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トラスツズマブ、長期補助療法での心イベント発症は?(BIG1-01)

 トラスツズマブの忍容性は一般的に高いものの、心機能障害については、とくにアントラサイクリンベースの化学療法との併用において、議論となっている。今回の研究は、トラスツズマブの補助療法を評価する世界的臨床試験HERA(Herceptin Adjuvant )トライアルの8年にわたる観察期間における心イベント発症について、ベルギー・Jules Bordet InstituteのEvandro de Azambuja氏らが検討している。Journal of clinical oncology誌オンライン版2014年6月9日号の掲載報告。 対象は2001年12月から2005年6月の間に登録されたHER2陽性の早期乳がん患者。初期治療で手術、術前・術後化学療法、(±放射線療法)を受けており、登録時の適格基準はLVEF(左室駆出率)55%以上である。これらの患者を無作為に観察群(1,744例)、トラスツズマブ1年投与群(1,682例)、2年投与群(1,673例)に割り付け、2012年4月まで観察している(観察期間の中央値は8年)。 主要エンドポイントは心臓死、NYHA(ニューヨーク心臓協会)心機能分類III~IVの重症うっ血性心不全(以下CHF)発症。副次的エンドポイントは、著明なLVEF低下(LVEF絶対値のベースラインから10%ポイント以上の低下およびLVEF値50%未満の低下)である。また、トラスツズマブ中止後の急速回復例(投与中止後連続2回以上50%以上のLVEF値を記録した例)の割合を評価している。 主な結果は以下のとおり。・初期治療における化学療法の96%は、アントラサイクリンを含むレジメンであった。・投与中止を引き起こした心臓有害事象の発症は2年投与群で9.4%、1年投与群では5.2%であった。・心臓死は、2年投与群0.2%、1年投与群0%、観察群0.1%であった。・重症CHF発症は、2年投与群0.8%、1年投与群0.8%、観察群0%であった。・著明なLVEF低下は2年投与群7.2%、1年投与群4.1%、観察群0.9%であった。2年投与群vs 1年投与群の絶対値差3.1%(95% CI:1.5~4.6、p<0.001)。・急速回復例は、2年投与群で87.2%(心エンドポイント発症133例中116例)、1年投与群で79.5%(心エンドポイント発症83例中66例)であった。・心イベント発症のリスク因子は、試験登録時におけるLVEF低値であった。 HERAトライアルの中央値8年の長期評価においても、トラスツズマブ補助療法における心イベントの発生は低く、また多くは可逆的であった。ただし、発症率の低さは確認されたものの、早期に心イベントを見つけ適切な処置を行うため、トラスツズマブの使用にあたっては使用前、使用中の心機能評価を行うべき、としている。

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【JSMO見どころまとめ(2)】小児がん患者のサバイバーシップ

 2014年7月17日(木)から福岡国際会議場ほかにて開催される、第12回日本臨床腫瘍学会学術集会に先立ち、先月27日、東京都中央区にて日本臨床腫瘍学会(JSMO)主催のプレスセミナーが開催された。そこで行われた、石井 榮一氏(愛媛大学大学院医学系研究科 小児科学講座)による講演「小児がん患者のサバイバーシップについて」を簡潔にまとめる。【まとめ】・小児がんの予後は、化学療法の進歩や、造血幹細胞移植の導入、分子標的薬の登場などにより飛躍的に改善した。・小児がんサバイバーは、成長とともにさまざまな晩期合併症を来すだけでなく、保険加入や就労の問題など、社会的な偏見も多く残っている。・小児がんサバイバーを長期的にサポートするシステム作りと、小児科から成人診療科へのシームレスな移行が必要である。 本学術集会では、日本小児血液・がん学会との合同シンポジウムを通し、小児がん経験者を社会全体で支援する体制作りについて議論していく。< 小児がんに関する注目演題 >・Presidential Symposium / 会長シンポジウム  第12回学術集会長/日本小児血液・がん学会 合同シンポジウムテーマ:“小児がんサバイバーシップ” 日時:2014年7月18日 15:50~17:50   会場:Room 3(福岡国際会議場3F「メインホール」)【第12回日本臨床腫瘍学会学術集会】■会期:2014年7月17日(木)~19日(土)■会場:福岡国際会議場、福岡サンパレス、福岡国際センター■会長:田村 和夫氏(福岡大学医学部腫瘍・血液・感染症内科学 教授)■テーマ:包括的にがん医療を考える~橋渡し研究、がん薬物療法からサバイバーシップまで~第12回日本臨床腫瘍学会学術集会ホームページ

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Stage IV非小細胞肺がんの2次治療におけるラムシルマブの有用性/Lancet

 ラムシルマブ(国内未承認)+ドセタキセル併用療法は、Stage IV非小細胞肺がん(NSCLC)の2次治療において生存期間を有意に延長し、ラムシルマブ追加によるQOLの増悪も認めないことが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のEdward B Garon氏らが行ったREVEL試験で示された。ラムシルマブは、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)-2の細胞外ドメインを標的とするヒトIgG1モノクローナル抗体で、すべてのVEGFリガンドの結合と受容体の活性化を阻害する。本薬剤は、進行胃がんの2次治療に関する2つの第III相試験で、単剤またはパクリタキセルとの併用で生存期間を有意に改善することが示されている。Lancet誌オンライン版2014年6月2日号掲載の報告。ラムシルマブ上乗せの有用性を無作為化試験で評価 REVEL試験は、Stage IV NSCLCに対する2次治療としてのラムシルマブ+ドセタキセル療法の有用性を検討する二重盲検プラセボ対照無作為化試験。対象は、年齢18歳以上、プラチナ製剤ベースの化学療法による1次治療中または終了後に病勢が進行した扁平上皮がんまたは非扁平上皮がん患者であった。 患者は、性別、地域、全身状態(PS)、前維持療法の有無で層別化され、1サイクル(21日)の第1日にラムシルマブ(10mg/kg)+ドセタキセル(75mg/m2)を投与する群またはプラセボ+ドセタキセル(75mg/m2)を投与する群に無作為に割り付けられた。治療は、病勢進行、許容されない有害事象、患者の希望による治療中止、死亡のいずれかのイベントが起きるまで継続された。 主要評価項目は全生存期間(OS)とし、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、客観的奏効率(ORR)とし、有害事象、QOLの評価も行った。2次治療でとくに重要となる上乗せに伴う総QOLの増悪はなかった 2010年12月3日~2013年1月24日までに、6ヵ国26施設から1,253例が登録され、ラムシルマブ群に628例(年齢中央値62歳、男性67%)、プラセボ群には625例(61歳、66%)が割り付けられた。東アジア人(韓国、台湾)が各群に7%ずつ含まれた。データのカットオフ日(2013年12月20日)までに884例が死亡した(打ち切り率は29%)。 OS中央値は、ラムシルマブ群が10.5ヵ月であり、プラセボ群の9.1ヵ月に比べ有意に延長した(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.75~0.98、p=0.023)。また、PFS中央値はラムシルマブ群が4.5ヵ月、プラセボ群は3.0ヵ月で、やはり有意差を認めた(0.76、0.68~0.86、p<0.0001)。 担当医判定によるORR(完全奏効[CR]+部分奏効[PR])は、ラムシルマブ群が23%と、プラセボ群の14%よりも有意に良好であった(オッズ比[OR]:1.89、95%CI:1.41~2.54、p<0.0001)。また、病勢コントロール率(DCR、CR+PR+安定[SD])は、それぞれ64%、53%であり、有意差を認めた(1.60、1.28~2.01、p<0.0001)。扁平上皮がんと非扁平上皮がんのORR、DCRは全体の成績と同等であった。 治療関連有害事象は、ラムシルマブ群の98%(613/627例)、プラセボ群の95%(594/618例)に発現した。最も高頻度に認められたGrade 3以上の有害事象は、好中球減少(ラムシルマブ群:49%、プラセボ群:40%)、発熱性好中球減少(16%、10%)、疲労感(14%、10%)、白血球減少(14%、12%)、高血圧(6%、2%)であった。 治療関連有害事象による死亡(5%[31例]、6%[35例])およびGrade 3以上の肺出血(1%[8例]、1%[8例])の頻度は両群間に差はなかった。毒性は適切な減量や支持療法で管理可能であった。 著者は、「ラムシルマブ+ドセタキセル併用療法は、Stage IV NSCLC患者の2次治療において生存期間を改善した」とまとめ、「プラチナ製剤ベースの1次治療が無効であった進行NSCLC患者の2次治療におけるVEGFRを標的とする治療法の有用性を示すエビデンスが得られた。また、新規のがん治療法のリスク・ベネフィット評価では、とくに2次治療においては緩和的効果をも考慮する必要があるため、QOL評価が重要となるが、ラムシルマブを追加しても、患者の自己申告による総QOLの増悪は認めなかった」と考察している。

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化学療法非選択の転移性前立腺がんに、新たな治療選択肢/NEJM

 化学療法を受けておらずアンドロゲン除去療法後に進行がみられた転移性前立腺がん患者に対し、経口アンドロゲン受容体阻害薬エンザルタミドは、増悪および死亡のリスクを有意に低下し、化学療法の開始を有意に延長したことが示された。米国・オレゴン健康科学大学のTomasz M Beer氏らによる第III相二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で、試験は当初計画した中間解析後に、試験薬の有益性が示されたとして早期終了となった。エンザルタミドは、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者で化学療法後の進行例に対し生存を延長することは確認されていた。NEJM誌オンライン版2014年6月1日号掲載の報告より。経口アンドロゲン受容体阻害薬vs. プラセボ、1,717例対象に無作為化試験 研究グループは、化学療法を選択せずアンドロゲン除去療法を選択したが無効であった患者への新たな治療選択の確立を目的に、同患者にエンザルタミドを投与しその有効性と安全性を検討する試験を行った。 被験者は2010年9月~2012年9月に世界207施設で1,717例が登録され、エンザルタミド(160mgを1日1回、872例)またはプラセボ(845例)を投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、X線画像診断による無増悪生存と全生存の共同エンドポイントで、計画では約516例の死亡発生後に中間解析を行う予定になっていた。 計画通り死亡540例が報告された時点(データカットオフ2013年9月16日)で中間解析を行った結果、エンザルタミド群の有益性が確認され、試験は早期に終了となった。進行リスクを81%低下、死亡リスクは29%低下 追跡期間12ヵ月時点で、X線画像診断による無増悪生存が確認された患者は、エンザルタミド群65%、プラセボ群14%で、エンザルタミドによる81%の進行リスク低下が認められた(エンザルタミド群のハザード比[HR]:0.19、95%信頼区間[CI]:0.15~0.23、p<0.001)。 データカットオフ時の生存は、エンザルタミド群626例(72%)、プラセボ群532例(63%)で、エンザルタミドによる29%の死亡リスク低下が認められた(エンザルタミド群のHR:0.71、95%CI:0.60~0.84、p<0.001)。 エンザルタミドの有益性は、すべての副次エンドポイントでも認められた。すなわち、細胞毒性化学療法開始までの期間(HR:0.35)、初発の骨格系関連事象までの期間(同:0.72)、軟部組織奏効(59%vs. 5%)、前立腺特異抗原(PSA)増悪までの期間(HR:0.17)、PSA値50%以上低下達成割合(78%vs. 3%)であった(すべての比較のp<0.001)。 エンザルタミド治療に関連した、頻度の高い臨床関連有害事象は、倦怠感と高血圧だった。

