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ウォーキングデッド【この世界観だからこそわかる!「コロナ不安」への処方せん】

今回のキーワード回避強迫同調セロトニンマインドフルネスアクセプタンス&コミットメント・セラピー新型コロナウイルスのパンデミックによって、「パニック買い」や「感染者叩き」が起こるなど、世の中は不安が増しています。それにしても、不安とは何でしょうか? なぜ不安になるのでしょうか? そもそもなぜ不安は「ある」のでしょうか? そして、不安にどうすれば良いでしょうか?これらの答えを探るために、今回は、海外ドラマ「ウォーキングデッド」を取り上げます。このドラマを通して、不安を精神医学的に、そして進化心理学的に掘り下げます。そして、「コロナ不安」への心のあり方を一緒に探っていきましょう。不安とは?舞台は、ゾンビに噛まれればゾンビになってしまうという、ゾンビだらけの荒廃した世界。そんな極限状況の中で生き残っている主人公のリックは、妻子と仲間の数人とともに、安住の地を求めて旅を続けます。彼らは常に不安と隣り合わせです。不安とは何でしょうか? 不安とは、究極的には生存を脅かすことへの感情、つまり生存本能そのものと言えます。ここから、仲間の1人でリックの元同僚のシェーンの行動を通して、不安の心理を3つ挙げてみましょう。なお、登場人物たちの言い回しに合わせて、今後はゾンビを「ウォーカー」と表記します。(1)危険を避ける-回避シェーンは、はぐれた仲間を助けに行くかの決断に迫られた時、毎回、動かないことを主張し、リックと対立します(シーズン1第3話)。1つ目は、危険を避けることです。不安の対象を回避すれば、その不安を感じなくてすむからです。精神医学的に言えば、不安症の回避行動に当てはまります。実際には、コロナ危機の中、感染を避けようと外出や人との接触をしないようにすることが当てはまります。(2)危険にとらわれる-強迫シェーンは、農場にとどまっている時、農場主(ハーシェル)が納屋にウォーカーと化した家族たちをかくまっていることについに耐えられなくなり、リックたちの制止を振り切って、次々と撃ち倒します(シーズン2第7話)。2つ目は、危険にとらわれることです。危険は基本的には避ければいいだけのはずです。しかし、身近に迫っている場合は、それにとらわれてしまい、何とか解消しようとします。精神医学的に言えば、強迫症の強迫行為に当てはまります。実際に、コロナ危機の中、感染が迫っていることにとらわれてずっと手洗いをしたり(不潔恐怖)、PCR検査をしようと病院をはしご(ドクターショッピング)したり(不完全恐怖)、食料や生活用品が足りなくなることにとらわれて買いだめをすることが当てはまります(不足恐怖)。(3)誰かのせいにする-同調シェーンは、グループがピンチになるたびに、誰かのせいにしています。リックのリーダーシップによってグループが危険にさらされていると感じて、最終的にリックを殺そうとします(シーズン2第12話)。3つ目は、誰かのせいにすることです。彼は、自分と自分が大切だと思っている人(ローリとカール)だけが生き残ることを最優先にしています。そのために良かれと思って行動しており、彼なりの信念があり、生存本能が強いとも言えます。しかし、言い換えれば、そこに良心や理性はありません。意見が合わなければ、自分が身を引いて、グループを離れればいいだけの話なのに、彼は自分こそがリックに代わってリーダーになるべきだと思い上がった正義感があります。精神医学的に言えば、解離症の同調(排他性)に近いです。実際に、コロナ危機の中、「感染者叩き」やヘイトスピーチのような犯人探しが当てはまります(スケープゴート)。 なぜ不安になるの?シェーンは、回避、強迫、同調の心理から、とても不安が強まっていることが分かります。そして、不安から、利己的、独断的、干渉的になっています。一方のリックは、そこまで不安を感じておらず、対照的に利他的、民主的、自由主義的です。この2人は、もともと親友だったのにもかかわらず、真っ向から対立していきます。それでは、なぜシェーンは不安になり、リックは不安にならなかったのでしょうか?ここから、不安の心理の要因を2つに分けてみましょう。(1)遺伝1つ目は、遺伝です。不安の感じやすさの器質は、脳内のセロトニンの量と関係していることが指摘されています。セロトニンは、その「リサイクルポンプ」(セロトニントランスポーター)が働くことによって、常に使い回されています。このセロトニントランスポーターの密度が低い、つまり働きが悪い遺伝子タイプ(SSタイプ)と密度が高い遺伝子、つまり働きが良い遺伝子タイプ(LLタイプ)の違いによって、そもそも生まれつきで不安の感じやすさに違いがあることが分かっています。(2)環境2つ目は、環境です。とくに、生育環境で、親子関係(愛着形成)がもともとうまく行っていない場合は、不安になりやすいことが指摘されています。また、危機的状況(ストレス)に曝され続けることによって、不安を感じやすくなることも分かっています。ちなみに、ドラマのシーズンが進む途中、リックは一時期シェーンっぽくなっていました。 なぜ不安は「ある」の?不安は、遺伝と環境によって、感じやすくなることが分かりました。それでは、そもそもなぜ不安は「ある」のでしょうか? ここから、不安の起源を3つの段階に分けて、進化心理学的に掘り下げてみましょう。(1)身を守る-回避約5億年前に魚類が誕生してから、海の中を動き回るようになりました。その時、自分より大きな魚などの天敵に食べられないようにするために、扁桃体が進化しました。そして、天敵が近くにいると分かったら、扁桃体のセンサーが反応し警戒して、逃げるようになりました。これが不安の起源です。1つ目は、天敵から身を守ることです(回避)。ちなみに、体内の二酸化炭素の濃度が上がると、それを感知する窒息センサーも進化しました。これがパニック発作(不安発作)の起源です。(2)縄張りを守る-強迫その後に、魚類は、自分の縄張りを持つようになりました。そこは食料があり、安全で安心の場所です。逆に、そこから出てしまうと危険ですので警戒するよう進化しました。これが広場恐怖の起源です。また、縄張りができてから、ライバルに侵入されて縄張りや資源を横取りされないように、縄張りを行ったり来たりする反復行動をするように進化しました。これが強迫の起源です。2つ目は、天敵から縄張りを守ることです(強迫)。なお、広場恐怖は縄張りから出て行くことへの不安ですが、強迫は縄張りに入って来られることへの不安と言えます。(資源の横取り)(3)仲間を守る-同調約2億年前に哺乳類が誕生してから、ネズミのように動き回ることができるようになりました。この時、高いところから落ちてしまわないように恐怖を感じるように進化しました。これが高所恐怖の起源です。また、爬虫類などに食べられないように恐怖を感じるように進化しました。これが動物恐怖の起源です。約700万年前、ついに人類が誕生して、300~400万年前にアフリカの森からサバンナに出ました。そして、猛獣から身を守り、限られた食料を分け合って、家族同士が血縁関係で助け合うことで村をつくりました。この時、周りとうまくやっていこうとする社会脳が進化しました。そして、周りに受け入れられないことへの不安を感じるようにも進化しました。これが社交不安の起源です。同時に、村(集団)にとって危険になりうる人を一緒になって排除する心理も進化しました。これが、同調(排他性)の起源です。3つ目は、同じ気持ちで仲間を守ることです(同調)。なお、回避や強迫は個人的な不安ですが、同調は集団的な不安と言えます。不安にどうすればいいの?不安は、身を守る、縄張りを守る、集団を守るという種の生存のために必要だから、そもそも「ある」と言えます。この点を踏まえて、不安にどうすれば良いでしょうか? 不安を感じにくいリックの行動から、不安への対策を3つ挙げてみましょう。(1)不安を俯瞰するリックは、たまたま通りかかった教会で、イエスキリスト像に向かって「俺は信心深くないけど」「俺の行動が正しいと何かサインをくれよ」と語りかけています(シーズン2第1話)。彼は、イエスの視点を通して、自分自身を冷静に見つめているとも言えます。一方のシェーンは、不安に圧倒されて、いつも落ち着かない表情をしています。1つ目は、不安を俯瞰することです。不安に圧倒されると、不安になること自体に不安になります(予期不安)。そうではなくて、不安になっている自分自身の心を客観視して、不安に対して自分ができる行動を冷静に考えることです。これは、マインドフルネスというセラピーに通じます。(2)不安を共有するリックは、妻に心の内を明かし、農場主(ハーシェル)と前向きな話し合いをしようとしています(シーズン2全般)。一方、シェーンは不平不満ばかり言い、孤立しています。2つ目は、不安を共有することです。そして、ネガティブな過去の断罪ではなく、ポジティブな未来の提案をして、仲間としてお互いに勇気付け合うことです。これは、自助グループなどの集団セラピーに通じます。(3)不安を超越するリックは、「俺の信念は、1番は家族、仲間、そして仕事(役割)だ」と語るシーンがあります(シーズン2第1話)。シーズンが進むと、彼は、より多くの人の幸せや次世代の幸せに思いを馳せるようになります(シーズン9第5話)。一方のシェーンは、最後まで自分のことしか考えていませんでした。3つ目は、不安を超越することです。不安は不安として抱えつつ、何に不安を感じているかを通して、自分はどうなりたいかに気付くことです。すると、不安ではないことに目を向けることになり、結果的に不安にとらわれなくなります。これは、アクセプタンス&コミットメント・セラピーに通じます。 「コロナ不安」への心のあり方は?「ウォーキングデッド」の世界観は、まさに原始の時代に通じるものがあります。それは、不確かなことが多く、不安に圧倒される世界です。そして、それは現在のコロナ危機にも通じます。人間はそもそも不安を感じるようにできています。よくよく考えてみれば、コロナ以前の私たちは何も不安を感じずに幸せだったでしょうか? やはり何かしらの不安があったでしょう。逆に言えば、コロナ危機というはっきりとした不安がある今だからこそ、不安を俯瞰し共有し超越することを通して、自分はどう生きていきたいかという本心に気付くチャンスなのではないでしょうか? ■参考スライド【不安症、強迫症】2020年■関連記事アビエイター【強迫性障害】美女と野獣【実はモラハラしていた!? なぜされるの?どうすれば?(従う心理)】苦情殺到!桃太郎(後編)【なんでバッシングするの?どうすれば?(正義中毒)】「ZOOM」「RE-ZOOM」【どうキレキレに冴え渡る?(マインドフルネス)】

