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1.

結腸がん術後ctDNAによるde-escalation、リスク低減も非劣性は示されず(DYNAMIC-III)/ESMO2025

 術後のctDNA検査の結果をその後の治療選択に役立てる、という臨床試験が複数のがん種で進行している。DYNAMIC-IIIは結腸がん患者を対象に、術後のctDNA検査結果に基づいて、術後化学療法の強度変更を検討した試験である。今年6月の米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)ではctDNA陽性の治療強化例の解析結果が発表され、治療強化は無再発生存期間(RFS)を改善しないことが示された。10月17~21日に開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)では、Peter MacCallum Cancer Centre(オーストラリア・メルボルン)のJeanne Tie氏がctDNA陰性のde-escalation(治療減弱)の解析結果を発表した。ctDNA陽性例と合わせた本試験の結果は、Nature Medicine誌オンライン版2025年10月20日号に同時掲載された。・試験デザイン:多施設共同ランダム化第II/III相試験・対象:切除可能、StageIII結腸がん患者。術後5~6週でctDNA検査を受け、試験群と対照群に1:1の割合で割り付け・試験群:de-escalation群(6ヵ月のフルオロピリミジン[FP]単剤療法→経過観察または3ヵ月のFP単剤に変更、3ヵ月のオキサリプラチン+FP併用療法→3~6ヵ月のFP単剤に変更、6ヵ月の併用療法→3ヵ月の併用療法または6ヵ月のFP単剤に変更、から選択)353例・対照群:標準治療群(ctDNA検査の結果は非表示、医師選択による治療)349例・評価項目:[主要評価項目]3年RFS(片側97.5%信頼区間の下限が-7.5%を超えない場合、非劣性と判断)[副次評価項目]治療関連入院、ctDNA陰性化など 主な結果は以下のとおり。・参加者968例のうち、702例(72.5%)がctDNA陰性だった。353例がde-escalation群、349例が標準治療群に割り付けられた。追跡期間中央値47ヵ月中、90.4%(319/353例)がde-escalationを受けた。・de-escalation群は、標準治療群と比較してオキサリプラチンベースの化学療法の実施率が低く(34.8%対88.6%、p<0.001)、Grade3以上の有害事象(6.2%対10.6%、p=0.037)および治療関連入院(8.5%対13.2%、p=0.048)も少なかった。しかし、3年RFSはわずかに低下し、de-escalationの非劣性は示されなかった(3年RFS:85.3%対88.1%、差:-2.8%)。・サブグループ解析では、低リスク群(T1~3N1)においては、de-escalationが非劣性となる可能性が示唆された(3年RFS:91.0%対93.2%、差:-2.2%)。 Tie氏は「術後ctDNA陰性例の3年RFSは87%と高く、再発リスクは低かった。ctDNAによるde-escalationは対象者の9割で実行可能で、オキサリプラチン曝露量と有害事象を低減した。標準治療と比較した非劣性は示せなかったものの、低リスク例においては標準治療に近い結果が得られる可能性が示された。今後は個々の患者によるリスク・ベネフィットをさらに議論する必要があるだろう」とした。

2.

免疫療法の対象とならない進行TN乳がん1次治療、Dato-DXdがPFSとOSを延長(TROPION-Breast02)/ESMO2025

 免疫チェックポイント阻害薬の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療で、ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)が化学療法に比べ有意に全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を延長したことが第III相TROPION-Breast02試験で示された。シンガポール・National Cancer Center SingaporeのRebecca Dent氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。・試験デザイン:国際共同ランダム化非盲検第III相試験・対象:免疫チェックポイント阻害薬の対象とならない未治療の局所再発切除不能/転移TNBC・試験群:Dato-DXd(3週ごと6mg/kg点滴静注)323例・対照群:治験責任医師選択化学療法(ICC)(nab-パクリタキセル、カペシタビン、エリブリン、カルボプラチンから選択)321例・評価項目:[主要評価項目]OS、盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]治験担当医師評価によるPFS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時(2025年8月25日)の追跡期間中央値は27.5ヵ月で、PFSイベントが63%に、OSイベントは54%で発生していた。被験者の再発までの期間(DFI)別の割合は、de novoが34%、0~12ヵ月が21%(0~6ヵ月は15%)、12ヵ月超が約45%であった。・BICRによるPFS中央値は、Dato-DXd群が10.8ヵ月とICC群(5.6ヵ月)より有意に延長した(ハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.47~0.69、p<0.0001)。この傾向は、臨床的に重要なサブグループで一貫していた。・OS中央値は、Dato-DXd群が23.7ヵ月でICC群18.7ヵ月より5ヵ月延長し、有意に延長した(HR:0.79、95%CI:0.64~0.98、p=0.0291)。この傾向はほとんどのサブグループで一貫していた。・BICR評価によるORRは、Dato-DXd群が62.5%とICC群(29.3%)の2倍以上、完全奏効率(CR)は3倍以上であった。この傾向はすべてのサブグループで一貫していた。・DOR中央値は、Dato-DXd群12.3ヵ月、ICC群7.1ヵ月であった。・治療期間中央値は、Dato-DXd群(8.5ヵ月)がICC群(4.1ヵ月)の2倍以上だったが、Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は両群で同程度であり、中止率はICC群より低かった。Dato-DXd群の主なTRAEはドライアイ、口内炎、悪心であった。 Rebecca Dent氏は「本試験の結果は、免疫療法の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるTNBC患者における新たな1次治療の標準治療としてDato-DXdを支持する」と結論した。

3.

免疫療法の対象とならない進行TN乳がんの1次治療、SGがPFS延長(ASCENT-03)/ESMO2025

 PD-1/PD-L1阻害薬の対象とならない局所進行切除不能または転移のあるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の1次治療で、サシツズマブ ゴビテカン(SG)が化学療法より有意な無増悪生存期間(PFS)の延長と持続的な奏効をもたらしたことが、第III相ASCENT-03試験で示された。スペイン・International Breast Cancer CenterのJavier Cortes氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。なお、本結果はNEJM誌オンライン版2025年10月18日号に掲載された。・試験デザイン:国際共同ランダム化非盲検第III相試験・対象:PD-1/PD-L1阻害薬投与対象外(PD-L1陰性、PD-L1陽性でPD-1/PD-L1阻害薬の治療歴あり、併存疾患により不適格)で未治療(治療歴がある場合は6ヵ月以上無治療)の局所進行切除不能/転移TNBC患者・試験群:SG(21日サイクルの1日目と8日目に10mg/kg点滴静注)279例・対照群:化学療法(パクリタキセルもしくはnab-パクリタキセルもしくはゲムシタビン+カルボプラチン)279例、病勢進行後クロスオーバー可・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、BICRによる奏効率(ORR)・奏効期間(DOR)・奏効までの期間、安全性、QOL 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ(2025年4月2日)時における追跡期間中央値は13.2ヵ月、349例にPFSイベントが発生していた。患者の地域別の構成は米国/カナダ/西ヨーロッパが32%、その他が68%であった。・主要評価項目であるBICRによるPFSは、SG群が化学療法群に比べて有意に改善した(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.50~0.77、p<0.0001、中央値:9.7ヵ月vs.6.9ヵ月)。このベネフィットは、事前に規定された主要なサブグループで一貫して認められた。・ORRは、SG群が48%、化学療法群が46%と同程度であったが、DOR中央値はSG群(12.2ヵ月)が化学療法群(7.2ヵ月)より長かった。・OSは今回の解析ではimmatureであった。HRは0.98で、中央値はSG群で21.5ヵ月、化学療法群で20.2ヵ月であった。・PFS2(ランダム化から後続治療後の病勢進行/死亡までの期間)中央値は、SG群(18.2ヵ月)が化学療法群(14ヵ月)より長く、HRは0.70(95%CI:0.55~0.90)であった。・Grade3以上の治療関連TEAEは、SG群61%、化学療法群53%であった。TEAEによる治療中止割合は、SG群4%、化学療法群12%、減量に至った割合は、SG群で37%、化学療法群で45%であった。治療関連死はSG群で6例(すべて感染症による死亡)、化学療法群で1例報告された。・SGの有害事象は既知の安全性プロファイルと一致しており、Grade3以上の発現割合は好中球減少が43%、下痢が9%であった。 Javier Cortes氏は「本試験のデータは、PD-1/PD-L1阻害薬を投与できない未治療の転移TNBC患者における新たな標準治療の可能性としてSGを支持する」と結論した。

4.

