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遅発型ポンペ病の新規併用療法薬「ポムビリティ点滴静注用105mg」【最新!DI情報】第46回

遅発型ポンペ病の新規併用療法薬「ポムビリティ点滴静注用105mg」今回は、ポンペ病治療薬「シパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:ポムビリティ点滴静注用105mg、製造販売元:アミカス・セラピューティクス)」を紹介します。ポンペ病の筋組織に蓄積するグリコーゲンを減少させる作用を有する薬剤であり、成人の遅発型ポンペ病の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>遅発型ポンペ病に対するミグルスタットとの併用療法の適応で、製造販売承認を2025年6月24日に取得し、8月27日より発売されています。<用法・用量>ミグルスタットとの併用において、通常、体重40kg以上の成人にはシパグルコシダーゼ アルファ(遺伝子組換え)として、1回体重1kg当たり20mgを隔週点滴静脈内投与します。なお、ミグルスタットを投与してから1時間後に本剤の投与を開始します。<安全性>重大な副作用として、infusion reaction(23.5%)、アナフィラキシー(1.2%)があります。その他の副作用として、頭痛(5%以上10%未満)、浮動性めまい、味覚不全、片頭痛、平衡障害、認知障害、錯感覚、傾眠、振戦、頻脈、悪夢、潮紅、高血圧、呼吸困難、腹部膨満、下痢、腹痛、鼓腸、食道痙攣、そう痒症、発疹、蕁麻疹、紅斑性皮疹、筋痙縮、筋力低下、筋骨格硬直、筋肉痛、発熱、悪寒、胸部不快感、顔面痛、疲労、注入部位腫脹、倦怠感、疼痛、血中尿素増加、体温変動、リンパ球数減少、眼瞼痙攣、皮膚擦過傷(1%以上5%未満)があります。急性呼吸器疾患のある患者、または心機能もしくは呼吸機能が低下している患者に本剤を投与する場合、症状の急性増悪が起こる可能性があるので、患者の状態を十分に観察し、必要に応じて適切な処置が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、遺伝子組換えポンペ病治療剤と呼ばれる薬です。ミグルスタット(オプフォルダカプセル65mg)と併用されます。2.体内で不足している酵素(酸性アルファグルコシダーゼ)を補充してライソゾーム中のグリコーゲンを分解します。<ここがポイント!>ポンペ病(Pompe disease)はライソゾーム病の一種であり、酸性アルファグルコシダーゼ(GAA)の遺伝子変異により発症する先天性代謝異常症です。GAAはライソゾーム内でグリコーゲンを分解する酵素であり、欠損または活性低下により、骨格筋、肝臓、心筋などにグリコーゲンが異常に蓄積します。その結果、筋力低下、肝腫大、心筋症などの症状を引き起こします。ポンペ病は、発症時期によって幼児型と遅発型(小児型および成人型)に分類されます。乳児型は完全酵素欠損であり、自然経過では呼吸不全や心不全により、多くの場合、1歳未満で死に至ります。一方、患者の大多数を占める遅発型は、発症年齢が幅広く、残存酵素活性(正常の40%未満)を有しています。遅発型の主な症状は、近位筋筋力や呼吸筋筋力の低下であり、心機能低下はまれです。治療には、酵素欠乏状態を改善するために、アルグルコシダーゼアルファやアバルグルコシダーゼアルファを用いた酵素補充療法(ERT)が行われます。ERTの導入により、ポンペ病の治療は飛躍的に進歩し、患者のQOLは大きく向上しましたが、効果不十分な症例も報告されており、とくに筋肉への標的指向性特性の改善が求められていました。本剤は、既存のアルグルコシダーゼアルファと同様にヒトGAAの遺伝子組換え製剤ですが、ライソゾームへの送達効率を高めるための改良がなされています。ライソゾーム移行に必要な天然構造であるマンノース-6-リン酸(M6P)を多く含んでおり、とくにカチオン非依存性マンノース-6-リン酸受容体(CI-MPR)への結合親和性を高めるため、2ヵ所がリン酸化されたビスマンノース-6-リン酸(bis-M6P)を有する糖鎖が付加されています。この構造により、投与直後の酵素濃度が低い骨格筋においても、酵素の細胞内取込みおよびライソゾームへの送達(標的指向性)が改善されています。なお、本剤はミグルスタットとの併用が必須です。ミグルスタットは本剤の血中の安定性を高め、酵素活性の低下を防ぐことで治療効果を維持します。遅発型ポンペ病患者を対象としたATB200-03試験において、6分間歩行距離(6MWD)の52週でのベースラインからの変化量(外れ値の患者を除いたITT-OBS集団)の平均値±SDは、本剤+ミグルスタット併用群では20.6±42.3m、アルグルコシダーゼアルファ/プラセボ群では8.02±40.6mであり、本併用群では52週までの6MWDの経時的改善がみられました。MMRM(Mixed-effect model for repeated measures)から得られた最小二乗平均値の群間差は14.2m(95%信頼区間:-2.60~31.0)でした(p=0.097、名目上のp値)。

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胆道系疾患へのエコー(2):胆嚢の描出【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第5回

尿路感染症へのエコー(2):胆嚢の描出前回、3つ組み肝小葉構造を理解して、ポケットエコーで脈管を鑑別できるようになるための手技について解説しました。今回は、「胆嚢炎を診断できる」という目標を設定して、ポケットエコーの手技を解説していきます。胆嚢をさまざまなアプローチで描出することで胆嚢炎がしっかり診断できるようになります。胆嚢を描出する手技のポイントは3つあります。1つ目は、エコーを当てる場所(肋間または季肋部)について、肋間から始めるということです。2つ目は、見つけたらしっかり圧迫するということです。そして3つ目は、Cantlie線(胆嚢窩と中肝静脈を結ぶ線)を意識することです。それでは、この3つのポイントを念頭において手技を見ていきましょう(3つ目のポイントについては動画内では触れていません)。いかがでしょうか。見やすい肋間の位置から胆嚢を確認し、そこから季肋部へスライドさせることで胆嚢が見やすくなります。そして、短軸像で胆嚢を確認したらプローブを回転させて長軸像にすることで、きれいに胆嚢を描出できます。胆道系疾患のスクリーニングは「肝叩打痛」が有用急性胆嚢炎の超音波診断の基準の1つにsonographic Murphy’s signがあります。これは、感度と特異度が非常に優れています。つまり、エコーで胆嚢を押して痛みがある場合は胆嚢炎の可能性が高いということです。胆嚢が虚脱しやすい食事というのはどのようなものでしょうか? 脂肪分の多い食事というのは想像がつくと思いますが、じつは水でも収縮することがあります。そのため、エコーで胆嚢を観察する場合は絶飲食の指示を出しておいたほうが良いでしょう。最後に、胆道系疾患のスクリーニングについて、私のおすすめをお伝えします。それは「肝叩打痛」をみることです。大事な臓器は肋骨に隠れているため、肋骨をしっかりと叩いてみると、スクリーニングとしては有用な結果が得られます。しっかりと指示が伝わり、胆嚢を季肋部のところで描出することができる場合は、圧痛をみることで胆嚢炎の診断ができますが、そうではない場合には「肝叩打痛」がスクリーニングにおいて非常に有用です。それでは、エコーで再び胆嚢を確認してみましょう。いかがでしょうか。胆石があったのは見つけられたでしょうか? それでは、次回は応用編として「肝外胆管を描出する方法」を紹介します。

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第26回 夏の猛暑、実はあなたの老化を「喫煙レベル」で加速させていた!今すぐできる対策とは?

