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ブースター接種後もコロナ重症化リスクが高い人は? /Lancet

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの2回接種のみと比較して、初回ブースター接種により新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院/死亡(重症COVID-19)のリスクは低下するが、高齢者、複数の疾患あるいは特定の基礎疾患を有する人は、初回ブースター接種完了後でも、重症COVID-19のリスクは高いという。英国・セント・アンドルーズ大学のUtkarsh Agrawal氏らが、前向きコホート研究の結果を報告した。著者は、「重症化リスクが高い人々には、新規最適化されたワクチンによる2回目のブースター接種を優先的に行うとともに、COVID-19治療薬を用いるべきである」としている。Lancet誌2022年10月15日号掲載の報告。英国の約3千万人のデータを解析 研究グループは、イングランド、北アイルランド、スコットランドおよびウェールズでそれぞれTrusted Research Environment(TRE)に保存されている医療データセットを用い、前向きコホート研究を実施した。これらのデータセットには、個人の臨床的・人口統計学的特性、ワクチン接種の有無と種類、RT-PCR検査によるSARS-CoV-2感染歴、重症COVID-19に関する情報が含まれている。コホートは、2020年12月8日~2022年2月28日の間に、BNT162b2(ファイザー製)またはChAdOx1 nCoV-19(アストラゼネカ製)ワクチンのみの2回接種を完了、あるいはその後BNT162b2またはmRNA-1273(モデルナ製)ワクチンのブースター接種を受けた、18歳以上の成人で構成された。 主要評価項目は、2回目接種またはブースター接種14日以上経過後の重症COVID-19(COVID-19関連入院またはCOVID-19関連死)とした。年齢、性別、社会経済的貧困状態、居住地、BMI、SARS-CoV-2感染歴等で調整されたポアソン回帰モデルを用い、人口統計学的および臨床的因子と重症COVID-19との関連について、ワクチン接種後の時間に関して調整した率比(aRR)および95%信頼区間(CI)を算出。4つの各TREで解析を行った後、固定効果メタ解析を用いて推定値をプールし評価した。 2020年12月8日~2022年2月28日の間に、1,620万8,600人が2回接種を完了し、さらに1,383万6,390人がブースター接種を受けた。これらのうち、SARS-CoV-2オミクロン株(B.1.1.529)が優勢であった2021年12月20日~2022年2月28日の期間に発生した重症COVID-19に限定して解析した。ブースター接種後も高齢者、併存疾患5つ以上、免疫抑制状態、慢性腎臓病は高リスク 重症COVID-19は2回接種群で5万9,510例(0.4%、1,000人年当たり8.8件)、ブースター接種群で2万6,100例(0.2%、7.6件)に認められ、ブースター接種により重症COVID-19のリスクは減少した。 高齢者(80歳以上vs.18~49歳のaRR:3.60[95%CI:3.45~3.75])、併存疾患数が多い人(併存疾患5つ以上vs.なしのaRR:9.51[95%CI:9.07~9.97])、男性(男性vs.女性のaRR:1.23[95%CI:1.20~1.26])で重症COVID-19のリスクが増加した。また、特定の基礎疾患を有する人も重症COVID-19のリスクが高く、とくに免疫抑制剤の投与を受けている人(ありvs.なしのaRR:5.80[95%CI:5.53~6.09])、慢性腎臓病(ステージ5 vs.なしのaRR:3.71[95%CI:2.90~4.74])で高リスクであった。 一方、SARS-CoV-2感染歴は重症COVID-19のリスク低下と関連していた(ブースター接種の9ヵ月以上前の感染vs.感染歴なしのaRR:0.41[95%CI:0.29~0.58])。

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毎日の抗原検査vs.自主隔離、感染を広げないのは?

 迅速抗原検査キットを使用した毎日の陰性確認は、新型コロナウイルス感染症拡大を最小限に抑えるため、自主隔離の代替手段となりうるのか? 英国・健康安全保障局のNicola K. Love氏らは、COVID-19接触者追跡システムで特定された成人接触者を対象とした無作為化非劣性比較試験を実施。Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2022年10月10日号に結果を報告した。 英国では本試験期間中(2021年4~7月)、COVID-19感染者と接触した人には10日間の自主隔離が求められていた。接触者追跡システムで特定された成人接触者のうち同意が得られた参加者は、自主隔離群(1日目のPCR検査、10日間の隔離)または毎日の抗原検査(DCT)群(1日目および最終日のPCR検査、7日間連続のラテラルフローデバイス[LFD]による抗原検査、LFDで陰性の場合は24時間隔離免除)に無作為に割り付けられた。 参加者は前向きに追跡調査され、試験期間中にPCR検査で陽性となった参加者と、彼らとの接触から生じた3次感染者(つまり2次接触者の中の感染者)について、定期的に収集したNHS Test and Traceの接触追跡データから各介入による効果を検証した。 主要評価項目は、各グループにおいて2次接触者が3次感染者となる割合である発病率とされた。発病率はHuber-White標準誤差を使用し、ベルヌーイ回帰モデルにより算出され、家庭での曝露、ワクチン接種、および在宅勤務の状況によって調整された。 主な結果は以下のとおり。・2021年4月29日~7月28日に、5万4,923人の適格者が登録され、最終的な解析には自主隔離群2万3,500人(47.4%)、DCT群2万6,123人(52.6%)が含まれた。・全体で4,694人の参加者がPCR検査でSARS-CoV-2陽性であり(2次感染者)、自主隔離群で2,364人(10.1%)、DCT群で2,330人(8.9%)だった。・2次接触者における調整後発病率(3次感染者)は、自主隔離群7.5%、DCT群6.3%(差は-1.2%[95%信頼区間:-2.3~-0.2])で、あらかじめ設定された非劣性マージンの1.9%より有意に低かった。 著者らは、抗原検査を7日間毎日実施し陰性の場合は24時間隔離を免除するこの方法は、10日間の自主隔離に劣っていないと考えられるとし、自主隔離による悪影響を最小限に抑えながら、感染拡大のリスクを軽減できることが示されたとまとめている。

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サル痘ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第14回

