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試みない後悔よりも、試みる勇気を持て、高齢者へのPCI(解説:中川 義久 氏)-490

 「後悔」とは、「ああすれば良かった、こうすれば良かった」と後から物事を悔いることで、皆ができれば避けたいと思っている感情の1つである。恋愛でも、仕事でも、対人関係でもそういう機会は多い。「あの時、勇気を出して告白すれば彼女の気持ちは変わったんじゃないか?」など、ギクシャクしたりした後で後悔の念は強まるものだ。“後悔先に立たず”というが、後悔しても取り戻せないとわかっていても執着心が勝ってしまうのが人間である。これはPCI施行医においても同様である。 非ST上昇型心筋梗塞と不安定狭心症の80歳以上の高齢者に対して、「早期侵襲的治療」と「保存的治療」を比較し、どちらの戦略が患者に利益をもたらすのかを調べた結果がノルウェーのグループからLancet誌に報告された。早期侵襲的治療とは、急性期に冠動脈造影を行い、必要に応じてPCIやCABGを選択し薬物療法の判断にも造影所見を利用する戦略である。保存的治療とは、至適薬物療法のみを行うもので冠動脈造影すら施行しない戦略である。主要エンドポイントは心筋梗塞、緊急血行再建、脳梗塞、全死亡の複合である。 その結果、主要エンドポイントは、早期侵襲的治療群93/229例(40.6%)vs.保存的治療群140/228例(61.4%)で、ハザード比0.53(95%信頼区間:0.41~0.69、p=0.0001)と早期侵襲的治療群が優れていた。出血性合併症は同程度であったという。 早期侵襲的治療を選択しPCI施術を試みたが、手技にまつわる合併症などで不幸な転帰をたどった場合には、「そっと保存的に様子をみれば良かった」と後悔するのが人間である。逆に、保存的治療を選択し結果が芳しくなかった場合には、「多少の危険を冒してでも本人と家族に説明し、勇気を出して侵襲的治療である冠動脈造影とPCIを施行していれば良かったのではないか」と考える場合もあろう。高齢患者の多い日本の実臨床の現場では、日々直面する問題である。 人間が自責の念を抱く最大の後悔は「できるのにしなかったこと」といわれる。つまり、一番大きな後悔は「わかっていたのにしなかった」「できるのにやらなかった」という罪悪感に基づくものである。試みたがうまくいかなかった場合には、その不成功の原因を究明し、次回の改善を期することも可能となる。これは、前向きな後悔といえる。 早期侵襲的治療と保存的治療の選択を迫られた場合に、個々の症例において得失を冷静に考えることは当然であるが、真にevenで迷った場合には、積極的方針を選択すること後押ししてくれる報告と思い、コメントさせていただいた。

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循環器内科 米国臨床留学記 第6回

第6回:米国で使用されている冠動脈疾患に対する新しい薬 ticagrelor、ranolazine前回に引き続き、日本では未承認ですがアメリカでは処方されている薬を紹介したいと思います。ticagrelor(商品名:Brilinta、日本では2016年2月現在、承認申請中)ticagrelorは、比較的新しいP2Y12受容体拮抗薬です。日本ではチカグレロルと呼ばれていると思いますが、アメリカではタイカグレロールと発音します。ご存じのとおり、日本では長らくチクロピジンしか使用できませんでしたが、その後クロピドグレルが登場し、最近ではプラスグレルも使用されていると思います。ticagrelorは、シクロペンチルトリアゾロピリミジン群に分類される新しい薬剤です。プロドラッグであるチエノピリジン系(クロピドグレルやプラスグレル)は肝臓で代謝された後、非可逆的にP2Y12受容体を阻害します。一方、ticagrelorは同じ受容体に直接かつ可逆的に作用します。結果として、作用が発現するまでの時間は短くなります。また、可逆的な結合のため、使用中止後、3日ほどで血小板機能も回復します。プラスグレルやticagrelorは血小板機能の抑制作用がクロピドグレルよりも早いため、急性冠症候群(ACS)の患者においては、より早い効果が期待できます。また、クロピドグレルに抵抗性のある患者は2割程度いますが、プラスグレルやticagrelorはその点でも優れています。ACS患者を対象にしたランダマイズド試験であるPLATO試験において、ticagrelorは、クロピドグレルに比べて死亡や心筋梗塞、脳卒中が少ないことが示されました(大出血イベントは同等、バイパス術に関連しない出血は増加)(図1)。表1 12ヵ月の時点での複合一次エンドポイント(心血管イベントによる死亡、心筋梗塞、脳卒中)の発生(PLATO試験) バイパス手術が必要となる3枝病変が予想されるようなACSの患者においては、P2Y12受容体拮抗薬の選択や投与のタイミングは難しい問題です。米国では、日本と比べて診断から手術までの時間が圧倒的に短いため、バイパス術が冠動脈造影の翌日となることも珍しくありません。初期投与(loading dose)だけなら気にされない心臓外科医もいますが、クロピドグレルやプラスグレルは手術を遅らせる原因となります(クロピドグレルやプラスグレルの使用中止後5~7日待つことが勧められている)。また、プラスグレルは、クロピドグレルに比べて、バイパスに関連した大出血イベントが有意に増加する可能性があります(TRITON-TIMI 38試験)。ticagrelorは可逆的な結合のため、使用中止後、3日ほどで血小板機能が回復します。実際、欧州心臓病学会(ESC)からの勧告でも、バイパス前の中止期間は、クロピドグレルとticagrelorでは最低でも3日となっていますが、プラスグレルは5日となっています。この待機時間は、入院費用が高い米国においては大きな問題です。このような背景から、現状では、費用の問題を除けばticagrelorが最も使いやすいP2Y12受容体拮抗薬と考えられています。同様の薬で静注薬であるcangrelorも2015年に認可されています。ranolazine(商品名:Ranexa、日本では未承認)ranolazineは、2006年に承認された慢性狭心症の薬です。2012年のガイドラインでは、β遮断薬に忍容性がないもしくは有効でない患者に、β遮断薬の代わりとしてもしくはβ遮断薬と組み合わせて用いることが、class IIaとして推奨されています。狭心症患者が多い米国では、経皮的冠動脈血行再建術(PCI)によって改善できない慢性狭心症の患者が非常に多く、治療に難渋することがあります。内向きの遅延ナトリウムチャネルを阻害し、心筋内のカルシウムを減らし、心筋の酸素消費を減らすと考えられていますが、詳しい効果の機序は不明です。TERISA試験は、14ヵ国で行われた、2型糖尿病と慢性狭心症を有する患者に対する前向きのプラセボ対照比較試験です。薬剤投与前の観察期間中の狭心症発作は、ranolazine群6.6回/週とプラセボ群で6.8回/週でしたが、薬剤投与開始後2~8週間後では、それぞれ3.8回/週(95% CI:3.57~4.05)と4.3回/週(95% CI:4.01~4.52)で、プラセボ群と比較してranolazine群で有意に減少したという結果でした(図2)。表2 ranolazine投与前後の狭心症状発生回数(TERISA試験) しかし、解釈には注意が必要です。というのも、有意といっても週0.5回というわずかなものでしたし、プラセボでも発作が減っていたのです。個人的には、プラセボ群でも発作が減る、狭心症状は経過とともに頻度が減っていくという結果のほうが、興味深く感じられました。実際には、ranolazineは最後の切り札といった感じで使用しています。なぜなら、前述のような軽度の改善効果に加えて、高価(1錠6ドル)であることもネックになっているからです。大規模で見ると改善効果があるのかもしれませんが、実際の臨床で効果を感じるのは難しい印象です。次回は、米国の心疾患治療で使用されている新しいデバイスについて書きたいと思います。

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“糖尿病合併高血圧にはRAS阻害薬”という洗脳から解き放たれるとき(解説:桑島 巖 氏)-487

 多くの臨床医は、“糖尿病合併高血圧にはRAS阻害薬”という考えにとりつかれてはいないだろうか。この問題にあらためて挑戦し、メタ解析を行ったのが、“的確な臨床試験コメンテーター”で知られるMesserli氏らのグループである。 彼らは、PubMed、Embaseやコクランライブラリーなどといった信頼性の高いデータベースから、糖尿病患者に対するRAS阻害薬の心血管合併症予防効果を、他の降圧薬と比較するメタ解析を行った。メタ解析で最も注意すべきセレクションバイアスは、独立した3名の専門家による論文選択と、コクランライブラリー基準にのっとりながら極力除外している。 RCT選択は、100例以上のサンプルサイズであること、最低1年以上の追跡期間であること、プラセボ対照試験を除外していること、そして注意すべきことは心不全を含んだトライアルは除外していることである。ACE阻害薬の心不全予防効果が他の降圧薬よりも優れていることは、証明されているからとしている。 そのメタ解析の結果、総死亡、心血管死、心筋梗塞、狭心症、脳卒中のいずれにおいても、RAS阻害薬が他の降圧薬よりも優れているという結果は得られなかったと結論付けている。個々の降圧薬との比較をみると、Ca拮抗薬との比較では、心不全以外ではまったく差が認められず、利尿薬、β遮断薬との比較においても、心血管イベント抑制効果に優位性は認めることができなかった。 そもそも、臨床医が“糖尿病合併高血圧ではRAS阻害薬”という考えにとりつかれたきっかけは、糖尿病性腎症に対するRAS抑制薬の蛋白尿抑制効果が大規模臨床試験で報告され、以来“糖尿病にはRAS阻害薬”というように拡大解釈された結果ではないかと著者らは考察している。 わが国の「高血圧治療ガイドライン2014」では、糖尿病合併高血圧患者における降圧薬選択に関しては、糖脂質への影響と糖尿病性腎症に対する効果のエビデンスより、RA系阻害薬(ARB、ACE阻害薬)を第1選択薬として推奨するとある。 しかも、その根拠としてABCD試験やFACET試験のようなきわめて小規模なトライアルを引用しているにすぎない。さらに問題は、CASE-Jのサブ解析結果を引用していることである。CASE-JにおけるARBカンデサルタンの糖尿病新規発症予防効果は、実はスポンサーの指示によって定義を後付けで変更するという不正な操作によって導き出されたことが、調査報告書で明らかになっているのである。それにもかかわらず、ガイドラインはいまだこの部分を訂正していない。 本メタ解析では、ベースライン時に腎症を合併している糖尿病のアウトカムについても解析しているが、他の降圧薬に比べて優位性を認めることができなかったとしている。 ここ20年間、ARBの降圧を超えて臓器保護効果や、糖尿病にはRAS阻害薬といった、誤ったマインドコントロールから覚めるときが来たようである。

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糖尿病患者へのRAS阻害薬、他の降圧薬より優れるのか?/BMJ

