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MRSA、バンコマイシン/ダプトマイシンへのβラクタム系追加投与は?/JAMA

 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)菌血症患者に対し、バンコマイシンまたはダプトマイシン静脈投与による標準治療にβラクタム系抗菌薬を追加投与しても、90日時点の複合アウトカムおよび全死因死亡について、有意な改善は認められないことが示された。オーストラリア・Peter Doherty Institute for Infection and ImmunityのSteven Y C Tong氏らが、約350例の患者を対象に行った無作為化試験で明らかにした。MRSA菌血症による死亡率は20%超となっている。これまで標準治療+βラクタム系抗菌薬による介入が死亡率を低下することが示されていたが、検出力が十分な無作為化試験による検討はされていなかった。JAMA誌2020年2月11日号掲載の報告。標準治療に加えβラクタム系抗菌薬を7日間投与 研究グループは2015年8月~2018年7月にかけて、4ヵ国27病院でMRSA菌血症が確認された成人患者352例を対象に、非盲検無作為化試験を開始し、2018年10月23日まで追跡した。 被験者を無作為に2群に分け、一方には標準治療(バンコマイシンまたはダプトマイシン)に加えβラクタム系抗菌薬(flucloxacillin、クロキサシリン、セファゾリンのいずれか)を静脈投与した(174例)。もう一方の群には、標準治療のみを行った(178例)。 合計治療日数については担当臨床医の判断とし、またβラクタム系抗菌薬投与は7日間とした。 主要エンドポイントは、90日時点における死亡、5日時点の持続性菌血症、微生物学的再発、微生物学的治療失敗の複合エンドポイントとした。 副次アウトカムは、14日、42日、90日時点の死亡率と、2日、5日時点の持続性菌血症、急性腎障害(AKI)、微生物学的再発、微生物学的治療失敗、抗菌薬静脈投与期間などだった。主要エンドポイント発生はともに約4割 試験は当初440例を登録する予定だったが、同試験のデータ・安全性モニタリング委員会は安全性への懸念から、試験の早期中止を勧告。無作為化を受けた被験者は352例であった。被験者の平均年齢は62.2歳、女性は34.4%、試験を完了したのは345例(98%)だった。 主要エンドポイントの発生は、βラクタム群59例(35%)、標準治療群68例(39%)だった(絶対群間差:-4.2ポイント、95%信頼区間[CI]:-14.3~6.0)。事前に規定した副次評価項目9項目のうち、7項目で有意差がなかった。 90日全死因死亡は、βラクタム群35例(21%)vs.標準治療群28例(16%)(群間差:4.5ポイント、95%CI:-3.7~12.7)、5日時点の持続性菌血症発生率はそれぞれ11% vs.20%(-8.9ポイント、-16.6~-1.2)であり、また、ベースライン時に透析を受けていなかった被験者におけるAKIの発生率は23% vs.6%(17.2ポイント、9.3~25.2)だった。 結果について著者は、「安全性への懸念から試験が早期に中止となったこと、介入を支持する臨床的に意義のある差異が検出されなかったことを考慮して、所見を解釈すべきであろう」と述べている。

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12年ぶりの新規キノロン系経口抗菌薬「ラスビック錠75mg」【下平博士のDIノート】第43回

12年ぶりの新規キノロン系経口抗菌薬「ラスビック錠75mg」今回は、「ラスクフロキサシン塩酸塩錠」(商品名:ラスビック錠75mg、製造販売元:杏林製薬)を紹介します。本剤は、呼吸器と耳鼻咽喉科領域の感染症治療に特化し、低い血中濃度ながらも、口腔レンサ球菌や嫌気性菌に対して良好な活性を示します。<効能・効果>本剤は、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器病変の2次感染、中耳炎、副鼻腔炎の適応で、2019年9月20日に承認され、2020年1月8日より発売されています。《適応菌種》本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、クレブシエラ属、エンテロバクター属、インフルエンザ菌、レジオネラ・ニューモフィラ、プレボテラ属、肺炎マイコプラズマ(マイコプラズマ・ニューモニエ)<用法・用量>通常、成人にはラスクフロキサシンとして1回75mgを1日1回経口投与します。<副作用>感染症患者を対象とした国内臨床試験における安全性評価対象の531例中62例(11.7%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、下痢、好酸球数増加各7例(1.3%)、ALT上昇5例(0.9%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、白血球減少症(0.2%)、間質性肺炎(0.2%)、ショック、アナフィラキシー、QT延長、心室頻拍(Torsades de pointesを含む)、低血糖、偽膜性大腸炎、アキレス腱炎・腱断裂などの腱障害、肝機能障害、横紋筋融解症、痙攣、錯乱・せん妄などの精神症状、重症筋無力症の悪化、大動脈瘤、大動脈解離(いずれも頻度不明)が注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、細菌の増殖を抑えることで感染症を治療します。2.腹部、胸部、背部の痛み、空咳、息切れ、息苦しさなどが続く場合は、すぐに受診してください。3.冷汗が出る、寒気、動悸、手足の震え、疲れやすいなど、いつもと異なる症状がみられた場合は、すぐに医師または薬剤師にご連絡ください。<Shimo's eyes>12年ぶりに新しいキノロン系経口抗菌薬が登場しました。本剤は、肺炎球菌への抗菌活性と肺への組織移行を強化したレスピラトリーキノロンであり、適応症は呼吸器と耳鼻咽喉科領域に特化しています。誤嚥性肺炎の原因菌として知られている嫌気性菌のプレボテラ属にも適応を有しています。投与方法は1日1回1錠とシンプルで、腎機能低下患者に対する用量制限もありません。初期のニューキノロン系抗菌薬は、DNAジャイレース阻害作用が主でしたが、本剤はDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIVを同程度阻害するデュアルインヒビターであり、これらは殺菌作用の強さと耐性変異の起こしにくさを併せ持つといわれています。既存のニューキノロン系抗菌薬と同様に、重大な副作用であるQT延長、心室頻拍、低血糖、偽膜性大腸炎、アキレス腱炎、痙攣などには注意が必要です。とくに、本剤は世界に先駆けてわが国で承認されていますので、市販後の安全性情報の収集に注力しましょう。参考1)PMDA ラスビック錠75mg

