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第293回 佳境迎える診療報酬改定議論、「本体」引き上げはほぼ既定路線も、最大の焦点は病院と診療所間の「メリハリ」

診療報酬「本体」は引き上げの方向こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。師走となり、診療報酬改定の議論が白熱してきました。各紙報道によれば、診療報酬のうち医薬品などの「薬価」部分は小幅引き下げの見通しの一方、医師の技術料や人件費に当たる「本体」部分は2024年度改定以上の引き上げが見込まれ、全体ではプラス改定となりそうです。12月7日のNHKも、「政権幹部の1人は『高市総理大臣は、引き上げに意欲を見せており、プラス改定になる方向だ』と話すなど、人件費などに充てられる『本体』の引き上げ幅が焦点となる見通しです」と報じています。最大の関心事は病院と診療所それぞれに対する配分引き上げ幅はもちろん重要ですが、医療関係者の最大の関心事は病院と診療所、それぞれに対する配分でしょう。医療経済実態調査や財政審の「秋の建議」など、次期改定を左右する様々な発表が相次ぎ、事態は混沌としています。全国各地の病院の窮状に加え、今年は日本維新の会が自民党との連立政権に加わったことで、診療所院長が主な構成員である日本医師会にとってはいつになく厳しい状況となっています。最近では新聞だけではなくテレビでも、病院経営の苦しさが連日のように報道されています。日本医師会は「財務省の『二項対立による分断』には、絶対に乗ってはいけない」(11月29日に開かれた九州医師会連合会における日本医師会の松本 吉郎会長の発言)と警戒感をあらわにしています。特定機能病院は70.7%、高度急性期病院は69.0%が経常赤字関連する最近の発表をおさらいしましょう。まず、医療経済実態調査です。次期診療報酬の改定に向けた基礎的な資料となるものですが、病院の経営状況の悪さが改めてクローズアップされました。厚生労働省は11月26日、中医協の調査実施小委員会と総会で第25回医療経済実態調査の結果を公表しました。今回の調査は2023~24年度の経営状況が対象となり、1,167の病院(回答率50.2%)、医療法人立と個人立を合わせて2,232の診療所(同54.9%)から回答を得ています。それによると、一般病院の開設主体別では、医療法人(402施設)は2023年度がマイナス1.1%、2024年度がマイナス1.0%でほぼ横ばい、公立(130施設)はマイナス17.1%からマイナス18.5%へ悪化、国立(24施設)はマイナス5.8%からマイナス5.4%、公的(51施設)はマイナス5.5%からマイナス4.1%と若干改善したものの赤字幅は依然大きいままでした。医業損益は、病院全体で67.2%、一般病院で72.7%が赤字でした。経常損益でも病院全体で58.0%、一般病院で63.3%が赤字でした。とくに特定機能病院は70.7%、高度急性期病院は69.0%が経常赤字で、急性期病院の苦境が際立っていました。診療所経営も悪化したものの病院ほどではない一方、診療所ですが、医療法人立の無床診の損益率は2024年度が5.4%と、2023年度の9.3%から悪化しました。医療法人立の無床診の平均損益率は診療科で差が大きく、低かったのは外科(回答49施設)0.4%、精神科(25施設)1.6%、産婦人科(35施設)2.7%、整形外科(143施設)3.1%、内科(581施設)が4.2%、小児科(86施設)4.7%などでした。一方、高い収益を上げたのは耳鼻咽喉科(91施設)の9.5%、眼科(96施設)の8.7%、皮膚科(71施設)の8.1%などでした。なお、個人立の無床診療所は院長等の報酬が費用に含まれないために数値が高く出る傾向がありますが、2024年度は29.1%と、2023年度(32.3%)から低下しました。端的に言えば「病院はとても厳しい、診療所もそこそこ厳しいものの、病院ほどではない」というのが医療経済実態調査の結果ということになります。このままでは「分が悪過ぎる」と考えたのでしょうか? 日本医師会の江澤 和彦常任理事は12月3日の定例記者会見で、「病院・診療所共に経営の悪化は深刻であり、存続が危ぶまれる状況が明白になった」と指摘。「病院はすでに瀕死の状態であり、ある日突然倒産するという事態が全国で起きている」ことに危機感を示し、診療所も約4割が赤字であるとして、「規模が小さく脆弱な診療所は、これ以上少しでも逆風が吹けば、経営が立ち行かなくなる」と語り、危機に直面しているのは病院だけではないことを強調しました。財務省は「メリハリ」強調、診療所の診療報酬の適正化を提案医療経済実態調査が公表された6日後の12月2日には、財務省の財政制度等審議会(十倉 雅和会長・住友化学相談役)が、「2026年度予算の編成等に関する建議」(通称、秋の建議)を取りまとめ、片山 さつき財務相に手渡しました。秋の建議では2026年度診療報酬改定について「メリハリある診療報酬の配分を実現することは、財政当局や保険者にとって極めて重要なミッションと言えよう。これを実現するためには、医療機関の経営状況のデータを精緻に分析することが必要である。特に物価・賃金対応については、医療機関の種類・機能ごとの経営状況や費用構造に着目した上で、本来は過去の改定の際に取り組むべきであった適正化・効率化を遂行することも含め、メリハリときめ細やかさを両立させた対応を強く求めるものである」と「メリハリ」という言葉を何度も使って医療機関の種類・機能ごとに差を付けるべきだと主張しました。その上で、「1)赤字経営の診療所が顕著に増加しているという主張もあるが、医療機関の経営状況に関する厚生労働省等のデータによると、物価高騰の中でも、診療所の利益率や利益剰余金は全体として高水準を維持していること、2)他職業との相対比較における開業医の報酬水準の高さは国際的にも際立っていることなどを踏まえ、診療所の診療報酬を全体として適正化しつつ、地域医療に果たす役割も踏まえて、高度急性期・急性期を中心とする病院やかかりつけ医機能を十全に果たす医療機関の評価に重点化すべきである」と、診療報酬の病院への重点配分と診療所の診療報酬の適正化を改めて主張しています。11月に開かれた財政制度等審議会・分科会での主張とほぼ同じで、診療所をターゲットとしている点は変わりません。秋の建議の社会保障関連ではその他、「かかりつけ医機能の報酬上の評価」の再構築、リフィル処方箋の拡充、OTC類似薬を含む薬剤の自己負担の見直しなど提言しています。「かかりつけ医機能の報酬上の評価」は個々の診療報酬についても言及、かかりつけ医機能報告制度上、基本的な機能を有していない診療所の初診料・再診料の減算措置導入や、外来管理加算や特定疾患管理料、生活習慣病管理料などの適正化を求めています。なお、昨年の秋の建議まで、財務省が繰り返し提言してきた「診療報酬の地域別単価の導入」は、今回は盛り込まれませんでした。経団連、健保連、維新も「メリハリ」求めるこうした動きの中、診療報酬の「メリハリ」を求める声は各方面からも高まっています。経団連(日本経済団体連合会)は11月28日、健康保険組合連合会や日本労働組合総連合会(連合)など医療保険関係5団体と共に、上野 賢一郎・厚生労働大臣と面会し、2026年度診療報酬改定に関する共同要請を行いました。要請では、「高齢化に相当する医療費の増加に加え、医療の高度化等により医療費が高騰し続け、被保険者と事業主の保険料負担は既に限界に達している」状況下での診療報酬改定について、「基本診療料の単純な一律の引上げは、病床利用率や受療率の低下による影響を含めて医療機関の減収を医療費単価の増加によって補填する発想であり、患者負担と保険料負担の上昇に直結するだけでなく、医療機関・薬局の経営格差や真の地域貢献度が反映されず、非効率な医療を温存することになるため、妥当ではない」と従来の「単純な一律の引上げ」を批判、その上で、「優先順位を意識し、確実な適正化とセットで真にメリハリの効いた診療報酬改定を行うこと。その際には、診療所・薬局から病院へ財源を再配分する等、硬直化している医科・歯科・調剤の財源配分を柔軟に見直すこと」と、病院への重点配分を強く求めています。さらに、12月4日には日本維新の会が社会保障制度改革の推進を求める申し入れを高市 早苗首相に手渡しています。申し入れでは、2026年度診療報酬改定について、「診療所の経営状況の違いを踏まえた入院と外来のメリハリ付け、医科・歯科・調剤の固定的な配分の見直しなど診療報酬体系の抜本的な見直しを行うこと」を求めるとともに、「抜本的見直しの方向性について、中央社会保険医療協議会に任せることなく、年末に政治の意思として決定し、示すこと」を要請しました。「今やらないでいつやる?」と病院団体の関係者は思っているのでは日本医師会は「二項対立による分断」と言いますが、そもそも病院経営と診療所経営の”格差”を形作ってきた一因は日本医師会にもあるのではないでしょうか。年末に診療報酬の改定率が決まった後も、年明けの中央社会保険医療協議会総会で、2026年度診療報酬改定の答申が行われるまで「メリハリ」を巡る戦いは続くでしょう。「今やらないでいつやるんだ」と病院団体の関係者は思っているに違いありません。次期改定で本当の意味での「メリハリ」が付けられるかどうか、今後の議論の行方に注目したいと思います。

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第291回 “消費税負担の補填”引き上げなし、強気に出られない医師団体のいきさつ

INDEX消費税負担の補填、診療報酬での引き上げ見送り診療報酬による補填、消費税負担を上回る?消費税負担の補填、診療報酬での引き上げ見送り2026年度の診療報酬改定を控え、昨今は中央社会保険医療協議会(中医協)総会での議論を注視しているが、その中で現在苦境にある病院経営を大きく左右する、ある方針が了承された。11月28日に中医協総会で了承された「2026年診療報酬改定で消費税負担の補填を目的とした診療報酬の引き上げは行わない」というもの。私自身は、これが病院経営苦境の最大の理由の1つと捉えている。医療機関の経営に直接かかわっていない医療者にとっては、ややなじみが薄いかもしれないが、この消費税を巡る「ねじれた現象」はすでに半世紀弱続いており、医療機関の経営を相当圧迫している。まず、ご存じのように世の中で製品購入やサービス利用にあたって、消費者は製品・サービスの価格に対してかかる10%の消費税を負担している。一方で、周知のように医療費、具体的には診療報酬や薬価に消費税はかかっていない。これは1989年、自民党・竹下 登政権下で初めて3%の消費税が導入された際に医療費と薬価は消費税の対象外とされたからである。こうなったのは当時の日本医師会(会長・羽田 春兎氏)が「医療は消費ではない。選択の自由に基づく消費と違い、必要不可欠で選べない支出」「医療に課税すると低所得者ほど相対的負担が大きくなる、逆進的な課税になる」などと主張し、医療費と薬価を消費税の対象外にするよう求めた結果である。もっとも消費税が導入された1989年4月の直前には、消費税対応のため、薬価が2.7%、診療報酬が0.12%の引き上げが行われている。そしてこの消費税導入にあたって制定された消費税法の第30条に定められたのが仕入税額控除という制度だ。要は「事業者が仕入れや経費の支払時に負担した消費税を半ば経費のように売上にかかる消費税から差し引いてよい」という仕組みである。より平たく説明すると、ある事業者Aが事業者Bから原価100万円で仕入れたものは、現行ならば消費税10%がかかり事業者Aは事業者Bに110万円を支払う。これを事業者Aが150万円で販売した場合は消費税も含め165万円を受けとるが、この際に事業者Aが国に支払う消費税は15万円から仕入れで支払った10万円分を差し引いた5万円で済む制度だ。ただ、この仕入税額控除の制度が適用となるのは課税事業者のみであり、非課税事業者は適用外である。前述のように医療は非課税事業と規定されたため、医療機関は仕入税額控除が認められず、取引業者に支払った消費税分を丸々負担する(損税)ことになった。医療機関は病院ならば医療材料だけでなく、リネン関係、入院患者に提供する食事のための食材、光熱水費はすべて消費税を支払っている。診療報酬による補填、消費税負担を上回る?さて、この損税を医療者の団体が公の場で問題視する発言が目立つようになったのは2010年代後半と比較的最近のことである。これは2014年4月に消費税が5%から8%に引き上げられたことと、診療報酬本体の伸び率が0.5%前後まで圧縮された時期とも重なる。要は税率が低い時代は、損税分をなんとか医業収益で吸収できていたが、それが難しくなったということだろう。1989年当時はこうした状況は想像できなかったに違いない。そして今回の11月28日の中医協総会では、先立って開催された診療報酬調査専門組織「医療機関等における消費税負担に関する分科会」で第25回医療経済実態調査の調査対象医療機関で行った2023年度、2024年度分の消費税補填率(医療機関などの消費税負担に対する診療報酬での補填状況)の算出結果が示され、病院、一般診療所、歯科診療所、保険薬局を合わせた全体の1施設1年間当たりの平均補填率は2024年度が100.3%、2023年度が103.1%で、いずれも診療報酬による補填が消費税負担を上回っていた。この結果を受けて、2026年度診療報酬改定では消費税負担に関する補填を目的とした引き上げをしないことを分科会、総会の各委員が了承した。もっとも分科会や総会では、何の留保もなく了承されたわけでもない。そもそも発表された数字を医療機関種別、病院種別や開設主体種別で見ると、たとえば2024年度の平均補填率は、一般診療所が93.5%、こども病院が90.3%、公立病院が83.2%、精神病棟入院基本料届出病院が87.8%などかなり格差があるのが実態だ。いわゆる診療側委員と言われる人たちのこの日の発言を聞くと、施設間格差の是正、高額投資への補助金支給など、次期改定で補填をしないという事務局提案を前提にした弱気の発言が目立った。ちなみに総会の場では日本医療法人協会副会長の太田 圭洋氏が「当協会が10月に公表した同様の調査結果では、一般病院の補填率が100%を大きく下回っていた。われわれと厚労省の調査で何がどう違うのかを検討する場を作っていただきたい。ただ、私自身、事務局を信頼しておりますので、一旦は納得させていただきたい」と発言したのが最も印象的である。ざっくり言うならば「納得しかねるが、納得するしかない」というのが診療側委員に共通した思いなのだろう。さらにこの件については、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会の四病院団体協議会は、医療機関の法令上の課税のあり方そのものの変更を求めているが、私見ではそれほど強烈な主張の仕方はしていないと感じる。そして1989年の消費税導入時を振り返ると、この四病院団体協議会加盟の各団体もおおむね日本医師会と同様の主張をしていた。こうした各団体のやや弱気とも思えるスタンスは、思うにあの当時は各団体とも自らの主張が後にとてつもないブーメランになって返ってくるとは思わず、今になって「やっちまった感」を抱いているからではないだろうか?

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「ゆっくり食べ、よく噛む」習慣と関連する食事・口腔要因を解明

 日本では「食育基本法」の目標の1つとして「ゆっくり食べてよく噛む人の割合を増やす」ことが掲げられている。日本で行われたウェブ調査で、「ゆっくり食べ、よく噛む」食習慣は「味わいながら食べる」ことや「口いっぱいに食べない」ことと強く関連していることが明らかになった。国立保健医療科学院の石川 みどり氏らによるこの研究結果は、Scientific Reports誌2025年11月19日号に掲載された。 研究チームは、オンライン調査会社の全国モニターから40~70代の男女を対象に、性別・年齢層別に調査票を配布し、食生活・健康行動(12項目)、歯科口腔状態(14項目)、社会経済的要因(6項目)の質問への回答を自己評価形式で収集した。最終的に成人1,644例(男女各822例)が解析対象となった。 主な結果は以下のとおり。・男女ともにほぼすべての年齢層において、「ゆっくり食べ、よく噛む」行動と最も強く関連していたのは「味わいながら食べる」という主観的な食体験であり、オッズ比は男性11.20、女性11.48と高値を示した。また、「口いっぱいに食べない」行動も有意に関連しており、食べる姿勢や注意の向け方が咀嚼行動に関与することが示唆された。・口腔状態との関連では、男性では歯槽骨の吸収がみられないこと、女性では歯痛がないことが「ゆっくり食べ、よく噛む」習慣と有意に関連していた。・一方、家族構成や学歴などの社会経済因子は一部の層で関連を示したものの、明確な一貫性はみられなかった。「ゆっくり食べ、よく噛む」行動は、所得や教育よりも日常の食体験の質と口腔状態に強く依存する可能性が示唆された。 研究者らは、「これらの結果から、『ゆっくり食べ、よく噛む』習慣は、食事を味わいながら食べることによって促進される可能性があることが示唆された。また、口腔の健康状態を維持することも、とくに男性では歯周病予防、女性では歯痛予防が、良好な食習慣の維持に寄与する可能性がある。『ゆっくり食べ、よく噛む』習慣は肥満や過体重の予防に役立つ可能性がある。患者指導や保健事業において『噛む回数』を数える指導は継続が難しいことが多いが、『食べものを意識して味わう』という指示は心理的負担が小さく実践しやすい。今後は、これらの知見を活かした食育プログラムの開発や、長期的な介入研究による因果関係の検証が期待される」としている。

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歯周病は脳にダメージを与え脳卒中のリスクを高める

 歯周病が脳の血管にダメージを与えたり、脳卒中のリスクを高めたりする可能性のあることが、2件の研究で明らかになった。歯周病と虫歯の両方がある場合には、脳卒中のリスクが86%上昇することや、習慣的なケアによってそのリスクを大きく抑制できる可能性があることも報告された。いずれも、米サウスカロライナ大学のSouvik Sen氏らの研究の結果であり、詳細は「Neurology Open Access」に10月22日掲載された。 一つ目の研究は、歯周病のある人とない人の脳画像を比較するというもの。解析対象は、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARIC研究」のサブスタディーとして実施された、口腔状態の詳細な検査も行う「Dental ARIC」の参加者のうち、脳画像データのある1,143人(平均年齢77歳、男性45%)。このうち800人が歯周病ありと判定された。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種、喫煙、高血圧、糖尿病など)を調整後、歯周病のある人は脳の白質高信号域(認知機能低下リスクの高さと関連のある部分)の体積が有意に大きく(P=0.012)、その体積と歯周病の重症度との有意な関連も認められた(ρ=0.076、P=0.011)。 二つ目の研究もDental ARICのデータが用いられた。解析対象5,986人(平均年齢63±5.6歳、男性48%)のうち、1,640人は口腔の健康状態が良好、3,151人は歯周病があり、1,195人は歯周病と虫歯が併存していた。そして、それら両者が併存していると、虚血性脳卒中のリスクが86%有意に高く(ハザード比〔HR〕1.86〔95%信頼区間1.32~2.61〕)、主要心血管イベントのリスクも36%有意に高いことが分かった(HR1.36〔同1.10~1.69〕)。また虚血性脳卒中の病型別の検討では、血栓性脳梗塞(HR2.27〔1.22~4.24〕)、および心原性脳塞栓(HR2.58〔1.27~5.26〕)のいずれも、有意なリスク上昇が認められた。 一方、希望につながるデータも示された。歯磨きやデンタルヘルスで日常的な口腔ケアを行い、定期的に歯科へ通院している人は、歯周病が約3割少なく(オッズ比〔OR〕0.71〔0.58~0.86〕)、歯周病と虫歯の併存が約8割少ないという(OR0.19〔0.15~0.25〕)、有意な関連が観察された。 報告された2件の研究結果は、口腔衛生状態が良くないことが脳卒中を引き起こすという直接的な因果関係を証明するものではない。しかし、口腔内の炎症が心臓と脳の健康に悪影響を及ぼす可能性があるとする、近年増加しているエビデンスを裏付けるものと言える。これらのデータを基に研究者らは、「歯と歯茎の健康を維持することが、脳卒中リスクを軽減する簡単な方法の一つになる可能性がある」と述べている。 なお、世界保健機関(WHO)は、世界中で35億人が歯周病や虫歯を有していると報告している。また米国心臓協会(AHA)によると、米国では毎年79万5,000人以上が脳卒中を発症しているという。

