サイト内検索|page:17

検索結果 合計:422件 表示位置:321 - 340

321.

ACSに対する早期侵襲的治療vs.保存的治療/BMJ

 急性冠症候群(ACS)患者に対し、早期侵襲的治療は保存的治療と比較して、わずかだが急性腎損傷(AKI)リスクを増加することが示された。透析および末期腎疾患(ESRD)進行リスクについては差はなかった。カナダ・カルガリー大学のMatthew T James氏らによる傾向マッチコホート研究の結果、報告された。先行研究において、侵襲的治療後のAKIがESRDや死亡を含む有害転帰と関連していることが示されており、そのため高リスクの腎臓病を有するACS患者に対しては、早期侵襲的治療が行われない一因となっていた。しかし、腎臓の有害転帰との関連について早期侵襲的治療と保存的治療とを比較した検討は行われていなかったという。BMJ誌オンライン版2013年7月5日号掲載の報告より。非ST上昇型ACSの成人患者1万516例を対象に傾向スコア適合コホート研究 研究グループは、ACSの早期侵襲的治療が腎臓の有害転帰や生存と関連しているのか、また慢性腎臓病リスクがある患者では早期侵襲的治療がリスクとなるのか有用となるのかを調べることを目的とした。 2004~2009年にカナダのアルバータ州の急性期病院で被験者を募り、傾向スコア適合コホート研究を行った。 被験者は、非ST上昇型ACSの成人患者1万516例であった。ベースラインのeGFRで階層化し、傾向スコアで1対1の適合を行い、早期侵襲的治療(入院2日以内での冠動脈カテーテルを行う)の介入を行った。 主要評価項目は、早期侵襲的治療を受けた患者と保存的治療を受けた患者で比較した、AKI、透析を必要とする腎損傷、ESRDの進行、および全死因死亡のリスクとした。わずかにAKIリスクを増大 1万516例のうち、早期侵襲的治療を受けたのは4,276例(40.7%)だった。 患者特性を同等に適合させたコホート群(6,768例)でアウトカムを比較した結果、早期侵襲的治療群(3,384例)は保存的治療群と比較して、AKIリスク増大との関連が認められた(10.3%対8.7%、リスク比:1.18、95%信頼区間[CI]:1.03~1.36、p=0.019)。 しかし、透析を必要とした腎損傷のリスクについては差が認められなかった(0.4%対0.3%、同:1.20、0.52~2.78、p=0.670)。 また、追跡期間中央値2.5年間のESRD進行リスクも、両群間で差はみられなかった(100人年当たりのイベント件数0.3対0.4、ハザード比:0.91、95%CI:0.55~1.49、p=0.712)。 一方で、早期侵襲的治療群のほうが、長期的な死亡は有意に低下した(100人年当たり2.4対3.4、同:0.69、0.58~0.82、p<0.001)。 上記の関連性は、ベースラインでeGFR値が異なる患者間で一貫しており、腎臓病既往患者と非既往患者における早期侵襲的治療のリスクとベネフィットは同程度であることが示唆された。 著者は、「ACSへの早期侵襲的治療は保存的治療と比較して、わずかにAKIリスクを増大するが、透析やESRDの長期的進行リスクとは関連していなかった」と結論している。

322.

過体重・肥満の2型糖尿病患者、生活習慣介入強化では心血管リスクは低下しない/NEJM

 過体重・肥満の2型糖尿病患者に対し、生活習慣介入を強化し体重減少を図っても、心血管イベントの発生率は減少しなかったことが明らかにされた。米国・ブラウン大学ワーレンアルパートメディカルスクールのRena R. Wing氏ら「Look AHEAD研究グループ(糖尿病健康アクション)」が報告した。過体重・肥満の2型糖尿病患者には体重減少が推奨されているが、これまで体重減少が心血管疾患へ及ぼす長期的な影響について明らかではなかった。NEJM誌オンライン版2013年6月24日号掲載の報告より。生活習慣介入強化群と糖尿病支援・教育群のアウトカムを比較 研究グループは、過体重もしくは肥満である2型糖尿病患者に対して、生活習慣介入を強化し体重減少を図ることで心血管疾患罹患率および死亡率が低下するかどうかを調べた。 試験は米国の医療施設16ヵ所を通じて行われた。2001年8月~2004年4月の間に5,145例が被験者として登録され、生活習慣介入強化群(2,570例、介入群)もしくは糖尿病支援・教育を受ける群(2,575例、対照群)に無作為に割り付けられ追跡を受けた(最大13.5年)。 主要アウトカムは、追跡期間中の心血管系が原因の死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・狭心症による入院の複合とした。試験は追跡期間中央値9.6年で打ち切り 試験は、追跡期間中央値9.6年で、介入の無益性が明らかになったとして早期打ち切りとなった。 体重減少は、本研究全体を通して、対照群より介入群で大きかった(1年時点:8.6%対0.7%、試験終了時6.0%対3.5%)。 また、生活習慣介入の強化は、初期においては、血糖値(糖化ヘモグロビン)を大きく低下させ、また身体活動度および全心血管リスク因子を大きく改善した。ただし、LDLコレステロール値は除外された(対照群のほうが低値)。 主要アウトカムの発生は、介入群403例、対照群418例であった。発生率はそれぞれ、100人・年につき1.83件、1.92件で、介入群のイベントハザード比は0.95(95%の信頼区間:0.83~1.09、p=0.51)であり有意差は認められなかった。

323.

Vol. 1 No. 2 糖尿病と心血管イベントの関係

横井 宏佳 氏小倉記念病院循環器内科はじめに糖尿病患者の心血管イベント(CV)予防とは、最終的には心筋梗塞、脳梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症といったアテローム性動脈硬化症(ATS)の発症をいかに予防するか、ということになる。そのためには、糖尿病患者の動脈硬化の発生機序を理解して治療戦略を立てることが必要となる。糖尿病において見られるアテローム血栓性動脈硬化症の促進には慢性的高血糖、食後高血糖、脂質異常症、インスリン抵抗性を含むいくつかの代謝異常が関連しており、通常状態や血管再生の状態でのCVを起こすような脆弱性を与える。また、代謝異常に加えて、糖尿病は内皮細胞・平滑筋細胞・血小板といった複数の細胞の配列を変える。糖尿病が関連するATSのいくつかの特徴の記述があるにもかかわらず、ATS形成過程の始まりと進行の確定的なメカニズムはわからないままであるが、実臨床における治療戦略としてはATSに関わる複数の因子に対して薬物治療を行うことが必要になる。インスリン抵抗性脂質代謝異常、高血圧、肥満、インスリン抵抗性はすべて、メタボリックシンドロームのカギとなる特徴であり、引き続いて2型糖尿病に進行する危険性の高い患者の最初の測定可能な代謝異常でもある。インスリン抵抗性は、インスリンの作用に対する体の組織の感度が低下することであり、これは筋肉や脂肪でのグルコース処理や肝臓でのグルコース産出でのインスリン抑制に影響する。結果的に、より高濃度のインスリンが、末梢でのグルコース処理を刺激したり、2型糖尿病患者では糖尿病でない患者よりも肝臓でのグルコース産出を抑制したりするのに必要である。生物学的なレベルでは、インスリン抵抗性は凝固、炎症促進状態、内皮細胞機能障害、その他の病態の促進に関連している。インスリン抵抗性の患者では、内皮細胞依存性血管拡張は減少しており、機能障害の重症度はインスリン抵抗性の程度と相互に関係している。インスリン抵抗性状態での内皮細胞依存性血管拡張異常は、一酸化窒素(NO)の産生を減少させる細胞内シグナルの変化によって説明できる。つまり、インスリン抵抗性は、遊離脂肪酸値の上昇と関連しており、それがNO合成酵素の活性を減少させ、インスリン抵抗性状態においてNOの産生を減らす。臨床的には、インスリン抵抗性はCVリスクを増加させることに関連している。当院の2006年の急性心筋梗塞患者連続137例の検討では、本邦のメタボリックシンドロームの診断基準を満たす患者は49%を占めており、久山町研究の男性29%、女性21%よりも高率であった。この傾向は1990年前半に行われた米国の全国国民栄養調査の成績と同様であった。また、当院で施行した糖尿病と診断されていない患者への糖負荷試験と冠動脈CTの臨床研究でも、インスリン抵抗性と冠動脈CT上の不安定プラークの存在(代償性拡大、低CT値、限局性石灰化)との間に有意な相関を認めた。インスリン抵抗性を改善する薬物にはビグアナイド薬(BIG)とチアゾリジン薬(TZD)が存在するが、ATSの進展抑制の観点からはTZDがより効果的である。TZD(PPARγアゴニスト)は、血中インスリン濃度を高めることなく血糖を低下させる効果を有し、インスリン抵抗性改善作用はBIGよりも強力である。また、糖代謝のみならず、BIGにはないTG低下、HDL増加といった脂質改善作用、内皮機能改善による血圧降下作用、アディポネクチンを直接増加させる作用を有し、抗動脈硬化作用が期待される。さらに、造影剤使用時の乳酸アシドーシスのリスクはなく、PCIを施行する患者には安心して使用できる利点がある。このほかに、血管壁やマクロファージに直接作用して抗炎症、抗増殖、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1( PAI-1)減少作用を有することが知られている。この血管壁に対する直接作用はATS進展抑制作用が期待され、CVイベント抑制に繋がる可能性が示唆される。実際、臨床のエビデンスとしては、PROactive試験のサブ解析における心筋梗塞既往患者2,445例を抽出した検討で、ピオグリタゾン内服患者が非内服患者に比較して、心筋梗塞、急性冠症候群(ACS)などの不安定プラーク破裂により生じる心血管イベントは有意に低率であることが示されている。またPERISCOPE試験では、糖尿病を有する狭心症患者におけるIVUSを用いた検討において、SU剤に比較してピオグリタゾンは18か月間の冠動脈プラークの進行を抑制し、退縮の方向に転換させたことが明らかとなり、CV抑制の病態機序が明らかとなった。また、ロシグリタゾンではLDL上昇作用によりCVイベントを増加させるが、ピオグリタゾンのメタ解析ではCVイベントを有意に抑制することが報告されている。ピオグリタゾンは、腎臓におけるNa吸収促進による循環血液量の増大による浮腫、体重増加、心不全の悪化、骨折、膀胱癌などの副作用が指摘されているが、CVイベント発症時の致死率を考えるとrisk/benefitのバランスからは、高リスク糖尿病患者には血糖管理とは別に少なくとも15mgは投与することが望ましいと思われる。内皮細胞機能障害糖尿病血管疾患は内皮細胞機能障害によって特徴づけられ、それは、高血糖、遊離脂肪酸産生の増加、内皮細胞由来のNOの生物学的利用率の減少、終末糖化産物(AGE)の形成、リポ蛋白質の変化、そして前述のインスリン抵抗性と関係する生物学的異常である。内皮細胞由来のNOの生物学的利用率の減少は、後に内皮細胞依存性の血管拡張障害を伴うが、検出可能なATS形成が進行するよりもずっと前に糖尿病患者において観察される。NOは潜在的な血管拡張因子であり、内皮細胞が介在して制御する血管弛緩のメカニズムのカギとなる物質である。加えて、NOは血小板の活性を抑え、白血球が内皮細胞と接着したり血管壁に移動したりするのを減少することによって炎症を制限し、血管平滑筋細胞の増殖と移動を減らす。結果として、正常な場合、血管壁におけるNO代謝は、ATS形成阻害という保護効果を持つ。AGEの形成は、グルコースについているアミノ基の酸化の結果である。増大するAGE生成物によって誘発される追加の過程は、内皮下細胞の増殖、マトリックス発現、サイトカイン放出、マクロファージ活性化、接着分子の発現を含んでいる。慢性的高血糖、食後高血糖による酸化ストレスが、糖尿病合併症の病因として重要な役割を果たしているのだろうと推測されている。高血糖は、グルコース代謝を通して直接的にも、AGEの形成とAGE受容体の結合という間接的な形でも、ミトコンドリア中の活性酸素種の産生を誘発する。臨床的には内皮細胞機能障害がATSの進行を助長するのみならず、冠動脈プラーク破裂の外的要因である冠スパスムも助長することになる。急性心筋梗塞患者の20%は冠動脈に有意狭窄はなく、薬物負荷試験で冠スパスムが誘発される。高血圧患者に対して施行されたVALUE試験では、スパスムを予防できるカルシウム拮抗薬(CCB)が有意にアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)よりも心筋梗塞の発症を予防すること、またBPLTTCのメタ解析では、NO産生を促すACE阻害薬がARBよりも冠動脈疾患の発生が少ないことなどが明らかにされ、これらの結果は、心筋梗塞の発生に内皮細胞機能障害によるスパスムが関与していることを示唆している。従って糖尿病患者においては内皮細胞機能障害を念頭に、特にスパスムの多いわが国においては、降圧薬としてはHOPE試験でエビデンスのあるRA系阻害薬に追加してCCBの投与を考慮すべきではないかと思われる。また、グルコーススパイクが内皮細胞のアポトーシスを促進させることが知られている。自験例の検討でも、食後高血糖がPCI施行後のCVイベント発症を増加させることが判明しており、STOP-NIDDM試験、MeRIA-7試験のエビデンスと合わせて、内皮機能障害改善のためにα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)の投与も考慮すべきであると思われる。血栓形成促進性状態糖尿病患者が凝固性亢進状態にあるという知見は、血栓形成イベントのリスク増加と凝固系検査値の異常が基となっている。ACS患者の血管内視鏡による検討では、プラーク潰瘍および冠内血栓は、糖尿病患者においてそうでない患者よりも頻繁に見られることが明らかにされている。同様に、血栓の発生率は、糖尿病患者から取った粥腫切除標本の方が、そうでない患者から取ったそれよりも高いこともわかった。糖尿病患者では、ずり応力(シェアストレス)に対して、血小板の作用と凝集が亢進し、血小板を刺激する。加えて、血小板表面上の糖タンパク質GP-Ib受容体やGPⅡb/Ⅲaの発現が増加するといわれている。その上、抗凝集作用を持つNOやプロスタサイクリンの内皮細胞からの産生が減少するのに加え、フィブリノゲン、組織因子、von Willebrand因子、血小板因子4、因子Ⅶなどの凝血原の値が増加し、プロテインC、抗トロンビンⅢなどの内因性抗凝血物質の濃度が低下することが報告されている。さらにPAI-1が内在性組織のプラスミノーゲンアクチベーター仲介性線溶を障害する。つまり、糖尿病は、内因性血小板作用亢進、血小板作用の内在性阻害機構の抑制、内在性線溶の障害による血液凝固の亢進によって特徴づけられる。臨床的には、CVイベント予防のために高リスク糖尿病患者へのアスピリン単剤投与がADAのガイドラインでも推奨されている。クロピドグレルの併用は、出血のリスクとのバランスの中で症例個々に検討していく必要があると思われる。GPⅡb/Ⅲa受容体拮抗薬は、糖尿病患者のPCIの予後を改善することが報告されているが、本邦では未承認である。炎症状態炎症は、急性CVイベントだけでなくATS形成の開始と進行にも関係がある。糖尿病を含むいくつかのCVリスクファクターは炎症状態の引き金となるだろう。白血球は一般的には炎症の主要なメディエーターと考えられているが、近年では、炎症における血小板がカギとなる役割を果たすことが報告されている。この病態と関連する代謝障害が血管炎症の引き金となるということはもっともなことだが、その逆もまた正しいのかもしれない。従って、C反応性タンパク質(CRP)が進行する2型糖尿病のリスクを非依存的に予測するものとして示されてきた。糖尿病や明らかな糖尿病が見られない状態でのインスリン抵抗性状態において上昇する炎症パラメーターには、高感度C反応性タンパク質(hsCRP)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、循環性(可溶性)CD40リガンド(sCD40L)がある。さらに内皮細胞(E)-セレクチン、血管細胞接着分子1(VCAM-1)、細胞内接着分子1(ICAM-1)などの接着分子の発現が増加することもわかっている。血管炎症作用亢進状態での形態学的な基質は、ACS患者の粥腫切除標本の分析から得たものである。糖尿病患者の組織は、非糖尿病患者の組織と比較して、脂質優位の粥腫がより大部分を占めており、より明らかなマクロファージ浸潤が見られる。特に糖尿病患者においては、冠血管のATS形成過程を促進することでAGE受容体(RAGE)が炎症過程や内皮細胞作用に重要な役割を果たすかもしれない。近年では、ATS形成が見られる患者における炎症促進のカギとなるサイトカインであるCRPが、内皮細胞でのRAGE発現をアップレギュレートすることが報告されている。これらの知見は、炎症、内皮細胞機能障害、ATS形成における糖尿病の機構的な関連を強化している。臨床的にCVイベントの発生に炎症が関与しており、その介入治療としてスタチンが効果的であることがJUPITER試験より明らかとなった。CARDS試験ではストロングスタチンが糖尿病患者のCVイベント抑制に効果的であることが報告されたが、この効果はLDL低下作用とCRP低下作用の強力な群でより顕著であった。2010年、ADAでは糖尿病患者のLDL管理目標値は1次予防で100mg/dL、2次予防で70mg/dLとより厳格な脂質管理を求めているが、脂質改善のみならず、抗炎症効果を期待したものでもあると思われる。プラーク不安定性と血管修復障害ATS形成の促進に加えて、糖尿病ではプラーク不安定性も起きる。糖尿病患者での粥状動脈硬化症病変は、非糖尿病患者に比して、血管平滑筋細胞が少ないことが示されている。コラーゲン源として血管平滑筋細胞は粥腫を強化し、それを壊れにくくする。加えて、糖尿病の内皮細胞は、血管平滑筋細胞によるコラーゲンの新たな合成を減少させる過剰量のサイトカインを産生する。そして最後に、糖尿病はコラーゲンの分解につながるマトリックスのメタロプロテイナーゼの産生を高め、プラークの線維性キャップの機械的安定性を減少させる。つまり、糖尿病はATS病変の形成、プラーク不安定性、臨床的イベントによって血管平滑筋細胞の機能を変える。糖尿病患者では非糖尿病患者より、壊れやすい脂質優位のプラークの量が多いことが報告されてきた。その上、糖尿病患者では、血管修復に重要な制御因子であると考えられているヒト内皮前駆細胞の増殖、接着、血管構造への取り込みが障害されていることが近年の知見で示唆されている。前述の機能障害に加えて、年齢と性をマッチさせ調整した対照群と比較して、培養液中の糖尿病患者から取った内皮前駆細胞の数が減っていることがわかり、その減少は逆にHbA1c値と関係していた。別の調査では、末梢動脈疾患を持つ糖尿病患者では、内皮前駆細胞値が特に低いことが報告されており、この株化細胞の枯渇が、末梢血管の糖尿病合併症の病変形成に関わっているのではないかと推測されている。ピオグリタゾンは糖尿病患者の内皮前駆細胞を増加させることが知られている。まとめ以上のごとく、糖尿病患者のCVイベント予防のためにはHbA1cの管理に加えて、ATS発症に影響を及ぼす多様な因子に対して集学的アプローチが重要となる。Steno-2試験では糖尿病患者に対して血糖のみならず、脂質、高血圧管理を同時に厳格に行うことでCVイベントを抑制した。血糖管理に加えて、スタチン、アスピリン、RA系阻害薬、CCB、TZD、α-GIによる血管管理がCVイベント抑制に効果的であると思われる。また、今後EPA製剤による脂肪酸バランスの是正、DPP-4やGLP-1などのインクレチン製剤による心血管保護も、糖尿病患者のCVイベント抑制に寄与することが期待される。今後は、糖尿病患者ごとにCVイベントリスクを評価し、薬物介入のベネフィットとリスクとコストのバランスを考慮して最適な薬物治療を検討していくことが重要になると思われる。このような観点から、今後登場する各種合剤は、この治療戦略を実行する上で患者服薬コンプライアンスを高め、助けになると思われる。