新型コロナに次いで緊急事態が宣言されたサル痘周知の通り、サル痘感染が世界的に拡大している。アフリカ熱帯地方に限局した風土病であったサル痘が、ナイジェリアからの輸入例として英国から世界保健機関(以下、WHO)に報告されたのは2022年5月7日であった(発端症例はナイジェリア滞在中の同年4月29日に発症、5月4日に英国に到着)1)。以後、非常在国への輸入例およびそれらを発端とした国内感染例が続々と発見・報告されてきた。急激な世界的拡大を踏まえ、WHO事務局長は2022年7月23日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC[フェイク]と発音)」を宣言した2)。PHEICとは、「緊急かつ世界的な健康問題に対して、WHO加盟各国が集中的に資源投下して早期の封じ込めまたは安定化を目指すよう」にとWHO事務局長が発する宣言である。2020年の新型コロナウイルスパンデミックへの宣言に続いて、史上7件目のPHEICとなった。PHEIC宣言後も加盟各国での発見が相次ぎ、2022年9月21現在では105ヵ国から累計6万1,753例の確定患者と23例の死亡がWHOに報告されている3)。わが国でも同9月21日までに、計5例の確定患者が厚生労働省に報告されている4)。うち3例は直近の海外渡航歴があったが、残る2例に渡航歴はない。渡航歴のない2例とも発症直前に海外渡航者との接触があり、輸入例を発端とした国内感染と推定される。ただし、諸外国のように輸入発端例を追跡できないような国内感染拡大には現時点で至っていない。サル痘とはサル痘は人獣共通感染症である。1958年にデンマークの研究所が実験用にアジアから輸入したサルが発疹性疾患を発症し、病変からサル痘ウイルスが分離発見された。これがサル痘 monkeypox の命名由来であるが、後の研究により本来の自然宿主はアフリカ熱帯地域のリス、その他の齧歯類と推定された。実験的感染も含めると、サル痘ウイルスはヒトをはじめとする40種以上の動物種に感染することがわかっている5)。アフリカ熱帯地域の野生動物間で循環しているサル痘ウイルスが、感染動物と接触したヒトにも感染する例が、1970年以降コンゴ盆地(アフリカ中央部)および西アフリカの諸国で散発的に報告されてきた。ヒト発端例から数100例に拡大したアウトブレイクも同地域で何度か発生している。サル痘ウイルスは天然痘(痘瘡)ウイルスと同じオルソポックスウイルス属に属し、クレードI(旧称:コンゴ盆地型)とクレードII(旧称:西アフリカ型)の2系統に分類される6)。クレードIによる致死率は10%前後だが、クレードIIのそれは1~数%と比較的軽症である。現在世界で拡大しているサル痘ウイルスは主としてクレードIIとされており7)、確定症例中の死亡数が少ないのはそのためと考えられる。サル痘ウイルスは主として接触感染する。ごく近距離かつ長時間の対面による飛沫感染もありうるが、大半は皮膚と皮膚、またはウイルスの付着した衣類などと皮膚の濃厚接触による感染とされる。性的接触後の感染も多く報告されているが、性的接触に伴う皮膚同士の濃厚接触が感染経路と考えられ、一般的な性行為感染とは異なる。現時点では圧倒的に男性の報告が多く、女性や小児の報告は一部である。サル痘の症状は、根絶された天然痘(痘瘡)のそれにかなり似通っている。ウイルス感染後1~2週間(最大21日間)の潜伏期を経て、発熱、リンパ節腫脹等の非特異的な前駆症状で発症する。前駆症状の1~3日後に全身に発疹が出現するが、天然痘と同じくすべての発疹が同期して丘疹→水疱→膿胞→痂皮へと進行する。類似の水疱性疾患である水痘の発疹が互いに同期せずバラバラに進行するのとは異なるが、多数のサル痘報告の中には発疹が同期しないケースも散見されるため、鑑別に注意を要する。発疹は痂皮が脱落するまでの2~4週間は感染性を保ち、その間の濃厚接触によって感染が拡がる。ほとんどが自然治癒するが、まれに発疹部への細菌2次感染、肺炎、脳炎、角膜炎などの合併症を生ずる。妊婦や小児が特に合併症を生じやすいとされる。診断は発疹病変検体からのウイルス遺伝子検出(PCR法)が有用であり、厚生労働省による届出基準でも採用されている8)。特異的治療薬として、欧州では tecovirimat が承認されている。わが国には承認済みの特異的治療薬はないが、「tecovirimat のサル痘への効果と安全性を検証する特定臨床研究」が国立国際医療研究センターにて進行中である。サル痘のより詳しい臨床情報については、他の総説記事などをご参照いただきたい。 日本の法令上の扱いサル痘はわが国では感染症法で4類感染症に指定されており、全数届出疾患である。1・2類感染症とは異なりまん延防止のための公費入院制度がないため、入院および治療の費用は患者負担となる(前述の tecovirimat の特定臨床研究の対象となれば研究費が適用される)。検疫法にはサル痘の指定がないため、海外から到着した疑い症例を検疫所が発見しても検疫法に基づく行政検査ができない。近隣自治体に知らせて感染症法に基づく検査につなげる(自治体が指定する医療機関へ移送を検討する)必要があり、患者自身のためにもまん延防止のためにも検疫所と自治体との連携が重要である。オルソポックスウイルス属と天然痘ワクチン(種痘)本稿の本題はサル痘に対するワクチンであるが、サル痘ワクチンを知るにはまず天然痘とそのワクチンを知らねばならない。1)天然痘ワクチンサル痘ウイルスは天然痘ウイルスと同じオルソポックスウイルス属に属する。天然痘は数千年にわたり人類を脅かしてきたウイルス性発疹性疾患である。WHO主導の世界的な天然痘ワクチン接種(種痘)キャンペーンにより、1980年についに世界からの根絶が宣言された。有効なワクチンがあった以外に、動物宿主がなくヒトにしか感染しない、持続感染例がないなどの好条件が重なり、人類初の根絶病原体となった。サル痘の臨床症状は天然痘と似通っている。天然痘という病名は英語で smallpox だが、病原体である天然痘ウイルスは variola virus と呼ばれる。天然痘ウイルスには variola major および variola minor の2種があった。Variola major は19世紀末まで猛威を奮い、致死率は30%前後に及んだ。Variola minor は19世紀末に登場し、majorに取って代わって世界に拡大した。Variola minor の致死率は1%前後とmajorよりは軽症であったが、それでも1%の致死率は重大であり根絶の努力がなされた。死亡は感染の1~2週後に生じたが、死に至る詳細な病態生理はわかっていない。重度のウイルス血症やそれに伴うサイトカインストームが主因だったのではと推測されている9)。2)天然痘ワクチンの歴史とワクシニア vaccinia ウイルスオルソポックスウイルス属には牛痘ウイルスも含まれる。牛痘ウイルスはその名の通り牛に感染して水疱性疾患を生ずる病原体だが、牛を扱う農夫など濃厚接触するヒトにも感染することが古くから知られていた。ヒトに限局される天然痘とは異なり、牛痘は人獣共通感染症である。そして、牛痘感染歴のある者は天然痘に感染しないことも経験的に知られており、西暦1000年ごろにはすでにインドや中国で天然痘予防目的にヒトに牛痘を感染させる手法が行われていたとされる。これを世界で初めて科学的に確立し19世紀初頭に論文として世に報告したのが、英国のエドワード・ジェンナーであった10)。ラテン語で牛を意味する vacca を語源として、接種に用いる牛痘製剤を vaccine、牛痘接種(種痘)を vaccination とジェンナーが名付けたことは広く知られている。後に種痘に限らず、病原体予防薬全般について vaccine/vaccination の語が使われるようになった。そして、ジェンナーによる論文出版後の19世紀に種痘は世界へ急速に拡大した。種痘製剤を量産するために、牛の皮膚に人為的に牛痘ウイルスを植え付けて感染させ、病変から次の原料を採取するという手法が広く行われた。驚くことに、牛以外にも羊、水牛、兎、馬なども利用され、時には牛痘ではなく馬痘ウイルスすら使われた。20世紀に近代的なワクチン製法が確立される過程で、種痘製剤に含まれるウイルスはワクシニア vaccinia と名付けられた。その時点でワクシニアウイルスは、自然界の牛痘ウイルスからは遺伝的に大きく異なっていた。ジェンナー当時の牛痘ウイルスが100年以上にわたり生体動物を用いて継代培養される過程で、変異を繰り返した上に、他のオルソポックスウイルス属との交雑も起きたと推測されている。したがって現代の種痘製剤(天然痘ワクチン)の原料は、自然界の牛痘ウイルスではなく、実験室にのみ存在するワクシニアウイルスである。3)天然痘ワクチンの世代と種類これまで実用化されてきた天然痘ワクチンは表1のように3世代に分類される。表1 天然痘ワクチンの世代と特徴画像を拡大する天然痘の根絶に向けて接種キャンペーンが実施されていた当時の天然痘ワクチンを第1世代と呼ぶ。19世紀のままの生体動物による製法で生産され、無菌処理を施して凍結乾燥されていた。この間に免疫原性が高い優良株がいくつか確立された。しかし、キャンペーン進行による自然罹患者の減少と引き換えに、ワクチンの重篤な副反応が目立つようになった。種痘性湿疹 eczema vaccinatum、進行性ワクシニア progressive vaccinia、全身性ワクシニア generalized vaccinia といった致死性の極めて高い重篤皮膚病変や、高い致死率と神経学的後遺症に至る種痘後脳炎・脳症などが報告された。いずれも数10万接種~100万接種に1件程度と低頻度ではあったが、わが国を含む各国で問題視された11)。やがて1980年に根絶が宣言されると種痘は中止され、生産済みの第1世代ワクチンは凍結保存された。その後の1987年旧ソ連崩壊に伴う天然痘ウイルス拡散懸念や、2001年の米国同時多発テロ後の炭疽菌テロなどがきっかけで、天然痘ウイルスを利用した生物テロを想定してワクチンを常備する気運が米国を中心に高まった。この時期に生産された製剤を第2世代と呼ぶ。第2世代は、第1世代で確立されたワクチン株を生体動物ではなく細胞培養やニワトリ胚培養など現代的製法で生産したものである。天然痘はすでに根絶されていたため、ワクチンの効果は被験者の免疫応答(すなわち代理エンドポイント)を第1世代ワクチン当時と比較する形で測定された。しかし、第1世代と同じウイルス株を使っていたため、安全性の懸念は払拭されなかった。米国軍人などに第2世代製剤を接種した際の複数の2000年代の研究で、接種後心筋炎が背景リスクよりも有意に高いことが示されている12-15)。第1世代で問題視された安全性問題をクリアするために、免疫原性を保ったまま副反応を減らすよう、弱毒化ワクシニアウイルス株も順次開発された(第2世代までは非弱毒株)。弱毒化ワクシニアウイルス株由来の製剤を、第3世代と呼んでいる。遡ること1950~60年代にはアンカラ株(modified vaccinia Ankara:MVA)と呼ばれる弱毒株が開発されている。トルコのアンカラで数100世代継代培養されて遺伝子の15%が変異したこの株は、既存製剤よりも免疫原性は劣るが副反応も避けられるため、根絶前のキャンペーンでは既存製剤接種に先立つ接種に用いられた。また、1970年代には、わが国の橋爪 壮氏がヒト体内での増殖能を不活性化した LC16m8株を開発している16)。現在わが国でテロ対策に備蓄されている天然痘ワクチン(痘そうワクチン LC16「KMB」)は LC16m8株由来であり、自衛隊での小規模な研究であるが免疫原性と安全性は確認されている17)。一方、欧米ではMVA由来の新たな製剤が2010年代に開発されて同じく備蓄されている(Bavarian Nordic社による開発で通称 MVA-BN、商品名は国・地域ごとに異なる)18)。ワクシニアウイルスによるワクチンとオルソポックスウイルス属の交叉抗原性上記の歴史からわかる通り、天然痘ワクチンは天然痘ウイルス自体が原料ではなく、同じオルソポックスウイルス属である牛痘ウイルス(誕生当時)またはワクシニアウイルス(現代)が原料である。同じウイルス属とはいえ異なる種のウイルスを用いたにもかかわらず、このワクチンは天然痘ウイルスを根絶するほどの効果を示した。他のワクチン予防可能疾患において、異なる種の病原体を原料としたワクチンが充分な効果を示した例はない。すなわち、オルソポックスウイルス属は種同士の交叉抗原性が非常に強いと言える。属内での交叉抗原性の強さから、天然痘ワクチンを同じくオルソポックスウイルス属であるサル痘ウイルスの予防にも応用する発想につながる。サル痘予防としての天然痘ワクチン今回の世界的流行以前にも、サル痘はアフリカでアウトブレイクを繰り返し、時に非常在国での小規模アウトブレイクも起こしてきた19)。繰り返すが、サル痘ウイルスは天然痘ウイルスや牛痘ウイルス/ワクシニアウイルスと同じオルソポックスウイルス属である。属内の交叉抗原性が強いことの証左として、アフリカでのサル痘アウトブレイクで天然痘ワクチン(種痘)が結果的に奏効した実績がある。1980年代の古い観察研究ではあるが、当時のザイール(現コンゴ民主共和国)でのサル痘アウトブレイク時に、濃厚接触者の種痘歴の有無と発症の関連を調査したものがある。これによると、種痘歴がある場合の濃厚接触後発症は、種痘歴なしでの濃厚接触後発症に比べて、相対リスク減少が85.9~87.1%であった(※データから著者算出)20)。すなわち、種痘歴があることでサル痘発症リスクが80%以上低減された可能性がある。こうした知見からサル痘コントロール目的に天然痘ワクチンの接種が検討され、各国でのアウトブレイク時には適応外使用として接触者に曝露後接種されることもあった19)。しかし、天然痘ワクチンによるサル痘ヒト感染の予防効果を直接検証した質の高い介入研究はいまだ発表されてない。また、天然痘根絶後の天然痘ワクチンに関する研究のほとんどは、接種後(種痘後)の中和抗体上昇などの免疫学的指標および安全性評価に留まる。根絶前のかなり限定的な観察から、中和抗体価と天然痘の感染阻止にはある程度の相関があることが示唆されてはいるが21)、絶対的な感染阻止指標と証明されたわけではない。ましてや、種痘後の中和抗体価がサル痘の感染阻止とどの程度関連するかも不明である。天然痘ワクチンのサル痘予防効果は、真のエンドポイントでの評価がなされていない点に留意が必要である。こうした状況ではあるが、急激な世界的拡大を踏まえてWHOをはじめ世界の各機関は複数の間接的研究結果を根拠に天然痘ワクチンをサル痘予防に用いるよう承認し、推奨接種対象者を公表している。WHOは2022年8月発表の暫定ガイダンスにおいて、第2世代および第3世代ワクチン双方を表2の対象者に、十分な意思決定の共有(shared decision-making)の下に接種するよう推奨している22)。安全性の観点では第3世代が有利といえるが、第3世代はいまだ生産量および備蓄量が少ないため、世界全体のバランスを重視するWHOの立場としては第2世代も同程度に推奨していると考えられる。表2  WHOによる天然痘ワクチンのサル痘予防使用の推奨対象者画像を拡大する米国は天然痘予防に承認済みの第2世代 ACAM2000 および第3世代 MVA-BN(商品名:JYNNEOS)の計2種をサル痘予防に緊急承認し、欧州も同じく第3世代 MVA-BN(同:IMVANEX)をサル痘予防に承認し、それぞれにWHOと類似の対象者向けに接種を推奨している23)。なお米国では第2世代 ACAM2000 は第3世代 MVA-BN(JYNNEOS)の代替品substituteの位置付けである。わが国でも2022年8月に、天然痘に承認済みの第3世代 LC16m8株「痘そうワクチンLC16『KMB』」の適応にサル痘予防が追加された24)。接種対象者の選定について同9月現在で厚生労働省からは公式な発表はないが、厚生科学審議会で議論が行われている。また、治療薬 tecovirimat の特定臨床研究と並んで、国立国際医療研究センターにおいて同ワクチンの曝露前接種および曝露後接種が共に特定臨床研究として実施されている(同ワクチンの適応追加前に計画されたため、通常の臨床研究ではなく特定臨床研究が選択された)。わが国もサル痘侵入に対して迅速に対応していると言えよう。おわりに2022年9月時点ではわが国へのサル痘侵入例は数えるほどであり、諸外国のような国内感染拡大には至っていない。一般医療機関でサル痘患者に対応したり、天然痘ワクチンを接種する状況からは、現時点では程遠い。よって現状ではワクチンの接種手技や副反応などに通暁する必要は乏しく、本稿では天然痘ワクチンの歴史とサル痘流行における現状を整理するに留めた。しかし、新型コロナウイルス同様、国内感染例がある閾値を超えれば急速に拡大する可能性が常にある。読者には最新情報を収集していただくと共に、天然痘ワクチン接種が広範囲の医療機関で実施される状況が訪れるならば筆者も情報更新に努めたい。参考となるサイト厚生労働省 サル痘について1)WHO Disease Outbreak News. Monkeypox-United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland.; 2022.(2022年8月8日閲覧)2)WHO. Second Meeting of the International Health Regulations (2005) (IHR) Emergency Committee Regarding the Multi-Country Outbreak of Monkeypox.; 2022.(2022年8月8日閲覧)3)WHO. Multi-Country Outbreak of Monkeypox --- External Situation Report 6, Published 21 September 2022.2022.(2022年9月22日閲覧)4)厚生労働省. サル痘について. Published 2022.(2022年9月21日閲覧)5)Parker S, et al. Future Virol. 2013;8:129-157.6)WHO. Monkeypox: Experts Give Virus Variants New Names.2022.(2022年8月21日閲覧)7)Benites-Zapata VA, et l. Ann Clin Microbiol Antimicrob. 2022;21:36.8)厚生労働省. サル痘 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について.(2022年9月9日閲覧)9)Martin DB. Mil Med. 2002;167:546-551.10)Jenner E. An Inquiry into the Causes and Effects of the Variolae Vaccinae.; 1802.(2022年9月9日閲覧)11)平山宗宏. 小児感染免疫. 2008;20:65-71.12)Arness MK, et al. Am J Epidemiol. 2004;160:642-651.13)Eckart RE, et al. J Am Coll Cardiol. 2004;44:201-205. 14)Lin AH, et al. 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第135回 long COVIDに依存症薬naltrexone低用量が有望

