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診療科別2026年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Nerandomilast in progressive pulmonary fibrosis: data from the whole follow-up period of the FIBRONEER-ILD trialWijsenbeek MS, et al. Eur Respir J. 2026 Mar 26. [Epub ahead of print].<FIBRONEER-ILD試験>:ネランドミラストはPPFの臨床的イベントと死亡リスクを低減進行性肺線維症(PPF)を対象としたFIBRONEER-ILD試験の全追跡期間データです。ネランドミラストは、52週時のFVC低下抑制に加え、ILD急性増悪、呼吸器疾患による入院、死亡を含む臨床的に重要なイベントのリスクを低減しました。とくに死亡リスクは両用量でプラセボより低く(ハザード比[HR]:0.51)、有害事象による中止もプラセボと同程度でした。PPFに対する新たな抗線維化治療として、今後の実臨床での位置付けが注目されます。Survival with Osimertinib plus Chemotherapy in EGFR-Mutated Advanced NSCLCJanne PA, et al. N Engl J Med. 2026;394:27-38.<FLAURA2試験>:オシメルチニブと化学療法併用はEGFR変異陽性進行NSCLCのOSを延長EGFR exon 19 deletionまたはL858R変異陽性の未治療進行非扁平上皮NSCLCを対象とした、FLAURA2試験の全生存期間最終解析です。オシメルチニブにプラチナ製剤+ペメトレキセドを併用すると、オシメルチニブ単剤に比べてOS中央値は47.5ヵ月vs.37.6ヵ月に延長しました(HR:0.77)。一方、Grade3以上の有害事象は70%vs.34%と多く、初回治療から併用する患者を慎重に選ぶ必要があります。Amikacin liposome inhalation suspension in newly diagnosed Mycobacterium avium complex lung disease (ARISE): a 6-month double-blind, active comparator trialDaley CL, et al. Ann Am Thorac Soc. 2026;23:536-547. <ARISE試験>:新規診断MAC症へのALIS追加で培養陰性化率が改善新規または再発の非空洞型MAC肺疾患患者を対象に、リポソーム化アミカシン吸入懸濁液(ALIS)の初期治療での有効性を評価した二重盲検実薬対照試験です。アジスロマイシン、エタンブトールにALISを追加した群では、6ヵ月目までの培養陰性化率が80.6%(対照群63.9%)、7ヵ月目までが78.8%(47.1%)と良好でした。QOL-B respiratory domainの改善も示されており、難治例だけでなく初期治療からALISを導入する意義を考えるうえで注目されます。Associations between antibiotic use and outcomes in patients hospitalized with community-acquired pneumonia and positive respiratory viral assaysBiebelberg B, et al. Clin Infect Dis. 2026;82:630-638.<ウイルス陽性市中肺炎>:短期抗菌薬と標準期間で臨床転帰は同等呼吸器ウイルス検査陽性の市中肺炎入院患者を対象に、抗菌薬0~2日と5~7日投与を傾向スコア重み付けで比較した後ろ向き研究です。調整後、入院期間、48時間後のICU入室、院内死亡率、30日間の非入院日はいずれも同等でした。細菌性肺炎が明らかでないウイルス陽性市中肺炎では、抗菌薬を漫然と継続しない判断を後押しするデータです。Oral corticosteroid reduction and discontinuation in adults with corticosteroid-dependent, severe, uncontrolled asthma treated with tezepelumab (WAYFINDER): a multicentre, single-arm, phase 3b trialJackson DJ, et al. Lancet Respir Med. 2026;14:129-140.<WAYFINDER試験>:テゼペルマブは重症喘息の維持OCS減量を後押しOCS依存性の重症非コントロール喘息成人を対象に、テゼペルマブ210mgを4週ごとに投与した第IIIb相単群試験です。52週時点で約90%が喘息コントロールを保ったまま維持OCSを5mg/日以下に減量し、50.3%が完全中止に到達しました。表現型にかかわらずOCS負担を減らせる可能性を示し、実臨床でのステロイド離脱戦略に重要な示唆を与えます。

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リファンピシン耐性肺結核、4~5剤併用6ヵ月投与が有用/NEJM

 リファンピシン耐性肺結核の治療では、最近まで最大7種の薬剤を含むレジメンの9~18ヵ月間の投与が行われてきた。2022年、WHOは治療ガイドラインを改訂し、ベダキリンやpretomanidなどの新薬を含むレジメンの6ヵ月間の投与を、推奨される標準治療として追加したが、現在、pretomanidは14歳未満の小児や妊娠中または授乳中の女性には禁忌とされる。南アフリカ共和国・University of the WitwatersrandのFrancesca Conradie氏らは、「BEAT Tuberculosis試験」において、小児や妊娠中・授乳中の女性を含む患者集団の治療では、ベダキリン、リネゾリド、デラマニド、レボフロキサシンまたはクロファジミンを含む新戦略の6ヵ月間投与は同国の標準治療の9ヵ月間投与に対し、有効性に関して非劣性であり、安全性プロファイルは同程度であることを示した。研究の成果は、NEJM誌2026年6月25日号に掲載された。ベダキリン、リネゾリド、デラマニド+レボフロキサシン/+クロファジミン併用投与 BEAT Tuberculosis試験は、南アフリカ共和国の2つの都市部地域で実施した実践的な非盲検無作為化対照比較第III相非劣性試験(米国国際開発庁などの助成を受けた)。2019年8月~2022年10月に、年齢6歳以上、リファンピシン耐性の肺結核で、イソニアジドやフルオロキノロン系抗菌薬への耐性の有無は問わず、妊娠中または授乳中の女性を含む患者を登録した。 被験者403例(年齢中央値35.0歳[四分位範囲[IQR]:28.0~43.0]、女性170例[42.2%]、BMI中央値19.2[IQR:17.1~22.2])を、ベダキリン、リネゾリド、デラマニドと、レボフロキサシンまたはクロファジミン(あるいはこれら両方)の投与を6ヵ月間受ける群(試験戦略群203例)、またはリファンピシン耐性結核に対する南アフリカ共和国の標準治療を9ヵ月間受ける群(対照群200例)に無作為に割り付けた。 有効性の主要エンドポイントは、治療終了時および無作為化から76週の時点における良好なアウトカム(治癒または治療完了)であった。治癒は、適格な治療アドヒアランス(投薬順守率≧80%)を達成し、治療終了前の14日以上の間隔を空けた2回の喀痰検査で陰性であること、治療完了は、適格な治療アドヒアランスを達成し、治療失敗の証拠がないことと定義した。非劣性マージンは10%ポイントとした。良好なアウトカム、試験戦略群86.1%vs.対照群86.0% ベースラインで30例(7.4%)が8~17歳、女性参加者のうち9例(5.3%)が妊婦で、205例(50.9%)がHIV感染者、167例(41.4%)がBMI値<18.5であった。 良好なアウトカムは、試験戦略群で202例中174例(86.1%)、対照群で200例中172例(86.0%)に認められた。両群間の補正後リスク差は-0.2%ポイント(95%信頼区間:-6.9~6.5)であり、対照群に対する試験戦略群の非劣性が確認された(非劣性のp=0.001)。 治療失敗は、試験戦略群で7例(3.5%)、対照群で10例(5.0%)にみられた。治療失敗が確認された時点で、試験戦略群の3例と対照群の5例にベダキリン耐性を認めた。また、14例が再発し、このうち10例(5.0%)は試験戦略群、4例(2.0%)は対照群であった。Grade3以上の有害事象31.2%vs.37.0%、すでにWHOガイドラインに反映 治療期間中に、Grade3以上の有害事象(安全性の主要エンドポイント)が試験戦略群の63例(31.2%)、対照群の74例(37.0%)で発生した。治療期間または追跡期間中に、各群10例(5.0%)が死亡した。すべての安全性エンドポイントに関して、両群間に意義のある差を認めなかった。 治療期間中の重篤な有害事象は、試験戦略群で38例(18.8%)、対照群で44例(22.0%)に発現した。治療期間中および治療後に発生した最も頻度の高い重篤な有害事象は、担当医によってリネゾリドが原因とされた貧血で、それぞれ33例(16.3%)および29例(14.5%)にみられた。これらは、数日の投薬中断と赤血球輸血で管理された。 著者は、「本試験の結果は、すでにWHOの薬剤耐性結核の治療ガイドラインに反映され、2024年6月の改訂で、この4剤または5剤の併用療法が推奨レジメンの1つとされている」としている。また、「得られた知見は、現在pretomanidの使用が禁忌とされる優先対象集団(小児や妊娠中、授乳中の女性など)に対する有効な治療戦略のエビデンスを示しており、リファンピシン耐性結核のすべての患者に対して、新たな治療選択肢を提供するものである」と指摘している。

3.