324.

病院側の指示に従わず狭心症発作で死亡した症例をめぐって、医師の責任が問われたケース

循環器最終判決平成16年10月25日 千葉地方裁判所 判決概要動悸と失神発作で発症した64歳女性。冠動脈造影検査で異型狭心症と診断され、入院中はニトログリセリン(商品名:ミリスロール)の持続点滴でコントロールし、退院後はアムロジピン(同:ノルバスク)、ニコランジル(同:シグマート)、ジルチアゼム(同:ヘルベッサー)、ニトログリセリン(同:ミリステープ、ミオコールスプレー)などを処方されていた。発症から5ヵ月後、再び動悸と気絶感が出現して、安静加療目的で入院となった。担当医師はミリスロール®の点滴を勧めたが、前回投与時に頭痛がみられたこと、点滴に伴う行動の制限や入院長期化につながることを嫌がる患者は、「またあの点滴ですか」と拒否的な態度を示した。仕方なくミリスロール®の点滴を見合わせていたが、患者が看護師の制止を聞かずトイレ歩行をしたところ、再び強い狭心症発作が出現し、さまざまな救命措置にもかかわらず約2時間後に死亡確認となった。詳細な経過患者情報64歳女性経過平成11(1999)年2月10日起床時に動悸が出現し、排尿後に意識を消失したため、当該総合病院を受診。胸部X線、心電図上は異常なし。3月17日~3月24日失神発作の精査目的で入院、異型狭心症と診断。3月24日~3月27日別病院に紹介入院となって冠動脈造影検査を受け、冠攣縮性狭心症と診断された。6月2日早朝、動悸とともに失神発作を起こし、当該病院に入院。ミリスロール®の持続点滴と、内服薬ノルバスク®1錠、シグマート®3錠にて症状は改善。6月9日失神や胸痛などの胸部症状は消失したため、ミリスロール®の点滴からミリステープ®2枚に変更。入院当初は頭痛を訴えていたが、ミリステープ®に変更してから頭痛は消失。6月22日状態は安定し退院。退院処方:ノルバスク®1錠、ミリステープ®2枚、チクロピジン(同:パナルジン)1錠、シグマート®3錠、ロキサチジン(同:アルタット)1カプセル。7月2日起床時に動悸が出現、ミオコールスプレー®により症状は改善。7月5日起床時に動悸が出現、ミオコールスプレー®により症状は改善。7月7日起床時立ち上がった途端に動悸、気絶感が出現したとの申告を受け、ノルバスク®を中止しヘルベッサー®を処方。7月12日05:30起床してトイレに行った際に動悸、気絶感が出現。トイレに腰掛けてミオコールスプレー®を使用した直後に数分間の意識消失がみられた。06:50救急車で搬送入院。安静度「ベッド上安静」、排泄「尿・便器」使用、酸素吸入(1分間当たり1L)、ミリステープ®2枚(朝、夕)、心電図モニター使用、胸痛時ミオコールスプレー®を2回まで使用と指示。09:30入室直後に尿意を訴えた。担当看護師は医師の指示通り尿器の使用を勧めたが、患者は尿器では出ないのでトイレに行くことに固執したため、看護師長を呼び、ベッドを個室トイレの側まで動かし、トイレで排尿させた。排尿後に呼吸苦がみられたので、酸素吸入を開始し、ミリステープ®を貼用したところ2~3分で落ちついてきた。担当看護師は定時のシグマート®、ヘルベッサー®を内服させ、今後は尿器を使用することを促した。担当医師も訪室して安静にすべきことを説明し、ミリスロール®の点滴を勧めたが、患者は「またあの点滴ですか」と拒否的な態度を示したため、やむを得ずミリスロール®の点滴をしないことにした。その後、胸部症状は消失。15:00見舞いにきた家族が「点滴していなかったんだね」といったところ、患者は「軽かったのかな」と答えたとのこと(病院側はその事実を確認していない)。18:30尿意がありトイレでの排尿を希望。担当看護師は尿器の使用を勧めたが、トイレへ行きたいと強く希望したため、看護師は医師に確認するといって病室を離れた(このとき担当医師とは連絡取れず)。18:43トイレで倒れている患者を看護師が発見。ただちにミオコールスプレー®を1回噴霧したが、「胸苦しい、苦しい」と状態は改善せず。18:50ミオコールスプレー®を再度噴霧したが状態は変わらず、四肢冷感、冷汗が認められ、駆けつけた医師の指示でニトログリセリン(同:ニトロペン)1錠を舌下するが、心拍数は60台に低下、血圧測定不能、意識低下、自発呼吸も消失した。19:00乳酸リンゲル液(同:ラクテック)にて血管確保、心拍数30~40台。19:10イソプレナリン(同:プロタノール)1A、アドレナリン(同:ボスミン)1Aを静注するとともに、心臓マッサージを開始し、心拍数はいったん60台へと回復。19:33気管内挿管に続き、心肺蘇生を続行するが効果なし。20:22死亡確認。死因は致死性の狭心症発作と診断した。死亡後、担当医師は「点滴(ミリスロール®)をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」と述べたと患者側は主張するが、その真偽は不明。当事者の主張1. 担当医師が硝酸薬の点滴をしなかった点に過失があるか患者側(原告)の主張平成11年から発作が頻発し、入院に至るまでの経緯や入院時の症状から判断して、ミリスロール®など硝酸薬の点滴をすべきであった。これに対し担当医師は、患者に対してミリスロール®の点滴の必要性を伝えたが拒絶されたと主張するが、診療録などにはそのような記載はない。過去の入院では数日間にわたってミリスロール®の点滴治療を受け、その結果一応の回復を得て退院したため、担当医師からミリスロール®の必要性、投与しない場合の危険性などを十分聞いていれば、ミリスロール®点滴に同意したはずである。病院側(被告)の主張動悸、失神は狭心症発作の再発であり、入院安静が必要であること、2回目入院時に行ったミリスロール®の点滴が再度必要であることを説明したが、患者は「またあの点滴ですか」といい、行動が不自由になること、頭痛がすることなどを理由に点滴を拒絶したため、安静指示と内服薬などの投与によって様子をみることにした。つまり、ミリスロール®の点滴が必要であるにもかかわらず、患者の拒絶により点滴をすることができなかったのであり、診療録上も「希望によりミリスロール®点滴をしなかった」ことが明記されている。医師は、患者に対する治療につき最適と判断する内容を患者に示す義務はあるが、この義務は患者の自己決定権に優越するものではないし、患者の意向を無視して専断的な治療をすることは許されない。2. 硝酸薬点滴を行った場合の発作の回避可能性患者側(原告)の主張入院時にミリスロール®の点滴をしていれば発作を防げた可能性は大きく、死亡との間には濃厚な因果関係がある。さらに死亡後担当医師は、「点滴をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」と述べ、ミリスロール®の点滴をしなかったことが死亡原因であることを認めていた。病院側(被告)の主張7月12日9:30、ミリステープ®を貼用し、シグマート®、ヘルベッサー®を内服し、午後には症状が消失して容態が安定していたため、ミリスロール®の点滴をしなかったことだけが発作の原因とはいえない。3. 患者が安静指示に違反したのか患者側(原告)の主張看護師や患者に対する担当医師の安静指示があいまいかつ不徹底であり、結果としてトイレでの排尿を許す状況とした。担当医師が「ベッド上安静」を指示したと主張するが、入院経過用紙によれば「ベッド上安静」が明確に指示されていない。当日午後2:00の段階では、「トイレは夕方までの様子で決めるとのこと」と看護師が記載しているが、夕方までに決められて伝えられた形跡はない。18:30にも「Drに安静度カクニンのためTELつながらず」との記載があり、看護師は夕方になってもトイレについて明確な指示を受けていない。病院側(被告)の主張入院時指示には、安静度は「ベッド上安静」、排泄は「尿・便器」と明記している。これはベッド上で仰臥(あおむけ)または側臥(横向き)でいなければならず、排泄もベッド上で尿・便器をあててしなければならないという意味であり、トイレでの排尿を許したことはない。「トイレは夕方までの様子で決めるとのこと」という記載の意味は、トイレについての指示がいまだ無かったのではなく、明日の夕方までの様子をみて、それ以降トイレに立って良いかどうかを決めるという意味である。当日9:30尿意を訴えたため、医師から指示を受けていた看護師は尿器の使用を勧めたが、看護師の説得にもかかわらず尿器では出ないと言い張り、トイレに行くと譲らなかったので、やむを得ず看護師長を呼び、二人がかりでベッドを個室内のトイレ脇まで運び、トイレで排尿させたという経緯がある。そして、今回倒れる直前、看護師は患者から「トイレに行きたい」といわれたが、尿器で排泄するように説得した。それでも患者はあくまでトイレに行きたいと言い張ったため、担当医師に確認してくるから待つようにと伝えナースステーションへ行ったものの、担当医師に電話がつながらず、すぐに病室に戻ると同室内のトイレで倒れていたのである。4. 発作に対する医師の処置は不適切であったか患者側(原告)の主張狭心症の発作時には、速効性硝酸薬の舌下を行うべきものとされてはいるが、硝酸薬を用いると血圧が低下するので、昇圧剤を投与して血圧を確保してから速効性硝酸薬などにより症状の改善を図るべきであった。被告医師は、ミオコールスプレー®を2回使用して、その副作用で血圧低下に伴う血流量の減少を招いたにもかかわらず、さらに昇圧剤を投与したり、血圧を確保することなくニトロペン®を舌下させた点に過失がある。その結果、狭心症の悪化・心停止を招来し、患者を死に至らしめた。病院側(被告)の主張異型狭心症においては、冠攣縮発作が長引くと心室細動や高度房室ブロックなどの致死性不整脈が出現しやすくなるので、発作時は速やかにニトログリセリンを服用させるべきである。ニトログリセリンの副作用として血圧の低下を招くことがあるが、狭心症発作が寛解すれば血圧が回復することになるから、まず第一にニトログリセリンを投与(合計0.9mg)したことに問題はなく、発作を寛解させるべくニトロペン®1錠を舌下させた判断にも誤りはない。本件においては、致死的な狭心症発作が起きていたのであり、脈拍低下、血圧測定不能、自発呼吸なしなどの重篤な状態に陥ったのは狭心症発作によるものであって、ニトロペン®1錠を舌下したことが心停止の原因となったのではない。裁判所の判断1. 担当医師が硝酸薬の点滴をしなかった点に過失があるか鑑定A患者は狭心症発作が頻発および増悪したために入院したものであり、不安定狭心症の治療を目的としている。狭心症予防薬としてカルシウム拮抗薬の内服と硝酸薬貼付がすでに施行されており、この状態で不安定化した狭心症の治療としては、硝酸薬あるいはこれと同様の効果が期待される薬剤の持続静注が必要と考える。また、過去の入院で硝酸薬の点滴静注が有効であったことから、硝酸薬は、本件患者に対し比較的安心して使用できる薬剤と思われる。さらに、心電図モニターならびに患者の状態を常時監視できる医療状況が望ましく、狭心症発作が安定するまでの期間は、冠動脈疾患管理病棟(CCU)あるいは集中治療室(ICU)での管理が適当と考えられ、本件患者の入院初期の治療としてミリスロール®などの硝酸薬点滴を行わなかったのは不適切であった。不安定狭心症患者は急性心筋梗塞に移行する可能性が高いため、この病態を患者に十分説明し、硝酸薬点滴を使用すべきであったと考える。以前も同薬剤の使用により、本件患者の狭心症発作をコントロールしており、軽度の副作用は認められたものの、比較的安全に使用した経緯がある。患者が硝酸薬点滴を好まないケースもあるが、病状の説明、とりわけ急性心筋梗塞に進展した場合のデメリットを説明した後に施行すべきものであると考えられ、仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合でも、その必要性を十分説明して、本件患者の初期治療として、ミリスロール®などの硝酸薬あるいは同等の効果が期待できる薬剤の点滴を行うべきであった。鑑定B狭心症の場合、硝酸薬は重要な治療薬である。また、冠動脈攣縮性狭心症においては、カルシウム拮抗薬も重要な治療薬である。本症例ではミリステープ®とカルシウム拮抗薬が投与されており、ミリスロール®などの硝酸薬点滴を行わなかったことだけをもって不適切な治療と判断することは難しい。仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合についても、ミリスロール®などの点滴を行わなければならない状態であったかどうかについては判断が難しい。また、基本的に患者の了承のもとに治療を行うわけであるから、了承を得られない限りはその治療を行うことはできないのであって、拒否する場合において点滴を強制的に行うことが妥当であるかどうかは疑問である。鑑定C本症例は、失神発作をくり返していることからハイリスク群に該当する。発作の回数が頻回である活動期の場合は、硝酸薬、カルシウム拮抗薬、ニコランジルなどの持続点滴を行うことが望ましいとされており、実際に前回の入院の際には発作が安定化するまで硝酸薬の持続点滴が行われている。本件では、十分な量の抗狭心症薬が投与されており、慢性期の発作予防の治療としては適切であったといえるが、ハイリスク群に対する活動期の治療としては、硝酸薬点滴を行わなかった点は不適切であったといえる。発作の活動期における治療の基本は、冠拡張薬の持続点滴であり、純粋医学的には本件の場合、必要性を十分に説明して行うべきであり、仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合であっても、その必要性を十分説明して、ミリスロール®などの硝酸薬点滴を行うべき状態であったといえる。ただし、必要性を十分に説明したにもかかわらず、患者側が点滴を拒否したのであれば、医師側には非は認められないこととなるが、どの程度の必要性をもって説明したかが問題となろう。裁判所の見解不安定狭心症は急性心筋梗塞や突然死に移行しやすく、早期に確実な治療が必要である。本件では前回の入院時にミリスロール®の点滴を行って症状が軽快しているという治療実績があり、入院時の病状は前回よりけっして軽くないから、硝酸薬点滴を必要とする状態であったといえる。もっとも担当医師の立場では、治療方法に関する患者の自己決定権を最大限尊重すべきであるから、医師が治療行為に関する説明義務を尽くしたにもかかわらず、患者が当該治療を受けることを拒絶した場合には、当該治療行為をとらなかったことにつき、医師に過失があると認めることはできない。そうすると、本件入院時にミリスロール®など硝酸薬点滴をしなかったことについて、被告医師に過失がないといえるのは、硝酸薬点滴の必要性などについて十分な説明義務を果たしたにもかかわらず、患者が拒否した場合に限られる。担当医師が入院時にミリスロール®点滴を行わなかったのは、必要性を十分に説明したにもかかわらず、「またあの点滴ですか」と点滴を嫌がる態度を示し、ミリスロール®の副作用により頭痛がすること、点滴をすることによって行動の自由が制限されること、点滴をすることによって入院が長くなることの3点を嫌がって、点滴を拒絶したと供述する。