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アレキサンダー病〔Alexander disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義最初の報告は1949年にAlexanderが記載した精神遅滞、難治性痙攣、および水頭症を認めた生後15ヵ月の乳児剖検例である。この症例の病理学的特徴は、大脳白質、上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に認められた多数のフィブリノイド変性で、後にこれはローゼンタル線維と同一であることが判明した。以後約50年間にわたりアレキサンダー病は「病理学的にアストロサイト細胞質にローゼンタル線維を認める乳児期発症の予後不良の進行性大脳白質疾患」と認識されてきた。しかし、2001年にBrennerらによりローゼンタル線維の構成成分の1つであるグリア線維性酸性タンパク(GFAP)をコードする遺伝子GFAPが病因遺伝子として報告されて以降、乳児期発症例とは臨床像がまったく異なる成人期発症で緩徐進行性の経過を示す症例が相次いで報告された。現在ではアレキサンダー病は「乳児期から成人期まで幅広い年齢層で発症するGFAP遺伝子変異による一次性アストロサイト疾患で、病理学的にはアストロサイト細胞質のローゼンタル線維を特徴的所見とする」と定義される。■ 疫学新生児期から70歳以上の高齢者まで幅広い年齢層で発症がみられる。わが国の有病者率は270万人あたり1人と推定される。しかし、未診断の症例や他の神経変性疾患(パーキンソン症候群や脊髄小脳変性症など)と診断されている症例が、少なからず存在すると思われる。臨床病型別頻度は、延髄・脊髄優位型が約半数と最も多く、大脳優位型が1/4強、中間型が1/4弱である(臨床病型については後述の「症状・分類」を参照)。わが国での全国調査によると延髄・脊髄優位型の約65%で常染色体優性遺伝形式を示唆する家族内発症がみられるが、遺伝学的あるいは病理学的検査により確定診断された家系の報告は非常に少なく、浸透率も不明である。一方、大脳優位型はほぼ全例がde novo変異である。■ 病因GFAP遺伝子変異による機能獲得性機序が考えられているが、病態には変異GFAPの発現量増加が重要と考えられている。これは、(1)ヒト野生型GFAPを過剰発現させたトランスジェニックマウスにおいてGFAP発現量に比例した寿命の短縮とローゼンタル線維の出現を認める、(2)変異GFAP遺伝子を単一コピーのみ導入したモデルマウスは臨床表現型を十分に示さない、という動物モデルの知見に基づく。ヒトのアレキサンダー病においてはGFAP遺伝子のmultiplicationの報告はなく、変異GFAPの量的変化に影響を与える遺伝的および環境因子の存在が示唆される。変異GFAPによるアストロサイトの機能障害としてプロテアソーム系の機能低下、ストレス経路への影響、異常なカルシウムシグナル変化、炎症性サイトカインの増加、グルタミン酸トランスポーターの発現低下と機能異常などが報告されている。もう1つの病理学的特徴である脱髄については、モデルマウスの研究からK緩衝系の異常によるミエリン形成や維持の障害が推測されているが詳細な機序は不明である。■ 症状・分類発症年齢により乳児型(2歳未満の発症)、若年型(2~12歳未満の発症)および成人型(12歳以上の発症)に分類されるが、近年、神経症状および画像所見に基づいた病型分類が提唱されており、本稿ではこの新しい病型分類を記載する。1)大脳優位型(1型)主に乳幼児期発症で、機能予後不良の重症例が多い。痙攣、大頭症、精神運動発達遅延が主な症状である。痙攣は難治性とされるが、コントロール良好で学童期ごろには軽減する症例も散見される。大頭症は乳児期に目立つ。経過とともに痙性麻痺、構音障害、発声障害、嚥下障害などの延髄・脊髄症状が顕在化する。新生児期発症例では水頭症、頭蓋内圧亢進、難治性痙攣を来し、生命予後は不良である。2)延髄・脊髄優位型(2型)四肢筋力低下、痙性麻痺、四肢・体幹失調、構音障害、発声障害、嚥下障害、自律神経障害(起立性低血圧、膀胱直腸障害、睡眠時無呼吸)といった延髄・脊髄症状が、種々の組み合わせで認められる。筋力低下にはしばしば左右差が認められる。上記以外の症候として約20%に筋強剛、約15%に口蓋振戦を認める(自施設解析データ)。大頭症、精神運動発達遅延は通常認めない。前頭側頭型認知症に類似した認知症を呈する症例もある。一過性の「反復性嘔吐」が唯一の症状で、MRIにて両側延髄背側に結節状病変を示す小児の報告がある。3)中間型(3型)発症時期は幼児期から成人期まで幅広い。大脳優位型および延髄・脊髄優位型の両者の特徴を有する。大脳優位型の長期生存例、および精神運動発達遅延を伴う延髄脊髄優位型のパターンが含まれる。精神運動発達遅延については、初診時まで医療機関で評価されず、小学生時に学力低下により支援学級に編入したなどの経歴をもつ症例がある。また、熱性痙攣やてんかんの既往歴をもつ症例も少なからず存在する。複視や側彎などの脊柱異常を伴うことも多い。■ 予後大脳優位型の生命予後は約14年と報告されている。新生児期発症例は、生後数週~数ヵ月で死亡することが多い。難治性痙攣や栄養障害、感染症などのため学童期までに死亡する症例が多いが、一方で学童期までに痙攣などが消失するなど、大脳症状が安定化する症例も少なからず認められる。このような症例は、学童期以降に歩行障害や嚥下障害などの延髄・脊髄症状が緩徐に進行して中間型に移行する。延髄・脊髄優位型の生命予後は、約25年と大脳優位型と比較すると良好だが、無症候あるいは非常に軽微な異常にとどまる症例から運動麻痺・球症状・呼吸症状が急激に増悪する症例まで症例差が大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)頭部および脊髄MRI検査による特徴的な所見がアレキサンダー病を疑う手がかりとなる。確定診断は遺伝子検査および病理学的検査による。近年は、遺伝子検査にて確定診断が行われる傾向にあるが、新規変異や非典型例では慎重な判定が必要となる。■ MRI検査1)大脳優位型前頭部優位の広範な大脳白質異常が特徴的である。その他、脳室周囲の縁取り(T2強調画像で低信号、T1強調画像で高信号を示す)、基底核と視床の異常、脳幹の異常(特に中脳と延髄)、造影効果がみられうる。2)延髄・脊髄優位型延髄・頸髄の萎縮・異常信号が特徴的である。典型的には橋が保たれた延髄・上位頸髄の著明な萎縮が認められ、その形状はオタマジャクシ様の特徴的な所見を示す(tadpole appearance)。高齢者や軽症例では延髄・頸髄の萎縮が目立たないことがあるが、このような症例では延髄錐体の異常信号と延髄外側および最後野付近の萎縮を伴い、水平断にて延髄にメダマチョウの眼状紋様の所見がみられる(eye spot sign)。大脳・中脳・橋の錘体路の異常信号は通常認めない。10代前半から20歳代の若年例では延髄の結節・腫瘤様異常がみられることが多い。その他、小脳歯状核門の信号異常やFLAIR像にて中脳の縁取り(midbrain periventricular rim)も高率にみられる所見である。大脳MRIではT2強調画像にて“periventricular garland”と表現される側脳室壁に沿った花弁状の高信号が認められる。この病変は造影効果を示すこともあり、この部分にはローゼンタル線維が多いとされる。3)中間型大脳優位型と延髄脊髄優位型の両者の特徴をもつ型と定義した通り、比較的広範な大脳白質病変と延髄・頸髄の萎縮・異常信号を認める。成人症例では大脳白質病変は嚢胞化を伴う傾向があり、延髄・頸髄の萎縮は高度である。■ 遺伝子検査これまで100種類以上のGFAP遺伝子変異が報告されている。大多数がミスセンス変異であるが、インフレーム挿入/欠失変異、終止コドン近傍のフレームシフト変異およびスプライス変異の報告もある。CpGが関与するR79、R88、R239、R416が置換される変異は、人種を越えて認められる。前3者が置換される変異は、大脳優位型および中間型に認められ、R416が置換される変異はすべての型で報告されている。一方、延髄・脊髄優位型において頻度の高い変異は特に存在しない。■ 病理学的検査大脳白質、上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に特徴的なローゼンタル線維を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では対症療法にとどまる。痙攣に対する抗てんかん薬の投与、栄養管理、併発する感染症に対する抗菌薬の投与、学習障害や認知機能障害に対する療育・ケアが行われる。痙性麻痺に対して抗痙縮薬や抗てんかん薬の投与が使用されることがある。4 今後の展望変異GFAP発現抑制を治療標的としたアンチセンス核酸とドラッグリポジショニングに関する動物実験レベルの報告がある。アンチセンス核酸を投与したモデルマウスの報告では安全性、髄液中のGFAP蛋白量の劇的な減少、ローゼンタル線維の消失が確認されている。近年、核酸医薬の技術発展は目覚ましく、神経難病領域においても脊髄性筋萎縮症では実用化されている現状を鑑みると、本症に対する治療開発も期待される。一方、ドラッグリポジショニングの候補薬剤としてセフトリアキソン、クルクミン、リチウムが報告されているが、いずれも現時点では臨床応用には至っていない。5 主たる診療科小児科(小児神経科)、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 「遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築」班 ホームページ(診断基準や典型的な画像所見なども掲載)難病情報センター アレキサンダー病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Alexander WS. Brain. 1949;72:373-381.2)Brenner M, et al. Nat Genet. 2001;27:117-120.3)Yoshida T, et al. J Neurol. 2011;258:1998-2008.4)Prust M, et al. Neurology. 2011;77:1287-1294.5)Messing A, et al. Am J Pathol. 1998;152:391-398.6)Hagemann TL, et al. Ann Neurol. 2018;83:27-39.公開履歴初回2020年02月17日

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新型コロナウイルス肺炎、重症例の特徴と院内感染の実態/JAMA

 中国・武漢大学中南医院のDawei Wang氏らは、2019年新型コロナウイルス(2019-nCoV)肺炎(NCIP)の臨床的特徴(特に重症例)を明らかにするため、自院の入院患者138例について調査した。その結果、重症例では年齢が高く、高血圧や糖尿病といった併存疾患を有する割合が高く、呼吸困難や食欲不振を訴える患者が多かった。また、138例中57例(41.3%)で院内感染が疑われるという。JAMA誌オンライン版2020年2月7日号に掲載。 著者らは、2020年1月1~28日に同院で2019-nCoVが確認された全症例について後ろ向き調査を実施した。症例はRT-PCRで確認し、疫学的、人口統計学的、臨床的、放射線学的特徴および検査データを解析した。アウトカムは2020年2月3日まで追跡された。 主な結果は以下のとおり。・年齢中央値は56歳(22~92歳)で、75例(54.3%)が男性であった。・一般的症状として、発熱136例(98.6%)、倦怠感96例(69.6%)、から咳82例(59.4%)が報告された。・リンパ球減少症(リンパ球数:0.8×109/L[四分位範囲:0.6~1.1])が97例(70.3%)、プロトロンビン時間延長(13.0秒[同:12.3~13.7])が80例(58%)、LDH上昇(261U/L [同:182~403])が55例(39.9%)で認められた。・胸部CTは、全症例で両肺の斑状あるいはすりガラス状の陰影が認められた。・抗ウイルス薬治療(オセルタミビル)を124例(89.9%)が受け、抗菌薬治療を多くの患者が受けた(モキシフロキサシン:89例[64.4%]、セフトリアキソン:34例[24.6%]、アジスロマイシン:25例[18.1%])。また、グルココルチコイド療法を62例(44.9%)が受けた。・36例(26.1%)がICUに移された。理由は急性呼吸促迫症候群(ARDS)22例(61.1%)、不整脈16例(44.4%)、およびショック11例(30.6%)を含む合併症のため。・最初の症状から呼吸困難までの時間の中央値は5.0日、入院までは7.0日、ARDSまでは8.0日であった。・ICUで治療された患者(36例)は、ICUで治療されなかった患者(102例)と比較して、年齢が高く(中央値:66歳 vs.51歳)、併存疾患を有する割合が高かった(26例[72.2%] vs.38例[37.3%])。主な併存疾患は高血圧(21例[58.3%] vs.22例[21.6%])、糖尿病(8例[22.2%] vs.6例[5.9%])、心血管疾患(9例[25.0%] vs.11例[10.8%])など。また、呼吸困難(23例[63.9%] vs.20例[19.6%])、食欲不振(24例[66.7%] vs.1例[30.4%])が多くみられた。・ICUの36例のうち、4例(11.1%)が高流量酸素療法、15例(41.7%)が非侵襲的換気療法、17例(47.2%)が侵襲的換気療法を受けた(うち4例は体外式膜型人工肺に切り替え)。・2月3日時点で、47例(34.1%)が退院し、6例が死亡(全体の死亡率:4.3%)、残りの患者は入院中。・退院した患者47例において、入院期間の中央値は10日間であった(四分位範囲:7.0~14.0)。・57例(41.3%)が院内で感染したと推定され、その中にはすでに他の理由で入院していた17例の患者(12.3%)と40例の医療従事者(29%)が含まれる。・感染した患者のうち、7例は外科部門、5例は内科部門、5例は腫瘍科部門に入院していた。感染した医療従事者のうち、31例(77.5%)が一般病棟で、7例(17.5%)が救急部門で、2例(5%)がICUで勤務していた。

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Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 医療関連感染症編