依存症治療薬ナルトレキソン(naltrexone)低用量(LDN)を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(Post COVID-19 Syndrome;PCS)患者52人に試しに2ヵ月分処方したところ調べた7項目のうち6つの改善が認められました1,2)。naltrexoneは50 mg投与でオピオイド(アヘン)遮断作用を担いますが、その10分の1未満の1~4.5 mgの低用量投与は独特の免疫調節活性をどうやら有し、low dose naltrexoneにちなんでLDNと呼ばれ、いつもの用量のnaltrexoneとは区別されています。LDNに特有の作用はオピオイド成長因子受容体(OGF)遮断、Toll様受容体4炎症経路阻害、マクロファージ/マイクログリアの調節、T/B細胞の阻害などによるらしく、数々の病気への効果が小規模試験や症例報告で示唆されています。たとえばいつもの治療が不十分な炎症性腸疾患(IBD)患者47人への投与で寛解を促す効果3)、今では筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれる慢性疲労症候群(CFS)の患者3人への投与でその治療効果4)が示唆されています。また、関節リウマチ(RA)、線維筋痛症、多発性硬化症、疼痛症候群患者へのLDN投与では抗炎症薬が少なくて済むようになりました。アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)の感染症専門家John Lambert氏はライム病と関連する痛みや疲労の治療にLDNを使っていたことから、COVID-19罹患後症状へのLDNの使用を同僚に勧めました。するとすこぶる評判が良く、それではということで彼はCOVID-19罹患後症状、俗称long COVIDへのLDNのまずは安全性、さらには効果も調べる試験を計画しました2)。試験には52人が参加し、それらのうち38人がLDN服用を始めました。2人は有害事象を生じてLDNを中止し、36人が2ヵ月のLDN服用期間後の問い合わせに回答し、症状や体調の指標7つの変化が検討されました。結果は有望で、それら7つ中6つ(COVID-19症状、体の不自由さ、活力、痛み、集中、睡眠障害)の改善が認められました。気分は改善傾向を示したものの有意レベルではありませんでした。Lambert氏のライム病患者への使用目的と符合し、LDNは痛みに最も有効でした。今回に限らずLDNの慢性痛緩和効果はこれまでのいくつかの試験でも認められています。先立つ試験でも示唆されているとおりLDNはどうやら安全で、LDN服用中止に至る有害事象を生じたのは2人のみで、被験者のほとんど95%(36/38人)は無事にLDNを服用できたようです。今回の試験は対照群がないなどの不備があり、示唆された効果が全部LDNの手柄と判断することはできません。Lambert氏はLDNの効果の確かさを調べる大規模試験を計画しています。Lambert氏の他にもCOVID-19罹患後症状へのLDN の試験があります。米国ミシガン州のサプリメント企業AgelessRx社はCOVID-19罹患後症状患者の疲労の軽減や生活の質の改善を目当てとするLDNとNAD+併用の下調べ試験(pilot study)を実施しています5,6)。医薬品以外のCOVID-19罹患後症状治療の開発も進んでいます。その1つが嗅覚消失を脳刺激装置で治療する取り組みです7,8)。いわずもがな嗅覚消失はCOVID-19の主症状の1つであり、日にち薬で回復することも多いとはいえ一向に回復しないことも少なくありません。嗅覚や味覚の突然の変化を被ったCOVID-19患者およそ千人を調べた試験の最近の結果報告によると、COVID-19診断から少なくとも2年経つ267人のうち嗅覚消失が完全に解消していたのは5人に2人ほど(38%)で、半数超(54%)は部分解消にとどまっており、13人に1人ほど(7.5%)は全く回復していませんでした9)。そういった嗅覚消失患者の嗅覚の回復を目指して開発されている人工嗅覚装置は難聴を治療する人工内耳が脳で処理できる電気信号に音を変えるように匂いの信号を脳に移植された信号受信電極に送ります。それが匂い成分ごとに異なるパターンで脳の嗅球を刺激して匂いを把握できるようになることを目指します。販売に向けた協力体制も発足しており、そう遠くない未来、向こう5~10年に製品の発売が実現するかもしれません8)。参考1)O'Kelly B, et al. Brain Behav Immun Health. 2022;24:100485.2)Addiction drug shows promise lifting long COVID brain fog, fatigue / Reuters3)Lie MRKL, et al. J Transl Med. 2018;16:55.4)Bolton MJ, et al. BMJ Case Rep. 2020;13:e232502.5)AgelessRx Launches Pilot Post-COVID Clinical Trial / AgelessRx6)Pilot Study Into LDN and NAD+ for Treatment of Patients With Post-COVID-19 Syndrome(Clinical Trials.gov)7)Bionic nose could help people smell again / Nature8)WITH THIS BIONIC NOSE, COVID SURVIVORS MAY SMELL THE ROSES AGAIN / IEEE Spectrum9)McWilliams MP, et al. Am J Otolaryngol. 2022;43:103607.

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コロナ治療薬モルヌピラビル、早期投与で回復までの期間短縮に期待/MSD

 MSDは10月19日、一般流通を9月16日に開始した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口治療薬モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)について、承認後の最新情報として特定使用成績調査の中間報告などをメディアセミナーにて発表した。調査の結果、添付文書の改訂が必要になるような大きな安全性事象は認められなかったことや、外来患者に使用した際の転帰として死亡はなく、人工呼吸器の使用も低く抑えることができたとして、本剤の有効性が提示された。 同社代表取締役社長のKyle Tattle氏によると、本剤は国内にて2021年12月24日に特例承認を取得し、これまでに60万人以上に使用されたという。本剤は、承認当初は供給量が限られていたため、厚生労働省が所有したうえで、重症化リスクのある患者に、決められた流通網を通して医療機関や薬局に配分が行われていたが、供給量が増加したことで、2022年8月18日に薬価基準収載となり、9月16日には一般流通を開始した。 白沢 博満氏(同社代表取締役上級副社長兼グローバル研究開発本部長)は、リアルワールドデータを中心に、承認後の最新情報について解説した。2021年12月24日~2022年6月23日に、同剤の販売開始から6ヵ月間行った市販直後調査では、約20万1,710例に本剤が使用され、症例から安全性情報を収集した結果、添付文書の改訂が必要になるような大きな安全性事象は認められなかった。また、調査予定症例数を3,000例として、より詳細な安全性と有効性を評価する特定使用成績調査(2021年12月27日~2024年12月末日予定)において、2022年6月15日までの中間解析結果も公開された。 主な結果は以下のとおり。・安全性解析対象となった1,061例は、年齢中央値68歳、投与開始時点で外来患者696例(65.60%)、入院患者317例(29.88%)、その他(介護保健施設など)4.52%。本剤投与開始前のCOVID-19重症度では、軽症が931例(87.75%)、中等症Iは104例(9.80%)、中等症IIは23例(2.17%)であった。・主な重症化リスク因子は、65歳以上の高齢者が603例(56.83%)で最も多く、次いで高血圧が459例(43.26%)、喫煙が262例(24.69%)であった。・新型コロナワクチンの接種歴がある人は883例(83.22%)で、2回接種は668例(62.96%)であった。・安全性集計の結果、副作用が発現したのは72例(6.79%)であり、4例以上発現した副作用として、下痢(26例)、発疹(6例)、浮動性めまい(5例)、軟便(4例)が報告された。重篤な副作用の発現は4例で、発疹、肝機能異常、COVID-19増悪、間質性肺炎増悪であった。・有効性解析対象となった1,021例は、外来患者658例(うち最終アウトカム不明29例)、入院患者315例、その他(介護保健施設など)48例。・外来患者における本剤投与開始日から29日までの入院(隔離入院・検査入院などの投与前から予定していた入院を除く)は17例(2.70%)、死亡は0例であった。・入院患者における本剤投与開始日から29日までの死亡は2/254例(0.79%)、酸素投与開始あり13/247例(5.26%)、酸素投与または機械的人工換気(ECMO含む)開始あり13/247例(5.26%)であった。複合エンドポイントでは発現率は5.49%であった。 本結果に加え、白沢氏はモルヌピラビルについて海外で実施された臨床試験についても言及した。査読前論文ではあるが、英国・オックスフォード大学で実施されたPANORMIC試験の結果によると、約2万6,000例(平均年齢56.6歳、ワクチン接種済約99%)において、最初の完全回復までの期間(中央値)が、モヌルピラビル群は9日間、非モヌルピラビル群が15日となり、本剤投与によって6日間短縮されたことが認められた。 続いて登壇した相良 博典氏(昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 主任教授)は、COVID-19の治療の現状と経口治療薬への期待について講演した。昭和大学病院における新型コロナ治療薬の使用状況について、モルヌピラビルは、軽症患者75例に対して重症化予防のために使用された結果、人工呼吸器の使用症例が0%となり、本剤は効果のある薬剤として位置付けていると述べた。また、新型コロナ感染による後遺症についても、今後はより早期に治療介入することで後遺症の症状も抑えられる可能性があるという。本剤の一般流通開始への期待として、発症早期(5日以内など)に使用できるようになるため重症化防止を促進することや、入院リスクの高い高齢者へ早期に使用することで、負担する医療費や、入院による合併症、ADLの低下といった入院に伴うリスクを低減できることを挙げた。若年者でもサイトカインストームで重症肺炎の死亡率が高くなるため、抗インフルエンザウイルス薬のように軽症者から早期に使える薬剤としても期待できると述べた。

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コロナ・インフル同時流行の際の注意点/日本感染症学会

 今冬は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に加え、季節性インフルエンザの同時流行が危惧されている。発熱や倦怠感など症状を同じくするものもあり、外来などでの鑑別で混乱を来すことが予想されている。そこで、日本感染症学会(理事長:四柳 宏氏[東京大学医科学研究所附属病院長])は、10月20日に同学会のホームページで「この冬のCOVID-19とインフルエンザ同時流行の際の注意点」を発表した。 本稿では、緊急避難的な措置の一例として「COVID-19、インフルエンザ同時流行となった場合の外来診療フローチャート」を示すとともに、外来診療フローチャートについて6つのポイントを説明している。1)COVID-19(コロナ)・インフルエンザ(インフル)同時流行に備える体制の必要性・オーストラリアや東アジアの疫学情報から今冬のコロナ・インフルの同時流行の可能性を示唆。最悪の事態を想定し、対策を講じる必要。・とくにオーストラリアでは、インフルの流行が2ヵ月前倒しで生じた。・インフルの流行が起きなくても、相当に大きなコロナ第8波が来る可能性を想定。・冬季は他の呼吸器感染症の流行もみられやすい時期であり、必要な場面での適切なマスク着用、3密回避・換気対策を引き続き継続するよう依頼。2)ワクチン接種のお願い・コロナ・インフルの同時流行に備えて、両ワクチンの速やかな接種を依頼。・両ワクチンの同時接種も可能であることを周知。・コロナワクチンとしてオミクロンBA.1、オミクロンBA.4、5対応の2種類(2価ワクチン)が利用可能。従来のワクチンに比べて2価ワクチンの高い有効性が推定されている。3)診療体制の基本:重症化リスクに応じた対応・コロナ、インフルの診療の原則は対面診療。・外来診療のひっ迫が想定される場合、医療機関への受診は重症化リスクの高い人(高齢者、基礎疾患を有する人、妊婦、小学生以下の小児)を優先。・重症化リスクが低い人は、新型コロナ検査キットによる自己検査を推奨し自宅療養へ誘導。4)診断検査の基本:コロナ・インフル同時簡易抗原検査の利用・医療機関では、コロナ・インフル同時簡易抗原検査(コンボキット)を有効に活用。・コンボキットによる判定が難しい場合に備え、コロナ遺伝子検査も実施できるように準備。・流行到来前に、市販の新型コロナ検査キットを購入しておくよう説明。5)健康フォローアップセンターへの登録と相談・自己検査でコロナ陽性となった人は、健康フォローアップセンターへの登録を指導。・症状の悪化や不安を感じる場合には、健康フォローアップセンターに連絡し、医療機関の受診を相談。6)電話・オンライン診療の活用と注意点・電話・オンライン診療では、対面診療に比べて得られる情報は限定されることに注意。・電話・オンライン診療で判断に迷う場合、重症化を否定できない場合には受診をお願いする。・電話・オンライン診療で、対症療法としての解熱剤、鎮咳剤に加えて、インフルの可能性が高いと判断する場合には抗インフル薬の処方も可能。・インフルの診断は、コロナ自己検査陰性、地域でのインフル流行状況、インフル感染者との接触歴、急激な発熱・筋肉痛などの臨床症状を参考に実施。 なお、学会では、「COVID-19・インフルエンザが同時流行していない状況では、対面診察の上、早期診断・早期治療することが基本」と注意を促している。

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第120回 同時感染拡大に向け救急医療の相談機能強化を要請/消防庁

