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遺伝性アルツハイマーへのgantenerumab、発症リスク低下に有効か

 最先端のアルツハイマー病治療薬が、実際にその進行を防ぐ可能性のあることが、小規模な研究で示された。脳内でアミロイドβ(Aβ)が過剰に産生される遺伝的変異を持ち、将来、アルツハイマー病を発症することがほぼ確実とされる試験参加者に、脳からAβを除去する抗Aβ IgG1モノクローナル抗体のガンテネルマブ(gantenerumab)を投与したところ、投与期間が最も長かった参加者ではアルツハイマー病の発症リスクが50%低下したことが示されたという。米ワシントン大学医学部のRandall Bateman氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Neurology」4月号に掲載された。 ガンテネルマブは元々、同じく抗Aβ抗体薬のソラネズマブ(solanezumab)とともに、2012年に開始された臨床試験(The Knight Family DIAN-TU-001、以下、DIAN-TU)において、優性遺伝性アルツハイマー病(DIAD)の発症予防や進行遅延に対する効果が検討されていた。対象は、DIAD発症予測年齢の15年前から10年後の間にある、無症状または認知機能の軽微な低下が認められるDIAD変異キャリアだった。 2020年の試験終了時点では、ガンテネルマブの認知機能低下に対する抑制効果については十分なエビデンスが得られなかったものの、Aβレベルの低下が確認されたことから、DIAN-TU試験参加者を対象に、オープンラベル継続投与試験(OLE試験)が実施されることになった。しかし2022年11月、ロシュ/ジェネンテック社は、ガンテネルマブに関する別の臨床試験において期待されていた結果が得られなかったことを理由に同薬の開発中止を決定した。これを受け、当初3年間の予定で開始されたOLE試験も、予定より早い2023年半ばに打ち切られた。OLE試験では、試験参加者は平均2.6年にわたる治療を受けた。 本研究結果は、このOLE試験の解析結果である。OLE試験には、2020年6月3日から2021年4月22日の間に18施設から73人が登録され、全員がガンテネルマブによる治療を受けた。試験の途中で13人が有害事象や疾患の進行により離脱し、47人(64%)が試験終了に伴い治療を中止した。最終的に、3年間の治療を完了したのは13人だった。 中間解析からは、ガンテネルマブによる治療期間が最も長かった22人では、認知症の重症度を評価する臨床認知症評価尺度の合計点(CDR-SB)の低下リスクが約50%低下する可能性のあることが示唆された(ハザード比0.53、95%信頼区間0.27〜1.03)。この結果は、アルツハイマー病の症状が現れる前にガンテネルマブにより脳からAβを除去することで、発症を遅らせられる可能性があることを意味する。しかし、DIAN-TUまたはOLE試験のどちらかでのみガンテネルマブによる治療を受けた53人では、認知機能低下に対するガンテネルマブの抑制効果は確認されなかった(同0.79、0.47〜1.32)。 Bateman氏は、「これはアルツハイマー病の遺伝リスクがある人の発症を予防できる可能性を示す最初の臨床的エビデンスとなり得る、大いに期待を持てる結果だ。近い将来、何百万人もの人々のアルツハイマー病の発症を遅らせることが可能になるかもしれない」と話している。また、米アルツハイマー病協会の最高科学責任者であるMaria Carrillo氏も、「これらの興味深い予備的研究の結果は、Aβレベルを下げることがアルツハイマー病の予防に果たす潜在的な役割を非常に明確に示唆している」とワシントン大学のニュースリリースの中で述べている。 ただし、抗Aβ抗体薬は高価であり、副作用のリスクも伴う。この小規模試験での脳浮腫の発生率は30%と、最初の臨床試験での発生率(19%)と比べて1.3倍に増加していた。

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低ホスファターゼ症の新たな歯科症状が明らかに―全国歯科調査

 子どもの歯は6歳前後で永久歯へと生え変わる。もしそれより早く乳歯が抜け落ちたとしたら、そこに別の病気が隠れているかもしれない。 低ホスファターゼ症(HPP)は、無治療では死に至ることもある遺伝性の骨系統疾患であり、乳歯の早期脱落といった歯科的問題を伴うことが多い。この度、日本人におけるHPPの歯科的所見の調査を目的とした全国調査が行われ、この疾患に関する新たな歯科所見が認められたという。本調査は大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学講座の大川玲奈氏、仲野和彦氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に2月25日掲載された。 HPPは大きく、成人型・歯限局型などの軽症型、周産期重症型・乳児型などの重症型に分けられる。2015年に全身治療法が国内で承認されて以来、重症型HPPでも生命予後が改善されたが、歯が生えそろうまでの生存が困難であったことから、歯科症状に関しては分かっていないことが多い。大川氏らは、2013年、2018年にHPPの全国調査を実施している。3回目となる今回は、歯の早期脱落に対する不正咬合治療の必要性という観点からHPP患者の歯列と咬合に焦点を当てた全国歯科調査を実施することとした。 全国調査は、歯科を有する総合病院609施設に対して実施された。過去5年間にわたるHPP症例の診療の有無に関するアンケートを送付し、「有」と答えた施設に対して、その症例の歯科症状に関するアンケートを送付、回答してもらった。最終的に、アンケートにより得られた62名に、大阪大学歯学部附属病院の41名を加えた、103名のHPP症例を解析対象とした。 解析に含めた103名のうち47名が歯限局型(軽症型)、55名が非歯限局型(重症型)、1名の分類が不明だった。4歳未満での乳歯の早期脱落は全体で75名(73.5%)が報告され、内訳は歯限局型43名(43/47名、91.5%)、非歯限局型32名(32/55名、58.2%)だった。乳歯の早期脱落は、歯限局型で有意に発生しており(P<0.001)、最も多く脱落した部位は「下顎乳中切歯」だった。歯の形成不全は非歯限局型の40%で認められ、歯限局型(8.5%)と比較し有意に高い割合で発生していた(P<0.001)。 不正咬合は非歯限局型が歯限局型よりも多く、最も多く見られた種類は叢生(そうせい)だった。また、非歯限局型で多かった歯科症状として、口腔習癖(指しゃぶり、舌の突き出し)、摂食嚥下障害(噛まずに飲み込む、飲み物で食べ物を流し込む)が認められた。 著者らは本研究について、「HPPの重症度は様々であり、特に重症型のHPPでは歯の形成不全、不正咬合、口腔習癖、摂食嚥下障害が多く認められた。口腔習癖や摂食嚥下障害に関しては、乳切歯の脱落が原因の可能性もあり、患者には義歯の使用だけでなく、口腔機能の評価や機能訓練が推奨されることを示唆している。HPP患者には、疾患の重症度に応じた集学的治療法の確立が必要なのではないか」と述べた。 本研究の限界については、アンケートに回答しなかった施設にHPP症例が含まれていた可能性があること、アンケートで得られた回答の信頼性などを挙げている。