第1回 医療関連感染症診療の原則と基本第2回 カテーテル関連血流感染症第3回 カテーテル関連尿路感染症第4回 院内肺炎第5回 手術部位感染第6回 クロストリジウム・ディフィシル感染症第7回 免疫不全と感染症第8回 発熱性好中球減少症第9回 細胞性免疫不全と呼吸器感染 あの医療者必携のベストセラー書籍「感染症プラチナマニュアル」のレクチャー版!岡秀昭氏による大人気番組「感染症プラチナレクチャー」の第2弾は医療関連感染症編です。医療関連感染症は、どの施設でも避けることのできない感染症であり、その対策にはすべての医療者が取り組まなくてはなりません。この番組では、医療関連感染症診療の原則と、その診断・治療・予防について臨床の現場で必要なポイントに絞って岡秀昭氏が解説していきます。2019年4月の診療報酬改定で、抗菌薬適正使用を推進するため、入院患者を対象とした「抗菌薬適正使用支援加算」が新設されています。その中心を担うAST(抗菌薬適正使用推進チーム)やICTはもちろん、その他の医療者の教育ツールとしてもご活用ください。さあ、ぜひ「感染症プラチナマニュアル2019」を片手に本番組をご覧ください。※書籍「感染症プラチナマニュアル」はメディカル・サイエンス・インターナショナルより刊行されています。該当書籍は以下でご確認ください。amazon購入リンクはこちら ↓【感染症プラチナマニュアル2019】第1回 医療関連感染症診療の原則と基本初回は、医療関連感染症診療の原則と基本について解説します。基本的に原則は市中感染症編と“いっしょ”です。この番組を見る前にDr.岡の感染症プラチナレクチャー市中感染症編 第1回「感染症診療の8大原則」をご覧いただくとより理解が深まります。ぜひご覧ください。入院患者の感染症は鑑別診断が限られるため、一つひとつ確認しながら進めていけば、診断は比較的容易です。まずは、その鑑別診断について、考えていきましょう。第2回 カテーテル関連血流感染症今回のテーマはカテーテル関連血流感染症(CRBSI:catheter related blood stream infection)です。重要なことは、医療関連感染のCRBSIは「カテーテル感染」ではなく、「血流感染」であるということです。そのことをしっかりと頭に入れておきましょう。番組では、CRBSIの定義、診断、治療そして予防について詳しく解説します。第3回 カテーテル関連尿路感染症今回のテーマはカテーテル関連尿路感染症(CAUTI:Catheter-associated Urinary Tract Infection)です。院内感染が疑われた患者さんに膿尿・細菌尿がみられたら尿路感染症と診断していませんか?とくに医療関連感染で起こる尿路感染症は、特異的な症状を呈さないことも多く、Dr.岡でさえ、悩みながら、自問しながら、診断する大変難しい感染症です。その感染症にどう立ち向かうか!明快なレクチャーでしっかりと確認してください。第4回 院内肺炎今回のテーマは院内肺炎(HAP:hospital-acquired pneumonia)です。医療関連感染である院内肺炎は診断が非常に難しく、また、死亡率が高く、予後の悪い疾患です。その中で、どのように診断をつけ、治療を行っていくのか、診断の指針と治療戦略を明快かつ、詳細に解説します。また、医療ケア関連肺炎(HCAP:Healthcare-associated pneumonia)に関するDr.岡の考えについてもご説明します。第5回 手術部位感染今回のテーマは手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)です。手術部位感染の診断は簡単でしょうか?確かに、手術創の感染であれば、見た目ですぐに感染を判断することができますが、実は「深い」感染はかなり診断が難しく、手術部位や手術の種類によって対応も異なります。もちろん、手術を行った科の医師が対応すべきことですが、基本的なことについて理解しておきましょう。第6回 クロストリジウム・ディフィシル感染症今回はクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI:Clostridium Difficile Infection)です。院内発症の感染性腸炎はほとんどがCDIであり、それ以外だと非感染性(薬剤、経管栄養など)になります。CDIの診断と抗菌薬治療、そして感染予防について、明快にレクチャーします。とくに抗菌薬選択に関しては、アメリカのガイドラインだけに頼らない、岡秀昭先生の経験を基にした臨床での対応方法をお教えします。第7回 免疫不全と感染症免疫不全だからといって、ひとくくりにして、一律に広域抗菌薬を開始したり、やみくもにβ-Dグルカンやアスペルギルス抗原をリスクのない患者で測定するようなプラクティスをしていませんか?本当に重要なのは、まずは、どのような免疫不全かを判断すること。そのうえで、起こりうる病態、病原微生物を考えていきましょう。第8回 発熱性好中球減少症今回は発熱性好中球減少症(FN: Febrile Neutropenia)についてです。発熱性好中球減少症は診断名ではなく、好中球が減少しているときにおこる発熱の状態のことです。白血病やがんの化学療法中に起こることがほとんどです。FNは感染症エマージェンシーの疾患ですので、原因微生物や、臓器を特定できなくても、経験的治療を開始します。どの抗菌薬で治療を開始すべきか、またどのように診断をつけていくのか、治療効果の判断は?そして、また、その治療過程についてなど、岡秀昭先生の経験を交え、詳しく解説します。第9回 細胞性免疫不全と呼吸器感染最終回!今回は細胞性免疫不全者の呼吸器感染(肺炎)について、解説します。細胞性免疫不全者の呼吸器感染は、多様な微生物が原因となりうるため、安易に経験的治療を行わず、まずは微生物のターゲットを絞ることが重要となります。番組では、原因となる微生物の分類、そして、臨床像やCT画像で微生物を鑑別するポイントや、必要となる検査など、臨床で必要となる知識をぎゅっとまとめて、しっかりとお教えします。

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新型コロナウイルス肺炎41例の臨床的特徴(解説:小金丸博氏)-1186

オリジナルニュース新型コロナウイルス、感染患者の臨床的特徴とは?/Lancet(2020/01/28掲載)論文に対するコメント: 2019年12月に中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス(2019-nCoV)による感染症が世界中に拡大しつつあり、本稿執筆時点(2020年2月4日)で確定患者は2万人を超え、そのうち約400人が死亡したと報告されている。そんな中Lancet誌オンライン版(2020年1月24日号)より、2020年1月2日までに新型コロナウイルス肺炎で入院となった41例の患者背景、臨床症状、臨床経過、放射線画像検査の特徴などが報告された。結果の概要は以下のとおりだが、今回の報告は肺炎を発症し入院となった重症患者のまとめであり、自然軽快する軽症例は含まれていないことに留意しながら結果を解釈する必要がある。患者背景: 患者の73%が男性で、年齢の中央値は49.0歳(四分位範囲:41.0~58.0)だった。32%が何らかの基礎疾患(糖尿病、高血圧、心血管疾患など)を有していた。66%が感染源と推測されている華南海鮮市場と何らかの接点があった。男性が多い理由としては、海鮮市場の関係者が多く含まれていることが要因と思われる。臨床症状: 頻度の高い症状は、37.3℃以上の発熱(98%)、咳嗽(76%)、呼吸困難(55%)、筋肉痛または疲労感(44%)だった。ウイルス性肺炎であるためか喀痰は28%とそれほど多くなかった。下痢などの消化器症状の報告は少なく、鼻汁、咽頭痛などの上気道症状をほとんど認めなかったことも特徴的である。臨床経過: 重症例では、発症から約1週間で入院、8日目ごろに呼吸困難が出現、9日目ごろに急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を合併し、10日目以降に集中治療室(ICU)へ入室するという経過をたどった。合併症としてARDS(29%)、急性心障害(12%)、2次感染(10%)などを認めた。32%がICUへ入室し、15%が死亡した。軽症例を含めれば、合併症発生率や致死率は低下することが予想される。放射線画像所見: 胸部CT画像では、98%で両肺野に浸潤影を認め、非ICU入室患者ではスリガラス影が典型的な所見だった。治療: 全例に抗菌薬の投与、93%に抗ウイルス薬(オセルタミビル)の投与、22%に全身ステロイド投与が行われた。ステロイドの有用性については、さらなる症例の集積が必要である。また、新型コロナウイルス感染症に対して、抗HIV薬であるロピナビルとリトナビルの併用療法の有用性を検討するランダム化比較試験が開始されている。 本論文は、新型コロナウイルス肺炎の臨床的特徴を初めて記載したものである。今後さらに症例を蓄積していくことで、軽症例や無症候例の存在、伝染性、正確な致死率などが判明していくと思われる。 コロナウイルスはいわゆる「風邪」の原因ウイルスであるが、ヒトに対して強い病原性を示したSARSやMERSの原因ウイルスでもある。今までの報告からはSARSやMERSほど致命率は高くないと考えられるものの、まだ明らかとなっていないことが多く、今後の動向を注視したい。医療従事者への院内感染事例も報告されており、手指衛生や咳エチケットなどの標準予防策に加え、適切な経路別予防策の実施を心掛けたい。

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抗菌薬が十分量処方されていなかったため上乗せを提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第14回

 今回は、動物咬傷による皮膚軟部組織感染に対する抗菌薬の処方提案です。病状の改善や耐性菌を生み出さないためには抗菌薬を十分量投与する必要があります。医師の選択した抗菌薬の種類だけでなく、投与量も適切かどうか確認するクセをつけましょう。患者情報50歳、男性(外来)体  重:60kg基礎疾患:高血圧症、糖尿病、足白癬既 往 歴:とくになし主  訴:ペットの犬に噛まれた右手の疼痛、発熱直近の検査値:血清クレアチニン(Scr)0.9mg/dL推算CCr:83.3mL/min処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.シタグリプチン錠50mg 1錠 分1 朝食後3.テルビナフィンクリーム 10g 1日1回 足全体4.エフィナコナゾール液10% 3.56g 1日1回 爪全体5.アモキシシリン・クラブラン酸配合錠250RS 3錠 分3 毎食後本症例のポイント糖尿病患者さんは、感染症に罹患しやすく、重篤化しやすいため、十分量の抗菌薬が処方されているか慎重に確認する必要があります。今回の患者さんは、糖尿病の基礎疾患があり、動物咬傷による皮膚軟部組織感染と推察できますので、アモキシシリン・クラブラン酸配合錠250RS 3錠/日(アモキシシリンとして750mg/日)では治療効果が十分ではなく、1,500mg/日程度が必要と考ました。しかし、アモキシシリンが治療に有効な力価になるまで配合錠を増量すると、クラブラン酸が高用量になり過ぎてしまいます。高用量のクラブラン酸は下痢や嘔気などの消化器症状が増加する懸念がある一方で、抗菌効果の増強にはならないと指摘されていますので良いところなしです。そのため、アモキシシリンの用量を上げたい場合は、アモキシシリン・クラブラン酸配合錠を増量するのではなく、アモキシシリン単剤を追加してアモキシシリンの力価だけを増やすことがあります。アモキシシリン・クラブラン酸配合錠とアモキシシリン錠の先発品名から「オグサワ」と呼ばれる有名な治療方法です。海外製品のアモキシシリン・クラブラン酸配合錠の標準比は、アモキシシリン:クラブラン酸=4:1だが、日本製品(成人用)は2:1でアモキシシリンの配合比が低い。アモキシシリン・クラブラン酸配合錠250RS 3錠/日にアモキシシリン単剤250mg 3錠/日を追加することでアモキシシリン:クラブラン酸=4:1となり、クラブラン酸を増量せずに十分量のアモキシシリンを投与することができる。処方提案と経過処方医に想定される起炎菌と重症度を確認したところ、傷の深さや発熱などの症状から重症度は高めで、ブドウ球菌や嫌気性菌を考えているとのことでした。核心の用量については、逆に抗菌薬の十分量について質問を受けたので、上記のアモキシシリン250mg/回を追加することで十分な治療効果が見込め、腎機能も推算CCrから問題ない旨をお伝えしました。その結果、処方はアモキシシリン錠250mg 3錠 分3 毎食後をアモキシシリン・クラブラン酸配合錠に同日数分上乗せするよう指示を受けました。数日後、医師より患者さんの体調が回復したというご報告と、オグサワの使用経験がなく不安があったが今後の診療でも活用していきたいというコメントを頂きました。1)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019(第49版). ライフサイエンス出版;2019.2)オーグメンチン配合錠インタビューフォーム