 糖尿病患者へのレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬の使用について、他の降圧薬と比べて心血管リスクや末期腎不全リスクへの影響に関して優越性は認められないことを、米国・ニューヨーク大学医学部のSripal Bangalore氏らが、19の無作為化試験について行ったメタ解析で明らかにした。多くのガイドライン(2015米国糖尿病学会ガイドライン、2013米国高血圧学会/国際高血圧学会ガイドラインなど)で、糖尿病を有する患者に対しRAS阻害薬を第1選択薬として推奨しているが、その根拠となっているのは、20年前に行われたプラセボ対照試験。対照的に、2013 ESH/ESCガイドラインや2014米国合同委員会による高血圧ガイドライン(JNC8)は、近年に行われた他の降圧薬との試験結果を根拠とし、RAS阻害薬と他の降圧薬は同等としている。BMJ誌オンライン版2016年2月11日号掲載の報告。死亡、心血管死、心筋梗塞や末期腎不全などの臨床的アウトカムを比較 研究グループは、PubMed、Embase、Cochrane centralを基に、糖尿病患者を対象とした、RAS阻害薬 vs.その他の降圧薬に関する無作為化試験についてメタ解析を行った。 主要評価項目は、死亡、心血管死、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、血行再建術、末期腎不全だった。心血管・腎不全の臨床的アウトカムで、RASは他の降圧薬と同等 メタ解析の対象となったのは、19の無作為化試験で、糖尿病被験者総数2万5,414例、延べ追跡期間9万5,910患者年だった。 RAS阻害薬はその他の降圧薬と比較して、全死因死亡(相対リスク:0.99、95%信頼区間:0.93~1.05)、心血管死(同:1.02、同:0.83~1.24)、心筋梗塞(同:0.87、同:0.64~1.18)、狭心症(同:0.80、同:0.58~1.11)、脳卒中(同:1.04、同:0.92~1.17)、心不全(同:0.90、同:0.76~1.07)、血行再建術(同:0.97、同:0.77~1.22)のいずれのエンドポイントのリスクについても同等だった。 また、末期腎不全の臨床アウトカムについても、他の降圧薬との比較で、有意差はなかった(同:0.99、同:0.78~1.28)。 結果を踏まえて著者は、「初見は、ESH/ESCガイドラインやJNC8の推奨を支持するものであった。それらのガイドラインでは、腎障害を有していない糖尿病患者に対しては、いずれの降圧薬も同等に推奨されている」とまとめている。

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Vol. 4 No. 3 巻頭座談会 脂質管理の今を整理する  循環器医に必要な知識はなにか?

