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サイバー被害の実例【サイバー攻撃の回避術】第1回

患者の機微な個人情報を扱って事業を行う医療機関は、その社会的責任として、患者に対する説明責任と委託事業者の管理責任を負う。仮に電子カルテなどのベンダーが持ち込んだ機器の脆弱性対策を怠ったことが原因でサイバー被害を受けたとしても、一義的責任は医療機関に存在する。医療機関はまずはサイバーセキュリティーを自分事として捉え、自施設のリスクの把握と、委託事業者のリスクの把握を行い、それらのリスク評価の結果から、サイバーセキュリティー対策を個別に構築することが求められる。はじめに2021年以来、医療機関のサイバー攻撃の被害、とくにランサムウェア被害が多発しており、社会問題化している(表)。しかし、これらの事例の詳細を分析するといくつかの教訓が得られる。本稿ではこれらの教訓を共有し、サイバーセキュリティー対策は“患者の機微な個人情報を扱って医療という事業を行う”医療機関の重要な社会的責任として、自分事として捉えることが重要であることを解説していく。(表)2021~22の医療機関のランサムウェア被害一覧と課題[疑い例・未公表例含む]画像を拡大する被害事例と共有すべき教訓私が代表理事を務める医療ISACが把握している範囲では、2021年に5件、2022年に14件のランサムウェア被害が判明している(医療機関自身が未公表の事例も含む)が、そこから3つの教訓が得られる。教訓1都市部の大病院のみではなく、地方の中小病院や有床・無床の診療所、歯科診療所も被害に遭っており、決して他人事ではない。教訓219例中12例は電子カルテベンダーが遠隔保守目的で設置設定した米国・Fortinet社製のVPN装置(FortiGate[フォーティゲート])の脆弱性が放置されていたことが起点となって、ハッカーの侵入を許し、ランサムウェア感染を来した。その間に厚生労働省からは3回の注意喚起1-3)と1回のガイドライン改訂4)により上記の対策を促してきたが、同一の原因による防げたはずの被害を未然に防止できなかった。教訓319例中5例がランサムウェア対応のバックアップシステムを採用しておらず、バックアップデータまで暗号化されたことにより、復旧に難渋を極めた。教訓1からは、いずれの医療機関も常にサイバー攻撃の被害者となることを想定して、対策を講じる必要があることがわかる。教訓2からは、ベンダーが持ち込んだ機器の脆弱性に起因する侵入事例が多数みられ、何度も注意喚起されていたのにも関わらず、最初の事例から1年半以上にわたり同じ原因での被害が多発したことは、注意喚起の効果なども含め検証が必要である。また医療機関がベンダーを盲信してセキュリティー対策を丸投げしている状態も課題の一つであることがわかる。教訓3からは、ランサムウェア感染を想定してバックアップデータを取得しておくことが、被害最小化の上で重要であることがわかる。実際に2022年6月の鳴門山上病院の事例では、有効なバックアップデータが確保されていたため、わずか4日で復旧が実現している。サプライチェーン攻撃2022年10月に発生した大阪急性期・総合医療センターのランサムウェア被害事例は、別の意味で教訓的である。本例では、病院の給食を受託していた委託事業者が上述と同じFortiGateを利用しており、その脆弱性が放置されていた。まず給食センターが侵入を許し、その複数のシステムがランサムウェア感染を来した後、病院側にはRemote Desktopを介して侵入を許し、100以上のサーバや1,000以上の端末の感染を来した。給食センターに侵入を許してから病院側のサーバが感染するまで1時間以内と、非常に早く、また多数が感染した一因として、電子カルテ(NEC)のサーバのID/Passwordにすべて同じものを使い回していたことがわかっている。医療機関は「設定や管理をNECに任せきりだった」としている。厚労省は本例を受けて、2022年11月10日に医療機関宛に注意喚起を発出し、サプライチェーンを含めてインターネットとの接続点の脆弱性を管理下におき、確実に対策を講じることを求めている。「クローズドネットワークの安全神話の崩壊」従来、多くの医療機関の業務システムのネットワーク構成として、電子カルテなどの基幹系システムと、ホームページや電子メールなどの情報系ネットワークは分離されていることを根拠に、基幹系システムはインターネット経由の攻撃を受けない、とする「クローズドネットワークの安全神話」が信じられてきた。しかしながら前述の事例でも明らかなように、遠隔保守目的のVPN装置などを介してバックドア側からインターネットに接続しており、そもそもクローズドネットワークではなかったことがわかる。前述の19例はいずれもバックドア側からの攻撃であり、情報系ネットワークの接続口であるフロントドア側からの侵入によるランサムウェア被害事例は把握されていない。フロント側からの攻撃としては、標的型メール攻撃などのほかの事業者の被害事例はありふれているが、医療機関の事例としては2022年10月に発生した奈良県立医科大学の被害が挙げられる。令和 4年10月31日に5件のアカウントから、学外へ迷惑メールの送信、また、海外のIPアドレスから6件のアカウントに対し、不正なログインを確認し、個人情報が含まれるメールが閲覧できる状態であったことが判明した。学外(メールアドレスから海外と思われる)への迷惑メール1,120件の送信と、不正ログイン者が次の個人情報を含むメールを閲覧できる状態であったことも判明した。閲覧された可能性のある個人情報としては、治験患者1名の「疾患名」「氏名」「性別」、共同研究者および治験関係者の「氏名」「電話番号」「メールアドレス」約800件が該当した。原因としては、一部職員が業務用電子メールのID/PWをほかのサービスなどで使い回したことなどの可能性が指摘されている。実際に多くの医療機関などで職員の業務用電子メールのID/PWがブラックマーケットで販売されており、常に悪用される可能性を認識すべきである。さらに今後は、マイナ保険証利用による患者情報のオンライン取得、オンライン予約システム、AI問診システム、在宅医療システムやオンライン診療システムなどの普及により、フロントドア側からの攻撃が増加し、被害事例も発生することが予想される。2023年5月に改訂された厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」でも、正に上記のようなリスクアセスメントに基づくマネジメントが求められている所以である。ランサムウェアコンピュータウイルスの一種で、ファイルなどを暗号化し身代金(ランサム)を要求するもの。ベンダー製造元・販売供給元のこと。本連載では主にITシステムなどの導入事業者を指す。対義語はユーザー。VPN装置Virtual Private Network:外部との通信を安全に行うために、通信経路および通信内容を暗号化する仕組み。FortiGate米国の大手セキュリティー事業者であるFortinet社の主力商品。VPN構築やFirewall機能など、多彩なセキュリティー機能を比較的安価で提供しているため、世界的に数多く採用されている。サプライチェーン攻撃自施設以外のネットワークで接続された事業者が攻撃を受け、その余波として被害を受けた場合の攻撃を指す。Remote DesktopMicrosoft社が提供する、他の端末画面を仮想的に閲覧したり捜査したりできるようにする仕組み。しばしば脆弱性が指摘されており、サイバー攻撃の起点となることも多い。バックドア/フロントドア業務系(電子カルテなど)ネットワークと、情報系(メール・Webなど)ネットワークが分離されている場合、業務系ネットワークへの遠隔保守などの入り口をバックドア、情報系ネットワークへの入り口(インターネット側からのアクセスルート)をフロントドアと称する。参考1)医療機関を標的としたランサムウェアによるサイバー攻撃について(注意喚起)_2021年6月28日2)医療機関を標的としたランサムウェアによるサイバー攻撃について(再注意喚起)_2021年11月26日3)医療機関等におけるサイバーセキュリティー対策の強化について(注意喚起)_2022年11月10日4)医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5.2版(2022年3月)

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歯科治療の中断が全身性疾患の悪化と有意に関連

 歯科治療の中断と、糖尿病や高血圧症、脂質異常症、心・脳血管疾患、喘息という全身性慢性疾患の病状の悪化が有意に関連しているとする研究結果が報告された。近畿大学医学部歯科口腔外科の榎本明史氏らの研究によるもので、詳細は「British Dental Journal」に4月11日掲載された。 近年、口腔疾患、特に歯周病が糖尿病と互いに悪影響を及ぼしあうことが注目されている。その対策のために、歯科と内科の診療連携が進められている。また、糖尿病との関連に比べるとエビデンスは少ないながら、心・脳血管疾患や高血圧症なども、歯周病と関連のあることが報告されている。歯周病とそれらの全身性疾患は、どちらも治療の継続が大切な疾患であり、通院治療の中断が状態の悪化(歯周病の進行、血糖値や血圧などのコントロール不良)につながりやすい。榎本氏らは、歯科治療を中断することが全身性疾患の病状に影響を及ぼす可能性を想定して、以下の横断的研究を行った。 研究には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模Web調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」のデータが用いられた。パンデミック第5波に当たる2021年9月27日~10月30日に、Web調査登録者パネルを利用して、年齢、性別、居住都道府県を人口構成にマッチさせた上で無作為に抽出した3万3,081人に回答協力を依頼。2万7,185人(年齢範囲15~79歳、男性49.7%)から有効回答を得た。 このトピックに関する質問は、「過去2カ月間に、全身性疾患の病状は悪化したか」、「過去2カ月間に、歯科治療を受けることができたか」という二つで構成されていた。前者は「はい」か「いいえ」、後者は歯科治療を「継続していた」、「中断した」、および「該当しない(以前から継続的な歯科治療は受けていない)」から選んでもらった。 全身性疾患の検討対象者は、もともと内科疾患を放置している人やコロナ禍のもと内科疾患の通院を中断した人は除外。最終的には、糖尿病1,719人、高血圧症5,130人、脂質異常症2,998人、心・脳血管疾患833人、喘息677人、アトピー性皮膚炎792人、うつ病などの精神疾患1,638人を対象者とした。これら各疾患の患者のうち、50~60%は歯科治療を継続しており、4~8%は中断していた。いずれの疾患においても、歯科治療継続群より中断群の方が、病状が悪化したとの回答が多かった。 糖尿病患者を例にとると、1,719人のうち88人が歯科治療を中断しており、そのうち16人(18.2%)が糖尿病の悪化を報告。歯科治療を継続していた1,043人ではその割合が5.6%だった。年齢、性別、喫煙習慣、教育歴、収入、居住環境(独居か否か、持ち家か否か)を共変量として調整した解析でも、病状悪化率の群間差は有意だった(P=0.0006)。 同様の解析で、高血圧症(P=0.0003)、脂質異常症(P=0.0036)、心・脳血管疾患(P=0.0007)、喘息(P=0.0094)も、歯科治療を中断した群の病状悪化率の方が有意に高かった。アトピー性皮膚炎とうつ病などの精神疾患に関しては、有意差が見られなかった。 著者らは「本研究は横断研究であるために因果関係は不明」とした上で、「歯科治療の中断がいくつかの全身性疾患の状態を悪化させる可能性が示された。つまり、歯科治療の継続が全身性疾患の進展を抑制し得るのではないか。また、全身の内科的疾患の症状悪化によって、将来的に医療において必要となる人的労力や経済的負担が、口腔の健康の維持のための比較的軽度な負担によって抑制可能かもしれない。この結果はわが国における医歯学連携の推進を後押しする、有意義な知見と考えられる」と結論付けている。

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第162回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体(後編) 「看護師に処方権」「NP国家資格化」の行方は?

