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ポリミキシンB、重症敗血症性ショックの予後を改善せず/JAMA

 エンドトキシン活性が高い敗血症性ショックの患者において、ポリミキシンBによる血液灌流法(PMX-DHP)を標準治療に加えても、標準治療と比較して28日死亡率は低下しないことが、米国・Cooper University HospitalのR. Phillip Delinder氏らによる、多施設共同無作為化試験「EUPHRATES試験」の結果、示された。PMX-DHPは、敗血症における血中エンドトキシン濃度を低下させることが知られており、敗血症性ショックでエンドトキシン活性が高い患者に対するPMX-DHPを用いた治療は、臨床転帰を改善する可能性があると考えられていた。JAMA誌2018年10月9日号掲載の報告。PMX-DHP追加の有効性を偽治療と比較、28日死亡率を評価 EUPHRATES試験は、北米の3次医療機関55施設にて行われた偽治療対照二重盲検比較試験。対象は、敗血症性ショックでエンドトキシン活性が高い(0.60以上)成人重症患者で、登録後24時間以内に標準治療+PMX-DHP 2回(90~120分)を完遂する群(治療群)、または標準治療+偽治療群(対照群)のいずれかに、施設で層別化され無作為に割り付けられた。 登録期間は2010年9月~2016年6月で、2017年6月まで追跡調査が行われた。主要評価項目は、無作為化された全患者ならびに多臓器障害スコア(MODS)9点以上の患者における28日死亡率であった。全患者およびMODS 9点以上の患者における28日死亡率はいずれも有意差なし 登録適格患者は450例(治療群224例、対照群226例)で、平均年齢59.8歳、女性が177例(39.3%)、APACHE II平均スコアは29.4点(範囲0~71)であった。このうち449例(99.8%)が試験を完遂した。 全患者の28日死亡率は、治療群37.7%(84/223例)、対照群34.5%(78/226例)で、リスク差(RD)は3.2%(95%信頼区間[CI]:-5.7~12.0)、相対リスク(RR)は1.09(95%CI:0.85~1.39、p=0.49)であった。また、MODS 9点以上の患者における28日死亡率は、治療群44.5%(65/146例)、対照群43.9%(65/148例)で、RDは0.6%(95%CI:-10.8~11.9)、RRは1.01(95%CI:0.78~1.31、p=0.92)であり、いずれも有意差は認められなかった。 重篤な有害事象は全体で264例(治療群65.1%、対照群57.3%)報告され、最も頻度が高かった事象は、敗血症の増悪(治療群10.8%、対照群9.1%)、敗血症性ショックの増悪(治療群6.6%、対照群7.7%)であった。

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第9回 内科クリニックからのセファレキシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・10名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・6名Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・4名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・3名腸球菌・・・2名淋菌、クラミジアなど(性感染症)・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。ガイドラインも参考に 荒川隆之さん(病院)やはり一番頻度が高いのはE. coli です。性交渉を持つ年代の女性の単純性尿路感染としては、S.saprophyticus なども考えます。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015では、閉経前の急性単純性膀胱炎について推定される原因微生物について、下記のように記載されています。グラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち約90%はE. coli である。その他のグラム陰性桿菌としてP.mirabilis やKlebsiella 属が認められる。グラム陽性球菌は約20%に認められ、なかでもS. saprophyticus が最も多く、次いでその他のStaphylococcus 属、Streptococcus 属、Enterococcus 属などが分離される。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015急性単純性腎盂腎炎と膀胱炎の併発の場合 清水直明さん(病院)閉経前の若い女性、排尿痛、背部叩打痛があることから、急性単純性腎盂腎炎)※3に膀胱炎を併発している可能性が考えられます。その場合の原因菌は前述のJAID/JSC感染症治療ガイドライン2015の通りで、これらがほとんどを占めるといってもよいと思います。E. coliなどのグラム陰性桿菌(健常人にも常在している腸内細菌)には近年ESBL(extended spectrum β-lactamase)産生菌が増加しており、加えてこれらはキロノン系抗菌薬にも耐性を示すことが多く、セフェム系、キノロン系抗菌薬が効かない場合が多くなっているので注意が必要です。※3 尿道口から細菌が侵入し、腎盂まで達して炎症を起こす。20~40歳代の女性に多いとされる。グラム陰性桿菌が原因菌であることが多い。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーや腎臓疾患など 柏木紀久さん(薬局)セフェム系抗菌薬やペニシリン系抗菌薬のアレルギー、気管支喘息や蕁麻疹などのアレルギー関連疾患、腎臓疾患の有無。妊娠の有無  わらび餅さん(病院)アレルギー歴や併用薬(相互作用の観点で必要時指導がいるので)に加え、妊娠の有無を確認します。Q3 疑義照会する?軟便や胃腸障害への対策 中堅薬剤師さん(薬局)処方内容自体に疑義はありませんが、抗菌薬で軟便になりやすい患者さんならば耐性乳酸菌製剤、胃腸障害が出やすい患者さんであれば胃薬の追加を提案します。1日2回への変更 柏木紀久さん(薬局)職業等生活状況によっては1日2回で成人適応もあるセファレキシン顆粒を提案します。フラボキサートの必要性 キャンプ人さん(病院)今回は急性症状でもあり、フラボキサートは過剰かなと思いました。今回の症例の経過や再受診時の状況にもよりますが、一度は「フラボキサートは不要では」と疑義照会します。症状の確認をしてから JITHURYOUさん(病院)フラボキサートについては、排尿時痛だけでは処方はされないと考えます。それ以外の排尿困難症、すなわち頻尿・ひょっとしたら尿漏れの可能性? それらがないとすれば、疑義照会して処方中止提案をします。下腹部の冷えを避け、排尿我慢や便秘などしないように、性交渉後、排尿をするなどの習慣についても指導できればいいと思います。疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)セファレキシンは6時間ごと1日4回ですが、今回の1 日3 回で1,500mgにした処方では疑義照会しません。なお、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 では閉経前の急性単純性膀胱炎のセカンドラインの推奨として、セファクロル250mgを1 日3 回、7 日間を挙げています。患者さんのアドヒアランスを考慮? わらび餅さん(病院)疑義照会はしません。投与量がJAID/JSCガイドラインと異なり多いと思いましたが、患者さんが若くアドヒアランスの低下の可能性を疑って、膀胱炎を繰り返さないためにも、あえて高用量で処方したのかとも考えました。ESBL産生菌を念頭に置く 清水直明さん(病院)セファレキシンは未変化体のまま尿中に排泄される腎排泄型の薬剤であり、尿路に高濃度移行すると考えられ、本症例のような尿路感染症には使用できると思います。しかし、地域のアンチバイオグラムにもよりますが、腸内細菌にESBL産生菌が増えており(平均して1~3割程度でしょうか)、単純なセフェム系抗菌薬の治療では3割失敗する可能性があるともいえます。ケフレックス®(セファレキシン)のインタビューフォームによると、E. coli、K. pneumoniae、P. mirabilisに対するMICはそれぞれ6.25、6.25、12.5μg/mLです。一方、JAID/JSCガイドラインで推奨されている1つであるフロモックス®(セフカペンピボキシル塩酸塩)のMICは、インタビューフォームによると、それぞれ3.13、0.013、0.20 μg/mLと、同じセフェム系抗菌薬でも2つの薬剤間で感受性がかなり異なることが分かります。やはり、セファレキシンは高用量で用いないと効果が出ない可能性があるので高用量処方となっているのだと思います。これらのことから、1つの選択肢としては疑義照会をして感受性のより高いセフカペンなどのセフェム系抗菌薬に変更してもらい、3日ほどたっても症状が変わらないか増悪するようであれば、薬が残っていても再度受診するように伝えることが挙げられます。もう1つの選択肢としては、初めからESBL産生菌を念頭に置いて、下痢発現の心配はあるものの、βラクタマーゼ配合ペニシリン系抗菌薬、ファロペネムなどを提案するかもしれません。私見ですが、キノロン系抗菌薬は温存の意味と、キノロン耐性菌を増やす可能性があり、あまり勧めたくありません。キノロン耐性菌の中にはESBL産生菌が含まれるので、ESBL産生菌を増やすことに繋がってしまいます。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?他科受診時や高熱に注意 柏木紀久さん(薬局)「セファレキシンは症状が治まっても服用を続けてください。服用途中でも高熱が出てきたら受診してください。水分をよく取って、排尿も我慢せず頻繁にしてください。セファレキシン服用中は尿検査で尿糖の偽陽性が出ることがあるので、他科を受診する際には申告してください」。腎盂腎炎に進行する可能性を懸念し、熱が上がってきたら再受診を勧めます。牛乳で飲まないように わらび餅さん(病院)飲み忘れなく、しっかりセファレキシンを飲むように指導します。牛乳と同時に摂取するのは避ける※4ように説明します。※4 セファレキシンやテトラサイクリン系抗菌薬は、牛乳の中のカルシウムにより吸収が低下する。キノロン系抗菌薬の服用歴 JITHURYOUさん(病院)性交渉頻度など(セックスワーカー・不特定多数との性交渉の可能性? )は気になるところですが、なかなか聞きにくい質問でもあります。レボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬は、開業医での処方が多いです。このため、これらの薬剤の服用歴や受診歴が重要であると思います。ESBL産生菌の可能性はないかもしれませんが、さまざまな抗菌薬にさらされている現状を考慮して、数日で症状改善しなければ、耐性菌や腎盂腎炎などの可能性もあるので再受診を促します。中止か継続かの判断 中西剛明さん(薬局)蕁麻疹や皮膚粘膜の剝落などのアレルギー症状が出た場合は中止を、下痢の場合はやがて改善するので水分をしっかり取った上で中止しないよう付け加えます。あまりに下痢がひどい場合は、耐性乳酸菌製剤が必要かもしれません。Q5 その他、気付いたことは?薬薬連携で情報を共有 荒川隆之さん(病院)閉経前の急性単純性膀胱炎から分離されるE. coliの薬剤感受性は比較的良好とされてはいるものの、地域のE. coliの薬剤感受性は把握しておくべきだと考えます。ESBL産生菌の頻度が高い地域においては、キノロン系抗菌薬の使用は控えた方がよいかもしれませんし、ファロペネムなどの選択も必要となるかもしれません。病院側もアンチバイオグラムなどの感受性情報は地域の医療機関で共有すべきだと考えますし、薬局側も必要だとアクションしていただきたいと思います。薬薬連携の中でこのような情報が共有できるとよいですね。余談ですが、ESBLを考える場合、ガイドライン上にはホスホマイシンも推奨されていますが、通常量経口投与しても血中濃度が低すぎるため、個人的にあまりお勧めしません。注射の場合は十分上がります。欧米のように高用量1回投与などができればよいのにと考えています。地域のアンチバイオグラムを参考に 児玉暁人さん(病院)ESBL産生菌の可能性は低いかもしれませんが、地域のアンチバイオグラムがあれば抗菌薬選択の参考になるかもしれません。背部叩打痛があるようですが、腎盂腎炎は否定されているのでしょうか。膀胱炎の原因 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎であることは確かだと思いますが、その原因が気になります。泌尿器科の処方箋が多い薬局で数年働き、若い女性の膀胱炎をよく見てきましたが、間質性膀胱炎のことが多く、そのような場合には、保険適用外でしたがスプラタスト(アイピーディ®)やシメチジンなどが投与されていました。背部叩打痛があることから、尿路結石の可能性もあります。また、若い女性であることから、ストレス性も考えられます。営業職で、トイレを我慢し過ぎて膀胱炎になるケースも少なくありません。最悪、敗血症になる可能性も ふな3さん(薬局)発熱・背部叩打痛があることから、腎盂腎炎への進行リスクが心配されます。最悪の場合、敗血症への進行の可能性も懸念されるため、高熱や腰痛などの症状発現や、2~3日で排尿痛等の改善がない場合には、早めに再受診または、泌尿器科専門医を受診するよう説明します。後日談この患者は1週間後、再受診、来局した。薬を飲み始めて数日したら排尿時の痛みがなくなったため、服薬をやめてしまい、再発したという。レボフロキサシン錠500mg/1錠、朝食後3日分の処方で治療することになった。医師の診断は急性単純性膀胱炎で、腎盂腎炎は否定的だったそうだ。担当した薬剤師から再治療がニューキノロン系抗菌薬になったのは、より短期間の治療で済むからでしょう。セファレキシンなどの第一世代セフェムを含むβラクタム系抗菌薬を使う場合、1週間は服用を続ける必要があるといわれています。この症例は、服薬中断に加え、フラボキサートで排尿痛を減らす方法では残尿をつくってしまう可能性があり、よくなかったのかもしれません。症状がよくなっても服薬を中断しないこと、加えて、水分摂取量を増やして尿量を増やすことも治療の一環であると説明しました。[PharmaTribune 2017年1月号掲載]

