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第280回 7対1でも安泰ではない? 急性期病院A・Bが迫る機能再編/中医協

<先週の動き> 1.7対1でも安泰ではない? 急性期病院A・Bが迫る機能再編/中医協 2.診療報酬46億円返還、医師14人が資格喪失、不正請求は「見逃されない」時代へ/厚労省 3.緊急避妊薬(アフターピル)が国内初の市販化、2月から全国販売へ/厚労省 4.相次ぐ汚職でトップが謝罪―卓越大認定に暗雲、不退転の改革へ/東大 5.臓器移植改革が始動 ドナー関連業務を地域法人に移行/藤田医大 6.介護事業者倒産が過去最多176件 突出する訪問介護の経営危機/厚労省 1.7対1でも安泰ではない? 急性期病院A・Bが迫る機能再編/中医協2026年度の診療報酬改定で中央社会保険医療協議会(中医協)は、新たに「急性期病院A・B(急性期病院入院基本料)」を設け、急性期医療の評価軸が病棟単位中心から「病院機能・実績」へと一段強まることになる。Aは「地域の急性期医療の拠点」を想定し、年間の救急搬送2,000件以上かつ全身麻酔手術1,200件以上など、高い実績要件が柱となる。Bは一般的な急性期を幅広く捉え、救急搬送1,500件以上、または救急搬送500件以上+全身麻酔手術500件以上などを求める。加えて、Aでは地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟との併設を認めない一方で、Bは地域包括医療病棟のみを除外するなど、ケアミクスの許容範囲でも差を付けた。注目は救急実績の「質」の担保で、介護保険施設入所者の救急搬送は、協力医療機関での受入困難など例外を除き、A・Bいずれでも原則として救急搬送件数に算入しない方向が示された。その一方で、現行7対1病院の相当数がA基準を満たしにくいとの指摘もあり、急性期の集約・機能分化を加速させる可能性がある。今後は、地域で救急・手術を集約する「A志向」か、高齢者救急や包括期との接続を含めた「B/他入院料志向」か、病院ごとの役割の再設計が不可避となりそうだ。 参考 1) 【急性期】厚労省が個別改定項目を提示 救急・手術件数を評価する急性期病院一般入院基本料を新設(日経メディカル) 2) 7対1病院の6割、11万床が急性期Aの基準未達(CB news) 3) 「地域の急性期医療の拠点」病院を評価する【急性期病院一般入院料】を新設、病院単位での救急搬送・手術実績が要件にー中医協総会(Gem Med) 2.診療報酬46億円返還、医師14人が資格喪失、不正請求は「見逃されない」時代へ/厚労省厚生労働省は1月29日、2024(令和6)年度に実施した保険医療機関などへの指導・監査の状況を公表し、診療報酬の不正請求などを理由に、「医科・歯科を含む9施設の保険医療機関指定を取り消した」と発表した。処分に先立ち廃業した施設を含めると、指定取消相当は14施設にのぼる。これに伴い、保険医の登録が取り消されたのは医師5人、歯科医師12人の計17人で、返還を求めた診療報酬額は約48億5,000万円と、前年度を上回った。その一方で、厚労省があわせて公表した2023年度の指導・監査実績によると、個別指導を受けた保険医療機関は1,464件で前年度比2.7%減少したものの、対象となった医師数は2,774人と大幅に増加している。医科に限れば、個別指導件数・対象医師数ともに増加しており、医科領域での請求内容に対する点検が一層強化されている実態がうかがえる。2023年度に実施された監査は46件で、その結果、保険指定取消または取消相当となった医療機関は21件、医師ら14人が資格を喪失した。返還された診療報酬総額は46億2,338万円に達し、前年度から26億円以上増加した。とくに施設基準を満たさない入院料の請求、実施していない診療行為の請求(架空請求)、実診療で行っていない行為を上乗せする付増請求など、基本的ルール逸脱が繰り返し確認されている。注目すべき点として、保険指定取消などの端緒(発覚のきっかけ)の多くが、保険者や医療機関従事者、患者からの情報提供であったことが挙げられる。医療費通知やマイナンバーカード利用の進展により、請求内容の「見える化」が進み、不正請求は発覚しやすい環境となっている。診療報酬は公費・保険料・患者負担で成り立つ共有財源であり、ルール遵守は医療者全体の信頼を支える前提条件である。近年の指導・監査の動向は、「悪質事例への厳正対応」と同時に、日常診療における請求の正確性や施設基準管理の重要性を、すべての医師に改めて突きつけるものと言えそうだ。 参考 1) 令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(厚労省) 2) 9施設の保険指定取り消し 24年度、返還請求48億円(産経新聞) 3) 不正請求等で21件・14人の医師等が「保険指定取り消し」等の処分、診療報酬46億円強を返還-2023年度指導・監査(Gem Med) 3.緊急避妊薬(アフターピル)が国内初の市販化、2月から全国販売へ/厚労省国内初となる市販の緊急避妊薬(アフターピル)が、2月2日から全国で販売される。第一三共ヘルスケアが販売するレボノルゲストレル(商品名:ノルレボ)は、これまで医師の処方箋が必要だったが、スイッチOTCとして薬局やドラッグストアで購入可能となる。希望小売価格は1錠7,480円で、年齢制限はなく、未成年でも保護者やパートナーの同意は不要とされた。ノルレボは、排卵を遅らせる作用があり、性交後72時間以内に1回服用すれば、約8割の確率で妊娠を防ぐとされる。24時間以内の服用では妊娠阻止率は約95%に達する一方、時間が経過するほど効果は低下し、49~72時間では約58%に下がる。販売は対面に限定され、厚生労働省が指定した研修を修了した薬剤師が、チェックシートによる確認と説明を行い、購入者本人がその場で服用する「面前服用」が要件となる。転売や誤用を防ぐ狙いで、ネット販売や持ち帰りは認められていない。服用後は、3週間を目安に妊娠検査や医療機関での確認が推奨されている。厚労省によると、販売開始時点で全国5,445店舗が取り扱い、今後はさらに拡大する見通しだ。イオンリテールは併設薬局69店舗で販売を開始し、ウエルシア薬局やクオールなど大手も全店展開を予定している。その一方で、緊急避妊薬はあくまで緊急時の対処法で、服用後は一時的に妊娠しやすくなる場合もある。専門家は、低用量ピルなど確実性の高い平時の避妊法や、性教育の充実が不可欠だと指摘する。世界では約90の国・地域で処方箋なしで購入可能であり、世界保健機関(WHO)の必須医薬品にも指定されている。今回の市販化は、望まない妊娠を防ぐ選択肢を広げる一方、適切な使用と制度運用が問われる転換点となりそうだ。 参考 1) 緊急避妊薬、2月から薬局などで販売 1錠7,480円購入は対面のみ(朝日新聞) 2) 緊急避妊薬、来年2月に初の市販開始 面前服用要件に-第一三共「ノルレボ」(時事通信) 3) 緊急避妊薬、72時間以内の服用で効果8割 2月から市販(日経新聞) 4) イオンリテール、緊急避妊薬を販売 2日から併設の薬局69店舗で(同) 5) 2月発売の緊急避妊薬、全国5,000超の店舗で取り扱い 厚労省集計(同) 4.相次ぐ汚職でトップが謝罪-卓越大認定に暗雲、不退転の改革へ/東大東京大学医学部附属病院で汚職事件が相次いだ問題で、同大は1月28日、藤井 輝夫総長が記者会見し「教育・研究機関として社会の信頼を著しく損ねた」と謝罪した。大学院医学系研究科の佐藤 伸一教授が、民間団体との共同研究(社会連携講座)に絡み、性風俗店を含む高額接待を受けたとして24日に収賄容疑で逮捕され、東大は26日付で懲戒解雇した。不祥事は単発ではなく、2025年11月にも同院の准教授が医療機器選定を巡る収賄容疑で逮捕・起訴されている。こうした事態を受け、田中 栄病院長は27日付で引責辞任。教職員宛てのメールで「短期間に複数の重大な不祥事が発生し、患者や社会の信頼を著しく損ねた。組織の長として管理監督責任を明確にする」と辞任理由を説明した。藤井総長は会見で、不祥事の背景として(1)教員の倫理意識の希薄さ、(2)民間資金受け入れを巡るチェック機能の不足、(3)閉鎖的でヒエラルキーの強い組織風土の3点を挙げた。責任を取り、総長は役員報酬の一部(1ヵ月分の50%)を自主返納し、担当理事らも返納する。さらに、全教職員約1万3,000人を対象とした調査で、倫理規程違反が22件判明し、うち3件で高額接待が認められたことも明らかにした。大学は4月に最高リスク責任者(CRO)を新設し、独立監査を含む「三線防御」によるガバナンス再構築を進める方針だ。10兆円規模の大学ファンド支援を受ける「国際卓越研究大学」の審査が継続している最中、改革の実効性と信頼回復への道筋が厳しく問われている。 参考 1) 本学教員の逮捕を受けて(東大) 2) 東京大学総長「信頼著しく損ねた」30秒頭下げ謝罪 教授の収賄事件(朝日新聞) 3) 東京大学総長謝罪 大学院教授の収賄など汚職相次ぎ(NHK) 4) 東大ガバナンス欠如、卓越大認定影響避けられず? 総長「急ピッチで改革進める」(産経新聞) 5) 東大総長が汚職事件で謝罪「信頼損ねる」 高額接待など新たな倫理違反22件も発覚(同) 5.臓器移植改革が始動 ドナー関連業務を地域法人に移行/藤田医大厚生労働省は1月30日、藤田医科大学などが設立した一般社団法人「中部日本臓器提供支援協会(CODA)」を、心臓や肺などの提供臓器をあっせんする「ドナー関連業務実施法人」として許可した。眼球を除く臓器あっせん業の許可は、日本臓器移植ネットワーク(JOT)以外では全国で初めてとなる。これまで、脳死や心停止下での臓器提供に際し、家族への説明や同意取得、摘出チームの受け入れ調整などのドナー関連業務はJOTが一元的に担ってきた。しかし近年、臓器提供数の増加に対し、コーディネーター不足や業務の集中による対応の遅れが指摘され、結果として移植が見送られる事例も生じていた。こうした状況を受け、厚労省は2024年12月、ドナー側業務を地域ごとに分担する体制改革を打ち出していた。CODAは中部7県(愛知、三重、岐阜、静岡、福井、富山、石川)を担当し、臓器提供が想定される医療機関にコーディネーターを派遣。ドナー家族への説明や同意取得、関係機関との調整を担う。その一方で、移植希望者の登録やレシピエント選定、臓器搬送は引き続きJOTが担当し、公平性は従来通り担保される。CODAは移植業務経験者5人を確保し、JOTでの研修を経て、2026年夏ごろの本格稼働を予定している。厚労省は今後、他地域でも同様のあっせん法人を募集する方針で、臓器提供体制は「全国一元」から「地域分担」へと大きな転換点を迎えた。ドナーの意思を確実に生かし、移植機会の拡大につながるかが注目される。 参考 1) ドナー関連業務実施法人を許可しました(厚労省) 2) 臓器提供 家族対応などの業務を新法人に許可 厚労省(NHK) 3) 臓器あっせん法人を初許可 ドナー対応、藤田医大設立(日経新聞) 4) 「中部日本臓器提供支援協会」、厚労省が臓器あっせん業を許可 藤田医科大などが設立(中日新聞) 6.介護事業者倒産が過去最多176件 突出する訪問介護の経営危機/厚労省訪問介護事業者の経営悪化が深刻さを増している。2024年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに加え、物価高や移動に伴うコスト増が重なり、収益を圧迫している。とりわけ人手不足が最大のボトルネックとなり、サービスの継続が困難になるケースが相次いでいる。こうした状況を受け、厚生労働省は人材確保に向けた広報を強化。昨秋以降、訪問介護の仕事の具体像を伝えるショート動画や漫画、ポスターなどを特設サイトで発信し、教材としての活用も見込むなど、職場の魅力を可視化して担い手拡大を狙っている。背景には介護事業者の倒産の増加への危機感がある。東京商工リサーチによると、2025年の介護事業者倒産は176件で過去最多を更新し、「訪問介護」は91件と3年連続で最多。倒産理由は「販売不振」が約8割を占め、「人手不足」倒産も最多を更新した。規模は小・零細が中心で、資金繰り余力の乏しさが表面化している。賃上げ支援や生産性向上策は進むが、他産業の賃上げに追いつかず、現場の人材確保は依然として厳しい。国・自治体には、倒産抑制と運営効率化支援を一体で進める対応が求められる。 参考 1) 2025年「介護事業者」倒産 過去最多の176件 「訪問介護」の倒産が突出、認知症GHも増加(東京商工リサーチ) 2) 訪問介護の倒産急増、人材確保に懸命の厚労省 PR動画・漫画など続々(日経新聞)

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第298回 戦後最短の衆院選、今回の各党の医療・社会保障政策は?~自民・維新・中道編

