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肺がん放射線、左前下行枝照射量と心臓有害事象の関係/JAMA Oncol

 放射線療法が冠動脈疾患(CHD)のリスクを高めることは知られているが、胸部への照射が避けられない肺がんではどうすべきか。米国・ダナ・ファーバーがん研究所およびブリガム&ウィメンズ病院のKatelyn M. Atkins氏らは、最適な心臓線量の制限がCHDの既往の有無で異なる可能性があることを明らかにした。著者は、「心臓リスクの層別化と積極的なリスク軽減戦略を改善するために、今回示された制限についてさらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA Oncology誌オンライン版2020年12月17日号掲載の報告。 研究グループは、2003年12月1日~2014年1月27日に、ハーバード大学の関連病院で胸部放射線療法を受けた局所進行非小細胞肺がん患者701例を対象に、後ろ向きコホート研究を実施した。データの解析は、2019年1月12日~2020年7月22日に行われた。 心臓構造は手動で描写し、放射線療法の線量パラメータ(平均値、最大値、5Gy刻みで特定線量を受ける体積[V、%])を計算し、MACE(不安定狭心症、心不全による入院または救急受診、心筋梗塞、冠動脈血行再建術および心臓死)を推算し、ROC曲線およびカットポイント分析を行った。CHDの既往の有無およびその他の予後因子について、Fine-GrayおよびCox回帰分析により補正を行った。主要評価項目は、MACEおよび全死因死亡であった。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、701例中356例(50.8%)が男性、年齢中央値が65歳であった。・構造別の放射線療法の線量の最適なカットポイント(C-index最高値)は、左前下行枝(LAD)冠動脈がV15Gy 10%以上(0.64)、左回旋枝がV15Gy 14%以上(0.64)、左心室がV15Gy 1%以上(0.64)で、冠動脈への総線量平均値は7Gy以上(0.62)であった。・ベースラインのCHDの状態およびその他の予後因子について調整すると、LADのV15Gy 10%以上照射が、MACE(補正後ハザード比[HR]:13.90、95%信頼区間[CI]:1.23~157.21、p=0.03)、および全死因死亡(1.58、1.09~2.29、p=0.02)のリスク増大と関連していた。・CHDなしの患者では、LAD V15Gy 10%以上(4.9% vs.0%)、左回旋枝V15Gy 14%以上(5.2% vs.0.7%)、左心室V15Gy 1%以上(5.0% vs.0.4%)、および冠動脈への総線量平均値7Gy以上(4.8% vs.0%)は、1年MACEの増加と関連していた(すべてのp≦0.001)。・一方、CHDありの患者では、左心室V15Gy 1%以上(8.4% vs 4.1%、p=0.046)のみで1年MACEのリスクが増加した。・CHDなしの患者では、LAD V15Gy 10%以上照射(51.2% vs.42.2%、p=0.009)、および冠動脈への総線量平均値7Gy以上照射(53.2% vs.40.0%、p=0.01)において、2年全死因死亡率が増大した。

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有害事象にも目をやり、もう一歩進めたPCI適応に関する考察(解説:野間重孝氏)-1332

 評者自身がそうであったのだが、察するに多くの方々が果たしてこの論文のどこが新しくてJAMA誌に掲載されるに至ったのだろうかと、当初いぶかしく思われたのではないだろうか。FFRによって患者を選別することにより、虚血が証明された虚血例と虚血が証明されない非虚血例では血管インターベンション(PCI)の成績が異なり、虚血例では予後改善効果が期待できるのに対して、非虚血例ではそのような結果が期待できない。だから医学的側面からも、対費用効果の側面からもFFRを用いた患者の選別は有効であるということは、すでに結論の出た問題として扱われるべきだと考えられているからだ。この論文の新しい点は、こういう観点から一歩進んで、非虚血例に対してPCIを行うことは効果がないばかりではなく、有害であることを示唆したことにある。 わが国においても、米国におけるAUC(Appropriate Use Criteria)の導入を受け、2018年4月の診療報酬改定で安定狭心症に対する保険算定要件が変わった。従来は安定狭心症であっても一方向からの造影で75%以上の狭窄が認められれば算定されたものが、新たに機能的虚血診断が義務付けられた。この改定は、わが国において大きな意味を持っていた。海外では圧倒的に緊急PCIが多いのに対し、わが国では緊急PCIは15%程度で、85%が安定狭心症に対するものだったからだ。この改定によってそれまで3割程度にしか施行されていなかった虚血評価が急速に普及した。その結果わかってきたことは、一方向で90%に見える狭窄の場合でも機能的虚血評価では陰性を示す例もあれば、50%程度にしか見えなくとも陽性を示す例があるということで、PCIの適応の判断は“見た目”ではできないということだった。実際、日本心血管インターベンション治療学会が2012年から行ってきたCVIT-DEFER registryにおいて、血管造影上の狭窄の程度とFFR計測結果にはミスマッチがあることが明らかにされている。 この領域におけるランドマーク研究としてはDEFER研究、FAME研究、FAME2研究の3つが挙げられる。この論文評は総論ではないので、各研究の詳細について紹介することは控えるが、いずれの研究においても細目は異なるものの、FFR値が一定値以上を示す非虚血群とそれ以下の虚血群に割り付けがなされ、それぞれの群内でさらにPCIが行われた群と行われなかった群に分けられ、その予後が長期フォローされた。これら一連の研究によって、虚血群では心事故の発生頻度の低下が見られるのに対し、非虚血群では効果が見られないことが証明された。これらの結果から対費用効果についても論じられ、非虚血群に対してPCIを行うことは医学的に意味がないばかりでなく、医療経済的に不利益をもたらすことが示された。 こうした研究の背景には、多くの研究により、冠動脈バイパス術(CABG)が虚血性心疾患患者の予後改善をもたらすのに対し、PCIは急性心筋虚血例に対して施行されたものは予後の改善をもたらすものの、安定した虚血性心疾患の予後改善効果はCABGに劣るとする結果が提出され、これに対して反論を試みたいというアンジオグラファーたちの熱意があった。近年の考え方としては、機能的に虚血の存在がはっきり証明された症例において行われるPCIの予後改善効果はCABGに劣るものではないという考えが大勢を占めるに至っている。ただし、意地の悪い言い方をすれば、これは今まで必要のないPCIが多数行われてきたということも意味する。では、非虚血例に対して本来は必要がないPCIを施行するとどうなるのか。その視点で行われたのが本研究である。 これまでの研究では、非虚血例に対するPCIは予後改善をもたらさないという点にとどまっていた。本研究はそれから一歩進んで、非虚血例にたいするPCIは心事故の発生頻度を上げる、つまり、有害であるという結論を提出した。確かに“治療行為”というのは、見方を変えれば血管に傷を付ける行為でもある。であるとするならば、必要のない傷害は避けられるべきだという考え方には説得力がある。 はじめに述べたように、わが国においては安定狭心症に対するPCI施行例が圧倒的多数を占めている。本研究の提示した問題は、わが国においてこそ大いに研究されるべきテーマではないだろうか。予後改善というプラスの側面にばかり注目するのではなく、有害事象の発生というマイナスの側面に注目した研究が行われる必要があることを示したという点で、意義深い研究であったと評価できる。

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高用量オメガ3脂肪酸、高リスク患者のMACE発生を抑制せず/JAMA