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歯を失うと寿命にも影響?80歳女性で“咬合支持”の重要性が明らかに

 高齢になると「歯が抜けても仕方ない」と思われがちだが、噛み合わせの力が寿命にまで影響する可能性がありそうだ。今回、地域在住の80歳高齢者を10年間追跡した研究で、咬合支持(噛み合わせの支え)を失った女性は、そうでない女性に比べて死亡リスクが有意に高いことが示唆された。研究は新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔健康科学講座予防歯科学分野の田村浩平氏、濃野要氏、小川祐司氏によるもので、詳細は9月23日付けで「International Dental Journal」に掲載された。 咀嚼は全身の健康と長寿に重要であり、歯や義歯による安定した咬合支持が不可欠である。咬合支持の低下は咀嚼の満足度や効率を損ない、栄養不足や運動機能低下にも関連することが報告されている。また、フレイルは高齢者の死亡リスク因子として注目され、歯の喪失や咬合力低下などの口腔要因も関連する。日本では高齢者の歯の保存が重要視されているが、健康な高齢者を対象に残存歯数や咬合力と死亡率の関係を検証した研究は少ない。咬合と死亡率については、最大咬合力や機能歯の数が全死因死亡率の有力な予測因子であり、Eichner Index(アイヒナー指数:EI)がこれらの指標の代替になり得ると考えられる。このような背景を踏まえ、著者らは新潟市の高齢者を対象とした25年間のコホート研究の一環として、咬合支持の喪失が死亡リスク因子であるという仮説を検証した。具体的には、フレイルのない健康な地域在住の80歳高齢者において、EIで評価した咬合支持と10年間の死亡率との関連を調査した。 本研究の解析対象は、新潟市在住のフレイルのない80歳の高齢者360人であり、追跡調査は2008年6月~2018年6月まで実施された。ベースライン時に、歯牙および歯周検査、唾液分泌量測定(ガム試験)、血液検査、および自記式アンケート(喫煙・飲酒習慣、運動習慣、既往歴など)が実施された。口腔検査票から、咬合支持はEIクラスA/B群(咬合支持あり/部分的にあり)およびC群(咬合支持なし)に分類され、歯周炎症表面積も算出された。生存解析にはKaplan-Meier法とログランク検定が用いられ、多変量解析にはCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)が算出された。 最終的な解析対象には297人(男性155人、女性142人)が含まれた。ベースライン時のEIクラスはA/B群が203人、C群が94人だった。10年間の累積生存率はA/B群とC群でそれぞれ79.8%および66.0%であり、有意な差が認められた(P=0.038)。 多変量Cox比例ハザードモデルでは、「EIクラスC」および「男性」が全死因死亡の有意な独立リスク因子であった。性別、BMI、喫煙状況、既往歴などの交絡因子で調整後のHRは、EIクラスCで1.88(95%信頼区間 [CI] 1.08~3.36、P<0.05)、男性で2.28(CI 1.23~4.26、P<0.05)であった。 男女別の層別解析では、EIクラスCは女性のみで有意な独立リスク因子となり、歯周炎症表面積、唾液分泌量、BMI、喫煙状況、既往歴などで調整後のHRは4.17(95%CI 4.17~11.79、P<0.05)であった。その一方、男性では統計的に有意な差は認められなかった。 著者らは、「地域在住の健康な80歳高齢者において、咬合支持の喪失は、特に女性で全死因死亡の独立したリスク因子であった。この結果は、咬合支持の維持が咀嚼機能や十分な栄養摂取を支えることで、長寿の促進に重要な役割を果たす可能性を示している。今後の研究では、咬合支持の喪失が死亡に至るまでの間接的な経路をさらに検討する必要がある」と述べている。 なお、結果に性差が出た理由として、男性は一般的に筋肉量や咀嚼筋力が大きく、咬合支持を失っても咀嚼機能や栄養摂取への影響が相対的に小さいこと、また、心理社会的要因(抑うつや孤立)の影響は女性でより顕著に現れやすいことが指摘されており、歯の喪失による審美的な変化が心理的に与える影響が、女性でより大きい可能性などが考察された。

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第265回 呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省

<先週の動き> 1.呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省 2.がん検診指針を改正、肺がんは「喀痰細胞診」廃止し「低線量CT」導入へ/厚労省 3.かかりつけ医機能報告制度で「見える化」から「評価」へ/中医協 4.過去最高48兆円突破、国民医療費が3年連続更新/厚労省 5.中堅病院の倒産1.5倍に、民間主導の統合・経営譲渡が進行/北海道 6.美容医療大手が62億円申告漏れで追徴課税、SNS豪遊アピールが引き金か/国税庁 1.呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省全国でインフルエンザ、百日咳、マイコプラズマ肺炎といった複数の呼吸器感染症が同時期に急増し、医療現場と地域社会で警戒が強まっている。厚生労働省は10月17日、2025年10月6~12日の1週間におけるインフルエンザの感染者報告数が、全国の定点医療機関当たり2.36人に達したと発表した。これは前週の約1.5倍で、8週連続の増加。総患者報告数は9,074人を超え、昨年の同時期と比較して2倍以上、流行のペースも昨年より約1ヵ月早い状況となっている。都道府県別では、沖縄県(14.38人)が突出して多いほか、東京(4.76人)、神奈川(4.21人)、千葉(4.20人)といった首都圏でも感染が拡大している。この影響で、全国の小学校や中学校など合わせて328ヵ所の学校・学級閉鎖の措置が取られ、厚労省では手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策の徹底を呼びかけている。また、激しい咳が続く百日咳の流行も深刻である。国立健康危機管理研究機構によると、今年に入ってからの累計患者数(10月5日時点の速報値)は8万719人に達し、現在の集計法となった2018年以降で初めて8万人を突破した。これは、過去最多だった2019年の約4.8倍という異例の多さとなっている。コロナ対策中に病原体への曝露機会が減り、免疫が弱まったことが一因と指摘されている。感染は10代以下の子供を中心に広がっており、乳児は肺炎や脳症を併発する重症化リスクがあるため、とくに警戒が必要とされる。さらに、マイコプラズマ肺炎も5週連続で増加しており、9月29日~10月5日の定点当たり報告数は1.36人となっている。秋田、群馬、栃木、北海道などで報告が多く、この秋は複数の感染症が同時に拡大する「トリプル流行」の様相を呈している。 参考 1) 2025年 10月17日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザ感染者数 前週の1.5倍に 8週連続で増加 1医療機関あたり「2.36人」 厚生労働省(TBS) 3) インフル定点報告2.36人、前週の1.5倍に 感染者数は9,074人に(CB news) 4) マイコプラズマ肺炎の定点報告数、5週連続増 前週比6.3%増 JIHS(同) 5) インフルエンザ患者 昨年同期の2倍超 日ごとの寒暖差が大きいため体調管理に注意を(日本気象協会) 6) 百日ぜきが初の8万人超 2025年患者数、18年以降の最多更新続く(日経新聞) 2.がん検診指針を改正、肺がんは「喀痰細胞診」廃止し「低線量CT」導入へ/厚労省厚生労働省は10月10日、「がん検診のあり方に関する検討会」を開き、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を改正する方針を固めた。最新の医学的エビデンスに基づき、肺がん検診の方法を抜本的に見直すほか、乳がん検診のガイドラインの更新を国立がん研究センターに依頼する。最も大きな変更は、重喫煙者を対象とした「胸部X線検査と喀痰細胞診の併用法」の公費検診からの削除。これは、喫煙率の低下に伴い、喀痰細胞診で見つかる肺門部扁平上皮がんが減少し、現在ではこの検査による追加的な効果が極めて小さい(ガイドラインで「推奨しない:グレードD」)と評価されたためである。厚労省は2026年4月1日の指針改正で同検査を削除する方針。ただし、喀痰などの有症状者に対しては、検診ではなく医療機関での早期受診を促す指導を指針に追記する方向とされる。一方、「重喫煙者に対する低線量CT検査」については、死亡率を16%程度低下させるという高い有効性(グレードA)が認められたため、新たに住民検診への導入を目指す。この導入に向け、2026年度から希望する自治体でモデル事業を実施し、実施マニュアルの作成と課題整理を行う予定。その結果を踏まえ、早ければ2027年以降に指針に追加し、全国で導入される見通しである。また、乳がん検診についても、現在のガイドラインが2013年度版で古いことから、最新の医学研究成果を反映させるため、ガイドラインの更新を国立がん研究センターに依頼した。高濃度乳房で有用性が期待される「3Dマンモグラフィ」や「マンモグラフィ+超音波検査の併用」などの知見を整理し、今後の対策型検診への導入可能性が検討される。厚労省は、これらの検診方法の見直しを通じて、死亡率減少効果が高い検査に重点を置く「エビデンスに基づいたがん検診」への転換を加速させる。今後は、低線量CT導入に必要な実施体制の整備や、受診率の向上、住民への適切な情報提供などが課題となる。 参考 1) 第45回がん検診のあり方に関する検討会(厚労省) 2) 肺がん検診について(同) 3) 胸部X線と喀痰細胞診の併用法、肺がん検診から削除 指針改正へ(MEDIFAX) 4) たん検査、肺がん検診除外 喫煙率低下で効果小さく(共同通信) 5) 最新医学知見踏まえて乳がん検診ガイドライン更新へ、肺がん検診に「重喫煙者への低線量CT」導入し、喀痰細胞診を廃止-がん検診検討会(Gem Med) 3.かかりつけ医機能報告制度で「見える化」から「評価」へ/中医協厚生労働省は、中央社会保険医療協議会総会(中医協)を10月17日に開き、2026年度改定に向けて、2025年度から始まる「かかりつけ医機能報告制度」に関して、制度の背景や今後のスケジュールを説明するとともに、地域医療体制および診療報酬制度との関係を整理するための論点提示を行った。「かかりつけ医機能」の報告は、ほぼすべての医療機関(特定機能病院、歯科診療所を除く)に対して、2026年1~3月に(1)かかりつけ医機能を有するかどうか、(2)対応可能な診療領域・疾患、(3)在宅医療・介護連携・時間外対応の可否について、報告を求める。1号側(支払い側)の委員からは、「かかりつけ医機能報告制度」の項目(1次診療で対応可能な領域・疾患のカバー状況、研修医受け入れなど)と、機能強化加算などの施設基準・算定要件を整合させ、わかりやすい仕組みに再設計すべきと主張する意見が挙げられた。2号側(診療側)の委員からは、2040年像を見据えた制度を1年後の改定に直結させるのは「論外」と反発する意見が出た。改定の論点には、「大病院→地域医療機関」への逆紹介の実効性向上(2人主治医制の推進、情報連携の評価である「連携強化診療情報提供料」の要件緩和)や、外来機能分化の徹底も含まれている。厚労省の提案には、かかりつけ医側に(1)一次診療対応領域の明確化と提示、(2)地域の病院との双方向連携(紹介・逆紹介、共同管理)の定着、(3)データ提出の拡大・標準化が求められている。とくに機能強化加算は、報告制度の実績(対応疾患カバー、ポリファーマシー対策、研修体制など)とリンクした見直しが俎上に上がっており、基準の再整理や算定要件の具体化が想定される。開業医に対しては「対応可能領域・疾患の可視化」「紹介・逆紹介の運用記録」「連携書式・電子共有の整備」などの対応と提出するデータに根拠が求められる。一方で、情報連携加算の要件が緩和されれば、地域のかかりつけ医は大学病院などとの共同管理で報酬評価を得やすくなる可能性がある。全体として「報告制度による見える化」と「診療報酬での評価」をどの程度リンクさせるかで、支払側と診療側の主張が対立し、年末まで引き続き協議が続く見通し。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会 議事次第(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」報告、診療報酬と「整合を」支払側が主張 日医委員は「あり得ない」(CB news) 3) 大病院→地域医療機関の逆紹介をどう進めるか、生活習慣病管理料、かかりつけ医機能評価する診療報酬はどうあるべきか-中医協総会(Gem Med) 4.過去最高48兆円突破、国民医療費が3年連続更新/厚労省厚生労働省は10月10日、2023年度の国民医療費が48兆915億円に達し、前年度比3.0%増で3年連続の過去最高を更新したと発表した。1人当たりの医療費も38万6,700円と過去最高を記録している。医療費増加の主な要因は、高齢化の進展と医療の高度化に加え、コロナ禍後の反動やインフルエンザなどの呼吸器系疾患が増加したことが背景にあるとされる。とくに、医療費の負担は高齢者層に集中し、65歳以上が国民医療費全体の60.1%を占め、75歳以上の後期高齢者の医療費は全体の39.8%にあたる19兆円超となった。人口の大きなボリュームゾーンである団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に到達し始めている影響が顕著となり、2025年度に向けてこの傾向は続くとみられる。財源は、保険料が24.1兆円、公費が18.3兆円、患者負担が5.6兆円で構成されているが、患者負担額が前年度から4.5%増と最も高い伸びを示した。また、1人当たりの国民医療費には依然として大きな地域格差が残っており、最高額の高知県(49.63万円)と最低額の埼玉県(34.25万円)との間で1.44倍の開きがある。医療費の高い地域ではベッド数が多い傾向が指摘され、地域医療構想に基づく病床の適正化が課題として改めて浮き彫りとなった。厚労省は、国民皆保険制度の維持・継承のため、社会経済環境の変化に応じた医療費の適正化と改革を積み重ねる重要性を訴えている。 参考 1) 令和5(2023)年度 国民医療費の概況(厚労省) 2) 国民医療費、3年連続最高 23年度3%増(日経新聞) 3) 2023年度の国民医療費、3.0%増の48兆915億円…3年連続の増加で過去最高を更新(読売新聞) 4) 2023年度の国民医療費は48兆915億円、1人当たり医療費に大きな地域格差あり最高の高知と最低の埼玉とで1.44倍の開き―厚労省(Gem Med) 5.中堅病院の倒産1.5倍に、民間主導の統合・経営譲渡が進行/北海道全国の医療機関の経営環境が急速に悪化し、地域医療に直接影響を及ぼす段階に入っている。東京商工リサーチによると、2025年1~9月の病院・クリニックの倒産は27件と高水準で推移し、とくに病床20床以上の中堅病院の倒産が前年同期比1.5倍の9件に急増した。負債10億円以上の大型倒産も増加し、地域の基幹医療を担う施設が深刻な苦境に立たされている。この経営危機は、物価高、人件費上昇、設備投資負担といったコストアップ要因に加え、理事長・院長の高齢化、医師・看護師不足という構造的な課題が重なり発生している。また、自治体が運営する公立病院も約8割が赤字であり、医療業務のコストと診療報酬のバランスの崩壊が、医療機関全体を採算悪化に追い込んでいる。再編の動きは加速し、とくに北海道では江別谷藤病院(負債25億円)が、給与未払いの事態を経て、札幌の介護大手「ライフグループ」への経営譲渡が決定し、未払い給与が肩代わりされた。また、室蘭市では、日鋼記念病院を運営する法人が、経営難の市立病院との統合協議を棚上げし、国内最大級の徳洲会グループ入りを選択した。これは、公立病院の巨額赤字(年間約20億円)と人口減がネックとなり、民間主導での集約が進んでいるとみられる。こうした倒産・統合の波は、診療科の再配置、当直体制・人事制度の統一、電子カルテや検査体制の共有など、医師や医療者の勤務環境やキャリア設計に直接的な変化をもたらす。地域の医療提供体制を維持するため、再編の移行期における診療体制の維持と、地域住民・自治体との合意形成が、医療従事者にとって重要な課題となる。診療報酬の見直しやM&Aといった手段による医療機関の存続に向けた取り組みが急務となる。また、病院再編にあたっては、移行期の診療体制の維持や、患者の混乱を避けるため、地域住民への情報提供と、自治体との合意形成が鍵となる。 参考 1) 1-9月「病院・クリニック」倒産 20年間で2番目の27件 中堅の病院が1.5倍増、深刻な投資負担とコストアップ(東京商工リサーチ) 2) 負債額約25億円の江別谷藤病院 札幌の「ライフグループ」に経営譲渡(北海道テレビ) 3) 室蘭3病院、再編協議難航 市立病院の赤字ネックに…「日鋼」、徳洲会の傘下模索(読売新聞) 4) 赤字続きの兵庫県立3病院、入院病床130床休止へ…収支改善が不十分ならさらに減床も(同) 5) 突然の来訪、室蘭市に衝撃 日鋼記念病院の徳洲会入り検討、市立総合病院との統合に黄信号(北海道新聞) 6.美容医療大手が62億円申告漏れで追徴課税、SNS豪遊アピールが引き金か/国税庁全国で100以上のクリニックを展開する「麻生美容クリニック(ABC)グループ」が、大阪国税局など複数の国税局による大規模な税務調査を受け、2023年までの5年間で計約62億円の巨額な申告漏れを指摘されていたことが明らかになった。追徴税額は、重加算税などを含め約12億円に上るとみられている。申告漏れの主な原因は、グループ内の基幹法人「IDEA」と傘下の6医療法人の間で、医療機器などの仕入れ価格を約47億円分過大に計上していたと判断されたためである。これにより、各医療法人の課税所得が不当に圧縮されていた。また、患者から受け取った前受金(手付金)約10億円の計上漏れも指摘された。さらに、基幹法人IDEAが得た収入のうち約3億円が、売上記録の偽装など悪質な仮装・隠蔽を伴う所得隠しと認定され、重加算税の対象となった。法人の資金を個人的な用途に流用したとして、グループ関係者にも約2億円の申告漏れが指摘されている。グループ側は報道機関の取材に対し、税務調査の事実を認め、「見解の相違もあったが、当局の指導により修正申告と納税は完了している」とコメントしている。背景には、SNSの普及などで美容医療の市場が急拡大する一方、新規開設費や広告費がかさみ、収益性の低い法人の倒産・休廃業が増えるなど、美容医療業界の過当競争が激化している現状がある。また、グループを率いる医師やその息子が、自家用ジェットや高級車などの豪華な私生活をSNSで積極的に公開していたことが、税務当局による異例の大規模調査のきっかけの1つになった可能性も指摘されている。 参考 1) 美容医療グループが62億円申告漏れ(朝日新聞) 2) 麻生美容クリニックグループ、60億円申告漏れ 大阪国税局など指摘(日経新聞) 3) 「19歳で3,000万円のフェラーリを乗り回し…」 62億円申告漏れの美容外科医と息子が自慢していた豪遊生活(週刊新潮)

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がん治療の有害事象が減る!?高齢がん患者への機能評価【高齢者がん治療 虎の巻】第3回