宮内 克己 氏順天堂大学大学院 医学研究科循環器内科森野 禎浩 氏岩手医科大学 内科学講座循環器内科分野2013年秋にACC/AHAが発表したコレステロール管理ガイドラインは、臨床現場に大きな議論をもたらした。LDLコレステロールの治療目標はどうあるべきか?treat to targetか? fire and forgetか?the lower, the betterの解釈は?最近のエビデンスも踏まえ、現時点の脂質管理のあり方を整理する。LDL-C高値による心血管疾患の発症リスク森野: 冠動脈疾患患者の2次予防において、脂質管理は重要な課題です。1989年に初のスタチン、2000年にストロングスタチンが登場したことで、われわれの脂質管理は大きく変化しました。一方、スタチンで抑制できない残存リスクも明らかとなり、新しい脂質異常症治療薬の開発も進んでいます。本誌の読者はすでに脂質管理について十分な知識をおもちと思いますが、そのうえで脂質管理をどう行うべきかについて、オピニオンリーダーとして多くのエビデンスを発信されている宮内先生にお話をうかがいながら、知識を深めていきたいと思います。宮内先生、よろしくお願いいたします。はじめにLDLコレステロール(LDL-C)に関する研究や考え方についてまとめていただけますでしょうか。宮内: LDL-Cが高ければ予後が悪く、下げれば予後が改善するというLDL-C仮説は、もともと高LDL-C血症が心筋梗塞のリスクであるという疫学研究、家族性高コレステロール血症(FH)では早発性の心筋梗塞が認められるという臨床的観察、動物にコレステロールを負荷すると粥状硬化が認められるという実験の3つが根拠となっています。ここでもう一度、近年の研究について見直してみます。疫学研究については、20代男子大学生約1,000人を30~40年追跡した米国の調査で、総コレステロール高値が心血管イベントに関与することが1993年に報告されました1)。この研究で注目されるのは、追跡後15~20年以降にイベント発現の差がみられ始めた点です。つまり、コレステロール高値が何年つづいているかの“積分”が重要であることを意味しています。このことは、家族性高コレステロール血症をみるとよくわかると思います。未治療の場合、非FHの脂質異常症では55歳で累積LDL-Cが心血管イベント発症閾値に達するのに対し、ヘテロ接合体FHでは35歳、ホモ接合体FHでは12.5歳で到達すると推定されています2)。日本の疫学調査としては、心血管疾患の既往歴のない一般住民を22年間追跡したCIRCS研究において、冠動脈疾患発症リスクが有意に増加するLDL-Cの閾値は80mg/dLであることが示されています3)。LDL-Cはthe lower, the better宮内: 次に、これまでのスタチンを用いた介入試験の結果をまとめると、2次予防も1次予防もイベント減少はLDL-C低下と相関していることは明らかです(図)4,5)。2次予防は70mg/dL、1次予防は100mg/dLまでのエビデンスが構築されています。CTT(Cholesterol Treatment Trialists')の2010年のメタ解析では、介入前のLDL-Cにかかわらずスタチンは心血管イベンの相対リスクを22%減少させることが認められました6)。急性冠症候群(ACS)は発症後早期からアトルバスタチン80mgを投与することで、非投与群に比べ心血管イベントが有意に低下することもMIRACL試験で示されています7)。こうしたことから、2012年のESC/EAS(欧州心臓病学会/欧州動脈硬化学会)脂質異常症管理ガイドラインでは「ハイリスク患者はLDL-C 100mg/dL以下、 2次予防ハイリスク患者はLDL-C 70mg/dL以下、ACSは入院中にストロングスタチン高用量をLDL-C値に関係なく早期に使用すること」が推奨されることになったわけです。そして、2013年、ACC/AHA(米国心臓病学会/米国心臓協会)は動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease : ASCVD)予防のためのコレステロール管理ガイドラインを発表し、スタチンの有用性が期待できる4つの患者群を示したうえで、ASCVD患者にはストロングスタチンを高用量で使用すべきと、いわゆる“fire and forget”の概念を提唱したのです。森野: この、fire and forgetの考え方はさまざまな議論を呼びましたね。宮内: これまでの研究で、LDL-C値は70mg/dL以下にすべきことはわかってきたけれども、それをターゲットにすることは、裏を返せば70mg/dL以下は介入しなくてよいということになります。しかしそのようなエビデンス、つまりどこまで下げればリスクが最も小さくなるかというエビデンスはないわけです。一方で、スタチンによりLDL-Cを下げすぎても死亡率は増加しないというデータはあります。こうしたことから、目標値は設定しないという考え方がでてきたのだと思います。英国のコホート研究でも、急性心筋梗塞(AMI)発症後にスタチンを中止すると、AMI前後ともスタチン未使用者より予後が有意に悪いことが示されています8)。この結果は、まさにfire and forgetの重要性を示唆していると思います。森野: 日本では、既往があればLDL-Cに関係なく高用量スタチンを投与するという欧米の考え方に違和感をおもちの先生方は少なくないと思いますが、その背景をあらためて振り返ってみると理解しやすいですね。宮内: LDL-Cは“lipid-modifying treatment、the lower, the better”が世界の潮流となっています。図 LDL-C値と冠動脈疾患イベント発症率の関係画像を拡大する超ハイリスク患者ではLDL-Cが低下してもスタチン継続を森野: そうしますと、2次予防ではLDL-Cが正常値でも介入が必要ということでしょうか。宮内: 2012年のCTTメタ解析では、5年間で起きる心血管イベントリスクで5群に分けてみても、リスクに関係なくスタチンによるLDL-C低下に比例して心血管イベントが減少することが示されました9)。どの群でも、心血管イベント数の減少率は同じです。しかしよくみると、絶対数は、当然ながらリスクが高いほど大きいことがわかります。また、最近、IMPROVE-IT試験の結果が発表され、ACSによる入院10日以内のハイリスク患者はスタチン+エゼチミブでLDL-C値を約55mg/dLに低下させると、スタチンのみで約70mg/dLに低下させた場合に比べ、心血管イベントのリスクが7年間で6.4%減少と、軽度ながら有意差が認められました10)。この試験は、スタチンにスタチン以外の薬剤を併用することでさらなるLDL-C低下をめざした治療の有効性が示された点で、たいへん注目されています。ただし、どのような患者群で脂質低下によるイベント減少効果が大きかったかを層別解析でみてみると、有意差が認められたのは糖尿病群と非糖尿病群の間だけでした。つまり、ACSかつ糖尿病という超ハイリスク患者ではthe lower, the betterが証明されたということです。実際は、全体でみても今回の結果はこれまでの臨床試験で示されているLDL-C低下と心血管イベント低下の直線上に乗っており、the lower, the betterを示した点で非常に価値の高い試験といえます。また、この結果を導いたのが特に超ハイリスク患者であることに大きな意義があると思います。森野: 見事にほぼ直線ですね。日本人でも、このthe lower, the betterがあてはまるでしょうか。宮内: 傾きは違うと思いますが、ほぼ直線になるという印象はもっています。これまで日本人でハードエンドポイントをめざした大規模臨床試験はありませんでしたが、現在、慢性冠動脈疾患患者を対象に積極的脂質低下療法と通常療法を比較するREAL-CAD試験が行われており、その結果が出ればはっきりすると思います。日本人でも超ハイリスク患者はthe lower, the better森野: 実際のところ、日本人の場合、LDL-Cの管理はどうすべきとお考えですか。宮内: 日本人のエビデンスには、ESTABLISH、JAPAN-ACS、COSMOS試験などがあります。前2者がACS、後者が安定型冠動脈疾患を対象に、冠動脈プラークの進展・退縮を検討した試験ですが、いずれも日本で使用可能なストロングスタチンの最大用量によりLDL-C値は80mg/dLまで低下し、プラーク退縮が認められました。代替エンドポイントですが、プラーク退縮に依存してイベントが減少することが示されており、2次予防ではスタチンの最大用量を少なくともある一定期間は用いたほうがよいと考えています。森野: 実地医家の多くが最大用量は使っていないのが現状ですね。宮内: 日本人のエビデンスがないからだと思います。森野: JAPAN-ACSでは、糖尿病群でプラークの退縮率が悪かったという結果でしたね。宮内: はい。おっしゃるとおり、糖尿病患者も非糖尿病患者もLDL-Cの低下はほぼ同じでしたが、プラーク退縮率は13%および19%で、糖尿病群が低値でした。そこで当院では、より大きなLDL-C低下により退縮率がどうなるかを検討するため、ACS患者を対象にスタチン+エゼチミブ併用療法とスタチン単独を比較するZEUS(eZEtimibe Ultrasound Study)を行いました。IMPROVE-IT試験が発表される前のことです。結果は、LDL-Cの低下は糖尿病の有無にかかわらず併用群で大きかったのですが、プラーク退縮率は非糖尿病患者では単独群と併用群で差はなかったのに対し、糖尿病患者では併用群のほうが有意に大きいことが認められました11)。森野: ACSや糖尿病患者では、より厳格なLDL-C低下をめざすことで大きなベネフィットが得られるということですね。宮内: はい。ZEUSの結果が意味するところはIMPROVE-IT試験と同じであり、日本人でも超ハイリスク患者ではthe lower, the betterといえるのではないかと思っています。さらなるLDL-Cの低下をめざして森野: the lower, the betterということは、いったいどこまで下げればよいのでしょうか。宮内: 胎児レベルまでLDL-Cを低下させると心血管イベントを減少できるのではないかと考えられています。つまり、イベントがゼロになるLDL-Cのポイントがあって、それが胎児の値の25~29mg/dLといわれています12, 13)。そこで、LDL-Cを約30mg/dLまで低下させたらどうなるかという仮説のもと、盛んに研究が行われています。そのなかで注目されているのが、LDL-C受容体とPCSK9です。PCSK9は、周知のとおり2003年にFHの原因遺伝子として同定されたプロテアーゼで、LDL受容体と結合しこれを分解します。PCSK9があるとLDL-Cは肝臓表面のLDL受容体に結合し受容体ごと貪食されるため、LDL受容体のリサイクルが障害され血中からのLDL-C取り込みが低下、すなわちLDL-C値が増加しますが、PCSK9がないとLDL-Cのみが貪食されLDL受容体はリサイクルされて肝臓表面に戻るため血中からのLDL-C取り込みが高まり、LDL-C値が低下します。このメカニズムに着目して開発されたのがPCSK9阻害薬です。日本でも抗PCSK9モノクローナル抗体製剤の臨床開発が進んでいます。evolocumabはすでに2015年3月に承認申請がなされ、alirocumabは第III相試験を終了し、ほかにbococizumabとLY3015014はそれぞれ第II/III相および第II相試験が行われているところだと思います(CareNet.com編集部注:本記事は2015年9月発行誌より転載)。最近、evolocumabとalirocumabの長期成績が発表され、どちらもスタチンに併用することでLDL-Cを低下させ、心血管イベントを減少させることが示唆されました。この2剤の臨床試験24件、合計約1万例のメタ解析でも、全死亡、心血管死、心筋梗塞ともに約50%リスクを減少すると報告されています14)。森野: ここまでのところをまとめますと、LDL-Cの高さと持続期間の積分が重要という概念は理解しやすく、介入後もやはり10年、15年というスパンで考えなくてはならないことがよくわかりました。将来的にはストロングスタチンよりさらに強力にLDL-Cをコントロールできる時代が来ると思われますが、いまは高用量のストロングスタチンがベストセラピーであり、若年者ほどより早期に介入されるべきということですね。宮内: はい。若年といっても2次予防の患者さんは40代、30代後半になると思いますが、LDL-C値に関係なく積極的に介入すべきだと考えています。HDL-Cを増やしても心血管リスクは減らない森野: 次にHDLコレステロール(HDL-C)の話題に移りたいと思います。一般的に若年者はHDL-Cが低くLDL-Cはそれほど高くないので、薬物介入が難しいのが現状です。宮内: そうですね、特に若年者ではHDL低値が非常に影響することは事実だと思います。日本人を対象とした調査では、HDL-Cが40mg/dL以下で虚血性心疾患、脳梗塞の合併率が高いことが示されています。森野: 残存リスクとしてHDL-Cはやはり重要なのでしょうか。つまり、スタチンを十分使っていてもHDL-C低値はイベントリスクに関与するんでしょうか。宮内: その点について非常に重要な示唆を与えてくれるのが、TNT試験の事後解析です。LDL-Cで層別化した場合、70mg/dL未満であってもHDL-Cが最低5分位群は最高5分位群より心血管疾患リスクが高いことが示されました15)。やはりカットオフ40mg/dLを境に、HDLが低くなるとイベントが多くなることが明らかになっています。森野: そうすると、次のステップは介入ということになりますが、その方法はありますか。宮内: HDL-Cの増加にはコレステリルエステル転送タンパク(CETP)が重要と考えられています。簡単にいえば、HDL-CはCETPによって分解されるので、これを阻害すればHDL-Cが増え、LDL-Cを引き抜いてくれるだろうという理論になるわけです。実際、CETP阻害薬としてdalcetrapib、torcetrapib、anacetrapib、evacetrapibなどの開発が進められています。しかし残念ながら、dalcetrapibはHDL-Cが30~40%増加したものの心血管イベント抑制効果は認められず、torcetrapibもHDL-Cが増加しLDL-Cが減少したものの全死亡と心血管死が増加し、いずれも開発中止となりました。そのほか、ナイアシンやフィブラート系薬でも検討されていますが、いずれにおいても心血管イベント低下は示されていません。HDL-C低値は、確かに悪影響を及ぼしているけれども、薬物介入によってHDL-Cを増加させてもポジティブな結果は得られていない、というのが現状です。森野: CETP阻害薬の場合、HDLはmg/dLという量でみると増えていますが、働く粒子の数はむしろ減っているのではないかという議論がありますね。宮内: 賛否両論があって、現時点でははっきりした結論は出ていません。森野: LDL-Cをターゲットにして、結果としてHDL-Cが増加することがあると思いますが、それはどうなのでしょうか。宮内: 最近、スタチンやナイアシン投与によりHDL-Cが有意に増加するけれども、メタ回帰分析を行うとLDL-Cで調整したHDL-C増加はイベントリスクと関連していないことが報告されています16)。森野: ということは、スタチンで副次的にHDL-Cが増えることは意味がないと。宮内: はい。もともとその増加量は絶対値でみるとわずかですから、ポジティブな結果は出ないと思います。中性脂肪も介入の効果は確立されていない森野: 中性脂肪の管理についてはいかがでしょうか。LDL-Cと中性脂肪の両方が高い場合はどうするか、いまだに悩ましい問題です。宮内: 中性脂肪が残存リスクであることは間違いありません。当院で1984~1992年に血行再建を行った連続症例を約11年追跡したところ、試験開始時の空腹時中性脂肪値が心血管死と有意に関連しており17)、200mg/dLがカットオフであることが推察されました。実はPROVE IT-TIMI22試験の事後解析でも、LDL-C 70mg/dL未満の症例のみでは中性脂肪200mg/dL以上で200mg/dL未満よりACS後30日以内の心血管イベントリスクが有意に高いことが報告されています18)。これらの結果から、2次予防における中性脂肪のカットオフ値は200mg/dLと考えられます。ただし、介入試験のデータはほとんどないのが現状です。唯一、ポジティブな結果が得られているのは高リスク2型糖尿病患者を対象としたACCORD試験で、中性脂肪204mg/dL以上かつHDL-C 34mg/dL以下の患者のみフィブラート併用の有効性が認められました19)。森野: そうしますと、HDL-Cも中性脂肪も残存リスクとしての価値があることはわかっているけれども、薬物介入の有効性は証明できていないので、脂質管理において重要なのは、やはりスタチン高用量といえるわけですね。宮内: ええ。ただし、運動と食事療法が重要であることはいうまでもありません。脂肪酸の重要性と介入の可能性森野: 食事療法といえば、最近は脂肪酸がたいへん注目されています。現在、宮内先生が中心となり大規模介入試験も進行中ですが、その話題も含め脂肪酸に関する知見をまとめていただけますか。宮内: 脂肪酸が注目されるきっかけになったのは、全国11保健所を拠点に多くの医療機関が共同で行っている長期コホート研究(JPHC研究)です。この研究は、心血管疾患と癌の既往のない40~59歳の日本人約41,000人を1990年~2001年まで追跡したもので、魚食に由来するn-3系脂肪酸摂取が2.1g/日と多い群は、少ない群(0.3g/日)に比べCHD発症リスクが有意に低いことが示されました20)。興味深いことに、血中EPA・DHA濃度が高い方は脂質コアが小さくて線維性皮膜が厚く、プラーク破綻を生じにくい性状であることもわかってきました。また、久山町研究でも、血清EPA/AA比は心血管疾患発症や死亡の有意な危険因子であることが示されました。血清EPA/AA比はEPA摂取量に依存することから、やはりEPAを多く摂取するとイベントが少ないといえると思います。では介入したらどうなるか。動物実験では、ApoE欠損マウスに西洋食または西洋食+EPAを13週間投与すると、動脈硬化病変は後者が前者の1/3と有意に少ないことが認められました。経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行した脂質異常を合併する安定狭心症またはACS患者を対象にスタチンまたはスタチン+高純度EPAを投与しプラークの性状を検討した報告では、9か月後、スタチン単独群に比べEPA併用群で線維性被膜厚の有意な増加、脂質性プラークの角度と長さの有意な減少が認められ、EPAは不安定プラークを安定化することが示されています。さらに、JELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)でも、冠動脈疾患の既往歴のある患者はスタチン+EPA併用により非併用と比べ心血管イベントが19%有意に減少することが認められ、その後の解析でも血漿EPA/AA比が高い群ほど冠動脈イベントの発症リスクは低く、1番高い群(血漿EPA/AA比1.06以上)は1番低い群(血漿EPA/AA比0.55以下)に比べ、突然心臓死または心筋梗塞の発症リスクが42%有意に低下することが示されました。これらの結果を踏まえ、現在、RESPECT-EPA試験が行われています。慢性冠動脈疾患患者約4,000例を対象に、対照群(通常治療)とEPA群(通常治療+高純度EPA製剤追加投与)にランダムに割り付けし、心血管イベント抑制効果を比較検討するもので、EPA/AA比とイベント発症との関連も検証する予定です。森野: たいへん興味深い試験で、結果が楽しみです。いまおっしゃったようなデータに基づいて考えると、魚を食べるという日本の食習慣が変化してきていることに危惧を感じますね。これは食育という学校教育の課題ではないかと常々思っています。宮内: 私も同じ意見です。教育、文化の見直しは非常に重要だと感じています。脂質管理で重要なのはー今後の課題森野: 最後に、循環器医に必要な知識としてなにかメッセージをお願いいたします。宮内: わが国における現在の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、2次予防におけるLDL-Cの管理目標値が100mg/dL未満と設定されていますが、根拠となる国内の大規模臨床試験はありませんし、しかも層別化されていないので不十分だと考えています。また、1次予防でいうところのハイリスク、すなわち糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患については特に考慮すべきと思います。これらハイリスク群は、1次予防においてLDL-C 120mg/dL未満と設定されていますが、2次予防と同じように扱い、スタチンの使用や生活習慣の改善に対する介入が大切だと思います。こうしてあらためて振り返ってみますと、繰り返しになりますが、食育をはじめとした教育の問題が重要で、今後は若い人に対してどのように啓発していくかも大きな課題といえるでしょうね。森野: 本日は「脂質管理のいまを整理する」というテーマで宮内先生とお話をしてきました。LDL-C、HDL-C、中性脂肪、そして脂肪酸と幅広くレビューしていただき、脂質管理についての知識を整理するとともに、現在のわが国における脂質管理の問題点や課題も認識できたのではないかと思います。宮内先生、ありがとうございました。文献1)Klag MJ et al. N Engl J Med 1993; 328: 313-318.2)Nordestgaard BG et al. Eur Heart J 2013; 34: 3478-3490a.3)Imano H et al. Prev Med 2011; 52: 381-386.4)Rosenson RS. Exp Opin Emerg Drugs 2004; 9: 269-279.5)LaRosa JC et al. N Engl J Med 2005; 352: 1425-1435.6)CTT Collaboration. Lancet 2010; 376: 1670-1681.7)Schwartz GG et al. JAMA 2001; 285: 1711-1718.8)Daskalopoulou SS et al. Eur Heart J 2008; 29: 2083-2091.9)CTT Collaboration. Lancet 2012; 380: 581-590.10)Cannon CP et al. N Engl J Med 2015; 372: 2387-2397.11)Nakajima N et al. IJC Metab Endocr & Endocrine 2014; 3: 8-13.12)清島 満ほか. 臨床病理 1988; 36: 918-922.13)Blum CB et al. J Lipid Res 1985; 26: 755-760.14)Navarese EP et al. Ann Intern Med 2015; 163: 40-51.15)Falk E et al. N Engl J Med 2007; 357: 1301-1310.16)Hourcade-Potelleret F et al. Heart 2015; 101: 847-853.17)Kasai T et al. Heart 2013; 99: 22-29.18)Miller M et al. J Am Coll Cardiol 2008; 51: 724-730.19)ACCORD Study Group. N Engl J Med 2010; 362: 1563-1574.20)Iso H et al. Circulation 2006; 113: 195-202.