そして、入院診療録の「退院時総括」には「本人の希望もあり、ミリスロール®DIV(点滴)せずに安静で様子をみていた」との記載があるので、担当医師はミリスロール®の点滴静注を提案したものの、患者はミリスロール®の点滴を希望しなかったことがわかる。ところが、医師や看護師が患者の状態などをその都度記録する「入院経過用紙」には、入院時におけるミリスロール®の点滴に関するやりとりの記載はなく、担当医師から行われたミリスロール®点滴の説明やそれに対する患者の態度について具体的な内容はわからない。それよりも、午後3:00頃見舞にきた家族が、「点滴していなかったんだね」といったことに対し、「軽かったのかな」と答えたという家族の証言から、患者は自分の病状についてやや楽観的な見方をしていたことがわかり、担当医師からミリスロール®点滴の必要性について十分な説明をされたものとは思われない。担当医師は患者の印象について、「医療に対する協力、その他治療に難渋した」、「潔癖な方です。頑固な方です」と述べているように、十分な意思の疎通が図れていなかった。そのため、入院時にミリスロール®の点滴に患者が拒否的な態度を示した場合に、担当医師があえて患者を説得して、ミリスロール®の点滴を勧めようとしなかったことは十分考えられる状況であった。そして、当時の患者が不安定狭心症のハイリスク群に該当し、硝酸薬点滴をしないと危険な状況にあることを医師から説明されていれば、点滴を拒絶する理由になるとは通常考え難いので、十分に説明したという担当医師の供述は信用できない。つまり、自己の病状についてきわめて関心を抱いていた患者であるので、医師から十分な説明を受けていれば、医師の提案する治療を受け入れていたであろうと推測される。したがって、担当医師は当時の病状ならびにミリスロール®点滴の必要性について十分に説明したとは認められず、説明義務が果たされていたとはいえない。2. 硝酸薬点滴を行った場合の発作の回避可能性鑑定A不安定狭心症の治療としてミリスロール®の効果は約80%と報告されている。不安定狭心症の病態によりその効果に差はあるが、硝酸薬などの薬剤が不安定狭心症を完全に安定化させるわけではない。また、急激な冠動脈血栓形成に対しては硝酸薬の効果は低いと考える。そうするとミリスロール®点滴を実施することで発作を回避できたとは限らないが、回避できる可能性は約70%と考える。鑑定B冠動脈攣縮性狭心症の場合、ミリスロール®などの硝酸薬の点滴が冠動脈の攣縮を軽減させる可能性がある。本件発作が冠動脈攣縮性狭心症発作であった可能性は十分考えられることではあるが、最終的な本件発作の原因がほかにあるとすれば、ミリスロール®点滴を行っても回避は難しい。したがって、回避可能性について判断することはできない。鑑定C一般論からすると、持続点滴の方が経口や経皮的投与よりも有効であることは論をまたないが、持続点滴そのものの有効性自体は100%ではないため、持続点滴をしていればどの程度発作が抑えられたかについては、判断しようがない。また、本件では十分な量の冠拡張薬が投与されていたにもかかわらず、結果的に重篤な狭心症発作が起こっており、発作の活動性がかなり高く発作自体が薬剤抵抗性であったと捉えることもでき、持続点滴をしていたとしても発作が起こった可能性も否定できない。以上のように、持続点滴によって発作が抑えられた可能性と持続点滴によっても発作が抑えられなかった可能性のどちらの可能性が高いかについては、仮定の多い話で答えようがない。裁判所の見解冠動脈攣縮性狭心症の発作に対してはミリスロール®の点滴が有効である点において、各鑑定は一致していることに加え、回避可能性をむしろ肯定していると評価できること、そもそも不作為の過失における回避可能性の判断にあたっては、100%回避が可能であったことの立証を要求するものではないのであって、前回入院時にミリスロール®の点滴治療が奏効していることも併せ考慮すると、今回もミリスロール®の点滴を行っていれば発作を回避できたと考えられる。3. 患者に対する安静指示について担当医師の指示した安静度は「ベッド上安静」、排泄は「尿・便器」使用であることは明らかであり、この点において被告医師に過失は認められない。4. 発作に対する処置について鑑定Aニトログリセリン舌下投与を低血圧時に行うと、さらに血圧が低下することが予想される。しかし、狭心症発作寛解のためのニトログリセリン舌下投与に際し、禁忌となるのは重篤な低血圧と心原性ショックであり、本件発作時はこれに該当しない。さらに本件発作時は、静脈ラインが確保されていないと思われ、点滴のための留置針を穿刺する必要がある。この処置により心筋虚血の時間が延長することになるため、即座にニトログリセリンを舌下させることは適切と考える。鑑定Bニトロペン®そのものの投与は血圧が低いことだけをもって禁忌とすることはできない。本件発作時の状況下でニトロペン®舌下に先立ち、昇圧剤の点滴投与を行うかどうかの判断は難しい。しかし、まず輸液ルートを確保し、酸素吸入の開始が望ましい処置といえ、必ずしも適切とはいえない部分がある。鑑定C冠攣縮性狭心症の発作時の処置としては、血圧の程度いかんにかかわらず、まずは攣縮により閉塞した冠動脈を拡張させることが重要であるため、ニトロペン®をまず投与したこと自体は問題がない。しかしながら、昇圧剤の投与時期、呼吸循環状態の維持、ボスミン®投与の方法に問題があり、急変後の処置全般について注意義務違反が認められる。裁判所の見解ニトログリセリンの舌下については、各鑑定の結果からみて問題はない。なお、鑑定の結果によれば、発作の誘因は発作の直前のトイレ歩行ないし排尿である。担当医師からベッド上安静、尿便器使用の指示がなされ、担当看護師からも尿器の使用を勧められたにもかかわらずトイレでの排尿を希望し、さらに看護師から医師に確認するので待っているように指示されたにもかかわらず、その指示に反して無断でベッドから降りて、トイレでの排尿を敢行したものであり、さらに拒否的な態度が被告医師の治療方法の選択を誤らせた面がないとはいえないことを考慮すると、患者自身の責任割合は5割と考えられる。原告(患者)側合計5,532万円の請求に対し、2,204万円の判決考察拒否的な態度の患者についていくら説明しても医師のアドバイスに従わない患者さん、病院内の規則を無視して身勝手に振る舞う患者さん、さらに、まるで自分が主治医になったかのごとく「あの薬はだめだ、この薬がよい」などと要求する患者さんなどは、普段の臨床でも少なからず遭遇することがあります。本件もまさにそのような症例だと思います。冠動脈造影などから異型狭心症と診断され、投薬治療を行っていましたが、再び動悸や失神発作に襲われて入院治療が開始されました。前回入院時には、内服薬や貼布剤、噴霧剤などに加えてミリスロール®の持続点滴により症状改善がみられていたので、今回もミリスロール®の点滴を開始しようと提案しました。ところが患者からは、「またあの点滴ですか」「あの薬を使うと頭痛がする」「点滴につながれると行動が制限される」「点滴が始まると入院が長くなる」というクレームがきて、点滴は嫌だと言い出しました。このような場合、どのような治療方針とするのが適切でしょうか。多くの医師は、「そこまでいうのなら、点滴はしないで様子を見ましょう」と判断すると思います。たとえミリスロール®の点滴を行わなくても、それ以外のカルシウム拮抗薬や硝酸薬によってもある程度の効果は期待できると思われるからです。それでもなおミリスロール®の点滴を強行して、ひどい頭痛に悩まされたような場合には、首尾よく狭心症の発作が沈静化しても別な意味でのクレームに発展しかねません。そして、ミリスロール®の点滴なしでいったんは症状が改善したのですから、病院側の主張通り適切な治療方針であったと思います。そして、再度の発作を予防するために、患者にはベッド上の安静(トイレもベッド上)を命じましたが、「どうしてもトイレに行きたい」と患者は譲らず、勝手に離床して、致命的な発作へとつながってしまいました。このような症例を「医療ミス」と判断し、病院側へ2,200万円にも上る賠償金の支払いを命じる裁判官の考え方には、臨床医として到底納得することができません。もし、大事なミリスロール®の点滴を医師の方が失念していたとか、看護師へ安静の指示を出すのを忘れて患者が歩行してしまったということであれば、医師の過失は免れないと思います。ところが、患者の異型狭心症をコントロールしようとさまざまな治療方針を考えて、適切な指示を出したにもかかわらず、患者は拒否しました。「もっと詳しく説明していればミリスロール®の点滴を拒否するはずはなかったであろう」というような判断は、結果を知ったあとのあまりにも一方的な考え方ではないでしょうか。患者の言い分、医師の言い分極論するならば、このような拒否的態度を示す患者の同意を求めるためには、「あなたはミリスロール®の点滴を嫌がりますが、もしミリスロール®の点滴をしないと命に関わるかもしれませんよ、それでもいいのですか」とまで説明しなければなりません。そして、理屈からいうと「命に関わることになってもいいから、ミリスロール®の点滴はしないでくれ」と患者が考えない限り、医師の責任は免れないことになります。しかし、このような説明はとても非現実的であり、患者を脅しながら治療に誘導することになりかねません。本件でもミリスロール®の点滴を強行していれば、確かに狭心症の発作が出現せず無事退院できたかもしれませんが、患者側に残る感情は、「医師に脅かされてひどい頭痛のする点滴を打たれたうえに、病室で身動きができない状態を長く強要された」という思いでしょう。そして、鑑定書でも示されたように、本件はたとえミリスロール®を点滴しても本当に助かったかどうかは不明としかいえず、死亡という最悪の結果の原因は「異型狭心症」という病気にあることは間違いありません。ところが裁判官の立場は、明らかに患者性善説、医師性悪説に傾いていると思われます。なぜなら、「退院時総括」の記述「本人の希望もあり、ミリスロール®DIV(点滴)せずに安静で様子をみていた」というきわめて重大な記述を無視していることその理由として、「入院経過用紙」には入院時におけるミリスロール®の点滴に関するやりとりの記載がないことを挙げている裁判になってから提出された家族からの申告:当日午後3:00頃見舞にきた家族が、「点滴していなかったんだね」といったことに対し、「軽かったのかな」と患者が答えたという陳述書を全面的に採用し、患者側には病態の重大性、ミリスロール®の必要性が伝わっていなかったと断定つまり、診療録にはっきりと記載された「患者の希望でミリスロール®を点滴しなかった」という事実をことさら軽視し、紛争になってから提出された患者側のいい分(本当にこのような会話があったのかは確かめられない)を全面的に信頼して、医師の説明がまずかったから患者が点滴を拒否したと言わんばかりに、医師の説明義務違反と結論づけました。さらにもう一つの問題は、本件で百歩譲って医師の説明義務違反を認めるとしても、十分な説明によって死亡が避けられたかどうかは「判断できない」という鑑定書がありながら、それをも裁判官は無視しているという点です。従来までは、説明が足りず不幸な結果になった症例には、300万円程度の賠償金を認めることが多いのですが、本件では(患者側の責任は5割としながらも)説明義務違反=死亡に直結、と判断し、総額2,200万円にも及ぶ高額な判決金額となりました。本症例からの教訓これまで述べてきたように、今回の裁判例はとうてい医療ミスとはいえない症例であるにもかかわらず、患者側の立場に偏り過ぎた裁判官が無理なこじつけを行って、死亡した責任を病院に押し付けたようなものだと思います。ぜひとも上級審では常識的な司法の判断を期待したいところですが、その一方で、医師側にも教訓となることがいくつか含まれていると思います。まず第一に、医師や看護師のアドバイスを聞き入れない患者の場合には、さまざまな意味でトラブルに発展する可能性があるので、できるだけ詳しく患者の言動を診療録に記載することが重要です(本件のような最低限の記載では裁判官が取り上げないこともあります)。具体的には、患者の理解力にもよりますが、医師側が提案した治療計画を拒否する患者には、代替可能な選択肢とそのデメリットを提示したうえで、はっきりと診療録に記載することです。本件でも、患者がミリスロール®の点滴を拒否したところで、(退院時総括ではなく)その日の診療録にそのことを記載しておけば、(今回のような不可解な裁判官にあたったとしても)医療ミスと判断する余地がなくなります。第二に、その真偽はともかく、死亡後に担当医師から、「(ミリスロール®)点滴をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」という発言があったと患者側が主張した点です。前述したように、診療録に残されていない会話内容として、裁判官は患者側の言い分をそのまま採用することはあっても、記録に残っていない医師側の言い分はよほどのことがない限り取り上げないため、とくに本件のように急死に至った症例では、「○○○をしておけばよかった」という趣旨の発言はするべきではないと思います。おそらく非常にまじめな担当医師で、自らが関わった患者の死亡に際し、前向きな考え方から「こうしておけばよかったのに」という思いが自然に出てしまったのでしょう。ところが、これを聞いた患者側は、「そうとわかっているのなら、なぜミリスロール®を点滴しなかったのか」となり、いくら「実は患者さんに聞いてもらえなかったのです」と弁解しても、「そんなはずはない」となってしまいます。そして、第三に、担当医師の供述に対する裁判官への心証は、かなり重要な意味を持ちます。判決文には、「担当医師は当公判廷において、患者が『またあの点滴ですか』といったことは強烈に覚えている旨供述するものの、患者に対しミリスロール®点滴の必要性についてどのように説明を行ったかについては、必ずしも判然としない供述をしている」と記載されました。つまり、患者に行った説明内容についてあやふやな印象を与える証言をしてしまったために、そもそもきちんとした説明をしなかったのだろう、と裁判官が思い込んでしまったということです。医事紛争へ発展するような症例は、医療事故発生から数年が経過していますので、事故当時患者に口頭で説明した内容まで細かく覚えていることは少ないと思います。そして、がんの告知や手術術式の説明のように、ある一定の緊張感のもとに行われ承諾書という書面に残るようなインフォームドコンセントに対し、本件のように(おそらく)ベッドサイドで簡単にすませる治療説明の場合には、曖昧な記憶になることもあるでしょう。しかし、ある程度の経験を積めば自ずと説明内容も均一化してくるものと思いますので、紛争へと発展した場合には十分な注意を払いながら、明確な意思に基づく主張を心がけるべきではないかと思います。循環器

325.

