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クローン病に伴う肛囲複雑瘻孔、開発中のCx601が有用/Lancet

 クローン病に伴う肛囲複雑瘻孔の治療薬として開発中の同種異系脂肪由来幹細胞の懸濁剤Cx601について、第III相二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、有効性、安全性が確認されたことが、スペイン・Centro Investigacion Biomedica en Red Enfermedades Hepaticas y DigestivasのJulian Panes氏らにより報告された。試験は、従来療法(抗菌薬、免疫修飾薬など)および生物学的製剤(抗TNF薬)治療で効果が認められない難治性の患者212例を対象に行われた。クローン病に伴う肛囲瘻孔は頻度が高く、診断後20年で最高推定28%の患者が症状を有するとされ、そのうち70~80%が複雑性であり、その治療には困難が伴う。Cx601は病変注入という新しいアプローチの治療薬である。Lancet誌オンライン版2016年7月28日号掲載の報告。プラセボとの比較で24週時点の複合寛解達成率で評価 試験は、2012年7月6日~2015年7月27日に、欧州7ヵ国とイスラエルの計49病院で並行群間比較にて行われた。18歳以上の成人クローン病患者で難治性、肛囲複雑瘻孔を有する患者を登録し、Cx601の単回(細胞数120million)病変注入群または食塩水24mL注入(プラセボ)群に無作為に割り付けた。ベースラインでの併用治療による層別化も行った。治療は割り付けをマスクされなかった外科医によって行われ、治療効果を評価する消化器科専門医と放射線科医には割り付け治療は知らされなかった。 主要エンドポイントは24週時点の複合寛解(臨床的評価でベースラインで排膿中であった開口部が全治療によって閉鎖、およびマスクされた中央MRI評価で治療部に2cm超の瘻孔を認めないなどで定義)の達成率。有効性は、intention-to-treat(ITT)および修正ITT集団で評価。安全性は安全性集団を設定し評価した。ITT解析で50% vs.34%、複合寛解の達成率は有意に高率 212例が無作為に割り付けられた(Cx601群107例、プラセボ群105例)。 複合寛解の達成率はCx601群がプラセボ群と比べて、ITT解析(53/107例[50%] vs.36/105例[34%]、両群差:15.2%、97.5%信頼区間[CI]:0.2~30.3、p=0.024)、および修正ITT集団の解析においても(53/103例[51%] vs.36/101例[36%]、両群差:15.8%、97.5%CI:0.5~31.2、p=0.021)有意に高率であった。 治療に関連した有害事象の報告は、Cx601群17%、プラセボ群29%であった。そのうち肛門周囲膿瘍(Cx601群6例、プラセボ群9例)、肛門周囲痛(5例vs.9例)の頻度が高かった。

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イワケンの「極論で語る感染症内科」講義

第1回 なぜ極論が必要なのか? 第2回 あなたはなぜその抗菌薬を出すのか 第3回 その非劣性試験は何のためか 第4回 急性咽頭炎の診療戦略のシナリオを変えろ! 第5回 肺炎・髄膜炎 その抗菌薬で本当にいいのか? 第6回 CRPは何のために測るのか 第7回 急性細菌性腸炎 菌を殺すことで患者は治るのか第8回 ピロリ菌は除菌すべきか第9回 カテ感染 院内感染を許容するな 第10回 インフルエンザ 検査と薬の必要性を考えろ 第11回 HIV/AIDS 医療者が知っておくべきHIV/AIDS診療の今 きょく ろん 【極論】1.極端な議論。また,そのような議論をすること。極言。2.つきつめたところまで論ずること。           大辞林第3版(三省堂)イワケンこと岩田健太郎氏が感染症内科・抗菌薬について極論で語ります。「この疾患にはこの抗菌薬」とガイドラインどおりに安易に選択していませんか?それぞれ異なった背景を持つ患者にルーチンの抗菌薬というのは存在するはずがありません。抗菌薬が持つ特性や副作用のリスクなどを突き詰めて考え、相対比較をしながら目の前の患者に最適なものを特定することこそが、抗菌薬を選択するということ。イワケン節でその思考法をたたきこんでいきます。※本DVDの内容は、丸善出版で人気の「極論で語る」シリーズの講義版です。 書籍「極論で語る感染症内科」は2016年1月丸善出版より刊行されています。  http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/book_data/search/9784621089781.html第1回 なぜ極論が必要なのか? 抗菌薬選択、感染症治療に関してなぜ“極論”が必要なのかをイワケンが語ります。これまでの感染症の診断・治療の問題点を指摘しながら、どういう方向に向かっていかなければならないのか、何をすればよいのかを示していきます。“感染症とはなにか”が理解できる内容です。第2回 あなたはなぜその抗菌薬を出すのか抗菌薬を処方するとき、何を基準に選択していますか?ほとんどの場合において「スペクトラム」を基準にしていることが多いのではないでしょうか?否。本当にそれでいいのでしょうか。移行性、時間依存性、濃度依存性などの抗菌薬が持つ特性や副作用のリスクなどを突き詰めて考え、、相対比較をしながら最適なものを特定することこそが、抗菌薬を選択するということ。イワケン節でその思考法をたたきこみます。第3回 その非劣性試験は何のためか近年耳にする機会が増えている「非劣性試験」。既存薬よりも新薬の効果のほうが劣っていないことを示す試験で、新薬が主要な治療効果以外に何らかの点で優れているということを前提としてが実施するものである。本来患者の恩恵のために行われるべきこの試験が価値をもたらすことは当然ある。しかしながら、臨床的には意味の小さいいわゆる「me too drug」を増やす道具になりかねないということも、また事実である。この試験のあり方にイワケンが警鐘を鳴らす。第4回 急性咽頭炎の診療戦略のシナリオを変えろ!いよいよ疾患の診療戦略に入っていきます。まずは誰もが診たことのある急性咽頭炎。急性咽頭炎の診療において、溶連菌迅速検査の結果が陽性の場合は、抗菌薬(ペニシリン系)を投与を使用し、陰性の場合は、伝染性単核球症などとして、抗菌薬を使用しないという治療戦略が一般的。しかし、細菌性の急性咽頭炎の原因菌は「溶連菌」だけではなかった!つまり、検査が陰性であっても、抗菌薬が必要な場合もある!ではそれをどのように見つけ、診断し、治療するのか?イワケンが明確にお答えします。第5回 肺炎・髄膜炎 その抗菌薬で本当にいいのか?今回は、肺炎と髄膜炎の診療戦略について見ていきます。風邪と肺炎の見極めはどうするか?グラム染色と尿中抗原検査、その有用性は?また、髄膜炎のセクションでは、抗菌薬の選択についてイワケンが一刀両断。細菌性髄膜炎の治療に推奨されているカルバペネム。この薬が第1選択となったその理由を知っていますか?そこに矛盾はないでしょうか?ガイドライン通りに安易に選択していると、痛い目を見るかもしれません。番組最後には耐性菌についても言及していきます。第6回 CRPは何のために測るのか炎症の指標であるCRPと白血球は感染症診療において多用されている。多くの医療者は感染症を診るときに、白血球とCRPしか見ていない。CRPが高いと感染症と判断し、ある数値を超えると一律入院と決めている医療機関もある。しかし、それで本当に感染症の評価ができていると言えるのだろうか。実例を挙げながらCRP測定の意義を問う。第7回 急性細菌性腸炎 菌を殺すことで患者は治るのか細菌性腸炎の主な原因菌は「カンピロバクター」。カンピロバクターはマクロライドに感受性がある。しかし、臨床医として、安易にマクロライドを処方する判断をすべきではない。抗菌薬で下痢の原因菌を殺し、その抗菌薬で下痢を起こす・・・。その治療法は正しいといえるのか?イワケン自身がカンピロバクター腸炎に罹患したときの経験を含めて解説します。第8回 ピロリ菌は除菌すべきか世の中は「ピロリ菌がいれば、とりあえず除菌」といった圧力が強い。ピロリ菌が胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんなど多様な疾患の原因となる菌であるからだ。一方で、ピロリ菌は病気から身を守ってくれている存在でもあるのだ。そのピロリ菌をやみくもに除菌することの是非を、イワケンの深い思考力で論じる。第9回 カテ感染 院内感染を許容するなカテーテルを抜去して解熱、改善すればカテ感染(CRBSI:catheter-related blood stream infection)と定義する日本のガイドライン。また、カテ感染はカテーテルの感染であると勘違いされている。そんな間違いだらけの日本のカテ感染の診療に、イワケンが切り込む。限りなくゼロにできるカテ感染(CRBSI)。感染が起こることを許容すべきではない。第10回 インフルエンザ 検査と薬の必要性を考えろインフルエンザの診療において迅速キットを使って診断、そして、陽性であれば抗インフルエンザ薬。そんなルーチン化した診療にイワケンが待ったをかける。今一度検査と抗インフルエンザ薬の必要性と意義を考えてみるべきではないだろうか。また、イワケンの治療戦略の1つである、「漢方薬」についても解説する。第11回 HIV/AIDS 医療者が知っておくべきHIV/AIDS診療の今HIV/AIDSの診療は劇的に進化し、薬を飲み続けてさえいれば天寿をまっとうすることも可能となった。そのため、HIV/AIDS診療を専門としない医師であっても、そのほかの病気や、妊娠・出産などのライフイベントで、HIV感染者を診療する機会が増えてきているはず。その患者が受診したとき、あなたはどう対応するのか。そう、医療者として、“患者差別”は許されない!普段通りの診療をすればいいのだ。しかしながら、薬の相互作用や患者心理など、気をつけるべきことを知っておく必要はある。その点を中心に解説する。

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気道感染症に対する抗菌薬処方の減少と感染症合併リスクの関係(解説:小金丸 博 氏)-573