ジャニーズの性加害問題報道でNHKが「反省」の弁こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、メディアはG7広島サミットの話題に加え、ジャニーズ事務所の「謝罪」動画、歌舞伎役者の自殺未遂事件など社会部ネタが頻発し、バタバタだった模様です。ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年への性的虐待については、この連載の「第155回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(後編)」でも簡単に触れたのですが、「謝罪」動画公開後の5月17日にNHKで放送された「クローズアップ現代」(クロ現)はなかなか興味深い内容でした。「“誰も助けてくれなかった” 告白・ジャニーズと性加害問題」と題されたこの回の「クロ現」では、元ジャニーズJr.の男性が実名で登場、自身が受けた性被害の詳細を語っていました。印象的だったのは、桑子 真帆キャスターが、「なぜこの問題を報じてこなかったのか。私たちの取材でもこうした声を複数いただきました。海外メディアによる報道がきっかけで波紋が広がっていること。私たちは重く受けとめています」と反省の弁を述べ、番組の最後に「私たちは、これからも問題に向き合っていきます」と語ったことです。日本で長年に渡って起こっていた性被害事件にもかかわらず、日本のメディアで報道してきたのは週刊文春などごくわずかです。英国BBCのドキュメンタリーが放映されたので渋々動きました、というのではNHKも報道機関としての存在意義が問われても仕方ありません。今回、NHKの顔とも言えるキャスターが番組で反省の弁を述べたというのは、とても大きな意味があることだと思います。逆に言えば、ジャニーズ事務所に忖度し、BBCのドキュメンタリーや今回の「謝罪」動画に関しても、お茶を濁した報道しかしていない民放(「クロ現」ではジャーナリストの松谷 創一郎氏が「民放の人たち、テレビ朝日やフジテレビなんかはとくにそうですけれども」と名指しして批判していました)は、報道機関としては完全に“失格”と言えそうです。人口減少に対する、医療関係団体の希薄過ぎる危機感さて、今回も4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」に関連して、日本の医療に及ぼす影響について考察してみます。前回は、一向に進まない地域医療構想や、病院の役割分担の明確化や病床削減などへ取り組みの遅れなど、医療提供体制における問題点について書きました。今回は、急速に進む人口減少が招くであろう医療・介護人材難に対して、日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体の危機感が希薄過ぎる点について書きます。訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案に「断固反対」と日本薬剤師会会長5月12日付のメディファクス等の報道によれば、日本薬剤師会の山本 信夫会長は5月10日に開かれた三師会の会見で、政府の規制改革推進会議で議論が進められている、訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案について、「配置可能薬を拡大するということについては断固反対という立場だ」と述べたとのことです。この案は、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループで3月6日、医師の佐々木 淳専門委員(医療法人社団 悠翔会理事長)と弁護士の落合 孝文専門委員が提案したものです。佐々木氏は関東を中心に在宅医療専門のクリニックを複数ヵ所運営する医療法人を経営しています。佐々木氏らが提案したのは、訪問看護ステーションに配置する薬剤の種類を増やし、訪問看護師がある程度自由に使用できるようにするための新しいスキームです。現状では看護師が薬局で薬剤を入手してから患者宅に向かうか、看護師から連絡を受けた薬剤師が薬剤を配達しているのですが、このスキームによって患者への薬剤提供が効率化される、としています。このスキームでは、薬剤師はオンラインで訪問看護ステーションに配置された薬剤を遠隔管理(倉庫室温、ピッキングの適切性、在庫など)し、薬局がステーションに随時医薬品を授与します。一方、ステーションの看護師は、必要に応じて医師の指示内容を薬局と共有、処方箋の写しに基づいてステーションの倉庫から薬剤をピッキング、患者に投薬します。なお、倉庫内に配置する薬剤としては、脱水症状に対する輸液、被覆剤、浣腸液、湿布、緩下剤、ステロイド軟膏、鎮痛剤などを想定しているとのことです。薬剤師の調剤権を著しく侵害することにつながり「極めて問題がある」現状、薬剤師法などで、調剤を行えるのは、医師、歯科医師、獣医師が自己の処方箋により自ら調剤するときを除いて薬剤師に限られています。山本会長は、この改革案は医師の処方権、薬剤師の調剤権を著しく侵害することにつながり「極めて問題がある」と述べたそうです。その上で、在宅医療の提供について、「チームを組んで医療を提供するのが本来の姿。専門職が集まってその患者さんに対してどんな医療が必要か、医師や看護師、薬剤師など各専門職種が議論していくことが大前提だ。それを抜きにして、ただ置けばいいという発想について私どもとしては大変断固反対だ」と述べたとのことです。他の医療・看護・介護拠点が薬局機能を代替して何が悪い?「薬局の遠隔倉庫」案と呼ばれるこの案、患者が薬剤を手に入れるまでの時間が短縮されるだけでなく、調剤をする薬局自体がない地域や、土日や夜間は営業しない薬局しかない地域では、とても便利で現実的な方策に見えます。「薬剤師の調剤権を侵害」「チーム医療が本来の姿」と山本会長は語っています。しかし、そもそも薬局薬剤師が機能しない地域や時間帯があるなら、ほかの医療・看護・介護拠点がその機能を代替して何が悪いというのでしょう。山本会長の発言は、薬剤師のことは考えているが、患者のことは考えていないように感じます。ちなみに、令和4年度の厚生労働白書によれば、2020年度において、無薬局町村は34都道府県で136町村あるそうです。「包括指示」の仕組みを活用、「訪問看護師に一定範囲内の薬剤の処方箋を発行できるようにする」案も規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは先週、5月15日にも開かれ、佐々木氏は「薬局の遠隔倉庫」案をベースとした、もう一歩踏み込んだ改革案を提案しています。5月16日付のCBnewsマネジメントの報道によれば、佐々木氏は一定の条件下で訪問看護師が処方箋を発行して投薬できる規制緩和策を検討すべきだと提案したとのことです。具体的には、医師に連絡がついたものの処方箋を発行できない場合、看護師は医師の指示に基づいて処方箋を発行できる医師と連絡がつかない場合、看護師は医師の包括的指示に基づいて処方箋を発行できる24時間対応を標榜する薬局がある場合、薬剤師は迅速・確実に患者宅に薬剤を届ける。24時間対応の薬局がなければ訪問看護事業所に薬剤を配備し、看護師がその備蓄から薬剤を使用することができる24時間対応する薬局の有無にかかわらず、訪問看護事業所内への輸液製剤の配備を可能とするなお、佐々木氏は、これらの対象となる薬剤(輸液製剤を含む)の範囲をあらかじめ指定しておくことも提案しています。医師から看護師への「包括指示」の仕組みを活用して、「訪問看護師に一定範囲内の薬剤の処方箋を発行できるようにする」という大胆な提案です。日本薬剤師会が再び激怒しそうですが、働き方改革や人材難を背景に、タスクシフト/タスクシェア推進が叫ばれる中、とても理に適った提案ではないでしょうか。「NPを導入し、国家資格として新たに創設するというのは適切ではない、反対だ」と日本医師会政府の規制改革会議ですが、その議論や提案はいつもラジカルで、旧態依然とした医療関係団体を時折怒らせています。2月13日、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは、医師と看護師のタスクシェア、とくにナース・プラクティショナー(NP)について日本医師会等にヒアリングを実施しました。NPとは、端的に言えば、医師と看護師の中間的な技量を有した医療専門資格です。現行の特定行為研修を修了した看護師ができる医療行為の範囲を超えて、“医師のように”自主的に医療行為が行える新しい国家資格(NP)をつくろうというのがNPの国家資格化のコンセプトです。米国においてNPは医師の指示・監督がなくても診察、診断、治療・処方のオーダーができる資格として確立しています。この回のワーキング・グループに日本医師会から参加した常任理事の釜萢 敏氏は「外国で行われているものを日本に導入すれば必ずうまくいくというものでは決してない。特定行為研修の修了者を増やしていくという方向に大きく踏み出したので、まずそれをしっかり実現することが喫緊の課題。NPという新たな職種を導入し、国家資格として新たに創設するというのは、現状において適切ではない、反対だ」と述べました。日本医師会などが慎重な姿勢を示してきたため業務範囲の拡大は遅々として進まず医療・介護分野のタスクシェア・タスクシフトを巡っては、これまで日本医師会などが慎重な姿勢を示してきました。そのため、実際の医療現場での業務範囲の拡大は遅々として進んでいません。2021年5月の医療法等改正においても、業務範囲が拡大されたのは診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士のみで、“本丸”とも言える看護師には踏み込んでいません(「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」参照)。政府の規制改革推進会議が昨年5月に決めた令和4年度の最終答申には「医療・介護分野のタスクシェア・タスクシフトの推進」は記述されていますが、より本格的な検討は今期の同会議の“宿題”となりました。その後、議論を進めてきた規制改革推進会議は、昨年12月に当面の改革テーマに関する中間答申をまとめました。そこには、医師や看護師が職種を超えて業務を分担する「タスクシェア」の推進が明記され、医師の業務の一部を看護師らに委ねる「タスクシフト」も進めると書かれました。それを踏まえ、看護師らが担える業務の対象拡大を主要テーマとして、医療・介護・感染症対策ワーキング・グループが議論を進めてきた、というのがこれまでの流れです。6月にまとめられる規制改革推進会議の最終答申に注目それにしても、医師や薬剤師がタスクシェア・タスクシフトをこうも毛嫌いする理由はなんでしょう。自分たちの仕事が、「看護師ごときには対応できないほど高度なもの」とでも考えているのでしょうか。あるいは逆に、「意外に簡単で誰にでもできそうであることがバレるのが怖い」のでしょうか。確か、日本医師会は医師増(医学部新設)にも反対していましたから、単に自分たちの既得権を守りたいだけなのかもしれません。前回の冒頭で書いた青森の下北半島ではないですが、現状、医師確保にあえいでいる地域は全国にたくさんあります。人口減が今以上に進めば、無医町村も増えていくでしょう。そんな中、相応の資格を得た訪問看護ステーションなどの看護師が、処方を含む医療行為を自らの判断で行うことができるようになれば、地域医療に一定の安心感を与えるのではないでしょうか。また、老人保健施設や介護医療院は医師でなければ施設長になれませんが、高齢者医療を専門とするNPが施設長になることができれば、貴重な医師人材の節約にもつながります。今年6月にもまとめられる予定の令和5年度の規制改革推進会議の最終答申に、医師から看護師への包括指示の活用や、訪問看護師への処方権付与、NP国家資格化といった、ワーキング・グループで議論されてきた内容がどれくらい盛り込まれることになるか、注目されます。

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医療者の不足する地域は死亡率が高い/BMJ

 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ―「すべての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」(厚生労働省)―を2030年までに達成するには、健康を促進または改善するさまざまな職業の保健医療人材(Human Resources for Health:HRH)が重要であるが、HRHの不平等は過去30年間で世界的に減少しているものの依然として残っており、全死亡率およびほとんどの死因別死亡率は、医療従事者が限られている、とくにHIV/AIDS・性感染症、母体・新生児疾患、糖尿病、腎臓病といった、優先疾患におけるいくつかの特定のHRHが限られている国・地域で相対的に高いことが、中国・北京大学のWenxin Yan氏らの調査で示された。著者は、「本結果は、2030年までにユニバーサル・ヘルス・カバレッジを達成するために、公平性を重視した医療人材政策の策定、医療財政の拡大、不十分なHRHに関連した死亡を減少するための標的型対策の実施に向けた政治的取り組み強化の重要性を浮き彫りにしている」とまとめている。BMJ誌2023年5月10日号掲載の報告。172の国・地域のHRHの傾向と不平等を評価し、全死亡率と死因別死亡率を解析 研究グループは、2019年版の世界疾病負荷研究(Global Burden of Disease Study)のデータベースを用い、172の国・地域を対象として、1990~2019年までの各国・各地域の総HRH、特定のHRH、全死亡率、死因別死亡率に関する年次データを収集するとともに、国連統計(United Nations Statistics)およびOur World in Dataのデータベースから、モデルの共変量として用いる人口統計学的特性、社会経済的状態、医療サービスに関するデータを入手し、解析した。 主要アウトカムは、人口1万人当たりのHRH密度に関連する人口10万人当たりの年齢標準化全死亡率、副次アウトカムは年齢標準化死因別死亡率とした。HRHの傾向と不平等を評価するため、ローレンツ曲線と集中指数(concentration index:CCI)を用いた。HRHの不平等は過去30年間で減少も、総HRHレベルと全死亡率に負の相関 世界的に、人口1万人当たりの総HRH密度は、1990年の56.0から2019年には142.5に増加した。一方で、人口10万人当たりの年齢標準化全死亡率は、1990年の995.5から2019年には743.8に減少した。ローレンツ曲線は均等分布線の下にあり、CCIは0.43(p<0.05)であったことから、人間開発指数で上位にランクされている国・地域に医療従事者がより集中していることが示された。 HRHのCCIは、1990~2001年の間、約0.42~0.43で安定していたが、2001年の0.43から2019年には0.38へと低下(不平等が縮小)していた(p<0.001)。 多変量一般化推定方程式モデルにおいて、総HRHレベル(最低、低、中、高、最高の五分位)と全死亡率との間に負の相関が認められた。最高HRHレベル群を参照群として評価すると、低レベル群の発生リスク比は1.15(95%信頼区間[CI]:1.00~1.32)、中レベル群は同1.14(1.01~1.29)、高レベル群は1.18(1.08~1.28)であった。 総HRH密度と死亡率との負の相関は、顧みられない熱帯病やマラリア、腸管感染症、母体および新生児疾患、糖尿病や腎臓病など、いくつかの死因別死亡率でより顕著であった。医師、歯科スタッフ(歯科医師と歯科助手)、薬剤スタッフ(薬剤師、調剤補助者)、緊急援助および救急医療従事者、オプトメトリスト、心理学者、パーソナルケアワーカー、理学療法士、放射線技師の密度が低い国・地域の人々は、死亡リスクがより高くなる可能性が高かった。

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糖質過剰摂取は糖尿病患者のみならず万人にとって生活習慣病リスクを高める危険性がある?―(解説:島田俊夫氏)

