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腎移植後のBKウイルス尿症、キノロンで予防できるか/JAMA

 腎移植後レシピエントの重大合併症であるBKウイルス感染症に対して、移植後早期開始のレボフロキサシン(商品名:クラビットほか)療法(3ヵ月間投与)は、BKウイルス尿症発症を予防しなかったことが、カナダ・オタワ大学のGreg A. Knoll氏らによる、前向き二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、判明した。BKウイルスの一般集団保有率は60~80%であり、移植後免疫療法は同ウイルスを再活性化することが知られる。ウイルス尿症に始まり、ウイルス血症、最終的にウイルス腎症に至る感染症の進行は、レシピエントの移植失敗に結びつくこと(10~100%)から問題視されている。今のところ同感染症に対する有効な治療戦略はないが、後ろ向き検討において、キノロン系抗菌薬の抗ウイルス効果が示されたことから、前向き試験による予防的投与の効果を検討する本試験が行われた。JAMA誌2014年11月26日号掲載の報告。移植後5日以内に3ヵ月間投与、プラセボ群と比較 試験は、2011年12月~2013年6月にカナダの7つの移植医療施設で行われた。被験者は、死体または生体腎移植を受けた154例で、移植後5日以内に開始する3ヵ月間のレボフロキサシン投与(500mg/日、76例)を受ける群と、プラセボ群(78例)に無作為に割り付けられ追跡を受けた。 主要アウトカムは、移植後1年以内のBKウイルス尿症発症(定量リアルタイムPCR法で検出)までの期間。副次アウトカムは、BKウイルス血症の発生率、ウイルス量最大値、拒絶反応、患者死亡率および移植片生着失敗率などであった。BKウイルス尿症発生のハザード比0.91で有意差なし、むしろ耐性菌リスク増大 本試験は、被験者154例のうち38例が追跡予定期間(12ヵ月)を完遂できなかった。38例のうち11例はウイルス尿症を発症したため、また27例はリスクが認められ、試験を早期に終了した(全被験者が完了した追跡期間は8ヵ月間)。全体の平均追跡期間は、レボフロキサシン群46.5週、プラセボ群46.3週であった。 BKウイルス尿症の発生は、レボフロキサシン群22例(29%)、プラセボ群26例(33.3%)で、両群に有意差は認められなかった(ハザード比:0.91、95%信頼区間[CI]:0.51~1.63、p=0.58)。また、各副次エンドポイントについても、両群間で有意差はみられなかった。 一方で、レボフロキサシン群でキノロン耐性菌感染症のリスク増大が認められた(58.3%vs. 33.3%、リスク比:1.75、95%CI:1.01~2.98)。また、有意ではなかったが腱炎リスクの増大も認められた(7.9%vs. 1.3%、リスク比:6.16、95%CI:0.76~49.95)。 試験期間中の腎機能は両群で同等であった。

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RA系阻害薬服用高齢者、ST合剤併用で突然死リスク1.38倍/BMJ

 ACE阻害薬またはARBのRA系阻害薬服用中の高齢患者では、経口ST合剤(トリメトプリム+スルファメトキサゾール)は突然死のリスクを増大することが、カナダ・トロント大学のMichael Fralick氏らによる住民ベースのコホート内症例対照研究の結果、明らかにされた。著者らは、同リスクの増大は、ST合剤により誘発された高カリウム血症によるものと推測され、高カリウム血症リスクの重大性を認識していなかったことに起因する可能性を指摘した。所見を踏まえて著者は「ACE阻害薬やARB服用中の患者が抗菌薬投与を必要とする際、担当医師は、トリメトプリムを含有しない抗菌薬を選択するか、トリメトプリムベースの治療を続けるにしても用量や投与期間を制限するとともに血清カリウム値のモニタリングを密に行うべきである」と提言している。BMJ誌オンライン版2014年10月30日号掲載の報告より。66歳以上のACE阻害薬、ARB服用者の抗菌薬投与後突然死を調査 ACE阻害薬またはARB服用中のST合剤投与は、アモキシシリンが関連した高カリウム血症による入院リスクが7倍と増大することが知られていた。研究グループは、それらの知見を踏まえて突然死との関連を明らかにする検討を行った。 1994年4月1日~2012年1月1日に、カナダ・オンタリオ州の住民でACE阻害薬またはARB治療を受けている66歳以上の高齢者を対象に行われた。外来で、ST合剤、アモキシシリン(商品名:サワシリンほか)、シプロフロキサシン(同:シプロキサンほか)、ノルフロキサシン(同:バクシダールほか)、ニトロフラントイン(国内未発売)のうちいずれか1つの処方を受けており、その直後に死亡していた人を症例群とし、各症例について、年齢、性別、慢性腎臓病、糖尿病に関する適合を行った(最大4項目)。 主要評価項目は、突然死と各抗菌薬曝露との関連についてのオッズ比(OR)で、アモキシシリンを参照値とし、疾患リスク指数別の突然死予測で補正後に算出し評価した。ST合剤服用後の突然死リスク、最大値は14日時点で1.54倍 対象期間中に、3万9,879例の突然死が報告されており、そのうち、抗菌薬曝露後7日以内の突然死の発生は1,027例であった。 適合対照群3,733例との検討において、アモキシシリンと比べて、補正後ORが最大であったのは、ST合剤で1.38(95%信頼区間[CI]:1.09~1.76)であった。同投与によるリスクは14日時点が最も高く、補正後ORは1.54(同:1.29~1.84)。すなわち、ST合剤を1,000例処方するごとに、14日以内の突然死が3例発生することが示唆された。 次いでシプロフロキサシンの7日以内突然死の補正後ORも1.29(同:1.03~1.62)とリスク増大が示されたが、ノルフロキサシン(OR:0.74)、ニトロフラントイン(OR:0.64)ではリスクの増大は認められなかった。

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RA系阻害薬使用中の高齢者への抗菌薬ST合剤使用で突然死!(解説:浦 信行 氏)-277

RA系阻害薬は、RA系を阻害することによるアルドステロン低下が高K血症を引き起こすことはよく知られた事実であり、致死性の不整脈を惹起することを念頭に置いた使用が望まれる。ST合剤(トリメトプリム。スルファメトキサゾール合剤)はわが国ではバクタ、バクトラミン、セプテリンの商品名で市販されており、それなりに汎用されている薬剤である。このたび、カナダのFralick氏らは、RA系阻害薬使用中の高齢者への、抗菌薬であるST合剤の使用が突然死のリスクを上げることをBMJ誌に報告した。 アモキシシリン使用例を対照とすると、ST合剤併用の突然死のリスクは7日目で1.38倍、14日目で1.54倍と有意に上昇するとの結果である。成分中のトリメトプリムの化学構造がK保持性利尿薬のアミロライドに類似しており、腎臓の遠位ネフロンに存在するアミロライド感受性の上皮型Naチャネルを抑制し、Na利尿を促進し、K利尿を抑制して、血清K濃度を上昇させる。ST合剤単独使用でも、投与例の80%に0.36 mEq/L以上の血清K濃度を上昇させ、6%に5.4 mEq/L以上の高K血症を引き起こすことが報告されている1)。 また、高齢者においてアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬使用例に各種K保持性利尿薬を併用すると、高K血症による入院のリスクは20倍になることも報告されている2)。著者らは、以前よりこの点に着目しており、ACE阻害薬使用例におけるST合剤の使用が、高K血症のリスクを6.7倍に上昇させることをすでに報告していた3)。その結果、本研究で示されるように、最終アウトカムである突然死のリスクが有意に増加するという重大な事実を明示した。 バクタ配合薬の添付文書は2012年8月に改訂されており、重大な副作用の(13)に高カリウム血症、低ナトリウム血症(頻度不明)と記載されている。しかし、相互作用、併用注意の項でRA系阻害薬やK保持性利尿薬併用時の注意喚起は記載されておらず、突然死の可能性を示す記載もない。高齢者は潜在的な腎機能低下を合併しやすく、その結果、腎代謝であるST合剤の血中濃度の上昇とK排泄能低下から、そのリスクが高まると考えられる。しかし、非高齢者においてもこのリスクは十分考慮されなければならない。

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CareNet座談会 「高齢者の肺炎診療 ~新しい肺炎球菌ワクチンで変わる高齢者肺炎予防~」

<座長><出席者>高齢者肺炎の現状と肺炎球菌ワクチンの重要性賀来(座長) 本日は、感染症の専門の先生方にお集まりいただき、高齢者の肺炎の現状と新しい肺炎球菌ワクチンについて伺います。私どもは東日本大震災後の感染症について解析しており、災害後の集団感染リスクから被災者を守る必要性を感じています。震災後に東北大学病院に入院した感染症患者は、高齢者の誤嚥性肺炎を含めた市中肺炎などの呼吸器感染症が67%を占め、肺炎の原因菌の25.8%が肺炎球菌であり(図1)1)、肺炎球菌ワクチン接種による肺炎発症予防の重要性を感じました。図1 東北大学病院における震災関連感染症の解析画像を拡大するはじめに、高齢者における肺炎球菌感染症対策の重要性について伺います。門田 肺炎はわが国の死因の第3位の疾患であり、死亡者の大半を高齢者が占める現状がありますが、なかでも肺炎球菌による肺炎が多く、65歳以上の市中肺炎入院患者を対象とした検討では肺炎球菌が約30%を占めることが報告されています2)。また、生命を脅かす重篤な疾患である髄膜炎や敗血症などの侵襲性肺炎球菌感染症も高齢者に多く起こりますので、肺炎球菌感染症の予防はきわめて重要です。三鴨 高齢者ではさまざまな基礎疾患を有することが多く、それらが肺炎リスクを高めていると考えられます。例えば、糖尿病患者では白血球の貪食能、殺菌能の低下により、感染症リスクが高まると考えられます。また、脳梗塞や一過性脳虚血発作の後遺症がある場合は、誤嚥が関連する肺炎のリスクが高いと考えられます。さらに、高齢者に対する治療を考えると、腎機能低下例が多いために抗菌薬療法を十分に行えない可能性があります。腎機能や肝機能に留意した治療が求められるのが高齢者の特徴です。賀来(座長) 誤嚥は肺炎の要因になりますが、そこでも原因菌として肺炎球菌は重要でしょうか。門田 誤嚥の疑いのある高齢者の肺炎において肺炎球菌が26%を占めていたという報告もあり3)、意外に多いことが明らかになりつつあります。三鴨 とくに不顕性誤嚥(睡眠中に無意識のうちに唾液などが気道に入る)があると誤嚥性肺炎のリスクが高まり、免疫機能の低下が加わることでさらにリスクが増加します。肺炎球菌が意外に多いことを考えると、やはり肺炎球菌ワクチンによる予防が重要となります。また、高齢者の基礎疾患と肺炎リスクは関連があると考えられますので、高齢者全員にワクチンを接種するユニバーサルワクチネーションの考え方が重要です。高齢者肺炎の診断と病態の特徴賀来(座長) 次に、高齢者肺炎の診断と病態の特徴について伺います。門田 高齢者肺炎において注意していただきたいのは、細菌性肺炎であっても白血球数が上昇しない場合があること、また、症状が潜在性の場合があることです。典型的な症状がなくとも、食欲減退・不活発・会話の欠如などがあり、肺炎が疑われる場合には早めに胸部画像検査をしていただきたいです。三鴨 高齢者の肺炎で、もう1つ臨床上重要な点は、不顕性誤嚥があると肺炎を繰り返す例が多いことです。門田 肺炎を繰り返すと、抗菌薬治療を繰り返すことで耐性菌が出現するリスクも高まります。三鴨 おっしゃるとおりです。そのため、私たちは高齢者の肺炎患者に対しては退院時に積極的に肺炎球菌ワクチンを接種するようにしています。新しい肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)のエビデンス賀来(座長) これまで高齢者に対しては肺炎球菌多糖体ワクチン(PPV)が用いられてきましたが、先頃、小児において使用実績の高い肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)が成人(65歳以上)に対しても適応が認められ、選択肢が広がりました。この新しいワクチンの特徴と期待されるメリットについて伺います。門田 PPVは肺炎球菌の莢膜多糖体を抗原とするワクチンですが、PCV13は莢膜多糖体にキャリアタンパクを結合させたワクチンであり、免疫原性が高いことが特徴です(図2)。図2 多糖体ワクチンと結合型ワクチンにより誘導される免疫応答の概略画像を拡大するキャリアタンパクを結合することでB細胞のみならずT細胞を活性化することが可能であり、免疫応答の惹起に加え、メモリーB細胞を介した免疫記憶の確立が期待できます。賀来(座長) これらの特徴は臨床試験からも確認されているのでしょうか。三鴨 国内における第III相試験4)では、肺炎球菌ワクチン未接種の65歳以上の日本人高齢者764例を対象として、従来のPPVを対照群とする非劣性試験が実施されました。接種1ヵ月後のオプソニン化貪食活性(OPA)を比較した結果、両ワクチンに共通する12種類の血清型のいずれについてもPCV13はPPVに対して非劣性を示しました。このうち9血清型についてはPCV13におけるOPAの有意な上昇が認められ、PCV13の免疫原性が示されました(図3)。図3 ワクチン血清型別OPA*幾何平均力価比画像を拡大する一方、海外における第III相試験5)では、1回目にPCV13またはPPVを接種し、その3~4年後にPPVを再接種した場合のOPAの上がり方を検討しており、PCV13を接種した群における再接種時の免疫応答からPCV13による免疫記憶の確立が示されています(図4)。この結果から、1回目にPCV13を接種すると、PCV13に続いて2回目に接種されるワクチンの免疫応答も増大すると考えられ、今後、両ワクチンの特性を活かして接種スケジュールを検討する際の参考にできると思います。図4 肺炎球菌ワクチンの2回目接種前後のワクチン血清型別OPA画像を拡大する高齢者に対する肺炎球菌ワクチン接種の今後の展望賀来(座長) PCV13が高齢者にも使用可能になったことにより肺炎球菌感染症の予防にさらなる期待がもたれます。今後、高齢者へのワクチン接種をさらに普及させるうえでどのような方策が必要でしょうか。門田 日本呼吸器学会では「ストップ肺炎キャンペーン」を展開しており、一般向け・医療従事者向けの冊子をWebでも公開しています6)。今後、呼吸器科のみならず他科の先生方にも肺炎予防の重要性を周知し、他疾患領域の学会とも連携して取り組む必要があると思います。三鴨 糖尿病やリウマチでは、新薬の登場により治療成績が向上していますが、その一方で感染症リスクが高まる場合もあるため、高齢者の感染症予防に対する関心が高まっています。こうした面からも肺炎球菌ワクチン接種の意義を訴求していけると思います。また、ワクチンの普及には行政の役割も重要です。2014年10月から、65歳以上を対象に成人用肺炎球菌ワクチンが定期接種化されました(表1)。国の制度では5年間で順次接種することになっていますが、私はすべての高齢者に接種することが望ましいと考えています。そのため、居住地である岐阜市の市長がワクチン接種の公費助成に力を入れる方針を示していることを知り、この地域に居を構えるアカデミアの一人として肺炎球菌ワクチンについて提言を行いました(表2)。その結果、岐阜市では本年度に65歳以上全員を接種対象として予算を組んでくれました。高齢者医療はこうした比較的小規模な枠組みからも改善でき、非常に重要な動向であると思っています。賀来(座長) 本日は、高齢者に対する肺炎球菌ワクチンの現状と今後の展望について詳細にお話を伺うことができました。皆さま、ありがとうございました。表1 65歳以上の成人用肺炎球菌ワクチン定期接種(B型)の経過措置を含めた接種対象年齢画像を拡大する表2 肺炎球菌ワクチンについての提言画像を拡大する参考文献1)賀来 満夫. 日本内科学会雑誌. 2014; 103: 572-580.2)石田 直. Infection Control. 2005; 14: 645-649.3)Ishida T, et al. Intern Med. 2012; 51: 2537-2544. 4)ファイザー(株) 社内資料 国内第Ⅲ相試験(非劣性試験、未接種者、B1851088試験).5)Jackson LA, et al. Vaccine. 31; 2013: 3594-3602.6)日本呼吸器学会ホームページ PCV13についての詳細は製品添付文書をご覧ください。

