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第190回 コロナ経口薬投与患者の5人に1人がリバウンド

コロナ経口薬投与患者の5人に1人がリバウンドファイザーのコロナウイルス感染症(COVID-19)の経口薬ニルマトレルビル・リトナビル(日本での商品名:パキロビッドパック)は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼ(Mpro)を阻害してSARS-CoV-2の複製を食い止めます。軽~中等度のCOVID-19患者の入院や死亡が同剤で減ることが無作為化試験や観察試験で確認されており、今年5月に米国FDAは重症化リスクが高い軽~中等度COVID-19成人患者の治療に同剤を使うことを本承認しました1)。ニルマトレルビル・リトナビルは2年ほど前の2021年12月に本承認に先立って取り急ぎ認可されており、今では広く使われるようになっています。その普及に伴い、当初に比べてニルマトレルビル・リトナビルは感染再発(リバウンド)をより生じやすいことを示唆する報告が増えています。しかしこれまでの試験での検査や症状の把握は回数が少なくて期間も短く、それにウイルス培養のデータもなく、ニルマトレルビル・リトナビル使用に伴うリバウンドの正確な推定には至っていません2)。そこでMass General Brighamのチームはより正確な結果を得るべく、昨年2022年3月から今年2023年5月の外来のCOVID-19患者127例を繰り返し検査してリバウンド状況を詳しく調べました。それら127例のうち72例にニルマトレルビル・リトナビルが5日間投与されました。残り55例は非投与です。リバウンドはSARS-CoV-2がひとまず検出されなくなった後に培養でSARS-CoV-2が再び検出されること、またはSARS-CoV-2が基準(4.0 log10 copies/mL)未満にいったん減った後に増えた状態をしばらく維持することとみなされました。そのリバウンドがニルマトレルビル・リトナビル投与患者72例のうち15例(20.8%)に認められました3)。それら15例のうち13例は何らかの症状を伴い、7例はより明確に発症し(点数が大きいほど負担が大きいことを意味する下限0で上限30の症状検査値が3点以上上昇)、2例はまったくの無症状でした。ニルマトレルビル・リトナビル非投与55例でのリバウンドは少なくわずか1例(1.8%)のみでした。リバウンドはもっぱら高齢患者や免疫抑制患者に生じました。それは合点がいくことですが、奇妙なことにワクチン接種回数が多い人がリバウンドをより被っていました。つまりワクチンのリバウンド予防効果は認められませんでした。また、興味深いことにニルマトレルビル・リトナビル投与を遅くに始めた患者に比べてより早くに開始した患者にリバウンドがより多く認められました。著者が自覚しているとおり試験は被験者数が少ないという欠点があります。また、ニルマトレルビル・リトナビルが投与されなかった患者は悪化のリスクが低く、そもそもがリバウンドを生じ難かったのかもしれないという試験の設計上不可避な偏りが生じていたかもしれません2)。ニルマトレルビル・リトナビルはリバウンドをどうやら生じやすくするかもしれませんが、先行きが心配な患者の命を救い、入院や死亡を防ぐ効果的な薬であることに変わりはないと著者は言っています4)。著者がそう言うように同剤は軽~中等度COVID-19の治療手段として不可欠なだけにリバウンドを封じる手段を見つけることは大きな意義があります。そのためにはニルマトレルビル・リトナビルとリバウンドを関連付ける仕組みの解明が必要です。さしあたりかなり確からしい説明として、5日間の投与期間が実は不十分でリバウンドを招いているのではないかとの指摘があります2)。より長期間の投与の検討は始まっており、たとえばフランスの研究所ANRS Emerging Infectious Diseasesは免疫抑制患者へのニルマトレルビル・リトナビル10日間投与と5日間投与の比較試験を実施しています5)。また、リバウンド患者へのニルマトレルビル・リトナビル再投与の試験も進行中です6)。日本で承認済みの塩野義製薬の経口薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)は今のところリバウンドが少なくて済んでいるようです。欧州の学会で最近発表された試験解析によると、半減期が長い同剤治療患者のPCR検査で認められたウイルスRNAリバウンド率は7.8%、プラセボ群では4.7%でした7)。参考1)Pfizer’s PAXLOVID Receives FDA Approval for Adult Patients at High Risk of Progression to Severe COVID-19 / BUSINESS WIRE2)Cohen MS, et al. Ann Intern Med. 2023 Nov 14. [Epub ahead of print]3)Edelstein GE, et al. Ann Intern Med. 2023 Nov 14. [Epub ahead of print] 4)One in five patients experience rebound COVID after taking Paxlovid, new study finds5)OPTICOV試験(ClinicalTrials.gov)6)NCT05567952(ClinicalTrials.gov)7)ECCMID 2023: Shionogi to Present Data Showing COVID-19 Symptom Recurrence is Not Associated with Ensitrelvir Treatment / BUSINESS WIRE

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侵襲的⼈⼯呼吸を要したCOVID-19患者は退院半年後も健康状態が不良

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化してICUで長期にわたる侵襲的人口呼吸(IMV)を要した患者は、退院後6カ月経過しても、身体的な回復が十分でなく、不安やふさぎ込みといった精神症状も高率に認められることが明らかになった。名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野の春日井大介氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に9月4日掲載された。 IMVの離脱後には身体的・精神的な後遺症が発生することがある。COVID-19急性期にIMVが施行された患者にもそのようなリスクのあることが、既に複数の研究によって明らかにされている。ただし、それらの研究の多くはICU退室または退院直後に評価した結果であり、かつ評価項目が限られており、COVID-19に対するIMV施行後の長期にわたる身体的・精神的健康への影響は不明。春日井氏らは、同大学医学部附属病院ICUに収容されたCOVID-19患者を対象とする前向き研究により、この点を検討した。 2021年3~9月に同院ICUにてIMVが24時間以上施行された患者から、18歳未満、気管挿管がなされなかった患者、ICU死亡などを除外した64人を研究対象とした。なお、酸素投与量が4L/分未満となった時点で、ICUからCOVID-19一般病棟に転棟されていた。64人全員についてICU退室時に身体機能と精神症状が評価された上、32人は退院時にもそれらが評価された。さらに全員に対して退院6カ月後に、健康状態を確認するためのアンケートを郵送し、42人から回答を得た。 解析対象者の主な特徴は、年齢中央値60歳(四分位範囲52~66)、男性85.9%で、ICU患者の重症度の指標であるSOFAは同10(8~11)、APACHE IIは21(19~24)、IMV施行期間は9日(6~15)だった。IMV施行期間9日以下/超で二分し比較すると、年齢、男性の割合、BMI、基礎疾患有病率、SOFA、APACHE II、および腎機能、炎症マーカー、凝固マーカーなどには有意差はなかった。ただし、IMV施行期間9日超の群(以下、長期IMV群)は、体外式膜型人工肺(ECMO)や気管切開の施行率と、肺のダメージを表すKL-6が高く、鎮静期間が長いという有意差があった。 ICU退室時点の状態を比較すると、長期IMV群は、MRCという全身の筋力を評価するスコアが低く(60点満点で51対60点)、握力が弱い(10.6対18.0kg)という有意な群間差が見られた。抑うつや痛み、倦怠感などの9種類の身体的・精神的症状を評価するESASというスコアには、有意差がなかった。 退院時の状態については、MRCスコアはICU退室時と同様に長期IMV群の方が有意に低かった(56対60点)。一方、ICU退室時には有意差がなかったESASスコアは、長期IMV群が高値で有意な群間差が認められた〔90点満点で17対4点(ESASはスコアが高いほど状態が良くないことを意味する)〕。 退院6カ月後の状態は、EQ-5D-5LというアンケートとEQ-VASという指標で評価。その結果、EQ-5D-5Lでは5項目の評価項目(移動の程度、身の回りの管理、普段の活動、痛み/不快感、不安/ふさぎ込み)のうち、痛み/不快感を除く4項目は全て長期IMV群の方が不良であることを示し、総合評価(0.025~1の範囲で評価)にも有意差が存在した〔0.82対0.89(P=0.023)〕。また、0~100の範囲で健康状態を自己評価するEQ-VASでも有意差が確認された〔80対90(P=0.046)〕。 著者らは、「本研究には、単一施設の研究でありサンプル数が十分でないといった限界点がある」とした上で、「COVID-19急性期に長期間IMVを要した患者は退院時に十分回復しておらず、さらに6カ月後にも健康状態の改善が不十分だった。重症COVID-19患者に対しては長期間のフォローアップと、積極的かつ学際的な治療アプローチが必要と考えられる」と述べている。

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重症コロナ患者に対するスタチンとビタミンCの治療効果、対照的な結果に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者を対象に、広く使用されている安価なスタチン系薬のシンバスタチンとビタミンCのそれぞれの有効性を調べた2件の臨床試験で、大きく異なる結果が示された。これらの試験は感染症の患者を対象とした進行中の国際共同研究「REMAP-CAP(Randomised, Embedded, Multi-factorial, Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia)」の一環で実施され、スタチン系薬に関する試験の詳細は「The New England Journal of Medicine(NEJM)」、ビタミンCに関する試験の詳細は「Journal of the American Medical Association(JAMA)」にいずれも10月25日掲載されるとともに、欧州集中治療医学会(ESICM 2023、10月21~25日、イタリア・ミラノ)でも発表された。 シンバスタチンの臨床試験には13カ国、141施設の病院からCOVID-19重症患者が参加し、最終的に2,684人のデータが解析された。その結果、シンバスタチンはCOVID-19重症患者の集中治療室(ICU)での臓器サポートを要する日数の短縮に95.9%の確率で寄与し、90日時点での生存率向上に91.9%の確率で寄与することが明らかになった。研究グループの計算によると、この結果は、同薬を投与した33人のうち1人の命が救われることに相当するという。 REMAP-CAPのシンバスタチンの試験を主導した英クィーンズ大学ベルファストのDanny McAuley氏は、米国での研究のスポンサーとなったGlobal Coalition for Adaptive Research(GCAR)のニュースリリースで、「この結果は、シンバスタチンによる治療がCOVID-19重症患者の転帰を改善する可能性が高いことを示しており、実に心強いものだ」とした上で、「この研究は、各国の医療専門家がCOVID-19患者に対する治療を向上させる上で助けとなるだろう」と述べている。 一方、COVID-19重症患者に対する高用量ビタミンCの有効性については、2件の臨床試験(LOVIT-COVIDとREMAP-CAP)を組み合わせて検討された。対象は、20カ国のCOVID-19による入院患者2,590人で、重症患者と非重症患者の双方が含まれていた。その結果、ビタミンCが臓器サポートを要する日数の短縮や生存に寄与する可能性は低いことが示された。 ビタミンCに関する試験の共同代表である、サニーブルック・ヘルスサイエンスセンター(カナダ)のNeill Adhikari氏は、「この結果は、COVID-19入院患者に対するビタミンCの使用は控えるべきことを示している」と述べている。また、本試験の別の共同代表である、シャーブルック大学(カナダ)のFrancois Lamontagne氏は、「現時点で利用可能な治療法のうち、患者にとって有益性がなく、かえって有害な影響を与え得る治療法を特定し、それを中止することには健康と経済の両面でメリットがある。今回の臨床試験の結果はその重要性を示したものだ」と述べている。 REMAP-CAPの米国の研究責任者で米ピッツバーグ医療センター(UPMC)集中治療医学部長のDerek Angus氏は、「REMAP-CAPから2つの結果が論文として同時に掲載されたことは、REMAP-CAPが複数の介入方法を効率的に評価できることの証しともいえる」と説明。「この恐ろしいパンデミックを通じて、われわれは治療に関するいくつかの大きな疑問に迅速に対処するための新しい方法を開拓し、今いる患者の治療に取り組み、将来、より機敏に対応するための準備をしてきた」と述べている。