 私たちは生きるために食物を食べることでエネルギーを獲得している。その主要なエネルギー源は3大栄養素であり、その中でも代表的なエネルギー源が糖質である。 糖質の摂り過ぎは糖尿病患者では禁忌だということは周知されている。しかし健康人においてさえ、糖の摂り過ぎには注意が必要だとの警鐘を告げる論文も散見され、その中には糖質過剰摂取1,2)が3大死因に密接に関連し、生活習慣病を引き起こす可能性について言及した論文も少なくない。しかしながら、エビデンスレベル不ぞろいの論文が混在しており、玉石混交の中で可能な限り厳密に分析・評価し、糖質過剰摂取に関する情報の真実を明らかにすべく行われた、中国・四川大学のYin Huang氏らにより解析されたUmbrella Review(包括的Review)が、BMJ誌の2023年4月5日号に期せずして掲載された。一読に値するとの思いで取り上げた。Umbrella Reviewの概略 今回のUmbrella Reviewのデータソースは、検索により、観察研究のメタアナリシスにおける74のユニークなアウトカムと無作為化対照試験のメタアナリシスでの9アウトカムを含む、8,601のユニークな論文から73のメタアナリシスと83の健康アウトカムを特定した。健康に関するアウトカム83項目中、食事由来の糖質摂取と有意な関連を認めた45項目の内訳、内分泌/代謝系18項目、心血管系10項目、がん7項目、その他10項目(神経精神、歯科、肝臓、骨、アレルギーなど)に関して有害性が確認された。 食事の砂糖消費量の最高と最低では、体重の増加(加糖飲料)(クラスIVエビデンス)および異所性脂肪の蓄積(加糖)(クラスIVエビデンス)と関連していることを示唆した。低品質のエビデンスでは、1食分/週の砂糖入り飲料消費の増加は、痛風の4%リスク(クラスIIIエビデンス)増加と関連し、250mL/日の砂糖入り飲料消費の増加は、冠動脈疾患(クラスIIエビデンス)および全死因死亡(クラスIIIエビデンス)のそれぞれ17%および4%のリスク増加と関連することを示した。さらに、低品質のエビデンスでは、フルクトース消費量が25g/日増加するごとに、膵臓がんのリスクが22%増加(クラスIIIエビデンス)することを示した。 現時点では糖質過剰摂取の有害性をすなおに受け入れることが賢い選択だと考えるが、全面的に信じることはせず、多少の疑問を残しておくことが大事である。糖質の過剰摂取が肥満を招くことは欧米ではすでに受け入れられており、糖尿病のみならず肥満是正に糖質制限食が好んで使用されていることを考えれば、今回の解析結果は理にかなっている。その反面、長期にわたる糖質制限食に関しては議論の多いところであり3,4)、安全性への不安が根強く残っていることも忘れてはならない。現時点では、長期の糖質制限食への不安が払拭されない限りは、この結果を無条件に受け入れるのは時期尚早ではないかと考える。

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歯の本数だけでなく、しっかりかめることが重要

 残っている歯が少なく、食べ物をしっかりかめないことが、主観的健康観の低下と関連していることを示すデータが報告された。ただし、残っている歯が少なくても、食べ物をしっかりかめる状態になっていれば、主観的健康観は低下していないという。山形大学医学部歯科口腔・形成外科の石川恵生氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に12月5日掲載された。 主観的健康観(self-rated health;SRH)は、BMIや血液検査の値などとともに、生命予後のリスクと関連のある因子の一つとされている。これまでに、残っている歯の本数(残存歯数)が少ないほどSRHが低く、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが高いといったデータが報告されてきている。ただし、それらは主に高齢者を対象とする研究からのエビデンスであり、中年期成人の残存歯数とSRHの関連はよく分かっていない。また、残存歯数が少なくても、義歯などで適切に治療されていればSRHは低下せず、反対に残存歯数が多くても状態が悪ければSRHが低下する可能性が考えられるが、そのような視点での研究もほとんど行われていない。 以上を背景として石川氏らは、山形県で行われている疫学研究「山形県コホート研究」のデータを用いた横断的な解析により、これらの点を検討した。同コホート研究の対象は、同県内の40歳以上の一般住民であり、今回の研究では2017~2021年に実施した郵送アンケート調査に回答した7,447人から、データ欠落のある人を除外した6,739人(男性33.9%)を解析対象とした。 SRHの評価方法は、「最近1カ月間の健康状態は?」という質問に対して、「極めて良好」~「悪い」の五者択一で選んでもらい判定した。統計解析に際しては、下位2項目(「普通」と「悪い」)を選択した人を「SRHが低下している」と定義した。 口の中の状態については、残存歯数を問う質問と(インプラントは残存歯数に入れずにカウント)、「自分の歯や入れ歯で、左右の奥歯をかみしめることができるか?」という質問に対して、「両方できる」、「片方だけでできる」、「どちらもできない」から三者択一で選んでもらい判定した。 このほかに、年齢、BMI、婚姻状況、疾患既往歴、メンタルヘルス状態に関する自己評価や、睡眠・喫煙・飲酒・運動習慣、地域社会活動への参加頻度なども把握。それらの指標とSRHとの関係について単変量解析を行い、有意性が示された指標を独立変数とする多変量解析を施行した。その結果、SRHの低下に独立した関連のある因子として、痩せ(BMI18.5未満)、運動頻度が少ないこと、抑うつ、睡眠時間(5時間未満または9~10時間)、がんの既往などとともに、以下に挙げる口の中の状態が抽出された。 残存歯数が20本以上あり「両方ともしっかり噛みしめられる」群を基準とすると、残存歯数が20本未満で「どちらもできない」という状態〔aOR1.952(95%信頼区間1.265~3.014)〕、および、残存歯数が20本未満で「片方だけでできる」という状態〔aOR1.422(同1.015~1.992)〕が、SRHの低下に独立して関連していた。その一方、残存歯数が20本未満であっても「両方できる」という状態は、単変量解析の時点でSRHの低下に関連する有意な因子でなく、多変量解析でも有意性は示されなかった〔aOR1.099(0.884~1.365)〕。 反対に、残存歯数が20本以上あっても、「片方だけでできる」という状態や、「どちらもできない」という状態は、多変量解析では有意ではないもののオッズ比が上昇する傾向を認め、また単変量解析ではSRHの低下と有意な関連が認められた(単変量解析のオッズ比はそれぞれ1.458、1.876)。 著者らは本研究の限界点として、口の中の状態を歯科検診ではなく自己報告に基づいて評価しており、治療状態も不明であること、調整されていない交絡因子が存在する可能性のあることなどを挙げている。その上で、「幅広い年齢層で実施された本研究から、良好なSRHの維持には、歯周病などのない健康な歯が20本以上あること、または残存歯数は20本未満であっても、きちんと歯科治療がなされていることが重要と考えられる」と結論をまとめている。

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子どもの朝食欠食も糖尿病リスクにつながる可能性――足立区の中学生で調査

 朝食を食べない成人は2型糖尿病のリスクが高いことが報告されているが、同じことが子どもにも当てはまるかもしれない。その可能性を示唆するデータが報告された。東京都足立区内の中学校の生徒を対象とした研究で、朝食欠食の習慣がある子どもは、交絡因子を調整後も糖尿病前症に該当する割合が有意に高かったという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に2月22日掲載された。 2型糖尿病は、あるとき突然発症する病気ではなく、血糖値が糖尿病の診断基準に至るほどではないものの基準値より高い状態、「糖尿病前症」(国内では糖尿病予備群とも呼ばれる)という段階を経てから発症する。つまり、糖尿病前症に該当する場合は、その後、2型糖尿病を発症するリスクが高い。一方、2型糖尿病の発症リスク因子としては、家族歴や食習慣の乱れ、運動不足、肥満などが知られている。これらのうち、食習慣の乱れの一つとして朝食の欠食が挙げられ、朝食欠食により遊離脂肪酸レベルの上昇に伴うインスリン抵抗性の亢進、消費エネルギー量の低下、概日リズムの乱れなどを介して糖代謝に悪影響が及ぶと考えられている。 実際に、朝食欠食と糖尿病や糖尿病前症との関連は成人対象の研究で示されている。ただし、小児については報告が少ない。海外からはいくつかの研究結果が報告されているが、関連性を肯定するものと否定するものが混在している。また、食習慣が糖代謝に及ぼす影響には人種差があることから、日本の子どもたちを対象とする研究が必要とされる。以上を背景として藤原氏らは、足立区内の小中学生対象に行われた「A-CHILD Study」の中学生のデータを用いて、朝食欠食と糖尿病前症リスクとの関連を検討した。 解析対象は、2016年、2018年、2020年の調査に回答した中学校7校の2年生、計2,090人から、データ欠落者、および、糖代謝レベルを判定するHbA1cへの影響を考慮して、貧血(ヘモグロビンが12g/dL未満)に該当する生徒を除外した1,510人。 朝食を「毎日食べる」と回答したのは83.6%で、残りの16.4%は「時々食べる」、「ほとんど食べない」、「全く食べない」であり、それらを朝食欠食群と定義した。糖尿病前症をHbA1c5.6~6.4%の場合と定義すると、3.8%が該当した。糖尿病の診断基準であるHbA1c6.5%以上の生徒はいなかった。 糖尿病前症の有病率は、朝食を毎日食べる群が3.5%、朝食を欠食する群では5.6%だった。多変量解析で性別、世帯収入、糖尿病の家族歴を調整後、朝食欠食群の生徒は毎日食べる生徒に比べて、糖尿病前症に該当する割合が2倍近く高いことが明らかになった〔オッズ比(OR)1.95(95%信頼区間1.03~3.69)〕。 BMIで層別化したサブグループ解析では、BMIが平均から1標準偏差以上上回っている生徒の場合(全体の15.1%)、朝食を欠食することと糖尿病前症に該当することに、より強固な関連のあることが分かった〔OR4.31(同1.06~17.58)〕。その一方、BMIの平均からの逸脱が1標準偏差未満の群では、朝食欠食による糖尿病前症の有意なオッズ比上昇は観察されなかった〔OR1.62(0.76~3.47)〕。 このほか、朝食欠食の習慣のある生徒は、起床時刻が遅く、平日の睡眠時間が長く、運動をする頻度が低いという有意差が見られた。なお、前記の多変量解析の調整因子に、起床時刻と運動頻度を追加した解析の結果も同様であり、朝食を欠食する生徒の糖尿病前症に該当する割合は約2倍だった〔OR2.01(1.04~3.89)〕。 著者らは本研究を、「アジア人の思春期児童で朝食の欠食と糖尿病前症との関連を検討した初の研究」と位置付けている。結論は、「糖代謝に影響を及ぼし得る交絡因子を調整後も、中学生の朝食の欠食は糖尿病前症に該当することと関連しており、この関連はBMIの高い生徒で顕著だった」とまとめられている。また、食習慣は中学生になるよりもさらに早い段階で身に付き、それが成人後に引き継がれる可能性が高いことから、「子どもが幼い頃から毎日朝食を食べさせるようにするための、保護者を対象とする介入が重要ではないか」との考察を付け加えている。

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第145回 5類移行でコロナ対策本部廃止、公費負担による無料検査などは中止へ/政府

