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第117回 非小細胞肺がんにおける新たな治療「TTフィールド:腫瘍治療電場療法」とは?非小細胞肺がん(NSCLC)の治療は目覚ましい進歩を遂げているが、まだ多くの課題が残る。このような背景の中、2025年に承認された腫瘍治療電場(TTフィールド)療法「オプチューンルア」が、新たな治療モダリティとして注目されている。オプチューンルアの作用機序、臨床試験結果、使用方法についてノボキュア株式会社代表取締役の小谷 秀仁氏に聞いた。TTフィールドの主な2つの作用――TTフィールドの作用メカニズムについて教えてくださいTTフィールドは、tumor -treating field、腫瘍治療電場を指すものです。電場とは何か?と疑問をいただく先生方も多くおられると思います。私たちは地球の重力や磁場に引っ張られて生活しています。電場もこれと同様のもので、プラスとマイナスの電荷の間に起きる力です。私たちは痛みも痒みも感じないまま電場と共に生活しています。ヒトの細胞のタンパク質は、プラス・マイナスの電荷を帯びています。通常、細胞は電場の中で安定しているのですが、プラスとマイナスが絶えず入れ替わる交流電場が両脇に存在すると不安定になります。TTフィールドは、この交流電場をがん治療に応用したものです。TTフィールド抗がん作用は主に2つと考えられます。1つは直接作用としての有糸分裂阻害です。細胞分裂にはチューブリンの重合が必要ですが、この重合はプラスとマイナス電荷の作用で起こります。そこに交流電場があると重合が阻害されることで細胞分裂が阻害され、細胞のアポトーシスが誘導されます。画像を拡大する株式会社ノボキュア提供もう1つは間接作用としての免疫原性細胞死による全身的な抗腫瘍効果です。直接作用によってアポトーシスを起こします。いわゆるdamps(damage-associated molecular patterns、ダメージ関連分子パターン)状態になるため異物とみなされ、活性化した全身的な抗腫瘍免疫により免疫原性細胞死に至らされます。つまり、電場が作用している部位(インフィールド)だけでなく、離れた部位(アウトフィールド)においても抗腫瘍効果を示すことで、原発巣のみならず転移巣への効果も期待されています。この2つ以外にもさまざまなメカニズムが考えられますが、現在研究中です。――正常細胞には影響しないとお聞きしていますが。これには2つの理由があります。1つは腫瘍細胞と正常細胞で電場に対する最適な周波数が異なることです。今回の肺がん細胞では150kHz、脳腫瘍細胞では200kHzで、治療もそれの周波数で設定されています。一方、正常細胞が最も影響を受ける周波数は、それよりかなり低く、この違いによって腫瘍細胞への選択性が生じます。もう1つは細胞分裂の強さによる選択性です。TTフィールドは有糸分裂阻害によって細胞分裂を阻害するため、急速に分裂する腫瘍細胞に選択性がより高くなります。正常細胞への影響が少ないこともあり、膠芽腫、膵臓がん、NSCLCの臨床試験における機器関連の有害事象としてはアレイ(電極)貼付による接触皮膚炎が主なもので、そのほとんどがGrade 1、2でした1,2,3)。――肺がんにおけるTTフィールド開発の背景について教えてください。ノボキュア社には、難治性がん患者さんのために最善を尽くすというミッションがあります。TTフィールドでは、肺がん以外にも、膠芽腫、膵がん、中皮腫という予後不良ながんの治療応用に取り組んでいます。肺がん治療においては、2000年以降に多くの抗がん剤が上市され、多くの患者さんを助けたと思います。とくに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は非常に画期的で、肺がん治療を大きく変えました。ただし、ICI後の2次治療については新たな選択肢が出てきていないという実態があります。そこで非小細胞肺がん(NSCLC)のプラチナ含有化学療法後の2次治療に対して、TTフィールド「オプチューンルア」の開発を行いました。ICIの有効性をさらに向上させた肺がん試験の結果――NSCLCの2次治療ではLUNAR試験3)が行われています。主要結果はどのようなものでしたか?LUNAR試験は国際多施設共同非盲検第III相試験です。プラチナ含有化学療法またはICIで進行したステージIVのNSCLCを対象に、オプチューンルアとICIまたはドセタキセルとの併用療法と、ICIまたはドセタキセルの単独療法を比較しました。組み入れ患者数は291例です。当初は倍の症例数を計画していたのですが、中間解析の時点で独立データモニタリング委員会の勧告で、組み入れ数を約半数に、観察期間も短縮して試験を終了しています。