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アジスロマイシン、非嚢胞性線維症性気管支拡張症の増悪を抑制:EMBRACE試験

 アジスロマイシン(商品名:ジスロマック)は、嚢胞性線維症を原因としない気管支拡張症におけるイベントベースの増悪の予防治療として有効なことが、ニュージーランド・Middlemore病院(マヌカウ市)のConroy Wong氏らが実施したEMBRACE試験で示唆された。気管支拡張症は好中球性の気道炎症、慢性的な細菌感染、繰り返す肺の病態の増悪で特徴づけられ、大量の喀痰を伴う重篤な咳嗽や進行性の肺機能低下、QOL低下をきたし、死亡率の上昇をもたらす可能性がある。アジスロマイシンは抗炎症作用および免疫調節作用を有するマクロライド系抗菌薬で、嚢胞性線維症の病態の増悪を抑制することが示されている。Lancet誌2012年8月18日号掲載の報告。気管支拡張症に対する効果をプラセボ対照無作為化試験で評価EMBRACE(Effectiveness of Macrolides in patients with BRonchiectasis using Azithromycin to Control Exacerbations)試験は、非嚢胞性線維症に起因する気管支拡張症の治療において、アジスロマイシンは増悪率を低減して肺機能を増強し、健康関連QOLを改善するとの仮説の検証を目的とする二重盲検プラセボ対照無作為化試験。2008年2月12日~2009年10月15日までに、ニュージーランドの3施設に、抗菌薬治療を要する増悪の既往歴があり、高解像度CT検査で気管支拡張症と診断された18歳以上の患者が登録された。これらの患者が、アジスロマイシン500mgあるいはプラセボを週3日(月、水、金曜日)、6ヵ月間投与する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、6ヵ月の治療期間中のイベントベースの増悪率、気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)のベースラインからの変化、St George呼吸器質問票(SGRQ:0~100点で表し値が低いほど良好、4点以上の変化で臨床的に有意と判定)総スコアの変化の複合エンドポイントとした。増悪率が有意に改善、FEV1、SGRQ総スコアは改善せず141例が登録され、アジスロマイシン群に71例、プラセボ群には70例が割り付けられた。治療期間中の増悪率はアジスロマイシン群が0.59/人と、プラセボ群の1.57/人に比べ有意に改善した(率比:0.38、95%信頼区間[CI]:0.26~0.54、p<0.0001)。拡張薬投与前FEV1は、アジスロマイシン群はベースラインから変化はなく、プラセボ群では0.04L低下したが、この差は有意ではなかった(群間差:0.04L、95%CI:-0.03~0.12、p=0.251)。さらに、SGRQ総スコアの変化についても、アジスロマイシン群は5.17点の低下、プラセボ群は1.92点の低下で、有意差は認めなかった(群間差:-3.25点、95%CI:-7.21~0.72、p=0.108)。著者は、「6ヵ月間のアジスロマイシン治療は、増悪率の低下に加え、初回増悪までの期間もプラセボ群に比し有意に延長し、これらの改善効果は治療終了後6ヵ月の時点でも継続していた。SGRQの症状関連項目の改善効果も確認された。それゆえ、アジスロマイシンは1回以上の増悪歴のある非嚢胞性線維症性気管支拡張症における増悪の予防治療の新たな選択肢である」と結論し、「長期治療の場合は、マクロライド系抗菌薬への耐性の発現を十分に考慮して患者を選択すべきである」と指摘している。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(6)〕 女性の急性腎盂腎炎、抗菌薬の7日間投与が有効

急性腎盂腎炎の治療は、原因菌に感受性のある抗生物質を10~14日間投与するプロトコールが、本邦で長らく用いられてきた方法であろう。第一選択の薬剤は培養検査の結果が判明するまで、βラクタムあるいはニューキノロンが選択されるが、院内感染症対策部門の意向も取り入れて選ばれることと思う。 女性の単純性腎盂腎炎に関する診療ガイドラインには、Infectious Disease Society of AmericaおよびEuropean Society for Microbiology and Infectious Diseaseによる2010年版ガイドラインがある1)。これによると、フルオロキノロン耐性菌検出率が10%を超えない地域で入院の必要がない症例に対しては、シプロフロキサシン(500mg ×2回/日)を7日間投与というプロトコールが推奨されている。ただしその根拠となる研究は、シプロフロキサシン7日間とST合剤14日間との比較であり、対象症例は平均25歳、血液培養陽性症例は3%と、若年の軽症患者が主体であった2)。本研究はシプロフロキサシンの7日間と14日間投与との比較、しかも中高年症例(平均年齢46歳)、血液培養陽性症例27%と、ある程度対照症例に幅をもたせた研究であったが、7日間投与は14日間投与に劣らない結果となった。治療期間の短縮は患者さんにとって福音だし、医療経済的にもメリットがある。ただし、7日間投与の優良性はほかの抗菌薬にはかならずしも当てはまらないとしている。 この文章を執筆中、1週間程度の急性腎盂腎炎の治療を受け改善したのち、再発して筆者の外来を訪れた患者さんを拝見した。関節リウマチで少量ステロイド投与中の方だった。 今回はしっかり14日間の治療を行い、元気に退院された。シプロフロキサシンではなかったが、discussionの内容に合致していたので印象に残っている。

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女性の急性腎盂腎炎、抗菌薬の7日間投与が有効

 急性腎盂腎炎の女性患者に対するシプロフロキサシン(商品名:シプロキサンなど)の7日間投与は有効かつ安全な治療法であることが、スウェーデン・Sahlgrenska大学病院のTorsten Sandberg氏らの検討で示された。尿路感染症の最大の原因は腸内細菌の抗菌薬に対する耐性化であり、対策としては投与期間の短縮など、抗菌薬の消費量の抑制が重要だという。急性腎盂腎炎は成人女性に高頻度にみられる感染症だが、その治療法に関する対照比較試験は少なく、抗菌薬治療の至適投与期間は確立されていない。Lancet誌2012年8月4日号(オンライン版2012年6月21日号)掲載の報告。至適投与期間を前向き無作為化非劣性試験で検討研究グループは、急性腎盂腎炎の女性患者に対するシプロフロキサシン治療における7日間投与と14日間投与の有効性をプロスペクティブに比較するプラセボ対照無作為化非劣性試験を実施した。対象は、スウェーデンの21の感染症医療施設で急性腎盂腎炎と推定診断された18歳以上の妊娠していない女性であった。これらの患者が、シプロフロキサシン(500mg×2回/日)を7日間投与する群あるいは14日間投与する群に無作為に割り付けられた。最初の1週間は非盲検下に全例に同様の治療が行われ、2週目は二重盲検下にシプロフロキサシン(500mg×2回/日)あるいはプラセボが継続投与された。患者、介護者、担当医、試験運営センター職員には治療割り付け情報がマスクされた。主要評価項目は治療終了後の短期的(10~14日)な臨床治癒率、副次的評価項目は長期的(42~63日)な累積治癒率とし、per-protocol解析を行った。治癒は、臨床的かつ細菌学的な治癒が達成された場合と定義した。短期的臨床治癒率:97% vs 96%、長期的累積治癒率:93% vs 93%2006年2月1日~2008年12月31日までに248例登録され、7日間投与群に126例が、14日間投与群には122例が割り付けられた。それぞれ73例(平均年齢46歳、27~62歳)、83例(同:41歳、23~58歳)が解析の対象となった。短期的臨床治癒率は、7日間投与群が97%(71/73例)、14日間投与群は96%(80/83例)で、短期投与の長期投与に対する非劣性が確認された(群間差:-0.9%、95%信頼区間:-6.5~4.8、非劣性検定:p=0.004)。長期的累積治癒率は両群とも93%(7日間投与群:68/73例、14日間投与群:78/84例)で、これも同様の非劣性が示された(群間差:-0.3%、95%信頼区間:-7.4~7.2、非劣性検定:p=0.015)。両群とも忍容性は良好であった。7日間投与群の1例が筋肉痛で治療を中止し、14日間投与群ではそう痒性発疹による治療中止が1例認められた。最初の1週間の治療後にシプロフロキサシン関連の有害事象を発現した患者は、7日間投与群が5%(4/86例)、14日間投与群は6%(6/93例)だった。粘膜カンジダ感染症は7日間投与群ではみられなかったが、14日間投与群では5例に認めた(p=0.036)。著者は、「高齢女性や比較的重篤な病態の女性を含む急性腎盂腎炎患者において、シプロフロキサシンの7日間投与は有効かつ安全な治療法であることが示された」と結論し、「薬剤耐性が増加傾向にある現在、短期的抗菌薬療法は好ましい治療法といえよう」と指摘している。