<先週の動き>1.5類移行でコロナ対策本部廃止、公費負担による無料検査などは中止へ/政府2.コロナ後遺症の診療報酬、5月8日から特定疾患療養管理料を加算へ/厚労省3.緊急避妊薬の市販化、パブコメで97%が賛成/厚労省4.進まぬ電子処方箋、普及に向け、導入拡大を加速化/厚労省5.少子化対策の財源の議論開始、社会保険料や税で/財務省6.認知症患者の遺族が寄付金3億円をめぐって金沢医科大学を提訴/石川1.5類移行でコロナ対策本部廃止、公費負担による無料検査などは中止へ/政府政府は、新型コロナウイルス感染の感染症法での位置付けが5月8日に季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行するのに伴い、新型コロナウイルス感染症対策本部を同日に廃止することを閣議決定した。5類移行後の公費負担での対応が大きく変わり、新型コロナウイルスのPCR検査や抗原検査を病院や診療所で行う場合も、検査キットを使用する場合も自己負担となる。また、各自治体による検査キット配布事業も終了となる。ただし、医療機関や介護施設などで陽性患者が発生した場合、医療スタッフなどへの検査を都道府県が実施する場合のみ行政検査として無料で実施される。そのほか、外来診療も従来は公費負担で行われていたものが、インフルエンザとほぼ同じ程度の自己負担が必要となり、入院時の医療費も同様に保険診療となるが、9月末までは、高額療養費制度の自己負担限度額から2万円を減額する措置が講じられる。5月8日以降は、医療機関では「コロナ患者である」ことだけを理由とした診療拒否は「応招義務違反」となり、自院での対応が困難な場合には他の「対応可能な医療機関に対応を依頼する」あるいは「患者に対して対応可能な医療機関を伝える」ことを行うことが必要となる。(参考)政府 「5類」移行に伴い新型コロナ対策本部の廃止を決定(NHK)コロナ5類 感染した時は? 医療費負担 外出 療養支援 相談 証明書(同)コロナ「5類」正式決定 5月8日からどうなる?(同)「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて」等の一部訂正について(厚労省)5月8日以降、「コロナ感染のみ」を理由とした診療拒否は不可、自院対応困難な際は「対応可能医療機関を患者に伝える」等の配慮を-厚労省(Gem Med) 2.コロナ後遺症の診療報酬、5月8日から特定疾患療養管理料を加算へ/厚労省厚生労働省は新型コロナウイルスに感染後のいわゆる「後遺症」について患者を診た医療機関の診療報酬を加算することを各都道府県に対して通知した。新型コロナ感染症の位置付けが「5類」に移行する5月8日から開始となる。加算対象は、新型コロナ感染と診断された3ヵ月目以降も後遺症が2ヵ月以上続く患者に対して、診療の手引きを参考にした診療に対して3ヵ月に1度、特定疾患療養管理料147点を加算する。支払いを受けるには、都道府県が公表している罹患後症状に悩む方の診療を行っている医療機関のリストに掲載されている必要がある。期限は令和6年3月31日。(参考)味覚・記憶障害など1年以上続くこともある「コロナ後遺症」、診療報酬を加算(読売新聞)コロナ後遺症の診療、3か月ごと147点 報酬特例で評価へ、来年3月まで(CB news)「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけの変更に伴う新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて」にかかる疑義解釈資料の送付について[その2](厚労省)「コロナ後遺症の専門医療機関」を各都道府県で本年(2023年)4月28日までに選定し、公表せよ-厚労省(Gem Med)3.緊急避妊薬の市販化、パブコメで97%が賛成/厚労省厚生労働省は「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で緊急避妊薬を市販薬とするスイッチOTC化について検討を重ねてきた。去年12月から今年の1月にかけて厚生労働省が実施したパブリックコメントの結果、市販化に賛成の意見が約4万6,000件、反対の意見が約300件と、全体の約97%が賛成する内容だった。厚労省は5年前にも同様の検討を行ったが、このときは転売の可能性や不十分な性教育などを理由に「時期尚早」として見送られた経緯がある。しかし、2019年にはオンライン処方も可能になるなど環境の変化もあり、今後、同省は専門家を交えた検討会議の議論をもとに、結論を出す見込み。(参考)緊急避妊薬OTC化の議論、5月以降に 厚労省、パブコメ整理で大きくずれ込む(日刊薬業)緊急避妊薬の市販化 パブコメに4万6300件の意見 97%が賛成(毎日新聞)第22回 医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議(厚労省)4.進まぬ電子処方箋、普及に向け、導入拡大を加速化/厚労省厚生労働省は、4月28日に第2回電子処方箋推進協議会を開催した。この中で電子処方箋の導入状況は、4月23日時点で全国3,352施設で運用開始されていた。内訳は病院9、医科診療所250、歯科診療11、薬局3,082。同日公開された公的病院への導入計画に係る調査結果では、回答した施設のうち、令和5年度中に電子処方箋の導入予定の病院が214施設だった。寄せられた意見の中には、オンライン資格確認などシステム利用が伸び悩んでおり、導入後に電子処方箋の利用が伸びるのか疑問といった声が上げられている。電子処方箋導入施設の面的拡大を重点的に行うため、導入意欲が特に高く、稼働中または近日中に稼働予定の病院「気仙沼市立本吉病院」、「静岡市立静岡病院」、「公立松任石川中央病院」、「公立西知多総合病院」、「徳島市民病院」、「長崎みなとメディカルセンター」を中心に周辺施設の導入拡大を加速化する方針を固めた。(参考)第2回 電子処方箋推進協議会 資料(厚労省)電子処方箋「面的拡大」、導入意欲高い病院など中心に 厚労省(CB news)【電子処方箋】“面的拡大”、6病院を列挙/リフィル機能など先行検証/「気仙沼市立本吉病院」「静岡市立静岡病院」、「公立松任石川中央病院」、「公立西知多総合病院」、「徳島市民病院」、「長崎みなとメディカルセンター」(ドラビズ on-line)5.少子化対策の財源の議論開始、社会保険料や税で/財務省財務省は4月28日に財政制度等審議会を開催、少子化対策の議論に着手した。わが国でも、最終学歴が大卒以上の女性の出生こども数は近年増加しており、女性が出産・育児でキャリアを中断することに伴う機会費用が相当な額にのぼっていることが示唆されている。このため女性の出産支援がさらに必要であり、現時点では少子化対策予算として令和5年度の予算では国費6.3兆円が計上されているが、諸外国と比較すると、現金給付の割合が低いとの指摘もあり、財源について「企業を含む社会・経済の参加者全員が広く負担する新たな枠組みの検討が必要」と指摘がなされた。出席した委員からは社会保険料や税の組み合わせを財源とする意見が出た。この前日、内閣府は第2回のこども未来戦略会議を開催しており、財源について、社会保険料引き上げの案が浮上しているが、経済界や労働団体からは消費税を含む幅広い税財源の検討を求める声が出されていた。(参考)少子化財源、消費税含め議論を 労使、現役負担増に懸念-こども会議(時事通信)少子化財源、財制審で議論開始 「社会保険料や税で」(日経新聞)財政制度等審議会 財政制度分科会 財政各論(2)(財務省)財政制度等審議会 財政制度分科会 財政各論(3)(同)第2回 こども未来戦略会議(内閣府)6.認知症患者の遺族が寄付金3億円をめぐって金沢医科大学を提訴/石川認知症の疑いがある高齢患者の寄付をめぐって、3億円の寄付を患者にさせたのは無効だとして、患者の遺族が大学病院と当時の主治医を相手取って2億4,000万円余りの損害賠償請求を求める裁判を金沢地裁に起こした。訴えられたのは金沢医大病院。遺族によれば、患者は一昨年の1月に同院に入院し、認知機能の低下が指摘され検査結果で大脳の萎縮などが確認された。同年5月に大学創立50周年の募金に対して3億円を寄付し、同年10月に90歳で亡くなった。遺族がこの寄付を知ったのは死亡後。遺族らは「家族に確認することなく、認知機能の低下に乗じて非常識な金額を寄付させた」と主張し、金沢医科大学と当時の病院長で主治医だった男性に対し2億4,000万円余りの賠償を求めており、大学側は「寄付は正当な手続きをして受け入れている。今後、訴状内容を確認してから対応したい」としている。(参考)父親の3億円寄付「異常で不当」 遺族が金沢医大を提訴(産経新聞)認知症疑い患者の3億円寄付、原告代理人「寄付が原因で借金残る」「極めて異常な額」(読売新聞)認知症なのに「3億円を寄付させた」 遺族が金沢医大病院側を提訴(朝日新聞)認知機能低下の患者に巨額の寄付持ち掛け 遺族らが金沢医科大学を提訴(日テレ)

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糖類の過剰摂取、心代謝疾患リスクを増大/BMJ

 食事による糖類(単糖類、二糖類、多価アルコール、遊離糖、添加糖)の過剰な摂取は、一般的に健康にとって益よりも害が大きく、とくに体重増加、異所性脂肪蓄積、心血管疾患などの心代謝疾患のリスク増大に寄与していることが、中国・四川大学のYin Huang氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年4月5日号で報告された。糖類摂取と健康アウトカムの関連をアンブレラレビューで評価 研究グループは、食事による糖類の摂取と健康アウトカムの関連に関する入手可能なすべての研究のエビデンスの質、潜在的なバイアス、妥当性の評価を目的に、既存のメタ解析のアンブレラレビューを行った(中国国家自然科学基金などの助成を受けた)。 データソースは、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Database of Systematic Reviews、および参考文献リスト。対象は、急性または慢性の疾患のないヒトにおいて、食事による糖類の摂取が健康アウトカムに及ぼす影響を評価した無作為化対照比較試験、コホート研究、症例対照研究、横断研究に関する系統的レビューとメタ解析であった。 8,601本の論文から、73件のメタ解析と83項目の健康アウトカム(観察研究のメタ解析から74項目、無作為化対照比較試験のメタ解析から9項目)が特定された。体重増加、異所性脂肪蓄積と有意な関連 83項目の健康アウトカムのうち、食事による糖類の摂取と有意な関連が認められたのは、有害な関連が45項目(内分泌/代謝系:18項目、心血管系:10項目、がん関連:7項目、その他:10項目[神経精神、歯科、肝、骨、アレルギーなど])、有益な関連が4項目であった。 エビデンスの質(GRADE)が「中」の有害な関連としては、食事による糖類の摂取量が最も少ない集団に比べ最も多い集団では、体重の増加(砂糖入り飲料)(エビデンスクラス:IV)および異所性脂肪の蓄積(添加糖)(エビデンスクラス:IV)との関連が認められた。 エビデンスの質が「低」の有害な関連では、砂糖入り飲料の摂取量が週に1回分増加するごとに痛風のリスクが4%(エビデンスクラス:III)増加し、1日に250mL増加するごとに、冠動脈疾患が17%(エビデンスクラス:II)、全死因死亡率が4%(エビデンスクラス:III)、それぞれ増加した。 また、エビデンスの質が「低」の有害な関連として、フルクトースの摂取量が1日に25g増加するごとに、膵がんのリスクが22%高くなることが示唆された(エビデンスクラス:III)。 著者は、「既存のエビデンスはほとんどが観察研究で、質が低いため、今後、新たな無作為化対照比較試験の実施が求められる」と指摘し、「糖類の健康への有害な影響を低減するには、遊離糖や添加糖の摂取量を1日25g(ほぼ小さじ6杯/日)未満に削減し、砂糖入り飲料の摂取量を週1回(ほぼ200~355mL/週)未満に制限することが推奨される」としている。

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添付文書改訂:フォシーガが左室駆出率にかかわらず使用可能に、アセトアミノフェンが疾患・症状の縛りなく使用可能に ほか【下平博士のDIノート】第119回

フォシーガ:左室駆出率にかかわらず使用可能に<対象薬剤>ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ錠5mg/10mg、製造販売元:アストラゼネカ)<承認年月>2023年1月<改訂項目>[削除]効能・効果に関連する注意左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。[追加]臨床成績左室駆出率の保たれた慢性心不全患者を対象とした国際共同第III相試験(DELIVER試験)の結果を追記。<Shimo's eyes>これまで、本剤は「左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること」とされていましたが、この記載は削除され、左室駆出率を問わず使用可能となりました。これは、左室駆出率が40%超の慢性心不全患者を対象に行われた国際共同第III相試験(DELIVER試験)の結果に基づいた変更です。なお、SGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)も、2022年4月に左室駆出率にかかわらず使用可能となっています。アセトアミノフェン:疾患や症状の縛りなく「鎮痛」で使用可能に<対象薬剤>アセトアミノフェン製剤(商品名:カロナールほか)<承認年月>2023年2月<改訂項目>[削除]効能・効果下記の疾患ならびに症状の鎮痛頭痛、耳痛、症候性神経痛、腰痛症、筋肉痛、打撲痛、捻挫痛、月経痛、分娩後痛、がんによる疼痛、歯痛、歯科治療後の疼痛、変形性関節症[追加]効能・効果各種疾患および症状における鎮痛<Shimo's eyes>アセトアミノフェン製剤(カロナールほか)について、疾患や症状の縛りなく「鎮痛」の目的での使用が認められました。厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を踏まえた変更です。欧米の先進諸国で使用できる医療用医薬品がわが国では保険診療において使用できない「ドラッグラグ」解消の1つであり、効能または効果は疾患名の列挙ではなく「各種疾患および症状における鎮痛」とすることが適切とされました。シルガード9:2回接種が追加され、接種無料に<対象薬剤>組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)(商品名:シルガード9水性懸濁筋注シリンジ、製造販売元:MSD)<承認年月>2023年3月<改訂項目>[追加]用法・用量9歳以上15歳未満の女性は、初回接種から6~12ヵ月の間隔を置いた合計2回の接種とすることができる。[追加]用法・用量に関連する注意9歳以上15歳未満の女性に合計2回の接種をする場合、13ヵ月後までに接種することが望ましい。なお、本剤の2回目の接種を初回接種から6ヵ月以上間隔を置いて実施できない場合、2回目の接種は初回接種から少なくとも5ヵ月以上間隔を置いて実施すること。2回目の接種が初回接種から5ヵ月後未満であった場合、3回目の接種を実施すること。この場合、3回目の接種は2回目の接種から少なくとも3ヵ月以上間隔を置いて実施すること。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で3番目に発売されたHPVワクチンです。既存薬の1つである2価ワクチン(商品名:サーバリックス)は、子宮頸がんの主な原因となるHPV16型と18型の感染を、もう1つの既存薬である4価ワクチン(同:ガーダシル)は上記に加えて尖圭コンジローマなどの原因となる6型と11型の感染を予防します。本剤は、これら4つのHPV型に加えて、31型・33型・45型・52型・58型の感染も予防する9価のHPVワクチンです。本剤について、9歳以上15歳未満の女性に対する計2回接種の用法および用量を追加する一変承認が取得されました。これまでは計3回接種となっていましたが、接種回数が減ることで、ワクチン接種者や医療者の負担軽減が期待できます。また、既存の2価/4価ワクチンは定期接種の対象で、小学6年生~高校1年生相当の女子は公費助成によって無料で接種を受けることができますが、これまで本剤は任意接種で自費での接種でした。2023年3月7日の厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で、小学校6年生~15歳未満までに対する9価HPVワクチンの2回接種も、4月1日から定期接種化することが決定され、自費から公費接種に移行する準備が進められます。エンハーツ:HER2低発現乳がんにも使用可能に<対象薬剤>トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ点滴静注用100mg、製造販売元:第一三共)<承認年月>2023年3月<追記項目>[追加]効能・効果化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能または再発乳癌<Shimo's eyes>HER2低発現乳がんを標的にしたわが国初の治療薬となります。HER2低発現乳がんとはHER2陰性乳がんの新たな下位分類で、細胞膜上にHER2タンパクがある程度発現しているものの、HER2陽性に分類するほどの量ではない乳がんのことを指し、再発・転移のある乳がんの約50%を占めるとされます。本剤はこれまで有効な治療選択肢のなかったHER2低発現乳がんに対する薬剤となります。化学療法による前治療を受けたHER2低発現の乳がん患者を対象としたグローバル第III相臨床試験(DESTINY-Breast04)の結果に基づく申請となりました。この試験では、再発・転移のあるHER2低発現乳がん患者557例(494例はホルモン受容体[HR]陽性、63例人はHR陰性)が、3週間ごとにT-DXdを投与する群(373例)と、医師の選択した化学療法を受ける群(184例)にランダムに割り付けられました。その結果、エンハーツ投与群では、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)のいずれにも改善が認められました。PFSとOSの中央値は、T-DXd投与群で9.9ヵ月と23.4ヵ月、医師の選択した化学療法群で5.1ヵ月と16.8ヵ月でした。なお、本適応追加に関連して、ロシュ・ダイアグノスティックスのがん組織または細胞中のHER2タンパク検出に用いる組織検査用腫瘍マーカーキット「ベンタナultraView パスウェーHER2(4B5)」が3月3日に一変承認され、HER2低発現の乳がん患者を対象とした本剤のコンパニオン診断薬として使用できることになりました。

