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教授 川合眞一先生の答え

関節リウマチの診断基準現場では忠実に7項目のうち4項目以上の診断基準を満たせば診断されているのでしょうか?だとしたら3項目、2項目が陽性の患者にはどのように対応しておられるのでしょう?たとえばリウマトイド因子のみが高値の患者が診断されないとしたら、本来の早期発見の意味から解離してはいきませんか?Webでも紹介させていただいたように、関節リウマチ(RA)のお馴染の7項目の1987年の分類基準は、23年ぶりに改訂されました[Arthritis Rheum. 2010;62:2569-81、「今日の治療薬2011」(南江堂)の抗リウマチ薬の解説部分(p.298)に私が紹介しています]。その新分類基準の目的は、より早期の患者をRAと診断しようとするものですが、それでもご指摘のように点数が足りずにRAに分類できないということはあり得ます。しかし、ご理解いただきたいのは、これらは分類基準であって診断基準ではないことです。即ち、臨床研究を前提として一定の所見を持つ患者群を選び出すのが分類基準の本来の目的ですので、ある専門家が分類基準に当てはまらない例をRAと診断することを否定するものでは決してありません。ということで、実際にはかなり稀なことではありますが、私も分類基準を満足しない例をRAと診断することもございます。分類基準を満たさない患者にRA治療を行うか行わないかは患者によって異なりますが、一方でRAと診断しても治療を要さない例もある訳で、診断と治療とは別の問題です。なお、ご指摘のようなリウマトイド因子(RF)のみが高力価陽性という所見だけでしたら、私はRAと診断することはありません。RFは元々特異性が低い検査ですので、関節症状が全くなければ、むしろ他の自己免疫疾患や肝疾患などを考えた方が良いかもしれません。もちろん、健常者でもRF陽性の患者は将来的にRAなどの自己免疫疾患を発症する確率は若干高いという報告はありますので、他疾患も否定できるようなら、将来RAなどを発症する可能性はRF陰性の方よりは若干高いというご説明だけはしています。避難所での関節痛対処(関節リウマチの見分け方)について避難所を回っています。避難所では高齢者は座りっぱなしなので、関節痛を起こしています。単なる関節痛の方が多いとは思いますが、念のため、関節リウマチも念頭にいれて疑ってかかりたいです。自分で調べればよい話ですが、少し余裕がありません。なんかしらのチェックリストがあるとありがたいです。ご教示宜しくお願いします。高齢者に最も多い関節疾患は変形性関節症ですが、もちろん関節症状を訴える患者に関節リウマチ(RA)が含まれているかもしれません。しかしそういった場合には、通常、既にRAと診断された方が多いと思いますので、患者の訴え(既往歴)を聞くのが最も良い方法と思います。避難所で初発例に遭遇する可能性もないとは言えませんが、その場合は極めて早期の発症例ですので、診断はしばしば困難なことがあります。その場合は、チェックリストというよりは、前のご質問にお応えしたようにRA分類基準などを参考に診断することになります。前述しましたように「今日の治療薬2011」(南江堂)のp.298に紹介しております。薬がない関節リウマチ患者の応急対応について現在、薬剤を取り寄せてはいますが、薬が不足しています。薬がないからあきらめろとは言えません。薬がくるまでの間にできることはあるのでしょうか?私はリウマチ専門外です。アドバイスいただけると幸いです。関節症状が非常に強いときには原則として関節局所の安静を取る必要があります。ただし、あまり長く(数日間でも)極端な安静が続きますと筋力が低下し、動きが悪くなります。当然、長期的には関節可動域が減少してしまいます。そのため、痛い中でも若干は動かして関節可動域を保つことが必要ですが、その場合は「翌日痛みが増すようなら動かし過ぎ」という判断が宜しいように思います。なお、最近のRA治療は抗リウマチ薬が中心ではありますが、適切な効果・副作用モニタリングができる環境がなければ、投与はし難い薬です。薬がなければ仕方がないですが、ステロイドやNSAIDが手に入るようになりましたら、低用量のステロイド(プレドニゾロンでなるべく5 mg/日以下が望ましい)やNSAID(消化管潰瘍の既往がある方や高齢者ではプロトンポンプ阻害薬などを併用)で当面の痛みのコントロールをする方が安全かもしれません。もちろん、その後十分な環境が整えば、抗リウマチ薬を併用してステロイドとNSAIDは減量・中止を目指すことになります。皮膚科との連携私は大学病院で皮膚科医をしています。皮膚科でも膠原病の患者さんを診察することが多いです。膠原病は全身症状を合併することが多いため、治療はほぼ膠原病内科医にお任せしているのが現状です。皮膚科医として治療に参画できないのが非常にジレンマで、膠原病内科を勉強するために国内留学も考えたぐらいでした。膠原病内科医が皮膚科医に求める要素を教えてください。同じ疾患を違う専門家が診るのは非常に大事で、内科医の視点と皮膚科医の視点とは違うことがあります。例えば、臓器障害があるような例ではご指摘のように治療は内科が担当するかもしれませんが、皮膚科医の視点は内科医にとって非常に参考になりますので、病理所見も含めた皮膚所見のプロの視点を内科医にご教示いただければと存じます。もちろん、皮膚科の先生の内科での研修は膠原病内科の立場からは大歓迎です。併用についてメトトレキサート 使用時のステロイド NSAIDの併用について教えてください。メトトレキサート(MTX)は関節リウマチ(RA)の基本的な治療薬ですので、ステロイドやNSAIDと併用される可能性は高いと思います。まず、ステロイドとは直接の薬物相互作用は知られていませんが、共に免疫抑制作用がありますので、両者の併用は単独よりは感染症が増加する可能性が考えられます。ただ、実際には大きな問題は生じません。一方、NSAIDとMTXの併用は、特にMTXの高用量を使用する癌治療では相互作用が指摘されています。NSAIDは腎血流量を減少させますので、両者の併用によりMTXの腎排泄が遅れ、血中濃度が高くなって骨髄抑制などの副作用を合併しやすくなるからです。ただ、RAにおけるMTX療法は週1-2日だけ、しかも少量投与です。その用法・用量範囲内では、仮にNSAID常用量を連日投与したとしても、明らかなMTXの副作用増加はみられないとされています。そうではありますが、NSAIDは既にRA治療に必須の治療薬ではなく、症状の緩和にのみ使われる対症療法薬という概念になっています。仮にMTXで十分な効果が得られた場合、最初に減量・中止すべきはNSAIDであると考えて治療に当たるべきと思います。若年性関節リウマチと成長痛との見分け方について町医者をやっている者です。専門は内科医ですが、小さな町なので幅広い症状をみています。特に中学生ですが、「成長痛」を訴えてくることが多々あります。昨年、少し様子がおかしい子がいたので、県立病院のリウマチ専門医を紹介して診てもらったところ、若年性関節リウマチと診断されました。それ以来、関節痛を訴えてくる中学生には、念のため、朝のこわばりはないか?聞くようにはしていますが、他に診察時に気をつけてみておいた方が良いことはありますでしょうか?ご教示お願いします。若年性関節リウマチ(JRA)は、最近ではより広い概念である若年性特発性関節炎(JIA)と呼ばれるようになりました。JIAは臨床所見でいくつかの群に分類され、治療法や予後などが異なっています。成長痛などと異なる診察時の特徴は、やはり明らかな関節腫脹が数週間持続することでしょう。中には発熱などの全身症状の強く出る患児もいます。血液検査をすれば、赤沈値や血清CRP濃度の増加などの全身性炎症所見がみられます。それらの所見からJIAが疑われたら、早い時期に先生がされたようにご専門の小児科医に紹介されるのが宜しいかと存じます。なお、リウマトイド因子は陰性であることが多いのですが、陽性の患児もいますので、JIAか否かの診断には役立ちません。関節リウマチの治療とリハビリについて関節リウマチの治療とリハビリについて教えてください。症状によって個人差はあるかと思いますが、一般的に「週に何回くらい診察があるのか?」「週に何回くらいリハビリを行うのか?」を知りたいと思っております。基本的な質問で恐縮ですが、最近田舎でクリニックを始めたばかりなので……。患者に聞かれて困っています。(ずっと大学にいました。一歩外に出ると専門外は何も分からないことに今更気づきました。。お恥ずかしい限りです。)メトトレキサート(MTX)などの抗リウマチ薬を開始する場合は、私はまず2~4週毎の受診を患者に勧めます。もちろん、次の診察日前に何か副作用が疑われる症状を自覚したら、必ず予約外でも受診するようにも説明しています。その後症状が安定し、治療薬も変える必要がなくなったら、症状や薬によって若干違いますが1~3か月毎に診察しています。来院時には必ず採血や検尿で副作用や効果をモニタリングすることが重要で、我々の病院では診察前の採血および検尿結果をチェックしながら診察し、診察所見と検査結果に問題ないようなら治療を継続するようにしています。クリニックなどで当日の検査結果が得られない場合は診察のみで方針を決定するしかありませんが、その場合でも検査会社から例えば翌日検査結果が送られてきたら、なるべく早く内容をチェックし、好中球減少や肝機能障害などを調べる必要があります。心配な結果があれば患者に電話などで連絡し、臨時の受診をお勧めするなどの対策を取った方が安全です。リハビリについては決まった方法はありません。一般には自宅でのリウマチ体操をお勧めしていますが、Webなどで参照できますのでご確認ください。ここでは、公益財団法人日本リウマチ財団のホームページ (http://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/taisou/taisou.html) を紹介いたします。もちろん専用のリハビリ施設をお持ちでリハビリ指導を積極的にされている施設もあり、そこでは症状に応じて週1~5回の外来指導が行われていることが多いと思います。さらに、入院でリハビリ治療を積極的に行っている病院もございます。 早期リウマチのMMP-3抗CCP抗体、CARF高値でMMP-3正常の早期リウマチではまだ関節滑膜の変化が少ない時期と考えてよろしいでしょうか。血液検査値だけでは関節滑膜の状態を判断することはできません。まずは、早期でも変化があることがあるのでレントゲン検査で骨・軟骨変化を診るのが基本と思います。さらに最近では超音波、ときにMRIなどで形態的な変化を診ることにより、総合して滑膜や骨・軟骨の変化を診断すべきと思います。早期リウマチの治療若い女性(22歳)、朝のこわばり(これは1時間以上)、両手指の第2,3PIPに痛みあります。検査は抗CCP抗体陽性、MMP-3やCRPは軽度上昇。最初に行う治療を教えてください。まず関節症状が痛みだけではなく腫れがあるかどうかを診察で確認します。ご質問には罹病期間の記載がありませんが、症状が1週間以内でしたら、私ならNSAIDを投与して経過をみます。明らかな腫れが2週間以上続いているようでしたら、重症度にもよりますが、サラゾスルファピリジン(SASP)を試みることもあります。関節腫脹や疼痛がかなり強いようでしたら最初からメトトレキサート(MTX)を始めることもありますが、妊娠を希望されている方には使えませんので、特に22歳という若い患者ではその点は十分に聞く必要があります。なお、MTXの胎児毒性は妊娠前に3か月の休薬をすることで回避できると言われています。仮に、MTX治療を開始後に患者が妊娠を希望されたら、MTXを中止してもその後3か月は避妊するように指導します。総括RA治療薬は最近の進歩が著しいので、治療に困ったらなるべく早く専門医に相談された方が良いように思います。また、RAと鑑別すべき類縁疾患は少なくありません。その意味では、診断に迷う患者についても、早い時期に専門医に相談されることをお勧めします。教授 川合眞一先生「関節リウマチ治療にパラダイムシフトをもたらした生物学的製剤」

