×103/mm3、生化学検査では、TP 7.3g/dL、AST(GOT)16IU/L、ALT(GPT)14IU/L、LDH 146IU/L、CPK 68IU/L、AMY 242IU/L、Glu 124mg/dL、BUN 11mg/dL、Cr 0.7mg/dL、Na 140mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 102mEq/L、血清コリンエステラーゼ(ChE)52IU/L、動脈血ガス(室内気)では、pH 7.382、PaCO2 40.2Torr、PaO2 78.3Torr、HCO3- 22.4mmol/L、BE -1.2mmol/L、乳酸値2.0mmol/Lであった。頭部CTでは中等度の脳萎縮を認めた。心電図では洞性頻脈を認めた。<問題1><解答・解説はこちら>1. リバスチグミン臨床症状および血清ChE値の低下によりリバスチグミン中毒を疑って全身検索したところ、腰部にリバスチグミン貼付薬18mgが計12枚貼られていた。直ちにすべてを除去し、輸液療法のみで経過観察した。翌日の9時には気道開通、呼吸数14回/分、SpO2 96%(室内気)、血圧146/82mmHg、心拍数72bpm、意識レベルJCS 0、瞳孔左右3.5mm同大、対光反射+、体温36.2℃となり、下痢、嘔吐、発汗も消失した。薬は長女が管理していたが、長女の留守中に腰痛がひどくなり、リバスチグミン貼付薬を見つけて、誤って大量に貼付したと推測された。長女に薬の管理を徹底するように促して第3病日に軽快退院となった。神経終末より遊離したアセチルコリン(ACh)はアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によってコリンと酢酸に分解される。リバスチグミンなどのカーバメートはAChEの活性部位を構成しているセリンの水酸基にカルバミル基を結合させてカルバモイル化することによってAChEを失活させる。ただし、この反応は可逆的で、しばらくすると自然に加水分解されて、カルバミル基がとれて脱カルバモイル化されるので、アセチルコリンエステラーゼの活性は、数分から長くても6時間で自然回復する。AChEが失活すると、自律神経系、神経・筋接合部、中枢神経系の神経終末でAChが蓄積してムスカリン性およびニコチン性ACh受容体が過剰刺激されて、ムスカリン様症状、ニコチン様症状、および中枢神経症状が生じる。これらは急性コリン作動性症候群(Acute cholinergic syndrome)と呼ばれている(図1)。(図1)急性コリン作動性症候群画像を拡大するただし、非可逆的にAChEを失活させる有機リンに比べて、重症度は低く、症状の持続時間は短い。また、カーバメートはAChEのみならずChEの活性も低下させるが、血清ChE値は有機リンのように著明に低下せず、低下または正常範囲である(表1)。(表1)有機リン中毒とカーバメート中毒画像を拡大する解毒薬・拮抗薬として、アトロピン硫酸塩がある。これはムスカリン受容体拮抗薬であるので、ムスカリン様症状にのみ有効である。気管支分泌物の増加や気管支攣縮による喘鳴を認めれば重症度に応じてアトロピン硫酸塩2~4mg(小児では0.05~0.10mg/kg)をボーラスで静注する。その後は気管支分泌物量や喘鳴が改善するまで15分ごとに繰り返し投与する。有機リン中毒に比べて、カーバメート中毒に要するアトロピンの総投与量は少ない(表1)。なお、第4回で取り上げた有機リンのうち、基本構造P=S結合のあるものは、肝臓で代謝されてP=O結合となりAChEと反応するため、毒性の発現は遅延する。しかし、カーバメートは代謝産物ではなく、そのものがAChE阻害作用を持つので毒性の発現は速い。本症例では、縮瞳、下痢、嘔吐、発汗、腸蠕動音亢進といったムスカリン様症状、頻脈、高血圧といったニコチン様症状、傾眠といった中枢神経症状を認めた。一方で、気管支分泌物の増加や気管支攣縮による喘鳴はみられなかったため、アトロピン硫酸塩を使用せずに輸液療法のみで経過観察し、翌日には中毒症状は消失した。リバスチグミン中毒の過去の症例報告でも、頻脈および高血圧といったニコチン様症状はよく見られている。 1) 上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.

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尿管結石を見抜く最強ツール、「CHOKAIスコア」の使い方【おなかが痛い!そのときどうする?】第7回

尿管結石を見抜く最強ツール、「CHOKAIスコア」の使い方※この連載は動画・スライド制作等にAIを使っています。理解度確認テスト(動画を見終わったらトライしてください)正解はこちら日本で開発された精度の高い予測スコアです。(動画の内容を、一部修正・編集し、テキスト化しています)皆さんこんにちは。札幌医大の三原です。「【3分動画】お腹が痛い!そのときどうする?専門医が教える初期対応ガイド」をはじめます。【症例1】医師「項目をチェックして、結石の確率を計算します」三原尿管結石の可能性をスコアリングできるという話題でしょうか。次の症例です。【症例2】医師「6点以上なので尿管結石の確率が高いです。非造影CTで確認しましょう」患者「お願いします」三原6点以上で尿管結石の可能性が高いと。そして、造影CTではなく、単純CTでよいだろうという判断がなされました。最後の症例です。【症例3】患者「背中から横腹が痛いです…」看護師「すぐに痛み止めを使いますね」三原早く診断が付けば、早くより適切な痛み止めが使えるという話ですね。本日は尿管結石を見抜く最強ツール、「CHOKAIスコア」の紹介です。尿管結石は急性腹症の中で非常に頻度が高く、側腹部痛と血尿が典型所見です。今回、日本人のデータに基づいて開発された診断予測スコアの「CHOKAIスコア」を紹介したいと思います。このスコアは全7項目です。1.嘔気・嘔吐(1点)2.水腎(腎盂拡張)(4点) ※POCUSで確認★重要3.尿潜血(3点)4.尿管結石の既往(1点)5.男性(1点)6.60歳未満(1点)7.6時間以内に疼痛軽減(2点)これで計算します。6点以上であれば尿管結石の可能性が極めて高く、画像検査は不要または単純CTで確認、という判断になります。尿管結石以外の疾患の可能性は低い、という判断です。POCUSを「門番」として活用しましょう。 CTの適応判断として、初期5分の診察とPOCUSが役立ちます。 典型的な結石像があれば、鎮痛を優先し、不要な造影CTによる被曝を避けることができます。「単純CTも撮らない」という選択肢もあるかもしれません。まとめ尿管結石は「CHOKAIスコア」で確率を定量化できる。基準は6点以上であれば高確率。診断の確定が必要であれば、非造影CTで確定させる。造影CTは必ずしも要らない。POCUS(水腎症の確認)を組み合わせることで診断精度が最大化する。ここでもPOCUSの重要性が示唆されています。以上です。