うだるような暑さが続く日本の夏。「熱中症にだけ気を付ければいい」と考えていませんか? 台湾で行われた約2万5,000人を対象とした大規模な追跡調査から、私たちの常識を覆す衝撃的な事実が明らかになりました。Nature Climate Change誌に掲載された最新の研究1)によると、長期的に熱波にさらされ続けることは、私たちの体を細胞レベルで蝕み、「生物学的な老化」を著しく加速させているというのです。しかも、その影響は、健康に悪いと誰もが知っている「喫煙」や「飲酒」といった生活習慣に匹敵するレベルであることが示唆されました。これは、遠い未来の話や他人事ではありません。近年の危険な暑さが、気付かぬうちにあなたの体を内側からじわじわと老化させている可能性があるのです。この記事では、この重要な研究結果を紐解き、私たちが今日から実践できる具体的な防御策について解説していきます。見えない脅威「生物学的老化」とは? 猛暑が体に与える深刻なダメージまず、この研究が指摘する「生物学的な老化」とは何でしょうか。これは、私たちが普段使う「暦年齢(誕生日からの年齢)」とは異なります。生物学的年齢とは、肝臓や腎臓、肺の機能、血圧、炎症反応など、多数の臨床データに基づいて算出される「体の機能的な年齢」のことです。同じ40歳でも、体が若々しい人もいれば、機能が衰えている人もいる。その差を客観的に示す指標が生物学的年齢です。研究チームは、2008~22年の15年間にわたる2万4,922人の健康診断データを分析。参加者が住んでいる地域の過去2年間の熱波(この研究では、気温が上位7.5%を超える日が続く期間などと定義)への累積曝露量と、生物学的年齢の進み具合(BAA:生物学的老化加速)の関係を調査しました。その結果は驚くべきものでした。熱波への累積曝露が一定量増えるごとに、生物学的年齢が暦年齢よりも年間で0.023~0.031年、余分に進んでいたのです。「たったそれだけ?」と思うかもしれません。しかし、研究者たちはこの数値を「決して過小評価すべきではない」と警告しています。なぜなら、この老化の加速度は、喫煙、飲酒、運動不足といった、他の確立された健康リスク要因がもたらす影響と同程度だったからです。私たちは、夏の暑さをただ不快なものとして耐え忍んでいる間に、タバコを吸うのと同じくらいのペースで体を老化させていた可能性があるのです。この老化のメカニズムとして、体温の上昇が細胞のDNAを傷つけたり、細胞の寿命に関わる「テロメア」を短くしたりすることが考えられています。つまり、熱波は一時的な体調不良だけでなく、回復が難しい、不可逆的なダメージを体に与え続けているのです。あなたは大丈夫? とくに注意が必要な人と、最強の防御策この研究では、熱波による老化の加速が、すべての人に平等に起こるわけではないことも明らかにしました。とくにリスクが高い「脆弱な人」が存在したのです。それは、屋外で働く肉体労働者、地方の居住者、そしてエアコンの普及率が低い地域に住む人でした。たとえば、肉体労働者は、そうでない人と比べて老化の加速が約3倍も顕著でした。また、地方の居住者も都市部の居住者に比べて影響が大きいことが示されています。そして、この研究が私たちに示してくれた最も重要で、かつ実践的な希望。それは、最強の防御策の存在です。研究チームが参加者の住む地域を「エアコンの普及率」で二分して分析したところ、決定的な差が生まれました。エアコンの普及率が低い地域の人は、熱波による老化の加速が「0.045年」と明確にみられたのに対し、普及率が高い地域の人の老化加速は、統計上ほぼゼロ(0.000年)だったのです。この結果が意味することはきわめて明確です。エアコンを適切に使用することが、熱波による深刻な健康被害、すなわち「老化」から身を守るための最も効果的な手段である可能性が高い、ということです。「クーラーは体に悪い」「冷房病が心配」といった考えから、暑さを我慢してしまう人もいるかもしれません。しかし、この研究は、その「我慢」がもたらすリスクが、一時的な不調にとどまらない深刻なものであることを科学的に示しています。猛暑の中でエアコンを使わないという選択は、自ら老化を早める行為にほかならないのです。私たちの生活への落とし込みはシンプルです。1.躊躇なくエアコンを使うとくに熱波警報が出ているような日には、我慢せずにエアコンを使用しましょう。これは贅沢ではなく、長期的な健康を守るための「投資」です。2.とくにリスクの高い方は注意を屋外でのお仕事が多い方や、郊外・地方にお住まいの方は、より意識的に涼しい環境で体を休める時間を確保することが重要です。3.社会全体での対策も必要この研究は、エアコンへのアクセスが健康格差に直結することも示しています。公共施設や避難所の開放など、誰もが涼める環境を整備していく必要性を、私たち一人ひとりが認識することも大切です。気候変動により、猛暑はもはや「異常気象」ではなく「日常」となりつつあります。この「ニューノーマル」の中で、自分と大切な人の健康を守るために、科学的根拠に基づいた賢明な判断をしていきたいものです。参考文献・参考サイト1) Chen S, et al. Long-term impacts of heatwaves on accelerated ageing. Nat Clim Change. 2025 Aug 25. [Epub ahead of print]

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カフェインの摂取量を増やすと認知機能が向上

 カフェインは、中枢神経刺激を目的に使用されることが一般的であり、神経保護作用を有するとされるが、認知機能との関連性についての集団研究によるエビデンスは限られている。中国・山西医科大学のXiaoli Wang氏らは、米国の60歳以上の成人におけるカフェイン摂取と認知機能との関連を評価した。Journal of Human Nutrition and Dietetics誌2025年8月号の報告。 2011〜14年の米国国民健康栄養調査(NHANES)データに基づき、60歳以上の米国成人2,461人を対象として、本研究を実施した。カフェイン摂取量の評価には24時間食事想起法、認知機能の評価にはアルツハイマー病登録コンソーシアム(CERAD)、動物流暢性検査(AFT)、数字符号置換検査(DSST)から得られた複合スコアを用いた。カフェイン摂取量と認知機能との関連性を評価するため、多変量ロジスティック回帰モデルを用いた。制限付き3次スプライン(RCS)を用いて用量反応関係を検討し、サブグループ解析および感度分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・カフェイン摂取量が多いほど、認知機能低下のオッズの有意な低下が認められた。・完全調整モデルでは、カフェイン摂取量が1日80mg増加するごとに認知機能低下リスクが12%低下することが示された(オッズ比[OR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.78〜0.99、p=0.035)。・カフェイン摂取量の最高四分位は、最低四分位と比較し、認知機能低下リスクが42.5%低下していた(OR:0.58、95%CI:0.40〜0.83、p=0.006)。・RCS解析の結果、カフェイン摂取量と認知機能低下との間に、主に線形逆相関が認められた(p=0.002)。・これらの知見は、サブグループ解析および感度分析においてもロバストであることが示された。 著者らは「高齢者では、カフェイン摂取量が多いと認知機能が向上する傾向が認められた。これらの因果関係を明らかにするためには、長期にわたる研究が求められる」と結論付けている。

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中等度~重度のCKD関連そう痒症、anrikefon vs.プラセボ/BMJ

 血液透析を受けている中等度~重度のそう痒症を有する患者において、新規末梢性κオピオイド受容体作動薬anrikefon(旧称HSK21542)は安全であることが確認され、かゆみの強度を顕著に軽減し、かゆみに関連する生活の質(QOL)を改善させたことが、中国・Southeast University School of MedicineのBi-Cheng Liu氏らAnrikefon-302 study collaborator groupによる、第III相の多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で示された。κオピオイド受容体作動薬は、中等度~重度の慢性腎臓病(CKD)関連そう痒症の有望な治療戦略とみなされている。anrikefonは、κオピオイド受容体への結合親和性を高める親水性の小ペプチドおよびスピロ環構造を有し、血液脳関門の通過は最小限となる。持続的な治療効果と中枢性のオピオイド副作用発現頻度の低さから、CKD関連そう痒症を有する患者の新たな治療選択肢として期待されていた。BMJ誌2025年8月19日号掲載の報告。中国の50施設で試験、有効性と安全性を評価 研究グループは、2022年6月~2024年6月に、中国の50施設でCKD関連そう痒症を有する患者におけるanrikefonの有効性と安全性を評価する試験を行った。 被験者は、週3回の血液透析を3ヵ月以上受けている成人(18歳以上)で、乾燥体重40~135kg、中等度~重度のそう痒症を有する患者とした。中等度~重度そう痒症の定義は、週平均の24時間Worst Itch Numeric Rating Scale(WI-NRS)スコアが5超の場合とした。 適格患者を無作為に1対1の割合で、anrikefon 0.3μg/kgを週3回静脈内投与する群またはプラセボを投与する群に割り付け、12週間投与し、その後に任意の非盲検延長試験に組み入れanrikefon治療を40週間行った。 主要エンドポイントは、12週時の週平均24時間WI-NRSスコアがベースラインから4ポイント以上低下した患者の割合であった。副次エンドポイントは、12週時の週平均24時間WI-NRSスコアがベースラインから3ポイント以上低下した患者の割合、およびSkindex-10と5-Dかゆみスケールを用いたベースラインからのかゆみ関連QOLの変化とした。また、ベースラインから非盲検延長治療40週目の、かゆみ関連QOLの変化も、5-Dかゆみスケールを用いて報告された。anrikefonの安全性は試験期間を通じて評価された。anrikefon群のかゆみ関連QOLが有意に改善 血液透析を受けている中等度~重度のCKD関連そう痒症を有する患者652例がスクリーニングを受け、545例がanrikefon群(275例)またはプラセボ群(270例)に無作為化された。 12週間の二重盲検試験を完了したのは、anrikefon群243/275例(88%)、プラセボ群254/270例(94%)であった。その後の40週間の非盲検延長試験には443例が組み入れられた。試験集団は、大部分が男性(70%)で平均年齢は52.7歳。ベースラインの週平均WI-NRSスコアは7.0(SD 1.1)で、両群のベースライン特性は類似していた。また、鎮痒薬の併用割合は両群間で同等であった。 12週時のWI-NRSスコアがベースラインから4ポイント以上低下した患者の割合は、anrikefon群37%であったのに対しプラセボ群は15%であった(p<0.001)。 12週時のWI-NRSスコアがベースラインから3ポイント以上低下した患者の割合は、anrikefon群51%であったのに対しプラセボ群は24%であった(p<0.001)。 anrikefon群はプラセボ群と比べて、かゆみ関連QOLが有意に改善したことが示された(5-Dかゆみスケールのベースラインからの平均変化スコア:-5.3 vs.-3.1[p<0.001]、Skindex-10スケールの同平均変化スコア:-15.2 vs.-9.3[p<0.001])。 anrikefon群は、非盲検延長治療40週の間も、5-DかゆみスケールにおけるQOLスコアの持続的な改善が示され、持続的な長期有効性が確認された。 軽症~中等症のめまいが、anrikefon群でプラセボ群よりも多くみられたが、明らかな臨床的影響は認められなかった。

