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第264回 あの3医学誌を“腐敗”呼ばわり、トランプ氏より危険な人物

トランプ大統領の影で大暴れする人物各種報道で話題になっているように、米・ハーバード大学とトランプ政権の攻防はエスカレートする一方だ。きっかけはトランプ政権が同大学の「“反ユダヤ主義的な差別”への取り組みが不十分」だと非難し、「応じなければ助成金や政府との契約を見直す」と発表。この要求を同大学が拒否したため、政権側は約23億ドル分(4月15日時点)の助成金と契約を凍結すると明言した。これに対し、同大学は凍結取り消しを求めて4月21日にマサチューセッツ州連邦地裁へ提訴。しかし、政権側は同大学に対し5月2日に免税措置を取り消し、22日に留学生受け入れ資格の停止、27日には推定1億ドル(日本円で約144億円)とも言われる政府との全契約打ち切り公言など、相次ぐ報復に踏み切った。ちなみに留学生受け入れ資格の停止についても同大学は即座に提訴し、マサチューセッツ州連邦地裁は翌23日に政府による措置の一時差し止め決定を下した。人によって評価は分かれるかもしれないが、私個人のトランプ大統領のこの間の言動に対する評価は「常軌を逸している」の一言に尽きる。まるで漫画「ドラえもん」に登場するガキ大将・剛田 武、通称ジャイアン並みの傍若無人ぶりである。そして世界中がトランプ大統領の言動に視線が集まる中、もう1人の主役が“大暴れ中”である。トランプ政権の保健福祉省長官であるロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)である。米国の3医学誌を腐敗呼ばわりケネディ氏は以前から極端なワクチン懐疑主義を唱え、コロナ禍中はその治療薬として一部で妄信的とも言える“期待”が語られた抗寄生虫薬のイベルメクチン支持者だったことでも知られる。このためケネディ氏の保健福祉省長官への就任には根強い反対論があり、上院での採決では身内の共和党も造反し、賛成51票・反対48票でかろうじて長官人事が承認された経緯がある。さてそのケネディ氏は5月27日、ポットキャストでLancet、New England Journal of Medicine、JAMAの3誌を「製薬企業が資金提供した研究ばかりが掲載され、腐敗している」と批判。「国立衛生研究所(NIH)の研究者にこれらの雑誌で論文を発表するのを止めさせる」とまで語った。もっともご存じの人も多いと思うが、ケネディ氏の主張は100%間違っているわけではない。これら医学誌に製薬企業の資金提供による論文が数多く掲載されていることは事実であり、またコロナ禍中には査読の甘さゆえに信頼性の低いデータに基づく論文が撤回されたこともある。とはいえ、世界各国の研究者がこの3誌に論文投稿する価値は十分あり、同時に各国の多くの研究者たちが愛読している雑誌である。少なくともNIH関係者が投稿を止めねばならないほど腐敗があると認める人は、この世界では極めて少数派だろう。それをケネディ氏の一存で止めさせようというのだから、相当なトンデモである。しかも、ケネディ氏はこれに代わる新たな医学誌の創刊をぶち上げたらしいが、医学誌1つの創刊と発行継続に、どれだけの資金と人員が必要かについては無頓着のようである。トランプ政権が各種予算を驚くような勢いで削減している中で、そのような費用の支出を政権として承認するかどうかは甚だ疑問である。ここぞとばかりに、ワクチンスケジュール削除また、同日には健常な子どもと妊婦に対する新型コロナワクチン接種を米国疾病予防管理センター(CDC)が推奨するワクチン接種スケジュールから削除したと自身のSNSを通じて発表している。CDCの推奨ワクチンについては、外部専門家で構成されるACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)が年数回開催する公開会議で、データに基づき厳格な審議と投票が行われる。その結果にパブリックコメントも踏まえた勧告案をCDCに提出し、CDC所長による承認を経て正式決定と公表がなされる。今回こうしたプロセスは一切経ていない。もはやここまでいくと「リーダーシップ」のふりをした「ディクテイターシップ(独裁制)」である。米国小児科学会(AAP)はさっそく声明を発表。ケネディ氏の“決定”は「独立した医療専門家を無視し、子どもたちを危険にさらすもの」「保険福祉省が収集したデータをAAPが分析した結果、2024~25年の呼吸器ウイルス流行期に1万1,199人の子どもが新型コロナで入院し、うち7,746人が5歳未満だったことが判明した」「健康な妊婦を除外するという決定は、65~74歳の高齢者と妊婦が新型コロナによる入院率が同程度にもかかわらず、もはや生後6ヵ月未満の乳児が保護を受けられなくなることを意味する」などと述べ、反発を強めている。また、米国産婦人科学会(ACOG)も「妊娠中の新型コロナ感染は悲惨であるとともに、重大な障害につながる可能性があり、家族にとって壊滅的な結果をもたらす可能性があることは明らか。新型コロナワクチンは妊娠中に安全であり、ワクチン接種は患者と出生後の乳児を守ることができる」との声明を発表した。さらに保健福祉省は28日、バイデン政権期に決定していたモデルナ社による高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)のmRNAワクチン開発への助成を打ち切ると発表。同省は打ち切りについて、「連邦政府の投資継続に必要な科学的基準や安全性の期待を満たしていない」との見解を示したと報じられている。あくまで省として決定と伝わっているが、長官であるケネディ氏が「新型コロナのmRNAワクチンにはマイクロチップが含まれている」という陰謀説の出元と言われるだけに、同氏の関与をどうしても疑ってしまう。やりたい放題、いつまで続く?極めつきは5月22日に発表された「MAHA(Make America Healthy Again=米国を再び健康にする)委員会」の報告書だ。これは2月13日付でMAHA委員会を設置し、同委員会にアメリカ国民を不健康にしている原因究明とその解消策提言をするよう求めた大統領令に基づくもの。委員長はケネディ氏である。その内容を細かく取り上げるときりがないが、大雑把に要約すると「アメリカの子どもの慢性疾患は深刻で、その原因は加工食品や化学物質、薬の過剰投与、ワクチンの過剰接種が原因の可能性がある」というもの。トランプ政権入りする以前からのケネディ氏の主張そのままである。冒頭で触れたハーバード大学の留学生追放やすでに報じられている科学関連予算の大幅削減にこうしたケネディ色がトッピングされたら、4年後のアメリカはどうなってしまうのだろうか? 正直、嫌な予感しかないのだが…。

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世界の主要な20の疾病負担要因、男性の健康損失が女性を上回る

 2021年の世界疾病負担研究(GBD 2021)のデータを用いた新たな研究で、女性と男性の間には、疾病負担の主要な20の要因において依然として格差が存在し、過去30年の間にその是正があまり進んでいないことが示された。全体的に、男性は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や交通事故など早期死亡につながる要因の影響を受けやすいのに対し、女性は筋骨格系の疾患や精神障害など致命的ではないが長期にわたり健康損失をもたらす要因の影響を受けやすいことが示されたという。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のVedavati Patwardhan氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Public Health」5月号に掲載された。 Patwardhan氏らは、GBD 2021のデータを用いて、1990年から2021年における10歳以上の人を対象に、世界および7つの地域における上位20の疾病負担要因の障害調整生存年(DALY)率について、男女別に比較した。DALYとは、障害や疾患などによる健康損失を考慮して調整した指標であり、1DALYとは1年間の健康な生活の損失を意味する。20の疾病負担要因は、COVID-19、心筋梗塞、交通事故、脳卒中、呼吸器がん、肝硬変およびその他の慢性肝臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、腰痛、うつ病、結核、頭痛、不安症(不安障害)、筋骨格系疾患、転倒、下気道感染症、慢性腎臓病、アルツハイマー病およびその他の認知症、糖尿病、HIV/エイズ、加齢性難聴およびその他の難聴であった。 その結果、2021年では、検討した20要因のうちCOVID-19や肝臓病など13要因で男性のDALYは女性よりも高いことが推定された。男女差が最も顕著だったのはCOVID-19で、年齢調整DALY(10万人当たり)は男性で3,978、女性で2,211であり、男性の健康負担は女性に比べて44.5%高かった。COVID-19の負担は地域を問わず男性の方が高かったが、特に差が大きかったのはサハラ以南のアフリカ、ラテンアメリカ諸国、カリブ海諸国だった。 DALYの男女差の絶対値が2番目に大きかった要因は心筋梗塞で、10万人当たりのDALYは男性で3,599、女性で1,987であり、男性の健康負担は女性より44.7%高かった。地域別に見ると、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、中央アジアでは男女差が大きかった。 また、女性に比べて男性に多い要因は、年齢が低いほどリスク増加が小さい傾向が認められたが、交通事故による負傷は例外であり、世界中で10〜24歳の若い男性で不釣り合いに多く発生していた。 一方、女性は長期的な健康損失をもたらす疾患において男性よりもDALYが高い傾向が見られた。特にDALYの男女差が顕著だったのは、腰痛(絶対差478.5)、うつ病(同348.3)、頭痛(332.9)であった。また、女性には、人生の早い段階からより深刻な症状に悩まされ、その症状は年齢とともに悪化する傾向も認められた。 論文の共著者である米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)のGabriela Gil氏は、「女性の健康損失の大きな要因、特に筋骨格系疾患と精神疾患は十分に注目されているとは言えない。女性のヘルスケアに対しては、性や生殖に関する懸念などこれまで医療制度や研究資金が優先してきた領域を超えた、より広範な取り組みが必要なことは明らかだ」と述べている。 論文の上席著者であるIHMEのLuisa Sorio Flor氏は、「これらの結果は、女性と男性では経時的に変動したり蓄積されたりする多くの生物学的要因と社会的要因が異なっており、その結果、人生の各段階や世界の地域ごとに経験する健康状態や疾患が異なることを明示している」との見方を示す。その上で、「今後の課題は、性別やジェンダーを考慮した上で、さまざまな集団において、早期から罹患率や早期死亡の主な原因を予防・治療する方法を設計して実施し、評価することだ」と述べている。

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第13回 コロナ・インフル「同時予防ワクチン」、その実力とは?

