サイト内検索|page:2

検索結果 合計:180件 表示位置:21 - 40

21.

パクスロビドがコロナ後遺症リスクを低減

 抗ウイルス薬のパクスロビド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル、日本での商品名パキロビッドパック)の使用により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の入院率と死亡率を低減できるだけでなく、COVID-19の後遺症(以下、後遺症)のリスクも低減できることが新たな研究で示された。米VAセントルイス・ヘルスケアシステムのZiyad Al-Aly氏らが実施したこの研究結果は、査読前の論文のオンラインアーカイブである「medRxiv」に11月5日発表された。Al-Aly氏は、「この薬剤が深刻な後遺症問題に対処する重要な手段となる可能性がある」と述べている。 パクスロビドは新しい抗ウイルス薬のニルマトレルビルと、既存の抗HIV薬であるリトナビルを組み合わせた合剤で、COVID-19感染急性期に重症化リスクを低減させることが示されている。今回の研究では、米国退役軍人省のヘルスケアデータを用いて、COVID-19感染急性期にパクスロビドを投与することで、診断から90日後の後遺症リスクが低減するのかどうかが検討された。 研究対象者は、2022年3月1日から6月30日までの間に新型コロナウイルス検査で陽性の判定を受け、判定を受けた日には入院に至らず、COVID-19重症化のリスク因子を1つ以上有し、診断から30日以上生存していた5万6,340人(平均年齢65.07歳、白人74.59%、男性87.64%)。これらの対象者は、陽性判定後5日以内にパクスロビドを投与された9,217人(パクスロビド投与群)と、感染後30日以内に抗ウイルス薬や抗体による治療を受けなかった4万7,123人(対照群)で構成されていた。また、対象者の中には、ワクチン未接種、接種済み、ブースター接種済みの患者が混在しており、新型コロナウイルスへの感染歴を1回以上持つ人もいた。検討する後遺症は、虚血性心疾患、不整脈、深部静脈血栓症、肺塞栓症、倦怠感、肝疾患、急性腎障害、筋肉痛、糖尿病、神経認知機能障害、息切れ、咳の12種類とした。 その結果、COVID-19の診断から90日後に、検討した12種類の後遺症の症状のうち1種類以上を有するリスクは、パクスロビド投与群で対照群に比べて低いことが明らかになった(ハザード比0.74、95%信頼区間0.69〜0.81)。診断後90日時点での後遺症の100人当たりの発症率は、パクスロビド投与群で7.11人、対照群で9.43人であった。これは、診断後90日時点で後遺症を1つ以上有する人が、パクスロビド群では対照群よりも100人当たり2.3人少ないことに相当する。 症状別に見ると、パクスロビド投与群では対照群に比べて、12種類のうちの10種類の後遺症の発症リスクが有意に低かったが、持続的な咳および新たに糖尿病と診断されるリスクの2種類については、両群間で有意差は認められなかった。パクスロビド投与群ではさらに、急性期後の死亡リスクおよび入院リスクの低減も認められた(ハザード比は死亡リスクで0.52、入院リスクで0.70)。 こうした結果を受けてAl-Aly氏らは、「全体的なエビデンスから、重症化予防だけでなく、急性期後の有害転帰のリスクを低減する目的でも、感染急性期のパクスロビドの利用率を向上させる必要があることが示唆される」と述べている。 ファイザー社が製造するパクスロビドは12歳から使用可能である。COVID-19の発症から5日以内に使用するのが最も効果的とされるが、用量や使用日数を増やすことで効果が変わるかどうかは明らかにされていないとCNNは報じている。米国立衛生研究所(NIH)は、すでに後遺症のある患者を対象にパクスロビドの効果を検討する研究を実施する予定だという。

22.

肥満はCOVID-19に伴う血栓症リスクに影響なし?―国内共同CLOT-COVID研究

 肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化のリスク因子ではあるものの、COVID-19に伴う血栓症リスクへの影響は統計的に有意でないとするデータが報告された。三重大学医学部付属病院循環器内科の荻原義人氏らの研究であり、詳細は「Journal of Cardiology」に8月28日掲載された。 肥満は入院患者に発生する血栓症のリスク因子であることが以前から知られている。またCOVID-19が血液の凝固異常を引き起こし血栓症のリスクを上げることも、既に明らかになっている。ただし、肥満がCOVID-19に伴う血栓症のリスク因子であるか否かは明らかにされていない。荻原氏らはこの点について、COVID-19患者の血栓症や抗凝固療法に関する国内16施設の共同研究「CLOT-COVID研究」のデータを後方視的に解析し検討した。 CLOT-COVID研究には2021年4~9月のCOVID-19入院患者2,894人が登録されており、BMIデータのない患者と18歳未満の未成年を除外した2,690人を解析対象とした。国際的な基準であるBMI30以上を肥満と定義すると17%が該当した。 肥満群は非肥満群に比較して若年で(平均47対55歳、P<0.01)、高血圧、糖尿病の有病率が高いという有意差が見られた。一方、性別(男性の割合)、入院時のDダイマー、静脈血栓塞栓症(VTE)や大出血の既往者の割合などには有意差がなかった。また、肥満群はCOVID-19の重症度が高く(P=0.02)、血栓症に対するヘパリンなど抗凝固薬の予防的投与が行われていた割合も高かった(55%対42%、P<0.01)。 入院中の血栓症は、54件(2.0%)発生していた。その内訳は、VTE(画像検査などで確認された肺塞栓症、深部静脈血栓症)が最も多く39件であり血栓症の72%を占めていた。ほかには、動脈血栓イベント(心筋梗塞、虚血性脳卒中など)が12件、その他の血栓症が6件だった。大出血イベントは56件(2.1%)、全死亡は145人(5.4%)だった。 肥満群と非肥満群の血栓症発生率を比較すると、同順に2.6%、1.9%であり有意差はなく(P=0.39)、VTEは2.2%、1.3%(P=0.15)、大出血2.4%、2.0%(P=0.59)、全死亡4.4%、5.6%(P=0.29)であり、いずれも有意差がなかった。その一方で、全死亡および機械的人工換気または体外式膜型人工肺(ECMO)の施行で構成される複合エンドポイントの発生率は、20.1%、15.0%(P<0.01)で肥満群の方が高かった。 年齢、性別、高血圧・糖尿病・心疾患・呼吸器疾患・活動性がんの影響を調整したロジスティック回帰分析の結果、非肥満群に対する肥満群の血栓症のオッズ比(OR)は1.39(95%信頼区間0.68~2.84)となり、肥満による有意なリスク上昇は示されなかった。一方、全死亡や機械的人工換気、ECMOの複合エンドポイントはOR1.85(同1.39~2.47)であり、肥満が有意なリスク因子と考えられた。 著者らは、本研究の限界点として、ワクチン接種状況が把握されていないこと、COVID-19に対する治療や抗凝固薬予防投与が各医師の裁量で決定されていたこと、肥満該当者が少なかったことなどを挙げた上で、「肥満はCOVID-19の重症度と関連があるものの、COVID-19に伴う血栓症の発症とは有意な関連がなかった」と結論付けている。なお、本研究以外にも、VTEを発症したCOVID-19患者はBMI高値だがCOVID-19の重症度も高いとする国内の既報研究があることから、「COVID-19に伴う血栓症はCOVID-19の重症度の高さに関連するものであり、肥満に起因するものではないのではないか」との考察を加えている。

23.

VTE既往妊産婦への低分子ヘパリン、体重補正中用量vs.固定低用量/Lancet

 静脈血栓塞栓症(VTE)既往のある女性において、分娩前~分娩後に体重で補正した中用量の低分子ヘパリン投与は、固定低用量の低分子ヘパリン投与と比べてVTE再発リスクを低減しないことが、オランダ・アムステルダム大学のIngrid M. Bistervels氏らが行った多施設共同非盲検無作為化試験「Highlow試験」の結果、示された。妊娠に関連したVTEは、母体の罹患および死亡の主要な原因であり、VTE既往女性では分娩前および分娩後に血栓予防が適応となる。しかし同期間中のVTE再発予防のための低分子ヘパリンの至適投与量は明らかでなかった。Lancet誌オンライン版2022年10月28日号掲載の報告。9ヵ国70病院で無作為化試験、妊娠14週~分娩後6週まで各用量を投与 Highlow試験は、9ヵ国(オランダ、フランス、アイルランド、ベルギー、ノルウェー、デンマーク、カナダ、米国、ロシア)の70病院から、VTE既往の妊娠中の女性を集めて行われた。客観的診断によるVTE既往のある18歳以上で、妊娠14週以下の女性を適格とした。 適格女性を、1対1の割合でウェブベースシステムと置換ブロック無作為化法にて、妊娠14週前に、体重補正した中用量の低分子ヘパリン投与(体重補正中用量)群または固定低用量の低分子ヘパリン投与(低用量)群に割り付け、分娩後6週まで1日1回皮下投与した。 主要有効性アウトカムは客観的診断のVTE(深部静脈血栓症、肺塞栓症または非典型的部位静脈血栓症など)で、独立した中央判定委員会で確認を行った。評価対象はintention-to-treat(ITT)集団(投与群に割り付けられたすべての女性など)とした。 主要安全性アウトカムは、分娩前、分娩後早期(分娩後24時間未満)を含む大出血、および分娩後後期大出血(分娩後24時間以上~6週間)で、割り付けられた治療の投与を少なくとも1回受け、投与の終了が確認されたすべての女性を評価対象とした。VTE再発に有意差なし、安全性も同等 2013年4月24日~2020年10月31日に、1,339例の妊娠中の女性がスクリーニングを受け、適格であった1,110例が、体重補正中用量群(555例)、低用量群(555例)に無作為に割り付けられた(ITT集団)。 VTEの発生は、体重補正中用量群11/555例(2%)、低用量群16/555例(3%)であった(相対リスク[RR]:0.69[95%信頼区間[CI]:0.32~1.47]、p=0.33)。 分娩前のVTE発生は、体重補正中用量群5/555例(1%)、低用量群5/555例(1%)であり、分娩後のVTE発生はそれぞれ6例(1%)、11例(2%)であった。 安全性解析集団(1,045例)における治療期間中の大出血は、体重補正中用量群23/520例(4%)、低用量群20/525例(4%)であった(RR:1.16[95%CI:0.65~2.09])。

