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「緩和ケア」はがん診療を行う上で重要な役割を担っています。とくにがん患者の約70%が痛みを経験するといわれており、がん疼痛管理においてオピオイドは欠かせない薬剤です。しかし、治療経過の中で痛みの原因そのものが軽減した場合や、全身状態の変化により薬剤の代謝や排泄が変化した場合には、オピオイドが過量となることがあります。オピオイド使用中の患者さんやご家族から、「眠気が強い」「様子がいつもと違う」といった相談が、かかりつけ医に寄せられることも少なくありません。このような場面で、「外来での対応にとどめてよいのか」「病院への相談や紹介が必要なのか」と判断に迷うことも多いと思います。今回は、オピオイド過量が疑われる場面における評価のポイントと対応について、症例を通して整理します。【症例1】70歳、男性主訴悪心、嘔吐、眠気病歴進行胃がん(StageIV)に対して緩和的化学療法を実施中。初診時より心窩部痛を自覚しており、オキシコドンを使用していた。1ヵ月前のCTで原発巣の縮小を指摘されていた。1週前から日中も寝て過ごすことが多くなり、悪心のため食事摂取量も低下していた。昨日より嘔吐も出現したため、家族に連れられてかかvりつけ医(クリニック)を受診。診察所見呼吸数12回/分、瞳孔2.5mm/2.5mm、眠気が強い様子ではあるが、意思疎通は問題なく可能。発熱なし、腹部圧痛なし、心窩部の持続痛なし、腸蠕動音正常、食事摂取割合3割程度。排便は毎日あり、普通便。内服ロキソプロフェン60mg 3錠 分3、アセトアミノフェン500mg 3錠 分3、オキシコドン徐放錠60mg/日、オキシコドン散10mg/回(最近は使用せず)【症例2】58歳、女性主訴尿量減少、傾眠病歴進行直腸がん術後再発に対して緩和的化学療法を実施中。以前から骨盤内病変による臀部痛、肛門部痛があり、モルヒネ製剤を使用していた。3日前からストマ排泄量が増加し、口渇感と尿量減少を自覚していた。本日朝より傾眠傾向となり、「声をかけたら返答はあるがすぐに寝入ってしまう」と家族がかかりつけ医(クリニック)に相談。診察所見話しかけると覚醒し、短文での簡単なコミュニケーションは可能だが、刺激がなくなるとすぐに入眠する。呼吸数8回/分、瞳孔1.5mm/1.5mm。抗がん剤10日前にイリノテカンを含む治療を実施。内服ロキソプロフェン60mg 3錠 分3、モルヒネ徐放性剤120mg/日、モルヒネ速放性製剤ステップ1 オピオイド過量徴候の評価オピオイド過量となりやすい状況オピオイド過量は、必ずしも増量時に起こるわけではありません。外来で評価する際には、まず過量となりやすい背景がないかを整理しておくことが重要です。不適切なベース設定疼痛評価が十分でないまま増量が続いている場合全身状態の変化脱水、肝機能障害、腎機能障害により、オピオイドの代謝・排泄が低下している場合痛みの大きな変化がん治療や神経ブロックなどにより、痛みが大幅に軽減した場合代謝産物の蓄積腎機能障害がある、または急激に進行した場合(オピオイド代謝産物が蓄積しやすい)このような状況がある場合には、「投与量が変わっていない」ことだけで過量を否定しないことが重要です。必ず確認したい3つのポイントオピオイド過量を疑う際には、以下の3点を必ず確認します。(1)眠気(傾眠)眠気が強くなっていないか、呼びかけへの反応が鈍くなっていないかを確認します。刺激がなくなるとすぐに入眠してしまう場合は注意が必要です。家族からの「最近よく寝ている」「反応が遅い」といった訴えは重要なサインになります。(2)呼吸抑制呼吸数は必ず実測します。呼吸数の低下は、オピオイド過量を示唆する最も重要な所見の1つです。短時間でも数えて確認することが望まれます。(3)縮瞳縮瞳はオピオイド過量の典型的な所見です。他の症状と併せて評価することで、判断の助けになります。上記に加えて、他のオピオイド関連副作用(悪心・嘔吐、便秘、せん妄など)が悪化していないかも確認します。これらの副作用が目立ってきている場合も、過量を疑うきっかけとなります。ステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。症例1の場合、画像上で原発巣の縮小が確認されており、レスキュー薬の使用もないことから、痛みの原因そのものが軽減している可能性があり、相対的オピオイド過量が疑われます。眠気や悪心といった所見はみられるものの、意思疎通は可能で呼吸数も保たれており、急速な悪化は認められていません。このような場合には、外来での対応が可能です。対応としては、オピオイドの漸減を行います(表1)。表1 オピオイドの減量方法画像を拡大するオピオイド退薬症候(表2)の出現を避けるため、急激な減量は避け、症状を確認しながら慎重に調整することが重要です。減量後は、数日以内の再診や電話でのフォローを行い、痛みの再燃や副作用、退薬徴候の出現がないかを確認します。経過の中で判断に迷う場合には、病院側と情報を共有しながら対応することで、安全に調整を進めることができます。表2 オピオイド退薬症候画像を拡大する症例2の場合、傾眠の進行と呼吸数の低下が認められ、オピオイド過量による中枢神経抑制が強く疑われます。加えて、下痢による脱水や尿量減少を背景に、腎機能障害が急速に進行している可能性があり、短時間で状態が悪化するリスクが高い状況です。このような場合には、外来での減量や経過観察にとどまらず、速やかに病院へ相談・紹介することが適切です。呼吸抑制や意識障害が進行している可能性があるため、ナロキソンによる拮抗や注射製剤への切り替えを含めた速やかなオピオイド用量調整が必要となることがあり、病院での対応が望まれます。外来では、オピオイドを大きく調整する判断は避け、呼吸数や意識状態、脱水や尿量減少といった背景因子を整理したうえで、病院側に情報を共有します。早期に連携することで、重篤化を防ぐことが重要です。まとめオピオイド過量は、増量時だけでなく、痛みの軽減や全身状態の変化をきっかけに生じることがあります。外来では、まず眠気(傾眠)、呼吸数、縮瞳の3点を確認し、急な変化がないかを評価することが重要です。状態が安定している場合には、かかりつけ医での慎重な減量や経過観察が可能な一方、呼吸抑制や意識障害を伴う場合には、外来で完結させず速やかに病院へ相談する判断が求められます。日常診療での気付きを共有しながら連携して対応することが、安全ながん疼痛管理につながります。1)Isaac T, et al. Pain Res Manag. 2012;17:347-352.2)Snijders RAH, et al. Cancers(Basel). 2023;15:591.3)World Health Organization. WHO guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents. Geneva: World Health Organization;2018.4)日本緩和医療学会編. がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版. 金原出版;2020.講師紹介