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第35回 尿管結石をどう見抜き、どう診るか【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)尿管結石らしさを的確に見積もれるようになろう!2)ベッドサイドで診断をつけよう!3)血管病変は常に意識することは忘れないようにしよう!【症例】52歳男性。高血圧、脂肪肝で近医のクリニックに受診している。朝方左側腹部の痛みがあり、目が覚めてしまった。その後、痛みが改善せず救急外来を独歩受診した。待合室で1度嘔吐あり。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧152/96mmHg脈拍96回/分(整)呼吸20回/分SpO299%(RA)体温36.4℃瞳孔3/3mm+/+尿管結石はいつ疑うかみなさんは、どんなときに尿管結石を疑いますか?たとえば、中年男性が「身の置き所のない」側腹部痛を訴えていたら、まず疑うでしょう。私自身は経験がありませんが、友人の何人かが本症にかかったことがあり、詳しく話を聞いてみると、みんな口を揃えて「あれは死ぬほど痛い!」と言っていました。救急外来では、尿管結石の症例によく遭遇しますが、本当に患者さんつらそうですよね。冷や汗をかきながら腰に手を当て、何とか楽な姿勢を探そうとするけれども、結局みつからない…そんな様子が典型的です。以前紹介したSTONE score(表1)にもあるように、嘔気や嘔吐、血尿、そして数時間以内に症状がピークに達することが尿管結石らしさを示す特徴です1)。表1 STONE score画像を拡大するただしその際、「尿管結石らしい症状」を示す、見逃してはならない他の疾患も同時に鑑別する必要があります(参考リンク:第19回 侮ってはいけない尿路結石)2)。鑑別すべき疾患については図にまとめましたが、とくに血管病変には注意が必要であることは、ぜひ意識しておきたいポイントです。図 尿管結石の鑑別診断尿検査は施行するかみなさんは、尿管結石を疑った際に尿検査を提出するでしょうか。尿管結石における尿潜血の感度・特異度は、それぞれ84%・48%とされており3)、尿検査のみで診断を確定できる「絶対的な指標」とは言えません。全国の医師を対象にしたあるアンケート調査によると、8,549人の医師の回答者のうち、82%の医師が「尿管結石を疑った際に尿検査を提出する」と回答しています4)。ただし、この設問では「尿管結石を疑った際に尿検査を提出しますか?」とだけ問われており、具体的な臨床状況の設定がなかったため、結果の解釈には注意が必要です。それでも、多くの医師が尿管結石を疑った際に尿検査を施行していることがうかがえます。尿検査は簡便で、かつ迅速に結果が得られるため、診断の補助として行われることが多いでしょう。ただし、重要なのは検査結果そのものよりも、検査前確率(pre-test probability)です。また、尿検査よりも優先して実施すべき、より有用な検査も存在します。腹痛診療における検査腹痛を訴える患者に対して実施すべき検査は何でしょうか。救急外来ではCT検査が多くオーダーされているのが実状ですが、これは決して悪いことではありません。ただし、超音波検査(US)が可能な環境であれば、まずはUSを行うべきでしょう。ベッドサイドで簡便に施行でき、被曝のリスクもありません。2025年に発表された『急性腹症ガイドライン2025第2版』でも、「急性腹症の画像診断で最初に行うべき形態学的検査は何か?」という問いに対して、「非侵襲性、簡便性、機器の普及度などの観点から、スクリーニング目的での超音波検査が第1選択であり、とくに妊婦や小児において推奨される」と記載されています5)。また、急性腹症に対して造影CT検査の適応を判断する上でも、まずUSを実施し、具体的な疾患を想起できるかどうかを評価することが重要です。目的意識なくCT検査を施行しても、その結果を適切に解釈することは困難です。造影剤アナフィラキシーは、以前に問題がなかった造影剤でも起こり得るため、無用な造影剤の使用は避けるべきです。検査は常に明確な目的を持って選択する必要があります。CHOKAI scoreの勧めSTONE scoreよりもお勧めしたいのが、日本発のscoreである「CHOKAI score」です(表2)6)。これはUS所見を含む7項目から構成されており、実臨床に即した評価が可能です。なかでも注目すべきは、US所見に重みが置かれている点であり、その点数配分からもその重要性がうかがえます。表2 CHOKAI score精度の高さも報告されており、実際の診療での有用性は高いと考えられます。ぜひ積極的に活用していただきたいscoreです。水腎症の有無を確認しつつ、大動脈の評価も併せて行えば、血管病変の見逃しも防げて万全でしょう。早期に尿管結石と判断できれば、除痛も迅速に行えるはずです。 1) Moore CL, et al. BMJ. 2014;348:g2191. 2) 坂本壮. 第19回 侮ってはいけない尿路結石【救急診療の基礎知識】 3) Luchs JS, et al. Urology. 2002;59:839-842. 4) 坂本壮. 臨床何でもコントラバシー. 日経メディカル. 2024. 5) 急性腹症診療ガイドライン2025 改訂出版委員会 編集. 急性腹症ガイドライン 2025 第2版. 医学書院.2025. 6) Fukuhara H, et al. Am J Emerg Med. 2017;35:1859-1866.

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学会という名の同窓会【Dr. 中島の 新・徒然草】(577)

五百七十七の段 学会という名の同窓会ゴールデンウィークが近づいてまいりました。まとまった休みが取れるのはありがたいのですが、その前後はかえって忙しくなってしまいます。さて、春の学会シーズン。学会というのは、単に最新知見を得る場というだけでなく、旧知の仲間たちと再会する機会でもあります。長く医療の世界に身を置いていると、あちこちで顔なじみが増えていくもので、そんな人たちと立ち話をするのも学会の楽しみの一つといえるでしょう。先日の学会でも、昔話に花が咲きました。ある40代の先生。休憩時間に私に尋ねてきました。「先生は、週2回の外来以外の日は何をしているんですか?」私が「オンライン英会話とかしてるよ」と答えると、彼は驚いたように「ええ、自己研鑽ですか?」と返してきました。中島「いやいや、研鑽とか、そんな立派なもんじゃなくて。昔から英語が苦手で悔しい思いもたくさんしてきたから、少しでも取り戻したいと思って……」そう正直に話しました。「先生もどう?」と誘うと、「考えておきます」とのこと。ちなみに、オンライン英会話の講師はフィリピン人の先生ですが、彼女らと話すと世界が広がった気になります。最近の殺人事件の話をすると「日本でも人が殺されたりするのか!」と驚かれました。「他の国に比べたら数が少ないだけで、日本でも殺人事件はありますよ」と答えておきましたが、きっと彼女らの見聞も広がったことでしょう。また別の50代の先生は、こう切り出してきました。「今度、○○病院に部長で行くんですけど、何かアドバイスをください」私は「おめでとう。症例を増やそうと思ったら、週に半日でもいいから近くの医療機関で外来をするといいよ」と伝えました。「そうすれば、自分がそこに行っていない日でも、脳外科の症例が来たら紹介してくれるからね」とも。すると彼は「なるほど、それは確かに理にかなってますね」と感心していました。私はさらに続けました。中島「あとね、若手にも他の病院の外来に行かせるといいよ。症例も増えるし、アルバイトに理解ある上司だと思われて一石二鳥よ!」彼は笑いながら「先生、策士ですね」と返してきました。「とはいえ、症例が少ない時は若手の論文指導ということになるんだけど、実はそいつが難しい。結局、部長先生が9割くらい書くつもりで指導しないと、なかなか形にはならんぞ」と話すと、「それが現実ですよね」と苦笑いされました。さらにもう一人、60代の旧友から声をかけられました。「中島、今はどないしとるんや」「定年後の生活をエンジョイしとるで」と私が答えると、彼は「俺なんか、定年後も別の病院で働いとるぞ」とのこと。「すごいなあ。でも、男の健康寿命って、たしか73歳くらいやったよな。倒れるまで働くつもりか?」と聞くと、「ホンマか! それは考えなあかんなあ」と、少し真剣な表情。この先生には「やりたいことがあったら今のうちにやっとけよ」とアドバイスしておきました。こういった立ち話のような短いやり取りでも、それぞれの生き方が垣間見えるのが、学会という場の面白さです。医師としての立場は違いますが、同じ時代を歩んできた仲間たちとの会話は、肩の力が抜けていて心地よいものですね。最後に1句花が咲く 春の学会 立ち話