24.

コロナワクチンの血栓症リスク、種類別比較を定量化/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンのうち、アデノウイルスベースのワクチンであるChAdOx1-S(アストラゼネカ製)はmRNAベースワクチンのBNT162b2(ファイザー製)と比較して、初回接種から28日以内の血小板減少症のリスクが30%以上高く、アデノウイルスベースのワクチンAd26.COV2.S(ヤンセン製)はBNT162b2に比べ、血小板減少症を伴う血栓症候群(TTS)の中でも静脈血栓塞栓症のリスクが高い傾向にあることが、英国・オックスフォード大学のXintong Li氏らが行った欧米6ヵ国のデータセットの解析で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年10月26日号で報告された。欧州5ヵ国と米国のネットワークコホート研究 研究グループは、COVID-19に対するアデノウイルスベースのワクチンとmRNAベースのワクチンとで、TTSまたは血栓塞栓イベントのリスクの定量的な比較を目的に、国際的なネットワークコホート研究を実施した(欧州医薬品庁[EMA]の助成を受けた)。 解析には、欧州の5ヵ国(フランス、ドイツ、オランダ、スペイン、英国)の各1つのデータセットと、米国の2つのデータセットが使用された。 対象は、2020年12月から2021年の半ばまでの期間に、2つのアデノウイルスベースのCOVID-19ワクチン(ChAdOx1-S、Ad26.COV2.S)または2つのmRNAベースのCOVID-19ワクチン(BNT162b2、mRNA-1273[モデルナ製])のいずれかの接種を少なくとも1回受け、初回接種時に年齢18歳以上の集団であった。 主要アウトカムは、ワクチン接種から28日以内のTTS(深部静脈血栓症、血栓塞栓症など)または静脈・動脈血栓塞栓イベント(深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳静脈洞血栓症、心筋梗塞など)とされた。 傾向スコアマッチング後に罹患率比が推算され、陰性コントロールのアウトカムを用いて較正が行われた。変量効果によるメタ解析で、データベースごとの推算値が統合された。今後の予防接種キャンペーンの際に考慮すべき ドイツと英国のデータの解析では、血小板減少症は、ChAdOx1-Sの初回接種を受けた集団で862件、BNT162b2の初回接種を受けた集団で520件発生した。 ドイツと英国のデータのメタ解析では、ChAdOx1-S初回接種はBNT162b2初回接種と比較して、28日後の血小板減少症のリスクが高く、較正後の統合罹患率比は1.33(95%信頼区間[CI]:1.18~1.50)であり、較正後罹患率の差は1,000人年当たり1.18(95%CI:0.57~1.8)、絶対リスク差は10万人当たり8.21(95%CI:3.59~12.82)であった。 TSSはきわめてまれであった。米国とスペインのデータのメタ解析では、Ad26.COV2.SはBNT162b2に比べ、TTSのうち静脈血栓塞栓症のリスクが高い傾向が認められ、較正後の統合罹患率比は2.26(95%CI:0.93~5.52)であった。不確実性はより高いものの、TTSの深部静脈血栓症にも同様の傾向がみられた(較正後統合罹患率比:1.83、95%CI:0.62~5.38)。 著者は、「罹患数はきわめて少ないが、アデノウイルスベースのワクチン接種後に観察された血小板減少症のリスクは、今後、予防接種キャンペーンやワクチン開発を計画する際に考慮すべきと考えられる」としている。

25.

喫煙妊婦、金銭的報奨で禁煙率が2倍以上に/BMJ

 英国の妊娠中の喫煙者では、現行の禁煙サービスに加え、妊婦の禁煙のための最大400ポンドの金銭的報奨を提供すると、禁煙率が2倍以上に向上し、重篤な有害事象は増加しなかったことが、英国・グラスゴー大学のDavid Tappin氏らが実施した無作為化試験「CPIT III試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年10月19日号で報告された。英国の無作為化第III相試験 CPIT III試験は、妊婦向けの禁煙支援としての金銭的な報奨の有効性の評価を目的とする実践的な単盲検無作為化第III相試験であり、2018年1月9日~2020年4月4日の期間に、スコットランド、北アイルランド、イングランドの7つの産科病院で参加者の登録が行われた(Cancer Research UKなどの助成を受けた)。 対象は、年齢16歳以上、自己申告による喫煙者(過去7日間にタバコ1本以上の喫煙)で、初回受診時に在胎期間24週未満の妊婦であった。被験者は、標準的な禁煙サービスに加え、最大で400ポンド(440ドル、455ユーロ)に相当する引換券(多くの小売店で使用できるLoveToShop買い物券)による報奨を受け取る群、または標準的な禁煙サービスのみを受ける群(対照群)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、妊娠後期(在胎期間34~38週)における自己申告による禁煙で、唾液中のコニチン(ニコチン代替製品を使用している場合はアナバシン)の検出によって確定された。出産後に、多くは再喫煙 941人の妊婦が登録され、介入群に471人、対照群に470人が割り付けられた。ベースラインの全体の平均年齢は27.9(SD 5.8)歳、平均在胎期間は11.3(SD 3.3)週であった。 生化学的に確定された禁煙者の割合は、介入群が26.8%(126/471人)と、対照群の12.3%(58/470人)に比べ有意に高かった(補正後オッズ比[OR]:2.78、95%信頼区間[CI]:1.94~3.97、p<0.001)。 重篤な有害事象は58人(介入群39人、対照群19人)で61件発現した。このうち流産が17人(12人、5人)、死産が4人(2人、2人)、人工中絶が5人(4人[2人は先天性疾患]、1人)、新生児死亡が3人(2人、1人)で認められた。これらの重篤な有害事象は、いずれも介入とは関連がなかった。 その他の入院を要するイベントが24人で発現し、このうち胎動減少が17人(介入群11人、対照群6人)、妊娠悪阻が1人(介入群)、深部静脈血栓症が1人(介入群)、歯の膿瘍が1人(対照群)、腹痛が1人(介入群)などであった。 両群とも、禁煙を達成した妊婦の多くが、出産後に再び喫煙するようになった。 著者は、「妊婦に対する現行の禁煙支援に、金銭的な報奨を加えることで、長期的に国民保健サービス(NHS)の費用負担の削減が可能と考えられる」としている。

26.