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ダイヤモンド・プリンセス104例からの知見(自衛隊中央病院)/Lancet Infect Dis

 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から搬送された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された104例について臨床的特徴を分析した単一施設・後ろ向き研究の結果が発表された。自衛隊中央病院のチームによるもので、これまで同病院のサイトで公開されたまとめを論文化したものが、2020年6月12日にLancet Infectious Diseases誌オンライン版に掲載された。 2020年2月11日~25日に自衛隊中央病院に入院したCOVID-19感染者を対象とし、臨床記録、検査データ、放射線検査の所見を分析した。追跡期間は、退院もしくは2月26日のどちらか早い日まで。期間中にダイヤモンド・プリンセス号の乗客・乗員3,711人が船内の検疫における咽頭スワブのPCR検査を受け、SARS-CoV-2陽性となった患者のうち、合意のとれた104例が対象となった。 ダイヤモンド・プリンセス号から搬送されたCOVID-19感染者の重症度は、以下のように定義した。・臨床徴候および症状なし:無症候性・重い肺炎(呼吸困難、頻呼吸、SpO2<93%、および酸素療法の必要性)あり:重症・上記以外:軽症 追跡終了時に、無症候性を含むさまざまな重症度の患者における入院時の臨床的特徴を比較し、無症候性と臨床症状のある患者の疾患の進行に関連する要因について、単変量解析を用いて特定した。 ダイヤモンド・プリンセス号から搬送されたCOVID-19感染者の臨床的特徴を分析した主な結果は以下のとおり。・参加者の年齢は25~93歳、年齢中央値は68歳(IQR:47〜75)だった。・男性が54例(52%)、東アジアからの参加者が55例(53%)と最も多かった。・観察期間は3~15日(中央値10日、IQR:7〜10)だった。・52例(50%)に何らかの併存症があった。・重症度は以下の通り(いずれも入院時/全観察期間)だった。  無症候性:43例(41%)/33例(32%)  軽症:41例(39%)/43例(41%)  重症:20例(19%)/28例(27%) 入院時に無症候性だった43例のうち、観察期間終了時まで無症状だった33例と症状の発現した10例を比較したところ、最後まで無症状だった33例中17例は入院時の胸部CTの所見に異常が見られ(原著論文で検査画像を提示)、うち3例は酸素療法を必要とするまで悪化した。症状発現の有無に性別、年齢、併存症による有意差は見られなかった。 観察期間終了時における軽症例(43例)と重症例(28例)との比較では、重症例のほうが高齢(60歳 vs.73歳、p=0.028)で、入院時の胸部CT異常の割合(65% vs.86%、p=0.062)とリンパ球減少の割合(23% vs.57%、p=0.0055)も重症例のほうが高かった。 まとめとして自衛隊中央病院チームは、ダイヤモンド・プリンセス号から搬送されたCOVID-19感染者の分析結果からは、LDH高値が有症状の予測因子となり、高齢、胸部CT画像のすりガラス影、リンパ球減少が疾患進行の潜在的リスク因子だと示唆している。

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COVID-19流行期の小児炎症性多臓器症候群、その臨床的特徴は?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生率が高い地域では、通常とは異なる発熱や炎症の症候群を呈する子供の症例が報告されている。そこで、英国・Imperial College Healthcare NHS TrustのElizabeth Whittaker氏らは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染症流行期の小児炎症性多臓器症候群(PIMS-TS)の判定基準を満たした入院患児の調査を行い、発熱や炎症から心筋障害、ショック、冠動脈瘤の発現まで、さまざまな徴候や症状とともに、重症度にも違いがみられることを明らかにした。JAMA誌オンライン版2020年6月8日号掲載の報告。58例の臨床的特徴を抽出し、他の炎症性疾患と比較 研究グループは、PIMS-TSの判定基準を満たした入院患児の臨床所見や検査値の特徴を調査し、これらの特徴を他の小児炎症性疾患と比較する目的で、症例集積研究を行った(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。 2020年3月23日~5月16日の期間に、イングランドの8つの病院に入院したPIMS-TS患児58例を対象とした。最終フォローアップ日は2020年5月22日。 診療記録を精査することで、臨床所見や検査値の特徴を抽出し、2002~19年に欧米の病院に入院した川崎病(1,132例)、川崎病ショック症候群(45例)、毒素性ショック症候群(37例)の臨床的特徴と比較した。感染率78%、年齢が高く、炎症マーカーが高値 58例の年齢中央値は9歳(IQR:5.7~14)で、女児が33例(57%)であった。SARS-CoV-2のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査では15例(26%)が陽性で、SARS-CoV-2のIgG検査では46例中40例(87%)が陽性であった。全体として、58例中45例(78%)で現在または過去のSARS-CoV-2感染のエビデンスが得られた。 全患児に、発熱と非特異的症状(嘔吐26/58例[45%]、腹痛31/58例[53%]、下痢30/58例[52%])が認められた。発疹は58例中30例(52%)に、結膜充血は58例中26例(45%)にみられた。 検査値の評価では、著明な炎症が認められた。たとえば、C反応性蛋白(CRP)中央値(58例全例で測定)は229mg/L(IQR:156~338)で、フェリチン(58例中53例で評価)中央値は610μg/L(359~1,280)であった。 58例の患児のうち、29例がショック(心筋機能障害の生化学的エビデンスを伴う)を来し、強心薬および蘇生輸液を要した(29例中23例[79%]が機械的換気を受けた)。13例は米国心臓協会(AHA)の川崎病の定義を満たし、23例はショックや川崎病の特徴を伴わない発熱および炎症所見を有していた。8例(14%)には、冠動脈拡張と冠動脈瘤が発現した。 PIMS-TSを川崎病および川崎病ショック症候群と比較したところ、臨床所見や検査値の特徴に違いが認められた。たとえば、PIMS-TSは、これら2つの炎症性疾患に比べ年齢中央値が高く(PIMS-TS:9歳[IQR:5.7~14]vs.川崎病:2.7歳[1.4~4.7]vs.川崎病ショック症候群:3.8歳[0.2~18])、CRP中央値(229mg/L[IQR:156~338]vs.67mg/L[40~150]vs.193mg/L[83~237])などの炎症マーカーが高値を示した。 著者は、「これらの知見は、重篤なPIMS-TSで入院した患児の臨床的特徴を示しており、この明らかに新しい症候群の実態を理解するのに役立つだろう」としている。