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相双地区に研修医指定病院を―被災地チーム医療のなかでの若き主人公―

相馬中央病院 副院長小柴 貴明2012年7月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。相馬中央病院へ、総胆管結石から急性膵炎となった初老の女性患者が受診された。私は、副院長の立場から、入院絶食、急性膵炎の治療の必要性を患者さんに説明した。しかし、患者さんは入院を激しく拒否した。「入院するのは、嫌。帰ります。」。当院の院長は、地元は、もとより交通の便の悪い相馬市へ遠方から患者さんが受診に来られるほどの、一級の消化器内科・内視鏡医。その院長と、私の説得で患者さんは、しぶしぶ入院した。病棟では、患者さんは険しい表情。コミュニケーションの難しさを感じていた。ところが、抗生剤、酵素阻害剤で血中アミラーゼも下がりだしたころ、突然に患者さんの表情に笑みが浮かんだ。私は、ベッドサイドに腰をかけ、患者さんにこう語りかけた。「私たちの治療を疑問なく、受けてもらえていますか?」 お返事は、「先生方にすべて、お任せします。」患者さんの心は私に開かれた。「私は、看護師をしていたので、人の死を見てきました。だから、病気が怖かったのです。急性膵炎と聞いたとき、恐怖感が先に立ち、入院するのが嫌でした。」この患者さんに、本当に心を開かせたのは、千葉大を卒業して一年目の河野悠介医師、そうして、病棟の看護師たち。患者さんは、続けた。「河野先生、看護師さんたち、とりわけ卒業して一年目の武内裕美さんは、食べられない私の辛さを的確に感じ取り、とても丁寧な言葉で、心を和ませ、不安を取り除いてくれました。院長先生は、とても優れた消化器・内視鏡医。安心して、治療を任せてほしいと説明してくれました。」院長のみごとな内視鏡的乳頭括約筋切開術により、総胆管結石は取り除かれた。私の人生観を一変させられる瞬間であった。‘臨床経験’という言葉がある。臨床医は、看護師は、経験が長ければ、それだけ、良い医者、看護師になれるか?そんなことはない。病院でいわゆる新米とみなされる一年目の河野医師、武内看護師。この二人が、いなければ、この患者さんは、内視鏡治療を受けなかったかもしれない。患者さんから、多くのことを学び、少しでも早く、熟練した医療スタッフになり、少しでも多くの患者さんのために良い仕事をしたい。そのためには、まず、患者さんの気持ちを十分に理解して、安心を与え、丁寧に状態を説明する。この二人の、ひたむきな患者さんへの思いは、医学部を卒業して20年の私にすら、できなかったことを可能にしたのである。医療は、チームワーク。その主人公は、河野医師、武内看護師であった。チーム医療の大きな役割を担う若手医師と若手看護師なしに、私たちの医療は成り立たない。被災地病院へ、少しでも多くの若手医師、看護師が関心を持ち、飛び込んで来てほしい。そのために、ぜひとも、研修医指定病院が必要である。

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教育講演「分子標的薬の現状と展望―副作用対策を含めて―」

座長 清原 祥夫氏 (静岡がんセンター 皮膚科)中川 秀己氏(東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座)ビスフォスフォネートの抗腫瘍効果についてはいまだ賛否両論がある。現在までにいくつかの臨床試験の結果が報告されており、システマティックレビューとメタ分析が行われた。ここでは、主にチロシンキナーゼ阻害薬による皮膚症状の特徴と対処法、抗体医薬使用時の注意すべき副作用について前編、後編に分けてレポートする。皮膚科医とチロシンキナーゼ阻害薬・抗体医薬の関わりとは?本教育講演では、まず、自治医科大学皮膚科学教室 大槻マミ太郎氏が分子標的薬の概要について講演を行った。初めに、大槻氏は、今後、シェアを確実に伸ばしていく薬剤として低分子のチロシンキナーゼ阻害薬や高分子の抗体医薬などを挙げ、これらの薬剤がターゲットを絞り込む分子特異的治療の両輪となっていると述べた。キナーゼ阻害薬は主に抗がん剤として用いられており、皮膚科領域でも、悪性黒色腫などに対する開発に期待が高まっている一方、現時点では、その副作用として高頻度に発現する皮膚症状とその対処法に注目が集まっている。また、抗体医薬は免疫疾患のQOL改善に貢献度が高く、皮膚科では乾癬治療薬としてTNFαやIL-12、IL-23を標的とした生物学的製剤に期待が寄せられているが、ほかの適応疾患における使用により、乾癬型の薬疹の発現が報告されており、その対処も議論されている。このことを踏まえ、乾癬の治療に関しては、新しい分子標的薬は標的がピンポイントであるため、副作用も絞り込まれると期待されているが、特定の経路のみ抑制すると別の経路が活性化される可能性があり、未知なる「逆説的副作用」が生じる可能性がある。一方で、シクロスポリンなど作用点は多岐にわたるがさまざまな経路を幅広く抑制しうる薬剤は、副作用も経験的に熟知されており、古典的であるがゆえに、使い勝手の良い薬剤ともいえる、と大槻氏は述べた。EGFR阻害薬の皮膚症状と対処法:主にざ瘡様発疹について滋賀医科大学皮膚科学講座 藤本徳毅氏はEGFR(上皮増殖因子受容体)阻害薬による皮膚症状と対処法について、考察を述べた。EGFR阻害薬には、ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)やエルロチニブ(同:タルセバ)などのチロシンキナーゼ阻害薬と、セツキシマブ(同:アービタックス)やパニツムマブ(同:ベクティビックス)などのモノクローナル抗体があり、非小細胞肺がんや大腸がん、膵がんなどに使用されている。これらの薬剤は、EGFRシグナルを阻害することにより、腫瘍の増殖を抑制し、原疾患への効果を発揮する。一方でEGFRは正常皮膚の表皮基底細胞や外毛根鞘細胞などにも発現することがわかっており、EGFR阻害により、活性化EGFRが減少し、ケラチノサイトの角化異常、角質の菲薄化、角栓の形成が亢進することで高頻度で皮膚障害が生じると言われている。EGFR阻害薬の皮膚症状としては、主にざ瘡様発疹や乾皮症、爪囲炎などが多く、稀なものとしては脱毛性病変などが挙げられる。これら皮膚症状は、重症度が高いほど、原疾患に対するEGFR阻害薬の有効性が高い、つまり生存期間が長いことが示されており、治療効果をはかる指標となる可能性も示唆されている。ざ瘡様発疹の対処法とは?続いて、それぞれの皮膚障害の特徴や対処法について言及した。ざ瘡様発疹はEGFR阻害薬投与後、数日で発現し、4~6週でピークを迎え、6~8週で軽快するケースが多い。また、顔面や体幹に好発し、掻痒や疼痛を伴うが面疱は認められず、大半が無菌性であると言われている。藤本氏は、ざ瘡様発疹は高頻度に発現することがわかっているが、チロシンキナーゼ阻害薬よりもモノクローナル抗体のほうが重症な皮疹が出る印象がある、とつけ加えた。重症度については、日本臨床腫瘍研究グループによって公表されている「有害事象共通用語規準ver4.0 日本語訳JCOG版」(CTCAE v4.0 - JCOG)を用いるのが一般的である。ここでは、体表面積と社会的要素を中心に5段階のGradeに分類されている。ほかにも、各製品の適正使用ガイド等に、掻痒、疼痛の有無によるGradeの目安や発疹出現時の用量調節の基準などが掲載されており、参考にできるとした。対処法については、基本的に、皮膚症状による薬剤の休薬や減量は避けたいとしながら、確立していないものの経験的に実施されているいくつかの治療法について紹介した。ざ瘡様発疹の場合、炎症性ざ瘡の治療に準じて、外用抗菌薬が用いられる。また、局所療法の1つとして、ステロイド外用薬が使用されており、藤本氏は、顔面については、Grade2の場合はstrong class、Grade3でvery strong classを使用すると述べた。しかし、これまでの国内外の文献を見てみると、その評価は一定していないことにも触れ、ステロイド外用薬は即効性はあるが、上手に使いこなすことが重要であると強調した。さらに、Grade2以上または細菌感染合併例には、テトラサイクリン系抗菌薬内服(とくにミノサイクリン)が有効であることも述べた。ミノサイクリンに関しては、海外から、「6週間程度の服用を推奨する」、「皮膚症状の予防効果がある」などの報告がある一方で、「そのエビデンスレベルは不明」とする報告もあるとした。ほかにも、免疫抑制剤の外用薬を使用し、有効性が認められた報告やアダパレンゲルについても言及したが、いずれも一定の評価は得られていないとした。その他の副作用への対処法は?乾皮症は4~35%程度の発現頻度であり、EGFR阻害薬投与後、1~2ヵ月で症状が発現することが多い。治療としては、まずはヘパリン類似物質やワセリン、尿素製剤外用などによって保湿を行い、効果が得られない場合は、ステロイド外用薬を併用する。この症状に関しては、保湿による予防が重要である、と述べた。また、爪囲炎は6~12%程度の発現頻度であり、薬剤投与後2~4ヵ月くらいから見られる症状である。基本的には、浸出液が見られる場合、洗浄、クーリング、テーピング、保湿剤等による処置を行うが、発赤や腫脹が見られる場合には、初期から、very strong~strong classのステロイド外用薬を積極的に用いることが重要である。そのほか、細菌感染合併例には短期間のミノサイクリン内服、さらに外科的処置として部分抜爪や人口爪も考慮されるとした。毛髪異常に関しては、薬剤投与開始後2、3ヵ月で見られることが多いが、頻度は不明であり、中にはまつ毛や眉毛が伸びる症例も見られる。基本的には、EGFR阻害薬を中止しないことには改善しないが、患者さんからの訴えも多くはないため、中止・休薬するケースは少ないと述べた。このようなEGFR阻害薬による皮膚症状では、予防が重要であると言われている。スキンケアの指導は、清潔、保湿、刺激からの保護を基本とし、たとえば、「保湿剤はこすらずに、手のひらでおさえて塗る(スタンプ式塗布)」「外出時は日焼け止めを使用する」「爪は長く伸ばしてまっすぐ切る」などこまめな指導が必要となってくる。藤本氏は、これらスキンケアの方法を患者にわかりやすく説明し、薬剤の写真が入った説明書を配布するなどして、皮膚症状が出ても患者があわてずにすむように指導を行うことも重要である強調し、講演を締めくくった。

