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セフトリアキソンで腎盂腎炎を伴う腸内細菌目細菌菌血症を治療できるか

 セフトリアキソン(CTRX)は尿路感染症における選択薬の1つであるが、他のβ-ラクタム系抗菌薬と比較して尿中排泄率が低いという欠点がある。わが国では2023年にセフォチアム(CTM)が不足したことから、尿路感染症に対するCTRXの需要が高まっている。今回、愛知医科大学の柴田 祐一氏らが、腎盂腎炎を伴う腸内細菌目細菌菌血症に対するCTRXと他のβ-ラクタム系抗菌薬の有効性を比較したところ、30日全死亡率は同様であった。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2025年4月9日号に掲載。 本研究では、2014年7月~2024年2月に愛知医科大学病院で血液および尿培養で大腸菌、クレブシエラ属、プロテウス属が検出されたβラクタム系抗菌薬投与患者を後ろ向きに登録した。登録した計123例をCTRX群(CTRXを5日間以上投与)とその他のβ-ラクタム系群(アンピシリン、セファゾリン、CTM、またはセフォタキシムを5日間以上投与)に分け、年齢、チャールソン併存疾患指数、静脈内抗菌薬投与期間、経口抗菌薬への切り替え患者数、アルブミン値、白血球数、C反応性蛋白、体温、ICU入室必要について傾向スコアマッチングした。主要評価項目は、副作用、転帰、30日および90日時点の死亡率だった。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、各群26例が選出された。・30日全死亡率は両群とも3.8%であった。・再感染や腎盂腎炎による再入院は認められなかった。 著者らは「CTRX治療は腎盂腎炎を伴う腸内細菌目細菌菌血症患者の予後に影響を与えなかった。尿中排泄率が低いという理由で尿路感染症に対するCTRXの使用を避ける必要はない」と考察している。

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65歳未満の市中肺炎、GL推奨の短期治療の実施率~日本人約2万5千例の解析

 肺炎診療ガイドライン2024では、市中肺炎治療において、初期治療が有効な場合には1週間以内の短期抗菌薬治療を実施することが弱く推奨されている1)。しかし、その実施率は高くないことが示された。酒井 幹康氏(名城大学/豊田厚生病院)らの研究グループが、65歳未満の成人市中肺炎における短期治療の実施状況について、大規模レセプトデータベースを用いて検討した結果をJournal of Infection and Chemotherapy誌2025年5月号で報告した。 研究グループは、JMDCのレセプトデータベースを用いて、2013~22年に初めて市中肺炎と診断され、抗菌薬治療を開始した18~64歳の患者のデータを抽出した。主要評価項目は治療期間とし、入院患者と外来患者に分けて解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者は2万5,572例であり、年齢中央値は入院患者が51歳、外来患者が44歳であった。・1週間以内の短期抗菌薬治療が実施された割合は、入院患者が32%(1,087/3,367例)、外来患者が70%(1万5,614/2万2,205例)であった。10年間の年次推移の範囲は入院患者が31~35%、外来患者が67~72%であり、大きな変動はなかった。・併存疾患のない患者を対象としたサブグループ解析においても、1週間以内の短期抗菌薬治療が実施された割合は、入院患者が32%(403/1,274例)、外来患者が70%(7,089/1万191例)であり、全体集団と同様であった。 本研究結果について、著者らは「とくに入院患者では、治療期間の最適化を進めるため、抗菌薬による治療期間を再検討する必要性があるだろう」とまとめている。

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第237回 百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省

<先週の動き> 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省 1.百日咳が流行、全国で累計4,100人に、速やかにワクチン接種を/厚労省2025年に入り、百日咳の患者報告数が急増している。国立健康危機管理研究機構(旧・国立感染症研究所などが統合)によると、3月23日までの1週間で全国から458人の患者が報告され、今年の累計は4,100人に達した。これは前年(2024年)の年間累計4,054人をすでに上回っている。都道府県別では、大阪府336人、東京都299人、新潟県258人、沖縄県252人、兵庫県233人の順で多く、都市部および一部地域での患者増加が顕著である。百日咳は主に小児の間で感染が拡大し、生後6ヵ月未満の乳児では無呼吸発作、肺炎、脳症など重篤な合併症を引き起こす可能性が高い。背景には、新型コロナウイルス感染症流行下での感染対策により百日咳の発生が抑えられていたことで、集団免疫が低下した可能性が指摘されている。また、患者の増加に伴い、従来のマクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の報告も複数の地域で確認されており、日本小児科学会は注意喚起を行っている。耐性菌感染例では、標準的な治療にもかかわらず感染拡大リスクが残るため、治療薬の選択については感染症に詳しい小児科医との連携が推奨される。現行の定期予防接種には百日咳成分を含む四種混合ワクチン(DPT-IPV)があり、生後2ヵ月から接種ができる。厚生労働省および専門家は、生後2ヵ月を迎えた段階での速やかな接種を呼びかけており、とくに乳児家庭では感染拡大防止の観点からも接種率の向上が重要とされている。 参考 1) 「百日ぜき」急増 今年すでに4,100人、去年の患者数上回る(毎日新聞 ) 2) 百日せき ことしの累計患者数が4,100人に 去年1年間を上回る(NHK) 3) 百日せき「耐性菌」各地で報告 “速やかにワクチン接種を”(同) 4) 百日咳患者数の増加およびマクロライド耐性株の分離頻度増加について (小児科学会) 2.救急受診の判断に生成AIの活用、一般人の利用には誤解リスクあり/救急医学会日本救急医学会は、対話型AI「ChatGPT」による救急受診のアドバイスについて、「一般利用者が正確に理解できない可能性がある」とする研究結果を公表した。研究では、総務省消防庁の救急受診ガイドを基に466の症例(うち314例は緊急度が高い)をAIに判断させ、その回答を救急専門医7人と一般人157人が評価した。専門医の評価では、AIの回答は重症例で97%、軽症例で89%の精度で適切な判断をしているとされた。しかし、一般人は、同じ回答をみても重症例で「救急受診が必要」と解釈できたのは43%、軽症例で「不要」と判断できたのは32%に止まった。これはAIの助言が正確であっても、専門用語の受け取り方や伝わり方にズレが生じている可能性が指摘されている。さらに、AIの助言に「信頼して従った」とする人は全体の約半数に止まり、逆に不安が増したと答えた人も約13%存在した。研究を主導した東京慈恵医科大学の田上 隆教授は「AIの判断精度は高いが、解釈の誤りによる危険があるため、過度な依存は避けるべき」と述べている。学会は、体調に不安がある場合はAIだけに頼らず、医療者に相談し、わかりやすく説明を受けることの重要性を強調している。また、AIが正しく使われるためには、表現の工夫や専門家のサポートが不可欠であり、とくに緊急時には人との連携が不可欠だとしている。 参考 1) 救急受診すべきか「チャットGPT」助言、利用者が解釈誤る恐れ…「過度な依存避けるべき」(読売新聞) 2) 生成AIによる救急外来受診の推奨に関する妥当性研究-生成AIの回答に対する専門家と非医療従事者の解釈の差が明らかに-(日本救急医学会) 3.マイナンバー利用率26%に停滞、マイナ保険証“スマホ対応”化へ/厚労省厚生労働省は4月3日に社会保障審議会の医療保険部会を開き、マイナ保険証のスマホ搭載のスケジュール案を示した。部会では、マイナンバーカードに保険証機能を搭載した「マイナ保険証」をスマートフォンで利用できるようにして、2025年9月頃から希望する医療機関から順次導入を開始する方針を示した。まず、同年6~7月に全国10ヵ所程度の医療機関や薬局で実証事業を実施し、スマホでの操作性や資格確認のエラーなどを検証。問題がなければ、9月から環境の整った医療機関で本格運用を始める。スマホ保険証により、患者はマイナンバーカードを持参しなくても診療を受けられるようになるが、導入は医療機関ごとの任意対応であり、全施設への義務付けは行われない。そのため、スマホ対応していない医療機関も存在し、初めて受診する際にはマイナ保険証や資格確認書の持参が推奨される。マイナ保険証の全国利用率は2025年2月時点で26.6%と依然として低迷しており、政府は利用促進策の一環として、医療機関の診察券とマイナンバーカードの一体化、外付けリーダー導入への補助、顔認証付きカードリーダーの改善などを進めている。救急現場での活用を目指す「マイナ救急」や訪問看護ステーションへのオンライン資格確認導入も併せて推進している。また、後期高齢者医療制度の対象者には、スマホ対応やマイナ保険証の有無にかかわらず、2026年7月まで有効な「資格確認書」を交付し、受診機会の確保を図る。現役世代を中心にスマホ対応の需要は高く、今後の普及とシステム整備に向けた国の支援と広報強化が求められている。 参考 1) マイナ保険証の利用促進等について(厚労省) 2) 「マイナ保険証」機能搭載のスマホでの受診 9月ごろから導入へ(NHK) 3) “スマホ保険証”9月ごろから順次運用開始へ マイナ保険証の利用底上げ策 厚労省(CB news) 4) マイナ保険証、利用率26%に(日経新聞) 5) スマートフォンへマイナ保険証機能を搭載、2025年夏頃から対応済医療機関で「スマホ保険証受診」可能に-社保審・医療保険部会(Gem Med) 4.「日本版CDC」始動、感染症対応の司令塔・JIHSが発足/政府2025年4月1日、感染症危機に備える新たな専門組織「国立健康危機管理研究機構」(JIHS:Japan Institute for Health Security)が発足した。国立感染症研究所(感染研)と国立国際医療研究センター(NCGM)の統合により設立され、感染症をはじめとする健康危機への科学的かつ実践的な対応を一元的に担う。米国のCDC(疾病対策センター)をモデルにした「日本版CDC」として、初動対応の迅速化、研究と臨床の連携強化、情報発信の向上を目指す。JIHSでは、新型コロナウイルス流行時の教訓を踏まえ、感染症の調査・分析、ワクチン・治療薬の開発、診療支援体制の構築を平時から推進。有事の際には、病原体の特徴や患者情報の早期把握、リスク評価を政府に助言する。また、災害派遣医療チーム(DMAT)の事務局も機構内に設置され、現場対応力の強化が図られる。初代理事長にはNCGM前理事長の國土 典宏氏、副理事長には感染研前所長の脇田 隆字氏が就任。厚生労働省や内閣感染症危機管理統括庁と連携し、政策決定に科学的知見を提供する。福岡 資麿厚生労働大臣は「感染症危機管理体制の強化を着実に進める」と述べている。政府はJIHSに対し、6年間の中期目標として「初動対応の迅速化」「研究開発の強化」「有事の臨床機能の整備」「人材育成と国際連携」の4項目を掲げ、国民への平時からの情報発信にも取り組み、次なるパンデミックに向けた備えを社会全体で推進していく方針。4日には東京都内で設立記念式典が開催され、政府関係者や医療機関が参加。國土理事長は「科学と実践を融合し、次の健康危機にも即応できる体制を構築する」と意気込みを語っている。 参考 1) 国立健康機器管理研究機構 2) 日本版CDCが1日発足 感染研と国際医療センターを統合(時事通信) 3) 健康危機に備え新機構発足 略称は「JIHS」 有事の対応能力強化(産経新聞) 4) 健康危機に備え新機構「JIHS」発足 有事対応強化(日経新聞) 5.医療費約4,336億円を削減へ、第4期医療費適正化計画が始動/厚労省厚生労働省は、4月3日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、第3期全国医療費適正化計画(2018~2023年度)の実績を報告した。後発医薬品の数量シェアは全国平均81.2%と目標を達成した一方、特定健診・保健指導の実施率(58.1%・26.5%)およびメタボ該当者の削減率(16.1%)は未達となった。医療費は推計49.7兆円に対し、実績48.0兆円と1.7兆円削減されたが、新型コロナによる受診抑制の影響も含まれていた。新たに実施される第4期全国医療費適正化計画(2024~2029年度)では、医療費を全国で約4,336億円削減する方針であり、主な施策として、後発薬・バイオシミラー使用の促進(約2,186億円)、多剤・重複投薬の適正化(約976億円)、効果が乏しい医療(風邪や急性下痢への抗菌薬処方など)の見直し(約270億円)、白内障手術や化学療法の外来移行(約106億円)などが挙げられている。この他、特定健診・保健指導推進による効果は約120億円、生活習慣病重症化予防で約678億円を見込む。加えて、医薬品の使用標準化を進める「地域フォーミュラリ」の導入も検討されている。第4期ではコロナの影響が少ないため、施策の効果がより明確に評価される見込み。また、医療費上限を定める「高額療養費制度」の見直し議論は2025年秋に持ち越された。医療費増加に直面する中、制度の持続可能性と公平性の両立が課題となっている。 参考 1) 第3期医療費適正化計画の実績評価及び第4期全国医療費適正化計画について(厚労省) 2) 後発薬数量シェア81.2%、3期計画 目標達成 メタボ健診は未達(CB news) 3) 2024-29年度の第4期医療費適正化計画、全国で約4,336億円の医療費適正化効果を見込んでいる-社保審・医療保険部会(Gem Med) 6.検査ビジネスに警鐘、疾患リスク通知は医師のみ可/厚労省・経産省民間企業による唾液・尿などを用いた疾患リスク判定サービス(いわゆるDTC検査)の拡大を受け、厚生労働省と経済産業省は、「無資格者が個人に疾患の罹患可能性を通知することは医師法違反に当たる」との見解を、3月28日付の事務連絡として都道府県に通知した。DTC(Direct to Consumer)検査は、消費者と事業者が直接検体や検査結果をやりとりする仕組みで、近年は遺伝子解析を用いたものも多く、市場拡大が進んでいる。一方で、サービスの品質や信頼性には課題があり、医療行為との境界線が不明確との指摘もあった。今回の通知では、無資格の民間事業者は医学的判断を下すことができないため、検査後のサービスは一般的な測定結果や基準値、測定項目に関する一般的情報の提供に止めるべきとされている。疾患リスクや罹患可能性に関する通知は、医師法に抵触する恐れがあり、今後の規制強化も視野に入る。通知は、医療・介護分野と関連する「健康寿命延伸産業」の事業活動指針の改定に伴い出されたもので、DTC検査を提供する事業者への影響が注目される。 参考 1) 健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン(厚労省・経産省) 2) 医師資格ない検査ビジネス、疾患リスク通知は「違法」 厚労省と経産省が事務連絡(産経新聞) 3) 疾患リスク通知は「違法」 検査ビジネスで事務連絡(東京新聞)