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乳がん治療の変遷と今後【温故知新30年】

講師紹介30年間における乳がん患者数の急増と社会現象30年前(1996年)、私は名古屋市立大学外科医局で乳腺内分泌外科の助手をしていた。その当時、大学の乳がん症例は年間30例ほどであり、着任したばかりの胸部外科の教授との面談で、「将来は乳腺診療一本でやっていきたい」と話をしたら、「乳腺を専門にするだけではやっていけないよ」と諭された。その後、乳がん患者数の急増により、生涯で女性の8人に1人が乳がんになり、年間の新規乳がん患者数は10万人を超える時代になった。乳がんに対する学会活動も、30年前は日本乳学会の黎明期であり(1993年が第1回学術総会)、日本臨床腫瘍学会はまだ産声を上げていなかった。対策型乳がん検診にマンモグラフィ(MMG)が導入されたのは2000年であり、30年前は視触診のみ行われていた。しかし、患者数の増加とともにさまざまな市民活動が始まった。MMG検診普及事業と連携して海外で行われていたピンクリボン運動が2002年に朝日新聞主催で開始された。MD Andersonなど米国のCancer Centerから導入されたチーム医療の考え方は瞬く間に日本中に広がり、今では常識的な体制になっている。2013年に女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)でリスク低減乳房切除(RRM)を受けたことをきっかけに、HBOCの認知度が高まり、それとともに学会活動(2016年 日本遺伝性乳卵巣総合診療制度機構[JOHBOC]設立)も始まった。HBOC診断のためのBRCA遺伝学的検査、RRM、リスク低減卵巣卵管切除(RRSO)の保険適用などは日本独自の画期的な取り組みである。がん医療の進歩は治療だけでなく、取り巻く社会環境、医療環境も大きく変化したと感じる。30年前の標準治療(架空症例)【症例】60歳女性、しこりを自覚して外科を受診【診断】視触診、MMG、超音波検査でしこりを認識し、摘出生検で乳がんと診断【治療(手術)】腋窩リンパ節腫大はないが、乳房全摘術+腋窩郭清術を施行【病理結果】浸潤径:2cm、腋窩リンパ節転移:1/25、ER陽性・PgR陽性(HER2測定は標準的に行われていなかった)【治療(薬物療法)】術後は再発予防のために、AC療法(アドリアマイシン+エンドキサン)4回点滴投与し、その後TAMを2年間内服。術後は1年ごとにCT、骨シンチなどで再発チェックを行う30年間の局所治療の進歩1)手術療法の進歩30年前は、乳がんであれば全例腋窩郭清術が行われ、多くの患者さんが術後上腕浮腫の合併によりQOLが低下した。革新的な進歩はセンチネルリンパ節生検(SLNB)の導入である。米国で開始されたSLNBの概念は1998年に日本へ紹介され、2003年に先進医療として開始、2010年に保険承認された。その後SLNBの適応が少しずつ広がり、一部の症例ではSLNB陽性でも郭清しないことが標準治療となっている。乳房に対する手術療法の変化は、1990年代後半から2000年代前半にかけて乳房温存療法が急速に広がったことだ。背景には乳房部分切除+放射線治療の有効性が国際的に確立したこと、ガイドラインの普及、検診MMGの導入で小さながんが発見されるようになったことが挙げられる。同時に、マスコミは温存率の高い病院を『いい病院』とするようなキャンペーンを打ち上げた。これにより各病院は温存率を上げるために、無理をして乳房を残し(温存率90%の病院もあった)、結果として断端陽性症例が増加し、乳房内再発例が増えたことは負の歴史である。その後は全摘+再建術の普及により、乳房温存率は適切な数字に落ち着いている。再建手術の普及により、治す時代から整容性も追求する時代になった。2013年に日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会(JOPBS)が設立され、同年乳房再建用シリコンインプラントが保険適用となった。2006年に保険適用になった自家組織(腹直筋皮弁、広背筋皮弁など)による乳房再建とともに、乳房再建術が標準治療として認知される時代である。2)放射線治療の進歩乳がん患者への放射線治療は、温存術が広まると同時に全国に普及した。乳房を残す手術をした場合には、残存乳房に放射線照射をすることが標準治療である。またリンパ節転移が4個以上の再発ハイリスク患者では、胸壁+鎖骨上照射(PMRT)で生存率の改善が認められ、放射線照射を受ける患者数は増加した。30年間、放射線治療方法自体に大きなパラダイムチェンジはないが、術後照射回数が25回から16回への過分割照射のエビデンスが出て、回数を減らす方向に向かっている。転移・再発治療における放射線治療については、脳転移に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)や、重要臓器を避けて照射する強度変調放射線治療(IMRT)など技術の進歩によって、痛みの緩和をベースにさまざまな場面で放射線治療が導入されることが多い。3)全身薬物療法の進歩この30年で薬物療法の革新的な進歩には目を見張るものがある。30年前に使えた薬は抗がん剤が数種類、ホルモン剤はタモキシフェン、分子標的薬という概念はなく、乳がんをサブタイプで考えることもなかった。この30年で使用可能になった薬剤を示す画像を拡大する周術期に全身薬物療法を行うタイミングも、2000年代前半から術前化学療法の臨床試験が国内外で活発に行われた。得られた多くの知見によって、より個別化した適応が現在の標準治療と位置付けられる。サブタイプに分けて考え、ER陽性HER2陰性のLuminal typeは原則手術先行であり、手術の結果で得られた臨床病理学的所見とともに、多遺伝子アッセイ(Oncotype DX)によって化学療法の必要性を判断する時代である。ER陰性HER2陽性のHER2 typeやtriple negative(TN)typeでは、術前化学療法が積極的に行われる。術前化学療法後の病理診断でpCRであった症例の予後はきわめて良好であり、non-pCR症例では予後の改善を目的に、術後追加治療(HER2 typeではT-DM1、TN typeではカペシタビン)を加えるのが標準治療である。転移再発乳がん治療では、新規薬剤開発と並行して生存期間の延長が顕著である。30年前、HER2 typeの再発後生存期間は2年に満たなかったのが、多くの抗HER2薬の導入により今では6年を超える生命予後が期待できる。なかには完治したのではないかと思われるケースも存在する。Luminal typeは長くホルモン治療単独の時代が続いたが、CDK4/6阻害薬が承認され、バイオマーカーによる薬剤選択が標準化したことで今後の生存期間延長が期待できる。TN typeでは免疫チェックポイント阻害薬、ADC(抗TROP-2 ADC、T-DXd)の開発で抗がん剤しか手段がない状態が改善した。私にとってのパラダイムシフト・イノベーション2002年に始まったHERA study(術後トラスツズマブの有効性を評価する国際共同治験)へ参加したこと、患者登録とASCOでの発表(2005年)でスタンディングオベーションを現場で体験したこと、そしてNEJM誌への共著者として掲載されたことで人生が変わった。臨床研究(試験)による標準治療構築、新薬開発の道は今も続き、JCOG乳がんグループ代表を2010年から14年間務めた。その間、並行して多くの企業とともに日本に導入された数々の新薬開発にも携わり、たくさんの仲間とともに標準治療を変える臨床試験を立案、実行してきたことはかけがえのない財産である。次の5年で乳がん診療はどう変わっていくか最も注目しているのはMRD(minimal residual disease)研究である。周術期薬物療法は、臨床病理学的因子やOncotype DXに基づき、再発リスクを鑑みて薬剤選択をしてきた。しかし、無治療でも再発しない方が多数存在することも事実である。残念ながら今まではそれを予測できないために、多くの患者さんに治療が行われてきた。今、高感度MRD assayにより、術後MRD陰性の方の予後はきわめて良好なことが判明しつつある。術前治療の効果判定、術後の予後予測、再発予防治療の選択などにMRD assayが導入される時代が、すぐそこまで来ている。もう一つの注目は人工知能(AI)の導入である。画像診断、病理診断ではAI導入による臨床試験の結果(positive)も報告され、一般診療に導入される夜明け前の状態だ。さまざまな場面での薬剤選択も、gene signatureで予測していた時代から、膨大な遺伝子情報から導き出されたアルゴリズムによるAI pathologyで、薬剤の必要性を判断する時代が来ると予想する。安価で簡便な方法であり、技術進歩による歩みは止まらないだろう。最後に、世界の中での日本を俯瞰した時、東アジア各国の台頭により日本のプレゼンスが弱くなっている。新薬開発分野、標準治療構築のための国際協働の枠組みに日本がはじかれることのないように、医療体制・医学教育全体の見直しが急務だと考えている。

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第328回 ウクライナ侵攻4年半、失われた医療者たちの数