PSSA菌血症、ペニシリンG vs.抗ブドウ球菌ペニシリン/Lancet

 ペニシリン感受性黄色ブドウ球菌(PSSA)菌血症の治療について、90日死亡率に関するベンジルペニシリン(ペニシリンG)の抗ブドウ球菌ペニシリン(flucloxacillinまたはクロキサシリン)に対する事前既定の非劣性基準は満たされなかった。しかし、非劣性の事後確率は96.1%であり、急性腎障害(AKI)のリスク低減が認められたことが、オーストラリア・メルボルン大学のJoshua S. Davis氏らStaphylococcus aureus Network Adaptive Platform(SNAP)Trial Groupによる、研究者主導の国際的な多施設共同無作為化非盲検試験「SNAP試験」の結果で示された。過去にはまれであると考えられていたPSSA菌血症が世界的に再興している。ペニシリンGは薬物動態や有害事象の面で優れる可能性があるが、検出できないペニシリン耐性への懸念から、重症感染症には抗ブドウ球菌ペニシリンを基本とする抗菌薬治療が推奨されている。Lancet誌オンライン版2026年6月17日号掲載の報告。90日時点の全死因死亡についてペニシリンGの非劣性を評価 SNAP試験は8ヵ国(オーストラリア、カナダ、イスラエル、オランダ、ニュージーランド、シンガポール、南アフリカ共和国、英国)で実施されている現在進行中の試験で、複数の臨床疑問に取り組んでいる(ジャーナル四天王「MSSA菌血症、セファゾリンは抗ブドウ球菌ペニシリンに非劣性/NEJM」)。本論では、黄色ブドウ球菌菌血症に対する複数の治療(例:抗菌薬治療、クリンダマイシン併用療法、早期の経口薬への切り替えなど)を評価している研究グループの、抗菌薬治療のPSSAに関する結果が報告された。 研究グループは8ヵ国の67病院に黄色ブドウ球菌菌血症で入院したあらゆる年齢層の患者を登録し(本論では18歳以上の成人に関する結果を報告)、ペニシリンG投与群、flucloxacillinまたはクロキサシリン投与群のいずれかに1対1の割合で無作為に割り付け、ペニシリンGの非劣性を評価した。推奨標準投与量は、ペニシリンGが1.8g(4時間ごと)または2.4g(6時間ごと)静脈内投与、flucloxacillinは2.0g(6時間ごと)静脈内投与、クロキサシリンは2.0g(4時間ごと)静脈内投与。クロキサシリンはflucloxacillinが承認されていない国(カナダ、イスラエル、シンガポール、南アフリカ共和国)でのみ使用された。 主要アウトカムは、試験登録後90日時点の全死因死亡であり、データが得られた全患者を対象とするITT集団で評価した。解析には階層ベイズロジスティック回帰モデルが用いられ、ペニシリンGの非劣性は補正後オッズ比(OR)が1.20未満であることと定義した。解析は、500例の被験者が90日間の追跡期間を完了するごとに行われた。90日死亡率のaORは0.67、AKI発生のaORは0.50 試験は第4回の中間解析後、データ安全性モニタリング委員会から、flucloxacillinまたはクロキサシリン群においてAKI増加が認められたことを理由に、早期の被験者登録の中断が要請され、2024年8月7日に終了した。 2022年2月18日~2024年6月21日に、PSSAが検出された成人493例のうち適格基準を満たした281例が無作為化された(ペニシリンG群156例、flucloxacillinまたはクロキサシリン群125例)。患者背景は、年齢中央値67歳(四分位範囲:56~77)、87例(31%)が女性、194例(69%)が男性であった。 主要アウトカムの90日死亡率は、ペニシリンG群21/152例(14%)、flucloxacillinまたはクロキサシリン群26/121例(22%)、補正後オッズ比(aOR)は0.67(95%信用区間[CrI]:0.35~1.28)であり、ペニシリンG群の非劣性の事後確率は96.1%、優越性の事後確率は88.9%であった。 AKIの発生は、ペニシリンG群17/153例(11%)、flucloxacillinまたはクロキサシリン群27/124例(22%)、aORは0.50(95%CrI:0.26~0.94)であり、ペニシリンG群の非劣性の事後確率は99.8%、優越性の事後確率は98.4%であった。 重篤な有害事象は、ペニシリンG群6/156例(4%)から7件、flucloxacillinまたはクロキサシリン群9/125例(7%)から10件が報告された。 結果を踏まえて著者は、「成人PSSA菌血症の治療について、有効性改善の可能性および安全性が良好であるという観点から、flucloxacillinまたはクロキサシリンよりもペニシリンGを優先すべきであることが示唆された」とまとめている。

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SCORPIO-PEP試験:エンシトレルビルはCOVID-19家族内発症を予防できるか(解説:小金丸 博氏)

 NEJM誌2026年5月14日・21日合併号に掲載されたSCORPIO-PEP試験は、エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)をCOVID-19患者の同居家族に対して曝露後予防に用いた第III相試験である。主要評価項目である「症候性COVID-19発症」は、エンシトレルビル群2.9%、プラセボ群9.0%で、リスク比0.33と有意な抑制効果を示した。絶対リスク減少は約6%であり、NNT(治療必要数)は17と計算される。家庭内感染という高曝露環境を考慮すると、かなり良好な成績といえる。 本試験の強みは、二重盲検ランダム化比較試験であること、多国籍試験であること、さらにオミクロン株流行期に実施された点にある。参加者の大多数が既感染あるいはワクチン接種由来の抗体を保有しており、現在の実臨床に近い集団で有効性が示された意義は大きい。また、有害事象発現率はプラセボ群と同等であり、安全性に関しても大きな問題を認めなかった。 一方で、臨床実装に向けては慎重な解釈も必要である。本試験のエンドポイントは「感染予防」ではなく「症候性COVID-19発症予防」であり、無症候感染自体は一定数認められている。つまり、ウイルス伝播抑制効果を直接証明した試験ではない。また、観察期間は10日間が中心であり、long COVIDの抑制や入院予防への寄与は評価されていない。 さらに重要なのは、ベースラインのイベント発生率が比較的低い点である。プラセボ群でも発症率は9%にとどまり、オミクロン株流行期以降の免疫保有集団においては、家庭内曝露があっても発症する者は限られる。このため、接触者全員への一律予防投与は費用対効果に乏しい可能性がある。真に恩恵を受けるのは、高齢者、免疫不全者、重症化リスクを持つ家族を抱える世帯などに限られるかもしれない。 耐性変異の問題も未解決である。論文中では明確な耐性伝播は確認されなかったが、3CLプロテアーゼ阻害薬は理論上耐性化リスクを抱える。とくに軽症例や予防投与への広範な使用は、選択圧を高める可能性がある。COVID-19が季節性感染症化しつつある現状では、抗ウイルス薬をどこまで「予防」に用いるべきかという抗菌薬適正使用に近い視点が必要になる。 本試験は「COVID-19家庭内曝露後の予防」という新しい戦略の有効性を示した点で画期的である。ただし、その適応は接触者への一律投与ではなく、高リスク接触者へのターゲット使用として考えるべきであり、長期アウトカム、耐性化、費用対効果を含めた今後の検討が不可欠である。

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急性感染症患者の鉄欠乏性貧血、鉄剤は投与する?/Blood

 鉄欠乏性貧血に対する静注鉄は速やかな鉄補充が期待できるが、急性感染症患者の場合は、病原体への鉄供給により感染を悪化させる可能性が懸念されている。そこで、米国・Charleston Area Medical CenterのHaris Sohail氏らは、鉄欠乏性貧血を有する急性感染症患者を対象に、静注鉄投与と生存、ヘモグロビン(Hb)値の回復などとの関連を検討した。その結果、静注鉄投与は検討したすべての感染症で14日および90日生存率の上昇と、Hb値の良好な回復に関連していた。本研究結果は、Blood誌2026年5月21日号に掲載された。 本研究は、111医療機関の匿名化された電子健康記録を集積したTriNetX Research Networkの2000年1月~2025年6月のデータを用いた後ろ向きコホート研究である。対象は、MRSA菌血症、肺炎、尿路感染症、大腸炎、蜂窩織炎のいずれかと鉄欠乏性貧血を併発し、感染症診断から2日以内に抗菌薬を投与された18歳以上の入院患者とした。診断から7日以内に静注鉄を投与された患者と非投与患者を、感染症ごとに1:1の傾向スコアマッチングを行って比較した。主要評価項目は14日および90日生存率で、副次評価項目は入院期間、輸血実施日数、Hb値の変化などとした。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした患者は33万9,145例であった。傾向スコアマッチング後の各群の患者数は、MRSA菌血症8,433例、肺炎1万9,281例、尿路感染症1万8,613例、大腸炎5,340例、蜂窩織炎8,404例であった。・静注鉄群では、すべての感染症で14日および90日生存率が非投与群より有意に高かった。各感染症の90日生存率は以下のとおり(静注鉄群vs.非投与群、ハザード比[95%信頼区間]を示す)。 MRSA菌血症:88.6%vs.83.8%、0.67(0.62~0.73) 肺炎:84.7%vs.78.1%、0.66(0.63~0.69) 尿路感染症:89.1%vs.85.6%、0.73(0.69~0.78) 大腸炎:89.7%vs.83.8%、0.60(0.53~0.68) 蜂窩織炎:92.2%vs.89.2%、0.70(0.63~0.78)・感染症および鉄欠乏性貧血診断後60~90日までのHb値の上昇幅は以下のとおり(静注鉄群vs.非投与群)。 MRSA菌血症:1.32g/dL vs.1.00g/dL 肺炎:1.25g/dL vs.0.97g/dL 尿路感染症:1.39g/dL vs.1.02g/dL 大腸炎:1.45g/dL vs.0.74g/dL 蜂窩織炎:1.41g/dL vs.0.92g/dL (いずれもp<0.0001)・赤血球輸血を実施した日数は、蜂窩織炎を除くすべての感染症で静注鉄群が有意に少なかった。・入院期間は、MRSA菌血症と尿路感染症では静注鉄群でわずかに長かったが、肺炎、大腸炎、蜂窩織炎では有意差を認めなかった。 本研究結果について著者らは、鉄欠乏性貧血を有する急性感染症の入院患者に対する静注鉄投与は、感染症の種類を問わず、生存率の上昇とHb値の良好な回復に関連していたとまとめた。ただし、本研究は後ろ向き観察研究であり、静注鉄による生存改善を示したものではない。感染症の重症度や静注鉄を投与した臨床的理由など、未測定交絡の影響も否定できず、安全性と有効性の確認には前向き研究が必要であるとしている。

