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米国で病院を標的としたランサムウェア攻撃が増加

 近年、米国のヘルスケアシステムを標的としたランサムウェア攻撃が2016年から2021年にかけて2倍以上に増え、必要とされる医療の提供が妨害されるとともに、何百万人もの人々の個人情報が流出する事態に陥っていることが、米ミネソタ大学公衆衛生学部のHannah Neprash氏らによる研究から明らかになった。Neprash氏は、「われわれは、さまざまな規模のランサムウェア攻撃が仕掛けられていることに加え、その深刻度が高まりつつあることも突き止めた。これは良いニュースとはいえない。医療提供者と患者にとっては恐ろしいことだ」と危機感を募らせている。研究の詳細は、「JAMA Health Forum」に12月29日掲載された。 ランサムウェアとは、ハッカーたちがコンピューターシステムをロックして使用できない状態にした上で、元に戻すためのランサム(身代金)を要求するマルウェア(悪意のあるソフトウェア)のことだ。Neprash氏らの今回の研究から、診療所や歯科医院から大規模な病院や外科センターまで、あらゆるレベルの医療機関がランサムウェアの攻撃を受けていることが明らかになった。 医療機関に対するランサムウェア攻撃の年間発生件数は、2016年の43件から2021年には91件へと2倍以上に増えていた。また、ランサムウェア攻撃によって約4200万人の患者の個人的な健康情報が流出し、危機的な状況下で救急車が進路を変えさせられたり、予定されていた治療が遅れたりキャンセルされたりするといった事態も発生していた。 Neprash氏は、「ランサムウェアを仕掛ける人たちは、ヘルスケア業界には潤沢な資金があり、医療サービスの提供再開のためなら身代金の支払いを厭わないことを知っているようだ。そのため、ヘルスケア業界を標的とした攻撃が増加の一途をたどっているのだろう」と指摘する。 今回の研究でNeprash氏らは、ヘルスケア業界におけるランサムウェア攻撃の発生を確認できるデータベースを作成した。このデータベースは、連邦政府の監督機関と民間のサイバーセキュリティ脅威インテリジェンス企業から収集した情報を組み合わせたものであるという。 全てのランサムウェア攻撃のうち、医療提供の妨害につながった攻撃の割合は44.4%に上り、その期間が1カ月以上に及んだ例もあった。ランサムウェア攻撃による被害は、検査や歯の治療の予約日の変更などで済んだ場合もあるが、深刻な事態を招いた場合もあった。2019年には、ランサムウェア攻撃を受けた米アラバマ州のスプリングヒル医療センターで1人の乳児が死亡した。乳児はサイバー攻撃の8日後に、同センターでへその緒が首に巻き付いた状態で生まれ、重度の脳障害が残った。そして、その9カ月後に死亡した。当時、同医療センターのコンピューターシステムがダウンしていたため、看護師たちが胎児の心拍の変化に気付かなかったという。乳児の母親は、もし変化に気付いていれば、医師が緊急帝王切開を指示していたはずだと裁判で主張。裁判でもそのような対応をとっていれば乳児を救命できた可能性があるとの見解が示されたが、同センターは不正を否定し、ランサムウェア攻撃を受けている間の診療継続は安全だったと結論付けた。 情報テクノロジー研究グループのポネモン研究所がまとめた2021年9月の報告書によると、米国のヘルスケア提供機関の約4分の1が、ランサムウェア攻撃が患者死亡の増加の原因になると回答。また、処置や検査の遅れによって予後不良になる(70%)、他の医療機関に転院あるいは移送する患者数が増加する(65%)、合併症が増加する(36%)といった回答もあった。 さらに、Neprash氏らのデータベースからは、ランサムウェア攻撃の58%が診療所を標的としていたことも明らかになった。次いで多かったのは病院を標的とした攻撃(22%)で、外来手術センター(15%)、精神医療施設(14%)、歯科医院(12%)が続いた。また、同氏は「ランサムウェア攻撃を評価する最も単純な方法は、個人の健康情報の流出件数を参考にすることだが、攻撃1回当たりの平均流出件数は2016年の約3万7,000件から2021年には約23万件へと大幅に増えていた」としている。 医療情報管理システム協会(HIMSS)のLee Kim氏は、実際にはNeprash氏らが今回報告した数よりも多くの医療機関を狙ったランサムウェア攻撃が行われている可能性が高いとの見解を示し、「考えられている以上に大きな問題であることは確実だと思う」と話す。その上で、医療機関のコンピューターシステムの安全性を向上させるための新たな法律を施行するとともに、医療機関をサイバー攻撃から守るために医療従事者に対する教育を強化する必要があると主張している。

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第131回 新型コロナウイルス、4月以降に「5類」に移行へ/政府

<先週の動き>1.新型コロナウイルス、4月以降に「5類」に移行へ/政府2.処方の見返りに奨学寄付金を求めた元教授に有罪判決/三重3.全国の都道府県がん拠点病院、地域がん拠点病院を新たに指定/厚労省4.オンライン資格確認の導入のさらなる促進を/厚労省5.東工大と医科歯科大、統合後の新名称は「東京科学大学」に6.サイバー攻撃の共有・公表ガイダンスをパブリックコメント募集/内閣府1.新型コロナウイルス、4月以降に「5類」に移行へ/政府岸田総理は、感染症法で現在「2類相当」として取り扱っている新型コロナウイルスについて重症化率が2022年夏時点で60歳未満が0.01%、80歳以上でも1.86%と季節性インフルエンザ並みになったとして、麻疹や風疹と同じ「5類」扱いとする方針を固めた。今後は、一般の医療機関でも新型コロナウイルスの患者の受け入れは可能としている。厚生労働省では、ワクチンの公費負担での接種対象を高齢者とするほか屋内でのマスク着用のあり方など、今後の方針について検討を開始している。来週には、専門家からなる厚生科学審議会で今後の方針について議論を行う。(参考)新型コロナ 今春「5類」移行検討 公費負担など本格議論へ(NHK)コロナ「5類」移行、5月の連休前後案も…ワクチン公費負担は高齢者ら限定検討 (読売新聞)コロナ、今春にも「5類」に 首相指示、公費負担縮小へ マスク着用「見直す」(日経新聞)2.処方の見返りに奨学寄付金を求めた元教授に有罪判決/三重三重大学附属病院の臨床麻酔部において、薬の処方の見返りに、奨学寄付金を受け取ったことで、第三者供賄罪と詐欺罪に問われた元教授の被告に対して、1月19日津地方裁判所は、懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の判決を言い渡した。判決によれば、2018年3月に、被告に対して小野薬品工業の薬剤「オノアクト」を大量に発注するように依頼された見返りに、被告が代表を務める一般社団法人に現金200万円を振り込ませた疑い。さらに、2019年から2020年には、手術患者60人あまりに対して、この薬剤を使用したように装って、未投薬にもかかわらず、約82万円の診療報酬を詐取した。被告は、この他に元講師と共謀して日本光電工業(東京都)の医療機器納入で便宜供与の見返りに、一般社団法人の口座に寄付金名目で200万円を振り込ませていた。(参考)三重大病院元教授に有罪判決 薬剤納入で供賄と詐欺罪 地裁判決(毎日新聞)病院汚職200万円は「賄賂」 地裁判決 三重大元教授有罪(読売新聞)三重大病院汚職事件 元教授に執行猶予付き有罪判決(NHK)3.全国の都道府県がん拠点病院、地域がん拠点病院を新たに指定/厚労省厚生労働省は1月19日に「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」を開催し、昨年「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」からの提言を踏まえて定められた、がん診療連携拠点病院等の整備指針に基づき、2023年4月から「がん診療連携病院」を新たに指定することとした。全国の都道府県がん診療連携拠点病院は一般型49施設、特例型2施設、地域がん診療連携拠点病院は一般型325施設などが指定される見込み。検討会の意見を踏ませて、加藤厚労大臣が指定の手続きを行い、本年4月1日から新たながん診療拠点として指定される。なお、一部の病院では指定要件を充足していないため指定を見送ることも検討されたが、充足の見込みがたっておらず「空白医療圏」となってしまうため指定となった病院もみられた。(参考)都道府県がん拠点病院51施設、地域がん拠点病院350施設など、本年(2023年)4月1日から新指定-がん拠点病院指定検討会(Gem Med)第22回がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会(厚労省)がん診療連携拠点病院の指定要件(同)4.オンライン資格確認の導入のさらなる促進を/厚労省厚生労働省は、1月16日に社会保障審議会医療保険部会を開催し、オンライン資格確認などシステムについて討議を行った。今年4月に施行される保険医療機関・薬局のオンライン資格確認導入の義務化について、令和4年度末時点で「現在紙レセプトでの請求が認められている医療機関・薬局」については、やむを得ない事情があるとして、期限付きの経過措置を設けられたが、猶予期間の延長について、保険者らからは延長を懸念する声が上がった。医療機関・薬局でのオンライン資格確認システムの導入は、顔認証付きカードリーダー申込数は、義務化対象施設では97.7%と高いものの、準備完了は義務化対象施設でも52.6%と伸び悩みがみられていることが明らかになった。国としては、来年秋には、現行の健康保険証がマイナンバーカードに1本化されることもあり、令和5年3月末までのさらなる導入の加速化を図りたいとしている。(参考)第162回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)マイナカード、進まぬ活用 医療、免許どうなるか(産経新聞)オンライン資格確認、電子処方箋など医療DXの推進には国民の理解が不可欠、十分かつ丁寧な広報に力を入れよ-社保審・医療保険部会(Gem Med)オンライン資格確認の導入猶予、延長をけん制 社保審・部会で複数委員(CB news)5.東工大と医科歯科大、統合後の新名称は「東京科学大学」に東京工業大学と東京医科歯科大学が2024年に統合されるのを受けて、大学側は新たな大学の名称を「東京科学大学(英語表記:Institute of Science Tokyo)」とすることを1月19日に発表した。両大学は新大学の目指す姿として、「両大学の尖った研究をさらに推進」、「部局などを超えて連携協働し『コンバージェンス・サイエンス』を展開」、「総合知に基づき未来を切り拓く高度専門人材の輩出」、「イノベーションを生み出す多様性、包摂性、公平性を持つ文化」を謳っており、できる限り早期の統合を目指して、今月中に大学設置・学校法人審議会へ提出することを決定している。(参考)新大学名称を「東京科学大学(仮称)」として 大学設置・学校法人審議会への提出を決定(東京医科歯科大学)東工大・医科歯科大、統合後の新名称「東京科学大学」に(日経新聞)東京科学大「皆が覚えられる名に」「親しみが大事」…「工業」「医科」使用も見送り(読売新聞)「東京科学大学」正式発表、略称は「科学大」…英語「Institute of Science Tokyo」(同)6.サイバー攻撃の共有・公表ガイダンスをパブリックコメント募集/内閣府内閣官房内閣サイバーセキュリティセンターは、近年、サイバー攻撃の脅威の高まりを受けて、被害を受けた組織が攻撃の内容や被害情報について外部に共有するためのガイダンス案を作成し、現在パブリックコメントを募集している。日本病院会の相澤会長は、1月17日の定例記者会見で、サイバーセキュリティに関する責任の範囲について統一基準を明確化するとともに費用負担について国側に求める方針を明らかにした。今後、日本病院会はサイバー攻撃に対する対応について、厚生労働省に対して提言をまとめたいとしている。なお、パブリックコメントは1月30日が締切となっている。(参考)「サイバー攻撃被害に係る情報の共有・公表ガイダンス(案)」に関する意見募集について(内閣府)サイバー攻撃被害「枠組み超えた情報連携が必要」内閣官房がガイダンス案公表、フローやFAQも(CB news)サイバーセキュリティ対策における医療機関・ベンダー等の間の責任分解、現場に委ねず、国が「統一方針」示すべき?日病・相澤会長(Gem Med)

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日本人統合失調症入院患者における残存歯数とBMIとの関係

 統合失調症入院患者において、BMIに対する歯の状態の影響に関するエビデンスはほとんどない。新潟大学の大竹 将貴氏らは、日本人統合失調症入院患者の残存歯数とBMIとの関連を調査するため、横断的研究を実施した。その結果、歯の喪失や抗精神病薬の多剤併用が統合失調症入院患者のBMIに影響を及ぼすこと、また、統合失調症入院患者は一般集団よりも歯の喪失が多いことが示唆された。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2022年11月7日号の報告。 統合失調症入院患者212例を対象に、BMIに対する潜在的な予想因子(年齢、性別、残存歯数、抗精神病薬処方数、クロルプロマジン換算量、抗精神病薬の種類)の影響を評価するため、重回帰分析を行った。次に、統合失調症入院患者と日本人一般集団3,283例(平成28年歯科疾患実態調査[2016年])の残存歯数を比較するため、年齢および性別を共変量として共分散分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・重回帰分析では、残存歯数(標準偏回帰係数:0.201)と抗精神病薬処方数(同:0.235)がBMIと有意に相関していることが示された。・共分散分析では、統合失調症入院患者の平均残存歯数(14.8±10.9)は、日本人一般集団(23.0±8.1)と比較し有意に少なかった。

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薬価4億8300万円超の血友病Bの遺伝子治療薬をFDAが承認

 米食品医薬品局(FDA)は11月22日、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病Bの遺伝子治療薬Hemgenix(一般名etranacogene dezaparvovec)を承認した。同薬剤による治療は1回の投与で完了するが、価格は1回当たり350万ドル(1ドル138円換算で約4億8300万円)に上るという。投与の対象は、現在、第IX因子製剤による補充療法を受けている成人患者、現在または過去に命に関わる出血を経験したか、重症の自然出血エピソードが繰り返し生じている成人患者である。 血友病Bは、血液凝固第IX因子が欠落しているか、その量や質が不十分であることから生じる遺伝性の血液疾患である。血液凝固第IX因子は、止血に必要な血栓を形成する際に不可欠なタンパク質である。血友病Bの主な症状は、けがや手術後、歯科治療後などに生じる、長引く出血または重度の出血である。重症例では、はっきりとした原因なしに自然に出血が発生することもある。また、止血に時間がかかると、関節や筋肉、脳などでの出血といった重度の合併症を招きかねない。有病率は4万人に1人で、罹患者は男性に多い。女性でも血友病Bの原因となる遺伝子変異を有する保因者はいるが、約10〜25%に軽度の症状が現れる程度であり、中等度または重度の症状が現れることはまれである。 血友病Bに対する一般的な治療法は、足りない血液凝固第IX因子を凝固因子製剤で定期的に補う補充療法である。FDA生物製品評価研究センター(CBER)所長のPeter Marks氏は、「血友病に対する遺伝子治療の可能性が見え始めてすでに20年以上が経過した。血友病の治療は進歩したが、それでも、出血エピソードの予防と治療は個人の生活の質(QOL)に悪影響を及ぼしかねない」と話す。その上で同氏は、「Hemgenixの承認は、血友病B患者に新しい治療法の選択肢をもたらした。また、血友病B関連の疾病負荷が高い人々にとっては、革新的な治療法の開発が大きく進歩したことを意味する」と述べている。 Hemgenixは、血液凝固第IX因子の遺伝子を運ぶウイルスベクターで構成されており、1回の静脈注射で投与される。ウイルスにより運ばれた遺伝子は肝臓で発現し、第IX因子を産生してその血中濃度を増加させ、それにより出血エピソードを制限するという仕組みだ。 Hemgenixの安全性と有効性は、重度または中等度の血友病Bの男性患者57人(18〜75歳)を対象にした2件の試験により確認された。有効性は、対象者の年間出血率(ABR)の減少に基づき確立された。また、54人を対象にした1件の試験では、第IX因子の活動レベルが増加し、定期的な第IX因子補充療法が必要になる頻度が減少し、ABRはベースラインと比べて54%減少した。確認された副作用は、肝酵素レベルの上昇、頭痛、軽度の注入反応、およびインフルエンザ様症状などであった。 Hemgenixの承認は、CSLベーリング社に対して付与された。AP通信によると、同社は、「この薬剤により、血友病B患者での出血に対する治療数が減るため、究極的には医療費の削減につながる」との見解を示しているという。ほとんどのFDA承認薬と同様に、Hemgenixの治療代は、患者ではなく民間または政府の保険が負担するものと見込まれている。

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第140回 次のパンデミックに備え感染症法等改正、そう言えば感染症の「司令塔機能」の議論はどうなった?

