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薬剤性過敏症症候群〔DIHS:drug-induced hypersensitivity syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)は、発熱と多臓器障害を伴う重症型薬疹の1つである。抗けいれん薬など特定の薬剤を内服開始後、遅発性に発症し、原因薬剤を中止しても症状の再燃や遷延化がみられることが特徴である。多くの場合、発症後3週間前後でヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)に代表されるヘルペスウイルスの再活性化を伴うことから、薬剤アレルギーとヘルペスウイルス感染症が複合して生じる新たな病態として認識されている(図1)。DIHSのもう1つの特徴として、回復期に1型糖尿病や慢性甲状腺炎などの自己免疫疾患を発症することが知られている。なお、欧米を中心にDRESS(drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms)という疾患概念が用いられるが、DRESSの診断基準にはヘルペスウイルスの再活性化については言及されておらず、DIHSよりも広い範囲の薬疹が含まれる。図1 DIHSの病態の仮説■ 疫学2021年の全国調査によれば、年間受療患者数は人口100万人当たり2.82人と推計されている。男女比は1:1で、発症年齢は40~60代(中央値58歳)が最多である。原因薬剤は比較的限定的であり、カルバマゼピン、ラモトリギン、フェニトイン、フェノバルビタール、ゾニサミドなどの抗てんかん薬のほか、アロプリノール、ジアフェニルスルホン、サラゾスルファピリジン、メキシレチンなどが代表的である。DIHSの致死率は約10%程度と高く、死因の多くはサイトメガロウイルス(CMV)肺炎やニューモシスチス肺炎などの感染症である。■ 病因本症は、原因薬剤を通常2~6週間(平均1ヵ月)内服した後に発症する。病態は、T細胞を主体とする薬物アレルギー反応とヘルペスウイルスの再活性化が中心である。急性期にはTARC/CCL17の著明な上昇や好酸球増多に象徴されるTh2反応の亢進がみられる。また、急性期には制御性T細胞(Treg)の増加がみられるが、経過中にその機能やバランスが崩れることが、ウイルス再活性化や後遺症としての自己免疫疾患発症に関与すると考えられている。さらに、急性期には末梢血のCD4陽性T細胞表面にHHV-6の受容体であるCD134/OX40の発現が亢進しており、これがウイルスの効率的な感染拡大を許容する一因である可能性が示唆されている。■ 症状初期症状として発熱、頸部リンパ節腫脹、顔面や躯幹の紅斑が生じる。皮疹は播種状紅斑丘疹型や多形紅斑型で始まり、急速に拡大してしばしば紅皮症状態に移行する(図2)。特徴的な顔貌として、顔面の浮腫を伴う紅斑、眼周囲の蒼白、鼻孔・口周囲に鱗屑・痂皮を伴う丘疹や小膿疱がみられる(図3)。肝機能障害や腎機能障害などの内臓病変や、異型リンパ球の出現、好酸球増多、白血球増多などの血液学的異常を伴う。図2 DIHSにおける紅皮症状態画像を拡大する図3 DIHSに特徴的な顔貌■ 予後原因薬剤を中止しても皮疹や臓器障害が遷延し、経過中に再燃を繰り返す。発症3~5週間前後にCMVの再活性化が生じ、肺炎、腸炎、消化管出血、肝障害などの致死的な合併症を引き起こすことがある。また、DIHSの症状が軽快した数ヵ月から数年後に、橋本病、劇症1型糖尿病、円形脱毛症、白斑などの自己免疫疾患を発症することがあり、長期的な経過観察が必要である。2 診断診断は、厚生労働省研究班による診断基準(2005年)(表)に基づいて行う。表 薬剤性過敏症症候群(DIHS)診断基準(2005)■ 概念高熱と臓器障害を伴う薬疹で、薬剤中止後も遷延化する。多くの場合、発症2~3週間後にHHV-6の再活性化を生じる。■ 主要所見1. 限られた薬剤投与後に遅発性に生じ、急速に拡大する紅斑、多くの場合紅皮症に移行する。2. 原因薬剤中止後も2週間以上遷延する。3. 38℃以上の発熱4. 肝機能障害5. 血液学的異常:a、b、cのうち1つ以上a. 白血球増多(11,000/mm3以上)b. 異型リンパ球の出現(5%以上)c. 好酸球増多(1,500/mm3以上)6. リンパ節腫脹7. HHV-6の再活性化典型DIHS1~7すべて非典型DIHS1~5すべて、ただし4に関しては、その他の重篤な臓器障害をもって代えることができる。■ 参考所見1. 原因医薬品は、抗けいれん薬、ジアフェニルスルホン、サラゾスルファピリジン、アロプリノール、ミノサイクリン、メキシレチンであることが多く、発症までの内服期間は2~6週間が多い。2. 皮疹は、初期には紅斑丘疹型、多形紅斑型で、後に紅皮症に移行することがある。顔面の浮腫、口囲の紅色丘疹、膿疱、小水疱、鱗屑は特徴的である。粘膜には発赤、点状紫斑、軽度のびらんがみられることがある。3. 臨床症状の再燃がしばしばみられる。4. HHV-6の再活性化は、(1)ペア血清でHHV-6 IgG抗体価が4倍(2管)以上の上昇、(2)血清(血漿)中のHHV-6 DNAの検出、(3)末梢血単核球あるいは全血中の明らかなHHV-6 DNAの増加のいずれかにより判断する。ペア血清は発症後14日以内と28日以降(21日以降で可能な場合も多い)の2点で確認するのが確実である。5. HHV-6以外に、サイトメガロウイルス、HHV-7、EBウイルスの再活性化も認められる。6. 多臓器障害として、腎障害、糖尿病、脳炎、肺炎、甲状腺炎、心筋炎も生じうる。■ 早期診断の補助検査診断基準項目に「中止後2週間以上の症状の遷延」や「発症2~3週間後のHHV-6再活性化」が含まれるため、発症早期の確定診断は困難である。早期にDIHSを疑う指標として、急性期の血清TARC値の測定が有用であり(4,000pg/mL以上で疑う)、2023年に「DIHS/DRESSの診断の補助」としての保険適用が追加された。■ 鑑別診断と原因薬剤の特定通常の薬疹や、麻しん・風しんなどのウイルス性発疹症との鑑別を要する。DIHSを疑う臨床的ポイントとして、原因薬剤が比較的限られていることから、詳細な薬剤内服歴(2~6週間の服用歴)の聴取が不可欠である。また、原因薬剤中止後も皮疹や臓器障害が遷延・悪化することも、他の薬疹との重要な鑑別点となる。特有の顔貌(図3)や、皮疹が急速に紅皮症化する経過(図2)も診断の有力な手掛かりとなる。HHV-6の再活性化は、一般に末梢血液中のHHV-6 DNAの定量(リアルタイムPCR法)によって判断するが、現時点では保険適用外の検査である。被疑薬の特定には、薬剤添加リンパ球刺激試験(DLST)やパッチテストが有用である。ただし、DLSTは発症早期には偽陰性となりやすく、発症後5週目以降の回復期に実施する必要がある。なお、重症化リスクを考慮し、薬剤の再投与試験(誘発試験)は行わない。3 治療■ 治療の実際DIHSを疑った場合は、第一に被疑薬を中止し、原則として入院加療とする。病初期に起こる全身症状と臓器障害の寛解を目指し、副腎皮質ステロイドの全身投与が治療の基本となる。中等~高用量(プレドニゾロン換算0.5~1mg/kg/日)で開始し、症状が十分に改善するまで(通常7~14日間)維持する。その後は、症状をみながら1~2週間ごとに5~10mg/日ずつ緩徐に漸減する。急激なステロイドの減量は、免疫再構築症候群を招きCMV感染症を顕在化させるリスクがあるため避けるべきである。臓器病変を伴わない軽症例に対しては、ステロイド全身投与を行わず、局所ステロイド外用や補液などの支持療法(supportive therapy)で経過観察することもある。ステロイドパルス療法は、CMVの再活性化や自己免疫疾患の発症に関与するとの否定的見解が主流であり、重篤な臓器障害への進展など特殊な状況に限り検討される。■ CMV感染症への対応発症3~5週前後にCMVが再活性化し、ステロイドの減量を契機として突然、肺炎や消化管出血などの致死的合併症を発症することがある。経過中は常にCMVのモニタリングを行い、顕性感染症を認めた場合には、抗ウイルス薬(ガンシクロビル)の投与による積極的な介入を行う。■ 多剤感作への配慮DIHSの経過中は多剤感作を引き起こしやすいため、解熱や感染予防目的での非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗菌薬の新たな投与は可能な限り避けるべきである。4 今後の展望DIHSの病態については、HHV-6やCMV再活性化の病態への関与について多くの知見が得られてきたものの、依然として未解明な点が残されている。とくに、最適なステロイド減量プロトコールの確立は急務であり、大規模な症例レジストリに基づくエビデンスの蓄積と治療指針の更新が期待される。また、回復期に発症する自己免疫疾患などの遅発性合併症は、患者の長期予後を左右する重要な課題である。今後は、これらの合併症を予測するバイオマーカーの同定や、その発症を制御する新たな介入法の開発が望まれる。5 主たる診療科皮膚科(重篤な臓器障害を伴うため、十分な検査と全身管理を行える施設への早期のコンサルテーションが重要である)。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン 2023(日本皮膚科学会/重症多形滲出性紅斑に関する厚労省調査研究班)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚生労働省)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)医薬品副作用被害救済制度(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2026年5月12日

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高血圧管理・治療ガイドライン2025(8):新型タバコ【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q166

高血圧管理・治療ガイドライン2025(8):新型タバコQ166高血圧症でかかりつけの40代男性。1箱/日の喫煙をしており、禁煙指導を試みたが「加熱式タバコだから大丈夫」と無関心な状態。本当に大丈夫だろうか?