INDEX自民党日本維新の会中道改革連合年明け早々から衆議院解散の報道が流れ始めたが、実際に高市 早苗首相が2026年1月23日の通常国会冒頭で解散を行ったことで、すでに衆議院議員総選挙に突入している。そこでいつものごとく、各党の医療・社会保障政策を取り上げ、独断と偏見に基づく寸評を加えたいと思う。今回は与党の自民党と日本維新の会、さらに公明党と立憲民主党が合流した最大野党の中道改革連合を取り上げる。自民党まずは与党で比較第1党の自民党。主な政策として5つの柱とそれに続く中項目(<>内)、さらにその下に各政策を掲げている。その中から医療・社会保障政策(年金を除く)を要約して列挙すると、以下のようになる。1. 強い経済で、笑顔あふれる暮らしを<危機管理投資・成長投資>予防・健康づくり分野を成長産業として育成し、健康経営の拡大や女性の健康、生活習慣病、認知症などの研究開発を促進仕事と介護の両立支援のため、公的保険外の介護サービスの振興や、企業における支援を促進<経済安全保障>医薬品を「特定重要物資」と位置付け、サプライチェーンの強靱化や国内生産能力の強化<デジタル>マイナンバーカードを健康保険証として利用し、運転免許証などとの一体化を推進社会保険や税、介護、死亡・相続などの行政手続きを「スマホで60秒」で完結させるデジタル化・ワンストップサービス化一人ひとりの暮らしに応じたサービス提供のため、医療、こども・子育てなどの分野でのデータ連携を支援2.地方が日本経済のエンジンに<地域未来戦略>離島・半島における医療・介護の振興策を講じる3.わが国を守る責任。国際秩序を担う日本外交<科学技術>ゲノムデータ・創薬基盤の充実、医薬品・医療機器の開発、国際協力を進め、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(誰もが適切な医療を負担可能な費用で受けられる状態)の達成創薬力を抜本的に強化するため、産学官の研究力を向上させ、とくに感染症に備えた国産ワクチン・治療薬・診断薬の生産体制を強化バイオ医薬品(抗体医薬品、再生医療等製品など)の生産体制整備や創薬ベンチャーへの支援を推進健康医療を含む最先端分野での研究開発から社会実装までを支援4.すべての世代の安心と次世代への責任<こども・子育て>妊娠前から出産、子育て期まで切れ目のない支援を行い、病児保育の充実旧優生保護法による被害者の救済と、疾病や障害者への偏見・差別根絶<社会保障(最重点項目)>医療・介護・福祉分野の賃上げ:物価上昇に対応し、幅広い職種での確実な賃上げのため、報酬の引き上げ等を実施持続可能な医療体制:2040年を見据えた「地域医療構想」により、医療機関の連携・再編・集約化の推進歯科・リハビリ・薬局:生涯を通じた歯科健診(国民皆歯科健診)、リハビリの充実、かかりつけ薬剤師・薬局の普及を推進医療・介護DX:全国医療情報プラットフォームの構築や電子カルテの普及により、安全で効率的なサービスを実現予防・健康寿命:「攻めの予防医療」により健康寿命を延ばし、がん、循環器病、難病、移植医療、依存症対策などを推進介護提供体制:訪問介護を含む受け皿整備と人材確保を進め、介護離職を防ぐとともに、認知症対策やフレイル(虚弱)対策を推進正常分娩費用の負担を実質ゼロにすることで、妊婦の経済的負担軽減薬の安定供給:革新的な創薬環境の整備と、後発医薬品(ジェネリック)の安定供給を確保社会保険料負担の軽減:中・低所得者の負担軽減のため、「給付付き税額控除」の検討を含む社会保障と税の一体改革を議論<教育>特別支援教育の充実に向け、発達障害のあるこども達に対する早期からの支援や医療的ケア看護職員の配置促進<文化・スポーツ>生涯にわたるスポーツの継続を支援し、生涯健康を土台に人材の能力を最大限発揮させることで、人材一人ひとりの生産性向上と社会保障費抑制を図り、経済成長を支える<女性活躍>「女性の健康総合センター」を司令塔に診療拠点の整備や研究、人材育成等の取組みを全国展開、女性の生涯にわたる健康支援を強化<防災・減災、国土強靭化>マイナンバーカードを活用した救急業務の円滑化の全国展開<災害復興>地震・津波被災地域での心のケアやこどもの支援等の中長期的な取組み<生活の安全>熱中症対策実行計画に基づく熱中症対策の強化。花粉症の総合的な対策の推進<外国人政策>税・社会保険料の未納や制度悪用を根絶。出入国在留管理庁と関係機関との税・国民健康保険料等のマイナンバー等による情報連携を行い、上陸審査・在留審査等に反映。医療費未払情報報告システムの登録基準額を20万円以上から1万円以上に引き下げるとともに対象を中長期在留者へ拡大することを検討。<多様性・共生社会>医療保険者とかかりつけ医が協働する「社会的処方」の推進石破 茂政権時代の参議院議員通常選挙(以下、参院選)時や高市首相が自民党総裁選時に掲げた政策と比較して、私が注目した変化は「2040年を見据えた『地域医療構想』により、医療機関の連携・再編」という点である。この点、以前の表現ではあくまで「病床数の適正化」だったが、今回は「医療機関の再編」と一歩踏み込んでいる。もちろん病床数の適正化の先に究極的には医療機関の再編があるのは事実。そして今回の診療報酬の個別改定項目(短冊)を見ても、急性期医療の絞り込みに向けた“出血大サービス”となっていることと併せれば、与党として自民党が本気を出してきたと言えるかもしれない。また、これまでになかった政策と言えば、<経済安全保障>の項目の医薬品を「特定重要物資」への位置付け、<デジタル>の項目にある「スマホで60秒」サービス、<多様性・共生社会>にある「社会的処方」、である。このうち「社会的処方」については、すでに2020年の政府方針「骨太方針2020」にも謳われたことだが、かかりつけ医の位置付けが現状ではまだまだ曖昧な中で、どのような仕組みを想定しているかは不明である。日本維新の会昨年の参院選時には予想もされていなかった日本維新の会(以下、維新)の与党入り。OTC類似薬の給付の大幅見直しなど、与党入りしてからは良くも悪くも存在感を発揮している同党だが、今回の衆議院選にあたり発表した「維新八策2026」では、社会保障政策の大項目の元、中項目(<>内)、さらにその下に各政策を掲げている。以下、要約の上で列挙する。社会保障政策<社会保険料を下げる改革>国民医療費を年間4兆円以上削減し、現役世代1人あたりの社会保険料を年間6万円引き下げ高齢者の医療費窓口負担を9割引から7割引(現役世代と同じ)へ引き上げ金融所得を含めた総合的な所得把握に基づく負担区分を設定女性や高齢者の就業促進、第3号被保険者制度見直し等により社会保障制度を就業促進型へ転換生産年齢人口の定義を見直し中央社会保険医療協議会に医薬品・医療機器メーカーを追加し、創薬支援を強化。企業届出価格承認制度の導入等により薬価算定制度を見直し費用対効果に基づく医療行為や薬剤の保険適用見直しを進め、限られた医療財源を重症患者や革新的医療に重点配分後発医薬品の使用原則化、タスクシフト、地域フォーミュラリ導入等により医療費削減不要となる約11万床を削減し、1兆円以上の医療費削減(感染症対応病床は確保)2030年までに電子カルテ普及率100%を達成エビデンスが乏しい無価値医療(低価値医療)の保険適用を見直し医療介護産業を需要者側の視点で改革し、市場原理導入や合理化で生産性向上を実現AIやビッグデータを活用した全国統一レセプトチェックで医療費適正化と医療の質向上を同時実現オンライン診療の診療報酬点数の対面診療と同等化定期的な検診受診者や健康リスクの低い被保険者の保険料を値引きする保険料割引制度を導入診療報酬点数の決定で医療サービスの需給バランスを通じた調整メカニズムを導入< 医療・介護提供体制>開業医(かかりつけ医))が診察・健康管理・入院判断に積極的に関与する体制構築医療DXを推進し、在宅医療・在宅介護の質・量を高め、地域包括ケアシステムを構築介護現場の待遇・職場環境を改善し、ロボット・テクノロジー導入で負担軽減介護サービスの地方分権と規制改革を行い、待機高齢者問題等の介護施設不足を解決老人ホームと保育所を一体化させた複合施設の設置基準を自治体が決定できる権限移譲日本版DBS制度(こども性暴力防止法に基づく制度)の介護人材への適用検討など、介護現場のハラスメント対策を立法化尊厳死(平穏死)について幅広い議論・検討を推進悪質な渡航移植対策として無許可あっせん業の罰則強化と国際的枠組み構築<予防・健康づくり>一次予防・健康増進を図り、早期予防・早期介入により健康寿命を延ばし、介護費用抑制と両立自立支援型介護を推進し、がん検診・特定検診の受診率向上により健康寿命を延伸受動喫煙防止の徹底認知症患者支援・理解啓発を推進し、iPS細胞による再生医療等の研究を支援慢性疾患について先進的な取り組みの全国展開や標準化による発症・再発・重症化予防対策の推進アレルギー疾患の医療相談、治療体制を全国で整備検体の自己採取と血液マーカー検査など新しい検診制度を導入HPVワクチンの接種機会を逸した世代への確実な救済措置<医療産業>IoT、AI、ビッグデータ、5G通信により医療・健康分野の産業化・高度化を推進混合診療を解禁・推進医療法人などの経営・資金調達規制を大幅に緩和医療品販売の過度な対面販売規制を見直し<感染症対策>十分な経済的補償を前提に医療機関などへ実効力ある要請・命令ができる法整備新型インフルエンザ等対策特別措置法を改正し、地方が地域事情に応じて機動的に感染症対応できる体制を確立首都圏と関西圏に「日本版CDC(国立健康危機管理研究機構)」を各1ヵ所所整備有事に都道府県の枠を超えた情報・医療資源の共有化など相互補助できる体制を構築感染症法改正等により国民が検査・医療を受ける権利を明確化有事の指揮命令系統等に関し、危機対応ガバナンス確立のための法改正・憲法議論を積極的に行う国産ワクチン・治療薬の研究開発・生産体制を抜本に強化大部分は昨年の参院選時に発表された「維新八策2025」を維持したものである。ただ、今回は以前よりも新たな政策が追加された。追加項目は、「混合診療の解禁・推進」「医療法人の資金調達に関する規制緩和」「医薬品の対面販売規制」「診療報酬点数の決定への医療サービスの需給バランスによる調整メカニズム導入」「HPVワクチンの接種機会を逸した世代への確実な救済措置」である。これらはHPVワクチンの件を除くと、政府の経済への介入を抑え、自由競争によって経済の効率化や発展を実現すべきという「新自由主義」に一番近いとされる維新らしい政策とも言える。また、社会保険料の負担軽減や医療費抑制につながる政策で維新側が明確な数字を示すのに対し、自民党側が概念的な政策提示である点でも新自由主義的な維新の性格をよく表していると言えるだろう。中道改革連合今回、おそらく有権者を最も驚かせたのが、野党第1党の立憲民主党と昨秋まで与党だった公明党による新党「中道改革連合(以下、中道)」が発足したことだろう。正直、私個人もまったく予想外だった。中道の今回の候補者の中には医師が8人おり、自民党の9人に次ぐ人数。多くは旧立憲民主党の議員だが、旧2党で見ると、どちらかというと以前与党にいた旧公明党のほうが医療政策に明るいと思われがちだ。今回、医療以外の安全保障や原発問題などで公明党寄りに政策修正したと言われる中道だが、医療・社会保障関連政策はどのようになったのか?今回、中道は大項目となる第1~5の柱を立て、その中で中項目(<>)、さらに小項目(・)となる具体的な政策を記述している。以下に要約・列挙した。第1の柱:一人ひとりの幸福を実現する、持続的な経済成長への政策転換<家計の安心へ>社会保険料負担で手取りが減る「130万円のガケ」を解消<賃上げと中小企業・産業の活性化>社会保険料の事業主負担軽減や奨学金代理返還の支援医療・介護・保育・物流・建設・交通等の処遇改善に向け、公定価格と労務費の適正化を推進し、社会基盤を支えるエッセンシャルワーカーの所得の抜本的引き上げを実現第2の柱:現役世代も安心できる新たな社会保障モデルの構築<ベーシック・サービス従事者の処遇改善>医療・介護・保育・障がい福祉従事者などの給与の全産業平均への引き上げ<健康、安心の医療・年金>予防・検診強化で健康寿命を延ばし、重複検査是正・医療DXで医療費を抑制、社会保険料上昇を抑制がんの原因となる感染症など、リスクに応じた検診を実現し、企業検診率向上を目指す高額療養費の自己負担限度額の引き上げを見直し経営困難な医療機関を支援(次期診療報酬改定でのプラス改定など)。医師確保のための基金拡充かかりつけ医の制度導入を目指し、かかりつけ医を中心とした新たな地域医療構想の実現移動困難な高齢者のためにオンライン診療・モニタリング等で地域医療体制を整備職場・地域で心のケアを必要とする人を早期発見し、治療体制を強化薬価の中間年改定を廃止保証人のいない単身者が必要な医療を受けられるよう、実効性のある「ガイドライン」の普及とフォローアップを図る<高齢者、介護支援、障がい福祉>介護の相談体制・家族支援を強化し、事業所のDX化で安心できるケア体制を整備「介護離職ゼロ」に向けた取り組み(介護休業の通算期間の延長、介護休業中の賃金補償の拡充)を強化訪問介護の基本報酬を引き上げ介護事業所の情報通信技術(ICT)化を進め、業務効率化・情報共有で介護従事者などの負担軽減とサービスの質・生産性向上を目指す介護記録の電子化・介護センサー導入で介護施設・在宅介護の人手不足をサポート第3の柱 選択肢と可能性を広げる包摂社会の実現<こども・子育て>妊婦健診や出産費用の無償化と産後ケアの充実ヤングケアラーを早期に発見し、教育や医療、就労など横断的に支援この中で「130万円のガケ」は、従来から国民民主党が唱える「103万円の壁」と違って初めて聞いた人もいるかもしれない。これは給与所得者に扶養されている配偶者に健康保険料や年金保険料の負担が生じ始める年収である。念のため説明すると103万円は所得税負担がかかり始める年収である。要は「103万円の壁」の引き上げを軸に若年層に支持を広げた国民民主党にあやかった政策なのかもしれない。そして意外に思うかもしれないが、実は中道が掲げたこれらの政策は、与党の中でも穏健なほうになる(あくまで維新との比較だが)自民党の社会保障政策と類似点は少なくない。とくにICT、DX関連はかなり類似が多い。パッと見て与党と明らかに違う政策として目につくのは、かかりつけ医の制度導入と薬価の中間年改定廃止である。ちなみに薬価の中間年改定廃止は従来から国民民主党が唱えている政策でもある。また、中道がここで述べているかかりつけ医の制度導入とは、現在の「かかりつけ医機能報告制度」とかかりつけ医機能を評価する診療報酬ということではなく、いわばヨーロッパなどで行われている家庭医制度のようなものだろう。いずれにせよ、全体的には穏健、悪く言えば、非常に概念的な政策で、私見を言えば、「なかなか埋没感がある」と思ってしまう。さて次回はそのほかの野党を一斉に取り上げる。

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喘息への活用に期待、『アレルゲン免疫療法の手引き2025』

 アレルギー性鼻炎は、スギやヒノキを原因とする季節性アレルギー性鼻炎と、ダニなどが原因の通年性アレルギー性鼻炎に大別される。本邦では2014年頃からアレルゲン免疫療法(以下、AIT)の手軽な手法である舌下免疫療法(以下、SLIT)が臨床導入されたが、近年のエビデンス蓄積により、ダニアレルゲンによって症状が出現しているアトピー型喘息へのダニSLITの有効性が示されているという。2025年6月には日本アレルギー学会より『アレルゲン免疫療法の手引き2025』が発刊され、最新の知見に基づき、治療の意義や位置付けが刷新されたことから、今回、本書の作成委員長を務めた永田 真氏(埼玉医科大学呼吸器内科 教授/埼玉医科大学病院アレルギーセンター センター長)にAITの基礎と推奨される患者像などについて話を聞いた。アレルゲン免疫療法の意義  以前に日本では“減感作療法”とも呼ばれたAITは、「アレルギー疾患の病因アレルゲンを投与していくことにより、アレルゲンに曝露された場合に引き起こされる関連症状を緩和する治療」と定義付けられ、アレルギー疾患の根本的な体質改善を期待できる唯一の治療法である。本邦オリジナルの手法である皮下免疫療法(SCIT)は諸外国と比べ格段に普及が遅れていた。しかし2014年に舌下免疫療法(SLIT)が承認され、スギ花粉症を中心にその普及が始まった。 『アレルゲン免疫療法の手引き』の2022年版*からの主な改訂ポイントについて、永田氏は「『喘息予防・管理ガイドライン 2024』および『鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版』との整合性を図り、最新の臨床知見を反映した。とくにこれまでの理念を覆す免疫病態や、またAITの新規の効果が近年明らかになってきたため、新たに判明した作用をブラッシュアップしている。たとえば、ダニSLITが喘息患者の呼吸機能を改善させ長期的に維持させ得ることや、重症患者(喘息併存)への生物学的製剤(抗IgE抗体オマリズマブや抗IL-4受容体α鎖抗体デュピルマブなど)との併用効果に関するエビデンスなどを盛り込んだ。さらに、現段階での適応拡大はないが、アトピー性皮膚炎に対しても部分的に効果があることも報告されている。さらに、スギアレルゲンによる治療がヒノキアレルギーに対しても一定の効果を示す可能性が指摘されている」など、治療標的の広がりについても言及した。また、医療経済的な観点として、AITによる医療費抑制効果が確認されていることにも触れた。*2013年に「スギ」「ダニ」別の指針として発刊されていた前身の出版物を統合・刷新したもの AITの機序についてはいわゆる脱感作現象の寄与は極めて限られ、したがって“減感作療法”という呼称は科学的に誤っている。実際には生体にとって有益な免疫応答を能動的に誘導することの寄与が大きいと判明している。同氏は喘息患者において、「AITが気道上皮細胞のインターフェロン産生能力を高め、ウイルス感染に対する抵抗性を増強する作用が報告されている。これは、感染を契機とした増悪を抑制する効果を意味する」と、その免疫学的メリットを強調した。小児期からの介入と喘息発症予防 AITの適応は、IgE依存性アレルギーであることが正確に診断されたダニアレルギーまたはスギ花粉症患者で、とくに重要なことは全身的・包括的な効果を期待して行われる点である。施行にあたっては、「アレルゲン免疫療法に精通した医師」が条件であり、とくにSCITは効果が高いものの、アナフィラキシーあるいは喘息増悪(発作)などに対する迅速な対応が可能な施設においてのみ実施される。 AITの普及状況について、「成人のスギ花粉症治療でのSLITの応用が活発な一方、通年性鼻炎や喘息に影響をもたらすダニアレルギーへの介入は欧米に比べ依然として不十分」と同氏は指摘した。とくに小児においては、小児喘息の多くが難治化のリスクを抱える中、AITの追加が予後改善に寄与することが確認され、『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023』にも5歳以上に対するダニ免疫療法の重要性が示されている。「小児期からの介入は、将来的な喘息の新規発症を予防し、すでに発症済みの小児喘息の改善も期待することができる」と同氏はコメントした。 アレルギー性鼻炎の鑑別疾患としては、非アレルギー性・非感染性の鼻粘膜過敏症(血管運動性鼻炎や好酸球増多性鼻炎、また鼻かぜ[急性鼻炎]など)が挙げられる。このほかの注意点として、同氏は「海外では喘息でダニSLITが適応となる一方で、日本の場合には“適応がない”点は留意したいが、日本人の約8割の喘息患者はアレルギー性鼻炎も併発している」と喘息患者は治療対象となる場合が多い点を指摘した。<処方医が診療時に注意するべきポイント>・リスク管理:アナフィラキシーリスク評価と迅速な対応ができること・禁忌/慎重投与:「自己免疫疾患の合併や既往、または濃厚な家族歴を有する」「%FEV1(1秒量)が70%未満、または不安定な喘息患者」「全身性ステロイド薬の連用や抗がん剤の使用」に関する状況確認・SLITに関する歯科連携: 腔内の傷や炎症、抜歯などの予定は吸収率や局所反応に影響するため、休薬を含めた指導を実施・環境整備:ダニアレルギーの場合、ダニの繁殖を防ぐため、床のフローリング化やこまめな清掃など、また喘息ではとくに完全禁煙を指導治療中断後の再開は?ほかのアレルゲンへの適応は? AITの治療期間について、世界保健機関(WHO)は3~5年を推奨しているが、さらなる長期継続も許容される。患者が中断してしまった場合やいったん中止後に再発した場合の再開基準について、永田氏は次のような見解(私見)を述べた。「スギSLITの場合、投与開始から3年が経過していれば、免疫寛容の誘導が進んでいる時期。一時的に中断しても2年は効果が持続すると判明しているが、中止後の再発に伴う再開に際しては『改めて最低3年』を目標に仕切り直すことを推奨する。」 なお、ほかのアレルゲンへのAITの展開については、ハチ毒でのSCIT、食物アレルゲンでの経口免疫療法、一部の薬剤(NSAIDs、抗酸菌薬など)に対する脱感作療法が存在する。ピーナッツなどの食物アレルギーに対する経口・経皮免疫療法は研究が進んでいるが、現時点で本邦での承認予定はない。そのため、最新の手引きではこれらについての詳細な解説は見送られている。

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第279回 救急搬送677万人のうち高齢者が6割超、救急需要は構造的増加/消防庁