<今回のPoint>高齢者総合機能評価(CGA)は、身体面・精神面・社会的要素などいくつかの構成要素から成り立つ高齢がん患者に対する機能評価は、治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測が目的CGA(GA)の実施には、多職種協働や診療科連携によるチーム医療が重要だが、最終評価者は医師または歯科医師が担う<症例>85歳・男性X年9月前医でS状結腸がんcStageIIaと診断し、腹腔鏡下S状結腸切除術施行X+1年4月前医で増大傾向にある肝腫瘤の指摘あり、大学病院消化器内科紹介受診X+1年5月生検の結果、肝内胆管がんstageIV(多発肝転移・多発リンパ節転移)の診断X+1年6月治療方針決定前の評価目的で同院老年科に紹介 評価で問題がなければ、治療開始(GCD療法[GEM+CDDP+デュルバルマブ])の予定。治療説明などの応答がしっかりせず、不安症状がみられる。CGA実施、診療報酬は50点日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えたことで、高齢のがん患者も増加し、高齢者診療や高齢者がん診療の重要性はより一層高まっています。その中でもとくに重要なことは、「高齢者の医療や生活を多面的に評価し、問題点を抽出し、適切な介入を行う」というプロセスです。このことを、高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)と呼び、老年医学の根幹となっています。入院中の患者(65歳以上の全員と特定疾患を有する40歳以上の一部)に関しては、CGAを行うことで、診療報酬点数「総合機能評価加算」50点(入退院支援加算として退院時1回)の算定ができます。算定にあたっては、日常生活力などを評価する必要があり、各医療職種が評価できますが、最終評価者は医師または歯科医師が行わなければなりません。CGAの構成成分には主に、身体機能・精神心理状態・社会的背景などが挙げられ(表1)、それらを元に生活機能や医療の評価を行います。日常生活動作(Activity of Daily Living:ADL)は、人が生活を送るために必要な動作のことであり、身体的な要素を主とした評価として、CGAの代表的な評価ツールとなっています。(表1)高齢者総合機能評価の構成要素画像を拡大する移動・食事・排泄・更衣・整容など、生きていく上で最低限必要な基本的な日常動作のことを基本的ADLと呼びます。一方で、買い物・調理・洗濯・金銭管理など、社会で自立した生活を送るために必要な動作のことを手段的ADLと呼びます。当院での総合機能評価加算の書式では、いくつかの項目を多職種でチェックし、日常生活動作、認知機能、気分・心理状態それぞれに対して、最終判定を担当医が行います。がん診療では“治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測が目的”ここまで、一般高齢者を対象としたCGAに関して述べましたが、がん患者に対する機能評価は、目的やアプローチがやや異なります。がん患者に対しては、「治療を実施するか否か」「どの治療法を選択するか」「治療に伴う有害事象がどの程度起こりうるか」といった診療方針決定に重要な情報が求められます。高齢者がん診療の領域においても、多面的な評価の重要性は広く示されてきました。しかし実際には、必要なケアを同定して介入につなげるというよりも、治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測などに使われることが多く、CGAではなく、GA(Geriatric Assessment)と称されます1)。なお、日本老年腫瘍学会のホームページ内では、CGAとGAの違いについて表2のようにまとめられております2)。(表2)CGAとGAの違い画像を拡大するがん診療のガイドラインでは、ECOG-PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)という、日常生活の活動レベルを5段階で表した指標によって治療方針が定められることも多いですが、ECOG-PSが良好でも、併存症の存在、手段的ADLの低下、栄養状態や認知機能の低下などにより、がん治療に対しての脆弱性を有しているケースはとても多いです。実際にGAが治療方針に与える影響も大きく、あるシステマティックレビューによると、GAの実施により、がん治療方針が変更された割合は28%(中央値)で、その変更の多くは、より強度の弱い治療へ変更されていました3)。また、根治不能な70歳以上の固形がん患者に対して、GAを行って結果と推奨マネジメントを治療担当医に提供することで、重篤な有害事象を有意に減らせられたといった報告もあります(1年後の生存率は変わらず)4)。GAに含めるべき必須の重要ドメインとして、身体機能、認知機能、心理状態、併存疾患、栄養状態、多剤併用、社会的サポートなどが挙げられます5)。特徴として、がん治療を念頭に置いているため、「治療に耐えられるか」という観点から、とくに重要な要素として、栄養状態や併存疾患が入ります。また、近年、GAにおいて評価を行うだけではなく、CGAのように、結果に基づいたマネジメントを行うこと(GA-guided management:GAM)(第2回参照)が強く推奨されてきています。さらに、個別化した治療計画の立案、有害事象の予測、介入すべき問題を特定することに加え、意思決定支援のために、GAの結果を患者と家族に提供することも推奨されます。冒頭に示した症例では、GAを施行したところ、元々バイタリティにあふれた性格でしたが、家族の病気や家族との関係性、また自身への立て続けのがんの告知などにより、診察時には心身共にエネルギー切れの、うつ傾向の心理状態であることがわかりました。さらには、独居であり、スムーズに家族のサポートを得ることも難しい状態でもありました。これらの情報を元に腫瘍専門医と協働し、多職種との連携も通して意思決定のサポートを行い、化学療法に伴う副作用の説明も含めて、治療の準備を行いました。その結果、予定通りGCD療法が通常量で投与されました。1)Wildiers H, et al. J Clin Oncol. 2014;32:2595-2603.2)日本老年腫瘍学会:CGAとGA3) Hamaker ME, et al. J Geriatric Oncol. 2018;9:430-440. 4)Mohile SG, et al. Lancet. 2021;398:1894-1904.5)Dale W, et al. J Clin Oncol. 2023;41:4293-4312.講師紹介

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地中海式ダイエットは歯周病も予防する?

 地中海式ダイエットは、心臓病や神経変性疾患、がんなどさまざまな健康問題の予防に役立つことが示唆されているが、歯周病の重症度とも関連することが、新たな研究で明らかにされた。地中海式ダイエットの遵守度が低い人や赤肉の摂取頻度が高い人では、歯周病が重症化しやすい傾向があることが示されたという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のGiuseppe Mainas氏らによるこの研究結果は、「Journal of Periodontology」に9月15日掲載された。 地中海式ダイエットは、果物、野菜、全粒穀物、ナッツ類、豆類、オリーブ油などの健康的な脂肪の摂取を重視し、魚、鶏肉、脂身の少ない肉、乳製品を適度に摂取する一方で、赤肉、菓子類、甘い飲み物、バターなどを控える食事法である。Mainas氏は、「われわれの研究結果は、バランスの取れた地中海式ダイエットが歯周病や全身性炎症を軽減し得ることを示唆している」とKCLのニュースリリースの中で述べている。 本研究では、KCLの口腔・歯科・頭蓋顔面バイオバンク研究に参加した195人の患者のデータを分析し、食事と歯周病、歯茎および全身の炎症との関連を検討した。対象者は、完全な歯科検診を受け、血液サンプルを提供し、食物摂取頻度調査票(FFQ)に回答した。研究グループは、FFQへの回答内容から地中海式ダイエットの遵守度を評価した。また、血液サンプルから、炎症マーカーであるC反応性蛋白(CRP)、歯周病に関与する酵素であるMMP-8(マトリックスメタロプロテアーゼ-8)、炎症や免疫応答に関与するさまざまなサイトカイン(インターロイキン〔IL〕-1α、IL-1β、IL-6、IL-10、IL-17)の血清レベルを測定した。 195人のうち112人は地中海式ダイエットの遵守度が高い群に分類された。多変量解析の結果、地中海式ダイエットの遵守度が高い群では低い群に比べて、重度の歯周病(ステージⅢ、Ⅳ)のオッズが有意に低いことが明らかになった(オッズ比0.35、95%信頼区間0.12〜0.89)。食品群別に検討すると、赤肉の摂取頻度の高さは重度の歯周病と独立して関連していた(同2.75、1.03〜7.41)。さらに、歯周病の重症度は炎症マーカー(CRP、IL-6)と関連しており、IL-6との関連は交絡因子を調整後も有意だった。一方で、野菜や果物などの植物由来の食品を多く摂取すると、炎症マーカーが低くなる傾向が認められた。 Mainas氏は、「歯周病の重症度、食事、そして炎症の間には関連性がある可能性があるため、患者の歯周病に対する治療方針を決める際には、これらの側面を総合的に考慮する必要がある」と話している。 研究グループは、タンパク質を多く含む食事は有害な細菌の増殖を促す口腔環境を作り出す可能性があると指摘する。論文の上席著者でKCL歯周病学教授のLuigi Nibali氏は、「バランスの取れた食事が歯周組織の健康状態を維持する上で役割を果たしていることを示唆するエビデンスが増えつつある。われわれの研究は、栄養価が高く植物性食品を多く含む食事が歯肉の健康改善に寄与する可能性があることを示している。しかしながら、人々が歯肉の健康を管理するための個別化されたアプローチを開発するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。

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歯肉炎の改善に亜鉛が影響?

 歯周病は心血管疾患や糖尿病、脳梗塞などの疾患リスクに影響を及ぼすことが示唆されている1,2)。今回、トルコ・Cukurova UniversityのBahar Alkaya氏らは、歯周病の初期段階とされる歯肉炎の管理において、歯科用の亜鉛含有ステント(マウスピース型器具)が機械的プラークコントロールの補助として有益であることを示唆し、歯肉炎が亜鉛によって改善したことを明らかにした。 本研究は、歯肉炎患者での歯肉の炎症、出血、歯垢の再増殖に対する亜鉛含有ステントの効果を調査したもの。Cukurova Universityにおいて、全身的に健康な18~30歳の歯肉炎患者42例を対象に、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。参加者は試験群(亜鉛含有ステント)または対照群(プラセボステント)に割り付けられ、歯石除去後4週間、毎日12時間以上にわたって器具を装着するよう指示された。評価項目は歯肉炎指数(GI)*1、プラーク指数(PI)*2、プロービング時の出血(BOP)*3などで、ベースライン時、2週目、4週目、8週目に評価が行われた。統計解析にはIBM SPSSおよびRStudioの統計ソフトウェアが用いられた。*1:歯肉の炎症度を数値化した指標*2:歯の表面へのプラーク付着状態を数値化した指標*3:探針による歯周ポケットの深さを測定した指標(歯茎からの出血の有無を調べる) 主な結果は以下のとおり。・両群とも、時間の経過とともに歯肉の健康状態が統計学的に有意に改善したが、亜鉛含有ステント群はすべての時点でGIスコアが統計学的に有意に低下し、歯肉の炎症がより大きく軽減された。・PIスコアとBOPスコアは両群で改善したが、両群間に統計学的有意差は認められなかった。 亜鉛による抗菌作用および抗炎症作用は、歯肉の健康改善に寄与する可能性が高いといわれており、本研究結果は亜鉛含有ステントが機械的プラーク除去単独実施に加えて、歯肉炎の軽減にさらなる効果をもたらすことを示唆している。ただし、研究者らは「より広範な臨床応用を確認するためにさらなる長期研究が必要」としている。

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第282回 次期総裁選目前!候補5人の公約を徹底比較

INDEX小泉 進次郎氏 神奈川11区・6期小林 鷹之氏 千葉2区・5期高市 早苗氏 奈良2区・10期林 芳正氏 山口3区・2期(参院・山口選挙区5期)茂木 敏充氏 栃木5区・11期7月の参院選で連立する公明党と合わせても過半数を維持できなかった自民党。1955年の結党以来、衆参両院とも自民党が属する側が過半数を割ったのは初のことであり、以来、首相である石破 茂氏の退陣を求める、いわゆる石破おろしの動きが浮上し、党内が荒れていた。しかし、9月7日に石破氏が自民党総裁辞任を発表したことで、自民党は一気に総裁選モードに移行した。9月22日に告示された総裁選には昨年も出馬した5人が再度顔をそろえた。50音順で小泉 進次郎氏(44)、小林 鷹之氏(50)、高市 早苗氏(64)、林 芳正氏(64)、茂木 敏充氏(69)。派閥解消の影響もあってか石破氏とこの5人を含む合計9人が出馬した昨年の総裁選では、全候補の社会保障、医療・介護政策を前編と後編に分けて紹介した。ということで、今回は再挑戦した5人の社会保障、医療・介護政策を前回マニフェストとの比較も含め、独断と偏見の評価も交えながらお伝えしたい。小泉 進次郎氏 神奈川11区・6期言わずと知れた、自民党内で一時「変人」と呼ばれた元首相・小泉 純一郎氏の次男である。閣僚経験は環境相、内閣府特命担当相(原子力防災担当、気候変動担当)、農林水産相で、一見すると厚生労働行政には縁もゆかりもないように見えるが、実は2018年に自民党厚生労働部会長を経験している。前回の総裁選は党刷新を前面に出したためなのか、今の日本では最重要課題と言っても過言ではない少子高齢化に伴う社会保障制度関連の政策は、マニフェスト上皆無というぶったまげたことをやってのけた御仁である。今回は「立て直す。国民の声とともに」というキャッチフレーズの下、大項目として7つの政策を打ち出した。そのうち3番目で以下のような社会保障関連、医療・介護政策に言及している。3. 社会保障・教育子供から子育て世代、お年寄りまで、すべての世代が安心できる、全世代型社会保障制度を実現する。そのために、与野党協議を真摯に進める医療・介護・保育・福祉・教育など公的分野で働く方々の物価上昇を上回る処遇改善の実現率直に言ってどちらも目新しさはない。処遇改善は自民党内外を問わずに多くの政治家や政党が掲げる政策でもある。前者の全世代型社会保障制度も現状路線の維持だが、こと小泉氏にとっては別の意味も持つと言える。というのも、現在の全世代型社会保障制度という概念の下、定着しつつある改革の方向性として「年齢ではなく経済力に応じた負担」を自民党として打ち出したのが、まさに小泉氏が党厚生労働部会長時代であり、なおかつ彼自身がこの方向性の主導者と言われているからである。なお、大項目「5.防災・治安対策」では、昨今の保守層を中心に話題となりがちな外国人問題について言及しているが、小泉氏自身のホームページではより具体的に「医療保険制度などの制度の不適切利用の是正」を掲げている。ここからは党内でも比較的リベラルと受け止められている小泉氏が支持のウイングを広げようとしている様子がうかがえる。小林 鷹之氏 千葉2区・5期前回の総裁選で彗星のごとく登場した小林氏。大蔵省(現・財務省)に入省し、在米日本大使館赴任時代の民主党政権下で日米関係が崩壊していく様子を目の当たりにした危機感から政治家を志したという。こうした経緯もあってか、今回の5人の中では高市 早苗氏と並んで保守色の強い政治家である。総裁選のキャッチフレーズは「挑戦で拓く 新しい日本」。この下で5つの主要政策項目を掲げている。社会保障関連、医療・介護政策は以下のようなものだ(数字は小林氏の政策マニフェストで記載された順番。◇は中項目)。1. 力強く成長するニッポン◇現役世代の社会保険料負担軽減医療DXの推進、重複の解消・予防インセンティブの導入、保険適用範囲の見直しなどについて、「社会保障国民会議」を設置し、国民皆保険・社会保障制度の持続など国民の安心を守りながら包括的改革◇デフレから成長経済への移行期対策医療・看護・介護等公定価格分野での人材確保・処遇改善2. 自らの手で守り抜くニッポン◇医療安全保障ドラッグラグ・ロス問題の解消原薬およびサプライチェーンの外国依存からの脱却ワクチン・診断薬・治療薬などの感染症危機対応医薬品の開発・確保の強化3.結束するニッポン◇少子化対策・こども政策出産体制確保と負担軽減の両立「ニッポン」を連発するところが保守色の強い小林氏らしさとも言える。政策の中にある「社会保障国民会議」については、前回の総裁選では「社会保障未来会議(仮称)」としていた。「現役世代の社会保険料負担軽減」は前回の総裁選とほぼ同じ政策である。前回はより給付削減を打ち出していた。また、予防インセンティブは、参院選での参政党の政策を彷彿とさせる。具体策までは踏み込んでいないが、東大から財務省というリアルな政策の場を渡り歩いてきた小林氏が、このインセンティブ政策の細部設計でさすがに参政党レベルはあり得ないだろうとは思うが、どのような構想を持っているかは個人的に興味があるところだ。「デフレから成長経済への移行期対策」は今回新たに登場したが、小泉氏のところで触れたように目新しさはない。2では新たに「医療安全保障」というワードを繰り出してきた。正直、その意味するところがわかるようなわからないような…。また、ここに書かれた各項目は、やはり保守政治家らしいと言えるが、以前から私自身は繰り返し言っているように、創薬、医薬品サプライチェーンのボーダレス化が進んでいる中では空疎にしか見えない。言っちゃ悪いが、保守層受けの良い政策を無機質に並べたようにも映る。ちなみに前回はゲノム創薬の強化を打ち出していたが、今回はその項目は消えている。また、同じく前回は「医師・診療科の偏在是正」や「医療法人改革」を掲げていたが、これも今回のマニフェストからは消えた。高市 早苗氏 奈良2区・10期前回総裁選の1回目投票で1位となりながら、決選投票で石破氏に敗れた高市氏。無所属で国会議員となり、そこから自由党(党首・柿澤 弘治氏)→自由改革連合(代表・海部 俊樹氏)→新進党(党首・海部 俊樹氏)→自民党と渡り歩き、自民党内で5度の閣僚経験、党三役の政調会長を務めたバルカン政治家である。今回のマニフェストキャッチフレーズは「日本列島を、強く豊かに。」である。マニフェストの大項目は5つだが、その大部分を1番目が占めている。社会保障、医療・介護領域の政策もすべてここに含まれている。中身は以下の通りだ。1.大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『暮らしの安全・安心』の確保と『強い経済』を実現。◇経済安全保障の強化と関連産業の育成経済安全保障に不可欠な成長分野(AI、半導体、ペロブスカイト・全固体電池、デジタル、量子、核融合、マテリアル、合成生物学・バイオ、航空・宇宙、造船、創薬、先端医療、送配電網、港湾ロジスティクスなど)に、分野毎の官民連携フレームワークにより積極投資を行ない、大胆な投資促進税制を適用◇健康医療安全保障の構築地域医療・福祉の持続・安定に向け、コスト高に応じた診療・介護報酬の見直しや人材育成支援「攻めの予防医療」(がん検診陽性者の精密検査・国民皆歯科健診の促進等)を徹底することで、医療費の適正化と健康寿命の延伸を共に実現ワクチンや医薬品については、原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制を構築再生・細胞医療、遺伝子治療分野、革新的がん医療、認知症治療等に係る研究開発と社会実装を促進長年の取組で実現した「女性の健康」ナショナルセンター機能の構築を推進この政策をざっと眺めると、小林氏とかなり相似性が高いことがわかるだろう。とくに「健康医療安全保障」という造語などが代表的だ。むしろ文言上の政策は高市氏のほうが充実していると言えるかもしれない。「コスト高に応じた診療・介護報酬の見直し」などは、ウクライナ戦争に端を発した物価高により経営難にあえぐ医療機関・介護施設の経営者にとっては首が振りきれるほど頷く政策だろう。一方で小林氏のところでも指摘した予防医療の推進とワクチン・医薬品の国産化については、個人的には「ふーん」という感じである。予防医療自体は悪いことではないが、そのコスト・パフォーマンスの悪さは医療現場に身を置く人なら誰しもが気付いていることだろうし、ワクチン・医薬品の国産化については前回の小林氏の政策のところで述べたとおりだ。一言で言うならば、「現場を知らないのだろう」という印象である。ここで高市氏と小林氏の政策についてまとめて言及すると、私個人は社会保障とは国家の存立基盤の1つであり、経済成長の有無とは関係なく持続性を持つものでなければならないと考えている。その前提に立つと、この分野の政策ほぼすべてが経済成長を視野に入れて立案されていることには、かなり違和感がある。林 芳正氏 山口3区・2期(参院・山口選挙区5期)石破内閣では内閣官房長官を務めたが、5人の候補者の中では地味めである。もっとも参院議員として4度も入閣をしたのは戦後、林氏ただ1人である。また、総裁選出馬は今回が3度目で、1回目は参院議員時代の2012年。自民党総裁選で推薦人制度導入以降に参院議員が名乗りを上げたのも林氏が初。失礼を覚悟で言えば、見た目以上に“武勇伝”がある人物なのである。今回の総裁選では「経験と実績で未来を切り拓く」をキャッチフレーズに掲げた。前回は「人にやさしい政治。」で、いずれもやはり地味である。また、余談を言うと、今回の総裁選で使っている本人の写真は右手でガッツポーズしたスタイルである。率直に言うと、このポーズは地方選挙での新人候補のポスターでこそよく見かけるパターンだが、ベテラン政治家ではあまり見かけないアピールパターンである。さてマニフェストは「林よしまさが掲げる政策 林プラン」と題したもので、大項目は6項目。その1番目と3番目に関連政策の記述がある。以下のような内容である。1.経済対策・成長戦略・教育改革創薬力の強化3.社会保障・福祉医療・介護・福祉人材の大幅な処遇改善生涯を通じた歯科検診(国民皆歯科健診)に向けた具体的取組医師・看護師確保対策経済政策としての創薬力強化は、実は岸田政権時の「創薬エコシステムサミット」開催以来の政策であり、林氏がかつて岸田派だったことを考えれば、むしろ自然な流れと言える。次なる社会保障・福祉の項目内は、ざっと見ればごくごくありきたりなモノばかりである。ちなみに国民皆歯科健診は高市氏も掲げているが、実は従来から自公政権下での骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)に記載されており、石破政権期の国政選挙の政策集にも組み込まれている。一方で、医師・看護師確保対策の具体的な記述はないが、前回の総裁選では「医師の偏在是正」「大学病院の派遣機能強化」も掲げていた。今回はこの2つの記述はないが、おそらく医師・看護師確保対策という文言に含まれているのだろう。そして直接の社会保障、医療・介護政策ではないが、私個人は大項目5番目「党・政治・行政改革」に記載された「現行の1府12省庁体制の検証、省庁再々編に向けた議論」が目に留まった。省庁再々編を議論する場合、似て非なる業務を行う旧厚生省と旧労働省を無理やり一つにした、半ばユニットバスのような厚生労働省が真っ先に的になることは必然。林氏だけでなく、そのことを視野に入れている勢力は自民党に一定程度いるのだろうと改めて認識させられた。茂木 敏充氏 栃木5区・11期もともとは旧日本新党出身という“外様”ながら、経済産業相、外相という重要閣僚、幹事長という自民党4役の要を経験し、さらには旧田中派・経世会に源流を持つ自派閥(旧茂木派)まで有していた茂木氏。今回の総裁選では真っ先に出馬に名乗りをあげた。マニフェストのキャッチフレーズは「結果を出す」。この下で実行プランと称する6つの大項目を掲げている。その最後に社会保障関連について以下のように言及している。●国家、国民を守り抜く◇社会保障、外交そして憲法改正で安心安全な国づくり負担能力に応じた誰もが安心・納得の社会保障制度の確立基本的に小泉氏と同じ全世代型社会保障制度を支持しているスタンスである。前回総裁選では、デジタル活用による負担と給付の透明化や在職老齢年金制度の見直しまで訴えていた。おそらくこの辺は本質的に変更してはいないのだろうが、高齢層から反発が予想される内容だけに文言上今回はかなりマイルドにしたのかもしれない。さてここまで5人の政策を評価したが、どうやら総裁選そのものの情勢は小泉氏vs.高市氏の2強対決に林氏が3番手に絡み票を伸ばしている状況らしい。とくに小泉陣営では、週刊文春が報じた「やらせ応援メッセージ書き込み依頼事件」もあり、それによる失票が林氏に回っている構図のようだ。いずれにせよ来週にはもう自民党総裁、いわば総理大臣最有力候補が決定している。結果はいかに?