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バンコのMIC上昇、死亡リスクと関連せず/JAMA

 黄色ブドウ球菌(S aureus)血流感染(SAB)患者では、バンコマイシン(VCM)の最小発育阻止濃度(MIC)の高値例と低値例で死亡リスクに差はないことが、米国・ネブラスカ大学医療センターのAndre C. Kalil氏らの検討で示された。50歳以上の黄色ブドウ球菌感染患者に対しVCMは第一選択の治療薬とされるが、近年、VCMのMICが上昇傾向にあることが複数の研究で明らかにされている(MIC creepと呼ばれる)。また、3件のメタ解析では、VCMのMIC上昇は不良な転帰と関連する可能性が示唆されているが、死亡との関連や、MIC高値の場合はVCMを回避すべきかなどの問いへの解答は明確ではないという。JAMA誌2014年10月15日号掲載の報告。MIC高値と死亡の関連をメタ解析で評価 研究グループは、SAB患者におけるVCMのMIC上昇と死亡との関連を評価するために、系統的なレビューとメタ解析を実施した。2名の研究者が別個に、2014年4月までに5つの医学データベースに登録された文献を検索し、関連論文を選出した。 全体の解析ではVCM MICのカットオフ値を1.5mg/L(μg/mL)に設定し、≧1.5μg/mLを高MIC群、<1.5μg/mLを低MIC群とした。試験の質はNewcastle-Ottawaスケールで評価し、8~9点を最上質と定義した。主要評価項目は全死因死亡とし、ランダム効果モデルを用いて全データを統合した。 前向き試験8件および後ろ向き試験30件(日本の2試験を含む)の合計38試験に登録された8,291件のSABエピソードが解析の対象となった。全体の全死因死亡率は26.1%であった。死亡リスクの上昇、必ずしも排除できないが… SAB患者の推定死亡率は、高MIC群(2,740例)が26.8%、低MIC群(5,551例)は25.8%であり、両群間に差を認めなかった(補正リスク差[RD]:1.6%、95%信頼区間[CI]:-2.3~5.6%、p=0.43)。 最上質の試験(22件、6,486例)における推定死亡率は、高MIC群(2,318例)が26.2%、低MIC群(4,168例)は27.8%であり、やはり両群で同等であった(RD:0.9%、95%CI:-2.9~4.6%、p=0.65)。 メチシリン耐性菌(MRSA)感染に限定した解析(7,232例)でも、推定死亡率は高MIC群(2,384例)が27.6%、低MIC群(4,848例)は27.4%と差はみられなかった(RD:1.6%、95%CI:-2.3~5.5%、p=0.41)。 全死因死亡のサブグループ解析では、試験デザイン(前向き、後ろ向き、症例対照、症例集積)、薬剤感受性試験(微量液体希釈法、Etest)、MICのカットオフ値(1.5、2.0、4.0、8.0μg/mL)、臨床転帰(院内死亡、30日死亡)、菌血症の罹患期間、過去6ヵ月のVCM投与量、VCM治療歴の有無のいずれにおいても、高MIC群と低MIC群の間に差はみられなかった。 研究グループは、これらの知見の実臨床および公衆の保健上の意義として、(1)米国の臨床検査標準協会(CLSI)のVCM MICの標準値を低く設定する必要はほとんどない、(2)MICが1~2μg/mLの場合は通常、その差に意味はない、(3)MICの上昇がみられるが感受性の範囲内にある場合は、他の抗菌薬への変更は不要と思われる、を挙げている。 著者は、「本試験の結果は、MIC高値例における死亡リスクの上昇を明確に排除するものではないが、VCMの感受性の解釈や、MICが上昇するも感受性がある場合の薬剤変更の決定の際に考慮すべきである」と指摘している。

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事例23 レボフロキサシン(商品名:クラビット)投与日数の査定【斬らレセプト】

解説前月受傷の足底挫創に対して状態確認に通院された患者が熱発を訴えていた。足底の傷はきれいに治癒していたので、口腔内を目視したところ、扁桃腺に膿が付着していた。これが熱発の原因であると考えて急性扁桃炎と診断、クラビット®錠(レボフロキサシン)を14日分処方した。しかし、B事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)を理由に7日分へと査定になった。同薬剤の添付文書を見てみると、「本剤の使用にあたっては、耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要な最小限の期間の投与にとどめる」と限度日数の明記はない。そのため14日分までは良いと考え、投与していた。しかし、「最小限の期間」とは、「感受性検査などを行ったうえで効果が予見できる期間」とされている。その期間は、他の多くの抗菌薬では添付文書にて7日間を限度とされていることから、保険診療における抗菌薬使用限度は、7日間が1つの目安とされていることが推測できる。事例もこの目安で7日分に査定となったものであろう。外来であって、急性感染症に対する抗菌薬の1処方に対して感受性検査などもないことから、7日以内に査定となっていてもおかしくはなかった事例であった。

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英プライマリケアの抗菌治療失敗が増加/BMJ

 英国では、1990年代後半にプライマリケアでの抗菌薬の処方が減少しプラトーに達した後、2000年以降再び増加し、耐性菌増加の懸念が出てきている。 英・カーディフ大学のCraig J Currie氏らは、1991~2012年における英国のプライマリケアでの主な4つの感染症における抗菌薬の治療失敗率について検討した。その結果、各感染症に対して初期治療で用いられる抗菌薬の上位10剤のうち、1剤以上が治療失敗と関連していた。また、この期間中に全体的な治療失敗率が12%増加し、その増加のほとんどは、プライマリケアでの抗菌薬処方が再び増加してきた2000年以降であることが報告された。BMJ誌2014年9月23日号に掲載。 著者らは、UK Clinical Practice Research Datalink(CPRD)のデータを用いて、上気道感染症、下気道感染症、皮膚・軟部組織感染症、急性中耳炎に対する抗菌薬単剤での初期治療の失敗率を縦断的に分析した。主な評価項目は、標準化した基準で定義された調整治療失敗率(1991年を100とした指数)とした。 主な結果は以下のとおり。・CPRDの抗菌薬処方箋約5,800万枚から、4つの適応症に対する単剤治療の1,096万7,607エピソードを分析した。それぞれのエピソードは、上気道感染症が423万6,574(38.6%)、下気道感染症が314万8,947(28.7%)、皮膚・軟部組織感染症が256万8,230(23.4%)、急性中耳炎が101万3,856(9.2%)であった。・1991年における全体的な治療失敗率は13.9%であり、上気道感染症12.0%、下気道感染症16.9%、皮膚・軟部組織感染症12.8%、急性中耳炎13.9%であった。・2012年における全体的な治療失敗率は15.4%で、1991年と比較し12%増加していた(1991年を100とした調整値:112、95%CI:112~113)。最も高かったのは下気道感染症であった(同調整値:135、95%CI:134~136)。・最もよく処方される抗菌薬(アモキシシリン、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリン)の治療失敗率は20%以下であった。一方、上気道感染症治療におけるトリメトプリム(1991~1995年:29.2% → 2008~2012年:70.1%)、下気道感染症治療におけるシプロフロキサシン(同22.3% → 30.8%)とセファレキシン(同22.0% → 30.8%)は顕著な増加が認められた。・広域スペクトルのペニシリン、マクロライド、フルクロキサシリンの治療失敗率は、ほぼ変化がなかった。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第12回

第12回:胆石のマネージメント~無症状の対応から、胆石発作や急性胆嚢炎を起こした場合の対処まで~監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 胆石は、腹部エコーを行ったら偶然見つかった、ということが日常診療では多いと思います。日本でも剖検による胆石保有率が2.4%1) と決して少なくありません。ここで、無症状の胆石への対応、胆石発作や急性胆嚢炎を起こした場合の対処を復習したいと思います。 以下、American Family Physician 2014年5月15日号2) より1.はじめに胆石は、消化器疾患の中でも最も多い疾患の1つである。胆石のリスクとして、糖尿病、肥満、女性、ホルモン製剤、避妊薬の内服がある。ほとんどの患者では無症状に経過し、超音波検査などで偶然見つかることが多い。偶然見つかった胆石患者のほとんどは、今後症状が出現する可能性は少ないが、一度症状が起きると胆石発作が繰り返される。2.症状、徴候胆石発作は、右上腹部の急性の疼痛として表現される。変動なく突然発症し、1時間でピークを迎える。90%が10年以内に再発をする。急性胆嚢炎の身体所見は何と言ってもMurphy sign(右季肋部を押さえると吸気時に痛くて呼吸が止まる)が重要である。3.診断腹部エコーがまず勧められる。胆石の診断において 感度が98%、特異度が95%である。MRCPは、エコーで描出できなかった場合に次に推奨される。胆石がある患者の6~12%に胆管結石があり、それらは膵炎や胆管炎のリスクになるので注意が必要である。MRCPとERCPは同等の診断精度を持つ。ただし、ERCPのほうが侵襲的で出血、膵炎、胆管炎が4~10%で生じる。4.治療胆石溶解剤の内服は、無症状の胆石に対する疼痛予防としては効果がない。手術の有無については、通常の無症状の胆石は経過観察をするが、例外として磁器様胆嚢(胆嚢がんのリスクあり)、溶血性貧血、3cm以上の胆石では手術を考慮する。胆石発作および胆嚢炎で手術を選択した場合は、ほとんどの症例で腹腔鏡下胆嚢摘出術が薦められる。ただし、経過観察も1つの選択肢となりうる。ある研究によると症状のある胆石に対しては35%に手術が必要で、平均5.6年手術を延長することができたとする報告がある。腹腔鏡下から開腹術に移行する可能性は、非炎症性であれば2~15%、胆嚢炎であると6~35%である3) 。待機的に行われた胆嚢摘出術であれば、予防的な抗菌薬の投与は不要である。ただし、ハイリスク(60歳以上、糖尿病を抱えるなど)であれば、予防投与により感染のリスクを軽減できるかもしれない。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 山口和哉ほか. 日臨外医会誌 1997; 58): 1986-1992. 2) Abraham S, et al. Am Fam Physician. 2014;89:795-802. 3) Sherwinter DA, et al. Laparoscopic cholecystectomy. Medscape.