イラン情勢が膠着状態にある中、2022年2月24日に始まったロシアの一方的な軍事侵攻により4年半以上も継続しているロシア・ウクライナ戦争は、今、変化が生じている。ウクライナ領内での戦闘は、ロシアがやや有利な状態が長らく続いていたが、ウクライナ軍が長距離ドローン攻撃能力を進化させた結果、前線から遠く離れたロシア領内の製油施設、民間企業のメガ物流センター、軍用空港などへのウクライナによる攻撃が激化している。これにより、ロシア国内ではガソリン流通などにも影響が及んでおり、ロシアはウクライナ都市部のインフラなどへのミサイル攻撃強化で応酬している。こうしたロシアによるインフラ攻撃には、開戦当初から医療機関も含まれている。これまで同地でどの程度の被害が起きたのかをまとめてみたい。ウクライナ、今の医療状況まず、開戦前のウクライナの医療施設数は、ウクライナ国家統計局2021年末のデータによると、病院が約1,200施設、外来医療施設が約8,200施設あったとされている。ちなみにこの数字には、2014年にロシアが事実上の併合を行ったクリミア自治共和国内の医療施設は含まれていない。また、同じ2014年に一部地域でロシアの傀儡(かいらい)政権が成立したドネツク州、ルハンシク州に関しては、同統計局が公表している過去からの医療施設数推移を見ると、同年を境に医療施設数が急減している。これらのことから、開戦直前の2021年の医療施設数は、ウクライナ領内でウクライナ政府の実効支配が及んでいた地域のデータであると推定できる。さて、このうちどのくらいの医療施設が被害を受けたかだが、ウクライナ保健省が今年4月にキーウ州で再建されたクリニックに関してニュースリリース1)を発表。その中で全土2,500施設以上が被害を受け、このうち完全に破壊された施設は328施設に上るとの記述がある。この施設数については病院かクリニックかの区分は未記載だが、おそらくはその両方を合わせたものであると推定できる。ウクライナで医療支援を行う人道支援NGO「Migrant Offshore Aid Station(MOAS)」のサイトでは、今年2月時点のウクライナ保健省の発表として、前述の被害施設数に関して、より細かなデータとして2,562施設と記述している。こうした被害は、現在のロシアによる占領地域がある東部から南部のハルキウ、ドネツク、ルハンシク、ザポリージャ、ヘルソン、ミコライウの各州に集中しているという。実は前述の国家統計局のデータは、一部では稼働状況の有無を含めていないものとの指摘もあるが、ざっくり言えば、開戦前のウクライナ全土の医療機関のうち2割程度が被害を受けた計算になる。今年2月時点では、このうち725施設が完全に復旧し、324施設は修復中となっている。医療施設への攻撃として代表的なものとしては、2024年7月8日、首都キーウへのミサイル攻撃で発生したオフマトディト小児病院の被災事例がある。世界保健機関(WHO)によると同病院は、3次救命救急機能を有するウクライナ最大の小児医療施設。攻撃時には約600人の患者と約600人の職員がいたとされ、毒物学部門と外傷部門が完全に破壊され、集中治療部門、腫瘍部門なども大きな被害を受けた。WHOの後日の集計によると、この攻撃により9人が死亡、71人が重傷と報告されている。ただし、ウクライナの地元メディア「THE KYIV INDEPENDENT」2)の報道では、この時の人的被害は死者33人、負傷者121人となっている。この場合、情報源の多さや報道の継続性などを考えると、実態に近いのは後者と考えるのが自然である。また、WHOは、今年2月に開戦からの丸4年間で医療施設への攻撃は少なくとも2,881件が確認され、その結果、医療者と患者を合わせた被害は死者が233人、負傷者が930人と発表3)している。これ以外に医療者のマンパワー不足も指摘されている。これは医療者の近隣諸国や国内での避難やそれに伴う離職、徴兵による一時離職やその後の戦死、医療者を目指す若年者の減少などが起きていることが要因と考えられている。もっともこの点については、明確な数字が示されたものはほとんどない。一方、ウクライナでは戦争前から日本と同様、医療者の地域偏在が問題化していたとされる。WHOが公表している「ウクライナにおける保健医療労働市場の初期分析結果」というレポート4)によると、開戦から約1年半後の2023年9月時点では、ウクライナの人口の30%が農村地域に居住しているものの、これら地域で働くのは医療者はプライマリ医の17.8%、専門医の3.2%、看護師の7.4%に過ぎないと記述されている。これは戦争による医療者の移動も含めた複合的な要因によるものとされる。また、WHO欧州事務局が2024年に公表したレポート5)では、ウクライナでは国内のプライマリケア医の50%以上が50歳以上、29%が60歳以上であり、4分の1が定年退職年齢に達していることが明らかにされている。ウクライナの65歳以上の高齢者比率は日本よりも低く約19%だが、ベースでは少子高齢化問題に悩まされる日本と同様、医療者の地域偏在や高齢化問題を抱えていることがわかる。そこに加えてこの戦争である。医療者の絶対的な不足や地域偏在、高齢化についてはこれらレポートの公表から現在までに約3年が経過していることを考えれば、こうした問題がより深刻化していることは確実だろう。参考1)Ministry of health of Ukraine:Primary healthcare outpatient clinic in the Kyiv region has been rebuilt after occupation and has resumed operations2)THE KYIV INDEPENDENT:Ukrainian doctors transplant organs of deceased girl amid Russian strikes, saving 3 children3)WHO:Attacks on Ukraine’s health care increased by 20% in 20254)WHO:Results of initial health labour market analysis in Ukraine5)WHO:WHO/Europe releases new report with data on nursing shortages in Ukraine

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研修医のどのくらいが臨床で生成AIを使用しているか/東大ほか

 生成AI(GenAI)は、われわれの日常生活にも広く浸透しており、臨床現場でも活用されている。では、臨床で医師、とくに研修医はどのくらいGenAIを使用しているのであろうか。このテーマについて東京大学大学院医学系研究科生体防御感染症学の三輪 俊貴氏らの研究グループは、研修医の臨床現場における検索エンジンとしてのGenAI使用状況を調査した。その結果、GenAIの使用は「知識の崩壊」を示唆するような自己申告行動とは関連しておらず、GenAIの非使用者におけるリテラシーは依然として限定的であることがわかった。JMIR AI誌2026年7月17日号に掲載。GenAI使用者でも、鑑別診断の主な情報源とするのは13% 研究グループは、2025年1月、日本の卒後1年目および2年目の研修医を対象とした全国規模のコンピュータベース試験「基本的臨床能力評価試験(GM-ITE)」の受験者を対象に、独自のアンケート調査を行った。調査項目には、GenAIの使用状況、GenAIリテラシー、およびベッドサイドでの行動に関する認識が含まれるとともに、GM-ITEのスコアに加え、人口統計学的データおよびアンケート回答データを収集した。GenAI使用者と非使用者の間でのGenAI使用に対する意識を比較するために統計解析を行い、さらに人口統計学的属性、学習環境、GM-ITEスコアで調整を行った上で、感染症診療におけるベッドサイドでの行動の差異を評価した。 主な結果は以下のとおり。・GM-ITE受験者9,179人のうち、546病院の研修医2,989人(32.6%)が本調査に回答した。・臨床業務における検索エンジンとしてのGenAI使用に関する質問に回答した2,850人を対象に、その後の解析を行った。・検索エンジンとしてGenAIを使用していると回答したのは1,124人(39.4%)であり、1,726人(60.6%)は非使用者だった。・使用者の中で、鑑別診断を行う際の主要な参照源としてGenAIに依存していたのは、わずか13%(144/1,110人)であった。・非使用者と比較して、使用者は、作話などの限界を理解している割合が高く(使用者817/1,103人[74.1%]vs.非使用者991/1,696人[58.4%]、p<0.001)、感染症管理において将来の医師に不可欠な能力(病歴聴取や身体診察など)を認識している割合も高い傾向にあった(使用者965/1,106人[87.3%]vs.非使用者1,296/1,706人[76%]、p<0.001)。・全体として、倫理的側面への言及はそれほど多くなく、公平性について検討したのは47.3%(1,311/2,770人)、透明性について検討したのは49.8%(1,381/2,774人)だった。・公平性および透明性に関する意識は、非使用者よりも使用者の方が高いことが示された(公平性:使用者615/1,092人[56.3%]vs.非使用者696/1,678人[41.5%]、p<0.001;透明性:使用者645/1,095人[58.9%]vs.非使用者736/1,679人[43.8%]、p<0.001)。・GenAIの使用は、十分な問診・身体診察(調整オッズ比[aOR]:1.42、95%信頼区間[CI]:1.18~1.70)や適切な抗菌薬の使用(aOR:1.57、95%CI:1.32~1.87)といった、望ましいとされる行動と独立して関連していた。 研究グループは、これらの結果から「GenAIの使用は『知識の崩壊』を示唆するような自己申告行動とは関連していないが、わが国の若手医師におけるGenAIリテラシー、とくに非使用者におけるリテラシーは依然として限定的だった。GenAIの急速な普及を考慮すると、使用者・非使用者の双方に対し、患者ケアにおける批判的思考や透明性を含む倫理的側面を重視した、臨床現場でのGenAIに関する教育が必要であると考えられる」と示唆している。

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治療抵抗性統合失調症の発生率はどのくらい?

 治療抵抗性統合失調症の真の発生率は、依然として不明である。その主な理由は、過去の研究が不均一な定義やレトロスペクティブ評価に依存していたことにあると考えられる。Treatment Response and Resistance in Psychosis(TRRIP)コンセンサス基準が標準化されたが、これがプロスペクティブに適用されることはまれであった。英国・リバプール大学のDan W. Joyce氏らは、大規模な地域ベースの臨床試験において、操作的に定義されたTRRIP基準を用い、治療抵抗性統合失調症の発生率をプロスペクティブに推定した。また、ベースライン時の人口統計学的変数や臨床的変数が治療抵抗性統合失調症の発生を予測するかどうかを検討した。BJPsych Open誌2026年7月20日号の報告。 Clinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness(CATIE)試験に登録された慢性統合失調症患者1,334例を対象に、TRRIP基準を適用した。治療抵抗性統合失調症の定義は、TRRIPが定める期間・用量・服薬順守の閾値を満たす適切な抗精神病薬治療を2回行った後も、症状および機能障害が持続している状態とした。治療抵抗性統合失調症の発生率は、ブートストラップ法を用いて推定した。ベースライン変数と治療抵抗性統合失調症の発生との関連は、ロジスティック回帰分析により検討した。 主な結果は以下のとおり。・慢性統合失調症患者1,334例のうち、782例(58.6%)がベースライン時点でTRRIPの絶対的症状閾値を満たしていた。・フォローアップ期間中、治療抵抗性統合失調症の全基準を満たした患者は77例(9.8%)であった。・治療抵抗性統合失調症の発生率は、全体で100人年当たり5.68(95%信頼区間[CI]:4.51〜7.02)、閾値を超えていた患者では100人年当たり9.20(95%CI:7.43〜11.39)であった。・ベースライン時の陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の陽性および陰性サブスケールスコアが高いこと、疾患の全体的な重症度が高いことが治療抵抗性統合失調症と関連していたが、その予測能は低かった。 著者らは「ランダム化比較試験のデータセットに対してTRRIP基準をプロスペクティブに適用した本研究は、治療抵抗性統合失調症の発生率に関する確実な推定値を提供するものである。日常的な臨床変数や人口統計学的変数の予測能は限定的であり、TRRIPに準拠した枠組みを用いた、生物学的知見に基づく縦断的研究の必要性が裏付けられた」としている。

