サイト内検索|page:7

検索結果 合計:248件 表示位置:121 - 140

121.

抗体検査【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第4回

はじめに2019年4月から、風疹対策として、特定年齢の男性を対象とした抗体検査とワクチンの提供サービスが始まった。しかし、実際にワクチン接種の効果を判定するために測定された抗体価の解釈は難しい。ここでは抗体価検査全般とその解釈について述べる。抗体検査について理解を深める前に以下の3点に注意しておきたい。(1)現在入手可能なワクチンは、抗体を産生することで疾患を予防するという機序が主ではあるが、実際に病原体に曝露した際には細胞性免疫をはじめとした他のさまざまな免疫学的機序も同時に作用することがわかっている。したがって、抗体価と発症/感染予防には必ずしも相関性がないことがある。(2)免疫の有無は、年齢、性別、主要組織適合抗原(major histocompatibility complex::MHC)などによっても左右される。(3)“免疫能”の定義をどこにおくか(侵襲性感染症/粘膜面における感染の予防、感染/発症の予防)によっても判定基準が変わってくる。以上を踏まえた上で読み進めていただきたい。抗体検査法一般的に用いられる方法としては次の5つがある。EIA法(Enzyme-Immuno-Assay:酵素免疫法)/ ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent  Assay:酵素免疫定量法)HI法(Hemagglutination Inhibition test:血球凝集抑制反応)NT法(Neutralization Test:中和反応)CF法(Complement Fixation test:補体結合反応)PA法(Particle Agglutination test:ゼラチン粒子凝集法)このうちCF法は感度が低いため、疾患に対する免疫の有無を判断する検査法としては適さない。ワクチンの効果判定や病原体に対する防御能の測定にあたって最も有効とされているのはPRN法(plaque reduction neutralization)による中和抗体の測定である。しかし、中和抗体の測定は手技が煩雑で判定にも時間がかかるため、実際には様々な抗体の中から発症予防との相関があるとされるもので、検査室での測定に適したものが使用されることが多い。各疾患のカットオフ値について麻疹および風疹については、発症予防および感染予防に必要とされる抗体価が検査別にある程度示されている(表1)1)が、ムンプス、水痘については未確定である。表1 麻疹風疹における抗体価基準1)画像を拡大する1)麻疹(Measles)麻疹に対する免疫の有無を判断するうえで最も信頼性が高い検査法はPRN法による中和抗体の測定であるが、前述のように多数の検体のスクリーニングには向いていない。WHOは中和抗体(PRN法)で120mIU/mL以上をカットオフとしている2)。これは中和抗体(PRN法)≧120mIU/mLであればアウトブレイク時にも発症例が見られなかったことによる。一方、わが国で用いられている環境感染学会の医療従事者に対するワクチンガイドライン3)ではIgG抗体(EIA法)で16以上を陽性基準としており、国際単位へ変換すると720mIU/mL(EIA価×45=国際単位(mIU/mL))となる。麻疹抗体120mIU/mLは発症予防レベルであるが、報告によっては120~500mIU/mLでも発症がみられたとするものもある4)。したがって曝露の機会やウイルス量が多い危険性のある医療従事者ではより高い抗体価を求めるものとなっている。2)風疹(Rubella)古くから用いられているのはHI法であり、8倍以上が陽性基準とされている。HI法と他の検査を用いた場合の読み替えに関しては、国立感染症研究所の公開している情報が有用である5)。1985年にNCCLS(National Committee on Clinical Laboratory Standards)は風疹IgG抗体>15IU/mLを、発症予防レベルに相当する値として免疫を有している指標とした。1992年に数値は10IU/mLに引き下げられたが、それ以降のカットオフの変更はなされていない。その後の疫学データなどから独自にカットオフを引き下げて対応している国もある6)。環境感染学会のガイドラインではIgG(EIA法:デンカ生研)≧8.0を十分な抗体価としているが、国際単位へ変換すると18.4IU/mL(EIA価×2.3=国際単位(IU/mL))となり、高めの設定となっていることがわかる。これは麻疹と同様に曝露の機会や多量のウイルス曝露が起こる危険性があるためである。ただし、HI法で8倍以上、EIA法で15IU/mL以上の抗体価を有している場合でも風疹に罹患したり、先天性風疹症候群を発症したりといった報告もある7)。風疹における感染予防に必要な抗体価として、国際的なコンセンサスを得た値は示されていない。3)ムンプス(Mumps)ムンプスに対する免疫の有無を正確に測定する方法は、現在のところはっきりとはわかっていない8)。中和法で2倍もしくは4倍の抗体価が発症予防に有効であったとする報告がみられる一方、2006年に米国の大学で起こったアウトブレイクの際にワクチン株および流行株に対する中和抗体(PRN法)、およびIgG抗体(EIA法)を測定したところ、発症者は非発症者に比べて抗体価が低い傾向にはあったが、その値はオーバーラップしており、明確なカットオフを見出すことはできなかった9)。環境感染学会ではEIA価で4.0以上を陽性としているが3)、その臨床的な意義は不明である。4)水痘(Varicella)WHOが規定する発症予防に十分な抗体価はFAMA(fluorescent antibody to membrane antigen)法で4倍以上もしくはgrycoprotein(gp)ELISA法で5U/mL以上である10)。FAMA法で4倍以上の抗体価を保有していた者のうち家庭内曝露で水痘を発症したのは 3%以下であった。gp ELISA法は一般的な検査方法ではなく、偽陽性が多いのが欠点である。わが国において両検査は一般的ではなく、代替案として、中和法で4倍以上を発症予防レベルと設定し、IAHA(immune adherence hemagglutination:免疫付着赤血球凝集)法で4倍以上、EIA法で4.0以上をそれぞれ十分な抗体価としているが3)、その臨床的な意義は不明である。その他の代表的なワクチン予防可能疾患を含めた発症予防レベルの抗体価示す(表2)11,12)。一般的に抗体価測定が可能な疾患としてA型肝炎、B型肝炎について述べる。表2 代表的なワクチン予防可能疾患の発症予防レベル抗体価11,12)画像を拡大するND:未確定* :侵襲性肺炎球菌感染症の発症予防5)A型肝炎(Hepatitis A)13,14)A型肝炎ウイルスに対して、有効な免疫力を有するとされる抗体価の基準値は明確には示されていない。測定法にもよるが、有効な抗体価は10~33mIU/mLとされており、VAQTA(商標名)やHAVARIX(商標名)といったワクチンの臨床試験における効果判定は抗体価10mIU/mL以上を陽性としている。実臨床の場ではワクチン接種前に要否を確認するための測定は行うが、ワクチン接種後の効果判定として通常は測定しない。6)B型肝炎(Hepatitis B)3回のワクチン接種完了後1~3ヵ月の時点でHBs抗体価測定を行う。HBs抗体≧10mIU/mLが1回でも確認できれば、その後抗体価が低下しても曝露時に十分な免疫応答が期待できることから、WHOは免疫正常者に対してワクチンの追加接種は不要としている15)。おわりにここまで述べてきたように、各ウイルスに対する抗体価の基準についてはわかっていないことが多い。これは感染防御に働くのが単一の機構のみではないことに起因する。国際基準とわが国の基準の違いも前述の通りである。麻疹風疹、ムンプス、水痘に関しても、代替案としての抗体検査が独り歩きしてしまっているが、個人の感染防御という点において重要なのは、抗体価ではなく1歳以上における2回のワクチン接種歴である。接種記録がなければ抗体陽性であってもワクチン接種を検討するべきである。まれな事象として2回の接種歴があっても各疾患が発症したとする報告はあるが、追加のワクチン接種で抗体価を上昇させることで、そのような事象を減らすことができるかは現時点では明確な答えは出ていない。現在、環境感染学会ではガイドラインの改訂がすすめられており、2020年1月まで第3版のパブリックコメントが募集された。近日中に改訂版が公表される予定であり、基本的には1歳以上で2回の確実な接種歴を重視した形になると考えられる16)。抗体価の測定に頼るのではなく、小児期から確実に2回の接種率を上昇させることでコミュニティーからウイルスを根絶すること、そして個人および医療機関でその記録の保管を徹底することの方が重要である。1)庵原 俊. 小児感染免疫. 2011;24:89-95.2)The immunological basis for immunization series. Module 7: Measles Update 2009. World Health Organization, 2009. (Accessed 03/25, 2019)3)日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第2版. 日本環境感染学会誌. 2014;29:S1-S14.4)Lee MS, et al. J Med Virol. 2000;62:511-517.5)風疹抗体価の換算(読み替え)に関する検討. 改訂版(2019年2月改定). (Accessed 03/20, 2019)6)Charlton CL, et al. Hum Vaccin Immunother. 2016;12:903-906.7)The immunological basis for immunization series. Module 11: Rubella. World Health Organization, 2008.(Accessed 03/25, 2019)8)The immunological basis for immunization series. Module 16: Mumps. World Health Organization, 2010.(Accessed 03/25, 2019)9)Barskey AE, et al. J Infect Dis. 2011;204:1413-1422.10)The immunological basis for immunization series. Module 10: Varicella-zoster virus. World Health Organization, 2008.(Accessed 03/25, 2019)11)Plotkin SA,et al(eds). Plotkin's Vaccines(7th Edition). Elsevier. 2018:35-40.e4.12)Plotkin SA. Clin Vaccine Immunol. 2010;17:1055-1065.13)The immunological basis for immunization series. Module 18: Hepatitis A. World Health Organization, 2011. (Accessed 03/25, 2019)14)Plotkin SA, et al(eds). Plotkin's Vaccines (Seventh Edition).Elsevier.2018:319-341.e15.15)The immunological basis for immunization series. Module 22: Hepatitis B. World Health Organization, 2012.(Accessed 03/25,2019)16)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.講師紹介

122.

新型コロナウイルス感染妊婦の臨床症状と垂直感染の可能性(解説:小金丸博氏)-1193

オリジナルニュース新型肺炎は母子感染するのか?妊婦9例の後ろ向き研究/Lancet(2020/02/17掲載) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する論文が次々と公表され、一般集団における臨床像、画像所見の特徴などが少しずつ判明してきた。これまで妊婦に関するデータは限定的であったが、今回、新型コロナウイルス肺炎と確定診断された妊婦9例の臨床症状と、児への垂直感染の可能性を検討した論文がLancet誌オンライン版(2020年2月12日号)に報告された。 妊婦9例の年齢は26~40歳で基礎疾患はなく、全例妊娠第3期だった。臨床症状としては、発熱(7例)、咳嗽(4例)、筋肉痛(3例)、咽頭痛(2例)、倦怠感(2例)を認めた。2月4日時点で感染妊婦に重症例、死亡例は確認されなかった。子宮内垂直感染の有無を確認するために、9例中6例で羊水、臍帯血、新生児の咽頭拭い、母乳中のRT-PCR検査が実施されたが、すべて陰性だった。 本論文では、新型コロナウイルス肺炎を発症した妊婦の臨床症状の特徴は妊娠していない成人と同様であり、妊娠後期に感染した妊婦から児へ垂直感染することを示すエビデンスは得られなかった。感染妊婦において重症例、死亡例を認めなかったのは朗報であるが、9例という少数の後ろ向き調査の結果のみで判断することには限界があり、さらなる症例の蓄積が必要である。 今回の妊婦はすべて妊娠第3期に新型コロナウイルス肺炎を発症しており、妊娠早期に感染した場合の妊婦や胎児への影響については評価できない。また、全例帝王切開術で分娩しており、経膣分娩した場合の産道感染のリスクについても評価することはできない。これらの疑問に対する答えは、今後の研究結果を待ちたい。 本邦でも感染者数が増加すると、妊婦の患者も含まれてくることが予想される。インフルエンザや風疹など妊娠中に感染すると妊娠経過や胎児へ影響を及ぼす感染症が多く存在するため、新型コロナウイルス感染妊婦においても慎重に経過を追う必要があると考える。

123.