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新型コロナ、国内初のワクチン治験開始へ―阪大など

 待ち望まれる国産の新型コロナワクチン実現に王手か―。大阪府は6月17日の記者会見で、大阪大学などと共に産官学連携で開発に取り組んできた、新型コロナウイルスの予防ワクチンの治験を6月30日に開始することを明らかにした。新型コロナウイルスを巡っては、世界規模で予防ワクチンの開発が進行中であり、1日も早い実現が待たれる状況だが、ヒトへの投与が実施されるのは国内初となるという。会見で吉村 洋文知事は、「新型コロナ対策に治療薬とワクチンが非常に重要で、その第1歩を大阪で踏み出す。国産ワクチンによって、日本のコロナとの戦いを反転攻勢させていきたい」と語り、期待感を示した。 大阪府は4月に大阪市や大阪大学、大阪府立病院機構などと連携協定を結び、新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬の早期実現に向けた研究開発に取り組んできた。すでに動物実験での安全性は確認されており、今月末からの治験へとステップを進める。 まずは大阪市立大学医学部付属病院の医療従事者(20~30例)を対象に実施。2020年10月には、数百例程度に規模を拡大した治験を実施する。府は、安全性が確認できれば、年内にも10~20万単位でのワクチン製造に漕ぎ着けたい考えだ。製造は、プラスミドDNAの製造技術および設備を有するタカラバイオ株式会社を中心に、AGC Biologics社、Cytiva社、シオノギファーマ株式会社が担う。順調に進めば、21年春~秋に国の認可を得て、実用化を目指す。

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職場における新型コロナ感染予防ガイドを改訂/日本産業衛生学会

 日本渡航医学会と日本産業衛生学会は2020年5月より両学会のサイト上で、産業医を中心とした産業保健従事者向けに「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」を公開している。6月3日には感染状況などの変化を踏まえ、改訂した第2版を公開した。 このガイドでは、産業保健職の役割や感染症流行時におけるリスクコミュニケーションなどの基本事項を押さえたうえで、国内の新型コロナウイルス感染症の流行状況を5つのフェーズに分け、各フェーズにおける主要な対応をまとめている。 続けて、職域における感染予防対策の基本として、個人の感染予防(手指衛生および咳エチケット)、従業員の感染管理(従業員の健康状態のモニタリング方法、相談および受診の目安)を詳細に紹介。従業員の中に「疑い者」が出た場合、職場復帰の目安として1) 発症後に少なくても 8 日が経過している、2) 薬剤を服用していない状態で、解熱後および症状消失後に少なくても3日が経過している、という両方の条件を満たすこと、と定義した。また、「医療機関には原則として『陰性証明書や治癒証明書』の発行を求めてはならない」という注意も示されている。 事業所内の消毒方法や消毒時の注意点、職域においてソーシャルディスタンシングを保つためのツールやヒント、従業員に濃厚接触者や感染者が発生した場合の対応方法や保健所との連携法、出張者や駐在員への対応法など、51ページにおよぶ内容は実践的で多岐に渡るテーマが網羅されている。在宅勤務の広がりに伴う従業員のメンタルヘルス対策についても言及している。 企業に向けてアドバイスを行う産業医・産業保健職はもちろんのこと、実際の対策にあたる企業の総務・労務担当者にとっても役立つ内容が多い。

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日本動脈硬化学会総会・学術集会のWeb開催について【ご案内】

 一般社団法人日本動脈硬化学会は、2020年7月17日(金)、18日(土)に名古屋での開催を予定していた『第52回日本動脈硬化学会総会・学術集会』をWeb開催へ変更した。また、開催日も変更し、7月17日(金)~31日(金)の期間に実施される。参加登録者は会期中に全セッションを随時視聴できる。また、同じくWeb配信が予定されている市民公開講座については、誰でも無料で視聴可能である。 本学術集会では、医師向けの最新知見の発信のみならず、大学院生向けの最新研究TECH-Seminar、メディカルスタッフを対象とした症例検討などの企画が予定されている。 開催概要は以下のとおり。【日時】2020年7月17日(金)~31日(金)【参加条件】・登録方法:開催期間中、オンライン参加登録が可能・参加費:ホームページ参照※市民公開講座は無料【テーマ】「人は血管とともに老いる」からの脱却~動脈硬化予防から健康長寿へ~【会長講演】「動脈硬化病変形成におけるタンパク分解酵素の役割について」葛谷 雅文氏(名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学講座)【特別講演1】「自己脂肪組織由来間葉系前駆細胞(ADRC)移植による血管再生療法」室原 豊明氏(名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学)【特別講演2】「HDL粒子不均一性の基礎と臨床」横山 信治氏(中部大学 応用生物学部)【合同シンポジウム1】「心血管疾患のリスク病態としてのNAFLD/NASH」中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室) ほか【合同シンポジウム2】「日本血管生物医学会合同シンポジウム」清水 優樹氏(名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学) ほか【市民公開講座】「長寿の達人を目指す~血管を若返らす~」楽木 宏実氏(大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学) ほか「新型コロナウイルスに立ち向かう ~動脈硬化学会からのメッセージ~」米満 吉和氏(九州大学大学院薬学研究院) ほか【お問い合わせ・運営事務局】株式会社コングレ中部支社内〒460-0004 名古屋市中区新栄町2-13 栄第一生命ビルディングTEL:052-950-3369 FAX:052-950-3370E-mail:jas52@congre.co.jp詳細はこちら

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新型コロナ抗原検査、発症2~9日は陰性でもPCR不要に/厚労省

 新型コロナウイルス感染症への感染を調べる抗原検査について、厚生労働省は6月16日付でガイドラインを改定した。この改定による大きな変更点は、発症2~9日目の患者に限り、抗原検査で陰性となった場合でも、追加のPCR検査が不要となったことだ。 抗原検査は、検査キットを使い、わずか30分程度で感染の有無を判断できる迅速性がメリットだが、偽陰性が生じるリスクがある。このため従来のガイドラインでは、陽性の場合は診断が確定できるものの、陰性の場合には確定診断のために改めてPCR検査を実施することになっていた。この煩雑なフローにより、当初はPCR検査の不足分を補う検査として期待されていたものの、実際には抗原検査が診療現場に広がったとは言い難い状況だった。 しかし今般、川崎市健康安全研究所や東邦大学医療センター大森病院、国立国際医療研究センター、それに自衛隊中央病院において、院内陽性者の発症後日数と PCR検査および抗原検査の結果を調査したところ、いずれも発症2~9日以内の症例では保有するウイルス量が多く、PCR検査と抗原検査の結果の一致率が高いとの研究結果が示された。このため改定ガイドラインでは、「新型コロナウイルス感染症を疑う症状発症後2日目から9日目以内の者(発症日を1日目とする)については、本キットで陰性となった場合は追加の検査を必須とはしない」と変更された。