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歯を失うと糖尿病に伴う認知機能低下に拍車がかかる可能性

 糖尿病患者が歯を失うと、認知機能低下リスクがより上昇するかもしれない。その可能性を示唆する、米ニューヨーク大学ローリーマイヤーズ看護学部のBei Wu氏らの研究結果が、「Journal of Dental Research」に3月12日掲載された。この研究のみでは因果関係の証明にはならないが、強固な関連が認められるという。 糖尿病が認知症のリスク因子の一つであることや、残っている歯の数が少ないほど認知症リスクが高くなることが知られている。ただし、糖尿病患者が歯を失うことにより認知症リスクがより高まるのか否かは明らかでない。Wu氏らはこの点について、同大学が行っている、就労や定年退職と健康に関する研究(Health and Retirement Study;HRS)のデータを用いて検討した。 解析対象は、2006~2018年にHRSに参加登録された高齢者9,948人(65~74歳5,440人、75~84歳3,300人、85歳以上1,208人)。研究参加者は、ベースライン時と2年ごとに認知機能が評価され、糖尿病の有無および無歯症(歯が全くない状態)に該当するか否かで群分けし、認知機能が比較された。 ベースライン時点でのデータの横断的な解析からは、糖尿病と無歯症が併存している84歳以下の高齢者は、それらが一つも該当しない同じ年齢層の高齢者(対照群)よりも、認知機能が有意に低下していることが分かった〔65〜74歳はβ=-1.12(95%信頼区間−1.56~−0.65)、75~84歳はβ=-1.35(同-2.09~-0.61)〕。 縦断的な解析からも、糖尿病と無歯症が併存している65~74歳の高齢者は、対照群より認知機能の低下速度が速いことが分かった〔β=-0.15(-0.20~-0.10)〕。なお、糖尿病のみが該当する場合は、65~74歳で認知機能低下速度が対照群より有意に速く〔β=-0.09(-0.13~-0.05)〕、無歯症のみが該当する場合は、65~74歳〔β=-0.13(-0.17~-0.08)〕と75~84歳〔β=-0.10(-0.17~-0.03)〕で、認知機能低下速度が有意に速いことが示された。 一方、85歳以上では、糖尿病と無歯症の併存による認知機能への有意な影響は観察されなかった。この理由について研究者らは、糖尿病と無歯症の両者が併存している場合、80代前半までに死亡する人が多いため、もしくは、この世代では糖尿病や無歯症の有無にかかわらず、認知機能が大きく低下している人が多いためではないかと推測している。 今回の研究についてWu氏は、「これは観察研究であるため、因果関係について述べることはできない」とした上で、メカニズムに関して以下のような考察を述べている。まず、糖尿病、および歯を失う主要な原因である歯周病の病態には、ともに炎症が関与しており、さらに炎症は認知機能の低下の一因である可能性が指摘されているという。また、そのほかのメカニズムとして、歯を失うことで食事の摂取量が減り栄養不良になりやすいことや、それに伴う低血糖の影響、あるいは歯周病を起こす一部の細菌が認知機能に影響を及ぼす可能性もあるとのことだ。「高齢者、特に糖尿病患者の歯科治療は非常に重要だ。米国糖尿病学会(ADA)も糖尿病患者の定期的な歯科検診を推奨しているが、この点についての認識をさらに高める必要がある」と同氏は語っている。 本研究には関与していない米イェール大学のCyprien Rivier氏は、「糖尿病と歯周病は相互に影響を及ぼし、慢性的な炎症を起こすことが知られている。全身の慢性炎症と脳の白質という部分の変化に関連があることも示されている。口の中の健康は、全身の健康にとっても非常に重要な問題だ」と指摘。また「これらの関連性をより明確にするためにさらなる研究が必要ではあるものの、口の中の健康を維持・改善すること自体が明快で重要な目標であり、そのためのコストもほとんど発生しない」と述べている。

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水素吸入で院外心停止患者の救命・予後改善か/慶大ほか

 心停止の際に医療従事者が近くにいないなど、即座に適切な処置が行われなかった場合、1ヵ月の生存率は8%とされる。また、生存できた場合でも、救急蘇生により臓器に血液と酸素が急に供給されることで、非常に強いダメージが加わり(心停止後症候群と呼ぶ)、半数は高度な障害を抱えてしまう。このような心停止後症候群を和らげる治療として、体温管理療法があるが、その効果はいまだ定まっていない。そこで、東京歯科大学の鈴木 昌氏(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)らの研究グループは、病院外で心停止となった後に循環は回復したものの意識が回復しない患者を対象に、体温管理療法と水素吸入療法を併用し、効果を検討した。その結果、死亡率の低下と後遺症の発現率の低下が認められた。本研究結果は、eClinicalMedicine誌2023年3月17日号に掲載された。 HYBRID II試験は、日本国内の15施設で2017年2月~2021年9月に実施された多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験である。心臓病のために病院外で心停止となり、心肺蘇生により循環が回復したものの意識が回復しない20~80歳の患者73例が対象となった。対象患者を体温管理療法と同時に、2%水素添加酸素を吸入する群(水素群:39例)、水素添加のない酸素を吸入する群(対照群:34例)に分け、18時間吸入させた。主要評価項目は、90日後に主要評価項目は脳機能カテゴリー(CPC)1~2(脳神経学的予後良好)を達成した患者の割合、副次評価項目は90日後のmodified Rankin Scale(mRS)スコア(0[まったく症候がない]~6点[死亡]で評価)、90日後の生存率などであった。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の90日後にCPC 1~2を達成した患者の割合は、対照群が39%であったのに対し、水素群では56%であった(リスク比[RR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.46~1.13、p=0.15)。・副次評価項目の90日後のmRSスコアの中央値は、対照群が5点(四分位範囲[IQR]:1~6)であったのに対し、水素群は1点(IQR:0~5)であり、有意に低かった(p=0.01)。・mRSスコア0点の達成率は、対照群が21%であったのに対し、水素群は46%であり、有意に高率であった(RR:2.18、95%CI:1.04~4.56、p=0.03)。・90日後の生存率は、対照群が61%であったのに対し、水素群が85%であり、有意に生存率が上昇した(RR:0.39、95%CI:0.17~0.91、p=0.02)。・90日後までの有害事象の発現率は、対照群88%、水素群95%であった。重篤な有害事象の発現率は、対照群21%、水素群18%であった。有害事象は、いずれも水素吸入に起因するものではないと判断された。 研究グループは、「新型コロナウイルス感染症による救急医療のひっ迫の結果、本研究は早期終了となったため、目標症例数の90例には到達しなかった。そのため、水素吸入療法の有効性を検証するには至らなかった。しかし、水素吸入療法により90日後の生存率や症状や障害がない患者の割合が有意に上昇したことから、水素吸入療法は、心停止後症候群に陥った患者の意識を回復させ、神経学的後遺症を残さないようにする画期的な治療法になることが期待できる」とまとめた。

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第153回 閣議決定、法案提出でマイナ保険証への一本化と日本版CDC創設がいよいよ始動

マイナ保険証関連法案と日本版CDC法案を閣議決定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。大きな盛り上がりを見せたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)ですが、この原稿を書いている段階ではまだ優勝は決まっていません。個人的に衝撃を受けたのは、3月15日(現地時間)、1次ラウンド・プールDの第4戦のプエルトリコ対ドミニカ共和国の戦いです。プエルトリコは9回にクローザー、エドウィン・ディアス投手を投入、3者連続三振に打ち取って見事勝利を収めました。しかし、ディアス投手はその直後、マウンド上で選手たちと喜び過ぎて右膝の膝蓋腱を断裂、今季絶望となってしまったのです(プエルトリコは準々決勝でメキシコに破れました)。ディアス投手はニューヨーク・メッツの”守護神”で一度聴いたら耳から離れない独特の登場曲・Narcoも有名です。昨シーズン終了後には救援投手では史上最高の5年1億200万ドル(約136億円)で契約延長したばかり。WBC出場がMLB選手にとってどれだけリスクがあるのかをまざまざと示す結果になってしまいました。今回のWBCには大谷 翔平投手やダルビッシュ 有投手などが参加していますが、今後はこうしたスター選手の出場が抑えられる可能性もありそうです。さて、今回は3月7日に政府が閣議決定した2つの法案について書いてみたいと思います。一つはマイナンバーカード関連、そしもう一つは日本版CDC、国立健康危機管理機構関連の法案です。2024年秋に健康保険証を廃止しマイナ保険証に一体化政府は3月7日、2024年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一体化する関連法改正案を閣議決定しました。カードを持たない人には保険証の代わりに「資格確認書」を健保組合などの保険者が発行します。ただ、有効期限が1年の更新制となるだけでなく、医療機関を受診する際は現行と同様、マイナ保険証に比べて窓口負担が重くなります。マイナンバーカードを保険証として使うマイナ保険証については、昨年10月、河野 太郎デジタル大臣が一本化を表明して以来、この連載でも「第132回 健康保険証のマイナンバーカードへの一体化が正式決定、『懸念』発言続く日医は『医療情報プラットフォーム』が怖い?」などで度々書いてきました。今年2月には全国保険医団体連合会(保団連)が「健康保険証を廃止する理由は一つもない」として、法案撤回を厚生労働大臣に求める動きもありました。しかし、この閣議決定によって、マイナ保険証の普及・定着が加速されると共に、マイナンバーカード取得の事実上の義務化もなされたことになります。マイナンバーの利用範囲拡大で気になるHPKIカードの今後関連法案は、健康保険法やマイナンバー法など13の法律の改正案からなり、国会では束ね法案としてまとめて審議されます。マイナンバーは、利用できる範囲が法律で社会保障と税、それに災害対策の3分野に限定されていますが、今回の改正案によって国家資格の手続きや自動車に関わる登録、外国人の行政手続きなどの分野にも範囲が広がるとしています。さらに、こうした分野について、すでに法律に規定されている事務に「準ずる事務」であれば、法律を改正しなくてもマイナンバーの利用が可能になるとのことです。「国家資格の手続き」で思い出したのは、「第146回 病院・診療所16施設、薬局138施設と低調な滑り出しの電子処方箋、岸田首相肝いりの医療DXに暗雲?」で書いたHPKIカードの存在です。電子処方箋の発行に必要とされるHPKIカードは、厚生労働省が所管する医師をはじめとする27個の医療分野の国家資格を証明するためのシステムです。電子処方箋を発行する医師・歯科医師、そして電子処方箋を調剤済みにする薬剤師ごとにHPKIカードによる電子署名が必要とされています。ただ、2022年12月末時点で取得しているのは医師の11%、薬局の薬剤師の7%に留まっており、1月26日から運用開始となった電子処方箋が低調なスタートになった一因として指摘されていました。素人考えですが、マイナンバーカードも国家資格の手続きに使えるとなれば、HPKIカードはもう必要ないのではないでしょうか。厚生労働省の意向を汲んでHPKIカード導入の旗振りをしてきた医療関係団体への配慮はもちろん必要ですが、このデジタル社会、あえて古い仕組みに拘泥する理由はありません。この際、医療現場での医療者の資格確認も、基本マイナンバーカードに一本化すべきだと思いますが、皆さんいかがでしょう。国立健康危機管理研究機構設置は2025年以降同じ日、医療関連の政策でもう一つ閣議決定されたのは、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合し、新たな専門家組織として「国立健康危機管理研究機構」を設立する新法案です。米国で感染症対策を中心的に担う疾病対策センター(CDC)をモデルとする国立健康危機管理研究機構については、この連載でも「第140回 次のパンデミックに備え感染症法等改正、そう言えば感染症の『司令塔機能』の議論はどうなった?」でも書きました。いよいよ法案ができ、実現に向けて動き出したというわけです。なお、設立するための国立健康危機管理研究機構法案のほか、現在の両組織の業務を引き継ぎ、新たな業務を加えるため、感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法、地域保健法も改正するとのことです。国立健康危機管理研究機構はCDCをモデルに、感染研の基礎研究と、国立国際医療研究センターの臨床医療のそれぞれの機能を併せ持つ、感染症研究の拠点を目指すとしています。内閣官房に設置する内閣感染症危機管理統括庁(内閣官房に秋ごろ設置予定)の求めに応じ、政策決定に必要な知見を提供したり、治療薬などの研究開発力を強化したりするとのことです。設置は2025年度以降としています。科学的根拠に基づいて政府に物が言える日本版CDCにこの連載の140回を書いた時点では不明だった法人形態ですが、特別の法律により設立される法人(特殊法人)で、政府が全額出資する形となります。厚生労働大臣による広範な監督権限が付与される予定で、理事長・監事は厚労大臣が任命、副理事長・理事は厚労大臣の認可を得て理事長が任命することとなりました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックで政策のご意見番として機能してきた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」は、時として政府や厚労省が上手くコントロールできない状況もあったようです。そうした反省も踏まえての厚労省管轄の特殊法人と考えられます。しかし、新たに設立される国立健康危機管理研究機構では、逆に感染症対策において専門家を国がコントロールし過ぎたり、政府判断を追認するだけの専門家組織になってしまうのではないかという危険性も指摘されています。国の組織であっても、科学的根拠に基づいて政府にきちんと物が言えるような日本版CDCができることを願っています。