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亜鉛追加、乳児の重症細菌感染症に有効

重症細菌感染症が疑われる生後7~120日の乳児に対し、標準抗菌薬治療の補助療法として亜鉛を追加投与すると、治療不成功リスクが低減する可能性があることが、全インド医科学研究所(AIIMS)のShinjini Bhatnagar氏らの検討で明らかとなった。重症細菌感染症は開発途上国の乳児期早期の主要な死因である。標準的な抗菌薬治療に安価で入手しやすい介入法を追加することで、乳児死亡率の抑制が可能と考えられている。Lancet誌2012年6月2日号(オンライン版2012年3月31日号)掲載の報告。亜鉛追加の有効性をプラセボ対照無作為化試験で評価研究グループは、重症細菌感染症の可能性がある乳児に対する抗菌薬治療の補助療法としての亜鉛の有効性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施した。2005年7月6日~2008年12月3日まで、インド・ニューデリー市の3つの病院に、重症細菌感染症が疑われる生後7~120日の乳児が登録された。これらの患児が、登録時の低体重や下痢の有無で層別化した上で、標準抗菌薬治療に加えて亜鉛10mgあるいはプラセボを毎日経口投与する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は治療不成功率(割り付けから7日以内の抗菌薬の変更を要する病態、21日以内の集中治療[人工呼吸器装着もしくは血管作動薬投与]を要する病態あるいは死亡)とした。治療不成功率:10% vs 17%352例が亜鉛追加群に、348例がプラセボ群に割り付けられ、それぞれ332例、323例が評価可能だった。治療不成功率は、プラセボ群の17%(55/323例)に対し、亜鉛追加群は10%(34/332例)と有意に少なかった[相対リスク低下率:40%、95%信頼区間(CI):10~60%、p=0.0113、絶対リスク低下率:6.8%、95%CI:1.5~12.0、p=0.0111)。治療不成功を1例回避するのに要する治療例数は15例(95%CI:8~67)であった。死亡例は亜鉛追加群が10例で、プラセボ群は17例と、有意な差はなかったものの亜鉛追加群で低下する傾向を認めた(相対リスク:0.57、0.27~1.23、p=0.15)。著者は、「生後60日までの乳児に限ってもベネフィットが確認された。回復、体重増加、完全経口摂食までの期間には影響はなかった。亜鉛は、標準抗菌薬治療の補助療法として、重症細菌感染症が疑われる生後7~120日の乳児の治療不成功リスクを低減する可能性がある」と結論し、「亜鉛はすでに一般的に使用可能で、多くの低~中所得国で急性下痢の治療薬として市販されており、重症細菌感染疑いの乳児への介入に使用しても医療コストの増分はわずかだ」と指摘している。

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抗菌薬と心血管死リスクとの関連

抗菌薬と心血管死リスクとの関連について、米国・ヴァンダービルト医科大学のWayne A. Ray氏らによる検討の結果、治療1~5日目において、マクロライド系のアジスロマイシン(商品名:ジスロマック)使用患者は、ニューキノロン系のシプロフロキサシン(商品名:シプロキサンほか)より有意に増加したがレボフロキサシン(商品名:クラビットほか)とは有意差は認められなかったことが明らかにされた。Ray氏らは「5日間の治療中、アジスロマイシン服用者の心血管死亡の絶対数増加はわずかであるが、基線での心血管疾患リスクが高い患者では顕著に増加した」と結論している。NEJM誌2012年5月17日号掲載報告より。テネシー州のメディケイドコホートを対象に検討研究グループは、薬剤の心臓に与える短期的影響に関連した死亡リスクの上昇を検出するようデザインされた、テネシー州のメディケイドコホートを対象に調査を行った。コホートは、心血管系以外の重篤な疾患で入院した患者、および入院中-入院直後の人・時間を除外した1992~2006年の間のアジスロマイシン服用群34万7,795処方と、傾向スコアマッチングした対照群として、抗菌薬非服用群139万1,180例(対照期間中マッチング例)、ペニシリン系のアモキシシリン(商品名:サワシリンほか)服用群134万8,672処方、シプロフロキサシン服用群26万4,626処方とレボフロキサシン服用群19万3,906処方が含まれた。主要エンドポイントは、心血管死亡と全死因死亡とした。絶対数増加はわずか、心血管疾患リスクが最も高い群で顕著に増加結果、5日間の治療中、アジスロマイシン服用群は、抗菌薬非服用群と比べて、心血管死亡リスクの上昇(ハザード比:2.88、95%信頼区間:1.79~4.63、P<0.001)、全死因死亡リスクの上昇(同:1.85、1.25~2.75、P=0.002)が認められた。同一期間中に、アモキシシリン服用群の死亡リスクでは上昇が認められなかった。アモキシシリン群と比べてアジスロマイシン群は、心血管死亡(同:2.49、1.38~4.50、P=0.002)と全死因死亡(同:2.02、1.24~3.30、P=0.005)のリスク上昇が認められ、100万治療当たり心血管死は約47件増加すると推定された。一方で、心血管疾患リスクスコア別にみると、最も高い十分位群(スコア区分1~5、6~9、10のうちのスコア10該当群)での推定値が約245件増加と最も顕著であった。スコア1~9では9件増加、6~9では45件増加であった。(朝田哲明:医療ライター)