<先週の動き> 1.救急搬送677万人のうち高齢者が6割超、救急需要は構造的増加/消防庁 2.2026改定の「短冊」提示、かかりつけ医評価は小幅修正 要件は拡大/厚労省 3.マイナ保険証の利用率レセプトベースで49.5%に/厚労省 4.出生数急減、少子化の加速で自治体の7割が「地域社会の維持に影響」/厚労省 5.東大教授が収賄容疑で逮捕、国際卓越研究大の認定 相次ぐ不祥事でガバナンス焦点/東大 6.77日連続勤務の果てに若手医師自殺、病院側を提訴/千葉県 1.救急搬送677万人のうち高齢者が6割超、救急需要は構造的増加/消防庁総務省消防庁は1月20日に「令和7年版救急・救助の現況」を発表した。これによると、2024年の救急車出動件数は772万件、救急搬送人員は677万人と、いずれも3年連続で過去最多を更新した。119番通報から現場到着までの平均時間は全国で9.8分と前年より0.2分短縮したが、通報から医療機関へ引き継ぐまでの時間は平均44.6分で、コロナ禍前の2019年と比べると約5分長い水準が続いている。需要増に対して受け入れ調整や搬送がボトルネックとなり、救急体制の逼迫が慢性化している実態が浮き彫りとなった。救急搬送者の63.3%は65歳以上で、とくに75歳以上が全体の約半数を占めた。内訳では75~84歳が24.9%、85歳以上が24.8%とほぼ同水準で、高齢者救急が構造的に増加している。その一方で、乳幼児の搬送は大幅に減少しており、救急需要の中心が明確に高齢者へ移行していることがわかる。傷病程度別では「軽症(外来診療)」が減少する一方、「中等症(入院)」や「重症」は増加しており、単なる軽症要請だけでなく、医療的介入を要する症例が増えている点も特徴的。事故種別では「急病」が最多で、転倒などの一般負傷や転院搬送も増加した。東京都では救急出動が約93万件に達し、救急要請の約2割が不要不急とされる。不要不急の要請の増加は、現場到着や搬送調整の遅延を招き、真に緊急性の高い患者の救命に影響しかねない。かかりつけ医や開業医にとっては、高齢患者の増悪予防、転倒・脱水・感染症流行期の早期対応、救急要請の判断基準の共有が一層重要となる。また、電話相談「#7119」や救急受診ガイドの周知、夜間・休日の受療行動の整理を通じ、救急の適正利用を地域で支える役割が求められている。救急需要が構造的に増え続ける中、外来・在宅での1次対応力が救急医療の持続性を左右する局面に入ったといえる。 参考 1) 令和7年版 救急・救助の現況(消防庁) 2) 救急搬送者数が3年連続で過去最多更新 24年は677万人 総務省消防庁(CB news) 3) 救急車の到着9.8分 出動件数は最多更新(MEDIFAX) 2.2026改定の「短冊」提示、かかりつけ医評価は小幅修正 要件は拡大/厚労省厚生労働省は、1月23日に開いた中央社会保険医療協議会(中医協)総会で2026年度診療報酬改定に向けた「個別改定項目」(いわゆる「短冊」)を示した。2026年度診療報酬改定の個別改定項目では、かかりつけ医・開業医に関わる外来医療の評価は「小幅修正」にとどまり、制度的な位置付けの明確化は先送りされた。2025年度に開始した「かかりつけ医機能報告制度」と診療報酬を直接ひも付ける見直しは行われず、機能強化加算の点数も据え置かれた。支払い側や財務省が求めていた機能に応じた初・再診料の差別化は反映されず、支払側からはメリハリ不足との指摘もある。その一方で、開業医の日常診療に直結する運用面での変更は多い。機能強化加算では、災害時の診療継続を想定した業務継続計画(BCP)の策定が新たな要件として追加され、外来・在宅データ提出加算の提出を促す記載が盛り込まれた。さらに、外来医師過多区域で新規開業し、保険医療機関指定期間が3年とされた医療機関は、機能強化加算を算定できない仕組みが導入され、都市部での開業戦略に影響を与える。生活習慣病管理料では、事務負担軽減策として療養計画書への患者署名が不要となる方針が示された。一方で、包括評価である管理料(I)については、少なくとも6ヵ月に1回以上の血液検査実施が要件化され、検査実施の管理がより厳格化される。糖尿病診療では、眼科・歯科との連携を評価する新たな加算が設けられ、地域連携の実績が収益に結び付く構造が強まる。また、在宅自己注射指導管理料については、糖尿病以外の薬剤でも併算定が可能となり、慢性疾患を多く抱える患者への対応の幅が広がる。特定疾患療養管理料では、胃・十二指腸潰瘍患者に禁忌とされる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を投与している場合、算定不可とする案が示され、処方内容と管理料算定の整合性が改めて問われる。病診連携では、特定機能病院からの「逆紹介」を受けた患者の初診を評価する新加算が創設され、診療所や200床未満病院が患者を受け入れるインセンティブが強化された。連携強化診療情報提供料も対象が拡大される一方、算定頻度は「月1回」から「3ヵ月に1回」へと整理される。物価・賃上げ対応として初・再診料は引き上げられるが、病院への配分が相対的に厚く、診療所ではベースアップ評価料の活用による職員賃上げの実行力が経営上の鍵となる。今回の改定は大きな制度転換こそ見送られたものの、かかりつけ医には「体制整備」「データ提出」「地域連携」を前提とした診療の質と説明責任が一層求められる内容といえる。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) かかりつけ医の報酬、26年度改定は小幅 メリハリ欠く(日経新聞) 3) 生活習慣病管理料の療養計画書は患者署名を不要とする方針(日経メディカル) 4) 厚労省が個別改定項目を提示 機能強化加算とかかりつけ医機能報告制度のひも付けは行わず(同) 3.マイナ保険証の利用率レセプトベースで49.5%に/厚労省厚生労働省は、2025年11月のマイナ保険証利用率が49.5%だったと公表した。厚労省はこれまで用いてきた「オンライン資格確認件数ベース」ではなく、レセプト件数ベースで初めて算出。レセプト件数ベースは、実際に診療を受けた患者数に近い指標であり、利用実態をより正確に反映するとされている。利用率は前月から2.22ポイント、前年同月比では約30ポイント上昇しており、制度移行後も着実に浸透が進んでいることが示された。参考値として示されたオンライン資格確認件数ベースでは、25年12月時点で47.7%だった。マイナ保険証を通じて取得された情報の閲覧利用件数は、25年11月分で診療情報が約6,094万件、薬剤情報が約2,296万件、特定健診等情報が約3,062万件に上った。これらは患者の同意を前提に医療機関や薬局が活用した実績であり、外来診療や薬物療法における情報連携が一定程度機能していることを示す。その一方で、薬剤情報や健診情報の閲覧件数は前月から減少しており、必ずしも「取得した情報を十分に使い切れていない」現場の実態もうかがえる。デジタル庁によると、マイナ保険証の利用登録件数は9,000万件を超え、マイナンバーカード保有者の約9割、総人口比でも約73%に達しているなど登録は広がる一方、実際の利用はまだ途上といえる。国は今後、薬剤重複投与の防止や高額療養費の窓口負担軽減といったメリットの周知を強化する方針。医療現場では、スマートフォン対応マイナ保険証に対応した施設が約8.4万に拡大しているものの、患者側のスマホ登録は約500万件にとどまる。かかりつけ医・開業医にとっては、利用率が「5割」に近づいた今、単なる資格確認手段としてではなく、薬剤・健診情報を診療にどう活かすかが問われる段階に入った。今後の評価制度やDX加算の在り方を見据え、現場での活用度が差別化要因になりつつある。 参考 1) マイナ保険証利用率49.48%、昨年11月 レセプト件数ベースで初めて公表 厚労省(CB news) 2) マイナ保険証、利用登録9,000万件超え 年内「9割超え」目指す(Impress Watch) 4.出生数急減、少子化の加速で自治体の7割が「地域社会の維持に影響」/厚労省厚生労働省は1月23日に2025年11月分の「人口動態統計速報」を公表した。これによると、2025年1~11月の出生数は64万5,255人と前年同期比で2.5%減少した。外国人を含む数値で、日本人のみの通年出生数は、過去最少だった2024年の約68万人をさらに下回る見通し。1899年の統計開始以降初めて2024年は70万人を割り込み、少子化は加速局面に入ったといえる。未婚・晩婚化の進行や子育て費用の負担感が主因とされ、婚姻数は2025年1~11月で1.1%増加したものの、出生数の回復には結び付いていない。こうした少子化を背景に、人口減少が地域社会に及ぼす影響も深刻化している。日本経済新聞社が実施した全国首長調査では、自治体の約7割が「人口減少が地域社会の維持に影響している」と回答した。2~3年後の人口動向については、8割超の自治体が「人口減が進む」と見通し、2割は「想定以上のスピード」と答えた。とくに四国、中国、東北など地方部で危機感が強い。影響が最も大きい分野は「地域コミュニティー」で、祭りや住民活動の維持が困難とする自治体は7割超に上る。公共交通網への影響も顕著で、全国の7割以上が「すでに影響が出ている」と回答し、担い手不足と財政制約が限界に近付いている。人口減対策としては「子育て支援」を挙げる自治体が最多で、医療費無償化や保育・給食の無償化が効果的施策として重視されている。少子化の進行は将来の医療需要や地域医療体制にも影響が及ぶ可能性があり、医療政策と地域政策を横断した対応が求められている。 参考 1) 人口動態統計速報(令和7年11月分)(厚労省) 2) 25年1~11月出生数64万5千人(共同通信) 3) 25年出生数、通年で最少の可能性 24年の約68万人を下回る見通し(産経新聞) 4) 自治体の7割、急速な人口減で地域社会の維持「困難」 全国首長調査(日経新聞) 5.東大教授が収賄容疑で逮捕、国際卓越研究大の認定 相次ぐ不祥事でガバナンス焦点/東大警視庁は2026年1月24日、東京大学大学院医学系研究科の教授(皮膚科学、62歳)を収賄容疑で逮捕した。報道によれば、民間団体との共同研究で便宜を図った見返りとして、共同研究先の一般社団法人から高級クラブや性風俗店を含む接待(約30回、計約180万円相当)を受けた疑いがある。国立大学法人の教職員は刑法上「みなし公務員」に当たり、金銭に限らず接待などの利益供与も収賄の対象となり得る。認否は明らかにされていない。共同研究は、同大学側に設置された社会連携講座で、大麻草由来成分の1つであるカンナビジオール(CBD)の皮膚疾患への有効性などを検討する目的だったとされる。運営費は民間側が負担する枠組みで、研究内容の選定や実施方針に影響し得る立場の研究者が接待を受けた点は、臨床研究の中立性・利益相反管理への不信を招きやすい。また、同講座を巡っては2025年にトラブルが表面化し、同大学が検証や制度見直しに動いた経緯が報じられている。研究資金の受入れや対外契約を伴う「社会連携講座」は医療系でも増えている一方、ガバナンスの脆弱性が露呈すれば、研究者個人のみならず大学・医局・附属病院全体の信頼や共同研究の継続性に波及する。同大学は国の「国際卓越研究大学」認定を巡り継続審査となっており、不祥事が続く中で、研究資金・外部連携の管理体制やコンプライアンス強化の実効性が問われる局面を一段と厳しくする。 参考 1) 東大大学院教授収賄疑い 法人側 接待の場で教授に研究の要望か(NHK) 2) 東京大学でまたも汚職事件 10兆円ファンドの支援、組織改革が左右(日経新聞) 3) 東大大学院教授を収賄容疑で逮捕 風俗店などで180万円分の接待か(朝日新聞) 4) 銀座のクラブに吉原のソープ 収賄容疑の東大大学院教授が受けた接待(同) 5) 国際卓越研究大に東京科学大と京大 「本命視」の東大、なぜ継続審査(同) 6.77日連続勤務の果てに若手医師自殺、病院側を提訴/千葉県千葉県松戸市の市立病院に勤務していた男性医師が2023年に自殺したのは、病院側が労働環境の管理を怠り、過重な長時間労働を強いたことが原因だとして、遺族が病院を運営する松戸市を相手取り、約1億8,900万円の損害賠償を求めて山形地裁に提訴した。男性医師は2021年に大学を卒業後、臨床研修を経て2023年4月に同病院へ勤務を開始した。訴状などによると、勤務開始直後から業務負担は極めて重く、2023年4月の時間外労働は約150時間、5月は約198時間に達した。4月3日からは77日間連続で勤務し、休日は一切なかったとされる。入院患者の診療に加え、専門外来や救急当番にも従事し、労働時間はいわゆる「過労死ライン」とされる月100時間を大きく超える状態が続いていた。6月中旬には適応障害を発症し休職したが、7月初旬に職場復帰した後も業務量は軽減されず、同月26日に自殺した。遺族は、長時間労働と連続勤務が強い心理的負荷となり、精神障害の発症となり自殺に至ったと主張。病院側には業務量調整や健康管理を行う「安全配慮義務」があったにもかかわらず、これを怠ったとしている。報道によれば、この事案については労災認定されたとされる。病院側は「係争中のためコメントは差し控える」としている。 参考 1) 医師「過労自殺」と病院側を提訴 両親、1億8,900万円賠償求め(共同通信) 2) 松戸市の病院勤務医が77日連続勤務後に自殺 山形市の遺族が市を提訴し1億9,000万円求める(山形放送)

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1歳6ヵ月時点の母乳育児がむし歯発症と関連、口腔衛生指導の重要性を示す縦断研究

 乳幼児のう蝕(むし歯)は生活習慣や食事習慣など複数の要因が絡み、授乳との関係はこれまで議論が続いてきた。今回、日本の子ども約6,700人を1歳6ヵ月~3歳6ヵ月まで追跡した縦断研究で、1歳6ヵ月時点で母乳育児を続けていた子どもで、その後のむし歯発症との関連が示された。一方で、母乳育児を継続していても多くの子どもはむし歯を経験しておらず、母乳育児そのものではなく、食事習慣や口腔衛生習慣などのケアが重要である可能性が示唆された。研究は大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学講座の三笠祐介氏、大継將寿氏、仲野和彦氏、同大学口腔生理学講座の加藤隆史氏らによるもので、11月27日付で「Scientific Reports」に掲載された。 乳歯のむし歯は世界で5億人以上の子どもに影響する公衆衛生上の重要な健康課題であり、日本では全体として減少傾向にあるものの、依然として高リスク層への偏在がみられる。むし歯の原因は多因子的だが、母乳栄養とむし歯の関係については研究間で一致した結論が得られていない。1歳以降の授乳をむし歯リスクとする報告がある一方で、1歳6ヵ月までの授乳はむし歯リスクの低下と関連するとの報告や、砂糖摂取こそが主要因であるとする研究もあり、見解は分かれている。また、早期に歯が萌える(はえる)こともむし歯リスクに関与するとされるが、縦断的な検討は限られている。そこで本研究では、日本の中核都市の子どもを対象に、1歳6ヵ月〜3歳6ヵ月のむし歯発症と、1歳6ヵ月時点の授乳状況および萌えている歯の数との関連を縦断的に検討した。 本研究では、大阪府豊中市、豊中市歯科医師会と連携のもと、市の乳幼児健康診査の受診者を対象に調査を行った。2018年4月から2020年3月までの間に、豊中市の3つの保健センターで歯科健診を受けた3歳6ヵ月の子どもを対象とした。1歳6ヵ月時および3歳6ヵ月時に身体計測と歯科健診を行い、萌えている歯の本数やむし歯の有無(dmft指数)を評価した。1歳6ヵ月時には、口腔内細菌の状態を評価するむし歯リスク検査と、授乳状況や食事習慣、就寝時刻などに関する保護者向けアンケートを実施し、3歳6ヵ月時点でのむし歯発症との関連をロジスティック回帰分析で検討した。 5,161名の子どものうち、3歳6ヵ月時点でむし歯を経験していた子どもは738人(14.3%)であった。内訳は、1歳6ヵ月時点ですでにむし歯を有していた子どもが50人(1.0%)、1歳6ヵ月~3歳6ヵ月の間に新たにむし歯を発症した子どもが688人(13.3%)であった。1歳6ヵ月時点ですでにむし歯を有していた50人を除外し、5,111人を対象として、1歳6ヵ月~3歳6ヵ月におけるむし歯発症に関する追加のリスク解析を行った。 出生順位、歯の本数、むし歯リスクの検査結果、食事習慣、授乳・哺乳状況などの潜在的な交絡因子を調整した多変量解析の結果、3歳6ヵ月時点でのむし歯発症は、1歳6ヵ月時に萌えている歯が12本以下であること(オッズ比〔OR〕0.78、95%信頼区間〔CI〕0.63~0.97、P<0.05)と負の関連を示した。一方、17本以上であること(OR 2.06、95%CI 1.12~3.79、P<0.05)、母乳のみで授乳していたこと(OR 2.03、95%CI 1.68~2.46、P<0.001)、および母乳と哺乳瓶の併用(OR 2.45、95%CI 1.36~4.44、P<0.01)は、むし歯発症と有意な正の関連を示した。 著者らは、「本研究は、1歳6ヵ月時点の歯の萌え方や授乳状況が、その後のむし歯発症と関連することを示した。得られた知見から、乳歯が萌え始める早期の段階から歯科受診や適切な口腔ケア、食事習慣に関する指導を行うことで、母乳育児の利点を活かしつつ、将来的なむし歯リスクを低減できる可能性が示唆される」と述べている。 なお、本研究では、歯の本数のみを評価し歯種や萌える順番を評価していない点や、保護者向けアンケートにて夜間授乳や授乳頻度について評価していない点を限界として挙げている。

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第278回 26年度改定「病院に手厚く配分へ」初・再診料と入院基本料を引き上げへ/厚労省

<先週の動き> 1.26年度改定「病院に手厚く配分へ」初・再診料と入院基本料を引き上げへ/厚労省 2.医療機関の倒産、2年連続で最多を更新/帝国データバンク 3.睡眠医療へのアクセス向上へ、標榜診療科に「睡眠障害」追加/厚労省 4.医師偏在対策で管理者要件厳格化、4月施行の療担規則改正/厚労省 5.人材不足で救命救急センター指定辞退へ、体制維持困難/近大奈良病院 6.地域枠「縛り」見直しへ 短時間勤務や県外転出も容認/山梨県 1.26年度改定「病院に手厚く配分へ」初・再診料と入院基本料を引き上げへ/厚労省厚生労働省は2026年度診療報酬改定に向け、中央社会保険医療協議会(中医協)で「これまでの議論の整理(案)」を示し、物価高と賃上げ、人手不足への対応を改定の最優先課題に据えた。改定率は診療報酬本体で+3.09%(2026・27年度平均)とされ、内訳は賃上げ分+1.70%、物価対応分+0.76%、食費・光熱水費分+0.09%などとされる。医療機関の資金繰り悪化で必要な医療サービスが継続できない事態は避けるべきとの認識の下、確実な賃上げと物価高騰の影響吸収を両輪で進める方針だ。具体策として、物件費負担の増加を踏まえ、初・再診料および入院基本料の「必要な見直し(引き上げ)」を行う。加えて、2026・27年度における物件費の更なる高騰に備え、医療機能も踏まえた「物価高騰に対応した新たな評価(特別な項目)」を設定し、配分は病院に手厚い設計とする。食費・光熱水費では、入院時の食費基準額を40円/食、光熱水費基準額を60円/日引き上げる(患者負担は原則同額で、低所得者や指定難病などには配慮)。嚥下調整食の新評価など、入院食の質向上も併せて検討する。賃上げの面では、医療現場の生産性向上の取組と一体で、医療関係職種の賃上げの実効性を高める仕組みを再設計する。看護職員の夜勤負担軽減計画の要件明確化、ICT・AIなどの活用を前提とした業務効率化や基準の柔軟化、医療DX関連加算(診療録管理体制加算、医療情報取得加算、医療DX推進体制整備加算など)の評価見直しも論点に入る。厚労省は、1月14~20日まで意見募集を行い、1月21日の公聴会などを経て、個別項目(短冊)の詰めに入り、2月の答申を目指す。 参考 1) 「令和8年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理」に関するご意見の募集について(厚労省) 2) 令和8年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(同) 3) 令和8年度診療報酬改定の基本方針(同) 4) 初診料・再診料・入院基本料を引き上げへ、診療報酬改定の骨子案了承…医療機関の経営安定化図る(読売新聞) 5) 2026年度診療報酬改定を諮問、厚労相 物価・賃金上昇や人手不足に対応(CB news) 6) 若手勤務医や事務職の賃上げ原資拡大 26年度報酬改定、病院に手厚く(日経新聞) 7) 2026年度診療報酬改定、議論の整理案を提示(日経メディカル) 2.医療機関の倒産、2年連続で最多を更新/帝国データバンク帝国データバンクの集計によると、2025年の医療機関(病院・診療所・歯科医院)の倒産件数は67件となり、前年を上回って2年連続で過去最多を更新した。負債総額は248億円に達し、件数・金額ともに高止まりしている。背景には、院長の高齢化と後継者難により事業承継が行き詰まった診療所の廃業・倒産が目立つことに加え、病院経営の構造的悪化がある。医療機関の倒産件数が2023年41件、2024年63件、2025年67件と急増している一方、負債総額は年や月による振れが大きく、単発の大型倒産が全体額を押し上げる構図が読み取れる。とくに2025年は2月など一部の期間に負債額が突出しており、資金繰りが限界に達した病院の破綻が顕在化している。経営環境の悪化は財務指標にも表れている。2024年度の病院経営では約6割が営業赤字、約14%が債務超過に陥り、営業利益率の平均は2年連続でマイナスとなった。診療報酬のプラス改定があったにもかかわらず、コロナ関連補助金の終了、人件費・光熱費・医療資材費の上昇がそれを上回り、「増収減益」に陥る病院が続出した。医師の働き方改革に伴う人員増や賃上げ圧力も、固定費を押し上げている。その一方で、訪問介護など老人福祉事業の倒産も2025年は139件と高水準で推移しており、医療・介護をまたぐ提供体制全体が経営危機に直面している。地域医療を担う病院ほど採算性の低い政策医療を抱え、設備更新の先送りや投資凍結に追い込まれるケースも少なくない。倒産件数の増加は、個々の経営努力だけでは吸収しきれない構造問題を示しており、医療提供体制をどう維持するかが改めて問われている。 参考 1) 25年の医療機関倒産は67件 帝国データバンク集計(MEDIFAX) 2) 医療機関の倒産、2年連続で最多更新 25年は66件 帝国データバンク調べ(CB news) 3) 2025年12月 倒産動向データ(帝国データバンク) 3.睡眠医療へのアクセス向上へ、標榜診療科に「睡眠障害」追加/厚労省厚生労働省は、1月15日に医道審議会・診療科名標榜部会を開き、医療機関が標榜できる診療科名に「睡眠障害」を追加することを了承した。今後、内科や精神科、小児科など既存の診療科名と組み合わせた形での標榜が可能となる見通しで、3月に議論を取りまとめ、法令改正手続きに入る。背景には、睡眠障害に悩む患者の増加と、受診先がわかりにくいという課題がある。日本睡眠学会は2025年4月、睡眠医療へのアクセス向上を目的に「睡眠障害」を標榜可能な用語に追加するよう要望していた。現状では、不眠症患者の多くが内科や精神科を受診し、睡眠時無呼吸症候群の患者は内科や耳鼻咽喉科に分散して受診しているが、症状と診療科の結び付きが国民にわかりにくいとの指摘があった。標榜診療科名の追加にあたっては、独立した診療分野を形成していること、国民ニーズが高いこと、わかりやすく適切な受診につながること、診療に必要な知識・技術が医師に広く定着していること、という4つの基準を総合的に判断する。部会では、睡眠障害はいずれの要件も満たすとの認識が共有され、異論は出なかった。部会ではとくに「睡眠障害小児科」への期待も示された。小児の睡眠時無呼吸や不眠が見過ごされやすい現状があり、早期介入により発達障害様症状が軽減するとの報告もある。睡眠障害を標榜可能とすることで、潜在的な患者の掘り起こしや早期診断につながるとの見方が示された。日本睡眠学会は今後、精神科、内科、耳鼻咽喉科など関連学会と連携し、講習会やeラーニングを通じた診療体制の底上げを進める方針だ。睡眠障害の標榜化は、診療の「旗」を明確に掲げることで医療アクセスを改善し、地域間格差の是正にも寄与すると期待されている。 参考 1) 睡眠障害の標榜について(厚労省) 2) 標榜可能な診療科名に「睡眠障害」追加可能へ 医道審議会部会(MC Plus) 3) 標榜診療科名に「睡眠障害」追加を了承 3月に取りまとめへ 医道審・部会(CB news) 4.医師偏在対策で管理者要件厳格化、4月施行の療担規則改正/厚労省厚生労働省は1月16日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)で、昨年12月の医療法改正などを踏まえ、「保険医療機関及び保険医療養担当規則(療担規則)」の見直しについて厚生労働大臣に答申を行った。改正規則は2026年4月1日から施行され、保険医療機関の管理者に関する要件と責務が新たに明記される。改正の柱は、管理者要件として「臨床研修修了後、保険医として病院で3年以上診療に従事した経験」を求める点。医師偏在対策の一環として位置付けられており、診療所ではなく「病院での従事経験」に限定した点が特徴となる。その一方で、経過措置として、すでに管理者を務めている医師には同一機関で管理者を継続する限り適用しない。また、自治医科大学卒業者の義務年限中の医師や、医師少数区域でキャリア形成プログラムに基づき従事する医師、矯正医官・自衛官などとして5年以上勤務した医師、管理者の急逝など止むを得ない事情で医療機関を承継する場合などは、要件を満たすとみなされる。具体的な該当例は今後、通知などで示される予定。あわせて、管理者の責務として、診療報酬請求を含め療担規則を順守するよう従事者を監督することが明文化される。管理者の役割を法令上明確化することで、保険診療の適正化を図る狙いがある。さらに、医療法改正に伴い新設される「オンライン診療受診施設」についても規制が整備される。原則として、保険薬局との一体的な構造・経営や利益供与を禁止し、医療資源が乏しい無医地区などに限って例外的に認める。薬局と医療機関の独立性を確保し、健康保険制度の健全運営を担保するためだ。管理者要件の厳格化とあわせ、医療提供体制の質と公正性が改めて問われることになりそうだ。 参考 1) 医療法等改正を踏まえた対応について(その2)(厚労省) 2) 療担規則の見直しを答申、「管理者の責務・要件」明記(MEDIFAX) 3) 保険医療機関の管理者要件、従事経験規定へ「病院で3年以上」 療担規則に(CB news) 5.人材不足で救命救急センター指定辞退へ、体制維持困難/近大奈良病院近畿大学奈良病院(奈良県生駒市)は、人材確保が困難な状況が続いているとして、救命救急センターの指定を2026年3月31日で辞退する。本年1月14日付で奈良県に指定辞退届出書を提出した。2003年に救命救急センターの指定を受け、県内の高度救急医療を担ってきたが、全国的な救命救急医不足の影響を受け、体制の安定的維持が困難と判断した。同センターでは2025年度も12月末までに約3,300人の入院患者を受け入れてきた。近畿大学病院(大阪府堺市)からの医師派遣に依存してきた側面もあるが、大学病院側でも人員に余裕がなく、継続的な派遣が難しくなっていた。私立大学病院などに公募を行うなど人材確保に努めたものの、十分な救命救急医を確保するには至らなかったという。指定辞退後の4月以降は、ICU(集中治療室)8床を休床する一方、救命救急センターとして運用してきた24床を、継続的な高度管理を要する重症患者向けのハイケアユニット(HCU)に転換し、重症患者の受け入れ自体は継続する方針。病院として救急医療から全面的に撤退するわけではないが、24時間体制で最重症患者を受け入れる高度救命救急機能は縮小される。奈良県によると、同病院の指定辞退により、2026年4月以降、県内の救命救急センターは奈良市の県総合医療センターと橿原市の県立医科大学附属病院の2施設体制となる。生駒市の小紫 雅史市長は「指定辞退は非常に重大」としつつ、医師の働き方改革が進む中で高度救急体制の維持が難しい現実にも理解を示し、市立病院との連携などで市民への影響を最小限に抑える考えを示した。今回の事例は、救急医不足と働き方改革が地域の高度救急医療体制に直接的な影響を及ぼし始めている現実を浮き彫りにしている。 参考 1) 近畿大学奈良病院における救命救急センターのハイケアユニット(HCU)への転換について(近畿大学) 2) 救命救急センターの指定辞退へ 近大奈良病院 人材確保難で(CB news) 3) 近大奈良病院 医師不足で救命救急センターの指定辞退へ(NHK) 4) 近畿大学奈良病院、救急救命センターの指定を辞退 人材確保が困難 重症受け入れは継続(産経新聞) 6.地域枠「縛り」見直しへ 短時間勤務や県外転出も容認/山梨県山梨県は1月16日に副知事が臨時記者会見を開き、医学部地域枠医師に課している就業義務と違約金制度を見直す方針を明らかにした。地域枠は、医師免許取得後15年間のうち9年間を県内で勤務すれば修学資金の返還を免除する制度だが、県は多様な働き方やキャリア形成に十分配慮できていなかったとして、制度の柔軟化に踏み切る。具体的には、これまで就業義務としていた週31時間以上の勤務に加え、育児や介護など家庭の事情に対応するため、週31時間未満の短時間勤務や非常勤勤務も義務履行として認める。また、県内勤務の中断理由についても、従来の「災害、疾病、産休・育休」に限定していた要件を拡大し、新たに介護、留学、大学院進学、研究従事を追加する。本人に将来的な県内勤務の意思が確認できる場合、結婚や介護などで一時的に県外へ転出しても、違約金の対象外とする。背景には、地域枠医師に最大約842万円の違約金を科す条項を巡り、消費者団体から提訴され、この1月20日に判決が予定されている問題がある。山梨県は5年前、地域枠からの離脱者が出たことを受け、修学資金返還に加えて違約金を課す制度を全国で初めて導入したが、「人権侵害ではないか」「人生の変化が大きい時期に過度な拘束を課している」との批判が医学生や医療関係者から相次いでいた。全国的に地域枠は医師不足対策として拡大し、定員は医学部全体の約2割を占める。その一方で、入学時に将来の勤務を約束させる制度設計や、後出し的な義務強化に疑問の声も根強い。今回の見直しは、ペナルティー中心の運用から、医師のキャリアや生活に配慮した制度への転換を模索する動きとして注目される。 参考 1) 山梨県副知事臨時記者会見(YouTube) 2) 山梨県地域枠等医師キャリア形成プログラムの違約金条項に対する差止請求訴訟の状況について(消費者機構日本) 3) 山梨県、「地域枠」医師の就業義務見直し 多様な働き方に対応(日経新聞) 4) 山梨県 医学部の地域枠制度 違約金の支払い要件見直しへ(NHK) 5) 医学部地域枠、学生へムチ「違約金」最大842万円 人権侵害の声も(朝日新聞) 6) 山梨県の医学部学費貸与、「違約金840万円は違法」 NPOが提訴(同)