 プライマリケアでみられる気道感染症(上気道炎、咽頭炎、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎)の多くは自然寛解が期待できる疾患であるが、実際は多くの気道感染症例に対して抗菌薬の投与が行われている。臨床医は、気道感染症に対して抗菌薬を投与しないと細菌合併症が増加する懸念を抱いているが、抗菌薬処方の減少と細菌感染症合併リスクの関係を示すデータは不足していた。 本研究は、英国プライマリケアのデータベースを用いて、気道感染症に対して抗菌薬が処方された割合と、細菌感染症の合併リスクとの関連を調べたものである。英国では2005~14年にかけて、気道感染症の患者に対する抗菌薬の処方割合は低下傾向であった。診療所別に解析した場合、抗菌薬処方の少ない診療所群において肺炎と扁桃周囲膿瘍のわずかな増加を認めたものの、そもそもまれな疾患である乳様突起炎、膿胸、細菌性髄膜炎、脳膿瘍、レミエール症候群の増加は認めなかった。 本研究では、気道感染症に対して抗菌薬の処方を減らしても、細菌感染症を合併するリスクは低いことが示された。肺炎と扁桃周囲膿瘍のリスク増加を認めたが、登録患者7,000人の診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減少した場合に、肺炎発症が年間1人、扁桃周囲膿瘍発症が10年間で1人増加するとの結果であり、リスクはきわめて低いといえる。 本研究では、個々の症例ごとに検討されたわけではないので、気道感染症の患者にどのような背景や理学所見があると細菌感染を合併するリスクが高いのか、といったことは議論されていない。高齢者や免疫不全者の気道感染症では、比較的頻度の高い肺炎の合併には注意が必要と考える。 不必要な抗菌薬の投与は、薬剤耐性菌の増加や抗菌薬の副作用の増加をもたらすため、抗菌薬の投与を見直す動きが広がっている。本来self-limitedな気道感染症に対して抗菌薬を投与するかどうかは、患者ごとに適応を十分吟味する必要がある。

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気道感染症への抗菌薬処方を減らした影響は?/BMJ

 気道感染症に対する抗菌薬処方が減っても、肺炎と扁桃周囲膿瘍の発症リスクがわずかに増大するものの、乳様突起炎や蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の合併症リスクは増加しなかった。英国キングス・カレッジ・ロンドンのMartin C. Gulliford氏らが、英国内610ヵ所のプライマリケア診療所を対象に行ったコホート試験の結果、示されたもので、BMJ誌オンライン版2016年7月4日号で発表した。延べ4,550万人年の患者について前向きに追跡 Gulliford氏らは2005~14年にかけて、英国内のプライマリケア診療所610ヵ所で診察を受けた患者、延べ4,550万人年について調査を行った。 気道感染症で診察を受けた患者のうち、抗菌薬を処方された割合を診療所別に調べ、肺炎や扁桃周囲膿瘍、乳様突起炎などの合併症発生リスクとの関連を検証した。抗菌薬投与率を10%引き下げで、肺炎患者は1年に1人増加するのみ 英国全体の傾向としては、2005~14年にかけて、気道感染症で診察を受け抗菌薬を処方された人の割合は、男性は53.9%から50.5%へ、女性は54.5%から51.5%へと減少した。また、同期間に新たに細菌性髄膜炎、乳様突起炎、扁桃周囲膿瘍の診断を受けた人の割合も、年率5.3%、4.6%、1.0%それぞれ減少した。一方で肺炎については、年率0.4%の増加が認められた。 診療所別にみると、年齢・性別標準化後の肺炎と扁桃周囲膿瘍発症率は、気道感染症で抗菌薬を投与した割合が最も低い四分位範囲(44%未満)の診療所において、最も高い四分位範囲(58%以上)の診療所に比べ高かった。 気道感染症への抗菌薬投与率が毎10%減ることによる、肺炎発症に関する補正後相対リスク増加幅は12.8%だった(95%信頼区間:7.8~17.5、p<0.001)。扁桃周囲膿瘍発症についての同補正後相対リスク増加幅は、9.9%(同:5.6~14.0、p<0.001)だった。この結果は、登録患者7,000人の平均的な診療所において、気道感染症で抗菌薬を投与する割合が10%減った場合に、1年間で肺炎発症が1.1人、10年間で扁桃周囲膿瘍が0.9人増加するにとどまるというものだった。 そのほか、乳様突起炎、蓄膿症、細菌性髄膜炎、頭蓋内膿瘍、レミエール症候群の発症率についてはいずれも、気道感染症への抗菌薬投与率の「最低四分位範囲の診療所」と「最高四分位範囲の診療所」で同等だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「抗菌薬処方がかなり減っても、関連する症例の増加はわずかだった。ただし、高リスク群では、肺炎のリスクについては注意が必要だろう」とまとめている。(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)【訂正のお知らせ】本文内の表記に誤りがあったため、一部訂正いたしました(2016年7月14日)。 

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感染症コンサルタント岸田が教える どこまでやるの!? 感染対策

第1回 感染対策総論 第2回 多剤耐性菌って何? 第3回 感染対策の基本はMRSA 第4回 どうする?多剤耐性菌の感染対策 第5回 最も大変!インフルエンザの感染対策 第6回 感染力が強いノロウイルス 第7回 命にかかわる!カテーテル関連血流感染症 第8回 入院中の患者が下痢!クロストリジウム ディフィシル感染症 第9回 ワクチン接種が自分自身と患者を守る 感染対策の理想を言うことは簡単です。でも、実際の医療の現場において、理想的な対策をとることは非常に困難です。また、どんなに感染対策を講じても、感染を“ゼロ”にすることはできません。感染が起こったときに問われることは「どこまでの対策をやったか」ということ。アウトブレイクを防ぐためにも、また、医療訴訟に負けないためにも、理想論ではなく、置かれている医療機関の現状を踏まえ、実際にやるべき感染対策について、感染症コンサルタント岸田が明確にお教えします。第1回 感染対策総論 感染対策の理想をいうことは簡単です。でも、実際の現場において、理想的な対策をとることはできません。そのなかで、置かれている医療機関の現状を踏まえ、本当に何をどこまでやれば良いのか。そのGOALは意外に明確です。第2回 多剤耐性菌って何? MRSAはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌すなわちメチシリンに耐性であるということが明確ですが、多剤耐性緑膿菌、多剤耐性アシネトバクターなどの多剤耐性菌の“多剤”とはどのようなを示すのかご存知ですか?複数の抗菌薬に耐性があることなのでしょうか?これからさまざまな微生物の感染対策に進む前に、定義を確認しおきましょう。対策のためにもちろんですが、「国や自治体への報告の義務」にも関わってくるので、しっかりとして理解が必要です。第3回 感染対策の基本はMRSA なんといっても感染対策の基本はMRSAです。最近ではMRSAに関する報道もなく、MRSAに慣れっこになっていませんか?でも実は日本の医療機関で検出される黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合はなんと50%!まだまだ高いのが現状です。そのMRSAを抑えることができれば、院内感染を“ゼロ”に近づけていくことも可能です。MRSAの感染対策について理想論を語るのではなく、理想と現実のギャップを理解した上で、実際にどうすべきかをお教えします。MRSAを制するものは感染対策を制する!第4回 どうする?多剤耐性菌の感染対策 感染対策の一番の基本である、MRSAの次の微生物といえば多剤耐性緑膿菌(MDRP)です。多剤(薬剤)耐性緑膿菌の定義は覚えていますか?IMP (イミペネム)、AMK (アミカシン)、CPFX (シプロフロキサシン) の3剤に耐性を持つ緑膿菌です。でも、こうなってしまうと、治療の選択肢がなくなってしまうのです。そうなる前に手をうつことが重要です。そうなる前とはどういったことか?そして何をすればいいのか?臨床現場でやるべきことについて詳しく解説します。もちろん緑膿菌だけでなくアシネトバクター、セラチアなどの多剤(薬剤)耐性菌の感染対策についても見ていきます。第5回 最も大変!インフルエンザの感染対策 インフルエンザの感染対策について見ていきましょう。感染対策を考える上で重要なことは、感染経路と感染性のある期間についてキチンと知っておくことです。また対策は、患者さんだけではありません。医療者が発症した場合についても考えておく必要があります。どこで線を引くのか、現実的な対策について、一緒に考えていきましょう。第6回 感染力が強いノロウイルス ノロウイルスは10~100個程度の少量のウイルスで感染が成立、僅かな糞便や吐物から空気を介して経口感染するなど、非常に感染力が強いウイルスです。しかも、手指衛生の基本であるアルコールも無効で感染対策は一筋縄ではいきません。その為、医療者も病院も、そして一般の人たちもノロウイルスの感染対策は重要だと思っているかと思います。でも、ノロウイルスだけが重要なのでしょうか。冬季下痢症の原因はノロウイルスだけではありません。ロタウイルスやアデノウイルスなどさまざまです。それぞれのウイルスに対しての対策を講じるのか?感染症コンサルタントがお答えします。第7回 命にかかわる!カテーテル関連血流感染症 医療関連感染症の中でも、急激な経過をたどることが多い重篤な感染症 カテーテル関連血流感染症(CRBSI:catheter-related bloodstream infection)についてみていきます。CRBSIを疑うと、カテーテルを抜去しないといけないのでしょうか?CRBSIの診断に重要なことは何なのか!予防のためにできることは?そして予防するための特効薬は?実例やエビデンス、そしてコンサルタント岸田の経験を提示しながら、詳しく解説します。第8回 入院中の患者が下痢!クロストリジウム ディフィシル感染症 今回のテーマはクロストリジウム・ディフィシル感染症です。クロストリジウム・ディフィシル(CD)の感染対策については、診断・治療などの臨床の側面を押さえておくことが重要です。入院中の患者さんが突然下痢に!さあ、あなたならどう対応しますか?抗菌薬が入っている、それならばCDIだと、治療と感染対策を進めますか?抗菌薬が入っているからCDIだろうと疑ってかかるのは大きな間違いです!どのように診断をすすめ。治療はどうするか?そして感染対策は?感染症コンサルタントが事例を提示しながら詳しくお教えします。第9回 ワクチン接種が自分自身と患者を守る 受けていますか?ワクチン接種。既に御存知の通り、ワクチン接種は、病気からあなた自身を守ります。もちろん患者さんにもワクチン接種を進めましょう。ですが、医療者として忘れてはならないのは、あなた自身の接種が患者さんを守るということです。医療者がワクチンを接種していないことで起こった実際の事例を取り上げ、やるべき対策とそれを実現するための道筋をお教えします。