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第186回 妊婦禁忌のコロナ薬を処方、その理由が独自取材で明らかに

11月14日、日本感染症学会 、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会、日本医師会、日本薬剤師会の5団体が医療従事者向けに「妊婦にとって禁忌とされている新型コロナウイルス感染症治療薬の処方並びに調剤に関する合同声明文」を発表した。要は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の経口治療薬で催奇形性があるとされているモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)について、再三の注意喚起が行われながら現在でも処方後に妊娠が判明した事例が報告されていることを受け、改めて注意喚起を促した声明文である。従来のこの手の声明文と異なり、今回の声明文はお堅い表現も用いずに極めて平易な文章で書かれている。しかも、「新型コロナウイルス感染症の治療を受けられる女性の患者さんへ お薬を飲むまえに、もう一度確認を!」という日本感染症学会、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会による患者向け文書も作成されている。その最後には以下のように記述されている。「新型コロナウイルス感染症に罹患され、そのお薬を内服したいというお気持ちもあると思いますが、あとでつらい思いをすることがないように、妊娠可能な世代の女性の患者さんにおかれましては、問診や調剤前、チェックリスト使用の時には妊娠の可能性はない、と申告されたとしても、内服前には、もう一度、最近数ヵ月間のことをよく思い出し、妊娠の可能性につき、思い当たる節がある場合には内服を控えるようにしてください。その場合には、お薬を保管しないで、ご自身で破棄するか、薬剤師に戻してください」最悪のケースとして異例とも言える患者自身による破棄まで言及している点からして、相当に危機感が強いのだろう。厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策本部と医薬局医薬安全対策課も同日付の都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部(局)宛の事務連絡で、声明文の周知依頼を行っている。では、実際どれだけこうした事例があるのだろうか?エンシトレルビルについては緊急承認に基づく使用成績調査が課されており、10月15日までに妊婦への投与は疑い6例を含む32例が報告されている(この間の推定投与患者数84万1,646例)。一方、モルヌピラビルについては、MSD広報部門は「国内で妊婦に投与された事例があることは当社でも把握しているものの、例数は非開示」としている。ただし2023年1月4日に開催された薬事・食品衛生審議会(医薬品等安全対策部会安全対策調査会)において、国内で特例承認を受けた2021年12月24日から一般流通開始前の2022年9月15日までに数例あることが明らかにされている(この間の投与実績は61万9,621例)。ざっくり言えば、数万件に1件の割合で妊婦への処方事例が起きている計算になる。頻度としては少ないことになるだろうが、実際に胎児に影響が出れば、出生児にとっては生涯にわたって影響する可能性があるため、重大な問題だろう。とはいえ、これらの薬剤投与後に妊娠が発覚したケースは、製薬企業作成のチェックリストを使用せずに投与してしまった事例がごく一部にあるものの、声明文にあるように大半はこうしたチェックを経ても防げなかった事例である。ある意味、打つ手なしとも言えそうだが、まだやるべきことは残されていると個人的には思っている。というのも、モルヌピラビルに関してはアメリカで医療提供者向けに「Healthcare Provider Action」と題して「Assess whether an individual of childbearing potential is pregnant or not, if clinically indicated」と表記してある。直訳すれば「臨床上の兆候があれば、妊孕性のある女性での妊娠の有無を評価すること」となるが、事実上、必要に応じて妊娠検査を行うよう求めていると十分に解釈できるものだ。しかし、国内ではモルヌピラビル、エンシトレルビルとも添付文書やインタビューフォームにこうした記載はなく、投与前のチェックリストに「妊娠初期の妊婦では、妊娠検査で陰性を示す場合があります」と記載するに留まっている。アメリカと同様の記載がないことについて、MSD広報部門は「通常、添付文書の作成は規制当局と検討が行われますが、本剤の承認申請時の規制当局との添付文書の検討において、(国内の添付文書では)妊娠検査等の記載が必要であるという指示等は受けていないという背景がございます」と回答した。ただ、個人的にはアメリカでのモルヌピラビルの例にならった表現やより明確に事前に妊娠検査を行うよう記述することが望ましいのではないかと思う。それでも妊婦へ誤って処方してしまうケースはゼロにはならないだろうが、前述したように、たとえ1例でも重大なことである以上、やって損はないと思う。この点について当事者である行政、企業に尋ねてみたところ、次のような回答が返ってきた。「添付文書の記載を変更する予定は今のところありません。禁忌という形で注意喚起しておりますので、その中で医療現場が必要に応じて対応していただけていると思っております。また妊娠検査も妊娠週数4~5週間以降でやっと尿検査などでわかるようなものと認識しております」(厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課)「MSDでは妊婦さんへの投与について注意喚起するために、医療関係者向けの文書や投与前のチェックリストなどを作成し、適正使用の推進に努めているところでございます。また、今後の添付文書等の改訂についてですが、現時点では予定はありませんが、引き続き今後の状況を確認しながら、適正使用の推進に向けて必要な対応を行ってまいります」(MSD広報部門)「妊娠検査の必要性に関する添付文書への記載も含め、妊婦への投与を防ぐための取り組みについては、さまざまな検討は行っております。ただ、現時点で添付文書に妊娠検査の必要性を記載するということは決まっておりません」(塩野義製薬広報部)確かにチェックリストの記載を見れば、本来、妊娠検査を含む対応は医療現場でやっていてしかるべきと思える面はある。しかし、ここまで各方面が繰り返し注意喚起を行わなければならない現状となっている以上、とくに厚生労働省にはもう一歩踏み込んでもらっても良さそうな気がするのだが。

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ファイザーのコロナワクチン、インフルワクチンと同時接種の有効性は?

 ファイザーの新型コロナワクチン(BA.4/5対応2価)と季節性インフルエンザワクチンを同時に接種した場合、別々に接種した場合と比べて有効性に差があるかを、米国の18歳以上の約344万人を対象に、米国・ファイザー社のLeah J. McGrath氏らの研究グループが調査した。その結果、コロナワクチンとインフルワクチンの同時接種は、それぞれ単独で接種した場合と比較して同等の有効性があることが示された。JAMA Network Open誌2023年11月8日号に掲載。 本研究では、2022年8月31日~2023年1月30日に、ファイザーの新型コロナワクチン(BA.4/5対応2価)のみ、インフルワクチンのみ、または両方を同日接種した、米国の民間医療保険に加入している18歳以上の344万2,996人を対象に、後ろ向き比較試験を実施した。1価ワクチンまたは他社の新型コロナワクチン接種者は除外した。65歳以上は、強化型インフルワクチン接種者のみを対象とした。主な転帰および評価基準は、COVID-19関連およびインフルエンザ関連の入院、救急(ED)や緊急診療(UC)の受診、および外来受診とした。ワクチン接種群間の残存バイアスを検出するため、尿路感染と不慮の傷害の2つのネガティブコントロールアウトカム(NCO)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・全344万2,996人(女性57.0%、平均年齢65歳[SD 16.7])のうち、62万7,735人がコロナワクチンとインフルワクチンの同時接種を受け、36万9,423人がコロナワクチン単独接種を受け、244万5,838人がインフルワクチン単独接種を受けた。・65歳以上(221万493人、女性57.9%、平均年齢75歳[SD 6.7])において、同時接種群は、コロナワクチン単独接種群と比較して、COVID-19関連入院の発生率が類似していた(調整ハザード比[aHR]:1.04、95%信頼区間[CI]:0.87~1.24)。一方、救急や緊急診療の受診(aHR:1.12、95%CI:1.02~1.23)と、外来受診(aHR:1.06:95%CI:1.01~1.11)の発生率はわずかに高かった。・18~64歳(123万2,503人、平均年齢47歳[SD 13.1]、女性55.4%)では、同時接種群は、コロナワクチン単独接種群と比較してCOVID-19関連転帰の発生率がわずかに高く、COVID-19関連入院はaHR:1.55(95%CI:0.88~2.73)、救急や緊急診療の受診はaHR:1.57(95%CI:1.09~2.26)、外来受診はaHR:1.14(95%CI:1.07~1.21)であった。ただし、若年層群では全体的にイベントが少なかったため、CIは広くなった。・65歳以上では、インフルワクチン単独接種群と比較して、同時接種群はすべてのインフル関連転帰の発生率が低く、インフル関連入院はaHR:0.83(95%CI:0.72~0.95)、救急や緊急診療の受診はaHR:0.93(95%CI:0.86~1.01)、外来受診はaHR:0.86(95%CI:0.81~0.91)であった。・18~64歳でも高齢者と同様に、インフルワクチン単独接種群と比較して、同時接種群はインフル関連転帰の発生率が同等か、それより低かった。インフル関連入院はaHR:0.92(95%CI:0.69~1.23)、救急や緊急診療の受診はaHR:1.08(95%CI:0.91~1.29)、外来受診はaHR:0.76(95%CI:0.72~0.81)。・NCOを用いたCOVID-19関連およびインフルエンザ関連の転帰のキャリブレーション(較正)で、一貫してすべてのaHR推定値が基準値に近づき、ほぼすべてのCIが1.00を横断し、同時接種の有効性に有意な差がないことが示唆された。 本研究により、ファイザーの2価コロナワクチンとインフルワクチンの同時接種が、高齢者と若年者の両方で、各ワクチンを単独で接種した場合と同等の有効性があることが示された。本結果は、今後の秋冬期のワクチン接種キャンペーンにおいて、両ワクチンの同時接種を支持するものとなった。