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βアミロイド42/40濃度が低いと、認知機能低下が促進

血漿中のβアミロイド42/40濃度が低い人は、高い人に比べ、認知機能の低下が促進することが明らかにされた。その傾向は、認知的予備力の低い人ほど強いことも示された。米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校精神科部門のKristine Yaffe氏らが、地域在住の高齢者997人について調べ明らかにしたもので、JAMA誌2011年1月19日号で発表した。βアミロイド42/40濃度と認知症発症との関連は知られているが、否定的な報告もあり、また認知症ではない高齢者における検討はほとんどされていなかった。βアミロイドβアミロイド42、42/40濃度と3MSスコアとの関連を検討Yaffe氏らは、1997~1998年に地域在住の高齢者997人について試験を開始し、2006~2007年まで10年間前向きに追跡した。被験者はメンフィス、テネシー、ピッツバーク(ペンシルベニア州)に住む70~79歳の黒人および白人の高齢者で「Health ABC Study」の登録者だった。試験開始時点の被験者の平均年齢は74.0歳、うち女性は550人(55.2%)だった。試験開始後、初回の追跡調査時点(中央値:53.4週後)で採血し保存していたサンプルを用い、血漿中のβアミロイド42とβアミロイド42/40を測定した。試験開始後1年、3年、5年、8年、10年の時点で、改定ミニメンタルステート検査(3MS)を行い認知能力の低下について分析した。βアミロイド42/40濃度の最低三分位範囲で、3MSスコア低下幅が有意に増大結果、βアミロイド42/40濃度が最も高い三分位範囲の群では、9年間の3MSスコアの低下幅は-3.60ポイント(95%信頼区間:-2.27~-4.73)だったのに対し、同濃度の最も低い三分位範囲の群では、同低下幅は-6.59ポイント(同:-5.21~-7.67)、中間の三分位範囲の群では-6.16ポイント(同:-4.92~-7.32)と、有意な関連が認められた(p<0.001)。この関連は、年齢や人種、教育程度、糖尿病、喫煙、アポリポ蛋白Ee4の有無で補正し、認知症の認められた72人を除いた後も、変わらなかった。しかし関連は、高校卒業者、6年制卒以上の教養がある、アポリポ蛋白Ee4対立遺伝子がない、といった認知的予備力の高い群では弱まった。たとえば、高校を卒業していない人の同スコア低下幅は、βアミロイド42/40の最も高い三分位範囲群が-4.45ポイントに対し、最も低い三分位範囲群は-8.94ポイントだったが、一方で高校卒業以上の学歴のある人の同スコア低下幅は、βアミロイド42/40の最も高い三分位範囲群が-2.88ポイントに対し、最も低い三分位範囲群は-4.60ポイントで格差はより小さかった(相互作用p=0.004)。教養の有無(p=0.005)、アポリポ蛋白Ee4対立遺伝子の有無(p=0.02)でも同様の関連が認められた。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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副院長 教授 加藤良二 先生「人を助けるために何かをしたい。その動機が医師の原点となる」

