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正常体重者も非アルコール性脂肪肝に注意!

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を含む生活習慣病における介入は、過体重および肥満者にフォーカスしていたため、正常体重者のNAFLD発症における成人期の体重増加の影響は明らかになっていない。 聖路加国際病院附属クリニック・予防医療センターの木村 武志氏らによる横断的研究の結果、NAFLDが20歳以降の体重変化と強く関連し、この影響は正常体重の人でとくに大きかったことが報告された。この結果から、正常体重の健康な人でも早期および長期的な体重モニタリングが重要であることが示唆された。Journal of gastroenterology and hepatology誌オンライン版2014年12月3日号に掲載。 著者らは、健康診断を受けた参加者からデータを収集し、超音波診断によるNAFLD有病率を、20歳以降の体重変化1kg刻みで調査した。相対リスク(RR)は、現在の体重(正常、過体重、肥満)によって層別化し、男女別に算出した。ロジスティック回帰を用いて、潜在的な交絡因子を調整したオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・2万1,496人の参加者のうち、NAFLDが3,498例(16.3%)にみられた。・20歳以降の体重増加に伴いNAFLDの有病率が増加した。10.1~11.0kg増加した群では、男性で41.6%、女性で24.8%がNAFLDであった。・四分位による多変量解析により、体重増加が男性および女性のNAFLDリスクと有意に関連していることが示された。・体重変化(10kg増ごと)に伴うNAFLDのリスクは、過体重および肥満の参加者に比べて、正常体重の参加者で有意に高かった。正常体重 男性:OR 7.53(95%CI 4.99~11.36)     女性:OR 12.20(95%CI 7.45~19.98)過体重  男性:OR 1.61(95%CI 0.91~2.85)     女性:OR 2.90(95%CI 0.99~8.54)肥満   男性:OR 4.0(95%CI 2.97~5.39)     女性:OR 2.68(95%CI 2.00~3.60)

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女性は男性より有害な心血管代謝プロファイルを示す―日本の糖尿病患者

 日本人の糖尿病患者は、男性よりも女性のほうが有害な心血管代謝プロファイルを示すことが、兵庫医科大学の若林 一郎氏による研究で明らかになった。日本の糖尿病女性は、男性よりも腹部肥満、高脈圧、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、メタボリックシンドロームの有病率が高いという。Journal of women's health誌オンライン版2014年11月14日号の報告。 糖尿病患者の心血管疾患リスクの性差に関する研究は、主に欧米で行われており、日本人を含むアジア人を対象とした報告は限られている。 そのため、本研究では、日本の地域住民の健康診断データベースから糖尿病患者1,707例を抽出して横断研究を行い、心血管代謝リスク因子を男女で比較した。男性1,138例、女性569例で男女比を2:1とし、年齢を一致させて検討を行った(男女とも53.8±7.4歳)。 主な結果は以下のとおり。・女性のウエスト・身長比は男性と比較し、有意に高かった。・BMIは男女で有意な差を認めなかった。・女性の拡張期血圧は、男性と比較し、有意に低かった。・女性の脈圧は、男性と比較し、有意に高かった。・収縮期血圧は、男女で有意な差を認めなかった。・女性のLDLコレステロールは、男性と比較し、有意に高かった。・女性のトリグリセリド(対数変換)は、男性と比較し、有意に低かった。・女性の脂肪蓄積量(対数変換)は、男性と比較し、有意に高かった。・女性の腹部肥満のオッズ比は2.00 であった(vs 男性、95%CI: 1.48~2.69)。・女性の高脈圧のオッズ比は1.48であった(vs 男性、95%CI: 1.15~1.91)。・女性の高LDLコレステロール血症のオッズ比は、1.48であった(vs 男性、95%CI: 1.13~1.92)。・女性の低HDLコレステロール血症のオッズ比は、1.77であった(vs 男性、95% CI: 1.32~2.37)。・女性のメタボリックシンドローム(IDF基準)のオッズ比は、1.68であった(vs 男性、95%CI: 1.28~2.21)。

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アリスミアのツボ Q13

Q13たまたま見つかった無症候性の発作性心房細動はどう対処するべきでしょうか?脳梗塞予防のみを行い、心房細動はまずその行方を観察するに留めておきます。最近よく見かけるたまたま健診で捕まった発作性心房細動社会の高齢化のためでしょうか、最近よく出会うのが・・・、健康診断の心電図で偶然見つかった心房細動で受診を促されたものの、受診時には洞調律だったという例です。自然に洞調律に復しているので、発作性心房細動です。しかし、本人につぶさに問診しても、まったく症状らしきものがなく(健康診断を受けたぐらいですから、そうでしょう)、定義上「無症候性発作性心房細動」で、私の前にいるときは洞調律という患者です。まずは脳梗塞リスクを考える発作性心房細動でも、持続性・永続性と同じように脳梗塞が生じることが知られています。だから、まず、脳梗塞予防を脳梗塞リスクに応じて行うことが基本となります。なんとなく、一度健康診断だけで偶然見つかった無症候性発作なのに、脳梗塞予防まで必要?と感じてしまうのですが・・・。心臓血管研究所では、無症候性発作性心房細動の行方を追ってみたことがあります。このような無症候性発作性心房細動は、症状のある発作性心房細動よりもむしろ速いスピードで持続性心房細動に移行していたのです。「たまたま見つかった」無症候の発作性心房細動だからといって、症状のある発作性心房細動となんら大きな違いはありません。実際、脳梗塞の発症リスクは、無症候性と有症候性で違いはありませんでした。見つかったときが脳梗塞リスクを患者に伝えるチャンスなのです。その心房細動の行方は・・・無症候ですから、発作の頻度や持続時間はとうてい知ることができません。状況がわからないのに、心房細動の治療を行ったとしても、その治療効果の判定ができません。判定できないからこそ、心房細動自身に対する治療は行わず、経過観察することにしています。やがて、いつの日か持続性心房細動に移行するでしょう。そのときが治療のチャンスです。少し遅れ気味になってしまいますが、治療の効果も判定することが初めてできるようになります。私は、持続性心房細動に移行して1年以内が、カテーテルアブレーションという治療を行う価値のある最初のそして最後の猶予期間だと患者に伝えています。 

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アリスミアのツボ 第3回

Q7症状のない上室・心室期外収縮は、どの程度まで経過観察すべきでしょうか。心機能が正常ならば経過観察しない、という考え方ではどうでしょうか。私は基本的に心機能が正常である限り、期外収縮の経過観察をしていません。これには異論や反論があるかもしれません。心房期外収縮の場合「心房期外収縮の頻発は、放置するとやがて無症状の心房細動に発展してしまうのではないか?」という不安。これはそのとおりだと思います。しかし、問題はその発生確率だと思うのです。一見健康者で、心房期外収縮頻発が見られた例での心房細動の発生確率は、年間約1.5%とされています。これをどう見るか……人によって異なるかもしれません。心房期外収縮例をすべて経過観察しようとするのは、間違いではないのですが効率性に劣る気がします。これを行うための外来診療の時間があれば、もっと有意義な(もっと重篤な疾患をもつ患者のケアに)使えばよいのではないでしょうか。もちろん例外があります。心原性脳梗塞のようだけれども心房細動が見つかっていない患者、心房細動がひとたびもし生じてしまえば脳梗塞のリスクがきわめて高いという患者では、心房期外収縮の頻発を経過観察する価値が高まるでしょう。ただし、これらの患者の経過観察としての適切な方法はまだ誰も知りません。心室期外収縮の場合「心室期外収縮の頻発は、やがて心機能低下を引き起こしてしまうのではないか?」という不安。これもその可能性はあると思います。ただし、どのような発生確率が見込めるのかという確かな数字がない以上、そして基本的に予後はよいという情報がある以上、効率性という意味で経過観察の価値が低いと感じてしまうのです。脳梗塞とは異なり、心機能低下はirreversibleではありません。健康診断をきちんと受けることを指導する、というような経過観察でもよいのではないでしょうか。Q8発作性心房細動に対する抗不整脈薬の用い方について教えてください。安全性重視という考え方で、患者の意向次第で減量や中止も随時可能専門家の現場での用い方「抗不整脈薬の使い方がわからない。ガイドラインや教科書と、循環器内科医の実臨床での使い方がかなり違う気がする」というご意見もありました。抗不整脈薬は諸刃の剣と言われることから、どうしても経験則が幅を利かせているのが実情です。ESCの心房細動ガイドラインで書かれていることESCの心房細動ガイドラインにはこの抗不整脈薬の使い方の原則が書かれているので、それを引用しておきましょう。1)抗不整脈薬治療は症状を軽減する目的で行うものである2)抗不整脈薬で洞調律を維持する効果は“modest”である3)抗不整脈薬治療は心房細動の再発をなくすものでなく、減らすことで臨床的には成功と考えるべきだろう4)1つの抗不整脈薬が効果のない場合、他の抗不整脈薬が効果を示すことがあるかもしれない5)抗不整脈薬による新たな不整脈の出現、心外性副作用はしばしば生じる6)抗不整脈薬の選別は効果よりもまず安全性を指針とすべきである私の使い方私の臨床現場での用い方はこれを基本にしています。たとえば、抗不整脈薬をいつ始めて、いつ中止するのかについての一定の見解はないのですが、患者が心房細動の症状で困っている時に開始し(1参照)、その際あらかじめ発作が完全に消失するものではないことを伝え(2、3参照)、症状が軽くなればいつでも薬物の減量をトライし、症状に困らなくなればいつでも中止をトライする(6参照)、ということを基本にしています。もちろん、減量や中止によって患者が困るようになれば、また再開することはたびたびです(むしろ、そのほうが多いかもしれません)。ただ、これを行うことで患者が薬物の効果を実感してくれることもアドヒアランスを高めると思っています。Q9NOACをどのように開始すべきでしょうか?ワルファリン時代とまったく異なる抗凝固療法のやり方を会得する必要がありますワルファリン時代に染みついた慣習心房細動の脳卒中予防には抗凝固療法が必要です。抗凝固療法の仕方…これについては、あまりにもワルファリンを使用してきた歴史が長く、ワルファリン時代のやり方が身に染みついてしまっていることを私自身が痛感しました。そこで、ワルファリン時代とは異なるNOACによる抗凝固療法の私のやり方をまとめておきます。1)心房細動初診患者では(脳卒中の一次予防ならば)その日のうちに抗凝固療法を始めない。ワルファリン時代は初診患者で脳卒中予防の説明をして、ワルファリン1.5~2mg/dayをその日から開始していました。しかし、NOACでは危なっかしくてできないですね。初診日は、脳卒中に関する啓蒙、年齢、体重の把握、血清Cr、Hbの採血をするだけにしています。クリアチニンクリアランスを把握してから抗凝固療法はするものと考え、次の外来から(つまりクレアチニンクリアランスが手に入ってから)NOACを処方します。次回の外来までに脳卒中になってしまうのでは……と不安に思う方がおられるかもしれませんが、所詮ワルファリン時代も初診時に処方する少量のワルファリン量ではそもそも効いていませんでした。NOACを初診日に処方すると禁忌症例に処方してしまう可能性があり、こちらのほうが危険でしょう。また、貧血のある患者にNOACを処方するのも危険です。今まさに、じわじわとどこからか出血しているのかもしれないからです。2)2週間以内の出血に関する問診とHbのチェックを忘れないワルファリン時代はゆっくりと抗凝固がなされ、しかもPT-INRによる処方量決定のためたびたび外来受診が行われるので、出血のケアは自然になされやすい環境にありました。しかし、長期処方が可能なNOACは大出血直前の気付きの機会を減らしています。そこで、私は、NOAC処方時には必ず2週間以内に受診してもらい、皮下出血、タール便の有無を聞き、必ずHbをチェックすることにしています。2週間でHbが明らかに減少していれば、どこからか出血していることになるからです。逆にHb値に変化がなければ安心できます。3)バイオマーカーはどうする?ワルファリン時代のPT-INRというモニタリングはなくなりました。では何もチェックしていないかというと、私は、ダビガトランではaPTT、リバーロキサバンとアピキサバンではPTをチェックしています。固定用量の薬物では必ず効きすぎの患者が、わずかといえども存在しているからです。ただし、これはモニタリングではありません。処方後2週間以内の外来で、Hbと一緒にバイオマーカーを一度採血するのです。バイオマーカーについては「あまり見かけないほど高い値である」ことがなければ、それで良しとしています。その後の採血ですが、クレアチニンクリアランスを高齢者では年に4回程度、若年者では年に1、2回チェックしますが、それと同時にこれらのバイオマーカーもチェックしています。NOACのバイオマーカーはモニタリングではなく、あくまでもチェックにすぎないのです。