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新型コロナ感染妊婦、転帰良好で母子感染はまれ/BMJ

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染し入院した妊婦のほとんどは、妊娠中期後半~後期で、重症ではなくアウトカムは良好であり、母子感染はまれであることが明らかにされた。英国・オックスフォード大学のMarian Knight氏らが、同国でのCOVID-19で入院した妊婦を対象に、SARS-CoV-2感染の要因とその予後、ならびに母子感染について検討する前向きコホート研究の結果を報告した。なお、感染が認められ入院した妊婦の半数以上が黒人、アジア系および他の少数民族であったことから、著者はその割合の高さについて「早急な調査と解明が必要である」との見解を示している。BMJ誌2020年6月8日号掲載の報告。全英でSARS-CoV-2感染が認められ入院した妊婦427例について解析 研究グループは、英国の産科全194施設が参加しているUK Obstetric Surveillance System(UKOSS)のデータを用い、2020年3月1日~4月14日の期間にSARS-CoV-2感染が確認され入院した妊婦427例を対象に前向きコホート研究を実施した。 主要評価項目は、妊婦の入院率および新生児の感染率とし、妊婦の死亡率、レベル3の集中治療室(CCU)への入室率、胎児死亡率、帝王切開分娩率、早産率、死産率、早期新生児死亡率、新生児室への入室率についても検討した。妊婦の転帰は良好、母子感染はきわめてまれ SARS-CoV-2感染妊婦の推定入院率は、4.9/1,000人(95%信頼区間[CI]:4.5~5.4)であった。 妊娠中にSARS-CoV-2感染が認められ入院した妊婦427例中、233例(56%)が黒人・アジア系・他の少数民族で、281例(69%)が過体重または肥満、175例(41%)が35歳以上、145例(34%)に合併症があった。解析時点で161例(38%)は妊娠継続中であり、266例(62%)が出産または妊娠中断(生児出産259例、流産4例、死産3例)に至った。266例中196例(73%)が正期産であった。 人工呼吸管理を必要としたのは41/427例(10%)、死亡は5例(1%)であった。 新生児265例(双子6組を含む)中12例(5%)がSARS-CoV-2 RNA陽性で、このうち6例の感染が確認されたのは産後12時間以内であった。 なお、本研究は進行中であり、全感染率や無症候性感染に関するデータについてはまだ提示されていない。

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コロナとコロナリーの言語学的考察、論文解釈にも役立つ!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第25回

第25回 コロナとコロナリーの言語学的考察、論文解釈にも役立つ!各国・各地で猛威をふるう新型コロナウイルス。多くの命が失われ、感染への不安が広がり、日常が奪われています。コロナウイルスは、世界を大きく変容させようとしています。収束を願うばかりです。コロナウイルスのコロナ(corona)の語源はご存じですか。ウイルスを電子顕微鏡で見ると、膜に覆われた表面にたくさん突起が見られます。この形状が王冠のように見え、王冠をラテン語でコロナということから「コロナウイルス」となったそうです。コロナウイルスの由来からもわかるように、医学用語は、ラテン語によって支配的な影響を受けています。ラテン語は古代ローマ帝国の公用語で、その後もローマ・カトリック教会の公用語として近世に至るまで西ヨーロッパ地域の共通語であり続けました。そこで、医学用語や法律用語にはラテン語起源の単語が多く残っているのです。英語はゲルマン語の系統に属し、アングロ・サクソン語とも呼ばれる古英語が源流です。英国(イングランド)は、11世紀にフランスのノルマン人に征服され、その支配が長く続きました。これがノルマン・コンクエストです。それ以降、フランス語系の単語が英語に多く取り込まれたのです。とくに上流階級の人々が、フランス語色の強い単語を好んだそうです。動物としての牛はcow か ox ですが、牛肉は beefです。豚はpigですが、豚肉はporkです。フランス語で牛肉はboeuf(バフ)、豚肉はporc(ポー)といいます。そうです、beefやporkはフランス語由来の言葉なのです。一方で、cow や ox、pigは古英語に由来する単語です。動物が生きている間に世話をするのが支配された英国のアングロ・サクソン人、調理された肉を食べるのが支配層のフランス系のノルマン人であったことを意味しています。ウーン、英語の歴史は深いですね。本題外ですが、英国のEU離脱を考える際に必要な潜在因子です。このような理由で、現代英語は、古英語・フランス語・ラテン語からなる三層構造をもっています。古英語に由来する単語は、短く平易でcowやoxのように短いスペリングであることが多いです。フランス語に由来する単語は中立的です。やや長くなり、法律用語が多くなります。ラテン語に由来する単語は多音節で、高尚なオーラを放っているのが普通です。登るという意味の英単語を考えると、rise(古英語)、mount(フランス語系)、ascend(ラテン語系)という流れになるそうです。上行大動脈はascending aortaと言いますね。解剖用語は、ラテン語系の用語が主流です。 ラテン語系の長く難しい単語を散りばめるとインテリ学者の雰囲気を振りまくことができるそうです。ラテン語を少しでも知ることで英語の構造が理解しやすくなり、医学論文の解釈や執筆の助けになります。ウンチクを披露しながら紹介してみました。小生は循環器内科医で冠動脈の異常を治すことを仕事にしています。冠動脈はcoronary arteryで、coronaryを分解すればcorona+aryとなります。そうです、冠動脈は、あたかも心臓が王冠を戴くように取り巻く血管という意味なのです。「…ary」は「…に関する」という接尾語です。冠動脈の扱いには慣れた循環器内科医ですが、共通の語源をもつ憎いコロナウイルスの前では、オロオロするばかりです。コロナリーの石灰化をぶっ飛ばすロータブレータで、コロナを叩きのめすことができないのが口惜しく残念でなりません。

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第11回 コロナ禍を盾に、日医会長選は“全面戦争”の様相

6月27日に投開票される日本医師会の会長選挙。立候補を表明している、現職で5選を目指す横倉 義武氏(75歳)と、副会長の中川 俊男氏(68歳)の両陣営が「キャビネット(副会長・常任理事の推薦候補)」を明らかにした。そこから見えるのは、大票田である東京・大阪の分裂と、どちらが当選しても日医の団結にヒビが入りそうだということだ。中川陣営は6月8日に公表したキャビネットで、副会長(定数3人)推薦候補に、現職の今村 聡氏(東京)と松原 謙二氏(大阪)に加え、全日本病院協会会長の猪口 雄二氏(東京)を推薦した。常任理事(定数10人)推薦候補には、現職の小玉 弘之氏(秋田)、道永 麻里氏(東京)、石川 広己氏(千葉)、平川 俊夫氏(福岡)の4氏を替え、都道府県医師会の副会長・常任理事の神村 裕子氏(山形)、橋本 省氏(宮城)、宮川 政昭氏(神奈川)、渡邊 弘司氏(広島)を入れる構想を明らかにした。残りの釜萢 敏氏(群馬)、長島 公之氏(栃木)、松本 吉郎氏(埼玉)、羽鳥 裕氏(神奈川)、城守 国斗氏(京都)、江澤 和彦氏(岡山)は続投させる方針だ。一方、横倉陣営は6月10日にキャビネットを公表。副会長推薦候補には、現職の今村氏を続投させるほか、新たに愛知県医師会会長の柵木 充明氏、大阪府医師会会長の茂松 茂人氏を加えた。常任理事推薦候補は現職の石川氏だけを替え、元東京都医師会副会長の近藤 太郎氏を選んだ。中川氏が自らと同様に中央社会保険医療協議会(中医協)や社会保障審議会(社保審)の委員を務めた猪口氏を副会長推薦候補にした意味は何か。ある医療関係者は「開業医と中小病院の連携で、診療報酬をしっかり取っていこうという姿勢の表れでは」と話す。一方、両キャビネットから情報担当の石川氏が共通して外されたのは、「医療のIT化関連の施策に後ろ向きだからではないか」と前述の医療関係者は推測する。また副会長選を巡っては、東京都・大阪府両医師会が分裂しそうだ。都医師会出身の今村氏は両陣営のキャビネットに副会長推薦候補として名を連ねたが、6月10日の記者会見で今村氏は、「横倉会長が立候補を決断され、その後に私に『手伝え』と言われた。しかし、中川先生からはそうした話がなく、メディアを通してキャビネットの陣容を知り、大変驚いた」と述べ、横倉キャビネットとしての立場を明らかにした。一方、6月7日の中川陣営の記者会見において、東京都医師会長の尾崎 治夫氏が「正義は中川先生にある」と応援理由を説明している上、中川キャビネットの副会長推薦候補の猪口氏は都医師会会員でもあることから、都医師会の票が割れることは必至だろう。また大阪府医師会では、2018年の役員選で横倉氏がクビのすげ替えを図った松原氏(府医師会理事)が中川キャビネットの副会長推薦候補に入っている一方、府医師会会長である茂松氏が横倉キャビネットの副会長推薦候補になっており、府医師会の票も割れそうだ。中川氏は「横倉執行部の本流の後継者」を強調、日医の従来路線を維持しながら変革する方針を説明している。一方、横倉会長は中川氏との違いについて、「基本的に随分考えが違う。私はしっかりと相手の話を聞いて、こちらの主張もしっかりと通す。一方的に我々の理念だけを通すことはありえない」と批判めいた発言をしている。中川氏は中医協や社保審などで強面に出る人物として知られているが、横倉氏は以前、「私の右腕」と持ち上げていた。“かませ犬”的な存在として中川氏を筆頭副会長に置いていたのかと勘繰りたくなる。横倉氏の1回目の会長選は3人で争う選挙だったが、2回目以降は厳しい選挙戦はしていない。その1回目でさえ「割と爽やかな選挙をしていた」と述べている。しかし今回は、中川陣営が6月7日に開いた記者会見に、10都道府県医師会、3市医師会の会長らが参加。東京・大阪の医師会も分裂している中、危機感を抱いているらしい。予定していなかった東京選対事務所を急きょ6月14日に開いたり、中川氏と支持者を批判する“怪文書”が出回ったり(横倉陣営の発信と見られる)しているのだ。今度ばかりは「爽やかな選挙」とはいかないだろう。新型コロナが依然油断ならない状況のなか、一丸となるべき医師会が、間違っても内部のいざこざで機能不全に陥るなんてことがないようお願いしたいところだ。