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第8回 「スマホ習慣」が脳を救う?意外な研究結果

スマートフォンやパソコン、インターネットといった技術の普及に伴い、「生涯を通じたテクノロジーの利用が脳の機能を低下させるのではないか?」という「デジタル認知症仮説」と呼ばれる仮説が提唱されてきました。テクノロジーに依存することで、頭を使わなくなり、認知症リスクが高まるのではないかということが懸念されてきたのです。テクノロジー利用が認知症リスク低下と関連しかし、そんな懸念を覆すかもしれない研究結果が最近になり報告され、CNNなどのニュースでも報じられました1)。テキサス州2大学の研究チームがメタ分析という手法を用いて、テクノロジー利用と認知症リスクの関連について解析を行なった結果がNature Human Behavior誌に発表されたのです2)。この研究の中で、これまでに行われた研究57件(合計41万1,430人)のデータをレビューしたところ、スマホやパソコンなどのテクノロジー利用者は非利用者に比べ、認知障害(軽度認知障害や認知症の診断、認知機能テストにおける低スコア)のリスクが平均42%低いことと関連することが明らかになったのです。なお、対象とされた研究には、平均6年間観察した追跡研究20件が含まれ、参加者の平均年齢は68歳でした。また、教育水準や収入、さまざまなライフスタイルなどを調整してもこの関連は認められており、これらの違いによる結果ではないことが確認されています。すべての「スマホ利用」に当てはまるわけではないただし、この研究にも当然限界はあります。その1つは、この研究で、テクノロジーをどのような形で利用していたかの詳細が加味されていないことです。このため、研究結果がなんでもかんでもテクノロジー利用と認知機能との関連を保証するものではないといえます。当然、この結果は「無目的にスマホの画面をスクロールし続けること」を推奨するものではまったくありません。他の研究結果とも統合して考えると、テクノロジー利用がもし脳にプラスに働くとすれば、それは情報検索や文章作成、コミュニケーションなどの「能動的な活動」が認知予備力(cognitive reserve)を高める可能性が指摘できます。この「認知予備力」とは、脳が持つ情報処理や問題解決能力の「蓄え」のようなものです。知的な活動を通じて、この予備力を高めておくと、年を重ねてその「蓄え」を費やさなければならなくなっても脳の機能を維持しやすくなります。逆に、この予備力が十分にない場合には、蓄えがないため衰えのみが進んでしまい、将来的に認知症のリスクが高まる可能性があるということです。また、この研究の中ではソーシャルメディア単独の影響も見ていますが、その影響は研究間で一貫しませんでした。このため、一括りにスマホを使うといっても、ソーシャルメディアではうまくいかないのかもしれません。また、対象世代は「使い方を学ぶ努力」を必要とした世代であり、生まれた時からデジタル環境に囲まれた若年世代への研究結果の適用ができるかどうかはまた別問題です。目的を持った「適度な」デジタル活用を実用面に落とし込むと、高齢者自身がデバイス操作を学ぶ過程そのものが脳への刺激となる可能性もあります。仮に、すでに軽度認知障害がある人でも、トレーニングを通じて技術利用は十分可能であるといわれています。もしかすると、認知症予防や治療に役立つツールにもなりうるのかもしれません。いずれにせよ、「目的を持った適度なテクノロジー利用」が、おそらく最も有益なのでしょう。一方で、画面を見続けることで生じる目や首の疲労を感じるほど「過度に」使用する場合にはその有益性は失われ、むしろ損失のほうが大きくなることも懸念されます。結論として、適切なサポートのもとで高齢者がデジタルテクノロジーを日常生活に取り入れることは、認知機能低下に保護的に働く可能性があります。少なくとも、「デジタル認知症仮説」は、過度な利用がなければあまり心配する必要はないのかもしれません。しかし、どのようなものをどのような形で取り入れると真に効果が出るのかについては、今後も研究を続けていく必要があります。また、過度の利用による弊害についても、同時に評価を行っていく必要があるでしょう。 1) Rogers K. Technology use may be associated with a lower risk for dementia, study finds. CNN. April 14, 2025. 2) Benge JF, Scullin MK. A meta-analysis of technology use and cognitive aging. Nat Hum Behav. 2025 Apr 14. [Epub ahead of print]

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フェリチン値から必要のない鉄剤を見極めて中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第66回

 鉄欠乏性貧血の治療において、「いつまで鉄剤を続けるべきか」「どのような投与方法が最適か」というのは薬剤師による処方提案の重要なポイントです。今回の症例では、高齢患者さんの鉄剤服用の必要性を血液検査データから見極め、さらに適切な投与スケジュールについて最新の英国ガイドラインを参考に提案しました。とくに注目すべきは、鉄剤投与後のヘプシジン上昇が次の鉄吸収を阻害するメカニズムに基づいた「1日1回投与」や「隔日投与」の有効性です。新しい知見では、従来の「分2投与」から「隔日投与」へ変更することで、患者さんの服薬負担を減らしながらも同等かそれ以上の治療効果が期待できることが示されています。貧血が改善し、フェリチン値が十分な状態であれば、鉄剤の中止も視野に入れることができます。患者情報95歳、女性(外来患者)ADL自立、要介護1、デイサービスなど利用なし身長:145cm、体重:40kg基礎疾患高血圧、鉄欠乏性貧血、低カリウム血症服薬管理通院時は娘と来局、自己管理可能処方内容1.アムロジピンOD錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.エチゾラム0.5mg 1錠 分1 就寝前3.クエン酸第一鉄錠50mg 2錠 分2 朝夕食後4.アスパラカリウム錠 1錠 分1 朝食後処方提案までの経過この患者さんは、鉄欠乏性貧血に対してクエン酸第一鉄を服用中でしたが、「薬の粒が大きく服薬が困難」との相談があり、評価を実施しました。お薬手帳から少なくとも半年以上の鉄剤服用が確認できましたが、客観的な血液検査値による貧血状態は不明でした。検査データを確認したところ、以下の結果が得られました。<介入当初の採血結果>ヘモグロビン:12.8mg/dL(正常範囲内)平均赤血球容積:97.5(正常範囲内)フェリチン:203.5ng/mL(十分量の鉄貯蔵を示す)血清鉄:71μg/mL(正常範囲内)総鉄結合能:277(正常範囲内)これらの検査結果から、患者さんの鉄欠乏性貧血は改善し、貯蔵鉄も十分蓄積されていることが明らかになりました。なお、消化器症状(嘔気や便秘悪化)などの鉄剤による副作用はありませんでした。鉄剤の服用方法について調査したところ、英国消化器学会のガイドラインでは鉄剤のヘプシジン濃度への影響を考慮し、分2投与より隔日投与が推奨されていることも確認しました。鉄投与後にヘプシジンが上昇し、約24時間鉄吸収が低下するため、1日1回投与や隔日投与のほうが吸収効率が高いという新たな知見1)に基づく推奨です。処方提案とその後の経過服薬情報提供書を用いて、医師に以下の内容を提案しました。1.検査結果に基づく客観的評価フェリチン値が203.5ng/mLと鉄貯蔵が十分であるヘモグロビン値も12.8mg/dLと正常範囲内である2.服薬アドヒアランスの問題粒子径が大きく服用困難である患者の服薬負担軽減の必要性がある3.提案内容鉄欠乏性貧血の改善が認められるため、鉄剤の服用を中止または隔日投与に変更することで、服薬回数を減らして負担を軽減医師の診察で、提案内容と検査結果を踏まえ、フェリチン値も充足していることから鉄剤の服用継続の必要性がないと判断され、処方中止となりました。その後、患者さんからは動悸や息切れ、倦怠感などの貧血症状は報告されず、経過は良好です。服薬回数減少とともに服薬負担が軽減され、QOL向上に繋がりました。1)Snook J, et al. Gut. 2021;70:2030-2051.

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アリピプラゾールによるドパミン受容体シグナル伝達調整が抗うつ効果に及ぼす影響

 即効性抗うつ薬であるケタミンは、解離作用を含む好ましくない精神異常作用を有する。現在、抗うつ効果を維持しながら、これらの副作用を抑制する効果的な戦略は存在しない。京都大学のDaiki Nakatsuka氏らは、マウスとヒトにおけるケタミンの精神異常作用と抗うつ作用に対するドパミンD2/D3受容体拮抗薬とパーシャルアゴニストの影響を調査した。Translational Psychiatry誌2025年3月8日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・パーシャルアゴニストであるアリピプラゾールにより、精神異常作用を減弱し、強制水泳試験においてケタミンの抗うつ作用の維持、増強が認められた。・一方、拮抗薬であるracloprideは、マウスにおいていずれの作用も抑制した。・Brain-wide Fos mappingおよびそのネットワーク解析では、腹側被蓋野がアリピプラゾールおよびracloprideの作用を区分するうえで重要な領域であることが示唆された。・慢性ストレスモデルでは、腹側被蓋野へのraclopride局所注入により、ケタミンの抗うつ作用が抑制され、ドパミン作動性ニューロンの活性が認められた。これは、腹側被蓋野の活性化がケタミンの抗うつ作用を抑制することを示唆している。・より拮抗薬に近い(Emaxが低い)パーシャルアゴニストであるブレクスピプラゾールやracloprideの全身投与は、ケタミンと併用した場合に、モデルマウスの腹側被蓋野のドパミン作動性ニューロンを活性化し、ケタミンの抗うつ作用を抑制したが、アリピプラゾールでは、抗うつ作用の抑制が認められなかった。・これらの結果と一致し、うつ病患者9例を対象とした単群二重盲検臨床試験において、アリピプラゾール12mg併用により、ケタミンの抗うつ作用を維持したうえで、解離症状を抑制することが報告された。 著者らは「これらの知見を総合すると、アリピプラゾールによるドパミン受容体シグナル伝達の微調整により、ケタミンの抗うつ作用を維持しながら、ケタミン誘発解離症状を選択的に抑制することが示唆された。これは、治療抵抗性うつ病に対するアリピプラゾールとケタミンの併用療法が有用である可能性を示している」とまとめている。