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化学療法はがん患者の認知機能と脳活性を低下させるか

 がん化学療法後の認知機能障害は患者のQOLに悪影響を及ぼす。多くの横断的前向き試験が、神経心理学的ながん治療後の認知変化について述べている。しかしながら、決定的な知見はまだない。この試験は最新の神経学的イメージングシステムを用い、乳がん治療後の認知愁訴と脳活性度の変化の関連を検討している。ベルギーのルーヴェン・カトリック大学Sabine Deprez氏らの前向き比較試験。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2014年5月27日号の掲載報告。 18例の化学療法施行乳がん患者について、化学療法施行前(t1)と施行後4~6ヵ月後(t2)に機能的MRI(fMRI)のスキャナー内でのマルチタスク検査を実施した。一方、コントロールグループとして化学療法非施行乳がん患者16例、健康成人17例で同様の検査を同じ間隔で実施している。ベースラインにおいて、3つのグループは同等である。トレーニングにより70~80%の正しい反応を得られるようにして参加者間の格差をコントロールして前向き試験を実施した。認知愁訴については、Cognitive Failure Questionnaire(CFQ)を用いて評価した。神経学的イメージングは、統計的パラメトリックマッピング(SPM8ソフトウェア)を用い、グループ内、グループ間、時間・グループ交互作用を分析した。 主な結果は以下のとおり・化学療法実施グループの認知愁訴は、化学療法施行前(t1)に比べ施行4~6ヵ月後(t2)で有意に増加した(p<0.05)。・他の2グループでは、同様の変化はみられなかった。・化学療法実施グループの脳活性度は、左前帯状回と頭頂間溝において、t1に比べt2で有意に低下した(p<0.05)。・他の2グループでは同様の変化はみられなかった。・化学療法実施グループと健康成人グループにおいて、左前帯状回の活性で有意な、時間・グループ交互作用がみられた(p<0.05)。 この試験の結果から、化学療法由来の認知愁訴の根底に脳活性度の変化があると示唆される。左前帯状回と頭頂間溝はマルチタスク作業時には活性化する部位であり、この変化は、化学療法が与える脳のダメージ、あるいは脳の区域間連携の低下に関連している可能性がある。   今後、追加試験により脳の活性度についての再現性を確認するとともに、大規模な試験により詳細なサブグループ解析を行う必要があるだろう。この試験は、化学療法後の認知愁訴の長期的変化と活性度の変化の関連についてのエビデンスを与えた最初の長期的試験であり、がん化学療法の認知機能への影響について、神経学的に理解するうえで重要なステップといえる。

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甲状腺がん〔thyroid cancer〕

1 疾患概要■ 概念・定義甲状腺がんは甲状腺腫に発生する悪性腫瘍である。そのほとんどは甲状腺濾胞上皮に由来する分化がん(乳頭がん、濾胞がん)である。まれに甲状腺内に存在する傍濾胞細胞(C細胞)から髄様がんが生じる。■ 疫学わが国における甲状腺がん罹患率は、緩やかながら上昇傾向にある。2003年における推定罹患数は8,069人とされ、年齢調整罹患率は男性 2.56、女性 7.17(人口10万対)であった。一方、2007年における甲状腺がん死亡者数は1,558人で徐々に増加傾向ではあるが、年齢調整死亡率は男性 0.84、女性 1.61(人口10万対)と上昇傾向にはない。■ 病因甲状腺がんの発生には多くの要因が関与していると思われるが、その大半は明らかになっていない。ただし、わが国の原爆被爆や海外での原子炉事故などの経過から、とくに若年者において、放射線による外部被曝や内部被曝が甲状腺がん発生を増加させることが観察されている。また、甲状腺髄様がんの一部は遺伝子変異によって家族性に発症する。■ 症状自覚症状を呈さないことが多い。最近では頸動脈エコー検査で偶発的に発見される機会も増えている。腫瘍が大きくなれば頸部腫瘤やそれによる違和感を訴えることがある。甲状腺がんの進行に伴って大きな転移リンパ節を形成する、あるいは局所浸潤によって嗄声(反回神経麻痺)や血痰(気管浸潤)などの症状を呈することもある。■ 分類甲状腺に発生する悪性腫瘍のおおよその内訳は90%が乳頭がん、5%が濾胞がん、残りの5%が髄様がん・未分化がん・悪性リンパ腫である。甲状腺がんは、これらの病理組織学的診断によって臨床像が異なることが特徴である。■ 予後乳頭がん、濾胞がん、髄様がんでは長期の生命予後を期待できる。ただし、一部には再発を繰り返してがん死に至る症例もあり、初回治療の段階でそうした危険を見極めることが大切である。一方、未分化がんはきわめて予後不良の甲状腺がんである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 身体診察触診は甲状腺がん診断の基本である。正常甲状腺は触れない。したがって触診で甲状腺を触れたら、何らかの理由があると考えるべきである。とくに乳頭がんの触診所見は特徴的である。腫瘤は硬く、辺縁が不整で表面は不平滑、可動性に乏しいことが多い。気管などの周囲臓器や組織へ浸潤すれば腫瘍は固定し、嗄声を呈することがある。転移リンパ節が腫大して触知できる場合もある。髄様がんも似た所見を呈する。一方、濾胞がんでは良性腫瘍との鑑別が難しい。未分化がんは日一日と増大する。大きな腫瘤を形成し、嚥下障害や嗄声などの症状を呈する。腫瘤の圧迫によって、あるいは気管内への浸潤によって、時に気道狭窄(呼吸困難)を来す。しばしば疼痛を伴い、発熱をみることもある。■ 血液検査橋本病あるいはバセドウ病を合併しない限り、甲状腺機能には異常がない。髄様がんではカルシトニンとCEAが高値を示す。■ 画像検査頸部超音波検査が最もよく使われる。簡便で検査費用も高額ではなく、熟練した検者が施行すれば短時間で済み、診断能も高い。CT検査は甲状腺がんと診断がついたあとで、その進行度合いを診断するのに適している。MRI検査の有用性は限定的であり、PET検査は有用ではない。■ 細胞診断穿刺吸引細胞診を行って病理組織診断を推定する。細胞診断は甲状腺悪性腫瘍全体の90%、良性腫瘍の95%で的確に診断できるが10%の偽陰性(悪性の見逃し)、5%の偽陽性(過大診断)がある。ただし細胞診で濾胞がんの診断を推定することは困難である。現状では濾胞腺腫の可能性を含めて「濾胞性腫瘍」と診断されることが多い。針生検は甲状腺腫瘍においても、より正確な診断を可能とする診断法ではあるが、解剖学的理由から検査に伴う危険性を考慮し、一般的には推奨されない。大きな腫瘍で未分化がんや悪性リンパ腫を疑うときには適応がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 乳頭がん外科治療は進行度に応じて甲状腺切除とリンパ節郭清の範囲を決定する。わが国の『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版』では、再発の危険が低いと考えられる症例(腫瘍径2cm以下、リンパ節転移なし、遠隔転移なし)には、腫瘍側の甲状腺葉のみを切除して甲状腺機能の温存を図る術式を推奨している。一方、進行がんでは甲状腺を全摘し、術後に放射性ヨウ素内用療法と甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制療法を実施する方針を勧めている。リンパ節の切除(郭清)範囲は転移の状況によって異なる。明らかな転移を認めない症例に対する予防的郭清は、気管周囲リンパ節領域のみにとどめるか、あるいは患側の内深頸リンパ節領域までとする。■ 濾胞がん手術時にすでに血行転移などを認めて濾胞がんの診断が明らかであれば、甲状腺全摘を行う。そうでなければ患側葉切除を行い、病理組織診断で広汎浸潤型と判明すれば、追加で対側葉を切除する(補完甲状腺全摘)。広汎浸潤型では血行転移の懸念があるので、術後に放射性ヨウ素内用療法とTSH抑制療法を行う。■ 髄様がん発生様式には家族性と散発性とがある。前者は多発性内分泌腺腫瘍症2型(multiple endocrine neoplasia type 2: MEN2)であり、がん原遺伝子であるRETに点突然変異が生じて発症する。他の構成病変として褐色細胞腫や副甲状腺機能亢進症を合併することがある。甲状腺の手術前にまず褐色細胞腫発症の有無を確認し、あれば髄様がんの手術に先んじてその治療を行う。MEN2の髄様がんは、両側葉に発症するので甲状腺全摘と進行度に応じたリンパ節郭清を行う。副甲状腺機能亢進症を合併していれば、4腺すべてを摘出して一部を前腕の筋肉内に移植する(全摘+自家移植)か、または腫大の最も少ない1腺の一部を温存して他をすべて摘出する(亜全摘)。散発性では乳頭がんに準じた手術を行う。放射性ヨウ素内用療法やTSH抑制療法の適応はない。■ 未分化がん診断と治療に準緊急の対応を必要とする。腫瘍の急速な増大を特徴とし、気道狭窄もまれではない。甲状腺分化がん、とくに乳頭がんを発生母地とすることが多い。年余にわたって分化がんが診断されず、高齢者になって悪性度のきわめて高い未分化がんに転化するものと考えられている。外科治療は困難であることが多い。腫瘍を摘出できても遠隔転移が高率で起き、予後はきわめて不良である。化学療法や放射線外照射治療を併用することが治療効果を高めると期待されるが、効果は限定的である。一方で症状緩和の対応は、診断の早期から行う必要がある。4 今後の展望■ 放射性ヨウ素内用療法分化がん血行転移症例に対する放射性ヨウ素(I-131)100mCi治療が可能な入院施設は非常に限られており、治療までの待ち時間が今後の課題となっている。一方、補助療法としての30mCi外来内用療法(アブレーション)が2011年から実施可能となった。高危険群に対するアブレーションの評価は今後待たれる。■ 分子標的薬分化がんおよび髄様がんの再発進行例に対する分子標的薬の有効性が、海外から報告されている。わが国での使用はいまだ承認されていないが、有効な手立ての少ない甲状腺がんの治療に役立つことが期待される。5 主たる診療科内分泌外科、耳鼻咽喉科、頭頸部外科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本癌治療学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報: 甲状腺腫瘍診療ガイドライン 2010年版の閲覧ができる)1)日本内分泌外科学会、日本甲状腺外科学会編. 甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版. 金原出版; 2010.