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難治性OABへの尿流動態検査、治療アウトカムを改善せず/Lancet

 英国国立医療技術評価機構(NICE)は、難治性過活動膀胱または尿意切迫感を主症状とする混合性尿失禁を有する女性において、ボツリヌス毒素A(BoNT-A)膀胱壁内注入療法や仙骨神経刺激療法などの侵襲的治療に進む前に、ウロダイナミクス(尿流動態)検査を行い排尿筋過活動の診断を得ることを推奨している。英国・University of AberdeenのMohamed Abdel-Fattah氏らFUTURE Study Groupは、治療前の臨床評価として包括的臨床評価(CCA)単独と比較してウロダイナミクス+CCAは、患者報告による治療成功の割合が高くなく、ウロダイナミクスは費用対効果がないことを「FUTURE試験」において示した。研究の詳細は、Lancet誌2025年3月29日号に掲載された。英国の無作為化対照比較優越性試験 FUTURE試験は、難治性過活動膀胱症状を有する女性におけるウロダイナミクス+CCAの臨床的有効性と費用対効果の評価を目的とする非盲検無作為化対照比較優越性試験であり、2017年11月~2021年3月に英国の63病院で患者を登録した(英国国立医療・社会福祉研究所[NIHR]医療技術評価プログラムの助成を受けた)。 年齢18歳以上、難治性過活動膀胱または尿意切迫感を主症状とする混合性尿失禁と診断され、保存的治療が無効で、侵襲的治療を検討している女性を対象とした。被験者を、ウロダイナミクス+CCAまたはCCAのみを受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、最終フォローアップ時の患者報告による治療成功とし、Patient Global Impression of Improvement(PGI-I)で評価した。治療成功は、「非常に改善(very much improved)」または「かなり改善(much improved)」と定義した。経済性の主要アウトカムは、1質調整生存年(QALY)獲得当たりの費用増分(増分費用効果比)とした。早期の治療成功割合はCCA単独群で優れる 1,099例を登録し、ウロダイナミクス+CCA群に550例(平均年齢59.3[SD 14.0]歳、過活動膀胱66.0%)、CCA単独群に549例(59.8[13.1]歳、66.5%)を割り付けた。 最終フォローアップ時の患者報告による治療成功(「非常に改善」または「かなり改善」)の割合は、CCA単独群22.7%(114/503例)と比較して、ウロダイナミクス+CCA群は23.6%(117/496例)と優越性を認めなかった(補正後オッズ比[OR]:1.12[95%信頼区間[CI]:0.73~17.4]、p=0.60)。 より早期の治療成功の割合は、ウロダイナミクス検査を待たずに早期に治療を受ける場合が多かったためCCA単独群で高かった(3ヵ月後の補正後OR:0.28[95%CI:0.16~0.51]、p<0.0001、6ヵ月後の同:0.68[0.43~1.06]、p=0.090)。また、ウロダイナミクス+CCA群の女性は、より個別化された治療を受けたが、患者報告アウトカムが優れたり、有害事象が少ないとのエビデンスは得られなかった。 増分費用効果比は、1QALY獲得当たり4万2,643ポンドであった。1QALY獲得当たりの支払い意思(willingness-to-pay)の閾値を2万ポンドとすると、この閾値でウロダイナミクスに費用対効果がある確率は34%と低く、患者の生涯にわたって外挿すると、この確率はさらに低下した。有害事象の頻度は同程度 有害事象は、ウロダイナミクス+CCA群で20.6%(113/550例)、CCA単独群で22.2%(122/549例)に発現した。個々のイベントの発現率は低く、両群間に明らかな差を認めなかった。最も頻度の高い有害事象は、尿路感染症(ウロダイナミクス+CCA群7.1%vs. CCA単独群7.5%)で、次いで予防抗菌薬投与(7.3%vs.6.6%)および清潔操作による間欠自己導尿法の必要(4.7%vs.5.8%)であった。 BoNT-Aの投与を受けた患者はCCA単独群で多かったため、BoNT-A関連有害事象はCCA単独群で高頻度であった。また、重篤な有害事象の頻度は低く、両群で同程度だった。 著者は、「これらの知見は、女性の尿失禁管理に関するガイドラインの変更につながり、結果として日常診療を変えることになるだろう」「難治性過活動膀胱または尿意切迫感を主症状とする混合性尿失禁を有する女性には、CCAのみの結果に基づいて、BoNT-A膀胱壁内注入療法などの侵襲的治療が行われると考えられる」「このエビデンスに基づく重要な変化は、女性の生活の質の早期改善と、不必要な侵襲的検査の回避をもたらし、英国と同様の医療制度を持つ国々では医療資源の大幅なコスト削減につながる可能性がある」としている。

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メトロニダゾール処方の際の5つの副作用【1分間で学べる感染症】第23回

画像を拡大するTake home messageメトロニダゾールを使用する際には、神経症状を含む5つの重要な副作用を覚えておこう。メトロニダゾールは、嫌気性菌や原虫感染症に対して広く使用される抗菌薬です。しかしその使用に伴っては、いくつかの重大な副作用が報告されています。とくに、長期間の使用に関連する神経学的副作用には注意が必要です。今回は、メトロニダゾールの代表的な5つの副作用について解説します。1. 消化器症状メトロニダゾールの副作用として一般的なものに、消化器症状があります。とくに悪心や嘔気が約12%の患者に発生します。2. 味覚変化(金属味)メトロニダゾールの服用により、口の中で金属のような味覚異常を来すことがあります。これは約15%にみられるもので、食欲低下につながる患者さんも少なくありません。3. 脳症メトロニダゾールは中枢神経系に影響を及ぼすことがあり、とくに長期使用や高用量投与において脳症を引き起こすことがあります。典型的な症状には、運動失調、構音障害、めまい、混乱などが含まれます。MRI検査では、小脳歯状核にT2高信号が認められることがあります。メトロニダゾール使用中に小脳症状を来した場合は、メトロニダゾール脳症を疑う必要があります。4. 末梢神経障害メトロニダゾールの長期使用により、末梢神経障害を引き起こすことがあります。手足のしびれが最も頻度が高い神経学的症状です。多くの場合、薬剤の中止により症状は改善しますが、不可逆的なケースも報告されており、注意が必要です。5. ジスルフィラム様反応メトロニダゾールはアルコールと併用すると、ジスルフィラム様反応(顔面紅潮、頭痛、悪心、嘔吐など)を引き起こすことがあります。メトロニダゾール服用中はアルコール摂取を避けるよう指導することが重要です。以上、メトロニダゾールは一般的に安全に使用される抗菌薬ですが、上記の5つの副作用を念頭に置いておく必要があります。長期的な使用による影響はもちろんですが、なかには短期使用でも脳症や末梢神経障害を来す報告もあるため、注意が必要です。1)Daneman N, et al. Clin Infect Dis. 2021;72:2095-2100.2)Matsuo T, et al. Int J Infect Dis. 2019;89:112-115.3)Sobel R, et al. Expert Opin Pharmacother. 2015;16:1109-1115.4)Karrar HR, et al. J Pharma Res Int. 2021;33:307-317.