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アスピリンは、健康な高齢者の死亡を抑制しない?/NEJM

 毎日アスピリンの投与を受けた健康な高齢者の死亡率は、プラセボと比較してむしろ高く、しかも主な死因はがん関連死であるとする予想外の研究結果が示された。オーストラリア・モナシュ大学のJohn J. McNeil氏らASPREE試験の研究グループが、NEJM誌オンライン版2018年9月16日号で報告した。本研究の初回解析では、アスピリンの毎日使用は、主要エンドポイントである無障害生存(disability-free survival)に関して便益をもたらさなかった。また、アスピリン使用者は、副次エンドポイントである全死因死亡率も高かったという。原因別の死亡率を探索的に解析 ASPREE試験では、2010年3月~2014年12月の期間に、オーストラリアと米国において参加者の登録が行われた(米国国立老化研究所[NIA]などの助成による)。2017年6月12日、介入を継続しても主要エンドポイントに関して便益が得られる可能性はきわめて低いことが示されたため、NIAの要請で試験は中止となった。 今回は、原因別の死亡について、事後的に探索的解析が行われた。対象は、年齢70歳以上(米国のアフリカ系およびヒスパニック系は65歳以上)で、心血管疾患、認知症、身体障害のない地域住民であった。 被験者は、アスピリン腸溶性製剤(100mg)またはプラセボを毎日投与する群に無作為に割り付けられた。割り付け情報を知らされていない研究者が、死亡を原因別に分類した。 登録された1万9,114例(オーストラリア:1万6,703例、米国:2,411例[52.7%がアフリカ系またはヒスパニック系])のうち、9,525例がアスピリン群に、9,589例はプラセボ群に割り付けられた。全死因死亡率:5.9 vs.5.2%、がん関連死亡率:3.1 vs.2.3%、解釈には注意を フォローアップ期間中央値は4.7年であり、この間に1,052例(5.5%)が死亡した(アスピリン群5.9% vs.プラセボ群5.2%)。全体の死亡の根本原因のうち、がん(原発、転移)は49.6%(522例)であり、心血管疾患(心筋梗塞、その他の冠動脈性心疾患、心臓突然死、虚血性脳卒中)は19.3%(203例)、大出血(出血性脳卒中、症候性頭蓋内出血、消化管の大出血、その他の頭蓋外出血)は5.0%(53例)だった。 全死因死亡の発生率は、アスピリン群が12.7件/1,000人年と、プラセボ群の11.1件/1,000人年に比べて高く(差:1.6件/1,000人年)、有意差が認められた(HR:1.14、95%信頼区間[CI]:1.01~1.29)。この死亡率の差には、がんによる死亡の寄与が大きく、アスピリン群はがん死の発生率が有意に高かった(3.1 vs.2.3%、HR:1.31、95%CI:1.10~1.56)。 心血管疾患による死亡(アスピリン群:1.0% vs.プラセボ群:1.2%、HR:0.82、95%CI:0.62~1.08)、大出血による死亡(0.3 vs.0.3%、1.13、0.66~1.94)、その他の疾患(敗血症、慢性肺疾患、認知症、心不全)による死亡(1.5 vs.1.3%、1.16、0.91~1.48)の発生率は、両群でほぼ同等であった。 がんによる累積死亡率の推移をみると、3年目あたりから両群の差が開き始めていた。また、個々のがん種に関連した死亡数は少なかったが、部位や病理学的タイプにかかわらず、アスピリン群で死亡率が高い傾向がみられた。 サブグループ解析では、事前規定の項目か否かにかかわらず、全死因死亡に及ぼすアスピリンの影響は全般的に一致していた。 著者は、「他のアスピリンの1次予防の研究では、このような結果は得られていないことから、今回の死亡率の結果は注意して解釈すべきである」と指摘している。

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第6回 意識障害 その5 敗血症ってなんだ?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)バイタルサインを総合的に判断し、敗血症を見逃すな!2)“No Culture,No Therapy!”、治療の根拠を必ず残そう!3)敗血症の初療は1時間以内に確実に! やるべきことを整理し遂行しよう!【症例】82歳女性の意識障害:これまたよく出会う原因82歳女性。来院前日から活気がなく、就寝前に熱っぽさを自覚し、普段と比較し早めに寝た。来院当日起床時から38℃台の発熱を認め、体動困難となり、同居している娘さんが救急要請。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:10/JCS、E3V4M6/GCS血圧:102/48mmHg 脈拍:118回/分(整) 呼吸:24回/分 SpO2:97%(RA)体温:37.9℃ 瞳孔:3/3mm +/+前回までの症例が一段落ついたため、今回は新たな症例です。高齢女性の意識障害です。誰もが経験したことのあるような症例ではないでしょうか。救急外来で多くの患者さんを診ている先生ならば、原因はわかりますよね?!前回までの復習をしながらアプローチしていきましょう。Dr.Sakamotoの10’s Ruleの1~6)を確認(表1)病歴やバイタルサインに重きを置き、患者背景から「○○らしい」ということを意識しながら救急車到着を待ちます。来院時も大きく変わらぬバイタルサインであれば、意識消失ではなく意識障害であり、まず鑑別すべきは低血糖です。低血糖が否定されれば、頭部CTを考慮しますが…。画像を拡大する原因は感染症か否か?病歴やバイタルサインから、なんらかの感染症が原因の意識障害を疑うことは難しくありません。それでは、今回の症例において体温が36.0℃であったらどうでしょうか? 発熱を認めた場合には細菌やウイルスの感染を考えやすいですが、ない場合に疑えるか否か、ここが初療におけるポイントです。この症例は、疫学的にも、そしてバイタルサイン的にも敗血症による意識障害が最も考えやすいですが、その理由は説明できるでしょうか。●Rule7 菌血症・敗血症が疑われたらfever work up!高齢者の感染症は意識障害を伴うことが多い救急外来や一般の外来で出会う感染症のフォーカスの多くは、肺炎や尿路感染症、その他、皮膚軟部組織感染症や腹腔内感染症です。とくに肺炎、尿路感染症の頻度が高く、さらに高齢女性となれば尿路感染症は非常に多く、常に考慮する必要があります。また、肺炎や腎盂腎炎は、意識障害を認めることが珍しくないことを忘れてはいけません。「発熱のため」、「認知症の影響で普段から」などと、目の前の患者の意識状態を勝手に根拠なく評価してはいけません。意識障害のアプローチの最初で述べたように、まずは「意識障害であることを認識!」しなければ、正しい評価はできません。感染症らしいバイタルサイン:qSOFAとSIRS*感染症らしいバイタルサインとは、どのようなものでしょうか。急性に発熱を認める場合にはもちろん、なんらかの感染症の関与を考えますが、臨床の現場で悩むのは、その感染症がウイルス感染症なのか細菌感染症なのか、さらには細菌感染症の中でも抗菌薬を使用すべき病態なのか否かです。救急外来など初療時にはフォーカスがわからないことも少なくなく、病歴や臓器特異的所見(肺炎であれば、酸素化や聴診所見、腎盂腎炎であれば叩打痛や頻尿、残尿感など)をきちんと評価してもわからないこともあります。そのような場合にはバイタルサインに注目して対応しましょう。そのためにまず、現在の敗血症の定義について歴史的な流れを知っておきましょう。現在の敗血症の定義は、「感染による制御不能な宿主反応によって引き起こされる生命を脅かす臓器障害1)」です(図1、2)。一昔前までは「感染症によるSIRS」でしたが、2016年に敗血症性ショックの定義とともに変わりました。そして、敗血症と診断するために、ベッドサイドで用いる術として、SIRS(表2)に代わりqSOFA (quickSOFA)(表3)が導入されました。その理由として、以下の2点が挙げられます。1)なんでもかんでも敗血症になってしまうSIRSの4項目を見ればわかるとおり、2項目以上は簡単に満たしてしまいます。皆さんが階段を駆け上がっただけでも満たしますよね(笑)。実際に感染症以外に、膵炎、外傷、熱傷などSIRSを満たす症候や疾患は多々存在し、さらに、インフルエンザなどウイルスに伴う発熱であっても、それに見合う体温の上昇を認めればSIRSは簡単に満たすため、SIRS+感染症を敗血症と定義した場合には、多くの発熱患者が敗血症と判断される実情がありました。2)SIRSを満たさない重篤な感染症を見逃してしまうSIRSを満たさないからといって敗血症でないといえるのでしょうか。実際にSIRSは満たさないものの、臓器障害を呈した状態が以前の定義(SIRS+感染症=敗血症)では12%程度認められました。つまり、SIRSでは拾いあげられない重篤な病態が存在したということです。これは問題であり、敗血症患者の初療が遅れ予後の悪化に直結します。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するそこで登場したのがqSOFAです。qSOFAは、(1)呼吸数≧22/分、(2)意識障害、(3)収縮期血圧≦100mmHgの3項目で構成され、2項目以上満たす場合に陽性と判断します。項目数がSIRSと比較し少なくなり、どれもバイタルサインで構成されていることが特徴ですが、その中でも呼吸数と意識障害の2項目が取り上げられているのが超・超・重要です。敗血症に限らず重症患者を見逃さないために評価すべきバイタルサインとして、この2項目は非常に重要であり、逆にこれら2項目に問題なければ、たとえ血圧が低めであっても焦る必要は通常ありません。心停止のアルゴリズムでもまず評価すべきは意識、そして、その次に評価するのは呼吸ですよね。また、これら2項目は医療者自身で測定しなければ正確な判断はできません。普段と比較した意識の変化、代謝性アシドーシスの代償を示唆する頻呼吸を見逃さないように、患者さんに接触後速やかに評価しましょう。*qSOFA:quick Sequential[Sepsis- Related] Organ Failure Assessment ScoreSIRS:Systemic Inflammatory Response Syndrome“No Culture,No Therapy!”:適切な治療のために根拠を残そう!“Fever work up”という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 感染症かなと思ったら、必ずフォーカス検索を行う必要があります。熱があるから抗菌薬、酸素化が悪いから肺炎、尿が濁っているから尿路感染症というのは、上手くいくこともありますが、しばしば裏切られて後々痛い目に遭います。高齢者や好中球減少などの免疫不全患者では、とくに症状が乏しいことがあり悩まされます。フォーカスがわからないならば、抗菌薬を投与せずに経過を診るというのも1つの選択肢ですが、重症度が高い場合にはそうも言っていられません。また、前医から抗菌薬がすでに投与されている場合には、さらにその判断を難しくさせます。そのため、われわれが行うべきことは「(1)グラム染色を行いその場で関与している菌の有無を判断する、(2)培養を採取し根拠を残す」の2つです。(1)は施設によっては困難かもしれませんが、施行可能な施設では行わない理由がありません。喀痰、尿、髄液、胸水、腹水など、フォーカスと考えられる場所はきちんと評価し、その目でちゃんと評価しましょう。自信がない人はまずは細菌検査室の技師さんと仲良くなりましょう。いろいろ教えてくださいます。(2)は誰でもできますね。しかし、意外とやってしまうのが、痰が出ないから喀痰のグラム染色、培養を提出しない、髄膜炎を考慮しながらも腰椎穿刺を施行しないなんてことはないでしょうか。肺炎の起因菌を同定する機会があるのならば、痰を出さなければできません。血液培養は10%程度しか陽性になりません、肺炎球菌尿中抗原は混合感染の評価は困難、一度陽性となると数ヵ月陽性になるなど、目の前の患者の肺炎の起因菌を同定できるとは限りません。とにかく痰を頑張って採取するのです。喀出困難であれば、誘発喀痰、吸引なども考慮しましょう。肺炎患者の多くは数日前から食事摂取量が低下しており、脱水を伴うことが多く、外液投与後に喀痰がでやすくなることもしばしば経験します。とにかく採取し検査室へ走り、起因菌を同定しましょう。髄液も同様です。フォーカスがわからず、本症例のように意識障害を認め、その原因に悩むようであれば、腰椎穿刺を行う判断をした方がよいでしょう。不用意に行う必要はありませんが、限られた時間で対応する必要がある場合には、踏ん切りをつけるのも重要です。敗血症の1時間バンドルを遂行しよう!敗血症かなと思ったら表4にある5項目を遂行しましょう。ここではポイントのみ追記しておきます。敗血症性ショックの診断基準にも入りましたが、乳酸値は敗血症を疑ったら測定し、上昇している場合には、治療効果判定目的に低下を入れ、確認するようにしましょう。血圧は収縮期血圧だけでなく、平均動脈圧を評価し管理しましょう。十分な輸液でも目標血圧に至らない場合には、昇圧剤を使用しますが、まず使用するのはノルアドレナリンです。施設毎にシリンジの組成は異なるかもしれませんが、きちんと処方できるようになりましょう。ノルアドレナリンを使用することは頭に入っていても、実際にオーダーできなければ救命できません。バンドルに含まれていませんが重要な治療が1つ存在します。それがドレナージや手術などの抗菌薬以外の外科的介入(5D:drug、drainage、debridement、device removal、definitive controlの選択を適切に行う)です。急性閉塞性腎盂腎炎に対する尿管ステントや腎瘻、総胆管結石に伴う胆管炎に対するERCPなどが代表的です。バンドルの5項目に優先されるものではありませんが、同時並行でマネジメントしなければ一気に敗血症性ショックへと陥ります。どのタイミングでコンサルトするか、明確な基準はありませんが、院内で事前に話し合って決めておくとよいでしょう。画像を拡大する今回の症例を振り返る今回の症例は、高齢女性がqSOFAならびにSIRSを満たしている状態です。疫学的に腎盂腎炎に伴う敗血症の可能性を考えながら、バンドルにのっとり対応しました。もちろん低血糖の否定や頭部CTなども行いますが、以前の症例のように積極的に頭蓋内疾患を疑って撮影しているわけではありません。この場合には、脳卒中以上に明らかな外傷歴はなくても、慢性硬膜下血腫など外傷性変化も考慮する必要があるため施行するものです。尿のグラム染色では大腸菌様のグラム陰性桿菌を認め、腎叩打痛ははっきりしませんでしたが、エコーで左水腎症を認めました。抗菌薬を投与しつつ、バイタルサインが安定したところで腹部CTを施行すると左尿管結石を認め、意識状態は外液投与とともに普段と同様の状態へ改善したため、急性閉塞性腎盂腎炎による敗血症が原因と考え、泌尿器科医と連携をとりつつ対応することになりました。翌日、血液培養からグラム陰性桿菌が2セット4本から検出され、尿培養所見とも合致していたため確定診断に至りました。いかがだったでしょうか。よくある疾患ですが、系統だったアプローチを行わなければ忙しい、そして時間の限られた状況での対応は意外と難しいものです。多くの患者さんの対応をしていれば、原因疾患の検査前確率を正しく見積もることができるようになり、ショートカットで原因の同定に至ることもできると思いますが、それまではコツコツと一つひとつ考えながら対応していきましょう。次回はアルコールや薬剤による意識障害の対応に関して考えていきましょう。1)Singer M, et al. JAMA. 2016;315:801-810.2)Levy MM, et al. Crit Care Med. 2018;46:997-1000

