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レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年1回の総会は、今年も米国イリノイ州のシカゴで行われ、2025年は5月30日から6月3日まで行われた。昨今の円安(5月30日時点で1ドル=143円台)および物価高は現地参加に対するモチベーションを半減させるほどの勢いであり、今年もOn-lineでの参加を選択した。泌尿器腫瘍の演題は、Oral abstract session 18(前立腺9、腎4、膀胱5)、Rapid oral abstract session18(前立腺8、腎4、膀胱5、陰茎1)、Poster session 221で構成されており、昨年と比べて多くポスターに選抜されていた。毎年の目玉であるPlenary sessionは、Practice changingな演題が5演題選出されるが、昨年に引き続き今年も泌尿器カテゴリーからは選出がなかった。Practice changingな演題ではなかったが、他領域に先駆けてエビデンスを創出した免疫チェックポイント阻害薬関連の研究の最終成績が公表されたり、新規治療の可能性を感じさせる報告が多数ありディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral abstract session 前立腺#LBA5006 相同組み換え修復遺伝子(HRR)変異を有する去勢感受性前立腺がんに対するニラパリブ+アビラテロン、rPFSを延長(AMPLITUDE試験)Phase 3 AMPLITUDE trial: Niraparib and abiraterone acetate plus prednisone for metastatic castration-sensitive prostate cancer patients with alterations in homologous recombination repair genes.Gerhardt Attard, Cancer Institute, University College London, London, United Kingdomニラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)-1/2の選択性が高く強力な阻害薬であり、日本では卵巣がんで使用されている。HRR遺伝子変異を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)ではMAGNITUDE試験で、ニラパリブ+アビラテロン+prednisone併用(Nira+AP)による画像上の無増悪生存期間(rPFS)の延長が示されている。ASCO2025において、HRR遺伝子変異を有する転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)に対するNira+AP療法の有効性を検証したAMPLITUDE試験(NCT04497844)の結果が報告された。この試験のHRR遺伝子変異の定義は、BRCA1、BRCA2、BRIP1、CDK12、CHEK2、FANCA、PALB2、RAD51B、RAD54Lの生殖細胞系列または体細胞変異が含まれていた。患者はアビラテロン1,000mg+prednisone 5mgに加えて、ニラパリブ200mgあるいはプラセボを内服する2群にランダム化され、主要評価項目はrPFS、副次評価項目に症候性進行までの期間、全生存期間(OS)、安全性などが設定されていた。ランダム化された696例のうち、BRCA1/2変異は55.6%、High volume症例は78%であった。追跡期間中央値30.8ヵ月時点のrPFS中央値はNira+AP群で未到達、プラセボ+AP群で29.5ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.63、95%信頼区間(CI):0.49~0.80、p=0.0001であった。BRCA1/2変異群でもHR=0.52(95%CI:0.37~0.72)、p<0.0001であった。OSは中間解析であるがHR=0.79(95%CI:0.59~1.04)、p=0.10と報告された。重篤な有害事象は、Nira+AP群で75.2%、プラセボ+AP群で58.9%であり、非血液毒性では貧血(29.1%vs.4.6%)、高血圧(26.5%vs.18.4%)が多く、治療中止割合はそれぞれ11.0%と6.9%であった。AMPLITUDE試験は、HRR遺伝子を有する症例に絞って実施した第III相ランダム化比較試験で、mHSPCにおいてもNira+AP併用療法はrPFSを有意に改善し、OSにおいても良好な傾向を示した。日本は本試験に参加しておらず、Nira+AP療法が保険適用を取得する可能性はないが、同じくmHSPCを対象に実施中のTALAPRO-3試験(タラゾパリブ+エンザルタミドvs.プラセボ+エンザルタミド)の結果に期待が広がる内容であった。