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座り仕事の15%が腰痛持ち、その発症要因とは

 腰痛は重要な公衆衛生問題であり、労災補償や医療費の点で大きな経済的負担となっている。北里大学の井上 玄氏らの調査によれば、腰痛発症のリスク因子として知られる座位を、長時間強いられる座作業労働者における最近の腰痛有病率は15%で、その発症には、腰痛既往歴や体重などが関与していたことを報告した。結果を踏まえて著者は、「本報告は、職場における腰痛発症の潜在的なリスク因子についての情報を提供するものである」とまとめている。Journal of Orthopaedic Science誌オンライン版2014年9月8日号の掲載報告。 研究グループは、電子機器製造会社の座作業労働者を対象に、腰痛の有病率を調査し、腰痛発症のリスク因子を分析する目的で前向き横断研究を行った。 直近1週間で48時間以上持続する腰痛の有病率を調査するとともに、毎年の健康診断から人口統計学的特性およびリスク因子に関するデータを収集し、腰痛を有する労働者についてはローランド・モリス障害質問票(RDQ)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・全座作業労働者1,329例中、201例(15.1%)が腰痛を有していた。・女性では、体重およびBMIがRDQスコアと有意な相関を認めた。・単変量解析の結果、男性、腰痛既往歴、身長170cm以上、体重70kg以上が腰痛の有意なリスク因子として同定された。・多変量ロジスティック回帰分析では、腰痛既往歴、腰椎の手術歴が腰痛の有意なリスク因子であった。

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残業時間と高血圧は逆相関~日本の横断研究

 長時間労働は、心血管疾患リスクの増加と関連しているが高血圧との関係は不明である。J-ECOH(Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health)スタディグループの今井 鉄平氏らは、日本の大規模企業研究データを使用して、残業と高血圧の関係を横断研究により検討した。その結果、残業時間と高血圧は逆相関することが示唆された。Chronobiology International誌オンライン版2014年9月17日号に掲載。 参加者は、健康診断データと自己報告の残業データがある4社の労働者5万2,365人。収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上、または降圧薬服用者(もしくはその両方)を高血圧と定義した。ロジスティック回帰分析を用いて、残業時間によるカテゴリ(月間45時間未満、45~79時間、80~99時間、100時間以上)別に高血圧のオッズ比(年齢・性別・会社・喫煙状態・BMIを調整)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・高血圧の有病率は残業時間の増加に伴って減少する傾向があった(残業時間の少ないカテゴリから順に17.5%、12.0%、11.1%、9.1%)。・年齢、性別、会社の調整オッズ比(95%信頼区間)は、それぞれ1.00(基準)、0.81(0.75~0.86)、0.73(0.62~0.86)、0.58(0.44~0.76)であった(線形傾向のp<0.001)。・サブコホートにおいて、この逆相関は、他の潜在的な交絡因子を追加調整後も統計的に有意であった。

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食べる速さはメタボと関連~日本の横断的研究

 国立国際医療研究センターの長濱 さつ絵氏らは、日本人における食べる速度とメタボリックシンドロームとの関連性を横断的研究で調査した。その結果、食べる速度がメタボリックシンドロームと関連し、この関連は主に、食べる速度による体重の違いで説明されることが示唆された。著者らは「食べる速度を遅くすることで肥満やメタボリックシンドロームを予防できるかどうか、さらなる研究が必要」としている。BMJ Open誌2014年9月5日号に掲載。 著者らは、2011年に国内の健康管理センターの健康診断を受け、冠動脈心疾患や脳卒中の既往がない5万6,865人(男性4万1,820人、女性1万5,045人)について、食べる速度(自己申告による)とメタボリックシンドロームおよびその要素について調査した。なお、メタボリックシンドロームは、国際糖尿病連合および米国心臓協会/米国国立心肺血液研究所の共同暫定声明に基づいて定義した。 主な結果は以下のとおり。・多重ロジスティック回帰モデルでは、食べる速度はメタボリックシンドロームと有意な正相関を示した。・男性における多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は、食べる速度が「遅い」「普通」「速い」の順に、0.70(0.62~0.79)、1.00(基準)、1.61(1.53~1.70)であった(傾向のp<0.001)。女性では、0.74(0.60~0.91)、1.00(基準)、1.27(1.13~1.43)であった(傾向のp<0.001)。・メタボリックシンドロームの要素のうち、腹部肥満が食べる速度と最も強い関連を示した。・食べる速度とメタボリックシンドロームおよびその要素との関連性は、BMIによる調整後に大きく減衰した。しかし、「遅い」と高血圧(男女とも)および高血糖(男性)での低オッズ、「速い」と脂質異常(男性)での高オッズとの関連については、統計的に有意なままであった。

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13種類のがんを1回の採血で診断―次世代のがん診断システム開発プロジェクト始動

 8月18日(月)、独立行政法人国立がん研究センター(東京都中央区)は、血液から乳がんや大腸がんなど13種類のがんを診断するシステムの開発を始めると発表した。 これは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、国立がん研究センター(以下、NCC)、東レ株式会社(以下、東レ)およびアカデミア、企業など他の7機関とともに、健康診断などで簡便にがんや認知症を検査できる世界最先端の診断機器・検査システムの開発を行うプロジェクトの一環である。計画では、患者への負担が小さく、より早期に一度にさまざまながんを診断できる技術の開発を支援することを目的としている。 血液検査によるがんの早期発見では、胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫の13種をターゲットにしている。 具体的には、NCCに蓄積された膨大な臨床情報とバイオバンクの検体、マイクロRNA腫瘍マーカーについての研究成果を基盤とし、東レが開発した高感度DNAチップと、東レとNCCが共同開発した血液中に存在するマイクロRNAバイオマーカーの革新的な探索方法を活用して、体液中のマイクロRNAの発現状態についてのデータベースを構築、網羅的に解析するというもの。 この測定技術により、がんや認知症の早期発見マーカーを見出し、これらのマーカーを検出するバイオツールを世界に先駆け実用化することを目指すとしている。詳細はプレスリリースへ

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胸のしこりに対し触診や精密検査を行わず肝臓がんを見逃したケース

消化器最終判決判例時報 1610号101-105頁概要狭心症の診断で近医内科に約5年間通院していた74歳の女性。血液検査では大きな異常はみられなかったが、胸のしこりに気付き担当医師に相談したところ、劔状突起であると説明され腹部は触診されなかった。最終診察日に血液検査で肝臓疾患の疑いがもたれたが、その後別の病院を受診して多発性肝腫瘍と診断され、約4ヵ月後に肝腎症候群で死亡した。詳細な経過患者情報1981年4月20日~1994年3月14日まで、狭心症の診断で内科医院に月2回通院していた74歳女性。通院期間中の血液検査データは以下の通り(赤字が正常範囲外)■通院期間中の血液検査データ経過1994年2月24日担当医師に対し、胸にしこりがあることを訴えたが、劔状突起と説明され腹部の診察はなかった。3月10日市町村の補助による健康診断を実施。高血圧境界領域、高脂血症、肝疾患(疑いを含む)および貧血(疑いを含む)として、「要指導」と判断した。1994年3月14日健康診断の結果説明。この時腹部の診察なし(精密検査が必要であると説明したが、検査日は指定せず、それ以降の通院もなし)。3月22日別の病院で検査を受けた結果、肝機能異常および悪性腫瘍を示す数値が出た(詳細不明)。1994年4月1日さらに別医院で診察を受けた結果、触診によって肝臓が腫大していることや上腹部に腫瘤があることがわかり、肝腫瘍の疑いと診断され、総合病院を紹介された。4月4日A総合病院消化器内科で多発性肝腫瘍と診断された。4月7日A総合病院へ入院。高齢であることから積極的治療は不可能とされた。5月6日B病院で診察を受け、それ以後同病院に通院した。5月22日発熱、食欲低下のためB病院に入院した。次第に黄疸が増強し、心窩部痛などの苦痛除去を行ったものの状態が悪化した。7月27日肝内胆管がんを原因とする肝腎症候群で死亡した。当事者の主張患者側(原告)の主張診察の際に実施された血液検査において異常な結果が出たり、肝臓疾患ないしは、肝臓がんの症状の訴え(本件では胸のしこり)があったときには、それを疑い、腹部エコー検査や腫瘍マーカー(AFP検査)などの精密検査を実施すべき注意義務があり、また、エコー検査の設備がない場合には、同設備を有するほかの医療機関を紹介すべき義務がある。担当医師がこれらの義務を怠ったために死亡し、延命利益を侵害され、肝臓がんの適切な治療を受けて治癒する機会と可能性を失った。病院側(被告)の主張当時、肝臓疾患や肝臓がんを疑わせるような症状も主訴もなく、血液検査でも異常が認められなかったから、AFP検査をしたり、エコー検査の設備のあるほかの医療機関を紹介しなかった。患者が気にしていた胸のしこりは、劔状突起のことであった。また、最後の血液検査の結果に基づき、「要指導」と判断してAFP検査を含む精密検査を予定したが、患者が来院しなかった。仮に原告主張の各注意義務違反であったとしても、救命は不可能で、本件と同じ経過を辿ったはずであるから、注意義務違反と死亡という結果との間には因果関係はない。裁判所の判断通院開始から1994年3月10日までの間に、血液検査で一部基準値の範囲外のものもあるが、肝臓疾患ないし肝臓がんを疑わせるような兆候および訴えがあったとは認められない。しかし、1994年3月14日の時点では、肝臓疾患ないし肝臓がんを疑い、ただちに触診などを行い、精密検査を行うか転医させるなどの措置を採るべきであった。精密検査の約束をしたとのことだが、検査の日付を指定しなかったこと自体不自然であるし、次回検査をするといえば次の日に来院するはずであるのに、それ以降の受診はなかった。ただし、これらの措置を怠った注意義務違反はあるものの、死亡および延命利益の侵害との間には因果関係は認められない。患者は1981年以来5年間にわたって、担当医師を主治医として信頼し、通院を続けていたにもかかわらず、適時適切な診療を受ける機会を奪われたことによって精神的苦痛を受けた。1,500万円の請求に対し、150万円の支払命令考察外来診療において、長期通院加療を必要とする疾患は数多くあります。たとえば高血圧症の患者さんには、血圧測定、脈の性状のチェック、聴診などが行われ、その他、血液検査、胸部X線撮影、心電図、心エコーなどの検査を適宜施行し、その患者さんに適した内服薬が処方されることになります。しかし、患者さんの方から腹部症状の訴えがない限り、あえて定期的に腹部を触診したり、胃カメラなど消化器系の検査を実施したりすることはないように思います。本件では、狭心症にて外来通院中の患者さんが、血液検査において軽度の肝機能異常を呈した場合、どの時点で肝臓の精査を行うべきであったかという点が問題となりました。裁判所はこの点について、健康診断による「要指導」の際にはただちに精査を促す必要があったものの、検査を実施しなかったことに対しては死亡との因果関係はないと判断しました。多忙な外来診療では、とかく観察中の主な疾患にのみ意識が集中しがちであり、それ以外のことは患者任せであることが多いと思います。一方、患者の側は定期的な通院により、全身すべてを診察され、異常をチェックされているから心配ないという思いが常にあるのではないでしょうか。本件でも裁判所はこの点に着目し、長年通院していたにもかかわらず、命に関わる病気を適切に診断してもらえなかった精神的苦痛に対して、期待権侵害(慰藉料)を認めました。しかし実際のところ、外来通院の患者さんにそこまで要求されるとしたら、満足のいく外来診療をこなすことは相当難しくなるのではないでしょうか。本件以降の判例でも、同じく期待権侵害に対する慰藉料の支払いを命じた判決が散見されますが、一方で過失はあっても死亡との因果関係がない例において慰謝料を認めないという判決も出ており、司法の判断もケースバイケースといえます。別の見方をすると、本件では患者さんから「胸のしこり」という肝臓病を疑う申告があったにもかかわらず、内科診察の基本である「腹部の触診」を行わなかったことが問題視されたように思います。もしその時に丁寧に患者さんを診察し(おそらく腹部の腫瘤が確認されたはずです)、すぐさま検査を行って総合病院に紹介状を作成するところまでたどり着いていたのなら、「がんをみつけてくれた良い先生」となっていたかもしれません。今更ながら、患者さんの訴えに耳を傾けるという姿勢が、大切であることを実感しました。消化器

