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第251回 沖縄でコロナ急増、入院患者の半数が80歳以上 全国でも増加傾向続く/厚労省

<先週の動き> 1.沖縄でコロナ急増、入院患者の半数が80歳以上 全国でも増加傾向続く/厚労省 2.認知症薬レカネマブ、薬価15%引き下げへ 費用対効果に課題/中医協 3.医療機関の倒産、上半期35件で過去最多ペース/帝国データバンク 4.国立大病院の赤字が過去最大285億円、移植や高額薬が経営圧迫/国立大学病院長会議 5.「終末期医療は全額自己負担」に波紋、専門家は「事実誤認」指摘/参院選 6.ALS嘱託殺人事件、元医師の有罪確定 見張り役も共謀と判断/最高裁 1.沖縄でコロナ急増、入院患者の半数が80歳以上 全国でも増加傾向続く/厚労省厚生労働省は2025年7月11日、全国約3,000の定点医療機関から報告された新型コロナウイルス感染者数が、6月30日~7月6日の1週間で1医療機関当たり1.97人となり、前週(1.40人)比で1.41倍に増加と発表した。全国平均で3週連続の増加となり、全体で7,615人の新規感染者が報告された。都道府県別では、沖縄県が1定点当たり16.36人と突出しており、2位の山梨県(3.26人)、3位の千葉県(3.11人)を大きく引き離した。一方で、感染者数が少なかったのは鳥取(0.55人)、北海道(0.60人)、青森(0.67人)など。とくに沖縄県では感染拡大が顕著で、1週間の報告数は736人と前週の1.46倍。入院患者は85人で14人増加し、その約半数が80歳以上だった。年齢別でも60歳以上が最多で、高齢者層での感染と入院増が目立った。県では7月4日に独自の「新型コロナ感染拡大準備情報」を発令し、地域医療機関に注意を呼びかけている。併せてインフルエンザも継続的に流行しており、定点当たり4.96人と依然高い水準が続いている。今後も高齢者を中心とした重症化リスクを踏まえ、早期対応や感染対策の強化、病床確保が求められる状況にある。 参考 1) 2025年 7月11日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について(厚労省) 2) 新型コロナ患者、3週連続で増加…人口当たりでは沖縄県が突出(読売新聞) 3) コロナ感染、増加傾向続く 前週比1・41倍(産経新聞) 4) コロナ感染者数、沖縄は前週の1.46倍に 1定点あたり16.36人 「感染拡大準備情報」を発表中(沖縄タイムス) 2.認知症薬レカネマブ、薬価15%引き下げへ 費用対効果に課題/中医協厚生労働省は7月9日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、アルツハイマー病治療薬レカネマブ(商品名:レケンビ)について、その費用対効果が低いとする評価結果を受け、薬価を最大15%引き下げる方針を示した。レカネマブは、エーザイと米バイオジェンが共同開発し、2023年に国内で初めて承認されたアミロイドβを標的とする薬剤で、軽度認知障害(MCI)または軽度の認知症が対象。年間投与コストは約300万円で、公的医療保険の対象となっている。今回の評価では、認知機能の低下を27%抑制し、進行を7.5ヵ月遅らせるといった治験成績はあるものの、対象が軽症であることから介護費抑制効果が限定的と判断され、「費用対効果が不十分」と結論付けられた。国立保健医療科学院の分析では、現在の薬価の3分の1が妥当とされた。一方、エーザイは公的分析が「投与期間を18ヵ月までに限定」、「患者QOLの改善を軽視」など、評価モデルに乖離があるとして反論。「費用対効果は価格評価であり、薬の有効性自体を否定するものではない」と強調している。薬価は今後、中医協で議論され、激変緩和措置により最大15%の引き下げに止まる見通し。なお、薬価の費用対効果評価は2019年度から導入されており、エンシトレルビル フマル酸(同:ゾコーバ)などでも引き下げ例がある。 参考 1) 医薬品の費用対効果評価案について(厚労省) 2) アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」 薬価15%引き下げへ(NHK) 3) エーザイ認知症薬「レカネマブ」値下げへ 中医協「費用対効果悪い」(日経新聞) 4) エーザイ、認知症薬の費用対効果で反論 中医協は「過小に評価」(同) 3.医療機関の倒産、上半期35件で過去最多ペース/帝国データバンク帝国データバンクの調査によれば、2025年上半期(1~6月)に倒産した医療機関は全国で35件に達し、過去最多だった前年(64件)を上回るペースで推移している。内訳は病院9件、診療所12件、歯科医院14件で、とくに病院の倒産が増加している。負債10億円以上の大型倒産も病院で4件確認された。これまで小規模事業者の破綻が中心だったが、中規模病院への波及が顕著となっている。主因は、物価・人件費・光熱費・医療機器価格などのコスト上昇に診療報酬が追いつかず、収益構造が逼迫している点にある。また、経営者の高齢化と後継者難により、診療所・歯科医院では廃業や解散も増加しているほか、病院では建物の老朽化が課題であり、耐用年数(39~40年)を超えても建て替え困難な事例が多発している。さらに注目されているのが「休廃業・解散」の急増で、1~5月だけで300件(病院12件、診療所288件)に上り、年換算で700件を超える見通し。医師の高齢化も深刻で、診療所経営者の過半が70歳以上、後継者不在は全体の50%超とされる。建設費高騰と資金難により、将来的な閉院リスクも増している。医師会などの調査では、医業利益ベースで赤字病院は全体の約7割に達しており、制度的支援がなければ地域医療の空白化が加速する恐れがある。今後の診療報酬・医療提供体制の在り方が問われる状況となっている。 参考 1) 倒産した医療機関 上半期で全国35件 過去最多ペース(NHK) 2) 医療機関の倒産、上半期は35件で過去最多を上回るペース 物価高、人件費の高騰で収益悪化(帝国データバンク) 3) 医療機関の倒産は過去最多ペース…「ある日突然、病院がなくなる」地域が急増する衝撃(日刊ゲンダイ) 4.国立大病院の赤字が過去最大285億円、移植や高額薬が経営圧迫/国立大学病院長会議国立大学病院長会議は、2024年度の決算速報で、全国42国立大学・44附属病院の経常損益が過去最大の285億円の赤字となったと公表した。前年度の赤字60億円からさらに大幅に悪化し、全体の7割近い29病院が赤字に陥っている。収益は547億円増加した一方で、人件費や医薬品・材料費の高騰などにより費用は772億円増加。物価高と働き方改革の影響が大きく、収入との乖離が赤字拡大の主因とされている。とくに移植手術では深刻な採算割れが発生しており、肺移植では1件当たり418万円の赤字、臓器移植全体でも平均290万円の損失となっている。加えて、高額医薬品(10万円以上)の使用が全体の28.5%を占め、その管理・維持に通常より数倍の人件費が必要とされるほか、キャンセル時には全額病院負担となることも経営を圧迫している。医療機器更新の停滞、診療報酬の低水準、研究・教育機能の劣化なども懸念され、病院長らは補正予算による支援と次期診療報酬改定での点数引き上げを強く要望している。大学病院が担う高度医療と医師養成の機能の維持には、早急な国の対応が不可欠と訴えている。 参考 1) 国立大病院285億円赤字 過去最大、24年度「新たな医療機器が買えない」(産経新聞) 2) 国立大学病院の赤字 過去最大の285億円 全体の7割近くが赤字に(NHK) 3) 国立大学病院長会議 42国立大学病院の24年度経常損益マイナス285億円 経営悪化で事業継続の危機訴え(ミクスオンライン) 5.「終末期医療は全額自己負担」に波紋、専門家は「事実誤認」指摘/参院選参政党が参議院選挙で掲げている「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」の公約が、大きな波紋を呼んでいる。同党は「過度な延命治療が医療費を押し上げる」として、胃ろうや点滴、経管栄養の制限と、診療報酬の定額制導入も主張している。神谷 宗幣代表は「蓄えの必要性を啓発する意図」と釈明するが、福岡 資麿厚生労働省大臣は「生命倫理に関わる問題で国民的議論が必要」と否定的な見解を示している。神谷氏の公約に対し、医療・政策専門家からは批判が相次いでいる。日本福祉大学名誉教授の二木 立氏は、死亡前1ヵ月の医療費は全体の約3%にすぎない点を挙げ、「終末期医療が医療費高騰の主因」とする主張は誤りと指摘。また、延命措置の線引きは曖昧で、終末期は必ずしも高齢者に限らず、子供にも適用されることもある。さらに、日本老年医学会の「立場表明2025」は、緩和ケアの推進と意思決定支援の重要性を強調し、「time-limited trial」などの柔軟な対応を推奨。個別の事情に応じた医療の必要性を訴えている。SNS上では「政治家が終末期医療を一律に制限することは、尊厳や人権を損なう」との声も広がる。医療現場では、患者や家族との対話を重視し、画一的な制限ではなく、多様なニーズに応じたケアが求められている。今回の公約は、医療者や国民との合意形成の積み重ねに逆行するものであり、終末期医療の制度設計をめぐる今後の議論に注目が集まっている。 参考 1) 参政党の政策(参政党) 2) 終末医療は全額自己負担 参政党が異常な公約(しんぶん赤旗) 3) 参政公約「終末期延命措置は全額自己負担」 神谷氏「啓発する思い」(朝日新聞) 4) 参政党の医療公約「終末期の延命医療費の全額自己負担化」医療政策学者と検証する(医療記者、岩永直子のニュースレター) 5) 終末期医療めぐる議論に医師作家「終末期=高齢者では決してありません」(日刊スポーツ) 6.ALS嘱託殺人事件、元医師の有罪確定 見張り役も共謀と判断/最高裁2019年にALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者(当時51歳)の依頼を受けて薬物を投与し死亡させた嘱託殺人事件で、最高裁第2小法廷は7月7日、元医師・山本 直樹被告(48)の上告を棄却し、懲役2年6ヵ月の実刑が確定した。実行犯である元医師・大久保 愉一受刑者(47)はすでに懲役18年が確定している。山本被告は「殺害計画は知らなかった」と無罪を主張したが、一審・京都地裁は「見張り役として犯行を支援し、被害者と大久保受刑者を繋ぐ調整役を果たした」と指摘。被害者から約130万円を受け取り、訪問日程の調整も行っていた点から「殺害の意図を認識し、共謀していた」と判断された。大阪高裁もこの判断を支持し、最高裁は「判例違反などの上告理由にあたらない」として棄却した。本件とは別に、山本被告は2011年に父親を殺害した罪でも懲役13年が確定しており、大久保受刑者も一連の事件で懲役18年が確定している。ALS患者による「自死の選択」をめぐる社会的議論が続く中、本件は「患者の依頼による殺害」でも、法的責任が厳格に問われた判例として注目されている。安楽死・尊厳死の制度化がないわが国では、医療者による関与があっても刑事責任を免れないことが改めて確認された。今後も生命倫理と医療行為の境界における慎重な議論が求められる。 参考 1) ALS患者の嘱託殺人、「見張り役」元医師の実刑確定へ 最高裁(朝日新聞) 2) 元医師も実刑確定へ 最高裁、ALS嘱託殺人(日経新聞) 3) 元医師、懲役2年6月確定へ ALS嘱託殺人、上告棄却 最高裁(時事通信)

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歯周病の進行が動脈硬化と相関か

 歯周病は40歳以上の成人における歯の喪失の主な原因と考えられているが、2000年代の初頭からは他の全身疾患との関連性も報告されるようになった。今回、アテローム性動脈硬化と歯周病の進行が相関しているとする研究結果が報告された。研究は鹿児島大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学分野の玉木直文氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に4月18日掲載された。 アテローム性動脈硬化は血管疾患の主な原因の一つであり、複数のメタ解析により歯周病との関連が報告されている。長崎大学は2014年に、離島における集団ベースの前向きオープンコホート研究である長崎諸島研究(Nagasaki Islands Study;NaIS)を開始した。このコホート研究でも以前、動脈硬化が歯周病の進行に影響を与えるという仮説を立て、横断研究によりその関連性を調査していた。しかし、両者の経時的な関連性を明らかにする縦断研究はこれまで実施されていなかった。そこで著者らは、追跡調査を行い、動脈硬化と歯周病の関連性を検討する3年間のコホート研究を実施した。 本研究は長崎県五島市で実施されたフィールド調査で口腔内検査を受けた40歳以上の成人597人のうち、ベースライン時の健康診断と3年後に実施された追跡健康診断の両方のデータ(潜在性動脈硬化症、潜在的交絡因子、口腔内検査)がそろっている222人を最終的な解析対象とした。潜在的なアテローム性動脈硬化の指標として、頸動脈内膜中膜厚(cIMT)が1mm以上、足関節上腕血圧比(ABI)が1.0未満、心臓足首血管指数(CAVI)が8以上の者を、高リスク者と定義した。歯周病の進行は、歯肉辺縁から歯周ポケット底部までのプロービング ポケット デプス(PPD)と、セメントエナメル境から歯周ポケット底部までのクリニカル アタッチメント レベル(CAL)を測定することで評価した。 ベースライン時における参加者の平均年齢は64.5±10.3歳であり、歯周病が進行した対象者58人(26.1%)が含まれた(進行群)。歯周病進行群と非進行群のベースライン時点での比較では、性別が男性であること、年齢が高いこと、現存歯数が少ないこと、PPDとCALが深いこと、喫煙者、高血圧、cIMTの厚さ、cIMTが1mm以上の者の割合、およびCAVIの値に有意な差が認められた。 3年間の追跡調査におけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)の変化を調べたところ、CAVIの値は歯周病進行群(P<0.001)、非進行群(P=0.007)でともに有意に増加していたが、CAVIが8以上の者の割合は進行群でのみ62.1%から81.0%へ有意に増加していた(P=0.024)。 次に、年齢と性別を調整した上で、多重ロジスティック回帰分析を実施し、アテローム性動脈硬化(前述の通りcIMT、ABI、CAVIによって定義)に対する歯周病進行のオッズ比(OR)を算出した。その結果、cIMTが1mm以上であった群は歯周病進行のORが有意に高かった(OR2.35、95%信頼区間〔CI〕:1.18, 4.70、P<0.05)。この有意傾向は、喫煙状況や高血圧などの追加の共変量を調整した後も維持された。 また、多重線形回帰分析により、ベースラインにおけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)とPPDおよびCALの変化との相関を検証した。年齢および性別で調整した結果、CAVIはCALの変化と正の相関(β=0.046、95%CI:0.008, 0.083、P=0.017)を示し、ABIはPPDの変化と負の相関(β=-0.667、95%CI:-1.237, -0.097、P=0.022)を示した。この有意傾向は、すべての共変量を調整した後も維持された。 本研究の結果について著者らは、「本研究より、日本の地域在住の中高齢者において、歯周病の進行とアテローム性動脈硬化が有意に関連していることが示唆された。従って、潜在性のアテローム性動脈硬化を予防することで、歯周病の状態を改善できる可能性がある。」と述べている。