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進行非小細胞肺がんの2次・3次治療におけるエルロチニブとドセタキセルの比較

 既治療のEGFR変異不特定の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者における、エルロチニブとドセタキセルの有効性を評価したDELTA試験の結果が、国立病院機構近畿中央胸部疾患センターの川口 知哉氏らにより報告された。同試験は、国内で行われた第III相無作為化試験である。Journal of Clinical Oncology誌 2014年5月19日号の掲載報告。 主要エンドポイントは無増悪生存期間(PFS)、副次的エンドポイントは、全生存期間(OS)、奏効率、安全性、またEGFR野生型腫瘍に対する効果についても検討している。対象は既治療(1または2レジメンの化学療法治療歴あり、ドセタキセルおよびEGFR-TKIは未使用)、IIIBまたはIV 期かつECOG PSが0~2の非小細胞肺がん患者。 主な結果は以下のとおり。・2009年8月から2012年7月まで、エルロチニブ群(150mg/日)150例とドセタキセル群(3週毎に60mg/m2)151例に無作為割り付けされた(そのうちEGFR野生型:エルロチニブ群109例、ドセタキセル群90例)。・全体におけるPFS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、2.0ヵ月、3.2ヵ月であった(HR 1.22、95%CI:0.97~1.55、p=0.09)。・全体におけるOS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、14.8ヵ月、12.2ヵ月であった(HR 0.91、95%CI:0.68~1.22、p=0.53)。 EGFR野生型のサブセット解析では・PFS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、1.3ヵ月、2.9ヵ月であった(HR 1.45、95%CI:1.09~1.94、p=0.01)。・OS中央値は、エルロチニブ群、ドセタキセル群でそれぞれ、9.0ヵ月、10.1ヵ月であった(HR 0.98、 95%CI:0.69~1.39、p=0.91)。

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NSCLCに対する術前化学療法の生存ベネフィットをメタ解析で確認/Lancet

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)に対する術前化学療法は、全生存率、無遠隔転移再発、無再発生存を有意に改善することが、英国・ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのSarah Burdett氏らNSCLC Meta-analysis Collaborative Groupの検討で明らかとなった。NSCLCに対する最良の治療選択肢は手術とされるが、治癒切除が可能な腫瘍は20~25%にすぎない。術前化学療法は、腫瘍を縮小させて手術可能例を増やし、微小転移を消失させる可能性があるが、手術の時期を遅らせ、無効の場合は腫瘍が切除不能となるリスクがある。術後化学療法の全生存率改善効果はメタ解析で確証されているが、術前化学療法については十分なエビデンスは示されていなかった。Lancet誌2014年5月3日号(オンライン版2014年2月25日号)掲載の報告。術前化学療法の効果をメタ解析で評価 研究グループは、切除可能NSCLCに対する術前化学療法の効果を検証するために、文献の系統的なレビューを行い、個々の患者データに基づくメタ解析を実施した。 1965年1月1日以降に開始された手術単独と術前化学療法+手術を比較した臨床試験の文献を系統的に検索し、個々の試験の最新データについて評価を行った。選出された個々の試験の結果を、固定効果モデルを用いて統合した。 主要評価項目である全生存は、無作為割り付け時から全死因死亡までの期間と定義し、生存例は最終フォローアップ時で打ち切りとした。副次評価項目は、無再発生存、無局所再発、無遠隔転移再発、がん特異的死亡、切除率などであった。5年後の絶対的な生存ベネフィットは5% 日本のJCOG 9209試験を含む15の無作為化対照比較試験に登録された2,385例(無作為割り付けの対象となった患者の92%)が解析の対象となった。男性が80%、年齢中央値は62歳、全身状態(PS)良好が88%で、臨床病期はIB~IIIAが93%を占め、扁平上皮がんが50%、腺がんが29%であり、フォローアップ期間中央値は6年であった。 全生存率は、術前化学療法群が手術単独群に比べ有意に改善し(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.78~0.96、p=0.007)、相対的な死亡リスクが13%減少した。また、全生存率に関して試験間に有意な差は認めなかった(p=0.18、I2=25%)。これは、5年後の全生存率が絶対的に5%改善されたことを意味する(40%から45%へ)。 化学療法レジメンや投与スケジュール、薬剤数、使用されたプラチナ製剤の種類、術後放射線療法の有無が生存に及ぼす影響に関する明確なエビデンスは得られなかった。また、術前化学療法によるベネフィットに、年齢、性、PS、組織型、臨床病期別の差は認めなかった。 ほとんどの患者が臨床病期IB~IIIAであったにもかかわらず、無再発生存(HR:0.85、95%CI:0.76~0.94、p=0.002)および無遠隔転移再発(HR:0.69、95%CI:0.58~0.82、p<0.0001)も術前化学療法群で有意に良好であった。無局所再発は、術前化学療法群で良好な傾向がみられたが、有意な差はなかった(HR:0.88、95%CI:0.73~1.07、p=0.20)。 著者は、「切除可能NSCLCに対する術前化学療法は、全生存率、無遠隔転移再発、無再発生存を有意に改善したことから、妥当な治療選択肢であることが示唆される。手術を延期して術前化学療法を行っても早期死亡が増加することはないと考えられる」とまとめ、「術前化学療法では毒性とのバランスが重要で、本試験では毒性評価はできなかったが、多くの試験では十分に耐容可能と判定されていた」としている。

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ネオアジュバント実施HER2陽性乳がん患者の予後予測

 ネオアジュバント(術前補助化学療法)+トラスツズマブの治療を受けたHER2陽性初期乳がん患者の無病生存(DFS)、同時にDFS予測因子と病理学的反応の予測因子について調査した。対象は2001~2010年に本邦38機関での治療患者829例。京都大学医学部附属病院 乳腺外科 高田 正泰氏らによる多施設後ろ向き観察研究。Breast Cancer Research and Treatment誌2014年5月号(オンライン版2014年3月30日号)の掲載報告。 主な結果は以下のとおり。・3年DFS率は87%(95%CI:85~90)、病理的完全奏効(pCR)率は51%であった。・pCR率は、ER/PgR陰性患者が陽性患者に比べ高かった(64対36%、p<0.001)。・pCR患者は非pCR患者より高いDFS率を示した(93対82%、p<0.001)。独立したDFS不良予測因子・リンパ節転移:cN2~3対cN0(HR 2.63、95%CI:1.36~5.21、p=0.004)。・組織学的異型度:グレード3(HR 1.81、95%CI:1.15~2.91、p=0.011)。・非pCR(HR 1.98、95%CI:1.22~3.24、p=0.005)。ER/PgR陰性におけるDFS不良予測因子・非pCR(HR 2.63、95%CI:1.43~4.90、p=0.002)。・腫瘍進展度:cT3~4対cT1~2(HR 2.20、95%CI:1.16~4.20、p=0.017)。ER/PgR陽性におけるDFS不良予測因子・組織学的異型度:グレード3(HR 3.09、95%CI:1.48~6.62、p=0.003)。・リンパ節転移:cN2~3対cN0(HR 4.26、95%CI:1.53~13.14、p=0.005)。・年齢:40歳以下 対 40歳超(HR 2.40、95%CI:1.12~4.94、p=0.026)。陰性・陽性双方のDFS不良予測因子・厳格なpCR:ER/PgR陰性(HR 2.66、95%CI:1.31~5.97、p=0.006)      :ER/PgR陽性(HR 3.86、95%CI:1.13~24.21、p=0.029) これらの結果は、HER2陽性乳がん患者の的確な予後予測と個別化治療の確立に役立つ可能性がある。

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参考になるメタ解析~乳がん術後リンパ節転移への放射線療法(コメンテーター:藤原 康弘 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(202)より-

過去にも実績を有するグループにより、方法論的に丁寧に検討がなされたうえで実施されたメタアナリシスである。 今回の解析により、乳房切除、および少なくともLevel II以上の腋窩郭清を受け、リンパ節転移が陽性例の術後に胸壁、腋窩、鎖骨上、および内胸動静脈の領域に放射線治療を行うことで、放射線治療を受けない場合と比較して、有意に乳がんに関連した死亡を抑制した。また、放射線治療は、局所再発だけでなく、遠隔転移を含めた初回再発も抑制していた。 腋窩リンパ節転移状況について、転移個数が1~3個、および4個以上に分けて解析したところ、放射線治療は、両者ともに、局所再発、初回再発、および乳がん関連死亡を有意に抑制していた。 また、薬物療法(いわゆる全身治療)を受けた症例においても、放射線治療は、局所再発、初回再発、および乳がん関連死亡を有意に抑制していた。 解析対象となった試験が実施された時代(1964~86年)と現在において、1)放射線治療の技術が進歩し(照射野、および照射線量の管理など)、より安全性が高くなっていると考えられること、2)乳がん術後の全身治療が進歩し(今回の解析対象では、化学療法の大半はCMF、内分泌療法の大半はtamoxifen)、術後薬物療法により治療成績が向上していること、を念頭に置き、今回の解析結果を解釈し、実際の症例における術後放射線治療の適応を決めるべきと考える。 局所再発などの解析はデータの取り扱いに難しい所があり、どのような解析方法を取ったのかを確認したうえで結果を解釈するほうが望ましい。 本論文に関しては、解析にあたってどのような考え方に基づきデータを取り扱ったかがappendixに記されており、厳密に結果を解釈したい場合にそれを参照できるようになっている。appendix pp7-9に提示されている内容は、本論文の解釈だけでなく、同様のエンドポイントを用いた他の研究論文を読み解くうえでも参考になるものである。過去にEBCTCGのメタアナリシス論文を読んだことのある方であっても、あらためて目を通されることをお勧めする。