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びまん性汎細気管支炎〔DPB : diffuse panbronchiolitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)は病理組織学的には両側びまん性に分布する呼吸細気管支領域の慢性炎症像を特徴とし、臨床的には慢性副鼻腔炎を伴う慢性気道感染症の形を取る疾患である。そもそもDPBの疾患概念は1960年代に、わが国で確立されたものであるが、欧米においてDPBがほとんど存在しないため、長く認知されてこなかった。しかしながら、1983年、本間氏らによりChest誌上に紹介されて以来1)、徐々に理解が深まり、現在では広く認知され欧米の主要な教科書でも必ず触れられる疾患となっている。■ 疫学以前はそれほどまれな疾患ではなく、1970年代には人口10万人対11という有病率の報告もあったが、近年では典型例は激減し、めったに見ることがなくなった2)。男女差はなく、発症年齢は10~70代まで広く分布するが、発症のピークは中年である。多くの例で、幼小児期にまず慢性副鼻腔炎にて発症し、長い年月を経て下気道症状の咳、膿性痰が加わって症状が完成する。近年DPBが激減した背景には、戦後の日本人の生活水準が急速に向上し、栄養状態が大きく改善したことと、後述するマクロライド療法が耳鼻科領域の医師にも普及し、慢性副鼻腔炎の段階で治癒してしまうことの2つが大きな原因と考えられる。■ 病因明確な発症のメカニズムはまったく不明であるが、本症が病態として副鼻腔気管支症候群(sino-bronchial syndrome: SBS)の形を取ることから、背景には何らかの呼吸器系での防御機構の低下・欠損が推定される。さらにDPBでは親子・兄弟例が多く報告され、また家族内に部分症ともいえる慢性副鼻腔炎のみを有する例が多発することから、何らかの強い遺伝的素因に基づいて発症する疾患と考えられる。この観点からHLAの検討が行われ、日本人DPB患者では、一般人にはあまり保有されていないHLA-B54が高頻度に保有されていることが見出された3)。B54は特殊なHLAで、欧米人やアフリカ人にはまったく保有されず、東アジアの日本を含む一部の民族でのみ保有される抗原であり、このことがDPBという疾患が、欧米やアフリカにほとんど存在しないことと関連があると考えられる。■ 症状最も重要な症状は、慢性的な膿性の喀痰である。この症状のない例ではDPBの診断はまったく考えられない。痰に伴って咳があるのと、併存する慢性副鼻腔炎由来の症状である鼻閉、膿性鼻汁、嗅覚の低下が主症状である。疾患が進行していくと、気管支拡張や肺の破壊が進行し、息切れが増強し、呼吸不全状態となっていく。■ 予後1980年代以前のDPBはきわめて予後不良の疾患であり、1981年の調査では初診時からの5年生存率は42%、喀痰中の細菌が緑膿菌に交代してからの5年生存率はわずかに8%であった。しかしながら、1980年代半ばに工藤 翔二氏によるエリスロマイシン少量長期投与法が治療に導入されると予後は著明に改善し、早期に診断されてマクロライドが導入されれば、むしろ予後のよい疾患となった4)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)病歴と特徴ある画像所見から、典型例では診断は難しくない。画像所見としては、胸部X線所見で中下肺野に強い、両側びまん性の辺縁不鮮な小粒状影の多発を認め、これにさまざまな程度の中葉・舌区から始まる気管支拡張像と過膨張所見が加わる。CT(HR-CT)は診断上、きわめて有用であり、(1) びまん性小葉中心性の粒状影、(2) 分岐線状陰影、(3) 気道壁の肥厚と拡張像がみられる。DPBの診断基準(表1)を示す。表1 びまん性汎細気管支炎の診断の手引き1. 概念びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis: DPE)とは、両肺びまん性に存在する呼吸細気管支領域の慢性炎症を特徴とし、呼吸機能障害を来す疾患である。病理組織学的には、呼吸細気管支炎を中心とした細気管支炎および細気管支周囲炎であり、リンパ球、形質細胞など円形細胞浸潤と泡沫細胞集簇がみられる。しばしばリンパ濾胞形成を伴い、肉芽組織や瘢痕巣により呼吸細気管支炎の閉塞を来し、進行すると気管支拡張を生じる。男女差はほとんどなく、発病年齢は40~50代をピークとし、若年者から高年齢まで各年代層にわたる。慢性の咳・痰、労作時息切れを主症状とし、高率に慢性副鼻腔炎を合併または既往に持ち、HLA抗原との相関などから遺伝性素因の関与が示唆されている#1。従来、慢性気道感染の進行による呼吸不全のため不良の転帰を取ることが多かったが、近年エリスロマイシン療法などによって予後改善がみられている。2. 主要臨床所見(1) 必須項目1)臨床症状:持続性の咳・痰、および労作時息切れ2)慢性副鼻腔炎の合併ないし既往#23)胸部X線またはCT所見: 胸部X線:両肺野びまん性散布性粒状影#3 胸部CT:両肺野びまん性小葉中心性粒状病変#4(2) 参考項目1)胸部聴診所見:断続性ラ音#52)呼吸機能および血液ガス所見:1秒率低下(70%低下)および低酸素血症(80Torr以下)#63)血液所見:寒冷凝集素価高値#73. 臨床診断(1) 診断の判定確実上記主要所見のうち必須項目1)~3)に加え、参考項目の2項目以上を満たすものほぼ確実必須項目1)~3)を満たすもの可能性あり必須項目のうち1)2)を満たすもの(2) 鑑別診断鑑別診断上注意を要する疾患は、慢性気管支炎、気管支拡張症、線毛不動症候群、閉塞性細気管支炎、嚢胞性線維症などである。病理組織学的検査は本症の確定診断上有用である。[付記]#1日本人症例ではHLA-B54、韓国人症例ではHLA-A11の保有率が高く、現時点では東アジア地域に集積する人種依存症の高い疾患である。#2X線写真で確認のこと。#3しばしば過膨張所見を伴う。進行すると両下肺に気管支拡張所見がみられ、時に巣状肺炎を伴う。#4しばしば細気管支の拡張や壁肥厚がみられる。#5多くは水泡音(coarse crackles)、時に連続性ラ音(wheezes、rhonchi)ないしスクウォーク(squawk)を伴う。#6進行すると肺活量減少、残気量(率)増加を伴う、肺拡散能力の低下はみられない。#7ヒト赤血球凝集法で64倍以上。(厚生省特定疾患びまん性肺疾患調査研究班班会議、平成10年12月12日)SBSの形を取り、画像上、前述のような所見がみられれば、臨床的に診断がなされる。寒冷凝集素価の持続高値、閉塞性換気障害、HLA-B54(+)といった所見が診断をさらに補強する。通常、病理組織検査を必要としないが、非典型例、関節リウマチ合併例、HTLV-1陽性例、他のSBSとの鑑別が難しい例などでは、胸腔鏡下肺生検による検体が必要となる場合もある。近年、DPBが激減していることから経験が不足し、COPD、気管支喘息などと診断されてしまっている例もみられ、注意を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)表2 びまん性汎細気管支炎(DPB)に対するマクロライド療法の治療指針(2000年1月29日)マクロライド少量療法はDPBに対する基本療法であり、早期の症例ほどより高い臨床効果が得られることから、診断後は速やかにマクロライド少量治療法を開始すべきである。 なおマクロライド薬のうち、第1選択薬はエリスロマイシン(EM)である。(投与量及び用法)EM 1日投与量は400または600mgを分2または分3で経口投与する。(効果判定と治療期問)1.臨床効果は2~3ヵ月以内に認められることが多いが、最低6ヵ月は投与して、その臨床効果を判定する。2.長期投与により自覚症状、臨床検査所見(画像、肺機能など)が改善、安定し、重症度分類で4または5級(付記1)程度になれば、通算2年間の投与で終了する。3.終了後症状の再燃がみられれぱ、再投与が必要である。4.広汎な気管支拡張や呼吸不全を伴う進行症例で有効な場合は、通算2年間に限ることなく継続投与する。(付記)1.4級:咳・痰軽度。痰量10mL以下、息切れの程度はH-J II~III。安静時PaO2は70~79 Torrで、呼吸器症状のため社会での日常生活活動に支障がある。5級:呼吸器症状なし。安静時にPaO2は80 Torr以上。日常生活に支障なし。2.マクロライド薬のうち、現在までに本症に対する有効性が確認されているのは14員環マクロライド薬であり、16員環マクロライド薬は無効である。EMによる副作用や薬剤相互作用がある場合、あるいはEM無効症例では、14員環ニューマクロライド薬の投与を試みる。投与例 1)クラリスロマイシン(CAM)200または400mg 分1または分2経口投与2)ロキシスロマイシン(RXM)150または300mg 分1または分2経口投与炎症が強い例では、殺菌的な抗菌薬の静注やニューキノロン経口薬を短期間投与し、感染・炎症を抑えてから基本的治療に入る。基本的治療はエリスロマイシン、クラリスロマイシンを中心とした14員環マクロライドの少量長期投与である。これらの薬剤の抗炎症効果による改善が、通常投与後2週間くらいから顕著にみられる。エリスロマイシンでは400~600mg/日を6ヵ月~数年間以上用いる。著効が得られた場合はさらに減量して続行してもよい。ただし、気管支拡張が広範囲に進展し、呼吸不全状態にあるような例では、マクロライドの効果も限定的である。有効例では、投与後2週間くらいからまず喀痰量が減少し、この時点ですでに患者も自覚的な改善を認める。さらに数ヵ月~6ヵ月で呼吸機能、胸部X線像の改善がみられていく。同時に慢性副鼻腔炎症状も改善するが、嗅覚に関しては、やや改善に乏しい印象がある。マクロライドは一般的には、長期間投与しても何ら副作用を認めないことが多いが、まれに肝障害や時に胃腸障害を認める。元来マクロライドは、緑膿菌にはまったく抗菌力がないと考えられるが、近年の研究から14員環マクロライドが緑膿菌のquorum sensingという機能を抑制し、毒素産生やバイオフィルム形成を阻害することが解明されてきている。4 今後の展望典型例はほとんどみられなくなったが、日本人にはDPBの素因が今なお確実に受け継がれているはずであり、軽症例や関節リウマチなどの疾患に合併した例などが必ず出現する。 SBSをみた場合には、必ずDPBを第1に疑っていく必要がある。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本呼吸器学会 呼吸器の病気のコーナー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Homma H, et al. Chest. 1983; 83: 63-69.2)Kono C, et al. Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 2012; 29: 19-25.3)Sugiyama Y, et al. Am Rev Respir Dis. 1990; 141: 1459-1462.4)Kudoh S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998; 157: 1829-1832.

