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【第123回】膀胱内のチューインガムを摘出したビックリアイデア

【第123回】膀胱内のチューインガムを摘出したビックリアイデア いらすとやより使用 膀胱異物って基本的に自慰で行うものが多いので、それなりに細長いものを入れるというのがゴールドスタンダードになっているんですが、まれに「こんなモン入れるんかい!」という症例が存在します。今回紹介するのは、チューインガムです。 重村克巳ほか. 膀胱異物(チューインガム)の1例. 泌尿器科紀要. 48:2002;229-230.症例は、60歳の男性です。数ヵ月前から、前立腺肥大のような頻尿・排尿困難がみられていました。直腸診でも「前立腺肥大だろう」という所見があったそうです。しかし、膀胱造影検査をすると前立腺の膀胱への突出がある以外に、おかしな陰影欠損があったそうです。膀胱内に異物様の欠損があったのです。膀胱鏡を行うと、膀胱内に白色浮遊物がありました。フヨフヨ。どこかで見たことがある、この白いヤツ。よくよく問診してみると、「以前からチューインガムを噛んで細くし、それを冷蔵庫で冷却して、自慰目的で尿道内に挿入していた」と患者さんが告白したではありませんか。これは、チューインガムなのか!!いやぁ、冷蔵庫で冷却したチューインガムを入れるというのは、なかなか奇抜なアイデアですね。というわけで、膀胱内にフヨフヨしているチューインガムを鉗子で取ろうとするのですが、なかなかつかまらない。つかまっても、ガムがビヨーンと伸びるだけ。ええい、イライラする!何かいいアイデアはないのか。主治医はいろいろ考えたに違いありません。そこである案が出てきました。この男性が挿入したときと同じように、ガムって冷却したら硬くなりますよね。じゃあ、膀胱鏡の灌流液をキンキンに冷やせばよいのではないか。そうすれば、ガムは硬くなるだろう。「グッドアイデア!」ということで、冷蔵庫で凍らせた生食水を混ぜて氷水を作り、膀胱内に注入しました。すると、膀胱内のフヨフヨしていたガムがカチっと固化し、見事鉗子で摘出することができたのです。ちなみに、かなりの量のチューインガムが勝脱内に挿入されていたそうです。「もう、こんなことやりません」と約束したのかどうかはわかりませんが、この患者さんは1ヵ月後に再度排尿困難を主訴に来院したそうで。「原因に心当たりは?」と聞くと、モジモジと隠しているそぶりがありました。「まさか…」と再度膀胱鏡検査を施行したところ、再び膀胱内に大量のチューインガムがあったそうです。歴史は繰り返す。

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肝臓移植ができない患者にも希望の光

 2018年6月6日、ファイザー株式会社は、「世界ATTR啓発デー(6月10日)」を前に都内においてATTRアミロイドーシスに関するプレスカンファレンスを開催した。カンファレンスでは、ATTRアミロイドーシスの診療の概要、とくに抗体治療の知見や患者からの切実な疾患への思いが語られた。1,000例以上の患者が推定されるATTR-FAP はじめに安東 由喜雄氏(熊本大学大学院 生命科学研究部 神経内科学分野 教授/国際アミロイドーシス学会 理事長)を講師に迎え、「進歩目覚ましい神経難病、ATTRアミロイドーシス診療最前線」をテーマに、ATTRアミロイドーシスの概要が説明された。 アミロイドーシスは、たんぱく質が遺伝子変異や加齢などにより線維化し、臓器などに沈着することで、さまざまな障害を起こすとされ、全身性と限局性に大きく分類される。全身性は、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)や老人性全身性アミロイドーシス(SSA)が知られており、限局性ではアルツハイマー病やパーキンソン病が知られている。今回は、全身性アミロイドーシスのFAPについて主に説明がなされた。 全身性アミロイドーシスのFAPやSSAは、トランスサイレチン型アミロイドーシスと呼ばれ、FAPは遺伝型ATTRで変異型TTRがアミロイドを形成し、20代から発症、末梢神経障害、浮腫・失神、消化管症候、腎障害、眼症状などを引き起こす。SSAは、主に70代から発症し、非遺伝型ATTRと呼ばれ、野生型TTRがアミロイドを形成し、心症候、手根管症状などを引き起こす。 そして、FAPでは、最近の研究より国内で40種以上の変異型が、全世界では140種以上の変異型の報告がされ、国内患者数は1,000例以上と推定されているという。また、従来は熊本県、長野県だけでみられた変異型が全国に広がっていることも確認されていると報告した。疑ったら熊本大学へ紹介を! FAPの診断では、患者病歴(とくに家族歴)、身体所見(FAPのRed-flag[四肢の疼痛、体重減少、排尿障害、下痢・便秘、浮腫、心室壁の肥厚など])、組織病理学的検査、遺伝学的検査(TTR遺伝子変異の同定)などにより確定診断がなされる。なかでも遺伝学的検査について安東氏は「熊本大学ではアミロイドーシス診療体制構築事業を行っており、全国から診断の受付をしている。専門医師不在の病院、開業の先生も本症を疑ったら当学に紹介をしていただきたい」と早期診断、早期発見の重要性を強調した。FAP治療の新次元を開いたタファミジス FAPの治療については、以前から肝移植が推奨されているが、肝移植をしてもなお眼症候の進行や心肥大など予後不良の例もあるという。また、肝移植では、発症後5年以内という期間制限の問題、移植ドナーの待機問題もあり、条件は厳しいと指摘する。 そんな中、わが国で2013年に承認・販売されたタファミジス(商品名:ビンダケル)は、こうした問題の解決の一助になると同氏は期待を寄せる。タファミジスは、肝臓産生のTTRを安定化させることで、アミロイドの線維化を防ぐ働きを持ち、安全に末梢神経障害の進行を抑制する効果を持つ。実際、タファミジスの発売後、肝移植手術数は減少しており、ある症例では、車いすの患者が肝移植と同薬を併用することで、症状が改善し、独歩になるまで回復したと紹介した。 最近では、肝臓に着目しTTRの発現を抑えるアンチセンス核酸(ASO)などの遺伝子抑制、沈着したアミロイドを除去する抗体治療も世界的に盛んに研究されている。 おわりに同氏は、「FAPをはじめとするアミロイドーシスでは、早期に症候から本症を疑い、組織からアミロイド沈着を検出することが重要である。早期治療介入のためには、早期診断が大切であり、今後も医療者をはじめ、社会への疾患の浸透を図るために、患者とともに疾患と戦っていく」とレクチャーを終えた。 次に患者・家族の会「道しるべの会」からFAP患者が登壇し、会の活動を説明。その後、「FAPは家系での発症が多く、患者家族は発症におびえていること」「肝移植後も予後が悪く、今後の疾患の進行に不安を覚えていること」「患者の経済的格差や受診格差もあること」など疾患への苦労や悩みを語るとともに、「移植に頼らない新薬や眼病変への新薬の開発」「肝移植でも使える免疫抑制剤の保険適用の拡大」「FAPへの医療者も含めた社会の理解」など期待を述べた。■参考TTRFAP.jp(ファイザー提供)熊本大学 医学部附属病院 アミロイドーシス診療センター■関連記事希少疾病ライブラリ 家族性アミロイドポリニューロパチー

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急性単純性膀胱炎に対するガイドライン推奨治療の比較試験(解説:小金丸博氏)-860

 膀胱炎に代表される尿路感染症はとてもありふれた感染症であり、とくに女性では一生涯で半数以上が経験すると言われている。膀胱炎に対して世界中で多くの抗菌薬が処方されることが薬剤耐性菌出現の一因になっていると考えられており、2010年に米国感染症学会(IDSA)と欧州臨床微生物感染症学会(ESCMID)は「女性の急性単純性膀胱炎および腎盂腎炎の治療ガイドライン」を改訂した。このガイドラインでは、急性単純性膀胱炎に対する第1選択薬としてnitrofurantoin monohydrateやfosfomycin trometamolなどを推奨しており、これらの薬剤の使用量が増加してきているが、治療効果を比較したランダム化試験はほとんど存在しなかった。 本試験は、妊娠をしていない18歳以上の女性を対象に、急性単純性膀胱炎に対するnitrofurantoinとfosfomycinの治療効果を検討したオープンラベルのランダム化比較試験である。少なくとも1つの急性下部尿路感染症状(排尿障害、尿意切迫、頻尿、恥骨上圧痛)を有し、尿亜硝酸塩あるいは白血球エステラーゼ反応陽性を示すものを対象とした。その結果、プライマリアウトカムである28日目の臨床的改善率はnitrofurantoin群70%、fosfomycin群58%であり、nitrofurantoin群で有意に高率だった(群間差:12%、95%信頼区間:4~21%、p=0.004)。また、セカンダリアウトカムの1つである28日目の微生物学的改善率もnitrofurantoin群で有意に高率だった(74% vs.63%、群間差:11%、95%信頼区間:1~20%、p=0.04)。 本試験で検討された治療薬の用法は、それぞれnitrofurantoin100mgを1日3回・5日間経口投与とfosfomycin3gを単回経口投与であった。ガイドラインではnitrofurantoin100mgを1日2回・5日間経口投与が推奨されており、nitrofurantoinの至適投与方法は今後検討の余地がある。fosfomycinの単回投与は患者のコンプライアンスを考えると魅力的なレジメンであるが、臨床的改善率と微生物学的改善率の両方が有意に低率だったことは、今後の治療薬の選択に影響を与える結果であると考える。 本試験の治療成功率は、過去の報告と比較して低率だった。その理由の1つとして、大腸菌以外の細菌(Klebsiella sppやProteus sppなど)の割合が高かったことが挙げられており、尿路感染症の原因菌として大腸菌が多い地域であれば、もう少し治療成功率が高かった可能性はある。また、過去の試験より治療成功の定義が厳格であったことも影響したと考えられる。 実は、本試験で検討された2つの抗生物質はどちらも日本では発売されていない。日本で発売されているホスホマイシン経口薬はホスホマイシンカルシウムであり、fosfomycin trometamolとは異なる薬剤である。本邦における膀胱炎治療は、ST合剤、βラクタム薬、フロオロキノロンなどの中から選択することが多いと思われるが、地域での薬剤感受性情報や副作用を勘案し、総合的に判断することが求められる。