毎年、冬になると猛威を振るう季節性インフルエンザ。未だ世界中で散発的な流行を起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。これら2つの感染症は、とくに50歳以上の人や基礎疾患を持つ人にとって、重症化や入院、時には死に至る危険性もはらんでいます。現在、これらの感染症を予防するためには、それぞれ別のワクチンを接種する必要があります。世界保健機関(WHO)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、2つのワクチンの同時接種を推奨しており、これにより接種率の向上が期待されています。しかし、その推奨にもかかわらず、両方のワクチンの接種率は必ずしも高くないのが現状です。もし、1回の注射でインフルエンザと新型コロナの両方に対応できるワクチンがあれば、接種を受ける人の負担が減り、より多くの人が予防接種を受けやすくなるかもしれません。そんな期待を背負って開発が進められてきたのが、新しい混合ワクチンです。この記事では、季節性インフルエンザと新型コロナウイルスの両方に対応するmRNAワクチン「mRNA-1083」の安全性と免疫反応を評価した最新の研究論文1)について解説します。新しいmRNA多価ワクチン「mRNA-1083」とは?今回報告された「mRNA-1083」は、mRNAワクチンの一種です。mRNAワクチンは、ウイルスのタンパク質を作るための設計図(mRNA)を体内に送り込み、それをもとに体内でタンパク質の一部が作られます。すると、私たちの免疫システムがそのタンパク質を「異物」と認識し、それに対する抗体などを作り出すことで、本物のウイルスが侵入してきた際に備えることができる仕組みです。mRNA-1083には、インフルエンザウイルスの表面にあるヘマグルチニンというタンパク質と、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の一部の設計図が含まれています。これらは、それぞれインフルエンザワクチン(mRNA-1010)と新型コロナワクチン(mRNA-1283)の成分であり、過去の研究でそれぞれ良好な安全性と免疫反応が確認されています。ワクチンの効果と安全性をどうやって調べたのか?この研究は、mRNA-1083の有効性と安全性を評価するための第III相臨床試験として、アメリカ国内146施設で実施されました。参加者は50歳以上の成人で、「65歳以上」と「50~64歳」の2つの年齢層に分けられました。これは、推奨されるインフルエンザワクチンの種類がこれらの年齢層で異なるためです。参加者は、ランダムに2つのグループに分けられました。mRNA-1083群新しい多価ワクチンmRNA-1083と、プラセボ(生理食塩水)を接種(比較群が2つのワクチン接種を受けるため、あえてプラセボを1本接種しています)比較群インフルエンザワクチンと既存の新型コロナワクチンを同時接種試験は盲検化して行われました。これにより、結果に対する先入観を排除することができます。主な目的は、接種29日後に、mRNA-1083が既存のワクチンと同等以上の免疫反応(非劣性)を示すかどうか、そして安全性を評価することでした。この研究で何がわかったのか?合計8,015人がこの試験に参加し、ワクチンを接種しました。結果として、mRNA-1083は、対象となったすべての型のインフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス(XBB.1.5)に対して、既存のワクチンと同等以上の免疫反応を示し、非劣性基準を達成しました。さらに、mRNA-1083はいくつかの点で、既存のワクチンよりも優れた免疫反応(優越性)を示しました。50歳~64歳mRNA-1083は、標準用量のインフルエンザワクチンと比較して、4種類すべてのインフルエンザウイルスに対してより高い免疫反応を示しました。また、新型コロナウイルスに対しても同様の結果でした。 65歳以上mRNA-1083は、高用量のインフルエンザワクチンと比較して、3種類のインフルエンザウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B/Victoria)に対してより高い免疫反応を示しました。ただし、B/Yamagata株に対する免疫反応は、優越性の基準には達しませんでした。新型コロナウイルスに対しても、mRNA-1083はより高い免疫反応を示しました。 なお、インフルエンザB/Yamagata株は、近年の流行がみられないため2024~25年シーズンのワクチンからは除外することがWHOから推奨されています。この点を考慮すると、mRNA-1083は重要な3種類のインフルエンザウイルス(A/H1N1、A/H3N2、B/Victoria)と新型コロナウイルスの両方に対して、既存の推奨ワクチンよりも優れた免疫反応を50歳以上の成人に誘導したといえます。安全性は?ワクチンの安全性は非常に重要です。この研究では、mRNA-1083接種後の副反応も詳しく調べられました。その結果、mRNA-1083を接種した群では、既存のワクチンを接種した群と比較して、副反応を報告した人の割合や重症度がわずかに高い傾向がみられました。たとえば、65歳以上では、mRNA-1083群の83.5%に対し、比較群では78.1%が副反応を報告しました。50~64歳では、それぞれ85.2%と81.8%でした。しかし、報告された副反応のほとんどは、軽度(Grade1)または中等度(Grade2)であり、短期間で回復するものでした。最も多かった副反応は、注射部位の痛み、倦怠感、筋肉痛、頭痛でした。重篤な副反応(Grade4、すべて発熱)は非常にまれで、両年齢層のmRNA-1083群で合計4人(0.1%未満)でした。試験期間を通じて、新たな安全性の懸念は確認されませんでした。また、この研究では、ワクチン接種後の数日間の生活の質(QOL)への影響も調査されています。その結果、mRNA-1083を接種したグループでは、接種後2日目に一時的なQOLスコアの低下が見られましたが、3日目には回復しました。この低下の度合いは、既存のインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンで報告されているものと同程度か、それ以下であり、臨床的に意味のある大きな変化ではありませんでした。研究の限界この研究は重要な知見をもたらしましたが、いくつかの限界も認識しておく必要があります。まず、この研究では、ワクチンが実際にインフルエンザや新型コロナの発症をどの程度防ぐかという「有効性」は直接評価されていません。ただし、評価された免疫反応の指標(抗体価)は、それぞれインフルエンザと新型コロナワクチンの有効性と関連する信頼性の高い指標とされています。また、試験参加者はアメリカ国内の住民で、人種構成はアメリカの一般人口を反映していますが、他の地域や人種グループにそのまま結果を当てはめられるかはさらなる検討が必要です。今後の展望今回の第III相臨床試験の結果は、mRNA多価ワクチン「mRNA-1083」が、50歳以上の成人において、4種類のインフルエンザ株と新型コロナウイルス(XBB.1.5)に対して、既存の推奨ワクチンと同等以上の免疫反応を誘導し、安全性も許容範囲であることを示しました。とくに、臨床的に重要なインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスに対しては、既存ワクチンよりも優れた免疫反応が確認された点は注目に値します。1回の接種で2つの主要な呼吸器感染症を予防できる可能性を秘めたこの新しいワクチンは、公衆衛生の観点からも大きな期待が寄せられます。今後の実用化に向けた取り組みが注目されます。参考文献・参考サイト1)Rudman Spergel AK, et al. Immunogenicity and Safety of Influenza and COVID-19 Multicomponent Vaccine in Adults ≥50 Years: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025 May 7. [Epub ahead of print]

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モデルナ、プレフィルドシリンジ型コロナワクチンを新発売

 モデルナ・ジャパンは5月26日付のリリースにて、新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス(R)筋注シリンジ」を新たに発売したことを発表した。本ワクチンは、12歳以上を対象とした1回接種用0.5mLを充填したプレフィルドシリンジ製剤で、医療現場での調製時間を短縮し、投与準備を簡便化する。これにより、医療従事者の負担軽減と接種の効率化が期待される。本製剤は、オミクロン株JN.1系統に対応している。 なお、2025年春夏シーズンの任意接種においては、従来からのオミクロン株JN.1系統対応バイアル製剤「スパイクバックス(R)筋注」も引き続き使用可能となっている。

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バーチャル合唱プログラムで孤立した高齢者の気分やウェルビーイングが向上

 歌を歌うことが魂にとって救いとなることがあるが、バーチャルな集団の中で歌うことにも同様の効果はあるのだろうか? その答えは「イエス」であることが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のロックダウン中にバーチャル合唱団へ参加したことが高齢者の感情面あるいは精神面に良い影響をもたらしたのかどうかを検証した研究で示された。研究によると、孤立した高齢者からは、ZoomやFacebook Liveを介して合唱の練習に参加したことで不安が軽減され、社会とのつながりが深まり、感情的および知的な刺激を受けることができたとの評価が得られたという。米ノースウェスタン大学音楽療法プログラムのBorna Bonakdarpour氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Alzheimer’s Disease」に4月22日掲載された。 Bonakdarpour氏は、「この研究は、バーチャル合唱団への参加が、農村部に住んでいる人や移動に制限のある人、社会的不安を感じている人に、パンデミックに関わりなく恩恵をもたらす可能性のあることを示唆している」とニュースリリースの中で述べている。 この研究は米イリノイ州を拠点とする合唱プログラムの「サウンズ・グッド・クワイア(Sounds Good Choir)」との協働で実施された。パンデミックによるロックダウンが続く2021年、同プログラムでは55歳超の参加者が、バーチャルで以下のいずれかの活動に参加した。1)なじみのある歌を用いた、週に1回、計52回の歌唱セッションを受けるシングアロングセッション、2)組織化された合唱団で週1回の練習を重ね、最後にバーチャルコンサートを行う合唱プログラム。参加者には、認知機能が正常な人と神経認知障害を持つ人の両方が含まれていた。なお、Bonakdarpour氏らによると、先行研究では歌うことは肺活量や姿勢、全体的な身体の健康を向上させるだけでなく、呼吸のコントロールや感情の調整、運動機能に関わる脳の働きも活性化させ、脳と身体に良い影響をもたらすことが示されているという。 プログラムの終了後、Bonakdarpour氏らは176人の参加者を対象に調査を行い、バーチャル合唱体験が与えた影響について調べた。その結果、参加者の86.9%がプログラムへの参加がウェルビーイングに良い影響をもたらしたことを報告していた。プログラム別に見ると、シングアロングセッションへの参加はポジティブな記憶を呼び起こし、感情的な共鳴を促す一方で、合唱プログラムへの参加は、知的な刺激や関与をもたらすことが示唆された。さらに自由記述回答では、全体の5%以上の回答で、以下の面にポジティブな影響がもたらされたことが報告されていた。感情的ウェルビーイング(36%)、社会的ウェルビーイング(31%)、知的ウェルビーイング(18%)、パンデミックによる混乱の中での正常性の感覚や秩序の感覚(12%)、精神的ウェルビーイング(11%)、身体的ウェルビーイング(7%)、過去とのつながり(5%)。 Bonakdarpour氏は、「認知症とともに生きる人では、周囲の環境がどのようなものであろうと正常性の感覚の喪失が自己認識に強く影響し、不安の原因となる。このことは、こうした介入が正常な感覚を取り戻す助けとなり、心理的ウェルビーイングをサポートし、安定した自己認識に再びつなげる方法となる可能性があることを示唆している」と述べている。 さらにBonakdarpour氏は、「パンデミック時のグループ合唱への参加者は、混乱が広がる中、この活動が正常性の感覚をもたらしてくれたと一貫して話していた。これは顕著なテーマとして浮かび上がった点であり、今後さらなる研究で検討する必要がある」と言う。研究グループは今後、米国立衛生研究所(NIH)の音楽認知症研究ネットワークが助成する全国規模の臨床試験で、このバーチャル合唱体験をさらに詳しく検証する予定だとしている。

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学会オンライン参加の効能【Dr. 中島の 新・徒然草】(581)