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ヒト顆粒球アナプラズマ症に気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第22回となる今回は「ヒト顆粒球アナプラズマ症」です。もう一度言いますが、ヒト顆粒球アナプラズマ症です。読者の皆さまは「オイオイ、そんな訳のわからん病気、気を付ける必要ねえだろ!」とお思いかもしれませんが、決して私の頭がおかしくなったわけではなく、本当にヒト顆粒球アナプラズマ症に、われわれ日本人は気を付けないといけないのですッ!!名前から疾患をひもとくそもそも名前の意味がわからないですよね。「何だよヒト顆粒球アナプラズマ症って」って思いますよね。僕もそう思います。「こういう時は1つずつかみ砕いて考えればいいっ」てお母さんに教わりましたので、かみ砕いていってもよろしいでしょうか。とくに反対意見がないようなのでかみ砕いていこうと思います。まず、「ヒト」からいきましょう。ヒトって何かわかりますか? いわゆる1つのヒューマンですね。これは説明しなくてもわかるか。すいません。では次、「顆粒球」とは何でしょう。これは好中球、好酸球、好塩基球の総称であります。最後にアナプラズマ症ですが、これはリケッチアの一種であるアナプラズマによる感染症でありまして、マダニにより媒介されます。ウシとかシカの赤血球に感染する動物の病気なんですね。ということで、これをつなげて考えると、ヒトの顆粒球に感染するアナプラズマによる感染症ということになりますッ! さらに通は“Human Granulocytic Anaplasmosis”、略して“HGA”と呼んでいます。爆笑問題の薄毛のCMみたいですね。HGAの特徴と日本での広がりさて、HGAは顆粒球に特異的に感染する偏性寄生性のグラム陰性桿菌であるAnaplasma phagocytophilumによる感染症です。このA. phagocytophilumもウマやヒツジに感染しアナプラズマ症を起こすので、人畜共通感染症と考えられています。HGAが最初に見つかったのは、わりと最近で1991年のことです。アメリカで発熱性疾患患者の好中球の中にエーリキア様細菌の感染が認められ、1996年にはその病原体が分離報告されました。こうして今まで知られていなかった疾患が認知されるようになり、今ではアメリカで年間1,800例以上のHGAが報告されています。とくに、ロードアイランド州、ミネソタ州、コネチカット州などで多く発生しています。「いやー、アメリカっていろんな感染症があるんだなあ、日本は平和で何よりだ…」と思ったあなたッ! 安心してはいられませんッ! 日本でもHGAに感染するかもしれないのですッ! 2006年の時点で、すでに日本の静岡県、山梨県のマダニがA. phagocytophilumを保有することが疫学調査によって明らかになっていました。近年の調査ではさらに三重県、和歌山県、鹿児島県、長崎県のマダニもA. phagocytophilumを保有していることが判明しています。ということは…日本でもHGAに感染する可能性があるということですッ!!(ドヤッ)とか言ってたら、最近、実際に日本でHGAが報告されました。最初の2例は高知県での診断例です。どちらも山の中でマダニに咬まれている事例であり、テトラサイクリン系抗菌薬を投与され治癒しています。1例は日本紅斑熱との共感染でした。今では高知県以外でも数例の症例が報告されています。日本でもHGAに感染する可能性があるのですッ!HGAの診療それではHGAは、どのような臨床症状を呈するのでしょうか。ぶっちゃけ「煮え切らない症状」です、HGA。発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛って感じの、特定の臓器の症状がなく、非特異的発熱を呈するのが典型的であります。臨床症状だけだと日本紅斑熱によく似ていますが、日本紅斑熱で頻度の高い皮疹はHGAではまれだと言われています。血液検査では白血球減少や血小板減少がみられることがあり、この辺も日本紅斑熱に似ています。診断は、抗体検査またはPCR法によります。保健所を介した行政検査ではできないんですが、国内の特定の研究施設で検査することができます。そこにいきなり検査が集中するとご迷惑をおかけするかもしれないので、もしHGAを疑う患者さんがいらっしゃいましたら、まずは忽那までご連絡くださいッ!※HGAの検査を希望される場合は、skutsuna@hosp.ncgm.go.jp まで!治療は、テトラサイクリン系抗菌薬が有効と考えられています。ドキシサイクリン 100mg 1日2回を10日間というのが、今のところよく行われている治療です。ここまでのところでお気付きかと思いますが、日本紅斑熱といろいろと似ているところが多い疾患です。マダニに咬まれて1週間くらいで発症するところも、皮疹以外の臨床症状も、血液検査所見も、テトラサイクリンが効くところも、クリソツですッ! ということは、マダニ刺咬後に発熱を呈し、日本紅斑熱が疑われた事例で、とくに皮疹がない症例ではHGAを疑うべしッ!ということになります。もしかしたら、われわれはすでにHGA症例を見逃しているのかもしれません…。そして日本には、まだまだわれわれの知らない病原体が潜んでいるのかもしれません…。「いや~、新興再興感染症って本当に奥が深いですねえ」(水野晴郎っぽい締め)。1)大橋典男. IASR.2006;27:44-45.2)Gaowa, et al. Emerg Infect Dis.2013;19:338-340.3)Ohashi N, et al. Emerg Infect Dis.2013;19:289-292.

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ニーマン・ピック病C型〔NPC : Niemann-Pick disease type C〕