コロナ診断1週目のリスク、心筋梗塞17倍・脳梗塞23倍/Circulation

 英国・国民保健サービス(National Health Service:NHS)のデータに基づき、ブリストル大学のRochelle Knight氏ら多施設共同による、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の動脈血栓塞栓症、静脈血栓塞栓症、およびその他の血管イベントの長期的な発生リスクについて大規模な後ろ向きコホート研究が実施された。その結果、COVID-19の既往がある人は既往がない人と比較して、COVID-19診断から1週目の動脈血栓塞栓症の発症リスクは21.7倍、静脈血栓塞栓症の発症リスクは33.2倍と非常に高く、27〜49週目でも、それぞれ1.34倍、1.80倍のリスクがあることが判明した。とくに患者数の多かった急性心筋梗塞と虚血性脳卒中では、COVID-19診断後1週目に、それぞれ17.2倍、23.0倍リスクが増加していた。Circulation誌2022年9月20日号掲載の報告。 本研究では、英国のイングランドおよびウェールズにて、全住民の電子カルテ情報を基に、2020年1月1日~12月7日(新型コロナワクチン導入以前)におけるCOVID-19診断後の血管疾患について検討された。COVID-19診断後の動脈血栓塞栓症イベント(急性心筋梗塞、虚血性脳卒中など)、静脈血栓塞栓症イベント(肺血栓塞栓症、下肢深部静脈血栓症、門脈血栓症、脳静脈血栓症など)、その他の血管イベント(心不全、狭心症、くも膜下出血など)の発生率を、COVID-19の診断を受けていない人との発生率を比較し、Cox回帰分析にて調整ハザード比(aHR)が推計された。 主な結果は以下のとおり。・イングランドおよびウェールズの成人約4,800万人のうち、COVID-19の診断から28日以内に入院したのは12万5,985人、入院しなかったのは131万9,789人であった。・イングランドでは、4,160万人年の追跡期間中に、26万279件の初回動脈血栓塞栓症と5万9,421件の初回静脈血栓塞栓症が発生した。・初回動脈血栓塞栓症は、COVID-19診断後1週目aHR:21.7(95%信頼区間[CI]:21.0〜22.4)、27〜49週目aHR:1.34(95%CI:1.21〜1.48)。・初回静脈血栓塞栓症は、COVID-19診断後1週目aHR:33.2(95%CI:31.3~35.2)、27〜49週目aHR:1.80(95%CI:1.50~2.17)。・動脈血栓塞栓症の多くは、急性心筋梗塞(12万9,799件)、もしくは虚血性脳卒中(12万8,539件)であった。・急性心筋梗塞は、COVID-19診断後1週目aHR:17.2(95%CI:16.3~18.1)と非常に高く、27〜49週目aHR:1.21(95%CI:1.03~1.41)となっている。・虚血性脳卒中は、COVID-19診断後1週目aHR:23.0(95%CI:22.0~24.1)と非常に高く、27〜49週目aHR:1.62(95%CI:1.42~1.86)となっている。・静脈血栓塞栓症の多くは、肺血栓塞栓症(3万1,814件)、もしくは深部静脈血栓症(2万5,267件)であった。・肺血栓塞栓症は、COVID-19診断後1週目aHR:33.2(95%CI:30.7~35.9)と非常に高く、2週目aHR:9.97まで低下するも、3~4週目aHR:10.5に一時的に増加し、27〜49週目aHR:1.61 (95%CI:1.23~2.12)となっている。・深部静脈血栓症は、COVID-19診断後1週目aHR:10.8(95%CI:9.32~12.5)と非常に高く、2週目aHR:4.00まで低下するも、3~4週目aHR:4.80に一時的に増加し、27〜49週目aHR:1.99(95%CI:1.49~2.65)となっている。 さらに本研究では、COVID-19の重症度、人口統計学的特性、既往歴によるサブグループ解析も行われ、白人よりも黒人やアジア系のほうがハザード比が高く、過去に血栓塞栓症の既往がある人よりも既往がない人のほうが高いということが認められた。COVID-19診断後49週目における全人口の動脈血栓塞栓症リスクの推定増加率は0.5%(7,200人相当)、静脈血栓塞栓症リスクの推定増加率は0.25%(3,500人相当)だという。

27.

インフルエンザと新型コロナ:動脈血栓の視点ではどっちが怖い?(解説:後藤信哉氏)

 新型コロナウイルス感染症の特徴として、深部静脈血栓症・肺塞栓症などの静脈血栓症リスクの増加が注目された。静脈血栓症リスクは、新型コロナウイルス以外の感染症でもICU入院例では高かった。インフルエンザなど他のウイルス感染と比較して、新型コロナウイルスにはACE-2受容体を介して血管内皮細胞に感染するとの特徴があった。血管内皮細胞は血管内の血栓予防にて死活的に重要な役割を演じている。新型コロナウイルス感染により血管内皮細胞の機能が障害されれば、微小循環の過程にて血小板、白血球が活性化し全身循環する血液の血栓性は亢進する。静脈血栓症以外に、心筋梗塞・脳梗塞などの動脈血栓リスクも新型コロナウイルス感染後に増加すると想定された。また、新型コロナウイルス感染症例の心筋梗塞、脳梗塞リスクの増加を示唆する論文も多数出版されている。 本研究は米国の健康保険のデータベースの後ろ向き解析である。新型コロナウイルス感染症にて入院した症例の静脈血栓、動脈血栓リスクは高いが、われわれに十分な経験のあるインフルエンザの入院例との比較において動脈、静脈血栓リスクを評価したのが本研究の新規性である。また、新型コロナウイルスのワクチン接種のインパクトの評価も志向している。もっとも、本研究は重症の入院例に限局しているので、ワクチンの血栓イベントに及ぼす効果は評価できないことを理解する必要がある。 ワクチン普及後でも、新型コロナウイルス感染症による入院後90日以内の動脈血栓イベント発症率は16.3%(95%CI:16.0%~16.6%)と高い。新型コロナは恐ろしい。しかし、インフルエンザでも入院例では90日以内に14.4%(95%CI:13.6%~15.2%)が動脈血栓を発症している。新型コロナは恐ろしいが、インフルエンザも怖い。動脈血栓イベントリスクは年齢に依存している。高齢者であれば、新型コロナであろうとインフルエンザであろうと入院後の動脈血栓イベントには注意が必要である。本研究では血管内皮細胞への感染を特徴とする新型コロナウイルスの血栓性亢進は静脈血栓のみにて確認された。米国の保険医療データベースのラフな解析の結果である。英国などの精緻なデータが待たれる。 時に、現在まで日本は全数把握を行政が主導してきた。全数把握しながら、日本のデータベースから新型コロナウイルスに関する科学的情報の発表は乏しい。労力をかけて情報を収集するのであれば、科学的情報を発信できる情報にしなければならない。厚労省に論文出版課などができれば科学的情報解析に目が向くだろうか?

28.

人工関節置換術後のVTE予防、アスピリンvs.エノキサパリン/JAMA

 股関節または膝関節の変形性関節症で人工関節置換術を受けた患者における静脈血栓塞栓症(VTE)の予防では、アスピリンはエノキサパリンと比較して、90日以内の症候性VTEの発現率が統計学的に有意に高く、死亡や大出血、再入院、再手術の頻度には差がないことが、オーストラリア・インガム応用医学研究所のVerinder S. Sidhu氏らが実施した「CRISTAL試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年8月23日号に掲載された。オーストラリアのレジストリ内クラスター無作為化非劣性試験 CRISTAL試験は、人工股関節置換術(THA)および人工膝関節置換術(TKA)に伴うVTEの予防における、アスピリンのエノキサパリン(低分子量ヘパリン)に対する非劣性の検証を目的とするレジストリ内クラスター無作為化クロスオーバー試験であり、2019年4月~2020年12月の期間に、オーストラリアの31の病院で参加者の登録が行われた(オーストラリア連邦政府の助成を受けた)。 クラスターは、参加施設募集の前年に年間250件以上のTHAまたはTKAを行っている病院とされた。対象は、年齢18歳以上で、試験参加施設でTHAまたはTKAを受けた患者であった。術前に抗凝固薬の投与を受けた患者や、試験薬が禁忌の患者は除外された。 試験参加施設は、THA施行後は35日間、TKA施行後は14日間、アスピリン(100mg/日、経口投与)またはエノキサパリン(40mg/日、皮下投与)の投与を行う群に無作為に割り付けられた。また、試験参加施設は、無作為割り付けされた薬剤群で目標登録患者数が達成された時点で、試験薬をクロスオーバーするよう求められた。 主要アウトカムは、術後90日以内の症候性VTE(肺塞栓症[PE]、膝下または膝上の深部静脈血栓症[DVT])であり、非劣性マージンは1%とされた。副次アウトカムは、90日以内の死亡や大出血など6項目が設定された。解析は、クロスオーバー前の無作為化された薬剤群で行われた。 本試験は、2回目の中間解析(2020年12月)で停止規則が満たされたため、データ安全性監視委員会により患者の登録の中止が勧告され、早期中止となった。膝下DVTがアスピリン群で有意に多い 本試験の当初の目標登録患者数は1万5,562例(各群251例ずつ×31施設)で、9,711例(62%)(年齢中央値68歳、女性56.8%)が登録された時点で中止となった。このうち9,203例(95%)が試験を完遂した。アスピリン群に5,675例、エノキサパリン群に4,036例が割り付けられた。 術後90日以内に、256例で症候性VTEが発現し、PEが79例、膝上のDVTが18例、膝下のDVTは174例で認められた。 90日以内の症候性VTE発現率は、アスピリン群が3.45%(187/5,416例)、エノキサパリン群は1.82%(69/3,787例)であり(推定群間差:1.97%、95%信頼区間[CI]:0.54~3.41)、アスピリン群の非劣性基準は満たされず、エノキサパリン群で統計学的に有意な優越性が示された(p=0.007)。 主要アウトカムの構成要件のうち、90日以内のPE、PEとDVTの双方、膝上のDVTの発現には有意差はなかったが、全DVT(p=0.003)と膝下のDVT(p=0.004)がエノキサパリン群で有意に少なかった。 また、副次アウトカムである90日以内の死亡、大出血、再入院、再手術、6ヵ月以内の再手術、薬剤アドヒアランスには、両群間に有意な差は認められなかった。 著者は、「最近のVTE予防に関する国際的なコンセンサス会議のガイドラインでは、アスピリンの使用が強く推奨されているが、これは症候性VTEと無症候性VTEを区別していない後ろ向き観察研究を多く含むネットワークメタ解析に基づいている」と指摘し、「これらの結果の解釈では、両群間のVTE発生の差は主に膝下のDVTの差によるもので、膝下DVTは膝上DVTやPEに比べ臨床的な重要性が低いことから、今回の知見の臨床的重要性は明確ではない」としている。

29.