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男女の排尿時間はどちらが長いか?~日本抗加齢医学会総会

 「あなたは自分が何秒間おしっこしているか知っていますか?」 男女別の排尿時間という、これまで泌尿器科、婦人科の世界できちんと検証されてこなかったシンプルな疑問を明らかにしたのは、旭川医科大学病院臨床研究支援センターの松本 成史氏。5月25日~27日に大阪で開催された日本抗加齢医学会のシンポジウム中でその研究成果を発表した。男女とも排尿時間は加齢とともに有意に延長 ヒトの排尿に関する数値としては、1回20~30秒、1回200~400mL、1日1,000~1,500mL、1日5~7回などが標準とされている。しかし、「ヒトの本当の1回の排尿時間を実際に測定して分析した研究報告はこれまでなかった」(松本氏)。一方で、すべての哺乳類の平均排尿時間は、体の大きさに関係なく、21±13秒と結論付けられており、この研究論文は2015年のイグ・ノーベル賞を受賞している(Yang PJ, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014;111:11932-11937.)。 松本氏は、これら排尿に関する数値を日本人で実証すべく、本研究を行った。 排尿時間の調査対象は、NHKの番組企画に協力してくれた20歳以上の3,719人(男性2,373人、女性1,336人)。「通常の尿意」の際の排尿時間(尿が実際に出始め、出終わるまでの時間)を自己計測し、高血圧、糖尿病、腎機能障害の有無、過活動膀胱症状スコア、国際前立腺症状スコアとQOLスコア(男性のみ)などとともに自己申告で記載してもらった。 その結果、平均排尿時間は、男性(平均63.36±11.72歳)で29.00±20.62秒、女性(平均52.63±13.05歳)で18.05±12.48秒と、男性のほうが10秒以上上回った。排尿時間は、尿道が長い男性のほうが女性より長いと一般的に考えられており、それを裏付ける結果となった。 年齢との関係を見ると、男女とも排尿時間は加齢とともに有意に延長。自己申告に基づく高血圧、腎機能障害等の有病者と健常者の比較では、有病者グループのほうが男女とも有意に長かった。 排尿時間の哺乳類標準である「21秒」との乖離について松本氏は、「(排尿時間を延長させる)前立腺肥大の影響がないと考えられる20~50歳に限ると、男性の平均は21.98±17.87秒である」とし、先行研究と矛盾しない結果だと説明する。それも踏まえ、「排尿時間は自己測定が容易であり、アンチエイジング、疾病早期発見の1つの指標になりえる。とくに男性については、[21秒]はわかりやすい数値だ」と話している。

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多発性硬化症の症状は個人差が大きく確定診断まで約3年を待つ

 2018年3月29日、バイオジェン・ジャパン株式会社とエーザイ株式会社は、多発性硬化症に関するメディアセミナーを都内で共同開催した。セミナーでは、女性に多い本症について、疾患概要だけでなく、女性視点から闘病への悩みなども取り上げられた。多発性硬化症は全国で約2万人が苦しむ難病 セミナーでは、清水 優子氏(東京女子医科大学病院 神経内科 准教授)を講師に迎え、「多発性硬化症の治療選択-女性患者のアンメットニーズとライフステージ」をテーマに講演が行われた。 多発性硬化症は、中枢神経系の自己免疫性脱髄疾患であり、ミエリン(髄鞘)が障害されることで、視力障害や運動麻痺、排尿障害、感覚障害など、さまざまな症状を引き起こす。多発性硬化症の症状出現の仕方・時間は、患者の個人差も大きく、診断に苦慮する難病である。なお、多発性硬化症の診断では、一般的な問診・検査に加え、MRI検査により、ほぼ確定診断が行われる。主な診療は、神経内科が担当するが、眼科、整形外科、一般内科で気付かれる例も多いという。 多発性硬化症の発症年齢は20~30代にあり、患者は女性に多い。発症原因は不明で、わが国では患者数が年々増加しており2015年度で1万9,389例の患者が登録されている(特定疾患医療受給者証交付件数)。また、多発性硬化症の特徴として、治療が奏効しても再燃と寛解を繰り返し、徐々に症状の重症度が上がっていき(発症初期から進行性の経過をとる一次性進行型はまれ)、進行型の予測も難しいという。多発性硬化症の症状を疑ったらMRI検査へ 多発性硬化症の治療では、初発から再発寛解までの時間が、治療のゴールデンタイムと言われる。この時間に確定診断が行われ、きちんとした治療が行われるかどうかで予後が変わるという。しかしながら、初発の症状では、多発性硬化症と診断される例が少なく、確定診断まで平均3.7年かかるという報告もある(バイオジェン・ジャパンと全国多発性硬化症友の会との合同アンケート調査より)。「初発症状である温度変化による症状の悪化(ウートフ現象)、手足の突っ張り感、脱力、過労やストレス、風邪などの易感染、出産後3ヵ月間などの主訴から診断初期で、いかに本症を思い浮かべ、MRIなどの検査に送ることができるかが、治療を左右する」と清水氏は指摘する。 急性期、慢性期、再発防止の3期に分けて多発性硬化症の治療薬は使われる。急性期ではステロイド・パルス療法、血液浄化療法が、慢性期では対症療法、リハビリテーションが、再発防止ではインターフェロンβ1a/b、グラチラマー、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、ナタリズマブが、個々の患者病態に合わせて選択されている。しかし、完全寛解まで至る治療薬は現在ない。多発性硬化症患者の妊娠・出産の悩みに応える 続いて多発性硬化症の女性患者の出産、妊娠について解説を行った。多発性硬化症の発症時期は、こうしたイベントと重なることが多く、女性患者にとっては切実な問題だという。実際、妊娠、出産に関しては、病態が管理できているのであれば、いずれも問題はないという。ただ、妊娠中は免疫寛容が母体に働くために多発性硬化症の症状は安定または軽くなるものの、「出産後早期は、再発リスクがあり、注意が必要だ」と同氏は述べる。また、生まれてくる胎児への影響はなく、授乳も多発性硬化症の再発リスクにもならないが、「不妊治療については、悪化させる報告もあるので、妊娠を希望する場合、病態の安定化が重要だ」と同氏は指摘する。多発性硬化症の症状に周囲の理解が大事 女性患者の就労に関しては、脱力、しびれ感、目のかすみなどの症状が、外観から理解されにくく、誤解を受けやすいことから悩みを抱えている現状が紹介された。先に紹介したアンケート調査を引用し、「疾患により仕事内容の変更・異動、転職・退職を経験したことがあるか?」(n=210)との問いに複数回答ながら「退職」(34.3%)、仕事内容の変更(21.9%)、「就職をあきらめた」(19.5%)の順で回答が寄せられ、就労の難しさをうかがわせた。体が思うように動かない、多発性硬化症の症状の説明が周囲に難しいなどの理由により仕事に就きたいが就労できない状況が、さらに経済状態を悪化させ不安感を増大させるなどして、女性患者を負のスパイラルに陥らせていることを指摘した。 最後に清水氏は「女性にとって多発性硬化症の罹患年齢は、働き盛り、妊娠・出産の世代に重なる。そのため医療者をはじめとする一般社会の理解がないと、これらの問題解決は難しい。多発性硬化症の社会認識と理解・啓発、就労関係の整備が実現され、患者の社会貢献ができることを望む」と期待を述べ、レクチャーを終えた。

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トリプルセラピーは重症COPD患者の中等度以上の増悪を減らすことができるのか?(解説:山本寛 氏)-821

 慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)、とくに重症のCOPDに対する治療は長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬(long-acting muscarinic antagonist:LAMA)の吸入、長時間作用性β2刺激薬(long-acting β2 agonist:LABA)の吸入を軸に、吸入ステロイド(inhaled corticosteroid:ICS)が上乗せされることが多かった。確かに重症COPDには気管支喘息の合併、いわゆるACO(Asthma and COPD Overlap)が多く、また、喘息を合併していない場合でも、好酸球性気道炎症は重症COPDで多く認められ、ICSが本質的に有用な患者は存在する。しかし、十分な証拠もなくICSを追加してしまう場合も多いだろう。ICS/LABAが第1選択であると誤解されていることもあるようだ。一方、COPDに対してICSを上乗せすると肺炎の合併が多くなることは従来から指摘されていて、最新2017年のGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)では、一旦追加したICSを中止することも選択肢の1つとして提示されている。 一方、吸入療法の選択を考える場合、吸入薬の薬理作用だけでなく、吸入デバイスが何であるか、という点も重要なポイントである。低肺機能の患者にとって、ドライパウダー製剤(Dry Powder Inhaler:DPI)の吸入は実効を得にくいこともある。また、複数のデバイスの仕様を覚えることは患者にとっては大変な苦痛であり、実際にデバイスの使用方法を間違えてしまうことで吸入の実効が得られないこともある。したがって、複数の薬剤を1つのデバイスで吸入でき、しかもそのデバイスの操作が簡便で理解しやすいものであれば、それは治療の効果をより確実なものにする可能性があり、患者利益に直結するものとなる。 本研究はベクロメタゾン、ホルモテロール、グリコピロニウムの3剤を1つのデバイスで吸入できるMDI(Metered Dose Inhaler)製剤とインダカテロール、グリコピロニウムの2剤を1つのデバイスで吸入できるDPI製剤を比較して、中等度~重度のCOPD増悪のイベント発生頻度を52週間の観察期間にわたり追跡した二重盲検併行群間ランダム化比較試験=TRIBUTE試験である。結果の判断に注意が必要な点としては、Chiesi Farmaceuticiという企業の経済的支援の下で行われている試験であり、この企業がベクロメタゾン、ホルモテロール、グリコピロニウムのトリプル製剤をすでに上市している企業であるという点は挙げなければならない。また、本試験で用いられたインダカテロール、グリコピロニウムの合剤は本邦と同じBreezhaler製剤ではあるが、薬効成分の含有量が異なる(本研究:インダカテロール85μg/グリコピロニウム43μg、本邦流通品:110μg/50μg)点にも注意が必要である。 さて、本研究には17ヵ国、187の医療機関が参加し、(1)%FEV1(%1秒量)が50%未満という高度ないしきわめて高度の気流閉塞を伴う、(2)直近1年間に中等度から重度の急性増悪が1回以上、(3)吸入薬の維持療法をすでに行っている症候性、というCOPDの患者1,532例を対象に行われている。試験参加に当たっては、吸入薬の前治療が、ICS+LABA、ICS+LAMA、LABA+LAMA、LAMA単剤の4通りいずれかである場合のみ参加可能であり、その後導入期間として2週間、インダカテロール、グリコピロニウム2剤をDPI製剤で吸入したうえで、ベクロメタゾン、ホルモテロール、グリコピロニウムの合剤をMDI製剤で1日2回吸入する群(BDP/FF/G群)764例とインダカテロール、グリコピロニウムの合剤をDPI製剤で1日1回吸入する群(IND/GLY群)768例にランダム化された。主要評価項目は、治療52週間における中等度~重度COPD増悪のイベント発生頻度である。 主要評価項目である中等度~重度COPD増悪の頻度は、IND/GLY群の0.59/患者年(95%信頼区間[CI]:0.53~0.67)に対し、BDP/FF/G群が0.50(CI:0.45~0.57)で、その率比は0.848(CI:0.723~0.995、p=0.043)と有意なイベント減少が示された。有害事象の発現率は、BDP/FF/G群64%、IND/GLY群67%と両群で同等で、注目の肺炎の発症率は、両群ともに4%で有意差を認めなかった。治療関連の重篤な有害事象は、両群ともに1例ずつ(BDP/FF/G群:排尿障害、IND/GLY群:心房細動)が報告された。 今回の結果から、BDP/FF/GのトリプルセラピーはIND/GLYのデュアルセラピーと比べて、中等度~重度のCOPD増悪を15%減らす効果があるとみることができるが、果たしてこの結果から、「重症COPDにはトリプルセラピーを!」と単純に推奨できるだろうか? それは否である。本試験の患者背景に注目してみよう。患者の年齢はBDP/FF/G群が64.4±7.7歳、IND/GLY群が64.5±7.7歳(mean±SD)であり、本邦のCOPD患者が70歳以上の高齢者に多いことと比較すれば、明らかに若年者を対象とした研究であるといえる。また、Body Mass Index(BMI)についてもBDP/FF/G群が25.7±5.1kg/m2、IND/GLY群が26.6±5.4kg/m2であり、本邦のCOPD患者に多い痩せ型COPDはむしろ少数派であろう。また、COPDの臨床的phenotypeに関しても、chronic bronchitis(慢性気管支炎)型がBDP/FF/G群で57%、IND/GLY群で55%含まれており、対するemphysema(肺気腫)型はBDP/FF/G群で30%、IND/GLY群で31%しか含まれていない。すなわち、本邦のCOPDのほとんどを占める肺気腫型があまり含まれていなかったことになる。今回の試験のサブ解析では、慢性気管支炎型のCOPD患者において中等度~高度のCOPD増悪の発生頻度がBDP/FF/G群で有意に低い(率比0.752、CI:0.605~0.935、p=0.010)ことが示された一方で、肺気腫型の場合はまったく差がみられないようである(appendixに示されたフォレストプロットによれば、率比0.995で、CI値、p値は非公表であるが、CIは明らかに全体集団の率比0.848より大きく、また1をまたいでいる)。一方、好酸球分画が2%以上のサブセットでみると、BDP/FF/G群で率比0.806(CI:0.664~0.978、p=0.029)と有意なイベント減少が示されている。 以上から、本試験の結果を本邦のCOPD患者に外挿し適用することは難しいと考えられる。ただし、本邦においても存在する、「青ぶくれ=blue bloater」型の肥満COPD患者や好酸球性気道炎症の関与が推定されるCOPD患者においては、ICSを追加した治療が有効である可能性がある。また、1つのデバイスで吸入を完了できることのメリットはとくに高齢であるほど大きいと思われ、上記のようなphenotypeを示す高齢患者においては有用な選択肢となるかもしれない。今回の試験でBDP/FF/G群はMDI製剤での吸入を行っている。先述のとおり、重症COPDではDPI製剤の有効な吸入ができない可能性があり、MDI製剤で吸入できたBDP/FF/G群にはより有利だった可能性がある。臨床試験に参加する患者群は、日常臨床の患者群と比較して吸入アドヒアランスが高い集団である可能性が高く、今回の試験結果を実臨床に落とし込む場合は、アドヒアランスが低下しやすいデバイスを使用する患者層で、効果が大きく落ちてしまう可能性があることにも注意が必要である。トリプル製剤が本邦で上市される日がいずれ訪れると思われるが、その際はICSを上乗せするメリットのある患者層を見極め、デバイスの特性や吸入アドヒアランスに配慮した治療選択を行うことがより一層重要となるだろう。

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COPD増悪抑制、3剤併用と2剤併用を比較/Lancet

 症候性の慢性閉塞性肺疾患(COPD)で高度以上の気流閉塞があり、維持療法を行いながらも増悪のある患者において、細粒子ベクロメタゾン+フマル酸ホルモテロール(長時間作用型β2刺激薬:LABA)+グリコピロニウム(長時間作用型ムスカリン受容体遮断薬:LAMA)の3剤併用は、インダカテロール(LABA)+グリコピロニウムの2剤併用に比べて、COPDの増悪を有意に抑制することが示された。イタリア・フェラーラ大学のAlberto Papi氏らが、1,532例を対象に行った無作為化並行群比較二重盲検試験「TRIBUTE試験」の結果で、Lancet誌オンライン版2018年2月8日号で発表された。COPD増悪頻度を52週間投与して比較 研究グループは2015年5月29日~2017年7月10日にかけて、17ヵ国187ヵ所の医療機関を通じ、高度・極めて高度の気流閉塞を伴い、前年に中等度・重度の増悪が1回以上あり、吸入薬の維持療法を行っている症候性COPDの患者1,532例を対象に試験を行った。 導入期間2週間における1日1回吸入のインダカテロール85μg+グリコピロニウム43μg(IND/GLY)の投与後、被験者を無作為に2群に分けた。一方には細粒子(空気動力学的中央粒子径[MMAD]2μm未満)ベクロメタゾン87μg+フマル酸ホルモテロール5μg+グリコピロニウム9μgの1日2回吸入を(BDP/FF/G群、764例)、もう一方にはIND/GLY(85μg/43μg)1日1回吸入を(IND/GLY群、768例)、それぞれ52週間行った。無作為化では、参加国および気流閉塞の重症度により層別化を行った。 主要評価項目は、治療52週間における中等度~重度のCOPD増悪頻度だった。解析には、1回以上試験薬の投与を受け、ベースライン以降に1回以上有効性の評価を受けた全無作為化被験者を含んだ。COPD増悪リスクは3剤併用群で有意に減少 中等度~重度COPD増悪の頻度は、IND/GLY群0.59/患者年(95%信頼区間[CI]:0.53~0.67)に対し、BDP/FF/G群は0.50(同:0.45~0.57)だった(率比:0.848、同:0.723~0.995、p=0.043)。 有害事象の発現率は、BDP/FF/G群64%(764例中490例)、IND/GLY群67%(768例中516例)と両群で同等だった。肺炎の発症率は、両群ともに4%だった。治療関連の重篤な有害事象は、両群ともに1例ずつ(BDP/FF/G群:排尿障害、IND/GLY群:心房細動)が報告された。

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アトピー性脊髄炎〔AM:atopic myelitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系が自己免疫機序により障害されることは、よく知られている。中でも最も頻度の高い多発性硬化症は、中枢神経髄鞘抗原を標的とした代表的な自己免疫疾患と考えられている。一方、外界に対して固く閉ざされている中枢神経系が、アレルギー機転により障害されるとは従来考えられていなかった。しかし、1997年にアトピー性皮膚炎と高IgE血症を持つ成人で、四肢の異常感覚(じんじん感)を主徴とする頸髄炎症例がアトピー性脊髄炎(atopic myelitis:AM)として報告され1)、アトピー性疾患と脊髄炎との関連性が初めて指摘された。2000年に第1回全国臨床疫学調査2)、2006年には第2回3)が行われ、国内に本疾患が広く存在することが明らかとなった。その後、海外からも症例が報告されている。2012年には磯部ら4)が感度・特異度の高い診断基準を公表し(表)、わが国では2015年7月1日より「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づき「指定難病」に選定されている。画像を拡大する■ 疫学平均発症年齢は34~36歳で、男女比1:0.65~0.76と男性にやや多い。先行するアトピー性疾患は、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息の順で多く、アトピー性疾患の増悪後に発症する傾向にあった。発症様式は急性、亜急性、慢性のものが約3割ずつみられ、症状の経過は、単相性のものも3~4割でみられるものの、多くは、動揺性、緩徐に進行し、長い経過をとる。■ 病因図1のようにAMの病理組織学的検討では、脊髄病巣は、その他のアトピー性疾患と同様に好酸球性炎症であり、アレルギー性の機序が主体であると考えられる。さまざまな程度の好酸球浸潤を伴う、小静脈、毛細血管周囲、脊髄実質の炎症性病巣を呈する(図1A)5)。髄鞘の脱落、軸索の破壊があり、一部にspheroidを認める(図1B)5)。好酸球浸潤が目立たない症例においても、eosinophil cationic protein(ECP)の沈着を認める(図1C)6)。浸潤細胞の免疫染色では、病変部では主にCD8陽性T細胞が浸潤していたが(図1D)6)、血管周囲ではCD4陽性T細胞やB細胞の浸潤もみられる。さらに、脊髄後角を中心にミクログリアならびにアストログリアの活性化が認められ(図1E、F)7)、アストログリアではエンドセリンB受容体(endothelin receptor type B:EDNRB)の発現亢進を確認している(図1G、H)7)。図1 アトピー性脊髄炎の病理組織所見画像を拡大する■ 臨床症状初発症状は、約7割が四肢遠位部の異常感覚(じんじん感)、約2割が筋力低下である。経過中に8割以上でアロディニアや神経障害性疼痛を認める。そのほか、8割で腱反射の亢進、2~3割で病的反射を生じ、排尿障害も約2割に生じる。何らかの筋力低下を来した症例は6割であったが、その約半数は軽度の筋力低下にとどまった。最重症時のKurtzkeのExpanded Disability Status Scale(EDSS)スコアは平均3.4点であった。■ 予後第2回の全国臨床疫学調査では、最重症時のEDSSスコアが高いといずれかの免疫治療が行われ、治療を行わなかった群と同等まで臨床症状は改善し、平均6.6年間の経過観察では、症例全体で平均EDSS 2.3点の障害が残存していた。全体的には大きな障害を残しにくいものの、異常感覚が長く持続し、患者のQOLを低下させることが特徴といえる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査所見末梢血所見としては、高IgE血症が8~9割にあり、ヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニに対する抗原特異的IgEを85%以上の症例で有し、約6割で末梢血好酸球数が増加していた。前述のAMの病理組織において発現が亢進していたEDNRBのリガンドであるエンドセリン1(endothelin 1:ET1)は、AM患者の血清で健常者と比較し有意に上昇していた7)。髄液一般検査では、軽度(50個/μL以下)の細胞増加を約1/4の症例で認め、髄液における好酸球の出現は10%未満とされる。蛋白は軽度(100mg/dL以下)の増加を約2~3割の症例で認める程度で、大きな異常所見はみられないことが多い。髄液特殊検査では、IL-9とCCL11(eotaxin-1)は有意に増加していた。末梢神経伝導検査において、九州大学病院症例では約4割で潜在的な末梢神経病変が合併し、第2回の全国調査では、検査実施症例の25%で下肢感覚神経を主体に異常を認めていた3)。また、体性感覚誘発電位を用いた検討では、上肢で33.3%、下肢では18.5%で末梢神経障害の合併を認めている8)。図2のように脊髄のMRI所見では、60%で病変を認め、その3/4が頸髄で、とくに後索寄りに多い(図2A)。また、Gd増強効果も半数以上でみられる。この病巣は、ほぼ同じ大きさで長く続くことが特徴である(図2B)。画像を拡大する■ 診断・鑑別診断脊髄炎であること、既知の基礎疾患がないこと、アレルギー素因があることを、それぞれを証明することが必要である。先に磯部ら6)による診断基準を表で示した。この基準を脊髄初発多発性硬化症との鑑別に適用した場合、感度93.3%、特異度93.3%、陽性的中率は82.4%、陰性的中率は97.7%であった。鑑別として、寄生虫性脊髄炎、多発性硬化症、膠原病、HTLV1関連脊髄症、サルコイドーシス、視神経脊髄炎、頸椎症性脊髄症、脊髄腫瘍、脊髄血管奇形を除外することが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)第2回の全国臨床疫学調査の結果では、全体の約60%でステロイド治療が行われ、約80%で有効性を認めている。血漿交換療法が選択されたのは全体の約25%で、約80%で有効であった。AMの治療においてほとんどの症例はパルス療法を含む、ステロイド治療により効果がみられるが、ステロイド治療が無効の場合には、血漿交換が有効な治療の選択肢となりうる。再発、再燃の予防については、アトピー性疾患が先行して発症、再燃することが多いことから、基礎となるアトピー性疾患の沈静化の持続が重要と推測される。4 今後の展望当教室ではAMの病態解明を目的とし、アトピー性疾患モデルマウスにおける神経学的徴候の評価と中枢神経の病理学的な解析を行い、その成果は2016年に北米神経科学学会の学会誌“The Journal of Neuroscience”に掲載された7)。モデル動物により明らかとなった知見として、(1)アトピー性疾患モデルマウスでは足底触刺激に対しアロディニアを認める、(2)脊髄後角ではミクログリア、アストログリア、神経細胞が活性化している、(3)ミクログリアとアストログリアではEDNRBの発現が亢進し、EDNRB拮抗薬の前投与により脊髄グリア炎症を抑制すると、神経細胞の活性化が抑えられ、アロディニアが有意に減少したというもので、AMに伴う神経障害性疼痛に脊髄グリア炎症ならびにET1/EDNRB経路が大きく関わっていることを見出している。5 主たる診療科神経内科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター アトピー性脊髄炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報アトピー性脊髄炎患者会 StepS(AM患者と家族向けの情報)1)Kira J, et al. J Neurol Sci. 1997;148:199-203.2)Osoegawa M, et al. J Neurol Sci. 2003;209:5-11.3)Isobe N, et al. Neurology. 2009;73:790-797.4)Isobe N, et al. J Neurol Sci. 2012;316:30-35.5)Kikuchi H, et al. J Neurol Sci. 2001;183:73-78.6)Osoegawa M, et al. Acta Neuropathol. 2003;105:289-295.7)Yamasaki R, et al. J Neurosci. 2016;36:11929-11945.8)Kanamori Y, et al. Clin Exp Neuroimmunol. 2013;4:29-35.公開履歴初回2017年11月14日