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高齢糖尿病患者へのインスリン イコデク使用Recommendation公開/糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])は、4月18日に「高齢者における週1回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation」(高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会作成)を公開した。 週1回持効型インスリン製剤インスリン イコデク(商品名:アウィクリ注)は、注射回数を減少させ、持続的なインスリン作用をもたらすことから、ADLや認知機能の低下により自己注射が困難な高齢患者に血糖管理が可能になると期待される。 その一方で、週1回投与という特徴から、投与調節の柔軟性には制限があり、一部の患者では低血糖が重篤化する懸念がある。 学会では使用に際し、高齢者における使用に際してはカテゴリー分類を行った上で「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」に基づき目標値を設定すること、さらに高齢者では低血糖の症状が乏しく重症低血糖を来しやすいことから『高齢者糖尿病治療ガイド』『インスリン イコデク投与ガイド』などを参考に、下記の5つの事項に留意するように示している。【高齢糖尿病患者への使用でのRecommendation】(1)適切な治療目標を設定する ADLや認知機能が低下した高齢者においては、高血糖緊急症や低血糖を避けることが優先的な目標となる。低血糖になった場合、遷延することが予想されるため、HbA1c値の治療目標は厳格すぎないよう柔軟に設定する。(2)適切なタイミングで血糖モニタリングを実施する 安全性の確保のため何らかの血糖測定が必要である。家族や介護者への教育を徹底し、低血糖時の対応や投与スケジュールの管理を習得してもらう。投与量が安定するまでの期間や、シックデイなど血糖の変動が予想される場合には持続血糖測定(CGM)や遠隔血糖モニタリングも検討する。投与後2~4日目の食前血糖値が最も下がりやすいことから、この日の血糖測定は用量調整の参考になる。(3)訪問看護や介護環境では慎重に計画する 週1回~数回の訪問看護などに依存する患者では、血糖変動を把握する機会が限られるため、慎重な投与計画が必要である。訪問看護師や介護者との連携を強化し、緊急時の対応手段を準備する。(4)感染症、術前の血糖管理など 適宜(超)速効型インスリンを併用する。連日投与のBasalインスリンに変更する場合、最後にイコデクを打ってから1~2週間の間で、朝食前血糖が180mg/dLを超えた時点でイコデクの1/7量を開始する。(5)低血糖予防の注意事項と対応 低血糖時の対応方法に習熟してもらう(必要に応じグルカゴン投与も含む)。予定外の運動をした後は低血糖に注意する。低血糖症状が1度おさまっても再発や遷延の可能性がある。食事量や質にむらがある高齢者では慎重に適応を検討する。持効型インスリンからの切り替え投与時のみ1.5倍に増量することが推奨されているが、この場合は2回目以降も増量を続けないよう注意する。高齢者においては1.5倍の初回投与を必ずしも行わない、という選択肢も考慮される。

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PPI投与量とC. difficile感染症リスクの関係~用量反応メタ解析

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)使用者は非使用者と比べClostridioides difficile感染症(CDI)リスクが上昇することが報告されているが、これまでのメタ解析では、用量反応的な関係についての検討は行われていない。スウェーデン・カロリンスカ研究所のMatilda Finke氏らによる用量反応メタ解析の結果、PPI投与量とCDIリスクとの関連は、正の相関を示すことが明らかになった。Journal of Infection誌オンライン版4月14日号掲載の報告。 本研究では、PubMed、Embase、Web of Science、およびCochrane Libraryを用いて、PPIとCDIに関する縦断研究を検索した。収集されたデータは、1日当たりのPPI投与量(DDD:defined daily doses)およびPPI治療期間に基づく2つの2段階ランダム効果用量反応メタ解析にそれぞれ組み入れられた。PPI非使用者と比較した補正相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)が推定された。 主な結果は以下のとおり。・全体で15件の観察コホート研究および症例対照研究が対象となり、投与量(DDD)に基づくメタ解析に7件(n=48万3,821)、治療期間に基づくメタ解析に7件(n=51万6,441)が組み入れられた。・バイアスリスクは中程度と評価された。・プールされた用量反応推定値は線形傾向を示し、DDD10mg増加当たりのRRは1.05(95%CI:0.89~1.23)、PPIによる治療1日増加当たりのRRは1.02(95%CI:1.00~1.05)であった。・両解析において残存異質性が認められたが(I2=91.4%/DDD、I2=99.4%/治療期間)、その要因の特定には限界があった。 著者らは、リスク上昇に関与する基礎的なメカニズムやCDIリスクが増加するPPI投与量の閾値については明らかになっていないとし、PPIとCDIの用量反応関係に関する、より多くのデータを基にした研究が必要としている。

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個々のCDK4/6阻害薬、適した患者像は?(PALMARES-2)

 HR+/HER2-の進行乳がんに対するCDK4/6阻害薬と内分泌療法の併用療法は、内分泌療法単独よりも無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)を有意に延長したことが報告されている。3剤のCDK4/6阻害薬はそれぞれ薬理作用や安全性が異なるが、有効性を直接比較した大規模な試験は実施されていないため、特定の状況においてどのCDK4/6阻害薬がより効果的であるかは臨床的に重要な課題である。そこで、イタリア・IRCCS財団国立がん研究所のLeonardo Provenzano氏らは、パルボシクリブ、アベマシクリブ、ribociclibを内分泌療法と併用した場合の有効性を比較する多施設共同観察研究「PALMARES-2試験」を実施した。 対象は、2016年1月~2023年9月にイタリアのがんセンター18施設で治療を開始したHR+/HER2-の進行乳がん患者であった。本研究は観察研究であるため、CDK4/6阻害薬および内分泌療法は担当医が選択して処方した。主要評価項目はリアルワールドにおけるPFS(rwPFS)であった。多変量Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、個々のCDK4/6阻害薬とrwPFSの関連性を解析した(データカットオフ:2024年1月31日)。 主な結果は以下のとおり。・1,982例の患者が本試験に組み入れられた。パルボシクリブが投与されたのは789例(39.8%)、アベマシクリブは457例(23.1%)、ribociclibは736例(37.1%)であった。年齢中央値は63歳、内分泌療法抵抗性が33%、閉経前が18%、de novo StageIVが29%であった。・全体におけるrwPFS中央値は34.1ヵ月であった。アベマシクリブとribociclibは、パルボシクリブと比較してrwPFSが良好であった。調整ハザード比(aHR)と95%信頼区間(CI)は下記のとおり。 -アベマシクリブvs.パルボシクリブのaHR:0.76(95%CI:0.63~0.92)、p=0.004 -ribociclib vs.パルボシクリブのaHR:0.83(95%CI:0.73~0.95)、p=0.007 -アベマシクリブvs.ribociclibのaHR:0.91(95%CI:0.73~1.14)、p=0.425・アベマシクリブは、パルボシクリブよりも、内分泌療法感受性、内分泌療法抵抗性、Luminal B-like(PgR<1%および/またはKi67>20%と定義)、閉経前、ECOG PS不良、de novo StageIVの患者においてrwPFSが良好であった。・アベマシクリブは、ribociclibよりも、de novo StageIVの患者においてrwPFSが良好であった。・ribociclibは、パルボシクリブよりも、内分泌療法抵抗性、Luminal B-like、閉経前、de novo StageIV、肝転移の患者においてrwPFSが良好であったが、高齢患者においてはパルボシクリブよりも不良であった。・骨転移のみを有する患者においては、3剤ともに同等の有効性を示した。

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間質性肺炎合併肺がん、薬物療法のポイント~ステートメント改訂/日本呼吸器学会

