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リンパ節腫脹の鑑別診断【1分間で学べる感染症】第36回

画像を拡大するTake home messageリンパ節腫脹の原因は「MIAMI」という語呂合わせを活用して5つのカテゴリーに分けて整理しよう。リンパ節腫脹は、内科、外科、小児科、皮膚科など、さまざまな診療科で遭遇する重要なサインです。感染症など一過性で自然軽快するものも多い一方で、悪性疾患や自己免疫疾患、薬剤性、肉芽腫性疾患などが隠れている場合もあります。鑑別診断の挙げ方は多くありますが、網羅的に大まかにカテゴリー化する方法として、「MIAMI」(Malignancies・Infections・Autoimmune・Miscellaneous・Iatrogenic)という語呂合わせが提唱されています。今回は、この5つのカテゴリーに沿って、一緒に整理してみましょう。M:Malignancies(悪性腫瘍)悪性疾患によるリンパ節腫脹は、持続性・進行性・無痛性のことが多く、とくに高齢者や全身症状(発熱、体重減少、寝汗)を伴う場合には常に念頭に置く必要があります。代表的な疾患としては、悪性リンパ腫、白血病、転移性がん、カポジ肉腫、皮膚原発の腫瘍などが挙げられます。固定性で硬く、弾力のない腫脹がみられた場合は、早期の精査が推奨されます。I:Infections(感染症)感染症は最も頻度の高い原因です。細菌性では、皮膚粘膜感染(黄色ブドウ球菌、溶連菌)、猫ひっかき病(Bartonella)、結核、梅毒、ブルセラ症、野兎病などがあり、これらは病歴聴取と局所所見が診断の手掛かりとなります。ウイルス性では、EBウイルス、サイトメガロウイルス、HIV、風疹、アデノウイルス、肝炎ウイルスなどが含まれ、とくに伝染性単核球症では頸部リンパ節腫脹が目立ちます。まれですが、真菌、寄生虫、スピロヘータなども原因となることがあり、ヒストプラズマ症、クリプトコッカス症、リケッチア症、トキソプラズマ症、ライム病などが鑑別に挙がります。A:Autoimmune(自己免疫疾患)関節リウマチ(RA)やSLE(全身性エリテマトーデス)、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、成人スティル病などの自己免疫疾患もリンパ節腫脹を来すことがあります。これらは多くの場合、他の全身症状や検査所見(関節炎、発疹、異常免疫グロブリンなど)と合わせて判断する必要があります。とくに全身性疾患の初期症状としてリンパ節腫脹が出現することもあるため、見逃さないよう注意が必要です。M:Miscellaneous(その他)まれではあるものの、Castleman病(血管濾胞性リンパ節過形成)や組織球症、川崎病、菊池病(壊死性リンパ節炎)、木村病、サルコイドーシスなども鑑別に含まれます。これらは一見すると感染症や自己免疫疾患と似た臨床像を呈することがあるため、病理診断や経過観察を要することがあります。I:Iatrogenic(医原性)薬剤による反応性リンパ節腫脹や血清病様反応なども存在します。とくに抗てんかん薬、抗菌薬、ワクチン、免疫チェックポイント阻害薬などが関与することが知られており、最近の薬剤歴の確認が不可欠です。また、ワクチン接種後の一時的なリンパ節腫脹(とくに腋窩)は、画像上の偽陽性を招くこともあるため注意が必要です。リンパ節腫脹は多彩な疾患のサインであり、その背景を見極めるためには、構造的かつ網羅的なアプローチが求められます。「MIAMI」というフレームワークを活用することで、見逃してはならない悪性疾患や慢性疾患の早期発見につながります。必要な検査や専門科紹介のタイミングを逃さないようにしましょう。1)Gaddey HL, et al. Am Fam Physician. 2016;94:896-903.

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どう診る? 小児感染症-抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方

小児感染症の抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方に自信がつく! 臨床現場に必携の1冊「小児診療 Knowledge & Skill」第2巻小児科診療において、感染症治療は抗菌薬や抗ウイルス薬の基礎的知識が不可欠である。一方で、感染症には多様なバリエーションがある。エビデンスやガイドラインに忠実に従うだけでは対応が困難な場面に遭遇したときに、どう対応するか?本書は病院で診療する医師がよく遭遇する感染症、とりわけ抗微生物薬による治療が考慮されるものを中心にとりあげた総論にて感染症の診断と治療の基本的なアプローチ、細菌感染症に対する抗菌薬の使い方、新しい診断法や治療をふまえた抗ウイルス薬の使い方を解説各論にて個別の感染症の診断と治療を解説という特色で、各疾患に造詣の深い医師が執筆。トピックスや臨床的な疑問を含め通常の成書よりも一歩踏み込んだ内容とした。単なる知識の羅列ではなく、読者が明日の診療で「どう考え、どう動くか」の手がかりとなるような情報となっている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するどう診る? 小児感染症-抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方定価8,800円(税込)判型B5判(並製)頁数368頁発行2025年10月総編集加藤 元博(東京大学)専門編集宮入 烈(浜松医科大学)ご購入はこちらご購入はこちら

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ペニシリンの歴史【Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬】第2回

ペニシリンの歴史前回のイントロダクションに続いて、早速ですがペニシリンGについて解説していきます。ここをしっかりと頭に入れていただくことで、今後の抗菌薬の話もスムーズに理解できるため、ぜひ楽しんでいただければと思います。ペニシリンの発見ペニシリンを語るにあたっては、その発見者の話題を避けては語れません。ペニシリンを発見した人が誰か、皆さんはご存じでしょうか。アレクサンダー・フレミング博士ですね。この人は、第1次世界大戦に軍医として赴いた後、黄色ブドウ球菌の研究をしていたのです。ある時、フレミング博士は黄色ブドウ球菌を培地に撒いた状態で、週末の休暇をとっていました。ところが、休暇から博士が帰ってくると、黄色ブドウ球菌の培地に青カビが混入していることに気付くわけです。青カビの周囲ではコロニーが明らかに少なくなっていて、この培養黄色ブドウ球菌は使い物になりません(図1)。図1 青カビの混入した黄色ブドウ球菌培地画像を拡大するここでフレミング博士が素晴らしかったのは、青カビの中に黄色ブドウ球菌を死滅させることのできる物質があると閃いたところです。かくして、ペニシリンが発見されました。このペニシリンの発見は1929年の出来事でした。ペニシリンを薬として使おうとすると、どうしてもタイムラグが出てしまいます。動物実験が行われたのが1940年で、実際に使われるようになったのもそれ以降になるわけですが、さて、1940年代といえばどんな時代だったでしょうか? 第2次世界大戦ですね。戦争が起こると創部感染症が増えるという問題があります。創部感染症を起こすのは黄色ブドウ球菌です。ここで話がつながります。結果的に、フレミング博士は戦時中の戦傷兵の命を救った功績でノーベル賞を受賞しました。この話自体はとても有名で、皆さんの中には「そんなの当たり前」という方もいらっしゃると思います。ここで大事なのは「ペニシリンは、当初は黄色ブドウ球菌を狙って作られた抗菌薬だった」という事実です。しかし、現在はペニシリンで黄色ブドウ球菌をカバーすることがほとんどできません。なぜだか、わかりますでしょうか。戦争中は、ペニシリンはあくまで兵士の間で使われていた軍事資源です。ところが、戦後になると民間でもペニシリンが普及してきます。そうすると、黄色ブドウ球菌のうち、ペニシリンが効くものが淘汰されて、ペニシリンが効きにくいものばかりが生き残ってしまいます。その結果として、現在はペニシリンで黄色ブドウ球菌をやっつけることがほとんどできなくなっています。もちろん、一部の例外的な状況はありますが、そこには触れません。ペニシリンは役立たず?では、ペニシリンが役立たずかというと、そんなことはありません。いまのペニシリンGは、黄色ブドウ球菌を除けば、グラム陽性球菌の大部分をカバーすることができる優秀な抗菌薬です。グラム陽性球菌の名前を皆さんは挙げることができますか? たとえば、レンサ球菌、肺炎球菌は有名ですね。腸球菌も忘れがちですが、グラム陽性球菌です。ペニシリンGはこれらの細菌を得意としています(図2)。図2 ペニシリンGがカバーするグラム陽性球菌画像を拡大する図2で腸球菌をなぜ1段下に落として書いたかというと、これは腸球菌とセットで覚えていただきたい細菌があるからです。腸球菌はペニシリン系がよく効く一方でセフェム系が全然効かないという不思議な細菌ですが、同じような性質を持つ細菌がもう1ついます。それがリステリアです。リステリアはグラム陽性桿菌であり、分類が変わってしまいますが、とりあえずそのことは脇に置いておきましょう。腸球菌とリステリアは、ぜひセットで覚えておいてください。ペニシリンが効いて、セフェム系が効きません。あとはオマケとして、横隔膜から上の嫌気性菌もペニシリンGでカバーできます。要するに口腔内の嫌気性菌のことなのですが、これも知っておくと便利な知識です(図3)。図3 ペニシリンGがカバーする細菌画像を拡大する図3に示したとおり、ここまでペニシリンGがカバーできる細菌を挙げてきました。次回は、逆にペニシリンGが苦手とする細菌を紹介し、実際にペニシリンGを使う場面を考えてみます。