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腸管GVHDの発症・重症化および予防・治療における腸内細菌叢の役割/日本造血・免疫細胞療法学会

 腸管移植片対宿主病(GVHD)は同種造血幹細胞移植における特徴的な合併症で、予後を左右するだけでなく、移植後の生活の質も低下させる。近年、腸管GVHDと腸内細菌叢との関連に注目した研究は増えているが、まだ不明な点も多い。 2025年2月27日~3月1日に開催された第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「腸内細菌叢とGVHD:治療への新たな道を切り開く」と題したシンポジウムが行われ、腸内細菌叢とGVHDとの関連についての研究が4名から報告された。急性GVHDのpathobiontの同定とファージ由来酵素を用いた新規治療法 植松 智氏(大阪公立大学大学院 医学研究科 ゲノム免疫学/東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター メタゲノム医学分野)らのグループは同種移植患者46例の腸内細菌叢の16SrRNA解析を行い、30例でEnterococcus属細菌が増加していることを確認した。また、患者糞便由来のE. faecalisを単離し、これが外分泌毒素サイトライシンを産生する強毒株で、バイオフィルム関連遺伝子群を豊富に有する系統と明らかにした。さらに、マウスを用いた実験で患者糞便由来E. faecalisが急性GVHD関連死亡を増加させることを確認した。 植松氏らのグループは以上の結果から、E. faecalisがGVHDの発症と関わるpathobiontであり、前処理で他の細菌が死滅するなか、サイトライシンを産生する強毒株のE. faecalisがバイオフィルムを形成することによって腸管に濃縮し、増殖した後、産生されたサイトライシンによる上皮細胞障害が腸管GVHDの増悪に寄与していると考え、E. faecalisの排除によりGVHD関連死亡を抑えられるのではないかと推測した。 そこで、患者糞便由来E. faecalisのゲノムを網羅的に解析し、E. faecalisに特異的に感染するバクテリオファージ由来のエンドライシン配列を抽出した後、多種類の株で共通に検出されたエンドライシンを合成。このE. faecalis特異的エンドライシンの溶菌効果とバイオフィルム溶解作用をin vitroで確認した後、マウスを用いた実験でGVHD関連死亡率が大幅に改善すること、さらに患者糞便を移植したマウスでもGVHD関連死亡率が大幅に改善することを確認した。 植松氏はこうした結果について、「実臨床でも使えるようなデータが得られたと感じた」と述べ、「今後、E. faecalis特異的エンドライシンは、GVHDの新規治療薬として期待される」とまとめた。造血幹細胞移植患者の移植早期から長期における腸内細菌叢に関する解析結果 福島 健太郎氏(大阪大学大学院 医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は、造血幹細胞移植領域で近年行われた腸内細菌叢と予後の関連についての複数の研究に関し、「既報の多くは移植後のある一時点において多様性を評価していて、菌叢を構成する菌成分の違いや経時的な菌叢の変化についてはあまり着目した研究がなかった」と指摘した。 福島氏らのグループは、大阪大学医学部附属病院で造血幹細胞移植を行った患者から糞便を連日採取して16SrRNAメタゲノム解析を行った。その結果、移植前後で腸内細菌叢に変化がなく、多様性が保持された群は予後良好、菌叢に変化があり多様性が失われた群は予後不良であることが明らかになった。「菌叢の安定化が非常に重要である」ことがわかってきたと福島氏は述べ、とくに移植後1ヵ月のEnterococcus増加が予後の悪化に関連すると報告した。 また、移植後長期にわたって生存し、日常生活に戻った患者群の腸内細菌叢は健常人に近づいているという仮説を立てたが、移植後長期生存者の腸内細菌叢を実際に調べたところ、移植後3年未満、3~10年、10年以上のいずれでも、菌叢の多様性が回復しないということがわかったと報告した。 さらに、同種移植後にクローン病様の病変が認められた患者に糞便移植(FMT)を実施し、3ヵ月後に粘膜が正常化した症例を紹介したほか、移植前に腸内においてEnterococcusが優勢であった患者はFMT後1日目にドナーと同様の菌叢になるが、その後にEscherichiaなどが優勢になるという非常に興味深い結果となったと報告した。また、プロバイオティクスにも注目していると述べ、進めている研究について紹介した。 最後に、腸内細菌叢への介入として、先に講演した植松氏のファージについて「非常に魅力的な選択」と述べたほか、「FMT、プロバイオティクスなどさまざまなアプローチの可能性があって、産学連携が重要と考えている」とまとめた。移植前の口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながる可能性 藤原 英晃氏(岡山大学病院 血液・腫瘍内科)らのグループは、自院において2010~15年に造血細胞移植を行った273例を解析し、重症口内炎は慢性GVHDの発症率を上昇させるという関連を認めたほか、PTCyハプロ移植の71例のみの解析でも同様の関連を認めた。さらに、こうした患者の移植前後の口腔粘膜検体31例の解析で、慢性GVHD発症群では移植前から菌叢の多様性が低下し、生着後もそれが継続していたことがわかったと報告した。 そこでマウスによる検討のために、マウスの歯間に糸を留置して口腔内に歯周炎を引き起こすOLPという手法で口腔内dysbiosisを誘発し、骨髄移植を行った。その結果、慢性GVHDに関してはOLPマウスで慢性GVHDスコアが明らかに悪くなり、PTCyを用いたマウスモデルでも同様の結果が認められた。こうしたOLPマウスでは移植後における口腔内細菌叢の多様性が低下し、口腔内および糞便中細菌量の増加が認められ、とくにEnterococcusは移植前から口腔内・糞便中ともに増加していたと述べ、口腔内のEnterococcusが腸管に流れていき、定着するのではないかと指摘した。 また、OLPマウスでは移植前から所属リンパ節(頸部リンパ節)における抗原提示細胞の活性化が認められ、頸部リンパ節の免疫染色および培養検査によりEnterococcusの影響が強いことが明らかになったと述べた。さらに、OLP後にEnterococcusを塗布したマウスで移植後に慢性GVHDが悪化したこと、OLPを除去し歯周炎が改善した状態で移植を行うとOLPを維持した群より重症度が低下したことを示し、OLPの除去による口腔環境の改善が慢性GVHDの改善につながると述べた。なお、抗生剤による口腔炎症の改善で一定の効果が期待できることも実験で明らかになったと報告した。 最後に、「口腔内でdysbiosisが起きる状況にあると局所(頸部リンパ節)での反応が増幅し、それが全身の慢性GVHDに影響する。同様に腸管にも影響することにより長期的な予後に影響するのではないか」とまとめ、「移植前後の徹底した口腔ケアや歯科介入の重要性を確認することができた」と述べた。炎症記憶と腸内細菌によるGVHD重症化のメカニズム 橋本 大吾氏(北海道大学大学院医学研究院 血液内科)は、免疫寛容の破綻後に組織の恒常性を維持するメカニズムとして概念的に提唱されている「組織寛容」について冒頭で紹介し、豊嶋 崇徳氏(北海道大学)らのグループの研究から、腸幹細胞が腸の組織寛容を維持しているシステムではないかと指摘した。一方、GVHD回復後のFlareで腸管GVHDの発症が増加することが示されており、炎症後の組織幹細胞にエピジェネティックな変化が生じて炎症記憶として残るからではないかと考えられている。 そこで橋本氏らのグループは、同系造血細胞移植(syn-HCT)または同種造血幹細胞移植(allo-HCT)後のマウスの陰窩から作成したオルガノイド(「Syn」または「Allo」)のクロマチン構造をATACシーケンスで解析し、アクセシビリティに関してAlloがSynより有意に高い遺伝子457個を特定した。橋本氏は、この中で重要な領域として抗原処理と提示(とくにMHCクラスII[MHC-II])に関与する遺伝子とインターフェロン(IFN)-γに対する反応に関与する遺伝子を挙げ、転写の準備ができているこれらのプロモーター領域が判明したことについて「まさに炎症記憶が本当にできていると知った瞬間だった」と述べた。なお、フローサイトメトリーによるタンパク質レベルでの確認でも、IFN-γ刺激による腸管上皮MHC-II発現が炎症記憶により亢進したうえ、オルガノイドを継代しても記憶が継承されることが明らかになったと述べた。 さらに、小山 幹子氏(米国・フレッド・ハッチンソンがん研究センター)のマウスを用いた研究で、レシピエントの腸管上皮MHC-IIの欠損でGVHDが軽減すること、腸内細菌がIFN-γ産生を誘導し、腸管上皮MHC-IIを発現させること、MHC-II誘導性細菌と抑制性細菌が存在し、抑制性細菌のマウスへの経口投与で上皮MHC-II発現が低下することなどが示されたと紹介した。 最後に、腸管のMHC-II発現は、腸内細菌叢の差により定常状態である程度の差があるうえ、GVHD後には炎症記憶の存在によりIFN-γ刺激によるMHC-II発現がさらに高まり、GVHD Flareにつながると考えられるとまとめた。今後は「組織寛容を上げて急性GVHDや慢性GVHDを起こさないようにし、移植片対白血病/リンパ腫(GVL)効果を誘導するのが究極的な目標」だと述べた。