 2017年10月に初版が発行された『間質性肺炎合併肺に関するステートメント』について、2025年4月に改訂第2版が発行された。肺がんの薬物療法は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場するなど、目覚ましい進歩を遂げている。そのなかで、間質性肺炎(IP)を合併する肺がんの治療では、IPの急性増悪が問題となる。そこで、近年はIP合併肺がんに関する研究も実施され、エビデンスが蓄積されつつある。これらのエビデンスを含めて、本ステートメントの薬物療法のポイントについて、池田 慧氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。NSCLCへの細胞傷害性抗がん薬 細胞傷害性抗がん薬によるIP合併非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療の中心は、カルボプラチンに(nab-)パクリタキセルまたはS-1を併用するレジメンである。これは、本邦で実施された複数の前向き研究や後ろ向き研究の多数例の報告に基づき、比較的安全に投与可能と判断されることによるものである。一方で2次治療以降の検討は少なく、標準治療は確立していない。これについて、池田氏は「後ろ向きの報告から、S-1が比較的安全に投与可能と判断され、用いられているのではないか」と述べた。 IP合併肺がん患者への細胞傷害性抗がん薬の使用について、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では投与を提案しているが(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[低])、「一部の患者には合理的な選択肢でない可能性がある」ことも記載されている。そのため、池田氏は急性増悪のリスク評価が重要であると述べる。リスク評価については、後ろ向き研究においてHRCTでの線維化範囲の広さ、UIP(通常型間質性肺炎)パターン、%FVC(努力肺活量の予測値に対する実測値の割合)低値、%DLco≦50%などが急性増悪のリスク因子として挙げられている。また、ILD-NSCLC-GAPスコア/modified GAPスコア、Glasgow Prognostic Scaleが急性増悪のリスク評価に有用である可能性も報告されている。ただし、確立されたリスク評価方法は存在せず、本ステートメントでは「治療前に急性増悪発症リスクを評価する方法は複数提案されているが確立していない」としている。SCLCへの細胞傷害性抗がん薬 IP合併小細胞肺がん(SCLC)について、本ステートメントの作成にあたり検索に含まれた介入研究は、国内の17例を対象としたカルボプラチン+エトポシドのパイロット試験のみである。本試験では、急性増悪の発現割合は5.9%と比較的低かったことが報告されている。また「びまん性肺疾患に関する調査研究」班(びまん班)の調査では、急性増悪の発現割合がカルボプラチン+エトポシドで3.7%、シスプラチン+エトポシドで11.0%であったことも報告されている。以上から、本ステートメントでは「プラチナ製剤とエトポシド併用療法がIP合併症例においても標準的治療とするコンセンサスが得られている」としている。分子標的薬 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブは、既存肺のIPが肺臓炎発現のリスク因子となることが報告されている。これらのことから、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では、IP合併肺がんに対して分子標的薬を投与しないことを推奨または提案するとされている。ただし、池田氏は「実際のところ、EGFR-TKI以外の分子標的薬については、既存肺のIPと肺臓炎リスクの関連は十分に検討されていない」と指摘する。近年では、KRAS、BRAF、METなどを標的とする分子標的薬が登場しており、これらの分子の遺伝子異常を有する患者には喫煙者が多いことから、肺気腫や間質性肺炎の合併が多い可能性も考えられる。そこで、びまん班が「間質性肺炎合併非小細胞肺におけるドライバー遺伝子変異/転座検索の実態と分子標的治療薬の安全性・有効性に関する多施設共同後方視的研究」を実施しており、すでに1,250例を超える症例が集積されているとのことである。池田氏は「かなり興味深い結果になっていることが期待され、近いうちに学会でデータを示し、IP合併肺がん患者でもドライバー遺伝子変異を調べることの意義を共有したい」と述べた。抗線維化薬 特発性肺線維症(IPF)合併NSCLC患者を対象に、カルボプラチン+nab-パクリタキセルへのニンテダニブの上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験「J SONIC試験」では、主要評価項目であるIPF無増悪生存期間(PFS)の優越性は示せなかったものの、非扁平上皮がんに限定するとPFSとOSの延長傾向がみられた。また、IPF合併SCLC患者を対象とした国内第II相試験「NEXT SHIP試験」では、カルボプラチン+エトポシドにニンテダニブを上乗せすることで、間質性肺炎の急性増悪の発現割合を3.0%に抑制したことが報告されている。以上から、ニンテダニブはIP合併の非扁平上皮NSCLC、SCLCにおいて抗線維化作用と抗腫瘍作用の双方を期待でき、1次治療の選択肢の1つになる可能性がある。ADC、モノクローナル抗体 HER2を標的とするADCのトラスツズマブ デルクステカンは肺臓炎の発現が多く、胃がんの市販後調査では既存肺のIPが肺臓炎リスク因子となることが報告されている。そのため、本ステートメントではIP合併肺がんでの使用に際して注意が必要であることが記載されている。ICI ICIは、予後不良なIP合併進行肺がん患者に長期生存をもたらしうる現状で唯一の治療選択肢である。しかし、複数の観察研究において、既存肺に間質性肺疾患を有する場合は免疫関連有害事象(irAE)としての肺臓炎の発現割合が高いことが報告されている。そのため、IP合併肺がん患者へICIを投与する場合は肺臓炎リスクの低い患者の絞り込みが重要となる。 そこで、本邦では複数の介入研究が実施されている。HAVクライテリア(蜂巣肺なし、自己抗体なし、%VC[肺活量の予測値に対する実測値の割合]≧80%)を満たす軽症のIPを合併した肺がん患者に対してICIを投与することで、肺臓炎の発現が抑制されることが示唆されている。一方、HAVクライテリアより緩い基準(蜂巣肺を許容、%FVC≧70%など)で実施した試験では、Grade3以上の肺臓炎が23.5%に認められている。これらの結果を受け、本ステートメントでは「既存肺に蜂巣肺を有すると判断された症例に関しては、とくに肺臓炎のリスクが高いものとして慎重な姿勢で臨むべきである」ことが記載されている。また、これらの結果について、池田氏は「軽症のIPであれば比較的安全な可能性があるが、蜂巣肺を有している場合は、現状の介入研究のデータをみると肺臓炎リスクが高い可能性が示唆されている。ただし、有効性に関する良好なデータも示されており、細胞傷害性抗がん薬では長期生存が見込めない予後不良な集団であることも考慮すると、現状ではICIはIP合併肺がんに対して長期生存をもたらしうる唯一の選択肢であるため、リスクベネフィットを患者に共有し、一緒に考えながら治療を選択していく必要がある」と述べた。

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再発性多発性硬化症の再発抑制、tolebrutinib vs.teriflunomide/NEJM

 再発性多発性硬化症の患者において、tolebrutinibは年間再発率の低下に関してteriflunomideに対して優越性は示されなかった。カナダ・トロント大学のJiwon Oh氏らTolebrutinib Phase 3 GEMINI 1 and 2 Trial Groupが、2つの第III相二重盲検ダブルダミーイベント主導型試験「GEMINI 1試験」と「GEMINI 2試験」の結果を報告した。tolebrutinibは中枢移行性の高い経口ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬で、末梢性炎症および疾患関連のミクログリアおよびB細胞を含む中枢神経系の持続的な免疫活性を調節する。再発性多発性硬化症の治療における有効性および安全性の、さらなるデータが求められていた。NEJM誌オンライン版2025年4月8日号掲載の報告。GEMINI 1試験、GEMINI 2試験で、年間再発率を評価 GEMINI 1試験は24ヵ国162施設で、GEMINI 2試験は25ヵ国155施設で参加者のスクリーニングを行った。McDonald診断基準2017により再発性多発性硬化症と診断され、総合障害度評価尺度(EDSS)スコア(範囲:0~10、高スコアほど障害進行を示す)が5.5以下、再発が過去1年以内に1回以上、過去2年以内に2回以上あったか、過去1年以内にT1強調MRIで検出されたガドリニウム増強脳病変が1つ以上あった18~55歳の患者を適格とした。 適格患者は、tolebrutinib 60mgを1日1回、食事とともに経口投与する群、またはteriflunomide 14mgを1日1回、食事とともに経口投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。各参加者には1日2錠が投与され、うち1錠は外見がtolebrutinibまたはteriflunomideと同一のプラセボが投与された。 主要エンドポイントは年間再発率であった。重要な副次エンドポイントは6ヵ月以上持続する障害進行で、2試験全体におけるtime-to-event解析で評価した。年間再発率の率比、GEMINI 1試験1.06(p=0.67)、GEMINI 2試験1.00(p=0.98) 2020年6月25日~2022年8月8日に、GEMINI 1試験では974例(tolebrutinib群486例、teriflunomide群488例)が無作為化され、GEMINI 2試験では899例(447例と452例)が無作為化された。 試験を完了したのは、GEMINI 1試験のtolebrutinib群84.2%、teriflunomide群85.0%、GEMINI 2試験はそれぞれ85.9%、83.6%で、追跡期間中央値は139週間であった。 両試験・両治療群の被験者特性は類似しており、GEMINI 1試験では、平均年齢はtolebrutinib群36.8±9.0歳、teriflunomide群36.6±9.4歳、女性被験者割合はそれぞれ68.7%と66.6%、EDSSスコアは両群ともに2.4±1.2、診断後期間は4.8±6.2年と4.6±6.0年などであった。 tolebrutinib群とteriflunomide群の年間再発率は、GEMINI 1試験では0.13と0.12(率比:1.06、95%信頼区間[CI]:0.81~1.39、p=0.67)、GEMINI 2試験では0.11と0.11(1.00、0.75~1.32、p=0.98)であった。 6ヵ月以上持続する障害進行を有した被験者の割合(2試験のプール解析)は、tolebrutinib群8.3%、teriflunomide群11.3%であった(ハザード比:0.71、95%CI:0.53~0.95、事前規定の階層的検証計画により正式な仮説検証は行われず、信頼区間の幅は多重検定に関して補正されていない)。 有害事象が発現した被験者割合は両治療群で類似していたが、軽度の出血が、tolebrutinib群のほうがteriflunomide群よりも高率であった(点状出血4.5%vs.0.3%、過多月経2.6%vs.1.0%)。

