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第44回 新型コロナ専門家コメンテーターに疑念残る「製薬マネー」

新型コロナウイルス感染症に関するコメンテーターとして、毎日のようにテレビで見る医療者達。お茶の間ではすでに顔なじみの人物もいるだろう。新型コロナの治療薬やワクチンが話題になる中、その発言は製薬企業の利害得失にも影響を及ぼすはず。両者の関係は実際どうなのだろうか。病院勤務医や東北大学の医学生らが、製薬企業から医療者が受け取った謝金、いわゆる「製薬マネー」を調査したところ、出演番組数ベスト10の新型コロナ関連専門家で、新型コロナ関連の治療薬・ワクチンを開発・販売している製薬企業から受け取っていた謝礼金の合計金額は約2,450万円に上ることがわかった。調査チームはこのほど、日本製薬工業協会(製薬協)に加盟する製薬会社73社による公開データを集計・解析した。2020年上半期にテレビ出演回数上位10位であった専門家11人中(同率10位2人)7人に対し、2017年度に製薬企業から支払われた謝礼金は総額3,557万円であった。新型コロナ関連の治療薬・ワクチンを開発・販売している製薬企業から、これらの専門家に支払われた製薬マネーは、1社当たり平均で223万円。一方、開発・販売していない製薬企業から支払われた製薬マネーは、1社当たり平均139万円だった。11人の専門家のうち、54.5%(11人中6人)が医師として診療を行っており、91%は男性で、新型コロナウイルスに関して学術論文を発表していたのは、わずか1人であった。調査チームは、今回の結果について「テレビ出演の多い専門家の発言が、治療薬やワクチンなどに関してエビデンスに基づく発言であるか、また新型コロナ感染症に立ち向かう現場の声を反映しているかについて疑問が残った」と述べている。現場の医療人が感染の危機と差別にさらされながら、日々新型コロナと戦っているだけに、彼らにはいま一度、医療人として疑念をもたれない身の処し方を求めたい。参考1)Murayama A, et al. Clin Microbiol Infect. 2020 Dec 11. [Epub ahead of print]

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中国製COVID-19ワクチン、アジュバント併用で免疫反応増大/Lancet

 中国のバイオテクノロジー企業Clover Biopharmaceuticalsが開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「SCB-2019」について、免疫増強剤(AS03またはCpG/Alum)の配合投与(アジュバントワクチン)により、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する強力な液性免疫および細胞性免疫が認められ、高い中和抗体価も得られたことが示された。西オーストラリア大学のPeter Richmond氏らによる第I相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果で、著者は、「いずれのアジュバントワクチンとも忍容性は良好であり、さらなる臨床開発に適する」と述べている。SARS-CoV-2ワクチンの開発加速の一手段として、アジュバントワクチンの検討が進められている。著者らは、2つの異なるアジュバントを組み合わせたスパイクタンパク質安定化三量体(S-Trimer)を含有する、タンパク質サブユニットワクチン候補SCB-2019の用量設定とアジュバントの正当性を検証した。Lancet誌オンライン版2021年1月29日号掲載の報告。18~54歳、55~75歳に21日間隔で2回投与 試験はオーストラリアの臨床試験センター1施設を通じ、18~54歳(若年成人)、55~75歳(高齢者)の健康成人ボランティアを登録し、SCB-2019について試験を行った。被験者は、研究資金提供者(Clover Biopharmaceuticalsと感染症流行対策イノベーション連合[CEPI])が作成したリストを使用して、ワクチン群またはプラセボ群に無作為に割り付けられ、SCB-2019(3μg、9μg、30μgのいずれか)またはプラセボ(0.9%塩化ナトリウム)の投与を21日間隔で2回受けた。 SCB-2019群については、アジュバントなし(S-Trimerタンパク質単独)またはアジュバントあり(AS03またはCpG/Alum)の3通りで接種した。接種は、割り付けマスキングを維持するため、不透明な注射器を用いて行われた。 各ワクチン投与後7日間、反応性を評価。液性免疫反応はSCB-2019結合IgG抗体とACE2競合阻害IgG抗体をELISA法で測定し、中和抗体は野生株SARS-CoV-2マイクロ中和試験法で測定した。さまざまなSタンパク質ペプチドに対する細胞反応については、フローサイトメトリー細胞内サイトカイン染色法で測定した。SCB-2019+免疫増強剤で、年齢問わず免疫反応 2020年6月19日~9月23日に、151人の健康成人ボランティアが登録された。試験を中止したのは3人(個人的理由2人、治療とは無関係の重篤有害事象[下垂体腺腫]1人)。2回接種後4週間以上追跡を受けた148人が本解析に包含された(データベースロック2020年10月23日)。 ワクチン接種の忍容性は良好で、非自発的に報告されたGrade3の有害事象は2件報告された(9μg AS03アジュバント群と9μg CpG/Alumアジュバント群での疼痛)。ほとんどの局所有害事象は注射部位の軽度の痛みで、局所イベントはSCB-2019+AS03群(44~69%)が、SCB-2019+CpG/Alum群(6~44%)またはSCB-2019単独群(3~13%)よりも発生頻度が高かった。全身性有害事象の発現頻度は、初回接種後では若年成人(38%)が高齢者(17%)に比べ高かったが、2回接種後にはそれぞれ34%と30%で、同レベルに高かった。 SCB-2019+アジュバント群では、若年成人、高齢者ともに結合IgG抗体および中和抗体の高い力価とセロコンバージョン率が得られた。36日時点の抗SCB-2019・IgG幾何平均抗体価(GMT)は、SCB-2019+AS03群1,567~4,452、SCB-2019+CpG/Alum群174~2,440だった。一方で、アジュバントなしのSCB-2019単独群では、免疫反応性の誘発は最小限で、50日目までにセロコンバージョンが認められた被験者は3人のみだった。 SCB-2019+AS03の全用量群と、SCB-2019+CpG/Alum 30μg群の力価は、COVID-19患者からの回復期血清サンプルよりも高かった。また、いずれのアジュバントSCB-2019においても、Tヘルパー1バイアスCD4+ T細胞反応性が誘発された。

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副反応は大丈夫?新型コロナワクチンの疑問に答えるLINEボット

 国内でも新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が月内にもはじまる見込みだが、新しいワクチンであることから副反応等を理由に、接種をためらう人も多い。 こうした状況を憂慮した医師を中心に、ワクチンに関するよくある質問に答えるLINEのチャットボットを利用した情報提供がはじまった。 この「コロワくんの相談室」はLINEに友達追加することで、無料で利用できる。 ・ワクチンの接種方法 ・ワクチンの効果 ・ワクチンの仕組み ・ワクチンの副反応という画面のメニューから、自分の知りたい内容を選んでいくと、ボットが事前に用意された回答を提示する。回答の下には関連する厚生労働省サイトや、回答の根拠となる論文誌へのリンクもつけられており、医療従事者が患者に説明する際にも利便性が高そうだ。 このボットは、米国マウントサイナイ医科大学に勤務する内科医、山田 悠史氏の発案でつくられたもの。氏は米国でいち早くワクチンを接種し、自身のSNSを使って日本人向けにワクチンに関する情報を提供してきた。しかし、多くの情報を発信しても質問が絶えず、誤った情報も多く出回っている状況を改善したいとボット開設を思い立ち、日本の医師やエンジニアの協力を得て、発案からわずか2週間で完成させたという。 ワクチン接種が進む米国でも、ワクチンに関する相談窓口となるコールセンターができたものの、多くの問い合わせからパンク状態が続き、副反応を疑った患者が医療機関に押し寄せるなど、混乱が続いているという。山田氏は「医師が発信する正しい情報を多くの人に届けることで日本のワクチン接種が進み、医療現場の負担軽減につながれば」とする。 現在は賛同・協力するメンバーが運営費用を負担している状況で、ボットのリリースとあわせ、クラウドファンディングを使った資金調達も行っている。〈医師サポーター〉代表:山田 悠史(マウントサイナイ医科大学 老年医学・緩和医療科)副代表:高橋 宏瑞(順天堂大学医学部 総合診療科)内科一般担当:原田 洸(岡山大学病院 総合内科・総合診療科)感染症担当:小林 孝照(アイオワ大学 感染症科)呼吸器担当:田中 希宇人(川崎市立川崎病院 呼吸器内科)小児・アレルギー担当:堀向 健太(東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 小児科)公衆衛生担当:仁科 有加(OECD 雇用労働社会政策局 医療課)免疫学担当:石原 純(インペリアルカレッジロンドン バイオエンジニアリング専攻 講師/免疫創薬研究室主宰)産婦人科担当:稲葉 可奈子(関東中央病院 産婦人科)監修:紙谷 聡(エモリー大学 小児感染症科/米国立アレルギー感染症研究所主導 ワクチン治療評価部門)<技術開発サポーター>金子 穂積(Sun Asterisk CTOs’)坂元 麻貴子(xenodata lab. CDO)大山 晋輔(Spir CEO)◆LINEボットの利用・クラウドファンディングへの参加は下記より◆https://corowakun-supporters.studio.site/#project

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遺伝子ワクチンの単回接種は新型コロナ・パンデミックの克服に有効か?(解説:山口佳寿博氏)-1352