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赤ワインやコーヒーがコロナ重症化リスクを増大

 いくつかの食習慣と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染感受性や入院・重症化リスクとの間には因果関係があり、とくに赤ワイン摂取は入院と重症化のいずれのリスクも有意に増大させることが、中国・Yantai Yuhuangding HospitalのXiaoping Li氏らのメンデルランダム化研究により明らかになった。British Journal of Nutrition誌オンライン版2023年11月6日号掲載の報告。 食習慣とCOVID-19リスクとの関連は数多くの観察研究によって報告されている。しかし、交絡変数や研究の限界のためその関連はまだ不明確であり、より厳密なデザインの研究が求められていた。そこで研究グループはメンデルランダム化研究を実施し、食習慣とCOVID-19の感受性、入院・重症度の関連を推定した。解析は逆分散加重法を主要な方法として用い、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 肉や魚、穀物、野菜、乳製品、アルコール、嗜好品などの26種類の食習慣に関するゲノムワイド関連研究(GWAS)のデータは英国バイオバンクより抽出し(約50万例)、COVID-19の感受性、入院・重症度に関するデータはCOVID-19 Host Genetics Initiative(Round7)より抽出した(約260万例)。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19の感受性の低下と関連していたのは、無塩ピーナッツ(OR:0.53、95%CI:0.35~0.82、p=0.004)、牛肉(OR:0.59、95%CI:0.41~0.84、p=0.004)、豚肉(OR:0.63、95%CI:0.42~0.93、p=0.022)、加工肉(OR:0.76、95%CI:0.63~0.92、p=0.005)、牛乳(OR:0.82、95%CI:0.68~0.98、p=0.032)の摂取であった。一方で、コーヒー(OR:1.23、95%CI:1.04~1.45、p=0.017)、紅茶(OR:1.17、95%CI:1.05~1.31、p=0.006)の摂取で感受性が増加していた。・COVID-19による入院は、牛肉(OR:0.51、95%CI:0.26~0.98、p=0.042)の摂取でリスクが低減したが、赤ワイン(OR:2.35、95%CI:1.29~4.27、p=0.005)、ドライフルーツ(OR:2.08、95%CI:1.37~3.15、p=0.001)、紅茶(OR:1.54、95%CI:1.16~2.04、p=0.003)の摂取でリスクが増大した。・COVID-19の重症化リスクを有意に低減した食習慣はなかったが、赤ワイン(OR:2.84、95%CI:1.21~6.68、p=0.017)、コーヒー(OR:2.16、95%CI:1.25~3.76、p=0.006)、ドライフルーツ(OR:1.98、95%CI:1.16~3.37、p=0.012)摂取でリスクの増大が示された。・感度分析においても、同様の結果が得られた。

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妊婦禁忌のコロナ治療薬は慎重に処方・調剤を、5団体が合同声明文を発表

 妊婦にとって禁忌とされる新型コロナウイルス感染症の治療薬が処方・調剤され、その後に患者が妊娠していることが判明した事例が多数報告されていることから、11月14日付で、日本感染症学会、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会、日本医師会、日本薬剤師会の5団体は、診療に携わる医療関係者および治療を受ける女性患者のそれぞれに向けて合同声明文を発表した。 現在承認されている経口コロナ治療薬は、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)、ニルマトレビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック)である。そのうち、モルヌピラビルとエンシトレルビルは、動物実験で催奇形性や胚・胎児致死などが認められているため、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与が禁忌となっている。 合同声明文によると、医師の問診や処方前のチェックリストにてこれらのコロナ治療薬が処方に問題ないと判断され、薬局薬剤師の聞き取りでも確認したにもかかわらず、コロナ治療薬の処方・調剤後に、患者が妊娠していることが判明した事例が多数報告されている。実際に服用した患者は大変に大きな不安を抱えて妊娠と向き合うことになっているという。 声明文では、コロナ治療薬を処方する医師並びに調剤する薬剤師に対して、患者が妊娠可能年齢の女性である場合、本人への問診の結果、妊娠の可能性がないと申告されても完全には排除できるものではないということに留意することを訴えた。そのうえで、患者に丁寧な説明を行うとともに、妊婦にとって禁忌とされている薬剤を妊娠可能な世代の女性の患者に処方・調剤するかどうかについて、くれぐれも慎重に判断するよう呼びかけた。 また、この合同声明文を受けて厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部が同日に発表した事務連絡では、以下の周知も呼びかけている。・製造販売業者が周知している薬服用時の事前のチェックリスト及び処方された女性患者と家族向けの資材を活用すること。・資材が活用され、かつ患者から服薬の同意が得られている事例においても、処方時点では患者が妊娠の可能性に気付いておらず、服薬後に妊娠が判明する事例が複数報告されていることから、妊娠している可能性(前回月経後に性交渉を行った場合は妊娠している可能性があること等)について、入念に説明、確認を行うこと。

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毎年9%死亡者が増加する人獣共通感染症の行方/ギンコ・バイオワークス

 古くはスペイン風邪、近年では新型コロナウイルス感染症のように、歴史的にみると世界的に流行する人獣共通感染症の人への感染頻度が、今後も増加することが予想されている。そして、これらは現代の感染症のほとんどの原因となっている。人獣共通感染症の人への感染の歴史的傾向を明らかにすることは、将来予想される感染症の頻度や重症度に関する洞察に資するが、過去の疫学データは断片的であり分析が困難である。そこで、米国・カルフォルニア州のバイオベンチャー企業ギンコ・バイオワークス社のAmanda Meadows氏らの研究グループは、広範な疫学データベースを活用し、人獣共通感染症による動物から人に感染する重大な事象(波及事象)の特定のサブセットについて、アウトブレイクの年間発生頻度と重症度の傾向を分析した。その結果、波及事象の発生数は毎年約5%、死亡数は毎年約9%増加する可能性を報告した。BMJ Global Health誌2023年11月8日号に掲載。現状のままでは毎年約9%で人獣共通感染症の死亡者数が増加 研究では、エボラウイルス、マールブルグウイルス、SARSコロナウイルス、ニパウイルス、マチュポウイルスによる75件の波及事象を検討(SARS-CoV-2パンデミックは除外)。 主な結果は以下のとおり。・波及事象の発生数は、毎年4.98%(95%信頼区間[CI]:3.22~6.76)増加している。・死亡数は、毎年8.7%(95%CI:4.06~13.62)増加している。 この結果を踏まえ、Meadows氏らは「この増加傾向は、世界的な努力によって発生を予防し、食い止める能力を向上させることで変えることができる。その努力は、世界の健康に対する感染症の大きな、増大しつつあるリスクに対処するために必要である」と述べている。

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Long COVIDにセロトニンが大きく関与している可能性

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の一部では、ウイルスが腸内に数カ月にわたり残存し、この残存ウイルスがセロトニン濃度を低下させ、それがlong COVIDの一因となっているようだ。このメカニズムにより、倦怠感、ブレインフォグ、記憶力低下などの症状を説明できる可能性があるという。米ペンシルベニア大学ペレルマン医科大学院のMaayan Levy氏らによる研究結果であり、詳細は、「Cell」10月26日号に掲載された。 COVID-19罹患後に症状が数カ月から数年続く、いわゆるlong COVIDになるのは、米国ではCOVID-19罹患者の約20%だという。論文の上席著者であるLevy氏は、同大学のニュースリリースで、「long COVIDの根底にある生物学的な側面の多くは不明である。その結果、診断と治療のための有効な手段がない」と述べている。今回の研究について同氏は、「long COVIDの発症メカニズムの解明に役立つほか、臨床医が患者を診断し、治療への反応を客観的に評価するのに役立つバイオマーカーを提示することができた」と説明する。 本研究は、long COVIDの分子生物学的病因を検討するために実施された。さまざまな臨床研究から得られた、COVID-19急性期患者やlong COVID患者などの血漿サンプルと糞便サンプルを分析した。また、ウイルス感染症モデルマウス、ヒト小腸組織などを用いて、long COVIDと関連するメカニズムを検討した。 その結果、long COVID患者の一部では、感染から数カ月が経過しても、新型コロナウイルスが糞便中に残存していた。この残存ウイルスが免疫系を刺激し、ウイルスと闘うインターフェロンを放出させていた。インターフェロンが引き起こす炎症により、消化管でのトリプトファンの吸収が低下すると、セロトニン濃度が低下することが判明した。 トリプトファンは、主に消化管で生成される必須アミノ酸であり、トリプトファンから5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)を経て、セロトニンが合成される。セロトニンは、脳や全身の神経細胞間で情報を伝達し、記憶、睡眠、消化、創傷治癒の調節に重要な神経伝達物質。また、セロトニンは迷走神経の調節因子でもあり、迷走神経は身体と脳の間の情報伝達に重要な役割を果たす。著者らは、「セロトニン濃度の低下が迷走神経のシグナル伝達を阻害し、記憶障害など、long COVIDに関連するいくつかの症状を引き起こしている可能性がある」と説明している。 研究グループはさらに、トリプトファンやセロトニンを補充することがlong COVIDの症状改善に有益かどうかを検討した。認知機能を低下させたマウスモデルに、5-HTPまたは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を投与したところ、認知機能が改善するという結果が得られた。 論文の共同責任著者である同大学のBenjamin Abramoff氏は、「SSRIがlong COVIDの予防に有効であることを示唆するエビデンスはいくつかある。今回の研究が、セロトニン濃度が低下している患者を選別し、治療反応を評価するといった臨床試験につながることが期待される」と述べる。また、共同責任著者で同大学のChristoph Thaiss氏は、「今後、ウイルスの残存、セロトニン濃度の低下、迷走神経の機能障害につながる経路の影響を受けるlong COVID患者の割合や、さまざまな症状への新たな治療標的について、さらなる研究が必要となる。われわれの研究は、そのための良い機会を提供するものだ」としている。