コロナvs.インフル、入院患者の血栓塞栓症リスク/JAMA

 米国・ペンシルベニア大学のVincent Lo Re III氏らによる、米国の公衆衛生サーベイランスシステムのデータを用いた後ろ向きコホート研究の結果、COVID-19入院患者はワクチンの導入前か実施期間中にかかわらず、2018/2019シーズンのインフルエンザ入院患者と比較し、入院後90日以内の動脈血栓塞栓症リスクに有意差はないものの静脈血栓塞栓症リスクが有意に高いことが示された。これまで、COVID-19患者における動脈血栓塞栓症および静脈血栓塞栓症の発生率は不明であった。JAMA誌2022年8月16日号掲載の報告。入院後90日以内の動脈/静脈血栓塞栓症の発症を比較 研究グループは、米国食品医薬品局センチネルシステムから4つの地域統合医療システムと2つの医療保険会社のデータを利用し、ワクチン導入前(2020年4月~11月)のCOVID-19入院患者4万1,443例、ワクチン実施期間中(2020年12月~2021年5月)のCOVID-19入院患者4万4,194例、ならびにCOVID-19の重複感染がない2018年10月~2019年4月のインフルエンザ入院患者8,269例(いずれも診断時に18歳以上)を抽出し、後ろ向きに解析した。 主要評価項目は、入院日から90日以内の動脈血栓塞栓症(急性心筋梗塞、虚血性脳卒中)または静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)の診断であった。追跡期間は、インフルエンザ患者は2019年7月まで、COVID-19患者は2021年8月までとした。 インフルエンザコホートとCOVID-19コホート間の差異に対応するため層別化した傾向スコアを作成し、重み付けCox回帰を用いて各COVID-19入院患者群のインフルエンザ入院患者群に対する血栓性イベントの補正後ハザード比(aHR)を算出し評価した。COVID-19入院患者で、静脈血栓塞栓症リスクが有意に高い 患者背景は、COVID-19患者群(計8万5,637例)が平均(±SD)年齢72±13.0歳、男性50.5%、インフルエンザ患者群がそれぞれ72±13.3歳、45.0%であった。 動脈血栓塞栓症の90日絶対リスクは、インフルエンザ患者群14.4%(95%信頼区間[CI]:13.6~15.2)に対し、ワクチン導入前COVID-19患者群15.8%(15.5~16.2)(群間リスク差:1.4%、95%CI:1.0~2.3)、ワクチン実施期間中COVID-19患者群16.3%(16.0~16.6)(群間リスク差:1.9%、95%CI:1.1~2.7)であった。インフルエンザ患者群と比較し、動脈血栓塞栓症リスクは、ワクチン導入前COVID-19患者群(aHR:1.04、95%CI:0.97~1.11)およびワクチン実施期間中COVID-19患者群(1.07、1.00~1.14)のいずれも、有意な上昇は認められなかった。 一方、静脈血栓塞栓症の90日絶対リスクは、インフルエンザ患者群5.3%(95%CI:4.9~5.8)に対し、ワクチン導入前COVID-19患者群9.5%(9.2~9.7)(群間リスク差:4.1%、95%CI:3.6~4.7)、ワクチン実施期間中COVID-19患者10.9%(10.6~11.1)(群間リスク差:5.5%、95%CI:5.0~6.1)であり、静脈血栓塞栓症リスクはインフルエンザ患者群と比較して、ワクチン導入前COVID-19患者群(aHR:1.60、95%CI:1.43~1.79)およびワクチン実施期間中COVID-19患者群(aHR:1.89、95%CI:1.68~2.12)のいずれも有意に高かった。

30.

深掘りしてみよう!ベバシズマブ併用化学療法【見落とさない!がんの心毒性】第14回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》63歳男性。1年前に大腸がん(臨床病期III期)を発症し、横行結腸切除術と術後化学療法を受けた。高血圧と下肢深部静脈血栓症(以下VTE)を合併しており、オルメサルタンとエドキサバンを服用している。最近になり、咳・息切れが現れ、精査したところ肺腺がんと診断された。胸水、肝転移および微少な脳転移があり、臨床病期IVB期であった。大血管浸潤や中枢気道への露頭病変は認められなかった。ドライバー遺伝子変異は陰性で、PD-L1 TPS 1%であった。血痰や神経症状はなく、Performance statusは0であった。一次治療として、中心静脈ポートを留置した上で、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+パクリタキセル+カルボプラチン療法(IMpower150レジメン)を行う方針とした。【問題】本症例のベバシズマブ投与に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選んでください。a. 肺腺がんの適応はない。b. 脳転移があり禁忌である。c. 治療中のVTEがあり禁忌である。d. 投与後は高血圧の悪化に注意する。e. 中心静脈ポートの留置は禁忌である。最新の『肺癌診療ガイドライン2021年度版』において、プラチナ製剤併用療法にベバシズマブを併用した治療を行うよう提案されています(CQ74 推奨の強さ: 2、エビデンスの強さ: A)。メタアナリシスでは、プラチナ製剤併用療法にベバシズマブを追加することでPFSやOSの延長が認められています12,13)。本症例で紹介したIMpower150レジメンは、化学療法未治療の非小細胞肺がん患者の、とくにEGFR遺伝子変異や肝転移を有する症例において良好な成績をおさめています14)。近年の研究15)において、VEGFには免疫系への関与が示唆されており、抗VEGF薬による免疫活性化と血管正常化による遊走促進といった機序により、免疫チェックポイント阻害薬との併用(複合免疫療法)においても重要な位置付けとなってきました。一方、本稿でも紹介した通り、ベバシズマブには薬理作用に準じた特徴的な副作用が存在するため、リスクベネフィットを十分考慮した上で投与を検討すべきと思われ、投与後については徹底した副作用モニタリングが必要となります。(謝辞)本文の作成に際し、新潟県立がんセンター新潟病院・呼吸器内科 三浦 理氏に監修いただきました。1)Johnson DH, et al. J Clin Oncol. 2004;22:2184-2191.2)Sandler AB, et al. J Clin Oncol. 2009;27:1405-1412.3)Socinski MA, et al. J Clin Oncol. 2009;27:5255-5261.4)Srivastava G, et al. J Thorac Oncol. 2009;4:333-337.5)Hurwitz HI, et al. J Clin Oncol. 2011;29:1757-1764.6)Zaborowska-Szmit M, et al. J Clin Med. 2020;9:1268.7)Nalluri SR, et al. JAMA. 2008;300:2277-2285.8)Yan LZ, et al. J Oncol Pharm Pract. 2018;24:209-217.9)Dahlberg SE, et al. J Clin Oncol. 2010;28:949-954.10)Zawacki WJ, et al. J Vasc Interv Radiol. 2009;20:624-627.11)吉野 真樹ほか.日本病院薬剤師会雑誌. 2012;48:307-311.12)Lima AB, et al .PLoS One. 2011;6:e22681.13)Soria JC, et al. Ann Oncol. 2013;24:20-30.14)Socinski MA, et al. N Engl J Med. 2018;378:2288-2301.15)Manegold C, et al. J Thorac Oncol. 2017;12:194-207.講師紹介

31.