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最適な輸液ルート選択の考え方 その弐【ケースで学ぶ輸液オーダー】第3回

最適な輸液ルート選択の考え方 その弐中心静脈カテーテル(CVC)を選択する際、ルーメン数は「大は小を兼ねる」と考えがちですが、実はそうではありません。ルーメンが1つのみのほうが最適な場合もあります。今回は、あえてシングルルーメンを選ぶべき状況について確認しましょう。症例70代女性、胃がんによる幽門狭窄。1ヵ月前からの食欲不振と繰り返す嘔吐により全身倦怠感を来して受診、るいそうが顕著です。幸い遠隔転移はなく根治手術を目指せますが、高度の低栄養状態です。経口からの十分な栄養摂取は困難なことから、2週間の静脈栄養ののちに手術を行う方針となりました。研修医A君は指導医から栄養管理を任されました。さて、どのような静脈路が望ましいでしょうか?図1 幽門狭窄を来した胃がん画像を拡大する考えかたの整理高度な栄養障害を認める場合、ESPENのガイドラインでは術前7~14日間の栄養療法を推奨しています1)。第1選択は経腸栄養ですが、本例のような通過障害がある場合は静脈栄養の出番です。高カロリー輸液を行うには中心静脈路が必要ですが、静脈栄養以外の他の薬剤投与の予定がないのであれば、ルーメン数は1つで十分です。さらに、CDCガイドラインでは、カテーテル関連血流感染(CRBSI)防止の観点から、「必要最小限のルーメン数」の使用を強く推奨しています2)。ここでお勧めしたいのが末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)です。PICCのシングルルーメンは外径わずか1mm程度(3Fr)。これを上肢から挿入することで、血胸や気胸といった穿刺に伴う重篤な合併症のリスクを避けつつ、安全に中心静脈路を確保できます。PICCのピットフォールPICCは安全なデバイスですが、弱点もあります。それは従来のCVCに比して深部静脈血栓症(DVT)のリスクが高いという点です3)。このリスクを回避する鍵は「血管選び」にあります。カテーテル外径は、血管内径の45%を超えると血流の停滞により血栓リスクが高まるという報告があり4)、「血管径の33%(1/3)以内」に収めるべしとされています5)。つまり、穿刺前のエコー観察で上腕にカテーテルの3倍以上の太さがある血管を見付けることができれば、その時点で「頂き」と言えるでしょう。また、解剖学的な走行も重要です。尺側皮静脈(Basilic vein)は直線的に鎖骨下静脈へ連続しますが、橈側皮静脈は急峻な角度で合流しています。このため、穿刺の第1選択は尺側皮静脈をお勧めします。もう1つのPICCの弱点として、カテーテルが細くて長いため急速輸液には使えないことも知っておきましょう。図2 PICCの至適挿入部位画像を拡大する本症例の対応A君は、栄養投与のみを目的としてシングルルーメンのPICC(外径1mm)を選択しました。右上腕をエコーで観察したところ、カテーテル径の3倍を優に超える直径5mmの尺側皮静脈を確認できました。エコー下穿刺でスムーズに挿入し、合併症なく術前栄養療法を行い、手術の準備を整えることができました。中心静脈輸液の目的が1つであれば、穿刺が安全なシングルルーメンのPICCを選びましょう。シングルルーメンカテーテルから輸液する場合の注意点シングルルーメンカテーテルから注射薬を投与する場合には、投与ルートがメインの輸液ルートとその側管に限られてしまうため、投与方法に工夫が必要になります。配合変化が混合直後に発生する場合は、各注射薬を物理的に接触させないためにメインの輸液をいったん止める必要がありますが、メインの輸液を中断するリスクについても検討して投与ルートの設計を行うことが大切です。シングルルーメンカテーテルから中心静脈栄養施行中の患者さんに、セフトリアキソンの投与が開始されたケースで投与ルートの設計をしてみましょう。国外において、新生児にセフトリアキソンとカルシウム含有注射薬を同一経路から同時に投与した場合に肺、腎臓などに生じたセフトリアキソンを成分とする結晶により、死亡に至った症例が報告されています6)。高カロリー輸液はカルシウムを含有しており、セフトリアキソンとの同一経路からの同時投与は推奨されません。そのため、通常は(1)高カロリー輸液の投与をいったん中断する、(2)ルート内を生理食塩液でフラッシュする、(3)側管からセフトリアキソンを投与する、(4)ルート内を生理食塩液でフラッシュする、(5)カロリー輸液の投与を再開する、という対策をとることで高カロリー輸液とセフトリアキソンの物理的接触を回避できると考えるでしょう。では、セフトリアキソン投与中の30~60分間にわたって高カロリー輸液を中断することは問題ないのでしょうか? 高カロリー輸液(糖濃度12%)中止後の血糖変動をみた報告7)では、低血糖症状は呈さないものの、いずれの症例においても24~80mg/dL低下していたことが確認され、中止20分で44mg/dLまで低下している例もありました。高カロリー輸液の急な中断は、30分程度といえども低血糖を引き起こすリスクがあることから、何かしらの対策が必要と考えられます。具体的には、(1)セフトリアキソンのみ末梢静脈から投与することは可能か、(2)低血糖への対策(高カロリー輸液を中断する1時間前から投与速度を半減する8))をとることは可能か、(3)同じ第3セフェム系薬剤で同等のスペクトラムをもつセフォタキシムへの変更は可能か、からどの対策をとるか医師・看護師・薬剤師などのチームで議論することが望ましいでしょう。注射薬を効果的かつ安全に投与するためには、多職種チームでルート管理に対応していく必要があります。1)Weimann A, et al. Clin Nutr. 2021;40:4745-4761.2)O'Grady NP, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:e162-193.3)Chopra V, et al. Lancet. 2013;382:311-325.4)Sharp R, et al. Int J Nurs Stud. 2015;52:677-685.5)Nifong TP, et al. Chest. 2011;140:48-53.6)医薬品安全性情報 Vol.7 No.10(2009/05/14)7)日本消化器外科学会編. 日消外会誌.1982;15:491-500.8)井上善文著. 静脈経腸栄養ナビゲータ エビデンスに基づいた栄養管理. 照林社;2021.

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喘鳴をみたら喘息?【喘息・COPDのここが知りたい!】第1回

皆さま、こんにちは。神奈川県川崎市にあります日本鋼管病院という地域の総合病院で呼吸器内科医として働いています田中 希宇人(たなか きゅうと)と申します。ネット上では「キュート先生」の名前で医療情報発信を行っています。川崎南部地域は肺がん・COPD・喘息など、呼吸器疾患の患者さんが多く、呼吸器の症状で困っている方を10年以上診療してきています。喘息・COPDのガイドラインはしっかり策定されておりますが、すべての患者さんがガイドラインに当てはまるわけではありません。本連載では、それらのガイドラインの隙間を埋めるような実臨床で役立つ内容、悩む状況などについて一緒に考えていきたいと思います。ぜひご意見やご感想もお寄せいただけますと幸いです。喘鳴をみたら喘息?はじめに:その喘鳴をどう診ますか?日常診療において、患者さんが「ゼーゼーする」「ヒューヒューいう」と訴えて来院された際、真っ先に頭に浮かぶのは「喘息」ではないでしょうか。実際に喘息は非常に頻度の高い疾患であり、その症状の1つに「喘鳴(ぜんめい)」があります。喘鳴とは、気道が狭くなることで「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」といった異常な呼吸音が連続的に発生する状態を指します。この音は、狭くなった気道を空気が無理に通過する際に生じる振動によるものです。喘鳴は、聴診器を使わなくても聞こえることもあります。息を吸う時に聞かれる「吸気性喘鳴」と吐く時に聞かれる「呼気性喘鳴」があります。音が聞こえるタイミングや、気道のどの部分が狭くなっているかで病気を推測できる場合があります。しかし「All that wheezes is not asthma(喘鳴がすべて喘息とは限らない)」1,2)という言葉があります。ガイドラインには「喘息の治療法」については詳しく書いてありますが、「この喘鳴が本当に喘息なのか」という診断や鑑別プロセスについては、多くを語ってくれません。ましてや、目の前の患者さんが「喘息なのか」については教えてくれません。本連載では、ガイドラインの行間に隠れた、実臨床での「診療のコツ」をお伝えしていきたいと考えています。第1回は多くの先生方が最も迷いやすく、かつ見逃してはならない「喘鳴の鑑別」について深掘りしていきます。喘鳴の「音」を解剖する:stridorとwheeze聴診器を当てて何か「音がする」だけで満足してはいけません。その異常な音が「いつ」「どこで」聞こえるかが、診断の最大のヒントになります。外来診療では長い時間がとれないため、患者の頸部で聴診します。深呼吸で、呼気は勢いよく最後の最後まで吐ききってもらいます。典型的な喘息の喘鳴は、呼気終末に聴取されます。喘鳴が聞かれる場合に、まず重要なのは音が吸気時(息を吸うとき)に強いのか、呼気時(吐くとき)に強いのかという点です。呼気性喘鳴(wheeze)主に末梢気道が狭窄しているサインです。喘息やCOPDの典型的な音です。吸気性喘鳴(stridor)主に上気道・中枢気道の閉塞を示唆します。喉頭浮腫、声帯機能不全、異物、気管腫瘍などが疑われます。もし吸気時に強い「ヒュー」という音が聞こえたなら、それは喘息の増悪ではなく「上気道の緊急事態」かもしれません。この見極め一つで対応が劇的に変わります。次に、聞かれる音がmonophonic(単音性)なのか、polyphonic(多音性)かということがわかると、さらに病気が絞られます。monophonic聴診してどこの部位で聞いても同じ高さの「ピー」という音が聞こえる状態。これは、特定の太い気道が1点で狭まっている、腫瘍や異物などの病態の可能性を考えます。polyphonic胸のあちこちで異なる高さの音が混ざって聞こえる状態。これは喘息のように、肺全体であちこちの気道が狭くなっている病態を示します。喘息と間違えやすい3つの病態咳・息切れ・喘鳴などの症状があると「喘息」が疑われ、呼吸器外来を受診することが多いです。そこで気を付けなければいけない、喘息と間違えやすい代表的な3つの疾患を紹介しましょう。(1)心不全最も頻度が高く、かつ命にかかわるのが心不全です。左心不全による肺水腫で気管支粘膜が浮腫を起こすと、喘息そっくりの喘鳴が聴取されます。見分けるポイントがいくつかあります。喘息の喘鳴は「夜間・早朝」に強く認められますが、心不全は「横になる時(臥位)」に症状が悪化します。また、心不全徴候であるIII音の聴取、下腿浮腫や頸静脈怒張の有無、X線で心拡大やバタフライシャドウ、採血でBNP高値などをあわせて確認します。喘息の既往がある高齢者が「最近ゼーゼーがひどい」と受診した場合、じつは心不全がベースにあるケースは珍しくありません。喘息とうっ血性心不全が合併していることがあり、私も気管支拡張薬、ステロイド、利尿薬、降圧薬を同時に投与したことがあります。(2)声帯機能不全(VCD)喘息と考えて吸入ステロイドや気管支拡張薬など各種吸入薬を使ってもまったく症状が改善しない「難治性喘息」の中に紛れ込んでいるのが、声帯機能不全(Vocal Cord Dysfunction:VCD)です。本来、息を吸うときに開くはずの声帯が上手に開かない病態です。VCDによる喘鳴が最も強く聞こえるのは「胸」ではなく「首」です。また、喘息増悪(発作)時にはSpO2が低下することが多いですが、VCDでは正常に保たれていることが多いのも特徴です。「吸入薬が効かない」と訴える方や、心理的ストレスを抱える方では、VCDの可能性を考え耳鼻科医に診察してもらうことも重要です。(3)中枢気道病変(腫瘍・異物)ときどき呼吸器外来で診るのが、肺がんや気管支結核、あるいは高齢者の誤嚥による異物などが原因の喘鳴です。肺がん・気管支がんなどの悪性腫瘍、異物などによる物理的閉塞による喘鳴は「片側だけ」「ある特定の部位だけ」で聞こえます。喘鳴は全肺野で聞かれるはず、という思い込みを捨て、左右の胸の音を丁寧に聞き比べるとわかることがあります。また、喘息増悪で聞かれる喘鳴は、比較的急な経過で聴取されますが、悪性腫瘍が原因の場合には徐々に症状が強くなることが特徴です。喫煙歴のある高齢者の喘鳴で安易に「喘息やCOPDが原因」と決めつけるのは危険です。X線やCTでの精査を躊躇してはいけません。喘鳴を正しく見極めるためのコツ喘鳴が聴取される患者さんで喘息か他疾患の病態かで迷ったとき、実際の医療現場で行っているいくつかのコツを紹介しましょう。(1)SABA(短時間作用性β2刺激薬)に対する反応をみるまず比較的簡単にできるのが、喘息増悪に準じてメプチンなどのSABAをネブライザーで吸入させ、その場で喘鳴が消失あるいは軽減するかを確認することです。これは、非常に有用な診断的治療になります。喘息であれば反応が良いはずですが、心不全や腫瘍による気道の物理的狭窄では反応が乏しいことがわかります。(2)「いつもの喘鳴」との違いを聞いてみる喘息増悪を繰り返す患者さんが一番自分の状態をわかっています。しかし、喘息患者さんでも別の病気を合併することがあります。「今回の症状は、今までの喘息発作と同じ感じですか?」という一言が、別の病気を見つけるカギになることがあります。患者さんが感じる「今回はなんか違う、息が吸い込みにくい感じがする」といった症状には注意が必要です。(3)喘鳴の起こり方を探る喘息の増悪は何かをきっかけに発作的に起こりますが、COPDや心不全の増悪は、動いたときの息切れが先行し、徐々に症状が悪化することが多いです。そのようなきっかけ、安静時の喘鳴なのか労作時の喘鳴なのか、など喘鳴の起こり方を探ってみましょう。おわりに:診断の「質」が治療の「質」を決める喘息治療の進歩により、多くの患者さんが発作を経験せずに平穏に過ごせるようになりました。喘息死も私が研修医だった20年前に比べるとだいぶ減りました。しかし、その一方で咳・息切れ・喘鳴のような症状がある場合に、「とりあえず喘息として吸入薬を出す」ことが、本来見つけるべき他の疾患を見逃すリスクを生んでいる側面もあります。「喘鳴=喘息」という思考をいったんやめて、聴診器から聞こえる音の正体を疑ってみる姿勢が第一歩です。正しい診断が下されれば、正しい治療につながります。そこで既存のガイドラインがさらに活きてくるものと考えています。 1) Jackson C. BMQ. 1865;16:86 2) Kaminsky DA. Chest. 2015;147:284-286.