<先週の動き>1.同時感染拡大に向け救急医療の相談機能強化を要請/消防庁2.高齢者保険料引き上げを検討へ/全世代型社会保障構築会議3.今冬の同時感染に向け、インフル検査キットのOTC化に懸念/日医・厚労省4.女性ではセクハラが精神疾患の主因/過労死防止白書5.医療事務のニチイ学館、ソラストの2社が“談合で処分/公正取引委員会1.同時感染拡大に向け救急医療の相談機能強化を要請/消防庁総務省消防庁は、10月18日に、今後の新型コロナウイルス感染症の感染拡大と季節性インフルエンザとの同時流行によって、救急需要が急増する事態に向けて、外来・入院の機能強化を救急医療機関に呼び掛けるよう各都道府県に求めた。特に今年の夏、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、多くの地域で救急需要が増加し、119番通報が集中したことにより、一時的に119番通報がつながりにくい時間が発生したこともあったため、今冬までに救急安心センター事業(♯7119)、子ども医療電話相談事業(#8000)、救急相談アプリを拡充するなど体勢を備え、住民に対し、医療機関の受診や救急車の要請に迷う場合にこれらの活用を改めて周知徹底することを求めている。(参考)救急医療の機能強化要請、同時拡大を想定 総務省消防庁が都道府県に(CB news)今後の新型コロナウイルス感染症の再拡大及び季節性インフルエンザとの同時流行等による救急需要の増大に備えた救急安心センター事業(♯7119)の全国展開に向けた取組について(消防庁)2.高齢者の保険料引き上げを検討へ/全世代型社会保障構築会議政府は75歳以上の後期高齢者医療制度(後期制度)の医療保険料の引き上げについて全世代型社会保障構築会議で検討に入った。2025年までにすべての団塊の世代が後期高齢者となる中で、制度的な対応が急務であり、負担能力に応じて、すべての世代で、増加する医療費を公平に支え合う仕組みの強化が必要であるとした。具体的には高齢者の保険料賦課限度額や高齢者医療制度への支援金の在り方、被用者保険者間の格差是正の方策などについて見直しを求め、さらに医療費の伸びを適正化するため、給付の効率化を含め、より実効的な取組みについて検討を求めている。(参考)全世代型会議、高齢者保険料上げ提起 健保危機救うか(日経新聞)基礎資料集(全世代型社会保障構築会議)3.今冬の同時感染に向け、インフル検査キットのOTC化に懸念/日医・厚労省日本医師会の中川会長は10月19日の記者会見において、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時感染に向け体勢整備は必要としつつも、季節性インフルの検査キットをOTC化には反対の意見を出した。一方、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループの会合では、検査キットのOTC化を改めて求める意見が出されたが、厚生労働省は一般の人が検体を正しく採取することが難しく、検査の実施タイミングにも専門的な判断を伴うとして賛同しなかった。現状、インフルエンザの検査キットは法令で「医療用」とされているため、販売先は医療機関に限られ、一般の人は買うことができない。一方、厚生労働省は今冬の感染拡大に向け、同時流行に備えて、コロナの抗原検査キットと解熱鎮痛剤の購入を呼び掛けることを決めており、インフルエンザウイルスとコロナウイルスを同時に調べられる抗原検査キットの製造をメーカーに対し求めており、3,800万回分を確保している。(参考)インフル検査キットOTC化を改めて主張 規制改革WG、厚労省は慎重姿勢(CB news)インフル検査キット「OTC化適切でない」日医会長 規制改革会議は重要課題に(同)検査キットと解熱剤購入呼び掛け=コロナ、インフル同時流行対策-厚労省(時事通信)コロナとインフル、同時検査OKのキット3,800万回分確保…鼻の粘液使い15分で判定(読売新聞)4.女性ではセクハラが精神疾患の主因/過労死防止白書10月21日に、政府は過労死等防止対策推進法に基づき、国会に報告を行う法定白書「過労死等防止対策白書」を閣議決定した、令和3年版で6回目。この中で、週労働時間60時間以上の雇用者の割合は減少傾向であったが、令和2年の週労働時間80時間以上の雇用者数は、「医療,福祉」では、令和2年3~6月、9~11月で前年同月を上回っていた。過労死などの認定件数について、近年は脳・心臓疾患は減少傾向だが、精神障害は過去10年で6割増と増加傾向にあり、精神疾患の発症要因を性別にみると、男性では長時間労働(32%)、仕事内容・量の変化(25%)であったのに対し、女性ではセクハラ(22%)、悲惨な事故や災害の体験や目撃(22%)が多かった。(参考)令和3年版過労死等防止対策白書精神障害の労災、10年で6割増 セクハラが原因多く(日経新聞)男性は「長時間労働」、女性は「セクハラ」が精神疾患の主因に…過労死防止白書(読売新聞)5.医療事務のニチイ学館、ソラストの2社が“談合”で処分/公正取引委員会公正取引委員会は10月17日に、愛知県と岐阜県の20の公立病院や大学病院が発注した受付や診療報酬請求などの医療事務の委託の入札で、業界大手のニチイ学館およびソラストの2社が平成27年以降に談合を繰り返したとして、独占禁止法違反を認定したと発表した。2社は談合によって医療事務の受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。受注総額は約87億円であり、ほぼすべての入札で2社以外の入札はなかった。公正取引委員会はニチイ学館に対して1億2千万円余りの課徴金の納付を命じたが、自ら違反行為を申告したソラストについては、課徴金の対象にはならない。今後、2社に対して、競争入札に参画できないように期間を区切って排除措置命令が下される見込み。(参考)愛知県又は岐阜県に所在する病院が発注する医事業務の入札等の参加業者に対する排除措置命令及び課徴金納付命令について(公正取引委員会)ニチイ学館に排除措置命令 医療事務巡り談合、公取委(日経新聞)医療事務めぐる談合を認定 ニチイ学館に課徴金1億2千万円 公取委(朝日新聞)

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僧帽弁狭窄症と日本酒造りの奇妙な共通点【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第53回

第53回 僧帽弁狭窄症と日本酒造りの奇妙な共通点今の大学生はとても可哀そうで、大学祭といっても酒類の提供は禁止です。成人年齢は18歳に引き下げられても、20歳未満の飲酒は禁止のままで、それも厳密な運用がなされています。自分は両親が酒に寛大であったこともあり、成人年齢前から酒に接する機会がありました。それが普通なのが昭和でした。そのお陰か、お酒が大好きです。日本酒・ワイン・焼酎・ビールなどを友として毎晩のように盃を重ねています。手取川に代表される石川県産の日本酒は「命の水」ともいえる味わいです。日本酒の製造過程は非常に複雑です。日本酒に限らず酒の醸造では、酵母の働きで糖分をアルコールと二酸化炭素に変えるアルコール発酵が必須です。米はデンプンであり、発酵に必要な糖分を含みません。カビの一種である麹が、米のデンプンをブドウ糖に変える糖化を行います。糖化とアルコール発酵を同時に行う並行複発酵は、とても高度な日本酒の醸造法です。さらに精緻であるのは、乳酸菌の関与です。乳酸菌は日本酒の種となる酒母になくてはならない存在です。酒造りで一番怖いのは、酒樽の中で雑菌が増殖する腐造です。近年でも、酒蔵が腐造により倒産・廃業に追い込まれています。アルコールには殺菌作用がありますから、アルコール発酵が進む前の醸造の初期段階で汚染の可能性が高まります。酒母の中で乳酸菌が増殖し乳酸を産生します。日本酒醸造は、米ヨーグルト造りの過程を含むのです。乳酸の酸性が微生物による汚染を防ぎます。通常の環境では雑菌よりも弱い酵母ですが、酵母は酸性の環境に強く、乳酸の存在下でもアルコール発酵を継続できる特徴をもちます。日本酒造りの過程で、酵母を守り腐造を防ぎながら、最後には自らの作り出した乳酸の殺菌作用で消えて去っていく、それが乳酸菌です。心臓弁膜症は、文字通り弁の機能が低下することによって引き起こされる病気です。心臓弁膜症の中でも僧帽弁狭窄症(mitral stenosis, MS)は、圧倒的多数がリウマチ熱に起因します。リウマチ熱は幼少期のA群溶連菌の咽頭感染が原因です。遺伝的に心臓弁膜の表面組織と溶連菌細胞の抗原に類似性を持つ者では、溶連菌に対して獲得した免疫反応が自己の弁膜組織に対して攻撃を引き起こします。このため慢性炎症が持続し、僧帽弁交連部の癒着と弁尖の石灰化が進みMSに至ります。先進国では、感染症であるリウマチ熱自体がとても稀な疾患になったため、MSの新規発生も激減しました。小生が医師になった30年以上前にはMSは珍しくない疾患でしたが、今では本当に稀な疾患になりました。大学病院でも年に1例遭遇するかどうかという頻度です。MSという疾患への対応を通じて心臓外科の手術技法や器具が発展しました。全身に血液を送る一番重要なポンプである左心室は、僧帽弁と大動脈弁に接続します。弁膜症は弁が開かなくなる狭窄症と、閉じなくなる閉鎖不全症に大別されます。つまり左心系の弁膜症としては、僧帽弁狭窄症・僧帽弁閉鎖不全症・大動脈弁狭窄症・大動脈弁閉鎖不全症の4つに大別されます。少し専門的な話になりますが、僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁閉鎖不全症は左心室に容量負荷が生じます。大動脈弁狭窄症では左心室に圧負荷が生じます。これらの負荷によって左心室は障害され心筋はダメージを受けます。一方で僧帽弁狭窄症(MS)は特殊です。MSでは、左心房から左心室へ血液が流入しにくく、なかなか血液を押し出すことのできない左心房の圧が上昇します。これが肺うっ血をまねき、息切れなどの心不全症状が出現します。左心房が拡大し心房細動という不整脈を引き起こすこともあります。左心房には負荷が生じますが、左心室には全く負荷がないことがポイントです。MSの患者は、症状が重篤であっても左心室機能そのものは、障害されることなく温存されているのです。ボストンのCutlerは1923年に12歳男児の左心室から小さな穴をあけそこから器具で僧帽弁を切開することで僧帽弁狭窄症を手術しています。1948年にフィラデルフィアのBaileyは同様の手術をMSに試みています。余命6ヵ月と言われた24歳女性が生存退院し、その後に出産し育てあげたそうです。この非直視下僧帽弁交連切開術(CMC)は心臓手術の黎明期に盛んに施行されました。左心室機能が保持されているというMS固有の病態が、未成熟な手術手技や不十分な心筋保護であっても患者生存を可能にしたのです。MS患者は、現代からみれば無茶な手術を受けても、僧帽弁の開放が改善するメリットを享受して生き延びることができたのです。このMS患者への手術を重ねる中で、人工心肺や人工弁、心停止中の心筋保護技術が洗練されていきました。そのプロセスを通じて、左心室負荷や心筋ダメージを伴う他の種類の重症弁膜症への心臓外科手術法が確立していったのです。日本酒醸造の話と心臓弁膜症の話には共通の伏線があります。去り際の美学です。日本酒の醸造過程で、酵母を守り腐造を防ぐ役目を果たして、酒樽から消え去っていく乳酸菌。心臓外科の進化の過程で、人工心肺や人工弁、心筋保護法の確立の礎となる役目を果たして、罹患する者が激減し消え去ろうとしている僧帽弁狭窄症。両者ともに、見事な去り際です。満開に咲き誇った桜がはらはらと舞い散る様子は、どこか寂しく儚くもあり、美しくもあります。滅びの美学ともいえます。酒造りと心臓病を同一レベルで比喩し語ることは不遜かもしれません。お許しください。今日もコロナ対策としてアルコールによる体内からの消毒に励みます。膝のうえに猫を乗せ撫でながら日本酒を片手に酔っぱらう、そんな平和が続くことを願うばかりです。

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コロナでIF急上昇の感染症系ジャーナルを狙うべしッ!!【ちょっくら症例報告を書いてみよう】第3話