ワクチン接種における接種部位、接種方法【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第3回

ワクチン接種において安全性や効果を保つためには、定められた接種部位や接種方法を知っておく必要がある。しかし、どのように接種すれば妥当かは、新たな科学的根拠や歴史的経緯が加わることで変わっていくため、アップデートする必要がある。ワクチンの接種部位は図のように、上腕伸側、三角筋中央部、大腿前外側の3ヵ所である。接種部位は、接種方法によって変わる。接種方法は、筋肉注射と皮下注射、経口内服とに大きく分けられる。本稿では、経口内服による接種は比較的簡便であるため割愛し、筋肉注射と皮下注射における接種部位について述べる。画像を拡大する筋肉注射の部位とポイントはじめに筋肉注射の場合は、1歳以上の年代には「三角筋の中央部」が望ましい。一方、乳児(1歳未満)に三角筋への筋肉注射を行うと、筋量が不足しているために免疫賦活反応が十分に惹起されない。そのため乳児には「大腿前外側」に筋肉注射が望ましい。また、日本小児科学会は、1歳以上2歳未満であれば大腿前外側と三角筋のいずれでもよいと定めている。注意点は、臀部に対して筋肉注射しないことである。なぜなら臀部には、神経組織が多いため坐骨神経損傷の可能性があるからである。医療機関でワクチン接種を行うと非接種者やその家族から、「接種部位を揉んだ方がよいですか?」または「揉まなくてもよいですか?」といった質問を受ける。接種後に接種した部位を揉む必要は特になく、軽く圧迫するだけでよい。以前は、筋肉注射においては揉むことによって注入された薬液が拡散され、吸収までの時間が早くなるため望ましいと考えられていた。しかし現在では、揉むことによって局所の疼痛や硬結が増えるという報告もあり、効果に差がないため、必要としていない。皮下注射の部位とポイント次に、皮下注射の場合は「上腕伸側」と定められている。海外諸国では、生ワクチンは皮下注射によって接種し、不活化ワクチンは基本的に筋肉注射で接種する。わが国では、生ワクチンを皮下注射で接種する点は同様であるが、不活化ワクチンに関しても皮下注射による接種が主流となっている。そのようになった背景には歴史的経緯があるため紹介する。1970年代に抗菌薬や解熱鎮痛剤を臀部に筋肉注射することによって、大腿四頭筋拘縮症が報告された。この報告は社会問題となり、それ以降、医薬品を筋肉注射で投与することは原則的に避けられるようになった。このような背景から、わが国では不活化ワクチンを皮下注射で接種することが主流となった。皮下注射で接種する際は皮内注射とならないように角度を30~45度と、直感的にはやや深めにとる。角度が浅いと、結果として皮内注射となる場合がある。皮内注射は著明に腫れたり、疼痛が強くなることもある。同時接種での注意点ワクチン接種の際に、「一度に何本も接種して大丈夫ですか?」や「一度に何本まで同時接種できるのですか?」といった質問が多い。そこで同時接種についても説明する。同部位に同時接種する場合は、注射する部位の間を2.5cm以上離す必要がある。2.5cmというのは、海外では1インチ(2.54cm)以上離すという基準を元に、センチメートルに置き換えて定められている。生ワクチンを含む、複数のワクチンを同時に接種することによる有効性および安全性自体に関して、問題はないとされている。同日のうちに接種するワクチンの本数には制限はない。複数のワクチンを接種しても、それぞれのワクチンの有害事象や副反応が生じる頻度は増加しないとされている。また、同時接種の利点として、ワクチン接種のために何回も医療機関に足を運ぶ時間や労力、交通費が削減でき、何よりも接種スケジュールを迅速に進めることが可能となる。乳児や海外渡航を計画しているワクチン接種希望者は、限られた期間に接種が必要なワクチンの数が多い。そのような立場では、接種スケジュールは切実な問題である。しかし、ワクチン接種において同時接種は問題とされない一方で、薬液の混注は認められていない。事例を挙げると、2017年4月、複数のワクチンを1つに混ぜて接種していた医療行為が報告された。具体的には、MRワクチン、水痘ワクチン、おたふくかぜワクチンを混注、あるいは四種混合ワクチンとHibワクチンを混注していた。最短でも5年間、350人以上の子どもに実施していたという。同様の混注事例は2016年4月にも報告されている。ワクチン接種における混注に関して効果や安全性のエビデンスは今のところは存在しないために、実施は認められない。ワクチン接種にあたってワクチン接種を行う医療者は、医学的必要性(ワクチン接種を受ける者にとってどの程度リスクが高いか)、個人の価値観やヘルスリテラシー、経済的事情、医療的な状況(ワクチンの供給、アウトブレイクがアクセス可能な地域で生じているか)など、すべて加味した上で接種を受ける側の者とシェアド・デジションメイキングする必要がある。シェアド・デジションメイキングする際には、医療とは原則的にトレードオフの関係にあり、何かのリスクやコストを抑えるためには、また別のリスクやコストを受け入れなければならないことをよく理解していただく必要がある。疾患に罹患していない者に対して未来において生じうるリスクやコストを受け入れなければならないため、ワクチン接種においても接種を行う医療者の理解と面接技術がそれぞれ必要である。接種時には、ワクチンに対する不安や心配を取り除くことが重要であり、接種を行う者は、接種を受ける者一人一人の立場になって親身に接する姿勢が望ましい。1)日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. 小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂版).2)岡田賢司. 予防接種の基本的な知識.3)The National Center for Immunization and Respiratory Diseases, Centers for Disease Control and Prevention. 11th Edition of Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases 2009. Public Health Foundation4)日本小児科学会. 日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方.5)日本小児科学会ホームページ. 複数のワクチンを混ぜて接種していた医療行為に対する日本小児科学会の見解.講師紹介

124.

ウエスト症候群〔WS:West syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウエスト症候群(West syndrome:WS)は、頭部前屈する特徴的な発作のてんかん性スパズム(以下、スパズム)と発作間欠時脳波においてヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)を呈する乳児期のてんかん症候群である。難治性の発達性てんかん性脳症の1つで、1841年にWilliam James WestがLancet誌に自身の子どもの難治な発作と退行の経過について報告し、新たな治療の示唆を求めたことが疾患名の由来となっている。“Infantile spasms”、「点頭てんかん」などの呼称もあるが、それらの用語は発作型名と症候群名の両者で使用されることから混乱を招きやすいため、国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)では診断名として「ウエスト症候群」、発作型名として「てんかん性スパズム」を用いている。なお、WSは2歳未満で群発するスパズムを発症し、ヒプスアリスミアを呈するものとされ、発作型としてのスパズムは、2歳以上でもWS以外でも認められ、それらの症例ではヒプスアリスミアを伴わないことも多い1)。■ 疫学発生頻度は出生10,000に対し3~5例、男児が60~70%を占める。■ 病因ILAEの2017年版分類において、病因は構造的、感染性、代謝性、素因性(遺伝子異常症)などに分類されており、WSの病因としてはどれもあり得る。具体的な基礎疾患としては、周産期低酸素性脳症などの周産期脳障害、先天性サイトメガロウイルス感染などの胎内感染症、結節性硬化症などの神経皮膚症候群、滑脳症、片側巨脳症、限局性皮質形成異常、厚脳回などの皮質形成異常、 ダウン症候群などの染色体異常症などと極めて多彩である。さらに近年の遺伝子研究の進歩により、ARX、STXBP1、SLC19A3、SPTAN1、CDKL5、KCNB1、GRIN2B、PLCB1、GABRA1などの遺伝子変異がWSの原因として明らかになっている。多様な原因遺伝子が判明する中、現時点ではその病態生理は解明されていない。■ 症状スパズムは四肢・体幹の短い筋収縮(0.5〜2秒)で、筋収縮の持続時間はミオクロニー発作より長く、強直発作よりも短い。頸部・体幹は前屈することが多く、四肢は伸展肢位、屈曲肢位ともみられる。数秒〜30秒程度の間隔で群発し、わが国ではシリーズ形成と表現される。重篤で難治のてんかん症候群であるにもかかわらず、乳児にみられる一瞬の運動症状で、軽微な動作のため看過されることがまれではない。発作の動画は、医学書など成書の添付資料の他、ウエスト症候群患者家族会のホームページでも一般向けに公開されている。■ 分類従来はILAEの1989年分類に基づき症候性、潜因性に2分されていた。明確な病因、脳の器質的疾患がある症例、または発症前から発達が遅滞し、既存の病因が推定される症例を症候性、それ以外は潜因性と分類され、症候性が70〜80%を占めるとされていた。 2017年に発表された新たな分類では、てんかん発作型、てんかん病型、てんかん症候群の3つのレベルの分類と、それとは異なる軸として、病因と合併症の軸で分類されている。WSはてんかん症候群の中の1つの症候群として位置付けられ、下位の分類項目は定められていない。なお、発作型は焦点性、全般性、起始不明と分類され、スパズムは3型いずれにも位置付けられている。てんかん病型としても焦点、全般、全般焦点合併、病型不明の4型に分類されており、合併発作型に応じてWSではいずれの病型分類にも属し得る。病因は先述のように、構造的、素因性、感染性、代謝性、免疫性、病因不明の6病因に分類され、WSでは構造的、素因性、感染性、代謝性病因が多い。■ 予後発作予後に関して、6~10歳時点において50~90%で何らかの発作が残存する。レノックス・ガストー症候群への移行は10~50%とされるが、近年は移行例が減少傾向にある。一般に極めて難治性であるが、まれに感染症などを契機に寛解する症例も存在する。発達予後も不良で、正常知能は10~20%に過ぎず、70~90%は中等度以上の知的障害・学習障害を呈する。また約30%に自閉症、約40%に運動障害を合併する。なお、発症後早期の治療介入が重要で、特に発症時まで正常発達の症例では早期の治療介入が長期的な発達予後を改善すると報告されている2-5)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査では脳波が最も重要である。発作間欠時の特徴的所見であるヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)は通常、200μVを越える高振幅(hyps-)で、多形性・多焦点性の徐波と棘波が無秩序・不規則(-arrhythmia)に混在し、同期性が欠如した混沌とした外観である。WSの診断は、ヒプスアリスミアとスパズムから比較的容易である。鑑別すべきてんかん発作では、ミオクロニー発作、強直発作があげられ、非てんかん性運動現象・症状としては、モロー反射・驚愕反応、ジタリネス、生理的ミオクローヌス、身震い発作、自慰、脳性麻痺児の不随意運動などである。これらは群発の有無、発達退行、不機嫌などの合併、脳波上のヒプスアリスミアの有無からも鑑別可能であるが、確実な鑑別には発作時脳波が必要である。病因診断、および合併症診断として、身体所見、頭部画像検査、血液・尿・髄液の一般検査・生化学検査、感染・免疫検査、染色体検査、発達検査などを実施する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)WSに対して最も有効性が確立している治療法はACTH療法2,3)であるが、具体的な治療法(投与量、投与期間)は確立していない1,5)。ついで有効性が示されているのは、ビガバトリン(VGB)〔商品名:サブリル〕で、特に結節性硬化症に伴う症例では際立った有効性が報告されている2,3)。海外では、ACTH製剤が高額なため経口プレドニゾロン(PSL)大量療法が行われる事も多く、ACTH療法に次ぐ有効性が報告されている2,3)。その他、ビタミンB6大量療法、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、ニトラゼパム、ケトン食療法、免疫グロブリン療法、TRH療法などの有効例も報告されているが、いずれもACTH療法に比し有効率は低い。そのため、通常はACTH療法、VGB導入までの検査・準備期間、もしくはACTH療法、VGB導入後の治療選択肢となる。旧分類による潜因性病因の症例では、早期のACTH療法が発達予後を改善する可能性が高いことが示され 2-5)、発症後早期に有効性が高い治療法を順次導入する事が望まれている。長期的な知的予後では、ACTH療法がVGBに比し優位とされている。そのため、副作用の観点からACTH療法を控えるべき合併症の状況がなければ、原則的にはACTH療法の早期導入が望ましいだろう1)。ACTH療法を控えるべき合併症の状況としては、心臓腫瘍合併例の結節性硬化症、先天性感染症、直前にBCG、水痘、麻疹風疹、ロタウイルスなどの生ワクチン接種症例、重度の重複障害児などがあげられ、これらの症例ではVGB先行導入を考慮すべきであろう1)。ACTH療法、VGBによる初期治療が無効の場合、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、そしてケトン食療法などを合併症と副作用を勘案し、順次試みていく。焦点性スパズムを呈する症例、限局性皮質形成異常、片側巨脳症などの片側・限局性脳病変の構造的病因症例では、焦点局在の確認を進め、早期に焦点切除、機能的半球離断術、脳梁離断術等を含めてんかん外科治療の適応を検討する。4 今後の展望WSに特化した治療ではないが、難治てんかんに関しては、世界的にはいくつかの治験が進んでいる。1つはもともと食欲抑制剤として使用され、その後に心臓弁膜症、肺高血圧症などの重大な副作用により使用が制限されたfenfluramineで、もう1つはcannabinoidの1つであるcannabidiolである。海外の使用経験からは、難治てんかんの代表であるドラベ症候群、そしてWSからの移行例が多いレノックス・ガストー症候群に対して高い有効性が報告されている。今後、治療選択肢増加の観点からもわが国における治験の進展と承認に期待したい。5 主たる診療科小児科(小児神経専門医、日本てんかん学会専門医在籍が望ましい)、小児神経科、小児専門病院の神経(内)科※ 医療機関によって診療科目の呼称は異なります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 点頭てんかん(ウエスト(West)症候群)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウエスト症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)稀少てんかん症候群登録システム RES-R(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会(専門医検索)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本てんかん学会ホームページ(専門医名簿)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウエスト症候群 患者家族会(患者とその家族および支援者の会)1)浜野晋一郎. 小児神経学の進歩. 2018;47:2-16.2)Wilmshurst JM, et al. Epilepsia. 2015;56:1185-1197.3)Go CY, et al. Neurology. 2012;78:1974-1980.4)Hamano S, et al. J Pediatr. 2007;150:295-299.5)伊藤正利ほか. てんかん研究. 2006;24:68-73.公開履歴初回2020年02月10日

