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第45回 「その抗菌薬投与は患者の益になるか?」重度認知症・肺炎診療の常識を問う

高齢化率が世界最高水準の日本において、重度認知症患者の肺炎診療はいわば日常的な光景です。「肺炎だから入院」「とりあえず抗菌薬」というフローは、多くの医療機関で標準的な対応として定着しているでしょう。しかし、NEJM Evidence誌に掲載された論考1)は、この「当たり前」の診療行為に対し、生存期間、QOL、そして患者の快適さという観点から鋭い問いを投げかけています。 本稿では、同誌の“Tomorrow's Trial”(将来行われるべき臨床試験の提案)として発表された記事1)を基に、重度認知症患者に対する肺炎治療の現在地と、われわれが直面している倫理的・臨床的ジレンマについて解説します。抗菌薬は「死」を10日先送りするだけ? この記事で紹介されるのは、87歳の重度認知症女性の症例です。寝たきりで会話ができず、家族の認識もできない状態で、発熱と呼吸器症状を呈して搬送されました。胸部X線で浸潤影を認め、臨床的には細菌性肺炎が疑われます。 ここで日本の臨床現場でもよくある葛藤が生じます。娘は、「母が苦しまず、現状の生活を維持できるなら生きていてほしい」と願っています。しかし、果たして抗菌薬投与はこの願いをかなえるのでしょうか? 残念ながら、重度認知症患者の肺炎に対して、抗菌薬投与が生存期間、QOL、患者の快適さを改善させるかどうかを比較したランダム化比較試験は、現時点では存在しません。 そのため、根拠とできるのは観察研究の結果のみですが、そのデータは衝撃的です。ある研究では、抗菌薬投与群は非投与群に比べて最初の10日間の死亡率の低下傾向が見られるものの(非投与群76%vs.投与群39%)、10日以降の死亡リスクには差がないことが示されています。これは、抗菌薬による治療が「死を約10日間遅らせる」可能性を示す一方、同時に「死にゆくプロセスを延長させているだけ」である可能性も示唆しています。「治療」がもたらす侵襲と不利益 「とりあえず抗菌薬を入れておこう」という判断が、患者にとって無害であれば問題は少ないかもしれません。しかし、重度認知症患者、とくに人生の最終段階に近い深刻なフレイルの患者にとって、抗菌薬治療が大きな負担となりうることも強調されるべきでしょう。 点滴確保による身体的苦痛、不慣れな急性期病院への搬送、環境の変化による混乱、そして知らない医療スタッフに囲まれるストレスは、認知症患者にとって計り知れない苦痛です。さらに、薬剤耐性菌の出現や、致死的になりうるClostridioides difficile感染症のリスク、下痢や腎機能障害といった副作用も無視できません。 また、米国の介護施設における観察研究では、呼吸器感染症が疑われた認知症患者の約70%に抗菌薬が処方されていましたが、実際に臨床的な細菌感染の基準を満たしていたのはそのうちの約33%にすぎなかったという報告もあります。診断の不確実性と「念のための投与」が、過剰医療と患者の負担を招いている現状が浮き彫りになっています。世界の潮流と日本の立ち位置 重度認知症患者の肺炎に対するアプローチには、地域によって大きな差があります。記事では、オランダと米国ミズーリ州の比較が紹介されています。 オランダでは、重度認知症患者の肺炎に対し、23%が抗菌薬なしで管理されていました。これは、治療方針が明示的に「緩和」に向けられており、あえて抗菌薬を差し控えるという選択がなされているためです。一方、ミズーリ州では重症度が高いほど抗菌薬が使用される傾向にあり、非投与率は15%にとどまりました。 日本はおそらく米国ミズーリ州に近い、あるいはそれ以上に「肺炎=治療」の文化が根強いといえるかもしれません。しかし、患者の予後が数ヵ月単位である場合、その治療が「治癒」を目指しているのか、それとも症状緩和を目指しているのか、その境界線は曖昧です。われわれには「答え」が必要である 本記事の著者らは、こうした長年の疑問に決着をつけるため、重度認知症の肺炎患者を対象とした、抗菌薬静注群とプラセボ静注群を比較する二重盲検RCTの実施を提案しています。主要評価項目は30日生存率だけでなく、QOLや患者の快適さといった「患者・家族中心の指標」が含まれる必要があるでしょう。 「肺炎に抗菌薬を使わない(プラセボを使う)」という試験デザインは、一見倫理的に許容されないように感じられるかもしれません。しかし、抗菌薬治療に確実な有益性のエビデンスがなく、むしろ害の可能性がある以上、この比較試験は倫理的に正当化されるものとなるでしょう。 日本の臨床現場において、すぐにオランダのような「あえて治療しない」選択肢を組み込むことはなかなか難しいでしょう。しかし、われわれが漫然と行っている抗菌薬投与が、本当に患者の「快適さ」や「望ましい最期」に寄与しているのか、一度立ち止まって考えるべき時が来ているのかもしれません。 次回の診療で、重度認知症患者の肺炎に直面した際、少し自問してみるのもいいのではないでしょうか。「この点滴は、患者の苦痛を取り除いているのか、それとも死の過程を引き延ばしているだけなのか」と。そんなことを考えてみるだけでも、慣例に流されがちな日々の処方に、「患者の尊厳」という重みを問い直し、静かな一石を投じることになるはずです。 1) Ahmad A, et al. Do Antibiotics Improve Survival, Quality of Life, and Comfort in Patients with Advanced Dementia and Pneumonia? NEJM Evid. 2026;5:EVIDtt2400447.

2.

日本人市中肺炎、β-ラクタムへのマクロライド上乗せの意義は?

 市中肺炎(CAP)の治療では、β-ラクタム系抗菌薬が中心となるが、とくに重症例ではマクロライド系抗菌薬が併用されることがある。ただし、マクロライド系抗菌薬の併用が死亡率の低下に寄与するか、依然として議論が分かれている。本邦の『成人肺炎診療ガイドライン2024』では、重症例に対してはマクロライド系抗菌薬の併用が弱く推奨されている一方で、非重症例に対しては併用しないことが弱く推奨されている1)。そこで、中島 啓氏(亀田総合病院 呼吸器内科 主任部長)らの研究グループは、市中肺炎の多施設共同コホート研究の2次解析を実施し、マクロライド系抗菌薬の併用の有無別に院内死亡などを検討した。その結果、β-ラクタム系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用療法は、β-ラクタム系抗菌薬単剤療法と比較して、院内死亡率および肺炎治癒率に差は認められなかった。本研究結果は、BMC Infectious Diseases誌オンライン版2025年12月29日号で報告された。 研究グループは、Adult Pneumonia Study Group Japan(APSG-J)により実施された多施設共同コホート研究のデータの2次解析を実施した。対象は、2011年9月~2014年9月に国内4施設(江別市立病院、亀田総合病院、近森病院、十善会病院)でCAPと診断された15歳以上の患者3,470例とし、2,784例を解析対象とした。対象を初期治療としてβ-ラクタム系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬を併用する群(併用群)、β-ラクタム系抗菌薬単剤を用いる群(単剤群)の2群に分類して評価した。主要評価項目は観察期間終了時の転帰(院内死亡、肺炎治癒)とし、副次評価項目は抗菌薬投与期間、入院期間とした。解析には、欠測を考慮して多重代入法を用い、傾向スコアマッチングにより患者背景を調整した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は2,784例(併用群306例、単剤群2,478例)であった。・傾向スコアマッチング後(各群298例)、院内死亡率は併用群5.06%、単剤群4.98%であり、両群間に有意差は認められなかった(群間差:0.00%、95%信頼区間[CI]:-3.73~3.71)。・肺炎治癒率は併用群91.79%、単剤群91.69%であり、両群間に有意差は認められなかった(群間差:0.00%、95%CI:-4.48~4.82)。・重症CAP(CURB-65スコア3点以上)のサブグループ解析においても、院内死亡率は併用群12.00%、単剤群13.33%であり、両群間に差はみられなかった(群間差:0.00%、95%CI:-20.00~16.13)。・抗菌薬投与期間(8.97日vs.9.93日[群間差:-0.99、95%CI:-8.20~0.10])および入院期間(17.72日vs.20.30日[群間差:-2.59、95%CI:-6.99~1.45])についても、両群で同様であった。・本コホートにおける非定型病原体の検出率は、Mycoplasma pneumoniae 1.9%、Chlamydia pneumoniae 0.2%、Legionella pneumophila 0.1%と低率であった。 本研究結果について、著者らは観察研究のため未調整の交絡が存在する可能性があること、イベントの発生率が低く検出力不足の可能性があること、施設数が少なく症例数が1施設に偏っていたこと、観察期間が短いことなどを限界として挙げつつ「CAP患者全体および重症例において、併用群と単剤群で院内死亡率および肺炎治癒率が同様であった。そのため、臨床医は有害事象や耐性菌の発現などの潜在的なリスクとベネフィットを慎重に検討すべきである」と結論を述べた。

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第302回 腸が酒造りしてしまう疾患に糞中微生物移植が有効

勝手に酩酊してしまう困った疾患の米国男性が、健康なヒトからの微生物の移植で無事で過ごせるようになりました1-4)。飲酒していないのに酔っ払ってしまう不可思議な疾患が、古くは1950年代に日本の文献に記録されています5)。半世紀前の1976年には日本の研究者が自動醸造症候群(Auto-Brewery Syndrome:ABS)という病名の患者の様子を報告しました6)。原著は読めていないのですが、他の研究者の解説7)によると、それらのABSは手術をしばしば経ていて腸が不調の中年男性に認められており、酵母(主にカンジダ)が消化管で過剰に増え、摂取した炭水化物を発酵して酔わせるほどのアルコールを生み出していました。ABSの診断は非常にまれです。しかし聞き慣れないことや診断が難しいことに加えて、偏見も診断を妨げている場合もあるに違いなく、診断されていないだけで実際のABS患者はもっと多いようです。米国のマサチューセッツ州の元海兵の60歳代男性もABSの診断に至るまで一苦労しました。男性はもともと元気で健康であり、酒はたまに嗜む程度でした。しかし前立腺炎への抗菌薬を何回か使用した後にひどく酔ったようになる、ぼんやりする、眠くなることを繰り返すようになります4)。男性の酔いは日常生活を困難にするほどひどく、アルコール濃度が制限を超えていたら運転できないようにする呼気検査装置を車に備え付けざるを得ないほどでした。何度か足を運んだ救急科では、男性が飲んでいないとは誰一人信じませんでした。しかし幸いにして、やがてABSの診断に漕ぎ着けられました。男性は患者支援団体とやり取りし、他の誰かの糞の微生物をもらい受ける治療がABSの治療法となりうるとの情報を耳にします。そして、マサチューセッツ総合病院で糞中微生物移植(FMT)を施している医師のElizabeth Hohmann氏に電話をしてみました。最初、Hohmann氏は酔ったような話しぶりの男性の伝言に取り合おうとしませんでした。しかし男性の妻から事情の説明を受けてHohmann氏は聞く耳を持つようになります。Hohmann氏はカリフォルニア大学サンディエゴ校のABS研究者Bernd Schnabl氏に話を持ちかけ、男性にFMTを実施することにしました。FMTで使う微生物入りカプセルは、健康を絵に書いたように元気なパーソナルトレーナー/ジム経営の男性の便から作られました。幸いにもそのカプセルはABS男性に効果があり、アルコールを作る細菌が健康な細菌一揃いに置き換わることで症状が治まりました。男性は2回目のFMTから16ヵ月超を無症状で過ごせています。最初は無視を決め込んでいたHohmann氏にとってABSは今や取り組むべき課題になっているらしく、同氏とSchnabl氏らはABS患者8例へのFMT治療の第I相試験を実施しています。参考1)Hsu CL, et al. Nat Microbiol. 2026 Jan 8. [Epub ahead of print]2)Researchers search for why some people’s gut microbes produce high alcohol levels / EurekAlert3)What causes some people’s gut microbes to produce high alcohol levels? / EurekAlert4)Man whose gut made its own alcohol gets relief from faecal transplant / NewScientist5)Iwata K. A review of the literature on drunken syndromes due to yeasts in the gastrointestinal tract. In: Yeasts and Yeast-Like Microorganisms in Medical Science: Proceedings of the Second International Specialized Symposium on Yeasts. University of Tokyo Press;1972:260-268.6)Kaji H, et al. Mater Med Pol. 1976;8:429-435.7)Mulholland JH, et al. Trans Am Clin Climatol Assoc. 1984;95:34-39.