1 疾患概要■ 概念・定義1, 2)ニーマン・ピック病は、多様な臨床症状と発病時期を示すがスフィンゴミエリンの蓄積する疾患として、1961年CrockerによりA型からD型に分類された。A型とB型はライソゾーム内の酸性スフィンゴミエリナーゼ遺伝子の欠陥による常染色体性劣性遺伝性疾患で、ニーマン・ピック病C型は細胞内脂質輸送に関与する分子の欠陥で起こる常染色体性劣性遺伝性疾患である。D型は、カナダのNova Scotia地方に集積するG992W変異を特徴とする若年型のC型である。■ 疫学C型の頻度は人種差がないといわれ、出生10~12万人に1人といわれている。発病時期は新生児期から成人期までと幅が広い。2015年12月の時点で日本では34例の患者の生存が確認されている。同時点での人口8,170万人のドイツでは101人、人口6,500万人の英国では86例で、人口比からすると日本では現在確認されている数の約5倍の患者が存在する可能性がある。■ 病因遺伝的原因は、細胞内脂質輸送小胞の膜タンパク質であるNPC1タンパク質をコードするNPC1遺伝子、またはライソゾーム内の可溶性たんぱく質でライソゾーム内のコレステロールと結合し、NPC1タンパク質に引き渡す機能を持つNPC2タンパク質をコードするNPC2遺伝子の欠陥による。その結果、細胞内の脂質輸送の障害を生じ、ライソゾーム/後期エンドソームにスフィンゴミエリン、コレステロールや糖脂質などの蓄積を起こし、内臓症状や神経症状を引き起こす。95%の患者はNPC1遺伝子変異による。NPC2遺伝子変異によるものは5%以下であり、わが国ではNPC2変異による患者はみつかっていない。■ 症状1)周産期型出生後まもなくから数週で、肝脾腫を伴う遷延性新生児胆汁うっ滞型の黄疸がみられる。通常は生後2~4ヵ月で改善するが、10%くらいでは、肝不全に移行し、6ヵ月までに死亡する例がある。2)乳児早期型生後間もなくか1ヵ月までに肝脾腫が気付かれ、6~8ヵ月頃に発達の遅れと筋緊張低下がみられる。1~2歳で発達の遅れが明らかになり、運動機能の退行、痙性麻痺が出現する。歩行を獲得できる例は少ない。眼球運動の異常は認められないことが多い。5歳以降まで生存することはまれである。3)乳児後期型通常は3~5歳ごろ、失調による転びやすさ、歩行障害で気付かれ、笑うと力が抜けるカタプレキシーが認められることが多い。神経症状が出る前に肝脾腫を指摘されていることがある。また、検査に協力できる場合には、垂直性核上性注視麻痺を認めることもある。知的な退行、けいれんを合併する。けいれんはコントロールしづらいこともある。その後、嚥下障害、構音障害、知的障害が進行し、痙性麻痺が進行して寝たきりになる。早期に嚥下障害が起こりやすく、胃瘻、気管切開を行うことが多い。7~15歳で死亡することが多い。わが国ではこの乳児後期型が比較的多い。また、この型では早期にまばたきが消失し、眼球の乾燥を防ぐケアが必要となる。4)若年型軽度の脾腫を乳幼児期に指摘されていることがあるが、神経症状が出現する6~15歳には脾腫を認めないこともある。書字困難や集中力の低下などによる学習面の困難さに気付かれ、発達障害や学習障害と診断されることもある。垂直性核上性注視麻痺はほとんどの例で認められ、初発症状のこともある。カタプレキシーを認めることもある。不器用さ、学習の困難さに続き、失調による歩行の不安定さがみられる。歩行が可能な時期に嚥下障害によるむせやすさ、構語障害を認めることが多く、発語が少なくなる。ジストニア、けいれんがみられることが多く、進行すると痙性麻痺を合併する。30歳かそれ以上まで生存することが多い。わが国でも比較的多く認められる。5)成人型成人になって神経症状がなく、脾腫のみで診断される例もまれながら存在するが、通常は脾腫はみられないことが多い。妄想、幻視、幻聴などの精神症状、攻撃性やひきこもりなどの行動異常を示すことが多い。精神症状や行動異常がみられ、数年後に小脳失調(76%)、垂直性核上性注視麻痺(75%)、構語障害(63%)、認知障害(61%)、運動障害(58%)、脾腫(54%)、精神症状(45%)、嚥下障害(37%)などがみられる。運動障害はジストニア、コレア(舞踏病)、パーキンソン症候群などを認める。■ 予後乳児早期型は5歳前後、乳児後期型は7~15歳、若年型は30~40歳、成人型は中年までの寿命といわれているが、気管切開、喉頭気管分離術などによる誤嚥性肺炎の防止と良好なケアで寿命は延長している。また、2012年に承認になったミグルスタット(商品名: ブレーザベス)によって予後が大きく変化する可能性がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ニーマン・ピック病C型の診断の補助のためにSuspicion Indexが開発されている。これらはC型とフィリピン染色で確定した71例、フィリピン染色が陰性であった64例、少なくとも症状が1つある対照群81例について、内臓症状、神経症状、精神症状について検討し、特異性の高い症状に高いスコアを与えたスクリーニングのための指標である。この指標は便利であるが、4歳以下で神経症状の出現の少ない例では誤診する可能性のあることに注意して使用していただきたい。現在、4歳以下で使えるSuspicion Indexが開発されつつある。このSuspicion Indexは、(http://www.npc-si.jp/public/)にアクセスして使用でき、評価が可能である。一般血液生化学で特異な異常所見はない。骨髄に泡沫細胞の出現をみることが多い。皮膚の培養線維芽細胞のフィリピン染色によって、細胞内の遊離型コレステロールの蓄積を明らかにすることで診断する。LDLコレステロールが多く含まれる血清(培地)を用いることが重要である。成人型では蓄積が少なく、明らかな蓄積があるようにみえない場合もあり注意が必要である。骨髄の泡沫細胞にも遊離型コレステロールの蓄積があり、フィリピン染色で遊離型コレステロールの蓄積が確認できれば診断できる。線維芽細胞のフィリピン染色は、秋田大学医学部附属病院小児科(担当:高橋 勉、tomy@med.akita-u.ac.jp)、大阪大学大学院医学系研究科生育小児科学(担当:酒井 規夫、norio@ped.med.osaka-u.ac.jp)、鳥取大学医学部附属病院脱神経小児科(担当:成田 綾、aya.luce@nifty.com)で対応が可能である。確定診断のためにはNPC1遺伝子、NPC2遺伝子の変異を同定する。95%以上の患者はNPC1遺伝子に変異があり、NPC2遺伝子に変異のある患者のわが国での報告はまだない。NPC1/NPC2遺伝子解析は鳥取大学生命機能研究支援エンター(担当:難波 栄二、ngmc@med.tottori-u.ac.jp)で対応が可能である。近年、遊離型コレステロールが非酵素反応で形成される酸化型ステロール(7-ケトコレステロール、コレスタン-3β、5α、6βトリオール)が、C型の血清で特異的に上昇していることが知られ、迅速な診断ができるようになっている1、2)。わが国では、一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療センター(担当者:藤崎 美和、衞藤 義勝、sentanken@mt.strins.or.jp、電話044-322-0654 電子音後、内線2758)で測定可能であり、連絡して承諾が得られるようであれば、凍結血清1~2mLを送る。さらに尿に異常な胆汁酸が出現することが東北大学医学部附属病院薬剤部から報告され9)、この異常も診断的価値が高い特異的な検査の可能性があり、現在精度の検証が進められている。診断的価値が高いと考えられる場合、また精度の検証のためにも、東北大学医学部附属病院へ連絡(担当者:前川 正充、m-maekawa@hosp.tohoku.ac.jp)して、凍結尿5mLを送っていただきたい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ミグルスタット の治療効果C型の肝臓や脾臓には、遊離型コレステロール、スフィンゴミエリン、糖脂質(グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド)、遊離スフィンゴシン、スフィンガニンが蓄積している。一方、脳では、コレステロールやスフィンゴミエリンの蓄積はほとんどなく、スフィンゴ糖脂質、とくにガングリオシッドGM2とGM3の蓄積が顕著である。このような背景から、グルコシルセラミド合成酵素の阻害剤であるn-butyl-deoxynojirimycin(ミグルスタット)を用いてグルコシルセラミド合成を可逆的に阻害し、中枢神経系のグルコシルセラミドを基質とする糖脂質の合成を減少させることで、治療効果があることが動物で確認された。さらに若年型と成人型のC型患者で、嚥下障害と眼球運動が改善することが報告され、2009年EUで、2012年わが国でC型の神経症状の治療薬として承認された。ミグルスタットは、乳児後期型、若年型、成人型の嚥下機能の改善・安定化に効果があり、誤嚥を少なくし、乳児後期型から成人型C型の延命効果に大きく影響することが報告されている。また、若年型のカタプレキシーや乳児後期型の発達の改善がみられ、歩行機能、上肢機能、言語機能、核上性注視麻痺の安定化がみられることが報告されている。乳児早期型では、神経症状の出現前の早い時期に治療を開始すると効果がある可能性が指摘されているが、乳児後期型、若年型、成人型の神経症状の安定化に比較して効果が乏しい。また、脾腫や肝腫大などの内臓症状には、効果がないと報告されている。ミグルスタットの副作用として、下痢、鼓腸、腹痛などの消化器症状が、とくに治療開始後の数週間に多いと報告されている。この副作用はミグルスタットによる二糖分解酵素の阻害によって、炭水化物の分解・吸収が障害され、浸透圧性下痢、結腸発酵の結果起こると考えられている。ほとんどの場合ミグルスタット継続中に軽快することが多く、ロペラミド塩酸塩(商品名:ロペミンほか)によく反応する。また、食事中の二糖(ショ糖、乳糖、麦芽糖)の摂取を減らすことでミグルスタットの副作用を減らすことができる。さらには、ミグルスタットを少量から開始して、増量していくことで副作用を軽減できる。■ ニーマン・ピック病C型患者のその他の治療について2)C型のモデルマウスでは、細菌内毒素受容体Toll様受容体4の恒常的活性化によって、IL-6やIL-8が過剰に産生され、脳内の炎症反応が起こり、IL-6を遺伝的に抑制することで、マウスの寿命が延長することが示唆されている5)。また、モデルマウスに非ステロイド性抗炎症薬を投与すると神経症状の発症が遅延し、寿命が延長することが報告されており6)、C型患者で細菌感染を予防し、感染時の早期の抗菌薬投与と抗炎症薬の投与によって炎症を抑えることが勧められる。また、教科書には記載されていないが、C型患者では早期に瞬目反射が減弱・消失し、まばたきが減少し、この結果眼球が乾燥する。この瞬目反射の異常に対するミグルスタットの効果は不明である。C型患者のケアにあたっては、瞬目反射の減弱に注意し、減弱がある場合には、眼球の乾燥を防ぐために点眼薬を使用することが大切である。4 今後の展望シクロデキストリンは、細胞内コレステロール輸送を改善し、遊離型コレステロールの蓄積を軽減させると、静脈投与での効果が報告されている3)。シクロデキストリンは、髄液の移行が乏しく、人道的使用で髄注を行っている家族もあるが、今後アメリカを中心に臨床試験が行われる可能性がある。また、組み換えヒト熱ショックタンパク質70がニーマン・ピック病C型治療薬として開発されている。そのほか、FDAで承認された薬剤のなかでヒストン脱アセチル化阻害剤(トリコスタチンやLBH589)が、細胞レベルでコレステロールの蓄積を軽減させること4, 7)や筋小胞体からCaの遊離を抑制し、筋弛緩剤として用いられているダントロレンが変異したNPCタンパク質を安定化する8)ことなどが報告され、ミグルスタット以外の治療薬の臨床試験が始まる可能性が高い。5 主たる診療科小児科(小児神経科)、神経内科、精神科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患克服事業 ライソゾーム病(ファブリー病を含む)に関する調査研究班 ライソゾーム病に関して(各論)ニーマン・ピック病C型(医療従事者向けのまとまった情報)鳥取大学医学部N教授Website(ニーマン・ピック病C型の研究情報を多数記載。医療従事者向けのまとまった情報)NP-C Suspicion Index ツール(NPCを疑う症状のスコア化ができる。提供: アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社)The NPC-info.com Information for healthcare professionals に入り、Symptoms of niemann pick type C diseaseにて動画公開(ニーマン・ピック病C型に特徴的な症状のビデオ視聴が可能。提供: アクテリオン株式会社)患者会情報ニーマン・ピック病C型患者家族の会(患者とその患者家族の情報)1)大野耕策(編). ニーマン・ピック病C型の診断と治療.医薬ジャーナル社;2015.2)Vanier MT. Orphanet J Rare Dis.2010;5:16.3)Matsuo M, et al. Mol Genet Metab.2013;108:76-81.4)Pipalia NH, et al. Proc Natl Acad Sci USA.2011;108:5620-5625.5)Suzuki M, et al. J Neurosci.2007;27:1879-1891.6)Smith D, et al. Neurobiol Dis.2009;36:242-251.7)Maceyka M, et al. FEBS J.2013;280:6367-6372.8)Yu T, et al. Hum Mol Genet.2012;21:3205-3214.9)Maekawa M, et al. Steroids.2013;78:967-972.公開履歴初回2013年10月10日更新2016年04月19日

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診療の現場における安全な処方に必要なものは何か…(解説:吉岡 成人 氏)-512

薬剤をより安全に処方すること 外科医が行う手術、内科医が行う外科的なインターベンションと並んで、抗菌薬や抗がん化学療法薬などに代表される薬物治療は、内科医にとって重要な治療のツールである。臨床の現場では、作用と副作用というアンビバレンスを勘案して、慎重に処方を行うことが望まれる。一方、忙しさに紛れ、薬物の相互作用にうっかり気付かずに、副作用のリスクを高めてしまう処方が行われることもまれではない。 本論文は、スコットランドにおけるプライマリケアの診療現場で、一定の割合で副作用を引き起こす可能性のある高リスク薬の処方を、どのような臨床介入によって適正化しうるかについて検討した成績を示した論文である。教育と情報そして金銭的なインセンティブ 高リスク薬として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗血小板薬を取り上げ、慢性腎臓病患者(CKD≧ステージ3)や、利尿薬とACE阻害薬ないしはARBを併用している患者にNSAIDsを処方した場合、胃粘膜保護薬を併用せずにNSAIDsと抗凝固薬の併用を行った場合を高リスク処方と判定し、介入によって処方行動が変容するか否かを検討している。 教育、金銭的インセンティブ、患者情報の提供という3つの介入が実施されている。まずは、薬剤師がクリニックを訪問し1時間にわたって知識の共有と確認を行い、続いて、参加登録時に350ポンド(600USドル)、高リスク薬を処方した患者の病歴を確認した際には患者1人当たり15ポンド(25USドル)のインセンティブを支払い、さらに、プライマリケア医が診療している患者の中から、病歴の確認が必要な患者を抽出し、「フラグ」を付けてアラートを行い、医師が対象薬となっている高リスク薬剤の投与を中止するか、副作用を予防する薬剤を追加処方した際に「フラグ」が消えるというシステムを構築し、医師が容易に診療内容をネット上でID、パスワードを用いて確認することができるようにするという、3つの介入を実施している。高リスク処方の減少と副作用による入院が減少 Stepped wedge designという、試験開始の時期をずらしながら順番に介入を行うという方法で介入試験を行った、33ヵ所の診療現場における3万3,000例以上の患者の結果が解析されている。 高リスク処方の割合は、3.7%(2万9,537例中1,102例)から2.2%(3万187例中674例)に有意に低下し(オッズ比0.623、95%信頼区間:0.57~0.86、p<0.001)、消化性潰瘍や消化管出血による入院も1万人年当たり55.7件から37.0件に有意に減少。心不全による入院も1万人年当たり707.7件から513.5件に有意に減少したが、急性腎不全による入院に変化はなかった(1万人年当たり101.9件から86.0件、オッズ比0.84、95%信頼区間:0.68~1.09、p=0.19)。高リスク処方の減少に何が有効だったのか それでは、知識の提供、金銭的インセンティブ、高リスク処方に注意を喚起するシステムのうち、何が最も有用であったのか…。それについては、この論文からは読み取ることができない。どのような知識を持っていても、忙しい診療の現場では、ついうっかり…という処方ミスが起こる可能性はきわめて大きい。しかし、処方を実施した後にレビューするシステムがあったとしても、習慣としてそれにアクセスするには動機(きっかけ)が必要であろう。そのために、世俗的ではあるが、少額ではあっても金銭的インセンティブが有用なのかもしれない。 処方の適正化はきわめて重要なことであり、予想しうる副作用を阻止するためのフェイルセイフ機構を構築することは喫緊の課題ともいえる。しかし、その方策をどのようにすべきか…。ひとつの回答が示されたが、この回答をどのように臨床の現場で応用していくのかは簡単ではなさそうである。関連コメント高リスク処方回避の具体的方策が必要(解説:木村 健二郎 氏)診療所における高リスク処方を減らすための方策が立証された(解説:折笠 秀樹 氏)ステップウェッジ法による危険な処方を減らす多角的介入の効果測定(解説:名郷 直樹 氏)「処方箋を書く」医師の行為は「将棋」か「チェス」か?(解説:後藤 信哉 氏)