 スタチン治療中の心血管高リスクの患者において、通常治療に加えてのEPAとDHAのカルボン酸製剤(オメガ-3CA)の摂取はコーン油摂取と比較して、主要有害心血管イベント(MACE)の複合アウトカムの発生に有意差はなかったことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のStephen J. Nicholls氏らが多施設共同二重盲検無作為化試験「STRENGTH試験」の結果を報告した。EPAとDHAのオメガ-3脂肪酸が心血管リスクを抑制するかは明らかになっていない。一方で、オメガ-3CAはアテローム性脂質異常症や心血管高リスクの患者の脂質および炎症マーカーに対して好ましい効果があることが文書化されていた。著者は、「今回の結果は、MACE抑制を目的とした高リスク患者でのオメガ-3CAの使用を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌オンライン版2020年11月15日号掲載の報告。22ヵ国のスタチン治療中患者を対象に、コーン油と比較 オメガ-3CAまたはコーン油摂取について比較した試験は、北米、欧州、南米、アジア、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカの22ヵ国・675の大学または地域病院で、スタチン治療中で心血管リスクが高く、高トリグリセライド血症およびHDLコレステロール(HDL-C)が低値の患者を対象に行われた。2014年10月30日~2017年6月14日に登録が行われ、試験は2020年1月8日に終了、最終患者の受診は2020年5月14日であった。 被験者は、スタチン等の通常の治療に加えて、4g/日のオメガ-3CAを摂取する群(6,539例)または不活性比較群として機能することを目的としたコーン油を摂取する群(6,539例)に、無作為に割り付けられた。 有効性の主要評価項目は、心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・冠動脈血行再建術・入院を要した不安定狭心症の複合(MACE)であった。有益性の可能性が見込めず試験は早期に中止 1,384例の患者に主要エンドポイントのイベントが発生した時点(計画では1,600件)で行われた中間解析の結果、オメガ-3CAがコーン油よりも臨床的有益性を認める可能性は低いことが示され、試験は早期に中止となった。 治療中であった1万3,078例の患者(平均年齢62.5[SD 9.0]歳、女性35%、糖尿病70%、LDL-C中央値75.0mg/dL、トリグリセライド中央値240mg/dL、HDL-C中央値36mg/dL、高感度CRP中央値2.1mg/dL)において、1万2,633例(96.6%)が主要エンドポイント発生に関する試験を完了した。 主要エンドポイントの発生は、オメガ-3CA群785例(12.0%)、コーン油群795例(12.2%)であった(ハザード比[HR]:0.99[95%信頼区間[CI]:0.90~1.09]、p=0.84)。 消化器系の有害事象の発現が、オメガ-3CA群(24.7%)でコーン油群(14.7%)よりも高頻度に観察された。

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FFR閾値を順守したPCI実施でアウトカム改善/JAMA

 日常診療で1枝血管の血流予備量比(FFR)測定を受けた冠動脈疾患患者において、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の実施は実施しない場合と比較し、FFR閾値から虚血性病変と判定された患者で主要有害心血管イベント(MACE)の発生率が低く、非虚血性病変と判定された患者では同イベントの発生率が高いことと有意に関連していた。カナダ・トロント大学のManeesh Sud氏らによる検討の結果で示された。FFRは、冠動脈狭窄が心筋虚血を誘発する可能性を評価し、PCIの適応を判定するために用いられる侵襲的検査である。しかし、PCIの適応に関するFFRの閾値が日常的な介入診療で順守されているか、あるいは閾値の順守が良好な臨床アウトカムと関連しているかはわかっていなかった。著者は、「今回の解析結果は、エビデンスに基づくFFR閾値に従ったPCIの実施を支持するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2020年11月13日号掲載の報告。虚血性(FFR≦0.80)vs.非虚血性(FFR>0.80)、PCI実施有無のMACE発生を比較 研究グループは、2013年4月1日~2018年3月31日の期間に、カナダ・オンタリオ州で1枝のFFR評価を受けた冠動脈疾患成人患者(ST上昇型心筋梗塞を除く)を対象に、後ろ向き多施設コホート研究を実施した(2019年3月31日まで追跡)。 FFR閾値に基づき2つのコホートに分け(虚血性≦0.80、非虚血性>0.80)、治療選択のバイアスを考慮して傾向スコアのIPTW(逆確率治療重み付け)法を用い、MACE(死亡、心筋梗塞、不安定狭心症、または緊急冠動脈血行再建術)に関してPCIありとPCIなしを比較した。虚血性コホート、PCIありはなしより5年アウトカムが有意に良好 解析対象は全体で9,106例(平均[±SD]年齢65±10.6歳、女性35.3%)であった。虚血性FFRコホートは2,693例で、このうち75.3%がPCIを受け、24.7%は内科的治療のみであった。このコホートでは、PCIありはPCIなしと比較して5年後のMACE発生率およびハザード比(HR)が有意に低かった(31.5% vs.39.1%、HR:0.77、95%信頼区間[CI]:0.63~0.94)。 非虚血性FFRコホートは6,413例で、このうち12.6%がPCIを受け、87.4%が内科的治療のみで治療された。このコホートでは、PCIありはPCIなしと比較して5年後のMACE発生率およびハザード比が有意に高かった(33.3% vs.24.4%、HR:1.37、95%CI:1.14~1.65)。

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高齢者の転倒・骨折予防、スクリーニング+介入は有効か/NEJM

 高齢者の転倒による骨折の予防において、郵送での情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングで対象を高リスク集団に限定した運動介入または多因子介入を行うアプローチは、郵送による情報提供のみと比較して骨折を減少させないことが、英国・エクセター大学のSarah E. Lamb氏らが行った無作為化試験「Prevention of Fall Injury Trial」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2020年11月5日号で報告された。高齢者における転倒の発生は、地域スクリーニングとその結果を考慮した予防戦略によって抑制される可能性があるが、英国ではこれらの対策が骨折の発生、医療資源の活用、健康関連QOLに及ぼす効果は知られていないという。イングランドの63施設が参加した実践的クラスター無作為化試験 本研究は、イングランドの7つの地方と都市部の63の総合診療施設が参加した実践的な3群クラスター無作為化対照比較試験であり、2010年9月~2014年6月の期間に参加施設と参加者の募集が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。 各地域の保健区域にある3つの総合診療施設が、3つの介入のいずれかに無作為に割り付けられた。参加施設は、自施設の患者登録データを用いて70歳以上の地域居住者に試験への参加を募った。運動介入または多因子転倒予防介入を行う群に割り付けられた施設は、参加者に転倒リスクに関する簡略なスクリーニング質問票を送付した。 郵送による情報提供、転倒リスクのスクリーニング、対象を限定した介入(転倒リスクが高い集団への運動介入または多因子転倒予防介入)を行った群の効果を、郵送による情報提供のみを行った群と比較した。 運動介入にはOtago運動プログラム(筋力、バランス、歩行)などが用いられた。多因子転倒予防介入では、看護師、総合診療医、老年病専門医が、転倒と病歴、歩行とバランス、投薬状況、視力、足と履き物などを評価し、家庭環境に関する聞き取りを実施して、服薬の見直し、運動(運動介入群と同じ)、専門医への紹介などが行われた。 主要アウトカムは、18ヵ月後の100人年当たりの骨折発生率とした。副次アウトカムは、転倒、健康関連QOL、フレイル、経済評価などであった。100人年当たりの骨折発生率:2.76件vs.3.06件vs.3.50件 63施設から70歳以上の9,803例(平均年齢78歳、女性5,150例[53%])が無作為に選出された。このうち3,223例が郵送による情報提供のみを行う群(21施設)、3,279例が郵送による情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングと対象を限定した運動介入を行う群(21施設)、3,301例は郵送による情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングと対象を限定した多因子転倒予防介入を行う群(21施設)に割り付けられた。 転倒リスクスクリーニング質問票は、運動群の3,279例中2,925例(89%)と、多因子転倒予防群の3,301例中2,854例(87%)から回答が返送された。これら質問票を返送した5,779例のうち、2,153例(37%)が「転倒リスクが高い」と判定され、介入を受けることが勧められた。 骨折データは9,803例中9,802例で得られた。18ヵ月の時点で、骨折は郵送による情報提供群で133件、運動群で152件、多因子転倒予防群で173件発生し、100人年当たりの発生率はそれぞれ2.76件、3.06件、3.50件であった。運動群の郵送による情報提供群に対する骨折発生の率比は1.20(95%信頼区間[CI]:0.91~1.59、p=0.19)、多因子転倒予防群の郵送による情報提供群に対する骨折発生の率比は1.30(0.99~1.71、p=0.06)であり、スクリーニングと対象を限定した介入は骨折発生率を抑制しなかった。 転倒、SF-12で評価した健康関連QOL、Strawbridge Frailty Indexスコアで評価したフレイルにも有意な差は認められなかった。また、2万ポンド(2万5,800米ドル)を閾値とした場合、運動介入で費用対効果が優れる確率は70%だった。 試験期間中に、3件の有害事象(狭心症エピソード1件、多因子転倒予防の評価中の転倒1件、大腿骨近位部骨折1件)が発現した。 著者は、「最近のCochraneレビューでは、転倒への多因子介入の効果は限定的でばらつきが大きいと報告されており、骨折については信頼できるエビデンスはないとされる。また、今回の試験では、既報の研究に比べ運動の転倒への効果が低かったが、どの研究よりも追跡期間が長かった」としている。

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「ミオコールスプレー」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第25回

