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Vol. 1 No. 1 ACSの治療-急性期のPCI/薬物療法

石井 秀樹 氏名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)に対する急性期の治療として血栓溶解療法と経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)の出現、それらの技術向上は、患者の予後改善に大きく寄与している。東京都CCUネットワーク(http://www.ccunet-tokyo.jp/)の統計では、急性心筋梗塞の死亡率は1982年には20.4%であったものが、2010年にはわずか6.0%にまで低下している(図:本誌p15参照)。安静が治療の主体であった冠動脈の再疎通療法以前の院内死亡率が3割強であったことを考えると、治療法の変遷と治療成績には極めて密接な関連があることがわかる。わが国では、医療保険制度をはじめとし、交通網や救急搬送システムなどの点で欧米とは異なることから、ACS、特に急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)の治療法としてPCIを第1選択とする施設が多い。10年ほど前のデータではあるが、欧米のデータベースのよる統計ではAMIに対するprimary PCI施行率は5.5~49.6%であったが、わが国では日本の施行率は75~94%と高率であり、さらに年間施行件数の少ない施設においてもPCIを選択することが多いという特徴がある1)。これは欧米では広大な医療圏内の中にPCIを行える施設が限られているため、AMI患者には血栓溶解療法が行われることが多いが、わが国ではかなりの地域でPCIを行うことができる施設に収容可能であることにも起因する。そして、このことはわが国のACS患者の予後改善に対して大きな貢献をしている要因と考えられている。これまでの知見で、ST上昇型のAMI(STEMI)に対するPCIの有効性は確立している。しかしながら、現在でも非ST上昇型AMIや不安定狭心症では、早期のPCIを含む侵略的戦術がよいのか、保存的加療を経てから症例を選んで冠動脈造影などの処置を行うのがよいのか、一定の見解は得られていない。わが国ではそのような症例に対してもSTEMI症例同様に侵略的戦術にシフトしていると考えられている。PCIなどによる再灌流は非常に有用な手段であるが、再灌流自体が再灌流障害という新たな心筋障害を生じさせることも知られており、薬物の併用などが検討されるべきである。急性心筋梗塞に対する再灌流療法ACS、特にAMIの治療において、冠血流の途絶を早期に開通、すなわち再灌流を得ることが重要なことである。このことにより、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。再灌流の手段としては、PCIが確実な方法であるが、PCIを行う施設まで搬送時間がかかる場合またはPCIまでに時間がかかると判断される場合には、血栓溶解療法単独あるいは血栓溶解療法とPCIのハイブリッド治療法であるfacilitated PCIを選択肢とするべきであるとされる2)。現在ACSに対して行うPCIは、血栓吸引のみあるいはバルーン単独での治療で終了することは少なく、ステントによる治療がほとんどの場合に行われており、PCI後の急性閉塞の低減や、再狭窄率の減少など心血管イベントの低減に貢献している。その際に考慮すべき問題として、ACSに対してbare metal stent(BMS)を使用するか、drug eluting stent(DES)を使用するのかという問題がある。ACSに対しても、安定狭心症症例同様に、本邦ならず世界的に見てもDESの使用が増加している。一時、ACSに対するDES使用は、血栓閉塞のリスクが高まるのではないかと論議されたものの、近年はDES留置も安全であるとする報告が相次いでいる3)。確かにDESは再血行再建術などに対してはBMSよりも有用であることは間違いない。しかしながら、DESが内皮障害やspasm発生に関与していることを示唆する報告があり4, 5)、spasmが多いと考えられる日本人の使用に対しては、今後も有効性と副作用の十分な検討を行うべきである。また筆者は、DES留置後の長期の予後改善が未だ不明であり、2剤併用抗血小板療法(dual anti-platelet therapy:DAPT)をいつまで行うかがまだ確立されていないことや、ACSという緊急の対応が必要ななかで出血の素因があるのかどうかを判断したり、近いうちに手術が必要なのかどうかなど確認することが困難な状況のなかで、DESを安易に使用すべきではないと考えている。加えて、近い将来に吸収性ステントや薬剤溶出性バルーンなどが日常診療において使用可能になりそうな状況において、特に年齢が若い症例に対しては、急性閉塞などには十分な注意を払いながら、バルーン単独でのPCIも考慮するべきとも考えている。再灌流療法と再灌流障害再灌流療法により、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。しかしその一方で、再灌流自体が新たな心筋障害を生じさせる。これを再灌流障害といい、PCIなどによる再灌流療法のメリットを減弱させてしまうものである。最近の知見では、1.no-reflow phenomenon:no-reflow現象(血管内皮などの障害による血管性障害)→TIMI flow grade、TIMI frame countなどによる造影所見からの判断、myocardial blush grade(造影剤による心筋染影度)、心電図によるS Tresolution(ST上昇の改善の程度)などで判断可能2.reperfusion arrhythmia:再灌流性不整脈→心電図によるモニターで判断可能3.lethal reperfusion injury:致死的心筋障害(不可逆的な細胞障害)→核医学検査法などによりにより評価可能4.Myocardial stunning:心筋スタンニング(虚血解除後に生存心筋で認められる機能低下で気絶心筋ともいわれる)→核医学検査法などにより評価可能6)に分類される。再灌流障害の発生を抑えるため、PCIの際に工夫することや、薬物を追加で使用することが重要と考えられる。特に虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニングのメカニズムを応用することが近年注目されている(図)。虚血プレコンディショニングとは、本格的な虚血に先行して起きる短時間の虚血が心筋ダメージを軽減することであり、臨床の場でも、梗塞前に狭心症がある患者ではそれがなかった患者と比較して予後が良いことが知られている7)。また、ポストコンディショニングとは、心筋梗塞症例に対して、冠動脈再灌流直後に虚血と再灌流を短時間・複数回繰り返すことで、梗塞範囲の縮小効果など再灌流障害による心筋ダメージが軽減する現象のことをいう8)。図 プレコンディショニングとポストコンディショニングの概念画像を拡大する再灌流障害に対する戦略1.段階的再灌流 一気に再灌流するのではなく、虚血と再灌流を複数回繰り返すことで細胞内Ca2+ overloadを予防し、再灌流障害が低減する。臨床試験で良好な結果が認められているが、数十秒から数分間での冠動脈内におけるバルーンのinflation、deflationが必要で、血栓吸引療法が行われた場合にはこの機序による心筋保護は難しい可能性がある。2.血栓吸引カテーテル、末梢保護デバイス ACSの発症のほとんどに血栓が関与している。血栓のある冠動脈病変をバルーンで拡張した場合、破砕された血栓が微小循環において塞栓を生じ、再灌流障害の原因になることがある。そのため、バルーン拡張の前にあらかじめ血栓を吸引する方法や、末梢で血栓やデブリスをtrapする方法が開発された。 早い時期に発表されたEMERALD研究では、末梢保護デバイスの有用性が示されなかったが、2008年発表のわが国から報告されたVAMPIRE trialでは、TVAC™による血栓吸引をSTEMI患者に対して行うことにより、行わない群と比較して、brush gradeの有意な改善と8か月後のMACEの有意な低下を示した9)。また、TAPAS研究でも血栓吸引カテーテルがmyocardial blush gradeの有意な改善が示された。 わが国では血栓吸引療法は他国と比較しても汎用されている手技と考えられ、以下に示すような薬物の追加療法を行うことで、より質の高い再灌流が得られるものと考えられる。3.再灌流障害に対する薬物による追加的保護療法 再灌流障害に対して、さまざまな薬剤がこれまで試みられてきた10)。アデノシンはプレコンディショニング作用を持つ薬物として海外から多くの報告がなされている。また、ポストコンディショニング作用を持つ薬物もさまざまある(表)。 近年、わが国からも再灌流障害の予防、慢性期の左室リモデリング抑制と予後改善を目的とし、さまざまな検討がなされている。そのなかでもニコランジルとカルペリチドは本邦で開発、臨床の場で幅広く使用され、それらを使用した研究成果報告はわが国からの報告が極めて多い。以下一部を紹介する。表 RISK pathwayの活性化とmPTP開口阻害(文献6, 10より)画像を拡大するa.ニコランジル ニコランジルは、低血糖治療薬であるジアゾキサイドなどのK-ATPチャネル開口薬とは異なる、NOドナーである点が大きな特徴である。K-ATPチャネルは先に述べた虚血プレコンディショニングに関与しており、K-ATPチャネル開口薬であるニコランジルが薬理学的プレコンディショニングを生じるということがIONA試験などで証明されてきた。 AMIにおける再灌流障害に関する研究として、コントラストエコーによるno reflow現象の抑制効果や、左室梗塞部位における壁運動改善効果が1999年に発表され11)、その後もACSをはじめとした虚血性心疾患に対するニコランジルの有用性が数多く発表された。我われは、STEMI患者に対してPCIによる再灌流を行う直前にニコランジルを静注で約30分かけて12mg投与することにより、PCI後の微小循環障害予防、慢性期の左室リモデリング抑制と心不全発症予防などの効果があることを報告した12)。その後、J-WIND-KATP研究(ニコランジル0.067mg/kgボーラス投与後、24時間1.67μg/kg/min静注)13)では、ニコランジルの有効性は示されなかったものの、用量や投与法などのさらなる検討が必要であると考えられる。また、現在は、ニコランジルは急性心不全の適応が認められ、用量もより高用量の使用が可能となっている。 また、冠動脈内注(冠動脈注は緩やかな投与が重要!)による冠微小血管抵抗指数改善作用も報告されており14)、slow flow等の改善などに対しても臨床的に幅広く使用されている。筆者の見解であるが、ACSまた待機的な症例に対してもニコランジルはPCI前から投与しておくことがコツであり、再灌流障害やslow flowを発症しないためには、予防的な投与が極めて重要であると考えている。 最近のニコランジルのトピックとして、2011年のAHAで、岐阜大学より造影剤腎症の予防効果が発表され、世界的にも注目を集めた15)。b.カルペリチド(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド:hANP) カルペリチドは血管拡張作用、利尿作用があり、急性心不全に対する治療薬として広く使用されているが、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の抑制効果、交感神経系の拮抗作用、そして虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニング効果と同様の作用をすると考えられているreperfusion injury salvage kinase(RISK)を活性化させる作用もあることが報告されている。この効果により、再灌流障害や左室リモデリングが抑制され、急性心筋梗塞に対して有効であるとする報告が数多く報告されている。J-WIND-ANP(AMI患者にカルペリチド0.025μg/kg/minで3日間投与)13)では、AMI患者の梗塞サイズがプラセボ投与群に比べ、14.7%の有意な減少と、慢性期の左室駆出率で、プラセボ群と比較して5.1%の有意な増加が見られ、長期にわたって心臓死・心不全による再入院も、有意に減少させることが報告されている。また、カルペリチドにも造影剤腎症予防効果の報告もある16)。c.その他 スタチンの中には、ポストコンディショニング様の作用があることがわかっている。海外のARMYDA-ACS研究では、PCI前のアトルバスタチンの投与により心筋障害が予防できることがわかっていた。本邦からは弘前大学より、AMI患者に対するdirect PCIの直前にプラバスタチンを投与することで再灌流障害が予防されたとする大変興味深い結果が報告されている17)。 また、本邦で開発され、脳梗塞治療薬として使用されているフリーラジカルスカベンジャーであるエダラボンが、direct PCIに伴う再灌流障害を抑制したとする報告がある18)。4.ACS患者に対する抗血小板療法の重要性 ACSの急性期では、血小板活性・凝固能の亢進と線溶能低下が起こっているため、血栓が非常に形成されやすい状況である。血小板が活性化すると膜表面の糖蛋白が発現し、血小板からADP、トロンボキサンA2などの生理活性化物質が放出され、血栓形成がさらに強まる。本邦では使用できないが、GP IIb/III阻害薬はその流れのなかで効果を示す薬剤である。 急性期ではアスピリン162-200mgの咀嚼投与が行われているが、PCIでステント治療となる場合には治療直前からチエノピリジンの投与が推奨される。特にクロピドグレルの場合には初期にローディングとして300mgの投与、以降75mgの投与が必要である2)。韓国からのデータではあるが、DESを用いたPCIを施行したSTEMI患者の検討では、抗血小板薬3剤(アスピリン+クロピドグレル+シロスタゾール)の投与が、2剤群(アスピリン+クロピドグレル)と比較して、8か月における主要心血管イベントを有意に低下させた(図:本誌p19参照)19)。ACSによる入院30日以内の消化管出血があると予後が悪化することも知られているが20)、わが国においても、出血に注意をしながら抗血小板剤の3剤投与も検討されてもよいかもしれない。おわりに日本ではSTEMIをはじめとするACS症例に広くPCIが行われている。特にSTEMI症例に対しては、ガイドラインでdoor-to-balloon timeは90分以内にすることが求められているが、わが国全体でもかなりの割合でそれがクリアされているものと考えられる。ACS治療が海外と比較して、日本で良好な成績を上げているのもそれが大きく起因していることは間違いない。また、多くの施設が24時間体制で緊急カテーテル・PCIに対応し、夜間や休日でも質の高いPCIを常に心がけており、循環器医療に携わるわが国の医師・パラメディカル・関係者の意識が高いことも寄与しているものと考えられる。さらに、薬物の使用においても、急性期には症例ごとにきめ細かな対応がなされ、慢性期にはエビデンスが構築された薬剤が高い比率で投与されているものと考えられる。これらのことはACSに限ったことでなく、わが国の医療レベルが非常に高い要因とも考えられる(図:本誌p19参照)21)。最近ACS症例に対しては、PCIや薬剤のみでなくremote ischemic conditioningや、再生医療に関する話題も豊富である。わが国からACS患者の予後改善に関する新たなエビデンスが構築されることが期待される。文献1)Ui S, Chino M, Isshiki T. 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Multiple, brief coronary occlusions during early reperfusion protect rabbit hearts by targeting cell signaling pathways. J Am Coll Cardiol 2004; 44(5): 1103-11109)Ikari Y, Sakurada M, Kozuma K, et al. VAMPIRE Investigators. Upfront thrombus aspiration in primary coronary intervention for patients with ST-segment elevation acute myocardial infarction: report of the VAMPIRE (VAcuuM asPIration thrombus Removal) trial. JACC Cardiovasc Interv 2008; 1(4): 424-43110)Ishii H, Amano T, Matsubara et al. Pharmacological intervention for prevention of left ventricular remodeling and improving prognosis in myocardial infarction. Circulation 2008: 118(25): 2710-271811)Ito H, Taniyama Y, Iwakura K, et al. Hori M, Higashino Y, Fujii K, Minamino T. Intravenous nicorandil can preserve microvascular integrity and myocardial viability in patients with reperfused anterior wall myocardial infarction. J Am Coll Cardiol 1999; 33(3): 654-66012)Ishii H, Ichimiya S, Kanashiro M, et al. 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抗菌薬治療でCOPD急性増悪例、市中肺炎患者の心血管イベントが増加/BMJ

