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HEPAフィルター空気清浄機により新型コロナウイルス除去に成功/東大

 東京大学医科学研究所と国立国際医療研究センターは、8月23日付のプレスリリースで、河岡 義裕氏らの研究により、HEPAフィルターを搭載した空気清浄機を用いることで、エアロゾル中に存在する感染性の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を経時的に除去できることが実証されたことを発表した。なお本結果は、mSphere誌オンライン版8月10日号に掲載された。 本研究は、東京大学と進和テックの共同で行われた。本研究に用いられたHEPA(high-efficiency particulate air)フィルターは、米国環境科学技術研究所の規格(IEST-RP-CC001)で、0.3μmの試験粒子を99.97%以上捕集可能なフィルターとして定義されている。HEPAフィルターのろ過効果を検証するため、コンプレッサーネブライザーでSARS-CoV-2エアロゾルを試験チャンバー内に噴霧して満たした後、HEPAフィルター搭載の空気清浄機を毎時12回換気の風量で5分間、10分間、35.5分間稼働させた。所定の稼働時間後、チャンバー内のSARS-CoV-2エアロゾルをエアサンプラーで採取し、プラークアッセイを用いて、サンプル中の感染性ウイルス力価を測定した。さらに、1価の銅化合物を主成分とし、活性酸素を発生させてフィルター面に付着したウイルスを不活性化することができる抗ウイルス剤のCufitec®を塗布したHEPAフィルターを用いた場合でも、同様の条件で感染性ウイルス力価を測定した。 主な結果は以下のとおり。・HEPAフィルターによるウイルス除去率は、5分間、10分間、35.5分間の稼働時間で、それぞれ85.38%、96.03%、>99.97%だった。空気清浄機の稼働時間の経過とともに、ウイルス除去率が高くなることがわかった。・抗ウイルス剤Cufitec®を塗布したHEPAフィルターを用いた場合では、通常のHEPAフィルターとほぼ同等のウイルス除去率が認められた。 研究チームは本結果について、空間中のSARS-CoV-2を除去するためには、HEPAフィルター付き空気清浄機を室内の適切な場所に設置し、風量や風向きを適宜調整するなど適正に使用することが重要だとしている。また、HEPAフィルター付き空気清浄機を室内の換気と併用することで、より短時間で効率的に空間中のSARS-CoV-2を除去することが可能になり、さらに、抗ウイルス剤を塗布したHEPAフィルターを空気清浄機に取り付けることで、フィルターを交換する際の曝露リスクを減らせる可能性があると述べている。

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エバシェルドの追加など、コロナ薬物治療の考え方14版/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:四柳 宏氏)は、8月30日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬について指針として「COVID-19に対する薬物治療の考え方第14版」をまとめ、同会のホームページで公開した。 今回の改訂では、チキサゲビマブ/シルガビマブ(商品名:エバシェルド)の追加、治療薬の削除など整理も行われたほか、最新の知見への内容更新が行われた。 以下に主な改訂点について内容を抜粋して示す。全体の考え方について【2 使用にあたっての手続き】・チキサゲビマブ/シルガビマブとバリシチニブを追加【3 抗ウイルス薬等の対象と開始のタイミング】・「図 COVID-19の重症度と治療の考え方」の注釈を改訂。・「2 主な重症化リスク因子」で65歳以上の高齢者、悪性腫瘍、COPDなどの慢性呼吸器疾患、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、脂質異常症、心血管疾患、脳血管疾患、肥満(BMI 30kg/m2以上)、喫煙、固形臓器移植後の免疫不全、妊娠後期など内容を改訂。・「3」で「一般に、重症化リスク因子のない軽症例では薬物治療は推奨しない」と改訂。・「表1 軽症~中等症I」で治療薬の使用を優先させるべきリスク集団を追加。・「4 抗ウイルス薬等の選択」で知見より「高齢者、複数の重症化リスク因子がある患者、ワクチンの未接種者などでは症状が進行しやすいことを踏まえ、患者ごとの評価において、中等症への急速な病状の進行など、非典型的な臨床経過の症例や免疫抑制状態などの重症化リスクが特に高い症例などでは、併用投与または逐次投与の適応を考慮する」と表現を改訂。個々の治療薬について【抗ウイルス薬】・レムデシビル(商品名:ベクルリー)の「投与時の注意点」で「7)2022年1月21日の中央社会保険医療協議会(中医協)において、保険医の指示の下で看護師による在宅・療養施設等の患者へのレムデシビル投与が可能となった」を追加。・モルヌピラビル(同:ラゲブリオ)の「入手方法」で「2022年8月18日に薬価収載されたことから、今後、一般流通の開始およびそれに伴う国購入品と一般流通品の切替えが行われる見込みである」を追加。・ニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッドパック )の「国内外での臨床報告」で「10万9,254例の後方視コホート研究(65歳以上の高齢者ではニルマトレルビルの治療介入により入院の有意なリスク減少を認めた(HR:0.27、95%CI:0.15~0.49)。一方で40~64歳では、有意なリスク減少を認めなかった (HR:0.74、95%CI:0.35~1.58)を追加。また、投与時の注意点に「5)新型コロナウイルスワクチンの被接種者は薬剤開発のための臨床試験で除外されているが、市販後の評価では、高齢者での重症化予防などの有効性が示唆されている」を追加。そのほか、投与時の腎機能の評価の詳細についても追加。・ファビピラビルの項目は削除。【中和抗体薬】・「チキサゲビマブ/シルガビマブ(同:エバシェルド)」を新しく追加。〔国内外での臨床報告〕重症化リスク因子の有無を問わない、軽症~中等症IのCOVID-19外来患者822人を対象としたランダム化比較試験では、発症から7日以内のチキサゲビマブ/シルガビマブの単回筋肉内投与により、プラセボと比較して、COVID-19の重症化または全死亡が50.5%(4.4%対8.9%、p=0.010)有意に減少したなどを記載。〔投与方法〕・発症後通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブおよびシルガビマブとしてそれぞれ300mgを併用により筋肉内注射。・曝露前の発症抑制通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブおよびシルガビマブとしてそれぞれ150mgを併用により筋肉内注射する。なお、SARS-CoV-2変異株の流行状況などに応じて、それぞれ300mgを併用により筋肉内注射することもできる。〔投与時の注意点〕オミクロン株(BA.4系統及びBA.5系統) については、本剤の有効性が減弱するおそれがあることから、他の治療薬が使用できない場合に本剤の投与を検討することなど。〔発症後での投与時の注意点〕1)臨床試験における主な投与経験を踏まえ、COVID-19の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行うこと。2)他の抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体が投与された高流量酸素または人工呼吸管理を要する患者において症状が悪化したとの報告がある。3)COVID-19の症状が発現してから速やかに投与すること。4)重症化リスク因子については、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」などにおいて例示されている重症化リスク因子が想定。〔発症抑制での投与時の注意点〕1)COVID-19の予防の基本はワクチンによる予防であり、本剤はワクチンに置き換わるものではない。2)COVID-19患者の同居家族または共同生活者などの濃厚接触者ではない者に投与すること。COVID-19患者の同居家族または共同生活者などの濃厚接触者における有効性は示されていない。3)本剤の発症抑制における投与対象は、添付文書においては、COVID-19に対するワクチン接種が推奨されない者または免疫機能低下などによりCOVID-19に対するワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある者とされているが、原発性免疫不全症、B細胞枯渇療法を受けてから1年以内の患者など免疫抑制状態にある者が中和抗体薬を投与する意義が大きいと考えられる。4)3)の投与対象者については、チキサゲビマブ/シルガビマブを用いた発症抑制を行うことが望ましいと考えらえる。〔入手方法〕本剤は、安定的な入手が可能になるまでは、一般流通は行われず、厚生労働省が所有した上で、発症抑制としての投与について、対象となる免疫抑制状態にある者が希望した場合には、医療機関からの依頼に基づき、無償で譲渡される。・カシリビマブ/イムデビマブ(同:ロナプリーブ)とソトロビマブ(同:ゼビュディ)の「投与時の注意点」として「1)オミクロン株(B1.1.529系統/BA.2系統、BA.4系統およびBA.5系統) では本剤の有効性が減弱するおそれがあることから、他の治療薬が使用できない場合に投与を検討する」を追記。【免疫調整薬・免疫抑制薬】・シクレソニド(国内未承認薬)の項目を削除。【その他】・その他の抗体治療薬(回復者血漿、高度免疫グロブリン製剤)の項目を削除。・附表1と2の「重症化リスクを有する軽症~中等症IのCOVID-19患者への治療薬の特徴」の内容を更新。・参考文献を52本に整理。 なお、本手引きの詳細は、同学会のサイトなどで入手の上、確認いただきたい。■関連記事ゾコーバ緊急承認を反映、コロナ薬物治療の考え方第15版/日本感染症学会