1952年9月25日生まれ。79年群馬大学医学部卒業。専門分野は消化器外科、呼吸器外科、外科免疫。平成21年東邦大学医療センター佐倉病院副院長就任。日本外科学会認定医・指導医、日本胸部外科学会認定医、日本消化器外科学会認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医であり、日本気管食道科学会理事、日本癌治療学会代議員、日本臨床外科学会評議員、日本肺癌学会評議員他。理想とするこれからの外科手術外科手術の習得は決して平易ではありません。人の身体にメスを入れても平常心でいられるまでに十数年はかかります。さらに、外科の手技を習熟するまでは、寝ても覚めても頭の中でシミュレーションを繰り返し、開腹して速やかに対処できるようになるまでは、十数年はかかるでしょう。それまでは、実は怖いのです。正直に言えば最初の1、2年は怖くてしょうがない。5年、6年と経験を積んで後輩を指導する立場になっても、恐怖感をすべて拭えるわけではなく、一つの臓器担当チームのチーフになったとしても怖いという感覚はあります。そのチーフたちを束ねられるようになって、ようやく一人前の外科医になれたかな、と実感するのではないでしょうか。外科は守備範囲の広い分野です。近年では臓器別に守備範囲が細分化されています。しかし、私はむしろ広くあるべきで、外科医は昔のように、一人でどの臓器でもこなせるレベルを目指してほしいと思います。最初から限られた分野だけで臨床トレーニングを行っていると、他分野の進歩についていけず、総合的な臨床力が育成されないことが問題となります。これからの医療は複合的な疾患を持つ高齢者の割合が増えるため、広い臨床的視野が求められます。当科では外科学全般を習熟した後、それぞれの専門分野で臨床・研究活動を行うことが最善と考えております。これが、当外科の最大の特徴です。呼吸器でも消化器でも、外科手術全般においてまず学ぶ。つまり、外科手術の分野においてすべての症例に対応できる医師の育成という日本でも珍しいシステムを構築しています。消化器でも心臓でも当病院の外科に来れば何でも対応できるようになると自負しています。これこそ私の目指す外科医像であり、端的に言えば無医村へ行っても一人で対応できる外科医なのです。私が目指している「患者さんに優しい手術」の具体的なイメージは、笑われるかもしれませんが心霊手術です。患部を撫でたらスーッと切れて、腫瘍だけを取り除いて、またスーッと撫でたら傷も何も残らない。荒唐無稽と思うかもしれませんが、切られる方としては理想です。痛くないのですから。だから「こんなのができたら患者さんの負担がなくていいな、理想だな」と思っていました。すると内視鏡手術が発達してきた。昔だったら30cmも切っていたのに、今では1から3cm程度で済んでしまうことも多い。回復も早く理想に近づいていますよね。映画の『ミクロの決死圏』(20世紀フォックス)では、外科医(この場合は脳外科医)が小さくなって人体に入り込んで治療してしまいます。これはすごい。患者さんにとっては理想の低侵襲手術です。現実の世界では、人は小さくなれませんが、カプセル型の内視鏡を飲み込ませたり、血管の中をカテーテルで進んだりと、映画の世界にどんどん近づいてきています。外科医は法の下に人を切ることができるのです。いかに痛みの少ない手術をするか、それを考えることが外科医の使命でもあるわけです。「あれはオカルトだ」とか「SF映画だからだ」などと馬鹿にしないで、実現したら患者さんのためになることは、常に理想として頭の中に置いておき、少しでもそれに近づける努力をしなければいけないと思っています。模倣とシミュレーションで手術を構築する若手医師には「いい手術だと思ったら、そっくりまねをしなさい」と指導しています。立ち位置からものの言い方まで、すべてその人になりきって覚える。上手いと思った先生の模倣をしろ、ということです。物まねが上手というのもひとつの才能で、早く上手になる秘訣でもあります。なぜならば、より具体的なイメージがつかみやすいからです。上手だと思った先生のイメージを描いて自分の中でシミュレーションし、実践する。実践した中で"なんかおかしいな"と感じたら、そこで修正することができるようになるのです。もしもイメージシュミレーションができなかったとしたら、手術中に何か問題が起きたときに頭の中が真っ白になって、瞬時の対応ができなくなります。こんな時、あの先生だったらどうするかな?と考えられることが大事なのです。だからこそいろいろな場面に立ち会うことが大事で、少しでも多くの手技を学んで、覚えてほしいです。たとえば、初めて虫垂炎の手術を任されたとして、そのシミュレーションが即座に描けなければ実際の手術を遂行するのは無理でしょう。もしも手術を任される場面があったとして、1時間の手術だったとしたら、5分以内に収まるようなシミュレーションをする。もちろん実際に始めると1時間かかりますけどね。(笑)今の若い医師ができないのは、教えてもらうことに慣れてしまっていて、想像力が働かない。現在の教育の弊害というか、勉強とは自分で興味があるから覚えよう、役に立つから覚えようという明確なモチベーションがあってこそ学びますが、今はさしたる動機もなく「さぁ、覚えますから教えてください」というスタンスなのです。学びに対するハングリーさがないのは残念ですね。では、どうしたらいいか?自身の動機付け。なぜ医師になろうと思ったのか?自分の持っている医師としての理想の姿。それを思い出してほしい。そこから始めなければならないと思います。医師になったということは、人のために何かしたい、何かしなくちゃいけない、と思ったはずです。その気持ちを大事にしてもらいたい。その上で人の役に立つためには自分は何をすべきなのかを考えるようにして欲しいです。習得したことはすべて伝播したいこれから私のなすべきことは、教育です。この先教授でいられるのは、あと7、8年。その間に自分の技術を伝えること。今まで私が培ってきたものを、瞬時にして伝えることができたらどんなにいいだろうか、と思います。若手には、気兼ねなくどんどん質問してきてほしいです。何でも教えます。先ほども触れましたが、よいと思ったことはどんどんまねて欲しいです。実は、教えている方も、若い人の手術を見ていて「あっ、こいつは俺のまねをしているな」ってわかった瞬間、すごく嬉しいものなのです。これまで私は、年間約300例、一時は約500例の手術をこなしてきました。それこそ首からお尻まで何でもやりました。消化器だけとか、肺だけとか区切りをつけずにやってきました。今年の正月も、腹腔鏡下虫垂切除術と大腸穿孔の手術をしました。腹腔鏡下虫垂切除術は1月1日、除夜の鐘を聞きながらの執刀でした。何も特別な疾患があって私が執刀したのではなく、当直が一番若い医師だったので「ちょうどいい機会だから直接指導できるな」と思ったのです。昼間のスケジュールに組み込まれた手術は、時間が限られていますが、この場合のようにイレギュラーですと急ぐ必要もないからじっくりと丁寧に指導できるのです。このような機会を得たときに「自分はラッキーだ」と後輩が思ってくれれば嬉しいですね。私達が若いときは、みんな進んで当直しました。多いときで26日、平均20日間くらいは医局に寝泊まりしていました。もう、下宿なんか引き払おうと思ったくらいでしたよ(笑)。たくさんの患者さんを診たい、その一心でした。もちろん毎晩患者さんが来るわけではないのですが、だからこそ毎晩でも当直したかった。昼間の手術なら新人は術野もまともに見られないような手伝いでしたが、夜なら重要な役割をさせてもらえたからです。そういう機会を少しでも得たいと思っていました。今の学生にもそんな気持ちを持ってほしいですね。だからといって無理はいけません。過労死したら元も子もありませんからね。これからも私は"人を助けるために仕事をしている"という初心を忘れない。そして私の理想とする医療を実現するために、常に自身を新陳代謝させて、よいと思ったことは何でも取り入れるように心がけています。大親友の死を期に決意した医師への道医師になろうと思ったきっかけは、小学校の低学年のときに読んだ野口英世の伝記でした。ただ、私が感銘したのは英世にではなく、彼の手を治した医師(現在の形成外科医?)でした。英世の母親は、自分がちょっと目を放した隙に大事な息子の手に大火傷を負わせてしまった。そのことに責任を感じ、悔やみます。そして、少しでも楽に手が使えるように……と願います。後に英世の恩人となる医師によって手の機能が回復し、英世の人生は大きく変わります。つまり、医学の力で手の機能が回復したことによって、その人の人生が大きく変化しただけでなく、母親の気持ちまでをも救えた医師に感動したのです。その事実に気付いたとき、私は医師になりたいと思いました。また、私の出身地である大分県国東半島では、当時風土病とまで言われるほど成人のT細胞白血病発症者が多い地域で、1学年で同級生が1人、2人と亡くなっていました。その頃の治療法は輸血しかなく、採血したばかりの血を直接患者さんに輸血していました。輸血された同級生が「温かい、温かいよ、良ちゃん、ありがとう」って力なく言うのです。その姿を見てますます医師になることへの使命感が高まりました。決して忘れることができないのは、高校生のときに喘息を患っていた大親友がいました。彼とは毎晩一緒に受験勉強をしていました。高校生最後の運動会に、私が応援団長で、彼が私のために太鼓を叩く役を買って出てくれました。そのおかげか、優勝して終えることができました。その夜、夕食時に彼の家族から電話があって「息子は、今日は具合が悪いから一緒に勉強できない」という伝言を受けたのです。1ヵ月前には民間療法の断食道場に行っていて「調子がよくなった」と言っていた矢先だったのですが、運動会の疲れが出たのでしょうか。脱水から来る喘息の重積発作を起こしてその日のうちに亡くなりました。悔しかった。当時の自分は何もできなくてね。この時、医師になると決心しました。深刻な外科医不足と医療の安全管理の問題点深刻なのは外科医不足であること。今は産婦人科医や小児科医の減少が社会問題となっていますが、実は一番減少率が高いのは18%と報告された外科医です。日本外科学会の会員数は約3万5千人で、現役の医師が多く活躍していることから、今まで減少率はあまり問題視されていませんでした。しかし、あと10年もすれば外科医の多い私たちの世代が引退となるので、外科医不足になるのは明らかです。これは由々しき問題です。もしこの先、私に手術が必要になったら誰にやってもらうのだろうと思うと、自分にとっても切実な問題です。人気不足の原因は3K (きつい、汚い、危険)にあるといわれています。以前は、3Kを上回るステイタスがありました。外科医はキング・オブ・ドクターと呼ばれることもありましたが、現在はどうでしょう? 外科は平均的にみて、裁判で訴えられるリスクが比較的高いというデータが検証されています。 けれども、医療ほど不確かなものはない。先進医療ほど不確かです。病院へ行けば皆助かると思っているけれども、病院は亡くなるところでもあるのです。手術がうまくいったからといって助かるとは限らないのです。では、その保障は誰がするのかというと、これは難しい問題です。たとえば、航空機に乗って事故が起きれば保険がおりますが、病気にはこのような事故に対する補償制度はありません。医療保険や医師賠償制度は別として、医療過誤や過失でなく合併症や偶発症によって亡くなった場合の補償がありません。家族あるいは遺族が無念さや怒りのやり場を病院や医療関係者に向けているのが現状です。それはマスコミの煽りによるものも少なくないでしょう。患者さんもしくはそのご家族に何かしてあげたいと思っても、個人の力ではどうしようもありません。そこで、もし過失もないのに招いてしまう不幸な結果に対して何か補填する制度があれば、訴訟も少なくなると思います。その怒りや憤り、悲しみの矛先が、世界に誇れる日本の医療を支えている医師をはじめとした医療従事者に向けられているのは残念です。医療保険制度や政策を充実させて、少しでも患者さん本人や家族の痛みを和らげることができればと思っています。非常に不確かな医療であるからこそ無過失責任補償制度というのも考えるべき一つの方向であると思います。若い医師が訴訟を恐れて萎縮したり、本来の医療ができなくなるのは嘆かわしいことであり、患者さんやその家族が納得のいく方法を考えなければ、と思っています。これは、これからの医療にとって重大かつ深刻な問題です。だからこそ、最善の道を探るのも私自身の大きな課題と考えております。質問と回答を公開中!