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第3世代薬剤溶出性ステント「シナジー ステントシステム」の可能性とは?

 ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社は2016年1月12日、新型の薬剤溶出性ステント(Drug Eluting Stent、以下DES)である「シナジー ステントシステム」を新発売。これを受けて2016年1月26日、都内にて説明会が行われた。薬剤溶出性ステントが虚血性心疾患治療の主流 ステントは狭心症・心筋梗塞など虚血性心疾患の治療に広く使われている医療機器である。髪の毛ほどの細さの金属のチューブで、管の内側から圧力をかけることによりステント部分が網状に広がる。これを閉塞している血管に留置することで機械的に血管を支え、血流を確保し閉塞を改善する。従来は薬剤が塗布されていないベアメタルステントが使用されていたが、現在は薬剤溶出性ステントが主流となっている。薬剤溶出性ステントは第1世代・第2世代とさまざまなタイプが登場 薬剤溶出性ステントのステント表面には血管内膜を新生する物質を抑制する薬剤がしみ込んだポリマーがコーティングされている。ポリマーが薬剤の溶出量をコントロールすることで、均一な量の薬剤が、長期間にわたって放出され続ける。しかし、ポリマーによる血管内の炎症反応は動脈硬化を促進し、ステント血栓症などさまざまな反応を引き起こす。そのため、薬剤の放出が終わった残存ポリマーが課題とされていた。 2000年代後半に本邦に薬剤溶出性ステントが登場して以来、第1世代・第2世代とさまざまなタイプのステントが登場したが、この課題は依然として残っており、さらなるステントの改良が望まれてきた。次世代の薬剤溶出性ステントとしてのシナジーステントシステムの改善点 シナジーステントシステムはポリマーの長期残存の低減と血管の早期内皮化・早期治癒を目的として設計された次世代の薬剤溶出性ステントである。 シナジーステントシステムの主な改善点は3点ある。(1)プラットフォーム:ステントの構造をより使用しやすい形へ改良した(2)ステントの薄さ:ステントと血液の間の抵抗が減らし、血栓症リスクを低下させるため従来より薄くした(3)コーティング:生体吸収性ポリマーを血管の壁側に接する部分にのみ塗布する「アブルミナルコーティング」が特徴、ステント内の内皮化を促進させ、血管内炎症を減少させた とくに、薬剤放出後、体内に残存していたポリマーによる血管内炎症という長期的結果への課題は、シナジーステントシステムに採用されている生体吸収性ポリマーによって解決されるという。本ステントに採用されているポリマーは留置後4ヵ月程度で生体内に吸収され、ステントの早期内皮化を促進する。さらに、アブルミナルコーディングにより、ポリマーが塗布されているのは血管壁側のみのため、ポリマーの減量にも成功している。ポリマーの長期残存を低減し永続的な炎症の原因となるポリマーがなくなることで、後期ステント血栓症のリスクを低下させる可能性がある。 また、シナジー ステントシステムのステントの厚さは74μmと非常に薄く、ステント血栓症リスクをさらに減少させる可能性もあるという。新たに開発中のステントが第3世代ステントを治療成績で上回るのかは現時点では不明 新型ステントのエビデンス収集も徐々に進んでおり、現在「EVOLVE Short DAPT試験」が進行しつつある。これは、出血性リスクが高い患者にこのステントを利用し、DAPT投与期間が短縮できるかを検証する目的のグローバル臨床試験である。同試験結果によってはさらにステントの有効性が評価され、出血リスクの高い患者のDAPTの投与期間の大幅な短縮も可能となるかもしれない。 演者の中村 正人氏(東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科 教授)は、シナジー ステントシステムについて「DESではかなり完成された形」とした。中村氏は、今回の新型ステントについて、以下の2点の可能性に期待を寄せた。(1)DAPTが短期間で中止できる短期的効果(2)DAPT投与中止後もイベント発生を抑制し、PCIの長期成績を改善する長期的効果 ステントはさらに進化を続けており、現在ポリマーをまったく使用していないステントが開発中である。ポリマーを使用していなければポリマーにより惹起される炎症が減る可能性はあるが、中村氏は、今回発売された第3世代ステントより治療成績が上回るのかについては現時点では不明である、と付け加えた。本サイトも、これからのステントの進化に注目していきたい。

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生体吸収性スキャフォールドの1年転帰:4つのABSORBメタ解析/Lancet

 留置1年後における生体吸収性エベロリムス溶出スキャフォールド(BVS、Absorb)の有害事象の発現状況は、コバルトクロム合金製エベロリムス溶出ステント(CoCr-EES、Xience)とほぼ同等との研究結果が、米国・コロンビア大学のGregg W Stone氏らによってLancet誌オンライン版2016年1月26日号で報告された。BVSは、薬剤溶出金属製ステントに比べ経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の長期的なアウトカムを改善する可能性が指摘されているが、これらのデバイスの1年後の安全性や有効性は知られていない。4つの直接比較試験のデータを統合解析 研究グループは、留置1年後のBVSの相対的なリスクとベネフィットの特徴を明らかにするために、CoCr-EESと比較した4つの無作為化非劣性試験(ABSORB II、ABSORB Japan、ABSORB China、ABSORB III)のメタ解析を行った(Abbott Vascular社の助成による)。 4試験全体で、北米、欧州、アジア太平洋地域の301施設が参加し、安定冠動脈疾患および安定化した急性冠症候群の3,389例が登録された。BVS群に2,164例、CoCr-EES群には1,225例が割り付けられた。 主要評価項目は、患者指向の複合エンドポイント(全死因死亡、全心筋梗塞、全再血行再建術)およびデバイス指向の標的病変不全の複合エンドポイント(心臓死、標的血管関連心筋梗塞、虚血による標的病変再血行再建術)であった。 年齢中央値は両群とも63歳、男性はBVS群が73%、CoCr-EES群は72%であった。全体で、糖尿病を有する患者が約30%、不安定狭心症または直近の心筋梗塞が約31%にみられ、約3分の2の患者がAHA/ACC分類のB2またはC型、4分の1強が中等度~重度の石灰化、おおよそ3分の1が分枝部の病変だった。2試験のデータを追加しても治療効果に変化なし 3,355例(99%)が、1年間のフォローアップを完遂した。 患者指向複合エンドポイントの発生率は、BVS群が11.9%、CoCr-EES群は10.6%であり、両群間に有意な差はなかった(相対リスク[RR]:1.09、95%信頼区間[CI]:0.89~1.34、p=0.38)。 デバイス指向複合エンドポイントは、BVS群の6.6%、CoCr-EES群の5.2%に発生したが、やはり有意差はみられなかった(RR:1.22、95%CI:0.91~1.64、p=0.17)。 標的血管関連心筋梗塞は、BVS群が5.1%と、CoCr-EES群の3.3%に比べ有意に高頻度であった(RR:1.45、95%CI:1.02~2.07、p=0.04)。これには、BVS群で、有意差はないものの周術期心筋梗塞が多く、デバイス血栓症(definite/probable)の頻度も高い傾向にあったこと(RR:2.09、95%CI:0.92~4.75、p=0.08)が寄与している可能性がある。 全死因死亡(p=0.80)、心臓死(p=0.74)、全心筋梗塞(p=0.08)、虚血による標的病変再血行再建術(p=0.56)、全再血行再建術(p=0.89)のいずれもが、両群間に差を認めなかった。 これらの結果は、ベースラインの背景因子の不均衡を多変量で補正しても同様であり、ほとんどのサブグループで一貫していた。 また、これら4試験に、フォローアップ期間が1年に満たない2つの試験(EVERBIO II[9ヵ月]、TROFI II[6ヵ月、ST上昇心筋梗塞患者のみ登録])のデータを加えて事後的な感度分析を行ったが、治療効果に変化はなかった。 著者は、「BVSの1年後の患者指向およびデバイス指向の有害事象の発現状況は、CoCr-EESと変わらなかった」とまとめ、「第1世代のBVSは、多くの施術者がいまだ最適な留置術の方法を学んでいる最中で、CoCr-EESはステント血栓症が最も少ない薬剤溶出金属製ステントであることから、本研究のエビデンスは全体として、BVSの留置1年後の安全性と有効性を支持するものである」としている。

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80歳以上の冠動脈疾患、侵襲的治療 vs.保存的治療/Lancet

 80歳以上の非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)または不安定狭心症の高齢患者に対して、侵襲的な治療は保存的治療よりも複合イベントを減少し、治療戦略の選択肢として優れることが、ノルウェー・オスロ大学のNicolai Tegn氏らが行った、非盲検無作為化試験の結果、明らかにされた。ただし戦略の有効性は、年齢の上昇(クレアチニンおよび効果修飾を補正後)とともに漸減する。出血性合併症については戦略間で差はなかったという。80歳以上のNSTEMIおよび不安定狭心症は入院要因として頻度が高いが、至適戦略に関する同集団対象の臨床試験は少なく、またガイドラインに則した治療が行われているかも不明であった。研究グループは、早期の侵襲的治療 vs.保存的治療を比較し、どちらの戦略がベネフィットをもたらすのかを調べた。Lancet誌オンライン版2016年1月12日号掲載の報告。心筋梗塞・緊急血行再建術の必要性・脳卒中・全死因死亡の複合アウトカムを評価 試験は、ノルウェー東南部の16病院に入院した患者457例を対象とし、侵襲的治療群(早期に冠動脈造影検査を行い即時にPCI、CABGを評価、および至適薬物療法について評価、229例、平均年齢84.7歳)または保存的治療群(至適薬物療法についてのみ評価、228例、84.9歳)に無作為に割り付け追跡評価した。 主要アウトカムは、心筋梗塞・緊急血行再建術の必要性・脳卒中・全死因死亡の複合で、評価は2010年12月10日~14年11月18日に行われた。途中、侵襲的治療群5例、保存的治療群1例が試験中断となったが、解析はintention-to-treatにて行った。侵襲的治療群のハザード比0.53、出血性合併症は同程度 被験者を募集した2010年12月10日~14年2月21日のフォローアップ中(中央値1.53年)に、主要アウトカムは、侵襲的治療群93/229例(40.6%)、保存的治療群140/228例(61.4%)が報告された(ハザード比[HR]:0.53、95%信頼区間[CI]:0.41~0.69、p=0.0001)。 主要複合アウトカムを項目別にみると、発生に関するHRは心筋梗塞0.52(95%CI:0.35~0.76、p=0.0010)、緊急血行再建術の必要性0.19(0.07~0.52、p=0.0010)、脳卒中0.60(0.25~1.46、p=0.2650)、全死因死亡0.89(0.62~1.28、p=0.5340)であった。 出血に関して、侵襲的治療群で重大出血4例(1.7%)、軽度出血23例(10.0%)、保存的治療群でそれぞれ4例(1.8%)、16例(7.0%)が認められた。大半は消化管での発生であった。 結果の傾向は、性別、2型糖尿病、クレアチニン血中濃度(103μmol/L以上)、ワルファリン使用、90歳超で層別化した場合も変わらなかったが、クレアチニン値について交絡作用と90歳超での効果修飾がみられた。また多変量Cox分析で、クレアチニン値と年齢で調節した侵襲的治療戦略の効果を調べた結果、侵襲的治療戦略と年齢間には有意な相互作用があり(p=0.009)、侵襲的治療の有効性は年齢の上昇とともに減弱することが示された。