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪例や市中肺炎患者に対するクラリスロマイシン(商品名:クラリスほか)治療により、心血管イベントが有意に増加することが、英国・ナインウェルス病院(ダンディー市)のStuart Schembri氏らの検討で示された。英国では、COPD急性増悪と市中肺炎は入院の主原因であり、治療にはクラリスロマイシンが頻用されている。同薬投与中に心血管イベントが増加する可能性が観察試験で示唆されており、短期投与により冠動脈心疾患患者の心血管死が増加したとする無作為化対照比較試験の結果が知られているが、呼吸器感染症の治療に用いた場合の心血管イベントに及ぼす影響はこれまで不明であった。BMJ誌オンライン版2013年3月21日号掲載の報告。2つの前向きコホート試験のデータを解析 研究グループは、クラリスロマイシン投与と、COPD急性増悪および市中肺炎の患者における心血管イベントの発生の関連を検討するために、2つの前向きコホート試験(EXODUS試験、エジンバラ肺炎コホート試験)のデータを解析した。 EXODUS試験には、2009~2011年に英国の12施設にCOPD急性増悪の初回診断で入院した40歳以上の患者1,343例[クラリスロマイシン投与群281例(年齢中央値70歳、男性48%)、非投与群1,062例(72歳、49%)]が登録された。エジンバラ肺炎コホート試験には、2005~2009年にエジンバラのNHS Lothian病院で市中肺炎と診断された患者1,631例[同:980例(65歳、51%)、651例(68歳、48%)]が登録された。 主要評価項目は、1年後までに発症した心血管イベント(急性冠症候群、非代償性心不全、重症不整脈、心臓突然死)および急性冠症候群(ST上昇急性心筋梗塞、非ST上昇心筋梗塞、不安定狭心症)による入院とした。副次的評価項目は1年後までに起きた全死因死亡および心血管死であった。心血管イベントがCOPD急性増悪例で1.5倍、市中肺炎患者で1.68倍に 1年以内に心血管イベントを発症したのは、COPD急性増悪例が268例[クラリスロマイシン投与群73例(26.0%)、非投与群195例(18.4%)]、市中肺炎患者は171例[同:123例(12.6%)、48例(7.4%)]であった。 COPD急性増悪例に対するクラリスロマイシン投与により、心血管イベント[ハザード比(HR):1.50、95%信頼区間(CI):1.13~1.97]および急性冠症候群(HR:1.67、95%CI:1.04~2.68)の多変量調整済みリスクが有意に増大した。 市中肺炎患者に対するクラリスロマイシン投与では、心血管イベント(HR:1.68、95%CI:1.18~2.38)の多変量調整済みリスクは有意に上昇したが、急性冠症候群(HR:1.65、95%C:0.97~2.80)のリスクの増加には有意な差はなかった。 COPD急性増悪患者では、クラリスロマイシン投与と心血管死にも有意な関連がみられたが(HR:1.52、95%CI:1.02~2.26)、全死因死亡との関連は認めなかった(HR:1.16、95%CI:0.90~1.51)。市中肺炎患者では、クラリスロマイシン投与と全死因死亡、心血管死に関連はなかった。心血管イベントのリスクは投与期間が長くなるほど増加した。 βラクタム系抗菌薬やドキシサイクリンを投与されたCOPD急性増悪例では心血管イベントの増加はみられなかったことから、クラリスロマイシンに特有の作用であることが示唆された。 著者は、「COPD急性増悪例および市中肺炎患者に対するクラリスロマイシンの投与により、心血管イベントが増加する可能性が示唆された。これらの知見は、他のデータセットを用いた解析を行って確認する必要がある」と結論している。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(78)〕 大規模臨床試験で試される新規抗血小板薬はわが国で必要か?