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第247回 骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣

<先週の動き> 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、医療者の感染リスクも顕在化/三重県 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣政府は6月13日、「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太の方針2025)を閣議決定し、来年度以降の予算編成や制度改革の方向性を示した。今回の方針では、医療・介護・福祉分野における構造改革と現場の処遇改善が柱となり、「成長と分配の好循環」に向けた具体策が明示された。政府は初めて、2029年度までに実質賃金を年1%引き上げる数値目標を掲げ、医療・介護・保育・福祉分野の処遇改善を「成長戦略の要」と位置付けた。これに伴い、公的価格である診療報酬や介護報酬の引き上げを示唆し、2026年度の報酬改定に大きな影響を与える可能性がある。また、これまで「高齢化による自然増」に限定していた社会保障費の算定に、今後は物価・賃金動向を加味する方針を打ち出した。これにより、物価高や人材確保に悩む医療・介護機関にとっては、経営基盤の安定化につながるとみられる。その一方で、保険料負担とのバランスが課題となる。地域医療体制の再編も加速され、地域実情を踏まえつつ、2027年度施行の新地域医療構想に合わせて、一般・療養・精神病床の削減が明記された。とくに中小病院や療養型施設に対し、再編や役割分担が求められる。負担の公平性を重視し、医療・介護の応能負担の強化も盛り込まれた。金融所得を含めた新たな負担制度の検討が進められており、今後の制度設計に注目が集まっている。また、2026年度以降、市販薬と類似する医師処方薬(OTC類似薬)を保険給付から除外する見直しが進められ、診療所経営にも影響が及ぶ可能性がある。さらに、医療の効率化を図るため、医療DXやデータ活用が推進され、電子カルテの標準化やPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)との連携が進展される見込みとなった。地域単位で薬剤選定を標準化する「地域フォーミュラリ」の全国展開も盛り込まれた。今回の方針は、賃上げによる持続可能な成長と、医療・福祉分野の構造改革を同時に進めるものであり、制度改革の実行力が問われる局面となる。 参考 1)経済財政運営と改革の基本方針 2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~[全文](内閣府) 2)ことしの「骨太の方針」決定 経済リスク対応やコメ政策見直し(NHK) 3)不要な病床の削減を明記、骨太方針決定 社会保障費「経済・物価動向等」反映へ(CB news) 4)骨太の方針、社保に物価・賃上げ反映 家計負担増す可能性(日経新聞) 5)実質賃金年1%上昇、初の数値目標 骨太の方針を閣議決定(毎日新聞) 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、人獣共通感染症への警戒強まる/三重県マダニ媒介感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染拡大が続いており、医療従事者にも重大な影響を及ぼしている。6月、三重県内でSFTS感染の猫を治療していた高齢の獣医師が感染・死亡する事例が確認された。ダニ刺咬痕は確認されておらず、唾液や血液を介したペット由来の感染が疑われている。これは、2024年の医師への感染に続く人獣間感染の深刻な事例であり、日本獣医師会は防護対策の徹底を求めている。SFTSは6~14日程度の潜伏期を経て発熱、嘔吐、下痢、意識障害、皮下出血など多彩な症状を呈し、致死率は最大30%に達する。とくに高齢者では重症化リスクが高い。現在、有効な抗ウイルス薬としてファビピラビル(商品名:アビガン)が使用できるが、ワクチンは存在しない。マダニ感染症はSFTSのほかにも日本紅斑熱やツツガ虫病があり、いずれも西日本を中心に発生が集中している。2025年も岡山・鳥取・香川・静岡・愛媛など複数県で感染例が報告されており、死亡例も出ている。春から秋にかけてマダニの活動が活発化し、農作業やアウトドア活動での感染リスクが高まる。また、SFTSは犬・猫などのペットがウイルス保有宿主になり得ることが明らかになっており、医療者・獣医師・飼い主ともに十分な感染予防対策が求められる。ペットの室内飼育、防虫剤使用、皮膚・粘膜の保護に加え、咬傷・体液接触時の手指衛生とPPE(個人防護具)の着用が推奨される。今後、診療現場でもマダニ媒介疾患への警戒を強化し、野外活動歴や動物との接触歴を含めた問診と初期対応の徹底が重要である。 参考 1)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚労省) 2)ネコ治療した獣医師死亡 マダニが媒介する感染症の疑い 三重(NHK) 3)マダニ感染症で死亡の獣医師「胸が苦しい、息苦しい」訴え緊急搬送 発症前に感染ネコ治療(産経新聞) 4)マダニにかまれ「日本紅斑熱」60代男性感染 2025年8人目 屋外でのマダニ対策呼びかけ(静岡放送) 5)マダニにかまれ、感染症悪化で死亡事例も 今が活動期 アウトドアレジャーでの警戒を(産経新聞) 6)ダニ媒介による感染症「日本紅斑熱」「SFTS」の患者が多発 県が注意喚起(山陽放送) 7)西日本中心に“マダニ”に注意 住宅街の茂みでパンパンに膨らんだマダニも…マダニが媒介する致死率10%超えの感染症SFTSとは?50歳以上は特に重症化しやすいか(あいテレビ) 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省厚生労働省は、緩和ケアの対象を腎不全患者にまで拡大する方針で検討を開始した。これまで緩和ケアは、がん・エイズ・末期心不全の患者を対象としてきたが、透析継続が困難になった腎不全患者においても激しい身体的・精神的苦痛が生じるケースが多く、医療現場から対応拡充を求める声が高まっていた。背景には、慢性透析患者が年々増加し、2023年には全国で約34.4万人に達し、年間3.8万人が死亡している現状がある。透析中止に際しては「人生で最も激しい痛み」と表現されるほどの苦痛を伴うこともありながら、現在の診療報酬制度では緩和ケアの加算対象から除外されており、患者は十分な医療的支援を受けられていない。こうした事態を受け、自民党の有志議員らは5月に提言を厚労省に提出。患者の尊厳を守る終末期医療の実現に向け、在宅医療体制の整備、医療用麻薬の使用拡大、関連学会によるガイドラインの整備、モデル地域の創設などを提案した。これを受け厚労省は、2025年の「骨太の方針」に腎臓病対策として盛り込み、次期診療報酬改定を視野に対応を進める見通しだ。日本透析医学会も2020年以降、緩和ケアの必要性を強調しており、透析の見合わせ段階だけでなく、意思決定前の段階でも継続的なケアの必要性を提唱。今後は腎不全患者への緩和ケア提供を制度的に後押しする議論が本格化する。 参考 1)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減(東京新聞) 2)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減 厚労省検討、骨太反映へ(産経新聞) 3)がん以外にも緩和ケアを 透析医療へ拡大訴え 学会や国で議論始まる(共同通信) 4)わが国の慢性透析療法の現況(日本透析医学会) 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ2025年に入って、わが国の医療機関が前例のないペースで倒産または廃業している。帝国データバンクの調査によれば、1~5月だけですでに倒産が30件、廃業・解散などが373件に達し、年間では合計1,000件に迫る勢いだ。これは2024年の過去最多記録(723件)を大幅に上回る見通しであり、医療提供体制の根幹が揺らぎ始めている。背景には、医療機器や光熱費などの物価上昇に対して、2024年度の診療報酬改定(+0.88%)が極めて抑制的だったことがある。また、医師の働き方改革により、大規模病院を中心に残業代負担が急増し、経営を圧迫している。さらに、病院の老朽化も深刻で、法定耐用年数(39年)を迎える施設が全国の約8割に及ぶ中、建設費の高騰により建て替えを断念せざるを得ない事例が増えている。中小診療所や歯科医院では、経営者の高齢化や後継者不在が廃業の主因となっている。とくに同族経営が多い歯科では、承継が進まず「法人の限界」が露呈している。M&Aのニーズは高まっているが、財務状態の良い法人に買い手が集中し、赤字法人は買い手がつかず「廃業すらできない」という二極化が進行中だ。このような事業者の「自然消滅」は、厚生労働省が推進する地域医療構想の想定を超える速さで進行しており、病床再編の制度設計と現場の実態が乖離している。現状では、老朽施設への再生支援策も不十分で、制度疲労が顕在化している。今後の政策には、(1)診療報酬や補助金の実態に即した見直し、(2)施設再建支援、(3)M&Aによる出口戦略の明確化、(4)中山間地や離島での公的医療体制の再構築が求められる。医療機関の消滅は、単なる経営問題に止まらず、地域住民の医療アクセス権や医療安全保障そのものに関わる緊急課題である。 参考 1)病院と診療所の倒産件数、5カ月で前年上半期に並ぶ 計18件 東京商工リサーチ(CB news) 2)入金基本料「大幅引き上げを」公私病連が決議 病院経営の厳しさ訴える(同) 3)医療機関で倒産急増の深刻事態!今年は約1,000事業者が“消滅”か(ダイヤモンドオンライン) 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協厚生労働省は、6月13日に中央社会保険医療協議会(中医協)・調査評価分科会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開き、地域包括医療病棟および回復期リハビリ病棟に関する実態調査結果の報告をもとに討議を行なった。2024年度診療報酬改定で新設された地域包括医療病棟入院料について、届け出病院の約4割が急性期一般入院料1からの転換で、制度設計通りの導入が進んだとされた。一方、届け出検討病院は全体の5%程度に止まり、とくに「毎日リハビリ提供体制の整備」が障壁との回答が多数を占めた。また、入院患者の診療実態にはばらつきがあり、輸血や手術を多数算定する病院と、誤嚥性肺炎など内科系疾患中心の病院とで医療内容に差がみられた。急性期病棟を手放した病院も多く、地域医療構造の再編に影響が及ぶ可能性もある。一方、回復期リハビリ病棟では、FIM(機能的自立度評価)利得がゼロまたはマイナスの患者が突出して多い施設が散見され、委員からは「異常」「詳細な分析を行うべき」との指摘が相次いだ。新設されたリハ・栄養・口腔連携体制加算の基準(ADL低下3%未満)に満たない施設が多いことも判明した。今後、診療報酬制度の実効性や適正な施設基準運用のあり方が問われる。 参考 1)令和7年度第3回入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省) 2)地域包括医療病棟、急性期一般1から移行が最多 全体の4割占める(CB news) 3)回復期リハ、FIM利得マイナスの患者が多くの病院に 「詳細な分析を」中医協・分科会(同) 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府政府は6月13日、「デジタル行財政改革取りまとめ2025」を決定し、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を中核に据えた改革方針を示した。背景には、急速な少子高齢化による医療資源の逼迫と、地域医療の持続可能性確保という喫緊の課題がある。今回の取りまとめでは、電子処方箋の導入促進とあわせて、医療データの二次利用(研究、医療資源の最適化など)に向けた制度整備が明記された。電子処方箋は2025年夏に新たな導入目標を設定し、病院・診療所での導入拡大を急ぐ。8月にはダミーコード問題への対応としてシステム改修が完了する予定であり、今後は診療報酬・補助金による導入促進も強化される。また、救急搬送時の医療情報共有を可能とする広島県発の連携PF(プラットフォーム)を全国展開する構想も示された。これにより、搬送の調整が迅速となり、災害時のEMIS連携やマイナンバーカードの活用による「マイナ救急」との統合も視野に入る。さらに、医療データの二次利用の円滑化に向けた法整備を進めるほか、AI活用のための透明性ある学習データの収集・連携環境の整備も進行中である。電子処方箋やリフィル処方の活用拡大も引き続き重要課題とされ、KPIの早期設定と次期診療報酬改定での反映が示唆された。これら一連の取り組みは、医療現場の業務効率化と質の高い医療の提供、さらには地域医療構想との接続にも大きな影響を及ぼす。医師にとっては、現場実装の速度と制度設計の動向に注視することが求められる。 参考 1)デジタル行財政改革 取りまとめ2025(デジタル行財政改革会議) 2)AIの学習データ、収集や連携促進 デジタル改革取りまとめ(日経新聞) 3)社会課題解決に医療データ活用 方針決定 法整備検討へ 政府(NHK) 4)電子処方箋、今夏に新たな目標設定 デジタル行革 取りまとめ、8月にシステム改修終了へ(PNB) 5)デジタル行財政改革会議(首相官邸)

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歯磨きに明確な効果。院内肺炎、そしてICU死亡率が低下【論文から学ぶ看護の新常識】第18回