改正感染症法案、岸田文雄首相の約束通り今国会で成立こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、友人の版画家、宇田川 新聞氏の個展「木版画パラダイス」を観に、池袋のB-galleryに行って来ました。「宇田川新聞」と言われても、ピンと来ないかもしれませんが、テレビ東京系で放映されている「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」1)で、赤色、緑色、黒色を使った特徴的なイラストを描いている(厳密には彫っている)版画家と言えばおわかりかと思います。芸能人の表情を絶妙にとらえたシンプルでほのぼのとした版画は、いつ見てもほっとします。彼女(女性です)との付き合いはもう25年近くになりますが、最近の売れっ子ぶりには頭が下がります。ただ、ギャラリーで「オリジナルの作品より、出川番組関連の版画の方が多いんじゃない?」と本音を言ったら、しょぼんとうなだれていました。芸術家は扱いが難しいです。あの独特の版画の実物を見たい方はぜひ覗いてみて下さい2)。さて、今回は先ごろ成立した感染症法改正と、検討が進められている(はずの)、「司令塔機能」について書いてみたいと思います。改正感染症法案は、参院選前の岸田 文雄首相の約束通り、今国会で成立しました。もう一つの“公約”とも言うべき、一元的に感染症対策を行う新しい「司令塔機能」については、その後、あまり報道もありません。一体どうなっているのでしょうか。地域医療支援病院や特定機能病院などと協定を結び医療の提供を義務付け新型コロナウイルス対応の教訓を活かし、今後の感染症のまん延(パンデミック)に備えるための改正感染症法などが11月2日、参院本会議で可決され、成立しました。都道府県は地域医療支援病院や特定機能病院などとあらかじめ協定を結び、病床確保や発熱外来といった医療の提供を義務付けることになります。協定に沿った対応をしない医療機関には勧告や指示を行うほか、場合によっては承認の取り消しもあり得るとされています。施行(協定を締結する規定も)は来年、2023年4月1日付です。医療の提供が義務付けられるのは、自治体などが運営する「公立・公的医療機関」(約6,500施設)、400床以上で大学病院中心の「特定機能病院」(87施設)、200床以上で救急医療が可能な「地域医療支援病院」(685施設)です。また、都道府県は上記を含む全国すべての医療機関と、医療提供を事前に約束する協定を結べるようになります。都道府県は平時から計画をつくり、病床、発熱外来、人材派遣などの数値目標を盛り込み各医療機関への割り当てを決めます。医療機関は協議に応じる義務はありますが、実際に協定を結ぶかは任意です。付則には、新型コロナの感染症法上の位置付けについて速やかに検討するよう政府に求める文言も加わりました。これについては、法案成立直前の11月29日、加藤 勝信厚生労働大臣は会見で、新型コロナを感染症法の「2類相当」から「5類」に見直す検討を本格的に始める方針を示しています。なお、感染症法とあわせて医療法や予防接種法、新型インフルエンザ等対策特別措置法、検疫法なども一括で改正されています。特別措置法では、厚生労働大臣が協力を要請した時に限って、歯科医師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士にワクチン接種を認めました。検疫法では、水際対策により実効性をもたせるため、入国後の個人に自宅待機などを指示できるようにしたうえ、待機中の体調報告に応じない場合の罰則が設けられました。一般の民間病院や診療所については、協定締結は任意この3年間あまりの医療機関のドタバタぶり、個々の医療機関に対する国の権限のなさ(お願いしかできず命令できなかった)を考えると、地域医療支援病院や特定機能病院などへの病床確保や発熱外来といった医療提供の義務付けは、とても意味のあることで、特定機能病院などの承認を取り消す行政処分も含まれていることから、相当の強制力を持つことも確かです。ただ一方で、一般の民間病院や診療所については、都道府県との協議に応じなければならないものの、協定締結は任意のため、どの程度協力を得られるかは不透明です。今回のパンデミックでも、とくに民間病院や診療所の対応に批判が集まったことからも、協議から協力に至るプロセスをもう少し明確にしておく必要がありそうです。岸田首相がぶち上げたもう一つの大きな計画さて、今回の感染症法等の改正は、岸田首相が今年6月15日、通常国会の閉会を受けて行った記者会見で語った「新型コロナをはじめとする感染症に対する新対策」の中に盛り込まれていたことです。岸田首相はこの時、「昨年の総裁選で約束したとおり、国・地方が医療資源の確保等についてより強い権限を持てるよう法改正を行う。医療体制については、(2021年)11月の「全体像(次の感染拡大に向けた安心確保のための取り組みの全体像)」で導入した医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みなどについて、法的根拠を与えることでさらに強化する」と語っていました(「第114回 コロナ新対策決定、協定結んだ医療機関は患者受け入れ義務化、罰則規定も」参照)。当時は参議院選挙を睨んだパフォーマンスと見る向きもありましたが、岸田首相は感染症法改正については、約束を守ったと言えるかもしれません。岸田首相はこの時、もう一つの大きな計画をぶち上げています。それは、一元的に感染症対策を行う「内閣感染症危機管理庁」の新設と、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して「日本版CDC」をつくるというものです。そう言えば、この計画について、最近は話をあまり聞きません。「内閣感染症危機管理庁」を内閣官房に設置し司令塔機能を強化岸田首相の6月15日の会見では、新型コロナウイルスを含む今後の感染症に対応する「内閣感染症危機管理庁」を内閣官房に設置し、司令塔機能を強化することを表明していました。内閣感染症危機管理庁は、感染症の危機に備えて「首相のリーダーシップの下、一元的に感染症対策を行う」組織で、同庁の下で平時から感染症に備え、有事の際は物資調達などを担う関係省庁の職員を同庁の指揮下に置き、一元的な対策を行うとしました。トップには「感染症危機管理監(仮称)」が置かれる予定とのことでした。さらにこの時は、厚労省における平時からの感染症対応能力の強化も表明しています。その施策の目玉は、研究機関である国立感染症研究所と、高度な治療・研究の拠点である国立国際医療研究センターを統合、米疾病対策センター(CDC)をモデルとした、いわゆる「日本版CDC」を厚労省の下に創設するというものでした。この2つの計画は6月17日、新型コロナウイルス感染症対策本部において正式決定しています。新型コロナウイルス感染症対策本部が公表した司令塔機能の具体的な姿その後、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策本部は9月2日、「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策」を公表し、その中で、司令塔機能の具体的な姿を提示しました。それによれば、司令塔となる「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」については、2023年度中の設置を目指すとして、以下の組織、業務等にするとしています3)。1)感染症対応に係る司令塔機能を担う組織として「内閣感染症危機管理統括庁(仮称)」を設置し、感染症対応に係る総合調整を、平時・有事一貫して所掌する。総理・官房長官を直接助ける組織として内閣官房に設置し、長は官房副長官クラス、内閣官房副長官補を長の代行とし、厚生労働省の医務技監を次長相当とする等、必要な体制を整備する。2)統括庁は、平時から、感染症危機を想定した訓練、普及啓発、各府省庁等の準備状況のチェック等を行う。3)緊急事態発生時は初動対応を一元的に担う(内閣危機管理監と連携して対応)。4)特措法適用対象となる感染症事案発生時は、同法の権限に基づき、各府省庁等の対応を強力に統括する。各府省庁の幹部職員を庁と兼務させる等により、政府内の人材を最大限活用する。これら有事の際の招集職員はあらかじめリスト化し十分な体制を確保する。5)平時・有事を通じて厚生労働省の新組織(いわゆる日本版CDC)とは密接な連携を保ち、感染症対応において中核的役割を担う厚生労働省との一体的な対応を確保する。6)必要となる法律案を次期通常国会に提出し、2023年度中に設置することを目指す。――これらの案から見えてくるのは、今回のコロナ禍にあって、統率がとれなかった各省庁を強力にコントロールしたい、という内閣の強い意思です。とくに、厚生労働省(今回官邸の言うことを聞かなかった、対応がグダグダだったという批判もありました)とそこにつくる新組織(日本版CDC)をきちんと統括したい、という強い思いが伝わって来ます。国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合した「日本版CDC」この「具体策」では、国立感染症研究所と、国立国際医療研究センターを統合して作る新組織、「日本版CDC」についても提示しています。それによれば、新組織については、1)厚生労働省における平時からの感染症対応能力を強化するため、健康局に「感染症対策部(仮称)」を設置し、内閣感染症危機管理統括庁(仮称)との連携の下、平時からの感染症危機への対応準備に係る企画立案や感染症法等に係る業務を行う。2)国立感染症研究所と国立研究開発法人国立国際医療研究センターを統合し感染症等に関する科学的知見の基盤・拠点国際保健医療協力の拠点、高度先進医療等の総合的な提供といった機能を有する新たな専門家組織を創設する。3)必要となる法律案を次期通常国会に提出し感染症対策部の設置及び厚生労働省の一部業務移管は2024年度の施行、新たな専門家組織の創設については2025年度以降の設置を目指す。――などとなっています。専門家組織をきっちりコントロールしたい厚労省内閣感染症危機管理統括庁と、厚生労働省、日本版CDCが整備されれば、機動的かつ科学的な対応が100%可能になるかのように書かれてある点が気になります。今回のパンデミックで機能してきた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」のような、ある意味“第三者”の立場で検討・提言する組織についての記述は、日本版CDCの中に「新たな専門家組織を創設する」と書かれています。ただ、厚労省傘下にしっかり置いて、専門家組織をきっちりコントロールしようという意図が透けて見えます。また、専門家組織が感染症の専門家ばかりで、臨床や医学研究の分野に偏りそうな点も気がかりです。危機管理やIT、経済対策、メディア対策など、医学以外の分野の専門家もしっかりとメンバーに入れておくべきだと思いますがいかがでしょう。さらに、現在、国立感染症研究所は国立の機関、国立研究開発法人 国立国際医療研究センターは国立研究開発法人と、組織形態が異なります。仮に、組織が圧倒的に大きい国立国際医療研究センターに国立感染症研究所が身を寄せる形で統合するとなれば、組織は国立研究開発法人ということになります。国からは一応は独立した組織になるとすれば、危機管理統括庁や厚生労働省がどういう形で影響力を及ぼすかも今後の大きな検討課題でしょう。現在のところ、厚労省が中心となって、これらの新組織の詳細を詰めているとのことです。内閣感染症危機管理統括庁は2023年度中の設置、日本版CDCは2025年以降の設置を目指すとされていますが、実際の稼働まで、まだまだひと悶着、ふた悶着ありそうです。参考1)出川哲朗の充電させてもらえませんか?/テレビ東京2)宇田川新聞個展《木版画パラダイス》(12/13(火)〜12/25(日)、池袋B-gallery、14:00〜18:00、月曜休廊)3)新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策/新型コロナウイルス感染症対策本部

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日本人では重症COVID-19にもレムデシビルが有効の可能性

 ICU入室を要する重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者にも、抗ウイルス薬のレムデシビルが有効であることを示すデータが報告された。発症9日以内に同薬が投与されていた場合に、死亡リスクの有意な低下が観察されたという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Medical Virology」に9月23日掲載された。 COVID-19に対するレムデシビルの有効性はパンデミックの早い段階で報告されていた。同薬は現在までに流行した全ての変異株に有効とされてきており、世界保健機関(WHO)のCOVID-19薬物治療に関するガイドラインの最新版でも、軽症患者への使用が推奨されている。ただし重症患者での有効性のエビデンスが少なく、同ガイドラインでも条件付きの推奨にとどまっている。 他方、日本国内では機械的人工呼吸や体外式膜型人工肺(ECMO)を要するような重症COVID-19患者の死亡率が、他国よりも低いことが報告されている。このような日本の医療環境下であれば、海外とは異なる治療戦略が有効な可能性も考えられる。これを背景として藤原氏らは、同大学病院の医療記録を用いて、重症患者でのレムデシビルの有効性を後方視的に検討した。 解析対象は、2020年4月~2021年11月に同院に入院しICU入室を要した患者のうち、新型コロナウイルス検査が陽性のCOVID-19患者で、ステロイド治療が行われた168人。このうち131人(78%)は、観察開始日(入院日または発症日のどちらか遅い日)に高流量酸素または人工呼吸器による治療を受けていた。 解析対象者168人中、96人は発症9日以内にレムデシビルが投与され、37人は発症10日目以降に同薬が投与されていた。他の35人には同薬が投与されていなかった。全期間の院内死亡率は19.0%であり、前記の3群で比較すると、同順に10.4%、16.2%、45.7%だった。なお、解析対象期間の2020年4月~2021年11月は、パンデミック第1波から第5波に相当するが、院内死亡率については大きな違いはなかった。 入院日、併存疾患数、腎機能・肝機能障害、酸素需要量、胸部CT検査による肺炎の重症度などの交絡因子を調整したCox回帰モデルで、レムデシビルが投与されていなかった群を基準として院内死亡率を比較。その結果、同薬を発症9日以内に投与されていた群では院内死亡率が9割低いことが示された〔ハザード比(HR)0.10(95%信頼区間0.025~0.428)〕。一方、発症10日目以降に同薬が投与されていた群では、有意な死亡率低下は観察されなかった〔HR0.42(同0.117~1.524)〕。 重症のCOVID-19患者ではレムデシビルの有効性が認められないとするこれまでの研究の多くは、アジア人以外の人種での研究だった。一方、今回の研究の解析対象は大半が日本人であり、日本人以外(対象の4.8%)も全てアジア人だった。著者らは、「アジア人種の重症COVID-19患者にはレムデシビルが有効である可能性を、実臨床で示すことができた意義は大きい」と述べている。