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行において、ステントを使用することが標準となった現在では、急性期および亜急性期の血栓性閉塞を予防するために、アスピリンとADP受容体阻害薬であるチエノピリジン系の抗血小板薬の2剤併用(Dual Antiplatelet Therapy:DAPT)の使用が標準とされ、後者の標準薬としてはクロピドグレルが使用されている。 しかし、クロピドグレルはプロドラッグで、肝臓で代謝されて初めて効果が発現するため早期の抗血小板抑制作用が弱いこと、さらに、CYP2C19の遺伝子多型による代謝が遅延する症例があることが欠点とされていた。 この点を補うべく、経静脈的に投与可能で、直接血小板のADP受容体を阻害する薬剤であるカングレロールが、早期のイベント予防に役立つであろうと期待され、CHAMPION PHOENIX試験が計画された。 カングレロールを使用することで、48時間以内の死亡、心筋梗塞、ステント血栓症が、通常のクロピドグレル使用群に比べ有意に減少したことが示された(クロピドグレル群5.9% vs. カングレロール群4.7%: 補正後オッズ比:0.78、95%信頼区間:0.66~0.93、p=0.0005)。また、出血を含めた安全性にも差はなかった。 この結果からカングレロールが優れているように思われるが、ほとんどのイベントがPCI施行後2時間に発生しており、その頻度もクロピドグレル群で5.9%と、わが国では考えられないほどの高率である。心筋梗塞が4.7%、ステント血栓症1.4%であり、心筋梗塞はCPKの3倍の上昇と定義されているために高率となっている可能性もあるが、ステント血栓症の1.4%はわが国では非現実的な値である。本邦で施行された安定型狭心症を対象としたJ-SAP研究はもとより、急性心筋梗塞が対象でも本邦での急性期イベント発症は1%未満である。 本試験が急性冠症候群を対象にしているのでなく、50%以上が待機症例であること、しかもカングレロールが非急性冠症候群で有効であることを考えれば、PCI後高率に血管イベントが発症している本試験のデータをそのままわが国に適応して、カングレロールがクロピドグレルに代わることはないであろう。ただ、可逆的であることは、緊急的なCABGに移行した場合に出血リスクを減少させることは利点であり、今後の検討が必要である。

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Vol. 1 No. 1 緒言

森野 禎浩 氏岩手医科大学内科学講座循環器内科分野本邦における急性冠症候群(acute coronarysyndrome: ACS)の治療実態を客観視する機会が訪れた。冠動脈インターベンション(percutaneous coronaryintervention:PCI)は国内で急速に普及したが、大都市にとどまらず、比較的中小の都市に点在する基幹病院でもprimary PCI(ACSの再潅流療法)を行うことができるのが日本の最大の特徴だ。欧米と異なり、年間PCI症例数300例に満たない小規模施設が散在するため、人的リソースが分散しがちで、スタッフ1人にかかる負担が増すばかりか、教育効率低下の恐れもある。一方、各地域に治療可能施設が分散することは、時間との闘いであるACS治療には潜在的なメリットも多い。ACS患者が来院すれば、主に若い専門医が昼夜を問わず集まり、心臓カテーテルで診断・血行再建を行うことが日本型診療の通例となっている。その代償として、現場スタッフはオンコール体制に縛られ街から外に出ることすら制約を受け、朝まで緊急カテをしてもそのまま午前の定時仕事に就くというのが通常で、それに見合う十分な報酬体制も整っていない。要するに、PCI 施行医やコメディカルの自己犠牲のもとに日本の急性期循環器医療は成り立ってきた。 日本のACSの治療実態を把握するため、約100施設で、連続症例登録を基本とした前向きレジストリー(PACIFIC試験)が行われ、その結果が最近公表された。同様の大規模国際レジストリー(GRACE試験:施行時期が異なるが大勢に大きな差はないはずである)と比較し、諸外国に比べて日本のACS治療体制がいかに特殊なのか、いかに好成績を収めているのか容易に理解できる。日本の代表的施設では94%ものACS患者が緊急PCIを受けているのに対し、欧米を含む諸外国においてはカテーテル検査ですら56%、PCIとなると全体の33%にしか行われていない。この著しい治療スタイルの違いが、ACS患者の院内死亡率に大差をつけた最大の誘因と考察されている。こうした事実を実感していないであろう日本の多くの現場スタッフに、日本型ACS医療の素晴らしさをできるだけ速く伝達しなければならないと考えていた。幸いなことに、新しく発刊されるCardioVascular Contemporary誌にこの分野の特集をしていただけることになり、さらに同試験を企画・指導した宮内先生ご自身に、PACIFIC試験に見る日本のACS治療の実態について詳説いただけることとなった。 ACSの急性期治療の大原則は、一刻も早い再潅流療法である。それに付随して、アスピリンとクロピドグレルのローディング投与のように、万国共通の確立された薬物療法が基礎を占める。しかしながら、ACS治療の具体的工夫となると、日本が牽引する分野が少なくない。primary PCIは大量の血栓を末梢に飛ばさないよう処理する必要があるが、血栓吸引や末梢塞栓防止の保護フィルターの臨床応用は、日本で盛んに進められてきた。また、ニコランジルやhANPといった薬剤の心筋保護作用を証明するために臨床試験も精力的に仕掛けられてきた。恐らく、生命予後のみならず、「心筋壊死量を少しでも少なくする」ことを目的に、これだけ精緻に、かつ二重・三重の追加療法を具体的に実践してきた国もないだろう。日本の良好なACS治療成績は、PCIの施行体制のみならず、このようなさまざまな集学的アプローチの複合結果だと思われる。こうしたACS治療の最新コンセンサスについては石井先生に明快にまとめていただいた。 救命し得たACS発症患者の外来管理のゴールは、血管イベントの2次予防であり、本質的にはそこまでACS治療と呼ぶべきである。彼らは安定狭心症の血行再建後の患者に比べても、血管イベントの再発率が高いことが知られ、より積極的な薬物治療介入が求められる。日本の動脈硬化性疾患の特徴として、脳血管障害の比率が高いことがREACHレジストリーで指摘されたが、薬物溶出性ステントによるPCI後の患者においても、脳血管障害の発生頻度が冠動脈イベントより高いことがj-Cypherレジストリーで明らかとなった。アテローム血栓症(ATIS)という疾患概念が提唱され随分経つが、脳血管合併症をかなり意識した薬物療法が日本の循環器内科医には必要である。ACS発症後の2次予防治療として、抗血小板薬やスタチンを中心とした積極的薬物介入の必要性やその他動脈硬化因子の改善が必要であることは周知の事実だが、この分野を画像診断に造詣の深い大倉先生にまとめていただけることとなった。 ACS、特にST上昇型心筋梗塞(STEMI)の場合、発症から閉塞血管の疎通にかかる時間が予後を左右する。そのため、「door-to-balloon時間(来院からバルーンなどによって血行の再疎通を果たせるまでの時間)を90分以内にしよう」ということが国際的スローガンとなってきた。筆者は最近岩手県に転勤したが、STEMI患者のpeak CPK値が、今まで経験した患者群より明らかに高いと実感している。これは広い医療圏ゆえの搬送問題、我慢強い患者さんの気質など、種々の時間的ハンディキャップに基づいていると考察できる。管轄地域のACSの医療体制構築が自身の最大のテーマであり、実現のためには1人でも多くのPCI施行医を育成するとともに、primary PCI施設の効率的再配置、患者啓蒙活動、初診医との連携強化など、時間短縮を目指したトータルな医療設計が不可欠である。地方の内科医数の減少に歯止めがかからないなか、過酷な診療実態から特に循環器内科医になることが敬遠される傾向にある昨今だ。今回の特集で、日本型ACS治療体制がどうやら世界に誇れる素晴らしいものであることがわかってきたが、現場スタッフの献身的努力に極度に依存する体質など、課題も山積みである。本来、循環器医療は非常にやり甲斐があり、おもしろく、若い医師の人気が集まる分野のはずである。今こそ、急性期循環器診療体制のグランドデザインを、行政も交えて皆で熟考していく必要があるのではないか?そんなことばかり考えて、初めての北国の冬を過ごしている。

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募集した質問にエキスパートが答える!心房細動診療 Q&A (Part.2)