さて、昨年華々しく始まった本連載「ちょっくら症例報告を書いてみよう」ですが、作者多忙のため2回ほど掲載されたところで止まってしまいました。しかし、この度『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博・集英社)の連載が再開されるという吉報が届きましたので、本連載も急遽再開することとなりました!「冨樫先生が頑張ってるのに、オレだけ休んでられるかよ…」『HUNTER×HUNTER』連載再開のニュースは、私にそんな気持ちを奮い起こしてくださいました。冨樫先生、ありがとうございます。再び冨樫先生が休載するまでは、感謝の正拳突きを一旦中止して、本連載「ちょっくら症例報告を書いてみよう」を書かせていただきたい所存です。会員の皆さま、どうぞよろしくお願い申し上げます。感染症が今熱いッさて、本連載では「症例報告を書こう」をテーマに掲げておりましたが(ていうか2回しか書いてないけど)、今回からはよりフォーカスして「感染症の症例報告を書こう」をテーマにしたいと思います。なぜなら、私が感染症医だから…そして今、感染症領域が熱いからですッ!新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は世界を激変させました。そして、それは医学誌の世界も例外ではありません。2020年の1年だけでCOVID-19に関する論文は10万本を超えており、PubMedに掲載された論文の約6%を占めたと言います。当然ながら、たくさんの論文が書かれると、たくさんの論文が引用されます。COVID-19流行によりコロナ論文が大量に生まれたことで、メジャー雑誌、そして感染症関連雑誌は大幅にインパクト・ファクターを上げました。COVID-19が登場した2019~20年にかけて、80%以上の医学誌がインパクト・ファクターを上げたと言われていますが、“NEJM,Lancet,JAMA”などのメジャー・ジャーナルはインパクト・ファクター100超えという異常な状況となっています。また、感染症系のジャーナルも軒並みインパクト・ファクターを伸ばしており、“Clinical Infectious Diseases”(9→21)、“Journal of Travel Medicine”(8.4→39)、“Emerging Infectious Diseases”(6.8→16)、“International Journal of Infectious Diseases”(3.8→12)と大変なことになっています。私のように、EIDとかIJIDにせっせと投稿していたような者としては、自分が持っていた株が値上がりして「億り人」になったような気持ちになります。COVID-19関連で最も引用された論文はLancet誌の41例のケースシリーズです。グーグルスカラー・カウンターによると実に「47,681回」も引用されています。「たったの41例かよ…オレなんかCOVID-19を1,000例以上診てるぜ…!?」とついつい言いたくなりますが、最初に書いたもん勝ちの世界なのであります。COVID-19関連では症例報告でもたくさん引用されることがあります。例えば、卑近な例で言いますと、私がコレスポした「世界最初のガンマ株の症例報告」は155回引用されていますし、アメリカで最初のCOVID-19症例の報告はなんと6,635回です! 症例報告界では最強クラスと言っていいでしょう。とはいっても、私はCOVID-19の症例報告を書こうと言いたいわけではありません。むしろ非コロナの感染症が狙い目なのです。非コロナの症例報告で高IFの医学誌を狙う今はCOVID-19で急激にインパクト・ファクターを伸ばしているこれらの感染症系ジャーナルですが、急に掲載が難しくなっているわけではありません。特にCOVID-19以外の感染症については、競争率が激しくなっているわけではないためハードルは上がりようがありません。実際に私もCOVID-19流行前後で非コロナ感染症の症例報告を複数投稿していますが、特に難化したような印象は持っていません。つまり…今だと非コロナ感染症の症例報告でもインパクト・ファクターの高い医学誌を狙えるのですッ!ということでぜひ感染症系の雑誌(表)に症例報告を書くことをお勧めします。表 感染症領域の医学誌のインパクト・ファクターの変化と筆者による一言メモ画像を拡大する「最近、症例報告が2つEIDってマイナーな雑誌に載っちゃってさ…鼠咬症と納豆菌菌血症って超マニアックな症例ばっかなんだけど…どうせオレなんて誰も見向きもしないマイナーな症例を報告してるだけの永遠の小物だからさ…。え…? インパクト・ファクター…? いやいや、大したことないよ…いやいや、たったの16だって!」とか言ってみたくないですか?そう、今ならインパクト・ファクター10超えのジャーナルに症例報告を載せまくることができるのですッ!このタイミングを見逃すなッ!ということで、次回は、感染症の症例報告ならではの「微生物検査の活用の仕方」についてご紹介します。冨樫先生が休載していなければ、また2週間後にお会いしましょう!1)Else H. Nature. 2020;588:553. 2)Huang C.et al. Lancet. 2020;395:497-506.3)Fujino T,et al. Emerg Infect Dis. 2021;27:1243-1245.4)Tanaka I,et al. Emerg Infect Dis. 2022;28:1718-1719. 5)Kawashima A,et al. Emerg Infect Dis. 2022;28:886-888.

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かかりつけ医も知っておきたい、コロナ罹患後症状診療の手引き第2版/厚労省

 厚生労働省は、2022年6月に公開した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1.1版)」を改訂し、第2版を10月14日に発表し、全国の自治体や関係機関などに周知を行った。 主な改訂箇所としては、・第1章の「3.罹患後症状の特徴」について国内外の最新知見を追加・第3~11章の「2.科学的知見」について国内外の最新知見を追加・代表的な症状やキーワードの索引、参考文献全般の見直しなどが行われた。 同手引きの編集委員会では、「はじめに」で「現在、罹患後症状に悩む患者さんの診療や相談にあたる、かかりつけ医などやその他医療従事者、行政機関の方々に、本書を活用いただき、罹患後症状に悩む患者さんの症状の改善に役立ててほしい」と抱負を述べている。1年後に多い残存症状は、疲労感・倦怠感、呼吸困難、筋力低下/集中力低下 主な改訂内容を抜粋して以下に示す。【1章 罹患後症状】「3 罹患後症状の特徴」について、タイトルを「罹患後症状の頻度、持続時間」から変更し、(罹患者における研究)で国内外の知見を追加。・海外の知見 18報告(計8,591例)の系統的レビューによると、倦怠感(28%)、息切れ(18%)、関節痛(26%)、抑うつ(23%)、不安(22%)、記憶障害(19%)、集中力低下(18%)、不眠(12%)が12ヵ月時点で多くみられた罹患後症状であった。中国、デンマークなどからの研究報告を記載。・国内の知見 COVID-19と診断され入院歴のある患者1,066例の追跡調査について、急性期(診断後~退院まで)、診断後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月で検討されている。男性679例(63.7%)、女性387例(36.3%)。 診断12ヵ月後でも罹患者全体の30%程度に1つ以上の罹患後症状が認められたものの、いずれの症状に関しても経時的に有症状者の頻度が低下する傾向を認めた(12ヵ月後に5%以上残存していた症状は、疲労感・倦怠感(13%)、呼吸困難(9%)、筋力低下/集中力低下(8%)など。 入院中に酸素需要のあった重症度の高い患者は、酸素需要のなかった患者と比べ3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 入院中に気管内挿管、人工呼吸器管理を要した患者は、挿管が不要であった患者と比べて3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 罹患後症状に関する男女別の検討では、診断後3ヵ月時点で男性に43.5%、女性に51.2%、診断後6ヵ月時点で男性に38.0%、女性に44.8%、診断後12ヵ月時点で男性に32.1%、女性に34.5%と、いずれの時点でも罹患後症状を1つでも有する割合は女性に多かった。(非罹患者と比較した研究) COVID-19非罹患者との比較をした2つの大規模コホート研究の報告。英国の後ろ向きマッチングコホート研究。合計62の症状が12週間後のSARS-CoV-2感染と有意に関連していて、修正ハザード比で大きい順に嗅覚障害(6.49)、脱毛(3.99)、くしゃみ(2.77)、射精障害(2.63)、性欲低下(2.36)のほか、オランダの大規模マッチングコホート研究を記載。(罹患後症状とCOVID-19ワクチン接種に関する研究)(A)COVID-19ワクチン接種がCOVID-19感染時の罹患後症状のリスクを減らすかどうか(B)すでに罹患後症状を認める被験者にCOVID-19ワクチン接種を行うことでどのような影響が出るのか、の2点に分け論じられている。(A)低レベルのエビデンス(ケースコントロール研究、コホート研究のみでの結果)では、SARS-CoV-2感染前のCOVID-19ワクチン接種が、その後の罹患後症状のリスクを減少させる可能性が示唆されている。(B)罹患後症状がすでにある人へのCOVID-19ワクチン接種の影響については、症状の変化を示すデータと示さないデータがあり、一定した見解が得られていない。「5 今後の課題」 オミクロン株症例では4.5%が罹患後症状を経験し、デルタ株流行時の症例では10.8%が罹患後症状を経験したと報告されており、オミクロン株流行時の症例では罹患後症状の頻度は低下していることが示唆されている。揃いつつある各診療領域の知見 以下に各章の「2.科学的知見」の改訂点を抜粋して示す。【3章 呼吸器症状へのアプローチ】 罹患後症状として、呼吸困難は20〜30%に認め、呼吸器系では最も頻度の高い症状であった。年齢、性別、罹患時期などをマッチさせた未感染の対照群と比較しても、呼吸困難は胸痛や全身倦怠感などとともに、両者を区別しうる中核的な症状だった。【4章 循環器症状へのアプローチ】 イタリアからの研究報告では、わずか13%しか症状の完全回復を認めておらず、全身倦怠感が53%、呼吸困難が43.4%、胸痛が21.7%。このほか、イギリス、ドイツの報告を記載。【5章 嗅覚・味覚症状へのアプローチ】 フランス公衆衛生局の報告によると、BA.1系統流行期と比較し、BA.5系統流行期では再び嗅覚・味覚障害の発生頻度が増加し、嗅覚障害、味覚障害がそれぞれ8%、9%から17%に倍増した。【6章 神経症状へのアプローチ】 中国武漢の研究では、発症から6ヵ月経過しても、63%に疲労感・倦怠感や筋力低下を認めた。また、発症から6週間以上持続する神経症状を有していた自宅療養者では、疲労感・倦怠感(85%)、brain fog(81%)、頭痛(68%)、しびれ感や感覚障害(60%)、味覚障害(59%)、嗅覚障害(55%)、筋痛(55%)を認めたと報告されている。【7章 精神症状へのアプローチ】 罹患後症状が長期間(約1年以上)にわたり持続することにより、二次的に不安障害やうつ病を発症するリスクが高まるという報告も出始めている。【8章 “痛み”へのアプローチ】 下記の2つの図を追加。 「図8-1 COVID-19罹患後疼痛(筋痛、関節痛、胸痛)の経時的変化」 「図8-2 COVID-19罹患後疼痛の発生部位」 COVID-19罹患後に身体の痛みを有していたものは75%で、そのうち罹患前に痛みがなかったにも関わらず新規発症したケースは約50%と報告されている。罹患後、新規発症した痛みの部位は、広範性(20.8%)、頸部(14.3%)、頭痛、腰部、肩周辺(各11.7%)などが報告され、全身に及ぶ広範性の痛みが最も多い。 【9章 皮膚症状へのアプローチ】「参考 COVID-19と帯状疱疹[HZ]の関連について」を追加。ブラジルでは2017〜19年のCOVID-19流行前の同じ間隔と比較して、COVID-19流行時(2020年3〜8月)のHZ患者数は35.4%増加した。一方、宮崎での帯状疱疹大規模疫学研究では、2020年のCOVID-19の拡大はHZ発症率に影響を与えなかったと報告。    【10章 小児へのアプローチ】 研究結果をまとめると、(1)小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや高く、特に複数の症状を有する場合が多い、(2)年少児は年長児と比べて少ない、(3)症状の内訳は、嗅覚障害を除くと対照群との間に大きな違いはない、(4)対照群においてもメンタルヘルスに関わる症状を含め、多くの訴えが認められる、(5)症例群と対照群との間に罹患後症状の有病率の有意差を認めない、(6)小児においてもまれに成人にみられるような循環器系・呼吸器系などの重篤な病態を起こす可能性があるといえる。【11章 罹患後症状に対するリハビリテーション】 2022年9月にWHOより公表された"COVID-19の臨床管理のためのガイドライン"の最新版(第5版)では、罹患後症状に対するリハビリテーションの項が新たに追加され、関連する疾患におけるエビデンスやエキスパートオピニオンに基づいて、呼吸障害や疲労感・倦怠感をはじめとするさまざまな症状別に推奨されるリハビリテーションアプローチが紹介されている。 なお、本手引きは2022年9月の情報を基に作成されており、最新の情報については、厚生労働省などのホームページなどから情報を得るように注意を喚起している。