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第5回 意識障害 その4 それって本当に脳卒中?【救急診療の基礎知識】

●今回のpoint1)発症時間を正確に把握せよ!2)頭部CTは病巣を推定し撮影せよ!3)適切な連携をとり、早期治療介入を!72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+脳出血か、脳梗塞か、画像診断が有効だけど…「脳卒中かな?」と思っても、頭部CTを撮影する前にバイタルサインを安定させること、低血糖か否かを瞬時に判断することが重要であることは理解できたと思います(表)。今回はその後、すなわち具体的に脳卒中か否かを画像を撮影して判断する際の注意点を整理しておきましょう。「CT、MRIを撮影すれば脳卒中の診断なんて簡単!」なんて考えてはいけませんよ。画像を拡大する●Rule6 出血か梗塞か、それが問題だ!脳出血か脳梗塞か、画像を撮らずに判断可能でしょうか? 臨床の現場で、脳神経内科や脳神経外科の先生が、「この患者さんは出血っぽいなぁ」とCTを撮る前につぶやいているのを聞いたことはありませんか? 結論から言えば、出血らしい、梗塞らしい所見は存在するものの、画像を撮らずに判断することは困難です。一般的に痙攣、意識障害、嘔吐を認める場合には脳出血らしいとは言われます1)。私は初療の際、40~50歳代では梗塞よりも出血らしく、とくに収縮期血圧が200mmHgを越えるような場合にはその可能性は高いなと考え、高齢者、さらに心房細動を認める場合には、十中八九その原因は「心原性脳塞栓症」だろうと考えています。みなさんもこのようなイメージを持っているのではないでしょうか?!頭部CTをまずは撮影脳出血よりも脳梗塞らしければ、CTではなく、はじめからMRIを撮影すればよいのではないでしょうか? 脳梗塞であれば血栓溶解療法という時間の制約のある有効な治療法が存在するため、より早く診断をつけることができるに越したことはありません。血栓溶解療法を行う場合には、来院から1時間以内にrt-PA(アルテプラーゼ)を静注することが推奨されています(Time is Brain!)。しかし、MRIをまず撮影することは以下の理由からお勧めしません。・頭部CTはMRIと比較して迅速に撮影可能かつ原則禁忌なし・大動脈解離の否定は絶対(1)迅速かつ安全頭部CTの撮影時間は数分です。それに対してMRIは、撮影画像を選択しても10分以上かかります。梗塞巣が広範囲の場合や、嘔吐に伴う誤嚥性肺炎併発症例においては、呼吸のサポートが必要な場合もあり、極力診断に時間がかからず、安全に施行可能な検査を選択すべきでしょう。また、MRIはペースメーカー留置患者など撮影することができない患者群がいるのに対して、CTはほぼ全例施行可能です。私が経験した唯一撮影できなかった患者は、体重が200kgあり、CTの台におさまらなかった患者さんですが、まれですよね…。(2)大動脈解離の否定脳梗塞患者では、必ず大動脈解離の可能性も意識して対応するようにしましょう。とくに左半身の麻痺を認める場合には要注意です。当たり前ですが、血栓溶解療法を大動脈解離症例に行えばとんでもないことが起こります。大動脈解離が脳卒中様症状で来院する頻度は決して高くはありませんが、忘れた頃に遭遇します。そのため、血栓溶解療法を行うことを考慮している症例では、頭部CTで出血を認めない場合には、胸部CTも併せて行い大動脈解離の評価を行います。これは施設によっては異なり、胸部CTではなく、胸部X線、またはエコーで確認している施設もあるとは思いますが、病院の導線などの問題から、頭部CT撮影時に胸部CTも併せて評価している施設が多いのではないでしょうか。大動脈解離の確定診断は通常単純ではなく造影CTですが、脳卒中疑い症例では単純CTで評価しています。もちろん検査前確率で脳卒中よりも大動脈解離の可能性が高い場合には造影CTを撮影しますが、あくまで脳卒中を疑っている中で、大動脈解離の否定も忘れないというスタンスでの話です。大動脈解離の検査前確率を上げる因子として、意識障害のアプローチの中では、バイタルサイン、発症時の様子を意識するとよいでしょう。バイタルサインでは、脳卒中では通常血圧は上昇します。それに対して、身体所見上は脳卒中を疑わせるものの血圧が正常ないし低い場合には、大動脈解離に代表される“stroke mimics”を考える必要があります(参照 意識障害 その2)。この場合には積極的に血圧の左右差を確認しましょう。Stroke mimicsは、大動脈解離以外に、低血糖、痙攣・痙攣後、頭部外傷、髄膜炎、感染性心内膜炎でしたね。また、発症時に胸背部痛に代表される何らかの痛みを認めた場合にも、大動脈解離を考えます。意識障害を認める場合には、本人に確認することが困難な場合も少なくなく、その場合には家族など目撃者に必ず確認するようにしましょう。以上から、意識障害患者では低血糖否定後、速やかに頭部CTを撮影するのがお勧めです。CT撮影時の注意事項頭部CTを撮影するにあたり、注意する事項を冒頭のpointに沿って解説してきます。1)発症時間を正確に把握せよ!血栓溶解療法は脳梗塞発症から4.5時間以内に可能な治療です。血栓回収療法は、近年可能な時間は延びつつありますが、どちらも時間的制約がある治療であることは間違いありません。麻痺や構音障害がいつから始まったのか、言い換えればいつまで普段と変わらぬ状態であったのかを必ず意識して病歴を聴取しましょう。発見時間ではなく、「発症時間」です。“Wake up stroke”といって、前日就寝時までは問題なく、当日の起床時に麻痺を認め来院する患者は少なくありません。以前は発症時間が不明ないし、就寝時と考えると4.5時間以上経過している(たとえば前日22時に就寝し、当日5時半に麻痺を認める場合など)場合には、その段階で適応外とすることが多かったと思います。しかし、最近では、発症時間が不明な場合でも、頭部MRIの画像を利用して発症時間を推定し、血栓溶解療法を行うメリットも報告されています2)。現段階では、わが国では限られた施設のみが行っている戦略と考えられているため、病歴聴取よりも画像を優先することはありませんが、「寝て起きたときには脳梗塞が起こっていた症例は血栓溶解療法の適応なし」と瞬時に判断するのは早すぎるとは思っています。60歳以上では夜間に1回以上排尿のために起きていることが多く、就寝時間を確認するだけでなく、夜間トイレにいった形跡があるか(家族が物音を聞いているなど)は確認するべきでしょう。3時頃にいったという確認がとれれば、5時半の起床時に脳梗塞症状を認めた場合、血栓溶解療法の適応内ということになるのです。なんとか目の前の脳梗塞患者の予後を良くする術はないか(血栓溶解療法、血栓回収療法の適応はないのか)を常に意識して対応しましょう。2)頭部CTは病巣を意識して撮影を!血栓溶解療法の適応のある患者では、頭部CTは迅速に撮影しますが、低血糖の除外とともに最低限確認しておくべきことがあります。バイタルサインは当たり前として、ざっとで構わないので神経所見を確認し、脳卒中だとすると頭蓋内のどの辺に病巣がありそうかを頭にイメージする癖をもちましょう。「失語+右上下肢の運動麻痺→左中大脳動脈領域?」など、異常所見を推定し、画像評価をする必要があります。たとえば、左放線冠のラクナ梗塞を認めた症例において、重度の意識障害を認める、右だけでなく左半身の運動麻痺を認めるような場合には、痙攣の合併などを考慮する必要があります。麻痺がてんかんによるものであれば、血栓溶解療法は禁忌、脳梗塞に伴う急性症候性発作であれば禁忌ではありません。3)適切な連携をとり、早期治療介入を!急性期脳梗塞は“Time is Brain!”と言われ、より早期に治療介入することが重要です。血栓溶解療法適応症例は60分以内のrt-PA静注が理想とされていますが、これを実現するのは簡単ではありません。症例のように、現場から脳梗塞疑いの患者の要請が入ったら、その段階で人を集め、CT、MRI室へ一報し、スタンバイしておく必要があります。また、採血では凝固関連(PT-INRなど)が最も時間がかかり、早く結果を出してほしい旨を検査室に伝えて対応してもらいましょう。また、患者、家族に対する病状説明も重要であり、初療にあたる医師と病状説明する医師の2名は最低限確保し、対応するとよいでしょう。実際、この症例では、要請時の段階で医師を集め、来院後迅速に所見をとりつつ低血糖を否定しました。その後、頭部CT、胸部CTを撮影し、early CT signsや大動脈解離は認めませんでした。突然発症であり発症時間が明確であったため、急性期脳梗塞を疑いrt-PAの準備、家族への病状説明を行いつつ頭部MRIとMRAを撮影しました。結果、左中大脳動脈領域の急性期脳梗塞と診断し、血栓溶解療法を行う方針となりました。脳梗塞を疑うことはそれほど難しくありませんが、短時間で診断し、適切な診療を行うことは容易ではありません。Stroke mimicsを常に意識しながら対応すること、役割分担を行い皆で協力して対応しましょう!次回は「Rule 7 菌血症・敗血症が疑われたfever work up!」、高齢者の意識障害で多い感染症の診るべきポイントを解説します。1)Runchey S, et al. JAMA. 2010;303:2280-2286.2)Thomalla G, et al. NEJM. 2018;379:611-622.