今回も、4つの質問に回答します。「抗凝固薬服薬者が出血した時の対処法」「抗血小板薬と抗凝固薬の併用」「レートコントロールの具体的方法」「アブレーションの適応患者と予後」ワルファリンまたは新規抗凝固薬を服薬中に出血した場合、どのように対処すべきでしょうか?中和方法等を含めて教えてください。緊急の止血を要する場合の処置法は図5のとおりです。まずは、投与中止し、バイタルサインを見ながら止血と補液を行います。脳出血やくも膜下出血の場合には十分な降圧を行います。最近、Xa阻害剤の中和剤(PRT4445)が開発され、健常人を対象に臨床研究が始まることが報告されました。今後の結果が待たれます。ダビガトランは透析可能とされておりますが、臨床データは十分ではなく、また出血の起きているときに太い透析用のカテーテルを留置するのはあまり現実的ではないでしょう。図5.中等度~重度の出血(緊急の止血を要する場合)画像を拡大する虚血性心疾患既往例など抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合、どのような点に注意すべきでしょうか?抗血小板薬2剤+抗凝固薬1剤という処方パターンなどは許されますでしょうか?大変悩ましい質問です。抗血小板薬と抗凝固療法の併用は、出血事故を増加させます。このため併用者が受診した時には、出血がなかったかどうかを毎回問診します。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の2010年ガイドラインには、虚血性心疾患で抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合の治療方針が掲載されております(表2)。その指針には、(1)HAS-BLED出血スコアを考慮し、次に(2)待機的に加療する狭心症か、あるいは緊急で治療を要する急性冠症候群か、そして(3)ステント性状がベアメタルか薬剤溶出性か、の3つのステップを踏んで薬剤の種類と投与期間を決定すると示されています。確かに合理的と思いますが、これには十分なエビデンスがないことより、今後の検証を待つべきでしょう。しかしながら、個人差があると思いますが、原則としてステント留置後1年が経過したらワルファリン単剤で様子を見たいと思います。ただし、新規抗凝固薬についての言及はありません。表2.心房細動+ステント症例の抗血栓療法画像を拡大するレートコントロールを具体的にどのように行えばよろしいでしょうか?(薬剤の選択、β遮断薬の使い方、目指すべき脈拍数等)レートコントロールは洞調律の維持を切望しない、すなわち心房細動症状があまり強くない人に行うことが主です。しかしながら、リズムコントロール薬と併用することもありますし、反対にリズムコントロール薬よりもレートコントロール薬の方が有効である症例も経験します。まず、心機能別の薬剤使い分けを表示します(表3)。高齢者は薬物の代謝能力が落ちていることがありますので、投与前には肝・腎機能を調べるとともに、併用薬がないかどうかも確認します。まず表3に記載された薬剤は少量から使用すべきでしょう。たとえばジギタリスは常用量の半量から使用し、β遮断薬は(分割や粉砕などの手間がかかりますが)常用量の1/4 ~1/2量から開始します(最近は低用量製剤も使用可能です)。ベラパミルは朝と日中の2回のみ使用します。投与後は過度な徐脈になっていないかどうかを、自覚症状とホルター心電図で検討します。私は、夜間の最低脈拍数は40台まで、また、3秒までのポーズは良しとしております。動いたときに息切れがひどくなったと言われれば中止することもあります。喘息のある場合はジギタリスかCa拮抗薬がお勧めですが、ベータ1選択性の強いビソプロロールは投与可能とされます。目標心拍数についてはRACE II試験が参考になります(NEJM 2010)。この試験では、レートコントロールは厳密に行うべきか(安静時心拍数が80/分未満で、かつ日常活動時に110/分未満)、あるいは緩徐でよいか(安静時心拍数が110/分未満であれば良しとする)の2群に分けて3年間の予後を比べました。その結果、2群間に死亡や入院、およびペースメーカ植込みなどの複合エンドポイントに有意差はなかったことより、レートコントロールは緩めで良いと結論付けられました。その後のサブ解析(JACC 2011)、左房径や左室径のりモデリング(拡大)は、レートコントロールの程度で差はないことが報告されました。白衣高血圧と同様の現象で、診察時や心電図をとるときに緊張すると、心拍数はすぐに増加します。しかしながら、いつも頻脈が続く場合や、頻脈による症状が強い時には、何か疾患が隠れていることもありますので注意が必要です。たとえば、COPD、貧血、甲状腺機能亢進症、および、頻度は低いのですがWPW症候群に合併した心房細動(頻脈時にQRS幅が広い)のこともありますのでレートコントロールがうまくいかない場合には専門医を受診させるとよいでしょう。薬剤によるレートコントロールがうまくいかない場合には、房室結節をカテーテルアブレーションによって離断し、同時にペースメーカを植込むこともあります。表3.心機能別にみた薬剤の使い分け画像を拡大するアブレーションはどのような患者に適応されますか?また、長期予後はどうでしょうか?教えてください。機器の改良と経験の積み重ねによってアブレーションの成功率は高くなってきました。この結果、適応範囲は拡大し、治療のエビデンスレベルは向上しております。日本循環器学会のガイドラインでは年間50例以上の心房細動アブレーションを行っている施設に限ってはClass Iになりました。すなわち内服治療の段階を経ることなく、アブレーションを第一選択治療法として良いとしました。しかながら、心房細動そのものは緊急治療を要する致死性不整脈ではありません。このため、アブレーションの良い適応は心房細動が出ると動悸症状が強くてQOLが低下する患者さんでしょう。心房細動がでると心不全に進展する場合も適応です。最近は、マラソンブームをうけて一般ランナーやジムでトレーニングを続けるアスリートなどが心房細動を自覚して紹介来院される人が増えてきたように思います。心房細動がでるとパフォーマンスが落ちて気分が落ちるためにアブレーションを希望されるようです。現時点では、心房細動アブレーションに生命予後の改善や脳梗塞の予防効果があるかどうかのエビデンスがそろったわけではありません。図6のようにアブレーションを一回のみ施行した場合は5年間の追跡で約半数が再発します(左)。再発に気付いて追加アブレーションを行うことにより洞調律維持効果が上がります(右)。発生から1年以上持続した持続性心房細動や左房径が5cmを超えている場合は再発率が高いため、最初から複数回のアブレーションを行うことも説明します。また、合併症は0ではありません。危険性を十分説明し、患者さんが納得したところで施行すべきです。アブレーションが成功したと思ってもその後に無症候性の心房細動が発生していることも報告されておりますので、CHADS2スコアにしたがって抗凝固療法を継続することも必要でしょう。また、最近は図7のようにCHADS2スコアが心房細動アブレーションの効果を予測するとする報告がなされました。CHADS2スコアが1を超えると再発率が高く、追加アブレーションが必要とされるようです。図6.洞調律維持効果(中期)画像を拡大する図7.CHADS2スコアと洞調律維持効果(長期)画像を拡大する

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(56)〕 脂肪摂取の基準はいかに-リノール酸による死亡リスクの増加-

心疾患のリスクを抑制するための食事療法として、飽和脂肪酸を多く含む動物性脂質を可能な限り避け、多価不飽和脂肪酸の豊富な植物性脂質に変更することは、有意義であると考えられている。 しかし、オーストラリアで1966~1973年に実施された単盲検並行群間ランダム化試験であるSydney Diet Heart Study(SDHS)を再解析した本論文では、食習慣に介入しない対照群と比較して、動物性脂質(マーガリンやショートニング)をリノール酸(紅花油や紅花油由来のマーガリン)に変更した介入群では全死亡のリスク、心血管疾患の再発が有意に高かったというのである。 心筋梗塞、狭心症などの心血管イベントで入院した30~59歳の男性258人をランダムに対照群(237人)と介入群(221人)に分け、介入群では食事中の多価不飽和脂肪酸をエネルギー摂取量の15%に増やし、飽和脂肪酸を10%未満、食事性のコレステロールも300mgに制限、紅花油・紅花由来のマーガリンを配布し、特別な食事指導は行わない対照群と比較している。 Cox比例ハザードモデルを用いた解析で5年後の累積死亡を比較すると、対照群の死亡が11.8%であるのに対し、介入群では17.6%であり、ハザード比(HR)は1.62(95%信頼区間、1.00~2.26)と報告されている。同様に、心血管死、冠動脈疾患による死亡のHRもそれぞれ1.70(95%信頼区寛、1.03~2.80)、1.74(95%信頼区間、1.04~2.29)と、いずれも介入群でのリスクの有意な上昇が示されたというのである。 この論文は2013年2月5日に公表され、米国心臓協会(AHA)は2月7日、飽和脂肪酸は摂取エネルギー量の7%未満、多価不飽和脂肪酸は5~10%という指針を継続すると発表している。 食事における脂肪摂取のバランスについては、十分なエビデンスが得られていない。飽和脂肪酸は本当に悪なのか、魚油に多く含まれるω3-多価不飽和脂肪酸と植物由来のω6-多価不飽和脂肪酸はどのように違うのかなど、今後の展開が注目される。

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ω-6リノール酸、むしろ死亡率を高める?:Sydney Diet Heart Studyとメタ解析/BMJ