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第262回 風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO

<先週の動き> 1.風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO 2.全国で「マイナ救急」導入、救急現場で医療情報を共有可能に/消防庁 3.分娩可能な病院は1,245施設に、34年連続減少/厚労省 4.高額レセプトの件数が過去最高に、健康保険組合は半数近くが赤字/健保連 5.アセトアミノフェンと自閉症 トランプ大統領の発表で懸念拡大/米国 6.救急搬送に選定療養費 軽症患者が2割減、救急車の適正利用進む/茨城・松阪 1.風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO厚生労働省は9月26日、「わが国が風疹の『排除状態』にあると世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局から認定を受けた」と発表した。「排除」とは、国内に定着した風疹ウイルスによる感染が3年間確認されないことを指し、わが国では2020年3月を最後に土着株の感染例が報告されていなかった。風疹は、発熱や発疹を引き起こす感染症で、妊婦が感染すると先天性風疹症候群を発症した子供が生まれるリスクがある。国内では2013年に約1万4千人が感染し、2018~19年にも流行が発生。過去には妊婦の感染により、45例の先天性風疹症候群が報告されていた。流行の中心は予防接種の機会がなかった40~50代の男性であり、国は2019年度からこの世代を対象に無料の抗体検査とワクチン接種を実施した。その結果、2021年以降は年間感染者数が10人前後に抑えられ、感染拡大は収束した。今回の認定はこうした取り組みの成果を示すもので、厚労省は「引き続き適切な監視体制を維持し、ワクチン接種を推進する」としている。一方で、海外からの輸入例は依然としてリスクが残る。今後も免疫のない世代や妊婦への周知徹底が課題となる。風疹排除はわが国の公衆衛生政策の大きな成果だが、維持のためには医療現場と行政が協力し続ける必要がある。 参考 1) 世界保健機関西太平洋地域事務局により日本の風しんの排除が認定されました(厚労省) 2) 風疹の土着ウイルス、日本は「排除状態」とWHO認定…2020年を最後に確認されず(読売新聞) 3) WHO 日本を風疹が流行していない地域を示す「排除」状態に認定(NHK) 4) 日本は風疹「排除状態」、WHO認定 土着株の感染例確認されず(朝日新聞) 2.全国で「マイナ救急」導入、救急現場で医療情報を共有可能に/消防庁救急現場での情報確認を迅速化する「マイナ救急」が、10月1日から全国の消防本部で導入される。マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」を活用し、救急隊員が、患者の受診歴や処方薬情報を即時に確認できる仕組みである。患者本人や家族が説明できない状況でも、カードリーダーで情報を読み取り、オンライン資格確認システムに接続して必要な医療情報を閲覧できるようになる。これにより、救急隊は持病や服薬を把握した上で適切な搬送先を選定し、受け入れ先の医療機関では治療準備を事前に進めることが可能となる。患者が意識不明の場合には、例外的に同意なしで情報参照が認められる。2024年5月から実施された実証事業では、救急隊員から「服薬歴の把握が容易になり、搬送判断に役立つ」との評価が寄せられた。わが国では高齢化に伴い、多疾患併存やポリファーマシーの患者が増加している。救急現場での服薬歴不明は治療遅延や薬剤相互作用のリスクにつながるため、本制度は臨床現場の安全性向上に資する。その一方で、救急時に確実に活用するためには、患者自身がマイナ保険証を常時携帯することが前提となる。厚生労働省と消防庁は「とくに高齢者や持病のある方は日頃から携帯してほしい」と呼びかけている。マイナ保険証の登録件数は、2025年7月末時点で約8,500万件に達しているが、依然として所持率や利用登録の偏りは残る。医師にとっては、救急現場から搬送される患者情報がより早く共有されることで、初期対応の迅速化や医療安全の強化が期待される。他方、情報取得の精度やシステム障害時の対応など、運用上の課題にも注意が必要となる。「マイナ救急」は、地域を越えて情報を共有し、救急医療の質を底上げする国家的インフラの一環であり、今後の運用実績を踏まえ、医療DXの具体的成果として浸透するかが注目される。 参考 1) あなたの命を守る「マイナ救急」(総務省) 2) 救急搬送時、マイナ保険証活用 隊員が受診歴など把握し適切対応(共同通信) 3) 「マイナ救急」10月から全国で 受診歴や服用薬、現場で確認(時事通信) 3.分娩可能な病院は1,245施設に、34年連続減少/厚労省厚生労働省が公表した「令和6年医療施設(動態)調査・病院報告」によれば、2024年10月1日現在、全国の一般病院で産婦人科や産科を掲げる施設は計1,245施設となり、前年より9施設減、34年連続の減少で統計開始以来の最少を更新した。小児科を有する一般病院も2,427施設と29施設減少し、31年連続の減少となった。全国的に病院数そのものが減少傾向にあり、とくに周産期・小児医療を担う診療科の縮小は地域医療体制に大きな影響を及ぼすとみられる。調査全体では、全国の医療施設総数は18万2,026施設で、うち活動中は17万9,645施設。病院は8,060施設で前年比62施設の減、一般病院は7,003施設と62施設の減、診療所は10万5,207施設で微増、歯科診療所は6万6,378施設で440施設の減となった。病床数でも全体で約1万4,663床減少し、とくに療養病床と一般病床が減少した。病院標榜科の内訳をみると、内科(92.9%)、リハビリテーション科(80.5%)、整形外科(69.1%)が多い一方で、小児科は34.7%、産婦人科15.0%、産科2.8%にとどまる。産婦人科と産科を合わせた比率は17.8%であり、地域により分娩を担う施設が極端に限られる状況が続いている。また、病院報告では、1日当たりの外来患者数が前年比1.7%減の121万2,243人と減少した一方、在院患者数は113万3,196人で0.8%増加し、平均在院日数は25.6日と0.7日短縮した。医療需要は依然高水準である一方で、入院期間短縮と医療資源の集約化が進む姿が浮かんだ。今回の結果は、産科・小児科医師の偏在や医師不足が長期的に続いている現実を裏付けるものであり、医師にとっては、地域における出産・小児救急の受け皿が細り続ける中で、救急搬送の広域化や勤務負担の増大が避けられない。各地域での分娩体制再編や周産期医療ネットワーク強化の重要性が一層高まっている。 参考 1) 令和6年医療施設(動態)調査・病院報告の概況(厚労省) 2) 産婦人科・産科が最少更新 34年連続、厚労省調査(東京新聞) 3) 産婦人科・産科がある病院1,245施設に、34年連続の減少で最少を更新 厚労省調査(産経新聞) 4.高額レセプトの件数が過去最高に、健康保険組合は半数近くが赤字/健保連健康保険組合連合会(健保連)は9月25日、「令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要」を発表した。1ヵ月の医療費が1,000万円を超える件数は2,328件(前年度比+8%)で10年連続の最多更新となり、過去10年で6倍超に増加した。上位疾患の約8割は悪性腫瘍で、CAR-T療法や遺伝子治療薬などの登場が背景にある。最高額は約1億6,900万円で、単回投与型の薬剤を用いた希少疾患治療が占めた。これらの薬剤は患者に新たな治療選択肢を提供し、長期生存やQOL改善につながる一方で、健保組合の財政に直結する。健保連の制度により高額事例は共同で負担される仕組みだが、件数増加は拠出金を押し上げ、結果として保険料率や現役世代の負担増につながる。実際に2024年度の平均保険料率は9.31%と過去最高となり、1/4の組合は「解散ライン」とされる10%を超えた。臨床現場にとっても影響は現実に及ぶ。新規薬剤を希望する患者からの説明要請が増えており、医師は「なぜこの薬が高額なのか」「自分に適応があるのか」「高額療養費制度でどこまで自己負担が軽減されるのか」といった質問に直面している。加えて、長期投与が前提となる免疫療法や分子標的薬では、累積コストや再投与リスクについても説明が欠かせない。患者や家族が治療継続の是非を判断する際、経済的側面を含めた十分な情報提供が求められる。今後は、がん免疫治療の投与拡大、希少疾患への新規遺伝子治療薬導入などにより、高額レセプトはさらに増加すると予測される。薬価改定で一定の調整は行われるが、医療費全体に占める薬剤費の比重は確実に高まり、制度改革や患者負担の見直し議論は避けられない。現場の医師には、エビデンスに基づく適正使用とともに、経済的影響を含めた説明責任がより重くのしかかる局面にある。 参考 1) 令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要(健保連) 2) 高額レセプト10年連続で最多更新 24年度は2,328件 健保連(CB news) 3) 「1,000万円以上」の高額医療8%増 費用対効果の検証不可欠(日経新聞) 4) 綱渡りの健康保険 組合の4分の1、保険料率10%の「解散水準」に(同) 5) 健保1,378組合の半数近く赤字、保険料率が過去最高の月収9.3%…1人あたりの年間保険料54万146円(読売新聞) 6) 健保連 昨年度決算見込み 全体は黒字も 半数近くの組合が赤字(NHK) 5.アセトアミノフェンと自閉症 トランプ大統領の発表で懸念拡大/米国米国トランプ大統領は9月22日、解熱鎮痛薬アセトアミノフェン(パラセタモール)が「妊婦で自閉スペクトラム症(ASD)リスクを大幅に上げる」として服用自粛を促した。これに対し、わが国の自閉スペクトラム学会は「十分な科学的根拠に基づく主張とは言い難い」と懸念を表明している。米国産科婦人科学会(ACOG)も「妊娠中に最も安全な第一選択肢」と反論。WHO、EU医薬品庁、英国規制当局はいずれも「一貫した関連は確認されていない」とし、現行推奨の変更不要とした。一方、米国の現政権は葉酸関連製剤ロイコボリンのASD治療薬化にも言及したが、大規模試験の根拠は乏しい。わが国の医療現場にも余波は広がり、妊婦・家族からの不安相談が増加する懸念や、自己判断での服用中止による解熱の遅延、SNS起点の誤情報拡散が想定されている。妊娠中の高熱は、胎児に不利益を与え得るため、わが国の実務ではアセトアミノフェンは適応・用量を守り「必要最小量・最短期間」で使用するのが原則となっている。他剤(NSAIDs)は妊娠後期で禁忌・慎重投与が多く、安易な切り替えは避けるべきとされる。診療現場では、現時点で因果を支持する一貫した証拠はないこと、高熱の速やかな改善の利点、自己中断せず受診・相談すること、市販薬も含む総服薬量の確認を丁寧に説明することが求められる。ASDの有病増加には、診断基準変更やスクリーニング拡充も影響し、単一因子で説明できない点もあり、過度な警告は受療行動を阻害し得る。医師には、ガイドラインや専門学会の公的見解に基づく対応が求められる。 参考 1) 自閉症の原因と治療に関するアメリカ政府の発表に関する声明(自閉スペクトラム学会) 2) WHO アセトアミノフェンと自閉症「関連性は確認されず」(NHK) 3) トランプ政権“妊婦が鎮痛解熱剤 自閉症リスク高” 学会が反対(同) 4) トランプ氏「妊婦の鎮痛剤、自閉症リスク増」主張に日本の学会が懸念(日経新聞) 5) 解熱剤と自閉症の関連主張 トランプ大統領に批判集中(共同通信) 6) 「鎮痛剤が自閉症に関係」 トランプ政権が注意喚起へ(時事通信) 6.救急搬送に選定療養費 軽症患者が2割減、救急車の適正利用進む/茨城・松阪救急搬送の「選定療養費」徴収を導入した2つの自治体で、適正利用の進展が確認された。三重県松阪地区では、2024年6月~2025年5月に基幹3病院で入院に至らなかった救急搬送患者の一部から7,700円の徴収を開始した。1年間の救急出動は1万4,184件で前年同期比-10.2%、搬送件数も-10.6%。軽症率は55.4%から50.0%へ-5.4ポイント、1日50件以上の多発日は86から36日へ減少した。搬送1万4,786人(乳幼児193人を含む)のうち帰宅は7,585人(51.3%)、徴収は1,467人(全体の9.9%)。疼痛・打撲・めまいなどが多かった。並行して1次救急(休日・夜間応急診療所)受診が31%、救急相談ダイヤル利用が34%増え、受診先の振り分けが進んだ。茨城県の検証(2025年6~8月)でも、対象22病院の徴収率は3.3%(673/20,707)と限定的ながら、県全体の救急搬送は-8.3%、うち軽症などは-19.0%、中等症以上は+1.7%と、救急資源の選別利用が進んだ。近隣5県より減少幅が大きく、呼び控えによる重症化や大きなトラブルの報告は認められなかった。なお、電話相談で「出動推奨」だった例は徴収対象外とし、誤徴収は月1件程度で返金対応としている。現場の医師は、徴収対象と除外基準の周知徹底、乳幼児や高齢者などへの配慮のほか、1次救急・電話相談との連携による適正振り分け、会計時の説明の一貫性などが課題となる。今後は「安易な利用抑制」と「必要時にためらわず利用できる安心感」の両立を、医師と行政が協働して救急現場に反映させることが問われている。 参考 1) 救急搬送における選定療養費の徴収に関する検証の結果について(概要版)(茨城県) 2) 一次二次救急医療体制あり方検討について(第四次報告)(松阪市) 3) 軽症者の救急搬送19%減 茨城県が「選定療養費制度」を検証(毎日新聞) 4) 選定療養費 軽症搬送、前年比2割減 6~8月 茨城県調査「一定の効果」(茨城新聞) 5) 救急搬送の一部患者から費用徴収、出動件数は1年間で10.2%減 松阪市「適正利用が進んだ」(中日新聞) 6) 救急車「有料化」で出動数1割減 「持続可能な医療に寄与」と松阪市(朝日新聞)

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口の中の健康状態が生活習慣病リスクを高める可能性

 口の中の健康状態が良くないことと、高血糖や脂質異常症、腎機能低下など、さまざまな生活習慣病のリスクの高さとの関連性が報告された。藤田医科大学医学部歯科口腔外科学講座の吉田光由氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Oral Rehabilitation」に4月17日掲載され、7月10日に同大学のサイト内にプレスリリースが掲載された。 この研究では、機能歯数(咀嚼に役立っている歯の数)や舌苔の付着レベルなどが、空腹時血糖値やHbA1c、血清脂質値などと関連していることが明らかになった。吉田氏はプレスリリースの中で、「われわれの研究結果は全体として、口腔機能の低下が生活習慣病のリスクとなり得ることを示唆している。よって良好な口腔の健康を維持することは、全身の健康を維持するための第一歩と考えられる」と述べている。 吉田氏らは、2021年と2023年に同大学病院で健診を受けた50歳以上の成人118人(男性80人、女性38人)のデータを解析に用いた。全身の健康状態については、空腹時血糖値、HbA1c、善玉コレステロール(HDL-C)、悪玉コレステロール(LDL-C)、尿素窒素(BUN)、推算糸球体濾過率(eGFR)で評価し、それぞれが基準値の範囲内か基準値を外れているかで2群に群分けした。一方、対象者の口腔の状態や機能については、機能歯数、最大舌圧、咀嚼機能、嚥下機能、舌苔指数、口腔乾燥度、および、口唇や舌の運動の滑らかさの指標である「口腔ダイアドコキネシス(OD)」という、計7種類の検査で把握した。なお、ODは、特定の音節を繰り返す速度と正確さを評価する。 解析の結果、全身の健康状態を表す検査値が基準値内か基準値外かで、口腔状態を表す検査の結果に、以下のような有意差が認められた。まず、糖代謝に異常がある(空腹時血糖値やHbA1cが高い)人は、機能歯数が少なくOD値が有意に低かった。また、脂質代謝に異常がある(HDL-Cが低い、LDL-Cが高い)人は、舌苔指数が有意に高くOD値が有意に低かった。さらに、腎機能が低下している(eGFRが低い、BUNが高い)人は、機能歯数が少なくて舌苔指数が高く、OD検査での「た」や「か」の発音の滑らかさが低下していた。 著者らは、「本研究は観察研究であるため、直接的な因果関係の解釈は制限される」とした上で、「認められた全身性疾患と口腔状態の関連性は、逆の方向性を表している可能性もある。つまり、全身の健康状態の悪化が口腔状態を悪化させるというよりも、口腔状態が良くないことが、全身性慢性疾患のリスクを高めるのではないか」と考察。そのメカニズムとして、「口腔ケアが十分でない場合、口の中で細菌が増殖したり、歯肉に炎症が生じたりする。それらが全身の健康状態に悪影響を及ぼすと考えられる」と解説している。 研究チームでは、「口の中の健康と全身性慢性疾患の関係をさらに深く理解するために、より多くの人々を対象とした大規模な研究が必要」としながらも、「口腔検査そのものは、隠れた病気の兆候を見つけ出す機会となり得る。健康診断の際に口腔検査も並行して行うことが、人々の健康増進につながるのではないか」と述べている。

