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特発性門脈圧亢進症〔IPH:Idiopathic portal hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義特発性門脈圧亢進症(idiopathic portal hypertension:IPH)とは、肝硬変、肝外門脈閉塞、肝静脈閉塞、およびその他の原因となるべき疾患を認めずに門脈圧亢進症を呈するもので、肝内末梢門脈枝の閉塞、狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。なお、門脈圧亢進症とは門脈系の血行動態の変化により、門脈圧(正常値100~150mmH2O)が常に200mmH2O(14.7mmHg)以上に上昇した状態である。■ 疫学IPHは比較的まれな疾患で、年間受療患者数(2004年)は640~1,070人と推定され、人口100万人当たり7.3人の有病率と推定されている(2005年全国疫学調査)。男女比は約1:2.7と女性に多く、発症のピークは40~50歳代で平均年齢は49歳である。欧米より日本にやや多い傾向があり、また都会より農村に多い傾向がある。■ 病因本症の病因はいまだ不明であるが、肝内末梢門脈血栓説、脾原説、自己免疫異常説などがある。中年女性に多発し、血清学的検査で自己免疫疾患と類似した特徴が認められ、自己免疫疾患を合併する頻度も高いことからその病因として自己免疫異常、特にT細胞の自己認識機構に問題があると考えられている。■ 症状重症度に応じ食道胃静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、汎血球減少、脾腫、貧血、肝機能障害などの症候、つまり門脈圧亢進症の症状を呈す。通常、肝硬変に至ることはなく、肝細胞がんの母地にはならない。■ 予後IPH患者の予後は静脈瘤(出血)のコントロールによって規定され、コントロール良好ならば肝がんの発生や肝不全死はほとんどなく、5年および10年累積生存率は80~90%と極めて良好である。また、長期観察例での肝実質の変化は少なく、肝機能異常も軽度である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ IPH診断のガイドラインIPHの診断基準は、厚生労働省特定疾患:門脈血行異常症調査研究班の定めた「門脈血行異常症ガイドライン2018年改訂版」1)のIPH診断のガイドラインに則る。1)一般検査所見(1)血液検査 1つ以上の血球成分の減少を示し、特に血小板数減少は顕著である。(2)肝機能検査正常または軽度異常が多い。(3)内視鏡検査食道胃静脈瘤を認めることが多い。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることもある。2)画像検査所見(1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査a)巨脾を認めることが多い。b)肝臓は病期の進行とともに、辺縁萎縮と代償性中心性腫大となる。c)肝臓の表面は平滑なことが多いが、全体に波打ち状(大きな隆起と陥凹)を呈するときもある。d)結節性再生性過形成や限局性結節性過形成などの肝内結節を認めることがある。e)脾動静脈は著明に拡張している。f)著しい門脈・脾静脈血流量の増加を認める。g)二次的に門脈に血栓を認めることがある。(2)上腸間膜動脈造影門脈相ないし経皮経肝門脈造影肝内末梢門脈枝の走行異常、分岐異常を認め、その造影能は不良で、時に門脈血栓を認めることがある。(3)肝静脈造影しばしば肝静脈枝相互間吻合と「しだれ柳様」所見を認める。閉塞肝静脈圧は正常または軽度上昇にとどまる。(4)Scintiphotosplenoportography (SSP)SSPは経皮的に脾臓より放射性物質を注入し、その動態で最も生理的に近い脾静 脈血行動態のdynamic imageが得られるだけではなく、そのデータ処理にてさまざまな情報が得られる検査法である。SSPにより門脈血に占める脾静脈血の割合を求めると、正常では18.6%、慢性肝炎では48.0%、肝硬変では47.8%、IPHでは73.8%であった2)。つまりIPHでは、脾静脈血流が著明に増加している。3)病理検査所見(1)肝臓の肉眼所見時に萎縮を認める。表面平滑な場合、波打ち状や凹凸不整を示す場合、変形を示す場合がある。割面は被膜下の実質の脱落をしばしば認める。門脈に二次性の血栓を認める例がある。また、過形成結節を認める症例がある。肝硬変の所見はない。(2)肝臓の組織所見肝内末梢門脈枝の潰れ・狭小化、肝内門脈枝の硬化症および側副血行路を呈する例が多い。門脈域の緻密な線維化を認め、しばしば円形の線維性拡大を呈する。肝細胞の過形成像がみられ結節状過形成を呈することがあるが、周囲に線維化はなく、肝硬変の再生結節とは異なる。(3)脾臓の肉眼所見著しい腫大を認める。(4)脾臓の組織所見赤脾髄における脾洞(静脈洞)の増生、細網線維や膠原線維の増加、脾柱におけるGamna-Gandy結節を認める。本症は症候群であり、また病期により病態が異なることから、一般検査所見、画像検査所見、病理検査所見によって総合的に診断されるべきである。確定診断は肝臓の病理組織学的所見の合致が望ましい。除外疾患は肝硬変症、肝外門脈閉塞症、バッド・キアリ症候群、血液疾患、寄生虫疾患、肉芽腫性肝疾患、先天性肝線維症、慢性ウイルス性肝炎、非硬変期の原発性胆汁性胆管炎などが挙げられる。■ 重症度分類「門脈血行異常症ガイドライン2018年改訂版」1)ではIPHの重症度分類も定められている。重症度I  診断可能だが、所見は認めない。重症度II 所見は認めるものの、治療を要しない。重症度III所見を認め、治療を要する。重症度IV身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。重症度V 肝不全ないし消化管出血を認め、集中治療を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療適応IPHの治療対象は、門脈圧亢進症に伴う食道胃静脈瘤、脾機能亢進に伴う汎血球滅少症、脾腫である。治療法としては、食道胃静脈瘤症例では内視鏡的治療、塞栓術、手術療法など、内科的治療が難しい脾腫・脾機能亢進症例では塞栓術または手術療法を施行する。■ 食道静脈瘤1)食道静脈瘤破裂では輸血、輸液などで循環動態を安定させながら、内視鏡的静脈瘤結紮術(または内視鏡的硬化療法)にて一時止血を行う。内視鏡的治療が施行できない場合や止血困難な場合はバルーンタンポナーデ法を施行し、それでも止血できない場合は緊急手術も考慮する。2)一時止血が得られた症例では、全身状態改善後、内視鏡的治療や待期手術を考慮する。3)未出血の症例(予防例)では、「門脈圧亢進症取扱い規約【第3版】」3)に従って静脈瘤所見を判定し、F2、3またはRC陽性の場合、内視鏡的治療や手術を考慮する。4)手術療法としては、選択的シャント手術として選択的遠位脾腎静脈吻合術(DSRS)や、直達手術として下部食道離断+脾摘+下部食道・胃上部血行郭清を加えた食道離断術または内視鏡的治療と併用して脾摘術+下部食道・胃上部の血行郭清(ハッサブ手術)を行う。■ 胃静脈瘤1)食道静脈瘤と連続して存在する噴門部静脈瘤に対しては食道静脈瘤の治療に準じて対処する。2)孤立性胃静脈瘤破裂例では輸血、輸液などで循環動態を安定させながら、内視鏡的硬化療法にて一時止血を行う。内視鏡的治療が施行できない場合や止血困難な場合はバルーンタンポナーデ法を施行し、それでも止血できない場合はバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)などの塞栓術や緊急手術も検討する。 3)一時止血が得られた症例では、全身状態改善後、内視鏡的治療追加やB-RTO などの塞栓術、待期手術(DSRSやハッサブ手術)を検討する。4)未出血症例(予防例)では、胃内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、塞栓術、手術(DSRSやハッサブ手術)を検討する。■ 脾腫、脾機能亢進症巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しい場合および脾機能亢進症(汎血球減少)による高度の血球減少(血小板5×104以下、白血球3,000以下、赤血球300×104以下のいずれか1項目)で出血傾向を認める場合は部分的脾動脈塞栓術(PSE)または脾摘術を検討する。PSEは施行後に血小板数は12~24時間後に上昇し始め、ピークは1~2週間後である。2ヵ月後に安定し、長期的には前値の平均2倍を維持する。4 今後の展望IPHの原因はいまだ解明されていない。しかし、静脈瘤のコントロールが良好ならば、予後は良好であるため静脈瘤のコントロールが重要である。予後が良いため長期的に効果が持続する手術療法が施行されている。近年、低侵襲手術として腹腔鏡下手術が行われており、食道胃静脈瘤に対する手術も腹腔鏡下手術が中心となっていくであろう。5 主たる診療科消化器外科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病センター 特発性門脈亢進症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 門脈血行異常症ガイドライン 2018年改訂版. 2018.2)吉田寛. 日消誌. 1991;88:2763-2770.3)日本門脈圧亢進症学会. 門脈圧亢進症取扱い規約 第3版. 金原出版.2013.公開履歴初回2021年03月29日