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アディポネクチンは肺機能低下の予測因子:高畠研究

 血漿アディポネクチンは一般集団においてFEV1低下の予測因子となることが山形大学医学部内科学第一講座の佐藤 建人氏らが報告した。International Journal of Medical Sciences誌2014年5月21日号の掲載報告。 アディポネクチンは抗炎症、心保護のサイトカインである。しかしながら、いくつかの研究では、血漿アディポネクチンレベルはCOPD患者における肺機能と逆相関の関係にあることが示されており、これはアディポネクチンが炎症促進や肺組織の破壊を示唆していると考えられる。しかしながら、現在のところアディポネクチンが肺機能低下の有用な予測因子であるかどうかは定かではない。 本研究の目的は、毎年地域行われている健康診断に参加した日本人を対象にアディポネクチンと肺機能の関係を調べることである。対象は2004年~2006年の間に山形県東置賜郡高畠町で行われた地域の健康診断に参加した40歳以上の3,253人である。スパイロメトリーにより肺機能を、血液検査により血漿アディポネクチンの値を測定した。2011年にスパイロメトリーを再び実施し、縦断的に分析が可能であったのは872人(男性405人、女性467人)であった。 主な結果は以下のとおり。 血漿アディポネクチンの値は・男性、女性とも年齢、BMI、ALT、TG、HDL-cと有意な関連が認められた。・男性においてのみ、長期的な喫煙曝露の指標であるブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)と関連が認められた。・男性、女性とも1秒率(FEV1/FVC)と負の相関関係が認められた。・男性、女性ともFEV1の経年変化とアディポネクチンレベルとの間に負の相関関係が認められた。 上記の関連性は重回帰分析後においても、年齢、BMI、ブリンクマン指数、ALT、TG、HDL-cのような他の交絡因子とは独立していることが明らかになった。

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慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療に明るい兆しか

 バイエル薬品株式会社は2014年6月10日(火)、都内にて「バイエル・PHプレスセミナー」を開催した。セミナーでは久留米大学医学部内科学講座心臓・血管内科部門の福本 義弘氏、NPO法人「PAHの会」の村上 紀子氏が講演した。 久留米大学医学部の福本 義弘氏は、CTEPHの疾患と治療について紹介した。CTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)は、肺高血圧症の一種で、肺血管の血栓により徐々に肺動脈圧が上昇し、右心不全を来す疾患である。エコノミー症候群などの急性肺血栓塞栓症から数%の割合で慢性化に移行する。本邦における発症率は年間0.5~0.8人/100万人、男性に比べ女性に、年齢は50~70歳代に多い。まれな疾患ではあるものの、診断率の向上により患者数は急激に増加している。 CTEPHの予後は不良で、東北大学のデータでは、平均年齢55歳の患者が60歳となる5年経過後も生存する例は約半数だという。患者の自覚症状は労作時の息切れであるが、診断には右心カテーテルが必要であり、健康診断でのスクリーニングは困難。よって、発見が遅れることも少なくなかった。 治療は、不要な血栓を摘出する血栓内膜摘除術(PEA)が行われ良好な成績を収めているものの、手術非適応例が40%ある。一方、近年は右心カテーテルを通し塞栓部位をバルーンで拡張するカテーテル治療も良好な成績を収めている。しかしながら、末梢血管病変、血管の破綻による吐血などの問題点もあり、手術、カテーテル治療に加え、薬物療法も必要であった。 そのようななか、2014年4月、バイエル薬品からアデムパス錠(一般名:リオシグアト)が発売された。可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬である本剤は、NO(一酸化窒素)経路に介入し、血管拡張作用を発揮する。国際的な第III相無作為化二重盲検比較試験であるCHEST-1および2の中間解析では、6分間歩行距離の有意な改善をはじめ、心肺血行動態、疾患関連バイオマーカーなどの改善がみられた。 次に、NPO法人PAHの会の村上紀子氏が、患者会の立場から初めての承認薬への期待について述べた。CTEPHは診断できる疾患になったこと、さらに、今まで在宅酸素主体だった治療に、同薬剤が加わったことは患者・家族にとって非常に心強い、としたうえで「CTEPHは早期発見早期治療が重要であり、この機会に疾患について広く知ってほしい」と結んだ。

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肝炎「検査無料」「高い治癒率」「医療費助成」認知度高めて

 2014年4月23日(水)、ヤンセンファーマ株式会社主催の「肝炎の検査・治療、医療現場の現状に関するメディアセミナー」が開催された。まず、同社政府機関・医療政策 日本担当のブルース J. エルズワース氏より、全国1万5,000人を対象とした肝炎ウイルスについての全国意識調査の結果が発表された。本調査は、日本における肝炎ウイルス検査率の向上、抗ウイルス療法の普及、医療費助成の認知を促進することを目的として行われたものであり、その結果、日本におけるウイルス検査率の低さ、早期治療による完治率や治療費助成についての認知度の低さなどが浮き彫りになった。 その後、武蔵野赤十字病院 副院長の泉 並木氏、広島大学の田中 純子氏よりC型肝炎の現状や治療について語られ、「最近の治療は、短期間で高い治癒率が見込め、医療費助成も受けられる。積極的に肝炎ウイルス検査を受け、陽性であればすぐに治療を始めてほしい」と訴えた。日本の肝がん死亡者を減らしたい 日本には、B型およびC型肝炎ウイルスの患者・感染者は370万人いると推定されている(B型肝炎:約110~140万人/C型肝炎:約190~230万人)。また、日本における肝がん死亡者数は、2010年時点で約3.3万人であり、その約80%はC型肝炎ウイルス、約10%はB型肝炎ウイルスの持続感染に起因しているという。C型肝炎の感染予防対策として、2002年から全国の地方自治体で無料検診が行われ、一定の成果が上がっているものの、自身の感染に気づいていないと考えられる感染者は約80万人と推定されている。B型肝炎の対策としては、1986年からB型肝炎キャリアの妊婦から生まれる新生児へのワクチン接種が開始され、キャリア率が0.04%にまで低下したものの、依然として課題が残されている。肝炎の検査率、治療率に影響を与える要素とは このような状況のもと、日本における疾患や検査、治療などの認識の実態を把握し、肝炎ウイルス検査の受検率や肝炎ウイルスの治療率に影響を与える要素を探ることを目的として、同社は2013年11月15日から20日まで、一般国民1万5,003人を対象としたインターネット調査を行った。対象者の構成は、日本全国および都道府県レベルにおいて性別、年齢(20代、30代、40代、50代、60歳以上)の項目で代表性が保たれるように設計された。検査を受けたことがない53%、受けたが自覚なし23% 調査した1万5,003人のうち、53%が肝炎ウイルス検査を受けたことがないと回答した。検査を受けていない主な理由は、「とくに理由なし」、「自分は感染していないと思うから」、「定期健康診断や人間ドックの検査項目に入っていないから」とのことであった。また、23%は外科手術や出産などの際に肝炎ウイルス検査を受けたと考えられるが、受検の自覚がなく、関心の低さが浮き彫りになった。肝炎ウイルス検査を受けていない人に聞いた、受けてみたいと思うきっかけとしては、「無料検査の知らせが送られてきたら」、「定期健康診断や人間ドックのついでに検査できれば」といった意見が多かった。肝炎の治療費、治療期間、治癒率に対する不安がある 肝炎の治療を積極的に受けるようになるきっかけとしては、「治療費の個人負担額が安い」、「仕事や家事を休まずに治療ができる」、「治療により完治する確率が高い」といった項目を選んだ人が多かった。また、肝炎の治療が格段に進歩し、完治する確率が高くなっていることについて、76%もの人が認識していなかった。さらに、肝炎治療費の公費補助制度の存在を認知していない人は90%にのぼった。検査が無料であることを知らない 行政の取り組みとして、肝炎ウイルス検査を無料実施していることに関する認知度はわずか13%であった。しかし、無料検査の周知や啓発活動、肝炎ウイルスに関する国民の正しい理解の促進に向けた取り組み、感染が疑われる人に対するフォローアップについては、80%以上がとても重要であると回答した。まとめ 日本の肝がん死亡者を減らすには、まず、肝炎ウイルス検査の受検率を向上させなければならない。とはいえ、「自分には関係ない」と考える人が多いなか、関心を高めるのは難しい。やはり、定期健診の際に検査が受けられるようになると、状況は大きく変わるのではないだろうか。もちろん、検査の結果、感染が判明した場合は、自覚症状がなくても必ず医療機関を受診することが重要である。現在の肝炎治療は大きく進歩し、短期間で高い治癒率が見込めるうえ、公費補助制度もある。「高い治療費は払えない」、「副作用も心配だし、長い間治療しても完治しないのでは?」といった懸念を持ち、治療をためらっている人がいたら、ぜひ、助言していただきたい。関連記事 2013年11月にC型肝炎治療ガイドラインが大幅改訂―新薬登場で