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分娩後出血の最大原因、子宮収縮不全と特定/Lancet

 英国・バーミンガム大学のIdnan Yunas氏らは、システマティックレビューとメタ解析により、分娩後出血の原因で最も多くみられたのは子宮収縮不全であることを明らかにした。著者は、「この所見は、すべての出産した女性に対して予防的に子宮収縮薬を投与すべきという世界保健機関(WHO)の推奨を裏付けるものである」と述べている。分娩後出血の原因を明らかにすることは、適切な治療およびサービスの提供に必要であり、分娩後出血のリスク因子を知ることは、修正可能なリスク因子への対応を可能とする。研究グループは、分娩後出血の原因とリスク因子の特定および定量化を目的に本検討を行った。Lancet誌オンライン版2025年4月3日号掲載の報告。分娩後出血の発生率、リスク因子を評価 研究グループは、MEDLINE、Embase、Web of Science、Cochrane Library、Google Scholarにより、1960年1月1日~2024年11月30日に行われた分娩後出血のコホート研究を言語を問わず検索。2人以上の試験研究者が独立して、試験の選択、データ抽出、質の評価を行い、英語で入手できた住民ベースコホート研究を適格とした。 分娩後出血の発生率ならびにリスク因子に対する粗オッズ比(OR)および補正後ORを、ランダム効果モデルを用いて統合した。リスク因子は統合ORに基づき、関連性の強さ(弱い[OR>1~1.5]、中程度[OR>1.5]、強い[OR>2])で分類し評価した。子宮収縮不全70.6%、複数原因7.8% 年齢、人種または民族を問わない女性8億4,741万3,451例を対象とした327件の研究データを組み入れた。ほとんどの研究は方法論的な質が高かった。 分娩後出血の原因として報告された統合割合上位5つは、子宮収縮不全(70.6%[95%信頼区間[CI]:63.9~77.3]、83万4,707例、14研究)、産道損傷(16.9%[9.3~24.6]、1万8,449例、6研究)、胎盤遺残(16.4%[12.3~20.5]、23万5,021例、9研究)、胎盤の異常(3.9%[0.1~7.6]、2万9,638例、2研究)、血液凝固障害(2.7%[0.8~4.5]、23万6,261例、9研究)であった。 また、分娩後出血の原因を複数有する女性の統合割合は7.8%(95%CI:4.7~10.8、666例、2研究)であった。 分娩後出血の原因との関連性が強いリスク因子は、貧血、分娩後出血既往、帝王切開、女性器切除、敗血症、産前受診なし、多胎妊娠、前置胎盤、生殖補助医療の利用、出生体重4,500g超の巨大児、肩甲難産などであった。 分娩後出血の原因との関連性が中程度のリスク因子は、BMI値30以上、COVID-19、妊娠糖尿病、羊水過多、妊娠高血圧腎症、分娩前出血などであった。 分娩後出血の原因との関連性が弱いリスク因子は、黒人およびアジア人、BMI値25~29.9、喘息、血小板減少症、子宮筋腫、抗うつ薬の使用、分娩誘発、鉗子分娩、前期破水などであった。 これらの結果を踏まえて著者は、「分娩後出血との関連性が強いリスク因子に関する知識は、分娩後出血リスクの高い女性を特定するのに役立ち、それらの女性は強化された予防および治療の恩恵を受けることができるだろう」とまとめるとともに、分娩後出血の原因は複数で多重的に存在すると示されたことについて、「治療バンドルの活用が重要であることを裏付けるものである」と述べている。

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花粉症時のアイウォッシュ、その使用傾向が調査で明らかに

 アイウォッシュ(洗眼)は花粉症シーズンの目のトラブル対策として有効な手段だが、洗眼剤の使用傾向は年齢、既往歴、生活習慣などの違いによって異なる、とする研究結果が報告された。若年層、精神疾患の既往、コンタクトレンズ(CL)利用者などが洗眼剤使用に関連する因子であったという。研究は順天堂大学医学部眼科学講座の猪俣武範氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に3月10日掲載された。 洗眼剤の使用はアレルギー性結膜炎の初期症状の軽減に効果的であるとされるが、現在、花粉症患者における洗眼剤使用の疫学的特徴に関しては知識のギャップが存在している。このギャップを埋めることは、花粉症管理において包括的でエビデンスに基づいた洗眼剤のガイドラインを作成するために不可欠である。そのような背景から、研究グループは花粉症患者における洗眼剤使用者と非使用者を総合的にプロファイリングし、花粉症とセルフケアの習慣に関連するパターンと特徴を特定することを目的とした大規模疫学研究を実施した。 花粉症患者の人口統計、既往歴、ライフスタイル、花粉症の症状などの疫学情報は、順天堂大学が花粉症研究のために開発したスマートフォンアプリケーション「アレルサーチ」より収集された。収集された1万7,597人のうち、研究に同意し、花粉症を有していた9,041人が最終的な解析対象に含まれた。 解析対象9,041人のうち、3,683人(40.7%)が洗眼剤を使用しており、年齢層は20歳未満(47.6%)の割合が最も多かった。洗眼剤使用群では非使用群に比べ、年齢が若く、体格指数(BMI)が高く、薬による高血圧の割合が低く、精神疾患の既往、ドライアイ(DE)診断、腎臓病の既往の割合が高いことが観察された。さらに、洗眼剤使用群ではCLの使用頻度が高く、花粉症シーズンでその使用を中止している割合は低かった。喫煙は洗眼剤使用群で非使用群より有意に高かった。また、ヨーグルトの摂取は、洗眼剤使用群で多かった。 次に単変量および多変量ロジスティック回帰分析を実施し、花粉症患者における洗眼剤使用の関連要因を検討した。その結果、年齢が若い、BMIが高い、精神疾患の既往歴あり、CL使用歴あり、現在のCL使用、1日当たりの睡眠時間が短い(6時間未満)、喫煙歴あり、ヨーグルトの頻繁な摂取、鼻症状スコアが低い、非鼻症状スコアが高い、DE症状がある(軽度~重度)などが、洗眼剤使用の独立した関連因子であることが明らかになった。 また、花粉症関連の眼症状を有する患者の洗眼剤非使用に関連する独立因子は、高齢であること、BMIの低さ、1日当たりの睡眠時間の短さ、DE症状がある(中等度~重度)であった。 本研究の結果について著者らは、「今回の解析結果から、高齢者や重度のDE患者が花粉症の眼症状に洗眼剤を使用していない可能性があることが浮き彫りにされた。これは、花粉症の予防と管理に対する市販の洗眼薬の有効性、副作用、安全性プロファイルについて、今後の花粉症対策や社会的な取り組みを考える上で重要な意味をもつかもしれない」と述べている。 本研究の限界点については、選択バイアスの影響を受け一般化が制限されている可能性があること、自記式調査を採用していることから、想起バイアスや過剰報告の可能性があること、横断研究であるため、洗眼とBMIやヨーグルト摂取などの要因との因果関係を評価できないことなどを挙げている。

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大腸がん死亡率に対する大腸内視鏡検査と2年ごとの便潜血検査の有用性(解説:上村直実氏)

 日本対がん協会の報告によると、2023年の部位別がん死亡数を死因順位別にみると、男性は肺がん、大腸がん、胃がん、膵臓がん、肝臓がんの順に多く、女性は大腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がん、胃がんの順となっている。同年の大腸がん罹患者数は14万8,000人で死亡者数が5万3,000人とされており、罹患者のうち3人に1人が死亡する可能性が推測される。このように、大腸がんは肺がんの次にがん死亡者数が多い疾患であるが、早期がんの完治率は90%以上という特徴を有する疾患であり、早期発見、とくに検診が非常に重要である。 大腸がん検診に関して、直接の大腸内視鏡検査を行う米国に対して、欧州やオーストラリアでは免疫学的便潜血検査(FIT)を用いた検診が主流である。今回、スペインの15施設において2年ごとのFITを用いた検診と1回だけの大腸内視鏡検査を行う検診の各検診プログラムの参加率と10年後の大腸がん死亡率を比較した検討結果が、2025年3月のLancet誌に報告された。結果は、両プログラムへの参加率は大腸内視鏡検査より2年ごとのFIT検診が有意に高く(31.8%vs.39.9%)、10年時の大腸がん死亡率についてはFITベースの検診と大腸内視鏡検査プログラムが同等(0.22%vs.0.24%)であった。すなわち、大腸がん予防のために10年に一度大腸内視鏡検査を行うか、2年に1回FIT検査を行うことが推奨される結果となっている。 日本では、早期発見するための方策として住民検診でFITの2日法が推奨されており、FITによる1次検診から精密検査の内視鏡検査へ誘導する方法が確実に施行されれば、大腸がん死亡者数が激減することが容易に予測される。しかしながら、日本大腸肛門病学会によると、住民検診におけるFIT受診率は20%であり、そのうち便潜血陽性でも精密検査である大腸内視鏡検査を受けているのは60%とされている。なお、大腸がんが発見されるのは全体の0.1〜0.2%とされているが、このうち7割が早期がんで根治可能である。検診受診率が低い点が大きな課題であり、受診率の向上へ向けてさまざまな取り組みが策定されているのが現状である。 これに対して、大腸がん死亡率が高い筆頭国であった米国では、近年大腸がん死亡率が著明に低下している。驚くことに人口が日本の約3倍近くもあるにもかかわらず、本邦の大腸がん死亡者数よりも少なくなっている。米国では50歳を過ぎた国民に通常数十万円を要するCSを1回だけ無償で提供しており、大腸がん検診受診率が約70%と日本に比べて非常に高くなっている。このように、米国と本邦の大腸がん死亡率の差は、検診受診率の差が大きな一因と考えられる。 日本では、マンパワーや費用の問題から住民検診において大腸内視鏡検査を直接用いることは難しい状況である。したがって、FITにより検診に対する参加率をさらに向上させる対策と国民の啓蒙が重要であるとともに、一般診療現場において熟知すべき重要な研究結果と思われる。