第25回 「ミオコールスプレー」の名称の由来は?販売名ミオコール®スプレー0.3mg一般名(和名[命名法])ニトログリセリン効能又は効果狭心症発作の寛解用法及び用量通常、成人には、1回1噴霧(ニトログリセリンとして0.3mg)を舌下に投与する。なお、効果不十分の場合は1噴霧を追加投与する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)1.重篤な低血圧又は心原性ショックのある患者[血管拡張作用により更に血圧を低下させ、症状を悪化させるおそれがある。]2.閉塞隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]3.頭部外傷又は脳出血のある患者[頭蓋内圧を上昇させるおそれがある。]4.高度な貧血のある患者[血圧低下により貧血症状(めまい、立ちくらみ等)を悪化させるおそれがある。]5.硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に対し過敏症の既往歴のある患者6.ホスホジエステラーゼ5阻害作用を有する薬剤(シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、タダラフィル)又はグアニル酸シクラーゼ刺激作用を有する薬剤(リオシグアト)を投与中の患者[本剤とこれらの薬剤との併用により降圧作用が増強され、過度に血圧を低下させることがある。※本内容は2020年11月11日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2014年11月改訂(第10版)医薬品インタビューフォーム「ミオコール®スプレー0.3mg」2)トーアエイヨー:製品情報

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コルヒチンの冠動脈疾患2次予防効果に結論を出した論文(解説:野間重孝氏)-1300

 評者は今回の論文に関連した他論文の論文評を昨年12月にこの欄に掲載しているため(「今、心血管系疾患2次予防に一石が投じられた」)、解説部分が前回と一部重複することを、まずご容赦いただきたい。また、先回の論文評の中で今回の論文のスタディデザイン報告をした論文(Nidorf SM, et al. Am Heart J. 2019;218:46-56.)に言及し、評者の早とちりから彼らがすでに結論を出してしまったような誤解を与える記述をしてしまいました。この点につき、この場をお借りして陳謝させていただきます。 動脈硬化が炎症と深い関係があるとする動脈硬化炎症説は、1976年にRossらが「障害に対する反応」仮説を提出したことに始まる(Ross R, et al. N Engl J Med. 1976;295:369-377.、420-425.、二部構成)。以後さまざまな仮説が提出され、議論が繰り返されたが、結局確定的なメカニズムの解明には至っていない。 コルヒチンはイヌサフラン科のイヌサフラン(Colchicum autumnale)の種子や球根に含まれるアルカロイドで、長く痛風の薬として使用されてきた。主な作用として、細胞内微小管(microtubule)の形成阻害、細胞分裂の阻害のほかに、好中球の活動を強力に阻害することによる抗炎症作用が挙げられる。ところが皮肉なことに、ここにコルヒチンが動脈硬化の進展予防に何らかの作用を持つと考えられなかった理由がある。というのは、動脈硬化炎症説を考える人たちは単球やマクロファージ、免疫系細胞には注目するが、好中球には関心を示さなかったからだ。ちなみに好中球、多核球に対してこれだけ強力な抑制作用を持つ薬剤は、現在コルヒチン以外に知られていない。結局、今世紀に至るまでコルヒチンが動脈硬化性疾患の進展予防に何らかの効果を持つとは誰も考えなかったのである。 しかし突破口は意外な方面から開かれた。ニューヨーク大学のリウマチ研究室の研究者たちが奇妙な事実に気付き報告したのだ。痛風患者に対してコルヒチンを使用していると心筋梗塞の有病率が低いというのである(Crittenden DB, et al. J Rheumatol. 2012;39:1458-1464.)。 この結果にいち早く注目したのが本論文の著者であるHeart Care Western AustraliaのNidorf SMらのグループだった。彼らは通常の治療に加え、コルヒチン錠を1日当たり0.5mg投与する治療群(282例、66歳、男性率89%)とコントロール群(250例、67歳、男性率89%)の計532例を中央値で3年間フォローアップした結果(主要アウトカムは、急性冠症候群、院外心停止、非心臓塞栓性虚血性脳卒中)、ハザード比(HR)は0.33(95%信頼区間[CI]:0.18~0.60)、NNT 11で2次予防が可能であるという驚くべき結果を得た(LoDoCo試験、Nidorf SM, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;61:404-410.)。この試験は登録数が少ないこと、open labelで検討されていることからあくまでpilot studyだったのだが、一部の関係者の注目を集めるには十分だった。 いち早くLoDoCo pilot studyに注目したのがカナダ・モントリオール心臓研究所のグループであり、前回評者が論文評を担当した論文がこれだった(Tardif JC, et al. N Engl J Med. 2019;381:2497-2505.)。彼らは、登録日前30日以内に心筋梗塞を発症し、経皮的血行再建術を受けた症例4,745例を2群に分け、両群にいわゆる内科的至適療法(OMT)を行うとともに、一方の群にコルヒチン0.5mg/日を、もう一方にplaceboを追加投与する二重盲検試験を行った。エンドポイントを心血管死、心停止後の蘇生、心筋梗塞、脳卒中、血行再建とし、コルヒチン群で有意に発生率が低いことを証明した。この研究は注目すべきものではあったが、問題点もあった。複合エンドポイントのうち、差が出たのは脳卒中と血行再建だけで、脳卒中ではっきり差が出ていなければかなりきわどい結果になっていた可能性があったからだ。また心筋梗塞後30日以内の患者という対象設定にも問題があった。 一方、先回のpilot studyから確信を得たNidorfらのグループは、LoDoCo2試験を立ち上げた。コルヒチンが安全に投与できることが確かめられた安定狭心症5,522例を対象としてコルヒチン0.5mg/日とplaceboによる二重盲検試験を行った。この試験のデザインは前述したように、昨年別途報告された(Nidorf SM, et al. Am Heart J. 2019;218:46-56.)。そのLoDoCo試験の最終報告となるのが本論文である。この試験にも複合エンドポイントに脳卒中が含まれていたが、31%の発生減を報告できたことには十分な説得力がある(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.57~0.83、p<0.001)。また、サブ解析でも明らかな心事故発生の減少が報告された。この試験の意味深い点は、臨床的にとくに問題のない安定狭心症を対象として2次予防の成績を提出したことにある。評者が題名に「結論」という文言を使用したゆえんである。 今回の試験で著者らは対象患者の性別に偏りがあったこと、血圧や脂質など他の危険因子のデータ収集が不完全であったことを挙げているが、評者にはこれらが大きな限界とは考えられない。冠動脈疾患は典型的な多因子的疾患であり、2次予防効果をみるためには一つひとつの因子をつぶしていく必要がある。すべての因子を包括した研究が事実上不可能である以上、どれか確定的な因子(もしくは治療法)が証明できればそれは充分な前進であると評価されなければならないと考えるからである。 評者が不満に思うことを挙げるとすれば、前述のカナダのグループにおいても同様なのだが、冠動脈疾患の2次予防の検定になぜ脳卒中を複合エンドポイントに入れなければならないのか、という点である。冠動脈疾患は何度も述べているように典型的な多因子疾患である。一方、脳血管障害は、確かに危険因子は多数指摘できるが、その中において血圧の重要性が圧倒的に高く、同じ多因子疾患といっても冠動脈疾患とはその性格を大きく異にし、その進展過程・機序にも差があるからである。今回の試験においても、前回のカナダのグループの試験においても、コルヒチンは明らかに脳卒中の発生率を低下させている。だから確かに効果があることに異論はないのだが、その機序については別の議論が必要であろう。 このところコルヒチンを用いた研究が各方面で活発化していることは、J-CLEARの論文紹介に目を通していらっしゃる方々はよくご承知ではないかと思う。しかし評者の知る限り、わが国ではあまり関心が持たれていない印象がある。わが国でもこの新しい発見を有効に利用しようという動き(もしくは検証しようという動き)が早く出ることを願うものである。

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NSTEMIは、高齢者だからこそ積極的に治療を!(解説:中川義久氏)-1287