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心臓カテーテル検査によって脳血管障害を来し死亡したケース

循環器最終判決判例タイムズ 824号183-197頁概要胸痛の精査目的で心臓カテーテル検査が行われた61歳男性。検査中に250を超える血圧上昇、意識障害がみられたため、ニトログリセリン、ニフェジピン(商品名:アダラート)などを投与しながら検査を続行した。検査後も意識障害が継続したが頭部CTでは出血なし。脳梗塞を念頭においた治療を行ったが、検査翌日に痙攣重積となり、気管切開、人工呼吸器管理となった。検査後9日目でようやく意識清明となり、検査後2週間で一般病室へ転室したが、その直後に消化管出血を合併。輸血をはじめとするさまざまな処置が講じられたものの、やがて播種性血管内凝固症候群、多臓器不全を併発し、検査から19日後に死亡した。詳細な経過患者情報高血圧、肥満、長期の飲酒歴、喫煙歴、高脂血症、軽度腎障害を指摘されていた61歳男性経過1983年1月12日胸がモヤモヤし少し苦しい感じが出現。1月18日胸が重苦しく圧迫感あり、近医を受診して狭心症と診断され、ニトログリセリンを処方された。1月26日某大学病院を受診、胸痛の訴えがあり狭心症が疑われた。初診時血圧200/92、心電図は正常。2月2日血圧160/105、心電図では左室肥大。3月初診から1ヵ月以上経過しても胸痛が治まらないので心臓カテーテル検査を勧めたが、患者の都合により延期された。9月胸痛の訴えあり。10月同様に胸痛の訴えあり。1983年5月25日左手親指の痺れ、麻痺が出現、運動は正常で感覚のみの麻痺。7月8日脳梗塞を疑って頭部CTスキャン施行、中等度の脳萎縮があるものの、明らかな異常なし。1985年9月血圧190/100、心電図上左軸偏位あり。1986年7月健康診断の結果、肥満(肥満度26%)、心電図上の左軸偏位、心肥大、動脈硬化症などを指摘され、「要精査」と判断された。冠状動脈の狭窄を疑う所見がみられたので、担当医師は心臓カテーテル検査を勧めた。9月17日心臓カテーテル検査目的で某大学病院に入院。9月18日12:30検査前投薬としてヒドロキシジン(同:アタラックス-P)50mg経口投与。検査開始前の血圧158/90、脈拍71。13:30血圧154/96。右肘よりカテーテルを挿入。13:48右心系カテーテル検査開始(肺動脈楔入圧、右肺動脈圧)。13:51心拍出量測定。13:57右心系カテーテル検査終了。この間とくに訴えなく異常なし。14:07左心系カテーテル検査開始、血圧169/9114:13左心室圧測定後間もなく血圧が200以上に上昇。14:21血圧232/117、胸の苦しさ、顔色口唇色が不良となる。ニトログリセリン1錠舌下。14:27血圧181/111と低下したので検査を再開。14:28左冠状動脈造影施行(結果は左冠状動脈に狭窄なし)、血圧は150-170で推移。左冠状動脈造影直後に約5.1秒間の心停止。咳をさせたところ脈は戻ったが、徐脈(45)、傾眠傾向がみられたので硫酸アトロピン0.5mg静注。血圧171/10214:36左心室撮影。血圧17514:40左心室のカテーテルを再び大動脈まで戻したところ、再度血圧上昇。14:45血圧253/130、アダラート®10mg舌下。14:50血圧234/12314:56血圧220程度まで低下したので、右冠状動脈造影再開。14:59血圧183/105。右冠状動脈造影終了(25~50%の狭窄病変あり)、直後に約1.8秒の心停止出現。15:01検査終了後の血管修復中に血圧230/117、ニトログリセリン4錠舌下。15:04カテーテル抜去、血圧224/11715:30検査室退室。血圧150/100、脈拍77、呼びかけに対し返答はするものの、すぐに眠り込む状態。15:40病室に帰室、血圧144/100、うとうとしていて声かけにも今ひとつ返答が得られない傾眠状態が継続。19:00呼名反応やうなずきはあるがすぐに閉眼してしまう状態。検査から3時間半後になってはじめて脳圧亢進による意識障害の可能性を考慮し、脳圧降下薬、ステロイド薬の投与開始。9月19日08:00左上肢屈曲位、傾眠傾向が継続したため頭部CT施行、脳出血は否定された。ところが検査後から意識レベルの低下(呼名反応消失)、左上肢の筋緊張が強くなり、左への共同偏視、左バビンスキー反射陽性がみられた。15:00神経内科医が往診し、脳塞栓がもっとも疑われるとのコメントあり。9月20日全身性の痙攣発作が頻発、意識レベルは昏睡状態となる。気管切開を施行し、人工呼吸器管理。痙攣重積状態に対しチオペンタールナトリウム(同:ラボナール)の持続静注開始。9月24日痙攣発作は消失し、意識レベルやや改善。9月27日ほぼ意識清明な状態にまで回復したが、腎機能の悪化傾向あり。9月30日人工呼吸器より離脱。10月3日09:30状態が改善したためICUから一般病室へ転室となる。13:00顔面紅潮、意識レベルの低下、大量の消化管出血が出現。10月4日上部消化管内視鏡検査施行、明らかな出血源は指摘できず、散在性出血がみられたためAGML(急性胃粘膜病変)と診断された。ところが、その後肝機能、腎機能の悪化、慢性膵炎の急性増悪、腎不全などとともに、血小板数の低下、フィブリノーゲンの著明な減少などからDICと診断。10月8日15:53全身状態の急激な悪化により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.心臓カテーテル検査の適応検査前に狭心症に罹患していたとしても軽度なものであり、心臓カテーテル検査を行う医学的必要性はなかった。また、検査の3年前から脳梗塞の疑いがもたれていたにもかかわらず、脳梗塞の症状がある患者にとってはきわめて危険な心臓カテーテル検査を行った2.異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失250を越える異常な血圧の上昇を来した時点で、事故の発生を未然に防止するために検査を中止すべき注意義務があったのに、検査を強行した3.神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査終了時点で意識障害があり、脳塞栓が疑われる状況であったのに、神経内科専門医の診察を依頼したのは検査後24時間も経過してからであり、適切な処置が遅れた4.死因医学的に必要のない検査を行ったうえに、検査中の脳梗塞発症に気付かず検査を続行し、検査後もただちに専門医の診察を依頼しなかったことが原因で、最終的には胃出血によるDICおよび多臓器不全により死亡に至ったものである病院側(被告)の主張1.心臓カテーテル検査の適応患者には胸痛のほか、高血圧、肥満、長期の飲酒歴、喫煙歴、高脂血症、軽度腎障害などの冠状動脈狭窄を疑わせる所見が揃っており、冠状動脈を精査し、手術なり薬剤投与なりを開始することが治療上不可欠であった。脳梗塞については、検査の3年前に施行した頭部CTスキャンで異常はなく、自覚症状としてみられた左手親指、人差し指の感覚障害は末梢神経または神経根障害と考えられ、改めて脳梗塞を疑うべき症状は認められなかった2.異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失心臓カテーテル検査中に最高血圧が230-250になるのは臨床上起こり得ることであり、血圧上昇時には必要に応じて降圧薬を投与し、経過を観察しながら検査を継続するものである。そして、200以上の血圧上昇がもつ意味は患者によって個体差があり、普段の血圧が170-190くらいであった本件の場合には検査時のストレスによって血圧が200以上になっても特別に異常な反応ではない3.神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査後に意識レベルが低下し、四肢硬直がおきたため脳梗塞、脳幹部循環障害などの可能性を考え、治療を開始するとともに神経内科などに相談しながら、最良の治療を行った4.死因死因は脳病変に基づくものではなく、意識障害が回復した後の消化管出血によるDIC、および多臓器不全に伴った心不全である。この消化管出血にはステロイド薬の使用、ストレスなどが関与したものであるが、抗潰瘍薬の投与などできるだけ予防策は講じていたのであるから、やむを得ないものであった裁判所の判断1. 心臓カテーテル検査の適応患者には検査前から高血圧、肥満、長期の喫煙歴、軽度の腎障害など、虚血性心疾患の危険因子のうちいくつかが明らかに存在し、さらに心電図で左室肥大および左軸偏位が認められ、胸痛という自覚症状もあったので、狭心症を疑って心臓カテーテル検査を行ったことに誤りはない。さらに急性期の脳梗塞患者、発症直後の脳卒中患者には冠状動脈造影を行ってはならないとされているが、本件の場合には検査前に急性期の脳梗塞が疑われるような症状はないので、心臓カテーテル検査を差し控えなければならないとはいえない。2. 異常高血圧にもかかわらず検査を中止しなかった過失250を越える異常な血圧の上昇がみられた時点で、検査のストレスによる血圧上昇だけでは説明できない急激な血圧の上昇であることに気付き、脳出血を主とする脳血管障害発生の可能性を考え、検査を中止するべきであった。さらに検査で用いた76%ウログラフィン®(滲透圧の高い造影剤)のため、脳梗塞によって生じた脳浮腫をさらに増強させる結果になった。3. 神経内科の診察を早期に手配しなかった過失検査終了後は、ただちに専門の神経内科医に相談するなどして合併症の治療を開始するべきであったのに、担当医らが脳血管障害の可能性に気付いたのは、検査終了から3時間半後であり、その間適切な治療を開始するのが遅れた。4. 死因脳梗塞が発症したにもかかわらず、検査を続行したことによって脳浮腫が助長され、意識障害が悪化した。さらに検査終了後もただちに適切な処置が行われなかったことが、胃からの大量出血を惹起し死亡にまで至らしめた大きな原因の一つになっている。原告側合計8,276万円の請求に対し4,528万円の判決考察心臓カテーテル検査に伴う死亡率は、1970年代までは多くの施設で1%を越えていましたが、技術の進歩とヘパリン使用の普及により、現在は0.1~0.3%の低水準に落ち着いています。また、心臓カテーテル検査に伴う脳血管障害の合併についても、0.1~0.2%の低水準であり、「組織だった抗凝固処置」によって大部分の脳血管系の事故が防止できるという考え方が主流になっています。カテーテル検査中に脳塞栓を生じる機序としては、(1)カテーテルによって動脈硬化を起こした血管に形成された壁在血栓が剥離されて飛ばされ、脳の血管に流れた結果脳梗塞を生じる(2)カテーテルの周囲に形成された血栓またはカテーテルのなかに形成された血栓が飛ばされ、脳の血管に移行して脳梗塞を生じる(3)粥状硬化、動脈硬化を起こした血管の粥腫(アテローム)がカテーテルによって剥離されて飛ばされ、脳の血管に流された結果脳梗塞を生じるの3つが想定されています。これに対する処置としては、(1)十分なヘパリン投与を行った患者においても、カテーテルのフラッシュは十分注意しかつ的確に行うこと(2)ガイドワイヤーは使用する前に十分に拭い、血液を付着させないこと(3)ガイドワイヤーを入れたままのカテーテル操作は、1回あたり2分以内にとどめること(2分経過後はガイドワイヤーを必ず抜き出して拭い、再度ガイドワイヤーを用いる時はカテーテルをフラッシュする)(4)リスクの高い患者では不必要にカテーテルやガイドワイヤーを頸動脈や椎骨脳底動脈に進めないなどが教科書的には重要とされていますが、現在心臓カテーテル検査を担当されている先生方にとってはもはや常識的なことではないかと思います。つまり本件では、心臓カテーテル検査中に発症した脳血管障害というまれな合併症に対し、どのように対処するべきであったのか、という点が最大のポイントでした。裁判所の判断では、心臓カテーテル検査中に「血圧が250以上に上昇した時点ですぐに検査を中止せよ」ということでしたが、循環器内科医にとってすぐさまこのような判断をすることは実際的ではないと思います。ここで問題となるのが、(1)コントロールはこれでよかったか(2)障害の可能性を念頭に置いていたかという2点にまとめられると思います。この当時の状況を推測すると、大学病院の循環器内科に入院して治療が行われていましたので、1日に数件の心臓カテーテル検査が予定され、全例を何とか(無事かつ迅速に)こなすことに主眼がおかれていたと思います。そして、検査中にみられた高血圧に対しては、とりあえずニトログリセリン、アダラート®などを適宜使用するのがいわば常識であり、通常のケースであれば何とか検査を終了することができたと思います。にもかかわらず、本件では降圧薬使用後も250を越える高血圧が持続していました。この次の判断として、血圧は高いながらも一見神経症状はなく大丈夫そうなので検査を続行してしまうか、それとも(少々面倒ではありますが)ニトログリセリン(同:ミリスロール)などの降圧薬を持続静注することによって血圧を厳重にコントロールするか、ということになると思います。結果的には前者を選択したために、裁判所からは「異常高血圧を認めた時点で検査中止するのが正しい」と判断されました。日常の心臓カテーテル検査では、時に200を超える血圧上昇をみることがありますが、ほとんどのケースでは無事に検査を終了できると思います。さらに、心臓カテーテル検査中に脳梗塞へ至るのは1,000例ないし500例に1例という頻度ですから、当時の状況からして、急いで微量注入器を準備して降圧薬の持続静注をするとか、血圧が安定するまでしばらく様子をみるなどといった判断はなかなか付きにくいのではないかと思います。しかし、本件のように心臓カテーテル検査中に脳血管障害が発症しますと、あとからどのような抗弁をしようとも、「異常高血圧に対して適切な処置をせず検査を強行するのはけしからん」とされてしまいますので、たとえ時間がかかって面倒に思っても、厳重な血圧管理をしなければあとで後悔することになると思います。次に問題となるのが、心臓カテーテル検査中に生じた「少々ボーっとしている」という軽度の意識障害をどのくらい重要視できたかという点です。後方視的にみれば、誰がみてもこの時の意識障害が脳梗塞に関連したものであったことがわかりますが、当時の担当医は「検査前投薬の影響が残っていて少しボーっとしているのであろう」と考えたため、脳梗塞発症を認識したのは検査から3時間半も経過したあとでした。前述したように、心臓カテーテル検査で脳梗塞を合併するのは1,000例ないし500例に1例という頻度ですから、ある意味では滅多に遭遇することのないリスクともいえます。しかし、日常的にこなしている(安全と思いがちな)検査であっても、どこにジョーカーが潜んでいるのか予測はまったくつかないため、本件のような事例があることを常に認識することによって早めの処置が可能になると思います。本件でも脳梗塞発症の可能性をいち早く念頭においていれば、たとえ最悪の結果に至ってしまっても医事紛争にまでは発展しなかった可能性が十分に考えられると思います。判決文全体を通読してみて、今回この事例を担当された先生方は真摯に医療の取り組まれているという印象が強く、けっして怠慢であるとか、レベルが低いなどという次元の問題ではありません。それだけに、このような医事紛争へ発展してしまうのは大変残念なことですので、少しでも侵襲を伴う医療行為には「最悪の事態」を想定しながら臨むべきではないかと思います。循環器