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第260回 ほぼ生き残り確定の零売薬局(前編) 「セルフメディケーション推進」のためと薬機法等改正案が180度方針転換の謎

薬機法等改正法、衆院で可決も19項目の附帯決議こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ロサンゼルス・ドジャースの佐々木 朗希投手、なかなか勝てないですね。4月19日(現地時間)、テキサス・レンジャーズ戦に登板した佐々木投手は6回2失点と好投、リードしたまま降板するも、抑えの投手がサヨナラホームランを打たれ、またしても勝ち投手になれませんでした。球速は最速155キロ前後と今ひとつでしたが、スプリット、スライダーの制球が良くなってきただけに残念でした。勝てないと言えば、今シーズンからロサンゼルス・エンゼルスの先発陣にいる菊池 雄星投手もまだ0勝です。今年のエンゼルスは例年より調子がいい(4月22日現在、勝率5割2分)のですが、なぜか菊池投手が投げる時だけ打線が沈黙、勝ちにつながりません。それでも腐らずに淡々と投げる姿には頭が下がります。岩手県出身のこの2投手に早く勝ち星が付きますように。今回は、本連載でも度々書いてきた、処方箋なしで一部の医療用医薬品が購入できる「零売薬局」を巡る奇妙な動きについて書いてみたいと思います。衆議院厚生委員会は4月16日、薬機法等改正法案(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案)を与野党の賛成多数で可決しました。自民、公明、立民、維新、国民の各党が賛成、れいわ、共産が反対しました。採決後に19項目の附帯決議が採択されました。附帯決議は自民、立民、維新、国民、公明の5派共同提案によるものです。そして翌17日、薬機法等改正案は衆院本会議で与党などの賛成多数で可決され参議院に送られました。薬機法等改正法案は、「1)医薬品等の品質及び安全性の確保の強化」「2)医療用医薬品等の安定供給体制の強化等」「3)より活発な創薬が行われる環境の整備」「4)国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等」の4つの柱で構成、医療機関にとくに関係の深いのが4番目の柱で、この中に零売の原則禁止や濫用リスクのある医薬品の分類・販売方法見直しなどが盛り込まれていました。「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」と附帯決議さて、19項目の附帯決議ですが、この中にいわゆる「零売」に関する項目が含まれています。以下のような一文です。「十三:処方箋なしでの医療品医薬品の販売について、いわゆる零売規制の具体的な運用を定める厚生労働省令やガイドライン等の策定にあたっては、処方箋医薬品以外の医療品医薬品の積極的なOTC化推進及び薬剤師との相談を通じて、患者が主体的に医薬品を選択購入するセルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないように留意し、処方箋の交付を受けたもの以外のものに対して医療用医薬品の販売が認められるやむを得ない場合の範囲運用については、国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう十分に配慮すること」つまり、今回の法改正で「原則禁止」となるはずだった零売が、「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」という附帯決議が付いたことで、生き残りがほぼ確定したのです。国会提出時の法律の方針を180度転換させる内容です。医療用医薬品は処方箋に基づく販売を基本とすることを明確化、リスクの低い医療用医薬品、「やむを得ない場合」に限り薬局での販売を認める零売薬局については、「第197回 強引過ぎる零売薬局規制とやる気のないスイッチラグ対策で実感する厚労省の守旧派ぶり、GLP-1ダイエット処方規制の方が最優先では?」でも詳しく書きました。この回では、厚生労働省が2024年1月にまとめた「医薬品の販売制度に関する検討会とりまとめ」の内容を紹介しました。「とりまとめ」では、日常的に零売を行う薬局や、「処方箋なしで病院の薬が購入できる」とうたう薬局が存在することなど、かねてから問題視されてきた零売について、「やむを得ない場合」のみ販売可能であることを法令で明記し、販売可能時の条件も法令で定める方針を打ち出しました。それについて私は「零売という販売システムにおいて甚大な健康被害があったわけでもなく、単に広告表現に不適切な事例が散見されただけで、零売という薬剤販売のユニークな仕組みを一律に法律で規制してしまうというのは、相当強引なやり方ではないか」と疑問を呈しました。その後、「とりまとめ」に書かれた零売規制の方針はそのまま厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会(福井 次矢部会長)の議論のとりまとめに引き継がれ、今回の薬機法等改正案(附帯決議採択前の当初案)に盛り込まれることになったのです。具体的には、医療用医薬品については処方箋に基づく販売を基本とすることを法律で明確化、リスクの低い医療用医薬品については例外として「やむを得ない場合」に限り、薬局での販売を認めることとなりました。この「やむを得ない場合」は省令で定めることになり、一般用医薬品で代用できない場合が該当するとされました。さらに販売に際しては、「販売量は最小限」「原則、患者の状況を把握している薬局が対応」「薬歴状況・販売状況の記録義務付け」といった厳しいルールも課されることになっていました。日常的に「患者の状況を把握している」のは調剤料で生きている薬局と考えられます。そういった薬局が零売を積極的に行うとは思えないので、非現実的なルールと言えます。零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして薬剤師らが国を相手取り訴訟こうした零売規制を盛り込んだ薬機法等改正案を政府は2月12日に閣議決定し、国会に提出しました。日本医師会はもちろん賛成、零売自体は薬剤師の役割・職能向上につながると考えられるのに、日本薬剤師会もなぜか賛成しました。しかし、国会提出前後から零売規制を巡ってはさまざまな動きがありました。その代表的な出来事が1月17日、零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして、薬剤師らが国を相手取り訴訟を起こしたことです。1月20日付の日経ドラッグインフォメーションによれば、原告の一人である長澤薬品(東京都豊島区)の長澤 育弘氏は記者会見で、「『薬剤師の職能を脅かす法改正がいま進められようとしている』との強い危機感により、今回の提訴に至った」と説明、裁判において「これまで国から出された通知には法的根拠がないことの確認を求める。さらに、零売の規制は憲法上の『職業選択の自由』や『表現の自由』を侵害し、国民の医薬品アクセスも阻害するものと主張」するとしていました。また担当弁護士は「当該改正法が憲法違反に該当すると考える余地がある」とも説明しました。国会に提出後も各方面から規制に反対意見そんな中、国会に提出された薬機法等改正案ですが、零売規制には各方面から反対意見も聞かれるようになりました。3月13日に開かれた参議院予算委員会公聴会では、日本総研調査部の成瀬 道紀主任研究員が公述人として出席、零売規制について発言しています。3月17日付の薬事日報によれば、成瀬氏は「零売の原則禁止は改正案から削除すべき項目であり、改正すべきは関連通知」と述べ、その理由として、「プライマリケアの中に薬剤師を位置付けること」と「医療保険財政の持続性確保」を挙げたとのことです。一方、審議に入った衆院厚労委員会では、立憲民主党の議員などから零売規制に疑問が投げられました。4月11日付けの薬事日報によれば、早稲田 夕季議員は零売規制について「緊急時の手段として非常に有益で、法制化してまで対処する必要があるのか疑問」とし、やむを得ない場合について「現場の薬剤師にとって判断が難しく、萎縮したり結果的に零売が大きく制限される懸念があってはならない」、「薬剤師の判断に一定の裁量を残す制度が不可欠。過度な指導や規制により営業継続が困難とならないよう、必要最小限かつ合理的な規制措置にとどめてほしい」と訴えたとのことです。これに対し福岡 資麿厚生労働相は、「緊急時等のやむを得ない場合に薬剤師と相談した上で、必要最小量の数量を販売する本来の趣旨に則って経営している薬局はこれまで通り継続できる。必要最小限かつ合理的な規制措置で行っていきたい」との考えを示しました。この考えがそのまま、先に紹介した附帯決議の文面につながったと考えられます。法案提出後の急な、そして謎の方針転換…。背景には一体何があったのでしょうか?(この項続く)