 皆さんもご存じのように、急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は、不安定狭心症(unstable angina:UA)、非ST上昇型心筋梗塞(Non ST-segment elevation myocardial infarction:NSTEMI)、ST上昇型心筋梗塞(ST-segment elevation myocardial infarction:STEMI)の3つに分類される。可能な限り早急なprimary PCIが有効なSTEMIに対して、NSTEMIでは治療のタイミングについて判断が必要である。PCI施行を含む積極的な治療を施行するタイミングは2つに大別される。早期に造影検査およびインターベンションを行う侵襲的治療戦略と、保存的な治療を優先し侵襲的治療のルーチンとしての実施を回避する初期保存的治療戦略(非侵襲的治療戦略)である。TIMIリスクスコアやGRACE ACSリスクモデルなどの、リスク評価法に基づいて治療戦略を決定することが推奨されている。このように選択肢がある中でも、早期に侵襲的治療を施行する有用性が高いとの報告が増加していた。しかし、高齢者はこれらのエビデンスを構築するための臨床試験から除外されることが常であり、明確な方針は明らかではなかった。 80歳以上のNSTEMI患者においても、侵襲的治療が非侵襲的治療と比べて優れていることを示した「SENIOR-NSTEMI試験」の結果が、Lancet誌2020年8月29日号に掲載された。累積5年死亡率は、侵襲的治療で36%、非侵襲的治療55%と、ハザード比:0.68、(95%CI:0.55~0.84)で侵襲的治療戦略が有意に優れていた。さらに、侵襲的治療は、心不全による入院発生頻度も有意に低下させていた。5年時の死亡を3割以上も減少させる意義は大きい。高齢者だからこそ積極的な戦略をとるべきともいえ、高齢者であれば保存的治療が一番という安易な選択を戒めるものであろう。 この試験はランダマイズ研究ではなく、日常の診療のデータを登録した中から、プロペンシティ・スコア(傾向スコア)を用いて解析している。ここでプロペンシティ・スコア解析を復習しよう。多変量解析の1つである、ロジスティック回帰法を用いて全患者に対して、その患者が侵襲的治療を受ける確率を計算する。この確率の値が、「プロペンシティ・スコア」であり0から1の間の数値をとる。侵襲的治療を受ける確率が同じ「0.6」という値であっても、実際には侵襲的治療を受けた患者も存在すれば、非侵襲的治療を受けた患者も存在する。これをペアにして比較することによって、あたかも患者をランダマイズしたかのように背景因子をそろえて比較することができる。「SENIOR-NSTEMI試験」のmethodには興味深い記載がある。侵襲的治療を受ける確率が非常に高い患者と、非常に低い患者は、解析から除外したというのだ。議論の余地なく、誰がみても侵襲的治療が良いと思われる患者が存在することを事前に了解しているのである。逆に、誰がみても侵襲的治療がそぐわない患者の存在も同様に認定している。この試験の結果から侵襲的治療が優れているという結論が導かれたように思う方もいるかもしれないが、この試験を実施するまでもなく、侵襲的治療に適した患者や、適していない患者が存在するのである。 ランダマイズ試験では、いずれかの治療に割り付けられれば従わねばならない。このため、どちらの選択肢に割り付けられても支障の少ない患者が多く参加する。ある治療法が適していると皆が考える患者の参加は少ない。このようにランダマイズ試験の弱点もあることを知る必要がある。高齢者という、ランダマイズ試験の難しい患者であるからこそ、プロペンシティ・スコア解析の意義を感じた「SENIOR-NSTEMI試験」であった。

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長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」【下平博士のDIノート】第58回

長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」今回は、「アスピリン/ボノプラザンフマル酸塩配合錠(商品名:キャブピリン配合錠、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、アスピリンとプロトンポンプ阻害薬(PPI)を配合することで、胃・十二指腸潰瘍の再発低減と服薬負担の軽減によるアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作[TIA]、脳梗塞)、冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年5月22日より発売されています。なお、本剤の使用は、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限られます。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(アスピリン/ボノプラザンとして100mg/10mg)を経口投与します。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象431例中73例(16.9%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、便秘8例(1.9%)、高血圧、下痢、末梢性浮腫各3例(0.7%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、再生不良性貧血、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑、剥脱性皮膚炎、ショック、アナフィラキシー、脳出血などの頭蓋内出血、肺出血、消化管出血、鼻出血、眼底出血など、喘息発作、肝機能障害、黄疸、消化性潰瘍、小腸・大腸潰瘍(いずれも頻度不明)が発現する恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血小板の働きを抑えて血液が固まるのを防ぐことで、血栓や塞栓の再形成を予防します。長期服用によって胃潰瘍・十二指腸潰瘍が再発しないよう、胃酸を抑える薬も併せて配合されています。2.解熱鎮痛薬や風邪薬で喘息を起こしたことのある方、出産予定日12週以内の妊婦は使用できません。3.割ったり砕いたりせず、噛まずにそのまま服用してください。4.手術や抜歯など出血が伴う処置を行う場合は、医師に必ず本剤の服用を伝えてください。<Shimo's eyes>本剤は、低用量アスピリンとPPIの配合剤であり、アスピリン/ランソプラゾール配合錠(商品名:タケルダ)に次ぐ2剤目の薬剤です。虚血性心疾患、脳血管疾患による血栓・塞栓形成抑制には、アスピリンなどの抗血小板薬投与が有効であり、国内外の診療ガイドラインで推奨されています。しかし、アスピリンの長期投与によって消化性潰瘍が発症・再発することから、低用量アスピリン療法時には原則としてPPIが併用されます。この際に併用できるPPIとしては、ランソプラゾール(同:タケプロン)、ラベプラゾール(同:パリエット)、エソメプラゾール(同:ネキシウム)、ボノプラザン(同:タケキャブ)があります。PPI併用の低用量アスピリン投与による消化性潰瘍発生に対する予防効果については、国内第III相試験(OCT-302試験)の副次評価項目として調べられています。胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往のある患者にアスピリン100mgを投与した後の胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発率は、投与12、24、52、76、104週後において、ランソプラゾール15mg併用群ではそれぞれ0.9%、2.8%、2.8%、3.3%、3.3%であったのに対し、ボノプラザン10mg併用群ではいずれも0.5%であり、ボノプラザン併用群で有意に低下していました(p=0.039)。本剤は、アスピリンを含む腸溶性の内核錠を、ボノプラザンを含む外層が包み込んだ構造となっているため、噛まずにそのまま服用する必要があります。本剤の適応には、「胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限る」という制限がありますが、現在消化性潰瘍を治療中の患者さんには禁忌となっているので注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 キャブピリン配合錠

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「ヘルベッサー」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第16回

第16回 「ヘルベッサー」の名称の由来は?販売名ヘルベッサー®錠30/60※注射剤、カプセル剤は錠剤のインタビューフォームと異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください一般名(和名[命名法])ジルチアゼム塩酸塩(JAN) 効能又は効果狭心症、異型狭心症本態性高血圧症(軽症~中等症)用法及び用量狭心症、異型狭心症通常、成人にはジルチアゼム塩酸塩として1回30mgを1日3回経口投与する。効果不十分な場合には、1回60mgを1日3回まで増量することができる。本態性高血圧症(軽症~中等症)通常、成人にはジルチアゼム塩酸塩として1回30~60mgを1日3回経口投与する。 なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない(現段階では定められていない)禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌 (次の患者には投与しないこと)】(1)重篤なうっ血性心不全の患者〔心不全症状を悪化させるおそれがある。〕(2)2度以上の房室ブロック、洞不全症候群(持続性の洞性徐脈[50拍/分未満]、洞停止、 洞房ブロック等)のある患者〔本剤の心刺激生成抑制作用、心伝導抑制作用が過度にあらわれるおそれがある。〕 (3)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者(4)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人※本内容は2020年9月9日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2016年2月改訂(第11版)医薬品インタビューフォーム「ヘルベッサー®錠30/60 」2)田辺三菱製薬:製品情報

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AFIRE試験が世界に投げかけたこと(解説:香坂俊氏)-1281

AFIRE試験がNEJM誌に発表された。そのデザインや主要な結果に関しては、さまざまな学会や研究会で議論がなされており、その解釈に関しても広く議論がなされている。AFIREのデザインと主要な結果・心房細動を持つ安定冠動脈疾患の患者さんを対象に「リバーロキサバン(経口抗凝固 薬)単独」と「リバーロキサバン+抗血小板薬併用」との比較を行ったわが国の多施 設共同のランダム化比較研究。・2017年9月末までに2,240例が登録され、2年以上の観察期間を予定していたが、データ 安全性モニタリング委員会の勧告に基づき2018年7月に研究を早期終了。・最終的に2,215例(1,107例の単独療法vs.1,108例の併用療法)が研究解析対象となり、 患者さんの平均年齢は74歳、男性79%、PCI施行70.6%[CABG施行11.4%]) であった。・有効性主要評価(脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を必要とする不安定 狭心症、総死亡の複合エンドポイント)では、リバーロキサバン単独療法群がsuperior (優越)であり、さらに安全性主要評価(重大な出血性合併症)においても、 リバーロキサバン単独療法群が優越であった。さまざまなメッセージを含んでいる試験であるが、自分としては日本独自の用量設定を行った試験で世界に向けて結果を出した、というところに注目したい。リバーロキサバンは薬効動態評価の結果を踏まえて15mgあるいは10mgという日本独自の用量設定で認可されている(国際的には20mgあるいは15mgという用量設定)。自分はこうした国別の独自の用量設定というのにかなり懐疑的な人間であったのだが(国際的なRCTの結果のほうを信用する傾向がある)、ただ抗凝固薬や抗血小板薬が日本人に効きすぎるというのは帰国してからの日常臨床でも経験し、また自分達で出したデータでも確かにそのような傾向がみられた(Numasawa Y, et al. J Clin Med. 2020;9:1963.)。AFIRE試験は、このような事情を踏まえてわが国独自の用量設定を用いて行われた試験であるが、その結果がNEJMという最高峰のジャーナルに取り上げられたことの意義は大きい。とくに抗凝固療法・抗血小板薬(抗血栓薬として総称される)に関してはGlobalにも個別の用量設定を考えていかなければならないということを語ってくれているように思われる。この試験は、いろいろな場面における抗凝固療法の使い方に指針を示してくれたことも事実であるが、自分としてはわが国独自の抗血栓薬のDosingについて「世界はどう思うのか?」というより幅広い側面での議論の活性化も期待したい。