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第318回 シロシビンで3人に1人近くがコカイン依存を脱却

コカイン使用を断つマジックマッシュルームの活性成分シロシビン(サイロシビン[psilocybin])の効果が無作為化試験で示されました1-3)。違法なコカイン栽培地域の拡大を背景にして、世界でのコカイン使用が増え続けています4)。推定によると2013年には1,700万例だったのが2023年には2,500万例に達しています。15~64歳のコカイン使用者の割合が同時期に0.36%から0.47%に増えたことになります。増え続けるコカイン使用の治療薬の検討に大金が費やされていますが、目ぼしい効果の確立には至っていません。1960年代から70年代の初めの試験でサイケデリックの類いの1つのLSDが有望なヘロインやアルコール依存治療成績を残しています。また、最近の試験でマジックマッシュルームのサイケデリック成分のシロシビンがアルコール依存患者の飲酒を減らす効果が認められています。さらには、禁煙効果を調べた試験でシロシビンは5人に2人ほどの40.5%を長期の禁煙に導きました。ニコチン貼付群でのその割合はわずか10%でした。サイケデリックはどうやら抗依存効果があるようですが、コカイン使用が対象の試験はこれまでありませんでした。そこで米国のアラバマ大学バーミンガム校(UAB)のPeter Hendricks氏らは、シロシビンにコカイン使用を断つ作用があるとの仮説を検証する試験を思い立ち、10年ほど前の2015年に被験者の組み入れを開始しました。試験に集まった40例は平均して毎日コカインを使用していました。全員が認知行動療法(CBT)を4~5回受け、半数はCBTに加えてシロシビンを単回経口投与する群、もう半数はプラセボとして抗ヒスタミン薬ジフェンヒドラミン(diphenhydramine)を単回経口投与する群に割り振られました。ジフェンヒドラミンは多めに投与すると鎮静などの精神に影響する作用をもたらすことが知られます。途中で脱落した4例を除く36例の半年後(180日時点)の検査で、6例がコカインをすっかり止めたと報告し、尿検査でコカインの検出がなかったことがその申告を裏付けていました。それら6例は全員がシロシビン投与群でした。すなわちシロシビン投与群の3人に1人に近い30%がコカイン断ちに成功していたことになります。プラセボ(ジフェンヒドラミン投与)群では誰ひとりそうはなっていませんでした。シロシビン群の患者は総じてコカイン使用が少なくなっており、1ヵ月当たりのその使用回数はわずか1.5回になっていました。一方、プラセボ群のコカイン使用は相変わらず多く、1ヵ月当たり12回を数えました。試験に参加したLorenzoという姓の男性の感想がScienceのニュースで紹介されています3)。今や63歳となるLorenzo氏はかつて何十年もコカインをほぼ毎日使用していました。家を失い、結婚が破綻し、コカイン所持で何日か収監されたこともありました。しかし今は違います。試験参加後に同氏は何年もコカインなしで過ごせており、今では家を持ち、定職に就いており、親密な連れもできました。Lorenzo氏は試験での服薬日に恐怖心が幸福と喜びに入れ替わると共に悲しみや後悔を覚え、神に謝罪し、チャンスが与えられたなら心を入れ替えてまともになると約束しました。いまだにコカインと共に過ごす古い友達に同氏はその体験を話しています。試験を率いたHendricks氏はより大規模な試験を開始すべく助成金を申請し、協力企業を探しています。今回の試験成績の権利はUABからカナダのRed Light Hollandの子会社Filament Healthに付与されています。同社は承認に向けた取り組みを手伝うと言っています5)。参考1)Hendricks PS, et al. JAMA Netw Open. 2026;9:e2611029.2)Psilocybin proves promising treatment for cocaine use disorder, according to UAB study / University of Alabama at Birmingham3)Magic mushroom compound shows promise against cocaine addiction / Science4)WORLD DRUG REPORT 2025/ UNODC5)Red Light Holland Highlights Publication of Randomized Clinical Trial Showing a Single Dose of Psilocybin Reduced Cocaine Use, with Filament Health Holding the Exclusive License to the Data and Intellectual Property.

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調剤報酬改定から読み解く「かかりつけ薬剤師」と「後発医薬品」【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第169回

2026年度の調剤報酬改定が6月1日から施行されます。薬剤師になって20年以上経ちますが、私が経験した調剤報酬改定の中で今回の改定内容は3本の指に入るインパクトのある改定なのではないかと思っています。加算や制度が新設されたときには「何かが変わる!」という期待を抱きます。しかし、実は始まるとき以上に、何回かの改定を経て試行錯誤されてその役割を終えるときのほうが大きなインパクトを感じます。「次のフェーズに変わるんだ!」という意思を感じるからです。今回の場合、「かかりつけ薬剤師」と「後発医薬品」に関する加算がそれに当たります。かかりつけ機能は「同意」から「何を行ったか」へかかりつけ薬剤師指導料が始まったのが2016年。以来、さまざまな改定を経て、10年にわたり薬局の対人業務の柱となっていた「かかりつけ薬剤師指導料」と「かかりつけ薬剤師包括管理料」が今回廃止され、服薬管理指導料の枠組みに統合されることになりました。実は、患者さんの同意を得るだけで加算が得られる仕組みには私も少なからず疑問を抱いていました。今後は来局後の継続フォローや患家訪問といった、患者の生活場面に踏み込んだ関与を評価する加算が設けられ、制度の重心は「同意の取得」から「実際に何を行ったか」へ移ります。一方で、「かかりつけ薬剤師フォローアップ加算」など、ポリファーマシー介入、在宅対応についての加算は新設されています。以上のことをみると、かかりつけ機能そのものが否定されたわけではなく、日常の服薬管理や継続支援の中で薬剤師がどのような役割を果たしたかを評価する方向に再設計されたと捉えるのが大事なのではないかと思います。後発医薬品調剤体制加算は廃止に今回の改定では、後発医薬品調剤体制加算が廃止になります。後発医薬品の使用率を上げることを目的に20年間ほど設けられてきた加算ですが、現在の供給不安を除けば、後発医薬品の使用率は財務省が目標としてきた90%超にすでに到達しています。気が付けば後発医薬品を使用することが当たり前になったという意味では、ひと時代が終わったのかなという気持ちになります。後発医薬品が抵抗なく日常で使用されるようになった今の状況は、薬局や薬剤師の存在なしでは語れないでしょう。現在起きている供給不安については、薬価制度も含めた安定供給の土台作りを官民一体となって取り組んでもらい、解決してほしいなと切に願います。冒頭に加算の新設時より廃止時のほうがインパクトを感じると述べたのは、「こんな取り組みをしたな」「こんな話し合いをしたな」という自分の経験があるからこそ、廃止のときにインパクトを感じるのだろうと思います。そうやって新しい取り組みを経験するのは大変ではありますが、それらが積み重なって薬剤師と薬局の力になっていると信じています。今回は、この2つの加算の変化にちょっと感慨深くなってしまいましたが、2026年調剤報酬改定の方向性や、改定の裏にある薬剤師や薬局への期待について語りたいことは尽きないのでまた書きます!

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中性脂肪、がんリスクマーカーに?~日本の全身がん検査プログラム

 京都府立医科大学の手良向 聡氏らが行った後ろ向き観察研究から、ベースラインの血清トリグリセライド(TG)が、将来のがん発症リスクを予測する高感度なバイオマーカーとなる可能性が示唆された。Health Science Reports誌2026年3月29日号掲載の報告。 日本において、メタボリックシンドローム(Mets)併存患者のがん死亡率は年々増加しており、これらの患者のがんの早期発見が喫緊の課題となっている。近年、Metsの構成要素が活性酸素種(ROS)の生成、ホルモン産生の変化などを通じて、がん発生を促進する可能性が指摘されている。 そこで研究者らはがんの発症とさまざまな危険因子との関連性を調べるため、2009年11月~2019年10月の期間、浜松光医学財団の浜松PET診断センターで全身がん検査を受けた浜松ホトニクスおよび関連企業の従業員1,495人(男性69.9%、平均年齢48.8歳)を対象に検証を行った。検査内容はPET-CT、胸腹部CT、頭部・骨盤MRI/MRA、腹部超音波、包括的な血液検査、腫瘍マーカーなど。主要評価項目は初回検査からがん発症までの期間で、カプランマイヤー法で推定し、Cox比例ハザードモデルを用いて、年齢、ライフスタイル、血液検査値、既往歴など各種リスク因子との関連を解析した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に59例(3.9%)ががんを発症し、診断時の年齢中央値は57歳であった。・がん種は大腸がん(12例)が最も多く、次いで肺がん(8例)、乳がん(7例)、胃がん(7例)、前立腺がん(6例)と続いた。・多変量解析において、TGの上昇はがん発症と統計学的に有意な関連を示した(ハザード比[HR]:1.004、95%信頼区間[CI]:1.001~1.008、p=0.02)。・空腹時TGの正常上限である150mg/dLを境にした解析では、150mg/dL以上の群は150mg/dL未満の群に対し、がん発症のHRが1.99(95%CI:0.94~4.24)となり、臨床的に意義のある傾向が確認された。・高血圧の既往がある場合、がん発症リスクが顕著に高いことが示された(HR:2.88、95%CI:1.49~5.53、p=0.002)。・初回検査からの累積がん発症率は、2年で1.0%、4年で2.3%、6年で3.4%、8年で4.8%であった。 研究者らは、「ベースラインTGががんリスクのバイオマーカーである可能性が示された。また、高血圧の既往も強力な予測因子であり、これら代謝関連因子を適切に管理することが、がん予防戦略において重要となる可能性がある」としている。

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フェニルケトン尿症の新治療薬セピアプテリンへの期待/PTCセラピューティクス