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禁煙中の妊婦、産後禁煙維持支援の有効性は?/BMJ

 禁煙維持支援プログラム「BabyBreathe」は通常ケアと比較して、妊娠中に禁煙していた妊婦の産後禁煙維持率を有意に増加させることはなかったが、計画どおり支援プログラムを受けた妊婦のみを対象としたper-protocol解析では有意な増加が示された。英国・University of East AngliaのCaitlin Notley氏らBabyBreathe site research associatesが、プラグマティックな多施設共同無作為化非盲検比較試験の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「今後なすべきは、プログラムを忠実に実施することや、社会経済的地位の低い集団への適用に重点を置くことだろう」とまとめている。BMJ誌2026年8月18日号掲載の報告。複合的な禁煙維持支援プログラム「BabyBreathe」の有効性を検証 研究グループは、英国の助産サービスを通して対面、電話またはオンラインで募集し、初回妊婦健診予約時にスクリーニングを行い、適格であった妊婦を、募集拠点、パートナーの喫煙状況、禁煙時期(妊娠前または妊娠中)で層別化し、BabyBreatheを用いる介入群または対照群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 参加者の適格基準は、16歳以上で、妊娠前12ヵ月以内または妊娠中に完全に禁煙したと報告し、かつ呼気一酸化炭素(CO)濃度測定により禁煙が確認された妊婦であった。 BabyBreatheは、行動変容理論によって裏付けられた複合的な禁煙維持支援プログラムで、妊娠28~32週に訓練を受けた医療従事者(保健師、保健訪問チームのメンバーまたは研究者)が対面、またはビデオ通話や電話で支援し、出生の届け出がなされると再発防止キット「BabyBreatheボックス」が郵送された。キットには、禁煙維持に関するリーフレット、ニコチン置換ガムのサンプルおよび動機付けツールなどが含まれ、自動テキストメッセージ支援システムが作動して応援、意欲を引き出す、あるいは教育的なメッセージが段階的に配信された。また、BabyBreatheのウェブサイト・アプリを介して、個別化された禁煙維持のアドバイス、社会的支援、モチベーション向上ツール、ゲーム要素による報酬が提供された。産後10~14日には2回目の面談が行われ、自動テキストメッセージやウェブサイト・アプリを介した支援は産後最大12ヵ月間継続された。 対照群では、標準的な産前・産後ケアが行われ、妊婦が現在喫煙中であると報告するか、または呼気CO濃度が4ppmを超えた場合は自動的に国民保健サービス(NHS)が委託する禁煙サービスへ紹介された。 主要評価項目は、自己申告による禁煙継続で、産後12ヵ月時の呼気CO濃度測定により生化学的に確認した(妊娠していない場合は7ppm以下、この時点で再度妊娠している場合は4ppm以下)。産後12ヵ月時の禁煙維持、ITT解析ではBabyBreathe群と通常ケア群で有意差なし 2021年9月4日~2023年8月3日に計887人の妊婦が無作為化され、2024年12月に最終追跡調査が行われた。 無作為化後に喫煙が判明した1人を除外した886人がITT解析対象集団に含まれ、産後12ヵ月時の生化学的に確認された自己申告による禁煙維持達成率は、介入群54.9%(242/441人)、対照群49.9%(222/445人)で、有意差は認められなかった(補正後オッズ比[OR]:1.23、95%信頼区間[CI]:0.94~1.60、p=0.13、リスク群間差:4.8%[95%CI:-1.7%~11.2%]、治療必要数[NNT]:21)。 実際に介入を受けた参加者を対象とした事後のper-protocol解析では、産後12ヵ月時の禁煙維持達成率は介入群で有意に高いことが示された(介入群57.6%[200/347人]vs.対照群49.9%[222/445人]、補正後OR:1.36[95%CI:1.02~1.81]、p=0.04、リスク群間差:7.2%[95%CI:0.3~14.1]、NNT:13.9)。 試験に関連した有害事象は認められなかった。

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鎌状赤血球症へのアルギニン療法、疼痛発作時間を短縮せず/JAMA

 鎌状赤血球症に伴う急性疼痛発作を有する小児および若年成人において、アルギニン療法はプラセボと比較し、疼痛発作消失までの時間を短縮しなかった。米国・エモリー大学のClaudia R. Morris氏らPediatric Emergency Care Applied Research Network(PECARN)が、同国の小児病院10施設で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験「Sickle Cell Disease Treatment With Arginine Therapy trial:STArT試験」の結果で示された。鎌状赤血球症患者において、急性疼痛発作は救急外来受診や入院の主な原因であるが、米国食品医薬品局(FDA)により承認された治療薬は存在しない。急性疼痛発作中に患者は急性アルギニン欠乏を呈し、発作消失までの時間の延長や非経口オピオイドの総投与量が増加する。単施設で行われた複数の第II相無作為化試験では、アルギニンは安全でオピオイド使用量を減少させ、心肺機能を改善し、入院期間を短縮することが示されていた。JAMA誌オンライン版2026年8月19日号掲載の報告。アルギニンvs.プラセボで疼痛発作消失までの時間を評価 研究グループは、鎌状赤血球症(遺伝子型を問わず)と確定診断され、非経口オピオイドの投与を要する急性疼痛で救急外来を受診した3~21歳の患者を対象とした。 対象患者を、救急外来での初回オピオイド静脈内投与後12時間以内にアルギニン群またはプラセボ群に無作為に割り付け、初回投与量として200mg/kgを静注後、8時間ごとに100mg/kg静注を最大21回または退院までのいずれか早いほうまで継続した。 主要評価項目は、疼痛発作消失までの時間(試験薬初回投与から非経口オピオイド最終投与までの時間で定義)、副次評価項目は、非経口オピオイドの総投与量(初回投与から最終投与までの期間における静注モルヒネ投与換算量[mg/kg])、疼痛スコアおよび患者報告アウトカムなどであった。両群間で有意差はなく、試験は早期中止に 2021年6月21日~2024年6月13日に、274例が無作為化され、このうち271例が試験薬の投与を受けた(アルギニン群129例、プラセボ群142例)。患者背景は、平均年齢14.3歳(SD 4.3)、51%が男性、92%が黒人であった。 第2回中間解析において、疼痛発作消失までの時間中央値は、アルギニン群60.8時間(四分位範囲[IQR]:34.8~109.0)、プラセボ群65.8時間(IQR:31.1~111.1)で、有意差は認められなかった(絶対群間差:7.2時間、95%信頼区間:-21.6~35.9)。したがって、本試験は無益性のため早期中止となった。 副次評価項目である非経口オピオイド総投与量、疼痛スコアおよび患者報告アウトカム、ならびに安全性のいずれも、両群間で有意差は認められなかった。

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体重の増減を繰り返すと太ももの筋肉が減る?

 中高年を対象とした研究で、48カ月間の追跡期間中に体重の増減を繰り返した人では、最終的な体重の変化が小さくても、大腿部(太もも)の筋肉体積の減少率が増減を繰り返さなかった人の4倍近くに上ったことが示された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)放射線科教授のThomas Link氏らによるこの研究結果は、7月21日付で「Radiology」に掲載された。Link氏は、「体重の増減を繰り返した人では、脂肪とともに多くの筋肉が失われ、その筋肉を取り戻すことはなかった。これは、減量中に筋肉体積を維持する方法を明らかにすることが、全身の健康にとって重要であることを示している」とニュースリリースで述べている。 研究グループによると、近年の研究では、GLP-1受容体作動薬による減量治療を中止すると、減少した体重のおよそ3分の2が再び増加する傾向が報告されている。また、GLP-1受容体作動薬による減量治療では、体脂肪だけでなく筋肉量も減少する傾向があることが懸念されているという。Link氏は、「脂肪が減ることは、減量が関節炎や筋肉、骨などに及ぼす影響を考える上での一側面に過ぎない。有効な減量法を利用する人が増える中、それらの要素がどのように関係し合っているのかを考える必要がある」と指摘している。 こうした点を検討するために、研究グループは、変形性膝関節症(OA)に関する長期研究への参加者1,433人(平均年齢60.9歳、女性750人)を対象に、MRI画像と健康データを解析した。対象者は、ベースラインから48カ月後までの間の体重の累積変化が5%未満の者とし、その間の体重変化パターンに基づき、体重の増減を繰り返した群と増減を繰り返さなかった群(1,356人)に分類された。MRIでは、右大腿の筋肉体積、筋肉間脂肪組織(IMAT)の割合、膝周囲の皮下脂肪(KaSAT)の厚さを測定した。 その結果、体重の増減を繰り返した群では増減を繰り返さなかった群と比べて、大腿の筋肉体積の減少率が有意に大きかった(−3.71%対−1.03%)。一方、IMATの割合の変化とKaSATの厚さの変化については、両群間で有意差は認められなかった。 研究グループは、「これらの結果は、食事療法やGLP-1受容体作動薬により急速に体重が減っている人では、脂肪に加え筋肉まで失われる可能性に注意する必要があることを示唆している」との見解を示している。Link氏は、「体重計の数字だけでは分からない減量が身体に及ぼす影響について、より深く理解する必要がある」と述べている。