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エボラ出血熱の最新報告-国立国際医療研究センターメディアセミナー

 9月3日(水)、都内にて「西アフリカのエボラ出血熱ウイルス流行と国際社会の課題」と題し、国立国際医療研究センターメディアセミナーが開催された。今回のセミナーでは、実際に現地リベリアで患者の診療や医療従事者への指導を担当した医師も講演し、最新の情報が伝えられた。※画像は、出国時の体温検査(画像提供:国立国際医療研究センター 加藤 康幸氏)対応は1類感染症の疾患 「日本の医療機関における備え、感染対策の基礎」と題し、堀 成美氏(国立国際医療研究センター)が、わが国の感染症対策の概要について説明を行った。 エボラ出血熱は、感染症法上1類感染症として取り扱われており、特定の医療機関で診療を行うこと、また、現在、患者発生に備えて、厚生労働省検疫所や自治体と共同して感染症患者の移送などの訓練を行っていると述べた。ワクチン開発の現状 次に、「ワクチン、治療の現状と課題」をテーマに西條 政幸氏(国立感染症研究所)が、現在のワクチン開発の状況を説明した。 本格的なワクチン開発は、1995年のエボラ出血熱アウトブレイクより行われた。当初は、同疾患に罹患し回復した患者の血液輸血という、中和抗体投与療法から開始された。現在、ウイルス増殖を抑制する抗ウイルス薬T-705と中和活性を有する抗体製剤であるZMappが開発され、サルやマウスによる治験が行われている。 T-705は早い段階の投与で効果を発揮し、マウスについて感染6日後の投与では死亡例がなかったのに対し、8日後の投与では約半数が死亡する結果であったという。また、ZMappは、サルについて感染5日後に投与した群はすべて回復が認められたのに対し、コントロール群では8日以内にすべて死亡したことが報告された。 西條氏はワクチンの特徴として、感染を予防するものではなく、あくまで体内でのウイルス増殖を抑え、重症化を防ぐために使用されるものであることを強調した。 今後のワクチン使用の問題点としては、ヒトへの有効性のほか、安全性、情報開示などさまざまなことが挙げられると提起した。 また最後に、西アフリカの感染拡大について触れ、「ウイルスそのものに変化は見られないものの、感染拡大の阻止には苦慮している。拡大の阻止には、さらなる住民への教育、広報、医療機関への資材の提供などが期待される」と説明した。疾患への知識不足がさらなる感染を招く 続いて、「リベリアにおけるエボラ対策支援活動から」をテーマに、実際にリベリアで活動した加藤 康幸氏(国立国際医療研究センター)が最新情報を紹介した。 リベリアは、乾季のある熱帯雨林気候に属し、人口約420万人。今回の感染拡大は内戦後、国連による平和維持状態が続いている中で起こったものである。 エボラ出血熱は、現在5種類が特定されており、今回の流行はその中でも最強のザイール型と呼ばれているもの。首都を含む広範囲の感染拡大は、新興感染症では世界が初めて経験する事態で、WHO予測では2万人の感染者が予想されているという。 WHOによればエボラ出血熱は、人-人感染でうつり、2~21日で症状を発現、生存率は47%という特徴をもつ。そして、加藤氏によれば、現地では看護をする患者家族や医療スタッフへの感染例が多いとのことである。 典型症状は、出血よりも発熱、下痢と嘔吐であり、現地では、マラリアが通年で流行していることもあり、初期診断時に発熱症状の患者の鑑別診断に苦慮しているとのこと。確定診断は、PCR法による診断が行われ、現地では疑い例の段階で治療・隔離ユニットに収容される。 流行を抑えるためには、隔離と検疫が重要で、現地でも対策が取られているが、医療システムが崩壊していることもあり、順調には進んでいない。そんな中で、さまざまな国、機関の支援により医療の再構築がなされており、今回の支援活動では、感染防止の教育、発熱外来の設置、治療ユニットの設置などが行われた。 現地では、患者の1割が医療従事者であることから、医療従事者の感染防護としては、ガウンなどを重層する国境なき医師団の対策を採用している。また、始業時の体温チェック、バディ体制での病室入室時の防護服チェックなど、万全の態勢を期して臨んでいることなどが紹介された。 治療に関しては、エンピリック治療として抗マラリア薬や抗菌薬の投与が、支持療法として点滴、輸血などが行われている。さらに、疾患啓発や感染防止教育のために、回復患者が医療機関を巡回する取り組みが行われているそうである。 今後の課題として、エボラ出血熱について現地住民への理解の促進、現地の医療システムの復旧、政府などへの信頼性の回復、孤立化による物資不足の解消などが待たれる、と講演を終えた。詳しくは次のサイトをご参照ください。 国立感染症研究所 エボラ出血熱  厚生労働省 感染症法に基づく医師の届け出のお願い

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マクロライドと心臓死リスクの関連/BMJ

 デンマーク住民を対象とした大規模コホート研究から、クラリスロマイシン使用と心臓死増大との有意な関連が、とくに女性の使用において見つかったことが、Statens Serum Institute社のHenrik Svanstrom氏らにより報告された。同リスクの増大は、ロキシスロマイシン使用ではみられなかったという。マクロライド系抗菌薬はQT間隔を延長するため、致死的不整脈リスクを増大する可能性が示唆されていた。結果を踏まえて著者は、「今回の所見を臨床での意思決定に取り入れる前に、マクロライド系抗菌薬の広範投与について独立集団で確認を行うことが優先すべき課題である」と提言している。BMJ誌オンライン版2014年8月19日号掲載の報告より。クラリスロマイシン、ロキシスロマイシンについて心臓死との関連を評価 研究グループは、マクロライド系抗菌薬の心臓死リスク増大との関連について、クラリスロマイシンとロキシスロマイシンについて評価を行った。 1997~2011年の40~74歳のデンマーク成人コホートを対象とした。クラリスロマイシンによる7日間治療コースを受けた16万297例と、ロキシスロマイシンによる同治療を受けた58万8,988例、およびペニシリンVの同治療を受けた435万5,309例の計510万4,594例が解析に含まれた。 主要アウトカムは、ペニシリンVと比較したクラリスロマイシンおよびロキシスロマイシンと、心臓死リスクとの関連であった。サブグループ解析として、性別、年齢、リスクスコア、マクロライド系薬を代謝するCYP3A阻害薬併用の別による検討も行った。ロキシスロマイシンではリスク増大がみられず 観察された心臓死は285例だった。 ペニシリンV使用と比較して、クラリスロマイシン使用では有意な心臓死リスク増大がみられ(発生率は1,000人年当たり2.5例vs. 5.3例)、補正後率比は1.76(95%信頼区間[CI]:1.08~2.85)だった。一方、ロキシスロマイシン使用では有意な増大はみられなかった(発生率2.5例、補正後率比1.04、95%CI:0.72~1.51)。 また、クラリスロマイシン使用でみられたリスク増大は、女性で顕著であると断定できた(補正後率比:女性2.83、男性1.09)。 ペニシリンV使用との比較による、クラリスロマイシン使用とロキシスロマイシン使用の補正後リスク絶対差は、コース治療100万例につき心臓死がクラリスロマイシン37例(95%CI:4~90例)に対し、ロキシスロマイシン2例(同:-14~25例)だった。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第11回

第11回:アジスロマイシン(AZM)とレボフロキサシン(LVFX)は死亡・不整脈リスクを増加する監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 臨床ではさまざまな抗菌薬が使われており、耐性菌の増加が指摘されています。それに加え、抗菌薬による副作用についても十分注意する必要があります。とくにマクロライド系抗生物質は、QT時間延長、torsades de pointes、および多形性心室頻拍を含む心臓不整脈リスクを増加させることが知られています1) 2) 3)。今回新たに発表された論文をご紹介します。 以下、本文 Annals of Family Medicine 3-4月号4)より1.目的AZMの使用はハイリスク患者の死亡リスク増大に関連があるが、若年~中年成人での関連ははっきりしない。食品医薬品安全庁(FDA)は「AZMにはLVFXに類似したリスクがある」という声明を含む公的な警鐘を行った。今回、AZMまたはLVFXを服用した場合、ABPCの服用と比較して心血管死および不整脈のリスクを増大するという仮説を検証するため、米国の退役軍人に後ろ向きコホート研究を実施した。2.方法1999年9月~2012年4月までの期間、退役軍人局で AMPC(AMPC/CVA含む)、AZM、またはLVFXを投与された米国退役軍人の外来患者をカルテから抽出。後ろ向きに調べたコホート研究。ABPC使用者は97万9,380例、AZM使用者は59万4,792例、LVFX使用者は20万1,798例。AZMはおおむね5日間、ABPCとLVFXはおおむね10日間以上投与された。3.結果既往歴、患者背景はほぼ同様であり、抗菌薬が投与されたのは耳鼻咽喉感染症、呼吸器感染症に多かったが、とくに泌尿生殖器感染症にはLVFXが使用されている傾向があった。ABPCを投与された患者と比較して、AZM投与の患者では内服開始1~5日間で死亡リスクが1.48倍(95%CI、1.05~2.09)、重症不整脈のリスクが1.77倍(95% CI、1.20~2.62)と有意にリスクが増大した。内服開始後6~10日間における統計学的有意差は認めなかった。同様にABPCを投与された患者と比較して、LVFX投与の患者は内服開始1~5日間で死亡リスクが2.49倍(95% CI、1.7~3.64)、深刻な不整脈のリスクが2.43倍(95% CI、1.56~3.79)と大きく、内服開始後6~10日間でも死亡リスク1.95倍(95% CI、 1.32~2.88)、不整脈リスクが1.75倍(95% CI、1.09~2.82)と有意差があった。4.結論ABPCと比較してAZMは内服開始1~5日間で統計学的に有意な死亡、不整脈の増加をもたらしたが、内服開始後6~10日では有意差がなかった。LVFXは10日間を通してリスクの増大があった。処方決定の際には抗菌薬のリスクと利益が十分考慮されるべきで、AZM、LVFX以外の抗菌薬の選択肢もありうる。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Mosholder AD et al. N Engl J Med. 2013; 368:1665-1668. 2) Svanström H et al. N Engl J Med. 2013; 368:1704-1712. 3) WA Ray et al. N Engl J Med. 2012; 366: 1881-1890. 4) GA Rao. et al. Ann Fam Med. 2014; 12: 121-127.

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ピロリ除菌、糖尿病だと失敗リスク2倍超

 Helicobacter pylori(HP)の除菌において、糖尿病の存在が抗菌薬の有効性を低下させることが懸念されている。新潟大学の堀川 千嘉氏らは、糖尿病患者の除菌失敗リスクに及ぼす糖尿病の影響を調べるためにメタ解析を行った。その結果、糖尿病患者のHP除菌失敗リスクが非糖尿病者に比べて高いことが確認され、糖尿病患者のHP除菌での治療延長や新たな除菌レジメン開発の必要性が示唆された。Diabetes research and clinical practice誌オンライン版2014年7月23日号に掲載。 著者らは、2012年11月30日まで、Biosis、MEDLINE、Embase、PASCAL、SciSearchを用いて文献検索した。選定した研究から、2人の著者がそれぞれ別に、HP感染の除菌治療を受けた人数と糖尿病の有無別のHP除菌失敗データを抽出した。 主な結果は以下のとおり。・適格な8研究を選択し、データを取得した(計693人、うち糖尿病患者273人)。・全体では、非糖尿病者と比べた糖尿病患者のHP除菌失敗の統合リスク比(RR)は2.19(95%CI:1.65~2.90、p<0.001)であった。・標準プロトコル以外でHP除菌を行った2つの研究を除いた場合、非糖尿病者と比べた糖尿病患者のHP除菌失敗リスクはより高かった(RR:2.31、95%CI:1.72~3.11)。

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急性胆嚢炎で術後抗菌薬は必要か/JAMA

 軽症~中等症の急性胆石性胆嚢炎で術前・術中に抗菌薬を投与した患者は、術後の抗菌薬投与がなくても重篤な術後感染症には至らないことが、無作為化試験の結果、示された。フランスのピカルディ・ジュール・ヴェルヌ大学のJean Marc Regimbeau氏らが報告した。急性胆石性胆嚢炎の9割は軽症もしくは中等症である。急性胆石性胆嚢炎について術前・術中の抗菌薬投与が標準化されているが、術後抗菌薬投与の有用性に関するデータはこれまでほとんど示されていなかった。JAMA誌2014年7月9日号掲載の報告より。抗菌薬術前・術中投与の急性胆石性胆嚢炎患者、術後も投与vs. 非投与を検討 研究グループは、胆嚢切除術後の術後感染症に対するアモキシシリン+クラブラン酸(アモキシシリンレジメン)投与の効果を検討した。 試験は2010年5月~2012年8月にフランス国内17施設で治療を受けた414例を対象に行われた非盲検非劣性無作為化試験であった。 被験者は、軽症~中等症の急性胆石性胆嚢炎で、2gのアモキシシリンレジメン投与を術前に1日3回、術中に同1回投与された患者であった。術後に同投与を1日3回、5日間投与する群と非投与群に無作為化した。 主要評価項目は、4週時点のフォローアップ受診前または受診時に記録された、手術部位または遠隔部位の術後感染症発生率であった。術後感染症、非投与群の投与群に対する非劣性は認められず 414例(平均年齢55歳)のintention-to-treat解析において、術後感染症の発生率は、術後抗菌薬非投与群は17%(35/207例)、投与群は15%(31/207例)であった(絶対差:1.93%、95%信頼区間[CI]:-8.98~5.12%)。per-protocol解析(4週時評価を受けなかった人を除外)では、両群とも13%であった(絶対差:0.3%、95%CI:-5.0~6.3%)。 本試験では非劣性マージンを11%としており、術後抗菌薬の非投与群が投与群と比べてアウトカムが不良であるとは認められなかった。 なお胆汁培養の結果、60.9%で特定の病原体は認められなかった。 また、両群の術後合併症(Clavien-Dindo分類)の頻度も同程度であった。非投与群は同分類スコア0~Iが195例(94.2%)、III~Vは2例(0.97%)、投与群はそれぞれ182例(87.8%)、4例(1.93%)であった。