 PTCセラピューティクスは、フェニルケトン尿症(PKU)の治療薬セピアプテリン(商品名:セピエンス)の発売に伴い、都内でメディアセミナーを開催した。わが国のPKUの発生頻度は約6万人の出生に1人の割合で、年間20人前後が診断され、累計で800人以上の患者が報告されている。PKUは未治療や管理が不十分な状態が続くと知的障害、痙攣発作、発達遅延など重度かつ不可逆的な障害が生じる。治療の基本は食事療法で、フェニルアラニン(Phe)が多く含まれる特定の食材(肉・魚・卵など)の摂取が厳しく制限される。 セミナーでは、PKUの病態や治療薬セピアプテリンの臨床試験の概要と今後の治療の位置付けなどについて講演が行われた。新生児マススクリーニング検査で早期診療が可能に 「フェニルケトン尿症に対するセピエンスへの期待」をテーマに濱崎 考史氏(大阪公立大学大学院医学系研究科発達小児医学 教授)が、PKUの病態やセピアプテリンの臨床試験結果、今後の治療の展望などを説明した。 PKUは、いわゆる教科書疾患であり、実臨床で診療する機会は少ない疾患である。PKUは、Pheを代謝するPhe水酸化酵素の先天的な活性低下により、Pheがチロシンに代謝されずに蓄積する。血中Phe濃度の上昇は、発達遅滞や神経症状を来すことがある。そのため無治療の場合、脳の発達障害、小頭症、重度の発達遅滞、行動障害などを来し、治療不十分の場合は、頭痛、うつ状態、神経症、認知能力低下などがある。 PKUは、新生児のマススクリーニング検査の契機となった疾患であり、現在では日齢4または5に血液を採取し、ろ紙検査により診断が行われている。これにより今では早期に診断、治療介入することができるようになっている。 PKUでは血中Phe値を上昇させないために、Pheの摂取を制限する必要があり、治療としては食事からのタンパク質の摂取制限とPheを除去した治療用特殊ミルクによる食事療法が中心となる。食事療法は低タンパク食が中心となり、特別の食材を用意する必要がある。そのため、多額の費用が必要であり(保険適用外)、味も悪く、患者は外食などが難しく社会的孤立を招きやすいという。実際、患者は年齢とともに血中Phe濃度の管理が難しくなることも報告されている1)。 薬物療法について現在わが国で承認されている薬剤では、サプロプテリンとペグバリアーゼの2種類がある。サプロプテリンは顆粒の粉末で服用するが、対象が異型高フェニルアラニン血症など限定されており、全体の20~30%の患者にしか適用がなく普及していない。ペグバリアーゼは皮下注製剤で、成人のみが対象であり、副作用としてアナフィラキシーショックがあるために、アドレナリン自己注射薬(商品名:エピペン)を帯同する必要があるという。 PKU治療の課題として、食事療法ではタンパク制限食へのコスト高やアドヒアランスの問題、薬物療法では使用できる対象年齢や効果不十分の患者への対応などが指摘されている。また、患者からも食事制限への疾病負担や食事への精神的苦痛、QOLの低下などを訴える声も多い。そこで、すべてのPKU患者が血中Phe濃度の管理を負担なく継続できる治療法が求められている。患者の食事の幅を広げるセピアプテリン 今回発売されたセピアプテリンは、Pheの代謝に関わるPAHの補酵素であるBH4の前駆体であり、プテリンのサルベージ経路を介し細胞内BH4に急速に変換され、速やかに細胞内に移行して、細胞内BH4濃度を高める働きがある。 海外で行われた第III相試験のAPHENITY試験では、157例の患者について、導入期にセピアプテリンを14日間投与後に無作為にセピアプテリン群とプラセボ群に割り付け、プラセボ対照を42日間行った。主要評価項目はベースラインから5~6週までの血中Phe値の平均変化量とした。その結果、セピアプテリン投与14日後に血中Phe濃度が30%以上低下した患者割合は66%だった。また、投与5~6週後、血中Phe濃度(5および6週目の平均値、単位:µmol/L)のベースラインからの平均変化量についてプラセボ群(49例)では-16.2だったのに対し、セピアプテリン群(49例)が-410.1とプラセボ群に対する優越性が検証された。安全性については、死亡や重篤な有害事象は報告されず、下痢、胃腸炎などの消化器症状や頭痛などが報告された。 国際共同第III相試験のAPHENITY延長試験では、APHENITY試験後の被験者と非被験者について非盲検継続投与を行い1ヵ月後の平均Pheについて360μmol/Lを基準に分けて、食事によるPhe耐性の評価を行った。主要評価項目はセピアプテリンの長期安全性とベースラインから26週目までの食事中のPhe/タンパク質摂取量の変化である。その結果、血中Phe濃度が360μmol/L未満に維持された患者集団では、食事性Phe摂取量(平均値)が増加した。また、安全性でも主な有害事象は、上気道感染、上咽頭炎、頭痛、下痢、嘔吐、発熱であり、死亡に至るものや重篤なものはなかった。 海外第III相実薬対照試験のAMPLIPHY試験では、セピアプテリンとサプロプテリンの非盲検クロスオーバー試験で効果比較を行った。その結果、平均血中Phe濃度(μmol/L)について、セピアプテリン群(58例)のベースラインが725.8だったものが3、4週目の平均で312.7に低下していた。その一方でサプロプテリン群(56例)はベースラインが790.4だったものが3、4週目の平均で504.8に低下していた。また、血中PheのLS平均変化量について、ベースラインから3、4週目の数値でセピアプテリン群(58例)が-437.0、サプロプテリン群(56例)が-256.6とセピアプテリンはサプロプテリンと比較して血中Phe値を有意に低下させていた。安全性の面でも重篤な有害事象はなく、両薬剤ともに上気道炎、上咽頭炎、下痢などが報告された。 最後に濱崎氏は、わが国の患者の置かれている現状として、次の7項目を挙げた。・食事療法はPKUの治療において大きな役割を担っているが、成人期において継続することが困難・指定難病の対象に加えられたのは、2015年と最近・Phe除去ミルクの医療費負担は軽減されたが、低タンパク食は自己負担・PKUに特化した治療用食品の開発は進んでいない・BH4が反応する可能性はあっても患者が幼少期には負荷試験を実施していないことがある・成人男性PKU患者の通院、食事療法へのアドヒアランスは低いと考えられる・2019年の診療ガイドラインの改訂で、成人の血中Phe濃度の目標値について管理目標値が360μmol/L(6mg/dL)に下がっていることが成人患者には伝わっていない これらの現状を踏まえ、今後のセピアプテリンの臨床的位置付けとして「セピアプテリンは、患者の年齢に制限なく、すべての年代のPKU患者に投与可能な1日1回投与の経口顆粒剤であり、食事療法で非常に困っている患者が、新しい治療薬を服用することで食事療法の幅が広がるものと期待している」と語り、講演を終えた。

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HER2+早期乳がん、特定の患者集団では術前化学療法を省略してもpCR率59.6%(PHERGain-2)/ESMO BREAST 2026

 化学療法を併用せずトラスツズマブ・ペルツズマブ(HP)による術前療法を受けたHER2陽性・腫瘍径5~30mmの未治療早期乳がん患者において、59.6%が病理学的完全奏効(pCR)を達成し、同レジメンを術後も継続した場合に健康関連QOL(HRQoL)が良好であることが示された。スペイン・Hospital Arnau de VilanovaのAntonio Llombart Cussac氏が、pCRに基づくde-escalation戦略を評価する目的で実施されたPHERGain-2試験の結果を、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2026、5月6~8日)で発表した。 PHERGain-2試験は、多施設共同の第II相非盲検単群試験。HER2陽性(IHCスコア3+)かつリンパ節転移陰性、腫瘍径5~30mmの未治療早期乳がん患者を登録対象とした。患者には術前療法として、HPの皮下投与を3週間ごと8サイクル実施。術後療法について、pCRの達成状況に応じて以下の3群に割り付けられた。コホートA(pCR[ypT0/is、ypN0]を達成):HP投与を継続して計18サイクルコホートB(乳房内に浸潤性残存病変ありおよび/またはypN0[i+/mol+]もしくはypN1mi):トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を3週間ごと10サイクルコホートC(ypN1~3):任意の術後化学療法+T-DM1を3週間ごと10サイクル※ホルモン受容体(HR)陽性の場合は術前および術後に内分泌療法を併用[主要評価項目]1年時点でHRQoLの平均スコア(EORTC-QLQ-C30による評価)が10%以上低下した患者の割合および3年無再発期間(3y-RFI)(STEEP基準による評価)[主要な副次評価項目]pCR、安全性 主な結果は以下のとおり。・2021年8月~2024年3月に、396例が登録された(年齢中央値:55歳[範囲:24~85]、閉経後:59.3%、腫瘍径中央値:18mm[範囲:7~30]、HR陽性:72.7%、T1:61.6%)。試験治療を完了したのは352例であった。・データカットオフは2025年3月28日、追跡期間中央値は15.1ヵ月であった。・術前HPによる治療後1年時点でpCRを達成した患者は236例(59.6%)であった(コホートA)。残存病変を有する患者のうち148例がコホートB、7例がコホートCに組み入れられた。・pCR率について、HR陽性とHR陰性(58.3%vs.63.0%)、T1とT2(ともに59.6%)の間で有意差は認められなかった。・ベースライン時点におけるHRQoLの平均スコアは78.6(95%信頼区間[CI]:76.8~80.5)、1年時点でHRQoLの平均スコアが10%以上低下した患者の割合は、コホートAで37.3%(95%CI:30.1~44.9%)、残存病変を有する患者(コホートB+C)では51.9%(95%CI:41.9~61.7%)であった。・治療関連有害事象は86.6%で発現し(Grade 3以上は5.6%)、重篤な有害事象は6.1%で発現した。肺臓炎による死亡が1例(0.3%)報告され、T-DM1との因果関係が認められた。  Cussac氏は、「本試験では、標準的な化学療法+HPレジメンに匹敵する優れたpCR率および臨床的に意義のあるHRQoLの維持が示された」とまとめている。なお、3y-RFIについては現在評価中とした。

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高齢者の不眠症治療、非ベンゾジアゼピン系催眠薬vs.オレキシン受容体拮抗薬

 世界的な高齢化の加速に伴い、高齢者の不眠症は、公衆衛生上の大きな課題となっている。高齢者の不眠症では、認知行動療法が第1選択治療であるにもかかわらず、薬物療法も依然として広く用いられている。しかし、高齢者に対する従来の非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬(非BZRA)の使用には重大な安全性上の懸念が存在する。一方、新しい二重オレキシン受容体拮抗薬(DORA)の長期的な実臨床における安全性に関するエビデンスは依然として限られている。このエビデンスのギャップを埋めることは、高齢者における安全な薬剤使用を導くうえで、きわめて重要である。中国・Nanjing Youan HospitalのShuqing Gao氏らによる、Frontiers in Pharmacology誌2026年3月10日号の報告。 米国食品医薬品局(FDA)の有害事象報告システム(FAERS)データベースを用いて、医薬品安全性監視研究を実施した。対象期間は2004年第1四半期から2025年第2四半期。65歳以上の患者で、主要な疑わしい薬剤として非BZRAまたはDORAが記載されている症例報告を対象とした。報告オッズ比(ROR)、比例報告比(PRR)、情報成分(IC)、経験的ベイズ幾何平均(EBGM)を用いて、偽陽性を最小限に抑えるための厳格な閾値を設定し、包括的な不均衡分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・高齢患者に関する報告5,447件を分析した。・本研究により、2つの薬剤クラス間で明確な有害事象プロファイルの違いが明らかになった。・非BZRA、とくにエスゾピクロンは、治療失敗(例:薬剤無効、不眠症)に関連する最も強いシグナルを示し、さらに味覚異常に関する特異的なシグナルも示した。・一方、DORAは、睡眠覚醒調節機構に合致する夢の異常事象(悪夢、異常な夢、幻覚など)について、強く一貫したシグナルを示した。・特筆すべきは、今回のデータセットにおいて、いずれの薬剤も転倒に関する統計的に有意なシグナルを示さなかった。・器官系分類分析の結果、精神および神経系疾患の発生率が最も高いことが示された。 著者らは「これらの結果は、非BZRAとDORAの安全性プロファイルの違いを明確に示した。非BZRAは治療失敗と味覚異常に関連しているのに対し、DORAは悪夢や幻覚などの神経精神症状と関連していた」としている。