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治療が変わる!希少疾病・難病特集 ~血友病~

かつて第VIII因子(FVIII)製剤投与が中心だった血友病治療だが、FVIII製剤には「短い半減期」、あるいは「インヒビターの出現」という問題の存在が明らかとなった。そのため、半減期を延長したFVIII製剤(アディノベイト)が登場すると同時に、FVIII補充ではなく、別機序でFVIII活性を補う、抗活性型第IX因子(FIXa)/第X因子(FX)バイスペシフィック抗体のエミシツマブ(ヘムライブラ)が開発され、今日、世界で頻用されている。これに続く新薬として現在、以下のように、単鎖干渉(si)RNA核酸医薬と抗TFPI抗体、遺伝子治療薬の3種類の開発が進んでいる。siRNA核酸医薬としては、肝臓におけるアンチトロンビンを標的とするフィツシラン(fitusiran)が、唯一、臨床応用に向けて開発が進んでいる。第II相試験における脳静脈洞血栓症による死亡1例を受け、2017年9月に試験中止となるも同年12月の再開を経て、現在は "ATLASプログラム"という複数の第III相試験が進んでおり、2021年上半期には終了予定だという [Sanofi Press Relase 2020 June 19 ] 。抗TFPI抗体は、アンチトロ ンビンと並ぶ主要な抗凝固因子であるTFPI(組織因子経路インヒビター)の阻害を介して止血を改善する。コンシズマブ(concizmab)が先頭を切って第III相試験に入ったが、2020年3月には3例で非致死性血栓塞栓症が報告されたため試験は中止。同年8月には再開されたものの、終了予定時期は明らかにされていない [Novo Nordisk Press Release 2020 Aug. 13] 。あとを追っていたBAY1093884は、第II相試験が血栓症増加のため中止となり [THSNA2020抄録]、2019年9月に安全性を理由とした開発中止が発表された [2019 Bayer Annual Report] 。一方、マルスタシマブ(marstacimab [PF-06741086])は第II相試験で血栓症を含む重篤有害事象が観察されなかったため、2020年11月、第III相試験が開始された。終了予定時期は不明である [Pfizer Press Rleasae 2020 Nov 23]。遺伝子治療の研究も進んでおり、血友病の原因である「血液凝固因子の異常」そのものへの介入を試みられている。 Fidanacogene elaparvovec(PF-06838435)は、血友病B患者に対する第IX因子遺伝子導入薬であり、2018年7月に第III相試験が始まっている [Pfizer Press Release 2018 Jul 16] 。血友病Aに対しては、第VIII因子遺伝子を導入するvaloctocogene roxaparvovec(BMN 270)が今年に入り、第III相試験の予備解析による有意な有用性を報告した [BioMarin Press Release 2021 Jan 10] 。追いかける形となったSPK-8011もすでに予備的第III相試験が走っており、2021年中には本格的な第III相試験が始まる予定である [Spark Therapeutics Press Release 2020 Jul 12] 。

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動脈瘤性クモ膜下出血、トラネキサム酸の超早期投与で改善する?/Lancet

 CTで確認された動脈瘤性クモ膜下出血患者において、超早期のトラネキサム酸による短期間の抗線溶療法は、修正Rankinスケールで測定した6ヵ月後の臨床アウトカム改善に結び付かなかったことが示された。オランダ・アムステルダム大学のRene Post氏らが、約1,000例の患者を対象に行った多施設共同前向き無作為化非盲検試験「ULTRA試験」の結果を、Lancet誌オンライン版2020年12月21日号で発表した。動脈瘤性クモ膜下出血患者において、トラネキサム酸による短期間の抗線溶療法は、再出血リスクを軽減することが示されている。一方で、同療法が臨床アウトカムを改善するかについては不明であった。6ヵ月後の臨床アウトカムを評価 試験は、オランダ24ヵ所の医療施設(治療センター8ヵ所、紹介型病院16ヵ所)を通じて、CTで確認された動脈瘤性クモ膜下出血患者を対象に行われた。 被験者を無作為に2群に分け、一方の群には、診断直後に通常の治療に加えトラネキサム酸投与を開始し、脳動脈瘤治療の直前または投与開始24時間後のいずれか早い時点で中止した(1gボーラス投与、その後1g/8時間で静注)。もう一方の群には、通常の治療のみを行った。 主要エンドポイントは6ヵ月後の臨床アウトカムで、修正Rankinスケールで評価し、良好(0~3点)と不良(4~6点)に二分し評価した。臨床アウトカム良好は両群とも約6割 2013年7月24日~2019年7月29日に、955例が登録された(トラネキサム酸群480例、対照群475例)。 ITT解析の結果、臨床アウトカムが良好だったのはトラネキサム酸群60%(475例中287例)、対照群64%(470例中300例)と、有意差はなかった(治療センターで補正後のオッズ比[OR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.66~1.12)。 無作為化後から動脈瘤治療前までの再出血は、トラネキサム酸群49例(10%)、対照群66例(14%)だった(OR:0.71、95%CI:0.48~1.04)。その他の重篤な有害イベントもまた、両群で同等だった。

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プロ意識に徹するドイツのナース【空手家心臓外科医、ドイツ武者修行の旅】第24回

ドイツは日本と似ていて、ヒエラルキー社会です。上司の言うことは割と絶対で、「俺がこう言ったからこうしろ!」の世界です。ですが、職種間にはタテ関係はありません。自己主張はしっかりしている国民性なので、同僚のナースさん達も「やらないものは、やらない」とハッキリとした態度で仕事に臨まれています。たとえば、朝の入院患者は10時に病棟に来るように伝えられているのですが、朝は10時から11時まで、ナースさんは休憩タイムを取っています。ですから、張り切って病棟に来られた患者さんたちは、意味もなく11時まで待合室に待たされることになります。しかしながら、患者さん達からは「ナースさんの休憩時間なら仕方ないね」と、特にクレームが来たこともありません。と言うか、こんな不合理なシステム、どう考えてもおかしいのですが…。私が働き始めの頃に「おかしくない?」と質問したことがあるのですが、ベテランナースさんにかなり怒られてしまいました。先日も、新しく着任した新人研修医が「このシステムはおかしくないか?」と質問して怒られていました。手術中に事件です!当院では、特にオペ室にはベテランナースさんが相当数存在します。手術の助手をするときは術者だけでなく、ナースさんのクセも覚えて対応していかなくてはなりません。「このナースさんはここで糸切ってくれるけど、このナースさんはハサミを渡してくる人。このナースさんは早めに道具を要求すると機嫌が悪くなる人」など、私の手術メモには、ナースさんの人柄についてもかなりの記載がしてあります。オペ室の、最も若いナースさん(左)とベテランナースさん(右)です。若いナースさんも、上級医相手に一歩も引かずに主張してきます。つい先日、執刀教授が術中の出血にイライラして、「持針器だろ! 早くしろ!」と声を荒げることがありました。その日は大御所ナースさんが担当だったのですが、教授にキレて、手術道具を全部患者の脚の上において、術野に背を向けちゃったことがありました。「後は自分で取れ」ってことで。教授はため息をつきながら自分で道具を掴んで止血していました。バツの悪そうな教授を見て、私は笑いが込み上げてしまいましたが…。その後、5分ほどしたら機嫌を直した大御所ナースさんが振り返って道具を元の台の上に戻し、手術は滞りなく進みましたが…その後、大御所ナースさんは私にしか話しかけてこなかったです。私はいつもより必死にドイツ語で場を盛り上げようと頑張りました。まるで「両親の喧嘩中に気を使う子供」みたいな構図になっていました。マイスターの国、ドイツでは、それぞれのスペシャリスト達が確固たるプライドを持って働いています。教授と言えど、他職種へのリスペクトなくして共に働くことはできないということです。

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日本人のCOVID-19による血栓症発症率は?