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上咽頭がん、シスプラチンを用いないtoripalimab併用療法は実現可能か/JAMA

 局所進行上咽頭がん患者において、放射線治療時にシスプラチンを用いないtoripalimab併用療法(toripalimab+導入化学療法および放射線治療)は、治療成功生存期間(failure-free survival:FFS)に関する非劣性が示され、毒性の低い、実現可能な治療法であることが、中国・Guangdong Provincial Clinical Research Center for CancerのCheng Xu氏らDIAMOND Study Groupが行った第III相無作為化試験「DIAMOND試験」の結果で示された。先行研究により、上咽頭がん治療においてPD-1阻害薬のtoripalimabを用いることで、放射線治療時に毒性の高いシスプラチンの併用を省略でき、生存に影響を及ぼさない可能性が示唆されていた。JAMA誌オンライン版2025年8月21日号掲載の報告。放射線療法におけるシスプラチン省略の有効性と安全性を評価 研究グループは局所進行上咽頭がん患者において、同時放射線療法でシスプラチンを用いないtoripalimab併用療法の有効性と安全性を評価する第III相の多施設共同非盲検無作為化試験を行った。試験は中国の13病院で、2021年8月~2022年7月に、T4N1M0またはT1-4N2-3M0の患者を登録して行われた。最終追跡日は2025年3月21日。 被験者を無作為に標準治療群またはシスプラチン省略群に割り付けた。標準治療群は、toripalimabとゲムシタビン+シスプラチンの導入化学療法およびシスプラチン併用放射線療法(シスプラチンは100mg/m2を3週ごと2サイクル投与)を受けた。シスプラチン省略群は、同時シスプラチンのない同様のレジメンを受けた。toripalimab(240mg、3週ごと)は、導入療法期に3サイクル、放射線療法期に3サイクル、維持療法期に11サイクルが投与された。 主要評価項目は2つで、FFS(非劣性マージン8%)、全Gradeの嘔吐の発生率(優越性の評価)であった。副次評価項目は、全生存期間、局所無再発生存期間、無遠隔転移生存期間、安全性、奏効率、QOL、忍容性などであった。3年FFS、シスプラチン省略群88.3%、標準治療群87.6% 試験には532例が登録された(ITT集団)。per protocol集団は400例(75.2%)。ITT集団は年齢中央値47歳(四分位範囲:39~54)、女性が25.2%であった。 追跡期間中央値37.0ヵ月(範囲:4.0~50.0)時点において、3年FFS率はシスプラチン省略群88.3%、標準治療群87.6%で群間差は0.7%であった(95%信頼区間[CI]の片側下限値:-3.9%、非劣性のp=0.002、層別化ハザード比:0.92[95%CI:0.66~1.79]、log-rank検定のp=0.73)。 安全性解析では、全Gradeの嘔吐の発生率は、シスプラチン省略群が標準治療群と比べて有意に低率であった(26.2%[68/260例]vs.59.8%[156/261例]、群間差:-33.6%[片側95%CI:-∞~-26.9%]、p<0.001)。 患者報告に基づくQOL(参加率87.5%)、忍容性(参加率94.7%)は、シスプラチン省略群において、主に胃腸、機能、全体的な健康状態で良好であった。

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3学会がコロナワクチン定期接種を「強く推奨」、高齢者のリスク依然高い

 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会は2025年9月1日、今秋10月から始まる新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの定期接種を「強く推奨する」との共同見解を発表した。高齢者における重症化や死亡のリスクが依然として高いことや、ウイルスの変異が続いていることを主な理由としている。インフルエンザを大幅に上回る死亡者数 3学会によると、国内のCOVID-19による死亡者数は2024年に3万5,865例に上り、同年のインフルエンザによる死亡者数2,855例を大きく上回っている。COVID-19による死者数のピークだった2022年の4万7,638例からは減少しているものの、依然として高い水準で推移しており、大きな減少はみられていない。 また、2025年に入ってから8月24日までの期間で、COVID-19で入院した患者のうち60歳以上は3万7,000例を超えており、人工呼吸管理が必要な重症者は616例であった。3学会は、高齢者にとってCOVID-19の重症化リスクはインフルエンザと「少なくとも同等かそれ以上」だと指摘し、警戒を呼びかけている。 COVID-19は5類感染症に移行後も流行を繰り返しており、その要因として変異株が繰り返し出現していることが挙げられる。オミクロン株は数ヵ月ごとに変異し、そのたびに免疫を回避する力が強まっているとされている。高齢者施設や医療機関での集団感染も2024年と同レベルで報告されており、感染力は依然として強いことから、今冬の再流行が予想される。新型コロナワクチンの発症・重症化予防効果 2024年秋冬に接種が行われたJN.1対応ワクチンは、国内多施設共同症例対照研究(VERSUS研究)により、65歳以上の発症を52.5%、60歳以上の入院を63.2%予防する効果が確認されている。 しかし、新型コロナワクチンの効果は変異株の影響もあり接種後数ヵ月で減衰するため、インフルエンザワクチンと同様に、その年の流行株に対応したワクチンを毎年接種することが必要になる。2025年度の定期接種では、オミクロンJN.1系統の「LP.8.1」や「XEC」に対応したワクチンが供給される予定だ。【2025/26シーズンに定期接種で用いられる予定のCOVID-19ワクチン】・コミナティ筋注シリンジ12歳以上用(ファイザー)、抗原組成:LP.8.1・スパイクバックス筋注(モデルナ)、同:LP.8.1・ヌバキソビッド筋注1mL(武田薬品工業)、同:LP.8.1・ダイチロナ筋注(第一三共)、同:XEC・コスタイベ筋注用(Meiji Seika ファルマ)、同:XEC また、過去にオミクロン株の感染歴がある場合でも、6ヵ月以上経過すると再感染のリスクが増えることが報告されており、COVID-19感染から3~6ヵ月以上経過していれば、ワクチン接種が望まれる。過去の感染歴があっても新たなワクチン接種によって免疫力をさらに高めることができるとしている。2025年夏に感染した人でも、発症から3ヵ月以上経過していれば、冬の流行に備えて接種を受けることが推奨されている。 新型コロナワクチンには、COVID-19の罹患後症状(long COVID)や、罹患後1年間にわたって増加する心血管疾患や呼吸器疾患、認知機能低下などの続発症を予防する効果も報告されている。 安全性については、接種後に発熱や倦怠感といった一過性の有害事象がみられるものの、その頻度は接種回数を重ねるごとに減少傾向にあると報告されている。また、国内外の研究から、ワクチン接種が死亡リスクを増加させるという関連性はないことが示されている。 3学会は、ワクチンの利益とリスクを科学に基づいて正しく比較し、自身が信頼できる医療従事者と相談のうえで接種を判断するよう呼びかけている。なお、ワクチン接種で感染を完全に回避できるわけではなく、ワクチン接種に加えて、適切なマスクの着用、換気、手洗いなどの基本的な感染予防策を行うことも重要だとしている。