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軟部肉腫診療の現在と課題 

 2014年5月12日(月)、グラクソ・スミスクライン株式会社は、軟部肉腫に関する診療、今後の展望に関するプレスセミナーを開催した。これは同社の悪性軟部腫瘍治療薬パゾパニブ(商品名: ヴォトリエント)の発売から1年半が経過したことから、より一層の疾患の周知に向けて開催されたものである。■まだよく知られていない軟部肉腫 最初に森岡 秀夫氏(慶應義塾大学医学部整形外科 専任講師)より、「軟部肉腫 診療の実際」と題して、疾患の概要と診療、そして今後の課題について、レクチャーが行われた。 軟部肉腫とは、がんの中でも非上皮細胞または間質細胞から形成される腫瘍であり、「全身の軟部組織から発生する悪性腫瘍の総称」とされている。全身の軟部組織(たとえば頭頚部、背中、後腹膜、上腕、大腿部、臀部など)から発生するため、診療科も多岐にわたる。  最近の診療状況の調査では、整形外科、内科、外科、産婦人科、皮膚科の順で受療患者数が多く、また診療科により本症の呼称が異なるため、臨床現場では混乱が見られるようである。 さらに森岡氏は、軟部肉腫の特徴として、 1)まれであること(患者は全国で約3,000人) 2)分類の種類が多いこと(数十の組織型に分かれる) 3)専門医による治療が必要であること(外科治療、化学療法、放射線治療の施行) 4)進行した場合、治療が限定されてしまうこと(遠隔転移を来すと予後不良)の4つのポイントを示すとともに、各ポイントについて解説を行った。 とくに本症自体は、患者、医師の間でまだ認知度が低く、患者さんも診療科が不明であるが故に診療の際に困っていること、治療方法によっては再発の可能性も高く、治療には専門的な知識が必要とされることなどがレクチャーされた(参考までに日本整形外科学会登録の本症の専門医は約300人)。■今後必要な取り組み 現在、日本整形外科学会が主体となって、本症の啓発を行うとともに、医療機関からの専門窓口を学会内に置き、国も希少がんへの取り組みに専門センターを設置するなど、新しい取り組みが増えてきている。 森岡氏は、今後の課題として「より一層の本症認知の向上と専門医へのスムーズなアクセス、そして横断的なチーム医療の策定が急がれるとともに、新しい治療薬の研究開発はもちろん、既存薬の適応拡大も早急に望まれる」と述べ、レクチャーを締めくくった。■腫瘍内科医が果たす希少がん治療における役割 次に勝俣 範之氏(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科 教授)が、「希少がん(軟部肉腫) 治療の現状と今後 ~腫瘍内科医の立場から~」と題し、希少がんというさらに広い視点からレクチャーを行った。 はじめに、「腫瘍内科を専門とする医師(2013年8月時点で874人)は、わが国では約10年の歴史であり(米国では1970年代に誕生、2012年時点で1万3,409人)、まだ医師の間でもその役割や内容はよく理解されていない」と現状が説明された。 腫瘍内科医は、一言でいえば「がんを全体的に取り扱う内科医」だが、勝俣氏は「抗がん剤の治療を専門とするだけでなく、終末期も見据えた、がん治療全般のコーディネートを行う医師であることを理解してもらいたい」と述べた。 続いて、腫瘍内科医の立場から軟部肉腫の治療について、発生部位により予後が異なることを説明し、とくに目に見えない後腹膜などは、患者さんや医師がその異常に気がつきにくい場所であり、外科手術ができない場合も多く、治療の際は診療科横断的な連携が重要であると解説した。また、診断に関しても、わが国では軟部肉腫の悪性診断がつく病理医の絶対数が少なく、診断が間違っていると効果のない抗がん剤治療が行われることも考えられるため、早急な医師の育成、教育が必要と問題を指摘した。■希少がんは集約化して治療 さらに、希少がん治療の今後について、2006年に制定された国の「がん対策基本法」を紹介し、この中で定められている「がん対策基本計画」に沿って国のがん対策が行われること、また、2012年の第2期の同計画では、「希少がん」も盛り込まれ、一般のがんが全国どこでも同じ水準で診療が行われる均点化が図られているのに対し、希少がんは集約化、センター化が新しい方向性として打ち出されていることが紹介された。 最後に、勝俣氏は「軟部肉腫は、“忘れられたがん”から、“知ってもらいたいがん”になればと思う」と一言述べ、レクチャーを終了した。参考サイト希少疾病ライブラリ 悪性軟部腫瘍(軟部肉腫) 

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第25回 診断の見落とし!? チーム医療の落とし穴

■今回のテーマのポイント1.血液疾患で、一番訴訟が多い疾患は悪性リンパ腫であり、争点としては、診断の遅れが多い2.ただし、非特異的な原発巣を持つ悪性リンパ腫の診断が困難であることについて、裁判所は理解を示している3.今後、チーム医療が推進される中で、複数の専門科にまたがる領域の責任の所在を明らかにしていく必要がある■事件のサマリ原告患者Xの家族被告Y病院およびA医師争点診断の遅れ、見落とし結果原告一部勝訴、約550万円の損害賠償(結審)事件の概要73歳男性(X)。Xは、平成9年5月頃から下腹部に重苦しい痛みを訴えるようになり、他病院で検査を受けるなどしていましたが、腹痛の原因は特定できませんでした。そして、同年8月頃から、食欲不振も出現するようになり、約3ヵ月間で6kgの体重減少をみとめました。そのため、Xは、同年9月12日、精査加療目的にてY病院に入院しました(主治医A医師)。9月25日に撮影した腹部CTを読影した放射線科のB医師は、「仙骨前面に接し、辺縁明瞭で整な1 × 2cmの薄く染まる固まりを認め、内部は均一な染まり方で、硬化や脂肪の染まり方は認めない。MRIにて精査してください」とし、後腹膜腫瘤であり、悪性疾患を除外する必要があると診断しました。しかし、Xの腹痛は徐々に改善してきたこと、Xが自営している業務が忙しく退院を希望したことから、診断がつかないまま、10月5日に退院となり、外来にて検査を継続することとなりました。Xに右尿管結石が疑われたことから、Y病院の泌尿器科医より依頼を受け、10月9日に撮影した骨盤CTを読影した放射線科医師のC医師は、「スキャンの範囲内の尿管に一致するような明らかな放射線不透過の部分は指摘できず、DIP(点滴注入腎盂造影法検査)で指摘されている尿管の狭窄部に明らかな塊状の病変や壁肥厚は認めず、通過は保たれており、明らかなリンパ節腫大は認めない」として、正常範囲内であると診断しました。また、同月20日に撮影した腹部MRIを読影したC医師は、「上部直腸からS状結腸にかけて約10cmにわたる全周性の著明な壁肥厚、内腔に液体の貯留を認め、がんを否定できず、注腸及び大腸ファイバーでの精査が必要です。腫瘤マーカーをチェックしてください。総腸骨動脈分岐部やや右側に径1.5cmの腫大リンパ節が疑われます」として、直腸の壁肥厚(要精査)、リンパ節腫大と診断しました。主治医であるA医師は、腹痛も持続しており、貧血も出現していることから入院を勧めたものの、Xは拒否しました。11月26日、注腸造影検査を行ったところ、「回腸末端部に憩室が数個認められるが、直腸ないし回腸末端まで通過は良好で、その他に問題はない」とのことでしたが、翌平成10年1月12日に大腸内視鏡検査の予約をしました。ところが、平成10年1月9日、Xの腹痛は増悪し、黒色便を認めたことから、Y病院外来を受診。腹痛が強かったため、Xは入院を希望しましたが、Y病院がベッド満床のためZ病院へ紹介入院することとなりました。Z病院に入院した午後5時頃、さらに腹痛が増強したため、腹部CTを撮影したところ、消化管穿孔を認め、同日、緊急手術が行われることとなりました。そして、切除された小腸および大腸の病理組織検査の結果、悪性リンパ腫と診断されました。その後、Xに対し、化学療法が開始されましたが、同年4月23日午前11時30分、小腸原発の悪性リンパ腫により死亡しました。後日、振り返って9月25日の腹部CT、10月9日の骨盤CTを見たところ、小腸またはS状結腸に最大径約5cmとなる壁の異常な肥厚が認められました(9月25日腹部CTにてB医師が指摘したものとは別の腫瘤影)。これに対し、Xの遺族は、9月25日の腹部CTまたは10月9日の骨盤CTにおいて見落としをした結果、悪性リンパ腫の診断が遅れたとして、Y病院および主治医であったA医師に対し、約4,060万円の損害賠償請求を行いました。事件の判決1. 9月25日腹部CT(1)放射線科医B医師の責任:有責「平成9年9月25日に施行されたコンピューター断層撮影(CT)の画像のみでは、異常な肥厚が認められる腸管の部位がS状結腸なのか小腸なのかも明らかでなく、具体的に回腸原発の悪性リンパ腫の疑いを指摘することは困難である。しかし、上記のとおり、この画像が示す腸管壁の異常な肥厚は、大腸又は小腸の著明な炎症性病変又は腸管の悪性腫瘍の可能性を示すものであり、悪性腫瘍であればXに重篤な結果がもたらされるおそれがあること、当時のXの臨床症状が、悪性リンパ腫を含む悪性腫瘍としても矛盾しない所見であったこと、コンピューター断層撮影(CT)の直前にXの腹部に腫瘤様のものが触知されていたことなどをも考え併せれば、同コンピューター断層撮影(CT)を行った被告病院の医師らは、平成9年9月25日当時、悪性リンパ腫を含めた悪性腫瘍又は炎症性病変の可能性を考えて、速やかに確定診断に至るべく、必要な検査に着手するなどの措置を執るべき注意義務を負担していたというべきである。・・・(中略)・・・同コンピューター断層撮影(CT)所見においてこの腫瘤状陰影につき指摘せず、必要な検査、具体的には注腸検査又は大腸内視鏡検査の施行も勧告しなかったものと認められる。したがって、B医師は、Xの悪性腫瘍又は炎症性病変の可能性につき、速やかに確定診断に至るべく、必要な措置を執るべき上記注意義務に違反したと認められる」(2)主治医A医師の責任:有責「被告A医師は、上記コンピューター断層撮影(CT)画像を慎重に確認せず、B医師の所見のみに従い、上記最大径5センチメートルの腫瘤状陰影が著明な炎症性病変又は腸管の悪性腫瘍の可能性を示しており、Xに重篤な結果がもたらされるおそれがあることに思い至らなかったものと考えられ、上記注意義務に違反したものと認められる」2. 10月9日骨盤CT(1)放射線科医C医師の責任: 無責「確かに、証拠によれば、同骨盤腔コンピューター断層撮影(CT)画像上、同年9月25日施行の腹部コンピューター断層撮影(CT)上の最大径5センチメートルの腫瘤状陰影と同一のものであると思われる腫瘤状陰影が描出されていることが認められる。しかし、上記認定のとおり、C医師は、被告病院泌尿器科から、Xの右尿管における石及びリンパ節腫大の有無の精査の依頼を受けて、上記コンピューター断層撮影(CT)を施行し、尿管の狭窄部に明らかな塊状の病変及び壁肥厚や明らかなリンパ節腫大は認められないとして、正常範囲内であると診断したのであり、被告病院泌尿器科から依頼を受けた放射線科医師として、その依頼の趣旨に従い、主にXの尿管等につき診断したのであるから、上記骨盤腔コンピューター断層撮影(CT)上の腫瘤状陰影について何ら指摘しなかったとしても、C医師の診療行為が不法行為を構成するものとはいえない」(2)主治医A医師の責任:無責「上記のとおり、平成9年10月9日に施行された骨盤腔コンピューター断層撮影(CT)は、C医師が、被告病院泌尿器科から依頼されて行ったものであり、証拠によれば、被告病院内科の診療録上には、同骨盤腔コンピューター断層撮影(CT)に関する記載はないと認められるから、被告A医師が、当時、この検査結果を具体的に認識していたのか否かも明らかではなく、この時点における被告A医師の新たな注意義務違反は認められない」(*判決文中、下線などは筆者による加筆)(大阪地判平成15年12月18日判タ1183号265頁)ポイント解説■血液疾患の訴訟の現状今回は、血液疾患です。血液疾患で最も訴訟となっているのは悪性リンパ腫です(表1)。原告勝訴率が高かったにもかかわらず平成16年から約8年間判決が途絶えているのが特徴的といえます。その理由として、悪性リンパ腫は、専門性が非常に高く、医療の進歩によりずいぶんと改善しているものの、生命予後が悪いことから、患者が死亡しているにもかかわらず、認容額が低く(平均680万円)なってしまうため、弁護士として着手しづらいことが一因として考えられます(表2)。本事例においても、過失は認められたものの、「仮に上記不法行為がなくXに対する検査が順調に進んで平成10年1月10日より前に化学療法が開始された場合には、Xに対する化学療法が奏効して救命又は延命できた可能性があることは否定できないものの、化学療法が奏効して救命又は延命できたことまで、確信を持ち得る程の高い蓋然性で立証できたとはいえない」とされ、死亡との間の因果関係は否定されました。その結果、第4回で解説した「相当程度の可能性」のみが認められ、550万円の認容額にとどまることとなりました。悪性リンパ腫の訴訟において、最も多く争われているのが診断の遅れです(表2)。特に非特異的な原発巣を持つ悪性リンパ腫の診断が遅れた場合に争われる傾向があります。ただ、その一方で、非特異的な原発巣である場合には、当然、診断が困難であることから、過失が認められにくくなっており、原告勝訴率は低くなっています。裁判所は妥当な判断をしているといえそうです。■信頼の原則第21回で解説したように、チーム医療においては、それぞれの専門領域については、各専門家が責任を負うこととなり、原則として他の職種が連帯責任を負うことはありません。これを法的にいうと「信頼の原則」*といいます。*「行為者は、第三者が適切な行動に出ることを信頼することが不相当な事情がない場合には、それを前提として適切な行為をすれば足り、その信頼が裏切られた結果として損害が生じたとしても、過失責任を問われることはない」という原則本件では、賛否はともかく、結果として、9月25日の腹部CTにおいて、放射線科医が病変を見落としています。仮に放射線科医に過失があったとしても、そのレポートを信頼した主治医(A医師)にまで責任は及ぶのでしょうか。第21回に解説したとおり、薬剤師による処方箋の確認は、薬剤師法上求められていることから、信頼の原則が適用されません。一方、まったくの専門外の領域について紹介受診してもらい、専門科の医師より回答がきた場合、原則として、その回答を信頼することは許容されると考えられています。例えば、糖尿病の患者の網膜症について眼科医に紹介し、問題がない旨の回答を得られた以上、振り返って眼底写真を見れば網膜剥離が認められていたとしても、眼科医に責任があるか否かはともかく、紹介した内科医に責任はないと考えられています。しかし、胸部X線写真やCT、MRIといった放射線科医でなくてもある程度の読影が求められても不当ではない領域について、どこまで信頼の原則が適用されるか。すなわち、自ら責任を持って確認しなければならないかとなると微妙な問題となります。残念ながら本件では、A医師の代理人弁護士が信頼の原則を主張していなかったため、CTの読影について、信頼の原則が働くか否かの司法判断は得られませんでした。ただ、10月9日の骨盤CTにつき、A医師には責任が認められなかったことから、少なくとも、他科によって独自に行われた検査結果までを確認する義務はないとはいえそうです。今後、チーム医療が推進されるに当たり、複数の専門家にまたがる領域において誰に責任の所在があるのか、司法判断が待たれるところといえます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)大阪地判平成15年12月18日判タ1183号265頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。