 合同COVID-19関連血栓症アンケート調査チームによる『COVID-19関連血栓症に関するアンケート調査』の結果が12月9日に発表された。それによると、日本人での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連血栓症の発症率は、全体では1.85%であることが明らかになった。 この調査は、COVID-19の病態の重症化に血栓症が深く関わっていることが欧米の研究で指摘されていることを受け、日本人COVID-19関連血栓症の病態及び診療実態を明らかにすることを目的として行われたもの。2020年8月31日までに入院したCOVID-19症例を対象とし、全国の病院399施設のうち109施設からCOVID-19患者6,082例に関する回答が寄せられた。なお、合同調査チームは厚生労働省難治性疾患政策研究事業「血液凝固異常症等に関する研究」班、日本血栓止血学会、日本動脈硬化学会の3組織合同によるもの。 主な調査結果は以下のとおり。・Dダイマーは症例全体の72%で測定され、入院中に基準値の3~8倍の上昇を認めたのはそのうちの9.5%、8倍以上の上昇を認めたのは7.7%と、多くの症例で血栓傾向がみられた。・血栓症は1.85%(血栓症に関する回答のあった5,687例のうち105例)に発症し、発症部位は(重複回答を可として)、症候性脳梗塞22例(血栓症症例の21.0%)、心筋梗塞7例(同6.7%)、深部静脈血栓症41例(同39.0%)、肺血栓塞栓症29例(同27.6%)、その他の血栓症21例(同20.0%)であった。・血栓症は、軽/中等症の症例での発症が31例(軽/中等症症例の0.59%)、人工呼吸器/ECMO使用中の発症が50例(人工呼吸/ECMO症例まで要した重症例の13.2%)であった。・症状悪化時に血栓症を発症したのは64例だったが、回復期にも26例が血栓症を発症していた。・抗凝固療法は、76病院で6,082例のうち880例(14.5%)に実施された。治療法の主な内訳は、未分画ヘパリン591例(880例中の67.2%)、低分子量ヘパリン111例(同13.0%)、ナファモスタット234例(同26.6%)、トロンボモジュリンアルファ42例(同4.8%)、前述の薬剤併用138例(同15.7%)、直接経口抗凝固薬[DOAC]91例(同10.3%)、その他42例(同4.8%)だった。・予防的抗凝固療法の実施について回答した49施設によると、予防的投与を行った患者背景として、Dダイマー高値、NPPV(非侵襲的陽圧換気)/人工呼吸患者、酸素投与患者などが挙げられた。

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「バイクロット」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第27回

第27回 「バイクロット」の名称の由来は?販売名バイクロット®配合静注用一般名(和名[命名法])乾燥濃縮人血液凝固第X因子加活性化第VII因子効能又は効果血液凝固第VIII因子又は第IX因子に対するインヒビターを保有する患者の出血抑制用法及び用量本剤1バイアルを添付の日本薬局方注射用水2.5mLで溶解する。活性化人血液凝固第VII因子として、体重1kg当たり症状に応じて1回60~120μgを2~6分かけて緩徐に静脈内に注射する。追加投与は、8時間以上の間隔をあけて行い、初回投与の用量と合わせて、体重1kg当たり180μgを超えないこととする。警告内容とその理由エミシズマブ(遺伝子組換え)の臨床試験で、活性型血液凝固第IX因子及び血液凝固第X因子を含む、活性型プロトロンビン複合体(乾燥人血液凝固因子抗体迂回活性複合体)製剤との併用において重篤な血栓塞栓症及び血栓性微小血管症の発現が複数例に認められている。本剤とエミシズマブ(遺伝子組換え)の併用例では重篤な血栓塞栓症及び血栓性微小血管症の発現は認められていないが、エミシズマブ(遺伝子組換え)投与中及び投与中止後6ヵ月間は、本剤の投与は治療上やむを得ない場合に限ること。血栓塞栓症及び血栓性微小血管症のリスクを増大させる可能性を否定できない。禁忌内容とその理由設定されていない※本内容は2020年11月25日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年6月改訂(第8版)医薬品インタビューフォーム「バイクロット®配合静注用」2)KMバイオロジクス株式会社:医療用医薬品

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腰椎穿刺の脊髄血腫リスク、血液凝固障害との関連は?/JAMA

 腰椎穿刺には脊髄血腫のリスクがあり、とくに血液凝固障害を有する患者でその懸念が高まっているが、発生頻度は確立されていないという。デンマーク・Aalborg大学病院のJacob Bodilsen氏らは、腰椎穿刺と脊髄血腫の関連について検討し、脊髄血腫の発生率は血液凝固障害のない患者で0.20%、血液凝固障害を有する患者では0.23%との結果を得た。研究の詳細は、JAMA誌2020年10月13日号で報告された。腰椎穿刺は、中枢神経系の感染症や神経学的疾患、特定のがんの診断と治療において重要な手技であるが、血液凝固障害を有する患者で脊髄血腫のリスクを強く懸念する医師が、その施行を躊躇する可能性が危惧されている。デンマークの全国的なコホート研究 研究グループは、腰椎穿刺後の脊髄血腫のリスクを、血液凝固障害の有無別に評価する目的で、デンマークの地域住民を対象とする全国的なコホート研究を行った。 デンマークの全国規模の医学レジストリを用いて、2008年1月1日~2018年12月31日の期間に腰椎穿刺を受け、脳脊髄液の解析が行われた患者を特定した(2019年10月30日までフォローアップ)。血液凝固障害は、血小板が150×109/L未満、プロトロンビン時間(PT)の国際標準化比(INR)が1.4以上、または活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が39秒以上と定義された。 主要アウトカムは、腰椎穿刺後30日の時点における、血液凝固障害の有無別の脊髄血腫のリスクとした。低リスク患者の選択によるバイアスの可能性も 6万4,730例(年齢中央値43歳[IQR:22~62]、51%が女性)で、8万3,711件の腰椎穿刺が同定された。血液凝固障害の内訳は、血小板減少が7,875例(9%)、高INR値が1,393例(2%)、APTT延長が2,604例(3%)であった。フォローアップは、参加者の99%以上で完遂された。 30日以内の脊髄血腫は、血液凝固障害のない患者では4万9,526例中99例(0.20%、95%信頼区間[CI]:0.16~0.24)で、血液凝固障害を有する患者では1万371例中24例(0.23%、0.15~0.34)で発生した。 脊髄血腫の独立のリスク因子として、男性(補正後ハザード比[HR]:1.72、95%CI:1.15~2.56)、年齢41~60歳(1.96、1.01~3.81)、年齢61~80歳(2.20、1.12~4.33)が挙げられた。 脊髄血腫のリスクは、全体として血液凝固障害の重症度が高くなっても有意な増加を認めなかった。また、小児、感染症、神経学的疾患、血液腫瘍のサブグループでも、重症度の上昇に伴うリスクの増加はみられなかった。さらに、腰椎穿刺の累積件数が多い患者でリスクが増加することもなかった。 外傷性腰椎穿刺の頻度は、INR値が正常な患者(28.2%、95%CI:27.7~28.75)と比較して、INR値が1.5~2.0の患者(36.8%、33.3~40.4)で高く、同2.1~2.5の患者(43.7%、35.8~51.8)、同2.6~3.0の患者(41.9%、30.5~53.9)でも高かった。また、外傷性脊髄穿刺の頻度は、APTTが正常な患者(21.3%、20.6~21.9)と比較して、APTTが40~60秒(26.3%、24.2~28.5)の患者で高く、リスク差は5.1%(95%CI:2.9〜7.2)であった。 著者は、「これらの知見は、腰椎穿刺に関する意思決定に有益な情報をもたらす可能性があるが、得られたデータは、医師が相対的に腰椎穿刺による脊髄血腫のリスクが低い患者を選択したことによるバイアスを反映している可能性がある」としている。

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外傷性脳損傷への入院前トラネキサム酸投与に有益性なし(解説:中川原譲二氏)-1306