 現在、新型コロナに対する世界のワクチン争奪戦は熾烈を極め、ワクチンが世界全域に満遍なく配布されるかどうかは微妙な問題である。本邦にあってもPfizer社、Moderna社、AstraZeneca社と総計3.14億回分(2回接種として1億5,700万人分で全国民に行き渡る量)のワクチンが契約されているが、各製薬メーカーのワクチン生産能力には限界があり、契約されている全量が滞りなく納入されるという保証はない。それ故、世界全体で新型コロナのパンデミックを乗り切るためにはワクチンの2回接種ではなく1回接種を考慮する必要がある。少なくとも、2回目のワクチン接種を各ワクチンの第3相試験で推奨された時期(Pfizer社のBNT162b2:1回目接種より21日後、Moderna社のmRNA-1273:28日後、AstraZeneca社のChAdOx1:28日後)よりも遅らせて接種することを考える必要がある(cf. 米国CDC 1/21, 2021)。 1回接種に適したワクチンは、アデノウイルス(Ad)のDNA鎖にコロナのS蛋白に関する塩基配列情報を封入し宿主細胞に導入する遺伝子ワクチンである(Ad-vectored vaccine)。以下にその理由を述べる。Adをベクターとしたワクチンを生体に接種すると、生体はAdを異物として認識、それに対する特異抗体を産生する。この抗体産生はAdの種類によらず発現する。その結果、ブースター効果を意図して投与される2回目のワクチン接種時には遺伝子情報を封入したAdが1回目のワクチン投与時に形成された特異抗体の攻撃を受け、その一部は破壊される。そのため、Adをベクターとするワクチンでは2回目のワクチン接種時、遺伝子情報封入Adの一部しか宿主に導入されずブースター効果が不十分で液性/細胞性免疫賦活化が阻害される(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021; 396: 1978.)。それ故、Adをベクターする遺伝子ワクチンは2回目のワクチン接種の意義が薄く、単回接種を基本とするワクチンだと定義すべきだと論評者は考えている。 この原則に則って第II相試験が施行されたのがCanSinoBIO社のヒトAd5型をベクターとするAd5-nCoVであり、ワクチン単回接種1ヵ月後には有意な液性/細胞性免疫が惹起されることが報告された(Zhu FC, et al. Lancet. 2020; 396: 479-488)。同様に、Johnson & Johnson社のヒトAd26型をベクターとするAd26.COV2.Sも単回投与を意識して開発が進められてきた(Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021 Jan 13. [Epub ahead of print])。2021年1月29日、Johnson & Johnson社はAd26.COV2.Sの単回接種に関する第III相試験(ENSEMBLE study)の結果をPress Releaseで公表し、本ワクチンの単回接種1ヵ月後の感染予防有効性は全対象で66%、重症化阻止率は85%に達すると報告した(PRNewswire 1/29, 2021)。Ad26.COV2.Sの第III相試験は、米国、中南米、南アフリカを対象地域として施行されたが(n=43,783)、米国における感染予防有効性が72%であったのに対し、南アフリカでのそれは57%と低値であった。南アフリカでの有効性が低かった理由は、治験が施行された時期の南アフリカでは“免疫回避変異”を有するN501Y(S蛋白の501部位のアミノ酸がN[アスパラギン]からY[チロシン]に置換)変異株の1つである南アフリカ株が流布していたウイルスの95%を占めていたためである(Tegally et al. medRxiv. December 22, 2020. [Epub ahead of print])。にもかかわらず、Ad26.COV2.Sの単回接種後の感染予防有効性は中国Sinovac Biotech社の不活化ワクチン(CoronaVac)の2回接種後の感染予防有効性(50.4%)を凌駕し(The New York Times 2/2, 2021)、かつ、WHOのワクチン有効性に関する最低ラインを満足するものであった。 ENSEMBLE studyによって得られた重要な知見は、Ad26.COV2.Sが免疫回避変異を有する南アフリカ株に対しても臨床的に有用な感染予防効果を示したことである。南アフリカ株は、自然感染後の液性免疫、Monoclonal抗体製剤、ワクチンによる液性免疫効果を減弱させる免疫回避変異を発現しており、このウイルスが世界を席巻するようになると現在開発されているすべてのワクチンの抜本的見直しが必要になる可能性がある。しかしながら、その変異株に対して、Ad26.COV2.Sが低いながらも有効域の感染予防効果を示したことは人類にとって大きな福音である。以上の治験結果をもとに、Johnson & Johnson社は、2021年2月4日、Ad26.COV2.Sの単回接種に関する緊急使用許可を米国FDAに申請した(The New York Times 2/6, 2021)。残念なことに、Adをベクターする先行遺伝子ワクチンであるAstraZeneca社のChAdOx1における単回接種の効果は報告されていない。 基本的には2回接種を原則とするRNAワクチンにおいても単回接種における感染予防有効性が報告されている。Pfizer社のBNT162b2の1回接種後の感染予防有効性は52%(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020; 383: 2603-2615.)、Moderna社のmRNA-1273のそれは50.8%(FDA Briefing Document 12/17, 2020)と報告された。以上のように、少なくとも3種類の遺伝子ワクチン(Ad26.COV2.S、BNT162b2、mRNA-1273)は1回接種でWHOの基準を上回る感染予防効果を発揮することが判明したので、世界的にワクチン量が不足している現在、2回接種ではなく緊急避難的に1回接種を奨励すべきだと論評者は考えている。しかしながら、問題点は、単回接種による生体の液性/細胞性免疫の賦活がどの程度の期間維持されるかの見極めである。Ad26.COV2.Sでは少なくとも単回ワクチン接種後2.5ヵ月目まではウイルスに対する中和抗体形成の中心的役割を担うS蛋白特異的IgG抗体が安定して高値を維持することが判明している(Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021 Jan 13. [Epub ahead of print])。Sadoffらによって報告された図を見る限りもっと長期にIgG抗体価は維持されるように見えるが、確実な経過観察のデータ集積が必要である。

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第46回 COVID-19ワクチンをほとんどが接種済みのイスラエル、高齢者の感染がおよそ半減

【修正のお知らせ:文献2)を見直して一部表現を修正しました。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。文献2)は当初GitHubで公開されており、記事作成後の2月9日にMedRxivに掲載されました。】新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)予防ワクチン普及が進むイスラエルでその普及のおかげとみられる高齢者全般の感染減少が認められています1)。イスラエルでは去年12月20日からファイザーの2回投与ワクチンBNT162b2の接種が始まり、まずは高リスク集団への接種が優先されました。優先対象の60歳以上の高齢者は2月6日までに9割近く(89.9%)が1回目、ちょうど8割(80%)は2回目の接種も済ませており、その2月6日までの21日間にそれら高齢者のSARS-CoV-2感染はおよそ半減(49%減少)しました。また、COVID-19入院も4割近く(36%)減少しました2)。ワクチン接種率がまだ半分に満たない45%ほどの59歳未満の年齢層の同時期の感染減少は18%ほどで、COVID-19入院は11%ほど増加していました。イスラエルは1月にロックダウンを実施しているので感染や入院の減少はすべてワクチンのおかげとは言い切れないかもしれません。しかしイスラエルのワイツマン科学研究所(Weizmann Institute)の計算科学者Eran Segal氏は高齢者の感染や入院の減少はワクチンのおかげと考えています1)。というのも、高齢者の感染や入院はワクチン接種率がまだ比較的低い若い人とは対照的により大幅かつ速やかに減少しているからです。それに、1月の早くにワクチン1回目の接種を済ませた高齢者の割合が85%超の都市では60歳を過ぎた高齢者とそれより若い人の減少の差が最も顕著でした1)。また、ワクチン接種が始まる前の去年9月のロックダウンのときには今回のような減少傾向は認められておらず、ワクチンは確かに効き始めているとSegal氏は言っています。ワクチン普及の効果はイスラエルの医療従事者への接種データ解析でも確認されています。その解析はBNT162b2の1回目が接種された医療従事者50万人超を対象とし、第III相試験結果によると予防効果がほとんどあるいは全く期待できない接種後12日までの感染率(PCR検査陽性率)は0.57%でした。一方、接種後13~24日の感染率は12日までの感染率の約半分の0.27%であり、1回目接種後13~24日の感染予防効果はおよそ51%と結論されました3)。英国の医療従事者へのBNT162b2接種の解析でも同様の効果が示されています。ワクチンが接種された約13,000人と非接種の約33,000人が比較され1)、ワクチン接種1回目から12日を経た医療従事者の感染率は非接種医療従事者に比べて53%低く抑えられていました1,4,5)。参考1)Vaccines are curbing COVID: Data from Israel show drop in infections / Nature2)Patterns of COVID-19 pandemic dynamics following deployment of a broad national immunization program. medRxiv. February 09, 20213)The effectiveness of the first dose of BNT162b2 vaccine in reducing SARS-CoV-2 infection 13-24 days after immunization: real-world evidence. medRxiv. January 29, 20214)COVID Vaccines: What we know so far(Tim Spector氏等が設立した健康科学企業ZOEのYouTubeチャンネル)5)Vaccine after effects more likely if you had COVID before(上記オンラインセミナーの予告).

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新型コロナ軽症例に出現、味覚障害以外の口腔病変とは?