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旅行者下痢症、抗菌薬が効きにくい菌が増加

 新年の抱負の一つとして海外旅行を計画している人は、注意が必要だ。旅行者下痢症の治療に一般的に使われてきた抗菌薬が以前ほど効かなくなっていることが、新たな研究で示された。ただし、薬剤耐性の状況は地域によって異なり、原因菌の種類にも左右されるという。CIWEC Hospital and Travel Medicine Center(ネパール)の感染症専門医であるBhawana Amatya氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に12月22日掲載された。 この研究では、旅行者下痢症の主な原因となる4種類の細菌(カンピロバクター、非チフス性サルモネラ、赤痢菌、下痢原性大腸菌)に対する抗菌薬の有効性が検討された。2015年4月14日から2022年12月19日までの間に、世界58カ所の熱帯医療センターで治療された859人の旅行者下痢症患者(年齢中央値30歳、男性51%)が解析対象とされた。有効性は抗菌薬に対する感受性を指標とし、中等度感受性と耐性の両方をまとめて「非感受性」と定義した。 その結果、カンピロバクターでは、フルオロキノロン系抗菌薬に対して75%、マクロライド系抗菌薬に対して12%が非感受性を示した。同様に、非チフス性サルモネラではそれぞれ32%および16%、赤痢菌では22%および35%が非感受性を示した。下痢原性大腸菌では、フルオロキノロン系抗菌薬に対して18%が非感受性を示した。フルオロキノロン系抗菌薬の例は、シプロフロキサシン、デラフロキサシン、レボフロキサシンなど、マクロライド系抗菌薬の例は、アジスロマイシンやエリスロマイシンなどである。 また、感染した地域により抗菌薬感受性パターンが異なることも明らかになった。例えば、南・中央アジアで感染した患者から分離された赤痢菌の79%はフルオロキノロン系抗菌薬に非感受性を示したのに対し、南米で感染した患者から分離された赤痢菌の78%はマクロライド系抗菌薬に非感受性を示した。 この研究をレビューした米ノースウェル・ヘルスのDavid Purow氏は、薬剤耐性増加の主な原因は抗菌薬の過剰使用である可能性が高いとの考えを示す。同氏は、「例えば、人が同じものに繰り返しさらされると次第に反応しなくなるのと同じように、細菌も同じ抗菌薬に繰り返し曝露されることで、時間とともに耐性を獲得する」と述べている。 現在、多くの旅行者が抗菌薬を携帯し、下痢の兆候が出るとすぐにこれを服用するが、研究グループとPurow氏はともに、「下痢症状が出た場合には、医師の診察を受けるべきだ」と話す。Purow氏は、「実際には、自分が感染した細菌が所持している抗菌薬に感受性を持つかどうかは分からない」と指摘している。また、市販の下痢止め薬を使うことで、抗菌薬を使わずに済む場合もあるという。 Purow氏は、「抗菌薬の使用を控えることは、薬剤耐性のさらなる拡大を防ぐことにもつながる。何を治療しているのか分からないまま抗菌薬を使用することが、世界全体に影響を及ぼす可能性があることを理解することが重要だ。また、症状がより重く、深刻になるまで抗菌薬の使用を待つという選択も有効かもしれない」と話している。

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抗菌薬による末梢神経障害【1分間で学べる感染症】第37回

画像を拡大するTake home message一部の抗菌薬・抗真菌薬は末梢神経障害を引き起こす可能性があり、とくに慢性使用時や高用量使用時には、そのリスクを念頭に置いた処方・モニタリングが重要であることを理解しよう。抗菌薬の使用中に、患者から「手足がしびれる」「足裏の感覚が鈍い」といった訴えがあった場合、まず考慮すべきは「薬剤性末梢神経障害(drug-induced peripheral neuropathy)」です。とくに抗菌薬を長期投与する機会の多い免疫不全、結核、真菌感染症の患者では、強く意識しておくことが重要です。今回は、抗菌薬による末梢神経障害の頻度や経過に着目して、代表的な薬剤を整理していきましょう。抗菌薬ごとの特徴と注意点メトロニダゾール抗嫌気性菌治療で広く使われる薬剤であり、高用量での長期使用(4週間で42g以上)では末梢神経障害が比較的高頻度で報告されています。症状は亜急性で、用量調整と早期中止により改善するといわれますが、一部の患者では長期間持続することがあります。イソニアジド結核治療の第1選択薬ですが、ビタミンB6(ピリドキシン)欠乏により末梢神経障害を起こすことがあります。ビタミンB6を併用することで発症頻度は大きく低下しますが、常に可能性を念頭に置いておくことが重要です。リネゾリドグラム陽性球菌に対する治療薬として使用されますが、2週間以上の使用で30%前後の頻度で神経障害が生じると報告されており、比較的頻度が高い抗菌薬として押さえておく必要があります。エタンブトール視神経障害のイメージが強い薬剤ですが、まれに末梢神経障害も報告されており、とくに高齢者や腎機能低下例では注意が必要です。フルオロキノロン系非常にまれながら感覚障害、異常感覚といった末梢神経障害が発現することが知られています。腱障害(腱炎や腱断裂、アキレス腱が多い)と併せて理解しましょう。ジアフェニルスルホン(ダプソン)ハンセン病やニューモシスチス肺炎の予防に使われる薬剤で、亜急性から慢性の経過をとる神経障害が報告されています。トリアゾール系抗真菌薬ボリコナゾールを中心に、慢性使用で神経毒性のリスクが上昇することが示唆されています。ボリコナゾールでは幻覚、高濃度で中枢神経障害も併せて覚えるようにしましょう。クロラムフェニコール現在では使用頻度が低い薬剤ですが、慢性的な神経毒性の報告があるため、投与機会がある場合には注意が必要です。末梢神経障害は、患者のQOLを大きく損なう副作用にもかかわらず、原因が特定されにくく、かつ進行性である可能性がある点で非常に重要です。上記の抗菌薬を継続している患者では、常に末梢神経障害のリスクを念頭に置き、出現した際には中止あるいは変更を検討します。1)Mauermann ML, et al. JAMA. 2025 Nov 17. [Epub ahead of print]

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尿路感染症、肝代謝の抗菌薬で治る理由【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第19回

Q19 尿路感染症、肝代謝の抗菌薬で治る理由尿路感染において、セフトリアキソンのように肝代謝の薬でも完治するのが不思議です。血流があるからといっても、腎盂内や尿管、膀胱内には届きにくそうですが…。

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市中敗血症への抗菌薬、4日目からde-escalationは可能?

 市中発症敗血症で入院し、多剤耐性菌感染が確認されていない患者において、入院4日目から広域抗菌薬のde-escalationを実施しても、広域抗菌薬継続と比較して90日死亡率に差は認められず、抗菌薬使用日数および入院期間の短縮と関連していたことが報告された。米国・ミシガン大学のAshwin B. Gupta氏らが、本研究結果をJAMA Internal Medicine誌オンライン版2025年12月22日号で報告した。 研究グループは、Michigan Hospital Medicine Safety Consortium(HMS)のデータを用いて、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)薬および抗緑膿菌(PSA)薬のde-escalationの影響をtarget trial emulationの手法で検討した。対象は、2020年6月~2024年9月に入院し、広域抗菌薬によるエンピリック治療を開始した18歳以上の市中発症敗血症患者とした。入院1日目または2日目に多剤耐性菌感染が確認された患者は除外した。抗MRSA薬、抗PSA薬について、入院4日目にde-escalationを実施した群と、広域抗菌薬の投与を継続した群の2群に分類して評価した。主要評価項目は90日死亡率とし、副次評価項目は抗菌薬使用日数(14日目まで)、入院期間などとした。逆確率重み付け法を用いて、背景因子を調整し、2群の比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・抗MRSA薬の解析対象は6,926例であり、そのうち2,993例(43.2%)でde-escalationが実施された。・抗PSA薬の解析対象は1万1,149例であり、そのうち2,493例(22.4%)でde-escalationが実施された。・重み付け後の解析において、抗MRSA薬のde-escalationは、継続と比較して90日死亡率に有意な差は認められなかった(オッズ比[OR]:1.00、95%信頼区間[CI]:0.88~1.14)。・抗PSA薬のde-escalationについても、継続と比較して90日死亡率に有意な差は認められなかった(OR:0.98、95%CI:0.86~1.13)。・抗MRSA薬および抗PSA薬のいずれも、de-escalationは、抗菌薬使用日数の減少、入院期間の短縮と関連した。詳細は以下のとおり。 <抗菌薬使用日数(中央値)> 抗MRSA薬:8日vs.10日(リスク比[RR]:0.91、95%CI:0.89~0.93) 抗PSA薬:8日vs.9日(RR:0.91、95%CI:0.88~0.93) <入院期間(中央値)> 抗MRSA薬:7日vs.8日(RR:0.88、95%CI:0.85~0.92) 抗PSA薬:5日vs.7日(RR:0.88、95%CI:0.80~0.96)・入院3日目時点で臨床的に安定していた患者のサブグループ解析では、抗MRSA薬のde-escalationは90日死亡率の低下と関連した(OR:0.72、95%CI:0.54~0.96)。抗PSA薬のde-escalationも同様の傾向がみられた(同:0.76、0.58~1.01)。・抗PSA薬のde-escalationは、探索的アウトカムである90日再入院の減少と関連していた(RR:0.87、95%CI:0.76~0.99)。抗MRSA薬のde-escalationでは、この傾向はみられなかった(同:1.04、0.92~1.17)。・de-escalationの実施割合は病院間で2倍以上のばらつきがあった(抗MRSA薬:27.3~61.7%、抗PSA薬:6.9~37.7%)。 著者らは、本研究結果について「多剤耐性菌が検出されなかった市中発症敗血症患者において、入院4日目の広域抗菌薬のde-escalationは安全であり、抗菌薬使用日数の減少および入院期間の短縮につながる可能性がある」と結論付けている。

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膀胱炎への抗菌薬、妊娠可能性のある場合の選択は?【腕試し!内科専門医バーチャル模試】

膀胱炎への抗菌薬、妊娠可能性のある場合の選択は?28歳の女性。排尿時の痛みと頻尿で受診した。1年前に結婚し、現在妊娠を希望している。発熱はなく、CVA叩打痛もない。過去に性交後の膀胱炎を3回経験している。

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呼吸器系ウイルス検査陽性の市中肺炎、抗菌薬投与は必要?

 米国胸部学会(ATS)が2025年に発表した最新の市中肺炎(CAP)ガイドラインでは、呼吸器系ウイルス検査陽性となった入院CAP患者全例に対して、抗菌薬を投与することを条件付きで推奨している1)。しかし米国感染症学会(IDSA)は非重症患者に対するこの推奨に同意せず、非重症患者では重複感染の可能性を検討するために多少の時間をかけることによるリスクはほとんどなく、抗菌薬を開始するかおよびいつ開始するかについては臨床医の裁量の余地があるとしている2)。米国・ペンシルベニア大学のBrett Biebelberg氏らはこれらの患者集団における抗菌薬投与の頻度・期間と転帰を評価する目的で、大規模な多施設共同の傾向スコア重み付け解析を実施。結果をClinical Infectious Diseases誌オンライン版2025年12月11日号で報告した。 本研究では、2015年6月~2024年12月に5つの病院において、来院後48時間以内に肺炎が疑われる臨床所見を認め、かつ呼吸器系ウイルス検査陽性の入院患者を後ろ向きに特定。臨床データを用いて、0~2日間の抗菌薬投与を受けた患者と5~7日間の抗菌薬投与を受けた患者について、傾向スコア法により全体およびウイルスごとの転帰を比較した。 主な結果は以下のとおり。・呼吸器系ウイルス検査陽性でCAP疑いの入院患者6,779例のうち、3,269例が0~2日間、1,560例が5~7日間の抗菌薬投与を受けた。・平均年齢は67.5歳(SD 17.6)、46.9%が女性で、検出ウイルスはSARS-CoV-2ウイルスが60.3%、インフルエンザ(AもしくはB)ウイルスが17.4%、RSウイルスが9.2%、ライノウイルスが7.3%などであった。・プロカルシトニン値>0.25μg/Lなど除外基準に該当した患者を除く2,614例(抗菌薬投与0~2日間:1,720例、同5~7日間:894例)を解析対象とした。・抗菌薬投与0~2日間の患者と5~7日間の患者の間で、入院期間(11.7日vs.11.1日、オッズ比[OR]:1.05、95%信頼区間[CI]:0.97~1.15)、48時間後のICU入院率(28.3%vs.28.2%、OR:1.01、95%CI:0.86~1.18)、院内死亡率(9.5%vs.9.8%、OR:0.97、95%CI:0.74~1.27)、30日間の病院不在日数(16.9日vs.17.0日、OR:0.99、95%CI:0.95~1.03)における有意差は認められなかった。・結果は、SARS-CoV-2以外のウイルスおよびインフルエンザウイルスのみに限定した場合、抗菌薬の投与期間を0日間と5~7日間で比較した場合、入院時に肺炎のICD-10コードを有する患者に限定した場合も一貫していた。 著者らは今回の結果について、呼吸器系ウイルス検査陽性のCAP疑い患者の多くにおいて抗菌薬は有益でない可能性を示唆するものとしている。

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単純性淋菌感染症、単回投与の新規抗菌薬zoliflodacinが有効/Lancet