トラネキサム酸、高用量で心臓手術関連の輸血を低減/JAMA

 人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者では、トラネキサム酸の高用量投与は低用量と比較して、同種赤血球輸血を受けた患者の割合が統計学的に有意に少なく、安全性の主要複合エンドポイント(30日時の死亡、発作、腎機能障害、血栓イベント)の発生は非劣性であることが、中国国立医学科学院・北京協和医学院のJia Shi氏らが実施した「OPTIMAL試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2022年7月26日号に掲載された。中国4施設の無作為化試験 OPTIMAL試験は、人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者ではトラネキサム酸の高用量は低用量に比べ、有効性が高く安全性は非劣性との仮説の検証を目的とする二重盲検無作為化試験であり、2018年12月~2021年4月の期間に、中国の4施設で参加者の登録が行われた(中国国家重点研究開発計画の助成による)。 対象は、年齢18~70歳、人工心肺を用いた待機的心臓手術を受ける予定で、本試験への参加についてインフォームド・コンセントを受ける意思と能力を持つ患者であった。患者はいつでも試験参加への同意を撤回できるとされた。 被験者は、高用量トラネキサム酸または低用量トラネキサム酸の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。高用量群では、麻酔導入後、トラネキサム酸30mg/kgがボーラス静注され、術中は維持量16mg/kg/時がポンプ充填量2mg/kgで投与された。低用量群は、トラネキサム酸10mg/kgがボーラス静注され、術中は維持量2mg/kg/時がポンプ充填量1mg/kgで投与された。 有効性の主要エンドポイントは、手術開始後に同種赤血球輸血を受けた患者の割合(優越性仮説)とされ、安全性の主要エンドポイントは、術後30日の時点での全死因死亡、臨床的発作(全般強直間代発作、焦点発作)、腎機能障害(KDIGO基準のステージ2または3)、血栓イベント(心筋梗塞、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症、肺塞栓症)の複合であった(非劣性仮説、非劣性マージン5%)。副次エンドポイントには、安全性の主要エンドポイントの各構成要素など15項目が含まれた。輸血:21.8% vs.26.0%、安全性:17.6% vs.16.8% 3,079例(平均年齢52.8歳、女性38.1%)が無作為化の対象となり、このうち3,031例(98.4%)が試験を完了した。高用量群に1,525例、低用量群に1,506例が割り付けられた。追跡期間中に48例(高用量群23例、低用量群25例)が脱落し、安全性の主要複合エンドポイントの評価から除外された。 手術開始から退院までに、少なくとも1回の同種赤血球輸血を受けた患者は、高用量群が1,525例中333例(21.8%)であり、低用量群の1,506例中391例(26.0%)に比べ、有意に割合が低かった(群間リスク差[RD]:-4.1%、片側97.55%信頼区間[CI]:-∞~-1.1、リスク比:0.84、片側97.55%CI:-∞~0.96、p=0.004)。 また、安全性の主要複合エンドポイントが発現した患者は、高用量群が265例(17.6%)、低用量群は249例(16.8%)と、高用量群の低用量群に対する非劣性が確認された(群間RD:0.8%、片側97.55%CI:-∞~3.9、非劣性検定のp=0.003)。 同種赤血球輸血量中央値は、高用量群が0.0mL(四分位範囲[IQR]:0.0~0.0)、低用量群は0.0mL(0.0~300.0)と、高用量群で有意に少なかった(群間差中央値:0.0mL、95%CI:0.0~0.0mL、p=0.01)。一方、新鮮凍結血漿や血小板、クリオプレシピテートの輸注量には両群間に差はなかった。 術後の胸部ドレナージによる総排液量、出血による再手術、人工呼吸器の使用期間、集中治療室(ICU)入室期間、術後入院期間にも、両群間で差は認められなかった。また、心筋梗塞の30日リスクや、腎機能障害、虚血性脳卒中、肺塞栓症、深部静脈血栓症、死亡の発生率にも有意な差はみられなかった。 発作は、高用量群が15例(1.0%)、低用量群は6例(0.4%)で発現したが、トラネキサム酸の用量が増加しても発作が有意に多くなることはなかった(群間RD:0.6%、95%CI:-0.0~1.2、相対リスク:2.47、95%CI:0.96~6.35、p=0.05)。 著者は、「トラネキサム酸の高用量と低用量のどちらを用いるかは、開心心臓手術と非開心心臓手術における手術関連の出血リスクによって決まる可能性がある」としている。

32.

オンデキサ発売、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤/アレクシオンファーマ・アストラゼネカ

 アストラゼネカは5月25日付のプレスリリースで、アレクシオンファーマが製造販売承認を取得したオンデキサ静注用 200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組換え]、以下:オンデキサ)の販売を開始したことを発表した。オンデキサ投与後12時間で患者の79.6%に有効な止血効果 直接作用型第Xa因子阻害剤は、血栓が形成されないよう血液の凝固を防ぐ一方で、生命を脅かす重大な出血のリスクを高める可能性がある。しかし、大出血を起こした直接作用型第Xa因子阻害剤を服用している患者に対して中和剤はこれまでなく、高いアンメットニーズが存在していた。 オンデキサは、血液凝固に関与するヒト血液凝固第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質であり、国内で唯一第Xa因子阻害剤に結合し、その抗凝固作用を速やかに中和する作用をもつ薬剤として承認された。 オンデキサ承認の根拠となった国際共同第IIIb/IV相14-505(ANNEXA-4)試験では、直接作用型第Xa因子阻害剤の投与を受けており、急性の大出血を起こした患者を対象に、オンデキサの有効性(第Xa因子阻害剤の抗第Xa因子活性の中和効果、および止血効果)と安全性が評価された。 オンデキサ承認の根拠となったANNEXA-4試験の主な結果は以下の通り。・オンデキサはいずれの第Xa因子阻害剤を投与した患者でも、本剤を静脈内投与後には抗第Xa因子活性を速やかかつ有意に低下させた。・オンデキサ投与後12時間の時点で患者の79.6%(258/324例)に有効な止血効果が確認された。・オンデキサの副作用の発現頻度は、11.9%(57/477例)で、主な副作用は、虚血性脳卒中1.5%(7/477例)、頭痛1.0%(5/477例)、脳血管発作、心筋梗塞、肺塞栓症、発熱各0.8%(4/477例)、脳梗塞、塞栓性脳卒中、心房血栓症、深部静脈血栓症、悪心各0.6%(3/477例)であった。 オンデキサは、第Xa因子阻害剤であるアピキサバンまたはリバーロキサバン投与中に大出血を起こした患者に対する中和剤として、2018年5月に米国食品医薬品局より迅速承認制度による承認を受け、2019年4月に欧州委員会から条件付き承認を取得した。日本でオンデキサは、2019年11月19日付で希少疾病用医薬品に指定されている。

33.

新型コロナによる血栓・出血リスク、いつまで高い?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は深部静脈血栓症、肺塞栓症および出血のリスク因子であることが、スウェーデンにおけるCOVID-19の全症例を分析した自己対照ケースシリーズ(SCCS)研究およびマッチドコホート研究で示された。スウェーデン・ウメオ大学のIoannis Katsoularis氏らが報告した。COVID-19により静脈血栓塞栓症のリスクが高まることは知られているが、リスクが高い期間やパンデミック中にリスクが変化するか、また、COVID-19は出血リスクも高めるかどうかについては、ほとんどわかっていなかった。著者は、「今回の結果は、COVID-19後の静脈血栓塞栓症の診断と予防戦略に関する推奨に影響を与えるだろう」とまとめている。BMJ誌2022年4月6日号掲載の報告。スウェーデンのCOVID-19全患者約105万7千例を解析 研究グループは、スウェーデン公衆衛生庁の感染症サーベイランスシステム「SmiNet」を用い、2020年2月1日~2021年5月25日の期間における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検査陽性例(初感染者のみ)の個人識別番号を特定するとともに、陽性者1例につき年齢、性別、居住地域をマッチさせた陰性者4例を特定し、入院、外来、死因、集中治療、処方薬等に関する各登録とクロスリンクした。 SCCS研究では、リスク期間(COVID-19発症後1~7日目、8~14日目、15~30日目、31~60日目、61~90日目、91~180日目)における初回深部静脈血栓症、肺塞栓症または出血イベントの発生率比(IRR)を算出し、対照期間(2020年2月1日~2021年5月25日の期間のうち、COVID-19発症の-30~0日とリスク期間を除いた期間)と比較。マッチドコホート研究では、COVID-19発症後30日以内における初回および全イベントのリスク(交絡因子[併存疾患、がん、手術、長期抗凝固療法、静脈血栓塞栓症の既往、出血イベント歴]で補正)を対照群と比較した。 解析対象は、SCCS研究ではCOVID-19患者105万7,174例、マッチドコホート研究では対照407万6,342例であった。COVID-19発症後数ヵ月間は有意に高い 対照期間と比較し、深部静脈血栓症はCOVID-19発症後70日目まで、肺塞栓症は110日目まで、出血は60日日目までIRRが有意に増加した。とくに、初回肺塞栓症のIRRは、COVID-19発症後1週間以内(1~7日)で36.17(95%信頼区間[CI]:31.55~41.47)、2週目(8~14日)で46.40(40.61~53.02)であった。また、COVID-19発症後1~30日目のIRRは、深部静脈血栓症5.90(5.12~6.80)、肺塞栓症31.59(27.99~35.63)、出血2.48(2.30~2.68)であった。 交絡因子補正後のCOVID-19発症後1~30日目のリスク比は、深部静脈血栓症4.98(95%CI:4.96~5.01)、肺塞栓症33.05(32.8~33.3)、出血1.88(1.71~2.07)であった。率比は、重症COVID-19患者で最も高く、スウェーデンでの流行の第2波および第3波と比較し第1波で高かった。同期間におけるCOVID-19患者の絶対リスクは、深部静脈血栓症0.039%(401例)、肺塞栓症0.17%(1,761例)、出血0.101%(1,002例)であった。

34.