DLBCL 1次治療の動向と課題、今後の展望/日本血液学会

 第87回日本血液学会学術集会で企画されたシンポジウム「B細胞リンパ腫に対する新規治療」において、九州大学の加藤 光次氏が、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する1次治療の動向と課題、今後の展望について講演した。標準治療はPola-R-CHOPへ DLBCLは悪性度が高いが治癒も望める疾患であり、1次治療の成否が予後を大きく左右する。1次治療は20年以上にわたりR-CHOP療法が標準治療であったが、「約30%の患者が再発または治療抵抗性となる点が大きな課題であった」と加藤氏は指摘した。 そのような中、ポラツズマブ ベドチンとR-CHOPを併用するPola-R-CHOPをR-CHOPと比較した国際共同第III相POLARIX試験において、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、その効果は5年時点でも維持されていることを紹介した。この結果は国内の大規模リアルワールドデータ研究によっても裏付けられつつあり、Pola-R-CHOPは新たな標準治療として確立しつつあると述べた。DLBCL 1次治療における3つの課題 しかしながら、このような進歩にもかかわらず、治癒可能なDLBCLの1次治療には3つの重要な臨床的課題に直面していると加藤氏は述べ、1)初回治療抵抗性が残ること、2)初回治療後も20~30%が再発すること、3)患者の半数以上が70~80歳以上の高齢であることを挙げた。 なかでも高齢者治療は喫緊の課題である。リアルワールドデータでは、80歳以上の患者に対してもPola-R-CHOPは良好な奏効率(ORR:87.3%)を示しているが、実際には副作用を懸念して化学療法(とくにシクロホスファミドやドキソルビシン)が半量となっている場合が多く、最適な治療強度をいかに維持するかが鍵となると指摘した。 この課題に対し、日本では高齢者機能評価を導入し、高齢患者の治療前状態(Fit/Frail)を評価するG-POWER試験や、減量レジメン(R-mini-CHOP)とポラツズマブ ベドチンの併用を検討するPOLAR mini-CHP試験などが進行中であることを紹介した。分子サブタイプに基づく個別化医療へ 治療抵抗性や再発の根本的な原因として、加藤氏は、DLBCLが単一の疾患ではなく、生物学的に多様な不均一性を持つことを挙げた。 近年、DLBCLはABC型、GCB型といった従来の分類に加え、より詳細な分子サブタイプに分類されるようになり、特定のサブタイプに合わせた分子標的治療の開発が進行している。POLARIX試験のサブ解析においても、Pola-R-CHOPによるPFS改善は、DLBclassによる特定の分子サブタイプ(C5)で顕著であったことが報告されている。加藤氏は、これらの分子サブタイプ分類は、リスク層別化を強化し、今後プレシジョン・メディシンのアプローチにつながると期待を示した。今後の展望~ctDNAと新規薬剤 加藤氏は今後の展望として、治療効果をより早期かつ正確に判断するため、循環腫瘍DNA(ctDNA)や微小残存病変(MRD)評価の重要性を語った。POLARIX試験において、治療1コース後にctDNA量が多い患者は予後が悪かったことが報告されている。治療の早期にctDNAをモニタリングし、その後の再発リスクを予測することで、治療のescalationやde-escalationを判断するresponse-adapted strategyへの期待を語った。 加藤氏はその一例として第II相ZUMA-12試験を挙げ、1次治療早期に効果不十分な高リスク患者に対して、早期にCAR-T細胞療法に切り替えた場合、完全奏効率が86%と有望な成績が得られたことを紹介した。 現在、1次治療として二重特異性抗体、CAR-T療法、BTK阻害薬などの多くの新しい治療法が開発されている。加藤氏は「2028年には何を選ぶべきか決断を迫られるだろう」と予測し、さらに「将来の治療選択は、分子サブタイプ、患者特異的因子、response-oriented approachによって導かれるだろう」と述べ、講演を終えた。

5.

HER2変異陽性NSCLCの1次治療、ゾンゲルチニブの奏効率77%(Beamion LUNG-1)/ESMO2025

 ベーリンガーインゲルハイムは、2025年9月19日にゾンゲルチニブについて「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)」を適応として、厚生労働省より製造販売承認を取得した。本承認は、国際共同第Ia/Ib相試験「Beamion LUNG-1試験」の既治療コホートの結果に基づくものである。本承認により、ゾンゲルチニブは既治療のHER2遺伝子変異陽性NSCLCに対する治療選択肢の1つとなったが、1次治療における有用性は明らかになっていなかった。そこで、Sanjay Popat氏(英国・Royal Marsden Hospital)が、本試験の1次治療コホートの結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。HER2遺伝子変異陽性の進行NSCLCの1次治療は、免疫チェックポイント阻害薬±化学療法が標準治療であり、1次治療におけるHER2標的療法の有用性は確立していない。 本試験は第Ia相と第Ib相で構成され、第Ib相の中間解析の結果から1日1回120mgの用量が選択された。今回は、第Ib相の未治療のHER2遺伝子変異(チロシンキナーゼドメインの変異)陽性NSCLC患者コホート(コホート2)のうち、1日1回120mgの用量で投与された患者74例の結果が報告された。有効性の主要評価項目は中央判定による奏効率(ORR)とし、副次評価項目は病勢コントロール割合(DCR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)とした(いずれも中央判定)。 主な結果は以下のとおり。・ゾンゲルチニブ 1日1回120mgによる治療を受けた患者(74例)の年齢中央値は67歳(範囲:35~88)、65歳以上75歳未満の割合は40%、75歳以上の割合は18%であった。女性の割合は50%、アジア人の割合は46%であった。元/現喫煙者の割合は35%、脳転移を有する割合は30%であった。・有効性の主要評価項目である中央判定によるORRは77%(CRは8%)であり(期待値40%に対する片側p<0.0001)、主要評価項目を達成した。DCRは96%であった。・奏効が認められた患者(57例)のうち、データカットオフ時点で47%がゾンゲルチニブによる治療を継続していた。・6ヵ月PFS率は80%、6ヵ月DOR率は79%であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は18%であった。主なTRAEは下痢(54%)、皮疹(23%)、ALT増加(18%)、AST増加(16%)、味覚異常(16%)であり、多くがGrade1~2であった。Grade4/5のTRAEは認められず、間質性肺疾患(ILD)/肺臓炎は2例に発現した(いずれもGrade2)。減量に至った有害事象(AE)の発現割合は15%、治療中止に至ったAEの発現割合は9%と低かった。 本結果について、Popat氏は「ゾンゲルチニブは、未治療のHER2遺伝子変異陽性の進行NSCLC患者において、統計学的有意かつ臨床的に意義のある治療効果を示した」とまとめた。なお、HER2遺伝子変異(チロシンキナーゼドメインの変異)陽性NSCLCの1次治療におけるゾンゲルチニブの有用性を検証する国際共同第III相無作為化比較試験「Beamion LUNG-2試験」が進行中である。

6.

進行尿路上皮がん、アベルマブ維持療法前の化学療法3サイクルvs.6サイクル(DISCUS)/ESMO2025

 局所進行または転移を有する尿路上皮がんにおける、アベルマブ維持療法前のプラチナ化学療法の治療サイクル数について、3サイクルは6サイクルと比較してQOLが有意に良好であり、中間解析時点における全生存期間(OS)はともに18.9ヵ月であった。スペイン・Anderson Cancer Center MadridのEnrique Grande氏が、医師主導の第II相国際共同試験であるDISCUS試験の結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で報告した。なお、本結果はAnnals of Oncology誌オンライン版2025年10月17日号に同時掲載された。・対象:進行がんに対する全身療法歴のない局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者(ECOG PS 0~2)・3サイクル群:ゲムシタビン(21日ごと1・8日目に1,000mg/m2)+シスプラチン(同1日目に70mg/m2)またはカルボプラチン(同1日目にAUC4.5または5)×3サイクル後にアベルマブ維持療法を最大2年 133例・6サイクル群:ゲムシタビン+シスプラチンまたはカルボプラチン×6サイクル後にアベルマブ維持療法を最大2年 134例・評価項目:[主要評価項目]ベースラインから6サイクル完了時点までのGHS/QoLスコアの変化、OS[副次評価項目]GHS/QoLスコア悪化までの時間、無増悪生存期間(PFS)、奏効割合(ORR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・ベースライン特性は、年齢中央値が両群で71歳、男性が3サイクル群75%vs.6サイクル群70%、肝転移ありが両群で19%、ゲムシタビン+シスプラチン療法が42%vs.40%と両群でバランスがとれていた。・治療を完遂した患者の割合は、3サイクル群78%vs.6サイクル群40%であった。アベルマブ維持療法を受けた患者の割合は、74%vs.56%であった。・ベースラインから6サイクル完了時点までの平均GHS/QoLスコア変化は、3サイクル群0.0(95%信頼区間[CI]:-5.9~5.2)vs.6サイクル群-8.5(95%CI:-14.1~-2.9)であり、3サイクル群で統計学的に有意に良好であった(群間差:+8.5ポイント、95%CI:0.7~16.3、p=0.016)。・GHS/QoLスコアはすべてのスクリーニング時点で3サイクル群で良好な傾向がみられたが、GHS/QoLスコア悪化までの時間は、3サイクル群4.8ヵ月vs.6サイクル群3.5ヵ月(ハザード比[HR]:0.81、95%CI:0.46~1.43)となり、統計学的有意差は認められなかった。・中間解析時点におけるOS中央値は、3サイクル群18.92ヵ月vs.6サイクル群18.86ヵ月であった(HR:1.15、95%CI:0.72~1.86、p=0.56)。・PFS中央値は、3サイクル群8.0ヵ月vs.6サイクル群9.0ヵ月であった(HR:1.053、95%CI:0.725~1.527、p=0.788)。・ORRは、3サイクル群24%vs.6サイクル群27%であった。・Grade3~4の治療関連有害事象は、3サイクル群3%vs.6サイクル群11%に発現した。 Grande氏はOSについて、3サイクル投与群では6サイクル投与群と比較して優越性は示されず、非劣性を示すには検出力不足であったとし、より多くの患者がアベルマブ維持療法に進んでいることから、長期的な有効性につながる可能性があるとした。OS解析は進行中となっている。

7.