 ブラジル・ブラジリア大学のDos Santos氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の口腔徴候と症状の有病率に関するエビデンスの系統的レビューを行い、味覚障害以外の口腔病変について明らかにした。Journal of Dental Research誌2021年2月号掲載の報告。 本レビューはPRISMAチェックリストに基づき、文献は6つのデータベースと灰色文献から検索されたCOVID-19患者の口腔症状と徴候に言及する研究が含まれた。バイアスのリスクはJBI(Joanna Briggs Institute)の評価ツールを用いて評価した。このレビューには33件の横断的研究と7件の症例報告の計40件の研究が含まれていた。 主な結果は以下のとおり。・全19ヵ国の1万228例(男性:4,288例、女性:5,770例、不明:170例)が評価された。・最も一般的な口腔症状として、味覚障害の有病率は45%(95%信頼区間[CI]:34~55、I2=99)だった。・さまざまな味覚障害についてプールされた適格なデータによると、味覚障害の有病率は38%、味覚減退は35%で、味覚消失は24%であった。・COVID-19による味覚障害のオッズ比[OR]は12.68(95%CI:6.41〜25.10、I2=63、p

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第41回 入院拒否者に50万円以下の過料など、改正感染症法が成立

<先週の動き>1.入院拒否者に50万円以下の過料など、改正感染症法が成立2.緊急提言「定期受診をやめないで」/日医・日本循環器連合3.75歳以上の高齢者、年収200万円以上は窓口負担2割導入へ4.医療従事者に対するいわれなき差別にNO!/日医5.健診データの共有など、民間PHRの利活用を推進6.広がらぬセルフメディケーション、新しく設立された有識者会議1.入院拒否者に50万円以下の過料など、改正感染症法が成立新型コロナウイルス対策を強化する改正特別措置法など関連法が、3日の参院本会議で可決、成立した。改正感染症法では、入院拒否者に50万円以下(疫学調査拒否者に30万円以下)の過料を、改正特措法により、営業時間短縮命令を拒んだ事業者に対して、緊急事態宣言下で30万円以下(まん延防止等重点措置では20万円以下)の過料を科すことになる。当初は刑罰が検討されていたが、政府・与党は早期成立のため、野党との修正協議にて、罰則の軽減がなされた。この法律の施行に伴う関係政令の整備のため募集されたパブリックコメントによると、「まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態におけるまん延防止のために必要な措置として、従業員に対する検査受診の勧奨、手指の消毒設備の設置や従業員に対する検査受診の勧奨など」が求められている。(参考)手指消毒できない店に過料も 特措法政令案の概要公表(朝日新聞)「新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令案」に対する意見の募集(パブリックコメント)について(e-GOV)2.緊急提言「定期受診をやめないで」/日医・日本循環器連合日本医師会と日本循環器学会などを中心とする日本循環器連合は、新型コロナウイルス感染拡大下でも受診控えをしないよう、国民に向けて連名で緊急声明を発出した。現在、緊急治療を要する急性心筋梗塞、急性心不全、致死性不整脈、肺塞栓症などの緊急対応ができなくなっている地域や医療機関が増えている一方、治療中断や受診抑制によって、持病の心臓血管病が悪化する患者が増えているという。緊急医療の提供体制を維持するために、より一層新型コロナウイルス感染予防への留意と慎重な行動をするとともに、現在治療中の患者に向けて継続的な受診と治療を呼び掛けている。(参考)新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下の心血管病診療に関する緊急声明(日本医師会・日本循環器連合)3.75歳以上の高齢者、年収200万円以上は窓口負担2割導入へ菅内閣は5日、75歳以上で年収200万円以上の人は、医療費の窓口負担を2割に引き上げることを閣議決定した。本国会での成立を目指し、2022年の後半に施行される見通し。現在、75歳以上の後期高齢者の窓口負担は原則1割で、年収383万円以上の人は3割負担だが、今回の制度変更により、単身世帯で年収200万円以上、複数人世帯で75歳以上の年収合計が320万円以上であれば負担割合を1割から2割に引き上げられる。75歳以上の2割に当たる約370万人が対象となる見込み。今後の高齢者の医療費増を見据えた動きだが、収入の大半を年金に頼る高齢者にとっては負担増大であり、受診抑制が進む懸念が残る。(参考)年収200万円以上、2割負担に 75歳以上医療費で法案決定―政府(時事通信)令和3年2月5日付大臣会見概要(厚労省)4.医療従事者に対するいわれなき差別にNO!/日医日本医師会は、3日の定例記者会見にて、医療従事者などへの差別や風評被害に関する調査結果を発表した。これによると、寄せられた698件の差別や風評被害のうち、「医師以外の医療従事者」(主に看護師)に対するものが277件(40%)と最多。次が「医療機関」で268件(38%)、「医師または医療従事者の家族」は112件(16%)だった。城守 国斗常任理事は、「今回の調査結果で、医療従事者などに対していわれなき差別が見られたことを問題視し、引き続き公式YouTubeなどで、医療従事者が国民の生命と健康を守るため、過酷な環境下で仕事をしていることに理解を求める動画の配信を行っていくとともに、国に対しても対応を要望する」と明らかにした。(参考)恫喝や暴言も、医療者への風評被害の実態/日医(ケアネット)医療従事者等に対するいわれなき差別の実態について(日医)「近寄らないで」看護師らへの差別698件 医師会発表(朝日新聞)5.健診データの共有など、民間PHRの利活用を推進厚労省の健康・医療・介護情報利活用検討会の健診等情報利活用ワーキンググループ民間利活用作業班が2月3日に開催された。そこで、民間PHR(Personal Health Record)サービスの利用実態や安全性について、個人を対象とした利用者へのアンケート調査結果が公表された。これによると、PHRの知名度は66.7%が「まったく知らない」と回答しており、現在利用されているアプリは、「お薬手帳」「COCOA」「フィットネス」が多かった。サービスの利用者はアプリケーション自体のユーザビリティを高く評価し、また利用による健康意識や安心を実感していることが明らかになった。一方、個人情報の漏えいに対する不安がある人は、利用したことがある人の約半数に上った。今後、マイナンバーの活用とともに、PHRによってデータが利用される場面が広がっていくと考えられ、現場の医療従事者も患者が利用するような主なサービスについて知っておく必要があるだろう。(参考)民間PHRサービス利用者へのアンケート調査結果等民間事業者間の健診情報連携「拡大に努めるべき」事務局が作業班報告書の記載事項案提示(CBnewsマネジメント)6.広がらぬセルフメディケーション、新しく設立された有識者会議厚労省は3日に第1回セルフメディケーション推進に関する有識者検討会の初会合を開催した。昨年12月に閣議決定された政府税制改正大綱においては、セルフメディケーション税制について、対象をより効果的なものに重点化し、手続きを簡素化した上で5年延長することが打ち出されている。このため、対象医薬品について、スイッチOTCから医療費適正化効果が低いと認められるものを除外し、スイッチOTC以外の一般用医薬品などで医療費削減効果が著しく高いと認められるもの(3薬効程度)を対象に加えることとされた。今後、セルフメディケーション税制の対象医薬品の範囲および今後の医療費削減効果などの検証方法を議論することになる。適応範囲によっては、医療の受診動向にも影響が出る可能性がある。(参考)【厚労省検討会】セルフM税制、対象見直しで議論‐鼻炎薬など求める意見多く(薬事日報)資料 第1回セルフメディケーション推進に関する有識者検討会(厚労省)令和3年度税制改正の大綱の概要(令和2年12月21日閣議決定)(総務省)

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新型コロナ、20歳未満は感染しにくいが感染させやすい

 新型コロナウイルスの家庭内感染の調査から、20歳未満の若年者は高齢者より感染しにくいが、いったん感染すると人にうつしやすいことが、中国・武漢疾病予防管理センターのFang Li氏らの後ろ向き研究で示唆された。また感染力は、症状発現前の感染者、症状発現後の感染者、無症状のままだった感染者の順で高かった。Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2021年1月19日号に掲載。 本研究は、2019年12月2日~2020年4月18日に検査もしくは臨床的に確認されたCOVID-19症例と、検査で確認された無症状の感染者の家庭内感染について、後ろ向きに調査したコホート研究。本研究での家庭内感染とは、家族および必ずしも同居していなかった近親者も含めたものとし、共通接点を共有する家庭は疫学的な関連があるとみなした。統計学的伝達モデルを用いて家庭内2次感染率を推定し、他者への感染力と感染感受性に関連する危険因子を定量化した。さらに介入政策による家族内感染への影響も調べた。 主な結果は以下のとおり。・1次感染者2万9,578例を有する2万7,101世帯と家庭内接触者5万7,581人を特定した。・平均潜伏期間を5日、最大感染期間を22日と仮定した場合、推定される2次発病率は15.6%(95%信頼区間[CI]:15.2~16.0)であった。・60歳以上は他の年齢層よりも感染リスクが高かった。・0〜1歳では、2〜5歳(オッズ比[OR]:2.20、95%CI:1.40~3.44)および6〜12歳(OR:1.53、95%CI:1.01~2.34)に比べて感染リスクが高かった。・曝露時間が同じ場合、20歳未満の若年者は60歳以上よりも他者にうつすリスクが高かった(OR:1.58、95%CI:1.28~1.95)。・無症状のままだった感染者は症状のある感染者より他者にうつすリスクが低かった(OR:0.21、95%CI:0.14~0.31)。・症状が発現した感染者では、症状発現前のほうが発現後よりも他者にうつすリスクが高かった(OR:1.42、95%CI:1.30~1.55)。・2次発病率と推定家庭内再生産数(感染者が感染させうる家庭内接触者数の平均)は、軽症患者の多くが自宅で隔離されていた2020年1月24日~2月10日は、1月24日以前とほぼ変わらなかった。しかし、感染者の集団隔離・家庭内接触者からの隔離・移動制限が実施された2月11日以降、家庭内再生産数は1次感染では0.25(95%CI:0.24~0.26)から0.12(同:0.10~0.13)と52%減少し、2次感染では0.17(同:0.16~0.18)から0.063(同:0.057~0.070)と63%減少した。 著者らは、「子供が感染すると家族に感染させるリスクがあるため、学校再開を決定する際は子供たちの高い感染力を慎重に検討する必要がある。また、乳児の感染しやすさを考えると保護者へのワクチン接種が優先されるべき」としている。

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血液によるCOVID-19重症化リスクの判定補助キットが保険適用/シスメックス