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喀血の原因は、喉に住んでいたアイツ【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第309回

喀血の原因は、喉に住んでいたアイツ喀血の原因といえば、結核、肺アスペルギルス症、肺がん、気管支拡張症あたりが定番です。呼吸器内科医なら、喀血と聞いた瞬間に頭の中で鑑別がズラッと並びます。ところが今回の異物論文は、その鑑別リストに絶対載っていない犯人を連れてきました。Abd Alkareem AA, et al. Nasopharyngeal hirudiniasis, a rare cause of masked hemoptysis in an older patient: A case report. J Int Med Res. 2026 Jun;54(6):3000605261453283.患者は、高血圧以外は元気な62歳の男性。タバコは吸いません。2週間前から血を吐くようになり、喉の違和感も続いていました。発熱も、嗄声も、息切れもなし。地元の病院では原因がわからず、専門医に紹介されてきました。高齢男性で2週間も喀血が続けば、たとえ非喫煙者でも、普通は肺がんや結核、心血管系の病気を疑って精査に入ります。実際この論文でも、最初はそうした方向で考えられていました。ところが、診察医が喉を覗いた瞬間、事態は一変します。え? 喉の奥で、何かが動いている。しかも、見えたと思ったらスッと引っ込む。落ち着け…、落ち着けオレ…! そう思ったに違いありません。鼻咽腔内視鏡を入れてみると、上咽頭の壁に、何かがくっついて、もぞもぞ動いていました。もう、嫌な予感しかしません。口蓋垂を持ち上げて視野を確保し、鉗子でそいつをつかんで引っ張り出す。エエイッ!なんと、出てきたのは、体長およそ3cmの、 生きたヒルでした。いやああああ!!! またこのタイプの論文かよおおお!!!!なぜ、ヒルで喀血したのでしょうか。実はヒルの唾液には、ヒルジンという強力な抗凝固物質と、局所麻酔成分が含まれています。だから噛みついても痛くないし、いったん吸血を始めると血が止まりにくくなります。つまり出血の正体はヒルがせっせと分泌していた天然の抗凝固薬だったわけです。実際、ヒルを取り除いた瞬間、出血はピタッと止まりました。患者さんにあらためて話を聞くと、3週間ほど前に、処理していない池の水を飲んでいたとのこと。水と一緒に幼いヒルを飲み込み、上咽頭に定着してしまったようです。2次感染予防に抗菌薬を1週間処方し、2週間後の再診でも再発はありませんでした。よかったよかった。

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国産手術ロボットhinotoriによる大腸がん手術、94例の初期成績を報告

 ロボット支援手術の普及が進む中、日本初の国産手術支援ロボット「hinotori」の大腸外科領域における臨床データが報告された。今回、京都大学医学部附属病院でhinotoriによるロボット支援大腸手術を受けた大腸がん患者94例を解析した結果、開腹移行例やClavien-Dindo分類Grade III以上の重篤な術後合併症は認められなかった。著者らは、hinotoriを用いた大腸がん手術は安全かつ実施可能であることが示されたとしている。報告は京都大学医学部附属病院消化管外科の山本健人氏、板谷喜朗氏らによるもので、4月25日付の「Journal of the Anus, Rectum and Colon」に掲載された。 ロボット支援手術は近年、世界的に普及が進んでおり、大腸外科領域でも腹腔鏡手術と比べて良好な短期・長期成績を示す報告が蓄積されている。日本でもロボット支援直腸がん手術が2018年、結腸がん手術が2022年にそれぞれ保険収載されたが、これまでのエビデンスの多くは「da Vinci Surgical System(DVSS)」によるものだった。hinotori Surgical System(hinotori)は、川崎重工業とシスメックスの合弁会社メディカロイドが開発した日本初の国産手術支援ロボットで、名称は手塚治虫氏の『火の鳥』に由来する。同システムは2020年に泌尿器科領域で臨床導入され、その後は消化器外科や婦人科領域にも導入が広がっている。こうした背景から著者らは、hinotoriを用いたロボット支援大腸手術の臨床成績を検証した。 著者らは、2023年8月~2025年11月に京都大学医学部附属病院でhinotoriを用いたロボット支援大腸手術を受けた連続症例を対象に、単施設後ろ向き観察研究を実施した。術者はいずれも、日本内視鏡外科学会技術認定医で、既存のロボット支援手術システム(DVSS)による大腸手術を40例超経験していた。解析は、患者背景、手術関連因子、短期成績について、結腸がん群と直腸がん群に分けて実施した。 解析対象は94例で、このうち結腸がんが53例、直腸がんが41例だった。結腸がん群の手術時間中央値は255分だった。術後合併症はClavien-Dindo分類Grade IIのイレウスを1例(1.9%)に認めたが、絶食で改善し、Grade III以上の重篤な合併症は認められなかった。 一方、直腸がん群の手術時間中央値は327分だった。41例のうち、側方リンパ節郭清や他臓器合併切除、再発病変切除を伴う高難度手術(beyond-TME)を7例に実施した。術後合併症はGrade IIの排尿障害を1例(2.4%)に認め、経口抗菌薬で改善したが、Grade III以上の重篤な合併症は認められなかった。 いずれの群でも開腹移行例や術後30日以内の再手術例はなく、術後在院日数中央値は結腸がん群で10日、直腸がん群で12日だった。 著者らは、大腸外科領域におけるロボット支援手術の有効性は既に示されている一方、hinotoriに関する臨床データは限られていると指摘した。その上で、本研究では開腹移行例やGrade III以上の重篤な合併症を認めず、既報と概ね同等の短期成績が得られたとして、hinotoriを用いた大腸手術の安全性と実施可能性が示されたと考察した。一方、手術時間は既報よりやや長かったが、高難度症例を含んでいたことや、hinotoriを初めて使用する術者が多かったことが影響した可能性があるとしている。 また、現在はDVSSが手術支援ロボット市場で大きなシェアを占めているものの、hinotoriのような新規プラットフォームの登場は健全な競争につながるとの見方を示した。

8.

ピボキシル基を有する小児用抗菌薬、低カルニチン血症に伴う重篤な低血糖を「重要な基本的注意」に追記/厚労省

 2026年6月30日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、ピボキシル基を有する小児用抗菌薬4成分に対し、「重要な基本的注意」の項に低カルニチン血症に伴う重篤な低血糖に関する注意事項が追記された。対象となる一般名および主な販売名は以下のとおり。<対象医薬品>・セフカペン ピボキシル塩酸塩水和物(商品名:フロモックス小児用細粒100mgほか)・セフジトレン ピボキシル(商品名:メイアクトMS小児用細粒10%ほか)・セフテラム ピボキシル(商品名:トミロン細粒小児用20%)・テビペネム ピボキシル(商品名:オラペネム小児用細粒10%)改訂後の内容「重要な基本的注意」の項が新設され、主に以下の内容が追記された。・小児(とくに乳幼児)において、本剤を含むピボキシル基を有する抗生物質の投与後に、低カルニチン血症に伴う重篤な低血糖、痙攣、脳症等を起こすおそれがある。・本剤の必要性を含む薬剤の選択や投与期間等については、最新のガイドライン等を参考にすること。・痙攣、意識障害等の低血糖症状が認められた場合には、速やかに医療機関を受診するよう家族等に指導すること。 これまでも、ピボキシル基を有する小児用抗菌薬による低カルニチン血症に伴う低血糖については、すでに「使用上の注意」の「重大な副作用」および「小児等」の項において注意喚起がなされていた。しかしながら、近年においても当該薬剤との因果関係を否定できない症例が報告されており、直近の報告では死亡に至った症例も認められたことから、追加の安全対策措置の要否について検討が行われた。 低カルニチン血症に伴う低血糖は主に乳幼児で報告されており、症状が急速に進行し重篤化するおそれがある。専門委員の意見も聴取した結果、投与の必要性や期間について最新のガイドライン等を参照し適切に判断すること、また低血糖症状発現時の速やかな受診につなげる観点から、医療従事者より家族等へ適切な指導を促すことが適正使用に不可欠と判断され、今回の改訂に至った。

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【GET!ザ・トレンド】Less is More?β-ラクタマーゼ阻害薬nacubactamが拓くAMR治療の展望

