ここまでわかったプラザキサ ~1年の臨床実績からなにを学び、なにが確立されたのか~

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2012/05/15

 

 2012年5月10日、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社主催のプレスセミナーが行われた。演者は、山下武志氏(心臓血管研究所所長)。演題は「ここまでわかったプラザキサ~1年の臨床実績からなにを学び、なにが確立されたのか~」。この内容をレポートする。

プラザキサ発売後1年でなにが起こったか?




プラザキサは、発売当初、ワーファリンの3つの課題(1.毎回の採血 2.投与量の調整 3.食事・併用薬の注意)を解決し、さらに、出血事象も少ない画期的な新薬として期待された。しかし、出血性副作用の出現が報告され、当初の期待どおりとはいかなかった。この原因は何か?

 「私たちは、発売時に3つのGapがあることに気づくべきだった」と、山下氏は語った。

 3つのGapとは、
1.臨床試験と現場との違い
2.Population と Patientの違い
3.ドラッグラグの有無
である。

3つのGapとは?

 3つのGapとは、具体的には、下記のとおりである。

1.治験と現場との違い
治験は、限られた医師により、ある一定の条件を満たす限られた患者に対して、モニターの後ろ盾がある中で実施されるものである。しかし、臨床現場では、さまざまな医師が、さまざまな背景の患者に対し、モニターなしで投与する。このふたつは大きく異なる。

2.Population とPatientの違い
薬剤の効果は、患者によって異なる。治験は、populationが重要視されるため、いわゆる「はずれ値」はあまり重要視されないが、実臨床では、目の前の患者さんひとりひとりが重要であり、むしろ、population studyではじかれたような情報こそ意味をもつ。

3.ドラッグラグの有無
わが国で認可される薬は、これまで多くの場合、ドラッグラグが存在していた。そのため、海外での臨床経験やその対策がすでに存在する状態で使用を開始することができた。しかし、プラザキサの場合、ドラッグラグが存在しないため、臨床経験を積み、対策を講じることが必要になった。

1年でわかったこと

 プラザキサ発売から1年間、プラザキサの試験であるRE-LYをより詳しく解析し、プラザキサのマイナスの部分をかくさず、様々な文献が発表された。主な知見は下記のとおり。

・プラザキサによる大出血のリスク因子として、加齢、抗血小板剤との併用がある。
・プラザキサは、ワーファリンに比べ、非消化管出血は減少するが、消化管出血は増加する。
・プラザキサは、ワーファリンに比べ、75歳未満では安全だが、75歳以上では、ワーファリンよりも安全とは言えない。
・プラザキサは、患者により効き目が異なるため、血液モニタリングが必要である。とくに、CHADS2スコアが上昇するにつれ、効き目にばらつきがでる。

心臓血管研究所での投与方法


 つまり、プラザキサには、投与が適切な患者と投与方法があり、現在、心臓血管研究所では、つぎのような方法で投与しており、当施設では、大出血をまだ経験していないと山下氏は語った。

・Ccr<40mL/minには投与しない
・投与量は110mg 1日2回
・投与前には、腎機能チェック
・導入時は、腎機能、ヘモグロビン値、aPTTをチェック
・導入から1~2週間後に、継続投与の可否を検討するために、ヘモグロビン値、aPTTをチェック

今後の抗凝固療法でも同様に3つのGapを埋めることが必要

今後、新しい抗凝固薬が患者さんに使われるようになるが、これらの抗凝固薬もプラザキサと同様に、3つのGapを埋めていくことが必要になる。それを理解し、抗凝固薬を慎重に使い始め、適切な使用法を探っていくことが医師に求められている、と山下氏は語った。

(ケアネット 鈴木 渉)