 シスメックスは2月4日、SARS-CoV-2陽性患者における重症化リスク判定を補助する新規の体外診断用医薬品として、インターフェロン-λ3(IFN-λ3)キット「HISCLTM IFN-λ3試薬」が2月3日に保険適用を受けたことを発表した。同キットと全自動免疫測定装置を用いて血清中のIFN-λ3を測定することで、SARS-CoV-2陽性患者における重症化リスク判定を補助するための情報を提供する。 シスメックスは国立国際医療研究センターとの共同研究を通じ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化リスクの経過観察に有用なバイオマーカーとして、IFN-λ3を特定した。IFN-λ3は重症化の症状が認められる数日前に急激に血液中の濃度が上昇することが確認されており、重症化の予測や経過観察補助としての臨床有用性が報告されている1,2)。同製品は、2020年12月22日にSARS-CoV-2陽性患者における重症化リスク判定を補助する新規の体外診断用医薬品として、製造販売承認を取得している3)。 保険適用により、SARS-CoV-2陽性となり、倦怠感および咳や発熱がある軽症患者、息切れや呼吸器初期症状などの所見が確認される中等症患者に対して、定期的に血清中のIFNλ3を測定することが可能となる。【製品の概要】一般的名称:インターフェロン-λ3キット販売名:HISCLTM IFN-λ3試薬(製造販売承認番号:30200EZX00089000)使用目的:血清中のインターフェロン-λ3の測定(SARS-CoV-2陽性患者の重症化リスクの判定補助)対象地域:日本製造販売元:シスメックス株式会社発売日:2021年1月5日【保険適用の概要】4)申請区分:E3(新項目)測定項目:インターフェロン-λ3(IFN-λ3)測定方法:2ステップサンドイッチ法を用いた化学発光酵素免疫測定法保険点数:340点留意事項:(10)インターフェロン-λ3(IFN-λ3) ア COVID-19と診断された患者(呼吸不全管理を要する中等症以上の患者を除く。)の重症化リスクの判定補助を目的として、2ステップサンドイッチ法を用いた化学発光酵素免疫測定法により、インターフェロン-λ3(IFN-λ3)を測定した場合は、区分番号「D013」肝炎ウイルス関連検査の「14」HBVジェノタイプ判定の所定点数を準用して算定する。 イ 本検査を2回以上算定する場合は、前回の検査結果が基準値未満であることを確認すること。 ウ 本検査の実施に際し、区分番号「D013」肝炎ウイルス関連検査の「14」HBVジェノタイプ判定の所定点数を準用して算定する場合は、区分番号「D013」肝炎ウイルス関連検査の「注」に定める規定は適用しない。

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第43回 副反応に匹敵!?新型コロナワクチンのもう1つの不安要素とは

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン接種に関して、医療従事者の優先接種が早ければ今月中旬にも始まると言われている。各自治体や接種を受け付ける受託医療機関も含め、私の耳にはさまざまな情報が飛び込んできていて、円滑な接種の遂行に向けて現場が数多くの難題を抱えていることは承知している。新興感染症のパンデミックによるワクチン接種と言えば、2009年の新型インフルエンザ以来となるが、今回の新型コロナは感染症として社会全体に与えたダメージは測り知れず、なおかつワクチンの接種対象もほぼ全国民に及ぶため、2009年の経験はあまり役に立たない。そうした中ある自治体(都道府県レベル)では、副反応が起きた際にその患者に対応する専門チームを創設すると耳にした。いわばリスクコミュニケーションの一環である。この動きはその自治体独自のものらしいが、私はとくに今回のワクチン接種に関しては、この患者に直接対応する副反応対策チームの存在が大きな役割を果たすと思っている。そもそも新型コロナのワクチン接種に関しては、ご存じのように日本で最初に接種が開始されるのは米・ファイザー/独・ビオンテック、米・モデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン。この種のワクチンが実用化されたのは世界初である。原理だけを見れば、安全性はむしろ既存の不活化ワクチンなどに比べて高いとも思えるのだが、これ以前に実績のないものゆえに逆に不安に思ってしまう接種対象者が出てきてしまう点は否めない。また、このmRNAワクチンはいずれも筋肉内注射である。といっても医療従事者の皆さんにとっては「それが何か?」と思われるだろう。少なくともワクチン接種全体で考えれば、筋肉内注射は珍しくもなんともないが、こと日本人に関していえば予防接種法に基づく定期接種に含まれているワクチンの中で筋肉内注射が標準となっているのは、副反応問題(個人的にはこのワクチンが原因とは思っていないが)で接種率低下が著しい、あのヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンのみである。ちなみに2016年10月から定期接種となったB型肝炎ワクチンは、成人の場合は筋肉内注射が一般的だが、日本国内で定期接種対象となった幼児の場合は皮下注射である。つまるところインフルエンザワクチンも含め筋肉内注射が一般的となっている欧米と比べ、この点は大きく異なる。で、それでも「だから何なの?」と言われてしまうかもしれない。だが、非医療従事者の間ではアメリカでのワクチン接種映像が放映されたことをきっかけにSNSをはじめ各所で「なんで注射針を腕に垂直に刺してるの?」などとおびえている人たちは少なからずいるのだ。先日も電車内で若い女性2人が「あのさ、新型コロナのワクチンって腕の筋肉に針指して注射するんだって」、「えー、マジ。痛そう。嫌だなあ」というやり取りをしていたのを聞いたばかりだ。未知のワクチンを経験のない方法で接種しなければならないことに怖さを感じるほうがむしろ自然である。ちなみにワクチン接種を冗談半分で「趣味」と公言し、国内承認・未承認も含め20種類のワクチンを接種済みの私は、A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、帯状疱疹(商品名:シングリックス)、髄膜炎菌(B群以外)、髄膜炎菌B群、ダニ媒介性脳炎、HPVで筋肉内注射を経験しているが、はっきり言って筋肉内注射に伴う痛みは一定程度注射を行う人の手技に左右されている側面があると感じる。そうなると、副反応という点ではほとんど問題がないとしても(1)未知のワクチンへの怖さ、(2)未経験の筋肉内注射への怖さ、(3)人によって痛さが異なることによる疑問・不信感、というネガティブ要素がどうしても避けられない。その前提がある中で、国が主体となってこのワクチンを接種している以上、国や地方自治体、医療従事者の側にどうしても副反応が生じた際に接種者により親身に対応する窓口があることが望ましいと考える。これは単なる形式的意見ではなく、日本での過去のワクチンの負の歴史を踏まえてのことだ。負の歴史とはまさに前述したHPVワクチンの件である。この件についてメディア関係者が言及すると「お前が言うか」と言われるのは百も承知している。HPVワクチンの接種率の低下にメディアが大いに影響を及ぼしたことは事実であるからだ。ちなみに言い訳がましいかもしれないが、念のために言っておくと、私は医療以外の領域の取材・執筆も行っており、ちょうどHPVワクチンの定期接種化とそれに伴う副反応騒動の時期は、医療そのものの取材がほとんどストップしていた時期だった。あの時はただ横目で事態を眺めていたが、あれよあれよという間に事態は悪い方向に転がって行った。とはいえ、もしあの時、騒動の渦中にいたら自分が適切な報道ができていたと断言できる自信はない。その意味では今も忸怩(じくじ)たる思いを抱き続けている。そしてまさにあの時期、渦中におらずにたまたま横眼で眺めていたがゆえに、他の報道関係者と比べれば、どのようにして悪い方向に転んで行ったかをある程度は概説できる。ざっくり説明する構図は以下のようなものだ。まず、接種後に副反応を訴えた女児の親御さんたちの一部は、当然ながら医療従事者などにその状況を訴えた。そこでは概ね「ワクチンの副反応ではないと考えられる」旨の説明がなされている。こうした症状に関しては後に「機能性身体症状」という言葉で説明されるようになったのは今では周知のことである。ところが症状が改善しない女児とその親御さんの一部は、そうした医療従事者の説明に納得せず、行き場のない不安を抱えたまま社会をさまよい続けた。それを「受け止めた」のが弁護士などの法曹関係者や市民運動の活動家などだ。こうして受け止めた側には対外広報戦術に長け、大手メディアでキーマンとなる社会部記者とつながりを持つ人たちも少なくなかった。こうして、被害を訴える人たち → 法曹関係者・市民活動家 → 大手メディア社会部記者、という情報の流通ルートが成立し、一気に報道に火が付くことになった。実はこの当時、大手メディアの中でも科学部記者などは、副反応騒動にかなりクールに反応していたと記憶している。いわば医療従事者とほぼ同じような見解である。ところが大手新聞社などを中心とするレガシーメディアの社内権力構造は、おおむね社会部のほうが科学部よりも圧倒的に上位にある。その結果、社内ではあまりブレーキがききにくく、今のような事態に至っている。もっとも報道を事細かく見ていけば分かるが、最近の大手新聞ではHPVワクチン接種者での機能性身体症状をワクチンの副反応と報じる記事はほとんどないといっていいほど姿勢は転換している。さて話を戻そう。行政がリスクコミュニケーションの一環としてワクチン接種者の注射部位反応なども含めた副反応に対処することのメリットは何かだが、それは前述のHPVワクチンのケースで経験した、副反応を訴える人たちの声の流通のうち「医療従事者 → 弁護士・市民活動家」が「医療従事者・行政の専門チーム → 弁護士・市民活動家」と言う形で川上が強化される。このことはワクチンと因果関係が薄いと思われる有害事象に関する情報の川下(弁護士・市民活動家、メディアの社会部系記者)への流通量を劇的に減らせる効果を期待できる。それだけでもHPVワクチン騒動の二の舞となる確率は減らすことができるだろう。こうした観点から、自治体の副反応対策チームの取り組みが、私の耳にした自治体以外へも水平方向にも広がってほしいと切に願うのだ。ここで「じゃあお前たちメディアは何をするんだ?」と問われることだろう。私が考えるのは主に2つだ。1つは副反応対策チームの存在とその役割を積極的に報じ、不安を感じた人にその存在を知ってもらうこと、もう1つは「可能性がゼロではないリスク」なる迷信を安易に報じないことである。その意味ではメディアにとって今回の新型コロナワクチンの接種にかかわる報道は、今後の医療報道の分水嶺になる可能性があると考えている。