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コロナ罹患後症状、120万人のプール解析/JAMA

 2020年および2021年に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した症候性患者において、Long COVID(新型コロナウイルス感染症[COVID-19]の罹患後症状、いわゆる後遺症)の主要な症状クラスター(身体的痛みや気分変動を伴う持続性疲労、認知に関する問題、持続する呼吸器症状)のいずれかを有する割合は全体で6.2%と推定され、女性および入院を要したSARS-CoV-2初感染者で高いことが、米国・ワシントン大学のSarah Wulf Hanson氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Disease)Long COVID Collaboratorsの解析で明らかとなった。2021年10月、世界保健機関(WHO)は、SARS-CoV-2感染から3ヵ月経過後も認められる、少なくとも2ヵ月以上持続し他の診断では説明がつかない症状として、「post COVID-19 condition」の定義を発表。しばしば「Long COVID」と呼ばれるこれらの症状について、これまでの研究では個々の症状や症状数に関する報告が最も多く、症状の持続期間や重症度、重複症状に関する報告は少なかった。JAMA誌オンライン版2022年10月10日号掲載の報告。2020年3月~2022年1月の症候性SARS-CoV-2感染者約120万人のデータを解析 研究グループは世界疾病負担研究の一環として、54件の研究および米国の2つの医療記録データベースを用い、2020年3月~2022年1月における症候性SARS-CoV-2感染者のデータを収集し、ベイジアンメタ回帰分析およびプール解析を行った。 54件の研究は、公表された研究が44件、オーストリア・フェロー諸島・ドイツ・イラン・イタリア・オランダ・ロシア・スウェーデン・スイス・米国で実施された共同コホート研究が10件で、医療記録データベースも合わせると、計22ヵ国から約120万人のデータが収集された。内訳は、公表された研究44件で入院例1万501例および非入院例4万2,891例、共同コホート研究10件でそれぞれ1万526例および1,906例、医療記録データベースでそれぞれ25万928例および84万6,046例。 主要評価項目は、SARS-CoV-2感染3ヵ月後における自己報告によるLong COVIDの有病率(主要な3つの症状クラスター[身体的痛みや気分変動を伴う持続性疲労、認知に関する問題、持続する呼吸器症状]のうち少なくとも1つを有する割合)とし、20歳以上と20歳未満に分け入院・非入院別ならびに男女別に推計した。そのほか、Long COVID症状クラスターの持続期間や相対的な重症度についても評価した。感染3ヵ月後のLong COVID有病率は全体で6.2%、20歳以上の女性では10.6% 解析に含まれた各研究・コホートの平均年齢の範囲は4~66歳、男性の割合は26~88%であった。 モデルを用いた解析でCOVID-19以前の健康状態を調整した結果、SARS-CoV-2感染3ヵ月後における症候性SARS-CoV-2感染者のLong COVID有病率は、全体で6.2%(95%不確定区間[UI]:2.4~13.3%)であった。 症状クラスター別では、身体的痛みや気分変動を伴う持続性疲労が3.2%(95%UI:0.6~10.0%)、持続する呼吸器症状が3.7%(0.9~9.6%)、認知に関する問題が2.2%(0.3~7.6%)であった。Long COVID症例における各症状クラスターの割合は、それぞれ51.0%(95%UI:16.9~92.4%)、60.4%(18.9~89.1%)および35.4%(9.4~75.1%)と推定された。 SARS-CoV-2感染3ヵ月後のLong COVID有病率は、20歳以上の女性では10.6%(95%UI:4.3~22.2%)であり、20歳以上の男性での5.4%(2.2~11.7%)と比べて高率であった。20歳未満では男女とも2.8%(95%UI:0.9~7.0%)と推定された。 Long COVIDの症状クラスターの推定平均持続期間は、入院例で9.0ヵ月(95%UI:7.0~12.0)、非入院例では4.0ヵ月(3.6~4.6)であった。 SARS-CoV-2感染3ヵ月後にLong COVID症状を有していた人のうち、推定15.1%(95%UI:10.3~21.1)は12ヵ月後も症状が持続していた。

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第131回 姑息な手より急がば回れ、塩野義コロナ薬が第II/III相で良好な成績

過去の本連載で取り上げた興和による新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する抗寄生虫薬イベルメクチン(商品名:ストロメクトール)の第III相試験の記者会見があった9月最終週、実は新型コロナに関してポジティブなニュースがあった。本連載で何度も辛口で触れてきた塩野義製薬の新型コロナ3CLプロテアーゼ阻害薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の第II/III相試験の第III相パートで、プラセボに比べて有意な症状改善が認められたという発表である。第一報に触れた時は「ようやくか」という印象だった。ちなみにこうした反応をすると、SNS上では手の平返しと言われるらしい。だが、私が従来からこの薬に辛口だったのは、承認前の塩野義製薬幹部による政治家へのロビー活動、希少疾患治療薬向けの条件付き早期承認制度の拡大解釈的利用、はたまた主要評価項目が未達の第IIb相パートのサブ解析を多用したアピールなど、あまりにもフライングが多過ぎるからである。なので、第II相パートで結果が出ないなら、その結果を踏まえて試験設定を見直し、それで良好な結果が出たら正々堂々と承認申請すれば良いという立場である。さて、塩野義製薬による第III相パート結果の速報直後、私はいつ会見が開催されるのかと手ぐすねを引いて待っていたが、あれだけ外部にアピールを続けていた同社にしては珍しく記者会見はなし。しかし、先日同社が株主・投資家向けに開催したR&D説明会で速報時よりも詳細なデータが公表されていたことを知った。まず、VeroE6T細胞を使ったin vitroの50%効果濃度(EC50[μM])を見ると、従来株が0.37、アルファ株が0.46、デルタ株が0.41で、オミクロン株関連はBA.1が0.29、BA.4が0.22、BA.5が0.40となっている。in vitroとはいえ抗ウイルス活性は悪くない印象である。また、第III相パートは、緊急承認制度の申請時に提出したデータの教訓を生かし、主要評価項目を「オミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水/鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさ/発熱、けん怠感・疲労感)の消失(発症前の状態に戻る)までの時間」とし、主要解析対象集団は新型コロナ発症から無作為割付けまでが72時間未満の被験者としている。試験は申請用量のエンシトレルビル1日125mg(2~5日目の用量、1日目は375mg)と倍量の250mg(同1日目は750mg)、プラセボの各約600例の3群比較。実際の主要解析対象集団は各群とも340例前後である。ちなみにこの試験の被験者は重症化リスク因子の有無に関係ないことはよく知られているが、各群の平均年齢は35歳前後で、ワクチン接種率は92~93%であり、今の日本で発熱外来の受診者のバックグラウンドを十分に反映しているだろう。最終的な主要評価項目の中央値は、125mg群が167.9時間、 250mg群が171.2時間、プラセボ群が192.2時間。プラセボ群に比べ、125mg群は5症状消失までの時間を24時間強、有意に短縮(p=0.0407)。ただ、発症から120時間以内の集団での解析を行うと有意差は認められないという。つまり発症から3日以内に服用しないと効果が認められないとも言える。また、副次評価項目である投与4日目(3日間連続投与後)のベースラインからのウイルスRNAの平均変化量(log10[copies/mL])は125mg群が-2.737、250mg群が-2.690、プラセボ群が-1.235。対数評価なので、125mg群ではベースラインから300分の1に低下、プラセボは10分の1に低下したことになり、これもプラセボ比では有意な差となっている(p

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経口コロナ薬2剤、オミクロン下での有効性/Lancet

 香港では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株亜系統BA.2.2が流行している時期に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者へのモルヌピラビルまたはニルマトレルビル+リトナビルの早期投与が、死亡および入院中の疾患進行のリスクを低下したことが、さらにニルマトレルビル+リトナビルは入院リスクも低下したことが、中国・香港大学のCarlos K. H. Wong氏らによる後ろ向き症例対照研究で明らかとなった。SARS-CoV-2オミクロン株に対する経口抗ウイルス薬のリアルワールドでの有効性については、ほとんど示されていなかった。Lancet誌2022年10月8日号掲載の報告。高リスクCOVID-19外来患者を対象に、経口抗ウイルス薬2種の有効性を調査 研究グループは、香港病院管理局(Hong Kong Hospital Authority)のデータを用い、香港でオミクロン株亜系統BA.2.2が主流であった2022年2月26日~6月26日の期間に、SARS-CoV-2感染が確認された18歳以上のCOVID-19非入院患者を特定した。解析対象は、重症化リスク(糖尿病、BMI≧30、60歳以上、免疫抑制状態、基礎疾患あり、ワクチン未接種)を有する軽症患者で、発症後5日以内に外来でモルヌピラビル(800mg 1日2回5日間)またはニルマトレルビル+リトナビル(ニルマトレルビル300mg[推定糸球体濾過量30~59mL/分/1.73m2の場合は150mg]+リトナビル100mg 1日2回5日間)の投与が開始された患者であった。老人ホーム入居者、ニルマトレルビル+リトナビルの投与禁忌に該当する患者は、除外された。 対照群は、入院前にSARS-CoV-2感染が確認され、観察期間中に外来で経口抗ウイルス薬の投与を受けなかった患者のうち、年齢、性別、SARS-CoV-2感染診断日、チャールソン併存疾患指数、ワクチン接種回数に関して傾向スコアがマッチする患者を、1対10の割合で選択した。 主要評価項目は、全死因死亡、COVID-19関連入院、入院中の疾患進行(院内死亡、侵襲的人工呼吸、集中治療室[ICU]入室)。経口抗ウイルス薬投与群と各対照群との比較は、Cox回帰モデルを用いてハザード比(HR)を推定し評価した。いずれも全死因死亡、入院後の疾患進行リスクを低下 COVID-19非入院患者107万4,856例のうち、地域の医療機関で2種類の新規経口抗ウイルス薬のいずれかが開始された患者は1万1,847例(モルヌピラビル群5,383例、ニルマトレルビル+リトナビル群6,464例)で、このうち適格基準を満たし傾向スコアをマッチさせた解析対象集団は、モルヌピラビル群4,983例と対照群4万9,234例、ならびにニルマトレルビル+リトナビル群5,542例と対照群5万4,672例であった。 追跡期間中央値はモルヌピラビル群103日vs.ニルマトレルビル+リトナビル群99日であり、モルヌピラビル群はニルマトレルビル+リトナビル群より高齢者が多く(>60歳:4,418例[88.7%]vs.4,758例[85.9%])、ワクチン完全接種率が低い(800例[16.1%]vs.1,850例[33.4%])傾向があった。 モルヌピラビル群は対照群と比較して、全死因死亡(HR:0.76、95%信頼区間[CI]:0.61~0.95)および入院中の疾患進行(0.57、0.43~0.76)のリスクが低下したが、COVID-19関連入院のリスクは両群で同等であった(0.98、0.89~1.06)。 一方、ニルマトレルビル+リトナビル群は対照群と比較して、全死因死亡(HR:0.34、95%CI:0.22~0.52)、COVID-19関連入院(0.76、0.67~0.86)、および入院中の疾患進行(0.57、0.38~0.87)のリスクが低下した。 高齢患者においては、経口抗ウイルス薬の早期投与に関連した死亡/入院のリスク低下が一貫して確認された。

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第16回 オンライン診療でインフルエンザと診断してよいか?

政府から示されたオンラインスキームインフルエンザ流行るぞ!という意見が台頭してきましたが、未来のことは誰にもわかりません。しかし、新型コロナ第8波とインフルエンザ流行がかぶると、発熱外来の逼迫は必至です。そのため、政府としても、医療が必要な人以外はできるだけ病院に来ないよう策を講じる必要がありました。ここで示されたのが、「新型コロナ自己検査+インフルエンザオンライン診断」の流れです1)。病院に来なくても、新型コロナとインフルエンザが診断できる「かもしれない」、というスキームです。具体的には図のようになります。オンライン診療というのが結構カッコイイ感じになっていますが、Zoomなどの診療を整備している施設は少数派で、実際には電話診療が多いと思います。電話って個人的には「オンライン」じゃなくて「オフライン」だと思っているのですが…。まあいいでしょう。画像を拡大する図. 新型コロナ・インフルエンザ同時流行時のスキーム(筆者作成:イラストは看護roo!、イラストACより使用)遠隔でインフルエンザ診断さて、このフローで気になるのは、検査なしでオンライン診療によるインフルエンザの確定診断が可能という点です。必要があれば、オセルタミビルなどのインフルエンザ治療薬を遠隔で処方することができます。確かにインフルエンザは、(1)突然の発症、(2)高熱、(3)上気道炎症状、(4)全身倦怠感などの全身症状がそろっていれば、医師の判断でそうであると診断することができるので、検査が必須というわけではありません。インフルエンザだと典型的な症状で類推できるとは思いますが、新型コロナ陰性ならインフルエンザだ!というロジックです。オンライン診療という名の電話診察だけでも抗ウイルス薬を処方してしまってよいのか、少しモヤモヤが残ります。限られた医療資源で対応していくしかないのでしょうが、どんどんフローが複雑化していき、一体病気になった時どこに連絡していいのかわからないという患者さんが増えていくのではないかという懸念もあります。インフルエンザ治療薬の考え方日本は医療資源が潤沢ですから、インフルエンザと診断されれば抗ウイルス薬がほぼルーティンで投与されます。今シーズン(2022年10月~2023年3月)の供給予定量(2022年8月末日現在)は約2,238万人分とされています2)。タミフル(一般名:オセルタミビルリン酸塩 中外製薬)約462万人分オセルタミビル(一般名:オセルタミビルリン酸塩 沢井製薬)約240万人分リレンザ(一般名:ザナミビル水和物 グラクソ・スミスクライン)約215万人分イナビル(一般名:ラニナミビルオクタン酸エステル水和物 第一三共)約1,157万人分ゾフルーザ(一般名:バロキサビル マルボキシル 塩野義製薬)約137万人分ラピアクタ(一般名:ペラミビル水和物 塩野義製薬)約28万人分現状、インフルエンザの特効薬のような位置付けになっていますが、合併症のリスクが高くない発症48時間以内に治療を行ったとしても、有症状期間が約1日短縮される程度の効果であることは知っておきたいところです。■オセルタミビル20試験・ザナミビル46試験を含むレビューでは、オセルタミビルは成人インフルエンザの症状が緩和されるまでの時間を16.8時間(95%信頼区間[CI]:8.4~25.1)、ザナミビルは0.60日(14.4時間)(95%CI:0.39~0.81)短縮した3)。■バロキサビル マルボキシルまたはプラセボによる治療を受けた12歳以上の外来のインフルエンザ2,184例を含んだランダム化試験において、バロキサビル マルボキシル治療は症状改善までの期間を中央値で29.1時間(95%CI:14.6~42.8)短縮した4)。参考文献・参考サイト1)厚生労働省 新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース2)厚生労働省 令和4年度 今冬のインフルエンザ総合対策について3)Jefferson T, et al. Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in adults and children. Cochrane Database Syst Rev . 2014 Apr 10;2014(4):CD008965.4)Ison MG, et al. Early treatment with baloxavir marboxil in high-risk adolescent and adult outpatients with uncomplicated influenza (CAPSTONE-2): a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Infect Dis. 2020 Oct;20(10):1204-1214.