歯磨きに明確な効果。院内肺炎、そしてICU死亡率が低下歯磨き(歯ブラシを用いた口腔ケア)を行うことで、院内肺炎(HAP)のリスクが約33%、集中治療室(ICU)での死亡率が約19%低下することが、Selina Ehrenzellerらの研究により示された。JAMA Internal Medicine誌2024年2月号に掲載された。毎日の歯磨きと院内肺炎の関連性:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、毎日の歯磨きが、院内肺炎(HAP)の発生率低下およびその他の患者関連アウトカムと関連しているかを明らかにすることを目的に、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。入院中の成人患者を対象に、歯ブラシによる毎日の口腔ケアと、歯ブラシを用いない口腔ケアを比較したランダム化比較試験を分析対象とした。PubMed、Embaseを含む6つの主要医学文献データベースと、3つの臨床試験登録システムを、各データベース創設時から2023年3月9日まで検索した。メタアナリシスには、ランダム効果モデルを用いた。主要アウトカムをHAPとし、副次アウトカムには、院内および集中治療室(ICU)の死亡率、人工呼吸器装着期間、ICU滞在期間および入院期間、ならびに抗菌薬の使用を含めた。サブグループ解析の項目には、侵襲的人工呼吸管理を受けた患者と受けなかった患者、1日2回の歯磨きとそれ以上の頻度の歯磨き、歯科専門職による歯磨きと一般看護スタッフによる歯磨き、電動歯ブラシと手用歯ブラシ、そしてバイアスリスクが低い研究と高い研究が含まれた。主な結果は以下の通り。合計15件の研究(対象患者10,742例)が選択基準を満たした(ICU患者2,033例、非ICU患者8,709例であり、非ICU患者における1件のクラスターランダム化試験を考慮して統計的に調整した有効サンプルサイズは2,786例)。歯磨きの実施は、HAPリスクの有意な低下(リスク比 [RR]:0.67 、95%信頼区間[CI]:0.56~0.81)、およびICU死亡率の低下(RR:0.81 、95%CI:0.69~0.95)と関連していた。肺炎発生率の減少は、侵襲的人工呼吸管理を受けている患者において有意であったが(RR:0.68、95%CI:0.57~0.82)、侵襲的人工呼吸管理を受けていない患者では有意な差を認めなかった(RR:0.32、95%CI:0.05~2.02)。ICU患者における歯磨きは、人工呼吸器装着日数の短縮(平均差:−1.24日、95%CI:−2.42~−0.06)、およびICU滞在期間の短縮(平均差:−1.78日、95%CI:−2.85~−0.70)と関連していた。1日2回の歯磨き(RR:0.63)と、それ以上の頻度で歯磨きを行った場合(1日3回歯磨きRR:0.77、1日4回歯磨きRR:0.69)では、効果の推定値は同程度であった。これらの結果は、バイアスリスクの低い7つの研究(1,367例)に限定した分析でも一貫していた。非ICUの入院期間および抗菌薬の使用については、歯磨きとの関連は認められなかった。毎日の歯磨きが、とくに人工呼吸器管理を受けている患者におけるHAPの発生率の大幅な低下、ICU死亡率の低下、人工呼吸器装着期間の短縮、およびICU滞在期間の短縮と関連している可能性が示唆された。毎日の歯磨きは効果的ですね!とくに人工呼吸器を使用している患者では、その効果が大きいようです。ただ、「リスク比」って何?と思う方もいらっしゃると思います。この論文の結果では、リスク比が0.67と報告されています。これは、「歯磨きをすることでHAPの発生リスクが0.67倍になる」言い換えれば「HAPの発生リスクを約33%減少させる」と解釈できます。また計算すると人工呼吸器関連肺炎(VAP)を予防するために必要な治療数(治療必要数[NNT])は12人でした。つまり、人工呼吸器を使用している患者12人に歯磨きを実施することで1例のVAPを予防できる計算になります。12人歯磨きしたらVAPを予防できたと考えると、自分の業務のやりがいが一層感じられるかもしれません。推奨される口腔ケアの頻度は報告によってさまざまですが、少なくとも1日1~2回は必要とされています。多くの施設では、ケアの目標として食事に合わせて1日3回以上を設定しているかもしれません。しかし、多忙な業務の中でこの目標を常に達成するのが難しい現状もあるのではないでしょうか。目標が高すぎると、達成できなかった際にネガティブな印象が残り、ケアへの負担感につながってしまう可能性も考えられます。ここで大切なのは、無理なく継続できる目標を設定し、確実に実施することです。例えば、まずは「人工呼吸器を使用している患者さんには、1日1~2回歯ブラシを用いた口腔ケアを実施する」ことをチームの共通目標にしてみてはいかがでしょうか。日勤帯での実施が難しければ、夜勤帯や早朝など、部署の状況に合わせて実施できる時間帯を検討し、職場内で実現可能なルール作りや手順の見直しを行うことが大切です。このような論文の知見を参考に、この機会に現実的で継続可能なケア方法について、一度チーム内で話し合ってみるのもよいかもしれませんね。論文はこちらEhrenzeller S, et al. JAMA Intern Med. 2024;184(2):131-142.

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術後の吐き気、アロマセラピーで改善か

 術後の悪心・嘔吐(PONV)は、全身麻酔による手術を受けた患者の約30%で発生する。口腔外科手術では、PONVの発生する割合がさらに上がることが報告されているが、今回、アロマセラピーにより術後悪心(PON)の重症度が軽減されるという研究結果が報告された。北海道大学大学院歯学研究院歯科麻酔学教室の石川恵美氏らの研究によるもので、詳細は「Complementary Therapies in Medicine」に3月26日掲載された。 PONVの管理は、全身麻酔での手術後の予後と患者の治療満足度にとって重要な要素の1つだ。海外のPONVのガイドラインでは、女性や、高リスクの手術、揮発性吸入麻酔薬の使用といった複数のリスク因子を有する患者に対しては、3~4つの対策を講じることが望ましいとされている。しかし、国内では保険適用可能な薬剤の数が限られており、これらの高リスク患者のPONV管理においては、複数の対策を講じるための代替となる新しい手段の検討が必要である。 PONVおよびPONの予防・治療に関しては、携帯性が高く、処方箋不要で、比較的低コストで、副作用のリスクが少ないといった観点から、アロマセラピーの活用がこれまでに研究されてきた。しかし、PONVおよびPONの管理に関して、高いエビデンスに基づいた研究は限られている。このような背景を踏まえ、著者らは口腔外科手術後のPON発症に対するアロマセラピーの効果を検討する単施設のランダム化比較試験を実施した。 試験には、2022年7月16日から2023年12月31日の間に、北海道大学病院で全身麻酔下による口腔外科手術を受けた20歳以上の成人患者182人が含まれた。患者は1:1でアロマ群(93人)と対照群(89人)に割り付けられた。アロマ群には、ペパーミント・ショウガ・ラベンダーの3種類のエッセンシャルオイルからなる希釈液を吹き付けた綿がジッパー付きの袋に入れて渡された。対照群の袋には精製水を吹き付けた綿が入れられた。患者はPONの初回発症時に、渡された袋を開き2分間の深呼吸を行うよう指示された。PONの重症度は視覚アナログスケール(VAS)を用いて評価した。連続変数、順序変数(および名義変数)の比較にはそれぞれt検定、フィッシャーの正確確率検定を使用した。 アロマ群で32人、対照群で25人の患者がそれぞれPONを発症した。この中から、麻酔中に予防的制吐剤を投与されていた患者、介入前にレスキュー制吐剤を使用した患者を除外し、アロマ群と対照群でそれぞれ26人と21人が最終的な解析に含まれた。介入前から介入後2分までのVASの変化量は、アロマ群で-19.15±3.67、対照群で-2.00±1.08であり、アロマセラピーにより有意にPONの重症度が軽減されることが示された(P<0.001)。 PON発症後にレスキュー制吐剤が使用された患者の割合は、アロマ群(30.77%)が対照群(52.38%)よりも低かったものの、統計的に有意な差は認められなかった。 試験終了時に行われた、5段階のリッカート尺度による治療満足度の評価では、満足度が高い(4または5)と回答した患者の割合は、アロマ群(79.23%)が対照群(14.29%)より有意に高かった(P<0.001)。なお、試験期間中に有害事象は観察されなかった。 本研究の結果について著者らは、「本研究では、アロマセラピーが全身麻酔下での口腔外科手術後のPONの重症度と患者満足度を大幅に改善することが示された。したがって、その利点を考慮すると、アロマセラピーは複数の制吐策の1つとして有望なのではないか」と述べている。 なお、本研究の限界点については、アロマセラピーの性質上、精製水との比較において患者の盲検化ができないこと、単施設の研究であったことなどを挙げている。

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第263回 大学病院などで医療機器メーカー社員が無資格でX線検査、医療機器絡みのリベートや労務提供がなくならない理由とは

兄弟会社含めると“お騒がせ”2度目の外資系メーカーこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。米国MLB、日本人投手受難の日々が続いていますね。デトロイト・タイガースの前田 健太投手は調子上がらず結局解雇、シカゴ・カブスの今永 昇太投手は太もも怪我、そしてロサンゼルス・エンゼルスの菊池 雄星投手は未だに未勝利です。菊池投手は、これまでに9試合に先発し5度のクオリティ・スタート(6回3自責点以内)をマークしていますが、勝ち星はついておらず0勝4敗という成績です。こちらは不運としか言いようがありません。また、ロサンゼルス・ドジャースの佐々木 朗希投手も先行きが不安視されています。かろうじて1勝はしているものの、5月9日(現地時間)の登板(初めての中5日登板)は5回途中、わずか61球で降板しています。日本で過保護に育てられ過ぎてスタミナがないのか、あるいは肩がどこかおかしいのか、フォーシームのスピード、変化球のキレともに日本時代より相当落ちている気がしました。日本のスポーツ紙各紙も「ドジャース傘下“トリプルA”で出直した方がいい」「明らかな球速低下『並の投手』に」「カットボールなどを覚えて幅を広げないと厳しい」など、手厳しい評価をしています。この先、立て直すことができるのか、あるいは怪我をして長期離脱してしまうのか……、とここまで書いたら、現地時間13日、右肩痛により故障者リスト入りが発表されました。まるでロッテ時代みたいですね。いろいろな意味で心配です。さて、今回は先月表沙汰になった医療機器メーカー社員が大学病院などで無資格でX線装置を操作していた事件を取り上げます。この医療機器メーカーは脊椎手術で使う脊椎インプラントを製造販売するニューベイシブジャパン(東京都中央区)です。同社は2009年5月に米国カリフォルニア州サンディエゴに本拠を置くNuVasive社の日本法人として設立されました。ちなみに、米国のNuVasive社は2023年にやはり脊椎インプラントを製造販売するGlobus Medical社(ペンシルバニア州オーデュボン)と合併しています。そのGlobus Medical社の日本法人、グローバスメディカル(東京都中央区)は2020年に同社の製品を購入した病院の医師に対し、売上の10%前後をキックバックしていたことで世間を騒がせました(第35回 著名病院の整形外科医に巨額リベート、朝日スクープを他紙が追わない理由とは?)。というわけで、この外資系メーカー、兄弟会社を合わせると2度目の“お騒がせ”ということになります。関東や関西の複数医療機関で整形外科手術に立ち会いX線装置を操作4月18日付の朝日新聞朝刊は、「手術中、無資格でX線照射」と題する記事を掲載、米国系の医療機器メーカー、ニューベイシブジャパンの営業担当者らが、大学病院などの医療機関で手術に立ち会い、資格を持たずにX線装置を操作していたと報じました。同記事には「関西の大学病院の手術内で、X線装置を操作する医療機器メーカーの営業担当者」というキャプションとともに、防護服を着用して操作中の社員の写真も掲載されています。同記事によれば、朝日新聞の取材に対し同社は、「営業担当者4人が2024年4~11月に関東や関西の五つの医療機関で整形外科手術に立ち会い、X線装置を操作した」と説明、診療放射線技師法違反も認めたとのことです。手術は同社製の脊椎インプラントを使用した手術ですが、操作していたX線装置は同社製ではありませんでした。そんなことを黙認していた病院も病院です。同記事は、「同社関係者は『営業担当者は、自社の医療機器を購入してもらうために医師に労務を提供し、便宜をはかっていた』と話す。五つの医療機関以外でも同社社員によるX線装置の操作が目撃されている」と書いています。この日の朝日新聞は「X線照射、密室の癒着」と題する関連記事も掲載しています。同記事によれば、ニューベイシブジャパンの営業社員が操作していたのは、「Cアーム」と呼ばれる機器で、術中の放射線の照射は長時間に及ぶことが多く、とくに高度な操作が必要とされる、としています。営業の成果を求めるメーカー社員、人手不足などからメーカー側の労力に頼る病院医師同記事は、医療機器の操作資格がない営業担当者が、医師の指示のもとに手術に関わる「立ち会い」という慣習の存在について、「背景にあるのは、機器の選別・購入に影響力がある医師と、メーカー側との関係だ。メーカーの営業社員にとって、手術室で医師と一緒に過ごす時間は、自社の医療機器を売り込む格好の機会になる。外資系メーカーでは、営業成績に応じてボーナスが支給される制度もある」と書くとともに、「患者に対して責任を負うべき医師は、なぜ無資格の営業担当の行為を容認するのか。医療関係者によると、放射線技師の人数が不足する病院では、外来や検査も担当する技師を手術中、長時間にわたり拘束することが難しいケースがある。整形外科手術は数時間に及ぶことも多い。医師がメーカーの社員の助けに依存する構図が生まれる」と、営業の成果を求めるメーカー社員と、人手不足などからメーカー側の労力に頼る病院医師との癒着を指摘しています。関西医科大学総合医療センター、横浜新緑総合病院は無資格X線認める朝日新聞はさらに4月19日付の朝刊で「証拠握る社員 社長が批判」と題する続報記事を掲載。ニューベイシブジャパンの社員が無資格でX線装置を操作していた問題について、昨年、一部の社員が是正のため違法行為の証拠として操作の様子を写真に撮るなどしたところ、同社の田中 孝明社長(グローバスメディカルの社長でもあります)が営業担当者らに対し、証拠写真撮影は「間違った姿勢」などとメール、違法行為を隠蔽するかのような指示をした事実も明らかになっています。朝日新聞は続いて4月23日付朝刊で「無資格X線 2病院認める」と題する記事を掲載、同紙が把握している無資格でX線装置を操作していたニューベイシブジャパンの社員について、違法行為を行ったとされる5病院に事実関係を確認した結果を報じています。それによれば、関西医科大学総合医療センター(大阪府守口市)、医療法人社団三喜会・横浜新緑総合病院(横浜市緑区)が無資格者によるX線装置操作を認めたとのことです。和歌山県立医科大学(和歌山市)、兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市)は調査中、残りの大阪府内の病院は「無資格者の照射があったという報告はない」と答えたとのことです。厚労大臣「無資格は法令違反、実態の把握に努める」、医療機器業公正取引協議会は調査開始こうした一連の報道を受け、福岡資麿厚生労働大臣は4月18日、閣議後の記者会見で「医療機関における放射線の照射は法律の規定により、医師、歯科医師または診療放射線技師でない者が人体に対して放射線を照射することを禁止しているため、仮に無資格の方がこれを行っていた場合については、法令違反となり、刑事罰の対象となる。医療現場において、医療機器が適切に使用されることは大変重要だと考えている。どういったことが行われていたのか、実態の把握に努める」と語りました。一方、4月19日付の朝日新聞によれば、医療機器業界の自主規制機関「医療機器業公正取引協議会(公取協)」が、ニューベイシブジャパンが医師に対し、X線装置を操作するという労務を提供して便宜を図った疑いがあるとして調査を始めることを決めたとのことです。なお、ニューベイシブジャパンは4月18日に社員が無資格でX線装置を操作していた事実を認め、4月22日にはウェブサイトで「当社に関する一部報道について」と題する文書を公開、「現在、関係当局にご報告しつつ当社の米国本社と連携の上、外部の弁護士による調査を実施しています」とコメントしています。リベート供与を罰する法律が整備されておらず、企業も医師も法律上は「何の罪も犯していない」ことになる日本それにしても、医療機器メーカーによる医療機関や医師に対する利益供与(今回はリベートではなく労務)はどうしてなくならないのでしょうか。本連載では、冒頭で紹介した「第35回 著名病院の整形外科医に巨額リベート、朝日スクープを他紙が追わない理由とは?」のほか、「第111回 手術動画提供で機器メーカーの不当な現金供与発覚、類似事件がなくならないワケとは」、「第139回 眼科医の手術動画提供事件、行政指導で一通りの決着、スター・ジャパンは白内障用眼内レンズ取り扱い終了へ」などでこの問題を取り上げました。同様の事件がなくならない原因は明らかです。日本にはリベート供与を罰する法律が整備されておらず、企業も医師も法律上は「何の罪も犯していない」ことになるからです。今回の朝日新聞も、「労務の提供」ではなく、「無資格者によるX線装置の操作が診療放射線技師法違反に相当する」ことに焦点を当てた報道をしたのもそのためと考えられます。そろそろ「自主規制ルール」ではなく、法律で厳格に罰するべきでは「第35回」で書いたケースでは、グローバスメディカルの脊椎インプラントを購入した病院の医師20数人に対し、同社は売上の10%前後をキックバックしていました。当時の朝日新聞の記事によれば、キックバック額は2019年の1年間で総額1億円超となり、医師本人ではなく、各医師や親族らが設立した会社に振り込む形で行っていたとのことです。20数人の医師は関東や関西、九州の大規模な民間病院の勤務医で、東京慈恵会医科大学病院や岡山済生会総合病院などの名前が挙がっていました。この時は朝日新聞のみが報道、他媒体はほとんど後追いしませんでした。企業も医師も法律上は「何の罪も犯していない」状況で、事件性が薄かったためと思われます。メーカーから医師への金銭や労務の提供は、景品表示法に基づく規約(医療機器業公正競争規約)で禁じられてはいます。医療機器業界の自主規制機関である公取協はこの規約を運用し、メーカーを調査・指導しており、違反すると再発防止策を取るよう警告され、社名公表などの処分もありますが、それはあくまでも業界内の処分でしかありません。そうした“甘さ”が、似たような事件が何年おきに起こる最大の原因と言えます。医療機関が購入する医療機器の代金はそもそも公的財源も入った診療報酬で賄われています。その代金にあらかじめリベートや不当な現金供与分、労役分なども上乗せされているとしたら、それは大きな問題と言えるでしょう。医療機器絡みのリベートや不当な現金供与、そして今回のような労務提供などは、そろそろ「自主規制ルール」ではなく、法律で厳格に罰するようにすべきではないでしょうか。