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アカラブルチニブ、慢性リンパ性白血病でイブルチニブに対する非劣性示す/アストラゼネカ

 アストラゼネカは、2021年1月25日、第III相ELEVATE-RR試験の肯定的な結果概要に基づき、選択的ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬アカラブルチニブ(商品名:カルケンス)が、治療歴を有する高リスク慢性リンパ性白血病(CLL)の成人患者において、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)のイブルチニブに対する非劣性を示したことを発表した。 ELEVATE-RR試験は、欧米において最も一般的な種類の白血病であるCLLの成人患者を対象に、2種類のBTK阻害薬を比較する初めての第III相試験である。同試験では、安全性に関する重要な副次評価項目も達成しており、アカラブルチニブは、イブルチニブと比較して心房細動の発現率が統計的に有意に低いことが示された。さらに階層的検定を行ったところ、Grade3以上の感染症およびリヒター形質転換に差は認められなかった。その一方で、全生存期間に関して数値的に良好な傾向が認められた。 本試験のデータは、今後の医学学会で公表するとともに、欧米の保健当局に対しても提出する予定。

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COVID-19に対する薬物治療の考え方 第7版を公開/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:舘田 一博氏[東邦大学医学部教授])は、2月1日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬について指針として「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第7版」をまとめ、同会のホームページで公開した。 本指針は、COVID-19の流行から約1年が経過し、薬物治療に関する知見が集積しつつあり、これまでの知見に基づき国内での薬物治療に関する考え方を示すことを目的に作成されている。 現在わが国でCOVID-19に対して適応のある薬剤はレムデシビルである。デキサメタゾンは重症感染症に関しての適応がある。また、使用に際し指針では、「適応のある薬剤以外で、国内ですでに薬事承認されている薬剤をやむなく使用する場合には、各施設の薬剤適応外使用に関する指針に則り、必要な手続きを行う事とする。適応外使用にあたっては基本的にcompassionate useであることから、リスクと便益を熟慮して投与の判断を行う。また、治験・臨床研究の枠組みの中にて薬剤を使用する場合には、関連する法律・指針などに準じた手続きを行う。有害事象の有無をみるために採血などで評価を行う」と注意を喚起している。 抗ウイルス薬などの対象と開始のタイミングについては、「発症後数日はウイルス増殖が、そして発症後7日前後からは宿主免疫による炎症反応が主病態であると考えられ、発症早期には抗ウイルス薬、そして徐々に悪化のみられる発症7日前後以降の中等症・重症の病態では抗炎症薬の投与が重要となる」としている。 抗ウイルス薬などの選択について、本指針では、抗ウイルス薬、抗体治療、免疫調整薬・免疫抑制薬、その他として分類し、「機序、海外での臨床報告、日本での臨床報告、投与方法(用法・用量)、投与時の注意点」について詳述している。紹介されている治療薬剤〔抗ウイルス薬〕・レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注液100mgなど)・ファビピラビル〔抗体治療〕・回復者血漿・高度免疫グロブリン製剤・モノクローナル抗体〔免疫調整薬・免疫抑制薬〕・デキサメタゾン・バリシチニブ・トシリズマブ・サリルマブ・シクレソニド〔COVID-19に対する他の抗ウイルス薬(今後知見が待たれる薬剤)〕インターフェロン、カモスタット、ナファモスタット、インターフェロンβ、イベルメクチン、フルボキサミン、コルヒチン、ビタミンD、亜鉛、ファモチジン、HCV治療薬(ソフォスブビル、ダクラタスビル)今回の主な改訂点・レムデシビルのRCTを表化して整理・レムデシビルの添付文書改訂のため肝機能・腎機能を「定期的に測定」に変更(抗体治療薬の項目追加)・バリシチニブ+レムデシビルのRCT結果を追加・トシリズマブのREMAP-CAP試験などの結果を追加・シクレソニドの使用非推奨を追加

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COVID-19外来患者への中和抗体2剤併用療法は有効か?/JAMA

 軽症~中等症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の中和抗体であるbamlanivimabとetesevimabの併用療法は、プラセボと比較し11(±4)日目のSARS-CoV-2ウイルス量を有意に減少させることが確認された。米国・ベイラー大学医療センターのRobert L. Gottlieb氏らが、COVID-19外来患者を対象に、bamlanivimab単独療法またはbamlanivimab+etesevimab併用療法の有効性と安全性を検討する無作為化二重盲検プラセボ対照第II/III相試験「BLAZE-1試験」の結果を報告した。すでにBLAZE-1試験第II相コホートの中間解析として、bamlanivimabによるウイルス量減少効果が報告され、この結果に基づき米国では2020年11月より、軽症~中等症COVID-19患者で成人および12歳以上の小児(体重40kg以上)、かつ、重症化または入院するリスクが高い患者に対するbamlanivimabの緊急使用が許可されている。JAMA誌オンライン版2021年1月21日号掲載の報告。単独療法、bamlanivimab 2,800mg+etesevimab 2,800mg併用療法をプラセボと比較 研究グループは、米国の49施設において、SARS-CoV-2検査陽性で1つ以上の軽症~中等症の症状を有するCOVID-19外来患者を、2020年6月17日~8月21日の期間はbamlanivimab(700mg、2,800mg、7,000mg)単独群またはプラセボ群に、2020年8月22日~9月3日の期間はbamlanivimab(2,800mg)+etesevimab(2,800mg)併用療法群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、11(±4)日目までのウイルス量の変化。事前に設定された副次評価項目は、ウイルス排除(3項目)、症状(5項目)、29日時点での臨床アウトカム(COVID-19関連入院、救急外来受診、または死亡)の9項目で、各治療群とプラセボ群との比較検証を行った。ウイルス量はbamlanivimab+etesevimab併用療法でプラセボより有意に減少 613例がスクリーニングを受け、592例が無作為化された。このうち、治験薬の投与を受けた577例(bamlanivimab 700mg群101例、2,800mg群107例、7,000mg群101例、併用群112例、プラセボ群156例)が解析対象となった(データカットオフ日:2020年10月6日)。 解析対象577例(平均[±SD]年齢44.7±15.7歳、女性54.6%)のうち、533例(92.4%)が有効性評価期間(29日)を完遂した。 SARS-CoV-2ウイルス量(log)のベースラインから11日目までの変化量は、700mg群が-3.72、2,800mg群が-4.08、7,000mg群が-3.49、併用群は-4.37、プラセボ群は-3.80であり、プラセボ群との群間差は700mg群が0.09(95%信頼区間[CI]:-0.35~0.52、p=0.69)、2,800mg群が-0.27(-0.71~0.16、p=0.21)、7,000mg群が0.31(-0.13~0.76、p=0.16)、併用群は-0.57(-1.00~-0.14、p=0.01)であった。 副次評価項目については、84項目中10項目で各治療群とプラセボ群との間に有意差が認められた。COVID-19関連入院または救急外来受診の患者の割合は、プラセボ群5.8%(9件)、700mg群1.0%(1件)、2,800mg群1.9%(2件)、7,000mg群2.0%(2件)、併用群0.9%(1件)であった。即時型過敏反応は9例(bamlanivimab群6例、併用群2例、プラセボ群1例)報告され、治療期間中の死亡例はなかった。