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シリアスゲームで診療ガイドライン順守率が改善/JAMA

 診療ガイドラインは医療の質向上に寄与するが、米国では順守率が依然として低く、時間的制約のある疾患の典型とされる外傷のトリアージ、とくに高齢者の治療では順守率が50%を下回るという。米国・ピッツバーグ大学のDeepika Mohan氏らは、医師の誤診の低減を目指して開発されたシリアスゲーム(serious game、娯楽以外の目的[知識習得、技術向上、行動変容など]を志向するビデオゲーム)が、救急医による高齢者の外傷トリアージのガイドライン順守状況を改善するかを無作為化試験で検討した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年4月20日号に掲載された。米国の非外傷専門施設の救急医800人が参加 本試験は研究者主導型にて行われ(米国国立老化研究所[NIA]などの助成を受けた)、米国の非外傷専門施設の救急部門で、メディケアの出来高払い制度(fee-for-service)に加入している65歳以上の外傷患者のトリアージを担当する救急医800人(男性563人[71%]、臨床経験年数中央値10年[四分位範囲[IQR]:6~17]、Advanced Trauma Life Support[ATLS]修了者750人[94%])を対象とした。 介入群(400人)の医師は、タブレットPCを用いたゲーム形式の訓練(初回に2時間の研修、その後四半期ごとに20分の研修を3回、合計4回)を受け、対照群の医師(400人)は通常の教育を受けた。 ゲームは、行動変容理論に基づいて構築され、トリアージが十分でない場合の結果を明示する症例ベースの物語形式の記事や、迅速かつ正確なパターン認識を習得するためのフィードバック機能を備えた時間制限型パズルなどが組み込まれた。また、あらゆる重症外傷のパターンを網羅する一方で、とくに年齢およびフレイルの程度が患者アウトカムに及ぼす影響に重点が置かれた。 主要アウトカムは、無作為化から1年間のアンダートリアージ(緊急度の過小評価:重症患者のうち高次の外傷専門施設へ搬送されなかった患者の割合)であった。また、副次アウトカムは、オーバートリアージ(緊急度の過大評価:軽症でありながら高次施設へ搬送された患者の割合)、および30日以内の死亡と再入院の複合とした。重症例のうち47%を搬送、過小評価が有意に低減し過大評価は増加せず 1,147病院の医師が、65歳以上のメディケア受給患者4万1,073例(平均年齢79[SD 8.4]歳、白人3万6,927例[93%]、Charlson併存疾患指数≧1点が3万918例[74%])を治療した。このうち1,738例(4.2%)が重症で、外傷性脳損傷(1,343例[77%])、肋骨骨折(552例[32%])、四肢骨折(313例[18%])の頻度が高かった。 介入群の99%(397/399人)が少なくとも1回のゲームを用いた研修を受け、67%(268/399人)が4回の研修のすべてを修了した。 1,738例の重症外傷患者のうち、809例(47%)が高次施設に搬送され、初回入院日から30日以内に273例(16%)が死亡し、30日以内に865例(50%)が再入院した。入院日数中央値は4日(IQR:2~8)だった。 重症外傷患者のうちアンダートリアージの割合は、対照群(救急医399人、年齢中央値41歳)が57%(527/919例)であったのに対し、介入群(398人、42歳)は49%(402/819例)と有意に低率であった(モデル補正後絶対群間差:-7%、95%信頼区間[CI]:-13~-0.8、p=0.02)。 一方、オーバートリアージ(介入群71%[1,038/1,455例]vs.対照群74%[1,132/1,524例]、モデル補正後絶対群間差:-3%[95%CI:-6~1]、p=0.14)、および30日以内の死亡と再入院の複合アウトカム(63%[516/819例]vs.64%[584/919例]、-0.4%[95%CI:-5~4]、p=0.87)には、両群間に差を認めなかった。ゲーム回数、経過期間が効果と関連 著者は、「これらの知見は、シリアスゲームが、救急医のガイドラインに準拠した外傷トリアージを改善し、ガイドライン順守率を向上させる新たなアプローチとなることを示唆する」としている。 また、「1回または2回だけゲームを行った医師に比べ、4回の研修すべてでゲームを行った医師はアンダートリアージの割合が低かった(交互作用のp=0.047)」「ゲームを行っていない、あるいは30日以上前に行った医師に比べ、ゲームを行ってから30日以内に診察した医師はアンダートリアージの割合が低かった(同p<0.001)」と指摘している。

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血友病AへのMim8予防投与が既存治療を上回る出血抑制/NEJM

 Mim8(denecimig)は、活性化第VIIIa因子の機能を模倣する二重特異性抗体で、第VIII因子インヒビターの有無にかかわらず、血友病A患者の出血を予防する目的で開発された。イタリア・ヒュマニタス大学のMaria Elisa Mancuso氏らは「FRONTIER2試験」において、Mim8の予防投与はオンデマンド治療や血液凝固因子濃縮製剤の予防投与と比較して、治療を必要とする出血イベントの年間発生率を有意に抑制し、血栓塞栓イベントや中和抗体の発現はみられないことを示した。研究の成果は、NEJM誌2026年4月30日号で報告された。国際的な無作為化対照比較第III相試験 FRONTIER2試験は、日本を含む国際的な非盲検無作為化対照比較第III相試験であり、インヒビターの有無を問わず血友病Aを有する12歳以上の患者254例を登録した(Novo Nordiskの助成を受けた)。 試験前にオンデマンド治療を受けていた58例(試験前オンデマンド治療コホート)は、オンデマンド治療を継続する群(グループ1、17例)、Mim8を週1回予防投与する群(グループ2a、21例)、またはMim8を月1回予防投与する群(グループ2b、20例)に無作為に割り付けられた。 試験前の導入期間中(26~52週)に血液凝固因子濃縮製剤の予防投与を受けていた196例(試験前予防投与コホート)は、Mim8を週1回予防投与する群(グループ3、98例)またはMim8を月1回予防投与する群(グループ4、98例)に無作為に割り付けられた。5つのグループとも投与期間は26週であった。 無作為化の対象となった患者のうち、4例(2%)が女性、66例(26%)が12~17歳、212例(84%)が重症血友病A、31例(12%)が第VIII因子インヒビターを有し、242例(95%)は体重が45kg以上であった。8例が治療を中止した。2コホートの週1回、月1回投与グループとも、出血を有意に抑制 試験前オンデマンド治療コホートにおける治療を必要とする出血イベントの年間発生率(第1主要エンドポイント)は、グループ1が15.76(95%信頼区間[CI]:10.70~23.20)であったのに対し、グループ2aは0.57(95%CI:0.25~1.30)、グループ2bは0.20(95%CI:0.06~0.71)であり、それぞれ相対減少率は96.4%および98.7%といずれも有意に改善した(両比較ともp<0.001)。 試験前予防投与コホートにおける治療を必要とする出血イベントの年間発生率(第2主要エンドポイント)は、導入期間中が4.90(95%CI:3.65~6.56)であったのに対し、グループ3は2.25(95%CI:1.37~3.71)であり、相対減少率は54.0%と有意に優れた(p=0.006)。また、同様に、導入期間中の3.12(95%CI:2.25~4.32)に比べグループ4は1.78(95%CI:1.18~2.71)であり、相対減少率は42.8%と有意差を認めた(p=0.006)。軽症の注射部位反応が2.6%で報告 注射部位反応は、Mim8の投与を受けた237例中23例(10%)に発現し、4,005回の注射のうち103回(2.6%)で報告された。ほとんどが一過性で、すべて軽症であった。 また、3例で有害事象によりMim8の投与が中止され、このうち2例でMim8との関連の可能性が示唆された。Mim8関連の致死性のイベントや血栓塞栓イベント、過敏反応は観察されなかった。 投与期間中に254例中18例(7%)で抗Mim8抗体が検出されたが、Mim8に対する中和抗体の臨床的な証拠が報告された患者はいなかった。 著者は、「これらの知見は、現在の標準治療を上回る有効性をMim8が発揮する可能性を示唆する」としている。 本試験を終了後、患者は26週間の延長試験に入り、引き続き長期のアウトカムを評価する第III相延長試験に参加しているという。

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ストレス耐性を高めたければ、まずこの習慣を

 大半の人がパニックに陥るような状況でも冷静さを失わない人がいる。彼らはなぜ、プレッシャーがかかっても落ち着いていられるのだろうか?新たな研究によると、その鍵は「心理的柔軟性」の高さにあるようだ。 この研究は、米ビンガムトン大学のLina Begdache氏らによるもので、詳細は「Journal of American College Health」に12月30日に掲載され、3月17日に同大学からリリースが発行された。そのリリースの中で同氏は、「いつも落ち着いている人は、置かれた状況に対して考え方を適応させ、脳のリソースを使ってストレスに対処しているようだ」と説明している。 Begdache氏らは、401人の大学生(平均年齢19歳、女性57%)を対象として、食生活や睡眠・運動習慣、アルコールやマリファナの使用状況などについて、匿名でのオンライン調査を行った。その解析の結果、健康的な生活習慣を心がけている人は、ストレスを受けた状況からの回復力が高いことが分かった。 例えば食事に関しては、朝食の摂取頻度が週に5回以上であること(b=0.12〔95%信頼区間0.035~0.229〕、B=0.14)や、ファストフードの摂取頻度が週3回以下であること(b=0.09〔同0.001~0.196〕、B=0.10)は、心理的柔軟性を介する回復力の高さと関連していた。反対に、睡眠時間が6時間未満であること(b=-0.10〔-0.342~-0.100〕、B=-0.24)は、心理的柔軟性の不足を介して回復力の低さと関連していた。 また、心理的柔軟性とは独立して、1日20分以上の運動(B=0.22、P=0.032)や、週4回以上の魚油摂取(B=0.41、P=0.017)、アルコール摂取(B=0.29、P=0.003)などは回復力の高さと直接的な関連が見られた。一方、マリファナの使用は回復力の低さと直接的に関連していた(B=-0.42、P<0.001)。 Begdache氏らは既に以前の研究で、良好な食生活は回復力を高め、そうでない食生活は回復力を低下させることを報告していた。今回の研究の結果は、その関連性の“パズル”に重要な“ピース”を加えるものと言える。つまり、食生活や生活習慣と回復力の高さとの関連を形成する経路に、心理的柔軟性が部分的に関与しているということだ。同氏は「食生活や生活習慣が良好なだけでは回復力が高まるわけではないという知見は、新たな発見だ。食生活や生活習慣は心理的柔軟性を築く上で役立ち、それらの結果として、回復力のある人間が形成される」と総括。また、「心理的柔軟性が高い人は、自分の脳の中のリソースを一歩引いて評価した上でそれを活用し、感情をより上手に処理することができる」のだという。 さらに同氏は、「ストレスを感じた時、われわれはストレスと一体化しているように感じてしまう。そのような時に、『自分が今、ストレスを感じている原因はこれだ。では、どうすればよいだろうか?』と考えようとする姿勢が、心理的柔軟性だ」と解説。「自分の感情を認識することで、その感情の解決策を見つけることができることもある」とアドバイスしている。 ストレスからの回復力を高めたいなら、健康的な朝食を取り、毎晩少なくとも6時間の睡眠時間を確保して、体を動かし、魚油を定期的に摂ることを試してみるとよいかもしれない。