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口の中の健康状態が生活習慣病リスクを高める可能性

 口の中の健康状態が良くないことと、高血糖や脂質異常症、腎機能低下など、さまざまな生活習慣病のリスクの高さとの関連性が報告された。藤田医科大学医学部歯科・口腔外科学講座の吉田光由氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Oral Rehabilitation」に4月17日掲載され、7月10日に同大学のサイト内にプレスリリースが掲載された。 この研究では、機能歯数(咀嚼に役立っている歯の数)や舌苔の付着レベルなどが、空腹時血糖値やHbA1c、血清脂質値などと関連していることが明らかになった。吉田氏はプレスリリースの中で、「われわれの研究結果は全体として、口腔機能の低下が生活習慣病のリスクとなり得ることを示唆している。よって良好な口腔の健康を維持することは、全身の健康を維持するための第一歩と考えられる」と述べている。 吉田氏らは、2021年と2023年に同大学病院で健診を受けた50歳以上の成人118人(男性80人、女性38人)のデータを解析に用いた。全身の健康状態については、空腹時血糖値、HbA1c、善玉コレステロール(HDL-C)、悪玉コレステロール(LDL-C)、尿素窒素(BUN)、推算糸球体濾過率(eGFR)で評価し、それぞれが基準値の範囲内か基準値を外れているかで2群に群分けした。一方、対象者の口腔の状態や機能については、機能歯数、最大舌圧、咀嚼機能、嚥下機能、舌苔指数、口腔乾燥度、および、口唇や舌の運動の滑らかさの指標である「口腔ダイアドコキネシス(OD)」という、計7種類の検査で把握した。なお、ODは、特定の音節を繰り返す速度と正確さを評価する。 解析の結果、全身の健康状態を表す検査値が基準値内か基準値外かで、口腔状態を表す検査の結果に、以下のような有意差が認められた。まず、糖代謝に異常がある(空腹時血糖値やHbA1cが高い)人は、機能歯数が少なくOD値が有意に低かった。また、脂質代謝に異常がある(HDL-Cが低い、LDL-Cが高い)人は、舌苔指数が有意に高くOD値が有意に低かった。さらに、腎機能が低下している(eGFRが低い、BUNが高い)人は、機能歯数が少なくて舌苔指数が高く、OD検査での「た」や「か」の発音の滑らかさが低下していた。 著者らは、「本研究は観察研究であるため、直接的な因果関係の解釈は制限される」とした上で、「認められた全身性疾患と口腔状態の関連性は、逆の方向性を表している可能性もある。つまり、全身の健康状態の悪化が口腔状態を悪化させるというよりも、口腔状態が良くないことが、全身性慢性疾患のリスクを高めるのではないか」と考察。そのメカニズムとして、「口腔ケアが十分でない場合、口の中で細菌が増殖したり、歯肉に炎症が生じたりする。それらが全身の健康状態に悪影響を及ぼすと考えられる」と解説している。 研究チームでは、「口の中の健康と全身性慢性疾患の関係をさらに深く理解するために、より多くの人々を対象とした大規模な研究が必要」としながらも、「口腔検査そのものは、隠れた病気の兆候を見つけ出す機会となり得る。健康診断の際に口腔検査も並行して行うことが、人々の健康増進につながるのではないか」と述べている。

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より長く、より速く歩くことが心臓の健康に有益

 毎日の散歩の距離を増やして歩くペースを上げると、高血圧に関連する心臓病や脳卒中のリスクを減らすのに役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。1日の歩数が2,300歩程度の場合と比較して、1,000歩増えるごとに心筋梗塞、心不全、脳卒中のリスクが低下することが明らかになったという。シドニー大学(オーストラリア)マッケンジー・ウェアラブル研究ハブ所長のEmmanuel Stamatakis氏らによるこの研究の詳細は、「European Journal of Preventive Cardiology」に8月6日掲載された。Stamatakis氏は、「これらの研究結果は、たとえ一般に推奨されている目標である1日1万歩を下回る運動量であっても、身体活動を行うことが有益であることを裏付けている」と欧州心臓病学会(ESC)のニュースリリースの中で述べている。 この研究でStamatakis氏らは、高血圧を有するUKバイオバンク参加者3万6,192人(平均年齢64歳、男性48%)を対象に、1日の歩数や歩行強度と心血管疾患による死亡および、心不全・心筋梗塞・脳卒中(以下、主要心血管イベント〔MACE〕)との関連を検討した。対象としたUKバイオバンク参加者は、7日間にわたって加速度計を装着し、1日の歩数と歩行強度を測定していた。 平均追跡期間は7.8年であり、その間に1,935件のMACEが発生していた。解析からは、基準とした1日の歩数(2,344歩)を超える歩数はMACEリスクの低下と関連することが示された。具体的には、1日の歩数が1,000歩増えるごとにMACEリスクは17.1%(95%信頼区間10.2〜23.2)、心不全リスクは22.4%(同11.0〜31.7)、心筋梗塞リスクは9.3%(同−2.8〜19.6)、脳卒中リスクは24.5%(同5.3〜39.0)低下していた。ピーク歩行強度(1日の中で最も速く歩いた30分間での平均歩行速度〔歩数/分〕)の中央値76.6歩/分でのMACEのハザード比は0.70(95%信頼区間0.63〜0.79)であり、基準値(38.3歩/分)より速く歩くほどMACEリスクは低くなっていた。 さらに、高血圧のないUKバイオバンク参加者3万7,350人を対象に、歩数が1,000歩増えるごとにMACEおよびMACEの構成要素である心不全・心筋梗塞・脳卒中のリスクがどの程度変化するかが検討された。その結果、MACEリスクは20.2%、心不全リスクは23.2%、心筋梗塞リスクは17.9%、脳卒中リスクは24.6%低下することが示された。 こうした結果を受けてStamatakis氏は、「これらの結果から言えるのは、高血圧の人は、より速いペースでより長く歩くほど、将来、深刻な心血管疾患を発症するリスクが低くなるということだ」と述べている。 さらにStamatakis氏は、「本研究から、1日1万歩未満であっても、心臓の健康に有益な達成可能で測定可能な目標値が示された。高血圧患者に対する今後のウォーキングに関する推奨では、より高い歩行強度の推奨も検討される可能性がある」と話している。

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歩き方を少し変えることで膝の痛みが大幅に軽減するかも?

 歩くときの爪先の角度を個別に修正することで、変形性膝関節症の痛みを大幅に軽減できる可能性のあることが新たな研究で示された。また、この治療アプローチにより膝にかかる負荷が軽減され、変形性膝関節症の進行を遅らせることができる可能性があることも示唆されたという。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医科大学のValentina Mazzoli氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Rheumatology」に8月12日掲載された。 Mazzoli氏は、「この研究結果は、膝関節への負荷を減らす上で最適な爪先の角度を見つけるのを手助けすることが、初期の変形性膝関節症に対処するための容易で安価な方法となり得ることを示唆している」と述べている。同氏はさらに、「この治療戦略を用いることで、患者の鎮痛薬への依存が軽減され、膝関節置換術が必要となるまでの時間を延長できる可能性がある」とNYUのニュースリリースの中で付け加えている。 この研究では、症状のある18歳以上の内側型変形性膝関節症患者68人(平均年齢64.4歳、女性60%)を対象にランダム化比較試験を実施し、膝関節の内側にかかる負荷を最大限に減らすために爪先の角度を調整する個別化介入が疾患の進行抑制に役立つのかが検討された。試験参加者のトレッドミルでの歩行データを用いてコンピュータープログラムが歩行パターンをシミュレーションし、膝にかかる最大負荷が計算された。介入群は、膝への負荷が最大限減ると考えられる爪先の角度(爪先を5°または10°内向きまたは外向きに調整する)で歩くことを、対照群は普段通りの自然な爪先の角度の維持を目標に、それぞれ最大6回の歩行訓練を受けた。主要評価項目は、1年後の内側膝関節の痛み(数値で評価)と膝関節内転モーメントのピーク値(膝にかかる負荷の指標)とした。 その結果、1年後の膝関節の痛みは、介入群で対照群に比べて有意に減少したことが示された(群間差−1.2点、P=0.0013)。研究グループは、介入群での痛みの減少は、10段階の疼痛スケールによる評価で2.5点であったとし、「これは非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)やアセトアミノフェンなどの市販の鎮痛薬の効果と同等だ」と述べている。また、膝関節内転モーメントのピーク値(体重と身長で標準化した指標で評価)も有意に減少していた(群間差−0.26、P=0.0001)。 Mazzoli氏は、「これらの結果は、変形性膝関節症に対しては、画一的なアプローチを取るのではなく、患者ごとに最適化した治療が重要であることを浮き彫りにしている。個別化戦略は一見困難に思えるかもしれないが、最近では人工知能(AI)が進歩して、さまざまな身体部位の動きを検知できるようになってきた。これにより、これまで以上に容易かつ迅速に個別化治療を行える可能性がある」と述べている。研究グループによると、スマートフォンの動画を使って膝関節への負荷を推定するAIソフトウェアが利用可能になり、医師が特殊な実験設備を使わずに歩行分析を行えるようになっていると話している。 研究グループは、これらのAIツールが実際に変形性膝関節症患者にとって最適な歩き方を特定するのに役立つかどうかを検証する予定であるという。また、研究対象を肥満患者にも拡大する予定だとしている。