 冠動脈疾患(CHD)の2次予防において、飽和脂肪酸をω-6リノール酸(多価不飽和脂肪酸)で代替する食事療法は、全死因死亡、CHD死、心血管疾患(CVD)死をむしろ増加させる可能性があることが、米国・国立衛生研究所(NIH)のChristopher E Ramsden氏らの検討で示された。食事に含まれる飽和脂肪酸をω-6リノール酸で置き換えると、総コレステロール値やLDLコレステロール値が低下することが知られている。そのため、CHD患者の食事療法ガイドラインではこれらの代替が推奨されているが、リノール酸の臨床的なベネフィットは確立されていない。Sydney Diet Heart Study(SDHS)は、サフラワー油由来のリノール酸の、CHD死やCVD死の抑制効果に関する包括的な解析を目的とした無作為化試験で、データが紛失したため長年放置されていたが、同氏らがオリジナルのデータセットの回収に成功したという。BMJ誌オンライン版2013年2月5日号掲載の報告。SDHSの回復データの解析と、これを含めた最新のメタ解析 研究グループは、食事に含まれる飽和脂肪酸のω-6リノール酸(多価不飽和脂肪酸)への代替による、CHDの2次予防効果を評価するために、SDHSの回復されたデータの解析を行い、さらにこれらのデータを含めた最新のメタ解析を実施した。 SDHSは、1966~73年にオーストラリア・シドニー市で進められた単盲検無作為化対照比較試験で、直近の冠動脈イベント歴を有する30~59歳の男性患者458例が対象となった。 これらの患者が、飽和脂肪酸(動物脂肪、マーガリン、ショートニング由来)をω-6リノール酸(サフラワー油、サフラワー油製の多価不飽和マーガリン由来)で代替した食事療法を受ける群または対照群(特別な食事指導を受けず、代用食は摂取しない)に無作為に割り付けられた。試験は、食事以外の要素はすべて両群で同等となるようデザインされた。 主要評価項目は全死因死亡とし、副次的評価項目はCVD死およびCHD死とした。全死因死亡率:介入群17.6% vs 対照群11.8%(p=0.05)、メタ解析では有意差なし 介入群に221例(平均年齢48.7歳、平均BMI 25.1kg/m2)、対照群には237例(同:49.1歳、25.4kg/m2)が割り付けられた。 全死因死亡率は、介入群が17.6%と、対照群の11.8%に比べ有意に高かった〔ハザード比(HR):1.62、95%信頼区間(CI):1.00~2.64、p=0.05〕。 CVD死は、介入群が17.2%、対照群は11.0%(HR:1.70、95%CI:1.03~2.80、p=0.04)、CHD死はそれぞれ16.3%、10.1%(同:1.74、1.04~2.92、p=0.04)であり、いずれも対照群のほうが有意に良好だった。 これらのデータを含めたリノール酸介入試験のメタ解析では、CHD死(HR:1.33、95%CI:0.99~1.79、p=0.06)およびCVD死(同:1.27、0.98~1.65、p=0.07)のリスクが、ともに介入群で増大する傾向がみられたが、有意な差は認めなかった。 著者は、「飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換える食事療法は、全死因死亡、CVD死、CHD死をむしろ増加させ、メタ解析でもω-6リノール酸介入による心血管ベネフィットのエビデンスは示されなかった」と結論し、「現在、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸で代用する方法は、世界的にCHDのリスク低減に向けた食事療法ガイドラインの中心となっているが、今回、ω-6リノール酸を最も豊富に含む食事の臨床的ベネフィットは確立されなかった。この知見は、このような代替食事療法を勧告するガイドラインにとって重要な意味を持つだろう」と指摘している。

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月1回のペギネサチド、週1~3回のエポエチンに非劣性/NEJM

 貧血を伴う血液透析患者に対し、赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)のペギネサチド(本邦未承認)の月1回投与が、エポエチン週1~3回の投与と同程度の効果であることが明らかにされた。米国・Hofstra North Shore–LIJ School of MedicineのSteven Fishbaneらが第3相オープンラベル無作為化試験「EMERAL1、2」を行った結果、報告した。NEJM誌2013年1月24日号掲載より。ペギネサチド月1回投与とエポエチン週1~3回投与を比較 研究グループは、血液透析患者1,418例を対象にした、2つのオープンラベル無作為化試験(EMERAL 1:693例、EMERAL 2:725例)を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはペギネサチドを月1回投与し、もう一方の群には継続してエポエチンを週1~3回投与した。投与量は、ヘモグロビン値を10.0~12.0g/dLに維持するように調節し、52週以上継続した。 主要エンドポイントは、試験開始時のヘモグロビン値から評価期間(29~36週)の平均ヘモグロビン値への変化量の平均値とした。 また、心血管イベントに関する安全性について、EMERAL 1、2と、血液透析をしていない患者を対象にした別の2つの試験を併せて評価した(被験者総数2,591例)。同安全性評価に関するエンドポイントは、総死亡、心筋梗塞と、うっ血性心不全、不安定狭心症、不整脈による重度有害事象の複合とした。安全性に関する複合イベント発生リスクも、有害事象リスクも同等 その結果、ペギネサチドはエポエチンと比較してヘモグロビン値の維持について、事前に規定した基準により非劣性であることが認められた。主要エンドポイントのヘモグロビン値の平均群間差は、EMERAL 1が-0.15g/dL(95%信頼区間:-0.30~-0.01)、EMERAL 2が0.10g/dL(同:-0.05~0.26)だった。 また安全性に関する複合エンドポイント発生率も、非透析患者も合わせた4試験の結果では、ペギネサチド群22.3%に対し、エポエチン群21.6%と、ハザード比は1.06(同:0.89~1.26)だった。EMERAL1、2の結果では、同ハザード比は0.95(同:0.77~1.17)だった。 有害事象、重度有害事象の発生率も、EMERAL試験の各治療群で同程度だった。プールコホート解析でも、心血管安全性についてペギネサチドと対照ESAは同程度であった。

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日本でほとんど報道されなかった驚愕のインパクト、冠動脈疾患の二次予防に対するコルヒチンに迫る!

 2012年11月、AHA(米国心臓病学会)学術集会が開催され、多くの新しい知見が発表された。その中に、日本では、ほとんど報道されてはいないが、冠動脈疾患の二次予防において、臨床的にきわめてインパクトの高い試験結果が発表されていた。その試験名は、「The LoDoCo Trial」という。LoDoCo試験に用いられた新たな治療選択肢は、わが国でも古くから使用されている痛風発作予防薬コルヒチンだった。ケアネットでは、この試験に注目し、情報を提供してくださった東海大学医学部 後藤信哉氏に直接お話を伺った。後藤氏は、AHA発表時のDiscussantでもある。安定狭心症への低用量コルヒチン投与によって心血管イベントが減少 LoDoCo (Low Dose Colchicine)試験は、低用量コルヒチンが、安定狭心症患者の心血管イベントを抑制するかを検討したオープン試験である。血管造影にて確認された安定狭心症532例を、低用量コルヒチン(0.5mg/日)群(282例)またはコルヒチン非投与群(250例)に無作為に割り付け、最初の臨床イベント(急性冠症候群、院外心停止、非心原性脳梗塞)を主要評価項目として、平均3年間追跡した。その結果、イベント発症率は、非投与群が40/250(16%)、低用量コルヒチン群が15/282(5.3%)となり、HRは0.33 (95%CI: 0.18~0.60、p

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(44)〕 MADIT試験の変遷

はじめに 欧米における心臓突然死は年間35万人と推定され、その約80~90%が虚血性心疾患による心室性頻脈性不整脈が原因とされている1)。わが国における心臓突然死は年間6~8万人と推測され2)、約35%が心筋症(拡張型、肥大型、催不整脈右室心筋症など)、約30%が虚血性心疾患、その他プライマリ不整脈疾患(ブルガダ症候群、QT延長症候群、J波症候群など)の内訳となっている3)。心臓不整脈死の予防に対して、植込み型除細動器(ICD)の有効性はすでに確立されているが、本稿では主にMADIT試験の変遷に準拠して概説してみる。MADIT(Multicenter Automatic Defibrillator Implantation Trial)-I試験4) 陳旧性心筋梗塞の既往を持つ左室駆出率35%以下の心不全例(NYHA I~III)で、無症候性の非持続性心室頻拍(心拍数>120/分、3連発以上)を有し、プロカインアミド無効な心室頻拍・心室細動が誘発された196例を対象に、ICD治療群と抗不整脈薬治療群の無作為割り付けによる生命予後を比較した試験である(平均観察期間27ヵ月)。その結果、ICD治療群は抗不整脈薬治療群に比し総死亡率を54%低下させた(p=0.009)。サブ解析では、左室駆出率26%未満の高度左室機能障害例でとくに高いICD治療群の生命予後改善効果が示された。本試験により、虚血性心疾患に対するICD治療の高い心臓突然死の一次予防効果が確認された。MADIT-II試験5) 同様に、陳旧性心筋梗塞の既往を持つ左室駆出率30%以下の心不全患者1,232例(NYHA I~III)を対象に、非持続性心室頻拍や心室頻拍・心室細動の誘発性は問わず、ICD治療群742例と抗不整脈薬群490例の無作為割り付けによる生命予後を比較した試験である(平均観察期間20ヵ月)。その結果、ICD治療群は抗不整脈薬治療群に比し総死亡率を31%低下させた(p=0.007)。サブ解析では、左室駆出率25%未満の高度左室機能障害例やQRS幅150msec以上の心室内伝導障害例における高いICD治療群の生命予後改善効果が示された。MADIT-CRT(Cardiac Resynchronization Therapy)試験5) 虚血性、非虚血性を問わず左室駆出率30%以下、QRS幅130msec以上の心不全患者1,820例(NYHA I~II)を対象に、ICD治療群731例とCRTD治療群1,089例の3:2無作為割り付けによる生命予後、ならびに心不全発症の複合イベントを比較した試験である(平均観察期間2.4年)。その結果、CRTD治療群はICD治療群に比し複合イベント率を41%低下させた(p<0.001)。サブ解析では、QRS幅150msec以上の心室内伝導障害例における高いCRTD治療群の心不全予防効果が示された。MADIT-RIT(Reduce Inappropriate Therapy)試験7) 以前より、ICDの上室性頻脈性不整脈などによる不適切作動は患者の生命予後を悪化させることが指摘されていた8)。そのICDの不適切作動を減らすために、ICD移植1,500例を対象に異なる3つの作動プログラミング設定(標準、高心拍、待期的)について検証した国際多施設無作為化試験の結果が、最近になって報告された(平均観察期間1.4年)。従来のICD標準作動プログラム群(170~199拍/分は2.5秒待機で作動、200拍/分以上は1.0秒待機で作動)に比し、高心拍数作動群(200拍/分以上は2.5秒待機で作動)は、初回不適切作動を79%減らし(p<0.001)、全死亡を55%減らす(p=0.01)結果であった。同様に、従来のICD標準作動プログラム群に比し、待機的作動群(170~199拍/分は60秒待機で作動、200~250拍/分は12秒待機で作動、250拍/分以上は2.5秒で作動)は、初回不適切作動を76%減らし(p<0.001)、全死亡を44%減らす(p=0.06)結果であった6)(参考文献6 Figure1、Figure2)。本研究の結果より、ICDの作動プログラミング設定を適切に調節することにより、誤作動を減らし、患者の生命予後を改善させることが示された。おしまいに イスラエル出身のミロウスキー博士によって開発されたICDは、第1例目の移植術が始まってすでに30年以上も経過している。もし、より疼痛が少ない抗頻拍ペーシングや短時間での除細動が可能となれば、患者の精神的苦痛も軽減されるであろう。今後のICD治療には、患者の生命予後改善のみならず、日常生活の質(QOL)向上を目的としたデバイスの開発ならびに設定の配慮が必要であろう。参考文献1. Bayés de Luna A, et al. Am Heart J. 1989; 117:151-159.2. 豊嶋英明ほか.心臓性突然死の疫学.In:村山正博ほか編.心臓性突然死.医学書院;1997.p.6-18.3. 笠貫宏.ICDの適応.日本心臓ペーシング・電気生理学会植込み型除細動器調査委員会編.植込み型除細動器の臨床.医学書院;1998:p.15-32.4. Moss AJ, et al. N Engl J Med. 1996; 335: 1933-1940.5. Moss AJ, et al. N Engl J Med. 2002; 346: 877-883.6. Moss AJ, et al. N Engl J Med. 2009; 361: 1329-1338.7. Moss AJ, et al. N Engl J Med. 2012; 367: 2275-2283.8. Daubert JP, et al. J Am Coll Cardiol. 2008; 51: 1357-1365.