 中等度~重度の外傷性脳損傷(TBI)は、外傷性死亡および障害の最重要の原因であるが、早期のトラネキサム酸投与がベネフィットをもたらす可能性が示唆されていた。そこで、米国・オレゴン健康科学大学のSusan E. Rowell氏らが、多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を報告した(JAMA誌2020年9月8日号掲載の報告)。入院前トラネキサム酸投与の有益性を対プラセボで評価 試験は2015年5月~2017年11月に、米国およびカナダの外傷センター20ヵ所と救急医療機関39ヵ所で実施された。適格患者は、Glasgow Coma Scaleスコア12以下および収縮期血圧90mmHg以上である15歳以上のTBI入院前患者(1,280例)で、受傷2時間以内に治療を開始する以下の3つの介入が評価された。(1)入院前にトラネキサム酸(1g)をボーラス投与し、入院後に同薬(1g)を8時間点滴投与(ボーラス継続群、312例)、(2)入院前にトラネキサム酸(2g)をボーラス投与し、入院後にプラセボを8時間点滴投与(ボーラスのみ群、345例)、(3)入院前にプラセボをボーラス投与し、入院後にプラセボを8時間点滴投与(プラセボ群、309例)。 主要アウトカムは、複合投与群とプラセボ群での6ヵ月時点の良好な神経学的アウトカム(Glasgow Outcome Scale-Extendedスコア4超[中等度障害または良好な回復])とされた。非対称有意性の閾値は、有益性が0.1、有害性は0.025とされた。副次エンドポイントは18項目で、本論文ではそのうち5つ(28日死亡率、6ヵ月時のDisability Rating Scaleスコア[0:障害なし~30:死亡]、頭蓋内出血の進行、発作の発生、血栓塞栓症イベントの発生)が報告された。6ヵ月時の良好なアウトカム、投与群65% vs.プラセボ群62% 参加1,063例のうち、割り付け治療が行われなかった96例とその他1例(登録時に収監)が除外され、解析集団は966例(平均年齢42歳、男性255例[74%]、平均Glasgow Coma Scaleスコア:8)となった。このうち819例(84.8%)について、6ヵ月フォローアップ時の主要アウトカムが解析できた。 主要アウトカムの発生は、投与群65%、プラセボ群62%であった(群間差:3.5%、有益性に関する90%片側信頼区間[CI]:-0.9%[p=0.16]、有害性の97.5%片側CI:10.2%[p=0.84])。副次エンドポイントの28日死亡率(投与群14% vs.プラセボ群17%、群間差:-2.9%[95%CI:-7.9~2.1]、p=0.26)、6ヵ月時のDisability Rating Scaleスコア(6.8 vs.7.6、-0.9[-2.5~0.7]、p=0.29)、頭蓋内出血の進行(16% vs.20%、-5.4%[-12.8~2.1]、p=0.16)については、有意差はみられなかった。トラネキサム酸の有効性に関する詳細な分析が必要 本研究では、中等度~重度のTBIに対する受傷2時間以内の入院前トラネキサム酸の投与は、Glasgow Outcome Scale-Extendedスコアで評価された6ヵ月時点の良好な神経学的アウトカムを有意に改善しなかったと結論された。一般に、中等度~重度のTBIでは、発症早期に頭蓋内出血(硬膜上出血、硬膜下出血、クモ膜下出血、出血性脳挫傷)の増大やびまん性軸索損傷に伴う微小出血などの出血性の頭蓋内病態を軽減することが、転帰の改善につながると想定され、本研究では、発症早期(入院前)に抗線維素溶解薬であるトラネキサム酸を投与することの有効性が検証されたと思われる。しかしながら、中等度~重度のTBIでは、頭蓋内圧亢進や低酸素症、低血圧症など虚血性の頭蓋内病態を引き起こす要因が転帰に大きく影響することが知られており、トラネキサム酸(2g)の入院前投与で、出血性の頭蓋内病態がどの程度軽減されたのか、虚血性の頭蓋内病態が増悪する(長期投与で指摘されている)ことはなかったのか、など詳細について分析する必要があると思われる。 

89.

非心臓手術後に生じる新規発症心房細動がその後の脳卒中・一過性脳虚血発症に関連(解説:今井靖氏)-1290

 一般的に心房細動の存在は脳梗塞や一過性脳虚血発作のリスクとなることは周知のことであるが、非心臓手術の際に生じた新規心房細動が脳梗塞・一過性脳虚血発作のリスクとなるか否かについては必ずしも明らかではない。本研究は、米国ミネソタ州のオルムステッド郡において2000~13年の間に非心臓手術を施行した際に術後30日以内に新規に心房細動を発症した550例を対象に行われた。そのうち452例については年齢、性別および外科手術日、手術内容が一致したコントロール群を設定し、主要臨床転帰は脳梗塞または一過性脳虚血発作発症、副次的臨床転帰はそれに引き続く心房細動発作、死亡、心臓血管死としている。中央値75歳、男性が51.8%の904例間の比較において心房細動を生じた患者では有意にCHA2DS2-VAScスコアが高く(中央値4[IQR:2~5] vs.3[IQR:2~5]、p<0.001)、中央値5.4年の追跡期間において71例が脳梗塞または一過性脳虚血発作を認め(ハザード比2.69[1.35~5.37])、266例で心房細動のエピソードを認めた(ハザード比7.94)。571例が死亡(ハザード比1.66)したが、172例が心臓関連死であった。 周術期の新規発症心房細動は外科的侵襲に伴う交感神経活性化、体循環血液量・心負荷の急激な変化に伴いもたらされる。非心臓手術時においても心臓手術、たとえば冠動脈バイパス手術においてもβ遮断薬を適宜投与し、輸液バランスに細心の注意を払いながら管理する。β遮断薬はハイリスク例においては心筋虚血の回避、不整脈イベントの減少により予後改善が得られるとの論文が過去複数報告されており、日本では必ずしも一般化されていないが、欧米では周術期管理においてβ遮断薬が多く使用される。日常診療下における心房細動発症あるいはその持続が脳血管障害のリスクになることは周知の事実であるが、侵襲によって誘発された心房細動がはたしてどの程度、脳血管障害や死亡へのインパクトがあるか必ずしも統計学的に明らかにされてこなかった。今回の研究ではこの非心臓血管外科周術期の新規発症心房細動が脳梗塞・一過性脳虚血発作の相当のリスクになることが示されたが、いかにそれを防ぐべきか、また術後の止血・再出血の観点から周術期にいかに抗凝固療法を行うべきかについては本研究からは回答を得ることができない。本研究に類似したものが今年POISE研究(Conen D, et al. Eur Heart J. 2020;41:645-651.)においても示されている。今後、抗凝固療法を含めた心房細動を周術期管理について新たな臨床試験・研究で検証する必要性がある。

90.

外傷性脳損傷への入院前トラネキサム酸投与開始は有益か/JAMA

 中等度~重度の外傷性脳損傷(TBI)患者において、受傷2時間以内の入院前トラネキサム酸投与は、プラセボ投与と比較して6ヵ月後の神経学的アウトカム(Glasgow Outcome Scale-Extendedで測定)を有意に改善しないことが示された。米国・オレゴン健康科学大学のSusan E. Rowell氏らが、米国とカナダの外傷センターおよび救急医療機関で行った多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を報告した。TBIは、外傷性の死亡および障害をもたらすが、早期のトラネキサム酸投与がベネフィットをもたらす可能性が示唆されていた。JAMA誌2020年9月8日号掲載の報告。受傷2時間以内のトラネキサム酸投与開始の有益性を対プラセボで評価 研究グループは、中等度~重度TBI患者において、受傷2時間以内に院外にて開始するトラネキサム酸治療が、神経学的アウトカムを改善するかを検討した。試験は2015年5月~2017年11月に、米国およびカナダの外傷センター20ヵ所と救急医療機関39ヵ所で実施した。 適格患者は、Glasgow Coma Scaleスコア12以下および収縮期血圧90mmHg以上である15歳以上のTBI入院前患者(1,280例)で、受傷2時間以内に治療を開始する以下の3つの介入について評価した。(1)入院前にトラネキサム酸(1g)をボーラス投与し、入院後に同薬を8時間点滴投与(ボーラス継続群、312例)、(2)入院前にトラネキサム酸(2g)をボーラス投与し、入院後にプラセボを8時間点滴投与(ボーラスのみ群、345例)、(3)入院前にプラセボをボーラス投与し、入院後にプラセボを8時間点滴投与(プラセボ群、309例)。 主要アウトカムは、両トラネキサム酸投与群とプラセボ群を比較した、6ヵ月時点の良好な神経学的アウトカム(Glasgow Outcome Scale-Extendedスコア4超[中等度障害または良好な回復])であった。非対称有意性の閾値は、有益性が0.1、有害性は0.025とした。 副次エンドポイントは18項目で、本論ではそのうち5つ(28日死亡率、6ヵ月時のDisability Rating Scaleスコア[0:障害なし~30:死亡]、頭蓋内出血の進行、発作の発生、血栓塞栓症イベントの発生)を報告している。6ヵ月時の良好な神経学的アウトカム、トラネキサム酸群65% vs.プラセボ群62% 主要解析に包含された1,063例のうち、割り付け治療が行われなかった96例とその他1例(登録時に収監)が除外され、解析集団は966例(平均年齢42歳、男性255例[74%]、平均Glasgow Coma Scaleスコア:8)であった。このうち819例(84.8%)について、6ヵ月フォローアップ時に主要アウトカム解析のデータが入手できた。 主要アウトカムの発生は、トラネキサム酸群65%、プラセボ群62%であった(群間差:3.5%、有益性に関する90%片側信頼区間[CI]:-0.9%[p=0.16]、有害性の97.5%片側CI:10.2%[p=0.84])。 副次エンドポイントの28日死亡率(トラネキサム酸群14% vs.プラセボ群17%、群間差:-2.9%[95%CI:-7.9~2.1]、p=0.26)、6ヵ月時のDisability Rating Scaleスコア(6.8 vs.7.6、-0.9[-2.5~0.7]、p=0.29)、頭蓋内出血の進行(16% vs.20%、-5.4%[-12.8~2.1]、p=0.16)について、有意差はみられなかった。

91.