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米国で「悪夢の細菌」による感染症が急増

 米国で、抗菌薬の効かない細菌による感染症が驚くべきペースで増加していることが、米疾病対策センター(CDC)の最新データで明らかになった。CDCによると、最後の砦とされるカルバペネム系薬剤を含むほぼ全ての抗菌薬に耐性を示すことから、「悪夢の細菌」の異名を持つNDM(ニューデリー・メタロβラクタマーゼ)遺伝子を持つNDM産生カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(NDM-CRE)が2019年から2023年の間に劇的に増加したという。CDCの疫学者であるMaroya Walters氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に9月23日掲載された。 NDM-CREを原因とする感染症は、肺炎、血流感染、尿路感染、創傷感染などを引き起こし、治療が困難で、死に至ることもある。治療で医師が利用できるのは、静脈内投与を要する高価な2種類の薬剤だけである。本研究には関与していない米エモリー大学の感染症研究者であるDavid Weiss氏は、「米国におけるNDM-CREの増加は深刻な危険であり、非常に憂慮すべき事態だ」とAP通信に対して語っている。 CDCの報告書によると、米国でのカルバペネム耐性菌を原因とする感染症の発生率は、2019年の10万人当たり2件弱から2023年には10万人当たり3件以上へと69%増加している。中でもNDM-CRE関連症例は、2019年の10万人当たり約0.25人から2023年には1.35人へと460%以上の急増を示した。2023年には、29州で4,341件のカルバペネム耐性菌による感染症が確認され、そのうち1,831件はNDM-CREが原因だったという。ただし、報告書では患者の死亡数は明らかにされていない。 CDCの疫学者でこの報告書の共著者であるMaroya Walters氏は、「耐性菌が広がるにつれ、尿路感染症などの一般的な病気の治療がはるかに困難になる可能性がある」と警告している。薬剤耐性は、細菌が抗菌薬に抵抗する能力を獲得することであり、必要がないときに抗菌薬を使用する、処方された用量を最後まで服用しないなどの誤用によって引き起こされることが多い。また専門家らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックも、薬剤耐性菌の増加に影響を及ぼした可能性が高いと見ている。米セントルイス・ワシントン大学の感染症専門家であるJason Burnham氏は、「パンデミック中に抗菌薬の使用が急増したことは分かっており、これが薬剤耐性菌の増加に寄与した可能性が高い」とAP通信に対して語っている。 ただし、研究グループによると、今回の分析は、実際の感染者数を過小評価している可能性が高いという。多くの病院は必要な検査を行う能力がなく、カリフォルニア州、フロリダ州、ニューヨーク州、テキサス州といった人口の多い州のいくつかはデータセットに含まれていないからだ。このことから研究グループは、全国の感染者数は実際にはもっと多い可能性があると述べている。

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糖尿病性足壊疽の治療期間【1分間で学べる感染症】第35回

画像を拡大するTake home message糖尿病性足壊疽の治療期間は、外科的介入の有無とその程度により決定する。糖尿病性足壊疽(Diabetic Foot Infection)は、糖尿病患者において一般的かつ重要な合併症です。感染が深部まで波及し、骨髄炎を合併するケースもあり、適切な治療期間の判断は臨床経過と予後に直結します。実際の治療期間は、感染の深さ、外科的処置の内容、組織の血流状態、病原体の同定、宿主因子など、複数の要素を加味して決定されます。糖尿病性足壊疽の抗菌薬治療期間については、明確なエビデンスは限られていますが、これまでの研究と専門家のコンセンサスを基に、柔軟かつ個別性のある判断が求められます。ここでは、主に感染の深さと外科的介入の有無に基づいて、抗菌薬治療期間の目安を整理していきましょう。パターン1)骨髄炎あり・手術介入なし(6週間)骨髄炎(osteomyelitis)が存在しながら、手術やデブリードマンが行われていない場合、原則として6週間の抗菌薬治療が推奨されます。これは、骨組織への薬剤到達が困難であり、完全に感染を除去するためには長期間の治療が必要とされるためです。培養感受性に基づいた適切な抗菌薬の選択が必要です。パターン2)骨髄炎あり・デブリードマン介入あり(切断なし)(3~6週間)外科的デブリードマンにより感染組織が部分的に除去されているが、根治的切断には至っていない場合は、3~6週間の治療が推奨されています。近年、3週間と6週間の治療を比較したランダム化比較試験において、明確な差を認めなかったことから、感染制御状況や創部の治癒経過によっては短縮可能な症例があることが示唆されています。ただし、治療期間の短縮には慎重な判断と十分な経過観察が必要です。パターン3)骨髄炎なし・皮膚軟部組織感染症のみ(10~21日)感染が骨に波及しておらず、皮膚や皮下組織・筋膜などの軟部組織感染症のみである場合、10~21日間の抗菌薬治療が標準的とされています。2021年の研究では、10日間と21日間の治療を比較したところ、重症でない症例においては10日間の短期療法でも良好な臨床成績が得られたことが報告されています。ただし、感染の重症度や全身状態、創部の大きさによって、柔軟に調整する必要があります。パターン4)皮膚軟部組織感染症あるいは骨髄炎・根治的足切断あり(0~48時間)感染部位が完全に切除された、いわゆる根治的切断(definitive amputation)が行われた場合、抗菌薬の投与期間はきわめて短く、0~48時間で済むことがあります。これは、感染源の除去が完全であると判断された際の周術期抗菌薬投与に相当し、治療というよりも予防的意味合いが強いケースに該当します。ただし、術中の所見や培養結果、病理検査に基づいて再評価が必要です。感染が残存している可能性がある場合には、より長期間の治療が必要になるため、術中診断が鍵を握ります。糖尿病性足壊疽の治療期間は一律ではなく、感染の深さ、外科的介入、病態の安定性に応じて個別化されたアプローチが求められます。抗菌薬の使い過ぎによる耐性菌出現や、逆に短すぎる治療による再発のリスクを避けるためにも、これまでの臨床試験と専門家のコンセンサスを理解したうえで、治療方針を柔軟に調整することが大切です。1)Lipsky BA, et al. Clin Infect Dis. 2012;54:e132-e173.2)Rossel A, et al. Endocrinol Diabetes Metab. 2019;2:e00059.3)Tone A, et al. Diabetes Care. 2015;38:302-307.4)Gariani K, et al. Clin Infect Dis. 2021;73:e1539-e1545.5)Pham TT, et al. Ann Surg. 2022;276:233-238.6)Cortes-Penfield NW, et al. Clin Infect Dis. 2023;77:e1-e13.

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総合診療の実際【Dr. 中島の 新・徒然草】(600)

六百の段 総合診療の実際涼しくなりましたね。先日、朝のゴミ出しをしに行った時のこと。屋外駐車場に並んでいる車のフロントガラスが結露していたので驚きました。知らないうちに気温が下がっていたのでしょう。さて今回は、われわれの病院における総合診療科の現実についてお話ししたいと思います。総診というと、他の診療科の先生方が困っている症例をスパッと診断するというイメージがあるのではないでしょうか。例を挙げれば…… ○○内科医 「うーん、診断が難しいな」 ××外科医 「困ったなあ、よくわからんぞ」 総合診療医 「先生方、これは△△病ですよ」 ○○内科医&××外科医「おおーっ、そうだったのか! ひとつ賢くなったぞ」こうなったらカッコいいのですが、実際はこんな感じです。 ○○内科医 「これ、ウチの疾患じゃないですよ」 ××外科医 「オレのとこでもないな」 ○○内科医&××外科医「そうだ、総診に診てもらおう」 総合診療医 「わかりました。ウチで引き受けさせていただきます」 ○○内科医&××外科医「よろしくー」簡単にいえばスキマ産業です。実際、専門診療科は、ナントカクリーゼとかカントカがんと戦うのに忙しいはず。だから患者さんのちょっとした症状に対応する余裕がないのでしょう。病院が大きくなるほど皆が専門に走ってしまって、スキマが大きくなりがちです。そこを埋めるのが総診。皆がやりたがらない仕事を引き受け、そっと患者さんの不具合を解決する。なんと立派な志でしょう!ここまでは誰でも想像できる総診の役割ですが、実際にやっていると、ちょっと違う景色も見えてきたりします。1つは壁打ちの相手。よくある総診への院内コンサルが、入院患者さんの発熱の相談です。とくにマイナー診療科からのもの。 マイナー科医 「入院患者さんの発熱で困っているんです」 総合診療医 「発熱だったら、感染症内科のほうが専門だと思いますけど」 マイナー科医 「抗菌薬を使っても良くならないんですよ」 総合診療医 「なるほど、膠原病とか腫瘍とか、ひょっとして薬剤熱もあるかな」 マイナー科医 「それに、培養も採らずに適当な抗菌薬を使ってしまったんで、ちょっと相談しにくくて……」 総合診療医 「わかりました。じゃあ一緒に考えましょう」 マイナー科医 「助かります(喜)」 もう1つが人間関係のあれこれ。せっかく専門診療科の先生にも一緒に診てもらっているのに、つい「ちょっと違うんでねーの」と思ってしまうこともあるわけです。とくに研修医も参加している総診のカンファレンスでは、苦労が絶えません。 研修医 「○○内科のご指導をいただいて、薬剤Aを使っています」 中島 「僭越ながら、薬剤Aより薬剤Bのほうが良さそうな気がするけど」 総合診療医 「えっ、中島先生もそう思う? 薬剤Aって、あり得ないでしょう」 研修医 「じゃあ、どうしたらいいんですか?」 中島 「先生が○○内科に行って『薬剤Aは間違っています!』と言ったらどうかな」 研修医 「無理です、できません(泣)」 中島 「失礼にならない形で相手に伝えるのも研修のうちやぞ」 研修医 「そんな馬鹿な……」 総合診療医 「『僕は○○内科に行きたいです』と言ったら、たいていのことは許してもらえるわよ」 研修医 「○○内科なんか興味ないです」 中島&総合診療医「それが一番失礼や!」こういう話が総合診療科の先生方に共感してもらえるのか、それはわかりません。おそらく、立場によっていろいろな形の総合診療があることでしょう。ともあれ、読者の皆さんにそれぞれの立場で笑っていただければ幸いです。最後に1句 結露みて 季節を感じる 駐車場