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第124回 マイナカード、救急医療や生活保護受給者でも活用へ/政府

<先週の動き>1.マイナカード、救急医療や生活保護受給者でも活用へ/政府2.社会保障、高齢者も経済力に見合った負担を/厚労省3.糖尿病の病名の変更を要望/日本糖尿病協会4.社会保障に対する意識調査、「高齢者の負担増はやむをない」4割強/健保連5.財務省提案の「要介護1と2の保険外し」案に反論も/財務省6.マイナカードによるオンライン資格確認システム義務化に反対/保団連1.マイナカード、救急医療や生活保護受給者でも活用へ/政府総務省消防庁は第二次補正予算の概要を公表した。マイナンバーカードを用いた「オンライン資格確認等システム」を活用することで、傷病者の医療情報などを閲覧できるようにして、救急業務の迅速化・円滑化に向けたシステム構築の検討のため、1億円の予算を要求した。また、厚生労働省は社会保障審議会の生活困窮者自立支援および生活保護部会を11月14日に開催し、生活保護受給者の医療機関の受診時に、これまで用いてきた医療券の代わりにマイナンバーカードを原則とすることとし、医療扶助の適正化のため、福祉事務所による早期の把握や改善を助言する案を提案しており、同省では来年の通常国会以降に関連法案を提出する見通し。なお、生活保護費は令和2年度実績で3.5兆円(国費2.6兆円)であり、その約半分を医療扶助、約3割を生活扶助が占めている。(参考)令和4年度総務省消防庁 第2次補正予算(案)について(消防庁)生活困窮者自立支援制度及び生活保護制度の見直しに関するこれまでの議論の整理(中間まとめ)案(厚労省)マイナンバーカード活用の救急システム構築検討へ 総務省消防庁が第2次補正予算案概要を公表(CB news)マイナカードで生活保護受給者の受診状況を早期に把握 厚労省(毎日新聞)2.社会保障、高齢者も経済力に見合った負担を/厚労省内閣府は11月11日に全世代型社会保障構築会議を開き、子育て世代への支援拡充や持続的な社会保障制度を実現するため、高齢者にも経済力に見合った負担を求めていく方針を固めた。これを受け、厚生労働省は11月17日に社会保障審議会を開催し、現在は年66万円となっている75歳以上の後期高齢者の年間保険料の上限額を、現在よりも14万円引き上げ80万円とする見直し案を提案した。後期高齢者全体の1%強が影響を受けるが、これによって現役世代の負担は1人当たり年間平均300~1,100円軽減する見込み。(参考)第8回 全世代型社会保障構築会議(内閣府)第158回 社会保障審議会医療保険部会(厚労省)全世代型社会保障 年金、医療、介護 制度改正の焦点(産経新聞)75歳以上の4割が負担増…年金収入153万円超の医療保険料引き上げ案を提示(読売新聞)3.糖尿病の病名の変更を要望/日本糖尿病協会日本糖尿病協会は、糖尿病に対する社会的偏見が、不正確な情報や知識に起因する誤った認識により生じることが多いとして、「糖尿病」という病名について、糖尿病のある人がどのように感じているかを調査した。その結果、糖尿病の患者約1,100人のうち、糖尿病という名前に抵抗感や不快感があると90.2%が回答し、病名を変更したほうがいいと79.8%が回答した。糖尿病という病名にまつわる負のイメージを放置することで、糖尿病をもつ人が社会活動で不利益を被るのみならず、治療に向かわなくなるという弊害があるため、糖尿病であることを隠さずにいられる社会を作っていく必要があるとして、今後、1~2年のうちに新たな病名について、日本糖尿病学会とも連携して、変更を求めていくとしている。(参考)糖尿病の病名変更を提唱へ“不正確でイメージ悪い”専門医団体(NHK)糖尿病「名称変えて」 団体調査、患者の9割不快感 怠惰・不摂生…負の印象つながりかねず(日経新聞)糖尿病にまつわる“ことば”を見直すプロジェクト(日本糖尿病学会・日本糖尿病協会)4.社会保障に対する意識調査、「高齢者の負担増はやむをない」4割強/健保連11月16日、健康保険組合連合会(健保連)は「医療・介護に関する国民意識調査」を発表した。健保連は平成19年から定期的にわが国の公的医療保険・介護保険制度や医療提供体制に対する国民の認識について意識調査を行っており、令和4年もwebアンケート方式で3,000人を対象に実施した。少子高齢化が進む中で、1人の高齢者を支える現役世代の人数が今後も減り続けることが予想されることについて、今後高齢世代の負担が重くなることはやむを得ないとする回答(42.3%)が、現役世代の負担増はやむを得ないとする回答(19.5%)を上回った。年齢別でも、70歳以上の高齢者の45.8%が高齢世代の負担増についてやむを得ないと回答していた。また、健康保険について1人当たり月額16,300円(令和2年)の健康保険料について、「非常に重いと感じる」「やや重いと感じる」と回答した割合は合計68.7%となり、負担感が強いことが明らかになっている。(参考)医療・介護に関する国民意識調査(健保連)高齢世代の負担増、4割超「やむを得ない」健保連・国民意識調査(CB news)5.財務省提案の「要介護1と2の保険外し」案に反論も/財務省財務省は、11月に開催した財政制度等審議会・財政制度分科会において、2024年度の介護保険制度改正で、要介護1・2のサービスの見直しについて言及した。この中で、要支援者に対する訪問介護・通所介護は、地域支援事業へ移行を完了したが、要介護1・2への訪問介護・通所介護についても効果的・効率的なサービス提供を可能にするため、段階的に地域支援事業への移行を目指す方向性を提案した。今後、75歳以上の高齢者が2030年頃まで増加し、その後も要介護認定率や1人当たり介護給付費がことさらに高い85歳以上人口の増加が見込まれており、膨らみ続ける介護費の抑制に対応する。この方針に対して、現場の介護関係者からは批判が出ており、自治体側の受け皿が十分に整っていないまま給付を削減することについて反対の意見が出ている。(参考)社会保障(財務省)“要介護1と2の保険外し”、財務省が一部見送りを容認 「段階的にでも実施すべき」と提言(JOINT)要介護1、2のサービス切り離しに現場反発…なぜ? 厚労省が介護保険給付から市町村事業に移行案(東京新聞)6.マイナカードによるオンライン資格確認システム義務化に反対/保団連全国保険医団体連合会(保団連)は、政府が医療機関等に2023年3月末までのオンライン資格確認の原則義務化や、2024年度秋から保険証廃止を進める方針について、マイナンバーによるオンライン資格確認システムやマイナンバーと保険証の一体化について、撤回を求める意見を発表した。保険医協会、保険医会会員に対して今年の10月14月~31日に行ったアンケートの回答(計4,747)のうち医科診療所62%、歯科診療所28%、病院6%が回答しており、保険証廃止については65%が反対、賛成はわずか9%のみであり、マイナンバーカード利用に不慣れな患者への窓口応対の増加やマイナンバーカードの携帯・持参が困難な患者(単身高齢者など)への対応など保険証廃止による医療現場や患者への影響・危惧する意見が多く寄せられた。また、2023年4月のオンライン資格確認の義務化については、運用開始済みが26%、準備中が54%、導入しない・できないが14%にも上ることが明らかとなった。このほか、オンライン資格確認について運用開始済みと回答した回答者(n=1,242)のうち、利用患者がほとんどいないとする意見が83%であり、十分な議論がされていないとして義務化の撤回を求めている。(参考)保険証廃止・オンライン資格確認義務化 意識・実態調査(保団連)オン資義務化・マイナ保険証の「撤回」を 保団連が会見(MEDIFAX)

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PEACEを受講しよう【非専門医のための緩和ケアTips】第39回

第39回 PEACEを受講しよう緩和ケアが広がるにつれて専門誌や書籍も増え、独学でも学びやすくなりました。一方で、緩和ケアは個別性が高かったりコミュニケーションの要素が多かったり、書籍だけでは学べない部分も多くあります。今回は、そうした部分が学べる研修会をご紹介します。今日の質問緩和ケアについて学ぶには、何をすればいいでしょうか? 緩和ケアの連携は地域の実情によって異なる部分も多く、そういった面を学ぶのは本だけでは難しく感じます。ご質問いただいた方の着眼点は素晴らしいですね。おっしゃるとおり、地域の医療機関同士の連携や、在宅療養への移行などの際には地域ごとに事情が異なります。こうした座学では学びにくい領域って、どのように学べばよいのでしょうか? そんな方にお薦めなのが、今回ご紹介する「PEACE」という研修会です。PEACEの正式名称は、「がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修会(Palliative care Emphasis program on symptom management and Assessment for Continuous medical Education)」と長いため、PEACEの略称や単に「緩和ケア研修会」と呼ばれています。この研修会は、厚生労働省の委託事業として日本緩和医療学会と日本サイコオンコロジー学会がコンテンツを作成しています。事前学習としてE-learningを受講し、グループワークを含む集合研修に1日参加する、というのがその内容。対象は「がん等の診療に携わるすべての医師・歯科医師、緩和ケアに従事するその他の医療従事者」です。E-learning緩和ケア概論/全人的苦痛と包括的アセスメント/がん疼痛/呼吸困難/消化器症状/気持ちのつらさ/せん妄/コミュニケーション/療養場所の選択と地域連携/ACP、看取りのケア、家族・遺族のケアが必修コンテンツです。集合研修コミュニケーションのロールプレイ/全人的苦痛や症状緩和に関するケーススタディ/療養場所の選択と地域連携に関するケーススタディ/患者を支える仕組みについてのレクチャーといった、一人では学びにくいテーマのグループワークが中心です。がん拠点病院では、年に1回以上PEACEを開催することが施設要件になっているため、どの地域でも受講可能です。開催スケジュールは各都道府県の担当部署のサイトに公開されており、「都道府県名+緩和ケア講習会」などで検索すれば出てきます。地域の基幹病院の緩和ケアに関わる医療者と一緒に学ぶことは、連携構築の上での大きな機会となるでしょう。新型コロナの影響で集合研修をオンラインで開催するケースもあり、遠方でも参加しやすくなっています。少し注意が必要なのが内容の「レベル感」です。あくまでも基本的な緩和ケアについて学ぶ研修会であり、受講者の多くが初期研修医を含めた若手です。ベテランの方からすると少し簡単に感じられるかもしれません。一人では学べないことを学び、顔の見える関係をつくるための貴重な機会として、ぜひPEACEを活用してみてください。今回のTips今回のTips地域のがん拠点病院で開催されているPEACEを受講してみましょう。PEACEプロジェクトホームページ/日本緩和医療学会

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海外の著名医師が日本に集結、Coronary Week 2022開催について【ご案内】

 2022年12月1日(木)~3日(土)、The 8th International Coronary Congress(ICC2022)をJPタワーホール&カンファレンスにて開催する。本会は初の試みである「Coronary Week 2022」として、第25回日本冠動脈外科学会学術大会および第34回日本冠疾患学会学術集会と同時開催する。現在、以下24名のInternational Facultyの来日が決定している。―――John D. Puskas (USA)Professor of Cardiovascular SurgeryIcahn School of Medicine at Mount Sinai New York, NYChairman, Department of Cardiovascular SurgeryMount Sinai Morningside (formerly Saint Luke’s),Mount Sinai Beth Israel and Mount Sinai West (formerly Roosevelt) HospitalsNew York, NYDavid P. Taggart (UK)Professor of Cardiovascular Surgery at the University of OxfordMario F. Gaudino (USA) Faisal G. Bakaeen (USA)Stephen Fremes (USA) Bob Kiaii (USA)Husam H. Balkhy (USA) Gianluca Torregrossa (USA)Sigrid E. Sandner (Austlia) Torsten Doenst (Germany)Vipin Zamvar (UK) Piroze Davierwala (Canada)Michael E Farkouh (Canada) James Tatoulis (Australia)Ki-Bong Kim (Korea) Umberto Benedetto (UK)Gil Bolotin (Israel) Sotirios Prapas (Greece)Jeong Seob Yoon (Korea) Oh-Choon Kwon (Korea)Theodoros Kofidis (Singapore) Chusak Nudaeng (Thai)Nuttapon Arayawudhikul (Thai) Chawalit Wongbuddha (Thai)――― Program Chairの荒井 裕国氏(東京医科歯科大学 名誉教授/JA長野厚生連 北信総合病院 統括院長)は「冠動脈外科領域でこれほど多数の豪華海外メンバーが本邦に集結するイベントは初めてであり、ぜひ、この機会にジョイントセッションでの講演にご参加ください。多数のご来場をお待ち申し上げております」と参加を呼びかける。【Coronary Week 2022開催概要】●The 8th International Coronary Congress 会期:2022年12月1日(木)〜3日(土) Program Chair:荒井 裕国(東京医科歯科大学 名誉教授/JA長野厚生連 北信総合病院 統括院長/日本冠動脈外科学会 理事長) ホームページはこちら●第25回日本冠動脈外科学会学術大会 会期:2022年12月1日(木)〜2日(金) 会長:高梨 秀一郎(川崎幸病院心臓病センター心臓外科 主任部長/国際医療福祉大学三田病院 教授 心臓外科部長) ホームページはこちら●第34回日本冠疾患学会学術集会 会期:2022年12月1日(木)〜3日(土) 会長:内科系/中村 正人(東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科)    外科系/渡邉 善則(東邦大学医療センター大森病院 心臓血管外科) ホームページはこちら【会場】JPタワーホール&カンファレンス【参加登録】登録方法:オンライン参加登録はこちら参加費: 条件によって異なる※参加登録サイトにてご確認ください。【お問い合わせ】ICC2022 運営事務局E-mail:jacas25@nip-sec.com