術前療法後の高リスクHER2+早期乳がん、T-DXd vs.T-DM1(DESTINY-Breast05)/ESMO2025

 術前療法後に乳房および/または腋窩リンパ節に浸潤性残存病変を有する再発リスクの高いHER2陽性(+)の早期乳がん患者を対象に、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)とトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の有効性と安全性を直接比較したDESTINY-Breast05試験の中間解析結果を、米国・University of Pittsburgh Hillman Cancer CenterのCharles E. Geyer氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。その結果、T-DXd群において無浸潤疾患生存期間(iDFS)および無病生存期間(DFS)で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示したことが明らかになった。・第III相多施設共同無作為化非盲検実薬対照試験・対象:タキサン系化学療法と抗HER2療法による術前療法後に乳房および/または腋窩リンパ節に浸潤性残存病変を有する再発リスクの高い※HER2+の早期乳がん患者 1,635例※「高リスク」は、(1)術前療法前にT4 N0~3 M0またはcT1~3 N2~3 M0で手術不能と判断された症例、または(2)術前療法後に手術可能であったが(cT1~3 N0~1 M0)、腋窩リンパ節転移が陽性(ypN1~3)であった症例 のいずれかと定義・試験群(T-DXd群):T-DXd(5.4mg/kg)を3週間間隔で14サイクル投与 818例・対照群(T-DM1群):T-DM1(3.6mg/kg)を3週間間隔で14サイクル投与 817例・評価項目:[主要評価項目]iDFS[重要な副次評価項目]DFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、無遠隔再発生存期間(DRFS)、無脳転移期間(brain metastasis-free interval)、安全性・データカットオフ:2025年7月2日 主な結果は以下のとおり。・試験期間中央値はT-DXd群で29.9(範囲:0.3~53.4)ヵ月、T-DM1群で29.7(範囲:0.1~54.4)ヵ月であった。・ベースライン時の患者特性は、65歳以下がT-DXd群89.9%およびT-DM1群90.1%、アジア人が47.9%および46.5%、HER2ステータス IHC3+が82.6%および82.0%、HR+が71.0%および71.4%、手術不能が52.7%および51.9%、術前療法後のリンパ節転移陽性が80.7%および80.5%であった。・主要評価項目であるiDFSイベントの発生は、T-DXd群51例(6.2%)、T-DM1群102例(12.5%)であり、T-DXd群で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.34~0.66、p<0.0001)。T-DXdによるベネフィットはすべてのサブグループで同様であった。・3年iDFS率は、T-DXd群92.4%(95%CI:89.7~94.4)、T-DM1群83.7%(95%CI:80.2~86.7)であった。・DFSイベントの発生は、T-DXd群52例(6.4%)、T-DM1群103例(12.6%)であり、T-DXd群で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した(HR:0.47、95%CI:0.34~0.66、p<0.0001)。・3年DFS率は、T-DXd群92.3%(95%CI:89.5~94.3)、T-DM1群83.5%(95%CI:79.9~86.4)であった。・DRFSイベントは、T-DXd群42例(5.1%)、T-DM1群81例(9.9%)に発生した(HR:0.49、95%CI:0.34~0.71)。・中枢神経系転移は、T-DXd群17例(2.1%)、T-DM1群26例(3.2%)に発生した(HR:0.64、95%CI:0.25~1.17)。・OSイベント(成熟度2.9%)は、T-DXd群18例(2.2%)、T-DM1群29例(3.5%)に発生した(HR:0.61、95%CI:0.34~1.10)。・Grade3以上の試験治療下における有害事象(TEAE)は、T-DXd群408例(50.6%)、T-DM1群416例(51.9%)に発現した。死亡に関連するTEAEは3例(0.4%)および5例(0.6%)であった。新たな安全性の懸念は認められなかった。・薬剤関連と判断された間質性肺疾患は、T-DXd群77例(9.6%)、T-DM1群13例(1.6%)に発現し、そのほとんどがGrade1または2であった。Grade5は2例(0.2%)および0例であった。  これらの結果より、Geyer氏は「術前療法後に浸潤性残存病変を有するHER2+早期乳がんにおいて、T-DXdが新たな標準治療となる可能性が示された」とまとめた。

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未治療のマントル細胞リンパ腫、イブルチニブ+リツキシマブがPFS改善/Lancet

 未治療のマントル細胞リンパ腫において、イブルチニブ(BTK阻害薬)+リツキシマブ(抗CD20抗体)の併用療法は免疫化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことが、英国・University Hospitals Plymouth NHS TrustのDavid J. Lewis氏らENRICH investigatorsが行った無作為化非盲検第II/III相優越性試験「ENRICH試験」の結果で示された。イブルチニブは、初回治療の免疫化学療法に上乗せすることでPFSの延長が示されている。ENRICH試験では、60歳以上の未治療のマントル細胞リンパ腫患者を対象に、化学療法を併用しないイブルチニブ+リツキシマブ併用療法と、標準的な免疫化学療法(R-CHOP療法[リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン]またはリツキシマブ+ベンダムスチン)を比較した。著者は、「本検討はわれわれが知る限り、イブルチニブ+リツキシマブ併用の有効性を実証した初の無作為化試験である」としたうえで、「マントル細胞リンパ腫の高齢患者の初回治療として、イブルチニブ+リツキシマブ併用を新たな標準治療と見なすべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月3日号掲載の報告。英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で評価 ENRICH試験は、英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で行われた。60歳以上で未治療のマントル細胞リンパ腫(Ann-Arbor分類StageII~IV、ECOG-PSスコア0~2)の患者を、イブルチニブ+リツキシマブ群(介入群)またはリツキシマブ+免疫化学療法群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。試験担当医師が選択した免疫化学療法で層別化した。 介入群の被験者は、無作為化前に選択された免疫化学療法の適合スケジュール(R-CHOP療法21日ごと、またはリツキシマブ+ベンダムスチン療法28日ごと)に基づき、イブルチニブ560mgを1日1回経口投与+各サイクル初日にリツキシマブ375mg/m2の静脈内投与を6~8サイクル投与した。 R-CHOP療法は、21日サイクルの初日にシクロホスファミド750mg/m2、ドキソルビシン50mg/m2、ビンクリスチン1.4mg/m2を投与、各サイクル1~5日目にプレドニゾロン100mgを投与した。リツキシマブ+ベンダムスチン療法は、各サイクル1日目と2日目にベンダムスチン90mg/m2を投与し、各サイクルの1日目にリツキシマブ375mg/m2を投与する組み合わせで構成された。 導入期終了時に反応を示した両群の全患者は、8週ごと2年間、リツキシマブの維持投与を受けた。また介入群に割り付けられた患者は、疾患進行または許容できない毒性が出現するまでイブルチニブの投与が継続された。 主要評価項目は、試験担当医師の評価に基づくPFSで、選択した免疫化学療法で層別化を行い、ITT集団で解析が行われた。追跡期間中央値47.9ヵ月のPFS中央値、リツキシマブ+免疫化学療法よりも優れる 2016年2月15日~2021年6月30日に、397例が無作為化された。このうちR-CHOP療法の無作為化前選択は107例(27%)、リツキシマブ+ベンダムスチン療法の無作為化前選択は290例(73%)であった。 全体で、199例が介入群に、198例が対照群(R-CHOP療法53例、リツキシマブ+ベンダムスチン療法145例)に無作為化された。年齢中央値は、介入群74歳(四分位範囲:70~77)、対照群74歳(70~78)であった。296例(75%)が男性、101例(25%)が女性であり、人種に関するデータは収集されなかった。 追跡期間中央値47.9ヵ月の時点で、PFS中央値は介入群が対照群よりも有意に優れることが示された(補正後ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.52~0.90、p=0.0034)。また、介入群のR-CHOP療法群に対するHRは0.37(95%CI:0.22~0.62)、同リツキシマブ+ベンダムスチン療法に対するHRは0.91(0.66~1.25)であった。 導入期および維持期を通じて、Grade3以上の有害事象が報告されたのは、介入群67%、対照群70%であった。

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がん治療の有害事象が減る!?高齢がん患者への機能評価【高齢者がん治療 虎の巻】第3回