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喫煙に対する感受性がバイオマーカーでわかる可能性:日本人男性における検討

 血清鉄(sFe)の値は喫煙に対する感受性のバイオマーカーとなりうることが山形大学の柴田 陽光氏らにより報告された。PLoS One誌オンライン版2013年9月9日号の掲載報告。 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は喫煙習慣のある高齢者では一般的な疾患である。しかし、タバコ煙の曝露期間に応じて呼吸機能が低下する、喫煙に対する感受性の高い人々がいる一方で、呼吸機能が低下しない高齢者もいる。しかしながら、これまで、こうした喫煙に対して感受性のない人々に関する研究はあまりなかった。 本研究では、喫煙しているにもかかわらず、肺の健康状態が維持されている人々を識別するバイオマーカーを同定することを目的とした。 2004年~2006年に山形県高畠町で定期健康診断を受けた3,257人を対象に、血液のサンプリングとスパイロメトリーを実施した。このうち、(1)年齢が70歳以上(2)ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上(3)喫煙歴が30年以上、の3つに該当する117人の喫煙者を対象とした。喫煙感受性なしの定義はFEV1(1秒量)/FVC(努力性肺活量)≧0.7かつFEV1%predicted(1秒量対予測値)≧80とした。 主な結果は以下のとおり。・喫煙感受性のないグループは感受性のあるグループに比べ、ベースラインの血清鉄(sFe)の値が高かった。・男性では、血清鉄(sFe)の値が低いとFEV1/FVCも低かった。・男性では、呼吸機能の測定値と血清鉄(sFe)の値の間に明らかな関連が認められた。・多重線形回帰分析においても、他の臨床的な因子とは独立して、血清鉄(sFe)が呼吸機能の値の予測因子となることが明らかとなった。・血清鉄の値はFEV1の低下に対する予測因子にもなっていた。