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抗菌薬静脈内投与後のアナフィラキシーショックによる死亡

消化器最終判決平成16年9月7日 最高裁判所 判決概要S状結腸がんの開腹術後に縫合不全を来たした57歳男性。抗菌薬投与を中心とした保存的治療を行っていた。術後17日、ドレーン内溶液の培養結果から、抗菌薬を一部変更してミノサイクリン(商品名:ミノマイシン)を静脈内投与したが、その直後にアナフィラキシーショックを発症して心肺停止状態となる。著しい喉頭浮腫のため気道確保は難航し、何とか気管内挿管に成功して救急蘇生を行ったが、発症から3時間半後に死亡した。詳細な経過患者情報平成2年7月19日 注腸造影検査などによりS状結腸がんと診断された57歳男性。初診時の問診票には、「異常体質過敏症、ショックなどの有無」欄の「抗菌薬剤(ペニシリン、ストマイなど)」の箇所に丸印を付けて提出した経過平成2(1990)年8月2日開腹手術目的で総合病院に入院。看護師に対し、風邪薬で蕁麻疹が出た経験があり、青魚、生魚で蕁麻疹が出ると申告。担当医師の問診でも、薬物アレルギーがあり、風邪薬で蕁麻疹が出たことがあると申告したが、担当医師は抗菌薬ではない市販の消炎鎮痛薬であろうと解釈し、具体的な薬品名など、薬物アレルギーの具体的内容、その詳細は把握しなかった。8月8日右半結腸切除術施行。手術後の感染予防目的として、セフォチアム(同:パンスポリン)およびセフチゾキシム(同:エポセリン)を投与(いずれも皮内反応は陰性)。8月16日(術後8日)腹部のドレーンから便汁様の排液が認められ、縫合不全と診断。保存的治療を行う。8月21日(術後13日)ドレーンからの分泌物を細菌培養検査に提出。8月23日(術後15日)38℃前後の発熱。8月25日(術後17日)解熱傾向がみられないため、抗菌薬をピペラシリン(同:ペントシリン)とセフメノキシム(同:ベストコール)に変更(いずれも皮内反応は陰性)。10:00ペントシリン® 2g、ベストコール® 1gを点滴静注。とくに異常は認められなかった。13:00細菌培養検査の結果が判明し、4種類の菌が確認された。ベストコール®は2種の菌に、ペントシリン®は3種の菌に感受性が認められたが、4種の菌すべてに感受性があるのはミノマイシン®であったため、ベストコール®をミノマイシン®に変更し、同日夜の投与分からペントシリン®とミノマイシン®の2剤併用で様子をみることにした。22:00看護師によりペントシリン® 2g、ミノマイシン® 100mgの点滴静注が開始された(主治医から看護師に対し、投与方法、投与後の経過観察などについて特別な指示なし)。ところが、点滴静注を開始して数分後に苦しくなってうめき声を上げ、付き添い中の妻がナースコール。22:10看護師が訪室。抗菌薬の点滴開始直後から気分が悪く体がピリピリした感じがするという言葉を聞き、各薬剤の投与を中止してドクターコール。22:15「オエッ」というような声を何回か発した後、心肺停止状態となる。数分後に医師が到着し、ただちにアンビューバッグによる人工呼吸、心臓マッサージを開始。22:30気管内挿管を試みたが、喉頭浮腫が強く挿管不能のため、喉頭穿刺を行う。22:40気管内挿管に成功するが心肺停止状態。アドレナリン(同:ボスミン)投与をはじめとした救急蘇生を続けるが、心肺は再開せず。8月26日(術後18日)01:28死亡確認。死因はいずれかの薬剤によるアナフィラキシーショックと考えられた。当事者の主張患者側(原告)の主張今回使用した抗菌薬には、アナフィラキシーショックなど重篤な副作用を生じる可能性があるのだから、もともと薬剤アレルギーの既往がある本件に抗菌薬を静脈内投与する場合、異常事態に備えて速やかに対応できるよう十分な監視体制を講じる注意義務があった。ところが、医師は看護師に特別な監視指示を与えることなく、漫然と抗菌薬投与を命じたため、アナフィラキシーショックの発見が遅れた。しかも、重篤な副作用に備えて救命措置を準備しておく注意義務があったにもかかわらず、気道確保や強心剤投与が遅れたため救命できなかった。病院側(被告)の主張本件で使用した抗菌薬は、従前から投与していた薬剤を一部変更しただけに過ぎず、薬物アレルギーの既往症があることは承知していたが、それまでに使用した抗菌薬では副作用はなかった。そのため、新たに投与した(皮内反応は不要とされている)ミノマイシン®投与後にアナフィラキシーショックを生じることは予見不可能であるし、そのような重篤な副作用を想定して医師または看護師が付き添ってまで経過観察をする義務はない。そして、容態急変後は速やかに当直医師が対応しており、救急蘇生に過誤があったということはできない。裁判所の判断高等裁判所の判断医師、看護師に過失なし(1億2,000万円の請求を棄却)。最高裁判所の判断(平成16年9月7日)原審(高等裁判所)の判断は以下の理由で是認できない。薬剤が静注により投与された場合に起きるアナフィラキシーショックは、ほとんどの場合、静脈内投与後5分以内に発症するものとされており、その病変の進行が急速であることから、アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある薬剤を投与する場合には、投与後の経過観察を十分に行い、その初期症状をいち早く察知することが肝要であり、発症した場合には、薬剤の投与をただちに中止するとともに、できるだけ早期に救急治療を行うことが重要である。とくに、アレルギー性疾患を有する患者の場合には、薬剤の投与によるアナフィラキシーショックの発症率が高いことから、格別の注意を払うことが必要とされている。本件では入院時の問診で薬物アレルギーの申告を受けていたのだから、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性のある抗菌薬を投与するに際しては、重篤な副作用の発症する可能性を予見し、その発症に備えてあらかじめ看護師に対し、投与後の経過観察を指示・連絡をする注意義務があった。担当看護師は抗菌薬を開始後すぐに病室から退出してしまい、その結果、心臓マッサージが開始されたのが発症から10分以上経過したあとで、気管内挿管が試みられたのが発症から20分以上、ボスミン®投与は発症後40分が経過したあとであり、救急措置が大幅に遅れた。これでは投与後5分以内に発症するというアナフィラキシーショックへの対応は明らかに不適切である。以上のように、担当医師や看護師が注意義務を怠った過失があるから、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるため、死亡との因果関係をさらに審理をつくさせるため、本件を高等裁判所に差し戻すこととする。考察またまた医師にとっては驚くべき裁判官の考え方が示されました。しかも、最高裁判所の担当判事4名が全員一致した判断というのですから、医師と法律専門家との考え方には、どうしようもなく深い溝があると思います。本症例は、S状結腸がんの開腹手術後8日目に縫合不全を来たし(これはやむを得ない合併症と考えられます)、術後17日でそれまで投与していた抗菌薬を変更、その後に報告された細菌培養の結果から、より効果の期待できるミノマイシン®を点滴投与したところ、その直後にアナフィラキシーショックを発症しました。ショック発現までの時間経過を振り返ると、22:00ミノマイシン®開始。数分後に苦しくなりうめき声を上げたので家族がナースコール。22:10看護師が訪室、各薬剤の投与を中止してドクターコール。22:15心肺停止状態。数分後に医師が到着し、救急蘇生開始。22:30喉頭浮腫が強く挿管不能のため、喉頭穿刺を行う。22:40気管内挿管に成功するが心肺停止状態。となっています。今回の病院は約350床程度の規模で、上記の対応をみる限り、病院内の急変に対する体制としてはけっして不十分ではないと思います。最高裁判所の判事は、アナフィラキシーショックは5分以内の発見が大事である、という文献をもとに、もし看護師がミノマイシン®開始後ずっと付き添っていれば、もっと早く救急措置ができたであろう、という根拠で医師の過失と断じました。ところが当時の状況は、大腸がんの開腹手術後17日が経過し、すでに集中治療室から一般病室へ転室していると思われ、何とか縫合不全を保存的治療で治そうとしている状況でした。しかも、薬剤アレルギーの既往症が申告されていたとはいえ、それまでに使用したパンスポリン®、セフチゾキシム®、ベストコール®、ペントシリン®では何ら副作用の問題はなかったのですから、抗菌薬の一部変さらに際して看護師に特別な指示を出すべき積極的な理由はなかったと思います。ましてや、ミノマイシン®は皮内反応が不要とされている抗菌薬なので、裁判官のいうようにアナフィラキシーショックを予見して、22:00からのミノマイシン®開始に際して看護師をつきっきりで貼り付けておくことなど、けっして現実的ではないように思います。もし、看護師がベッドサイドでずっと付き添っていたとして、救命措置をどれくらい早く開始することができたでしょうか。側に付き添っていた家族が異変に気づいたのは、ミノマイシン®静脈注射開始後数分でしたから、おそらく22:05頃にドクターコールを行い、22:10くらいには院内の当直医が病室へ到着することができたと思われます(おそらく5~10分程度の短縮でしょう)。その時点から救急蘇生が開始されることになりますが、果たして22:15の心肺停止を5分間の措置で防ぎ得たでしょうか。しかもアナフィラキシーショックに関連した喉頭浮腫が急激に進行し、気道を確保することすらできず、やむなく喉頭穿刺まで行っていますので、けっして茫然自失として事態をやり過ごしたとか、注意義務を果たさなかったというような診療行為ではないと思います。つまり、本件のような激烈なアナフィラキシーショックの場合、医師が神業のような処置を行っても救命できないケースが存在するのは厳然とした事実です。にもかかわらず、医師や看護師がつきっきりでみていなかったのが悪い、救急措置をもう少し早くすれば助かったかもしれないなどという考え方は、病気のリスクを紙面でしか知り得ない裁判官の偏った考え方といえるのではないでしょうか。このように、医師にとっては防ぎようのないと思われる病態をも、医療ミスとして結果責任を問う声が非常に大きくなっていると思います。極論すると、個々の医療行為に対してすべてのリスクを説明し、それでもなお治療を受けると患者が同意しない限り、医師は結果責任を免れることはできません。すなわち本件でも、患者およびその家族へ、術後の縫合不全や感染症にはミノマイシン®が必要であることを十分に説明し、アレルギーがある患者ではミノマイシン®によってショックを起こして死亡することもありうるけれども、それでも注射してよいか、という同意を求めなければならない、ということですが、そのような説明をすることはきわめて不自然でしょう。本件は「医師や看護師の過失はない」と考えた高等裁判所へ差し戻されていますが、ぜひとも良識のある判断を期待したいと思います。一方、抗菌薬の取り扱いに関して、2004年10月に日本化学療法学会から「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン」が発表されました。それによると、これまで慣習化していた抗菌薬投与前の皮内反応は、アナフィラキシー発現の予知として有用性に乏しいと結論付けています。具体的には、アレルギー歴のない不特定多数の症例には皮内反応の有用性はないとする一方で、病歴からアレルギーが疑われる患者に抗菌薬を投与せざるを得ない場合には、あらかじめ皮内反応を行った方がよいということになります。そして、抗菌薬静脈内投与に際して重要な基本的事項として、以下の3点が強調されました。事前に既往症について十分な問診を行い、抗菌薬などによるアレルギー歴は必ず確認すること投与に際しては必ずショックなどに対する救急処置のとれる準備をしておくこと投与開始から投与終了後まで、患者を安静の状態に保たせ、十分な観察を行うこと。とくに、投与開始直後は注意深く観察することこのうち、本件のようなケースには第三項が重要となります。これまでは、抗菌薬静脈内注射後にはまれに重篤な副作用が現れることがあるので経過観察は大事ですよ、という一般的な認識はあっても、具体的にどのようにするのか、といった対策まで講じている施設は少ないのではないでしょうか。しかも、抗菌薬投与の患者全員に対し、「投与開始から投与終了後まで十分な観察を行う」ことは、実際の医療現場では事実上不可能ではないかと思われます。ところが、このようなガイドラインが発表されると、不幸にも抗菌薬によるアナフィラキシーショックを発症して死亡し紛争へ至った場合、この基本三原則に基づいて医師の過失を判断する可能性がきわめて高くなります。当時は急患で忙しかった、看護要員が足りずいかんともし難い、などというような個別の事情は、一切通用しなくなると思います。またガイドラインの記述は、「抗菌薬投与開始直後は注意深く観察すること」という漠然とした内容であり、ではどのようにしたらよいのか、バイタルサインをモニターするべきなのか、開始直後とは何分までなのか、といった対策までは提示されていません。ところが、このガイドラインのもとになった「日本化学療法学会臨床試験委員会・皮内反応検討特別部会の報告書(日本化学療法学会雑誌 Vol.51:497-506, 2003)」によると、「きわめて低頻度であるがアナフィラキシーショックが発現するので、事前に抗菌薬によるショックを含むアレルギー歴の問診を必ず行い、静脈内投与開始後20~30分における患者の観察とショック発現に対する対処の備えをしておくことが必要である」とされました。すなわち、ここではっきりと「20~30分」という具体的な基準が示されてしまいましたので、今後はこれがスタンダードとされる可能性が高いと思います。したがって、抗菌薬の初回静脈内投与では、全例において、点滴開始後少なくとも20分程度は誰かが付き添う、モニターをつけておく、などといった注意を払う必要があることになります。これを杓子定規に医療現場に当てはめると、かなりな混乱を招くことは十分に予測されますが、世の中の流れがこのようになっている以上、けっして見過ごすわけにはいかないと思います。今回の症例を参考にして、ぜひとも先生方の施設における方針を再確認して頂ければと思います。日本化学療法学会「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策のガイドライン(2004年版)」日本化学療法学会「抗菌薬投与に関連するアナフィラキシー対策について(2004年版概要)」日本化学療法学会臨床試験委員会・皮内反応検討特別部会報告書(日本化学療法学会雑誌 Vol.51:497-506, 2003)」消化器