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早期梅毒に対するペニシリンの1回投与、3回投与と同等の効果を示す

 早期梅毒に対するペニシリンの1回投与は、現在、臨床現場で広く行われている3回投与と同等の治療効果を有することが、新たな臨床試験で示された。ベンザチンペニシリンG(BPG)の3回投与は、早期梅毒の治療に追加的な効果をもたらさないことが示されたという。米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の資金提供を受けて米アラバマ大学バーミンガム校のEdward Hook III氏らが実施したこの研究結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に9月3日掲載された。 この研究には関与していない、NIAID腸管・性感染症部門の責任者を務めるCarolyn Deal氏は、「BPGは梅毒に非常に効果的だが、3回投与のレジメンは患者への負担が大きく、フォローアップ診察の受診をためらわせる可能性がある」と話す。その上で同氏は、「1回投与が3回投与と同等の効果を持つことを示した今回の知見は、治療を簡素化できる可能性を示しており、特に、梅毒の罹患率が依然として非常に高い状況下では歓迎すべきエビデンスとなるものだ」と述べている。 研究グループは、梅毒は性的に活発な米国人にとって依然として健康上の脅威であると指摘している。米国では2023年に20万9,000件以上の梅毒症例が確認された。これは、2019年比で61%の増加に当たるという。梅毒は、放置すると脳障害、臓器不全、妊娠合併症、先天異常を引き起こす可能性があるだけでなく、HIV感染やHIV感染拡大のリスクを高めもする。 BPGは、梅毒に効果を発揮することが知られている数少ない抗菌薬の一つである。研究グループによると、現在、米国ではBPGが全国的に不足しており、輸入に頼らざるを得ない状況だという。 今回の研究では、米国の10カ所の医療センターの早期梅毒患者249人(男性97%、HIV感染者61%)を対象に、BPGの1回投与と3回投与の効果を比較した。試験参加者は、BPG1回240万単位を1回投与する群と、週に1回、計3回投与する群にランダムに割り付けられた。なお、「単位」とは、ペニシリンの効き目(抗菌力)をもとに決められた投与量の基準のことである。 その結果、6カ月時点の血清学的反応、すなわち、RPRテスト(Rapid Plasma Reagin Test)の値が治療前の4分の1まで下がるか(2段階以上低下)、またはRPRが完全に陰性になった割合は、1回投与群で76%、3回投与群で70%であり、群間差は−6%であった。この結果から、1回投与は3回投与に対して非劣性であることが示された。 Hook III氏は、「梅毒は1世紀以上にわたって研究・治療され、BPGは50年以上使用されている。それにもかかわらず、われわれはいまだに治療の最適化に役立つ情報を十分に得られていない。今回の研究結果が、梅毒の予防と診断における科学的進歩によって補完されることを期待している」と米国立衛生研究所(NIH)のニュースリリースの中で述べている。研究グループはまた、BPGの投与を1回に制限することで、細菌の薬剤耐性獲得を防ぐとともに、薬剤不足の影響を抑えることにも役立つ可能性があると見ている。 さらに研究グループは、この臨床試験では、BPGの1回投与が3回投与と同等の効果を有することのエビデンスが得られたものの、このような短期間での治療戦略の可能性を完全に理解するにはさらなる研究が必要だとの考えを示している。また、BPGの1回投与が末期梅毒患者や細菌が神経系に侵入した梅毒患者にも有効なのかどうかも明らかになっていないと付け加えている。

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抗菌薬の学び方【Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬】第1回

抗菌薬の学び方最近は感染症の入門書が増えてきました。新しい医学書が出るとつい買ってしまう。そんな先生方も多いのではないでしょうか。問題は、その新しく買った医学書で、抗菌薬を満足に勉強できるかどうかです。勉強はしているのに、抗菌薬を覚えるのに苦労されている先生方は結構いらっしゃるのではないかと思うわけです。では、どうしてそんなに苦労するかというと、これまでの感染症の書籍はきわめて各論的に書かれているからなのですね。言い換えるとストーリー形式になっていない。あるいは、網羅的だけれども有機的ではない。そういった問題があるわけです。では、どうすれば抗菌薬を理解できるのでしょうか。抗菌薬を理解するコツは、よく使う抗菌薬の歴史的背景などの周辺知識を知っておくことです。本連載では、いろいろと雑学を挟んで楽しみながら抗菌薬の知識を身に付けていただくことを目的としていますので、楽しみにしていてください。βラクタム系抗菌薬を優先的に学ぶ理由先ほど「よく使う抗菌薬」の歴史的背景と述べました。「よく使う抗菌薬」というのは、βラクタム系抗菌薬のことです。つまりは、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系などのことです。βラクタム系さえあれば、日常診療は大抵間に合ってしまう。だからこそ、βラクタム系を優先的に勉強してしまうわけです。では、βラクタム系以外の抗菌薬を覚える時はどうすればよいか? という疑問がもしかしたら生じるかもしれません。これは、βラクタム系を先にしっかりとインプットしたうえで、それと関連付けるようにして非βラクタム系を覚えるのがオススメです。つまり、βラクタム系が骨の知識に、非βラクタム系が肉の知識になるというわけです。このようにして覚えておくと、実臨床でも応用が利きやすいのでオススメです。具体例をお示ししましょう。化学療法を行っているなかで、発熱性好中球減少症を発症した60歳女性を例にとって考えてみます。起因菌や熱源ははっきりしませんが、緑膿菌をカバーするためにセフェピムを使っていたとします。ところが、そこに薬疹が出現します。口腔粘膜疹も出現してしまい、重症薬疹を否定できなくなってしまいます。このような時にどうしたらよいのでしょうか。ここで、レボフロキサシンをセフェピムと関連付けながらインプットしていると、レボフロキサシンと即答することができます(図1)。もちろん、別解としてアズトレオナムやアミノグリコシド系を使ったレジメンも考えられますが、今回は深入りしないでおきます。図1 βラクタム系と関連付けて覚える画像を拡大する細菌の分類ここで、抗菌薬の勉強に入る前に、少しだけ細菌の話をさせてください。医学部の授業などでは、細菌をグラム陽性球菌、グラム陽性桿菌、グラム陰性球菌、グラム陰性桿菌、細胞内寄生菌などに分類していたかと思います。ただ、これだと覚えないといけない細菌の種類が多すぎて少々辛いところです(図2)。図2 従来の細菌の分類画像を拡大するそこで、このレクチャーでは細菌を3つの分類で整理していただければと思います。グラム陽性球菌、グラム陰性桿菌、そして嫌気性菌の3つです(図3)。図3 覚えやすい細菌の分類画像を拡大するここで、嫌気性菌は偏性嫌気性菌、つまり酸素があると上手く生きられない細菌のことを指していると考えてください。どうしても分類がMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)になっていなくて気持ち悪いという方もいらっしゃるとは思いますが、その点はご容赦ください。さて、グラム陽性球菌はブドウ球菌とレンサ球菌、グラム陰性桿菌は腸内細菌目と非発酵菌、嫌気性菌は横隔膜から上のものと下のものとに大雑把に分けることができます。腸内細菌目や非発酵菌など、ややこしい言葉が出てきましたが、腸内細菌目は大腸菌やクレブシエラのこと、非発酵菌は緑膿菌のことと思っていただければ差し当たっては十分です(図4)。図4 グラム陽性球菌、グラム陰性桿菌、嫌気性菌画像を拡大するグラム陽性球菌のうち、ブドウ球菌はグラム染色で丸く見える細菌で、クラスター状に集まることで知られています。基本的には皮膚にいる細菌で、皮膚軟部組織感染症やカテーテル関連血流感染症などで問題になります(図5)。図5 ブドウ球菌画像を拡大するレンサ球菌はA群β溶血性レンサ球菌が代表的で、広い意味では肺炎球菌などもこのグループに入ります。基本的には咽頭や皮膚にいる細菌で、皮膚軟部組織感染症や肺炎・中耳炎などの上下気道感染症などで問題になります(図6)。図6 レンサ球菌画像を拡大するグラム陰性桿菌でよく見かけるのは大腸菌ですが、これは腸内細菌目に分類されます。名前のとおり、腸管内にいる細菌ですが、腹腔内感染症や尿路感染症で問題になります。腸内細菌目は形態学的には腸詰め、ウインナーのように見えることが多いです(図7)。図7 腸内細菌目画像を拡大する一方の非発酵菌は、嫌気性の環境でブドウ糖を発酵できない細菌のことで、緑膿菌が代表的です。基本的には水回りやデバイスと親和性があります。酸素があった方が生きやすい細菌なので、血液培養の時に好気ボトルだけで発育するということもよく経験します。形態学的にはチョリソーっぽく見えます(図8)。図8 非発酵菌画像を拡大する嫌気性菌は、グラム染色で見る機会が少なく、培養でも発育しにくい細菌なので、形態学的な話は割愛させていただこうと思います。横隔膜から上の嫌気性菌は口腔内にいる細菌で、フソバクテリウム属やパルビモナス属などが該当しますが、これらは細かいのでまったく覚えていただかなくて構いません。横隔膜から下の嫌気性菌は腸管内の細菌です。こちらもあまり覚えなくてよいのですが、ひとつだけ、余裕があればバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)という名前だけ覚えていただければと思います。基本的にこのレクチャーで横隔膜から下の嫌気性菌というときは、バクテロイデス・フラジリスを指しているものとお考えください。腸内細菌目? 腸内細菌科?ここまで、基本的な内容を解説してきました。余力がある人向けに、ちょっとだけマニアックなお話もさせてください。先ほど、腸内細菌目と述べましたが「腸内細菌科の間違いでは?」と思った先生方も多いのではないかと思います。じつは遺伝子レベルでの分析が進むことで、それまで腸内細菌科だった細菌の一部が、腸内細菌科から外れてしまうという出来事がありました。具体的にはプロテウス属などの細菌などが該当するのですが、今後の議論を進めていくうえでは不都合ということで、腸内細菌科ではなく腸内細菌目という言葉を使いました。感染症の勉強の厄介なところは、こういった細かい知識のアップデートが頻繁に行われるところにあるのですが、この連載では全体像を見失わないようにやっていきたいと思います。まとめ第1回をまとめていきます。抗菌薬を覚えるにはβラクタム系から攻めるのが鉄則です。非βラクタム系はその後に肉付けする形で覚えましょう。また、細菌については、グラム陽性球菌、グラム陰性桿菌、嫌気性菌の3つに分類して、それ以外については各論的に補足していくスタンスで臨むと分かりやすいです。次回は、タイムマシンに乗ってペニシリンG誕生の瞬間を見に行こうと思います。歴史を見ていると、ペニシリン系のスペクトラムの成り立ちがよくわかりますので、楽しみにしていてください。