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コロナワクチン、オミクロン初期の東京で850万人の感染を回避/京大

 2022年1~5月には、全世界的に新型コロナウイルス(COVID-19)のオミクロン株BA.1/BA.2が流行していた。京都大学大学院医学研究科の茅野 大志氏と西浦 博氏は、この時期のワクチン接種による集団レベルの影響を、全国でも比較的完全な接種歴データを有する東京都のデータを用いて評価した。その結果、ワクチン接種により約64万人の感染が直接回避され、集団接種による間接的な効果も含めると約850万人の感染が回避され、ワクチン接種しなかった場合と比較すると65%の感染を減少したと推定された。BMC Infectious Diseases誌2023年10月31日号に掲載の報告。 オミクロン株BA.1は、日本では2021年12月下旬から増加し、1日当たり約2万人の患者が発生した。この流行の少し前の12月初旬に、ファイザー社とモデルナ社のmRNAワクチン(起源株対応)の追加接種プログラムが確立されていた。2022年5月下旬には、4回目接種が開始された。 本研究では、オミクロン株BA.1/BA.2が優勢だった第6波の2022年1月1日~5月27日(21週間)のデータを解析した。初回シリーズ(1・2回目)と追加接種(3回目)の接種率、および接種歴別に層別化した確定症例を分析し、ワクチン接種によって直接および間接的に予防されたCOVID-19症例数を推定した。症例報告率は25%と仮定した。直接的な効果の推定には、ワクチン未接種者とワクチン接種者のリスクを比較する統計モデルを用いた。ワクチンの集団接種により得られる効果を間接的な効果とした。直接効果と間接効果を総合した効果は、ワクチン接種プログラムが実施されなかったという反事実のシナリオを伝播モデルで推定し、リアルワールドで観察された感染者数のデータと比較することで評価した。間接効果は、総合効果と直接効果の差として算出した。 主な結果は以下のとおり。・2022年1~5月の東京都において、初回シリーズは47万8,000人(95%信頼区間[CI]:46.7万~48.9万、29%減少)の感染回避に直接貢献し、追加接種は16万2,000人(95%CI:15.7万~16.6万、12%減少)の、合計64万人(95%CI:62.4万~65.5万)の感染回避に直接的に貢献した。・初回シリーズと追加接種により、850万人(95%CI:840万~860万、65%減少)の感染回避に、直接的および間接的に貢献した。・追加接種の接種率が初回シリーズの接種率と同程度であれば、感染者数はさらに19%(376万75人、95%CI:370万9,102~380万8,214)減少した可能性がある。さらに、10~49歳の追加接種の接種率があと10%高ければ、感染者数はさらに7%減少した可能性がある。・高齢者の初回接種率は95%を超えていた。2022年のオミクロン株流行時の集団レベルの影響は大きく、東京都に住む60歳以上において、54%の感染を予防した。 著者は本結果について、オミクロン株のような変異株の出現といったSARS-CoV-2の進化が存在する場合でも、集団におけるワクチン接種率が高いほど、集団レベルでの間接的な効果が大きくなり、一時的であるかもしれないが、大規模なワクチン接種が集団免疫効果を誘発できると述べている。

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第170回 外来管理加算の廃止提案に医師会は強く反発/中医協

<先週の動き>1.外来管理加算の廃止提案に医師会は強く反発/中医協2.地域医療構想で進む病床再編、急性期病床が減少、回復期は増加/厚労省3.日本の公的医療支出が高水準、病床数と在院日数で2位/OECD4.GLP-1受容体作動薬の供給不足、卸に対して美容目的の出荷抑制を指示/厚労省5.美容目的のエクソソーム使用に規制を、死亡事例の報告も/再生医療学会6.介護職員の待遇改善へ、来年2月から月6,000円の賃上げ決定/政府1.外来管理加算の廃止提案に医師会は強く反発/中医協厚生労働省は、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を11月10日に開催。2024年度の診療報酬改定に向けて議論が行われた。とくに外来医療に関する「外来管理加算(52点)」については、支払い側が廃止を求め、激しい議論となった。外来管理加算は、2008年の診療報酬改定で再診患者に対する計画的な医学管理を評価するため導入された。当初は「おおむね5分を超える診察」の要件(いわゆる「5分ルール」)が含まれていたが、医療現場の強い反発で、このルールは2年後に廃止された代わりに、「簡単な症状の確認」だけで処方を行った場合は加算を算定できないことが明確化されていた。支払側委員の松本 真人氏(健康保険組合連合会理事)は、外来管理加算の算定要件があいまいで、その評価の妥当性に疑問を提起した。さらに、外来管理加算と「特定疾患療養管理料」、「生活習慣病管理料」、「地域包括診療加算」の併せて算定が許される現状についても、患者や保険者にとって理解しづらいと指摘し、廃止を主張した。これに対して、診療側の委員たちは強く反発。長島 公之委員(日本医師会常任理事)は、松本委員の意見を「暴論」と断じ、まったく容認できないと強調した。池端 幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)も、廃止の主張に全面的に反対する意向を示した。参考1)中医協資料 外来(その3)について(厚労省)2)外来管理加算の廃止を主張、支払側の松本委員 長島委員は「暴論、容認できない」(CB news)3)「外来管理加算の廃止」の支払側提案に、診療側委員は猛反発、「かかりつけ医機能」の診療報酬評価をどう考えるか-中医協総会(1)(Gem Med)2.地域医療構想で進む病床再編、急性期病床が減少、回復期は増加/厚労省厚生労働省は、11月9日に「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を開催し、地域医療構想の進捗について報告した。厚労省が最新の病床機能報告を基に行った集計によれば、2025年までに急性期病床が約7.1万床減少する一方、回復期病床は約7.9万床増加する見込み。政府は、高齢化や人口減少に対応するため、2025年までに各地域の医療体制を効率化することを目的として地域医療構想の実現を目指し、病床再編を行っている。病床再編により、一部の地域では医療機関の存続が危ぶまれ、とくにコロナ禍での病床削減への疑問符が生じている。たとえば、岐阜県東濃地方では、公営病院の病床数削減や民間への譲渡が進められているが、地域全体での病床利用率は高くなく、病床削減による共倒れの懸念が指摘されている。新型コロナウイルスのパンデミックは、病床削減の方針に再考を迫っており、急性期病床の役割の重要性が再認識されているが、今後は、コロナ禍の経験や在宅医療の需要も考慮に入れた新たな医療再編の議論が求められている。参考1)地域医療構想の進捗等について(厚生労働省)2)急性期7.1万床減少見込み、15-25年に 回復期は7.9万床増、全国ベースで(CB News)3)目標の2025年迫る「地域医療構想」 病床再編 議論が“再燃” 地域医療の崩壊に危機感(東京新聞)3.日本の公的医療支出が高水準、病床数と在院日数で2位/OECD経済協力開発機構(OECD)の最新報告によれば、わが国の公的医療支出はGDPの11.5%であり、政府支出の22%を占めることが判明した。これは、加盟38ヵ国中最高の割合であることが明らかになった。わが国の人口当たり病床数(12.6)は韓国に次いで2位で、平均在院日数も16.0日と、OECDの平均の約2倍である。人口1,000人当たりの医師数は2.6人で、OECDの平均3.7人に及ばない。また、わが国は、65歳以上の高齢者割合が29%と最も高く、1人当たりの受診回数も11回で2番目に多い。OECDは、これらの現状をもとにわが国の医療資源の効率的な活用を促している。人口10万人当たりの薬剤師数は199人でトップに立つ一方で、ノルウェーやスウェーデンの65歳以上の人口100人当たり介護従事者の数は約12人に対して、わが国は6.8人である。そのほか、開業医の電子カルテ利用率は平均93%に対し、日本は42%と低くOECDの武内 良樹事務次長は、わが国の医療提供の効率化と介護の費用対効果の向上を求めている。さらにわが国の病院依存型の医療制度が非効率であると指摘し、遠隔医療の利用拡大やかかりつけ医の医療質向上のほか、スキルの高い介護人材の確保と労働条件の改善も必要とも述べている。参考1)図表でみる医療 2023:日本(OECD)2)公的医療支出の割合、日本がトップ OECD、病床数・在院日数は2位(MEDIFAX)4.GLP-1受容体作動薬の供給不足、卸に対して美容目的の出荷抑制を指示/厚労省厚生労働省は、2型糖尿病治療に使用されるGLP-1受容体作動薬の在庫が逼迫していることを受け、7月下旬に医療機関と薬局に対して、GLP-1受容体作動薬の買い込みを控え、必要量のみの購入を行うよう求め、薬剤の適正使用を依頼した。GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病患者以外への使用(主に美容・痩身目的)については有害事象の報告もあり、懸念が広がる一方、海外承認のニュースにより急速に処方が増えている。厚労省は、2型糖尿病患者に対して適切に供給されるように、医薬品卸売販売業者に対して、注文を受けた際に治療目的を確認し、糖尿病治療以外の目的での使用が明らかな注文に対しては、納入を控えるよう11月9日付けで通知を発出した。参考1)GLP-1受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼(その2)(厚労省)2)GLP-1、糖尿病治療以外は納入しないよう卸に要請 厚労省(日刊薬業)5.美容目的のエクソソーム使用に規制を、死亡事例の報告も/再生医療学会厚生労働省が、11月10日に開催した厚生科学審議会の再生医療等評価部会で、日本再生医療学会は、細胞から分泌される微粒子「エクソソーム」が含まれる幹細胞培養上清液が、美容目的やアンチエイジング目的で自由診療の医療機関で使用されているとして、「何らかの規制下に置かれることが望ましい」とする提言書を国に提出した。エクソソームは組織再生を促す物質を含んでいるが、現行の再生医療の安全に関する法律の対象外のため、管理が不十分な場合には重大な事故を引き起こす可能性があると指摘されている。すでに、幹細胞培養上清液を使用した治療による患者の死亡事例も報告されており、研究者らはエクソソームの体内での効果や安全性に関する科学的根拠が不足しており、一部のクリニックが効果を誇張して宣伝されていることを問題視しており、大阪大学の曽宮 正晴助教は、このような未確立の治療法には倫理的、科学的な問題があると指摘している。これに対して、実施しているクリニックが所属している日本再生医療抗加齢学会側は、現在の状況を改善するためのガイドライン作成や問題点の精査を急務としている。参考1)エクソソーム等に対する日本再生医療学会からの提言(日本再生医療学会)2)幹細胞培養上清液に関する死亡事例の発生について(再生医療抗加齢学会)3)エクソソーム 美容目的などに利用 “将来的に規制を”学会提言(NHK)4)エクソソーム治療「規制下が望ましい」学会が提言 死亡例の報告も(朝日新聞)5)幹細胞培養上清液で死亡例 研究者「エクソソームの投与で何かを治したと人で実証された例はない」「身体にリスクも」“若返りや美容効果”うたうクリニックに警鐘(ABEMA TIMES)6.介護職員の待遇改善へ、来年2月から月6,000円の賃上げ決定/政府政府は、介護職員と看護補助者の賃金を2023年2月から月額6,000円引き上げることを含む補正予算を閣議決定した。この措置は、介護分野と他の産業との間で開いた待遇格差を埋め、介護職員の離職を防ぐための措置で、賃上げには関連経費が2023年度補正予算案に盛り込まれ、都道府県を通じて事業所や医療機関に補助される。今回の賃上げは、介護報酬の3年ごと、診療報酬の2年ごとの見直しに先立つ「つなぎ」としての措置であり、来年度の報酬改定で恒久的な賃上げを目指している。厚生労働省によれば、2022年の介護職員の給与平均は29.3万円、看護補助者は25.5万円で、全産業平均(36.1万円)と比べて低く、介護分野では低賃金のために他産業への人材流出が続いており、離職者数が増加している。全国老人保健施設協会の調査では、介護職員の2023年度の賃上げ率は1.42%で、春闘の平均賃上げ率3.58%を大きく下回っている。岸田 文雄首相は、医療介護における賃上げや人材確保を重要な課題として挙げ、「必要な処遇改善の検討を行わなければならない」と述べている。参考1)介護職、月6000円賃上げ 人材流出抑制で-厚労省・補正予算(時事通信)2)介護職員の賃金、来年2月から月6000円引き上げ…離職の歯止め措置で補正予算案に盛り込む(読売新聞)3)コロナ交付金に6,143億円、補正予算案決定 月6千円相当の看護職賃上げへ(CB news