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カルバペネム系抗生物質注射製剤「フィニバックス」 化膿性髄膜炎の効能・効果などの承認取得

 塩野義製薬は25日、カルバペネム系抗生物質注射製剤「フィニバックス点滴静注用0.25g、同0.5g、フィニバックスキット点滴静注用0.25g(一般名:ドリペネム水和物)」について、化膿性髄膜炎の効能・効果及び小児に対する用法・用量の承認を取得したと発表した。フィニバックスは緑膿菌に対しても強い抗菌力 フィニバックスは、同社で創製されたカルバペネム系抗生物質注射製剤で、グラム陽性菌からグラム陰性菌、好気性菌から嫌気性菌に対し強力かつ幅広い抗菌スペクトルを有し、特に、重症・難治性感染症の原因菌として治療上問題となっている緑膿菌に対しても強い抗菌力を示すことから、中等症から重症の各科領域感染症に有用性の高い薬剤として使用されている。日本国内では、0.25gバイアルの「フィニバックス点滴静注用0.25g」及び利便性・無菌性・確実性に優れた「フィニバックスキット点滴静注用0.25g」(注射用抗生物質とその溶解液のキット製品)に加え、昨年4月の高用量(1日最大3g)の用法・用量の承認取得を踏まえ、2011年11月より0.5gバイアルの「フィニバックス点滴静注用0.5g」を販売されている。

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単純性急性虫垂炎、一次治療の抗菌薬投与で合併症リスク3~4割低減

単純性急性虫垂炎への一次治療には、抗菌薬投与のほうが切除術に比べ、合併症リスクは3~4割低減することがあきらかにされた。英国・ノッティンガム大学病院のKrishna K Varadhan氏らによる、4つの無作為化比較試験の被験者900人を対象にしたメタ解析の結果で、BMJ誌2012年5月5日号(オンライン版2012年4月5日号)で発表した。合併症、治療有効性や入院期間、複雑性虫垂炎などを比較同研究グループは、4つの無作為化比較試験に参加した単純性急性虫垂炎の患者、計900人について、一次治療としての抗菌薬投与と虫垂切除術の治療アウトカムについて、メタ解析で比較した。被験者のうち、抗菌薬投与を受けたのは470人、虫垂切除を行ったのは430人だった。主要アウトカムは、合併症発症率とし、副次アウトカムは、治療有効性、入院期間、複雑性虫垂炎と再入院とした。抗菌薬治療群の合併症リスク31~39%減、治療成功率は63%その結果、抗菌薬治療群は虫垂切除群に比べ、合併症発症リスクが31%低かった(リスク比:0.69、95%信頼区間:0.54~0.89、p=0.004)。抗菌薬投与群から虫垂切除群へ移行した患者を除いて2次分析を行ったところ、抗菌薬治療群は虫垂切除術群に比べ、合併症発症リスクは39%低かった(リスク比:0.61、同:0.40~0.92、p=0.02)。抗菌薬治療群の治療成功率は、63%(438人中277人)だった。同群20%が症状再発のため再入院し虫垂切除を行ったが、そのうち穿孔性虫垂炎が認められたのは9人、壊疽性虫垂炎は4人だった。副次アウトカムの、治療有効性、入院期間、複雑性虫垂炎発症リスクについては、両群で有意差はなかった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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O104:H4へのアジスロマイシン投与、排菌期間を短縮

腸管凝集性志賀毒素産生大腸菌(STEC O104:H4)の感染者に対し、アジスロマイシン(商品名:ジスロマック)を投与することで、排菌期間を短縮できることが示された。ドイツ・Schleswig-Holstein大学病院のMartin Nitschke氏らが、65人の感染者について行った試験で明らかにしたもので、JAMA誌2012年3月14日号で発表した。STEC感染への抗菌薬治療は、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症リスクを増大する可能性があるとして、あまり行われていないが、一方で、腸管凝集性大腸菌への抗菌薬投与は広く行われている。65人を約40日追跡研究グループは、2011年5月15~7月26日の間に、ドイツ・ルベックにあるセンター病院単施設で、STEC O104:H4に感染した65人について、アジスロマイシン投与の有無と、排菌期間について追跡調査を行った。被験者の中には、HUSを発症している人も、していない人も含まれた。発症後の追跡期間の平均値は、39.3日だった。主要アウトカムは、STEC O104:H4の保菌期間とアジスロマイシン投与の関係だった。長期保菌者発生、非投与群81%に対し、アジスロマイシン群4.5%被験者のうち、経口アジスロマイシンを投与したのは22人、投与しなかったのは43人だった。結果、28日超の長期STEC保菌者は、アジスロマイシン群が22人中1人(4.5%、95%信頼区間:0~13.3)だったのに対し、非投与群は43人中35人(81.4%、同:69.8~93.0)と、有意に高率だった(p<0.001)。アジスロマイシン群全員が、同服用終了後に、3回以上の便検査でSTEC陰性が得られ、再発は認められなかった。また、非投与群で長期STEC保菌者のうち15人について、アジスロマイシンを3日投与したところ、便検査でSTEC陰性が得られた。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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小児重症肺炎、地域の女性医療ワーカーによる診断と抗菌薬投与が有効

パキスタン農村部地域の女性医療ワーカー(LHW)は、小児重症肺炎の自宅での診断および治療において、十分な役割を果たし得ることが、パキスタン・Aga Khan大学のSajid Soofi氏らの調査で示された。肺炎は世界的に5歳未満の小児の主要な罹病および死亡の原因である。パキスタンでは、肺炎による死亡率は都市部に比べ医療施設が少ない農村部で高く、自宅で死亡する患児が多いという。Lancet誌2012年2月25日号(オンライン版2012年1月27日号)掲載の報告。女性医療ワーカーによる重症肺炎管理の有用性を評価研究グループは、重症肺炎の管理において、地域の医療従事者による経口抗菌薬投与が小児の自宅での死亡率の抑制に有効か否かを検証するために、パキスタン・シンド州の農村地域であるMatiari地区でクラスター無作為化試験を実施した。地域の女性医療ワーカー(LHW)が、肺炎(WHO定義)が疑われる介入群の小児のスクリーニングを行い、重症肺炎と診断した小児には自宅でアモキシシリンシロップ(90mg/kg、1日2回;商品名:クラバモックス)を5日間経口投与した。対照群の小児には、コトリモキサゾール(ST合剤)を1回経口投与したうえで、近隣の医療施設に入院させて抗菌薬を静注投与した。両群ともに、第2、3、6、14日目にLHWが小児の自宅を訪問してフォローアップを行った。主要評価項目は、登録後6日目までに発生した治療不成功とした。18の地区(クラスター)を介入群あるいは対照群に無作為に割り付けた。治療不成功率:介入群8%、対照群13%2008年2月13日~2010年3月15日までに、生後2~59ヵ月の小児が登録された。介入群は2,341例(年齢中央値13ヵ月、男児56%)が、対照群は2,069例(同:10ヵ月、55%)が解析の対象となった。治療不成功率は、介入群が8%(187/2,341例)、対照群は13%(273/2,069例)だった。調整済みリスク差は-5.2%(95%信頼区間:-13.7~3.3%)であった。第6日目までに2例が死亡し、第7~14日の間に1例が死亡した。重篤な有害事象は確認されなかった。著者は、「パキスタン農村部の小児重症肺炎の自宅での診断および治療において、地域のLHWは十分な役割を果たすことができた」と結論づけ、「この戦略は、医療施設への紹介が困難な環境にある重症肺炎患児に対し有用であり、小児肺炎の発見や管理の鍵となると考えられる」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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急性副鼻腔炎に対する抗菌薬治療、プラセボとの比較で症状改善みられず