<今回のPoint>高齢者総合機能評価(CGA)は、身体面・精神面・社会的要素などいくつかの構成要素から成り立つ高齢がん患者に対する機能評価は、治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測が目的CGA(GA)の実施には、多職種協働や診療科連携によるチーム医療が重要だが、最終評価者は医師または歯科医師が担う<症例>85歳・男性X年9月前医でS状結腸がんcStageIIaと診断し、腹腔鏡下S状結腸切除術施行X+1年4月前医で増大傾向にある肝腫瘤の指摘あり、大学病院消化器内科紹介受診X+1年5月生検の結果、肝内胆管がんstageIV(多発肝転移・多発リンパ節転移)の診断X+1年6月治療方針決定前の評価目的で同院老年科に紹介 評価で問題がなければ、治療開始(GCD療法[GEM+CDDP+デュルバルマブ])の予定。治療説明などの応答がしっかりせず、不安症状がみられる。CGA実施、診療報酬は50点日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えたことで、高齢のがん患者も増加し、高齢者診療や高齢者がん診療の重要性はより一層高まっています。その中でもとくに重要なことは、「高齢者の医療や生活を多面的に評価し、問題点を抽出し、適切な介入を行う」というプロセスです。このことを、高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)と呼び、老年医学の根幹となっています。入院中の患者(65歳以上の全員と特定疾患を有する40歳以上の一部)に関しては、CGAを行うことで、診療報酬点数「総合機能評価加算」50点(入退院支援加算として退院時1回)の算定ができます。算定にあたっては、日常生活力などを評価する必要があり、各医療職種が評価できますが、最終評価者は医師または歯科医師が行わなければなりません。CGAの構成成分には主に、身体機能・精神心理状態・社会的背景などが挙げられ(表1)、それらを元に生活機能や医療の評価を行います。日常生活動作(Activity of Daily Living:ADL)は、人が生活を送るために必要な動作のことであり、身体的な要素を主とした評価として、CGAの代表的な評価ツールとなっています。(表1)高齢者総合機能評価の構成要素画像を拡大する移動・食事・排泄・更衣・整容など、生きていく上で最低限必要な基本的な日常動作のことを基本的ADLと呼びます。一方で、買い物・調理・洗濯・金銭管理など、社会で自立した生活を送るために必要な動作のことを手段的ADLと呼びます。当院での総合機能評価加算の書式では、いくつかの項目を多職種でチェックし、日常生活動作、認知機能、気分・心理状態それぞれに対して、最終判定を担当医が行います。がん診療では“治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測が目的”ここまで、一般高齢者を対象としたCGAに関して述べましたが、がん患者に対する機能評価は、目的やアプローチがやや異なります。がん患者に対しては、「治療を実施するか否か」「どの治療法を選択するか」「治療に伴う有害事象がどの程度起こりうるか」といった診療方針決定に重要な情報が求められます。高齢者がん診療の領域においても、多面的な評価の重要性は広く示されてきました。しかし実際には、必要なケアを同定して介入につなげるというよりも、治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測などに使われることが多く、CGAではなく、GA(Geriatric Assessment)と称されます1)。なお、日本老年腫瘍学会のホームページ内では、CGAとGAの違いについて表2のようにまとめられております2)。(表2)CGAとGAの違い画像を拡大するがん診療のガイドラインでは、ECOG-PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)という、日常生活の活動レベルを5段階で表した指標によって治療方針が定められることも多いですが、ECOG-PSが良好でも、併存症の存在、手段的ADLの低下、栄養状態や認知機能の低下などにより、がん治療に対しての脆弱性を有しているケースはとても多いです。実際にGAが治療方針に与える影響も大きく、あるシステマティックレビューによると、GAの実施により、がん治療方針が変更された割合は28%(中央値)で、その変更の多くは、より強度の弱い治療へ変更されていました3)。また、根治不能な70歳以上の固形がん患者に対して、GAを行って結果と推奨マネジメントを治療担当医に提供することで、重篤な有害事象を有意に減らせられたといった報告もあります(1年後の生存率は変わらず)4)。GAに含めるべき必須の重要ドメインとして、身体機能、認知機能、心理状態、併存疾患、栄養状態、多剤併用、社会的サポートなどが挙げられます5)。特徴として、がん治療を念頭に置いているため、「治療に耐えられるか」という観点から、とくに重要な要素として、栄養状態や併存疾患が入ります。また、近年、GAにおいて評価を行うだけではなく、CGAのように、結果に基づいたマネジメントを行うこと(GA-guided management:GAM)(第2回参照)が強く推奨されてきています。さらに、個別化した治療計画の立案、有害事象の予測、介入すべき問題を特定することに加え、意思決定支援のために、GAの結果を患者と家族に提供することも推奨されます。冒頭に示した症例では、GAを施行したところ、元々バイタリティにあふれた性格でしたが、家族の病気や家族との関係性、また自身への立て続けのがんの告知などにより、診察時には心身共にエネルギー切れの、うつ傾向の心理状態であることがわかりました。さらには、独居であり、スムーズに家族のサポートを得ることも難しい状態でもありました。これらの情報を元に腫瘍専門医と協働し、多職種との連携も通して意思決定のサポートを行い、化学療法に伴う副作用の説明も含めて、治療の準備を行いました。その結果、予定通りGCD療法が通常量で投与されました。1)Wildiers H, et al. J Clin Oncol. 2014;32:2595-2603.2)日本老年腫瘍学会:CGAとGA3) Hamaker ME, et al. J Geriatric Oncol. 2018;9:430-440. 4)Mohile SG, et al. Lancet. 2021;398:1894-1904.5)Dale W, et al. J Clin Oncol. 2023;41:4293-4312.講師紹介

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がん治療関連心機能障害のリスク予測モデル、性能や外部検証が不十分/BMJ

 オランダ・アムステルダム大学のClara Gomes氏らは、がん治療関連心機能障害(CTRCD)のリスクを予測するために開発または検証されたすべての予測モデルのシステマティックレビューと、性能の定量的解析を目的としたメタ解析を行った。その結果、現存するCTRCD予測モデルは臨床応用に先立ち、さらなるエビデンスの蓄積が必要であることを報告した。現存するモデルについては、重要な性能指標に関する報告が不足し外部検証も限られていたことが正確な評価を妨げており、Heart Failure Association-International Cardio-Oncology Society(HFA-ICOS)ツールは、とくに軽度CTRCDに関する性能が不十分であった。著者は、「今後は、さまざまながん種を対象とする大規模なクラスター化データセットを用い、既存モデルの検証と更新を進め、その性能、汎用性および臨床的有用性を高めるべきである」とまとめている。BMJ誌2025年9月23日号掲載の報告。CTRCDのリスク予測モデルを開発または検証した56件の研究について解析 研究グループは、Medline(Ovid)、Embase(Ovid)、およびCochrane Central Register of Controlled Trialsを用い、データベース開始から2024年8月23日までに発表された文献を検索した。 適格基準は、がん患者またはがん生存者におけるCTRCDリスクを推定するための予測モデルの開発・検証・更新を報告している論文で、欧州心臓病学会(ESC)のcardio-oncologyガイドラインに記載されているCTRCDのいずれかを含み、CTRCDが主要アウトカムもしくは複合心血管アウトカムの一部であり、対象集団が化学療法または分子標的治療(チロシンキナーゼ阻害薬、モノクローナル抗体、免疫療法など)を受けた患者で、予測モデルは少なくとも2つ以上の予測因子を含み、予測モデルの使用予定時期が全身性抗がん治療の開始前または治療後のサバイバー期であることであった。適格基準を満たせば、非がん患者向けに開発された心血管リスク予測モデルの外部検証研究も対象とした。放射線誘発性心毒性に関する研究は除外した。 2人の評価者がそれぞれ研究のスクリーニングとデータ抽出を行い、Prediction model Risk Of Bias ASsessment Tool(PROBAST)を用いてバイアスリスクを評価した。予測モデルの性能はランダム効果メタ解析で統合した。 1万935件の論文がスクリーニングされ、適格基準を満たした56件の研究が解析対象となった。このうち29件が1つ以上の予測モデルを開発し、20件が外部検証を実施し、7件が開発と外部検証の両方を実施していた。ほぼすべてのモデルでバイアスリスク高、HFA-ICOSツールは軽度CTRCDを過小評価 最終的にがん患者またはがん生存者におけるCTRCDリスク予測モデルとして51件が特定された。67%(34/51件)は成人データから開発され、その多くは乳がん(20/34件、59%)または血液悪性腫瘍(6/34件、18%)を対象とし、治療前リスクの予測を目的としていた(33/34件、97%)。一方、小児・青年・若年成人(39歳以下)を対象としたモデルでは、大半(16/17件、94%)ががん生存者を研究対象とし、血液悪性腫瘍や胚細胞腫瘍を含む多様ながん種(14/17件、82%)が含まれた。 開発モデル51件のうち25%(13件)、外部検証44件のうち14%(6件)でのみ性能指標や較正指標が報告されていた。ほぼすべてのモデルで、バイアスリスクが高かった。 開発モデル51件中12件(24%)(若年群4/17件[24%]、成人群8/34件[24%])が開発モデルに対して外部検証を受けていた。最も多く検証されたのはHFA-ICOSツール(11回)であり、主にHER2標的療法を受ける乳がん患者(5/11件、45%)で使用されていた。このツールは、すべての外部検証でリスクを過小評価する傾向を示し、とくに軽度CTRCDが多く報告された研究では、観察されたイベント発生率が予測リスクを上回っていた。抗HER2治療を受けた乳がん患者における統合C統計量は0.60(95%信頼区間:0.52~0.68)であった。同集団にて観察されたイベント発生率は、低リスク群で12%(予測値<2%)、中リスク群で15%(2~9%)、高リスク群で25%(10~19%)、超高リスク群で41%(≧20%)であった。

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新型コロナは依然として高齢者に深刻な脅威、「結核・呼吸器感染症予防週間」でワクチン接種の重要性を強調/モデルナ