 単純性淋菌感染症の治療において、zoliflodacinはセフトリアキソン+アジスロマイシンの併用療法に対して非劣性であり、安全性プロファイルは同等であることが、スイス・Global Antibiotic Research & Development PartnershipのAlison Luckey氏らZoliflodacin Phase 3 Study Groupが行った海外第III相無作為化非盲検非劣性試験の結果で示された。淋菌(N. gonorrhoeae)は複数の第1選択薬および第2選択薬に対して耐性を獲得しており、新たな治療薬の開発が世界的な公衆衛生上の最優先事項となっている。zoliflodacinは、新規作用機序で細菌のDNA複製を阻害するファーストインクラスの経口スピロピリミジントリオン系抗菌薬で、新たな標的(GyrB)を有し、多剤耐性菌株を含む淋菌に対して強力なin vitro活性を有することが示されていた。著者は、「本検討で示されたデータは、zoliflodacinが単純性淋菌感染症に有効な経口治療選択肢の1つとなりうる可能性を示唆するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年12月11日号掲載の報告。zoliflodacin単回投与vs.セフトリアキソン+アジスロマイシン併用投与 本検討の被験者の適格要件は、臨床的に泌尿生殖器系の単純性淋菌感染症が疑われる12歳以上とされ、試験は、ベルギー、オランダ、南アフリカ共和国、タイ、米国の17の外来クリニックで実施された。試験参加国は、疾患有病率が高い国が選定され、参加施設は、HIVまたは性感染症とその治療に精通した研究経験のある主任研究者によって選定された。Feasibility調査票と試験前訪問調査で、性感染症症例管理ガイドライン、臨床サービス、リソース(施設、スタッフ、試験チームの構成案、試験参加施設で提供される標準的な性感染症サービス、検査能力の評価、試験経験、臨床試験の倫理レビューなど)の評価が行われた。 適格被験者は、zoliflodacin 3g(経口)単回投与群(zoliflodacin群)またはセフトリアキソン500mg(筋注)+アジスロマイシン1g(経口)の併用投与群(対照群)に2対1の割合で無作為に割り付けられた。治療の割り付けは被験者と試験担当医師には知らされたが、細菌検査室のスタッフおよび試験スポンサーの中央試験チームは、データベースがロックされるまで盲検化された。 主要エンドポイントは、細菌学的ITT集団における治癒判定(Test Of Culture[TOC]、6±2日目)時に細菌学的治癒(尿道または子宮頸管検体の培養検査で淋菌陰性または検出不能)を達成した患者の割合であった。有効性の主要解析で、治療群間差(対照群-zoliflodacin群)の両側95%信頼区間(CI)の上限が非劣性マージンの12%を下回った場合、非劣性と判定された。推定治療群間差は5.3%、zoliflodacin単回投与の非劣性を確認 2019年11月6日~2023年3月16日に1,011例がスクリーニングされ、スクリーニング基準を満たさなかった81例を除く930例が無作為化された(zoliflodacin群621例、対照群309例)。被験者の平均年齢は29.7歳(SD 9.4)、815/930例(88%)が出生時男性に、115/930例(12%)が出生時女性に分類された。514/930例(55%)が黒人またはアフリカ系米国人、285/930例(31%)がアジア人、113/930例(12%)が白人であった。 泌尿生殖器系の細菌学的ITT集団におけるTOCに基づく細菌学的治癒率(主要有効性エンドポイント)は、zoliflodacin群90.9%(460/506例、95%CI:88.1~93.3)、対照群96.2%(229/238例、92.9~98.3)であり、推定治療群間差は5.3%(95%CI:1.4~8.6)で、事前に規定した非劣性マージンの要件を満たした。 zoliflodacin群の忍容性は概して良好で、有害事象は治療群間で類似していた。治療中に発現した主な有害事象は、zoliflodacin群では頭痛(61/619例[10%])、好中球減少症(42/619例[7%])、白血球減少症(24/619例[4%])で、対照群では注射部位疼痛(38/308例[12%])、好中球減少症(24/308例[8%])、下痢(22/308例[7%])であった。有害事象の大半の重症度は軽度または中等度であった。重篤な有害事象は報告されなかった。

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多発性硬化症と口腔内細菌の意外な関係、最新研究が示す病態理解の可能性

 多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の神経線維を包むミエリンが自己免疫反応によって障害される希少疾患で、視覚障害や運動麻痺、感覚障害などさまざまな症状を引き起こす。最新の研究で、MS患者の口腔内に存在する特定の歯周病菌、Fusobacterium nucleatum(F. nucleatum)の量が、病気の重症度や進行に関わる可能性が示された。研究は、広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学の内藤裕之氏、中森正博氏らによるもので、詳細は11月3日付で「Scientific Reports」に掲載された。 MSの発症には遺伝的素因に加え、ウイルス感染や喫煙、ビタミン欠乏などの環境因子が関与すると考えられ、近年は腸内細菌の異常も病態形成に影響することが示唆されている。また、口腔内細菌、特に歯周病菌も中枢神経疾患に影響することが報告されており、慢性的な炎症や免疫応答を介してMSの進行や重症度に関与する可能性がある。これまでに歯周病とMSの関連や、MS患者における特定菌種の増加が報告されているものの、臨床指標や再発・進行との具体的な関連や菌種ごとの差異は不明である。こうした背景を踏まえ著者らは、MSや視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)、抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)の患者の舌苔サンプルから歯周病菌量を定量し、臨床特徴やMRI所見との関連、さらに菌種ごとの影響を探索する横断的研究を実施した。 本研究は2023年5~11月にかけて実施され、広島大学病院脳神経内科を受診した15歳以上のMS、NMOSD、MOGAD患者112人が解析対象となった。患者から採取した舌苔サンプルは4種の歯周病菌種 (F. nucleatum、P. gingivalis、P. intermedia、T. denticola)を標的とした定量的PCRを用いて分析した。先行研究に倣い、細菌の総存在量に対する比率が第3四分位数を超える場合「高相対量」と定義された。患者の重症度は総合障害度評価尺度(EDSS)で評価し、スコア4をカットオフとした。 本研究の最終的な解析対象は98人(平均年齢48.6歳、女性77.6%)となった。これらのうち、56人がMS、31人がNMOSD、11人がMOGADとそれぞれ診断された。MS、NMOSD、MOGADで歯周病菌の高相対量に有意差はなく、口腔衛生習慣もほぼ同等であった。 単変量解析により、MS患者における各歯周病菌とEDSSスコアの関係を調べたところ、F. nucleatumの相対量が高いMS患者は、低い患者に比べてEDSSスコアが有意に高く、EDSS ≥4の割合も多かった(61.5% vs 18.6%、P=0.003)。多重比較補正(Benjamini-Hochberg法)を行った後も、MS患者におけるF. nucleatumの高相対量とEDSS ≥4の関連のみが有意であった(P=0.036)。一方、他の歯周病菌の相対量は、EDSS ≥4との有意な関連は認められなかった。また、NMOSDおよびMOGAD患者においても、EDSSスコアと各菌の高相対量との関連は認められなかった。 単変量解析では、MS患者の重症度(EDSS ≥4)に影響を与える要因として、F. nucleatumの高相対量に加え、年齢、MSのサブタイプ、発作回数、罹病期間も示唆された。しかし、これらの因子を考慮した多変量解析では、F. nucleatumの高相対量のみが独立して有意であった(オッズ比10.0、95%信頼区間1.45~69.4、P=0.020)。 著者らは、「本研究は、MS患者において口腔内のF. nucleatum相対量がEDSSスコアと強く関連することを示した。因果関係は示せないが、将来的な研究課題としては、サイトカイン関連機構などの免疫学的メカニズムの解明や、口腔ケアなどの介入による影響の検討が挙げられる」と述べている。 本研究の限界として、単施設の横断的観察研究であり、MS以外の疾患群やF. nucleatum陽性患者が少なくサンプルサイズが限られていたこと、歯周病の臨床評価や抗菌薬使用歴、口腔行動の影響、免疫指標測定が不十分であり、残存交絡や因果関係の推定は困難であったことを挙げている。

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外科医のキャリア終盤に思い出した 何でも診られる医者への憧れ【ReGeneral インタビュー】第3回

外科医のキャリア終盤に思い出した 何でも診られる医者への憧れ「手術だけしていればいい環境じゃなかった」そう語るのは、総合医育成プログラムを受講中の五本木 武志氏。卒後すぐに消化器外科でキャリアをスタートし、現在は28診療科・331床を持つ筑波学園病院の病院長として、最前線で地域医療を率いています。外科外来、救急、病棟診療に加え、病院運営まで担う多忙な身で、なぜ総合医育成プログラムを受講しているのか?その理由にキャリアの次の一手を探ります。即決受講の背景に 外科医としての“憧れ”と現場の必然――総合医育成プログラムの受講は即断即決だったと伺っています。その理由は。2024年2月にたまたま知人から総合医育成プログラムを紹介されて、即刻申し込みました。もともと、卒後6年間、消化器外科のレジデントとして筑波大附属病院にいた間、3年以上は、外の病院でありとあらゆる疾患の患者を診ていました。手術だけでなく打撲から肺炎まで、本当に何でもです。レジデント時代の指導教官は外科医で、本当に何でも診る先生でした。その人のようになりたいという憧れもありました。当時からちょこちょこ勉強はしていたけども手術が忙しくて体系的に学ぶ暇はもちろんありません。昔から総合的な診療を学びたい思いがあったので、話を聞いたときに、これだ!と思いました。もっとも、2024年は病院長になったのと重なって、ほとんど受講できませんでした。2025年に非同期型・同期型の混合学習1)になって、ようやく受けられるようになりました。修了要件まであと2単位。もうすぐ修了です。本では学べなかった“現場の勘所”を、プロから教わる――プログラムで扱うのは内科領域が多いと思います。専門外の講義を受ける感想は。正直にいって、すべてが楽しいです。肺炎だとか脳卒中だとか、わからないことはいままではすべて本で勉強してきました。周りに教えてくれる先生もいませんでしたから。ずっと持っていたのは、本にはこう書いてあるけど、実際に診るときはどうなっているんだろう、という疑問です。プログラムでは、領域ごとに専門医や総合医の先生から、教科書だけではカバーできない話が聞ける。肺炎ひとつにしても、こういうときはこういう肺炎を考える、こういう抗菌薬を使うといった、現場の勘所を教わるのが、皮膚科でも腎臓でも、血液内科でも、毎回楽しかったです。総合診療で光る外科医の嗅覚・待つ力を学ぶ挑戦――外科医だから苦労したことはありますか。そうですね、外科の早く結論を出したがる癖はあります。外科医って手術をするにしてもしないにしても、なるべく早く決断してすぐに実行したい。それが日常になっていて、様子を見るという選択に慣れていないところがあります。だから、内科の先生の待つ力、忍耐力はすごいなと思います。外科医の即断即決を活かすときと、ここは内科医の様子を見る力を使うという使い分けができてくるのが理想ですね。――外科医の特性が活きる場面は。そのとき一番重要な問題に切り込む習慣は、総合診療でも役立っていると感じます。外科医の嗅覚ともいえるかもしれません。何が一番やばくて問題なのかを嗅ぎ当てるんです。問題の核心に回り道せずに切り込んでいけるのは強みですね。もちろん、総合診療ではさまざまな情報を集めて結論を出す力が必須で、そこを内科の先生から学んでいます。膝関節穿刺を実演で教える熱意、コミュニケーションのプロから教わる人間力――印象的な講義はありましたか?整形外科の仲田和正先生のセッションは印象に残っています。膝関節穿刺のレクチャーで、ご自分の膝に針を刺して実演してくれた。こんな先生、そうそういません。こういう先生に教わる研修医は幸せだろうなと思いました。それから、ノンテクニカルスキルコースはどれも新鮮で面白かったです。MBTI2)やミーティング・ファシリテーション3)といった、医者になってからまず聞く機会のない分野の講義です。ノンテクの先生方は、相手のスタンスやものの見方をふまえて、人に教えるプロという感じです。どうしても医者は立場的に上から目線になりがちで、看護師やほかの医療者と話すとき、一方的になってしまう。それがノンテクのセッションを受けてから、相手の性格や考え方を推測して話す心の余裕ができてきた。たとえば「俺はこう思うけど、君の意見は?」ときくことができるようになりました。断定しすぎずに話す、相手に意見を求めることができることで、医療者・患者問わず、コミュニケーションによい影響があり、それが治療にもつながっていると感じています。次に受けるコーチングの授業も楽しみにしています。脳卒中から小児まで。幅広く診療に活きる学び――学んだことをどのように現場で使っていますか。毎日、ありとあらゆる場面で使っています。なぜかというと、週3回の外科外来のほかに、救急搬送・ウォークインで来る救急外来の対応も当番制で持っています。救急は若い先生たちが主だけど、忙しくて断らなくちゃいけないとなったときは俺を呼べと言ってあるので、最終的に誰も診る人がいない救急患者は僕に回ってきます。小児も肺炎も骨折も、何でもです。それに、うちのような一般病院は、病院として総合的に見る必要があって、救急診療科という部門を作りました。ここでの受け持ち患者が10人。疾患は脳卒中亜急性期、肺炎、尿路感染、脊椎圧迫骨折まで、本当にさまざまです。こういう何でも診る環境で、肺炎っぽい徴候の患者が来た、血液疾患を疑う患者が来たというとき、受講前は本やネットで調べていたのが、今はレクチャーの資料を引っ張り出しています。現場の目線で何を考えてどう進めるかが整理されていて、効率が圧倒的によくなりました。熱発の子どもが来たときに、身体のどんな兆候を一番先に診るか、除外すべき疾患、必要な検査、治療の選択肢がパッケージで出てくる。そういう感じでプログラムの内容は現場で助けてくれています。みんな受けた方がいいんじゃないかって思います。手術を若手に託した後、僕たちはどう働くか――もともと総合的な診療に興味があったとのことですが、いつから実際にいまの診療スタイルになってきたのですか。外科医は皆いつか手術をやめるときが来るでしょう。だいたい最初に目が見えなくなる。僕も老眼も始まる50代くらいから「救急領域に近いところで生きていかなくちゃいけない」と思い始めていました。今62歳で、手術は自分がやるよりも若い先生方に任せて引き継いでもらっています。手術をやめた後にどう医者を続けるかには、若手育成、管理職などいろいろ道があって、僕は以前から救急と総合診療に興味があったから今の働き方になっています。病院長になったので現場と管理を両輪で回している感じですね。トップが動くと病院が動く・現場で示すリーダーシップ――病院長として、総合医を病院内に増やすためにどのような取り組みをしていますか。僕がしているのは背中を見せること。上からやれと言っても、人は動かないと思うんです。今までうちの病院では誰も総合診療をしていなかったから、自分が患者を受け持って診る。僕たちはこういう診療をしていくぞと現場で示す。そうすると、病院が力を入れて向かっていく方向が明確になると思います。口で言うよりも効果があると信じています。立ち上げた救急診療科の医師はまだ2人。ここから同じ志を持つ仲間を増やしたい。背中を見せると同時リクルートも進めて、グループを大きくしたいと思っています。外科医の強みと総合診療で、医者として長く生きる――総合診療に興味を持った外科の先生方にメッセージを。総合診療をしてみようと思ったとき、外科のキャリアは非常に有利です。手術後は、肺炎になったり脳梗塞が起きたり、細かい不具合が次々と起きます。かといって、すぐに呼吸器内科や脳神経外科に転科するわけじゃない。そのまま外科で全身を診て、必要なら連携する。そこで外科医は患者全体を診る癖がついています。その経験は、総合医としての診療にも直結する。だから自信を持って学んでほしいです。切った後に全身を診てきた習慣や経験が大きな武器になります。高齢者はどんどん増えていて、専門だけやっていればいい病院が減っていくことは明らかです。「この疾患は、外科の領域ではない」と自分で線を引いていたら、世界がどんどん狭まってしまう。若い先生は若いうちから、そうでない先生は今から、自分の専門ではないと切り捨てずに、視野を広げ、関心を持つことが医者として長生きすることにつながるんじゃないかと思います。自信をもって新しいことを学んでみてください。 引用 1) 非同期型学習はeラーニングを用いた自己学習で、自分のペースでいつでもどこでも受講可能。同期型学習はWeb会議ツールを使用したライブ研修。土日祝の決められた時間にリアルタイムでグループディスカッションなどを行う 2) Myers-Briggs Type Indicatorの略称。ユングのタイプ論をもとにして開発された自己分析メソッドを活用した、 性格タイプ別コミュニケーションに関する研修 3) 医療チームにおけるミーティングを活性化させ、会議の質と効率を向上させるための、会議ファシリテーションの実践的スキルを学ぶ研修