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医師はパーキンソン病リスクが高い!?~日本の多施設研究

 職種とパーキンソン病リスクとの関連と発症後の職種の変更に関して、東海大学の中澤 祥子氏らが全国多施設におけるケースコントロール研究で調べたところ、サービス産業とホワイトカラー産業の専門職、とくに医師などの医療専門職においてパーキンソン病リスクが高いことが示唆された。BMJ Open誌2025年12月23日号に掲載。 本研究は、わが国の労働者健康安全機構労災病院が構築している入院患者病職歴データベース(Inpatient Clinico-Occupational Database of Rosai Hospital Group:ICOD-R)を使用したマッチドケースコントロール研究。2005~21年の入院患者データから、パーキンソン病と診断された2,205例をケース群、年齢・性別・入院年・病院が一致するパーキンソン病以外の1万436例をコントロール群とした。主要評価項目は、産業(ブルーカラー、サービス、ホワイトカラー)および職業階級(ブルーカラー労働者、サービス労働者、専門職、管理職)で分類した職種(最も長く従事した職種)とパーキンソン病リスクとの関連とした。副次評価項目は、パーキンソン病リスクが高い職種および産業、60歳未満における診断前後の職種の変化、化学物質曝露・喫煙状況・性別とパーキンソン病リスクとの関連とした。 主な結果は以下のとおり。・喫煙と飲酒による調整後、サービス産業(オッズ比[OR]:2.01、95%信頼区間[CI]:1.24~3.25)およびホワイトカラー産業(OR:1.33、95%CI:1.10~1.61)の専門職は、サービス労働者よりパーキンソン病リスクが高かった。医師、歯科医師、獣医師、薬剤師は、パーキンソン病リスクが高かった。・パーキンソン病患者160例のうち、47%が無職、20%が自主退職、30%が仕事を継続していた。・多重比較による調整後、化学物質曝露はパーキンソン病リスクとの関連は認められなかった。一因として曝露を受けた被験者数が少なかった可能性がある。・ブルーカラー産業のブルーカラー労働者およびサービス労働者では、過去または現在喫煙者はパーキンソン病リスクが低かった。

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歯の本数と死因別死亡の関連を検証、入れ歯使用でリスクが減弱か——4.4万人の7年追跡研究

 高齢者で歯を失うことは死亡リスクの上昇と関連することが知られてきたが、入れ歯やブリッジなどの補綴物がその影響をどこまで緩和するのかは明確ではなかった。今回、国内4.4万人を7年間追跡した研究で、残存歯が少ないほど複数の死因で死亡率が高まり、補綴物の使用でそのリスクが弱まる可能性が示された。研究は、東北大学大学院歯学研究科地域共生社会歯学講座国際歯科保健学分野のFaiz Abdurrahman氏、草間太郎氏、竹内研時氏らによるもので、詳細は11月19日付で「Scientific Reports」に掲載された。 う蝕(虫歯)や歯周病は世界で最も一般的な疾患の一つで、進行すると不可逆的な歯の喪失を招く。高齢期の歯の喪失は慢性疾患や死亡リスクの上昇と関連し、咀嚼低下による栄養障害、慢性炎症、フレイルの進行など複数の経路が指摘されている。しかし、こうしたリスクが死因ごとにどのように表れるか、また入れ歯やブリッジといった補綴物の使用がそれらをどの程度緩和しうるかは十分に明らかになっていない。本研究は、日本の地域在住高齢者を対象とする大規模コホートデータを用い、残存歯数と補綴物の使用状況が、多様な死因別死亡とどのように関連するかを、追跡データを基に検証した。 本研究では、日本老年学的評価研究(JAGES)の7年間の追跡調査データを解析した。アウトカムは全死亡率と死因別死亡率とし、がん、心血管、呼吸器などICD-10コードに基づく広い死因を対象とした。説明変数は、2010年JAGESベースライン質問票で収集した残存歯数と補綴物の使用有無から分類した。死亡リスクは、性別、年齢、所得、教育、併存疾患、生活習慣などを調整したCox回帰により、ハザード比〔HR〕および95%信頼区間〔CI〕を推定した。 解析には4万3,774人の参加者が含まれた(平均年齢73.7歳、女性53.2%)。中央値2,485日の追跡期間中に5,707人(13.0%)の死亡が確認された。全死亡率は1,000人年あたり20.7人だった。 残存歯が0~9本または10~19本の参加者は、20本以上の参加者に比べて全死因および死因別の死亡率が高かった。とくに、これらの群のうち補綴物を使用していない参加者では、補綴を使用している参加者よりも全死因死亡率が高かった。死因別では、消化器疾患と精神・行動障害を除き、補綴のない0~9本の群で最も高い死亡率を示した。 次に残存歯数と補綴物の使用有無を組み合わせた変数を説明変数としたCox回帰分析を行ったところ、補綴物を使用していない残存歯0~9本(HR 1.42、95%CI 1.30~1.56)および10~19本(HR 1.23、95%CI 1.10~1.37)の参加者は、20本以上の参加者よりも全死因死亡リスクが高かった。死因別では、補綴物を使用していない残存歯0~9本の参加者は、20本以上の参加者と比べて、がん(HR 1.31)、心血管疾患(HR 1.35)、呼吸器疾患(HR 1.72)、および外因死(HR 1.91)の死亡リスクが高かった(P<0.05)。同様に、補綴物を使用していない10~19本の参加者も、20本以上に比べて、がん(HR 1.19)および呼吸器疾患(HR 1.47)による死亡リスクが高かった(P<0.05)。 残存歯数ごとの層別化によるサブグループ解析では、残存歯が少ない群(とくに0~9本)で、補綴物を使用している参加者は使用していない参加者よりも、複数の死因でHRが1未満となり、死亡リスクが低くなる傾向がみられた。ただし、これらの差はいずれも統計学的に有意ではなかった。 著者らは、「歯の喪失は複数の特定死因による死亡リスクの上昇と関連していたが、歯科補綴物の使用によってそのリスクは軽減される可能性がある。生涯にわたる歯の喪失を抑え、補綴治療への公平なアクセスを確保することが、高齢化社会における健康アウトカムの改善に寄与すると考えられる」と述べている。

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年を取っても「新庄監督のように真っ白な歯にしたい!」、口元は社会交流の出発点【外来で役立つ!認知症Topics】第37回

歯科領域と認知障害の密接な関係筆者は東京科学大学(旧:東京医科歯科大学)の同窓会館内で勤務しているので、歯科関係者との連携も少なくない。それだけに、軽度認知障害(MCI)の診察をしている他の先生方と比べて、口腔領域の話題に触れることが多いほうだろう。認知障害に関わる歯科領域の課題としては、咀嚼や嚥下障害、誤嚥性肺炎、また基本となる「口からの食物摂取」といったものがすぐに思い浮かぶ。ところが実際には、それら以上に「自分の口元の美醜や口の臭いなどが人からどう見られるか」を密かに悩む人が少なくないようだ。当然かもしれないが、これは難聴者が他者との交流を遠慮して積極的になれないのと似た傾向を生む。「口腔ケア」の真意と認知症予防への期待さて本稿のテーマである「口腔ケア」だが、私自身、以前はこの言葉を漠然と使っており、正しく理解してこなかった。改めて調べてみると、口腔ケアとは、単に歯磨きなどで口腔内の清潔を保つだけでなく、口腔機能の維持やその健康度向上のためのリハビリまでを含む幅広い内容を指す。歯や歯茎、舌、口腔粘膜、義歯を含む口の中の清掃、口腔内や口周りのマッサージ、咀嚼や嚥下のトレーニングまでが含まれる。こうした口腔ケアは「器質的ケア」と「機能的ケア」の2種類に分類される。前者は歯周病や誤嚥性肺炎の予防のために口の中を清潔に保つための口腔ケアを、後者は口腔機能つまり食べる、話す、表情をつくるなど口の働きの維持、回復を目指すケアを指す。口腔ケアの一般的な効果と目的は次のようにまとめられる。1.虫歯や歯周病など口腔内トラブルの減少2.口腔中の細菌が原因となる誤嚥性肺炎や感染症などの予防3.味覚改善による食欲増進4.発音改善による円滑なコミュニケーションの獲得5.認知症予防5つ目の「認知症予防」については、従来、口の開け閉めや咀嚼することが、脳(とくに海馬)に刺激を与えて脳の活性化につながるといわれてきた。それに加え、最近では「歯周病菌が脳内の炎症を惹起することで、アルツハイマー病を発生・悪化させるのではないか」とする観点からも注目されている。社会交流を妨げる「口元劣等感」の正体一方で、認知症予防における「社会交流」の重要性は確立している。冒頭で触れたMCIの領域において、他者とのコミュニケーションへの積極性という観点からの口腔ケアは、これまではさほど注目されてはこなかった。しかし、社会交流を妨げるのが、この口周囲の問題から生じる「会話しない」「しゃべらない」である。経験上、そこには2つの要因がある。1つは、口元の外見に自信がないことである。ある程度お年を召しても、いや、お年を召したからこそ、口元の美しさを気にする人は結構多い。人と会話するとき、「相手に口元を見られて、歯並びが悪いことがわかってしまうので、口をしっかり開けてしゃべれない」「人前でマスクを外せない」と言う人もいる。こうした口元劣等感は歯並びだけではなく、残歯の数、義歯の状態、歯の色なども関係する。そしてもう1つは口臭である。もっとも、その多くは主観にすぎず、実際には問題ないことも少なくない。しかしいずれにせよ、こうした悩みは他者との会話を減らし、社会交流を通した脳の活性化や「脳トレ」が不十分になりやすい。また、大きな声で滑舌良く喋ったり歌ったりすることができにくくなれば、発声や咀嚼・嚥下、さらには呼吸機能面にも悪影響を及ぼしかねない。若者だけではない「白い歯」願望こうした口元への劣等感の中で、比較的対応が容易と思われるのが「歯の色」である。筆者はこれまで、歯のホワイトニングは10代・20代の若者が主体だと思っていた。ところが実際には、中年期以降の利用者が多いということを最近知った。ホワイトニングの希望に関して尋ねてみると、あっけにとられる返事がよく返ってくる。「テレビで見る歌手や、プロ野球日本ハム新庄 剛志監督のように真っ白にしたい」と言うのである。筆者が「あまりに白いのは不自然では。年齢相応の白さがあると思うのだが」などと伝えても、「見栄えを良くするには、あれくらい真っ白でないと」と述べる人も少なくない。実際、ホワイトニングの素材にはさまざまな白さの度合いが選べ、歯科医院ばかりでなく自宅で行えるものも普及している。自覚しにくい口臭への対策また、口臭は自己識別が難しいだけに、問題ないのに気にする人が多い反面、強い臭いに自覚がない人も多い。最近では「口臭チェッカー」といって、1万円以内程度で購入できる口臭を客観評価する機器も出回っている。口臭の大部分は口腔内に原因があり、その多くは舌苔と歯周病だが、とくに前者の関わりがより大きい。原因物質では硫化水素とメチルメルカプタンが約90%を占める。これらは口腔内の嫌気性菌が、唾液・血液・剥離上皮細胞・食物残渣中の含硫アミノ酸を分解・腐敗させて産生される揮発性硫黄化合物である。歯周病には、歯磨きならぬ「歯茎磨き」が何よりだそうだ。筆者の後輩の歯科医は、1日6回の歯茎磨きをやれば、1ヵ月以内に効果てきめんと教えてくれた。舌苔に対しては、専用の舌ブラシやスポンジブラシなどを使って、舌表面を清潔にすることである。認知障害の有無にかかわらず、口元コンプレックスが、社会交流、つまり他者とのコミュニケーションに及ぼす影響は少なくないようだ。それだけに、MCIの方々の診察において、適切なアドバイスや歯科医への紹介は欠かせない。

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第298回 東大、国際卓越研究大学にまたまた選ばれず継続審査へ、その“敗因”はどこに?