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小児の創傷処置【すぐに使える小児診療のヒント】第6回

小児の創傷処置子供は日々、転んだりぶつけたりして小さなけがを繰り返します。診療所で出会う「擦り傷」「切り傷」は一見軽症に見えることもありますが、保護者の不安は強く、処置や家庭での経過観察の仕方について「どう説明すべきか」と迷うことは少なくありません。症例5歳、男児。公園で走って遊んでいたら転倒して前額部に創傷を負ったため、受診。父親「血が出ていてびっくりしたので、とりあえず絆創膏を貼ってきました。消毒したほうがよいでしょうか?」小児の創傷処置の基本1.消毒は不要かつては「まず消毒」というのが常識でした。しかし、アルコールやヨードは殺菌効果を有する一方で、健常な細胞まで障害し、創傷治癒を遅らせることが知られています。NEJMの総説(Singer, 2008)でも一般的な創傷に対して消毒は推奨されておらず、流水による十分な洗浄が最も重要です。2.乾燥ではなく湿潤環境「かさぶたを作って自然に治す」という従来の考え方は、実は治癒を遅らせ、瘢痕も残りやすいことが明らかになっています。湿潤環境を維持すると血管新生やコラーゲン合成が促進され、その結果、上皮化が進み早く治癒します。疼痛が少なく、創面がきれいに治ることも多くの臨床試験で示されています。創面は適切な被覆材で覆い、乾燥させないことが原則です。3.基本的に抗菌薬は不要小さな創傷には必ずしも抗菌薬を投与する必要はありません。むしろ耐性菌リスクや副作用の観点から投与すべきではないとも言えます。ただし、動物咬傷や深い創傷、汚染創では抗菌薬の投与を検討します。また、破傷風リスクの評価も重要です。三種・四種・五種混合ワクチンには、破傷風ワクチンが含まれています。母子手帳を確認してワクチン歴が不明・不十分であれば破傷風トキソイドの接種を考慮します。■破傷風トキソイド・免疫グロブリン製剤の投与基準■破傷風リスクの評価低リスク汚染がなく小さい創傷高リスク土壌や糞便・唾液で汚染されたもの、動物咬傷、熱傷、刺傷、挫滅創、皮膚欠損を伴うものなど縫合や特別な処置が必要な創傷の見分け方「この創は縫合すべきか」は診療の現場で迷いやすいポイントです。以下に、縫合や病院への紹介を考慮すべき目安をまとめます。圧迫しても止血が得られない皮膚の離開を伴う(寄せても傷口が自然に開いてしまう)皮弁や段差を伴う関節に及ぶ深い創、筋膜や脂肪層が露出している顔など整容上重要な部分汚染が強く、十分な洗浄が難しいガラス片や砂利など皮下異物が疑われる爪床損傷基本的に皮下に達する場合は縫合が必要になることが多いです。また処置の「Golden period」の目安は四肢では6~10時間程度、頭皮や顔面では24時間程度とされています。それを超えてはならないというほど厳密なものではありませんが、受傷から時間が経つと縫合が難しくなったり、縫合した場合の感染リスクが上がったりしてしまうため、迷う場合は早めの処置または紹介が望ましいでしょう。一方で、手技として縫合が可能であっても、創が大きい・複雑な形状・強い汚染を伴う場合、縫合が難しい部位(眼瞼、耳介、口唇、陰部など)、体動の抑制が難しく安全に処置できない場合は、より専門的な施設に紹介したほうが安心です。小児では鎮静下での処置が必要となるケースもあり、施設ごとの体制などに応じて判断することが大切です。紹介先については、小児専門病院が近くにない地域では、形成外科医院、または形成外科や救急科を有する総合病院などへの紹介が現実的です。地域の医療資源に応じて適切な連携先を把握しておくことが望まれます。紹介の際には「受傷からの時間」「洗浄の有無」「止血の状態」を伝えると、2次施設での処置が円滑になります。被覆材の種類と使い分け被覆材は「創傷を乾燥させない」ためのものであり、滲出液の量や部位に応じて選ぶことが多いです。保護者には「貼りっぱなしではなく、1日1回は観察し、汚れたり剥がれたりしたら交換してください」と伝えるとよいでしょう。一般的な絆創膏:浅い擦過傷や小切創に。最も身近。乾燥はしやすい。フィルム材(例:オプサイト):滲出液が少ない浅い創に。透明なので観察はしやすい。ハイドロコロイド材(例:デュオアクティブ):滲出液の多い擦過傷や浅い潰瘍に。滲出液を吸収すると親水性ゲルになり、創面に固着せず湿潤環境を維持できる。疼痛も少ない。柔軟なので指尖部や鼻翼など凹凸のある部位にフィットしやすい。アルギネート材(例:カルトスタット)やハイドロファイバー材:滲出液が多い創に。吸収性に優れる。止血効果もある。ガーゼ+ワセリン:固着を防ぐ。ガーゼは非固着性のもの(例:デルマエイド)を使用するとよりよい。冒頭の症例では、まず創部を流水で洗浄しました。創部の離開はなく、擦過傷で縫合の必要性はありませんでした。滲出液が多かったためハイドロコロイド材で被覆し、経過観察を指示しました。四種混合ワクチンの定期接種が完了していたため、破傷風トキソイドも不要と判断しました。保護者への説明の工夫子供がけがをして受診する保護者の多くは、「痛がっていてかわいそう」「この傷はきれいに治るのだろうか」「傷跡が残ってしまわないか」「自分が目を離していたせいではないか」と、不安や自責の気持ちを抱えて来院します。だからこそ、どんなに小さな傷でも傷の状態を的確に評価し、適切なケア方法をわかりやすく伝えることが非常に重要です。説明の際には、保護者を責めるのではなく、まずは「見せに来てくれてありがとうございます」と声をかけることで、安心感を与えることができます。こうした一言が、その後の信頼関係を築く大切なきっかけになるように感じます。まとめ小児の創傷処置において大切なのは、1.消毒ではなく流水洗浄2.乾燥ではなく湿潤環境3.抗菌薬は原則不要、咬傷や汚染創では適応を判断4.処置が必要と考えられる症例はためらわず紹介5.被覆材は創の性状に応じて選択保護者が根拠に基づいたケアを実践できるように説明するとともに、縫合や特殊処置が必要な場合は迅速に紹介する必要があります。子供のけがは日常の中でなかなか避けられない出来事ですが、適切な初期対応と説明によって、子供と保護者双方の安心につなげることができます。次回は、食物蛋白誘発胃腸炎(消化管アレルギー)についてお話します。 1) Singer AJ, et al. N Engl J Med. 2008;359:1037-1046. 2) Junker JP, et al. Adv Wound Care. 2013;2:348-356. 3) Nuutila K, et al. Adv Wound Care. 2021;10:685-698. 4) Trott AT原著. 岡 正二郎監訳. ERでの創処置 縫合・治療のスタンダード 原著第4版. 羊土社;2019. 5) Minnesota Department of Health:Summary Guide to Tetanus Prophylaxis in Routine Wound Management