0.5%ニフェジピンクリームの抗しわ効果を確認

 イタリア・フェデリコ2世ナポリ大学のGabriella Calabro氏らは、顔のしわ治療において、局所ニフェジピンクリームの有効性を確認したことを発表した。しわの深さが改善され、皮膚の保湿性と弾力性が増したという。ニフェジピンの抗しわ特性は最近、提唱されたものであった。Journal of Dermatological Treatment誌オンライン版2013年5月20日号の掲載報告。 Calabro氏らは、0.5%ニフェジピンベースの局所製剤(クリーム)の抗しわ効果を確認することを目的に無作為化試験を行った。 対象は、45~60歳の女性で顔に中程度からやや重度のしわがある20例のボランティア被験者。被験者を無作為化し、10例は0.5%ニフェジピンクリームを、10例は良質の乳液を、1日2回90日間塗布した。 主な結果は以下のとおり。・治療後のしわ重症度評価尺度(WSRS)スコアは、ニフェジピン群のみ、ベースラインのスコアよりも有意に低下した。・平均WSRSスコアは、ニフェジピン群はT0時点3.85、T3時点は1.84であった。一方、対照群は、それぞれ3.78、3.36であった。・両群の全患者において、Corneometry法による水分量の測定での皮膚のハイドレーションは有意に上昇し、TEWL(水分蒸散量)は減少がみられ、皮膚の状態が改善していることが示された。・Dermolab装置による測定で、皮膚ハイドレーションはニフェジピン群で有意に上昇している一方、対照群の上昇はニフェジピン群よりも低いことが記録された。・比色定量法による評価は、0.5%ニフェジピンクリーム使用群は、皮膚が全体的に有意に明るくなったが、乳液使用の対照群は、いずれのライトニング指数にも変化が認められなかった。※保険適用のニフェジピンは経口薬のみで、対象疾患は狭心症、本態性高血圧症、腎性高血圧症に限られる。

326.

Vol. 1 No. 1 ACSの治療-2次予防を考えた長期治療

大倉 宏之 氏川崎医科大学循環器内科はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の慢性期治療には、責任病変での再発防止と非責任病変の新規発症防止、すなわち2次予防が含まれる。責任病変の再発予防には、薬剤溶出ステント(DES)による再狭窄抑制と、適切な抗血小板療法によるステント血栓症の予防が重要である。一方、非責任病変の新規発症を防ぐには、抗血小板薬を含むさまざまな薬物による長期にわたる2次予防が必要である。ACSの予後:欧米と日本の違いACS患者の予後は不良である。欧米のデータでは、その20%は1年以内に再入院し、男性の18%、40歳以上の女性の23%が死亡するとの報告がある1)。また、心筋梗塞(AMI)後の患者は退院後1年以内にその8~10%がAMIを再発するとも報告されている2)。ただ、その再発率は保有するリスクによって異なる。Finnish studyでは、糖尿病例(年率7.8%)は非糖尿病例(年率3%)と比較して心筋梗塞再発が高率であることが示されている3)。ランダム化試験のデータでは、AMIの再発率は1~5%程度とおおむねレジストリーよりも低めである。AMIに対するDESと金属ステント(BMS)を比較したランダム化試験のメタ解析によると、AMI再発はDES留置例で3.1%、BMS留置例で3.3%であった4)。日本のデータでも非ACS症例と比較すると、ACS例の予後は不良であるが(図:本誌p21参照)5, 6)、ACS発症後のAMI再発率は、日本や韓国では1%以下と欧米と比較すると低率である7, 8)。もともとAMIの発症自体が少ないことに加えて、急性期に速やかに経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)による治療がなされていることと、その後も主治医によるきめ細やかな2次予防が行われていることがその理由かもしれない。至適薬物療法によるACSの2次予防欧米では、ACSの予後は経年的に改善していることが示されている。The Global Registry of Acute Coronary Events(GRACE)レジストリーに登録されたACS患者約4万例のデータ(図:本誌p21参照)において、入院中の死亡や心不全、6か月後のAMI新規発症が2000年から2005年にかけて有意に減少していることが示された9)。これは、エビデンスに基づいた薬物治療の浸透と、急性期のPCI施行率が高くなってきた結果である(図:本誌p22参照)。ACS後の2次予防を目指した薬物療法についてはガイドラインに詳細に述べられており10-15)、β遮断薬、ACE阻害薬(またはARB)、アルドステロン阻害薬、スタチン等の有用性が示されている。これらの薬物療法が、日本の臨床の現場にどの程度浸透しており、その結果、日本人のACS患者の予後が実際に改善しているのかどうかについては今後検証すべき課題である。ACS患者では、非責任病変の血管内超音波所見によって、ハイリスク病変を予測可能との報告がなされている16)。もともとイベント発生率の低い日本人でも、同様の予測が可能であるのかについても明らかにすべきである。抗血小板薬によるACSの2次予防薬物による2次予防のうちでも、特に重要な役割を果たしているのが抗血小板療法である。表に日本、米国、欧州の各ガイドライン10-15)に記載されている抗血栓療法の推奨をまとめた(Class I、Class IIaのみ記載)(表:本誌p23参照)。アスピリンが第1選択である点はすべてのガイドラインに共通である。欧州、米国のガイドラインでは、アスピリンに加えてクロピドグレル(または他のP2Y12阻害薬)を12か月間投与することが推奨されている。日本のガイドラインにはその期間は特定されていない11)。抗血小板薬2剤併用療法の至適期間抗血小板薬2剤併用療法(dual anti-platelet therapy: DAPT)の至適投与期間は、ステントの種類(BMSかDESか)と病型(安定狭心症かACSか)により異なる。一般に、DESの場合は12か月間以上のDAPTが推奨されているが20)、至適期間についてのエビデンスは十分ではない。j-Cypherレジストリーでは、ACS例において6か月以上DAPTを継続していた例と、DAPTを6か月時点で中止していた例との間には、その後2年間のイベント発生率に差を認めなかったことが示されている5)。日本では、患者背景や病変背景を考慮した至適な抗血小板薬療法が行われていることが反映されているのかもしれない。ACSの研究ではないが、韓国からはステント留置後12か月以上イベントのなかった2,701例を、DAPT群とアスピリン単剤群にランダム化した試験が報告されている18)。2年間の観察期間中、両群間に心筋梗塞+心臓死の頻度に差はなく、ステント血栓症にも差はなかった(図:本誌p24参照)。EXCELLENT試験は、CypherもしくはXience/Promusステント留置例1,443例のDAPT期間を、6か月間と12か月間にランダム化したものである19)。12か月後のTVF(target vessel failure)や死亡もしくは心筋梗塞の発生には両群間に差を認めなかったが、ステント血栓症はDAPT6か月間群で多い傾向にあった。ただし、6か月間群のステント血栓症発症例6例中5例は6か月以内の発生であり、DAPTの期間が影響した可能性は低い。Prolonging Dual Antiplatelet Treatment after Grading Stent-induced Intimal Hyperplasia study(PRODIGY)では、ステント留置例約2,000例を対象にランダム化し、DAPTの期間を6か月間と24か月間で比較したものである。2年間の追跡期間中に全死亡+心筋梗塞+脳血管障害+ステント血栓症の頻度は6か月間群と24か月間群は同等であったが(10.0% vs. 10.1%, p=0.91)、出血は6か月間群で少なかったとの結果であった(ESC2011で報告)。The Dual Antiplatelet Therapy(DAPT)study20)は、15,000例のDES留置例と5,400例のBMS留置例を登録し、DAPTの投与期間を12か月間と30か月間にランダム化して両者を比較する大規模臨床試験である。すでに患者登録は終了し、現在フォローアップが進行中である。本邦においても、Optimal Duration of DAPT Following Treatment with Endeavor in Real-world Japanese Patients: A Prospective Multicenter Registry (OPERA) studyやNobori Dual antiplatelet therapy as appropriate duration (NIPPON) studyが現在進行中である。これらの研究にはACSも含まれており、日本人独自のエビデンスが得られるものと期待される。抗血小板薬投与と出血性合併症抗血小板薬投与に関連した問題点には出血性合併症がある。ACSに出血性合併症を発生した場合には、その長期予後は不良である21)。DAPT継続にあたっては、そのベネフィットのみならず出血のリスクも考慮せねばならない。ACSにおいて、出血のリスクが特に問題となるのが心房細動合併例である。欧州心臓病学会の心房細動ガイドライン22)では、心房細動合併例に対するステント留置術後の抗血栓療法は表のごとく推奨されている(Class IIa)(表:本誌p25参照)。注目すべき点は、塞栓症のリスクを有する心房細動例では最後的には抗血小板薬は中止し、ワルファリンのみを一生継続することが推奨されている点である。日本でも、心房細動合併ACS例に対する至適抗血栓療法をいかにすべきかは重要な検討課題である。おわりにACSの予後改善には、急性期治療に加えて、抗血小板薬を中心とした長期にわたる2次予防が重要な役割を演じている。ただし、これら多くは欧米のデータに基づいたものであるため、今後、日本人における検証はぜひとも行われるべきである。文献1)Menzin J et al. One-year costs of ischemic heart disease among patients with acute coronary syndromes: findings from a multi-employer claims database. Curr Med Res Opin 2008; 24 (2): 461-4682)Buch P et al. Temporal decline in the prognostic impact of a recurrent acute myocardial infarction 1985 to 2002. Heart 2007; 93 (2): 210-2153)Haffner SM et al. Mortality from coronary heart disease in subjects with type 2 diabetes and in nondiabetic subjects with and without prior myocardial infarction. N Engl J Med 1998; 339 (4): 229-2344)De Luca G et al. Efficacy and safety of drug-eluting stents in ST-segment elevation myocardial infarction: a meta-analysis of randomized trials. Int J Cardiol 2009; 133 (2): 213-2225)Kimura T et al. j-Cypher Registry Investigators. Antiplatelet therapy and stent thrombosis after sirolimus-eluting stent implantation. Circulation 2009; 119 (7): 987-9956)Kawaguchi R et al. Safety and efficacy of sirolimus-eluting stent implantation in patients with acute coronary syndrome in the real world. Am J Cardiol 2010; 106 (11): 1550-15607)Hiro T et al. Effect of intensive statin therapy on regression of coronary atherosclerosis in patients with acute coronary syndrome: a multicenter randomized trial evaluated by volumetric intravascular ultrasound using pitavastatin versus atorvastatin (JAPAN-ACS [Japan assessment of pitavastatin and atorvastatin in acute coronary syndrome] study). J Am Coll Cardiol 2009; 54 (4): 293-3028)Chen KY et al. Triple versus dual antiplatelet therapy in patients with acute ST-segment elevation myocardial infarction undergoing primary percutaneous coronary intervention. Circulation 2009; 119 (25): 3207-32149)Fox KA et al. Decline in rates of death and heart failure in acute coronary, syndromes 1999-2006. JAMA 2007; 297 (17): 1892-190010)日本循環器学会 (班長:山口徹) 急性冠症候群の診療に関するガイドライン. 2007年改訂版/オンライン版11)日本循環器学会 (班長:小川久雄) 心筋梗塞二次予防に関するガイドライン. 2011年改訂版/オンライン版12)Wright RS et al. 2011 ACCF/AHA focused update of the guidelines for the management of patients with unstable angina/non-ST-elevation myocardial infarction (updating the 2007 guideline). J Am Coll Cardiol 2011; 57 (19). 1920-195913)Kushner FG et al. 2009 focused updates: ACC/AHA guidelines for the management of patients with ST-elevation myocardial infarction (updating the 2004 guideline and 2007 focused update) and ACC/AHA/SCAI guidelines on percutaneous coronary intervention (updating the 2005 guideline and 2007 focused update). J Am Coll Cardiol 2009; 54 (23). 2205-224114)Van de Werf F et al. Management of acute myocardial infarction in patients presenting with persistent ST-segment elevation: the task force on the management of ST-segment elevation acute myocardial infarction of the European Society of Cardiology. Eur Heart J. 2008; 29 (23): 2909-294515)Hamm CW et al. ESC guidelines for the management of acute coronary syndromes in patients presenting without persistent ST-segment elevation: the task force for the management of acute coronary syndromes (ACS) in patients presenting without persistent ST-segment elevation of the European Society of Cardiology (ESC). Eur Heart J 2011; 32 (23): 2999-305416)Stone GW et al. A prospective natural history study of coronary atherosclerosis. New Engl J Med 2011; 364 (3): 226-23517)Grines CL et al. Prevention of premature discontinuation of dual antiplatelet therapy in patients with coronary artery stents: a science advisory from the American Heart Association, American College of Cardiology, Society for Cardiovascular Angiography and Interventions, American College of Surgeons, and American Dental Association, with representation from the American College of Physicians. Circulation 2007; 115 (6): 813-818.18)Park SJ et al. Duration of dual antiplatelet therapy after implantation of drug-eluting stents. N Engl J Med 2010 ; 362 (15): 1374-138219)Gwon HC et al. Six-month versus 12-month dual antiplatelet therapy after implantation of drug-eluting stents. The efficacy of Xience/Promus versus Cypher to reduce late loss after stenting (EXCELLENT) randomized, multicenter study. Circulation 2012; 125 (3): 505-51320)Mauri L et al. Rationale and design of the dual antiplatelet therapy study, a prospective, multicenter, randomized, double-blind trial to assess the effectiveness and safety of 12 versus 30 months of dual antiplatelet therapy in subjects undergoing percutaneous coronary intervention with either drug-eluting stent or bare metal stent placement for the treatment of coronary artery lesions. Am Heart J 2010; 160 (6): 1035-104121)Moscucci M et al. Predictors of major bleeding in acute coronary syndromes: the Global Registry of Acute Coronary Events (GRACE). Eur Heart J. 2003; 24 (20): 1815-182322)Vehanian A et al. Guidelines for the management of atrial fibrillation; the task force for the management of atrial fibrillation of the European Society of Cardiology (ESC). Eur Heart J 2010; 31 (19): 2369-2429

327.