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不妊治療、保険適用でアクセス改善も公平性に課題

 不妊治療の保険適用で受療機会は広がったのか。日本の大規模レセプトデータ解析によりアクセス改善が示された一方、男性の診断・治療は依然少なく、生殖医療の公平性に課題が残ることが明らかになった。研究は、産業医科大学医学部公衆衛生学教室の大河原眞氏らによるもので、詳細は3月6日付の「Reproductive Medicine and Biology」に掲載された。 日本では少子化と高齢化が進み、出生数や合計特殊出生率は過去最低水準にある。不妊治療は進歩し、体外受精などの生殖補助医療(ART)による出生も増加してきたが、従来は高額な費用が障壁となり、社会経済的背景によるアクセス格差が指摘されていた。こうした状況を受け、2022年4月にはタイミング法や人工授精といった一般不妊治療、体外受精や顕微授精といったARTを含む不妊治療が公的医療保険の対象となり、受療機会の拡大が期待された。しかし、実際にどの年齢層でどの治療がどの程度利用されたか、また男性と女性での差などの実態は明らかでなかった。本研究はレセプトデータを用い、保険適用初年度における不妊診断の頻度と治療実態を明らかにすることを目的とした。 本研究は、産業医科大学産業保健データサイエンスセンターに提供された医療レセプトデータを用いた観察研究である。2022年4月から2023年3月までの期間における14の健康保険組合のデータを解析し、18~69歳の女性約59万人、男性約62万人を対象とした。不妊症の診断や不妊治療の実施状況、関連する合併症については、診断コードや処置コード、薬剤コードに基づき特定した。また本研究では、不妊診断、特異的な不妊治療の実施、さらに薬物療法を含む広義の治療の3つの定義を設定し、レセプトデータの特性を踏まえて解析を行った。さらに、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)など不妊治療に関連する合併症についても評価した。 解析の結果、最も不妊診断や治療を受けたのは30~34歳の女性で、診断率は5.0%、治療受療率は3.9%、不妊特異的治療は2.6%だった。男性は同年齢で診断率1.9%、治療受療率0.5%、不妊特異的治療0.3%にとどまり、診断・治療の割合は依然低く、治療の種類や処方も限られていた。 治療の年齢別傾向として、若年女性ではART以外の一般不妊治療が中心で、35歳以上ではARTが主流となった。人工授精は20代後半に多く、採卵は30代後半から40代前半が中心であった。女性の主な処方は、ARTに伴う調節卵巣刺激や黄体機能不全に対して使用されるホルモン製剤であった。 OHSSは不妊治療を受けた女性のうち8.0%に認められ、ARTを受けた女性では9.6%に達した。この割合は特に20代で高かった。 これらの結果は、保険適用初年度における年齢・性別による治療選択や診断名登録によって記述された合併症の実態を示している。 著者らは、「本研究は、不妊治療の保険適用初年度における日本の臨床実態を示したものであり、今後の不妊治療研究の基礎となる知見である。30~34歳の女性のうち2.6~3.9%が何らかの不妊治療を受けていた一方で、男性の受療は女性より少なく、医療相談や検査・治療の認知向上、医療アクセスの改善、治療選択肢の拡充が求められる」と述べている。 なお、本研究は診療報酬データを用いた観察研究であるため、診断名や受療件数の正確性に限界があり、初年度データや対象集団の偏りにより実際の治療状況を正確に反映できていない可能性がある。著者らは、今後は複数年データや他のデータベースとの比較による検証が必要であると指摘している。

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ハイリスクPCIへの予防的Impella使用は推奨されない(CHIP-BCIS3試験から)(解説:加藤貴雄氏)

 CHIP-BCIS3試験は、ハイリスクPCI(左室駆出率[LVEF]35%以下、またはLVEF 45%以下で重度僧帽弁逆流を伴う複雑冠動脈疾患に対するPCI)に対して、微小軸流ポンプ(Impella CP)を予防的に使用した左室の負荷除去が予後を改善するかを検証した無作為化割付試験である。 主要評価項目は、最低12ヵ月の時点での、あらゆる原因による死亡、障害のある脳卒中、自然発症の心筋梗塞、心血管系の原因による入院、または手技周囲の心筋損傷を含む階層的複合エンドポイントであり、148例がImpella群に、152例が標準治療を受ける群に割り付けられた。 結果は、中央値22ヵ月(四分位範囲:16~30ヵ月)の時点で、一対比較の36.6%がImpellaを支持し、43.0%が標準治療を支持した(勝率:0.85、95%信頼区間[CI]:0.63~1.15、差:-6.4%ポイント、p=0.30)。あらゆる原因による死亡は、Impella群で47例、標準治療群で33例にみられた(ハザード比:1.54、95%CI:0.99~2.41)。出血や血管合併症のリスクには群間差はみられなかったが、大出血(10.8%vs.7.3%)、マイナーな血管合併症(15.5%vs.9.9%)、メジャーな血管合併症(1.4%vs.0.7%)で多い傾向であった。これらの結果から、ハイリスクPCIに対するImpellaのルーチンでの予防的使用は推奨されないと考えられる。 左室駆出率が低い、左主幹部病変、多枝病変、石灰化が強い、CTO病変では、血行動態が悪化しやすくなるため、左室の負荷を取っておくと予後が良いのでは、という考えを検証した。Impella群で死亡、心血管死亡が増える傾向がみられた。デバイス関連の心筋のinjuryやアクセスの問題、溶血、PCIがより積極的(高侵襲)になった可能性が議論されている。出血・血管合併症はそこまで増えていないが、カプランマイヤー曲線を見ると初期に差がつき、それが徐々に開いている傾向を見て取ることができるため、短期的・中期的要因に分けて考えていく必要があろう。 予防的にはImpellaを使用すべきでない点は、本研究で明らかになった。血行動態の悪化が懸念される場合に、Impella挿入の血管アクセスだけ先に確保して準備しておく(シースを留置しておく)ことは、想定される点であるが、出血や血管合併症の増加につながる可能性もあり、今後も議論が続くと考えられる。

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第294回 増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省