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ブースター接種はオミクロン関連入院に有効/BMJ

 米国では2022年の当初半年間における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンのブースター接種者は、オミクロン変異株関連のCOVID-19の入院について、プライマリシリーズのみ接種者を上回るベネフィットを得ていたことが、米国疾病予防管理センター(CDC)のKatherine Adams氏らによる検査陰性デザイン・ケースコントロール試験の結果、示された。ブースター接種が推奨される中で、オミクロン変異株は2021年12月26日時点でSARS-CoV-2の優勢な変異株となっており、ブースター接種の有効性に関するデータ提示が必要とされていた。BMJ誌2022年10月11日号掲載の報告。オミクロン株優勢時の入院患者対象にケースコントロール試験 研究グループは、2021年12月26日~2022年6月30日の新型コロナウイルス・オミクロン変異株が優勢だった期間に、米国内18州の21病院を通じて、急性呼吸器症状で入院した成人4,760例を対象にケースコントロール試験を行った。被験者のうち2,385例(50.1%)がCOVID-19の検査確定例(ケース群)で、2,375例(49.9%)が検査陰性のSARS-CoV-2例(コントロール群)だった。 主要なアウトカムは、コロナワクチンのプライマリ+ブースター接種者とプライマリシリーズのみ接種者のCOVID-19関連入院に関する有効性。ケース群vs.コントロール群において、それぞれのレジメンでワクチンを受けた場合とワクチン未接種の場合のオッズ比を比較しワクチンの有効性を評価した。ワクチン有効性の解析は、免疫状態(免疫能正常、免疫不全)で層別化した。主要解析は、すべての種類のコロナワクチンの組み合わせで評価し、副次解析は特定のワクチンについて評価した。免疫状態を問わず、ブースターで対COVID-19関連入院の有効性増大 全被験者4,760例の年齢中央値は64歳(四分位範囲[IQR]:52~75)で、994例(20.8%)が免疫不全だった。プライマリシリーズ+ブースター2回接種者が85例(1.8%)、プライマリシリーズ+ブースター1回接種者が1,367例(28.7%)、プライマリシリーズのみ接種者が1,875例(39.3%)、ワクチン未接種者が1,433例(30.1%)だった。 免疫能正常群において、オミクロン変異株関連COVID-19入院の予防に関するワクチンの有効性は、プライマリシリーズ+ブースター2回接種群が63%(95%信頼区間[CI]:37~78)、プライマリシリーズ+ブースター1回接種群が65%(58~71)、プライマリシリーズのみ接種群が37%(25~47)だった(プライマリシリーズのみ接種群と比較したブースターレジメンプール群のp<0.001)。 ワクチンの有効性は、ワクチンの種類別にみてもプライマリシリーズのみ接種群よりもプライマリシリーズ+ブースター接種群で高かった。BNT162b2(ファイザー製)での有効性は、ブースター2回接種群73%(95%CI:44~87)、ブースター1回接種群64%(55~72)、プライマリシリーズのみ接種群36%(21~48)だった(p<0.001)。mRNA-1273(モデルナ製)でも、それぞれ、68%(17~88)、65%(55~73)、41%(25~54)だった(p=0.001)。 免疫不全群においても、ワクチン有効性はプライマリシリーズ+ブースター1回接種群が69%(95%CI:31~86)、プライマリシリーズのみ接種群が49%(30~63)で有意差が認められた(p=0.04)。

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第131回 ワクチン偽装接種で51歳医師逮捕、偽装を依頼した人だけではなく、接種希望者にも生理食塩水接種の言語道断

普通にワクチンの接種に来た人にも偽装を行っていた可能性こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。今週末は、MLBの試合観戦は諦め、茨城県桜川市で無農薬の農園を営む大学の先輩宅へ、泊りがけで農作業の支援に行ってきました。台風で被害があったビニールハウスの補修やトマトの支柱の撤去などを行ったのですが、キャベツ畑に多数のモンシロチョウが乱舞していたのが印象的でした。モンシロチョウは春のイメージですが、キャベツに卵を産み付けるため、秋までは活発に活動するのだそうです。というわけで虫食いだらけのキャベツもお土産にいただいて帰ってきました。しかし、キャベツの芯あたりにヨトウムシというグロテスクな蛾の幼虫が何匹も入り込んでいたのには参りました。スーパーで売られているキャベツには、当然ヨトウムシなど入り込んでいません。それは農薬のおかげと言えます。無農薬農業が“言うは易く行うは難し”であることを実感した次第です。さて今回は新型コロナウイルスのワクチンの接種偽装を行った医師の事件を取り上げます。この事件、接種偽装を、依頼してきた人に対してだけではなく、普通にワクチン接種を受けに来た人にも行っていた可能性もあり、その動機は複雑です。母子3人にワクチンを接種したと偽って接種委託料を詐取10月4日付の全国紙各紙は、愛知県稲沢市の母子3人に新型コロナウイルスワクチンを接種したと偽り同市から接種委託料を詐取した、として警視庁捜査2課が王子北口内科クリニック(東京都北区)のF院長(51)を詐欺と公電磁的記録不正作出及び同供用容疑で再逮捕した、と報じました。各紙報道によれば、F院長は昨年10~12月、稲沢市に住む40代女性と10代の娘2人の計3人について、ワクチン接種をしたとする虚偽の予診票(接種記録)を作成し、同市から接種委託料計約1万4,000円を詐取し、同市経由で国のワクチン接種記録システム(VRS)に虚偽の接種記録を登録させた疑いがある、とのことです。F院長と女性は、数年前にワクチンに否定的な人が集まる投資セミナーで知り合ったそうです。セミナーの仲間内でワクチンを「殺人ワクチン」、接種済み証を「なんちゃって証明」と呼んでいたとの報道もあります。女性は捜査官に対し「人体に悪影響を及ぼすと思っていた。ワクチンを打ったことにしなければ色々な不利益を被ると考え、(接種偽装を)お願いした」と話したとのことです。約230人の接種記録があり、7割以上が北区以外の住民F院長が再逮捕であるのは、今年9月にすでに逮捕されているからです。各紙報道によれば、F院長は、9月12日までに新型コロナウイルスのワクチン接種をしたように装い、自治体から接種委託料をだまし取った詐欺などの疑いで逮捕されています。この時の逮捕容疑は再逮捕の時と同じです。昨年8~12月、札幌市の50代の女性ら家族3人にワクチンを2回ずつ接種したとする予診票を偽造し、国のワクチン接種記録システムに虚偽の接種記録を登録させるなどして、接種委託料計約1万4,000円をだまし取った疑いです。この女性とも投資セミナーで知り合ったとのことです。新型コロナワクチンの接種は、原則、住民票のある自治体で受けることになっていますが、調べでは F院長のクリニックでは2021年7~12月に男女約230人の接種記録があり、7割以上が北区以外の住民で、北海道や広島県などの人が接種を受けた記録があったとのことです。再逮捕の愛知県稲沢市のケースも、北区以外の接種者の中から警視庁が事件としてピックアップしたものと見られます。「接種希望者には生理食塩水を打ったこともある」と供述この事件、一筋縄ではいかないのは、F医師が接種偽装を希望する人だけではなく、一般の人にも本人に伝えず接種偽装をした可能性がある、という点です。毎日新聞等の報道によれば、最初の逮捕後の取り調べで、「接種希望者には生理食塩水を打ったこともある」と供述していたとのことです。F医師は調べに対し「さまざまな人に頼まれてワクチンを打ったことにして予防接種済み証を作った。ワクチンを受けたいという人がいたら、危険性を説明し、それでも受けたい人には生理食塩水を打った」と話していたとのことです。実際、北区保健所には今年1月、同クリニックで接種を受けた複数の区民から「接種したのに抗体値が低い」「生理食塩水を打たれたようだ」といった相談があり、保健所が区民約50人に抗体検査の案内を送ったところ、受検した11人のうち3人は抗体値が低く、接種券を再発行して対応したとのことです。なお、健康被害は確認されていません。容疑は詐欺と公電磁的記録不正作出及び供用接種偽装を頼まれてそれを実行するだけではなく、普通にワクチン接種を希望して来た人にまで、自らの主義、信条を押し付け、黙って生理食塩水を打つとは、医師としては言語道断の行為だと言えるでしょう。キャベツの栽培に農薬を使うかどうかは栽培農家の自由ですが、その栽培農家が「農薬を一切使わないキャベツしか国民は食べてはいけない」と主張し、周囲に押し付けはじめたら、世の中は混乱するでしょう。私自身は、無農薬農法の先輩の手伝いはしますが、ヨトウムシが住んでいるキャベツはさすがに食べる気はしません。農薬の有無よりもキャベツの美味しさを選びます。今から20年ほど前、『買ってはいけない』(週刊金曜日別冊)という書籍がベストセラーになりました。「買ってはいけない」商品の中には、少々強引なロジックでその理由を解説していたものもあったように記憶しています。今回、事件の発端となったワクチン反対派の投資サークルも、『買ってはいけない』を熟読していた人たちなのかもしれません。ところで、F院長の容疑は詐欺と公電磁的記録不正作出及び供用です。詐欺は接種委託料の詐欺です。一方の公電磁的記録不正作出及び供用は、国のワクチン接種記録システム(VRS)に虚偽の接種記録を登録させたことによる罪です。この公電磁的記録不正作出及び供用罪、この連載でも度々登場していますが、皆さんご記憶でしょうか。それは、「第36回 元准教授逮捕の三重大・臨床麻酔部不正請求事件 法律上の罪より重い麻酔科崩壊の罪」でも書いた、三重大の准教授がカルテを改ざんして問われた罪です。他人の事務処理を誤らせる目的で、それに使う電磁的記録を不正に作ったり供したりする罪で、刑法第161条の2に規定されています。電磁的記録不正作出及び供用罪そのものは5年以下の懲役または50万円以下の罰金ですが、公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、10年以下の懲役または100万円以下の罰金となっています。病院の電子カルテであろうが、国のワクチン接種のシステムであろうが、不正に電子データをいじったりするとこの罪に問われることになるので、皆さんも気をつけて下さい。なお、医師としての罪はどうなんだ、ということになりますが、最終的には厚生労働省の医道審議会にかけられ、医師免許取り消し・停止などの行政処分が行われることになるでしょう。それは、これらの罪が確定した後となります。

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FDA、小児へのモデルナとファイザーのBA.4/5対応2価ワクチンを承認