Vol. 1 No. 1 ACSの治療-急性期のPCI/薬物療法

石井 秀樹 氏名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)に対する急性期の治療として血栓溶解療法と経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)の出現、それらの技術向上は、患者の予後改善に大きく寄与している。東京都CCUネットワーク(http://www.ccunet-tokyo.jp/)の統計では、急性心筋梗塞の死亡率は1982年には20.4%であったものが、2010年にはわずか6.0%にまで低下している(図:本誌p15参照)。安静が治療の主体であった冠動脈の再疎通療法以前の院内死亡率が3割強であったことを考えると、治療法の変遷と治療成績には極めて密接な関連があることがわかる。わが国では、医療保険制度をはじめとし、交通網や救急搬送システムなどの点で欧米とは異なることから、ACS、特に急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)の治療法としてPCIを第1選択とする施設が多い。10年ほど前のデータではあるが、欧米のデータベースのよる統計ではAMIに対するprimary PCI施行率は5.5~49.6%であったが、わが国では日本の施行率は75~94%と高率であり、さらに年間施行件数の少ない施設においてもPCIを選択することが多いという特徴がある1)。これは欧米では広大な医療圏内の中にPCIを行える施設が限られているため、AMI患者には血栓溶解療法が行われることが多いが、わが国ではかなりの地域でPCIを行うことができる施設に収容可能であることにも起因する。そして、このことはわが国のACS患者の予後改善に対して大きな貢献をしている要因と考えられている。これまでの知見で、ST上昇型のAMI(STEMI)に対するPCIの有効性は確立している。しかしながら、現在でも非ST上昇型AMIや不安定狭心症では、早期のPCIを含む侵略的戦術がよいのか、保存的加療を経てから症例を選んで冠動脈造影などの処置を行うのがよいのか、一定の見解は得られていない。わが国ではそのような症例に対してもSTEMI症例同様に侵略的戦術にシフトしていると考えられている。PCIなどによる再灌流は非常に有用な手段であるが、再灌流自体が再灌流障害という新たな心筋障害を生じさせることも知られており、薬物の併用などが検討されるべきである。急性心筋梗塞に対する再灌流療法ACS、特にAMIの治療において、冠血流の途絶を早期に開通、すなわち再灌流を得ることが重要なことである。このことにより、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。再灌流の手段としては、PCIが確実な方法であるが、PCIを行う施設まで搬送時間がかかる場合またはPCIまでに時間がかかると判断される場合には、血栓溶解療法単独あるいは血栓溶解療法とPCIのハイブリッド治療法であるfacilitated PCIを選択肢とするべきであるとされる2)。現在ACSに対して行うPCIは、血栓吸引のみあるいはバルーン単独での治療で終了することは少なく、ステントによる治療がほとんどの場合に行われており、PCI後の急性閉塞の低減や、再狭窄率の減少など心血管イベントの低減に貢献している。その際に考慮すべき問題として、ACSに対してbare metal stent(BMS)を使用するか、drug eluting stent(DES)を使用するのかという問題がある。ACSに対しても、安定狭心症症例同様に、本邦ならず世界的に見てもDESの使用が増加している。一時、ACSに対するDES使用は、血栓閉塞のリスクが高まるのではないかと論議されたものの、近年はDES留置も安全であるとする報告が相次いでいる3)。確かにDESは再血行再建術などに対してはBMSよりも有用であることは間違いない。しかしながら、DESが内皮障害やspasm発生に関与していることを示唆する報告があり4, 5)、spasmが多いと考えられる日本人の使用に対しては、今後も有効性と副作用の十分な検討を行うべきである。また筆者は、DES留置後の長期の予後改善が未だ不明であり、2剤併用抗血小板療法(dual anti-platelet therapy:DAPT)をいつまで行うかがまだ確立されていないことや、ACSという緊急の対応が必要ななかで出血の素因があるのかどうかを判断したり、近いうちに手術が必要なのかどうかなど確認することが困難な状況のなかで、DESを安易に使用すべきではないと考えている。加えて、近い将来に吸収性ステントや薬剤溶出性バルーンなどが日常診療において使用可能になりそうな状況において、特に年齢が若い症例に対しては、急性閉塞などには十分な注意を払いながら、バルーン単独でのPCIも考慮するべきとも考えている。再灌流療法と再灌流障害再灌流療法により、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。しかしその一方で、再灌流自体が新たな心筋障害を生じさせる。これを再灌流障害といい、PCIなどによる再灌流療法のメリットを減弱させてしまうものである。最近の知見では、1.no-reflow phenomenon:no-reflow現象(血管内皮などの障害による血管性障害)→TIMI flow grade、TIMI frame countなどによる造影所見からの判断、myocardial blush grade(造影剤による心筋染影度)、心電図によるS Tresolution(ST上昇の改善の程度)などで判断可能2.reperfusion arrhythmia:再灌流性不整脈→心電図によるモニターで判断可能3.lethal reperfusion injury:致死的心筋障害(不可逆的な細胞障害)→核医学検査法などによりにより評価可能4.Myocardial stunning:心筋スタンニング(虚血解除後に生存心筋で認められる機能低下で気絶心筋ともいわれる)→核医学検査法などにより評価可能6)に分類される。再灌流障害の発生を抑えるため、PCIの際に工夫することや、薬物を追加で使用することが重要と考えられる。特に虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニングのメカニズムを応用することが近年注目されている(図)。虚血プレコンディショニングとは、本格的な虚血に先行して起きる短時間の虚血が心筋ダメージを軽減することであり、臨床の場でも、梗塞前に狭心症がある患者ではそれがなかった患者と比較して予後が良いことが知られている7)。また、ポストコンディショニングとは、心筋梗塞症例に対して、冠動脈再灌流直後に虚血と再灌流を短時間・複数回繰り返すことで、梗塞範囲の縮小効果など再灌流障害による心筋ダメージが軽減する現象のことをいう8)。図 プレコンディショニングとポストコンディショニングの概念画像を拡大する再灌流障害に対する戦略1.段階的再灌流 一気に再灌流するのではなく、虚血と再灌流を複数回繰り返すことで細胞内Ca2+ overloadを予防し、再灌流障害が低減する。臨床試験で良好な結果が認められているが、数十秒から数分間での冠動脈内におけるバルーンのinflation、deflationが必要で、血栓吸引療法が行われた場合にはこの機序による心筋保護は難しい可能性がある。2.血栓吸引カテーテル、末梢保護デバイス ACSの発症のほとんどに血栓が関与している。血栓のある冠動脈病変をバルーンで拡張した場合、破砕された血栓が微小循環において塞栓を生じ、再灌流障害の原因になることがある。そのため、バルーン拡張の前にあらかじめ血栓を吸引する方法や、末梢で血栓やデブリスをtrapする方法が開発された。 早い時期に発表されたEMERALD研究では、末梢保護デバイスの有用性が示されなかったが、2008年発表のわが国から報告されたVAMPIRE trialでは、TVAC™による血栓吸引をSTEMI患者に対して行うことにより、行わない群と比較して、brush gradeの有意な改善と8か月後のMACEの有意な低下を示した9)。また、TAPAS研究でも血栓吸引カテーテルがmyocardial blush gradeの有意な改善が示された。 わが国では血栓吸引療法は他国と比較しても汎用されている手技と考えられ、以下に示すような薬物の追加療法を行うことで、より質の高い再灌流が得られるものと考えられる。3.再灌流障害に対する薬物による追加的保護療法 再灌流障害に対して、さまざまな薬剤がこれまで試みられてきた10)。アデノシンはプレコンディショニング作用を持つ薬物として海外から多くの報告がなされている。また、ポストコンディショニング作用を持つ薬物もさまざまある(表)。 近年、わが国からも再灌流障害の予防、慢性期の左室リモデリング抑制と予後改善を目的とし、さまざまな検討がなされている。そのなかでもニコランジルとカルペリチドは本邦で開発、臨床の場で幅広く使用され、それらを使用した研究成果報告はわが国からの報告が極めて多い。以下一部を紹介する。表 RISK pathwayの活性化とmPTP開口阻害(文献6, 10より)画像を拡大するa.ニコランジル ニコランジルは、低血糖治療薬であるジアゾキサイドなどのK-ATPチャネル開口薬とは異なる、NOドナーである点が大きな特徴である。K-ATPチャネルは先に述べた虚血プレコンディショニングに関与しており、K-ATPチャネル開口薬であるニコランジルが薬理学的プレコンディショニングを生じるということがIONA試験などで証明されてきた。 AMIにおける再灌流障害に関する研究として、コントラストエコーによるno reflow現象の抑制効果や、左室梗塞部位における壁運動改善効果が1999年に発表され11)、その後もACSをはじめとした虚血性心疾患に対するニコランジルの有用性が数多く発表された。我われは、STEMI患者に対してPCIによる再灌流を行う直前にニコランジルを静注で約30分かけて12mg投与することにより、PCI後の微小循環障害予防、慢性期の左室リモデリング抑制と心不全発症予防などの効果があることを報告した12)。その後、J-WIND-KATP研究(ニコランジル0.067mg/kgボーラス投与後、24時間1.67μg/kg/min静注)13)では、ニコランジルの有効性は示されなかったものの、用量や投与法などのさらなる検討が必要であると考えられる。また、現在は、ニコランジルは急性心不全の適応が認められ、用量もより高用量の使用が可能となっている。 また、冠動脈内注(冠動脈注は緩やかな投与が重要!)による冠微小血管抵抗指数改善作用も報告されており14)、slow flow等の改善などに対しても臨床的に幅広く使用されている。筆者の見解であるが、ACSまた待機的な症例に対してもニコランジルはPCI前から投与しておくことがコツであり、再灌流障害やslow flowを発症しないためには、予防的な投与が極めて重要であると考えている。 最近のニコランジルのトピックとして、2011年のAHAで、岐阜大学より造影剤腎症の予防効果が発表され、世界的にも注目を集めた15)。b.カルペリチド(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド:hANP) カルペリチドは血管拡張作用、利尿作用があり、急性心不全に対する治療薬として広く使用されているが、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の抑制効果、交感神経系の拮抗作用、そして虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニング効果と同様の作用をすると考えられているreperfusion injury salvage kinase(RISK)を活性化させる作用もあることが報告されている。この効果により、再灌流障害や左室リモデリングが抑制され、急性心筋梗塞に対して有効であるとする報告が数多く報告されている。J-WIND-ANP(AMI患者にカルペリチド0.025μg/kg/minで3日間投与)13)では、AMI患者の梗塞サイズがプラセボ投与群に比べ、14.7%の有意な減少と、慢性期の左室駆出率で、プラセボ群と比較して5.1%の有意な増加が見られ、長期にわたって心臓死・心不全による再入院も、有意に減少させることが報告されている。また、カルペリチドにも造影剤腎症予防効果の報告もある16)。c.その他 スタチンの中には、ポストコンディショニング様の作用があることがわかっている。海外のARMYDA-ACS研究では、PCI前のアトルバスタチンの投与により心筋障害が予防できることがわかっていた。本邦からは弘前大学より、AMI患者に対するdirect PCIの直前にプラバスタチンを投与することで再灌流障害が予防されたとする大変興味深い結果が報告されている17)。 また、本邦で開発され、脳梗塞治療薬として使用されているフリーラジカルスカベンジャーであるエダラボンが、direct PCIに伴う再灌流障害を抑制したとする報告がある18)。4.ACS患者に対する抗血小板療法の重要性 ACSの急性期では、血小板活性・凝固能の亢進と線溶能低下が起こっているため、血栓が非常に形成されやすい状況である。血小板が活性化すると膜表面の糖蛋白が発現し、血小板からADP、トロンボキサンA2などの生理活性化物質が放出され、血栓形成がさらに強まる。本邦では使用できないが、GP IIb/III阻害薬はその流れのなかで効果を示す薬剤である。 急性期ではアスピリン162-200mgの咀嚼投与が行われているが、PCIでステント治療となる場合には治療直前からチエノピリジンの投与が推奨される。特にクロピドグレルの場合には初期にローディングとして300mgの投与、以降75mgの投与が必要である2)。韓国からのデータではあるが、DESを用いたPCIを施行したSTEMI患者の検討では、抗血小板薬3剤(アスピリン+クロピドグレル+シロスタゾール)の投与が、2剤群(アスピリン+クロピドグレル)と比較して、8か月における主要心血管イベントを有意に低下させた(図:本誌p19参照)19)。ACSによる入院30日以内の消化管出血があると予後が悪化することも知られているが20)、わが国においても、出血に注意をしながら抗血小板剤の3剤投与も検討されてもよいかもしれない。おわりに日本ではSTEMIをはじめとするACS症例に広くPCIが行われている。特にSTEMI症例に対しては、ガイドラインでdoor-to-balloon timeは90分以内にすることが求められているが、わが国全体でもかなりの割合でそれがクリアされているものと考えられる。ACS治療が海外と比較して、日本で良好な成績を上げているのもそれが大きく起因していることは間違いない。また、多くの施設が24時間体制で緊急カテーテル・PCIに対応し、夜間や休日でも質の高いPCIを常に心がけており、循環器医療に携わるわが国の医師・パラメディカル・関係者の意識が高いことも寄与しているものと考えられる。さらに、薬物の使用においても、急性期には症例ごとにきめ細かな対応がなされ、慢性期にはエビデンスが構築された薬剤が高い比率で投与されているものと考えられる。これらのことはACSに限ったことでなく、わが国の医療レベルが非常に高い要因とも考えられる(図:本誌p19参照)21)。最近ACS症例に対しては、PCIや薬剤のみでなくremote ischemic conditioningや、再生医療に関する話題も豊富である。わが国からACS患者の予後改善に関する新たなエビデンスが構築されることが期待される。文献1)Ui S, Chino M, Isshiki T. Rates of primary percutaneous coronary intervention worldwide; Circ J 2005; 698(1): 95-1002)日本循環器学会ほか. 急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン(2006-2007年度合同研究班報告). Circ J 2008; 72(supplIV): 1347-14643)Mauri L, Silbaugh TS, Garg P, et al. Drug-eluting or bare-metal stents for acute myocardial infarction. N Engl J Med 2008; 359 (13): 1330-13424)Yoshida T, Kobayashi Y, Nakayama T, et al. Stent deformity caused by coronary artery spasm. Circ J 2006; 70(6): 800-8015)Lerman A, Eeckhout E. Coronary endothelial dysfunction following sirolimus-eluting stent placement: should we worry about it? Eur Heart J 2006; 27(2): 125-1266)Yellon DM, Hausenloy DJ. Myocardial reperfusion injury. N Engl J Med 2007; 357 (11): 1121-11357)Ishihara M, Sato H, Tateishi H, et al. Implications of prodromal angina pectoris in anterior wall acute myocardial infarction. Acute angiographic findings and long-term prognosis. J Am Coll Cardiol 1997; 30(4): 970-9758)Yang XM, Proctor JB, Cui L, et al. Multiple, brief coronary occlusions during early reperfusion protect rabbit hearts by targeting cell signaling pathways. J Am Coll Cardiol 2004; 44(5): 1103-11109)Ikari Y, Sakurada M, Kozuma K, et al. VAMPIRE Investigators. Upfront thrombus aspiration in primary coronary intervention for patients with ST-segment elevation acute myocardial infarction: report of the VAMPIRE (VAcuuM asPIration thrombus Removal) trial. JACC Cardiovasc Interv 2008; 1(4): 424-43110)Ishii H, Amano T, Matsubara et al. Pharmacological intervention for prevention of left ventricular remodeling and improving prognosis in myocardial infarction. Circulation 2008: 118(25): 2710-271811)Ito H, Taniyama Y, Iwakura K, et al. Hori M, Higashino Y, Fujii K, Minamino T. Intravenous nicorandil can preserve microvascular integrity and myocardial viability in patients with reperfused anterior wall myocardial infarction. J Am Coll Cardiol 1999; 33(3): 654-66012)Ishii H, Ichimiya S, Kanashiro M, et al. Impact of a single intravenous administration of nicorandil before reperfusion in patients with ST-segment elevation myocardial infarction. Circulation 2005; 112(9): 1284-128813)Kitakaze M, Asakura M, Kim J, et al. the J-WIND investigators. Human atrial natriuretic peptide and nicorandil as adjuncts to reperfusion treatment for acute myocardial infarction (J-WIND): two randomized trials. Lancet 2007; 370(9597): 1483-149314)Ito N, Nanto S, Doi Y, et al. High index of microcirculatory resistance level after successful primary percutaneous coronary intervention can be improved by intracoronary administration of nicorandil. Circ J 2010; 74(5): 909-91515)2011 AHA Daily news, Monday, p.6 http://www.nxtbook.com/tristar/aha/day3 2011/index.php#/616)Morikawa S, Sone T, Tsuboi H, et al. Renal protective effects and the prevention of contrast-induced nephropathy by atrial natriuretic peptide. J Am Coll Cardiol 2009; 53(12): 1040-104617)Higuma T, MatsunagaT, Maeda N, et al. Early statin treatment before coronary intervention protects against reperfusion injury and reduces infarct size in patients with acute myocardial infarction. Circulation 2005; 112: II-569 Abstract.18)Tsujita K, Shimomura H, Kaikita K, et al. Long-term efficacy of edaravone in patients with acute myocardial infarction. Circ J 2006; 70(7): 832-83719)Chen KY, Rha SW, Li YJ, et al. Korea Acute Myocardial Infarction Registry Investigators. Triple versus dual antiplatelet therapy in patients with acute ST-segment elevation myocardial infarction undergoing primary percutaneous coronary intervention. Circulation 2009; 119(25): 3207-321420)Nikolsky E, Stone GW, Kirtane AJ, et al. Gastrointestinal bleeding in patients with acute coronary syndromes: incidence, predictors, and clinical implications: analysis from the ACUITY(Acute Catheterization and Urgent Intervention Triage Strategy)trial. J Am Coll Cardiol 2010; 54(14): 1293-130221)Bhatt DL, Eagle KA, Ohman EM, et al. REACH Registry Investigators. Comparative determinants of 4-year cardiovascular event rates in stable outpatients at risk of or with atherothrombosis. JAMA 2010; 304(12): 1350-1357