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父親の超加工食品摂取が新生児の体格に関連か

 健康な妊娠の準備というと、通常は母親に焦点が当てられる。しかし、新たな研究で、父親の超加工食品(UPF)の摂取量は新生児の身体計測値と関連する可能性が示された。サンパウロ大学(ブラジル)のDaniela Sartorelli氏らによるこの研究結果は、「Nutrition Research」7月号に掲載された。Sartorelli氏は、「赤ちゃんの誕生前後を通じて、母親の栄養状態や健康についてはこれまでも注目されてきたが、父親の食生活がもたらす影響についてはほとんど語られてこなかった。この研究結果は、それが子どもの健康にも極めて重要であることを示している」と述べている。 本研究では、過体重の妊婦を対象にしたランダム化比較試験の対照群から抽出した43組の父親、母親である妊婦、および新生児を対象に、父親のUPF摂取量と新生児の身体計測値および体脂肪量との関連が検討された。父親のUPF摂取量は、24時間食事思い出し法の2回分のデータを基に推定され、総摂取カロリーに占める割合(E%)として表した。 父親のUPF摂取割合は平均30±15%であった。解析の結果、父親のUPF摂取割合が高いほど、新生児の出生体重が増加し、出生時のポンデラル指数も高いという関連が見られた。また、腸骨稜上部や大腿部の皮下脂肪厚が厚いこととも関連していた。しかし、新生児の体脂肪量との関連は有意ではなかった。 一方、母親の食事の影響の現れ方は異なっており、妊娠16週までのUPF摂取割合が高いほど、出生体重、出生時の身長、頭囲、ポンデラル指数が低いという関連が認められた。 出生体重が多いことや生後早期の体脂肪量が多いことは、成人期における心血管・代謝性疾患のリスク因子と考えられている。研究グループは、UPFを多く含む食事が体内で炎症を引き起こし、精子の質に影響を及ぼすとともに、子どもに受け継がれる遺伝子の発現に変化をもたらす可能性があると考えている。また、父親の食習慣が胎児の発育に重要な役割を果たすインスリン様成長因子(IGF)-IIの働きを変化させる可能性についても言及している。 研究グループは、今回の結果は、健康づくりや家族計画に関する指導において、母親だけでなく父親も対象に含めることの重要性を裏付けるものだとしている。

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アルツハイマー病と強く関連したのは、高血圧より低血圧?

 アルツハイマー病(AD)と関連する心血管疾患(CVD)のサブタイプが特定され、最も強く一貫した関連が見られたのは低血圧であったという研究結果が、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」6月16日号に掲載された。 米ミシガン工科大学のAili Toyli氏らは、UKバイオバンク(対象者50万2,133人)とAll of Us研究プログラム(対象者28万7,011人)という2つの大規模なバイオバンクにおいて、ADと11種類のCVDサブタイプとの関連を検討した。 解析の結果、両コホートにおいて、ほとんどのCVDサブタイプがADと有意に関連していた。最も強く一貫した関連が見られたのは低血圧であったが、低血圧はAD研究において比較的検討が進んでいないCVDサブタイプである。ADと高血圧、ADと脳梗塞との強い関連も一貫して認められた。一方、急性心筋梗塞とADとの間には有意な関連は見られなかった。遺伝学的解析では、特にAPOE、MAPT、心筋構造および血管機能に影響を及ぼす遺伝子の近傍領域において、AD関連形質とCVD関連形質との間に共通の遺伝子座が見られた。 Toyli氏は、「高血圧と比べ、低血圧は全体的に注目されておらず、そのためデータや研究上の関心も少ないと考えられる。ADとCVDとの関連の背後にある可能性のある生物学的機序を理解するためには、詳細な研究が必要である。両者を結びつける特定の経路が明らかになれば、ADが発症する前に介入し、そのつながりを断つことができる可能性がある」と述べている。

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ペムブロリズマブ投与後の好酸球割合、irAE発現リスク評価の手掛かりに

 免疫チェックポイント阻害薬はがん治療に大きく貢献している一方、免疫関連有害事象(irAE)への対応が課題となっている。今回、転移性尿路上皮がん患者を対象とした研究で、ペムブロリズマブ投与3週間後の好酸球割合が、irAE発現リスクを評価する手掛かりとなる可能性が示された。研究は名古屋市立大学大学院医学研究科臨床薬剤学分野の小田切州広氏、同大学医学部附属西部医療センター泌尿器科の内木拓氏らによるもので、詳細は7月1日付の「Cancer Medicine」に掲載された。 転移性尿路上皮がん(mUC)は予後不良で、これまで主にプラチナ製剤を用いた化学療法が行われてきた。近年はペムブロリズマブが治療選択肢となり、治療成績が改善しているが、irAEは発症時期や発症する臓器の予測が難しく、早期にリスクを把握できるバイオマーカーの確立が求められている。著者らはこれまで他のがん種で好酸球とirAEとの関連を報告してきたが、ペムブロリズマブで治療を受ける転移性尿路上皮がん患者での有用性は明らかになっていなかった。そこで本研究では、ペムブロリズマブで治療を受けたmUC患者を対象に、治療前および治療3週間後の好酸球割合がirAE発現の予測マーカーとなり得るかを検討した。 研究グループは、2018年1月~2024年10月に東海地方の6施設でペムブロリズマブ単剤療法を1コース以上受けたmUC患者124人を対象に、多施設共同の後ろ向きコホート研究を実施した。患者はirAEの発症の有無で2群に分け、治療開始前と初回投与3週間後に採取した血液中の好酸球割合および好酸球数を比較した。irAEはCTCAE v5.0に基づいて評価した。さらに、原発部位別の解析も行い、膀胱がん患者と上部尿路上皮がん患者で結果を検証した。 研究期間中、124人の患者から47件のirAEが確認された。47件のirAEのうち、初回ペムブロリズマブ投与から21日以内に発症したものは9件(19.1%)で、38件(80.9%)は治療開始21日以降に発症した。 解析の結果、治療開始前から3週間後にかけての好酸球割合の変化は、irAE発症群で有意に大きかった(非発症群:2.4%から3.1%、発症群:2.2%から4.3%)。一方、好酸球数の変化については、両群で有意な差は認められなかった。 この関連が原発部位によって異なるかを調べるため、膀胱がんと上部尿路上皮がんに分けて解析した。膀胱がん患者では、irAE発症群で好酸球割合の上昇が有意に大きかった(非発症群:2.5%から2.8%、発症群:1.9%から4.1%)。一方、上部尿路上皮がん患者では、好酸球割合の変化とirAE発現との間に有意な関連は認められなかった。 この結果を踏まえ、膀胱がん患者において治療3週間後の好酸球割合とirAE発現リスクとの関連を詳しく解析したところ、好酸球割合5.0%がリスク評価のカットオフ値となった。多変量解析では、好酸球割合5.0%以上の患者は、5.0%未満の患者と比べてirAEを発症するリスクが高かった(オッズ比3.61、95%信頼区間1.00~13.0)。 著者らは、ペムブロリズマブ治療後の好酸球割合の変化を把握することで、irAE発現リスクを早期に把握するための手掛かりになる可能性があると考察している。また、3週間間隔の投与スケジュールに合わせて好酸球割合を確認することは、実臨床でも取り入れやすい評価方法になる可能性があるという。なお、好酸球の増加は免疫チェックポイント阻害薬の治療効果や予後改善とも関連することが報告されており、上昇のみを理由に治療中止を判断すべきではないと指摘している。 一方で、本研究は後ろ向き研究であり、好酸球割合を単独の指標として臨床応用するには、今後さらなる検証が必要だとしている。

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英検準1級を受けてきた【Dr. 中島の 新・徒然草】(646)