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恫喝や暴言も、医療者への風評被害の実態/日医

 日本医師会・城守 国斗常任理事が、3日の記者会見で「新型コロナウイルス感染症に関する風評被害の緊急調査」について、結果を公表した。これは、昨年11月に開催された都道府県医師会長会議で問題提起され、各地域の被害状況について全47都道府県医師会が調査したもの。全国から698件の報告、「近寄るな」「責任を取れ」など心ない言葉も 風評被害を受けた対象としては、総回答数698件のうち「医師以外の医療従事者」に対する被害が277件(40%)と最も多かった。次いで「医療機関」が268件(38%)、「医師または医療従事者の家族」が112件(16%)、「医師」が21件(3%)、「その他」が20件(3%)という内訳だった。「医師以外の医療従事者」に対する風評被害は、主に看護師に対するものが多かったという。《具体的な事例1:医師》・濃厚接触者ではなく、新型コロナ患者の対応をしていないにもかかわらず、自治体より乳児健診前の2週間は勤務しないように要望された。・検死に赴いたにもかかわらず、当該関係者から、あたかも自分が新型コロナに罹患しているかのような対応を受けた。・防護服着用で診察などの対応をしていると、その格好を揶揄するような指摘をされた。・このような時だから、医師は遠出をするべきではないとを言われた。・医師が近隣に引っ越してくると知った住人から、「窓も開けられなくなる」「引っ越しを延期してもらえないか」といったクレームが出た。《具体的な事例2:医師以外の医療従事者》・新型コロナを診ている医療機関か否かにかかわらず、医療機関に勤務しているだけで、「近寄るな」「(集まりや習い事に)来ないで欲しい」「(美容院などの)予約を受けられない、しばらく利用を控えて欲しい」「一緒にエレベーターに乗るのが怖い」などの扱いや暴言を受けた。・保育園などに子供の預かりを拒否され、新型コロナの対応に当たっていないことを説明しても聞き入れられず、仕事を休むことを強いられた。・勤務先医療機関に初めて新型コロナ患者が入院した際、ほかの通院患者から「自分の家族は大丈夫なのか。何かあったら責任を取ってもらう」と言われた。・病院職員に陽性者が出たため、PCR検査を受けた。陰性だったが、自宅待機をしていたところ、近隣住民から電話が殺到、嫌がらせのようなものもあった。・買い物に行くと、知人である従業員から「何しに来たの?早く帰って」と言われた。・感染拡大地域から通勤していることで、同僚から避けられ、車が県外ナンバーであることで肩身の狭い思いをすることがあった。《具体的な事例3:医療機関》・「診療・検査医療機関」であることが県ホームページに掲載されると、受診患者数が大きく減少した。・近隣医療機関で新型コロナ患者が出たことを受け、「(当院でも)患者が出た」「スタッフが感染している」など、SNSに誤った情報を書き込まれた。・病院敷地内にユニットハウスを建て、発熱外来として利用していると、近隣住民から「窓を開けるな」など、クレームがあった。・医療機関に勤務していることを職員の家族らが心配し、職員の退職の原因となった。・「お前らのせいで学校が再開できなくなった。どうしてくれるんだ」「感染拡大の責任を取れ」「職員を外出させるな」「職員の住んでいる場所を教えろ」など、恫喝めいた問い合わせがあった。《具体的な事例4:医療従事者の家族》・子供が「学校に来てもいいのか?お母さんは看護師だろ?」と言われるだけでなく、本人が新型コロナに感染しているかのような扱いを受けた。・医療従事者の子供というだけで、別室保育や別室授業などの対応をされたほか、登園や登校をしばらく控えるように要望された。・子供の地域活動(友達付き合い、習い事、クラブ活動など)が、直接的・間接的に拒否され、子供が精神的に不安定となった。・家族が新型コロナを診療している医療機関に勤務しているため、親のデイサービス利用が断られたり、取引先から「取引を止める」と言われたり、会社内で「お前の家族はコロナじゃないのか」「お前も感染してるんじゃないのか」と言われた。 このように、新型コロナウイルス感染症に対する過剰な心配と思われる事例が多く見られた。中には、家族や親戚から交流を避けられるといった事例も散見され、医療従事者が精神的にも大きなダメージを受けていることが心配される。城守氏「風評被害というよりも“いわれなき差別”」 風評被害への対応としては、「不安で通院できないといった問い合わせがあった際は、保健所の指導の下、感染対策をしっかり行っているので安心して通院してほしいと説明した」「慢性疾患により定期的な通院が必要な患者には個別に連絡し、病院内では感染対策を行っていること、定期的な受診が重要であることを説明した」「周辺住民を対象に勉強会を開催し、正しい情報が広まるよう努めた」など、その多くが繰り返し丁寧に説明し、医療従事者・医療機関への理解を求めていた。 城守氏は、「全国規模で風評被害が発生していることが明らかとなった。中には、医療従事者に対する“いわれなき差別”とも言える事例が多く見られ、由々しき事態であると考えている。国に対しても何らかの早急な対応を求めたい」と述べた。なお、被害状況に地域差などは見られず、報告がなかった県は7つほどあったという。調査概要1.名称:新型コロナウイルス感染症に関する風評被害の緊急調査2.目的:令和2年度第2回都道府県医師会長会議(2020年11月17日開催)で新型コロナウイルス感染症に関する医療従事者などへの風評被害について問題提起されたことを受けて、日本医師会として医療従事者などに対する風評被害の実態を把握し、その結果を基に、医療の最前線で奮闘している医療従事者の置かれている状況について、国民に理解を求める。3.対象:2020年10月1日~12月25日までに各地域で起こった風評被害4.内容:風評被害の対象者(医療機関、医師、医師以外の医療従事者、医療従事者の家族、その他)、具体的事例、対応策5.方法:都道府県医師会の協力のもと、各地域の被害状況について調査し、その結果を、2021年1月15日を期限としてメールで回答いただいた。6.回答:47都道府県医師会すべてより回答(総回答数698件)

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【GET!ザ・トレンド】変わる多発性硬化症診療

多発性硬化症(MS)治療薬の開発が目覚ましい。2000年に再発抑制薬(疾患修飾薬:DMD)としてインターフェロンが登場し、病状・病態の進展抑制が注目されるようになった。その後もたくさんのDMDの開発が進み、近々B細胞除去薬の登場も期待されている。そこで神経内科以外の先生方が読まれることを念頭に、MS診断の要点と今後期待される治療について概説したい。診断のコツわが国におけるMS患者は増加の一途をたどっており、現在国内における推計患者数はおよそ1万8000人である。以前から発症リスクは女性の方が高いと言われてきたが、近年では男性1に対し女性3まで増えているという。若年成人,特に20~30代の発症が多く、つまり典型的な患者像は、「出産年齢の女性」となろう。MSを疑うべき症状は多様である。典型的な症状(障害部位)としては、視力障害(視神経)、複視(脳幹)、ふらつき(小脳)、手足の痺れや痛み、脱力(脳及び脊髄)などを挙げ得るが、排尿障害や認知機能障害も見逃したくない。初診時に注意深く聞き出したいのが、「神経症状の既往」である。数年前までさかのぼり、同様の症状がなかったか問診する。たとえ患者さんが「今回初めて」と言っても鵜呑みにはしない。また問診の結果、同じような症状はなかったことが明らかになった場合でも、他の神経症状の既往の有無を尋ねる。その際には、必ず具体的な症状を挙げながら問診するようにする。また「ウートフ現象」の有無も確認する。「ウートフ現象」とは、「体温上昇に伴う一過性の症状増悪」である。MS患者ではこの症候が認められることが多い。入浴後や外気温が高い時期の痺れや脱力、一過性の視力低下が多い。このような症状からMSを疑い、MRI撮像や髄液検査を行う。MSの分類MSは大別すると「再発寛解型」(増悪と寛解を繰り返す)と「1次性進行型」(はじめから症状は徐々に進行)、「2次性進行型」(後出)の3タイプに分けられる。うち、MS初期に分類されるのは「再発寛解型」と「1次性進行型」だが、日本では9割以上が「再発寛解型」である。なお「再発寛解型」の数割は「2次性進行型」(徐々に症状が増悪。ただし、途中、再発や進行が停止する時期があっても良い。)へ進展する。再発寛解型MSに対する治療には、現在6種類のDMD、すなわち、グラチラマー酢酸塩、インターフェロン(IFN)β-1b、IFNβ-1a、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、ナタリズマブ、が使用可能である。また、最近、二次性進行型に対するDMD,シポニモドが承認された。これらの薬剤は併用することはないため、疾患活動性や患者のライフプラン等を考慮し、適切な薬剤を選択する必要がある。早期からの疾患活動性抑制が重要まず疾患活動性の高いMSでは、早期から再発抑制効果の高いDMD使用を考慮する。そのような例では、転帰が不良だからである [Leray E et al. Brain 2010; 133: 1900] 。早期治療開始の有用性を示すエビデンスとしては、EDSS 4.0に到達する期間が、診断1年以内にDMDを使用した群の方が、3年以上経過してから使用した群よりも有意に長かったとの報告がある[Kavaliunas et al., Mult Scler. 23: 1233-1240, 2017]。さらに、大規模な前向き観察研究において、早めにDMDを、特にグラチラマー酢酸塩やインターフェロンよりもより強力なフィンゴリモドやナタリズマブといったDMDを使用することで、その後の二次性進行型への移行を有意に抑えられたと報告されている[Brown et al., JAMA. 321: 175-187, 2019]。ただし有効性の高い薬剤は、有害事象リスクも高いことが多いので、症例ごとにリスク・ベネフィットをよく見極める必要がある。臨床所見だけで治療効果を評価しないさて再発寛解型に対するDMDの有効性評価には、臨床所見に加え、MRI所見も必須である。臨床上再発が抑制されているにもかかわらず、MRI上で病巣が増加・拡大している患者は決して珍しくない。そしてMS初期のMRI上病変増加や脳萎縮は、ボディーブローのようにMS患者の長期予後に悪影響を及ぼす。事実、MS初期のMRI上病変数は、約15年後の2次性進行型MSや身体障害のリスクであるとされる[Brownlee WJ et al. Brain. 2019; 142: 2276] 。したがってDMD使用下で臨床的な増悪を認めなくとも、半年に1回はMRIで評価すべきである。進行性多巣性白質脳症(PML)リスクのあるDMDを用いているならば、3~6カ月に1回が望ましい。加えて、患者の希望や疾患活動性がないとの判断によりDMDを使用しない患者においても、6カ月~1年に1回は必ずMRIで定期的に病巣を評価する。再発まで放置した結果、MRI上の病巣が著明に増加していたというケースも経験している。患者にMRI上の病巣を見せ、増加の可能性を説明し、目の前で次回MRIの予約を入れる。こうすれば薬剤処方の必要がない患者でも、次回来院の可能性は飛躍的に高くなる。なお、個人的には、認知機能の経時的評価も必要ではないかと考えている。タブレットを用いた簡便な検査方法が開発されているので、余裕があれば評価していただきたい。新しい治療薬「B細胞をターゲットとした治療薬」の可能性海外では現在、B細胞除去薬であるオクレリズマブが広く用いられている。しかし、わが国に導入の予定はない。同じくB細胞除去薬であるリツキシマブも、スウェーデンでは適用外使用だがMSに汎用されており、その有用性が報告されている[Granqvist M et al. JAMA Neurol. 2018; 75: 320] 。わが国では、現在、慢性リンパ性白血病に用いられているB細胞除去薬オファツムマブが、近々使用可能になると言われている。MS例におけるオクレリズマブの再発抑制作用はナタリズマブと差がないと報告されており[Lucchetta RC et al. CNS Drugs. 2018; 32: 813] 、同じB細胞除去薬であるオファツムマブの効果にも注目したい。ただしオクレリズマブ同様、オファツムマブも感染症リスクへの注意は必要であろう。なお、ナタリズマブは近時、投与間隔を標準的な4週間よりも長くとる "Extended Infusion Dosing" (EID)を用いると、PMLリスクが低減すると報告されており[Ryerson LZ et al. Neurology. 2019; 93: e1452]、抗JCウイルス抗体陽性患者へのナタリズマブ投与の際には、検討の価値はあると思われる。後遺症への薬剤も開発中現在、MSを完治し得る薬剤は、開発の糸口さえ見つかっていない。そのため上記のようにDMDの開発が盛んだが、それに加え、後遺症軽減を目指した薬剤の開発も進んでいる。その一つが、MSで障害された神経再生を介して後遺症の軽減を目指す薬剤である。先行していたLINGO-1(神経再生阻害因子)阻害剤であるオピシヌマブ(opicinumab)は、残念ながら、第二相試験で神経修復作用にプラセボと有意差を認めなかったが [Cadavid D et al. Lancet Neurol. 2017; 16: 189] 、LINGO-1以外に介入する神経再生薬の開発も進んでおり、今後の成果を待ちたい。最後にMSはすぐに生死に直結する疾患ではない。しかしながら若年発症が多いこともあり、患者さんの人生にとってはかなりの重荷である。したがって、診断・治療に難渋、あるいは迷った場合は、いたずらに経過観察することなく、遠慮せず専門医に相談、紹介していただければ幸いである。