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第18回 手技よりも術後管理のミスに力点をおく裁判所

■今回のテーマのポイント1.消化器疾患の訴訟では、大腸がんが2番目に多い疾患であり、縫合不全の事例が最も多く争われている2.裁判所は、縫合不全について手技上の過失を認めることには、慎重である3.その一方で、術後管理の不備については、厳しく判断しようとしているので注意が必要である事件の概要患者X(49歳)は、平成14年11月、健康診断にて大腸ポリープを指摘されたことから、近医を受診したところ、大腸腫瘍(S状結腸)および胆嚢結石と診断されました。Xは、平成15年5月9日、腹腔鏡下胆嚢摘出術および大腸腫瘍摘出術目的にてY病院に入院しました。同月12日、まず腹腔鏡下で胆嚢を摘出し、ペンローズドレーンを留置し、創縫合を行った後、左下腹部を切開し、S状結腸を摘出して、Gambee縫合にて結腸の吻合を行い、ペンローズドレーンを留置しました。術後3日間は順調に経過しましたが、術後4日目の16日に食事を開始したところ、夜より発熱(39.1度)を認め、翌日の採血では白血球数、CRP値の上昇が認められました。しかし、ドレーンからの排液は漿液性であり、腹痛も吻合部とは逆の右腹部であったことから、絶食の上、抗菌薬投与にて保存的に経過を追うこととなりました。ところが、23日になってもXの発熱、白血球増多、CRP値の上昇は改善せず、腹部CT上、腹腔内膿瘍が疑われたことから、縫合不全を考え再手術が行われることとなりました。開腹した結果、結腸の吻合分前壁に2ヵ所の小穴が認められたことから、縫合不全による腹膜炎と診断されました。Xは、人工肛門を設置され、10月7日にY病院を退院し、その後、同年11月20日に人工肛門閉鎖・再建術のため入院加療することとなりました。これに対し、Xは、不適切な手技により縫合不全となったこと、および、術後の管理に不備があったことを理由に、Y病院に対し、約2億2100万円の損害賠償を請求しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者X(49歳)は、平成14年11月、健康診断にて大腸ポリープを指摘されたことから、近医を受診したところ、大腸腫瘍(S状結腸)および胆嚢結石と診断されました。Xは、平成15年5月9日、腹腔鏡下胆嚢摘出術および大腸腫瘍摘出術目的にてY病院に入院しました。なお、Xは1日40本の喫煙をしており、本件手術前に医師より禁煙を指示されましたが、それに従わず喫煙を続けていました。同月12日、A、B、C、D4名の医師により手術が行われました。まず、最もベテランのA医師が腹腔鏡下で胆嚢を摘出し、ペンローズドレーンを留置し、創縫合を行った後、最も若いC医師が左下腹部を切開し、S状結腸を摘出して、Gambee縫合にて結腸の吻合を行い、ペンローズドレーンを留置しました。本件手術に要した時間は、3時間13分でした。術後3日間は順調に経過しましたが、術後4日目の16日に食事を開始したところ、夜より発熱(39.1度)を認め、翌日の採血では白血球数、CRP値の上昇が認められました。しかし、ドレーンからの排液は漿液性であり、腹痛も吻合部とは逆の右腹部であったこと、16日午後3時頃、Xが陰部の疼痛、排尿時痛、および排尿困難を訴えたことからバルーンカテーテルによる尿道損傷、前立腺炎の可能性も考えられたため、絶食の上、抗菌薬投与にて保存的に経過を追うこととなりました。18日には、ドレーン抜去部のガーゼに膿が付着していたことから、腹部CT検査を行ったところ、「直腸膀胱窩から右傍結腸溝にかけて被包化された滲出液を認め、辺縁は淡く濃染し、内部に一部空胞陰影を認めます。腹腔内膿瘍が疑われます。周囲脂肪織の炎症性変化は目立ちません。腹壁下に空胞陰影と内部に滲出液がみられ、術後変化と思われます。腹水、有意なリンパ節腫大は指摘できません」との所見が得られました。縫合不全の可能性は否定できないものの、滲出液が吻合部の左腹部ではなく右腹部にあること、腹痛も左腹部ではなく右腹部であったことから、急性虫垂炎をはじめとする炎症性腸疾患をも疑って治療をするのが相当であると判断し、抗菌薬を変更の上、なお保存的治療が選択されました。ところが、23日になってもXの発熱、白血球増多、CRP値の上昇は改善せず、腹部CT上、腹腔内膿瘍が疑われたことから、縫合不全を考え再手術が行われることとなりました。開腹した結果、結腸の吻合分前壁に2ヵ所の小穴が認められたことから、縫合不全による腹膜炎と診断されました。Xは、人工肛門を設置され、10月7日にY病院を退院し、その後、同年11月20日に人工肛門閉鎖・再建術のため入院加療することとなりました。事件の判決上記認定事実によれば、本件手術におけるS状結腸摘出後の吻合部位において縫合不全が発生したことが認められる。もっとも、上記認定のとおり、吻合手技は縫合不全の発生原因となりうるが、それ以外にも縫合不全の発生原因となるものがあるから、縫合不全が起こったことをもって、直ちに吻合手技に過失があったということはできない。そして、上記認定のとおり、縫合不全を防ぐためには、縫合に際し、適式な術式を選択し、縫合が細かすぎたり結紮が強すぎたりして血行を悪くしないこと、吻合部に緊張をかけないことが必要であるとされていることを考慮すると、債務不履行に該当する吻合手技上の過誤があるというためには、選択した術式が誤りであるとか、縫合が細かすぎた、あるいは結紮が強すぎた、もしくは縫合部に対し過度の緊張を与えたと認められる場合に限られると解するのが相当である。・・・・・・・(中略)・・・・・・・原告らは、C医師は経験の浅い医師であったから縫合不全は縫合手技に起因すると考えられると主張する。B医師のGambee縫合の経験数は不明であるが、上記認定のとおり、本件手術にはD医師が助手として立ち会っているところ、B医師はC医師の先輩であり、被告病院において年間200例程度行われる大腸の手術に関与しているのであるから、C医師の吻合手技に、縫合が細かすぎた、あるいは結紮が強すぎた、もしくは縫合部に対し過度の緊張を与えたといった問題があったにもかかわらず、B医師がそのまま手術を終了させるとは考え難い。また、上記認定のとおり、手術後3日以内に発生した縫合不全については縫合の不備が疑われて再手術が検討されるところ、上記前提事実のとおり、本件手術後3日目である平成15年5月15日までの間に特に異常は窺えなかったところである。これらを考慮すると、原告ら主張の事情をもって吻合技術に問題があったと推認することはできないというべきである。以上のとおり、本件手術は、縫合不全が発生しやすい大腸(S状結腸)を対象とするものであったこと、原告は喫煙者であり、縫合不全の危険因子がないとはいえず、縫合手技以外の原因により縫合不全が発生した可能性が十分あること、C医師による吻合の方法が不適切であったことを裏付ける具体的な事情や証拠はないことを考慮すると、原告に生じた縫合不全がC医師の不適切な吻合操作によるものであると認めることはできないというべきである。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(名古屋地判平成20年2月21日)ポイント解説今回は、各論の2回目として、消化器疾患を紹介します。消化器疾患で最も訴訟が多い疾患は、第15回で紹介した肝細胞がんです。そして、2番目に多いのが、今回紹介する大腸がんです。大腸がんの訴訟において、最も多く争われるのが縫合不全(表)です。ご存じのとおり、縫合不全は、代表的な手術合併症であり、手術を行う限り一定の確率で不可避的に発生します。しかし、非医療者からみると、医療行為によって生じていることは明らかであり、かつ、縫合という素人目には簡単に思える行為であることから訴訟となりやすい類型となっています。しかし、最近の裁判所は、合併症に対する理解が進んできており、本判決のように、単に縫合不全があったことのみをもって過失があるとするような判断はせず、「縫合が細かすぎた、あるいは結紮が強すぎた、もしくは縫合部に対し過度の緊張を与えた」などの具体的な縫合手技に著しく問題があった場合にのみ、手技上の過失があるとしています(表に示した判例においても、手技上の過失を認めた判例は一つもありません)。したがって、現在、手術ビデオなどで手技上の欠陥が一見して明白であるような場合を除き、訴訟において縫合不全が手技ミスによって生じたとする主張が争点となることは少なくなってきています。その代わりといってはなんですが、術後の管理については、厳しく争われる傾向にあります。本事案でも、17日に発熱、白血球増多、CRP値が上昇した際、および18日に腹部CTをとった際に速やかに縫合不全と診断して、ドレーン排液の細菌培養および外科的ドレナージを行うべきであったとして争われました(本件においては術後管理の過失は認められませんでしたが、〔表〕の原告勝訴事例のすべてで術後管理の不備が認められています)。医療行為は行為として不完全性を有します。そして、医療は日々進歩していきます。医学・医療の進歩は、医療者が個々に経験した症例を学会・論文などを介して集約化、情報共有し、それを再検討することで生まれます。しかし、医療行為によって生じた不利益な結果が過失として訴訟の対象(日本では刑事訴追の対象にもなるため萎縮効果が特に強い)となると、医師は恐ろしくて発表することができなくなります。実際に、1999年以降、わが国における合併症に関する症例報告は急速に減少しました。目の前の患者の救済は十分に考えられるべきですが、その過失判断を厳格にすることで達成することは、医学・医療の進歩を阻害し、その結果、多数の国民・患者の適切な治療機会を奪うこととなります。司法と医療の相互理解を深め、典型的な合併症については裁判による責任追及ではなく、医学・医療の進歩にゆだねることが望ましいと考えます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。名古屋地判平成20年2月21日

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~プライマリ・ケアの疑問~  Dr.前野のスペシャリストにQ!【循環器編】

第1回「Q.救急外来でACSを見逃さないためには?」第2回「Q.拡張期血圧が高い…早朝血圧が高い…等々、どういう病態なのか?」第3回「Q.血圧の評価はどうすればいいのか?外来血圧?自宅で測ってもらう?」第4回「Q.降圧薬の選択がわからない。薬がありすぎる!」第5回「Q.胸痛でどこまで虚血性心疾患を疑うか?」第6回「Q.主訴が胸痛の患者さんにホルター心電図をつけたが症状が出ない。どうアプローチすべき?」第7回「Q.急性心筋梗塞のST上昇と早期再分極のST上昇の見分け方?」第8回「Q.これは絶対ACSという心電図所見はあるか?」第9回「Q.Poor r progression はどこまで精査しますか?」第10回「Q.小さいq波と異常Q波の鑑別は?」第11回「Q.虚血性心疾患例の安静時の心電図異常とは?」第12回「Q.ST-Tの異常は様々あるが、よく理解できない」第13回「Q.精査すべき脚ブロックとは?」第14回「Q.どこで判断する?精査に迷う心電図異常」第15回「Q.精査・治療の必要な心室期外収縮とは?」第16回「Q.抗不整脈薬使用の最近のトレンドは?」 あなたの悩みを5分で解決!一問一答Q&A番組!研修医、家庭医、総合医の疑問に、一問一答で回答する、1回5分のQ&A番組!「この診断で良かったのか?」「もっと検査をすべきだった?」「専門医に送るタイミングは?」プライマリ・ケア医から集めた循環器疾患の診察、検査、治療に関する16の質問を、番組MCの前野哲博先生が経験豊富なスペシャリスト・渡辺重行先生にぶつけます!第1回「Q.救急外来でACSを見逃さないためには?」1)胸部症状が定型的なのに心電図、CPK、トロポニンに異常が出ていないACS2)胸部症状以外の症状で来るACSでは見逃さないポイントとは何なのでしょうか?第2回「Q.拡張期血圧が高い…早朝血圧が高い…等々、どういう病態なのか?」血圧は何がどのように規定しているのか?DBP上昇のメカニズムなど病態ごとの血圧変動の特徴を復習しましょう。第3回「Q.血圧の評価はどうすればいいのか?外来血圧?自宅で測ってもらう?」測る度に、タイミングによって変動することも多い血圧。では一体いつ測ることが良い血圧評価につながるのでしょうか?心血管イベントと発症率や発症時間などのエビデンスを交え紐解いていきます。第4回「Q.降圧薬の選択がわからない。薬がありすぎる!」例えば、糖尿病患者に糖尿病の悪化や腎症の予防効果のあるRA系抑制薬を選択したが、降圧は今ひとつ…このような患者にはどうアプローチすべきか?2009年高血圧治療ガイドラインを復習しながら、推奨される選択薬や合剤、考え方を学びます。第5回「Q.胸痛でどこまで虚血性心疾患を疑うか?」患者さんに「胸が痛い」と言われるとドキッとする循環器非専門医の先生も多いと思います。そもそも主訴が胸痛の患者に見つかる器質的疾患はどれくらいなのでしょうか?また虚血性心疾患の兆候はどんなところにあるのでしょうか?第6回「Q.主訴が胸痛の患者さんにホルター心電図をつけたが症状が出ない。どうアプローチすべき?」主訴が胸痛の患者にホルター心電図で検査するも特異的な所見は見つからないケース。今後どうマネジメントすべきか?今回は病態からアプローチして、何が起こり、何の可能性があるのか、着目すべき点を学びます。第7回「Q.急性心筋梗塞のST上昇と早期再分極のST上昇の見分け方?」急性心筋梗塞の早期発見に欠かせない心電図。STの上昇に注目します。しかし、早期再分極を示す心電図でもSTの上昇、そしてJ波が表れます。症例心電図をとおして、急性心筋梗塞と早期再分極の見分け方を学びます。第8回「Q.これは絶対ACSという心電図所見はあるか?」渡辺先生曰く、「ACSで注意すべきはSTのわずかな上昇とT terminal inversion」。そのロジックを心筋梗塞の患者さんの心電図をみながら考えていきます。第9回「Q.Poor r progression はどこまで精査しますか?」 Poor r progression とはR波の伸びが足りないこと。R波が伸びない裏には重要な疾患が隠れているのでしょうか?またどの様な所見に注意すべきなのでしょうか?第10回「Q.小さいq波と異常Q波の鑑別は?」 異常Q波とは、幅が1mm(0.04秒)以上で深さがR波の1/4以上のQ波。特に注意すべきは1mmの幅があるかどうか、逆にいうと1mmに満たない心電図所見は正常とみてよいであろう。しかし、一見正常な所見に見えて、前下行枝狭窄である手がかりが隠れている。それは一体どんな所見なのでしょうか?第11回「Q.虚血性心疾患例の安静時の心電図異常とは?」循環器内科医は負荷心電図のⅡ、Ⅲ、aVFなどから虚血性心疾患を診断します。渡辺先生曰く「安静時の心電図所見から8割は陽性の兆候がみえる」とは渡辺先生。それはどんな所見なのでしょうか?注目はS−T波。第12回「Q.ST-Tの異常は様々あるが、よく理解できない」 STーTの異常は様々ですが、形をパターン認識することで診断がみえてくるようになります。今回はSTーT所見を大きく4つにわけ、パターンの特徴と症例をとおして見極めのコツを解説します。第13回「Q.精査すべき脚ブロックとは?」とくに自覚症状もないが健康診断や検診の心電図所見でみられる脚ブロック。ではこの脚ブロックを確認した場合どのようなコンサルティングが必要なのでしょうか?今回は心室の再分極、脱分極をおさらいしながら右脚ブロックと左脚ブロックの原理と対処を学んでいきます。第14回「Q.どこで判断する?精査に迷う心電図異常」前回の心電図所見が脚ブロックの場合の対応につづき、今回はどんな心電図所見を確認したらより精査が必要なのか考えていきます。健康診断で非特異的ST-T異常はよく見受けられますが、「他に疾患のない30歳女性」と「高血圧を有する45歳男性」ではその対応どうなるのでしょうか?第15回「Q.精査・治療の必要な心室期外収縮とは?」健康診断などでも見かけることも多い心室期外収縮。基本的には様子をみることで良いのですが、中には治療を要する重篤な疾患が隠れているケースもあります。渡辺先生が推奨する要コンサルティングのケースは3つです。1つは、心疾患ゆえに心室期外収縮を生じているとき。この判定は、心電図が正常なら心疾患なしと考えて良いということになります。残り2つはどんなケースでしょうか?一つずつ、確認していきましょう。第16回「Q.抗不整脈薬使用の最近のトレンドは?」様々にある抗不整脈薬ですが、プライマリ・ケア医が治療で使うにはどの薬がよいのでしょうか?衝撃的な試験結果となったCAST試験からPVC、SVPCに対して抗不整脈を投与する時代ではなくなりましたが、他の不整脈に対してはどうでしょうか。不整脈の種類ごとに現在本流になりつつある治療法(アブレーション、除細動器など)をふまえながら、抗不整脈薬の適応は、どのような不整脈の時なのか考えていきます。