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植物性食品が豊富な食料支援が若年者の肥満解消・予防に寄与

 植物性食品を豊富に含む家族向けの食料支援サービスは、その家庭の子どもの肥満予防に有用な方策となる可能性が、「Preventing Chronic Disease」に6月22日掲載された研究から示唆された。 米ボストン小児病院のAllison J. Wu氏らは、2021年1月から2022年2月の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下において、米マサチューセッツ総合病院のリビア・フードパントリー(Revere Food Pantry;食料配給所)からの、植物性食品を中心とする家庭向けの食料支援が、その家庭の子どものBMIの変化に与える影響について検討した。対象とされた家庭には、新鮮な野菜と果物、ナッツ類、全粒穀物を含む食料品を、家族全員が1日3回摂取できるように毎週配給した。食料支援を受けた93世帯の子ども107人のうち、2~18歳の若年者計35人を対象に分析した。分析には線形回帰を使用した。 その結果、平均19カ月の追跡期間中に、解析対象とした35人の若年者において、年齢および性別で調整したBMIは平均で0.31kg/m2増加した。しかし、過体重または肥満と判定された者の割合は、ベースライン時には20人(57%)だったのが、追跡時には17人(49%)にまで低下した。また、ベースラインからフォローアップ時まで、食料支援の受け取り1回当たりのBMIの変化を推定したところ、年齢や性別、期間とは関係なく、0.04kg/m2(95%信頼区間-0.08~-0.01kg/m2)の減少と計算された。 著者らは、「今回のケーススタディから、植物性食品を中心とした食料の供給は、その家庭の子どものBMI増加を予防できるだけでなく、減少させることも可能な有効な方策だと考えられる」とし、「若年者の体重を健康的なレベルに維持するためには、他の対策と連携して、植物性食品を豊富に含む食料配給を検討すべきだ」と述べている。

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第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安

新型コロナワクチン接種後に女性が死亡した問題で事故調査委員会が報告書公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBのワールドシリーズ、NPBの日本シリーズが終わり、今年の野球シーズンも終幕を迎えました。ワールドシリーズは、テキサス・レンジャーズがアリゾナ・ダイヤモンドバックスを4勝1敗で破り、初優勝を飾りました。総じて地味で大味な戦いでしたが、かつてヤクルト・スワローズに在籍したことがあるという、ダイヤモンドバックスのトーリ・ロブロ監督の、バントや盗塁を駆使した日本の高校野球のような戦い方(「スモール・ベースボール」と呼んでいました)はなかなか興味深かったです(レンジャーズに1勝しかできませんでしたが…)。一方、第7戦までもつれた日本シリーズは、第6戦の山本 由伸投手の目が覚めるような完投劇があったものの、勢い勝った阪神タイガースの38年振りの日本一で幕を閉じました。オリックス第7戦登板の宮城 大弥投手は、立ち上がりはとてもいい出来に見えました。しかし、阪神のシェルドン・ノイジー外野手に投げたチェンジアップが少しだけ甘く入り、先制3ラン。あの失投さえなければ投手戦がそのまま続き、勝敗はどうなっていたかわかりません。いずれにせよ、山本投手はいいお土産を持って米国に渡ることになります。これから1、2ヵ月は大谷 翔平選手、山本投手のFA移籍先報道が熱くなるでしょう。さて今回は、昨年、愛知県愛西市で新型コロナワクチン接種後に女性が死亡した問題で、1ヵ月ほど前に愛西市医療事故調査委員会が公表した調査報告書について書いてみたいと思います。「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できない」と結論付けた報告書ですが、なぜ、アドレナリンが適切に投与されなかったのか、アナフィラキシーを起こしている患者を前にしてその判断ができなかった医師は、どんなキャリアでどれくらいの診療レベルだったのかについて、報告書には詳細に書かれていません。「かかりつけ医機能」が発揮されるための制度整備が議論されている中、地域の医師会の医師たちの医学知識、診療レベルを疑うような事例だけに、せっかく報告書を公表するならば、そのあたりまで突っ込んでもらいたいと思いました。「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できない」と結論この事故は、昨年11月、愛西市の集団接種会場で、新型コロナワクチンを接種した女性(当時42)が直後に容体が急変し死亡した、というものです。専門家らで構成された愛西市医療事故調査委員会は9月26日、調査報告書1)を公表、「本事例は、ワクチン接種後極めて短時間に患者が急変し、死亡に至ったものである。非心原性肺水腫による急性呼吸不全及び急性循環不全が直接死因であると考えられ、この両病態の発症にはアナフィラキシーが関与していた可能性が高い。本事例は短時間で進行した重症例であることから、アドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性はあるが、特に早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、高次医療機関での治療につなげ、救命できた可能性を否定できない」と結論付けました。医療者たちの対応はことごとく「標準的ではなかった」さらに、「ワクチン接種後待機中の患者の容体悪化(咳嗽、呼吸苦の訴え)に対し、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の患者の状態を確認することなく、患者は接種前から調子が悪かったと解釈したことは標準的ではなかった。また、その情報に影響を受け、ワクチン接種後患者の容体変化に対し、アドレナリンの筋肉内注射が医師によって迅速になされなかったことは標準的ではなかった」と、医療者たちの対応はことごとく「標準的ではなかった」と結論付けました。病態はアナフィラキシーの可能性が低いと医師が判断、アドレナリン筋肉内注射をせず報告書によれば、接種4分後から女性に咳嗽と呼吸苦が発現したにもかかわらず、看護師らは「ワクチン接種前からマスク着用の圧迫感による過呼吸発作状態にあったもの」と勝手に解釈していたとのことです。また、体調不良者が出たことで対応を依頼された医師も「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだという看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など『アナフィラキシーで典型的な症状』がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外し」てしまいました。そんな中、看護師の1人は「アナフィラキシーの可能性を考え、アドレナリン投与を想定し、注射器に22ゲージの針をつけ、医師の指示があればいつでも筋注できるよう準備をし」ていましたが、「医師の判断を尊重するため、アドレナリンの準備ができていることを積極的に伝えようとはしなかった」とのことです。接種14分後に心停止、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態さらに対応を依頼された医師は、「アナフィラキシーガイドライン2022」(日本アレルギー学会)の存在は認識していましたが、アナフィラキシーに比較的よくみられる所見や情報が乏しかったことに影響され、ガイドライン等に沿った対応、すなわち「0.1%アドレナリン(ボスミン1/2A)の筋肉内注射、またはアドレナリン自己注射用製剤(エピペン0.3mg製剤)の投与」を行いませんでした。なお、新型コロナウイルスワクチンの接種事業に協力する医師に対して海部医師会(医師たちが所属する医師会)は、医師たちに事前に準備された「アナフィラキシー対応マニュアル」を読んでおくよう指示していたとのことです。結局、この女性にアドレナリンが投与されることはなく、接種14分後に心停止、その後救急隊が呼ばれ、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態で、心肺蘇生を試みた後、死亡が確認されています。ハチ毒はアレルギーを獲得した後2回目に刺された時のアナフィラキシーが怖いエピペン(アドレナリン自己注射用製剤)については、私も少々苦い思い出があります。20年ほど前の秋、奥秩父の登山中にハチに刺されたことがあります。ハチ毒は、アレルギーを獲得した後の2回目に刺された時のアナフィラキシーが怖いと言われています。そこで私は近所の内科診療所を訪れ、エピペンの処方を頼みました。実は私の友人がその数年前、ハチに刺された数ヵ月後に蜂の子を食べ、アナフィラキシーで生死をさまよいました。その話を聞いていたので、「今後、山に登る時はエピペン所持が必要だ」と考えたのです。開業医にエピペン処方を断られるエピペンの日本での歴史はそう古くはありません。1995年、国有林で働く林業従事者のハチ毒対策のために米国で製造販売されていた製品を「治験扱い」で使用されたのが始まりです。その後、民有林での使用要望も出され、2003年に厚生労働省の製造販売承認が下りています。つまり、林業従事者のハチ毒対策が日本でのエピペン普及のきっかけだったのです。この時の適応は「蜂毒に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る)」で、該当者は処方を受けて所持・使用することができるようになりました。その後、2005年には食物や薬物等によるアナフィラキシー反応および小児への適応も取得しています(ただし2011年までは保険が効かず自費)。私がハチに刺されたのは2003年の製造販売承認後だったので、内科診療所の医師は処方できたはずだったのですが、医師(60歳代)は「処方したことがない」「自分で打つのは危険だ」「全額自費だよ」などとさまざまな理由を挙げて、結局処方してもらえませんでした。「次、山で刺されたらアナフィラキシーで死ぬかもしれない」という私の切実な訴えも、まったく無視されました(その後、別の医療機関で入手し、数年間は登山時に所持)。ちなみに現在、エピペンの処方には講習受講と登録が必要となっています。アナフィラキシーを除外した医師は「内科医、医師歴5年以上10年未満」そんな経験があったため、愛西市の新型コロナワクチン接種後に女性がアナフィラキシーで死亡した事故を知った時、対応した医師は、私にエピペンを処方しなかった医師同様、比較的年配で、アドレナリン自己注射用製剤を患者に使用させた経験がなかったのではないか、さらにはアナフィラキシーというものを教科書では読んだことがあるが、自身では経験したことがなかったのではないかと思いました。しかし、私の予想は外れました。報告書によれば、最初にこの女性の対応を任され、アナフィラキシーを除外した医師は、海部医師会愛西市班に所属する医師で「内科医、医師歴5年以上10年未満」となっています。むしろ、こちらのほうが驚きです。医師になって10年未満、エピペンの使い方も一般化し、アナフィラキシー時の対応についても十分に学んでいるはずの世代が大きな判断ミスを犯したということになるからです。医学や診療技術は、日々進歩していますが、学ぼうとしない医師も一定数います。この「医師歴5年以上10年未満」の医師は、どういう経歴で、日々の診療はどういうもので、どのように最新の医学情報をアップデートしていたのでしょうか。「かかりつけ医」機能が議論される中、報告書には判断ミスを犯した医師の資質についても言及されるべきだったのではないでしょうか。「医療事故調査制度の制度趣旨に反している」との批判もところで、今回、この事故に関して、愛西市医療事故調査委員会の委員長らが記者会見し、報告書を公表、医学的評価の判断をマスコミ等に説明したことについて、「医療事故調査制度の制度趣旨に反している」との批判が一部にあるようです。公表が医師や看護師個々人への責任追及を促す危険性をはらんでいるからです。それはそれで一理あります。しかし、仮にことの原因が、個々の医療機関の安全管理体制等ではなく、医師の教育体制(卒後教育含む)にもあるとしたらどうでしょう。個々の医療機関に報告するだけで問題は解決するのでしょうか。愛西市のワクチン事故は、今の医療事故調査制度にも一石を投じたようです。参考1)新型コロナウイルスワクチン集団接種会場で発生した死亡事案について/愛西市