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ピロリ除菌は全年齢層で有効、国際的なコンセンサス発表/Gut

 台湾・台北で行われた「Taipei Global Consensus II」において、Helicobacter pylori(H. pylori)感染の検査・除菌による胃がん予防戦略に関する国際的な合意文書が公表された。日本を含む12ヵ国・地域(台湾、中国、香港、韓国、日本、タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ドイツ、フランス、オーストラリア、米国)の32人の専門家がGRADEシステムを用いてエビデンスを評価し、28のステートメントで80%以上の合意が得られた。この内容はGut誌オンライン版2025年9月5日号に掲載された。 主なステートメントの内容は以下のとおり。H. pylori除菌は全年齢層で有効 H. pyloriは胃がんの主要因であり、除菌により全年齢層で胃がんリスクが減少することが確認された。とくに前がん病変(萎縮性胃炎・腸上皮化生など)が発症する前に除菌することで、最大のリスク低減効果が得られる。また、除菌は消化性潰瘍の治癒促進と再発予防、NSAIDs/アスピリン関連の潰瘍リスク低減にも有効である。家族単位でのアプローチが重要 H. pyloriの感染経路は主に家庭内であり、家族全員を対象とした検査と治療が感染拡大防止と治療効果向上の両面で有効とされた。推奨される検査と治療[検査法]尿素呼気検査、便中抗原測定法を推奨。陽性率が低い地域では血清抗体検査も容認されるが、非血清学的検査で確認が必要。[治療法]抗菌薬耐性率が高い地域では、ビスマス系4剤併用療法(PPIもしくはP-CAB+ビスマス製剤+テトラサイクリン系抗菌薬+ニトロイミダゾール系抗菌薬)が第1選択となる。P-CABを基本とするレジメンも選択肢となる(※日本における初回標準治療は、PPIもしくはPCAB+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤併用療法)。[除菌確認]全例で再検査による除菌確認が強く推奨される。[内視鏡検査]胃がんリスクが高い、またはアラーム症状を有する感染者には内視鏡検査が推奨される。[安全性と今後の課題]除菌による逆流性食道炎と食道腺がんのリスク増加は認められなかった。一方で、長期的な腸内細菌叢・耐性菌への影響、抗菌薬使用増加による環境負荷などは今後の研究課題とされた。さらにH. pyloriワクチン開発の必要性や、遺伝子研究に基づくリスク層別化戦略の確立も未解決の課題である。結論 本コンセンサスは、・成人のH. pylori感染者全員に除菌を推奨・胃がん予防に有効な戦略として臨床実装を推進を結論とした。今後は最適な検査の時期、長期アウトカム評価、精密なリスク層別化の検証が求められる。

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Rothia mucilaginosa(旧名:Stomatococcus mucilaginosus)【1分間で学べる感染症】第34回

画像を拡大するTake home messageRothia mucilaginosaは好中球減少症患者においてしばしば検出されるグラム陽性球桿菌であり、その特徴を理解しよう。Rothia mucilaginosa(旧名:Stomatococcus mucilaginosus、呼び方はRothia[ロシア])は、もともと口腔内常在菌として知られていましたが、血液悪性腫瘍や好中球減少症の患者において菌血症の起因菌となることがあり、近年その臨床的意義が注目されています。なかでも、持続性好中球減少症(prolonged neutropenia)の患者において血液培養から検出された場合は、迅速な治療が必要となるため、注意が必要です。グラム染色Rothiaはグラム陽性球桿菌で、集簇状あるいは双球状を呈することが多いです。形態的にはブドウ球菌と類似して見えることがあり、注意深く評価することが必要です。コロニー培養すると白色で非溶血性のコロニーを形成し、粘稠性を呈するのが特徴です。リスク因子Rothia感染症のリスク因子としては血液悪性腫瘍、とくに持続性好中球減少症が挙げられます。また、フルオロキノロン系抗菌薬による予防投与を受けている患者は、ブレークスルー感染として菌血症を引き起こすことがあります。菌血症の原因菌血症の原因としては、腸管からのbacterial translocation(細菌移行)や、口腔粘膜炎(mucositis)、中心静脈カテーテルなどのカテーテル関連血流感染(catheter-related blood stream infection:CRBSI)が主な原因とされています。抗菌薬治療にはペニシリン系やセフェム系を中心としたβ-ラクタム系抗菌薬が有効であり、必要に応じてバンコマイシンも使用されます。初期治療においてはバンコマイシンが用いられることもありますが、感受性結果に応じて適宜調整を行う必要があります。Rothiaはコンタミネーションと間違われることも多くありますが、上記のような免疫不全の患者では、治療が遅れると致死的な感染を引き起こす可能性があります。したがって、その特徴と適切な対応を知っておくことが重要です。1)Ramanan P, et al. J Clin Microbiol. 2014;52:3184-3189.2)Abidi MZ, et al. Diagn Microbiol Infect Dis. 2016;85:116-120.

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小児心臓弁膜症、部分心臓移植は実現可能か/JAMA

 現在、弁形成術の適応とならない小児の心臓弁膜症の治療に使用されている、死亡ドナー由来の同種組織(ホモグラフト)のインプラントは成長能力や自己修復能力を持たないことから、これらの患者はインプラント交換のために何度も再手術を受けることになる。米国・デューク大学のDouglas M. Overbey氏らは、先天性心臓弁膜症患者における成長能力を有する心臓弁を用いた部分心臓移植(=生体弁置換術)の初期の結果を記述し、実行可能性、安全性、有効性を評価する症例集積研究を実施した。JAMA誌オンライン版2025年8月27日号掲載の報告。半月弁の移植を受けた19例 本研究では、2022年4月~2024年12月に米国内の小児心臓外科・移植センターで部分心臓移植を受けた最初の19例について解析した(Brett Boyer Foundationなどの助成を受けた)。 これらの患者は修復不可能な先天性心臓弁機能不全を有しており、ドナー心臓由来の半月弁(大動脈弁、肺動脈弁)を用いた部分心臓移植が行われた。維持免疫抑制療法としてタクロリムス単剤(トラフ値の目標値は4~8ng/mL)を投与した。 19例(男性10例[53%]、女性9例[47%])の移植時の年齢中央値は97日(範囲:2日~34年)、体重中央値は4.65kg(2.5~85.8)であった。追跡期間中央値は26.4週(範囲:11.3~153.6)。弁輪径、弁尖長が増加、狭窄や逆流は発生せず 最初の9例について移植弁の成長を調べた。移植されたすべての弁は良好に機能し、適切なzスコアに即した成長を示した。 弁輪径中央値は、大動脈弁で7mmから14mmへ、肺動脈弁で9mmから17mmへとそれぞれ増加した。肺動脈弁の弁輪径の増加は統計学的に有意であった(p=0.004)。同様に、弁尖長中央値も、大動脈弁で0.5mmから1mmへ、肺動脈弁で0.49mmから0.675mmへと増加した。肺動脈弁の弁尖長の増加は統計学的に有意だった(p=0.004)。 術後早期と追跡期間中の最新の心エコー検査所見を比較検討したところ、観察された肺動脈弁輪径の増加は、弁の拡張ではなく成長を反映するものと考えられた。全体として、退院時に、移植された大動脈弁または肺動脈弁に重大な狭窄や逆流が生じた患者はいなかった。免疫抑制薬関連の重大な合併症はない 術後1ヵ月に1例が再手術を要したが、移植弁との関連はなかった。1例で、B群溶血性レンサ球菌による呼吸器感染症が発生したが、抗菌薬治療で回復した。また、2例に腎障害が発現し、免疫抑制薬の用量調節を要したものの、免疫抑制薬に関連した重大な合併症は認めなかった。 著者は、「部分心臓移植は、弁置換術に成長可能な生体組織を提供し、これは現行の技術の重大な限界の克服につながる可能性がある」「この方法は万能な解決策ではなく、さらなる改良を要する発展段階にある有望な技術と認識することがきわめて重要である」「長期的な影響を完全に理解し、より広範な先天性心疾患への適用を進めるための研究が求められる」としている。