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Dr.香坂の循環器診療 最前線

第1回「心房細動はどこを治療する?」第2回「狭心症の診断と治療」第3回「心不全は見た目ではない」 絶えず進歩し続けるダイナミックな循環器領域。その診断・治療法について最新の研究結果をカバーしながら、疾患概念の本質(コア)を押さえるお手伝いをします。様々な検査や治療方法がからんでくる循環器は一見複雑ですが、派手な所見や手技に目を奪われず、その患者さんにとって一番大事なポイントを押さえることが肝要です。豊富なエビデンスとリサーチをもとに、臨床の現場ですぐに役立つ情報を基本から分かりやすく解説。実際の処方例や検査のアプローチの仕方を見直しながら、視野を広げて、着実にステップアップしていきましょう!第1回「心房細動はどこを治療する?」心房細動のポイントはまず“やり過ぎない”こと。そして、リスクを知った上で最大限効果を挙げられる治療法を選ぶことです。「心房細動はすべて敵だ!」というような、一昔前の考え方を捨て、どの人にどのような手段を選んでいくのか、テーラーメードな治療の選択を目指しましょう。第2回「徹底的にエビデンスにこだわった狭心症の診断と治療」ダイナミック(動的)な疾患、安定狭心症。そのワークアップは安静時の症状や心電図だけで語ることはできません。負荷試験を組み合わせ、さらに診断と予後の情報を分けて考えていきましょう。その治療も PCI なのか CABG なのか、という二択ではなく、より立体的にとらえる必要があります。このセッションを通じて狭心症のマネジメントの枠を広げましょう。第3回「心不全は見た目ではない」治療は見た目ではない: ラシックスの一辺倒は時代遅れ?予後は見た目ではない: 心臓は全身から支えられている機能は見た目ではない: 心機能が落ちていないのに心不全?『EF』よりもだいじなもの

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聖路加GENERAL 【Dr.石松の帰してはいけない患者症例】

1.「頭痛篇」2.「胸痛篇」 1.「頭痛篇」さまざまな症状で救急に来る患者さん。最も重要なのは、緊急性の判断です。緊急性の高い疾患を見逃して、帰してしまうようなことだけは避けなければなりません。問診、身体所見、必要な検査を迅速に行い、疾患の鑑別を行いますが、判断の難しいケース、ときには緊急性なしと判断されてしまう場合もあります。比較的よくみられる症例をとおして「帰してはいけない」緊急性が高い疾患の見分け方を解説します。【症例1】3カ月前から、バンドで締め付けるような頭痛が徐々に発生した55歳の女性。【症例2】会議中に突然頭痛が発症し、嘔吐を伴い痛みが持続している52歳女性。この2つの症例から緊急性の有無を見極めるには、まず"OPQRST"チェックを行います。その結果、2例目はとても危険度の高い症例であることがわかり、無事に治療を受けることができました。その極意をお伝えします。【症例3】ランニング中に頭痛と嘔気を催した34歳の男性。頭痛は改善せず6日間持続し、さらに増悪したため来院しました。まずは前回お伝えした"OPQRST"でチェックすると、「頭痛が6日間継続し、かなり激しい痛みにまで増悪した」ことから、危険な疾患が予測されました。しかし、身体所見をみると、ほとんど異常がみられません。どうやら、典型的なものではないようですが、どのようにアプローチするのでしょうか?【症例4】嘔吐、羞明、右半身筋力低下という随伴症状のある25歳女性。これは、もちろん片頭痛として帰すわけにはいきません。しかしCTとMRIを施行しましたが、異常な所見はありませんでした。この症例、どのように診断したのでしょうか?頭痛の診断に役に立つチェックリスト"OPQRST"について、さらに詳しく解説します。2.「胸痛篇」胸痛で救急対応といえば、ACSなど危険な疾患を迅速に鑑別しなければなりません。【症例1】一週間前から胸痛が断続的に続く79歳の女性。早速痛みのチェックリスト“OPQRST”でチェックすると、「ACSなどの危険な疾患はない」と判断されました。また血液、心電図、CXRを検査しても異常は認められません。さて、どんな診断がくだされるのでしょうか。【症例2】ビールを飲んで締め付けられるような胸痛を発症した50歳の男性。肥満、高血圧、不整脈、脂質異常、喫煙とリスクファクターがずらりと揃っています。前例のGERDにもあてはまりそうですが、まずはリスクの高いところから評価をしていきます。ところが、血液、心電図とも特にACSを疑う所見は出てきません。さて、危険な疾患がみつかりそうなこの患者にどのようにアプローチしたのでしょうか。聖路加GENERALでお伝えした、「狭心症3つの質問」などを交えて展開します。【症例3】仕事中に、突然胸が苦しくなり意識を失った54歳の男性。またもやACS ? しかし、血液検査でも心電図でも異常がみつかりません。次に局所症状があったことから、頭部CTを撮りましたが、こちらも異常所見はありませんでした。異常が見つかったのは胸部単純写真からでした。左第一弓が突出していることから、大動脈造影CTを撮影したところ、明らかな解離がみられました。【症例4】背部痛と嘔気のある56歳の女性。夜中に痛みを発症し、痛み止めを飲んでも効果がないため救急来院。身体所見では、既往の高血圧以外は特に異常はみられませんでした。このような場合はOPQRSTで病歴を再度チェック!その結果、先ほどと同じ大動脈解離も鑑別にあがります。さて、この背部痛はどうだったのでしょうか。

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ICDプログラミング変更で不適切作動は約8割低下し、死亡は半減に/NEJM

 植込み型除細動器(ICD)の不適切作動を減らすために、異なる3つの作動プログラミング設定(標準、高心拍、待期的)について検証した国際多施設無作為化試験「MADIT-RIT」の結果が、米国・ロチェスター大学医療センターのArthur J. Moss氏らにより発表された。高心拍および待期的の両作動プログラミングとも、標準作動プログラミングよりも不適切作動は低減し、全死因死亡率も低下したという。ICDは、致死的不整脈リスクを有する患者の死亡率低下への有効性が高いが、一方で不適切作動の頻度が高く(8~40%に及ぶとされる)、その影響は致命的である可能性がある。これまで、不適切作動を低減する最適なICDプログラミングについては不明であったという。NEJM誌2012年12月13日号(オンライン版2012年11月6日号)掲載より。標準作動vs.高心拍作動、待期的作動のプログラミングを検証 試験は、ICD標準作動プログラミング(170~199拍/分は2.5秒待期で作動、200拍/分以上は1.0秒待期で作動)よりも、200拍/分以上の場合に作動する(高心拍数作動)プログラミング(200拍/分以上2.5秒待期で起動)や、標準プログラミングよりも待期時間を延長して作動するようにした(待期的作動)プログラミングのほうが、不適切作動が少なくなると仮定し行われた。 2009年9月~2011年10月の間に、米国、カナダ、欧州、イスラエル、日本の98病院から被験者1,500人を登録し、2012年7月まで追跡した。 主要エンドポイントは、不適切作動(抗頻脈ペーシングまたはショック)の初回発生であった。 3群の被験者の平均年齢は62~63歳、男性が69.5~72.6%を占めるなど同等であった。不適切作動初回発生リスク76~79%低下、全死因死亡リスク44~55%低下 平均追跡期間1.4年の間、標準作動プログラミングと比較した不適切作動の初回発生リスクは、高心拍数作動プログラミングは79%低下(ハザード比:0.21、95%信頼区間:0.13~0.34、p<0.001)、待期的作動プログラミングは76%低下(同:0.24、0.15~0.40、p<0.001)した。 また、全死因死亡リスクは、高心拍数作動プログラミングが55%低下(同:0.45、0.24~0.85、p=0.01)、待期的作動プログラミングは44%低下(同:0.56、0.30~1.02、p=0.06)がみられた。 ICD処置関連の有害事象について、3群間に有意な差はみられなかった。

