サイト内検索|page:2

検索結果 合計:35095件 表示位置:21 - 40

21.

「寂しい高齢者」に、医療介護者はどう対応したらいいか?【外来で役立つ!認知症Topics】第36回

涙という「心のごみ出し」前回の記事では、「老い」は孤独と裏表にあると述べた。そして文末で、山本 學氏の「寂しくなったときには思い切って泣く」という対処法を紹介した。さらに學氏は、悲しかったことを思い出して、「どうなってもいいから、とどんどん追い込む。自分で自分を追い込むんですけど、その後はさっぱりとした気分になりますよ」と語られた1)。私自身は最近では泣いたことがないので、そう簡単に真似できないかもしれない。しかし子供のころを振り返ってみると、カタルシスというのか、あの泣き終わった後の気分は清々しいものがあった。「悲しみやつらさで流す涙の中には、ストレスのもとになる物質が含まれている」という、ちょっと歌の文句的な表現がある。その真偽はさておき、涙は心のごみ出し、つまり泣くことで「つらさ」を外に流すということは事実だろう。癒しの鍵は「互恵性」にあり寂しさを癒すために、臨床心理学の分野などでさまざまな試みがなされてきた。これまでの報告を総括すると、以下の手法が効果的だとされる。社会的なスキルを改良すること(上手な対人交流を学ぶこと)社会的なサポートを増やすこと社会的な接点をたくさん持つこと認知行動療法しかし、筆者が注目するのは、こうした心理学的、あるいは精神医学的手法ではない。こうした論文を読んだとき「やっぱり!」と思ったことがある。それは、ペットを用いた「寂しさ」への介入の多くが成功していることだ。しかも生きた動物以外にロボットも、さらには今風の仮想ペットまでは含まれているのである。論文には、介入が成功する理由は「目的意識を生み、生産的なライフスタイルに変えていくからだ」と書かれていた。しかし筆者自身の実感として、ペットの効果については次のように思う。「自分がペットを世話するから、向こうも反応する」という双方向性がポイントだろう。これは「寂しさ」や孤独の反対にある、「お互いさま」という互恵そのものだ。仏教には「人に物や心を施せば、わが身の助けとなる」とか「惜しまずに与える気持ちで、心から奉仕できれば、人の心は豊かになる」との教えがある由。「寂しい」高齢者とペットとの関係はこれに似ている。だから多少なりとも「寂しさ」が癒されるのだろうと思う。また筆者は、人によっては、バラやキクなどの花の栽培、キュウリやナスなどの野菜作りも、そこそこ効果があると経験してきた。そのポイントは、ペット同様に「心を込めれば、だんだんと大きく育つこと」「実りがあること」だろう。そして、うがった見方ながら、人と違って植物もペットも自分に従順だということが肝なのかもしれない。介護者へのヒント「家庭の中で寂しい高齢者にどう対応したらいいか?」と介護者から尋ねられることは、まれでない。もちろん一言で答えられるほど易しくはないのだが、基本は前回述べたような「高齢者の寂しさの原点」を知って、そこを和ませる態度や姿勢だろう。それが容易でないからこそ、ペットや植物の導入である。これらを話題にして当事者に話してもらうことも含め介護者が対応していけば、寂しい人を案外和ませるかもしれない。医療者として:「常に慰む」ことさてここまでは「寂しさ」をキーワードに老いの心を論じた。こうした観点を含め、医療・福祉関係者として、自分の目前の高齢者に対する基本姿勢を考えてみる。われわれが対応する高齢の当事者には、多くの場合、不自由、病などが基盤にあり、自らの死が遠くないという思いもあるので「希望」がない。そのような希望に関して、筆者はときに次の格言を思い出す。「時に癒し、しばしば和らめ、常に慰む」これを言ったのは外科医だと聞くが、意味するところは「時には完治させることもある。対症療法にも心を砕いて症状を緩和させよ。けれども常に慰めること、励ますことを忘れてはならない」ということだろう。余談ながら、最近になって東京大学名誉教授で昭和天皇の執刀医であった森岡 恭彦先生の少し前の論文2)で、この言葉の由来を読む機会があった。そこで驚いたのは「この格言を最初に述べた人は誰か?」と医師国家試験に出題されたことである。正解はともかく、出題者の意図は、医師はこの格言を胸に刻んで患者さんに臨んでほしいことかと思う。そして認知症医の自分事として、今のところ完治も病勢停止もさせられない認知症に対しては、「常に慰む」をもって対応するしかないと思ってきた。もっともこの場合「慰む」は、むしろ「褒める、励ます、思いを察すること」かもしれない。たとえば、次のような声掛けである。「この2ヵ月、1日も休むことなくデイケアに通いましたね」「この1ヵ月は夫婦で3,000歩の散歩を頑張りましたね」「初診から1年間、軽度認知障害のまま維持できましたね」また、認知症の人が抱くふがいなさや悔しさへの「察し」と「共感」は、とくに若い患者さんでは不可欠だろう。つまり「慰む」とは、一筋でも希望を持っていただきたいというメッセージである。今のところ、われわれが認知症を癒すことはできなくても、慰む、そして和らむこともできるはずである。「悟り」とは「生きる」ということ本稿の終わりに、山本 學氏との共著のタイトルにある「老いを生ききる」の意味に触れたい。學氏と話し合ったのだが、それを端的に表現することは容易でなかった。筆者には、わだかまりが残り、消化不良の思いをずっと抱いてきた。しかし最近になって「これが近いかな?」と思う次の名言を知った。俳人・正岡 子規が死の3ヵ月前に『病床六尺』に書き付けたものである。「悟りということはいかなる場合にも平気で死ぬことかと思っていたのは間違いで、悟りということは、いかなる場合にも平気で生きていることであった」これに倣えば、「生ききる」とは、「過去も未来も見ない、今なすべきことに専心する」と命ある限り自らを鼓舞する意志かと思う。参考文献1)山本 學, 朝田 隆. 老いを生ききる 軽度認知障害になった僕がいま考えていること. アスコム;2025.2)森岡 恭彦. 「時に癒し、しばしば和らめ、常に慰む」~guerir quelquefois, soulager souvent, consoler toujours~ ~to cure sometimes, to relieve often, to comfort always~この格言の由来について. 日本医史学雑誌. 2020;66:300–304.

22.

AI時代の産業保健と法学をつなぐ―日本産業保健法学会第5回学術大会事務局長レポート【実践!産業医のしごと】

1. 「産業保健」と「法学」の接点を感じられる学会CareNet.comをご覧の医師の方、産業医の経験がある方でも、「産業保健法学の学会」と聞いて、イメージが湧くでしょうか?2025年9月、日本産業保健法学会の第5回学術大会が北里大学白金キャンパスで開かれ、著者の私は事務局長を務めさせていただきました。産業医、保健師、弁護士、社労士など、多職種が一堂に会し、「健康問題と法」を巡る実務の悩みを持ち寄った2日間でした。本学会の特徴は、「法知識をベースに多職種の知恵を借りて問題解決を図る」という趣旨を、実務の視点にまで落とし込んでいることです。具体的な特徴としては、1)各セッションに医学と法律の専門家をそれぞれ1名以上配置する2)各セッションのテーマを「マクロ・ミクロ/未然防止・事後解決」の4象限で整理し、学会全体でカバーするようにプログラムを組み立てるの2点です。産業医の日常業務で感じる「これは医療だけでは解決できない」というモヤモヤを、法学と実務でどう扱うのか、医学と法学の接点を感じられる学会といえます。2. AIを軸にした幅広いシンポジウム今回の大会の統一テーマは「AIと産業保健」でした。AIを1つの軸に据えつつ、AIを用いた労務管理やメンタルヘルス対応、健康情報の取り扱い、ハラスメント、障害者雇用、労災・安全配慮義務など、産業医が現場で直面する幅広いテーマを、法学と実務の視点から取り上げました。AIの話題も単なる未来予測にとどめず、AI活用に当たって、今の制度と何がかみ合っていないのか職場のルールや社内規程をどう書き換えるべきか産業医が面談や判定の場で、どこまでAIを活用でき、どこから人間の判断にすべきかといった、明日からの実務に持ち帰れる論点に落とし込めるよう、各セッションの先生方が努力してくれました。具体的には、下記のようなシンポジウムが開催されました。1)デジタルヘルスが産業保健にもたらすパラダイムシフトと法AIやDXが産業保健に与える変化を、単一視点では捉えきれない複合現象として整理し、法的含意も含め多面的に検討。2)生成AIは私たちの認知にどのようなインパクトを与えるか(法政策への示唆)AI時代の「認知のアップデート」を軸に、産業保健・法学・人類学の視点で対話し、人とAIが共に働く未来の視座を高める3)職場における新型コロナワクチン接種と被害者救済職域接種の社会的役割とともに、接種後健康被害救済・ハラスメント・労災認定等の法的課題を含めた「事実」を多角的に検証し、次のパンデミックへの教訓を議論。4)データ活用による健康経営推進と法的課題データ活用の期待と、個人情報保護等の法的・倫理的制約の実務ジレンマ(許容範囲が不明確)を問題意識として整理し、線引きを検討。参加者の感想を見ても、「AIというテーマから産業保健と法の『線引きの難しい領域』を正面から議論していた」「産業医として、どこまで責任を負うべきかを考えさせられた」といった声が多く、実務に沿った理解と課題解決といった目的を果たせたのではと感じています。3. 事務局の“裏側”レポートここからは少し学会運営に当たっての“裏側”の話です。これまでは学会に参加する側として、プログラムや会場運営が「当たり前に」回っているように見えていました。しかし運営側、とくに事務局の立場になって初めて、登壇者の調整、予算と採算の管理(各大会で独立採算)、後援・協賛・広報などの重要性を痛感しました。学会の肝となる登壇者の調整では、各セッションに医系と法学系の統括者が必ず登壇する「縛り」のほか、「テーマに人を当てる(=知り合いを呼ぶ)のではなく、テーマに合う人を探す」という原則を徹底するようにしました。結果として、候補者リストとにらめっこしながら「この先生はテーマの分野の法的論点をどこまで話してもらえるか」「この弁護士の方は労災問題に詳しいが、産業医向けの話にしてもらえるか」といった相談を重ねました。広報もまた地味ながら重要な仕事でした。学会のニュースレターやウェブサイトに加え、関連学会のバナー、社労士会や産業保健総合支援センターなどの後援団体にメーリングリストでの案内を依頼しました。申し込み人数の推移は常に気になります。学会は独立採算制ですから、参加者数はそのまま大会の収支に跳ね返ります。締め切りまでパソコンの前で、「今日は何人増えた」「この広報が効いたかもしれない」と一喜一憂しました。最終的に多くの先生方にご参加いただき、胸をなで下ろしました。4. 産業医へのメッセージ─線引きの難しい領域こそ一緒に考える場に大会を通じて、あらためて感じたのは、「産業保健と法学は、問題がこじれたときだけ出会うものではない」ということです。むしろ、業務起因性をどこまで見るか企業として復職・配置転換をどう判断するか健康情報をどう守りつつ、産業保健を最大化するかといった、産業医が日々悩んでいる「線引きの難しい領域」こそが、法学者や弁護士と一緒に考えるべき領域なのだと思います。産業保健法学会のセッションでは、「訴訟になったらどうなるか」だけでなく、「訴訟になる前に、どのような制度や運用を整えればよいか」「社内規程や合意形成をどう設計するか」といった、“予防としての法”の視点が繰り返し提示されました。これは、現場で奮闘する産業医にとって、大きな支えになるはずです。第5回大会の運営を担当した1人として、産業医の先生方には「困ったときの課題を解決する場」に加え、「迷っているテーマを一緒に言語化していく場」として、この学会を活用していただきたいと願っています。AIをはじめ、新しいリスクが次々と現れるこれからの時代、医療・法・実務が交差するこのプラットフォームが、働く人の健康を守る一助になればと願っています。