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吸引前アセスメントの実施率は36% 看護師の知識と実践のギャップ【論文から学ぶ看護の新常識】第12回

吸引前アセスメントの実施率は36% 看護師の知識と実践のギャップ看護師の吸引前アセスメントの実施率や適切な吸引圧の使用率はいずれも50%未満であり、吸引に関する知識と実践との間にギャップがあることが、研究結果から明らかとなった。Halita J Pinto氏らの研究で、Indian Journal of Critical Care Medicine誌2020年1月号に掲載された。看護師の気管内吸引に関する知識と実践:システマティックレビュー研究グループは、看護師の現行の実践におけるギャップを明らかにし、安全な実践に向けた包括的なガイドラインを提案することを目的として、システマティックレビューを実施した。2002年から2016年の期間に、あらかじめ定義されたキーワードを用いて論文データベースから論文を抽出した。レビューはPRISMAに従って実施した。質的データはメタ統合の手法で記述し、気管内吸引に関する知識と実践を明らかにするために、信頼性の高い量的エビデンスを統合する量的分析を実施した。最終的に30件の研究がメタ統合の対象となり、そのうち6件が量的分析に適した情報を提供した。量的分析によって明らかとなった、看護師の実施率に関する主な結果は以下の通り。吸引前の患者状態の評価:36%(2件の研究、対象者70人、実施者25人)必要時のみ吸引を実施:62%(3件の研究、対象者146人、実施者91人)吸引前の患者への説明:65%(5件の研究、対象者175人、実施者113人)吸引前の手洗い:62%(4件の研究、対象者148人、実施者92人)適切な吸引カテーテルサイズの使用:36%(3件の研究、対象者140人、実施者50人)適切な吸引圧(80~150mmHg)の使用:46%(4件の研究、対象者191人、実施者87人)吸引時間(15秒未満):59%(4件の研究、対象者150人、実施者88人)吸引後の再評価:100%(1件の研究、対象者30人、実施者30人)吸引後の手洗:91%(3件の研究、対象者82人、実施者75人)合併症の可能性についての認識があるにもかかわらず、推奨されている診療ガイドラインを順守していないことが報告された。臨床現場で日常的に行われる気管内吸引ですが、私たち看護師の知識と実践の間にはしばしばギャップがあることをご存知でしょうか。本レビューは、少し前のものにはなりますが、このギャップに注目し、気管内吸引の安全性と効果を高めるための重要なポイントを示した面白い研究です。日常的なケアになっている分、意外と答えられる項目が多いのかなと思いました。本文を読むと、吸引後のアセスメントの実施率は100%でしたが、吸引前にアセスメントを実施している看護師はわずか36%とかなり低い結果でした。意外にも見落とされがちなのが、吸引前の患者への説明です。吸引は患者にとって不快で痛みを伴う処置ですが、適切な説明と疼痛管理を行うことで、患者の不安やストレスを軽減できることが指摘されています。忙しい業務の中で作業的になり、つい説明を忘れてしまう気持ちもわかりますが、忘れないようにしたいものです。また、吸引は必要な時にのみ行い、15秒以内に留めるなど、最小限の侵襲で最大の効果を得るよう心がけましょう。と言いながらも、理想的なケアと現実的なケアの中でギャップはかなり生じると思います。日本では、『気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための)』1)が出ていますので、今一度、自分自身の知識と実践を確認してみてはいかがでしょうか?論文はこちらPinto HJ, et al. Indian J Crit Care Med. 2020;24(1):23-32.1)日本呼吸療法医学会. 気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための). Jpn J Respir Care. 2024;41(1):1-47.

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早期発症双極症の認知機能、躁病エピソード期と寛解期の比較

 トルコ・Konya Eregli State HospitalのCelal Yesilkaya氏らは、早期発症型の双極症の躁病エピソード患者と寛解期患者における認知機能の程度を調査し、比較検討を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2025年3月3日号の報告。 対象は、双極症の躁病エピソード患者55例、寛解期患者40例と健康対照者30例。さらに、躁病エピソード患者のうち、31例(56.4%)は寛解期と評価された。包括的な認知バッテリーを用いて、言語および視覚学習/記憶、注意力、抑制、問題解決、作業記憶、処理速度、言語流暢スキルを評価した。全体的な認知能力を推定するため、グローバル認知因子を算出した。心の論理(Theory of mind:ToM)の評価には、Reading the Mind in the EyesおよびFaux-Pasテストを用いた。 主な結果は以下のとおり。・双極症患者と健康対照者は、性別および教育によりマッチさせた。・寛解期患者の平均年齢は、他群よりも有意に高かった。・躁病エピソード患者では、抗精神病薬の投与量が最も多かった。・躁病エピソード患者は、寛解期患者と比較し、処理速度(Cohen's d:0.51〜0.78)、注意力(d:0.57)、抑制(d:0.56〜0.63)、全般的認知機能(d:0.54)の中程度の低下が認められた。・寛解期患者は、健康対照者と比較し、言語記憶(d:1.03〜1.32)、作業記憶(d:0.88〜1.13)、ToM(d:0.60〜0.87)、処理速度(d:1.21〜1.27)、問題解決(d:0.56〜0.67)、注意力(d:0.58)、抑制(d:0.89〜1.00)、視覚記憶(d:1.28〜1.37)のパフォーマンスが低かった。 著者らは「躁病エピソード患者は、社会的認知、処理速度、抑制、注意力の障害がより顕著であった。今後の研究では、神経認知障害の治療を目的とした薬物療法および心理療法の介入に焦点を当てる必要がある」と結論付けている。

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女性の低体重/低栄養症候群のステートメントを公開/日本肥満学会

 日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏〔千葉大学 学長〕)は、4月17日に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)ステートメント」を公開した。 わが国の20代女性では、2割前後が低体重(BMI<18.5)であり、先進国の中でもとくに高率である。そして、こうした低体重や低栄養は骨量低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わるさまざまな障害と関連していることが知られている。その一方で、わが国では、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じ「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、これに起因する強い痩身願望があると考えられている。そのため糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。 こうした環境の中で、今まで低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であったことから日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループ(委員長:小川 渉氏〔神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授〕)を立ち上げた。 このワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。 今回公開されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。若年女性の低体重を診たらFUSを想起してみよう ステートメントは、低体重および低栄養による健康リスクや症状に触れ、具体例としてエストロゲン低下などによる骨量低下および骨粗鬆症、月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク、鉄や葉酸など微量元素やビタミン不足による健康障害、糖尿病発症となる代謝異常、筋量低下によるサルコペニア様状態、痩身願望からくる摂食障害、そのほか倦怠感や睡眠障害などの精神・神経・全身症状を挙げ、低体重などの問題点を指摘している。 そして、低体重に対する介入の枠組みが確立されていないこと、教育現場などでも啓発が十分とはいえないこと、糖尿病や肥満症治療薬が不適切使用されていることから作成されたとステートメント作成の背景を述べている。 先述のワーキンググループでは、新たな疾患概念として、女性における低体重・低栄養と健康障害の関連を示す症候群の名称として、FUSを提案し、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象にFUSに含まれる主な疾患や状態を次のように示している。・低栄養・体組成の異常 BMI<18.5、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)・性ホルモンの異常 月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)・骨代謝の異常 低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)・その他の代謝異常 耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症・循環・血液の異常 徐脈、低血圧・精神・神経・全身症状 精神症状(抑うつ、不安など)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害など)、身体活動低下 また、ステートメントでは、FUSの提唱でスティグマを生じないように配慮すると記している。今後FUSのガイドラインを策定し、広く啓発 FUSの原因として「体質性痩せ」、「SNSなどメディアの影響によるやせ志向」、「社会経済的要因・貧困などによる低栄養」の3つを掲げ、原因ごとの対処法、たとえば、「体質性痩せ」では健康診断時の栄養指導や必要なエネルギー、ビタミンやミネラルの十分な摂取の推奨などが記されている。 そして、これからの方向性として、「ガイドラインの策定」、「健診制度への組み込み」、「教育・産業界との連携」、「戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)との連携」を掲げている。 提言では、「今後は診断基準や予防・介入プログラムの充実を図り、医療・教育・行政・産業界が一体となった総合的アプローチを推進する必要がある。これらの取り組みが、日本の若年女性の健康改善と次世代の健康促進に寄与することが期待される」と結んでいる。

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