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みんなの症候診断

第1回「経過にこだわろう!」第2回「“急に”と言われても…」第3回「反復するということは?」 第1回「経過にこだわろう !」症候診断において最も重要な「病歴」。しかし、症例は教科書通りのものばかりではありません。患者さん側も診断に必要な情報を順序立てて話してくれるわけではなく、経験の浅い医師にとってはついつい時間がかかるばかりで、肝心の診断がつかないことも間々あります。 「マニュアルで診療はできないんです」と講師の前野先生。さまざまな情報から必要なものを選び出して頭の中で鑑別診断リストを作り、効率的な質問を投げかけながらリアルタイムで診断を絞り込んでいく。瞬時にこれらのことができる訓練をしなければいけません。この思考ロジックを、前野先生が研修医の皆さんと一緒にたどっていきます。第1回の症例は「頭痛」。ありふれた症例ですが、問診でのポイントは何処にあるのでしょう?第2回「“急に”と言われても…」今回のケースは“急におなかが痛くなった”患者さんです。漠然とした訴えにどうしたらいいのか悩んでしまいますが、どう対応したらいいのでしょう。番組では、症状のどこに注目して、何を聞いたらいいのか、そして重篤な疾患を見逃さないコツは何なのかを、詳しく解説していきます。ゲーム感覚で楽しく学べる診療のコツをどうぞお楽しみください。第3回「反復するということは?」今回取り上げるのは「胸痛」を訴える患者さん。胸痛と言えば当然、狭心症、心筋梗塞などの見逃せない疾患の主訴ですね。すぐに心電図!とあなた。しかし、異常は見当たらずホッと安心…はもちろんできません。ホルター心電図でさえ捉えられないことも間々ある心臓の虚血…。さあ、どうしましょう? 心エコー? 心カテ? やっきになって検査をやみくもに繰り返してしまうのが、新人の先生が陥りやすいワナです。 「胸が痛いと言う患者さんにはもちろん心電図は重要な検査です」しかし、「心電図だけでは虚血は診断できないことが多々あります」と前野先生。そんな時重要なのは、「やはり病歴」。そしてそれは「それほど難しいことではないんです」。病歴から分かる病態生理は、診断の大きな手がかりになるだけでなく、それを説明することで患者さんを安心させることもできるというスグレモノ。胸痛だけでなく様々な疾患に応用できる問診のコツ、ベテランの先生も必見!

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激辛!伊賀流心臓塾

第3回「後壁梗塞、疑わしきは罰せよ!?」第4回「これだけは知っておきたい!心不全」第5回「無症状で著明な左室肥大」 ※第1巻は、「激辛!伊賀流心臓塾(第1巻)≪増補改訂版≫」となります。第3回「後壁梗塞、疑わしきは罰せよ!?」【今回の症例】生来健康だったが、生まれて初めての胸痛が出現し、3時間継続。喫煙以外にこれといった危険因子はなく、バイタルサイン安定、肺音・心音異常なし。心電図は一見して異常なさそう。 決して珍しい症例ではなく、コモンに起こるケースだといえる今回の症例。さて、どうしますか?CT、胸部レントゲン、心エコー、トロポニンT、ニトログリセリン点滴、専門医へ転送…。いろいろ選択肢は考えられますが、果たしてどうするのが適切なのでしょうか? もし、あなたが非専門のプライマリ・ケア医なら、あるいは夜間当直中の病院勤務医ならどう対処されますか?達人がズバリお答えします。【今回の症例】生来健康だったが、生まれて初めて胸痛が出現し、冷や汗をともない3時間継続。喫煙以外にこれといった危険因子はなく、バイタルサイン安定、肺音・心音異常なし。心電図は一見して異常なさそう。第4回「これだけは知っておきたい!心不全」心不全の患者さんについて、循環器非専門医として、どこまで知っておかなければならないか、どのようにアプローチしていくのか、ということをお話していきます。【今回の症例】治療抵抗性の心不全を呈する72歳の女性。約1年ほど前から心不全との診断で、近くの病院に3回入院。今回も心不全で同じ病院に入院して、診断は「拡張型心筋症」と説明を受けていたが、いつもと違って利尿剤に対する反応が悪いために、大きな病院で診てもらうことで転入。血圧は90/70、心拍数95でレギュラー。内頚靜脈の怒張を認め、やや頻呼吸を呈している。2/6度の収縮期雑音が前胸部全体に聴取されギャロップリズムだった。両側下肺野でクラックルが聴取される。末梢はやや冷たいが動脈は全て触知した。心電図は洞調律でST,T変化を伴った左室肥大であった。 さて、ここで循環器非専門医として何をどう考え、どのように診断していくべきでしょうか? 2004年現在の医療レベルで改善できる疾患を見逃さないために何を念頭に置いて、どのように検査していくべきでしょうか?第5回「無症状で著明な左室肥大」心電図検診で異状を指摘された患者さんが、セカンドオピニオンを求めて来院されるケースはしばしばあることでしょう。ときには狭心症や肝不全などと診断され、日常生活を大きく制限されたり、すぐに薬物療法を施行されるケースもあるようです。しかし、実際は心電図で狭心症と言われること自体がおかしい、ということはすでに学ばれたとおりです。実は今回のような症例は日本人に多いとのことですが、一体どのように考え、どのようなアプローチをすべきでしょうか?【今回の症例】63歳男性。高血圧など既往歴なく無症状であったが、心電図検診で左室肥大を指摘され、狭心症を疑われた。血圧、心音、胸部X線は正常、心エコー図も正常とのレポートであった。

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もう迷わない ! 好きになる心電図

第5回 「12誘導心電図編・総論」第6回 「12誘導心電図編・異常QRS」第7回 「12誘導心電図編・ST部分とT波」第8回 「不整脈evidence」 第5回「12誘導心電図編・総論」今回から12誘導心電図の話題に移ります。モニター心電図に比べ苦手意識を感じる先生方も多いはず。でも大丈夫! そもそも何で12個も誘導があるのか? またどこを見れば正常と確認出来るか? これさえクリア出来れば心の負担はずっと軽減されるはず。では、いかに重要な誘導と重要でない誘導を見分けるか? そのコツは・・・①Ⅰ、Ⅱ誘導をまず見る。②それから胸部誘導をV1からV5誘導へ見る。では、その理由は? 臨床で使える実践派講義をお楽しみに!第6回「12誘導心電図編・異常QRS」12誘導心電図読解のポイントであるQRS波の中で一番問題になるのが「異常Q波」です。しかし本当のところ、正常なQ波と異常なQ波を、何を根拠に判断しているのか意外と分かっていないのではないでしょうか?中にはそのせいで12誘導心電図が嫌いになってしまった方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この異常Q波が分かれば苦手意識はなくなるはずです。重要な異常Q波を押さえられれば、異常なQRS波を理解したも同然。というのも、異常なQRSには、変な形と変な大きさという二種類しかないからです。臨床に徹したクリアカットな講義で、もう12誘導心電図は怖くありません!第7回「12誘導心電図編・ST部分とT波」ST部分の基本を思い出してみましょう。基線とくらべて上がっていれば、頻度の多いのは心筋梗塞で、下がっていれば狭心症の発作。どちらが危ないかと言えば、もちろんSTの上昇です。しかし実際のところ、ST低下の方が診療の場では頻度が高いはず。もしも下がっていたらどうしますか? 答えは「慌てず騒がず患者の元へ」。まずは患者さんの状態を確認しましょう。STがあまり変わっていなくても症状があれば大きな異常の可能性があります。もしSTが激しく下がっていても、患者さんに症状がなければあまり病的ではないかもしれない…。ではどう見分けるのでしょうか?今回も現場で役立つ行動指針を実際の心電図を読み解きながら解説します。第8回「不整脈evidence」今回はちょっと知っているだけで、周りからも「むむ、できる」と賞賛を浴びること間違いなし(?)の、ワンポイントレッスンをお送りします。テーマは:1)変行伝導 2)心室期外収縮の治療 3)心房細動の治療。それぞれ、“変行伝導の見分け方は?”、“心室期外収縮の治療の落とし穴とは?”、“心房細動の治療でワーファリンをどう考える?”…と臨床で即役立つ実践的知識のツボをお届けします!