薬剤耐性菌(AMR)は公衆衛生における世界的な社会課題である。なかでもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)はWHOの細菌優先病原体リストにおいて、クリティカル(最重要)に分類されている。そのCREに対し、Meiji Seikaファルマは新規β-ラクタマーゼ阻害薬nacubactam(OP0595)を承認申請中である。CRE感染症に対する同剤の特徴と効果、さらに新規抗菌薬開発の課題について、同社研究開発本部の加藤誠司氏らに話を聞いた。喫緊の課題カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)AMRついての世界的な調査報告書であるJim O'Neill氏による耐性菌レポートによれば、新規抗菌薬の研究開発等の対策を講じなければ2050年までに年間1,000万人がAMRにより死亡すると報告されている。これを受け、WHOが薬剤耐性に関するグローバル・アクションプランを策定し、それを基に日本を含む世界各国がそれぞれの国の課題に応じたアクションプランを策定し取り組んでいる。抗菌薬に耐性を示す代表的な機序としてβ-ラクタム系抗菌薬の分解酵素であるβ-ラクタマーゼがある。カルバペネマーゼはβ-ラクタマーゼの1種で、その名のとおりカルバペネム系抗菌薬を分解する酵素である。カルバペネム系抗菌薬は重症感染症治療に使用される。最後の砦であるカルバペネム系抗菌薬を無効化するカルバペネマーゼ産生菌による感染症は、患者の重篤化、入院長期化、さらに死亡率の増加を招く。そのためCRE感染は5類感染症として全例報告が義務付けられるなど、日本でも喫緊の課題とされている。nacubactamによるβラクタマーゼへの阻害活性と、エンハンサー効果nacubactamは、Meiji Seikaファルマが自社で創出した新規β-ラクタマーゼ阻害薬である。2025年12月にカルバペネム系薬に耐性のグラム陰性菌による感染症治療薬として国内承認申請された。同剤はβ-ラクタム薬(セフェピム[CFPM]またはアズトレオナム[AZT])との併用で、CREに対するβ-ラクタム薬の分解を阻害するだけでなく、併用するβ-ラクタム薬の抗菌活性を増強させるという従来のβ-ラクタマーゼ阻害薬にはない特性を持っている。具体的には、nacubactamはPBP2の阻害作用を有する。一方、CFPMやAZTといったβ-ラクタム系抗菌薬はPBP3を阻害する。つまり、CFPMおよびAZTとnacubactamの併用により、PBP2とPBP3双方を阻害して抗菌活性・殺菌作用を増強することが可能となる(エンハンサー効果)。β-ラクタマーゼ阻害薬を単味製剤として開発していることも大きな意味を持つ。単味製剤のメリットとして既存抗菌薬との組み合わせ次第で将来出現する細菌にも柔軟に対応できる可能性がある。また、既存の抗菌薬と組み合わせて耐性菌に対応できるため、従来の配合剤のようにそれぞれのβ-ラクタム薬との配合剤を新薬として医療機関で保管する必要がなくなり、薬剤数抑制の観点からもメリットが生まれると考えられる。β-ラクタマーゼはAmbler分類でクラスAからDに分かれている。国や地域によって優勢なクラスや型が異なり、それに応じて有効な薬剤も変わる。画像を拡大するなかでもクラスBに有効な薬剤は限られており、その対策には課題が残る。最新報告によれば、国内のCREは約1,000例で、大部分はクラスBのIMP型だ。また、近年はクラスBのNDM型も増加傾向にある。厚生労働省によるカルバペネム低感受性腸内細菌目細菌株の感性率を見ると、セフェピムおよびnacubactamとの併用(以下、CFPM/NAC)はクラスA、C、Dのβラクタマーゼに高い感性率を示す。また、アズトレオナムおよびnacubactamとの併用(以下、AZT/NAC)はA、C以外にもクラスB(IMP型、NDM型とも)にも高い感性率を示すことが明らかになっている。画像を拡大する2つの第III相国際共同試験nacubactamの臨床開発では、欧州・日本を含むアジアで2つのグローバル第III相臨床試験(Integral-1、Integral-2)が実施された。Integral-1試験は、カルバペネム感受性の複雑性尿路感染症または急性単純性腎盂腎炎患者を対象に、CFPM/NACおよびAZT/NACをカルバペネム系抗菌薬であるイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)と比較した二重盲検比較試験である※。IPM/CSに対する主要評価項目(投与終了7日後の総合臨床効果)において、AZT/NACは非劣性を、CFPM/NACは非劣性かつ優越性を証明した。結果は米国の感染症の学会であるIDWeek2025で反響を呼びThe Lancet Infectious Diseases誌による学会のハイライトにも取りあげられ、試験の内容はThe Lancet2026年5月16日号に掲載された。※通常の成人で、セフェピム2g+nacubactam1g、アズトレオナム2g+nacubactam1gまたはIPM1g /CS1g (いずれも1日3回静注)を投与もう1つの第III相試験であるIntegral-2試験は、CRE感染症患者を対象とした試験である。欧州臨床微生物学感染症学会議(ESCMID Global2026)では口頭演題に採択され発表に至っている。ESCMID Global 2026では、nacubactamに関する10演題が発表され、いずれも活発な議論が展開されたという。同剤に対する世界的な注目度の高さが窺える。新たなスタイルで行われたnacubactamの開発新規抗菌薬の開発にはさまざまな困難が伴う。感染症は被験者数が限られているため、臨床開発において症例を集積するには多くの国・施設の協力が不可欠だ。その分、開発コストは莫大になる。一方で、適正使用により患者数が限定されるなか、安定供給のための製造コストも増加しており経済合理性の欠如から、大手製薬メーカーが抗菌薬開発から撤退する負のサイクルに陥っている。nacubactamの開発に当たってはAMEDによる医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)の支援を得ている※。この研究課題では、第I相試験の薬物動態(PK/PD)からシミュレーションした用法用量を、第II相を介さずに第III相試験で検証している。結果は評価項目を達成し、第II相試験を省略して開発することが可能となった。困難な状況の中で「プロジェクトメンバー全員が、CREによる感染症に苦しむ患者さん全員を救うという思いでnacubactamの開発にあたっている」と加藤氏は述べる。※CiCLE研究開発課題「非臨床PK/PD理論を活用した新規β-ラクタマーゼ阻害剤(OP0595)の単味製剤の研究開発」プル型インセンティブの拡大が抗菌薬開発の鍵を握る新規抗菌薬の開発にあたっては、承認取得後の課題も深刻だ。上市後の適正使用を徹底すると使用症例数は絞られ、販売額は縮小する。加藤氏によれば、新薬の上市まで至った会社も事業が維持できず倒産する事例も少なくない。新規抗菌薬の開発を支える仕組みとして、研究開発費を支援するプッシュ型インセンティブと、承認・発売後の採算性を維持・向上させるプル型インセンティブ制度がある。国内ではプル型インセンティブとして抗菌薬確保支援事業が設けられているが、その予算枠では安定供給に資する製造コストを維持するのに課題もあり、今後の抗菌薬開発においてはプル型インセンティブの拡充がより重要になっていくと考えられる。Meiji Seikaファルマとしても、製薬協と連携しながらプル型インセンティブの拡大に向け、国への働きかけを続けている。nacubactamは新たなβ-ラクタマーゼ阻害薬として、β-ラクタム薬との併用で従来にはない強力な抗菌活性を発揮する。また、単味製剤の利点を生かし、新たな組み合わせを開発することで将来的に新たな耐性菌に備えることができる可能性を持つ。第一歩としてCREという最重要耐性菌に立ち向かうnacubactamに注目したい。 参考 1) O'Neill J, Review on Antimicrobial Resistance. Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations. Wellcome Trust and HM Government 2) 厚生労働省 薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書(サマリ版) 3) 国立健康危機管理研究機構(JIHS)国際感染症センターカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症に関する一般的事項 4) 国際健康危機管理研究機構(JIHS)カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症, 2024年現在 5) Takahashi S, et al. Lancet.2026;407:1929-1940.

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MSSA菌血症、セファゾリンは抗ブドウ球菌ペニシリンに非劣性/NEJM

 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症患者において、90日死亡率に関して抗ブドウ球菌ペニシリン(flucloxacillinまたはクロキサシリン)に対するセファゾリンの非劣性が認められ、急性腎障害の発生率はセファゾリンで低かった。カナダ・マギル大学のTodd C. Lee氏らStaphylococcus aureus Network Adaptive Platform(SNAP)Trial Groupが、多施設共同無作為化非盲検非劣性試験「SNAP試験」の結果を報告した。黄色ブドウ球菌菌血症は死亡率が高い。MSSA菌血症の治療において、セファゾリンと抗ブドウ球菌ペニシリンのどちらが望ましいかは明らかになっていなかった。NEJM誌2026年6月18日号掲載の報告。セファゾリンとflucloxacillinまたはクロキサシリンを比較 SNAP試験は、8ヵ国(オーストラリア、カナダ、イスラエル、オランダ、ニュージーランド、シンガポール、南アフリカ共和国、英国)の91施設において実施されている現在進行中のベイジアン・アダプティブ・プラットフォーム試験で、黄色ブドウ球菌菌血症に対する複数の治療(例:抗菌薬治療、クリンダマイシン併用療法、早期の経口薬への切り替えなど)を評価している。今回は、抗菌薬治療のMSSAに関する結果が報告された。 研究グループは、ペニシリン耐性MSSA菌血症の18歳以上の入院患者を、血液培養(黄色ブドウ球菌が初めて陽性となった培養)の検体採取後72時間以内に登録し、セファゾリン群とflucloxacillinまたはクロキサシリン群に1対1の割合で無作為に割り付けた。セファゾリンは2gを8時間ごと(重症例または心内膜炎の場合は6時間ごと)、flucloxacillinは2gを6時間ごと(重症例または心内膜炎の場合は4時間ごと)、クロキサシリンは2gを4時間ごとに静脈内投与し、腎機能に応じて用量を調整した。 投与期間は、非複雑性菌血症で最低14日間、複雑性菌血症で28~42日間とした。なお、非複雑性菌血症の場合は7日目に、複雑性菌血症の場合は14日目に、適格であれば早期の経口薬への切り替えを評価するドメインへの移行が許可された。 主要アウトカムは登録後90日以内の全死因死亡で、階層ベイズロジスティック回帰モデルを用いて解析し、セファゾリンがflucloxacillinまたはクロキサシリンに対して非劣性である事後確率(非劣性基準は補正後オッズ比[OR]<1.2と事前に規定、これはflucloxacillinまたはクロキサシリン群の死亡率が15%の場合に死亡率の絶対差が2.5%ポイント未満に相当することを示す)、ならびに優越性の事後確率(基準は補正後OR<1.0)を評価した。安全性の評価項目には、14日以内の急性腎障害の発症が含まれた。90日死亡率、セファゾリン群15%、flucloxacillinまたはクロキサシリン群17% 2022年2月17日より登録を開始し、2024年6月21日に、事前に計画された第4回中間解析に基づき、データ安全性モニタリング委員会から急性腎障害に関する安全性シグナルを理由に患者登録の中断が要請された。その時点の解析で非劣性の基準が満たされたことから、2024年8月7日に試験は終了した。 計1,341例が無作為化され、671例がセファゾリン、670例がflucloxacillinまたはクロキサシリンの投与を受け、追跡不能例等を除く1,287例(セファゾリン群645例、flucloxacillinまたはクロキサシリン群642例)が主要アウトカムの解析対象となった。 90日死亡率は、セファゾリン群15.0%(97/645例)、flucloxacillinまたはクロキサシリン群17.0%(109/642例)、補正後ORは0.81(95%信頼区間[CI]:0.59~1.12)であり、非劣性の事後確率は99.2%、優越性の事後確率は89.8%であった。 14日以内の急性腎障害は、セファゾリン群で660例中92例(13.9%)に、flucloxacillinまたはクロキサシリン群では648例中127例(19.6%)に認められた(補正後OR:0.67、95%CI:0.50~0.89、優越性の事後確率99.7%)。