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高齢肺炎入院患者へのアジスロマイシン、心イベントへの影響は?/JAMA

 高齢の肺炎入院患者へのアジスロマイシン(商品名:ジスロマックほか)使用は他の抗菌薬使用と比較して、90日死亡を有意に低下することが明らかにされた。心筋梗塞リスクの増大はわずかであった。肺炎入院患者に対して診療ガイドラインでは、アジスロマイシンなどのマクロライド系との併用療法を第一選択療法として推奨している。しかし最近の研究において、アジスロマイシンが心血管イベントの増大と関連していることが示唆されていた。米国・VA North Texas Health Care SystemのEric M. Mortensen氏らによる後ろ向きコホート研究の結果で、JAMA誌2014年6月4日号掲載の報告より。65歳以上入院患者への使用vs. 非使用を後ろ向きに分析 研究グループは、肺炎入院患者におけるアジスロマイシン使用と、全死因死亡および心血管イベントの関連を明らかにするため、2002~2012年度にアジスロマイシンを処方されていた高齢肺炎入院患者と、その他のガイドラインに則した抗菌薬治療を受けていた患者とを比較した。 分析には、全米退役軍人(VA)省の全VA急性期治療病院に入院していた患者データが用いられた。65歳以上、肺炎で入院し、全米臨床診療ガイドラインに則した抗菌薬治療を受けていた患者を対象とした。 主要評価項目は、30日および90日時点の全死因死亡と、90日時点の不整脈、心不全、心筋梗塞、全心イベントの発生とした。傾向スコアマッチングを用い、条件付きロジスティック回帰分析で既知の交絡因子の影響を制御した。使用患者の90日死亡オッズ比は0.73 対象患者には118病院から7万3,690例が登録され、アジスロマイシン曝露患者3万1,863例と非曝露の適合患者3万1,863例が組み込まれた。適合群間の交絡因子について有意差はなかった。 分析の結果、90日死亡について、アジスロマイシン使用患者について有意な低下が認められた(曝露群17.4%vs. 非曝露群22.3%、オッズ比[OR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.70~0.76)。 一方で曝露群では、有意なオッズ比の増大が、心筋梗塞について認められた(5.1%vs. 4.4%、OR:1.17、95%CI:1.08~1.25)。しかし、全心イベント(43.0%vs. 42.7%、1.01、0.98~1.05)、不整脈(25.8%vs. 26.0%、0.99、0.95~1.02)、心不全(26.3%vs. 26.2%、1.01、0.97~1.04)についてはみられなかった。 結果について著者は、「肺炎入院患者に対するアジスロマイシン使用は、リスクよりも有益性が上回る」とまとめている。

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にきび治療への有効性を比較、抗菌薬 vs ピル

 米国ハーバード・メディカル・スクールのEubee Baughn Koo氏らは、にきび治療における、抗菌薬と経口避妊薬(OCP)の有効性を比較するメタ解析を行った。両者がにきび治療に有効であることは判明しており広く使用されているが、有効性について直接比較した検討はほとんど行われていなかった。結果、3ヵ月時点では抗菌薬が優れていたが、6ヵ月時点では同等であることが示され、著者は、「女性における長期のにきび治療では、ピルがファーストライン治療薬として全身性の抗菌薬の代わりとなるだろう」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2014年5月28号の掲載報告。 メタ解析は、Preferred Reporting Items for Systematic ReviewsとMeta-Analyses and Cochrane collaboration guidelinesに則して行われた。 226本の刊行レビューから、包含基準を満たした32本の無作為化試験を解析に組み込み分析した。 主な結果は以下のとおり。・3ヵ月時点と6ヵ月時点で、抗菌薬およびOCPはいずれもプラセボと比較して、炎症性病変、非炎症性病変、全病変の減少率がより大きかった。・各評価時点の抗菌薬およびOCP治療は、3ヵ月時点における全病変の減少率が抗菌薬のほうがOCPよりも優れていたが、それ以外は下記のように統計的に同等であることが示された。 加重平均炎症性病変減少率  3ヵ月時点:抗菌薬53.2%、OCP 35.6%、プラセボ26.4%  6ヵ月時点:抗菌薬57.9%、OCP 61.9%、プラセボ34.2% 加重平均非炎症性病変減少率  3ヵ月時点:抗菌薬41.9%、OCP 32.6%、プラセボ17.1%  6ヵ月時点:抗菌薬56.4%、OCP 49.1%、プラセボ23.4% 加重平均全病変減少率  3ヵ月時点:抗菌薬48.0%、OCP 37.3%、プラセボ24.5%  6ヵ月時点:抗菌薬52.8%、OCP 55.0%、プラセボ28.6%・本検討は、試験治療の不均一性および刊行バイアスの点で限定的である。

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急性虫垂炎を適切に診断できず死亡したケース

消化器最終判決判例時報 1556号99-107頁概要腹痛と血便を訴えて受診した45歳男性。腹部は平坦で軟、圧痛を認めたが、抵抗や筋性防御は認められなかった。腹部単純X線写真では腹部のガス像は正常で腸腰筋陰影も明瞭であったが、白血球数が14,000と増加していた。ブチルスコポラミン(商品名:ブスコパン)の点滴静注により腹痛はほぼ消失したため、チメピジウム(同:セスデン)、プロパンテリン・クロロフィル配合剤(同:メサフィリン)、ベリチーム®を処方し、翌日の受診と状態が悪化した場合はただちに受診することを指示して帰宅させた。ところが翌日未明に昏睡状態となり、DOAで病院に搬送され、心肺蘇生術に反応せず死亡確認となった。詳細な経過患者情報身長168cm、体重73kg、とくに既往症のない45歳男性経過1989年4月24日腹部に不快感を訴えていた。4月27日06:00頃間歇的な激しい腹痛、かつ血便がみられたため、午前中に某大学病院内科を受診。問診時に以下のことを申告。同日午前中から腹痛が出現したこと便に点状の出血が付着していたこと酒はワインをグラス1杯飲む程度であることこれまでにタール便の経験や嘔気はないこと肛門痛、体重の減少はないこと仕事は多忙であり、24日頃から腹部に不快感を感じていたこと初診時体温36.8℃脈拍脈拍80/分(整)頸部 および その周辺のリンパ節触知(-)甲状腺の腫大(-)胸部心音純・異常(-)咽頭粘膜軽度発赤(+)腹部平坦で軟・圧痛(+)、抵抗(-)、筋性防御(-)肝を右乳頭線上で肋骨弓下に1横指触知したが正常の硬さであった。血液検査、肝機能検査、膵胆道系機能検査、血沈を実施したところ、白血球数が14,000と増加。腹部X線写真の結果、ガス像は正常、腸腰筋陰影も明瞭であった。ベッドに寝かせて安静を保ったうえ、ブチルスコポラミン(同:ブスコパン)2A入りの生理食塩水200mLを30分で点滴静注したところ、腹痛はほぼ消失した。そして、セスデン®、メサフィリン®、ベリチーム®を4日分処方し、翌4月28日の診察の予約をして帰宅させた。その際、仮に状態が悪化した場合には、翌日を待たずしていつでも再受診するべきことを伝えた。16:00頃帰宅。19:00頃突然悪寒がしたため、アスピリンを2錠服用して就寝。4月28日01:00頃苦痛を訴え、ほとんど意識のない状態となって、いびきをかき始めた。02:13頃救急車を要請。搬送中の意識レベルはJCS(ジャパンコーマスケール)300(痛み刺激に反応しない昏睡状態)。02:50頃大学病院に到着時、心肺停止、瞳孔散大、対光反射なしというDOA。心肺蘇生術を試みたが反応なし。高カリウム血症(6.9)高血糖(421)CPK(153)LDH(253)クレアチニン(1.8)アミラーゼ(625)03:13死亡確認。12:50病理解剖。虫垂の長さは9cm、棍棒状で、内容物として汚黄赤液を含み、漿膜は発赤し、周囲に厚層出血をしていたが、癒着はしていなかった。腹膜は灰白色で、表面は滑らかであったが、虫垂の周囲の体壁腹膜に拳大程度の発赤が認められ、局所性腹膜炎の状態であった。また、膵間質内出血、腎盂粘膜下うっ血、気管粘膜下うっ血、血液流動性および諸臓器うっ血という、ショック死に伴う諸症状がみられた。また、軽度の心肥大(360g)が認められたが、冠状動脈には異常なく、心筋梗塞の病理所見は認められなかった。死因は「腹膜ショック」その原因となる疾患としては「急性化膿性虫垂炎」であると診断した。当事者の主張患者側(原告)の主張4月27日早朝より、腹部の激痛を訴えかつ血便が出て、虫垂炎に罹患し、腹部に重篤な病変を呈していたにもかかわらず、十分な検査などをしないままこれを見落とし、単に鎮痛・鎮痙薬を投与しただけで入院措置も取らず帰宅させたために適切な診療時機を逸し、死亡した。死因は、急性化膿性虫垂炎に起因する腹膜ショックである。病院側(被告)の主張患者が訴えた症状に対して、医学的に必要にして十分な措置を取っており、診療上の過失はない。確かに帰宅させた時点では、急性化膿性虫垂炎であるとの確定診断を得たわけではないが、少なくとも24時間以内に急死する危険性のある重篤な症状はなかった。腹膜炎は医学的にみて、低血量性ショックや感染性ショックなどの腹膜ショックを引き起こす可能性がない軽微なものであるから、「腹膜ショック」を死因と考えることはできない。また、化膿性虫垂炎についても、重篤な感染症には至っていないものであるから、これを原因としてショックに至る可能性もない(なぜ死亡に至ったのかは明言せず)。裁判所の判断以下の過失を認定死因について初診時すでに急性虫垂炎に罹患していて、虫垂炎はさらに穿孔までは至らないものの壊疽性虫垂炎に進行し、虫垂周囲に局所性化膿性腹膜炎を併発した。その際グラム陽性菌のエキソトキシンにより、腹膜炎ショック(細菌性ショック)となり死亡した。注意義務違反白血球増加から急性虫垂炎の疑いをもちながら、確定診断をするため各圧痛点検索、直腸指診および、直腸内体温測定などを実施する義務を怠った。各検査を尽くしていれば急性虫垂炎であるとの確定診断に至った蓋然性は高く、死亡に至る時間的経過を考慮しても抗菌薬の相当の有効性が期待でき、死亡を回避できた。そして、急性虫垂炎であるとの確定診断に至った場合、白血球数の増加から虫垂炎がさらに感染症に至っていることは明らかである以上、虫垂切除手術を考慮することはもちろんであるが、何らかの理由で診察を翌日に継続するのであれば、少なくとも抗菌薬の投与はするべきであり、そうすれば腹膜炎ショックによる死亡が回避できた可能性が高い。原告側合計5,500万円の請求を全額認定考察「腹痛」は日常の外来でよくみかける症状の一つです。多くのケースでは診察と検査、投薬で様子をみることになると思いますが、本件のように思わぬところに危険が潜んでいるケースもありますので、ぜひとも注意が必要です。本件の裁判経過から得られる教訓として、次の2点が重要なポイントと思われます。1. 基本的な診察と同時にカルテ記載をきちんとすること本件は大学病院で発生した事故でした。担当医師の立場では、血液検査、腹部X線写真などはきちんと施行しているので、「やれることだけはやったつもりだ」という認識であったと思います。患者さんは「心窩部から臍部にかけての間歇的な腹痛」を訴えて来院しましたので、おそらく腹部を触診して筋性防御や圧痛がないことは確認したと思われます。これだけの診察をしていれば十分という気もしますし、担当医師の明らかな怠慢とかミスということではないと思います。ところが裁判では「血圧測定」をしなかったことと、急性虫垂炎を疑う際の腹部の診察(マックバーネー圧痛点、ランツ圧痛点、ブルンベルグ徴候など)を行わなかったことを問題としました。その点について裁判官は、「担当医師は、血圧測定、虫垂炎の圧痛点検索は実施した旨を証言するが、いずれについてもカルテ上に記載がなく、この証言は採用できない」と述べています。もしかすると、実際にはきちんと血圧を測り、圧痛点の診察もしていたのかもしれませんが、カルテにそのことを記載しなかったがために、(基本的な診察をしていないではないかという)裁判官の心証形成に相当影響したと思います。やはり、医事紛争に巻き込まれた時には、きちんと事実を記載したカルテが自分の身を守る最大の証拠であることを、肝に銘じなければならないと痛感しました。と同時に、最近では外来診察時に検査データばかりを重視して、血圧をはじめとするバイタルサインを測定しない先生方が増えているという話をよく耳にします。最先端の診断機器を駆使して難しい病気を診断するのも重要ではありますが、風邪とか虫垂炎といようなありふれた疾患などにおいても、けっして高をくくらずに、医師としての基本的な診察はぜひとも忘れないようにしたいと思います。2. 帰宅させる時の条件患者さんを帰宅させるにあたって担当医師は、「腹痛で来院した患者ではあるが、ブスコパン®の静注によって症状は軽減したし、白血球は14,000と高値だけれどもほかに所見がないので、まあ大丈夫だろう。「何かあったらすぐに来院しなさい」とさえいっておけば心配はない症例だ」という認識であったと思います。そして、裁判官も、帰宅させたこと自体は当時の状況からして無理からぬと判断しているように、今回の判決は担当医師にとっては厳しすぎるという見方もあると思います。ところが、実際には白血球14,000という炎症所見を放置したために、診察から約半日後に死亡するという事態を招くことになりました。判決にもあるとおり、もし抗菌薬を当初から処方していれば、死亡という最悪の結果にはならなかった可能性は十分に考えられますし、抗菌薬を処方したにもかかわらず死亡した場合には、医療過誤として問われることはなかったかもしれません。このように、結果的にみれば白血球14,000という検査データをどの程度深刻に受け止めていたのかが最大の問題点であったと思います。もちろん、安易に抗菌薬を処方するのは慎むべきことですが、腹痛、そして、白血球14,000という炎症所見がありながら自宅で経過観察する際の対処としては、抗菌薬の処方が正しい判断であったと思います。■腹痛を主訴として来院した患者さんが急死に至る原因(1)急性心筋梗塞(2)大動脈瘤破裂という2つの疾患が潜んでいる可能性があることを忘れてはならないと思います。とくに典型的な胸痛ではなく腹痛で来院した急性心筋梗塞のケースで、ブスコパン®注射が最後のとどめを刺す結果となって、医療側の責任が厳しく追及された事例が散見されますので、腹痛→ブスコパン®という指示を出すときにはぜひとも注意が必要です。消化器