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第188回 コロナ後遺症の新たな生理指標、セロトニン欠乏が判明

コロナ後遺症の新たな生理指標、セロトニン欠乏が判明新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)は患者数が莫大なだけに盛んに研究されて新たな成果が次々に発表されています。先週はそういうコロナ後遺症とタウリンの欠乏の関連を示した報告を紹介しましたが、その報告の10日前にはタウリンと同様にアミノ酸の1つであるトリプトファンの吸収低下を一因とするセロトニンの減少とコロナ後遺症の関連を裏付ける研究成果がCell誌に発表されています1,2)。神経伝達物質の1つであるセロトニン減少の発端となりうるのは腸の新型コロナウイルスです。腸に居座る新型コロナウイルスがトリプトファン吸収を抑制し、トリプトファンを原料とするセロトニン生成が減ると示唆されました。新型コロナウイルスが腸に長居しうることは糞便のウイルスRNA解析で示されました。その解析によるとコロナ後遺症患者の糞中からはそうでない患者(新型コロナウイルスに感染したものの長引く症状は生じなかった患者)に比べて新型コロナウイルスRNAが有意に多く検出されました。新型コロナウイルスを含むウイルス感染はインターフェロン(IFN)伝達を誘発することが知られています。さらには、コロナ後遺症患者の1型IFN増加の持続も先立つ研究で確認されています。腸に似せた組織(腸オルガノイド)やマウスでの検討の結果、その1型IFNがセロトニンの前駆体であるトリプトファン吸収を抑制することでセロトニンの貯蔵量を減らすようです。また、新型コロナウイルスが居続けることで続く炎症は血小板を介したセロトニン輸送の妨害やセロトニン分解酵素MAO(モノアミン酸化酵素)の亢進を介してセロトニンの流通を妨げうることも示されました。実際、コロナ後遺症患者では血中のセロトニンが乏しく、コロナ後遺症の発現の有無をセロトニンの量を頼りに区別しうることが確認されています。さて研究はいよいよ大詰めです。コロナ後遺症患者の大部分が被る疲労、認知障害、頭痛、忍耐の欠如、睡眠障害、不安、記憶欠損などの神経/認知症状とセロトニン欠乏を関連付けるとおぼしき仕組みが判明します。その仕組みとは迷走神経の不調です。中枢神経系(CNS)の外を巡るセロトニンは血液脳関門(BBB)を通過できませんが、迷走神経などの感覚神経を介して脳に作用します。ウイルス感染を模すマウスでの実験の結果、末梢のセロトニンを増やすことや感覚神経を活性化するTRPV1作動薬(カプサイシン)の投与で認知機能が正常化しました。続いて、感覚神経の種類を区別するタンパク質の刺激実験から末梢のセロトニン不足と脳の働きの低下の関連は感覚神経の一員である迷走神経伝達の不足を介すると示唆されました。その裏付けとして迷走神経に豊富に発現するセロトニン受容体(5-HT3受容体)の作動薬がウイルス感染を模すマウスの海馬神経反応や認知機能障害を正常化することが示されました。それらの結果を総括し、セロトニン不足が迷走神経伝達を弱めて認知機能を害するのだろうと結論されています。さて、そうであるなら選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に属するフルオキセチン(fluoxetine)やフルボキサミン(fluvoxamine)などのセロトニン増加薬がコロナ後遺症に有効かもしれません。その可能性は今回の研究でも検討されており、ウイルス感染を模すマウスの記憶障害がフルオキセチンでほぼ解消しました。新型コロナウイルスに感染して間もない患者へのSSRIの試験はいくつか実施されています。その効果の程は今のところどっちつかずですが、それらの試験と同様にコロナ後遺症の神経/認知症状へのセロトニン伝達標的治療の効果も調べる必要があります。幸い、その試みはすでに始まっています。臨床試験登録サイトClinicaltrials.govを検索したところ、コロナ後遺症へのフルボキサミンの試験が進行中です3)。結果一揃いは再来年2025年3月中頃に判明する見込みです。コロナ後遺症の治療といえばこれまでのところ患者が訴える症状が頼りでした。今やセロトニンやタウリンの減少などの生理指標が明らかになりつつあり、見つかった生理指標を頼りに患者を治療や試験に割り当てられそうだと著者は言っています2)。参考1)Wong AC, et al. Cell. 2023;186:4851-4867.2)Viral persistence and serotonin reduction can cause long COVID symptoms, Penn Medicine research finds3)Fluvoxamine for Long COVID-19

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新型コロナが小児感染症に及ぼした影響

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが小児感染症に及ぼした影響として、long COVID(罹患後症状、いわゆる後遺症)や医療提供体制の変化、感染症の流行パターンの変化などが挙げられる。これらをまとめたものが、イスラエルのネゲブ・ベン・グリオン大学のMoshe Shmueli氏らによってEuropean Journal of Pediatrics誌オンライン版2023年9月20日号に報告された。 本研究はナラティブレビューとして実施した。 主な結果は以下のとおり。既知の内容・COVID-19は通常、小児では軽度であるが、まれに重篤な症状が現れる可能性が知られている。また、一部の成人が悩まされるとされるlong COVIDは、小児においてもみられた。・COVID-19の流行による衛生管理の強化や体調不良時の行動変化により、呼吸器感染症(インフルエンザやRSウイルス、肺炎球菌)だけではなく、他の感染症(尿路感染症や感染性胃腸炎など)でも感染率の低下がみられた。・医療提供体制が大きく変化し、オンライン診療の普及などがみられた。・ワクチン定期接種の中断により、ワクチン接種を躊躇する動きがみられた。・抗菌薬の誤用や過剰処方の問題が生じた。新規の内容・COVID-19流行期間中にインフルエンザやRSウイルスの流行が減少した理由は、非医薬品介入※(non pharmaceutical intervention:NPI)措置に関連しているのではなく、むしろ生物学的ニッチ(鼻咽頭)における病原体と宿主の相互作用などの、NPI措置以外に関連していると考えられた。※非医薬品介入:マスク着用義務や外出禁止令などの医薬品以外の予防対策

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第169回 診療所自由開業の見直しを提案、医師偏在問題への対策で/財務省