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出血ハイリスクの重症患者に対する予防的なPPI・H2RAは有用か?(解説:上村直実氏)-1177

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2RA)など酸分泌抑制薬は胃食道逆流症に対する有用性により世界中で頻用されている一方、長期投与による肺炎や骨折のリスク、腸内細菌叢の変化に伴うClostridium difficile(CD)感染症のリスク増加などを危惧する報告が散見されている。このように酸分泌抑制薬の有用性と安全性のバランスは臨床現場で最も注目されている課題の1つである。 重症患者が主体のICUにおいて消化管出血の予防処置としてPPIやH2RAが当然のように投与されているが、薬剤のリスクを考慮した有用性に関する確実なコンセンサスが得られていないのが現状である。今回、この予防投与の有用性を検証するために、研究デザインの質やバイアスリスクを詳細に吟味したシステマティックレビュー/ネットワークメタ解析の結果がBMJ誌に掲載された。選択された72研究1万2,660例について検討した結果、消化管出血のハイリスク患者ではPPIやH2RAの予防投与は臨床的に消化管出血を減少する成績が示された一方、リスクの低い患者においては出血予防の有用性は統計学的には少ないものとされている。 ICUでは抗菌薬の使用が多く、PPI併用によるCD感染症の増加が危惧されるが、本研究の結果からCD感染症は予想より少ないと思われた。一方、酸分泌抑制薬により肺炎を惹起するリスクが増加することは確かなようであり、医療現場ではさらなる注意が必要である。 最も高いレベルの『エビデンス』とされるメタ解析やシステマティックレビューの評価には、選択された研究論文の質はもとより結果の解釈が大切であり、さらに選択論文のアウトカムのみでなく各研究の調査因子の違いにも注意が必要であること、調査因子が多くなると研究結果が不均一になる傾向にあること等、本研究論文から得られる教訓は多かった。EBM全盛時代となっているが、エビデンスレベルを研究デザインにより設定することが適切であるのか、また実際の診療現場では『エビデンス』を参考資料として個々の患者に対する最善の対処を行っているのか考えさせられた次第である。

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インフルエンザ様疾患にも抗インフル薬が有益か/Lancet

 インフルエンザ様疾患でプライマリケア医を受診し、通常治療に加えオセルタミビルの投与を受けた患者は、通常治療のみの患者に比べ、平均で1日早く回復し、高齢で症状が重く、併存疾患があり症状持続期間が長い患者では回復までの期間が2~3日短縮することが、英国・オックスフォード大学のChristopher C. Butler氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年12月12日号に掲載された。欧州のプライマリケアでは、インフルエンザ様疾患への抗ウイルス薬の処方はまれだという。その主な理由は、プライマリケアの実臨床では抗ウイルス薬の効果はないとの認識があること、また、独立の臨床試験で、とくに利益を得ると予測される患者が特定されていないこととされる。欧州15ヵ国のプライマリケア施設が参加した実際的臨床試験 本研究は、欧州15ヵ国のプライマリケア施設で行われた実際的な非盲検無作為化対照比較試験であり、2016年1月15日~2018年4月12日の期間に患者登録が実施された(欧州委員会第7次研究開発枠組計画の助成による)。 対象は、年齢1歳以上、インフルエンザ様疾患でプライマリケア施設を受診した患者であった。インフルエンザ様疾患は、季節性インフルエンザ流行期に、自己申告による突然の発熱がみられ、1つ以上の呼吸器症状(咳、喉の痛み、鼻水、鼻づまり)および1つの全身症状(頭痛、筋肉痛、発汗/悪寒、疲労感)を伴い、症状持続期間が72時間以内と定義された。被験者は、通常治療+オセルタミビルまたは通常治療のみを行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは患者報告による回復までの期間とした。回復は、発熱、頭痛、筋肉痛が軽減または消失し、通常の日常活動への復帰が達成された場合と定義された。便益はインフルエンザ感染の有無にかかわらない 3回の季節性インフルエンザ流行期に3,266例(2015~16年:495例、2016~17年:1,225例、2017~18年:1,546例)が登録された。オセルタミビル群に1,629例、通常治療群には1,637例が割り付けられ、主要エンドポイントの解析にはそれぞれ1,533例(94%)および1,526例(93%)が含まれた。 ベースラインの年齢層別の患者割合は、両群とも12歳未満が14%、12~65歳が80%、65歳以上が6%であった。オセルタミビル群の56%、通常治療群の55%が女性だった。3,059例中1,590例(52%)が、PCRによりインフルエンザ感染症と確定された。 全体の回復までの期間は、オセルタミビル群が通常治療群に比べ短かった(ハザード比[HR]:1.29、95%ベイズ信用区間[BCrI]:1.20~1.39)。事前に規定された36のサブグループ(年齢層、症状の重症度、併存疾患の有無、症状持続期間で分類)のうち30サブグループのHRの範囲は1.13~1.72であり、類似していた。 オセルタミビルによる推定平均便益は、全体では1.02日(95%BCrI:0.74~1.31)であり、オセルタミビル群のほうが約1日回復が早かった。便益のサブグループ解析では、12歳未満/症状が重症でない/併存疾患なし/症状持続期間が短い集団の0.70日(95%BCrI:0.30~1.20)から、65歳以上/症状が重症/併存疾患あり/症状持続期間が長い集団の3.20日(1.00~5.50)までの幅が認められた。 インフルエンザ感染患者におけるオセルタミビル群の推定平均便益のHRは1.27(95%BCrI:1.15~1.41)、非感染患者のHRは1.31(1.18~1.46)であり、感染の有無にかかわらずオセルタミビルによる類似の便益が示された。 抗菌薬の使用割合(オセルタミビル群9%、通常治療群13%)は、オセルタミビル群で低く、家族内の新規感染(39%、45%)も少なかった。一方、医療機関への再受診(3%、4%)、X線で確定された肺炎(47%、57%)、市販のアセトアミノフェン(60%、64%)またはイブプロフェン(38%、41%)含有薬の使用の割合には差がなかった。 嘔吐/悪心の新規発症または増悪が、オセルタミビル群で21%(325/1,535例)に認められ、通常治療群の16%(248/1,529例)に比べ頻度が高く、症状軽減までの期間も長かった(HR:0.94、95%CI:0.86~1.01)。これ以外の症状は、オセルタミビル群のほうが迅速に軽快した。 重篤な有害事象は29件(オセルタミビル群12件、通常治療群17件)報告された。オセルタミビル群では、2件がオセルタミビル関連と考えられたが、残りの10件は関連がなかった。 著者は、「併存疾患を有し、体調不良が長く続く症状が重い患者や高齢患者では、オセルタミビルにより2~3日早い回復の可能性があるため、本薬を考慮してよいと考えられる」としている。