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教授 白井厚治先生「「CAVI」千葉県・佐倉から世界へ 抗動脈硬化の治療戦略」

東邦大学医療センター佐倉病院内科学講座の教授で、前院長。医局のモットーは総合力と専門性を両方備えた医師育成。一人でも多くを救うこと。加えて先端医療の開発をモットーにしている。最近では、血管機能検査CAVIの開発に参画し、国内から海外にも発信。肥満症治療については脂肪細胞、脂質代謝の基礎研究から心理学まで動員して新しい治療システムを構築中。動脈硬化の分野で新しい治療体制の扉を開く動脈硬化は、地味な分野ですが、ご存知のとおり、脳梗塞、心不全、さらには腎不全をもたらし大きく個人のQOLを低下させ、また社会的損失も大きい疾患です。これに対し、病変動脈、静脈の直接的治療を循環器グループが担う一方、「動脈」が水道管でなく、生きた機能を持った臓器とし見、それに細胞生物学と代謝学を応用して治療・予防法を打ち立てるというのが夢でした。実は、癌は最近の治療学の進歩は著しいのを目の当たりあたりにしますが、30年前には不治の印象が強く、生命現象そのものの解明が必要で、とても自分の能力では歯が立たないと思い避けたのも事実です。動脈硬化なら多少とも代謝学的側面から治療できるのではないかと思ったりもしました。これまで、副院長6年、院長3年と病院の経営面にも携わりましたが、医療現場は人間が担うものであり、かつ科学性を保って運営されるべきもので、根本原則は、病気を見ることと変わらないと思いました。みんなして誠意を尽くし、精一杯がんばれば、経営のほうが、なんだかんだといっても人の作った制度の運用ですから、患者さんがいる限り、道は開けると思います。しかし、対疾病への取り組みは、神が創った摂理と破綻への挑戦ですから、数段難しいと思います。でも、全身全霊、日々、改革、改良に向けやり続けるのが、医師の誠意だと思います。それには、効率よくみんなが取り組めるセンター方式が必要と、糖尿病・内分泌・代謝センターを9年前に立ち上げました。場所、人の問題で、思い立って3年ほどかかりましたが、皆さんの協力でできました。そのころから、病棟と外来が一体となった継続看護治療システムも導入され、看護師も病棟での看護結果が外来でどのように効果が出ているのか確認しあい、フィードバックをかけるシステムが導入、大きかったのは、患者さん全員に、「ヘルスケアファイル」という手書きのファイルをお渡しし、代謝要因の変化と日常生活管理がどのように結びつくかをグラフで表すシステムを導入したことです。患者と医師のみでなく、家族にも分り、医療スタッフも採血者、受付、看護師、栄養士も一目瞭然に個々の病態が把握でき、互いにコミュニケーションが取れやすくなったのがよかったです。若い研修医にとっても数年の治療経過を見れば、病態がわかり最大の教科書にもなっています。診療体制を分りやすく、すっきり整えることは、生活習慣病と呼ばれる一連の疾患にとても有用と思います。若い医師も情熱を持った人たちが幸運にも集まり、地に足をつけ、真に役立つ研究を進めてくれたのも、推進力になってくれました。動脈硬化発生機序の解明とCAVIの開発研究学会のマニュアル、ガイドラインは大切ですが、大学病院の使命はその先を見つめることにあります。その眼は、字づらで覚えたことではなく、自然との対話、すなわち研究の基盤なくして開かれないと思います。ささやかながら病理、細胞培養実験から、動脈硬化とコレステロールの関係は直接ではなく、コレステロール自身が酸化され、オキシステロールになると強力な組織障害性をもち、慢性炎症が引きおこすとしました。これに基づき、強力な抗酸化作用を持つ脂質低下剤プロブコール投与による糖尿病性腎症の抑制効果を見いだしました。結局、末期腎硬化症は動脈硬化と同じような機序で起こると考えたからです。また、動脈硬化の臨床研究には、簡便で経時的に測定できる指標が必要ですが、これまで必ずしも十分なものがなかったわけです。これに対して、血管弾性を直接反映するCAVIという検査法の開発に携わったところ、これまで見えなかった部分がどんどん見えるようになりました。これは、内科の循環器、代謝チーム、それに生理機能検査部が一体となり、精力的に仕事をしてきた結果です。循環動態を把握するうえで、血管抵抗を反映することがわかり、これは血圧計に匹敵する意味を持つわけで、まだまだその妥当性をさまざまな角度から検証する必要がありましたが、循環器、代謝領域の疾患や、薬物治療成績が英文論文となり、世界に向けて発信し始めたところです。今後、日常診療の中から、動脈硬化治療が見出される可能性もあり、楽しみです。肥満・メタボリックシンドロームへの低糖質食、フォーミュラー食の応用を中心に、チーム医療体制を確立動脈硬化診療は診断に加え、予防と治療が究極目標ですが、動脈硬化の主な原因として肥満の意味は大きく、糖尿病、高血圧、脂質異常を伴い、所謂メタボリックシンドロームを引き起こします。すでに当院では15年前から肥満への取り組みをチームで始めており、治療として低糖質食、その極みとして安全で効果のあるフォーミュラー食を実施しています。今、欧米では低糖質がよいとの論文が出始めましたが、当院では、入院時にも低糖質食を用いています。またフォーミュラー食は必須アミノ酸を含むたんぱく質とビタミン、ミネラルをパウダーにしたものを水で溶かして、飲んでもらうものです。それによる減量効果特に、内臓脂肪の減少度が高く、それに伴い代謝改善度も一般通常食より効果があり、そのメカニズムは、動物実験でも検証中です。脂肪細胞自身のインスリン感受性関連分子の発現が上がっていることが確認されました。研究面では脂肪細胞から分泌されるサイトカイン、分子、酵素、さらに脂肪細胞分化に加えて、「人」の行動様式にも興味を持ち、毎月、オベシテイカンファランスを開き、内科医、栄養士、看護師は無論のこと、精神科医、臨床心理士も加わり、症例への総合的アプローチを試みています。肥満が解消できない理由に、ハイラムダー型と呼ばれるパーソナリテイを持つ人が肥満患者さんに多いことも見出されました。また、入院中に、何らかの振り返りができ、周囲との関係も客観化できるようになると、長期予後がよいことも見出しており、メンタルサポートは必須と思われます。このような成功例に遭遇すると、チーム全体が活気づくのも不思議です。これから、これらチームのバックアップで肥満外科治療も始まります。患者さんデータを集約したヘルスケアファイルで真の地域連携の夢を糖尿病を中心とした生活習慣病は、結局、本人の自己努力に大きく依存します。人は決して命令で動くものでなく、自分で納得、わかって初めて真の治療が始まります。その際、さまざまな情報を錯綜させないために、1冊のノートをつくり、なるべくグラフ化、マンガで示す方式で、病態理解をはかっています。これをヘルスケアファイルと呼んでいます。きちんとしたデータの推移をみて、各種職域の人が適切なアドバイスができます。また、もっと重要なことは、患者本人が自分の経過を一覧すると、そこから、自分の特性が分かるというものです。医療者自身にも勉強になり、多職種の方々がのぞきこむことによって、患者さん個々の蓄積データに基づき、最適なアドバイスができるというメリットがあります。これは、病院内の代謝科、循環器、神経内科などにとどまらず、眼科とも共通に使えますが、さらに、これで院外の施設とも、真に患者さん中心の医療ができます。できれば、全国国民全員が持つべきで、これで、医療費削減、効率化、医学教育もでき、これを如何に全国的に広めてゆくか楽しみ考えているところです。若い医師へのメッセージ:自分の医学を打ちたてる現在、各種疾患は、学会がガイドラインなどを決め、医療の標準化が進み、それはそれで、一定のレベルにまであげることでは意味があるでしょう。現場に立てば、ほとんどがそれを基礎に幾つかのバリアンスがあり、物足りないはずです。確かに一杯本もあり、インターネットでも知識はふんだんに得られます。でも、結局医師は、自分の医学を自分で打ち立てるのが原則でしょう。決して独断に走れというのではなく、ささやかでも、自分のデータをまとめ、自分として言えるファイルを作ることです。それは、先輩の先生から呟きとしておそわりました、教えてくれるのを待っていたって本当のところは教えられないし、頭を下げても教えてもらえることは少なく、自分で、縦軸、横軸を引き、そこにプロットさせ因果関係を探れといわれましたが、その通りです。ささやかでも、自分の経験症例をまとめておき、そこから何が発信できるか日夜思考錯誤してください。それが、許される余裕と良き指導者がいるところで、研修はすべきでしょうし、後期研修もそんな環境で自己研鑽することが大切でしょう。専門分野の選考は、社会的にニーズが高いところに向かうべきで、無論雰囲気も大切ですが、はやり、楽というよりは、皆が困っているところに入り込こむ勇気が大切でしょう。そこで、頑張れば、面白く楽しく医師生活をやって行けるでしょう。今後も、佐倉病院でなければ、できないことに向けて頑張ってまいります。お待ちしています。質問と回答を公開中!