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抗うつ薬使用患者で注意すべきOAB、薬剤間で違いも

 これまで、抗うつ薬を使用した女性患者における過活動膀胱(OAB)について調査されていた。OABに対する抗うつ薬の影響および男女の泌尿器系生理学(解剖学、ホルモン)の相違に関して、文献の矛盾するデータに基づき、トルコ・トラキア大学のVolkan Solmaz氏らは、抗うつ薬を使用した男性患者におけるOABを調査した。International neurourology journal誌2017年3月24日号の報告。 対象は、異なる疾患に対し抗うつ薬を使用している男性患者112例(抗うつ薬群)および健常対象男性90例(対照群)。全202例に対し、overactive bladder-validated 8(OAB-V8)アンケート、International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form(ICIQ-SF)、ベック抑うつ評価尺度(BDI)を用いて評価を行った。主な結果は以下のとおり。・抗うつ薬群は、対照群と比較し、OAB-V8、ICIQ-SF、BDIスコアが有意に高かった。・OAB罹患率は、ベンラファキシン使用患者で最も高く(68.2%)、セルトラリン使用患者で最も低かった(28.0%)。・OABの頻度は、抗うつ薬群間で統計学的に有意であった。・単変量ロジスティック回帰分析では、OABの存在、抗うつ薬の使用、BDIスコア、患者の年齢の間に、有意な関連が認められた。・多変量ロジスティック回帰分析では、OABの存在と抗うつ薬の使用との間に、統計学的に有意な関連が認められた。 著者らは「さまざまな疾患に対し抗うつ薬を使用している男性では、OAB発症、OAB症状の重篤度の増加が認められた。これは、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の分子レベルまたは個体レベルでの、ユニークな薬理学的作用に起因している可能性がある」としている。関連医療ニュース 抗うつ薬の有害事象、学術論文を鵜呑みにしてよいのか 抗うつ薬治療は乳がんリスクに影響しているのか うつ病の薬物治療、死亡リスクの高い薬剤は

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線条体黒質変性症〔SND: striatonigral degeneration〕