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小児期の継続的な受動喫煙は男児の肥満リスク

 小児期に継続的に受動喫煙にさらされることが、男児の肥満のリスクを高めることを示唆するデータが報告された。ただし、保護者が禁煙するなどにより状況が改善すると、肥満リスクは低下する可能性があるという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Pediatric Research」に8月13日掲載された。 世界的に小児肥満が増加しており、2016年の有病率は18%と報告されている。小児肥満は成人後の肥満につながることが多く、代謝性疾患や心血管疾患と、それらによる死亡を増加させることから、子どものうちに肥満を解消することが重要。 一方、受動喫煙が小児肥満のリスク因子の一つである可能性が指摘されており、受動喫煙は保護者への介入で修正可能であることから、小児肥満対策の一手として期待される。ただし、受動喫煙が改善された場合に子どもの肥満リスクが低下するか否かは、これまで明らかにされていない。藤原氏らは、東京都足立区で行われた「子どもの健康・生活実態調査(A-CHILD Study)」のデータを用いた縦断的解析によって、この点を検討した。 A-CHILD Studyは、足立区内の全ての公立小学校69校で実施され、2018年に小学4年生、2020年に小学6年生の児童とその保護者を対象とするアンケート調査が行われた。本研究では、その両年の調査に回答し、かつ6年生の時点の学校健診における身長・体重からBMIのデータのある3,605人の児童を解析対象とした。なお、体重については、BMIのWHO基準におけるZスコアが1未満を低体重または普通体重群、Zスコア1~2未満を過体重群、同2以上を肥満群と定義した。 解析対象児童の74.1%は、4年生時、6年生時ともに受動喫煙にさらされていなかった。一方、15.2%は両方の時点で受動喫煙にさらされていた。5.8%は途中で受動喫煙が終了し、残りの4.8%は反対に途中で受動喫煙が始まっていた。継続的に受動喫煙にさらされていた子どもの家庭は世帯収入が低く、母親が若年で教育歴が短い傾向があった。 6年生時のBMIに影響を及ぼす可能性のある因子(4年生時のBMI Zスコア、性別、世帯収入、運動の頻度、テレビの視聴、携帯電話の使用、加糖飲料の摂取頻度、母親の年齢・教育歴、肥満の家族歴)を調整後、順序ロジスティック回帰分析により、受動喫煙の状況と肥満発症との関連を検討。その結果、継続的に受動喫煙にさらされていた群は、受動喫煙歴のない群に比較し、6年生時により高いBMIカテゴリーに該当する割合が有意に高かった〔オッズ比(OR)1.51(95%信頼区間1.16~1.96)〕。 追跡期間の途中で受動喫煙が終了した群はOR1.11(同0.75~1.66)、受動喫煙が始まった群はOR0.90(0.57~1.45)であり、どちらも肥満の発症と有意な関連がなかった。 次に、性別で層別化して解析すると、男児では全数解析と同様に、継続的に受動喫煙にさらされていた群でのみ、肥満の発症が有意に多いという関連が見られた〔OR1.74(1.25~2.44)〕。それに対して女児の肥満の発症は、受動喫煙歴のない群と他の全ての群で有意差がなかった。 以上の結果から著者らは、「受動喫煙は、男児の肥満のリスク因子の一つであると考えられる。ただし、受動喫煙の状況が改善されると肥満リスクは低下するようであり、小児肥満の防止に役立つのではないか」と結論付けている。また、新型コロナ感染症パンデミックで保護者の在宅勤務や外出頻度の減少により、受動喫煙の機会が増えている可能性があることから、「この関連のより詳細な研究と、保護者の禁煙がより一層重要になっている」とも述べている。なお、受動喫煙による肥満リスクへの影響が性別で異なる理由に関しては、既報文献を基に、脂肪燃焼に関係しているβ-3アドレナリン受容体のTrp64Argバリアントの肥満への影響に性差が存在する可能性などを挙げている。

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第132回 健康保険証のマイナンバーカードへの一体化が正式決定、「懸念」発言続く日医は「医療情報プラットフォーム」が怖い?

現行の健康保険証を2024年秋に廃止こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末の土曜日、日本シリーズの第1戦を神宮球場で観戦してきました。今年は投手層が厚いオリックス・バッファローズが優位だろうと踏んでいたのですが、初戦は東京ヤクルトスワローズの老練、小川 泰弘投手がオリックスの山本 由伸投手に投げ勝つ展開。終盤では村上 宗隆選手のホームランも飛び出して、ヤクルトの強さを印象付ける試合となりました。第2戦も、オリックス優位の展開で進むも、土壇場でヤクルトが追い付き結局12回引き分けに。今年の日本シリーズも最後までもつれそうな予感がします。それにしても連日4〜5時間もかかっている試合時間は、観る側も疲弊します。野球ファンを減らさないためにも、試合時間はいろいろな意味で要検討項目だと感じました。さて、今回は再びマイナンバーカード保険証について書いてみたいと思います。政府は10月13日、現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」に切り替える方針を正式に発表しました。ほぼほぼ既定路線だったスケジュールとカード取得の“義務化”が正式決定したわけですが、その直後から、カードの手続きができない高齢者はどうする、情報漏えいは大丈夫か、保険証読み取り装置(カードリーダー)が間に合わない……、など医療界のみならず各方面から“反対”や“懸念”の声が沸き起こっています。日頃DX、DXと喧伝するマスコミですら、マイナ保険証に否定的な報道をするところも出てくる始末です。マイナカード申請枚数は全国民の56.2%岸田 文雄総理大臣は13日、河野 太郎デジタル大臣や加藤 勝信厚生労働大臣、寺田 稔総務大臣とマイナンバーカードについて協議。その後、河野デジタル大臣が記者会見を開き「デジタル社会を新しく作っていくための、マイナンバーカードはいわばパスポートのような役割を果たす」と述べ、2024年の秋に現在使われている健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一体化した形に切り替えると発表しました。廃止の時期が来てもマイナンバーカードを取得していない人などに対しては、取得の働きかけを進めていくと同時に、何らかの対応を検討するとしました。マイナンバーカードについて政府は、来年3月末までにほぼすべての国民に行き渡ることを目標としています。ただ、10月11日時点の申請枚数は、全国民の56.2%に留まっており、普及率を一層高めていく方針とのことです。河野デジタル大臣の記者会見の後、加藤厚労大臣も会見を開き、「システム改修などの対応に必要な予算は経済対策に盛り込んでいく。岸田総理大臣からは国民や医療関係者から理解が得られるよう丁寧に取り組んでいく必要があると指示があった。医療関係者や関係省庁などと連携して取り組みを進めていきたい」と述べました。切り替えまでにマイナンバーカードを取得できなかった人への対応については、「保険料を納めている方々は保険診療を受ける当然の権利を持っている。いろいろな事情で手元にカードを持っていない人が必要な保険診療を受ける際に、どういう手続きをしていくのか、今後しっかりと検討していく」と述べたとのことです。医療関係団体が全面協力する姿勢を示していたことは“とても不思議”マイナンバーカード保険証については、本連載でも、「第124回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(前編)未対応は最悪保険医取り消しも」と、「第125回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(後編)かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?」で詳しく書きました。連載では、厚生労働省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」の内容を紹介し、マイナ保険証のシステムは将来的に、レセプト・特定健診等情報の共有に加えて、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療情報についても共有・交換できるようになり、「全国医療情報プラットフォーム」の構築につながる、と書きました。このプラットフォームが稼働すれば、患者の受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸になります。そうなると、それらのデータを基に、究極的に効率化された(ムダを省いた)医療提供の仕組みが国によってデザインされ、医療機関にも求められるようになるでしょう。さらには、重複受診、重複投与、ムダな薬剤投与、的外れの治療などが他医にもバレてしまいます。そう考えると、日本医師会など、医療関係団体が概ね協力する姿勢を示していることが“とても不思議”であると書きました。日本医師会はこれまで、かかりつけ医制度やリフィル処方など、効率的な医療提供体制構築や医療費削減に資するような政策には頑なに反対してきたからです。というわけで、125回では、「かかりつけ医制度の議論などを目くらましにして、医療DXの推進を一気に進めようとしているとしたら、岸田首相や財務省もなかなかの策士と言える」、「加藤厚労相は、親日医の姿勢を見せつつ、マイナ保険証を突破口として医療DXを強力に推進するために岸田首相から医療界に送り込まれた“刺客”という見方もできるかもしれない」と、少々うがった見方をしたのですが、流石に日本医師会もここに来て、「これはまずいかも」と気がついたのか、10月13日前後から、マイナ保険証を牽制するような発言が目立って来ました。日本医師会の松本吉郎会長が「懸念」発言各紙報道等によれば、日本医師会の松本 吉郎会長は、「保険証廃止、マイナ保険証に一本化」が正式決定する前日、10月12日に開かれた定例会見で、「健康保険証の廃止を決定するのであれば、まずは国民に理解をしていただく、その時点(2024年秋)で、マイナンバーカードを取得していない人がいるのであれば、その対応が、非常に大きな問題だ。医療現場でも、負荷がかかったり、混乱が生じたりする可能性もある。それを含めて、しっかりと手当てをして頂きたい」などと発言しました。さらに1週間後の10月19日の定例記者会見で松本会長は、「反対はしていないが、カードがまだあまり普及していない状況を考えると、2年後の原則廃止は可能かどうか、非常に懸念をしている。保険証の廃止によって、医療機関に適切な時期に適切な状態で受診できないことがもし起こるとすると、国民は非常に困る。医療現場の混乱も招く」と話し、政府による国民への説明や、関係者との議論の必要性を訴えたとのことです。また、オンライン資格確認が療養担当規則で2023年度から原則義務化されることについても、各地域の医療機関や医師会から様々な懸念が寄せられているとして、「原則義務化の例外対象の再検討を厚労省に求めている」とも話しました。「全国医療情報プラットフォーム」の“恐ろしさ”8月に開かれた厚労省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」説明会では、三師会の担当理事たちは「早く導入しましょう。役立ちます」と訴えていました。なのにこの腰砕け振りはなんでしょう。国が構築しようとしている「全国医療情報プラットフォーム」の“恐ろしさ”が今になってやっとわかってきたということでしょうか。ちなみに、「マイナ保険証に一本化」が正式決定する前日の12日、政府は首相官邸で医療分野のデジタル化の推進をめざす「医療DX推進本部」(本部長・岸田首相)の初会合を開いています。「全国医療情報プラットフォーム」の創設、電子カルテの表記を統一して正確な情報共有につなげる「電子カルテ情報の標準化」、診療報酬の算定にかかる計算様式を共通化する「診療報酬改定DX」の3つを重点項目と定め、これらを省庁横断で進めるよう岸田首相は関係閣僚に指示したとのことです。2023年春にも具体的な工程表がまとまる予定です。ここで一気に進めないと医療・介護の効率化は永遠に進まない世の中こぞってDX、DXと言う割に、まったく進んでいない日本のDX。そんな中で行政面ではマイナンバーカードの普及の遅れが、DX推進を妨げていると指摘されてきました。カードを義務化し、保険証をマイナ保険証に一本化する背景には、マイナンバーカードをとにかく普及させたいという国の思惑があります。実は、今年6月に示した経済財政運営の指針「骨太の方針」には、「保険証の原則廃止を目指す」と書かれていました。例年「骨太の方針」には大胆な改革案が書かれるのが常ですが、そこに書かれていた「原則」の文字を敢えてなくし、期限を2024年秋と明示、事実上のカード義務化を決定した点に政府の本気度が見て取れます。医療界も含め、反対派は多いですが、流石にここで一気に進めないと、日本のDX、そして医療・介護の本当の効率化は永遠に進まない予感もします。マイナ保険証のカードリーダーなどインフラ整備の問題や、現行の保険証の取り扱い、高齢者にどうマイナンバーカードを取得させマイナ保険証に移行させるか、高齢医師の医療機関がマイナ保険証に対応できるか、など課題は多いと思いますが、新しい制度には、課題があるのが当たり前です。岸田首相がまたまた世の中の声を聞き過ぎて、マイナ保険証の普及・定着が腰砕けにならないことを願うばかりです。

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生活保護を受けている高齢者は自殺リスクが高い可能性

 近年、国内の自殺者数は一時期よりは減少したものの、高齢者では高止まりしている。そしてさらに、生活保護を受給している高齢者の自殺リスクは、非受給者よりも有意に高いことを示すデータが報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野の木野志保氏(研究時の所属は京都大学大学院医学研究科社会疫学分野)らが、日本人高齢者を対象に行った調査の結果であり、詳細は「Journal of Epidemiology and Community Health」に7月20日掲載された。 高齢者の自殺リスクを高める主な原因は、健康問題と貧困の二つと考えられている。生活保護を受けることは貧困を意味しているが、これまでのところ、生活保護を受給している高齢者の自殺リスクは十分に検討されていない。そこで木野氏らは、全国の自治体が参加して行われている「日本老年学的評価研究(JAGES)」の2019年調査の回答者のデータを用いて、横断的な解析を行った。 データ欠落者などを除外後、65歳以上の高齢者1万6,135人を解析対象とした。このうち202人(1.25%)が生活保護を受給していた。生活保護受給者は非受給者に比べて、男性が多く、同居者数が少なく、教育歴が短く、世帯収入が低い傾向があった。また、老年期うつ病評価尺度(GDS15)で評価したうつレベルが高く、複数の疾患に罹患している人が多かった。 「今までの人生の中で、本気で自殺をしたいと考えたことがありますか」との質問により自殺念慮を抱いた経験の有無を把握し、また、「今までに自殺しようとしたことがありますか」との質問によって自殺未遂経験の有無を把握した。その結果、自殺念慮を抱いた経験がある人は772人(4.8%)、自殺未遂の経験のある人は355人(2.2%)だった。なお、質問に「答えたくない」と回答した人は解析対象から除外されている〔自殺念慮については1,100人(6.30%)、自殺未遂については861人(4.93%)〕。 生活保護受給状況別に比較すると、非受給者は自殺念慮の経験ありが4.6%であるのに対して、受給者は14.9%に上った。また自殺未遂の経験ありの割合も同順に2.1%、9.9%と、後者の方が高かった。自殺リスクに影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、世帯員数、教育歴、世帯収入、うつ症状(GDS15スコア5以上)、手段的日常生活動作(IADL)、併存疾患数、居住している自治体など〕を調整後も、生活保護受給者は自殺念慮や自殺企図の経験のある割合が有意に高かった。 具体的には、生活保護受給者で自殺念慮を抱いた経験のある割合は非受給者より47%高く〔有病率比(PR)1.47(95%信頼区間1.02~2.13)〕、自殺未遂経験のある割合は91%高かった〔PR1.91(同1.20~3.04)〕。生活保護の受給以外では、うつ症状を有することが自殺念慮(PR4.00)と自殺未遂(PR3.26)の経験の双方と有意な関連があった。また、併存疾患が三つ以上あることは自殺念慮の経験と有意な関連があった(PR1.25)。 一方、教育歴の長さは、自殺念慮や自殺未遂の経験が少ないことと有意な関連があり、同居している家族の多さは、自殺念慮の経験が少ないことと有意な関連があった。なお、性別は、自殺念慮、自殺未遂のいずれとも有意な関連がなかった。 著者らは結論として、「国内で生活保護を受けて暮らしている高齢者は自殺リスクが高い可能性がある。今後はその要因を特定し、エビデンスに基づく政策立案に反映させていく必要がある」と総括している。なお、「この研究は生活保護の受給の有無と自殺念慮や自殺未遂経験とを同時に調査しているため、両者の因果関係は分からない点に注意を要する。生活保護を受けている状況が自殺のリスクとなる可能性もあるし、自殺のリスクが高まるような状況が生活を困窮させ、生活保護に至る可能性もある」と付け加えている。また、両者の関連のメカニズムについて、既報研究を基に以下のような考察を述べている。 まず、生活保護受給者に対しては根強い偏見や差別が存在するため、差別的な扱いを受けてメンタルヘルスを悪化させやすい可能性が考えられるという。また身体的な疾患は自殺の大きなリスク要因であることが知られているが、生活保護受給者などの社会経済的なストレスを抱えている人は大量飲酒や喫煙など、健康に悪影響のある行動の頻度が高く、慢性疾患の有病率が高いことが報告されており、そのため自殺リスクも高い可能性も考えられるとしている。