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教授 白井厚治先生の答え

最近のゼロカロリージュースについて0キロカロリーのコーラなどが最近は多く売られてますが、代謝内分泌学的には糖尿病の方に自信を持って勧められているのでしょうか?あくまで噂に過ぎないのですが、ああいうゼロカロリー飲料そのものには確かにカロリーがなくても、一緒に他の食事を摂った時に他の糖質の吸収を促進する作用があると聞きました。。。。PS:そもそも、人工甘味料のアスパルテームが身体に良いかどうかわかりませんし、炭酸飲料は身体に悪いのかもしれませんが。。。実際に、カロリーゼロ表示の飲料物を飲んでもらい、30分から120分まで、採血したところ、血糖の増加はほとんど見られないものもありましたが、なかにはあがるものもあり、原因は、カロリーゼロ表示は、糖質0.5%以下で使っているとのことでした。ですから、成分表示で、糖分ゼロと明記しているものは大丈夫でしょうが、それ以外のものは、大量飲めば、血糖は上がる可能性があります。アスパルテームについては、アミノ酸摂取として評価してよいと思われます。極端に、多用しなければ問題ないと思います。高感度CRPについて高感度CRPは動脈硬化の一つのいい指標でしょうが、上気道炎、歯肉炎などの炎症にても上昇すると理解しています。そうすると、風邪の流行している季節などでは動脈硬化の判定ができずらくなるということはないでしょうか?その通りで、CRPは体内でほかに目立った炎症がない場合にのみ、動脈硬化(炎症性反応としての)の指標として意味がありますが、特異性は、高感度CRPを用いてもありません。大規模スタデイで、ある治療の効果などをみるにはよいでしょう。しかし、日常診療で、個々の例に当てはめ、それのみで、あなたは動脈硬化があります、ありませんとの判定に用いるのは、困難と思います。逆に、動脈硬化のためと決め込んで、ほかの炎症、癌などの初期を見逃す可能性もあります。個人には参考にする程度でよいのではないでしょうか。破壊性甲状腺炎の診断動悸、全身倦怠、微熱、軽い咽頭痛の症状で他院受診。FT3 10.4,FT4 4.6 TSH感度以下、 抗体陰性(TPO、TG、TRAb,TSAb)でCRP 1前後、血沈正常からやや亢進、甲状腺エコーでまだら様low echo部位のある患者さんが当院紹介となりました。ヨードuptake 1%以下で破壊性甲状腺炎と診断しましたが、一貫して頸部痛はありません。頸部痛のない亜急性甲状腺炎と判断するのか、咽頭炎併発の無痛性甲状腺炎と迷いました。これでTPO抗体やTG抗体が陽性であればさらに橋本病の急性増悪とも迷うところです。頸部痛のない亜急性甲状腺炎という病態はあると考えて宜しいのでしょうか。また今回のケースではありませんが橋本病の抗体が陽性の場合、無痛性甲状腺炎と橋本病の急性増悪との鑑別についてもご教授いただければ幸いです。甲状腺機能亢進でTSAb、TRAb陰性、さらにヨードuptakeの低下という所見は破壊性甲状腺炎に矛盾しません。破壊性甲状腺炎には、亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎があります。亜急性甲状腺炎は炎症反応があり、low echo部位を認めるととも頸部痛はほぼ必発です。本例では頸部痛なしなので、亜急性甲状腺炎とは言えないでしょう。従って、無痛性甲状腺炎の可能性が強くなります。無痛性甲状腺炎は、多くは橋本病を基盤とした疾患とされており、本例がTPO、TGの抗体が陰性であることから、合致しません。まだ特定されていませんが何らかのウィルスによる甲状腺炎かもしれません。実際、本症例をどうするかですが、私なら経過観察が重要と考えます。ホルモン値を追跡し、下がればそれでよく、もし、炎症反応が強くなったり、頸部痛が出現してきたりすれば、亜急性甲状腺炎と考えて、ステロイド投与も考慮していくべきでしょう (当面はNSAIDでも十分)。甲状腺機能亢進症が長引くようであれば、甲状腺中毒症状に応じて、メルカゾールを適量処方、経過観察します。術前術後の糖尿病コントロール経口糖尿病薬は手術前後は禁忌となっています。手術前後とはどれくらいの期間をいうのでしょうか。その間はインシュリンでコントロールすることになりますが基本的なやりかたをご教示ください。手術の種類、術後の食事摂取の状況からも、ことなり、一律にはいえないと思います。一般に消化管手術は、吸収が不安定なこともあり、最低前1日、後7日間くらいは、血糖測定下でのインスリン治療が望まれます。SU剤を中止してのインスリン量の決定は、個々異なり、試行錯誤ですが、グリペングラマイド(2.5mg)3T/日では、およそ、インスリン必要量は、8-12単位くらいではないでしょうか。当院では、毎食前血糖測定後、血糖(mg/dl)100-120、  120-150、150-200、200-250、250-300 それぞれ、インスリン(レギュラー)2-4、4-6、6-8、8-10、10-12単位打つことを目安にしています。大学病院に足りないもの先生が大学病院の経営のみならず、臨床の現場でもご活躍されている様子、記事で拝見しました。大学病院の上から下までご存知の先生にお聞きしたいことがあります。「今、大学病院に足りないもの」を一つ挙げるとしたら、なんでしょうか?今や大学病院も収入につながる診療に振り回され、臨床研究の機会がどんどん減っているような感があります。周りの若手を見ても、診療に疲れて、「大学病院でバリバリ研究するぞ!」という気概を感じることができません。魅力ある大学病院を作るために何が必要なのか?何が足りないのか、日々悩んでいる状況です。ご教授頂けると幸いです。こんな時代の今こそなぜ、大学病院にいるのか、どのような姿勢をとるのか、原点が問われていると思います。それというのも、いろいろ言われていますが、医療の原点である患者さんの満足度(医療レベルもふくめ)を中心に、医師をきちんと配備し、グループ、科の壁を乗り越え、互いに手を出し合ってゆけば、大学病院は採算的にやってゆけるというのが実感でした。ただそこには、多くの若い医師たちがいるということ、即ち、採算的にみると、薄給でがんばってくれている若手医師がいるからこと成り立つことを忘れてはなりません。それに対して、彼らが大学病院にいる存在意義を見出すには、スタッフが魅力的な医療技能を提示でき、全身全霊をかけて患者さんを診ているすばらしい姿をみせること。若手医師は今の医療を学ぶのみでなく、医療を開拓していくメンバーの1人として、テーマを持ち未解決なものを解決する術を身につけることの充実感とそれによる自信が必要と思います。従って、大学スタッフの責任は重大で(それだけやりがいがあるという意味です)、面白い研究テーマを見つけ、その解決を目指してあらゆる手段を用い(基礎、臨床研究)、しかもそれを楽しみながらやっている姿勢を見せ続けることです。そして、病院の業務に追われ疲れているように見えた時こそ、それらを吹き飛ばす面白い研究テーマを突きつけるべきです。マンネリと疲労から脱出させる最良の方法となります。先生のようなやる気のある上級医師は、遠慮せず、怖がらず若手医師に語りかける続けることでしょう。今の医学教育は研究の面白さ楽しさを感じ取るレセプターを育成していませんから、苦労しますが、でも、わかってくれる日が必ず来ると思います。CAVIの開発についてCAVIにはいつもお世話になっています。お恥ずかしい話、先生が開発に携わっていたこと、知りませんでした。このような新しい技術や検査機械の開発はどのように始まり、進行していくものなのでしょうか?また、このように周りを上手く巻き込んでいく時のポイント、秘訣などありましたらご教授頂きたいです。宜しくお願いします。CAVIは、今次々と新しい事実が見出されています。大切なことは、若い先生方に興味を持ってもらえ、いったん途絶えていた血管機能学が代謝学と連携して再度面白くなり始めたことです。CAVIと巡り合ったいきさつですが、たまたま、開発初期に相談をうけたわけで、私が発想し持ち込んだわけではありません。ただ、血管機能については興味をもち30年前から大動脈脈波速度(長谷川法=血圧補正法)を毎年透析患者さんで10数年にわたり測定していました。