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血栓吸引療法に引導は渡ったか?TOTAL試験1年追跡(解説:香坂 俊 氏)-463

このところ血栓吸引療法の旗色がよろしくない。 (1)急性心筋梗塞では冠動脈内でプラークが破裂し、血栓を形成する (2)その血栓はバルーンやステントを行う前に吸引しておいたほうが良さそうだ (3)実際、小規模のランダム化試験ではうまくいった(TAPAS試験)この三段論法で、とくに日本のカテーテルインターベンション(PCI)の現場では広く行われてきた。自分たちでもKiCSという関東一円の多施設共同PCIレジストリで集計してみたところ、ST上昇心筋梗塞症例に対するPCIの実に65.4%で血栓吸引が行われていた1)。ただ、2年ほど前にヨーロッパよりレジストリベースのRCT(レジストリに登録するとほぼ自動的にランダム化される)であるTASTE試験(北欧諸国)の結果が公表され、30日でまったく予後に差が認められなかった2)。これに続き、国際共同TOTAL試験(全世界20ヵ国)でも180日予後に差が認められず3)、これはにっちもさっちもいかないというところで、今回発表されたのが最後のTOTAL試験の長期フォロー結果(1年間)である。実は、TASTE試験やTOTAL試験の短期の結果をみたときに、遠位塞栓やST偏位など、血栓吸引で「改善した」というSurrogate項目(代理項目:メインの試験のターゲットではなかったが、臨床的に有用と考えられる項目)もあるにはあった。よって、長い期間追跡すれば血栓吸引の良さが検出されるのではないかと期待されたのであるが、その結果は下図のとおりであった。これほど見事に一致したカプランマイヤー曲線はそうみることはできない。ハザード比[HR] 1.00というのもドンピシャリである。この結果を踏まえて思うことは、この試験のinvestigatorたちがきわめて見事にランダム化を成し遂げたということであり、そのうえでやはり血栓吸引には明確な予後改善効果は認められない、ということである。論文の中には種々のサブグループ解析の結果も記載されているが、これも見事にハザード比1.0を軸にトーテムポールを形成している(下図)。図 サブグループ解析のForest Plot。赤線部がハザード比1.0を軸とした「トーテムポール」であり、とくに血栓吸引療法が有効性を示したサブグループがないことを示している。 これを踏まえてどう考えるか? ルーチンの血栓吸引療法の使用には引導が何重にも渡されており、自分としては現状の使用は少し行き過ぎているのではないかと思う。循環器内科ではしばしば病気が「見え過ぎる」ために、医師が手を出し過ぎてしまうことが起こる(アレとか、コレとか)。血栓吸引も、これは吸い出しておいたほうが良いだろうと現場判断で動くこともあるだろうが、65%の使用率というのは高い。自分たちの解析でも、STEMIよりもNSTEMI(非ST上昇心筋梗塞)、NSTEMIよりもUA(不安定狭心症)で血栓吸引の成績は(さらに)悪く、根本的に見直さなければならない時期に来ているように思える。

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ACS発症の糖尿病におけるリキシセナチド、心血管転帰への影響は?/NEJM

 2型糖尿病で急性冠症候群(ACS)を発症した患者に対し、GLP-1受容体作動薬リキシセナチド(商品名:リキスミア)を追加投与しても通常治療のみの場合と比べて、主要心血管イベントやその他重篤有害事象の発生率について有意な変化はみられなかった。米国ハーバード・メディカル・スクールのMarc A. Pfeffer氏らによる6,068例を対象とした多施設共同無作為化プラセボ対照試験ELIXAの結果、報告された。リキシセナチドなどGLP-1受容体作動薬は多くの国で2型糖尿病患者への血糖降下薬として承認されているが、これまで大規模な心血管アウトカム試験の報告はなかった。NEJM誌2015年12月3日号掲載の報告。49ヵ国で6,068例を対象に無作為化プラセボ対照試験 試験は2010年7月9日~13年8月2日に、49ヵ国で6,068例の患者を登録して行われた。被験者は、2型糖尿病で、無作為化前180日以内に心筋梗塞または不安定狭心症で入院歴のある患者で、通常治療に追加してリキシセナチドまたはプラセボを投与する群に無作為に割り付け、リキシセナチドのプラセボに対する非劣性(ハザード比の95%信頼区間上限値を1.3と定義)と優越性(同1.0と定義)を評価した。 主要エンドポイントは、心血管死・心筋梗塞・脳卒中・不安定狭心症による入院の複合であった。 両群の被験者特性は類似しており、リキシセナチド群(3,034例)は平均年齢59歳、65歳以上被験者比率33.1%、女性30.4%、糖尿病罹病期間9.2年、HbA1c値7.7%、BMI 30.1、喫煙者11.7%、指標ACS以前の心筋梗塞歴22.1%、無作為化時の病歴は高血圧75.6%、PCI 67.6%、心不全22.5%など。また収縮期血圧129mmHg、LDL-C値78.8mg/dL、確認されたACSイベントはSTEMIが44.5%、非STEMI 38.4%、不安定狭心症16.9%、ACSから無作為化までの期間は71.8日などの特性を有していた。主要心血管イベントの発生、プラセボに対する優越性は認められず 追跡期間は中央値25ヵ月であった。主要エンドポイントの発生は、リキシセナチド群406例(13.4%)、プラセボ群399例(13.2%)で(ハザード比[HR]:1.02、95%信頼区間[CI]:0.89~1.17)、リキシセナチドのプラセボに対する非劣性は確認されたが(p<0.001)、優越性は認められなかった(p=0.81)。また両群間で、追加エンドポイント指標の心不全による入院(リキシセナチド群のHR:0.96、95%CI:0.75~1.23)、全死因死亡(同:0.94、0.78~1.13)についても有意差は示されなかった。 一方で、リキシセナチドはプラセボと比べて、重篤有害事象の発生は高率ではなかった(20.6% vs.22.1%)。また重症低血糖、膵炎、膵腫瘍、アレルギー反応の発生率もプラセボと変わらなかった。

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鋭い論文解説が勢ぞろい!【CLEAR!ジャーナル四天王 2015年トップ30発表】

臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、日本の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しているNPO法人です。本企画『CLEAR!ジャーナル四天王』では、CareNet.comで報道された海外医学ニュース『ジャーナル四天王』に対し、鋭い視点で解説します。コメント総数は約450本(2015年11月時点)。今年掲載された150本以上のコメントの中から、アクセス数の多かった解説記事のトップ30を発表します。1位高齢者では、NOACよりもワルファリンが適していることを証明した貴重なデータ(解説:桑島 巖氏)(2015/5/20)2位LancetとNEJM、同じデータで割れる解釈; Door-to-Balloon はどこへ向かうか?(解説:香坂 俊氏)(2015/1/9)3位FINGER試験:もしあなたが、本当に認知症を予防したいなら・・・(解説:岡村 毅氏)(2015/3/20)4位降圧は「The faster the better(速やかなほど、よし)」へ(解説:桑島 巖氏)(2015/4/3)5位MRIが役に立たないという論文が出てしまいましたが…(解説:岡村 毅氏)(2015/7/22)6位DAPT試験を再考、より長期間(30ヵ月)のDAPTは必要か?(解説:中川 義久氏)(2015/1/8)7位やはり優れたワルファリン!(解説:後藤 信哉氏)(2015/8/19)8位ヘパリンブリッジに意味はあるのか?(解説:後藤 信哉氏)(2015/7/8)9位市中肺炎患者に対するステロイド投与は症状が安定するまでの期間を短くすることができるか?(解説:小金丸 博氏)(2015/2/18)10位CKD合併糖尿病患者では降圧治療は生命予後を改善しない?(解説:浦 信行氏)(2015/6/9)11位ワルファリン出血の急速止血に新たな選択肢?(解説:後藤 信哉氏)(2015/4/6)12位SPRINT試験:厳格な降圧が心血管発症を予防、しかし血圧測定環境が違うことに注意!(解説:桑島 巖氏)(2015/11/13)13位なんと!血糖降下薬RCT論文の1/3は製薬会社社員とお抱え医師が作成(解説:桑島 巖氏)(2015/7/14)14位COSIRA試験:血管を開けるのか?それとも、閉じるのか? 狭心症治療に新たな選択肢(解説:香坂 俊氏)(2015/3/27)15位SORT OUT VI試験:薬剤溶出性ステント留置は成熟した標準治療となった!(解説:平山 篤志氏)(2015/2/10)16位心血管リスクと関係があるのはHDL-C濃度ではなくその引き抜き能(解説:興梠 貴英氏)(2015/1/21)17位SPRINT試験:75歳以上の後期高齢者でも収縮期血圧120mmHg未満が目標?(解説:浦 信行氏)(2015/11/18)18位鼻腔から集中治療を行える時代へ:ハイフロー鼻腔酸素療法(解説:倉原 優氏)(2015/6/3)19位働き過ぎは、脳卒中のリスク!(解説:桑島 巖氏)(2015/8/31)20位CLEAN試験:血管内カテーテル挿入時の皮膚消毒はクロルヘキシジン・アルコール(解説:小金丸 博氏)(2015/10/30)21位IMPROVE-IT試験:LDL-コレステロールは低ければ低いほど良い!(解説:平山 篤志氏)(2015/6/22)22位なぜ心房細動ばかりが特別扱い?(解説:後藤 信哉氏)(2015/10/5)23位LDL-コレステロール低下で心血管イベントをどこまで減少させられるか?(解説:平山 篤志氏)(2015/4/21)24位EMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人氏)(2015/10/1)25位DPP-4阻害薬の副作用としての心不全-アログリプチンは安全か…(解説:吉岡 成人氏)(2015/4/14)26位食後血糖の上昇が低い低glycemic index(GI)の代謝指標への影響(解説:吉岡 成人氏)(2015/1/6)27位抗うつ薬、どれを使う? 選択によって転帰は変わる?(解説:岡村 毅氏)(2015/3/3)28位治療抵抗性高血圧の切り札は、これか?~ROX Couplerの挑戦!(解説:石上 友章氏)(2015/2/20)29位デブと呼んでごめんね! DEB改めDCB、君は立派だ(解説:中川 義久氏)(2015/9/30)30位問診と自己申告で全死亡が予測できる?(解説:桑島 巖氏)(2015/7/6)今回ご紹介しました「CLEAR!ジャーナル四天王」とは他にも、人気のランキングはこちらをどうぞ