重症血友病A、BIVV001融合蛋白による第VIII因子補充療法が有効/NEJM

 重症血友病Aの男性患者の治療において、新規融合タンパク質BIVV001(rFVIIIFc-VWF-XTEN)の単回静脈内注射により、第VIII因子活性が高値で維持され、半減期は遺伝子組み換え第VIII因子の最大4倍に達し、本薬は投与間隔1週間の新規クラスの第VIII因子機能代替製剤となる可能性があることが、米国・Bloodworks NorthwestのBarbara A. Konkle氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年9月10日号に掲載された。第VIII因子機能代替製剤は血友病A患者の治療を改善したが、これらの製剤は半減期が短く、患者QOLの改善は十分ではないという。また、遺伝子組み換え第VIII因子の半減期は、von Willebrand因子(VWF)のシャペロン作用のため15~19時間とされる。BIVV001は、この半減期の上限を克服し、第VIII因子活性を高値で維持するようデザインされた新規融合蛋白である。日米の施設が参加した第I/IIa相試験 本研究は、重症血友病A患者におけるBIVV001の安全性と薬物動態の評価を目的とする第I/IIa相試験であり、米国の6施設と日本の1施設が参加した(SanofiとSobiの助成による)。 対象は、治療歴のある重症血友病A(内因性第VIII因子活性<1%)の男性患者16例(18~65歳)であった。これらの患者は、遺伝子組み換え第VIII因子の単回静脈内注射を、25 IU/kg体重で受ける群(低用量群)、または65 IU/kgで受ける群(高用量群)に連続的に割り付けられた。3日以上の休薬期間の後、患者はBIVV001の単回静脈内注射を、それぞれ遺伝子組み換え第VIII因子と同じ用量の25 IU/kgまたは65 IU/kgで受けた。 主要エンドポイントは、有害事象および臨床的に重要な検査値異常とし、インヒビターの発現、VWF活性(リストセチンコファクター活性で評価)、VWF抗原量が含まれた。副次エンドポイントは薬物動態であった。高用量群の接種後第VIII因子平均値、4日間は≧51%、7日目は17% 低用量群の7例(平均年齢33歳[範囲:19~60]、日本人1例、診断後の平均期間:29.9±8.1年)では、全例が遺伝子組み換え第VIII因子の投与を受けたが、BIVV001の投与を受けたのは6例で、1例はBIVV001の投与前に脱落したが、第VIII因子の薬物動態の評価には含まれた。高用量群の9例(44歳[32~63]、日本人1例、40.6±10.0年)は、全例が両薬剤の投与を受けた。 BIVV001注射から28日間までに、第VIII因子インヒビターは検出されず、過敏症やアナフィラキシーは報告されなかった。また、BIVV001注射以降にVWF活性やVWF抗原の臨床的に重要な変化は検出されなかった。 遺伝子組み換え第VIII因子治療期に、3例で8件の有害事象が報告された。8件中4件は低用量群の1例で発現した重篤な有害事象で、このうちの1件(自動車事故)は合併症のため、この患者はBIVV001投与前に試験から脱落した。最も頻度の高い有害事象はトロンビン・アンチトロンビンIII複合体の無症状での上昇(2例、各群1例ずつ)で、いずれも担当医により治療関連と判定された。 BIVV001治療期には、9例で18件の有害事象が報告された。重篤な有害事象として、以前の虫垂切除術の合併症に起因する小腸閉塞が1例にみられた。最も頻度の高い有害事象はトロンビン・アンチトロンビンIII複合体の無症状での上昇(2例、各群1例ずつ、いずれも遺伝子組み換え第VIII因子治療期の2例と同じ患者)と頭痛(2例、各群1例ずつ)で、前者は担当医により治療関連と判定された。 BIVV001の半減期の幾何平均値は、遺伝子組み換え第VIII因子の3~4倍であった(低用量群:37.6時間vs.9.1時間、高用量群:42.5時間vs.13.2時間)。また、製剤への曝露の曲線下面積(AUC)は、BIVV001が遺伝子組み換え第VIII因子の6~7倍だった(低用量群:4,470時間×IU/dL vs.638時間×IU/dL、高用量群:1万2,800時間×IU/dL vs 1,960時間×IU/dL)。 高用量群におけるBIVV001注射後の第VIII因子の平均値は、4日間は正常範囲内(≧51%、範囲:35~72%)で、7日目は17%(範囲:13~23%)であった。これは、1週間空けた投与の可能性を示唆する。 著者は、「BIVV001注射により、第VIII因子活性は、正常化期間を経た後高値で持続したことから、本薬は重症血友病A患者において、あらゆる種類の出血に対するより良好な防御とともに、製剤の投与間隔の延長をもたらす可能性がある」としている。

92.

日本人超高齢の心房細動、エドキサバン15mgは有益/NEJM

 標準用量の経口抗凝固薬投与が適切ではない、非弁膜症性心房細動(AF)の日本人超高齢患者において、1日1回15mg量のエドキサバンは、脳卒中または全身性塞栓症の予防効果がプラセボより優れており、大出血の発生頻度はプラセボよりも高率ではあるが有意差はなかったことが示された。済生会熊本病院循環器内科最高技術顧問の奥村 謙氏らが、超高齢AF患者に対する低用量エドキサバンの投与について検討した第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベントドリブン試験の結果で、NEJM誌オンライン版2020年8月30日号で発表された。超高齢AF患者の脳卒中予防のための経口抗凝固薬投与は、出血への懸念から困難と判断されることが少なくない。エドキサバン15mgを標準用量が懸念される超高齢AF患者で試験 試験は、非弁膜症性AFを有する日本人超高齢患者(80歳以上)で、いずれも脳卒中予防のために承認用量での経口抗凝固療法について適切ではないと見なされる患者であった。 被験者を1対1の割合で無作為に割り付け、エドキサバン15mgを1日1回またはプラセボを投与し追跡した。 主要有効性エンドポイントは、脳卒中・全身性塞栓症の複合とし、主要安全性エンドポイントは、国際血栓止血学会の定義に基づく大出血とした。エドキサバン15mgが脳卒中・全身性塞栓症を有意に抑制 2016年8月5日~2019年11月5日に984例の患者が無作為化を受け、エドキサバン1日1回15mg(492例)、またはプラセボ(492例)を投与された。被験者の平均年齢は86.6±4.2歳、低体重(平均50.6±11.0kg)、腎機能は低下(平均クレアチニンクリアランス36.3±14.4mL/分)、40.9%の被験者がフレイルに分類された。最終フォローアップは2019年12月27日。試験期間中央値は466.0日(IQR:293.5~708.0)であった。 681例が試験を完了し、303例は試験を中止した(158例が中止、135例が死亡、10例がその他の理由による)。試験を中止した患者数は2群で同等であった。 脳卒中または全身性塞栓症の年間発現頻度は、エドキサバン15mg群2.3%/年、プラセボ群6.7%/年(ハザード比[HR]:0.34、95%信頼区間[CI]:0.19~0.61、p<0.001)であった。また、大出血の年間発現頻度は、エドキサバン15mg群3.3%/年、プラセボ群1.8%/年(1.87、0.90~3.89、p=0.09)であった。 エドキサバン15mg群はプラセボ群に比べて、消化管出血イベントが有意に多かった。あらゆる原因による死亡については、両群間で実質的な違いはみられなかった(エドキサバン15mg群9.9%、プラセボ群10.2%、HR:0.97、95%CI:0.69~1.36)。

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COVID-19重症化への分かれ道、カギを握るのは「血管」