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通院先の病院までの距離と下肢切断リスクが有意に関連

 末梢動脈疾患(PAD)で治療を受けている患者の自宅から病院までの距離と、下肢切断リスクとの関連を検討した結果が報告された。病院までの距離が長いほど切断リスクが高いという有意な関連が認められたという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月12日掲載された。 PADは心筋梗塞や脳卒中と並ぶ動脈硬化性疾患の一つ。下肢の疼痛や潰瘍などの主要原因であり、進行すると下肢切断を余儀なくされる。高齢化や糖尿病の増加などを背景に、国内でもPADが増加傾向にあるとされている。PADに対しては、動脈硬化リスク因子の管理に加えてフットケアなどの集学的な治療が行われるため、地域の中核病院への通院が必要なことが多い。一方でPADは高齢者に多い疾患であり、遠方の医療機関へのこまめな通院が困難なこともある。PAD以外の外科領域では、自宅から病院までの距離が疾患の転帰に影響を与える可能性を示唆する研究結果が報告されている。しかしPADに関するそのような視点での研究は少なく、特に日本発の報告は見られない。 藤原氏らの研究は、千葉県の南房総地域にある地域中核病院2施設の患者データを後方視的に解析するという手法で行われた。2010~2019年度に904人のPAD患者が記録されており、必要なデータがそろっている630人(平均年齢73.4±10.9歳、男性72.2%)を解析対象とした。なお、同地域は人口の高齢化率が42%と国内平均の28.4%(2020年)より高く、またPADの集学的治療および下肢切断を行っているのはこの2施設に限られている。 自宅から通院先病院までの直線距離の中央値は18.9kmだった。これを基準に対象者全体を二分すると、近距離群の方が高齢(74.5±11.3対72.4±10.4歳、P=0.017)で通院歴が長い(3.24±2.72対2.67±2.68年、P=0.009)という有意差が見られた。 つま先の切断も含む下肢切断は92人(14.6%)に施行されていて、近距離群が12.4%、遠距離群が16.8%であり、後者に多いものの有意差はなかった(P=0.114)。 一方、自宅から病院までの距離を連続変数として解析すると、距離が四分位範囲(22.1km)長いごとに下肢切断リスクが46%上昇するという有意な関連が認められた〔ハザード比(HR)1.46(95%信頼区間1.08~1.98)〕。下肢切断リスクに影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、喫煙歴、虚血重症度(フォンテイン分類)、併存疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症)、血管内治療・透析の施行、アスピリン投与など〕を調整後も、この関連は有意性が保たれていた〔HR1.35(同1.01~1.82)〕。 このほか、前記の近距離群と遠距離群とで生存率をカプランマイヤー法とログランク検定により比較すると、わずかに有意水準未満ながら、近距離群の方が高い生存率で推移していた(P=0.0537)。 著者らは本研究の限界点として、自宅から病院までの距離を直線距離で判断しており、実際のルートや移動手段を考慮していないことなどを挙げた上で、「高齢者人口の多い地域では、自宅から病院までの距離が長いほどPAD患者の下肢切断リスクが高い可能性がある」と結論付けている。さらに、「このような地域に住むPAD患者の転帰改善には、病院までのアクセスを改善する必要があり、また臨床医は、患者が通院に支障を来していないか確認する必要があるのではないか」と付け加えている。

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第136回 マイナ保険証の代わりの資格確認書、窓口負担は増額の方針/厚労省

<先週の動き>1.マイナ保険証の代わりの資格確認書、窓口負担は増額の方針/厚労省2.健康保険証の廃止、マイナ保険証義務化に反対、医師274人が国を提訴へ/東京保険医協会3.「かかりつけ医機能」報告は、無床診療所も在宅医療機関も報告対象に/厚労省4.コロナ後遺症に対応する医療機関のリストを全都道府県で公表を/厚労省5.梅毒報告件数が過去最多に、3月に無料の即日検査などを実施/東京都6.製薬企業の寄付講座、大学内で不適切なメールを発信した医師が懲戒処分/広島大1.マイナ保険証の代わりの資格確認書、窓口負担は増額の方針/厚労省厚生労働大臣は2月24日の記者会見で、2024年秋に健康保険証の廃止に伴ってマイナンバーカードによる「マイナ保険証」を持たない人への資格確認書について、加藤厚労大臣は、患者の窓口負担を割高にする方針を明らかにした。厚生労働省は、デジタル庁の「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」の中間取りまとめについての議論のため、同日に社会保障審議会医療保険部会を開催した。これによれば、マイナンバーカードを取得せず、オンライン資格認証が得られない人については、無償で資格確認書を発行するが、有効期間は最大1年となる見込み。なお、デジタル庁はマイナンバーカードの申請を推進のため、カード申請すると2万円分のマイナポイントを付与してきたが、このキャンペーンによる申請期限については2月28日までとして延期は行わないとしている。(参考)「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」中間とりまとめについて(厚労省)資格確認書の無償発行に異論なし 社保審・医療保険部会(CB news)医療の窓口負担、「資格確認書」ならマイナ保険証より割高に 厚労相(朝日新聞)2万円付与のマイナポイント、カード申請期限は2月28日まで-「延長はしない」と河野大臣(CNET Japan)2.健康保険証の廃止、マイナ保険証義務化に反対、医師274人が国を提訴へ/東京保険医協会政府が進めている、2024年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードを健康保険証として運用する「マイナ保険証」の導入を、医療機関に義務付けたのは違法だとして、東京保険医協会の医師、歯科医ら274人が2月22日に、国に対してマイナ保険証の導入義務の無効と1人10万円の慰謝料を求める訴訟を東京地裁に起こした。東京保険医協会は、去年12月にまとめられた中医協の答申書に対して、12月26日に厳重な抗議をしていたが、オンライン資格確認のシステム導入の原則義務化の撤回を求めていた。(参考)オンライン資格確認 「義務化」撤回訴訟へ(東京保険医協会)マイナ保険証、導入義務化は違憲 保険医274人が東京地裁に提訴(毎日新聞)“マイナ保険証 導入義務はリスク負担大きい” 医師ら提訴(NHK)3.「かかりつけ医機能」報告は、無床診療所も在宅医療機関も報告対象に/厚労省岸田内閣は2月24日に、全世代型社会保障構築会議を開き、持続可能な社会保障制度を構築するために、健康保険法などの改正案について議論した。この改正案には、出産育児一時金を後期高齢者医療制度からの支援金の導入のほか、後期高齢者医療制度の後期高齢者負担率の見直し、かかりつけ医機能が発揮される報告制度についても含まれている。出席した委員からは、厚生労働省が従来から行なっている「病床機能報告」と令和7年4月から開始される「かかりつけ医機能」の報告制度との違いについて質問があり、担当官から「『かかりつけ医機能』報告の対象には無床診療所や、在宅医療機関が含まれる」と回答がなされた。今後、具体化がさらに進む見込み。(参考)「かかりつけ医機能」報告、無床診なども対象 厚労省が見通し示す(CB news)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案について(全世代型社保構築会議)(内閣府)4.コロナ後遺症に対応する医療機関のリストを全都道府県で公表を/厚労省厚生労働省は全国の都道府県に対し、コロナ後遺症の患者を診療する専門医療機関のリストを4月28日までにホームページなどで公表するよう、2月20日付で事務連絡を行った。厚労省によれば、2月現在でリストを公表しているのは約4割の都道府県にとどまっており、格差が認められている。国立国際医療研究センターの報告によれば、新型コロナウイルス感染の後遺症は、感染から1年半後にも4人に1人が記憶障害や集中力の低下、嗅覚異常といった後遺症を訴えていることが明らかになっている。(参考)新型コロナウイルス感染症の罹患後症状に悩む方の診療をしている医療機関の選定及び公表等について(厚労省)コロナ後遺症を診る医療機関、都道府県に選定と公表を要請 厚労省(朝日新聞)コロナ後遺症対応医療機関のリスト公表へ 厚労省、都道府県に作成要請(CB news)「コロナ後遺症の専門医療機関」を各都道府県で本年(2023年)4月28日までに選定し、公表せよ-厚労省(Gem Med)“コロナ後遺症” 症状と傾向は 感染1年半後でも4人に1人が訴え(NHK)Epidemiology of post-COVID conditions beyond 1 year:a cross-sectional study.5.梅毒報告件数が過去最多に、3月に無料の即日検査などを実施/東京都東京都は都内の令和4年の梅毒報告数が3,677件と、平成11(1999)年の調査開始以来、過去最多になったと発表した。最近は女性の報告数が増加しており、直近10年で約40倍なっている。年齢別では、男性は20~50代、女性は20代が多くを占めている。東京都は梅毒の急増に対応するため、3月に梅毒に関する正しい知識の普及と早期発見に向けて、即日検査を行うほか、3月22日には医療従事者向けオンライン講習会の実施など集中的な取り組みを行う。(参考)梅毒患者が過去最多、女性は10年で40倍 都内で昨年3,677人(朝日新聞)性感染症の梅毒が急増 来月 無料の検査会場設置へ 東京都(NHK)都内で梅毒が急増しています!3月にとくべつ検査など早期発見・治療につながる取組を行います(東京都)6.製薬企業の寄付講座、大学内で不適切なメールを発信した医師が懲戒処分/広島大学広島大学は2月22日に、製薬企業の寄付金によって開設された寄付講座の医師が、不正行為をしたとの公益通報を受け、調査の結果、同僚医師らへ不適切なメール送信を行なったことを確認したと発表した。不適切とされたメールは寄付金を受けた製薬企業の製品の使用推奨を求める内容で、医師の行為は違法行為に当たらないが、利益相反の観点で、不適切な行為とし、2ヵ月の停職とする懲戒処分としたが、同日付で医師は依願退職した。大学によれば、この寄付講座は2018年度に開設され、製薬企業から3年間で4,500万円を拠出を受けた。医師は同僚向けのメールに「院内採用が条件で寄付の2年延長が約束された」と記載し、2019年12月、当該の医薬品が院内採用が決まった後は処方を働きかけていた。(参考)広島大医師が不適切メール 寄付講座巡り、違法性否定(共同通信)製薬会社の寄付講座巡り不適切メール 広島大医師を懲戒処分(産経新聞)広大 “利益相反の観点から問題あった” 寄付講座めぐり謝罪(NHK)広島大学 寄付講座めぐり医師がグラクティブの使用働き掛け「利益相反の観点から問題」調査会が報告書(ミクスオンライン)

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第149回 医師免許はそんなに簡単に不正取得できるのか?ALS嘱託殺人で発覚した厚生労働省の“謎ルート”