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低ホスファターゼ症の新たな歯科症状が明らかに―全国歯科調査

 子どもの歯は6歳前後で永久歯へと生え変わる。もしそれより早く乳歯が抜け落ちたとしたら、そこに別の病気が隠れているかもしれない。 低ホスファターゼ症(HPP)は、無治療では死に至ることもある遺伝性の骨系統疾患であり、乳歯の早期脱落といった歯科的問題を伴うことが多い。この度、日本人におけるHPPの歯科的所見の調査を目的とした全国調査が行われ、この疾患に関する新たな歯科所見が認められたという。本調査は大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学講座の大川玲奈氏、仲野和彦氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に2月25日掲載された。 HPPは大きく、成人型・歯限局型などの軽症型、周産期重症型・乳児型などの重症型に分けられる。2015年に全身治療法が国内で承認されて以来、重症型HPPでも生命予後が改善されたが、歯が生えそろうまでの生存が困難であったことから、歯科症状に関しては分かっていないことが多い。大川氏らは、2013年、2018年にHPPの全国調査を実施している。3回目となる今回は、歯の早期脱落に対する不正咬合治療の必要性という観点からHPP患者の歯列と咬合に焦点を当てた全国歯科調査を実施することとした。 全国調査は、歯科を有する総合病院609施設に対して実施された。過去5年間にわたるHPP症例の診療の有無に関するアンケートを送付し、「有」と答えた施設に対して、その症例の歯科症状に関するアンケートを送付、回答してもらった。最終的に、アンケートにより得られた62名に、大阪大学歯学部附属病院の41名を加えた、103名のHPP症例を解析対象とした。 解析に含めた103名のうち47名が歯限局型(軽症型)、55名が非歯限局型(重症型)、1名の分類が不明だった。4歳未満での乳歯の早期脱落は全体で75名(73.5%)が報告され、内訳は歯限局型43名(43/47名、91.5%)、非歯限局型32名(32/55名、58.2%)だった。乳歯の早期脱落は、歯限局型で有意に発生しており(P<0.001)、最も多く脱落した部位は「下顎乳中切歯」だった。歯の形成不全は非歯限局型の40%で認められ、歯限局型(8.5%)と比較し有意に高い割合で発生していた(P<0.001)。 不正咬合は非歯限局型が歯限局型よりも多く、最も多く見られた種類は叢生(そうせい)だった。また、非歯限局型で多かった歯科症状として、口腔習癖(指しゃぶり、舌の突き出し)、摂食嚥下障害(噛まずに飲み込む、飲み物で食べ物を流し込む)が認められた。 著者らは本研究について、「HPPの重症度は様々であり、特に重症型のHPPでは歯の形成不全、不正咬合、口腔習癖、摂食嚥下障害が多く認められた。口腔習癖や摂食嚥下障害に関しては、乳切歯の脱落が原因の可能性もあり、患者には義歯の使用だけでなく、口腔機能の評価や機能訓練が推奨されることを示唆している。HPP患者には、疾患の重症度に応じた集学的治療法の確立が必要なのではないか」と述べた。 本研究の限界については、アンケートに回答しなかった施設にHPP症例が含まれていた可能性があること、アンケートで得られた回答の信頼性などを挙げている。

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子供も食事の早食いは肥満に関係する/大阪大

 「早食い」は太る原因といわれている。この食べる早さと肥満の相関は、子供にも当てはまるのだろうか。この課題に対し、大阪大学有床義歯補綴学・高齢者歯科学講座の高阪 貴之氏らの研究グループは、わが国の小学生1,403人の咀嚼能力および咀嚼習慣と肥満との関連を検討した。その結果、早食いや咀嚼能力の低下は、男子で肥満と関連していた。この結果は、Journal of Dentistry誌2025年3月8日号のオンライン版に掲載された。男子は早食い、満腹、噛む力が肥満に関係 研究グループは、大阪市の9~10歳の児童1,403人を対象に、咀嚼習慣を質問紙で評価し、咀嚼能力は色変化するチューインガムを用いて測定した。肥満は、身長と体重に基づく過体重の割合で判定し、多変量ロジスティック回帰分析を行い、咀嚼習慣と咀嚼能力を説明変数とし、性別、DMFT指数、ヘルマン歯発育段階を調整した肥満のオッズ比を算出した。 主な結果は以下のとおり。・ロジスティック回帰分析では、すべての参加者において、肥満と性別(オッズ比[OR]=1.54、95%信頼区間[CI]:1.08~2.17 )、早食い(OR=1.73、95%CI:1.23~2.44 )、咀嚼能力低下(OR=1.50、95%CI:1.05~2.15)との間にそれぞれ有意な関連が認められた。・男子では、早食い(OR=1.84、95%CI:1.16~2.92)、満腹(OR=1.59、95%CI:1.03~2.46)、咀嚼能力の低下(OR=1.63、95%CI:1.02~2.59)が肥満とそれぞれ有意に関連していた。・女子では、有意に関連する変数はなかった。早食いと咀嚼能力の低下を組み合わせると、肥満と有意に関連し、両方の行動を示す男子で最も強いオッズ比が観察された(OR=3.00、 95%CI:1.49~6.07)。 この結果から研究グループは、「9~10歳の児童において、早食い、口一杯の食事、および咀嚼能力の低下は、とくに男子で肥満と関連していた。さらに、肥満との関連は、早食いと咀嚼能力の低下を組み合わせた場合に高かった」と結論付けている。

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FDAへの医療機器メーカーの有害事象報告、3分の1が遅延/BMJ

 医療機器の有害事象に関する製造業者からの報告は、約3分の1が規制期限内に米国食品医薬品局(FDA)へ提出されておらず、遅延報告の多くは6ヵ月後以降の報告であり、また、遅延報告の半数以上が少数の製造業者に集中していたことが、米国・ワシントン大学のAlexander O. Everhart氏らによるFDAの医療機器有害事象報告(Manufacturer And User Facility Device Experience:MAUDE)データベースを用いた横断研究の結果、明らかとなった。米国FDAの主要な市販後調査データベースでの医療機器の有害事象報告は、信頼性に懸念があることが知られており、複数のメディア報道によると、医療機器製造業者からの有害事象報告が連邦規制で定められた30日の期限内にFDAへ提出されていない可能性が指摘されていた。著者は、「有害事象の報告の遅れは、患者の安全性に関する懸念の早期発見を妨げる可能性があるが、MAUDEは医療機器の安全問題を理解するには不完全なデータ源である」と述べている。BMJ誌2025年3月12日号掲載の報告。FDA MAUDEデータベースの有害事象報告について解析 研究グループは、FDAのMAUDEデータベースを用い、2019年9月1日~2022年12月31日の報告書について解析した。対象は、初回報告書、すなわち製造業者が初めて有害事象を知った記録に限定した。 主要アウトカムは報告時期(製造業者がイベント発現の報告受領日からFDAが報告を受理した日までの期間)。報告時期は、0~30日(規制で義務付けられている)、31~180日、181日以上、0日未満(無効な日付による報告ミス)、または製造業者報告受領日欠測(報告時期欠測)に分類し、報告時期が30日を超える場合を遅延とした。期限内の報告は約7割、遅延報告の半数以上は製造業者3社による 2019年9月1日~2022年12月31日に、製造業者から452万8,153件の初回報告書が提出された。このうち要約報告書(2019年9月1日以前は複数の報告書を1つにまとめた要約報告書をMAUDEに提出することができた)であったものなどを除外した443万2,548件(全初回報告書の98%)が解析対象となった。これらの報告は、製造業者3,028社、8万8,448個の医療機器に関連したもので、死亡に関する報告1万3,587件、負傷に関する報告155万2,268件、故障に関する報告286万6,693件が含まれた。 443万2,548件の報告のうち、30日以内(期限内)の報告は71.0%(314万6,957件)であり、31~180日(遅延)の報告が4.5%(19万7,606件)、180日以降(遅延)が9.1%(40万2,891件)、15.5%(68万5,094件)は無効または欠測であった。全遅延報告の66.9%は180日以降の報告であった。 報告の遅延は少数の製造業者に集中しており、3社で遅延報告の54.8%を占めた。同様に報告の遅延は少数の医療機器に集中しており、13の医療機器で遅延報告の50.4%を占めた。 遅延報告総数ランキングの上位10機器には、輸液ポンプ(Becton Dickinson)、フラッシュグルコースモニター(Abbott)、インスリンポンプ(Medtronic)、歯科用インプラント(Biohorizons Implant Systems)、持続グルコースモニター(Dexcom)などが含まれていた。

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腸管GVHDの発症・重症化および予防・治療における腸内細菌叢の役割/日本造血・免疫細胞療法学会