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dalbavancinは複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の新たな選択肢か?―DOTSランダム化臨床試験から―(解説:栗山哲氏)

本研究は何が新しいか? 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌血症は、病態の多様性や重篤度からの治療の長期化などからランダム化臨床試験(RCT)が少なく、推奨される治療に関して明確な世界的コンセンサスは得られていない(Holland TL, et al. JAMA. 2014;312:1330-1341.)。DOTS試験は、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の患者に対して、リポグリコペプチド系抗生物質・dalbavancinの有効性と安全性を従来の標準治療と比較した初めてのRCTである(Turner NA, et al. JAMA. 2025;13:e2512543.)。本剤は、わが国では未承認薬である。本研究の背景 黄色ブドウ球菌は、皮膚膿瘍など表皮感染症や食中毒、また菌血症、肺炎、心内膜炎、骨髄炎など致命的疾患の起炎菌となるグラム陽性球菌である。黄色ブドウ球菌は、病原性が強く、抗菌薬耐性発現頻度が高く、最も危険な病原体の1つとされる。とくに、菌血症は、発症1年以内の死亡率が30%にも達する。治療に関しては、菌血症に対しては診断確定後、非複雑性菌血症の場合でも少なくても2週間の点滴静注(IV)、複雑性菌血症の場合は4週間以上のIV治療が必要となる。 さらに複雑性黄色ブドウ球菌菌血症では、血液培養が陰性化し発熱もなく全身状態が安定し緩解しても、短期間の治療では化膿性脊椎炎などの遠隔感染巣の治療が不十分となり、再燃のリスクが高くなる。DOTS試験は、複雑性ブドウ球菌菌血症の初期治療によって緩解期に入った患者を対象に組まれたRCTである。dalbavancinは、終末半減期は14日(血中半減期は204時間)ときわめて長時間作用型で、投与も1週おきに2回のIVで完結するため、外来での対応が可能である。 また、抗菌スペクトラムとしては、MRSA、MSSA、化膿レンサ球菌、グループBレンサ球菌、バンコマイシン感受性Enterococcus faecalisなどへ強い殺菌活性が期待できる。DOTS試験の方法と結果 複雑性黄色ブドウ球菌菌血症に対して初期抗菌薬治療開始し、3日以上で10日以内に血液培養の陰性化と解熱を達成した患者を対象とした。ただし、中枢神経感染症、免疫不全例、重症例などの病態は除外された。初期抗菌薬治療後、対象患者をdalbavancin群(第1病日と第8病日の2回IV)と標準治療群(MSSA:セファゾリンか抗ブドウ球菌ペニシリン系、MRSA:バンコマイシンかダプトマイシン)に無作為に割り付けて有効性と安全性を評価したオープンラベル評価者盲検RCTである。 対象は、各治療群100例で平均年齢56歳である。試験期間は2021〜23年、参加施設は米国22施設+カナダ1施設。主要評価項目は、70日目のDOOR(Desirability of Outcome Ranking:治癒率、死亡率、合併症や安全性、QOLなどアウトカムの望ましさの順位)、副次評価項目は臨床効果と安全性である。 登録後の入院期間は、dalbavancin治療群で3日間(四分位範囲:2~7日)、標準治療群で4日間(2~8日)であった。その結果、dalbavancinは主要評価項目で標準治療に比較して、優越性の基準を満たさなかった。副次評価項目では、臨床的有用性はdalbavancin群で73%、標準治療群で72%と非劣性であった。安全性の面では、重篤な有害事象の発生率は、dalbavancin群40%、標準治療群34%と前者でやや多かった。 以上、DOTS試験のまとめとして、dalbavancinは複雑性黄色ブドウ球菌菌血症において、標準療法に比較し優越性は確認されなかった。黄色ブドウ球菌菌血症治療とdalbavancinの将来的位置付け 本邦で承認されると仮定して、感染症への実地医療の事情が異なるわが国においてDOTS試験をどう取り入れるかは興味深い。通常、菌血症と診断とされた場合、初期治療は入院加療であるが、初期治療後の外来治療は、基幹病院、かかりつけ医、往診医などが受け持つ。実際、DOTS試験では、登録割り付け後のdalbavancin治療のための入院期間は、3~4日間と短い。わが国においても、初期治療後の追加治療の実践には、感染症専門医と外来治療医との病診連携システムの充実が必須である。 本研究での重要なポイントは、複雑性ブドウ球菌菌血症が初期治療で緩解し、その後にdalbavancinが投与されていることであり、そこでdalbavancin群と標準治療群で再燃に有意な差が認められなかった。このことは、外来治療が中心になるであろう追加治療において、dalbavancinを選択することは一定の評価は得られる。 ただし、DOTS試験の問題点としては、その効果は非劣性の枠を超えておらず、対象患者が限定的(重症例や免疫不全例など除外されている)、有害事象が多めであること、平均年齢56歳であり高齢者には外挿しにくいこと、さらには腎排泄型抗生物質であり腎障害のリスクへの言及がない、などがあり、これらは解決されるべきであろう。 一方、dalbavancinのメリットとして、抗菌スペクトラムが広く、半減期がきわめて長いため2回のIV(第1病日と第8病日)で治療完了であることは注目される。この特徴のため、確実な治療アドヒアランスが担保され、治療中断例は少なくなり完遂率は高まる。さらに、留置型IVアクセスが不要である点から、カテーテル感染や血栓症は大幅に回避される。 医療経済面では、dalbavancinの薬価は高いが、入院期間短縮や外来治療で解消される可能性、カテーテル関連費用軽減など医療対費用効果でのメリットも想定される。 いずれにせよ、(仮に承認されるとして)わが国におけるdalbavancin治療には、薬理学的評価、医療システム、医療経済など多くの検討が必要である。

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ChatGPTの音声機能を使って、基礎的な英会話力を伸ばす【タイパ時代のAI英語革命】第4回

ChatGPTの音声機能を使って、基礎的な英会話力を伸ばす生成AI、とくにChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)は、瞬時に多様な英文を生成し、私たちの学習を多方面でサポートしてくれます。AI技術がいかに進化しても、医療現場で不可欠なのは「話す・聞く」といった基礎的なコミュニケーション能力です。医療英語においても、単語や文法の知識だけでなく、リアルタイムで相手の発言を理解し、自分の意思を正確に伝える力が求められます。今回は、生成AI、とくにChatGPTを活用して、この「話す・聞く」能力を効果的に伸ばす方法を紹介します。従来の英会話学習は、教科書やリスニング教材、英会話教室などが主流でした。しかし最近では、ChatGPTなどのAIを利用し、24時間好きなときに英会話の練習をすることが可能になっています。とりわけ「音声モード」を利用することで、実際の会話に近い感覚で英語を「話す」「聞く」トレーニングができるのです。音声モードを利用する生成AIは主にテキストベースのコミュニケーションが多いですが、少し工夫すれば「話す・聞く」という点に役立てることができます。ChatGPTは音声モードを搭載しており、これはスマホ用のアプリでも、パソコンのブラウザでも使用できます。英会話の練習をする手軽さとしてはスマホのほうが向いているため、ここではスマホアプリでの使用法について解説します。まず、ChatGPTで高度な音声モードを使用するには、図1の右下にあるように音声アイコンをタップし、音声入力を開始します。すると、AIが“Hello! How can I help you today?”などと話し掛けてきます。あとは、スマートフォンのマイクに向かって英語で話すだけです。日本語のモードになっている場合には「英会話の練習をしたいので英語で会話してください」などと言うと、英語のモードに切り替えてくれます。画面右上の設定ボタンから音声を指定することもでき、男性や女性、声のトーンなどから選べるため、気分に合わせて対話する相手を変える楽しみもあります(図2)。図1図2“Dictation”と“Read Aloud”機能を活用するChatGPTの音声会話モードは、AIとリアルタイムで対話できる没入感のある機能ですが、スピーキングとリスニングの学習をさらに深めるためには、“Dictation”(ディクテーション)と“Read Aloud”(リードアラウド)という2つの基本的な機能を意識的に活用することが効果的です。“Dictation”とは、私たちが話した英語をAIが聞き取り、テキストに書き起こす機能のことです。図1のマイクのアイコンをタップして文章を話すと、発話が画面上に文字として表示されますが、これがまさにDictationです。この機能は、自身の発音の正確性を客観的に確認するための、優れたツールとなります。たとえば、「arrhythmia(不整脈)」や「ischemia(虚血)」「anesthesia(麻酔)」といった、日本人にとって発音が難しい、あるいはアクセントの位置を間違えやすい専門用語を含んだ文章で話し掛けてみましょう。自分の発音がAIに正しく認識され、意図したとおりの単語としてテキスト化されれば、それは発音が正確であることの証となります。もし間違った単語に変換されてしまった場合は、どの部分が伝わりにくかったのかを考えるきっかけとなり、発音を改善するための具体的な目標が見つかります。“Read Aloud”は、その名のとおり、ChatGPTが表示したテキストを自然な英語音声で読み上げてくれる機能です。これは、リスニング力を鍛えるための無限の教材となりえます。使い方はシンプルで、図3のようにChatGPTが表示したテキストの左下に表示される“Read Aloud”アイコンをタップします。すると、表示された言語で回答を読み上げてくれます。何かをChatGPTに聞いて、その回答を読み上げてもらうことも可能ですし、読み上げてほしい文章がある場合には「Copy this “(ここに読み上げてほしい文章を入力)”」のように入力すると、ChatGPTがその文章をそのまま返答してくるので、Read Aloudアイコンをタップすると読み上げてくれます。これらの機能は日常英会話や英語での診療、国際学会での発表などさまざまな場面で活用でき、いつでもどこでも利用可能なので、積極的に利用することをお勧めします。図3