そこでPWVの限界と可能性を私なりに理解していたつもりです。今回CAVIの初期のデータとりをする中で、計算式決定まで多少紆余曲折がありましたが、バイオメカニクスの科学と臨床成績から現在の式が最終決定され、以後広い臨床評価が始まりました。そこには、長年血管機能解析に興味を持ち続け誠実にデータを蓄積分析してくれていた施設と人がいたこと、会社も、科学性と臨床データ両面を尊重し互いに納得のいくまで検討できたこと、また脈波感知と分析に高度の技術を発揮した優秀なスタッフがいたことが幸運だったと思います。加えて、全国の大御所というよりは若手研究者の方がCAVIに素直に興味をもってくれ、いわゆる大学の研究室よりは、一般病院で、素養のある先生方が先行して出された研究が多く、現場で開拓心旺盛な医師の存在が大きく浮かび上がりました。新しい世界を開くのは情熱ある若手医師とつくづく思いました。無理に誰かを巻き込もうとしたこともなく、CAVIそのものの原理と測定の安定性が最大の牽引力であったと思います。でもまだまだ、これから多くを検証する必要があります。佐倉病院でないとできないこととある病院で研修医やっている者です。先生の記事を興味深く読ませて頂きました。文末にある「佐倉病院でないとできないことに向けて頑張っていく」という言葉が印象的です。記事を読んでいると、佐倉病院さんはとてもチームワークが良く、ドクターもコメディカルも同じ目標に向かって猛進しているような印象を受けました。(先生のところだけかもしれませんが...。)「佐倉病院にしかできないこと」というのは、そのように「チームワークが良い病院でしかできないこと」なのでしょうか?それともまた何か他とは違う特徴が佐倉病院さんにはあるのでしょうか?基礎も臨床もしっかり行い、しかも全て患者さんのためになっている様子に感銘を受けました。ご回答宜しくお願いします。どこの場にいても、そこを、地球上で一番すばらしいところにしてやろうという気持ちが大切です。恵まれてすべてが整っているところほど、これからの人にとってつまらない場所はないと思います。とにかく、その場での問題点を探し、皆が一番困っているところを見つけ出し、その解決に向けて、できるとところを一歩一歩解決してゆく姿勢を評価、支援しあえる環境が佐倉病院にはあるということです。内科も、外科医に負けないような患者さんに感謝される治療学を確立しようと、研究テーマの根幹は、酸化、再生、免疫制御、栄養の4本柱で、おのおの磨いているところです。たとえば、呼吸器は抗酸化療法で間質性肺炎に挑戦、代謝は、肥満治療を分子から栄養、こころの問題と多面的に捉える治療、特に肥満外科治療が開始されましたがその術前術後のフォロー、フォーミュラー食(低エネルギー低糖質、高たんぱく食)の応用と基礎、糖尿病腎症に対するプロブコールを用いた抗酸化療法で透析療法移行抑制試験、循環器は、インターベンションに加えて、これから、難治性心不全に対する鹿児島大鄭教授の開発した和温療法実施と評価、睡眠時無呼吸と不安定狭心症の関係をみつけその治療システムの確立、消化器は、炎症性腸疾患のメッカとして、顆粒球除去療法、レミケード療法、神経内科は、排尿障害を中心に、パーキンソン病の深部脳刺激治療のバックアップ、再生医療も狙っています。研究は、各グループ専門を超えて互いに連携しています。原則として、できれば自然の法則性を体感するため、医師は基礎研究もする機会を経験してもらいたいものです。研究開発部の協力のもとに細胞培養、酵素学、遺伝子実験をできる体制を敷いています。要するに、病気を多面的にいくつかの独自の視点をもって診、医療を開拓してゆける人の育成がもっとも大切と考え、それには、チーム医療、他コメヂィカルとも力を合わせ、初めてできることと考えています。理想の地域連携とは先生がお考えになる「理想の地域連携」の姿とはどんなものでしょうか?また、その理想の姿になれない、理想の姿になるのを阻んでいる障害はなんでしょうか?(実現されていたら申し訳ないです。)現在、私も地域連携について勉強はしているものの、なかなか思うような形にできません。障害が多すぎて、「理想的」どころが「現実的」な連携フローにもなっていません。宜しくお願いします。地域となるとさまざまな価値観の人がおり、同じ言葉でも受け取り方が違ったり、利益配分に問題が出たりで、そう簡単に理想的な地域連携ができるわけではありません。しかし、今の医療は、個々の医療人が隔離状態で医療行為を行えるほど甘くなく、互いに、助け合って連携せざるをえないと思います。でも問題は、ただ患者さんを送りあえば医療連携になるかといえばそうでもなく、問題は患者さんも含めて、互いにわかりあい納得できることが大切で、それには情報の整理集約が必須です。私どもは、生活習慣病を中心としたヘルスケアファイルと呼ばれるノートを患者さん全員にお渡ししています。そこには、動脈硬化リスク因子、標準体重、BMI、臓器障害の有無、程度、さらに主要な検査値はグラフで提示するシステムを用いています。これで、関わる医師は無論、クラークさん、看護師さんも経過が一目瞭然。するとアドバイスも適切。また家族もわかり、応援しやすくなります。これを地域に広げたいというのが私どもの夢です。ただこのファイルは、血圧、糖尿、脂質、尿酸、体重、一般検査を含んでおり、全部網羅していると思います。わがままかもしれませんが、これ一冊にしていただきたいのです。一般には、00手帳が3つも5つももっておられる方もいますね。でもなんだかわからないというのが実情です。大人版、母子手帳を作るべきだと思います。チームワーク先生、チームをまとめ上げるために必要なものはなんでしょうか?チームワークというと「みんな仲良く」というイメージがありますが、決してそうではないと思います。きっと先生は、今までのご苦労の中から「これが大事!」というもの発見されていると思います。それを教えてください。宜しくお願いします。リーダーは、今自分らの分野で何が問題で、それを解決するために、どう力を互いに出し解決するかを提言し続けること。 即ち、小さなグループミーチングでも、プロジェクトを提示し、その成果がささやかでも出たら皆で確認し、面白がること。プロジェクトは、参加者全員が順に一つずつ持つように絶えず心がけていると、みんなに参加意識と存在感さらい自信が生まれます。すると、とたんに楽しく動き始めます。低糖質食私も低糖質食でメタボを脱却したものですが、抵糖質食の心血管病変に対してrisk reductionあるのでしょうか?食事の内容によっても大きく変化するのでしょうか?低糖質、高蛋白食が減量に効果があるとともに、血圧、血糖、脂質異常などの冠動脈リスク因子を減らすことは、海外のスタデイでも、ほぼ一致して報告されています。インスリン抵抗性解除作用と思います。ただし長期(1年)になると元に戻るとの報告もあり、それを鵜呑みに意味がないという人もいます。しかしその食事調査結果をみると、実際の摂取成分がもとに戻っており、実はそう長くは自己調整を続けられなかたというのが実態で、低糖質、高蛋白食は長期になると効果がなくなるというものではないわけです。御質問の「では実際、心血管イベントを減らせたか」はもっとも重要な点ですが、上述のごとく、通常食で成分調整を長年にわたり継続すること自体がほとんど不可能なため、年余にわたる低糖質、高蛋白食の冠動脈疾患の発生を抑えるかどうかの研究自体ができないのです。本当は、このような基本となる栄養組成の研究こそ、国が、コンプライアンスを保障できる食事の宅配便制度などを利用し、長期にわたる調査を企画運営すべきです。そこにこそ研究費をつぎ込むべきです。薬物のようにメーカー主導のエビデンスベーストメデイシンは、この分野では行われることはないでしょう。現在、ある程度コンプライアンスをよくして低糖質、高蛋白食の効果を見る方法とすれば、フォーミュラ食を一日一回用いるなどの方法が考えられます。また、長期のイベントの発生調査を、より短期に予測しうる方法があれば、即ち、動脈硬化のよいサロゲートマーカーがあれば早期に結論が出せるかもしれません。それには、新しい動脈硬化指標CAVIが使えるかもしれないとの淡い期待を、持っています。教授 白井厚治先生「「CAVI」千葉県・佐倉から世界へ 抗動脈硬化の治療戦略」