厚生労働省の手続きの瑕疵を批判する声は意外と少ないこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東は寒気が去って暖かい陽気となりました。近所にある梅も七分咲きとなり、春が近づいているのを感じました。同時に花粉も飛び始めたようで、早速アレロックを飲む羽目となりました。ただ、今年は花粉症と新型コロナウイルス感染症の鑑別云々といった報道はほとんどみられません。こちらもやっと“春到来”ということのようです。さて、今回は難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の嘱託殺人事件の捜査途上で発覚した、医師免許の不正取得事件について書いてみたいと思います。20年ほど前に事件となった大学医学部の裏口入学や、5年前に事件となった女性や複数年浪人生に対する不当な差別入試は大々的に報道され、社会問題ともなりました。しかし、この医師免許の不正取得については、厚生労働省の手続きの瑕疵を批判する声は意外と少なく、あまり話題になっていません。謎です。嘱託殺人事件の捜査の過程で医師免許不正取得も明らかに2月7日、京都地方裁判所は、難病のALSの患者を本人の依頼で殺害したとして嘱託殺人の罪で起訴された元医師・山本 直樹被告(45)に対し、この事件とは別に自分の父親を殺害した罪に問われた裁判員裁判において、懲役13年を言い渡しました。山本被告は20日までにこの判決を不服として控訴しました。山本被告は12年前、ALS患者の嘱託殺人の罪で同じく起訴されている医師の大久保 愉一被告(44)と自分の母親と共に、父親(当時77)を入院先の病院から連れ出し、何らかの方法で殺害したとして、殺人の罪に問われていました。山本被告と大久保被告が2019年に、難病のALSを患っていた京都市の女性から依頼を受けて殺害した嘱託殺人事件については、事件発覚当時、本連載の「第17回 安楽死? 京都ALS患者嘱託殺人事件をどう考えるか(前編)」、「第18回 同(後編)」でも書きました。各紙報道等によれば、山本被告と大久保被告は学生時代に知り合ったそうです。その後、病死に見せかけて高齢者を殺害する方法を説く電子書籍を共著で出版。大久保被告はブログなどで安楽死を肯定する持論を展開するなどし、ALS患者の嘱託殺人へとつながっていったと見られています。この嘱託殺人事件の捜査の過程で、山本被告の父親の殺人事件が浮上し、さらに山本被告の医師免許不正取得も明らかとなりました。医政局医事課に務めていた大久保被告のアドバイス山本被告は灘高校卒業後、浪人を経て東京医科歯科大学に入学するも、2006年に学費未納で中退しています。その後、韓国の医師免許を取得したとして、2009年10月付で日本の医師国家試験の受験資格認定を受け、翌2010年の国家試験に合格し、医師免許を取得しました。報道等によれば、医師免許の不正取得は、当時厚労省医政局医事課に試験専門官として務めていた大久保被告のアドバイスに従ったとのことです。山本被告は裁判で「恥ずかしく申し訳ないことだが、大久保被告の提案で、韓国の医大を卒業したという嘘の書類を厚労省に提出して資格を得た」と話しています。国外の医学部を卒業し医師国家試験を受けるルートとは山本被告は、「韓国の医大を卒業した」という嘘の書類で日本の医師国家試験の受験資格を得て同試験を受験、見事合格して医師免許を得たわけです。少なくとも国家試験に合格するだけの医学知識、学力等はあったということになります。さすが灘高出身です。そもそも海外の医大の卒業資格で日本の医師国家試験を受けるというのは、どんな仕組みなのでしょうか。日本で医師の資格を得るには、通常国内の医学部で6年間学んで卒業し、国家試験を受ける必要があります。一方、海外の医学部を卒業した場合、厚生労働大臣の受験資格認定が必要となります。その場合、現状では2つのルートがあります。1)医師国家試験の受験資格認定を受け、医師国家試験を受ける。2)医師国家試験予備試験受験資格認定を受け、その後医師国家試験予備試験を受験、同試験に合格してから、さらに1年以上の診療及び公衆衛生に関する実地修練の後に、医師国家試験を受験する。2)の予備試験受験資格は、先進国並みの医師養成カリキュラムがない後進国で医師教育を受けた人向けで、予備試験、本試験と関門が2つあることになります。なお、受験資格認定には医師教育を受けた国の医師免許が必要ですが、予備試験受験資格認定には医師教育を受けた国の医師免許がなくても受けられるようです。ちなみに2022年2月に実施された第116回医師国家試験では1万61人の受験者のうち合格者は9,222人、合格率は91.7%でした。このうち、前者の受験資格認定と後者の予備試験受験資格認定からの受験者は160人で合格者は78人、合格率48.8%と国内医学部からの受験生の合格率の約半分でした。海外医学部卒業証明書や海外医師免許証の写しが欠落、医師免許取り消しに山本被告については、韓国の医師免許を取得したとして受験資格を得ているので、2)ではなく、認定されれば受験できる1)のルートを取ったとみられます。ただ、煩雑な書類作成に加え、厚労省の厳格な書類審査もあるため、医政局医事課の試験専門官だった大久保被告がどのような手順で山本被告に受験資格を与えることができたか、多くの謎が残ります。事件発覚後の2021年12月24日、厚労省は「医師国家試験の受験資格を満たしていなかった」として、厚生労働大臣の職権で山本被告の医師免許を取得した2010年5月7日まで遡って取り消した、と発表しました。報道等によれば、厚労省が受験資格認定申請書を改めて確認したところ、山本被告の海外医学部卒業証明書や海外医師免許証の写しが欠落していたとのことです。また、韓国で大学に通えるだけの出国期間も確認できませんでした。厚労省は当時の医事課職員に調査したものの受理した職員を特定できず、さらに山本被告は同省の聞き取りを拒んだとのことです。厚労省は、「海外医学部の卒業証明書は複数の職員で原本を確認するなど、再発防止に努める」としましたが、受験資格認定がずさんだった理由についてはきちんと説明がされていません。まだ他にも受験資格認定を不正に受け、医師免許を不正取得した医師がいる可能性はあります。もし、そうだとしたら大問題です。ひょっとしたら、厚労省はこの問題がうやむやになるのを待っているのかもしれません。本丸である大久保被告の裁判で、そのあたりの謎も解明されることを願います。メキシコから帰国して国家試験をすべり続けた友人の教訓とここまで書いてきて、高校時代のある友人のことを思い出しました。彼は医師の子弟でしたが、日本の医学部に合格できるだけの学力がつかず、数年浪人した後、メキシコの医大に入学しました。そこで無事医師となり、現地で心臓カテーテル治療の名医となりました。メキシコで結婚し、奥さんもできたのですが、日本の父親から家を継げと懇願されて渋々帰国。日本の病院でカテーテル検査の“手伝い”をしながら、日本の医師国家試験の受験勉強をしました。25年ほど前、メキシコの医師免許が受験資格認定対象だったのか予備試験受験資格だったのかはわかりませんが、何度かすべり、最終的に彼は医師国家試験に合格できず、日本で医師として働く道は閉ざされてしまいました。もう10年以上会っていないので、彼が今何をしているかわかりません。ただお金を積んで海外で医師になっても、最終的に日本の医師国家試験を合格できるだけの“頭”がないと、その後は大変だなと感じた次第です。ちなみに最近では、医師志望者向けのハンガリーの医大の広告を度々見かけますが、厚労省の「医師国家試験受験資格認定について」のサイト1)には、こんな注意書きが赤字で書かれてあります。最近、卒業後に日本の医師国家試験の受験資格が得られる旨認可を厚生労働省から受けていること等を示して、外国の医学校への入学を勧誘する広告を行っている例が見受けられますが、厚生労働省は、外国の医学校を卒業した方から、医師国家試験の受験資格認定の申請があった後に、当該申請者個々人の能力や、当該申請者が受けた教育等を審査することとなっており、海外の医学校等に対し、当該医学部の卒業生への医師国家試験の受験資格を一律に認定することはありません。このため、こうした外国の医学校等を卒業されても、日本の医師国家試験の受験資格が認められないことが十分想定されますのでご注意下さい。現在、2023年の医学部入試がたけなわです。メキシコの医大に行った私の友人のように、どれだけ勉強しても学力がつかない子供をどうしても医学部に入れたい、医師にしたい、と考えている親御さんは重々お気を付けください。参考1)医師国家試験受験資格認定について/厚生労働省

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骨転移診療ガイドライン改訂、薬剤などのエビデンス蓄積を反映

 『骨転移診療ガイドライン』の改訂第2版が2022年12月に発刊された。2015年に初版発刊後、骨修飾薬の使用方法や骨関連事象のマネジメントなどの医学的エビデンスが蓄積されてきたことを踏まえ、7年ぶりの改訂となる。今回、本ガイドライン作成ワーキンググループのリーダーを務めた柴田 浩行氏(秋田大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学講座)に、改訂ポイントや疫学的データの収集などの課題について話を聞いた。患者は延命に加え機能維持を求めている がん治療で病巣を取り除けたとしても身体機能の低下によって生活の質(QOL)が低下してしまっては、患者の生きがいまでも損なわれてしまうかもしれない。骨転移はすべてのがんで遭遇する可能性があり1)柴田氏らはがん患者の骨転移がもたらす身体機能の低下をいかにして防ぐことができるのかを念頭に置いてガイドライン(GL)を作成した。「骨転移が生じる患者の多くはStageIVではあるが、外科的介入に対するエビデンスが蓄積されつつあることから、今回の改訂には多くの整形外科医にご参加いただき、外科領域のClinical Questionを増やした」と話し、「作成メンバーが、診断・外科・放射線・緩和・リハビリテーションと看護の5領域に分かれて取り組んだ点も成果に良く反映されている」と作成時の体制について説明した。 治療については、上市から10年が経過した骨修飾薬(BMA:ビスホスホネート製剤、RANKL抗体薬)に関する長期経過報告がまとめられ、近年では骨修飾薬を投与することで骨関連事象の発生が低下していること、骨修飾薬投与前の歯科検診や投与中のカルシウム値の補正が行われていることなどが示された(p.15 総説3)。一方で、その投与間隔や至適投与期間を有害事象やコスト面から検討する必要性も指摘され課題になっている。 それらを踏まえ、「標準的な診療の概要を示し、骨転移患者の診療プロセスの改善や患者アウトカムの改善を期すること」を目的とし、4つの総説(1.骨転移の病態、2.骨転移の診断、3.骨転移の治療とケア、4.高齢者・サルコペニア・フレイル患者の骨転移治療)、Background Question(36個)、Clinical Question(38個)、Future Research Question(41個)を盛り込んだ。骨転移の実数が見えにくい現状 GLを作成し、その成果をモニターする上で疫学的な情報は不可欠であるが、「骨転移の実態を知ることはなかなかに困難である」と同氏は話した。がんの罹患状況は2016年に厚生労働省がスタートさせた『全国がん登録』2)の集計結果などを参考にするが、そこには遠隔転移の記載のみで、骨転移を含む個別の転移部位については登録されない。結果、がんの『転移部位』はすべて“転移”に包含されてしまい、どの部位への転移なのかを入力する項目がないことから、「その集計結果から骨転移の実数などを把握できない。現在の骨転移に関する必要情報はカルテを直接調べるしかないのが実情」と残念がった。なお、本GLには日本の調査例として胸椎~腰椎の組織学的骨転移の剖検報告3)が示されており、それによると乳がんや前立腺がんでは75%、肺がんや甲状腺がんでは50%、消化器がん(消化器、肝胆膵)では20%前後の骨転移が認められている。このデータは約25年前のものであるが、2010~16年に米国の医療保険データベースを用いた研究結果と傾向は同様であった(p.2 総説1)。 このほか、読んでおきたい項目は以下のとおり。・CQ5「骨転移を有する原発不明がん患者において、骨転移巣を用いた遺伝子パネル検査は原発巣の同定に有効か?」・CQ8「病的骨折や切迫骨折のリスクのある四肢長管骨の骨転移に手術は有効か?」・CQ19「過去に外照射を受けた骨転移の痛みの緩和に再照射は有効か?」・CQ37「去勢抵抗性前立腺がん骨転移においてラジウム-223内用療法は有効か?」・FRQ31「骨転移の治療に外照射と骨修飾薬(BMA)の併用は有効か?」・FRQ32「骨代謝マーカーは骨転移を有するがん患者の治療モニタリングに有用か?」・FRQ39「病的骨折のある患者の外科的治療後にリハビリテーション医療は有用か?」・FRQ40「痛みのある骨転移患者に対するマネジメント教育は有効か?」ガイドラインの作成から患者の未来を変えたい さらに同氏は「GLの改訂というのは医療者側の知識のアップデートだけではなく、患者への骨転移の病態啓発や、骨転移に関する症状の有無を問診する際などの医師と患者の医療面接おいても重要」だと話した。さらにGLの内容を基に同氏は患者が理解を深めやすい資料作成にも意欲的に取り組み、秋田大学医学部附属病院ではオリジナル漫画を患者に配布している。また、昨今、盛んに行われる骨転移キャンサーボードも「多施設間で行うことも新たな情報や知識、視点が加わることになるので実施することをお薦めする」と話した。 GLは発刊後もその使用状況や患者アウトカムの改善についてモニタリングが必要で、作成して終わりではない。本GLの場合は発刊1年以降を目途に、臨床的アウトカム(1:骨転移のがん種別頻度、2:外科的介入の割合、3:放射線治療の割合、4:骨修飾薬の使用割合、5:ADLの評価[通院、入院治療の別]など)への影響に関して調査を行う予定である点にも触れた。 最後に同氏はGLを山登りに例え、「GLは“山岳ガイド”のようなもの。トップクライマーは遭難のリスクを冒してでも前人未踏の頂きを目指すかもしれないが、山岳ガイドは登山客を遭難させる冒険はできない。派手さはなくとも、安全に、確実に登頂できるように先導することが重要。もちろん、もっと高い頂きを目指す必要は常にあるが、現状でそれが無理なら技術を磨いたりルートを開拓したりする必要がある」と話し、医師の知識のアップデートに留まらず、患者一人ひとりの病態に応じて参考にされることやGLの課題が新たな臨床試験の推進力になることを願った。