23.

第294回 改正医療法やっと成立、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減さらに加速へ 「地域医療構想の見直し」8つのポイント

「医療法等の一部を改正する法律」遅れに遅れてやっとの成立こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLB各チームの補強が佳境を迎えています。ポスティングでの移籍を目指すヤクルト・村上 宗隆内野手と巨人・岡本 和真内野手はまだ決まっていませんが、それに先駆ける形で大物の移籍が続々と決まっています。12月9日(現地時間)には、昨シーズンまでニューヨーク・メッツに在籍していたエドウィン・ディアス投手のロサンゼルス・ドジャースへの移籍が報道されました。ディアス投手と言えば、高らかなトランペットの登場曲、「Narco」でも有名なクローザーです。気分が滅入って仕事から逃げたい時に聴くとやる気が出てくる、あの曲「Narco」をドジャーススタジアムでも聴くことができるのでしょうか。今からとても楽しみです。さて、医師偏在対策、病床削減支援、医療DXの推進などを柱とする「医療法等の一部を改正する法律」が、2025年12月5日の参議院本会議で可決・成立しました。本連載(第265回 “米騒動”で農水相更迭、年金法案修正、医療法改正案成立困難を招いた厚労相の責任は?)でも書いてきたように、法案が国会に提出されてから実に10ヵ月、遅れに遅れてやっとの成立です。最重要政策「地域医療構想の見直し」を盛り込んだ医療法の改正「医療法等の一部を改正する法律」は2026年4月1日以降に順次施行されます。「等」と銘打たれているように、複数の医療関連法令をまとめた一括法です。柱は「地域医療構想の見直し」「医師偏在是正に向けた総合的な対策」「医療DXの推進」の3つとなります。一般マスコミの中にはキャッチーな「医師偏在是正」を前面に押し出した記事もありますが、やはり今回の最重要政策は「地域医療構想の見直し」を盛り込んだ医療法の改正だと言えます。「地域医療構想の見直し」は、これまでの地域医療構想の目標年であった2025年が到来したことを受け、2040年を目標年とする「新たな地域医療構想」を作るための政策です。85歳以上人口の増加や、各地での人口減少がさらに進む2040年とその先を見据え、すべての地域・世代の人々が適切に医療・介護サービスを受けながら生活できるための医療提供体制の構築を目的としています。以下に「地域医療構想の見直し」の主なポイントをまとめてみました。1)病床の機能分化だけでなく、外来・在宅、介護との連携、人材確保等の計画も「新たな地域医療構想」の目標年が2040年とされたのは、「団塊ジュニア世代」が全員65歳以上となり、高齢者人口がピークを迎える年と推計されていること、85歳以上の高齢者が大幅に増加し、救急医療や在宅医療、介護との連携といった多様で複雑な医療ニーズが急増すること、日本全体で人口減少が進み、医療従事者を含む働き手の確保が困難になる見込みであることなどが理由です。そうした理由から、これまでの地域医療構想は主に入院医療(病床数の調整、病床の機能分化など)が主体でしたが、「新たな地域医療構想」では「治す医療」と「治し支える医療」の役割分担の明確化とともに、外来医療・在宅医療、介護との連携、人材確保等の計画も含めた、より包括的で地域完結型の医療・介護体制の構築を目指すことになります。2)医療法の規定で「地域医療構想」が「医療計画」よりも上位の概念にこれまで「地域医療構想」は、「医療計画」の記載事項の1つに過ぎませんでした。しかし、今回の法改正で「地域医療構想」が「医療計画」の上位概念に位置付けられることになりました。今後は地域医療構想で地域の医療提供体制全体の将来ビジョン・方向性を定め、それに則って医療機関の分化・連携、病床の機能分化・連携等を進めていくことになります。都道府県が6年ごとに定める「医療計画」は、地域医療構想の具体的な実行計画という位置付けとなり、5疾病・6事業、在宅医療、外来医療、医師確保、医師以外の医療従事者の確保等について、中長期的な計画を立てて進めていくことになります。3)基準病床数は「新たな地域医療構想」における将来(2040年)の病床必要量の範囲内に「医療計画」との関係では、「医療計画」における許可病床の上限数(基準病床数)を、「新たな地域医療構想」における将来(2040年)の病床必要量の範囲内に収めることになります。特定の医療機関の増床計画により、地域の総病床数が必要病床数を上回ってしまう場合は、地域医療構想調整会議で了承が得られた場合に限り増床が許可されます。4)病床機能の区分、「回復期」は「包括期」に名称変更病床機能の区分については、現行の「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」という4区分は基本変わりませんが、「回復期」という名称は「包括期」に変更されます。これは、今後増加する高齢者救急等の受け皿として、急性期と回復期の両方の機能を併せ持つ病床が必要との考えからです。「包括期」の機能は、「高齢者救急等を受け入れ、入院早期からの治療とともに、リハビリテーション・栄養・口腔管理の一体的取り組み等を推進し、早期の在宅復帰等を包括的に提供する機能、急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能」と定義されており、従来の「回復期=リハビリテーション」という考え方から大きく変わり、単なる回復期にとどまらず、軽症の急性期患者も対象とし、医療・リハビリ・退院支援を一体的に行う新しい病床機能になります。5)新たに「医療機関機能報告」の制度が創設「新たな地域医療構想」では、医療機関機能に着目して地域医療構想を策定・推進することになっており、それに伴って新たに「医療機関機能報告」の制度が創設されます。「医療機関機能報告」とは、地域(二次医療圏等を基礎とした構想区域)ごとに確保すべき医療機関機能として高齢者救急・地域急性期機能在宅医療等連携機能急性期拠点機能専門等機能より広域な観点で確保すべき医療機関機能として医育及び広域診療機能をそれぞれ位置付け、各医療機関(病床機能報告の対象となる医療機関)が定期的にどのような医療機関機能を有しているかを報告する制度です。なお、1医療機関がさまざまな医療機関機能を担い、1医療機関が報告する医療機関機能は複数になることも想定されています。具体的な「医療機関機能報告」の報告項目、報告方法等の詳細については、これから策定されるガイドラインで明らかにされる予定です。ところで、「医療機関機能報告」の中で「急性期拠点機能」に入るのが「がん診療連携拠点病院等」です。国は、がん診療連携拠点病院等についても連携・再編・集約等を進める考えです。「新たな地域医療構想」における議論では、がん医療を含む急性期医療について、「地域ごとに必要な連携・再編・集約を進め、二次救急医療施設も含めた医療機関において一定の症例数を集約して対応する地域の拠点として対応できる医療機関を確保することが求められる」としています。6)人口規模が小さ過ぎる構想区域は合併、大き過ぎる構想区域は分割「新たな地域医療構想」では、構想区域の考え方も柔軟になります。構想区域については引き続き2次医療圏を基本としつつ、人口規模が20万人未満や100万人以上の構想区域など、医療需要の変化や医療従事者の確保、医療機関の維持、アクセスなどの観点から課題がある場合には、必要に応じて構想区域を見直すことが適当とされました。人口規模が小さ過ぎる構想区域は合併、大き過ぎる構想区域は分割できるようになります。構想区域の具体的な設定方法については、今後策定されるガイドラインにその詳細が盛り込まれる予定です。7)精神医療も地域医療構想で位置付けこれまで地域医療構想の対象外だった精神医療が「新たな地域医療構想」では新しく位置付けられます。精神医療はこれまで、精神障害者の退院促進、地域移行・地域生活支援といった施策を推進することで、「入院医療中心から地域生活中心へ」という精神保健医療福祉施策の基本的方策の実現が図られてきました。今後、2040年頃を見据えると、高齢化の進展等に伴い、精神医療についても入院患者数の減少、病床利用率の低下などが見込まれます。そのため、一般病床と同様、精神科病床についても適正化を進めるとともに、急性期、回復期といった精神病床の機能分化・連携や、救急医療を含む一般医療との連携体制の強化、外来・在宅医療提供体制の整備が行われます。具体的には、2040年頃の精神病床数の必要量を推計した上で、計画的かつ効率的に地域の精神病床等の適正化・機能分化を進めていくことや、一般病床と同様、病床機能報告の対象に精神病床も追加することなどが予定されています。8)病床数の削減を支援する事業を都道府県が実施できるように病床数の削減を支援する事業等が法律で規定され、病床削減への公的支援が明文化されました。都道府県は、医療機関が経営安定のため緊急に病床数を削減する場合に支援事業を実施でき、国が予算の範囲内で費用を補助することができるようになります。これは、自民、日本維新の会、公明の3党合意を踏まえ、当初の法案に衆議院厚生労働委員会で修正・追加された内容です。2025年度補正予算では約3,490億円の「病床数適正化緊急支援基金」を創設し、稼働病床1床当たり410万円、非稼働病床では205万円を支給することになっています。これまでの補助分と合わせ、最大約11万床の削減が想定され、削減後は基準病床数も原則引き下げられます。自らの医療機関がどのような医療機関機能を担っていけるのか、担っていきたいのかの検討を以上述べてきたように、一般病床が主な対象だった地域医療構想が、外来・在宅、介護との連携、人材確保等の計画も含めたより包括的な“構想” へとバージョンアップします。地域医療構想は、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減を強力に推し進める強力なツールになったといえます。個々の医療機関の経営者(とそこで働く医師)は、自らの医療機関が現状どのような医療機関機能を担っているのか、そして2040年に向けてどのような医療機関機能を担っていけるのか、あるいはいきたいのかを早急に検討し、医療機関機能報告制度の開始に向け、その準備を進めておく必要があるでしょう。