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第258回 スマホ保険証は9月19日から開始、院内体制の整備と患者周知を/厚労省

<先週の動き> 1.スマホ保険証は9月19日から開始、院内体制の整備と患者周知を/厚労省 2.新型コロナ感染者、今年最多の3.3万人超 変異株「ニンバス」全国で拡大/厚労省 3.緊急避妊薬の市販化、対面販売義務と面前服用で数ヵ月後販売へ/厚労省 4.治療アプリで慢性疾患医療に変革、アルコール依存症でも/CureApp 5.医療費48兆円で過去最高更新 高齢化で入院費膨張、伸び率は鈍化/厚労省 6.再生医療で女性が死亡、都内クリニックに初の緊急停止命令/厚労省 1.スマホ保険証は9月19日から開始、院内体制の整備と患者周知を/厚労省厚生労働省は9月19日から、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」の機能を搭載したスマートフォン(スマホ)による資格確認を全国の医療機関・薬局で順次開始する。専用リーダーを導入した施設で利用可能となり、対応機関にはステッカーが掲示される予定。患者は事前にマイナポータルを通じてスマホにマイナカードを追加登録しておく必要があり、窓口での初期設定は医療機関の負担になるため避けるよう求められている。スマホでの資格確認に失敗した場合には、マイナポータルにログインし資格情報を画面提示する代替手段も認められ、法令改正で新たに規定された。これにより従来のカード持参が不要となるが、初回利用時は真正性確認の観点からマイナカード併用を求める声も医療界からは出ている。実証事業では大きな支障はなかったが、利用率は1%未満と低調。スマホ設定が難しいという声が患者から寄せられる一方、カードを出す手間が省け受付が円滑になる利点も確認された。厚労省は導入支援として汎用カードリーダー購入費を補助し、病院は3台、診療所や薬局は1台まで半額(上限7,000円)を補填する。医師や医療機関にとっては、今後の診療報酬加算(医療DX推進体制整備加算)におけるマイナ保険証利用率基準引き上げを踏まえ、対応が経営上も不可避となる。中央社会保険医療協議会(中医協)では「導入を拙速に進めれば窓口混乱を招く」との懸念が示され、国民への周知徹底とマニュアル整備を要請。対応できる施設は当面限られるとみられ、現場には患者説明やトラブル対応の負担が予想される。医療従事者は制度改正を理解し、来院前準備の重要性を患者に伝えることが求められる。 参考 1) マイナ保険証の利用促進等について(厚労省) 2) 「スマホ保険証」9月19日から全国で順次開始、対応可能な施設にはステッカー掲示へ(読売新聞) 3) スマホを用いた資格確認が2025年9月から順次開始(日経メディカル) 4) スマホ保険証を9月19日から運用開始 汎用カードリーダーの専用ページ、8月29日に開設(CB news) 5) 2025年9月19日の「スマホマイナ保険証」利用開始に向け法令を整理、スマホマイナ保険証対応医療機関はステッカー等で明示-中医協・総会(Gem Med) 2.新型コロナ感染者、今年最多の3.3万人超 変異株「ニンバス」全国で拡大/厚労省新型コロナウイルスの感染が全国的に拡大し、厚生労働省によると8月18~24日の新規感染者数は3万3,275人と前週比5割増で、今年最多を記録した。定点医療機関当たり8.73人で10週連続の増加となり、宮崎21.0人、鹿児島16.8人、長崎14.8人など九州を中心に高水準が続く。愛知2,045人、東京1,880人など大都市圏でも増加が顕著だった。国立健康危機管理研究機構は、国内で検出されたコロナ株の約8割がオミクロン株派生の「ニンバス(NB.1.8.1)」に置き換わったと報告。強烈なのどの痛みが特徴とされ、新学期に伴い10代以下への拡大が懸念される。各地でも警戒が強まっており、新潟では1医療機関当たり12.2人と前週比1.5倍に急増し、インフルエンザ注意報基準を上回った。宮城も10.0人と急増、静岡は7ヵ月ぶりに全県に注意報を発令し、東部がとくに多い。熊本は906人で全国平均を上回り、宮崎も589人と1.5倍に増加し、患者の4割が高齢者、3割が未成年だった。鹿児島でも患者数が1週間で958人に達し、強い咽頭痛を訴えるケースが目立っている。厚労省や自治体は「重症化リスクは従来株と大差ないが、感染拡大防止が重要」とし、手洗い・換気・マスクの着用徹底を呼びかけている。とくに新学期を迎える子ども世代や高齢者との接触には注意が必要で、感染症流行の二重負担を避けるためにも、医療機関には今後の外来・入院需要への対応力が問われる。 参考 1) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況(厚労省) 2) コロナ感染者数3万人上回る 前週から5割増加(CB news) 3) 新型コロナ感染者数、ことし最多…10週連続の増加 変異株「ニンバス」のどの強い痛みが特徴(日テレ) 3.緊急避妊薬の市販化、対面販売義務と面前服用で数か月後販売へ/厚労省厚生労働省の専門部会は8月29日、緊急避妊薬レボノルゲストレル(商品名:ノルレボ)の市販化を了承した。医師の処方箋なしで薬局・ドラッグストアで購入が可能となり、区分は要指導(特定要指導)医薬品となる予定。販売については、年齢制限なし・保護者の同意不要で、研修修了薬剤師による対面販売とその場での服用(面前服用)を原則義務付ける。性交後72時間以内の単回内服で妊娠阻止率は約80%、WHOは必須医薬品としてOTCを推奨している。国内では試験販売(2023年度145薬局→2024年度339薬局)を経て、承認審査が進み、正式承認・体制整備後の数ヵ月後から販売を開始する。価格は未定だが試験販売では7,000~9,000円となっていた。販売店舗は厚労省が一覧を公表する予定。面前服用は転売防止などが目的だが、プライバシー侵害やアクセス阻害の懸念もあり、一定期間後に見直しを検討するという。購入時は身分証確認、薬剤師説明→服用、3週間後の妊娠確認を推奨。性暴力が疑われる場合はワンストップ支援センターと連携する。市販化まで約9年を要した背景には、乱用懸念・性教育の遅れ・薬剤師体制などの議論があった。専門家は、緊急避妊薬は最終手段であり、低用量ピル活用やコンドーム併用(STI対策)など平時の避妊行動の対策も求めている。 参考 1) 緊急避妊薬のスイッチOTC化について[審査等](厚労省) 2) 緊急避妊薬の薬局販売承認へ 診察不要に、年齢制限なし(日経新聞) 3) 「緊急避妊薬」医師の処方箋なくても薬局などで販売へ(NHK) 4) 面前服用、販売する薬局数…緊急避妊薬のアクセス改善に課題(毎日新聞) 4.治療アプリで慢性疾患医療に変革、アルコール依存症でも/CureAppアルコール依存症治療の新たな選択肢として、沢井製薬は9月1日から国内初の「減酒」治療補助アプリ「HAUDY(ハウディ)」の提供を開始する。開発は医療IT企業CureAppが担い、国から医療機器として承認を受け、公的医療保険の適用対象となる。患者は日々の飲酒量や体調をスマホに記録し、アプリから助言を受ける仕組みで、データは医師と共有され診察時の行動の振り返りや目標設定に活用される。医師の処方に基づき利用され、自己負担は3割で月額約2,400~3,000円、最大6ヵ月使用が可能。専門医でなくとも治療支援ができる点も特徴で、治験では飲酒量の多い日の減少効果が確認されている。背景には、依存症診療における診察時間の短さや治療継続の難しさがある。アプリは患者と医師のコミュニケーションを補完し、より早期の介入を後押しすると期待される。沢井製薬は、ジェネリック医薬品依存から脱却し、デジタル医療機器を新たな収益源とする戦略を強調している。一方、デジタル治療の普及は高血圧分野でも進展する。日本高血圧学会は『高血圧管理・治療ガイドライン2025』を改訂し、血圧管理アプリによる介入を初めて推奨に盛り込んだ。推奨の強さは「2」、エビデンスの強さは「A」とし、降圧薬に匹敵する効果や費用対効果も確認されている。生活習慣改善や共同意思決定を重視する中で、治療アプリは患者と医師の信頼関係を深めるツールとして位置付けられている。アルコール依存症や高血圧といった慢性疾患領域で、治療アプリが相次ぎ制度化されることは、臨床現場にデジタル治療導入を促し、診療報酬体系や医療経済にも影響を与えるとみられる。 参考 1) アルコール依存症患者のための「減酒」アプリ、沢井製薬が9月提供開始…公的医療保険の適用対象に(読売新聞) 2) 国内初の減酒治療アプリ 沢井製薬が9月1日から販売 専門医でなくても依存症患者に対応(産経新聞) 3) アルコール依存症の治療支援アプリ 医療機器として国が初承認(NHK) 4) 高血圧管理・治療ガイドライン改訂 治療アプリを推奨「患者と医療者がしっかり話し合って共同で降圧」(ミクスオンライン) 5) 高血圧管理・治療ガイドライン2025(日本高血圧学会) 5.医療費48兆円で過去最高更新 高齢化で入院費膨張、伸び率は鈍化/厚労省厚生労働省は8月29日、2024年度の概算医療費(速報値)が48兆円に達し、前年度比1.5%増で過去最高を更新したと発表した。増加は4年連続だが、伸び率は前年の2.9%から鈍化し、コロナ禍前の水準に近付きつつある。概算医療費は労災や全額自費を除いた、公的保険・公費・患者負担を集計したもので、国民医療費の約98%を占める。診療種類別では、入院が2.7%増の19.2兆円と全体を押し上げ、入院外(外来・在宅)は0.9%減の16.3兆円と4年ぶりに減少した。歯科は3.4兆円で3%超の伸び、調剤は8.4兆円で1%強の増加となった。医療機関別では病院25.9兆円(2.0%増)、診療所9.6兆円(1.0%減)で、とくに大学病院は4.2%増と高度医療の影響が大きかった。一方、個人病院は22%減少した。国民1人当たりの医療費は38万8,000円(前年より8,000円増)。75歳以上は97万4,000円に達し、75歳未満(25万4,000円)との差は約4倍に拡大している。高齢化が医療費を押し上げる構造が鮮明となった。疾患別では、新型コロナ関連の医療費は2,400億円と前年度比4割以上減少。感染症流行が落ち着いたことが全体の伸び率鈍化につながった。後発医薬品の普及も進み、ジェネリックの数量シェアは90.6%と初めて9割を超えた。厚労省は「高齢化と医療の高度化の影響は続き、医療費は今後も増加傾向にある」と指摘。入院費膨張や人材確保など医療機関の経営への影響は避けられず、診療報酬や医療提供体制の在り方が改めて問われている。 参考 1) 「令和6年度 医療費の動向」~概算医療費の年度集計結果~(厚労省) 2) 医療費、過去最高の48兆円 4年連続で増加 厚労省(時事通信) 3) 厚労省 令和6年度の医療費の概算48兆円 4年連続で過去最高更新(NHK) 4) 24年度の医療費48兆円、4年連続過去最大 伸び率は鈍化(CB news) 6.再生医療で女性が死亡、都内クリニックに初の緊急停止命令/厚労省厚生労働省は8月29日、東京都中央区の「東京サイエンスクリニック」(旧ティーエスクリニック)で自由診療として再生医療を受けた外国籍の50代女性が死亡した事例を受け、同院に対して再生医療等安全性確保法に基づく緊急命令を出し、当該治療の一時停止を命じた。死亡例を契機とした同法に基づく緊急命令は初めてとなる。併せて、治療に用いた特定細胞加工物を製造した「コージンバイオ株式会社 埼玉細胞加工センター」に対しても製造停止を命じた。厚労省は原因究明を進める方針を示している。厚労省の発表によると、今月20日、同クリニックで慢性疼痛治療を目的に、患者本人の脂肪組織から取り出した間葉系幹細胞を増殖させ、点滴で静脈投与する自由診療が実施された。治療中に女性は急変し、急速に心停止に陥り、搬送先で死亡が確認された。27日、クリニックから法第18条に基づく「疾病等報告」が提出され、死因はアナフィラキシーショックの可能性と説明されたが、原因は未確定であり、さらなるリスク防止のため緊急命令が発出された。命令は、当該クリニックが提供する治療計画「慢性疼痛に対する自己脂肪由来間葉系幹細胞による治療」および類似の細胞加工を用いた再生医療の提供を全面的に停止するもの。加えて、埼玉細胞加工センターにも、同様の製造方法による特定細胞加工物の一時停止を命じた。厚労省は立ち入り検査や詳細な原因究明を進め、再発防止策を徹底するとしている。また、死亡事例後、医療機関および運営法人は名称変更を届け出ていた。22日に「ティーエスクリニック」から「東京サイエンスクリニック」に、25日には「一般社団法人TH」から「一般社団法人日本医療会」に変更されている。厚労省は経緯を精査し、透明性の確保に努める方針。今回の措置について厚労省は「患者が死亡し、その原因が未解明である以上、再生医療との関連が否定できず、さらなる疾病発生を防ぐ必要がある」と説明。再生医療の安全性確保を最優先課題として取り組む姿勢を強調した。 参考 1) 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について(厚労省) 2) 再生医療を受けた患者、アナフィラキシーショックで死亡か…医療機関は一時停止の緊急命令受ける(読売新聞) 3) 自由診療の細胞投与で50代女性死亡 クリニックに治療停止命令(毎日新聞) 4) 再生医療で50代女性死亡 厚労省が都内のクリニックに治療停止命令(朝日新聞)