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SNRI使用と口渇リスク

 口腔乾燥症や口渇は唾液量の減少および欠如を起因とする状態であり、特定の薬剤の使用に続発してみられる。Joseph Katz氏らは、口腔乾燥症患者とセロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)使用との関連を分析した。その結果、SNRIを使用している患者は、使用していない患者と比較し、口渇リスクが約5倍であることが明らかとなった。結果を踏まえて著者らは、SNRIを処方する専門医、唾液の産生やQOLへのSNRIによる影響を認識していない医師、口腔乾燥症の治療に携わっている歯科医師にとって、本結果は有益な情報であろうと報告している。Quintessence International誌オンライン版2023年1月10日号の報告。 2015年6月~2022年9月の期間に、米国・フロリダ大学の統合データであるi2b2を用いて、口渇の診断(ICD-10)およびSNRI使用に関するデータを抽出した。オッズ比の算出には、MedCalc Softwareを用いた。 主な結果は以下のとおり。・SNRI使用の口渇リスクのオッズ比は、5.95(95%CI:5.47~6.48、p<0.0001)であった。・性別または年代別のSNRI使用による口渇リスクのオッズ比は、以下のとおりであった。 ●女性:5.48(95%CI:4.97~6.02、p<0.0001) ●男性:5.48(同:4.56~6.95、p<0.0001) ●小児:2.87(同:1.19~6.96、p=0.0192) ●成人:4.46(同:4.09~4.86、p<0.0001)・使用するSNRIごとの口渇リスクのオッズ比は、以下のとおりであった。 ●ベンラファキシン:5.83(同:5.12~6.60、p<0.0001) ●デュロキセチン:6.97(同:6.33~7.67、p<0.0001) ●desvenlafaxine:5.24(同:3.65~7.52、p<0.0001) ●ミルナシプラン:9.61(同:5.66~16.31、p<0.0001)

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日本人long COVIDの特徴は?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症、いわゆる「long COVID」の日本人での実態が報告された。症状としては倦怠感や抑うつなどが多く、女性や就労が制限されている人および非就労者でパフォーマンスの低下が顕著だという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Clinical Medicine」に10月31日掲載された。 COVID-19罹患者のlong COVID発症率は25~60%とされており、研究対象によって大きな差がある。また、性別や年齢、就労状況、教育歴などの属性との関連も検討されていて、それらが関連ありとする研究と関連なしとする研究が混在している。加えてこれまでに報告されている研究は主として海外で行われたものであり、国内発のデータは少ない。日本は他国よりもCOVID-19の有病率と死亡率が低く、long COVIDの実態も海外とは異なる可能性が考えられる。これらを背景として藤原氏らは、日本人のlong COVIDの特徴の把握を試みた。 解析対象は、2020年1月6日~2021年10月2日に都内の外来診療所(ヒラハタクリニック)を受診したlong COVID患者のうち、COVID-19発症から28日以上経過後に持続、または発症した症状のある1,898人から、解析に必要なデータが欠落していた7人を除外した1,891人。平均年齢は37.8±12.2歳で、女性が59.7%を占め、受診の時期は、パンデミック第1波が1.8%、2波が5.9%、3波が41.8%、4波が18.2%、5波が32.2%。ワクチン接種が完了しているのは3.1%だった。 Long COVIDの症状による日常生活動作への影響を、パフォーマンスステータス(PS)スコアという10点満点の指標で評価すると、平均3.1±2.4点だった。なおPSは、日常生活への影響が全くない場合は0点、終日臥床し全介助状態のいわゆる“寝たきり”の場合は10点と判定する。平均点に近い3点は、症状のために仕事を月に数日休む必要がある状態に当たる。実際、解析対象者のうち罹患前と同様に就労しているのは23.7%に過ぎず、14.2%は勤務時間を短縮して就労していて、20.9%は休職中か退職・解雇後だった(そのほか、8.3%は非就労、32.8%は不明)。 訴える症状の数は平均8.4±3.2種類であり、頻度の高い症状は、倦怠感(90.3%)、抑うつ(81.2%)、ブレインフォグ〔頭がぼんやりして記憶力などが低下した状態(76.2%)〕、頭痛(71.2%)、呼吸困難(68.9%)、不眠症(63.8%)、動悸(61.7%)、体の痛み(60.6%)、嗅覚障害(52.4%)、食欲不振(50.6%)、味覚障害(45.2%)、脱毛(44.8%)などだった。 PSスコアが6点(週の50%以上を休息している場合)以上をPSが特に低下した状態と定義すると、24.0%が該当。年齢や性別、受診時期(パンデミック第何波に当たるか)、ワクチン接種状況、就労状況などを調整後に、PS6点以上であることと関連する因子を検討すると、女性〔β=0.27(95%信頼区間0.08~0.47)〕、時短勤務者〔通常勤務者を基準にβ=1.59(95%信頼区間1.27~1.91)〕、休職中または退職・解雇後〔同3.64(3.35~3.93)〕、非就労〔同1.67(1.22~2.21)〕が有意な関連因子として抽出された。 発現している症状も調整因子に加えた場合、多くの個々の症状が有意な因子として抽出され(倦怠感β=1.11、抑うつβ=0.47など)、女性については有意性が消失した。ただし前記の就労状況に関する三つの状態は全て、引き続きPSが低いことと有意な関連が認められた。 著者らは、「女性はlong COVID罹患時にPSが低下しやすいことが示唆され、就労状況とPSとの有意な関連も認められた」と結論を述べるとともに、「日本のlong COVID患者の特徴の全体像を把握するためには、さらなる研究が必要」としている。

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第146回 病院・診療所16施設、薬局138施設と低調な滑り出しの電子処方箋、岸田首相肝いりの医療DXに暗雲?

コロナ5類移行は5月8日に決定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。政府は1月27日、新型コロナウイルスの感染症法上の分類を5月8日に「5類」に引き下げることを正式決定しました。5類移行後は新型インフルエンザ等対策特別措置法の適用外となり、入院勧告や行動制限といった強い措置は取られなくなります。特措法に基づく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置もなくなり、飲食店の営業時間の短縮といった要請もできなくなります。コロナ疑いの発熱患者は、原則すべての一般医療機関で受診できるよう対応施設を段階的に広げていくとしています。治療や入院といった医療費の公費負担は段階的に縮小する方針です。マスク着用の指針も緩和されます。原則着用を求めていた屋内については、個人の判断に委ねるようにする方針です。諸々の具体策は3月上旬を目処に公表するとしています。この180度の方針転換に日本国民は果たしてついていけるでしょうか?「屋外では季節を問わずマスクの着用は原則不要」との方針が国から示されているのに、大半の人が屋外でも未だに律儀にマスクをしています(飲み屋ではマスクを外して大声で話していますが)。5月連休明けに国民がどんな動きをするか見ものです。マイナ保険証の基盤である「オンライン資格確認等システム」を用いた仕組みさて今回は1月26日から運用開始となった電子処方箋について書いてみたいと思います。厚生労働省は26日から運用が始まった電子処方箋について、対応する医療機関・薬局のリストをホームページで公表しました。1月25日に公表した対応施設は154施設(うち病院・診療所16施設、薬局138施設)ときわめて低調な滑り出しとなりました。電子処方箋は、これまでの紙で交付していた処方箋をデジタル情報にし、オンラインでやりとりを行うというもの。医師は患者に電子処方箋の番号を伝え、薬剤師は患者の示した番号をもとにネットで処方箋情報を閲覧し処方します。マイナ保険証の基盤である「オンライン資格確認等システム」を用いた仕組みで、国が推進しようとしている医療DXの柱の一つに位置付けられています。厚生労働省のホームページなどによれば、電子処方箋によって医療機関・薬局間の処方箋のやり取りが効率化されるとされています。とくに医療機関には、処方箋の発行業務の効率化や、処方データを活用した診察・処方の実現が期待されています。薬局には、処方箋の受付に関わる業務の効率化や、処方データを活用した調剤、服薬指導の実現が期待されています。一方、患者自身も電子的に記録された処方薬のデータを自ら閲覧できるため、健康管理にも寄与すると期待されています。「オンライン資格確認等システム」を導入する医療機関はまだまだ少ないそれなのに、スタート時のこの低調ぶりはなんでしょう。厚生労働省は1月からの運用スタートに向け、幾度も医療機関向けの説明会を開いてきました。直近では昨年12月にオンラインによる説明会を開いています。大きな課題の一つは、マイナ保険証の基盤である「オンライン資格確認等システム」を導入する医療機関がまだまだ少ない点です。導入が進んでいるのは対象となる医療機関や薬局のうち45%に留まっているとのことです(1月15日時点)。マイナ保険証の本格運用は、電子処方箋より1年4ヵ月も早い2021年10月にスタートしています。それでも普及は遅く、業を煮やした政府は2022年8月、オンライン資格確認(いわゆるマイナンバーカードの保険証利用)導入の2023年4月からの原則義務化を決定しました。また、従来保険証の2024年秋の廃止も決定しています(「第124回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは(前編)未対応は最悪保険医取り消しも」、「第125回 同(後編)かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?」参照)。もっとも、世界的な半導体不足、専用機器の納入遅れ、医療機関に出向きシステム改修を行う業者不足などもあって、全国の病院や診療所におけるシステム導入は遅れています。結局、オンライン資格確認の原則義務化には半年の猶予期間が設けられ、期限は2023年9月末に変更されています。ちなみにこのシステム改修を行う業者不足は電子処方箋対応にも影響が出ていて、NHKニュースなどの報道によれば、電子処方箋のモデル事業を行った山形県酒田市では、あわせて23の医療機関や薬局が参加することになっていましたが、実際に1月26日時点で運用が始まったのは5つの施設に留まっているとのことです。HPKIカードの取得は医師で11%もう一つの大きな課題は、処方箋の発行や閲覧に必要な「HPKIカード」の取得が進んでいないことです。HPKIは「Healthcare Public Key Infrastructure」の略称で、厚生労働省が所管する医師をはじめとする27個の医療分野の国家資格を証明することができる仕組みです。電子処方箋を発行する医師・歯科医師、電子処方箋を調剤済みにする薬剤師ごとに、HPKIカードによる電子署名が必要とされています。しかし、2022年12月末時点で取得しているのは医師の11%、薬局の薬剤師の7%に留まっているそうです。その背景には資格確認システムに対する政府の曖昧な姿勢もあるようです。1月22日付の日本経済新聞は「電子処方箋、低調なスタートに 医師ら資格取得1割のみ」と題する記事でHPKIカード取得の低さを報じるとともに、「資格取得に関する政府の姿勢があいまいなことが足を引っ張る」と書いています。HPKIカードの利用を始めるには発行費用がかかることに加え、カードリーダーの購入、ソフトウェアのインストールなど結構な手間がかかります。しかし、今回運用がスタートした電子処方箋以外に医療現場で必要とされる場面がないため、普及してきませんでした。その一方で、政府はマイナンバーカードの用途拡大を進めようとしています。医療者の資格確認もマイナンバーカードに一本化すべきだという意見も出てきています。マイナンバーカードは運転免許証とも紐付け可能なのですから、医師などの国家資格との紐付けもやろうと思えばすぐにでもできそうです。しかし、HPKIカード導入の旗振りをしてきた医療関係団体や、既に導入した医療機関等への遠慮もあってか、今後の方針を明確に打ち出せない状況のようです。マイナンバーカードは「デジタル社会のパスポート」と岸田首相コンピューターやネットの世界は日進月歩で、いつまでも古いシステムや仕組みにこだわっていては、円滑な普及が妨げられてしまうのは世の常です。マイナンバーカードを医療者が常時携行することの是非はともかく、何種類ものカードがあって、それらが混在して運用されるシステムが望ましいかと言えば、それは否でしょう。岸田 文雄首相は23日に開会した通常国会の施政方針演説で、マイナンバーカードは、「デジタル社会のパスポート」だと重要性を強調、「医療面では、スマートフォン一つあれば、診察券も保険証も持たずに、医療機関の受診や薬剤情報の確認ができるようになる」とメリットを説明しました。「デジタル社会のパスポート」というなら、医療者の資格確認もこれでやってしまったほうがシンプルだし、わかりやすいと思います。電子処方箋について言えば、より普及させ、患者にとっての利便性を高めるために、「第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)」、「第127回 同(後編)」でも書いたように、服薬指導のプロセスの見直しもぜひ検討してもらいたいと思います。もし、患者の希望によって、あるいは一部の薬剤においてそのプロセスを省略することができれば、電子処方箋の運用はもっとスムーズになるはずだからです。たとえば患者はオンライン診療を受けるだけで(オンライン服薬指導を受けなくても)、薬剤が手元に届くようになればどれだけ便利でしょう。それこそDXの世界だと思いますが、皆さんいかがでしょう。

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