急性副鼻腔炎に対するアモキシシリン(商品名:サワシリンほか)10日間投与の効果を、プラセボとの比較で検討した無作為化試験の結果、投与開始3日後、10日後での症状改善は認められなかったことが報告された。ただし7日後ではアモキシシリン群で有意な改善が認められたという。急性副鼻腔炎への抗菌薬投与に関するエビデンスは乏しいものの、医療現場では広く投与が行われている。本報告は、米国・ワシントン大学総合医科学部門のJane M. Garbutt氏らが、約170人について行った無作為化プラセボ対照試験の結果で、JAMA誌2012年2月15日号で発表した。アモキシシリン1,500mg/日を10日間投与、3、7、10、28日時点のアウトカムを評価研究グループは、2006年11月1日~2009年5月1日にかけて、米国ミズーリ州10ヵ所の医療機関で治療を受けた、合併症のない急性副鼻腔炎の成人166人(男性36%)について試験を行った。被験者を無作為に二群に分け、一方にはアモキシシリン1,500mg/日(1日3回投与、85人、平均年齢32歳)を、もう一方にはプラセボを(81人、同31歳)、それぞれ10日間投与した。被験者には、その他に、痛みや発熱、咳、鼻づまりの症状を抑える薬が必要に応じて5~7日間投与された。対症療法は92%(アモキシシリン群94%、プラセボ群90%、p=0.34)。主要アウトカムは、副鼻腔アウトカム尺度16により測定した生活の質(QOL)だった。副次アウトカムは、患者の後ろ向き自己評価による、症状や機能上の変化、再発や治療に対する満足度、副作用などだった。アウトカムの評価は、治療開始後3、7、10、28日後に、電話インタビューにより行われた。治療開始7日後のみで、アモキシシリン群の症状が有意に改善その結果、副鼻腔アウトカム尺度16の変化の平均値は、治療開始3日後でアモキシシリン群が-0.59に対し、プラセボ群は-0.54(群間差:0.03、95%信頼区間:-0.12~0.19)、10日後では同群間差0.01(同:-0.13~0.15)と、いずれも有意差はなかった。ただし、治療開始7日後の評価では、アモキシシリン群で改善幅が有意に大きく、群間差は0.19(同:0.024~0.35)だった。症状が改善したと答えた人の割合も、治療開始3日後がアモキシシリン群37%、プラセボ群34%(p=0.67)、同10日後がそれぞれ78%、80%(p=0.71)と、いずれの時点でも両群は同等だった。一方、治療開始7日後では、アモキシシリン群74%に対しプラセボ群が56%と、アモキシシリン群で有意に高率だった(p=0.02)。その他副次アウトカムについて、両群の差は認められなかった。重篤な有害事象は発生がなかった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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プライマリ・ケア医の抗菌薬使用減に有効な多面的教育プログラムが開発

英国・カーディフ大学プライマリ・ケア部門教授のChristopher C Butler氏らは、プライマリ・ケアでの抗菌薬使用の減少を目的とした多面的教育プログラム「STAR」を開発、臨床実践ベースの無作為化対照試験の結果、その使用減少が認められ、その後の入院や再受診、コストの有意な増大は認められなかったことが報告された。プライマリ・ケアでの抗菌薬は、有益性がほとんどないことが立証されているにもかかわらず、過剰に処方され続け、患者は不必要な有害反応に曝露されており、耐性菌発生を招いていることが指摘されている。Butler氏らは、診断能力のトレーニングによって、抗菌薬処方を減らす可能性があるとしてプログラム開発を行った。BMJ誌2012年2月11日号(オンライン版2012年2月2日号)掲載報告より。プログラム介入群と非介入群で無作為化試験Butler氏らが開発した教育プログラム「STAR(Stemming the Tide of Antibiotic Resistance)」は、多面的な内容(e-ラーニング、実際診療での経験学習と熟考を促す)で、局面に敏感となり(抗菌薬使用と耐性についてのデータに反応する)、以前に推奨されていた鑑別(使用について時間的な効率性を重視した診療戦略)を基本とする。その介入効果を検証するため、ウェールズと英国の68(GP)の診療所(患者約48万人のデータ)を対象に無作為化試験を行った。GPを、プログラムを受ける群(34ヵ所、介入群)と通常ケアを行う群(34ヵ所、対照群)に無作為化。無作為化前に試験への参加を了承していた医師は、介入群139人、対照群124人だった。解析は、68ヵ所全医師の診療データについて行われた。主要評価項目は、前年使用で補正後、介入後1年間の、全症例に対する抗菌薬使用件数(1,000診療・患者当たり)で、副次評価項目には、再受診、入院、費用などが含まれた。介入群の抗菌薬使用は年間4.2%減少結果、経口抗菌薬使用総計(1,000登録患者当たり)は、介入群で14.1件減った一方で、対照群は12.1件増加し、正味26.1件の差が生じていた。基線での使用について補正後、対照群と比較して介入群では、総経口抗菌薬使用の減少は年間4.2%(95%信頼区間:0.6~7.7)に上っていた(P=0.02)。使用減はペニシリナーゼ耐性ペニシリン(PRP)以外の全クラスの抗菌薬でみられ、個別にみると、フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV、使用減:7.3%、95%信頼区間:0.4~13.7)とマクロライド系(同:7.7%、1.1~13.8)の減少が大きく有意であった。入院、再受診(7日以内の気道感染による)については介入群と対照群に有意差は認められなかった。プログラムにかかった平均費用は、2,923ポンド(4,572ドル)/診療所だった。一方で、対照群と比べた介入群の抗菌薬使用コスト減は、5.5%で、1つの平均的介入によって年間約830ポンドの削減効果に匹敵する。

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急性単純性膀胱炎に対するセフポドキシムvs. シプロフロキサシン

急性単純性膀胱炎への抗菌薬投与について、セフェム系のセフポドキシム(商品名:バナンほか)はフルオロキノロン系のシプロフロキサシン(同:シプロキサンほか)に対し、非劣性を示さなかったことが報告された。米国・マイアミ大学のThomas M. Hooton氏らが、女性患者300人を対象に行った無作為化二重盲検試験の結果、明らかにしたもので、JAMA誌2012年2月8日号で発表した。フルオロキノロン系の抗菌薬は単純性膀胱炎に対し最も有効として一般的に使用されている一方で、その耐性大腸菌発生率の上昇が世界的に報告されており、最近公表された米国感染症学会のガイドラインでは、使用の制限が勧告されている。同疾患に対するセフポドキシムの使用については、これまで十分な検討データがなかった。3日間投与し、30日後の治癒率を比較研究グループは、2005~2009年にかけて、18~55歳の急性単純性膀胱炎と診断された女性300人を、無作為に二群に分け検討した。一方にはシプロフロキサシン(250mg、1日2回)を、もう一方にはセフポドキシム(100mg、1日2回)をそれぞれ3日間投与した。治療終了後、5~9日目と、28~30日目に、アウトカムを評価した。主要アウトカムは、30日後の診察時における臨床的治癒とした。副次アウトカムは、治療終了後5~9日目の診察時における、臨床的・微生物学的治癒と、両診察時における膣の大腸菌コロニー形成とされた。30日後臨床的治癒率、5~9日後微生物学的治癒率ともに非劣性示さずその結果、追跡不能を治癒とみなした場合では、30日後の臨床的治癒率は、シプロフロキサシン群が93%(150人中139人)に対し、セフポドキシム群は82%(150人中123人)で、治癒率格差は11%(95%信頼区間:3~18)と、事前に定義した非劣性マージン10%未満の基準を満たさなかった。また、追跡不能を治療に反応しなかったとみなした場合では、30日後臨床的治癒率は、それぞれ83%(150人中124人)と71%(150人中106人)で、治癒率格差は12%(同:3~21)で、非劣性マージン基準を満たさなかった。治療終了後5~9日目の微生物学的治癒率も、各群96%と81%、同率格差は15%で基準を満たさなかった。治療終了後の初回診察時に、膣大腸菌のコロニー形成が認められたのは、シプロフロキサシン群で16%に対し、セフポドキシム群では40%に上った。結果を受けてHooton氏は、「他の広域β-ラクタムへの重大な生態学的影響の懸念は残るが、セフポドキシムを急性単純性膀胱炎に対し、シプロフロキサシンに代わって第一選択薬として使用することは支持できない」と結論している。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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前立腺生検、有害事象が再生検への消極性を招く