六百四十六の段 英検準1級を受けてきたいったん、涼しくなったと思ったら、また暑くなりました。外を歩くと、小学生のときのプールの授業を思い出します。懐かしさを感じるのも束の間。すぐに日差しの強さに圧倒されてしまいます。さて、先日のこと。脳外科の若手医師に尋ねられました。「中島先生、英検2級は受かったんですか?」どうやら彼は「新・徒然草」の愛読者だったようです。そういえば、英検2級とTOEICの結果を本欄で報告していませんでした。おかげさまで英検2級は無事合格、TOEICの方は925点で、私にとっては出来過ぎだった気がします。かの若手医師は、高校生のときに英検準1級に受かったのだとか。やるなあ!というわけで、去る日曜日。私も英検準1級を受けてきました。今回はその話をいたします。向かったのは2級のときとは別の会場。Googleマップで調べておいたにもかかわらず、結構迷いながらの到着です。要領はわかっているつもりでしたが、やはり緊張していたのかもしれません。ずらりと並ぶロッカーに荷物を預けたものの、ロッカーの位置自体を忘れてしまうという大失態を演じてしまいました。試験の内容については、外部に漏らしてはならないということなので省略。どんな形で受けたのかと、その感想だけ述べましょう。まずはスピーキングテスト。S-CBTというヘッドセットを使ったPC相手の試験です。毎朝6時からオンライン英会話講師相手に練習してきた甲斐がありました。なんと似たような問題が出たのです!でも、似たような問題というのは1問だけ。たくさんあるうちのたった1問です。まあ、現実というのはそんなものでしょう。次にリスニングテスト。これ、実質的にはリーディングテストではないかと思います。イヤホンからの内容自体は難しくないのですが、音声に集中すると目の前の選択肢を読むことができません。音声が終わってから4つの選択肢を読んで1つを選ぶ、となると、与えられた10秒では時間が不足しがちになります。そしてリーディングテスト。2級に比べると量も多く、内容も難しい。途中で眠くなってしまいました。最後はライティングテスト。あるテーマに対して、根拠とともに賛否を述べるもの。これに対して、私は「賛成」という立場で書きました。でも、後で考えたら「反対」という立場のほうが書きやすかった気がします。結局、自分の意見なんかはどうでもよく、書きやすいほうの立場をとるべきでした。点数を取ることが目的なのだから当然のこと……抜かった!2時間ほどの試験ですが、終わったら疲労困憊。疲労度を比較すると、準1級≧TOEIC>>2級くらいの感じかな。考えてみれば、大学受験のときなんかは、このくらいの試験を1日に2つも3つもこなしていたわけです。頭の中身はともかく、体力が有り余っていたのは間違いありません。若者と老人の差というのはこういうことですね。さて、手応えのほうは……。受かっても落ちてもギリギリじゃないかと思います。もし受かっていたら、次は1級に挑戦するのか?それはもう勘弁してほしいです。準1級ですらこの有様。ましてや1級なんか受けたら、試験会場で倒れてしまうことでしょう。一方、落ちていたらリベンジ一択!その場合はもう少し具体的な対策を立てておいたほうがよさそうです。たとえばライティング対策。解答としては「賛否→理由1→具体例1→理由2→具体例2→結論」というのが1つの型になるかと思います。ここで、賛否は自分の信念とは関係なく、論じやすいほうを選ぶべし。具体例1や具体例2は「自分の経験では~だ」と、何でもいいからでっちあげるのも1つの方法だ、ということです。個人の経験であれば、その真偽は誰にもわからないわけですから。試験に受かるためには、この程度の老獪さは持っておくべきでした。ということで、英検準1級を舞台にしたドタバタ劇。読者の皆さまに楽しんでいただければ幸いです。 最後に1句 試験受け、抜け殻になる 残暑かな

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Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス~Lp(a)の今をインタビュー(後編)