<先週の動き>1.診療所自由開業の見直しを提案、医師偏在問題への対策で/財務省2.診療所の経常利益率上昇、財務省と医師会の間で賃上げ論争/財務省3.医療・介護施設の経営危機、過去最低の利益率、特養は6割超が赤字/WAM4.先発薬の自己負担上乗せ、後発薬への移行を促進/厚労省5.20歳未満の市販薬乱用対策として購入制限を提案/厚労省6.介護人材確保のカギは賃上げ、報酬改定で新たな取り組み/厚労省1.診療所自由開業の見直しを提案、医師偏在問題への対策で/財務省財務省は、11月1日に開催した財政制度等審議会の財政制度分科会で、医師の偏在対策を進めるため診療所の自由開業・自由標榜の見直しを提案した。特定の地域や診療科での医師の集中が続く中、フランスのように地域・診療科ごとの専門医の定員制を導入するべきとの意見が示された。同省は、大都市に医師や診療所が集中する傾向を示すデータを公表するとともに、医療資源を均等に分散させるため、診療報酬の地域による単価差を導入する提案も行った。このほか同省は、大学病院などからの医療機関に対する医師派遣の充実や外来医療計画における都道府県知事の権限強化、医学部の定員適正化なども求めた。参考1)財政制度分科会 社会保障 資料(財務省)2)診療所の自由開業・標榜の見直し提案、財務省 偏在解消策のメニューとして(CB news)2.診療所の経常利益率上昇、財務省と医師会の間で賃上げ論争/財務省財務省は11月1日に財務相の諮問機関である財政制度等審議会の分科会において社会保障制度について話し合った。この中で、来年度の診療報酬改定で、診療所の初・再診料を中心に診療報酬を引下げて、マイナス改定とすることを提言した。同省の調査によれば、新型コロナウイルスの影響で診療所の経営状況が改善し、2022年度の医療法人の経常利益率が平均8.8%となったためである。財務省側は、収益の改善を原資に賃上げが可能であるとしているが、日本医師会は新型コロナの特例的な影響はあくまで一過性のものであり、これを除くと新型コロナ流行後3年間の利益率は3.3%程度となり、流行前よりも悪化している可能性がある上、特例の見直しにより、来年度以降はコスト増と合わせて経営環境はさらに悪化するとし、財務省の主張はミスリードだとし、診療報酬の引き上げを求めて強く反発している。一方、岸田 文雄首相は医療・介護・福祉分野における物価高騰対策と賃上げを重要な課題だとして、総合経済対策でも必要な対応を検討する意向を示しており、診療報酬の改定については、年末までさらに議論が続く見込み。参考1)財政制度分科会 社会保障 資料(財務省)2)令和6年度診療報酬改定について(日本医師会)3)“利益率高い医療機関は利益取り崩し賃上げ”財政制度等審議会(NHK)4)診療所の利益急改善、財務省「賃上げ可能」 医師会反発(日経新聞)5)日医会長、診療報酬の大幅な引き上げ主張-「ミスリード」「恣意的」財務省に反論(CB News)6)岸田首相 医療、介護、福祉分野の「物価高対策、賃上げは重要な課題」総合経済対策で必要な対応検討へ(ミクスオンライン)3.医療・介護施設の経営危機、過去最低の利益率、特養は6割超が赤字/WAM医療および介護施設の経営困難が深刻化していることが、最近の複数の報道により浮き彫りとなった。福祉医療機構(WAM)の調査によれば、2022年度の一般病院の医業利益率はマイナス1.2%に低下し、療養型病院も1.9%と過去最低水準を記録している。これは、医業利益率が医療活動による収益状況を示す指標であるため、医療機関の経営が厳しくなっていることを物語っている。とくに、新型コロナウイルス対応病院の経常利益率は、補助金を除いてマイナス2.9%となり、赤字となっている病院の割合は61.3%に上昇している。一方、全国老人福祉施設協議会(老施協)の調査によると、特別養護老人ホームの昨年度の赤字施設の割合は62%に達し、2002年度の調査開始以来、初めて6割を超えた。物価高騰が原因で、電気代や紙おむつ、食材のコストの上昇が経営を圧迫している。国や自治体の補助金を収入に加えても、赤字施設の割合は51%となっている。施設の運営は介護報酬の範囲内で行われるため、物価高騰などでの経費増に対応するのが難しく、結果として職員のボーナスが削減されるなどの対応が取られている。老施協は政府に対し、介護報酬の大幅な見直しを求めている。このような背景から、医療・介護施設の経営状況の改善が喫緊の課題となっており、施設の撤退やサービスの低下が地域の医療・介護体制に影響を及ぼす恐れがある。参考1)2022年度 病院の経営状況(速報値)について(福祉機構)2)2022年度 特別養護老人ホームの経営状況(速報値)について(同)3)一般病院と療養病院の医業利益率が最低水準に 昨年度、福祉医療機構調べ(CB News)4)特養ホームの62%が赤字、紙おむつ・食材などの価格上昇が経営圧迫…ボーナス切り下げも(読売新聞)4.先発薬の自己負担上乗せ、後発薬への移行を促進/厚労省厚生労働省は、後発薬の普及をさらに促進するために新たな方針を提案した。これによると、先発薬の患者の自己負担を引き上げることで、患者の後発薬への移行を促進し、医療費の増大を抑制することを目的としている。具体的には、先発薬の自己負担部分に後発薬との価格差の一部を上乗せすることを提案しており、これにより患者の自己負担は数円~数百円ほど増加する可能性がある。さらに、後発薬の安定供給を確保するための対策も進められている。厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」では、後発薬の供給体制を可視化することを提案し、供給能力と実績を持つ製薬企業が評価される仕組みの構築を求めており、供給不安を緩和するために、製薬企業の供給体制や緊急対応能力、原材料の供給源などの情報公開を求めていく提案されている。これにより、患者や医療機関が信頼性の高い製薬企業を選択することが可能となり、全体としての医薬品供給の安定が期待されるとしている。参考1)先発薬の患者負担上乗せ 厚労省案 後発薬への移行促す(日経新聞)2)後発薬「企業の供給力、評価を」 厚労省検討会(同)3)後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会 中間取りまとめ(厚労省)5.20歳未満の市販薬乱用対策として購入制限を提案/厚労省厚生労働省は、10月30日に開いた薬事・食品衛生審議会薬事分科会の部会において、若者の間での過剰摂取(オーバードーズ)を防ぐ対策として、20歳未満に対する「乱用の恐れのある医薬品」の大量購入を制限する新たな方針を示した。これによると、麻薬や覚醒剤に似た成分を含む一部の市販薬、たとえば大正製薬の「パブロン」や「浅田飴」など、OTCとして手軽に購入できる風邪薬などに適用することになる。具体的には20歳未満には1箱のみの販売とし、ネットでの購入は原則ビデオ通話が必須とされる見込み。ビデオ通話は購入者の状況や表情を確認するためとしており、薬の購入状況の一元管理にマイナンバーの利用も検討されている。国立精神・神経医療研究センターの調査によると、高校生の1.6%が過去1年間に市販薬の乱用経験があると推定され、背景にはSNSの広がりや孤独感があるとされている。参考1)要指導医薬品のリスク評価について(厚労省)2)市販薬の2・3類を統合へ 薬の説明は「努力義務」に 厚労省検討会(朝日新聞)3)市販風邪薬の販売規制案 20歳未満、多量購入不可に(日経新聞)4)一部医薬品の大量販売、20歳未満に禁止案 オーバードーズ対策(毎日新聞)6.介護人材確保のカギは賃上げ、報酬改定で新たな取り組み/厚労省わが国の介護業界は深刻な人手不足に直面していることが明らかになった。厚生労働省の分析によると2022年に介護業界から離職した人が、新たに働き始めた人を上回り、就労者が前年より1.6%減していた。今後も介護を必要とする高齢者の増加は見込まれており、処遇の改善による介護士の確保が急務となっている。一方、介護サービスの供給が需要に追いつかない現状が続いている中、介護職の離職率も高まっている。厚労省によると、介護職員の平均賃金は時給1,138円と、他の業種と比べて低い水準であり、新たな人材の獲得や現場の職員の維持が困難となっている。このため、厚労省は介護職員の賃金を引き上げる方針を示している。2023年度の介護報酬改定では、介護職員の平均時給を1,400円以上にすることを目指している。この賃上げは、業界の人手不足解消とサービス品質の向上を目的としている。また、地域によっては、賃金のアップだけでなく、研修やキャリアアップの機会を提供することで、介護職員の定着を促進する取り組みも進められている。一方、介護事業者からは、報酬改定による経営の厳しさを指摘する声も上がっている。報酬の引き上げは、介護サービスの品質向上に寄与する一方で、事業者の経営負担も増大するため、バランスの取れた対応が求められる。参考1)介護職員の賃上げ「月6000円が妥当」 武見敬三厚労相(日経新聞)2)介護就労者が初の減少、低賃金で流出 厚生労働省分析(同)3)コメディカルの給与が全産業平均を下回ることが明らかに(日経ヘルスケア)

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風邪にも長期間続く後遺症がある?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期以後もさまざまな症状が持続している状態を指す「long COVID」という言葉は、今やすっかり認識されている。しかし、このような長引く健康への影響を引き起こす呼吸器系ウイルスは、新型コロナウイルスだけではないようだ。英ロンドン大学クイーン・メアリー校のGiulia Vivaldi氏らの研究で、風邪やインフルエンザなどのCOVID-19以外の急性呼吸器感染症(acute respiratory infection;ARI)でも、急性期後にさまざまな症状が4週間以上も続く、いわゆる「long cold」が生じ得ることが明らかになった。詳細は、「eClinicalMedicine」に10月6日掲載された。 この研究では、英国の成人でのARIに関する集団ベースの前向き研究(COVIDENCE UK)のデータを用いて、COVID-19への罹患歴がある人、COVID-19以外のARIへの罹患歴がある人、ARIへの罹患歴がない人(対照)を対象に、長期にわたり持続する症状の比較を行い、COVID-19とそれ以外のARIそれぞれで一定数見られる症状の特定を試みた。COVID-19以外のARIは、肺炎、インフルエンザ、気管支炎、扁桃炎、咽頭炎、中耳炎、風邪、新型コロナウイルス以外のウイルスを原因とする上・下気道感染症、新型コロナウイルス検査で陰性だった人の自己報告による症状から判断されたARIとされた。 対象は、2021年の1月21日から2月15日の間に実施された追跡調査に回答した、新型コロナワクチン未接種者1万171人(平均年齢62.8歳、女性68.8%)。このうち、1,311人(12.9%、COVID-19群)は4週間以上前にCOVID-19に罹患した経験を、472人(4.6%、ARI群)はCOVID-19以外のARIに罹患した経験を持っていた。COVID-19の症状は、咳、睡眠障害、記憶障害、集中力の低下、筋肉や関節の痛み、味覚障害/嗅覚障害、下痢、腹痛、声の異常、脱毛、心拍数の異常な増加、軽度の頭痛やめまい、異常な発汗、息切れ(呼吸困難)、不安や抑うつ、倦怠感の16種類とし、これらの症状の有病率や重症度(評価尺度で評価可能な呼吸困難、不安や抑うつ、倦怠感のみ)を評価した。また健康関連の生活の質(HRQoL)についての評価も行った。 その結果、COVID-19群では対照群に比べて、全ての症状の有病率や重症度が高く、HRQoLが低かったが、ARI群でも、筋肉や関節の痛み、味覚障害/嗅覚障害、脱毛を除くその他の症状の有病率や重症度が対照群よりも高く、HRQoLが低いことが明らかになった。研究グループは、「この結果は、認識されてはいないものの、COVID-19以外のARIでも『long cold』とでもいうべき後遺症が生じていることを示唆するものだ」との見方を示している。COVID-19群とARI群を比べると、前者では特に、味覚障害/嗅覚障害と軽度の頭痛やめまいが生じる傾向が強く、オッズ比は同順で19.74(95%信頼区間10.53〜37.00)、1.74(同1.18〜2.56)であった。 論文の上席著者である、ロンドン大学クイーン・メアリー校のAdrian Martineau氏は、「この結果は、新型コロナウイルス検査の結果が陰性だったにもかかわらず、呼吸器感染症への罹患後に症状が長引いて苦しんでいる人々の経験と一致するのではないかと思う」と話す。同氏は、COVID-19以外の呼吸器感染症への罹患後に症状が持続する病態についての認識や、その病態を言い表す共通の用語さえないことを指摘し、「long COVIDに関する研究を続ける必要はあるが、それとともに、他のARIが及ぼす持続的な影響について調査・検討することも重要だ。それにより、一部の人で症状が長引く理由を探ることが可能となり、最終的にはそうした患者に対する最適な治療やケアの特定に役立つ」と述べている。