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COVID-19対応で市民へ9つの提言/日本感染症学会・日本環境感染学会

 6月15日、日本感染症学会(理事長:舘田 一博氏)と日本環境感染学会(理事長:吉田 正樹氏)は、連名で新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」という)に関して一般市民向けに「第一波を乗り越えて、いま私たちに求められる理解と行動」と題する提言を発表し、ホームページで公開した。 今回の提言では、本年初頭からのCOVID-19の感染流行とわが国のたどった経過を振り返るとともに、先に発表された「新型コロナウイルス感染症に対する注意事項」とあわせて市民が知っておいてほしいCOVID-19の特徴や今後の生活様式などについて9項目が提示されている。 とくに危惧される第二波について、到来は不明としながらも「11月以降の秋から冬にかけて増加することを想定しておかなければならない」と指摘、その際には「決してパニックになることなく、冷静に対応していくことが極めて重要」と注意を促している。また、社会問題化している医療者・感染者への差別や偏見についても「社会全体としての連携・協力が必須」とし、学会でも引き続き活動を行うと表明している。 提言の最後には、「世界的な広がりを見せるCOVID-19を抑え込むには、私たち一人一人の理解と行動が極めて重要」と市民への協力を求めている。求められる理解と行動の9項目1.COVID-19の世界的な感染の広がりはまだ続いています。2.会話や発声による感染伝播のリスクが明らかになりました。3.いわゆる“3密”を避ける生活様式が求められています。4.高齢者は重症化するリスクが高いことに注意しなければなりません。5.PCR等遺伝子検査に加え、抗原検査、抗体検査が検討されています。6.無症状感染者を介して水面下で感染が広がるリスクがあります。7.メリハリをつけた感染対策が求められています。8.第二波は来るのか? 来るとすればいつ頃、どのくらいの規模で?9.差別や偏見のないように。

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新型コロナ、日本人の抗体保有調査の結果を発表/厚労省

 2020年6月16日、厚生労働省は3都府県で6月1日より実施していた新型コロナウイルスの抗体保有調査の結果を発表。その結果、大半の人が抗体を保有していないことが明らかになった。本調査は日本での抗体保有状況の把握のため、2020年6月1~7日にかけて東京都・大阪府・宮城県の一般住民それぞれ約3,000名を無作為化抽出して行われた。対象者は本調査への参加に同意した一般住民(東京都1,971名、大阪府2,970名、宮城県3,009名、計7,950名)。 本調査では陽性判定をより正確に行うため、2種の検査試薬(アボット社、ロシュ社)の両方において陽性が確認されたものを「陽性」とした。 主な結果は以下のとおり。・各自治体の抗体保有率は、東京都:0.10%(2人)、大阪府:0.17%(5人) 、宮城県:0.03%(1人)だった。・5月31日時点での累積感染者数は、東京都:5,236人(0.038%)、大阪府:1,783人(0.02%)、宮城県:88人(0.004%)だった。 ・上記を踏まえると、各自治体の抗体保有者は累積感染者数と比較すると多いが、依然として大半の人が抗体を保有していなかった。・モコバイオ社の試薬による測定値は参考値として記載されており、それぞれ、東京都:1.07%、大阪府:1.25%、宮城県:1.20%だった。 なお、厚生労働省は「本事業は国全体として過去に新型コロナウイルスに感染した人の割合を推定するものであり、個別に現在の感染を診断するための調査ではない。現時点でこれらの抗体の性質(体内での持続期間や、2回目の感染から守る機能があるかどうか)は確定していない」としている。

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MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

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第11回 クラスター発生の永寿総合病院、「支援・寄付一覧」から見えてきたものは?

院長がホームページで謝罪こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。さて、東京では、都民に警戒を促すための“東京アラート”が解除され、ロードマップも「ステップ3」に移行、あとは6月18日の都知事選公示を待つだけとなりました。しかし、案の定、14日(日)と15日(月)には、都内で新たに50人近くの新型コロナウイルス感染者が確認されています。このロードマップ、患者数や医療機関の状況を勘案したものというよりは、小池百合子都知事の政治日程を優先したものだったのでは…と勘ぐりたくもなります。もっとも、お笑い芸人の不倫報道や、都知事選関連の報道を見ていると「ウィズ・コロナ」の日常が徐々に始まっている、ということなのでしょう。さて、今回気になったのは、新型コロナウイルスによる国内最大規模のクラスターが発生した永寿総合病院(東京都台東区)のサイトに6月2日に掲載された「永寿総合病院への励ましやご支援ありがとうございます」のお知らせと、続いて6月8日に掲載された湯浅 祐二院長による「診療再開にあたって」の一文です。同病院で新型コロナウイルス感染症が発生したのは3月20日前後。発熱のあった2人の入院患者を起点として院内感染が起きました。対応が後手に回った結果、医療体制が危機的状況に陥り、これまでに計214人が感染し、入院患者43人が死亡しています。感染症対策はしっかりと行っていたが不十分だった感染が明らかになって約2カ月半超、6月8日掲載の「診療再開にあたって」の文章の冒頭で湯浅院長は、「入院中の患者様及び職員に多数の感染が発生し、私どもに求められている地域医療の中核病院としての役割を果たせない状況となり、地域の皆様をはじめ、多くの方々に大きな不安を与えてしまいましたことを大変申し訳なく思っております」と謝罪、亡くなった患者やその家族に対してお詫びの言葉を述べた上で、同病院で発生した新型コロナウイルス感染症の集団感染の経緯や今後の対策について報告しています。詳細は同病院サイトをお読みいただきたいと思いますが、43人という多数の死亡者を出したことについては、「お亡くなりになった患者様のうち約半数が、血液疾患で入院中の方々で、その他にも進行した悪性腫瘍を有する方、抗がん剤治療中の方、様々な疾患のあるご高齢の方が多く、アビガンやフサンなどの薬剤を早期より使用しましたが、救命することができませんでした。特効薬のない現状では、個々の免疫力が病状の経過を大きく左右することを痛感いたしました」と、がん患者が多かったことが要因の1つだと分析しています。さらに、院内の感染症対策については、「当院は、病床400床の全26科からなる急性期総合病院であり、これまでは、こうした施設に求められる感染防止対策を着実に実行していると考えておりました。インフェクションコントロールドクターの資格を持つ医師3名や感染制御専門の資格を持つ看護師、薬剤師、検査技師などからなる感染制御チームも精力的に活動しておりました。それにもかかわらず今回のような新型コロナウイルス感染症の急速な拡大が起きた原因につきまして、厚生労働省クラスター対策班による分析結果を踏まえて重点を整理し、今後の対策について記すことにいたします」としたうえで、「感染拡大の原因と今後の対策」について「新型コロナウイルス感染症の早期診断」「基本的感染予防策」「職員間の感染予防策」「病棟の利用方法」の4つの側面から詳述しています。PCR検査設備を持たないために迅速な診断ができなかったこと、これまでも職員のマスク着用と手指消毒を励行してきたが不十分な点があったことなど、同病院の反省点や教訓は、他の医療機関にとっても今後の新型コロナウイルス感染症対策に参考になるでしょう。多種多様な支援者、ジャニーズの名前もさて、同じく同病院のサイトに6月2日に掲載された「永寿総合病院への励ましやご支援ありがとうございます」というお知らせも、とても興味深い内容となっています。このお知らせには「ご支援・ご寄附の内訳」の一覧表が添付されているのですが、その支援者や支援物資の多種多様さには、ある種の感動さえ覚えました。300件を超える支援は、地元の医療機関や企業、個人からのマスクや寄付金に始まり、地域の飲食店からの弁当やお菓子、東京都以外の企業からのマスクやフェイスシールド、そして遠くは沖縄県の個人からの現金の寄付もあります。また、ジャニーズグループや中居 正広氏など、何人かの芸能人と思しき人の名前もあります。一覧表からは、最大規模のクラスターを発生させたにもかかわらず、同病院を支えていかなければ、と考えた地元の人たちの熱意が伝わってきます。さらには同病院の院内感染の報道を見て、支援を行った人が全国にたくさんいたこともわかります。おそらく、この一覧表を作ったのは同病院の事務方の職員でしょう。院内感染対策に忙殺される中、日々届く支援物資や寄付とその送付者(支援者)を、1件も漏らすまいと記録していったに違いありません。そうした、診療とは直接関係ないところで行われた愚直な作業は、同病院の真面目な経営姿勢の表れだと言えるかもしれません。湯浅院長は「診療再開にあたって」の最後を、「永寿総合病院を、感染症に負けない、皆様に安心して医療を受けていただける病院として再生させ、発展させてまいりたいと思っております。今後ともご支援下さいますよう、心よりお願い申し上げます」と結んでいます。同病院が信頼を回復できる日は、意外と近いのかもしれません。