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米国の非急性PCIの不適切施行、5年で大幅減/JAMA

 米国における2009~14年の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行動向を調べた結果、非急性PCIの不適切施行は26.2%から13.3%に有意に減少していたことが、イェール大学医学部のNihar R. Desai氏らによる調査の結果、明らかにされた。一方で、非急性PCIの不適切施行率の病院間のばらつきは、2014年時点でも5.9%~22.9%にわたっており解消されていなかった。本検討は、2009年にリリースされたAppropriate Use Criteria for Coronary Revascularizationを踏まえて、PCI施行の動向を初めて調査した結果だという。JAMA誌2015年11月17日号掲載の報告。2009~14年の全米766病院、270万例のPCI施行例を分析 Appropriate Use Criteria for Coronary Revascularizationは、米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)、その他関連専門学会が、PCIのクリティカルな評価と患者選択の改善を目的にリリースしたものである。 研究グループは、同基準導入後の米国におけるPCI施行数、患者選択、施行の適切さについて、2009年7月1日~14年12月31日のNational Cardiovascular Data Registry CathPCIレジストリデータを基に分析し調べた。 主要評価項目は、2012年版 Appropriate Use Criteria for Coronary Revascularizationの評価で不適切な非急性PCIと分類された施行割合で、患者および病院単位で評価した。 分析には、総計766病院、270万例のPCI施行データが組み込まれた。このうち、76.3%が急性PCI例、14.8%が非急性PCI例であった。病院間のばらつきは変わらず 年間のPCI全施行数は、2010年53万8,076例から14年は45万6,507例と減少していた。このうち急性PCIの年間施行数は、2010年37万7,540例、14年も37万4,543とほぼ変わらなかったが、非急性PCIは8万9,704例から5万9,375例へと有意に減少していた(p<0.001)。 非急性PCIを受けた患者についてみると、重度の狭心症での施行率が有意に上昇しており(カナダ心臓血管学会分類III/IVの狭心症が2010年15.8%、14年38.4%)、PCI施行前の抗狭心症薬服用(2剤以上服用が2010年22.3%、14年35.1%)、非侵襲検査で認められた高リスク症例(22.2%、33.2%)の割合も、それぞれ有意に上昇していた(すべてのp<0.001)。多枝冠動脈疾患の施行割合も、わずかだが有意に増えていた(43.7%、47.5%、p<0.001)。 また、非急性PCI不適切施行例の割合は、2010年26.2%(95%信頼区間[CI]:25.8~26.6)から14年は13.3%(同:13.1~13.6)に、施行数でみると2万1,781例から7,921例に減少していた。 病院単位でみた非急性PCI不適切施行例の割合は、2009年中央値25.8%であったのに対し14年は同12.6%と減少していた。ただし病院間のばらつきは変わっておらず、2009年の分布範囲は16.7%~37.1%、14年は5.9%~22.9%であった。

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PCIは虚血性心疾患患者の長期生存に寄与するか/NEJM

 安定虚血性心疾患患者の初期管理において、至適な薬物療法に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を併用しても、薬物療法単独に比べ長期的な生存率に差はないことが、米国・ニューヨーク退役軍人省健康管理ネットワークのSteven P Sedlis氏らが行ったCOURAGE試験の拡張調査で確認された。PCIは、ST上昇急性心筋梗塞患者の生存率を向上させ、非ST上昇心筋梗塞患者の長期生存を改善して早期および晩期の心イベントを低減することが示されている。一方、安定虚血性心疾患患者では、PCIは狭心症を軽減し、心筋虚血の領域を減少させるが、生存の改善を示した臨床試験はないという。NEJM誌2015年11月12日号掲載の報告。最長15年の追跡期間の拡張調査で生存率を評価 COURAGE試験では、1999年6月~2004年1月に、安定虚血性心疾患患者2,287例が、至適な薬物療法のみを行う群(薬物療法群)または至適薬物療法+PCIを施行する群(PCI群)に無作為に割り付けられた。 追跡期間中央値4.6年の時点で、全死因死亡と非致死的心筋梗塞の複合エンドポイントの発生率は、PCI群が19.0%、薬物療法群は18.5%であり、両群間に差を認めなかった(ハザード[HR]:1.05、95%信頼区間[CI]:0.87~1.27、p=0.62)(Boden WE, et al. N Engl J Med 2007; 356: 1503-1516)。 研究グループは今回、本試験の拡張調査を行い、最長15年追跡した患者の死亡率を報告した(VA Cooperative Studies Programの助成による)。 米国退役軍人省(VA)の医療施設およびVA以外の米国のいくつかの施設で本試験に参加した患者から、社会保障番号の使用許可を得て、元の試験の終了以降の生存を追跡した。 VAの全国的なCorporate Data Warehouseおよび全米死亡記録(National Death Index)を検索して、生存情報および全死因死亡の日付のデータを収集した。生存率はKaplan–Meier法で算出し、ベースラインの背景因子の群間の有意差はCox比例ハザードモデルを用いて補正した。全体の死亡率:PCI群25%、薬物療法群24% 拡張調査の生存情報は、1,211例(元の患者集団の53%)で得られた(PCI群:613例、薬物療法群:598例)。全体の患者の追跡期間中央値は6.2年(範囲:0~15)であり、生存の追跡の許可が得られた施設の患者の追跡期間中央値は11.9年(範囲:0~15)であった。 全体で2,287例中561例が死亡し、死亡率は25%であった。このうち、元の試験の追跡期間中の死亡が180例、拡張調査の追跡期間中は381例であった。 治療群別の死亡率は、PCI群が25%(284/1,149例)、薬物療法群は24%(277/1,138例)であり、未補正HRは0.98(95%CI:0.83~1.15、p=0.77)、補正HRは1.03(95%CI:0.83~1.21、p=0.76)であった。 拡張調査期間の死亡率はPCI群が41%(253/613例)、薬物療法群は42%(253/598例)であり、未補正HRは0.95(95%CI:0.79~1.13、p=0.53)であった。 拡張調査の有無、年齢(60歳以下、60歳超)、喫煙歴の有無、性別など11項目のサブグループ解析では、両群間に有意な差を認めたものはなかった。 著者は、「最長15年間の拡張追跡調査において、安定虚血性心疾患患者の初期治療戦略として、PCI+薬物療法と薬物療法単独の間に生存率の差を認めなかった」とまとめ、「これは、糖尿病と安定虚血性心疾患の双方を有する2,368例を5.3年間追跡したBARI 2D試験(PCI、CABG)の全死因死亡の結果と一致する」と指摘している。

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高血圧治療中こそ禁煙が大事!

高血圧とタバコの関係 高血圧治療の目的は 動脈硬化を進めないこと、動脈硬化によって生じる脳卒中や、狭心症・心筋梗塞を予防することにあります。 喫煙は動脈硬化を促進します。高血圧治療禁 煙 高血圧治療と禁煙は、動脈硬化を予防するという点で共通しています。動脈硬化の予防高血圧治療中の方こそ、禁煙が大事です!社会医療法人敬愛会 ちばなクリニックCopyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.清水 隆裕氏

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高感度心筋トロポニンIが陰性ならば、胸痛患者を帰宅させて良いか?(解説:佐田 政隆 氏)-447

 胸痛を主訴に救急外来を受診する患者は多い。心血管疾患ばかりでなく、食道炎や胸膜炎、気胸、整形外科的疾患など、さまざまな原因があるが、急性心筋梗塞や不安定狭心症といった急性冠症候群は、治療の遅れが予後を大きく左右するため、正確かつ迅速な診断が求められる。翌朝精査のため再来院するように指示していったん帰宅させたところ、自宅で心肺停止で発見されたという事例を耳にすることもある。そのため、循環器を専門にしていない医師でも、胸部症状を主訴に来院した患者において、急性冠症候群を診断することはきわめて重要である。 心電図で特徴点な変化が検出できれば、急性冠症候群の診断は容易である。しかし、問診上は急性冠症候群が疑われるものの決定的な心電図所見が得られず、判断に悩むことをしばしば経験する。問診、心電図、心エコ―などによって急性冠症候群を正確に診断するには熟練を要する。 そこで、急性冠症候群の存在を数値で表示するバイオマーカーは有用である。白血球数、CPK、CPK-MB、AST、CRP、LDHなどの古典的なマーカーに加えて、最近では、心筋トロポニンや心筋ミオシン軽鎖、ミオグロビン、心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)などが開発されてきた。発症の比較的早期から上昇するものや、全血で迅速に診断できる簡便な判定キットも登場して汎用されているものもある。しかし、感度、特異度は十分でなく、バイオマーカーがたとえ陰性でも、急性冠症候群を完全に否定できないのが現状である。急性冠症候群が疑われる場合は、念のため入院させて経過観察するのが無難である。各種のガイドラインでも、急性冠症候群が疑われた場合は、大部分の患者を入院させて心筋トロポニン値の推移を観察することが勧められている。 しかし、「その多くの場合は無駄な入院であり、患者と医療経済に大きな負担になっている」と本論文の筆者らは主張している。そこで、本研究では、胸痛を主訴に救急外来を受診した患者を対象に高感度トロポニンIを測定して、陰性であれは急性冠症候群が否定でき帰宅させて良いかどうかを検証した。高感度心筋トロポニンI値が5ng/L未満だった患者では、30日以内に心筋梗塞や心臓死を来した割合はわずか0.4%で、急性冠症候群を除外できる確率(陰性適中率)は99.6%ときわめて高くなった。 筆者らは、このトロポニンIが5ng/L未満であれば救急外来から帰宅させることができ、無駄な入院を減らし医療費削減につながると主張している。しかし、偽性陰性があってはいけない。いくら陰性適中率がきわめて高いといっても100%でなければ問題である。実際、本研究ではトロポニンIが5ng/L未満で帰宅させられた患者2,905例のうち、0.4%である12例が30日以内に心筋梗塞または心臓死を発症したという。10例は心電図などで心筋梗塞が確定診断でき、2例は心停止で来院して救命できなかったという。 急性冠症候群に対して、陰性適中率が非常に高い検査法が開発された意義は大きいと思うが、高感度心筋トロポニンIを測定して低ければ、安心して帰宅させることができるということは決してないと思う。問診と各種検査を駆使して総合的に診断し、特異度が低くなったとしても、感度を100%に近づけ、助けられる急性冠症候群患者をすべて救命できる体制作りが必要と思う。

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生体吸収性マグネシウムスキャフォールドの有用性をヒトで確認/Lancet