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第116回 他院の受診歴や診療内容がマイナポータルで閲覧可能に/厚労省

<先週の動き>1.他院の受診歴や診療内容がマイナポータルで閲覧可能に/厚労省2.インフルエンザ予防接種、コロナワクチンと同時接種容認へ/厚労省3.女性差別の医学部不正入試の東京医科大に1,800万円賠償判決/東京地裁4.特定健診、医療費抑制効果なし/京都大学5.高齢者のオーラルフレイル(口腔機能低下)で死亡リスクが2倍以上に/東京都健康長寿医療センター6.刑務所の受刑者のワクチン接種に遅れ、コロナウイルス感染者が急増1.他院の受診歴や診療内容がマイナポータルで閲覧可能に/厚労省厚労省は9月5日マイナンバーカード取得者向けサイト「マイナポータル」で閲覧できる情報の拡充を発表した。これまでは、特定健診等情報・薬剤情報だけだったものが、9月11日からは過去3年分の「診療情報」を閲覧できるようになり、医療機関名、受診歴、診療行為内容などの閲覧が可能となる。ただし、診療レセプトベースのため、画像診断や病理診断などの結果の閲覧はできない。この他、医療機関同士で情報共有も可能になるが、まだ対応している医療機関が少ないため、医療機関間での対応が課題となっている。(参考)「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」の運用開始について(厚労省)マイナポータルで診療情報閲覧 11日から(産経新聞)医療機関で受診歴を共有可に マイナポータルで閲覧も 11日から(朝日新聞)診療情報の閲覧11月から可能に、画像診断など 過去3年分のデータを共有(CB news)2.インフルエンザ予防接種、コロナワクチンと同時接種容認へ/厚労省松野博一官房長官は9月9日の記者会見において、今年の冬には新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行が懸念されるため、ワクチンの同時接種が可能になったことを踏まえ、感染防止目的で接種を推進することを明らかにした。厚生労働省はこれに先立ち、9月5日に開催された厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会で、10月から65歳以上のインフルワクチン定期接種が始まることを積極的に呼びかけることを決定した。今冬のインフルエンザワクチンは、平成27年以降で最大の供給量となる約3,521万本(成人量では7,042万回分に相当)を確保できる見込み。(参考)今シーズン(2022/23)のインフルエンザワクチンについて(厚労省)インフルワクチン、高齢者らへ開始時期など周知 コロナ同時流行懸念(朝日新聞)コロナ・インフルのワクチン同時接種容認 厚労省、安全性問題なし(産経新聞)3.女性差別の医学部不正入試の東京医科大に1,800万円賠償判決/東京地裁東京医科大学が、医学部入試において、女性や浪人生が不利になるように得点を調整していた問題で、同大に受験して不合格となった女性28人が慰謝料を含め、合計1億5,000万円余りの損害賠償を求めた裁判で、東京地裁は9月9日に同大に対して、合計1,800万円を賠償するよう命じる判決を下した。平城恭子裁判長は「性別という自らの努力や意思で変えることのできない属性を理由に女性を一律に不利益に扱った」と批判した。同大は「判決内容を精査して、対応を検討する」とコメントした。(参考)女性差別の不正入試 東京医科大に賠償命じる判決 東京地裁(朝日新聞)医学部不正入試 東京医科大に1,800万円賠償命令 東京地裁(毎日新聞)4.特定健診、医療費抑制効果なし/京都大学京都大学の人間健康科学科准教授の福間 真悟氏らは、2014年1~12月に特定健診を受けた11万3,302例を対象に特定保健指導の介入3年後の効果を調べた。その結果、特定保健指導は、外来患者の訪問日数の減少(1.3日減少)と関連していたが、医療費、投薬回数、入院回数とは関連していなかったことが明らかとなった。政府や厚生労働省は、これまで糖尿病などの生活習慣病の発症や重症化を予防する目的で特定健康診査の特定保健指導を推奨していたが、2020年には心血管リスク低減効果が認められなかったことも明らかになっていた。厚生労働省の「特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会」でも、アウトカム評価を入れるなど2024年度からはじまる第4期に向け、特定健診・特定保健指導について議論が先月まとめており、今後さらに見直しを迫られると考えられている。(参考)メタボ健診に医療費抑制効果なし(時事通信 2022/9/5)特定健診(メタボ健診)における特定保健指導に医療費抑制効果なし(京都大学)特定健診・特定保健指導の効率的・効果的な実施方法等について(議論のまとめ)(厚生労働省)Impact of the national health guidance intervention for obesity and cardiovascular risks on healthcare utilisation and healthcare spending in working-age Japanese cohort: regression discontinuity design(BMJ Open)5.高齢者のオーラルフレイル(口腔機能低下)で死亡リスクが2倍以上/東京都健康長寿医療センター高齢者の2割は口腔状態に問題があり、問題がない高齢者に比べて要介護リスクや死亡リスクが2倍超となることが、東京都健康長寿医療センター研究所の研究で明らかとなった。報告によれば、歯の数、咀嚼や嚥下の困難感、舌の力、舌口唇運動機能、咀嚼力の6項目で評価し、3項目以上該当した場合はオーラルフレイルと定義したところ、高齢者のうち19.3~20.4%がオーラルフレイルであり、そうでない人と比べて低栄養状態である割合が2.17倍高く、4年間の追跡調査により、オーラルフレイルの人は、死亡リスクが2.1倍、要介護認定が2.4倍になることが明らかとなった。以前から、口腔機能低下が、全身状態や生活にも大きく影響を与えることがわかっており、歯科医師が入院患者の口腔の管理を行うことによって、在院日数が削減できたり、肺炎発症を抑制することが判明しており、今後、医科歯科連携の強化が求められる。(参考)高齢期における口腔機能の重要性-オーラフレイルの観点から-(健康長寿医療センター)口腔状態に問題ある高齢者は要介護や死亡リスクが2倍超、地域で「オーラルフレイル改善」の取り組み強化を-都健康長寿医療センター(GemMed)医師以外の医療従事者の確保について(厚労省)6.刑務所の受刑者のワクチン接種に遅れ、コロナウイルス感染者が急増新型コロナウイルスワクチンの受刑者への接種が遅れていることが読売新聞などの報道で明らかになった。接種には住所のある自治体の発行した接種券が必要だが、受刑者の多くは服役先に住民票がないため、新型コロナウイルスのワクチン接種に遅れが発生した。このため、刑務所内で受刑者の感染者は急増しており、実際に熊本刑務所では、全収容者の約半数の159人が感染したことが判明しており、自治体側が接種券の二重発行を懸念したため、受刑者は後回しになってしまったために生じている。今後、自治体による柔軟な対応が求められる。(参考)服役先に住民票なし・家族が接種券送ってくれない…感染者急増の受刑者、接種に遅れ(読売新聞)刑務所で受刑者159人感染、全収容者の約半数「ずっと部屋の中にいる…防ぐのは難しい」(読売新聞)

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第125回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(後編)かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?

“新改良ワクチン”FDA承認、日本も早晩申請、承認か?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。さて、「第122回 米国では使わない2価の“旧改良ワクチン”を日本は無理やり買わされる?国のコロナワクチン対策への素朴な疑問」で書いた“新改良ワクチン”に関して新しい動きがありました。米国食品医薬品局(FDA)は8月31日、米・モデルナ、米・ファイザーと独・ビオンテックがそれぞれ開発したオミクロン株のBA.4とBA.5に対応するワクチン、いわゆる“新改良ワクチン”ついて、追加接種に対する緊急使用の許可を出しました。モデルナのワクチンは18歳以上、ファイザー・ビオンテックのワクチンは12歳以上の、それぞれ追加接種に対する緊急使用の許可です。なお、初回接種としては使えず、追加接種に限定されるとのことです。また、今回の承認によって、従来型ワクチンは追加接種に利用できなくなるそうです。“新改良ワクチン”はいずれも、オミクロン株のBA.4とBA.5に対応する成分と、従来の新型コロナウイルスに対応する成分の2種類を含む2価ワクチンです。翌9月1日には、米疾病対策センター(CDC)がこの“新改良ワクチン”の接種を推奨すると発表しています。ちなみに日本において両社が申請中の2価ワクチンは、BA.1に対応する成分と、従来の新型コロナウイルスに対応する成分の2種類を含む“旧改良ワクチン”です。ただし、ファイザーは9月1日、日本国内でも “新改良ワクチン”の製造販売の承認を厚生労働省に近く申請すると発表しています。“旧改良ワクチン”は今月中旬に予定されている専門部会を経て承認されれば、当初予定の10月中旬からの接種開始を前倒しし、9月中にも始まる見通しです。しかし、もっと効くと予想される“新改良ワクチン”がその後すぐに投入されるとなると、現場の混乱も予想されます。そもそも、“新改良ワクチン”がもうすぐ出るのに、“旧改良ワクチン”を積極的に打とうという人が現れるでしょうか。また、“新改良ワクチン”を承認したら、国が契約して買ってしまった(と思われる)“旧改良ワクチン”は廃棄処分となるのでしょうか。今後の新型コロナワクチンの動きがとても気になります。マイナンバーと保険証情報の紐付けはすでに終了済みさて今回は、前回に続いてマイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」について書いてみたいと思います。せっかくなので、私も先週、スマホを使ってマイナポータルというアプリからマイナ保険証の申請をやってみました。マイナンバーカードはすでに持っており、マイナポータルも利用したことがあるので、申請手続きは躓くこともなくスムーズに行きました。実際に申請を行って驚いたことが一つあります。「申請」を行うと、特に保険者や保険証番号等の情報を入力しなくても瞬時にマイナンバーカードがマイナ保険証になったのです。どうやら、保険者(健保組合や国保を運営する市町村など)においては既に、マイナンバーと保険証情報の紐付けは終わっており、我々国民の「申請」とはその紐付けを「了承」するということのようなのです。皆さん、知っていましたか?インフラはすでに相当程度出来上がっているものの、「国民に納得してもらう」作業が莫大に残っているというのが、マイナンバーカードと言えそうです。カード自体の発行も含めて……。ただ、つくづく思うのはこうした各種申請作業は70代以降の高齢者にはかなりハードルが高いだろうということです。個人的には、スマホも持たずキャッシュレスサービスの利用もしない90代の父親に、どうやったらマイナポイントを取得させ、使わせるかに頭を悩ませています。医療関係団体のこぞって協力する姿勢がとても不思議前回は、厚生労働省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」の内容を紹介し、マイナ保険証のシステムは将来的に、レセプト・特定健診等情報の共有に加えて、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療情報についても共有・交換できるようになり、「全国医療情報プラットフォーム」の構築につながると書きました。このプラットフォームができれば、患者の受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸になります。そうなると、当然それらのデータを基に、究極的に効率化された(ムダを省いた)医療提供の仕組みが国によってデザインされ、医療機関にも求められるようになるでしょう。さらには、重複受診、重複投与、ムダな薬剤投与、的外れの治療などが他医にもバレてしまいます。そう考えると、日本医師会をはじめ、医療関係団体がこぞって協力する姿勢を示していることがとても不思議です。日本医師会はこれまで、かかりつけ医制度やリフィル処方など、効率的な医療提供体制に資するような政策には頑なに反対してきました。一体、どうしたのでしょうか?ポイントは3度目となる厚生労働大臣に就いた加藤勝信氏考えられる一つのポイントは、8月に発足した新内閣において、3度目となる厚生労働大臣に就いた加藤 勝信氏ではないかと推察されます。今年6月、中川 俊男前会長から松本 吉郎新会長に替わった日本医師会は、悪化していたと言われる政権との関係の再構築を目指しています。そこに過去に厚労相を経験し、日医とも良好な関係にあった加藤氏の厚労相就任は、まさに朗報、渡りに船であったに違いありません。一方、とにかくDXを推進したい岸田 文雄首相は、特に何の実績も残せなかった牧島 かれん氏に替えて河野 太郎氏をデジタル大臣に据え、さらにDXを目に見える形で推進しやすい医療分野の牽引役として、加藤氏を厚労相に据えました。加藤氏なら日医をうまく説得しつつ、マイナ保険証、ひいては医療DXをうまく進めてくれると期待したのではないでしょうか。加藤厚労相が作った自民党「医療DX令和ビジョン2030」日本医師会は、「加藤氏なら日医にそんなにアコギなことはしないだろう。目一杯協力しよう」と考えたのかもしれません。ただ、ちょっとその見立ては甘いかもしれません。6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針2022)でオンライン資格確認(いわゆるマイナンバーカードの保険証利用)の2023年4月からの原則義務化と、現行の保険証の原則廃止の方向性が示されました。その3週間前の5月17日、自由民主党政務調査会の社会保障制度調査会・デジタル社会推進本部、健康・医療情報システム推進合同PTは「医療DX令和ビジョン2030」の提言を発表しました1)。骨太方針への記載を意識しての提言と思われますが、このビジョン取りまとめの中心人物の一人が加藤氏です。同ビジョンは、日本の医療分野の情報のあり方を根本から解決するため、1)「全国医療情報プラットフォーム」の創設、2)電子カルテ情報の標準化、3)「診療報酬改定DX」の取り組み、を並行して進めるよう提言。これにより、患者・国民には診療の質の向上、重複検査・投薬の回避、医療保険の制度運営にかかる国民負担の軽減などのメリットが、医療関係者には医療サービスの向上や電子カルテにかかる費用の低減などのメリットが、システムベンダには医療サービスの高度化に向けて競争するという構造改革の実現などのメリットが生じるとしています。「全国医療情報プラットフォーム」で全ての診療行為をガラス張りにそう考えると、加藤厚労相は、親日医の姿勢を見せつつ、マイナ保険証を突破口として医療DXを強力に推進するために岸田首相から医療界に送り込まれた“刺客”という見方もできるかもしれません。加藤厚労相も、今よりももっと“上”を目指すには、日医との関係構築よりも社会保障費や医療費の削減に注力することの方が重要だということはわかっているはずです。松本新会長になってから、かかりつけ医の議論も低調気味の印象です。ひょっとしたら、マイナ保険証に協力するからそこにはもうあまり触れないで欲しい、といった手打ちがあったのかもしれません。そもそも、医療費抑制のためには、かかりつけ医制度を面倒な議論をしてつくるより、「全国医療情報プラットフォーム」をつくってすべての診療行為をガラス張りにして、理詰めで制限をかけていくほうが、効率が良いに違いありません。かかりつけ医制度の議論などを目くらましにして、医療DXの推進を一気に進めようとしているとしたら、岸田首相や財務省もなかなかの策士と言えるでしょう。DX推進で『首相≒財務省≒厚労省』vs.『日本医師会』に変質か?デジタル庁では、財務省主計官、内閣官房内閣審議官などを歴任し、医療・社会保障に詳しい向井 治紀氏が参与として働いています。その向井氏は7月12日に開かれた日本医業経営コンサルタント協会主催のセミナーで講演し、「骨太方針2022」に盛り込まれた「診療報酬改定DX」などについて言及しました。ミクスOnlineなどの報道によれば、向井氏は「診療報酬改定DX」について、「医療保険業務全体のコストを削減し、将来的には保険料も公費も含めて全体のコスト削減になることを念頭に置いている」と述べ、保険証の原則廃止が骨太方針に盛り込まれたことについては、「今回の閣議決定は、政府として大胆な決定をしたとご理解いただきたい」と強調したとのことです。さらに医療DXの推進について、「デジタル庁も厚労省としっかりタッグを組まないといけない。重要なのは、どういう政府の推進体制であるか(中略)。縦割りでうまくいかなかった例が医療の世界でも社会保障の世界でも多数ある。そういうことがないような体制を作れるように大島厚生労働事務次官と話をしていきたい」と語ったそうです。マイナ保険証と医療DXが政策の前面に出てきたことで、「第80回 『首相≒財務省』vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」などで度々書いてきたこの対立構造は今後、「首相≒財務省≒厚労省」vs.「日本医師会」に徐々に変質していくのかもしれません。参考1)「医療DX令和ビジョン2030」の提言/自由民主党政務調査会 社会保障制度調査会・デジタル社会推進本部 健康・医療情報システム推進合同PT