 モデルナ・ジャパン主催の「呼吸器感染症予防週間 特別啓発セミナー」が9月24日にオンラインで開催された。本セミナーでは、9月24~30日の「結核・呼吸器感染症予防週間」の一環として、迎 寛氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学分野[第二内科]教授)と参議院議員であり医師の秋野 公造氏が登壇し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、とくに高齢者にとって依然として深刻な脅威であると警鐘を鳴らした。新型コロナの5類移行から3年が経ち、社会の警戒感や関心が薄れているなか、継続的なワクチン接種と社会全体の意識向上の重要性を訴えた。隠れコロナ感染と高齢者の重症化リスク セミナーの冒頭では、迎氏が新型コロナの現状と高齢者が直面するリスクについて、最新のデータを交えながら解説した。 新型コロナが5類に移行して以降、定点報告上の感染者数は減少傾向にあるものの、入院患者数は依然として高止まりしている。神奈川県の下水疫学データによると、とくに2025年以降、定点報告数と下水中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)濃度との間に大きな乖離が生じており、下水データは市中に依然として不顕性を含む新型コロナウイルス感染者が多く存在することが示唆されている1)。迎氏は、定点報告では捉えきれていない「隠れコロナ感染者」が市中に多数存在し、その中から一定数の高齢者や基礎疾患を持つ人が重症化して入院に至っている可能性を指摘した。死因の第8位、死者の多くは高齢者 新型コロナは2023年と2024年の2年連続で、日本の死因第8位となっている。とくに深刻なのは高齢者の状況で、死亡者の97%が65歳以上、そのうち79%が80歳以上の高齢者で占められている2)。死亡者数はインフルエンザと比較して、新型コロナが約15倍であるという。こうしたデータから、迎氏は「コロナは風邪と同じ」という認識が誤りであるという見解を示した。また、新型コロナの感染拡大期には、高齢者のフレイル有病率も増加するという影響が懸念されている3)。 迎氏が所属する長崎大学病院には、この5年間で新型コロナにより1,047例が入院したという。臨床データからは、入院患者の死亡率は高齢になるほど顕著に高くなる一方で、ワクチン未接種の患者群は、接種済みの患者群に比べて、重症化する割合が明らかに高い結果となった。迎氏は、とくに高流量酸素療法が必要な患者や重症患者のうち、約4割がワクチン未接種者であったことは、ワクチンの重症化予防効果を明確に裏付けていると指摘した。 迎氏は日本が世界的にみてワクチンへの信頼度が低い傾向にあることに触れ4)、接種率が低下している現状を変えるためにも、9月24~30日の「結核・呼吸器感染症予防週間」を通じて、80歳以上の高齢者の死亡リスクやワクチン接種の重要性について啓発していきたいと述べた。「結核・呼吸器感染症予防週間」創設 続いて秋野氏が政策的な観点から、呼吸器感染症対策の現状と課題、そして今後の展望について語った。 秋野氏は、自身も創設に尽力した「結核・呼吸器感染症予防週間」について触れた。2024年度より、毎年9月24〜30日は、以前まで実施されていた「結核予防週間」が「結核・呼吸器感染症予防週間」に改められた。この期間には、インフルエンザや新型コロナなど、呼吸器感染症が例年流行する秋冬前に、呼吸器感染症に関する知識の普及啓発活動が行われる。秋野氏は、肺炎が依然として日本人の死因の上位を占める中で、秋冬の感染症シーズンを前に正しい知識を普及させることの重要性を強調した。普及啓発のシンボルとなる「黄色い縁取りのある緑色のリボン」のバッジや、啓発のためのポスターが5)、日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本化学療法学会の協力のもと作成された。ワクチン定期接種は「65歳以上一律」でよいのか 秋野氏は、現在の新型コロナワクチンの定期接種制度が「65歳以上」と一律に定められている点が課題となっていることについて言及した。先に迎氏が述べたとおり、実際の死亡リスクは80歳以上で急激に高まる。研究によると、新型コロナの重症化リスクとして、「年齢(とくに80歳以上)」、「ワクチン接種から2年以上空いていること」が重要な因子となっている6)。こうした科学的知見に基づき、リスクの特性に応じた、よりきめ細やかな制度設計が必要だと主張した。とくに死亡リスクが突出して高い80歳以上に対し、費用負担のあり方や国による接種勧奨の必要性について、改めて検討すべきだと訴えた。海外のワクチン助成のあり方 さらに秋野氏は、肺炎球菌ワクチン接種に公的補助があった自治体の接種率は全国平均よりも2倍以上高いという研究を挙げ7)、公費助成とワクチン接種率には密接な関連が考えられると述べた。また、海外の新型コロナワクチン接種支援策との比較によると、米国、英国、フランス、オーストラリアなどの国々では、高齢者に対して年2回や無償での接種といった手厚い支援が行われており、接種率も高い水準を維持している。これに対し、日本の支援は年1回の定期接種で一部自己負担であり、国の助成が縮小されれば自己負担額が1万5,000円を超える可能性もあり、これが接種率低下の一因となりかねないと指摘した。 秋野氏は、「国民の命を守るため、最新の知見に基づいた柔軟な対応が必要」とし、今後も国会で働きかけていきたいと述べた。また、今回の「結核・呼吸器感染症予防週間」を通じて、新型コロナに対する現状を国民に広く知っていただき、高齢者の命を守る対策について共に考えていきたいとして、講演を終えた。■参考文献1)AdvanSentinel. 神奈川県におけるCOVID-19流行動向の多角的分析 - 下水疫学データが示す「見えざる感染リスク」(2025年7月22日)2)厚生労働省. 人口動態調査の人口動態統計月報(概数)3)Hirose T, et al. J Nutr Health Aging. 2025;29:100495.4)de Figueiredo A, et al. Lancet. 2020;396:898-908.5)厚生労働省. 感染症対策のための普及・啓発ツール6)Miyashita N, et al. Respir Investig. 2025;63:401-404.7)Naito T, et al. J Infect Chemother. 2014;20:450-453.

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副作用編:副腎不全(irAE)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第5回

今回は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療中の「副腎不全」についてです。副腎不全はICIにより引き起こされる内分泌関連の免疫関連有害事象(irAE)の1つです。副腎不全が進行すると倦怠感、食欲不振、低血圧、低Na血症などを呈し、場合によっては急性副腎クリーゼに至ることもあります。治療機関が遠方の場合には、自宅近くのクリニックを受診するケースもあります。今回は、副腎不全で受診された際に有用な鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】65歳、男性主訴倦怠感、食欲低下病歴進行胃がんに対し、SOX+ニボルマブ療法を開始。3コース終了後より、全身倦怠感、食欲低下を自覚し、かかりつけ医(クリニック)を受診。バイタルサイン血圧 92/60mmHg、脈拍 96/分、体温 36.3℃身体所見皮膚冷感あり、軽度の脱水徴候を認める。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤治療中の倦怠感や食欲不振のほとんどが使用中の抗がん剤によるものですが、ICI使用時はさまざまなirAEを念頭におく必要があります。他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)倦怠感や食欲不振の原因服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(感染、腫瘍進行、代謝性疾患ほか)との鑑別。倦怠感以外の症状やバイタルの変動を確認。鑑別疾患とポイント画像を拡大する(2)症状からirAEを推察する(逆引きマニュアル)クリニックなど一次診療の場では、詳細な画像検査や内分泌・免疫関連の特殊検査を行うことは困難です。そのため、まず症状から「もしかするとirAEかもしれない」と推測することが大切になります。たとえば、倦怠感や食欲不振といった一見よくある症状でも、その背景に副腎不全や甲状腺のトラブルといった免疫関連の副作用が隠れていることがあります。以下の表は症状から想定されるirAEを逆引きマニュアルとして作成しました。逆引きマニュアル画像を拡大するステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。来院時は倦怠感が強く、血圧も低下傾向でした。化学療法はSOX+ニボルマブ療法をすでに3コース実施していましたが、詳しく問診すると最初の2コースはそれほどの倦怠感や食欲不振はありませんでした。わずかに冷汗もあり、血糖測定を実施したところ低値であったため、グルコースを含んだ輸液を行い、治療機関へ救急搬送を行いました。搬送先の病院で精査が行われ、下垂体前葉機能低下による副腎皮質機能低下症(irAE)と診断されました。ホルモン補充療法を実施され、現在も化学療法を継続中です。副腎皮質機能低下症患者における急性副腎不全(副腎クリーゼ)の対応急性副腎不全(副腎クリーゼ)は、副腎ホルモンが急激に不足し、放置すれば致死的となる緊急病態です。主な原因は、(1)慢性副腎不全患者に感染や外傷などのストレスが加わり、必要量が急増した場合、(2)長期ステロイド治療中の患者で不適切な減量・中止を行った場合、の2つが多いです。発症の誘因としては、とくに胃腸炎などの感染症の頻度が高く、そのような場合は通常量の1.5~3倍のヒドロコルチゾン(コートリル)の補充が必要となります。もし、コルチゾール補充療法を行っている患者が発熱などを主訴に来院した場合は、副腎クリーゼの可能性を勘案し、医療機関の指示どおり手持ちのコートリルを通常用量より多く内服したか確認を行い、直ちに治療機関へ受診もしくは連絡するよう指導いただければ幸いです。1)柳瀬 敏彦. 日本内科学会雑誌.2016;105:645-646.2)日本肺癌学会. 肺癌. 2021;61.