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EGFR野生型の非小細胞肺がんに対するEGFR-TKIと化学療法を比較した初のメタアナリシス(コメンテーター:倉原 優 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(195)より-

このメタアナリシスは、INTEREST試験、IPASS試験などの有名な試験を含む11の研究において、EGFR野生型の非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象に、第1世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)と通常の化学療法を比較解析したものである。 結論から言えば、現在の臨床に大きな影響は与えないものと考えてよさそうだ。EGFR遺伝子変異陰性例に対して、おおむね通常の化学療法のほうがEGFR-TKIよりも効果的というプラクティスに変わりはない。このメタアナリシスでは、想定よりもEGFR-TKIの効果が高いように見えるが、EGFR-TKIを使用した研究はクロスオーバーが可能なデザインになっており、これが生存期間の解析に大きな影響を与えていることを加味しなければならない。 現在の進行NSCLCに対する治療は、EGFR遺伝子変異が陽性であればファーストライン治療としてEGFR-TKIあるいは白金製剤を用いた併用療法が推奨される。しかし、EGFR遺伝子変異陰性例であっても、セカンドライン以降でエルロチニブのエビデンスが高いことが知られている。ただ、EGFR遺伝子変異陰性例に対するゲフィチニブについては、エルロチニブほど効果が高くないと考えられている。これはINTEREST試験やIPASS試験の結果によるものと思われる(議論の余地がまだまだある論点ではあるが)。2011年にイレッサの添付文書が改訂され、適応はEGFR遺伝子変異陽性例のみとなった。  一方で、前述したとおりエルロチニブはEGFR遺伝子変異陰性例にも効果があると考えられている。有名な試験としてSATURN試験がある。白金製剤を含む併用療法を4サイクル行い、スイッチメンテナンスとしてエルロチニブまたはプラセボを投与した試験である。これによれば、エルロチニブはEGFR遺伝子変異陰性でも無増悪生存期間(PFS)、OSを延長した。また、本メタアナリシスに含まれる研究としては、近年発表されたTAILOR試験がやはりエルロチニブによってPFSを延長している。  厳密にどのキナーゼを阻害するかがEGFR-TKIごとに異なっているため、そもそも第1世代EGFR-TKIとしてまとめてメタアナリシスすることにどこまで意義があるのか、いささか疑問は残るが、本メタアナリシスはEGFR野生型に対するEGFR-TKIと通常の化学療法を比較した初めてのメタアナリシスであるため、今後のEGFR-TKIの研究に参考になることは間違いないだろう。

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非小細胞肺がん治療の新規EGFR-TKI「ジオトリフ」薬価収載

 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の肺がん治療薬ジオトリフ(一般名:アファチニブマレイン酸塩)が、2014年4月17日薬価収載された。適応症は、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん。同社は、同日「ジオトリフ発売記者説明会」を開催。和歌山県立医科大学 山本 信之氏、国立がん研究センター中央病院 山崎 直也氏、神奈川県立循環器呼吸器病センター 加藤 晃史氏が、同薬剤の有効性および有害事象について紹介した。 山本氏は、ジオトリフの薬剤特性および臨床試験の結果について紹介。同薬剤は、EGFRのみならずHER2、HER3、HER4といったすべてのErbBファミリーの受容体を持続的かつ選択的に阻害することで、従来阻害できなかったヘテロ二量体によるシグナル伝達も複合的に阻害する。また、共有結合により不可逆的に結合することで、シグナル伝達をより効果的に阻害できる可能性がある。国際共同第III相臨床試験であるLUX-Lung3試験では、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんにおいて、化学療法(CDDP+PEM)と比較し有意に無増悪生存期間(PFS)を延長している。とくに日本人のサブグループのPFS中央値は13.8ヵ月と良好である。山本氏は、近年著しい改善を示すPFSをさらに延長させる可能性があると述べた。 次に、山崎氏は、同薬剤の有害事象である皮膚障害について紹介。従来のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(以下EGFR-TKI)共通の有害事象として皮膚障害があり、ジオトリフも同様に皮膚障害が発生する。なかでも、同薬剤に特徴的なのは、他のEGFR-TKIと比較して爪囲炎など爪の異常の発生頻度が高い印象があることだと述べた。山崎氏はまた、皮膚障害の発生頻度と治療効果が相関することに触れ、皮膚障害の悪化により治療を断念することのないよう、予防と適切な治療により重症化を防ぐことが肝要であると述べた。 最後に、加藤氏は、同薬剤の有害事象である下痢・間質性肺疾患のマネジメントについて紹介。同薬剤による下痢は、グレード3以上の重症例も少なくない。しかしながら、下痢が原因の投与中止例はなく、早期に適切な対応を行うことで、コントロール可能であると述べた。一方、間質性肺疾患は、同薬剤の投与中止理由の最も多い有害事象である。とはいえ、日本人における発生頻度は3%程度と、他のEGFR-TKIと比較し高いとはいえないようである。加藤氏はまた、間質性肺疾患についても、症状チェック、リスク因子の鑑別などで早期発見、早期治療が重要であると述べた。ジオトリフの薬価は以下のとおり。ジオトリフ錠20mg1錠:5,840.70円、30mg1錠:8,547.40円、40mg1錠:11,198.50円 、50mg1錠:12,760.00円

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EGFR野生型NSCLCにおける第1世代TKI vs. 化学療法/JAMA