前編では、Lp(a)の第一人者であるDr. Florian Kronenberg氏(オーストリア・インスブルック医科大学遺伝疫学研究所 教授/所長)が治療薬のない状況であっても「Lp(a)測定が重視される」のか、Lp(a)が心血管疾患(CVD)イベントの生涯リスクに及ぼす影響を中心に解説した。後編では、Lp(a)測定が失速した30年前の出来事の振り返り、1次予防への測定意義や日本の医療への期待などについて語った。※前編はこちら(8月18日公開:5人に1人はLp(a)高値、CVD死を見落とさないために)INDEX30年前の出来事と、現代における科学的証明の歴史CVDの1次予防にもLp(a)測定が有用専門家が伝えたい4つの重要プロセス測らない理由なんてあるのか?スクリーニングで世界に先駆ける、日本へ期待すること―30年前の出来事と、現代における科学的証明の歴史なぜ、Lp(a)測定が失速してしまったのか。それは1990年代にアメリカで行われた大規模な研究において、「Lp(a)と心血管アウトカムには関連性がない」という結果が報告されたことが要因でした。しかし後になって、当時の測定法には技術的な問題があり、それがこのような否定的な結果につながったのではないかと考えられるようになりました。この研究結果により、Lp(a)研究は一度完全に死にかけました。私がこの分野に関わり始めた頃も、周囲から「その分野はやめなさい、もう死んだ分野だから」と言われたものです。しかし、私は遺伝子データから「Lp(a)高値の人は遺伝的に心血管リスクが高いはずだ」という確信を持っていたため、研究を続けました。その後、大きな転機が訪れました。デンマークの研究グループが10万人規模の膨大なビッグデータを持って(われわれの研究に)参入してきたのです。彼らのデータを解析した結果、Lp(a)が高い人は将来明らかに心血管イベントを起こしていることが判明しました1)。さらに、彼らが私たちの遺伝子解析手法をその10万人に適用したところ、遺伝子変異とLp(a)高値、そして心血管疾患の間に強固な因果関係があることが完全に証明されたのです。その後、『2022年EAS Lp(a)コンセンサスステートメント』の作成にあたって、イギリスの「UKバイオバンク」が持つ50万人規模のデータを解析したところ、その結果も同様の方向性を示していました。現在では欧米だけではなく、日本を含めた世界中の研究グループが同様の関連性を確認しており、世界基準の事実となっています。―CVDの1次予防にもLp(a)測定が有用2025年にブリュッセルで開催され、『Brussels International Declaration on Lp(a) Testing and Management』2)の策定につながった「Lp(a) Global Summit」において、Lp(a)測定を心血管疾患(CVD)の1次予防として行う費用対効果に関する世界初の解析結果が発表され3)、Lp(a)を広くスクリーニングすることで、多くの心筋梗塞や虚血性脳梗塞を回避し、結果として医療費の大幅な削減につながることが証明されたのです。たとえば、20~30代の若者が自身のLp(a)が高値だと知ったとしたら、「血圧をしっかり下げよう」「禁煙しよう」「糖尿病を予防しよう」という強力なモチベーションにもなります。当然ながら、心筋梗塞や脳梗塞を経験した2次予防の患者さんがLp(a)を知ることもきわめて重要です。現実として、心筋梗塞後の患者の一部で、1年後にコレステロール低下薬の服用を止めてしまっているというデータがあります。しかし、自分が「Lp(a)高値という高リスクを抱えている」と知っていれば、将来の再発を防ぐために“従来のリスク因子に対する治療を継続する”強い動機となり、結果としてアドヒアランスの向上にもつながります。つまり、Lp(a)測定はCVDリスクの1次予防と2次予防の双方に重要と言えるのです。Lp(a) Global Summitでの一枚後方左から2番目がKronenberg氏、前方左から3番目には斯波 真理子氏が写る画像を拡大する繰り返しになりますが(前編参照)、心血管イベントの絶対的な生涯リスクは、Lp(a)が高かったとしてもほかの従来の一般的なリスク因子(高LDL-C、高血圧、糖尿病、過体重、不健康な生活習慣など)を減らすことで低減させることができるため、Lp(a)自体は生活習慣で下げることができなくても、「ほかの従来の一般的なリスク因子を徹底的に管理しようという意識を高める」というアプローチを取ることができます。「Lp(a)は現在の薬で下げられないのに、なぜ測るのか?」という疑問を持つ人が医療者の中にも存在しますが、「Lp(a)が高くて下げられないからこそ、ほかの従来の危険因子を徹底的に管理しようという意識を高めるために、今すぐ測定すべきだ」というのが私の答えです。Lp(a)値を把握せず、従来のリスク因子に対する治療も十分に行わないというのは、まったく意味がありません。―専門家が伝えたい4つの重要プロセスそこで、多くの国際的なガイドラインとも一致する、私が皆さんにお伝えしたい重要なアドバイス4点を紹介しましょう。1.全員、人生で少なくとも一度はLp(a)を測定すべきである2.リスク評価の際は、Lp(a)の値だけでなく、全体のバランス、患者の全体像、そのほかのリスク因子も含めて総合的に判断する3.Lp(a)が高値である場合は、ほかのコントロール可能なリスク因子(高LDL-C、高血圧、糖尿病、喫煙など)を徹底的に治療・管理する4.Lp(a)高値がみつかった場合は、その「家族(親、子、兄弟姉妹)」も機会があれば早めに検査を行う測定タイミングは、初めて脂質プロファイル(健康診断などの血液検査)を取るときが理想的で、早ければ早いほどいいでしょう。Lp(a)は遺伝的要因が非常に強いため、家族歴こそが最大のヒントになります。もしご家族や親戚に若くして心筋梗塞や脳卒中を起こされた方がいる場合は、Lp(a)高値が関連している可能性が疑われます。ぜひ、そのような患者さんにLp(a)測定を強くお勧めします。次にLp(a)の基準値(カットオフ値)の考え方について解説しましょう。Lp(a)のリスクは、ある数値を境に白黒はっきり分かれるようなカットオフ値(閾値)ではなく、数値が高くなるにつれてリスクが上昇していく“連続的なもの”として捉える必要があります4)。たとえば、122nmol/Lだから安全で、127nmol/Lだから危険、という単純な生物学的区切りはありません。測定法や標準化の違いによって105や125という数字のブレは生じますが、本質的なリスクに大差はありません。絶対的な一律の区切りが必要なのではなく、患者個人の全体的なリスク(糖尿病などの有無や既往歴)に応じて、個別に数値を評価し対応する必要があるものです。LDL-Cの基準値も、まったくリスクのない人であれば欧州では「116mg/dL未満」が目安ですが、心筋梗塞の既往があれば「55mg/dL未満」、さらに、同時に末梢動脈疾患(PAD)などを合併していれば「40mg/dL未満」と患者背景やリスク因子の重なりによって目標値が変わるように、Lp(a)も同様に、ほかのリスク因子と合わせて総合的に判断すべきです。―測らない理由なんてあるのか?実際に心イベントを繰り返した患者さんが、「ガイドラインで推奨されていたのに、なぜ何年も前にLp(a)を検査してくれなかったのか」と医師に不満を訴えるような事例は世界で起きています。同様のことを繰り返さないためにも医師への啓発を進め、Lp(a)測定を通常の診療プロセスに組み込む必要があります。さらにポジティブなニュースとして、現在、Lp(a)自体を劇的(80~90%)に低下させる新薬の臨床試験が進んでいます。最終的な試験結果を待つ必要がありますが、これが承認されれば、2次予防の患者さんに対してさらなるイベント再発を防ぐ強力な選択肢を提供できるようになります。―スクリーニングで世界に先駆ける、日本へ期待すること日本のスクリーニングは間違いなく他国の一歩先を行っています。日本には成人健康診査のみならず、小児期という非常に早い時期から検診が行われているケースもあると聞きました。これは国として大変重要な取り組みであり、今後Lp(a)のスクリーニングを導入していく上でも、素晴らしい土台です。これは私にとっても大きな学びとなり、欧州に戻ったらぜひ共有したいと思っています。しかし、「スクリーニングが行われていること」は一側面に過ぎず、「スクリーニング結果を踏まえ、どのように対応(治療・管理)するか」という点においては、まだギャップ(課題)があると感じています。これは日本に限った問題ではなく、世界中で直面している課題でもあります。政策立案者にとっては、常に自国のデータが重要となるため、一般住民を対象とした大規模コホートを構築し、「Lp(a)高値の有病率」「 Lp(a)が日本でもリスク因子である」ことを示す予後データを構築することが望まれます。後者についてはLEAP研究5)をはじめ、質の高い研究によるデータが多ければ多いほど、医療コミュニティでLp(a)が受け入れられる可能性は高くなります。日本には企業健診など、素晴らしいスクリーニングシステムがありますよね。肉体労働者から事務職まで(幅広い職域を)含む代表的な集団を雇用している大企業に研究協力してもらえれば、多数の対象者を迅速かつ低コストで集めることができます。このときに必要なのはLp(a)測定にかかる追加費用のみです。もちろん将来的には、医師がLp(a)測定を行うようになることが重要です。現在、日本動脈硬化学会が主導するLp(a)に関するコンセンサスステートメントが間もなく発刊される予定だと聞いています。これは欧米のガイドラインの「成人は生涯に少なくとも一度は必ずLp(a)を測定すべき」と完全に整合性の取れた内容になるでしょう。また、順天堂大学の三井田 孝氏らが日本国内での測定法の標準化を先導されていますが、国際的にもIFCC(国際臨床化学臨床検査医学連合)が中心となって、Lp(a)測定の標準化を進める取り組みが動いています。これらが整えば、次は実装段階に入っていきます。今後、日本からLEAP研究5)やLp(a)JAPAN study6)のサブ解析結果や心血管リスクに関する大規模な試験などが発信されれば、政策提言や医療者を説得する上でも非常に強力な材料になるでしょう。スクリーニングのさらなる普及を含め、日本における今後の発展に大いに期待しています。 参考 1) Kamstrup PR, et al. Circulation. 2008;117:176-184. 2) Kronenberg F, et al. Atherosclerosis. 2025;406:119218. 3) Morton JI, et al. Atherosclerosis. 2025:409:120447. 4) Kronenberg F, et al. Eur Heart J. 2022;43:3925-3946. 5) Yamada T, et al. J Atheroscler Thromb. 2026;33:1049-1059. 6) Kataoka Y, et al. Eur Heart J. 2026 May 24. [Epub ahead of print]

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高齢者フレイルの漢方治療ガイド

フレイル予防と健康長寿の実現に向け、高齢者一人ひとりの生活機能と人生の質を支える超高齢社会の現在、健康と要介護状態の中間に位置する可逆的な状態であるフレイルが重要性を増している。漢方医学的にはフレイルは気虚であり未病と捉えられ、補剤などの漢方薬により健康を取り戻す効果が期待されている。本書は、老年病学、漢方医学、歯科・嚥下医学、整形外科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、眼科の専門家がフレイルへの漢方治療のノウハウを最新の知見と豊富な臨床経験をもとに解説した実践的なガイドブックある。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する高齢者フレイルの漢方治療ガイド定価4,180円(税込)判型A5(並製)頁数192頁発行2026年7月編集小川純人(東京大学)/加藤士郎(筑波大学)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第74回 「若返り注射」は本物か?一流医学誌が警鐘を鳴らす、アンチエイジングの現在地