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第1回 小児へのアモキシシリン 分2 10日間の処方 (前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 処方箋を見て、思いつく症状・疾患名は?A群溶血性レンサ球菌咽頭炎・・・12名全員 柏木紀久アモキシシリン10日分の処方と、咽頭・扁桃炎をうかがわせるトラネキサム酸から、A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)感染症と思われます。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎潜伏期は2~5日。突然の発熱と全身倦怠感、咽頭痛によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。咽頭壁は浮腫状で扁桃は浸出を伴い、軟口蓋の小点状出血あるいは苺舌がみられることがある1)。合併症として、肺炎、髄膜炎、敗血症などの化膿性疾患、あるいはリウマチ熱※、急性糸球体腎炎などの非化膿性疾患を生ずることもある1)。※リウマチ熱A群溶血性レンサ球菌感染症後の合併症として発症する非化膿性後遺症である。主要症状として、心炎、多関節炎、輪状紅斑、皮下結節、舞踏病を認める。予後を判断するうえで最も重要なのは心炎で、リウマチ熱患者の30~45%に合併する。心炎が進行することで死亡、または心臓弁置換を要するリウマチ性心疾患となる2)。Q2 患者さんに確認することは? (通常の確認事項は除く)溶連菌検査の有無 中西剛明溶連菌の検査をしたか確認します。ペニシリンアレルギーの有無 ふな3ペニシリン系抗菌薬へのアレルギーの有無について確認します。Q3 患者さんに何を伝える?アモキシシリンを飲みきること 佐々木康弘アモキシシリンは10日間しっかり飲みきることを指導します。これにより、リウマチ熱の発症を抑えることができます。溶連菌感染後急性糸球体腎炎に注意 奥村雪男溶連菌感染から1~3週(平均10日)で溶連菌感染後急性糸球体腎炎を生じる場合があります。これは抗菌薬服用による予防効果がありません。患者さんには「おしっこに赤い色がついたり、おしっこの量や回数が減ったり、まぶたや腕が腫れたりすることがあれば医師に相談してください」と伝えます。下痢や発疹の可能性 中西剛明アモキシシリンにより下痢をする可能性を伝え、血液が混じっていなければ心配しなくて良いことを伝えます。溶連菌ならば治療中に発疹が出るかもしれません。薬剤性か溶連菌が原因かはっきりさせるため、面倒でも念のため受診するように伝えます。何事もなければ溶連菌感染後急性糸球体腎炎の予防のためにもアモキシシリンを10日間きちんと飲みきるように指導します。服薬以外の解熱処置方法 中堅薬剤師アセトアミノフェンは本人が辛そうなら使えばいいですが、安易な使用は控えるよう伝えます。解熱する目的は、あくまで本人の負担軽減のため。水分摂取や腋下や首元、鼡径部などのクーリングを優先するよう説明します。再診の助言 柏木紀久「アモキシシリンは溶連菌に効くお薬です。2~3日で症状が治まっても飲みきるようにしてください。飲みにくければ小分けにしたり、アイスなどに混ぜてもいいです。トラネキサム酸とカルボシステインは喉の症状がある間は服用してください。アセトアミノフェンは熱が高く、ぐったりしているような場合に服用、咽頭痛が辛いなら熱が高くなくても服用できます」と説明します。また、2週間後位に再診するよう言われていると思うので「きちんと溶連菌がいなくなっているか、他の病気(リウマチ熱や溶連菌感染後急性糸球体腎炎など)になっていないかも調べるので、すぐ良くなっても再診するようにしてください」と助言します。こまめな水分補給と服薬に関する助言 ふな3特に発熱中はこまめにしっかり水分補給をすること食欲がない、咽頭痛がひどくて食事が摂れない場合は、空腹で服用しても構わないこと粉薬が飲みにくかったり、飲むのを嫌がる場合には、アイスクリームなどに混ぜると飲みやすくなること(保育園児であれば)保育園の登園は、医師の指示に従うこと。指示がなければ、服薬後2~3日経過し、症状が改善すれば登園可能と考えられるが、通園先で治癒証明などが必要か確認すること後編では、本症例の疑義照会をする/しない 理由を聞きます。1)国立感染症研究所感染症情報センター. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは. NIID国立感染症研究所.2)西本幸弘ら. 感染症により誘発される免疫疾患. 新領域別症候群25 感染症症候群(第2版)下. 2013: 742-748.3)(独)医薬品医療機器総合機構". ピボキシル基を有する抗菌薬投与による小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について. "独立行政法人 医薬品医療機器総合機構.

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小児の敗血症バンドルの1時間完遂で、院内死亡リスクが低減/JAMA

 3項目から成る小児の1時間敗血症バンドル(1-hour sepsis bundle)を1時間以内に完遂すると、これを1時間で完遂しなかった場合に比べ院内死亡率が改善し、入院期間が短縮することが、米国・ピッツバーグ大学のIdris V. R. Evans氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌2018年7月24日号に掲載された。2013年、ニューヨーク州は、小児の敗血症治療を一括したバンドルとして、血液培養、広域抗菌薬、20mL/kg輸液静脈内ボーラス投与を1時間以内に行うよう規定したが、1時間以内の完遂がアウトカムを改善するかは不明であった。ニューヨーク州の小児敗血症治療規則の有用性を検証 本コホート研究は、ニューヨーク州の救急診療部、入院治療部、集中治療室が参加し、2014年4月1日~2016年12月31日の期間に行われた(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以下で、敗血症または敗血症性ショックで敗血症プロトコールが開始され、ニューヨーク州保健局(NYSDOH)に報告された患者であった。1時間敗血症バンドルには、抗菌薬投与前の血液培養、広域抗菌薬の投与、20mL/kg輸液の静脈内ボーラス投与が含まれた。 1時間敗血症バンドルが1時間以内に完遂された場合と、これが1時間以内に完遂されなかった場合のリスク補正後院内死亡率を評価した。個々の項目の1時間完遂に死亡率抑制効果はない 54施設から報告された1,179例が解析の対象となった。平均年齢は7.2(SD 6.2)歳、男児が54.2%、試験参加前に罹病歴のない健康な小児が44.5%で、敗血症性ショックが68.8%にみられた。139例(11.8%)が院内で死亡した。 294例(24.9%)が、1時間敗血症バンドルを1時間以内に完遂した。血液培養は740例(62.8%)が、抗菌薬投与は798例(67.7%)が、輸液ボーラス投与は548例(46.5%)が、それぞれ1時間以内に完遂した。 敗血症バンドルの1時間完遂例のリスク補正後院内死亡率は8.7%であり、非完遂例の12.7%に比べ有意に低かった(補正オッズ比[OR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.38~0.93、p=0.02、予測リスク差[RD]:4.0、95%CI:0.9~7.0)。 一方、敗血症バンドル個々の項目の1時間完遂例のリスク補正後院内死亡率は、いずれも非完遂例との比較において有意差を認めなかった。血液培養はOR:0.73(95%CI:0.51~1.06、p=0.10)、RD:2.6%(95%CI:-0.5~5.7%)であり、抗菌薬投与は0.78(0.55~1.12、p=0.18)、2.1%(-1.1~5.2%)、輸液ボーラス投与は0.88(0.56~1.37、p=0.56)、1.1%(-2.6~4.8%)であった。 敗血症バンドルの完遂に2、3、4時間を要した場合の平均予測院内死亡率は、1時間が経過するごとに約2%ずつ上昇した。また、ニューヨーク州の典型的な小児敗血症の症例で、1時間敗血症バンドルの院内死亡リスクを推算したところ、1時間以内で完遂した場合は8%、完遂に4時間を要した場合は13%だった。 入院期間は、敗血症バンドルの1時間完遂により、全例で有意に短縮し(補正後発生率比[IRR]:0.76、95%CI:0.64~0.89、p=0.001)、生存例でも有意に短縮したが(0.71、0.60~0.84、p<0.001)、死亡例では短縮しなかった(1.09、0.71~1.69、p=0.68)。 著者は、「これらの知見は、小児敗血症治療を一括化したバンドルはアウトカムの改善効果を示したとする単一施設の結果と一致する」としている。