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乳児期に抗菌薬投与すると幼児期に太るのか/JAMA

 生後6ヵ月以内の抗菌薬使用は、7歳までの体重増と統計的に有意な関連はみられないことが、米国・フィラデルフィア小児病院のJeffrey S. Gerber氏らが行った後ろ向き縦断研究の結果、示された。マウスを用いた動物実験では、誕生後早期の抗菌薬使用は、腸内細菌叢を乱し炭水化物・脂質の代謝を変化させ肥満と関連することが示されている。一方、ヒトの乳児期抗菌薬使用と幼少期体重増との関連を検討した研究では、相反する報告が寄せられている。JAMA誌2016年3月22・29日号掲載の報告。6ヵ月以内の抗菌薬使用と、6ヵ月齢~7歳までの体重変化の関連を主要評価 研究グループは、ペンシルベニア州、ニュージャージー州、デラウェア州にわたる30の小児プライマリケア診療所のネットワークから、人種や社会経済的背景が多様な20万例超の小児を集めて、後ろ向きに、単生児縦断研究および適合双生児による縦断研究を行った。 被験者は、2001年11月1日~11年12月31日に、在胎期間35週以上で、出生時体重2,000g以上または在胎期間基準体重の5パーセンタイル以上で誕生し、生後14日以内に予防接種・健康診査を受け1歳までにさらに少なくとも2回受診している小児であった。複合的慢性症状がある児、長期に抗菌薬を投与もしくは複数の全身性コルチコステロイド処方を受ける児は除外した。 検討には、単生児3万8,522例と、抗菌薬使用が不一致の双生児92例(46組)を包含。フォローアップの最終データ日は12年12月31日であった。 主要アウトカムは、生後6ヵ月間で全身性抗菌薬を使用した児の、月齢6ヵ月から7歳までの予防接種・健診時に測定した体重とした。乳児期抗菌薬使用と幼少期体重変化に有意な関連なし 単生児群は女児が50%、平均出生時体重は3.4kgであり、生後6ヵ月間の抗菌薬使用例は5,287例(14%)であった。使用時の平均年齢は4.3ヵ月であった。使用例の24%が広域スペクトラム抗菌薬、5%がマクロライド系抗菌薬の投与で、大半(79%)が1コースのみの投与であった。また、あらゆる抗菌薬の使用は、月齢24ヵ月では67%に増加しており、52%が広域スペクトラム、19%がマクロライド系であった。 解析の結果、生後6ヵ月の抗菌薬使用は体重変化率と、統計的に有意な関連はなかった(0.7%、95%信頼区間[CI]:-0.1~1.5、p=0.07)。2~5歳の体重変化率に相当する推定体重増は0.05kg(95%CI:-0.004~0.11)であった。サブ解析で、抗菌薬の投与コース数の違い(1、2、≧3コース)や種類別(狭域スペクトラム、広域スペクトラム、マクロライド系)にみた場合も、使用と体重変化に有意な関連はみられなかった。 双生児は女児38%、平均出生時体重2.8kgで、抗菌薬使用時の平均年齢は4.5ヵ月であった。 解析の結果、生後6ヵ月の抗菌薬使用と、体重変化の差と関連はみられなかった(使用双生児群と非使用双生児群の年当たりの差:-0.09kg、95%CI:-0.26~0.08、p=0.30)。 著者は、「低年齢の健康児では、抗菌薬使用を制限する多くの理由があるが、その1つに体重増は該当しないようだ」と述べている。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第28回

第28回:子供の発疹の見分け方監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 小児科医、皮膚科医でなくとも、子供の風邪やワクチン接種の時などに、保護者から皮膚トラブルの相談をされることがあると思います。1回の診察で診断・治療まで至らないことがあっても、助言ぐらいはしてあげたいと思うのは私だけではないと思います。文章だけでははっきりしないことも多いため、一度、皮膚科のアトラスなどで写真を見ていただくことをお勧めします。 以下、American Family Physician 2015年8月1日号1) より子供の発疹は見た目だけでは鑑別することが難しいので、臨床経過を考慮することが大切である。発疹の外観と部位、臨床経過、症状を含め考慮する。発熱は、突発性発疹、伝染性紅斑、猩紅熱に起こりやすい。掻痒はアトピー性皮膚炎やばら色粃糠疹、伝染性紅斑、伝染性軟属腫、白癬菌により起こりやすい。突発性発疹のキーポイントは高熱が引いた後の発疹の出現である。体幹から末梢へと広がり1~2日で発疹は消える。ばら色粃糠疹における鑑別は、Herald Patch(2~10cmの環状に鱗屑を伴った境界明瞭な楕円形で長軸が皮膚割線に沿った紅斑)やクリスマスツリー様の両側対称的な発疹であり、比較的若い成人にも起こる。大抵は積極的な治療をしなくても2~12週間のうちに自然治癒するが、白癬菌との鑑別を要する場合もある。上気道症状が先行することが多く、HSV6.7が関与しているとも言われている。猩紅熱の発疹は大抵、上半身体幹から全身へ広がるが、手掌や足底には広がらない。膿痂疹は表皮の細菌感染であり、子供では顔や四肢に出やすい。自然治癒する疾患でもあるが、合併症や広がりを防ぐために抗菌薬使用が一般的である。伝染性紅斑は、微熱や倦怠感、咽頭痛、頭痛の数日後にSlapped Cheekという顔の発疹が特徴的である(筆者注:この皮疹の形状から、日本ではりんご病と呼ばれる)。中心臍窩のある肌色、もしくは真珠のようなつやのある白色の丘疹は伝染性軟属腫に起こる。接触による感染力が強いが、治療せずに大抵は治癒する。白癬菌は一般的な真菌皮膚感染症で、頭皮や体、足の付け根や足元、手、爪に出る。アトピー性皮膚炎は慢性で再燃しやすい炎症状態にある皮膚で、いろいろな状態を呈する。皮膚が乾燥することを防ぐエモリエント剤(白色ワセリンなど)が推奨される。もし一般的治療に反応がなく、感染が考えられるのであれば組織診や細菌培養もすべきであるが、感染の証拠なしに抗菌薬内服は勧められない。※本内容にはプライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Allmon A, et al. Am Fam Physician. 2015;92:211-216.

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経口フルオロキノロン処方後10日間、網膜剥離リスク増大

 経口フルオロキノロン系抗菌薬の服用と網膜剥離のリスクが注目され、その関連が議論されている。フランスNational Agency for Medicines and Health Products Safety(ANSM)のFanny Raguideau氏らは、医療データベースを用いた疫学研究により、経口フルオロキノロン服用開始後10日以内に網膜剥離を発症するリスクが有意に高いことを明らかにした。著者は、「経口フルオロキノロンの服用と網膜剥離発症リスクとの関連について、さらに検討しなければならない」とまとめている。JAMA Ophthalmology誌オンライン版2016年3月10日号の掲載報告。 研究グループは、経口フルオロキノロンの服用と網膜剥離(裂孔原性および滲出性)発症との関連を評価する目的で、フランスの医療データベースを用い、2010年7月1日~13年12月31日にかけて、網膜剥離の成人患者を対象に症例クロスオーバー研究を行った。網膜剥離発症の6ヵ月以内に網膜剥離や網膜裂孔、眼内炎、硝子体内注射、脈絡膜網膜硝子体内生検およびヒト免疫不全ウイルス感染症の既往歴または入院歴のある患者は除外された。 主要評価項目は、リスク期間中(網膜剥離の手術直前1~10日)の経口フルオロキノロンの服用で、対照期間(61~180日前)と比較した。また、中間リスク期間(最近[11~30日前]および過去[31~60日前])における服用との関連や、経口フルオロキノロンや網膜剥離の種類別についても検討した。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした網膜剥離患者2万7,540例(男性57%、年齢[平均±SD]61.5 ±13.6歳)中、663例が経口フルオロキノロンを服用していた。リスク期間中の服用が80例、対照期間(61~180日前)中が583例であった。・経口フルオロキノロン処方後10日間に、網膜剥離発症リスクの有意な増大が認められた(調整オッズ比:1.46、95%信頼区間[CI]:1.15~1.87)。・裂孔原性(調整オッズ比:1.41、95%CI:1.04~1.92)および滲出性(同:2.57、95%CI:1.46~4.53)いずれの網膜剥離も、有意なリスクの増大が認められた。・経口フルオロキノロンの最近服用(調整オッズ比:0.94、95%CI:0.78~1.14)および過去服用(同:1.06、0.91~1.24)は、網膜剥離発症のリスクと関連していなかった。

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処方率上位を伝えるレター、不要な抗菌薬処方削減に効果/Lancet

 英国一般医(GP)の不要な抗菌薬処方を減らす方法として、処方率の高い上位20%のGPに対し、英国主席医務官(England's Chief Medical Officer)名で、上位に位置していることを知らせるレター送付が有効であることが示された。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのMichael Hallsworth氏らが、プラグマティックな試験を行い報告した。著者は、「低コストで全国規模の抗菌薬処方の削減が可能であり、抗菌薬管理プログラムに追加する価値があるものだ」と結論している。Lancet誌オンライン版2016年2月18日号掲載の報告。抗菌薬処方率が高い上位20%のGP診療所を対象に介入 vs.非介入試験 試験は、2×2要因デザインを用いた無作為化比較試験で、一般公開されているデータベースを用いて、抗菌薬処方率が、所属するNHS Local Area Teamで上位20%に位置するGP診療所を同定して行われた。適格診療を、フィードバック介入群と非介入(対照)群にコンピュータで無作為に割り付け、NHS Local Area Teamによる層別化も行った。割り付けについて参加者は知らされなかったが、研究者には知らされた。 2014年9月29日に、フィードバック介入群の全GPに対し、英国主席医務官からレターと、患者への抗菌薬使用に関するリーフレットが送付された。レターには、「所属するNHS Local Area Teamで、抗菌薬処方率が上位20%に属する診療である」旨が書かれていた。一方、対照群のGPには一切の連絡がされなかった。 その後、試験対象者は再無作為化を受け、14年12月に、一方の群には抗菌薬使用の減少を推奨する患者中心の情報が送られ、もう一方には一切の連絡がされなかった。 主要評価項目は、1,000加重人口当たりの処方抗菌薬で、過去の処方について調整し評価。解析はintention-to-treatにて行われた。レター送付群で抗菌薬処方が有意に減少 2014年9月8日~26日の間に、1,581のGP診療所が、フィードバック介入群(791ヵ所)または対照群(790ヵ所)に割り付けられた。 レターは、介入群791ヵ所の3,227人のGPに送られた。レター送付費用は4,335ポンドであった。 2014年10月~15年3月の、1,000加重人口当たりの処方抗菌薬は、フィードバック介入群126.98(95%信頼区間[CI]:125.68~128.27)、対照群131.25(130.33~132.16)で、差は4.27(相対差:3.3%;群間差の発生率比[IRR]:0.967、95%CI:0.957~0.977、p<0.0001)であった。これは推定で、処方抗菌薬が7万3,406個減少したことを示す。 GP診療所は再び14年12月に、患者中心介入群(777ヵ所)、対照群(804ヵ所)に割り付けられた。結果、14年12月~15年3月の間の主要評価項目に有意な影響はみられなかった。1,000加重人口当たり処方抗菌薬は、患者中心介入群135.00(95%CI:133.77~136.22)、対照群133.98(133.06~134.90)で、群間差のIRRは1.01(95%CI:1.00~1.02、p=0.105)であった。