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ショック状態に対する治療をしない場合は責任を負う?【医療訴訟の争点】第17回

症例近年、高齢患者の急変時対応では、基礎疾患・予後を踏まえた治療方針の選択が重要となる。本稿では、ショック状態に陥った患者に対し救命処置を行わなかった医師の判断の適否が争われた、東京地裁令和7年2月27日判決を紹介する。<登場人物>患者76歳・男性(既往歴:間質性肺炎、双極性障害、糖尿病)原告患者の配偶者および子被告医療法人(内科・精神科を標榜する病院)事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成28年7月咳が続く・胸痛があると訴えて被告病院を受診。被告病院の紹介により国立病院を受診し、間質性肺炎と診断平成30年5月内服薬の処方中止後も咳が再燃しなくなったため、通院終了平成31年1月25日ここ数日食事が取れない、具合が悪いなどと訴えて、被告病院再受診。精査目的で入院。入院時のバイタル値は、体温36.8℃、脈拍93回/分、血圧149/90mmHg、SpO2 98%、呼吸は平静。腹部CT検査上は異常所見を認めなかった。細菌性の感染症疾患を疑い、抗菌薬の点滴投与と補液を開始。1月26日午前9時28分頃胸部CT検査。前日からこの日までの間に、両肺下葉に新たな浸潤影が出現。午前10時頃右肺の雑音や著明な痰がらみが見られ、白黄色痰が大量に吸引。午後3時頃肺雑音が両肺に生じ、再び白黄色痰が大量に吸引。37.6℃の発熱、呼吸がやや努力様、SpO2 76~80%に低下。酸素投与(2L/分)開始。午後4時40分頃酸素投与量が増量(7L/分)。両肺の雑音や発熱は続くも、痰がらみが消失して呼吸も平静、SpO2 96%。午後8時頃ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン、解熱剤)の投与などもされ、体温は36.8℃に低下、肺の雑音も消失。1月28日午前2時熱(38℃)午前5時白黄色痰が大量に吸引担当医は、抗菌薬投与にかかわらず呼吸状態の悪化が続いていることから、細菌性の感染症ではなく、間質性肺炎の急性増悪であると判断し(ただし、細菌性の感染症を鑑別するための血液検査や細菌培養検査は行っていない)、抗菌薬の点滴投与を中止して、ステロイドミニパルス療法(ソル・メルコート500mg/日に生理食塩水100mL/日を付加したものを点滴投与)を開始。以後、発熱が断続的に見られたものの、肺の雑音は認められなくなり、呼吸は平静のままで経過。1月30日午前11時20分酸素投与量が7L/分から6L/分に減量。午後1時頃呼吸が促拍するようになる。午後3時SpO2 98%であるも、発熱(37.4℃)や少量の白色痰が見られる。血圧148/87午後5時30分SpO2 90%に低下、発熱(38.5℃)と肺雑音が見られ、黄色痰が大量に吸引される。血圧114/81。解熱のためジクロフェナクナトリウム投与。午後8時頃両肺の雑音や多量の黄色痰が見られ、SpO2 94%に低下し、努力様呼吸になって呼吸状態が急激に悪化。収縮期血圧が74/64に低下し、心拍数は120~130回/分に上昇。膝から下にチアノーゼが出現し、四肢が脱力した状態。担当医は、容体急変は間質性肺炎の急性増悪による(血圧低下についてはジクロフェナクナトリウムの影響もある)もので、ステロイドミニパルス療法が奏功しない限り救命困難と判断。ステロイドミニパルス療法と酸素投与(6L/分)のほかに治療は行わず、容体急変の原因を探るためのCT検査や血液検査などの検査も行わなかった。午後10時頃SpO2が上昇(午後9時時点で99%、午後10時時点で96%)、収縮期血圧も90台まで上昇(午後9時時点で90/23mmHg、午後10時時点で92/78)も、四肢の脱力、努力様呼吸や黄色痰が大量に吸引される状態が継続。1月31日午前0時下顎様呼吸、瞳孔拡大、血圧およびSpO2が測定不能。午前2時15分死亡2月2日午後3時他院において病理解剖。要旨は以下のとおり。(1)死因に関与した臓器を挙げるならば、肺または心臓と考えられる。(2)肺については、胸膜直下~隔壁の高度な線維化、線維化巣内の蜂巣構造、線維芽細胞巣(fibroblastic foci)を認め、隣接する領域の肺胞構造は保たれており、UIP(通常型間質性肺炎)パターンと考えられた。肺は、UIPパターンの間質性肺炎であるが、病理解剖時に採取した血液を用いた間質性肺炎マーカー検査の結果(KL-6値274U/mL〔基準値:500U/mL未満〕、SP-A値18.9ng/mL〔基準値:43.8ng/mL未満〕、SP-D値82.8ng/mL〔基準値:110ng/mL未満〕)からも活動性の低いものではなかったかと疑われ、これのみで死に至るものか疑問が残る。(3)心臓は、不安定プラークを疑う冠動脈病変を伴っており、心筋にも全周性の虚血性変化が見られたが、この変性像は区域性には見えず、アーチファクトの可能性もある。あえて推測すれば、剖検時に冠動脈に明らかな血栓形成はないが、肺うっ血水腫の存在と併せて、新鮮な心筋梗塞による心原性ショックは否定できない。(4)臓器別に病理組織学的検索を行った範囲では、直接死因を確定することは困難であり、臨床情報と併せて判断する必要がある。実際の裁判結果本件において、1月30日午後8時頃の急変・ショック状態(収縮期血圧は74mmHg、心拍数120〜130回/分、尿量減少、四肢チアノーゼ、努力様呼吸など)につき、担当医は、間質性肺炎急性増悪が原因であり救命は困難、輸液は肺水腫の悪化を招くとして、酸素投与以外の処置を行わず、ステロイドミニパルス療法のみにより経過を見る方針とした。これに対し、原告(患者の相続人ら)は、輸液負荷、昇圧薬、気管挿管、原因鑑別のための血液検査・画像検査などの救命処置をすべきであったと主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「1月30日午後8時の時点での本件患者の状態は、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する治療を行うべきものであった」とした。ショックでは、血圧低下、心拍の異常(頻脈など)、呼吸の異常(頻呼吸)、皮膚の異常(末梢血管の収縮など)といった症状が見られ、一般的に、収縮期血圧90mmHg以下がショックの基準となる。午後8時時点において、本件患者は、血圧74/64と著しい低下、心拍数の120~130回/分への上昇、努力様呼吸、膝から下のチアノーゼの出現は、いずれもショックの症状というべきであり、とくに収縮期血圧については、ショックの基準値を大きく下回るので、本件患者はショックに陥って容体が急変したといえる。ショックは、迅速な原因の同定と治療介入がされなければ臓器不全を来し、死に至る症候群であるため、一般に、まずは、生命の危機的状況を避けるための救命処置を行う必要がある。本件患者に見られた1月30日の収縮期血圧の低下は、持続的に生じている上、膝から下にチアノーゼが生じ、末梢の循環不全を来すものであった。末梢の循環不全を来したショックについて、救命処置を行わずに血圧低下が持続すると、不可逆的な転帰を招く可能性があった。本件において被告病院は、「呼吸状態の悪化や血圧低下といった当時の本件患者の状態は、間質性肺炎の急性増悪や数時間前に投与したジクロフェナクナトリウムの影響によるものであって、救命不可能な状態に陥っており、輸液剤の投与などは肺水腫を招くなどかえって死期を早めるため、それらの投与を行うべきではなかった」と主張していた。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「被告病院の担当医には、1月30日午後8時頃、本件患者に対し、輸液剤や血管収縮薬の投与といった救命処置を行い、ショックの原因を把握した上で、それに対する処置・治療を行うべき注意義務があった」として、これらの処置を行わなかった注意義務違反(過失)があると判断した。血圧低下については、その数時間前に投与されたジクロフェナクナトリウムの影響はあったと認められるものの、呼吸状態の悪化など当時の本件患者の症状に照らし、ジクロフェナクナトリウムの影響だけで血圧低下の説明が付けられるかは疑問が残ること。血圧低下がジクロフェナクナトリウムによるものであったとしても、ショックに対する初期対応が不要となるものでもないこと。間質性肺炎の主症状の一つは乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)であり、典型的な間質性肺炎の急性増悪は痰を伴わない一方、黄色痰は感染症の可能性を示す所見であること。本件患者は、呼吸がやや努力様になった1月26日には白黄色痰が大量に吸引されており、1月30日午後5時30分や呼吸状態が急激に悪化した同日午後8時にも大量の黄色痰が見られているため、間質性肺炎の急性増悪とは必ずしも整合せず、細菌性肺炎などの感染症に罹患していたことを疑わせる所見があったこと。担当医は、本件患者に対して細菌培養検査などの感染症を除外鑑別するための検査を行っておらず、感染症の除外鑑別も積極的に行われていなかったため、当時の客観的な状態としては、感染症の罹患もなお疑うべきものであったこと。次に、裁判所は、本件患者の死後に行われた病理解剖の結果も踏まえてショックおよびショックに続く死亡の原因を検討し、以下のように、間質性肺炎急性増悪の可能性が相対的に高いものの、死亡原因は特定できないとした。「本件患者のショック(容体急変)ないしそれに続く死亡の原因は、間質性肺炎の急性増悪であった(少なくとも一定の寄与があった)可能性が相対的に高いものの、これと断ずることはできず、細菌性肺炎などの感染症による敗血症性ショックや心筋梗塞などによる心原性ショックが原因であった可能性も否定できず、その特定は困難であるといわざるを得ない」その上で、裁判所は考えられるそれぞれの原因につき、以下の点を指摘した上で「1月30日午後8時の段階で本件患者に対して救命処置が行われていたとしても、本件患者の上記死亡を回避できたとの高度の蓋然性があるということはできない」として、注意義務違反(過失)と本件患者の死亡との因果関係を否定し、被告の損害賠償責任を否定した。心筋梗塞などによる心原性ショックが原因である場合には、救命処置によって本件患者に生じた死亡を回避できた蓋然性があるが、そもそも、心原性ショックであった可能性も否定できない程度のものにとどまる。このため、この点をことさら強調するのは相当ではない。ショックなどの原因が敗血症性ショックであった場合でも、救命処置によって一定の効果があり、いったんは生命の危機的状況を脱し得た可能性はある。しかし、本件患者に生じた死亡を現実に回避するためには、感染症に対する治療として、血液培養検査などを行って同定した起炎菌に合う抗菌薬を投与する必要があり、これら一連の対応を執るのには相応の時間を要する。このため、本件患者にショックが生じてから死亡する約6時間のうちに、これら一連の対応を執って何らかの治療・救命効果が発揮されたということはできない。原因としての可能性が相対的に高い間質性肺炎の急性増悪については、「いったんは酸素化が安定しても、最終的には努力性呼吸から低酸素血症となり、死に至る」経過をたどることとなる。しかし、本件患者は、この努力様呼吸や下顎様呼吸が認められたのであるから、救命処置によってこれらの努力様呼吸などに至るのを回避できた現実的な可能性はなかった。注意ポイント解説本件は、ショック状態の患者に対する救命処置の要否が争点となった事案である。裁判所は、医師に輸液・昇圧薬などの救命処置を行う義務を認めつつ、その不履行と死亡との因果関係は否定し、結論として医療機関の損害賠償責任を否定した。すなわち、注意義務違反が成立しても、結果(死亡)との法的因果関係が認められない場合に責任が否定される典型例といえる。この点、注意義務違反がある場合に、義務違反と生じた結果との間の法的な因果関係があれば、損害賠償責任が肯定されることとなる。この法的因果関係については、「経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」がなされた場合に認められる。本件は、考えられるショックおよびその後の死亡の原因のそれぞれについて、救命処置をとったことで死亡を回避できた「高度の蓋然性」が認められなかったために、法的因果関係がないものとされた。もっとも、「高度の蓋然性」が認められない場合であっても、「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」が認められる場合には、その可能性を侵害した損害が認められることとなる。そして、この「相当程度の可能性」については、比較的緩やかに肯定される傾向が否めない。このため、注意義務違反(過失)があるとされる場合において、「相当程度の可能性」すらも否定されて損害賠償責任が否定されるケースは少ない傾向にある。本件では、死亡の原因を特定しえないため、救命処置により「死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性」を証明のしようもないことから、相当程度の可能性も否定され、損害賠償責任が否定されたものである。なお、本件では、担当医が看取りを視野に入れた方針転換をしつつも、これを家族に説明していなかったという事情があり、裁判所は「遺族が強い不満を抱くことは理解できる」としている。このため、本件は医師が「治療方針転換をする際の説明の在り方」と「急変時の最小限の救命処置の必要性」を再確認させるものでもある。医療者の視点本判決において、裁判所は「ショック状態に対する輸液や昇圧薬の投与、原因精査を行うべき注意義務があった」とし、これを行わなかった医師の過失(注意義務違反)を認定しました。臨床現場の感覚としては、間質性肺炎の急性増悪が強く疑われる局面において、肺水腫を助長しうる輸液負荷や、全身状態が悪い中での負担の大きい検査を躊躇するのは、医学的には理解できる判断です。しかし、裁判所は当時の客観的なバイタルサイン(著しい血圧低下など)に基づき、まずは原因特定と標準的な救命処置を行うべきであったと判断しました。とくに本件で教訓とすべきは、担当医が「救命困難」と判断し、実質的に「看取り」の方針へ転換していたにもかかわらず、その説明と同意が家族となされていなかった点です。実臨床において、医学的に予後不良が明白であり、侵襲的な処置が患者の利益にならないと医師が確信する場合であっても、家族への十分な説明と合意(アドバンス・ケア・プランニングなど)のプロセスを経ずに標準治療を省略することは、法的責任を問われるリスクがあることを再認識する必要があります。Take home message高齢者・基礎疾患を抱える患者の急変時対応では、救命可能性が低い場合でも、診療録や家族への説明を含めた臨床判断のプロセスが重要である。とくに、救命処置をしない場合、家族への説明と同意の取付けは不可欠である。キーワード間質性肺炎、ショック、救命処置、看取り、法的因果関係、高度の蓋然性、相当程度の可能性