五百八十一の段 学会オンライン参加の効能5月だというのに、無茶苦茶暑い日が続いています。外来に来られる患者さんの第一声が「暑い、暑い!」というのが最近の日常となりました。私が中学生や高校生だった頃は、6月1日と10月1日に一斉に衣替えをしていたものです。白い夏服に切り替わるその日は、季節の変化をはっきりと感じさせてくれました。ところが最近では、その習慣もすっかり時代遅れになりつつあります。初夏の暑さが年々厳しさを増しており、夏服への移行は2週間ほど前倒しにした方がよいのでは、と思わざるを得ません。さて、今回は学会参加についてお話ししたいと思います。新型コロナウイルスの流行をきっかけに、全国規模の学会の開催形式は大きく様変わりしました。現地参加に加えて、オンライン参加が選択肢として定着してきたのです。私はもっぱらオンライン派。理由は単純で、遠くまで出掛ける必要がないからです。新幹線や飛行機を使って半日がかりで現地入りするだけで、すでに疲労困憊。宿泊先のホテルでもぐっすり眠れないこともあり、翌日まで疲れを持ち越すこともありました。その点、オンライン参加であれば移動のストレスもなく、慣れた環境で視聴できます。画面の見やすさも利点の一つです。パソコンのモニターに映し出されるスライドは、多少文字数が多くても読みやすく、視認性に優れています。また、イヤホンを使えば音声も非常にクリア。とくに外国人演者による英語の発表のリスニングには強力な味方です。病院にいながら空き時間を使ってセッションを視聴できるのも、オンラインならではの利点。時には発表を聴きながら簡単な事務作業をこなすこともできます。とはいえ、院内PHSが鳴って呼び出されることもあり、ようやく戻ってきたらセッションが終わっていた、ということもしばしば経験しました。そこで今年の春は、もっぱら自宅からの参加に切り替えています。これが思いのほか快適で、今後もこのスタイルを続けようと思わされました。もちろん自宅にいても完全に集中できるとは限りません。急な来客や宅配便の対応で、途中退席を余儀なくされることもあります。それでも、見逃したセッションは後日オンデマンドで視聴可能。オンライン形式ならではの強みですね。また、領域講習単位を取得する目的で、専門外の発表を視聴する機会も増えました。各演者が何年もかけて積み上げてきた研究成果が、わずか20分ほどに凝縮されて発表され、毎回のように「世の中、こんなに進んでいるのか!」と驚かされます。こうした発表の情報の質や密度は、日常的に配信されているYouTube動画などとは比較になりません。その一方で、各発表演題の内容を理解するには大変な集中力が必要です。私の場合、4演題ほど視聴すると疲れてしまうので、自然に瞼が下がって……すみません。考えてみれば、今では院内の全職員参加必須講演会ですらオンデマンド配信が併用される時代です。学会出席もまた、現地参加に加えてオンラインやオンデマンドを組み合わせることで、より柔軟な対応が可能となりました。オンライン参加はやむを得ず選ぶという位置付けではなく、むしろ積極的に活用すべき手段だと思います。これからますます暑くなる季節に、涼しく快適な部屋からのオンライン参加。たとえコロナが完全に終息しても、こういった多様な参加形式はぜひ続いてほしいものです。最後に1句学会は 麦茶片手に オンライン

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COVID-19は糖尿病患者の院内死亡率を高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は高齢者や基礎疾患のある人で重症化しやすいことが知られているが、今回、治療中の糖尿病がCOVID-19による院内死亡率や人工呼吸器使用、血液透析といった腎代替療法の重大なリスク因子である、とする研究結果が報告された。研究は東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の諏訪内浩紹氏、鈴木亮氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に3月19日掲載された。 COVID-19は多臓器障害を伴い、重症化した場合は、急性呼吸窮迫症候群、急性腎障害、その他の臓器不全を引き起こすことが多い。日本ではCOVID-19による死亡率は比較的低いが、糖尿病患者の場合では死亡リスクの上昇が報告されている。一方で、糖尿病患者におけるCOVID-19の治療と転帰を検討する包括的な研究は依然として限られている。そのような背景から、著者らはCOVID-19が糖尿病患者に及ぼす影響を評価するために、多施設の後ろ向きコホート研究を実施した。本研究では、院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICUへの入院、血液透析(HD)、持続的血液濾過透析(CHDF)、医療リソースの利用状況に関する影響が検討された。 研究には、千葉県内38医療機関の診断群分類包括評価(DPC)データより、2020年2月1日~2021年11月31日までの間にCOVID-19と診断された1万1,601人が含まれた。この中から、18歳未満、妊娠中、糖尿病未治療の症例など計825人が除外され、最終的な解析対象を1万776人(対照群7,679人、糖尿病群3,097人)とした。連続変数とカテゴリ変数の比較には、それぞれスチューデントのt検定とフィッシャーの正確確率検定を使用した。 糖尿病群の患者は対照群の患者よりも平均年齢とBMIが高かった(67.4歳 vs 55.7歳、25.6kg/m2 vs 23.6kg/m2、各P<0.001)。糖尿病の治療に関しては、インスリン使用率は88.4%、経口血糖降下薬は44.2%であり、インスリン療法の割合が高かった。 COVID-19による平均入院日数は、糖尿病群で17.8±15.3日であり、対照群(10.2±8.5日)と比べて有意に延長された(P<0.001)。院内死亡率は、糖尿病群と対照群でそれぞれ、12.9%と3.5%であり、糖尿病群で高くなっていた(オッズ比OR 4.05〔95%信頼区間3.45~4.78〕、P<0.001)。また、年齢別のサブグループ解析を行った結果、50~59歳にORのピークがみられ(同12.8〔3.71~44.1〕、P<0.01)、この年齢層がCOVID-19による院内死亡の強いリスク因子であることが示唆された。 次に、糖尿病がアウトカム(院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDF)に及ぼす影響を検討するため回帰分析を行ったところ、糖尿病群の全てのアウトカムのORは対照群と比較して有意に高かった。また、年齢、性別、BMI、救急車の利用で調整した重回帰分析を行った場合でも、全てのアウトカムのORは有意なままであったことから、糖尿病がこれらのアウトカムの独立した因子であることが示された。 本研究について著者らは、「2020~2021年のDPCデータの解析から、糖尿病はCOVID-19における院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDFの独立したリスク因子であることが示された。院内死亡率に関しては特に18~79歳の糖尿病群で対照群より高く、働き盛りの50~59歳で最もオッズ比が高かったことから、以降の若年世代に対してのワクチン接種勧奨や行動制限は有効だったのではないか」と述べている。 また、本研究の強みとして、レセプトデータをベースとしており、患者の使用している糖尿病治療薬などの臨床情報や、かかった医療費に関しての情報が含まれていた点を挙げており、「本研究はCOVID-19と糖尿病の臨床的特徴を明らかにし、将来の治療の改善に役立つものと考えている」と付け加えた。 本研究の限界点として、今回使用したDPCデータには、入院前の情報、臨床検査値やCOVID-19の重症度分類に関する情報、ワクチン接種に関する情報が含まれていないことを挙げている。

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モデルナのコロナワクチン、生後6ヵ月からの追加免疫の一変承認を取得

 モデルナ・ジャパンは5月19日付のプレスリリースにて、新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス筋注」について、生後6ヵ月以上4歳以下を対象とした追加免疫に関する承認事項の一部変更を厚生労働省から取得したと発表した。 これまで「スパイクバックス筋注」は、生後6ヵ月以上5歳未満に対して初回免疫のみ承認されており、追加免疫は5歳以上が対象であったが、今回の承認により、生後6ヵ月から追加免疫としても接種できるようになる。 COVID-19は、高齢者や免疫不全を有する高リスク者だけでなく、乳幼児においても重症化のリスクが高く、肺炎などの入院を要する疾病を引き起こす可能性がある。同社は、今回の承認が、幅広い世代のCOVID-19感染症予防に貢献すると期待を示している。

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コロナ入院患者の院内死亡リスク、オミクロン後もインフルの1.8倍超/感染症学会・化学療法学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、オミクロン株流行以降、重症度が低下したとする報告がある一方、インフルエンザと比較すると依然として重症度が高いとの報告もある。国内の死亡者数においても、5類感染症移行後、COVID-19による死亡者数はインフルエンザの約15倍に上ると厚生労働省の統計で報告されている。こうした背景から、長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究グループは、COVID-19患者の入院中の死亡リスクをインフルエンザ患者と比較評価した。本結果は、5月8~10日に開催された第99回日本感染症学会総会・学術講演会/第73回日本化学療法学会総会 合同学会にて、前田氏が発表した。 本研究は、徳洲会メディカルデータベースを用いた後ろ向きコホート研究として実施された。DPCシステムに加入する50施設のデータから、18歳以上で入院契機病名がCOVID-19またはインフルエンザである患者を対象とした。解析対象期間は、インフルエンザ患者が2018年1月~2022年12月、COVID-19患者が2020年3月~2022年12月。両検査陽性者、入院時病名と検査結果の不一致例、COVID-19患者における抗体投与目的と考えられる短期入院例、転帰不明例は除外された。統計解析には、競合リスクを考慮した原因別ハザードモデルを使用し、インフルエンザ患者と比較したCOVID-19患者の院内死亡ハザード比を算出した。年齢、性別、チャールソン併存疾患指数(CCI)、高齢者施設入所の有無、入院医療機関を調整因子とした。90日超の入院は90日で打ち切りとした。また、COVID-19の流行時期による臨床状況の変化を考慮し、以下の3期間に分けて解析を行った。・I期:流行開始~ワクチン導入前(2020年3月~2021年2月)・II期:ワクチン導入後~オミクロン株流行前(アルファ株、デルタ株流行期)(2021年3月~2021年12月)・III期:オミクロン株流行期(2022年1月~2022年12月) 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、COVID-19入院患者1万8,336例、インフルエンザ入院患者2,657例。年齢中央値は、COVID-19患者のI期(3,695例):65歳(四分位範囲:48~78)、II期(5,959例):55歳(44~71)、III期(8,682例):80歳(68~88)、インフルエンザ患者:82歳(74~88)。・院内死亡割合は、インフルエンザ患者で5.9%に対し、COVID-19患者ではIII期(オミクロン株流行期)が9.1%であった。I期は6.3%、II期は5.5%であった。・人工呼吸器やHFNC/NPPVの使用割合は、アルファ株やデルタ株が流行したII期が最も高かった。 -人工呼吸器の使用:COVID-19 II期 7.8%vs.インフルエンザ 3.5% - HFNC/NPPVの使用:COVID-19 II期 8.8%vs.インフルエンザ 0.6%・入院期間は、COVID-19の全期間とインフルエンザでほぼ同様の約10日であった。・インフルエンザと比較したCOVID-19の院内死亡ハザード比は、I期:1.51(95%信頼区間[CI]:1.16~1.96)、II期:2.21(1.73~2.83)、III期:1.85(1.53~2.24)であり、II期が最も高かった。・入院時に酸素投与が必要であった患者に限定した場合も、I期:1.76(95%CI:1.18~2.64)、II期:2.17(1.50~3.14)、III期:2.01(1.53~2.65)となり、同様の傾向が認められた。 前田氏は本研究の結果について「COVID-19入院患者は、インフルエンザの入院患者と比較して、全期間を通じて院内死亡リスクが高いことが明らかになった。入院時に酸素投与を受けた患者に限定した解析でも同様の結果であり、入院時点で一般に入院適応があると考えられる患者に限定しても、COVID-19の死亡リスクが高いことが示唆された。新型コロナワクチン導入後の期間においては、入院患者が若年であり、入院時点でワクチン接種が完了していない集団であった可能性が考えられるが、本研究ではワクチン接種歴のデータが含まれていないため、今後の検討課題としたい」と結論付けた。