24.

看護アドボカシーの新モデルを提唱【論文から学ぶ看護の新常識】第43回

看護アドボカシーの新モデルを提唱看護師の重要な責務の1つである、アドボカシー。その実践をベッドサイドにとどめることなく、持続可能な保健医療システムへとつなげるための新たなフレームワークが提唱された。Susanna Aba Abraham氏らの研究で、BMC Nursing誌2025年9月29日号に掲載の報告。ベッドサイドからシステム変革へ:持続可能な保健医療のためのTRIL看護アドボカシーモデル研究チームは、看護師主導のアドボカシーにおいて、ベッドサイドからシステムレベルに至るまで、持続可能な保健医療の実践と看護師主導の変革を促進するための概念的フレームワークを開発することを目的に記述的質的研究を行った。英国看護協会の2016年から2023年度の「Nurse of the Year」受賞者のストーリーから、公開されている7つの看護師主導のアドボカシーの取り組みを、フレームワーク法を用いて分析した。主要なアドボカシーの次元を統合するプロセスには、全体像の把握、主題的枠組みの特定、インデックス化、チャーティング、マッピング、および解釈が含まれた。主な結果は以下の通り。分析の結果、「TRIL看護アドボカシーモデル」が開発された。本モデルは、看護師主導のアドボカシーは「変革的行動」、「関係的コ・デザイン」、「制度的レガシー」という3つの相互に関連する柱で構成されることを示している。「変革的行動」は、危機対応型イノベーション、人中心の変革、健康格差是正の推進、および実践基準の再構築に対する看護師の能力を明示している。「関係的コ・デザイン」は、部門横断的な協働、地域主導のエンパワーメント、および医療従事者を鼓舞する重要性を強調している。「制度的レガシー」は、持続的な影響を確実にするための政策と資源の制度化、および持続可能なシステム統合の重要な役割を重視している。このモデルは障壁が存在する現実も認識しており、組織的な抵抗を克服し、持続可能な保健医療を創造するための戦略的なナビゲーションの必要性を強調している。TRIL看護アドボカシーモデルは、看護師主導のアドボカシーを推進するための包括的な視点を提供する。アドボカシー・スキルを育成するためのカリキュラム開発を導くことにより、看護教育に重要な示唆を与える。また、看護師がシステム変革に果たす貢献を浮き彫りにすることで政策に影響を与え、実践においては、強靭で持続可能な保健医療システム構築に向けた自身の取り組みを、看護師が戦略的に計画・評価する力を強化する。看護師の役割をベッドサイドのケアから持続可能な医療システムの構築者へと引き上げる重要な研究です。RCN-UK(英国看護協会)の受賞者たちの実践を分析し開発されたTRIL看護アドボカシーモデルは、アドボカシーをこれまでの単なる「患者の代弁」にとどめず、(1)変革的行動、(2)関係的コ・デザイン、(3)制度的レガシーという3つの柱で再定義しました。多くの看護師が経験する、「個人の情熱だけで終わってしまうプロジェクト」や「段々と消えてしまう改善活動」の虚しさ。この論文は、このような虚しく終わる活動をしっかりと「制度」として組織に定着させていくことで、自分たちの行動が未来の医療を形作るレガシー(遺産)になり得るのだという希望を与えてくれます。看護教育や政策に携わる方だけでなく、日々の業務の中で「何かを変えたい」と願うすべての看護師に届いてほしい、今後の看護の新たなスタンダードです。論文はこちらAbraham SA, et al. BMC Nurs. 2025;24(1):1224.

25.

認知症発症リスク、亜鉛欠乏で30%増

 亜鉛欠乏が神経の炎症やシナプス機能障害をもたらすことで認知機能低下の可能性が指摘されているが、実際に亜鉛欠乏と認知症の発症を関連付ける疫学的エビデンスは限られている。今回、台湾・Chi Mei Medical CenterのSheng-Han Huang氏らが、亜鉛欠乏が新規発症認知症の独立した修正可能なリスク因子であり、明確な用量反応関係が認められることを明らかにした。Frontiers in Nutrition誌2025年11月4日号掲載の報告。 研究者らは、亜鉛欠乏と認知症の新規発症リスクの関連を調査するため、TriNetXの研究ネットワークを用いて、2010年1月~2023年12月に血清亜鉛の検査を受けた50歳以上を対象とした後ろ向きコホート研究を実施。対象者を亜鉛濃度(欠乏症:70μg/dL未満、正常値:70~120μg/dL)で層別化し、認知機能障害の既往がある者、亜鉛代謝に影響を与える疾患を有する患者を除外後、人口統計学的特性、併存疾患、薬剤、臨床検査値に基づき1対1の傾向スコアマッチングを行った。主要評価項目は3年以内の新規認知症の発症とした。また、追加評価項目として認知機能障害を、本研究の解析アプローチ検証のための陽性対照評価項目として肺炎を含めた。*原著論文では亜鉛濃度をμg/mLで表記しているが、診療指針等を考慮し本文ではμg/dLに修正。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、各群に3万4,249例が含まれた。・亜鉛欠乏は、認知症発症リスクを34%上昇させる(調整ハザード比[HR]:1.34、95%信頼区間[CI]:1.17~1.53、p<0.001)、肺炎発症リスクを72%上昇させる(調整HR:1.72、95%CI:1.63~1.81、p<0.001)ことと関連していた。・認知機能障害は、全期間を対象とした解析では有意な関連を示さなかった(調整HR:1.08、95%CI:0.92~1.28、p=0.339)が、新型コロナウイルス感染症パンデミック前の期間(2010~19年)の解析では、調整HRが1.38(95%CI:1.11~1.72、p=0.004)と有意な関連を示した。・軽度から中等度の亜鉛欠乏(50~70μg/dL)と重度の亜鉛欠乏(50μg/dL未満)をそれぞれ正常亜鉛レベルでの認知症新規発症リスクと比較した場合、軽度から中等度の亜鉛欠乏の調整HRは1.26(95%CI:1.10~1.46)、重度の亜鉛欠乏では調整HRは1.71(95%CI:1.36~2.16)と用量反応関係が明らかであった。 これらの知見より研究者らは、「認知症予防戦略において血清亜鉛の状態を評価し、最適化することの重要性を支持する。因果関係を明らかにし、最適な介入プロトコルを決定するためにランダム化比較試験の実施が期待される」としている。

26.

統合失調症におけるブレクスピプラゾール切り替え、その有用性は?