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うつぶせ寝にしておいた生後3日目の新生児が急死したケース

小児科最終判決判例タイムズ 988号264-271頁概要体重3,460g、身長51cm、正常分娩で出産した新生児。授乳は良好であったが、生後3日目の授乳後にミルクを吐き、腹満もみられたため、再度吐く可能性を考慮してうつぶせ寝で寝かせた。ところがその45分後に全身チアノーゼ、心肺停止状態で発見され、ただちに行われた救急蘇生により何とか自己心拍と自発呼吸が再開した。ところが低酸素脳症が原因で重度の脳性麻痺となり、気道分泌物による窒息のため生後7ヵ月で死亡した。詳細な経過経過1995年1月5日03:00陣痛が始まったためそれまで通院していた総合病院に入院。05:43正常分娩にて、体重3,460g、身長51cmの男児を出産。心拍数や呼吸などに異常はなかった。ミルクなど合計84cc1月6日ミルクなど合計204cc1月7日ミルクなど合計402cc1月8日03:00母親が授乳。04:00かん高く泣いたため看護師がミルクを授乳し、コットに仰向け寝で寝かせた。05:40さらに泣いたため、おやつとしてミルクを授乳(このとき担当看護師は授乳していないと主張)、そのときの排気でミルクを吐き、さらに腹満もあったことから、再度吐く可能性を考慮してうつぶせ寝(顔は横向き)で寝かせた(このときの勤務は深夜帯で、看護師1名が新生児室の新生児6~7名と、NICU室の重症児を含む3~4名の新生児を担当、NICU室から新生児室はみえない位置関係)。06:25それから約45分後、朝の授乳開始のため母親にわたそうとしたところ、顔を真下に向けた状態でうつぶせ寝となっており、抱き上げると全身チアノーゼ、呼吸停止状態であった(母親は枕代わりのタオルに直径6~7cmの吐乳を確認したと申告したが、担当看護師は嘔吐はなかったと反論)。ただちにNICU室に移し、産婦人科医師にコールするともに酸素投与、背中のタッピングを行ったが、反応なし。06:30産婦人科医師が到着し、心臓マッサージとバギングを行いつつ気管内挿管を試みたが気管内挿管できず、小児科医師の応援を要請。そのときミルク残査を含む液体が噴出したので吸引を行う。06:35小児科医師が到着して気管内挿管を試みたが挿管できず。06:40別の医師により挿管が完了した。このとき、吸引により乳白色の液体が吸引された。まもなく心拍音が聴取できるようになった。06:53自発呼吸が出現したが微弱であり、バギングが継続された。07:10口腔内から唾液様の液体が多量に吸引、挿管チューブからはごく少量の淡黄色液体が吸引された。07:35自発呼吸、心拍は安定し、クベースに収容された。しかし、低酸素脳症による重度の脳障害が発生した。08:30担当医師から、「戻したミルクを再度飲み込み、それが肺に入ったため事故が生じた」という説明あり。10:30産婦人科、および小児科担当医師から、「事故の原因としてミルクの誤嚥が考えられる、挿管チューブより粘調なミルクかすのようなものが多量に引けた、肺炎を想定し早めに抗菌薬を投与する」との説明を受けた(一連の説明の中で未然型乳幼児突然死症候群とは告げられていない)。8月9日気道分泌物による窒息のため死亡。カルテの記載(1)産婦人科入院記録「tapping吸引にて気管内よりmilk多量に引ける」(2)小児科入院記録「挿管よりmilk残査多量に吸引できる。milk誤嚥による窒息→呼吸停止→心臓停止の可能性大、誤嚥の原因は不明」「チューブより粘調なmilkかすのようなもの多量に引け、吸引性肺炎を想定し、早めに抗菌薬使用としました」当事者の主張患者側(原告)の主張うつぶせ寝にしたために吐乳吸引を引き起こして窒息し、発見が遅れたために心肺停止に至った。病院側(被告)の主張吐乳の事実はないので、うつぶせ寝が心肺停止の原因ではない。心肺停止で発見された時口、鼻、周囲にはミルクの付着や嘔吐の形跡はなかったうつぶせ寝では吐物は下に位置するので、位置的に上方になる気管に吐物がはいることはない窒息するほどの吐物誤嚥があれば、新生児であっても不穏な体動を示し看護師が気づくはずである蘇生時にみられた気管内からのミルク吸引は、バギングや心臓マッサージによって気管内に入ったものである嘔吐したミルクを誤嚥して窒息したのであれば、挿管チューブから細小泡沫が存在したはずである死亡原因は未然型乳幼児突然死症候群(SIDS)である裁判所の判断うつぶせ寝にしたことにより、ふとんや枕などで鼻口部が圧迫され低酸素状態となり、嘔吐に引き続き吐物を吸引して窒息した結果、心肺停止となったもので、乳幼児突然死症候群ではない。1.心肺停止で発見された時口、鼻、周囲にはミルクの付着や嘔吐の形跡はなかったと主張するが、母親が枕代わりに使用していたタオルに黄色い吐乳のようなシミを確認していること、動揺しながら少しでも早く蘇生措置を行おうとした看護師、そして、事故が起きた新生児室を通らず直接NICU室に出入りした医師は嘔吐の痕跡を確認できる状況ではなかったため、嘔吐の形跡がなかったという証言は採用できない2.うつぶせ寝では吐物は下に位置するので、位置的に上方になる気管に吐物がはいることはないと主張するが、うつぶせ寝にした場合に気道は食道よりも下になるため、咽喉頭部にたまった吐瀉物を吸引しやすくなるものである3.窒息するほどの吐物誤嚥があれば、新生児であっても不穏な体動を示し看護師が気づくはずであると主張するが、生後3日の乳幼児の運動能力からいって、寝具などに移動した痕跡がなくても不自然ではなく、また、新生児室はNICU室からはみえない位置関係なので看護師が気づかなくても不自然ではない4.蘇生時にみられた気管内からのミルク吸引は、バギングや心臓マッサージによって気管内に入ったものであるとするが、当時の担当医師は口から吹き出したミルク残査を吸引した後で心臓マッサージをしているので、この際に吐瀉された液体が後になって大量に気管内に移動したとは考えられない5.嘔吐したミルクを誤嚥して窒息したのであれば、挿管チューブから細小泡沫が存在したはずであるとするが、本件では粘調性の低いサラサラしたミルク様のものが引け、固まりや気泡は認めなかったと主張するが、担当医師のカルテには「粘調なmilkかすのようなもの大量にひけ」と記載していて、陳述内容と異なる。最小泡沫の存在はミルク誤嚥による窒息を確認する有力な方法ではあるがそれが唯一の方法ではない6.死亡原因は乳幼児突然死症候群(SIDS)であると主張するが、未然型乳幼児突然死症候群があったことを窺わせる何らかの徴候があったことを立証することはできない原告側合計6,881万円の請求に対し、4,855万円の判決考察乳幼児突然死症候群(SIDS)とは、健康と思われていた乳幼児が主に睡眠中に死亡しているのを発見され、死亡直前の状況や剖検によってもその原因が解明できないという疾患です。1940年頃から欧米で注目され、1969年には米国において一疾患単位として定義され、わが国でも1981年に定義が行なわれました。近年になって、オランダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドから、うつぶせ寝をやめて仰向け寝とすることで、SIDSの発症頻度が低下したという報告が相次いでなされました。■この現象の解釈として(1)うつぶせ寝がSIDSの発症のリスクファクターとして働き、うつぶせ寝に伴うより深い睡眠、さらに覚醒反応遅延が関与して、SIDSの発症に間接的に関わっていたとする考え(小児科診療2000年3月号335頁)(2)うつぶせ寝を止めることにより単純にうつぶせ寝に伴う窒息死が減少したものとする考え。この場合、以前のSIDSとされていた症例には、なかにはうつぶせに伴う窒息死とされるべき症例も多く含まれていたということになる本件は病院側が未然型乳幼児突然死症候群と主張したように、救急蘇生が奏効していったんは救命することができましたので、いわゆる「乳幼児突発性危急事態:apparent life threatening event(ALTE)」という病態となります。厚生省研究班(当時)の定義によると、ALTEは「それまでの健康状態および既往歴からその発症が予想できず、しかも児が死亡するのではないかと観察者におもわしめるような無呼吸、チアノーゼ、顔面蒼白、筋緊張低下、呼吸窮迫などのエピソードで、その回復に強い刺激や蘇生処置を要したもののうちで原因が不詳のもの」とされています。本件では、気管内からミルク様のものを多量に吸引したという事実がありますので、何らかの原因で「嘔吐」したことと、その吐物を「誤嚥」して窒息したことは明らかであると思います。しかし、裁判でも最大の争点となったように、うつぶせ寝によって引き起こされた吐乳・窒息であったのか、それとも原因が不詳のALTE(未然型SIDS)と判断するべきなのか、本当のところはよくわからないと思います。そもそも、SIDSやALTEと判断する決め手となるような検査方法はなく、診断方法自体が除外診断となるため、さらに問題を複雑にしていると思います。もちろん、原告側の主張のように、吐乳が原因で窒息となり、その遠因としてうつぶせ寝にしたことが関与していたという可能性は十分に考えられます。しかし、生まれてから3日間まったく異常がみられなかったこの乳児に対し、今回の出来事を予見するのはまず不可能ではないでしょうか。裁判記録を読んでみると、当時の看護師はほかにも重症の新生児を担当していたので、とくに異常のみられないこの児に付きっきりの看護をするとは思えず、職務上の怠慢があったとか、不誠実な看護を施したとはけっしていえないと思います。もし、新生児室ではなく母親に預けられた段階で今回の出来事が発生していれば、「不幸な出来事」として誰もが納得し、裁判には至らなかったと思います。にもかかわらず、看護師の管理下で「うつぶせ寝にした」という事実だけが大きく取り上げられてしまい、医学的には適切と思える病院側の主張をことごとく否定し、高額賠償の判決へと至りました。もし、病院側に明らかな怠慢や過失が認められたのであれば、このような判決でも納得せざるを得ないのですが、けっしてそのようなことはなかったと思います。そのためもあってか本件は控訴へと至りましたが、一方で病院側の説明にも問題点を指摘することができると思います。それは事故直後から「戻したミルクを再度飲み込み、それが肺に入った」と担当医師は家族に説明し、「誤嚥、窒息」とカルテに記載したにもかかわらず、あとになってから「未然型乳幼児突然死症候群」を主張したり、容態急変時に「嘔吐はない」と異なる内容の証言をして、今回の不幸な出来事は不可抗力であったとしました。どうもこのような一貫しない主張に対し、裁判官の心証が大きく患者側に傾いたのではないかと思います。近年では、乳幼児をうつぶせ寝とすることに対する過剰な反応がみられますので、本件のような不幸な事故の際にうつぶせ寝としていたことがわかると、医療機関側にとってはきわめて不利になると思います。一方でうつぶせ寝にすることのメリットも確かにあり、とくに未熟児や病児には仰向けよりも生理学的に有利であることが示されていますが、SIDS予防キャンペーンなどで「仰向け寝にすること」が推奨されている以上、それに準じた方針を選択せざるを得ないと思います。小児科