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jmedmook104 プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A

現場で生まれた数々の疑問に専門医が応えます!2019年から続く日本プライマリ・ケア連合学会と日本感染症学会のジョイントシンポジウム「感染症専門医はプライマリ・ケア医からの疑問に応えられるのか?」で熱く交わされた質疑応答をもとに、感染症診療に有用なQ&Aをピックアップ。「外来でグラム染色をすべきか」「風邪なのに抗菌薬を欲しがる患者さんにどう対応すべきか」「感受性のない抗菌薬が効いてしまう理由」など、プライマリ・ケアの現場で直面する答えの出ない疑問についてエキスパートが明快に解説します。専門性と総合性の融合、多職種連携の重要性にも光を当てた本書は、地域で感染症診療に携わる医師はもちろん、看護師、薬剤師、介護職の皆さまにもおすすめの一冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するjmedmook104 プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A定価4,400円(税込)判型B5判頁数130頁発行2026年6月監修日本プライマリ・ケア連合学会感染症委員会/日本感染症学会学際化・国際化委員会ご購入はこちらご購入はこちら

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最適な輸液ルート選択の考え方 その参【ケースで学ぶ輸液オーダー】第4回

はじめに「点滴ラインを何度も自己抜去してしまう認知症の患者さん」「その都度ルート再確保に奔走する看護師」「内心心苦しさを感じながら点滴を指示する医師」は、病棟「あるある」な光景でしょう。しかし、たとえ1日500mLの維持輸液だけだったとしても、必要な治療であればやめるわけにはいきません。そんなとき、全員をwin-winの関係にしてくれるのが、古くて新しい存在の「皮下輸液」です。症例特別養護老人ホームから誤嚥性肺炎で入院した90代女性。総合診療科に配属されたばかりの研修医A君が担当になりました。施設では普通食だったとのことですが、いざ服薬してみると明らかにむせています。言語聴覚士(ST)が介入し、嚥下訓練をしながら少しずつ嚥下調整食を試すことになりました。段階的にカロリーを上げていく間、どうしても経口以外からの水分補給が必要です。とはいえ、経鼻胃管の留置は自己抜去のリスクが高すぎます。そこでA君は、末梢静脈路から維持輸液500mLを1日2時間ほどかけて、まずは1週間行う計画を立てました。しかし、患者さんの末梢血管は細くて見えにくく脆弱です。看護師がなんとか確保したルートは、あえなく2日連続で自己抜去されてしまいました。「もう刺せる血管がありません」と看護師に詰められるA君。中心静脈カテーテルを留置するなら自己抜去対策に身体拘束が避けられない状況です。ほかに優しくて安全な方法はないのでしょうか?考えかたの整理19世紀中頃に登場した古典的治療法である皮下輸液は、経静脈栄養の発展・普及により廃れかかっていました。しかし近年では、高齢者の脱水治療や終末期ケアにおける「低侵襲で安全なルート」として見直されています。「血管が見つからなくて針が刺せない」「どうしても点滴を抜いてしまう」という場面において、皮下輸液は重篤な合併症がほとんどない、極めて安全な選択肢です。緩和ケア領域では、持続注入ポンプを用いた鎮痛薬の持続皮下注射も普及しています。『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版1)』『症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版2)』を参考に、皮下輸液の方法、注意点、皮下投与可能な薬剤例(表1)をまとめてみました。皮下輸液の方法投与速度60~500mL/時間1日投与量1,500mLまで(2ヵ所の場合は3,000mLまで)管理1~4日ごとの針・チューブ交換と、刺入部の観察(浮腫、発赤、痛み、感染、液漏れがないか)注意点静脈と違って効果発現までに時間がかかる。浮腫がある場所は吸収されにくいため穿刺に向かない。皮膚障害が起こることがある。出血傾向がある患者さんには禁忌。表1 皮下投与可能な薬剤例1,2)※添付文書上、皮下投与が可能なもの。その他は文献や経験的使用に基づく。画像を拡大するベテラン看護師に聞きました<皮下輸液の実際>当院で高齢者の皮下輸液を日常的に行っている病棟看護師に、現場のリアルを聞いてみました。準備するもの普段の点滴に使う24Gの静脈留置針と点滴セット。特別な道具は不要。点滴の落とし方たとえば維持輸液(ソリタT3など)500mLなら、約4時間かけてゆっくり落とすように重力滴下でクレンメを調整する。おすすめの穿刺部位頻用するのは腹部で、腹壁の厚みが少ない場合は大腿部を選択する。自己抜去のリスク管理リスクが極めて高い患者さんは点滴終了ごとに抜針する。また、大腿部に穿刺し、衣服のズボンの裾からこっそりラインを外へ誘導すると、患者さんの視界に入らず抜かれにくくなる。 痛みを訴えたら?もし注入開始後に痛みの訴えがあった場合は、刺入部をカイロや蒸しタオルで温めると痛みが和らぐ。図2 当院で入院患者に行われる皮下輸液の実際画像を拡大する保険適用上の注意点今回参照した本邦の文献1,2)では、海外文献や成書での使用例や国内での臨床経験に基づいた豊富な実例を紹介しているとともに、皮下投与が添付文書上の適応外に該当する場合は、「患者・家族に対する十分な説明を行い、場合によっては説明文書や同意書を作成したうえで、院内の手続きを経て適応外申請を行うなど、より厳格な対応が求められていく可能性がある2)」との認識も示しています。海外では、セファゾリンやセフトリアキソンなど、本邦では皮下投与の適応外となっている抗菌薬の皮下投与の安全性を示す報告3,4)や、皮下投与実施ガイドライン5)も存在し、皮下投与の安全性や有益性のよりどころになりますが、本邦で実施する場合は、医学的な正しさと制度の順守の両輪を念頭におきましょう。本症例の対応A君は、当面の輸液ルートとして皮下輸液を選択しました。腹部の皮下に24G静脈留置針を刺入し、ソリタT3 500mLを1日1本4時間程度で点滴しました。患者さんは刺入部を気にすることなく穏やかに過ごされ、鎮静薬の投与や身体拘束は必要ありませんでした。「末梢が見えない」「自己抜去のリスクがある」患者さんに維持輸液を500mL行わざるを得ない場合、皮下輸液を選択肢に入れましょう。皮下輸液に適する製剤、適さない製剤皮下組織への輸液投与は、静脈内投与と比較して薬剤の希釈および全身への拡散が起こりにくく、投与部位において一時的に高濃度で滞留する可能性があります。そのため、浸透圧、pH、局所刺激性といった薬剤の物理化学的特性の影響を強く受ける点に留意が必要です。皮下輸液に使用する輸液製剤は、原則として等張(浸透圧比約1)であり、かつ生体に近いpHであることが求められます。皮膚のpHは、表面では弱酸性(pH4~6)、角質下では中性から弱塩基性(pH6~7)とされており、これらの範囲から逸脱する製剤は局所刺激や組織障害のリスクを高める可能性があります。この観点から、生理食塩液、5%ブドウ糖液、1・3号液、リンゲル液は皮下投与が可能とされています。一方で、末梢静脈栄養輸液、高カロリー輸液は浸透圧比が3以上と高く、皮下投与には適しません。また、脂肪乳剤は浸透圧比が約1でありpHも6.5~8.5に調整されていますが、血管外漏出時に壊死や潰瘍形成を引き起こした症例が報告されています6)。このため、安全性の観点から皮下投与は推奨されません。1)日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編. 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版. 金原出版;2013.2)梶山 徹ほか編. 症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版. 診断と治療社;2023.3)Moreal C, et al. New Microbiol. 2024;47:227-242.4)Forestier E, et al. Infect Dis Now. 2026;56:105232.5)Broadhurst D, et al. J Infus Nurs. 2023;46:199-209.6)Lu YX, et al. World J Clin Cases. 2021;9:4599-4606.