東京科学大、2番目の国際卓越研究大学にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年をまたいで、日本のプロ野球からポスティングシステムで米国のMLBを目指した4人の選手の所属先が決まりました。最も注目されたヤクルトの村上 宗隆内野手は、2年総額3,400万ドルでシカゴ・ホワイトソックスに移籍します。昨年60勝102敗でアメリカン・リーグ中地区最下位の最弱チームです。日本での期待は高かったのですが、MLB各チームは速球への対応力や三振率の高さを懸念したのか、大型契約には至りませんでした。やはり同様の不安を抱えながら渡米、悪戦苦闘した筒香 嘉智選手の二の舞にならないことを願います。一方で、巨人の岡本 和真内野手は4年総額6,000万ドルでトロント・ブルージェイズと契約しました。昨年、ロサンゼルス・ドジャースとワールドシリーズを戦った強豪チームです。村上選手以上の順当な評価を得たと言えるでしょう。ゲレーロJr.選手とクリーンナップを打つことになるのでしょうか。巨人時代から定評あるユーモア交えた記者会見、記者対応にも注目です。この他、西武からヒューストン・アストロズに移る今井 達也投手は想定より短い総額5,400万ドルの3年契約となり、同じく西武からMLBを目指した高橋 光成投手は西武残留になりました。総じて渋い決着となった今季のMLBへの移籍の背景について、野球メディアの多くはMLBにリスク回避の傾向が高まっているためだと分析しています。日本人選手のこうした評価が定着していかないためにも、新たに渡米する3選手の“予想”を大きく裏切る活躍に期待したいと思います。さて、年末にはあの一件も決着しました。文部科学省は12月19日、世界トップ級の研究力を目指す国際卓越研究大学の第2期公募の結果、新たに東京科学大(旧東京医科歯科大学、旧東京工業大学)を選ぶと発表しました。また、京大も候補に内定しました。昨年の東北大に続く認定となります。「第291回 東大病院の整形外科医、収賄の疑いで逮捕 『国際卓越研究大学』の認定にも影響か?」でも書いた東大は、“予想”通りまたまた選ばれず継続審査となりました。いったい何が明暗を分けたのでしょう。「新たな不祥事が生じたと判断された場合、審査を打ち切る」と有識者会議国際卓越研究大学は、日本政府が10兆円規模の大学ファンド(運用益)を活用し、世界トップレベルの研究力と国際競争力を持つ大学を育成する制度です。大学ファンドによる支援は最長25年にわたり、助成金の上限は制度全体で概ね年3,000億円(東北大の2025年度助成額は154億円)に上ります。文科省は段階的に年数校を認定していく方針ですが、3回目を実施するかどうかは今のところ未定です。朝日新聞などの報道によれば、東京科学大は東京医科歯科大と東京工業大統合後の学問領域を横断した研究体制や、大学病院を拠点とした医工連携の計画などが評価されたとのことです。年度内には正式認定される予定です。内定となった京大は、大学院など研究組織を再編する計画が評価されたものの、全学的なビジョン策定が必要であるとして、計画修正を経て1年以内に正式認定される予定です。東大については「落選」ではなく、「継続審査」となりました。工学系の新学部設置構想が評価された一方で、本連載でも書いた医学部の准教授が収賄容疑で立件されるなど不祥事が相次いだことで、大学トップを含む責任体制の構築が必要とされました。最長1年間審査は継続されますが、有識者会議は「継続審査中に、法人としてのガバナンスに関わる新たな不祥事が生じたと判断された場合、審査を打ち切る」と厳しい意見を付けています。なお、応募した8大学中、大阪大、早稲田大、九州大、筑波大、名古屋大の5校は落選しました。「問題視されたのは不祥事そのものではなく、今回の執行部の対応が象徴する『部局任せ』の姿勢」名実ともに日本のトップ大学であり続けてきた東大の何がNGだったのでしょうか。12月25日付の日本経済新聞朝刊に掲載された「東大、ガバナンス改革急ぐ 卓越大の本命、不祥事響き『保留』 認定逃せば競争力陰り」と題する記事がその背景と理由について深掘りしていて読ませます。同記事は、「オランダの学術大手エルゼビアのデータを日本経済新聞が分析すると、他の研究者から頻繁に引用される注目論文『トップ10%論文』の数は24年までの10年間で東大は約1万6,000本。京大(約9,700本)など国内の他大を大きく引き離す」と東大の実力を解説、「東大は約7万本の米ハーバード大、約4万本の英オックスフォード大など欧米の有力大の背中を追い、卓越大の候補としても本命視された」としつつ、昨年の1回目の公募では「スケール感やスピード感が十分でない」と指摘され落選、「2回目は不祥事に襲われた」と書いています。同記事は、「『社会連携講座』を巡ってトラブルが発生。日本化粧品協会などが5月、同講座を担当する医学系研究科の教授から高額の接待を強要されたのに共同研究の契約を解除されたとし、東大と教授らを提訴した。さらに12月10日、医療機器メーカーから賄賂を受け取ったとして、医学部准教授が収賄罪で起訴された。メーカー側の機器を使う見返りに寄付金を受け取り、私的に流用していたとされる」と一連の不祥事を列挙、「部局の運営管理に東大本部のチェックの目が届かなかった形だ」と書いています。同記事で興味深いのは、「ある文部科学省幹部は『問題視されたのは不祥事そのものではなく、今回の執行部の対応が象徴する『部局任せ』の姿勢だ』と説明する」と書いている点です。不祥事の頻発はもちろん悪いことですが、組織の巨大さゆえ、医学部の不祥事は医学部任せにしてしまい、大学全体としてガバナンスが効かない組織体制であったことこそが問題視されたと指摘しているのです。どれだけ優秀な人材が揃っていても、不祥事が続き、なおかつ経営層の力が末端まで及ばず、細かなコントロールも効かないような大学に数百億円も支援する筋合いはない、ということなのでしょう。他大学との研究力の差は、10年、20年経つうちに徐々に縮まっていく?一方の東京科学大ですが、2026年度から理工系の学士課程を早期卒業し医学科に編入するコースが新設されることが発表されたり、大竹 尚登理事長と田中 雄二郎学長が、年末の日本経済新聞のインタビューで、「研究力強化に向けた対策の一つとして、博士課程の学生への経済的支援を年間で数百万円増やし、平均年約400万~500万円にする方針」を示したりと、研究への前向きな姿勢が何かと話題になっています。また、ひと足早く国際卓越研究大学となった東北大は、2027年度に全学部が参画する未来型教育の新拠点「ゲートウェイカレッジ」を新設し、国際共修や分野横断教育、留学を組み込んだカリキュラムなどを展開する計画を示すなど、こちらも新時代に向けてさまざまな改革案を打ち出しています。仮に(また不祥事が発覚するなどして)東大が国際卓越研究大学に選ばれなかったとしたら、先に選ばれた国際卓越研究大学との研究力の差は、10年、20年経つうちに徐々に縮まっていき、研究力だけでなく、東大の“ブランド力”も低下していくに違いありません。東大は今春までに一連の不祥事を受けた再発防止策やガバナンス改革案などをまとめる予定とのことです。同大の今後の動きが注目されます。

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炭酸脱水酵素阻害薬は睡眠時無呼吸症候群を改善(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

本邦における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の疫学と治療の現状 本邦における閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA:Obstructive Sleep Apnea)の人口当たりの発症頻度は男性で3~7%(40~60代に多発)、女性で2~5%(閉経後に多発)と報告されており、男女合わせて500万例以上、総人口の約4%にOSA患者が存在すると考えられている。本邦における成人OSAに対する有効な治療法としては経鼻/経口の持続陽圧呼吸(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)が中心的位置を占める。CPAP不適あるいは不認容の非肥満(BMI<30kg/m2)患者に対する植込み型舌下神経(XII神経)電気刺激も有効な方法である。その他、比較的軽症のOSA患者に対するマウスピースや特殊な原因に対する耳鼻科的・口腔外科的手術/処置が有効な場合もある。いずれにしろ、OSA患者に施行されている治療はCPAPに代表される機械的治療が中心であり、現在のところ、有効性が確認され、かつ、保険適用を受けた薬物治療は存在しない。 本邦におけるOSA患者に対するCPAPの導入率はCPAP必要患者の15%前後と低く、米国の70%を大きく下回っている。その意味で、本邦におけるOSA患者に対する治療は不十分であり、OSAを“扇の要”として関連する種々の疾患(病的肥満、糖尿病、治療抵抗性高血圧、冠動脈疾患、心房細動、心不全、脳卒中、大動脈解離、認知症など)の管理に少なからず影響を与えている(OSAを頂点とするMetabolic Domino現象)。さらに、OSA患者では明確な機序不明であるがメラノーマ、腎臓がん、膵臓がんなどの悪性腫瘍の発生率が高いことも注意すべき事項の1つである。以上の諸点を鑑みると、今回論評の対象としたRanderath氏らの論文で明らかにされた内服の炭酸脱水酵素(CA:Carbonic Anhydrase)阻害薬のOSA抑制効果は近未来のOSAに対する治療を質的に変化させる可能性がある。抗糖尿病薬GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(商品名:マンジャロ)もOSAを改善することが報告されている(Malhotra A, et al. N Engl J Med. 2024;391:1193-1205.)。しかしながら、チルゼパチドは、あくまでも肥満の軽減を介して2次的に無呼吸頻度を低下させるものであり、OSA自体を1次的に改善させるものではない。それ故、チルゼパチドは今回の論評には含めない。 睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)には中枢性のもの(CSA:Central Sleep Apnea)も存在するが、その頻度はOSAに比べ有意に低いこと(SAS全体の10%以下)、発症機序に不明な点が多いことなどから本論評においては詳細な評価を割愛した。炭酸脱水酵素(CA)と睡眠時無呼吸の関係 CAは生体細胞に広く分布し、細胞内代謝の結果として産生されるCO2とH2Oとの反応を触媒しH2CO3を産生する。H2CO3はH+とHCO3ーに自然解離し、HCO3ーはクロライド・シフトを介して細胞外に排出、H+は細胞内の蛋白に吸着され細胞内pHは一定に維持される(生理的pH下ではγ-グロブリン以外の蛋白は陰イオンとして存在しH+と結合)。生体には臓器特異的に15~16種類に及ぶCAのアイソザイムが存在することが報告されており、各臓器において細胞内pHの恒常性維持に寄与している。このような細胞内環境下でCAの活性を阻害すると、細胞内でのCO2処理が遅延し細胞内CO2濃度が上昇、細胞内アシドーシスが招来される。その結果として、脳幹部(延髄、橋)に局在する呼吸中枢神経群(延髄表層に存在するCO2感受性の中枢化学受容体を含む)のCO2感受性が亢進し、換気応答が活性化される。さらに、細胞内アシドーシスは咽頭/喉頭に存在する上気道筋群の筋緊張を維持する。以上の機序を介して、CAの阻害は睡眠時の閉塞性無呼吸の発生を1次的に抑制するとされているが、これ以外の未知の機序が関係する可能性も指摘されている。CA阻害薬の分類と臨床 臨床的に使用可能なCA阻害薬には点眼薬と内服薬の2種類が存在する。点眼薬(商品名:ドルゾラミド、ブリンゾラミドなど)は主として眼圧低下と緑内障治療薬として使用される。内服薬のうち1954年に緑内障治療薬としてFDAに承認された歴史的薬剤であるアセタゾラミド(商品名:ダイアモックス)は静注薬としても使用可能であり、緑内障以外にてんかん、メニエール病、急性高山病、尿路結石症の発作予防など幅広い保険適用を獲得している。最近認可された内服CA阻害薬として本論評の対象としたスルチアム(商品名:オスポロット)が存在するが、スルチアムは、本邦においては精神運動発作(てんかん)のみに使用が限定されている。CA阻害薬のOSAに対する治療効果-大規模研究の結果 SAS(OSA、CSA)発症にかかわる重要な因子としてCAが関与する化学反応が長年注目されてきたが確証が得られるには至らなかった。しかしながら、2020年、Christopher氏らはアセタゾラミド内服薬のSAS抑制効果に関して28研究(OSA:13研究、CSA:15研究)を基にメタ解析を施行した(Schmickl CN, et al. Chest. 2020;158:2632-2645.)。彼らの解析結果によると、アセタゾラミド内服(36~1,000mg/日)によってSAS患者の無呼吸/低呼吸指数(AHI:Apnea-Hypopnea Index)が37.7%(絶対値として13.8/時)低下すること、さらには、AHIの低下はOSA患者とCSA患者でほぼ同等であることが示された。アセタゾラミドによる無呼吸抑制効果は投与量依存性を示し、薬剤量が高いほど顕著であった。Christopher氏らの解析結果は、アセタゾラミドの内服がOSAのみならずCSAの治療にも有効である可能性を示している。 本論評の対象としたRanderath氏らの論文は、OSAに対するCA阻害薬スルチアムの効果を解析した第II相二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定試験(FLOW試験)の結果を報告した(欧州5ヵ国、28病院における治験)。対象は未治療、中等症以上のOSA患者298例で、プラセボ群(75例)、スルチアム100mg群(74例)、同200mg群(74例)、同300mg群(75例)の4群に振り分けられた。観察期間は、薬物投与量が一定になってから12週間(薬剤投与開始から15週間)と設定された。スルチアムの1日1回就寝前投与は、AHI、夜間低酸素血症、日中の傾眠傾向(Epworth Sleepiness Scaleによる評価)などOSAに付随する重要な症状を用量依存的に改善した。スルチアム投与によって重篤な有害事象は認められなかったが、知覚異常を中心とする中等症以下の多彩な有害事象が発生した。“治療効果と副反応”の比はスルチアム200mgの連日投与で最も高く、この用量がOSA治療に最も適していると結論された。 以上のように、OSA治療におけるCA阻害薬の有効性が実証されつつあり、本邦においてもCPAPにかわる新たな治療法としてCA阻害薬の内服治療の有効性を検証する臨床治験が早急に実施されることを期待するものである。この問題に関連して、2025年4月、本邦の塩野義製薬は米国Apnimed社と合弁会社を設立し(Shionogi-Apnimed Sleep Science)、睡眠時無呼吸症候群に対するスルチアムを含めた新たな薬物治療戦略を世界レベルで開始しており、今後の動向が注目される。

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歯のエナメル質を修復・再生するバイオジェルを開発

 歯科治療は近い将来、より楽で痛みの少ないものになるかもしれない。歯を守る硬い表層であるエナメル質を修復・再生できる革新的なジェルの開発に関する研究結果が報告された。エナメル質は、いったん失われると自然には再生しないため、この新素材は、歯の長期的な保護や損傷時の修復方法を大きく変える可能性を秘めている。米国では、歯のエナメル質を強化するミネラルであるフッ化物(フッ素)の経口摂取が議論を呼んでいることから、この研究成果は注目を集めている。英ノッティンガム大学のAbshar Hasan氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に11月4日掲載された。 エナメル質の喪失は、虫歯(う歯)の主要な原因である。歯に付着したプラークや、酸性の食品、糖分・でんぷん質を多く含む食品や飲料が歯に長時間残存したり、長年の咀嚼により歯が摩耗したりすることで、エナメル質は失われる。 Hasan氏らは、人工タンパク質であるエラスチン様リコンビナマー(Elastin-Like Recombinamer;ELR)を基盤とした、調整可能で耐久性の高い超分子マトリックス(ジェル)を開発した。ELRは、歯の発生過程でエナメル質形成初期に不可欠な成分であるアメロジェニンの構造と機能を模倣した人工タンパク質で、カルシウムイオンの存在下で線維状マトリックスを形成し、エナメル質のナノ結晶の成長を促す。また、乾燥によりELR分子の秩序化と線維化が進み、さらにカルシウムイオンとの相互作用によってマトリックスが安定化する。 研究グループは、抜去したヒトの大臼歯32本にこのジェルを塗布して、その効果を検証した。その結果、塗布されたジェルは、歯の構造内の穴や隙間を埋め、周囲のカルシウムイオンやリン酸イオンを引き寄せる強固なマトリックスを形成し、元のエナメル質の結晶構造に沿って結晶を成長させる「エピタキシャル成長」を誘導することが示された。これにより、失われたエナメル質の構造と力学特性が再生されることが確認された。また、再生されたエナメル質は、歯磨きや咀嚼、酸を産生する食品への曝露において、天然の健康なエナメル質と同等の性能を示すことも確認された。 論文の筆頭著者であるHasan氏は、「このジェルを脱灰またはエロージョン(酸蝕症)の生じたエナメル質、あるいは露出した象牙質に塗布すると、結晶が統合され秩序立った形で成長し、健康な天然エナメル質の構造が回復される」とノッティンガム大学のニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、このジェルは、最大で約10μmの薄いエナメル質の欠損層を修復できる。また、虫歯の修復にとどまらず、エナメル質の下にある敏感な層である象牙質にこのジェルを直接塗布してエナメル様の層を形成することも可能であるという。これにより、知覚過敏の軽減や、歯科修復物の耐久性向上が期待されると研究グループは述べている。 論文の上席著者であるノッティンガム大学生体医工学・バイオマテリアル学教授のAlvaro Mata氏は、「臨床医と患者の双方を念頭に設計されたこの技術に、われわれは非常に興奮している。この技術は、安全で簡便かつ迅速に適用でき、スケールアップも可能だ」と述べている。研究グループは、スタートアップ企業Mintech-Bioを立ち上げ、最短で来年にも最初の製品を市場に投入したい考えであることを明らかにしている。

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鼻に歯が生えていた2例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第297回

鼻に歯が生えていた2例さまざまな場所に歯が生えるものですが、過去に脳内に歯が生えた事例を紹介しました。今度は鼻の中です。脳に比べるとインパクトは少ないかもしれませんが、おどろき医学論文マニアとして、紹介しなければなりません。Bergamaschi IP, et al. Intranasal Ectopic Tooth in Adult and Pediatric Patients: A Report of Two Cases. Case Rep Surg. 2019 Sep 17;2019:8351825.「先生、鼻の中に“歯”があると言われたんですけど……」。外来でこんな訴えが飛び出したら、皆さんどうされるでしょうか。「抜けた歯が鼻腔に入ったのかな? いや、でもなんで歯が鼻に?」と一瞬フリーズしたくなりますが、世の中には“鼻から歯が生える”患者さんが存在します。今回は、ブラジルの口腔外科チームが報告した「鼻腔内異所性歯」の成人例と小児例、2症例を扱った論文をご紹介します。1例目は、32歳の女性です。主訴はズバリ「鼻の中に歯がある」というものでした。この患者さんによると、この状態は痛みを引き起こし、とくに寒い日には鼻血が出るとのことでした。詳しく病歴を聴取すると、6歳のときに顔面外傷を負い、上顎前歯部に損傷を受けたことが判明しました。つまり、26年もの間、歯が鼻の中に存在していたことになります。臨床診察で鼻尖部を持ち上げてみると、なんと右鼻孔内に上顎中切歯の歯冠が観察されました。6歳といえば、ちょうど前歯の永久歯が萌出する時期であり、Nollaの発育段階では7(歯冠完成、歯根の3分の1発育)に相当します。この時期に外傷を受けたことで、本来口腔内に萌出するはずだった歯が、上方に変位して鼻腔内に迷い込んでしまったと考えられます。ここで疑問が生じます。なぜ26年間も放置されていたのでしょうか。論文によると、これは「専門家からの誤った情報提供」が原因だったとのことです。つまり、症状(痛みや鼻出血)に対する対症療法のみが行われ、その原因である鼻腔内の歯が長年見過ごされていたということです。2例目は、左側の片側性口唇口蓋裂を有する8歳の女児です。この子供は、左側鼻閉を主訴に紹介されてきました。原因は、肉芽組織に囲まれた鼻腔内の硬い組織塊でした。口腔内診察とCT検査の結果、この白色塊は左側側切歯の異所性萌出であることが判明しました。口腔内では左側側切歯が欠損しており、塊の透過性は他の歯と一致していました。興味深いことに、CT検査では、この形成異常歯の上部は軟組織内に埋入しており、骨性支持がない状態でした。母親によると、この白色塊は腸骨骨移植による口鼻瘻孔閉鎖術の3ヵ月後に出現したとのことです。口唇口蓋裂自体が多因子性の病因を持つため、異所性萌出に対する遺伝的素因も否定できませんが、手術操作による歯胚の変位も原因として考えられます。両症例とも、治療は全身麻酔下での歯の外科的摘出でした。「鼻から歯を抜く」という、一見すると大手術のように思える処置ですが、実際の手技は比較的シンプルで、無事に済んだそうです。

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第275回 国内医師数34.8万人で過去最多、診療所シフトと深刻な地域格差が鮮明に/厚労省