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電子カルテ時代に抗菌薬不適切使用を減らす手法はあるか?(解説:倉原 優 氏)-484

 当然ながら、上気道感染症のほとんどに抗菌薬の処方は不要とされている。しかしながら、多くの病院やクリニックでは、安易に抗菌薬が処方されている。これは、患者からの希望、クリニックの評判、何か処方しないと満足度が得られない、抗菌薬が不要であることのインフォームドコンセントの時間が十分取れない、など医学的な側面以外の問題が影響しているかもしれない。当院でも、上気道症状を有する患者の多くは、すでに近医でフルオロキノロンを処方された状態で来院してくる。 この研究は、抗菌薬の不適切使用を減らすにはどうしたらよいかという疑問に基づいて、アメリカの47のプライマリケア施設で実施された臨床試験である。試験デザインは、クラスターランダム化比較試験で、同施設に勤務する248人の臨床医が登録され、合計18ヵ月間で介入を受けた。 具体的な介入方法としては、代替治療の提案(電子カルテで上気道炎に対して抗菌薬を処方しようとすると不適切使用のアラートが表示)、抗菌薬使用の理由をフリーコメント欄に記載(コメントは電子カルテ上に表示される)、同僚との比較(全参加者の中で自分の抗菌薬不適切使用の頻度を表示し、順位も定期的に配信)の3経路である。これら介入を単独あるいは組み合わせて実施された。また、全群で抗菌薬処方の教育が介入前に実施された。プライマリアウトカムは、介入前後の抗菌薬不適切処方の変化率である。どうだろう、どの手法が1番効果的と思われるだろうか。 その結果、抗菌薬の不適切使用の割合は、とくに処方理由を電子カルテにコメントさせること、同僚との順位付け比較を行うことで有意に減少した。そりゃそうだろう、という結果だ。抗菌薬が不適切だと電子カルテでも非難されて、それでもなお処方できる医師などそう多くはないはずである。 これら介入による弊害はどうだろうか。抗菌薬を処方しなかった患者のうち、細菌感染のため再受診した割合は、代替治療提案+理由記載の群でのみ1.41%と有意な増加があったが、それ以外では有意差はなかった。 ふむふむ、不適切使用は確かに減るだろう。とくに理由を記載するというアイデアは良いと思う。しかし、順位付けというのが、どうしても過剰な介入に思えてならないのは私だけだろうか。おそらく、そうしたレベルを分けた介入を行うことも本研究の意図だったのだろう。 日本の場合、上気道炎や感冒という病名をつけて抗菌薬を処方する医師はいない。おそらく、細菌性肺炎、細菌性気管支炎など抗菌薬の処方が明らかに妥当と認識されるよう病名をつけることが多いだろう。保険診療の根幹に根付く こうした“しきたり”に介入できる試験は、いつの日か日本で実施可能だろうか。

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上気道炎での不適切な抗菌薬処方を減らすには?/JAMA

 プライマリケアにおける急性上気道炎の抗菌薬不適切処方を減らすには、処方理由を書かせること、不適切処方割合の順位付けを行いメールで知らせる(ピア比較)介入が効果的である可能性が、米国・南カリフォルニア大学のDaniella Meeker氏らが248人のプライマリケア医を対象に行ったクラスター無作為化試験の結果、示された。JAMA誌2016年2月9日号掲載の報告。電子カルテシステム上で3つの介入を行い効果を比較 研究グループは、急性上気道炎の外来患者に対する抗菌薬の不適切処方(ガイドラインと一致しない)の割合を調べ、行動科学に基づく介入の効果を調べる検討を行った。 ボストンとロサンゼルスの47のプライマリケア施設で248人の医師を登録し、全員に登録時に抗菌薬ガイドラインの教育を受けさせ、次の3つの介入のいずれかもしくは複数または未介入(すなわち介入数0~3)を18ヵ月間受ける群に割り付けた。3つの介入は電子カルテを活用したもので、(1)選択肢の提示:処方オーダーセットをサポートするシステムとして急性上気道炎を選択すると、抗菌薬不要の治療であることが表示され、代替治療が表示される、(2)根拠の書き込みを促す:患者の電子カルテに自由記載で抗菌薬を処方する理由を書き込むよう促す、(3)ピア比較:不適切処方割合について最も少ない医師をトップに順位付けを行い、高位の医師には毎月「トップパフォーマー」であることを知らせる一方、低位の医師には「トップパフォーマーではない」こと、および順位、不適切処方割合を知らせ、急性上気道炎に抗菌薬は不要であること、トップパフォーマーとの不適切処方割合の差を知らせる。 介入は2011年11月1日~12年10月1日に開始、最終フォローアップは14年4月1日に終了した。なお対象患者のうち、併存疾患および感染症がある成人患者は除外された。 主要評価項目は、抗菌薬が不要な患者(非特異的上気道炎、急性気管支炎、インフルエンザ)に対して行われた抗菌薬不適切処方割合で、介入前18ヵ月間(ベースライン)と介入後18ヵ月間について評価した。各介入効果について、同時介入、介入前の傾向を補正し、診療および医師に関するランダム効果も考慮した。処方理由の書き込み、不適切処方割合の順位付けを知らせた群で有意に低下 抗菌薬不要の急性上気道炎の外来患者は、ベースライン期間中1万4,753例(平均年齢47歳、女性69%)、介入期間中は1万6,959例(同48歳、67%)であった。 抗菌薬が処方された割合は、対照(ガイドライン教育のみ)群では、介入スタート時点では24.1%、介入18ヵ月時点で13.1%に低下していた(絶対差:-11.0%)。一方、選択肢の提示群では22.1%から6.1%に低下(絶対差:-16.0%、対照群の差と比較した差:-5.0%、95%信頼区間[CI]:-7.8~0.1%、経過曲線差のp=0.66)。根拠の提示を促す介入群では、23.2%から5.2%(絶対差:-18.1%)へと低下し、対照群との有意差が示された(差:-7.0%、95%CI:-9.1~-2.9%、p<0.001)。ピア比較の介入でも19.9%から3.7%へと有意な低下が認められた(絶対差:-16.3%、差:-5.2%、95%CI:-6.9~-1.6%、p<0.001)。 なお、介入間で統計的に有意な相互作用(相乗効果、相互干渉)はみられなかった。

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白内障術後眼内炎、効果の高い予防的抗菌薬投与は?

 白内障の術後眼内炎予防を目的とした抗菌薬投与は、前房内注射が点眼よりも効果が高く、また、注射+点眼は注射単独よりも効果が増すことは示されなかった。米国の北カリフォルニア・カイザーパーマネンテのLisa J. Herrinton氏らが、同加入者で白内障手術を受けた31万5,246例を対象に行った観察縦断的コホート研究の結果、報告した。なお、同コホートの眼内炎発症率は0.07%で、後嚢破損が依然として重大なリスク増大因子(3.68倍)であったという。Ophthalmology誌2016年2月号(オンライン版2015年10月14日号)の掲載報告。 検討は、抗菌薬の点眼または注射投与による白内障の術後眼内炎予防効果を調べることを目的とし、北カリフォルニア・カイザーパーマネンテの加入者で、2005~12年に白内障手術を受けたことが確認できた31万5,246例を対象に行われた。 電子医療記録から、被験者特性、医療・服薬・手術記録の情報を入手し、予防的抗菌薬投与(ルートと薬剤)と眼内炎リスクとの関連を調べた。ロジスティック回帰分析法を用いて、補正後オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出し評価した。 主な結果は以下のとおり。・確認された眼内炎は215例(0.07%、0.7/1,000)であった。・後嚢破損による眼内炎リスク増大は3.68倍(95%CI:1.89~7.20)であり、術中合併症が依然として眼内炎リスクのキー因子であった。・予防的抗菌薬投与は、前房内注射が点眼単独よりも効果が高かった(OR:0.58、95%CI:0.38~0.91)。・前房内注射+ガチフロキサシンまたはオフロキサシン点眼は、前房内注射単独よりも効果が高いとはいえなかった(OR:1.63、95%CI:0.48~5.47)。・ガチフロキサシン点眼と比較して、アミノグリコシド点眼は効果が低かった(OR:1.97、95%CI:1.17~3.31)。【訂正のお知らせ】最終行の表記に誤りがあったため、下記のように訂正いたしました(2016年2月23日)。「ガチフロキサシン点眼と比較して、アミノグリコシド点眼は効果が低かった~」

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単純性膀胱炎に対するイブプロフェンの効果(解説:小金丸 博 氏)-476