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新型コロナ、医療者のメンタルヘルスをどう守る?/日本精神神経学会提言と会員アンケート

 日本精神神経学会は、新型コロナウイルス感染症に関連し、学会員を主な対象としたメンタルヘルス関連の提言を行っている。これまでに出された提言は以下の3つ。1)親子・学校・女性のメンタルヘルスのサポート役割を担う学会員向け2)働く人のメンタルヘルスケアや産業保健体制に関する提言3)「コロナ関連自殺」予防について 精神科・心療内科を専門とする学会員に向け、新型コロナウイルス感染症がメンタルヘルスにおよぼす影響や、診療にあたっての注意点をまとめている。産業医として企業に対して感染予防対策や新しい働き方に関連するアドバイスをする際に役立つ内容も多い。「メンタルヘルスの専門家として今知っておくべきこと」を中心にまとめられているが、提言には「医療者自身のメンタルヘルスをいかに保つか」という内容も多く含まれている。 2)の提言内では「特に医療や介護現場などではメンタルヘルス不調の発生が強く危惧される」とし、個人防護服(PPE)を着たままの診療による身体的疲労や緊張の継続による精神的疲労の双方が懸念され、さらに新型コロナの専門病棟ではこれら疲労に加え、対応人員不足やPPE不足などへの危惧が継続的に発生している、と指摘。「当初は責任感や緊張感から普通に勤務できているように見えていても、対応期間が長引くにしたがい心身の疲弊症状として、抑うつ症状などの精神症状や不眠や頭痛などの身体化症状が顕在化」する、と警告している。こうしたメンタルヘルス不調を念頭に置いた産業保健活動が求められるが、そうした体制の確立が難しい小規模事業者などに対しては、早期から行政が介入・支援することが必要だ、と訴えている。 3)の提言内でも「このたびの感染防止対応は、ほとんどの医療スタッフにとって通常経験したことのない、複雑に絡み合う複数のストレス要素を伴っています。心身の不調が起きるのが当然といえば当然です。(略)会員の皆様も、精神医学やメンタルヘルスに精通しているからといって例外ではないのだということを忘れないでください」と注意を促している。会員アンケートでもストレス傾向が明らかに 2020年5月中旬、ケアネットが医師会員1,000人を対象に行ったメンタルヘルスをテーマにしたアンケート(新型コロナは日常診療にどう影響?勤務医1,000人に聞いたストレス・悩みの理由)からも、医療者が大きなストレス下に置かれていることが明らかになった。「COVID-19感染リスクに自身・スタッフがさらされることに不安を覚える」と答えた回答者は57.4%と6割近く、「COVID-19感染リスクに自身・スタッフがさらされることに不安を覚える」(57.4%)、「学会や勉強会などの直接的なコミュニケーションの機会が失われた」(55.6%)といった回答も半数を超えた。 医療現場のストレスマネジメントに詳しい国際医療福祉大学大学院 心療内科学教授の中尾 睦宏氏は、この結果を踏まえ、専門家の立場からアドバイスを寄せた。「アンケートには『臨床心理士を配置した』『メンタル相談の専門窓口を設けた』といった回答が寄せられており、医療現場の素早い対応は評価できる。しかし、医療者には責任感が強く、弱音を吐くことが苦手な人も多い。オンラインのミーティングや勉強会などの正しい情報共有に加え、カジュアルなコミュニケーションや愚痴を吐き出しやすい環境づくりが長期的なメンタルヘルス対策につながるはず」と述べている。【会員医師アンケート】新型コロナは日常診療にどう影響?1,000人に聞いたストレス・悩み【アンケート結果を解説】今、医療者が知るべき・やるべきメンタル対策

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第12回 さよならN95マスク!? 米国病院でのP100フィルターマスク導入

目下の新型コロナウイルス感染(COVID-19)流行で使い捨てのN95マスクが不足し、多くの医療施設はメーカーの推奨使用期間を超えて長く使えるように消毒して再利用する取り組みを始めました。しかし消毒して再利用する手順は実に負担が大きく、しかもN95マスクを消毒できる回数はたかが知れています。米国ペンシルベニア州ピッツバーグを本拠とする医療網Allegheny Health Network(AHN)も、2万人以上が働く合計2,200床ほどの9つの病院でN95マスクを消毒して繰り返し使用する体制をいったんは整えました。しかし消毒後の接顔不良を訴えるスタッフが多くいました。それに費用負担の問題も解決しません。そこでAHNはN95マスクに見切りを付け、ほぼ際限なく繰り返し使えるガスマスク様のP100フィルター付きエラストマー製マスク(以下、エラストマーマスク)の導入に踏み切ります1)。エラストマーマスクは柔軟で顔に隙間なく装着できるゴム様の素材でできており、繰り返し洗浄できます。米国疾病管理センター(CDC)によるとN95マスクと同等かそれ以上の空気中の感染物質からの保護性能を誇り、P100フィルターは空気中の浮遊粒子をほぼ100%遮断します。AHNは、鼻と口を覆う半顔面エラストマーマスクを3月末から試しに1ヵ月間使ってみました。まずはAHNの9つの病院でCOVID-19患者に最も多く接するスタッフに提供されました。最初は共有されましたが、十分に手に入るようになってからは1人に1つが充てがわれ、各々がメーカーの説明書に沿って使用のたびに消毒をして次の使用に備えました。Journal of American College of Surgeons(JACS)誌に掲載されたAHNの医師等の報告2)によると、約2,000人(1,962人)が試着をしてほぼ全員(94%;1,840人)が自分に合うものが見つかるか合うように調節できました。合うものがどうしても見つからなかったスタッフには、N95マスクか他の通気手段が提供されました。1ヵ月使用した後でN95マスクに戻ることにしたスタッフは1人もおらず、N95の出番はほぼ無くなりました(N95マスクの使用が95%減少)。AHNのある1つの病院における、18床の集中治療室(ICU)での比較の結果、月1回のP100フィルター交換による半顔面エラストマーマスク使用は安上がりであり、1ヵ月あたりの費用は控えめに見積もってもN95マスクのわずか10分の1で済みました。エラストマーマスクはN95マスクと違って試着して合わなかったものがゴミになることはなく、しかも長く使うほどより安上がりになります。N95マスクを消毒して再利用する取り組みをしている病院なら、新たな負担なく導入できることもエラストマーマスクの利点です。エラストマーマスクは将来の流行に備えて保管可能であり、医療スタッフそれぞれが身につける防護具一揃いに不可欠とみなすべきとAHNの医師/最高医学責任者Sricharan Chalikonda氏はJACS報告で結論しています。参考1)Elastomeric masks provide a more durable, less costly option for health care workers2)Chalikonda S, et al. J Am Coll Surg. 2020 June 11. [Epub ahead of print]

