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希少なリンパ腫の1つである血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)。中枢神経(CNS)浸潤のリスクが高く、予後不良となる例が多く、また、確立した治療法もなかった。このIVLBCLに対する有効な新レジメンが、PRIMEUR-IVL trialの結果としてLancet Oncology誌2020年4月号に掲載された。筆頭著者である名古屋大学医学部附属病院 血液内科の島田和之氏に研究の背景や新レジメンに至る経緯について聞いた。―この試験ではIVLBCLが対象となっていますが、この疾患にはどのような問題があるのでしょうか。IVLBCLはリンパ腫細胞が全身臓器の小血管内に選択的に認められる希な疾患です。悪性リンパ腫の特徴であるリンパ節腫脹が認められず、不明熱、LDHの上昇、血球減少といった症状が多くみられます。そのため、正確な診断がつくまでに時間がかかり、全身状態が悪化してからの治療となり、十分な効果が得られないことがあります。2000年代に入って、従来の骨髄検査に加え、ランダム皮膚生検という新たな検査が加わり、比較的早期に診断できるようになりました。今では前出の症状からIVLBCLを疑っていただけるようになりました。これは、今までこの疾患への診療および研究に従事してこられた先達の先生方の努力の結果だと思います。―IVLBCLには確立した治療がなかったとのことですが。IVLBCLには確立した治療法はなく、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と同様に、CHOP療法が主に使われていました。その後、2000年代、抗CD20抗体医薬であるリツキシマブが登場し、CHOP療法にリツキシマブを加えたR-CHOP療法がDLBCLの治療成績を著しく改善しました。IVLBCLについても、2008年のIVL研究会によるわが国の後方視的研究では、リツキシマブと化学療法との併用により無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が延長していることが示唆されました。―R-CHOP療法で成績が向上した中、今回の試験はどのような理由で実施されたのでしょうか。後方視的研究では、リツキシマブの登場で治療成績の向上が示唆された一方で、IVLBCL患者の生存率はおよそ60%に留まっていました。IVLBCL患者の10人中4人の治療成績は不十分ということになりますが、その4人のうち2人は二次性中枢神経(CNS)浸潤を来していました。一般的にDLBCLでの二次性CNS浸潤リスクは5%ですが、IVLBCLでは20~30%と二次性CNS浸潤のリスクが非常に高いのです。ご存じのとおり、二次性CNS浸潤は予後不良です。そこで、R-CHOP療法とCNS浸潤予防治療を組み合わせることで、さらなる治療成績の向上につなげようと考えました。治療の有効性を評価するためには、前方向視的臨床試験が必要になりますが、IVLBCLは非常に希な疾患であり、それまでに、IVLBCLを対象にして行われた前方向視的臨床試験はありませんでした。比較試験の実施は困難であるため、単群の臨床第II相試験として試験治療の有効性と安全性を評価することとしました。―CNS浸潤予防も鑑みて今回の試験レジメンになった訳ですね。画像を拡大する後方視的研究では、診断時に明らかなCNS病変がみられず、その後二次性CNS浸潤を発症した患者の約40%は、診断後半年以内に増悪を認めていました。病気の性質を考えると、臨床症状や明らかな浸潤像がなくても、CNS浸潤が始まっている可能性は捨てきれません。そこで、早期に何らかのCNS浸潤予防を目的とした治療(CNS-oriented therapy)の導入が必要だと考えました。具体的には、大量メトトレキサート(HDMTX)の静脈内投与とメトトレキサート(MTX)とシタラビン(Ara-C)およびステロイド(PSL)の髄腔内投与です。何が理想のCNS-oriented therapyなのか、まだ答えはないため、レジメンの作成にあたって、さまざまな議論がなされました。たとえば、髄腔内投与については、二次性CNS浸潤として髄膜浸潤を来した患者もみられたことから組み入れることとしました。HDMTX療法の投与の時期については、R-CHOP療法による病気の制御と早期のCNSへの治療を考慮して、R-CHOP療法の途中にHDMTX療法を組み入れることとしました。最終的にR-CHOP療法3サイクルの後に、HDMTX+リツキシマブ(R-HDMTX)療法2サイクルを挟み、R-CHOP療法3サイクルを行う合計8サイクルのレジメンとしました。PRIMEUR-IVL trial試験概要多施設(国内22施設)単群第II相試験対象:未治療でCNSに明らかな病変を認めないIVLBCL患者38例。年齢は20~79歳。PSは0~3。介入:患者はR-CHOP3サイクル後、R-HDMTXを2サイクル、その後R-CHOP3サイクル、R-CHOP投与中に髄腔内注射4回の投与を受けた。主要評価項目:2年無増悪生存割合(PFS)試験結果追跡期間中央値3.9年における2年PFSは76%(95%CI:58〜87)、2年OSは92%であった。有効性評価対象37例中完全奏効(CR)が31例に認められた(変化なし5例)。2年二次性CNS浸潤累積発症割合は3%であった。Grade3/4の発熱性好中球減少、白血球減少は全例に見られた。重篤なAEは低カリウム血症、低血圧を伴う発熱性好中球減少、高血圧、頭蓋内出血であった。治療関連死は認められず。―今回の試験の結果についてはいかがですか。フォローアップ期間(追跡期間中央値 3.9年)がそれほど長くなく、長期のフォローアップが必須となりますが、2年PFS 76%は良好な結果が得られたと考えています。また、二次性CNS浸潤も3%に抑えられており、これも良好な成績だと考えています。長期的なフォローアップについても実施していく予定です。更なる治療成績の改善が今後の課題です。―読者の方にメッセージをお願いします。このレジメンは、IVLBCLとして初めての前方向視的臨床試験で検討された治療法です。また、保険診療の範囲内で行うことが可能ですので、IVLBCLの治療法として選択肢の1つにしていただければと思います。また、血液内科の先生方は十分な経験をお持ちだと思いますが、毒性については、R-CHOP療法よりも若干強いという点にはご留意いただければと思います。原著Shimada K, et al. Rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, and prednisolone combined with high-dose methotrexate plus intrathecal chemotherapy for newly diagnosed intravascular large B-cell lymphoma (PRIMEUR-IVL): a multicentre, single-arm, phase 2 trial. Lancet Oncol.2020;21:593-602.参考Shimada K, et al. Retrospective analysis of intravascular large B-cell lymphoma treated with rituximab-containing chemotherapy as reported by the IVL study group in Japan. J Clin Oncol 2008; 26: 3189-95.Shimada K, et al. Central nervous system involvement in intravascular large B-cell lymphoma: a retrospective analysis of 109 patients. Cancer Sci 2010; 101: 1480-86.