 女性の単純性膀胱炎は抗菌薬で治療されることが多い疾患だが、自然軽快する例も少なからずみられる。また、尿路感染症の主要な原因菌である大腸菌は、薬剤耐性菌の増加が問題となっており、耐性菌の増加を抑制するためにも、抗菌薬を使用せずに膀胱炎の症状緩和が図れないか研究が行われてきた。79例を対象としたPilot studyでは、症状改善効果に関してイブプロフェンは抗菌薬(シプロフロキサシン)に対して非劣性であり、イブプロフェン投与群の3分の2の患者では、抗菌薬を使用せずに改善したという結果が得られた。さらなる評価のため、規模を拡大した研究が実施された。 本研究は、女性の単純性膀胱炎に対するイブプロフェン投与が、症状増悪、再発、合併症を増やさずに抗菌薬の処方を減らすことができるかどうかを検討した二重盲検ランダム化比較試験である。下部尿路感染症の典型的な症状(排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛)を呈した18~65歳の女性494例を対象とし、イブプロフェン投与群(400mg×3錠)とホスホマイシン投与群(3g×1錠)に分けて、28日以内の抗菌薬投与コース回数と、第7日までの症状負担度スコアの推移をプライマリエンドポイントとして評価した。両群ともに症状の経過に応じて抗菌薬を追加処方した。上部尿路感染症状(発熱、腰部叩打痛)、妊婦、2週間以内の尿路感染症、尿路カテーテル留置があるものは試験から除外された。症状負担度スコアは、排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛をそれぞれ0~4点(計12点満点)で評価した。 28日以内の抗菌薬投与コース回数は、イブプロフェン投与群で94回、ホスホマイシン投与群で283回であり、イブプロフェン投与群で有意に減少した(減少率66.5%、95%信頼区間:58.8~74.4%、p<0.001)。イブプロフェン投与群で抗菌薬を投与された患者数は85例(35%)だった。 第7日までの症状負担度スコアの平均値は、イブプロフェン投与群が有意に大きく、症状改善効果に関してホスホマイシンに対する非劣性を証明できなかった。イブプロフェン投与群では、排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛すべての症状の改善が有意に不良だった。 近年「抗菌薬の適正使用」が叫ばれており、不適切な抗菌薬投与を減らそうとする動きが世界的に広がっている。本研究では、女性の単純性膀胱炎を対象として、安全に抗菌薬投与を減らすことができるかどうかが検討されたが、症状改善に関してイブプロフェンは抗菌薬の代替薬としては不十分な結果となった。膀胱炎症状を呈した女性に対しては、従来通り、抗菌薬治療を第1選択とすべきであろう。 しかしながら、本研究でもPilot studyと同様に、イブプロフェン投与群の約3分の2の膀胱炎患者では抗菌薬を投与せずに症状が改善したのも事実である。サブグループ解析の結果では、尿培養が陰性だった患者に限ると、症状増悪に関して2群間で有意差はなかった。尿のグラム染色などで細菌性膀胱炎かどうかを見極めることができれば、抗菌薬を処方しない症例を増やすことができる可能性がある。著者らも述べているが、症状が比較的軽度で、症状が増悪した場合に遅れて抗菌薬を投与することを許容してくれる患者であれば、初回はイブプロフェン投与で経過をみるのも1つの選択肢になりうると考える。

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クラリスロマイシンと心血管リスク/BMJ

 抗菌薬クラリスロマイシンの使用は、心筋梗塞、不整脈および心臓死リスクの有意な増大と関連していることが、中国・香港大学のAngel Y S Wong氏らが行った住民ベース試験の結果、示された。ただしその関連は短期的なもので、長期的な関連は観察されなかったという。先行疫学研究で、クラリスロマイシンが重篤な心血管アウトカムのリスク増加と関連していることが示唆されていたが、リスクが短期的なものか長期にわたるのか不明であった。BMJ誌オンライン2016年1月14日号掲載の報告。香港住民対象にクラリスロマイシン使用と心血管アウトカムの関連を調査 研究グループは、住民ベース試験でクラリスロマイシン使用と心血管アウトカムとの関連を調べるため、香港で2005~09年にクラリスロマイシンとアモキシシリン投与を受けた18歳以上成人の心血管アウトカムを比較した。 5歳単位の年齢群、性別、使用暦年をベースに各クラリスロマイシン使用者1例に対し、1または2例のアモキシシリン使用者を適合。クラリスロマイシン使用者10万8,988例とアモキシシリン使用者21万7,793例を含むコホート解析を行った。また、自己対照ケースシリーズおよび症例クロスオーバー分析には、ヘリコバクターピロリ(H.pylori)除菌治療でクラリスロマイシン投与を受けた患者も含んだ。 主要アウトカムは、心筋梗塞。副次アウトカムは、全死因死亡、心臓死、非心臓死、不整脈、脳卒中などであった。治療開始後1~14日のみリスク増大、脳卒中のリスク増大はみられず 抗菌薬治療開始後14日間(現在使用群)の心筋梗塞の発症は、クラリスロマイシン使用者132例(1,000人年当たり44.4例)、アモキシシリン使用者149例(同19.2例)で、クラリスロマイシン使用者の率比は2.72(95%信頼区間[CI]:2.15~3.44)、傾向スコア補正後率比は3.66(同:2.82~4.76)であった。 しかし、リスクの増大は長期的には観察されず、傾向スコア補正後率比は、抗菌薬治療開始後15~30日1.06(95%CI:0.44~2.60)、31~90日1.10、91~365日0.90、366~730日1.17、731~1,095日1.01であった。 副次アウトカムについても同様の結果がみられ、クラリスロマイシンの現在使用群のみで、リスクが増大した(不整脈発症の傾向スコア補正後率比2.22、全死因死亡1.97、心臓死1.67、非心臓死2.10)。ただし、脳卒中だけは増大はみられなかった(同率比1.11、95%CI:0.80~1.54)。 また自己対照ケースシリーズ分析で、H.pylori除菌治療でのクラリスロマイシン使用と心血管イベントが関連していることが確認された(14日間のイベント発生率比は、心筋梗塞3.38、不整脈5.07)。そのリスクは治療終了後(15~30日の心筋梗塞0.78、不整脈0.00)は、治療前レベルに戻った(治療前14日間の心筋梗塞0.81、不整脈2.45)。 症例クロスオーバー分析でも、同様のリスク増大が確認された。 クラリスロマイシン現在使用のアモキシシリン現在使用に対する補正後絶対リスク差は、心筋梗塞イベントについては1,000患者につき1.90例(95%CI:1.30~2.68)であった。 著者は、「心筋梗塞、心臓死の絶対リスクは、75歳超で高血圧や糖尿病を有する患者で高いとみられており、これら高リスク患者では抗菌薬の選択に注意を払わなければならない」と述べている。

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イブプロフェンは尿路感染症の代替治療となりうるか/BMJ

 単純性尿路感染症の女性患者の初回治療において、イブプロフェンによる対症療法はホスホマイシンによる抗菌薬治療に比べ抗菌薬の使用を抑制するが、症状の緩和効果は低く、腎盂腎炎の発症が増加する傾向がみられることが、ドイツ・ゲッティンゲン大学医療センターのIldiko Gagyor氏らの検討で示された。単純性尿路感染症の女性患者には通常、抗菌薬治療が行われるが、本症は無治療で回復する症例も多く、耐性菌増加の防止の観点からも、抗菌薬の処方の抑制対策が進められている。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であるイブプロフェンは、パイロット試験において、症状消失に関して抗菌薬治療に対し非劣性で、3分の2の患者で抗菌薬の処方なしに回復したことが報告されていた。BMJ誌オンライン版2015年12月23日号掲載の報告より。対症療法の有用性を無作為化試験で評価 研究グループは、単純性尿路感染症に対するイブプロフェンによる対症療法が、症状、再発、合併症を増加させずに抗菌薬の処方を抑制できるかを検証する無作為化試験を実施した(ドイツ連邦教育研究省[BMBF]の助成による)。 対象は、年齢18~65歳、典型的な尿路感染症の症状がみられ、リスク因子や合併症がみられない女性であった。 被験者は、1日にイブプロフェン(400mg×3錠)+プラセボ(1錠)またはホスホマイシン・トロメタモール(3g×1錠)+プラセボ(3錠)を投与する群に無作為に割り付けられ、3日間の治療が行われた。症状の持続、増悪、再発に対し必要に応じて抗菌薬が追加処方された。 質問票を用いて、症状の重症度、仕事や日常的な活動性の障害度を点数化した。症状、服薬状況、抗菌薬の追加処方のデータは、看護師が被験者に電話して収集した。 主要評価項目は、0~28日の抗菌薬治療(尿路感染症、その他の病態)の全コース数と、0~7日の症状の負担(毎日の症状スコアの総計の曲線下面積)の複合エンドポイント。症状スコアは、排尿障害、頻尿/尿意切迫、下腹部痛をそれぞれ0~4点の5段階(点数が高いほど重度)で評価した。 ドイツの42ヵ所のプライマリケア施設に494例が登録された。イブプロフェン群に248例、ホスホマイシン群には246例が割り付けられ、それぞれ241例、243例がITT解析の対象となった。抗菌薬の回避や遅延処方の許容が可能な女性で考慮 平均年齢は両群とも37.3歳であった。罹病期間が2日以上(36 vs. 46%)および再発例(17 vs. 23%)の割合が、イブプロフェン群に比べホスホマイシン群で高い傾向がみられた。 イブプロフェン群はホスホマイシン群に比べ、28日までの抗菌薬コース数が有意に少なかった(94 vs.283コース、減少率:66.5%、p<0.001)。イブプロフェン群で抗菌薬投与を受けた患者数は85例(35%)であり、ホスホマイシン群よりも64.7%少なかった(p<0.001)。 第7日までの総症状負担の平均値は、イブプロフェン群がホスホマイシン群に比べ有意に大きかった(17.3 vs.12.1、平均差:5.3、p<0.001)。排尿障害(p<0.001)、頻尿/尿意切迫(p<0.001)、下腹部痛(p=0.001)のいずれもがイブプロフェン群で有意に不良であった。 有害事象の報告はイブプロフェン群が17%、ホスホマイシン群は24%であった(p=0.12)。重篤な有害事象は、イブプロフェン群で4例にみられ、このうち1例は治療関連の可能性が示唆された。ホスホマイシン群では重篤な有害事象は認めなかった。 腎盂腎炎の頻度はイブプロフェン群で高い傾向がみられた(2 vs.0.4%、p=0.12)が、第15~28日の尿路感染症の再発率はイブプロフェン群で低かった(6 vs.11%、p=0.049)。第7日までの尿路感染症による活動障害は、イブプロフェン群で有意に不良であった(p<0.001)。 著者は、「対症療法の抗菌薬治療に対する非劣性の仮説は棄却すべきであり、初回イブプロフェン治療を一般的に推奨することはできない」としたうえで、「イブプロフェン群の約3分の2の患者は、抗菌薬を使用せずに回復し、症状が軽度~中等度の患者で効果が高い傾向がみられた。抗菌薬の回避や遅延処方を許容する意思のある女性には、イブプロフェンによる対症療法を提示して検討するのがよいかもしれない」と述べている。