前立腺生検の忍容性は全般に良好だが、一部では疼痛や感染などの有害事象による重大な症状をもたらし、再生検に対する消極性や、プライマリ・ケアにおける医療資源の使用を促進することが、英国Sheffield大学のDerek J Rosario氏らが行ったProBE試験で明らかとなった。前立腺がんの診断では前立腺生検が重要だが、被験者の受容性(acceptability)や有害事象の影響、その結果としての医療資源の使用状況をプロスペクティブに検討した試験はほとんどないという。BMJ誌2012年1月21日号(オンライン版2012年1月9日号)掲載の報告。無作為化試験に組み込まれた前向きコホート研究ProBE(Prostate Biopsy Effects)試験は、進行中の多施設共同無作為化対照比較試験であるProtecT(Prostate Testing for Cancer and Treatment)試験の登録患者を対象に行われたプロスペクティブなコホート研究。経直腸的超音波ガイド下生検(TRUS-Bx)から35日以内に発現した有害事象の影響の評価を目的とした。ProtecT試験では、50~69歳の地域住民男性22万7,000人が前立腺特異抗原(PSA)検査のカウンセリングを受けるよう招聘された。そのうち11万1,148人がPSA検査を受け、PSA値 3~20ng/mLの1万297人がTRUS-Bxを推奨された。このうち、2006年2月~2008年5月までに8施設で抗菌薬併用下にTRUS-Bxを受けた1,753人(平均年齢:62.1歳、平均PSA値:5.4ng/mL)がProBE試験の適格例とされ、試験参加に同意した1,147人(65%、平均年齢:62.1歳、平均PSA値:4.2ng/mL)が登録された。生検時、7日目、35日目に、質問票を用いて疼痛、感染、出血の頻度と関連症状の影響を評価した。生検直後と7日目に再生検に対する患者の受容性を調査し、35日までの医療資源の使用状況を評価した。有害事象関連症状が大きな問題になることは少ない生検後35日までに疼痛を訴えたのは43.6%、発熱の訴えは17.5%、血尿が65.8%、血便が36.8%、血性精液は92.6%であった。これらの症状が中等度~重度の問題となったと答えた患者は少なく、疼痛が7.3%、発熱は5.5%、血尿は6.2%、血便は2.5%、血性精液は26.6%であった。生検直後に、中等度~重度の問題が生じた場合は再生検を考慮すると答えた患者は10.9%で、7日後には19.6%に増加した。再生検に対する消極的な姿勢は、初回生検時の好ましくない経験、特に生検時疼痛(p<0.001)、感染関連症状(p<0.001)、出血(p<0.001)と有意な関連がみられ、明らかな施設間差が認められた(p<0.001)。10.4%が医療施設(通常は担当GP)を受診しており、最も頻度が高かったのは感染関連症状であった。有害事象の重症度は再生検に対する消極的な姿勢と有意な関連を示した(p<0.001)。著者は、「前立腺生検は全般に良好な忍容性を示したが、一部では有害事象による重大な症状をもたらし、再生検への受容性やプライマリ・ケアにおける医療資源の使用に影響を及ぼした」と結論し、「有害事象プロフィールの施設間差は、局所麻酔薬や抗菌薬をより効果的に使用すれば患者のアウトカムが改善され、医療資源の使用が抑制される可能性を示唆する」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

776.

重症肺炎児への母親による抗菌薬投与、医療施設紹介よりも有効

パキスタンの重症肺炎の小児に対し、地域の女性医療従事者(LHW)が母親に経口抗菌薬を提供する方法は、LHWが経口抗菌薬を投与後に医療施設を紹介する標準治療よりも有用なことが、Save the Children USパキスタン支局のAbdul Bari氏らによる検討で示された。WHOの定義による重症肺炎児に対しては、経口コトリモキサゾール(ST合剤、商品名:バクタほか)を投与後に専門医療施設へ紹介することが推奨されている。しかし、医療資源が乏しい環境では患児が実際に専門施設を受診することは困難で、適切な治療へのアクセス率は低いという。Lancet誌2011年11月19日号(オンライン版2011年11月11日号)掲載の報告。母親による経口アモキシシリン投与の有用性をクラスター無作為化試験で評価研究グループは、重症肺炎の患児に対しLHWが経口アモキシシリン(商品名:アモリン、サワシリンほか)を用いて行う地域住民ベースの疾患管理の有用性を評価するクラスター無作為化試験を実施した。パキスタン・Haripur地区の28の医療施設を介入群と対照群に1対1の割合で無作為に割り付けた。対象は、試験対象地域に居住するWHOの定義による重症肺炎の生後2~59週の患児とした。介入群には、LHWから母親に使用の手引きとともに経口アモキシシリン(生後2~11ヵ月児:80~90mg/日あるいは375mg×2回/日、生後12~59ヵ月児:625mg×2回/日)が提供された。対照群では、LHWが初回分の経口コトリモキサゾール(生後2~11ヵ月児:スルファメトキサゾール200mg+トリメトプリム40mg、生後12~5年児:スルファメトキサゾール300mg+トリメトプリム60mg)を投与し、患児を標準的治療を行う医療施設に紹介した。参加者、医療提供者、効果判定者には治療割り付け情報がマスクされた。主要評価項目は、6日目までの治療不成功とし、クラスターで調整したper protcol解析を行った。治療不成功率が半減介入群に14施設(1,995例)、対照群にも14施設(1,477例)が割り付けられ、それぞれ1,857例、1,354例の患児が解析の対象となった。クラスター調整後の6日目まで治療不成功率は、介入群が9%(165/1,857例)と、対照群の18%(241/1,354例)に比べ有意に低かった(リスク差:-8.9%、95%信頼区間:-12.4~-5.4)。さらにベースラインの共変量で調整したところ、このリスク差は小さくなったが有意差は維持された(同:-7.3、-10.1~-4.5)。介入群で1例、対照群では2例が死亡した。有害事象としては、介入群で下痢が4例、皮疹が1例に、対照群では下痢が3例に認められた。著者は、「この地域住民ベースの疾患管理は、治療導入の遅れや、家計、医療費の負担を抑制し、重症肺炎児の標準治療となる可能性がある」と結論し、「本試験は同等性の検証を目的にデザインされたが、得られた知見は介入群の優位性を示すものであった」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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ヘルスケア施設関連C. difficile感染と保菌、宿主因子と病原菌因子が異なる