<先週の動き> 1.増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省 2.18歳人口減少で、医療職の養成校の定員割れ深刻化、2040年へ確保を/厚労省 3.小規模クリニック苦境、医療・福祉倒産が3年連続最多/東京商工リサーチ 4.病院サイバー対策を強化、クラウド移行支援へ/政府 5.抗がん剤取り違えで乳児死亡 県立こども病院医師を減給処分/静岡県 6.奥能登の新病院構想、集約化か産科維持かで議論/石川県 1.増える診療所、減り続ける有床診療所 地域医療に懸念/厚労省厚生労働省の医療施設動態調査によると、2026年2月末時点の全国の病院数は7,972施設となり、前年同月比で75施設減少した。病院数は1990年の1万96施設をピークに減少が続いており、2025年には8,000施設を割り込んでいる。その一方で、一般診療所は10万5,548施設で、前年同月比407施設増となったが、その内訳をみると無床診療所が増える一方で、有床診療所の減少が続いている。有床診療所は2月末時点で5,080施設、病床数は6万6,672床となり、いずれも減少傾向にある。直近1年間では月平均約19施設、約348床のペースで減少しており、現在のペースが続けば2026年7月には5,000施設、6万5,000床を割り込み、2027年には6万床を下回る可能性も指摘されている。有床診療所は、在宅医療や高齢者医療、急性期病院からの受け入れなど、地域包括ケアを支える重要な役割を担っている。2次医療圏によっては総病床数の4分の1を有床診療所が占める地域もあり、その減少は地域医療体制の脆弱化につながることが懸念されている。厚労省はこれまで診療報酬改定で、有床診療所を「専門特化型」と「地域包括ケア型」に分類し、在宅患者や介護施設利用者の受け入れ評価、慢性透析患者対応、地域連携分娩管理加算などの支援策を拡充してきた。2026年度同改定でも入院基本料引き上げなどのテコ入れが行われている。しかし、減少傾向には歯止めがかかっていない。背景には経営難に加え、後継者不足や医師・看護師確保の困難さがあるとみられる。地域包括ケアシステムや高齢者医療を支える役割が期待される中、有床診療所の維持をどう図るかが今後の大きな課題となっている。 参考 1) 医療施設動態調査(2026年2月末概数)(厚労省) 2) 病院数が前年同月比75施設減、厚労省調べ 一般診療所は407施設増(CB news) 3) 有床診療所は2026年2月末に5,080施設・6万6,672床に減少、2026年7月に5,000施設・6万5,000床を切る公算-医療施設動態調査(Gem Med) 2.18歳人口減少で、医療職の養成校の定員割れ深刻化、2040年へ確保を/厚労省少子高齢化が進む中、看護師やリハビリ専門職など医療関係職種の養成・確保が新たな政策課題として浮上している。厚生労働省は5月7日、「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」の初会合を開き、医師・歯科医師・薬剤師を除く12職種について、横断的な対策の検討を始めた。対象は、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、救急救命士、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、視能訓練士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士である。背景にあるのは、18歳人口の減少と養成校の定員割れである。2024年度の定員充足率は、診療放射線技師が103.2%と唯一100%を上回った一方で、看護師は89.6%、理学療法士は87.8%、救急救命士は82.6%にとどまった。言語聴覚士は72.9%、臨床検査技師は76.1%、作業療法士は66.5%で、歯科技工士は53.5%、臨床工学技士は57.0%と6割を下回った。看護師国家試験の受験者数も2021年の6万6,124人をピークに減少し、2025年は6万3,131人となった。厚労省の推計では、2021年から2040年にかけて18歳人口は23道県で4割以上減少する見通しで、秋田県、青森県、岩手県、福島県では5割前後の減少が見込まれる。森光 敬子医政局長は、「養成校の努力だけで充足率の改善を図ることは、なかなか見込めない」と述べ、地域ごとの対応が必要との認識を示した。その一方で、現場では高年齢の看護職員の存在感が増している。55歳以上の看護職員は2008年の17.1万人から2024年には41.3万人へと2.4倍に増え、このうち65歳以上は10.8万人だった。厚労省は、ミドルやシニア層が希望に応じて働き続けられる支援が重要になるとしている。検討会では、養成校の集約化や共同化、遠隔授業、サテライト施設の活用、奨学金、社会人の参入促進、リカレント教育、育児・介護と両立できる働き方などが論点となる。さらに、限られた人員で医療水準を維持するため、各職種の質の確保や役割分担、地域別の需給推計の必要性も指摘された。2040年に向け、医療・介護ニーズは複雑化する一方で、支え手は減少する。養成校の定員割れは単なる学校経営の問題ではなく、地域医療の持続可能性に直結する。厚労省は年内をめどに意見を取りまとめ、2027年度予算や制度改正につなげたい考え。 参考 1) 第1回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会(厚労省) 2) 少子高齢化進む2040年に向けて、看護職・リハ職など12医療専門職種の養成・確保策の検討開始-医療職種養成・確保検討会(Gem Med) 3) 18歳人口が4割超減少 23道県で 21-40年に(CB news) 4) 看護師国試、21年をピークに受験者数が減少 OT・PT・STの受験者数は定員割れで推移(同) 5) 医療職種の養成校、定員割れ改善「見込めない」厚労省医政局長が認識(同) 6) 医療職種、入学定員割れが顕著 安定的な養成・確保が課題に(同) 7) 55歳以上の看護職員、16年で2.4倍増 24年は41.3万人 厚労省集計(同) 3.小規模クリニック苦境、医療・福祉倒産が3年連続最多/東京商工リサーチ医療・福祉分野の経営悪化が深刻化している。東京商工リサーチによると、2025年度の医療・福祉事業の倒産は478件で、前年度比10%増となり、1988年度以降で過去最多を3年連続で更新した。とくに老人福祉・介護事業が182件と最多で、障害者福祉や児童福祉でも倒産が増加した。また、従業員5人未満の小規模事業者が大半を占めていた。病院やクリニック、歯科医院に限った「医療機関」の倒産も71件とこの20年間で最多となった。内訳はクリニック32件、歯科医院31件、病院8件で、とくに歯科医院の増加が目立つ。原因の約9割は「販売不振」と「既往債務のしわ寄せ」で、患者減少に加え、人件費や光熱費、医療材料費の高騰が経営を圧迫している。倒産の97%超は破産で、経営再建の難しさも浮き彫りとなった。歯科分野では、歯科診療所と歯科技工所の倒産が計39件に達し、過去20年で最多となった。全国の歯科診療所は約6万6,000施設と、コンビニの店舗数を上回る水準にある。予防歯科や審美歯科など需要は多様化しているものの、競争激化に加え、高額医療機器への投資、後継者不足、材料費高騰が重荷となっている。とりわけ歯科技工所では、銀など貴金属価格の上昇に加え、中東情勢悪化によるナフサ不足の影響で、樹脂系材料も値上がりしている。診療報酬改定でベースアップ支援料が新設されたが、コスト増を吸収できるかどうかは不透明だ。コロナ禍ではゼロゼロ融資などで倒産が抑えられていたが、支援終了後に経営悪化が顕在化した形。人口減少と高齢化が進む中、医療提供体制の維持には、単なる補助金ではなく、業務効率化や地域再編、M&Aも含めた抜本的な対策が求められている。 参考 1) 2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超(東京商工リサーチ) 2) 医療・福祉の倒産、3年連続で過去最多 東京商工リサーチ調べ(日経新聞) 3) 「歯科関連」倒産が過去20年で最多 「あると助かるがコンビニより多い」 コロナ禍後に医療現場で起きている「支援終了」(AERA DIGITAL) 4.病院へのサイバー対策を強化、クラウド移行支援へ/政府政府は、大規模病院に対するサイバーセキュリティ対策を強化するため、クラウド型システムへの移行を支援する方針を固めた。今夏にまとめる官民投資のロードマップでは、「2030年までに地域の拠点病院のサイバー対策100%実施」という数値目標を盛り込む見通し。背景には、医療機関を狙ったサイバー攻撃の増加がある。2022年には大阪急性期・総合医療センターが攻撃を受け、救急患者受け入れを制限。2026年2月には日本医科大武蔵小杉病院で個人情報漏洩が発生したほか、市立奈良病院でも今年4月にシステム障害が起き、救急受け入れ停止や外来制限に追い込まれた。市立奈良病院では、ネットワーク監視装置が異常通信を検知し、電子カルテを含む一部システムを停止。手術延期や紙カルテ運用への切り替えを余儀なくされた。現時点で個人情報漏洩や悪意ある侵入は確認されていないものの、奈良市は外部有識者による調査委員会を設置し、再発防止策を検討する。政府は、経済安全保障推進法の改正に合わせ、医療分野を「基幹インフラ」に追加する方向で調整している。対象は病床数400以上、診療科16以上などを満たす全国88病院で、多要素認証やサイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)策定などを点検する。現在、多くの病院では院内サーバーで管理する「オンプレミス型」が主流だが、更新や監視の負担が大きく、データ連携にも障壁がある。このため政府は、クラウド型への移行を促進し、システム開発企業や医療機関への財政支援を検討している。また、厚労省は2026年5月にも「医療情報システムの安全管理ガイドライン第6.1版」を公表する予定で、AI利用に伴う情報漏洩リスクや職員教育の重要性も新たな論点となっている。診療継続と患者情報保護の両立に向け、医療機関のセキュリティ体制強化が急務となっている。 参考 1) 病院のサイバー対策支援 クラウド移行、政府が予算措置 今夏に数値目標(日経新聞) 2) 巧妙化するサイバー攻撃 医療機関のセキュリティ見直し急務(RESCHOニュース) 3) サイバー攻撃疑いの市立奈良病院、救急受け入れと外来診療を停止(日経メディカル) 4) 市立奈良病院システム障害 奈良市が謝罪、原因特定調査「継続中」(奈良新聞) 5.抗がん剤取り違えで乳児死亡 県立こども病院医師を減給処分/静岡県2021年に静岡県立こども病院にて生後3ヵ月の乳児に抗がん剤を誤投与した医療事故で、病院を運営する県立病院機構は5月8日、担当していた49歳の男性医師を減給の懲戒処分とした。乳児は重い障害を負い、約10ヵ月後に死亡している。事故当時、乳児は急性白血病で入院中だった。医師は本来、静脈内に投与すべき抗がん剤を、脊髄を囲む「髄腔」内に誤って投与した。病院の事故調査報告書によると、医師は看護師から薬剤を受け取る際、確認を十分に行わず、髄腔内投与用と静脈投与用の薬剤を取り違えたという。乳児は誤投与後、自発呼吸ができなくなる重大な障害を負い、治療が続けられたものの、10ヵ月後に死亡した。事故を受け、医師は昨年、業務上過失傷害の罪で略式起訴され、罰金50万円の略式命令を受けていた。病院と遺族側との間では民事上の示談も成立している。県立病院機構は5月8日付で、医師に対し「1日分賃金の半額」の減給処分を実施した。また、監督責任を問い、当時の院長と内科系診療部長についても文書厳重注意とした。男性医師は「大変申し訳ないことをしてしまった」と述べている。坂本 喜三郎理事長は「あってはならない重大事案」とした上で、「安全・安心な医療を提供できるよう、再発防止に職員一丸となって取り組む」とコメントしている。今回の事故では、薬剤確認の不徹底というヒューマンエラーが背景にあったとされる。小児がん治療のような高度医療では、複数人による確認体制や投与経路確認の徹底が不可欠であり、医療安全対策のあり方が改めて問われている。 参考 1) 医療ミスで生後3ヵ月の乳児死亡 薬剤を誤投与した男性医師を減給処分 1日分の賃金を半分に 患者は急性白血病で入院(テレビ静岡) 2) 乳児に薬を誤投与、重大な障害を負い10ヵ月後に死亡 静岡県立こども病院の男性医師を減給処分(中日新聞) 3) 静岡県立こども病院で乳児死亡“薬取り違え”で医師を懲戒処分(NHK) 6.奥能登の新病院構想、集約化か産科維持かで議論/石川県石川県が進める奥能登地域の病院再編を巡り、産科医療体制のあり方が大きな論点となっている。県は、人口減少や医療従事者不足が深刻化する奥能登地域の4つの公立病院について、救急や入院機能を集約した新病院を能登空港周辺に整備する方針で、7日に検討会を開いた。会議では、奥能登の妊婦は新病院で妊婦健診を受ける一方で、分娩は七尾市や金沢市の病院で行う案が県側から示された。県は、「分娩には24時間対応できる複数の産科医や小児科医、麻酔科医、新生児対応体制など膨大な人的・物的資源が必要であり、現状では医療従事者の確保が困難」と説明した。これに対し、輪島市や穴水町などの自治体側からは強い反発が相次いだ。輪島市の坂口 茂市長は「安全だけでなく、住民の安心感も重要だ」と述べ、奥能登で出産できない状況が若者流出にもつながると懸念を示した。出席者からは「若者は住むなと言っているに等しい」との声も上がった。奥能登では、能登半島地震以前は市立輪島病院が地域唯一の分娩機能を担っていたが、過去の医療事故を受けて複数医師体制を構築してきた経緯がある。現在は地震後の影響もあり、金沢からの医師派遣が週2回程度に減少し、妊婦健診など外来対応のみとなっている。その一方で、県側は宿泊費支援や搬送体制整備などで安全性を担保したい考えで、山野 之義知事は「安全第一が共通認識」とした上で、地域の要望も踏まえて工夫を検討したいと述べた。石川県は今後、産科や小児医療の分科会を設置し、専門家も交えて議論を継続する。今年度中に新病院の基本構想をまとめる方針だが、開院までにはさらに6~7年程度かかる見通しで、地域医療と人口維持をどう両立させるかが問われている。 参考 1) 石川 奥能登地域の病院再編 産科の医療体制について議論(NHK) 2) 「能登に住むなってことか」奥能登新病院に「分娩機能なし」提案 首長から反発 山野知事「どんな工夫ができるのか」議論する(石川テレビ) 3) 奥能登の新病院で分娩実施せず 石川県が体制案 市町首長から反論(朝日新聞) 4) 奥能登の新病院構想 自治体要望の分べん機能導入 医療従事者不足で石川県は慎重姿勢(テレビ金沢)

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事例47 ニトロペン舌下錠の査定と復活【斬らレセプト シーズン4】

解説診療所の近隣の住民が胸痛と冷汗を主訴に来院され、狭心症を疑ってニトログリセリン(商品名:ニトロペン)舌下錠を緊急投与しましたが、C事由(医学的理由による不適当)が適用されて査定となりました。ニトロペン舌下錠の添付文書を確認しました。効能又は効果に「狭心症等の一時的緩解」とありました。病名が確定している場合に使用される薬剤と捉えられます。しかしながら、緊急時には対症療法として有効な薬剤とも認識されています。今回の査定は、「狭心症が確定していないにも関わらずに使用していることから医学的に適当でない」として査定になったものと推測ができます。医師と相談して、再審査請求を行いました。時系列に来院時の状況からニトロペン舌下錠を緊急的に1錠投与後さらに1錠追加したことや、心電図などにて緊急性はないものと判断したことを記載して再審査請求したところ復活しました。査定対策として、ニトロペン舌下錠の緊急投与には「緊急対症療法」であることを必ずコメント付記して請求することにしています。