 統合失調症は、長期の薬物治療を必要とする慢性疾患である。十分な治療反応が得られず、副作用を経験する患者が少なくないため、服薬アドヒアランスの低下を招き、抗精神病薬の切り替えや多剤併用療法が必要となることもある。このような状況において、良好な忍容性プロファイルを有する非定型抗精神病薬であるブレクスピプラゾールは、これまでの治療が奏効しなかった、または不耐容であった患者に臨床的ベネフィットをもたらす可能性がある。しかし、ブレクスピプラゾール切り替え後のリアルワールドにおけるエビデンスは依然として限られている。イタリア・Universita Cattolica del Sacro CuoreのMarco Di Nicola氏らは、ブレクスピプラゾールへの切り替えを行った統合失調症患者における精神病理学的、機能的、身体的健康状態への影響を評価した。Journal of Personalized Medicine誌2025年10月22日号の報告。 クロスタイトレーションによりブレクスピプラゾール(2~4mg/日)に切り替えた統合失調症外来患者50例を対象に、12週間のレトロスペクティブ観察研究を行った。主要アウトカムは、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の14項目のサブセットを用いて評価した患者の生活へのエンゲージメントの変化および奏効率/寛解率とした。副次的アウトカムは、主観的ウェルビーイング、生活の質(QOL)、性機能、代謝パラメーター、プロラクチン値の変化とした。評価尺度には、主観的ウェルビーイング評価尺度短縮版(SWN-S)、WHO-5精神健康状態表(WHO-5)、Arizona Sexual Experience Scale(ASEX)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・生活へのエンゲージメントについて、すべての領域で有意な改善が認められた(p<0.001)。また、40%の患者において、臨床的反応が認められた。・SWN-SおよびWHO-5スコアにおいて、有意な改善が認められた(各々、p<0.001)。・体重(−2.64kg、p=0.013)およびBMI(−0.91kg/m2、p=0.006)の有意な改善が認められた。・ASEX(p=0.067)およびプロラクチン値(−30.7ng/mL、p=0.077)の改善も認められたが、統計学的に有意な差は認められなかった。・忍容性は、全体として良好であった。 著者らは「統合失調症患者に対するブレクスピプラゾールへの切り替えは、精神病理学的、機能的、身体的健康状態の改善と関連していた」とし「本リアルワールドデータは、これまでに抗精神病薬治療で効果が不十分であった統合失調症患者に対するブレクスピプラゾールの有用性を裏付けるものである」と結論付けている。

27.

分散型臨床試験の治療効果は、非分散型と異なるか/BMJ

 分散型臨床試験(decentralised trial:DCT)は、試験活動の一部またはすべてを参加者に近い場所で実施するか、完全に遠隔で行うことで試験参加の負担軽減を目指すもので、より優れた患者中心の研究の促進を目的とする。しかし、研究者による監視が減弱するため試験結果に影響が及ぶ可能性があり、従来の非分散型臨床試験(non-DCT)と効果推定値が異なるかは不明とされる。スイス・ベルン大学のLouise Chaboud氏らは、DCTは従来の非分散型の無作為化試験と同様のクリニカルクエスチョンに対する回答を提供し、効果推定値を系統的に過大評価または過小評価することはないものの、結論の相違につながる可能性のあるわずかな絶対偏差が生じることを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年11月18日号に掲載された。DCTとnon-DCTの治療効果を比較するメタ疫学研究 研究チームは、DCTまたは従来のnon-DCTとして設計された試験の治療効果を比較するメタ疫学研究を行った(本研究は特定の助成を受けていない)。 PubMedデータベースを用いて、同一のクリニカルクエスチョンに答えるDCTとnon-DCTを系統的に特定した。メタ解析で統合される試験は、同一のクリニカルクエスチョンに答えるものと仮定し、既存の系統的レビューを用いて効果推定値を比較した。 DCTは、参加者が研究目的で研究施設を訪問する必要が一切ない無作為化臨床試験と定義し、次の3つとした。(1)非接触試験:参加者は試験関係者と一切の接触を持たない、(2)在宅試験:参加者は研究目的で自宅を離れることはない、(3)近隣試験:参加者は研究目的で研究施設以外の特定の場所へ移動する。 non-DCTは、参加者が研究目的で研究施設を訪問する必要がある無作為化臨床試験と定義し、次の2つとした。(1)混合試験:DCTの特徴を部分的に有する試験(例:電話による遠隔評価)、(2)純粋試験:DCTの特徴をまったく持たない試験。効果に差異はないが、絶対偏差が1.3倍 11のクリニカルクエスチョンに関する51件のDCT(非接触試験9件、在宅試験20件、近隣試験22件)と86件のnon-DCT(混合試験35件、純粋試験51件)を比較した。バイアスのリスクが低いと判定された試験は、DCTが26件(51%)、non-DCTは51件(59%)であった。参加者の脱落率はDCTで低かった(9%vs.14%)。 non-DCTに比べDCTは試験の規模が大きく、サンプルサイズ中央値はDCTが1,175例(四分位範囲[IQR]:205~5,292)、non-DCTは236例(98~833)であった。平均的に、DCTはnon-DCTの5倍のサンプルサイズを有しており、これは募集プロセスの改善(たとえば、試験参加の募集案内への承諾者の増加)を示唆する。また、DCTは、より近年に行われた試験が多かった(発表年中央値はそれぞれ2012年vs.2007年)。 11のクリニカルクエスチョンのうち9つ(82%)で、DCTとnon-DCTの有意水準が一致した。また、DCTとnon-DCTで、効果に系統的な差異は認めなかった(オッズ比の要約比:1.01、95%信頼区間:0.93~1.09、異質性I2=8.6%)。一方、絶対偏差中央値は1.3倍だった(オッズ比の絶対比:1.30、IQR:1.13~1.51)。DCTが無作為化試験に新たな道をひらく 分散化により、試験は迅速化と低コスト化が可能となり、より大規模で多様性・代表性に富む集団を取り込むことができるため、試験参加者の重要なサブグループに関するエビデンスを提供し、より個別化された意思決定を可能にすると考えられた。 著者は、「試験の分散化は、治療の効果推定値の信頼性を維持しつつ、負担軽減など参加者への直接的な便益に加え、より大規模な試験の実施を可能にするなど、無作為化試験に新たな道をひらくとともに、患者中心のエビデンスの創出を促進すると考えられる」「本研究の知見は、DCTが効果推定値を系統的に過大評価または過小評価しないことを示唆するが、結論の相違を招きうる軽微な絶対偏差が生じているため、さらなる調査が求められる」としている。

28.

ER+/HER2-進行・転移乳がん、ESR1変異検出時のcamizestrantへの切り替えでPFS延長(SERENA-6)/SABCS2025

 ASCO2025で第III相SERENA-6試験の中間解析結果が報告され、ER+/HER2-の進行または転移を有する乳がんと診断され、アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬の併用療法を開始してESR1変異が検出された患者が、次世代経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)および完全ER拮抗薬であるcamizestrant+CDK4/6阻害薬へ切り替えることによって、無増悪生存期間(PFS)の統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した。今回、SERENA-6試験の最終PFS解析結果とESR1変異血中循環腫瘍DNA(ctDNA)動態の探索的解析の結果を、フランス・Institut CurieのFrancois-Clement Bidard氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025、12月9~12日)で報告した。 SERENA-6試験は、ctDNAによって内分泌療法抵抗性を検出し、病勢進行前に治療の切り替えを実施するアプローチを使用した初の第III相国際共同二重盲検試験。定期的な腫瘍の画像検査時にctDNA検査を行い、内分泌療法抵抗性の初期兆候およびESR1変異を有する患者を特定した。ESR1変異が検出され、病勢進行がない場合は、AI(アナストロゾール、レトロゾール)からcamizestrant(75mg、1日1回経口投与)に切り替えて、同じCDK4/6阻害薬(パルボシクリブ、アベマシクリブ、ribociclib)との併用を続けた。camizestrant切替群にはAIのプラセボ、AI継続群にはcamizestrantのプラセボも投与された。 主な結果は以下のとおり。・315例の患者がcamizestrant切替群(157例)とAI継続群(158例)に無作為に割り付けられた。データカットオフ(2025年6月30日)時点での追跡期間中央値は18.7ヵ月であった。・主要評価項目であるPFS中央値は、camizestrant切替群16.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.7~19.4)、AI継続群9.2ヵ月(同:7.2~9.7)であり、中間解析と同様にcamizestrant切替群で有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.46[95%CI:0.34~0.62]、p<0.00001)。・2次治療開始後のPFS(PFS2)中央値は、camizestrant切替群25.7ヵ月(95%CI:20.3~28.9)、AI継続群19.4ヵ月(同:17.8~21.4)であった(HR:0.56[95%CI:0.39~0.80]、名目のp=0.00153)。・化学療法/抗体薬物複合体(ADC)の投与を開始するまでの期間の中央値は、camizestrant切替群22.7ヵ月(95%CI:20.3~31.5)、AI継続群18.7ヵ月(同:16.7~24.7)であり、camizestrant切替群で長かった(HR:0.69[95%CI:0.49~0.97]、p=0.029)。・8週時点のESR1変異のアレル頻度はcamizestrant切替群で大幅に減少し(ベースラインからの変化の中央値:-100%[IQR:-100~-100])、AI継続群で増加した(同:+66.7%[IQR:-67.9~+465.0])(p<0.00001)。AI継続群では、ESR1変異のアレル頻度がベースラインから500%以上増加した患者は24.4%であったのに対し、camizestrant切替群では0.8%であった。・新たな安全性シグナルは報告されなかった。

29.