 COVID-19を巡っては、さまざまなエビデンスが日々蓄積されつつある。国内外における論文発表も膨大な数に上るが、時の検証を待つ猶予はなく、「現段階では」と前置きしつつ、その時点における最善策をトライアンドエラーで推し進めていくしかない。日本高血圧学会が8月29日に開催したwebシンポジウム「高血圧×COVID-19白熱みらい討論」では、高血圧治療に取り組むパネリストらが最新知見を踏まえた“new normal”の治療の在り方について活発な議論を交わした。高血圧はCOVID-19重症化リスク因子か パネリストの田中 正巳氏(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)は、高血圧とCOVID-19 重篤化の関係について、米・中・伊から報告された計9本の研究論文のレビュー結果を紹介した。論文は、いずれも同国におけるCOVID-19患者と年齢を一致させた一般人口の高血圧有病率を比較したもの。それによると、重症例においては軽症例と比べて高血圧の有病率が高く、死亡例でも生存例と比べて有病率が高いとの報告が多かったという。ただし、検討した論文9本(すべて観察研究)のうち7本は単変量解析の結果であり、交絡因子で調整した多変量解析でもリスクと示されたのは2本に留まり、ほか2本では高血圧による重症化リスクは多変量解析で否定されている。田中氏は、「今回のレビューについて見るかぎりでは、高血圧がCOVID-19患者の重症化リスクであることを示す明確な疫学的エビデンスはないと結論される」と述べた。 一方で、米国疾病予防管理センター(CDC)が6月25日、COVID-19感染時の重症化リスクに関するガイドラインを更新し、高血圧が重症化リスクの一因であることが明示された。これについて、パネリストの浅山 敬氏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座)は、「ガイドラインを詳細に見ると、“mixed evidence(異なる結論を示す論文が混在)”とある。つまり、改訂の根拠となった文献は、いずれも高血圧の有病率を算出したり、その粗結果を統合(メタアナリシス)したりしているが、多変量解析で明らかに有意との報告はない」と説明。その上で、「現時点では高血圧そのものが重症化リスクを高めるというエビデンスは乏しい。ただし、高血圧患者には高齢者が多く、明らかなリスク因子を有する者も多い。そうした点で、高血圧患者には十分な注意が必要」と述べた。降圧薬は感染リスクを高めるのか 高血圧治療を行う上で、降圧薬(ACE阻害薬、ARB)の使用とCOVID-19との関係が注目されている。山本 浩一氏(大阪大学医学部老年・腎臓内科学)によれば、SARS-CoV-2は気道や腸管等のACE2発現細胞を介して生体内に侵入することが明らかになっている。山本氏は、「これまでの研究では、COVID-19の病態モデルにおいてACE2活性が低下し、RA系阻害薬がそれを回復させることが報告されている。ACE2の多面的作用に注目すべき」と述べた。これに関連し、パネリストの岸 拓弥氏(国際医療福祉大学大学院医学研究科)が国外の研究結果を紹介。それによると、イタリアの臨床研究1)ではRA系阻害薬を含むその他の降圧薬(Ca拮抗薬、β遮断薬、利尿薬全般)について、性別や年齢で調整しても大きな影響は見られないという。一方、ニューヨークからの報告2)でも同様に感染・重症化リスクを増悪させていない。岸氏は、「これらのエビデンスを踏まえると、現状の後ろ向き研究ではあるが、RA系阻害薬や降圧薬の使用は問題ない」との認識を示した。COVID-19重症化の陰に「血栓」の存在 パネリストの茂木 正樹氏(愛媛大学大学院医学系研究科薬理学)は、COVID-19が心血管系に及ぼす影響について解説した。COVID-19の主な合併症として挙げられるのは、静脈血栓症、急性虚血性障害、脳梗塞、心筋障害、川崎病様症候群、サイトカイン放出症候群などである。SARS-CoV-2はサイトカインストームにより炎症細胞の過活性化を起こし、正常な細胞への攻撃、さらには間接的に血管内皮を傷害する。ウイルスが直接内皮細胞に侵入し、内皮の炎症(線溶系低下、トロンビン産生増加)、アポトーシスにより血栓が誘導されると考えられる。また、SARS-CoV-2は血小板活性を増強することも報告されている。こうした要因が重ることで血栓が誘導され、虚血性臓器障害を起こすと考えられる。 さらに、SARS-CoV-2は直接心筋へ感染し、心筋炎を誘導する可能性や、免疫反応のひとつで、初期感染の封じ込めに役立つ血栓形成(immnothoronbosis)の制御不全による血管閉塞を生じさせる可能性があるという。とくに高血圧患者においては、血管内細胞のウイルスによる障害のほかに、ベースとして内皮細胞の障害がある場合があり、さらに血栓が誘導されやすいと考えられるという。茂木氏は、「もともと高血圧があり、血管年齢が高い場合には、ただでさえ血栓が起こりやすい。そこにウイルス感染があればリスクは高まる。もちろん、高血圧だけでなく動脈硬化がどれだけ進行しているかを調べることが肝要」と述べた。 パネリストの星出 聡氏(自治医科大学循環器内科)は、COVID-19によって引き起こされる心血管疾患の間接的要因に言及。自粛による活動度の低下、受診率の低下、治療の延期などにより、持病の悪化、院外死の増加、治療の遅れにつながっていると指摘。とくに高齢者が多い地域では、感染防止に対する意識が強く、自主的に外出を控えるようになっていた。その結果、血圧のコントロールが悪くなり、LVEFの保たれた心不全(HFpEF、LVEF 50%以上と定義)が増えたほか、血圧の薬を1日でも長く延ばそうと服用頻度を1日おきに減らしたことで血圧が上がり、脳卒中になったケースも少なくなかったという。星出氏は、「今後の心血管疾患治療を考えるうえで、日本においてはCOVID-19がもたらす間接的要因にどう対処するかが非常に大きな問題」と指摘した。

94.

ツリウムレーザーを用いた経尿道的前立腺蒸散術:既存の経尿道的前立腺切除術とのランダム化比較試験(解説:宮嶋哲氏)-1269

 現在、前立腺肥大症(BPH)に対して薬物治療抵抗性ないしは尿閉を来した症例に対する治療法として経尿道的前立腺切除術(TURP)は、ゴールドスタンダードの1つである。本研究は2014年から2016年にかけて英国の7病院においてBPHによる下部尿路症状を来した410症例を対象に、BPHに対するTURPとツリウムレーザーを用いた経尿道的前立腺蒸散術(ThuVARP)を比較検討したRCTである。主要評価項目は術後12ヵ月目における最大尿流率(Qmax)と国際前立腺症状スコア(IPSS)の改善である。TURP術後Qmax(平均23.2mL/s)はThuVARP術後Qmax(平均20.2mL/s)より優れていたが、IPSSの改善は同等な結果であった。術後在院期間は両群ともに48時間で差を認めず、合併症の頻度も同等であった。 BPHに対するツリウムレーザー手術は2015年にわが国に導入され、2017年の『男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン』では、治療の推奨レベルBとして位置付けられている(TURPは推奨レベルA)。ツリウムレーザーの波長は1,940-2,013nmであり、水分子に吸収されやすく前立腺組織への深達長は0.2mmと浅い。連続波で照射可能であり、高い蒸散効果、凝固能力、そして切開能を有するのでThuVARPのような蒸散術に適する。わが国で広く普及しているホルミウムレーザーは波長が2,100nmとツリウムレーザーに近いが、非連続波として照射されるため、そのエネルギーは衝撃波として前立腺内の剥離、核出に利用されている。しかし、ツリウムレーザーのような蒸散および切開能は乏しいと考えられている。KTPレーザーの波長は532nmとヘモグロビンの吸収域にあり、止血効果が高いが予想以上に凝固層が深くなる欠点がある。 現在、さまざまなレーザーが前立腺手術のモダリティとして応用されているが、そのメリットとデメリットを理解したうえで使用することが望ましい。

95.

忘れてはいけない日本の貢献(解説:後藤信哉氏)-1254

 欧米列強に追い付け追い越せの明治時代の日本の勢いはすさまじかった。国力の勝負としての戦争は歴史に残る。日露戦争はとても互角とは言えない相手に競り勝ち、大東亜戦争も常識的に勝てるはずのない相手と同じ土俵に乗った。医学の世界でも、北里 柴三郎による破傷風の抗毒素血清療法は画期的であった。細菌学における日本の貢献は、その時の経済力から考えると驚異的である。 近年はやりの抗凝固薬、抗血栓薬の開発にも日本は画期的役割を果たした。とくに、「止血のための抗線溶薬」となると世界における日本の貢献は突出している。線溶を担うプラスミンの選択的阻害薬トラネキサム酸を開発したのは日本である。「止血薬」となると世界の第1選択はトラネキサム酸である。消化管出血でも、まず安価なトラネキサム酸にて止血を図ろうとするのが世界の標準医療である。 Yes/Noの明確な英語の世界では「正しい」治療と「正しくない」治療が定義されている。「正しい」治療とはランダム化比較試験により検証された治療であり、検証されていない治療は「正しくない」かもしれないとされる。本研究では、世界で第一にひらめく線溶阻害薬トラネキサム酸に出血死亡予防効果があるか否かが、世界1万2,009例のランダム化比較試験により検証された。プラセボとトラネキサム酸では死亡率に差がないとされた。1万2,009例ものランダム化比較試験が世界にて施行できたことに驚く。また、十分に経済成長していない日本にて世界標準の出血阻害薬トラネキサム酸が開発された歴史的事実にも驚愕する。 少なくとも先人の世代まで日本は「すごい国」だったし、医学領域でも世界の誰からも尊敬される日本人がいた。さて、われらの世代から世界を驚嘆させる新薬の開発などが可能だろうか?