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第256回 新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省 2.SFTS感染、全国拡大と過去最多ペース 未確認地域でも初報告/厚労省 3.AI医療診断を利用した大腸内視鏡検査、システム活用によるデメリットも明らかに/国立がん研ほか 4.医療DX推進体制整備加算、10月から基準引き上げへ/厚労省 5.医師・歯科医師20人に行政処分 強制わいせつ致傷で免許取消/厚労省 6.人口30万人以下の地域の急性期は1拠点化? 医療機能の再編議論が本格化/厚労省 1.新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省新型コロナウイルスの感染が全国で再び拡大している。厚生労働省によると、8月4日~10日の1週間に全国約3,000の定点医療機関から報告された新規感染者数は2万3,126人で、1医療機関当たりの平均患者数は6.13人となり、8週連続の増加となった。前週比は1.11倍で、40都道府県で増加。宮崎県(14.71人)、鹿児島県(13.46人)、佐賀県(11.83人)と、九州地方を中心に患者数が多く、関東では埼玉、千葉、茨城などで上昇が顕著だった。増加の背景には、猛暑による換気不足、夏季の人流拡大に加え、オミクロン株派生の変異株「ニンバス」の流行がある。国内の感染者の約4割がこの株とされ、症状として「喉にカミソリを飲み込んだような強い痛みを訴える」のが特徴。発熱や咳といった従来の症状もみられるが、強烈な喉の痛みで受診するケースが多い。医療機関では、エアコン使用で喉の乾燥と勘違いし、感染に気付かず行動する患者もみられる。川崎市の新百合ヶ丘総合病院では、8月14日までに陽性者70人を確認し、7月の100人を上回るペース。高齢者の入院も増加しており、熱中症と区別が付きにくいケースもある。都内の感染者数も8週連続で増加し、1医療機関当たり4.7人。東京都は、換気の徹底や場面に応じたマスク着用などの感染対策を呼びかけている。厚労省は「例年、夏と冬に感染者が増える傾向がある」として、基本的な感染対策の継続を求めている。とくに高齢者や持病のある人は重症化リスクが高いため、早期の受診や感染予防の徹底が重要とされる。 参考 1) 2025年8月15日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について(厚労省) 2) 新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) 新型コロナ 東京は8週連続で患者増加 医師「お盆に帰省した人が発熱し感染広がるおそれも」(NHK) 4) 新型コロナウイルス 1医療機関当たり平均患者数 8週連続で増加(同) 5) 新型コロナ「ニンバス」流行 カミソリを飲んだような強烈な喉の痛み(日経新聞) 6) 新型コロナ変異株「ニンバス」が流行の主流、喉の強い痛みが特徴…感染者8週連続増(読売新聞) 2.SFTS感染、全国拡大と過去最多ペース 未確認地域でも初報告/厚労省マダニ媒介感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の国内感染者数は、2025年8月3日時点で速報値で124人に達し、すでに昨年の年間120人を超え、過去最多の2023年(134人)を上回るペースで増加している。感染報告は28府県に及び、高知県14人、長崎県9人など西日本が中心だが、北海道、茨城、栃木、神奈川、岐阜など従来未確認だった地域でも初感染が報告された。SFTSはマダニのほか、発症したイヌやネコや患者の血液・唾液からも感染する。潜伏期間は6~14日で、発熱、嘔吐、下痢を経て重症化すると血小板減少や意識障害を起こし、致死率は10~30%。2024年には抗ウイルス薬ファビピラビル(商品名:アビガン)が承認されたが、治療は主に対症療法である。高齢者の重症例が多く、茨城県では70代男性が重体となった事例もあった。感染拡大の背景には、里山の消失による野生動物の市街地進出でマダニが人の生活圏に侵入していること、ペットから人への感染リスク増大がある。とくにネコ科は致死率が約60%とされる。富山県では長袖・長ズボン着用でも服の隙間から侵入した事例が報告された。専門家や自治体は、草むらや畑作業・登山時の肌の露出防止、虫よけ剤の使用、ペットの散歩後のブラッシングやシャンプー、マダニ発見時の医療機関受診を呼びかけている。SFTSは全国的な脅威となりつつあり、従来非流行地域でも警戒が必要。 参考 1) マダニ対策、今できること(国立健康危機管理研究機構) 2) マダニ媒介の感染症 SFTS 全国の患者数 去年1年間の累計上回る(NHK) 3) 感染症SFTS 専門医“マダニはわずかな隙間も入ってくる”(同) 4) 致死率最大3割--“マダニ感染症”全国で拡大 「ダニ学者」に聞く2つの原因 ペットから人間に感染する危険も…対策は?(日本テレビ) 3.AI医療診断を利用した大腸内視鏡検査、システム活用によるデメリットも明らかに/国立がん研などポーランドなどの国際チームは、大腸内視鏡検査でAI支援システムを常用する医師が、AI非使用時に前がん病変(腺腫)の発見率を平均約20%低下させることを明らかにした。8~39年の経験を持つ医師19人を対象に、計約2,200件の検査結果の調査によって、AI導入前の腺腫発見率は28.4%だったが、導入後にAI非使用で検査した群では22.4%に低下し、15人中11人で発見率が下がったことが明らかになった。AI支援システムへの依存による注意力・責任感低下など「デスキリング」現象が短期間で起きたとされ、とくにベテラン医師でも回避ができなかった。研究者はAIと医師の協働モデル構築、AIなしでの定期的診断訓練、技能評価の重要性を強調している。一方、国立がん研究センターは、新たな画像強調技術「TXI観察法」がポリープや平坦型病変、SSL(右側結腸に好発する鋸歯状病変)の発見率を向上させると発表した。全国8施設・956例の比較試験では、主解析項目の腫瘍性病変発見数で有意差はなかったが、副次解析で発見率向上が確認された。TXIは明るさ補正・テクスチャー強調・色調強調により微細な変化を視認しやすくする技術で、見逃しがんリスク低減と死亡率減少が期待される。ただし、恩恵を受けるには検診受診が前提で、同センターは便潜血検査と精密内視鏡検査の受診率向上を強く訴えている。両研究は、大腸内視鏡の質向上におけるAI・新技術の有用性とリスクを示すものであり、機器性能の進化と医師技能の維持を両立させる体制構築が今後の課題となる。 参考 1) AI利用、 医師の技量低下 大腸内視鏡の質検証(共同通信) 2) AI医療診断の落とし穴:医師のがん発見能力が数ヶ月で低下(Bignite) 3) Study suggests routine AI use in colonoscopies could erode clinicians’ skills, warns/The Lancet Gastroenterology & Hepatology(Bioengineer) 4) 大腸内視鏡検査における「TXI観察法」で、ポリープや「見逃しがん」リスクとなる平坦型病変の発見率が向上、死亡率減少に期待-国がん(Gem Med) 5) 大腸内視鏡検査の新規観察法の有効性を前向き多施設共同ランダム化比較試験で検証「見逃しがん」のリスクとなる平坦型病変の発見率改善に期待(国立がん研) 4.医療DX推進体制整備加算、10月から基準引き上げへ/厚労省厚生労働省は8月7日付で、2024年度診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」について、2025年10月と2026年3月の2段階でマイナ保険証利用率の実績要件を引き上げる通知を発出した。小児患者が多い医療機関向けの特例や、電子カルテ情報共有サービス参加要件に関する経過措置も2026年5月末まで延長する。改正後の施設基準では、マイナ保険証利用率の基準値は上位区分で現行45%から10月に60%、来年3月に70%へ、中位区分で30%から40%・50%へ、低位区分で15%から25%・30%へ段階的に引き上げる。小児科特例は一般基準より3ポイント低く設定され、10月以降22%・27%となる。いずれも算定月の3ヵ月前の利用率を用いるが、前月または前々月の値でも可とする。加算はマイナ保険証利用率と電子処方箋導入の有無で6区分に分かれ、電子処方箋導入施設には発行体制や調剤結果の電子登録体制の整備を新たに求める。未導入施設は電子処方箋要件を課さないが、加算区分によっては算定不可となる場合がある。電子カルテ情報共有サービスは本格稼働前のため、「活用できる体制」や「参加掲示」を有しているとみなす経過措置を来年5月末まで延長。在宅医療DX情報活用加算についても同様の延長措置が適用される。通知では、これらの要件は地方厚生局長への届出不要で、基準を満たせば算定可能と明記。厚労省は、マイナ保険証利用率向上に向けた患者への積極的な呼びかけや掲示の強化を医療機関・薬局に促している。 参考 1) 「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」及び「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の一部改正について(医療 DX 推進体制整備加算等の取扱い関係)(厚労省) 2) 医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率基準を「2025年10月」「2026年3月」の2段階でさらに引き上げ-厚労省(Gem Med) 5.医師・歯科医師20人に行政処分 強制わいせつ致傷で免許取消/厚労省厚生労働省は8月6日、医道審議会医道分科会の答申を受け、医師12人、歯科医師8人の計20人に行政処分を決定した。発効は8月20日。別途、医師8人には行政指導(厳重注意)が行われた。処分理由は刑事事件での有罪確定や重大な法令違反が中心で、医療倫理や信頼を揺るがす事案が目立った。免許取り消しは三重県松阪市の58歳医師。2015年、診察室で製薬会社MRの女性に対し胸を触る、額にキスをする、顔に股間を押し付けようとするなどの強制わいせつ行為を行い、逃れようとした被害者が転落して視神経損傷の重傷を負った。2020年に懲役3年・執行猶予5年の有罪判決が確定していた。医師の業務停止は最長2年(麻薬取締法違反)から2ヵ月(医師法違反)まで幅広く、過失運転致傷・救護義務違反、児童買春、盗撮、迷惑行為防止条例違反、不正処方などが含まれた。戒告は4人に対して行われた。歯科医師では、最長1年10ヵ月(大麻取締法・麻薬取締法・道交法違反)から2ヵ月(詐欺幇助)までの業務停止が科され、診療報酬不正請求や傷害、廃棄物処理法違反も含まれた。戒告は2人だった。厚労省は、これら不正行為は国民の医療への信頼を損なうとし、再発防止と医療倫理向上を求めている。 参考 1) 2025年8月6日医道審議会医道分科会議事要旨(厚労省) 2) 医師と歯科医20人処分 免許取り消し、業務停止など-厚労省(時事通信) 3) 医師、歯科医師20人処分 厚労省、免許取り消しは1人(MEDIFAX) 4) 医師12名に行政処分、MRに対する強制わいせつ致傷で有罪の医師は免許取消(日本医事新報) 6.人口30万人以下の地域の急性期は1拠点化? 医療機能の再編議論が本格化/厚労省厚生労働省は8月8日、第2回「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を開催し、2026年度からの新たな地域医療構想の柱として「医療機関機能報告」制度の導入を提案した。各医療機関は、自院が地域で担うべき4つの機能(急性期拠点、高齢者救急・地域急性期、在宅医療連携、専門など)について、救急受入件数や手術件数、病床稼働率、医師・看護師数、施設の築年数といった指標をもとに、役割の適合性を都道府県へ報告する。中でも議論を呼んだのが、救急・手術を担う「急性期拠点機能」の整備基準である。厚労省は人口規模に応じた整備方針を示し、人口100万人超の「大都市型」では複数の医療機関の確保、50万人規模の「地方都市型」では1~複数、30万人以下の「小規模地域」では原則1ヵ所への集約化を目指すとした。しかし、専門病院や大学病院がすでに存在する中核都市などでは、1拠点に絞るのは非現実的との声も上がっている。また、医療機関の築年数も協議指標として活用する案に対しては、公的病院と民間病院の間で資金力に格差がある中、基準化すれば民間病院の淘汰を招く恐れがあるとして、慎重な検討を求める意見も出た。実際、病院建築費は1平米当たり2011年の21.5万円から2024年には46.5万円と倍増し、全国には築40年以上の病棟が約1,600棟(16万床分)存在する。このほか、在宅医療連携機能には訪問診療・看護の実績や高齢者施設との協力体制、高齢者救急機能には診療所不足地域での外来1次救急や施設搬送の体制が求められる。人材面では、医師の地域偏在や診療科偏在だけでなく、今後10年で最大4割減少も予測される看護師不足が最大の制約要因として指摘された。 参考 1) 新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(厚労省) 2) 急性期拠点機能の指標に「築年数」厚労省案 救急・手術件数や医療従事者数も(CB news) 3) 人口規模に応じた医療機関機能の整備を提示(日経ヘルスケア)

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第275回 医療系議員の得票数減少、国民に職能が届いていない可能性

INDEX政治史に名を刻んだある政治家の言葉と今の自民党参院選2025、医療系候補者の結果当落の分かれ目医療系組織候補の生きる道政治史に名を刻んだある政治家の言葉と今の自民党「戸別訪問は3万軒、辻説法は5万回、雨の日も風の日もやれ。聴衆の数で手抜きはするな。流した汗と、ふりしぼった知恵だけの結果しか出ない。選挙に僥倖(思いがけない幸運)などあるものか」上記は元首相だった故・田中 角栄氏の言葉である。中選挙区時代の新潟3区で戦後初の衆議院選挙(以下、衆院選)から16回連続当選、うち13回はトップ当選という田中氏の実績からすれば頷けるものがある。しかも、1976年にはロッキード事件が発覚し、田中氏本人は総理経験者ながらも逮捕される異例の事態に陥りながら、同年の衆院選も含め、政界引退までの5回の衆院選も連続トップ当選している。最後の選挙となった1986年衆院選時は、前年に脳梗塞を発症し、自身の後援会「越山会」の関係者だけが選挙戦を戦い抜き勝利した。まさに圧巻というほかない。とはいえ、ここまでの王国を築けるのは政治家の中でも一握りだ。多くの政治家は“風”の影響を受ける。先月、投開票が行われた参院選も同様だ。すでに多くの方がご存じの通り、与党・自民党は歴史的惨敗を喫した。自民党が衆参両院で少数与党になったのは1955年の結党以来初のことである。参院選2025、医療系候補者の結果今回の選挙で自民党では比例代表に医療・介護系候補7名が出馬していたが、各人がどのような結果になったかを改めておさらいしておきたい。結果は以下の通りだ。釜萢 敏氏(日本医師連盟):17万4,434票(当選)石田 昌宏氏(日本看護連盟):15万2,649票(当選)本田 顕子氏(日本薬剤師連盟):15万2,518票(当選)比嘉 奈津美氏(日本歯科医師連盟):10万1,975票(落選)田中 昌史氏(日本理学療法士連盟):8万8,432票(落選)斉藤 正行氏(全国介護事業者連盟):5万2,988票(落選)畦元 将吾氏(日本診療放射線技師連盟):1万9,540票(落選)今回の選挙は裏金問題以降の自民逆風が続き、序盤情勢での自民党比例代表の獲得議席は12~15議席と予想され、しかも終盤までにさらに情勢が悪化したため、12議席獲得も厳しいと囁かれた。巷の選挙雀らからは「比例の当選ラインは20万票」との声も出たほどだ。最終的には序盤情勢予想の最低ライン、かつ自民党の比例代表獲得議席数として史上最低タイの12議席で、12議席目(特定枠も含む)に滑り込んだ鈴木 宗男氏の得票が13万2,633票だった。過去の同党の参院比例の最低当選得票数だけで見れば、3年前の2022年参院選が11万8,710票、6年前の2019年参院選が13万1,727票であり、思ったほど当選ラインは上がっていないように見える。しかし、同党の比例代表の得票数は3年前と比較して500万票以上減少し、獲得議席数は2019年参院選の19議席、2022年参院選の18議席から大きく減らすことになった。今回、私は約20年ぶりに国政選挙そのものの取材をする羽目になり、関係各方面を駆けずり回った。選挙前に各方面から漏れ伝わってきた情勢では、医療・介護系候補は日本医師連盟の釜萢氏以外はかなり厳しいと言われていた。とくに日本看護連盟の石田氏、日本薬剤師連盟の本田氏は当落線上の下位、つまり当選が相当危ぶまれていた。しかし、蓋を開けてみれば医療・介護系候補は前述のような3勝4敗で、ほぼ過去の選挙結果と同様だった。当落の分かれ目この背景に何があったのか? あくまで推測しかできないが、ほぼ同じ顔ぶれが比例候補だった6年前の2019年参院選の結果と比べると、ぼんやりながらも一定の推測はできる。まず、6年前と同一の候補者の中で、当時は得票数で第5位だった和田 政宗氏(参議院内閣委員長)と第6位だった佐藤 正久氏(同党幹事長代理)が今回は落選した。しかも、和田氏は前回から20万票以上、佐藤氏も10万票以上を減らしての落選。両氏ともこの間に目立った不祥事もなく、通常ならばこれほどの得票減はあり得ない。ただ、この2人には共通することがある。政策・主張では▽憲法改正に賛成▽第二次世界大戦に関する村山談話・河野談話は見直すべき▽選択的夫婦別姓制度導入・同性婚法制化に反対、などいわばタカ派である。また、密接な関係がある支持組織がない点も共通している。ここから推察するに、おそらく今回の選挙最大のムーブメントとも言えるタカ派色の強い参政党の躍進により、彼ら自民党のタカ派政策支持者の票が参政党に流れたのだろう。結果として医療・介護系組織内候補でも支持基盤に歴史があり、空気に流されにくい基礎票を持つ候補が当選圏内に浮上したと考えられる。ただ、この「強さ」は同時に「弱さ」の裏返しになる懸念も含んでいる。まず、釜萢氏の場合、医療だけでなく介護・福祉分野の労働者にとっても「生活がかかった選挙」との訴えを前面に出すことで介護・福祉関係の票を取り込み、これまでの医療系組織内候補が獲得したことがない高得票を目指すとしていた。また、薬剤師連盟の本田氏に関しても、連盟側は20万票獲得を目標に掲げた。しかし、いずれもその目標には及ばなかった。さらに過去との比較で今回の各候補の得票を見ていきたい。医師連盟の釜萢氏は、6年前の参院選で同連盟組織内候補の羽生田 俊氏が獲得した15万2,807票を2万票以上上回る票を獲得した。しかし、当時の羽生田氏の得票はさらに6年前の2013年参院選で同氏の初当選時の得票から10万票弱も下回ったものだ。さらに今回の釜萢氏の得票数は2022年の参院選で医師連盟組織内候補・自見 英子氏の21万3,369票からも4万票弱も下回っている。自見氏の場合、2016年の初当選時の得票数も21万票強であり、この票数は医師連盟組織票+自見氏個人基礎票とみられる。これらからかなり大雑把に見積もると、現在の医師連盟基礎票は15~18万票程度なのだろう。また、看護連盟の石田氏は6年前の18万9,893票から大きく減らしての当選。3年前の2022年参院選の同連盟組織内候補・友納 理緒氏の得票が17万4,335票を考えれば、現在の同連盟基礎票も医師連盟とほぼ同程度だろう。さらに薬剤師連盟の本田氏の得票は前回より若干減少し、2022年参院選での同連盟組織内候補・神谷 政幸氏の得票12万7,172票を踏まえれば、同連盟の基礎票は12~16万票と考えられる。医療系組織候補の生きる道ただ、各連盟とも先行きは決して明るいとは言えない。若年世代では各連盟の表裏一体組織である医師会、看護協会、薬剤師会の活動には熱心でも連盟とは距離を置く層も少なくない。つまるところ今後は各連盟の高齢化による基礎票減も念頭に置かねばならない。厳しい言い方をすれば、どの組織もあくまで内輪の高齢者による盛り上がりに留まり、国民への幅広い浸透には欠けており、このままではジリ貧が目に見えているのだ。それゆえに今回とは逆に、もし自民党比例候補にタレント候補のような組織力はないものの知名度がある人物が多数登場し、ここに風が吹いた場合はそうしたタレント候補が容易に上位に浮上し、医療系組織内候補が相対的に沈下してしまう可能性は十分にある。となると組織内候補の生きる道は2つしかない。1つは組織内候補の立場を徹底し、組織そのものの裾野を広げて構成員を増やし、得票増につなげる最も古典的な手法だ。しかし、前述のように政治組織である連盟はもちろんのこと、昨今では職能団体そのものに距離を置く層も増えているため、現実的な戦略とは言えない。もう1つは組織の枠を超えた支持基盤の構築である。各組織内候補はあくまで“組織内”の候補であるがゆえに、どうしても支持基盤である職能団体中心の訴えをしがちである。「いや、国民の医療を守るためにこそ各職能が有する専門性の正しい評価が必要」との主張もあるだろう。しかし、あえて私見を言わせてもらえば「国民の医療を守る」が単なるお題目と化し、国民にはほとんど響いていないのが現状ではないだろうか? そのことは各連盟の推定基礎票からもうかがえる。秋以降は2026年度診療報酬改定と一時凍結した高額療養費問題の議論が本格化する。その場で各医療系議員とそのバックにつく職能団体がどのようなスタンスを取るか? そこが国民の幅広い支持獲得に向けた一里塚となるだろう。

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電話相談って困るんだけど…【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第9回