1 疾患概要■ 概念・定義線条体黒質変性症(striatonigral degeneration: SND)は、歴史的には1961年、1964年にAdamsらによる記載が最初とされる1)。現在は多系統萎縮症(multiple system atrophy: MSA)の中でパーキンソン症状を主徴とする病型とされている。したがって臨床的にはMSA-P(MSA with predominant parkinsonism)とほぼ同義と考えてよい。病理学的には主として黒質一線条体系の神経細胞脱落とグリア増生、オリゴデンドロサイト内にα-シヌクレイン(α-synuclein)陽性のグリア細胞質内封入体(glial cytoplasmic inclusion: GCI)が見られる(図1)。なお、MSA-C(MSA with predominant cerebellar ataxia)とMSA-Pは病因や治療などに共通した部分が多いので、「オリーブ橋小脳萎縮症」の項目も合わせて参照して頂きたい。画像を拡大する■ 疫学平成26年度のMSA患者数は、全国で1万3,000人弱であるが、そのうち約30%がMSA-Pであると考えられている。欧米では、この比率が逆転し、MSA-PのほうがMSA-Cよりも多い2,3)。このことは神経病理学的にも裏付けられており、英国人MSA患者では被殻、淡蒼球の病変の頻度が日本人MSA患者より有意に高い一方で、橋の病変の頻度は日本人MSA患者で有意に高いことが知られている4)。■ 病因いまだ十分には解明されていない。α-シヌクレイン陽性GCIの存在からMSAはパーキンソン病やレビー小体型認知症とともにα-synucleinopathyと総称されるが、MSAにおいてα-シヌクレインの異常が第一義的な意義を持つかどうかは不明である。ただ、α-シヌクレイン遺伝子多型がMSAの易罹患性要因であること5)やα-シヌクレイン過剰発現マウスモデルではMSA類似の病理所見が再現されること6,7)などα-シヌクレインがMSAの病態に深く関与することは疑う余地がない。MSAはほとんどが孤発性であるが、ごくまれに家系内に複数の発症者(同胞発症)が見られることがある。このようなMSA多発家系の大規模ゲノム解析から、COQ2遺伝子の機能障害性変異がMSAの発症に関連することが報告されている8)。COQ2はミトコンドリア電子伝達系において電子の運搬に関わるコエンザイムQ10の合成に関わる酵素である。このことから一部のMSAの発症の要因として、ミトコンドリアにおけるATP合成の低下、活性酸素種の除去能低下が関与する可能性が示唆されている。■ 症状MSA-Pの発症はMSA-Cと有意差はなく、50歳代が多い2,3,9,10)。通常、パーキンソン症状が前景に出て、かつ経過を通して病像の中核を成す。GilmanのMSA診断基準(ほぼ確実例)でも示されているように自律神経症状(排尿障害、起立性低血圧、便秘、陰萎など)は必発である11)。加えて小脳失調症状、錐体路症状を種々の程度に伴う。MSA-Pのパーキンソン症状は、基本的にパーキンソン病で見られるのと同じであるが、レボドパ薬に対する反応が不良で進行が速い。また、通常、パーキンソン病に特徴的な丸薬丸め運動様の安静時振戦は見られず、動作性振戦が多い。また、パーキンソン病に比べて体幹動揺が強く転倒しやすいとされる12)。パーキンソン病と同様に、パーキンソニズムの程度にはしばしば左右非対称が見られる。小脳症状は体幹失調と失調性構音障害が主体となり、四肢の失調や眼球運動異常は少ない13)。後述するようにMSA-Pでは比較的早期から姿勢異常や嚥下障害を伴うことも特徴である。なお、MSAの臨床的な重症度の評価尺度として、UMSARS(unified MSA rating scale)が汎用されている。■ 予後国内外の多数例のMSA患者の検討によれば、発症からの生存期間(中央値)はおよそ9~10年と推察される3,9)。The European MSA Study Groupの報告では、MSAの予後不良を予測させる因子として、評価時点でのパーキンソン症状と神経因性膀胱の存在を指摘している3)。この結果はMSA-CよりもMSA-Pのほうが予後不良であることを示唆するが、日本人患者の多数例の検討では、両者の生存期間には有意な差はなかったとされている9)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)GilmanらのMSA診断基準(ほぼ確実例)は別稿の「オリーブ橋小脳萎縮症」で示したとおりである。MSA-P疑い例を示唆する所見として、運動症状発現から3年以内の姿勢保持障害、5年以内の嚥下障害が付加的に記載されている11)。診断に際しては、これらの臨床所見に加えて、頭部画像診断が重要である(図2)。MRIでは被殻外側部の線状高信号(hyperintense lateral putaminal rim)が、パーキンソン症状に対応する病変とされる。画像を拡大する57歳女性(probable MSA-P、発症から約1年)の頭部MRI(A、B)。臨床的には左優位のパーキンソニズム、起立性低血圧、過活動性膀胱、便秘を認めた。MRIでは右優位に被殻外側の線状の高信号(hyperintense lateral putaminal rim)が見られ(A; 矢印)、被殻の萎縮も右優位である(B; 矢印)。A:T2強調像、B:FLAIR像68歳女性(probable MSA-P、発症から約7年)の頭部MRI(C~F)。臨床的には寡動、右優位の筋固縮が目立ち、ほぼ臥床状態で自力での起立・歩行は不可、発語・嚥下困難も見られた。T2強調像(C)にて淡い橋十字サイン(hot cross bun sign)が見られる。また、両側被殻の鉄沈着はT2強調像(D)、T2*像(E)、磁化率強調像(SWI)(F)の順に明瞭となっている。MSA-Pの場合、鑑別上、最も問題になるのは、パーキンソン病、あるいは進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症などのパーキンソン症候群である。GilmanらはMSAを示唆する特徴として表のような症状・所見(red flags)を挙げているが11)、これらはMSA-Pとパーキンソン病を鑑別するには有用とされる。表 MSAを支持する特徴(red flags)と支持しない特徴11)■ 支持する特徴(red flags)口顔面ジストニア過度の頸部前屈高度の脊柱前屈・側屈手足の拘縮吸気性のため息高度の発声障害高度の構音障害新たに出現した、あるいは増強したいびき手足の冷感病的笑い、あるいは病的泣きジャーク様、ミオクローヌス様の姿勢時・動作時振戦■ 支持しない特徴古典的な丸薬丸め様の安静時振戦臨床的に明らかな末梢神経障害幻覚(非薬剤性)75歳以上の発症小脳失調、あるいはパーキンソニズムの家族歴認知症(DSM-IVに基づく)多発性硬化症を示唆する白質病変上記では認知症はMSAを“支持しない特徴”とされるが、近年は明らかな認知症を伴ったMSA症例が報告されている14,15)。パーキンソン病とMSAを含む他のパーキンソン症候群の鑑別に123I-meta-iodobenzylguanidine(123I-MIBG)心筋シンチグラフィーの有用性が示されている16)。一般にMSA-Pではパーキンソン病やレビー小体型認知症ほど心筋への集積低下が顕著ではない。10の研究論文のメタ解析によれば、123I-MIBGによりパーキンソン病とMSA(MSA-P、MSA-C両方を含む)は感度90.2%、特異度81.9%で鑑別可能とされている16)。一方、Kikuchiらは、とくに初期のパーキンソン病とMSA-Pでは123I-MIBG心筋シンチでの鑑別は難しいこと、においスティックによる嗅覚検査が両者の鑑別に有用であることを示している17)。ドパミントランスポーター(DAT)スキャンでは、両側被殻の集積低下を示すが(しばしば左右差が見られる)、パーキンソン病との鑑別は困難である。また、Wangらは、MRIの磁化率強調像(susceptibility weighted image: SWI)による被殻の鉄含量の評価はMSA-Pとパーキンソン病の鑑別に有用であることを指摘している18)。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)有効な原因療法は確立されていない。MSA-Cと同様に、個々の患者の病状に応じた対症療法が基本となる。対症療法としては、薬物治療と非薬物治療に大別される。レボドパ薬に多少反応を示すことがあるので、とくに病初期には十分な抗パーキンソン病薬治療を試みる。■ 薬物治療1)小脳失調症状プロチレリン酒石酸塩水和物(商品名: ヒルトニン注射液)や、タルチレリン水和物(同:セレジスト)が使用される。2)自律神経症状主な治療対象は排尿障害(神経因性膀胱)、起立性低血圧、便秘などである。MSAの神経因性膀胱では排出障害(低活動型)による尿勢低下、残尿、尿閉、溢流性尿失禁、および蓄尿障害(過活動型)による頻尿、切迫性尿失禁のいずれもが見られる。排出障害に対する基本薬は、α1受容体遮断薬であるウラピジル(同: エブランチル)やコリン作動薬であるベタネコール塩化物(同: ベサコリン)などである。蓄尿障害に対しては、抗コリン薬が第1選択である。抗コリン薬としてはプロピベリン塩酸塩(同:バップフォー)、オキシブチニン塩酸塩(同:ポラキス)、コハク酸ソリフェナシン(同:ベシケア)などがある。起立性低血圧には、ドロキシドパ(同:ドプス)やアメジニウムメチル硫酸塩(同:リズミック)などが使用される。3)パーキンソン症状パーキンソン病に準じてレボドパ薬やドパミンアゴニストなどが使用される。4)錐体路症状痙縮が強い症例では、抗痙縮薬が適応となる。エペリゾン塩酸塩(同:ミオナール)、チザニジン塩酸塩(同:テルネリン)、バクロフェン(同:リオレサール、ギャバロン)などである。■ 非薬物治療患者の病期や重症度に応じたリハビリテーションが推奨される(リハビリテーションについては、後述の「SCD・MSAネット」の「リハビリのツボ」を参照)。上気道閉塞による呼吸障害に対して、気管切開や非侵襲的陽圧換気療法が施行される。ただし、非侵襲的陽圧換気療法によりfloppy epiglottisが出現し(喉頭蓋が咽頭後壁に倒れ込む)、上気道閉塞がかえって増悪することがあるため注意が必要である19)。さらにMSAの呼吸障害は中枢性(呼吸中枢の障害)の場合があるので、治療法の選択においては、病態を十分に見極める必要がある。4 今後の展望選択的セロトニン再取り込み阻害薬である塩酸セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)やパロキセチン塩酸塩水和物(同:パキシル)、抗結核薬リファンピシン、抗菌薬ミノサイクリン、モノアミンオキシダーゼ阻害薬ラサジリン、ノルアドレナリン前駆体ドロキシドパ、免疫グロブリン静注療法、あるいは自己骨髄由来の間葉系幹細胞移植など、さまざまな治療手段の有効性が培養細胞レベル、あるいはモデル動物レベルにおいて示唆され、実際に一部はMSA患者を対象にした臨床試験が行われている20,21)。これらのうちリファンピシン、ラサジリン、リチウムについては、MSA患者での有用性が証明されなかった21)。また、MSA多発家系におけるCOQ2変異の同定、さらにはCOQ2変異ホモ接合患者の剖検脳におけるコエンザイムQ10含量の著減を受けて、MSA患者に対する治療として、コエンザイムQ10大量投与療法に期待が寄せられている。5 主たる診療科神経内科、泌尿器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 線条体黒質変性症SCD・MSAネット 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の総合情報サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者とその家族の会)1)高橋昭. 東女医大誌.1993;63:108-115.2)Köllensperger M, et al. Mov Disord.2010;25:2604-2612.3)Wenning GK, et al. Lancet Neurol.2013;12:264-274.4)Ozawa T, et al. J Parkinsons Dis.2012;2:7-18.5)Scholz SW, et al. Ann Neurol.2009;65:610-614.6)Yazawa I, et al. Neuron.2005;45:847-859.7)Shults CW et al. J Neurosci.2005;25:10689-10699.8)Multiple-System Atrophy Research Collaboration. New Engl J Med.2013;369:233-244.9)Watanabe H, et al. Brain.2002;125:1070-1083.10)Yabe I, et al. J Neurol Sci.2006;249:115-121.11)Gilman S, et al. Neurology.2008;71:670-676.12)Wüllner U, et al. J Neural Transm.2007;114:1161-1165.13)Anderson T, et al. Mov Disord.2008;23:977-984.14)Kawai Y, et al. Neurology. 2008;70:1390-1396.15)Kitayama M, et al. Eur J Neurol.2009:16:589-594.16)Orimo S, et al. Parkinson Relat Disord.2012;18:494-500.17)Kikuchi A, et al. Parkinson Relat Disord.2011;17:698-700.18)Wang Y, et al. Am J Neuroradiol.2012;33:266-273.19)磯崎英治. 神経進歩.2006;50:409-419.20)Palma JA, et al. Clin Auton Res.2015;25:37-45.21)Poewe W, et al. Mov Disord.2015;30:1528-1538.公開履歴初回2015年04月23日更新2016年11月01日

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言えない! 女性の過活動膀胱をめぐる悩み、その現状と対策

 生命に直結する疾患とまではいかないものの、日常生活の中で著しくQOLを低下させる症状、それが過活動膀胱(Overactive Bladder:OAB)である。男女ともに中高年層から年齢に正比例して増えているが、解剖学的性差により、女性のほうが悩ましさを抱えているという。 先月、このOABをテーマにしたプレスセミナーをファイザー株式会社が開催し、専門医2氏が講演した。このうち、日本排尿機能学会理事長の横山 修氏(福井大学医学部 泌尿器科学 教授)は、「患者さんに恥ずかしがらずに相談してもらえるよう、医療者側からの働きかけが必要」と述べた。過活動膀胱の尿意切迫感、イメージは「いきなり赤信号」 OABは尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、診断のポイントとしては、頻尿(睡眠時の夜間頻尿も含む)を伴う一方、切迫性尿失禁は多くのケースで併発しているものの、必須ではない。横山氏によると、主症状である尿意切迫感は、抑えられない尿意が急に起こることを意味し(病的膀胱知覚)、一般的に明確な尿意を感じる膀胱の蓄尿量が300mL程度に満たなくても、トイレまで我慢できないほどの差し迫った尿意を感じるという。 OABをめぐっては、2002年に全国の40歳以上の男女約1万人を対象に行った大規模疫学調査をベースに2012年時点の人口構成から推計すると、患者数は約1,040万人に上り、有症状率は全体の14.1%、つまり7人に1人の割合でOABの自覚症状があるとみられている。ところが、潜在的にこれほど多数の患者が見込まれるにもかかわらず、積極的な治療を行っていない人が多いのがこの疾患の特徴である。 OAB自体が生命に直結する疾患ではないものの、外出時や長時間かかる会議や移動などの際、常にトイレの心配が付きまとうため、日常生活への影響は大きい。ファイザーが今年3月、OABで医療機関を受診経験のある50歳以上の女性265人を対象に行ったインターネット調査によると、回答者の実に92.5%が切迫性尿失禁を経験していることがわかった。 また、「外出時で、常にトイレの場所を気にしないといけない」(78.1%)、「症状に対して、気分的に落ち込む・滅入ってしまう」(50.9%)といった日常生活への精神的な負担感の訴えや、「旅行や外出を控えてしまう」(60.0%)、「友人・知人との付き合いを控える」(40.0%)など、日常生活や社会活動を制限されている実情も浮き彫りになった。 横山氏によると、OABによるQOL低下の度合いは、糖尿病患者のそれに匹敵するとしたうえで、「症状の特異性により、うまく相談できない患者さんが多い可能性がある。視診や台上診なども不要なので、恥ずかしがらずに相談してもらえるよう医療者側からの働きかけが必要」と述べた。「トイレが近い」という何気ない訴えにもヒントが 続いて、「女性における過活動膀胱相談の実際」と題して、巴 ひかる氏(東京女子医科大学 東医療センター 骨盤底機能再建診療部泌尿器科 教授)が講演した。 それによると、OABをめぐる治療事情には性差があり、男性の受診率が30%超であるのに対し、女性はわずか7.7%に留まっているという。この理由として巴氏は、男性は高年齢層になるに従い前立腺肥大を理由に受診する人が多く、その際にOABの症状についても診断されるケースが多い一方、女性の場合は、症状への恥ずかしさや年齢的に仕方がないという思い込みから、かかりつけ医にも打ち明けるのをためらう人が多いためではないか、という見解を示した。  しかしOABは治療が見込める疾患であり、診断がつけば、抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体作動薬などによる薬物療法をはじめ、膀胱訓練や骨盤底筋訓練などの行動療法、電気刺激療法などの神経変調療法により症状の改善が期待できる。巴氏は、「OABは自覚症状症候群なので、問診や調査票でも診断が可能である。患者さんの『最近トイレが近い』という何気ない訴えの中にもOAB診断のヒントがあるので、注意深く問診をして、患者さんのQOL向上につなげてほしい」と述べた。