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ST合剤に「急性汎発性発疹性膿疱症」の重大な副作用追加/厚労省

 2026年6月16日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、抗菌薬のスルファメトキサゾール・トリメトプリム(商品名:バクタ配合錠、バクトラミン配合錠ほか、通称:ST合剤)の「重大な副作用」の項に「急性汎発性発疹性膿疱症」が追加された。急性汎発性発疹性膿疱症の発生状況と改訂の理由 急性汎発性発疹性膿疱症の症例を評価し、専門委員の意見も聴取した結果、本剤と事象との因果関係が否定できない症例が集積したことから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。なお、国内症例は12例で、うち医薬品と事象との因果関係が否定できない症例は4例(死亡0例)であった。その他、添付文書が改訂された薬剤 同日、ほかの医薬品についても使用上の注意の改訂指示が出されており、主な変更点は以下のとおり。◯炭酸リチウム 「禁忌」の項から「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」が削除された。これに伴い、「特定の背景を有する患者に関する注意」において、妊婦には「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと」に改められ、新たに「生殖能を有する者」への注意喚起(催奇形性に関する十分な説明など)が新設された。◯カルボキシマルトース第二鉄、含糖酸化鉄 「重大な副作用」の項に「低リン血症、骨軟化症」が新設・追加された。また、重要な基本的注意として、投与開始前や投与中の定期的な血清リン値の測定と、骨軟化症を疑う症状が現れた際の処方医への相談を患者に指導する旨が追記された。◯バレメトスタットトシル酸塩 「重要な基本的注意」の項に、「急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群などの二次性悪性腫瘍が発現する可能性」について追記され、患者の状態を十分に観察することが求められている。

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再発・難治性多発性骨髄腫、テクリスタマブ単剤でPFS延長(MajesTEC-9)/NEJM

 1~3ラインの治療歴のある再発・難治性多発性骨髄腫患者の治療では、担当医選択のレジメンと比較してテクリスタマブは、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に改善し、その一方でGrade3または4の感染症の頻度が高いことが、フランス・ナント大学病院のCyrille Touzeau氏らが実施した「MajesTEC-9試験」で示された。テクリスタマブは、多発性骨髄腫細胞上に発現するB細胞成熟抗原(BCMA)とT細胞上に発現するCD3を標的とする二重特異性抗体である。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年5月29日号で報告された。24ヵ国の無作為化第III相試験 MajesTEC-9試験は、日本を含む24ヵ国162施設で実施した非盲検無作為化第III相試験(Johnson & Johnsonの助成を受けた)。2023年4月~2025年4月に参加者を登録した。 対象は、抗CD38モノクローナル抗体およびレナリドミドを含む1~3ラインのレジメンによる治療歴があり、病勢が進行または直近のレジメンが奏効しなかった再発・難治性多発性骨髄腫の患者であった。 被験者を、テクリスタマブ(皮下投与)または担当医が選択したレジメン(ポマリドミド+ボルテゾミブ+デキサメタゾン[PVd]、カルフィルゾミブ+デキサメタゾン[Kd]のいずれか)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。抗菌薬の予防投与と免疫グロブリン補充療法が推奨された。 主要評価項目はPFS(無作為化の日から病勢進行または死亡の日までの期間)とし、独立審査委員会が評価した。CR以上の達成率も有意に優れる 593例を登録し、テクリスタマブ群に296例、PVd/Kd群に297例を割り付けた。574例(テクリスタマブ群291例、PVd/Kd群283例)が実際に試験薬の投与を受け、PVd/Kd群のうち86例(30.4%)がPVd、197例(69.6%)はKdを受けた。 全体の年齢中央値は70歳(範囲:34~86)、173例(29.2%)が75歳以上で、290例(48.9%)が女性であった。前治療ライン数中央値は2(範囲:1~3)であり、128例(21.6%)が1ラインのみを受けていた。治療期間中央値は、テクリスタマブ群が13.1ヵ月、PVd/Kd群は7.0ヵ月だった。 追跡期間中央値17.3ヵ月の時点における推定18ヵ月PFS率は、PVd/Kd群が26.9%(95%信頼区間[CI]:21.1~33.0)であったのに対し、テクリスタマブ群は69.8%(95%CI:63.7~75.1)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.29、95%CI:0.23~0.38、p<0.001)。 完全奏効(CR)以上(65.9%vs.16.8%、リスク比:3.95、95%CI:3.03~5.14、p<0.001)の達成率はテクリスタマブ群で有意に高く、全奏効(部分奏効[PR]以上:84.5%vs.54.2%、リスク比:1.56[95%CI:1.39~1.75])の達成率もテクリスタマブ群で高かった。 また、推定18ヵ月OS率についても、テクリスタマブ群で有意に良好だった(79.2%[95%CI:73.5~83.8]vs.68.6%[95%CI:62.4~74.0]、HR:0.60[95%CI:0.43~0.83]、p=0.002)。Grade3、4の有害事象の頻度が高い、厳密な感染予防策が重要 Grade3または4の有害事象は、テクリスタマブ群の84.9%、PVd/Kd群の76.3%に発生し、Grade5(死亡)の有害事象の発生率はそれぞれ6.5%および3.5%であった。 テクリスタマブ群では、サイトカイン放出症候群が66.0%に発生し、そのほとんどがGrade1(48.8%)または2(16.5%)で、Grade3は2例のみであり、Grade4または5は認めなかった。免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は4.1%にみられ、Grade1が2.4%、Grade2が1.4%で、Grade3の1例はテクリスタマブの投与中止に至った。 Grade3または4の感染症は、テクリスタマブ群で頻度が高かった(41.6%vs.29.0%)。致死的感染症は、テクリスタマブ群で16例(5.5%)、PVd/Kd群で8例(2.8%)に発生した。 著者は、「PVd/Kd群の3分の2以上が、後治療として二重特異性抗体療法またはCAR-T細胞療法を開始したにもかかわらず、テクリスタマブ群はCRの確率がより高く、OSがより延長した」「重篤な感染症のリスクがあるため、感染症管理では厳密な感染予防策と免疫グロブリン補充療法が不可欠である」としている。 また、「これらの結果は、多発性骨髄腫の2次治療およびそれ以降の治療選択肢として、テクリスタマブを基盤とし、グルココルチコイドの使用を控えるレジメンを支持するものである」と指摘している。

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抗菌薬使用とセリアック病発症に因果関係は認められず

 抗菌薬の使用はセリアック病(CD)の発症と関連付けられてきたが、新たな研究で、この因果関係を支持するエビデンスは認められないことが示された。CD患者では、CDではないきょうだいや一般集団と比較して抗菌薬使用のオッズが高かったものの、腸粘膜が正常な人では、そのオッズはさらに高かったという。ヨーテボリ大学(スウェーデン)のMaria Ulnes氏らによるこの研究は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に4月27日掲載された。 Ulnes氏は、「CDと抗菌薬使用との間に因果関係は認められなかった。抗菌薬の適正使用が重要であることに変わりはないが、CD発症を恐れて抗菌薬の使用を避ける理由はない」と述べている。 CDは、小麦・大麦・ライ麦に含まれるタンパク質のグルテンに対する自己免疫反応によって腹痛や下痢などの症状が引き起こされる自己免疫疾患である。小腸粘膜に慢性的な炎症が生じ、栄養吸収不良を来すことを特徴とする。 今回の研究では、生検によりCDが確認された患者2万7,789人、非CDの一般集団13万3,451人、CD患者のきょうだい3万3,112人を対象に、抗菌薬使用とCDとの関連を検討した。さらに、二次解析として、生検で組織学的に正常な小腸粘膜と判定された22万5,548人と、その対照となる一般集団108万9,796人との比較も行った。 その結果、抗菌薬の使用歴を有する割合は、CD群で69%、一般集団で63%であり、CD群では抗菌薬使用のオッズが高いことが示された(調整オッズ比〔aOR〕1.24、95%信頼区間〔CI〕1.21~1.28)。この関連は、抗菌薬の使用回数が多いほど強くなり、未使用と比べて1~2回の使用でaORは1.21(95%信頼区間1.17~1.25)、3回以上で1.35(同1.30~1.41)であった。さらに、きょうだい同士の比較でも、この関連が認められた(aOR 1.29、95%信頼区間1.24~1.35)。しかし二次解析では、腸粘膜が組織学的に正常な人でも抗菌薬使用との強い関連が見られ、その関連はCD患者よりも強かった(同1.50、1.48~1.51)。このことから、抗菌薬使用がCDの原因ではない可能性が示唆された。 Ulnes氏は、「CDは抗菌薬使用の結果だと考えられがちだが、その関連は、実際にはもっと複雑だ。感染症への感受性や食習慣などが腸内細菌叢に影響を与え、それがCDの発症に関与している可能性が考えられる。この場合、抗菌薬の適切な使用自体がリスクになるとは考えられないだろう」と述べている。

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細菌性髄膜炎・HSV脳炎GL改訂、経験的治療の薬剤選択を見直し/日本神経学会