電話相談って困るんだけど…Point受診時期、受診可能な施設、搬送手段が明確になるような相談をしよう。相手の現状理解や、今後どう行動するかを確認する丁寧な対応を心がけよう。電話相談で診断をつけず、病態から予想されうる疾患の徴候を伝えて、再相談・受診の目安をわかりやすく伝えよう。症例その日の深夜帯は忙しく、立て続けに心筋梗塞やクモ膜下出血が搬送され、当直帯のスタッフは処置につきっきりだった。そんな時、2歳男児の母親から受診相談の電話がかかってきた。その日の午後に近医を受診し、嘔吐、下痢、腹痛で受診し胃腸炎と診断されたが、まだ、痛がっているので救急外来に受診したい旨の電話だった。母親によると前日に男児の4歳の姉も胃腸炎と診断され、姉は元気になったが、兄は痛がって寝つけないため心配だとの相談だった。当直医は処置に追われていることもあり、すでに診断されて内服薬もあるのだから大丈夫だろうと、やや早口で「胃腸炎でしたら、様子をみてもらえば大丈夫です」とだけ告げて電話を切った。翌日に小児科を受診し、腸重積と診断されそのまま入院となった。男児の両親から、「すぐに入院が必要な状態だったのに前日の電話対応はなんだ」と怒りのクレームを受けることになった。おさえておきたい基本のアプローチ昨今、電話救急医療相談(救急安心センター事業#7119)は全国的に広まりつつあり、日本国民の79%をカバーしている1)。一方で、多くの地域ではサービスが利用できず、またかかりつけ医に直接電話で相談する患者もいるだろう。夜中の電話相談は、なかなか難しいものだ。診察なしに、患者本人や家族からの情報だけで適切な判断を求められる、「これは何かの罠だろうか? あー、早く偉い人がAIとか進歩させて患者相談が全自動になって、この原稿もお役御免にならないかなー」と流れ星に願いをかけてみるも、もうしばらくは電話相談と付き合っていかなければならなさそうだ。そもそも、電話相談で大事なポイントは何だろうか? 相談相手が適切な受診行動をとることが最重要だ。(1)受診時期、(2)受診可能な施設、(3)搬送手段が相手に伝わるようにしよう。まず、受診時期については、病態の緊急度が相関する。今すぐに治療が必要な病態で、急いで救急外来を受診すべき状態か、今すぐの受診は必要ないが2、3日以降にかかりつけ医を受診して診察・治療が必要な状態か、かかりつけ医の次の予約外来の診察で間に合うのか、われわれの判断で患者の受診行動が大きく変わり、患者の転帰が変わることもある。前医の診断を鵜呑みにして判断すると、痛い目にあうのが電話相談の大きな落とし穴だ。実際に診察しないと、はっきりしたことは言えないとしっかり電話越しに伝える必要がある。夜中だと電話を受ける側も楽な疾患に飛びつきやすく、バイアスに陥りやすいものだ。受診可能な医療機関については、その地域ごとのルールを参照してほしい。とくに精神科、小児科、歯科については特別なルールがあることが多いだろう。かかりつけ医での対応なのか、対応する専用の施設があるのか、輪番病院での対応なのか。また、休日や夜間帯によっても、対応施設が変わるので、そこも考慮してほしい。搬送手段についても病態に応じたアドバイスが必要だ。酸素投与やルート確保も必要で救急車による搬送が考慮される病態、公共交通機関で受診が可能な病態、病態は緊急ではなくともADLの低下などで歩行不可能な高齢者で民間の介護タクシーなどの手段が必要な病態などが考えられる。病態に応じた搬送手段を提案しよう。上記を考慮に入れた電話相談のポイントを表に示す。表 電話相談のポイント画像を拡大する落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「電話対応で心配いらない旨を伝えたのですが、もう一度電話がかかってきて、別のスタッフにまた同じ相談をしていました賢明な読者は、普段の病状説明では紙に病名や対応を大きな文字でわかりやすく書き、ときに図示して工夫されていることだろう。一方、電話相談では音声でのコミュニケーションに限られる(今後オンライン診療やWeb会議システムで相談が置き換わるようであれば変わるかもしれないが)。普段は文字で書けば通じる言葉でも、音声だと一気に難易度アップ! まして、難聴の高齢者からの電話相談ではなおさらだ。ちゃんとこちらの伝えたい意図が伝わっているかを確認するうえで、現在の状態をどう理解したのか、これからどう行動するのかを相手から言ってもらって(復唱してもらって)、相談の終わりに確認しよう。これで不要な受診や電話が減って、平和な夜が過ごせること請け合いだ。Point電話相談は音声伝達であるため、相手の理解、どう行動するかを確認しよう話を聞いたら、前医で診断、処方があって外来でのフォロー予定も入っていたので、そのまま経過をみるように伝えました前医で診断を受け処方をされ外来でのフォローの予定が決まっていても、何か様子が変わったところがあったり、別の症状が出現したりで、心配になり電話をかけてきたのだろう。その心配な点を聞かずに、ただ経過を見なさいでは、相談者も納得がいかないだろう。相手の不安な点、ニーズを丁寧に聞き取ると、実は見逃してはいけない疾患が隠れていたなんてこともあるだろう(いや、これが結構あるんだよ。今回の症例でも腹痛がメインになる「胃腸炎」なんて誤診もいいところ!)。前医の診断をそもそも電話で聞いただけで信じてはいけない。診察なしに診断なんてできないと、明確に電話相談者に伝えるべきである。でもつっけんどんに冷たくあしらうのではダメ。共感的声色をもって対応しよう。落とし穴にはまらないよう、カスタマーセンターのスタッフになったつもりで聞いてみよう。日中、自分の病院にかかっている場合は、日中見逃されていた可能性もあり、ハイリスクと考えて受診してもらうほうが無難なんだよ。Point相手の不安に思う点を丁寧に聴取して、解消に努め、必要があれば再受診を促そう前医の診断は疑ってかかれ!不眠の訴えで電話があったので、翌日受診をお勧めしたのですが、自殺企図で救急搬送されました不眠の訴えの裏に、うつ病などの希死念慮を伴う精神疾患が存在することもある。緊急性のある精神疾患が隠れていないか確認して、場合によっては精神科救急への受診を勧めることも必要になる。また精神疾患があっても、生命を脅かすのは器質的疾患や外因によるものだから、精神疾患で片づけてしまってはいけない。Pointメンタルヘルスの電話相談にも緊急性のある疾患を考慮して適切に受診を促す電話で小児の母親から「嘔吐と下痢と腹痛があって周囲に流行もある」と聞いたので感染性胃腸炎と診断し、伝えましたあくまで電話相談では、現在の病態が受診すべきどうかを判断して、受診時期や施設、搬送手段についてアドバイスすることが求められる。限られた情報での診断は難しいし危険である。疑われる疾患やありうる疾患と徴候などを伝え、どうなったら再相談、受診したほうがよいのかを丁寧にアドバイスしよう。そのうえで、実際に診察しない電話だけでは診断はなかなかわからないものなので、適切なアドバイスができなくてすみませんと伝えよう。「どうせ電話でなんて診断がわかるわけがないんだから、心配ならきちんと受診しなさいよ!」なんて高圧的な態度で対応するのはダメチンだよ。また、高齢者や小児の家族からの相談は自分でうまく症状が伝えられないことが多く、訴えが聴取しにくい。高齢者では急にいつもと様子が違う状態になったならば、感染症などの背景疾患からせん妄になっていることも考えられるため、高齢者の受診の閾値は下げるべきだ。高齢者では、症状をマスクする解熱鎮痛薬、循環作動薬、抗凝固薬、抗血小板薬、抗がん薬やステロイドなどの免疫抑制薬を定期内服していることも多い。カルテなどの情報がなければ、内服の丁寧な聴取も病態判断に重要だ。また、小児では予備能が低く血行動態が破綻しやすいため、重症になるまでの時間が成人よりも急激であることが多い。症状が持続しているならば受診を勧めよう。親にとって、子供は自分の命に代えても大事な宝物なのだから。Point電話相談だけで診断はつけられない。予想される疾患や再相談や受診の目安を伝えようワンポイントレッスン電話相談の小ネタ〜これであなたも電話相談したくなる!?電話相談では、どんな相談が多い?スウェーデンの80歳以上の高齢者の電話医療相談の研究では、全体の17%が薬剤関連で、自分の入院に関連した情報(既往歴や内服などの情報照会)、尿路関連、腹痛といった相談が続く2)。薬剤関連が多いのは高齢者という特性が大きく関連しているだろうが、皆さんの実感とも近いだろうか。電話相談で不要な診察はどのくらい減らせる?デンマークの研究では、電話相談による介入で不適切な頻回受診が16%減らせるとの報告がある3)。また、英国の電話相談サービス“NHS111”にかかってきた救急外来受診相談にgeneral practitionerが介入することで、73%が救急外来受診以外の方針(1次医療機関や軽傷対応施設の受診:45.2%、経過観察など:27.8%)となったことが報告された4)。適切な電話相談で相当数の不要不急の診察が減らせそうだ。電話相談だけで済ませることになっても有害事象は起こっていない?電話相談を行っている地域と行っていない地域とで比較した報告によると、有害事象や死亡の転帰をたどった率はそれぞれ、0.001%、0.2〜0.5%だった3)。適切な電話相談が行われれば、相談者に有害な転帰をたどる可能性はきわめて低いといえる。 電話相談による医療コストは減らせる?これだけ不要な診察を減らして有害事象も起こさない電話相談なら、医療費削減にもよいのでないかと思うだろう。しかし、現在のところ英国の研究によれば、議論の余地があるところだ。救急医療コストの29%を減らしたとする一方、そのうちの75%は電話相談サービスの運営コストで相殺される。今後AIなどの発達によって相談サービスのコストが削減できると結果は変わってくるだろう。電話相談で患者の救急医療の満足度は変わる? 認識は変わる?電話相談によって大幅なコストダウンは見込めないが、患者満足度はどうだろうか?イギリスの電話相談サービス“NHS 111”のあるエリアとないエリアで比較して、救急外来を受診した患者の満足度や救急医療に対する認識に変化があるか調査したが、救急医療への満足度、認識に変化はないとの報告だった5)。こちらも相談サービスの質向上によって改善しうるだろう。勉強するための推奨文献 Ismail SA, et al. Br J Gen Pract. 2013;63:e813-820. Knowles E, et al. BMJ Open. 2016;6:e011846. 石川秀樹 ほか. 日本臨牀. 2016;74:p.303-313. 参考 1) 総務省消防庁HP. 救急安心センター事業(#7119)関連情報 2) Dahlgren K, et al. Scand J Prim Health Care. 2017;35:98-104. 3) Ismail SA, et al. Br J Gen Pract. 2013;63:e813-820. 4) Anderson A, Roland M. BMJ Open. 2015;5:e009444. 5) Knowles E, et al. BMJ Open. 2016;6:e011846. 執筆

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第251回 沖縄でコロナ急増、入院患者の半数が80歳以上 全国でも増加傾向続く/厚労省

<先週の動き> 1.沖縄でコロナ急増、入院患者の半数が80歳以上 全国でも増加傾向続く/厚労省 2.認知症薬レカネマブ、薬価15%引き下げへ 費用対効果に課題/中医協 3.医療機関の倒産、上半期35件で過去最多ペース/帝国データバンク 4.国立大病院の赤字が過去最大285億円、移植や高額薬が経営圧迫/国立大学病院長会議 5.「終末期医療は全額自己負担」に波紋、専門家は「事実誤認」指摘/参院選 6.ALS嘱託殺人事件、元医師の有罪確定 見張り役も共謀と判断/最高裁 1.沖縄でコロナ急増、入院患者の半数が80歳以上 全国でも増加傾向続く/厚労省厚生労働省は2025年7月11日、全国約3,000の定点医療機関から報告された新型コロナウイルス感染者数が、6月30日~7月6日の1週間で1医療機関当たり1.97人となり、前週(1.40人)比で1.41倍に増加と発表した。全国平均で3週連続の増加となり、全体で7,615人の新規感染者が報告された。都道府県別では、沖縄県が1定点当たり16.36人と突出しており、2位の山梨県(3.26人)、3位の千葉県(3.11人)を大きく引き離した。一方で、感染者数が少なかったのは鳥取(0.55人)、北海道(0.60人)、青森(0.67人)など。とくに沖縄県では感染拡大が顕著で、1週間の報告数は736人と前週の1.46倍。入院患者は85人で14人増加し、その約半数が80歳以上だった。年齢別でも60歳以上が最多で、高齢者層での感染と入院増が目立った。県では7月4日に独自の「新型コロナ感染拡大準備情報」を発令し、地域医療機関に注意を呼びかけている。併せてインフルエンザも継続的に流行しており、定点当たり4.96人と依然高い水準が続いている。今後も高齢者を中心とした重症化リスクを踏まえ、早期対応や感染対策の強化、病床確保が求められる状況にある。 参考 1) 2025年 7月11日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について(厚労省) 2) 新型コロナ患者、3週連続で増加…人口当たりでは沖縄県が突出(読売新聞) 3) コロナ感染、増加傾向続く 前週比1・41倍(産経新聞) 4) コロナ感染者数、沖縄は前週の1.46倍に 1定点あたり16.36人 「感染拡大準備情報」を発表中(沖縄タイムス) 2.認知症薬レカネマブ、薬価15%引き下げへ 費用対効果に課題/中医協厚生労働省は7月9日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、アルツハイマー病治療薬レカネマブ(商品名:レケンビ)について、その費用対効果が低いとする評価結果を受け、薬価を最大15%引き下げる方針を示した。レカネマブは、エーザイと米バイオジェンが共同開発し、2023年に国内で初めて承認されたアミロイドβを標的とする薬剤で、軽度認知障害(MCI)または軽度の認知症が対象。年間投与コストは約300万円で、公的医療保険の対象となっている。今回の評価では、認知機能の低下を27%抑制し、進行を7.5ヵ月遅らせるといった治験成績はあるものの、対象が軽症であることから介護費抑制効果が限定的と判断され、「費用対効果が不十分」と結論付けられた。国立保健医療科学院の分析では、現在の薬価の3分の1が妥当とされた。一方、エーザイは公的分析が「投与期間を18ヵ月までに限定」、「患者QOLの改善を軽視」など、評価モデルに乖離があるとして反論。「費用対効果は価格評価であり、薬の有効性自体を否定するものではない」と強調している。薬価は今後、中医協で議論され、激変緩和措置により最大15%の引き下げに止まる見通し。なお、薬価の費用対効果評価は2019年度から導入されており、エンシトレルビル フマル酸(同:ゾコーバ)などでも引き下げ例がある。 参考 1) 医薬品の費用対効果評価案について(厚労省) 2) アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」 薬価15%引き下げへ(NHK) 3) エーザイ認知症薬「レカネマブ」値下げへ 中医協「費用対効果悪い」(日経新聞) 4) エーザイ、認知症薬の費用対効果で反論 中医協は「過小に評価」(同) 3.医療機関の倒産、上半期35件で過去最多ペース/帝国データバンク帝国データバンクの調査によれば、2025年上半期(1~6月)に倒産した医療機関は全国で35件に達し、過去最多だった前年(64件)を上回るペースで推移している。内訳は病院9件、診療所12件、歯科医院14件で、とくに病院の倒産が増加している。負債10億円以上の大型倒産も病院で4件確認された。これまで小規模事業者の破綻が中心だったが、中規模病院への波及が顕著となっている。主因は、物価・人件費・光熱費・医療機器価格などのコスト上昇に診療報酬が追いつかず、収益構造が逼迫している点にある。また、経営者の高齢化と後継者難により、診療所・歯科医院では廃業や解散も増加しているほか、病院では建物の老朽化が課題であり、耐用年数(39~40年)を超えても建て替え困難な事例が多発している。さらに注目されているのが「休廃業・解散」の急増で、1~5月だけで300件(病院12件、診療所288件)に上り、年換算で700件を超える見通し。医師の高齢化も深刻で、診療所経営者の過半が70歳以上、後継者不在は全体の50%超とされる。建設費高騰と資金難により、将来的な閉院リスクも増している。医師会などの調査では、医業利益ベースで赤字病院は全体の約7割に達しており、制度的支援がなければ地域医療の空白化が加速する恐れがある。今後の診療報酬・医療提供体制の在り方が問われる状況となっている。 参考 1) 倒産した医療機関 上半期で全国35件 過去最多ペース(NHK) 2) 医療機関の倒産、上半期は35件で過去最多を上回るペース 物価高、人件費の高騰で収益悪化(帝国データバンク) 3) 医療機関の倒産は過去最多ペース…「ある日突然、病院がなくなる」地域が急増する衝撃(日刊ゲンダイ) 4.国立大病院の赤字が過去最大285億円、移植や高額薬が経営圧迫/国立大学病院長会議国立大学病院長会議は、2024年度の決算速報で、全国42国立大学・44附属病院の経常損益が過去最大の285億円の赤字となったと公表した。前年度の赤字60億円からさらに大幅に悪化し、全体の7割近い29病院が赤字に陥っている。収益は547億円増加した一方で、人件費や医薬品・材料費の高騰などにより費用は772億円増加。物価高と働き方改革の影響が大きく、収入との乖離が赤字拡大の主因とされている。とくに移植手術では深刻な採算割れが発生しており、肺移植では1件当たり418万円の赤字、臓器移植全体でも平均290万円の損失となっている。加えて、高額医薬品(10万円以上)の使用が全体の28.5%を占め、その管理・維持に通常より数倍の人件費が必要とされるほか、キャンセル時には全額病院負担となることも経営を圧迫している。医療機器更新の停滞、診療報酬の低水準、研究・教育機能の劣化なども懸念され、病院長らは補正予算による支援と次期診療報酬改定での点数引き上げを強く要望している。大学病院が担う高度医療と医師養成の機能の維持には、早急な国の対応が不可欠と訴えている。 参考 1) 国立大病院285億円赤字 過去最大、24年度「新たな医療機器が買えない」(産経新聞) 2) 国立大学病院の赤字 過去最大の285億円 全体の7割近くが赤字に(NHK) 3) 国立大学病院長会議 42国立大学病院の24年度経常損益マイナス285億円 経営悪化で事業継続の危機訴え(ミクスオンライン) 5.「終末期医療は全額自己負担」に波紋、専門家は「事実誤認」指摘/参院選参政党が参議院選挙で掲げている「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」の公約が、大きな波紋を呼んでいる。同党は「過度な延命治療が医療費を押し上げる」として、胃ろうや点滴、経管栄養の制限と、診療報酬の定額制導入も主張している。神谷 宗幣代表は「蓄えの必要性を啓発する意図」と釈明するが、福岡 資麿厚生労働省大臣は「生命倫理に関わる問題で国民的議論が必要」と否定的な見解を示している。神谷氏の公約に対し、医療・政策専門家からは批判が相次いでいる。日本福祉大学名誉教授の二木 立氏は、死亡前1ヵ月の医療費は全体の約3%にすぎない点を挙げ、「終末期医療が医療費高騰の主因」とする主張は誤りと指摘。また、延命措置の線引きは曖昧で、終末期は必ずしも高齢者に限らず、子供にも適用されることもある。さらに、日本老年医学会の「立場表明2025」は、緩和ケアの推進と意思決定支援の重要性を強調し、「time-limited trial」などの柔軟な対応を推奨。個別の事情に応じた医療の必要性を訴えている。SNS上では「政治家が終末期医療を一律に制限することは、尊厳や人権を損なう」との声も広がる。医療現場では、患者や家族との対話を重視し、画一的な制限ではなく、多様なニーズに応じたケアが求められている。今回の公約は、医療者や国民との合意形成の積み重ねに逆行するものであり、終末期医療の制度設計をめぐる今後の議論に注目が集まっている。 参考 1) 参政党の政策(参政党) 2) 終末医療は全額自己負担 参政党が異常な公約(しんぶん赤旗) 3) 参政公約「終末期延命措置は全額自己負担」 神谷氏「啓発する思い」(朝日新聞) 4) 参政党の医療公約「終末期の延命医療費の全額自己負担化」医療政策学者と検証する(医療記者、岩永直子のニュースレター) 5) 終末期医療めぐる議論に医師作家「終末期=高齢者では決してありません」(日刊スポーツ) 6.ALS嘱託殺人事件、元医師の有罪確定 見張り役も共謀と判断/最高裁2019年にALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者(当時51歳)の依頼を受けて薬物を投与し死亡させた嘱託殺人事件で、最高裁第2小法廷は7月7日、元医師・山本 直樹被告(48)の上告を棄却し、懲役2年6ヵ月の実刑が確定した。実行犯である元医師・大久保 愉一受刑者(47)はすでに懲役18年が確定している。山本被告は「殺害計画は知らなかった」と無罪を主張したが、一審・京都地裁は「見張り役として犯行を支援し、被害者と大久保受刑者を繋ぐ調整役を果たした」と指摘。被害者から約130万円を受け取り、訪問日程の調整も行っていた点から「殺害の意図を認識し、共謀していた」と判断された。大阪高裁もこの判断を支持し、最高裁は「判例違反などの上告理由にあたらない」として棄却した。本件とは別に、山本被告は2011年に父親を殺害した罪でも懲役13年が確定しており、大久保受刑者も一連の事件で懲役18年が確定している。ALS患者による「自死の選択」をめぐる社会的議論が続く中、本件は「患者の依頼による殺害」でも、法的責任が厳格に問われた判例として注目されている。安楽死・尊厳死の制度化がないわが国では、医療者による関与があっても刑事責任を免れないことが改めて確認された。今後も生命倫理と医療行為の境界における慎重な議論が求められる。 参考 1) ALS患者の嘱託殺人、「見張り役」元医師の実刑確定へ 最高裁(朝日新聞) 2) 元医師も実刑確定へ 最高裁、ALS嘱託殺人(日経新聞) 3) 元医師、懲役2年6月確定へ ALS嘱託殺人、上告棄却 最高裁(時事通信)