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「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」改訂のポイント/日本胃癌学会

 2024年10月に「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」(日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会 編)が8年ぶりに改訂された。2000年の初版から4回の改訂を重ね、2024年版は第5版となる。2009年の改訂版ではH. pylori感染症の疾患概念が提起され、慢性胃炎患者に対する除菌が保険適用される契機となった。今回の2024年版は初めてMindsのガイドライン作成マニュアルに準拠して作成され、「1)総論、2)診断、3)治療、4)胃がん予防―成人、5)胃がん予防―未成年」という章立てで、CQ(クリニカル・クエスチョン)、BQ(バックグラウンド・クエスチョン)、FRQ(フューチャー・リサーチ・クエスチョン)から構成されている。 感染診断と除菌治療に関わる医師に向けた改訂ポイントとしては、「3)治療」の章の冒頭にフローチャートが追加され、通常の1~3次治療の流れとペニシリンアレルギーなどの特殊な除菌治療の流れが明確になった。また、 これまで標準的な1次除菌はプロトンポンプ阻害薬(PPI)もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)にβ-ラクタム系抗菌薬アモキシシリンとクラリスロマイシンを加えた3剤併用療法だったが、 これまでにPPIベースの3剤併用療法に比してP-CABベースの3剤併用療法の除菌率が高いというエビデンスが集積したことを踏まえ、 本ガイドラインではP-CABであるボノプラザンを軸にした3剤併用療法が推奨となっている。 胃がん診療医や内科医が患者から聞かれることの多いH. pylori検査と胃がん予防効果の関連についてはどのように記載されているか。2025年3月12~14日に行われた第97回日本胃癌学会ではヘリコバクター学会との合同シンポジウムが行われ、本ガイドライン作成委員会委員長を務めた青森県総合健診センター所長の下山 克氏が胃がん診療医向けに「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版の『胃がん予防』」と題した発表を行い、「4)胃がん予防―成人」の項目を中心に改訂点やポイントを紹介した。CQ3-1 無症候一般住民への血清抗H. pylori抗体検査and(/or)ペプシノゲン(PG)検査は、胃がん予防に役立つか?A. 無症候一般住民への血清H. pylori抗体検査andペプシノゲン(PG)検査によるリスク層別化検査は胃がん予防効果が期待されるが、エビデンス不足のため現時点での推奨提示は困難である。――エビデンスが不十分な場合、CQ自体をなくすことが多いが、重要な設問であるためにあえてCQとして残し、現状を解説することとした。実際、韓国のガイドラインでは同様の内容がガイドラインに掲載されなかった。H. pylori感染未検査者を対象とし、血清H. pylori抗体検査と除菌の胃がん死亡抑制効果を長期にみた研究は少なく、現状では推奨は出せないという判断となった。CQ3-2 血清抗H. pylori抗体検査and(/orペプシノゲン)検査は胃がん予防のため毎年必要か?A. 胃がん予防のために血清抗H. pylori抗体検査およびペプシノゲン(PG)検査を毎年行うことは推奨しない。【推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性:C】――職域の健診、人間ドックで毎年検査を受けているケースがしばしばあるが、多くの場合、H. pylori感染の確認・除菌が伴っておらず、正しい運用を徹底させることが基本となる。複数回測定することが胃がん予防につながるというエビデンスはなく、コスト面からも毎年の検査のような、繰り返すだけの実施は推奨されない。 また、血清抗体検査に関する注意点としては、測定キットの種類に違いがあることだ。少し前まではEIA法(Eプレート)が多く使われていたが、現在ではコストや利便性に勝るラテックス法が主流となっている。問題は測定法により抗体価の分布が異なることで、ラテックス法ではEプレートに比べてカットオフ以上の中に未感染者、既感染者が相当数含まれる。除菌後6年間の検査陽性率の推移を見ても、ラテックス法では6年後でも4割近くが陽性となるが、EIA法ではわずか2%程度だ。胃がんリスク検診においてはEIA法では分類基準となる抗体価として「陰性高値」を設定しているが、ラテックス法で陰性高値を設定することは誤りであることに留意してほしい。CQ3-3 一般住民への胃がん検診(X線、内視鏡検査)は胃がん診断だけでなく、一次予防に役立つか?A. 胃がん検診はH. pylori感染診断としても有用であり、一次予防効果が期待できるが、今後の検証が必要であり、現時点での推奨提示は困難である。――胃がん検診は、世界的に日本(X線、内視鏡検査)と韓国(内視鏡)でのみ行われている。胃がん検診が1次予防の役割も果たすのは、H. pylori感染胃炎患者を発見し、除菌治療につなげることである。H. pylori感染胃炎患者のほとんどが無症状で、H. pyloriの検査を受ける機会が少ないことから、健康な人が受ける胃がん検診とその画像は、感染の有無を知る貴重な機会となる。日本消化器がん検診学会では「胃X線検診のための読影判定区分」を公開しており、精検不要症例でもH. pylori感染が疑われる場合は「カテゴリー2」として区分し、必要に応じてH. pylori感染検査や除菌治療の情報提供などを行うよう推奨している1)。このように胃がん検診は一次予防効果が期待されるものの、現時点で胃がん死亡を減少させるというエビデンスは確立しておらず、今後の検証が必要な分野である。BQ1-4 内視鏡画像はH. pylori現感染の診断に有用か?A. 内視鏡画像によりH. pylori感染状態を分類できるため、現感染の診断に有用である。BQ1-5 胃X線画像はH. pylori現感染の診断に有用か?A. 胃X線画像はH. pylori現感染の診断に有用である。ただし、既感染胃の増加や、自己免疫性胃炎、PPI関連胃症の混在の可能性を考慮する必要がある。――H. pylori抗体検査の前提となる厚生労働省の指針では、胃がん検診の対象となるのは50歳以上(40歳以上も可)とされているにもかかわらず、一部の市町村や、少なくない企業健診では25~35歳から実施されている。胃がん罹患率が低い世代では、被曝をはじめとする検査のデメリットがメリットを上回ってしまう可能性がある。少なくとも胃がん検診がH. pylori感染の発見、除菌につながるものでなければならない。さらに内視鏡検査でH. pylori感染が診断されない、という問題もある。内視鏡検査で胃粘膜の状態を評価しない、要精査となった場合の内視鏡検査でもチェックされた部位のみを観察して胃粘膜を評価しない、といった意識での検査ではH. pylori感染が見落とされ、長い年月を経てからようやく診断されることもある。この点については内視鏡医の意識改革も期待したい。いずれにせよ、H. pylori感染の診断と除菌による慢性胃炎の治療と胃がんの一次予防が基本となる。BQ1-6 PPIやP-CABを使用している場合に感染診断・除菌判定は可能か?A. 尿素呼気試験(UBT)、迅速ウレアーゼ試験(RUT)、血清ペプシノゲン(PG)濃度はPPI、P-CABの影響を受けるので検査の2週間前から休薬して実施する。その他の診断法はPPI内服のまま実施できる。――以前はPPIを使用しているとほとんどの検査ができない状況だったが、その根拠となっていたエビデンスが古いもので、国内の現状に当てはまらない部分があった。PPIの影響を受けるエビデンスがある検査を挙げ、それ以外は実施可能であることを明記した。学会からの働きかけで、昨年10月には厚労省からガイドラインで実施可能とする検査についてはPPI内服中も検査の費用を算定できる旨の通達も出ている。 下山氏は「新ガイドラインでは、抗体検査に関するエビデンスなどの一般的な事項から、PPIと検査の関連など、新たなエビデンスを反映した項目までを網羅した。近年注目されているH. pylori以外のHelicobacteriについても触れている。ぜひガイドラインで最新の情報をキャッチアップしてほしい」とまとめた。

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肺炎改善に対するエビデンスの確実性は低い。コクランレビューが示す胸部理学療法の効果【論文から学ぶ看護の新常識】第8回