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静注鎮静薬―機械呼吸管理下ARDSの生命予後を改善(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 成人呼吸促迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)の概念が提唱されて以来約70年が経過し、多種多様の治療方針が提唱されてきた。しかしながら、ARDSに対する機械呼吸管理時の至適鎮静薬に関する十分なる検討結果は報告されていなかった。本論評では、フランスで施行された非盲検無作為化第III相試験(SESAR試験:Sevoflurane for Sedation in ARDS trial)の結果を基に成人ARDSにおける機械呼吸管理時の至適鎮静薬について考察するが、その臨床的意義を理解するために、ARDSの病態、薬物治療、機械呼吸管理など、ARDSに関する臨床像の全体を歴史的背景を含め考えていくものとする。ARDSの定義と病態 ARDSは1967年にAshbaughらによって提唱され、多様な原因により惹起された急激な肺組織炎症によって肺血管透過性が亢進し、非心原性急性肺水腫に起因する急性呼吸不全を招来する病態と定義された(Ashbaugh DG, et al. Lancet. 1967;2:319-323.)。ARDSの同義語としてacute lung injury(ALI:急性肺損傷)が存在する。ALIは1977年にMurrayらによって提唱された概念で、ALIの重症型がARDSに相当する(Murray JF. Am Rev Respir Dis. 1977;115:1071-1078.)。 ARDS発症1週以内は急性期と呼称され、肺胞隔壁の透過性亢進に起因する肺水腫を主体とするびまん性肺組織損傷(DAD:diffuse alveolar damage)を呈する。発症より1~2週が経過すると肺間質の線維化、II型肺胞上皮細胞の増殖が始まる(亜急性期)。発症より2~4週以上が経過すると著明な肺の線維化が進行し、肺組織破壊に起因する気腫病変も混在するようになる(慢性期)。本論評では、ARDS発症より2週以内をもって急性期、2~4週経過した場合を亜急性期、4週以上経過した場合を慢性期と定義する。 ARDSにおける肺の線維化は特発性間質性肺炎(肺線維症)の末期像に相当するものであり、10年の経過を要する肺線維症の病理像がわずか数週間で確立してしまう恐ろしい病態である(急性肺線維症)。急性期ARDSの主たる死亡原因が急性呼吸不全(重篤な低酸素血症)であるのに対して、慢性期のそれは急性肺線維症に起因する慢性呼吸不全に関連する末梢組織/臓器の多臓器障害(MOF:multiorgan failure)である。以上のように、ARDSにおける急性期病変と慢性期病変は質的に異なる病態であり、治療方針も異なることに留意する必要がある。急性期ARDSの薬物治療―歴史的変遷 新型インフルエンザ、新型コロナなど、人類が免疫を有さない新たな感染症のパンデミック時期を除いて、ARDSの年間発症率は2~8例/10万例と想定されており、急性期の致死率は25~40%である。ARDS発症に関わる分子生物学的病態解明に対する積極的な取り組み、それらを基礎とした多種多様の急性期治療が試みられてきた。しかしながら、ARDSの急性期致死率は上記の値より少し低下してきているものの、2025年現在、明確な減少が確認されていないのが現状である。 世界各国において独自のARDS診療ガイドラインが作成されているが、本邦でも、日本呼吸療法医学会(1999年、2004年)、日本呼吸器学会(2005年、2010年)ならびに、日本集中治療医学会、日本呼吸器学会、日本呼吸療法医学会の3学会合同(2016年、2021年)によるARDS診療ガイドラインが作成された。これらの診療ガイドラインにあって2021年に作成された3学会合同のガイドラインには、成人ARDSに加え小児ARDSの治療、呼吸管理に関しても項目別にコメントが示されており臨床的に有用である(ARDS診療ガイドライン2021作成委員会編. 日集中医誌. 2022;29:295-332.)。 以上のARDS診療ガイドラインの臨床現場における有用性は、2020年3月~2023年5月の約3年間にわたる新型コロナパンデミックに起因する中等症II(呼吸不全/低酸素血症を合併)、重症(ICU入院、機械呼吸管理を要する)のARDSを基に検証が進められた。新型コロナ惹起性重症ARDSに対する薬物治療にあって最も重要な知見は、免疫過剰抑制薬としての低用量ステロイドによるARDS発症1ヵ月以内の生命予後改善効果である(RECOVERY Collaborative Group. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)。以上に加え、低用量ステロイド併用下で免疫抑制薬であるIL-6拮抗薬トシリズマブ(商品名:アクテムラ)が新型コロナ関連ARDSの早期生命予後を改善することが報告された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2021;397:1637-1645.)。さらに、抗ウイルス薬レムデシビル併用下で免疫抑制薬JAK-STAT阻害薬であるバリシチニブ(商品名:オルミエント)が新型コロナによる早期ARDSの生命予後を改善することも示された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2022;400:359-368.)。 以上の結果を踏まえ、本邦における中等症II以上の重篤な新型コロナ感染症に対する急性/亜急性期の基本的薬物治療として上記3剤の使用が推奨されたことは記憶に新しい。しかしながら、以上の結果は、早期の新型コロナ感染に対する知見であり、感染後1ヵ月以上経過した慢性期(肺線維症形成期)に対するものではない。 ARDSの慢性期においてステロイドを持続的に投与すべきか否かに関する確実な検証(投与量、期間)はなされておらず、ARDSの慢性期を含めた長期生命予後に対してステロイドがいかなる効果をもたらすかは今後の重要な検討課題の1つである。さらに、ARDSの病態を呈しながら中/高用量のステロイド投与の効果が証明されているARDSも存在することを念頭に置く必要がある(脂肪塞栓、ニューモシスチス肺炎、胃酸の誤飲、高濃度酸素曝露、異型性肺炎、薬剤性、急性好酸球性肺炎などに起因するARDS)。一方、グラム陰性桿菌の敗血症に起因する重症ARDSに対しては、新型コロナ感染症の場合と同様に低用量ステロイド投与を原則とする(Bone RC, et al. N Engl J Med. 1987;317:653-658.)。以上のように、重症ARDSに対する初期ステロイドの投与量はARDSの原因によって異なることに留意する必要がある(山口. 現代医療. 2002;34(増3):1961-1970.)。ARDSの呼吸管理―静注鎮静薬による生命予後の改善 重症ARDSの呼吸管理は、非侵襲的陽圧換気(NPPV:non-invasive positive pressure ventilation)や高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC:high flow nasal cannula)など、気管挿管なしの非侵襲的呼吸補助から始まる。しかしながら、気管挿管の遅れはARDSの死亡リスクを上昇させる危険性が指摘されている。非侵襲的手段で呼吸不全が管理できない場合には、気管挿管下の呼吸管理に早期に移行する必要がある。 気管挿管下の呼吸管理は、一回換気量(TV:tidal volume)を抑制したlow tidal ventilation(L-TV、TV=4~8mL/kg)に比較的高い呼気終末陽圧呼吸(PEEP:positive end-expiratory pressure、PEEP=10cmH2O以上)を加味して開始される(肺保護換気)。L-TVはARDSで損傷した肺組織のさらなる損傷悪化を抑制すると同時に生体内CO2貯留を許容する換気法でpermissive hypercapniaとも呼称される。L-TVの効果を上昇させるものとして腹臥位呼吸法がある(肺の酸素化効率を上昇)。急性期ARDSに対するpermissive hypercapniaの臨床的重要性(早期の生命予後改善効果)は1990年から2000年代初頭にかけて世界で検証が試みられたが、確実に“有効”と結論できるものではなかった(cf. Acute Respiratory Distress Syndrome Network. N Engl J Med. 2000;342:1301-1308.)。人工呼吸器管理で酸素化が維持できない場合に、肺保護の一環として体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation)が適用される。ECMOによる肺保護治療が注目されたのは、2009年の新型インフルエンザパンデミックの発生時であった。その教訓を生かし、2020年における本邦のECMO設置率は50病床に1台と、世界有数のECMO保有国に成長した。しかしながら、高額医療であるECMO導入によって急性期ARDSの生命予後が真に改善するかどうかに関する臨床データは不十分であり、今後の検証が望まれる。 以上のように、現在のところ、呼吸管理法としていかなる方法がARDSの生命予後改善に寄与するかを確実に検証した試験は存在しない。今回論評するSESAR試験は、フランス37ヵ所のICUで施行された侵襲的機械呼吸施行時における吸入鎮静薬(セボフルラン、346例)と静注鎮静薬(プロポフォール、341例)の比較試験である。SESAR試験は、新型コロナ感染症が猛威を振るった2020~23年に施行されたもので、試験対象の50%以上が新型コロナに起因する中等症以上の成人ARDSであった。しかしながら、敗血症、誤飲、膵炎、外傷など、他の原因によるARDSも一定数含まれ、ARDS全体の動向を近似的に反映した試験と考えてよい。本試験において、ARDSの重症度、抗菌薬、ステロイド、機械呼吸の内容を含め、鎮静薬以外の因子は両群でほぼ同一に維持された。primary endpointとして試験開始28日以内の機械呼吸なしの日数、key secondary endpointとして試験開始90日での死亡率が検討された。その結果、28日以内の機械呼吸なしの日数、90日での死亡率はともに、静注鎮静薬プロポフォール群で有意に優れていることが判明した(90日目の死亡率:プロポフォール群でセボフルラン群に比べ1.3倍低い)。以上の内容は、ARDS発症後の慢性期(ARDS発症後4週以上で肺線維症形成期)に対しても静注鎮静薬による急性期呼吸管理が有利に働くことを示したものであり、ある意味、驚くべき結果と言ってよい。 以上、静注鎮静薬による初期呼吸管理がARDS慢性期の生命予後を有意に改善することが示されたが、今後、多数の侵襲的呼吸管理法の中でいかなる方法が急性~慢性期のARDSの生命予後改善に寄与するかに関し、組織的な比較試験が施行されることを望むものである。

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インフル・コロナ混合ワクチン、50歳以上への免疫原性・安全性確認/JAMA

 インフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の混合ワクチン「mRNA-1083」の免疫原性と安全性を、50歳以上の成人を対象に評価した第III相無作為化観察者盲検試験の結果が報告された。開発中のmRNA-1083は、推奨されるインフルエンザワクチン(高用量、標準用量)およびCOVID-19ワクチンと比較して非劣性基準を満たし、4種すべてのインフルエンザ株(50~64歳)、SARS-CoV-2(全年齢)に対して高い免疫応答を誘導したことが実証され、許容可能な忍容性および安全性プロファイルが示された。米国・ModernaのAmanda K. Rudman Spergel氏らが報告した。JAMA誌オンライン版2025年5月7日号掲載の報告。4価ワクチン+COVID-19併用接種群と比較 試験は、2023年10月19日~11月21日に米国146施設で50歳以上の成人を登録して行われた。データ抽出は2024年4月9日に完了した。 被験者は年齢で2コホート(65歳以上、50~64歳)に分けられ、mRNA-1083+プラセボを接種する群、承認済みの季節性インフルエンザ4価ワクチン(65歳以上:高用量4価不活化インフルエンザワクチン[HD-IIV4]、50~64歳:標準用量IIV4[SD-IIV4])とCOVID-19ワクチン(全年齢:mRNA-1273)を併用接種する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 本試験の主要目的は、29日時点におけるmRNA-1083接種後の体液性免疫応答の対照ワクチンに対する非劣性の検証、mRNA-1083の反応原性および安全性の評価であった。副次目的は、29日時点におけるmRNA-1083接種後の体液性免疫応答の対照ワクチンに対する優越性の検証などであった。mRNA-1083の免疫原性の非劣性、高い免疫応答の誘導を確認 全体で8,015例がワクチンを接種された(65歳以上4,017例、50~64歳3,998例)。年齢中央値は65歳以上のコホート70歳、50~64歳のコホート58歳、女性はそれぞれ54.2%と58.8%、黒人またはアフリカ系は18.4%と26.7%、ヒスパニックまたはラテン系は13.9%と19.3%であった。 mRNA-1083の免疫原性は、すべてのワクチン適合インフルエンザ株およびSARS-CoV-2株に対して非劣性が検証された。すなわち、幾何平均抗体価比の97.5%信頼区間(CI)下限値は0.667を上回り、セロコンバージョン/血清反応率の差の97.5%CI下限値は-10%超であった。 mRNA-1083は、4種すべてのインフルエンザ株に対してSD-IIV4(50~64歳に接種)よりも高い免疫応答を誘導し、3種のインフルエンザ株(A/H1N1、A/H3N2、B/ビクトリア)に対してHD-IIV4(65歳以上に接種)よりも高い免疫応答を誘導した。また、SARS-CoV-2(全年齢にmRNA-1273を接種)に関しても高い免疫応答を誘導した。 mRNA-1083接種後の依頼に基づく非自発的に報告された副反応は、両年齢コホートにおいて対照ワクチン群と比較し、頻度および重症度ともに数値的には高かった。頻度は、65歳以上ではmRNA-1083接種群83.5%、HD-IIV4+mRNA-1273接種群78.1%であり、50~64歳ではmRNA-1083接種群85.2%、SD-IIV4+mRNA-1273接種群81.8%であった。重症度は大半がGrade1または2であり短期間に消失した。以上から、安全性に関する懸念は認められなかった。