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第124回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(前編)未対応は最悪保険医取り消しも

普及進まぬマイナンバーカード保険証こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。夏の甲子園が終わり、脱力していたらロサンゼルス・エンジェルスの身売り話が飛び込んで来ました。来季以降の大谷 翔平選手の去就に注目が集まる中、MLBでは喜ばしい話題もありました。シアトル・マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏が27日(日本時間28日)、球団殿堂入り(MLBの野球殿堂ではなく球団独自の殿堂です)のセレモニーで15分を超える英語のスピーチを行い、超満員のスタンドを沸かせました。決して流暢とは言えない英語ながら、ユーモア溢れるそのスピーチは、英語での学会発表が苦手な皆さんにも参考になるのではないでしょうか1)。さて、世の中、相変わらずDX(デジタル・トランスフォーメーション)流行りです。ということで今回は、8月24日に開催された、医療機関向けの「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」について書いてみたいと思います。「オンライン資格確認等システム」とは、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」のことで、これからの日本の医療DXの要とも言われています。ただ、その普及の割合はまだまだ低く、岸田 文雄首相も進捗の遅さにイラついているとも言われています。厚生労働省と三師会による合同説明会厚生労働省と三師会(日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会)が合同で開催した「オンライン資格確認等システムに関するWEB説明会」は、8月24日夜、18時30分からYouTube上で開催されました。約1万6,000人が参加し、医療関係者の関心の高さがうかがえました2)3)。冒頭、厚生労働省の伊原 和人保険局長が挨拶し、オンライン資格確認は「今後のデータヘルスの甚盤になる仕組み」と語り、「原則義務化されることを踏まえ、速やかに顔認証付きカードリーダーが届けられるよう従来の受注生産を事前生産にすることにしており、導入の準備を進めていただきたい」と要請。続いて日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の3師会の担当役員も挨拶し、揃って「早く導入しましょう。大変役立ちます」と訴えかけました。説明会の後半には、顔認認証付きカードリーダーのメーカーのプレゼンまで盛り込んだそのプログラムからは、遅々として進まぬマイナ保険証の普及・定着に対する、厚労省(と医療DX推進本部の長となる岸田首相)の焦りが伝わってくるようでもありました。中医協答申でオンライン資格確認導入の原則義務化が決定この説明会は、8月10日に開かれた中央社会保険医療協議会において、オンライン資格確認(いわゆるマイナンバーカードの保険証利用)導入の原則義務化が決定したことを受けて、急遽開催が決まったものです。6月7日に閣議決定されていた「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針2022)で、オンライン資格確認を2023年4月から原則義務化し、現行の保険証の原則廃止の方向性は示されていました。8月10日、中医協が後藤 茂之厚生労働大臣(当時)に答申し、それが正式決定となったのです。保険医療機関運営の“法律”である「保険医療機関及び保険医療養担当規則」にその旨が定められることになったことで、マイナ保険証導入に向けての強制力は一段と強まったと言えるでしょう。「原則義務化」で例外もあるにはあるのですが、その例外は院長が高齢などの理由から紙レセプトでの請求が認められているごくわずかの保険医療機関・薬局に限られ、全体の4%ほどに過ぎません。ほとんどの医療機関はあと7ヵ月の間に「マイナ保険証」に対応しなければならないのです。ちなみに、既に運用開始した医療機関等は2022年8月14日時点で26.8%だそうです。なお、8月10日の中医協ではマイナ保険証対応に向け、医療機関、薬局向けの補助の拡充や、マイナ保険証を使う患者の自己負担の方が高いという現状の問題点を解決するための、10月1日からの診療報酬上の加算の取り扱いの見直しも決定しています。「全国医療情報プラットフォーム」の創設につなげるオンライン資格確認等システム、いわゆるマイナ保険証は、日本の医療DXの基盤になるものと位置づけられています。「骨太方針2022」では、マイナ保険証のシステムを、当初のレセプト・特定健診等情報の共有に加えて、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療情報についても共有・交換できるようにし、「全国医療情報プラットフォーム」の創設につなげるとしています。なお、今回の説明会の資料では、オンライン資格確認のメリットとして、次の2点が強調されていました。1)医療機関・薬局の窓口で、患者の方の直近の資格情報等(加入している医療保険や自己負担限度額等)が確認できるようになり、期限切れの保険証による受診で発生する過誤請求や手入力による手間等による事務コストが削減。2)マイナンバーカードを用いた本人確認を行うことにより、医療機関や薬局において特定健診等の情報や薬剤情報を閲覧できるようになり、より良い医療を受けられる環境に(マイナポータルでの閲覧も可能)。導入しなければ「保険医療機関等の指定の取り消し事由になりうる」24日の説明会そのものは制度概要の説明から、体制整備に向けての医療機関に対する補助金の仕組みの解説など、事務的に進みましたが、「導入義務対象機関が来年4月導入に間に合わない場合にどうなるか」という質問に対して、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の水谷 忠由課長が「保険医療機関等の指定の取り消し事由になりうる。療担規則が順守されないと地方厚生局で丁寧な指導を受けることになり、個別事案ごとに適宜判断される」との回答には、関係者は驚いたのではないでしょうか。救済措置の検討も予定されているようですが、救済措置は「関係者それぞれがしっかり対応を進めることを大前提に、それでもやむを得ない場合について検討する」(水谷課長)とのことです。救済措置の状況を待つことなく医療機関は「オンライン資格確認等システム導入に向けた顔認証付きカードリーダーの申し込み、システムベンダーとの契約を一刻も早く進めて欲しい」と水谷課長は強調していました。受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸にさて、マイナ保険証の原則義務化で一体何が起るでしょうか。説明会では医療機関側の業務の効率化が盛んに強調されていましたが、国が最も期待するのは、先に示したメリットのうち2)であることは明らかでしょう。「全国医療情報プラットフォーム」が整備されれば、レセプト情報、さらに電子カルテ情報まで情報共有が行われることになります。この日の説明会でも、閲覧可能な情報が現行の薬剤情報、特定健診情報に加えて、9月からは透析、医療機関名の情報が、2023年5月からは手術情報が追加されると報告されています。患者の受療行動や、医療機関で提供された治療や投薬の情報が丸裸にされるということは、それらのデータを基に、究極的に効率化された(ムダを省いた)医療提供の仕組みがデザインされ、それが現場に要求されることを意味します。どこまでの情報が開示されるようになるかわかりませんが、重複受診、重複投与、ムダな薬剤投与、的外れの治療などが、他医にもばれてしまうわけで、「日本医師会をはじめ、医療関係団体がよくこぞって協力するな」というのが私の正直な感想です。「自院の治療は他の医師に見られたくない」というのが、多くの医師の本音でもあるからです。「首相≒財務省」vs.「厚労省≒日本医師会」の対立構造に変化?岸田首相は7月の参院選勝利を受け、8月10日に内閣改造を行いました。新内閣では加藤 勝信氏が3度目となる厚生労働大臣に就きました。親日医と見られる加藤厚労相が再び登用されただけでなく、厚労副大臣には日医推薦の羽生田 俊参議院議員が選ばれています。今年6月、中川 俊男前会長から松本 吉郎新会長に替わってからの政府の日本医師会への寄り添い振りは、やや気持ちが悪いくらいです。7月の参議院選挙直後、本連載の「第117回 医師法違反は手術だけではない!工学技士に手術をさせた病院が研修すべき『もう一つのこと』」で、「これから財務省主導の医療政策が、医療提供体制改革の“本丸”(病院の再編や、かかりつけ医の制度化など)に、どこまで切り込んでいくかが注目されます」と書きましたが、マイナ保険証と医療DXが政策の前面に出てきたことで、「第80回 『首相≒財務省』vs.『厚労省≒日本医師会』の対立構造下で進む岸田政権の医療政策」などで度々書いてきた、この対立構造に少なからぬ変化が出てきたように見えます。(この稿続く)。参考1)イチロー氏のフルスピーチ2)厚生労働省・3師会 医療機関向けライブ配信/厚生労働省 保険局3)厚生労働省・3師会 医療機関向けライブ配信 当日資料/厚生労働省 保険局

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ブースター接種率、職業や年収によって明確な差

 COVID-19ワクチンのプライマリ接種完了者(以下、ワクチン接種完了者)であっても、ブースター接種を受けるかどうかに関しては、地理的・職業的・社会人口学的な差異があることを、米・NYC Test and Trace CorpsのIsrael T. Agaku氏らが報告した。ブースター接種の必要性と接種意欲に関する調査は実施されているが、同氏らの認識ではブースター接種率とその背景因子を評価した大規模な調査は行われていないため、本調査を実施して社会人口学的要因を明らかにすることにした。JAMA Network Open誌2022年8月19日号掲載の報告。 この横断的研究は、米国国勢調査局の2021年12月1日~2022年1月10日の家計実態調査を基に行われた。メールやSMSで参加者を募り、オンラインで回答を得た。参加者には、新型コロナワクチンの接種の有無、接種回数と初回に接種したワクチンのメーカー名、自己申告によるCOVID-19感染の有無を尋ねた。また、社会人口学的要因として、COVID-19の感染の有無が不明な人との接触機会を探るため、過去7日間で最もよくいた場所、婚姻状況、子供の人数、居住地域、人種・民族、性別、年齢、最終学歴などを調査した。 解析対象者は、ワクチン接種を完了している成人13万5,821人(18~44歳は41.5%[平均年齢48.07±17.18歳]、女性51.0%)であった。ブースター接種の定義は、初回に接種したワクチンがジョンソン・エンド・ジョンソン製のワクチンの場合は2回以上の接種、ファイザー製ワクチンまたはモデルナ製ワクチンの場合は3回以上の接種とした。調整接種率(APRs)はポアソン回帰法を用いて測定し、ワクチン接種完了者のうちブースター接種を受けた人の背景を調査した。 主な結果は以下のとおり。・米国全体のワクチン接種完了者は83.0%で、そのうちブースター接種を受けたのは48.5%であった。ブースター接種の割合が低かった州はミシシッピ州(39.1%)、高かった州はバーモント州(66.5%)であった。・ブースター接種率が高かったのは、65歳以上の人(71.4%)、メディケア登録者(70.9%)、世帯年収20万ドル以上(参考:2,700万円超)の人(69.3%)、博士号・修士号・専門職の人(68.1%)、既婚で家に子供がいない人(61.2%)、病院勤務者(60.5%)、非ヒスパニック系アジア人(54.1%)であった。・一方、ブースター接種率が低かったのは、18~24歳の人(24.0%)、独身で家に子供のいる人(24.7%)、経済的困窮者(32.0%)、COVID-19の既感染者(32.5%)、学歴が高等教育以下の人(34.0%)、メディケイド加入者(35.2%)、飲食店・郵便局・更生施設・薬局勤務者であった。・家の外で働いていない人と比べてブースター接種率が高かったのは、病院勤務者(APR:1.23、95%信頼区間[CI]:1.17~1.30)、医師・歯科医師などの外来医療機関勤務者(同:1.16、同:1.09~1.24)、社会福祉事業従事者(同:1.08、同:1.01~1.15)であった。・一方、家の外で働いていない人と比べてブースター接種率が低かったのは、農業・林業・漁業・狩猟産業従事者(同:0.83、同:0.72~0.97)、郵便局勤務者、(同:0.84、同:0.60~1.16)、食品以外の製造業従事者(同:0.84、同:0.75~0.94)、飲食店勤務者(同:0.85、同:0.74~0.96)であった。・ブースター接種を受ける割合は年齢が高くなるとともに高くなり、最終学歴が低いほど低くなった。・COVID-19と診断されたことがない人に比べて、診断されたことがある人ではブースター接種率が30%低下した(同:0.70、同:0.68~0.73)。・男性と比べて、女性ではブースター接種率が低かった (同:0.96、同:0.94~0.98)。 著者は、「本調査から、米国の成人におけるブースター接種率には格差がある。ブースター接種率を改善するには、接種率の低い集団を対象とした取り組みが必要となる可能性がある」とまとめた。

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パンデミック中の会話の少なさが希死念慮と関連―医学生での検討