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骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2025年版

10年ぶり改訂!人生100年時代に必要な、骨粗鬆症の最適な治療法を選択するためのガイドライン骨粗鬆症による骨折は、QOL、ADLを低下させ、生命予後を悪化させる。健康寿命延伸に骨粗鬆症の予防と治療は欠かせない。加齢とともに有病率が高まり、さまざまな疾患と関連する骨粗鬆症についての知識・情報は、専門医のみならず一般医、メディカルスタッフにも必須といえる。2025年版では、新たにCQ(クリニカルクエスチョン)を設定してシステマティックレビューを行い、エビデンスの評価・統合をして推奨文を作成。また、多くの医療従事者が臨床上疑問に思う課題をQ(クエスチョン)として取り上げ、回答を用意した。骨粗鬆症診療における予防と治療、さらに疫学、成因、リエゾンサービス、医療経済など多様な分野を網羅したガイドラインである。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2025年版定価4,400円(税込)判型A4変形判頁数272頁発行2025年7月編集骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団)ご購入はこちらご購入はこちらAmazonでご購入の場合はこちら

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第279回 「クマ外傷」の医学書が教えてくれるクマ被害の実態、「顔面、上肢の損傷が多く、挿管と出血性ショックに対する輸血が必要なケースも。全例で予防的抗菌薬を使用するも21.1%で創部感染症が発生」

マダニが媒介するウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の累計患者数が過去最高にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。9月に入っても猛暑の日が続きます。この歴史的な暑さのせいもあってか、自然界もいろいろ変調を来しているようです。「第272回 致死率30%!猛威を振るうマダニ感染症SFTS、患者発生は西日本から甲信越へと北上傾向」で取り上げたマダニが媒介するウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS:Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)も急増中です。国立健康危機管理研究機構は8月26日、8月17日までの1週間に全国から報告されたSFTSの患者は5人で、今年の累計の患者数は速報値で143人となり、過去最多だったと発表しました。これまでに感染者が報告されているのは31道府県で、高知県で14人、大分県で11人、熊本県、長崎県で9人、鹿児島県、島根県、兵庫県で8人など、西日本を中心に多くなっていますが、今年はこれまで感染が確認されていなかった関東地方や北海道でも報告されています。「第272回」でも書いたように温暖化などの影響でSFTSウイルスを持ったマダニの生息域が日本で北上しているのは確かなようです。例年、発症が増え始めるのは4月で、5月にピークを迎え、10月くらいまで続くとされていますが、猛暑の今年は11月くらいまで発症が続くかもしれません。1〜2週間前に山や畑などで作業などをしており、謎の発熱や嘔吐、下痢を起こしている患者の診療には、皆さん重々お気を付けください。クマ被害も過去最多の被害者数となった2023年度と同じ水準増えているということでは、クマの被害も急増中です。山での被害はもちろん、麓の町中での被害も増えています。8月7日付のNHKニュースは、「環境省のまとめでは、今年4月から7月末までにクマに襲われてけがをするなどの被害にあった人は、長野県が13人、岩手県が12人、秋田県、福島県、新潟県で、それぞれ4人などの、合わせて55人で、このうち北海道と岩手県、長野県で、それぞれ1人が死亡しました。過去の同じ時期と比べると、年間を通じて過去最多の被害者数となった2023年度は56人で、今年度はほぼ同じ水準」と報じています。この夏、私がとくにショックだったのは、8月14日に起こった北海道・羅臼岳で登山中の26歳男性がヒグマに襲われ死亡した事件です。襲ったと思われる母グマが、15日に子グマ2頭と共に駆除され、その後母グマはDNA鑑定で男性を襲った個体と特定されました。登山者が被害に遭った羅臼岳の登山道はかつて私も下ったことがあります。「アリの巣が多く、クマがよく出る」ことで昔から有名で、熊鈴だけではなく笛も頻繁に吹きながら歩いた覚えがあります。北海道警察の事故の調査結果を報じた8月21日付の共同通信によれば、「男性は襲撃直前、同行者から離れて単独で走り、岩尾別温泉に向かって下山していた。クマ避けの鈴は携帯していた。道幅が狭く見通しの悪いカーブで母グマに遭遇したとみられる」とのことです。突然の遭遇で驚いた母グマが防御反応として襲った可能性が高そうです。もう一つショックだったのは、北アルプスの薬師峠キャンプ場(通称:太郎平キャンプ場、富山市有峰)で、ツキノワグマにより登山者のテント及び食料が持ち去られる被害が発生し、このキャンプ場が閉鎖された事件です。ここは薬師岳だけではなく、雲の平や高天ヶ原、黒部五郎岳などにテント泊で行くためには、必ず泊まるキャンプ場です。薬師峠キャンプが使えなくなることによる登山者への影響は甚大です。ちなみに、私は高校時代から今までにこのキャンプ場に20泊近くしていますが、クマには一度も遭ったことがありません。北アルプスのツキノワグマは、登山者の食料を漁ることが常態化してきたのでしょうか。だとしたらとても恐ろしいことです。山麓の町でも、山の中においても、人とクマの生息域が近くなり過ぎたことが、クマ被害急増の大きな原因だと言われています。町中に不用意にゴミを放置しない、柿などの果実を木に成らしっぱなしにしない、キャンプ場では食料の管理を米国の国立公園並みに厳格にする、などの対策を取るとともに、クマに対して「人の活動領域に行ってもいいことはない」ということを多様な手段で教え込むことも必要だと感じる今日この頃です。2023年度に年間21例の重傷クマ外傷の治療に当たった秋田大医学部付属病院の医師たちが症例をまとめるそんなクマ被害急増の中、クマ外傷に特化した医学書が今年4月に出版され全国紙で取り上げられるなど話題になっています。『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』(新興医学出版社)で編著者は秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授の中永 士師明(なかえ・はじめ)氏です。『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』編著・中永 士師明(秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授)新興医学出版社、A5変型判、88頁、3,960円(税込み)『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』編著・中永 士師明(秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授)新興医学出版社、A5変型判、88頁、3,960円(税込み)同書の序文によれば、「2023年度のクマ類による人身被害は急増し、東北が141件と突出している。(中略)秋田県内の人身被害は70件となっており、秋田大学医学部付属病院では年間21例の重傷クマ外傷の治療に当たった」とのことで、同書では、2023年に搬送された21例のうち20例について症例写真を例示しながら詳細に分析しています。「クマ外傷の特徴」の章にまとめられたその分析では、患者の平均年齢は74.5歳で、男性が13人を占めていました。受傷場所は市街地が15人で、山林が5人。搬送のピークは10月の7人で、受傷の時間帯に傾向はありませんでした。患者は顔面の負傷が9割で、骨折(9人)や眼球破裂(3人)などのほか、頭蓋骨骨折(1人)もありました。ツキノワグマの攻撃力がいかに強大なものであるかがわかります。同書はこれらのデータから得られる医学的知見として、「クマ外傷は秋に人間の生活圏で多く発生していた。上半身(顔面、上肢)の損傷が多く、全身麻酔による緊急手術が必要であった。一部の患者は挿管と出血性ショックに対する輸血が必要であった。全例で予防的抗菌薬を使用したが、21.1%で創部感染症が発生した。死亡退院はなかったが、15.8%で失明などの重大な後遺症が残った」とまとめています。「クマによる最初の一撃はほとんどが爪によるものであり、クマが立ち上がった高さでちょうど手が届く顔面を襲われる」「クマ外傷による顔面外傷の実際」の章では、爪が下眼瞼にひっかかることで下涙小管の断裂が起こりやすいこと、顔面神経の損傷とその修復が大きな課題であることを指摘するとともに、「クマによる最初の一撃はほとんどが爪によるものであり、クマが立ち上がった高さでちょうど手が届く顔面を襲われる。(中略)2023年度の症例のうち眼球損傷と眼筋の障害により3名が片眼を失明した。クマ外傷の後遺症として最も生活に支障をきたす失明を避けるには、まず眼球を守ることを周知しておく必要がある」と書いています。また、多くの患者が、受傷後に不眠やせん妄、急性ストレス反応などを訴えたことから、「クマ外傷による精神的問題」という章も設け、急性ストレス症や心的外傷後ストレス症(PTSD)への対応についても詳細に解説しています。本書は医学書ですが、「クマ外傷の予防策」の章では、クマとの遭遇を避ける方法や、クマを寄せ付けないための方法の解説もあります。コラムも充実しており、「飼い犬は役立つか」、「子グマなら勝てるか?」、「クマのパンチにアッパーカットはない」など興味深いテーマで13本が掲載されています。これから秋を迎え、各地でクマ被害も増えると予想されます。クマに襲われた患者が運ばれてきたときの対処法を学びたい方は、一読をお勧めします。