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「かぜ」への抗菌薬処方、原則算定不可へ/社会保険診療報酬支払基金

 社会保険診療報酬支払基金は8月29日付けの「支払基金における審査の一般的な取扱い(医科)において、一般に「風邪」と表現される「感冒」や「感冒性胃腸炎」などへの内服の抗生物質製剤・合成抗菌薬を処方した場合の算定は、“原則認められない”とする方針を示した。 支払基金・国保統一事例は以下のとおり。取扱い 次の傷病名に対する抗生物質製剤【内服薬】又は合成抗菌薬【内服薬】※の算定は、原則として認められない。※ペニシリン系、セフェム系、キノロン系、マクロライド系の内服薬で効能・効果に次の傷病名の記載がないものに限る。(後述参照)(1)感冒(2)小児のインフルエンザ(3)小児の気管支喘息(4)感冒性胃腸炎、感冒性腸炎(5)慢性上気道炎、慢性咽喉頭炎取扱いを作成した根拠等 抗生物質製剤は細菌または真菌に由来する抗菌薬、合成抗菌薬は化学的に合成された抗菌薬で、共に細菌感染症の治療において重要な医薬品である。 感冒やインフルエンザはウイルス性感染症、気管支喘息はアレルギーや環境要因に起因して気道の過敏や狭窄等をきたす疾患、また、慢性咽喉頭炎を含む慢性上気道炎は種々の原因で発生するが、細菌感染が原因となることは少ない疾患で、いずれも細菌感染症に該当しないことから、抗菌薬の臨床的有用性は低いと考えられる。 以上のことから、上記傷病名に対する抗生物質製剤【内服薬】又は合成抗菌薬【内服薬】の算定は、原則として認められないと判断した。<製品例>ペニシリン系アモキシシリン水和物(商品名:サワシリン、ワイドシリン ほか)アモキシシリン水和物・クラブラン酸カリウム(同:オーグメンチン、クラバモックス ほか)アンピシリン水和物(同:ビクシリン ほか)セフェム系セファレキシン(同:ケフレックス ほか)セフジニル(同:セフゾン ほか)セフカペンピボキシル塩酸塩水和物(同:フロモックス ほか)キノロン系レボフロキサシン水和物(同:クラビット ほか)シタフロキサシン水和物(同:グレースビット ほか)トスフロキサシントシル酸塩水和物(同:オゼックス ほか)メシル酸ガレノキサシン水和物(同:ジェニナック)ラスクフロキサシン塩酸塩(同:ラスビック)マクロライド系アジスロマイシン水和物(同:ジスロマック ほか)クラリスロマイシン(同:クラリス、クラリシッド ほか)エリスロマイシンステアリン酸塩(同:エリスロシン ほか)

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dalbavancinは複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の新たな選択肢か?―DOTSランダム化臨床試験から―(解説:栗山哲氏)

本研究は何が新しいか? 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌血症は、病態の多様性や重篤度からの治療の長期化などからランダム化臨床試験(RCT)が少なく、推奨される治療に関して明確な世界的コンセンサスは得られていない(Holland TL, et al. JAMA. 2014;312:1330-1341.)。DOTS試験は、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の患者に対して、リポグリコペプチド系抗生物質・dalbavancinの有効性と安全性を従来の標準治療と比較した初めてのRCTである(Turner NA, et al. JAMA. 2025;13:e2512543.)。本剤は、わが国では未承認薬である。本研究の背景 黄色ブドウ球菌は、皮膚膿瘍など表皮感染症や食中毒、また菌血症、肺炎、心内膜炎、骨髄炎など致命的疾患の起炎菌となるグラム陽性球菌である。黄色ブドウ球菌は、病原性が強く、抗菌薬耐性発現頻度が高く、最も危険な病原体の1つとされる。とくに、菌血症は、発症1年以内の死亡率が30%にも達する。治療に関しては、菌血症に対しては診断確定後、非複雑性菌血症の場合でも少なくても2週間の点滴静注(IV)、複雑性菌血症の場合は4週間以上のIV治療が必要となる。 さらに複雑性黄色ブドウ球菌菌血症では、血液培養が陰性化し発熱もなく全身状態が安定し緩解しても、短期間の治療では化膿性脊椎炎などの遠隔感染巣の治療が不十分となり、再燃のリスクが高くなる。DOTS試験は、複雑性ブドウ球菌菌血症の初期治療によって緩解期に入った患者を対象に組まれたRCTである。dalbavancinは、終末半減期は14日(血中半減期は204時間)ときわめて長時間作用型で、投与も1週おきに2回のIVで完結するため、外来での対応が可能である。 また、抗菌スペクトラムとしては、MRSA、MSSA、化膿レンサ球菌、グループBレンサ球菌、バンコマイシン感受性Enterococcus faecalisなどへ強い殺菌活性が期待できる。DOTS試験の方法と結果 複雑性黄色ブドウ球菌菌血症に対して初期抗菌薬治療開始し、3日以上で10日以内に血液培養の陰性化と解熱を達成した患者を対象とした。ただし、中枢神経感染症、免疫不全例、重症例などの病態は除外された。初期抗菌薬治療後、対象患者をdalbavancin群(第1病日と第8病日の2回IV)と標準治療群(MSSA:セファゾリンか抗ブドウ球菌ペニシリン系、MRSA:バンコマイシンかダプトマイシン)に無作為に割り付けて有効性と安全性を評価したオープンラベル評価者盲検RCTである。 対象は、各治療群100例で平均年齢56歳である。試験期間は2021〜23年、参加施設は米国22施設+カナダ1施設。主要評価項目は、70日目のDOOR(Desirability of Outcome Ranking:治癒率、死亡率、合併症や安全性、QOLなどアウトカムの望ましさの順位)、副次評価項目は臨床効果と安全性である。 登録後の入院期間は、dalbavancin治療群で3日間(四分位範囲:2~7日)、標準治療群で4日間(2~8日)であった。その結果、dalbavancinは主要評価項目で標準治療に比較して、優越性の基準を満たさなかった。副次評価項目では、臨床的有用性はdalbavancin群で73%、標準治療群で72%と非劣性であった。安全性の面では、重篤な有害事象の発生率は、dalbavancin群40%、標準治療群34%と前者でやや多かった。 以上、DOTS試験のまとめとして、dalbavancinは複雑性黄色ブドウ球菌菌血症において、標準療法に比較し優越性は確認されなかった。黄色ブドウ球菌菌血症治療とdalbavancinの将来的位置付け 本邦で承認されると仮定して、感染症への実地医療の事情が異なるわが国においてDOTS試験をどう取り入れるかは興味深い。通常、菌血症と診断とされた場合、初期治療は入院加療であるが、初期治療後の外来治療は、基幹病院、かかりつけ医、往診医などが受け持つ。実際、DOTS試験では、登録割り付け後のdalbavancin治療のための入院期間は、3~4日間と短い。わが国においても、初期治療後の追加治療の実践には、感染症専門医と外来治療医との病診連携システムの充実が必須である。 本研究での重要なポイントは、複雑性ブドウ球菌菌血症が初期治療で緩解し、その後にdalbavancinが投与されていることであり、そこでdalbavancin群と標準治療群で再燃に有意な差が認められなかった。このことは、外来治療が中心になるであろう追加治療において、dalbavancinを選択することは一定の評価は得られる。 ただし、DOTS試験の問題点としては、その効果は非劣性の枠を超えておらず、対象患者が限定的(重症例や免疫不全例など除外されている)、有害事象が多めであること、平均年齢56歳であり高齢者には外挿しにくいこと、さらには腎排泄型抗生物質であり腎障害のリスクへの言及がない、などがあり、これらは解決されるべきであろう。 一方、dalbavancinのメリットとして、抗菌スペクトラムが広く、半減期がきわめて長いため2回のIV(第1病日と第8病日)で治療完了であることは注目される。この特徴のため、確実な治療アドヒアランスが担保され、治療中断例は少なくなり完遂率は高まる。さらに、留置型IVアクセスが不要である点から、カテーテル感染や血栓症は大幅に回避される。 医療経済面では、dalbavancinの薬価は高いが、入院期間短縮や外来治療で解消される可能性、カテーテル関連費用軽減など医療対費用効果でのメリットも想定される。 いずれにせよ、(仮に承認されるとして)わが国におけるdalbavancin治療には、薬理学的評価、医療システム、医療経済など多くの検討が必要である。