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子宮頸部上皮内腫瘍の治療が産科アウトカムに及ぼす影響/BMJ

 子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)に対する治療は、早産などの産科アウトカムを悪化させる可能性があることが、英国・インペリアルカレッジのMaria Kyrgiou氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌オンライン版2016年7月28日号に掲載された。子宮頸部の局所治療は早産や周産期合併症、死亡のリスクを増加させるが、円錐切除術の深さとの関連の可能性が示唆されている。治療が早産のリスクに及ぼす影響の検討結果には乖離が存在し、交絡因子としてCINが関与している可能性があるという。産科アウトカムへのCIN治療の影響をメタ解析で評価 研究グループは、産科アウトカムに及ぼすCINの治療の影響を評価し、子宮頸部円錐切除術の深さとの関連を検証するために文献を系統的にレビューし、メタ解析を行った(英国国立健康研究所[NIHR]生物医学研究センターなどの助成による)。 CENTRAL、Medline、Embaseを検索し、1948年~2016年4月までに発表された子宮頸部の局所治療歴の有無別に産科アウトカムを評価した試験の論文を選出した。 独立のレビューワーがデータを抽出し、Newcastle-Ottawa基準で試験の質を判定した。試験はその方法や産科エンドポイントで分類した。ランダム効果モデルと逆分散法を用いて統合リスク比を算出し、試験間の異質性はI2統計量で評価した。 産科アウトカムには、早産(自然早産、切迫早産を含む)、前期破水、絨毛膜羊膜炎、分娩様式、陣痛時間、陣痛誘発、オキシトシンの使用、出血、無痛処置、頸管縫縮術、頸管狭窄が含まれた。 71試験に参加した633万8,982例(治療群:6万5,082例、非治療群:629万2,563例)のデータを解析した。切除部位が深いほど早産のリスク増大 CIN治療により妊娠期間37週未満の早産のリスクが有意に増加した(治療群:10.7% vs.非治療群:5.4%、相対リスク:1.78、95%信頼区間[CI]:1.60~1.98)。<32~34週の早産(3.5 vs.1.4%、2.40、1.92~2.99)および<28~30週の早産(1.0 vs.0.3%、2.54、1.77~3.63)のリスクも、治療によって増大した。 子宮頸部円錐切除術は、組織の除去やアブレーションの量が多い手技ほどアウトカムが悪化した。37週未満の早産の相対リスクは、コールドナイフによる円錐切除術が2.70(95%CI:2.14~3.40)、レーザー円錐切除術が2.11(1.26~3.54)、手技を特定しない切除術が2.02(1.60~2.55)、LLETZ(large loop excision of the transformation zone)が1.56(1.36~1.79)、手技を特定しないアブレーションは1.46(1.27~1.66)であった。 複数の治療を受けた女性の早産のリスクは、治療を受けなかった女性よりも高く(13.2 vs.4.1%、相対リスク:3.78、95%CI:2.65~5.39)、切除部位が深いほどリスクが増大した(≦10~12mm:7.1 vs.3.4%、1.54、1.09~2.18/≧10~12mm:9.8 vs.3.4%、1.93、1.62~2.31/≧15~17mm:10.1 vs.3.4%、2.77、1.95~3.93/≧20mm:10.2 vs.3.4%、4.91、2.06~11.68)。 また、CIN未治療の女性や治療前に妊娠していた女性は、一般集団に比べ早産のリスクが高かった(5.9 vs.5.6%、相対リスク:1.24、95%CI:1.14~1.35)。 自然早産、前期破水、絨毛膜羊膜炎、低出生時体重、新生児集中治療室への入室、周産期死亡率もCIN治療後に有意に増加した。 著者は、「CINを有する女性はベースラインの早産リスクが高く、切除術やアブレーションにより、リスクがさらに増加した。有害な続発症の頻度や重症度は、切除術のほうがアブレーションよりも高かった」としている。

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混合性結合組織病〔MCTD : mixed connective tissue disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義混合性結合組織病(mixed connective tissue disease: MCTD)は、1972年にGC Sharpが提唱した疾患概念である。膠原病の中で2つ以上の疾患の特徴を併せ持ち(混合性)、しかも抗U1-RNP抗体と呼ばれる自己抗体が陽性となるものである。これは治療反応性がよく、予後も良好であったことから独立疾患として提唱された。その後、この疾患の独立性に疑問がもたれ、とくに欧米では全身性エリテマトーデスの亜型、あるいは強皮症の亜型と考えられ、英語文献でもあまりみられなくなった。しかし後述するように、高率に肺高血圧症を合併することや膠原病の単なる重複あるいは混合のみからは把握できないような特異症状の存在が明らかとなってきたことから、その疾患独立性が欧米でも再認識されている。■ 疫学本症は厚生労働省の指定難病に認定されており、その個人調査票を基にした調査では平成22年だけでおよそ9,000名の登録が確認されている。性別では女/男比で15/1と圧倒的に女性に多く、年齢分布では40代にもっとも多く、平均年齢は45歳である。また、推定発症年齢は30代が多く、平均年齢は36歳である。■ 病因本症の病因は他の膠原病と同様、不明である。全身性自己免疫疾患の1つであり、疾患に特徴的な免疫異常は抗U1-RNP抗体である。本抗体を産生するモデル動物も作成されており、関与する免疫細胞や環境因子について研究が進められている。■ 症状1)共通症状レイノー現象が必発である。また手指や手背部の浮腫傾向がみられ、「ソーセージ様手指」「指または手背の腫脹」が持続的にみられる。これらの症状は、多くの例で初発症状となっている。なお手指や手背部の浮腫傾向は強皮症でも初期にみられるが、強皮症ではすぐに硬化期に入り持続しない。2)混合所見全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎の3疾患にみられる臨床症状あるいは検査所見が混在してみられる。しかもそれぞれの膠原病の完全な重複ではなく、むしろ不完全な重複所見がみられることが多い。混合所見の中で頻度の高いものは、多発関節痛、白血球減少、手指に限局した皮膚硬化、筋力低下、筋電図における筋原性異常所見、肺機能障害などである。3)肺高血圧症肺高血圧症は一般人口では100万人中5~10人程度と非常にまれな疾患であり、しかも予後不良の疾患である。このまれな疾患がMCTDでは5~10%と一般人口の1万倍も高率にみられ、さらに本症の主要な死因となっていることから重要な特異症状として位置付けられている。大部分の症例では肺動脈そのものに病変がある肺動脈性の肺高血圧症である。心エコー検査などのスクリーニング検査やその他の画像・生理検査などが重要であるが、確定診断には右心カテーテル検査が必要である。4)その他の特徴的症状肺高血圧症以外にもMCTDに比較的特徴的な症状がある。三叉神経II枝、III枝の障害による顔面のしびれ感を主体とした症状は、MCTDの約10%にみられる。レイノー現象と同じく、神経の血流障害と推測されている。また、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬による無菌性髄膜炎が、本症の約10%にみられる。MCTDあるいは抗U1-RNP抗体陽性患者では、この薬剤性髄膜炎に留意が必要である。5)免疫学的所見抗U1-RNP抗体が陽性である。間接蛍光抗体法による抗核抗体では斑紋型を示す。抗Sm抗体や抗Jo-1抗体、抗トポイソメラーゼ1抗体など他の膠原病の疾患特異的自己抗体が出現しているときには、本症の診断は慎重にすべきである。6)合併症上記以外にシェーグレン症候群(25%)、橋本甲状腺炎(10%)などがある。■ 予後当初は、治療反応性や予後のよい疾患群として提唱されてきた。確かに発病からの5年生存率は96.9%、初診時からの5年生存率は94.2%と高い。しかし、死亡者の死因を検討すると、肺高血圧症、呼吸不全、心不全など心肺系の死因が全体の60%を占めている。とくに肺高血圧症は、一般人口にみられる特発性肺高血圧症よりもさらに予後不良であり、その治療の進歩が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)わが国では1982年に厚生省の特定疾患に指定され調査研究班が結成されて以来、研究が続けられ、1993年には特定疾患治療研究対象疾患に指定された。1988年に「疫学調査のための診断の手引き」が作成され、何度か改訂されてきた。わが国の診断基準は国際的にも評価されていて、最も普遍的なものである。2004年の改訂では、共通所見に肺高血圧症が加えられ、中核所見と名称が変更された。この3所見のうち1所見以上の陽性と抗U1-RNP抗体陽性が必須であり、さらに混合所見の中で3疾患のうち2疾患以上の項目を併せ持てばMCTDと診断する(表1)。たとえば混合所見で多発関節炎とCK高値があれば、前者が全身性エリテマトーデス様所見、後者が多発性筋炎様所見として満たすこととなる。表1 MCTD診断の手引き(2004年度改訂版)■MCTDの概念全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎などにみられる症状や所見が混在し、血清中に抗U1-RNP抗体がみられる疾患である。I.中核所見1.レイノー現象2.指ないし手背の腫脹3.肺高血圧症II.免疫学的所見抗U1-RNP抗体陽性III.混合所見A.全身性エリテマトーデス様所見1.多発関節炎2.リンパ節腫脹3.顔面紅斑4.心膜炎または胸膜炎5.白血球減少(4,000/μL以下)または血小板減少(10万/μL以下)B.強皮症様所見1.手指に限局した皮膚硬化2.肺線維症、肺拘束性換気障害(%VC:80%以下)または肺拡散能低下(%DLCO:70%以下)3.食道蠕動低下または拡張C.多発性筋炎様所見1.筋力低下2.筋原性酵素(CK)上昇3.筋電図における筋原性異常所見■診断1.Iの1所見以上が陽性2.IIの所見が陽性3.IIIのA、B、C項のうち、2項目以上につき、それぞれ1所見以上が陽性以上の3項目を満たす場合をMCTDと診断する。■付記抗U1-RNP抗体の検出は二重免疫拡散法あるいは酵素免疫測定法(ELISA)のいずれでもよい。ただし二重免疫拡散法が陽性でELISAの結果と一致しない場合には、二重免疫拡散法を優先する。(近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2005.1-6.)また、肺高血圧症については、予後不良であり早期発見、早期治療が必要なこともあり、その診断にはとくに継続的な注意が必要である。確定診断には、右心カテーテル検査が必要であるが、侵襲的検査であり、専門医の存在が必要なため、スクリーニング検査として心臓超音波検査が重要である。これを基にした「MCTD肺高血圧症診断の手引き」(図1)が作成されており、肺高血圧症を疑う臨床所見や検査所見がある場合には、早急に心臓超音波検査をすべきである。画像を拡大する<脚注>1)MCTD患者では肺高血圧症を示唆する臨床所見、検査所見がなくても、心臓超音波検査を行うことが望ましい。2)右房圧は5mmHgと仮定。3)推定肺動脈収縮期圧以外の肺高血圧症を示唆するパラメーターである肺動脈弁逆流速度の上昇、肺動脈への右室駆出時間の短縮、右心系の径の増大、心室中隔の形状および機能の異常、右室肥厚の増加、主肺動脈の拡張を認める場合には、推定肺動脈収縮期圧が36mmHg以下であっても少なくとも1年以内に再評価することが望ましい。4)右心カテーテル検査が施行できない場合には慎重に経過観察し、治療を行わない場合でも3ヵ月後に心臓超音波検査を行い再評価する。3)肺高血圧症の臨床分類、重症度評価のため、治療開始前に右心カテーテル検査を施行することが望ましい。(吉田 俊治ほか. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成22年度研究報告書:2011.7-13.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 総論本症は自己免疫疾患であり、抗炎症薬と免疫抑制療法が治療の中心となる。非ステロイド性抗炎症薬もしばしば用いられるが、前述のごとく、時に無菌性髄膜炎が誘発されるので、その使用には慎重な配慮が必要である。急性期には、多くの場合で副腎皮質ステロイド薬が治療の中心となる。他の膠原病と同様、臓器障害の種類と程度により必要なステロイド量が決定される(表2)。表2 臓器障害別の重症度分類a)軽症レイノー現象、指ないし手の腫脹、紅斑、手指に限局する皮膚硬化、非破壊性関節炎b)中等症発熱、リンパ節腫脹、筋炎、食道運動機能障害、漿膜炎、腎障害、皮膚血管炎、皮膚潰瘍、手指末端部壊死、肺線維症、末梢神経障害、骨破壊性関節炎c)重症中枢神経症状、無菌性髄膜炎、肺高血圧症、急速進行性間質性肺炎、進行した肺線維症、重度の血小板減少、溶血性貧血、腸管機能不全(三森 経世 編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.)前表のように、中枢神経障害、急速に進行する肺症状・腎症状、血小板減少症を除いて大量のステロイドを必要とすることは比較的少ない。ただ、ステロイドを長期に使用することが多いため、骨粗鬆症や糖尿病、感染症の誘発などの副作用には留意が必要である。■ 肺高血圧症MCTDの生命予後を規定する肺高血圧症(PH)については、病態からみて肺動脈性のもの以外に間質性肺炎によるもの、慢性肺血栓塞栓症によるもの、心筋炎など心筋疾患によるものなどがあり、これらは治療方法も異なるため、右心カテーテル検査などで厳密に識別する必要がある。もっとも頻度の高い肺動脈性肺高血圧症については、しばしば大量ステロイド薬や免疫抑制薬が奏効するため、これらの薬剤の適応を検討すべきである。また、通常の特発性肺動脈性肺高血圧症に用いられる血管拡張薬も有用性が確認されているため、プロスタサイクリン系薬、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬を併用して用いる(図2)。画像を拡大する<脚注>*ETR拮抗薬エンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン、ボセンタン)**PDE5阻害薬ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)(三森 経世 編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.)その後、マシテンタン(ETR拮抗薬)、リオシグアート(可溶性グアニルシクラーゼ刺激薬)なども使用できるようになっており、治療の幅が広がっている。これらは肺血管拡張作用に加えて肺動脈内皮細胞の増殖抑制作用も期待されている。ただ、肺血管のリモデリングが進行した場合や強皮症的要素の強い場合、これらの薬剤はしばしば無効であり、心不全のコントロールなども重要になるため、循環器内科などと共同して治療に当たることが必要になる。4 今後の展望遺伝子多型の検討やゲノムワイド関連解析によって、MCTDやMCTD合併肺高血圧症になりやすい危険因子が解明されつつある。これにより、さらに精度が高くこれらの診断を早期に行えることが期待される。また、予後に大きな影響を与える肺高血圧症に関する薬剤が少なからず開発されつつある。これらの出現により一段とMCTD合併肺高血圧症の治療成績が上昇する可能性がある。5 主たる診療科リウマチ膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 混合性結合組織病(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病全般について、その患者と家族向け)1)近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2005.1-6.2)近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2011.7-13.3)三森 経世編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.7-13.公開履歴初回2014年10月07日更新2016年07月05日