肺炎改善に対するエビデンスの確実性は低い。コクランレビューが示す胸部理学療法の効果成人肺炎に対する胸部理学療法についてのコクランレビューは、2010年に初めて発表され、2013年に更新された。新たに2件の研究を追加し再分析を行ったアップデート版が、The Cochrane Database of Systematic Reviews誌2022年9月6日号に掲載された。コクランレビュー:成人の肺炎に対する胸部理学療法本アップデートでは、2013年の結果に新たに2件の研究(540例)を追加し、合計8件のランダム化比較試験(RCT)、974例を分析対象とした。以下の5種類の胸部理学療法を検討した。1)従来の胸部理学療法、2)オステオパシー徒手療法(OMT;脊柱抑制、肋骨挙上、筋膜リリースを含む)、3)アクティブサイクル呼吸法(呼吸コントロール、胸郭拡張運動、強制呼気技術を含む)、4)呼気陽圧療法(PEP)、5)高頻度胸壁振動法(HFCWO)。主要評価項目として、死亡率、治癒率、入院期間、発熱期間、抗生物質使用期間、ICU滞在期間、人工呼吸期間、副作用を設定した。いずれもエビデンスの確実性は非常に低いが、以下の通りの結果となった。死亡率:従来の胸部理学療法(無介入との比較)、OMT(プラセボとの比較)、HFCWO(無介入との比較)は、いずれも死亡率を改善する可能性はほとんどない。治癒率:従来の胸部理学療法とアクティブサイクル呼吸法(無介入との比較)は、治癒率改善にほとんど影響を与えない可能性がある。OMTは、治癒率を改善する可能性がある(リスク比[RR]:1.59、95%信頼区間[CI]:1.01~2.51)。入院期間:OMT、従来の胸部理学療法、アクティブサイクル呼吸法は、入院期間にほとんど影響を与えない可能性がある。PEP(無介入との比較)は、入院期間を平均1.4日短縮する可能性がある(平均差[MD]:−1.4日、95%CI:−2.77~−0.03)。発熱期間:従来の胸部理学療法、OMTは、発熱期間にほとんど影響を与えない可能性がある。PEPは、発熱期間を0.7日短縮する可能性がある(MD:−0.7日、95%CI:−1.36~−0.04)。抗生物質使用期間:OMTとアクティブサイクル呼吸法は、いずれも抗生物質の使用期間にほとんど影響を与えない可能性がある。集中治療室(ICU)の滞在期間:HFCWO+気管支鏡肺胞洗浄(気管支鏡肺胞洗浄単独との比較)では、ICU滞在期間を3.8日短縮する可能性がある(MD:−3.8日、95%CI:−5.00~−2.60)。人工呼吸期間:HFCWO+気管支鏡肺胞洗浄は、人工呼吸期間を3日短縮する可能性がある(MD:−3日、95%CI:−3.68~−2.32)。副作用:1件の試験では、2名の参加者にOMT後一過性の筋肉の圧痛が発生した。別の試験では、3件の重篤な有害事象によりOMT後に早期に試験から除外された。1件の試験では、PEPでの有害事象は報告されなかった。主要な結論に変更はなかった。現在のエビデンスでは、胸部理学療法が成人肺炎患者の死亡率や治癒率を改善する効果については非常に不確かである。一部の理学療法は入院期間、発熱期間、ICU滞在期間、および人工呼吸期間をわずかに短縮する可能性がある。しかし、これらの結果は確実性の非常に低いエビデンスに基づいており、さらなる検証が求められる。成人肺炎患者に対する胸部理学療法の今回のレビューでは、死亡率や治癒率への効果は不確実という結果でした。一部の手法では、入院日数やICU滞在期間、発熱期間を短縮する可能性が示唆されましたが、いずれもエビデンスの確実性は低く、さらなる大規模研究が必要です。その一方で、胸部理学療法の効果がないと証明されたわけではありません(統計上、効果があるかどうかがわからないが正確な捉え方です)。看護師としては、胸部理学療法単独の効果に過度な期待を寄せるのではなく、体位管理や呼吸訓練、早期離床などの多角的なケアを組み合わせて行うことが重要です。現場では個々の患者さんに応じたケアが最優先になります。とくに、患者さんの全身状態を見極めながら、呼吸介助や痰の排出を促す方法を取り入れるなど、個々の状況に合わせたプランを立案しましょう。また効果の根拠が限られるからこそ、他職種とも連携を図り、安全性を担保しながら最適なケアを提供する姿勢が求められます。実践する際は、患者さんの負担やリスクを常に評価し、無理のない範囲で効果的に行う方法を検討することが大切です。今後も新たな知見を確認しながら柔軟にケア介入を考えていきましょう。論文はこちらChen X, et al. Cochrane Database of Syst Rev. 2022;9(9): CD006338.

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再発を繰り返す女性の膀胱炎【日常診療アップグレード】第26回

再発を繰り返す女性の膀胱炎問題35歳女性が繰り返す頻尿と残尿感、排尿時痛のため受診した。抗菌薬を飲むとすぐにこれらの症状は改善する。2年前から膀胱炎様症状がよく起こるようになり、昨年は3回このような症状があった。妊娠はしていない。診察時には症状はない。身体所見はとくに異常を認めない。ニューキノロン系抗菌薬を7日間処方し、膀胱炎症状が出現したらすぐに内服するよう指導した。

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臨床に即した『MRSA感染症の診療ガイドライン2024』、主な改訂点は?

 2013年に『MRSA感染症の治療ガイドライン』第1版が公表され、前回の2019年版から4年ぶり、4回目の改訂となる2024年版では、『MRSA感染症の診療ガイドライン』に名称が変更された1)。国内の医療機関におけるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の検出率は以前より低下してきているが、依然としてMRSAは多剤耐性菌のなかで最も遭遇する頻度の高い菌種であり、近年では従来の院内感染型から市中感染型のMRSA感染症が優位となってきている。そのため、個々の病態把握や、検査や診断、抗MRSA薬の投与判断と最適な投与方法を含め、適切な診療を行うことの重要性が増している。本ガイドライン作成委員長の光武 耕太郎氏(埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染制御科 教授)が2024年の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会で発表した講演を基に、本記事はガイドラインの主な改訂点についてまとめた。 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の検査部門(入院検体)の2023年報では、MRSAの分離率は中央値として5.95%を示し、耐性菌の中で最も高い割合であった2)。がん患者や維持透析患者などのICU患者では、多剤耐性菌の血流感染症による死亡率が高く、MRSA感染症の死亡率は約20%とされる。 2024年版の改訂点の特徴として、臨床に即したガイドラインをめざし、従来の叙述的な内容に加えてクリニカル・クエスチョン(CQ)方式を採用し、13のCQを記載して、より臨床を意識した構成となっている。第V章の「疾患別抗MRSA薬の選択と使用」では、疾患別に11の各論で網羅的に扱い、とくに整形外科領域(骨・関節感染症)では、3つのCQで詳細に解説している。光武氏は、本ガイドラインではCQに対する推奨やエビデンスの度合いをサマリーで端的に示しているが、Literature reviewにて膨大な文献を検討したプロセスを詳細に記載しているので、各読者がとくに関心の高い項目についてはぜひ目を通してほしいと語った。 光武氏は本ガイドラインに記載されたCQのうち、以下の7項目について解説した。CQ1. MRSA感染症の迅速診断(含む核酸検査)は推奨されるか・推奨:MRSA菌血症が疑われる場合、迅速診断を行うことを提案する。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) 血液培養でグラム陽性ブドウ状球菌もしくは黄色ブドウ球菌が検出された患者において、MRSA迅速同定検査は従来の同定感受性検査と比較し、死亡率や入院期間を改善しないが、適切な治療(標的治療)までの期間を短縮する可能性がある。皮膚軟部組織感染症における死亡率に関しては、1件の観察研究において、疾患関連死亡率は迅速検査群が有意に低い(オッズ比[OR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.07~0.81)とする報告がある3)。CQ4. ダプトマイシンの高容量投与(>6mg/kg)は必要か・推奨:MRSAを含むブドウ球菌等により菌血症、感染性心内膜炎患者に対して、高用量投与(>6mg/kg)はCK上昇発生率を考慮したうえで、その投与を弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:B(中程度) 今回実施されたメタ解析により、複雑性菌血症および感染性心内膜症患者では、標準投与群(4~6mg/kg)のほうが、高容量投与群(>6mg/kg)よりも有意に治療成功率が低いとする結果が示された(複雑性菌血症のOR:0.48[95%CI:0.30~0.76]、感染性心内膜症のOR:0.50[95%CI:0.30~0.82])4)。そのため、病態によっては最初から高用量投与することが推奨される。CQ5. 肺炎症例の喀痰からMRSAが分離されたら抗MRSA薬を投与すべきか・推奨:一律には投与しないことを提案するが、MRSAのみが単独で検出された肺炎では抗MRSA薬投与の必要性を検討してもよい。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 肺炎症例に対して、かつてはバンコマイシンを投与することがあったが、抗MRSA薬を投与することによる死亡率改善効果は認められなかったため、一律に投与しないことが提案されている(死亡リスク比:1.67[95%CI:0.65~4.30、p=0.18、2=39%])。一方で、MRSAのみが単独検出された肺炎で、とくに人工呼吸器関連肺炎(VAP)はMSSA肺炎と比較して死亡率が高い可能性があるため、グラム染色を活用しながら抗MRSA薬投与を検討する余地がある。CQ7. 血流感染においてリネゾリドは第1選択となりうるか・推奨:MRSA菌血症において、リネゾリドやバンコマイシンやダプトマイシンと同等の第1選択とすることを弱く推奨する(提案する)。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) MRSA菌血症に対するリネゾリド投与例は、バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン投与例と比較し、全死因死亡率等の治療成功率において非劣性を示す結果であり、第1選択となりうる(エビデンスC)。ただし実臨床では、リネゾリド投与期間中の血小板減少発現によって投与中止や変更を余儀なくされる症例が少なくない。とくに維持透析患者を含む腎機能障害者では、血中リネゾリド濃度が高値となり、血小板減少が高率となるため、注意が必要だ。CQ8. 整形外科手術でバンコマイシンパウダーの局所散布は手術部位感染(SSI)予防に有効か・推奨:整形外科手術でSSI予防を目的としたルーチンの局所バンコマイシン散布を実施しないことを弱く推奨する。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 局所バンコマイシン散布は実臨床にて行われてきたものではあるが、今回実施されたメタ解析の結果、推奨しない理由として以下の項目が挙げられた。1. 全SSIの予防効果を認めない(エビデンスD)2. インプラントを用いる手術でも、SSI予防効果は認められない(エビデンスD)3. グラム陽性球菌に伴うSSIを予防する可能性はある(エビデンスC)4. SSI予防を目的とした局所バンコマイシン散布の、MRSA-SSI予防効果は明らかでない(エビデンスD)CQ11. 耐性グラム陽性菌感染症が疑われる新生児へのリネゾリドの投与は推奨されるか・推奨:バンコマイシン投与が困難な例に対してリネゾリドを投与することを弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:C(弱い) リネゾリドは新生児・早期乳児・NICUで管理中の小児におけるMRSAや耐性グラム陽性球菌感染症の治療薬として考慮される。バンコマイシンの使用が困難な状況では使用は現実的とされる。新生児へのリネゾリドの投与を弱く推奨する理由として以下の項目が挙げられた。1. リネゾリドの有効性は、バンコマイシン投与の有効性と比較して差を認めなかった(エビデンスC)2. リネゾリド投与後の有害事象発生率は、バンコマイシンと比較して差を認めなかった(エビデンスC)。リネゾリド投与例では血小板減少を認めることがあり注意が必要。出生時の在胎週数が低い児に、その傾向がより強いCQ13. 抗MRSA薬と他の抗菌薬(β-ラクタム系薬、ST合剤、リファンピシン)の併用は推奨されるか・推奨:心内膜炎を含む菌血症において、バンコマイシンもしくはダプトマイシンとβ-ラクタム系薬の併用を、症例に応じ弱く推奨する(提案する)。その他の併用はエビデンスが限定的であり、明確な推奨はできない。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性B(中程度) 基本は単剤治療を行い、感染巣/ソースコントロールが重要となるが、抗MRSA薬の効果がみられない場合がある。バンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)=2µg/mLを示すMRSAの菌血症に対し、高用量のダプトマイシン+ST合剤(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)併用により、臨床的改善および微生物学的改善が期待される(エビデンスB)。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+β-ラクタム系薬併用は、菌血症の持続時間や発生は減少させるものの死亡率に差はない。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+リファンピシン併用は、血流感染症で死亡者数、細菌学的失敗率、再発率に差はなかった。 光武氏は最後に、抗MRSA薬の現状ついて述べた。日本では未承認だが、第5世代セフェム系抗菌薬のceftaroline、ceftobiprole、oritavancin、dalbavancin、omadacycline、delafloxacinといったものが、海外ではすでに使用されているという。現時点では実臨床での使用は難しいが、モノクローナル抗体製剤、バクテリオファージ、Lysinsの研究も進められている。また、MRSA治療にAIを導入する試みも各国から数多く報告されており5)、アップデートが必要な状況となっているという。 本ガイドラインは、日本化学療法学会のウェブサイトから購入することができる。