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COVID-19、回復期におけるうつ病と免疫反応に相関性

 これまで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染して重度の急性呼吸器症候群となった患者のうち、退院後に自己申告のうつ病とされた患者は観察されていたが、回復期からこの自己申告のうつ病が発症しているのかは不明だった。中国・深センSamii医療センター(SSMC)のBo Yuan氏らは、オンラインアンケートを利用して回復期のCOVID-19患者のメンタルヘルス状態を調べたうえで、定期的な血液および生化学データを含む患者の臨床的特徴を遡及的に分析し、うつ病と免疫反応との相関性を見た。Brain, Behavior, and Immunity誌オンライン版5月25日号掲載の報告。 2020年2月21日~3月12日にSSMCに入院したCOVID-19患者226例中126例に対し、オンラインアンケートを行った。アンケートには心的外傷性ストレス障害(PTSD)自己評価スケール(PTSD-SS)、不安自己評価スケール、うつ病自己評価スケール(SDS)が用いられ、50のインデックススコアで臨床的重要度を判断した。 アンケートは3月2日~12日に行われ、回答から臨床的重要度が高いと判断された96例の回復期患者が対象となった。患者の年齢、性別、併存症、初期感染の重症度の潜在的影響、再発および初期疾患期間(入院平均日数)を含む疫学的特徴を調査し、血液を採取して白血球と炎症性因子の炎症性免疫応答を見た。その他のCOVID-19関連の医療データは電話インタビューと医療記録の確認から収集した。 主な結果は以下のとおり。・96例のうち、SDSスコアが50を超える自己申告うつ病群は42例だった(正常群:54例)。・自己申告うつ病の発生と性別、年齢、併存症、初期感染の重症度、および初期疾患期間には、有意な相関は見られなかった。・自己申告うつ病群は、正常群と比べて白血球数(6.7±1.5vs. 6.0±1.5、p=0.016)、好中球数(4.1±1.2vs. 3.3±0.9、p=0.000)が有意に多かった。・炎症の発現では、自己申告うつ病群は正常群よりもCRP値が高かった(0.2±0.3 vs. 0.1±0.1 mg/dl、p=0.035)一方で、IL-6値には有意差がなかった。 著者らは「自己申告うつ病はCOVID-19の回復初期から発生しており、退院後の短期追跡によってうつ病群は免疫応答が増加していることが示された」とした。さらに、「免疫応答と自己申告うつ病をつなぐメカニズム解明にはさらなる研究が必要だ」としつつも、「自己申告うつ病の患者には適切な心理的介入が必要であり、免疫機能の変化は長期フォローアップ中に重点を置くべきポイントだ」と述べている。

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COVID-19血漿療法試験、中国103例の報告/JAMA

 重症/重篤の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療において、標準治療に回復期血漿療法を併用するアプローチは標準治療単独と比較して、28日以内の臨床的改善(生存退院、重症度の低減)を増加させなかったとの研究結果が、中国医学科学院のLing Li氏らによって報告された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2020年6月3日号に掲載された。回復期の患者の血漿を使用する回復期血漿療法は、これまでにもさまざまな感染症の治療に用いられており、COVID-19の治療選択肢となる可能性があるが、その使用を支持するエビデンスは十分でない。また、ドナーの選択や血漿の質の管理、レシピエントの適応などは標準化されておらず、これらについてもエビデンスに基づく根拠はないという。7施設が参加の無作為化試験、患者登録が進まず早期中止 本研究は、中国武漢市の7つの医療センターが参加した非盲検無作為化試験であり、2020年2月14日~4月1日の期間に実施された(中国医学科学院 技術革新基金などの助成による)。最終フォローアップ日は2020年4月28日だった。 対象は、年齢18歳以上、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査で確定されたCOVID-19で、重症(呼吸困難または低酸素血症、あるいは双方)または重篤(ショック状態、臓器不全、機械的換気を要する病態)の患者であった。 被験者は、標準治療+回復期血漿療法(血漿療法群)または標準治療のみを行う群(対照群)に無作為に割り付けられた。標準治療は、症状コントロールや支持療法から成り、中国のCOVID-19治療ガイドラインに準拠した。血漿療法では、ABO式血液型適合回復期血漿が、患者の体重によって4~13mL/kg投与された。 主要アウトカムは、28日以内の臨床的改善(生存退院または疾患重症度尺度[1~6点、1点は退院、6点は死亡]の2点の低下)とした。 本試験は200例の登録を予定していたが、COVID-19流行の封じ込めにより、3月下旬には患者数が減少したため登録が進まず、2020年4月1日、103例を登録した時点で早期中止となった。重症例では有意差あり、PCR陰性化率は高い 103例の年齢中央値は70歳(IQR:62~78)、男性が60例(58.3%)であった。血漿療法群に52例(重症例23例、重篤例29例)、対照群には51例(22例、29例)が割り付けられた。101例(98.1%)が試験を完遂した。 試験参加時に89.2%の患者が平熱で、体温の中央値は36.5℃(IQR:36.2~36.7)だった。血漿療法群の注入血漿量中央値は200mL(IQR:200~300)で、96%が1回で注入された。 28日以内の臨床的改善の割合は、血漿療法群が51.9%(27/52例)、対照群は43.1%(22/51例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(群間差:8.8%、95%信頼区間[CI]:-10.4~28.0、ハザード比[HR]:1.40、95%CI:0.79~2.49、p=0.26)。 重症例における28日以内の臨床的改善の割合は、血漿療法群が91.3%(21/23例)と、対照群の68.2%(15/22例)に比べ有意に良好であった(HR:2.15、95%CI:1.07~4.32、p=0.03)のに対し、重篤例ではそれぞれ20.7%(6/29例)および24.1%(7/29例)であり、有意な差はみられなかった(0.88、0.30~2.63、p=0.83)(交互作用のp=0.17)。 28日死亡率には両群間に差はなかった(血漿療法群15.7% vs.対照群24.0%、オッズ比[OR]:0.65、95%CI:0.29~1.46、p=0.30)。また、無作為割り付けから死亡までの期間にも差がなかった(HR:0.74、0.30~1.82、p=0.52)。重症例では、血漿療法群に死亡例はなく、対照群では2例が死亡した。重篤例ではそれぞれ8例(28.6%)および10例(35.7%)が死亡した。 無作為割り付け時から28日までの退院例の割合(51.0% vs.36.0%、HR:1.61、95%CI:0.88~2.93、p=0.12)にも、両群間に有意な差はなかった。重症例の28日退院率は、血漿療法群で91.3%に達したが、対照群の68.2%との間に有意な差はなかった(p=0.07)。 一方、PCR検査の結果が陰性化した患者の割合は、24時間後(44.7% vs.15.0%、OR:4.58、95%CI:1.62~12.96、p=0.003)、48時間後(68.1% vs.32.5%、4.43、1.80~10.92、p=0.001)、72時間後(87.2% vs.37.5%、11.39、3.91~33.18、p<0.001)のいずれにおいても、血漿療法群で高かった。重症例では、24時間後と48時間後に有意な差はなかったが、72時間後には有意差が認められ(p<0.001)、重篤例ではいずれの時間にも有意差がみられた(p=0.01、p=0.003、p<0.001)。 血漿療法群の2例で注入関連の有害事象が発現した。重症例の1例では、注入から2時間以内に悪寒と発疹が、重篤例の1例では、6時間以内に息切れ、チアノーゼ、重症呼吸困難がみられたが、いずれも支持療法により改善した。 著者は、「本試験は早期に中止となったため、臨床的に重要な差の検出力が低い可能性があり、これらの知見の解釈には限界がある」としている。

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第11回 医療従事者には最大20万円の慰労金、二次補正予算が成立