 第2世代の薬剤溶出生体吸収性金属スキャフォールド(DREAMS 2G)は、冠動脈デノボ病変の治療デバイスとして施行可能であり、良好な安全性と性能を有することが、ドイツLukaskrankenhaus GmbHのMichael Haude氏らが実施したBIOSOLVE-II試験で示された。生体吸収性スキャフォールドは、従来の非吸収性の金属ベース薬剤溶出ステントの限界の克服を目的にデザインされ、現時点で市販されているのはポリマースキャフォールドのみである。これに代わるデバイスとして、金属スキャフォールドの開発が進められており、第1世代のマグネシウムスキャフォールドは、安全性は良好であるものの、性能が従来の薬剤溶出ステントに及ばないことが報告されている。Lancet誌オンライン版2015年10月12日号掲載の報告。狭心症、無症候性虚血に対する有用性をヒトで初めて検証 BIOSOLVE-II試験は、症候性の冠動脈デノボ病変における第2世代のシロリムス溶出生体吸収性マグネシウムスキャフォールドであるDREAMS 2Gの安全性と性能をヒトで初めて検証する多施設共同非無作為化試験(Biotronik AG社の助成による)。 対象は、年齢19~79歳の安定狭心症、不安定狭心症、無症候性虚血で、対照血管径が2.2~3.7mm、最大2個のデノボ病変(病変長21mm以下、狭窄率50~99%)を有する患者であった。 フォローアップは、デバイス留置後1、6、12、24、36ヵ月に行われ、6ヵ月時には冠動脈造影が実施された。一部の患者では、血管内超音波、光干渉断層法、血管運動(vasomotion)の評価も行われた。全例に、6ヵ月以上の抗血小板薬の2剤併用治療が推奨された。 主要評価項目は、6ヵ月時のセグメント内の晩期損失内腔径とした。副次評価項目は、標的病変不全(心臓死、標的血管の心筋梗塞、CABG、標的病変の血行再建術)およびスキャフォールド血栓症であった。 2013年10月8日~2015年5月22日までに、8ヵ国(ベルギー、ブラジル、デンマーク、ドイツ、シンガポール、スペイン、スイス、オランダ)の13のPCI施設に123例(冠動脈標的病変123個)が登録された。晩期損失内腔径が改善、スキャフォールド血栓症は認めず ベースラインの背景因子は、平均年齢65.2±10.3歳、男性が63%で、対照血管径は2.68±0.40mm、病変長は12.61±4.53mmであった。標的血管は、左前下行枝が38%、左回旋枝が24%、右冠動脈が37%だった。 3例がフォローアップできず、そのうち2例はデバイスの留置が不能であった。 6ヵ月時の平均セグメント内晩期損失内腔径は0.27±0.37mmであり、スキャフォールド内晩期損失内腔径は0.44±0.36mmであった。血管運動の評価が行われた25例中20例(80%)で、有意な血管の収縮(p=0.014)および拡張(p<0.001)が確認された。 血管内超音波では、スキャフォールド領域は留置直後が6.24±1.15mm2で、6ヵ月時も6.21±1.22mm2に保持されており(平均差:-0.03mm2、95%信頼区間[CI]:-0.29~0.23、p=0.803)、新生内皮過形成領域は小さかった(0.08±0.09mm2)。また、光干渉断層法では、冠動脈内に腫瘤性病変は認めなかった。 6ヵ月時に標的病変不全が4例(3%)に認められ、心臓死が1例、標的血管の心筋梗塞が1例、標的病変の血行再建術が2例であった。スキャフォールド血栓症はみられなかった。 著者は、「先行デバイス(DREAMS 1G)に比べ晩期損失内腔径が改善し、良好な安全性プロファイルは保持されていた」とまとめ、「閉塞性冠動脈疾患の治療において、DREAMS 2Gは現行の生体吸収性ポリマースキャフォールドに代わる選択肢となる可能性がある」と指摘している。

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生体吸収性スキャフォールド、ABSORB IIIの結果/NEJM

 エベロリムス溶出生体吸収性スキャフォールド(BVS)の有用性を検討した大規模な多施設共同無作為化試験の結果が報告された。非複雑性閉塞性冠動脈疾患(CAD)患者2,008例を対象に、エベロリムス溶出コバルトクロム合金ステントと比較した試験ABSORB IIIの結果、1年時点の標的病変不全の発生に関する非劣性が確認された。米国・クリーブランドクリニックのStephen G. Ellis氏らが報告した。金属製の薬剤溶出ステント埋設したCAD患者においては、有害事象として遅発性の標的病変不全が報告されている。金属製のステントフレームが血管壁に存在し続けることが関連している可能性があり、長期転帰を改善するためBVSが開発された。NEJM誌オンライン版2015年10月12日号掲載の報告。薬剤溶出金属ステントと安全性、有効性を比較 ABSORB III試験は、多施設共同単盲検実治療対照試験で、CAD患者に対するBVS(Absorb)の安全性と有効性を、薬剤溶出ステント(Xience)との比較において検討した。2013年3月19日~14年4月3日に、米国とオーストラリア202施設で1万3,789例について適格性の評価を行い、193施設2,008例の安定または不安定狭心症患者を、2対1の割合で無作為に2群に割り付けた(Absorb群1,322例、Xience群686例)。 主要エンドポイントは、1年時点の標的病変不全(心臓死、標的血管領域の心筋梗塞、虚血による標的病変血行再建)で、非劣性と優越性の両者を評価した。1年時点の標的病変不全発生について非劣性を確認 1年時点の評価対象者は、1,989例(99.1%)であった。両群の入院中または30日時点での抗血小板薬2剤併用療法の使用について有意な差はなかった。1年時点では、Xience群と比べてAbsorb群は、クロピドグレルの使用頻度は低く、プラスグレルの使用頻度が高かった。 結果、主要エンドポイントの発生は、Absorb群7.8%、Xience群6.1%であった(両群差:1.7ポイント、95%信頼区間[CI]:-0.5~3.9、非劣性p=0.007、優越性p=0.16)。 項目別にみると、心臓死Absorb群0.6%、Xience群0.1%(それぞれp=0.29)、標的血管心筋梗塞6.0%、4.6%(それぞれp=0.18)、虚血による標的病変血行再建3.0%、2.5%(それぞれp=0.50)であった。 1年間のデバイス血栓症の発生は、Absorb群1.5%、Xience群0.7%であった(p=0.13)。

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EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)-428

 この結果をみて真っ先に連想したのは、高血圧治療薬で、利尿薬がCa拮抗薬、ACE阻害薬、α遮断薬などよりも優れた心血管合併症予防効果を証明したALLHAT試験である。利尿作用が心不全悪化を防いだために全体を有利に導き、心疾患合併症例における利尿薬の強さをみせた試験であった。 EMPA-REG試験でも、利尿作用を有するSGLT2阻害薬が虚血性心疾患で心機能が低下した症例での心不全死を抑制したと考えやすい。しかし、心血管死の内訳をみると必ずしもそうではないようである。心不全の悪化による死亡は10%前後にすぎず、心臓突然死や心原性ショックも広い意味での心不全死と捉えると40%を占めることになり、本剤の利尿作用の貢献も考えられる。しかし、「その他の心血管死」とはどのような内容なのかが明らかでない限り、エンパグリフロジンがどのような機序で心血管死を減らしたのかを推定するのは難しい。 しかし、本試験で重要なことは、致死的、非致死的を含めた心筋梗塞と脳卒中発症はいずれも抑制されていないことである。不安定狭心症は急性心筋梗塞と同等の病態であり、なぜこれを3エンドポイントから外したか不明だが、これを加えた4エンドポイントとすると有意性は消失する。したがって、本試験はSGLT2阻害薬の優位性を証明できなかったという解釈もできる。本試験の対象は、すでに高度な冠動脈疾患、脳血管障害、ASOを有していて循環器専門医に治療を受けているような糖尿病患者であり、実質的には2次予防効果を検証した試験での結果である。試験開始時に、すでにACE阻害薬/ARBが80%、β遮断薬が65%、利尿薬が43%、Ca拮抗薬が33%に処方されている。糖尿病治療にしてもメトホルミンが74%、インスリン治療が48%、SU薬も42%が処方されており、さらにスタチン薬81%、アスピリンが82%にも処方されており、かつ高度肥満という、専門病院レベルの合併症を持つ高度な治療抵抗性の患者を対象にしている。 このことから、一般診療で診る、単に高血圧や高脂血症などを合併した糖尿病症例に対する有用性が示されたわけではない。 本試験における、エンパグリフロジンの主要エンドポイント抑制効果は、利尿作用に加えて、HbA1cを平均7.5~8.1%に下げた血糖降下作用、そして体重減少、血圧降下利尿作用というSGLT2阻害薬が有する薬理学的な利点が、肥満を伴う超高リスク糖尿病例で理想的に反映された結果として、心血管死を予防したと考えるほうが自然であろうと考える。臨床試験という究極の適正使用だからこそ、本剤の特性がメリットに作用したのであろう。 本試験を日常診療に活用する点で注意しておくことは、1.本試験はすでに冠動脈疾患、脳血管障害の既往があり、近々心不全や突然死が発症する可能性が高い、きわめて超高リスクの糖尿病例を対象としており、診療所やクリニックでは診療する一般の糖尿病患者とは異なる点。2.本試験の結果は、臨床試験という究極の適正使用の診療下で行われた結果である点。3.心筋梗塞、脳卒中の再発予防には効果がなく、不安定狭心症を主要エンドポイントに追加すると有意性は消失してしまう点。したがって、従来の糖尿病治療薬同様、血糖降下治療に大血管疾患の発症予防効果は期待できないという結果を皮肉にも支持する結果となっている。 本試験が、高度の心血管合併症をすでに有している肥満の治療抵抗性の糖尿病症例の治療にとって、福音となるエビデンスであることは否定しないが、この結果を十分に批判的吟味することなく、一般臨床医に喧伝されることは大きな危険性をはらんでいるといえよう。本薬の基本的な抗糖尿病効果は利尿という点にあり、とくに口渇を訴えにくい高齢者では、脱水という重大な副作用と表裏一体であることは常に念頭に置くべきである。企業の節度ある適正な広報を願うばかりである。関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)リンゴのもたらした福音~EMPA-REG OUTCOME試験~(解説:住谷 哲 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)

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EMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)-421