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日本の心房細動患者に多い死亡原因

 わが国のコミュニティベースの心房細動(AF)コホートである伏見AFレジストリにおいて死因を調べたところ、悪性腫瘍や感染症などの非心血管死が全死亡の半分以上を占めていた。また、死亡に関連する臨床的因子をみると、心血管死では脳卒中より心不全に主に関連していたことを、国立病院機構京都医療センターの安 珍守氏らが報告した。European heart journal/Quality of care & clinical outcomes誌オンライン版2018年7月18日号に掲載。 伏見AFレジストリは、京都市伏見区で2011年3月から実施されているAF患者の前向き観察研究である。2016年11月末までの追跡調査データを入手できた4,045例の死因と心血管死および非心血管死の臨床的指標を調査した。 主な結果は以下のとおり。・平均年齢は73.6±10.9歳、平均CHA2DS2-VAScスコアは3.38±1.69であった。・55%の患者に経口抗凝固薬が処方されていた。・追跡期間中央値は1,105日であった。・全死亡705例(5.5%/年)のうち、心血管死が180例(26%)、非心血管死が381例(54%)、原因不明が144例(20%)であった。・心血管死の最も多い死因は心不全(14.5%)で、非心血管死では悪性腫瘍(23.1%)、感染症/敗血症(17.3%)であった。脳卒中による死亡は6.5%であった。・感染症/敗血症および原因不明による死亡は、加齢とともに増加した。・多変量解析によると、心血管死の最も強い予測因子は心不全の既往(ハザード比[HR]:2.42、95%信頼区間[CI]:1.66~3.54、p<0.001)で、非心血管死の最も強い予測因子は貧血(HR:2.84、95%CI:2.22~3.65、p<0.001)であった。

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2009年以降、若年成人の肝硬変による死亡が急増/BMJ

 米国では2009年以降、肝硬変による死亡率が上昇していることが明らかにされた。25~34歳群の上昇が最も大きく、原因はアルコール性肝疾患によるものであった。米国・ミシガン大学のElliot B. Tapper氏らが行った観察コホート研究の結果で、著者は「若い年代でアルコールが原因による死亡が急増していることは、肝疾患予防の適切なケアについて、新たなチャレンジが必要なことを強調するものだ」と述べている。このほか解析からは、肝硬変による死亡は、白人・ネイティブアメリカン・ヒスパニック系米国人での急増が大きかったこと、メリーランド州では改善していた一方、ケンタッキー・ニューメキシコ・アーカンソー州で高率であったことなどが明らかになったという。BMJ誌2018年7月18日号掲載の報告。1999~2016年の米国住民の肝硬変、肝がんの死亡動向を調査 研究グループは、米国住民の肝硬変および肝がんによる死亡について、1999~2016年の動向を、年齢群、性別、人種、肝疾患原因別、地域別に調べた。米国疾病対策予防センター(CDC)のWide-ranging OnLine Data for Epidemiologic Research(WONDER)を介して、人口動態統計調査からの死亡データ、国勢調査からの住民データを集めて分析した。 主要評価項目は、肝硬変および肝細胞がんによる死亡率で、joinpoint回帰法を用いて動向を評価した。25~34歳群で年間10.5%増、原因はアルコール関連 米国における肝硬変による年間死亡者数は、1999年は2万661例であったが、2016年は65%増の3万4,174例となっていた。肝細胞がんによる年間死亡者数は、同5,112例から倍増の1万1,073例となっていた。唯一、アジア系・環太平洋島民米国人のみ、対象期間内に肝細胞がん死の有意な改善(年間2.7%減[95%信頼区間[CI]:2.2~3.3]、p<0.001)がみられた。 人種別にみて、肝硬変に関連した年間死亡率の伸び率が最も大きかったのはネイティブアメリカン(国勢調査でアメリカインディアンとされている住民)で、4.0%(95%CI:2.2~5.7、p=0.002)であった。 年齢補正後の肝細胞がん死は、毎年2.1%(95%CI:1.9~2.3、p<0.001)上昇が認められた。肝硬変による死亡の上昇は2009年に始まっており、2016年までに年間3.4%(3.1~3.8、p<0.001)上昇していた(1999~2008年は減少[年間-0.5%、p=0.02])。 2009~16年に肝硬変関連死が最も増大していたのは25~34歳群で(10.5%、95%CI:8.9~12.2、p<0.001)、もっぱら原因はアルコール関連の肝疾患によるものであった。また、同期間中、肝硬変関連では腹膜炎による死亡(年間死亡率増:6.1%、95%CI:3.9~8.2)と、敗血症による死亡(同7.1%、6.1~8.4)が大きく増大していた。さらに州別の解析では、唯一メリーランド州のみ死亡の改善が認められた(年間死亡率-1.2%、95%CI:-1.7~-0.7)。一方で南西部の州に集中して偏って年間死亡率の上昇が認められた。具体的には、ケンタッキーで6.8%(95%CI:5.1~8.5)、ニューメキシコ州6.0%(4.1~7.9)、アーカンソー州5.7%(3.9~7.6)、インディアナ州5.0%(3.8~6.1)、アラバマ州5.0%(3.2~6.8)。 肝細胞がん関連の死亡の改善が認められた州はなかった。最も深刻な年率増がみられたのは、アリゾナ州5.1%(3.7~6.5)、カンザス州4.3%(2.8~5.8)であった。

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重症代謝性アシドーシスに炭酸水素Naは有効か?/Lancet

 重症代謝性アシドーシスに対し、治療選択肢の1つと考えられている炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)投与の有効性について検討した結果が、フランス・Montpellier University HospitalのSamir Jaber氏らによる第III相多施設共同非盲検無作為化試験「BICAR-ICU試験」の結果、示された。主要複合アウトカム(28日以内の全死因死亡と7日以内の臓器不全)について、有意差は示されなかったが抑制効果がみられ、急性腎障害(AKI)を有した患者群では28日死亡率の有意な低下が認められたという。Lancet誌オンライン版2018年6月14日号掲載の報告。28日以内の全死因死亡と7日以内の1つ以上の臓器不全の発生を評価 試験は、フランスの26ヵ所のICUから患者を集めて行われた。各地の研究者がスクリーニングを行い、重症代謝性アシドーシス(pH:≦7.20、PaCO2:≦45mmHg、炭酸水素ナトリウム濃度:≦20mmol/L)を呈し、臓器不全評価(SOFA)総スコアが4以上または血中乳酸濃度2mmol/L以上で、ICUに入室後48時間以内の18歳以上の患者を適格とした。 被験者を層別無作為化法(限定的なウェブプラットフォームを使って最小化)により1対1の割合で、炭酸水素ナトリウム非投与(対照)群または4.2%炭酸水素ナトリウム静注でpH7.30超を維持する群に無作為に割り付けた。静注投与は、30分以内で125~250mLの範囲内とすること、包含後24時間以内で最大量1,000mLとすることを推奨値とした。 また無作為化では、事前に規定した3層(年齢、敗血症の状態、急性腎障害ネットワーク[AKIN]スコア)への層別化も行った。 主要アウトカムは、28日以内の全死因死亡と7日以内の1つ以上の臓器不全の複合であった。すべての解析はintention-to-treat(ITT)集団(無作為化を受けた全患者)のデータに基づき行われた。AKI患者では28日生存率に有意な差 2015年5月5日~2017年5月7日にITT集団として389例が登録された(対照群194例、炭酸水素ナトリウム群195例)。 主要複合アウトカムの発生は、対照群138/194例(71%)、炭酸水素ナトリウム群128/195例(66%)であった(推定絶対差:-5.5%、95%信頼区間[CI]:-15.2~4.2、p=0.24)。 Kaplan-Meier法による28日時点の推定生存率は、対照群と炭酸水素ナトリウム群で有意差はなかった(46%[95%CI:40~54] vs.55%[49~63]p=0.09)。事前規定のAKIN(スコア2または3)層別化患者においては、Kaplan-Meier法による28日時点の推定生存率は、対照群と炭酸水素ナトリウム群で有意差が認められた(63%[52~72] vs.46%[35~55]p=0.0283)。 代謝性アルカローシス、高ナトリウム血症、低カルシウム血症は、対照群より炭酸ナトリウム群でより多く観察された。命に関わる合併症の報告はなかった。

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第3回 意識障害 その3 低血糖の確定診断は?【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+10のルールのうち低血糖に注目この症例は前回お伝えしたとおり、左中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症でした。誰もが納得する結果だと思いますが、脳梗塞には「血栓溶解療法(rt-PA療法)」、「血栓回収療法」という時間に制約のある治療法が存在します。つまり、迅速に、そして正確に診断し、有効な治療法を診断の遅れによって逃すことのないようにしなければなりません。頭部CT、MRIを撮影すれば簡単に診断できるでしょ?! と思うかもしれませんが、いくつかのpitfallsがあり、注意が必要です。今回も“10’s Rule”(表1)にのっとり、説明していきます1)。今回は5)からです。画像を拡大する●Rule5 何が何でも低血糖の否定から! デキスタ、血液ガスcheck!意識障害患者を診たら、まずは低血糖を除外しましょう。低血糖になりうる人はある程度決まっていますが、緊急性、簡便性の面からまず確認することをお勧めします。低血糖の時間が遷延すると、低血糖脳症という不可逆的な状況となってしまうため、迅速な対応が必要なのです。低血糖によって片麻痺や失語を認めることもあるため、侮ってはいけません2)。低血糖の診断基準:Whippleの3徴(表2)をcheck!画像を拡大する低血糖と診断するためには満たすべき条件が3つ存在します。陥りがちなエラーとして血糖は測定したものの、ブドウ糖投与後の症状の改善を怠ってしまうことです。血糖を測定し低いからといって、意識障害の原因が低血糖であるとは限りません。必ず血糖値が改善した際に、普段と同様の意識状態へ改善することを確認しなければなりません。血糖低値と低血糖は似て非なるものであることを理解しておきましょう。低血糖の原因:臭いものに蓋をするな!低血糖に陥るには必ず原因が存在します。“Whippleの3徴”を満たしたからといって安心してはいけません。原因に対する介入が行われなければ再度低血糖に陥ってしまいます。低血糖の原因は表3のとおりです。最も多い原因は、インスリンやスルホニルウレア薬(SU薬)など血糖降下作用の強い糖尿病薬によるものです。そのため使用薬剤は必ず確認しましょう。画像を拡大するるい痩を認める場合には低栄養、腹水貯留やクモ状血管腫、黄疸を認める場合には肝硬変(とくにアルコール性)を考え対応します。バイタルサインがSIRS(表4)やqSOFA(表5)の項目を満たす場合には感染症、とくに敗血症に伴う低血糖を考えフォーカス検索を行いましょう(次回以降で感染症×意識障害の詳細を説明する予定です)。画像を拡大する画像を拡大する低血糖の治療:ブドウ糖の投与で安心するな!低血糖の治療は、経口が可能であればブドウ糖の内服、意識障害を認め内服が困難な場合には経静脈的にブドウ糖を投与します。一般的には50%ブドウ糖を40mL静注することが多いと思います。ここで忘れてはいけないのはビタミンB1欠乏です。ビタミンB1が欠乏している状態でブドウ糖のみを投与すると、さらにビタミンB1は枯渇し、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群を起こしかねません。ビタミンB1が枯渇している状態が考えられる患者では、ブドウ糖と同時にビタミンB1の投与(最低でも100mg)を忘れずに行いましょう。ビタミンB1の成人の必要量は1~2mg/日であり、通常の食事を摂取していれば枯渇することはありません。しかし、アルコール依存患者のように慢性的な食の偏りがある場合には枯渇しえます。一般的にビタミンB1が枯渇するには2~3週間を要するといわれています。救急外来などの初療では、患者の背景が把握しきれないことも少なくないため、アルコール依存症以外に、低栄養状態が示唆される場合、妊娠悪阻を認める患者、さらにはビタミンB1が枯渇している可能性が否定できない場合には、ビタミンB1を躊躇することなく投与した方が良いでしょう。ウェルニッケ脳症はアルコール多飲患者にのみ発症するわけではないことは知っておきましょう(表6)。画像を拡大するそれでは、いよいよRule6「出血か梗塞か、それが問題だ!」です。やっと頭部CTを撮影…というところで今回も時間がきてしまいました。脳卒中や頭部外傷に伴う意識障害は頻度も高く、緊急性が高いため常に考えておく必要がありますが、頭部CTを撮影する前に必ずバイタルサインを安定させること、低血糖を除外することは忘れずに実践するようにしましょう。それではまた次回!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中!. 中外医学社;2015.2)Foster JW, et al. Stroke. 1987;18:944-946.コラム(3) 「くすりもりすく」、内服薬は正確に把握を!高齢者の多くは、高血圧、糖尿病、認知症、不眠症などに対して定期的に薬を内服しています。高齢者の2人に1人はポリファーマシーといって5剤以上の薬を内服しています。ポリファーマシーが悪いというわけではありませんが、薬剤の影響でさまざまな症状が出現しうることを、常に意識しておく必要があります。意識障害、発熱、消化器症状、浮腫、アナフィラキシーなどは代表的であり救急外来でもしばしば経験します。「高齢者ではいかなる症状も1度は薬剤性を考える」という癖を持っておくとよいでしょう。また、内服薬はお薬手帳を確認することはもちろんのこと、漢方やサプリメント、さらには過去に処方された薬や家族や友人からもらった薬を内服していないかも、可能な限り確認するとよいでしょう。お薬手帳のみでは把握しきれないこともあるからです。(次回は7月25日の予定)