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高血圧患者はオミクロン株感染時の入院オッズ比が2倍以上

 高血圧患者が新型コロナウイルスのオミクロン株に感染し発症した場合、入院に至るオッズ比が2倍以上高いというデータが報告された。米シダーズ・サイナイ医療センター、シュミット心臓研究所のJoseph Ebinger氏らの研究によるもので、結果は「Hypertension」に7月20日、レターとして掲載された。研究対象者は全員が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの追加接種を受けていたという。Ebinger氏は、「高血圧患者はオミクロン株によるCOVID-19を発症した場合には入院リスクが高いという認識のもと、抗ウイルス療法の具体的な内容について医師と相談すべき」と話している。 COVID-19の原因ウイルスがオミクロン株に置き換わって以降、ワクチンの追加接種が済んでいるにもかかわらずCOVID-19を発症し入院を要する人が増加している。Ebinger氏らは、オミクロン株罹患による入院のリスク因子を特定するため、電子カルテ情報を用いた後方視的研究を実施した。 南カリフォルニア地方でオミクロン株による最初のパンデミックが発生していた2021年12月1日~2022年4月20日に、PCR検査によりCOVID-19と診断され、かつワクチンの追加接種の記録のある912人(平均年齢56±19歳、男性41%、高血圧54%)を解析対象とした。この対象のうち145人(15.9%)が入院治療を要していた。 多変量解析の結果、COVID-19による入院と独立して関連する因子として、高齢〔10歳あたりのオッズ比(OR)1.33(95%信頼区間1.14~1.57)〕、慢性腎臓病〔OR2.16(同1.26~3.70)〕、心筋梗塞または心不全〔OR2.21(1.29~3.77)〕、ワクチン接種からの経過日数〔10日あたりOR1.07(1.03~1.12)〕とともに、高血圧〔OR2.29(1.24~4.32)〕が抽出され、高血圧患者のオッズ比は2倍以上に及んだ。一方、糖尿病や肥満、男性などは有意な関連がなく、また降圧薬(ACE阻害薬やARB)の使用も有意な関連がなかった。 論文の上席著者である同研究所所長のSusan Cheng氏は、「高血圧患者はオミクロン株感染によってCOVID-19を発症した際に入院を要することが多いという事実に驚いた。米国成人のほぼ半数は高血圧であることから、この結果は憂慮される」と述べている。 本研究では前述のように、パンデミック初期に重症化リスク因子として注目されていた糖尿病や肥満は、COVID-19入院と有意な関連が示されなかった。しかし、慢性腎臓病(CKD)や心疾患は有意な関連があった。Ebinger氏は、「CKDや心疾患がCOVID-19の重症化に関与することは既に明らかになっている」と語っている。なお、研究グループでは、CKDや心疾患のない患者でのサブグループ解析も行っている。その結果、高血圧の存在は依然としてCOVID-19入院と有意に関連しており、より高いオッズ比が示された〔OR2.64(1.32~5.37)〕。 まとめると、オミクロン株への感染後の重症化には、従来から知られている加齢や心疾患などとともに、ワクチン接種から時間が経過していること、および高血圧を有していることが関係していた。著者らは、「高血圧患者がオミクロン株に感染した場合には、COVID-19が重症化しやすい可能性がある。そのメカニズムを理解するには、さらなる研究が必要」と述べている。またCheng氏は、「高血圧がCOVID-19重症化に関連している理由を明らかにすることは、新型コロナウイルスが体にどのような影響を与えるかをより深く理解し、COVID-19の予防と治療の明確な標的を特定するために役立つのではないか」と付け加えている。

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サル痘に対する経口抗ウイルス薬tecovirimat、忍容性は良好/JAMA

 サル痘の世界的な流行で、2022年8月18日時点で3万9千人以上の患者が報告されており、患者の13%が入院を必要としているという。2018年に、天然痘に対する抗ウイルス薬として米国食品医薬品局(FDA)に承認されたtecovirimat(商品名:TPOXX、SIGA Technologies製)が、サル痘にも有効とされている。tecovirimatの有効性は、in vitroで天然痘とサル痘の両方に対する活性が示されており、健康成人での試験で良好な臨床安全性プロファイルが確認されている。米国・カリフォルニア大学Davis Medical CenterのAngel N. Desai氏らは、コンパッショネート・ユースに基づいてtecovirimatの治療を受けたサル痘患者の非対照コホート研究を行い、有害事象と全身症状および病変の臨床的改善を評価した。その結果、副作用もほとんどなく、高い忍容性が認められたという。JAMA誌オンライン版2022年8月22日号リサーチレターに掲載。tecovirimat投与7日目に40%で病変が完全に消失 2022年6月3日~8月13日の期間に、サクラメント郡公衆衛生局を通じて同院に紹介され、播種性疾患もしくは顔や性器等に病変を有する患者で、皮膚病変からオルトポックスウイルス感染が確認された25例に対して、tecovirimatによる治療を実施。患者は、年齢中央値40.7歳(範囲:26~76歳)、すべて男性で、9例がHIVに感染しており、1例が25年以上前に天然痘ワクチンを接種済み、4例が症状発現後に天然痘/サル痘ワクチン(商品名:JYNNEOS)の接種を1回受けていた。患者の体重により、食後30分以内に8時間または12時間ごとにtecovirimatを経口投与した。治療期間は14日間で、患者の臨床状態に応じて延長することとした。 サル痘に対する抗ウイルス薬tecovirimatを評価した主な結果は以下のとおり。・全身症状、病変、またはその両方が平均12日間持続して認められた(範囲:6~24日)。全身症状として、発熱19例(76%)、頭痛8例(32%)、疲労7例(28%)、咽頭痛5例(20%)、悪寒5例(20%)、腰痛3例(12%)、筋肉痛2例(8%)、悪心1例(4%)、下痢1例(4%)などが見られた。・23例(92%)に性器/肛門周囲の病変があり、13例(52%)には全身に10個未満の病変があった。全例に病変に伴う疼痛があった。・治療期間は24例が14日間、1例のみ21日間だった。・tecovirimatによる治療開始7日目に10例(40%)で病変が完全に消失し、21日目までに23例(92%)で病変と疼痛が消失したと報告された。・途中で治療を中止した患者はおらず、おおむね良好な忍容性を示した。Tecovirimat投与7日目に最も多く報告された有害事象は、疲労7例(28%)、頭痛5例(20%)、悪心4例(16%)、痒み2例(8%)、下痢2例(8%)だった。 著者は本結果について、tecovirimatは被験者全員に対して副作用を最小限に抑えながら、良好な忍容性を示した一方で、副作用はサル痘感染による症状と必ずしも区別できなかったとし、本研究は対照群が存在しないため、サル痘の症状の持続期間や重症度に関する抗ウイルス効果の評価は限定的だとしている。サル痘発症までの潜伏期間は患者間でばらつきがあり、抗ウイルス薬の使用と疾患の自然経過に関しては慎重に結論付けられるべきで、tecovirimatの効果、投与量、有害事象を明らかにするため、さらなる大規模研究が必要だと述べている。なおtecovirimatは、日本では現時点で未承認となっている。

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断続的断食がCOVID-19重症化リスクを抑制?

 断続的断食が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化リスクを抑制するのではないかとする論文が、「BMJ Nutrition, Prevention and Health」に7月1日掲載された。筆頭著者である、米インターマウンテン心臓血管/遺伝疫学部門の責任者、Benjamin Horne氏は、「断続的断食に関しては既に、炎症や心血管リスクの抑制につながることが示されているが、本研究によって新たなメリットの可能性が明らかになった。断続的断食を長期間続けている人はCOVID-19との戦いに有利かもしれない」と述べている。 この研究は、インターマウンテンの患者データを集積した「INSPIREレジストリ」を用いて行われた。COVID-19に対するワクチンが臨床応用される前の2020年3月~2021年2月にウイルス検査で陽性と判定され、かつ、断続的断食に関する調査に回答していた205人を解析対象とした。このうち73人(35.6%)が月に1回以上、習慣的に断食を行っていた。なお、INSPIREレジストリにはユタ州ソルトレークシティーの住民が多く登録されており、ユタ州の住民の約62%は宗教上の理由から定期的に断食をしている。 解析対象者の平均年齢は63.5±15.1歳、女性37.1%、BMI31.1±7.9であり、糖尿病患者が41.5%を占めていた。これらのパラメーターは、断続的断食の習慣の有無で有意差がなく、また、人種/民族、基礎疾患の有病率なども有意差がなかった。ただし、断続的断食群は、喫煙者や飲酒習慣のある人が少なかった。なお、断続的断食群では平均40.4±20.6年(最大81.9年)、断続的断食を続けていた。 断続的断食群の11.0%、対照群の28.8%に、COVID-19による入院または死亡が発生していた。単変量解析では、断続的断食群で約4割の重症化リスク低下が認められた〔ハザード比(HR)0.61(95%信頼区間0.42~0.90)〕。二つの交絡因子(年齢に加えて、人種、民族、飲酒、喫煙、何らかの基礎疾患などのうちの一つ)を説明変数に加えた多変量解析の結果も、追加した説明変数にかかわらず全ての解析で、断続的断食群での有意な重症化リスク低下が認められた。また、三つの交絡因子(年齢と民族に加えて、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、腎不全のいずれかの既往)を説明変数に加えた多変量解析の結果も同様だった。 断続的断食群のCOVID-19重症化リスクが低いことの理由についてHorne氏は、「正確なことは不明であり、より多くの研究が必要」とした上で、三つのメカニズムを考察として述べている。その一つは、COVID-19重症化を促す炎症が、断続的断食により抑制されるというもの。 もう一つのメカニズムは、体のエネルギー源が12〜14時間の絶食後に、糖からリノール酸などの脂質を基に産生されるケトン体に切り替わることに関係している。新型コロナウイルスの表面にはリノール酸と結合するポケット構造が存在するため、断食によりリノール酸濃度が上昇すると、そのポケットとリノール酸の結合が増えて、ウイルスは他の細胞に付着しにくくなる可能性があるという。また断続的断食によって、ダメージを受けた細胞を分解し再生するプロセスであるオートファジーが亢進することも、COVID-19重症化抑制のメカニズムとして考えられるとのことだ。 なお、本研究の断続的断食群は、断続的断食を数十年続けてきた人たちである。Horne氏は、「これから断続的断食を始めるのであれば、まず医師に相談する必要があり、特に高齢者、妊婦、糖尿病や心臓病、腎臓病などの患者はその点が重要」と強調している。また同氏は、「断続的断食はワクチン接種の代替と見なすべきではなく、COVID-19重症化抑止のためのワクチンと抗ウイルス療法を補完するアプローチと位置付けるべきだろう」と述べている。