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第295回 「効果が乏しい医療」に新たに「腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン」追加、近い将来査定の対象に

「神経障害性疼痛ではない腰痛には効かない」と国が判定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、茨城県桜川市で有機農業を営む大学の先輩宅へ農作業の支援に行ってきました。筑波大学近くの公園で落ち葉を拾い集め、軽トラックに乗せて農園まで運び、腐葉土にする準備を行いました。落ち葉を竹製の手箕(てみ)で拾い集めるという単純な作業です。しかし、落ち葉を拾う時の中腰の姿勢はつらく、目一杯落ち葉を詰めたネットの袋は15~20kgほどの重さになります。中高年にとってこうした冬の屋外での農作業は、腰痛悪化やぎっくり腰再発などと隣合わせで、それなりのリスクを伴うものです。とは言え、参加者全員なんとか無事に20袋ばかりの落ち葉を拾い集めることができ、ご褒美に茨城・大洗沖で採れたアンコウの鍋をご馳走してもらいました。さて今回はプレガバリンの話題を取り上げます。厚生労働省は11月27日に開いた社会保障審議会医療保険部会で、「効果が乏しい医療」に神経障害性疼痛ではない「非神経障害性腰痛症」に対するプレガバリン(商品名:リリカなど)の処方を追加する案を出し、同部会は了承しました。また、医療費の適正化に向け、「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」を今後も探して評価を検討していく方針も示されました。とくに整形外科で多用されており、私もかつて「四十肩」の治療で、NSAIDsに追加する形で処方されたこともあるプレガバリンですが、「神経障害性疼痛ではない腰痛には効かない」と国が判定を下したわけで、現場の診療に少なからぬ影響が出そうです。「十分な効果があるというエビデンスがない医療といったものを保険対象から外すという見直しも図っていくべき」と医療保険部会「効果が乏しい医療」とは、2023年に策定された2024~29年度の第4期医療費適正化計画の中で「新たな目標の設定」として盛り込まれた「医療資源の効果的・効率的な活用」で挙げられた「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」のことを指します。同計画策定時、「効果が乏しい医療」としては「急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方」が挙げられていました。その後、医療保険部会では「無価値医療、すなわち効果があるというエビデンスが十分ない医療や、低価値医療、これは仮に効果があるというエビデンスがあったとしても、その効果が小さく、つまり十分な効果があるというエビデンスがない医療といったものを保険対象から外すという見直しも図っていくべき」といった意見が出され、さらなる探索・検討が行われてきました。その結果、今回、「腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン」が新たに追加されることになったわけです。今後、効果が乏しい医薬品として都道府県が患者や医師への周知を行うことになります。2028年度診療報酬改定での取り扱いについて中医協で審議予定医療保険部会に出された厚労省の資料には、「プレガバリン(商品名 リリカ錠)の効果・効能は神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛。薬理作用はカルシウムチャネルα2δ遮断薬。神経障害性疼痛では有効なケースもあるが、非神経障害性腰痛では効果が限定的。めまい・眠気などの副作用が比較的多い薬と一般的に言われている。先行研究では、腰痛に対するプレガバリン処方が効果が乏しい医療として指摘されている」とその理由が書かれています。この決定がすぐさま「保険診療での査定」につながるわけではありませんが、今後、関係学会と調整後、次々期、2028年度診療報酬改定での取り扱いについて中央社会保険医療協議会で審議が行われ、審議結果に即した診療報酬上の対応が決定されることになります。将来的には神経障害性疼痛ではない腰痛症には処方できなくなると考えられます。なお、医療費適正化計画基本方針は次のように変更されます(下線部追記)。第1 都道府県医療費適正化計画の作成に当たって指針となるべき基本的な事項一 全般的な事項(略)二 計画の内容に関する基本的事項1 (略)2  医療の効率的な提供の推進に関する目標に関する事項(1)~(2)(略)(3)急性気道感染症及び急性下痢症の患者に対する抗菌薬の処方、神経障害性疼痛を除く腰痛症の患者に対するプレガバリンの処方といった効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療や白内障手術及び化学療法の外来での実施状況などの医療資源の投入量に地域差がある医療については、個別の診療行為としては医師の判断に基づき必要な場合があることに留意しつつ、地域ごとに関係者が地域の実情を把握するとともに、医療資源の効果的かつ効率的な活用に向けて必要な取組について検討し、実施していくことが重要である。(略)プレガバリンの年間薬剤費は約60億円との推計、その半分の30億円が削減目標日経メディカルなどの報道によれば、プレガバリンの年間薬剤費は約60億円と推計されており、その半分の30億円が削減目標になる見込みだそうです。第4期医療費適正化計画(2024~29年度)では、急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方の適正化で約270億円、入院で行う白内障手術や化学療法の適正化で約106億円の削減を見込んでおり、プレガバリンの削減分はそれに加わる形となります。プレガバリンは、日本ではごく軽症の痛みに対しても多く処方されている薬です。神経障害性疼痛の薬となっていますが、そんなことお構いなく、整形外科などで漫然と投与されている印象です。私自身、近所の整形外科で「四十肩」に処方されたときは驚きました。「効くのかな」と思い数日飲んでみたのですが、顕著なふらつきが出て、怖くなって止めました。その後、「四十肩」は3ヵ月余りで自然と治りました。国は「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」を今後も探し出し、医療費適正化計画にも盛り込んでいく計画とのことですが、プレガバリンは、その副作用から転倒骨折や交通事故の危険性も高く、もっと早くに”適正化”が行われてしかるべきだった気がします。「効果が乏しい医療」のさらなる探索と検討に期待したいと思います。参考1)第4期医療費適正化計画における医療資源の効果的・効率的な活用について/厚生労働省

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メチシリン感性黄色ブドウ球菌菌血症に対するクロキサシリンとセファゾリンの比較(CloCeBa試験)(解説:寺田教彦氏)

 メチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症は、感染性心内膜炎などの多彩な合併症を伴うことがあり、死亡率も高い重篤な疾患である。 日本では、中枢神経系合併症を除けば、MSSA菌血症の治療にはセファゾリンが第1選択薬として推奨されている。一方、欧米では長年の臨床経験を背景に、nafcillin、oxacillin、クロキサシリンなどの抗ブドウ球菌ペニシリン(antistaphylococcal penicillins:ASPs)が標準治療薬とされてきた。本邦でASPsが普及しなかった背景には、静注製剤が承認されていないこと、代替として安全性の高いセファゾリンが広く使用されてきたことなどがある。 近年、欧米ではセファゾリンをMSSA感染症の治療に使用する施設も増えており、観察研究においてASPsと同等の治療効果を示す報告が蓄積している(Lee S, et al. Comparative outcomes of cefazolin versus nafcillin for methicillin-susceptible Staphylococcus aureus bacteraemia: a prospective multicentre cohort study in Korea. Clin Microbiol Infect. 2018;24:152-158.)。しかし、これまでセファゾリンとASPsを直接比較した無作為化試験は存在しなかった。今回のCloCeBa試験は、MSSA菌血症に対するセファゾリンvs.クロキサシリンの有効性・安全性を初めてランダム化比較で評価した点に意義がある。 本試験の主要評価項目では、セファゾリンはクロキサシリンに対して非劣性を示し、さらに重篤な有害事象はクロキサシリンで有意に多かった。この結果は、既報の観察研究で示唆されていた「セファゾリンはASPsと同等の有効性を有し、忍容性では優れる」に一致しており、MSSA菌血症におけるセファゾリンの有用性を示した(ジャーナル四天王「MSSA菌血症、セファゾリンvs.クロキサシリン/Lancet」)。 私が、主要評価項目以外に本試験で注目した点として、事前規定のないサブグループ解析のblaZ type A株に対する治療効果(inoculum effect)がある。inoculum effectとは、β-ラクタマーゼ産生菌において菌量が多い条件でセファゾリンのMICが上昇し、活性が低下して見えるin vitro現象である。過去の研究でもblaZ type Aに加えてblaZ type Cを保有する株でこの現象が生じやすいことが指摘されてきた(Miller WR, et al. The Cefazolin Inoculum Effect Is Associated With Increased Mortality in Methicillin-Susceptible Staphylococcus aureus Bacteremia. Open Forum Infect Dis. 2018;5:ofy123.)。 CloCeBa試験では、blaZ type Aを持たない株ではすべての評価項目で非劣性が達成されたのに対し、blaZ type A保有株では菌血症再発以外の項目において非劣性が示されなかった。ただしこれはサブグループ解析であり、症例数も限られているため、本結果のみで「セファゾリンが劣る」と断定できるものではない。Day 3/5の細菌学的失敗率も数値上はセファゾリンで高かったものの、有意差には至っていない。 現時点では、blaZ type Aの有無によって抗菌薬選択を変更すべきと結論付ける根拠は不十分であるが、本研究からも、inoculum effectが影響しうる株でセファゾリンの効果が低下する可能性は否定できず、さらなる検証が必要である。 総合すると、今回のCloCeBa試験の結果は、日本におけるMSSA菌血症の第1選択薬としてセファゾリンを継続する妥当性を支持する内容である。ただし、blaZ type Aをはじめとした菌側因子が治療効果に及ぼす影響については、今後もデータの蓄積が期待される。