125.

新型肺炎で緊張高まる中、感染症予防連携プロジェクトが始動

 東京オリンピック・パラリンピックを迎える年となる2020年1月、日本感染症学会・日本環境感染学会は感染症予防連携プロジェクト「FUSEGU(ふせぐ)2020」を発足、発表会を行った。年頭から中国での新型コロナウイルス感染がニュースとなり、図らずとも感染症への一般の関心が高まる中でのスタートとなった。 挨拶に立った日本感染症学会理事長の舘田 一博氏は、本プロジェクトの意義を「オリンピックイヤーを迎え、マスギャザリング(一定期間、限定された地域において同一目的で多人数が集まること)に向けた注意喚起が重要。既に各学会・団体がさまざまな取り組みをしているがそれを連携させ、産官学が協働して一般市民を巻き込んで情報提供をしていく必要がある」と述べた。 東京オリンピックを昨年行われたラグビーW杯と比較すると、参加国・ボランティア数において約10倍の規模となり、政府は2020年の来日外国人旅行者数を過去最高の4,000万人と見込む。これまでもマスギャザリングにおける集団感染は頻繁に発生しており、前回のリオオリンピックではジカ熱、昨年のラグビーW杯では髄膜炎菌感染症の患者が出た。会期中のすべての感染症発生を防ぐことは難しくとも、予防と早期発見によりアウトブレイクにまで至らせないことが重要となる。 「FUSEGU」の具体的な活動として、昨年夏には患者の症状から考えられる感染症を解説する医療者向けサイト「感染症クイック・リファレンス」を開設したほか、一般市民/医療関係者/大会関係者/メディア関係者に区分けしたうえで「事前に受けておきたいワクチン」の推奨度を示す一覧表を作成し、メディア側にも発信を求めた。今後は「感染症に関する意識調査」をはじめ、大学生を対象にした感染症カレッジ、市民公開講座などを行っていく予定だ。 舘田氏は「1学会ができることには限界がある。各学会に連携を呼びかけたところ、すでにほかの9学会、製薬企業を中心とした12社から賛同表明をいただいた。今後もさらに各団体との連携を図っていきたい」とまとめた。

126.

2月4日は「風疹の日」、風疹排除のために医療者ができること

 2月4日は日本産婦人科医会などが定めた「風疹(予防)の日」。長年、感染症対策に取り組んでいる多屋 馨子氏(国立感染症研究所 感染症疫学センター[感染研]第三室 室長)に「風疹排除のために医療者ができること」をテーマに話を聞いた。子供の風疹はワクチン接種により激減――風疹の流行は、国のワクチン接種戦略と密接に関わりあっています。風疹の定期接種が始まったのは1977年のことで、対象は女子中学生でした。妊娠中の胎児への影響、いわゆる先天性風疹症候群(CRS)予防を最大の目的としたためです。しかし、女性限定の接種では流行をコントールできず、定期接種の開始後も数年ごとに大きな流行を繰り返しました。このため、1995年4月からは1~7歳半の男女を対象にワクチン接種が行われるようになり、接種歴のない中学生男女への経過措置もとられました。こうした施策によって、長く風疹患者の多数を占めていた小児の感染は激減したのです。今では風疹患者の95%が成人――ここ20年ほどのあいだ、小児に代わって風疹患者の大半を占めているのは成人です。中でも、ワクチン接種制度の狭間となり、1回もワクチンを接種したことのない「1962年(昭和37年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれの男性」が新規罹患者の大きな割合を占めています。この世代の男性は、自身がワクチンを受ける機会がなかったうえ、同世代の女性はワクチンを受けているために、上の世代に比べ風疹の罹患を免れた人が多く、十分な抗体価を有しないままの人がほかの年代よりも多いのです。具体的には、この世代の男性の約20%、5人に1人が十分な抗体価を持ちません。女性の6%と比べるとその比率の高さがわかりますいったん減少も2018年から再度増加――抗体価の低い成人が中心となった風疹の流行は繰り返し起こっています。とくに2012~2013年は計1万6,730人の患者を出す大流行となり、45人のCRSが報告される事態になりました。厚労省と感染研は「次の流行はなんとしても食い止めたい」と対策を講じ、2014年以降の患者数は減少を続けました。しかし、2018年に再び増加に転じ、2019年も約3,000人と再び増加の傾向にあり、この事態を憂慮しています。患者の内訳を見ると95%が成人、男性が女性の4倍近くと2013年の大流行時から状況は何ら変わっていないことを歯がゆく感じます。 こうした状況を受け、2019年に厚労省は「風しんの追加的対策」を発表しました。これまで「抗体検査のみ無料」としていたターゲット世代に対し、ワクチン接種まで公費で賄う、という内容です。 以下、今回の対策の具体的な内容です。・対象:1962年(昭和37年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれの男性・期間:2019年~2022年3月末・方法:居住自治体から、抗体検査とワクチン接種が無料で受けられるクーポン券を郵送。医療機関の混雑を避けるため、クーポン発送は年齢別に2回に分けて実施。但し、クーポンが届かなくても自治体に請求することで入手可。2019年度/1972年(昭和47年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれ2020年度/1962年(昭和37年)4月2日~1972年(昭和47年)4月1日生まれ「全額無料」でも伸びない受診率――数千円の抗体検査と1万円程度のMRワクチンを全額無料にするのですから、「今度こそ受診率が一気に伸びるだろう」と期待していたのですが、残念ながらまだそこまでの成果は出ていません。 2019 年度内にクーポン券を発送予定の約 646 万人のうち、2019年4~11月に抗体検査を受けた人は 97万8,422 人(対象者の約 15.1%)、ワクチン接種を受けた人は 19万7,572 人(同約 3.1%)でした。厚労省は東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年7月までに現状79%程度のターゲット世代の抗体保有率を85%に、2022年3月までに90%程度に引き上げることを目標としていますが、このままの受診ペースでは難しいのが現状です。患者に「クーポン来るから受けてね」と伝えてください――この状況を踏まえ、医療者の皆様にお願いです。診療した男性患者さんの生年月日を見て、対象世代の男性であれば「風疹のクーポンは来ましたか? ぜひ抗体検査を受けてくださいね」と一言伝えていただきたいのです。もちろん、医療者の皆さん自身も率先して抗体検査とワクチン接種をお願いします。私は仕事でもプライベートでも、男性と会うたびクーポン券の紹介をしています。受診率が低い理由は、ひとえに風疹の怖さと今回の対策が知られていないことに尽きるかと思います。信頼する医療者から聞いた情報であれば、患者さんも「それなら行ってみようか」と考えることでしょう。国の予算を割いて実施された今回の対策が成果に結びつくよう、ぜひともご協力をお願い致します。成人男性に多い誤解について――成人男性の皆さんと風疹について話していると、よく出てくる誤解があります。誤解1)風疹は子供のときにかかったから大丈夫だよ すでに風疹にかかったとの記憶のある人達に血液検査を行ったところ、約半分は抗体陰性で、風疹は記憶違い、または風疹に似た他の病気にかかっていたという調査結果があります。風疹はよく似た症状の病気が非常に多いです。「かかったから」と言う方にこそ、「過去の記憶に頼らず、しっかり抗体検査を受けて」とアドバイスしてください。誤解2)風疹って死ぬような病気じゃないからいいんじゃない? 風疹は通常あまり重くない病気ですが、まれに脳炎、血小板減少性紫斑病などの軽視できない合併症を起こすことがあり、実際、毎年入院する人も出ています。そして、もっとも怖いのがCRSです。感染者が免疫の不十分な妊娠初期の女性と飛沫が飛ぶ範囲(1~2m以内)で接触することで感染が生じ、高確率でお腹の赤ちゃんに障害を負わせてしまいます。この「自分が加害者になる怖さ」をしっかり説明することで、納得して受診くださる方が多くいます。誤解3)風疹になったら家にいるから他人には伝染させないよ 風疹は発症する1週間前から他人に感染します。自覚症状のないまま職場や公共の場に出ることがどれだけ危険なことか、これも直接伝えると理解していただけます。 最近は、企業単位で風疹対策取り組む例も出ています。先日、ある企業で全社員対象に風疹の講演をしてきました。こうした企業からの発信もぜひ広げていただきたいと思います。ターゲット世代の男性が多く集まる場所、たとえば献血ルームなどの場所での情報提供や予防啓発にも力を入れていきたいと考えています。志を同じくする医療者の方のご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

127.