 2026年3月、『細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014』と『単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017』を統合した『細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026』(日本神経学会・日本神経感染症学会監修、南江堂)が発刊された1)。今回の改訂では、ワクチン定期接種化による起炎菌の変遷、薬剤耐性菌の動向、FilmArray髄膜炎・脳炎パネルに代表される遺伝子検査の普及などを反映し、初期治療から退院後のフォローアップに至る一連の流れが大幅に刷新されている。 5月20~23日に開催された第67回日本神経学会学術大会の生涯教育セミナーにおいて、本ガイドライン作成委員会委員長を務めた中嶋 秀人氏(日本大学医学部内科学系神経内科学分野 主任教授)が「細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026の改訂のポイント」と題して講演を行った。講演レポートとして、前編では「細菌性髄膜炎」、後編では「単純ヘルペス脳炎」について、2回にわたって紹介する。ガイドライン改訂の主なポイント【細菌性髄膜炎】初期の経験的治療(エンピリックセラピー)のレジメン変更と迅速性 今回の改訂では、経験的治療の薬剤選択が見直された。髄液由来肺炎球菌では第3世代セフェム耐性率・メロペネム(MEPM)耐性率がともに上昇傾向にあり、2023年のJANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)データではMEPM耐性率が18.2%に上昇している。一方でバンコマイシン(VCM)は感性を維持している。そのため、第3世代セフェム(セフォタキシム[CTX]/セフトリアキソン[CTRX])またはMEPMのいずれを用いる場合もVCMを併用することが推奨され、年齢・免疫状態に応じた迅速な薬剤選択が求められる。年齢・免疫状態別のレジメン例・免疫正常(16〜49歳):肺炎球菌(60%以上)、髄膜炎菌 第3世代セフェム(CTXまたはCTRX)+VCM MEPM+VCM ・免疫正常(50歳以上):肺炎球菌が最多。リスクの高まるリステリア菌をカバーするためABPCを追加 アンピシリン(ABPC)+第3世代セフェム(CTXまたはCTRX)+VCM MEPM+VCM ・慢性消耗疾患・免疫不全:肺炎球菌・リステリア菌に加え、グラム陰性桿菌(GNR)やMRSAも考慮 ABPC+セフタジジム(CAZ)+VCM MEPM+VCM ・頭部外傷後・外科手術後:ブドウ球菌に加え、緑膿菌を含むGNRを考慮 MEPM+VCM CAZ+VCMTime is Brainの原則 細菌性髄膜炎は「Time is Brain」の病態であり、病院到着から1時間以内の抗菌薬投与開始を目標とする。頭部CTや腰椎穿刺によって投与が遅れる場合は、検査の完了を待たずに抗菌薬を先行投与する。なお、古典的三徴(発熱・項部硬直・意識障害)が揃う例は成人全体でも33%にすぎず、とくに高齢者では発熱が目立たないことや、意識障害が認知症・せん妄と誤認されやすいことから、厳重な警戒を要する。デキサメタゾン併用による炎症反応の抑制 炎症抑制による予後改善のため、すべての成人患者にデキサメタゾンの併用(最初の抗菌薬投与の前または同時開始、4日間)が推奨される。死亡率・神経学的後遺症・聴力障害の減少が期待できる。ただし、起炎菌が肺炎球菌・インフルエンザ菌以外なら中止し、とくにリステリアが起炎菌として判明した場合は死亡率悪化のエビデンスがあるため直ちに中止する。診断技術のアップデート:FilmArray髄膜炎・脳炎パネル 約1時間で主要病原体14種を同定できるマルチプレックスPCR遺伝子検査「FilmArray髄膜炎・脳炎パネル」が2022年10月に保険収載され、診断フローに位置づけられた。従来は培養検査やグラム染色の結果判明まで数日を要していたが、本検査による迅速な病原体同定は、経験的に開始したアシクロビル(ACV)の投与期間短縮など医療資源の適正使用に寄与する。起炎菌・感受性が判明した後は、速やかに狭域スペクトラムの抗菌薬へ変更する(De-escalation)。FilmArray検査のピットフォール 一方で、FilmArray検査には実臨床上の限界(ピットフォール)があり、結果は臨床症状・髄液所見と合わせて総合的に判断する必要がある。細菌性髄膜炎では、本検査で薬剤感受性(耐性菌の有無)が判別できないため、培養検査・グラム染色を省略せず必ず並行して実施しなければならない。また、結核菌はパネルに含まれず、院内感染や基礎疾患を有する例、脳外科術後の髄膜炎例には不向きである点にも注意を要する。抗補体薬を使用する患者への対応 重症筋無力症や視神経脊髄炎スペクトラム障害など神経疾患への抗補体薬(C5阻害薬:エクリズマブ、ラブリズマブ、ジルコプランなど)の適応拡大を反映し、抗補体薬使用患者への対応が新設された。抗補体薬使用患者では侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)のリスクが1,000〜2,000倍に上昇し、劇症型を呈しうる。本邦のIMD致命率は10〜12%と高く、発症から24〜48時間で致命的合併症を来しうるため、予防と早期対応がきわめて重要である。投与開始の2週間前までに4価髄膜炎菌ワクチン(販売名:メンクアッドフィ)を接種する(B群髄膜炎菌は本ワクチンの対象外で、B群ワクチンは国内未承認)。発熱時には髄膜炎症状がなくてもIMDを念頭に血液培養2セットを採取し、結果を待たずに第3世代セフェム(CTRXなど)を直ちに開始する。(後編「単純ヘルペス脳炎」に続く)

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未就学児の急性喘鳴へのアジスロマイシン、症状改善せず/NEJM

 救急外来を受診した中等度~重度の急性喘鳴を呈する未就学児において、アジスロマイシンはプラセボと比較して喘鳴関連症状を改善しなかった。米国・アリゾナ大学のKurt R. Denninghoff氏らPECARN AZ-SWED Trial Study Groupが、米国のPediatric Emergency Care Applied Research Network(PECARN)に加盟している小児救急外来8施設で実施した無作為化プラセボ対照試験「Azithromycin Therapy in Preschoolers with a Severe Wheezing Episode Diagnosed at the Emergency Department trial:AZ-SWED試験」の結果を報告した。喘鳴を伴う疾患は未就学児の入院の主な原因であり、また、抗菌薬による治療がしばしば行われている。観察研究では、喘鳴を繰り返す小児では喘鳴のない小児と比較し、鼻咽頭検体から3種類の病原性細菌(肺炎連鎖球菌、モラクセラ・カタラーリス、インフルエンザ菌)が高頻度に分離されることが示されていた。NEJM誌オンライン版2026年5月18日号掲載の報告。喘鳴で救急外来を受診した未就学児をアジスロマイシン群とプラセボ群に無作為化 研究グループは、救急外来を受診した中等度~重度の呼気性喘鳴(小児呼吸器評価尺度[Pediatric Respiratory Assessment Measure:PRAM]スコア4以上[スコア範囲:0~12、高スコアほど喘鳴が重度])の月齢18~59ヵ月児を、アジスロマイシン群またはプラセボ群に無作為に割り付け、1回12mg/kgを盲検下で1日1回5日間投与した。 主要アウトカムは、無作為化後5日間の幼児喘息発作日誌「Asthma Flare-up Diary for Young Children(ADYC)」スコアの合計スコアであった。ADYCは、17の質問(各質問のスコアは1~7で評価、高得点ほど喘鳴関連症状が重度であることを示す)から成り、1日のADYCスコアは、各質問の平均スコアとして算出。主要アウトカムとしたADYC合計スコアはその5日分の合計スコアで、想定されるスコア範囲は5~35であった。 副次アウトカムは、救急外来滞在時間、入院期間、および72時間以内の再受診(救急外来再受診または入院)とした。 投与前に病原性細菌が検出された患者については、無作為化後5~8日および14~21日の間に追跡調査を行い、細菌の有無と抗菌薬耐性を検査した。 有効性は、3種の病原性細菌検査で少なくとも1種について陽性であった患者(陽性コホート)と陰性であった患者(陰性コホート)で別々に評価した。喘鳴関連症状に関するADYCスコア、アジスロマイシン群9.59 vs.プラセボ群9.72 2021年9月~2024年12月に840例が登録され無作為化された。このうち、521例(62.0%)が病原性細菌陽性、312例(37.1%)が陰性、7例(0.8%)は不明であった。 事前に計画された中間解析の結果に基づき、データ安全性監視委員会は無益性のため本試験を中止した。 5日間のADYC合計スコアは、陽性コホートおよび陰性コホートのいずれにおいても、アジスロマイシン群とプラセボ群で有意差は認められなかった。ADYC合計スコアの中央値は陽性コホートでそれぞれ、9.59(四分位範囲[IQR]:7.29~12.60)vs.9.72(7.66~12.17)(p=0.70)、および陰性コホートで9.30(IQR:6.97~11.62)vs.9.10(7.19~11.45)(p=0.69)であった。 陽性コホートでは、細菌消失率はアジスロマイシン群で58.7%、プラセボ群で11.4%であった。 副次アウトカムも両コホートにおいて両群で類似しており、細菌耐性や有害事象の発現率も同様であった。

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頭皮から脳内にウジ虫が侵入した1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第307回