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入院患者の静脈血栓塞栓症予防【医療訴訟の争点】第21回

症例入院患者については、原疾患や手術そのほかの治療との関係で、診療科を問わず、肺血栓塞栓症の発症リスクがあるため、予防についても意識を払った対応がされている。本稿では、精神科入院患者に対する身体拘束下における肺血栓塞栓症(PTE)の予防義務の有無が争われた大阪高裁令和7年3月26日判決を紹介する。<登場人物>患者(P3)精神疾患を有する入院患者(肥満[BMI≧30]に該当)原告患者の母(唯一の相続人)被告大学医学部附属病院(国立大学法人)事案の概要は以下の通りである。平成29年(2017年)2月15日P3、精神症状の増悪により、被告病院に入院。入院後、精神科において薬物療法などが開始され、経過観察が行われた。2月中旬~5月下旬入院継続中、P3にはカタトニア様症状(強い緊張状態、反応低下など)が認められ、症状の増悪と改善を繰り返していた。向精神薬の投与が行われる一方、活動性の低下や脱水傾向などもみられていた。5月29日P3は精神症状の悪化により興奮・不穏状態が強まり、自傷他害のおそれがあると判断された。このため、保護室に隔離の上、四肢拘束を含む身体拘束が開始された。同日以降、看護師はバイタルサイン、呼吸状態、末梢循環(浮腫、皮膚色)、下肢の状態などの観察を、行動制限時フローシートなどに基づき継続的に実施した。もっとも、この時点で、Dダイマー検査や下肢静脈エコー検査といった客観的検査は実施されなかった。5月30日身体拘束の継続の要否についてカンファレンスが実施され、拘束継続の必要性が確認された。一方、拘束期間が長期化するかについては、この時点で明確な見通しは立っていなかった。5月31日午前P3は依然として拘束下にあり、自発的な運動は乏しい状態であった。医師は、血栓予防の観点から、同日午前11時頃、弾性ストッキングの装着を指示し、これが実施された。もっとも、体位変換の積極的実施、IPC(間欠的空気圧迫法)、抗凝固薬投与といったほかの予防措置は行われていなかった。また、同日午前までの時点においても、下肢の腫脹、発赤、疼痛など、深部静脈血栓症(DVT)を疑わせる症候は認められていなかった。午後2時頃看護師が訪室したところ、P3は反応が乏しく、呼吸・脈拍の異常が疑われる状態で発見された。午後2時20分頃スタットコールがなされ、医療スタッフが集結し、心肺蘇生措置(胸骨圧迫など)が開始された。なお、最初の異常指摘から蘇生開始までの時間は長くても約6分程度であったと認定されている。午後2時38分頃蘇生継続中の状態で院内搬送がなされたが、回復には至らなかった。同日P3死亡。 実際の裁判結果本件の第一審(神戸地裁)は、P3の死因を呼吸停止(呼吸不全)と認定し、呼吸管理義務違反を肯定して一部認容した。これに対し、被告病院が控訴し、原告も附帯控訴*を提起した。控訴審では、死因が急性肺血栓塞栓症(PTE)であるとの新たな主張がなされたほか、身体拘束後のVTE予防義務違反、検査義務違反などの主張も追加され、以下のような注意義務違反の有無が争われた。*控訴された側が、自身もより有利な内容へと一審判決を変更することを求めて控訴すること血液検査義務違反抗精神病薬の副作用防止義務違反呼吸管理義務違反救急対応義務違反PTE予防義務違反(控訴審で追加)VTE早期発見のための検査義務違反(控訴審で追加)控訴審(大阪高裁)は、P3の死因は急性PTEであると認定した上で、原告(患者家族)の主張する被告の注意義務違反をいずれも否定し、原告の請求を全面的に棄却した。控訴審で追加されたPTE予防義務違反とVTE早期発見のための検査義務違反を取り上げる。裁判所の判断1)P3の死因について詳細はこちら控訴審は、死因究明におけるAi(Autopsy imaging、死亡時画像診断)を用いた画像診断を行う第三者的医療機関として設立された一般財団法人Ai情報センターが作成したAi診断の報告書において、P3が心肺停止になってから1時間強後である5月31日午後3時35分頃に撮影された単純CT画像に、両側肺門部の肺動脈内に凝血塊を示唆する軽度高吸収が認められ、これらが肺動脈左右分岐部を横断するようにして連続していることから、P3の死因はPTEと考える旨の意見が述べられていることなどを踏まえ、P3の死因を「急性PTE」と認定した。2)PTE予防義務違反について詳細はこちら原告は、身体拘束開始後にVTEリスク評価を行い、体位変換、早期離床、弾性ストッキング、IPC、ヘパリンなどの予防策を講ずべき義務を主張した。しかし裁判所は、以下の点を指摘し、「控訴人病院スタッフである医師が、P3に対し、5月29日午後4時45分に体幹部及び両上肢を拘束したが、下肢拘束はせず、その時点ではVTEのリスクが高いとは判断せずに、積極的な運動(マッサージ、他動的な足関節運動など)、弾性ストッキング、IPC法または低用量未分割ヘパリンなどの予防法を取らず、それから48時間が経過する前である5月31日午前11時6分頃に、下肢を自発的に動かせないことから、DVTのリスクが高いと判断して弾性ストッキングの装着を指示したが、ほかの予防法を取らなかったことが、大学医学部の附属病院という控訴人病院の性格などの諸般の事情を考慮しても、当時の控訴人病院スタッフの医師に要求される医療水準に反すると認めることはできない」として、急性PTEの発症を回避するための予防策を取るべき注意義務違反があったとは認められないとした。5月29日以降、カタトニアにより下肢が不動化した状態にあったP3のDVTのリスクは客観的には相当に高かったといえ、P3が急性PTEにより死亡したのも、そのようなリスクが現実化したものと考えるのが自然であること日本血栓止血学会のガイドラインおよび研究班ガイドラインに挙げられたVTEの危険因子で、P3が該当するのは肥満だけであり、この場合の推奨予防法は「早期離床及び積極的な運動」であること72時間以上の身体拘束がVTEのリスクを高めるとの記載がある文献もあり、被告病院も含め、48時間以上の安静の必要をリスク評価の前提とする医療機関が多い中、P3につき5月29日の拘束開始時点やその翌日のカンファレンスにおいて、48時間以上の拘束が必要であると判断されていないこと平成29年当時、ほかの医療機関においても、ベッド上で拘束する場合は、高リスクとして薬物予防あるいはIPC法を考慮することにはなっていなかったこと弾性ストッキング、IPC法及び薬物療法(低用量未分割ヘパリン)には、それぞれ副作用などのリスクがある上、弾性ストッキングやIPC法には、PTEの発症リスクが高いことが保険適用の条件となっていること被告病院では、P3の身体拘束後、生体モニターシステムを用いた測定をするとともに、行動制限時フローシートなどに従い、看護師が末梢循環状態や皮膚状態を継続的に観察しており、症候性DVTの臨床症状である浮腫や皮膚色の変化の有無なども確認されていたが、症候性DVTを疑わせる所見は認められていないこと3)VTE早期発見のための検査義務違反について詳細はこちら原告は、身体拘束時などにDダイマー測定や下肢エコーを行うべきと主張したが、裁判所は、以下の点を指摘し、「医師がP3に対し、身体拘束時から5月31日の弾性ストッキングの装着開始指示時点までの間において、Dダイマー検査などを実施しなかったことが、控訴人病院の性格などの諸般の事情を考慮しても、当時の控訴人病院スタッフの医師に要求される医療水準に反すると認めることはできず、控訴人病院スタッフに、被控訴人主張の注意義務違反があったとは認められない」とした。Dダイマー検査などの実施は、学会予防指針では“身体拘束の解除の際に、場合によりDダイマーなどのスクリーニングを行う”と記載するに止まること大病院では入院時や身体拘束時にDダイマーを測定するとなっているが、病院の規模などからすると、これらの病院において実施されている予防措置が直ちに被告病院における注意義務の内容となると解することはできないことVTEの予防法などを定めるに当たって、Dダイマー検査などについて記載していないか、IPC法を行う症例の場合やDVTの可能性が高い患者またはDVTの臨床症状が疑われる患者に限って実施するという医療機関もあることDダイマー検査については、血栓症の発症リスクの高い症例についてのみ手術前のスクリーニング検査の保険適用がなされ、DVTリスクが高くない限り、患者に対するスクリーニングとしてDダイマー検査などを行うことに否定的な見解もあること被告病院では、下肢の不動化が認められた後は、弾性ストッキングを装着して予防法を取っており、その装着時を含め、DVTを疑わせる所見が存したとは認められないこと注意ポイント解説本件は、控訴審で提出されたAi画像診断の報告書に基づきP3の死因がPTEと認定された上で、その予防義務違反の有無が争われ、本判決は、患者側の主張する予防義務違反をいずれも否定した。PTEは突発的に発症し、救命困難な場合も多いため、その予防を実施しているかが重要となる。本件当時のガイドラインやほかの医療機関での予防の実施状況を踏まえた判断をしているが、本判決でも「平成30年時点の報告を前提にすると、ベッド上で拘束する場合は、高リスクとして薬物予防かIPC法を考慮することになっているが、平成29年5月当時、控訴人病院が、規模も異なるq1病院(注:他自治体が開設・運営する大規模な精神病院)の上記基準に従い、運用すべきであったとはいえない」としているように、ガイドラインの内容はアップデートされるものである。同様に、本判決が、被告病院では実施していない予防措置を実施している他院が存在していることについて「病院の規模などからすると、これらの病院において実施されている予防措置が直ちに控訴人における注意義務の内容となると解することはできない」としていることに表れているとおり、予防のために実施する対応内容については、医療機関の規模などによっても異なる。したがって、本判決と同様の対応をしていれば、予防措置が履行されているとして義務違反が否定されることになるとは限らない点に留意する必要がある。医療者の視点本件は、精神科における身体拘束中のPTE予防と検査のあり方が問われた事例です。裁判所は、当時のガイドラインや病院の規模を考慮し、Dダイマー検査や下肢静脈エコー検査、IPC法などの画一的な実施義務を否定しました。これは、予防策に伴う副作用リスクや患者ごとの状況を総合的に評価する、実際の臨床現場の感覚と合致しています。実臨床において、自傷他害の恐れがある興奮・不穏状態の患者の安全を確保するためには、身体拘束を実施せざるを得ない場面が多々あります。しかし、そのような患者に対して、PTE予防のための弾性ストッキングやIPC法を装着することは容易ではありません。不快感からさらなる不穏を招くリスクがあるためです。また、採血や長時間を要するエコー検査を安全に実施することも物理的に困難なケースが少なくありません。このようなジレンマの中で身を守るためには、入院時や拘束開始時にVTEのリスク評価をしっかり行うことが大事です。その上で、患者の状態に応じて早期離床や下肢の運動など、可能な予防策を選択してください。もし不穏などの理由で積極的な予防策や検査が困難な場合は、下肢の腫脹や色調変化などの継続的な観察を行い、その結果や「なぜ検査・処置ができないのか」という理由をカルテに詳細に記録しておくことを心がけると良いでしょう。Take home messagePTEは突発的に発症し、救命困難な場合があるため、裁判においては、然るべき予防措置を取っていたかが問題となる VTE予防はリスク評価に基づいて個別判断がなされるが、ガイドラインや同種医療機関での実施状況が、予防措置義務の履行がなされていたかの判断基準となるキーワード肺血栓塞栓症(PTE)/静脈血栓塞栓症(VTE)/身体拘束/予防義務/医療水準

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英語で「滑液包炎」ってどう言う?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第59回

医学用語紹介:滑液包炎 bursitis医療従事者にとってbursitis(滑液包炎)というのは日常的に目にする疾患名ですが、患者さんに対して突然“You have bursitis.”と告げても、まず伝わりません。bursaという単語はラテン語の「財布」や「かばん」を語源とする専門用語であり、一般の英語話者にとっては日常生活で耳にすることのない用語です。では、どう説明したら伝わるでしょうか?講師紹介

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