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パンデミック再び、ICUで苦悩するコロナ治療・その2【臨床留学通信 from NY】第17回

第17回:パンデミック再び、ICUで苦悩するコロナ治療・その2前回でも書きましたが、レジデントのローテーションで、12月上旬から中旬にコロナの第2波がニューヨークにやってきたタイミングでICU勤務をしました。そこでは、4月のパンデミック時と何も変わっていない、コロナという病気で重症化してしまうと本当に打つべき手がないということを実感しました。レムデシビルは軽症であれば効くのかもしれませんが、重症になってしまうとウイルスそのものより全身の炎症がメインであり、もはや効かない印象です1)。当院はECMOがないため、必要があれば他院への転院となりますが、100%酸素の人工呼吸器設定で酸素飽和度が80%辺りになると、残るは腹臥位に変えるかどうかくらいですが、医療従事者数人がかりでコロナ患者の体位を変えるのは本当に大変です。有効性ははっきりしないものの、どうしようもない低酸素の人に対し一酸化窒素を使うこともあります2)。RCTでは当初否定的でしたが、回復期血漿療法は継続して使用しており、最近になってNEJMに有効性を証明した論文が発表されました3、4)。トリシズマブに関しては、ネガティブスタディが出たこともあって第1波のころと異なりこの冬は下火となっていましたが5)、Mount Sinaiから人工呼吸器治療を受けていない患者であれば人工呼吸器もしくは死亡を回避する可能性が高いというデータが発表された6)ため、プラクティスが再び変わるかもしれません。サンクスギビング後の第2波は、2020年末にかけて一気に増えることはありませんでしたが、病院としてはクリスマス後や年始の増加に備え、いつでもICUを増やせる体制で臨みました。そんな訳で、レジデントとして最後のクリスマスと年末年始は、ICUで休みなしの勤務となりました。勤務は朝7時から夜7時半までをロングコール、朝7時から夕方4時前後までをショートコール、夜間7時から朝7時半~9時までをナイトフロートと呼び、それらをレジデント4人によるシフトで回し、計16人のICU患者をカバーしました。シフト制とはいえ、例えばロングコールをした後、24時間の休憩後にナイトフロートを3~4日連続勤務し、24時間弱の休憩を挟んで昼間のシフトに戻ったりするので、体力的にかなりつらく、ナイトフロート中は実質寝られません。卒後1年目のインターンが患者の約半分ずつを担当し、私はレジデントとして彼らを管理・監督をします。Physician AssistantたちもICU管理のために専門的に教育されてはいますが、慣れ・不慣れの程度が人によって異なるため、彼らを監督しなければいけないこともあります。日中はアテンディングと呼ばれる指導医の人が1人ずつ回診していくのですが、朝8時過ぎから昼の12時、場合によっては13~14時近くまで行ったうえ、患者1例ずつディスカッションをして治療方針を決めていきます。1症例ごとプレゼンテーションするのはインターンの役目ですが、それをうまくできるようにサポートする必要があります。どうしても重症な症例が多いので時間が掛かり、その合間にも容赦なくICU入院者が来るため、そこをいかにまとめるかがレジデントの仕事となります。参考1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32827627/2)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33347987/3)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2033700?query=featured_home4)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33232588/5)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa20288366)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2030340?query=featured_homeColumn画像を拡大する私はICU配属だったこともあり、医療従事者の中でも比較的早い1月7日に2回目のワクチンを接種しました。さらにわれわれの施設では、1月11日から高齢者や教職員、交通機関の職員に対してもワクチン接種を開始したのですが、供給不足となってしまって一時中止しています。一刻も早くパンデミックからの収束を願います。写真は、昨年末に撮影したロックフェラーセンターのクリスマスツリーです。今年は“密”を避けるため、遠目からの観賞となりました。

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第43回 病床協力だけでは見えないコロナ診療の実情

感染症法改正などの議論で、新型コロナウイルス感染症患者の受け入れに応じない病院に対し、病院名公表などの措置が検討されたり、大阪府の吉村 洋文知事が「民間でコロナを受け入れている病院の比率が低い」と発言したりするなど、民間病院に対する風当たりが厳しい。こうした「患者受入登録」だけで病院が評価されることに疑問を持った大阪府保険医協会は1月26日、民間病院のコロナ患者受け入れ状況を把握するため、府内全病院を対象に実施した緊急アンケートの結果を公表した。それによると、府の要請に応じて病床登録した民間病院は1割程度だった。その理由をひも解くと、「病院の構造的な問題」や「専門スタッフがいない」など物理的・人的な問題が浮かび上がった。一方、未登録であっても何らかの形でコロナ患者に対応している病院があることも明らかになった。未登録の民間病院もコロナ患者に対応大阪府保険医協会は1月19日、府内484病院を対象にアンケートを実施。1月26日現在、132施設から回答を得た。このうち、民間病院は122施設から回答があった。コロナ患者の受け入れ病床の状況については、府が昨年12月に各1~2床の確保を要請した108施設中40施設が回答。その結果、病床を登録したのは5施設(12.5%)にとどまった。登録しない理由(複数回答可)として、「動線確保や個室の数など病院の構造上の問題」(30施設)、「感染症専門スタッフがいない・少ない」(26施設)、「重症化した際の転送先に不安がある」(21施設)などが挙がった。一方、コロナ患者への対応についての実績・経験を尋ねたところ、いずれも未登録の民間病院79施設が、コロナ患者の入院受け入れや軽快後の後方病床を担うなど、何らかの形でコロナ患者を受け入れていることもわかった。病院が悪者にされ現場の士気が保てない自由回答では、「公立病院などでコロナ患者を受け入れている分、コロナ患者以外の疾患を民間病院が担ってくれている」(コロナ患者を受け入れている公立病院)、「頑張っている病院が悪者にされ、現場の士気が保てない」(コロナ患者を受け入れている民間病院)、「コロナ病床が埋まっている限り、通常の2次救急ができなくなっている」(コロナ患者の受け入れを要請されている民間病院)などの意見が寄せられた。大阪府保険医協会は「民間病院攻撃に繋がるような国や大阪府の方針や情報発信は、国民と医療機関に責任を転換し、さらに国民に“分断”を持ち込みかねないもので看過できない。国や大阪府は、これまでの政策の過ちを真摯に受け止め、十分な補償と情報提供、新型コロナウイルス感染防止対策への国民・府民の主体的・積極的参加を促す政策をとるよう、強く要望する」とコメントした。今回のアンケート結果からもわかるように、コロナ患者の受け入れ人数のみで評価するのは、あまりに問題の捉え方が表面的過ぎるということだ。コロナ以外の疾患診療や、軽快後の後方病床も重要な役割である。コロナ診療の最前線に立たない医療者、機関への逆風を煽るような行政のやり方では、直面する医療崩壊やひっ迫状況の打開に到底なり得ない。

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日本におけるCOVID-19第2波によるうつ病リスク

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる社会的混乱は今も続いており、これが国民の社会的抑制につながっている。北里大学の深瀬 裕子氏らは、COVID-19によるメンタルヘルス関連のリスク因子を明らかにし、具体的な対処方法について検討を行った。BMC Psychiatry誌2021年1月12日号の報告。 日本でCOVID-19の第2波が起こっていた2020年7月に、Webベースの調査を実施した。人口統計、こころとからだの質問票(PHQ-9)、怒りの状態、怒りのコントロール、コーピング尺度(Brief COPE)を測定した。設定変数によるPHQ-9スコアの多変量ロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象者2,708人のうち、18.35%がうつ病であった。・ロジスティック回帰分析では、抑うつ症状発症の予測因子は、以下のとおりであった。●基礎疾患あり(オッズ比[OR]:1.96、95%信頼区間[CI]:1.32~2.92)●無職(OR:1.85、95%CI:1.22~2.80)●マイナスの経済状況の経験(OR:1.33、95%CI:1.01~1.77)●怒りの状態(OR:1.17、95%CI:1.14~1.21)●怒りのコントロール(OR:1.08、95%CI:1.04~1.13)・一方、抑うつ症状発症のORが1未満であった因子は以下のとおりであった。●年齢が高い(OR:0.97、95%CI:0.96~0.98)●世帯収入800万円以上の高収入(OR:0.45、95%CI:0.25~0.80)●既婚(OR:0.53、95%CI:0.38~0.74)・対処戦略と抑うつ症状との関連について、ORは以下の順であった。●プランニング(OR:0.84、95%CI:0.74~0.94)●機器的サポートの利用(OR:0.85、95%CI:0.76~0.95)●自粛(OR:0.88、95%CI:0.77~0.99)●行動の放棄(OR:1.28、95%CI:1.13~1.44)●自己非難(OR:1.47、95%CI:1.31~1.65) 著者らは「日本ではロックダウンは行われなかったが、COVID-19パンデミックに伴う長期的な心理的苦痛によって、抑うつ症状の有症率は、パンデミック前の2~9倍に増加した。社会的混乱への対処または回避する方法を、1人または他者と実践することは、メンタルヘルスの維持に役立つが、人口統計的影響が対処戦略より強く、高リスク因子を有する人への治療が求められる」としている。