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PS不良の小細胞肺がん、デュルバルマブ+化学療法の有用性は?(NEJ045A)/ERS2025

 『肺癌診療ガイドライン2024年版』において、PS0~1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤/エトポシド併用療法+PD-L1阻害薬であるが1)、PS不良例での有効性・安全性は明らかになっていない。そのため、PS2ではプラチナ製剤+エトポシドまたはイリノテカン併用療法、PS3ではカルボプラチン+エトポシド療法またはsplit PE療法が標準治療とされている1)。そこで、PS2~3のED-SCLC患者を対象に、デュルバルマブ+カルボプラチン+エトポシドの有効性・安全性を検討する国内第II相単群試験「NEJ045A試験」が実施された。その結果、PSに応じて用量調節を行うことで、半数以上が導入療法を完遂し、良好な治療成績が得られた。欧州呼吸器学会(ERS Congress 2025)において、渡部 聡氏(新潟大学医歯学総合病院 呼吸器・感染症内科)が本試験の結果を報告した。なお、本結果はLancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年9月28日号に同時掲載された2)。試験デザイン:国内第II相単群試験対象:未治療のPS2~3、20歳以上のED-SCLC患者投与方法:[PS2集団]デュルバルマブ(1,500mg)+カルボプラチン(AUC4)+エトポシド(80mg/m2)を3~4週ごと4サイクル※→デュルバルマブ(1,500mg)を4週ごと(43例)[PS3集団]デュルバルマブ(1,500mg)+カルボプラチン(AUC3)+エトポシド(60mg/m2)を3~4週ごと4サイクル※→デュルバルマブ(1,500mg)を4週ごと(13例)評価項目:[主要評価項目]忍容性(4サイクルの導入療法の完遂割合)[副次評価項目]中央判定に基づく奏効割合(ORR)、全生存期間(OS)、1年OS率、無増悪生存期間(PFS)、PSの改善、安全性※:2サイクル目以降は、カルボプラチンAUC5、エトポシド100mg/m2まで増量可とした 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は、PS2が74歳(四分位範囲:69~77)、PS3が73歳(同:72~78)で、男性がそれぞれ74%、92%であった。併存疾患を有する割合はそれぞれ65%、69%であった。・主要評価項目である4サイクルの導入療法の完遂割合は、PS2が66.7%、PS3が50.0%であった。いずれも事前に規定した基準(PS2:33%、PS3:20%)を上回り、主要評価項目が達成された。・OS中央値は、PS2が11.3ヵ月、PS3が5.1ヵ月であった。1年OS率はそれぞれ50.0%、18.2%であった。・PFS中央値は、PS2が4.8ヵ月、PS3が4.6ヵ月であった。・ORRは、PS2が52.4%、PS3が45.5%であった。・PSが改善した患者の割合は、PS2が55%、PS3が46%であった。・PSの改善の有無別にみたOS中央値は、PSが改善した集団が9.2ヵ月、PSの改善がみられなかった集団が7.0ヵ月であり、両集団に有意差はみられなかった。・導入療法の完遂の有無別にみたOS中央値は、完遂集団が15.0ヵ月、未完遂集団が3.8ヵ月であり、完遂集団が良好であった(p<0.001、post-hoc解析)。・Charlson Comorbidity Index(CCI)別にみたOS中央値は、CCI=0集団が13.9ヵ月、CCI≧1集団が4.8ヵ月であり、CCI=0集団が良好であった(p=0.012、post-hoc解析)。・Grade3以上の治療関連有害事象の発現割合は93%(PS2:93%、PS3:92%)であった。G-CSF製剤の予防的投与は41%に行われたが、発熱性好中球減少症は16%(それぞれ12%、31%)に発現した。貧血は14%(それぞれ12%、23%)に発現した。 本試験結果について、渡部氏は「治療上の課題の多いPS不良の患者に対し、化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を上乗せすることを支持するものである」とまとめた。

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HER2変異陽性肺がんにゾンゲルチニブ承認/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、2025年9月19日、ゾンゲルチニブ(商品名:ヘルネクシオス)について、「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」を適応として、日本国内における製造販売承認を取得した。 本剤は、同適応症に対する分子標的薬として国内初の経口薬となる。今回の承認は、活性型HER2遺伝子変異陽性の切除不能または転移のある固形腫瘍患者を対象に、ゾンゲルチニブの単剤療法を評価した第I相非盲検用量漸増試験Beamion-LUNG-1の結果に基づくもの。 治療歴のある患者における奏効率(ORR)は71%で、完全奏効率は7%、部分奏効率は64%であり、病勢コントロール率(DCR)は96%であった。さらに、ゾンゲルチニブは治療歴のある脳転移を有する患者(n=27)で頭蓋内奏効を示し、ORRは41%、DCRは81%であった。 HER2チロシンキナーゼドメイン(TKD)変異を有する患者(n=75)において最も多く報告された有害事象はGrade1の下痢(48%)であり、治験薬との因果関係のあるGrade3以上のすべての有害事象は17%であった。

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化学療法の副作用にVRが有効か、婦人科がん患者のRCTで有効性を示唆

 婦人科がんの治療に使われる化学療法は、吐き気や気分の落ち込みなどの副作用が大きな課題となっている。今回、無作為化比較試験で、患者が没入型VRを用いることで副作用の悪化を防ぎ、制吐剤の追加を減らせる可能性が示された。研究は大阪大学大学院薬学研究科医療薬学分野の仁木一順氏、大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室の上田豊氏、中川慧氏らによるもので、詳細は「Journal of Medical Internet Research(JMIR)」に8月14日掲載された。 卵巣がんの第一選択化学療法であるパクリタキセル/カルボプラチン(TC)療法または、TC+ベバシズマブ(TC+Bev)療法は、悪心や倦怠感、筋肉痛、関節痛などの副作用を伴い、患者の不安や治療中断につながることがある。薬剤追加による副作用増加や医療費の上昇も課題であり、安全で経済的な非薬物的手段が求められている。近年、デジタルセラピューティクス(DTx)が注目される中で、VRは疼痛や不安、抑うつの軽減に有効性が示されてきたが、従来の評価は単回使用による一時的な効果に限られていた。本研究では、婦人科がんの患者に対し、TCまたはTC+Bev療法中に7日間連続でVRを用い、その持続的効果を無作為化比較試験で検証した。 対象は、大阪大学医学部附属病院の産科婦人科に入院し、TCまたはTC+Bev療法を受けている患者とした。介入群の患者は、通常の支持療法に加え、治療初日から7日間連続で、1日あたり約10分間のVRを実施した。主要評価項目は、エドモントン症状評価システム改訂版(日本語版)(ESAS-r-J)を用いて測定した身体的および精神的症状の重症度の変化量であった。副次評価項目には、追加制吐剤の使用割合、悪心に対する完全奏効(CR)率、そして日本版状態-特性不安検査(STAI)Y-1を用いた不安の重症度が含まれた。非介入群の患者は、通常の支持療法および対症療法を受けた。VRヘッドマウントディスプレイとしてOculus Go(Meta Platforms, Inc)が使用された。VRに投影されるコンテンツはWander(Parkline Interactive, LLC)、Ocean Rift(Picselica Ltd)、YouTube VR(Google LLC)など8種類が用意された。効果量0.8を有意水準5%、検出力80%で検出するために、必要最小サンプル数を1群あたり26人と算出した。さらに約10%の脱落を考慮し、最終的なサンプルサイズは各群30人、合計60人と設定した。 7日間の試験期間を完了した介入群28人、非介入群30人を解析に含めた。ESAS-r-Jスコアの1日目から7日目までの変化量について、悪心においては、介入群では4日目のみ有意に悪化した(P<0.001)が、非介入群では3日目、4日目、5日目に有意な悪化がみられた(各P<0.001、P=0.001、P=0.035)。抑うつは、介入群では1日目以外に有意な悪化は認められなかったが、非介入群では4日目に有意な悪化を示した(P=0.036)。 2日目から7日目に追加の制吐剤を使用した患者の割合は、介入群で非介入群よりも有意に低かった(P=0.02)。また、TCまたはTC+Bev療法1日目におけるSTAI Y-1(状態不安の程度)の変化については、介入群ではVR体験前の平均43.8から体験後34.8へと有意に低下した(P<0.001)のに対し、非介入群では抗がん剤投与前後で有意差は認められなかった(44.9から43.9、P=0.54)。 試験終了時(7日目)にVR体験後のアンケートを行ったところ、操作の容易さについては回答者の89.3%(25/28人)がプログラムの簡便さを支持していた。また、「同じ状況を経験している友人に自信をもってこのVRプログラムを勧められるか?」という質問に対しては、回答者の92.9%(26/28人)が「ぜひ勧めたい」「機会があれば体験させたい」などと肯定的に回答した。 本研究について、著者らは「化学療法に伴う悪心・嘔吐の予防には不安の管理が有効であることが報告されている。さらなる検討は必要ではあるが、今回の研究では、VRを用いて不安を軽減し、遅発性悪心を防ぐとともに患者に前向きな感情をもたらす新たな治療法を提示したと考える」と述べている。