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増える梅毒妊娠症例、現代ならではの背景も

 国立感染症研究所が、今年1月から半年の間に医療機関を通じて報告された女性梅毒患者のデータを分析したところ、約1割が妊娠症例であることがわかった。わが国では、2014年ごろから男女間における梅毒感染報告が増え、それと並行して母子感染による先天梅毒の報告数も増加傾向にある。こうした状況を背景に、梅毒妊娠症例に着目し、国として初めて実態把握を行ったもの。分析を行った感染研感染症疫学センター・主任研究官の山岸 拓也氏は、「かなり憂慮する状況。治療可能疾患であることを患者に伝え、子供への感染リスクをできる限り排除していかなければならない」と話す。早期発見と適切な抗菌薬治療で母子感染を回避 梅毒は、すべての医師が診療から7日以内に届け出を求められている全数報告対象疾患であり、国の感染症発生動向調査によると、2013年以降、20代を中心に女性の梅毒報告数および先天梅毒報告数が増え続けている。 先天梅毒はTreponema pallidumが母子伝播することで発生し、母体が無治療の場合には40%の児が先天梅毒になるとされている。一方、梅毒感染妊婦に対しては、適切に診断され、抗菌薬治療を行うことで先天梅毒の発生を予防することが可能である。したがって、いかに早期発見と適切な治療に至るかが梅毒の母子感染の防止のカギになる。同時に、梅毒の感染経路を明確にすることも肝要である。 感染症発生動向調査では、今年1月1日から梅毒の届け出様式が変更され、妊娠の有無や、直近6ヵ月以内の性風俗産業の従事歴の有無が、新たに項目として追加された。感染研感染症疫学センターの取りまとめによると、この期間に届け出られた女性梅毒症例は1,117例であり、このうち「妊娠あり」とされた症例は106例であった。年齢別では、15-19歳が10例(9%)、20-24歳が38例(36%)、25-29歳が30例(28%)、30-34歳が20例(19%)、35-39歳が7例(7%)、40-44歳が1例(1%)であった。病型別では、早期顕症I期が5例(5%)、早期顕症II期が25例(24%)、無症候が76例(72%)であった。妊娠週数は、19週までが74例(74%)、20週以降が26例(26%)であった(残り6例は不明)。また「妊娠あり」症例のうち、性風俗産業従事歴については、「あり」が5例(8%)、「なし」が56例(92%)であった(残り45例は不明)。性産業従事歴なく男性パートナー由来も多数、その背景は これらの数字から見えてくる傾向がある。山岸氏によると、妊娠症例は性風俗産業従事歴のない20代後半から30代前半の女性が多く、感染源が男性パートナーである可能性が示唆されるということだ。これは、妊婦における感染が、同性間性交渉による感染および性産業従事歴による不特定多数の性交渉による従来の感染経路とは傾向が異なることを示している。 とはいえ、今回の取りまとめでは、「妊娠あり」の106症例のうち、半数近い45例については従事歴が明らかになっていない。山岸氏は、「従事歴なし」の場合は回答できるが、「従事歴あり」の人ほど回答をためらうケースが多いのでないかと指摘する。また、近年の性産業の多様化もあるという。つまり、実態のある店舗で報酬を取りながら性活動を行うのが必ずしも性産業従事者ではないということだ。たとえば、無店舗・派遣型のデリバリーヘルスや、出会い系サイトやSNSを介し、困った時だけ金銭と引き換えに性交渉に及ぶ“個人稼業”の人たちは、どこまで自身をセックスワーカーであると自覚しているだろうか。こうした背景を考えると、「不明」45例の実情が自ずと見えてくる。いずれにせよ、「性産業に対するハードルの低下と裾野の広がりも、梅毒症例増加の背景にあるとみられる」と山岸氏は話す。憂慮する状況に実効力のある対策を 今回の取りまとめでは、7割以上が無症候であったことから、妊婦健診が有効に機能していることが考えられるが、妊娠20週以上に診断された症例も26例(26%)認めた。この中には、未婚や経済的事情などで妊婦健診を受けないまま週数が経過した結果、判明が遅れたケースもあるが、妊娠20週を超えた段階で新たに感染することも考えられるという。つまり、妊娠が安定期に入って性交渉を再開した際、何らかの経緯で男性パートナーが保有する梅毒が感染するケースである。 こうしたことを鑑み、先天梅毒発生リスクに関連した背景要因を有する妊婦診療においては、妊娠中に疑われる症状が見られたら速やかに主治医に相談するよう促したり、妊娠中であっても避妊具を使用し、より一層慎重な性交渉を行うよう患者に指導したりする必要があるという。あるいは、妊娠初期に行われるスクリーニング検査を、妊娠中期および後期に行うことも、発見の機会を増やすために有効かもしれない。 一方、実数としては不明であるものの、これまでの調査で、梅毒感染がわかった段階で妊娠中絶を選択する妊婦もいるという。「適切な診断と治療によって、生まれてくる子どもの重篤な障害を回避できることを妊婦患者に伝え、性急な判断で中絶しないよう医療者が働きかける必要がある」(山岸氏)。 繰り返しになるが、梅毒の母子感染は診断と治療により防ぐことが可能である。冒頭に山岸氏が語ったような「かなり憂慮する状況」のただ中にあるのだとすれば、メディアなどが性産業従事者/利用者にモラルを社会的メッセージとして説くことも大事だが、医療者により実効性のある対策を講じていただきたい。

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第3世代セフェムを愛用する医師への処方提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第11回

 今回は、蜂窩織炎に対する抗菌薬の処方提案を紹介します。広域抗菌薬はカバーが広くて使いやすいのですが、薬剤耐性菌が世界的に懸念されている昨今ではターゲットを絞って適正な抗菌薬を適正量用いることが求められています。薬剤師も医師の治療方針を確認しつつ、積極的に処方設計に参画して適正使用を推進しましょう。患者情報70歳、女性(施設入居)体  重:42kg基礎疾患:高血圧症、鉄欠乏性貧血、慢性便秘症、骨粗鬆症、足白癬既 往 歴:68歳時に腰椎圧迫骨折(手術)主  訴:左下肢腫脹、痛みあり直近の採血結果: 血清クレアチニン0.8mg/dL処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後3.酪酸菌配合錠 3錠 分3 毎食後4.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後5.リセドロン酸17.5mg 1錠 起床時 毎週月曜日6.クエン酸第一鉄ナトリウム錠 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイント施設の担当看護師さんから、患者さんが左下肢の腫脹と痛みを訴えたため、臨時往診が行われたという電話連絡がありました。その際、「蜂窩織炎を発症しているようで、医師が抗菌薬をどうするか迷っている」という話を聞きました。そこで、すぐに医師に電話すると、「左下肢の蜂窩織炎を疑っているけれど、セフジニル100mg 3錠 分3でいいかな?」と相談されました。抗菌薬の処方提案においては、(1)感染臓器、(2)想定される起炎菌(ターゲット)、(3)感受性良好な抗菌薬の理解が必要不可欠です。蜂窩織炎は、真皮〜皮下組織を感染部位とした皮膚軟部組織感染症で、想定される起炎菌はβ溶血性連鎖球菌(A、B、C、G群)と黄色ブドウ球菌(メチシリン感受性:MSSA)です。医師が処方を検討しているセフジニルは第3世代セフェム系抗菌薬で、一部の口腔内連鎖球菌や大腸菌、肺炎桿菌もカバーする広域スペクトラムの抗菌薬です。本症例において、セフジニルも選択肢として挙げることは可能ですが、広域抗菌薬のため耐性菌産生の懸念があり、ターゲットを絞って治療を開始することが望まれます。また、バイオアベイラビリティーが25%程度と低く、この患者さんの場合は服用中のクエン酸第一鉄ナトリウムとの相互作用により、キレートが形成されて吸収が著しく低下することから、有効抗菌薬量としては高用量が必要なため適切ではないと判断しました。皮膚への移行性と起炎菌を考慮すると、アモキシシリンかセファレキシンが有効かつ適正と考え、処方提案することにしました。また、患者さんの腎機能がCCr:43.4mL/minと低下していることから、処方設計も併せてお伝えすることにしました。処方提案と経過医師に重症度や想定している起炎菌を確認したところ、軽症の蜂窩織炎で溶連菌群をカバーして治療したいという希望を聞き取りました。そこで、アモキシシリン250mg 6錠 分3 毎食後の内服を提案しました。しかし、セフェム系でなんとかできないかとの返答がありました。この医師は、普段は広域をカバーして安全性も高いと考える第3世代セフェムをよく処方しており、経口ペニシリン系の治療経験が少なくて不安だったようです。次に、患者さんの腎機能低下を考慮して、第1世代セフェムであるセファレキシン錠250mg 4錠 分2 朝夕食後の処方を提案し、承認を得ることができました。その後、患者さんは10日間の服薬を終了し、蜂窩織炎は軽快しました。1)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019. 第49版. ライフサイエンス出版; 2019年.2)セフゾンカプセルインタビューフォーム

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「抗微生物薬適正使用の手引き」第二版、乳幼児編が追加/厚労省

 2019年12月5日、厚生労働省は「抗微生物薬適正使用の手引き(第二版)」をホームページに公表した。抗微生物薬適正使用の手引きの主な改正点として、生後3ヵ月以上から学童期未満の「乳幼児編」が加わった。小児特有の副作用がある抗菌薬への注意事項として「小児における急性気道感染症の特徴と注意点」が盛り込まれ、「小児の急性気道感染症各論」「小児の急性下痢症」「小児の急性中耳炎」の項目が追加された。抗微生物薬適正使用の手引き第一版発行時からの要望を実現化 抗微生物薬適正使用の手引きの第一版は、学童期以降の急性気道感染症と急性下痢症を対象に、2017年6月に発表・発行。ところが、発行後にはさらなる抗微生物薬の適正使用推進や扱うべき領域拡大のため、学童期未満の小児を含めた改正が求められていた。 なお、抗微生物薬適正使用の手引きは、主に外来診療を行う医療対象者(とくに診察や処方、保健指導を行う医師)を対象としているため、外来診療時に多く処方される経口抗菌薬(第3世代セファロスポリン系、フルオロキノロン系、マクロライド系抗菌薬)を中心に、抗微生物薬の必要な状況などの判別支援に念頭をおいて作成されている。

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咽頭・扁桃炎に対するペニシリンV減量の試み(解説:小金丸博氏)-1153

 咽頭・扁桃炎は、プライマリケアの現場において抗菌薬の処方が多い感染症の1つである。今回、A群溶連菌による咽頭・扁桃炎に対して、適切な臨床効果を維持しながら抗菌薬投与量を減らすことができるかどうかを検討した臨床試験の結果が発表された。 本研究は、A群溶連菌による咽頭・扁桃炎に対して、ペニシリンV 800mgを1日4回5日間投与する群(計16g)とペニシリンV 1,000mgを1日3回10日間投与する群(計30g)の有効性と安全性を比較検討したランダム化非盲検非劣性試験である。6歳以上で、Centor criteria(38.5℃以上の発熱、圧痛を伴うリンパ節腫脹、扁桃に白苔の付着、咳の欠如)を3または4項目満たし、かつA群溶連菌迅速検査陽性の患者を対象とした。プライマリアウトカムである臨床的治癒率は、5日間投与群で89.6%、10日間投与群で93.3%であり(両群差:-3.7ポイント、95%信頼区間:-9.7~2.2)、非劣性が確認された。除菌率は5日間投与群で80.4%、10日間投与群で90.7%だった。患者の症状緩和までの時間は、5日間投与群のほうが有意に短かった(log rank検定でp<0.001)。1ヵ月以内の再発例はほぼ同数だった。有害事象は主に下痢、嘔気、膣の分泌物や掻痒であり、これらの症状は10日間投与群でより高率に長期間認めた。 スウェーデンでは成人のA群溶連菌による咽頭炎に対してペニシリンV 1,000mgを1日3回10日間(計30g)投与することが推奨されている。この治療期間はほかの国の推奨と同じであるが、総投与量はほかと比較して多い。ちなみに米国感染症学会(IDSA)のガイドラインでは、ペニシリンV 250mgを1日4回、あるいは1回500mgを1日2回、どちらも治療期間は10日間(計10g)投与することが推奨されている。A群溶連菌による咽頭炎に対して抗菌薬を投与する主な理由は、急性リウマチ熱や糸球体腎炎などの合併症を防止することであるが、高所得国ではこれらはまれな合併症となっている。そのため、今日の主な治療目的は速やかな症状改善を得ることであり、同時に扁桃周囲炎、中耳炎、副鼻腔炎などの合併症を予防することである。 本研究では、A群溶連菌による咽頭・扁桃炎に対するペニシリンV 1日4回5日間の治療は1日3回10日間の治療に対して、臨床効果は非劣性であることが示された。投与期間を短縮することで抗菌薬の副作用の減少、服薬遵守率の向上、ヒト細菌叢への影響低下、社会全体の抗菌薬コスト削減などが期待できる。除菌率が10日間投与群のほうが優れていた点や急性リウマチ熱の発症率が評価されていない点が気になるが、高所得国においては5日間治療が代替となりうることを示した研究として評価できる。症状緩和までに要する時間は5日間投与群のほうが有意に短かったというのは興味深い結果であった。その理由として、1日4回投与というtime above MICを考慮した投与方法が有効性を高めた要因として考えられる。 残念ながら世界では標準治療薬であるペニシリンVは日本国内で発売されておらず、本研究の結果をそのまま日本の医療に当てはめることはできない。本邦ではA群溶連菌による咽頭炎に対してアモキシシリンを10日間経口投与することが推奨されている(JAID/JSC感染症治療ガイド2019)。当然ながら、本研究の結果をもってアモキシシリンの投与期間を5日間に短縮可能とは評価できない。