マイコプラズマ市中肺炎児、皮膚粘膜疾患が有意に多い

 かつて、その流行周期から日本では「オリンピック肺炎」とも呼ばれたマイコプラズマ肺炎について、ほかの起炎菌による市中肺炎(CAP)児と比べた場合に、皮膚粘膜疾患が有意に多く認められることを、スイス・チューリッヒ大学小児病院のPatrick M. Meyer Sauteur氏らが明らかにした。現行の診断検査では、肺炎マイコプラズマ(M. pneumoniae)の感染と保菌を区別できないため、皮膚粘膜疾患の原因としてマイコプラズマ感染症を診断することは困難となっている。今回の検討では、M. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患は、全身性の炎症や罹患率および長期にわたる後遺症リスクの増大と関連していたことも示されたという。JAMA Dermatology誌オンライン版2019年12月18日号掲載の報告。 研究グループはCAP児を対象に、改善した診断法を用いてM. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患の頻度と臨床的特性を調べる検討を行った。 2016年5月1日~2017年4月30日にチューリッヒ大学小児病院で登録されたCAP患者のうち、3~18歳の152例を対象に前向きコホート研究を実施。対象児は、英国胸部疾患学会(British Thoracic Society)のガイドラインに基づきCAPと臨床的に確認された、入院または外来患者であった。 データの解析は2017年7月10日~2018年6月29日に行われた。主要評価項目は、CAP児におけるM. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患の頻度と臨床特性とした。マイコプラズマ肺炎の診断は、口咽頭検体を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で行い、ほかの病原菌によるCAPキャリアとM. pneumoniae感染患者を区別するため、酵素免疫測定法(ELISA)で特異的末梢血中IgM抗体分泌細胞の測定を行い、確認した。 皮膚粘膜疾患は、CAPのエピソード中に発生した、皮膚および/または粘膜に認められたあらゆる発疹と定義した。 主な結果は以下のとおり。・CAP児として登録された152例(年齢中央値5.7歳[四分位範囲:4.3~8.9]、84例[55.3%]が男子)において、PCR法でM. pneumoniae陽性が確認されたのは44例(28.9%)であった。・それら44例のうち、10例(22.7%)で皮膚粘膜病変が認められ、全例が特異的IgM抗体分泌細胞の検査結果で陽性であった。・一方、PCR法でM. pneumoniae陰性であったケースのうち、皮膚症状が認められたのは3例(2.8%)であった(p<0.001)。・M. pneumoniae誘発皮膚粘膜疾患は、発疹および粘膜炎(3例[6.8%])、蕁麻疹(2例[4.5%])、斑点状丘疹(5例[11.4%])であった。・2例に、眼粘膜症状(両側性前部ぶどう膜炎、非化膿性結膜炎)が認められた。・M. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患を有する患児は、M. pneumoniaeによるCAPを認めるが皮膚粘膜症状は認めない患児と比べ、前駆症状としての発熱期間が長く(中央値[四分位範囲]:10.5[8.3~11.8]vs.7.0[5.5~9.5]日、p=0.02)、CRP値が高かった(31[22~59]vs.16[7~23]mg/L、p=0.04)。また、より酸素吸入を必要とする傾向(5例[50%] vs.1例[5%]、p=0.007)、入院を必要とする傾向(7例[70%]vs.4例[19%]、p=0.01)、長期後遺症を発現する傾向(3例[30%]vs.0、p=0.03)も認められた。

128.

「ワクチン忌避」への対応と医療者教育の重要性/日本ワクチン学会

 「ワクチンの有効性・安全性に疑いを持つ人が接種を控える動き(ワクチン忌避)」が世界的に広がりを見せている。世界保健機関(WHO)は2019年に発表した「世界の健康に対する10の脅威」の1つとして「ワクチン忌避」を挙げている。日本においてもHPVワクチンの接種推奨が停止され、再開を求める医療者の声にもかかわらずいまだ果たされていない、等の現状がある。 11月30日~12月1日に開催された「第23回日本ワクチン学会学術集会」では、このワクチン忌避への危機感と対応策が大きなテーマの一つとなった。ワクチン忌避対抗の第一歩はデータ収集から シンポジウム「予防接種の教育啓発」では、国立感染症研究所・感染症疫学センターの砂川 富正氏が「国内外のVaccine hesitancyに関する状況」と題した講演を行った。砂川氏は「Vaccine hesitancy(ワクチン忌避)」に関連すると思われる報告が増加しており、「ある自治体における予防接種歴と百日咳に罹患した児の年齢分布を示すデータを見たところ、2~5歳と年齢が上がっても接種歴の無い児が含まれていた。ワクチンを受けさせない方針の保護者のコミュニティーができ、流行の一部となった疑いがある」と懸念を呈した。 2019年に報告数が急増し、学会でも大きなトピックスとなった麻しんについて「予防接種を受けていない10~20代の患者が30人以上出た、という事例を大きな衝撃を持って受け止めた。ワクチン接種率が90%を超える地域でも、ワクチンに否定的な医師に賛同する保護者のコミュニティなどができ、未接種者が固まって居住しているなどの条件が揃えば、一定規模の流行を生みかねない」と危機感を示した。こうした状況を踏まえ、自治体の予防接種担当者から保護者とのコミュニケーションについてアドバイスを求められることも増えている、という。 ワクチン忌避の動きは世界中で見られ、ブラジル、バルカン半島などで問題が顕在していることが報告されており、バルカン半島に位置するモンテネグロではワクチン反対派の運動で麻しん含有ワクチンの接種率が5割まで低下したという事例も報告された。科学誌Natureが、日本ではワクチン安全性への懸念が世界で最も高いレベルにあるとの風潮をニュース記事として取り上げるなど、日本は先進国の中でもワクチンを用いた取り組みが容易でない国として注視されている。 砂川氏は、「米国のようにワクチン忌避に関する定量調査でデータを蓄積し、分析と対応を行っていくことが急務」とまとめた。米国を参考に医療者向け教育プログラムを作成 続けて、同じく国立感染症研究所・感染症疫学センターの神谷 元氏が「予防接種従事者への教育の重要性」と題した講演を行った。 神谷氏は「定期接種・任意接種の問題はあるが、現在では国内で28種類のワクチンを受けられるようになり、海外との差を示すいわゆる『ワクチンギャップ』は数字の上では解消しつつある」と述べたうえで、「ワクチン忌避には歴史的・文化的背景があり、世界的に有効な手段は限られるが、その中で確実に有効性が証明されているのが『医療者への教育』であり、真のギャップをなくす手段である」と述べた。 そして、自身の留学時に経験した、米国疾病予防管理センター(CDC)とサンディエゴ郡保健局予防接種課の取り組みを紹介。CDCではACIP(Advisory Committee on Immunization Practices)という外部の専門家集団と連携し、ワクチンに関連したエビデンスを検証し、ルール化する作業を常時行っている。ACIPの助言を基に決定したワクチンに関するルールは、全米の関係者・関係機関に通達され、患者からの問い合わせに対して全員が同じ回答ができることが信頼性につながっていると説明。また、米国には小学校入学前にワクチン接種を促す「School Law」と呼ばれるルールがあり、接種させない保護者にはペナルティが課されるという。 サンディエゴ郡保健局では、ワクチンに関するオンライン教育システムを用意し、担当地域の小児科・プライマリケアのレジデント全員に受講義務を課している。学習内容は臨床に即した実践的なロールプレイングを行うチーム学習プログラムであり、患児の予防接種歴確認の重要性などを体感できる。さらに、保健局はクリニックに対して担当地域の予防接種率のデータをフィードバックしており、「2回目の接種率は90%だが、3回目は70%に落ちている」等の実際のデータを見せることで、医師に対してワクチン接種を促す意識付けを図っている。こうしたさまざまな取り組みによって、サンディエゴ郡の予防接種率は全米トップクラスを達成、維持している。 同保健局の取り組みをヒントに、神谷氏は有志とともに医療従事者向けにワクチン知識を深めるためのオンライン講座を作成。医師向けに続き、看護師や事務員版についてもトライアルを進めているという。

130.