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COVID-19流行、 ACSの入院数減に影響か/Lancet

 イングランドでは、急性冠症候群(ACS)による入院患者数が、2019年と比較して2020年3月末には大幅に減少(40%)し、5月末には部分的に増加に転じたものの、この期間の入院数の低下は、心筋梗塞による院外死亡や長期合併症の増加をもたらし、冠動脈性心疾患患者に2次予防治療を提供する機会を逸した可能性があることが、英国・オックスフォード大学のMarion M. Mafham氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年7月14日号に掲載された。COVID-19の世界的流行期に、オーストリアやイタリア、スペイン、米国などでは、ACSによる入院数の低下や、急性心筋梗塞への直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行数の減少が報告されているが、入院率の変化の時間的な経過やACSのタイプ別の影響、入院患者への治療などの情報はほとんど得られていないという。ACSのタイプ別に、入院と手技の数、減少率を評価 研究グループは、イングランドにおける種々のタイプのACS入院患者数の変化の規模、性質、期間を把握し、COVID-19の世界的流行の結果としての、患者の院内管理への影響を評価する目的で検討を行った(英国医学研究評議会[MRC]などの助成による)。 解析には、Secondary Uses Service Admitted Patient Careデータベースに記録されたイングランドにおける2019年1月1日~2020年5月24日の、ACSのタイプ別の入院データを用いた。 入院患者は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)、非STEMI(NSTEMI)、タイプ不明の心筋梗塞、その他のACS(不安定狭心症を含む)に分類された。また、入院期間中に受けた血行再建術(PCIを行わない冠動脈造影、PCI、冠動脈バイパス術[CABG])が同定された。 入院と手技の数を週単位で算出し、入院とACSタイプ別の減少率および95%信頼区間(IC)が算定された。5月最終週の減少率は16%、入院日数も短縮 ACSによる入院は、2020年2月中旬から減少しはじめ、2019年のベースラインの3,017件/週から、2020年3月末には1,813件/週へと40%(95%CI:37~43)低下した。この減少傾向は、2020年4月~5月には部分的に増加に転じて、5月最終週には2,522件/週へと上昇し、ベースラインからの減少率は16%(13~20)となった。 入院数の減少期間中は、ACSのすべてのタイプで入院数が低下したが、STEMIとNSTEMIでは、NSTEMIで減少率が高く、2019年の1,267件/週から2020年3月末の733件/週へと42%(95%CI:38~46)低下した。 並行して、PCI施行数も減少し、STEMIでは2019年の438件/週から2020年3月末には346件へと21%(95%CI:12~29)低下し、NSTEMIでは383件/週から240件/週へと37%(29~45)減少した。 また、ACS患者の入院期間中央値は、2019年は4日(IQR:2~9)であったが、2020年3月末には3日(1~5)へと短くなった。STEMIは3日から2日へ、NSTEMIは5日から3日へ短縮した。 著者は、「ACSの患者管理へのCOVID-19の影響の全容は、これらの解析を更新することで、引き続き評価されるだろう」とし、「COVID-19の次なる流行時に、不必要な死亡や障害を回避するためにも、ACSなどの緊急性の高い疾患の患者が救急診療部を受診しない理由を解明し、速やかに対処すべきである」と指摘している。

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ISCHEMIA-CKD試験における血行再建術の有用性検討について(解説:上田恭敬氏)-1259

 中等度から高度の心筋虚血所見を認める重症CKD合併安定狭心症患者に対して、薬物療法に加えて血行再建術(PCIまたはCABG)を施行する(invasive strategy)か否か(conservative strategy)で2群に無作為に割り付けたRCTであるISCHEMIA-CKD試験からの報告で、invasive strategyの症状軽減効果について解析した結果である。 3ヵ月の時点ではinvasive strategyで症状軽減効果が示されたが、3年後にはその差は消失した。また、試験登録時の症状出現頻度が低いほど、その有効性は小さかった。著者らはconservative strategyに比してinvasive strategyに有用性はないと結論している。 本当に意味のない試験あるいは解析と言ったら言い過ぎだろうか。まず、試験登録時点で症状を認めない患者が約半数含まれており、これらの対象患者への症状軽減効果を検討すること自体無意味であろう。また、invasive strategy群に割り付けられた患者が実際に血行再建術を受けた割合が約50%というのもお粗末な結果である。血行再建術を行わなかった「common」な理由として狭窄病変がなかったことと記載されていることや、そもそも虚血評価をコアラボで行っていないことから考えると、適切な対象患者が選択されたのか疑問である。さらに、conservative strategy群でも約20%の患者で血行再建術が施行されていることも、invasive strategyの効果を正しく検証することを妨げる要因となっているだろう。 明らかに労作性狭心症の原因となる狭窄病変があり、血行再建術が成功すれば、症状は消失あるいは軽減するはずである。その有効性が失われるとすれば、血行再建術の不成功、再狭窄や新規病変の出現が原因となることが想定されるが、この影響がCKDを合併している患者群においては大きいかもしれず、血行再建術の効果が十分発揮されないかもしれないという考えが、本試験を企画するモチベーションとなっていたのだろう。しかし、その点を検証するには、あまりにも不適切な試験デザインとなってしまったのではないだろうか。「CKD合併狭心症患者では、症状改善効果も期待できないため、PCIをしても意味がない」といった間違ったメッセージだけがエビデンスと称して独り歩きしないか心配である。

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DES留置のACS、短期DAPT後にチカグレロル単剤で予後改善/JAMA

 薬剤溶出ステント(DES)留置術を受けた急性冠症候群(ACS)患者では、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を3ヵ月間施行後にチカグレロル単剤療法に切り替えるアプローチは、12ヵ月間のチカグレロルベースのDAPTと比較して、1年後の大出血と心血管イベントの複合アウトカムの発生をわずかに低減し、統計学的に有意な改善が得られることが、韓国・延世大学校医科大学のByeong-Keuk Kim氏ら「TICO試験」の研究グループによって示された。研究の成果は、JAMA誌2020年6月16日号に掲載された。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)としてDES留置術を受けたACS患者では、アスピリン+P2Y12阻害薬による短期DAPT施行後にアスピリンを中止することで、出血リスクが軽減するとされる。一方、新世代DES留置術を受けたACS患者において、アスピリン中止後のチカグレロル単剤療法に関する検討は、これまで行われていなかったという。韓国の38施設が参加した無作為化試験 研究グループは、DES留置後のACS患者における、3ヵ月間のDAPT施行後のチカグレロル単剤への切り替えは、12ヵ月間のチカグレロルベースのDAPTと比較して、純臨床有害事象(net adverse clinical event:NACE)を低減するかを検証する目的で、多施設共同非盲検無作為化試験を実施した(韓国・心血管研究センターなどの助成による)。 対象は、2015年8月~2018年10月の期間に、韓国の38施設でDES(超薄型生体吸収性ポリマーシロリムス溶出性ステント)留置術を受けたACS患者(ST上昇型心筋梗塞、非ST上昇型心筋梗塞、不安定狭心症)であった。 被験者は、3ヵ月間のDAPT(アスピリン+チカグレロル)施行後に、アスピリンを中止してチカグレロル(90mg、1日2回)単剤に移行する群、またはアスピリンを中止せずにチカグレロルベースのDAPTを12ヵ月間継続する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは1年後のNACEの発生とした。NACEは、大出血と主要心脳血管有害事象(MACCE:死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、標的血管再血行再建術)の複合と定義された。大出血の発生は有意に低下、MACCEには差がない 3,056例(平均年齢61歳、女性628例[20%]、ST上昇型心筋梗塞36%、糖尿病27%)が登録され、2,978例(97.4%)が試験を完遂した。チカグレロル単剤群に1,527例、12ヵ月チカグレロルベースDAPT群には1,529例が割り付けられた。 主要アウトカムは、チカグレロル単剤群で59例(3.9%)に発生し、12ヵ月DAPT群の89例(5.9%)と比較して、その差は小さいものの統計学的に有意であった(絶対群間差:-1.98%、95%信頼区間[CI]:-3.50~-0.45、ハザード比[HR]:0.66、95%CI:0.48~0.92、p=0.01)。 事前に規定された10項目の副次アウトカムのうち、8項目には有意な差はみられなかった。TIMI出血基準による大出血(1.7% vs.3.0%、HR:0.56、95%CI:0.34~0.91、p=0.02)および大出血または小出血(3.6% vs.5.5%、0.64、0.45~0.90、p=0.01)の発生は、チカグレロル単剤群で良好であったが、MACCE(2.3% vs.3.4%、0.69、0.45~1.06、p=0.09)およびその5つの構成要素の個々の発生には差がなかった。 著者は、「これらの知見を解釈する際には、イベント発生率が予想よりも低かった点などを考慮する必要がある」としている。