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豚インフルについて、研修医の皆さんへ -神戸大学 岩田健太郎先生より

神戸大学感染症内科の岩田健太郎先生より、今回の豚インフルエンザに関して、ご自身が2001年の炭疽菌騒ぎの際にNYで2004年には北京でSARSに関わった医者として研修医の皆さんに流された提案を先生のご好意により掲載させていただきました。 豚インフルについて、研修医の皆さんへ まず、毎日の診療を大切にしてください。呼吸器症状の有無を確認し、ないときに安易に「上気道炎」と診断せず、旅行歴、シックコンタクト、動物暴露歴など問診を充分に聴取してください。患者さんが言わない、ということはその事実がない、という意味ではありません。せきをしていますか?と聞かなければ、せきをしているとは言わないかも知れません。原因不明の発熱であれば、必ず血液培養を検討してください。バイタルサインを大切にしてください。バイタルサインの重要度は重要な順番に、血圧、脈拍、呼吸数、(第五のバイタル)酸素飽和度、そして、体温です。極端な低体温などはまずいですが、発熱患者で大切なのは体温「以外」のバイタルサインと意識状態であることは認識してください。発症のオンセット、潜伏期など、時間の感覚には鋭敏になってください。要するに、ブタインフルエンザ診療のポイントは普段の診療の延長線上にしかありません。ほとんど特別なものはないことを理解してください。上記の診療は診療所、大学病院、どこのセッティングでも可能です。大抵の感染症診療は、大抵のセッティングで可能なのです。 自分の身を護ってください。とくに初診患者では外科用マスクの着用をお奨めします。患者の診察前とあとで、ちゃんと手を洗っていますか。呼吸器検体を採取するなら採痰ブースが理想的ですが、理想的な環境がないからといって嘆く必要は少しもありません。「うちには○○がない」と何百万遍となえても嘆いても、物事は一つも前に進みません。「うちには○○がないので、代わりに何が出来るだろう」と考えてください。考えても思いつかなかったら、そこで思考停止に陥るのではなく、分かっていそうな上の先生に相談してください。いつだって相談することは大切なのです。診察室で痰を採取するなら、部屋の外に出て患者さんだけにしてあげるのもいいかもしれません。日常診療でも、とくに女性の患者は人前で痰なんて出せないものです。呼吸器検体を扱うとき、気管内挿管時などはゴーグル、マスク(できればN95)、ガウン、手袋が必要です。採血時やラインを取るときも手袋をしたほうがよいでしょう。こういうことは豚インフルに関わらず、ほとんどすべての患者さんに通用する策に過ぎません。繰り返しますが、日常診療をまっとうにやることが最強の豚インフル対策です。 あなたが不安に思っているときは、それ以上に周りはもっと不安かも知れません。自分の不安は5秒間だけ棚上げにして、まずは周りの不安に対応してあげてください。豚インフルのリスクは、少なくとも僕たちが今知っている限り、かつて遭遇した感染症のリスクをむちゃくちゃに逸脱しているわけではありません。北京にいたときは、在住日本人がSARSのリスクにおののいてパニックに陥りましたが、実際にはそれよりもはるかに死亡者の多かった交通事故には全く無頓着でした。ぼくたちはリスクをまっとうに見つめる訓練を受けておらず、しばしばリスクを歪めて捕らえてしまいます。普段の診療をちゃんとやっているのなら、豚インフルのリスクに不安を感じるのはいいとしても、パニックになる必要はありません。 今分かっていることでベストを尽くしてください。分からないことはたくさんあります。なぜメキシコ?なぜメキシコでは死亡率が高いの?これからパンデミックになるの?分かりません。今、世界のどの専門家に訊いても分かりません。時間と気分に余裕のあるときにはこのような疑問に思考をめぐらせるのも楽しい知的遊戯ですが、現場でどがちゃかしているときは、時間の無駄以外の何者でもありません。知者と愚者を分けるのは、知識の多寡ではなく、自分が知らないこと、現時点ではわかり得ないこととそうでないものを峻別できるか否かにかかっています。そして、分からないことには素直に「分かりません」というのが誠実でまっとうな回答なのです。 情報は一所懸命収集してください。でも、情報には「中腰」で対峙しましょう。炭疽菌事件では、米国CDCが「過去のデータ」を参照して郵便局員に封をした郵便物から炭疽感染はない。いつもどおり仕事をしなさい」と言いました。それは間違いで、郵便局員の患者・死者がでてしまいました。未曾有の出来事では、過去のデータは参考になりますが、すがりつくほどの価値はありません。「最新の」情報の多くはガセネタです。ガセネタだったことにむかつくのではなく、こういうときはガセネタが出やすいものである、と腹をくくってしまうのが一番です。他者を変えるのと、自分が変わるのでは、後者が圧倒的にらくちんです。 自らの不安を否定する必要はありません。臆病なこともOKです。ぼくが北京で発熱患者を診療するとき、本当はこわくてこわくて嫌で嫌で仕方がありませんでした。危険に対してなんのためらいもなく飛び込んでいくのは、ノミが人を咬みに行くような蛮行で、それを「勇気」とは呼びません。勇気とは恐怖を認識しつつ、その恐怖に震えおののきながら、それでも歯を食いしばってリスクと対峙する態度を言います。従って勇気とは臆病者特有の属性で、リスクフリーの強者は、定義からして勇気を持ち得ません。 チームを大切にしてください。チーム医療とは、ただ集団で仕事をすることではありません。今の自分がチームの中でどのような立ち位置にあるのか考えてみてください。自分がチームに何が出来るか、考えてください。考えて分からなければ、チームリーダーに訊くのが大切です。自分が自分が、ではなく、チームのために自分がどこまで役に立てるか考えてください。タミフルをだれにどのくらい処方するかは、その施設でちゃんと決めておきましょう。「俺だけに適用されるルール」を作らないことがチーム医療では大切です。我を抑えて、チームのためにこころを尽くせば、チームのみんなもあなたのためにこころを尽くしてくれます。あなたに求められているのは、不眠不休でぶっ倒れるまで働き続ける勇者になることではなく、適度に休養を取って「ぶったおれない」ことなのです。それをチームは望んでいるのです。 ぼくは、大切な研修医の皆さんが安全に確実に着実に、この問題を乗り越えてくれることを、こころから祈っています。 2009年4月28日 神戸大学感染症内科 岩田健太郎 