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細菌性膣症、男性パートナーの治療で再発予防/NEJM

 細菌性膣症は生殖可能年齢の女性の約3分の1に認められ、再発は一般的である。細菌性膣症の原因菌のパートナー間での感染エビデンスは、半面で男性パートナーへの治療が治癒を高めることも示唆することから、オーストラリア・モナシュ大学のLenka A. Vodstrcil氏らStepUp Teamは、一夫一婦関係にあるカップルを対象とした非盲検無作為化比較試験を行い、細菌性膣症の女性への治療に加えて、男性パートナーに対して経口および局所抗菌薬治療を行うことにより、12週間以内の細菌性膣症の再発率が標準治療と比べて低下したことを報告した。NEJM誌2025年3月6日号掲載の報告。一夫一婦関係のカップルをパートナー治療群または女性のみ治療群に無作為化 試験は2019年4月~2023年11月に、オーストラリアの3州で展開する2つの性の健康サービス(sexual health services)および3つの家族計画サービス(family-planning services)の施設で行われた。 一夫一婦関係にあるカップルを1対1の割合でパートナー治療群(女性とその男性パートナーに治療)または対照群(女性のみに治療)に無作為に割り付けた。パートナー治療群では、女性は初回治療として推奨される抗菌薬の投与を受け、男性パートナーは経口および局所の抗菌薬治療(メトロニダゾール400mg錠の投与および2%クリンダマイシン クリームの陰茎皮膚への塗布、いずれも1日2回を7日間)を受けた。対照群では、基材を問わずクリーム塗布による陰茎部の細菌叢構成の変化への懸念から、女性にのみ初回抗菌薬治療を行った。再発の絶対リスク差、パートナー治療群が-2.6例/人年で有意差 81組のカップルがパートナー治療群に、83組のカップルが対照群に無作為化された。 試験はデータおよび安全性モニタリング委員会の判断によって、150組が12週の追跡調査完了後に、女性のみの治療が女性および男性パートナー両者への治療に対して劣性であったため中止された。 修正ITT集団において、12週間以内の細菌性腟症の再発はパートナー治療群の女性で24/69例(35%、再発率1.6例/人年[95%信頼区間[CI]:1.1~2.4])、対照群の女性で43/68例(63%、4.2例/人年[3.2~5.7])であった。再発の絶対リスク差は-2.6例/人年(95%CI:-4.0~-1.2)であった(p<0.001)。 治療を受けた男性における有害事象は、悪心、頭痛、金属味などが報告された。

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Fusobacterium necrophorum【1分間で学べる感染症】第22回

画像を拡大するTake home messageFusobacterium necrophorumは、嫌気性のグラム陰性桿菌でLemierre症候群の原因菌として重要である。今回は、多彩な病状と重篤な病態を引き起こす可能性のあるFusobacterium necrophorumに関して一緒に学んでいきましょう。Fusobacterium necrophorumとはFusobacterium属は、偏性嫌気性のグラム陰性桿菌で、口腔内を中心に消化管や女性の生殖器に常在しています。グラム染色では長桿菌またはフィラメント状を呈することが多いです。Fusobacterium属の中でもFusobacterium necrophorumはとくに病原性が強く、壊死性・血栓形成性の感染症を引き起こしやすいとされています。どんな感染症を引き起こすかFusobacterium necrophorumは、咽頭炎を契機に内頸静脈血栓性静脈炎を引き起こすLemierre症候群の原因菌として知られていますが、それ以外にも歯周膿瘍や扁桃周囲膿瘍、肝膿瘍や脳膿瘍などの播種性転移性病変を合併することがあります。Lemierre症候群とはLemierre症候群とは、敗血症性内頸静脈血栓性静脈炎のことを指します。一般的に健康な成人に好発し、咽頭炎に続発して発症します。Fusobacterium necrophorumによる血流感染に伴い、両側化膿性肺塞栓症や時には化膿性関節炎、肝膿瘍、脳膿瘍などを合併することもあります。稀にFusobacterium necrophorum以外にA群β溶血性連鎖球菌やS. anginosus group、Porphyromonasなど、ほかの嫌気性菌や腸内細菌などが原因のこともあります。薬剤感受性・治療のポイントFusobacterium属は、β-ラクタマーゼを産生する株が4~23%と一定の割合で存在することが報告されています。また、メトロニダゾールには一般的に感受性を示し、マクロライド系(アジスロマイシンなど)やアミノグリコシド系には耐性を示すことが知られています。したがって、第1選択としては、アンピシリン・スルバクタム、タゾバクタム・ピペラシリン、またはカルバペネム系が推奨されます。またメトロニダゾールも検討されます。膿瘍形成の大きさによっては上記の抗菌薬に加え、外科的ドレナージ術を並行して行うことも重要です。Fusobacterium necrophorumは壊死性感染を引き起こすこともあります。健康な若年成人の咽頭炎後の頸部痛、敗血症を診たらLemierre症候群を疑い、血液培養を採取し、速やかに抗菌薬治療を開始することが重要です。1)Holm K, et al. Anaerobe. 2016;42:89-97.2)Nygren D, et al. Clin Microbiol Infect. 2020;26:1089.e7-1089.e12.

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高齢の市中肺炎、セフトリアキソンvs.スルバクタム・アンピシリン

 高齢者の市中肺炎の初期対応として、嫌気性菌をカバーするスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)などが用いられることがある。しかし、カナダの市中誤嚥性肺炎患者を対象とした多施設後ろ向きコホート研究では、嫌気性菌カバーは院内死亡リスクを低下させず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させたことが報告されている1)。そこで、山本 舜悟氏(大阪大学)らの研究グループは、市中肺炎により入院した65歳以上の患者を対象としたデータベース研究を実施し、セフトリアキソン(CTRX)とSBT/ABPCを比較した。その結果、SBT/ABPCのほうがCTRXよりも院内死亡率が高かった。本研究結果は、Open Forum Infectious Diseases誌2025年3月5日号に掲載された。 研究グループは、健康・医療・教育情報評価推進機構が管理するデータベースを用いて、2010~23年に市中肺炎により入院した65歳以上の患者のうち、初期治療としてCTRXまたはSBT/ABPCを用いた患者2万6,633例を抽出した。CTRX群とSBT/ABPC群の比較にはtarget trial emulationのデザインを用いた。主要評価項目は院内死亡率とし、副次評価項目はC. difficile感染症(CDI)の発生率とした。逆確率重み付け法を用いて、両群の調整リスク差(aRD)、調整オッズ比(aOR)、それらの95%信頼区間(CI)を推定することで評価した。 主な結果は以下のとおり。・CTRX群は1万1,727例、SBT/ABPC群は1万4,906例であった。・院内死亡率はCTRX群9.0%、SBT/ABPC群10.5%であり、SBT/ABPC群が高かった(aRD[95%CI]:1.5%[0.7~2.4]、aOR[95%CI]:1.19[1.08~1.31])。・CDIの発生率はCTRX群0.4%、SBT/ABPC群0.6%であり、SBT/ABPC群が高い傾向にあった(aRD[95%CI]:0.2%[0.0~0.4]、aOR[95%CI]:1.45[0.99~2.11])。・誤嚥リスク因子を1つ以上有する集団を対象としたサブグループ解析において、院内死亡率はCTRX群11.5%、SBT/ABPC群14.2%であり、SBT/ABPC群が高かった(aOR[95%CI]:1.27[1.14~1.40])。・同様に、誤嚥リスク因子を1つ以上有する集団のCDIの発生率はCTRX群0.5%、SBT/ABPC群0.8%であり、SBT/ABPC群が高い傾向にあった(aOR[95%CI]:1.52[1.00~2.31])。 本研究結果について、著者らは「膿胸や肺膿瘍などの嫌気性菌の関与が明らかな場合を除き、高齢の市中肺炎患者に対する初期治療として、嫌気性菌カバーする抗菌薬の使用は避けるべきである可能性が示された」とまとめた。

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認知症の急速悪化、服用中の薬剤が引き金に?【外来で役立つ!認知症Topics】第27回