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ISCHEMIA試験の解釈は難しい、試験への私見!(解説:中川義久氏)-1236

 ついに待ちに待った論文が発表された。それは、ISCHEMIA試験の結果を記載したもので、NEJM誌2020年3月30日オンライン版に掲載された。ISCHEMIA試験は、2019年AHAのLate-Breaking Clinical Trialで発表されたものの、論文化がなされていなかったのである。この試験は、安定虚血性心疾患に対する侵襲的な血行再建治療戦略(PCIまたはCABG)と至適薬物療法を優先する保存的戦略を比較したもので、侵襲的戦略は保存的戦略に比べ、虚血性冠動脈イベントや全死因死亡のリスクを抑制しないことを示した。 このISCHEMIA試験の結果については、さまざまな切り口から議論が行われているが、今回は血行再建の適応と、今後の循環器内科医の在り方、といった観点から私見を述べたい。 今後は、安定狭心症に対する冠血行再建法としてのPCIの適応はいっそうの厳格化が行われ、施行する場合には理由を明確に説明できることが必要となろう。患者の症状の改善という具体的な目標の達成のために、そのためだけにPCIをするというのは理解を得やすい説明であろう。一方で、ISCHEMIA試験の結果は、PCIやCABGはまったく役に立たないということを意味するものではない。さらに、血行再建群と保存的治療群の差異は非常に小さい(ない)ともいえ、その分だけ患者自身の考えを尊重する必要も高くなる。つまり、「シェアード・ディシジョン・メイキング(shared decision making)」の比重も増してくる。 生命予後改善効果が血行再建群で認められないことにも言及したい。冠血行再建で改善が見込まれる虚血という因子以外のファクター、つまり、年齢・血圧・糖代謝・脂質・腎機能・喫煙・心不全などの要因、さらには結果としての動脈硬化の進行のスピードのほうが生命予後においてはより重要な規定因子なのである。冠動脈という全身からみれば一部の血流を治すくらいで、人は長生きするようにはならないのであろう。心臓という臓器に介入したのだから生命予後が改善するはずだ、というのは医療サイドの思い込みなのかもしれない。 循環器内科医だけでなく医師として、ISCHEMIA試験の登録基準に該当する患者が目の前にいた場合に何をどうすれば良いのか? まず何よりも生活習慣の修正を含めた至適薬物療法をすぐに開始することである。循環器内科医として患者に関与するうえで、「PCIのことしか知りません」は容認されない。心不全、不整脈、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、脂質低下療法、抗血栓療法などについての知識を習得し活用できることは、これまで以上に必須となる。 それにしても、ISCHEMIA試験の解釈は難しい。

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衝撃のISCHEMIA:安定冠動脈疾患に対する血行再建は「不要不急」なのか?(解説:中野明彦氏)-1224

はじめに 安定型狭心症に対する治療戦略は1970年代頃からいろいろな構図で比較されてきた。最初はCABG vs.薬物療法、1990年代はPCI(BMS) vs.CABG、そして2000年代後半からPCI(+OMT)vs.OMT(最適な薬物療法)の議論が展開された。PCI vs.OMTの代表格がCOURAGE試験(n=2,287)1)やBARI-2D(n=2,368)、FAME2試験(n=888)である。とりわけ米国・カナダで行われ、総死亡+非致死性心筋梗塞に有意差なしの結果を伝えたCOURAGE試験のインパクトは大きく、米国ではその後の適性基準見直し(AUC:appropriate use criteria)や待機的PCI数減少につながった。一方COURAGEはBMS時代のデータであり、症例選択基準やPCI精度にバイアスが多いなど議論が沸騰、結局「虚血領域が広ければPCIが勝る」とのサブ解析2)が出て何となく収束した。しかしこの仮説は後に否定され3)、本試験15年後のfollow-up4)も結論に変化はなかった。ISCHEMIA試験:主要評価項目安定冠動脈疾患、侵襲的戦略と保存的戦略に有意差なし/NEJM 上記PCI vs.OMTの試験はサンプルサイズ・デバイス(BMSが主体)・虚血評価不十分・低リスクなどが問題点として指摘された。ISCHEMIA試験はこうしたlimitationを払拭し COURAGEから10年以上の時を経て発表されたが、そのインパクトはさらに大きかった。構図は侵襲的戦略 vs.保存的戦略、すなわち血管造影を行い可能なら血行再建療法(PCI or CABG)を行う群と、基本的にはOMTで抵抗性の場合のみ血行再建療法を加える群との比較である。米国の公的施設(NHLBI)の援助を受けた37ヵ国の国際共同試験で、対象はストレスイメージング・FFRや運動負荷試験によって中等度~高度の虚血が証明された安定型狭心症である。そもそもOMTで事足りるということか、血管造影は行わず冠動脈CT で左冠動脈主幹病変を除外してランダム化された(n=5,179)のも特徴的であり、結果として造影による選択バイアスは減少した。実際の血行再建はそれぞれ79%(PCI 76%、CABG 24%)と21%に施行され、PCIはDESを原則とした。 今度こそは侵襲的戦略(血行再建療法)有利と思われたが、3.2年以上(中間値)の追跡期間で、主要評価項目(心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症・心不全・心停止後の蘇生に伴う入院、の複合エンドポイント)の血行再建群の調整後ハザード比は0.93(95%CI:0.80~1.08、p=0.34)と優位性は示されなかった。 ACSの多くは非狭窄部から発生することが以前から指摘されている。したがってPCIで stable plaqueをつぶしても予後改善や心筋梗塞発症抑制につながらない。これが永らくPCI がCABGに勝てない理由である。しかしISCHEMIA試験ではそのCABGを仲間に加えてもOMTに勝てなかった。ソフトエンドポイント:QOLの改善効果 ISCHEMIA試験の「key secondary outcomes」の1つに狭心症由来のQOLが加えられ、今回その詳細が報告された。1次エンドポイントである「SAQ Summary score:Angina Frequency score・Physical Limitation score・Quality of Life scoreの平均値」は両群とも平均70強(登録時)だった。Angina Frequency scoreは登録時平均80強(週1回程度の狭心症状に相当)で、それ以上(毎日あるいは週数回)が2割、無症状も1/3を占めていた。少なくとも36ヵ月までは血行再建群で症状緩和効果は維持され、登録時に狭心症状が強い症例ほど恩恵が多い、という骨子は常識的な結論であろう。 しかし同様の検討が行われたCOURAGE試験では、24ヵ月まで保たれたQOLの改善効果が36ヵ月後には消滅してしまった5)。確かに本試験でもポイント差が縮まってきており、この先を注視する必要がある。予後もイベントも抑えないから「不急」であるが、もし症状を抑える効果も限定的なら「不要」の議論も起こり得る。そして折しも 新たなデバイスや手技の進化に閉塞感が漂う血行再建術と、PCSK9阻害薬・SGLT2阻害薬・新規P2Y12受容体拮抗薬など次々EBMが更新される薬物療法、両者の位置付けはこれからどうなるだろうか? 日本でも数年前から安定冠動脈疾患に対する治療戦略が問われており、PCIへの診療報酬はAUCを前提にしつつ冷遇の方向に改定されている。折しも、新型コロナウイルスパンデミックへの緊急事態宣言発令を受けて、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)から“感染拡大下の心臓カテーテル検査及び治療に関する提言”が出された。曰く「慢性冠症候群、安定狭心症に対するPCIで、緊急性を要しないものについては延期を推奨する」である。時同じくして掲載されたISCHEMIA試験はこれにお墨付きを与えることになった。 今回のパンデミックにより今まで当たり前だったことが当たり前ではなくなった。人々の価値観や人生観・死生観までもが変容するに違いない。虚血性心疾患に対する医療もアフター・コロナでは新たなパラダイムシフトで臨むことになるのかもしれない。