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新型コロナのパンデミックで薬剤耐性菌対策が後退

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、それまで前進していた米国の薬剤耐性菌対策を後退させたことが、米疾病対策センター(CDC)がまとめたCOVID-19による薬剤耐性菌への影響に関する報告書から明らかになった。薬剤耐性とは、通常の治療に用いられている抗菌薬や抗ウイルス薬、抗真菌薬などに対して細菌やウイルス、真菌、寄生虫が耐性を獲得し、これらに感染した場合の治療が難しくなる現象のことをいう。 CDCのグループは今回、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大がピークに達した後の薬剤耐性について分析した。その結果、7種類の病原体で薬剤耐性菌の院内感染例が有意に増加しており、2019年から2020年までに全体で15%増加していたことが明らかになった。病原体の種類別の薬剤耐性菌感染の増加率は、カルバペネム耐性アシネトバクターが78%、多剤耐性緑膿菌が32%、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が14%、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が13%だった。 また2020年には、抗真菌薬に対して耐性を示す真菌(抗真菌薬耐性菌)による院内感染例も増加していた。例えば、カンジダ・アウリス(Candida auris)は60%増加し、それ以外のカンジダ属の真菌も26%増加していた。なお、2012年から2017年にかけては、薬剤耐性菌の院内感染例は27%減少していたという。 CDCは、抗菌薬の使用が増加したことや、感染の予防と管理に関するガイドラインの遵守が難しくなったことが、今回明らかになった薬剤耐性菌の感染例の増加をもたらしたのではないかとの見方を示している。また、COVID-19のパンデミックが原因で、こうした医療関連の薬剤耐性菌への感染例が増加した可能性が高いとも指摘している。 CDCの抗菌薬耐性調整・戦略ユニット長のMichael Craig氏は、「この後退は一時的なものである可能性があり、また一時的なものにとどめなくてはならない。われわれが対策を怠れば、薬剤耐性菌の拡大は止まらないことをCOVID-19のパンデミックははっきりと示した。われわれには無駄にできる時間はない」と強調している。そして、「薬剤耐性菌の感染拡大を阻止する最善の方法は、米国民の安全を守るために必要な予防策が不十分な部分を特定し、そこに投資することだ」と主張している。 今回のCDCの報告を受け、米国感染症学会(IDSA)会長のDaniel McQuillen氏は、緊急に対策を講じる必要があると主張する。同氏はIDSAが発表した声明で、「これは、もはや将来の危機ではない。目の前にある危機であり、すぐに対応する必要がある。入院率が高い状況下では常に、対策を講じない限り薬剤耐性菌に関わる感染率と死亡率は上昇する可能性が高い」と指摘している。また、米連邦議会に対して、新たな抗菌薬の開発や抗菌薬の適正使用に向けた取り組みへの資金提供を行う超党派の法案PASTEUR Actを可決するよう求めている。 CDCの報告書によると、COVID-19のパンデミックが始まった年の1年間に、2万9,400人以上の人が医療関連の薬剤耐性菌の感染が原因で死亡していた。しかし、COVID-19パンデミックを受けて医療機関が提供するサービスや診療する患者の数を絞ったりしたことなどから、この点に関しては限定的な情報しか得ることができなかった。このため、実際の薬剤耐性菌感染による死亡例はさらに多い可能性があるという。 研究グループはまた、抗菌薬の適正使用に向けた前進についても、COVID-19のパンデミック初期に、医師たちが発熱や息切れで苦しむ患者たちの治療に、ウイルスに対しては効果のない抗菌薬を用いていたことが原因で阻まれたと説明している。2020年3~10月に入院したCOVID-19患者の約80%に抗菌薬が投与されていたという。 なお、多くの医療機関に薬剤耐性プログラムがあったが、その多くはCOVID-19患者の治療による負担を理由に停止された。特に介護施設ではその傾向が顕著であったという。

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2022-23年シーズンのインフル対策に4つの提言/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:四柳 宏氏[東京大学医科学研究所附属病院長])は、7月26日に同学会のホームページで学会提言として「2022-2023年シーズンのインフルエンザ対策について」(医療機関の方々へ)を公開した。 現在、わが国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第7波の真っただ中であるが、インフルエンザについては、国内でCOVID-19の流行が始まった2020年2月以降、患者報告数は急速に減少していた。しかしながら、2021年後半から2022年前半にかけて、北半球の多くの国ではインフルエンザの小ないし中規模の流行がみられていたことから、感染症学会では今回の提言を行うこととなった。インフルエンザ対策に感染症学会の4つの提言1)2022-2023年シーズンは、インフルエンザの流行の可能性が大きい 北半球冬季のインフルエンザ流行の予測をするうえで、南半球の状況は参考になるが2022年は4月後半から報告数が増加し、例年を超えるレベルの患者数となっており、医療の逼迫が問題となっている。今後、海外からの入国が緩和され人的交流が増加すれば、国内へウイルスも持ち込まれると考えられ、わが国においても、今秋から冬には、同様の流行が起こる可能性がある。 一方、過去2年間、国内での流行がなかったために、社会全体のインフルエンザに対する集団免疫が低下していると考えられる。そのため、一旦感染が起ると、とくに小児を中心に大きな流行となる恐れがある。2)A(H3N2)香港型に注意 オーストラリアで本年度に検出されたインフルエンザウイルスのうち、サブタイプが判明したものでは、約80%はA(H3N2)、約20%がA(H1N1)だった。そのため、今シーズンは、わが国でもA(H3N2)香港型の流行が主体となる可能性がある。 そのため今季のA(H3N2)のワクチン株は、オーストラリアのDarwinで分離された、A/Darwin/9/2021 (H3N2)-like virus, clade 3C.2a1b.2a.2(2a.2)が採用された。3)今季もインフルエンザワクチン接種を推奨 今季に流行が予想されるA(H3N2)香港型に対するワクチンの発病防止効果は未知だが、発症してもワクチンによる一定の重症化防止効果は期待でき、欧州では65歳以上の高齢者においてA(H3N2)感染による入院防止率は37%であったと報告されている。 わが国においても、ワクチンで予防できる疾患については可及的に接種を行い、医療機関への受診を抑制して、医療現場の負担を軽減することも重要となる。よって、今季も例年通りに、小児、妊婦も含めて接種できない特別な理由のある人を除き、できるだけ多くの人にインフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨する。4)例年通りのインフルエンザ診療が必要 今季、発熱患者では、ワクチン接種歴に関わらずCOVID-19とインフルエンザの鑑別が重要となり、また、両者の合併例も考えられる。したがって、外来診療では両方のウイルスを念頭にいれて、PCR、抗原検査、迅速診断などによる確定診断が必要となる。 検査の進め方については、感染症学会からの提言「今冬のインフルエンザと COVID-19 に備えて」や厚生労働省「新型コロナウイルス感染症診療の手引き(最新 第8.0版)」を参照されたい。 インフルエンザと診断されたときは、抗ウイルス薬による治療を検討することとなる。抗ウイルス薬は、インフルエンザの重症化、死亡率を抑制する。重症化のリスクのある人は当然治療の対象だが、リスクを持たない人でも重症化することがあり、その予測は困難である。 治療の実際については、2021年に感染症学会が発表した提言「今冬のインフルエンザに備えて.治療編〜前回の提言以降の新しいエビデンス」を参照されたい。抗ウイルス薬の耐性の状況については、過去2年間に流行がなかったために、今後の動向を見守る必要がある。

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がん治療薬が新型コロナ患者の命を救う可能性

 実験段階のがん治療薬sabizabulinが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の中等症〜重症患者の死亡リスクを約55%低減する可能性のあることが、新たな研究で示された。研究グループは、「この効果は、これまでに承認された薬剤を上回るものだ」と話している。Sabizabulinの開発企業であるVeru社は、米食品医薬品局(FDA)に同薬の緊急使用許可(EUA)を申請しており、承認されれば入院患者の治療選択肢の増加につながる。Veru社のK. Gary Barnette氏らが実施したこの研究結果の詳細は、「NEJM Evidence」に7月6日掲載された。 Sabizabulinは経口の微小管阻害薬で、細胞分裂の際に主要な役割を担う微小管を構成するタンパク質であるチューブリンに結合して、微小管形成を阻害することで効果を発揮する。もともとは、腫瘍細胞間のアクセスを遮断することにより腫瘍の増殖を遅らせるがん治療薬として、米テネシー大学の研究グループにより開発された。しかしこの薬剤が、生命に関わる肺の炎症を軽減させることによりCOVID-19患者にも効果を発揮する可能性があるのだという。 今回の研究では、中等症〜重症のCOVID-19により入院し、酸素投与や人工呼吸器による治療を要する患者204人を、最長で21日間、sabizabulinを毎日9mg投与する群(134人)とプラセボを投与する群(70人)にランダムに割り付けて、60日後までの全死亡率を比較した。対象者は、喘息や重度の肥満、高血圧など、死亡リスクを高める他のリスク因子を有していた。 両群の試験開始時の特徴は似通っていたが、60日後の全死亡率には、sabizabulin投与群で20.2%(19/94人)であったのに対して、プラセボ投与群では45.1%(23/51人)であり、sabizabulin投与群では死亡リスクに55.2%の相対的減少が認められた。 米ミネソタ大学の感染症専門医であるDavid Boulware氏は、「この試験ではプラセボ群の死亡率が驚くほど高い」と指摘する。同氏によると、COVID-19に対する関節炎の治療薬の効果を検証する臨床試験でのプラセボ群の死亡率は8%未満であったという。なお、COVID-19患者の入院予防効果が認められている抗ウイルス薬は、パクスロビドなど少数あるが、発症初期の段階から投与しないと中等症〜重症の患者にはあまり効果がないと専門家たちは指摘している。 一方、アルバータ大学(カナダ)の感染症専門医であるIlan Schwartz氏は、ニューヨークタイムズ紙に対し、「重症患者の死亡率を改善させる治療法はいくつかあるが、さらに効果の高い薬剤があるのなら大歓迎だ」と話す。しかし、今回の研究はサンプルサイズが比較的小さいため、さらに大規模な研究による裏づけが待たれると述べている。 Veru社は、「sabizabulinの効果が極めて高いため、一部の患者にプラセボを投与し続けるのは倫理的に問題があるとの指摘により試験を早期に中止した」と説明している。しかし、Boulware氏は「早期に中止された試験は効果が過大評価されることが多い」と指摘し、「低減効果が55%という点について、私は懐疑的な見方をしている」と述べている。

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BA.4/BA.5に対するコロナ治療薬の効果を比較/NEJM