<先週の動き>1.医療従事者には最大20万円の慰労金、二次補正予算が成立2.病院の再編・統合に向け、地域包括ケア病棟の開設条件を緩和3.今年の薬価調査・薬価改定に関係業界から延期論が相次ぐ4.新型コロナによる受診抑制の影響が明らかに(日本医師会)5.新型コロナ接触確認アプリが今週以降にリリース1.医療従事者には最大20万円の慰労金、二次補正予算が成立6月12日、第2次補正予算案が参議院本会議にて賛成多数により可決、成立した。厚生労働省分は追加額4兆9,733億円(うち一般会計3兆8,507億円、労働保険特別会計1兆4,446億円)であり、「感染拡大の抑え込み」と「社会経済活動の回復」の両立を目指すための対策を強化したものとなっている。具体的には、新型コロナ感染者対策として、病床の確保や人工呼吸器の整備、地域の医療提供体制を強化するため「緊急包括支援交付金」2兆2,370億円の増額分が含まれている。新型コロナ患者を受け入れた医療機関のスタッフや感染が発生した介護施設などの職員に対して、慰労金として20万円のほか、患者の受け入れのため病床確保に協力した医療機関のスタッフなどに10万円、その他の医療機関などで働く人には5万円の支給もこの予算成立によって実施される。(参考)新型コロナウイルス感染症対策関係 令和2年度 厚生労働省第二次補正予算案のポイント(厚労省)2.病院の再編・統合に向け、地域包括ケア病棟の開設条件を緩和今年4月から、地域包括ケア病棟は400床以上の病院では開設できないとされていたが、6月10日に開催された中央社会保険医療協議会総会において、病院の再編・統合によって400床以上となった場合においては、規制を緩める方針が打ち出された。今回の規制緩和は、地域の病院再編・統合により地域包括ケア病棟の新規届け出ができなくなることによって、地域医療提供体制の見直しに支障が出てしまうことを防ぐためのもの。医療提供体制について、地域医療構想調整会議で合意が得られている場合、地域包括ケア病棟を1棟に限り開設が可能となる。今月中に改正通知が発出される見込み。(参考)地域包括ケア病棟入院料の取扱いについて(中医協)3.今年の薬価調査・薬価改定に関係業界から延期論が相次ぐ6月10日にオンライン開催された中医協薬価専門部会において、日本医薬品卸売業連合会などから、2年おきから毎年改定となった今年度の薬価調査について、否定的な意見が出された。現在、大半の医薬品卸売業者は、医療機関側からの訪問自粛要請を受けて、通常の納品・配送業務以外、ほとんど営業活動ができていないため、現状では対応が困難であるとしている。また、日本製薬団体連合会からも、平時とは大きく異なる厳しい状況の中、医療提供体制の確保や医薬品流通における安定供給のために全力を傾注しており、今回の薬価調査・薬価改定を実施する状況にはないとの考えを示した。製薬業界としては、COVID-19に対する有効で安全な治療薬やワクチンの研究開発について、あらゆるリソースを最大限に活用し、優先的かつ迅速に取り組まなければならないとしている。日本医師会と日本歯科医師会、日本薬剤師会も、部会後に記者会見を開き、延期が望ましいとする意見を述べている。(参考)中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第166回) 議事次第「関係業界からの意見聴取令和2年度薬価調査の実施の見送りについて(日本医師会)4.新型コロナによる受診抑制の影響が明らかに(日本医師会)日本医師会は、6月10日の記者会見において、新型コロナ感染症拡大期であった2020年3~4月の医療機関経営の状況についての調査結果を明らかにした。4月の入院外総点数は前年に比べて大幅に減少しており、前年同月比で初診料3割以上、再診料は1割以上減。入院外総点数の減少は新型コロナ患者の受入れにかかわらず、総件数が減少していることから、受診控えが理由と考えられる。一方、電話などによる初診は、算定回数としてはわずかであったが、病院の4.2%、診療所の5.6%で実施されており、再診も4月に入って大幅に増加し、再診料または外来診療料に占める電話等再診の算定割合は病院で2.12%、診療所で1.69%であった。同会は、長期処方、電話等再診が拡大していることから、新型コロナ収束後も受診が戻らないことを懸念しており、「このまま国民の医療機関へのアクセスが疎遠になり、健康が脅かされることのないよう、国民への適切な受診勧奨も必要である」とコメントしている。(参考)新型コロナウイルス感染症対応下での医業経営状況等アンケート調査(2020年3~4月分)(日本医師会)5.新型コロナ接触確認アプリが今週以降にリリース6月中旬に公開予定の「新型コロナウイルス接触確認アプリ」について、厚労省から概要が発表された。新型コロナ感染症拡大防止のために、利用者本人の同意を前提に、スマートフォンのBluetoothを利用して、プライバシーを確保しつつ、新型コロナ陽性者と接触した可能性について通知を受けられる仕組み。同様の試みは韓国やシンガポールなどで導入されているが、効果を発揮させるためには利用者数を増やす必要があり、今後、アプリについての積極的な広報活動が重要となる。(参考)新型コロナウイルス接触確認アプリ COVID-19 Contact-Confirming Application(厚労省)「新型コロナ感染者を追跡するアプリ」が海外で話題。プライバシーの犠牲も止むなしなのか?(GetNavi web)

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「そろそろ禁煙しないと」と思っているだけの患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第34回

■外来NGワード「禁煙しなさい!」(これでできたら苦労していない)「喫煙を続けると早死にしますよ!」(ショックを与える言動)「タバコの本数を減らしなさい!」(あいまいな節煙指導)■解説 新型コロナ感染症の重症化には、糖尿病、心不全、呼吸器疾患、透析などに加え、喫煙が強く関係しています。喫煙室は、新型コロナウイルス感染リスクが高い「3密」(密閉、密集、密接)の代表ともいえます。また、テレワークや休校のために、喫煙者が家でタバコを吸う機会が多くなり、家族の受動喫煙のリスクも高まっています。このようなパンデミックは、経済的な負担だけでなく精神的なダメージも大きく、「ストレスで喫煙本数が増えた」という患者さんもおり、普段以上に禁煙のハードルが高くなっているのかもしれません。禁煙治療には、ニコチンパッチ・ニコチンガムなど(ニコチン代替療法)や、禁煙補助薬バレニクリンなどを用いた薬物療法があります。薬物療法に行動療法(行動パターン変更法、環境改善法、代償行動法など)を組み合わせることで、禁煙成功率は高まります。しかし、すぐに禁煙しようとしない無関心期にある患者さんの場合、本数を減らすという選択肢もあります。コクランによると、禁煙する前に喫煙本数を減らすのと、ただちに完全禁煙する場合では、同程度の禁煙成功率であるとのエビデンスが報告されています1)。徐々に減らす場合には、1~2週間後に禁煙するという目標を立てることが大切です。新型コロナ感染症にはACE2受容体が関係するとの報告がありますが、喫煙はACE2受容体の発現を増加させます。喫煙が新型コロナウイルス感染症の重症化に深く関わることを上手に説明して、禁煙に真摯に向き合ってもらえるといいですね。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、タバコの本数はいかがですか?患者今、テレワークになって家にずっといるんですが、子供も家にいるのでタバコが吸いづらくて。医師なるほど。確かに、ご家族にとっては受動喫煙になりますからね。患者そうなんです。妻から、「家の中では吸わないで」と言われていて…。医師どこで吸っておられるんですか?患者外に出て吸っています。近くに喫煙所もないし、マンションのベランダも喫煙禁止なので。医師なるほど。喫煙室も3密ですし、吸える場所がだんだん少なくなってきましたね。患者そうなんですよ。医師ところで、喫煙が新型コロナの重症化に深く関わっているのはご存じですか?患者やっぱり、そうですよね。そろそろ、禁煙しないといけないとは思っているんですが。医師これをきっかけに、禁煙について真剣に考えてもいいかもしれませんね。患者はい。けど、スパッと禁煙する自信がなくて。医師そんな人でも禁煙できる方法がありますよ!(前置きする)患者それはどんな方法ですか?(禁煙の準備についての話に進む)■医師へのお勧めの言葉「コロナをきっかけに、禁煙について真剣に考えてみませんか?」1)Lindson N, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2019;9:CD013183.2)Berlin I, et al. Nicotine Tob Res. 2020 Apr 03. [Epub ahead of print]3)Vardavas CI, et al. Tob Induc Dis. 2020;18:20.4)Seys LJM, et al. Clin Infect Dis. 2018;66:45-53.5)Brake SJ, et al. J Clin Med. 2020;9:841.

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