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第43回 ドタバタ続きの旭川医大、ワンマン学長の言動を文科省が静観する理由

旭川医大、学長が院長を電撃解任こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。今オフにニューヨーク・ヤンキースからフリー・エージェント(FA)になっていた、田中 将大投手の東北楽天ゴールデンイーグルス復帰が1月28日に正式発表され、30日には田中投手の記者会見も行われました。ヤンキースが再契約しなかったこと、MLBの他球団の獲得が実現しなかったことなど気になる点は多々ありますが、東北楽天ファンだけでなく、日本の野球ファンのほとんどは大歓迎ではないでしょうか。ヤンキースでの7年間のキャリアのうち、後半は早い回での降板も増え、好不調の波が激しかった気もします。ただ、全盛期を過ぎつつあるとはいえ、あの田中 将大です。本人も「キャリアの晩年ではなく、いいタイミングで、楽天でバリバリ投げたいという思いはあった」と語っています。今年は東日本大震災から10年目という節目でもあり、ひょっとして東北楽天に再び優勝をもたらしてくれるかもしれません。個人的には、引退間近とも言われる日本ハムの斎藤 佑樹との投げ合いが楽しみです。さて、今週は旭川医科大学のドタバタを取り上げます。旭川医大は26日、同大で記者会見を開き、旭川医大病院の古川 博之病院長を25日付で解任したことを明らかにしました。昨年11月、同大の吉田 晃敏学長が新型コロナウイルスのクラスターが発生した市内の慶友会吉田病院からの患者受け入れを拒否する発言をしていたことが「週刊文春」で報道されましたが、この発言を録音し、外部に漏らしたことなどが解任理由となっています。「不利益処分を基礎付ける具体的証拠は何もない」と前院長この会見には吉田学長に加え、2人の理事と顧問弁護士が出席。理事は古川氏の解任理由について、(1)昨年11月の学内の会議をひそかに録画するなどし、外部に漏えいした、(2)11月、クラスターが発生した吉田病院の感染患者受け入れに関する吉田学長との協議内容を恣意的に報道機関に話した、(3)報道を受けた12月、難局を団結して乗り越えることを学内で確認したにもかかわらず、その後も取材に応じ続けた、という3点を挙げました。一方、解任された古川氏は25日夜に、報道関係者向けのコメント文書を出しています。それによると、15日に同大の役員会から辞任を求められたものの「解任相当とする具体的事実が事前に告知されておらず、告知・聴聞の手続きにおいては不適正」「ヒアリングでの質問内容は十分な反論も受け入れず、結論ありきのもの」と批判。役員会が指摘する情報漏洩の疑いも否定した、とし、「不利益処分を基礎付けるような具体的証拠は何もない」としています。さらに、文部科学省が吉田学長の不適切発言問題などで旭川医大を調査している最中に院長辞任を求めるのは、「真実隠しと思わざるを得ない」とし、旭川市の病院の新型コロナウイルス対策において「リーダーシップをとってきた私を解任することは、地域医療をないがしろにしている」と書いています。「吉田病院のコロナがなくなればいい、という趣旨だった」と弁明26日の旭川医大の記者会見において、吉田学長はそれまでの自身の発言について以下のようにコメントしました。「週刊文春」の2020年12月24日号で報道された市内の慶友会吉田病院からの患者受け入れを拒否する発言、「コロナを完全になくすためには、あの病院がなくなるしかない。ここの旭川市の吉田病院があるということ自体が、ぐじゅぐじゅ、ぐじゅぐじゅとコロナをまき散らして」については、「あのときの真意は吉田病院のコロナがなくなればいい、という趣旨だった。それが切り取られてしまった」と苦しい弁明。さらに、吉田病院の患者受け入れを巡り、吉田学長が古川氏に「受け入れるならおまえが辞めろ」などと発言したことについては、「11月8日と13日に私はある病院からの軽症者を断った。それは、私の教員として培ってきた知識と動物的な勘でそういう対応を取った。その後はコロナ対応の病床が32床使えるようになったことからも、(当時許可しなかった)私の判断は間違っていなかった」と話しました。 吉田学長のリコールを求める署名運動も「おまえが辞めろ」発言については、文科省がパワーハラスメントに当たるかどうかを調査中とのことです。萩生田 光一文科相は26日の閣議後会見で、旭川医大が古川病院長を解任したことについて「学長と付属病院長が争うことそのものが、道民や患者に不安を与える」と述べ、地域医療への影響に懸念を示すとともに、「学内人事は各大学の判断で、よしあしを判断する立場にない」とした上で、「学内で冷静な対応をしてもらいたい」と語ったとのことです。なお、週刊文春の暴言報道をきっかけとして、昨年末には同大OBが中心となった吉田学長のリコールを求める全国有志の会が発足し、署名運動が始まっています。同会は1万筆の署名を目指しており、3月を目標として文科省に提出予定とのことです。旭川医大の1期生学長による老害の数々一連の報道を読んでいて浮かんだのは、“老害”という言葉です。吉田学長は68歳。旭川医大1979年卒の1期生で眼科が専門です。2007年の学長選で同大出身者初の学長となり、その後、実に14年にわたって学長の座に就いています。ちなみに旭川医大の職員(教授など)の定年は多くの国立大と同じ65歳です。国立大学法人法では「学長の任期は、2年以上6年を超えない範囲内で、学長選考会議の議に基づき、国立大学法人が定める」とされています。旭川医大の場合、かつては「学長は1期4年を任期とし再任を1回だけ認め、再任後の任期は2年とする」という常識的なものでしたが、吉田学長になって「1期4年、再任は無限」に変更となりました。どこかの共産主義政権と同じことを強権で実行したわけです。もう一つ気になったのは、吉田学長の眼科学教室主任教授への返り咲きです。通常、学長をはじめ大学の運営に関与する役員は臨床から離れ、教授職などは返上して後任に譲ります。そもそも大学の経営をしながら、バリバリ手術や、診察、指導、研究はできないでしょう。ところが吉田学長は現在、眼科教授を兼任しています。報道等によれば、2020年、前任の教授(東大出身)を解任し、自らが眼科学講座の主任教授も兼任することにしたのです。1月15日付のFRIDAYデジタルは、昨年秋に学内に掲出された、吉田学長の第4代教授就任を伝えるポスターを掲載しており、これが笑えます。着物姿の吉田学長が色紙を掲げている写真なのですが、色紙には「二冠 学長・第四代教授」と書かれているのです。記事によれば、将棋二冠の藤井 聡太棋士を真似たとのことです。吉田学長を巡っては、2019~20年に麻酔科教授の不正報酬問題(本連載の「第2回 全国の麻酔科教室が肝を冷やしただろう事件」参照)など不祥事が続き、大学トップとして管理体制が問われていましたが、病院長解任直後の報道では、自身も公立病院とアドバイザー契約を結び月40万円(14年間で計6,920万円)受け取っていたことも明らかになっています。ちなみに、旭川医大眼科教室のWebサイトの医局員紹介を見てみると、教授が3人います。1人は主任教授の吉田学長、1人は旭川医大病院経営企画部教授、そしてもう1人は医工連携総研講座教授です。地方の医大に眼科医局所属の教授が3人とは、これも何らかの力が働いたのかもしれません。国立大学の学長は簡単にクビにはできない中央の目があまり届かない北の地の国立大学でやりたいようにやってきた吉田学長ですが、週刊文春やFRIDAYといった厳しいメディアの“目”に晒されたためか、北海道新聞など地元紙の報道もかなり批判的になってきているようです。しかし、文科省は今のところ「学内人事は各大学の判断で、よしあしを判断する立場にない」と静観の構えです。任命するのは国なのですから、交代させることも可能だと考えがちですが、そうは簡単にはいかない理由があります。国立大学法人法は「学長の任命は、国立大学法人の申出に基づいて、文部科学大臣が行う」(同法12条)となっています。ただ、その申し出を文科相が拒否することはほとんどありません。国立大学法人が、同法人の規則に則って学長を選出、それを文科相に申し出ます。この申し出に明白に形式的な違法性がある場合や、明らかに不適切と客観的に認められる場合などを除き、法人の申し出を国が拒否することはできない(申し出には法的拘束力がある)とされているのです。なにやら昨年話題となった日本学術会議会員の任命拒否問題とも似ていますが、考え方はまったく同じです。学術会議会員の任命拒否問題でもあれだけ大騒ぎとなりました。ですから、大学の自治尊重の考え方の下、国立大学の教職員が国家公務員だった時代でさえ行われなかった学長の任命拒否やクビのすげ替えが、そう簡単にできるわけがないのです。もっとも、昨年10月、学術会議の任命拒否問題が騒がれていた頃、国立大学学長の任命について聞かれた萩生田文科相は「基本的には(大学側の)申し出を尊重したい」とした上で、「文科相の判断で任命しないこともありうる」との認識も示しています。仮に老害を撒き散らしている学長だとしても、学内のルールに則ってことを収めてほしい、というのが国、文科省の強い意向だと言えそうです。とはいえ、今後、旭川医大がとくに学長を交代させることなく、今回の一連の事件をうやむやにしようとするならば、国も「明らかに不適切と客観的に認められる場合」として“立件”すべく、積極的な情報収集に動くかもしれません。今後の文科省の動きに注目したいと思います。

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