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第1回 経口ステロイドは短期服用でも有害事象リスク増【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 経口ステロイド薬は多岐にわたる疾患に使われていて、多くの疾患の治療に必須の薬剤であることに疑いの余地はありません。しかし、長期服用した場合の有害事象もよく知られているところです。では、経口ステロイド薬を短期服用した場合はどうなのでしょうか? 私は、短期服用した場合の有害事象はそれほど多くはないだろう、となんとなく思っていたのですが、その認識を改める契機となった研究を紹介します。Short term use of oral corticosteroids and related harms among adults in the United States: population based cohort study.Waljee AK ,et al. BMJ. 2017;357:j1415.この研究は、2012~14年にかけて、医療保険に加入している18~64歳の米国人154万8,945例の記録を分析したものです。そのうち32万7,452例(21.1%)が何らかの病気に対して少なくとも1回以上、短期的にステロイド薬を服用していました。論文内では30日未満を短期と定義し、30日~5ヵ月にわたり追跡調査を行っています。5分の1の人が、3年間で1回は経口ステロイド薬を使用していたというのは、本邦とは使用の感覚が少し違うのかもしれません。組み入れられている患者の条件は次のとおりでした。・平均年齢:服用群45.5±11.6歳、非服用群44.1±12.2歳・服用期間:平均6日間(四分位範囲:6~12日)、7日以上服用は47.4%(15万5,171例)・基礎疾患や過去1年以内のステロイド使用歴なし・prednisone当量の服用量:中央値20mg/日(四分位範囲:17.5~36.8mg/日)、40mg/日以上は23.4%(7万6,701例)・主な服用理由:上気道感染症、椎間板障害、アレルギー、気管支炎、下気道疾患(これら5症状が全体の約半数)アウトカムとして服用開始30日以内および31~90日の敗血症、深部静脈血栓症、骨折リスクを評価しています。平均6日間服用で敗血症、深部静脈血栓症、骨折リスクが上昇ステロイド薬服用群で1,000人・年当たりの発生頻度がもっとも高かったのは骨折(21.4件)、次いで静脈血栓塞栓症(4.6件)、敗血症による入院(1.8件)です。下記の表のように、5~30日目の非服用群の自然発生リスクと比較して、服用群の敗血症リスクは5.30倍、静脈血栓症リスクは3.33倍、骨折リスクが1.87倍という結果で、いずれも統計学的に有意差があります。1日20mg以下という比較的低用量であっても有意差は保持されていますが、高用量になるほどリスクが増加する傾向にあります。リスク上昇傾向は31~90日後には下がるものの、それでも服用者総計の敗血症は2.91倍、静脈血栓塞栓症は1.44倍、骨折は1.40倍と有意差は保持されています。相対的な数値ですので実臨床上の感覚としては大幅に増えるというほどのものではないかもしれませんが、一定の認識は持っておいたほうがよさそうです。ちなみに、40mg以上服用の5~30日の発症率比が20~39mg/日よりも低く出ているものもありますが、症例数が少なく信頼区間の幅が極めて広いため、これをもってして20~39mg/日よりリスクが低いとは言い切れません。また、31~90日目の有害事象発症率比はやはり高用量になるほど大きい傾向にあります。画像を拡大するステロイド薬の服用理由別のリスク評価はどうなのでしょうか? ステロイド薬の服用に至った理由は呼吸器系症状か筋骨格系症状かによらず、ステロイド薬服用群では各リスクが上昇する傾向が示唆されています。筋骨格系症状で服用した群の発症率比がやや多いようですが、単純に服用量が多かったという可能性も考えられます。画像を拡大するなお、年齢別、性別、人種別でのリスク評価では、おおむね年齢が高いほどリスクが上がる傾向があるようですが、人種差や性差はさほど見られませんでした。本研究の結果をもって、実際の処方提案などの介入方法を変えるという類のものではなさそうですが、経口ステロイド薬の有害事象のモニタリングは服用が短期間、低用量であっても相応の注意をもって行ったほうがよさそうです。Short term use of oral corticosteroids and related harms among adults in the United States: population based cohort study.Waljee AK ,et al. BMJ. 2017;12;357:j1415.

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第2回 意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害のアプローチ意識障害は非常にコモンな症候であり、救急外来ではもちろんのこと、その他一般の外来であってもしばしば遭遇します。発熱や腹痛など他の症候で来院した患者であっても、意識障害を認める場合には必ずプロブレムリストに挙げて鑑別をする癖をもちましょう。意識はバイタルサインの中でも呼吸数と並んで非常に重要なバイタルサインであるばかりでなく、軽視されがちなバイタルサインの1つです。何となくおかしいというのも立派な意識障害でしたね。救急の現場では、人材や検査などの資源が限られるだけでなく、早期に判断することが必要です。じっくり考えている時間がないのです。そのため、意識障害、意識消失、ショックなどの頻度や緊急性が高い症候に関しては、症候ごとの軸となるアプローチ法を身に付けておく必要があります。もちろん、経験を重ね、最短距離でベストなアプローチをとることができれば良いですが、さまざまな制約がある場面では難しいものです。みなさんも意識障害患者を診る際に手順はあると思うのですが、まだアプローチ方法が確立していない、もしくは自身のアプローチ方法に自信がない方は参考にしてみてください。アプローチ方法の確立:10’s Rule1)私は表1の様な手順で意識障害患者に対応しています。坂本originalなものではありません。ごく当たり前のアプローチです。ですが、この当たり前のアプローチが意外と確立されておらず、しばしば診断が遅れてしまっている事例が少なくありません。「低血糖を否定する前に頭部CTを撮影」「髄膜炎を見逃してしまった」「飲酒患者の原因をアルコール中毒以外に考えなかった」などなど、みなさんも経験があるのではないでしょうか。画像を拡大する●Rule1 ABCの安定が最優先!意識障害であろうとなかろうと、バイタルサインの異常は早期に察知し、介入する必要があります。原因がわかっても救命できなければ意味がありません。バイタルサインでは、血圧や脈拍も重要ですが、呼吸数を意識する癖を持つと重症患者のトリアージに有効です。頻呼吸や徐呼吸、死戦期呼吸は要注意です。心停止患者に対するアプローチにおいても、反応を確認した後にさらに確認するバイタルサインは呼吸です。反応がなく、呼吸が正常でなければ胸骨圧迫開始でしたね。今後取り上げる予定の敗血症の診断基準に用いる「quick SOFA(qSOFA)」にも、意識、呼吸が含まれています。「意識障害患者ではまず『呼吸』に着目」、これを意識しておきましょう。気管挿管の適応血圧が低ければ輸液、場合によっては輸血、昇圧剤や止血処置が必要です。C(Circulation)の異常は、血圧や脈拍など、モニターに表示される数値で把握できるため、誰もが異変に気付き、対応することは難しくありません。それに対して、A(Airway)、B(Breathing)に対しては、SpO2のみで判断しがちですが、そうではありません。SpO2が95%と保たれていても、前述のとおり、呼吸回数が多い場合、換気が不十分な場合(CO2の貯留が認められる場合)、重度の意識障害を認める場合、ショックの場合には、確実な気道確保のために気管挿管が必要です。消化管出血に伴う出血性ショックでは、緊急上部内視鏡を行うこともありますが、その際にはCの改善に従事できるように、気管挿管を行い、AとBは安定させて内視鏡処置に専念する必要性を考える癖を持つようにしましょう。緊急内視鏡症例全例に気管挿管を行うわけではありませんが、SpO2が保たれているからといって内視鏡を行い、再吐血や不穏による誤嚥などによってAとBの異常が起こりうることは知っておきましょう。●Rule2 Vital signs、病歴、身体所見が超重要! 外傷検索、AMPLE聴取も忘れずに!症例の患者は、突然発症の右上下肢麻痺であり、誰もが脳卒中を考えるでしょう。それではvital signsは脳卒中に矛盾ないでしょうか。脳卒中に代表される頭蓋内疾患による意識障害では、通常血圧は高くなります(表2)2)。これは、脳卒中に伴う脳圧の亢進に対して、体血圧を上昇させ脳血流を維持しようとする生体の反応によるものです。つまり、脳卒中様症状を認めた場合に、血圧が高ければ「脳卒中らしい」ということです。さらに瞳孔の左右差や共同偏視を認めれば、より疑いは強くなります。画像を拡大する頸部の診察を忘れずに!意識障害患者は、「路上で倒れていた」「卒倒した」などの病歴から外傷を伴うことが少なくありません。その際、頭部外傷は気にすることはできても、頸部の病変を見逃してしまうことがあります。頸椎損傷など、頸の外傷は不用意な頸部の観察で症状を悪化させてしまうこともあるため、後頸部の圧痛は必ず確認すること、また意識障害のために評価が困難な場合には否定されるまで頸を保護するようにしましょう。画像を拡大する意識障害の鑑別では、既往歴や内服薬は大きく影響します。糖尿病治療中であれば低血糖や高血糖、心房細動の既往があれば心原性脳塞栓症、肝硬変を認めれば肝性脳症などなど。また、内服薬の影響は常に考え、お薬手帳を確認するだけでなく、漢方やサプリメント、家族や友人の薬を内服していないかまで確認しましょう3)。●Rule3 鑑別疾患の基本をmasterせよ!救急外来など初診時には、(1)緊急性、(2)簡便性、(3)検査前確率の3点に意識して鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因はAIUEOTIPS(表4)です。表4はCarpenterの分類に大動脈解離(Aortic Dissection)、ビタミン欠乏(Supplement)を追加しています。頭に入れておきましょう。画像を拡大する●Rule4 意識障害と意識消失を明確に区別せよ!意識障害ではなく意識消失(失神や痙攣)の場合には、鑑別診断が異なるためアプローチが異なります。これは、今後のシリーズで詳細を述べる予定です。ここでは1つだけおさえておきましょう。それは、意識状態は「普段と比較する」ということです。高齢者が多いわが国では、認知症や脳卒中後の影響で普段から意思疎通が困難な場合も少なくありません。必ず普段の意識状態を知る人からの情報を確認し、意識障害の有無を把握しましょう。前述の「Rule4つ」は順番というよりも同時に確認していきます。かかりつけの患者さんであれば、来院前に内服薬や既往を確認しつつ、病歴から◯◯らしいかを意識しておきましょう。ここで、実際に前掲の症例を考えてみましょう。突然発症の右上下肢麻痺であり、3/JCSと明らかな意識障害を認めます(普段は見当識障害など特記異常はないことを確認)。血圧が普段と比較し高く、脈拍も心房細動を示唆する不整を認めます。ここまでの情報がそろえば、この患者さんの診断は脳卒中、とくに左大脳半球領域の脳梗塞で間違いなしですね?!実際にこの症例では、頭部CT、MRIとMRAを撮影したところ左中大脳動脈領域の急性期心原性脳塞栓症でした。診断は容易に思えるかもしれませんが、迅速かつ正確な診断を限られた時間の中で行うことは決して簡単ではありません。次回は、10’s Ruleの後半を、陥りやすいpitfallsを交えながら解説します。お楽しみに!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)Ikeda M, et al. BMJ. 2002;325:800.3)坂本壮ほか. 月刊薬事. 2017;59:148-156.コラム(2) 相談できるか否か、それが問題だ!「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」が大事! この単語はみなさん聞いたことがあると思います。何か困ったことやトラブルに巻き込まれそうになったときは、自身で抱え込まずに、上司や同僚などに声をかけ、対応するのが良いことは誰もが納得するところです。それでは、この3つのうち最も大切なのはどれでしょうか。すべて大事なのですが、とくに「相談」は大事です。報告や連絡は事後であることが多いのに対して、相談はまさに困っているときにできるからです。言われてみると当たり前ですが、学年が上がるにつれて、また忙しくなるにつれて相談せずに自己解決し、後で後悔してしまうことが多いのではないでしょうか。「こんなことで相談したら情けないか…」「まぁ大丈夫だろう」「あの先生に前に相談したときに怒られたし…」など理由は多々あるかもしれませんが、医師の役目は患者さんの症状の改善であって、自分の評価を上げることではありません。原因検索や対応に悩んだら相談すること、指導医など相談される立場の医師は、相談されやすい環境作り、振る舞いを意識しましょう(私もこの部分は実践できているとは言えず、書きながら反省しています)。(次回は6月27日の予定)