骨パジェット病〔Paget disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義骨パジェット病は、1877年、英国のSir James Pagetが変形性骨炎(osteitis deformans)として初めて詳細に報告した。限局した骨の局所で、異常に亢進した骨吸収と、それに続く過剰な骨形成が生じる結果、骨の微細構造の変化と疼痛を伴い、骨の肥大や弯曲などの変形が徐々に進行し、同時に罹患局所の骨強度が低下する疾患である。1ヵ所(単骨性)の骨が罹患する場合と複数ヵ所(多骨性)の場合がある。■ 疫学発症年齢は大半が40歳以降で、年齢とともに頻度が上昇する。発症頻度に明らかな人種差があり、欧米などは比較的頻度が高い(0.1~5%の有病率)が、アジアやアフリカ地域では、有病率がきわめて低い。わが国の有病率は100万人に2.8人ときわめて低い。わが国の患者の平均年齢は64.7歳で、90%以上が45歳以上であり、55歳以上では有病率が人口10万人あたり0.41人と上昇する。高齢者に多いこの年齢分布様式は欧米と大差がない。家族集積性に関しては日本では6.3%と、ほとんどの骨パジェット病の患者が散発性発症であり、欧米での15~40%程度と比較して少ない。また、多数の無症状例潜在の可能性がある。■ 病因骨パジェット病の病因は不明で、ウイルス説、遺伝子異常が考えられている。1970年代に、破骨細胞核内にウイルスのnucleocapsidに似た封入体が発見され、免疫組織学的にも麻疹、RS (respiratory syncytial)ウイルスの抗原物質が証明され、遅延性ウイルス感染説が考えられたが、明確な結論に至っていない。一方、破骨細胞の誘導や機能促進に関与するいくつかの遺伝子異常が、高齢者発症の通常型、早期発症家族性、またはミオパチーと認知症を伴う症候性の骨パジェット病患者に確認されている。好発罹患部位は体幹部と大腿骨であり、これらで75~80%を占める(骨盤30~75%、脊椎30~74%、頭蓋骨25~65%、大腿骨25~35%)。単骨性と多骨性について、わが国では、ほぼ同程度の頻度である。ほかに、脛骨、肋骨、鎖骨、踵骨、顎骨、手指、上腕骨、前腕骨など、いずれの部位も罹患骨となりうる。この分布は欧米と差はない。■ 症状1)無症状X線検査や血液検査で偶然発見される場合も多い。欧米では無症候性のものが多く、有症状の患者は、多い報告でも約30%程度だが、わが国の調査では75%が有症候性であった。2)疼痛最も多い症状は疼痛であり、罹患骨由来の軽度~中等度の持続的骨痛がみられ、夜間に増強する傾向がある。下肢骨では歩行で増強する傾向がみられる。疼痛部位は腰痛、股関節痛、殿部痛、膝関節痛の順に頻度が高い。3)変形疼痛の次に多い症状は、外観上の骨格変形であり、サイズの増大(例:頭)や弯曲変形(例:大腿骨、亀背)がみられ、頭蓋骨、顎骨、鎖骨など目立つ部位の腫脹、肥大や大腿骨の弯曲をみる。顎骨変形に伴い、噛み合わせ異常や開口障害といった歯科的障害を伴うこともある。4)関節障害・骨折・神経障害関節近傍の変形では、二次性の変形性関節症を生じる。長管骨罹患の場合、凸側ではfissure fractureと呼ばれる長軸に垂直な骨折線が全径に広がり、chalkを折ったような横骨折を起こすことがある。わが国の調査では、大腿骨罹患患者の約2割強に骨折が生じている。これは、欧米の骨折率に比して著しく高い。また、変形に伴い、神経障害(例:頭蓋骨肥厚で脳神経圧迫、圧迫骨折で脊髄圧迫)がみられ、難聴、視力障害や脊柱管狭窄症などがみられることがある。5)循環器症状循環器症状は、病変骨の血流増加や動静脈シャントによる動悸、息切れ、全身倦怠感を来し、広範囲罹患例では高送血性心不全がみられる。■ 予後まれだが、罹患骨で骨肉腫や骨原発悪性線維性組織球腫など悪性腫瘍の発生がある。その頻度は欧米で0.1~5%、わが国の調査では1.8%である。したがって、経過中に罹患部位の疼痛増強を来した場合や血清学的な悪化を来した場合には、常に悪性腫瘍の可能性を考えておく必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)基本的に単純X線像で診断可能な疾患である(図)。X線像は骨吸収と硬化像の混在、骨皮質の粗な肥厚が一般的であるが、初期病変の骨吸収の著明な亢進があり、まだ骨形成が生じていない時期には、長管骨ではV字状骨吸収(割れたガラス片先端のような骨透過像)と、頭蓋骨ではosteoporosis circumscripta (境界明瞭なパッチ状の吸収像)が特徴的である。その後、骨梁の粗造化と呼ばれる、大きく太い海綿骨の出現や皮質骨の肥厚、骨硬化像がみられ、骨吸収像の部位と混在して存在するようになり、骨の横径や前後径が増加し骨輪郭が拡大する。頭蓋骨では斑点状の骨硬化像と骨吸収像の混在がみられ、綿帽子状(cotton wool appearance)を呈する。これらの多くの変化の中で、診断上、役立つのは骨吸収像ではなく、旺盛な骨形成による骨幅の拡大という形態上の変化であり、特徴的な所見である。骨シンチグラフィーは、病変部に病勢を反映する強い集積像を示す。画像により鑑別すべき疾患は、前立腺がん、乳がんの骨転移や骨硬化をもたらす骨系統疾患である。生化学的には血清アルカリフォスファターゼ(ALP)値とオステオカルシン上昇(骨新生)、尿中ヒドロキシプロリン(HP)値の上昇(骨吸収)が疾患の分布と活動性によりみられる(活動度は尿中HP値が血清ALP値より敏感)。また、骨形成指標の骨型ALP (BAP)と骨吸収マーカーの尿中N-telopeptide of human type collagen (NTX)、C-telopeptide of human type I collagen (CTX)、デオキシピリジノリン(DPD)値は高値を示す。病変が小さい場合は、ALP値が正常範囲のこともあり、わが国の調査で10.4%、欧米でも15%の患者がALP正常である。病理組織像では、多数の破骨細胞による骨吸収と、骨芽細胞の増生による骨形成が混在し、骨梁は層板が不規則になりcement lineを無秩序に形成し、モザイクパターンを示す。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療は疼痛や、破骨細胞を標的とした薬物療法、変形に対する装具療法、変形や骨折に対する手術療法が考えられる。■ 薬物療法疼痛には消炎鎮痛薬を使用する。最初の病態は破骨細胞による骨吸収亢進であり、破骨細胞の機能を抑制する、カルシトニン、ビスホスホネートなどの薬剤があるが、カルシトニンを第1選択に使用することはない。ビスホスホネートは日本では第一世代のエチドロン酸ナトリウム(商品名:ダイドロネル)の使用が認められ、最初に広く用いた治療薬だが、現在、第1選択薬に使用することはない。欧米では第二、第三世代のビスホスホネート製剤を主に治療に使用している。わが国では2008年7月に、リセドロン酸ナトリウム(同:ベネットなど) 17.5mg/日の56日連続投与が認可され、ようやく骨パジェット病患者の十分な治療ができるようになったが、現在、保険適用されている第二世代以降のビスホスホネート製剤は、リセドロン酸ナトリウムのみであり、他のビスホスホネートは適用されていない。しかし、リセドロン酸ナトリウムに対して低反応性の症例に、他のビスホスホネートで奏効した報告や、抗RANKL抗体のデノスマブ(同:ランマーク)の方がビスホスホネートより優れている報告もあり、抗RANKL抗体ではないがRANKL-RANK経路を抑制するosteoprotegerin(OPG)のrecombinant体を若年性多骨性の骨パジェット病に投与した報告もある。■ 手術療法長管骨の骨折、二次性変形性関節症、脊柱管狭窄症などに手術を行うこともある。4 今後の展望骨パジェット病のほか、骨粗鬆症やがんの骨転移にも破骨細胞が関与している。これらの疾患では、破骨細胞の活動が亢進しており、それによって、それぞれの疾患がつくり上げられている。現在、破骨細胞の活動を抑制する薬剤には、ビスホスホネートと抗RANKL抗体であるデノスマブ(商品名:ランマーク※)、抗RANKL抗体ではないが、RANKL-RANK経路を抑制するosteoprotegerin(OPG)などがあり、これら薬剤の骨パジェット病に対する有効例の報告がある。今後、治療法の選択肢を増やす意味でも治験の実施、保険の適応などに期待したい。※ 骨パジェット病には未承認5 主たる診療科整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 骨パジェット病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)橋本淳ほか. Osteoporosis Japan. 2007;15:241-245.2)高田信二郎ほか. Osteoporosis Japan. 2007;15:246-249.3)Takata S, et al. J Bone Miner Metab. 2006;24: 359-367.4)平尾眞. CLINICAL CALCIUM. 2011;21:1231-1238.公開履歴初回2013年02月28日更新2019年11月12日

131.

スティーブンス・ジョンソン症候群〔SJS : Stevens-Johnson Syndrome〕、中毒性表皮壊死症〔TEN : Toxic Epidermal Necrolysis〕

1 疾患概要■ 概念・定義薬疹(薬剤性皮膚障害)は軽度の紅斑から重症型までさまざまであるが、とくにスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)型薬疹と中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrolysis:TEN)型薬疹は重篤な経過をたどり、死に至ることもある。両疾患はウイルス感染症や細菌感染症に続発して生じることもあるが、原因の大半は薬剤であるため、本稿では両疾患をもっぱら重症型薬疹の病型として取り扱う。■ 疫学近年、薬剤による副作用がしばしばマスコミを賑わせているが、薬疹は目にみえる副作用であり、とくに重症型薬疹においては訴訟に及ぶこともまれではない。重症型薬疹の発生頻度は、人口100万人当たり、SJSが年間1~6人、TENが0.4~1.2人と推測されている。2009年8月~2012年1月までの2年半の間に製薬会社から厚生労働省に報告されたSJSおよびTENの副作用報告数は1,505例(全副作用報告数の1.8%)で、このうち一般用医薬品が被疑薬として報告されたのは95例であった。原因薬剤は多岐にわたり、上記期間にSJSやTENの被疑薬として報告があった医薬品は265成分にも及んでいる。カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛消炎薬、セフェム系やニューキノロン系抗菌薬、アロプリノールなどの痛風治療薬、総合感冒薬、フェノバルビタールなどの抗不安薬による報告が多いが、それ以外の薬剤によることも多く、最近では一般用医薬品による報告が増加している。■ 病因薬疹は薬剤に対するアレルギー反応によって生じることが多く、I型(即時型)アレルギーとIV型(遅延型)アレルギーとに大別できる。I型アレルギーによる場合は、原因薬剤の投与後数分から2~3時間で蕁麻疹やアナフィラキシーを生じる。一方、大部分を占めるIV型アレルギーによる場合は、薬剤投与後半日から2~3日後に、湿疹様の皮疹が左右対側に生じることが多い。薬剤を初めて使用してから感作されるまでの期間は4日~2週間のことが多いが、場合によっては10年以上安全に使用していた薬剤でも、ある日突然薬疹を生じることがある。患者の多くは薬剤アレルギーの既往がなく突然発症するが、重症型薬疹の場合はウイルスなど感染症などが引き金になって発症することも多い。男女差はなく中高年に多いが、20~30代もまれではない。近年、免疫反応の異常が薬疹の重症化に関与していると考えられるようになった。すなわち、免疫やアレルギー反応は制御性T細胞とヘルパーT細胞とのバランスによって成り立っており、正常な場合は、1型ヘルパーT細胞による免疫反応を制御性T細胞が抑制している。通常の薬疹では(図1)、1型ヘルパーT細胞が薬剤によって感作されて薬剤特異的T細胞になり、同じ薬剤の再投与により活性化されると薬疹が発症する。画像を拡大するしばらく経つと制御性T細胞も増加・活性化するため、過剰な免疫反応が抑制され、薬疹は軽快・治癒する。ところが、重症型薬疹の場合(図2)は、ウイルス感染などにより制御性T細胞が抑制され続けているため、薬疹発症後も免疫活性化状態が続く。薬剤特異的T細胞がさらに増加・活性化しても、制御性T細胞が活性化しないため、薬剤を中止しても重症化し続ける。画像を拡大する細胞やサイトカインレベルからみた発症機序を示す(図3)。画像を拡大する医薬品と感染症によって過剰な免疫・アレルギー反応を生じ、活性化された細胞傷害性Tリンパ球(CD8 陽性T細胞)や単球、マクロファージが表皮細胞を傷害してネクロプトーシス(ネクローシスの形態をとる細胞死)を誘導し、表皮細胞のネクロプトーシスが拡大することによりSJSやTENに至る、と考えられている。■ 症状重症型薬疹に移行しやすい病型として、とくに注意が必要なのは多形滲出性紅斑で、蕁麻疹に似た標的(ターゲット)型の紅斑が全身に生じ、短時間では消退せず、重症例では皮膚粘膜移行部にびらんを生じ、SJSに移行する。SJSは、全身の皮膚に多形滲出性紅斑が多発し、口唇、眼結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部や口腔内の粘膜にびらんを生じる。しばしば水疱や表皮剥離などの表皮の壊死性障害を来すが、一般に体表面積の10%を超えることはない。38℃以上の発熱や全身症状を伴うことが多く、死亡もまれではない。TENは最重症型の薬疹で、全身の皮膚に広範な紅斑と、体表面積の30%を超える水疱、表皮剥離、びらんなど表皮の重篤な壊死性障害を生じる。眼瞼結膜や角膜、口腔内、外陰部に粘膜疹を生じ、38℃以上の高熱や激しい全身症状を伴い、死亡率は30%以上に及ぶ。救命ができても全身の皮膚に色素沈着や視力障害を残し、失明に至ることもある。また、皮膚症状が軽快した後も、肝機能や呼吸器などに障害を残すことがある。なお、表皮剥離が体表面積の10%以上30%未満の場合、SJSからTENへの移行型としている。■ 予後SJS、TENともに、薬剤を中止しても適切な治療が行われなければ非可逆的に増悪し、ステロイド薬の全身投与にも反応し難いことがある。皮疹の経過は多形滲出性紅斑 → SJS → TENと増悪していく場合と、最初からSJSやTENを生じる場合とがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)薬疹は皮疹の分布や性状によってさまざまな病型に分類されるが、重症型薬疹は一般に、(1)急激に発症し、急速に増悪、(2)全身の皮膚に新鮮な発疹や発赤が多発する、(3)結膜、口腔、外陰などの粘膜面や皮膚粘膜移行部に発赤やびらんを生じる、(4)高熱を来す、(5)全身倦怠や食欲不振を訴える、などの徴候がみられることが多い。皮膚のみならず、肝腎機能障害、汎血球・顆粒球減少、呼吸器障害などを併発することも多いため、血算、白血球分画、生化学、非特異的IgE、CRP、血沈、尿検査、胸部X線撮影を行う。また、ステロイド薬の全身投与前に糖尿病の有無を調べる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療の実際長年安全に使用していた薬剤でも、ある日突然重症型薬疹を生じることもあるため、基本的に全薬剤を中止する。どうしても中止できない場合は、治療上不可欠な薬剤以外はすべて中止するか、系統(化学構造式)のまったく異なる、患者が使用した経験のない薬剤に変更する。急速に増悪することが多いため、入院させて全身管理のもとで治療を行う。最強クラスの副腎皮質ステロイド薬(クロベタゾールプロピオン酸など)を外用し、副腎皮質ステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン 30~60mg/日)を行う。治療効果が乏しければ、ステロイドパルス(メチルプレドニゾロン 1,000mg/日×3日)およびγグロブリン(献血グロベニン 5g/日×3日)の投与を早急に開始する。反応が得られなければ、さらに血漿交換や免疫抑制薬(シクロスポリン 5mg/kg/日)の投与も検討する。■ 原因薬剤の検索治癒した場合でも再発予防が非常に重要である。原因薬剤の検索は、皮疹の軽快後に再投与試験を行うのが最も確実であるが、非常にリスクが大きい。入院させて通常処方量の1/100程度のごく少量から投与し、漸増しながら経過をみるが、薬疹に対する十分な知識や経験がないと、施行は困難である。再投与試験に対する患者の了解が得られない場合や、安全面で不安が残る場合は、皮疹消退後にパッチテストを行う。パッチテストは非常に安全な検査で、しかも陽性的中率が高いが、感度は低く60%程度しか陽性反応が得られない。また、ステロイド薬の内服中は陽性反応が出にくくなる。In vitroの検査では「薬剤によるリンパ球刺激試験」(drug induced lymphocyte stimulation test:DLST)が有用である。患者血清中のリンパ球と原因薬剤を反応させ、リンパ球の幼若化反応を測定するが、感度・陽性的中率ともにパッチテストよりも低い。DLSTは薬疹の最盛期にも行えるが、発症から1ヵ月以上経つと陽性率が低下する。したがって、再投与試験を行えない場合はパッチテストとDLSTの両方を行い、両者の結果を照合することにより原因薬剤を検討する。現在、健康保険では3薬剤まで算定できる。4 今後の展望近年、重症型薬疹の発症を予測するバイオマーカーとして、ヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen:HLA)(主要組織適合遺伝子複合体〔MHC〕)の遺伝子多型が注目されている。すなわち、HLAは全身のほとんどの細胞の表面にあり免疫を制御しているが、特定の薬剤による重症型薬疹(SJS、TEN)の発症にHLAが関与しており、とくに抗痙攣薬(カルバマゼピンなど)、高尿酸血症治療薬(アロプリノール)による重症型薬疹と関連したHLAが相次いで発見されている。さらに、同じ薬剤でも人種・民族により関与するHLAが異なることが明らかになってきた(表)。画像を拡大するたとえば、日本人のHLA-A*3101保有者がカルバマゼピンを使用すると、8人に1人が薬疹を発症するが、もしこれらのHLA保有者にカルバマゼピン以外の薬剤を使用すると、薬疹の発症頻度が1/3になると推測されている。また、台湾では、カルバマゼピンによる重症型薬疹患者のほぼ全員がHLA-B*1502を保有しており、保有者の発症率は非保有者の2,500倍も高いといわれている。そのため台湾では、カルバマゼピンとアロプリノールの初回投与前には、健康保険によるHLA検査が義務付けられている。このようにあらかじめ遺伝子多型が判明していれば、使用が予定されている薬剤で重症型薬疹を起こしやすいか否かが予測できることになる。5 主たる診療科複数の常勤医のいる基幹病院の皮膚科、救命救急センター※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報医薬品・医療機器等安全性情報 No.290(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.293(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.285(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SJS患者会(SJSの患者とその家族の会)1)藤本和久. 日医大医会誌. 2006; 2:103-107.2)藤本和久. 第5節 粘膜症状を伴う重症型薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症). In:安保公介ほか編.希少疾患/難病の診断・治療と製品開発.技術情報協会;2012:1176-1181.3)重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会. 日皮会誌. 2016;126:1637-1685.公開履歴初回2014年01月23日更新2019年10月21日