<先週の動き> 1.国内医師数34.8万人で過去最多、診療所シフトと深刻な地域格差が鮮明に/厚労省 2.本体3.09%増で決着、賃上げ・物価高に「段階的」対応へ/政府 3.高額医療費の上限引き上げ決定、長期療養に配慮し「年間上限」を新設/政府 4.ロキソニン、ヒルドイドも対象、OTC類似薬「25%追加負担」の詳細判明/厚労省 5.周産期医療の再編加速、NICU利用率低下で「地域センター」の集約化が焦点に/厚労省 6.介護職員の賃上げ月最大1.9万円、介護報酬2.03%の臨時プラス改定が決定/政府 1.国内医師数34.8万人で過去最多、診療所シフトと深刻な地域格差が鮮明に/厚労省厚生労働省が発表した2024年末時点の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、国内の医師数は前回調査から1.3%増加し、34万7,772人と過去最多を更新した。人口10万人当たりの医師数も全国平均で267.4人と、前回から5.3人増加していた。施設別では、診療所に勤務する医師が4.1%増の11万1,699人と大きく伸びた一方、病院勤務者は0.3%減の21万9,393人となった。また、大学病院などの教育・研究機関に所属する医師数も減少傾向にあり、専門医志向の高まりを背景とした大学院進学者の減少が浮き彫りとなっている。診療科別では、内科が全体の約19%を占めて最多だが、注目すべきは明暗が分かれた特定診療科の動向。近年、自由診療の拡大を背景に美容外科医が急増しており、前回から4割近い増加をみせた。対照的に、外科医はピーク時から約4%減少していた。過酷な労働環境や訴訟リスクが敬遠される要因とみられるが、2026年度からの専門研修登録状況では、外科を志望する医師が前年比で16.9%増と大幅な回復の兆しをみせている。これは一部の病院による給与引き上げや学会の魅力発信が功を奏した形である。地域格差も依然として深刻であり、人口10万人当たりの医師数が最も多い徳島県の345.4人に対し、最少の埼玉県は189.1人と、1.8倍以上の開きがある。また、産婦人科・産科医が全体として1.2%減少する中、福井県と埼玉県の格差も顕著となっている。総数が増加する一方で、医師の働き方改革や専門科の偏在、地域間格差といった課題は山積している。日本専門医機構は今後、若手医師の意識調査や、自己研鑽と労働の切り分けに関する標準時間の策定を進め、持続可能な医療体制の構築を急ぐ方針。 参考 1) 令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(厚労省) 2) 医師、約35万7,000人=過去最多を更新、24年末-厚労省(時事通信) 3) 国内医師数34.8万人、24年は過去最多 診療所勤務が増加(日経新聞) 4) 2026年度からの専門医資格取得を目指す研修、「外科医を目指す医師」が大幅増の可能性大-日本専門医機構・渡辺理事長(Gem Med) 2.本体3.09%増で決着、賃上げ・物価高に「段階的」対応へ/政府政府は12月24日、2026年度当初予算案の一般会計総額を、過去最大の122兆3,000億円程度とする方向で最終調整に入った。高齢化に伴う社会保障関係費の増大に加え、物価高や賃上げへの対応により、歳出は2年連続で過去最大を更新する。税収も過去最高を見込むものの、足りない分は29兆6,000億円に及ぶ新規国債の発行で賄う、厳しい財政運営となった。今回の予算編成の大きな焦点とされた2026年度診療報酬改定については、医療従事者の人件費にあたる「本体」部分を2年度平均でプラス3.09%引き上げることで合意した。本体の3%を超える引き上げは1996年度以来、実に30年ぶりの高水準。上野 賢一郎厚生労働大臣と片山 さつき財務大臣の折衝を経て、物価高騰に直面する病院経営の安定と、全職種にわたる確実な賃上げを実現するための財源確保が決着した。異例の措置として、改定率は2026年度にプラス2.41%、2027年度にプラス3.77%と段階的に引き上げる手法が初めて導入される。これにより、各年度で3.2%のベースアップを目指すとともに、他産業との人材獲得競争が激しい看護補助者や事務職員には5.7%の上乗せ措置が講じられる。その一方で、医薬品の公定価格である薬価は市場実勢価格を踏まえ0.87%引き下げられ、薬価引き下げを含めたネットでは2.22%のプラス改定となり、12年ぶりの全体プラスとなる。しかし、現役世代の保険料負担を抑えるため、患者には新たな負担も求められる。市販薬と成分が重なる「OTC類似薬」については、薬剤費の4分の1を患者が特別料金として上乗せ負担する仕組みが2027年3月から開始される。また、後発薬がある先発品を希望する際の追加負担も現行の4分の1から2分の1へと引き上げられ、高額療養費制度の上限額も所得に応じて段階的に引き上げられる。今回の改定は、30年ぶりの大幅なプラス改定で医療現場の窮状を救う一方、薬剤費や一部の自己負担を「聖域」とせずメスを入れる、全世代型社会保障への大きな転換点と位置付けられる。今後、医師にはリフィル処方の推進やエビデンスに基づく薬剤選択が求められるようになり、医療機関の経営と診療の質、そして患者負担のバランスをどう取るかが、現場の新たな課題となる。予算案は12月26日に閣議決定が行われた。また、同日、診療報酬改定について中央社会保険医療協議会(中医協)総会で了承され、中医協総会は公聴会を1月23日に開催することで決定した。なお、政府は2026年1月23日に召集される通常国会で予算案について審議し、3月末までに成立を目指している。 参考 1) 診療報酬改定について(厚労省) 2) 来年度予算案、122.3兆円程度 国債前年度上回る29.6兆円-26日閣議決定(時事通信) 3) 診療報酬2.22%引き上げ、薬価0.87%引き下げも全体で12年ぶりプラス改定…閣僚折衝で合意(読売新聞) 4) 「2026→27年度」と物価・人件費が高騰する点踏まえ2026年度2.41%、27年度3.77%の診療報酬本体引き上げ-上野厚労相(Gem Med) 5) 診療報酬本体はプラス3.09%、医科の実質的な増加分は0.23%(日経メディカル) 6) 122兆円の来年度予算案が閣議決定…過去最大の社会保障関係費・防衛費、「責任ある積極財政」路線鮮明に(読売新聞) 7) 第639回総会資料(厚労省) 3.高額医療費の上限引き上げ決定、長期療養に配慮し「年間上限」を新設/政府政府は12月24日、医療費の自己負担を一定額に抑える「高額療養費制度」の見直し案を正式に決定した。今回の改正では、現役世代の保険料上昇を抑制する狙いから、1ヵ月当たりの負担上限額を2027年8月までに段階的に引き上げる一方、長期治療が必要な患者の生活を守るための新たなセーフティーネットが導入される。具体的な引き上げ幅について、来年8月に現行の所得区分に応じ4~7%引き上げられ、さらに2027年8月には所得区分を現在の5~13段階へと細分化した上で、最大38%程度の引き上げを実施する。政府の試算によると、年収約650~770万円の層では、月額上限が現在の約8万円から約11万円へと上昇する。これは昨年末に検討されていた「最大70%超」という大幅な引き上げ案が患者団体の強い反発で凍結されたことを受け、上げ幅を約半分に抑制した形。特筆すべきは、がんや難病などで長期にわたり高額な治療を続ける患者への配慮である。過去12ヵ月で3回上限に達した場合、4回目から負担が下がる「多数回該当」の金額は原則として据え置かれた。さらに、月ごとの支払額の変動による家計の破綻を防ぐため、所得に応じて年間の支払い総額に上限を設ける「年間上限額」が新設される。平均的な年収世帯の場合、年間上限は53万円に設定される。その一方で、70歳以上の外来受診費を軽減する「外来特例」についても、負担上限額が段階的に引き上げられる。年収約200~370万円の層では、現在の月額1万8,000円から2年後には2万8,000円となる。政府は今回の見直しにより、累計1,600億円規模の保険料負担の圧縮を見込んでいる。上野厚労大臣は「長期療養者の経済的負担に配慮した内容であり、丁寧に説明して理解を得たい」と述べているが、患者団体からは依然として、現役世代の負担増が治療の断念につながりかねないとして、さらなる抑制を求める声も上がっている。 参考 1) 高額療養費の自己負担上限、年収に応じ最大38%引き上げ…石破内閣時の70%超案から抑制(読売新聞) 2) 高額療養費、月の上限4~38%上げ 27年8月、患者配慮で改革縮む(日経新聞) 3) 高額療養費制度 月当たり負担上限額 所得に応じ引き上げへ(NHK) 4) 高額療養費の見直し、背景に少子化財源も 患者は「更なる抑制を」(朝日新聞) 4.ロキソニン、ヒルドイドも対象、OTC類似薬「25%追加負担」の詳細判明/厚労省厚生労働省は、2026(令和8)年度の診療報酬改定および医療保険制度改革において、市販薬(OTC医薬品)と成分・効能が類似する医療用医薬品、いわゆる「OTC類似薬」の自己負担の在り方を見直す方針を固めた。現役世代の負担抑制と医療保険制度の持続可能性を高める不断の取組の一環として、保険適用は維持しつつも、対象薬剤に対して「特別の料金」を求める新たな仕組みを創設する。新しい制度の最大の柱は、薬剤費の4分の1(25%)を保険外の特別負担とし、残る4分の3(75%)を従来の保険給付対象とする点。具体的な対象として、ロキソニンやアレグラ、ヒルドイドなど、日常診療で頻用される77成分、約1,100品目が検討されている。実施時期は2027年3月を目指しており、これによる医療費削減効果は約900億円と試算されている。ただし、受診行動や重症化への影響を考慮し、配慮が必要な層については追加負担を求めない方針である。具体的には、子供、がん患者、難病患者、低所得者、入院患者のほか、医師が医療上長期間の使用が不可欠と判断した慢性疾患患者などが除外対象として検討されている。また、今回の改革ではOTC類似薬以外にも薬剤給付の適正化が並行して進められる。後発医薬品の使用促進を目的とし、先発品(長期収載品)を希望した場合の特別料金を、現在の薬価差の4分の1から「2分の1」へ引き上げることが決定した。加えて、症状が安定した患者へのリフィル処方せんや長期処方の原則化を視野に入れ、院内掲示の必須化など普及に向けた環境整備を加速させる。厚労省は、この新たな負担増について国民の理解を得るため、セルフメディケーションの推進やスイッチOTC化の目標達成に向けた取り組みを強化し、2027年度以降はさらなる対象範囲の拡大や負担割合の引き上げも視野に検討を継続する構えである。医療現場においては、患者への丁寧な説明とともに、医学的妥当性や経済性の視点も踏まえたより効率的な処方の推進が求められる。 参考 1) アレグラ、ロキソニンに追加料金 市販類似薬、負担25%上乗せ(共同通信) 2) ロキソニンやアレグラに上乗せ料金 OTC類似薬、77成分判明(日経新聞) 3) OTC類似薬 特別料金上乗せ対象 まずは77成分 約1,100品目の方針(NHK) 4) 特別料金の対象となる医薬品の成分一覧[案](厚労省) 5.周産期医療の再編加速、NICU利用率低下で「地域センター」の集約化が焦点に/厚労省厚生労働省は、12月22日に「小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」を開き、急速に進む少子化に対応するため、小児および周産期医療体制の再編に向けた論点を提示した。2030年度から始まる第9次医療計画を念頭に、限られた医療資源の効率的な配置と、質の高い医療の維持が大きな柱となる。現在、周産期医療においては、NICU(新生児特定集中治療室)の整備が目標を大きく上回る一方で、出生数の減少により、とくに「地域周産期母子医療センター」での病床利用率の低下が顕著となっている。一部の施設では利用率が50%を割り込んでおり、専門医の偏在も課題となっている。これに対し、支払側委員からは、利用率の低い施設の再編や、NICUとGCU(新生児回復期治療室)の整備バランスの見直しを求める声が上がっている。一方、小児医療については、単純な施設の集約化に対して慎重な意見が相次いだ。日本小児科学会の滝田 順子会長は、小児医療の広範な専門性を指摘し、安易な集約は地域医療の崩壊を招くと警鐘を鳴らす。まずは、外来を担う「かかりつけ機能」と、入院を担う「拠点機能」の役割分担を地域ごとに明確にすることが優先されるべきとの考えである。また、最重症例への対応については、都道府県をまたいだ広域連携の構築が必要であることも議論された。今後の対策として、2025年度補正予算に計上された「地域連携周産期医療体制モデル事業」を通じ、集約化の先行事例を収集し、全国へ展開する方針である。少子化が想定を上回るペースで進む中、ワーキンググループは今年度内に一定の取りまとめを行い、地域の実情に応じた持続可能な提供体制の構築を急ぐ考え。 参考 1) 第3回小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ(厚労省) 2) 周産期医療体制、さらなる集約へ 地域周産期母子センターの再編求める声も 厚労省WG(CB news) 3) 少子化進む中で小児、産科医療機関の「集約化」論議進む、ただし「小児科の単純な集約は危険」との指摘も―小児・周産期WG(Gem Med) 6.介護職員の賃上げ月最大1.9万円、介護報酬2.03%の臨時プラス改定が決定/政府政府は12月24日、介護従事者のさらなる処遇改善を図るため、2026年度に「介護報酬」を全体で2.03%引き上げる臨時改定を行うことを正式に決定した。本来、介護報酬は3年に1度の改定サイクルだが、加速する他産業の賃上げや物価高騰に対応するため、異例の前倒し実施となる。今回の改定の最大の柱は、介護・障害福祉分野で働く職員の給与を、月額最大1万9,000円引き上げる。具体的には、訪問看護やケアマネジャーを含む幅広い介護従事者を対象に、一律で月1万円の賃上げを実施。これに加え、ICT活用によるケアプランデータ連携システムの導入など、生産性向上や協働化に取り組む事業所の職員には、さらに月7,000円が上乗せされる。ここに定期昇給分を加え、最大1万9,000円の増額を実現し、全産業平均との賃金格差の解消を目指す。その一方で、制度の持続可能性を確保するための効率化も進められる。これまで全額保険給付(自己負担なし)であったケアマネジメントについて、一部有料化に踏み切る。「住宅型有料老人ホーム」や、それに準ずる「サービス付き高齢者向け住宅」の入居者を対象に、ケアプラン作成や生活相談を行う業務を新たなサービス区分とし、原則1割の自己負担を求めることとなる。焦点となっていた「利用料2割負担」の対象者拡大については、高齢者の生活実態や医療保険の負担増との兼ね合いを慎重に見極める必要があるとして、年内の決定を見送った。2027年度から始まる第10期介護保険事業計画の開始前までに改めて結論を出す方針。今回の臨時改定は、深刻な人手不足が続く現場にとって大きな支えとなるが、同時に利用者や現役世代への負担転嫁という課題も突きつけている。政府は2026年6月の施行に向け、具体的な算定要件の詳細を詰める方針である。 参考 1) 介護報酬、2.03%増へ 来年度臨時改定で職員賃上げ-政府(時事通信) 2) 介護報酬は2026年度の臨時改定で2.03%引き上げ(日経メディカル) 3) 介護報酬 来年度臨時で2.03%引き上げ “職員給与増やすため”(NHK)

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第294回 初めてづくしの診療報酬大幅改定、その中身とは

とにかく異例づくしである。2026年診療報酬改定のことだ。正直、診療報酬本体の改定率が+3.09%と伝わった瞬間の個人的な感想は「嘘だろ!」というものだった。もうすでに+1%未満に慣れてしまったせいか、「何が起きたんだ?」とさえ思った。確かに事前に漏れ伝わってきた話は、さすがの財務省も病院経営の苦境への対応はやむを得ないとして1%台のプラスを主張し、これに対して厚生労働省は3%台を主張する形で平行線をたどっているというものだった。私自身は「おそらく1%台の後半、もしかしたら2%に届くかも?」との読みを持っていたが、まさかの決着である。ちなみに私が医療専門紙記者となった1990年代前半は+4%超の改定があり、1996年は+3.4%。その後は小泉 純一郎政権下での史上初のマイナス改定まで、半ば倍々ゲームの逆を行くかのような下がり方をした。旧民主党政権下では久々に1%台となったものの、自民党の政権復帰とともに前回の2024年までは1%未満という微々たる改定率が続いてきた。つまりは1996年改定以来、実に30年ぶりの数字である。薬価・医療材料の引き下げ幅は0.87%であり、本体と薬価引き下げ分を合わせた最終改定率がプラスとなるのも14年ぶり、最終改定率が2%超となるのも実に32年ぶりで、すべてにおいて異例の改定率である。しかも、さらに今回驚かされたのが、当初発表された+3.09%も2年分の平均であり、2026年度が2.41%、27年度が3.77%という段階的な改定率が設定されたことだ。こうした仕組みは診療報酬史上初のことである。もはや異次元の診療報酬改定と言ってもよいかもしれない。さてその内訳だが、これは2020年改定時から新たに公表され始めたもので、要は特例や特定の目的に紐付けられたものなどを以下のように明示している。(1)賃上げ対応分:+1.70%(2)物価対応分:+0.76%(3)食費・光熱水費分:+0.09%(4)24年度診療報酬改定以降の経営環境の悪化を踏まえた緊急対応分:+0.44%(5)政策医療・医療高度化対応:+0.25%(6)適正化・効率化対応分:-0.15%このうち(1)と(2)も単年度ごとの改定率があり、(1)は26年度が+1.23%、27年度が+2.18%、(2)は26年度が+0.55%、27年度が+0.97%。さらに(2)については、とくに2026年度以降の物価上昇への対応として2年分平均として+0.62%(2026年度が+0.41%、2027年度が+0.82%)を充て、施設類型ごとの費用関係データに基づき、病院が+0.49%、医科診療所が+0.10%、歯科診療所が+0.02%、保険薬局が+0.01%。残る+0.14%は大学病院も含む高度機能医療を担う病院への特例的な対応としての上乗せ分である。また、(4)は病院が+0.40%、医科診療所が+0.02%、歯科診療所が+0.01%、保険薬局が+0.01%の配分。このように特例の対応分について医科部分を病院と診療所に分けたのも初のことである。一方、正味の診療報酬アップは政策医療・医療高度化対応分の+0.25%であり、この配分は医科が+0.28%、歯科が+0.31%、調剤が+0.08%となる。これは1972年7月、田中 角栄政権時に厚生大臣、大蔵大臣、内閣官房長官の閣僚合意で決められた診療報酬配分である医科:歯科:調剤=1:1.1:0.3が踏襲された形だ。こうして俯瞰してみると、異例の高改定率とはいえ、とりわけ急性期を担う病院に手厚くしたことがわかる。その意味では今年初めくらいから各方面で伝えられた病院の苦境という情報発信が功を奏したとも言える。そして今回の診療報酬改定の発表文書では、付帯事項のような説明文書もかなりの分量が割かれている。まず、注目すべきは物価高騰対応である。実際の経済・物価の動向が今回の改定時の見通しから大きく変動し、医療機関などの経営状況に支障が生じた場合は2027年度予算編成で「加減算を含め更なる必要な調整を行う」と記述している。「加減算」という文言はインフレ鎮静化時の減算もあり得ることを示唆している。また、賃上げについても、2024年改定でベースアップ評価料の対象外の医療者(入院基本料や初・再診料を賃上げ原資として配分される40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工士など)への賃上げ措置を確認するため、「実効性が確保される仕組みの構築や実績の把握を迅速かつ詳細に行う」ことをうたっている。さらに医師偏在対策についても具体的な記述があり、「改正医療法に基づき、外来医師過多区域において無床診療所の新規開業者が都道府県知事からの要請に従わない場合には、診療報酬上の減算措置を講じることで、医師偏在対策の実効性を高めることとする」という文言がある。そして何より個人的に注目したのは、前述の(4)の中で「メリハリ」という言葉を使ってきたことである。実は先頃の自民党と日本維新の会による社会保障関連政策に関する政調会長間合意文書でも「令和8年度診療報酬改定におけるメリハリ付け」が筆頭に来ている。このメリハリは多くの人が想像できていると思うが、「今回は病院、とくに急性期医療を担う本格的な病院の苦境は救うが、そのほかについては厳しくする」という意味に読めてしまう。実際、前述の医師偏在対策の文言や効率化・適正化分に「長期処方・リフィル処方の取り組み強化等による効率化」が含まれていることなども併せれば、経営実態調査からも比較的良好だった医科診療所をかなり意識しているのではないだろうか?そして改定率では手厚いはずの病院についても、改定率決定に先立ち成立した2025年度補正予算の中身を見ると、一定の締め付けをしてくることは予想できる。補正予算では「医療・介護等支援パッケージ」に1兆3,649億円が付けられ、このうち最大だった「医療機関・薬局における賃上げ・物価上昇に対する支援」の5,341億円に次いだのが「病床数の適正化に対する支援」の3,490億円だった。これは医療需要の変化を踏まえて病床数の適正化を進める一般・療養・精神病院と有床診療所に対し、1床当たり410.4万円(休床の場合は205.2万円)を支援するもの。従来から病床の転換・再編では国や都道府県から補助金が支出されていたが、今回の額は破格である。これらを総合すると、私自身は「今回は大目に見てやるが、この間に国の政策に沿った自助努力をしなければ、後は知らないよ」と読めてしまうのである。 参考 1) 厚生労働省:診療報酬改定について