 国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第7波ではオミクロン株BA.5が主流となり、感染拡大が急速に進んでいる。また海外では、BA.4やBA.2.12.1への置き換わりが進んでいる地域もある。東京大学、国立感染症研究所、国立国際医療研究センターが共同で行った研究において、これらの新系統BA.2.12.1、BA.4、BA.5に対し、4種類の抗体薬と3種類の抗ウイルス薬についてin vitroでの有効性を検証したところ、国内で承認済みの抗ウイルス薬が有効性を維持していることが示唆された。本結果は、NEJM誌オンライン版2022年7月20日号のCORRESPONDENCEに掲載された。 研究対象となったのはFDA(米国食品医薬品局)で承認済み、および国内で一部承認済みの薬剤で、抗体薬は、カシリビマブ・イムデビマブ併用(商品名:ロナプリーブ、中外製薬)、tixagevimab・cilgavimab併用(海外での商品名:Evusheld、AstraZeneca)、ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ、GSK)、bebtelovimab(Lilly)、抗ウイルス薬は、レムデシビル(商品名:ベクルリー、ギリアド・サイエンシズ)、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ、MSD)、ニルマトレルビル(商品名:パキロビッドパック[リトナビルと併用]、ファイザー)となっている。 今回の試験では、対象の各抗体薬の単剤および併用について、新型コロナウイルスの従来株(中国武漢由来の株)と、オミクロン株のBA.2.12.1、BA.4、BA.5を含む各系統の培養細胞における感染を阻害(中和活性)するかどうかを、FRNT50(ライブウイルス焦点減少中和アッセイで50%のウイルスを中和する血清希釈)を用いて評価した。また、各抗ウイルス薬について、IC50(50%阻害濃度)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。【抗体薬】・カシリビマブ・イムデビマブ併用では、BA.2.12.1、BA.4、BA.5のいずれに対しても中和活性は認められるものの、FRNT50の値は、従来株と比べると、BA.2.12.1に対して131.6倍、BA.4に対して133.5倍、BA.5に対して317.8倍高くなっており、効果が著しく低下していた。・tixagevimab・cilgavimab併用では、BA.2.12.1、BA.4、BA.5のいずれに対しても中和活性は認められるものの、FRNT50の値は、従来株と比べると、BA.2.12.1に対して6.1倍、BA.4に対して6.0倍、BA.5に対して30.7倍高くなっており、効果が低下していた。・ソトロビマブの前駆体では、BA.2.12.1、BA.4、BA.5のいずれに対しても中和活性が認められなかった。・bebtelovimabでは、BA.2.12.1、BA.4、BA.5のいずれに対しても中和活性が認められ、その効果についても従来株とほぼ同等のFRNT50の値を示していた。【抗ウイルス薬】・レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビルのすべての薬剤が、BA.2.12.1、BA.4、BA.5のいずれに対しても、従来株とほぼ同等の感受性を示し、ウイルスの増殖を効果的に抑制していた。 著者は本研究の限界として、これらの薬剤による治療効果の臨床データがないことを挙げている。また、本研究によって、国内でも承認済みの抗ウイルス薬が、オミクロン株新系統のBA.2.12.1、BA.4、BA.5にも有効であることが示唆された。抗体薬については、国内では未承認のbebtelovimabは有効であったが、そのほかの抗体薬は有効性が低く、ソトロビマブについては効果がない可能性があり、BA.2.12.1、BA.4、BA.5の患者に対して、モノクローナル抗体の選択は慎重に検討する必要があると指摘している。

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パクスロビド投与でCOVID-19による入院リスクが45%低減

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の特効薬とされるパクスロビド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル、日本での商品名パキロビッド)は、COVID-19による入院リスクを45%低減できることが、査読前の論文のオンラインアーカイブである「medRxiv」に6月17日発表された。論文の筆頭著者である米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のScott Dryden-Peterson氏は、「デルタ株の流行時に実施されたパクスロビドの臨床試験では90%の入院リスク低減が認められた。それに比べると劣るものの、同薬剤は依然として、インフルエンザに対するタミフルの効果に匹敵する防御率を維持している」と述べている。 パクスロビドは、細胞内でのウイルス増殖を抑える作用のある薬で、抗ウイルス薬のニルマトレルビル2錠と抗HIV薬のリトナビル1錠の計3錠を組み合わせて服用する。 今回の研究では、オミクロン株が流行していた2022年1月1日から5月15日の間に米マサチューセッツ州およびニューハンプシャー州で新型コロナウイルスに感染した50歳以上の患者3万322人のデータが分析された。主要評価項目は、COVID-19の診断から14日以内の入院であった。対象者の87.2%がCOVID-19ワクチンを接種済みであった。また、研究期間中に19.9%(6,036人)が、重症化リスクの高い患者にのみ処方されるパクスロビドを処方されていた。 分析の結果、診断から14日以内に入院した患者は、パクスロビドを処方された患者で0.66%(40人)であったのに対し、同薬剤を処方されていない患者では0.96%(232人)であり、パクスロビドを処方された患者ではリスクが45%低減することが明らかになった(調整リスク比0.55、95%信頼区間0.38〜0.80、P=0.002)。対象者のうちの39人がCOVID-19の診断から28日以内に死亡したが、いずれも同薬剤を処方されていない患者であった。なお、死亡患者の74%(28人)はワクチン接種完了者であった。 Dryden-Peterson氏は、「この結果は、COVID-19の発症後5日以内にハイリスク患者にパクスロビドを使用する価値があることを示すものだ」と述べている。同氏によると、この期間内に患者にパクスロビドを投与するのは至難の技であり、安全な投与のためには、看護師や医師が多大な時間を費やす必要があり、多くの投資も必要になるという。 米ジョンズ・ホプキンス大学ヘルスセキュリティセンターのAmesh Adalja氏は、「この研究結果は、パクスロビドのCOVID-19による入院および死亡リスクの低減効果をリアルワールドで示したものだ。このエビデンスに基づき、重症化リスクの高い患者に対しては、ワクチンを接種していても同薬剤の投与が推奨される」と述べている。 米バイデン政権は「Test-To-Treatプログラム」により同薬剤を迅速に患者に届けられるよう努めている。このプログラムにより、米国では薬局併設のクリニック、連邦政府出資の医療機関、長期ケア施設、地域ベースの施設など、数千カ所で新型コロナウイルスの検査を受けると同時にパクスロビドを受け取ることができる。また、かかりつけ医による検査を受けた場合でも効率的に同薬を受け取れるよう、取り組みが進められている。

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インフルとの鑑別を更新、COVID-19診療の手引き8.0版/厚労省

 7月22日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第8.0版」を公開し、全国の自治体や関係機関に通知を行った。 今版の主な改訂点は以下の通り。第8版の主な改訂点【1 病原体・疫学】・(1)病原体、(3)国内発生状況、(4)海外発生状況の情報を更新【2 臨床像】・(1)臨床像を更新(とくにオミクロン株の知見、インフルエンザとの鑑別を更新)・(2)重症化リスク因子、(3)胸部画像所見、(4)合併症を更新・(5)小児例の特徴で小児の重症度、小児における家庭内感染率について更新・(5)小児例の特徴で「小児における死亡例」を追加・(6)妊婦例の特徴を更新【3 症例定義・診断・届出】・(1)症例定義を更新・(4)届出を更新【4 重症度分類とマネジメント】・(1)重症度分類、(2)軽症、(3)中等症II 呼吸不全あり、(4)重症の中のECMO、血液浄化療法、血栓症対策、図を更新・「高齢者における療養のあり方について」を追加・「医療提供体制と自宅療養について」を参考から追加【5 薬物療法】・(1)抗ウイルス薬のモルヌピラビルを更新・(2)中和抗体薬のソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブを更新・(4)妊婦に対する薬物療法で「禁忌」を追加・(参考)の「日本国内で開発中の薬剤」を更新【6 院内感染対策】・序文、換気を(2)環境整備に統合し更新・(4)患者寝具類の洗濯を更新・(7)職員の健康管理を更新・(8)妊婦および新生児への対応を更新・【参考】感染予防策を実施する期間の表を追加【7 退院基準・解除基準】・(1)退院基準を更新

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第122回 コロナは細胞間“トンネル”を伝って脳で広まるのかもしれない

すでによく知られている通り新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染は脳のもやもや(brain fog)や混乱などの種々の神経症状と関連し、どうやら脳に直接影響するらしく、感染者の死後脳からウイルスが検出されています。SARS-CoV-2は感染の取っ掛かりでACE2受容体に結合することが知られますが、ACE2受容体がおよそ非常に乏しい脳でSARS-CoV-2がどうやって広まるのかはよく分かっていません。フランスの研究者による新たな実験の結果、SARS-CoV-2は感染細胞から伸ばした細い管を伝ってACE2受容体なしでも別の細胞に乗り移りうることが示されました1)。いわばトンネルのようなその仕組みのおかげでSARS-CoV-2は脳内で広まるのかもしれません。同国のパスツール研究所のチームはACE2を発現する上皮細胞(Vero E6細胞)とACE2を欠く神経細胞(SH-SY5Y細胞)それぞれとSARS-CoV-2をまずは一緒にしてみました。すると予想通りSARS-CoV-2は上皮細胞には感染し、神経細胞には感染できませんでした。しかしSARS-CoV-2感染上皮細胞と神経細胞を一緒にしたところ神経細胞へのSARS-CoV-2の感染が認められました。とりわけ高性能の顕微鏡で観察したところ細胞間を繋ぐ細い管が見て取れ、細胞膜ナノチューブ(tunneling nanotube;TNT)と呼ばれるその管の中にSARS-CoV-2のタンパク質やRNAがありました。また、ウイルスRNAを量産する二重膜小胞も認められました。すなわちSARS-CoV-2は感染細胞にTNTを作らせ、TNTと連結したよその非感染細胞にTNTを伝ってまんまと侵入しうることが裏付けられました。TNTがウイルスの通り道になることを示したのは今回が初めてではありません。酸素不足や感染などで負荷がかかった細胞が伸ばしたTNTが別の細胞と繋がり、ウイルス粒子がその通路を介して細胞間を行き来しうることがこれまでの研究で示されています。たとえばインフルエンザウイルス、HIV、ヘルペスウイルスはTNTを使って己のゲノムを非感染細胞へ輸送可能であり、その経路であれば免疫や抗ウイルス薬は手出しできそうにありません。今回の研究でTNTはSARS-CoV-2結合の足場がない細胞への侵入ルートになりうることが示されましたが、足場がある細胞間のSARS-CoV-2伝播さえも促しているかもしれません。TNTを構成するアクチンの重合や脱重合は素早く、ウイルスは他の経路よりTNTを介した方がより早く広まれる可能性があるからです。今後の課題として動物やヒトの脳内でTNTを介したSARS-CoV-2細胞感染が存在するかどうかを検討する必要があります2,3)。もしヒトの脳内やその他の体内でTNTを介したSARS-CoV-2感染があるならウイルスの広まりを早くに封じて感染の重症化を防ぐのにTNT形成阻止薬が役立つかもしれません。今のところTNTに限って阻害する化合物は存在しませんがパスツール研究所のチームはその同定を目指して化合物の選別に取り組んでいます3)。参考1)Pepe A, et al. Sci Adv. 2022 Jul 22;8:eabo0171. 2)SARS-CoV-2 Could Use Nanotubes to Infect the Brain / TheScientist3)Coronavirus may enter the brain by building tiny tunnels from the nose / NewScientist

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第118回 記者も唖然…塩野義コロナ薬の承認審議で識者が発したガチ発言