本試験の結果、全体集団(ITT集団)における全生存期間(OS)中央値は、標準治療群(単独群)が9.9ヵ月であったのに対し、オプチューンルア併用群は13.2ヵ月と、3.3ヵ月の有意な延長が認められました(p=0.035)。とくにICI併用においては、オプチューンルア併用群で19.0ヵ月、ICI単独群では10.8ヵ月と、併用群でさらに大きなOS延長効果が示されています(p=0.02)。ドセタキセル併用においては、オプチューンルア併用群で11.1ヵ月、ドセタキセル単独群では8.7ヵ月で、統計的な有意差は証明されませんでしたが(p=0.28)、併用群で良好な傾向が示されています。※※オプチューンルアの日本国内での適応はICI併用のみ――オプチューンルアの有効性はICIとの併用群でとくに良好ですが、この結果は抗腫瘍免疫の活性化によるものでしょうか?膠芽腫に対するペムブロリズマブとの併用における研究でもLUNAR試験と同様の結果が出ています4)※。ICIは非常に有効性の高い薬であるにもかかわらず、LUNAR試験においてはオプチューンルアの併用でOSを10.8ヵ月から19.0ヵ月と倍近く延長しています。このことからも、腫瘍免疫を活性化する作用が強い可能性はあると思っております。※新規膠芽腫患者におけるTTフィールド(TTF)+テモゾロミド(TMZ)+ペムブロリズマブ(PEM)の第II相2-THE-TOP試験において、TTF+TMZ群(ヒストリカルコントロール)に比べ、TTF+TMZ+PEM群でPFS(p=0.00261)及びOS(p=0.0477)が有意に改善した。悪性度の高い病態に希望をもたらす新たな治療選択肢――オプチューンルアの使用方法について教えていただけますか。同キットの使用に際しては、トランスデューサーアレイ(電極)とTTフィールドジェネレーター(TTフィールド発生器)を用います。アレイをコードでTTフィールドジェネレーターに接続します。肺がん患者さんの場合、右胸、左背中、左胸、右背中の4枚のアレイを90度交差した2つのペアとして貼付し、胸部全体に電場を形成します。なぜ2つのペアが必要なのかと聞かれるのですが、がん細胞には向き(極性)があるため、なるべく多くの細胞を腫瘍電場の中で捉えていくために、90°に交差した2つのペアを使っています。治療は1日18時間以上を推奨しております。――18時間以上装着とのことですが、連続していなくてもよいのでしょうか?治療効果を最大限に引き出すための推奨ですので、連続していなくても問題ありません。オプチューンルアの効果発現のカットオフ値は1日平均12時間(使用時間率月間平均50%)以上ですが、膠芽腫では長く使うほど抗腫瘍効果が強くなることが確認されています。アレイの電源はコンセントからも携帯用のバッテリーからもとれますので、家でも外出先でも使用できます。お風呂に入る時には剥がして、お風呂から出たら新しいアレイを貼っていただいたり、自宅にいる時に使って外出する時は外したり、患者さんの生活に合わせて適用していただければと思います。画像を拡大する株式会社ノボキュア提供――先生方にメッセージをお願いします。和泉市立総合医療センターの光冨 徹哉先生から、LUNAR試験の結果について、コメントいただいております。「オプチューンルアが進行NSCLCの患者さんに対し、重大な副作用を伴うことなく全生存期間を改善し、大きな恩恵をもたらすことが示されました。同機器が厚生労働省に承認されたことにより、この悪性度の高い疾患に新たな治療選択肢を提供し、希望をもたらすことができました」というものです。先生方へのメッセージとしては、この言葉が最も適していると思っています。患者さんの受け取り方もユニークで「自分が治療に積極的に関与しているという感覚を得られる」という感想をいただきます。先生方におかれましては、適正使用のもと、この新しい治療選択肢を患者さんのためにご活用いただければ幸いです。※TTフィールド療法としては2015年3月15日に再発膠芽腫、2016年12月20日に初発膠芽腫にNovoTTF-100Aシステム(ブランド名:オプチューンジオ)が承認され、本年(2025年)9月12日に「白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法で増悪が認められた切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんと診断された成人患者」に対しPD-1/PD-L1阻害剤との併用でオプチューンルアが承認された。参考1)Stupp R, et al.JAMA.2017;318:2306-2316.2)Babiker HM, et al. J Clin Oncol.2025;43:2350-2360.3)Leal T, at al. Lancet Oncol.2023;24:1002-1017.4)Chen D, et al. Med.2025;6:100708.5)オプチューンルア承認プレスリリース(株式会社ノボキュア)