学問的に新しい知見はあるのか?(解説:野間重孝氏)

 WellsスコアはWells PSにより2007年にまとめられた深部静脈血栓症のスクリーニングスコアで(Wells PS, et al. JAMA. 2006;295:199-207.)、これと血中D-ダイマー値を組み合わせることにより相当程度確実に深部静脈血栓症のスクリーニングを行うことができる。この有用性は2014年にオランダのGreersing GJらのメタ解析により確かめられた。これは以前ジャーナル四天王でも取り上げられたので、ご覧になった方も多いのではないかと思う(「深部静脈血栓症の除外診断で注意すべきこと/BMJ」)。少し注意を要するとするのは、Wellsスコアの項目については施設により一部改変されている場合があること、判定法には2段階法と3段階法があることであるが、本論文ではWellsスコア原法の3段階解釈+D-ダイマー値という最もオーソドックスな方法を採用している。今回の研究は、その方法により安全に深部静脈血栓症のスクリーニングが可能であること、かつそれにより下肢静脈エコー検査の施行率を47%減らすことができることを前向き試験で示したものである。 下肢静脈血栓症の頻度はアジアでは、台湾で行われた調査で人口10万人当たり16.5人であったのに対し、欧米では多くの地域で100人を超え、200人に迫る地域も珍しくない。わが国の発生頻度については正確な数字が提出されていないが、担がん患者や寝たきり老人、長期臥床者、ある種の術後患者などを除く、危険因子を持たない者での発生ということになると、いわゆるエコノミー症候群が問題にされる程度でしかない。わが国ではWellsスコアといってもあまり利用したことがない医師が多いのではないかと思われるが、これだけ発生頻度が異なれば、それは当たり前といえるかもしれない。本論文では入院患者、抗凝固療法中の患者、妊婦、肺塞栓症疑いの患者が除外されていることを限界としているが、深部静脈血栓症のスクリーニング法研究でこうした危険因子・修飾因子を持った患者を除外するのは当然だと考えられる。ここで妊婦が問題にされていることを意外に思われた方もいらっしゃると思うが、欧米では妊婦の死因の第1位が肺塞栓症なのである。これに対して、わが国では命に関わらない程度のものまで含めても、塞栓症は1,000例に1例程度の頻度にとどまっている。 同時に、わが国と欧米における臨床検査に対する考え方の違いやその理由も考えられなければならないだろう。わが国ではスクリーニングの段階でスコアリングを用いている医師そのものが少ないのではないかと思うが、それとは別に、多くの現場医師たちは下肢静脈エコーの簡易チェックや、場合によって(造影まで含めて)CT検査などを行うことをためらわないのではないかと思う。これは医療に対する考え方、疾病の頻度によるものだろうが、医師が自分の身を守るという側面もあることは忘れられてはならない。そう考えれば発生頻度の高い欧米において、有名誌にこうした論文が掲載されることは、現場の医師たちを守る意味も持っているとも考えられよう。ただし、こうした際に必ず付け加えているのだが、現場の医師たちの行動パターンの決定因子として医療保険制度の問題を無視することができない。わが国のように医療保険制度の充実した国においてはある程度over-examinationになったとしても、経済的に許容されるのに対し、そうでない国では時として社会的指弾の対象になりかねないからである。 この研究はあらためてWellsスコア+血中D-ダイマー値の組み合わせによるスクリーニングの確実性・安全性を示したものではあるが、上述したGreersing GJらのメタ解に、とくに新しい知見を加えたものとは思われない。確かに大規模な前向き研究をすることには常に一定の意義があるが、すでにある程度の確度をもって結論の出ている問題について実施することの意義はどれだけあるのだろうか。この研究が積極的に付け加えた知見は、47%の下肢静脈エコー検査を安全に省略できるという一点だったといえる。多忙をきわめる医療現場において診察効率、経済効率が上がることは重要なことではあるが、(上述した議論とはやや矛盾するが)こうした有名誌に掲載されるだけの価値のある研究であるかには疑問がある。 このところの傾向として、純粋学問的に新しい知見を付け加えるというよりも、診断効率や経済効率を主題にした論文が有名誌に採用されるケースが目立つ。評者などはこうした傾向に首をかしげるものなのであるが、これは決して以前基礎研究者であった者の偏見というわけではないと思うのだが、いかがだろうか。

35.

検査前確率+DダイマーでDVT診断向上/BMJ

 深部静脈血栓症(DVT)の診断において、検査前臨床的確率とDダイマーを組み合わせた戦略は、超音波検査の実施回数を減少させつつDVTのリスクが低い患者群を特定できることが、カナダ・マックマスター大学のClive Kearon氏らが実施した前向き試験「Designer D-Dimer Deep vein thrombosis(4D)試験」で示された。これまでのコホート研究で、検査前臨床的確率が低いまたはWellsスコアが低くDダイマー陰性の患者はDVTを除外できることの安全性が示唆されていた。BMJ誌2022年2月15日号掲載の報告。低確率+1,000ng/mL未満、中確率+500ng/mL未満はDVTを除外 研究グループは、カナダの大学病院10施設の救急診療部または外来を受診した、DVTの症状または兆候を有する患者を前向きに登録し、3ヵ月間追跡した。 登録時、Wellsスコアを用いてDVT検査前臨床的確率を低確率(スコア:-2~0)、中確率(1、2)、高確率(3以上)に分類するとともにDダイマーを測定し、低確率でDダイマー1,000ng/mL未満、または中確率でDダイマー500ng/mL未満の患者は追加検査なしでDVTを除外できると判断。その他のすべての患者には超音波検査を実施した。最初の超音波検査が陰性で、低~中確率かつDダイマー>3,000ng/mLまたは高確率かつDダイマー>1,500ng/mLの患者には、1週間後に再度超音波検査を行った。超音波検査でDVTが認められた患者には、抗凝固療法を実施した。 主要評価項目は、3ヵ月時の症候性静脈血栓塞栓症とした。4D診断アルゴリズムで、超音波検査の必要性がほぼ半減 2014年4月~2020年3月の期間に1,508例の登録と解析が行われた。1,508例中173例(11.5%)が今回の4D診断アルゴリズムによりDVTと診断された(168例は来院日の超音波検査で、5例は1週間後の再検査で確認)。DVTと診断されず抗凝固療法を受けなかった1,275例のうち、8例(0.6%、95%信頼区間[CI]:0.3~1.2)が、追跡期間中に静脈血栓塞栓症を発症した。 従来のDVT診断戦略と比較すると、今回のアルゴリズムでは超音波検査の平均回数が患者1例当たり1.36回から0.72回に減少し、差は-0.64回(95%CI:-0.68~-0.60)で、相対的な47%の減少に相当した。 なお著者は、入院患者、抗凝固療法中の患者、妊婦、肺塞栓症疑いの患者などが除外されていることなどを研究の限界として挙げている。

36.

事例043 エドキサバン(リクシアナOD錠)の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説事例は他院から紹介を受けて3ヵ月ごとに当院で継続フォローしていた患者。紹介を受けた通りに処方を継続していたところ、9月再診時に処方したエドキサバン(商品名:リクシアナOD錠)60mg(以降「同剤」と言う)が、保険診療上で医学的に不適当を示すC事由(医学的理由による不適当)にて査定となりました。診療録を確認したところ、前回6月受診時にも同剤が処方されていました。そのときには査定はありませんでした。さらに査定の原因を調べるため、同剤の添付文書を参照したところ、対象疾病は「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症)」とありました。「静脈血栓症」のみでは認められなくなったのではないかと考えました。しかし、査定理由がC事由であったために他に原因があるのではないかと考え、さらに添付文書を確認してみました。すると「禁忌」の記述の中に、腎不全があり、同剤60mgは、「体重60kg超えに投与し、腎機能、併用薬に応じて1日1回30mgに減量する」と記載がありました。レセプトに「慎重投与」とコメントはありましたが体重の記載はありません。したがって、審査機関のコンピュータチェックの内容が添付文書に基づくように厳しくなり、かつコメント記入時に行われる目視審査でも投与要件の記載が不足しているという複合的な理由により、医学的に不適当とするC事由が適用されたものと考えました。同じ期間の同様の事例で「糖尿病性網膜症」の既往患者も査定対象となっていました。医師には事情を説明し、他院からの処方であっても添付文書に沿って処方をいただくこと、必要があれば検査結果などを添えて審査の判断をしてもらうことで承諾をいただきました。また、レセプトチェックシステムには、同剤60mgには適切な病名と体重コメントが必要であることがチェックできるように登録して査定対策としました。

37.

criteria検討に名を借りた医療経済検討なのではないのか?(解説:野間重孝氏)