328.

抗菌薬治療でCOPD急性増悪例、市中肺炎患者の心血管イベントが増加/BMJ

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪例や市中肺炎患者に対するクラリスロマイシン(商品名:クラリスほか)治療により、心血管イベントが有意に増加することが、英国・ナインウェルス病院(ダンディー市)のStuart Schembri氏らの検討で示された。英国では、COPD急性増悪と市中肺炎は入院の主原因であり、治療にはクラリスロマイシンが頻用されている。同薬投与中に心血管イベントが増加する可能性が観察試験で示唆されており、短期投与により冠動脈心疾患患者の心血管死が増加したとする無作為化対照比較試験の結果が知られているが、呼吸器感染症の治療に用いた場合の心血管イベントに及ぼす影響はこれまで不明であった。BMJ誌オンライン版2013年3月21日号掲載の報告。2つの前向きコホート試験のデータを解析 研究グループは、クラリスロマイシン投与と、COPD急性増悪および市中肺炎の患者における心血管イベントの発生の関連を検討するために、2つの前向きコホート試験(EXODUS試験、エジンバラ肺炎コホート試験)のデータを解析した。 EXODUS試験には、2009~2011年に英国の12施設にCOPD急性増悪の初回診断で入院した40歳以上の患者1,343例[クラリスロマイシン投与群281例(年齢中央値70歳、男性48%)、非投与群1,062例(72歳、49%)]が登録された。エジンバラ肺炎コホート試験には、2005~2009年にエジンバラのNHS Lothian病院で市中肺炎と診断された患者1,631例[同:980例(65歳、51%)、651例(68歳、48%)]が登録された。 主要評価項目は、1年後までに発症した心血管イベント(急性冠症候群、非代償性心不全、重症不整脈、心臓突然死)および急性冠症候群(ST上昇急性心筋梗塞、非ST上昇心筋梗塞、不安定狭心症)による入院とした。副次的評価項目は1年後までに起きた全死因死亡および心血管死であった。心血管イベントがCOPD急性増悪例で1.5倍、市中肺炎患者で1.68倍に 1年以内に心血管イベントを発症したのは、COPD急性増悪例が268例[クラリスロマイシン投与群73例(26.0%)、非投与群195例(18.4%)]、市中肺炎患者は171例[同:123例(12.6%)、48例(7.4%)]であった。 COPD急性増悪例に対するクラリスロマイシン投与により、心血管イベント[ハザード比(HR):1.50、95%信頼区間(CI):1.13~1.97]および急性冠症候群(HR:1.67、95%CI:1.04~2.68)の多変量調整済みリスクが有意に増大した。 市中肺炎患者に対するクラリスロマイシン投与では、心血管イベント(HR:1.68、95%CI:1.18~2.38)の多変量調整済みリスクは有意に上昇したが、急性冠症候群(HR:1.65、95%C:0.97~2.80)のリスクの増加には有意な差はなかった。 COPD急性増悪患者では、クラリスロマイシン投与と心血管死にも有意な関連がみられたが(HR:1.52、95%CI:1.02~2.26)、全死因死亡との関連は認めなかった(HR:1.16、95%CI:0.90~1.51)。市中肺炎患者では、クラリスロマイシン投与と全死因死亡、心血管死に関連はなかった。心血管イベントのリスクは投与期間が長くなるほど増加した。 βラクタム系抗菌薬やドキシサイクリンを投与されたCOPD急性増悪例では心血管イベントの増加はみられなかったことから、クラリスロマイシンに特有の作用であることが示唆された。 著者は、「COPD急性増悪例および市中肺炎患者に対するクラリスロマイシンの投与により、心血管イベントが増加する可能性が示唆された。これらの知見は、他のデータセットを用いた解析を行って確認する必要がある」と結論している。

329.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(78)〕 大規模臨床試験で試される新規抗血小板薬はわが国で必要か?

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行において、ステントを使用することが標準となった現在では、急性期および亜急性期の血栓性閉塞を予防するために、アスピリンとADP受容体阻害薬であるチエノピリジン系の抗血小板薬の2剤併用(Dual Antiplatelet Therapy:DAPT)の使用が標準とされ、後者の標準薬としてはクロピドグレルが使用されている。 しかし、クロピドグレルはプロドラッグで、肝臓で代謝されて初めて効果が発現するため早期の抗血小板抑制作用が弱いこと、さらに、CYP2C19の遺伝子多型による代謝が遅延する症例があることが欠点とされていた。 この点を補うべく、経静脈的に投与可能で、直接血小板のADP受容体を阻害する薬剤であるカングレロールが、早期のイベント予防に役立つであろうと期待され、CHAMPION PHOENIX試験が計画された。 カングレロールを使用することで、48時間以内の死亡、心筋梗塞、ステント血栓症が、通常のクロピドグレル使用群に比べ有意に減少したことが示された(クロピドグレル群5.9% vs. カングレロール群4.7%: 補正後オッズ比:0.78、95%信頼区間:0.66~0.93、p=0.0005)。また、出血を含めた安全性にも差はなかった。 この結果からカングレロールが優れているように思われるが、ほとんどのイベントがPCI施行後2時間に発生しており、その頻度もクロピドグレル群で5.9%と、わが国では考えられないほどの高率である。心筋梗塞が4.7%、ステント血栓症1.4%であり、心筋梗塞はCPKの3倍の上昇と定義されているために高率となっている可能性もあるが、ステント血栓症の1.4%はわが国では非現実的な値である。本邦で施行された安定型狭心症を対象としたJ-SAP研究はもとより、急性心筋梗塞が対象でも本邦での急性期イベント発症は1%未満である。 本試験が急性冠症候群を対象にしているのでなく、50%以上が待機症例であること、しかもカングレロールが非急性冠症候群で有効であることを考えれば、PCI後高率に血管イベントが発症している本試験のデータをそのままわが国に適応して、カングレロールがクロピドグレルに代わることはないであろう。ただ、可逆的であることは、緊急的なCABGに移行した場合に出血リスクを減少させることは利点であり、今後の検討が必要である。

330.

Vol. 1 No. 1 緒言

森野 禎浩 氏岩手医科大学内科学講座循環器内科分野本邦における急性冠症候群(acute coronarysyndrome: ACS)の治療実態を客観視する機会が訪れた。冠動脈インターベンション(percutaneous coronaryintervention:PCI)は国内で急速に普及したが、大都市にとどまらず、比較的中小の都市に点在する基幹病院でもprimary PCI(ACSの再潅流療法)を行うことができるのが日本の最大の特徴だ。欧米と異なり、年間PCI症例数300例に満たない小規模施設が散在するため、人的リソースが分散しがちで、スタッフ1人にかかる負担が増すばかりか、教育効率低下の恐れもある。一方、各地域に治療可能施設が分散することは、時間との闘いであるACS治療には潜在的なメリットも多い。ACS患者が来院すれば、主に若い専門医が昼夜を問わず集まり、心臓カテーテルで診断・血行再建を行うことが日本型診療の通例となっている。その代償として、現場スタッフはオンコール体制に縛られ街から外に出ることすら制約を受け、朝まで緊急カテをしてもそのまま午前の定時仕事に就くというのが通常で、それに見合う十分な報酬体制も整っていない。要するに、PCI 施行医やコメディカルの自己犠牲のもとに日本の急性期循環器医療は成り立ってきた。 日本のACSの治療実態を把握するため、約100施設で、連続症例登録を基本とした前向きレジストリー(PACIFIC試験)が行われ、その結果が最近公表された。同様の大規模国際レジストリー(GRACE試験:施行時期が異なるが大勢に大きな差はないはずである)と比較し、諸外国に比べて日本のACS治療体制がいかに特殊なのか、いかに好成績を収めているのか容易に理解できる。日本の代表的施設では94%ものACS患者が緊急PCIを受けているのに対し、欧米を含む諸外国においてはカテーテル検査ですら56%、PCIとなると全体の33%にしか行われていない。この著しい治療スタイルの違いが、ACS患者の院内死亡率に大差をつけた最大の誘因と考察されている。こうした事実を実感していないであろう日本の多くの現場スタッフに、日本型ACS医療の素晴らしさをできるだけ速く伝達しなければならないと考えていた。幸いなことに、新しく発刊されるCardioVascular Contemporary誌にこの分野の特集をしていただけることになり、さらに同試験を企画・指導した宮内先生ご自身に、PACIFIC試験に見る日本のACS治療の実態について詳説いただけることとなった。 ACSの急性期治療の大原則は、一刻も早い再潅流療法である。それに付随して、アスピリンとクロピドグレルのローディング投与のように、万国共通の確立された薬物療法が基礎を占める。しかしながら、ACS治療の具体的工夫となると、日本が牽引する分野が少なくない。primary PCIは大量の血栓を末梢に飛ばさないよう処理する必要があるが、血栓吸引や末梢塞栓防止の保護フィルターの臨床応用は、日本で盛んに進められてきた。また、ニコランジルやhANPといった薬剤の心筋保護作用を証明するために臨床試験も精力的に仕掛けられてきた。恐らく、生命予後のみならず、「心筋壊死量を少しでも少なくする」ことを目的に、これだけ精緻に、かつ二重・三重の追加療法を具体的に実践してきた国もないだろう。日本の良好なACS治療成績は、PCIの施行体制のみならず、このようなさまざまな集学的アプローチの複合結果だと思われる。こうしたACS治療の最新コンセンサスについては石井先生に明快にまとめていただいた。 救命し得たACS発症患者の外来管理のゴールは、血管イベントの2次予防であり、本質的にはそこまでACS治療と呼ぶべきである。彼らは安定狭心症の血行再建後の患者に比べても、血管イベントの再発率が高いことが知られ、より積極的な薬物治療介入が求められる。日本の動脈硬化性疾患の特徴として、脳血管障害の比率が高いことがREACHレジストリーで指摘されたが、薬物溶出性ステントによるPCI後の患者においても、脳血管障害の発生頻度が冠動脈イベントより高いことがj-Cypherレジストリーで明らかとなった。アテローム血栓症(ATIS)という疾患概念が提唱され随分経つが、脳血管合併症をかなり意識した薬物療法が日本の循環器内科医には必要である。ACS発症後の2次予防治療として、抗血小板薬やスタチンを中心とした積極的薬物介入の必要性やその他動脈硬化因子の改善が必要であることは周知の事実だが、この分野を画像診断に造詣の深い大倉先生にまとめていただけることとなった。 ACS、特にST上昇型心筋梗塞(STEMI)の場合、発症から閉塞血管の疎通にかかる時間が予後を左右する。そのため、「door-to-balloon時間(来院からバルーンなどによって血行の再疎通を果たせるまでの時間)を90分以内にしよう」ということが国際的スローガンとなってきた。筆者は最近岩手県に転勤したが、STEMI患者のpeak CPK値が、今まで経験した患者群より明らかに高いと実感している。これは広い医療圏ゆえの搬送問題、我慢強い患者さんの気質など、種々の時間的ハンディキャップに基づいていると考察できる。管轄地域のACSの医療体制構築が自身の最大のテーマであり、実現のためには1人でも多くのPCI施行医を育成するとともに、primary PCI施設の効率的再配置、患者啓蒙活動、初診医との連携強化など、時間短縮を目指したトータルな医療設計が不可欠である。地方の内科医数の減少に歯止めがかからないなか、過酷な診療実態から特に循環器内科医になることが敬遠される傾向にある昨今だ。今回の特集で、日本型ACS治療体制がどうやら世界に誇れる素晴らしいものであることがわかってきたが、現場スタッフの献身的努力に極度に依存する体質など、課題も山積みである。本来、循環器医療は非常にやり甲斐があり、おもしろく、若い医師の人気が集まる分野のはずである。今こそ、急性期循環器診療体制のグランドデザインを、行政も交えて皆で熟考していく必要があるのではないか?そんなことばかり考えて、初めての北国の冬を過ごしている。

331.