 腸管移植片対宿主病(GVHD)は同種造血幹細胞移植における特徴的な合併症で、予後を左右するだけでなく、移植後の生活の質も低下させる。近年、腸管GVHDと腸内細菌叢との関連に注目した研究は増えているが、まだ不明な点も多い。 2025年2月27日~3月1日に開催された第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「腸内細菌叢とGVHD:治療への新たな道を切り開く」と題したシンポジウムが行われ、腸内細菌叢とGVHDとの関連についての研究が4名から報告された。急性GVHDのpathobiontの同定とファージ由来酵素を用いた新規治療法 植松 智氏(大阪公立大学大学院 医学研究科 ゲノム免疫学/東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター メタゲノム医学分野)らのグループは同種移植患者46例の腸内細菌叢の16SrRNA解析を行い、30例でEnterococcus属細菌が増加していることを確認した。また、患者糞便由来のE. faecalisを単離し、これが外分泌毒素サイトライシンを産生する強毒株で、バイオフィルム関連遺伝子群を豊富に有する系統と明らかにした。さらに、マウスを用いた実験で患者糞便由来E. faecalisが急性GVHD関連死亡を増加させることを確認した。 植松氏らのグループは以上の結果から、E. faecalisがGVHDの発症と関わるpathobiontであり、前処理で他の細菌が死滅するなか、サイトライシンを産生する強毒株のE. faecalisがバイオフィルムを形成することによって腸管に濃縮し、増殖した後、産生されたサイトライシンによる上皮細胞障害が腸管GVHDの増悪に寄与していると考え、E. faecalisの排除によりGVHD関連死亡を抑えられるのではないかと推測した。 そこで、患者糞便由来E. faecalisのゲノムを網羅的に解析し、E. faecalisに特異的に感染するバクテリオファージ由来のエンドライシン配列を抽出した後、多種類の株で共通に検出されたエンドライシンを合成。このE. faecalis特異的エンドライシンの溶菌効果とバイオフィルム溶解作用をin vitroで確認した後、マウスを用いた実験でGVHD関連死亡率が大幅に改善すること、さらに患者糞便を移植したマウスでもGVHD関連死亡率が大幅に改善することを確認した。 植松氏はこうした結果について、「実臨床でも使えるようなデータが得られたと感じた」と述べ、「今後、E. faecalis特異的エンドライシンは、GVHDの新規治療薬として期待される」とまとめた。造血幹細胞移植患者の移植早期から長期における腸内細菌叢に関する解析結果 福島 健太郎氏(大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は、造血幹細胞移植領域で近年行われた腸内細菌叢と予後の関連についての複数の研究に関し、「既報の多くは移植後のある一時点において多様性を評価していて、菌叢を構成する菌成分の違いや経時的な菌叢の変化についてはあまり着目した研究がなかった」と指摘した。 福島氏らのグループは、大阪大学医学部附属病院で造血幹細胞移植を行った患者から糞便を連日採取して16SrRNAメタゲノム解析を行った。その結果、移植前後で腸内細菌叢に変化がなく、多様性が保持された群は予後良好、菌叢に変化があり多様性が失われた群は予後不良であることが明らかになった。「菌叢の安定化が非常に重要である」ことがわかってきたと福島氏は述べ、とくに移植後1ヵ月のEnterococcus増加が予後の悪化に関連すると報告した。 また、移植後長期にわたって生存し、日常生活に戻った患者群の腸内細菌叢は健常人に近づいているという仮説を立てたが、移植後長期生存者の腸内細菌叢を実際に調べたところ、移植後3年未満、3~10年、10年以上のいずれでも、菌叢の多様性が回復しないということがわかったと報告した。 さらに、同種移植後にクローン病様の病変が認められた患者に糞便移植(FMT)を実施し、3ヵ月後に粘膜が正常化した症例を紹介したほか、移植前に腸内においてEnterococcusが優勢であった患者はFMT後1日目にドナーと同様の菌叢になるが、その後にEscherichiaなどが優勢になるという非常に興味深い結果となったと報告した。また、プロバイオティクスにも注目していると述べ、進めている研究について紹介した。 最後に、腸内細菌叢への介入として、先に講演した植松氏のファージについて「非常に魅力的な選択」と述べたほか、「FMT、プロバイオティクスなどさまざまなアプローチの可能性があって、産学連携が重要と考えている」とまとめた。移植前の口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながる可能性 藤原 英晃氏(岡山大学病院 血液・腫瘍内科)らのグループは、自院において2010~15年に造血細胞移植を行った273例を解析し、重症口内炎は慢性GVHDの発症率を上昇させるという関連を認めたほか、PTCyハプロ移植の71例のみの解析でも同様の関連を認めた。さらに、こうした患者の移植前後の口腔粘膜検体31例の解析で、慢性GVHD発症群では移植前から菌叢の多様性が低下し、生着後もそれが継続していたことがわかったと報告した。 そこでマウスによる検討のために、マウスの歯間に糸を留置して口腔内に歯周炎を引き起こすOLPという手法で口腔内dysbiosisを誘発し、骨髄移植を行った。その結果、慢性GVHDに関してはOLPマウスで慢性GVHDスコアが明らかに悪くなり、PTCyを用いたマウスモデルでも同様の結果が認められた。こうしたOLPマウスでは移植後における口腔内細菌叢の多様性が低下し、口腔内および糞便中細菌量の増加が認められ、とくにEnterococcusは移植前から口腔内・糞便中ともに増加していたと述べ、口腔内のEnterococcusが腸管に流れていき、定着するのではないかと指摘した。 また、OLPマウスでは移植前から所属リンパ節(頸部リンパ節)における抗原提示細胞の活性化が認められ、頸部リンパ節の免疫染色および培養検査によりEnterococcusの影響が強いことが明らかになったと述べた。さらに、OLP後にEnterococcusを塗布したマウスで移植後に慢性GVHDが悪化したこと、OLPを除去し歯周炎が改善した状態で移植を行うとOLPを維持した群より重症度が低下したことを示し、OLPの除去による口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながると述べた。なお、抗生剤による口腔炎症の改善で一定の効果が期待できることも実験で明らかになったと報告した。 最後に、「口腔内でdysbiosisが起きる状況にあると局所(頸部リンパ節)での反応が増幅し、それが全身の慢性GVHDに影響する。同様に腸管にも影響することにより長期的な予後に影響するのではないか」とまとめ、「移植前後の徹底した口腔ケアや歯科介入の重要性を確認することができた」と述べた。炎症記憶と腸内細菌によるGVHD重症化のメカニズム 橋本 大吾氏(北海道大学大学院医学研究院 血液内科)は、免疫寛容の破綻後に組織の恒常性を維持するメカニズムとして概念的に提唱されている「組織寛容」について冒頭で紹介し、豊嶋 崇徳氏(北海道大学)らのグループの研究から、腸幹細胞が腸の組織寛容を維持しているシステムではないかと指摘した。一方、GVHD回復後のFlareで腸管GVHDの発症が増加することが示されており、炎症後の組織幹細胞にエピジェネティックな変化が生じて炎症記憶として残るからではないかと考えられている。 そこで橋本氏らのグループは、同系造血細胞移植(syn-HCT)または同種造血幹細胞移植(allo-HCT)後のマウスの陰窩から作成したオルガノイド(「Syn」または「Allo」)のクロマチン構造をATACシーケンスで解析し、アクセシビリティに関してAlloがSynより有意に高い遺伝子457個を特定した。橋本氏は、この中で重要な領域として抗原処理と提示(とくにMHCクラスII[MHC-II])に関与する遺伝子とインターフェロン(IFN)-γに対する反応に関与する遺伝子を挙げ、転写の準備ができているこれらのプロモーター領域が判明したことについて「まさに炎症記憶が本当にできていると知った瞬間だった」と述べた。なお、フローサイトメトリーによるタンパク質レベルでの確認でも、IFN-γ刺激による腸管上皮MHC-II発現が炎症記憶により亢進したうえ、オルガノイドを継代しても記憶が継承されることが明らかになったと述べた。 さらに、小山 幹子氏(米国・フレッド・ハッチンソンがん研究センター)のマウスを用いた研究で、レシピエントの腸管上皮MHC-IIの欠損でGVHDが軽減すること、腸内細菌がIFN-γ産生を誘導し、腸管上皮MHC-IIを発現させること、MHC-II誘導性細菌と抑制性細菌が存在し、抑制性細菌のマウスへの経口投与で上皮MHC-II発現が低下することなどが示されたと紹介した。 最後に、腸管のMHC-II発現は、腸内細菌叢の差により定常状態である程度の差があるうえ、GVHD後には炎症記憶の存在によりIFN-γ刺激によるMHC-II発現がさらに高まり、GVHD Flareにつながると考えられるとまとめた。今後は「組織寛容を上げて急性GVHDや慢性GVHDを起こさないようにし、移植片対白血病/リンパ腫(GVL)効果を誘導するのが究極的な目標」だと述べた。

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第234回 乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁

<先週の動き>1.乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁2.全国6割の病院が赤字経営、病院団体が診療報酬改定の見直しを要請3.医師国試合格率92.3%、女性割合が過去最高-新卒100%は4校/厚労省4.電子カルテ情報共有サービス始動、2025年度本格運用へ/厚労省5.急増する訪問看護、請求適正化へ指導体制を強化/厚労省6.病床適正化進む長崎、大学病院が1割削減しハイケアユニットを新設/長崎大1.乳腺外科医事件で無罪判決、医師は司法とメディアに憤りを表明/東京高裁2025年3月12日、東京高裁は、手術後に女性患者に対する準強制わいせつ罪を問う事件で、被告である乳腺外科医師に対し、2度目の無罪判決を言い渡した。この判決は、同医師が2016年に女性の胸をなめたとされる事件に関するもので、東京地裁と高裁の1・2審判決を踏襲し、検察の控訴を棄却した。同医師は、逮捕から6年以上を経て、ようやく無罪判決を得た。事件の背景には、女性患者が麻酔から覚醒する際に発生したせん妄による幻覚の可能性が指摘されている。東京高裁は、この幻覚が被害を訴える証拠として否定できないことを認めた。また、DNA鑑定に関しても、唾液の付着に関する疑念があり、医師がわいせつ行為を行った証明は不十分とされた。これにより、無罪判決が支持された。同医師は、判決後に記者会見を開き、警察や検察の過剰な信頼と誤った決定が、自らの生活と家族に与えた影響を強く批判した。弁護団は、無罪判決が遅すぎることを指摘し、医師の無罪確定までの苦悩を強調した。また、医師の間で職業的な萎縮が広がり、とくに乳腺外科を避ける傾向が強まる中、患者への影響を懸念する意見も出された。今回の法的な遅延は、裁判所が適切に判断を下さなかったことが原因であり、無罪判決を再度上訴できる現行制度に対する疑問も提起された。とくに、無罪判決後の検察の控訴が理不尽であり、米英のように無罪判決に対して控訴を許可しない制度の導入が必要だとする意見もみられた。参考1)乳腺外科医に再び無罪判決 「患者の胸なめたと断定できず」 東京高裁、差し戻し審(産経新聞)2)無罪の乳腺外科医「長かった」「強い憤り」 事件で「医師萎縮」の指摘も(産経新聞)3)ふたたび「無罪」になった乳腺外科医、捜査機関やマスコミに憤り「生活や仕事そして家族を奪われた」(弁護士ドットコム)4)乳腺外科医事件に再び無罪判決 弁護団は「遅すぎる」と批判 「長くて辛い日々だった」と医師(ジャーナリスト・江川紹子)2.全国6割の病院が赤字経営、病院団体が診療報酬改定の見直しを要請昨年春の診療報酬改定後、全国の病院の経営が急速に悪化し、6割以上が赤字に陥っていることが明らかになった。日本医師会と6つの病院団体が実施した調査によると、2024年6~11月までの経常利益が赤字の病院は61.2%に達し、前年同期比で10.4ポイント増加。補助金を除いた医業利益でも69.0%が赤字となり、前年から4.2ポイント悪化した。経営悪化の主因は、物価や人件費の上昇に診療報酬が追いついていないことだ。調査では、水道光熱費が前年同期比3.1%増、院内清掃などの委託費が4.2%増と報告された。給与費も2.7%増加しており、多くの病院が経費の増加に対応しきれず、経営難に陥っている。とくに、病床利用率が90%を超えなければ黒字化できない病院もあり、持続的な医療提供が困難な状況。この危機的状況を受け、日本医師会と6つの病院団体は3月12日、合同声明を発表し、診療報酬の見直しを政府に求めた。2026年度の診療報酬改定に向けて、物価や賃金の上昇を反映できる仕組みを導入する必要があると主張。補助金による短期的な支援にとどまらず、中長期的な医療費の適正配分を求めた。日本医療法人協会の太田 圭洋副会長は「病床を満床にしなければ経営が成り立たないのは異常な状況。地域の病院が突然閉鎖する危機が迫っている」と警鐘を鳴らした。また、全国自治体病院協議会の野村 幸博副会長は「公立病院では人事院勧告による賃上げが求められ、さらに経営が厳しくなっている」と述べ、自治体病院の窮状を訴えた。調査では、2024年6~11月の医業収益が前年同期比1.9%増加している一方で、給与費や光熱費の増加がそれを上回り、多くの病院が赤字に転落していることが判明。このままでは、地域医療の維持が困難になると懸念されている。病院団体は、診療報酬を適正に改定し、賃金や物価の変動に即応できる仕組みを導入することが不可欠だと指摘。日本医師会の松本 吉郎会長は「このままでは、ある日突然病院が地域から消えてしまう。国民の命と健康を守るため、診療報酬の見直しは急務だ」と強調した。今回の調査結果を受け、政府・与党内でも支援策の検討が進むとみられるが、財政的な制約の中でどのような対策を講じるかが課題である。地域医療崩壊を防ぐため、迅速かつ具体的な対応が求められている。参考1)【緊急調査】2024年度診療報酬改定後の病院経営状況調査の結果等について(日本医師会)2)“全国6割以上の病院が赤字” 調査団体「地域医療は崩壊寸前」(NHK)3)「地域から医療機関なくなる」と医師会が危機感…病院の6割超が赤字、診療報酬改定で経営難(読売新聞)4)2024年度改定後、病床利用率上昇も医業利益率と経常利益率は悪化(日経ヘルスケア)5)日医と6病院団体が声明 26年度診療報酬改定「物価・賃金上昇対応の仕組みを」地域医療崩壊に危機感(ミクスオンライン)3.医師国試合格率92.3%、女性割合が過去最高-新卒100%は4校/厚労省厚生労働省は3月14日、第119回医師国家試験の合格状況を発表した。受験者1万282人に対し、合格者は9,486人で、合格率は92.3%だった。前年の92.4%から0.1ポイント減少したものの、過去10年で2番目に高い合格率となった。新卒者の合格者数は9,029人、合格率は95.0%で、2年連続で9,000人を上回った。男女別の合格率は、男性が91.8%、女性が93.1%と、女性の合格率が上回った。合格者に占める女性の割合は36.3%と過去最多を記録した。学校別では、国際医療福祉大学医学部が新卒・既卒ともに合格率100.0%を達成した。新卒合格率100.0%は、同大学のほか、福井大学医学部、金沢大学医薬保健学域、三重大学医学部の計4校だった。一方、同日に発表された第118回歯科医師国家試験の合格率は70.3%で、前年の66.1%から4.2ポイント増加した。参考1)第119回医師国家試験の合格発表について(厚労省)2)医師国家試験、合格率92.3% 新卒合格者は2年連続で9千人上回る(CB news)3)医師国家試験2025、国際医療福祉大100%合格…学校別合格率(リセマム)4.電子カルテ情報共有サービス始動、2025年度本格運用へ/厚労省厚生労働省は健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報利活用ワーキンググループ」を3月13日に開催し、電子カルテ情報共有サービスについて2025年度中の本格運用を目指し、モデル事業が開始することとした。まず、愛知県の藤田医科大学病院を中心に試験運用が始まり、全国の医療機関や患者が電子カルテ情報を共有できる仕組みが構築される。モデル事業では、運用上の課題を明確化し、とくに「病名」情報の取り扱いについて慎重にルールを策定する必要がある。患者が自身のカルテ情報を閲覧できる一方で、未告知や診断過程の誤解を防ぐための設定が求められている。これに伴い、医療現場の負担や患者との信頼関係の維持を考慮し、慎重な運用が必要とされる。また、患者の同意に関する法的根拠が未確立であるため、現段階では個人情報保護法に基づき、医療機関と支払基金間の委託契約を通じて対応することになった。さらに、情報共有の推進と並行し、サイバーセキュリティ対策の強化も求められており、来年度の対策チェックリストが策定された。モデル事業の結果を踏まえた運用ルールの確立が、全国展開の成功の鍵となる。拙速な導入は、医療現場や患者の不安を招き、DX推進の障害になりかねないため、慎重かつ丁寧な議論が求められる。参考1)第24回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省)2)電子カルテ情報共有サービスの検討事項について(同)3)電子カルテ情報共有サービスのモデル事業、まず藤田医大病院中心に開始、「病名」の取り扱いルールなども検討-医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)5.急増する訪問看護、請求適正化へ指導体制を強化/厚労省厚生労働省は、3月12日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)において、訪問看護ステーションの監視体制を強化する方針を発表した。広域で運営する事業者や診療報酬の高額請求を行う事業所を対象に指導を強化し、4月以降に新たな指導の枠組みを導入する。背景には、訪問看護の急増と、それに伴う高額請求の増加がある。厚労省によると、訪問看護ステーションの数は直近5年間で約1.5倍に増加。とくに、年間請求額が2億5千万円以上の事業所は12.8倍に急増した。また、1件当たりの請求額が50万円以上の事業所も7倍に増えている。これらの増加に対し、厚労省は「不適切な請求が行われている可能性がある」とし、監査体制の強化に踏み切った。新たな指導体制では、地方厚生局と都道府県に加え、厚労省本省も関与。これにより、複数都道府県で運営される大規模事業者への監査を強化する。さらに、請求額の多い事業所を選定し、適正な請求方法を指導する。また、eラーニングによる集団指導を検討し、訪問看護ステーション全体の適正化を図る。訪問看護は、重度患者の在宅療養支援など重要な役割を担う。その一方で、末期がん患者向けの高額報酬を悪用し、必要以上の訪問回数を請求するケースも指摘されている。厚労省は「利用者の状態に応じた適正なサービス提供を促すため、新たな監査体制を整備する」としている。参考1)訪問看護ステーションの指導監査について(厚労省)2)厚労省、訪問看護の指導監査強化 広域や高額請求の事業者が対象(共同通信)3)訪問看護の「指導」を強化へ 高額請求、不適切なケースも 厚労省(朝日新聞)4)高額請求の訪看事業所に「教育的指導」へ 来年度の早期から 厚労省(CB news)6.病床適正化進む長崎、大学病院が1割削減しハイケアユニットを新設/長崎大長崎大学病院(長崎市)は、4月1日より一般病床を現在の827床から98床削減し、729床とする方針を発表した。新型コロナウイルス感染症拡大以降、同院の入院患者数は4年間で2万5千人以上減少し、病床の稼働率も低下。さらに、県の地域医療構想では2025年度における長崎地区の高度急性期病床数が651床と推計され、同病院を含む5医療機関の予定病床数908床を大幅に上回ることから、病床数の適正化が求められていた。また、病院経営の効率化も背景にある。文部科学省によると、大学病院が100床規模で病床を削減するのは全国的にも極めて珍しいが、病床削減による補助金の活用により経営改善も視野に入れている。病床削減と同時に、同院では集中治療室(ICU)と一般病床の中間に位置する「ハイケアユニット(HCU)」8床を新設。急変のリスクが高い患者を受け入れ、より手厚い医療提供を行う体制を整える。また、削減後のスペースを活用し、理学療法士らを増員し、超急性期のリハビリテーション強化を進める方針だ。長崎市内では、長崎みなとメディカルセンターも、2月に30床の削減を実施するなど、地域の医療機関で病床適正化が進んでいる。県医療政策課は「地域の病床数は十分に確保されており、大きな問題はない」としているが、今後も少子高齢化による医療需要の変化に応じた病院経営の見直しが求められる。参考1)長崎大学病院 需要の低下で98床削減へ 経営改善の狙いも(NHK)2)長崎大学病院 一般病床を1割削減…来月から「機能適正化」、患者数減少など背景(長崎新聞)3)長崎大学病院も来月から病床を1割超削減 メディカルセンターに続き…原因は?(長崎文化放送)