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今、私たちは冠動脈疾患治療の分岐点にいる(解説:野間重孝氏)-1219

 至適内科治療(optimal medical therapy:OMT)という言葉がある。虚血性心疾患は典型的な複合因子的疾患であり、単に血圧を下げるとか禁煙してもらうというだけでは発症予防(1次予防)もその進展の予防(2次予防)もできない。主立った因子をすべてコントロール、それもエビデンスのある薬剤・方法を用いて複合的にコントロールすることによって虚血性心疾患の1次・2次予防をしようという考え方である。90年代の半ば過ぎに確立され、その後種々の改良・改変を加えられたが、その大体の考え方は変わっていない。そこに至るには危険因子の徹底的な洗い出し、それに対する対処とそのエビデンスの蓄積があったことは言うまでもない。世紀をまたぐころにはOMTは虚血性心疾患治療の基礎として確立されたばかりでなく、血行再建術の代替えにもなりうるとも考えられるまでになった。心筋梗塞、不安定狭心症などのいわゆる急性冠症候群(ACS)では血行再建術が絶対適応となっているが、安定狭心症に対しては血行再建術と同程度の治療効果が得られることが期待されるまでになった。この方面での治験のエンドポイントは死亡+非致死的心筋梗塞の発生に置かれることが多いが、いろいろな比較試験でコントロールにされたOMT群の発症率はいずれにおいても20%を切る結果(18%~19%程度)が示されている。 血行再建術に目をやると、実験的ともいえる大動脈-冠動脈バイパス術(CABG)が行われたのは1964年にさかのぼるが、人工心肺と心筋保護法の発達により安定した体外循環心停止下でのCABGが行われるのは80年代になってからといえる。一方、冠動脈インターベンション(PCI)は、Gruentzigが1977年に初めて実験的バルーンインターベンションに成功し、以来デバイスの進歩とも相まって急速に普及し現在に至っている。一部に誤解があり、CABGのほうがかなり先行した技術であると考えている人が多いが、両者は(確かに10年くらいのズレはあるにせよ)同時進行的に発達してきた治療技術であると考えるのが正しい。両者の優劣についてよく論じられるが、評者はこの比較にあまり意味があるようには思えない。CABGは開胸・人工的心停止というリスクを背負いながらも、PCIでは危険な病変の治療、到達できない地点への血行再建、複数箇所の同時血行再建が可能であるが、その手術の性格から何度も行えるものではない。一方PCIは現在、機材・技術の進歩により従来は難しかった病変の治療も可能になり、その点が強調されることが多いが、最大の利点は何回でも、またさまざまな場所に施行できる(いわば“モグラたたき”ができる)ことにあるといえる。つまり両者は競い合う性格のものではなく、補い合うべき技術なのである。 OMTもほぼ確立され、血行再建術も成熟し、冠動脈疾患治療は新しい時代に入ったと多くの医師も患者も考えていた矢先に、これに水をかけるような研究が発表された。2007年に発表されたCOURAGE試験である。OMTに加え、適切な血行再建術が行われれば虚血性心疾患の予後は改善されると誰もが信じていた矢先に、血行再建術は症状の改善はもたらしても、付加的な予後の改善はもたらさないという結果が発表されたのである。この事実は多くの循環器科医に虚血性心疾患の治療を再考させるきっかけとなったが、血行再建術に携わってきた医師たちにとっては自分たちのやってきたことが否定されたに等しかった。その後DEFER試験に代表されるようにFFRなどの指標を用いて、適切な病変を選んで治療すれば成績は良いという結果が示されたこともあり、わが国でカテーテル治療が減ることはなかった。 そんな流れの中、AHA2019でまたしても衝撃的な発表がなされた。ISCHEMIA試験である。彼らは比較的重症患者を含めた母集団5,179例をOMT群とOMT+血行再建群に分けて4.4年フォローした(エンドポイントは死亡と非致死的心筋梗塞の発生)。その結果はOMTのみの群と血行再建群とで結果が同等であったばかりか、治療後の1年半は血行再建群のリスクのほうが高いというものだった。 さて、今回の試験は同様の事実が高度の腎機能障害を持った患者群でもみられるのかということを検証したものである。というのも、COURAGEやISCHEMIAを含め種々の臨床試験では重症腎機能障害患者が対象から除外されていたからである。しかして、結果は予想されたようにOMT群と血行再建群で差がみられなかった。 もし今回の結果だけをみるならば、いろいろと理屈がいえるのではないかと思う。というのは、高度腎機能障害を持つ患者とはつまり冠動脈を含めて全身に強い動脈硬化を持つ患者であり、冠動脈についていえば、責任病変と思われる病変を治療しても第2、第3の病変が進展してしまうことにより当初の治療効果を打ち消してしまうことになるのではないか、といった解釈である。しかし一連の研究の流れは、そういったものではないことを示していると考える以外にないと考えられる。 では、安定狭心症に対する血行再建術はまったく意味のないものなのだろうか。評者は長く実臨床に携わってきた者として、確かに血行再建術によって新しい人生を手に入れることができた患者たちをたくさんみてきた。反対に、症状が取れたからといって内科的にフォローしているうちに、次第に心機能が悪化してきてしまった患者もみてきた。では「お前は自分の診ている患者で、PCIで明らかに症状の改善が得られることがわかっている場合PCIをやらないのか」と問われれば、まず絶対に「やる」と答えるだろう。 私たちは今、直線的に進行してきた歴史の転換点に来ているのだと思う。虚血の評価は、始めは造影した見た目だった。これにFFRをはじめとする指標やアイソトープによる虚血範囲の同定など種々の判断基準が加わった。しかし、まだ何かが足りないのである。臨床医の実経験として、確かに血行再建により良好な予後を手に入れることができた患者がいたことがわかっている以上、どうしたらそういう患者を同定することができるのか、そうした指標・基準が欲しいのである。一方、OMTにも血行再建にも限界があることがわかっている。ではこれらに加えて何ができるのだろうか。不満なのは冠動脈治療に関していえば、新しい治療、新しい技術の開発がすっかり停止してしまっていることである。評者らは老研究者として確かにひとつの時代を築いてきたという自負がある。若い人たち! 君たちの新しい時代を開く手・力に期待している。

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安定冠動脈疾患、侵襲的戦略と保存的戦略に有意差なし/NEJM

 中等度~重度の虚血を有する安定冠動脈疾患患者の初回治療では、侵襲的介入+薬物療法と薬物療法単独のアウトカムの違いは明確でないという。米国・スタンフォード大学のDavid J. Maron氏らは、5,000例以上の安定冠動脈疾患患者を対象とする国際的な臨床試験「ISCHEMIA試験」で、侵襲的戦略は保存的戦略に比べ、虚血性冠動脈イベントや全死因死亡のリスクを抑制しないことを示した。研究の詳細は、NEJM誌2020年4月9日号に掲載された。安定冠動脈疾患5,179例を侵襲的戦略群と保存的戦略群に割り付け 本研究は、日本を含む37ヵ国320施設が参加した無作為化試験であり、2012年7月~2018年1月の期間に患者登録が行われた(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 中等度~重度の虚血を有する安定冠動脈疾患患者が、侵襲的戦略(血管造影、実行可能な場合は血行再建術を行う)+薬物療法を受ける群、または保存的戦略(薬物療法単独、薬物療法が無効な場合は血管造影を行う)を受ける群に、無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症または心不全による入院、心停止からの蘇生の複合であった。主な副次アウトカムは、心血管死と心筋梗塞の複合だった。 安定冠動脈疾患5,179例が登録され、侵襲的戦略群に2,588例、保存的戦略群には2,591例が割り付けられた。全体の年齢中央値は64歳(IQR:58~70)、男性が77.4%(4,011例)であった。ベースラインの患者背景因子は両群でバランスがよく取れており、リスク因子のコントロールや薬物療法の状況も類似していた。LDLコレステロール値は、ベースラインが83mg/dLで、最終受診時は64mg/dLだった。 侵襲的戦略群では、96%で血管造影が施行され、79%が血行再建術を受けた(PCI例74%、CABG例26%)。保存的戦略群では、26%で血管造影が行われ、21%が血行再建術を受けた。再施行を含め、侵襲的手技の総数は、侵襲的戦略群が5,337件、保存的戦略群は1,506件だった。安定冠動脈疾患患者において侵襲的戦略は保存的戦略に比べ虚血性冠動脈イベントや全死因死亡リスクを抑制しない 追跡期間中央値3.2年の時点で、安定冠動脈疾患患者の主要アウトカムのイベントは、侵襲的戦略群で318件、保存的戦略群では352件が発生した。事前に規定された共変量で補正したCoxモデル解析では、侵襲的戦略群の保存的戦略群に対するハザード比(HR)は0.93(95%信頼区間[CI]:0.80~1.08、p=0.34)であった。 また、6ヵ月の時点での主要アウトカムの推定累積イベント発生率は、侵襲的戦略群が5.3%、保存的戦略群は3.4%(群間差:1.9ポイント、95%CI:0.8~3.0)であり、5年時はそれぞれ16.4%および18.2%であった(-1.8、-4.7~1.0)。 安定冠動脈疾患患者の主な副次アウトカム(イベント数276例vs.314例)、全死因死亡(145例vs.144例、HR:1.05、95%CI:0.83~1.32)、心筋梗塞(210例vs.233例)のイベント発生にも、両群間に有意な差は認められなかった。 著者は、「これらの知見は、使用された心筋梗塞の定義への感受性が高く、侵襲的戦略群では手技関連の心筋梗塞が多く、非手技関連の心筋梗塞は少なかった」としている。