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医師の奨学金、若手層ほど借入額増大で返済長期化か/医師1,000人アンケート

 医学部卒業までにかかる多額の費用を支える「奨学金」。本来、学問を志す者を支えるための制度であるが、返済義務を伴う貸与型が主流である現状では、実態として「若年期に背負う多額の負債(借金)」という側面も併せ持つ。今回、CareNet.comでは、「医師の奨学金利用と返済状況」と題したアンケートを実施し、奨学金の利用率や借入額、そして返済や利用条件が医師のキャリアに与えた影響を聞いた。対象はケアネット会員医師1,031人で、20代~60代以上の各年代層から回答を得た。回答者の7割が国公立出身 Q1では「卒業した大学の種別」を聞いた。全体では、国公立大学が72%と大半を占め、次いで私立大学が25%、目的別医科大学(防衛医大、自治医大、産業医大)が3%という構成であった。今回のアンケート結果は、比較的学費が抑えられている国公立大学出身の医師たちの視点が強く反映されており、その中での奨学金利用や「地域枠」に対する評価が浮き彫りとなっている。3人に1人が奨学金を利用、30代では半数近くに Q2では「医学部在学中に奨学金を利用した経験」を聞いた。全体では「利用した」と回答した医師が35%に上った。年代別にみると、30代が45%と最も高く、次いで40代が39%となっており、中堅層において利用経験者が多い傾向にある。大学種別では、目的別医科大学(防衛医大、自治医大、産業医大)が73%と突出して高く、国公立大学は39%、私立大学は20%であった。 興味深いのは、現在の勤務先の「病床数」と奨学金利用の関係だ。100~199床の病院では47%、200床以上の大規模病院では36%の医師が奨学金を利用していたのに対し、0床では28%、1~19床の小規模施設では18%にとどまっている。また、200床以上の病院では国公立出身者が75%を占める一方、クリニックなどの無床施設では私立大学出身者の割合が37%と高まっており、経済的背景と卒業後の進路選択には一定の相関があることが推察される。利用先は日本学生支援機構(旧育英会)が最多 Q3では、奨学金利用者に「利用した奨学金制度」を複数回答で聞いた。全体では「日本学生支援機構(旧育英会)」が62%で最も多く、次いで「地方自治体の修学資金貸与制度」が23%、「大学独自の奨学金制度」が21%と続いた。大学種別でみると、国公立大学出身者は「日本学生支援機構」の利用が68%と多く、目的別医科大学出身者は「大学独自の制度」が88%で主軸となっていた。世代が下るごとに膨らむ負債額――30代の4人に1人が「1,000万円超」を借入 Q4では、奨学金利用者のうち「貸与型奨学金の借入総額」を聞いた。全体では「500万円未満」が51%と過半数を占めた。 借入総額を年代別に分析すると、とくに30代以下の負担の重さが顕著だ。借入額が「500万円未満」の割合は60代以上の67%に対し、20代では41%、30代では37%まで低下している。一方で、1,000万円を超える高額借入の割合は、60代以上で9%と最も低いのに対し、30代が約26%と全世代で最も高く、次いで20代で約21%となっている。現在の若手から中堅層にかけて、多額の負債を抱えながら医療に従事している実態が浮き彫りとなった。 大学種別でも大きな格差がみられた。奨学金利用者のうち、国公立出身者では「500万円未満」が56%を占めるが、私立大学出身者では42%が1,000万円を超える借入を行っていた。さらにその内訳を見ると、私立大出身者の17%は2,000万円以上のきわめて高額な借入を行っていた。返済期間は10年以内が主流も、若手には長期化の懸念 Q5では、返済義務のある人に対して「返済完了までにかかった(かかる予定の)年数」を聞いた。全体では「5~10年未満」が31%で最多、次いで「5年未満」が27%となった。完済まで「15年以上」を要する層の割合は、60代以上では約16%にとどまるのに対し、20代では31%、30代では34%と倍増している。とくに臨床研修医においては「15~20年未満」との回答が40%に達しており、5年未満での完済予定はわずか5%であった。「恩恵」と「負債」の間で揺れる医師たちの本音 Q6では、自由回答として奨学金がキャリアに与えた影響を聞いた。進学を支えた制度への深い感謝がある一方で、経済的負担感や、地域枠に伴うキャリア制限への複雑な思いも綴られている。以下、主なコメントを抜粋。・奨学金がなければ大学に行けなかったので助かった(40代、小児科)・経済観念が身に付く良い機会だと思う(40代、内科)・若い頃しか経験できないこと(旅行、自己投資)にお金を使うことができる(20代、臨床研修医)・留年したら給付が止まるので留年の危機感がほかの学生より強かった(30代、神経内科)・地域枠のため3年目は強制で地域病院へ派遣。県からのサポートも不十分で、キャリアへの影響もかなりあると思う(20代、呼吸器内科)・男性はいいが、女性は妊娠・出産で中断のリスクがあり使いにくい(30代、呼吸器内科)・岩手県のように指導体制が整っていないところで研修をさせられるのは、その奨学生の人生において大きなマイナスになります(40代、循環器内科)・借金のことを奨学金と記載するのはよくない。病気になっても借金は残るため、高校生の時点で借金を背負う選択肢をさせてはいけない(30代、内科)・出身地の東京~埼玉は私立医大ばかりで、他は東大理IIIと医科歯科のみ。せめて埼玉と栃木に国立の医学部があれば。理想的には東京界隈の私立の医学部に貸与型の奨学金で入学し、(返済の問題はあるが)もう少し多様性のある人生を歩みたかった(60代、麻酔科)・借りるときは、インフレで物価は上昇するから、返済するときはタダみたいなものと言われていた。卒業後、賃金を含め物価上昇がほとんどなく、利子なしで20年払いとはいえ返済には苦労した(60代、放射線科)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。医師の奨学金利用と返済の実態/医師1,000人アンケート

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「まずは金属除去」ではない? 金属アレルギー診療と管理の手引きを公開/日本アレルギー学会

 本邦では初となる金属アレルギーに特化した手引き『金属アレルギー診療と管理の手引き 2025』1)が、2025年9月26日に公開された。そこで、手引きの検討委員会の代表を務める矢上 晶子氏(藤田医科大学ばんたね病院 総合アレルギー科 教授)が、第74回日本アレルギー学会学術大会(10月24~26日)において、手引きの作成の背景と概要を紹介した。なお、手引きはアレルギーポータルの医療従事者向けページで公開されている。アレルギー疾患対策基本法の対象疾患に含まれない金属アレルギー 本邦では「アレルギー疾患対策基本法」が定められており、喘息やアトピー性皮膚炎などの6疾患が重点的な対象疾患となっている。しかし、現状では金属アレルギーは対象疾患に含まれていない。この理由について、矢上氏は「若年で発症し、後年に金属製材料を使用するときに苦慮する人がいる」「患者は複数の診療科を受診するが連携した診療体制が不十分」「患者数が未知」といった背景があったと述べる。そこで「厚生労働科学研究事業で、それらを補う情報をまとめたほうがよいのではないかということで研究が始まり、疫学調査結果や検査法などをまとめて、手引きを作成する方向となった」とのことだ。これらの研究成果を集約した『金属アレルギー診療と管理の手引き2025』には、診療の流れや検査・管理の要点、多診療科・多職種が連携した診療体制の構築の重要性などが記載されている。女性が多く、全身型の疑い例も少なくない 1章「総論」では、金属アレルギーの定義や本邦における金属アレルギーの実態調査結果、局所型・全身型金属アレルギーの概要が記されている。 「本邦の一般人を対象とした調査では、金属アレルギーの自覚者は女性が7割を占め、医療機関を受診しても検査を受けているのは3割にとどまっていた」と矢上氏は述べる。金属アレルギーは、局所型と全身型に分けられるが「全身型の疑いがある国民は少なくないのではないかということもわかってきた」とも指摘する。全身型では、食物、水、歯科金属などに含まれる金属が体内に入っていくことで、全身性の症状や手掌の症状、口唇炎などが発現するが、一般人を対象とした調査でも、局所型の症状の接触皮膚炎だけでなく、これらの症状が多く報告されていた。パッチテストとin vitro検査の現状 第2章「金属アレルギーの診断」では、問診で聞くべきことや各種検査の概要、金属負荷試験などの解説が記載されている。問診については、医科および歯科の問診票がそれぞれ掲載されているため、参考にされたい。 金属アレルギー診断のゴールドスタンダードはパッチテストであるが、現在保険収載されている試薬は「パッチテスト試薬金属:金属16種類(鳥居薬品)」と「パッチテストパネル:金属4種類(佐藤製薬)」に限られている。とくに臨床現場でのニーズが高い「チタン」の試薬は保険適用外であり、特定臨床研究などでしか実施できない現状がある。 研究班では、より範囲が広く精度の高いパッチテスト金属試薬シリーズの選定を目指し「新金属シリーズ」を作成した。その結果、保険適用外の金属についても陽性を示したが、チタンが陽性となったのは331例中1例であった。本検討の結果の詳細は、手引きに記載されている。なお、「新金属シリーズ」の試薬は保険適用外であるため、特定臨床研究などでのみ貼付可能であることを矢上氏は強調した。 血液検体を用いてアレルギー反応を評価するリンパ球刺激試験について、矢上氏は慎重な見解を示す。その理由として、検査会社によって実施件数に大きな差(年間数百件から数件)があり、使用される試薬も標準化されていないことを挙げた。手引きでは「現時点では、金属アレルギーの診断における日常診療で使用可能な十分な感度・特異度を備えた簡便で正確なin vitro検査はなく、今後の症例の集積と臨床的検討の継続が不可欠である」と結論付けている。薬剤の塗布方法やうがいの方法を記載 3章「金属アレルギーの治療」では、症状に対する具体的な治療方法が示されている。手引きの特徴として、矢上氏は薬剤の塗布方法やうがいの仕方まで具体的に記載していることを挙げ、医師・歯科医師のみならず、看護師や歯科衛生士にも活用してほしいと強調した。 全身型金属アレルギーとの関連が報告されている皮膚疾患の1つに掌蹠膿疱症がある。これについても、現在ではさまざまな治療薬が登場しており、手引きにも具体的な治療方法が記載されている。また、掌蹠膿疱症における歯科金属アレルギーの関与と金属除去の是非が議論されているが、これについて手引きの第1章では「歯性病巣の関与の可能性が否定された後に金属アレルギーを考慮する」と記載されている。これは『掌蹠膿疱症診療の手引き2022』2)において、歯性病巣の治療を優先することが推奨文として示されていることと一致する。また『掌蹠膿疱症性骨関節炎診療の手引き2022』3)でも歯科金属との関係が記載されているため、参考にされたい。金属を多く含む食品の一覧表も掲載 第4章「金属アレルギー患者に対する生活指導」では、パッチテストで陽性となった場合の対応について、具体的な指導内容が盛り込まれている。 金属アレルゲンとの経皮的な接触の回避のみで改善しない全身型金属アレルギーでは、食事の管理が重要となる場合もある。そこで、手引きではニッケル、コバルト、クロムといった主要なアレルゲンについて、これらを多く含む食品の一覧が掲載された。さらに、缶詰や調理器具の使用に関する注意点など、患者が日常生活で実践できるワンポイントアドバイスも記載されている。医科と歯科の連携がきわめて重要 第5章「金属アレルギーの診療の流れ」では、金属アレルギー診療・治療においてきわめて重要な「医科歯科連携」について解説されている。現状の課題として、矢上氏は「医師は歯科から患者の紹介を受けて歯科へと戻すが、その後の経過はフォローアップできていない」と指摘する。そのため、医科と歯科が連携したフォローアップ体制の構築が重要である。 その重要性について、矢上氏は実例を挙げて紹介した。皮膚科治療によって皮膚症状の改善が得られなかった掌蹠膿疱症の患者の例では、歯科で差し歯を交換したところ、皮膚症状が著明に軽快したという。この改善は金属除去によるものか、歯性病巣の治療によるものかは明らかではなかったとのことであるが、医科と歯科の連携の重要性が理解できる。 また、近年の研究では、パッチテストで金属試薬が陽性であっても、ただちに金属を除去するのではなく、まずは歯性病巣の治療を行うことで皮膚症状が改善する場合があることも報告されている4)。この知見に基づき、安易な金属除去を避けるためにも、医科と歯科が密に連携し、経過観察結果を共有する体制の構築が求められる。 手引きには、歯科金属アレルギーを疑う患者に対する診断・治療フローチャートが掲載されており、ここでも「パッチテストで金属試薬が陽性であっても、まずは歯性病巣への対応を基本とし、歯科金属の除去は可能な限り優先しない」と記載されている。まとめ 手引きの作成を通じて、これまでに見落とされてきた課題や、依然として解決されていない問題点が明らかになったという。それを踏まえ、矢上氏は「国民の多くの方が金属アレルギーに苦慮している一方で、受診しない人も多いと考えられる。そのため、関連学会や専門団体を通じて手引きの周知を行うことで、医療現場での活用を促進し、診療体制の発展に寄与することを期待している。そして、いずれはニッケルの使用などのさまざまな規制などに繋がっていくことを願っている」と講演を締めくくった。

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第274回 診療報酬26年度改定「本体3.09%引き上げ」で決着へ、医療現場の賃上げ原資に/政府