 EGFR野生型(WT-EGFR)進行非小細胞肺がん(NSCLC)では、第1世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)と比較して、従来化学療法のほうが、無増悪生存(PFS)の改善が有意であることが示された。全生存率も化学療法のほうが高かったが有意ではなかった。韓国・ソウル大学のJune-Koo Lee氏らによる無作為化試験11件のメタ解析の結果、示された。現行ガイドラインでは治療歴のあるNSCLC患者について、EGFR TKIと化学療法の両方を標準治療の選択肢として推奨している。しかし、WT-EGFRを有する患者においてEGFR TKIの有効性が化学療法と同程度であるのかについては、明らかになっていなかった。JAMA誌2014年4月9日号掲載の報告より。WT-EGFR患者1,605例が含まれた11論文をメタ解析 WT-EGFR進行NSCLC患者について、第1世代EGFR TKIと化学療法の、生存との関連を調べるメタ解析は、2013年12月までに発表された各データソースの論文を探索して行われた。具体的には、PubMed、EMBASE、Cochrane databaseほか、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)のミーティングアブストラクトから、進行NSCLC患者におけるEGFR TKIと化学療法を比較した無作為化試験を選択した。 検索で得られた1,947本の論文のうち、WT-EGFRを有する患者1,605例が含まれていた11論文を解析に組み込んだ。 データの抽出はレビュワー2名によって行われ、試験特徴とアウトカムを抽出。バイアスのリスクについては、コクランツールを用いて評価し、すべての計測値をランダム効果モデルを用いてプールし、95%信頼区間(CI)を算出した。 主要アウトカムはPFSで、ハザード比(HR)で評価した。副次アウトカムは、客観的な奏効率と全生存で、それぞれ相対リスク、HRで評価した。化学療法のほうがPFSを有意に改善、全生存の有意差はみられず 結果、WT-EGFRを有する患者において、化学療法はTKIと比較して、PFSを有意に改善した(TKIのHR:1.41、95%CI:1.10~1.81、p<0.001)。 治療選択順位(第1選択か第2選択か、それ以降か)、試験薬の違い、人種/民族性、EGFR変異解析法のサブグループ間の差は統計的に有意ではなかった。ただし、EGFR変異解析法に関して、直接塩基配列決定法よりも高感度検出法を用いた試験のほうが、化学療法のPFSベネフィットとの関連が有意であった(TKIのHR:1.84、95%CI:1.35~2.52)。また、治療選択順位に関して、化学療法のPFS改善との関連は、第2選択かそれ以降であった試験でも、有意であった(同:1.34、1.09~1.65)。 客観的奏効率は、化学療法でより高かった[化学療法:92/549例(16.8%)対TKI:39/540(7.2%)、TKIの相対リスク:1.11、95%CI:1.02~1.21]。しかし、全生存に関して統計的有意差は観察されなかった(TKIのHR:1.08、95%CI:0.96~1.22)。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第6回

第6回:無症状の成人における顕微鏡的血尿へのアプローチ 健診において尿試験紙検査は広く行われており、その際に無症候性血尿が認められることはよくあります。血尿の定義は、尿沈渣で赤血球5個/HPF以上とする事が多いです。これは日本の人口からの試算で、500万人近くになります。顕微鏡的血尿の頻度は加齢とともに増加し、男性より女性に多くみられます1)。尿潜血陽性時のアプローチについては悩ましいことが多いですが、患者と相談しつつ精査していくことになります。 以下、本文 American Family Physician 2013年12月1日号2)より顕微鏡的血尿1.背景2011年のUSPSTFによれば、無症状の成人に対しての膀胱がんスクリーニングに十分なエビデンスは認められない。しかし、健診では2%~31%に偶発的な血尿が認められており、エビデンスに則ったアプローチがプライマリ・ケア領域で求められている。大半の患者で原因が不明な事が多い一方、顕微鏡的血尿患者の5%、肉眼的血尿患者の30~40%までに悪性疾患が認められる。(表1) 【表1:顕微鏡的血尿の一般的な頻度】 不明 43~69% 尿路感染症 4~22% 前立腺肥大症 10~13% 尿路結石 4~5% 膀胱がん 2~4% 腎嚢胞性疾患 2~3% 腎臓病 2~3% 腎がん <1% 前立腺がん <1% 尿路狭窄性疾患 <1% 2.手順 1)尿試験紙検査が陽性で尿沈渣は陰性の患者では、6週あけて3回尿沈渣を行い、3回とも陰性であれば、追加の検査は不要である。 2)1回でも陽性であれば、尿路感染症や他の良性疾患(激しい運動、月経、最近の泌尿器科処置など)がないかを確認する。感染症治療後6週あけて、あるいは良性疾患の要因がなくなってから少なくとも48時間あけて、尿沈渣を再検、陰性なら追加検査は不要である。 3)これが陽性で、蛋白尿、赤血球円柱など腎疾患の可能性があれば、腎臓内科へ紹介する。腎疾患の可能性が低ければ、悪性腫瘍のリスクを評価し(表2)、初期評価として、病歴と身体所見、とくに血圧測定と腎機能評価を行う。また女性では内診を考慮し、男性には直腸診を行う。 【表2:危険因子】 35歳以上(日本のガイドラインでは40歳以上) 鎮痛薬の乱用 化学物質や染料への曝露 男性 喫煙者(既往も含む) 以下の既往 慢性的な体内異物留置 慢性的な尿路感染症 既知の発がん性物質や化学療法薬への曝露 肉眼的血尿 排尿時刺激症状 骨盤照射 泌尿器科疾患 3.画像診断【上部尿路評価】尿路造影CTは1回の検査で優れた診断的情報を提供する(感度91~100%、特異度94~97%)。腎機能低下例では、逆行性腎盂造影に単純CTまたは腎臓エコーを組み合わせて評価する(感度97%、特異度93%)。【下部尿路評価】リスク(表2)がある無症候性血尿患者には、年齢によらず膀胱鏡がすすめられる。尿細胞診は、膀胱がんに関して膀胱鏡に比べて感度が低く(48% vs. 87%)、リスクがない場合に、AUAガイドラインにおけるルーチン評価としてはもはや推奨されていない。4.フォローアップ適切な検査でも原因不明の場合には、尿検査を年1回、最低2年間行い、2回とも陰性であれば将来の悪性リスクは1%未満である。血尿が持続する場合は、3~5年以内に精査を繰り返すべきである。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本腎臓学会ほか. 血尿診断ガイドライン2013 2) Victoria J.Sharp,et al. Am Fam Physician. 2013;88:747-754.

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非小細胞肺がんの予後は術前化学療法により改善するか(コメンテーター:小林 英夫 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(187)より-

全世界で毎年150万人の新規肺がんが診断され、その8割は非小細胞肺がん(NSCLCs)で、切除だけで完治が期待できる症例は20~25%程度である。術前化学療法は腫瘍径や転移巣の縮小効果を期待できる一方で、手術を遅らせ、がんの進行により切除不能になってしまうことも時にありうる。 これまで、術前化学療法が予後改善に結びつくことを期待し、多くの臨床試験が実施されてきたが、いまだ最終的な結論には至っていない。その理由の一つは、非小細胞肺がんの多様性・不均一性にある。 今回紹介したLancetの論文はシステマティックレビューとメタ解析を用い、術前化学療法が予後を改善するという結果だが、結語ではNSCLCsにおいて術前化学療法を導入することが望ましい、ないし導入すべき、という記載でなく、valid optionとの表現がなされている。 2014年に日本肺癌学会肺癌診療ガイドライン改訂版が発刊予定なので、日本の現況と比較し、概説する。 本論文で取り上げた対象報告は1965年以降の発刊が対象だが、当然ながら1990年代以降の成績が主体となっている。一言で術前化学療法と一括しているが、術後化学療法導入例や放射線療法実施例も混在しており、純粋に術前化学療法単独の比較解析ではない。 また背景因子が、臨床病期はIBが最多、次いでIIB、IIIAであること、扁平上皮がんが最多で腺がんの2倍弱、男性が8割、60歳以下が4割、などは日本の現状と大きく異なることに留意する必要がある。本邦での切除対象非小細胞肺がんは臨床病期IA、IBが主で、腺がんが多く、男性が6割、切除症例の8割弱は60歳以上、と背景因子が異なる。 日本肺癌学会のガイドラインでは、非小細胞肺がんの術前治療として、I-IIIAに術前プラチナ併用化学療法を考慮してもよい、一部のIIIA(N2)に対して術前化学放射線療法を考慮してもよい、との見解が発表予定である。裏付けとなる検索対象論文は2編しか同一ではないものの、結語は大筋類似している。 結論として術前化学療法の意義は存在すると考えられるものの、実地医療では症例ごとの治療選択において、各臨床病期別での成績が求められる。臨床病期を評価するうえでcT3における不均一性の認識も重要である。現在のT3には胸壁、横隔膜、心嚢などへの浸潤と、腫瘍先進部、無気肺などいくつかのカテゴリーが混在し、予後の不均一性が問題であるので、新たなT3基準が検討されており、UICCのTNM分類も近々に新分類が発表予定である。 メタ解析により総括的な術前化学療法の価値が認められても、次の段階として非小細胞肺がんの病期別・層別化成績、そして最終段階としての個別化医療の選択基準が解明されて初めて臨床に還元できる研究となる。本邦の実地臨床ではI期症例の術前化学療法はごく少数でのみ導入されている。II期でも臨床試験以外で積極的に導入する施設は決して多いものではない。臨床病期をさらに層別化したうえで、術前化学療法の意義を明らかにできる報告の登場が待たれる。

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NSCLCに対する術前化学療法によって5年生存率改善/Lancet

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)の“術前”化学療法は、全生存、遠隔再発までの期間、無再発生存を有意に改善することが、英国・NSCLCメタ解析共同研究グループによる検討の結果、示された。これまで同患者について、“術後”化学療法のメタ解析において生存を改善することは示されていた。解析には、無作為化試験被験者の92%のデータが組み込まれ、stage IB~IIIAの患者が主であったことなどを踏まえて、研究グループは「今回の結果は、術前化学療法が有効な治療オプションとなりうることを示すものである」とまとめている。なお、毒性作用については本検討では評価できなかった。Lancet誌オンライン版2014年2月24日号掲載の報告より。全生存を改善するかなどシステマティックレビューとメタ解析で分析 切除可能なNSCLC患者の術前化学療法の有効性を明らかにする検討は、1965年1月以降に開始された化学療法(術前・術後問わない)+手術vs. 手術単独の比較試験の参加者を適格としたシステマティックレビューとメタ解析にて行われた。最新の参加者データを集約し、確認・分析し、無作為化試験の個別データ(公表の有無問わず)を併合して2段階固定効果モデルを作成した。 主要アウトカムは、無作為化から死亡(死因を問わない)までの全生存(生存は最終フォローアップ日に削除されるまでと定義)であった。副次アウトカムは、無再発生存、局所および遠隔再発までの期間、疾患特異生存率、完全および全切除率、術後死亡率であった。事前規定により、試験または患者の特性ごとにあらゆる効果について分析した。5年生存率、5%の改善 適格基準を満たした無作為化試験19本(うち未公表は2本)のうち、データが提供されなかった3本と被験者が2例であった1本を除く、15本・2,385例(無作為化試験参加者の92%に基づく)のデータに基づき本メタ解析は行われた。 15本のうち、年齢・性別・病歴・stageのデータは14本から、全身状態(PS)については11本から入手できた。入手データに基づく患者背景は、大半が男性(80%)で、年齢中央値62歳、PSは良好(88%)であった。またstage IB~IIIAの患者が主で(93%)、扁平上皮がんが50%、腺がんが29%であった。全患者のフォローアップ期間は中央値6年(IQR:4.2~8.2年)であった。 15本・2,385例に基づく解析の結果、術前化学療法の生存に関する有意なベネフィットが認められた。術前化学療法群の死亡は682/1,178例、対照群は745/1,207例で、ハザード比[HR]は0.87(95%信頼区間[CI]:0.78~0.96、p=0.007)、相対リスクで13%の死亡低減が認められた(試験間の差のエビデンスなし、p=0.18、I2=25%)。これは5年で5%の生存率の改善(40%から45%へ)に該当した。 化学療法レジメンやスケジューリング、投薬量、プラチナ製剤使用の有無、あるいは術後放射線療法の有無による、生存への影響の差についてのエビデンスは判明しなかった。また、術前化学療法のベネフィットを得た特定患者タイプ(年齢、性別、PS、組織学的または病期で定義)のエビデンスも判明しなかった。 解析に組み込まれた大部分の患者がstage IB~IIIAであったにもかかわらず、無再発生存(HR:0.85、95%CI:0.76~0.94、p=0.002)、遠隔再発(同:0.69、0.58~0.82、p<0.0001)の結果はいずれも、術前化学療法を有意に支持するものであった。局所再発の結果も、術前化学療法を支持するものであったが統計的に有意ではなかった(同:0.88、0.73~1.07、p=0.20)。

