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肺静脈隔離術後の抗凝固中止は脳梗塞リスク?今回はSHD interventionの話題からは少し離れますが、心房細動患者さんへの肺静脈隔離術後の脳梗塞リスクについて興味深い報告1)がJAMA Cardiology誌に掲載されましたのでご紹介します。肺静脈隔離術(Pulmonary vein isolation; PVI)は心房細動に対する標準的なアブレーション治療として確立されていますが、PVIが脳梗塞のリスクを軽減できるかについては明らかでありませんでした。本試験においては、PVI後に抗凝固療法を中止することに伴う脳梗塞リスクについて検討を行いました。対象は2006年1月から2012年12月までにスウェーデンのSwedish Catheter Ablation Registerに登録された合計1,585名の初回PVIが施行された心房細動症例(平均観察期間2.6年)です。抗凝固療法としてはワルファリンが用いられました。登録された1,585名のうち、73%は男性で平均年齢は59歳、CHAD2DS2-VAScスコアは平均1.5でした。1,175名が1年以上にわたってフォローされ、そのうち360名(31%)が1年以内にワルファリンを中止していました。その結果、CHAD2DS2-VAScスコアが2以上の症例ではワルファリン中止群でワルファリン継続群と比較して脳梗塞の発生率が上昇していました(1.6%/年 vs.0.3%/年、 p=0.046)。そしてCHAD2DS2-VAScスコアが2以上あるいは脳梗塞の既往がある症例ではワルファリン中止によって脳梗塞発症のハザード比がそれぞれハザード比4.6(p=0.02)、13.7(p=0.007)と上昇していました。 この結果から本論文では、ハイリスク症例においては心房細動に対するPVI後にワルファリンを中止することは安全ではないことが示唆されると述べられています。本連載でも心房細動症例における脳梗塞予防法である左心耳閉鎖術について取り上げたように、心房細動症例における脳梗塞予防は非常に大切です。もちろんPVIは心房細動の根治治療を目指す治療であり、脳梗塞予防だけが目的ではありません。しかしながらPVIが奏効した症例でもCHAD2DS2-VAScスコアが高い症例や脳梗塞の既往がある症例では抗凝固療法が中止できないとなると、今後の治療におけるdecision makingにも影響を及ぼす可能性があります。もちろん本研究は症例数・イベント数共に限られ、またレジストリ研究でもあることから、今回の結果のみから考察されることには限界があります。また、PVI治療後の心房細動再発の有無についても電気的除細動や再度のPVIなどの記録から判定していますので、ワルファリン中止群で心房細動の再発が見逃された結果として、多くの脳梗塞が発症した可能性もあります。一方で心房細動における脳梗塞予防を主眼においた場合には、現在、いくつかのヨーロッパの施設で試験的に行われているようにPVIと左心耳閉鎖術を一期的に行うというオプションも脳梗塞のハイリスク症例やPVI後の再発が予想される症例に対しては1つの現実的な選択肢かも知れません。また、本試験においてはPVI後の脳梗塞イベントが心房細動に伴う心原性脳梗塞であるかについても不明です。ワルファリンを中止した群での脳梗塞発生も1.6%/年であり、CHAD2DS2-VAScスコア2点以上の心房細動症例における脳梗塞の自然発生率2)を下回っています。したがってPVIが脳梗塞の抑制に無効だとはいえませんし、アテローム血栓性やラクナ梗塞など心原性以外のエチオロジーによるものだとすればPVIを行ってもこれらを予防することは出来ないのは当然です。一方でワルファリンは、血小板活性化因子であるトロンビンの産生を抑制しますので、抗凝固作用だけでなく、血小板凝集に対し抑制的に働く、と考えることができます。また、心原性脳梗塞だけでなく、非心原性脳梗塞に対する有用性も報告されていますので、3)、ワルファリン投与により心原性以外の脳梗塞が予防され、今回のような結果が導かれた可能性があります。議論が少し飛躍しますが、このようなことを考えた時にWatchman(R)(ボストン・サイエンティフィック社)を用いた左心耳閉鎖術後にバイアスピリンを永年継続させるというPROTECT-AF試験のプロトコールは「良い落としどころ」なのかも知れません。今後、さらに高齢化が進むことが予想される先進国において、心房細動症例における脳梗塞の予防はきわめて大きなテーマです。Watchman(R)の日本への導入機運も高まる中で、本論文を含めて、心原性脳梗塞のトータルマネージメントについて考えることが重要になってくると考えています。1)Sjalander S, et al. JAMA Cardiol. 2016 Nov 23. [Epub ahead of print]2)Lip GY, et al. Stroke. 2010 Dec;41(12):2731-27383)Mohr JP, et al. N Engl J Med. 2001;345:1444-1451.