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単純性膀胱炎に対するイブプロフェンの効果(解説:小金丸 博 氏)-476

 女性の単純性膀胱炎は抗菌薬で治療されることが多い疾患だが、自然軽快する例も少なからずみられる。また、尿路感染症の主要な原因菌である大腸菌は、薬剤耐性菌の増加が問題となっており、耐性菌の増加を抑制するためにも、抗菌薬を使用せずに膀胱炎の症状緩和が図れないか研究が行われてきた。79例を対象としたPilot studyでは、症状改善効果に関してイブプロフェンは抗菌薬(シプロフロキサシン)に対して非劣性であり、イブプロフェン投与群の3分の2の患者では、抗菌薬を使用せずに改善したという結果が得られた。さらなる評価のため、規模を拡大した研究が実施された。 本研究は、女性の単純性膀胱炎に対するイブプロフェン投与が、症状増悪、再発、合併症を増やさずに抗菌薬の処方を減らすことができるかどうかを検討した二重盲検ランダム化比較試験である。下部尿路感染症の典型的な症状(排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛)を呈した18~65歳の女性494例を対象とし、イブプロフェン投与群(400mg×3錠)とホスホマイシン投与群(3g×1錠)に分けて、28日以内の抗菌薬投与コース回数と、第7日までの症状負担度スコアの推移をプライマリエンドポイントとして評価した。両群ともに症状の経過に応じて抗菌薬を追加処方した。上部尿路感染症状(発熱、腰部叩打痛)、妊婦、2週間以内の尿路感染症、尿路カテーテル留置があるものは試験から除外された。症状負担度スコアは、排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛をそれぞれ0~4点(計12点満点)で評価した。 28日以内の抗菌薬投与コース回数は、イブプロフェン投与群で94回、ホスホマイシン投与群で283回であり、イブプロフェン投与群で有意に減少した(減少率66.5%、95%信頼区間:58.8~74.4%、p<0.001)。イブプロフェン投与群で抗菌薬を投与された患者数は85例(35%)だった。 第7日までの症状負担度スコアの平均値は、イブプロフェン投与群が有意に大きく、症状改善効果に関してホスホマイシンに対する非劣性を証明できなかった。イブプロフェン投与群では、排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛すべての症状の改善が有意に不良だった。 近年「抗菌薬の適正使用」が叫ばれており、不適切な抗菌薬投与を減らそうとする動きが世界的に広がっている。本研究では、女性の単純性膀胱炎を対象として、安全に抗菌薬投与を減らすことができるかどうかが検討されたが、症状改善に関してイブプロフェンは抗菌薬の代替薬としては不十分な結果となった。膀胱炎症状を呈した女性に対しては、従来通り、抗菌薬治療を第1選択とすべきであろう。 しかしながら、本研究でもPilot studyと同様に、イブプロフェン投与群の約3分の2の膀胱炎患者では抗菌薬を投与せずに症状が改善したのも事実である。サブグループ解析の結果では、尿培養が陰性だった患者に限ると、症状増悪に関して2群間で有意差はなかった。尿のグラム染色などで細菌性膀胱炎かどうかを見極めることができれば、抗菌薬を処方しない症例を増やすことができる可能性がある。著者らも述べているが、症状が比較的軽度で、症状が増悪した場合に遅れて抗菌薬を投与することを許容してくれる患者であれば、初回はイブプロフェン投与で経過をみるのも1つの選択肢になりうると考える。

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イブプロフェンは尿路感染症の代替治療となりうるか/BMJ

 単純性尿路感染症の女性患者の初回治療において、イブプロフェンによる対症療法はホスホマイシンによる抗菌薬治療に比べ抗菌薬の使用を抑制するが、症状の緩和効果は低く、腎盂腎炎の発症が増加する傾向がみられることが、ドイツ・ゲッティンゲン大学医療センターのIldiko Gagyor氏らの検討で示された。単純性尿路感染症の女性患者には通常、抗菌薬治療が行われるが、本症は無治療で回復する症例も多く、耐性菌増加の防止の観点からも、抗菌薬の処方の抑制対策が進められている。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であるイブプロフェンは、パイロット試験において、症状消失に関して抗菌薬治療に対し非劣性で、3分の2の患者で抗菌薬の処方なしに回復したことが報告されていた。BMJ誌オンライン版2015年12月23日号掲載の報告より。対症療法の有用性を無作為化試験で評価 研究グループは、単純性尿路感染症に対するイブプロフェンによる対症療法が、症状、再発、合併症を増加させずに抗菌薬の処方を抑制できるかを検証する無作為化試験を実施した(ドイツ連邦教育研究省[BMBF]の助成による)。 対象は、年齢18~65歳、典型的な尿路感染症の症状がみられ、リスク因子や合併症がみられない女性であった。 被験者は、1日にイブプロフェン(400mg×3錠)+プラセボ(1錠)またはホスホマイシン・トロメタモール(3g×1錠)+プラセボ(3錠)を投与する群に無作為に割り付けられ、3日間の治療が行われた。症状の持続、増悪、再発に対し必要に応じて抗菌薬が追加処方された。 質問票を用いて、症状の重症度、仕事や日常的な活動性の障害度を点数化した。症状、服薬状況、抗菌薬の追加処方のデータは、看護師が被験者に電話して収集した。 主要評価項目は、0~28日の抗菌薬治療(尿路感染症、その他の病態)の全コース数と、0~7日の症状の負担(毎日の症状スコアの総計の曲線下面積)の複合エンドポイント。症状スコアは、排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛をそれぞれ0~4点の5段階(点数が高いほど重度)で評価した。 ドイツの42ヵ所のプライマリケア施設に494例が登録された。イブプロフェン群に248例、ホスホマイシン群には246例が割り付けられ、それぞれ241例、243例がITT解析の対象となった。抗菌薬の回避や遅延処方の許容が可能な女性で考慮 平均年齢は両群とも37.3歳であった。罹病期間が2日以上(36 vs. 46%)および再発例(17 vs. 23%)の割合が、イブプロフェン群に比べホスホマイシン群で高い傾向がみられた。 イブプロフェン群はホスホマイシン群に比べ、28日までの抗菌薬コース数が有意に少なかった(94 vs.283コース、減少率:66.5%、p<0.001)。イブプロフェン群で抗菌薬投与を受けた患者数は85例(35%)であり、ホスホマイシン群よりも64.7%少なかった(p<0.001)。 第7日までの総症状負担の平均値は、イブプロフェン群がホスホマイシン群に比べ有意に大きかった(17.3 vs.12.1、平均差:5.3、p<0.001)。排尿障害(p<0.001)、頻尿/尿意切迫(p<0.001)、下腹部痛(p=0.001)のいずれもがイブプロフェン群で有意に不良であった。 有害事象の報告はイブプロフェン群が17%、ホスホマイシン群は24%であった(p=0.12)。重篤な有害事象は、イブプロフェン群で4例にみられ、このうち1例は治療関連の可能性が示唆された。ホスホマイシン群では重篤な有害事象は認めなかった。 腎盂腎炎の頻度はイブプロフェン群で高い傾向がみられた(2 vs.0.4%、p=0.12)が、第15~28日の尿路感染症の再発率はイブプロフェン群で低かった(6 vs.11%、p=0.049)。第7日までの尿路感染症による活動障害は、イブプロフェン群で有意に不良であった(p<0.001)。 著者は、「対症療法の抗菌薬治療に対する非劣性の仮説は棄却すべきであり、初回イブプロフェン治療を一般的に推奨することはできない」としたうえで、「イブプロフェン群の約3分の2の患者は、抗菌薬を使用せずに回復し、症状が軽度~中等度の患者で効果が高い傾向がみられた。抗菌薬の回避や遅延処方を許容する意思のある女性には、イブプロフェンによる対症療法を提示して検討するのがよいかもしれない」と述べている。