2時間にわたる王者対挑戦者のボクシング・タイトルマッチ。1ラウンド目に挑戦者は王者の軽いジャブの後、アッパーカットをくらいおもむろにダウン。2~4ラウンドは挑戦者のストレートパンチが王者の顔面を捉え、一旦持ち直したかに見えたが、5ラウンド目は王者のジャブが軽く決まりよろける。その後はほぼ王者の一方的な連打がさく裂し、最終12ラウンドまで持ちこたえたものの、3人のジャッジの判定は大差で王者に-。ボクシングにたとえるとそんなところだろうか?何かというと、7月20日に開催された厚生労働省薬事・食品衛生審議会薬事分科会・医薬品第二部会合同会議で行われた塩野義製薬の新型コロナ治療薬候補の3CLプロテアーゼ阻害薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の緊急承認審議だ。結論から言うと第III相試験を待って議論すべきということで、委員ほぼ全員が一致して継続審議を決定した。過去の連載記事から繰り返しになって恐縮だが、エンシトレルビルに関しては今年5月の薬機法改正で新設された緊急承認制度を使った承認申請が行われている。塩野義製薬が申請に当たって提出したデータは第II/III相試験のうち、軽症/中等症患者を対象とした第IIb相パートの結果。主要評価項目は鼻咽頭ぬぐい検体を用いて採取したウイルス力価のベースラインからの変化量と12症状合計スコア(治験薬投与開始から120時間までの単位時間当たり)の変化量の2つ。前者については低用量(125mg)群、高用量(250mg)群、ともにプラセボ群と比べて有意な減少を示したものの、後者は有意差が認められなかった。ちなみに塩野義製薬側は、後者については現在主流のオミクロン株に特徴的な4症状に限定して解析すると有意差が認められたことを強調している。すでに6月に行われた医薬品第二部会では、緊急承認に否定的な意見が多かったものの、緊急承認制度では薬事分科会の審議も必要になるため、この日に持ち越した。そして今回の審議はやや異例だった。というのも1つの薬を巡る審議がYoutube Liveを通じて全国にリアルタイムで公開されたからである。新薬の承認審議がここまでガラス張りにされたのは初と言って良い。ちなみに私は報道公開枠で会議場にいた。事務方からの一通りの説明とそれを受け、審議の方向性について医薬品第二部会長の清田 浩氏(井口腎泌尿器科・内科新小岩副院長、元東京慈恵会医科大学教授)に意見が求められた。「まず付け加えたいのは、医薬品第二部会の臨時部会が開かれたのは6月22日。ちょうどコロナの患者数が下げ止まっていた時期です。現在の第7波が来ることもある程度予感していたかもしれませんが、現実にこうなるとは予想し得なかった時期なので、多少議論に危機感が欠けていた印象を持っております。その後、追加の有効性として、Long COVIDの率が減る、ウイルスの再拡散を抑えるというデータがあり、そういったポジティブなデータをどう解釈するかも議論の材料としていただければと思います」これに対して医薬品第二部会委員で山梨大学学長の島田 眞路氏から横やりが入った。「6月22日は確かに感染状況はひどくはなかったですが、諸外国でも出てましたし、日本でも来るんじゃないかという危機感を持って私達は審議したと思っております。清田部会長がどう考えたか知りませんが、危機感がなかったとおっしゃっているのにはびっくりしました。先ほどのいくつかの実験データが追加されたとのことですが、これはすでに塩野義さんは提出されてましたよ。(症状の)期間が短くなるんじゃないかとか。Long COVIDだけは出してなかったかもしれませんけど、あとのデータはだいたい示されていました。しかも、これはエンドポイントが修正されたりしたようなものです。たとえば12症状(合計スコア)ではまったく効果が認められなかったわけなので、われわれとしては効果は認められないと判断したのであって、それが呼吸器症状だけ後からピックアップして有意差が少しあったという。要するにエンドポイントを後からいじるのはご法度ですよ。はっきり言って。それをわざわざされて、有効性があるというところをピックアップしてやるのは、臨床試験としてはやっちゃいけないことだと思いますけどね」司会が引き取り、委員ではない独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原 康弘氏が補足的な意見を求められた。この状況を収めようとしたのだろう。藤原氏は、公開された審査報告書内の第IIb相試験でのエンシトレルビル125mg、250mg、プラセボ投与後120時間までの12症状スコアのグラフを参照するように呼び掛けて次のように語った。「この推移を見ていただいたらわかりますが、私も元々呼吸器専門医なので普通にパッと見ると、これ差がないんじゃない? と見えます。PMDAとしても普通の感覚で見たのでしょう。先ほど説明がありましたように確かにRNA量は有意差をもって下がっているものの、臨床効果はこのぐらいかなというのが正直な判断であったと私は類推いたします。また、話題に上がった後付け解析ですが、途中の(事務局の)説明で多重性というお話がありました。今回、塩野義さんが何度も何度も事後解析をしていますが、そうするとby chanceで有意になることはよくあります。p値(統計学的有意差)が0.05ならば、20回に1回は間違った結果になるのは自明の理なので、繰り返し統計解析する時はp値はすごく小さくするとか、事務局が説明した多重性の調整をきちんとやらなければいけないのですが、それをやらずに何度も何度も解析してどこかで有意差が出たから良いんじゃないのと言ってるのが塩野義さんかな、と私は理解しております」さすがにこの発言には驚き、メモを取っていた手を止め、リモート参加していた藤原氏の様子が映し出されたディスプレイを凝視してしまった。周囲を見回すと、数人がやはり目を見開いてディスプレイを見ている。藤原氏は臨床医でありながら、過去には臨床薬理学分野の研究経験もあり、PMDAの前身である国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センターで新薬の承認審査を担当していたこともある。しかし、そのキャリアはほぼ一貫して国立の研究機関・医療機関に身を置いてきた公務員だ。その意味ではある種退屈な「お役所言葉」を駆使してきた立場であるはずの藤原氏が衆人環視の中でここまで製薬企業をディスる(若者言葉で失礼)とは思いもしなかった。このあとエンシトレルビルの治験調整医師であった日本感染症学会理事長の四柳 宏氏(東京大学医科学研究所附属病院長・先端医療研究センター感染症分野教授)、岩田 敏氏(国立がん研究センター中央病院感染症部長)、大石 和徳氏(富山県衛生研究所長)の3人が参考人として意見陳述。いずれも主要評価項目ではない症状消失までの期間が3日間短縮できたデータなどを援用し、現時点で有効性の推定は可能という立場を取った。しかし、この後、前述の島田氏が再び異議を唱えた。参考人3人のうち2人が塩野義製薬との利益相反があり、なおかつ全員がPMDAの審査に対する塩野義製薬の反論に即した主張をしていると批判し、利益相反なしと申告していた大石氏にも利益相反がないかの確認を求めたのだ。大石氏が「利益相反がない」と伝えると、島田氏は「PMDAが審査した結果に対して、3人が3人、塩野義製薬の意見に同調する方を選ぶのはフェアなやり方ではない」と事務方に要請した。事務方からは「感染症の専門家からのご意見としてこちらからお呼び…」と発言しかけるも、島田氏が遮り、「感染症の専門家なんてごまんといるわけです。にもかかわらず3人中2人が塩野義製薬との利益相反がある方を呼ぶのは。もうちょっとフェアな方を呼んでいただかないと議論がかみ合わない」と苦言を呈した。その後は全体の空気がネガティブになり始める。この空気が完全にネガティブに転換したのは、それまで日本医師会常任理事として薬事分科会委員を務めていた松本 吉郎氏が日本医師会の新会長に就任したことに伴う交代で、今回から薬事分科会委員として出席した日本医師会常任理事の神村 裕子氏の発言だった。過去の本連載でも触れたように、エンシトレルビルには催奇形性があることがすでに報じられており、今回の審議で示された審査報告書にはその詳細が記述されている。それによると、ラットでの胎児の骨格変異、ウサギでの胚・胎児死亡、胎児の軸骨格の奇形・変異、外表に奇形所見で短尾と二分脊椎が認められたという。PMDA側の見解では潜在的な催奇形性リスクがあり、ラットとウサギの無毒性量は、ヒトでの血漿中曝露量基準でそれぞれ約3.8倍と約2.4倍で十分な安全域を有しておらず、承認時には、妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌とすることが適切というものだった。この点を踏まえて神村氏が次のように述べた。「私は女性の医師ですので、女性の患者さんがたくさんいます。この中でたとえば妊娠の可能性のある患者さんに禁忌という場合、妊娠しているかどうかわからないとなると、とても怖くて使えない。また、錠剤が大きくて飲み難いことはありますが、既に同じような作用機序のニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)があるなかで、なぜそちらではダメなのかと考えている。当然ながら私が臨床の外来で、この程度の呼吸器症状の有効性の差が出たと言われても、『とても使いたくはないな』と、申し訳ないですけれども率直にそう感じました。またCYP3A阻害作用が強いということを考えれば、やはり慢性疾患にかかっていらっしゃる高齢の患者さんたちにも使えない。となると、非常に使える幅が狭くなる。第III相試験ではっきりした結果が出るまで、手を出せないと思っています」この率直な意見は新任委員ならではとも言えるのかもしれない。それ以上に実臨床に携わる医師の意見は非常に臨場感のあるものだった。審議の雰囲気はここで一気に最終結論の方向に傾いたように感じた。神村氏が触れたCYP3A阻害作用については、すでにPMDAから冒頭にニルマトレルビル/リトナビル同様に併用禁忌が多くなる見込みと説明された。かつ、PMDAの審査報告書では、仮に緊急承認するとしても「有効性が示されていない状況で、本剤が承認される場合には、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有する等、治療薬の投与が必要と考えられる患者を対象とし、禁忌等に該当する場合や供給量の関係で入手できない場合等で他の治療薬が使用できない場合に限り本剤を使用することが妥当である」との医薬品第二部会委員の意見が付記されていた。平たく言えば、重症化リスク因子を有し、既存の治療薬が使えない場合のみをエンシトレルビルの適応とすべしというものである。ちなみに今回提出された資料の中で私個人が目を引いたのは、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が提出した資料の中にあった7月19日現在までに使われた新型コロナ治療薬別の患者数である。それによると、モルヌピラビル(同:ラゲブリオ)が23万5,900例、ソトロビマブ(同:ゼビュディ)が15万例、ニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)が1万4,100例という数字である。治療必要数の比較で最も抗ウイルス効果が高いと言われているニルマトレルビル/リトナビルはもともとの供給量が少ないと言われているものの、2月の承認から5ヵ月間でこの程度しか使われていないのである。この背景には当然併用禁忌の多さもあるだろう。となると同じように併用禁忌が多くなる見込みで、既存薬が使えない場合のみにエンシトレルビルを使うならば、必要となる患者は極めて少数ではないだろうか? しかも、この日、すでにエンシトレルビルの第III相パート結果は11月中に明らかになるという見通しも示された。この点にも委員の質問が相次いだ。最終的に審議時間終了の午後8時直前、ちょっとした動きがあった。厚労省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長の吉田 易範氏が、医薬品第二部会委員で神村氏と同じ日本医師会常任理事である宮川 政昭氏に近づき耳打ちした。その直後、薬事分科会長である和歌山県立医科大学薬学部教授の太田 茂氏が「ほかの委員からどなたかご発言がありますでしょうか? よろしいようでしたら、本日の議論を取りまとめたいと思いますので、少しお時間をいただければ」と言いかけた瞬間、宮川氏が口を開いた。「今までの議論をお聞きして、先ほどPMDAの方からありましたように第III相試験の組み入れが全部終わったということですから、たぶん第III相試験は、大体時期的に言えば11月初旬(ここで事務方から『11月に総括報告書が提出されるということで聞いております』との声)…。はい。ですからそういうところをしっかりと見定めるということ、つまり緊急承認の枠組みというものが、ここである程度否定されたというわけではないものの、そういうものではないということであれば、第III相試験を待ってしっかりとした薬事としての承認体制を組んでいくというようなことも重要と思いますので、そういうことも含め、お考えいただければと思います」ここで件の島田氏が「宮川先生の意見に賛成です」と発言。これを受けて太田氏が委員に継続審議を打診。オンライン参加の委員も含め次から次に「異議なし」「賛成します」「賛成です」という声が相次ぎ、2時間強の長いようで短い議論は終結した。しかし、あの塩野義製薬を思いっきりディスった藤原氏は、今回の審議公開に同意した塩野義製薬に感謝の意を表していたが、これは私も同感である。ここまで透明性が確保できるならば、医薬品に対する一般人の信頼を勝ち取る一助になるのではないかと改めて感じている。参考薬事分科会・医薬品第二部会 合同会議 資料