頭皮から脳内にウジ虫が侵入した1例「異物論文専門医」として毎日PubMedを眺めていて気付いたことがあるのですが、最近、寄生虫が体内を移動した、虫が臓器内に入り込んだ、といった論文が増えています。もしかして、この類の論文はアクセプト率が高いのではないかと愚考しております。異物論文のタイトルの最初に「Fatal」がついていると、これは世にも恐ろしい論文なのだろうと思い、手を震わせながら読んでいます。Togni Filho PHA, et al. Fatal cerebral myiasis secondary to squamous cell carcinoma: case report and scoping review. Rev Inst Med Trop Sao Paulo. 2026;68:e10.「蠅蛆症(ようそしょう、ハエウジ症:myiasis)」をご存じでしょうか。これはハエの幼虫、つまりウジ虫が生きた人間の体に寄生してしまう疾患です。皮膚や創傷に湧く皮膚蝿蛆症が大半ですが、まれに眼・耳・鼻・消化管・泌尿器にまで侵入することがあります。おえっぷ……書いていて気持ち悪くなってきました。今回ご紹介するのは、その中でも世界的にきわめてまれな「脳蝿蛆症」の症例報告です。1939年の初報告以来、世界でわずか20例しか報告されていなかった病態で、今回ブラジルから報告された症例が世界21例目となります。ブラジルのカタンドゥヴァで報告された症例です。78歳男性、独居、既往は高血圧のみ。「食欲がない、吐く、熱が出た」と訴えて家族に連れられて救急外来を受診しました。ところが診察すると、頭皮の左前頭部に7×8cmの潰瘍があったのです。潰瘍底は壊死に陥っており、強烈な悪臭、膿汁が滲み、そ、そ、そ、そしてウジが大量にうごめいていました。いやあああああああ!!!!本人いわく「この傷、1年くらいかけてだんだん大きくなったんだよね」。1年放置していたわけです。いや、ウジが湧いてますよ!頭部CTを撮ってみると、ただの皮膚病変ではありません。前頭骨が溶けてなくなっており、頭蓋内に空気が入り込んでいました。気脳症というやつです。つまりウジは、皮膚から皮下、骨を貫通して、髄膜のすぐそばまで達していたのです。治療チームはまずピンセットでウジを1匹ずつ除去し、生理食塩水で洗浄、ヨードホルムガーゼで覆い、セフトリアキソンを開始しました。ところが第9病日、患者さんの意識レベルが低下。再びCTを撮ると、前頭葉と頭頂葉に脳炎と膿瘍形成を認めました。緊急で開頭デブリードマンを実施し、壊死組織を徹底的に除去。ここで提出した病理組織から、驚きの結果が返ってきます。「中分化型扁平上皮がんの骨浸潤、および急性骨髄炎」つまりこの1年放置されていた頭皮潰瘍は、ただの傷ではなく皮膚がんだったわけです。そして膿の培養からは多剤耐性緑膿菌が検出されました。抗菌薬を強化しましたが、患者さんは意識を取り戻すことなく緩和ケアに移行し、最終的に亡くなられました。今回は扁平上皮がんでしたが、放置された皮膚潰瘍が悪性腫瘍であったというのは、皮膚科・形成外科領域では珍しくありません。大量にウジが湧いているときは、先生方も今回の症例を思い出してください。

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FAST試験:迅速抗菌薬感受性試験は菌血症患者の予後を改善するのか(解説:小金丸 博氏)

 グラム陰性菌菌血症に対する迅速抗菌薬感受性試験(迅速AST)の臨床的有用性を検証したランダム化比較試験がJAMA誌オンライン版2026年4月18日号に報告された。本研究の目的は、血液培養陽性後に迅速な表現型感受性試験を導入することで、患者予後が改善するかを明らかにする点にあった。 従来の感受性試験では、菌の同定から感受性結果の判明まで通常1~2日を要する。一方、本研究で用いられた迅速ASTは、陽性血液培養ボトルから直接感受性を測定することで、より早期に抗菌薬選択を最適化することが期待できる。研究は薬剤耐性菌頻度の高いギリシャ、インド、イスラエル、スペインの7施設で実施された。約900例が登録され、迅速AST群と標準AST群に割り付けられた。 主要評価項目にはDOOR(Desirability of Outcome Ranking)が採用された。これは死亡のみではなく、有害事象、再入院、治療失敗、多剤耐性菌獲得などを統合的に評価する新しいアウトカム指標であり、より患者中心の解釈が可能となる。 結果として、迅速AST群は抗菌薬調整までの時間を有意に早めた。とくにカルバペネム耐性菌感染症では、有効抗菌薬投与開始までの時間が大幅に短縮された。しかし、30日死亡率、入院期間、DOORなどの主要臨床アウトカムには統計学的有意差が認められなかった。すなわち、「診断速度の向上」が必ずしも「患者予後の改善」には直結しなかったのである。 本研究の価値は、迅速診断に対する期待に対し、ランダム化比較試験という高いエビデンスレベルの方法で現実的な解答を示した点にある。これまで同分野は、観察研究やbefore-after studyが中心であり、本研究は数少ないランダム化比較試験として重要性が高い。また、薬剤耐性を遺伝子検査ではなく表現型ASTを評価した点も特徴の1つである。遺伝子検査は既知の耐性遺伝子しか検出できない一方、表現型ASTは実際の菌の増殖抑制を評価するため、未知の耐性機序にも対応可能である。 さらに本研究は「迅速診断」のみでは限界があることを示唆した。感染症診療では、source control、集中治療、宿主因子、抗菌薬適正使用支援など多くの要素が転帰に影響する。そのため迅速ASTの価値は、全例への一律導入ではなく、薬剤耐性菌高リスク患者への選択的適用や抗菌薬適正使用支援との統合にあると考えられる。本研究は、感染症診断技術の有効性を実践的に評価した意義のある論文であると考える。

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広域抗菌薬が投与された肺炎患者の予後は?/感染症学会・化学療法学会

 市中肺炎(CAP)では、緑膿菌などを想定した広域抗菌薬が経験的に使用されることがある。実際に、本邦の研究において全CAP患者の27.4%に抗緑膿菌薬が投与されており、そのうち97.3%が潜在的に不必要な投与であったことが報告されている1)。また、β-ラクタム系薬が投与された耐性菌リスクの低いCAP患者において、β-ラクタム系薬の抗緑膿菌作用の有無別に臨床転帰を後ろ向きに検討した結果、抗緑膿菌作用のあるβ-ラクタム系薬を用いた群は、30日死亡率が有意に高かったことも報告されている2)。 そこで、市中発症肺炎(CAPおよび医療・介護関連肺炎[NHCAP])に対する広域抗菌薬投与の有益性を検討することを目的として、多施設共同後ろ向き観察研究が実施された。その結果、喀痰培養が提出された市中発症肺炎患者の30.9%に抗緑膿菌作用を有する広域抗菌薬が投与されており、広域抗菌薬を使用した群で入院死亡および入院肺炎死亡のオッズが有意に高かった。2026年5月22~24日に開催された第100回日本感染症学会総会・学術講演会/第74回日本化学療法学会総会 合同学会において、岩永 直樹氏(長崎大学病院 呼吸器内科)が本結果を報告した。 本研究は、2017~19年に長崎大学病院を含む関連7施設で実施された多施設共同後ろ向き観察研究である。解析対象は、CAPまたはNHCAPとして治療された市中発症肺炎患者1,907例中、喀痰培養検査が実施された1,542例とした。対象患者を広域抗菌薬群と狭域抗菌薬群に分類し、患者背景、死亡、入院期間、治療期間などを比較した。また、広域抗菌薬群におけるde-escalation実施の有無別にみたサブグループ解析も行った。なお、広域抗菌薬は「グラム陽性菌からグラム陰性菌(緑膿菌を含む)までカバーする抗菌薬」と定義した。 主な結果は以下のとおり。・喀痰培養が提出された1,542例のうち、広域抗菌薬が投与されたのは476例(30.9%)であった。・初期治療薬の割合は、広域抗菌薬群でタゾバクタム・ピペラシリン(68%)が最も多かった。次いでレボフロキサシン(16%)、カルバペネム系抗菌薬(10%)が使用されていた。狭域抗菌薬群では、スルバクタム・アンピシリン(63%)が最も多く、次いでセフトリアキソン(22%)が使用されていた。・広域抗菌薬が投与されやすい患者背景として、単変量解析では男性、NHCAP、PS不良、長期療養病床からの入院、ステロイドまたは免疫抑制薬の使用、90日以内の血管内治療歴、90日以内の入院歴、A-DROP高値が挙げられた。・同様に単変量解析において、併存疾患として間質性肺炎、気管支拡張症、非結核性抗酸菌症、血液がん、臓器移植歴などを有する患者で、広域抗菌薬が投与されやすい傾向がみられた。・多変量解析では、男性、長期療養病床からの入院、A-DROP 3点以上、間質性肺炎、気管支拡張症、非結核性抗酸菌症、血液がんが広域抗菌薬投与と有意に関連する因子として抽出された。・傾向スコアを用いた逆確率重み付け法による解析において、入院死亡のオッズが広域抗菌薬群で有意に高かった(調整オッズ比[aOR]:1.30、95%信頼区間[CI]:1.00~1.69、p=0.0473)。広域抗菌薬群は入院肺炎死亡のオッズも有意に高かった(同:1.65、1.11~2.03、p=0.0076)。・入院生存例のみを対象としたサブグループ解析では、入院期間および抗菌薬治療期間が広域抗菌薬群で有意に長かった(いずれもp<0.0001)。・広域抗菌薬群476例のうち、de-escalationが実施されたのは116例(24.4%)、実施されなかったのは360例(75.6%)であった。de-escalation実施の有無で患者背景を比較したところ、有意差のある項目はなかった。・de-escalationの有無で予後を比較すると、傾向スコアを用いた逆確率重み付け法による解析において、入院肺炎死亡のオッズがde-escalation実施群で有意に低かった(aOR:0.54、95%CI:0.33~0.89、p=0.0138)。 de-escalation実施群で入院肺炎死亡のオッズが有意に低下していたことについて、岩永氏は「de-escalationを実施した患者は、臨床経過が良いという主治医の判断のもとでde-escalationを実施していると考えられ、そのことが結果に反映されている可能性がある」と考察した。

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