募集した質問にエキスパートが答える!心房細動診療 Q&A (Part.2)

今回も、4つの質問に回答します。「抗凝固薬服薬者が出血した時の対処法」「抗血小板薬と抗凝固薬の併用」「レートコントロールの具体的方法」「アブレーションの適応患者と予後」ワルファリンまたは新規抗凝固薬を服薬中に出血した場合、どのように対処すべきでしょうか?中和方法等を含めて教えてください。緊急の止血を要する場合の処置法は図5のとおりです。まずは、投与中止し、バイタルサインを見ながら止血と補液を行います。脳出血やくも膜下出血の場合には十分な降圧を行います。最近、Xa阻害剤の中和剤(PRT4445)が開発され、健常人を対象に臨床研究が始まることが報告されました。今後の結果が待たれます。ダビガトランは透析可能とされておりますが、臨床データは十分ではなく、また出血の起きているときに太い透析用のカテーテルを留置するのはあまり現実的ではないでしょう。図5.中等度~重度の出血(緊急の止血を要する場合)画像を拡大する虚血性心疾患既往例など抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合、どのような点に注意すべきでしょうか?抗血小板薬2剤+抗凝固薬1剤という処方パターンなどは許されますでしょうか?大変悩ましい質問です。抗血小板薬と抗凝固療法の併用は、出血事故を増加させます。このため併用者が受診した時には、出血がなかったかどうかを毎回問診します。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の2010年ガイドラインには、虚血性心疾患で抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合の治療方針が掲載されております(表2)。その指針には、(1)HAS-BLED出血スコアを考慮し、次に(2)待機的に加療する狭心症か、あるいは緊急で治療を要する急性冠症候群か、そして(3)ステント性状がベアメタルか薬剤溶出性か、の3つのステップを踏んで薬剤の種類と投与期間を決定すると示されています。確かに合理的と思いますが、これには十分なエビデンスがないことより、今後の検証を待つべきでしょう。しかしながら、個人差があると思いますが、原則としてステント留置後1年が経過したらワルファリン単剤で様子を見たいと思います。ただし、新規抗凝固薬についての言及はありません。表2.心房細動+ステント症例の抗血栓療法画像を拡大するレートコントロールを具体的にどのように行えばよろしいでしょうか?(薬剤の選択、β遮断薬の使い方、目指すべき脈拍数等)レートコントロールは洞調律の維持を切望しない、すなわち心房細動症状があまり強くない人に行うことが主です。しかしながら、リズムコントロール薬と併用することもありますし、反対にリズムコントロール薬よりもレートコントロール薬の方が有効である症例も経験します。まず、心機能別の薬剤使い分けを表示します(表3)。高齢者は薬物の代謝能力が落ちていることがありますので、投与前には肝・腎機能を調べるとともに、併用薬がないかどうかも確認します。まず表3に記載された薬剤は少量から使用すべきでしょう。たとえばジギタリスは常用量の半量から使用し、β遮断薬は(分割や粉砕などの手間がかかりますが)常用量の1/4 ~1/2量から開始します(最近は低用量製剤も使用可能です)。ベラパミルは朝と日中の2回のみ使用します。投与後は過度な徐脈になっていないかどうかを、自覚症状とホルター心電図で検討します。私は、夜間の最低脈拍数は40台まで、また、3秒までのポーズは良しとしております。動いたときに息切れがひどくなったと言われれば中止することもあります。喘息のある場合はジギタリスかCa拮抗薬がお勧めですが、ベータ1選択性の強いビソプロロールは投与可能とされます。目標心拍数についてはRACE II試験が参考になります(NEJM 2010)。この試験では、レートコントロールは厳密に行うべきか(安静時心拍数が80/分未満で、かつ日常活動時に110/分未満)、あるいは緩徐でよいか(安静時心拍数が110/分未満であれば良しとする)の2群に分けて3年間の予後を比べました。その結果、2群間に死亡や入院、およびペースメーカ植込みなどの複合エンドポイントに有意差はなかったことより、レートコントロールは緩めで良いと結論付けられました。その後のサブ解析(JACC 2011)、左房径や左室径のりモデリング(拡大)は、レートコントロールの程度で差はないことが報告されました。白衣高血圧と同様の現象で、診察時や心電図をとるときに緊張すると、心拍数はすぐに増加します。しかしながら、いつも頻脈が続く場合や、頻脈による症状が強い時には、何か疾患が隠れていることもありますので注意が必要です。たとえば、COPD、貧血、甲状腺機能亢進症、および、頻度は低いのですがWPW症候群に合併した心房細動(頻脈時にQRS幅が広い)のこともありますのでレートコントロールがうまくいかない場合には専門医を受診させるとよいでしょう。薬剤によるレートコントロールがうまくいかない場合には、房室結節をカテーテルアブレーションによって離断し、同時にペースメーカを植込むこともあります。表3.心機能別にみた薬剤の使い分け画像を拡大するアブレーションはどのような患者に適応されますか?また、長期予後はどうでしょうか?教えてください。機器の改良と経験の積み重ねによってアブレーションの成功率は高くなってきました。この結果、適応範囲は拡大し、治療のエビデンスレベルは向上しております。日本循環器学会のガイドラインでは年間50例以上の心房細動アブレーションを行っている施設に限ってはClass Iになりました。すなわち内服治療の段階を経ることなく、アブレーションを第一選択治療法として良いとしました。しかながら、心房細動そのものは緊急治療を要する致死性不整脈ではありません。このため、アブレーションの良い適応は心房細動が出ると動悸症状が強くてQOLが低下する患者さんでしょう。心房細動がでると心不全に進展する場合も適応です。最近は、マラソンブームをうけて一般ランナーやジムでトレーニングを続けるアスリートなどが心房細動を自覚して紹介来院される人が増えてきたように思います。心房細動がでるとパフォーマンスが落ちて気分が落ちるためにアブレーションを希望されるようです。現時点では、心房細動アブレーションに生命予後の改善や脳梗塞の予防効果があるかどうかのエビデンスがそろったわけではありません。図6のようにアブレーションを一回のみ施行した場合は5年間の追跡で約半数が再発します(左)。再発に気付いて追加アブレーションを行うことにより洞調律維持効果が上がります(右)。発生から1年以上持続した持続性心房細動や左房径が5cmを超えている場合は再発率が高いため、最初から複数回のアブレーションを行うことも説明します。また、合併症は0ではありません。危険性を十分説明し、患者さんが納得したところで施行すべきです。アブレーションが成功したと思ってもその後に無症候性の心房細動が発生していることも報告されておりますので、CHADS2スコアにしたがって抗凝固療法を継続することも必要でしょう。また、最近は図7のようにCHADS2スコアが心房細動アブレーションの効果を予測するとする報告がなされました。CHADS2スコアが1を超えると再発率が高く、追加アブレーションが必要とされるようです。図6.洞調律維持効果(中期)画像を拡大する図7.CHADS2スコアと洞調律維持効果(長期)画像を拡大する

332.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(56)〕 脂肪摂取の基準はいかに-リノール酸による死亡リスクの増加-

心疾患のリスクを抑制するための食事療法として、飽和脂肪酸を多く含む動物性脂質を可能な限り避け、多価不飽和脂肪酸の豊富な植物性脂質に変更することは、有意義であると考えられている。 しかし、オーストラリアで1966~1973年に実施された単盲検並行群間ランダム化試験であるSydney Diet Heart Study(SDHS)を再解析した本論文では、食習慣に介入しない対照群と比較して、動物性脂質(マーガリンやショートニング)をリノール酸(紅花油や紅花油由来のマーガリン)に変更した介入群では全死亡のリスク、心血管疾患の再発が有意に高かったというのである。 心筋梗塞、狭心症などの心血管イベントで入院した30~59歳の男性258人をランダムに対照群(237人)と介入群(221人)に分け、介入群では食事中の多価不飽和脂肪酸をエネルギー摂取量の15%に増やし、飽和脂肪酸を10%未満、食事性のコレステロールも300mgに制限、紅花油・紅花由来のマーガリンを配布し、特別な食事指導は行わない対照群と比較している。 Cox比例ハザードモデルを用いた解析で5年後の累積死亡を比較すると、対照群の死亡が11.8%であるのに対し、介入群では17.6%であり、ハザード比(HR)は1.62(95%信頼区間、1.00~2.26)と報告されている。同様に、心血管死、冠動脈疾患による死亡のHRもそれぞれ1.70(95%信頼区寛、1.03~2.80)、1.74(95%信頼区間、1.04~2.29)と、いずれも介入群でのリスクの有意な上昇が示されたというのである。 この論文は2013年2月5日に公表され、米国心臓協会(AHA)は2月7日、飽和脂肪酸は摂取エネルギー量の7%未満、多価不飽和脂肪酸は5~10%という指針を継続すると発表している。 食事における脂肪摂取のバランスについては、十分なエビデンスが得られていない。飽和脂肪酸は本当に悪なのか、魚油に多く含まれるω3-多価不飽和脂肪酸と植物由来のω6-多価不飽和脂肪酸はどのように違うのかなど、今後の展開が注目される。

333.

ω-6リノール酸、むしろ死亡率を高める?:Sydney Diet Heart Studyとメタ解析/BMJ

 冠動脈疾患(CHD)の2次予防において、飽和脂肪酸をω-6リノール酸(多価不飽和脂肪酸)で代替する食事療法は、全死因死亡、CHD死、心血管疾患(CVD)死をむしろ増加させる可能性があることが、米国・国立衛生研究所(NIH)のChristopher E Ramsden氏らの検討で示された。食事に含まれる飽和脂肪酸をω-6リノール酸で置き換えると、総コレステロール値やLDLコレステロール値が低下することが知られている。そのため、CHD患者の食事療法ガイドラインではこれらの代替が推奨されているが、リノール酸の臨床的なベネフィットは確立されていない。Sydney Diet Heart Study(SDHS)は、サフラワー油由来のリノール酸の、CHD死やCVD死の抑制効果に関する包括的な解析を目的とした無作為化試験で、データが紛失したため長年放置されていたが、同氏らがオリジナルのデータセットの回収に成功したという。BMJ誌オンライン版2013年2月5日号掲載の報告。SDHSの回復データの解析と、これを含めた最新のメタ解析 研究グループは、食事に含まれる飽和脂肪酸のω-6リノール酸(多価不飽和脂肪酸)への代替による、CHDの2次予防効果を評価するために、SDHSの回復されたデータの解析を行い、さらにこれらのデータを含めた最新のメタ解析を実施した。 SDHSは、1966~73年にオーストラリア・シドニー市で進められた単盲検無作為化対照比較試験で、直近の冠動脈イベント歴を有する30~59歳の男性患者458例が対象となった。 これらの患者が、飽和脂肪酸(動物脂肪、マーガリン、ショートニング由来)をω-6リノール酸(サフラワー油、サフラワー油製の多価不飽和マーガリン由来)で代替した食事療法を受ける群または対照群(特別な食事指導を受けず、代用食は摂取しない)に無作為に割り付けられた。試験は、食事以外の要素はすべて両群で同等となるようデザインされた。 主要評価項目は全死因死亡とし、副次的評価項目はCVD死およびCHD死とした。全死因死亡率:介入群17.6% vs 対照群11.8%(p=0.05)、メタ解析では有意差なし 介入群に221例(平均年齢48.7歳、平均BMI 25.1kg/m2)、対照群には237例(同:49.1歳、25.4kg/m2)が割り付けられた。 全死因死亡率は、介入群が17.6%と、対照群の11.8%に比べ有意に高かった〔ハザード比(HR):1.62、95%信頼区間(CI):1.00~2.64、p=0.05〕。 CVD死は、介入群が17.2%、対照群は11.0%(HR:1.70、95%CI:1.03~2.80、p=0.04)、CHD死はそれぞれ16.3%、10.1%(同:1.74、1.04~2.92、p=0.04)であり、いずれも対照群のほうが有意に良好だった。 これらのデータを含めたリノール酸介入試験のメタ解析では、CHD死(HR:1.33、95%CI:0.99~1.79、p=0.06)およびCVD死(同:1.27、0.98~1.65、p=0.07)のリスクが、ともに介入群で増大する傾向がみられたが、有意な差は認めなかった。 著者は、「飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換える食事療法は、全死因死亡、CVD死、CHD死をむしろ増加させ、メタ解析でもω-6リノール酸介入による心血管ベネフィットのエビデンスは示されなかった」と結論し、「現在、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸で代用する方法は、世界的にCHDのリスク低減に向けた食事療法ガイドラインの中心となっているが、今回、ω-6リノール酸を最も豊富に含む食事の臨床的ベネフィットは確立されなかった。この知見は、このような代替食事療法を勧告するガイドラインにとって重要な意味を持つだろう」と指摘している。

334.

月1回のペギネサチド、週1~3回のエポエチンに非劣性/NEJM

 貧血を伴う血液透析患者に対し、赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)のペギネサチド(本邦未承認)の月1回投与が、エポエチン週1~3回の投与と同程度の効果であることが明らかにされた。米国・Hofstra North Shore–LIJ School of MedicineのSteven Fishbaneらが第3相オープンラベル無作為化試験「EMERAL1、2」を行った結果、報告した。NEJM誌2013年1月24日号掲載より。ペギネサチド月1回投与とエポエチン週1~3回投与を比較 研究グループは、血液透析患者1,418例を対象にした、2つのオープンラベル無作為化試験(EMERAL 1:693例、EMERAL 2:725例)を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはペギネサチドを月1回投与し、もう一方の群には継続してエポエチンを週1~3回投与した。投与量は、ヘモグロビン値を10.0~12.0g/dLに維持するように調節し、52週以上継続した。 主要エンドポイントは、試験開始時のヘモグロビン値から評価期間(29~36週)の平均ヘモグロビン値への変化量の平均値とした。 また、心血管イベントに関する安全性について、EMERAL 1、2と、血液透析をしていない患者を対象にした別の2つの試験を併せて評価した(被験者総数2,591例)。同安全性評価に関するエンドポイントは、総死亡、心筋梗塞と、うっ血性心不全、不安定狭心症、不整脈による重度有害事象の複合とした。安全性に関する複合イベント発生リスクも、有害事象リスクも同等 その結果、ペギネサチドはエポエチンと比較してヘモグロビン値の維持について、事前に規定した基準により非劣性であることが認められた。主要エンドポイントのヘモグロビン値の平均群間差は、EMERAL 1が-0.15g/dL(95%信頼区間:-0.30~-0.01)、EMERAL 2が0.10g/dL(同:-0.05~0.26)だった。 また安全性に関する複合エンドポイント発生率も、非透析患者も合わせた4試験の結果では、ペギネサチド群22.3%に対し、エポエチン群21.6%と、ハザード比は1.06(同:0.89~1.26)だった。EMERAL1、2の結果では、同ハザード比は0.95(同:0.77~1.17)だった。 有害事象、重度有害事象の発生率も、EMERAL試験の各治療群で同程度だった。プールコホート解析でも、心血管安全性についてペギネサチドと対照ESAは同程度であった。

335.

日本でほとんど報道されなかった驚愕のインパクト、冠動脈疾患の二次予防に対するコルヒチンに迫る!