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第293回 クマ外傷、その種類や標準化された治療法とは

INDEXクマが狙うのは、ほぼ顔外傷の種類や特異性創傷部位の評価と必要な処置創部感染の原因菌と予防対策具体的な外科治療の実際薬物療法に漢方が標準化さて、前回は昨今話題のクマ外傷被害についてCiNii検索で抽出した2000年以降の16論文と秋田大学医学部救急・集中治療医学講座教授の中永 士師明(なかえ はじめ)氏の編著『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』(以下、クマージェンシー)をもとに疫学についてまとめた。今回もこれらの出典から、クマ外傷の病態と治療についてまとめてみた。クマが狙うのは、ほぼ顔岩手医科大学(50例)、秋田大学(13例)、新潟大学(10例)、山梨県立中央病院(9例)の主な臨床報告では、クマによる外傷の部位はいずれも顔面が90%以上(秋田大学の報告は「頭頸部を含む顔面」)で、次いで上肢が多い(38~77%)。この外傷部位の特徴は、ツキノワグマが攻撃時に後足で立ち上がり、発達した前足の鋭い爪でヒトを殴打する攻撃スタイルに起因すると考えられている。ツキノワグマの体長(頭胴長)は120~145cm、前足、後足とも約15cm。ほぼ完全に後足で立ち上がって前足を上げれば、全長150~175cmとなり、前足がちょうどヒトの顔面付近に位置する格好になるため、顔面の受傷の多さは理解しやすいだろう。一方、顔面に次いで上肢が多いのは、ヒトがとっさに顔や頭を守ろうとする防御行動によるものと報告されている。ちなみにクマージェンシーで紹介されている2023年に秋田大学医学部附属病院高度救命救急センターに搬送された20例では、受傷部位はやはり顔面が90%、上肢が70%、頭部が60%と前出の報告とほぼ同様だが、下肢が40%と記述されている。下肢の受傷理由についての記述はないが、おそらくは第1撃で顔面や上肢を受傷し、逃げようとしたところを追いすがられた結果と考えるのが自然だろう。外傷の種類や特異性クマ外傷は鋭い爪による軟部組織損傷(鋭的外傷)とパワーの強い打撃による骨折(鈍的外傷)に大別される。ツキノワグマの爪は、木登りに適した鋭く内側に曲がったかぎ状(フック状)となっており、長さは通常3〜5cmほど。クマージェンシーでは「一見、小さな外傷に見えても内部構造を破壊させることで大きな障害を残すことがある」と記述している。軟部組織のどこを受傷したかは、クマの爪が当たった場所に依存するが、各論文などでは眼球破裂・脱出、涙小管断裂、顔面神経損傷、耳下腺管断裂などが報告されている。また、鋭い爪の影響でごく一部では上口唇動脈、腋窩動脈、上腕動脈に達する損傷が認められることがあるという。さらに爪による攻撃は、皮膚に平行な強い力が加わることで、皮膚が広範囲に剥がされる「剥脱創」となることがあり、この場合は重度の出血を伴い、致命的となりうることを参照論文では指摘している。一方、ツキノワグマは体重60〜100kgで、動作が秒速10~15mとも言われるため、ここから算出される一打の打撃エネルギー量は、約400〜1,300ジュール(J) と言われている。これに対する比較対照を並べると、プロボクサーのパンチ一打が 約300〜500J、日本の警察の9mm口径の拳銃弾命中時が約500Jと推定されるため、その強大さは桁違いである。骨を破壊するエネルギー量がおおむね1,000Jと言われるので、当然ながら受傷者の一部では骨折が生じる。実際、参照論文を見ると、顔面への受傷例のおおむね半数以上で顔面での骨折が認められ、とくに眼窩、頬骨、鼻骨、鼻篩骨といった顔面中央部(中顔面)に多発。これ以外では頭蓋骨、下顎骨、歯槽骨などの骨折、さらに防御行動による四肢・体幹での尺骨や肋骨、肘関節などの骨折も報告されている。新潟大学の報告では、クマ外傷による骨折には特有のパターンがあることが指摘されている。これは通常の顔面骨の骨折では、顔表面から内側、すなわち頭蓋骨内部方向に陥没する骨折がほとんどなのに対し、クマ外傷では顔面骨が外側に引き出されるようなベクトルで骨折が生じることがあるとしている。これはおそらくクマによる打撃の際にめり込んだ前出のかぎ状の爪を引き抜く際に生じたものだろう。クマ外傷はこのように多発外傷であるため、全身に影響を及ぼし、動脈損傷では大量出血による出血性ショック、口腔内の持続的な出血や粉砕された顔面骨などによる気道閉塞、硬膜下血腫といった頭蓋内損傷など重篤な合併症を引き起こす危険性がある。参照論文中でも出血性ショックは10~23%で報告され、秋田大学の報告13例のうち7例で気道閉塞の危険性があるとして気道確保のため気管切開が行われている。創傷部位の評価と必要な処置前出のような受傷状況を踏まえ、参照論文のうち複数論文では、クマ外傷では交通事故や高所からの墜落のような高エネルギー外傷に準じた初期対応、具体的にはクマ外傷の患者の搬送がわかった段階で、気道確保、止血と大量輸血・輸液の準備が必要と強調している。そのうえで搬送後は、頭頸部や四肢・体幹の受傷や組織損傷の状況を注意深く評価することを求めている。とくに前出のようにクマ外傷では見た目の傷が小さくとも深部組織を破壊していることがあるため、参照論文の中ではこの点の評価を怠らないよう注意喚起しているものが少なくない。また、クマ外傷では創部感染のリスクが高いため、創部の十分な洗浄とデブリードマンが推奨されている。参照論文を見ると、洗浄で使う生理食塩水の量は症例によっては5,000~10,000mLとかなり大量である。また、クマージェンシーでは、表面上の傷が小さいものの深部まで達している四肢の外傷では、傷口からの注水だけでは洗浄が不十分として、目視で深部まで確認できる皮膚の追加切開を推奨している。創部感染の原因菌と予防対策実際の創部感染発生率は、今回の参照論文で確認した範囲では20~33.3%。クマージェンシーに記述されている13例では21.1%で、おおむねクマ外傷被害者の3~5人に1人の発生率である。ちなみにこの数字は搬送時に予防的抗菌薬投与などをほぼ全例で行ったうえの数字であり、個人的には驚きを禁じ得ない。創部感染の原因菌については、クマージェンシーでは4分の1の症例で同定され、主にセラチア菌(グラム陰性桿菌)と腸球菌(通性嫌気性グラム陽性菌)だったと報告している。参照論文で原因菌が特定されたケースでもこの2種類が散見されるが、そのほかにもグラム陽性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やA群レンサ球菌が検出された報告もある。こうしたこともあり、予防的抗菌薬投与では、嫌気性菌種を広くカバーするβラクタマーゼ阻害薬配合抗菌薬(ピペラシリン・タゾバクタムやアンピシリン・スルバクタム)が使われていることが多いようだ。もっともクマージェンシーではβラクタマーゼ阻害薬を含む場合と含まない場合の抗菌薬投与を比較し、創部感染発生率に差はないと報告している。また、岩手県の50例でも同様の検討を行い、βラクタマーゼ阻害薬の有無で創部感染発生率に有意差(p=0.08)はなかったものの、βラクタマーゼ阻害薬を含む群での感染発生率が9.1%に対し、含まない群では28.5%で、βラクタマーゼ阻害薬を投与したほうが感染発生率は低い傾向があると記述している。また、クマの爪や創部が土壌などで汚染されることを考慮し、ほぼすべての症例で破傷風トキソイドと抗破傷風人免疫グロブリンの投与が行われており、少なくとも参照論文とクマージェンシーでは破傷風発症事例はない。破傷風トキソイドを含む三種混合(DTP)ワクチンの日本での定期接種化が1968年であり、前回紹介したように受傷者はそれより以前に生まれた高齢者が多いことなどを考えれば、必要な措置なのだろう。具体的な外科治療の実際実際の治療は外科的なものがほとんどだが、損傷が多岐にわたるため、複数の専門診療科による連携手術が必要となるのは必定である。ここでは主な外科的治療の概略を紹介する。顔面骨骨折では、前出のような特有の外側に転位した骨片の有無を考慮し、観血的整復固定術が行われる。次に、動脈損傷、顔面神経損傷、涙小管断裂は即時再建が原則である。クマージェンシーでは鼻周辺の組織が噛みちぎられた事例として、路上に残されていた被害者の組織が持ち込まれ、再接合が行われた様子が写真とともに紹介されている。このため、同書では救急隊員が取るべき対応として、汚染の有無にかかわらず回収できる軟部組織はできるだけ回収して病院に持参するよう勧めている。素人には背筋が凍り付くような話である。ただ、完全な組織の欠損で機能回復や審美性を考慮した再建術が行われたケースでは、参照論文を見る限り、複数回の手術が長いものでは受傷から1年半後くらいまで行われている。歯や広範な歯槽骨欠損では、骨移植を併用した歯科インプラント治療が行われた事例も報告されている。このケースでは受傷6ヵ月後に骨移植術が実施され、さらにその6ヵ月後にインプラント埋入術が施行されている。薬物療法に漢方が標準化一方、抗菌薬の予防投与を除くと、治療で薬物を処方したケースは少ない。新潟県でのドクターヘリ搬送例で出血を抑えることを目的としたトラネキサム酸、山形県の症例で喉頭浮腫予防を目的としたデキサメタゾン、岐阜県の症例で後頭部や上腕の縫合を行わなかった創部に感染予防目的で処方されたゲンタマイシン(外用薬)ぐらいしか見当たらない。ただ、クマージェンシーでは秋田大学による漢方薬処方という興味深い事例を紹介している。具体的には鎮痛目的で打撲の痛みなどに使われる「治打撲一方」や感染防止目的での抗菌薬と「排膿散及湯」の併用である。治打撲一方の使用では1日で痛みが取れた著効例もあったという。また、排膿散及湯の併用は2024年から標準化している模様だ。しかしながら、このような難治療を経ても、視力障害、顔面神経麻痺、唾液や涙が止まらない、口腔機能低下などの後遺症に悩まされるケースは少なくないという。結局のところ、何よりもクマに遭遇しない予防措置が重要ということだろう。

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慢性鼻副鼻腔炎の手術後の再発を防ぐ留置ステントへの期待/メドトロニック

 日本メドトロニックは、慢性副鼻腔炎手術後に使用するわが国初のステロイド溶出型生体吸収性副鼻腔用ステント「PROPEL」の発売によせ、都内でプレスセミナーを開催した。セミナーでは、慢性副鼻腔炎の疾患概要と診療の現状と課題などが講演された。副鼻腔炎手術後の再発予防への期待 「慢性副鼻腔炎の病態と最新治療-手術療法を中心に-」をテーマに、鴻 信義氏(東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学講座 教授)が講演を行った。 はじめに鼻腔内の解剖を説明するとともに、副鼻腔炎について、誰もがなりうる疾患であり、急性副鼻腔炎で3ヵ月以上鼻閉、粘性・膿性鼻漏、頭重感、嗅覚障害、後鼻漏などの症状が持続した場合、慢性副鼻腔炎と診断される。患者はわが国には、100万~200万人と推定され、その中でも好酸球性副鼻腔炎患者は20万人と推定されている。慢性化すると鼻茸(ポリープ)がしばしば発生し、病態は悪化するが生命予後に大きく関係することもないので、病状に慣れてしまい、放置や受診控えなどの患者も多いという。その一方で、重症例での内視鏡下副鼻腔手術は年間6万例行われている。 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者の疾患負荷として鼻閉、鼻漏、嗅覚障害などに関連し、食品などの危険察知の低下や仕事のパフォーマンスの低下、睡眠障害などが指摘され、QOLに大きな影響を及ぼす。 慢性副鼻腔炎には、黄色ブドウ球菌や肺炎球菌を原因とする非好酸球性副鼻腔炎と喘息患者に多く鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎があり、後者は指定難病に指定され、寛解が難しいケースは眉間などに膿が貯まる病態とされている。 慢性副鼻腔炎の保存療法としては、・鼻処置・副鼻腔自然口開大処置・ネブライザー・上顎洞洗浄、鼻洗浄・薬物療法(抗菌薬、消炎酵素薬、気道粘液調整・溶解薬、抗アレルギー薬、ステロイド、漢方薬など)の4つの療法が行われ、効果がみられない場合に手術適応となる。 現在行われている内視鏡下副鼻腔手術(ESS)では、術後の患者の自覚症状やQOLは大きく改善されている一方で、術後1年にわたる加療継続、半数が数年で再発するなどの課題も指摘されている。そして、再発例では、再手術、ステロイド投与、分子標的薬投与などが行われる。とくにステロイド投与については、症状の改善に効果はあるものの投与薬剤や方法が統一化されていないことや骨粗鬆症や肝障害のリスクなどの課題も治療現場では危惧されている。また、現在使用されているスプレー式では、患部に確実に届かなかったり、長時間の作用がなかったりという課題も明らかになっている。 そこで、こうした課題の解決のために登場したステロイド溶出型生体吸収性副鼻腔用ステントであれば、30日間鼻腔内にステロイド成分を放出することで再発防止となり、良好な術後ケアができることが期待されている。すでに米国では10年以上使用されており、効果や安全性も確認されている。 最後に鴻氏は、「ステントの留置で術後の再燃リスクを大幅に低減する可能性があり、わが国の慢性副鼻腔炎の術後管理の在り方を変えることに期待している」と結び、講演を終えた。

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セフトリアキソン【Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬】第7回