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食中毒発生率がパンデミック前の水準に増加

 米国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック発生とともに低下していた食中毒発生率が、パンデミック前の水準に戻ったことが報告された。米疾病対策センター(CDC)のMiranda J. Delahoy氏らの研究によるもので、詳細はCDC発行「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」6月30日号に掲載された。 2020年以降、COVID-19パンデミックに伴う人々の行動変容、公衆衛生対策、患者の受療行動の変化、検査施行件数の変動などの影響によって、さまざまな感染症の罹患率が低下していた。食中毒も同様に、米国ではカンピロバクターやサルモネラ菌による消化器感染症が、2020~2021年にはその前年より減少していた。しかし、感染症減少につながった多くの要因が取り除かれたことによって、再びそのリスクが増大してきている。 米国の食中毒アクティブサーベイランスネットワーク(FoodNet)は、米国内10カ所において、主に食品を介して伝播する8種類の病原体(カンピロバクター、サルモネラなど)によって生じる食中毒のサーベイランスを行っている。Delahoy氏らの研究はそのデータを用いて行われた。 解析の結果、2022年のカンピロバクター、サルモネラ、赤痢、リステリアによる食中毒の年間発生率は、パンデミック前と同等のレベルになっていた。また、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)やエルシニアなどによる食中毒はパンデミック前よりもむしろ発生率が高くなっていた。2016~2018年を基準とした2022年の病原体別の発生率比(IRR)、および2022年の粗発生率(人口10万人当たりの発生件数)は以下のとおり。 IRR(95%信頼区間)・粗発生率の順に、カンピロバクターは1.02(0.96~1.08)・19.2、サルモネラは0.95(0.89~1.02)・16.3、赤痢は0.95(0.75~1.18)・4.9、リステリアは1.06(0.93~1.22)・0.3であり、これらは2016~2018年の平均発生率と有意差なし。STECは1.18(1.02~1.36)・5.7、エルシニアは2.41(2.03~2.88)・2.0、ビブリオは1.57(1.37~1.81)・1.0、サイクロスポーラは4.77(2.60~10.7)・0.9であり、これらは2016~2018年の平均発生率より有意に高かった。 米国は現在、2030年までに達成すべき公衆衛生上の目標を「Healthy People 2030」として設定し、国レベルでの対策を推進している。食中毒についても病原体別に発生率の目標を掲げ、例えばカンピロバクターは人口10万人当たり10.9以下とするとしている。今回の研究結果について著者らは、「COVID-19パンデミックの影響が沈静化したことで、2022年には消化器感染症の減少が見られなかった」とまとめ、「食中毒を防ぐには、食品生産者、加工業者、小売店、レストラン、および規制当局間の協力が必要」と述べている。 なお、消化器感染症の診断法として近年、培養によらない診断(culture-independent diagnostic test;CIDT)が急速に普及してきている。著者らはこの変化によって、パンデミック以前には検出されていなかった食中毒が検出されるようになり、それがIRRの上昇に部分的に関係している可能性があるとしている。

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COVID-19の影響で日本人の死亡率が東日本大震災以来の増加

 日本人の年齢調整死亡率は年々低下が続いていたが、2021年には増加に転じたことが明らかになった。主な要因は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、循環器疾患、老衰による死亡の増加だという。国立がん研究センターがん対策研究所データサイエンス研究部の田中宏和氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に8月31日掲載された。 日本人の死亡率(死亡者数が人口に占める割合)は高齢化のために年々上昇している。その一方で、高齢化の影響を統計学的に取り除いた年齢調整死亡率(ASMR)は、社会環境や生活習慣の改善、医療の充実などの影響を受けて、年々低下してきている。ASMRが上昇した近年での数少ない例外は、東日本大震災のあった2011年だった。 COVID-19パンデミックにより、医療現場の混乱が発生し、社会環境や生活習慣、受療行動などが大きく変化したため、日本以外の多くの先進国では2020年の段階で平均寿命の短縮が報告された。ただし2020年時点では国内の感染拡大の規模が諸外国より抑制されていたことから、日本人の平均寿命は短縮しなかった。ところが2021年には、国内のCOVID-19患者数が2020年の6倍以上に増加し、ASMRに顕著な影響が生じた可能性が考えられる。これを背景として田中氏らは、厚生労働省「人口動態統計」のデータを用いて1995~2021年の日本人のASMRの推移を検討した。 統計解析の結果、2020年までASMRはマイナスが続いていたが、2021年は男性が前年比2.07%増、女性は2.19%増であり、東日本大震災以来10年ぶりに増加に転じていたことが分かった。死因別に見た場合、COVID-19による10万人当たりのASMRは、男性は2020年が3.8であったものが2021年には17.5となり、女性は同順に1.5から7.7と上昇していた。 COVID-19以外には、循環器疾患と老衰などによる増加が、ASMRの上昇に寄与していた。循環器疾患死の増加について著者らは、COVID-19罹患が血栓イベントのリスクを押し上げるという直接的な要因と、心筋梗塞や脳卒中の発作時の救急搬送の遅延のため、タイムリーな治療を受けられないケースが発生したという間接的な要因が考えられるとしている。また、老衰死の増加については、パンデミック中に在宅死が増えたと考えられ、在宅死では老衰死と判定されやすかったのではないかとの考察が述べられている。 一方、がん、肺炎、不慮の事故による死亡は減少していた。肺炎による死亡の減少は、COVID-19感染抑止対策の副次的な効果であり、不慮の事故による死亡の減少は、外出自粛による交通事故などの減少が寄与した可能性があるとのことだ。 論文の結論には、「日本ではCOVID-19パンデミックにもかかわらず、2020年もASMRの低下傾向が続いていたが2021年には約2%の上昇が観察され、これはCOVID-19、老衰、循環器疾患などに起因するものだった。2021年は日本の死亡率の推移の転換点となったのではないか」と述べられている。また、2022年の国内のCOVID-19患者数はさらに急増したことから、「ASMRに対するインパクトはより大きくなっている可能性がある」としている。 なお、9月15日に発表された2022年の「人口動態統計(確定数)」では、日本人の死亡者数が2年連続で過去最高となったことが報告されている。

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BA.2.86「ピロラ」感染3週間後の抗体応答が大幅に増強/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株であるオミクロン株BA.2.86(通称:ピロラ)は、2023年8月初頭にデンマークで初めて報告され、スウェーデンでは8月7日に初めて検出された。本症例(インデックスケース)は、慢性疾患のない免疫不全の女性であった。本症例の血清および鼻腔粘膜の抗体応答について、2023年2月に得られた検体と、BA.2.86感染から3週間後に得られた検体を用いて比較したところ、BA.2.86感染後ではIgA値およびIgG値の上昇が認められ、感染前より抗体応答が大幅に増強されることが示唆された。スウェーデン・カロリンスカ研究所のOscar Bladh氏らによる、NEJM誌2023年10月26日号CORRESPONDENCEに掲載の報告。 スウェーデンの医療従事者2,149人を対象としたCovid-19 Immunity(COMMUNITY)コホート研究内のスクリーニングプログラムにおいて、8月7日にBA.2.86感染の最初の症例が確認された。本症例は、慢性疾患のない免疫不全の女性で、SARS-CoV-2感染歴があり、BA.2.86感染の診断前にBNT162b2ワクチン(ファイザー製)を4回接種していた。症状は鼻漏、悪寒、発熱があり、症状期間は3日間であった。これらの症状は前年のSARS-CoV-2感染時よりも軽かった。 主な結果は以下のとおり。・2023年2月の検体採取時に得られた詳細な免疫データから、被験者はBA.2.86感染前では、COMMUNITYコホートと同程度の血清IgG値および鼻腔粘膜IgA値を有していたことが認められた。・BA.2.86感染から3週間後に得られた血清および粘膜検体を用いて、2023年2月に得られた検体と抗体応答について比較したところ、血清中のヌクレオカプシドIgG力価は36倍上昇していた。・野生株およびBA.5スパイクタンパク質に対する血清IgG結合は、2023年2月に得られた検体と比較して、BA.2.86感染後の検体では1.1倍および1.5倍だった。・一方、野生株およびBA.5スパイクタンパク質に対する粘膜IgA結合は、2023年2月に得られた検体と比較して、BA.2.86感染後の検体では3.6倍および3.4倍であり、血清IgGより強く誘導されていた。 本研究により、BA.2.86感染により抗体応答が大幅に増強されるという結果が得られた。著者らは、ワクチン接種を受けた免疫不全者や過去に感染したことのある正常な抗体レベルの人がBA.2.86に感染する可能性があることを裏付けており、BA.2.86が世界的な感染者急増を引き起こす可能性があることを指摘している。また、本研究では2月に検体を採取してから8月にBA.2.86感染と診断されるまでに6ヵ月が経過していたため、9月に抗体価が上昇する以前に抗体価が減少し、感染後の上昇率が過小評価されている可能性もあるという。

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