 ヘルスケア施設関連での集団下痢症の主な原因であるClostridium difficile(C. difficile)感染症について、感染と保菌では、宿主因子および病原菌因子が異なることが明らかにされた。施設関連の同感染については、無症候でも保菌が認められる場合がある。カナダ・McGill大学ヘルスセンターのVivian G. Loo氏らが、カナダの6つの病院で15ヵ月間にわたり、C. difficile感染症患者と保菌患者の宿主因子および細菌因子の同定を行った前向き研究の結果、報告した。NEJM誌2011年11月3日号掲載報告より。カナダ6病院で前向き研究研究グループは、2006年3月6日~2007年6月25日にわたり、カナダのケベック州とオンタリオ州にある6つの国立病院で15ヵ月間にわたる前向き研究を行った。対象病院の患者に関して、人口統計学的情報、既知のリスク因子、潜在的な交絡因子などの情報収集と、週1回の便検体または直腸スワブの収集を行い解析した。C. difficile分離株の遺伝子型の同定はパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)にて行い、C. difficile毒素AおよびBの血清抗体値測定なども行った。合計4,143例の患者の情報が収集され解析された。感染例2.8%、保菌例3.0%で、北米PFGE1型(NAP1)株は感染例では62.7%、保菌例36.1%ヘルスケア施設関連C. difficile感染例は117例(2.8%)、保菌例は123例(3.0%)だった。ヘルスケア施設関連C. difficile感染例は、「より高齢」「抗菌薬・PPI使用」と有意な関連が認められた。一方保菌例については、「以前に2ヵ月間入院したことがある」「化学療法・PPI・H2ブロッカーを使用」「毒素Bに対する抗体」が関連していた。また、北米PFGE1型(NAP1)株を有していたのは、感染例では62.7%であったが、保菌例では36.1%だった。(武藤まき:医療ライター)

778.

麻酔記録と投与エラーを減らす新システムの有用性

麻酔薬に関する記録と投与エラーを減らすために開発された、マルチモードシステム「SAFERSleep」は、臨床でのエラー改善に有用なことが前向き非盲検無作為化臨床試験による評価の結果、報告された。記録の改善が主であったという。ニュージーランドのオークランド大学麻酔学部門のAlan F Merry氏らが、BMJ誌2011年10月8日号(オンライン版2011年10月4日号)で発表した。SAFERSleepは、ニュージーランド、英国のいくつかの病院で使用中で、特にオークランドの市立病院では2005年以来ほとんどの麻酔薬を対象として使用しているという。作業効率と無菌性を促進する新システム試験は、主要な第3次の高度機能紹介病院の5つの手術室で、同意を得た麻酔医89人が管理していた1万764例の薬剤投与があった1,075の症例について、新しいシステムと従来の手動記録による管理との比較が行われた。新しいシステムには、作業効率と無菌性を促進するため特注の薬品トレイと用途に見合ってデザインされたワゴンから構成され、一般的に使用される麻酔薬はあらかじめ充填されており、大きく読みやすいカラーコードラベルが貼付されている。バーコードリーダーはコンピュータ、スピーカー、タッチパネルとリンクしており、投与の直前に耳と目で選んだ麻酔薬を確認することができ、麻酔記録が自動的に編集され、もし投与開始15分以内に抗菌薬が投薬されない場合、また特定の手順、特に投薬前にラベルのスキャンニングがされていない場合、スクリーンと音声で警告が発せられる仕組みとなっていた。主要評価項目は、静脈注射の記録と投与のエラーの複合(直接観察、記録とバイアル中身との不一致の複合と断続的な視覚刺激への反応とした。副次評価項目には、患者のアウトカム、麻酔医の作業と作業負荷評価の解析、麻酔記録の読みやすさの評価、新システムの手順遵守の評価、参加者へのそれぞれのシステムのアンケート評価などが含まれた。読みやすい記録編集機能が麻酔医に好評、患者アウトカムと作業負荷は従来どおり投与エラーの全体平均は、100投与につき、新システムは9.1件(95%信頼区間:6.9~11.4)に対し、従来法は11.6件(同:9.3~13.9、9投与に1件)だった(格差のP=0.045)。新システムで最も多かったのは記録のエラーで、投与エラーはわずかだった。しかし、従来法と比較するとその差は有意ではなかった。投与エラーの割合は、麻酔医が新システムの2つの鍵となる原理(投与前バーコードスキャニング、音声喚起)を活用しなかった場合と比べて、常に活用した場合はより低かった。エラー平均は100投与につき、6.0件(同:3.1~8.8)vs. 9.7件(8.4~11.1)だった(P=0.004)。断続的な視覚刺激への反応は、新システムでは12%(58/471)、従来法では9%(40/473)だった(P=0.052)。新システムの記録はより読みやすく、麻酔医に好まれた。特に、長期、複雑、緊急の症例について評価が高かった。患者アウトカムや、麻酔医の作業負荷については新システムと従来法とに差は認められなかった。

779.

新生児敗血症への免疫グロブリン静注療法、転帰を改善せず

新生児敗血症に対する免疫グロブリン静注療法は、転帰に対する効果がないことが明らかにされた。国際新生児免疫療法試験(INIS)共同研究グループは、9ヵ国113施設で約3,500例の被験児を対象に行った結果による。新生児の主要な死因であり合併症をもたらす敗血症は、抗菌薬治療に加えた有効な治療が必要とされる。そうした患児に対して免疫グロブリン静注療法は全死因死亡を減らすことがメタ解析の結果、示されていた。しかし解析対象であった試験は小規模で、試験の質もバラバラであったことから、INIS共同研究グループが、国際化多施設共同二重盲検無作為化試験を行った。NEJM誌2011年9月29日号掲載報告より。9ヵ国113施設3,493例を対象に二重盲検無作為化試験試験は、2001年10月~2007年9月に、イギリス、オーストラリア、アルゼンチンなど9ヵ国113施設から、重度感染症が疑われるか、または認められ抗菌薬治療を受けていた新生児合計3,493例が登録され行われた。被験児は無作為に、多価IgG免疫グロブリン静注投与(投与量500mg/kg体重)群(1,759例)か、プラセボ群(1,734例)に割り付けられ追跡された。投与は2回ずつ行われ、1回目と2回目の間隔は48時間だった。主要アウトカムは、2歳時点の死亡または重度障害とした。2歳時点の死亡または重度障害、両群に有意差認められず結果、主要アウトカムの発生率について、両群に有意な差は認められなかった。免疫グロブリン静注群は39.0%(686/1,759例)、プラセボ群は39.0%(677/1,734例)で、相対リスク1.00(95%信頼区間:0.92~1.08)だった。その後の敗血症エピソードの発生率など、副次アウトカムの発生率についても同様に有意差は認められなかった。2歳児フォローアップにおいても、重度・非重度障害または有害事象の発生率に有意差は認められなかった。(武藤まき:医療ライター)

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戸田克広先生「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント-」