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偽膜性大腸炎を診断できずに死亡に至ったケース

消化器最終判決判例時報 1654号102-111頁概要高血圧性小脳出血を発症した65歳男性、糖尿病、腎障害、および軽度の肝障害がみられていた。発症4日目に局所麻酔下にCT定位脳内血腫吸引術を施行し、抗菌薬としてセフォタキシムナトリウム(商品名:クラフォラン)、ピペラシリンナトリウム(同:ペントシリン)を開始した。術後2日目から下痢が始まり、術後4日目から次第に頻度が増加し、38℃台の発熱と白血球増多、CRP上昇など、炎症所見が顕著となった。術後6日目にはDICが疑われる状態で、腎不全、呼吸・循環不全となり、術後12日目に死亡した。解剖の結果、空腸から直腸にかけて著しい偽膜性大腸炎の所見が得られた。詳細な経過患者情報65歳男性経過1991年3月2日11:00頃法事の最中に眩暈と嘔吐を来して歩行不能となり、近医を経てA総合病院脳神経外科に搬送され、頭部CTスキャンで右小脳出血(血腫の大きさは3.8×2.5×2.0cm)と診断された。意識清明であったが言語障害があり、脳圧降下薬の投与、高血圧の管理を中心とした保存的治療が行われた。3月6日若干の意識障害、右上肢の運動失調がみられたため、局所麻酔下にCT定位脳内血腫吸引術が行われた。術後感染防止のため、第3世代セフェム(クラフォラン®)、広域ペニシリン(ペントシリン®)の静注投与が行われた。3月8日焦げ茶色の下痢と発熱。腰椎穿刺では髄膜炎が否定された。3月9日白血球15,000、CRP 0.5。3月10日下痢が5回あり、ロペラミド(同:ロペミン)投与(以後も継続された)。3月11日下痢が3回、白血球42,300、CRP 3.9。敗血症を疑い、γグロブリン追加。胸部X線写真異常なし、血液培養陰性。3月12日下痢が3回、チェーンストークス様呼吸出現。3月13日下痢が2回、血圧低下、腎機能低下、人工呼吸器装着、播種性血管内凝固症候群を疑い、メシル酸ガベキサート(同:エフオーワイ)開始。抗菌薬をアンピシリン(同:ビクシリン)、第3世代セフェム・セフタジジム(同:モダシン)、ミノサイクリン(同:ミノマイシン)に変更。以後徐々に尿量が減少して腎不全が進行し、感染や血圧低下などの全身状態悪化から人工透析もできないままであった。3月18日死亡。死体解剖の結果、空腸から直腸にかけて、著しい偽膜性大腸炎の所見が得られ、また、エンドトキシン血症の関与を示唆する肝臓小葉中心性新鮮壊死、著しい急性肝炎、下部尿管ネフローシス(ショック腎)が認められたため、偽膜性大腸炎により腸管の防御機能が障害され、細菌が血中に侵入し、その産生するエンドトキシンによる敗血症が惹起されエンドトキシンショックとなって急性循環不全が引き起こされた結果の死亡と判断された。当事者の主張患者側(原告)の主張小脳出血は保存的に様子をみても血腫の自然吸収が期待できる症状であり、手術の適応がなかったのに手術を実施した。1.死因クラフォラン®およびペントシリン®を中心として、このほかにビクシリン®、モダシン®、ミノマイシン®などの抗菌薬を投与されたことによって偽膜性大腸炎を発症し、その症状が増悪して死亡したものである2.偽膜性大腸炎について3月10~13日頃までには抗菌薬に起因する偽膜性大腸炎を疑い、確定診断ができなくても原因と疑われる抗菌薬を中止し、偽膜性大腸炎に効果があるバンコマイシン®を投与すべきであったのに怠った。さらに偽膜性大腸炎には禁忌とされているロペミン®(腸管蠕動抑制剤)を投与し続けた病院側(被告)の主張高血圧性小脳出血の手術適応は、一般的には血腫の最大経が3cm以上とされており、最大経が3.8cmの小脳出血で、保存的加療を行ううちに軽い意識障害および脳幹症状が発現し、脳ヘルニアへの急速な移行が懸念されたため、手術適応はあったというべきである。1.死因初診時から高血圧性腎症、糖尿病性腎症、感染によるショックなどの基礎疾患を有し、これにより腎不全が進行して死亡した。偽膜性大腸炎の起炎菌Clostridium difficileの産生する毒素はエンテロトキシンおよびサイトトキシンであるから、本件でみられたエンドトキシン血症は、偽膜性大腸炎に起因するとは考えがたい。むしろエンドトキシンを産生するグラム陰性桿菌が腸管壁を通過し、糖尿病、肝障害などの基礎疾患により免疫機能が低下していたため、敗血症を発症し、多臓器不全に至ったものと考えられる2.偽膜性大腸炎について偽膜性大腸炎による症状は、腹痛、頻回の下痢(1日30回にも及ぶ下痢がみられることがある)、発熱、腸管麻痺による腹部膨満などであり、検査所見では白血球増加、電解質異常(とくに低カリウム血症)、低蛋白血症などを来す。本件の下痢は腐敗性下痢である可能性や、解熱薬の坐薬の影響が考えられた。本件の下痢は回数的にみて頻回とまではいえない。また、腹痛や腹部膨満はなく、血清カリウム値はむしろ上昇しており、白血球やCRPから炎症所見が著明であったので肺炎や敗血症は疑われたものの、偽膜性大腸炎を疑うことは困難であった裁判所の判断1. 死因本件ではClostridium difficileの存否を確認するための検査は行われていないが、抗菌薬以外に偽膜性大腸炎を発生させ得る具体的原因は窺われず、また、偽膜性大腸炎はClostridium difficileを起炎菌とする場合がきわめて多いため、本件で発症した偽膜性大腸炎は抗菌薬が原因と推認するのが合理的である。そして、Clostridium difficileにより発生した偽膜性大腸炎により腸管の防御機能が障害され、腸管から血中にグラム陰性菌が侵入し、その産生するエンドトキシンにより敗血症が惹起され、ショック状態となって急性循環不全により死亡したものと推認することができる。2. 偽膜性大腸炎について一般的に医師にはさまざまな疾病の発生の可能性を考慮して治療に従事すべき医療専門家としての高度の注意義務があるのであって、本件の下痢の状況や白血球数などの炎症反応所見の推移は、かなり強く偽膜性大腸炎の発生を疑わせるものであると評価するのが相当である。病院側の主張する事実は、いずれも偽膜性大腸炎が発生していたことを疑いにくくする事情ではあるが、ロペミン®により下痢の回数がおさえられていた可能性を考慮して下痢の症状を観察するべきであった。そのため、3月11日から翌12日午前中までには偽膜性大腸炎が発生していることを疑うことが可能であり、その時点でバンコマイシン®の投与を開始し、かつロペミン®の投与を中止すれば、偽膜性大腸炎を軽快させることが可能であり、エンドトキシンショック状態に陥ることを未然に回避できた蓋然性が高い。2. 手術適応について高血圧性小脳出血を手術するべきであったかどうかの判断は示されなかった。原告側合計3,700万円の請求に対し、2,354万円の判決考察このケースは、脳外科手術後にみられた「下痢」に対し、かなり難しい判断を要求していると思います。判決文を読んでみると、頻回の下痢症状がみられたならばただちに(少なくとも下痢とひどい炎症所見がみられた翌日には)偽膜性大腸炎を疑い、確定診断のために大腸内視鏡検査などができないのならば、それまでの抗菌薬や止痢薬は中止してバンコマイシン®を投与せよ、という極端な結論となっています。もちろん、一般論として偽膜性大腸炎をまったく鑑別診断に挙げることができなかった点は問題なしとはいえませんが、日常臨床で抗菌薬を使用した場合、「下痢」というのはしばしばみられる合併症の一つであり、その場合程度がひどいと(たとえ偽膜性大腸炎を起こしていなくても)頻回の水様便になることはしばしば経験されます。そして、術後2日目にはじめて下痢が出現し、術後4日目から下痢が頻回になったという状況からみて、最初のうちは単純な抗菌薬の副作用による下痢と考え、止痢薬を投与するのはごく一般的かつ常識的な措置であったと思います。その上、術後に発熱をみた場合には腸以外の感染症、とくに脳外科の手術後であったので髄膜炎や肺炎、尿路感染症などをまず疑うのが普通でしょう。そのため、担当医師は術後2日目には腰椎穿刺による髄液検査を行っていますし(結果は髄膜炎なし)、胸部X線写真や血液検査も頻回に調べていますので、一般的な注意義務は果たしているのではないかと思います。ところが判決では、「頻回の下痢が始まった翌日の3月11日から3月12日午前中までには偽膜性大腸炎が発生していることを疑うことが可能であった」と断定しています。はたして、脳外科の手術後4日目に、頻回に下痢がみられたから即座に偽膜性大腸炎を疑い、発熱が続いていてもそれまでの抗菌薬をすべて中止して、バンコマイシン®だけを投与することができるのでしょうか。この時期はやはり脳外科術後の髄膜炎がもっとも心配されるので、そう簡単には抗菌薬を止めるわけにはいかないと考えるのがむしろ脳外科的常識ではないかと思います。実際のところ、脳外科手術後に偽膜性大腸炎がみられるのは比較的まれであり、それよりも髄膜炎とか肺炎の発症率の方が、はるかに高いのではないかと思います。にもかかわらず、まれな病態である偽膜性大腸炎を最初から重視するのは、少々危険な考え方ではないかという気までします。あくまでも推測ですが、脳外科の専門医であれば偽膜性大腸炎よりも髄膜炎、肺炎の方をまず心配するでしょうし、一方で消化器内科の専門医であればどちらかというと偽膜性大腸炎の可能性をすぐに考えるのではないかと思います。以上のように、本件は偽膜性大腸炎のことをまったく念頭に置かなかったために医療過誤とされてしまいましたが、今後はこの判例の考え方が裁判上のスタンダードとなる可能性が高いため、頻回の下痢と発熱、著しい炎症所見をみたならば、必ず偽膜性大腸炎のことを念頭に置いて検査を進め、便培養(嫌気性培養も含む)を行うことそして、事情が許すならば大腸内視鏡検査を行って確定診断をつけておくこと通常の抗菌薬を中止するのがためらわれたり、バンコマイシン®を投与したくないのであれば、その理由をきちんとカルテに記載することというような予防策を講じないと、医師側のミスと判断されてしまうことになると思います。なお本件でもう一つ気になることは、本件では手術直後から予防的な抗菌薬として、2種類もの抗菌薬が使用されている点です。クラフォラン®、ペントシリン®はともに髄液移行の良い抗菌薬ですので、その選択には問題ありません。しかし、手術時には明らかな感染症は確認されていないようなので、なぜ予防的な抗菌薬を1剤ではなくあえて2剤にしたのでしょうか。これについてはいろいろとご意見があろうかと思いますが、ことに本件のようなケースを知ると、抗菌薬の使用は必要最小限にするべきではないかと思います。消化器

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