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経管投与時の投与負担軽減のため、バイアスピリンからダイアルミネート製剤への変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第67回

 在宅医療では、薬学的な有効性・安全性に加えて、実際の投与場面での実用性も重要な要素です。とくに、同等の効果を有する製剤間で投与負担の違いがある場合、患者・介護者の負担軽減を考慮した製剤選択が求められます。しかし、このような製剤特性の違いを理解し、個々の患者さんの状況に応じて最適な選択を行うためには、薬剤師の専門的な判断が不可欠です。患者情報89歳、女性、要介護4基礎疾患脳梗塞、アルツハイマー型認知症、高血圧症服薬管理娘による管理、経管栄養(胃瘻)にて投与月1回の往診あり処方内容(簡易懸濁法での投与)1.バイアスピリン錠100mg 1錠 朝食後2.タケキャブOD錠10mg 1錠 朝食後3.ビオフェルミン配合散 3g 朝昼夕食後4.アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後5.フロセミド20mg 1錠 朝食後6.アジルサルタン錠20mg 1錠 朝食後7.塩化ナトリウム 3g 朝昼夕食後8.ラコールNF配合経腸用半固形剤 900g 毎食後(300-300-300)症例のポイントこの患者さんは、同居の娘さんが主に簡易懸濁法を実施していました。ある日、「懸濁時に熱湯を使用すると懸濁時に薬剤がスムーズに流れないため、錠剤をすべて潰して投与している」と相談をいただきました。粉砕した薬剤は保管時の安定性や取り出しにくさの問題もあり、介護者にとって大きな負担となります。さらに、ICTの情報連携において、下記の要望が寄せられていました。医師「簡易懸濁できるかどうか判断がつかない。処方箋にはどのように入力したらよい?」訪問看護師「懸濁時にお湯でドロドロになることがあるが、何か適さない薬はある? チューブ径の問題? 娘さんも不安そう」ケアマネジャー「同居の娘さんが懸濁は大変、と漏らしている。もっとよい方法があれば娘さんも助かると思う」薬学的な観点から分析すると、まず、熱湯投与していたというビオフェルミン配合散は、お湯で崩壊・懸濁するとチューブ閉塞の要因となる可能性があります(第31回参照)。さらに、バイアスピリン錠は腸溶性製剤であり、簡易懸濁法には不適切な製剤でした。腸溶性コーティングのため崩壊前に亀裂を入れる必要があり、フィルム残渣が残存して完全な懸濁が困難です。崩壊に時間がかかることで投与作業が煩雑になり、粉を取り出しにくいという物理的な問題も介護者の負担を増大させていました。そこで、バイアスピリン錠100mgからバファリン配合錠A81へ変更することで、単に剤形変更ではなく、患者さんの服薬環境を根本的に改善することができると考えました。バファリン配合錠はダイアルミネート製剤であり、亀裂を入れる必要がなく、残渣も残りません。胃酸による刺激を緩和しつつ簡易懸濁法にも適応するため、経管投与患者にとって理想的な選択肢です。画像を拡大する医師への相談と経過バイアスピリンの簡易懸濁法での技術的課題に加え、ビオフェルミン配合散の澱粉による懸濁困難も合わせて説明するため、訪問診療への同行の機会を活用して、医師へ情報共有を行いました。まずは「ドロドロになってしまう薬」の正体が澱粉であることを明確にし、製剤選択による根本的解決の必要性を説明しました。また、バイアスピリンとバファリン配合錠の簡易懸濁法の違いを具体的に説明し、投与負担軽減による服薬コンプライアンス向上への期待について提案することで、医師の理解を得ることができました。その結果、提案のとおりバファリン配合錠A81および酪酸菌製剤への変更が決定されました。処方箋備考欄には「簡易懸濁法で投与」と明記され、家族や看護師に変更内容と投与方法の詳細な説明を実施しました。本症例でとくに重要であったのは、医師、薬剤師、看護師、ケアマネジャーという多職種の連携により、各々の専門性を活かした包括的な問題解決が実現できたことです。各職種の強みが統合されることで、患者・介護者のQOL向上につながる実践的な解決策が見出されました。経管投薬支援料の算定が可能にこの一連の経管投与に関する薬学的管理指導により、経管投薬支援料の算定が可能になりました。経管投薬支援料は、経管投与患者に対する薬剤師の専門的関与を評価する診療報酬項目であり、適切な簡易懸濁法の指導や製剤変更提案などの薬学的管理が算定要件となります。経管投薬支援料の算定は、体系的で継続的な薬学的関与が評価される仕組みです。単発の処方変更提案ではなく、問題の発見から解決、そして効果の検証まで一貫した薬学的管理を提供することで、診療報酬の適正算定と患者利益の向上を両立させることが可能になると実感した症例でした。バファリン配合錠A81販売中止への対応このようにうまくいった処方提案でしたが、バファリン配合錠A81は2025年7月頃に販売が中止されました(経過措置期間は2026年3月末日まで)。この歴史ある製剤の販売終了は、経管投与患者にとって大きな影響を与えます。メーカーは代替候補としてバイアスピリン100mgを案内していますが、本症例のように腸溶性製剤からの変更を目的とした場合には、同じダイアルミネート製剤を選択する必要があります。そこで代替品としては、同じくダイアルミネート製剤である他の後発医薬品(ニトギス配合錠A81、バッサミン配合錠A81、ファモター配合錠A81など)が候補となります。これらの製剤も同様に簡易懸濁法に適応するため、バファリン配合錠で得られた投与負担軽減効果を維持することが可能です。1)藤島一郎監修, 倉田なおみ編集. 内服薬 経管投与ハンドブック〜簡易懸濁法可能医薬品一覧〜 第4版. じほう;2020.2)バファリン配合錠添付文書情報3)バファリン配合錠販売中止情報

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看護師人数の改善は「患者の命」と「現場」を救う!【論文から学ぶ看護の新常識】第29回