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第4回 疑義照会を恐れる薬剤師は「失格」

第4回 疑義照会を恐れる薬剤師は「失格」―医師との関わり方で注意している点はありますか?鈴木:医師の性格や関係性によって伝え方は異なりますが、ざっくばらんに話せる先生では、「抗菌薬のターゲットは何にしていますか?」ということから始まり、「それなら抗菌薬はこっちのほうがいいんじゃないですか? なぜなら~」と自分の意見を率直に伝えています。あまり関係性ができていない先生では、「こういう選択肢もあるんですがどう思いますか?」とお伺いを立てるようにしています。あと、顔のわからない関係で話すとうまくいかないので、挨拶に行ったり、抗菌薬の使い方の方針を聞きに行ったりして、知識共有してから疑義照会や処方提案をするようにしています。前医から引き継いだ処方をそのまま継続している医師も多いので、知識共有するのは大切だと思っています。笹川:今の若い子たちは、みんな真面目過ぎてポリファーマシーとかを印籠のように医師にかざして説得しようとしてトラブルになるっていうのはよく聞きますね。山﨑:ポリファーマシーの種々の判断基準は絶対的なものではないのですけどね。それは参考としつつ、患者情報を踏まえてどう考えるかということなのだろうとは思いますが。鈴木:個々の患者さんには当てはまらない判断基準に飛びついて、判断基準で推奨されていないからこの処方はダメだ、という薬剤師は何もわかっていないですよね。笹川:あと、薬剤師のよくない点は白か黒かで判断しようとするところ。灰色のときもあるっていうことを知っていてほしいですね。あいまいなのが嫌でやめる薬剤師もいるそうですが、そのあいまいさを受け入れて楽しむくらいでいいんじゃないでしょうか。山﨑:確かに、論文を読んでいくら調べてもわからないことはわからないんですよ。あいまいなことがあるということがわかるだけでもいいと思います。鈴木:あいまいなことが実は正解だったということもありますよね。そもそもポリファーマシーに行きつく前にワンステップあって、患者さんの基礎疾患などの基本情報を把握するのがベースと考えています。薬歴で患者さんの治療の流れや個別に抱えている問題が見えないままポリファーマシーの話をしても、医師からしたら患者の現病歴や既往歴をどこまで把握して意見してるの? なんの根拠があるの? っていう感じでしょう。基礎疾患などの基本情報を把握する力が必要です。笹川:すぐに薬のことにはいかずに、体の仕組み、生理学とか、解剖学とかから入るのも一手です。解剖学などは医師や看護師の共通言語ですが、薬剤師はその共通言語を知らないまま薬の話をするので医療者の中で浮いてしまうことがあります。医師向けや看護師向けの書籍はとても勉強になりますよ。共通言語を学べばコミュニケーションがうまくいきますので、そのうえで薬の話をするとよいと思います。山﨑:適切に提案できるのであれば、医師の診療報酬上のインセンティブもあるので、積極的に提案したほうがいいでしょうね。ただ、疑義照会に怒る医師に出会ったりして、怖くてできなくなるという話も聞きます。薬剤師の伝え方が悪かったのかもしれませんが、疑義照会が薬剤師の義務だと知らなかったという医師や疑義照会で助かったという経験の少ない医師にもお会いしたことがあります。そういう場合は医師も対応がきつくなるかもしれません。ただ、医師が怖くて疑義照会を避けるという薬剤師と会ったこともありますが、何かあったときに不利益を被るのは患者さんなので、そこは信念をもってやっていただけたらとも思いました。鈴木:患者さんを守らずに自分を守るっていうのはどうなんでしょうね。処方箋枚数とスピード調剤の薬剤師は淘汰される―疑義照会しない理由はほかにもありますか?笹川:私は調剤報酬にも問題があるのではないかと思います。できる薬剤師とできない薬剤師の報酬が同じっていうのは疑問です。できる薬剤師の評価っていうのは難しいので、かかりつけ薬剤師制度でカバーしようとしたのでしょうが、かかりつけに同意すると安くなるほうが良かったのではないかと思います。安いから同意するっていうのもあるかもしれませんが、待ってでもその薬剤師から指導を受けたいと思ってもらえるようになりたいんですよ。報酬が同じだとどうしてもスピード重視になりますよね。質よりも量・スピードを求め過ぎたのでは?山﨑:即座にそうなるというわけではないですが、アマゾンなどECサイトでの薬剤購入が普及したり、遠隔服薬指導や「調剤ハブ」(多店舗の調剤を集約して行うことができる薬局)などが現実化した場合に、スピード勝負だけでほかの要素でファンを獲得できていないと選ばれる理由がなくなってしまいます。笹川:みんな学校を卒業したときは意識が高かったはずです。なのに、置かれた環境がやりがいのある環境ではなかったので心が折れていくのかもしれません。―薬剤師ごとに評価が変わるシステムはできないのでしょうか?山﨑:システム畑の人と冗談交じりで話していたら、何らかの基準をもって良い服薬指導ができる薬剤師のデータが取れるのであれば、できる薬剤師にインセンティブを与える設計ができるのではないかという話題になったことがあります。MRの知人に聞くと、医師は患者さんが離れていかないように一定の競争をしている部分もあるとのことですが、薬剤師は頑張っても一定のパイの中で決まった報酬を得るという構造にあらがいづらいので、優秀な薬剤師が自然に評価され、能力の低い薬剤師は評価が低いという形になりにくい。なので、服薬指導の質やリピーター率などを数値化して、薬剤師の評価設計をしていくというのはアリかもしれません。鈴木:現状はさばいた処方箋の枚数で評価するしかないですからね。これだけ頑張っているのに、頑張っていない薬剤師や薬局と同じ扱いをされたくないですよ。山﨑:きちんと勉強してコミュニケーション能力も高い優秀な薬剤師から不満が出やすい状況は健全ではないですね。鈴木:たとえばの話ですが、重複投薬・相互作用等防止加算の40点は薬剤師の処方提案が評価される点数ですので差をつけられそうかなって思っています。残薬調整は誰でもできますが、この点数は、腎機能を評価して、投与量を調整・中止したり、新しい薬を提案したりするなどしっかりした知識が必要なものなので、もっと区分けしたり、報酬を高くしたりしてもいいと思います。提案した内容をレセプトに記入する必要があれば、それができるようになるために勉強もするでしょうし。いいことやっているのに、現状では残薬調整の30点と10点しか違わないんですよね。またまた感染症領域の話で申し訳ないですけど、患者さんの原因菌を想定した薬剤への処方提案をしてもただの日数調整と同じ点数というのは納得がいかないですよ。重複投薬・相互作用等防止加算は幅広く評価されますが、頑張っている薬剤師が評価される点数になったらいいなと思います。笹川:みんなが頑張っていることを学会などでも発信したら、知らない薬剤師にも広がっていきますし、どんどん知識やデータがたまれば厚生労働省に届く可能性はあると思います。そういう意味でも情報を発信することの重要性を感じます。―最後に若手薬剤師に向けてエールをお願いいたします。笹川:現場で患者さん、そしてその家族、医療者と一緒に悩みましょう。悩んだ数が、薬剤師としてのやりがいです。さあ、一緒に一歩踏み出しましょう。鈴木:目の前にいる患者さんにとってなくてはならない存在になって、患者さんの健康サポートのために惜しまず支援してみませんか? 薬剤師の仕事って、深掘りすればするほど楽しくこなすことができますよ。大学でやってきたことをさらにアップデートしてよりよい薬学的ケアを目指しましょう! 薬剤師のソコジカラを思う存分発揮して、一緒に頑張っていきましょう!山﨑:日々薬局の現場を支援する中で、薬局・薬剤師のポテンシャルや既得権益の枠を越えた職能の広がりを強く感じています。生き生きと働きながら患者さん、ひいては地域に貢献できる舞台はあります。一緒に頑張っていきましょう。

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第8回 必要な情報に効率よくアクセスする方法【外科医けいゆうの気になる話題】

