小児期の継続的な受動喫煙は男児の肥満リスク

小児期に継続的に受動喫煙にさらされることが、男児の肥満のリスクを高めることを示唆するデータが報告された。ただし、保護者が禁煙するなどにより状況が改善すると、肥満リスクは低下する可能性があるという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Pediatric Research」に8月13日掲載された。
世界的に小児肥満が増加しており、2016年の有病率は18%と報告されている。小児肥満は成人後の肥満につながることが多く、代謝性疾患や心血管疾患と、それらによる死亡を増加させることから、子どものうちに肥満を解消することが重要。
一方、受動喫煙が小児肥満のリスク因子の一つである可能性が指摘されており、受動喫煙は保護者への介入で修正可能であることから、小児肥満対策の一手として期待される。ただし、受動喫煙が改善された場合に子どもの肥満リスクが低下するか否かは、これまで明らかにされていない。藤原氏らは、東京都足立区で行われた「子どもの健康・生活実態調査(A-CHILD Study)」のデータを用いた縦断的解析によって、この点を検討した。
A-CHILD Studyは、足立区内の全ての公立小学校69校で実施され、2018年に小学4年生、2020年に小学6年生の児童とその保護者を対象とするアンケート調査が行われた。本研究では、その両年の調査に回答し、かつ6年生の時点の学校健診における身長・体重からBMIのデータのある3,605人の児童を解析対象とした。なお、体重については、BMIのWHO基準におけるZスコアが1未満を低体重または普通体重群、Zスコア1~2未満を過体重群、同2以上を肥満群と定義した。
解析対象児童の74.1%は、4年生時、6年生時ともに受動喫煙にさらされていなかった。一方、15.2%は両方の時点で受動喫煙にさらされていた。5.8%は途中で受動喫煙が終了し、残りの4.8%は反対に途中で受動喫煙が始まっていた。継続的に受動喫煙にさらされていた子どもの家庭は世帯収入が低く、母親が若年で教育歴が短い傾向があった。
6年生時のBMIに影響を及ぼす可能性のある因子(4年生時のBMI Zスコア、性別、世帯収入、運動の頻度、テレビの視聴、携帯電話の使用、加糖飲料の摂取頻度、母親の年齢・教育歴、肥満の家族歴)を調整後、順序ロジスティック回帰分析により、受動喫煙の状況と肥満発症との関連を検討。その結果、継続的に受動喫煙にさらされていた群は、受動喫煙歴のない群に比較し、6年生時により高いBMIカテゴリーに該当する割合が有意に高かった〔オッズ比(OR)1.51(95%信頼区間1.16~1.96)〕。
追跡期間の途中で受動喫煙が終了した群はOR1.11(同0.75~1.66)、受動喫煙が始まった群はOR0.90(0.57~1.45)であり、どちらも肥満の発症と有意な関連がなかった。
次に、性別で層別化して解析すると、男児では全数解析と同様に、継続的に受動喫煙にさらされていた群でのみ、肥満の発症が有意に多いという関連が見られた〔OR1.74(1.25~2.44)〕。それに対して女児の肥満の発症は、受動喫煙歴のない群と他の全ての群で有意差がなかった。
以上の結果から著者らは、「受動喫煙は、男児の肥満のリスク因子の一つであると考えられる。ただし、受動喫煙の状況が改善されると肥満リスクは低下するようであり、小児肥満の防止に役立つのではないか」と結論付けている。また、新型コロナ感染症パンデミックで保護者の在宅勤務や外出頻度の減少により、受動喫煙の機会が増えている可能性があることから、「この関連のより詳細な研究と、保護者の禁煙がより一層重要になっている」とも述べている。なお、受動喫煙による肥満リスクへの影響が性別で異なる理由に関しては、既報文献を基に、脂肪燃焼に関係しているβ-3アドレナリン受容体のTrp64Argバリアントの肥満への影響に性差が存在する可能性などを挙げている。
[2022年10月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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