#5003 転移性前立腺がんにおけるPTEN遺伝子不活化はADT+DTX治療の効果予測因子(STAMPEDE試験付随研究)Transcriptome classification of PTEN inactivation to predict survival benefit from docetaxel at start of androgen deprivation therapy (ADT) for metastatic prostate cancer: An ancillary study of the STAMPEDE trials.Emily Grist, University College London Cancer Institute, London, United Kingdomドセタキセル(DTX)は転移性の前立腺がんに対して有効な治療法であるが、その効果が得られる症例にはばらつきがある。STAMPEDE試験のプロトコルに参加し(2005年10月〜2014年1月)ADT単独vs.ADT+DTX±ゾレドロン酸またはADT単独vs.ADT+アビラテロン(Abi)に1:1でランダム化された転移性前立腺がん患者の腫瘍サンプルを用いて、全トランスクリプトームデータによりPTENの不活化が治療アウトカムに与える影響を検討した報告である。PTENの不活化は、既報のスコアリング手法(Liuら, JCI, 2021)に基づいて定義された(活性あり:スコア≦0.3、活性なし:スコア>0.3)。また、Decipherスコアは高リスク>0.8、低リスク≦0.8と定義した。Cox比例ハザードモデルを用い、治療割り付けとPTEN活性との交互作用を評価し、年齢、WHO PS、ADT前PSA、Gleasonスコア、Tステージ、Nステージ(N0/N1)、転移量(CHAARTED定義によるHigh volume/ Low volume)で調整した。主要評価項目はOSであり仮説の検定には部分尤度比検定を用いた。全トランスクリプトームプロファイルを832例の転移性前立腺がん患者から取得し、これは試験全体の転移性前立腺がんコホート(n=2,224)と代表性に差はなかった。PTEN不活性腫瘍は419例(50%)に認められ、PTEN mRNAスコアの分布はHigh volumeとLow volumeで差はなかった(p=0.310)。ADT+Abi群(n=182)では、PTEN不活性はOS短縮と有意に関連(HR=1.56、95%CI:1.06~2.31)し、ADT+DTX群(n=279)では、有意な差は認められなかった(HR=0.93、95%CI:0.70~1.24)。PTEN不活化とDTX感受性は有意な交互作用(p=0.002)があり、PTEN不活性腫瘍ではDTX追加により死亡リスクが43%低下(HR=0.57、95%CI:0.42~0.76)し、PTEN活性腫瘍では有意差なし(HR=1.05、95%CI:0.77~1.43)であった。この傾向は転移量にかかわらず一貫しており、Low volume患者(n=244)ではPTEN不活性:HR=0.53、PTEN活性:HR=0.82、High volume患者(n=295)ではPTEN不活性:HR=0.59、PTEN活性:HR=1.23であった。一方、アビラテロン群ではPTENの状態によらず治療効果は一定であり、PTEN不活性:HR=0.52、PTEN活性:HR=0.55(p=0.784)であった。また、PTEN不活性かつDecipher高リスク腫瘍にDTXを追加した場合、死亡リスクが45%低下(HR=0.55、99%CI:0.34~0.89)と推定された。このバイオマーカーの併用による層別化は、ADT+アビラテロン+ドセタキセルの3剤併用療法の適応を検討する際の指標として今後の臨床応用が期待されると演者は締めくくった。日本ではmHSPCへのupfront DTXはダロルタミドとの併用に限られるが、PTEN遺伝子に注目した戦略が重要と考えられ、ますます診断時からの遺伝子パネル検査の保険償還が待たれる状況となってきた。Oral abstract session 腎/膀胱#4507 VHL病関連悪性腫瘍におけるベルズチファンの長期効果 (LITESPARK-004試験)Hypoxia-inducible factor-2α(HIF-2α)inhibitor belzutifan in von Hippel-Lindau(VHL)disease-associated neoplasms: 5-year follow-up of the phase 2 LITESPARK-004 study.Vivek Narayan, Hospital of the University of Pennsylvania, Philadelphia, PAHIF-2α阻害薬のベルズチファンは、VHL病に関連する腎細胞がん(RCC)、中枢神経血管芽腫、膵神経内分泌腫瘍(pNET)を対象に、即時の手術が不要な症例に対して治療薬として日本でも2025年6月に承認された。これは、非盲検第II相試験のLITESPARK-004試験(NCT03401788)の結果に基づくものであるが、ASCO2025では5年以上の追跡期間を経た最新の結果が報告された。対象は以下を満たす症例であった:生殖細胞系列のVHL遺伝子異常を有する測定可能なRCCを1つ以上有する即時の手術が必要な3 cm超の腫瘍なし全身治療歴なし転移なしPS 0~1治療はベルズチファン120mgを1日1回経口投与で、病勢進行、不耐容、または患者自身の希望による中止まで継続された。主要評価項目は、VHL病関連RCCにおける奏効率(ORR)であった。