第8回 必要な情報に効率よくアクセスする方法2019年9月14日に、単著『もう迷わない! 外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵』という本を発売しました。近年、外科医が減少傾向にあることがよく話題に上ります。確かに、外科を志望する医学生や研修医の先生を見かける機会も、最近は少なく感じます。そこで本書ではまず、外科の楽しさや魅力について存分に書きました。続いて、外科に興味を持っている医学生の方々のため、外科医の仕事がどのようなものかについて具体的に紹介しました。後半は、外科に限らずどの科の医師でも必要になる、論文執筆や学会発表のための具体的なノウハウや、業績の管理の仕方、スタッフや患者さんとのコミュニケーションの取り方などについて、詳しく解説しました。合間には、外科医として働く中で印象深かったエピソードをコラムとして挟み、全体を通して楽しく読めるような本に仕上がっています。ご興味がありましたら、ぜひ書店で手に取っていただければ幸いです。さて今回は、本書の中の15本のコラムから、研修医の先生向けに、お薦めの項を1つだけ転載します。「研修医ノートのすすめ」研修医のうちは新しい情報に次々に触れることになりますが、これを全てインプットし、次の日から効率よくアウトプットできる人はいません。そこで、できるだけ早いうちから「研修医ノート」を作ることをおすすめします。このノートは、国家試験の勉強の時に作るノートとは全く別物です。そもそも、試験勉強のために用意するノートは、試験本番に見ることを想定していません(そんなことをすればカンニングになってしまいます)。一方、研修医ノートは逆に、臨床現場で何度も確認し、診療に活用できる具体的な情報集です。試験では、丸暗記によって9割の正答率を誇る人は優秀という扱いですが、臨床現場では、全てを丸暗記していなくてもいい代わりに、10割の正答率でないと使い物になりません。つまり、「答えが何かを暗記している人」より「答えがどこに書いてあるかを知っている人」や「答えを即座に確認できるようきっちり準備している人」を目指す方が望ましいのです。よって、仕事のできる医師になるためには、「必要な情報に効率よくアクセスできる方法を確立すること」が大切です。そこで作るべきなのは、現場でアウトプットの頻度が高い情報をまとめたノートです。例えば、研修医が優先すべき例として挙げられるのは、抗菌薬の種類とスペクトラム、腎障害の程度に応じた用量調節一覧経腸栄養剤の種類と水分量・カロリーの一覧低K、低Na血症を中心とした電解質異常の補正方法一覧などです。これに加えて、自分自身が日常診療で身につけた知識を、「イベント-disposition(何をすべきか、検査・治療など)」を対応させて、オリジナルのノートを作るのがよいでしょう。これを繰り返すうちに、使う頻度の高い情報は暗記しようと思わなくても自然に暗記できるようになります。私の場合は、腎機能に応じた抗菌薬の用量調節を丸暗記できていないため、ポケットに忍ばせたノートを即座に確認するようにしています。すぐに確認できれば、じっくり考えたり、スマホを取り出して検索したりするよりは圧倒的に早く対応できます。なお、ノートは白衣のポケットに入るサイズがよいでしょう。B5サイズのノートでは持ち運ぶのが難しく、臨床現場で容易に参照することができないため、私はB6サイズを使っています。もちろん、今は便利なタブレットやスマホのアプリがありますので、そうした便利な電子機器を使うのもよいでしょう。

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第3回 論文を読むのは目の前の患者のため

第3回 論文を読むのは目の前の患者のため―どのような方法で知識を得ようとしていますか?山﨑:書籍を読んだり人に聞いたりいろいろなウェブサイトを見たりはしますが、基本は泥縄式です。患者応対してうまく説明できなかった事例をファイリングしては調べていたので、必要に迫られて論文にあたることも増えました。そこから関連情報をひも付けて知識を広げました。たとえば、診療ガイドラインの推奨で判断がつかないことは多いですし、そういうときにどう説明すればいいか考えて調べて自分なりにわかりやすい言葉に落とし込むことは心掛けていました。患者さんの疑問を解決する情報を提供できるはずなのに、知識不足でできず後悔した経験も勉強を後押ししました。鈴木:疑問があったときは、最初は書籍とかガイドラインで調べると思いますが、その患者さんが何にも当てはまらないときに文献をあたれると、最終的な裏付けが自分でできるようになれるのかな、って思います。山﨑:そうですね。文献を読んでいてよかったと思うのは、ふとした患者の疑問に回答できることが増えたことや薬のリスクやベネフィットの感覚値がついたこと、情報の限界を感じられたことですね。たとえば、患者さんからつらい副作用発現の連絡を受けたときに、その薬剤を中止したらその程度症状発現のリスクが高まるのか推論できれば提案が変わりますし、抗菌薬を1日2回服用と3回服用の効果の違いの根拠を知っているだけでも別の提案ができます。時にはわからないことをこういう理由でわからないと言えることも大切かと思います。たくさん調べて役に立たなかったことも多いですが、役立った瞬間は少なくはなかったと感じています。笹川:人の得意分野は、書く、読む、聞く、話すなどいろいろなものがあると思いますが、得意なところを重点的に伸ばしていけばいいと思っています。私は自分で論文にあたるのは苦手だったので、得意な人が調べてまとめてくれたコラムや記事などを読んで勉強しています。知識は深いほうがいいのでしょうが、やはり得意不得意があって全部の分野が得意になるのは難しいんですよね。実際の業務では広く全体的にカバーするのも重要だと思っています。鈴木:全分野は無理なので、まずは自分が関わる頻度の高い診療科や患者さんの分野を頑張って深くしていけばいいのではないでしょうか。いろいろなことに手を付けるのではなく、目の前にいる患者さんにどういう人が多いのかを考えるほうが効率がいいですし。山﨑:確かに、疑問について調べるきっかけはいつも患者さんからもらっていました。目の前に課題があるわけですから、そこから深堀りしていましたね。鈴木:論文を使うのはかなり応用編だと思いますが、週刊誌のような雑誌にたまに載る「飲んではいけない薬」リストについて聞かれたときは論文が役に立ちますよね。山﨑:別の根拠を示して、こういう理由であなたは飲んだほうがいいと説明できると患者さんに安心してもらえます。実名で発信して輝け!―薬剤師の情報発信についてどう思いますか?笹川:薬剤師のブログなどはとても参考になりますが、ペンネームで執筆されていることが多いです。私は実名で発信することが大切だと思っていて、名前を伏せているのはもったいないと思っています。実名を出すのってリスクありますか?山﨑:私は匿名でホームページを運営していましたが、実名のほうが信頼は得やすいのでベターだとは思います。実名で運営していた時期もあって、結果的に日に2,000~3,000のアクセスが来るようになり、頻繁に詳細な病態や検査値など個人情報を添付して病気の相談をしてくる方が出てきました。無視するのも気の毒で回答していたのですが、身が持たなくて実名で運営するのを休止しました。患者さんの本当の悩みに触れた瞬間でもあり、信頼をおいてくれたからこそ相談してくれたのだと思いますが、目の前の医療従事者ではなく見ず知らずの私にネット上で判断を仰ぐことの危険性を問題視していたというのもあります。鈴木:私は実名を出したらいいと思っています。コラムを掲載していると、知り合いの薬剤師とかから反応があったりして、刺激を与えられている気がします。自分でもできるんじゃないか、わからないことがあれば鈴木に聞けばいいんじゃないかって。みんなで情報共有していくという意味でも実名の意味はあると思います。所属している薬局で取り組んでいることもアピールしたいですし。そうすると、そこの薬局の薬剤師はみんなできているんだな、って思うじゃないですか。笹川:輪が広がっていくと先生自身にもほかの薬局にもいい影響がありそうですね。私は勉強会をよく行っていますが、始めたきっかけは薬剤師が全然勉強していないことにモヤモヤを感じていたからなんです。本を読まない、情報を得ようとしない薬剤師もいて、差が顕著でしたので。それなら、これだけ知っていれば服薬指導できるということを教えたかったんです。もともと教えるのが好きで教師になりたかったので、エンターテインメント性を持たせて面白くやるということを心掛けました。鈴木:自分も講習会で積極的に講義していますが、根底には教えていきたい、伝えていきたいという思いがあります。みんなで頑張っていこうよ、っていうメッセージを出すためにそういう機会を積極的にもらっています。笹川:自分が接することのできる患者さんは限られていますから、自分だけが知っていても仕方ないんですよ。もっと発信して広げていけば、薬剤師全体の底上げになると思っています。―次回は、医師との関わり方について伺います。

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州による敗血症治療のプロトコール導入は、成人敗血症の院内死亡の減少に寄与したか(解説:吉田敦氏)-1141

 12歳の男児が敗血症で死亡したことを受け、ニューヨーク州は2013年に「Rory’s Regulations」を定めた。この規則はすべての急性期病院に対し、敗血症の早期診断と治療開始に関するプロトコールを導入し(たとえば抗菌薬ならば3時間以内に開始)、診療にあたること、ならびにその順守に関して職員の教育を行うとともに、順守割合と臨床的転帰について報告を求めたものである。 本研究はプロトコール導入が実際に成人の院内死亡の減少に寄与したかを、本規則が定められていない対照4州と比較して明らかにしようとした。プライマリーアウトカムは30日院内死亡率で、ニューヨーク州では規則導入の前後で26.3%から22.0%であったのに対し、対照4州では該当期間の変化は22.0%が19.1%となっており、ニューヨーク州では患者・病院特性と規則導入前からの傾向を調整しても、対照州に比べその減少幅は有意に大きかった。ただしセカンダリーアウトカムでは対照州に比較し、ICU入室率の減少幅は差がなく、入院期間の短縮幅とC. difficile発症率の減少幅はやや大きく、CVカテーテル使用率の減少幅は少なかった。 本研究は509ヵ所の病院を含む、合計101万の敗血症入院を解析した非常に大規模な試験である。ニューヨーク州の敗血症死亡率はもともと対照州より高かったが、対照州と比較して、病院の特徴が異なり(100床以下の医療機関や、規模の小さなICUが多い一方、教育病院の割合が高いなど)、ICU入室率やCVカテーテル使用率も低かった。つまり対照州のほうが、もともと規模の大きな病院でICUに入室させやすく、CVカテーテル使用率も高かったといえるであろう。また本研究では患者・病院特性の調整が行われたとはいえ、ニューヨーク州ではほかに患者背景、重症度、合併症、受診までの時間や経緯、医療保険などに、複雑かつ多様な要因があることも否めない。したがってニューヨーク州独自の事情が強く影響している下での、敗血症死亡率の低下、ICU滞在期間短縮を目指した努力が行われた結果をみていると考えたほうがよいと思われる。 複雑かつ多様な要因が影響している中、規則による介入が現場の診療の向上に寄与したかどうか、本論文のようにポジティブに関連付けることには、議論があるかもしれない。ニューヨーク州でのプロトコールの順守状況については情報がなく、さらにアウトカム指標としては5個のみで介入の効果をみているに過ぎない。現場での向上のプロセスの詳細は含まれていないが、介入によって実際のプロセスが具体的にどう変わり、どのように定着したか、読み手としてはそこが知りたいところではないだろうか。現在プロトコール導入を行う州が増えているとのことであるが、各州で行われているプロセス改善を目的とした現場での状況について、詳細な報告がまとめられることに期待したい。

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急増する電子タバコ関連肺損傷の臨床像が明らかに/Lancet