 疫学について細論することは本稿の目的とするところではないので、日本循環器学会のガイドライン中の疫学の欄をご参照いただきたい(『肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)』)。骨子は、欧米においては静脈血栓・肺塞栓症が虚血性心疾患、脳血管疾患に次ぐ3大致死的血管疾患であるのに対して、わが国における肺塞栓症の発生が100万人当たり30人に達しない程度の頻度であるという事実である。近年人口の高齢化により血栓性疾患の頻度が増したとはいえ、それでも発生率は単位人口当たり欧米の8分の1以下という頻度にとどまっている。 とくにこの差は産科領域で大きい。欧米における妊婦の死亡原因の第1位が肺塞栓症であるのに対し、わが国における発生頻度は軽度のものまで含めても1,000件に1件(0.1%)にとどまるからである。産科領域で造影CT、核医学検査が行われた場合の胎児の被曝の問題は軽視できるものではない。このような被曝や侵襲を伴う検査に訴えることなく、血液検査など、できるだけ非侵襲的かつ簡便な検査で診断をつけることが、大きな課題となることが理解されるだろう。 ただ、もうひとつの重要な背景として(たびたび指摘していることだが)、国民皆保険制度の存在がある。わが国で診療を行っている限り、怪しいと疑った患者に対して(その診断精度に対する議論はあるにせよ)造影CTや肺換気・血流シンチを施行することにためらいはないだろう。しかし多くの諸外国において、こうした高価な検査は簡単には施行できないのが現実なのである。 著者らは、議論はあるとしながらも主なPEの診断法を3つにまとめて紹介している。これは参考になるのでここでもまとめ直してみよう。1)従来の(最もオーソドックスな)アルゴリズム: 検査前確率が高いと考えられる患者で、閾値を越えるD-dimer値の患者に造影CTないし肺換気・血流シンチを行う。2)検査前確率が低い患者に対して: PERC(PE rule-out criteria)8項目([1]年齢≧50歳、[2]心拍数≧100/min、[3]動脈血酸素飽和度<95%、[4]片側の下肢の腫脹、[5]血痰、[6]直近の外傷or手術、[7]PEや深部静脈血栓症の既往、[8]エストロゲン製剤使用)に該当しない、もしくはD-dimer値のcutoff値に年齢×10ng/mLを使用する。3)YEARS rule: YEARS criteria([1]PEが最も可能性がある診断、[2]深部静脈血栓症の臨床症状、[3]血痰)を満たさない患者に対してD-dimer cutoff値1,000ng/mLを併用する。 一見してわかるように、criteriaといいつつ、医師の主観がかなり影響することがわかる。どの方法によるにせよ、医師がどの程度積極的にPEを疑うか否かがキーポイントになっていることには変わりがないからである。なお、YEARS ruleはランダム化試験で検証されているわけではないことには注意が必要だろう。 このような現状に鑑み、本研究は救急部(ED)においてPERC ruleで除外されていないPE疑いの患者に対し、YEARS ruleと年齢調整D-dimer値を併用することによりPEが安全に除外できるかどうかを検討したものである。対照は上記の従来型の診断アルゴリズムである。ただ、ここまでお読みの読者の多くが「ちょっと待てよ」と思っていらっしゃるのではないだろうか。なぜなら、医師の主観が大きく介入するという点においては変わるところがないからである。本研究のプロトコールには確かに議論の余地がある。primary outcomeが3ヵ月後の静脈血栓症の有無であるのは適当か、secondary outcomeに「あらゆる原因による死亡」「3ヵ月後におけるあらゆる原因による入院」が含まれていることは適当かなどがまず挙げられるだろう。またsecondary outcomeには「ED滞在時間」が含まれているが、重症病変を診断することに時間の経済が含まれるのだろうか。こうした疑問はあるものの、結局、医師の主観を排除した診断アルゴリズムを模索することになっていないという点がすべてであると考える。 翻ってわが国のEDの現場を考えてみてほしい。胸痛と息苦しさを訴えて来院した患者に対して、心電図、胸部レントゲン写真、採血、動脈血酸素飽和度などの一通りの検査(場合により心エコー図検査も含む)がルーチンに行われないというケースは考えられない。そしてEDの通常採血項目にFDPやD-dimerが含まれていないというケースはないと言ってよい。そして、どれか1つにでも疑わしい所見があった場合、適切な画像診断を緊急で行うことを躊躇する救急医はいないと思う。このようなやり方について「あまりにもマニュアル化され過ぎている」とか「余計な検査をするケースが多い」という批判があることは承知しているが、これはすべて医師の主観をできるだけ排除して、客観的な診断を行うことを目的としているのである。 本研究の結果の部分に、胸部画像診断を行った例がintervention群で22.9%、control群で37.2%であり、14.3%の減少幅が得られたとあるが、結局本研究の目的はここにあったのではないかというのは、うがち過ぎではないだろう。結局、上述した国民皆保険問題に帰り着く。医療経済の追求が、多くの国・地域において大きな課題なのである。かつCT検査と私たちは簡単に言うが、世界のCTの10台に1台はわが国にあるといわれる。つまりここには医療資源の問題も絡んでくるのである。上記したように、このプロトコールでは医師の主観を排除しているとは言えないと批判したが、その根本には医療経済の問題をcriteriaの議論にすり替えていることがあると言ったら言い過ぎだろうか。 論文評のまとめとしてはいささか逸脱したものと言われるかもしれないが、いろいろと批判はあるもののわが国の医療体制は世界的に見て誇るべきものであり、この長い経済停滞の時期を乗り越えて医療経済をいかに守っていくかが、私たちに課せられた課題であることを痛感したものである。近年わが国では年金制度の議論ばかりがやかましいが、健康保険制度を維持することこそ、私たちが子供たちの世代に残せる大きく貴重な財産であることを、恐縮ながらこの場をお借りして再度訴えたいと思う。

38.

アトピー性皮膚炎を全身治療する経口JAK阻害薬「サイバインコ錠50mg/100mg/200mg」【下平博士のDIノート】第89回

アトピー性皮膚炎を全身治療する経口JAK阻害薬「サイバインコ錠50mg/100mg/200mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「アブロシチニブ(商品名:サイバインコ錠50mg/100mg/200mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、全身療法が可能な経口剤であり、既存治療で効果不十分な中等症~重症のアトピー性皮膚炎の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎(AD)の適応で、2021年9月27日に承認され、同年12月13日に発売されました。なお、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間施行しても十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者に使用します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、アブロシチニブとして100mgを1日1回経口投与します。患者の状態に応じて200mgを1日1回投与することもできます。なお、中等度の腎機能障害(30≦eGFR<60)では50mgまたは100mgを1日1回投与し、重度の腎機能障害(eGFR<30)では50mgを1日1回経口投与します。本剤投与時も保湿外用薬は継続使用し、病変部位の状態に応じて抗炎症外用薬を併用します。なお、投与開始から12週までに治療反応が得られない場合は中止を考慮します。<安全性>AD患者を対象に本剤を投与した臨床試験の併合解析において、発現頻度2%以上の臨床検査値異常を含む有害事象が確認されたのは3,128例中2,294例でした。主な副作用は、上咽頭炎、悪心、アトピー性皮膚炎、上気道感染、ざ瘡、筋骨格系および結合組織障害などでした。なお、重大な副作用として感染症(単純ヘルペス[3.2%]、帯状疱疹[1.6%]、肺炎[0.2%])、静脈血栓塞栓症(肺塞栓症[0.1%未満]、深部静脈血栓症[0.1%未満])、血小板減少(1.4%)、ヘモグロビン減少(ヘモグロビン減少[0.9%]、貧血[0.6%])、リンパ球減少(0.7%)、好中球減少症(0.4%)、間質性肺炎(0.1%)、肝機能障害、消化管穿孔(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、皮膚バリア機能を低下させたり、アレルギー炎症を悪化させたりするJAKという酵素の産生を抑えることで、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。2.本剤には免疫を抑制させる作用があるため、発熱や倦怠感、皮膚の感染症、咳が続く、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの感染症の症状に注意し、気になる症状が現れた場合は、すみやかにご相談ください。3.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は主治医に相談してください。4.(女性に対して)この薬を服用中、および服用中止後一定期間は適切な避妊をしてください。5.これまで使用していた保湿薬は続けて使用してください。<Shimo's eyes>近年、ADの新しい治療薬が次々と発売されており、難治例における治療が大きく変化しつつあります。本剤と同じ経口JAK阻害薬のほかにも、ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体製剤や外用JAK阻害薬などがすでに発売されています。本剤は、ADの適応を得た経口JAK阻害薬として、バリシチニブ(商品名:オルミエント錠)、ウパダシチニブ水和物(同:リンヴォック錠)に続く3剤目となります。また、12歳以上のアトピー性皮膚炎患者に使用できる製剤としてはウパダシチニブに続いて2剤目となります。相互作用については、フルコナゾール、フルボキサミンなどの強力なCYP2C19阻害薬、あるいはリファンピシンのような強力なCYP2C19および CYP2C9誘導薬との併用に注意が必要です。これらの薬剤と併用する場合、可能な限りこれらの薬剤をほかの類薬に変更する、または休薬するなどの対応を考慮します。経口JAK阻害薬は、肺炎、敗血症、ウイルス感染などによる重篤な感染症や結核の顕在化および悪化への注意が警告に記載されています。生ワクチンの接種は控え、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化にも注意する必要があります。調剤時の注意に関しては、抗うつ薬/慢性疼痛治療薬デュロキセチン(商品名:サインバルタカプセル)と販売名が類似していることから、取り違え防止案内が発出されています。薬剤の登録名や調剤棚の表示などを工夫して、取り違えを防ぎましょう。本剤は、米国においてブレークスルー・セラピー(画期的治療薬)の指定を受け、優先審査品目に指定されています。参考1)PMDA 添付文書 サイバインコ錠50mg/サイバインコ錠100mg/サイバインコ錠200mg

39.