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に実施された医学部の学生を対象とする調査から、他者との会話の頻度が週に1回未満の場合、希死念慮のリスクが有意に高いことが明らかになった。パーソナリティや友人の数、独居か否かなどの共変量を調整後も、この関係は有意だという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月24日掲載された。 社会的な孤立は、希死念慮や自殺企図のリスク因子であるとされている。社会的な孤立を回避するために最も重要な手段の一つは他者との会話であり、会話が孤独感やうつ、不安を軽減するとの報告もある。しかし現在はCOVID-19パンデミックによって、社会的な距離を保つことを求められている。大学の講義も長期間オンラインのみとなり、学生は他者との会話の機会が減り、社会的に孤立した状態に陥りやすい環境となった。国内の大学生の自殺者数がパンデミックに伴い上昇しているとする研究結果も、既に報告されている。 このような状況を背景として藤原氏らは、パンデミック下での他者との会話の頻度の低下が希死念慮を高めているとの仮説を立て、2021年5月25~26日に同大学医学部4年生を対象とするオンラインアンケートを行い検証した。なお、2021年5月末はパンデミック第4波に当たり、東京には緊急事態宣言が発出されていた。 アンケートでは、「あいさつ以外の会話の頻度は?」という質問に、「週3回以上」、「週に1~2回」、「週に1回未満」、「なし」の中から回答してもらった。会話の相手が誰か、会話の長さ、手段(対面、電話、ネットなど)、場所などは特に限定しなかった。 希死念慮については、MINIという精神疾患簡易構造化面接法で自殺リスクを調査する際に用いられる以下の3つの質問を用いた。いずれかに「はい」と解答した場合に、「希死念慮あり」と判定した。3つの質問とは、過去1カ月間に「死んだほうが良いと思ったことがあるか?」、「自分を傷つけたいと考えたことがあるか?」、「自殺について考えたことがあるか?」というもの。 このほか、共変量として、性別、入学時年齢、友人の数、独居か否か、家族関係に不満はあるか、ビッグファイブ理論に基づくパーソナリティ、世帯所得の多寡の自己認識などを把握した。 113人中98人がアンケートに回答した(回答率86.7%)。男子が63.3%、高校新卒入学(現役合格)が67.3%、高校既卒入学が18.4%、他大学卒後入学が14.3%、独居者28.6%であり、友人の数は医学部の友人が6.72±0.40人、医学部外の友人が19.60±1.02人だった。 会話の頻度は、「週3回以上」が79.6%、「週に1~2回」が11.2%、「週に1回未満」が4.1%、「なし」が5.1%であり、「希死念慮あり」の該当者は20人(20.4%)だった。 ポアソン回帰分析により、会話の頻度が「週3回以上」の群を基準として、前記の共変量(友人の数やパーソナリティ、独居か否かなど)を調整後に、他群の「希死念慮あり」該当割合を比較すると、「週に1回未満」では6.54倍(95%信頼区間1.18~36.21)、「なし」では9.30倍(同1.41~61.06)と、それぞれ有意なリスクの上昇が認められた。「週に1~2回」では0.78倍(同0.08~6.92)であり非有意だった。線形回帰分析からも、ほぼ同様の結果が得られた。 なお、ポアソン回帰分析からは、家族関係に不満があることやパーソナリティの神経症傾向が、非有意ながら希死念慮を有することと関連する傾向が見られた。一方、新卒入学か既卒入学かの違い、独居か否か、友人の数、所得の多寡の自己認識などは、希死念慮を有することとの関連が認められなかった。 著者らは、本研究の限界点として、対象が医学部の4年生であり大学生全体の傾向を表しているとは言えないこと、大学生の中では1年生がパンデミックによるメンタルヘルスの影響を最も強く受けているとする報告があり、本研究の結果は希死念慮のリスクを過小評価している可能性のあることなどを挙げている。その上で、「週に1回未満の会話では、友人の数などとは無関係に、大学生の希死念慮リスクが高まる。オンラインによる学生間の交流の機会を増やすなどの対策を考慮する必要性が示唆される」と結論付けている。

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第120回 滋賀医大生3人を強制性交で逮捕・起訴、“エリート”たちがいつまでたってもパーティーを止めない理由とは?

全国知事会、新型コロナを「2類相当」から引き下げるよう訴えこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のオールスターゲームもコロナ感染による出場辞退が続出しものの、なんとか無事終わりました。個人的に楽しめたのは、7月27日に松山で行われた第2戦に登場した日本ハムファイターズの伊藤 大海投手です。伊藤投手は全パの8番手として8回から登板、スピードガンでも計測不能の超スローボールを投げ球場を沸かせました。とくに3人目に対戦した中日ドラゴンズの主砲ダヤン・ビシエド選手には、3球連続でスローボールを投げ、最後は見事レフトフライに打ち取りました。伊藤投手はオールスター選出時、千葉ロッテマリーンズの佐々木 朗希投手の超豪速球を意識してか、「オールスター“最遅”を狙う」と予告していたそうです。マウンドが白煙で見えないくらいになる、マシマシのロジンバックでも有名な伊藤投手の後半戦での好投に期待したいと思います。ちなみに、かつて超スローボールでMLBと日本球界を沸かせた多田野 数人投手は現在、伊藤投手の所属する日ハムで2軍投手コーチを務めています。そんなオールスターが終わったら案の定、「第118回 ランサムウェア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ」でも書いたように、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いを「2類相当」から「5類」に引き下げようという議論が本格化してきました。7月28日から奈良市で始まった全国知事会では、複数の知事が新型コロナウイルスについて感染症法上の分類を「2類相当」から引き下げるよう訴えました。神奈川県の黒岩 祐治知事は「いつまでも2類相当なら保健所は入院調整や健康観察などをやらねばならない。社会経済活動が止まろうとしている」と述べ、北海道の鈴木 直道知事も「オミクロン型は大半が軽症か無症状。感染者の全数把握について(見直しの)議論を進めることが重要だ」と訴えたとのことです。全国知事会は29日、新型コロナウイルスの感染防止策の緊急提言をまとめ、感染症法上の扱いを見直す方向を示す「ロードマップを早期に示すこと」を政府に求めました。こうした動きを受け、岸田 文雄首相は7月31日、感染症法上の分類を季節性インフルエンザの「5類」に近い扱いへ変える案について、時期や変異の可能性を見極めたうえで「2類(相当)として規定される項目について丁寧に検討していく」と述べました。第7波収束後の2類相当への見直しは、規定路線になりそうです。全国ニュースになりやすい医師のわいせつ事件さて今回は、医師や医学生によるわいせつ事件について書いてみたいと思います。厚生労働省は7月21日、刑事事件で有罪判決を受けるなどした医師と歯科医師計25人の処分を決め、公表しました。医道審議会の答申を受け決定したもので、1人を免許取り消し、計13人を業務停止3年~3ヵ月としました。最も重い免許取り消しの岡山市の医師(70)は非現住建造物等放火罪で既に有罪判決を受けています。医道審議会の処分には例年わいせつ関連の事件を起こした医師が入っていますが、今回は業務停止3年の処分を受けた4人のうち1人が準強制わいせつなどで有罪となった福岡市の医師(46)でした。最近もいくつかのわいせつ関連事件で医師が逮捕されています。警視庁新宿署は7月7日までに、強制性交の疑いで東京・歌舞伎町のクリニック院長で精神科医(52)を再逮捕しています。報道等によれば、20代の女性患者にわいせつな行為をしたとのことです。この精神科医は別の女性患者への傷害罪などで既に起訴されており、逮捕は6回目とのことです。また、7月25日には岡山市で内科・小児科を標榜するクリニックの院長(47)が、小学校でも盗撮をしていた疑いで再逮捕されています。この院長は中学校での健康診断中に女子生徒を盗撮したとして逮捕・起訴されていました。報道等によりますと、押収されたカメラなどからは児童・生徒約280人分の盗撮とみられる動画が見つかったとのことです。ちなみに再逮捕の罪状は、岡山県迷惑行為防止条例違反と、児童ポルノ禁止法違反の疑いです。こうしたニュースを読んで思うのは、医師がこうしたわいせつ事件を起こす比率は非医師に比べ決して高いわけではないのに、いったん事件を起こしてしまえば大きなニュースになるということです。聖職とまでは言いませんが、相当な税金を使って養成される医師ゆえに、世間が求める倫理観や高潔さも高いということなのでしょう。滋賀医大生3人が集団レイプ、一部始終を動画撮影医師になり時間が経つにつれ、その倫理観や高潔さが徐々に損なわれていくのはなんとなく理解できますが、医師の卵(医学生)の段階から高潔さが微塵もないのは大きな問題と言えます。2022年5月には国立大学法人・滋賀医科大学でこんな事件が起きました。滋賀県警大津署は2022年5月19日、滋賀医科大学・医学部6年生のA容疑者(24)と同6年生のB容疑者(24)が、知人の女子大生(21)に強制性交をした疑いで逮捕しました。同月26日には同大学6年生C容疑者(26)も強制性交をした疑いで逮捕しました。その後、大津地方検察庁は6月9日、容疑者3人を女子大生に集団で性的暴行を加えたとして起訴しました。起訴状によると、3人は共謀して女子大生に性的暴行を加え、さらにその一部始終をスマートフォンで動画撮影していたとのことです。役割分担などから事前の計画性が疑われる産経新聞などの報道によれば、事件のあらましは以下のようなものでした。3人は2022年3月15日夜、ほかの大学に通う女子大学生2人と飲食。その後、飲み直すためA被告の自宅マンションに向かいました。途中、B被告と女子大学生1人が飲み物などを買い出しに行きました。2人が買い出しに店に向かったあとの同日午後11時44分ごろ、A被告の自宅マンションのエレベーター内で、被害に遭った女子大学生にA被告が性交に応じるように脅迫。その様子をC被告が携帯電話で動画撮影していたとのことです。さらに、A被告は拒否する女子大学生に対し「身体および自由にいかなる危害をも加えかねない気勢を示して脅迫し」(起訴状記述)、室内に連れ込んで性的暴行を加え、その様子もC被告が動画撮影していたとのことです。買い出しに行っていた2人が戻り、その後、もう一人の女子大学生がA被告のマンションを離れた後も、翌16日午前2時半ごろまで3人の卑劣な犯行は続いたとのことです。報道では、被害者が警察に届け出て、犯行が明らかになったとのことです。また、3人の被告の役割分担などが行われていることから、事前の計画性が疑われるとしています。ちなみに、滋賀医大の3人の学生の容疑である強制性交罪は、かつて強姦罪と呼ばれていたものです(2017年6月に性犯罪に関する刑法の大幅改正で名称変更)。この時の改正で被害者の告訴がなくても起訴することができるようになり(非親告罪化)、法定刑の下限は懲役3年から5年に引き上げられています。滋賀医大はホームページで3度のお詫び滋賀医大は、学生2人の逮捕後、もう1人の逮捕後、そして3人の起訴後の計3回、ホームページに上本 伸二学長のコメントを掲載しています。起訴後の6月9日のホームページのコメントは以下のようなものです。被害に遭われた方とそのご家族、関係の皆様には、あらためて深くお詫び申し上げます。また、学生及び保護者、卒業生、本学関係者の皆さまにおかれましても、ご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。本学は、引き続き、司法手続に全面的に協力する所存です。また、本日起訴された本学学生3名につきましては、規程に則り、すでに謹慎処分に付し、調査委員会による調査を進めているところであり、今後、裁判の動向を注視しながら、確認できた事実に基づき厳正に対処いたします。本学は、今回の事件を極めて重く受け止めており、二度とこのような事件が起きないよう、再発防止の徹底に全力を挙げて取り組んで参ります。しかし、その後、2ヵ月近く経ちますが、調査委員会による調査結果や再発防止策は公表されていません。常識的に考えれば、謹慎どころか退学処分が妥当と考えられますが、果たして滋賀医大が今後どんな正式処分を下すのか、注目されます。繰り返される医学生による集団レイプ事件それにしてもひどい事件です。この事件については、週刊女性が2022年6月14日号で『起訴状で発覚した“動画撮影” 滋賀・医大生3人が21歳女子大生に性的暴行!エリートたちの「裏の顔」』のタイトルで詳細をレポートしています。同記事よれば、A被告の父親は医師、B被告の両親も医師とのことです。エリート層の子弟の医学生が犯した同様の犯罪ということで思い出したのが2016年に起こった千葉大医学部レイプ事件です。2016年9月に起こったこの事件では、千葉大学医学部5年生(当時)の3人が飲み会で酩酊した女性に集団で性的暴行を加えたとして、集団強姦致傷容疑で逮捕されました。後日、彼らを指導すべき立場だった千葉大学附属病院の研修医も準強制わいせつ容疑で逮捕されています。この事件は、彼らが超有名進学校出身であったことや、犯人の1人が4代続く弁護士家系の出身者だったこともあり、世間の注目を集めました。翌2017年1月に千葉地方裁判所で大学生3人の初公判が開かれ、5月には集団強姦罪で起訴された2人の大学生に懲役4年の有罪判決、準強姦罪で起訴された1人の大学生に懲役3年の有罪判決、準強姦罪で起訴された研修医に懲役2年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています。その後、千葉大学は3人の大学生を放学処分としています。『彼女は頭が悪いから』を学生のテキストに医学部生による類似の事件は慶應義塾大学医学部(1995年)、三重大学医学部(1999年)、東邦大学医学部(2016年)などでも起こっています。刑事事件として表沙汰になったのがこれだけあるということは、被害者が泣き寝入りしたり、お金で解決したりした事件はもっとあるに違いありません。医学部のエリートたちはなぜ、このような事件を繰り返すのでしょう。あるいは医学部だから事件が大きく報じられているのでしょうか。仮にそうだとしても、医学部生による強制性交(強姦)事件は、相当数起こっているのは事実です。「俺たちは女の子にモテて当然の医学部生」というエリート意識が、繰り返されるおぞましいパーティーの根底に流れているのかもしれません。医学部入試の小論文などで、医の倫理に関する問題をいくら出題しても、面接で人柄を見極めようとしても、邪悪で驕り高ぶったこうした若者を完全に排除することは不可能でしょう。滋賀医大が今回の事件を機に、同大で学ぶ医学生に向けて今後どのような教育や指導を行うかわかりませんが、一案として、姫野 カオルコ氏の小説『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋)をテキストにするというのはどうでしょう。2016年に起きた東大生5人による強制わいせつ事件をモチーフにしたこの小説は、差別意識の強い東大生の若者たちが、自分より「下位」とみなす女性になぜ性暴力をふるうに至ったかを克明に描いています。若者たち一人ひとりの問題というより、そうした若者を生み出している社会の構造や背景を細かく描いているのが印象的です。滋賀医大の上本学長だけでなく、全国の医学部の学長の皆さんも、ぜひご一読されることをおすすめします。ちなみに姫野氏は滋賀県の出身です。

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第119回 参院選勝利の日本医師会もヒヤヒヤ、24年診療報酬改定の未来予想図は?