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Vol. 1 No. 3 超高齢者の心房細動管理

小田倉 弘典 氏土橋内科医院1. はじめに本章で扱う「超高齢者」についての学会や行政上の明確な定義は現時点でない。老年医学の成書などを参考にすると「85歳以上または90歳以上から超高齢者と呼ぶ」ことが妥当であると思われる。2. 超高齢者の心房細動管理をする上で、まず押さえるべきこと筆者は、循環器専門医からプライマリーケア医に転身して8年になる。プライマリーケアの現場では、病院の循環器外来では決して遭うことのできないさまざまな高齢者を診ることが多い。患者の症状は全身の多岐にわたり、高齢者の場合、自覚・他覚とも症状の発現には個人差があり多様性が大きい。さらに高齢者では、複数の健康問題を併せ持ちそれらが複雑に関係しあっていることが多い。「心房細動は心臓だけを見ていてもダメ」とはよくいわれる言葉であるが、高齢者こそ、このような多様性と複雑性を踏まえた上での包括的な視点が求められる。では具体的にどのような視点を持てばよいのか?高齢者の多様性を理解する場合、「自立高齢者」「虚弱高齢者」「要介護高齢者」の3つに分けると、理解しやすい1)。自立高齢者とは、何らかの疾患を持っているが、壮年期とほぼ同様の生活を行える人たちを指す。虚弱高齢者(frail elderly)とは、要介護の状態ではないが、心身機能の低下や疾患のために日常生活の一部に介助を必要とする高齢者である。要介護高齢者とは、寝たきり・介護を要する認知症などのため、日常生活の一部に介護を必要とする高齢者を指す。自立高齢者においては、壮年者と同様に、予後とQOLの改善という視点から心房細動の適切な管理を行うべきである。しかし超高齢者の場合、虚弱高齢者または要介護高齢者がほとんどであり、むしろ生活機能やQOLの維持の視点を優先すべき例が多いであろう。しかしながら、実際には自立高齢者から虚弱高齢者への移行は緩徐に進行することが多く、その区別をつけることは困難な場合も多い。両者の錯綜する部分を明らかにし、高齢者の持つ複雑性を“見える化”する上で役に立つのが、高齢者総合的機能評価(compre-hensive geriatric assessment : CGA)2)である。CGAにはさまざまなものがあるが、当院では簡便さから日本老年医学会によるCGA7(本誌p20表1を参照)を用いてスクリーニングを行っている。このとき、高齢者に立ちはだかる代表的な問題であるgeriatric giant(老年医学の巨人)、すなわち転倒、うつ、物忘れ、尿失禁、移動困難などについて注意深く評価するようにしている。特に心房細動の場合は服薬管理が重要であり、うつや物忘れの評価は必須である。また転倒リスクの評価は抗凝固薬投与の意思決定や管理においても有用な情報となる。超高齢者においては、このように全身を包括的に評価し、構造的に把握することが、心房細動管理を成功に導く第一歩である。3. 超高齢者の心房細動の診断超高齢者は、自覚症状に乏しく心房細動に気づかないことも多い。毎月受診しているにもかかわらず、ずっと前から心房細動だったことに気づかず、脳塞栓症を発症してしまったケースを経験している医師も少なくないと思われる。最近発表された欧州心臓学会の心房細動管理ガイドライン3)では、「65歳以上の患者における時々の脈拍触診と、脈不整の場合それに続く心電図記録は、初回脳卒中に先立って心房細動を同定するので重要(推奨度Ⅰ/エビデンスレベルB)」であると強調されている。抗凝固療法も抗不整脈処方も、まず診断することから始まる。脈は3秒で測定可能である。「3秒で救える命がある」と考え、厭わずに脈を取ることを、まずお勧めしたい。4. 超高齢者の抗凝固療法抗凝固療法の意思決定は、以下の式(表)が成り立つ場合になされると考えられる。表 抗凝固療法における意思決定1)リスク/ベネフィットまずX、Yを知るにはクリニカルエビデンスを紐解く必要がある。抗凝固療法においては、塞栓予防のベネフィットが大きい場合ほど出血リスクも大きいというジレンマがあり、高齢者においては特に顕著である。また超高齢者を対象とした研究は大変少ない。デンマークの大規模コホート研究では、CHADS2スコアの各因子の中で、75歳以上が他の因子より著明に大きいことが示された(本誌p23図1を参照)4)。この研究は欧州心臓学会のガイドラインにも反映され、同学会で推奨しているCHA2DS2-VAScスコアでは75歳以上を2点と、他より重い危険因子として評価している。また75歳以上の973人(平均81歳)を対象としたBAFTA研究5)では、アスピリン群の年間塞栓率3.8%に比べ、ワルファリンが1.8%と有意に減少しており、出血率は同等で塞栓率を下回った。一方で人工弁、心筋梗塞後などの高齢者4,202人を対象とした研究6)では、80歳を超えた人のワルファリン投与による血栓塞栓症発症率は、60歳未満の2.7倍であったのに対し、出血率は2.9倍だった。スウェーデンの大規模研究7)では、抗凝固薬服用患者において出血率は年齢とともに増加したが、血栓塞栓率は変化がなかった。また80歳以上でCHADS2スコア1点以上の人を対象にしたワルファリンの出血リスクと忍容性の検討8)では、80歳未満の人に比べ、2.8倍の大出血を認め、CHADS2スコア3点以上の人でより高率であった。最近、80歳以上の非弁膜症性心房細動の人のみを対象とした前向きコホート研究9)が報告されたが、それによると平均年齢83~84歳、CHADS2スコア2.2~2.6点という高リスクな集団において、PT-INR2.0~3.0を目標としたワルファリン治療群は、非治療群に比べ塞栓症、死亡率ともに有意に減少し、大出血の出現に有意差はなかった。このように、高齢者では出血率が懸念される一方、抗凝固薬の有効性を示す報告もあり、判断に迷うところである。ひとつの判断材料として、出血を規定する因子がある。80歳以上の退院後の心房細動患者323人を29か月追跡した研究10)によると、出血を増加させる因子として、(1)抗凝固薬に対する不十分な教育(オッズ比8.8)(2)7種類以上の併用薬(オッズ比6.1)(3)INR3.0を超えた管理(オッズ比1.08)が挙げられた。ワルファリン服用下で頭蓋内出血を起こした症例と、各因子をマッチさせた対照とを比較した研究11)では、平均年齢75~78歳の心房細動例でINRを2.0~3.0にコントロールした群に比べ、3.5~3.9の値を示した群は頭蓋内出血が4.6倍であったが、2.0未満で管理した群では同等のリスクであった。さらにEPICA研究12)では、80歳以上のワルファリン患者(平均84歳、最高102歳)において、大出血率は1.87/100人年と、従来の報告よりかなり低いことが示された。この研究は、抗凝固療法専門クリニックに通院し、ワルファリンのtime to therapeutic range(TTR)が平均62%と良好な症例を対象としていることが注目される。ただし85歳以上の人は、それ以外に比べ1.3倍出血が多いことも指摘されている。HAS-BLEDスコア(本誌p24表3を参照)は、抗凝固療法下での大出血の予測スコアとして近年注目されており13)、同スコアが3点以上から出血が顕著に増加することが知られている。このようにINRを2.0~3.0に厳格に管理すること、出血リスクを適切に把握することがリスク/ベネフィットを考える上でポイントとなる。2)負担(Burden)超高齢者においては、上記のような抗凝固薬のリスクとベネフィット以外のγの要素、すなわち抗凝固薬を服薬する上で生じる各種の負担(=burden)を十分考慮する必要がある。(1)ワルファリンに対する感受性 高齢者ほどワルファリンの抗凝固作用に対する感受性が高いことはよく知られている。ワルファリン導入期における大出血を比べた研究8)では、80歳以上の例では、80歳未満に比べはるかに高い大出血率を認めている(本誌p25図2を参照)。また、高齢者ではワルファリン投与量の変更に伴うINRの変動が大きく、若年者に比べワルファリンの至適用量は少ないことが多い。前述のスウェーデンにおける大規模研究7)では、50歳代のワルファリン至適用量は5.6mg/日であったのに対し、80歳代は3.4mg/日、90歳代は3mg/日であった。(2)併用薬剤 ワルファリンは、各種併用薬剤の影響を大きく受けることが知られているが、その傾向は高齢者において特に顕著である。抗菌薬14)、抗血小板薬15)をワルファリンと併用した高齢者での出血リスク増加の報告もある。(3)転倒リスク 高齢者の転倒リスクは高く、転倒に伴う急性硬膜下血腫などへの懸念から、抗凝固薬投与を控える医師も多いかもしれない。しかし抗凝固療法中の高齢者における転倒と出血リスクの関係について述べた総説16)によると、転倒例と非転倒例で比較しても出血イベントに差がなかったとするコホート研究17)などの結果から、高齢者における転倒リスクはワルファリン開始の禁忌とはならないとしている。また最近の観察研究18)でも、転倒の高リスクを有する人は、低リスク例と比較して特に大出血が多くないことが報告された。エビデンスレベルはいずれも高くはないが、懸念されるほどのリスクはない可能性が示唆される。(4)服薬アドヒアランス ときに、INRが毎回のように目標域を逸脱する例を経験する。INRの変動を規定する因子として遺伝的要因、併用薬剤、食物などが挙げられるが、最も大きく影響するのは服薬アドヒアランスである。高齢者でINR変動の大きい人を診たら、まず服薬管理状況を詳しく問診すべきである。ワルファリン管理に影響する未知の因子を検討した報告19)では、認知機能低下、うつ気分、不適切な健康リテラシーが、ワルファリンによる出血リスクを増加させた。 はじめに述べたように、超高齢者では特にアドヒアランスを維持するにあたって、認知機能低下およびうつの有無と程度をしっかり把握する必要がある。その結果からアドヒアランスの低下が懸念される場合には、家族や他の医療スタッフなどと連携を密に取り、飲み忘れや過剰服薬をできる限り避けるような体制づくりをすべきである。また、認知機能低下のない場合の飲み忘れに関しては、抗凝固薬に対する重要性の認識が低いことが考えられる。服薬開始時に、抗凝固薬の必要性と不適切な服薬の危険性について、患者、家族、医療者間で共通認識をしっかり作っておくことが第一である。3)新規抗凝固薬新規抗凝固薬は、超高齢者に対する経験の蓄積がほとんどないため大規模試験のデータに頼らなければならない。RE-LY試験20)では平均年齢は63~64歳であり、75歳を超えるとダビガトランの塞栓症リスクはワルファリンと同等にもかかわらず、大出血リスクはむしろ増加傾向を認めた21)。一方、リバーロキサバンに関するROCKET-AF試験22)は、CHADS2スコア2点以上であるため、年齢の中央値は73歳であり、1/4が78歳以上であった。ただし超高齢者対象のサブ解析は明らかにされていない。4)まとめと推奨これまで見たように、80歳以上を対象にしたエビデンスは散見されるが85歳以上に関する情報は非常に少なく、一定のエビデンス、コンセンサスはない。筆者は開業後8年間、原則として虚弱高齢者にも抗凝固療法を施行し、85歳以上の方にも13例に新規導入と維持療法を行ってきたが、大出血は1例も経験していない。こうした経験や前述の知見を総合し、超高齢者における抗凝固療法に関しての私見をまとめておく。■自立高齢者では、壮年者と同じように抗凝固療法を適応する■虚弱高齢者でもなるべく抗凝固療法を考えるが、以下の点を考慮する現時点ではワルファリンを用いるINRの変動状況、服薬アドヒアランスを適切に把握し、INRの厳格な管理を心がける併用薬剤は可能な限り少なくする導入初期に、家族を交えた患者教育を行い、服薬の意義を十分理解してもらう導入初期は、通院を頻回にし、きめ細かいINR管理を行う転倒リスクも患者さんごとに、適切に把握するHAS-BLEDスコア3点以上の例は特に出血に注意し、場合により抗凝固療法は控える5. 超高齢者のリズムコントロールとレートコントロール超高齢者においては、発作性心房細動の症状が強く、直流除細動やカテーテルアブレーションを考慮する場合はほとんどない。また発作予防のための長期抗不整脈薬投与は、永続性心房細動が多い、薬物の催不整脈作用に対する感受性が強い、などの理由で勧められていない23)。したがって超高齢者においては、心拍数調節治療、いわゆるレートコントロールを第一に考えてよいと思われる。レートコントロールの目標については、近年RACEII試験24,25)において目標心拍数を110/分未満にした緩徐コントロール群と、80/分未満にした厳格コントロール群とで予後やQOLに差がないことが示され注目されている。同試験の対象は80歳以下であるが、薬剤の併用や高用量投与を避ける点から考えると、超高齢者にも適応して問題ないと思われる。レートコントロールに用いる薬剤としてはβ遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬のどちらも有効である。β遮断薬は、半減期が長い、COPD患者には慎重投与が必要である、などの理由から、超高齢者には半減期の短いベラパミルが使用されることが多い。使用に際しては、潜在化していた洞不全症候群、心不全が症候性になる可能性があるため、投与初期のホルター心電図等による心拍数確認や心不全徴候に十分注意する。6. 超高齢者の心房細動有病率米国の一般人口における有病率については、4つの疫学調査をまとめた報告26)によると、80歳以上では約10%とされており、85歳以上の人では男9.1%、女11.1%と報告されている27)。日本においては、日本循環器学会の2003年の健康診断症例による研究28)によると、80歳以上の有病率は男4.4%、女2.2%であった。また、2012年に報告された最新の久山町研究29)では、2007年時80歳以上の有病率は6.1%であった。今後高齢化に伴い、超高齢者の有病率は増加するものと思われる。7. おわりにこれまで見てきたように、超高齢者の心房細動管理に関してはエビデンスが非常に少なく、特に抗凝固療法においてはリスク、ベネフィットともに大きいというジレンマがある。一方、そうしたリスク、ベネフィット以外にさまざまな「負担」を加味し、包括的に状態を評価し意思決定につなげていく必要に迫られる。このような状況では、その意思決定に特有の「不確実性」がつきまとうことは避けられないことである。その際、「正しい意思決定」をすることよりももっと大切なことは、患者さん、家族、医療者間で、問題点、目標、それぞれの役割を明確にし、それを共有し合うこと。いわゆる信頼関係に基づいた共通基盤を構築すること1)であると考える。そしてそれこそが超高齢者医療の最終目標であると考える。文献1)井上真智子. 高齢者ケアにおける家庭医の役割. 新・総合診療医学(家庭医療学編) . 藤沼康樹編, カイ書林, 東京, 2012.2)鳥羽研二ら. 高齢者総合的機能評価簡易版CGA7の開発. 日本老年医学会雑誌2010; 41: 124.3)Camm J et al. 2012 focused update of the ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation.An update of the 2010 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation Developed withthe special contribution of the European Heart Rhythm Association. Eur Heart J 2012; doi: 10.1093/eurheartj/ehs253.4)Olesen JB et al. Validation of risk stratification schemes for predicting stroke and thromboembolism in patients with atrial fibrillation: nationwide cohort study. BMJ 2011; 342: d124. doi: 10.1136/bmj.d124.5)Mant JW et al. Protocol for Birmingham Atrial Fibrillation Treatment of the Aged study(BAFTA): a randomised controlled trial of warfarin versus aspirin for stroke prevention in the management of atrial fibrillation in an elderly primary care population [ISRCTN89345269]. BMC Cardiovasc Disord 2003; 3: 9.6)Torn M et al. Risks of oral anticoagulant therapy with increasing age. Arch Intern Med 2005; 165(13): 1527-1532.7)Wieloch M et al. Anticoagulation control in Sweden: reports of time in therapeutic range, major bleeding, and thrombo-embolic complications from the national quality registry AuriculA. Eur Heart J 2011; 32(18): 2282-2289.8)Hylek EM et al. 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第17回 健康診断の落とし穴 紛争化する原因を考える