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第120回 断食でCOVID-19重症化予防? / 音の鎮痛効果の仕組み

定期的な断食の習慣は健康に良いという報告がいくつかあり、たとえば心疾患や2型糖尿病を生じ難くなることやより長生きになることとの関連が示されています。断食の習慣が担いうる効能はどうやらまだ出尽くしてはおらず、米国ユタ州での試験で新型コロナウイルス感染(COVID-19)重症化を防ぐ効果が示唆されました1,2)。毎月最初の日曜日に2食続けて抜く断食(Intermittent fasting)をすることがユタ州の住民の大半(6割超)を占める末日聖徒イエス・キリスト教会教徒の典型的な習慣として知られています。試験ではそのユタ州の医療法人Intermountain HealthcareのCOVID-19患者201人が調べられ、断食の習慣がある人はない人に比べてCOVID-19による入院や死亡をより免れていました。COVID-19入院/死亡率は断食をしていた71人では11%、そうでない人では約28%でした(ハザード比:0.61、95%信頼区間:0.42~0.90)。断食の習慣とCOVID-19の経過が良好なことを関連付ける仕組みは今後調べる必要がありますが、考えられる仕組みが幾つかあります。断食をするとリノール酸を含む脂肪酸が体内で増えることが知られています。リノール酸は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質にきつく結合し、細胞受容体ACE2への親和性を低下させます。断食で増えたリノール酸はそのようにしてSARS-CoV-2感染細胞や細胞内SARS-CoV-2粒子を減らしてCOVID-19重症化を予防するのかもしれません。断食で増える多機能なタンパク質・ガレクチン3がSARS-CoV-2感染抑制に一役買っている可能性もあります。ガレクチン3は数多くの病原体に結合することができ、自然免疫を活性化し、抗ウイルスタンパク質遺伝子の発現を増やし、ウイルス複製を阻害することなどが知られています。また、COVID-19経過不良と関連する糖尿病や冠動脈疾患などの持病が断食で生じ難くなることでCOVID-19重症化が間接的に抑制されている可能性もあります。時々の断食はCOVID-19ワクチンの代役とはなりえませんが、ワクチン接種を補完してCOVID-19重症化を減らす予防や治療の役割を担えるかもしれません。全世界の誰もが数ヵ月に1回のCOVID-19ワクチン接種をいつまでも続けることはおよそ現実的ではなく1)、接種が行き届いていない国は多く存在します。COVID-19流行の目下やこれからの世界での断食のワクチン補完の役割はCOVID-19後遺症への効果も含めて更なる検討の価値があると著者は結論しています。音の鎮痛効果の仕組み約60年前の1960年、歯科処置中に音楽を流すことで患者の痛みが和らぐことを示した報告がScienceに掲載されました3)。難儀な処置を亜酸化窒素や局所麻酔なしでやりおおせた患者もいたほどの効果がありました。以降、モーツァルトの古典音楽やら現代のミュージシャン・マイケル ボルトンの歌やらさまざまな音の鎮痛効果が検討され、実際に効果も認められました。たとえば8年ほど前の2014年の報告ではそのモーツァルトやマイケル ボルトン等の好きな音楽を聴いているときの線維筋痛症患者の痛みが減ることが示されています4)。米国NIHの神経生物学者Yuanyuan Liu氏等が率いるチームがScienceに発表した最新のマウス研究成果によると、そういった音の鎮痛効果はどうやら脳の特定の神経回路を抑制することでもたらされるようです5)。研究でマウスには少なくとも人には心地よいバッハの交響曲Rejouissance(歓喜)を毎日20分聴かせました6)。曲の音の強さは50~60デシベルで、曲なしでの背景音(ambient noise)は45デシベルが保たれました。マウスの足には炎症痛誘発液(complete Freund’s adjuvant;CFA)が注射され、続いて微針(von Frey filament)でその足を突いてどれだけ痛がるかが調べられました。驚いたことに、痛みを緩和する音の強さは決まっているようで、曲が背景音を5デシベル上回る50デシベルのときにマウスの痛みが緩和しました。50デシベルだとマウスは足を刺激されても平気で、それより強い音だと音楽なしのときと同様により痛がりました。人にとって不快なように変化させたRejouissanceやホワイトノイズでどうかを試したところ、それらが背景音を若干上回るデシベルであればやはり痛みを和らげました。つまり音の種類や快不快ではなく強度が鎮痛の鍵を握るようです7)。そういう低強度の音の鎮痛効果を担う脳の神経回路を同定すべく色素を使って脳領域の連結を調べたところ聴覚皮質から視床への経路が見つかり、低強度の音はその経路の神経活動を低下させました。音なしでその経路を光や低分子化合物で止めると低強度の音と同様に痛みを和らげる効果があり、その経路が通るようにすれば痛みが復活しました。すなわち低強度の音は聴覚皮質から視床への神経信号を阻害することで鎮痛効果をもたらしているようです。今後の課題として、鎮痛には背景音を若干上回る低強度の音でないとどうしてだめなのかを解き明かしたいと研究者は考えています。また、音を使った痛み治療の実現に向けて人ではどうなのかも調べる必要があります。たとえばマウスに試したような低強度の音を聞いているときの視床の活動をMRIスキャンで測定する試験は実施する価値がありそうです6)。参考1)Horne BD, et al. BMJ Nutrition Prevention & Health. 2022 Jul 1.2)Study finds people who practice intermittent fasting experience less severe complications from COVID-19 / Eurekalert3)GARDNER WJ,et al. Science 1960 Jul 1;132:32-3.4)Garza-Villarreal EA,et al. Front Psychol. 2014 Feb 11;5:90. 5)Sound induces analgesia through corticothalamic circuits. Science. 2022 Jul 7.6)Soft sounds numb pain. Researchers may now know why / Science7)Researchers discover how sound reduces pain in mice / NIH

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第1回 新型コロナのイベルメクチン「もう使わないで」

いったん下火になっていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが、国内の新規感染者数は6月下旬から増え始め、昨日7月6日は4万5千人を超え、現場は警戒心を持っています。―――とはいえ、BA.2以降、滅多に肺炎を起こすCOVID-19例に遭遇しません。おそらく次の波がやってきたとしても、大きな医療逼迫を招くことはないのでは、と期待しています。「イベルメクチンを処方しない医師は地獄へ落ちろ」さて、私はCOVID-19の診療でいくつかメディア記事を書いたことがあるのですが、当初からイベルメクチンに関してはやや批判的です。疥癬に対してはよい薬だと思っていますが、COVID-19に対しては少なくとも現在上市されている抗ウイルス薬には到底及びません。しかしSNSなどではいまだにイベルメクチン信奉が強く、そういった「派閥」から手紙が届くこともあります。中には、「COVID-19にイベルメクチンを処方しない倉原医師よ、地獄へ落ちろ」といった過激な文面を送ってくる開業医の先生もいました。確かに当初、in vitroでイベルメクチンの有効性が確認されたのは確かです。しかし、かなり初期の段階で、寄生虫で使用するイベルメクチン量の約100倍内服しないと抗ウイルス作用は発揮されないことがわかっており1,2)、副作用のデメリットの方が上回りそうだな…という印象を持っていました。その後の臨床試験の結果が重要だろうと思っていたので、出てくるデータを冷静に見る必要がありました。トップジャーナルでことごとく否定50歳以上で重症化リスクを有するCOVID-19患者への発症7日以内のイベルメクチンの投与を、プラセボと比較したランダム化比較試験があります(I-TECH試験)3)。これによると、重症化リスクのある発症1週間以内のCOVID-19患者に対するイベルメクチンの重症化予防への有効性は示されませんでした。また、1つ以上の重症化リスクを持つCOVID-19患者に対して、イベルメクチンとプラセボの入院率の低下をみたランダム化比較試験があります(TOGETHER試験)4)。この試験でも、入院・臨床的悪化のリスクを減少させませんでした(相対リスク0.90、95%ベイズ確信区間:0.70~1.16)。ITT集団、per protocolのいずれを見ても結果は同じでした。EBMの基本に立ち返って、使用を控えるべき万が一、イベルメクチンの投与量や投与するタイミングを工夫して、何かしら有効性が示せたとして、ではその効果は現在のほかの抗ウイルス薬(表)よりも有効と言えるのでしょうか。塩野義製薬が承認申請中のエンシトレルビルですら、現時点ではウイルス量を減少させる程度の効果しか観察されないということで、緊急承認は見送りとなっています。イベルメクチンについて、まず今後奇跡的なアウトカム達成など、起こらないでしょう。表. 軽症者向け抗ウイルス薬(筆者作成)何より、目の前にしっかりと効果が証明された抗ウイルス薬が複数あるのです。有効な薬剤を敢えて使わずにイベルメクチンを処方するというのは、EBMに背を向けているにすぎません。この行為、場合によっては法的に問われる可能性もあります。現時点では使用を差し控えるべき、と私は考えます。参考文献・参考サイト1)Chaccour C, et al. Ivermectin and COVID-19: Keeping Rigor in Times of Urgency. Am J Trop Med Hyg. 2020;102(6):1156-1157.2)Guzzo CA, et al. Safety, tolerability, and pharmacokinetics of escalating high doses of ivermectin in healthy adult subjects. J Clin Pharmacol. 2002;42(10):1122-1133.3)Lim SCL, et al. Efficacy of Ivermectin Treatment on Disease Progression Among Adults With Mild to Moderate COVID-19 and Comorbidities: The I-TECH Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2022 Apr 1;182(4):426-435.4)Reis G, et al. Effect of Early Treatment with Ivermectin among Patients with Covid-19. N Engl J Med. 2022 May 5;386(18):1721-1731.