参議院選が終了して2週間が経過した。すでにご存じのように、結果としては与党で第一党の自民党が改選前から8議席上乗せし、改選議席過半数の63議席を獲得。同じく与党の公明党は改選前より1議席減らして13議席と、与党で合計76議席を獲得して“勝利”した。敢えてダブルクォート(“ ”)で表現したのは、どちらかと言うと今回の結果は与野党中間とも言える日本維新の会を除く野党が、ここ数年駆使してきた「日本共産党を含む野党共闘」を、立憲民主党と国民新党の最大支持団体「日本労働組合総連合会(連合)」の方針で駆使できず、1人区での野党候補の勝利が3年前の前回参議院選挙から半減以下となった影響が大きい。つまり結果は同じでも解釈は、「与党の勝利よりも野党の敗北のファクターのほうが大きい」と言えるからだ。さて、今回の参議院選挙の結果を受けて医療・介護業界の一部では早くもざわつきが始まっている。というのも参議院選挙はある種、支持団体の忠誠心競争でもあるからだ。現在、日本の選挙制度は衆議院も参議院も選挙区選挙と比例代表の並立制という点では同じだが、両選挙ではとくに比例代表の扱いが異なる。衆議院の比例代表は選挙区が全国11の地域ブロックごとに設定され、有権者は政党名で投票。政党別獲得投票割合に応じて各党に議席が割り振られ、比例代表当選者は政党側が予め用意した順位付き候補者名簿上位から決定していく「拘束名簿式」。また、衆議院は選挙区と比例代表の重複立候補が可能であるため、比例代表はどちらかと言うと小選挙区落選者の復活当選という救済措置の意味合いが強い。これに対して参議院の比例代表は、選挙区が全国単位で各都道府県選挙区と重複立候補はできず、有権者は政党名、候補者個人名のいずれでも投票が可能。比例代表当選者は、原則的に個人名得票数の多い順から決まる「非拘束名簿式」。この性格上、参議院の比例代表制は全国的に知名度が高い人や全国組織の関係者が当選しやすく、政党側もその点を意識した候補者を選びがちになる。代表例がタレント候補と全国組織を持つ各政党の主要な支持団体の組織候補・組織推薦候補だ。とくに長らく政権を担当してきている自民党は支持団体も多く、比例代表候補はこれらの組織候補・組織推薦候補がかなり多くを占める。今回の参議院選挙で組織候補を有していた医療介護関係団体は、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会、日本薬剤師会、日本理学療法士協会、全国老人福祉施設協議会など。最終結果では、自民党の比例代表当選ラインは約12万票で、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会、日本薬剤師会の候補は当選し、日本理学療法士協会、全国老人福祉施設協議会の候補は落選となった。組織候補を当選に導いた各組織の得票は、日本医師会が約21万票、日本歯科医師会と日本看護協会が約17万票、日本薬剤師会が約13万票。対して組織候補が落選した日本理学療法士会は約12万票、全国老人福祉施設協議会が約9万票だった。冒頭で「ざわついている」と書いたのは、この結果を受けた関係者の中には早くも2024年にある6年に1度の診療報酬、介護報酬、障害者福祉サービス報酬のトリプル改定への影響を口にする人が出始めたことだ。前回の2018年のトリプル改定時の診療報酬本体(薬価分を除く)が0.55%、介護報酬が0.54%のプラスだったことから、当選した(勝った)医療業界側の一部では、“負けた介護業界側との改定率の差は開く”、つまりプラス改定の場合は介護報酬の改定幅が抑えられ、その分が診療報酬本体に回ってくるのではないかとの「期待」が高まっている。とくにトリプル改定の場合、まずは診療報酬本体の改定幅から決まるため、得票数で存在感を示した日本医師会を中心にこの期待は徐々に高まっていく可能性がある。しかし、ことはそう簡単ではない。2018年改定は特殊な「人治」で決まったことは衆目が承知している。あくまでマイナス改定を強硬に主張した財務省に対して、日本医師会側は当時の横倉 義武会長と今回の選挙中に凶弾に倒れた当時の首相の安倍 晋三氏との個人的な親密さでプラス改定を実現。さらに最後まで抵抗した財務省を、横倉氏と同じ福岡県出身で安倍氏以上に横倉氏と親しかった当時の財務相である麻生 太郎氏が抑え込んだ。だが、安倍氏がこの世を去り、横倉氏もすでに日本医師会会長を退任した今、2018年のようなほぼ日本医師会ワンサイドの勝利再現は難しい。そうした中、現時点での2024年トリプル改定を占うファクターは、主に(1)財務省の方針、(2)日本医師会の方針、(3)自民党内の動静の3つである。(1)については、財政均衡を目指す財務省のスタンスは健在で、基本方針は“あわよくば”診療報酬本体もマイナス改定だろう。とくに財務省は前述の2018年トリプル改定時に政治力で抑え込まれた「遺恨」もある。ただ、ここでも“あわよくば”とダブルクォートで表現したのは、2018年と現在ではやや状況に変化があることを考慮しなければならないからだ。状況の変化で最も大きいのが診療報酬本体プラス改定の財源となってきた薬価引き下げが2021年から毎年行われるようになった点である。つまり以前よりも診療報酬本体のプラス改定の財源は確保できるようになっている。その意味で財務省の診療報酬本体改定幅に対する考えは、2023年と2024年の薬価引き下げ幅がどの程度になるか次第とも言える。薬価引き下げ幅はあくまで市場実勢価に左右されるため、財務省は現時点では見通しは立てにくいだろう。(2)については比較的予想しやすい。まず、横倉氏の退任後に日本医師会会長に就任した中川 俊男氏は2期目の会長選に不出馬を決め、先ごろ松本 吉郎常任理事が会長に就任したばかり。過去40年、2期目不出馬で日本医師会会長を退任したのは中川氏のみ。この背景は2022年診療報酬改定が本体0.43%プラスに終わったことが最大の要因だ。前任の横倉氏の在任期間中に行われた4回の診療報酬改定の本体改定率は0.49~0.73%のプラス。横倉氏と比べ政治とのパイプが細いと言われた中川氏が迎えた最初の診療報酬改定のプラス幅は、横倉氏時代を下回った。そればかりか引き上げ分のほとんどが菅 義偉前首相の政策だった「不妊治療の保険適応」と、成長と分配の好循環を掲げた岸田 文雄首相の目玉政策「看護師報酬アップ」に回され、日本医師会にとっては実質的にゼロ改定。このことで日本医師会内では中川氏への不満が爆発し、異例の再選不出馬となった。新会長の松本氏個人はそれほど政治と太いパイプはないと言われているものの、前述の横倉氏に近いため、横倉氏の後ろ盾も得ながら次回改定に臨むと予想される。その際の勝敗ラインは、2022年改定や横倉氏時代の改定を踏まえると0.5%のプラス改定になるだろう。一方、読みが一番難しいのが(3)だ。今回の安倍氏の衝撃的な死去で自民党内のバランスは変化する。岸田首相が率いる岸田派は党内で2番目に所属議員数が少なく、これまでは最大派閥の安倍派を率いていた安倍氏が半ばお目付け役として機能しながら岸田首相は党内と政権を運営してきた。安倍氏死去後の安倍派は当面は会長を置かず、集団指導体制で運営されることが決まった。その結果、すでに政界を引退しながらも安倍派に影響力を持つ森 喜朗元首相の存在感が強まっているとの見方が一部で指摘されている。この場合、岸田首相にとってはやや厄介なことになる。というのも、森氏にとっては首相在任中に起きた自民党内の内紛「加藤の乱(現在の岸田派の源流でもある故・加藤 紘一氏が率いる加藤派を中心に野党提出の内閣不信任案に賛成しようとした事件)」の際、自民党執行部による乱への同調者切り崩し工作に応じず、最後まで加藤氏に付き従ってきた1人が今の岸田首相である。森氏にとっての遺恨の相手である。この時の影響もあり、安倍派には反岸田的色彩を持つ議員もいると言われる。また、日本医師会の組織候補で見ると、前回再選した羽生田 俊氏は安倍派であり、今回再選した自見 英子氏は、岸田氏により最終的に首に鈴をつけられ自民党幹事長を退任した二階 俊博氏率いる二階派の所属である。加えて2018年のトリプル改定時に横倉氏との縁で財務省を抑え込んだ麻生氏は自らの麻生派を率い、なおかつ介護業界の後ろ盾でもある「地域包括ケアシステム・介護推進議員連盟」の会長という絶妙なバランスを有している。前述の2018年の改定率である診療報酬本体が0.55%、介護報酬が0.54%は、この麻生氏の立場と日本医師会のメンツを立てる(見かけの改定率が介護報酬のほうが0.01%低いこと)という財務省の忖度の結果とも言われている。そして当の岸田首相の下では、日本医師会が反対姿勢を鮮明にしている「かかりつけ医の制度化」を『経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針)』に盛り込んで閣議決定。同時に安倍氏が提唱したアベノミクス路線を継承しつつも、「成長と分配の好循環」というキーワードで独自の経済政策を掲げる岸田首相は、介護職の給与アップに好意的だ。その意味で2024年のトリプル改定は参議院選挙の論功行賞というファクターのみでは考えられない不確定要素をいくつも抱えている。変数が多いのに定まった解析方法はない極めて厄介な現状である。

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第109回 サル痘にWHOが緊急事態宣言、国内ではワクチンなどの対策を検討/厚労省

<先週の動き>1.サル痘にWHOが緊急事態宣言、国内ではワクチンなどの対策を検討/厚労省2.放火事件やわいせつ事件で、医師11名、歯科医6名に行政処分/厚労省3.岸田首相に日本医師会長が面会、新型コロナウイルス「第7波」に、休日診療の充実を4.新型コロナウイルス、感染症患者の入院診療加算は9月末まで延長/厚労省5.新型コロナウイルスワクチン接種、医療者・介護従事者にも4回目の接種を承認/厚労省6.薬剤師の過剰を懸念、薬学部の新設を2025年以降は抑制/文科省1.サル痘にWHOが緊急事態宣言、国内ではワクチンなどの対策を検討/厚労省世界保健機関(WHO)は、7月23日に動物由来のウイルス感染症「サル痘」について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言をした。アフリカ以外の欧米諸国でも感染が急速に広がっており、各国に対して、感染対策の強化を促す目的。日本国内での感染者はまだ確認されていないが、政府は海外での感染拡大を受けて、ワクチンや治療薬の配備や医療機関での受け入れ態勢について検討を開始しており、発症予防効果があるとされている天然痘のワクチンの承認についても、今月29日に専門家部会で検討する。(参考)感染拡大のサル痘にWHOが「緊急事態」を宣言 71ヵ国で1万人超(朝日新聞)WHO、サル痘に緊急事態宣言 感染拡大防止へ対策強化(日経新聞)「サル痘」に備え 薬やワクチンなど整備進める 厚労省(NHK)2.放火事件やわいせつ事件で、医師11名、歯科医6名に行政処分/厚労省厚生労働省は、7月21日に医道審議会医道分科会の答申を受けて、刑事事件で有罪が確定したとして、医師11人と歯科医師6人に対して免許取り消しや業務停止などの行政処分を行うこととした。発効は8月4日。このうち免許取り消しとなったのは、自身のクリニックに放火して非現住建造物等放火罪で有罪が確定した小児科医が1名、業務停止で3年となったのは女性宅に侵入してわいせつな行為をした福岡市の医師が含まれている。(参考)医師と歯科医17人処分 放火やわいせつ行為など 厚労省(時事通信)放火や準強制わいせつ 17人を医師免許取り消しなどの処分 厚労省(朝日新聞)3.岸田首相に日本医師会長が面会、新型コロナウイルス「第7波」に、休日診療の充実を日本医師会の松本吉郎会長は、首相官邸において岸田総理に面会し、新型コロナウイルスの第7波の感染拡大に対応するため会談を行った。発熱外来の患者増に対応するために、希望する患者に対して検査キットを配布し、自主検査の態勢の構築を説明し、協力を要請した。さらに、週末などに対応できる医療機関を増やすことを求めた。(参考)首相 日本医師会長と面会 休日診療の発熱外来増など協力求める(NHK)首相、抗原検査キットの配布意向説明 日医会長と面会(日経新聞)希望者への検査キット配布に協力する意向を伝える(日本医師会)4.新型コロナウイルス、感染症患者の入院診療加算は9月末まで延長/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染拡大により、新規感染者数が全国的に上昇している中、必要な医療提供体制を確保していくため、臨時の診療報酬の加算のうち、感染患者の初診で行う入院診療加算(250点)について、7月末までであった臨時措置を9月30日まで延長するとした。また、新型コロナウイルス感染症に罹患して自宅療養や宿泊療養中の患者を、医師が電話などを用いて、診療を行った場合も同様に147点の算定を引き続き、9月30日まで認めるとした。(参考)新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その72)(厚労省)5.新型コロナウイルスワクチン接種、医療者・介護従事者にも4回目の接種を承認/厚労省厚生労働省は7月22日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において新型コロナウイルスの4回目のワクチン接種を医療・介護従事者にも拡大することを了承した。これによって、7月22日から接種可能となる。また、この秋以降の、新型コロナワクチンについては、ファイザー社およびモデルナ社が開発中のオミクロン株対応の改良型を導入し臨時接種を行うこととした。また、インフルエンザワクチンとの同時接種も可能とすることとした。(参考)ワクチン4回目接種の対象拡大 医療・介護従事者600万人にも(毎日新聞)今秋以降の接種、オミクロン株対応の改良型導入へ…インフルワクチンと同時接種も了承(読売新聞)新型コロナワクチンの接種について(第33回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会)6.薬剤師の過剰を懸念、薬学部の新設を2025年以降は抑制/文科省文部科学省は7月22日、大学の6年制薬学部の新設について、2025年度から新設や定員増を原則として認めない方針を決めた。これは平成15年度から平成20 年度にかけて28学部が増加し、最近も平成30年度に1学部(公立)、令和2年度に2学部(私立)、令和3年度に2学部(公立1、私立1)が新設されており、入学定員は、平成20年度に1万2,170人と最大となり、その後、令和3年度には1万1,797人若干減少している。一方、私立大学の薬学部の入学定員充足率、志願倍率、入学志願者数は減少傾向が続いており、入学定員充足率が80%以下となる私立大学は、約3割に達している状況や、私立大学の卒業生の標準修業年限内の国家試験合格率(令和2年度)が、18~85%までばらつきがあるものの中央値57%と低迷していることなどを鑑みて、今後、質の高い薬剤師を養成するためには、6年制の薬学部の新設や定員の増加を原則として認めない方針をまとめた。(参考)薬学部新設、抑制へ 供給過剰を危惧 25年度以降(毎日新聞)“薬剤師過剰” 薬学部の新設・定員増抑制へ 文科省専門家会議(NHK)6年制課程における薬学部教育の質保証に関するとりまとめ(案)(薬学部教育の質保証専門小委員会)

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