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好酸球数高値COPD、メポリズマブで中等度/重度の増悪低減/NEJM

 インターロイキン-5(IL-5)は好酸球性炎症において中心的な役割を担うサイトカインであり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の20~40%に好酸球性炎症を認める。メポリズマブはIL-5を標的とするヒト化モノクローナル抗体である。米国・ピッツバーグ大学のFrank C. Sciurba氏らMATINEE Study Investigatorsは、「MATINEE試験」において、好酸球数が高値のCOPD患者では、3剤併用吸入療法による基礎治療にプラセボを併用した場合と比較してメポリズマブの追加は、中等度または重度の増悪の年間発生率を有意に低下させ、増悪発生までの期間が長く、有害事象の発現率は同程度であることを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年5月1日号に掲載された。25ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 MATINEE試験は、血中好酸球数が高値で、増悪リスクのあるCOPD患者における3剤吸入療法へのメポリズマブ追加の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年10月~2023年8月に25ヵ国344施設で患者を募集した(新型コロナウイルス感染症のため2020年3月23日~6月9日まで募集を中断)(GSKの助成を受けた)。 スクリーニング時に年齢40歳以上で、少なくとも1年前にCOPDの診断を受け、増悪の既往歴を有し、3剤吸入療法(吸入ステロイド薬、長時間作用型β2刺激薬、長時間作用型抗コリン薬)を3ヵ月以上受け、血中好酸球数≧300/μLの患者804例(平均[±SD]年齢66.2[±8.0]歳、女性31%)を修正ITT集団として登録した。 被験者を、4週ごとにメポリズマブ(100mg)を皮下投与する群(403例)、またはプラセボ群(401例)に無作為に割り付け、52~104週間投与した。 主要エンドポイントは、中等度または重度の増悪の年間発生率であった。治療への反応性には差がない 重度増悪の既往歴はメポリズマブ群で22%、プラセボ群で19%の患者に認めた。全体の25%の患者が過去または現在、心疾患の診断を受けており、72%が心血管疾患のリスク因子を有していた。平均曝露期間は両群とも約15ヵ月だった。 中等度または重度の増悪の年間発生率は、プラセボ群が1.01件/年であったのに対し、メポリズマブ群は0.80件/年と有意に低かった(率比:0.79[95%信頼区間[CI]:0.66~0.94]、p=0.01)。 また、副次エンドポイントである中等度または重度の増悪の初回発生までの期間中央値(Kaplan-Meier法)は、プラセボ群の321日と比較して、メポリズマブ群は419日であり有意に長かった(ハザード比:0.77[95%CI:0.64~0.93]、p=0.009)。 治療への反応性(QOLの指標としてのCOPDアセスメントテスト[CAT:0~40点、高スコアほど健康状態が不良であることを示す]のスコアが、ベースラインから52週目までに2点以上低下した場合)を認めた患者の割合は、メポリズマブ群が41%、プラセボ群は46%であり(オッズ比:0.81[95%CI:0.60~1.09])、両群間に有意な差はなかったため、階層的検定に基づきこれ以降の副次エンドポイントの評価に関して統計学的検定を行わなかった。MACEは両群とも3例に発現 投与期間中およびその後に発現した有害事象の割合は、メポリズマブ群で75%、プラセボ群で77%であった。投与期間中に発生した重篤な有害事象・死亡の割合はそれぞれの群で25%および28%であり、投与期間中およびその後の死亡の割合は両群とも11%(3例)だった。投与期間中およびその後に発生した主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死性の心筋梗塞・脳卒中、致死性または非致死性の心筋梗塞・脳卒中)は、両群とも11%(3例)に認めた。 著者は、「これらの知見は、ガイドラインに基づく維持療法のみを受けている患者に対して、メポリズマブ治療は付加的な有益性をもたらすことを示している」「先行研究と本試験の結果を統合すると、選択されたCOPD患者における2型炎症を標的とする個別化治療の妥当性が支持される」「増悪関連のエンドポイントはメポリズマブ群で良好であったが、CAT、St. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)、Evaluating Respiratory Symptoms in COPD(E-RS-COPD)、気管支拡張薬投与前のFEV1検査で評価した治療反応性は両群間に実質的な差を認めなかったことから、これらの原因を解明するための調査を要する」としている。

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大惨事はがんの診断数を減少させる

 自然災害やパンデミックなどの大惨事は、がんによる死者数の増加につながるかもしれない。新たな研究で、ハリケーン・イルマとハリケーン・マリアが2週間間隔でプエルトリコを襲った際に、同国での大腸がんの診断数が減少していたことが明らかになった。このような診断数の低下は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの発生直後にも認められたという。プエルトリコ大学総合がんセンターのTonatiuh Suarez-Ramos氏らによるこの研究結果は、「Cancer」に4月14日掲載された。 米国領プエルトリコでは、2017年9月初旬に超大型ハリケーン・イルマが島の北を通過したわずか2週間後に、カテゴリー5の最強ハリケーン・マリアが上陸し、甚大な被害を出した。当時、稼働していた病院はほとんどなく、高い貧困率などが原因ですでに制限されていた医療へのアクセスがさらに悪化した。さらに2020年にはCOVID-19パンデミックが発生した。政府が実施した厳格なロックダウン政策は、感染の抑制には効果的だったが、医療サービスの利用低下につながった。 Suarez-Ramos氏らは、このような大規模イベント発生による医療システムの混乱により、プエルトリコで2番目に多いがんである大腸がんの検診へのアクセスが制限され、それががんの早期発見の妨げとなった可能性があるのではないかと考えた。それを調べるために同氏らは、プエルトリコ中央がん登録簿の2012年1月1日から2021年12月31日までのデータを入手し、ハリケーン・イルマとハリケーン・マリアおよびCOVID-19パンデミックの発生直後および発生期間中に大腸がんの診断数がどのように変化したかを調査した。 その結果、2つのハリケーンがプエルトリコを襲った2017年9月の大腸がんの診断数は82件だったことが明らかになった。ハリケーンがなかった場合に想定された診断数は161.4件であり、統計モデルにより、ハリケーンによる即時の影響として診断数が28.3件減少したと推定された(17.5%の減少に相当)。 一方、パンデミック発生に伴うロックダウン後(2020年4月)の大腸がん診断数は50件であった。ロックダウンがなかった場合に想定された診断数は162.5件であり、統計モデルにより、ロックダウンにより診断数は即時的に39.4件減少したと推定された(24.2%の減少に相当)。 2021年12月の研究終了時点でも、早期大腸がんの診断数と50~75歳での診断数は、想定される診断数に達していなかった。また、末期大腸がんの診断数と、50歳未満および76歳以上の診断数は、想定される診断数を上回っていた。 論文の筆頭著者であるSuarez-Ramos氏は、「これらの調査結果は、ハリケーンの襲来やパンデミックの発生により医療へのアクセスが制限されたことが原因でがんの発見が遅れ、患者の健康状態が悪化した可能性があることを示唆している」とニュースリリースの中で述べている。研究グループは、このようなスクリーニング検査の混乱により、「将来的には、大腸がんが進行してから検出される患者が増え、生存率が低下する可能性がある」と危惧を示している。 米国地質調査所によると、気候変動による気温上昇により、より激しい嵐や壊滅的な山火事の発生が増え、海面上昇も進んでいるという。論文の上席著者であるプエルトリコ大学のKaren Ortiz-Ortiz氏は、「医療制度はこうした災害下でも人々が必要ながんの検査を受けられる方法を見つけておく必要がある。われわれの最終的な目標は、危機的状況下でも医療システムの回復力とアクセス性を高めること、また、人々がより長くより健康的な生活を送れるように支援することだ」とニュースリリースの中で語っている。

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バロキサビル、家庭内のインフルエンザ感染予防効果は?/NEJM

 インフルエンザ発症者へのバロキサビルの単回経口投与は、プラセボと比較し家庭内接触者へのインフルエンザウイルスの伝播を有意に抑制したことが示された。米国・University of Michigan School of Public HealthのArnold S. Monto氏らが、世界15ヵ国で実施された国際共同第IIIb相試験「CENTERSTONE試験」の結果を報告した。バロキサビルはインフルエンザウイルスの排出を速やかに減少させることから、ウイルス伝播を抑制する可能性が示唆されていた。ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビルなど)による治療では、接触者への伝播を予防するという十分なエビデンスは示されていなかった。NEJM誌2025年4月24日号掲載の報告。初発患者にバロキサビルまたはプラセボを投与、家庭内接触者への伝播予防効果を評価 研究グループは2019年10月~2024年4月に、インフルエンザのPCR検査または抗原検査が陽性、新型コロナウイルスの同検査が陰性で、症状発現後48時間以内にスクリーニングを受け、1人以上の家庭内接触者がいる5~64歳の患者(指標患者)を、バロキサビル群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、無作為化後2時間以内にそれぞれ単回経口投与した。 主要エンドポイントは、無作為化後5日目までの指標患者から家庭内接触者へのインフルエンザウイルスの伝播(家庭内接触者のインフルエンザPCR検査が陽性、かつウイルスの型と亜型が指標患者と一致することで判定)、第1副次エンドポイントは、臨床症状を認めた5日目までのインフルエンザウイルスの伝播であった。家庭内接触者の補正後感染率はバロキサビル群9.5%、プラセボ群13.4% 指標患者1,457例、家庭内接触者2,681例が登録され、指標患者はバロキサビル群に726例、プラセボ群に731例が割り当てられた。 無作為化後5日目までの家庭内接触者へのインフルエンザウイルス伝播の補正後発生率は、バロキサビル群9.5%、プラセボ群13.4%であった。補正後オッズ比(OR)は0.68(95.38%信頼区間[CI]:0.50~0.93、p=0.01)であり、補正後相対リスクは29%(95.38%CI:12~45)低下した。 無作為化後5日目までの臨床症状を認めたインフルエンザウイルスの伝播の補正後発生率は、バロキサビル群5.8%、プラセボ群7.6%であった。補正後ORは0.75(95.38%CI:0.50~1.12、p=0.16)であり、両群間に有意差は認められなかった。 有害事象の発現割合は、バロキサビル群4.6%(33例)、プラセボ群7.0%(51例)で、ほとんどの有害事象はGrade1または2であった。これらのうち、バロキサビル群4例、プラセボ群6例が、治験薬と関連があると判定された。 追跡期間中に、指標患者のバロキサビル群でバロキサビルを投与されシークエンス解析のためのベースライン前とベースライン後の検体があった208例のうち、15例(7.2%、95%CI:4.1~11.6)に薬剤耐性ウイルスの出現が認められたが、家庭内接触者では認められなかった。