認知症の急速進行性患者(Rapid Decliner)少なからぬ認知症の患者さん、とくにアルツハイマー病(AD)患者の外来治療は長期にわたりがちで、2年や3年はざら、時には10年ということもある。そうした中で、この病気が進行していくスピード感というものがだんだんとわかってくる。ところが、「なぜこんなにも急速に悪化するのか」という驚きと、主治医としての後ろめたさを感じてしまうような症例を少なからず経験する。こうした患者さんは、医学的には急速進行性患者(Rapid Decliner:RD)と呼ばれる。急速進行性認知症とは、本来プリオン病をプロトタイプとするが、プリオン病との鑑別で最も多いのは急速進行性のADだとされる。このようなケースでは、本人というよりも主たる介護者が、そのことを嘆かれ、治療の変更や転医などを相談されることもある。しかし担当医として容易にはお答えができず、忸怩たる思いを経験する。また新薬の治験のようにADの経過を評価する際にもRDはしばしば問題になる。というのは、こうした新薬の効果は、多くの場合、わずかなものである。そこに一般的な患者の経過から飛び抜けて悪化を示すケースがあると、「結果解析ではこうしたRDを例外として対象から除外するのか?」などの統計解析上の取り扱いが問題になると聞く。急速進行性アルツハイマー病(RD AD)の定義さて急速進行性AD(RD AD)の定義では、MMSEのような認知機能評価尺度の点数悪化や発症から死亡に至るまでの時間により示されることが多い。RD ADの定義として、MMSEの年間点の得点低下が6点以上とするものが多い1)。一般的には年間低下率は、2~3点とされるから、その倍以上である。また普通は7~8年とされるADの生存期間だが、RD ADでは、それが2年以内とされることも多い2)。つまり約3~4分の1程度も短命である。このようなRD ADを予測する要因としては、合併症として、血管性要因、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満などがある。また慢性的な心不全や閉塞性肺疾患の関与も注目されてきた。しかしいずれも確立していない。さらに一般的には若年性が悪いと思われがちだが、必ずしもそうではない。バイオマーカーでは、脳脊髄液中の総タウ、リン酸化タウの高値は予測要因の可能性があるとされる。多くの遺伝子多型も研究報告されてきた。最もよく知られた遺伝子多型のAPOEだが、この役割については賛否両論ある。以上をまとめると、RD ADの予測要因として確立したものはなさそうである。RD ADの症状:体力低下、BPSD、IADLの障害もっとも実臨床の場面でRD ADが持つ意味は上記のような医学的な定義とは少し異なる。つまり体力低下、認知症にみられる行動および神経心理学的な症状(BPSD)や道具的ADL(Instrumental Activity of Daily Living:IADL)の障害などが急速に進んで日常生活の維持が困難になって、急速進行が事例化するケースが多いと思う。たとえば、大腿骨頸部骨折や各種の肺炎後に衰弱が急に進むという訴えがある。IADLでは、排泄の後始末ができない・汚れたおむつで便器を詰まらせる、着衣失行など衣類が着られなくなった、などが多い。またBPSDでは、多くの介護者にとって、幻視や幻聴、そして妄想の出現はショックが大きい。つまり家族介護者は、認知機能の低下というよりは、衰弱やIADLの低下、衰弱や幻覚妄想による言動のように、目に見える変化が急速な悪化と感じやすい。服用中の薬剤が急速悪化の引き金にさて問題は、こうしたケースへの対応である。これには2つのポイントがある。まず診断の見直しという基本の確認である。ここでは必要に応じてセカンドピニオンも考慮すべきである。次にRDの危険因子とされた要因を点検することである。とくに注目すべきは、服用薬剤の副作用だろう。診断の見直しでは、まずビタミンB群、梅毒やHIVを含む血液検査はしておきたい。新たな脳血管障害などが加わった可能性もあるからCTやMRI等の脳画像の再検査も考慮する。また脳脊髄液検査や脳波検査も、感染症やプリオン病などの可能性を踏まえてやっておきたい。高度検査では、遺伝学的な検査、また悪性腫瘍の合併を考慮してWhole body PET-CTが必要になるケースもあるだろう。さらに炎症系の関りも視野に入れて、専門医との相談に基づいて、抗炎症治療による治療的診断として、イムノグロブリン、高用量ステロイドなどの投与もありうる。いずれにせよこれらでは、躊躇なくセカンドオピニオンが求められる。危険視の中でも、服用薬剤が重要である。まず向精神薬がある程以上に長期間にわたって投与されていれば、これらが心身の機能にも生命予後にも悪影響を及ぼす可能性がある。なお向精神薬には、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬のほかに、抗てんかん薬、抗パーキンソン薬などが含まれる。とりわけ、他科から処方されている薬剤は案外盲点かもしれない。他科の担当医はご自分の領域の治療薬に精通されていても、それが認知症に及ぼす影響まではあまり注意されていないかもしれない。それだけに「おくすり手帳」などを見せてもらう必要がある。さまざまな薬剤の中でも、とくに抗コリン薬は要注意である。これは過活動性膀胱の治療薬など泌尿器科用薬剤、循環器用薬剤に多い。またヒスタミンH2受容体拮抗薬、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、循環器系治療薬、抗菌薬などにも目配りが求められる。参考1)Soto ME, et al. Rapid cognitive decline in Alzheimer's disease. Consensus paper. J Nutr Health Aging. 2008;12:703-713. 2)Harmann P, Zerr I. Rapidly progressive dementias – aetiologies, diagnosis. Nat Rev Neurol. 2022;18:363-376.

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リファンピシン耐性キノロン感性結核に対する経口抗菌薬(解説:寺田教彦氏)

 結核は、依然として世界的な公衆衛生の問題であり、2023年WHO世界結核対策報告書によると、2022年には約1,060万人が結核を発症し、130万人が死亡したとされる。結核治療を困難にする要因の1つに薬剤耐性結核(MDR/RR-TB)があり、今回の対象であるリファンピシン耐性結核は、毎年約41万人が罹患すると推定されている。このうち治療を受けたのは40%にすぎず、その治療成功率は65%にとどまっている(WHO. Global tuberculosis report 2023.)。これは、従来のレジメンが18~24ヵ月と治療期間が長く、アミノグリコシド系やポリペプチド系の注射製剤が含まれ、副作用の問題もあったためと考えられる。 2016年から2017年にかけて、本研究(endTB試験)を含めた3つの多国籍ランダム化比較試験(STREAM2試験、TB-PRACTECAL試験)が開始され、リファンピシン耐性結核に対する6ヵ月または9ヵ月の全経口短期レジメンの安全性と有効性が評価された。 本研究は、15歳以上のリファンピシン耐性・フルオロキノロン感性の結核患者を対象に、ベダキリン(B)、デラマニド(D)、リネゾリド(L)、レボフロキサシン(Lfx)またはモキシフロキサシン(M)、クロファジミン(C)、ピラジナミド(Z)から成る5つの併用レジメン(BLMZ、BCLLfxZ、BDLLfxZ、DCLLfxZ、DCMZ)と、当時のWHOガイドラインに準拠した標準治療群の計6つの治療群を比較した。その結果、3つのレジメンが標準治療に対して非劣性を示した(詳細は「リファンピシン耐性/キノロン感受性結核に有効な経口レジメンは?/NEJM」参照)。 WHOは2024年8月に発表したKey updates to the treatment of drug-resistant tuberculosis: rapid communication, June 2024において、本試験(endTB)の結果を解釈し、内容を更新している。ガイドライン開発グループの解釈では、フルオロキノロン感受性が確認されたMDR/RR-TB患者において、BLMZ、BLLfxCZ、BDLLfxZの3種類の9ヵ月全経口レジメンは、長期(≧18ヵ月)レジメンの代替として効果的かつ安全に使用できるが、DCLLfxZおよびDCMZレジメンは治療失敗・再発率および獲得耐性率が高いため推奨されないとされた。そのため、WHOはフルオロキノロン感性MDR/RR-TB患者に対し、9ヵ月の全経口レジメン(優先順位:BLMZ>BLLfxCZ>BDLLfxZ)を従来の長期レジメンに代わる選択肢の1つとして提案した(条件付き推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)。 本研究のレジメンは小児用製剤もあり、妊娠中の使用も検討可能である。今後、2025年のWHOガイドライン改訂にも反映され、より多くの患者に適用可能な治療法の1つとなることが期待される。

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事例019 外来感染対策向上加算の算定(続き)【斬らレセプト シーズン4】

解説前回の「事例18 外来感染対策向上加算の算定」に引き続いて、今回も同じテーマの追加事項を解説いたします。外来感染対策向上加算(以下「同加算」)にかかる「協定指定医療機関」の指定を受けているものと見做す経過措置は、2025年1月に終了しました。同加算を新規で届け出る場合には、医療機関所在地の都道府県知事による指定を受けてから、「様式1の4 外来感染対策向上加算に係る届出書添付書類」を届け出ることが必要となります。様式の5項目に対して、記載にかかる質問が多いことから現時点での具体的要件を紹介します。1項目目「院内感染管理者」は、専任であって週1回以上感染対策にかかる院内巡回を行う必要があります。年2回の感染対策にかかる院内研修も必要です。これらは書面で記録を残す必要があります。院長自らが就任されてもよいですが、雇用している看護師などの医療有資格者を選任することもできます。2項目目「抗菌薬適正使用のための方策」は、地域医師会において準備されている手引きに沿っての実践と、連携医療機関から助言を受けている内容の記載が必要です。3項目目「連携保険医療機関名又は地域の医師会」は、感染向上対策加算1の届出医療機関と直接に連携の了解を得て書面を交わすか、地域医師会に相談をお願いします。4項目目「発熱患者等への対応」は、車内待機や発熱患者を時間で分離するなどの対応が記入されていれば要件を満たすとされています。5項目目「新興感染症の発生・まん延時の対応」は、所在地の感染症対策課から指定を受けたことがホームページに掲載された以降にチェックを入れて届け出ることができます。そのほか、各項目と同時に提出する付随書類のひな型は地域医師会に準備されていますので地域医師会への問い合わせなどお願いします。

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クランベリーって意味あるの? ─再発予防に使える薬剤、その他について─【とことん極める!腎盂腎炎】第13回