 心血管イベントを主要アウトカムとするEMPA-REG OUTCOMEの試験結果が、2015年9月17日の欧州糖尿病学会(EASD2015、スウェーデン・ストックホルム)で発表され、New England Journal of Medicine誌のオンライン版に同時掲載された。日本国内で使用できる6種類のSGLT2阻害薬の中で、最も遅れて市場に登場したエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)の驚くべきデータであり、大きな話題を呼んでいる。 EMPA-REG OUTCOME試験 心血管イベントの既往がある成人の2型糖尿病患者で、BMI 45以下、eGFR 30mL/分/1.73m2以上の患者を対象として、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンが心血管イベントに及ぼす影響を検討した試験である。北米、中南米、オーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパ、アフリカ、アジアの世界各地からの患者を登録し、プラセボ群、エンパグリフロジン10mg群、25mg群の3群にランダムに割り付けて実施された。主要アウトカム(primary outcome)として3つの複合心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の初発までの期間)、重要2次アウトカム(key secondary outcome)には、主要アウトカムに不安定狭心症による入院までの期間を加えた4つの複合心血管イベントを総合したのものを設定して実施された。3年間の観察期間で心血管死、全死亡が有意に減少 2010年から2013年までに7,028例が登録され、7,020例(平均63.1歳、男性72%、白人72%、アジア人22%、レニン・アンジオテンシン系阻害薬使用者81%、利尿薬使用者43%、スタチン使用者77%)が解析の対象となっている(プラセボ群2,333例、エンパグリフロジン群4,687例であり、10mg投与患者と25mg投与患者のデータが合算されている)。 中央値3.1年の観察期間における主要アウトカムはプラセボ群282例(12.1%)、エンパグリフロジン群490例(10.5%)であり、エンパグリフロジン群で有意な減少が確認された[ハザード比(HR)0.86、95%信頼区間:0.74~0.99、p=0.04]。また、重要2次アウトカムについては、プラセボ群333例(14.3%)、エンパグリフロジン群599例(12.8%)と有意差はないもの(HR:0.89、95%信頼区間:0.78~1.01、p=0.08)減少傾向にあることが確認された。わずか3年間の観察期間において、糖尿病治療薬の使用によって心血管死、全死亡が減少したことは驚くべきことであり、にわかには信じがたい(“too good to be true”)試験結果といえる。死亡率は減少しても個別のアウトカムとして、心筋梗塞は減少しない 個別のアウトカムについては、心血管死(HR:0.62、95%信頼区間:0.49~0.77、 p<0.001)、全死亡(HR:0.68、95%信頼区間:0.57~0.82、p<0.001)、心不全による入院(HR:0.65、95%信頼区間:0.50~0.85、p=0.002)について有意差が認められている。しかし、脳卒中については、非致死性脳卒中のみならず、致死性の脳卒中を含めた場合でも、ハザード比は1.24(95%信頼区間:0.92~1.67、 p=0.16)、1.18(95%信頼区間:0.89~1.56、 p=0.26)であり、統計学的には有意ではないものの増加する可能性を否定しえない。さらには、症候性の心筋梗塞(非致死性、致死性)、無症候性の心筋梗塞についてもHRはそれぞれ、0.87(95%信頼区間:0.70~1.09、p=0.22)、1.28(95%信頼区間:0.70~2.33、p=0.42)であり、心筋梗塞の減少が死亡率の減少に結び付くわけではない。サブグループ解析では高齢者、アジア人で有用性が高い傾向 主要アウトカムについてのサブグループ解析では、高齢者(65歳以上、p=0.01)、アジア人(p=0.09)、HbA1c 8.5%未満(p=0.01)、BMI 30未満(p=0.06)の群での有益性が高いと考えられた。併用薬剤に関しては、利尿薬の有無で主要アウトカムに差はなく(p=0.72)、ACE-IやARBの併用に関しても差はなかった(p=0.49)。eGFRについても60mL/分/1.73m2未満、60~90 mL/分/1.73m2未満、90mL/分/1.73m2以上の3群間で差異は認めなかった(p=0.20)。 EMPA-REG OUTCOMEの結果はなぜもたらされたのか… 心血管イベントの既往がある2型糖尿病に、3年間SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンを投与すると、死亡率が32%減少する(NNT:38/3年間)。心血管死も心不全による入院も有意に減少する。しかし、症候性の心筋梗塞は減少せず、無症候性の心筋梗塞や脳卒中は増加するかもしれない…。 EMPA-REG OUTCOMEの試験期間中、薬剤投与群ではHbA1cで約0.4~0.6%の低下が認められた。しかし、死亡の減少がわずかな血糖コントロールの改善とは考えられず、むしろ、SGLT2阻害薬による「体液量の減少」による「心不全の管理」が奏効した症例が一定の割合であったためなのではないかと思われる。 SGLT2阻害薬は近位尿細管に存在するSGLT2を選択的に阻害することで、尿糖の排泄量を増加させ、血糖値を降下させる薬剤である。浸透圧利尿により短期的にはレニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAS)系が活性化される。しかし、SGLT2はグルコースとNaを1:1で再吸収するため、SGLT2の阻害はNaの再吸収を低下させ、遠位尿細管に到達するNaClを増加させる。レニンはmacula densaに達するClが減少することでその分泌が刺激されるため、Clの増加はレニンの分泌を刺激しない可能性が想定される。腎臓におけるレニン活性には、浸透圧利尿による脱水とmacula densaにおけるCl濃度の双方が影響するため、SGLT2阻害薬がRAS系に及ぼす影響は短期投与と長期投与では異なり、個体差もあるのかもしれない。さらにSGLT2阻害薬は tubuloglomerular feedback(TGF)を回復させ、糸球体過剰濾過を改善させるとの報告もある。 Na代謝を介して循環血液量と血管抵抗性を調節することで血圧を規定しているRAS系、さらには、腎臓へ対しての複雑なSGLT2阻害薬の作用を明らかにすることが、EMPA-REG OUTCOME試験の結果を理解するための重要なポイントになるのかもしれない。【お知らせ】本コメントの公開当初、コメントの一部に「有意ではないが脳卒中と無症候性心筋梗塞は増加傾向」との表現がありました。「増加傾向」という表現を、“増加”と誤解された読者もおられましたので、より正確性を期すために、その部分について表現の変更をJ-CLEARからコメンテーターにお願いいたしました。(10月19日)臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)理事長 桑島 巌関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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EMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)-422

 リンゴを手に取ったために、アダムとイブは楽園から追放された。ニュートンは、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見した。どうやら、リンゴは人類にとって大きな変化をもたらす契機であるらしい。今回報告されたEMPA-REG OUTCOME試験の結果も、現行の2型糖尿病薬物療法に変革をもたらすだろう。 優れた臨床試験は、設定された疑問に明確な解答を与えるだけではなく、より多くの疑問を提出するものであるが、この点においても本試験はきわめて優れた試験といえる。本試験は、FDAが新たな血糖降下薬の認可に際して求めている心血管アウトカム試験(cardiovascular outcome trial:CVOT)の一環として行われた。SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2)阻害薬であるエンパグリフロジンが、心血管イベントリスクを増加しないか、増加しないならば減少させるか、が本試験に設定された疑問である。短期間で結果を出すために、対象患者は、ほぼ100%が心血管疾患を有する2型糖尿病患者が選択された。かつ、心血管疾患を有する2型糖尿病患者に対する標準治療に加えて、プラセボとエンパグリフロジンが投与された。その結果、3年間の治療により心血管死が38%減少し、さらに、総死亡が32%減少する驚くべき結果となった。しかし、奇妙なことに、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中には有意な減少が認められず、心不全による入院の減少が、心血管死ならびに総死亡の減少と密接に関連していることを示唆する結果であった。さらに、心血管死の減少は、治療開始3ヵ月後にはすでに認められていることから、血糖、血圧、体重、内臓脂肪量などのmetabolic parameterの改善のみによっては説明できないことも明らかになった。つまり、インスリン非依存性に血糖を降下させるエンパグリフロジンが、血糖降下作用とは無関係に患者の予後を大きく改善したことになる。この結果の意味するところを、われわれはじっくりと咀嚼する必要があるだろう。 エンパグリフロジンが心血管死を減少させたメカニズムは何か? これが本試験の提出した最大の疑問である。残念ながら本試験は、この疑問に解答を与えるようにはデザインされておらず、新たなexplanatory studyが必要となろう。科学史における多くの偉大な発見は、瞥見すると突然もたらされたようにみえるが、実際はそこに至るまでに多くの知見が集積されており、そこに最後の一歩が加えられたものがほとんどである。したがって本試験の結果も、これまでに蓄積された科学的知見の文脈において理解される必要がある。ニュートンも、過去の多くの巨人達の肩の上に立ったからこそ、はるか遠くを見通せたのである。この点において、われわれは糖尿病と心不全との関係を再認識する必要がある。 糖尿病と心不全との関係は古くから知られているが、従来の糖尿病治療に関する臨床試験においては、システマティックに評価されてきたとは言い難い1)。これは、FDAの規定する3-point MACE(Major adverse cardiac event:心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)および4-point MACE(3-point MACEに不安定狭心症による入院を加えたもの)に、心不全による入院が含まれていないことから明らかである。糖尿病と心不全との関係は病態生理学的にも血糖降下薬との関係においても複雑であり、かつ現時点でも不明な点が多く、ここに詳述することはできない(興味ある読者は文献2)を参照されたい)。血糖降下薬については、唯一メトホルミンが3万4,000例の観察研究のメタ解析から心不全患者の総死亡を抑制する可能性のあることが報告されているだけである3)。 本試験においては、ベースラインですでに心不全と診断されていた患者が約10%含まれていたが、平均年齢が60歳以上であること、すべての患者が心血管病を有していること、糖尿病罹病期間が10年以上の患者が半数を占めること、約半数の患者にインスリンが投与されていたことから、多くの潜在性心不全患者または左室機能不全(収縮不全または拡張不全)患者が含まれていた可能性が高い。筆者が考えるに、これらの患者に対して、エンパグリフロジンによる浸透圧利尿が心不全の増悪による入院を減少させたと考えるのが現時点での最も単純な推論であろう。これは、軽症心不全患者に対するエプレレノン(選択的アルドステロン拮抗薬)の有用性を検討したEMPHASIS-HF試験4)において、総死亡の減少が治療開始3ヵ月後の早期から認められている点からも支持されると思われる。興味深いことに、ベースラインで約40%の患者がすでに利尿薬を投与されており、エンパグリフロジンには既存の利尿薬とは異なる作用がある可能性も否定できない。 本試験の結果から、エンパグリフロジンは2型糖尿病薬物療法の第1選択薬となりうるだろうか? 筆者の答えは否である。EBMのStep4は「得られた情報の患者への適用」とされている。Step1-3は情報の吟味であるが、本論文の内的妥当性internal validityにはほとんど問題がない。しいて言えば、研究資金が製薬会社によって提供されている点であろう。したがって、この論文の結果はきわめて高い確率で正しい。ただし、本論文のpatient populationにおいて正しいのであって、明日外来で目前の診察室の椅子に座っている患者にそのまま適用できるかはまったく別である。つまり、外的妥当性applicabilityの問題である。そこでは医療者であるわれわれの技量が問われる。その意味において、本論文は糖尿病診療におけるEBMを考えるうえでの格好の教材だろう。 薬剤の作用は多くの交互作用のうえに成立する。そこで注意すべきは、本試験が心血管病の既往を有する2型糖尿病患者における2次予防試験であることである。2次予防で有益性の確立した治療法が1次予防においては有益でないことは、心血管イベント予防におけるアスピリンを考えると理解しやすい。心血管イベント発症絶対リスクの小さい1次予防患者群においては、消化管出血などの不利益が心血管イベント抑制に対する有益性を相殺してしまうためである。同様に、心不全発症絶対リスクの小さい1次予防患者においては、性器感染症やvolume depletionなどの不利益が、心不全発症抑制に対する有益性を相殺してしまう可能性は十分に考えられる。さらに、エンパグリフロジンの長期安全性については現時点ではまったく未知である。 薬剤間の交互作用については、メトホルミン、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬、β遮断薬、スタチン、アスピリンなどの標準治療に追加することで、エンパグリフロジンの作用が発揮されている可能性があり、本試験の結果がエンパグリフロジン単剤での作用であるか否かは不明である。それを証明するためには、同様の患者群においてエンパグリフロジン単剤での試験を実施することが必要であるが、その実現可能性は倫理的な観点からもほとんどないと思われる。 糖尿病治療における基礎治療薬(cornerstone)に求められるのは、(1)確実な血糖降下作用、(2)低血糖を生じない、(3)体重を増加しない、(4)真のアウトカムを改善する、(5)長期の安全性が担保されている、(6)安価である、と筆者は考えている。現時点で、このすべての要件を満たすのはメトホルミンのみであり、これが多くのガイドラインでメトホルミンが基礎治療薬に位置付けられている理由である。本試験においても、約75%の患者はベースラインでメトホルミンが投与されており、エンパグリフロジンの総死亡抑制効果は、前述したメトホルミンの持つ心不全患者における総死亡抑制効果との相乗作用であった可能性は否定できない。 ADA/EASDの高血糖管理ガイドライン2015では、メトホルミンに追加する薬剤として6種類の薬剤が横並びで提示されている。メトホルミン以外に、総死亡を減少させるエビデンスのある薬剤のないのがその理由である。最近の大規模臨床試験の結果から、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)の心血管イベント抑制作用は、残念ながら期待できないと思われる。本試験の結果から、心血管イベント、とりわけ心不全発症のハイリスク2型糖尿病患者に対して、エンパグリフロジンがメトホルミンに追加する有用な選択肢としてガイドラインに記載される可能性は十分にある。EMPA-REG OUTCOME試験は、2型糖尿病患者の予後を改善するために実施された多くの大規模臨床試験が期待した成果を出せずにいる中で、ようやく届いたgood newsであろう。参考文献はこちら1)McMurray JJ, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2014;2:843-851.2)Gilbert RE, et al. Lancet. 2015;385:2107-2117.3)Eurich DT, et al. Circ Heart Fail. 2013;6:395-402.4)Zannad F, et al. N Engl J Med. 2011;364:11-21.関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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