成人のRSウイルスワクチンに関する見解を発表/感染症学会、呼吸器学会、ワクチン学会

 日本感染症学会(理事長:松本 哲哉氏)、日本呼吸器学会(同:高橋 和久氏)、日本ワクチン学会(同:中野 貴司氏)の3学会は合同で、「成人のRSウイルスワクチンに関する見解」を12月9日に発表した。 Respiratory syncytial virus(RSV)感染症は、新生児期から感染が始まり、2歳を迎えるまでにほとんどの人が感染するウイルスによる感染症。生涯獲得免疫はなく、成人では鼻風邪のような症状、乳幼児では多量の鼻みずと喘鳴などの症状が現れる。治療薬はなく、対症療法のみとなるが、ワクチンで予防ができる感染症である。 RSV感染症は、基礎疾患を有する成人ではインフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられており、高齢者などはワクチンの任意接種対象となっている。2026年4月からは妊婦に対しRSVワクチンが定期接種になることもあり、今後、RSV感染症の予防対策の重要性はますます高まると考えられている。 3学会では、今般の見解について、「現時点でのRSVワクチンの科学的な情報であり、また接種の必要性を考える際の参考としていただきたい」と述べている。高齢者のRSV感染症の疾患負荷をワクチンで防ぐ1)主旨 RSV感染症は、国内外の研究報告をふまえると、高齢者、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人には、インフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられている。高齢者施設やハイリスク病棟での集団感染も報告されており、公衆衛生危機管理上の重点感染症にも分類されるRSV感染症の感染対策として、高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨する。 今後、わが国でも死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。2)主なワクチン 現在、わが国で接種できるワクチンは任意接種として2つの組換えタンパク質ワクチンとmRNA(2025年5月承認、今後発売)がある。3)国内の高齢者における疾病負荷 2022年9月~2024年8月の2年間にわたり国内の4つの2次医療圏の急性期医療機関で実施された積極的サーベイランス研究で、RSV感染症による入院率は65歳以上人口10万人年当たり1年目29例、2年目36例、18歳以上のRSV感染症の院内死亡率は7.1%と報告されている。 わが国の2015~18年の医療保険データベースMedical Data Vision(MDV)を用いたRSV流行期と非流行期の時系列モデリング解析によって、全国のRSV関連入院率を推定した研究によると、65歳以上のRSV関連呼吸器疾患の入院率は10万人当たり96~157例と示されている。また、RSV感染症の文献をシステマティックレビューした報告によると、わが国の60歳以上の年間のRSVによる急性呼吸器感染症患者数は約69.8万人、入院患者数は約6.3万人、院内死亡者数は約4,500人と推定されている。4)慢性心肺疾患患者ではRSV感染症の重症化リスクが高まる 慢性心肺疾患を有する患者では、RSV感染症は重症化リスクが高まることが知られている。米国・ニューヨーク州のサーベイランス研究では、65歳以上のRSV入院率は1.37~2.56/1,000例であり、慢性閉塞性肺疾患、喘息、うっ血性心不全患者の入院率は、これらのない患者と比較して、それぞれ3.5~13.4倍、2.3~2.5倍、5.9~7.6倍高いことが報告されている1)。5)RSV感染症はインフルエンザと同程度の疾病負荷がある わが国の1,038例の呼吸器症状を有する救急入院患者を対象とした2023年7~12月に行われた前向き研究では、RSV感染症は22例が報告され、院内死亡率は13.6%(3/22)であったのに対して、インフルエンザは28例が報告され、院内死亡例はなかった2)。呼吸器症状を有しPCR検査を実施した外来および入院患者541例を対象に2022年11月~2023年11月の期間に実施された後ろ向き研究では、RSV感染症とインフルエンザの割合はそれぞれ3.3%と1.8%だった3)。また、30日間死亡率は、RSV感染症が5.6%(1/18)、インフルエンザでの死亡例はなかった。4つの2次医療圏における積極的サーベイランスの研究でも、18歳以上の肺炎または急性呼吸器感染症の入院患者におけるRSVとインフルエンザウイルスの陽性率は、それぞれ2.8%と3.3%であり、院内死亡率はそれぞれ7.1%と2.0%だった4)。6)高齢者施設ではRSVの集団感染が発生している 高齢者の介護施設などからRSVの集団感染の発生が複数報告され、重要な課題となっている。RSV感染症の小児における全国流行の時期に、高知県の老人保健施設の入所者110例中49例が発熱し、31例でRSV迅速検査が陽性を示し、基礎疾患を有する4例の高齢者がRSV感染を機に死亡した5)。また、富山県の介護老人保健施設では、入所者と職員あわせて49例に発熱や鼻汁などの症状がみられ、3人のPCR検査および遺伝子系統樹解析で同一のRSVが検出され集団感染と確定された6)。7)高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨 RSV感染症は、高齢者および慢性呼吸器疾患・慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人において、国内外でインフルエンザと同程度の重症化リスク(入院率や死亡率)があることが報告されている。RSVは、高齢者および基礎疾患を有する成人において、呼吸器感染症の主要な原因ウイルスと考えられるが、成人のRSV感染症には、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような抗ウイルス薬は存在しない。現在、複数のRSVワクチンが承認されているが、いずれも高い有効性と良好な忍容性を示しており、予防接種のベネフィットはリスクを上回ると考えられる。公衆衛生危機管理上の重点感染症7)に指定されているRSV感染症の感染対策として、RSVワクチンの接種を推奨する。なお、わが国ではRSV感染症による死亡者数をはじめ全国的な疫学データが十分ではないことから、今後わが国でも、死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。■参考文献1)Branche AR, et al. Clin Infect Dis. 2022;74:1004-1011.2)Nakamura T, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1085-1087.3)Asai N, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1156-1161.4)Maeda H, et al. medRxiv. 2025 Jun 20. [Preprint]5)武内可尚、他. 臨床とウイルス. 2022;50:139-142.6)米田哲也、他. 病原微生物検出情報月報(IASR). 2018;39:126-127.7)第94回 厚生科学審議会感染症部会. 重点感染症リストの見直しについて(2025年3月26日)■参考成人のRSウイルスワクチンに関する見解

30.

胃食道逆流症が耳疾患と関連か

 胃食道逆流症(GERD)は、耳鳴り、メニエール病、前庭機能障害、感音難聴のリスク上昇と関連する可能性があるという研究結果が、「Journal of Multidisciplinary Healthcare」に8月20日掲載された。 河北中医薬大学(中国)のWen Zhao氏らは、ヨーロッパ系集団のゲノムワイド関連解析データを用いて、GERDおよびバレット食道(BE)と耳疾患との関連を検討した。3つのメンデルランダム化法を適用し、因果推定は逆分散加重法を用いて算出した。 解析の結果、遺伝学的に予測されたGERDが耳疾患に影響を及ぼす可能性が示された。GERDは、メニエール病(オッズ比1.334)、感音難聴(同1.127)、前庭機能障害(同1.178)、持続性の耳鳴り(同1.019)、ほとんど常時ある耳鳴り(同1.007)、時折ある耳鳴り(同1.014)と関連していた。GERDの程度が高い場合、これらの耳疾患リスクが上昇した。耳鳴りを経験したことのない人では、GERDの程度が高いほど、耳鳴りを全く経験しない可能性が低下した(同0.939)。一方、GERDと中耳炎との間には因果的関連は認められなかった。また、BEと耳疾患リスクとの間にも因果的関連は認められなかった。 著者らは、「メンデルランダム化解析により、GERDがメニエール病、感音難聴、前庭機能障害、耳鳴りのリスクを上昇させる可能性があることが示された。本研究結果は、これらの疾患の予防に貴重な知見を提供し得る」と述べている。

31.

健康診断から見える、糖尿病予測の未来

 糖尿病は日本人の主要な生活習慣病である一方、予防可能な側面も大きく、発症リスクの理解と適切な介入の実現が課題である。この課題に対し、静岡県の国民健康保険データベースを用いて、健康診断データから2型糖尿病発症リスクを予測する新たなモデルが開発された。Cox比例ハザードモデルを基礎に構築した予測スコアは、検証データセットで良好な識別能を示したという。研究は静岡県立総合病院消化器内科の佐藤辰宣氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏、静岡社会健康医学大学院大学の臼井健氏らによるもので、詳細は10月30日付で「Scientific Reports」に掲載された。 日本では13人に1人程度が2型糖尿病と診断されているが、生活習慣改善や早期介入が発症リスクの低減に寄与し得ることが指摘されている。地域コホートや各種健康診断制度によって大規模な一般住民データが得られている一方、既存の予測モデルは病院データや職域健診を基盤とするものが多く、一般住民の健診データを活用したモデルは十分に整備されていない。このような背景を踏まえ、本研究では一般住民の健診データを用い、発症までの期間や打ち切り症例を考慮したCox比例ハザードモデルで2型糖尿病発症を予測するモデルを開発・検証した。 本研究では、登録者数250万人以上を有する静岡国保データベース(SKDB)の2023年度版データ(2012年4月1日~2021年9月30日)を用いて解析を行った。解析対象は、ベースラインの健康診断時点で2型糖尿病(またはHbA1c値6.5%以上)やがんの既往がなく、年1回の健康診断歴を有する40歳以上の成人46万3,248人とした。対象者は2:1の比率で、モデル構築用(30万8,832人)と検証用(15万4,416人)に無作為に分割した。まずモデル構築用コホートにおいて、年齢、性別、BMI、血圧、健診で測定可能な各種血液検査値、喫煙・飲酒・運動習慣などの健康情報を用いてCox比例ハザードモデルにより糖尿病発症に関連する要因を解析し、予測モデルを構築した。続いて、その予測性能を検証コホートにおいてHarrellのc指数を用いて評価した。 モデル構築用データセットでは、中央値5.17年の観察期間中に5万2,152人(16.9%)が2型糖尿病と診断された。このデータセットにおいて、2型糖尿病発症に対する単変量および多変量Cox比例ハザード回帰解析を行った結果、高齢、男性、体格や血圧などの臨床指標、各種血液検査値や肝腎機能の異常、尿蛋白の存在、高血圧・脂質異常症に対する薬物使用、ならびに生活習慣(運動不足や過度の飲酒)が、いずれも発症リスクの上昇と関連していた。次いで、その結果をもとに、2型糖尿病発症を予測するスコアリングモデルを開発した。このモデルではスコアが高いほど発症リスクが高く、モデル構築用データセットではC指数0.652、検証用データセットではC指数0.656と、個人のリスクを良好な識別能をもって判別できることが示された。スコアごとの3年間での累積発症率は、スコア0.5未満で3.0%、スコア2.5以上では32.4%と大きく差があり、健診結果から算出される本スコアを用いることで個人を低リスクから高リスクまで明確に層別化できることが示された。これらの結果は検証用データセットでも同様に確認できた。 著者らは、「今回作成した予測スコアリングモデルは、検証用データセットで良好な識別能を示し、将来的な糖尿病発症リスクの層別化に応用可能である。また、本モデルは日常的に収集される健康診断の変数のみを使用しているため、識別能はやや低下する可能性があるが、実用性は高い」と述べている。さらに今後の展開として、「糖尿病患者では膵臓がんの発症リスクが高いことが報告されている。今後は、糖尿病発症の予防が膵臓がんの発症抑制につながるかといったテーマにも取り組む予定である」としている。 なお本研究の限界については、データベースには静岡県の住民のみが含まれ、一般化には限界があること、参加者を40歳以上に限定しているため若年層への適用が難しいことなどを挙げている。