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第253回 医療業界の賃上げは後手、その裏で25年春闘は満額回答続出

毎年この時期になると、無意識でも小耳にはさんでしまうキーワード「春闘」。今月に入って聞く関連ニュースによると、2025年の春闘は労働組合の賃上げ要求に対し、満額に近い回答を示す企業が続出しているという。昨今の物価高騰と人手不足が相まって、企業側が労働者側に事実上譲歩している結果とも言えそうだ。1960年代生まれの私にとって春闘の時期になると思い出すのが、幼少期の光景だ。労使交渉がまとまらなかった一部企業などがストライキ入りし、両親が「明日から○○がストだから…」と夜にヒソヒソ話をしていたのである。近年は労資協調主義の労働組合が増えたことに加え、労働組合の組織率が低下していることなどからか、ストライキに関するニュースはほとんど聞かなくなった。医療業界でついにストライキ決行さて、そのような中で今春、医療・介護業界でストライキ実施を公言する動きがあり、久々に驚いた。病院・診療所や介護・福祉施設などの労働組合が結集した国内唯一の医療・介護の産業別労働組合(産別)である日本医療労働組合連合会(通称・医労連)が3月13日に実施した「医療・介護を守る!3.13全国統一ストライキ」である。この話題に触れると、医労連が参加している全国中央組織「全国労働組合総連合(全労連)」が日本共産党支持色の強い団体であるため、やや眉をしかめる人もいるだろう。だからといって常に色眼鏡で見ることも、私にはやや抵抗がある。さて前述のように主要民間企業では満額回答の賃上げが話題だが、一年前の2024年春闘の結果は、全労連の対抗馬とも言える日本労働組合総連合会(通称・連合)の集計によると、全産業平均賃上げ率は5.1%で33年ぶりに5%台を超えた。これに対し、厚生労働省の調査による医療・福祉分野の2024年賃金上げ率はその半分未満の2.5%。医療・介護とも公定の診療報酬・介護報酬が主な収益源であり、この結果は国の政策に起因することが大きいのは当然である。そして2025年春闘では民間企業とは対照的に医療・介護分野でゼロ回答が目立つと報じられている。もちろん現在の社会保障費の増大ぶりを考えれば、診療報酬や介護報酬を半ば無制限に引き上げることが不可能なのは百も承知だ。しかし、昨今の物価事情は、スーパーで購入する主食の米は5kgで安くとも3,000円台半ばが多い。これが3年ほど前だったら1,000円は安かった。主食だけでも40%近く値上がり、そのほかの物価も軒並み上昇しているこのご時勢にゼロ回答はさすがにいかがなものか。これではどの政党を支持するかに関係なく、ストライキでもやりたくなるだろう。もっとも国も無策ではない。昨春の診療報酬改定は全体で0.88%のプラス改定だったが、これには病院、診療所、歯科診療所、訪問看護ステーションに勤務する看護職員、病院薬剤師、そのほかの医療関係職種の賃上げのための特例的対応分0.61%、40歳未満の勤務医師・歯科医師、薬局勤務薬剤師、事務職員、歯科技工士などの賃上げ分0.28%を含んだ結果である(これ以外に入院時の食費基準額の引き上げ対応分や生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料などの適正化による引き下げ分が含まれる)。また、介護報酬では、岸田政権以降の相次ぐ賃上げ対応により、これまで3種類の賃上げ関連加算が新設され、今春にはこれらを一本化した介護職員等処遇改善加算が創設された。算定要件は決して甘くはないが、やり方次第では従来よりも高いベースアップが可能になる。当然ながら、これらの施策が目指す賃上げ目標は2%台であり、民間には遠く及ばない。医療や介護が人の命や生活の質に直結する重大な責務を担っているにもかかわらずだ。医労連に過度に肩入れするつもりはないが、このままでは同組織の主張通り、現場から離職が相次ぎ、将来的な医療・介護の質の担保は困難になる。財源確保は後回しで自己主張を続ける国政では、どこからどう“カネ”を工面するのか? 残念ながら、これは既存の予算の効率化からねん出するしかない。「どこにそんなカネがあるのか?」と問われれば、「あるようでない」「ないようである」と言える。たとえば先日、与党の自民党と公明党が予算成立“だけ”を念頭に置いた日本維新の会との政策合意を見てほしい。あれは維新が主張する高校授業料無償化をのむ形で実現した。もっともその本質はより厳密に言えば「私立高校の授業料無償化」である。文部科学省の発表によれば、日本の高校進学率は2023年度で98.7%である。ほぼ全入状態である。確かに高校授業料無償化により、経済的に厳しい家庭でも私立高校を選択肢にできるようにはなるかもしれないが、前述の高校進学率を見れば、「おカネがないから高校に行けず悔しい思いをした」という現実はほとんどないと言ってよいのではないだろうか。あるとしてもその1.3%の中で経済的に高校進学が叶わない可能性がある家庭にピンポイントで支援をすれば済む。今回のように所得制限も取っ払って高校入学を控える子どもがいる全家庭にお金をばらまく必要はない。しかも、今回の無償化に必要な予算は2025年度が約1,000億円、2026年度以降は年間約4,000億円の追加予算が必要になるにもかかわらず、首相自ら「行財政改革を行うことなどにより安定財源を確保する」と述べたように、実は予算の当てはこれから探すのである。医療・介護に関してみても、本連載でも過去に触れたOTC類似薬の保険給付の再検討や高齢者の3割負担対象拡大など、より財政効果が高く、かつより本質的とも言える問題は置き去りのまま、高額療養費制度に手を付けようとし、事実上の改正撤回というしっぺ返しを食らっている。もはや行き着くところまで行っているような状況だが、国そして医療・介護業界はこのままダラダラと現状維持を続けるつもりなのだろうか?

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歯周病治療で糖尿病患者における人工透析リスクが低下か

 歯周病を治療している糖尿病患者では、人工透析に移行するリスクが32~44%低いことが明らかになった。東北大学大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンターの草間太郎氏、同センターの竹内研時氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Clinical Periodontology」に1月5日掲載された。 慢性腎臓病は糖尿病の重大な合併症の一つであり、進行した場合、死亡リスクも高まり人工透析や腎移植といった高額な介入が必要となる。したがって、患者の疾病負荷と医療経済の両方の観点から、慢性腎臓病を進行させるリスク因子の同定が待たれている。 歯周病は糖尿病の合併症であるだけでなく、糖尿病自体の発症やその他の合併症の要因でもあることが示唆されている。また、歯周病と腎機能低下との関連を示唆する報告もされていることから、研究グループは糖尿病患者における定期的な歯周病ケアが腎機能低下のリスクを軽減または進行を遅らせる可能性を想定し、大規模な糖尿病患者のデータを追跡した。具体的には、歯周病治療を伴う歯科受診を曝露変数として、人工透析に移行するリスクを後ろ向きに検討した。 本研究では、40~74歳までの2型糖尿病患者9万9,273人の医療受診データ、特定健診データが用いられた。2016年1月1日~2022年2月28日までの期間に、2型糖尿病を主傷病としていた患者を登録した。 9万9,273人の参加者(平均年齢は54.4±7.8歳、男性71.9%)における人工透析の発生率は1,000人あたり1年間で0.92人だった。交絡因子については、年齢、性別、被保険者の種類、チャールソン併存疾患指数、糖尿病の治療状況(外来の頻度、経口糖尿病治療薬の種類、インスリン製剤使用の有無、治療期間)、健診結果(高血圧、高脂血症、蛋白尿、HbA1c)、喫煙・飲酒といった生活習慣などが共変量として調整された。 交絡因子を調整後、人工透析開始のハザード比(HR)を分析した結果、歯科受診をしていなかった患者と比較して、1年に1回以上歯周病治療を受けている患者で32%(HR 0.68〔95%信頼区間0.51~0.91〕、P<0.05)、半年に1回以上治療を受けている患者で44%(同0.56〔0.41~0.77〕、P<0.001)、人工透析開始のリスクが低いことが示された。 研究グループは本研究の結果について、「これらの結果は、糖尿病性の腎疾患の進行を緩和し、患者の転帰を改善するためには、糖尿病治療に日常的な歯周病治療を組み込むことが重要であることを示唆している。また糖尿病患者の管理における専門医と歯科の連携欠如は以前より報告されており、本研究でも患者の半数以上が歯周病ケアを受けていなかった。今後、糖尿病患者の健康を維持するためには、専門医と歯科のさらなる連携が必要と考える」と総括した。なお、本研究の限界について、登録データは企業が提供する雇用保険に加入する個人のみが含まれていたことから、研究の参加者は日本人全体の特徴を表していない点などを挙げている。