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トラネキサム酸、消化管出血による死亡を抑制せず/Lancet

 急性期消化管出血の治療において、トラネキサム酸はプラセボに比べ死亡を抑制せず、静脈血栓塞栓症イベント(深部静脈血栓症または肺塞栓症)の発生率が有意に高いことが、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のIan Roberts氏らが実施した「HALT-IT試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2020年6月20日号に掲載された。トラネキサム酸は、外科手術による出血を低減し、外傷患者の出血による死亡を抑制することが知られている。また、本試験開始前のCochraneの系統的レビューとメタ解析(7試験、1,654例)では、消化管出血による死亡を低下させる可能性が示唆されていた(統合リスク比[RR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.42~0.89、p=0.01)。一方、メタ解析に含まれた試験はいずれも小規模でバイアスのリスクがあるため、大規模臨床試験による確証が求められていた。トラネキサム酸の死亡抑制効果を15ヵ国164施設で評価 本研究は、消化管出血の治療におけるトラネキサム酸の死亡抑制効果を評価する国際的な無作為化プラセボ対照比較試験であり、15ヵ国164施設の参加の下、2013年7月~2019年6月の期間に患者登録が行われた(英国国立衛生研究所医療技術評価[NIHR HTA]プログラムの助成による)。 対象は、参加各国の成人の最小年齢(16歳または18歳)以上の上部または下部消化管出血で、臨床的に重篤な出血がみられる患者であった。重篤な出血は、死亡に至るリスクがある出血と定義され、低血圧、頻脈、ショック徴候のある患者、または輸血や緊急内視鏡検査、手術が必要となる可能性が高い患者が含まれた。 被験者は、トラネキサム酸またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。トラネキサム酸は、負荷投与量1gを10分間かけて緩徐に静脈内投与した後、維持用量3gを125mg/時で24時間かけて投与された。 主要アウトカムは、無作為割り付けから5日以内の出血による死亡とした。割り付けられた治療薬の投与を受けなかった患者、および死亡に関するアウトカムデータが得られなかった患者は、トラネキサム酸の死亡抑制効果の解析から除外された。トラネキサム酸群の静脈血栓塞栓症0.8% vs. プラセボ群0.4% 1万2,009例が登録され、トラネキサム酸群に5,994例(平均年齢58.1[SD 17.0]歳、女性36%)、プラセボ群には6,015例(58.1[SD 17.0]歳、35%)が割り付けられた。1万1,952例(99.5%)が、割り付けられた治療薬の1回以上のトラネキサム酸またはプラセボの投与を受けた。 試験期間中に1,112例が死亡し、無作為割り付けから死亡までの期間中央値は55時間(IQR:18.2~161.8)だった。 5日以内に出血によって死亡した患者は、トラネキサム酸群が5,956例中222例(3.7%)、プラセボ群は5,981例中226例(3.8%)であり(RR:0.99、95%CI:0.82~1.18)、両群間に有意な差は認められなかった。ベースラインの共変量を補正した場合(0.98、0.82~1.17)およびper-protocol解析(0.94、0.71~1.23)でも、結果はほぼ同様であった。 24時間以内の出血による死亡(トラネキサム酸群2.1% vs.プラセボ群2.0%、RR:1.04、95%CI:0.81~1.33)および28日以内の出血による死亡(4.2% vs.4.4%、0.97、0.82~1.15)にも、両群間に有意な差はみられなかった。 28日以内の全死因死亡率(9.5% vs.9.2%、RR:1.03、95%CI:0.92~1.16)に有意な差はなく、再出血率(24時間、5日、28日)も両群間でほぼ同等であった。また、手術、放射線治療、血液製剤の輸注を受けた患者の割合にも有意な差はなかった。 合併症については、動脈血栓塞栓イベント(心筋梗塞、脳卒中)の発生率は両群でほぼ同等であった(0.7% vs.0.8%、RR:0.92、95%CI:0.60~1.39)。一方、静脈血栓塞栓症イベントの発生率は、トラネキサム酸群で有意に高かった(0.8% vs.0.4%、1.85、1.15~2.98)。 著者は、「最新のCochraneレビュー(8試験、1,701例)では、トラネキサム酸の消化管出血による死亡の抑制効果が示されている(RR:0.60、95%CI:0.42~0.87)。今回の知見により、小規模試験のメタ解析は、信頼性が低いことが浮き彫りとなった」と指摘し、「静脈血栓塞栓症のリスク増大が明確となったことから、トラネキサム酸は無作為化試験以外では消化管出血の治療に使用すべきではない」としている。

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「トランサミン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第6回

第6回 「トランサミン」の名称の由来は?販売名トランサミン®錠250mg/500mg、トランサミン®カプセル250mg、トランサミン®散50%、トランサミン®シロップ5%※注射剤は内服薬のインタビューフォームと異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])トラネキサム酸(JAN)効能又は効果○全身性線溶亢進が関与すると考えられる出血傾向(白血病、再生不良性貧血、紫斑病等、及び手術中・術後の異常出血)○局所線溶亢進が関与すると考えられる異常出血(肺出血、鼻出血、性器出血、腎出血、前立腺手術中・術後の異常出血)○下記疾患における紅斑・腫脹・そう痒等の症状湿疹及びその類症、蕁麻疹、薬疹・中毒疹○下記疾患における咽頭痛・発赤・充血・腫脹等の症状扁桃炎、咽喉頭炎○口内炎における口内痛及び口内粘膜アフター用法及び用量トランサミン錠 250mg、トランサミン錠 500mg、トランサミンカプセル 250mg、トランサミン散 50%トラネキサム酸として、通常成人1日750~2,000mgを3~4回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。トランサミンシロップ 5%トラネキサム酸として通常下記1日量を3~4回に分割経口投与する。なお、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】トロンビンを投与中の患者※本内容は2020年7月1日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2018年2月改訂(改訂第11版)医薬品インタビューフォーム「トランサミン®錠250mg/500mg、トランサミン®カプセル250mg、トランサミン®散50%、トランサミン®シロップ5%」2)第一三共:製品情報

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COVID-19による静脈血栓症、入院前に発症か/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者では、Dダイマーと凝固系での凝固促進変化、この感染症に関連する静脈および動脈血栓症の上昇率が報告されている。現時点でのさまざまな論文報告によると、ICUに入室したCOVID-19患者の死亡率は50%と高い。とくに動脈・静脈での血栓イベント発症の報告は多く、末梢静脈血栓塞栓症は27~69%、肺塞栓症は最大23%も発生している。 フランス・CCN(centre cardiologique du nord saint denis)のJulien Nahum氏らが観察研究を行った結果、深部静脈血栓症の発症割合は79%と高く、早期発見と抗凝固療法を迅速に開始することで予後を改善する可能性が示唆された。また、抗凝固薬を予防投与したにもかかわらず、ICU入室後わずか2日で患者の15%が深部静脈血栓症を発症したことから、COVID-19のICU患者すべてにおいて系統的に抗凝固療法を評価する必要があるとしている。JAMA Network Open 2020年5月29日号のリサーチレターに報告した。 研究者らは、2020年3月中旬~4月初旬、フランス・パリ郊外にある病院の集中治療室(ICU)に入室したCOVID-19重症患者(急性呼吸窮迫症候群を起こし、人工呼吸を要した)を対象に深部静脈血栓症の系統的な評価を行う目的で観察研究を実施した。 研究者らは、ICU入室時、過去に炎症マーカー値の上昇を示したデータや入院時の静脈血栓症の発症率が高いことを考慮し、COVID-19患者全症例に対して下肢静脈エコーを実施。入院時の検査値が正常でも48時間後に下肢静脈エコーを行い、COVID-19の全入院患者に抗凝固療薬の予防投与を推奨した。統計分析はグラフパッドプリズム(ver.5.0)とExcel 365(Microsoft Corp)を用い、両側検定を有意水準5%として行った。 主な結果は以下のとおり。・計34例が組み込まれ、平均年齢±SDは62.2±8.6歳で、25例(78%)が男性だった。・COVID-19患者のうち26例(76%)がPCR法で診断された。 ・8例(24%)はPCR法で陰性だったが、CT画像でCOVID-19肺炎の典型的なパターンを示した。・主な併存疾患は、糖尿病(15例[44%])、高血圧症(13例[38%])、肥満(平均BMI±SD:31.4±9.0)で、深部静脈血栓症を最も発症していたのは、糖尿病(12例/15例)、次いで高血圧(9例/13例)だった。・ 26例(76%)は入院時にノルアドレナリンを、16例(47%)は腹臥位管理を、4例(12%)は体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とした。・入院前に抗凝固療法を受けていた患者はわずか1例(3%)だった。・深部静脈血栓症は、入院時に22例(65%)、ICU入室48時間後に下肢静脈エコーを行った際5例(15%)で見られ、入院から48時間経過時点で計27例(79%)に認められた。 ・血栓症の発症部位は、両側性が18例(53%)、遠位が23例(68%)で、近位が9例(26%)だった。 ・過去に報告されたデータと比較して、今回の集団ではDダイマー(平均±SD:5.1±5.4μg/mL)、フィブリノーゲン(同:760±170mg/dL)およびCRP(同:22.8±12.9mg/dL)の値が高かった。一方、プロトロンビン活性(同:85±11.4%)と血小板数(同:256×103±107×103/μL)は正常だった。