1985年新潟大学医学部卒業。現在、廿日市記念病院リハビリテーション科勤務。2001年1月~2004年2月までアメリカ国立衛生研究所に勤務した際、線維筋痛症に出会い、日本の現状を知る。帰国後、線維筋痛症を中心とした中枢性過敏症候群などの治療にあたっている。日本線維筋痛症学会評議員。著書に『線維筋痛症がわかる本』(主婦の友社)。線維筋痛症の現状先進国の線維筋痛症(fibromyalgia : FM)の有病率はわずか2%だが、グレーゾーンを含めると約20%になる。そのため、患者数が多いと予想される。また、先進国や少なくない非先進国ではFMは常識だが、日本ではまだよく知られていない。この疾患特有の愁訴を訴える患者さんを、プライマリ・ケア医や勤務医が診察する機会が多いと予測される。今回、FMの標準的な診療について、正しく理解していただくために診療のサマリーと診療スライドを公開させていただく。よりよい治療成績を求めることが臨床医の努めと考えているので、是非実践していただきたい。線維筋痛症の疫学・病態画像を拡大する腰痛症や肩こりから慢性局所痛症(chronic regional pain: CRP)や慢性広範痛症(chronic widespread pain: CWP)を経由してFMは発症するが、それまで通常10~20年かかる(図1)。FMの有病率は先進国では約2%、FMを含むCWPの有病率は約10%、CRPの有病率はCWPのそれの1-2倍である*1。FMの原因は不明だが、中枢神経の過敏状態(中枢性過敏)が原因であるという説が定説である*1。中枢性過敏によって起こった中枢性過敏症候群(central sensitivity syndrome)にはうつ病、不安障害、慢性疲労症候群、むずむず脚症候群などが含まれるが、FMはその代表的疾患である(図2)。画像を拡大する女性がFM患者の約8割を占める。未就学児にも発生するが、絶対数としては30歳代~60歳代が多数を占める。線維筋痛症の症状全身痛、しびれ、疲労感、感覚異常(過敏や鈍麻)、睡眠障害、記憶力や認知機能の障害などいわゆる不定愁訴を呈する。中枢性過敏症候群に含まれる疾患の合併が多い。痛みや感覚異常の分布は神経分布とは一致せず、痛みやしびれの範囲は移動する。天候が悪化する前や月経前後に症状がしばしば悪化する。症状の程度はCRP<CWP<FMとなる(図1)。線維筋痛症の検査・診断(2012年1月30日に内容を更新)画像を拡大する圧痛以外の他覚所見は通常存在せず、理学検査、血液検査、画像検査も通常正常である。従来はアメリカリウマチ学会(ACR)による1990年の分類基準(図3)が実質的に唯一の診断基準となっていたが、2010年(図4)*2と2011年*3に予備的診断基準が報告された。ACRが認めた2010年の基準は臨床基準であり、医師が問診する必要がある。ACRが現時点では認めていない2011年の基準は研究基準であり、医師の問診なしで患者の回答のみでも許容されるが、患者の自己診断に用いてはならない。2011年の基準は2010年の基準とほぼ同じであるが、「身体症状」が過去6カ月の頭痛、下腹部の痛みや痙攣、抑うつの3つになった。共に「痛みを説明できる他の疾患が存在しない」という条件がある*2、*3。1990年の分類基準は廃止ではなく、使用可能である*2、*3。CRPやCWPにFMと同じ治療を行う限り、FMの臨床基準には存在意義がほとんどない。どの診断基準がどのくらいの頻度で、どのように使用されるのかは現時点では不明である。画像を拡大する1990年の分類基準によると、身体5カ所、つまり、左半身、右半身、腰を含まない上半身、腰を含む下半身、体幹部(頚椎、前胸部、胸椎、腰部)に3カ月以上痛みがあり、18カ所の圧痛点を約4kgで圧迫して11カ所以上で患者が「痛い」といえば他にいかなる疾患が存在しても自動的にFMと診断される*1(図3)。つまり、圧痛以外の理学検査、血液検査、画像検査の結果は、診断基準にも除外基準にもならない。通常、身体5カ所に3カ月以上痛みがあれば広義のCWPと、CWPの基準を満たさないが腰痛症のみや肩こりのみより痛みの範囲が広い場合にはCRPと診断される。FMとは異なり他の疾患で症状が説明できる場合には、通常CRPやCWPとは診断されない。~~ ここまで2012年1月30日に内容を更新~~従来の基準を使う限り、FMには鑑別疾患は存在しないが、合併する疾患を見つけることは重要である。従来、身体表現性障害(疼痛性障害、身体化障害)、心因性疼痛、仮面うつ病と診断されたかなりの患者はCRP、CWP、FMに該当する。線維筋痛症の治療(2012年7月24日に内容を更新)画像を拡大する世界ではCWPに対して通常FMと同じ治療が行われており、CRPやCWPにFMと同じ治療を行うとFM以上の治療成績を得ることができる*1。FMの治療は肩こり、慢性腰痛症、慢性掻痒症、FM以外の慢性痛にもしばしば有効である。他の疾患を合併している場合、一方のみの治療をまず行うのか、両方の治療を同時に行うのかの判断は重要である。FMの治療の基本は薬物治療と非薬物治療の組み合わせである。非薬物治療には認知行動療法、有酸素運動、減量、禁煙(受動喫煙の回避を含む)、人工甘味料アスパルテームの摂取中止*4が含まれる(図5)。鍼の有効性の根拠は弱く高額であるため、週1回合計5回行っても一時的な効果のみであれば、中止するか一時的な効果しかないことを了解して継続すべきである。薬物治療の基本は一つずつ薬の効果を確認することである。一つの薬を少量から上限量まで漸増する必要がある。効果と副作用の両面から最適量を決定し、それでも不十分な鎮痛効果しか得られなければ次の薬を追加する。上限量を1-2週間投与しても無効であれば漸減中止すべきで、上限量を使用せず無効と判断してはならない。メタ解析や系統的総説により有効性が示された薬はアミトリプチリン〔トリプタノール〕、ミルナシプラン〔トレドミン〕、プレガバリン〔リリカ〕、デュロキセチン〔サインバルタ〕である*1、4。二重盲検法により有効性が示された薬はガバペンチン〔ガバペン〕、デキストロメトルファン〔メジコン〕、トラマドールとアセトアミノフェンの合剤〔トラムセット配合錠〕などである*1、4。ノルトリプチリン〔ノリトレン〕は体内で多くがアミトリプチリンに代謝され、有効性のエビデンスは低いが実際に使用すると有効例が多い。ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液〔ノイロトロピン〕、ラフチジン〔プロテカジン〕は対照群のない研究での有効性しか示されていないが、有効例が多く副作用が少ない。抗不安薬はFMに有効という証拠がないばかりか常用量依存を引き起こしやすいため、鎮痛目的や睡眠目的で使用すべきではない*1、4。また、ステロイドが有効な疾患を合併しない限りステロイドはFMには有害無益である*1。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は通常無効であるが、個々の患者では有効なことがある。個々の薬物の有効性のレベルは文献*1、4を参照していただきたい。論文上の効果や副作用、私自身が経験した効果や副作用、費用の点を総合的に考慮した私の個人的な優先順位は〔ノイロトロピン〕、アミトリプチリン、デキストロメトルファン、ノリトレン、メコバラミンと葉酸の併用、イコサペント酸エチル、ラフチジン、ミルナシプラン、ガバペンチン、デュロキセチン、プレガバリンである。これには科学的根拠はないが、薬物治療が単純になる。不都合があれば各医師が優先順位を変更すればよい。日本のガイドラインにも科学的根拠がないことはガイドラインに記載されている*5。筋付着部炎型にステロイドやサラゾスフファピリジン〔アザルフィジン〕が推奨されているが、それらはFMに有効なのではなくFMとは別の疾患に有効なのである。肺炎型FMに抗生物質を推奨することと同じである。線維筋痛症の治療成績画像を拡大する2007年4月の時点で3カ月以上私が治療を行った34人のFM患者のうち薬物を中止できた人は5人(15%)、痛みが7割以上改善した人が4人(12%)、痛みが1割以上7割未満改善した人が17人(50%)、不変・悪化の人が8人(24%)であった*1。CRPやCWPにFMとまったく同じ治療を行えば、有意差はないがFMよりはよい治療成績であった*1(図6)。※〔 〕内の名称は商品名です文献*1 戸田克広: 線維筋痛症がわかる本. 主婦の友社, 東京, 2010.*2 Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA et al: The American College of Rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia and measurement of symptom severity. Arthritis Care Res (Hoboken) 62: 600-610, 2010. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20461783*3 Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA et al: Fibromyalgia Criteria and Severity Scales for Clinical and Epidemiological Studies: A Modification of the ACR Preliminary Diagnostic Criteria for Fibromyalgia. J Rheumatol 38: 1113-1122, 2011. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21285161*4 戸田克広: エビデンスに基づく薬物治療(海外の事例を含む). 日本線維筋痛症学会編, 線維筋痛症診療ガイドライン2011. 日本医事新報, 東京, 2011; 93-105.*5 西岡久寿樹: 治療総論. 日本線維筋痛症学会編, 線維筋痛症診療ガイドライン2011. 日本医事新報, 東京, 2011; 82-92.質問と回答を公開中!

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