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米国における吸入器関連の温室効果ガス排出量は過去10年間で24%増加し、全体の98%を定量噴霧式吸入器が占めることが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のWilliam B. Feldman氏らによる観察研究で明らかにされた。吸入器は喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主要な治療手段であるが、定量噴霧式吸入器には多量の温室効果ガス排出につながるハイドロフルオロアルカン噴射剤が含まれる。米国連邦政府は国際条約義務に基づきハイドロフルオロカーボン(HFC)の段階的削減を進めているが、排出量などの現状把握は不十分であった。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年10月6日号で報告された。米国の2014~24年の連続横断研究 本研究は、2014~24年の米国における吸入器関連の温室効果ガス排出の規模、発生源、社会的コストの定量化を目的とする連続横断研究である(筆頭著者のFeldman氏は、この領域の研究に当たり米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 米国の外来向け医薬品市場全体の集計調剤データを、吸入器別の温室効果ガスの推定排出量と関連付け、喘息およびCOPDの治療用に承認された全吸入器の排出量を推定した。57のブランド名の吸入器が解析に含まれた。10年間で16億個の吸入器を調剤 2014~24年に、米国で調剤された吸入器は合計16億個であった。内訳は、定量噴霧式吸入器が11億個(70%)、乾燥粉末吸入器が4億900万個(26%)、ソフトミスト吸入器が5,800万個(4%)だった。 調剤された吸入器の85%を3つの治療薬クラスが占めており、短時間作用型β刺激薬(SABA)が7億8,400万個(50%)、吸入コルチコステロイド-長時間作用型β刺激薬(ICS-LABA)が4億1,200万個(26%)、ICSが1億5,100万個(10%)であった。 最も多く使用された薬剤はalbuterol(日本ではサルブタモールと呼ばれる、7億7,300万個[49%])であった。また、吸入器の85%を4社が製造していた。総排出量は2,490万メトリックトンCO2e 10年間に16億個の吸入器が排出した温室効果ガスの総量は、二酸化炭素(CO2)換算で2,490万メトリックトンCO2e(mtCO2e)と推定された。年間排出量は、2014年の190万mtCO2eから2024年には230万mtCO2eへと24%増加した。また、調査期間中の総排出量の98%を定量噴霧式吸入器が占めた。 10年間の温室効果ガス排出量は、SABAが1,450万mtCO2e(58%)、ICS-LABAが750万mtCO2e(30%)、ICSが230万mtCO2e(9%)であった。また、総排出量の87%を3つの吸入薬が占めており、albuterolが57%、ブデソニド・ホルモテロールが23%、フルチカゾンプロピオン酸エステルが6%だった。全体で57億ドルの社会的コスト 吸入器による温室効果ガス排出の社会的コストは、全体で57億ドル(下限35億ドル、上限100億ドル)と推定された。排出量の増加に伴い、これらのコストは2014年の3億9,000万ドル(下限2億2,900万ドル、上限7億300万ドル)から2024年には5億8,800万ドル(3億6,100万ドル、10億ドル)へと増加した。 著者は、「喘息およびCOPDの治療に承認された吸入器は、過去10年間にわたり温室効果ガス排出の一因となっていた。これらの排出削減を目指す施策立案者と規制当局は、現在市販されている低排出代替品の使用拡大を奨励し、乾燥粉末製剤のICS-ホルモテロールを米国市場に導入するとともに、経済的負担を増大させずに、低排出の定量噴霧式吸入器製品への移行を促すべきである」としている。