132.

ピロリ除菌療法は慢性蕁麻疹患者に有益?

 ヘリコバクター・ピロリ菌(H. pylori:HP)が慢性特発性蕁麻疹(CSU)の発生および症状の持続と関連する可能性を示唆する知見が、韓国・高麗大学校医科大学のHyun Jung Kim氏らによるメタ解析の結果、示された。CSU症状を抑制するうえでHP除菌療法の影響が重要な意味を持つ一方、CSU寛解は除菌の成功とは関連しないことなどが明らかになったという。結果を踏まえて著者は「HPとCSUの関連メカニズムを評価するためには、さらなる研究が推奨される」とまとめている。これまでHP感染症がCSUの病因に関与していると考えられてはいたが、CSU症状改善に関するHP除菌療法の効果は明らかにされていなかった。Helicobacter誌オンライン版2019年9月15日号掲載の報告。 研究グループは、HP感染症とCSUの関連を明らかにし、HP除菌療法がCSU患者に有益であるかどうかを評価するため、メタ解析を行った。 2018年10月に、MEDLINE、EMBASE、Cochrane Library、SCOPUS、Web of Scienceを検索し、CSU患者に対するHP除菌療法の効果を検討した研究を特定した。ランダム効果モデルを用い、プール解析でリスク比(RR)と95%信頼区間(CI)を求めた。 主な結果は以下のとおり。・22試験がメタ解析に包含された。CSU患者は計1,385例であった。・HP陽性患者とHP陰性患者の比較において、蕁麻疹様症状の自然寛解はHP陰性患者で有意に高率であった(RR:0.39、95%CI:0.19~0.81)。・HP陽性CSU患者において、HP除菌療法成功群は別として、HP除菌療法を受けた患者群では受けなかった患者群より、CSUの寛解が多い傾向があった(RR:2.10、95%CI:1.20~3.68)。・しかしながら、CSUの寛解に、抗菌薬によるHP除菌療法が成功したか否かにおいての有意な差はみられなかった(RR:1.00、95%CI:0.65~1.54)。

133.

12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」【下平博士のDIノート】第34回

12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」 今回は、ヒト化抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤「リサンキズマブ(商品名:スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL)」を紹介します。本剤は、初回および4週時の後は12週ごとに皮下投与する薬剤です。少ない投与頻度で治療効果を発揮し、長期間持続するため、中等症から重症の乾癬患者のアンメットニーズを満たす薬剤として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年5月24日に発売されています。<用法・用量>通常、成人にはリサンキズマブとして、1回150mgを初回、4週後、以降12週間隔で皮下投与します。なお、患者の状態に応じて1回75mgを投与することができます。<副作用>尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の患者を対象とした国内外の臨床試験(国際共同試験3件、国内試験2件:n=1,228)で報告された全副作用は219例(17.8%)でした。主な副作用は、ウイルス性上気道感染27例(2.2%)、注射部位紅斑15例(1.2%)、上気道感染14例(1.1%)、頭痛12例(1.0%)、上咽頭炎10例(0.8%)、そう痒症9例(0.7%)、口腔ヘルペス8例(0.7%)などでした。150mg投与群と75mg投与群の間に安全性プロファイルの違いは認められていません。なお、重大な副作用として、敗血症、骨髄炎、腎盂腎炎、細菌性髄膜炎などの重篤な感染症(0.7%)、アナフィラキシーなどの重篤な過敏症(0.1%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となるIL-23の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.体内の免疫機能の一部を弱めるため、ウイルスや細菌などによる感染症にかかりやすくなります。感染症が疑われる症状(発熱、寒気、体がだるい、など)が現れた場合には、速やかに医師に連絡してください。3.この薬を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹風疹麻疹風疹混合、水痘、おたふく風邪など)の接種はできないので、接種の必要がある場合には医師に相談してください。4.入浴時に体をゴシゴシ洗ったり、熱い湯船につかったりすると、皮膚に過度の刺激が加わって症状が悪化することがありますので避けてください。5.風邪などの感染症にかからないように、日頃からうがいと手洗いを心掛け、体調管理に気を付けましょう。インフルエンザ予防のため、流行前にインフルエンザワクチンを打つのも有用です。<Shimo's eyes>乾癬の治療として、以前より副腎皮質ステロイドあるいはビタミンD3誘導体の外用療法、光線療法、または内服のシクロスポリン、エトレチナートなどによる全身療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在発売されている生物学的製剤は、本剤と標的が同じグセルクマブ(商品名:トレムフィア)のほか、抗TNFα抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)およびインフリキシマブ(同:レミケード)、抗IL-12/23p40抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)、抗IL-17A抗体のセクキヌマブ(同:コセンティクス)およびイキセキズマブ(同:トルツ)、抗IL-17受容体A抗体のブロダルマブ(同:ルミセフ)などがあります。また、2017年には経口薬のPDE4阻害薬アプレミラスト(同:オテズラ)も新薬として加わりました。治療の選択肢は大幅に広がり、乾癬はいまやコントロール可能な疾患になりつつあります。本剤の安全性に関しては、ほかの生物学的製剤と同様に、結核の既往歴や感染症に注意する必要があります。本剤の投与は基本的に医療機関で行われると想定できますので、薬局では併用薬などの聞き取りや、生活指導で患者さんをフォローしましょう。本剤は、初回および4週後に投与し、その後は12週ごとに投与します。国内で承認されている乾癬治療薬では最も投与間隔が長い薬剤の1つとなります。通院までの間の体調を記録する「体調管理ノート」や、次回の通院予定日をLINEの通知で受け取れる「通院アラーム」などのサービスの活用を薦めるとよいでしょう。参考日本皮膚科学会 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2019年版)アッヴィ スキリージ Weekly 体調管理ノート

134.

関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」【下平博士のDIノート】第30回

関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「ペフィシチニブ臭化水素酸塩(商品名:スマイラフ錠50mg/100mg)」を紹介します。本剤は、1日1回の服用でJAKファミリーの各酵素(JAK1/2/3、チロシンキナーゼ2[TYK2])を阻害し、関節リウマチによる関節の炎症や破壊を抑制します。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年7月10日より発売されています。なお、過去の治療において、メトトレキサート(MTX)をはじめとする少なくとも1剤の抗リウマチ薬などによる適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与します。<用法・用量>通常、成人はペフィシチニブとして150mg(状態に応じて100mg)を1日1回食後に投与します。なお、中等度の肝機能障害がある場合は、50mg/日を投与します。<副作用>後期第II相試験、第III相臨床試験2件および継続投与試験の4試験における安全性併合解析において、本剤が投与された患者1,052例中810例(77.0%)に副作用が認められました。主な副作用は、上咽頭炎296例(28.1%)、帯状疱疹136例(12.9%)、血中CK増加98例(9.3%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、帯状疱疹(12.9%)、肺炎(ニューモシスチス肺炎などを含む)(4.7%)、敗血症(0.2%)などの重篤な感染症、好中球減少症(0.5%)、リンパ球減少症(5.9%)、ヘモグロビン減少(2.7%)、消化管穿孔(0.3%)、AST(0.6%)・ALT(0.8%)の上昇などを伴う肝機能障害、黄疸(5.0%)、間質性肺炎(0.3%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ヤヌスキナーゼという酵素を阻害することにより、関節の炎症や腫れ、痛みなどの関節リウマチによる症状を軽減します。2.持続する発熱やのどの痛み、息切れ、咳、倦怠感などの症状が現れた場合はすぐにご連絡ください。3.痛みを伴う発疹や皮膚の違和感、局所の激しい痛み、神経痛などが現れた場合は速やかに受診してください。4.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合には主治医に相談してください。5.(妊娠可能年齢の女性の場合)この薬を服用中および服用終了後少なくとも1月経周期は、適切な避妊を行ってください。6.本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>関節リウマチの薬物療法は近年大きく進展しています。関節破壊の進行抑制を含めた病態コントロールのため、発症初期にはMTXをはじめとする従来型疾患修飾性抗リウマチ薬(cDMARDs)が使用されます。MTXなどを十分量で用いても効果不十分な場合には、生物学的製剤であるTNF阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブなど)やIL-6阻害薬(トシリズマブなど)、T細胞活性抑制薬(アバタセプト)、もしくは低分子標的薬であるJAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブ)が使用されます。本剤は、関節リウマチに用いる3剤目のJAK阻害薬で、JAK1、JAK2、JAK3およびTYK2を阻害し、関節の炎症や破壊を抑制します。生物学的製剤は点滴または皮下注射での投与となりますが、しばしば発疹などの投与時反応や注射部位疼痛が問題となることがあります。JAK阻害薬は経口投与のため、非侵襲性の治療を望む患者さんや自己注射が困難な患者さんであっても、好みや生活環境に合わせた治療を選択することができると期待されています。また、本剤は相互作用も少なく、1日1回投与であるため、高齢者でも使用しやすいと考えられます。留意点としては、中等度の肝機能障害を有する患者については投与量の制限があることが挙げられます。また、本剤は免疫反応に関与するJAK経路の阻害により、結核、肺炎、敗血症などの感染症リスクが増大する懸念があることから、既存のJAK阻害薬2剤と同様に、生物学的製剤や他のJAK阻害薬などの免疫を抑制する薬剤との併用はできません。承認時の臨床試験では、副作用として12.9%で帯状疱疹が報告されているので、とくに高齢の患者さんでは、使用前に帯状疱疹ワクチン接種の有無などについて確認し、服用後に帯状疱疹が現れる可能性について注意喚起をしておく必要があるでしょう。

135.