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米国の医療支出に大きな地域差、その要因は?/JAMA

 米国では、3,110の郡の間で医療支出に顕著なばらつきがみられ、支出が最も多い健康状態は2型糖尿病であり、郡全体では支出のばらつきには治療の価格や強度よりも利用率のばらつきの影響が大きいことが、米国・Institute for Health Metrics and EvaluationのJoseph L. Dieleman氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年2月14日号に掲載された。2010~19年の米国の郡別の観察研究 研究グループは2010~19年の期間に、米国の3,110の郡のそれぞれにおいて、4つの医療費支払元(メディケア、メディケイド、民間保険、自己負担)で、148の健康状態につき38の年齢/性別グループ別に7種の治療の医療支出を推定する目的で、400億件以上の保険請求と約10億件の施設記録を用いて観察研究を行った(Peterson Center on HealthcareとGates Venturesの助成を受けた)。 38の年齢/性別グループは、男女別の19の年齢層(0~<1歳から≧85歳)で、7種の治療とは、外来治療、歯科治療、救急治療、在宅治療、入院治療、介護施設での治療、処方された医薬品の購入であった。主要アウトカムは、2010~19年の医療支出および医療利用状況(たとえば、受診・入院・処方の回数)とした。1人当たりの支出、郡間で最大約1万ドルの差 本研究では、2010~19年における個人医療支出のうち76.6%を捕捉した。これは、人口の97.3%の支出を反映している。医療支出は、2010年の1兆7,000億ドルから2019年には2兆4,000億ドルに増加した。この支出に占める割合は、20歳未満が11.5%で、65歳以上は40.5%であった。 健康状態別の支出は、2型糖尿病が最も高額で、1,439億ドル(95%信頼区間[CI]:1,400億~1,472億)であった。次いで、関節痛や骨粗鬆症を含むその他の筋骨格系疾患が1,086億ドル(1,064億~1,103億)、口腔疾患が930億ドル(927億~933億)、虚血性心疾患が807億ドル(790億~824億)だった。 総支出のうち、外来医療費が42.2%(95%CI:42.2~42.2)、入院医療費が23.8%(23.8~23.8)、処方医薬品購入費が13.7%(13.7~13.7)を占めた。郡レベルの1人当たりの年齢標準化支出は、最も低かったアイダホ州クラーク郡の3,410ドル(95%CI:3,281~3,529)から、最も高かったニューヨーク州ナッソー郡の1万3,332ドル(1万3,177~1万3,489)の範囲にわたっていた。説明のつかない支出ばらつきの調査が、医療施策の立案に役立つ可能性 郡間で最もばらつきが大きかったのは、年齢標準化自己負担額で、次いで民間保険による支出であった。また、郡全体でのばらつきは、治療の価格や強度よりも医療利用率のばらつきによって大きく影響を受けた。 著者は、「このようなばらつきを、健康状態、性別、年齢、治療の種類、支払い元の違いで地域別に理解することが、異常値の特定、成長パターンの追跡、不平等の顕在化、医療能力の評価において重要な考察をもたらす」「最も支出の多い健康状態に焦点を当てて説明のつかない支出のばらつきをさらに調査することが、コストの削減と治療へのアクセスの改善を目的とした保健医療施策の立案に役立つ可能性がある」としている。

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フロスの使用に脳梗塞の予防効果?

 デンタルフロス(以下、フロス)の使用は、口腔衛生の維持だけでなく、脳の健康維持にも役立つようだ。米サウスカロライナ大学医学部神経学分野のSouvik Sen氏らによる新たな研究で、フロスを週に1回以上使う人では、使わない人に比べて脳梗塞(虚血性脳卒中)リスクが有意に低いことが示された。この研究結果は、米国脳卒中学会(ASA)の国際脳卒中学会議(ISC 2025、2月5〜7日、米ロサンゼルス)で発表され、要旨が「Stroke」に1月30日掲載された。 この研究では、アテローム性動脈硬化リスクに関する集団ベースの前向き研究であるARIC研究のデータを用いて、フロスの使用と脳梗塞(血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞)および心房細動(AF)との関連が検討された。対象者は、ARIC研究参加者から抽出した、脳梗塞の既往がない6,278人(うち6,108人にはAFの既往もなし)とした。対象者の65%(脳梗塞の既往がないコホート4,092人、AFの既往がないコホート4,050人)がフロスを使用していた。 25年の追跡期間中に、434人が脳梗塞を(血栓性脳梗塞147人、心原性脳塞栓症97人、ラクナ梗塞95人)、1,291人がAFを発症していた。解析からは、フロスを使用していた人では使用していなかった人に比べて、脳梗塞全体のリスクが22%低く(調整ハザード比0.78、95%信頼区間0.63〜0.96)、特に心原性脳塞栓症のリスクについては大幅な低下が認められた(同0.56、0.36〜0.87)。AFについてもリスク低下の傾向が認められた(同0.88、0.78〜1.00)。一方、フロスの使用と血栓性脳梗塞およびラクナ梗塞との間に有意な関連は認められなかった。 こうした結果を受けてSen氏は、「フロスの使用が脳梗塞の予防に必要な唯一の方法と言うわけではないが、本研究結果は、フロスの使用は、健康的なライフスタイルに加えるべきもう一つの要素であることを示唆している」と述べている。また同氏は、「フロスを使うと、炎症と関係のある口腔感染症や歯周病が軽減される」と指摘する。その上で、炎症は、脳卒中リスクを高める可能性があるため、「定期的にフロスを使うことで、脳梗塞やAFのリスクが軽減すると考えるのは理にかなっている」と話している。 Sen氏は、「世界の口腔の健康に関する最近の報告書によると、未治療の虫歯や歯周病などの口腔疾患を有する人は、2022年には35億人に達している。口腔の問題は、最も蔓延している健康問題の一つだ」と話す。同氏は、「歯科治療は費用がかかるが、フロスは、どこででも手頃な価格で入手できるし、健康的な習慣として取り入れるのも容易だ」と利点を挙げている。 本研究には関与していない、米サウスカロライナ医科大学疫学分野のDaniel Lackland氏は、「この研究は、歯の健康に関わる特定の習慣が、脳梗塞リスクとその低下に関与している可能性について、さらなる洞察をもたらした。今後の研究の結果次第では、『Life’s Essential 8』の8つの要素、すなわち、食事、身体活動、ニコチン曝露、睡眠、BMI、血圧、血糖値、血中脂質に歯の健康習慣が加えられる可能性がある」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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フレイルの定義と対策

そもそも フレイルとはフレイルとは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す “frailty” の日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語である。自立フレイルは、要介護状態に至る前段階として位置づけられるが、頑健・健常フレイル加齢要介護身体的脆弱性のみならず精神・心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する。適切な対策で、健康な状態に戻ることも可能です。「フレイル診療ガイド 2018 年版」(日本老年医学会/国立長寿医療研究センター、2018)ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 3つの基本栄養運動社会参加ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 栄養朝、昼、晩バランスよく食べる。筋肉をつくる「たんぱく質」と骨の発育に大切な「ビタミンD」を摂る。栄養口の中を清潔に保ち、定期的に歯科を受診する。ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 運動ウォーキングや水泳などの「有酸素運動」。筋力トレーニングのような「レジスタンス運動」。運動体調や体力に合った運動を継続する。ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 社会参加休日は外出をして体のリズムを整える。趣味や習い事などの楽しみをつくる。社会参加人とのつながりをもち脳に刺激を与える。ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料より

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ベースアップ評価料の届出様式を大幅に簡素化/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、1月22日に定例会見を開催した。 はじめに松本氏が阪神・淡路大震災から30年を迎え、これまでの医師会の活動を振り返った。この大震災から得た教訓が現在のさまざまな災害対策の基礎となったこと、日本医師会災害医療チーム(JMAT)の発足とともにチーム運営のためにさまざまな研修や関係政府機関や学会とも連携を進めていることなどを説明し、「南海トラフ地震に備え、医師会では地域の医師会とともに今後も取り組んでいく」と災害対策への展望を語った。 次に今冬のインフルエンザの流行について副会長の釜萢 敏氏(小泉小児科医院 院長)が、流行状況を説明するとともに、現在もインフルエンザの治療薬や検査キットが地域によっては不足していること、代用薬で工夫をしてほしいとお願いしていることを語った。インフルエンザの予防には、基本的な感染対策である「マスク着用、室内の換気、うがい・手指衛生」を励行するとともに、人混みへの注意のほか、高齢者の重症化予防にもワクチン接種の検討をお願いするとともに、医師会としても適切な情報を提供していくと説明を行った。低いクリニックのベースアップ評価料の届出へ追い風 つぎに「ベースアップ評価料の届出様式の大幅な簡素化について」をテーマに担当常任理事の長島 公之氏(長島整形外科 院長)が、今回の届出様式の変更点を説明した。 2024年6月の診療報酬改定で新設された医療関係職種(医師・歯科医師、事務職員除く)の賃上げを目的にした「ベースアップ評価料」は、各地域の厚生局への届出により算定が可能になる点数である。しかし、現状、病院の8割は届出ているものの、クリニックなどではまだ2割程度しか届出がなされていない。その原因として申請書式の煩雑さと作成の負担の大きさが指摘されていたが、医師会と厚生労働省との協議により今回簡素化されたことが説明された。今回変更された事項では、基本的には、直近1ヵ月間の初・再診料などの算定回数を調べるだけで、届出ができるようになった。長島氏は、この届出は職員の原資となる大事なものなので、できるだけ多くの医療機関やクリニックが届出をしてほしいと述べた。 最後に「医師資格証保有者10万人達成について」をテーマに担当常任理事の佐原 博之氏(さはらファミリークリニック 理事長)が、医師資格証(HPKIカード)の発行の現状と展望を説明した。HPKIカードは、2023年の電子処方箋の導入から急激に発行数が伸び、現在10万人が保有している(医師会員では34.5%、医師全体では29.1%)。HPKIカードは、今後「診療情報提供書」や「主治医意見書」、「死亡診断書」などの活用で重要なアイテムとなる。本カードは「医療DXのパスポート」となるので、今後も全医師に向けての普及とともに国にも利活用の働きかけを行っていきたいと展望を語った。

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第227回 救急搬送が逼迫、現場到着は10分超と過去2番目の長さ/消防庁