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酸素療法を伴う/伴わない中等度のCOVID-19肺炎患者におけるファビピラビル、カモスタット、およびシクレソニドの併用療法 第III相ランダム化比較試験(解説:寺田教彦氏)

オリジナルニュース中等症コロナ肺炎、ファビピラビル+カモスタット+シクレソニドで入院期間短縮/国内第III相試験(2022/06/15掲載) 本研究は中等症のCOVID-19肺炎患者におけるファビピラビル、カモスタット、およびシクレソニドの併用療法を評価した論文であり、2020年11月11日から2021年5月31日までに登録された本邦でのCOVID-19罹患患者を対象としている。登録患者は121人で、56人が単独療法、61人が併用療法だった。 本研究では、経口ファビピラビルにカモスタットとシクレソニドを併用することで安全性の懸念なしに入院期間の短縮ができたことが示されたが、本論文の結果が本邦のCOVID-19治療に与える影響は小さいと考えられる。理由を以下に示す。 まず、執筆時点での中等症のCOVID-19肺炎患者に対する治療とそのエビデンスを確認する。本邦ではCOVID-19に対する薬物治療の考え方 第13.1版等にも記載があるように、抗ウイルス薬としてレムデシビルを投与し、臨床病態によっては(酸素投与がある場合に)抗炎症薬としてデキサメタゾンやバリシチニブの投与が行われている。このうち、デキサメタゾンはRECOVERY 試験(Horby P, et al. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)で、世界で初めてCOVID-19患者治療で有意な改善を、バリシチニブもレムデシビルとの併用下で臨床的な改善が報告されている(Kalil A, et al. N Engl J Med. 2021;384:795-807.)。レムデシビルに関しては、中等症のCOVID-19に対する単剤治療での有意な臨床的アウトカムは見いだしがたいが、発症早期の患者に投与することで臨床的なアウトカムや死亡率を低下させた報告があり、抗ウイルス効果は期待されるだろう(Gottlieb RL, et al. N Engl J Med. 2022;386:305-315.)。そして、ステロイドを投与する患者に関しては、先行して抗ウイルス薬を投与したほうが臨床症状の改善が早くなり、重症化率を低下させるという報告がある(Shionoya Y, et al. PLoS One. 2021;16:e0256977.)ことを加味すると、COVID-19の酸素需要がある患者には、ステロイドなどの抗炎症薬の投与が望ましく、レムデシビルも抗炎症薬とともに投与することがよいだろう。 さて、本研究に戻る。本研究が開始された時期は、COVID-19に対する確立された治療薬はなく、各国で有効性が期待される薬剤を探っている状況だった。本研究で対象となった薬剤の、ファビピラビル、カモスタットとシクレソニドについて整理する。 ファビピラビルは本邦で開発され、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対する承認があり備蓄されていた抗ウイルス薬である。COVID-19が流行した初期に期待された治療法の1つであったが、本邦で実施された多施設無作為化オープンラベル試験でも早期のCRP陰性化や解熱傾向は見られたものの、有意差には達しておらず(Doi Y, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2020;64:e01897-20.)、現時点でCOVID-19の標準治療に位置づけられてはいない。 シクレソニドもCOVID-19の治療で有効性が期待されていた薬剤である。本研究と患者対象が一致したデータではないが、国内のランダム化比較試験ではシクレソニド投与群で肺炎増悪が多く(https://www.ncgm.go.jp/pressrelease/2020/20201223_1.html)、臨床的な改善を示すことができなかった。カモスタットも臨床的改善までの日数やICU滞在期間の短縮、死亡率などの改善を示すことができず、現時点で臨床的に常用されている薬剤ではない(Gunst JD, et al. EClinicalMedicine. 2021;35:100849)。 本研究は、作用機序の異なる薬剤を組み合わせることで臨床的な効果が向上することを期待していたが、シクレソニドやカモスタットは個々の薬剤としては、明らかなデータの改善を示す研究はなく、併用による相加あるいは相乗効果の薬理学的な背景も記載はない。本文に記載があるように、サンプルサイズも小さく安全性のプロファイルに懸念が残る点、hard clinical primary outcome(臨床的に客観性の高い主要評価項目)が採用されていないという点といった問題があり、これらの併用薬の有効性を示すためには、より大規模の人数で、標準治療群とhard clinical primary outcomeについて比較をすることが望ましいだろう。 本研究結果は、現在のCOVID-19診療に与える影響は小さいと考えるが、本邦における感染症研究という観点からは、同研究が発表された意義は大きいと考える。 パンデミックを起こした感染症の臨床研究は、早期に有効な治療法を見いだすことが望ましく、速やかな臨床研究の実施が望ましいが、臨床研究を実施するには医師だけではなく、多くの職種の協力や適切なモニタリング、参加者の協力などの資金とともに環境整備が必要となる。本研究のようにパンデミック下での前向き研究実施には、労力と研究が遂行できる環境、それらの下準備が求められる。 新規感染症に対する創薬を行う場合は、適切な臨床試験のもとで適正な薬剤の評価が行われることが重要であり、本邦でも新規感染症に対する創薬を行うためには、このような臨床研究ができる環境をさらに整備してゆくべきであろう。 COVID-19診療について振り返ってみると、ワクチン接種や重症化リスクの高い患者に対する治療薬の整備により、重症化率、致死率はこの2年間で大きく減少しているが、未だに終息はしていない。重症化リスクの高くはない患者さんでも、症状の早期緩和、Long COVID罹患率の低下、他者への感染リスクを低下させるなどの社会生活を円滑に進めるための薬剤が期待されており、これらの問題を解決する薬剤が開発されることを期待したい。ただ、本邦ではワクチン接種も進んでおり、オミクロン株流行下でも、重症化率や死亡率は低下し、急性期症状持続期間も短縮していたことを考えると、オミクロン株で抗ウイルス薬の有効性を評価する場合には工夫が必要かもしれない。COVID-19の比較対象にしばしば出されるインフルエンザも抗ウイルス薬があるが、インフルエンザに対する抗ウイルス薬は発症後48時間以内に内服しなければ症状などの有意な改善が望めないように、急性期症状持続期間が短縮しているオミクロン株で治療効果を評価する場合は、速やかな抗ウイルス薬投与ができる環境で評価を行わないと臨床症状の改善で有意差を確認することは難しいかもしれない。 今後は、新型コロナウイルス・オミクロン株に対する抗ウイルス薬の評価が行われることになると考えるが、ウイルスの特徴も踏まえた上で、臨床現場でどのような患者さんに、どのように用いることで、どのような効果を期待するのかを適切に捉えた臨床試験を組み立て、評価を行うことがとくに望まれると考える。

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マスタープロトコルという研究プログラムの事前登録のあり方(解説:折笠秀樹氏)

 マスタープロトコルという研究プログラムが、ここ5年くらいで多くみられるようになりました。最初はがん治療においてでした。がん種ごとに治療薬の比較試験を行うのではなく、分子標的マーカーが陽性か陰性かによって、がん種にこだわらず比較試験が行われました。疾患に対して比較試験を行うという従来方式ではなく、バイオマーカー陽性に対して比較試験を行う方式です。そこでは疾患は何でもよいわけです。これがバスケットデザインと呼ばれるマスタープロトコルです。NCI-MATCHの例が挙がっています。 一方、がん種は1つに固定し、その中で数種類のバイオマーカーを取り上げ、バイオマーカーごとに比較試験を組む形の臨床試験です。これをアンブレラデザインと呼んでいます。どのマーカーに反応する治療薬が効果を発揮するかわからないので、どちらかというと探索的目的が強いと思われます。ALCHEMISTの例が挙がっています。 最後のマスタープロトコルの例は、COVID-19で登場したプラットフォームデザインです。COVID-19の治療法開発というプラットフォームを考え、その中でいろんな治療法を評価するプロトコルを次々と増やしていくものです。RECOVERYの例が挙がっています。ホームページもありますが、現時点では5つほどプロジェクトが走っているようです。英国主導で立ち上がったプロジェクトで、国際共同試験が行われています。あのビルゲイツ財団も資金提供しています。COVID-19は残念ながらまだ収束しておりません。いつ強力なウイルスが誕生するとも限りません。抗ウイルス薬のほかにもステロイド薬やモノクローナル抗体薬など、いろんな可能性がこのプラットフォームの中で評価されていくことでしょう。 マスタープロトコルとは、いろんなサブスタディからなる壮大なプログラムです。複数の臨床試験の集合体ともいえます。現在は、マスタープロトコルとして事前登録されていますが、サブスタディごとに事前登録をすべきだというのが結論のようです。私も同感です。RECOVERY試験というのが始まり、日本も加わるべきだと武見参議院議員がテレビ番組で紹介しているのを聞きました。2021年の中ごろだったかと思います。どんな臨床試験かと思い、すぐに調べましたが、まったく理解できませんでした。それも無理はありません。いくつかの臨床試験をまとめたプログラムだったからです。個々の臨床試験、すなわちサブスタディごとに論文も発表されることでしょうから、サブスタディを事前登録すべきというのは当然のことではないでしょうか。