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APROCCHSS試験-敗血症性ショックに対するステロイド2剤併用(解説:小金丸博氏)-831

 敗血症性ショック患者に対するステロイドの有効性を検討した研究(APROCCHSS)がNEJMで発表された。過去に発表された研究では、「死亡率を改善する」と結論付けた研究(Ger-Inf-051))もあれば、「死亡率を改善しない」と結論付けた研究(CORTICUS22)、HYPRESS3)、ADRENAL4))もあり、有効性に関して一致した見解は得られていなかった。 本研究は、敗血症性ショックに対するヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与の有効性を検討した多施設共同二重盲検ランダム化比較試験である。敗血症性ショックでICUへ入室した患者のうち、SOFAスコア3点、4点の重篤な臓器障害を2つ以上有し、ノルエピネフリンなどの血管作動薬を0.25μg/kg/min以上投与が必要な患者を対象とした。研究開始時は、活性化プロテインCとヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンの2×2要因デザインで患者を組み込んでいたが、活性化プロテインCは試験途中で市場から撤退したため、その後はステロイド投与群とプラセボ投与群の2群で試験を継続した。その結果、プライマリアウトカムである90日死亡率はヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群で43.0%、プラセボ投与群で49.1%であり、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった(p=0.03)。また、セカンダリアウトカムであるICU退室時死亡率、退院時死亡率、180日死亡率もヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった。 本論文の考察の中で、敗血症性ショックに対するステロイドの有効性に関する見解が一致しない理由が2つ挙げられている。1つは、投与するステロイドの種類の違いである。ステロイドの有効性を示したAPROCCHSSとGer-Inf-05では、ヒドロコルチゾンにミネラルコルチコイドであるフルドロコルチゾンが併用投与されている。フルドロコルチゾンを投与することによってアドレナリン作動薬の反応改善が期待できるとされており、アドレナリン作動薬が必要な敗血症性ショックに対して有効性を示した可能性がある。2つ目は、患者重症度の違いである。本試験では高用量の血管作動薬投与が必要な患者が対象となっており、プラセボ投与群の90日死亡率は49.1%と高率だった(ADRENALのプラセボ投与群の90日死亡率は28.8%)。重篤な敗血症性ショック患者に対してステロイド投与が有効である可能性がある。現行の敗血症ガイドラインでは、十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態が安定しない患者に対してはステロイド投与が推奨されており、重症敗血症例に対してステロイドを投与することは妥当性があると考える。

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敗血症性ショック、ステロイド2剤併用で死亡率低下/NEJM

 敗血症性ショック患者に対する検討で、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与はプラセボ投与と比較して、90日全死因死亡率が低いことが示された。フランス・Raymond Poincare病院のDjillali Annane氏らが、1,241例を対象に行った多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を、NEJM誌2018年3月1日号で発表した。敗血症性ショックは、感染に対する宿主反応の調節不全が特徴で、循環異常、細胞異常、代謝異常を呈する。研究グループは、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンによる治療、または活性型drotrecogin αによる治療は、宿主反応を調節可能であり、敗血症性ショック患者の臨床的アウトカムを改善する可能性があるとの仮説を立てて、検証試験を行った。昇圧薬非使用日数、人工呼吸器非装着日数なども比較 試験は2×2要因デザインにて、集中治療室(ICU)の入院患者で、24時間未満に敗血症性ショックと診断された患者(疑い例含む)を対象に行われた。 対象患者を無作為に分け、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン療法、活性型drotrecogin α単独療法、これら3剤の併用療法、各療法に適合させたプラセボを投与した。 主要評価項目は、90日全死因死亡率。副次的評価項目は、ICU退室時および退院時、28日時点、180日時点の各時点における死亡率と、生存日数、昇圧薬非使用日数、人工呼吸器非装着日数、臓器不全の非発生日数とした。 同試験は、中途で活性型drotrecogin αが市場から撤退したため、その後は2群並行デザインで継続した。ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン療法を行った群と、両薬を投与しなかったプラセボ群について比較分析した。ICU退室時死亡率・退院時死亡率は約6ポイント減少 試験に組み入れた被験者1,241例(ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群614例、プラセボ群627例)において、90日死亡率は、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群が43.0%に対し、プラセボ群は49.1%と高率だった(p=0.03)。ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群の死亡に関する相対リスクは、0.88(95%信頼区間[CI]:0.78~0.99)だった。 また、ICU退室時死亡率も、プラセボ群41.0%に対しヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群は35.4%(p=0.04)、退院時死亡率はそれぞれ45.3%と39.0%(p=0.02)、180日死亡率は52.5%と46.6%(p=0.04)で、いずれもヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群が有意に低率だった。一方で28日死亡率については、38.9%、33.7%と、両群で有意差はなかった(p=0.06)。 28日目までの昇圧薬非使用日数は、プラセボ群が15日に対しヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群は17日(p<0.001)、臓器不全非発生日数もそれぞれ12日、14日で(p=0.003)、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群で有意に長かった。一方で人工呼吸器非装着日数は、それぞれ10日、11日と両群間で差はなかった(p=0.07)。 重篤有害事象の発生頻度は両群で同程度だったが、高血糖症の発生頻度がヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群で高かった。

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敗血症性ショックに対するグルココルチコイドの投与:長い議論の転機となるか(解説:吉田 敦 氏)-813

 敗血症性ショックにおいてグルココルチコイドの投与が有効であるかについては、長い間議論が続いてきた。グルココルチコイドの種類・量・投与法のみならず、何をもって有効とするかなど、介入と評価法についてもばらつきがあり、一方でこのような重症病態での副腎機能の評価について限界があったことも根底にある。今回大規模なランダム化比較試験が行われ、その結果が報告された。 オーストラリア、英国、ニュージーランド、サウジアラビア、デンマークのICUに敗血症性ショックで入室し、人工呼吸器管理を受けた18歳以上の患者3,800例を、無作為にヒドロコルチゾン(200mg/日)投与群とプラセボ投与群とに割り付けた。この際、SIRSの基準を2項目以上満たすこと、昇圧薬ないし変力作用のある薬剤を4時間以上投与されたことを条件とした。ヒドロコルチゾンは200mgを24時間以上かけて持続静注し、最長で7日間あるいはICU退室ないしは死亡までの投与とした。ランダム化から90日までの死亡をプライマリーアウトカム、さらに28日までの死亡、ショックの再発、ICU入室期間、入院期間、人工呼吸器管理の回数と期間、腎代替療法の回数と期間、新規の菌血症・真菌血症発症、ICUでの輸血をセカンダリーアウトカムとし、原疾患による死亡は除いた。 患者の平均年齢は約62歳、外科手術が行われた後に入室した患者は約31%、感染巣は肺(35%)、腹部(25%)、血液(7%)、皮膚軟部組織(7%)、尿路(7%)の順であり、介入前の基礎パラメーターや各検査値に2群間で差はなかった。なおショック発症からランダム化までは平均約20時間、ランダム化から薬剤投与開始までは0.8時間(中央値)であり、ヒドロコルチゾンの投与期間は5.1日(中央値)であった。 まずプライマリーアウトカムとしての90日死亡率は、ヒドロコルチゾン投与群では27.9%(1,832例中511例)、プラセボ投与群では28.8%(1,826例中526例)であり、有意差はなかった。次いでセカンダリーアウトカムでは、ショックから回復するまでの期間も、ICU退室までの期間も、さらに1回目の人工呼吸器管理の期間もヒドロコルチゾン投与群で有意に短かった(それぞれ3日と4日、p<0.001、10日と12日、p<0.001、6日と7日、p<0.001)。ただし再度人工呼吸器管理が必要な患者もおり、人工呼吸器を要しなかった期間としてみると差はなかった。輸血を要した割合も前者で少なかったが(37.0%と41.7%、p=0.004)、その他、28日死亡率やショックの再発率、退院までの日数、ICU退室後の生存期間、人工呼吸器管理の再導入率、腎代替療法の施行率・期間、菌血症・真菌血症発生率に差はなかった。 これまでの検討では、グルココルチコイドは高用量よりは低用量のほうが成績がよかったものの、二重盲検ランダム化比較試験では一致した結果が得られなかった1,2)。現行のガイドラインでも“十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態の安定が得られない例”に対し、エビデンスが弱い推奨として記載されている3)。本検討は、上記のランダム化比較試験よりも症例数がかなり増えているのが特徴であり、2群で比較が可能であった項目も多い。したがって、グルココルチコイド投与の目的—改善を目指す指標—をより詳しく評価できたともいえる。一方で21例対6例と少数ではあるが、グルココルチコイド群で副作用が多く、中にはミオパチーなど重症例も存在した。グルココルチコイドとの相関の可能性を含んで、この結果は解釈したほうがよいであろう。本検討は、これまでの議論の転機となり、マネジメントや指針の再考につながるであろうか。これからの動向に注目したい。