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抗がん薬副作用マネジメントの進展

 2015年12月10日都内にて、「抗がん薬副作用マネジメントの進展」と題するセミナーが開かれた(主催:アストラゼネカ株式会社)。演者である久保田 馨氏(日本医科大学附属病院 がん診療センター部長)は、抗がん薬の副作用対策を中心に講演。患者さんの負担を考えながら予防・対処する大切さを語った。 以下、セミナーの内容を記載する。【はじめに】 本セミナーでは「細胞障害性抗がん薬」の副作用のうち、好中球減少症とシスプラチン投与時の対処、さらに「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」の副作用対策について述べる。【安易な予防的G-CSF投与は避けるべき】 「細胞障害性抗がん薬」で、注意すべき副作用に「発熱性好中球減少症」がある。この対処としては、以下の3点が推奨される。・リスクファクターの検討・単剤での有効性が確認されている薬剤の選択・発熱性好中球減少20%以上のレジメンでのG-CSF予防投与 ただし、最後の予防的G-CSF投与には注意が必要だ。過去、臨床では好中球減少が認められれば、発熱がない場合であってもG-CSF投与が行われてきた。 たとえば、発熱性好中球減少時の抗菌薬投与には、明らかな生存率改善のエビデンスがある。しかし、G-CSF投与を抗菌薬と同様に考えてはいけない。低リスク例へのG-CSF予防投与はエビデンスがなく、現状のガイドラインを鑑みても適切ではない。薬剤追加は、場合によってはがん患者のQOLを低くすることもある。それを上回るメリットがない限り、医療者は慎重になるべきである。【つらい悪心/嘔吐には適切な制吐薬を】 抗がん剤による悪心・嘔吐は患者にとって、最もつらい症状と言われており、QOL悪化につながる。実際、「がん化学療法で患者が最も嫌う副作用2005」の調査結果1)によると、コントロール不良の悪心/嘔吐(CINV)は死亡と同程度の位置付けであった。とくに、シスプラチンは催吐性リスクが高く、悪心・嘔吐の予防のために、適切な制吐薬を使用すべきである。2013 ASCO総会において発表されたTRIPLE試験では、パロノセトロンが遅発期において有意に悪心・嘔吐を抑制したことが示されている。高度催吐性化学療法時には、パロノセトロン+デキサメタゾン+アプレピタントの併用で悪心・嘔吐を予防することを推奨したい。【短時間輸液療法への期待】 患者さんは1回当たりの治療時間が長引くことを嫌がる。シスプラチン投与では輸液や利尿薬を使用し腎障害の軽減を図るわけだが、投与前後の輸液投与に4時間以上、薬剤の点滴に2時間以上かかるため、トータルで10時間以上かかってしまう。単純に尿量を確保する目的での大量補液は、外来治療が進む昨今の状況には合わず、そこまでして投与しても、Grade2以上の血清クレアチニン上昇は2割程度報告されていた2)。 そこで、マグネシウム補充がシスプラチン起因性腎障害抑制につながるとの報告3)を基に、久保田氏の所属施設を中心にマグネシウム補充を取り入れた形で短時間輸液療法を行うこととした。トータル3時間半の投与法で検討した結果、97.8%の患者でGrad2以上の腎障害の出現はなかった4)。 このように、現時点でもがん患者のQOL向上を目指す治療方法は研究され、実施されつつある。【分子標的薬、免疫CP阻害薬の副作用対策】 「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害薬」の副作用は、「細胞障害性抗がん薬」の副作用とは位置付けが異なる。 分子標的薬の副作用は、その標的を持つ正常細胞に限定して現れる。たとえば、抗EGFR抗体薬やEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による皮膚症状などが代表的だ。この対策として、久保田氏の所属施設では、医療者用のスキンケア指導パンフレットを作成し活用している。保湿剤の一覧や塗布法、爪の切り方、入院・外来時スキンケア指導フローなどを共有することで、適切な対処につながる。 また、重大な副作用として「間質性肺炎」も注意が必要だ。投与4週以内の発症が多いので、患者さんには「発熱」「空咳」「息切れ」が出たら必ず来院するよう伝えることが大切だ。 最近登場した免疫チェックポイント阻害薬の副作用は、体内の多岐にわたる場所で起こる可能性がある。下垂体機能低下などホルモン異常による倦怠感なども、見逃さないよう注意が必要である。これまでの薬と異なり、投与10ヵ月後など有害事象がかなり遅れて発現するケースも報告されている。多くが外来で投与されることから、患者や家族へ事前説明をしっかりと行うことを意識していただきたい。【まとめ】 抗がん薬治療では副作用マネジメントが重要となる。薬剤の作用機序や薬物動態を正しく理解することは、副作用の適切な対処につながる。医療者側は、ぜひ正しい知識を持って、患者さんのために積極的な副作用対策を行っていただきたい。

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梅毒に気を付けろッ! その3【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第15回となる今回は梅毒の続きで、梅毒の診断と治療についてです。梅毒を見付けろッ!はじめは検査についてです。当然のことですが、梅毒の検査は、梅毒を疑ったときに行います。しかしながら、今も古き伝統にならって術前検査としてHIV抗体とかHBs抗原とかと一緒に梅毒の検査を行っている施設も多いのではないでしょうか。なかには「入院時セット」として測定されているところもあるという話です。ところが、実際のところ針刺し事故での梅毒感染事例は、きわめてまれであることがわかっており、今日的には梅毒を術前に検査する必要性はないとされます。しかし、実際にはまだ測定している施設が多いのではないでしょうか。感染症科的には、ときどき「術前検査で陽性なんですけど。どうしたらいいですか」というご相談をいただきます。たとえば術前検査で「RPR 0.9 TPHA 2048」という結果だったら、どう解釈すればよいでしょうか。梅毒の検査には、主に病原体であるTreponema pallidumを暗視野顕微鏡やPCRなどで証明する方法と、間接的に梅毒血清反応検査で診断する方法の2通りがありますが、検査の簡便さや保険収載の点から、現在の日本では大半が後者で診断されています。梅毒血清反応検査もさらに2つに分かれます。いわゆる非トレポネーマ検査(rapid plasma reagin:RPRやvenereal disease research laboratory:VDRL)と特異的トレポネーマ検査(Treponema pallidum hemagglutination assay:TPHAやFluorescent treponemal antibody-absorption test:FTA-ABS)です。簡単にいうと、非トレポネーマ検査は現在の活動性を意味し、特異的トレポネーマ検査は1度感染すると生涯陽性が続きます。非トレポネーマ検査は、現在、感染中かどうかの評価や治療効果の判定に用いることができますが、感染早期には偽陰性になることがある点や膠原病、妊娠、肝疾患などで生物学的偽陽性となることがある欠点を持っています。RPRの数値は、一般的には8より大きい場合には活動性があると考えて治療を行いますが、8未満であっても臨床症状でかなり疑わしい場合や特異的検査は陽性なのに、これまでに1度も治療を受けたことがない場合には治療を考慮します。RPRは従来「○倍」という表示で結果が示されていましたが、最近は自動化によって数値で表示されるようになりました。しかし、この数値もこれまでどおり「8以上であれば活動性があると考える」という原則は変わりません1)。特異的トレポネーマ検査が陽性であった場合は、まず間違いなく現在または過去の梅毒感染を意味しますが、活動性についてはわかりませんので、非トレポネーマ検査と組み合わせて解釈する必要があります。以上をまとめますと、表のようになります。先ほどの「術前検査で梅毒検査が陽性なんですけど…」っていう事例は、RPR陰性、TPHA陽性ですから、おそらく過去の感染でよいと思われますが、感染して間もない1期梅毒の可能性もあるので注意が必要です。画像を拡大する梅毒の治療では再感染に気を付けろッ!梅毒に活動性があるとわかったら抗菌薬治療を行います。神経梅毒と眼梅毒以外の梅毒の治療は、海外ではベンザチンペニシリンGの筋注一発でOKなのですが、日本では残念ながらありませんので、アモキシシリンに加えて、血中濃度を高めるためにプロベネシドを組み合わせるという治療が、伝統的に用いられていました。最近この治療の有効性が証明されましたので2)、どうぞ安心してお使いください。処方例は、アモキシシリン 3g分2~4、プロベネシド 1g分1~2という感じです。ただし、治療開始時にヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(JH反応)という「梅毒トレポネーマの最後っぺ」的な発熱が起こることがあるのと、治療開始から7~10日後くらいにアモキシシリンによる皮疹が出ることがありますので、その説明を事前にしておく必要があります。私はJH反応が起こったときのために、アセトアミノフェンを頓服で処方するのと、「皮疹が出たら病院に来てください」と説明しています。治療期間は1期梅毒・2期梅毒・早期潜伏期梅毒では14日間、後期潜伏期梅毒では適切な治療期間はまだ十分にわかっていませんが、4週以上治療されることが多いです3)。神経梅毒と眼梅毒は、一般的には髄液移行を考慮して点滴治療が推奨されます。処方例としては、ペニシリンG 300~400万単位 4時間ごと(または1,800~2,400万単位/日を持続投与)を10~14日間投与する、というレジメンがガイドラインでは推奨されています3)。治療効果の判定は非トレポネーマ検査を用いて行います。といっても、治療開始してすぐにRPRが低下するわけではなく、ゆ~っくり時間をかけて下がっていきます。治療から半年~1年以内(後期潜伏期梅毒では2年以内)に、治療開始時のRPRから4分の1以下になっていれば治療は成功ということになります。この期間を過ぎても4分の1以下に下がりきらない場合には、治療は失敗または再感染と判断し、再度治療を行うことになります。性感染症の患者さんは、しばしば再感染しますから、梅毒治療後のフォローアップは非常に重要です!感染拡大に気を付けろッ!性感染症を診たときに大事な2つのポイントがありましたよね。そう、梅毒以外の性感染症のスクリーニングとパートナーの検査です。たとえば梅毒を診たらHIV、B型肝炎、淋菌・クラミジアなど他の性感染症もスクリーニングしましょう。また、患者さんに特定のパートナーがいる場合は、その相手にも梅毒の検査を行い、陽性であれば治療を行います。ただし、診断の90日以内に患者と性交渉がある場合は、RPRなどの非トレポネーマ検査が陰性であっても偽陰性の可能性を考慮して、治療してしまうことが推奨されます3)。先日もパートナーの治療が遅れてしまったがために、再感染してしまった事例を経験してしまいました…。パートナーの検査・治療は、患者さん自身がパートナーに性感染症のことを知られたくないという思いから、なかなか難しいこともありますが、パートナーに重要性を根気強く説明し、何とか一緒に検査・治療を行いたいところです。というわけで、3回にわたってお送りいたしました梅毒の回もようやく終わりです。再興感染症である梅毒は、まだまだ見逃されているのではないかと思っています。しっかり診断・治療して梅毒の流行を終わらせましょう!次回は、今話題になっている蚊媒介感染症の「ジカ熱」ですッ! 今を逃したら他に紹介するタイミングがないくらい、ホットなタイミングですッ!!1)井戸田一朗. 感染症誌.2014;88:275-281.2)Tanizaki R, et al. Clin Infect Dis. 2015;61:177-183.3)Workowski KA,et al. MMWR Recomm Rep. 2015;64:1-137.

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