<先週の動き> 1.診療報酬26年度改定「本体3.09%引き上げ」で決着へ、医療現場の賃上げ原資に/政府 2.薬価0.8%引き下げで最終調整、新薬維持制度で創薬力強化へ/政府 3.OTC類似薬に「25%追加負担」を自民・維新が合意、2026年度開始へ/自民・維新 4.東京科学大が国際卓越研究大学に認定、東大は継続審査に/文科省 5.赤字の大学病院が譲渡に、市川総合病院が国際医療福祉大学へ/国際医療福祉大 6.生活保護で6,650万円不正、歯科医院名を公表/東京都 1.診療報酬26年度改定「本体3.09%引き上げ」で決着へ、医療現場の賃上げ原資に/政府政府は2026年度診療報酬改定で、医療行為の対価となる「本体」を+3.09%とする方針を固め、週明けの厚労・財務両大臣折衝を経て月内に正式決定する見通しとなった。3%超の引き上げは1996年度の3.4%以来の30年ぶりの高さで、2024年度の+0.88%を大きく上回る。首相官邸で高市 早苗首相、上野 賢一郎厚労相、片山 さつき財務相が協議し、物価高と賃上げ圧力の下で悪化する医療機関経営を支える必要性を優先した。内訳は賃上げ対応1.70%、物価対応(光熱水費・食費などを含む)1.29%、医療の高度化など0.25%で、適正化として0.15%を差し引く。厚生労働省は当初より3%台を主張し、財務省は「適正化・効率化を前提に1%台」としてきたが、最終的に高市首相が厚労省案を選択した。日本医師会は、公定価格ゆえ賃金・物価上昇を転嫁できない点を挙げ、賃上げ・物価対応の「真水」確保に謝意を示した。医療経済実態調査では一般病院の医業・介護損益率がマイナス7.3%とされ、補正予算でも医療・介護等支援パッケージ約1.4兆円が計上されたが、現場はなお厳しい。その一方で、診療報酬の財源は保険料が約5割、公費約4割、患者負担約1割とされ、1%引き上げで約5,000億円、3%での単純計算で約1.5兆円規模の国民負担増になる。政府・与党は現役世代の保険料軽減も掲げるため、今後は中央社会保険医療協議会(中医協)で「病院・診療所・調剤のメリハリ」や、急性期・高度医療、地域医療維持、人材確保へどう配分するかが焦点となる。財務省は、利益率の高い無床診療所や調剤への報酬点検を求めており、病院への傾斜配分を主張している。改定率の決定後は、各点数の算定要件の厳格化が実収入を左右するため、医療機関はDXによる効率化と、地域医療構想に合致した機能分化への対応が不可欠となる。改定率決定後、入院基本料、手術・救急、地域包括ケア、外来・在宅、薬局などへの配分と算定要件について取りまとめることになる。国立大学病院長会議は12月18日、44国立大学病院のうち32病院で現金収支の悪化のために、321億円の赤字を見込む数字を公表し、機器更新の先送りや人事院勧告に沿った賃上げができない例を指摘した。3%台を評価しつつ「危機は脱していない」として、高度医療への傾斜配分や、物価上昇に連動して診療報酬を改定する枠組みの検討を求めた。 参考 1) 診療報酬本体、3.09%上げ 物価高対応で30年ぶり水準-政府(時事通信) 2) 26年度診療報酬改定 本体プラス3.09% 賃上げ対応1.70%、物価対応0.76%、適正化はマイナス0.15%に(ミクスオンライン) 3) 診療報酬30年ぶりの高水準、3%こだわった首相 「不十分」の声も(朝日新聞) 4) 診療報酬改定「本体」30年ぶりに3%超引き上げで最終調整(NHK) 2.薬価0.8%引き下げで最終調整、新薬維持制度で創薬力強化へ/政府政府は12月19日、2026年度の薬価を0.8%程度引き下げる方向で最終調整に入った。今回の改革の柱は、創薬イノベーションの評価と医薬品の安定供給確保の両立にある。中央社会保険医療協議会(中医協)が示した骨子(たたき台)では、特許期間中の薬価を維持する仕組みを「革新的新薬薬価維持制度(PMP)」と改称し、制度の透明性を高める方針が示された。注目すべきは、収載時には加算対象でなかった品目でも、後に国内の診療ガイドラインで「標準的治療法」に位置付けられた場合に、薬価改定時に評価を行う新ルールの導入である。これにより、医療機関には、よりエビデンスに基づいた処方の「標準化」が強く求められることになる。医療現場の経営に直結するのは、医薬品の安定供給対策である。昨今の供給不安定化を受け、不採算品再算定の要件が緩和される。これまで同一組成・規格の「全類似薬」が不採算である必要があったが、一部の類似薬にシェアが集中している場合は、品目単位での再算定が可能となる。これは現場で多用される基礎的医薬品の確保に資する一方、改定のたびに薬価が上下する不安定な状況は、医療機関の「在庫負担」や「購入価格交渉」に複雑な影響を与える。さらに、年間1,500億円を超える巨大市場を形成した高額医薬品への対応も強化される。効能追加の有無に関わらず、NDB(レセプト情報等データベース)を用いて使用量を把握し、年4回の新薬収載の機会に合わせた機動的な再算定が実施される。今回の改定は、単なる引き下げにとどまらず、イノベーション評価と供給不安解消を同時に進める構造改革の側面が強い。医療機関にとっては、新制度による薬剤費の変動を注視しつつ、地域連携やDXを通じた適正な在庫管理と標準ガイドラインに準拠した効率的な薬剤選択が、経営の安定化と質の高い医療提供の鍵となる。 参考 1) 令和8年度薬価制度改革の骨子[たたき台](厚労省) 2) 薬価 0.8%程度引き下げる方向で最終調整(NHK) 3) 2026年度薬価制度改革の骨子たたき台、医薬品業界は「イノベーション評価のメッセージが不十分」と指摘-中医協・薬価専門部会(Gem Med) 3.OTC類似薬に「25%追加負担」を自民・維新が合意、2026年度開始へ/自民・維新自由民主党と日本維新の会は12月19日、市販薬と成分・効能が近い「OTC類似薬」について、保険適用は維持しつつ、対象薬で薬剤費の4分の1(25%)を保険外で追加負担させる新制度を導入することで合意した。対象は77成分・約1,100品目(湿布、胃腸薬、アレルギー薬、外用薬などを想定)で、政府は2026年通常国会に法案提出し、26年度中(来年度末ごろ)の開始を目指す。追加負担は、薬代の25%は全額自己負担、残る75%は従来通り保険給付(窓口1~3割)という整理。子供、がん・難病など長期治療が必要な患者、低所得者、慢性疾患や入院患者などへの配慮(除外)を検討し、具体的な品目選定は厚生労働省が詰める。協議では、維新が当初主張した「保険適用除外(全額自己負担)」は見送り、制度創設で折り合った。あわせて薬剤給付の見直しとして、長期収載品の選定療養は先発品選択時の特別料金を薬価差の1/4から1/2へ引き上げ、長期処方・リフィル処方箋の活用(安定患者で原則化も視野、院内掲示要件拡大)、食品類似薬は「食事で栄養補給可能な患者」への使用を保険給付外とする方針で合意した。これらを通じて、約900~1,880億円規模の医療費抑制を見込み、27年度以降の対象拡大や負担割合見直しも検討事項に入った。狙いは保険料負担の軽減だが、患者負担増と受診行動への影響、対象外の線引きが今後の論点となる。 参考 1) 自民・維新 長期収載品の選定療養 価格差の「2分の1」に引上げへ リフィル処方箋の活用にも合意(ミクスオンライン) 2) OTC類似薬、1,100品目で25%を患者が追加負担へ 自維が合意(朝日新聞) 3) 市販類似薬の追加負担、薬価の4分の1で自維合意…湿布薬や胃腸薬など1,100品目対象(読売新聞) 4.東京科学大が国際卓越研究大学に認定、東大は継続審査に/文科省文部科学省は12月19日、世界最高水準の研究力を持つ大学を重点支援する「国際卓越研究大学」の第2回公募で、東京科学大学を新たに認定し、京都大学を認定候補として選定したと発表した。一方、東京大学は計画の実効性やガバナンス面に課題があるとして、最長1年間の継続審査となった。国際卓越研究大学は、政府が設立した10兆円規模の大学ファンドの運用益を原資に、認定校へ最長25年間にわたり巨額の助成を行う制度。研究力に加え、財務戦略やガバナンス、組織改革の実行力が厳しく問われる。第1号としては2024年に東北大学が認定されている。東京科学大は、東京工業大と東京医科歯科大が統合して2024年に発足した新大学で、理工系と医療系を融合した医工連携を中核に据える全学的改革が評価された。2026年度から百数十億円規模の助成を受ける見通しで、「日本の新しい大学モデル」として期待が集まる。京都大は、従来の小講座制を見直し、研究領域ごとのデパートメント制を導入する大胆な組織改革や若手研究者の活躍促進、スタートアップ創出を掲げた点が高く評価された。ただし計画は策定途上とされ、2026年末までに具体化を確認した上で正式認定される。一方、東京大は「10年で世界トップ10の研究大学」を掲げたものの、大学本部が改革を主導できるか不透明と判断された。加えて、東大病院を巡る贈収賄事件などガバナンス上の不祥事も影を落とし、有識者会議は「新たな不祥事が生じた場合は審査を打ち切る」と厳しい条件を付した。今回の選定は、日本の研究大学に対し、研究実績だけでなく、組織改革と統治能力を含めた「大学経営力」が問われる段階に入ったことを示している。 参考 1) 国際卓越研究大学の認定等に関する有識者会議(文科省) 2) 国際卓越研究大学に東京科学大と京都大を認定へ 東大は継続審査(毎日新聞) 3) 「国際卓越研究大学」 東京科学大学を認定へ 京都大学も候補に(NHK) 4) 「国際卓越大」に東京科学大を認定へ、京大も候補 不祥事続く東大は保留(日経新聞) 5.赤字の大学病院が譲渡に、市川総合病院が国際医療福祉大学へ/国際医療福祉大国際医療福祉大学(栃木県大田原市)は、東京歯科大学市川総合病院(千葉県市川市)を取得し、来年4月に「国際医療福祉大市川総合病院」として開院する。両大学は12月18日、無償での譲渡契約を締結した。大学病院が他大学に経営譲渡されるのは極めて異例なケース。市川総合病院は1946年開院、511床・26診療科を有する地域の中核病院だが、物価高や人件費、医療機器コストの上昇を背景に経営が悪化し、2023年度に約9億円、24年度には約16億5千万円の赤字を計上した。病院閉院は地域医療への影響が大きいとして、東京歯科大は存続を最優先に経営譲渡を決断。今年に入り、歯科医師交流などの実績がある国際医療福祉大に打診していた。国際医療福祉大は全国で6つの付属病院を運営し、千葉県内でも2病院を展開している。取得後も病床数や診療科、職員の雇用は維持し、東京歯科大からの歯科医師派遣や学生・研修医の受け入れを継続する方針。医科と歯科の連携を強化し、臨床実習の場を拡充するとともに、グループ病院間の連携や調達の効率化によるスケールメリットで早期の経営改善を目指す。全国的にも大学病院の赤字は深刻で、全国医学部長病院長会議によれば、81大学病院の収支は2024年度に計508億円の赤字となった。高度医療を担う大学病院ほどコスト増の影響を受けやすく、国の補正予算による支援も講じられているが、構造的な再編や集約化の議論は避けられない。今回の譲渡は、地域医療を守るための経営再編という新たな選択肢を示した事例といえる。 参考 1) 学校法人国際医療福祉大学による東京歯科大学市川総合病院の承継について(国際医療福祉大学) 2) 国際医療福祉大が病院取得=東京歯科大から、来年4月開院へ(時事通信) 3) 国際医療福祉大、市川総合病院を取得…多額の赤字で東京歯科大が譲渡を打診(読売新聞) 6.生活保護で6,650万円不正、歯科医院名を公表/東京都東京都は12月18日、都内で過去最大額となる約6,650万円の診療報酬を不正請求したとして、板橋区前野町の歯科医院「医療法人社団山富会 タカシデンタルクリニック」(廃止済み)の名称を公表した。対象期間は2020年4月~2024年9月で、生活保護受給者89人分の診療報酬を不正・不当に請求した。内訳の多くは、実際に診療していないにもかかわらず請求する架空請求で約5,000万円に上る。不正は、来院していない患者の診療実績を捏造したり、診療内容を水増ししたりする手口で行われた。確認された架空請求の中には、一時帰国中、入院中、さらには死亡していた患者に関する請求も含まれていた。2024年2月、福祉事務所からの情報提供(帰国中の受給者に対する請求)を端緒に、都が生活保護法に基づく検査を2024年11月~2025年6月まで実施し、不正を認定した。同医院は都から検査通知を受けた後の2024年10月に廃止されたが、同一理事長が同一所在地で名称を変えて再開業しているとの情報もある。都は、利用者が適切な医療機関を選択するために必要として、医院名の公表に踏み切った。被害を受けた板橋区は警視庁への告訴を検討している。本件は、生活保護医療におけるレセプト管理・内部統制の不備が巨額不正に直結し得ることを示した。医療機関には、診療実績の実在性確認、レセプト点検の多重化、異常値の早期検知、職員教育の徹底など、ガバナンス強化と日常的なコンプライアンス運用が改めて求められる。 参考 1) 生活保護法に基づく元指定医療機関の不正請求について(東京都) 2) 生活保護受給者の診療報酬6,600万円超を不正・不当請求…板橋区の歯科医院の名称を公表(読売新聞) 3) 診療報酬6,650万円を不正請求の歯科医院名を公表 東京都内では過去最大額(産経新聞)

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第293回 クマ外傷、その種類や標準化された治療法とは

INDEXクマが狙うのは、ほぼ顔外傷の種類や特異性創傷部位の評価と必要な処置創部感染の原因菌と予防対策具体的な外科治療の実際薬物療法に漢方が標準化さて、前回は昨今話題のクマ外傷被害についてCiNii検索で抽出した2000年以降の16論文と秋田大学医学部救急・集中治療医学講座教授の中永 士師明(なかえ はじめ)氏の編著『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』(以下、クマージェンシー)をもとに疫学についてまとめた。今回もこれらの出典から、クマ外傷の病態と治療についてまとめてみた。クマが狙うのは、ほぼ顔岩手医科大学(50例)、秋田大学(13例)、新潟大学(10例)、山梨県立中央病院(9例)の主な臨床報告では、クマによる外傷の部位はいずれも顔面が90%以上(秋田大学の報告は「頭頸部を含む顔面」)で、次いで上肢が多い(38~77%)。この外傷部位の特徴は、ツキノワグマが攻撃時に後足で立ち上がり、発達した前足の鋭い爪でヒトを殴打する攻撃スタイルに起因すると考えられている。ツキノワグマの体長(頭胴長)は120~145cm、前足、後足とも約15cm。ほぼ完全に後足で立ち上がって前足を上げれば、全長150~175cmとなり、前足がちょうどヒトの顔面付近に位置する格好になるため、顔面の受傷の多さは理解しやすいだろう。一方、顔面に次いで上肢が多いのは、ヒトがとっさに顔や頭を守ろうとする防御行動によるものと報告されている。ちなみにクマージェンシーで紹介されている2023年に秋田大学医学部附属病院高度救命救急センターに搬送された20例では、受傷部位はやはり顔面が90%、上肢が70%、頭部が60%と前出の報告とほぼ同様だが、下肢が40%と記述されている。下肢の受傷理由についての記述はないが、おそらくは第1撃で顔面や上肢を受傷し、逃げようとしたところを追いすがられた結果と考えるのが自然だろう。外傷の種類や特異性クマ外傷は鋭い爪による軟部組織損傷(鋭的外傷)とパワーの強い打撃による骨折(鈍的外傷)に大別される。ツキノワグマの爪は、木登りに適した鋭く内側に曲がったかぎ状(フック状)となっており、長さは通常3〜5cmほど。クマージェンシーでは「一見、小さな外傷に見えても内部構造を破壊させることで大きな障害を残すことがある」と記述している。軟部組織のどこを受傷したかは、クマの爪が当たった場所に依存するが、各論文などでは眼球破裂・脱出、涙小管断裂、顔面神経損傷、耳下腺管断裂などが報告されている。また、鋭い爪の影響でごく一部では上口唇動脈、腋窩動脈、上腕動脈に達する損傷が認められることがあるという。さらに爪による攻撃は、皮膚に平行な強い力が加わることで、皮膚が広範囲に剥がされる「剥脱創」となることがあり、この場合は重度の出血を伴い、致命的となりうることを参照論文では指摘している。一方、ツキノワグマは体重60〜100kgで、動作が秒速10~15mとも言われるため、ここから算出される一打の打撃エネルギー量は、約400〜1,300ジュール(J) と言われている。これに対する比較対照を並べると、プロボクサーのパンチ一打が 約300〜500J、日本の警察の9mm口径の拳銃弾命中時が約500Jと推定されるため、その強大さは桁違いである。骨を破壊するエネルギー量がおおむね1,000Jと言われるので、当然ながら受傷者の一部では骨折が生じる。実際、参照論文を見ると、顔面への受傷例のおおむね半数以上で顔面での骨折が認められ、とくに眼窩、頬骨、鼻骨、鼻篩骨といった顔面中央部(中顔面)に多発。これ以外では頭蓋骨、下顎骨、歯槽骨などの骨折、さらに防御行動による四肢・体幹での尺骨や肋骨、肘関節などの骨折も報告されている。新潟大学の報告では、クマ外傷による骨折には特有のパターンがあることが指摘されている。これは通常の顔面骨の骨折では、顔表面から内側、すなわち頭蓋骨内部方向に陥没する骨折がほとんどなのに対し、クマ外傷では顔面骨が外側に引き出されるようなベクトルで骨折が生じることがあるとしている。これはおそらくクマによる打撃の際にめり込んだ前出のかぎ状の爪を引き抜く際に生じたものだろう。クマ外傷はこのように多発外傷であるため、全身に影響を及ぼし、動脈損傷では大量出血による出血性ショック、口腔内の持続的な出血や粉砕された顔面骨などによる気道閉塞、硬膜下血腫といった頭蓋内損傷など重篤な合併症を引き起こす危険性がある。参照論文中でも出血性ショックは10~23%で報告され、秋田大学の報告13例のうち7例で気道閉塞の危険性があるとして気道確保のため気管切開が行われている。創傷部位の評価と必要な処置前出のような受傷状況を踏まえ、参照論文のうち複数論文では、クマ外傷では交通事故や高所からの墜落のような高エネルギー外傷に準じた初期対応、具体的にはクマ外傷の患者の搬送がわかった段階で、気道確保、止血と大量輸血・輸液の準備が必要と強調している。そのうえで搬送後は、頭頸部や四肢・体幹の受傷や組織損傷の状況を注意深く評価することを求めている。とくに前出のようにクマ外傷では見た目の傷が小さくとも深部組織を破壊していることがあるため、参照論文の中ではこの点の評価を怠らないよう注意喚起しているものが少なくない。また、クマ外傷では創部感染のリスクが高いため、創部の十分な洗浄とデブリードマンが推奨されている。参照論文を見ると、洗浄で使う生理食塩水の量は症例によっては5,000~10,000mLとかなり大量である。また、クマージェンシーでは、表面上の傷が小さいものの深部まで達している四肢の外傷では、傷口からの注水だけでは洗浄が不十分として、目視で深部まで確認できる皮膚の追加切開を推奨している。創部感染の原因菌と予防対策実際の創部感染発生率は、今回の参照論文で確認した範囲では20~33.3%。クマージェンシーに記述されている13例では21.1%で、おおむねクマ外傷被害者の3~5人に1人の発生率である。ちなみにこの数字は搬送時に予防的抗菌薬投与などをほぼ全例で行ったうえの数字であり、個人的には驚きを禁じ得ない。創部感染の原因菌については、クマージェンシーでは4分の1の症例で同定され、主にセラチア菌(グラム陰性桿菌)と腸球菌(通性嫌気性グラム陽性菌)だったと報告している。参照論文で原因菌が特定されたケースでもこの2種類が散見されるが、そのほかにもグラム陽性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やA群レンサ球菌が検出された報告もある。こうしたこともあり、予防的抗菌薬投与では、嫌気性菌種を広くカバーするβラクタマーゼ阻害薬配合抗菌薬(ピペラシリン・タゾバクタムやアンピシリン・スルバクタム)が使われていることが多いようだ。もっともクマージェンシーではβラクタマーゼ阻害薬を含む場合と含まない場合の抗菌薬投与を比較し、創部感染発生率に差はないと報告している。また、岩手県の50例でも同様の検討を行い、βラクタマーゼ阻害薬の有無で創部感染発生率に有意差(p=0.08)はなかったものの、βラクタマーゼ阻害薬を含む群での感染発生率が9.1%に対し、含まない群では28.5%で、βラクタマーゼ阻害薬を投与したほうが感染発生率は低い傾向があると記述している。また、クマの爪や創部が土壌などで汚染されることを考慮し、ほぼすべての症例で破傷風トキソイドと抗破傷風人免疫グロブリンの投与が行われており、少なくとも参照論文とクマージェンシーでは破傷風発症事例はない。破傷風トキソイドを含む三種混合(DTP)ワクチンの日本での定期接種化が1968年であり、前回紹介したように受傷者はそれより以前に生まれた高齢者が多いことなどを考えれば、必要な措置なのだろう。具体的な外科治療の実際実際の治療は外科的なものがほとんどだが、損傷が多岐にわたるため、複数の専門診療科による連携手術が必要となるのは必定である。ここでは主な外科的治療の概略を紹介する。顔面骨骨折では、前出のような特有の外側に転位した骨片の有無を考慮し、観血的整復固定術が行われる。次に、動脈損傷、顔面神経損傷、涙小管断裂は即時再建が原則である。クマージェンシーでは鼻周辺の組織が噛みちぎられた事例として、路上に残されていた被害者の組織が持ち込まれ、再接合が行われた様子が写真とともに紹介されている。このため、同書では救急隊員が取るべき対応として、汚染の有無にかかわらず回収できる軟部組織はできるだけ回収して病院に持参するよう勧めている。素人には背筋が凍り付くような話である。ただ、完全な組織の欠損で機能回復や審美性を考慮した再建術が行われたケースでは、参照論文を見る限り、複数回の手術が長いものでは受傷から1年半後くらいまで行われている。歯や広範な歯槽骨欠損では、骨移植を併用した歯科インプラント治療が行われた事例も報告されている。このケースでは受傷6ヵ月後に骨移植術が実施され、さらにその6ヵ月後にインプラント埋入術が施行されている。薬物療法に漢方が標準化一方、抗菌薬の予防投与を除くと、治療で薬物を処方したケースは少ない。新潟県でのドクターヘリ搬送例で出血を抑えることを目的としたトラネキサム酸、山形県の症例で喉頭浮腫予防を目的としたデキサメタゾン、岐阜県の症例で後頭部や上腕の縫合を行わなかった創部に感染予防目的で処方されたゲンタマイシン(外用薬)ぐらいしか見当たらない。ただ、クマージェンシーでは秋田大学による漢方薬処方という興味深い事例を紹介している。具体的には鎮痛目的で打撲の痛みなどに使われる「治打撲一方」や感染防止目的での抗菌薬と「排膿散及湯」の併用である。治打撲一方の使用では1日で痛みが取れた著効例もあったという。また、排膿散及湯の併用は2024年から標準化している模様だ。しかしながら、このような難治療を経ても、視力障害、顔面神経麻痺、唾液や涙が止まらない、口腔機能低下などの後遺症に悩まされるケースは少なくないという。結局のところ、何よりもクマに遭遇しない予防措置が重要ということだろう。

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歯の根管治療は心臓の健康にも有益

 歯の根管治療を受けたい人はいないだろうが、もし受けなければならない場合は、心臓には良い影響があるかもしれない。英国の研究で、根管治療の成功は心臓病に関連する炎症を軽減し、さらにコレステロール値や血糖値を改善する可能性のあることが明らかにされた。英キングス・カレッジ・ロンドン歯内治療学分野のSadia Niazi氏らによるこの研究結果は、「Journal of Translational Medicine」に11月18日掲載された。 Niazi氏は、「歯の根管治療は口腔の健康を改善するだけでなく、糖尿病や心臓病などの深刻な疾患リスクの軽減にも役立つ可能性がある。このことは、口腔の健康が全身の健康に深く関わっていることを強く思い出させる」と話している。 根管治療は虫歯が歯の神経にまで達した場合に行われる神経の治療で、感染または損傷した歯髄(歯の内部にある神経と血管を含む軟組織)を除去し、歯の内部を清掃・洗浄した後に詰め物をして密封する。近年、多くの研究で、口腔の健康が心血管の健康に密接に関連していることが示されている。Niazi氏らも背景説明の中で、口腔内の感染症は、全身、特に心臓に炎症を引き起こす可能性があると指摘している。 今回の研究では、根管治療を受けた根尖性歯周炎患者65人を対象に2年間追跡して、根管治療の成功が血清の代謝プロファイルにどのような影響を与えるかを調べた。その上で、それらの変化とメタボリックシンドローム(MetS)の指標、炎症バイオマーカー、血液・根管内の微生物叢との関連を評価した。対象者から、治療前(ベースライン)、治療後3カ月、6カ月、1年、2年の5時点で血清サンプルを採取し、核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて解析した。 その結果、根管治療後には、24種類(54.5%)の代謝物に有意な変化が認められた。具体的には、3カ月後に分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が有意に減少し、2年後にはグルコースとピルビン酸(解糖系で生成される代謝物)が有意に減少した。また、コレステロール、コリン、脂肪酸が短期間で減少し、トリプトファンは徐々に増加した。これらの結果は、糖代謝・脂質代謝の改善と炎症負荷の軽減を示唆しており、心臓の健康にとって好ましい兆候といえる。さらに、代謝プロファイルの変化は、MetSの臨床指標、炎症マーカー、治療前の血液・根管内の微生物叢と強く関連することも示された。 Niazi氏は、「根管の感染症が長期間続くと、細菌が血流に入り込んで炎症を引き起こし、血糖値や脂質値を上昇させる可能性がある。その結果、心臓病や糖尿病などのリスクが高まる。歯科医は、このような根管感染症の広範な影響を認識し、早期診断と治療を推進することが不可欠だ」とニュースリリースの中で述べている。同氏はまた、口腔の健康と全身の健康の間には密接な関係があることから、歯科医と他領域の医療専門家が連携して治療する必要があるとの考えも示している。

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