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第14回 治療編(1)薬物療法【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第14回 治療編(1)薬物療法今回は、治療編として薬物療法に焦点を当てて解説していきたいと思います。「痛み」の原因の分類で、炎症性疼痛があります。何らかの原因で炎症症状が発現し、それによって発痛物質が作り出されると、それが神経の痛み受容器を刺激する結果として、患者さんは痛みを訴えて受診されます。末梢性炎症性疼痛に対する治療薬として使用されるのが、NSAIDs、ステロイド性抗炎症薬です。アセトアミノフェンはNSAIDsとは異なる作用機序ではありますが、比較的よく用いられております。痛み治療第1段階の薬物療法3種まず、痛み治療の第1段階で頻繁に用いられているNSAIDsから説明しましょう。NSAIDs(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)1)作用機序アラキドン酸カスケードのシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase:COX)系の働きを抑制することで、プロスタグランジン(prostaglandin:PG)E2の生産を減少させ、抗炎症作用、血管収縮作用などにより鎮痛作用を示します。末梢性に効果を発揮するため、炎症や腫脹が見られる時に、とくに効果があります。2)投与上の注意COXには、全身の細胞に常在する構成型酵素のCOX-1と、炎症によって生じるサイトカインの刺激によって炎症性細胞に発現する誘導型酵素のCOX-2が存在します。COX-1由来のPGが胃粘膜の血流維持や粘液産生増加、腎血流維持に働いており、通常のNSAIDsを使用する場合には、COX-1阻害作用によって胃潰瘍や消化管出血、腎血流障害などを生じる可能性があります。一方、選択的COX-2阻害薬は、COX-2由来の血小板凝集阻止作用を有するプロスタサイクリン産生を減少させ、トロンボキサン(thromboxane:TX)A2の産生を維持するため、血圧上昇や動脈硬化、血栓形成を促進させる可能性があります。そのため、活動性の動脈硬化病変がある不安定狭心症、心筋梗塞、脳血管虚血症状を有する患者さんに投与する場合は、できるだけCOX-2阻害薬を避けることが望ましいです。以下、主なNSAIDsと投与量を示します(図)。画像を拡大するステロイド性抗炎症薬1)作用機序ステロイドはリポコルチンの生合成を促進して、ホスホリパーゼA2の作用を阻害するによって、最終的にCOX-2やサイトカインの生成を抑制し、鎮痛効果を発揮します。2)投与上の注意局所炎症、神経圧迫や神経損傷による急性疼痛に対しては有用ではありますが、慢性疼痛に対する効果の持続は限定されます。経口投与では、プレドニゾロン20~30mg/日で開始し、1週間程度で治療効果が得られなければ、漸次減量していきます。硬膜外腔投与にはデキサメタゾン2~8mg、関節内投与には同0.8~2mgを投与します。アセトアミノフェン1)作用機序NSAIDsとは異なり、中枢系プロスタノイドの抑制、内因性下行性疼痛抑制系の活性化、内因性オピオイドの増加などによる鎮痛機序が推測されています。本薬には末梢性消炎作用は存在しないために、炎症性疼痛に対してはNSAIDsの短期間投与が推奨されています。2)投与上の注意最近、安全性の高さから1日最大投与量が4,000mgと規定されました。しかしながら、最大量のアセトアミノフェンを長期投与する場合には、肝機能への影響が懸念されるため、経時的な肝機能のモニタリングに留意する必要があります。通常開始量は325~500mg を4時間ごと、500~1000mgを6時間ごとに最大量4,000mgとして投与します。高血圧や心筋梗塞、虚血性心疾患、脳卒中、などの心血管疾患系のリスクを有する患者さんで筋骨格系の痛み治療が必要になった場合には、アセトアミノフェンやアスピリンが薦められています。これらが無効な場合にはNSAIDsを考慮します。その際は、プロトンポンプインヒビターなど胃粘膜保護薬を消化管出血の予防に使用します。以上、痛み治療の第1段階における薬物を取り上げ、その作用機序、投与における注意点などを述べました。読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S152-1532)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S1543)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S167

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進行性腎障害伴う安定冠動脈疾患に侵襲的戦略は有効か/NEJM

 進行性腎障害を伴う安定冠動脈疾患で、中等度~重度の虚血を呈する患者の治療において、侵襲的戦略は保存的戦略に比べ、死亡および非致死的心筋梗塞のリスクを低減しないことが、米国・ニューヨーク大学のSripal Bangalore氏らの検討(ISCHEMIA-CKD試験)で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2020年3月30日号に掲載された。安定冠動脈疾患患者における血行再建術の効果を評価する臨床試験では、通常、進行性の慢性腎臓病患者は除外される。また、1992年の腎移植候補の患者26例の無作為化試験では、血行再建術は薬物療法に比べ心血管死および心筋梗塞のリスクが低いと報告されているが、この30年間で、これらの治療法は劇的に進歩しており、あらためて侵襲的戦略の有益性の検証が求められている。30ヵ国118施設が参加した医師主導無作為化試験 本研究は、30ヵ国118施設が参加した国際的な医師主導の無作為化試験であり、2014年4月~2018年1月の期間に患者登録が行われた(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 対象は、進行性腎障害および中等度~重度の心筋虚血を呈する患者であった。被験者は、薬物療法に加え、冠動脈造影と、実行可能な場合は血行再建術(経皮的冠動脈インターベンション[PCI]または冠動脈バイパス手術[CABG])を受ける群(侵襲的戦略群)、または薬物療法のみを受ける群(保存的戦略群)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、死亡と非致死的心筋梗塞の複合とした。主な副次アウトカムは、死亡、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症または心不全による入院、心停止からの蘇生の複合であった。推定3年イベント発生率:36.4% vs.36.7% 777例が登録され、侵襲的戦略群に388例、保存的戦略群には389例が割り付けられた。全体の年齢中央値は63歳(IQR:55~70)、男性が68.9%を占めた。 ベースライン時に、57.1%が糖尿病で、53.4%が透析を受けていた。透析患者を除く推定糸球体濾過量(eGFR)中央値は23mL/分/1.73m2であった。37.8%が重度の虚血だった。 追跡期間中央値2.2年(IQR:1.6~3.0)の時点で、主要アウトカムのイベントは、侵襲的戦略群123例、保存的戦略群129例で発生し、推定3年イベント発生率はそれぞれ36.4%および36.7%であり、両群間に有意な差は認められなかった(補正後ハザード比[HR]:1.01、95%信頼区間[CI]:0.79~1.29、p=0.95)。 主な副次アウトカムの結果も、主要アウトカムとほぼ同様であった(侵襲的戦略群38.5% vs.保存的戦略群39.7%、補正後HR:1.01、95%CI:0.79~1.29)。 ベイズ解析では、侵襲的戦略群で主要アウトカムのHRが10%以上低下(補正後HR<0.90)する確率は19%で、10%以上増加(補正後HR>1.10)する確率は24%だった。 また、侵襲的戦略群は保存的戦略群に比べ、脳卒中(補正後HR:3.76、95%CI:1.52~9.32、p=0.004)および死亡/透析開始(1.48、1.04~2.11、p=0.03)の発生率が高かった。 著者は、「イベント発生率は予測よりも低く、また侵襲的戦略群における血行再建術の施行率は50.2%、保存的戦略群におけるイベントの確認以外の理由による血行再建術の施行率は11.0%と低かったことから、侵襲的戦略の有益性を示すには、この試験の検出力は十分ではなかった」としている。

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