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早期の緩和療法、進行がん患者の終末期の満足度を改善/Lancet

 進行がん患者に対する早期の緩和療法による介入は、がん治療のみの場合に比べ全般的にQOLや患者満足度を改善する傾向がみられることが、カナダ・トロント大学のCamilla Zimmermann氏らの検討で示された。進行がん患者はQOLが低下し、終末期に向かって増悪する傾向がみられる。従来のがん緩和医療の観点からは、がん治療と緩和治療の共同介入は最終末期に限定されていたが、最近は早期の総合的な介入によりQOLや患者満足度の改善がもたらされる可能性が示唆されている。Lancet誌オンライン版2014年2月19日号掲載の報告。早期介入が患者QOLに及ぼす影響をクラスター無作為化で評価 本研究は、進行がん患者のQOLに及ぼす有効性を評価するクラスター無作為化対照比較試験であり、2006年12月1日~2011年2月28日にカナダ・トロント市のプリンセス・マーガレットがんセンターの研究グループによって実施された。 24の腫瘍内科クリニックが、その規模および腫瘍部位(肺、消化管、泌尿生殖器、乳房、婦人科)で層別化のうえ、標準的ながん治療に加え緩和治療チームによる月1回以上のコンサルテーションとフォローアップを行う群(介入群)または標準的ながん治療のみを行う群(対照群)に1対1の割合で割り付けられた。対象は、全身状態(PS ECOG)が0~2で、6~24ヵ月の臨床予後が期待される進行固形がんの外来患者であった。 主要評価項目は、ベースラインから3ヵ月後までの慢性疾患療法機能評価の精神的満足度(FACIT-Sp、スコアが高いほど良好)スケールの変化とした。副次評価項目は、4ヵ月後のFACIT-Spおよび3、4ヵ月後の終末期QOL(QUAL-E、スコアが高いほど良好)、症状の重症度(ESAS、スコアが高いほど不良)、治療満足度(FAMCARE-P16、スコアが高いほど良好)、患者-医療者間の相互関係の問題(CARES-MIS、スコアが高いほど不良)などであった。QUAL-EとFAMCARE-P16は、3、4ヵ月後にいずれも有意に改善 各群に12施設ずつが割り付けられ、461例(介入群228例、対照群233例)が登録された。患者背景は、介入群が平均年齢61.2歳、女性59.6%、積極的化学療法を受けていたのは76.3%で、対照群はそれぞれ60.2歳、53.6%、78.1%であり、対照群で泌尿生殖器がんが多かった(11.8 vs 21.9%)以外は両群間に差はなかった。このうち393例(192例、201例)が評価可能であった。 3ヵ月後の両群間のFACIT-Spスコアの変化の差は3.56ポイント(95%信頼区間[CI]:-0.27~7.40、p=0.07)であり、有意差は認めなかった。3ヵ月後のQUAL-Eスコアの差は2.25ポイント(同:0.01~4.49、p=0.05)、FAMCARE-P16スコアの差は3.79ポイント(同:1.74~5.85、p=0.0003)で、いずれも介入群で有意に良好であったが、ESAS(群間差:-1.70、95%CI:-5.26~1.87、p=0.33)およびCARES-MIS(同:-0.66、-2.25~0.94、p=0.40)には差はみられなかった。 4ヵ月後は、FACIT-Sp(スコアの変化の群間差:6.44ポイント、95%CI:2.13~10.76、p=0.006)、QUAL-E(同:3.51ポイント、1.33~5.68、p=0.003)、ESAS(同:-4.41ポイント、-8.76~-0.06、p=0.05)、FAMCARE-P16(同:6.00ポイント、3.94~8.05、p<0.0001)はいずれも介入群で有意に優れており、CARES-MIS(同:-0.84ポイント、-1.91~0.22、p=0.11)は介入群で良好な傾向を認めたものの有意差はなかった。 著者は、「主要評価項目である3ヵ月後のFACIT-Spスコアに基づくQOLには有意な改善効果はみられなかったものの、全般的に進行がん患者に対する早期緩和療法の有効性を支持する有望な知見が得られた。現在、コスト解析を進めており、医療経済的側面からの意義も確立されるだろう」としている。