新規経口抗凝固薬milvexianが術後VTE予防に有効/NEJM

 新規経口第XIa因子阻害薬milvexianは、人工膝関節置換術後の静脈血栓塞栓症予防に有効であり、出血のリスクは低いことが示された。カナダ・マックマスター大学のJeffrey I. Weitz氏らが、エノキサパリンと比較するアダプティブデザインの第II相無作為化並行群間比較試験「AXIOMATIC-TKR試験」の結果を報告した。静脈および動脈血栓塞栓症の予防と治療において、第XIa因子阻害薬は従来の抗凝固薬より効果的で出血も少ない可能性が示されていた。著者は、「milvexianの有効性と安全性については、さらなる研究が必要である」とまとめている。NEJM誌オンライン版2021年11月15日号掲載の報告。milvexian 1日2回投与4用量、1日1回投与3用量vs.エノキサパリン 研究グループは、待機的人工膝関節置換術を受ける50歳以上の患者1,242例を、術後にmilvexian 25mg/50mg/100mg/200mgを1日2回投与、または25mg/50mg/200mgを1日1回投与、またはエノキサパリン40mgを1日1回投与する7群のいずれかに無作為に割り付けた(非盲検)。 有効性の主要評価項目は静脈血栓塞栓症(無症候性深部静脈血栓症、確定診断された症候性静脈血栓塞栓症、全死因死亡の複合)で、安全性の主要評価項目は出血とした。25~200mg 1日2回投与は、エノキサパリンよりVTEの発生が有意に低い 静脈血栓塞栓症は、エノキサパリン群54/252例(21%)に対して、milvexianの1日2回投与集団では25mg群27/129例(21%)、50mg群14/124例(11%)、100mg群12/134例(9%)、200mg群10/131例(8%)で発生した。milvexianの1日1回投与集団では25mg群7/28例(25%)、50mg群30/127例(24%)、200mg群8/123例(7%)であった。 milvexian 1日2回投与集団では有意な用量反応性が認められ、同集団の静脈血栓塞栓症の発生率は12%(63/518例)で、事前に設定した基準値である30%より有意に低かった(片側p<0.001)。 すべての出血(重症度を問わない)の発生は、milvexian群38/923例(4%)、エノキサパリン群12/296例(4%)であった。大出血または臨床的に重要な非大出血はそれぞれ1%および2%に認められ、重篤な有害事象はそれぞれ2%および4%報告された。

40.

がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?【見落とさない!がんの心毒性】第8回

がん患者における血栓症は、頻度が多いにも関わらず見逃されやすい病気です。慎重な身体診察と適切な検査を行うことで、早期診断、早期治療を行うことが重要です。近年、がん患者の血栓症の発症頻度は増加傾向にあり、がん関連血栓症(CAT :Cancer-Associated Thrombosis)と呼ばれて注目されています。とくに、深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)を合わせた静脈血栓塞栓症(VTE :venous thromboembolism)の頻度が高く、入院中のがん患者では約20%に起こると報告されています1)。主な原因は、がんや治療による血液凝固能の異常な活性化、長期臥床や血管の圧迫などによる血流のうっ滞、検査や治療による血管内皮障害により静脈血栓が形成されやすくなることです。さらに、診断率の向上、がん治療の長期化、がん患者の高齢化、心血管毒性を有する抗がん剤の使用なども増加の一因と考えられています。一方、がん患者の動脈血栓塞栓症の頻度は1%以下ですが、脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈疾患などの重篤な病態の原因となり注意が必要です。本稿では、VTEの診断と治療のポイントを解説します。症状と診断VTEを診断するための重要なポイントは、症状を見逃さないように注意深く病歴を聴取し、全身の診察を怠らないことです。DVTの症状では、四肢の腫脹、疼痛、皮膚の色調変化が重要ですが、時に症状に乏しく突然のPTEを来たして診断されることもあります。PTEの症状では、呼吸困難、胸痛が多く、そのほかに咳嗽、喘鳴、動悸、失神などが見られます。急性PTEは致死率が高いため、Dダイマー上昇などの検査所見からVTE を疑うことも重要です。(表1)にDVT、PTEの診断を予測する代表的な「Wellsスコア」「改訂ジュネーブスコア」を示します。「Wellsスコア」では合計点数が3点以上では高リスクで精査が必要ですが、2点以下(低or中リスク)でDダイマー陰性であればDVTの可能性は低くなります2)。「改訂ジュネーブスコア」においてPTEの頻度は1点以下で7.7%(95%信頼区間[CI]:5.2~10.8)、2~4点で29.4%(%同:26.6~33.1)、5点以上では64.3%(同%:48.0~78.5) と予測されています3)。日本のガイドラインでも、問診・診察・Dダイマー検査を行い、DVTが疑われる場合は下肢静脈超音波検査・造影CT、PTEの場合は胸部造影CTなどで確定診断を行うことを推奨しています4)。(表1)DVT、PTE診断における代表的なスコア画像を拡大するVTEのリスク因子がん患者におけるVTE発症のリスク因子は(表2)に示すように患者・がん・治療関連の因子に大別されます。先天性血栓素因やVTEの既往などの一般的な患者関連リスク因子に加えて、がん関連またはがん治療関連リスク因子が報告されています。がんの原発部位別にみると、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍でVTEのリスクが高く、組織型、進行度も重要です。また、大手術や中心静脈カテーテル留置もリスクを上げます5)。化学療法中のがん患者は、非がん患者と比べるとVTE発症のリスクが6~7倍上昇すると報告され6)、とくに血管新生阻害薬、血液がんの治療に用いる免疫調整薬、ホルモン療法(タモキシフェンなど)では注意が必要です。(表2)がん患者のVTE発症リスク因子画像を拡大する管理法・治療法VTEの標準治療は抗凝固療法です。本邦で使用可能な抗凝固療法には点滴製剤である未分画ヘパリン(海外では低分子ヘパリンが推奨)、経口製剤としてワルファリン、直接経口抗凝固薬(DOAC)のアピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバンなどがあり、経口製剤単独もしくは点滴製剤と組み合わせて治療を行います。DOACは、がん患者を対象とした大規模臨床試験(Hokusai-VTE Cancer7)、CARAVAGGIO8)、SELECT-D9))において、VTE再発や重篤な出血に関して低分子ヘパリンと比較して遜色ない良好な成績が示されたことから、海外の最新のガイドラインではがん患者の急性VTEに対する治療として推奨されています10)。しかし、がん患者では抗がん剤と抗凝固薬との薬物相互作用(例:ワルファリンと5−FU)、抗凝固療法による出血リスクの上昇など、患者ごとに慎重な抗凝固療法の適応判断と薬剤選択を検討する必要があります。抗凝固療法の継続期間は、がん患者では再発リスクの観点から3ヵ月以上の長期的な使用が推奨されています。(表3)DOAC3剤とワルファリンの注意点画像を拡大するそのほかの治療として、血行動態が不安定となるような重症PTEに対して血栓溶解療法(商品名:クリアクター)や外科的血栓除去術を行うこともあります。また抗凝固療法が困難な症例や、抗凝固療法を行っているにもかかわらずVTEが増悪する症例に対しては下大静脈フィルターを留置し突然死を予防することもあります。VTEを発症した症例において、がん治療を中断・中止すべきかどうかは、個々の例の状況に応じて、腫瘍内科医と循環器内科医とが緊密に連携して検討する必要があります。1)Lecumberri R, et al. Thromb Haemost. 2013;110:184-190.2)Wells PS, et al. Lancet.1995;345:1326-1330.3)Klok FA, et al. Arch Intern Med. 2008;168:2131-2136.4)日本循環器学会編. 日本循環器学会編. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン)2017年改訂版)5)Ay C, et al. Thromb Haemost. 2017;117:219-230.6)Blom JW, et al. JAMA. 2005,;293:715-722.7)Raskob GE, et al. N Engl J Med. 2018;378:615-624.8)Agnelli G, et al. Engl J Med. 2020;382:1599-1607.9)Young AM, et al. J Clin Oncol. 2018;36:2017-2023.10)Stevens SM, et al. Chest. 2021 Aug 2.[Epub ahead of print]講師紹介

検索結果 合計:180件 表示位置:21 - 40