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特例承認された新型コロナ治療薬「ベクルリー点滴静注用100mg」【下平博士のDIノート】第49回

特例承認された新型コロナ治療薬「ベクルリー点滴静注用100mg」今回は、抗ウイルス薬「レムデシビル注射用凍結乾燥製剤(商品名:ベクルリー点滴静注用100mg、製造販売元:ギリアド・サイエンシズ)」を紹介します。本剤は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として、時限的かつ特例的に承認されました。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の適応で、2020年5月7日に特例承認されました。なお、臨床試験などにおける主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による肺炎を有する患者を対象に投与を行うこと。<用法・用量>本剤は、生理食塩液に添加し、30~120分かけて点滴静注します。通常、レムデシビルとして、成人および体重40kg以上の小児には投与初日に200mg、2日目以降は100mgを、体重3.5kg以上40kg未満の小児には投与初日に5mg/kg、投与2日目以降は2.5mg/kgを1日1回点滴静注します。なお、総投与期間の目安は5日までとし、症状の改善が認められない場合は10日目まで投与します。<安全性>SARS-CoV-2による感染症患者1,313例を対象とした国際共同第III相試験において、因果関係ありと判断された有害事象は175例(13.3%)報告されました。主な副作用としては、悪心34例(26%)、ALT増加33例(2.5%)、AST増加32例(2.4%)、トランスアミナーゼ上昇15例(1.1%)など。重大な副作用として、肝機能障害、過敏症(Infusion Reaction、アナフィラキシーを含む)が現れることがあります。<重要な基本的注意>1.肝機能障害が現れることがあるので、投与前および投与中は定期的に腎機能検査、肝機能検査を行い、患者の状態を十分に観察する必要があります。2.低血圧や嘔吐、発汗、振戦などのインフュージョン・リアクション(急性輸注反応)が現れることがあるので、異常が認められた場合はただちに投与を中止し、適切な処置が必要です。これらの発現を回避できる可能性があるため、本剤の緩徐な投与を考慮してください。3.添加剤スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウムにより腎機能障害が現れる恐れがあるので、投与前および投与中は定期的に腎機能検査を行い、患者の状態を十分に観察する必要があります。<Shimo's eyes>今回、COVID-19に対する初めての治療薬が承認されました。SARS-CoV-2は「一本鎖プラス鎖RNAウイルス」で、同類としてはエンテロウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルスなどが知られています。本剤は、RNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害することでウイルスの増殖を抑制する作用を持ち、新型インフルエンザ治療薬ファビピラビル(商品名:アビガン)と同じ機序となります。本剤は、もともとエボラ出血熱などの新興感染症の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬で、米国では5月1日から緊急的に重症患者への使用が認められました。これを受け、わが国でも特例承認制度が適用され、申請からわずか3日という異例の速さで承認されました。なお、承認薬となったのはわが国が世界初です。本剤は、重症患者の症状改善や回復までの期間短縮が期待されています。米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導するプラセボ対照第III相試験(ACTT試験:COVID-19による中等度から重度の症状を呈する患者[きわめて重症の患者を含む]を対象としたレムデシビルのランダム化比較試験)において、レムデシビル群の回復までの日数中央値は11日で、プラセボ群の15日より4日短いことが示されました。一方で、死亡率については、統計学的に有意な差は得られませんでした(8.0% vs.11.6%、p=0.059)。重大な副作用として、肝機能障害、インフュージョン・リアクションなどが報告されています。なお、SARS-CoV-2による感染症患者を対象とした臨床試験(NIAID ACTT-1)では、プロトロンビン時間延長または国際標準化比(INR)増加の発現割合はプラセボ群と比較して本剤投与群で高かったことが報告されています。両投与群間で出血イベントの発現に差は認められていません。なお、本剤は2021年8月から保険適用となりました。※2021年8月、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 ベクルリー点滴静注用100mg

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COVID-19に特例承認のレムデシビル、添付文書と留意事項が公開

 2020年5月8日、ギリアド・サイエンシズ社(以下、ギリアド社、本社:米カリフォルニア州)は、特例承認制度の下、レムデシビル(商品名:ベクルリー)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として承認されたことを発表した。現時点では供給量が限られているため、ギリアド社より無償提供され、公的医療保険との併用が可能である。 本治療薬は5月1日に米国食品医薬品局(FDA)よりCOVID-19治療薬としての緊急時使用許可を受け、日本では5月4日にギリアド社の日本法人から厚生労働省へ承認申請が出されていた。レムデシビル投与、対象者の選定に注意 レムデシビルはエボラウイルス、マールブルグウイルス、MERSウイルス、SARSウイルスなど、複数種類の新興感染症病原体に対し、in vitroと動物モデルを用いた試験の両方で広範な抗ウイルス活性が認められている核酸アナログである。 添付文書に記載されている主なポイントは以下のとおり。・投与対象者は、酸素飽和度(SpO2)が94%(室内気)以下、酸素吸入を要する、体外式膜型人工肺(ECMO)導入または侵襲的人工呼吸器管理を要する重症患者。・警告には急性腎障害、肝機能障害の出現について記載されており、投与前及び投与中は毎日腎機能・肝機能検査を行い、患者状態を十分に観察する。・臨床検査値(白血球数、白血球分画、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数、クレアチニン、グルコース、総ビリルビン、AST、ALT、ALP、プロトロンビン時間など)について、適切なモニタリングを行う。・Infusion Reaction(低血圧、嘔気、嘔吐、発汗、振戦など)が現れることがある。・用法・用量は、通常、成人及び体重40kg以上の小児にはレムデシビルとして、投与初日に200mgを、投与2日目以降は100mgを1日1回点滴静注する。通常、体重3.5kg以上40kg未満の小児にはレムデシビルとして、投与初日に5mg/kgを、投与2日目以降は2.5mg/kgを1日1回点滴静注する。なお、総投与期間は10日までとする。ただし、これに関連する注意として、「本剤の最適な投与期間は確立していないが、目安としてECMO又は侵襲的人工呼吸器管理が導入されている患者では総投与期間は10日間までとし、ECMO又は侵襲的人工呼吸器管理が導入されていない患者では5日目まで、症状の改善が認められない場合には10日目まで投与する」「体重3.5kg以上40kg未満の小児には、点滴静注液は推奨されない」との記載があり、投与期間や体重制限などに注意が必要である。・小児や妊婦への投与は治療上の有益性などを考慮する。・主な有害事象は、呼吸不全(10例、6%)、急性呼吸窮迫症候群(3例、1.8%)、呼吸窮迫(2例、1.2%)、敗血症性ショック(3例、1.8%)、肺炎(2例、1.2%)、敗血症(2例、1.2%)、急性腎障害(6例、3.7%)、腎不全(4例、2.5%)、低血圧(6例、3.7%)など。 このほか、厚生労働省が発出した留意事項には、適応患者の選定について、以下を参考にするよう記載されている。■■■<適格基準> ・PCR検査においてSARS-CoV-2が陽性 ・酸素飽和度が94%以下、酸素吸入又はNEWS2スコア4以上・入院中 <除外基準>・多臓器不全の症状を呈する患者 ・継続的に昇圧剤が必要な患者 ・ALTが基準値上限の5倍超 ・クレアチニンクリアランス30mL/min未満又は透析患者 ・妊婦■■■ また、本剤を投与する医療機関において迅速なデータ提供を求めており、「本剤には承認条件として可能な限り全症例を対象とした調査が課せられているが、本剤については安全性及び有効性に関するデータをとくに速やかに収集する必要がある」としている。2つの臨床試験と人道的見地に基づき承認へ 今回の承認は、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導するプラセボ対象第III相臨床試験(ACTT:Adaptive COVID-19 Treatment Trial、COVID-19による中等度から重度の症状を呈する患者[極めて重症の患者を含む]を対象)、ならびにギリアド社が実施中のCOVID-19重症患者を対象とするグローバル第III相試験(SIMPLE Study:重症例を対象にレムデシビルの5日間投与と10日間投与を評価)の臨床データ、そして、日本で治療された患者を含むギリアド社の人道的見地から行われた投与経験データに基づくもの。 ギリアド社によると、2020年10月までに50万人分、12月までに100万人分、必要であれば2021年には数百万人分の生産量を目標としている(各患者が10日間投与を受けると想定して計算)。

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