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adagrasib:KRAS G12C変異陽性NSCLCに対する2次治療の新たな選択肢(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 「KRYSTAL-12試験」の結果は、KRASG12C変異陽性NSCLCに対する2次治療の新たな標準選択肢が確立した点が重要と捉えられる。従来、1次治療であるプラチナ併用化学療法+免疫チェックポイント阻害薬による治療後に病勢進行したNSCLCに対しては、ドセタキセル±ラムシルマブなどが標準的であった。しかし、本試験ではKRASG12C変異を有する集団では従来の殺細胞性抗がん剤よりも標的治療adagrasibのほうが無増悪生存期間を延長し、腫瘍縮小効果も高いことが明確に示された。安全性プロファイルの観点でも、adagrasibは経口薬である利便性や重篤な骨髄抑制などが少ない点で有利と考えられる。消化器症状や肝機能上昇といった副作用はあるものの、治療継続困難となる症例割合は少ない。実際、治療関連有害事象による中止はadagrasib群で8%にとどまり、ドセタキセル群(14%)より少ない結果であった。 脳転移への有効性という点も注目される。本試験では安定した脳転移症例を含めて登録され、adagrasib群で頭蓋内病変の縮小効果(頭蓋内奏効)が確認された。ドセタキセル群では脳転移に対する奏効率が11%に対し、adagrasib群では24%と倍以上の奏効が認められた点も評価したい。この差は、基礎データで示されていたadagrasibの中枢神経系への移行性の高さを裏付けるものと考えられる。 2025年時点で実臨床で活用されているKRAS阻害薬ソトラシブは、第III相試験である「CodeBreaK 200試験」でドセタキセルとの直接比較が行われている。この試験ではPFS中央値5.6ヵ月vs.4.5ヵ月で、ハザード比0.66(p=0.0017)と、ソトラシブの有意なPFS延長が報告されている。しかしOSに関しては有意差が出ず、ソトラシブは「生存期間の延長」を明確に証明されなかった経緯がある。 今回の「KRYSTAL-12試験」でもPFSや奏効率の改善はソトラシブと同等に良好な結果であったが、OSが未成熟である点は共通しており今後の結果が待たれる。 現時点でソトラシブとadagrasibを直接比較した試験はないが、PFSのハザード比(ソトラシブ0.66 vs.adagrasib 0.58)やORR(28%vs.32%)はおおむね近い水準であり、臨床効果は同程度であると推測する。adagrasibは1日2回投与で作用が持続的であることが考えられ、安定した効果発現や脳内移行に利点がある可能性がある。 本論文でも指摘されているが、対照群レジメンの選択としてドセタキセル単剤が選ばれた点には議論の余地がある。現在2次治療の選択肢としては、ドセタキセル+ラムシルマブの併用レジメンが広く使われている。ドセタキセル単剤に比べ生存期間の延長(中央値+1.4ヵ月)を示した実績がある。本論文では、国際汎用性の観点からドセタキセル単独を対照群としたと説明されている。また、本試験ではOSの有意差は確認できておらず、ソトラシブが使用できる現在、adagrasibが生存に寄与するかは結論が出ていない。ドライバー遺伝子全般的に言えることであるが、クロスオーバーが倫理的にも妥当な措置と考えられ、最終的なOS解析で群間差が出にくいことが予想される。患者側から考えると生存期間の延長が最も重要な指標ではあるが、PFS延長や奏効率の高さも症状緩和やQOL維持につながると考え評価すべきと私は考えている。 本論文で示された中央追跡期間は約7~9ヵ月と短いため、まだ長期生存や毒性の評価が不十分であるが、中枢神経系転移への効果や耐性獲得の問題など、今後の解析結果が期待され注目すべき薬剤であることは間違いない。

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抗菌薬の学び方【Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬】第1回

抗菌薬の学び方最近は感染症の入門書が増えてきました。新しい医学書が出るとつい買ってしまう。そんな先生方も多いのではないでしょうか。問題は、その新しく買った医学書で、抗菌薬を満足に勉強できるかどうかです。勉強はしているのに、抗菌薬を覚えるのに苦労されている先生方は結構いらっしゃるのではないかと思うわけです。では、どうしてそんなに苦労するかというと、これまでの感染症の書籍はきわめて各論的に書かれているからなのですね。言い換えるとストーリー形式になっていない。あるいは、網羅的だけれども有機的ではない。そういった問題があるわけです。では、どうすれば抗菌薬を理解できるのでしょうか。抗菌薬を理解するコツは、よく使う抗菌薬の歴史的背景などの周辺知識を知っておくことです。本連載では、いろいろと雑学を挟んで楽しみながら抗菌薬の知識を身に付けていただくことを目的としていますので、楽しみにしていてください。βラクタム系抗菌薬を優先的に学ぶ理由先ほど「よく使う抗菌薬」の歴史的背景と述べました。「よく使う抗菌薬」というのは、βラクタム系抗菌薬のことです。つまりは、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系などのことです。βラクタム系さえあれば、日常診療は大抵間に合ってしまう。だからこそ、βラクタム系を優先的に勉強してしまうわけです。では、βラクタム系以外の抗菌薬を覚える時はどうすればよいか? という疑問がもしかしたら生じるかもしれません。これは、βラクタム系を先にしっかりとインプットしたうえで、それと関連付けるようにして非βラクタム系を覚えるのがオススメです。つまり、βラクタム系が骨の知識に、非βラクタム系が肉の知識になるというわけです。このようにして覚えておくと、実臨床でも応用が利きやすいのでオススメです。具体例をお示ししましょう。化学療法を行っているなかで、発熱性好中球減少症を発症した60歳女性を例にとって考えてみます。起因菌や熱源ははっきりしませんが、緑膿菌をカバーするためにセフェピムを使っていたとします。ところが、そこに薬疹が出現します。口腔粘膜疹も出現してしまい、重症薬疹を否定できなくなってしまいます。このような時にどうしたらよいのでしょうか。ここで、レボフロキサシンをセフェピムと関連付けながらインプットしていると、レボフロキサシンと即答することができます(図1)。もちろん、別解としてアズトレオナムやアミノグリコシド系を使ったレジメンも考えられますが、今回は深入りしないでおきます。図1 βラクタム系と関連付けて覚える画像を拡大する細菌の分類ここで、抗菌薬の勉強に入る前に、少しだけ細菌の話をさせてください。医学部の授業などでは、細菌をグラム陽性球菌、グラム陽性桿菌、グラム陰性球菌、グラム陰性桿菌、細胞内寄生菌などに分類していたかと思います。ただ、これだと覚えないといけない細菌の種類が多すぎて少々辛いところです(図2)。図2 従来の細菌の分類画像を拡大するそこで、このレクチャーでは細菌を3つの分類で整理していただければと思います。グラム陽性球菌、グラム陰性桿菌、そして嫌気性菌の3つです(図3)。図3 覚えやすい細菌の分類画像を拡大するここで、嫌気性菌は偏性嫌気性菌、つまり酸素があると上手く生きられない細菌のことを指していると考えてください。どうしても分類がMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)になっていなくて気持ち悪いという方もいらっしゃるとは思いますが、その点はご容赦ください。さて、グラム陽性球菌はブドウ球菌とレンサ球菌、グラム陰性桿菌は腸内細菌目と非発酵菌、嫌気性菌は横隔膜から上のものと下のものとに大雑把に分けることができます。腸内細菌目や非発酵菌など、ややこしい言葉が出てきましたが、腸内細菌目は大腸菌やクレブシエラのこと、非発酵菌は緑膿菌のことと思っていただければ差し当たっては十分です(図4)。図4 グラム陽性球菌、グラム陰性桿菌、嫌気性菌画像を拡大するグラム陽性球菌のうち、ブドウ球菌はグラム染色で丸く見える細菌で、クラスター状に集まることで知られています。基本的には皮膚にいる細菌で、皮膚軟部組織感染症やカテーテル関連血流感染症などで問題になります(図5)。図5 ブドウ球菌画像を拡大するレンサ球菌はA群β溶血性レンサ球菌が代表的で、広い意味では肺炎球菌などもこのグループに入ります。基本的には咽頭や皮膚にいる細菌で、皮膚軟部組織感染症や肺炎・中耳炎などの上下気道感染症などで問題になります(図6)。図6 レンサ球菌画像を拡大するグラム陰性桿菌でよく見かけるのは大腸菌ですが、これは腸内細菌目に分類されます。名前のとおり、腸管内にいる細菌ですが、腹腔内感染症や尿路感染症で問題になります。腸内細菌目は形態学的には腸詰め、ウインナーのように見えることが多いです(図7)。図7 腸内細菌目画像を拡大する一方の非発酵菌は、嫌気性の環境でブドウ糖を発酵できない細菌のことで、緑膿菌が代表的です。基本的には水回りやデバイスと親和性があります。酸素があった方が生きやすい細菌なので、血液培養の時に好気ボトルだけで発育するということもよく経験します。形態学的にはチョリソーっぽく見えます(図8)。図8 非発酵菌画像を拡大する嫌気性菌は、グラム染色で見る機会が少なく、培養でも発育しにくい細菌なので、形態学的な話は割愛させていただこうと思います。横隔膜から上の嫌気性菌は口腔内にいる細菌で、フソバクテリウム属やパルビモナス属などが該当しますが、これらは細かいのでまったく覚えていただかなくて構いません。横隔膜から下の嫌気性菌は腸管内の細菌です。こちらもあまり覚えなくてよいのですが、ひとつだけ、余裕があればバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)という名前だけ覚えていただければと思います。基本的にこのレクチャーで横隔膜から下の嫌気性菌というときは、バクテロイデス・フラジリスを指しているものとお考えください。腸内細菌目? 腸内細菌科?ここまで、基本的な内容を解説してきました。余力がある人向けに、ちょっとだけマニアックなお話もさせてください。先ほど、腸内細菌目と述べましたが「腸内細菌科の間違いでは?」と思った先生方も多いのではないかと思います。じつは遺伝子レベルでの分析が進むことで、それまで腸内細菌科だった細菌の一部が、腸内細菌科から外れてしまうという出来事がありました。具体的にはプロテウス属などの細菌などが該当するのですが、今後の議論を進めていくうえでは不都合ということで、腸内細菌科ではなく腸内細菌目という言葉を使いました。感染症の勉強の厄介なところは、こういった細かい知識のアップデートが頻繁に行われるところにあるのですが、この連載では全体像を見失わないようにやっていきたいと思います。まとめ第1回をまとめていきます。抗菌薬を覚えるにはβラクタム系から攻めるのが鉄則です。非βラクタム系はその後に肉付けする形で覚えましょう。また、細菌については、グラム陽性球菌、グラム陰性桿菌、嫌気性菌の3つに分類して、それ以外については各論的に補足していくスタンスで臨むと分かりやすいです。次回は、タイムマシンに乗ってペニシリンG誕生の瞬間を見に行こうと思います。歴史を見ていると、ペニシリン系のスペクトラムの成り立ちがよくわかりますので、楽しみにしていてください。