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【速報!AHA2012】CETP阻害薬によるHDL-C増加、今度は有用性を示せたか?:dal-OUTCOMES

 4日のLate Breaking Clinical Trialsセッションでは、本年6月に中止が公表された大規模試験 "dal-OUTCOMES" の結果が報告された。急性冠症候群(ACS)既往例において、ダルセトラピブは、HDLコレステロール(HDL-C)を著明に増加させながら、心血管系イベント抑制作用はプラセボと同等だった。VAメディカルセンター(米国)のGregory G Schwartz氏が報告した。先行していたCETP阻害薬トルセトラピブがILLUMINATE試験にて、プラセボに比べ総死亡と心血管系イベントを有意に増加させていたのとは、若干異なるようだ。  dal-OUTCOMESの対象は、ACS既往のある15,871例である。「LDLコレステロール(LDL-C)≧100mg/dL」と「トリグリセライド≧400mg/dL」は除外されたが、HDL-Cに基準は設けられていない。その結果、試験開始時のLDL-C値は76mg/dL、HDL-Cは42mg/dLだった。ACS後に対する標準治療は充分に行われており、スタチン(97%)、アスピリン(97%)、抗血小板薬(89%)、レニン・アンジオテンシン系抑制薬(79%)を多くの患者が服用していた。 これら15,871例は、ダルセトラピブ群とプラセボ群に無作為化され、二重盲検法で追跡された。  試験開始後の血清脂質の変化を見ると、ダルセトラピブ群ではHDL-Cがプラセボ群に比べおよそ15mg/dL、高値となっていた。LDL-C値は両群間に差を認めなかった。 このようにHDL-Cが著明に増加したにもかかわらず。ダルセトラピブ群の心血管系イベント(冠動脈死、非致死性心筋梗塞、虚血性脳卒中、不安定狭心症による入院、心停止)発生リスクはプラセボ群と同等だった(ハザード比:1.04、95%信頼区間:0.93~1.16, P=0.52)。  ダルセトラピブ群でイベントが減少しなかった理由の一つとしてSchwartz氏は、すくなくとも本試験の対象患者(充分に治療されている)では、低HDL-Cがもはやリスクではない可能性を指摘した。プラセボ群において、試験開始時のHDL-Cの高低にかかわらず、その後のイベント発生リスクがほぼ同等だったためだ。 また同氏は、ダルセトラピブ群で若干の収縮期血圧高値(0.6mmHg)と高感度C反応タンパク(hs-CRP)の軽度上昇(0.2mg/L)があった点にも触れ、これらによりHDL-C増加による有用性が相殺された可能性も指摘した。 しかし指定討論者のAlan Tall氏(コロンビア大学:米国)は、この程度の変動は臨床的に大きな意味を持たないと述べ、本試験がネガティブに終わった理由として、「CETP阻害薬で増えるHDLはコレステロール逆転送機能が障害されている」可能性と「ダルセトラピブのHLD-C増加が充分でなかった可能性」を指摘した。後者は、CETP阻害作用がより強力な薬剤ならば、別の結果になり得る可能性を示唆する。 CETP阻害薬の心血管系イベント抑制作用は現在、大規模試験REVEAL(アナセトラピブ)とACCELERATE(エヴァセトラピブ)が患者登録中である。前者は'17年、後者は'15年の終了を予定しており、結果が待たれる。取材協力:宇津貴史(医学レポーター)「他の演題はこちら」

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【速報!AHA2012】心筋梗塞後慢性期に対するキレート療法、有用性を確立するには至らず

 米国では、理由は不明だが、冠動脈疾患に対するキレート療法の施行数が増加しているという。しかしながら、その有用性は確認されていない。驚いたことに、有用性を示唆する機序さえ未確定だという。そのため、心筋梗塞後慢性期を対象とする無作為化試験TACT(Trial to Assess Chelation Therapy)が、NIH(国立衛生研究所)の出資により行われた。その結果、有意差はついたものの、キレート療法がプラセボに勝る有用性を確立するには至らなかったようだ。3日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、マウントサイナイ・メディカルセンター(米国)のGervasio A. Lamasが報告した。 TACTの対象は、心筋梗塞発症後6ヶ月以上経過した、50歳以上の1,708例である。およそ4分の3は、β遮断薬など心筋梗塞後に対する標準的薬物治療を受けていた。これらはキレート療法群(839例)とプラセボ群(869例)に無作為化され、二重盲検法で追跡された。キレート療法にはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)とアスコルビン酸を中心に10剤を用いるレジメンが用いられた。  その結果、一次評価項目である「死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠血行再建術、狭心症による入院」はキレート療法群で相対的に18%の有意な減少が認められた(ハザード比:0.82、95%信頼区間:0.69~0.99)。加えて、上記イベントを個別に検討しても、一様にキレート療法群で減少傾向を示した。  試験中止につながる有害事象の発現は、両群で同等だった。  このような成績にもかかわらずLama氏は、この有用性を確認する別の研究が必要だと主張した。と言うのも、キレート療法群におけるイベントリスク・ハザード比の、95%信頼区間上限は0.99と「1」に近いうえ、本試験では17%が無作為化後に同意を撤回し試験から脱落している。これら17%が残っていた場合に有意差となる保証はない。 また、キレート療法群における一次評価項目減少数の半分弱を「冠血行再建術施行」が占めていた。二重盲検試験とは言え「主観的」な評価項目に結果が大きな影響を受けている点に、Lama氏は問題を感じたようだ。なお、「冠血行再建術施行」は「狭心症による入院」と並び、後から加えられた評価項目である。当初の一次評価項目は、「死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全入院」だった(心不全データは、今回報告されなかった)。  指定討論者であるアルバート大学(カナダ)のPaul W. Armstrong氏も、本試験は虚血性心疾患に対するキレート療法の有用性を確認したものではないと強調した。根拠として同氏は、まず、キレート療法により著明なイベント減少が認められたのは、全体の30%を占める糖尿病例のみだと指摘。非糖尿病例では、キレート療法群とプラセボ群の一次評価項目発生率に全く差はない。同氏はまた記者会見にて、キレート療法の有用性を評価するには、「腎毒性」に関するデータを見る必要があるとも述べた。取材協力:宇津貴史(医学レポーター)「他の演題はこちら」

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DES留置後のステント遠位部における血管内皮機能障害は、なぜ起こる?

 現在、薬剤溶出性ステント(DES)は再狭窄率の低さから多くの患者さんに使用されている。しかし、DES留置後の遅発性ステント血栓症が問題であり、ステント留置遠位部に血管内皮機能障害が起こることが報告されていた。この点に関し、久留米大学の光武氏らは、DES留置後の遠位部における血管内皮機能障害は、新生内膜被覆不良と関係することを報告した(JACC Cardiovasc Interv誌 2012年9月号 掲載報告)。対象は、第一世代のDESを留置された安定狭心症66例で、9ヵ月間フォローアップされた。冠動脈内皮機能は、冠動脈内にアセチルコリン(10-8、10-7、10-6)やニトログリセリン(200μg)を注入し、ステント留置部、遠位部における、注入前後の血管変化により評価された。新生内膜被覆度は、冠動脈内視鏡により評価された(grade 0:被覆なし~ 3:完全被覆)。 内膜被覆度により、内膜被覆不良群(grade.0-1、 n=33) と 内膜被覆良好群(grade.2-3、 n=33)に分けて検討された。主な結果は以下のとおり。・両群で、アセチルコリンに対して、用量依存性の血管収縮を示した。・遠位部において、アセチルコリンによる血管収縮は、内膜被覆不良群で内膜被覆良好群よりも有意に大きかった(p

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血行再建術を行わない急性冠症候群に対するプラスグレルvs.クロピドグレル

 血行再建術を行わない急性冠症候群に対する経口抗血小板薬プラスグレル(国内未承認)投与について、クロピドグレル(商品名:プラビックス)投与を比較した結果、主要エンドポイントの心血管死または心筋梗塞、脳卒中の発生の有意な低下は認められず、一方で重度出血や頭蓋内出血リスクも同程度であったことが報告された。米国・デューク大学医療センターのMatthew T. Roe氏らによる二重盲検無作為化試験「Targeted Platelet Inhibition to Clarify the Optimal Strategy to Medically Manage Acute Coronary Syndromes」(TRILOGY ACS)試験の結果、明らかにされた。NEJM誌2012年10月4日号(オンライン版2012年8月25日号)掲載報告より。52ヵ国、9,000例超について二重盲検無作為化試験 研究グループは2008~2011年にかけて、52ヵ国、966ヵ所の医療機関を通じて、非ST上昇型の不安定狭心症または心筋梗塞で血行再建術を行わなかったアスピリン服用中の患者について、二重盲検無作為化試験を開始した。 登録被験者のうち75歳未満の患者7,243例を無作為に2群に分け、一方にはプラスグレル(10mg/日)を、もう一方にはクロピドグレル(75mg/日)を投与し、6~30ヵ月追跡した。また、75歳以上2,083例を無作為に2群に分け、一方にはプラスグレル(5mg/日)を、もう一方にはクロピドグレル(75mg/日)を投与し、同期間追跡した。 被験者の年齢中央値は66歳、女性が39%、非ST上昇型心筋梗塞が約7割、不安定狭心症が約3割を占めた。75歳未満の虚血性イベントの再発、プラスグレル群で15%減 追跡期間の中央値は、17ヵ月だった。主要エンドポイントとした心血管死、または心筋梗塞、脳卒中を発症したのは、75歳未満群では、プラスグレル群13.9%、クロピドグレル群16.0%だった。プラスグレル群のクロピドグレル群に対するハザード比は、0.91(95%信頼区間:0.79~1.05、p=0.21)であり、両群の有意差はみられなかった。 同様の結果は、被験者全体においても得られた。 一方、75歳未満群では、虚血性イベントの再発リスクについて、プラスグレル群がクロピドグレル群より有意に低率だった(ハザード比:0.85、同:0.72~1.00、p=0.04)。 重度出血や頭蓋内出血率は、両群で同程度だった。心不全発症率がクロピドグレル群で高率だったことを除き、非出血性の重篤な有害イベントの発生は両群で同程度だった。

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