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大腸がん手術後の患者さんへの説明

手術のあと大腸がんの手術を受けられた方へ編著:東京医科歯科大学大学院 応用腫瘍学 助教 石黒 めぐみ氏監修:東京医科歯科大学大学院 腫瘍外科学 教授 杉原 健一氏Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.あなたの受けた手術手術を行った日手術で切除した範囲年月日術式名(受けた手術の名称)きずお腹の創Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.2病理検査の結果深達度□□□□□□大腸癌取扱い規約【第8版】←粘膜大腸(断面)←粘膜下層Tis(粘膜まで)T1(粘膜下層まで)T2(固有筋層まで)T3(漿膜下層まで)T4a(漿膜に露出)T4b(ほかの臓器に浸潤)←固有筋層←漿膜下層←漿膜リンパ節リンパ節転移□ なし□ あり ➡個(□N1 □N2 □N3)以上の結果を総合するとあなたの大腸がんの病理学的進行度(ステージ)はほかの臓器への転移0□ 術前の検査では認めていません□ ほかの臓器への転移が疑われます➡(臓器)ⅠⅡⅢaⅢbⅣと診断されます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.3【参考】大腸がんの進行度(ステージ)ステージ0粘膜・がんが粘膜の中にとどまっているステージⅠ・がんが粘膜下層あるいは固有筋層までにとどまっている・リンパ節転移がないステージⅡ粘膜下層固有筋層・がんが固有筋層を超えている・リンパ節転移がない漿膜下層漿膜・リンパ節転移があるステージⅢステージⅣⅢa:リンパ節転移が1~3個Ⅲb:リンパ節転移が4個以上・ほかの臓器への転移や腹膜播種がある肝転移Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.リンパ節転移肺転移早期がん進行がん腹膜播種4今後の治療について☑:あなたに当てはまるもの① 大腸がんの「再発」とは?② 大腸がん手術後の定期検査③ 術後補助化学療法④ 一時的人工肛門の閉鎖⑤その他のがんの検診についてCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.5①大腸がんの「再発」とは?a)大腸がんの「再発」とは?・手術でがんをすべて取りきったと思っても一定の割合で再発が起こります。大腸から離れた場所に❝飛び火❞した目に見えない大きさのがん徐々に増えてきて画像に写る大きさのしこりになったもの1cmくらい手術前手術後Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.再発6①大腸がんの「再発」とは?b)大腸がんの再発率・手術のときのステージが進んでいるほど再発する確率(再発率)は高くなります。(%)5030.8%43.240再発率302010013.3%3.7%2.712.124.3結腸がん直腸がん16.75.7ステージⅠステージⅡステージⅢ大腸癌研究会・プロジェクト研究 1991~1996年症例大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.7【参考】大腸がんの5年生存率(%)10094.091.68084.877.760.0604018.8200ステージ0ステージⅠステージⅡ ステージⅢa ステージⅢb ステージⅣ大腸癌研究会・大腸癌全国登録 2000~2004年症例大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.8①大腸がんの「再発」とは?c)大腸がんの主な再発形式・大腸がんの再発には、以下のようなものがあります。遠隔再発ほかの臓器に再発・肝再発腹膜再発吻合部再発(腹膜播種)お腹の中(腹腔内)に種をまいたように散らばって再発腸をつなぎ合わせた部分に再発局所再発・肺再発もともとがんがあった周囲に再発・その他:脳や骨などCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.9②大腸がん手術後の定期検査a)定期検査はなぜ必要?・大腸がんの再発は、手術で取りきれれば治る可能性があります。・再発が起こっていないかどうかをチェックするために手術後には定期的な検査が大切です。・手術のあと、5年間は定期検査を行います。大腸がんの再発のうち、96%が手術後5年以内に起こります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.10②大腸がん手術後の定期検査b)定期検査のスケジュール(例)・以下のようなスケジュールに従って定期検査を行います。※ステージや患者さんのからだの状態によって多少異なります。1年2年問診・診察3ヵ月ごと直腸指診【直腸がん】3ヵ月ごと4年5年6ヵ月ごと腫瘍マーカー3年胸部・腹部CT6ヵ月ごと6ヵ月ごと骨盤CT【直腸がん】6ヵ月ごと6ヵ月ごと大腸内視鏡検査1~2年ごと大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.11③術後補助化学療法a)術後補助化学療法とは?・からだの中に残っているかもしれない見えないがん細胞を攻撃し、再発を防ぐ あるいは 再発を遅らせることを目的として、手術のあとに行う抗がん剤治療のことを「術後補助化学療法」といいます。【術後補助化学療法の対象となる患者さん】・ステージⅢの患者さん・ステージⅡのうち再発する危険性が高いと思われる患者さん・原則として術後1~2ヵ月を目安に開始し、6ヵ月行います。・通常は2~3週おきの外来通院で治療します。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.12③術後補助化学療法b)術後補助化学療法で使用されるレジメン・大腸がんの術後補助化学療法で使用されるレジメンには、以下のようなものがあります。※レジメンとは、使用する薬剤とその組み合わせ、投与する量やスケジュールなど治療の「レシピ」のようなものです。レジメン剤型投与方法投与スケジュール・5-FU+LV療法注射薬2時間かけて点滴週1回×6回その後2週間休む・UFT+LV療法飲み薬内服(1日3回)4週間内服その後1週間休む・カペシタビン療法飲み薬内服(1日2回)2週間内服その後1週間休む・FOLFOX療法注射薬48時間かけて点滴2週間おき・CapeOX療法飲み薬+注射薬点滴は約2時間カペシタビンは内服(1日2回)点滴+2週間内服その後1週間休むCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.13④一時的人工肛門の閉鎖・今回の手術では、以下のような目的で、一時的な人工肛門を造設しました。□腸のつなぎ目を安静に保ち、縫合不全*を予防するため。□ 術後、縫合不全*が起こったため。*縫合不全:腸のつなぎ目がほころびること・腸のつなぎ目が落ち着いたころを見計らって人工肛門を閉鎖する(もとに戻す)手術を行います。・1~2時間程度の手術です。・今回の手術と同様、全身麻酔で行います。・おおよその入院期間:日程度・手術を行う時期の目安:年お腹の壁(腹壁)月ころCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.口側の腸管皮膚筋層腹膜肛門側の腸管14⑤その他のがんの検診についてa)ほかの臓器のがんの検診について・大腸がんにかかったあとも、ほかの臓器のがんにかかる可能性があります。※大腸がん手術後の患者さんがほかの臓器のがんにかかる頻度は1~5%と報告されています。・大腸がんの手術後には、再発のチェックを目的とした定期検査を行いますが、ほかの臓器のがんの検査としては必ずしも十分ではありません。・自治体などで実施されるがん検診は、積極的に受けましょう。大腸がん手術後の定期検査では見つかりにくいがん・胃がん・食道がん・乳がん・子宮がん・前立腺がん大腸がん手術後の定期検査で見つかりやすいがん・肺がんCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.・肝臓がん15⑤その他のがんの検診についてb)別の大腸がんができる可能性があります・大腸がんの手術を受けたあとも、大腸の別の部分に別の大腸がん/大腸ポリープができる可能性があります。※大腸がん手術後の患者さんで、大腸の別の部分に別の大腸がんができる頻度は1~3%と報告されています。これは一般集団に比べておよそ1.5倍高い頻度です。・5年間の「手術後の定期検査」が終了したあとも、2~3年に1回の大腸内視鏡検査を受けることが勧められます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.16退院後の生活について① 退院後の食生活② 退院後の日常生活③ 退院後の仕事復帰④ 退院後のスポーツやレジャーCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.17①退院後の食生活・原則として食事の内容に制限はありません。・「ゆっくり、よく噛んで、腹八分目」を心がけましょう。【食事のとり方の基本】➊ 規則正しく食事をとりましょう。➋ ゆっくり、よくかんで食べましょう。➌ 一度にたくさん食べすぎないようにしましょう。➍ バランスよく、消化の良いものを中心にとりましょう。➎ 水分をしっかりとりましょう。➏ アルコールはほどほどに。➐ 腸閉塞のサインを知っておきましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.詳しくは24ページ18【参考】一度にたくさん食べ過ぎるとよくない食品・原則として食事の内容に制限はありません。・ただし、以下のような消化されにくい食べ物を一度にたくさん食べると、つまったり流れにくくなったりして、腸閉塞を起こすことがあります。詳しくは24ページ食べ方や調理法を工夫して適量を食べるようにしましょうこんぶ・わかめなどの海藻類ごぼう・れんこんなど繊維質の根菜類きのこ類こんにゃく・よく噛む・こまかく刻む(繊維と垂直に切る)・やわらかく煮込む などまめ類Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.19②退院後の日常生活・退院後2ヵ月ほどはあまり無理をしないほうがよいですが自分の体力の回復に合わせて、徐々に行動範囲を広げていきましょう。・適度に体を動かしましょう。きずおとなしくして創を大事にしていたからといって、きず創の治りやがんの治りがよいわけではありません。適度な運動は体力や筋力を回復させ、胃腸の活動を活発にします。血行をよくし、手術の傷跡の治りもよくします。・まずは散歩や、軽い家事などがよいでしょう。疲れ具合に応じて、出かける時間や距離、作業の量や程度を増やしたりしてみましょう。病院への通院もよいリハビリになります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.20③退院後の仕事復帰・デスクワーク中心の仕事であれば、手術後1ヵ月程度・からだを動かす仕事であれば、手術後2~3ヵ月程度が復帰の目安です。・軽めの仕事から徐々に始めていくのがよいでしょう。いきなりもとの仕事の内容・量を目指すのではなく、時短勤務や、一時的に仕事の内容を変更すること(外回り→内勤)なども考慮しましょう。・ご家族や職場の人たちのサポートが心身ともに大切です。ひとりで悩まずに、周りの人たちと協力して、手術後の回復期を乗り切りましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.21④退院後のスポーツやレジャー・体を鍛え上げるような激しい運動をする必要はありません。自分の体力に合わせて、好きな運動を生活に取り入れて楽しみましょう。・お腹に力が入るような運動は、手術後2~3ヵ月は控えましょう。腹筋運動、重いものを持ち上げる、ゴルフ、相撲、柔道など。腹壁瘢痕ヘルニアの原因になることがあります。詳しくは25ページ2~3ヵ月は…・もちろん旅行だって楽しめます。とくに制限はありません。はじめのうちはあまり無理のない範囲で楽しみましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.22今後起こりうる手術の影響☑:あなたに当てはまるもの① 腸閉塞(イレウス)② 腹壁瘢痕ヘルニア③ 排便習慣の変化□【結腸がん】□【直腸がん】□【人工肛門】④ 排尿機能障害【直腸がん】⑤ 性機能障害【直腸がん】Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.23①腸閉塞(イレウス)・お腹の手術を受けた後は、癒着などにより、何らかのきっかけで便の通りが突然悪くなることがあります。これを「腸閉塞(イレウス)」といいます。便やガス(おなら)の出が悪くなり、お腹が張ったり、お腹が痛くなったり、嘔吐したりします。・軽い場合は食事をしばらくお休みすれば改善します。それで改善しない場合は、鼻から管を入れて腸の内容物を吸い出したり、手術が必要になる場合もあります。軽いお腹の張りを感じても、便やガス(おなら)が出ている場合は、食事の量を減らして様子を見てください。強い腹痛、嘔吐、排便・排ガスがない などがある場合は、飲食はせずに、ただちに病院に連絡してください。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.24②腹壁瘢痕ヘルニア・お腹の壁(腹筋)を縫い合わせた部分のうち、筋肉に弱いところがあると、そこから腸がお腹の外に脱出することがあります。これを「腹壁瘢痕ヘルニア」といいます。皮膚筋層腹膜小腸・大腸きずお腹に力を入れたり長時間立っていたりすると、お腹の創の付近がポコッと盛り上がり、押すとペコペコします。あおむけに寝たり、お腹の力を抜くことによって、簡単に腸がお腹の中に戻る場合は、日常生活に支障がなければ、治療を急ぐ必要はありません。脱出した腸がねじれて血行が悪くなったりした場合には、強い痛みが起こります。この場合はただちに手術が必要ですので、すぐに病院に連絡してください。・腹壁瘢痕ヘルニアを予防するため、✔ 手術後2~3ヵ月は、腹圧のかかる作業は避けてください。腹筋運動、重いものを持ち上げる、ゴルフ、相撲、柔道など。✔ 太りすぎないように気を付けてください。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.25③排便習慣の変化【結腸がん】・結腸がんの手術では、日常生活に支障が出るような変化はほとんどありません。手術後2~3ヵ月は、やや便通が落ち着かないと感じることもあると思います。時間の経過とともに、少しずつ落ち着いてくるのが一般的です。規則正しい食生活が大切です。とくに朝食はきちんととりましょう。散歩などの適度な運動も効果的です。・便秘・下痢が続くなど、便通にお悩みのときは主治医に相談してください。便を柔らかくする薬や下痢止めなど、いろいろなお薬で改善する場合があります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.26③排便習慣の変化【直腸がん】・直腸がんの手術では、肛門が残っても、直腸の大部分が切り取られているので、十分に便をためられないために、以下のような排便習慣の変化が見られます。・便の回数が増える・残便感がある・便意をがまんできない・寝ている間やお腹に力を入れたときに便やガスが漏れてしまう※程度には個人差があります。・半年~1年くらいの経過で、徐々に改善してきます。・排便のパターンをつかんで、上手に付き合っていきましょう。対策・夜間や外出時の漏れが心配な場合は、生理用品や尿取りパットを使う。(トイレットペーパーはお尻が荒れてしまうので避ける!)・外出直前の食事は避ける。・駅や外出先では、あらかじめトイレの場所を確認しておく。・シャワートイレがおすすめ(携帯用のものもあります)。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.27③排便習慣の変化【人工肛門】・人工肛門に関する悩みやトラブルがあるときは、「ストーマ外来」で専門の医師・看護師に相談してみましょう。【ストーマ外来のリスト】「日本創傷・オストミー・失禁管理学会」ホームページhttp://www.etwoc.org/stoma.html・人工肛門・人工膀胱をもつ患者さんの会もあります。「日本オストミー協会」ホームページ http://www.joa-net.org/日常生活に役立つさまざまな情報が得られます。・永久人工肛門になった患者さんでは、「直腸膀胱機能障害」(通常は4級)として身体障害者手帳を取得できます。・装具の給付、税の控除などのサービスを受けることができます。・患者さん自身(またはご家族)による申請が必要です。・申請以降に助成が開始されるので、早めに申請の手続きを。・詳しくは、市区町村の福祉担当窓口や、病院の社会福祉士(ソーシャルワーカー)に問い合わせてみましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.28④排尿機能障害【直腸がん】・手術操作による一時的な自律神経のダメージや、がんを取りきるために一部の自律神経を切除したことにより排尿機能に障害が出ることがあります。尿道括約筋対策膀胱● 膀胱のセンサーの障害・尿意がよくわからない・膀胱に尿がたまりすぎてあふれる● 膀胱が収縮する機能の障害・膀胱の壁が固くなって伸びが悪い→あまり尿をためられずにあふれてしまう・押し出す力が弱く、“残尿”が増える・尿意がなくても、一定の時間ごとにトイレに行く。・男性の小用も座ってゆっくりと。・排尿時に下腹部を圧迫する(手で押す+前かがみ)。・症状に応じたお薬で症状が改善する場合があります。・自己導尿(自分で尿道に管を入れて尿を出す)Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.泌尿器科の医師に相談29⑤性機能障害【直腸がん】・手術操作による一時的な自律神経のダメージや、がんを取りきるために一部の自律神経を切除したことにより性機能に障害が出ることがあります。下大静脈腹部大動脈上下腹神経叢下腹神経骨盤神経叢(下下腹神経叢)骨盤内臓神経(勃起神経)直腸への神経枝膀胱への神経枝【男性の場合】・勃起障害・射精障害※女性の場合の性機能への影響はよくわかっていません。・手術の影響による症状です。恥ずかしがらずに主治医に相談しましょう。対策・お薬で改善する場合があります。・専門の医師への相談もできます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.泌尿器科の医師に相談30

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