看護師人数の改善は「患者の命」と「現場」を救う!オーストラリアで導入された「看護師の最低配置基準政策」。その効果を調べた研究により、適正な人員配置と患者の安全性、そして看護師自身の幸福度の間に、明確な因果関係があることが示された。Karen B. Lasater氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年8月6日号に掲載された。オーストラリア・クイーンズランド州の看護師最低配置基準政策の導入が、看護師のウェルビーイングと患者安全を改善:準実験的介入研究研究チームは、看護師の最低配置基準政策の導入が、看護師のウェルビーイング、離職意向、および患者安全を改善したかを評価する目的で準実験的介入研究を実施した。最低配置基準政策の対象となった27病院(介入病院)では、内科・外科病棟における平均の看護師(准看護師を含む)対患者比を、日勤帯(朝・午後シフト)では看護師1人あたり患者4人以下、夜勤帯では看護師1人あたり患者7人以下とすることが義務付けられた。この介入病院と、対象とならなかった41病院(比較病院)を、政策導入前と導入2年後の2つの時点で比較。看護師のアウトカム、患者安全指標、ケアの質指標、運営上の失敗(インシデントなど)について評価した。主な結果は以下の通り。介入病院では、導入前と比べて明確な改善が確認された。重度の燃え尽き状態になる確率が24%低下(オッズ比:0.76、95%信頼区間[CI]:0.61〜0.94、p<0.05)職務不満足になる確率が27%低かった(オッズ比:0.73、95%CI:0.59〜0.91、p<0.01)業務量、専門能力開発、職務上の自律性、および勤務スケジュールに対する職務不満足度がすべて有意に低下し、看護師の労働環境スコアも改善した。(一方、比較病院ではこれらの項目は時間とともに悪化した。)介入病院では、ケアの質、患者安全、および運営上の失敗が著しく改善した。(比較病院では概して悪化した。)この研究は、政策立案者や病院管理者に、最低配置基準政策の導入が、看護師にとってより好ましい労働環境、看護師の燃え尽きや職務不満足度の低下を含むより良い職務成果、そして患者ケアの質と安全性の向上をもたらし得るという、強い確信を与えるものである。この研究で最も興味深いのは、もしこの政策がなければ、事態は悪化の一途を辿っていたという衝撃の事実です。実際に、政策が導入されなかった病院では、この調査期間中に看護師たちが自院のケアの質を「悪い」と評価する確率が増加していました。現場は、静かに、しかし確実に疲弊し、質が低下する負のスパイラルに陥っていくことがデータで示されました。この「比較病院の姿」こそ、多くの医療現場が直面している「現在の姿」であり、何もしなかった場合の「現場の未来」だとも言えるのではないでしょうか。この状況に対し、最低配置基準政策は、悪化する流れを完全に断ち切るだけでなく、状況を劇的に好転させる効果を持っていました。具体的には、ケアの質が「悪い」と評価される確率を42%も引き下げるという、明確な効果を示したのです。まさに流れを逆転させる「ゲームチェンジャー」であり、現場を救う「救世主」とも言える一手となっています。さらに、この研究の素晴らしい点は、長年「そうに違いない」と信じられてきた「看護師配置の改善が、現場と患者を救う」という仮説を、信頼性の高い準実験デザインによって、科学的に証明した点です。これにより、両者の関係は単なる「相関関係」から明確な「因果関係」のレベルにまで引き上げられました。看護師の適正な配置が、現場と医療の質を守るための最も確実で強力な一手であると揺るぎない根拠をもって示された、私たち看護師にとって大変希望的な研究です。論文はこちらLasater KB, et al. Int J Nurs Stud. 2025 Aug 6. [Epub ahead of print]

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日本人急性期統合失調症患者の長期予後に最も影響する早期ターゲット症状は?

 急性期統合失調症における早期治療反応の予測は重要であるが、困難である。福島県立医科大学の小林 有里氏らは、アリピプラゾールまたはブレクスピプラゾール治療を行った患者において、2週間後の特定の症状領域改善が、6週間後の全体的な治療反応を予測するかどうかを明らかにするため、観察研究を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2025年9・10月号の報告。 対象は、アリピプラゾールまたはブレクスピプラゾール治療を行った患者65例(抗精神病薬未使用患者:34例、抗精神病薬未使用再発患者:31例)。ベンゾジアゼピン使用患者は41例(64.1%)であった。治療反応の評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)および臨床全般印象改善度(CGI-I)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・受信者動作特性(ROC)分析の結果、曲線下面積(AUC)は、PANSS総スコアで0.788、陰性症状スコアで0.783、興奮症状スコアで0.603、認知機能スコアで0.746、陽性症状スコアで0.738、抑うつ/不安症状スコアで0.735であった。・Kendall's tau相関係数とCramer's V係数では、PANSS総スコア(0.413、p<0.001)、陰性症状スコア(0.411、p<0.001)、両スコアで二分した治療反応(0.573、p<0.001)、認知機能スコア(0.364、p<0.001)、陽性症状スコア(0.344、p<0.001)、抑うつ/不安症状スコア(0.344、p=0.001)について有意な予測関係が認められたが、興奮症状スコア(0.15、p=0.151)については有意な予測関係は認められなかった。・ベンゾジアゼピン使用は、これらの予測関係に有意な影響を及ぼさなかった。 著者らは「本研究は、アリピプラゾールまたはブレクスピプラゾール治療を行った急性統合失調症患者におけるPANSSの5因子モデルの予測妥当性を評価した初めての研究である。早期の症状改善、とくに陰性症状の改善は、全体的な治療反応のより強い予測因子である一方で、興奮症状の改善は関連性が弱いことが示唆された。これらの知見は、急性期統合失調症の治療戦略を最適化するために、早期の症状特異的な評価の重要性を強調している。これらの結果を検証するためにも、より大規模なサンプルを用いたさらなる研究が求められる」と結論付けている。

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透析を要する腎不全患者、MRAは心血管死を予防するか/Lancet

 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、心不全および非重症慢性腎臓病の患者の心血管イベントを予防する可能性があるが、透析を要する腎不全患者への効果は明らかではない。カナダ・McMaster UniversityのLonnie Pyne氏らの研究チームは、この患者集団におけるMRAの有効性と安全性の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を実施。ステロイド型MRAは、透析を要する腎不全患者における心血管疾患による死亡にほとんど、あるいはまったく影響を及ぼさなかったことを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年8月23日号で報告された。19試験4,675例のメタ解析 本研究では、1974~2015年に発表された論文に関する以前の系統的レビューに、その後2025年3月18日までに新たに報告された10件の論文(最近の2つの大規模試験[ALCHEMIST、ACHIEVE]を含む)を追加してデータを更新し、メタ解析を実施した(本研究は特定の研究助成を受けていない)。 維持透析療法を受けている腎不全の成人(年齢18歳以上)患者において、MRAと対照(プラセボまたは標準治療)を比較した無作為化対照比較試験を対象とし、ステロイド型MRAに関する19件の試験(スピロノラクトン18件、エプレレノン2件、これら2剤を対象とした1件を含む)に参加した4,675例を解析に含めた。 主要アウトカムは心血管疾患による死亡率とし、経験的ベイズ法に基づく変量効果モデルを用いて評価した。心血管死のリスクに差はない 心血管死亡率の評価は11件(4,349例)の試験で行われ、このうち5件(3,562例)はバイアスリスクが低く、6件(787例)は高かった。低バイアスリスク試験における心血管死の発生率はMRA群で14.8%(264/1,785例)、対照群で15.5%(276/1,777例)であり(オッズ比[OR]:0.98[95%信頼区間[CI]:0.80~1.20]、I2=2.9%、τ2=0.0、エビデンスの確実性:中)、両群間に差を認めなかった。 MRA群で、1,000例当たりのイベント数が年間1件(95%CI:-14~11)減少すると示唆された。 また、高バイアスリスク試験における心血管死の発生率のORは0.33(95%CI:0.17~0.67)、全試験のORは0.73(0.46~1.16)であった。高カリウム血症、女性化乳房のリスクが上昇 心血管死以外の7つの評価項目に関する低バイアスリスク試験または全試験の解析結果は以下のとおりであった。MRA群で高カリウム血症(≧6.5mmol/L)と、女性化乳房または乳房痛のリスクが上昇したが、各試験の絶対リスクは低かった。・心不全による入院:低バイアスリスク試験2件(3,182例)、MRA群5.9%(94/1,580例)vs.対照群6.6%(106/1,602例)、OR:0.70(95%CI:0.30~1.65)、I2=71.1%、τ2=0.29、エビデンスの確実性:低。 ・全死因死亡:同6件(3,602例)、30.6%(553/1,805例)vs.31.9%(574/1,797例)、0.97(0.84~1.12)、0%、0、中。 ・全入院:同1件(2,538例)、57.8%(728/1,260例)vs.58.5%(748/1,278例)、0.97(0.83~1.14)、中。 ・高カリウム血症(≧6.0mmol/L):全試験5件(1,104例)、33.7%(190/563例)vs.31.8%(172/541例)、1.07(0.81~1.40)、0.0%、0.0、低。 ・高カリウム血症(≧6.5mmol/L):低バイアスリスク試験4件(2,918例)、8.2%(120/1,465例)vs.5.7%(78/1,375例)、1.50(1.11~2.03)、0.0%、0.0、中。 ・女性化乳房または乳房痛:同5件(3,448例)、2.3%(40/1,728例)vs.0.7%(12/1,720例)、3.02(1.57~5.81)、0.0%、0.0、中。 ・低血圧:全試験5件(3,012例)、2.3%(35/1,509例)vs.2.0%(30/1,500例)、1.04(0.61~1.78)、0.0%、0.0、低。非ステロイド型MRAの情報はない 著者は、「本研究の知見は、ステロイド型MRAは透析を要する腎不全患者における心血管疾患による死亡にほとんど、あるいはまったく影響を及ぼさず、潜在的な有害性(harm)のリスクを示唆する」「これらの患者のサブグループにおけるステロイド型MRAの効果に関する情報は不十分であり、非ステロイド型MRAについては情報がまったくない」としたうえで、「これらの患者は心血管死のリスクが依然として高く、有効な治療法が引き続き緊急に求められている」とまとめている。

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