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第279回 「クマ外傷」の医学書が教えてくれるクマ被害の実態、「顔面、上肢の損傷が多く、挿管と出血性ショックに対する輸血が必要なケースも。全例で予防的抗菌薬を使用するも21.1%で創部感染症が発生」

マダニが媒介するウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の累計患者数が過去最高にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。9月に入っても猛暑の日が続きます。この歴史的な暑さのせいもあってか、自然界もいろいろ変調を来しているようです。「第272回 致死率30%!猛威を振るうマダニ感染症SFTS、患者発生は西日本から甲信越へと北上傾向」で取り上げたマダニが媒介するウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS:Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)も急増中です。国立健康危機管理研究機構は8月26日、8月17日までの1週間に全国から報告されたSFTSの患者は5人で、今年の累計の患者数は速報値で143人となり、過去最多だったと発表しました。これまでに感染者が報告されているのは31道府県で、高知県で14人、大分県で11人、熊本県、長崎県で9人、鹿児島県、島根県、兵庫県で8人など、西日本を中心に多くなっていますが、今年はこれまで感染が確認されていなかった関東地方や北海道でも報告されています。「第272回」でも書いたように温暖化などの影響でSFTSウイルスを持ったマダニの生息域が日本で北上しているのは確かなようです。例年、発症が増え始めるのは4月で、5月にピークを迎え、10月くらいまで続くとされていますが、猛暑の今年は11月くらいまで発症が続くかもしれません。1〜2週間前に山や畑などで作業などをしており、謎の発熱や嘔吐、下痢を起こしている患者の診療には、皆さん重々お気を付けください。クマ被害も過去最多の被害者数となった2023年度と同じ水準増えているということでは、クマの被害も急増中です。山での被害はもちろん、麓の町中での被害も増えています。8月7日付のNHKニュースは、「環境省のまとめでは、今年4月から7月末までにクマに襲われてけがをするなどの被害にあった人は、長野県が13人、岩手県が12人、秋田県、福島県、新潟県で、それぞれ4人などの、合わせて55人で、このうち北海道と岩手県、長野県で、それぞれ1人が死亡しました。過去の同じ時期と比べると、年間を通じて過去最多の被害者数となった2023年度は56人で、今年度はほぼ同じ水準」と報じています。この夏、私がとくにショックだったのは、8月14日に起こった北海道・羅臼岳で登山中の26歳男性がヒグマに襲われ死亡した事件です。襲ったと思われる母グマが、15日に子グマ2頭と共に駆除され、その後母グマはDNA鑑定で男性を襲った個体と特定されました。登山者が被害に遭った羅臼岳の登山道はかつて私も下ったことがあります。「アリの巣が多く、クマがよく出る」ことで昔から有名で、熊鈴だけではなく笛も頻繁に吹きながら歩いた覚えがあります。北海道警察の事故の調査結果を報じた8月21日付の共同通信によれば、「男性は襲撃直前、同行者から離れて単独で走り、岩尾別温泉に向かって下山していた。クマ避けの鈴は携帯していた。道幅が狭く見通しの悪いカーブで母グマに遭遇したとみられる」とのことです。突然の遭遇で驚いた母グマが防御反応として襲った可能性が高そうです。もう一つショックだったのは、北アルプスの薬師峠キャンプ場(通称:太郎平キャンプ場、富山市有峰)で、ツキノワグマにより登山者のテント及び食料が持ち去られる被害が発生し、このキャンプ場が閉鎖された事件です。ここは薬師岳だけではなく、雲の平や高天ヶ原、黒部五郎岳などにテント泊で行くためには、必ず泊まるキャンプ場です。薬師峠キャンプが使えなくなることによる登山者への影響は甚大です。ちなみに、私は高校時代から今までにこのキャンプ場に20泊近くしていますが、クマには一度も遭ったことがありません。北アルプスのツキノワグマは、登山者の食料を漁ることが常態化してきたのでしょうか。だとしたらとても恐ろしいことです。山麓の町でも、山の中においても、人とクマの生息域が近くなり過ぎたことが、クマ被害急増の大きな原因だと言われています。町中に不用意にゴミを放置しない、柿などの果実を木に成らしっぱなしにしない、キャンプ場では食料の管理を米国の国立公園並みに厳格にする、などの対策を取るとともに、クマに対して「人の活動領域に行ってもいいことはない」ということを多様な手段で教え込むことも必要だと感じる今日この頃です。2023年度に年間21例の重傷クマ外傷の治療に当たった秋田大医学部付属病院の医師たちが症例をまとめるそんなクマ被害急増の中、クマ外傷に特化した医学書が今年4月に出版され全国紙で取り上げられるなど話題になっています。『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』(新興医学出版社)で編著者は秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授の中永 士師明(なかえ・はじめ)氏です。『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』編著・中永 士師明(秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授)新興医学出版社、A5変型判、88頁、3,960円(税込み)『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』編著・中永 士師明(秋田大学医学部 救急・集中治療学講座教授)新興医学出版社、A5変型判、88頁、3,960円(税込み)同書の序文によれば、「2023年度のクマ類による人身被害は急増し、東北が141件と突出している。(中略)秋田県内の人身被害は70件となっており、秋田大学医学部付属病院では年間21例の重傷クマ外傷の治療に当たった」とのことで、同書では、2023年に搬送された21例のうち20例について症例写真を例示しながら詳細に分析しています。「クマ外傷の特徴」の章にまとめられたその分析では、患者の平均年齢は74.5歳で、男性が13人を占めていました。受傷場所は市街地が15人で、山林が5人。搬送のピークは10月の7人で、受傷の時間帯に傾向はありませんでした。患者は顔面の負傷が9割で、骨折(9人)や眼球破裂(3人)などのほか、頭蓋骨骨折(1人)もありました。ツキノワグマの攻撃力がいかに強大なものであるかがわかります。同書はこれらのデータから得られる医学的知見として、「クマ外傷は秋に人間の生活圏で多く発生していた。上半身(顔面、上肢)の損傷が多く、全身麻酔による緊急手術が必要であった。一部の患者は挿管と出血性ショックに対する輸血が必要であった。全例で予防的抗菌薬を使用したが、21.1%で創部感染症が発生した。死亡退院はなかったが、15.8%で失明などの重大な後遺症が残った」とまとめています。「クマによる最初の一撃はほとんどが爪によるものであり、クマが立ち上がった高さでちょうど手が届く顔面を襲われる」「クマ外傷による顔面外傷の実際」の章では、爪が下眼瞼にひっかかることで下涙小管の断裂が起こりやすいこと、顔面神経の損傷とその修復が大きな課題であることを指摘するとともに、「クマによる最初の一撃はほとんどが爪によるものであり、クマが立ち上がった高さでちょうど手が届く顔面を襲われる。(中略)2023年度の症例のうち眼球損傷と眼筋の障害により3名が片眼を失明した。クマ外傷の後遺症として最も生活に支障をきたす失明を避けるには、まず眼球を守ることを周知しておく必要がある」と書いています。また、多くの患者が、受傷後に不眠やせん妄、急性ストレス反応などを訴えたことから、「クマ外傷による精神的問題」という章も設け、急性ストレス症や心的外傷後ストレス症(PTSD)への対応についても詳細に解説しています。本書は医学書ですが、「クマ外傷の予防策」の章では、クマとの遭遇を避ける方法や、クマを寄せ付けないための方法の解説もあります。コラムも充実しており、「飼い犬は役立つか」、「子グマなら勝てるか?」、「クマのパンチにアッパーカットはない」など興味深いテーマで13本が掲載されています。これから秋を迎え、各地でクマ被害も増えると予想されます。クマに襲われた患者が運ばれてきたときの対処法を学びたい方は、一読をお勧めします。

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日本における手術部位感染の分離菌の薬剤感受性~全国サーベイランス

 手術部位感染(SSI)から分離された原因菌に対する各種抗菌薬の感受性について、日本化学療法学会・日本感染症学会・日本臨床微生物学会(2023年には日本環境感染学会も参画)による抗菌薬感受性サーベイランス委員会が、2021~23年に実施した第4回全国サーベイランス調査の結果を報告した。第1回(2010年)、第2回(2014~15年)、第3回(2018~19年)のデータと比較し、主に腸内細菌目細菌において抗菌薬感受性が低下した一方、MRSA発生率は減少したことが示された。Journal of Infection and Chemotherapy誌2025年9月号に掲載。 本調査の対象手術は、一般外科、消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺内分泌外科の手術で、収集菌種は、バクテロイデス属、黄色ブドウ球菌(MRSA、MSSA)、Enterococcus faecalis、大腸菌、肺炎桿菌、Enterobacter cloacae、緑膿菌の7菌種である。 主な結果は以下のとおり。・腸内細菌目細菌のESBL(extended-spectrum β-lactamase)産生株の検出率は、2010年は4.4%、2014~15年は13.5%、2018~19年は6.6%であったが、2021~23年は11.2%に上昇した。2018~19年はタゾバクタム・ピペラシリンに対する感受性が高かったが、2021~23年は71.8%に低下した。タゾバクタム・セフトロザンの幾何平均MICは、2018~19年は0.397、2021~23年は0.778と上昇傾向を示した。・MRSA発生率は、2010年は72%であったが、2014~15年および2018~19年は53%、2021~23年は39%と低下した。・大腸菌および肺炎桿菌において、スルバクタム・アンピシリンおよびセファゾリンに対する感受性が低下した。・バクテロイデス属は、モキシフロキサシン(57%)、セフメタゾール(54%)、クリンダマイシン(44%)に対する感受性が低かった。