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新型コロナ後遺症としての勃起不全が調査で明らかに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した患者では、回復後も長期にわたりその後遺症に悩まされるケースがある。その後遺症の中には男性における勃起不全(ED)も含まれるが、後遺症としてのEDの有病率とそれに関連する根本的要因が示唆されたという。横浜市立大学附属病院感染制御部の加藤英明氏らが行った研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に2月21日掲載された。 COVID-19感染後のEDは、急性期における炎症性サイトカインや低酸素症による血管内皮障害が原因で進行する。また、身体的・精神的なストレスもEDに影響する。ワクチン接種や早期治療は、この感染症の後遺症の発症率を低下させる可能性はあるが、EDの発症を防ぐための予防策については不明である。加藤氏らは、COVID-19感染後のEDの有病率とその根本的な要因を明らかにするために感染患者を対象とした症例対照研究を実施した。 本研究は、2021年4月から9月の間に国内でCOVID-19と診断後入院した成人患者を対象とした包括的な長期観察研究(CORES II)の二次解析として実施された。対象は、1年目および2年目の調査を完了した日本人男性609人(年齢中央値56歳)とした。EDの有無については、被験者の自覚に基づき「COVID-19感染後に現れた症状で、感染前にはなかった症状を選んでください」という質問により決定された。被験者のQOLと精神状態は、それぞれEQ-5D-5L質問票とHospital Anxiety Depression Scale(HADS)質問票に被験者自身で回答してもらい評価を行った。連続変数、カテゴリ変数の比較にはそれぞれ、両側U検定、フィッシャーの正確確率検定を用いた。 対象609人のうち、116人(19.0%)がEDであった。EDのあった被験者(ED群)ではEDのなかった被験者(非ED群)と比べて、1年目2年目ともに、「回復の主観的認識」が低く(P<0.001)、「息切れ」、「疲労」のスコアが有意に高かった(各P<0.001)。HADSスコアをみると、ED群では抑うつ症状を示すHADS-Dスコアが、1年目2年目ともに有意に高くなっていた(P<0.001)。 次にCOVID-19感染前と1年目、2年目のEQ-5D-5Lスコアの変化を調べた。その結果、ED群は非ED群と比較し、痛み/不快感が2年目(P=0.003)で、不安/抑うつが1年目(P=0.033)、2年目(P=0.002)で有意に高くなっていた。 また、後遺症を分類する探索的なクラスター分析を行った結果、1年目の調査ではEDは睡眠障害と同じサブグループに分類された。 研究グループは本研究について、「EDと睡眠障害の関連は報告されており、我々の研究でも、1年目の調査結果からEDと睡眠障害の関連が示唆された。また、EDを有する被験者では抑うつ症状を示すスコアが高かったことから、COVID-19の後遺症としてEDを示す男性には睡眠障害やうつ病に対する支援療法が必要なのではないか」と述べた。 本研究の限界については、患者の自己申告に基づく後ろ向き解析であるため、想起バイアスの影響を受けている可能性があること、EDの重症度スコアやEDの性質や性交渉への影響については評価していないことなどを挙げている。

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ICU患者への生命維持装置の使用と転帰、2014~23年の動向/JAMA

 2014~23年の10年間に、米国の集中治療室(ICU)入室患者では院内死亡率とICU在室期間が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック期に増加したが、その後はパンデミック前の水準に戻り、パンデミック前と比較して機械換気を受けるICU患者が減少したものの、昇圧薬の投与を要する患者は3倍に増加したことが、米国・ペンシルベニア大学のEmily E. Moin氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年4月14日号で報告された。ICU入室経験のある入院患者の10年間の後ろ向きコホート研究 研究グループは、COVID-19のパンデミック前・中・後における米国の救命救急診療の疫学的状況を描出する目的で後ろ向きコホート研究を行った(筆頭著者[Moin氏]は米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 解析には、2014年1月1日~2023年12月31日の10年間に、米国の54のヘルスシステムからEpic Cosmos(2億6,200万例以上の医療記録を擁する地域共同ヘルスシステム)に登録された18歳以上の入院患者で、少なくとも1回のICU入室経験を有する集団のデータを用いた。 解析には、2014年1月1日~2023年12月31日の10年間に、米国の54のヘルスシステムからEpic Cosmos(2億6,200万例以上の医療記録を擁する地域共同ヘルスシステム)に登録された18歳以上の入院患者で、少なくとも1回のICU入室経験を有する集団のデータを用いた。COVID-19陰性・陽性例ともパンデミック期に院内死亡率上昇 ICU入室を含む入院345万3,687件を解析の対象とした。10年間の入院におけるICU治療の割合は15.3%で、2014年の15.0%から2023年には14.8%に低下した(差:0.2%ポイント[95%信頼区間[CI]:0.2~0.3])。全体の年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:53~75)、男性が55.3%で、黒人が17.3%、ヒスパニック系またはラテン系が6.1%であり、院内死亡率は10.9%であった。 補正後院内死亡率は、パンデミック期間中にCOVID-19陰性例(補正後オッズ比[aOR]:1.3[95%CI:1.2~1.3])、同陽性例(aOR:4.3[95%CI:3.8~4.8])のいずれにおいても上昇したが、2022年の半ばまでにベースラインの状態に戻った。 全体のICU在室期間中央値は2.1日(IQR:1.1~4.2)であり、パンデミック期にはCOVID-19陰性例(2.1日)に比べ同陽性例(4.1日)で延長していた(差:2.0日[95%CI:2.0~2.1])。また、パンデミック後のICU在室期間中央値は2.2日(IQR:1.1~4.3)と、パンデミック前と比較して長かった(差:0.1日[95%CI:0.1~0.1])。機械換気の使用割合はベースラインよりも低下 侵襲的機械換気の使用割合は、パンデミック前の23.2%(95%CI:23.1~23.2)から、パンデミック期には25.8%(25.8~25.9)に上昇し、その後は22.0%(21.9~22.2)とパンデミック前のベースラインの値よりも低くなった。一方、ICU在室中の昇圧薬の使用率は、2014年の7.2%から2023年には21.6%へと大幅に増加した。 ICU在室中に昇圧薬も侵襲的機械換気も使用しなかった患者の割合は、パンデミック前に72.5%(95%CI:72.4~72.5)であったのに対し、パンデミック期には65.1%(65.0~65.2)に低下し、その後も66.7%(66.5~66.8)と低下した状態が続いた。 著者は、「本研究の結果は、COVID-19のパンデミック期におけるICU患者の死亡率は、COVID-19への罹患の有無にかかわらず増加し、とくにCOVID-19罹患の急増期に顕著であったことを示しているが、これにはさまざまな潜在的な原因が考えられる。また、これらの結果は、特定の地域やメディケア受給者ではパンデミック期にCOVID-19陰性例の院内死亡率が上昇したとの先行研究の知見を広げるものである。これは、ICU治療の恩恵を受けられたはずの入院患者のICU治療へのアクセスが低下したためと推測されているが、本研究ではICU治療を受けた陰性例でも死亡率が上昇していた」と考察している。

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第239回 女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会