 2012年11月、AHA(米国心臓病学会)学術集会が開催され、多くの新しい知見が発表された。その中に、日本では、ほとんど報道されてはいないが、冠動脈疾患の二次予防において、臨床的にきわめてインパクトの高い試験結果が発表されていた。その試験名は、「The LoDoCo Trial」という。LoDoCo試験に用いられた新たな治療選択肢は、わが国でも古くから使用されている痛風発作予防薬コルヒチンだった。ケアネットでは、この試験に注目し、情報を提供してくださった東海大学医学部 後藤信哉氏に直接お話を伺った。後藤氏は、AHA発表時のDiscussantでもある。安定狭心症への低用量コルヒチン投与によって心血管イベントが減少 LoDoCo (Low Dose Colchicine)試験は、低用量コルヒチンが、安定狭心症患者の心血管イベントを抑制するかを検討したオープン試験である。血管造影にて確認された安定狭心症532例を、低用量コルヒチン(0.5mg/日)群(282例)またはコルヒチン非投与群(250例)に無作為に割り付け、最初の臨床イベント(急性冠症候群、院外心停止、非心原性脳梗塞)を主要評価項目として、平均3年間追跡した。その結果、イベント発症率は、非投与群が40/250(16%)、低用量コルヒチン群が15/282(5.3%)となり、HRは0.33 (95%CI: 0.18~0.60、p

336.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(44)〕 MADIT試験の変遷

はじめに 欧米における心臓突然死は年間35万人と推定され、その約80~90%が虚血性心疾患による心室性頻脈性不整脈が原因とされている1)。わが国における心臓突然死は年間6~8万人と推測され2)、約35%が心筋症(拡張型、肥大型、催不整脈右室心筋症など)、約30%が虚血性心疾患、その他プライマリ不整脈疾患(ブルガダ症候群、QT延長症候群、J波症候群など)の内訳となっている3)。心臓不整脈死の予防に対して、植込み型除細動器(ICD)の有効性はすでに確立されているが、本稿では主にMADIT試験の変遷に準拠して概説してみる。MADIT(Multicenter Automatic Defibrillator Implantation Trial)-I試験4) 陳旧性心筋梗塞の既往を持つ左室駆出率35%以下の心不全例(NYHA I~III)で、無症候性の非持続性心室頻拍(心拍数>120/分、3連発以上)を有し、プロカインアミド無効な心室頻拍・心室細動が誘発された196例を対象に、ICD治療群と抗不整脈薬治療群の無作為割り付けによる生命予後を比較した試験である(平均観察期間27ヵ月)。その結果、ICD治療群は抗不整脈薬治療群に比し総死亡率を54%低下させた(p=0.009)。サブ解析では、左室駆出率26%未満の高度左室機能障害例でとくに高いICD治療群の生命予後改善効果が示された。本試験により、虚血性心疾患に対するICD治療の高い心臓突然死の一次予防効果が確認された。MADIT-II試験5) 同様に、陳旧性心筋梗塞の既往を持つ左室駆出率30%以下の心不全患者1,232例(NYHA I~III)を対象に、非持続性心室頻拍や心室頻拍・心室細動の誘発性は問わず、ICD治療群742例と抗不整脈薬群490例の無作為割り付けによる生命予後を比較した試験である(平均観察期間20ヵ月)。その結果、ICD治療群は抗不整脈薬治療群に比し総死亡率を31%低下させた(p=0.007)。サブ解析では、左室駆出率25%未満の高度左室機能障害例やQRS幅150msec以上の心室内伝導障害例における高いICD治療群の生命予後改善効果が示された。MADIT-CRT(Cardiac Resynchronization Therapy)試験5) 虚血性、非虚血性を問わず左室駆出率30%以下、QRS幅130msec以上の心不全患者1,820例(NYHA I~II)を対象に、ICD治療群731例とCRTD治療群1,089例の3:2無作為割り付けによる生命予後、ならびに心不全発症の複合イベントを比較した試験である(平均観察期間2.4年)。その結果、CRTD治療群はICD治療群に比し複合イベント率を41%低下させた(p<0.001)。サブ解析では、QRS幅150msec以上の心室内伝導障害例における高いCRTD治療群の心不全予防効果が示された。MADIT-RIT(Reduce Inappropriate Therapy)試験7) 以前より、ICDの上室性頻脈性不整脈などによる不適切作動は患者の生命予後を悪化させることが指摘されていた8)。そのICDの不適切作動を減らすために、ICD移植1,500例を対象に異なる3つの作動プログラミング設定(標準、高心拍、待期的)について検証した国際多施設無作為化試験の結果が、最近になって報告された(平均観察期間1.4年)。従来のICD標準作動プログラム群(170~199拍/分は2.5秒待機で作動、200拍/分以上は1.0秒待機で作動)に比し、高心拍数作動群(200拍/分以上は2.5秒待機で作動)は、初回不適切作動を79%減らし(p<0.001)、全死亡を55%減らす(p=0.01)結果であった。同様に、従来のICD標準作動プログラム群に比し、待機的作動群(170~199拍/分は60秒待機で作動、200~250拍/分は12秒待機で作動、250拍/分以上は2.5秒で作動)は、初回不適切作動を76%減らし(p<0.001)、全死亡を44%減らす(p=0.06)結果であった6)(参考文献6 Figure1、Figure2)。本研究の結果より、ICDの作動プログラミング設定を適切に調節することにより、誤作動を減らし、患者の生命予後を改善させることが示された。おしまいに イスラエル出身のミロウスキー博士によって開発されたICDは、第1例目の移植術が始まってすでに30年以上も経過している。もし、より疼痛が少ない抗頻拍ペーシングや短時間での除細動が可能となれば、患者の精神的苦痛も軽減されるであろう。今後のICD治療には、患者の生命予後改善のみならず、日常生活の質(QOL)向上を目的としたデバイスの開発ならびに設定の配慮が必要であろう。参考文献1. Bayés de Luna A, et al. Am Heart J. 1989; 117:151-159.2. 豊嶋英明ほか.心臓性突然死の疫学.In:村山正博ほか編.心臓性突然死.医学書院;1997.p.6-18.3. 笠貫宏.ICDの適応.日本心臓ペーシング・電気生理学会植込み型除細動器調査委員会編.植込み型除細動器の臨床.医学書院;1998:p.15-32.4. Moss AJ, et al. N Engl J Med. 1996; 335: 1933-1940.5. Moss AJ, et al. N Engl J Med. 2002; 346: 877-883.6. Moss AJ, et al. N Engl J Med. 2009; 361: 1329-1338.7. Moss AJ, et al. N Engl J Med. 2012; 367: 2275-2283.8. Daubert JP, et al. J Am Coll Cardiol. 2008; 51: 1357-1365.

337.

Dr.香坂の循環器診療 最前線

第1回「心房細動はどこを治療する?」第2回「狭心症の診断と治療」第3回「心不全は見た目ではない」 絶えず進歩し続けるダイナミックな循環器領域。その診断・治療法について最新の研究結果をカバーしながら、疾患概念の本質(コア)を押さえるお手伝いをします。様々な検査や治療方法がからんでくる循環器は一見複雑ですが、派手な所見や手技に目を奪われず、その患者さんにとって一番大事なポイントを押さえることが肝要です。豊富なエビデンスとリサーチをもとに、臨床の現場ですぐに役立つ情報を基本から分かりやすく解説。実際の処方例や検査のアプローチの仕方を見直しながら、視野を広げて、着実にステップアップしていきましょう!第1回「心房細動はどこを治療する?」心房細動のポイントはまず“やり過ぎない”こと。そして、リスクを知った上で最大限効果を挙げられる治療法を選ぶことです。「心房細動はすべて敵だ!」というような、一昔前の考え方を捨て、どの人にどのような手段を選んでいくのか、テーラーメードな治療の選択を目指しましょう。第2回「徹底的にエビデンスにこだわった狭心症の診断と治療」ダイナミック(動的)な疾患、安定狭心症。そのワークアップは安静時の症状や心電図だけで語ることはできません。負荷試験を組み合わせ、さらに診断と予後の情報を分けて考えていきましょう。その治療も PCI なのか CABG なのか、という二択ではなく、より立体的にとらえる必要があります。このセッションを通じて狭心症のマネジメントの枠を広げましょう。第3回「心不全は見た目ではない」治療は見た目ではない: ラシックスの一辺倒は時代遅れ?予後は見た目ではない: 心臓は全身から支えられている機能は見た目ではない: 心機能が落ちていないのに心不全?『EF』よりもだいじなもの

338.

聖路加GENERAL 【Dr.石松の帰してはいけない患者症例】

1.「頭痛篇」2.「胸痛篇」 1.「頭痛篇」さまざまな症状で救急に来る患者さん。最も重要なのは、緊急性の判断です。緊急性の高い疾患を見逃して、帰してしまうようなことだけは避けなければなりません。問診、身体所見、必要な検査を迅速に行い、疾患の鑑別を行いますが、判断の難しいケース、ときには緊急性なしと判断されてしまう場合もあります。比較的よくみられる症例をとおして「帰してはいけない」緊急性が高い疾患の見分け方を解説します。【症例1】3カ月前から、バンドで締め付けるような頭痛が徐々に発生した55歳の女性。【症例2】会議中に突然頭痛が発症し、嘔吐を伴い痛みが持続している52歳女性。この2つの症例から緊急性の有無を見極めるには、まず"OPQRST"チェックを行います。その結果、2例目はとても危険度の高い症例であることがわかり、無事に治療を受けることができました。その極意をお伝えします。【症例3】ランニング中に頭痛と嘔気を催した34歳の男性。頭痛は改善せず6日間持続し、さらに増悪したため来院しました。まずは前回お伝えした"OPQRST"でチェックすると、「頭痛が6日間継続し、かなり激しい痛みにまで増悪した」ことから、危険な疾患が予測されました。しかし、身体所見をみると、ほとんど異常がみられません。どうやら、典型的なものではないようですが、どのようにアプローチするのでしょうか?【症例4】嘔吐、羞明、右半身筋力低下という随伴症状のある25歳女性。これは、もちろん片頭痛として帰すわけにはいきません。しかしCTとMRIを施行しましたが、異常な所見はありませんでした。この症例、どのように診断したのでしょうか?頭痛の診断に役に立つチェックリスト"OPQRST"について、さらに詳しく解説します。2.「胸痛篇」胸痛で救急対応といえば、ACSなど危険な疾患を迅速に鑑別しなければなりません。【症例1】一週間前から胸痛が断続的に続く79歳の女性。早速痛みのチェックリスト“OPQRST”でチェックすると、「ACSなどの危険な疾患はない」と判断されました。また血液、心電図、CXRを検査しても異常は認められません。さて、どんな診断がくだされるのでしょうか。【症例2】ビールを飲んで締め付けられるような胸痛を発症した50歳の男性。肥満、高血圧、不整脈、脂質異常、喫煙とリスクファクターがずらりと揃っています。前例のGERDにもあてはまりそうですが、まずはリスクの高いところから評価をしていきます。ところが、血液、心電図とも特にACSを疑う所見は出てきません。さて、危険な疾患がみつかりそうなこの患者にどのようにアプローチしたのでしょうか。聖路加GENERALでお伝えした、「狭心症3つの質問」などを交えて展開します。【症例3】仕事中に、突然胸が苦しくなり意識を失った54歳の男性。またもやACS ? しかし、血液検査でも心電図でも異常がみつかりません。次に局所症状があったことから、頭部CTを撮りましたが、こちらも異常所見はありませんでした。異常が見つかったのは胸部単純写真からでした。左第一弓が突出していることから、大動脈造影CTを撮影したところ、明らかな解離がみられました。【症例4】背部痛と嘔気のある56歳の女性。夜中に痛みを発症し、痛み止めを飲んでも効果がないため救急来院。身体所見では、既往の高血圧以外は特に異常はみられませんでした。このような場合はOPQRSTで病歴を再度チェック!その結果、先ほどと同じ大動脈解離も鑑別にあがります。さて、この背部痛はどうだったのでしょうか。

339.

ICDプログラミング変更で不適切作動は約8割低下し、死亡は半減に/NEJM

 植込み型除細動器(ICD)の不適切作動を減らすために、異なる3つの作動プログラミング設定(標準、高心拍、待期的)について検証した国際多施設無作為化試験「MADIT-RIT」の結果が、米国・ロチェスター大学医療センターのArthur J. Moss氏らにより発表された。高心拍および待期的の両作動プログラミングとも、標準作動プログラミングよりも不適切作動は低減し、全死因死亡率も低下したという。ICDは、致死的不整脈リスクを有する患者の死亡率低下への有効性が高いが、一方で不適切作動の頻度が高く(8~40%に及ぶとされる)、その影響は致命的である可能性がある。これまで、不適切作動を低減する最適なICDプログラミングについては不明であったという。NEJM誌2012年12月13日号(オンライン版2012年11月6日号)掲載より。標準作動vs.高心拍作動、待期的作動のプログラミングを検証 試験は、ICD標準作動プログラミング(170~199拍/分は2.5秒待期で作動、200拍/分以上は1.0秒待期で作動)よりも、200拍/分以上の場合に作動する(高心拍数作動)プログラミング(200拍/分以上2.5秒待期で起動)や、標準プログラミングよりも待期時間を延長して作動するようにした(待期的作動)プログラミングのほうが、不適切作動が少なくなると仮定し行われた。 2009年9月~2011年10月の間に、米国、カナダ、欧州、イスラエル、日本の98病院から被験者1,500人を登録し、2012年7月まで追跡した。 主要エンドポイントは、不適切作動(抗頻脈ペーシングまたはショック)の初回発生であった。 3群の被験者の平均年齢は62~63歳、男性が69.5~72.6%を占めるなど同等であった。不適切作動初回発生リスク76~79%低下、全死因死亡リスク44~55%低下 平均追跡期間1.4年の間、標準作動プログラミングと比較した不適切作動の初回発生リスクは、高心拍数作動プログラミングは79%低下(ハザード比:0.21、95%信頼区間:0.13~0.34、p<0.001)、待期的作動プログラミングは76%低下(同:0.24、0.15~0.40、p<0.001)した。 また、全死因死亡リスクは、高心拍数作動プログラミングが55%低下(同:0.45、0.24~0.85、p=0.01)、待期的作動プログラミングは44%低下(同:0.56、0.30~1.02、p=0.06)がみられた。 ICD処置関連の有害事象について、3群間に有意な差はみられなかった。

340.

みんなの症候診断

第1回「経過にこだわろう!」第2回「“急に”と言われても…」第3回「反復するということは?」 第1回「経過にこだわろう !」症候診断において最も重要な「病歴」。しかし、症例は教科書通りのものばかりではありません。患者さん側も診断に必要な情報を順序立てて話してくれるわけではなく、経験の浅い医師にとってはついつい時間がかかるばかりで、肝心の診断がつかないことも間々あります。 「マニュアルで診療はできないんです」と講師の前野先生。さまざまな情報から必要なものを選び出して頭の中で鑑別診断リストを作り、効率的な質問を投げかけながらリアルタイムで診断を絞り込んでいく。瞬時にこれらのことができる訓練をしなければいけません。この思考ロジックを、前野先生が研修医の皆さんと一緒にたどっていきます。第1回の症例は「頭痛」。ありふれた症例ですが、問診でのポイントは何処にあるのでしょう?第2回「“急に”と言われても…」今回のケースは“急におなかが痛くなった”患者さんです。漠然とした訴えにどうしたらいいのか悩んでしまいますが、どう対応したらいいのでしょう。番組では、症状のどこに注目して、何を聞いたらいいのか、そして重篤な疾患を見逃さないコツは何なのかを、詳しく解説していきます。ゲーム感覚で楽しく学べる診療のコツをどうぞお楽しみください。第3回「反復するということは?」今回取り上げるのは「胸痛」を訴える患者さん。胸痛と言えば当然、狭心症、心筋梗塞などの見逃せない疾患の主訴ですね。すぐに心電図!とあなた。しかし、異常は見当たらずホッと安心…はもちろんできません。ホルター心電図でさえ捉えられないことも間々ある心臓の虚血…。さあ、どうしましょう? 心エコー? 心カテ? やっきになって検査をやみくもに繰り返してしまうのが、新人の先生が陥りやすいワナです。 「胸が痛いと言う患者さんにはもちろん心電図は重要な検査です」しかし、「心電図だけでは虚血は診断できないことが多々あります」と前野先生。そんな時重要なのは、「やはり病歴」。そしてそれは「それほど難しいことではないんです」。病歴から分かる病態生理は、診断の大きな手がかりになるだけでなく、それを説明することで患者さんを安心させることもできるというスグレモノ。胸痛だけでなく様々な疾患に応用できる問診のコツ、ベテランの先生も必見!

検索結果 合計:422件 表示位置:321 - 340