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複雑性黄色ブドウ球菌菌血症へのdalbavancin週1回投与、標準治療に非劣性/JAMA

 複雑性黄色ブドウ球菌菌血症で、初期治療により血液培養の陰性化と解熱を達成した入院患者において、標準治療と比較してdalbavancin週1回投与は、70日の時点で「アウトカムの望ましさ順位(desirability of outcome ranking:DOOR)」が優越する確率は高くないが、臨床的有効性は非劣性であることが、米国・デューク大学のNicholas A. Turner氏らが実施した「DOTS試験」で示された。黄色ブドウ球菌菌血症に対する抗菌薬静脈内投与は、一般に長期に及ぶためさまざまな合併症のリスクを伴う。dalbavancin(リポグリコペプチド系抗菌薬)は、終末半減期が14日と長く、in vitroで黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性菌を含む)に対する抗菌活性が確認されていた。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年8月13日号で報告された。週1回投与2回の有効性を評価する北米の無作為化試験 DOTS試験は、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の初期治療を終了した入院患者におけるdalbavancinの有効性と安全性の評価を目的とする非盲検評価者盲検化無作為化優越性試験であり、2021年4月~2023年12月に米国の22施設とカナダの1施設で参加者を登録した(米国国立アレルギー感染症研究所[NIAID]の助成を受けた)。 年齢18歳以上、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症と診断され、無作為化の前に、初期抗菌薬治療開始から72時間以上、10日以内に血液培養の陰性化と解熱を達成した患者を対象とした。被験者を、dalbavancin(1日目、8日目の2回、1,500mg/日、静脈内投与)または標準治療(メチシリン感受性の場合はセファゾリンまたは抗ブドウ球菌ペニシリン、メチシリン耐性の場合はバンコマイシンまたはダプトマイシン、治療医の裁量で4~8週間投与)を受ける群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、70日時点のDOORとし、次の5つの構成要素の組み合わせで優越性を評価した。(1)臨床的成功:黄色ブドウ球菌菌血症の徴候および症状が消失した状態での生存、(2)感染性合併症:新たな部位の感染発現、菌血症の再発、感染部位の管理のための予定外の追加処置、(3)安全性:重篤な有害事象、試験薬の投与中止に至った有害事象、(4)死亡率、(5)健康関連生活の質(HRQOL)。 dalbavancinのDOOR優越の確率に関する95%信頼区間(CI)が50%を超える場合に、優越性が達成されたと判定することとした。有害事象による投与中止が少ない 200例(平均[SD]年齢56[16.2]歳、女性62例[31%])を登録し、dalbavancin群に100例、標準治療群に100例を割り付けた。試験登録後の入院期間中央値はそれぞれ3日(四分位範囲:2~7)および4日(2~8)だった。167例(84%)が70日目まで生存し、有効性の評価を受けた。70日目に有効性の評価を受けなかった参加者は、解析では臨床的失敗と見なされた。 70日時点で標準治療群に比べdalbavancin群でDOORが優越する確率は47.7%(95%CI:39.8~55.7)であり、dalbavancin群の優越性は示されなかった。 DOORの各構成要素については、試験薬の投与中止に至った有害事象の頻度(3.0% vs.12.0%、DOOR優越の確率:54.5%[95%CI:50.8~58.2])がdalbavancin群で低かったが、臨床的失敗(20.0%vs.22.0%、51.0%[45.3~56.7])、感染性合併症(13.0%vs.12.0%、49.5%[44.8~54.2])、非致死性の重篤な有害事象(40.0%vs.34.0%、47.0%[40.4~53.7])、死亡率(4.0%vs.4.0%、50.0%[47.1~52.9])は、いずれも両群で同程度であった。忍容性は良好 副次エンドポイントである臨床的有効性(70日時点で次の3項目がない状態と定義。臨床的失敗[抗菌薬治療の追加または継続を要する黄色ブドウ球菌菌血症の徴候または症状が消失していない]、感染性合併症、死亡)の割合は、dalbavancin群73%、標準治療群72%(群間差:1.0%[95%CI:-11.5~13.5])と、事前に規定された非劣性マージン(95%CI下限値:-20%)を満たしたことから、dalbavancin群の非劣性が示された。 また、dalbavancinは良好な忍容性を示した。重篤な有害事象はdalbavancin群40%、標準治療群34%、試験薬の投与中止に至った有害事象はそれぞれ3%および12%、Grade3以上の有害事象は51%および39%、とくに注目すべき有害事象は12%および8%、治療関連有害事象は8%および6%で発現した。 著者は、「主要エンドポイントとして菌血症に特化したDOORを使用したため、単純な臨床的有効性のアウトカムよりもリスクとベネフィットのバランスをより適切に反映した結果が得られた可能性がある」「死亡率が低かったのは、菌血症の消失後に参加者を登録したため、生存の可能性が高い集団が選択されたことが一因と考えられる」「dalbavancinは標準治療に比べ、DOORに関して優れていなかったが、他の有効性や安全性のアウトカムを考慮すると、本研究の知見は実臨床におけるdalbavancinの使用の判断に役立つ可能性がある」としている。

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市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAの比較【1分間で学べる感染症】第32回

画像を拡大するTake home message市中発症型MRSAは、若年者を中心に皮膚軟部組織感染症を引き起こすことが多く、院内獲得型MRSAとは臨床像・薬剤耐性・遺伝子背景が異なるため、その違いを理解しよう。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、医療関連感染だけでなく市中でも発症することがあり、起因背景や臨床像、薬剤感受性に違いがあります。今回は、市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAの主な違いについて整理し、それぞれの理解を深めていきましょう。リスク患者市中発症型MRSA(Community-associated MRSA:CA-MRSA)は、若年者、スポーツ選手、軍隊、薬物静注使用者、同性愛者など、医療機関と接点のない健康な方々に発症することが多く報告されています。接触機会の多い生活環境や皮膚の小さな外傷が感染契機となります。一方、院内獲得型MRSA(Healthcare-associated MRSA:HA-MRSA)は、入院患者、長期療養施設入所者、透析患者、長期カテーテル留置中の患者など、医療的介入を受ける方々に多く認められます。病院内の医療機器や環境が感染源となることがしばしばです。臨床症状CA-MRSAでは、皮膚軟部組織感染症(蜂窩織炎、膿瘍など)が主な臨床像であり、とくにPVL(Panton-Valentine leukocidin)遺伝子を保有する株では壊死性肺炎など重篤な病態を呈することもあります。一方、HA-MRSAは、肺炎、菌血症、術後創部感染、皮膚軟部組織感染症など、多彩な感染症を引き起こします。重篤な基礎疾患を有する入院患者では、全身感染に進展することも少なくありません。抗菌薬耐性CA-MRSAはβラクタム系抗菌薬に耐性を示す一方で、ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)、ドキシサイクリン、クリンダマイシンなどの非βラクタム系抗菌薬に感受性を示すことが多くあります。一方、HA-MRSAは、βラクタム系抗菌薬に耐性を示すことに加え、上記の抗菌薬にも耐性を示すことが多く、バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシンなど、選択肢が限られます。SCCタイプCA-MRSAは、SCCmecタイプIVやVを有している一方、HA-MRSAは、SCCmecタイプI〜IIIを有することが多いとされています。PVL遺伝子CA-MRSAはPVL遺伝子を高頻度に保有し、この毒素が好中球を破壊することで強い炎症反応や組織破壊を引き起こします。PVL陽性株による壊死性肺炎や皮膚壊死病変の報告もあり、とくに注意が必要です。一方、HA-MRSAではPVL遺伝子の保有はまれであり、主に基礎疾患に伴う易感染性や長期医療介入が病態進展に関与します。このように、市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAは臨床的背景や対応すべき抗菌薬の選択が異なるため、上記のポイントを十分に念頭に置いておく必要があります。1)Nichol KA, et al. J Antimicrob Chemother. 2019;74(Suppl 4):iv55-iv63.2)Naimi TS, et al. JAMA. 2003;290:2976-2984.3)Huang H, et al. J Clin Microbiol. 2006;44:2423-2427.

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