「老化は治療できる」「10歳若返る」。そんな言葉を目にする機会が、この数年で急激に増えました。実際、老化研究は科学的に大きく進歩しています。しかし、それが「今すぐ買える若返り治療」の存在を意味するわけではありません。2026年8月にNature Medicine誌が発表した論説は、老化研究者自身に向けて「根拠のない主張に警戒せよ」と呼びかける、異例のメッセージを出しているので、ご紹介します1)。老化研究の考え方と、NAD+に突きつけられた疑問現代の老化研究には、心臓病、認知症、がんなど年齢とともに増える病気の背景に「老化の共通メカニズム」があるという前提があります。慢性的な炎症、細胞の老化、細胞内の「ごみ処理」機能の低下などがその代表で、ここに介入すれば多くの病気をまとめて予防できるのではないか、というのが期待の根拠です。ただし論説では、「介入の候補は数多くあるが、ヒトで臨床的な有益性を示したデータは依然として乏しい」と明言されています1)。その象徴が、サプリメントとして広く販売されているNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)です。動物実験では健康寿命を延ばす効果が報告され、「加齢で減るから補う」という理屈で宣伝されてきました。しかしヒトを対象とした臨床試験では、病気の進行を変えるような効果はまだ示されていません。さらに2026年の研究では、血中NAD+濃度は加齢によって低下せず安定していたと報告され、「減るから補う」という前提そのものに疑問符がついた形です2)。「若返りペプチド」をめぐる米国の混乱論説がもう一つ大きく取り上げているのが、「ペプチド注射」をめぐる議論です。ペプチドとは、アミノ酸がつながった小さなタンパク質の断片で、「若返り」「回復促進」などの名目でSNSのインフルエンサーが宣伝しています3)。たとえばTB-500という製品は、体内にあるサイモシンβ4という物質に関連し、炎症を抑える作用があると考えられています。重要なのは、こうしたペプチドは米国食品医薬品局(FDA)に承認されていないという点です。「研究用」という名目で流通するグレーマーケットの製品で、製造元も品質管理も不明確です。2026年7月、FDAの諮問委員会は、7種類のペプチドを薬局での調剤として認めるべきかを審議しました。FDAの科学者は「安全性と有効性の十分な証拠があるとは言えない」と慎重論を唱えましたが、委員会は拘束力のない投票で7種類のうち6種類を認めるよう勧告しました4)。論説が問題視しているのは、委員会の「中立性」です。報道によれば、委員のうち6人はペプチドを販売しており、1人は調剤薬局の薬剤師でした4,5)。利害関係者が自らの商品を審議した構図で、その客観性は広く疑問視されています。「専門家が推奨した」という情報の裏に誰の利益があるのかを見る視点は、日本にいる皆様にとっても重要になるでしょう。本当に必要なのは「老化を測るものさし」では、なぜアンチエイジング治療の証明はこれほど難しいのでしょうか。病気に対する薬なら1~2年の臨床試験で効果を確かめられますが、「健康寿命や寿命が延びたか」を確かめるには数十年かかり、現実的に不可能だからです。そこで必要になるのが、老化の進み具合を客観的に測る「代理指標」です。注目されているのが「老化時計(エイジングクロック)」で、血液中のタンパク質や代謝物、画像検査などから臓器や細胞の「生物学的年齢」を推定します。握力や運動能力といった身体機能テストも、同じ目的で使えると考えられています。ただし注意点があります。老化時計が示す「老化の速さ」が将来の病気のリスクと関連することはわかっていますが、「治療で老化時計が若返れば本当に病気が減るのか」を検証した研究はまだ初期段階です。また、検査によって、その再現性もまちまちです。論説は「どの時計が信頼できるのかを見極めることが、この分野の緊急の研究課題だ」と位置づけています1)。その一歩として紹介されているのが、総額1億100万ドル、7年間にわたる「XPrize Healthspan」という国際コンペです1)。筋力、認知機能、免疫機能を厳密に測る枠組みをまず作り、そのうえで50~80歳の人のこれらの機能を「最低10年分」回復させる治療法を探す挑戦です。裏を返せば、「ものさし」自体がまだ完成していないのが現在地だといえます。私たちが今、知っておくべきこと論説は最後に、「不老長寿の薬を求める話は古代からあり、今のウェルネス文化にもその幻想の気配がある」と指摘しています1)。SNSで流れる「若返り」情報の多くは、動物実験の結果や理屈の段階の話を、人間で証明済みであるかのように語っているのが実情です。現時点で確かめられているのは、老化を測る信頼できる指標も、老化そのものを治す承認された治療も、まだ存在しないということです。一方で、運動、睡眠、禁煙、適切な食事といった地味な習慣が病気を減らし寿命を延ばすことは、何十年分ものデータで裏付けられています。派手な注射やサプリに飛びつく前に、「誰が、どんなデータで、どこまで証明したのか」を一度立ち止まって問うこと。それが、アンチエイジングの現在地において、もっとも大切なことかもしれません。1)Anti-aging interventions need less hype and more clinical evidence. Nat Med. 2026;32:2693.2)Tretowicz MM, et al. Human whole-blood NAD+ levels do not vary with age or lifestyle interventions. Nat Metab. 2026;8:1282-1290.3)Cox L, et al. Influencers are promoting dangerous peptides on social media - and regulators are struggling to keep up. The Conversation. 2026 May 27.4)Jewett C, et al. F.D.A. panel's vote on peptides raises concerns about a prescribing boom. The New York Times. 2026 Jul 27.5)Lawrence L, et al. Longevity, wellness physicians named to panel advising FDA on peptides. STAT+. 2026 Jun 29.

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食事速度は将来の体型に影響するか/藤田医科大

 「早食いは肥満や糖尿病のリスク」ということはよく知られている。食事の速度は体重の推移とどのように関連するのであろうか。このテーマについて藤田医科大学医学部臨床栄養学 主任教授の飯塚 勝美氏は、約56万例の健康診断データを解析し、食事速度と長期的な体重推移との関連を検討した。その結果、食事速度が長期的な体重推移の区分に関連する行動特性である可能性が示唆された。Nutrients誌オンライン版2026年7月24日号に掲載。長期間でみると早食いは肥満、遅食いは低体重と関連 飯塚氏は、後ろ向きコホート研究として、56万4,198例の日本人参加者の健康診断データを使用し、20代のBMI履歴に基づき、BMI<18.5を1回以上認めた「低体重歴あり」、BMI≧25.0を1回以上認めた「肥満歴あり」、20代の全健診で正常体重だった「正常体重のみ」の各グループに分類した。全観察期間中に測定されたBMIのうち、それぞれの体重状態(低体重または肥満)を示した測定値の割合(0~25%、25~50%、50~75%、75~100%)に応じてさらに細分化した。体重推移グループ間の経時的な差異を特徴付けるため、反復測定されたBMIデータについて線形混合効果モデルを用い解析した。自己申告による食事速度とこれらのグループとの関連は、性別で層別化した多変量ロジスティック回帰モデルを用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・BMIは男女ともに体重推移グループ間で明確な差が認められた。・自己申告による食事速度は、体重推移グループと用量反応的かつ双方向の関連を示した。・女性では、肥満の割合が高くなるにつれて「早食い」のオッズが段階的に上昇し、肥満の割合が75~100%のグループでは調整オッズ比(OR)が1.47(95%信頼区間[CI]:1.40~1.53)に達した。男性では、同グループにおけるORは2.40(95%CI:2.35~2.45)だった。・その一方で、低体重の割合が高くなるにつれて「遅食い」のオッズが上昇し、低体重の割合が75~100%のグループでは、ORは女性で1.89(95%CI:1.82~1.96)、男性で2.45(95%CI:2.35~2.56)に達した。・追加解析では、自己申告による食事速度も追跡期間を通じて一貫性を示した。具体的には、肥満の割合が75~100%の群では、ベースライン時に食事速度が「早い」と回答した参加者で、追跡時も「早い」と回答した割合の平均は女性72.33%、男性79.90%であった。 飯塚氏はこの結果から「自己申告による食事速度は、男女ともに長期的な体重推移の区分と一貫した双方向の関連を示し、追跡期間を通じて比較的安定していた。これらの知見は、自己申告による食事速度が、長期的な体重推移の区分に関連する行動特性である可能性を示唆している」と結論付けている。

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日本人片頭痛患者の特徴と治療パターンが判明~OVERCOME研究

 片頭痛が個人の生活に及ぼす負担は、その人の背景と関連している。しかし、日本においては、年齢、性別、就労状況、収入、家族の介護といった要因と患者報告アウトカム(PRO)や片頭痛の治療パターンとの関連に関するエビデンスは限られている。大分・おおば脳神経外科・頭痛クリニックの大場 さとみ氏らは、日本における片頭痛の疫学・治療・ケアに関する観察研究であるOVERCOME(Japan)第2回研究のデータを用い、人口統計学的サブグループごとの片頭痛による負担および治療薬の使用状況について解析を行った。Pain and Therapy誌オンライン版2026年7月14日号の報告。 研究参加者は、自身の人口統計学的・臨床的特性に加え、Headache Impact Test-6(HIT-6)、片頭痛障害評価尺度(MIDAS)、Migraine-Specific Quality of Life Questionnaire version 2.1(MSQ v2.1)、片頭痛発作間欠期負担スケール(MIBS-4)、Impact of Migraine on Partners and Adolescent Children ScaleといったPRO尺度への自己報告を行った。また、片頭痛に対するOTC薬および処方薬の使用状況、頭痛に関連する費用についても報告した。性別、就労状況、月経関連片頭痛の有無および頻度、個人および世帯の年間収入、年齢、高齢者の介護状況の各項目について、記述統計を報告した。 主な結果は以下のとおり。・女性、無職、月経関連片頭痛、個人または世帯収入の低さ、高齢者の介護を行っていることは、片頭痛による負担を増大させ、処方薬の使用に影響を及ぼす傾向がみられた。・具体的には、男性は女性と比較し、トリプタン製剤(11.7%vs.8.7%)、予防薬(18.3%vs.11.2%)の使用率が高い傾向が認められた。・また、無職の女性ではMIDASグレードIVの割合が最も高く(14.1%)、月経関連片頭痛を有する女性は、そうでない女性と比較し、MIBS-4で重度の負担と判定される割合が高い傾向が認められた(36.3%vs.27.8%)。・さらに、家族の介護を行っている患者は、行っていない患者と比較し、MIBS-4で重度の負担と判定される割合(39.2%vs.26.0%)や処方薬の使用率が高い傾向が認められた。・性別は、就労状況や収入のサブグループ内においても、片頭痛による負担や治療パターンに影響を及ぼしていることが示唆された。 著者らは「これらのデータは、特定の社会人口統計学的グループにおいて、片頭痛による負担がより大きく、効果的な治療やケアへのアクセスが制限されている可能性があることを示唆している。本研究の結果が、医療従事者や社会全体での片頭痛患者の特定、臨床ケアにおける潜在的な格差の解消に役立つことが期待される」と結論付けている。

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