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デュルバルマブの非小細胞肺がんおよび膀胱がん周術期療法、国内承認/AZ

 アストラゼネカは、2025年9月19日、デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)について、「非小細胞肺癌における術前・術後補助療法」および「膀胱癌における術前・術後補助療法」を効能又は効果として厚生労働省より承認を取得したと発表。非小細胞肺がんの承認 非小細胞肺がん(NSCLC)の承認は第III相AEGEAN試験の結果に基づくもの。AEGEAN試験は、切除可能なStage IIAからIIIB(AJCC第8版)NSCLCに対する周術期治療としてのデュルバルマブをPD-L1発現の有無を問わずに評価する第III相無作為化二重盲検プラセボ対照国際多施設共同試験。中間解析において、デュルバルマブベースの周術期レジメン群は術前補助化学療法単独群と比較して、再発・進行または死亡イベント発現リスクを32%低下させ、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある結果が認められた(無イベント生存期間[EFS] ハザード比[HR]:0.68、95%信頼区間[CI]:0.53~0.88、p=0.003902)。 日本ではNSCLCのうち20%〜25%は根治目的の手術が可能という報告もある。しかし、これら患者の多くは再発し、診断後 5 年生存率は、Stage IIで56〜65%、IIIで24〜41%とされ、新たな治療選択肢が求められてきた。膀胱がんの承認 膀胱がんの承認は第III相NIAGARA試験の結果に基づくもの。NIAGARA試験は筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)に対する周術期治療薬としてのデュルバルマブを評価する第III相国際多施設共同無作為化非盲検試験。中間解析において、デュルバルマブベースの周術期レジメン群は術前補助化学療法単独群に対して、病勢進行、再発、手術未施行、または死亡のリスクを32%統計学的に有意に低下させた(EFS HR:0.68、95%CI:0.558~0.817、p<0.0001)。 2020年に日本で膀胱がんと診断された患者は2万3,185例で、9,168例が死亡している。MIBCは新たに診断された膀胱がんの25~30%を占める。MIBCでは根治手術が行われているにもかかわらず、現在の標準治療である術前補助化学療法を受けた患者のうち約50%が術後に再発を経験している。非小細胞肺がんにおける術前・術後補助療法の用法及び用量 術前補助療法では、他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人にはデュルバルマブ(遺伝子組換え)として、1回1,500mgを3週間間隔で4回まで、60分間以上かけて点滴静注する。その後、術後補助療法では、デュルバルマブ(遺伝子組換え)として、1回1,500mgを4週間間隔で12回まで、60分間以上かけて点滴静注する。ただし、体重30kg以下の場合の1回投与量は20mg/kg(体重)とする。膀胱がんにおける術前・術後補助療法の用法及び用量 術前補助療法では、ゲムシタビン塩酸塩及びシスプラチンとの併用において、通常、成人にはデュルバルマブ(遺伝子組換え)として、1回1,500mgを3週間間隔で4回まで、60分間以上かけて点滴静注する。その後、術後補助療法では、デュルバルマブ(遺伝子組換え)として、1回1,500mgを4週間間隔で8回まで、60分間以上かけて点滴静注する。ただし、体重30kg以下の場合の1回投与量は20mg/kg(体重)とする。

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タルラタマブ、サイトカイン放出症候群の警告追記/厚労省

 タルラタマブについて、サイトカイン放出症候群が生じて死亡に至った症例が3例(うち、医薬品と事象による死亡との因果関係が否定できない症例は1例)報告されていることを受け、厚生労働省は2025年9月17日に添付文書の改訂指示を発出し、「警告」の項に追記がなされた1)。 改訂後の警告の記載は以下のとおり(下線部が変更箇所)。1. 警告1.1 本剤は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の使用が適切と判断される症例についてのみ投与すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。1.2 重度のサイトカイン放出症候群及び神経学的事象(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群を含む)があらわれることがあり、サイトカイン放出症候群では死亡に至った例も報告されているので、本剤の投与にあたっては、以下の事項に注意すること。1.2.1 特に治療初期は入院管理等の適切な体制下で本剤の投与を行うこと。1.2.2 重度のサイトカイン放出症候群があらわれることがあるので、サイトカイン放出症候群に対する前投与薬の投与等の予防的措置を行うとともに、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、製造販売業者が提供するサイトカイン放出症候群管理ガイダンス等に従い、適切な処置を行うこと。1.2.3 重度の神経学的事象(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群を含む)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、製造販売業者が提供する免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群管理ガイダンス等に従い、適切な処置を行うこと。 なお、サイトカイン放出症候群として報告された国内副作用症例が2025年8月15日時点で268例集積し(推定使用患者数848例)、うちGrade3が8例、Grade4が1例、転帰死亡が3例報告されていることを受け、アムジェンは「適正使用のお願い『サイトカイン放出症候群』について(第2版)」を発出した2)。投与中のモニタリング、サイトカイン放出症候群に対する対処に関して、サイトカイン放出症候群管理ガイダンスに従ってサイトカイン放出症候群の症状(体温、血圧、パルスオキシメトリー等)を定期的に確認すること、症状発現後は副腎皮質ホルモン(デキサメタゾン)、トシリズマブ(遺伝子組換え)の投与を検討すべきことが注意喚起されている。

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EGFR陽性NSCLCへの術前オシメルチニブ、ctDNAによるMRD解析(NeoADAURA)/WCLC2025

 切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)における治療選択肢として術前補助療法があるが、EGFR遺伝子変異陽性例では病理学的奏効(MPR)がみられる割合が低い。そこで、術前補助療法としてのオシメルチニブ±化学療法の有用性を検討する国際共同第III相試験「NeoADAURA試験」が実施されており、オシメルチニブ+化学療法、オシメルチニブ単剤は化学療法と比べてMPRを改善したことが、2025年6月に報告された1)。新たに、事前に規定された探索的解析として循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いた分子的残存病変(Molecular Residual Disease:MRD)の解析が実施され、世界肺がん学会(WCLC2025)において、米国・カリフォルニア大学のCollin M. Blakely氏が解析結果を報告した。超高感度ctDNA検出アッセイ(NeXT Personal)は、従来のEGFR遺伝子変異検査に基づくMRD解析よりも感度が高く、オシメルチニブ±化学療法はMRDクリアランス(ctDNAがベースラインから10倍以上低下または非検出と定義)やMRD陰性を達成する患者の割合を改善した。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:EGFR遺伝子変異(exon19欠失変異またはL858R変異)陽性の切除可能なStageII~IIIB(AJCC第8版)のNSCLC患者・試験群1(オシメルチニブ+化学療法群):オシメルチニブ(80mg、1日1回、9週以上)+カルボプラチン(AUC5、3週ごと3サイクル)またはシスプラチン(75mg/m2、3週ごと3サイクル)+ペメトレキセド(500mg/m2、3週ごと3サイクル)→手術→医師選択治療 121例・試験群2(オシメルチニブ単剤群):オシメルチニブ(同上)→手術→医師選択治療 117例・対照群(化学療法群):カルボプラチンまたはシスプラチン+ペメトレキセド(いずれの薬剤も同上)→手術→医師選択治療 120例・評価項目:[主要評価項目]MPR[副次評価項目]無イベント生存期間(EFS)など[探索的評価項目]ベースライン時のMRDとEFSの関係、術前のMRDとMPRの関係、術前のMRDクリアランスとMPRの関係など 今回は、MRD解析が行われた集団(189例)の結果が報告された。主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の血漿サンプルでMRD陽性の割合は、cobas EGFR Mutation Test v2が30%であったのに対し、NeXT Personalが71%であった(以降はNeXT Personalに基づくデータを示す)。・ベースライン時にMRD陽性の集団は、StageIIIの割合が多く、腫瘍径が大きく、リンパ節転移が多かった。・対照群も含めた全群の併合解析において、ベースライン時のMRDの有無別にEFSをみると、MRD陰性の集団はMRD陽性の集団と比べてEFSが良好であった(ハザード比:0.24、95%信頼区間:0.07~0.80)。・ベースライン時にMRD陽性であり、術前のMRD解析でMRDクリアランスを達成した患者の割合は、オシメルチニブ+化学療法群83%、オシメルチニブ単剤群84%、化学療法群58%であった。・MRDクリアランスの有無別にみたMPRは、クリアランス達成の集団が24%、クリアランス未達成の集団が6%であり、クリアランス達成の集団が良好であった(p=0.0378)。・術前のMRD解析でMRD陰性の割合は、オシメルチニブ+化学療法群77%、オシメルチニブ単剤群77%、化学療法群53%であった。・MRDの有無別にみたMPRは、MRD陰性の集団が20%、MRD陽性の集団が9%であった(p=0.0546)。 本試験結果について、Blakely氏は「MPRを補完する指標としてMRDが有用である可能性を示すとともに、EGFR遺伝子変異陽性の切除可能NSCLC患者に対して、オシメルチニブを含むレジメンで術前療法を行うことを支持するものであった」とまとめた。

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