今シーズンのハチ毒被害に備える方策

 第68回 日本アレルギー学会学術大会(会長:相良 博典氏[昭和大学医学部内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門])が、6月13~15日まで都内で開催された。大会期間中、喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎など多彩なセッションが開催された。 これからのシーズン、ハチ刺されによるアナフィラキシーショックの事例も増えることから、本稿では教育講演で行われた「ハチアレルギーの現状」の概要をお届けする。アドレナリン注射はなるべく早く打つ 講演では、平田 博国氏(獨協医科大学埼玉医療センター 准教授)を講師に迎え、ハチ毒による症状、治療、アレルゲン免疫療法(予防)について説明が行われた。 アナフィラキシーショック(全身性アレルギー反応)による死亡者数は、年間50~70名程度発生し、うちハチ毒に関係する死亡は、薬剤に次いで多く第2位となっている。 被害をもたらすハチは、ミツバチ、アシナガバチ、スズメバチの3種で、とくにアシナガバチによる被害が多い。患者では、林業、農業や養蜂業従事者に被害が多く、そのほか、ゴルフ場、建築関係、造園業などの職種も多いという。 症状として、ハチに刺されたことで蕁麻疹、紅斑、嘔吐・嘔気、呼吸器症状などが現れる。心停止の中央値は15分という報告もある。小児と成人では、成人の方が重症化する傾向がある。 治療ではアナフィラキシー症状が出現した場合、アドレナリン注射(商品名:エピペン)が第一選択薬である。とくに症状が軽症と思われる場合でも、急変が予想され、アドレナリン注射は、副作用も軽微なことからまず「打つ」ことが求められる。30分以上経過しての注射では死亡率も増加することが報告されており、「なるべく早く打つことが重要」と指摘する。ハチ被害が多い職業従事者でも低い危機意識 ハチに刺されるリスクの高い職種では、アドレナリン自己注射を携帯してもらい、緊急の場合、自己注射してもらう対策が広く行われている。 ところが平田氏らによる2015年の研究調査では、林業従事者で特異的IgE抗体陽性者のアドレナリン注射処方率は全体の約3割であり、うち常時携帯している者は約5割だったという。また、2016年にはハチ刺されによる全身症状を経験したアドレナリン注射処方者でも約4割弱しか実際に注射しなかったという結果を報告した。 今後の課題としては、アドレナリン注射の事前処方の重要性の啓発、軽症でも注射する必要がある病識の知識の向上と適切な使用法の指導など医療者からの介入や教育も必要と提案した。 最後にハチ毒アレルギーのアレルゲン免疫療法について、過去に実施した128例を示し、うち56例で再度ハチに刺されたものの、54例で重篤なアナフィラキシー症状は認められず、その有効性を報告した。同療法については、最低5年の継続が必要であるが、現在学会で保険適応化に向けて準備していると展望を語り、講演を終えた。■関連記事特集 アナフィラキシー

136.

アレルギー総合ガイドライン2019が発行、アレルギーとアナフィラキシーを網羅

 アレルギー疾患罹患率はとくに先進国で増加し、いまや日本人の約50%が何らかのアレルギー症状を有しているといわれる。代表的なアレルギー疾患に関する12の最新ガイドラインの内容を1冊にまとめた「アレルギー総合ガイドライン」の改訂版が、3年ぶりに発行された。アレルギー総合ガイドライン2019は診療科を超えて横断的に出現し、急性増悪のリスクもはらむアレルギー疾患に対して、標準的な臨床的対応を円滑に行うことができるよう、実用性を重視した構成となっている。「喘息予防・管理ガイドライン2018」「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2017」「鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版(改訂第8版)」「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第2版)」「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018」「重症薬疹の診断基準」「接触皮膚炎診療ガイドライン」「蕁麻疹診療ガイドライン 2018」「食物アレルギー診療ガイドライン2016《2018年改訂版》」「ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン2018」「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016」「アナフィラキシーガイドライン」 ここでは、とくに2018年に改訂されたばかりの下記5冊のガイドラインについて、主な改訂内容を紹介する。 「喘息予防・管理ガイドライン2018」では、問診・聴診・身体所見の項目が新たに追加されたほか、治療においては長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の使用推奨範囲が拡大され、抗IL-5抗体、抗IL-5Rα抗体、気管支熱形成術が追加されている。さらに、2019年3月には、12歳以上の難治性喘息に抗IL-4Rα抗体製剤デュピルマブが保険適用になっている。これを受けてアレルギー総合ガイドライン2019では、成人喘息の治療ステップの中に追加され、小児喘息における位置づけについても、解説が追加されている。 「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018」は、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインと、厚生労働省研究班および日本アレルギー学会の診療ガイドラインの初の統合版。ステロイド外用薬の使い方などに関して、新たな知見(原則として2015年12月末まで)が反映されている。 「蕁麻疹診療ガイドライン 2018」は2011年以来7年ぶりの改訂版。2018年に発表された国際ガイドラインと、病型分類や重症度評価などで整合性をとる形に改訂されている。 「食物アレルギー診療ガイドライン2016《2018年改訂版》」は、「栄養食事指導」「経口免疫療法」について新たに章立てする形で詳細な記述が追加された。また、ヒスタミン遊離試験のキットの発売中止、牛乳アレルゲン除去調製粉乳の微量元素添加の終了、アナフィラキシー治療の際のアドレナリンの併用禁忌の解除などが反映されている。 「ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン2018」では、加硫促進剤が主要なアレルゲンで、非ラテックス製手袋でも報告されている「化学物質による遅発型アレルギーである接触皮膚炎」についての記述を追加。最新のラテックスフリーの製品や加硫促進剤フリーゴム手袋の一覧が収載された。 そのほか、「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016」については、刊行後に判明した最新エビデンスを加えた内容が、アレルギー総合ガイドライン2019に掲載されている。■「食物アレルギー」関連記事メロンアレルギーの主要アレルゲンを確認非専門医向け喘息ガイドライン改訂-喘息死ゼロへ

137.

試験中止の認知症薬、BACE-1阻害薬による結果の詳細/NEJM

 前駆期アルツハイマー病患者を対象に、アミロイド前駆体タンパク質βサイト切断酵素1(BACE-1)阻害薬verubecestatの有用性を評価した国際的な臨床試験の結果が、米国・MerckのMichael F. Egan氏らにより発表された。verubecestatは、健康成人およびアルツハイマー病患者の脳脊髄液中のアミロイドβ(Aβ)を60%以上低下させ、BACE-2(生理機能は不明)の阻害作用も有するという。中間解析の結果、プラセボと比較して認知症の臨床的評価が改善せず、アルツハイマー病による認知症への進行例の割合が高く、有害事象の発現率も高かった。そのため、データ安全性監視委員会の勧告により、本試験は無効中止となった。NEJM誌2019年4月11日号掲載の報告。2種の用量とプラセボを比較、22ヵ国238施設の無作為化試験 本研究は、2013年11月~2018年4月の期間に、22ヵ国238施設で実施された二重盲検プラセボ対照並行群間無作為化試験であり、第1部(104週)および第2部(延長期)で構成された(Merck Sharp & Dohmeの助成による)。 対象は、年齢50~85歳、認知症の基準は満たさないものの、1年以上にわたる記憶力の低下を自覚しており、脳アミロイド値の上昇がみられる患者であった。被験者は、verubecestat 12mg/日(12mg群)、同40mg/日(40mg群)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、ベースラインから104週時までの臨床認知症評価スケール(CDR-SB)のスコア(0~18点、点数が高いほど認知機能と日常生活機能が不良であることを示す)の変化とした。 日本人患者を含む1,454例が登録され、12mg群に485例、40mg群に484例、プラセボ群には485例が割り付けられた。704例(12mg群234例、40mg群231例、プラセボ群239例)が104週の治療を終了し、593例が延長期に登録された時点で、無効中止となった(2018年2月)。CDR-SBスコアの変化、高用量群で有意に不良 ベースラインの平均年齢は、12mg群71.7歳、40mg群71.0歳、プラセボ群71.6歳で、女性がそれぞれ47.4%、50.4%、44.0%であった。全体の69%がAPOE4保因者で、46%がアルツハイマー病の治療薬を併用していた。 CDR-SBスコアのベースラインから104週時までの推定平均変化量は、12mg群1.65、40mg群2.02、プラセボ群1.58であった(12mg群とプラセボ群との比較のp=0.67、40mg群とプラセボ群との比較のp=0.01)。したがって、高用量群のアウトカムはプラセボ群に比べ、有意に不良であることが示唆された。 アルツハイマー病による認知症へと進行した患者の推定割合は、100人年当たり12mg群24.5、40mg群25.5、プラセボ群19.3(12mg群のプラセボ群に対するハザード比は1.30[97.51%信頼区間:1.01~1.68]、40mg群のプラセボ群に対するハザード比は1.38[同:1.07~1.79]、多重比較の補正なし)であり、プラセボ群が有意に良好だった。 有害事象の頻度は、verubecestat群(12mg群91.3%、40mg群92.1%)がプラセボ群(87.0%)に比べ高かった。重篤な有害事象の頻度は、それぞれ25.7%、20.9%、19.8%であり、3例、1例、3例が死亡した。 verubecestat群で多い有害事象として、皮疹・皮膚炎・蕁麻疹(12mg群19.9%、40mg群20.9%、プラセボ群12.8%)、睡眠障害(7.9%、9.1%、4.5%)、体重減少(5.6%、6.6%、2.1%)、咳嗽(5.8%、6.2%、3.1%)、毛髪変色(2.5%、5.0%、0.0%)が認められた。転倒・負傷(25.7%、25.4%、20.7%)および自殺念慮(6.8%、9.3%、6.4%)も、verubecestat群で多かったが有意差はなかった。 著者は、「より早期Stageの患者のほうが、BACE-1の阻害への感受性が高い可能性がある。また、verubecestatの作用はBACE-2の阻害に起因する可能性もある」としている。

138.