<先週の動き> 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会日本肥満学会は4月17日、成人女性における低体重や低栄養を背景に多様な健康障害が生じる状態を「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」と定義し、新たな疾患概念として確立する提言を発表した。対象は18歳以上で閉経前までの女性とし、今後は診断基準や予防・治療指針の整備を進める。FUSに該当する症状としては、骨密度の低下や月経異常、貧血、筋力低下、倦怠感、抑うつ、不安、睡眠障害、低血圧、低血糖、摂食障害、さらには将来の不妊リスクや胎児の低出生体重といった次世代への影響まで多岐にわたる。2023年の国民健康・栄養調査では、BMI18.5未満の女性が20代で24.4%、30代で17.9%と報告されており、先進国の中でもわが国は突出して高い。背景にはSNSやメディアの影響による強い「痩せ志向」や、貧困など社会的・経済的要因も複雑に絡んでいるとされている。学会では「肥満対策と同様に、低体重のリスクにも体系的に対応すべき」として、FUSを社会構造・教育・医療・産業界全体で共有すべき課題と捉えるべきだと提起しているほか、GLP-1受容体作動薬の美容目的での使用拡大にも強い懸念を示している。また、症状が単発で現れることも多く、従来の医療では見逃されやすいことから、健康診断でのスクリーニングや医師・栄養士・心理職との多職種連携による早期介入体制の構築も求めている。今後はメタボリックシンドロームのようにFUSの診断基準を整備し、政策的介入へとつなげたいとしている。「まずは、よく食べて、運動して、眠る。そして不調があれば医療へ」と、学会は社会全体での健康意識の見直しを呼びかけている。 参考 1) 閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題-新たな症候群の確立について-(日本肥満学会) 2) 女性の「痩せ」学会警鐘 20代の2割、新症候群の確立提言(日経新聞) 3) 健康害する女性の低体重・低栄養は「疾患」、肥満学会が位置付け…基準定め治療や予防法を確立(読売新聞) 4) 日本肥満学会ワーキンググループが提唱「成人女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」が新たな疾患概念に(日経メディカル) 5) 「SNSやメディア、貧困など原因」「肥満と比べ軽視されてきた」女性の“低体重・低栄養”巡り、肥満学会が新疾患の枠組み提言(弁護士JPニュース) 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大帯状疱疹ワクチンに、認知症発症リスクの低減効果があることが、米スタンフォード大学などの研究チームによる28万人以上の高齢者を対象とした研究で明らかになった。この研究は、英国ウェールズにおけるワクチン接種開始時の制度を活用した「自然実験」の手法を取り、1933年9月2日以降に生まれた接種対象者と対象外の高齢者を比較したもの。7年間の追跡で、接種群の認知症発症率は非接種群より3.5%ポイント、相対的に20%低かった。この効果は教育歴や持病などの因子を考慮しても変わらず、とくに女性において顕著だった。認知症リスクの低下が、免疫機能の強化や帯状疱疹ウイルスの脳への影響防止による可能性があると示唆されているが、明確なメカニズムは未解明である。なお、従来の生ワクチン「Zostavax」での効果を示した今回の研究に対し、新型の不活化ワクチン「Shingrix」にも同様の効果があるかは今後の検証が必要とされている。専門家は「現行の薬理学的手段よりも有望」と評価し、ワクチン接種が認知症予防の新たな選択肢となる可能性が期待されている。 参考 1) Eyting M, et al. Nature. 2025 Apr 2.[Epub ahead of print] 2) 認知症の予防効果がある「身近なワクチン」とは?高齢者7年間の追跡調査で判明(ダイヤモンドオンライン) 3) 帯状疱疹ワクチンで認知症のリスクが低下、研究続々(ナショナルジオグラフィック) 4) “認知症”リスクが20%減-「帯状疱疹ワクチン」接種が認知症発症に与える影響 28万人以上を調査(ITmedia) 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省政府は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の利用促進を進めているが、利用率は依然として低迷している。とくに75歳以上の高齢者においては、昨年12月時点での利用率が24.57%に止まり、紛失への不安などから移行が進んでいない。このため厚生労働省は、75歳以上の全員に保険証の代替となる「資格確認書」を交付し、マイナ保険証への一本化を事実上2026年夏まで延期する方針を決定した。原因としては施設での管理の負担や利用者の混乱もあり、実際の運用が追いついていない現状がある。一方で、政府はマイナ保険証の価値を示す取り組みとして、今秋から全国で「マイナ救急」を導入する。救急隊が現場でマイナ保険証をカードリーダーで読み取ることで、患者の既往歴や薬剤情報を即座に把握し、適切な処置や搬送先の選定に役立てる仕組み。昨年度の実証では、意識が不明瞭な高齢者の適切な搬送に繋がる事例が報告されている。今年度は全国の5,334救急隊に拡大する予定で、端末の簡便化により、30秒~1分程度で情報閲覧が可能となる見込み。政府はこれを医療DX推進の鍵と位置付け、利用率向上のきっかけとしたい考え。さらに、スマートフォンでマイナ保険証機能を利用できる実証事業も6月に開始する予定で、順調なら9月にも全国展開される。診察券一体化システムへの補助も継続し、利便性の向上を図る。だが、制度変更の頻発や運用現場の負担には懸念の声も多く、高齢者層を中心とした受け入れの広がりには時間が必要とみられている。 参考 1) 利用率の低さ、状況変わるのか? マイナ保険証、75歳以上は一本化延期(中日新聞) 2) マイナ保険証の救急活用、秋に全国で 既往歴把握し搬送(日経新聞) 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省厚生労働省が、2024年度の医療機関の経常利益率を推計した結果、最頻値が病院運営医療法人で-1.0~0.0%、無床診療所運営法人で-3.0~-2.0%と、いずれも赤字圏内にあることが明らかになった。こうした厳しい経営状況は、福祉医療機構の2025年3月の病院経営動向調査でも裏付けられており、医業収支DIでは一般病院がわずかに改善したものの、精神科病院は-41と大幅に悪化していた。課題としては人件費増加や職員確保難が挙がっている。日本病院会も同日開催した研修会で、経営状況の悪化に警鐘を鳴らした。島 弘志副会長は「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」と述べ、2023年度には一般病院の黒字割合が前年度の79.4%から40.6%へ急落したことを紹介。これを受け、日本病院会など5団体は政府に対し、緊急的な財政支援や診療報酬体系の見直しなどを要望した。さらに、経営環境が予測困難で変動の激しい「VUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態)時代」への対応として、今後の病院経営には、利益と社会的価値の両立が求められると提言した。また、中小病院における経営改善には、業務の可視化・分析・改善に至る具体的なフローを実践し、データに基づいた行動変容を促す体制が必要とされた。現場では医療従事者の疲弊が進む中、迅速かつ柔軟な対応が地域医療の継続と再生の鍵を握る。行政・経営者・現場の連携と改革が急務となっている。 参考 1) 医療機関の経常利益率、「最頻値」がマイナスに 24年度、厚労省推計(MEDIFAX) 2) 医業収益DI、一般は改善も療養・精神は低下 WAM、3月調査(同) 3) 「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」、日本病院会が経営管理者向け研修会を開催(Gem Med) 4) 病院経営動向調査の概要(福祉医療機構) 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省厚生労働省は、全国の救命救急センターを対象とした2024年版の「充実段階評価」の結果を発表した。評価対象は2023年末までに運営を開始した全308施設で、最上位の「S」評価を獲得したのは102施設(33.1%)と、前年から1.2ポイント増加した。「A」評価は199施設(64.6%)で最多、「B」は7施設(2.3%)、最低評価の「C」は該当なしだった。評価は救急科専門医の配置、重篤患者の受け入れ数、トリアージ機能などを総合的に採点し、94点以上かつ是正項目がない場合に「S」が与えられる。とくに、日本医科大学付属病院、聖マリアンナ医科大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院の3施設は満点の100点を獲得。神戸市立医療センター中央市民病院は11年連続での満点評価となった。コロナ禍の影響を受けた2020~23年の評価では一部項目が除外されたが、今回は全項目を対象とした従来型の評価が復活。なお、希望した17施設については、新型コロナの影響に関する個別ヒアリングを経た上で評価が決定された。本評価は、診療報酬上の「救急体制充実加算」の基準や、国からの運営補助金額にも影響を与える重要な指標であり、救命救急体制の質的向上や公平な支援配分に直結するものとして注目されている。 参考 1) 令和5年救命救急センターの評価結果(厚労省) 2) 救命救急センターの評価結果(令和5年)について(同) 3) 救急救命センターの充実段階評価、「S」評価が33% 100点満点は3施設 24年(CB news) 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県高知県立幡多けんみん病院(宿毛市)に勤務する麻酔科医の過重労働が明らかになったことを受け、高知県は外部有識者4人による第三者委員会を設置・調査を実施し、2025年3月に報告書を取りまとめ、公表した。これは2024年度に高知大学医学部から派遣された麻酔科医3人のうち2人が心身の不調を訴えたことが発端で、大学側は県に勤務状況の調査を依頼した。報告書によると、麻酔科医は一人で複数の患者の麻酔を同時に担い、集中治療室で重症患者への対応も行っていた。さらに、「宿日直許可」に基づく労働時間外の時間帯にも救急対応を強いられていた。これにより、同院は労働基準監督署から行政指導を受けている。報告書では、病院側に医師の働き方改革への理解不足、勤務実態の把握やメンタルケアの欠如を指摘し、「具体的な業務改善計画」の策定を求めた。高知大学は2025年度、派遣する麻酔科医を1人減らし2人とした。これにより、病院で行える手術数の減少が懸念されており、病院では非常勤医師の勤務日の増加や外科医による局所麻酔対応などで補おうとしている。年間約2,000件の手術のうち1,500件に麻酔科医が関与している現状で、人的資源の縮小は地域医療体制への影響が大きい。県は6月を目途に改善計画を策定し、高知大学への謝罪と説明を行う方針。同院の担当者は「医師の健康への配慮が不十分で申し訳ない」とコメント。高知大学は「地域医療の責務は認識している。改善が確認され次第、派遣増員を検討したい」としている。なお、第三者委員会の会議は非公開で行われた。 参考 1) 県立幡多けんみん病院における医師の勤務状況に関する第三者委員会について(高知県) 2) 県立幡多けんみん病院で過酷勤務 高知大派遣の麻酔科医が心身不調に 第三者委が改善要求(高知新聞) 3) 県立病院派遣の複数の麻酔科医不調訴え 業務改善求める報告書(NHK)

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新型コロナパンデミックが園児の発達に影響

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、園児の発達をさまざまな面で遅らせているとする研究結果が報告された。パンデミック発生後(2021〜2023年)の園児は、パンデミック発生前(2018〜2020年)の園児と比べて、言語・認知発達、社会的コンピテンス、コミュニケーション能力、一般知識の平均スコアが有意に低いことが明らかになったという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院社会福祉学分野のJudith Perrigo氏らによるこの研究結果は、「JAMA Pediatrics」に3月10日掲載された。 この研究でPerrigo氏らは、2010年から2023年にかけて米国の園児47万5,740人(平均年齢6歳、男児51.1%)を対象に反復横断パネル研究を実施し、COVID-19パンデミックが園児の発達に与えた影響を調査した。発達状況は、Early Development Instrument(EDI)により、1)身体的健康およびウェルビーイング、2)社会的コンピテンス、3)感情的成熟度、4)言語・認知発達、5)コミュニケーション能力・一般知識の5領域について評価された。 その結果、2018〜2020年のパンデミック前コホート(11万4,359人)と比較して、2021〜2023年のパンデミック後コホート(8万5,827人)では、言語・認知発達(平均変化−0.45、95%信頼区間−0.48~−0.43)、社会的コンピテンス(同−0.03、−0.06~−0.01)、コミュニケーション能力・一般知識(同−0.18、−0.22~−0.15)が有意に低下していた。その一方で、感情的成熟度は有意に上昇していた(同0.05、0.03~0.07)。身体的健康およびウェルビーイングについては、有意な変化は見られなかった。 Perrigo氏らは、「言語と認知発達、コミュニケーション能力・一般知識の領域については特に影響が深刻だった。これはおそらくCOVID-19の公衆衛生対策によって必要となった学校閉鎖とオンラインでの学習環境が原因と考えられる。こうした措置により、子どもが、仲間や保護者ではない大人と日常的に関わる機会も制限された。このことが、本研究で観察された社会的コンピテンスのわずかな低下の説明になるかもしれない」と述べている。 その一方で、パンデミック中に園児の感情的成熟度は高まっていた。この点について研究グループは、「パンデミック中に、COVID-19による死者数、経済的負担、健康不安、ニュース報道などの大人にとってのストレス要因にさらされることが増えたことが、本研究で認められた感情的成熟度の上昇の原因かもしれない」と述べている。 研究グループは、こうしたネガティブな発達の傾向の多くはパンデミックが発生する前から存在していたが、その一部はパンデミック中に低下のペースが減速した」と指摘。「パンデミック発生後、コミュニケーション能力や一般知識、言語・認知発達、身体的健康の変化率は依然として低下しているものの、パンデミック発生前の期間よりも低下率が緩やかになった」と述べる。その上で、「これらの結果は、既存の課題とパンデミックによってもたらされた新たなストレス要因に幼児が対処するための政策の必要性を強調している」と結論付けている。