32.

アブレーションしたら抗凝固薬やめられる?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は20年以上、発作性心房細動に悩んでいる。臨床エビデンスにかかわらず、患者として直感的に洞調律の維持が予後の改善に役立つことを感じている。長年、抗不整脈薬にて洞調律を維持した。脳卒中予防の重要性はわかるが、ワルファリン、DOAC共に年間3%程度の重篤な出血イベントリスクと考えると、とても抗凝固薬に手は出せなかった。薬による洞調律の維持に限界を感じてカテーテルアブレーションを受けることにした。アブレーションには心タンポナーデなどの重篤な合併症リスクがあることは承知した。アブレーションに内膜障害が起こるので短期間は抗凝固薬が必須と考え、内膜障害が消失するまで数ヵ月はDOACも使用することにした。アブレーションが成功して洞調律に戻れば抗凝固薬はやめられるか? 年間3%の重篤な出血イベントリスクから離れられる価値は、きわめて大きい。本試験の結果には医師としても患者としても注目したい。 アブレーションによる内膜障害が改善すれば、心房細動自体による血栓性の亢進は著しくないと推定される。実際、リバーロキサバンとアスピリンの比較でも、リバーロキサバンによる脳卒中減少効果は、アブレーション成功後1年以上経過した症例では明確ではなかった。リバーロキサバンを世界の標準用量の20mgから15mgに減量したこともあり、重篤な出血リスクは年間3%には達しなかったがリバーロキサバン群にてアスピリン群より多かった。 DOACについては各独占企業の特許が切れるので、出血イベントリスクとの案分における至適使用法の確立を目指す臨床的研究が活発になることを期待したい。

33.

わが国初の水いぼ外用薬「ワイキャンス外用液0.71%」【最新!DI情報】第53回

わが国初の水いぼ外用薬「ワイキャンス外用液0.71%」ウイルス性疣贅治療薬「カンタリジン(商品名:ワイキャンス外用液0.71%、製造販売元:鳥居薬品)」を紹介します。本剤は伝染性軟属腫(水いぼ)の治療薬として承認されたわが国初の外用薬であり、摘除や液体窒素による凍結に代わり得る新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>伝染性軟属腫の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人および2歳以上の小児に、3週間に1回、患部に適量を塗布します。塗布16~24時間後に、石鹸を用いて水で洗い流します。なお、本剤の8回の投与までに治療反応が得られない場合は、他の治療法を考慮します。<安全性>副作用として、適用部位小水疱(95.7%)、適用部位痂皮(90.2%)、適用部位紅斑(87.9%)、適用部位疼痛(79.7%)、適用部位そう痒感(70.3%)、適用部位びらん(62.5%)、適用部位変色(55.9%)、適用部位皮膚剥脱(35.5%)、適用部位浮腫(22.7%)、適用部位乾燥、適用部位瘢痕、適用部位潰瘍、適用部位湿疹、接触皮膚炎、適用部位腫脹(いずれも1~10%未満)、適用部位丘疹、水疱性皮膚炎、痂皮、皮膚色素過剰、紅斑、化膿、膿痂疹、皮膚感染、細菌感染、膿痂疹性湿疹、発熱、性器水疱(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ウイルス性疣贅治療薬に分類される塗り薬です。2.伝染性軟属腫(水いぼ)の治療に用います。塗布した部位に水ぶくれができ、その水ぶくれが剥がれ落ちるときにウイルスに感染した組織も一緒に取り除かれることで、病変が改善すると考えられています。3.この薬は、医療機関で患部に適量を塗布します。塗布後16~24時間経過したら、石鹸を用いて水で洗い流してください。4.洗い流すまでの間、塗布部位に触れたり、舐めたり、噛んだりしないでください。誤って薬が口に入った場合には、ただちに医師や薬剤師に相談してください。5.他の医療機関を受診する場合や、薬局などで他の薬を購入する場合は、この薬を使用していることを必ず医師または薬剤師に伝えてください。<ここがポイント!>「いぼ」には、ウイルス感染を原因とするものがあり、主な原因ウイルスとしてヒトパピローマウイルス(HPV)と伝染性軟属腫ウイルスが知られています。伝染性軟属腫ウイルスは、ポックスウイルス科に属し、伝染性軟属腫の原因となります。本疾患は主に小児で発症し、体幹や四肢に多発することが特徴で、一般的に「水いぼ」と呼ばれています。病変は直径1~4mm程度の光沢を有する平滑な丘疹であり、周囲に湿疹反応を伴い、そう痒を生じることがあります。掻破によって自己感染が起こり、病変が拡大することもあります。治療として摘除や液体窒素による凍結療法が行われていますが、小児においては疼痛と恐怖心を伴うことが問題となっていました。わが国においては、これまで伝染性軟属腫に対する治療薬は承認されていませんでした。本剤は、有効成分としてカンタリジンを含有する国内初の伝染性軟属腫治療薬です。塗布した部位において、中性セリンプロテアーゼの活性化を介して、表皮のデスモソームを脆弱化し、表皮構造を破壊することで水疱を形成します。この水疱形成により病巣皮膚が剥がれ落ち、ウイルス感染組織が除去されると考えられています。さらに、水疱形成に伴う局所炎症反応や免疫応答の促進が、病変の消失に寄与すると推察されています。製剤は、複数回の使用による交差汚染や揮発性溶媒の濃度変化を最小限に抑えるために、単回使用のアプリケータ形態を採用しています。また、誤飲防止のため、苦味剤として安息香酸デナトニウムを配合しています。2歳以上の日本人伝染性軟属腫患者を対象に、3週ごとに1回、最大4回(本剤はプラセボ対照期終了後を含めて最大8回)塗布した国内第III相臨床試験(208-3-1試験)において、主要評価項目であるすべての治療可能な病変の完全消失が認められた被験者の割合は、本剤群50.0%(95%信頼区間[CI]:41.68~58.32)、プラセボ群23.2%(95%CI:16.83~30.68)であり、本剤群はプラセボ群と比較し統計学的に有意な差が認められ(p<0.001)、プラセボに対する優越性が検証されました。また、群間差(本剤群-プラセボ群)の点推定値は26.8%(95%CI:15.67~37.88)でした。

34.

白内障手術前の検査【日常診療アップグレード】第45回

白内障手術前の検査問題83歳女性。両眼の白内障手術を1ヵ月後から段階的に予定している。既往歴には高血圧、脂質異常症、甲状腺機能低下症がある。服用薬はアムロジピン、リシノプリル、アトルバスタチン、レボチロキシンである。全身状態は良好で、身体診察では、バイタルサインおよび、その他の所見に異常はない。6ヵ月前の検査では、血清電解質、クレアチニン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は正常範囲であった。術前チェックとして、心電図検査を行った。

36.