クランベリーって意味あるの? ─再発予防に使える薬剤、その他について─Teaching point(1)クランベリーが尿路感染症を予防するという研究結果はたしかに存在するが、確固たるものではない(2)本人の嗜好と経済的事情が許すならクランベリージュースを飲用してもらってもよい(3)クランベリージュース以外の尿路感染症の予防方法を知っておく《症例》28歳女性、独身、百貨店の販売員。これまでに何度も排尿時痛や頻尿などの症状で近医受診歴があり、「膀胱炎」と診断され、その都度、経口抗菌薬の処方を受け治療されている。昼前から排尿時痛があり、「いつもと同じ」膀胱炎だろうと思って経過をみていたところ、夕方にかけて倦怠感とともに37.5℃の発熱を認めるようになったため当院の時間外外来を受診した。来院時38.0℃の発熱あり。左肋骨脊柱角に圧痛(CVA叩打痛)を認める。血液検査:WBC 12,000/μL(Neu 85%)、CRP 3.5mg/dLと炎症反応上昇あり。尿検査:WBC(+++)、亜硝酸塩(+)。一般的身体所見、血算・生化学検査では、それ以外の特記所見に乏しい。1.クランベリーとは?クランベリーとはツツジ科スノキ属ツルコケモモ亜属(Oxycoccos)に属する常緑低木の総称であり、Vaccinium oxycoccus(ツルコケモモ)、V. macrocarpon(オオミツルコケモモ)、V. microcarpum(ヒメツルコケモモ)、V. erythrocarpum(アクシバ)の4種類がある。北米原産三大フルーツの1つである酸味の強い果実は、菓子やジャム、そしてジュースによく加工され食用される。古くから尿路感染症予防の民間療法として使用されており、1920年代にはその効果は尿路の酸性化による結果と考えられていたが、クランベリーに含まれるA型プロアントシアニジンという物質がどうやら尿路上皮への細菌の付着を阻害しているらしいということが1980年代に明らかにされた1)。またクランベリーに含まれるD-マンノースもまた、細菌と結合することで尿路上皮への菌の付着を抑制することが知られている。2.クランベリーは尿路感染を予防するのか?クランベリーが尿路感染やその再発を予防するのかというテーマについては、これまで数多くの研究がなされてきた。まず、有効成分の1つである先述のD-マンノースを内服することが再発性尿路感染症の発生率が低下させると、ランダム化比較試験で証明されている2)。クランベリーそのものに関しては、プラセボに比して予防に効果的という結果が得られた研究もあれば、影響を与えないとする研究結果もあり、議論が分かれているところである。系統的レビューによるメタアナリシスでも報告によって異なった結論が得られており、たとえば2012年に合計1,616例の研究結果をまとめたメタアナリシスではクランベリー製品は有意に尿路感染の再発を減らすと報告している3)。半年間の飲用によるリスク比0.6、治療必要数(NNT)は11と推算されている。一方で、同じ2012年にアップデートされたコクランレビューでは4,473例が対象になっているが、プラセボや無治療に比してクランベリー製品は尿路感染症を減らすことはしないとし、尿路感染症予防としてのクランベリージュース飲用は推奨しないと結論づけられた4)。しかし2023年にアップデートされたバージョンでは、50件の研究から合計8,857例がレビューの対象となり、メタ解析の結果、クランベリー製品の摂取によって尿路感染リスクが有意に低減する(相対リスク:0.70、95%信頼区間:0.58~0.84)ことが明らかにされた。とくに、再発性尿路感染症の女性、小児、尿路カテーテル留置状態など尿路感染リスクを有する患者において低減するとされ、逆に、施設入所の高齢者、妊婦などでは有意差は得られなかった5)。わが国で行われたクランベリージュースもしくはプラセボ飲料125mLを毎日眠前に24週間内服して比較した多施設共同・ランダム化二重盲検試験の結果では、50歳以上の集団を対象としたサブ解析では有意な再発抑制効果がクランベリージュースに認められた(ただし、若年層の組み入れが少なかったためか全体解析では有意差が出なかった)6)。尿路感染症の再発歴がある患者が比較的多く含まれたことも有意差がついた要因の1つと考えられ、そうしたことを踏まえると、再発リスクが高い集団においてはクランベリージュースの感染予防の効果がある可能性があると思われる。米国・FDAも、尿路感染既往がある女性が摂取した際に感染症の再発リスクが低下する可能性があるとクランベリーサプリの製品ラベルへ掲載することを2020年に許可しており、日本の厚生労働省公式の情報発信サイトにもそのことが掲載されている7)。再発性の膀胱炎の最終手段として抗菌薬投与が選択されることもあるが、耐性菌のリスクの観点からも導入しやすい日常生活への指導からしっかりと介入していくことは大切である。生活へのアプローチは一人ひとりの事情もあるので、本人の生活について丁寧に聴取し生活に合わせた指導内容を一緒に考えていくことは、プライマリ・ケア医の重要な役割である。3.クランベリー摂取の副作用大量に摂取した場合、とくに低年齢児では嘔気や下痢を招く可能性がある。また、シュウ酸結石を生じるリスクになるともいわれている。しかし一般的には安全と考えられており7)、日本の研究でもクランベリー飲用の有害事象としては107人中1人のみ、初回飲用後の強いやけど感を自覚しただけであった6)。先に紹介したレビューでも、最頻の副作用は胃もたれなどの消化器症状であったが、対照群に比較して有意に増加はしなかった5)。クランベリー摂取により問題となる副作用はあまりないと思われ、そうすると、クランベリーを尿路感染再発予防目的で飲用するべきかどうかは、本人の嗜好や経済的余裕などによって決まると思われる。4.クランベリー以外での再発予防とくに女性では尿路感染症を繰り返す症例があるが、そうした再発例に対しては、飲水励行の推奨や排便後の清拭方法の指導(肛門部に付着する細菌の尿路への移行を防ぐために尿道口から肛門に向けて拭く)に代表される行動療法が推奨される(第11回参照)。それでも無効な場合は予防的抗菌薬投与の適応になりえ、数ヵ月から年単位で継続する方法と、性交渉後にのみ服薬する方法が一般的である。性交渉後に急性単純性膀胱炎を起こすことはよく知られており、抗菌薬の連日投与でなくても、セファレキシン、ST合剤、フルオロキノロンなどを性交渉後の単回内服するだけでも尿路感染症の予防に有効であることが示されている8)。再発性尿路感染症を呈する高齢者においても、予防的抗菌薬の内服が尿路感染症の発症予防に効果があるとされている9)。また、閉経後の女性では局所エストロゲン療法が尿路感染の再発予防に有効であるといわれている10)。《症例(その後)》腎盂腎炎と診断し、血液・尿培養採取のうえで、点滴抗菌薬加療を開始して入院とした。翌日には解熱、入院5日後に血液検査での炎症反応のpeak outと血液培養からの菌発育がないことを確認でき、尿培養から感受性良好な大腸菌(Escherichia coli)が同定されたため、内服抗菌薬にスイッチして退院とする方針とした。これまでに何度も膀胱炎になっているとのことで、再発性の尿路感染症と考えてリスク因子がないか確認したところ、販売員をしているため日中の尿回数を減らすべく、出勤日は飲水量を減らすように心がけているということであった。尿量・尿回数の減少が尿路感染症のリスクになるため飲水励行が勧められること、度重なる抗菌薬加療が将来的な耐性菌の出現を招くことによる弊害、会陰部を清潔に保つことが重要であることの説明に加え、排便後の清拭方法の一般的な指導を退院時に行った。クランベリージュースは話題には出してみたものの、ベリー系果実はあまりお好きではないとのだったので強くお勧めはしなかった。それでもなお尿路感染を繰り返すようであれば、さらなる予防策を講じる必要があると判断して、3ヵ月後に確認したところ、その後、膀胱炎症状はなく経過しているということであり終診とした。1)Howell AB, et al. Phytochemistry. 2005;66:2281-2291.2)Kranjcec B, et al. World J Urol. 2014;32:79-84.3)Wang CH, et al. Arch Intern Med. 2012;172:988-996.4)Jepson RG, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;10:CD001321.5)Williams G, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2023;4:CD001321.6)Takahashi S, et al. J Infect Chemother. 2013;19:112-117.7)厚生労働省eJIM(イージム:「統合医療」情報発信サイト):「クランベリー」8)日本排尿機能学会, 日本泌尿器科学会 編. 女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]. リッチヒルメディカル;2019.9)Ahmed H, et al. Age Ageing. 2019;48:228-234.10)Chen YY, et al. Int Urogynecol J. 2021;32:17-25.

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Cutibacterium acnes(C. acnes)【1分間で学べる感染症】第21回

画像を拡大するTake home messageC. acnesは整形外科(とくに肩関節、脊椎)や脳神経外科の人工物(インプラント)関連感染症の重要な原因菌であり、診断には長期間の培養や複数検体での確認が必要となる。Cutibacterium acnes(C. acnes)は、以前はPropionibacterium acnesとも呼ばれ、プロピオン酸を産生、尋常性ざ瘡の一般的な病原体であり、皮膚の常在菌として知られています。整形外科領域や脳神経外科領域において人工物(インプラント)関連感染症の重要な原因菌として注目されています。とくに人工関節や骨折治療用のインプラント、脳神経外科術後のシャント感染や頭蓋インプラント関連感染症で本菌が手術部位感染症(SSI)の一因として重要視されており、診断が困難なケースも少なくありません。微生物・培養C. acnesは嫌気性グラム陽性桿菌であり、非運動性です。主に皮脂腺や毛包に常在しています。C. acnesは短期間(数日)の培養では検出されない可能性があるため、整形外科および脳神経外科領域のインプラント関連感染を疑う場合は、10~14日の長期間培養が推奨されます。全体の陽性報告のうち、4日目までに血液培養で陽性となるのは25%と報告されています。さらに、C. acnesは手術部位の皮膚常在菌として混入する可能性があるため、診断根拠を強めるためには、複数検体からの培養結果が重要になります。症状・臨床所見術中に皮膚表面からインプラントへ移行し、バイオフィルムを形成することで持続的な感染を引き起こすことが特徴です。しばしばコンタミネーションとされますが、整形外科領域ではとくに肩関節や脊椎のインプラント関連感染症での関与が多く、脳神経外科領域では脳脊髄液シャント、リザーバー、脳深部刺激装置などのインプラントに関連した感染症が報告されています。そのほかにも血管系(人工弁、ペースメーカー)、乳房インプラント関連感染なども重要です。C. acnesによる感染症は発症が遅く、慢性的な経過をたどることが特徴です。薬剤感受性・治療C. acnesはβ-ラクタム系全般(ペニシリン系:ペニシリンG、アンピシリン、セファロスポリン系:セファゾリン、セフトリアキソン)のほか、バンコマイシン、ダプトマイシン、クリンダマイシン、ドキシサイクリンなど、さまざまな抗菌薬に感受性を有します。一方で、メトロニダゾールには耐性を示します。バイオフィルム形成のため、それぞれの病態に応じた長期間の抗菌薬投与とデブリードマン・人工物の抜去などの外科的介入が必要になることが多くあります。このようにC. acnesは皮脂腺や毛包に常在し、臨床的にコンタミネーションの場合が多い一方、整形外科(とくに肩関節、脊椎)や脳外科術後を中心としたインプラント関連では真の起因菌になることも多いため、注意が必要です。臨床状況と培養結果を総合して判断することが重要です。1)Boman J, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2022;41:1029-1037.2)Ransom EM, et al. J Clin Microbiol. 2021;59:e02459-20.3)Piggott DA, et al. Open Forum Infect Dis. 2015;3:ofv191.

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