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16-17歳の献血は合併症リスクが高い

米国では輸血や製剤用の血液需要増加を背景に、献血年齢の引き下げを求める動きが高まっているが、「若年」「初回献血」は合併症のリスクが高いことが知られている。このため米国赤十字社のAnne F. Eder氏らが、16-17歳の献血者の合併症リスクを調査。「献血リスクは年長者より高く、ドナーの安全に対する適切な対策が必要」と報告した。JAMA誌2008年5月21日号より。巡回採血車で献血の高校生と18歳以上を比較米国赤十字社による若年者(16-17歳)の献血量は、すでに全献血量の約8%を占め、各地の高校を定期的に回る採血車で献血する若者のうち、16-17歳の提供者は80%に上る。Eder氏らの調査は、採血車を運行する米国内9ヵ所の地方血液センターから、標準的な採血手順と定義、報告様式に基づくデータを求め、16-17歳で全血献血した者の合併症を、年長者と比較して評価した。対象は、2006年に米国赤十字社が9センターで採血した全血献血者で、16-17歳が14万5,678例、18-19歳が11万3,307例、20歳以上は151万7,460例。主要評価項目はドナー1万人当たりの全身性(失神など)等の合併症発生率とした。献血後に失神・転倒して負傷するケースも各年齢層の合併症は、16-17歳が1万5,632例(10.7%)、18-19歳が9,359例(8.3%)、20歳以上は4万2,987例(2.8%)で、多変量ロジスティック回帰分析の結果、「若年」であることが合併症と最も強く関連(オッズ比:3.05、95%信頼区間:2.52~3.69、P<0.001)。次いで、「初回献血」(2.63、2.24~3.09、P<0.001)、「女性」(1.87、1.62~2.16、P<0.001)と続いた。失神して転倒、負傷するケースもあり、16-17歳群が86件(5.9件/万)と有意に多く、18-19歳群が27件(2.4件/万、オッズ比:2.48、95%信頼区間:1.61~3.82)、20歳以上群が62件(0.4件/万、14.46、10.43~20.04)の順だった。16歳の献血者で、軽度でも合併症を経験したグループが12ヵ月以内に再献血する割合は、問題のなかったグループより少なかった(52%対73%、オッズ比:0.40、95%信頼区間:0.36~0.44)。こうした結果からEder氏らは「16-17歳の若者が献血した場合、年長者より高い頻度で合併症と傷害が起こる。定期的に採血車が巡回する高校で、若い献血者を確保・維持するには、ドナーの安全に配慮する必要がある」としている。(朝田哲明:医療ライター)

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「BMI」だけで心血管系リスクの予測は可能:NHEFS

心血管系リスクの評価にあたり「肥満」を評価項目にすれば、必ずしも「コレステロール値」を測定しなくとも心血管系リスクの予測ができる可能性が出てきた。採血のためだけに医療機関を訪れる必要が減るのであれば、患者サイドにとっては朗報だろう。Lancet誌2008年3月15日号でBrigham & Women’s Hospital(米国)のThomas A Gaziano氏らが報告した。「採血なし」のCHDリスク評価の正確性を検討Gaziano氏らが今回検討したのは「採血なしで心血管系リスクをどこまで正確に評価できるか」という点である。そのため、「性別」「年齢」「収縮期血圧」「糖尿病」「喫煙習慣の有無」「高血圧治療の有無」に加え「総コレステロール値」を組み込んだ心血管系リスク予測モデル(コレステロール・モデル)と、「総コレステロール値」を「BMI」で置き換えた「BMIモデル」による心血管系リスク予測の正確性を比較した。検討に用いられたコホートはNHEFS(NHANES I Epidemiologic Follow-up Study)、1971~75年にかけて実施された全国的調査NHANES Iの対象から当時25~74歳だった14,407例を前向きに追跡しているコホートである。今回はNHANES Iの時点で心血管系疾患既往を認めなかった6,186例が対象となった。  コレステロール値を用いなくともリスク予知の正確性は同等21年間の追跡期間中、1,529例に心血管イベントが発生し、うち578例が死亡した。「コレステロール・モデル」と「BMIモデル」のイベント予知正確性に差はなかった。すなわち、リスクモデルの正確性の指標であるc-statisticを比較すると、女性では「コレステロール・モデル:0.829」 vs. 「BMIモデル:0.831」(p=0.116)。男性では「コレステロール・モデル:0.784」 vs. 「BMIモデル:0.783」(p=0.457)だった。ROCカーブも両モデルは、ほぼ同一に重なっていた。WHO(世界保健機関)は心血管系リスク評価からコレステロール値をすでに取り除いているが、その正当性を強く示唆するデータであるとGaziano氏らは述べ、前向きコホート研究のデータを持つ国はすべて、このような検討を行う価値はあるとしている。わが国でも、医療経済的考察を含む検討は興味深いのではないだろうか。(宇津貴史:医学レポーター)

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