第297回 パーキンソン病ワクチンの有望な第II相試験結果報告

パーキンソン病ワクチンの有望な第II相試験結果報告1972年発表のヒット曲「さそり座の女」で有名な歌手の美川 憲一氏がパーキンソン病であることを、同氏の事務所が先月11月13日に公表しました1)。その後、関連するニュースが多く報告されるようになっています。2010年代の終わりに初出して使われるようになった2)新語のパーキンソン病大流行(Parkinson pandemic/Parkinson’s pandemic)が示唆するとおり、理由はどうあれパーキンソン病は増えており、今や世界の実に約1,200万例がパーキンソン病です。先立つたった6年で2倍近く増えました3)。パーキンソン病は脳のドーパミン放出神経の消失やαシヌクレイン(a-syn)の凝集体であるレビー小体を特徴とします。そのa-synを標的とするワクチンACI-7104.056の有望な第II相試験結果が先週11日に発表されました4,5)。ACI-7104.056はスイスのバイオテクノロジー企業AC Immuneが開発しています。a-syn抗原を成分とし、パーキンソン病初期に広まって神経を損なわせる病原性の多量体a-synへの抗体を生み出します。最近になってAC Immune社はワクチン事業という表現をしなくなっており、ACI-7104.056もその方針に沿ってワクチンではなく免疫療法と表現するようになっています。しかしかつてはワクチン事業に含められていました。実際、ClinicalTrials.govへの登録情報にはACI-7104.056がワクチンであると明記されています6)。VacSYnと銘打つ同試験には、初期のパーキンソン病患者34例が組み入れられています。被験者はACI-7104.056かプラセボ群に3対1の割合で無作為に割り振られました。初回、4週後、12週後、24週後、48週後、74週後にいずれかが投与される運びとなっており6)、少なくとも12ヵ月間(48週間)の投与を経た被験者の中間解析が今回発表されました。20例は74週目の投与に至っています。ACI-7104.056投与群の抗a-syn抗体価は投与するごとに上昇し、全員が血中と脳脊髄液(CSF)中のどちらでも目安の水準に届いていました。一方、当然ながらプラセボ群の抗a-syn抗体は増えず、実質的に一定でした。脳組織のa-synが蓄積し続けるパーキンソン病の進行でCSF中のa-synは減ることが知られます。今回のVacSYn試験でのプラセボ群のCSFのa-syn濃度は低下し続けましたが、ACI-7104.056投与群は低下を免れて一定を保ちました。神経損傷の指標の神経フィラメント軽鎖(NfL)濃度は、CSFのa-synとは対照的にパーキンソン病の神経変性や神経損傷の進行につれて上昇することが報告されています。それゆえVacSYn試験のプラセボ群のNfL濃度は上昇傾向を示しました。しかしACI-7104.056投与群のNfL濃度はそうはならず、CSFのa-syn濃度と同様に一定を保ち、どうやら神経損傷/変性が食い止められていたようです。極め付きは運動症状の進行を食い止めるACI-7104.056の効果も見てとれました。運動症状を調べるMDS-UPDRS Part III検査値がプラセボ群では上昇して悪化傾向を示しました。一方、ACI-7104.056投与群の74週時点のMDS-UPDRS Part III検査値はベースラインに比べて取り立てて変わりなく、実質的な悪化傾向はみられませんでした。VacSYn試験は2部構成で、多ければ150例を募る第2部を始めるかもしれない、とAC Immune社は今夏2025年8月の決算報告に記しています7)。その開始はまだ正式に発表されていないようです。同社は今回の有望な結果を手土産にして、ACI-7104.056の承認申請に向けた今後の臨床試験の段取りを各国と話し合うつもりです4)。VacSYn試験の第2部をどうするかもその話し合いにおそらく含まれるのでしょう。サソリ毒がパーキンソン病に有効美川 憲一氏が歌った「さそり座の女」にも出てくるサソリ毒由来のペプチドに、奇しくもパーキンソン病治療効果があるらしいことが最近の研究で示唆されています8,9)。SVHRSPと呼ばれるそのペプチドは、どうやら腸の微生物を整えることで脳のドーパミン放出神経の変性を防ぐようです10)。「さそり座の女」の女性の毒と情の深さが対照的なように、サソリ毒は命を奪うほどの害がある一方でヒトの健康にも貢献しうるようです。AC Immune社のワクチンやサソリ毒成分などの研究や開発が今後うまくいき、美川 憲一氏をはじめ世界のパーキンソン病患者を救う手段がより増えることを期待します。 参考 1) 美川憲一に関するご報告 2) Albin R, et al. Mov Disord. 2023;38:2141-2144. 3) Dorsey ER, et al. J Parkinsons Dis. 2025;15:1322-1336. 4) AC Immune Positive Interim Phase 2 Data on ACI-7104.056 Support Potential Slowing of Progression of Parkinson’s Disease. 5) ACI-7104 in VαcSYn Phase 2 - Interim results 6) VacSYn試験(ClinicalTrials.gov) 7) AC Immune Reports Second Quarter 2025 Financial Results and Provides a Corporate Update 8) Zhang Y, et al. J Ethnopharmacol. 2023;312:116497. 9) Li X, et al. Br J Pharmacol. 2021;178:3553-3569. 10) Chen M, et al. NPJ Parkinsons Dis. 2025;11:43.

37.

ブロッコリーやキャベツ摂取量が多いほど乳がんリスク低下/SABCS2025

 ブロッコリーやキャベツなどのアブラナ科野菜の摂取量が多いほど乳がんの発症リスクが低く、とくにER陰性乳がんでその傾向が顕著である可能性を、米国・ハーバード大学医学大学院のAndrea Romanos-Nanclares氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025、12月9~12日)で報告した。 アブラナ科野菜に含まれるグルコシノレート(glucosinolate)は、実験モデルで乳がん細胞増殖抑制作用が示されているが、エビデンスは依然として限定的で一貫性に欠けている。そこで研究グループは、大規模前向きコホート研究のデータを用いて、アブラナ科野菜およびグルコシノレートの摂取量と乳がんリスクとの関連を長期間にわたり検証した。 対象は、Nurses' Health Study(NHS、1984~2019年、7万6,713人)およびNurses' Health Study II(NHSII、1991~2019年、9万2,810人)の約17万人であった。食事はベースラインで半定量的な食物摂取頻度調査票により聴取し、その後4年ごとに更新した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ/コールスロー、芽キャベツ、ケール、からし菜(mustard greens)、フダンソウ(chard)を含むアブラナ科野菜の累積平均摂取量およびエネルギー調整したグルコシノレート摂取量と、浸潤性乳がんおよびそのサブタイプの発症リスクとの関連について、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・30年超のフォローアップにおいて、2コホートで1万2,352件の浸潤性乳がんが確認された。ER陰性は1,703件、ER陽性は7,880件であった。・アブラナ科野菜の摂取量が多い群では乳がんリスクが有意に低かった(5~6サービング超/週vs.1サービング未満/週のHR:0.92、95%CI:0.86~0.97、傾向のp<0.01)。代替健康食指数(AHEI)で調整した後はこの関連はわずかに弱まった。・ER陰性乳がんにおいてリスク低下の傾向が最も強かった(5~6サービング超/週vs.1サービング未満/週のHR:0.87、95%CI:0.74~1.02、傾向のp=0.01)。・グルコシノレート総摂取量が最も多い最高五分位群の参加者は、最低五分位の参加者と比較して、ER陰性を含む乳がんの発症リスクが低かった(乳がん全体のHR:0.92[95%CI:0.87~0.98、傾向のp<0.01]、ER陰性乳がんのHR:0.87[95%CI:0.74~1.02、傾向のp=0.03]、ER陽性乳がんのHR:0.93[95%CI:0.86~1.00、傾向のp=0.01])。 Romanos-Nanclares氏は「これらの結果は、アブラナ科野菜の摂取が乳がんにおける修飾可能な防御因子である可能性を示唆するものである。グルコシノレートが乳がんリスクにどのように関与するかを理解するためにはさらなる研究が必要である」とまとめた。

38.