 電子タバコまたはベイピング関連肺損傷(lung injury associated with e-cigarettes or vaping:EVALI)は、重度の肺損傷や、全身および消化器症状と関連する新たな疾患であり、重症度は多岐にわたること、多くが抗菌薬やステロイドで治療されているが、臨床的に改善しても異常が残存する患者が多いことが、多施設共同前向き観察コホート研究で示された。米国・Intermountain HealthcareのDenitza P. Blagev氏らが報告した。米国では2019年3月からEVALIの発生が急増し現在も報告が相次いでいるが、本疾患の原因、診断、治療および経過は明らかになっていなかった。著者は、「EVALIの臨床診断は、感染症や他の肺疾患とオーバーラップしているままで、原因、適切な治療および長期的アウトカムを理解するには本疾患を疑う高度な指標が必要である」と述べている。Lancet誌オンライン版2019年11月8日号掲載の報告。米国ユタ州の総合医療システムで、前向き観察研究を実施 研究グループは2019年6月27日~10月4日の期間で、米国ユタ州の総合医療システムIntermountain Healthcareにおいて確認されたEVALI患者全例のデータを収集した。 中央管理組織としてソルトレークシティーに拠点を置くTeleCritical Careに肺疾患専門医および救命救急医からなる委員会を設け、症例の検証と分析を行った。また、カルテの再評価とユタ州保健局が実施した患者面接から、患者の症状、治療および退院後2週間のデータを抽出し、短期追跡結果をまとめた。電子タバコ関連肺損傷では、呼吸器症状のみならず消化器症状も顕著 Intermountain Healthcareの13施設において確認されたEVALI患者は60例であった。 60例中、33例(55%)が集中治療室(ICU)に入室し、53例(88%)が全身症状、59例(98%)が呼吸器症状、54例(90%)が消化器症状を呈していた。 57例(95%)にステロイドが投与され、54例(90%)はオーバーラップした症状と診断の不確実性のために抗菌薬が投与されていた。 6例(10%)は、2週間以内にICUまたは病院に再入院となった。そのうち3例(50%)は電子タバコまたはベイピングを再開していた。 退院後2週間の追跡調査を行った26例において、全例で臨床症状が改善しX線検査でも急性所見の改善は認められたが、症例の多くが、X線検査(15例中10例、67%)および肺機能検査(9例中6例、67%)で異常の残存が確認された。 死亡は2例であった。2例ともEVALIが死因ではなかったが寄与因子と考えられた。 なお、TeleCritical Careの委員会は今回の調査結果を基に、EVALIの診断と治療のガイドライン案を作成し公表もしている。

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COPDの3成分配合吸入エアゾール薬「ビレーズトリエアロスフィア56吸入」【下平博士のDIノート】第37回

COPDの3成分配合吸入エアゾール薬「ビレーズトリエアロスフィア56吸入」今回は、COPD治療薬「ブデソニド/グリコピロニウム臭化物/ホルモテロールフマル酸塩水和物製剤(商品名:ビレーズトリエアロスフィア56吸入)」を紹介します。本剤は、吸入薬を複数使用してもコントロールが不十分なCOPD患者に対し、治療効果とアドヒアランス双方の改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫)の諸症状の緩解(吸入ステロイド薬、長時間作用性吸入抗コリン薬および長時間作用性吸入β2刺激薬の併用が必要な場合)の適応で、2019年6月18日に承認され、2019年9月4日より発売されています。<用法・用量>通常、成人には、1回2吸入(ブデソニドとして320μg、グリコピロニウムとして14.4μg、ホルモテロールフマル酸塩として9.6μg)を1日2回吸入投与します。<副作用>第III相試験(KRONOS試験、PT010007試験、PT010008試験)の併合成績において、本剤が投与された639例のうち、臨床検査値異常を含む副作用が126例(19.7%)において認められました。主な副作用は、発声障害(3.1%)、筋痙縮、口腔カンジダ症(各1.4%)、上気道感染(1.3%)などでした。なお、重大な副作用として、心房細動(0.2%)、重篤な血清カリウム値の低下(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、気管支を広げるとともに炎症を抑えることで、呼吸を楽にして身体の活動性を改善するCOPDの治療薬です。2.1日2回、1回2吸入を、毎日なるべく同じ時間帯に、よく振ってから吸入してください。3.声枯れや感染症を予防するため、吸入後は必ず数回うがいをしてください。4.吸入器の小窓には、20きざみでおおよその残り回数が示されています。小窓の中央に「0」が表示され、それ以上進まなくなったら使用を中止して、新しいものに交換してください。開封するときは、キャップを外し、よく振って1度空噴霧する、という一連の操作を4回繰り返してください。5.口の渇き、目のピントが合いにくい、尿が出にくい、動悸、手足の震えなどの症状が現れた場合は、すぐに受診してください。6.COPDの治療では禁煙が大切なので、薬物治療とともに禁煙を徹底しましょう。7.週1回、本体から薬剤の入った缶と吸入口のキャップを外してプラスチック部分(アクチュエーター)をぬるま湯で洗浄し、洗った後はよく乾かしてください。<Shimo's eyes>本剤は、吸入ステロイド薬(ICS)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)の3成分が配合されたCOPD治療薬です。3成分配合のCOPD治療薬として、フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ウメクリジニウム臭化物/ビランテロールトリフェニル酢酸塩ドライパウダーインヘラー(商品名:テリルジー100エリプタ)に続く2剤目となります。COPDの15~20%は喘息が合併していると見込まれているため、LAMAやLABAなどの気管支拡張薬だけでは症状のコントロールが難しい患者さんが少なくありません。本剤は、ICS/LABAやLAMA/LABAで治療していても症状が残存している患者さん、時折抗菌薬や経口ステロイド薬が必要となる患者さんなどで切り替えて使用することが想定されます。本剤はLAMA+LABA+ICSのトリプルセラピーを1剤で行うことができますが、3成分それぞれの薬剤に関する副作用には注意する必要があります。患者さんへ確認するポイントとしては、LAMAによる口渇、視調節障害、排尿困難、LABAによる不整脈、頭痛、手足の震え、ICSによる口腔カンジダ症などが挙げられます。本剤は、デバイスに世界で初めて「エアロスフィア」というpMDI(加圧噴霧式定量吸入器)が採用され、薬剤送達技術を駆使して調製された多孔性粒子が3種の薬剤を肺の末梢まで届けることが期待されています。pMDIなので、吸気力が低下している場合でも少ない負荷で吸入できますが、ボンベを押す力が弱い患者さんには吸入補助器具(プッシュサポーター)、ボンベを押すタイミングと吸入の同調が難しい患者さんにはスペーサー(エアロチャンバープラスなど)の使用を勧めましょう。COPD患者さんは、喫煙や加齢に伴う併存疾患の治療を並行していることが多く、アドヒアランスを向上させて治療を継続させることが重要です。COPD治療に、本剤のような3成分配合吸入薬を選択することで、患者さんの負担を増やさずに症状の改善およびアドヒアランスの向上を目指すことができるでしょう。

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製薬企業の“ギフト”が開業医の処方を左右/BMJ

 製薬企業から“ギフト”を受け取っていないフランスの一般開業医(GP)は、受け取っているGPと比べて、薬剤処方効率指標が良好で低コストの薬剤処方を行っていることが明らかにされた。フランス・レンヌ第1大学のBruno Goupil氏らが、製薬企業からの物品・金銭類提供と薬剤処方パターンとの関連性を評価する目的で、同国2つのデータベースを用いた後ろ向き研究の結果を報告した。世界保健機関(WHO)およびオランダに拠点を置く非営利組織のHealth Action International(HAI)による先行研究で、医療用医薬品のプロモーションが非合理的で高コストの薬剤処方と関連していることが示されており、フランスのGPが製薬企業から“ギフト”(物品、食事、交通費、宿泊等の提供)を受ける可能性があることから、研究グループはその実態と処方との関連を調べた。BMJ誌2019年11月5日号掲載の報告。フランスの2つのデータベースを用い、GP約4万1,000人について解析 研究グループは、国民健康保険システムで管理されている「National Health Data System」と「Transparency in Healthcare」の2つのフランスのデータベースを用いて解析した。 対象は、2016年において、5例以上の登録患者がいる民間医療機関(部門)のGP 4万1,257人で、医薬品・医療機器メーカーおよびほかの健康関連会社の報告に基づく“ギフト”の金銭価値に従って6つのグループに分類した。 主な評価項目は、診察(診療所または在宅)ごとの薬剤処方に対して国民健康保険から支払われた金額、および医師の特別手当と関連する実績を算出するために国民健康保険で使用される11項目の薬剤処方効率指標とした。統計解析は、医師および患者の特性を調整変数とし、有意閾値は0.001とした。“ギフト”を受け取っていない医師で低コストの薬剤処方頻度が増加 1回の診察で処方された薬剤の金額は、2013~16年にギフトを受け取っていなかったGP群(ギフトなし群)が、2016年にギフトを1回以上受け取ったGP群(ギフトあり群)と比べて有意に少なかった。2016年に1,000ユーロ以上のギフトを受け取ったGP群との比較では、ギフトなし群の処方金額は5.33ユーロ有意に少なかった(99.9%信頼区間[CI]:-6.99~-3.66、p<0.001)。 処方頻度も同様で、ジェネリックの抗菌薬(1,000ユーロ以上のギフトあり群との比較で2.17%[99.9%CI:1.47~2.88])、降圧薬(同4.24%[3.72~4.77])およびスタチン(同12.14%[11.03~13.26])の処方頻度はいずれも、ギフトなしGP群のほうが2013~2016年に1回以上ギフトを受け取ったGP群よりも有意に高かった(p<0.001)。 また、ギフトなし群は、2016年の報告で240ユーロ以上のギフトを受け取ったGP群と比較して、12週以上のベンゾジアゼピン系薬(240~999ユーロのギフトあり群との比較で-0.68%[99.9%CI:-1.13~-0.23])、血管拡張薬(1,000ユーロ以上のギフトあり群との比較で-0.15%[-0.28~-0.03])の処方頻度が有意に低かった(p<0.001)。さらに、2016年の報告で1,000ユーロ以上のギフトを受け取ったGP群と比較して、すべてのACE阻害薬およびサルタン系薬の処方頻度が有意に高かった(1.67%[0.62~2.71]、p<0.001)。 アスピリン、ジェネリックの抗うつ薬およびジェネリックのプロトンポンプ阻害薬の処方に関しては、有意差は確認されなかった。

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