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第238回 新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省 2.長崎県の民間医療ヘリ事故で3人死亡、全国に再点検要請/厚労省 3.「患者だから仕方ない」に終焉を、医療現場における暴力・ハラスメント/看護協会 4.後発薬の供給不足、薬局の8割が「支障」改善はわずか6%/厚労省 5.最大7.2億円を無利子融資、物価高で医療・介護事業者支援へ/厚労省 6.47人の懲戒処分の報道発表なし、情報公開に疑問の声/国立病院機構 1.新型コロナ定期接種、秋から自己負担増加、低所得者は無料継続へ/厚労省厚生労働省は、65歳以上の高齢者や基礎疾患のある60~64歳を対象とした新型コロナウイルスワクチンの定期接種に対する国の助成(1回当たり8,300円)を、2025年度から終了する方針を決定し、都道府県に通知した。2024年度に始まった定期接種制度では、全額公費の「特例臨時接種」からの移行に伴う、急な自己負担増を避けるため、基金を活用した助成が行われていた。2025年度の定期接種は秋に開始予定だが、助成終了によって接種費用の自己負担額は増加するが、一部自治体は独自の補助を検討している。なお、低所得者に対しては無料接種を継続する方向で調整中。今後、定期接種の対象外となる人は、原則、全額自己負担での任意接種となる。新型コロナ対策における他の公費支援も、すでに2024年3月末で終了している。 参考 1) コロナワクチン定期接種 国助成取りやめへ 自己負担増の可能性(NHK) 2) 新型コロナワクチン助成終了へ 高齢者ら向け定期接種、低所得者無料は残す予定(産経新聞) 3) 厚労省、コロナワクチン助成終了へ 高齢者らの定期接種(日経新聞) 2.長崎県の民間医療ヘリ事故で3人死亡、全国に再点検要請/厚労省2025年4月6日、長崎県対馬市から福岡市の病院へ患者を搬送中の民間の医療搬送用ヘリコプターが壱岐島沖で墜落、転覆し、搭乗していた6人のうち、患者(86歳)と付き添いの家族(68歳)、男性医師(34歳)の3人が死亡した。機体は離陸から約17分後に着水した可能性があり、搭載されていたGPSは午後1時47分に発信を停止。救難信号を発信する航空機用救命無線機も作動が確認されず、国土交通省は信号を受信していなかった。機体は民間病院の福岡和白病院が運用し、佐賀県のエス・ジー・シー佐賀航空が委託運航していた。同社は過去にも複数の死亡事故を起こしており、運輸安全委員会が事故原因を調査している。この事故を受けて、厚生労働省は7日に全国のドクターヘリ運航会社および関係医療機関に対し、安全点検を求める通知を発出。操縦士による常時の気象確認や整備士による待機中の機体点検を義務付け、再点検や一時的な運航停止の検討も要請された。今回の事故で浮き彫りになったのは、離島における医療搬送の脆弱性である。対馬市など長崎県の離島では、高度医療を提供する三次救急施設が存在せず、ヘリ搬送が命綱となっている。2023年度の県内ドクターヘリ搬送実績(232件)のうち、離島由来は85件を占めていた。事故機は「ドクターヘリ」ではなく、柔軟な搬送を可能にする民間の医療用ヘリであり、全国には同様の運用機が4機存在する。こうした機体は、ドクターヘリ体制の補完的役割を果たすが、安全性の担保とコスト負担が課題とされる。事故を受け、福岡和白病院は当面のヘリ搬送を停止。関係者は再発防止と信頼回復を誓っており、安全性向上と離島医療の継続性が急務となっている。 参考 1) 厚労省 ドクターヘリ運航会社など安全点検通知 長崎の事故受け(NHK) 2) 医療ヘリ事故 離島医療「最後の砦」 救急搬送継続に危惧(毎日新聞) 3) 離島救急搬送の“命綱”不在で募る不安 壱岐沖事故の影響 長崎県ドクターヘリ、点検で運用を休止(長崎新聞) 4) 長崎ヘリ事故 病院の運航は無期限休止 学会「同型機の再点検を」(毎日新聞) 3.「患者だから仕方ない」に終焉を、医療現場における暴力・ハラスメント/看護協会先日、俳優の広末 涼子氏が交通事故後、搬送先の病院で看護師に対し暴力をふるったとして現行犯逮捕された事件や、大阪の訪問看護師に対する患者による暴行事件が報道され、これを契機に医療現場における患者・家族からの暴力やハラスメント、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント)」問題が注目されている。報道に対して、医療従事者からは「ようやく患者による暴力が報じられた」といった声が上がり、現場の切実な実態が明らかにされた。看護職に対するハラスメントは日常的であり、日本看護協会の調査では、身体的暴力を受けた非管理職スタッフ22%のうち93%が患者によるものだった。また、性的言動(77%)や精神的攻撃(40%)も多数報告されている。医療従事者が声を上げにくい背景には、患者の病状や精神状態への配慮、組織文化、認識の甘さがある。実際、暴力を受けても警察に通報されることはまれで、看護師による患者への暴力は報道されても、その逆はほとんど報じられていない。その一方で、医療現場における暴力・ハラスメントは、医療者の離職、精神疾患、地域医療の崩壊につながる深刻な問題となっている。厚生労働省も医療職の確保や職場環境改善の一環として、訪問看護師向けに防犯機器導入費の補助制度を開始するなど、対策を強化しており、東京都ではカスハラ防止条例が施行され、静岡県も同様の条例制定を検討している。こうした社会的動向を踏まえ、医療機関にはハラスメント対策マニュアル整備や研修の実施、ポスター掲示などによる啓発活動が求められている。患者側にいかなる事情があろうと、医療従事者に対する暴力やハラスメントは許されるものではなく、病院としても毅然とした対応と再発防止策の構築が求められる。「患者だから許される」という認識を改め、安心・安全な医療提供体制の確立が急務となっている。 参考 1) 2019年 病院および有床診療所における看護実態調査報告書(看護協会) 2) 訪問看護において「看護師等が暴力・ハラスメントを受ける」ケースが散見され、防犯機器の購入費用などを補助-厚労省(Gem Med) 3) 広末涼子逮捕の裏で噴出した医療従事者の「切実な訴え」長年耐え忍んだ患者からの暴力の実態(東洋経済) 4) 広末涼子さん逮捕、医療現場のカスハラに注がれる厳しい目「いかなる場合も許されない」離職の原因にも(弁護士ドットコム) 5) 広末涼子容疑者を逮捕 傷害容疑、看護師に暴行か-静岡県警(時事通信) 6) 訪問看護の20代女性を包丁で切り付け、殺人未遂容疑で86歳男を逮捕(産経新聞) 4.後発薬の供給不足、薬局の8割が「支障」改善はわずか6%/厚労省厚生労働省は、4月9日に開かれた中央社会保険医療協議会診療報酬改定結果検証部会で、ジェネリック医薬品(後発薬)の供給状況に関する最新調査結果を明らかにした。全国の薬局や医療機関を対象とした調査では、供給体制の逼迫が依然として深刻であることが浮き彫りとなった。保険薬局では84.1%が「支障を来している」と回答し、「供給が悪化した」との回答も43.1%に上った。病院では63.3%、診療所では53.4%が供給悪化を報告しており、医療現場全体に影響が広がっている。この背景には、2020年以降の後発薬メーカーによる品質不正や生産停止の影響がある。中小企業が多数品目を小規模ロットで製造する非効率な構造が、長年にわたり放置されており、現場では納品の遅延、処方変更などの業務負担が常態化している。実際に希望通りの納品がなされた薬局は1%未満に止まった。政府は、2024年度診療報酬改定で後発薬の使用促進を進めており、調剤割合90%以上の薬局は66.1%に達した。一方、供給が追いつかない現状に対し、医療機関からは安定供給体制の構築が最重要課題とされ、病院の90.8%、診療所の65.8%がそれを最も必要な対応として挙げている。厚労省はこうした状況を打開するため、品目統合や企業連携を後押しする基金の創設を盛り込んだ薬機法改正案を今国会に提出。出荷量と需要量の「見える化」による需給バランスの把握、電子処方箋データ活用による増産促進も目指す。一方、現場では医薬品供給状況を共有する民間データベースが活用され始めている。 参考 1) 後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告書[概要](厚労省) 2) 後発薬の供給「悪化した」病院の6割超 診療所は5割超(CB news) 3) 4年も続く「薬不足」、ジェネリック産業構造足かせ 品目統合や企業連携後押しに基金設立(産経新聞) 5.最大7.2億円を無利子融資、物価高で医療・介護事業者支援へ/厚労省厚生労働省は、物価高騰の影響で経営が悪化している医療機関や介護施設を対象に、無利子・無担保で最大7億2,000万円の優遇融資を行う支援策を発表した。融資は独立行政法人・福祉医療機構(WAM)を通じて実施され、4月8日から申請が受け付けられている。とくに病院に対する貸付上限額は、従来の500万円から大幅に引き上げられ、2年間無利子で、最大5年間は元本返済猶予となる。対象は前年同期比で収支が悪化し、職員の処遇改善加算を届け出ている施設で、2年以内の経営改善計画の提出が条件となっている。また、病床削減や地域医療構想に基づく再編に協力する場合は、さらに優遇される。介護老人保健施設などについても、無担保融資の上限が500万円から1億円に拡大される。この措置は、病院団体が「地域医療が崩壊寸前」と訴え、国に支援を求めたことが背景にある。調査によれば、2024年度に経常赤字を計上した病院は全体の61.2%に上り、経営状況は深刻だ。診療報酬などの公定価格では物価や人件費の高騰に対応しきれず、多くの医療機関がコスト増に苦しんでいる。WAMでは、2024年12月から優遇融資制度を実施しており、今回の拡充はコロナ禍以降で最大規模の支援となる。政府はこの制度を通じて、医療・介護現場の資金繰りを下支えし、事業継続を図る方針を示している。 参考 1) 物価高騰の影響を受けた施設等に対する経営資金又は長期運転資金のお知らせ(福祉医療機構) 2) 最大7.2億円の無利子融資=医療事業者へ物価高対策で-政府(時事通信) 3) 物価高対策の無担保融資、上限7億円超に拡充 病院向け(日経新聞) 4) 物価急騰によるコスト増等で「収支差額の減少」や「経常赤字」となっている医療機関や介護施設などに優遇融資を実施-福祉医療機構(Gem Med) 6.47人の懲戒処分の報道発表なし、情報公開に疑問の声/国立病院機構独立行政法人・国立病院機構(本部・東京)が2024年度に下した全国計47人の懲戒処分について、報道機関への発表を一切行わず、自機構のホームページに短期間掲載するに止めていたことが判明した。処分内容には懲戒解雇2件、停職22件を含む重大事案が含まれていたが、いずれの地域グループでも記者発表は行われなかった。たとえば東海北陸グループでは、職務上の立場を悪用して部下に性的関係を強要した理学療法士が懲戒解雇となり、鈴鹿病院では障害患者への虐待で看護師ら5人が停職や戒告処分を受けた。また、九州グループでは盗撮や勤務中の飲酒などにより看護師や医師が停職処分を受けていたが、いずれも報道発表されていない。処分はホームページ内の「情報公開」欄に約3週間のみ掲載されており、閲覧には複数の操作を要していた。かつては報道発表を行っていた地域も含め、2023年度以降は原則非公表方針に転換されており、報道基準も明確に定められていない。機構本部は「今後の対応を検討中」としているが、情報公開の不透明さと組織の説明責任の欠如に対し、専門家からは「信頼性を損なう」と懸念の声が上がっている。 参考 1) 国立病院機構が懲戒処分の47人を報道発表せず、ホームページのみ掲載…「公表のあり方について検討」と担当者(読売新聞) 2) 盗撮などの懲戒処分、国立病院機構九州グループが報道機関に発表せず…2023年7月~25年3月で17人(同) 3) 国立病院機構、悪質セクハラで1人懲戒解雇 東海北陸管内、2024年度の処分10件(中日新聞)

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事例021 発熱患者等対応加算の漏れ【斬らレセプト シーズン4】

解説外来感染対策向上加算の届出を行っている診療所において、他病にて治療中の患者がインフルエンザ疑いなどの感染症疑いにて受診されているにもかかわらず、「発熱患者等対応加算」(以下「同加算」と略す)が算定されていない事例を複数見受けました。この事例にはパターンがあり、「外来感染対策向上加算」を算定した日の同月翌日以降に受診されている場合でした。A001 再診料注15「外来感染対策向上加算」は、初診料算定日を含み月1回のみの算定ができます。ただし書きに「(同加算は)発熱その他感染症を疑わせるような症状を呈する患者に対して適切な感染防止対策を講じたうえで再診を行った場合について月1回に限り点数を更に所定点数に加算する」と記載されています。計算担当者に話を聞くと、「外来感染対策向上加算の加算であるので別日には算定できません」と回答がありました。外来感染対策は算定上月1回であっても、すべての診療に継続して対策されています。したがって、同加算は同月内別日の診療であっても単独で算定できると解されています(疑義解釈その1 問4 2024.3.28)。このことを伝えて算定漏れの対策としました。また、別の診療所では、発熱患者を駐車中の自動車内にて診療を行っているのみでは算定できないと解されていましたが、この診療でも適切な感染対策は当然に行われています。駐車中の自動車内にて通常患者と分離している場合も算定要件に含まれることを伝えています。

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