mRNAインフルワクチン、不活化ワクチンに対する優越性を確認/NEJM

 ヌクレオシド修飾メッセンジャーRNA(modRNA)インフルエンザワクチンは、対照ワクチンと比較して相対的有効性に関して統計学的な優越性を示し、A/H3N2株とA/H1N1株に対する免疫応答が顕著である一方、副反応の頻度は高いことが示された。米国・East-West Medical Research InstituteのDavid Fitz-Patrick氏らが、第III相無作為化試験「Pfizer C4781004試験」の結果を報告した。modRNAインフルエンザワクチンは、インフルエンザA型とB型のそれぞれ2つの株(A/H3N2、A/H1N1、B/Yamagata、B/Victoria)のヘマグルチニンをコードする4価のワクチンである。研究の成果は、NEJM誌2025年11月20日号で報告された。3ヵ国1流行期で実施、承認済みの標準的な不活化4価インフルエンザワクチンと比較 Pfizer C4781004試験は、2022~23年のインフルエンザ流行期に米国の242施設、南アフリカ共和国の5施設、フィリピンの1施設で実施した無作為化試験(Pfizerの助成を受けた)。 年齢18~64歳の健康な成人を、modRNA群、または承認済みの標準的な不活化4価インフルエンザワクチンを接種する群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは相対的有効性とし、modRNAワクチン接種後少なくとも14日の時点でインフルエンザ様症状があり検査でインフルエンザが確認された参加者の割合が、対照群よりも低いことと定義した。相対的有効性の非劣性(両側95%信頼区間[CI]の下限値が-10%ポイント以上)および優越性(同0%ポイント以上)を検証した。 免疫原性は赤血球凝集抑制(HAI)試験で評価した。また、接種後7日以内の反応原性(副反応)、1ヵ月後までの有害事象、6ヵ月後までの重篤な有害事象の評価を行った。相対的有効性34.5%、非劣性・優越性の基準満たす 2022年10月24日~2023年1月30日に1万8,476例(平均年齢43歳、男性41.9%、白人73.6%)を登録し、9,225例をmodRNA群、9,251例を対照群に割り付けた。それぞれ9,191例および9,197例が実際にワクチンの接種を受け、全体の92.9%が6ヵ月間の追跡を完了した。 接種後14日目以降にインフルエンザ様症状が発現し検査でインフルエンザが確認された参加者は、modRNA群で57例、対照群で87例であり、対照群と比較したmodRNA群の相対的有効性は34.5%(95%CI:7.4~53.9)であった。95%CIの下限値は、非劣性および優越性の双方の基準を満たした。 インフルエンザ様症状の原因ウイルス株は、主にA/H3N2株とA/H1N1株であり、B型株が原因のものはごくわずかであった。HAI試験における抗体反応は、インフルエンザA型で非劣性が示されたが、B型では示されなかった。安全性プロファイルは2群でほぼ同様 安全性プロファイルは2つの群でほぼ同様であり、新たな安全性の懸念は確認されなかった。 反応原性(副反応)のイベントは、modRNA群で報告が多かった(局所反応:70.1%vs.43.1%、全身性イベント:65.8%vs.48.7%)。これらは全般に軽度または中等度で一過性であり、重度のイベントに両群間で臨床的に意義のある差は認めなかった。最も頻度の高い局所反応は疼痛で、最も頻度の高い全身性イベントは倦怠感と頭痛であった。発熱(≦40.0°C)は、modRNA群で5.6%、対照群で1.7%に発現した。 安全性データのカットオフ日(2023年9月29日)の時点で、ワクチン接種から4週間までの有害事象の報告は、modRNA群で6.7%、対照群で4.9%であった。ワクチン関連の有害事象は、modRNA群で3.3%、対照群で1.4%だった。 重篤かつ生命を脅かす有害事象、重篤な有害事象、試験中止に至った有害事象の頻度は低く、両群で同程度であった。modRNA群の1例で、ワクチン関連の重篤な有害事象(Grade3の接種部位反応とGrade4のアナフィラキシー反応)がみられた。接種後6ヵ月までに、16例に致死的な有害事象が発生した(modRNA群7例、対照群9例)が、いずれもワクチン関連とは判断されなかった。接種後1週間以内の死亡例の報告はなかった。 著者は、「modRNAワクチンプラットフォームが許容可能な安全性を備えた効果的なワクチンを迅速かつ大量に生産する能力は、COVID-19だけでなく、インフルエンザなどの季節性の呼吸器疾患の予防への応用においても重要である」「本試験で確認されたmodRNAワクチンによるインフルエンザの予防効果は、ヘマグルチニンのみをコードするように設計されたワクチンで達成されたが、modRNAワクチンは他のインフルエンザウイルス抗原を標的にできる可能性もある」「modRNAプラットフォームはインフルエンザワクチンの開発において有望であり、既存製品を上回る恩恵をもたらす可能性がある」としている。

39.

認知症に伴う食欲不振やアパシーに対する人参養栄湯の有用性

 現在、認知症に伴う食欲不振やアパシーに対する有効な薬物療法は明らかになっていない。筑波大学の田村 昌士氏らは、アルツハイマー型認知症(AD)およびレビー小体型認知症(DLB)における食欲不振やアパシーに対する人参養栄湯の有効性および安全性を評価するため、ランダム化比較試験を実施した。Psychogeriatrics誌2026年1月号の報告。 本研究には、日本の病院およびクリニック16施設が参加した。対象患者は、人参養栄湯群24例または対照群25例にランダムに割り付けられた。主要アウトカムは、Neuropsychiatric Inventory-12(NPI-12)のサブカテゴリー「摂食行動」における食欲不振スコアの12週間後の変化とした。副次的アウトカムは、食物摂取量、NPI-12スコア、Zarit介護負担尺度日本語版、意欲の指標(Vitality Index)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、前頭葉機能検査(FAB)、体重、赤血球数、ヘモグロビン、アルブミン、CONUTスコアの変化とした。 主な結果は以下のとおり。・主要アウトカムである食欲不振スコアの変化は、12週時点で両群間に有意差は認められなかった。・副次的アウトカムのうち、人参養栄湯群において、対照群と比較し、4週目および12週目の食物摂取量の有意な増加が認められた。・人参養栄湯群では、4、8週目のNPI-12スコア、12週目の抑うつ症状、4、8、12週目のアパシー、4、8、12週目の摂食行動の有意な減少が認められたが、対照群との差は認められなかった。・食欲不振スコア6以上の患者を対象としたサブグループ解析では、人参養栄湯群は対照群と比較し、ベースラインから8、12週目におけるスコアの減少に有意な差が認められた。 著者らは「主要アウトカムにおいて、統計学的に有意な差は認められなかったが、サンプル数が少なかったことが影響していると考えられる。しかし、人参養栄湯群において、副次的アウトカムである食物摂取量の有意な改善が示された。また、サブグループ解析では、より重度な食欲不振を有する患者において、人参養栄湯が食欲を改善する可能性が示唆された」とし「これらの知見は、ADまたはDLBにおける食欲改善に対する人参養栄湯の潜在的な有効性を示唆している」と結論付けている。

40.

大動脈弁逆流症、専用弁によるTAVIが有望/Lancet

 手術のリスクが高いと考えられる中等度~重度または重度の先天性大動脈弁逆流症患者では、本症専用の人工弁を用いた経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI)は、事前に規定した安全性と有効性の性能目標を達成するとともに、最長で2年間にわたり、大動脈弁逆流症の大幅な改善が得られ、心機能状態の改善と生活の質の向上をもたらすことが示された。米国・Cedars-Sinai Medical CenterのRaj R. Makkar氏らALIGN-AR Investigatorsが、多施設共同試験「ALIGN-AR試験」の結果を報告した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年11月16日号で発表された。米国の前向き単群試験 ALIGN-AR試験は、米国の30施設で進行中の前向き単群試験であり、2018年6月~2025年7月に参加者のスクリーニングを行った(JenaValve Technologyの助成を受けた)。 年齢18歳以上、症候性の中等度~重度(米国心エコー図学会[ASE]基準の3+)または重度(ASE 4+)の大動脈弁逆流症で、手術による死亡または合併症のリスクが高く、NYHA心機能分類II以上の患者を対象とした。 これらの患者に対し、ブタ心膜弁尖を用いて先天性大動脈弁逆流症の専用に設計された人工弁であるトリロジー弁(Trilogy valve、JenaValve Technology製)を使用したTAVIを施行した。 安全性の主要複合エンドポイントは、術後30日以内の主要有害事象(全死因死亡、脳卒中、生命を脅かす出血または大出血、急性腎障害、主要血管合併症、外科的または経皮的インターベンションの追加の必要性、新規のペースメーカー植込み術、中等度以上の大動脈弁逆流症)の複合とした。 文献に基づく安全性エンドポイントの発生率は30%であり、これに安全性エンドポイントの非劣性マージンである1.35を乗じた40.5%を性能目標とし、検証を行った。また、1年全死因死亡率について、性能目標である25.0%に対する優越性を検証した。解析は、ITT集団で実施した。主要複合エンドポイントの非劣性を確認 700例を登録した。全体の年齢中央値は79.0歳(四分位範囲[IQR]:72.0~84.0)、女性が321例(46%)で、白人が532例(76%)、黒人またはアフリカ系米国人が68例(10%)、アジア系が36例(5%)であった。大動脈弁逆流症の重症度は、379例(55%)が中等度~重度、304例(44%)が重度だった。664例(95%)で技術的成功が達成された。追跡期間中央値は472日(IQR:352~891)。 30日の時点で、安全性の主要複合エンドポイントは700例中168例(24.0%、97.5%信頼区間[CI]の上限値:27.3%)で発生し、性能目標である40.5%に対し非劣性を示した(非劣性のp<0.0001)。 30日時の、安全性の主要複合エンドポイントの個別の構成要素については、全死因死亡が700例中11例(1.6%)、脳卒中が12例(1.7%)、大出血/生命を脅かす出血が19例(2.7%)、急性腎障害(7日目の時点でステージ2または3)が5例(0.7%)、主要血管合併症が17例(2.4%)、デバイスまたは手技関連の手術、インターベンション、主要血管合併症が21例(3.0%)に発生し、新規ペースメーカー植込み術は、すでに装着している患者を除く589例中127例(21.6%)、中等度または重度の大動脈弁逆流症は、30日までに心エコー図の解釈が行われていない患者を除く569例中3例(0.5%)に発生した。1年全死因死亡率は優越性を示した 1年時の全死因死亡は、1年の追跡を完了した492例中38例(7.7%[97.5%CIの上限値:10.4%])で発生し、性能目標である25.0%に対し優越性を示した(優越性のp<0.0001)。また、2年時までに、全死因死亡は53例(13.3%)で発生した。 最長で2年間にわたり、大動脈弁逆流症の大幅な改善(2年後に逆流なし/わずかに残存85%、軽度13%)が得られ、心機能状態の改善(2年後のNYHAクラスI 63%、II 29%、III 8%)と生活の質の向上(2年後の平均KCCQ-OSスコア81.8点)をもたらした。 著者は、「これらのデータは、手術後の死亡または合併症のリスクが高い先天性大動脈弁逆流症の患者において、専用に設計されたデバイスを用いたTAVIが実行可能かつ効果的な治療選択肢であるとの見解を支持するものである」「高い技術的成功率(95%)、低い死亡率(30日死亡率1.6%、1年死亡率7.7%)、最小限の残存大動脈弁逆流症(1年および2年時点で発生した中等度以上の残存大動脈弁逆流症は約1%)が確認され、大動脈弁逆流症における手技上の課題を克服した」「これらの知見は、臨床応用と将来のガイドライン策定に必要な、重要なエビデンスを提供する」としている。

検索結果 合計:35095件 表示位置:21 - 40