セフトリアキソン前回はセファゾリンを勉強しました。そのスペクトラムは「S&S±PEK」です。復習は間に合っていますか? これらは皮膚軟部組織感染症や尿路感染症の起因菌でした。「±PEK」の部分は、厚生労働省のJANISなども参考にするという解説もしました。この知識を踏まえて、今回はセフトリアキソンについて紹介します。皆さんが毎日のように使われている抗菌薬なのではないでしょうか。セフトリアキソンのスペクトラムセフトリアキソンは第3世代セフェム系です。「トリ」がつくので「トリオ」で3。これで覚えてください。スペクトラムは「S&S+HMPEK」です。セファゾリンは「±」となっており、煮え切らない感じでしたが、今回は「+」で示しています。そして、HとMが加わりました。HMPEKは「ヘンペック」と呼んで「雌鶏がついばむ(hen pecks)」です。よくわからない語呂合わせなのですが、感染症科医の間で伝統的に使われている語呂なので覚えて損はないと思います。HはHaemophilus influenzae、MはMoraxella catarrhalisです。両方とも上下気道感染症の起因菌ですね(図1)。図1 セフトリアキソンのスペクトラム画像を拡大するそうすると、セフトリアキソンが皮膚軟部組織感染症、上下気道感染症、尿路感染症の代表的な起因菌を一通りカバーできることになるわけです。蜂窩織炎、肺炎、腎盂腎炎です。少なくとも救急外来でみかける感染症の半分くらいはこういった感染症ですね。残りはお腹の感染症くらいです。そのため、救急外来でよくセフトリアキソンが使われていると思いますが、それで大きな失敗をしない理由もこれでおわかりになるのではないでしょうか。ある意味、セフトリアキソンは救急外来の守護神と呼べてしまうわけです。ただその一方で、あくまで救急外来という点に注意が必要です。入院患者では緑膿菌感染症なども問題になるのですが、そういったところまではセフトリアキソンは対応しきれていません。院内感染症に対応するには、もっと世代の進んだセフェム系が必要になります。インフルエンザ桿菌の薬剤耐性分類HMPEKでHaemophilus influenzae(インフルエンザ桿菌)の話題が出てきたため、少しだけ補足します。インフルエンザ桿菌は、薬剤耐性機構を勉強するモデルとしてとっても使いやすいのです。インフルエンザ桿菌を薬剤耐性で分類すると、BLNAS、BLPAR、BLNARの3つにわかれます。とは言っても、覚えるのが大変なので、便宜的にレベル1、レベル2、レベル3でとりあえず十分です。レベル3のBLNARだけ、余力があれば覚えてください。図2 インフルエンザ桿菌の薬剤耐性分類画像を拡大するレベル1のBLNASタイプは楽勝です。アンピシリンを入れたら鍵穴にはまって簡単にやっつけることができます(図3)。図3 BLNASタイプへのアンピシリン画像を拡大するただし、インフルエンザ桿菌はアンピシリンに対抗すべく、レベル2のBLPARタイプにレベルアップします。これはβラクタマーゼを使ってアンピシリンを打ち落としてくるため、アンピシリンが効きません。そのため、βラクタマーゼ対策として人類側としては、アンピシリン・スルバクタムを使います。こうしてレベル2のBLPARタイプをやっつけることができます(図4)。図4 BLPARタイプへのアンピシリン・スルバクタム画像を拡大するしかし、インフルエンザ桿菌はさらに進化します。レベル3のBLNARでは、ペニシリン結合蛋白を変異させて、鍵穴の形を変えてしまいます。そうすると、アンピシリン・スルバクタムでも鍵穴が合わず太刀打ちできません(図5)。図5 BLNARタイプへのアンピシリン・スルバクタム画像を拡大するそのため、鍵穴の合うセフトリアキソンを持ってこないといけないわけです。これでやっとインフルエンザ桿菌をやっつけることができるわけです(図6)。図6 BLNARタイプへのセフトリアキソン画像を拡大するこのように、薬剤耐性機構を知っていると、抗菌薬をもっと楽しく勉強できると思います。今回出てきたBLNARはよく使う言葉なので、知っておいて損はないと思います。まとめセフトリアキソンは 「S&S+HMPEK」で覚えましょう。蜂窩織炎、肺炎、腎盂腎炎など救急外来でみる感染症の多くに対応しているため、使い勝手の良い抗菌薬です。ただし、あくまで救急外来、つまりは市中感染症に過ぎないわけで、院内感染症に対しては少々スペクトラムが不足している点にも気をつけていただければと思います。

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成人の肺炎球菌感染症予防の新時代、21価肺炎球菌結合型ワクチン「キャップバックス」の臨床的意義/MSD

 MSDは11月21日、成人の肺炎球菌感染症予防をテーマとしたメディアセミナーを開催した。本セミナーでは、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学分野(第二内科)教授の迎 寛氏が「成人の肺炎球菌感染症予防は新しい時代へ ―21価肺炎球菌結合型ワクチン『キャップバックス』への期待―」と題して講演した。高齢者肺炎球菌感染症のリスクや予防法、10月に発売されたキャップバックスが予防する血清型の特徴などについて解説した。高齢者肺炎の脅威:一度の罹患が招く「負のスパイラル」 迎氏はまず、日本における肺炎死亡の97.8%が65歳以上の高齢者で占められている現状を提示した。抗菌薬治療が発達した現代においても、高齢者肺炎の予後は依然として楽観できない。とくに強調されたのが、一度肺炎に罹患した高齢者が陥る「負のスパイラル」だ。 肺炎による入院はADL(日常生活動作)の低下やフレイルの進行、嚥下機能の低下を招き、退院後も再発や誤嚥性肺炎を繰り返すリスクが高まる。海外データでは、肺炎罹患群は非罹患群に比べ、その後の10年生存率が有意に低下することが示されている1)。迎氏は、高齢者肺炎においては「かかってから治す」だけでは不十分であり、「予防」がきわめて重要だと訴えた。 また迎氏は、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の重篤性についても言及した。肺炎球菌に感染した場合、4分の1の患者が髄膜炎や敗血症といったIPDを発症する。IPD発症時の致死率は約2割に達し、高齢になるほど予後が不良になる。大学病院などの高度医療機関に搬送されても入院後48時間以内に死亡するケースが半数を超えるなど、劇症化するリスクが高いことを指摘した。 さらに、インフルエンザ感染後の2次性細菌性肺炎としても肺炎球菌が最多であり、ウイルスとの重複感染が予後を著しく悪化させる点についても警鐘を鳴らした。とくに、高齢の男性が死亡しやすいというデータが示された2)。定期接種と任意接種の位置付け 現在、国内で承認されている主な成人用肺炎球菌ワクチンは以下のとおりである。・定期接種(B類疾病):23価莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)対象:65歳の者(65歳の1年間のみ)、および60〜64歳の特定の基礎疾患を有する者。※以前行われていた5歳刻みの経過措置は2024年3月末で終了しており、現在は65歳のタイミングを逃すと定期接種の対象外となるため注意が必要である。・任意接種:結合型ワクチン(PCV15、PCV20、PCV21)21価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV21、商品名:キャップバックス)やPCV20などの結合型ワクチンは、T細胞依存性の免疫応答を誘導し、免疫記憶の獲得が期待できるが、現時点では任意接種(自費)の扱いとなる。最新の接種推奨フロー(2025年9月改訂版) 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会による合同委員会が発表した「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)」では、以下の戦略が示されている3)。・PPSV23未接種者(65歳など)公費助成のあるPPSV23の定期接種を基本として推奨する。任意接種として、免疫原性の高いPCV21やPCV20を選択すること、あるいはPCV15を接種してから1〜4年以内にPPSV23を接種する「連続接種」も選択肢となる。・PPSV23既接種者すでにPPSV23を接種している場合、1年以上の間隔を空けてPCV21またはPCV20を接種(任意接種)することで、より広範な血清型のカバーと免疫記憶の誘導が期待できる。従来行われていたPPSV23の再接種(5年後)に代わり、結合型ワクチンの接種を推奨する流れとなっている。 また、迎氏は接種率向上の鍵として、医師や看護師からの推奨の重要性を強調した。高齢者が肺炎球菌ワクチンの接種に至る要因として、医師や看護師などの医療関係者からの推奨がある場合では、ない場合に比べて接種行動が約8倍高くなるというデータがある4)。このことから、定期接種対象者への案内だけでなく、基礎疾患を持つリスクの高い患者や、接種を迷っている人に対し、医療現場から積極的に声を掛けることがきわめて重要であると訴えた。既存ワクチンの課題と「血清型置換」への対応 肺炎球菌ワクチンの課題として挙げられたのが、小児へのワクチン普及に伴う「血清型置換(Serotype Replacement)」である。小児へのPCV7、PCV13導入により、ワクチンに含まれる血清型による感染は激減したが、一方でワクチンに含まれない血清型による成人IPDが増加している5)。 迎氏は「現在、従来の成人用ワクチンでカバーできる血清型の割合は低下傾向にある」と指摘した。そのうえで、新しく登場したPCV21の最大の利点として、「成人特有の疫学にフォーカスした広範なカバー率」を挙げた。PCV21の臨床的意義:IPD原因菌の約8割をカバー PCV21は、従来のPCV13、PCV15、PCV20には含まれていない8つの血清型(15A、15C、16F、23A、23B、24F、31、35B)を新たに追加している。これらは成人のIPDや市中肺炎において原因となる頻度が高く、中には致死率が高いものや薬剤耐性傾向を示すものも含まれる。 迎氏が示した国内サーベイランスデータによると、PCV21は15歳以上のIPD原因菌の80.3%をカバーしており、これはPPSV23(56.6%)やPCV15(40.0%)と比較して有意に高い数値である6)。 海外第III相試験(STRIDE-3試験)では、ワクチン未接種の50歳以上2,362例を対象に、OPA GMT比(オプソニン化貪食活性幾何平均抗体価比)を用いて、PCV21の安全性、忍容性および免疫原性を評価した。その結果、PCV21は比較対照のPCV20に対し、共通する10血清型で非劣性を示し、PCV21独自の11血清型においては優越性を示した。安全性プロファイルについても、注射部位反応や全身反応の発現率はPCV20と同程度であり、忍容性に懸念はないと報告されている7)。コロナパンデミック以降のワクチン戦略 講演の結びに迎氏は、新型コロナウイルス感染症対策の5類緩和以降、インフルエンザや肺炎球菌感染症が再流行している現状に触れ、「今冬は呼吸器感染症の増加が予想されるため、感染対策と併せて、改めてワクチン接種の啓発が必要だ。日本は世界的にみてもワクチンの信頼度が低い傾向にあるが、肺炎は予防できる疾患だ。医療従事者からの推奨がワクチン接種行動を促す最大の因子となるため、現場での積極的な働き掛けをお願いしたい」と締めくくった。■参考文献1)Eurich DT, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2015;192:597-604. 2)Tamura K, et al. Int J Infect Dis. 2024;143:107024. 3)65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)4)Sakamoto A, et al. BMC Public Health. 2018;18:1172. 5)Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010;201:32-41. 6)厚生労働省. 小児・成人の侵襲性肺炎球菌感染症の疫学情報 7)生物学的製剤基準 21価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体)キャップバックス筋注シリンジ 添付文書

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第272回 改正医療法が成立、来年度から病床削減・医師偏在・医療DXが同時始動へ/厚労省