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歯周病の進行が動脈硬化と相関か

 歯周病は40歳以上の成人における歯の喪失の主な原因と考えられているが、2000年代の初頭からは他の全身疾患との関連性も報告されるようになった。今回、アテローム性動脈硬化と歯周病の進行が相関しているとする研究結果が報告された。研究は鹿児島大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学分野の玉木直文氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に4月18日掲載された。 アテローム性動脈硬化は血管疾患の主な原因の一つであり、複数のメタ解析により歯周病との関連が報告されている。長崎大学は2014年に、離島における集団ベースの前向きオープンコホート研究である長崎諸島研究(Nagasaki Islands Study;NaIS)を開始した。このコホート研究でも以前、動脈硬化が歯周病の進行に影響を与えるという仮説を立て、横断研究によりその関連性を調査していた。しかし、両者の経時的な関連性を明らかにする縦断研究はこれまで実施されていなかった。そこで著者らは、追跡調査を行い、動脈硬化と歯周病の関連性を検討する3年間のコホート研究を実施した。 本研究は長崎県五島市で実施されたフィールド調査で口腔内検査を受けた40歳以上の成人597人のうち、ベースライン時の健康診断と3年後に実施された追跡健康診断の両方のデータ(潜在性動脈硬化症、潜在的交絡因子、口腔内検査)がそろっている222人を最終的な解析対象とした。潜在的なアテローム性動脈硬化の指標として、頸動脈内膜中膜厚(cIMT)が1mm以上、足関節上腕血圧比(ABI)が1.0未満、心臓足首血管指数(CAVI)が8以上の者を、高リスク者と定義した。歯周病の進行は、歯肉辺縁から歯周ポケット底部までのプロービング ポケット デプス(PPD)と、セメントエナメル境から歯周ポケット底部までのクリニカル アタッチメント レベル(CAL)を測定することで評価した。 ベースライン時における参加者の平均年齢は64.5±10.3歳であり、歯周病が進行した対象者58人(26.1%)が含まれた(進行群)。歯周病進行群と非進行群のベースライン時点での比較では、性別が男性であること、年齢が高いこと、現存歯数が少ないこと、PPDとCALが深いこと、喫煙者、高血圧、cIMTの厚さ、cIMTが1mm以上の者の割合、およびCAVIの値に有意な差が認められた。 3年間の追跡調査におけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)の変化を調べたところ、CAVIの値は歯周病進行群(P<0.001)、非進行群(P=0.007)でともに有意に増加していたが、CAVIが8以上の者の割合は進行群でのみ62.1%から81.0%へ有意に増加していた(P=0.024)。 次に、年齢と性別を調整した上で、多重ロジスティック回帰分析を実施し、アテローム性動脈硬化(前述の通りcIMT、ABI、CAVIによって定義)に対する歯周病進行のオッズ比(OR)を算出した。その結果、cIMTが1mm以上であった群は歯周病進行のORが有意に高かった(OR2.35、95%信頼区間〔CI〕:1.18, 4.70、P<0.05)。この有意傾向は、喫煙状況や高血圧などの追加の共変量を調整した後も維持された。 また、多重線形回帰分析により、ベースラインにおけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)とPPDおよびCALの変化との相関を検証した。年齢および性別で調整した結果、CAVIはCALの変化と正の相関(β=0.046、95%CI:0.008, 0.083、P=0.017)を示し、ABIはPPDの変化と負の相関(β=-0.667、95%CI:-1.237, -0.097、P=0.022)を示した。この有意傾向は、すべての共変量を調整した後も維持された。 本研究の結果について著者らは、「本研究より、日本の地域在住の中高齢者において、歯周病の進行とアテローム性動脈硬化が有意に関連していることが示唆された。従って、潜在性のアテローム性動脈硬化を予防することで、歯周病の状態を改善できる可能性がある。」と述べている。

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第247回 骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣

<先週の動き> 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、医療者の感染リスクも顕在化/三重県 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣政府は6月13日、「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太の方針2025)を閣議決定し、来年度以降の予算編成や制度改革の方向性を示した。今回の方針では、医療・介護・福祉分野における構造改革と現場の処遇改善が柱となり、「成長と分配の好循環」に向けた具体策が明示された。政府は初めて、2029年度までに実質賃金を年1%引き上げる数値目標を掲げ、医療・介護・保育・福祉分野の処遇改善を「成長戦略の要」と位置付けた。これに伴い、公的価格である診療報酬や介護報酬の引き上げを示唆し、2026年度の報酬改定に大きな影響を与える可能性がある。また、これまで「高齢化による自然増」に限定していた社会保障費の算定に、今後は物価・賃金動向を加味する方針を打ち出した。これにより、物価高や人材確保に悩む医療・介護機関にとっては、経営基盤の安定化につながるとみられる。その一方で、保険料負担とのバランスが課題となる。地域医療体制の再編も加速され、地域実情を踏まえつつ、2027年度施行の新地域医療構想に合わせて、一般・療養・精神病床の削減が明記された。とくに中小病院や療養型施設に対し、再編や役割分担が求められる。負担の公平性を重視し、医療・介護の応能負担の強化も盛り込まれた。金融所得を含めた新たな負担制度の検討が進められており、今後の制度設計に注目が集まっている。また、2026年度以降、市販薬と類似する医師処方薬(OTC類似薬)を保険給付から除外する見直しが進められ、診療所経営にも影響が及ぶ可能性がある。さらに、医療の効率化を図るため、医療DXやデータ活用が推進され、電子カルテの標準化やPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)との連携が進展される見込みとなった。地域単位で薬剤選定を標準化する「地域フォーミュラリ」の全国展開も盛り込まれた。今回の方針は、賃上げによる持続可能な成長と、医療・福祉分野の構造改革を同時に進めるものであり、制度改革の実行力が問われる局面となる。 参考 1)経済財政運営と改革の基本方針 2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~[全文](内閣府) 2)ことしの「骨太の方針」決定 経済リスク対応やコメ政策見直し(NHK) 3)不要な病床の削減を明記、骨太方針決定 社会保障費「経済・物価動向等」反映へ(CB news) 4)骨太の方針、社保に物価・賃上げ反映 家計負担増す可能性(日経新聞) 5)実質賃金年1%上昇、初の数値目標 骨太の方針を閣議決定(毎日新聞) 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、人獣共通感染症への警戒強まる/三重県マダニ媒介感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染拡大が続いており、医療従事者にも重大な影響を及ぼしている。6月、三重県内でSFTS感染の猫を治療していた高齢の獣医師が感染・死亡する事例が確認された。ダニ刺咬痕は確認されておらず、唾液や血液を介したペット由来の感染が疑われている。これは、2024年の医師への感染に続く人獣間感染の深刻な事例であり、日本獣医師会は防護対策の徹底を求めている。SFTSは6~14日程度の潜伏期を経て発熱、嘔吐、下痢、意識障害、皮下出血など多彩な症状を呈し、致死率は最大30%に達する。とくに高齢者では重症化リスクが高い。現在、有効な抗ウイルス薬としてファビピラビル(商品名:アビガン)が使用できるが、ワクチンは存在しない。マダニ感染症はSFTSのほかにも日本紅斑熱やツツガ虫病があり、いずれも西日本を中心に発生が集中している。2025年も岡山・鳥取・香川・静岡・愛媛など複数県で感染例が報告されており、死亡例も出ている。春から秋にかけてマダニの活動が活発化し、農作業やアウトドア活動での感染リスクが高まる。また、SFTSは犬・猫などのペットがウイルス保有宿主になり得ることが明らかになっており、医療者・獣医師・飼い主ともに十分な感染予防対策が求められる。ペットの室内飼育、防虫剤使用、皮膚・粘膜の保護に加え、咬傷・体液接触時の手指衛生とPPE(個人防護具)の着用が推奨される。今後、診療現場でもマダニ媒介疾患への警戒を強化し、野外活動歴や動物との接触歴を含めた問診と初期対応の徹底が重要である。 参考 1)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚労省) 2)ネコ治療した獣医師死亡 マダニが媒介する感染症の疑い 三重(NHK) 3)マダニ感染症で死亡の獣医師「胸が苦しい、息苦しい」訴え緊急搬送 発症前に感染ネコ治療(産経新聞) 4)マダニにかまれ「日本紅斑熱」60代男性感染 2025年8人目 屋外でのマダニ対策呼びかけ(静岡放送) 5)マダニにかまれ、感染症悪化で死亡事例も 今が活動期 アウトドアレジャーでの警戒を(産経新聞) 6)ダニ媒介による感染症「日本紅斑熱」「SFTS」の患者が多発 県が注意喚起(山陽放送) 7)西日本中心に“マダニ”に注意 住宅街の茂みでパンパンに膨らんだマダニも…マダニが媒介する致死率10%超えの感染症SFTSとは?50歳以上は特に重症化しやすいか(あいテレビ) 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省厚生労働省は、緩和ケアの対象を腎不全患者にまで拡大する方針で検討を開始した。これまで緩和ケアは、がん・エイズ・末期心不全の患者を対象としてきたが、透析継続が困難になった腎不全患者においても激しい身体的・精神的苦痛が生じるケースが多く、医療現場から対応拡充を求める声が高まっていた。背景には、慢性透析患者が年々増加し、2023年には全国で約34.4万人に達し、年間3.8万人が死亡している現状がある。透析中止に際しては「人生で最も激しい痛み」と表現されるほどの苦痛を伴うこともありながら、現在の診療報酬制度では緩和ケアの加算対象から除外されており、患者は十分な医療的支援を受けられていない。こうした事態を受け、自民党の有志議員らは5月に提言を厚労省に提出。患者の尊厳を守る終末期医療の実現に向け、在宅医療体制の整備、医療用麻薬の使用拡大、関連学会によるガイドラインの整備、モデル地域の創設などを提案した。これを受け厚労省は、2025年の「骨太の方針」に腎臓病対策として盛り込み、次期診療報酬改定を視野に対応を進める見通しだ。日本透析医学会も2020年以降、緩和ケアの必要性を強調しており、透析の見合わせ段階だけでなく、意思決定前の段階でも継続的なケアの必要性を提唱。今後は腎不全患者への緩和ケア提供を制度的に後押しする議論が本格化する。 参考 1)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減(東京新聞) 2)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減 厚労省検討、骨太反映へ(産経新聞) 3)がん以外にも緩和ケアを 透析医療へ拡大訴え 学会や国で議論始まる(共同通信) 4)わが国の慢性透析療法の現況(日本透析医学会) 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ2025年に入って、わが国の医療機関が前例のないペースで倒産または廃業している。帝国データバンクの調査によれば、1~5月だけですでに倒産が30件、廃業・解散などが373件に達し、年間では合計1,000件に迫る勢いだ。これは2024年の過去最多記録(723件)を大幅に上回る見通しであり、医療提供体制の根幹が揺らぎ始めている。背景には、医療機器や光熱費などの物価上昇に対して、2024年度の診療報酬改定(+0.88%)が極めて抑制的だったことがある。また、医師の働き方改革により、大規模病院を中心に残業代負担が急増し、経営を圧迫している。さらに、病院の老朽化も深刻で、法定耐用年数(39年)を迎える施設が全国の約8割に及ぶ中、建設費の高騰により建て替えを断念せざるを得ない事例が増えている。中小診療所や歯科医院では、経営者の高齢化や後継者不在が廃業の主因となっている。とくに同族経営が多い歯科では、承継が進まず「法人の限界」が露呈している。M&Aのニーズは高まっているが、財務状態の良い法人に買い手が集中し、赤字法人は買い手がつかず「廃業すらできない」という二極化が進行中だ。このような事業者の「自然消滅」は、厚生労働省が推進する地域医療構想の想定を超える速さで進行しており、病床再編の制度設計と現場の実態が乖離している。現状では、老朽施設への再生支援策も不十分で、制度疲労が顕在化している。今後の政策には、(1)診療報酬や補助金の実態に即した見直し、(2)施設再建支援、(3)M&Aによる出口戦略の明確化、(4)中山間地や離島での公的医療体制の再構築が求められる。医療機関の消滅は、単なる経営問題に止まらず、地域住民の医療アクセス権や医療安全保障そのものに関わる緊急課題である。 参考 1)病院と診療所の倒産件数、5カ月で前年上半期に並ぶ 計18件 東京商工リサーチ(CB news) 2)入金基本料「大幅引き上げを」公私病連が決議 病院経営の厳しさ訴える(同) 3)医療機関で倒産急増の深刻事態!今年は約1,000事業者が“消滅”か(ダイヤモンドオンライン) 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協厚生労働省は、6月13日に中央社会保険医療協議会(中医協)・調査評価分科会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開き、地域包括医療病棟および回復期リハビリ病棟に関する実態調査結果の報告をもとに討議を行なった。2024年度診療報酬改定で新設された地域包括医療病棟入院料について、届け出病院の約4割が急性期一般入院料1からの転換で、制度設計通りの導入が進んだとされた。一方、届け出検討病院は全体の5%程度に止まり、とくに「毎日リハビリ提供体制の整備」が障壁との回答が多数を占めた。また、入院患者の診療実態にはばらつきがあり、輸血や手術を多数算定する病院と、誤嚥性肺炎など内科系疾患中心の病院とで医療内容に差がみられた。急性期病棟を手放した病院も多く、地域医療構造の再編に影響が及ぶ可能性もある。一方、回復期リハビリ病棟では、FIM(機能的自立度評価)利得がゼロまたはマイナスの患者が突出して多い施設が散見され、委員からは「異常」「詳細な分析を行うべき」との指摘が相次いだ。新設されたリハ・栄養・口腔連携体制加算の基準(ADL低下3%未満)に満たない施設が多いことも判明した。今後、診療報酬制度の実効性や適正な施設基準運用のあり方が問われる。 参考 1)令和7年度第3回入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省) 2)地域包括医療病棟、急性期一般1から移行が最多 全体の4割占める(CB news) 3)回復期リハ、FIM利得マイナスの患者が多くの病院に 「詳細な分析を」中医協・分科会(同) 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府政府は6月13日、「デジタル行財政改革取りまとめ2025」を決定し、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を中核に据えた改革方針を示した。背景には、急速な少子高齢化による医療資源の逼迫と、地域医療の持続可能性確保という喫緊の課題がある。今回の取りまとめでは、電子処方箋の導入促進とあわせて、医療データの二次利用(研究、医療資源の最適化など)に向けた制度整備が明記された。電子処方箋は2025年夏に新たな導入目標を設定し、病院・診療所での導入拡大を急ぐ。8月にはダミーコード問題への対応としてシステム改修が完了する予定であり、今後は診療報酬・補助金による導入促進も強化される。また、救急搬送時の医療情報共有を可能とする広島県発の連携PF(プラットフォーム)を全国展開する構想も示された。これにより、搬送の調整が迅速となり、災害時のEMIS連携やマイナンバーカードの活用による「マイナ救急」との統合も視野に入る。さらに、医療データの二次利用の円滑化に向けた法整備を進めるほか、AI活用のための透明性ある学習データの収集・連携環境の整備も進行中である。電子処方箋やリフィル処方の活用拡大も引き続き重要課題とされ、KPIの早期設定と次期診療報酬改定での反映が示唆された。これら一連の取り組みは、医療現場の業務効率化と質の高い医療の提供、さらには地域医療構想との接続にも大きな影響を及ぼす。医師にとっては、現場実装の速度と制度設計の動向に注視することが求められる。 参考 1)デジタル行財政改革 取りまとめ2025(デジタル行財政改革会議) 2)AIの学習データ、収集や連携促進 デジタル改革取りまとめ(日経新聞) 3)社会課題解決に医療データ活用 方針決定 法整備検討へ 政府(NHK) 4)電子処方箋、今夏に新たな目標設定 デジタル行革 取りまとめ、8月にシステム改修終了へ(PNB) 5)デジタル行財政改革会議(首相官邸)

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歯磨きに明確な効果。院内肺炎、そしてICU死亡率が低下【論文から学ぶ看護の新常識】第18回

歯磨きに明確な効果。院内肺炎、そしてICU死亡率が低下歯磨き(歯ブラシを用いた口腔ケア)を行うことで、院内肺炎(HAP)のリスクが約33%、集中治療室(ICU)での死亡率が約19%低下することが、Selina Ehrenzellerらの研究により示された。JAMA Internal Medicine誌2024年2月号に掲載された。毎日の歯磨きと院内肺炎の関連性:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、毎日の歯磨きが、院内肺炎(HAP)の発生率低下およびその他の患者関連アウトカムと関連しているかを明らかにすることを目的に、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。入院中の成人患者を対象に、歯ブラシによる毎日の口腔ケアと、歯ブラシを用いない口腔ケアを比較したランダム化比較試験を分析対象とした。PubMed、Embaseを含む6つの主要医学文献データベースと、3つの臨床試験登録システムを、各データベース創設時から2023年3月9日まで検索した。メタアナリシスには、ランダム効果モデルを用いた。主要アウトカムをHAPとし、副次アウトカムには、院内および集中治療室(ICU)の死亡率、人工呼吸器装着期間、ICU滞在期間および入院期間、ならびに抗菌薬の使用を含めた。サブグループ解析の項目には、侵襲的人工呼吸管理を受けた患者と受けなかった患者、1日2回の歯磨きとそれ以上の頻度の歯磨き、歯科専門職による歯磨きと一般看護スタッフによる歯磨き、電動歯ブラシと手用歯ブラシ、そしてバイアスリスクが低い研究と高い研究が含まれた。主な結果は以下の通り。合計15件の研究(対象患者10,742例)が選択基準を満たした(ICU患者2,033例、非ICU患者8,709例であり、非ICU患者における1件のクラスターランダム化試験を考慮して統計的に調整した有効サンプルサイズは2,786例)。歯磨きの実施は、HAPリスクの有意な低下(リスク比 [RR]:0.67 、95%信頼区間[CI]:0.56~0.81)、およびICU死亡率の低下(RR:0.81 、95%CI:0.69~0.95)と関連していた。肺炎発生率の減少は、侵襲的人工呼吸管理を受けている患者において有意であったが(RR:0.68、95%CI:0.57~0.82)、侵襲的人工呼吸管理を受けていない患者では有意な差を認めなかった(RR:0.32、95%CI:0.05~2.02)。ICU患者における歯磨きは、人工呼吸器装着日数の短縮(平均差:−1.24日、95%CI:−2.42~−0.06)、およびICU滞在期間の短縮(平均差:−1.78日、95%CI:−2.85~−0.70)と関連していた。1日2回の歯磨き(RR:0.63)と、それ以上の頻度で歯磨きを行った場合(1日3回歯磨きRR:0.77、1日4回歯磨きRR:0.69)では、効果の推定値は同程度であった。これらの結果は、バイアスリスクの低い7つの研究(1,367例)に限定した分析でも一貫していた。非ICUの入院期間および抗菌薬の使用については、歯磨きとの関連は認められなかった。毎日の歯磨きが、とくに人工呼吸器管理を受けている患者におけるHAPの発生率の大幅な低下、ICU死亡率の低下、人工呼吸器装着期間の短縮、およびICU滞在期間の短縮と関連している可能性が示唆された。毎日の歯磨きは効果的ですね!とくに人工呼吸器を使用している患者では、その効果が大きいようです。ただ、「リスク比」って何?と思う方もいらっしゃると思います。この論文の結果では、リスク比が0.67と報告されています。これは、「歯磨きをすることでHAPの発生リスクが0.67倍になる」言い換えれば「HAPの発生リスクを約33%減少させる」と解釈できます。また計算すると人工呼吸器関連肺炎(VAP)を予防するために必要な治療数(治療必要数[NNT])は12人でした。つまり、人工呼吸器を使用している患者12人に歯磨きを実施することで1例のVAPを予防できる計算になります。12人歯磨きしたらVAPを予防できたと考えると、自分の業務のやりがいが一層感じられるかもしれません。推奨される口腔ケアの頻度は報告によってさまざまですが、少なくとも1日1~2回は必要とされています。多くの施設では、ケアの目標として食事に合わせて1日3回以上を設定しているかもしれません。しかし、多忙な業務の中でこの目標を常に達成するのが難しい現状もあるのではないでしょうか。目標が高すぎると、達成できなかった際にネガティブな印象が残り、ケアへの負担感につながってしまう可能性も考えられます。ここで大切なのは、無理なく継続できる目標を設定し、確実に実施することです。例えば、まずは「人工呼吸器を使用している患者さんには、1日1~2回歯ブラシを用いた口腔ケアを実施する」ことをチームの共通目標にしてみてはいかがでしょうか。日勤帯での実施が難しければ、夜勤帯や早朝など、部署の状況に合わせて実施できる時間帯を検討し、職場内で実現可能なルール作りや手順の見直しを行うことが大切です。このような論文の知見を参考に、この機会に現実的で継続可能なケア方法について、一度チーム内で話し合ってみるのもよいかもしれませんね。論文はこちらEhrenzeller S, et al. JAMA Intern Med. 2024;184(2):131-142.

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