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画像を拡大するTake home message糖尿病性足壊疽の治療期間は、外科的介入の有無とその程度により決定する。糖尿病性足壊疽(Diabetic Foot Infection)は、糖尿病患者において一般的かつ重要な合併症です。感染が深部まで波及し、骨髄炎を合併するケースもあり、適切な治療期間の判断は臨床経過と予後に直結します。実際の治療期間は、感染の深さ、外科的処置の内容、組織の血流状態、病原体の同定、宿主因子など、複数の要素を加味して決定されます。糖尿病性足壊疽の抗菌薬治療期間については、明確なエビデンスは限られていますが、これまでの研究と専門家のコンセンサスを基に、柔軟かつ個別性のある判断が求められます。ここでは、主に感染の深さと外科的介入の有無に基づいて、抗菌薬治療期間の目安を整理していきましょう。パターン1)骨髄炎あり・手術介入なし(6週間)骨髄炎(osteomyelitis)が存在しながら、手術やデブリードマンが行われていない場合、原則として6週間の抗菌薬治療が推奨されます。これは、骨組織への薬剤到達が困難であり、完全に感染を除去するためには長期間の治療が必要とされるためです。培養感受性に基づいた適切な抗菌薬の選択が必要です。パターン2)骨髄炎あり・デブリードマン介入あり(切断なし)(3~6週間)外科的デブリードマンにより感染組織が部分的に除去されているが、根治的切断には至っていない場合は、3~6週間の治療が推奨されています。近年、3週間と6週間の治療を比較したランダム化比較試験において、明確な差を認めなかったことから、感染制御状況や創部の治癒経過によっては短縮可能な症例があることが示唆されています。ただし、治療期間の短縮には慎重な判断と十分な経過観察が必要です。パターン3)骨髄炎なし・皮膚軟部組織感染症のみ(10~21日)感染が骨に波及しておらず、皮膚や皮下組織・筋膜などの軟部組織感染症のみである場合、10~21日間の抗菌薬治療が標準的とされています。2021年の研究では、10日間と21日間の治療を比較したところ、重症でない症例においては10日間の短期療法でも良好な臨床成績が得られたことが報告されています。ただし、感染の重症度や全身状態、創部の大きさによって、柔軟に調整する必要があります。パターン4)皮膚軟部組織感染症あるいは骨髄炎・根治的足切断あり(0~48時間)感染部位が完全に切除された、いわゆる根治的切断(definitive amputation)が行われた場合、抗菌薬の投与期間はきわめて短く、0~48時間で済むことがあります。これは、感染源の除去が完全であると判断された際の周術期抗菌薬投与に相当し、治療というよりも予防的意味合いが強いケースに該当します。ただし、術中の所見や培養結果、病理検査に基づいて再評価が必要です。感染が残存している可能性がある場合には、より長期間の治療が必要になるため、術中診断が鍵を握ります。糖尿病性足壊疽の治療期間は一律ではなく、感染の深さ、外科的介入、病態の安定性に応じて個別化されたアプローチが求められます。抗菌薬の使い過ぎによる耐性菌出現や、逆に短すぎる治療による再発のリスクを避けるためにも、これまでの臨床試験と専門家のコンセンサスを理解したうえで、治療方針を柔軟に調整することが大切です。1)Lipsky BA, et al. Clin Infect Dis. 2012;54:e132-e173.2)Rossel A, et al. Endocrinol Diabetes Metab. 2019;2:e00059.3)Tone A, et al. Diabetes Care. 2015;38:302-307.4)Gariani K, et al. Clin Infect Dis. 2021;73:e1539-e1545.5)Pham TT, et al. Ann Surg. 2022;276:233-238.6)Cortes-Penfield NW, et al. Clin Infect Dis. 2023;77:e1-e13.