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尿もれ治療の経口抗コリン薬、ドライアイの原因に

 切迫性尿失禁や過活動膀胱の主たる治療薬である経口抗コリン薬は、排尿筋以外に眼や唾液腺などのムスカリン受容体も阻害する。トルコ・Zekai Tahir Burak Women's Health Education and Research HospitalのZuhal Ozen Tunay氏らは、過活動膀胱の女性患者において前向き研究を行い、経口抗コリン薬が涙液分泌に対し有意な悪影響を及ぼし、投与期間が長いほどその影響が大きくなる可能性があることを報告した。International Urogynecology Journal誌オンライン版12月7日号の掲載報告。 研究グループは、過活動膀胱と診断された女性108例(平均51.8±9.2歳、範囲30~69歳)を対象に抗コリン薬で治療を行うとともに、抗コリン薬投与開始時、投与30日後および90日後に眼科検査、涙液層破壊時間(BUT)の測定およびシルマー試験(1法)を実施し、自覚症状(口乾、眼の灼熱感・乾燥・異物感)を調査した。 主な結果は以下のとおり。・最も頻度の高かった自覚症状は、口渇と眼の乾燥で、いずれも投与30日後および90日後ともに有意であった。・BUTおよびシルマー試験値は、いずれも投与30日後および90日後ともに有意に低下した。・ドライアイ評価項目(BUTおよびシルマー試験値)は、抗コリン薬の投与期間に伴って悪化した(BUT:投与30日後p=0.037、90日後p=0.012、シルマー試験:それぞれp=0.046およびp=0.035)。

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前立腺選択的α遮断薬、転倒・骨折リスクと関連/BMJ

 前立腺選択的α遮断薬は、転倒および骨折のリスク増大とわずかだが有意に関連していることが、カナダ・ウェスタンオンタリオ大学のBlayne Welk氏らによる住民コホート試験の結果、明らかにされた。また、頭部外傷、低血圧症のリスク増大も認められた。前立腺選択的α遮断薬は高齢男性の前立腺肥大症の治療薬で、これまでに、重篤有害事象の1つとして低血圧症があり、それが重大な転倒・骨折、頭部外傷の誘因となっている可能性が指摘されていた。しかし先行観察研究では、前立腺選択的α遮断薬にフォーカスした検討はされておらず、また治療開始と転倒・骨折リスクに関して相反する結論が報告されていた。BMJ誌オンライン版2015年10月26日号掲載の報告。住民コホート試験で曝露群 vs.非曝露群について検討 前立腺選択的α遮断薬による治療を開始した男性で転倒・骨折リスクの増大がみられるかを検討した試験は、カナダ・オンタリオ州の医療管理データベースを基にコホートを作成して行われた。66歳以上男性で2003年6月~13年12月に前立腺選択的α遮断薬(タムスロシン、alfuzosin、シロドシン)を初回外来処方された(曝露コホート)群14万7,084例と、傾向スコアモデルを用いて適合した同薬を開始していなかった同数(非曝露コホート)を比較検討した。 主要アウトカムは、曝露後90日間での転倒または骨折による病院救急部門(ER)受診または入院とした。曝露群でわずかだが有意にリスクが増大 結果、曝露コホートは非曝露コホートに比べて、転倒リスクの有意な増大が認められた。各コホートの転倒発生は、2,129例(1.45%)、1,881例(1.28%)で、絶対リスク増大は0.17%(95%信頼区間[CI]:0.08~0.25%)、オッズ比(OR)は1.14(95%CI:1.07~1.21)であった。また、骨折リスクも有意に増大した。発生例は699例(0.48%)、605例(0.41%)で、絶対リスク増大は0.06%(0.02~0.11%)、ORは1.16(1.04~1.29)であった。これらの増大リスクは、前立腺選択的α遮断薬使用前の期間には観察されなかった。 また、副次アウトカムの低血圧症(OR:1.80、95%CI:1.59~2.03)および頭部外傷(同:1.15、1.04~1.27)も、曝露コホートで有意な増大がみられた。 著者は、「両コホートは、98の異なる変数(人口統計学的、併存疾患、使用薬物、医療サービス利用、既往歴)について類似していた。潜在的な未知の交絡因子(体調不良、運動機能障害、状況的リスク因子など)は除外することが可能である」と述べたうえで、「主要アウトカムに用いられたデータの感度は限定的であり、絶対リスクは過小評価の可能性がある」と指摘している。また、被験者が66歳以上であり、曝露群の84%がタムスロシンを処方されていたことから、「結果は、より若い男性には該当しない。また薬物間のアウトカムの差がわずかであることを示す統計的検出力にも乏しいものであった」と述べ、同薬物治療の導入について引き続き検討すべきだとしている。

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健康寿命の延伸は自立した排尿から!

 10月19日、株式会社リリアム大塚(大塚グループ)は、膀胱内の尿量を連続的に測定するセンサー「リリアムα-200」の製品発表会と排尿ケアに関するプレスセミナーを都内にて開催した。使いやすい機能で排尿支援 「リリアムα-200」は、4つのAモード超音波で得た情報から膀胱内の尿量を推定する測定器である。尿意を失った患者さんに対し、適切に導尿のタイミングを通知する機能を有し、尿道留置カテーテルの抜去やオムツからの離脱など、患者さんの排尿自立につながることが予想されている。 基本機能として、次の機能が搭載されている。 1)残尿測定:位置決めモードにより簡便に膀胱内の尿量測定を行う 2)排尿タイミングモード:任意に設定した膀胱内尿量で患者に通知 3)定時測定モード:連続的尿量測定により蓄尿・排尿状態を把握 4)排尿日誌機能:排尿時にボタンを押すことで排尿日誌の作成が可能 同社では、本製品の普及により、排尿で問題を抱えている多くの方々のQOLの向上や患者ADLの向上、看護・介護に携わる方々の労力の軽減と効率化、さらには患者さんの尊厳に関わる医療ケアに大きく貢献できるものと、期待を膨らませている。 希望小売価格は税抜35万円(初回に同包する各種アクセサリを含むセット価格)。11月2日より発売。非専門医ももっと泌尿器診療へ プレスセミナーでは、高橋 悟氏(日本大学医学部泌尿器科学系 主任教授)が、「超高齢社会に於ける排尿ケアの課題と対策」と題しレクチャーを行った。 尿意切迫感、切迫性尿失禁などの排尿トラブルは、健康な人でも40歳を超えると年齢とともにその数は増加する。まして、脳血管障害、運動器障害、認知症などの基礎疾患がある要介護状態では、半数以上で何らかの排尿障害があると報告されている。わが国では、要介護認定者は600万人を超えており、排泄介護は今後も大きな問題になる。そして、排泄介護は、負担が非常に大きく、自宅復帰を阻害する要因となっている。 これら排尿障害の臨床では、「過活動膀胱診療ガイドライン」をはじめ、多数のガイドラインが使用されている。それらで取り上げられている残尿測定と排尿日誌は、基礎的評価として重要な項目であり、一般の外来でも行われることが期待されている(現在、残尿測定検査は超音波検査で55点、導尿で45点の保険適用)。 しかし、残尿測定検査は、特別に機器が必要とされ、外来でも煩雑であり、排尿日誌は、自立排尿できない患者さんや介護者の負担などの理由でなかなか記録されないという課題がある。 診断後は、頻尿、尿失禁、排出障害などに対して、排尿障害治療薬も発売されている。しかし、十分な治療効果がない場合は、成人用オムツが多用されており、また、在宅介護では、留置カテーテルも少なくないという。排尿予測が患者、介護者の負担を軽減する このように課題の多いわが国の排尿管理において、高齢者80名に反復的尿量測定と排尿誘導を行った結果、オムツ使用の軽症化、身体機能の改善、認知機能の改善、介護ストレスの軽減に有用であったとする研究がある(Iwatsubo E, et al. Int J Urol. 2014;21:1253-1257.)。 今後の排尿ケアにおいては、膀胱機能アセスメントとして、残尿(尿量)測定と排尿日誌、行動療法統合プログラムの実施が望まれる。また、回復期リハビリテーションや地域包括ケアでの積極的な介入が重要となる。 その際に、「リリアムα-200」のような携帯型の残尿測定器があれば、排尿ケア・プランの立案ができ、適切な排尿誘導が可能となる。これにより、必要のないオムツの取り外しや留置カテーテルの抜去ができ、患者さんの尊厳回復やQOLの向上、介護者の負担軽減につながり、ひいては高齢者の健康寿命の延伸に期待が持たれる、とレクチャーを終えた。「リリアムα-200」の製品紹介はこちら関連リンクケアネット・ドットコム 特集「排尿障害

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