国内初の慢性便秘症PEG製剤「モビコール配合内用剤」【下平博士のDIノート】第18回

国内初の慢性便秘症PEG製剤「モビコール配合内用剤」今回は、慢性便秘症治療薬「マクロゴール4000/塩化ナトリウム/炭酸水素ナトリウム/塩化カリウム(商品名:モビコール配合内用剤)」を紹介します。本剤は、慢性便秘症に対する国内初のポリエチレングリコール(PEG)製剤で、併用薬などの使用制限もなく、小児や腎機能が低下した高齢者にも使いやすい薬剤として期待されています。<効能・効果>本剤は、慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の適応で、2018年9月21日に承認され、2018年11月29日より販売されています。本剤は、PEG(マクロゴール4000)の浸透圧効果により、腸管内の水分量を増加させることで、便の軟化と便容積の増大を促し、用量依存的に便の排出を促進します。<用法・用量>本剤は、水で溶解して経口投与します。通常、成人および12歳以上の小児には、初回用量として1回2包を1日1回経口投与します。症状に応じて1日1~3回まで適宜増減可能ですが、最大投与量は1日に6包(1回量として4包)までです。増量は2日以上空けて行い、増量幅は1日2包までです。2歳以上7歳未満の幼児では、初回用量1回1包、7歳以上12歳未満の小児では、初回用量1回2包を1日1回経口投与します。症状に応じて1日1~3回まで適宜増減可能ですが、いずれも最大投与量は1日4包(1回量として2包)までです。増量は2日以上空けて行い、増量幅は1日1包までです。<副作用>承認時までの国内の臨床試験(成人、小児それぞれを対象とした第III相試験)では、192例中33例(17.2%)に副作用が認められています。主な副作用は、下痢7例(3.6%)、腹痛7例(3.6%)でした。なお、重大な副作用としてショック、アナフィラキシー(頻度不明)が現れることがあるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.お薬によって腸管内の水分量を増やし、便を軟らかくして排便を促します。2.この薬は、1包当たりコップ3分の1程度(約60mL)の水に溶かして服用します。飲みにくい場合は、ジュースなどに溶かしても構いません。3.溶かした後すぐに服用しない場合や飲み切れなかった場合は、ラップをかけて冷蔵庫に保管し、当日中に飲み切るようにしてください。4.腹痛、おなかの張り、腹部の不快感が現れた場合には、主治医か薬剤師までご連絡ください。5.蕁麻疹、喉のかゆみ、息苦しさ、動悸、顔のむくみなどが現れた場合はすぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、日本で初めて慢性便秘症に適応を持つPEG製剤です。塩化ナトリウムなどの電解質を含有しており、浸透圧性下剤に分類されます。海外では欧州を中心に、小児を含めた慢性便秘症治療薬として広く用いられており、ガイドラインでも使用が推奨されています。わが国では、日本小児栄養消化器肝臓学会から、小児慢性便秘症に対する開発要請が出され、2015年5月に開発が開始されました。従来、浸透圧性下剤として酸化マグネシウムが汎用されていますが、高齢者などの腎機能低下患者では高マグネシウム血症に注意が必要であったり、ビスホスホネート製剤やニューキノロン系抗菌薬などとの相互作用が問題となったりすることがあります。さらに、酸化マグネシウムは胃酸分泌抑制時に効果が減弱するため、プロトンポンプ阻害薬などを服用している場合や胃切除後では効果が低下する可能性もあります。本剤の主薬であるPEG(マクロゴール4000)には併用禁忌、併用注意の薬剤はありません。本剤は2歳から使用でき、水に溶解して服用しますが、味などが気になって服用しにくい場合は、ジュース、スポーツドリンク、お茶などの冷たい飲料で溶解することも可能です。効果は用量依存的なので、患者さんの便秘の状態に応じて適切な服用量に調節することができます。とくに小児や、高マグネシウム血症が問題となる高齢患者でも安心して使える薬と考えられるでしょう。

139.

慢性蕁麻疹は、骨粗鬆症のリスク因子

 慢性蕁麻疹(CU)は骨粗鬆症に対して多くのリスク因子となるが、CUと骨粗鬆症における関連についてはデータが不足している。イスラエル・Clalit Health ServicesのGuy Shalom氏らは大規模な観察研究を行い、CUが骨粗鬆症のリスクとなる可能性があることを明らかにした。著者は、「ターゲットを適切にするためのスクリーニングを検討する必要がある」とまとめている。British Journal of Dermatology誌オンライン版2018年12月18日号掲載の報告。 研究グループは、地域住民を対象にCUと骨粗鬆症との関連性を評価する目的で、全国的な長期観察コホート研究を行った。 CUは、蕁麻疹と診断された4つの組み合わせで定義。それぞれのCUは、診断から6週間以内に記録され、プライマリケアの内科医が研究に登録した。CU患者と、その患者の年齢と性別が一致する者を対照群として割り付け、2002~17年における骨粗鬆症の発生頻度とその他の検査データを追跡した。 ステロイドの全身投与および骨粗鬆症に関連するほかのリスク因子についてのデータを得た。 年齢、性別、ステロイドの全身投与、肥満、喫煙、甲状腺機能亢進症および甲状腺機能低下症に関して補正したCox回帰モデルにて、骨粗鬆症のリスク分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・解析対象はCU患者群1万1,944例で、対照群は5万9,829例であった。・観察期間中、CU患者群のうち1,035例(8.7%)、対照群のうち4,046例(6.8%)が骨粗鬆症と診断された。・多変量解析の結果、CUは骨粗鬆症に対し、高リスクとして有意に関連していた(ハザード比:1.23、95%信頼区間[CI]:1.10~1.37、p<0.001)。

140.

成人のワクチンキャッチアップの重要性

講師2018年、大都市を中心に風疹が流行し、感染者は2,586人(12月12日現在)と報告されています。前回の流行が始まった2012年の2,386人をはるかに超え、2013年は14,344人であったことから、今回の流行も2019年にはさらに拡大することが予測されています。感染者の多くは、風疹ワクチンを受けていない30~50代の男性となっており、予防接種歴は「なし」(648人:25%)あるいは「不明」(1,765人:68%)が93%を占めています1)。現在の風疹の感染拡大を防止するためには、30~50 代の男性に多い感受性者(風疹にかかったことがなく、風疹含有ワクチンを受けていない者)を早急に減らす必要があり、厚生労働省は 2019年度から3年をかけて、これまで風疹のワクチンを受ける機会がなかった1962年(昭和 37 年) 4 月 2 日~1979年(昭和 54 年) 4 月 1 日生まれの男性(現在 39~56 歳)を対象に、風疹の抗体検査を前置きしたうえで、定期接種を行うことを発表しました。なぜワクチン接種にばらつきがあるのか大人に必要なワクチンは、その理由によって表のように分類できます。風疹はこの(4)「ワクチンはあったが、当時の定期接種スケジュールによって、現在の必要な回数に満たないもの」に該当します。風疹ワクチンの定期接種の歴史は、まず、1977年8月~1995年3月までは中学生の女子のみが対象となり、1989年4月~1993年4月までは、麻疹ワクチンの定期接種の際に、麻疹・おたふくかぜ・風疹混合(MMR)ワクチンが選択可能となりました(対象は生後12ヵ月以上72ヵ月未満の男女)。1995年4月からは生後12ヵ月以上90ヵ月未満の男女(対象は生後12ヵ月~36ヵ月以下)に変更され、経過措置として12歳以上~16歳未満の中学生男女も定期接種の対象となりました。2001年11月7日~2003年9月30日までの期間に限って、1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女は経過措置分として定期接種可能に。2006年度からは麻疹風疹混合(MR)ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の2回接種となり、2008~12年度に中学1年生あるいは高校3年生相当年齢を対象に、2回目の定期接種がMRワクチンで行われました。現在は男女共に定期接種2回となっています(図)。今、風疹の予防にはワクチンの2回接種が必要ですが、上記のように、過去の定期接種のスケジュールによって、ワクチン未接種または1回接種のみのために感受性者が多く残っています。これが感染の原因となっているため、感染予防には感受性者を減らすために成人へのワクチンが必要となります。具体例で検討してみると前述の表の例を挙げます。(2)「幼少期にはワクチンがなくて、打つ機会がなかったもの」たとえば破傷風ワクチンが該当します。破傷風ワクチンは1969年4月に定期接種を開始しており、1968年以前の生まれの人は定期接種の機会がなかった世代であり、最近、高齢者の破傷風感染が報告されています。とくに土から感染するため、ガーデニングや水害などで罹患者が増加します。土に触れる機会がある場合は接種推奨が必要です。(3)「幼少期にワクチンがあり、接種の機会もあったが、現在の必要な回数に満たないもの」この例では麻疹ワクチンがあります。ワクチン接種率が上昇して麻疹の罹患者が減ると、ワクチンによってできた免疫が刺激されなくなります。そのため、免疫は徐々に低下し、麻疹の罹患者が増えていきます。2007年の麻疹の流行はこれが原因でした。その結果、定期接種回数が1回から2回に変更されています。風疹も同じ理由のため、接種回数が1回から2回に増えています。(5)「成人のある年齢になってから接種するワクチン」この例では成人肺炎球菌ワクチン(PPSV23)、インフルエンザワクチンが定期接種になっています。また、定期接種にはなっていませんが、50歳以降に帯状疱疹予防のため水痘ワクチンが推奨されています。ワクチンがとくに必要な人ワクチン接種の記録である母子手帳を持っている成人は多くなく、過去の接種歴を確認することは容易ではありません。しかし、定期接種の歴史からみて不足しているワクチンについては、下記の参考サイトをご参照のうえ、必要な人には接種を推奨していただきたいと思います2,3)。とくに妊婦(妊娠を希望する女性)、基礎疾患のある人、医療従事者、海外渡航前などは、ワクチン接種歴を必ず確認する必要があります。不足しているものがあれば接種を推奨し、感染を予防することが肝要です。日本から風疹を排除するためにはじめにも書いたとおり、風疹の感染拡大を防止するためには、30~50代の男性に多い感受性者を早急に減らす必要があり、この世代へのワクチンを徹底するしかありません。政府はこの世代を定期接種にすることを決めましたが、対象者が確実に接種する環境が必要です。今年感染した人のほとんどが会社員でしたが、定期接種で無料になっても、勤務中に抗体検査やワクチンを打ちにいく時間が取れなかったり、MRワクチンは小児の定期接種のため、かかりつけの内科にワクチンが常備されていなくて接種しにくいことが考えられます。そのため、会社の中で接種できたり、仕事中にワクチンを受けにいけたりといった受けやすい環境整備のために企業の協力が必要ですし、内科のような成人を対象とする診療科でもMRワクチンを接種しやすくすることが大事です。ワクチン接種を希望する大人が接種しやすい環境を作ることは、VPD(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで防げる病気)を減らすために、今後ますます必要になってきます。●参考1)国立感染症研究所ホームページ「風疹流行に関する緊急情報:2018年12月12日現在」2)こどもとおとなのワクチンサイト「年齢でみる不足している可能性があるワクチン」3)こどもとおとなのワクチンサイト「全年齢(0歳~成人)ワクチン接種スケジュール」●予告来春より、ワクチン接種に関するコンテンツがスタートします。将来の疾病を防ぐために接種しておくべきワクチンの必要性を、家庭医、感染症専門医など、多彩なエキスパートを執筆陣に迎えお届けします。コンテンツでは、次のサイトと連動して情報をお伝えしていきます。ぜひ、ご参照ください。こどもとおとなのワクチンサイト

検索結果 合計:248件 表示位置:121 - 140