<先週の動き>1.救急搬送が逼迫、現場到着は10分超と過去2番目の長さ/消防庁2.医学部定員、2027年度以降削減へ、医師偏在対策と並行し適正化/厚労省3.電子処方箋の導入低迷、病院導入わずか4%、普及目標を見直し/厚労省4.医療崩壊の危機迫る、物価高騰で7~8割の病院が赤字に/日本医師会5.出生数70万人割れに、少子化対策は根本的な見直しへ/厚労省6.栗原市の3病院で1,300万円超未払い 給与計算の誤り/宮城県1.救急搬送が逼迫、現場到着は10分超と過去2番目の長さ/消防庁救急搬送体制の逼迫が深刻化している。総務省消防庁が1月24日発表した2023年の救急車現場到着時間は、全国平均で約10分と過去2番目の長さとなった。一方、横浜市消防局の発表によると、2024年の市内の救急出動件数は25万6,481件、搬送人員は20万7,472人と、いずれも過去最多を更新。高齢化の進展と救急隊員不足が影を落としている。同庁によると、2023年の全国の救急出動件数は763万8,558件、搬送人員は664万1,420人でいずれも過去最多。現場到着時間が10分以上20分未満だったケースは全体の39.9%、20分以上かかったケースも4.2%に上った。同庁では「出動件数の増加で、最寄りの救急隊が現場に向かえないケースが増えている」と分析。救急車を呼ぶべきか迷った場合は、電話相談窓口「#7119」の利用を呼びかけている。先の横浜市でも状況は深刻だ。2024年の救急出動は1日平均701件で、市民15人に1人が救急車を利用した計算になる。搬送人員を年代別にみると、65歳以上の高齢者は12万1,349人と増加傾向にある一方、65歳未満は減少。高齢者の転倒や、体温変化に気付きにくいことなどが要因とみられる。市消防局は「高齢化社会の影響で、今後も同様の傾向が続くと見込まれる」と警鐘を鳴らす。救急搬送の遅れは、一刻を争う患者の救命に影響を及ぼす可能性がある。横浜市では、救急車の適正利用を促すため、緊急性や受診の必要性をチェックできる「横浜市救急受診ガイド」の活用や、「#7119」への相談を推奨している。専門家は「救急隊員の増員や病院の受け入れ態勢強化など、抜本的な対策が必要だ」と指摘。高齢化社会が進む中、救急搬送体制の充実が喫緊の課題となっている。参考1)令和6年版 救急・救助の現況(消防庁)2)救急車の到着平均10.0分 23年、過去2番目の長さ(日経新聞)3)横浜市内で2024年 救急出場、搬送人員ともに3年連続で最多更新(タウンニュース)2.医学部定員、2027年度以降削減へ、医師偏在対策と並行し適正化/厚労省厚生労働省は、2027年度から大学医学部の入学定員を削減する方針を固めた。将来的に医師過剰が予測される一方、地域間の医師偏在は依然として深刻な状況だ。定員削減による地域医療への影響を抑えつつ、医師需給バランスの適正化と地域偏在の解消を両立させるという難しい舵取りが求められる。1月21日に行われた厚労省の検討会では、2027年度の医学部定員について、「地域における医師確保への大きな影響が生じない範囲で適正化を図る」方向性が了承された。背景には、少子高齢化に伴う人口減少がある。現在の医学部定員は、2008年度以降増加を続け、2024年度は9,403人に達している。これは、主に地方の医師不足を解消するために設けられた「臨時定員」によるものだ。しかし、このまま推移すると、将来的には医師が過剰となり、医療費の増加や医師の給与減、医療の質低下などが懸念される。一方で、地域によっては依然として医師不足が深刻で、とくに地方では病院の医師不足が深刻化している。厚労省は、地域医療への影響を最小限に抑えながら定員削減を進めるため、医師の地域定着を促進するための対策を強化する方針だ。具体的には、卒業後に一定期間、医師不足地域で働くことを義務付ける「地域枠」を、各大学の恒久定員に組み込むように促す。また、地域枠以外の学生に対しても、地域医療の重要性を啓発する教育や、地域医療現場での研修機会の提供などを通して、地域定着を促す。2025年度の医学部定員は、2024年度比10人減の9,393人となる。2026年度は、2024年度の定員を超えない範囲で設定される。2027年度以降の具体的な削減規模は、今後の検討会で議論される。医学部定員の削減は、大学の経営や地域医療に大きな影響を与える可能性があり、厚労省では、関係者と連携し、慎重に進めていく必要がある。参考1)第9回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)医学部臨時定員、25年度は10人減の975人 群馬・新潟のみ増加(CB news)3)2027年度の医学部入学定員、医師の地域定着進めながら、「地域に大きな影響が生じない」範囲で適正化(漸減)を図る-医師偏在対策検討会(Gem Med)3.電子処方箋の導入低迷、病院導入わずか4%、普及目標を見直し/厚労省厚生労働省は、1月23日に社会保障審議会医療保険部会を開き、医療機関における電子処方箋の導入が大幅に遅れていることを受け、2025年3月末としていた導入目標の見直しを決定した。新たな目標は、今年夏をめどに設定される予定だ。電子処方箋は、マイナンバーカードを活用し、医療機関と薬局の間で薬の処方情報を電子的に共有するシステム。政府は、2023年1月の運用開始以降、普及促進を図ってきたが、医療機関側の導入は低調に推移している。厚労省によると、1月12日時点の導入率は、病院で3.9%、医科診療所で9.9%、歯科診療所で1.7%にとどまる。一方、薬局では63.2%と比較的普及が進んでいる。導入が遅れている要因としては、医療機関側のシステム改修に伴う費用負担や、電子処方箋のメリットに対する認識不足などが挙げられる。また、周辺の医療機関や薬局で導入が進まない「お見合い状態」も普及を阻害する一因となっているようだ。厚労省は、導入促進に向けた取り組みを強化するため、医療機関への個別フォローアップや導入支援策の拡充、システムベンダーへの早期導入・開発要請などを実施する方針。電子処方箋は、患者の過去の処方薬をデータ上で確認できるため、重複投薬や飲み合わせによる副作用のリスクを低減できる。また、災害時などでもオンライン診療と組み合わせることで、薬の受け取りをスムーズに行えるなどのメリットがある。その一方で、昨年12月には、薬局側で医薬品名が誤表示されるトラブルが発生し、システムが一時停止する事態も起きた。厚労省は、システムの安全性確保にも取り組みながら、電子処方箋の普及促進を目指していく考えだ。参考1)第192回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)電子処方箋、病院導入4% 「ニーズ感じない」 厚労省、目標見直し(朝日新聞)3)電子処方箋の導入率、医療機関では2025年3月末でも「1割に届かない」見込み、目標を見直し、診療報酬対応も検討へ-社保審・医療保険部会(Gem Med)4.医療崩壊の危機迫る 物価高騰で7~8割の病院が赤字に/日本医師会医療機関の経営危機が深刻化し、2024年の倒産・廃業件数は過去最多の786件に達したことが帝国データバンクの調査で明らかになった。背景には、物価高騰や人件費上昇に対し、診療報酬の改定が追いついていない現状がある。日本医師会の松本 吉郎会長は、「今期は7~8割の病院が赤字になるか、赤字がさらに拡大する」と危機感を表明。2025年の春闘で「賃上げ率5%以上」が目標とされている中、「とても5%を出せる状況にはない」と指摘し、26年度の診療報酬改定で物価・賃金上昇への対応を求めた。病院団体も、厚生労働大臣に対し、「緊急的な財政支援や物価・賃金上昇に対応できる診療報酬制度の導入」などを要望。物価高騰や人件費上昇により病院の収支は大幅に悪化しており、このままでは経営破綻が続出すると警鐘を鳴らしている。医療機関の倒産・廃業増加は、医療提供体制の崩壊に繋がりかねない。とくに地方では、病院の休廃業により地域医療が逼迫するケースが増加。医師不足や高齢化も深刻化しており、地域住民の医療へのアクセスが困難になる可能性も懸念されている。政府は、病院建設向けローンの返済期間を最長39年に延長するなどの支援策を打ち出しているが、抜本的な解決には至っていない。医療機関の経営安定化には、診療報酬制度の見直しや、医療費負担の適正化、病院経営の効率化など、多角的な対策が必要となる。参考1)医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)(帝国データバンク)2)日医・松本会長「7、8割の病院が恐らく赤字に」骨太に「報酬改定で対応」記載目指す(CB news)3)病院経営は危機に瀕しており、「緊急的な財政支援」「物価・賃金上昇に対応できる診療報酬」などを実施せよ-5病院団体(Gem Med)4)医療機関の倒産や休廃業、昨年最多786件…コロナ禍後の行動変化や物価高騰・経営者の高齢化で(読売新聞)5.出生数70万人割れに、少子化対策は根本的な見直しへ/厚労省厚生労働省が1月24日発表した人口動態統計速報値によると、2024年1~11月の出生数は前年同期比5.1%減の66万1,577人となり、年間出生数が初めて70万人を割り込む可能性が強まった。少子化は近年加速しており、2019年に90万人を、2022年に80万人を割り込んだ。2023年は統計開始以来最少の72万7,277人を記録し、このままのペースで推移すると、2024年の出生数は70万人を下回ると予想される。この深刻な状況は、物価高による子育てへの経済的不安や未婚化・晩婚化の進行、新型コロナウイルス禍による結婚減少などが要因とみられる。さらに、ニッセイ基礎研究所の分析によると、少子化の進行速度は地域によって異なり、とくに東北地方などの地方圏では深刻化している。少子化対策として、これまで多くの自治体が出生率向上を目標に掲げてきたが、同研究所は「出生率の低さと少子化速度に相関関係はない」と指摘する。背景には、東京圏への若年女性の流出による「社会減」がある。地方圏では、雇用機会の不足や賃金の低さなどから、若い女性が就職を機に都市部へ流出。その結果、地方では結婚や出産の機会が減少し、少子化が加速するという悪循環に陥っている。このため、少子化の根本的な原因に対処する必要があることを強調している。具体的には、若年女性の雇用問題や、結婚・出産を希望する人々への経済的支援、子育てしやすい環境作りなどが課題として挙げられる。政府は少子化対策に力を入れているものの、出生数の減少に歯止めがかからない状況だ。社会構造の変化に対応した、より効果的な対策が求められている。参考1)人口動態統計速報[令和6年11月分](厚労省)2)2013~23年 都道府県出生減(少子化)ランキング/合計特殊出生率との相関は「なし」(ニッセイ基礎研究所)3)出生数、初の70万人割れへ 24年、1~11月は66万人(共同通信)6.栗原市の3病院で1,300万円超未払い 給与計算の誤り/宮城県宮城県栗原市の3つの市立病院で、医師や看護師らに対する時間外手当などの未払いが明らかになった。2024年4~10月分の未払い額はのべ720人、総額1,343万円に上る。同様の事案は、昨年8月に大崎市民病院で発覚しており、公立病院における給与計算の誤りが改めて浮き彫りとなった。栗原市によると、時間外手当などを算出する際、診療手当や研究手当などを基礎賃金から除外していたことが原因。これは、国家公務員の給与体系を参考にしているためとみられる。しかし、国家公務員には適用されない労働基準法が地方公務員には適用されるため、今回の未払いは法令違反となる。栗原市は未払い分を12月にすでに支給し、11月分からは正しい算出方法で支払っているという。また、合併した2005年から算出方法に誤りがあったとして、今後、労働基準監督署と相談し、過去の未払い分についても検討していく方針。大崎市民病院の事案を受け、大分県立病院でも同様の未払いが発覚している。全国的に国家公務員の給与体系を参考にしている地方自治体は少なくないとみられ、未払い問題が他地域にも広がる可能性がある。専門家は、地方公務員への労働基準法の適用について、周知徹底の必要性を指摘。また、給与計算システムの見直しや、担当職員の研修など、再発防止に向けた取り組み強化を求めている。参考1)栗原市の3つの市立病院で時間外勤務手当など未払い(NHK)2)公立病院でまた残業代の未払い発覚 国家公務員の制度参照が原因か(朝日新聞)

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出産後の抜け毛の量が育児中の不安に独立して関連

 出産後に抜け毛が多い女性は不安が強く、交絡因子を調整後にも独立した関連のあることが明らかになった。東京科学大学病院周産・女性診療科の廣瀬明日香氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に10月27日掲載された。 個人差があるものの、出産後女性の多くが抜け毛を経験し、一部の女性は帽子やかつらを使用したり外出を控えたりすることがあって、メンタルヘルスに影響が生じる可能性も考えられる。産後の脱毛症の罹患率などの詳細は不明ながら、廣瀬氏らが以前行った調査では、育児中女性の91.8%が「抜け毛が増えた」と回答し、73.1%がそれに関連する不安やストレスを感じていることが明らかにされている。今回の研究では、その調査データをより詳しく解析し、産後脱毛と育児中のメンタルヘルスとの関連を検討した。 2021年6月~2022年4月に東京医科歯科大学病院(現在は東京科学大学病院)と東京都立大塚病院で出産した女性1,579人に対して、出産後10~18カ月時点にオンライン調査への回答協力を依頼。回答を得られた中から、多胎妊娠や出産以前に脱毛症の既往のあった女性を除外した331人を解析対象とした。なお、季節による脱毛量の変化を考慮し、回答依頼は8カ月の間隔をおいて2回実施された。 主な調査項目は、産後の脱毛量の質問(全くない/少し/かなり/非常に多いの四者択一)と、Whooleyの質問票、2項目の全般性不安障害質問票(GAD-2)、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)、およびアテネ不眠尺度(AIS)によるメンタルヘルス状態の評価。解析対象者の主な特徴は、出産時年齢が34.5±4.5歳で、経産婦が27.2%、経腟分娩65.8%であり、脱毛量は「全くない」8.2%、「少し」30.8%、「かなり」46.5%、「非常に多い」14.5%だった。 メンタルヘルス状態については、Whooleyの質問票の「気分が落ち込む」に33.5%、「何をしても楽しくない」に22.4%、GAD-2の「緊張や不安、神経過敏を感じる」に28.7%、「心配をコントロールできない」に16.6%が「はい」と回答していた。EPDSは、総合スコアが30点満点中6.5点、不安とうつのサブスケールはそれぞれ9点満点中2.9点、3.7点であり、AISは24点満点中6.8点だった。また、脱毛が「全くない」と回答した人以外に脱毛関連の不安やストレスを質問したところ、「全くない」が26.9%、「少し」が47.2%、「かなり」が18.9%、「非常に強い」が7.0%だった。 脱毛量とメンタルヘルス関連指標との関係性を単変量解析で検討した結果、脱毛量が「非常に多い」群では「全くない」群に比べて、GAD-2の「緊張や不安、神経過敏を感じる」の該当者が有意に多かった(オッズ比〔OR〕4.47〔95%信頼区間1.34~14.93〕、P=0.01)。また有意水準未満ながら、脱毛量が「非常に多い」群はGAD-2の「心配をコントロールできない」(OR4.17〔同0.86~20.26〕、P=0.08)の該当者が多く、EPDSの評価に基づく不安が強い傾向が見られた(係数1.06〔-0.14~2.25〕、P=0.08)。 上記の解析で有意な関連の見られたGAD-2の「緊張や不安、神経過敏を感じる」を従属変数とし、出産時年齢、分娩方法、不妊治療、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、出生時体重、授乳状況、および脱毛量などを独立変数とするロジスティック回帰分析を行ったところ、脱毛量が「非常に多い」こと(調整オッズ比〔aOR〕4.86〔1.21~19.53〕、P=0.026)と、不眠症状(AISが1高いごとにaOR1.26〔1.17~1.35〕、P<0.001)が、それぞれ独立した正の関連因子として抽出された。なお、経産婦であることは、有意な保護的因子として示された(aOR0.53〔0.36~0.80〕、P=0.002)。 著者らは本研究を、「育児中の女性における産後の抜け毛とメンタルヘルスとの関連を示した初のエビデンスである」とした上で、「産後の脱毛量の多さは、GAD-2で評価した不安と独立した関連が認められる」と結論付けている。なお、脱毛を経験した女性がより積極的に回答した可能性があることによる選択バイアスの存在や、横断研究のため因果関係は不明といった限界点とともに、「産後の不安が強い女性ほど、脱毛量をより多く感じやすい可能性もある」との考察が加えられている。

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口内炎がつらいです【非専門医のための緩和ケアTips】第92回

口内炎がつらいですがん診療の進展に伴い、診療所の先生が基幹病院に通院中の患者さんを診察する機会が増えてきたのでは、と思います。抗がん剤治療の副作用対策は大きく進歩しましたが、まだつらい症状を訴える患者さんが多い副作用の1つが「口内炎」です。今回の質問私の外来患者が抗がん剤治療のために基幹病院に通院しています。私の外来で診察する際に、口内炎に対する対応を相談されたのですが、あまり経験がなく良いアドバイスができませんでした…。口内炎に苦しむ患者さんの様子を見ると、こっちもつらくなりますよね。口内炎は抗がん剤治療や分子標的薬の副作用として頻繁に発症します。一般的な化学療法では発症率は10%程度ですが、頭頸部がんの化学放射線療法では、さらに高頻度で見られます。ご質問にある患者さんが「すでに口内炎を発症しているのか」は不明ですが、まずは「予防」について考えてみましょう。口内炎の予防には口腔ケアが非常に重要です。口腔内の衛生を保ち、湿潤環境を維持するため、定期的に水分を口に含むことを指導しましょう。また、義歯の調整が必要な場合やその他の専門的な歯科治療が必要な場合は、歯科受診を推奨します。これらの予防策は患者さんの協力が重要ですので、がん治療の開始前から取り組むようアドバイスすると良いでしょう。口内炎ができてしまった場合には、口内炎の発症のタイミングや治療内容から、「がん治療関連の口内炎」か「その他の原因によるものか」を判断します。口内炎で問題になる症状の多くは口腔内の痛みです。多くの方は物理的刺激による口内炎を経験しているでしょう。あの痛みがさらに広範にあることを想像すると、そのつらさが想像できるかと思います。口内炎に対する薬剤は、症状や患者さんの状態に応じて選択します。内服が困難な場合には、口腔用軟膏や口腔用液が有用です。痛みが強い場合には、がん疼痛治療に準じて薬剤を調整します。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が効果を示すケースもあるため、腎機能障害や他の副作用に注意しつつ投与を検討することも1つの選択肢です。また、がん疼痛治療に用いられるオピオイドについても触れておきます。オピオイドは、口内炎の痛み緩和に一定の効果がありますが、通常、モルヒネ換算で60mg/日を超える投与が必要となることは少ない印象です。もしオピオイドの効果が乏しい場合には、カンジダなど感染症の合併として発症しているケースや、心理的要因(例:不安)が関与している可能性を考慮する必要があります。今回のTips今回のTipsがん治療に関連した口内炎、「予防」と「治療」の両方が大切です。

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