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麻痺を伴う謎に満ちた小児の疾患、原因特定へ前進

 米国では2014年以降、小児の間でポリオに似た急性弛緩性脊髄炎(AFM)と呼ばれる疾患が多発した。呼吸器感染症を引き起こすウイルスの一種であるエンテロウイルスD68(EV-D68)感染症が同時期に流行していたことから、同ウイルスの感染がAFMの集団発生に関与している可能性が指摘されていたが、研究者らはついにEV-D68がAFMの原因であることを裏付ける明確な証拠をつかんだようだ。詳細は、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校のMatthew Vogt氏らにより、「The New England Journal of Medicine」5月26日号に報告された。 AFMは、四肢に急性発症する弛緩性麻痺と、MRI検査で主に灰白質で認められる脊髄病変を特徴とする疾患である。一部の患者では呼吸筋も障害されるため、人工呼吸器による呼吸管理が必要となる場合もある。 AFMは以前から散発的に発生し、その多くがウエストナイル熱などのウイルス感染症と関連付けられていた。しかし、米国では2014年以降、2年ごとにAFMの集団発生が報告されるようになった。集団発生は決まって8月から10月の間に起こり、患者の90%以上を低年齢児が占めていた。 特に2018年に起こった集団発生では、238例ものAFM患者が米疾病対策センター(CDC)に報告された。CDCはその2年後に当たる2020年にもAFMの集団発生が起こるとの予測を示していたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受けてソーシャルディスタンスが保持されるようになり、同年のAFMの報告数は33例にとどまっていた。 今回の研究では、2008年にAFM様の疾患により死亡した5歳の小児患者の剖検が、患者の家族の同意を得た上で行われた。その結果、患者の脊髄の細胞からEV-D68の遺伝物質を検出することに成功した。Vogt氏は、「患者の家族のおかげでAFMについてさらに解明を進めることができた」と語る。 専門家らはVogt氏らの検討から得られた知見について、今後の研究者らによる取り組みの方向性を示したものだとしている。AFMに対して特異的な抗ウイルス薬あるいはワクチンを開発するには、どのウイルスを標的とすべきかを明らかにしなくてはならないからだ。 今回の研究には関与していない米ピッツバーグ小児病院の感染症専門医であるMegan Culler Freeman氏は、「これは素晴らしい報告だ。ヒトから得られたエビデンスとしては、最も質の高いものだ」と高く評価する。同氏によると、AFMに罹患した小児が死亡することはまれであるという。また、脊髄組織を採取する脊髄生検は危険性がかなり高い。そのため、AFM患者の脊髄細胞へのEV-D68の感染を裏付けるエビデンスを得ることは困難だった。 CDCもEV-D68がAFMの原因であることを示唆する手掛かりをつかんでいた。例えば、AFMに罹患した小児から採取した粘液検体の多くで、EV-D68が検出されていた。また、2014年には米国で、EV-D68を原因とする重度の呼吸器疾患の集団発生が起こったが、同時期に最初のAFMの集団発生も起こっていた。ただ、それだけではEV-D68がAFMの原因であると結論付けるには不十分だった。Vogt氏によると、EV-D68は平凡な呼吸器系ウイルスであるため、このウイルスを原因とする説に首を傾げる研究者もいたという。 2022年にAFMの集団発生が起こるかどうかについては予測困難だ。Freeman氏は、「AFMはまれだが、子どもの兆候に注意を払い、もし何らかの兆候が現れた場合には医師の診察を受けるべき」としている。なお、CDCによると、AFMに罹患した小児のほとんどで前触れなく腕や足の脱力が生じ、筋肉の緊張が失われるなどの症状が現れるほか、一部の小児では顔面あるいはまぶたの片側に下垂が認められるという。

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米国でのサル痘の現状とは―CDCの報告

 サル痘ウイルスへの感染で生じる急性発疹性疾患であるサル痘の感染者が、5月以降、欧米諸国を中心に増加しており、WHO(世界保健機関)も警戒を強めている。そんな中、「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」6月3日号に発表された報告によると、米国でのサル痘の感染症例は、ゲイやバイセクシュアルの男性、または男性とセックスする男性(MSM)に集中しており、皮膚と皮膚の密接な接触によりウイルスが伝播した可能性が示唆されたという。 報告書の共著者の一人である、米疾病対策センター(CDC)のDivision of Global Migration and QuarantineのJennifer McQuiston氏は、「感染者のほとんどは、発症前21日間に海外旅行に出かけたことを報告している。また、MMWRが調査した患者の大半はMSMであることが確認されている」と話す。 CDCの6月3日の発表によると、米国でのサル痘感染者の累計は、11州で確認された21人に増加した(注:6月8日時点で15州、40人)。症例は、カリフォルニア州とニューヨーク州でそれぞれ4例、フロリダ州で3例、コロラド州とユタ州で2例、ジョージア州、イリノイ州、マサチューセッツ州、ペンシルベニア州、バージニア州、ワシントン州でそれぞれ1例であるという。 CDCのこの報告書には、5月末までのサル痘の発生状況と、それまでに米国で特定された17症例に関する情報が記されている。それによると、今回の調査から、感染が確認された17人中16人が、ゲイ、バイセクシュアル、またはMSMであることが判明したという。患者は全て成人で(平均年齢40歳、範囲28〜61歳)、全員に発疹が認められた。発疹は、4人で陰部、5人で肛門周辺から始まっていた。最終的に口腔にまで発疹が現れた患者も5人いた。また、17人中14人は、発症前の21日間に海外旅行に出かけたことを報告した。患者の渡航先は全部で11カ国だった。 なお、サル痘ウイルスのゲノム解析から、現在欧米諸国を中心に発生しているサル痘には、遺伝的に異なる2つの変異体が関与していることが示されているという。McQuiston氏によると、これらの変異体はどちらも西アフリカ株から派生したものであり、他の既知のクレード(共通の先祖から進化した子孫の集団)に比べると重症度は低く、アフリカで発生した際にも死者数は比較的抑えられていたという。 実際、現時点では、サル痘による死者は米国でもそれ以外の国でも報告されていない。「それでも、現状を軽視すべきではない。サル痘ウイルスにより生じる発疹は体全体に広がるか、性器などの敏感な部分に現れる。発疹がひどい痛みを伴うこともあり、その管理のために鎮痛薬の処方を必要とした患者の例も報告されている。また、長期間、皮膚に傷痕が残る可能性もある」とMcQuiston氏は言う。 今回の調査対象とされた患者については、全員が回復途上にあるか、もしくはすでに回復している。まだ発疹がある患者は、完全に回復、つまりかさぶたが取れて健康な肌に戻るまで、自宅で隔離生活を送るよう助言されているという。 サル痘の発生は、現時点ではゲイやバイセクシュアルの男性、またはMSMに集中しているものの、McQuiston氏は、「サル痘を発症する可能性は誰にでもある。われわれは、サル痘がこれら以外の人も含めて、あらゆる集団に広がる可能性のある疾患として注意深く監視している」と話している。 なお、サル痘に対しては、米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた2種類のワクチンと1種類の抗ウイルス薬がある。

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第115回 COVID-19入院患者の生存が関節リウマチ薬で改善

関節リウマチの治療でよく知られる免疫調節薬2つ・J&J社のTNF 阻害薬・インフリキシマブ(infliximab)やBristol Myers Squibb社のCTLA-4活性化薬・アバタセプト(abatacept)が米国国立衛生研究所(NIH)主催のプラセボ対照無作為化試験(ACTIV-1 IM試験)でどちらも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の死亡を減らしました1)。COVID-19患者の免疫系は炎症を誘発するタンパク質を悪くすると過剰に解き放ち、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、多臓器不全、その他の死に至りうる合併症を招くことがあります。ACTIV-1 IM試験はそういう過度の免疫を抑制しうる薬剤で中等~重度COVID-19入院成人の回復が改善するかどうかや死亡を減らせるかどうかを調べることを目的として実施されました。NIHの舵取りのもとでCOVID-19治療/ワクチンの開発促進を目指す産官学の提携(ACTIV) の一環として2020年10月に始まった2)ACTIV-1 IM試験の被験者はいつもの治療に加えて免疫調節薬幾つかの1つまたはプラセボを投与する群に割り振られました。ほとんどの被験者にはいつもの治療としてステロイド・デキサメタゾンやギリアド社の抗ウイルス薬・レムデシビル(remdesivir)が投与されました。デキサメタゾンはおよそ85%、レムデシビルは約90%の被験者に投与されています。退院を指標とする回復までの期間が主要転帰(プライマリーエンドポイント)で、両剤ともその改善傾向をもたらしたものの残念ながらプラセボとの差は有意ではありませんでした。しかしながらより深刻で究極の転帰・死亡率の低下を両剤のどちらももたらしました。インフリキシマブ投与群518人の死亡率は10%、プラセボ群519人の死亡率は約15%(14.5%)であり、同剤投与群の死亡率はプラセボ群より率にして約41%(40.5%)少なくて済んでいました。アバタセプトも同様で、その投与群509人の死亡率は11%、プラセボ群513人の死亡率は15%であり、同剤投与群の死亡率はプラセボ群に比べて率にして約37%(37.4%)少なくて済んでいました。もう1つの試験薬cenicriviroc(セニクリビロック)は残念ながら無効で、同剤投与群への被験者組み入れは去年9月に打ち切りとなっています。cenicrivirocはAbbVie社の開発段階のCCR2/CCR5阻害薬です。インフリキシマブやアバタセプトと同様にCOVID-19入院患者の死亡を減らすことが試験で示されているEli Lilly社の免疫調節薬・バリシチニブ(baricitinib)は重度以上のCOVID-19患者に使用すべき治療選択肢の一つとすることが世界保健機関(WHO)のガイドラインですでに強く推奨されています3)。レムデシビルやデキサメタゾンなどのいつもの治療に加えて投与することで死亡率のかなりの低下が見込めるインフリキシマブやアバタセプトもCOVID-19入院患者の治療選択肢に仲間入りしうるとACTIV-1 IM試験のリーダーWilliam Powderly氏は言っています1)。参考1)Immune modulator drugs improved survival for people hospitalized with COVID-19 / NIH2)NIH Begins Large Clinical Trial to Test Immune Modulators for Treatment of COVID-19 / NIH3)Agarwal A,et al.. BMJ. 2020 Sep 4;370:m3379

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