<先週の動き> 1.改正医療法が成立、来年度から病床削減・医師偏在・医療DXが同時始動へ/厚労省 2.OTC類似薬と低価値医療について、保険給付の選別が本格化/政府 3.出産無償化へ正常分娩を保険適用、全国一律「分娩基本単価」導入へ/厚労省 4.高齢者の応能負担強化、「通い放題」外来特例にメス/政府 5.美容医療に国がメス 改正医療法で安全管理と情報公開を義務化/厚労省 6.訪問看護付高齢者住宅の過剰請求、2026年度改定でどこまで是正できるか/厚労省 1.改正医療法が成立、来年度から病床削減・医師偏在・医療DXが同時始動へ/厚労省医師偏在対策、病床削減支援、医療DXの推進などを柱とする改正医療法が、2025年12月5日の参議院本会議で可決・成立した。2026年4月以降、順次施行される。今回の改正は、2024年末に厚生労働省がまとめた医師偏在対策と、2040年を見据えた地域医療構想の再設計、さらに電子カルテの全国共有を軸とする医療DXを同時に動かす「構造改革法」と位置付けられる。最大の注目点の1つが「病床削減への公的支援の明文化」である。都道府県は、医療機関が経営安定のため緊急に病床数を削減する場合、支援事業を実施でき、国が予算の範囲内で費用を補助する。2025年度補正予算では約3,490億円の「病床数適正化緊急支援基金」を創設し、稼働病床1床当たり410万円、非稼働病床では205万円を支給する。これまでの補助分と合わせ、最大約11万床の削減が想定され、削減後は基準病床数も原則引き下げられる。実質的に国主導での病床整理が本格化する。医師偏在対策も制度として動き出す。都道府県は「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、当該地域で勤務する医師に対して保険料財源による手当を支給できる。その一方で、外来医師が過剰な都市部では、無床診療所の新規開業に事前届け出制を導入し、在宅医療や救急など不足機能の提供を要請できる。したがわない場合は勧告・公表、さらには保険医療機関指定期間の短縮も行われ得る。都市部での開業自由は、制度的に大きく制約される局面に入る。そして、医療DXでは、2030年末までに電子カルテ普及率100%を目標に明記された。電子カルテ情報共有サービスの全国展開、感染症発生届の電子提出、NDB(全国レセプト・健診データ)の仮名化データ提供などが法的に後押しされる。今後は医療機関にとって、電子カルテ未導入のままでは制度対応が困難になる。さらに、地域医療構想は「病床中心」から「入院・外来・在宅・介護の一体設計」へ刷新される。高齢者救急、地域急性期、在宅連携、急性期拠点、専門機能といった医療機関機能の報告制度が新設され、2040年を見据えた再編の基盤となる。加えて、美容医療への規制整備も盛り込まれ、安全管理措置の報告義務や管理者要件(一定期間の保険診療従事歴)などが導入される。自由診療偏重への歯止めが制度として明確になった。今回の改正は、病床・開業・人材・DX・自由診療までを横断的に再設計する点に本質がある。医療機関、勤務医、開業医すべてにとって、経営・キャリア・診療体制の前提条件が同時に変わる転換点となる。 参考 1)医療法等の一部を改正する法律案の概要(厚労省) 2)医師の偏在対策へ 改正医療法など参院本会議で可決・成立(NHK) 3)医師の偏在是正、開業抑制へ DX推進や手当増も、改正医療法(東京新聞) 4)都市部の診療所、26年度から開業抑制 改正医療法が成立(日経新聞) 5)改正医療法が成立 病床削減支援盛り込み 美容医療は規制整備へ(毎日新聞) 6)病床削減の支援事業盛り込む、改正医療法成立 医療機関機能の報告制度を創設(CB news) 2.OTC類似薬と低価値医療について、保険給付の選別が本格化/政府政府は社会保障改革の柱として、「OTC類似薬」の患者負担見直しを2025年内に結論付け、2026年度予算・制度改正へ反映させる方針を明確化した。高市 早苗首相は経済財政諮問会議で、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、金融所得の反映を含む応能負担の徹底、高額療養費制度の見直しを年末までに整理するよう財務相・厚労相に指示した。狙いは現役世代の保険料負担軽減と医療費抑制である。一方、自由民主党と日本維新の会の協議は難航している。維新はOTC類似薬の「保険適用除外」による最大1兆円の医療費削減を主張してきたが、自民・厚生労働省は必要な受診抑制や患者負担増への懸念から慎重姿勢を崩していない。現在は「保険適用を維持した上で、特別料金として定率上乗せする案」と「原則、自費化し配慮対象のみ保険適用とする案」が併存し、党内でも意見が割れている。これに対し、全国保険医団体連合会はOTC類似薬の保険適用継続を求める21万筆の署名を提出し、患者団体・医療団体の反対姿勢も鮮明化した。同時期に厚労省は「低価値医療」対策にも着手し、風邪への抗菌薬投与や腰痛への一部鎮痛薬など、科学的有効性に乏しい診療行為を2028年度診療報酬改定で抑制・保険除外も視野に入れる方針を示した。OTC類似薬の問題は、単なる薬剤負担の見直しにとどまらず、「保険給付の選別」と「低価値医療排除」を同時に進める医療費構造改革の試金石となりつつある。 参考 1)社会保障分野における今後の対応について(経済財政諮問会議) 2)高市首相 「OTC類似薬」含む薬剤自己負担など年末までに結論を(NHK) 3)風邪に抗菌薬・腰痛に一部鎮痛薬、効果乏しい「低価値医療」は年1,000億円以上…医療保険の対象除外化も検討(読売新聞) 4)「OTC類似薬」足踏みの自維協議 保険適用除外、維新内で意見分裂(朝日新聞) 5)OTC類似薬の保険適用「継続を」21万筆署名提出-保団連(CB news) 3.出産無償化へ正常分娩を保険適用、全国一律「分娩基本単価」導入へ/厚労省厚生労働省は、12月4日に開かれた社会保障審議会医療保険部会で、正常分娩を公的医療保険の対象とし、全国一律の「分娩基本単価」を設定して自己負担をゼロにする案を提示した。現在の出産育児一時金(50万円)は廃止し、分娩費を現物給付で賄う方向で、導入は2027年度以降とされる。正常分娩はこれまで自由診療で、24年度の平均費用は約52万円と物価高もあり上昇傾向となっており、東京都と熊本県では20万円超の地域差もある。出産育児一時金の引き上げに合わせて費用も上昇するという「いたちごっこ」や、費用が一時金を下回る場合に差額が妊婦側に渡る仕組みへの公平性の疑問も指摘されてきた。新制度では、標準的な出産費用をカバーする全国一律の基本単価を設定し、「基本単価×分娩件数」を産科医療機関の収入とする包括払いが想定されている。安全な分娩のための手厚い人員・設備体制や、ハイリスク妊婦の積極受け入れには加算評価を行う方向である。その一方で、帝王切開など異常分娩や妊娠合併症への対応は従来通り3割負担の保険診療を継続し、「お祝い膳」やエステ、写真撮影などアメニティは保険外で原則自己負担とする。産科側からは、基本単価が不十分だとクリニックの撤退が進み、周産期医療体制が崩壊しかねないとの懸念が強く、日本産婦人科医会などは慎重な検討を要請している。他方で、包括払いにより年間収入の予見可能性が高まることや、サービス内容の「見える化」により妊婦が納得して施設を選択できる利点もある。厚労省は施設の準備状況を踏まえ、現行の一時金制度と新制度を一定期間併存させつつ段階的に移行する案も示しており、少子化対策と産科医療提供体制の両立をどう図るかが、今後の焦点となる。 参考 1)医療保険制度における出産に対する支援の強化について(厚労省) 2)出産無償化へ「分娩費用」を全額公的保険で、全国一律の「公定価格」定める案提示…実施は27年度以降の見通し(読売新聞) 3)出産無償化へ、分娩費用を全国一律に 厚労省案「お祝い膳」など対象外 業界、収益悪化を懸念(日経新聞) 4)分娩費に「基本単価」設定 厚労省案 手厚い人員体制などへの評価検討(CB news) 5)産科医療機関を維持できる水準の「正常分娩1件当たりの基本単価」を設定、妊産婦の自己負担はゼロへ-社保審・医療保険部会(Gem Med) 4.高齢者の応能負担強化、「通い放題」外来特例にメス/政府12月5日に開かれた経済財政諮問会議で、2026年度予算編成方針として、医療・介護費の「応能負担」の徹底と、現役世代の保険料率の上昇を止め引き下げを目指す方針が示された。民間議員からは、物価高・賃上げを診療報酬などに適切に反映しつつ、高齢者を中心に金融所得や資産も踏まえた負担を求めるべきとし、OTC類似薬を含む薬剤自己負担、高額療養費制度、介護利用者負担の見直しを年末までに結論付けるよう求めた。厚生労働省はこれと並行して、高額療養費制度の具体的な見直し案を調整中である。70歳以上の外来医療費を抑える「外来特例」については、月額上限(現行1万8,000円など)の引き上げや対象年齢引き上げを検討し、現役世代に存在しない実質「通い放題」状態を是正する。その一方で、がん・難病など長期療養患者向けの「多数回該当」は、上限引き上げ案への強い反発を受け、上限額据え置きとする方向で一致しつつあり、月単位で上限に届かない患者にも対応するため、新たに年間の負担上限を設ける案も示された。所得区分も細分化し、高所得高齢者には2~3割負担を拡大する一方、低所得層の負担増は避けるとされる。さらに、後期高齢者医療制度から、株式配当など金融所得を保険料算定に反映させるため、法定調書とマイナンバーを用いた情報基盤整備が進められている。これら一連の改革は、2026年度診療報酬改定での賃上げ対応とセットで、高齢者負担の精緻化と給付の重点化を通じ、現役世代の保険料負担を抑制することが狙いであり、医療現場には高齢患者の受診行動や窓口負担の変化を踏まえた説明と支援体制の整備が求められる。 参考 1)社会保障改革の新たなステージに向けて(経済財政諮問会議) 2)医療・介護費「応能負担の徹底を」 諮問会議の民間議員(日経新聞) 3)70歳以上の負担上限引き上げ 高額療養費見直し 厚労省調整(時事通信) 4)長期治療患者の軽減策を維持 高額療養費見直し案判明、厚労省(東京新聞) 5)高額療養費制度 「多数回該当」の上限額据え置きで調整 厚労省(NHK) 5.美容医療に国がメス 改正医療法で安全管理と情報公開を義務化/厚労省若手医師が、初期研修後すぐに美容医療へ進む「直美(ちょくび)」問題が国会で相次いで取り上げられ、上野 賢一郎厚生労働大臣は「多くの医師が特定の診療科を選択するのは好ましくない」と述べ、医師偏在や医療安全の観点から懸念を示した。形成外科や救急科、麻酔科などの十分な臨床経験を経ずに美容医療に従事する若手医師が増えることで、合併症対応や重篤事例への対処能力が不足している点が問題視されている。こうした状況を受け、2025年12月に成立した改正医療法では、美容医療に対する規制整備が盛り込まれた。具体的には、美容医療を実施する医療機関に対し、専門医資格の有無、安全管理体制、合併症対応の体制などを都道府県へ定期的に報告・公表させる制度を新設し、行政が実態を把握できる仕組みを整える。背景には、美容医療を巡る深刻な被害の急増がある。国民生活センターへの相談はこの10年で約5倍に増え、2024年度は1万737件と過去最多、合併症や後遺症の相談も約900件に達した。レーザー脱毛による熱傷、脂肪吸引後の高熱・感染症、充填剤による慢性炎症や敗血症など、生命に関わる事例も多い。美容医療は原則自由診療であり、後遺症や合併症の治療も保険適用外となるケースが多く、患者は長期にわたる高額な自己負担を強いられている。その一方で、施術を行った美容クリニックが合併症対応を十分に行えず、救急搬送先が見つからない事例も相次いでいる。こうした中、春山記念病院(東京都)のように、美容医療の合併症に特化した救急外来を設置し、提携クリニックが治療費を負担する新たな連携モデルも生まれている。厚生労働省は、安全管理報告の義務化や合併症対応指針の整備を進めており、今後、美容医療は「自由診療だから自由」という扱いから、安全性と責任を強く問われる分野へと転換点を迎えている。 参考 1)改正医療法が成立 病床削減支援盛り込み 美容医療は規制整備へ(毎日新聞) 2)若手医師が美容医療に直接進む「直美(ちょくび)」、国会で質疑 厚労相「好ましくない」(産経新聞) 3)美容医療、被害相談が急増 後遺症など不十分な対応多く(日経新聞) 6.訪問看護付高齢者住宅の過剰請求、2026年度改定でどこまで是正できるか/厚労省訪問看護ステーション併設のホスピス型住宅を巡り、診療報酬の見直しが本格化している。日本在宅医療連合学会が行なった調査結果では、ホスピス型住宅で訪問診療を行う医師の4割が「訪問看護指示書に虚偽病名や頻回訪問の記載を求められた経験あり」と回答し、こうした要請を断った結果、主治医変更などの圧力を受けた医師は6割に及んだ。外部の訪問看護ステーション利用を原則認めない住宅も9割近くに達し、「同一建物・高頻度訪問」に診療報酬が集中する現在の仕組みの歪みが露呈している。厚生労働省は、2026年度の診療報酬改定に向けて、高齢者住宅入居者への訪問看護について医療保険点数を細分化し、同一建物内の多数利用・短時間の頻回訪問に対する評価を引き下げる方針を11月12日の中央社会保険医療協議会(中医協)で示した。介護保険ですでに導入されている「同一建物減算」を参考に、利用者数や訪問回数に応じた段階的減算や、1日複数回訪問の新たな評価区分創設が検討されている。また、頻回訪問を医療保険で認める条件として、訪問看護指示書に主治医の医学的判断と必要性を明記させる案も中医協で議論されている。医師側への影響は小さくない。第1にホスピス型住宅への訪問診療を収益の柱としてきた在宅クリニックでは、併設訪問看護の報酬が縮小すれば、全体の経営モデルの見直しを迫られる。住宅側から「点数を落とさないように」と指示書への記載を求められる場面は今後さらにグレーゾーン化し、監査リスクも高まる。虚偽病名や過剰指示への関与は、事業者だけでなく医師自身も問われかねない。一方で、診療報酬側に明確なルールが入ることで、「指示書を書かされている」医師の立場はむしろ守られる可能性もある。頻回訪問が必要な末期がんや難病患者については、医学的根拠を添えて指示を出せば正当に評価される一方、「全員一律1日3回」といった運用は点数上もメリットを失い、事業者のインセンティブは弱まる。結果として、患者の症状に応じた訪問頻度の再設計が求められるだろう。ホスピス型住宅は本来、自宅療養が困難な終末期患者の受け皿として一定の役割を果たしてきた。その社会的ニーズを認めつつ、「営利目的の頻回訪問」と「必要な24時間体制」を診療報酬でどう切り分けるかが次改定の焦点となる。医師には、自らの訪問看護指示がどのような点数体系に乗っているのかを理解し、不適切な請求に巻き込まれない距離感と、必要な患者には十分な看護支援を確保する姿勢の両立が求められている。 参考 1)中央社会保険医療協議会資料 在宅その3(厚労省) 2)ホスピス型住宅における訪問看護と訪問診療の連携に関する実態調査結果(速報)(日本在宅医療連合学会) 3)ホスピス型住宅における訪問看護と訪問診療の連携に関する実態調査報告(同) 4)ホスピス住宅、医師に不適切要求 虚偽の病名や過剰な訪問回数(共同通信) 5)過剰な訪問看護の是正へ診療報酬下げ 厚労省、一部事業所が高収益で(日経新聞) 6)ホスピス型住宅への訪問看護指示書、4割の医師が不適切な記載を要求された経験あり(日経メディカル) 7)今、話題のホスピス型住宅を現場の医師はどう見ているか(同)

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