 米国食品医薬品局(FDA)は10月12日、モデルナおよびファイザーのオミクロン株BA.4/5対応の新型コロナウイルス2価ワクチンについて、緊急使用許可(EUA)を修正し、小児への単回追加接種の対象年齢を拡大したことを発表した。モデルナの2価ワクチンは、これまで18歳以上だったものが6~17歳にも承認され、ファイザーの2価ワクチンは、12歳以上だったものが5~11歳にも承認された。それぞれ初回シリーズから最低2ヵ月の接種間隔を経て接種が許可されている。 今回の小児への2価ワクチン承認拡大に伴い、ファイザーの従来の1価ワクチンは、5~11歳に対する追加接種としての使用ができなくなる。ただし、モデルナおよびファイザーの1価ワクチンは、初回シリーズとして、生後6ヵ月以上を対象とした接種は引き続き承認されている。 今回のFDAによる承認は、両社のBA.1対応2価ワクチンの成人における追加接種の臨床試験で評価された免疫反応と安全性に関するデータに依拠している。また、モデルナのBA.4/5対応2価ワクチン単回追加接種の安全性については、12~17歳(約1,300例)、6~11歳(約1,300例)が参加した同社の1価ワクチンの臨床試験に基づいている。追加接種後に最も多く報告された副反応は、注射部位の痛み、発赤、腫脹、疲労、頭痛、筋肉痛、悪寒、関節痛、注射した腕のリンパ節腫脹、悪心/嘔吐、発熱などがあり、BA.4/5対応2価ワクチン接種者も、これと同様の副反応を経験する可能性がある。ファイザーのBA.4/5対応2価ワクチンについても、同社の1価ワクチン接種者と同様の副反応を経験する可能性があるとしている。 日本においては、ファイザーの日本法人が、10月13日付のプレスリリースにて、5~11歳の小児に対するBA.4/5対応2価ワクチンについて、厚生労働省に承認事項一部変更申請を行ったことを発表した。

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フルオロキノロン系抗菌薬で自殺念慮リスクが増大?/BMJ

 2016年、米国食品医薬品局(FDA)は、フルオロキノロン系抗菌薬の枠囲み警告(boxed warning)の改訂において、自殺念慮のリスク増大との関連を示唆した。米国・ハーバード大学医学大学院のJunyi Wang氏らは、この関連について検討し、フルオロキノロン系抗菌薬の使用は、自殺念慮のリスクを実質的に増加させないことを確認した。研究の成果は、BMJ誌2022年10月4日号で報告された。肺炎、尿路感染症を対象とする米国のコホート研究 研究グループは、フルオロキノロン系抗菌薬の投与開始と、自殺傾向による入院または救急診療部受診との関連の評価を目的に、住民ベースのコホート研究を行った(米国・ブリガム&ウィメンズ病院などの助成を受けた)。 解析には、米国のIBM MarketScan databaseのデータが用いられた。対象は、年齢18歳以上、2003年1月~2015年9月の期間に、抗菌薬投与開始前の3日以内に肺炎または尿路感染症(UTI)と診断され、6ヵ月以上の抗菌薬の持続投与が予定されており、経口フルオロキノロン系抗菌薬または比較対象の抗菌薬の投与が開始された患者であった。 フルオロキノロン系抗菌薬は、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、gemifloxacin、オフロキサシン、ガチフロキサシン、ノルフロキサシン、ロメフロキサシン、besifloxacinが使用され、比較対象薬は、肺炎患者がアジスロマイシン、UTI患者はトリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)であった。 傾向スコアマッチング法を用いて、肺炎およびUTIコホートの2つの抗菌薬群に、1対1の割合で参加者をマッチさせた。 主要アウトカムは、治療開始から60日以内の自殺念慮または自傷による入院または救急診療部受診とされた。入院・受診に至らない自殺念慮への影響は排除できない 肺炎患者55万1,042例(フルオロキノロン系抗菌薬群27万5,521例[平均年齢51.44歳、男性48.6%]、アジスロマイシン群27万5,521例[51.69歳、48.7%])と、UTI患者220万5,226例(フルオロキノロン系抗菌薬群110万2,613例[43.66歳、8.4%]、TMP-SMX群110万2,613例[43.76歳、8.1%])が、解析に含まれた。 60日の追跡期間中に、肺炎コホートで181件(フルオロキノロン系抗菌薬群91件[0.03%]、アジスロマイシン群90件[0.03%])、UTIコホートで966件(フルオロキノロン系抗菌薬群491件[0.04%]、TMP-SMX群475件[0.04%])の自殺傾向による入院または救急診療部受診が認められた。 自殺傾向による入院または救急診療部受診に関するフルオロキノロン系抗菌薬群の補正後ハザード比(HR)は、肺炎コホートではアジスロマイシン群との比較で1.01(95%信頼区間[CI]:0.76~1.36)、UTIコホートではTMP-SMX群との比較で1.03(0.91~1.17)であり、いずれも有意な差はみられなかった。 傾向スコアマッチングを行う前の全体のコホート(肺炎コホートの補正後HR:1.06[95%CI:0.84~1.35]、UTIコホート0.98[0.88~1.09])、および高次元傾向スコアマッチング法による解析(肺炎コホート1.02[0.76~1.38]、UTIコホート1.05[0.92~1.19])でも、主解析と一致した結果であった。また、性別、年齢層別、精神疾患の既往歴の有無別のサブグループ解析でも、結果は同様だった。 著者は、「フルオロキノロン系抗菌薬が自殺傾向による入院または救急診療部受診のリスクを実質的に増加させることはなかったが、リスクのわずかな増加や、入院・救急診療部受診に至らない自殺念慮への影響を排除することはできない」としている。

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第134回 コロナ感染から1年後も続く症状は1年半後もおよそ解消せず/オミクロン株ワクチンは無駄ではない

コロナ感染から1年後も続く症状は1年半時点でもおよそ解消せずそのまま新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状、いわゆるコロナ後遺症(コロナ罹患後症状)はジャニーズ事務所のアイドルも自身のその病状を今や公言するなど1)、世間に広く知られるようになりました。COVID-19流行は2019年の後半から始まっておよそ3年が経ち、コロナ罹患後症状の長期追跡の結果も報告されるようになりました。英国でのそのような長期追跡の新たな報告によると、コロナ罹患後症状が感染から1年後もあるようならその半年後までの解消はおよそ期待できず1年半時点でもそのまま持ち越されるようです2-4)。試験では英国・スコットランドの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者3万3,281人とそうでない6万2,957人が18ヵ月間追跡されました。発症した感染者3万1,486人のうち1,856人(6%)は最後の観察時点(most recent follow-up)で症状がまったく回復しておらず(非回復)、半数近い1万3,350人(42%)はある程度ましになったものの完全回復には至っていませんでした(部分回復)。感染後6ヵ月と12ヵ月時点での記録がある3,744人に限った解析での非回復、部分回復、完全回復は6ヵ月時点ではそれぞれ295人(8%)、1,766人(47%)、1,683人(45%)、12ヵ月時点でもほぼ変化なしのそれぞれ303人(8%)、 1705(46%)、1736人(46%)でした。また、感染後12ヵ月(1年)時点と18ヵ月(1年半)時点での記録がある197人に限った解析での非回復、部分回復、完全回復は1年時点ではそれぞれ21人(11%)、100人(51%)、76人(39%)、1年半時点ではそれぞれ21人(11%)、101人(51%)、75人(38%)でした。今回の結果によると感染から1年後に不調の人のほとんどはその半年後の1年半時点でも回復しないままのようです。無症状の感染と罹患後症状やその他の有害転帰(生活の支障、入院、救急受診、死亡)の関連は認められず、罹患後症状は感染症が重度だった人により生じていました。感染前のワクチン接種で罹患後症状を予防しうるとの一文で報告は締めくくられています2)。オミクロン株ワクチンは無駄ではないModerna社の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株BA.1対応ワクチンmRNA-1273.529を追加接種した人の抗体を解析した試験報告5)によると、どうやらオミクロン株対応ワクチンは将来の新参株と戦う準備をも免疫系に備えさせる働きがあるようです6)。試験では26人のリンパ節検体と15人の骨髄検体が解析され、使いまわしのB細胞ではなく新品のB細胞をおそらく起源とするBA.1認識抗体が検出されました。その結果によると、BA.1のような変異株へのワクチン接種は先立つワクチン接種で備わったいわば使い古しのB細胞に免疫が固執(imprinting)してしまうのを乗り越え、新品のB細胞を手配して変異株に順応できるようにする働きがあるようです。また、元祖ワクチン接種を済ませたもののオミクロン株に感染した6人を調べた別の研究7)ではそういう順応が時を経るにつれて成熟していくことが示されています。オミクロン株感染から1ヵ月時点でのそれら6人の抗体はオミクロン株BA.1より元祖株にもっぱらより結合しましたが、感染から半年経つと6人のおよそ半数のB細胞は元祖株よりオミクロン株BA.1により結合する抗体を作るようになっていました6)。つまり感染後の免疫は時とともに成熟しました。新たな流行を引き起こす新参の次世代ウイルス株はその直前に流行った先代株やその先代株へのワクチンの抗原に元祖株より似通い、新参株に直面した免疫はその新参株に最も近い抗原に応じる既存のB細胞をまずは活性化します。よって、目下流行中のウイルス株へのワクチンを用意することは、その上手を行く新参株がやがて出現するにせよ価値があるでしょう6)。参考1)藤ヶ谷太輔、コロナ後遺症に悩むリスナーにメッセージ「僕も不安になりました」/マイナビニュース2)Hastie CE, et al. Nat Commun.2022;13:5663. 3)Long COVID at 12 months persists at 18 months, study shows / Reuters4)Long COVID Features Many Lasting Effects, Study Says / WebMed5)SARS-CoV-2 Omicron boosting induces de novo B cell response in humans. bioRxiv. September 22, 2022. 6)Omicron boosters could arm you against variants that don’t yet exist / Nature7)Evolution of antibody immunity following Omicron BA.1 breakthrough infection. bioRxiv. September 22, 2022.

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基礎疾患がある若年者、コロナワクチン後の抗体陽性率高い/成育医療研究センター

 国立成育医療研究センター 感染症科の庄司 健介氏らによって、免疫抑制状態を含む基礎疾患を有する12~25歳の患者における新型コロナワクチン接種後の安全性と抗体価が調査された。その結果、基礎疾患のある患者であっても、ワクチン2回接種後の抗体陽性率は高く、その抗体価は12~15歳の患者のほうが16~25歳の患者よりも高いことが明らかになった。これまでの新型コロナワクチンに関する調査は主に健康な人を対象としており、基礎疾患を有する小児や青年での安全性や抗体価の情報は限られていた。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2022年9月21日掲載の報告。 本調査の対象は、何らかの基礎疾患のある12~25歳の患者で、2021年7~10月にBNT162b2(ファイザー製ワクチン)を2回接種した429例であった。年齢中央値は15.0歳(四分位範囲:13.0~18.0歳)、12~15歳が241例(56.2%)、16~25歳が188例(43.8%)、男性が204例(47.6%)であった。最も多かった基礎疾患は遺伝/染色体疾患/先天奇形(67例、15.6%)で、内分泌/代謝疾患(55例、12.8%)、神経疾患(47例、11.0%)、肝疾患(43例、10.0%)と続いた。なお、基礎疾患が複数ある場合は、主たる基礎疾患を研究者が1つ選択した。免疫抑制状態の患者は138例(32.2%)であった。 安全性は、接種後1週間以内の副反応を紙媒体もしくはウェブを用いたアンケートによって調査し、接種後1ヵ月以内の入院を要する副反応は電子カルテを用いて調査した。抗体価は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に対する抗体をワクチン接種2週間~4ヵ月後に測定した。年齢(12~25歳、16~25歳)や免疫不全の有無などで比較検討を実施した。 主な結果は以下のとおり。・ワクチン2回接種後、1週間以内の38℃以上の発熱は、12~15歳では35.7%、16~25歳では28.0%であった。免疫機能が正常な患者では36.2%、免疫抑制状態の患者では24.1%であった。・重篤な副反応で入院を要したのは、1回目接種後は0例、2回目接種後は12~15歳で1例(0.4%)、16~25歳で2例(1.1%)であった。いずれの患者も回復して退院した。・ワクチン2回接種後の抗体陽性率は、抗体価を測定した397例中393例(99.0%)であった。12~15歳では552例中221例(99.5%)、16~25歳では175例中172例(98.3%)、免疫機能が正常な患者では264例中264例(100%)、免疫抑制状態の患者では133例中129例(97.0%)であった。・抗体価の幾何平均抗体価は、12~15歳が1603.3 U/mL(95%信頼区間[CI]:1321.8~1944.7 U/mL)、16~25歳が949.4 U/mL(同:744.2~1211.1 U/mL)であった。免疫機能が正常な患者では2106.8 U/mL(同:1017.5~2314.7 U/mL)、免疫抑制状態の患者では467.9 U/mL(同:324.4~674.8 U/mL)であった。・ステロイドや生物学的製剤などの複数の免疫抑制薬を服用している患者では、より低い抗体価を示す傾向があった。 同氏らは、「BNT162b2は、基礎疾患のある小児や青年において、許容可能な安全性を有しつつ免疫原性を高めた。この集団におけるワクチン接種後のまれな副反応を評価するためにはさらに大規模な調査が必要である」とまとめた。

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