追跡期間中央値は61.8ヵ月、ベルズチファンの投与を受けた61例中35例(57%)が治療継続中であった。ORRは、RCCで70%、中枢性神経血管芽腫で50%、pNETで90%、網膜血管芽腫(18眼/14例)では100%の眼において眼科的評価で改善を確認。奏効期間中央値は未到達(範囲:8.5~61.0ヵ月)であった。重篤な治療関連有害事象は11例(18%)に認められた。最も多かった貧血はAny gradeで93%、Grade 3以上で13%と報告された。そのマネジメントとしてエリスロポエチン製剤(ESA)のみを使用したのは11例(18%)、輸血のみは2例(3%)、ESAと輸血を用いたのは5例(8%)であり、その他の治療が39例(64%)で選択されていた。5年間の追跡後も、ベルズチファンは持続的な抗腫瘍効果と管理可能な安全性プロファイルが報告され、多数の患者が治療を継続していた。即時手術を要しないVHL病関連のRCC、中枢神経血管芽腫、pNET患者において有用な治療選択肢であり、今後われわれも使いこなさなければいけない薬剤である。Rapid Oral abstract session 腎/膀胱#4518 MIBCに対する術前サシツズマブ ゴビテカン+ペムブロリズマブ併用療法と効果に応じた膀胱温存療法(SURE-02試験)First results of SURE-02: A phase 2 study of neoadjuvant sacituzumab govitecan (SG) plus pembrolizumab (Pembro), followed by response-adapted bladder sparing and adjuvant pembro, in patients with muscle-invasive bladder cancer (MIBC).Andrea Necchi,Department of Medical Oncology, IRCCS San Raffaele Hospital,Vita-Salute San Raffaele University, Milan, Italy筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の標準治療は、術前化学療法を伴う膀胱全摘除術(RC)である。術前ペムブロリズマブ(Pem)やサシツズマブ ゴビテカン(SG)の単剤療法は、それぞれPURE-01試験およびSURE-01試験においてMIBCに対する有効性を示している。SURE-02試験(NCT05535218)は、術前SG+Pem併用療法および術後Pemを用いた第II相試験であり、臨床的奏効に応じた膀胱温存の可能性も含んでいる。ASCO2025ではその中間解析の結果が報告された。cT2~T4N0M0のMIBCと病理診断され、化学療法の適応がない、もしくは化学療法を拒否し、RC予定の患者を対象に、Pem 200mgをDay1に、SG 7.5mg/kgをDay1およびDay8に3週間間隔で4サイクル投与した。手術後はPemを3週間間隔で13サイクル投与した。臨床的完全奏効(cCR)を達成した患者(MRI陰性かつ再TUR-BTでviableな腫瘍が検出されない[ypT0]症例)については、RCの代わりに再TUR-BTが許容され、その後Pem 13サイクルを投与した。主要評価項目はcCR割合で、閾値30%、期待値45%としてα=0.10、β=0.20で検出するための症例数は48例と設定された。2段階デザインであり、1段階目を23例で評価し、cCR7例以上であれば2段階目に進む計画であった。ASCO2025では、SURE-02試験の中間報告がなされた。2023年10月~2025年1月までに40例が治療を受け、31例が有効性評価対象となった。cCR割合は12例(38.7%)、95%CI:21.8~57.8であり、全員が再TUR-BTを施行された。ypT≦1N0-x割合は16例(51.6%)であった。重篤な有害事象は4例(12.9%)で、SGの投与中止2例、1週間の投与延期1例があったが、SGの減量は不要であった。23例でトランスクリプトーム解析が行われ、病理学的完全奏効(ypT0)について、Luminal腫瘍では非Luminal腫瘍に比べてypT0率が高かった(73%vs.25%、p=0.04)。Lund分類においては、ゲノム不安定型では67%、尿路上皮型では57%、基底/扁平上皮型では20%、神経内分泌型では0%であった。間質シグネチャーが高い症例では非ypT0である割合が高く(p=0.004)、一方でTrop2(p=0.15)およびTOP1(p=0.79)の発現はypT0との関連を示さなかった。周術期におけるSG+Pembro療法は、良好なcCR率と許容可能な安全性プロファイルを示し、約40%の症例で膀胱温存が可能であった。本試験において、このまま主要評価項目を達成するかどうかは現時点で期待値以下であるため少し不安はあり、また得られる結果も決して確定的なものではない。しかしながら、中間報告の時点で膀胱温存の可能性を40%の症例で達成していることは非常に興味深い内容であった。今後、検証的な第III相試験においても膀胱温存が重要なアウトカムとして設定され、再発や死亡といった腫瘍学的に重要なアウトカムを損なわない結果が達成できる日が訪れることを期待したい。