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敗血症性ショックへの低用量ステロイド、死亡率は低下せず/NEJM

 人工呼吸器を装着した敗血症性ショック患者において、低用量ステロイド(ヒドロコルチゾン持続静脈内投与)は、プラセボと比較し90日死亡率を低下させるという結果は得られなかった。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のBalasubramanian Venkatesh氏らが、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験「ADRENAL(Adjunctive Corticosteroid Treatment in Critically Ill Patients with Septic Shock)試験」の結果を報告した。現在、敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法は、敗血症ガイドラインにおいてショックの離脱を目的とした投与は推奨されているが、エビデンスの質が低く推奨度は低い。死亡率低下については賛否両論が報告されていた。NEJM誌オンライン版2018年1月19日号掲載の報告。敗血症性ショック3,800例で、低用量ステロイドとプラセボの90日死亡率を比較 研究グループは、18歳以上で敗血症性ショックにより人工呼吸器を装着している患者を、ステロイド群(ヒドロコルチゾン200mg/日)またはプラセボ群に無作為に割り付け、7日間または死亡/ICU退室までそれぞれ投与した。主要評価項目は90日全死因死亡率で、ロジスティック回帰分析により解析した。 2013年3月~2017年4月に、3,800例が無作為化され、うち3,658例(ステロイド群1,832例、プラセボ群1,826例)が主要評価項目の解析対象となった。90日全死因死亡率は両群で有意差なし 90日時点で、ステロイド群27.9%(511例)、プラセボ群28.8%(526例)で死亡が認められた(オッズ比[OR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.82~1.10、p=0.50)。事前に定義された6つのサブグループ(入院の種類、カテコールアミン投与量、敗血症の主要部位、性別、APACHE IIスコア、ショックの期間)において、有効性は類似していた。 ショックからの離脱については、ステロイド群がプラセボ群より早かった(中央値[四分位範囲]で3日[2~5]vs.4日[2~9]、ハザード比[HR]:1.32、95%CI:1.23~1.41、p<0.001)。また、ステロイド群はプラセボ群と比較し、初回の人工呼吸器の使用期間が短かったが(6日[3~18]vs.7日[3~24]、HR:1.13、95%CI:1.05~1.22、p<0.001)、人工呼吸器の再装着を考慮すると、人工呼吸器から離脱した状態での生存日数に有意差は認められなかった。 ステロイド群ではプラセボ群と比較し、輸血を受けた患者が少なかったが(37.0% vs.41.7%、OR:0.82、95%CI:0.72~0.94、p=0.004)、28日死亡率、ショック再発率、ICU退室後の生存日数、退院後の生存日数、人工呼吸器の再装着、腎代替療法率、菌血症/真菌血症の新規発生率は、両群間に差はなかった。

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FDA、変異転移性乳がんにオラパリブ承認

 米国食品医薬品局(FDA)は2018年1月12日、過去に術後補助療法あるいは転移がんへの治療として化学療法を受けた病的変異または病的変異が疑われる生殖細胞系列BRCA(gBRCA)遺伝子変異陽性/HER2陰性(HER2-)の転移を有する乳がん治療に対するPARP阻害薬オラパリブを本承認した。 今回の承認は、オープンラベル多施設試験OlympiADの結果に基づくもの。この試験では、上記患者302例をオラパリブ群と医師選択の化学療法(カペシタビン、ビノレルビンまたはエリブリン)群に2対1で無作為割り付けし、比較した。主要有効性評価項目は、盲検独立中央評価(BICR)評価による無増悪生存(PFS)。結果、推定PFS中央値はオラパリブ群7.0ヵ月、化学療法群4.2ヵ月と、有意にオラパリブ群で延長した(HR:0.58、95%CI:0.43~0.80、p=0.0009)。オラパリブ群でよくみられた(20%以上)有害事象は、貧血、悪心、疲労(無力症含む)、嘔吐、好中球減少症、白血球減少症、気道感染、下痢、敗血症、関節痛/筋肉痛、頭痛などであった。 FDAはまた、オラパリブの適応となgBRCA変異乳がん患者を特定するため、BRACAnalysis CDx検査(Myriad Genetic Laboratories、Inc.)に販売許可を付与した。■参考FDAアナウンスメントOlympiAD試験(Cinical Trials.gov)Robson M, et al. N Engl J Med. 2017. June 4. [Epub ahead of print]■関連記事PARP阻害薬olaparib、BRCA変異乳がんの生存を42%改善/ASCO2017OlympiAD試験(解説:矢形 寛氏)

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救急外来 診療の原則集―あたりまえのことをあたりまえに

教育への情熱で磨かれたキーフレーズ+解説身体診察の祭典、JPC2015で参加者の心をわしづかみにした救急医の坂本氏の最新刊が登場。「簡単なようで難しい、身に着ければ強い―それが『あたりまえのこと』」というコンセプトのもと、著者の臨床知見をあますことなく掲載。研修医向けの教育講習を重ね、ベストチューターを受賞した著者だからこそわかる、救急現場で知っておかなくてはいけない内容満載です。具体的には、消化管出血、敗血症、肺炎、尿路感染症など全21章に分け、101項目(病歴聴取、病状説明、救急診療で遭遇する頻度が高い疾患や症候)の解説を加えています。研修医だけでなく、普段救急から遠ざかっている医療従事者も知識の確認に使える1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    救急外来 診療の原則集―あたりまえのことをあたりまえに定価4,200円 + 税判型A5判(21×14.8×1.3cm)頁数327頁発行2017年11月著者坂本 壮Amazonでご購入の場合はこちら

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ペストに気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。今回は前回に引き続いてペストについてです。前回は、主にペストの歴史と疫学について学びました。現在、マダガスカルでアウトブレイク中ッ! とか言っていましたが、いつの間にかほぼ終息していますね。良かった良かった。しかし、またいつペストが流行するかわかりませんから、最低限の知識は持っておきましょう!ペストは「一類感染症」 疑ったら保健所に!はじめに重要な点ですが、ペストはわが国では「一類感染症」に指定されています。一類感染症と言えば、数年前に問題となったエボラ出血熱などと同じ括りになります。つまりッ! ペストが疑われた場合は、ただちに保健所に連絡して、特定感染症指定医療機関(全国に4施設)または第一種感染症指定医療機関(おおむね各都道府県に1施設)に転送し、隔離の上で診断・治療を行うことになります。自分の病院で診てはいけないのですッ!ところで漫画『リウーを待ちながら』(作・朱戸アオ/講談社)というペストを扱った作品をご覧になったことがありますでしょうか(本書でのCOIはありません)。これは日本のS県横走市という架空の自治体でアウトブレイクした多剤耐性(!)ペストと闘う話で、まぁ確かに面白いです。面白いんだけど…ペストだっつってんのに普通の総合病院で診療をしてるんですッ! 感染症法を完全無視ッ! 肺ペスト患者が普通に大部屋で入院ッ! 患者を隔離せんかい、隔離ッ! まあ飛沫感染ですから、厳密には個室隔離は不要だとは思いますが、一応法律上は隔離が必要です、はい。つーか、本来は、保健所に連絡して転院って流れになるんですが、そのまま自分の病院で診ちゃってるっていう…。良い子は絶対にマネすんなよっ! ていう内容です。ペストの感染経路のまとめさて、それはともかく前回ペストの感染経路について「腺ペストはノミに刺されることによって感染する」「腺ペストの患者の体液に曝露するとヒト-ヒト感染が成立する」「肺ペストの感染者やげっ歯類から飛沫感染によっても感染する」とご紹介しました。我ながら、何がなんだかわかりませんので、もう少し詳しくペストの感染経路についてご紹介したいと思います。図1はペストの感染経路について超絶わかりやすく示したものです。ペスト菌は、流行地域において野生のげっ歯類とノミの間をサイクルしています。なお、野生のげっ歯類がペストに感染して死亡した場合、土壌にペスト菌がプールされることがあります。野生のげっ歯類(あるいはヒト)が、この土壌の粉塵を吸入することで感染することがあります。画像を拡大するヒトへの感染経路は、要約しますと、1)ペスト菌を持つ野生環境でノミに吸血される2)ペストに感染した野生環境でげっ歯類(またはその死体)と直接接触する3)屋内・人間社会に生息するペストに感染したげっ歯類(またはその死体)と直接接触する4)ペスト菌に汚染された土壌の粉塵を吸入する5)肺ペストの患者からの飛沫感染の5つがあります(厳密にはほかにも感染動物の食肉を生で食べる、とかもあります)。基本的には、このうち1)~3)では腺ペスト、4)と5)では肺ペストを発症します。ペストの主な症状腺ペストは、ペストの80~90%を占めるといわれており、通常は曝露してから1~7日の潜伏期間の後に高熱、頭痛、嘔吐、ノミに刺された部位の所属リンパ節の腫大と疼痛などの症状が出現します。肺ペストは、腺ペストに比べると潜伏期が短く、急激に進行する呼吸困難、血痰などの呼吸器症状が急激に進行します。ペスト全体に対する割合は、数%とされていますが、2017年のマダガスカルのアウトブレイクでは、肺ペスト患者がより多くの割合で報告されています。いずれの病型も敗血症を起こし、全身に出血斑、壊死が出現することがあります。ペスト敗血症に至ると、治療を行わなければ数日~1週間程度で致死的になります。ペスト全体の10%程度が敗血症に至るとされています。図2は米疾病対策センター(CDC)の医師が撮影したペスト敗血症の臨床写真ですが、手指末端が壊死しています。これが「黒死病」と呼ばれた所以ですね。画像を拡大するペストの診断と治療ペストの診断ですが、ペストはペスト菌(Yersinia pestis)による細菌感染症ですので、ペスト菌を証明することで診断されます。血液、リンパ節、喀痰、病理組織などそれぞれの病態に応じた感染臓器の検体からの分離同定、蛍光抗体法での抗原検出、PCR法による遺伝子検出などによる病原体検出により確定診断となります。しかし! 何度も申しあげますが、ペストが疑われる場合は、保健所にただちに連絡すべしッ! ですので不用意に診断しちゃわないようにご注意ください。治療は抗菌薬が有効です。ストレプトマイシン、ドキシサイクリン、クロラムフェニコールといった「動物由来感染症によく使う系抗菌薬」で治療を行います。最後に予防ですが、残念ながらペストには有効なワクチンが現在ありません。ペスト発生国では、ネズミなどのげっ歯類、ノミ、ペストからの感染可能性のある患者や死体に接しないことが大切です(誰もそんなこと好き好んでしないと思いますが)。 また、入院患者対応としては、肺ペスト患者からは飛沫感染があるので、サージカルマスクの着用が有用です。ということで、2回にわたりペストについてお送りいたしました。次回こそは「バベシア症」についてご紹介したいと思います。1)Jonathan Cohen, et al. Infectious Diseases 4th Edition.Elsevier.2017.2)World Health Organaization. Plague: Fact sheet.

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