■今回のテーマのポイント1.集団健康診断における胸部X線写真の読影に求められる医療水準は、通常診療における医療水準より低い2.しかし、ひとたび異常を発見し、前年度の写真と比較読影するに到った場合は、通常診療と同等の医療水準が求められる3.国民の健康診断に対する「期待感」を過剰に保護することは、実医療現場に有害な作用を及ぼすおそれがある事件の概要患者X(死亡時57歳)は、毎年、Y病院にて会社の定期健康診断として胸部X線撮影を行っていました。昭和62年4月21日に行われた会社の定期健康診断において、胸部X線上、右肺上部に空洞を伴う陰影が認められたことから、読影を行ったA医師は、一旦、Xの健康診断票に要精密検査としました。その後、A医師は、前年度の定期健康診断時の胸部X線写真と比較したところ、変化がなく、形態も悪性を示しておらず逐年的な健康診断で足りると判断して、Xの健康診断票の要精密検査の記載を抹消し、精密検査は不要としました。Xは、特に病院を受診することもなかったところ、翌昭和63年6月に行われた定期健康診断において、右肺上部の陰影の増大を指摘されました。2日後に再度検査(直接撮影)を行ったところ、やはり右肺上部の陰影が増大していたことから、Xは、要受診と指示されました。しかし、Xは病院を受診することはありませんでした。平成元年3月にY病院で行われた胃の精密検診を受けた際に撮影した胸部X線上、右肺上部に異常があると診断されたことから、Z病院を紹介されました。Xは、同年4月にZ病院で精密検査を受け、肺がんと診断され、同年6月に、右肺切除術を受けましたが、翌平成2年10月、肺がんにて死亡しました。これに対し、Xの妻と子は、昭和62年の胸部X線撮影の際に要検査とすべきであったなどと争い、2050万円の損害賠償を請求しました。事件の経過患者X(死亡時57歳)は、毎年、Y病院にて会社の定期健康診断として胸部X線撮影を行っていました。昭和62年4月21日に行われた会社の定期健康診断において、胸部X線上、右肺上部に空洞を伴う陰影が認められたことから、読影を行ったA医師は、一旦、Xの健康診断票に要精密検査としました。その後、A医師は、前年度の定期健康診断時の胸部X線写真と比較したところ、変化がなく形態も悪性を示しておらず逐年的な健康診断で足りると判断して、Xの健康診断票の要精密検査の記載を抹消し、精密検査は不要としました。Xは、特に病院を受診することもなかったところ、翌昭和63年6月に行われた定期健康診断において、B医師から右肺上部に空洞を伴う陰影の増大を指摘されました。2日後に再度検査(直接撮影)を行ったところ、やはり右肺上部の陰影が増大していたことから、B医師は、Xの健康診断票に「昨年と変化あり」「要受診」と記載した上で、Xにもう一度検査を受けるよう伝えてほしいと看護師に伝え、看護師、会社の衛生管理代理を介して、口頭でXに対し、また検査を受けるよう指示がなされました。しかし、B医師は、胸部X線についてはすでに直接Xに伝えていたことから、定期健康診断の検査医意見欄や指導票の病名欄および指導事項欄には記載しませんでした。それをみたXは、直接撮影を行ったことでこれでよかったのかと思い、病院を受診することはありませんでした。平成元年3月にY病院で行われた胃の精密検診を受けた際に撮影した、胸部X線上、右肺上部に異常があると診断されたことから、Z病院を紹介されました。Xは、同年4月にZ病院で精密検査を受け、肺がんと診断され、同年6月に、右肺切除術を受けましたが、翌平成2年10月、肺がんにて死亡しました。事件の判決Xの胸部エックス線間接撮影フィルムの所見から肺癌を疑うことは困難であり、A医師が右所見から肺癌を疑い肺癌に対する精密検査を指示すべきであったとはいえない。しかしながら、昭和62年度の定期健康診断における胸部エックス線間接撮影フィルムにおける陰影は前年度のものと比較して変化していたものであるから、前年度のフィルムと比較して右陰影に変化がないとしたA医師の判断は、誤っていたものと認められる。これに対して、被告は、昭和62年度のエックス線撮影フィルムに発見された陰影を前年度のものと比較して変化がないとしたA医師の判断は、医師に求められる一定水準に満たす専門的知識に基づくものであり、医師に認められた裁量の範囲内の問題であるとし、また、肺癌である可能性の少ない陰影がある場合に安易に精密検査に付することを義務づけるのは妥当ではないと主張する。確かに、定期健康診断においては、短時間に大量の間接撮影フィルムを読影するものであるから、その中から異常の有無を識別するために医師に課せられる注意義務の程度にはおのずと限界があり、鑑定人が供述するように、昭和62年度定期健康診断時に撮影されたエックス線間接撮影フィルムにおける陰影は、短時間の読影では見逃されるおそれがあることも否定できないところ、右読影の過程において本件異常陰影を発見しフィルムの比較読影を試みたA医師の判断は、一面において要求される水準を十分に満たすものであったと認められる。しかしながら、A医師が本件異常陰影を発見し、一度は精密検査が必要と考え、Xのフィルムにつき前年度のものと比較読影して右陰影につき医学的判断を下す段階においては、前記のように大量のフィルムを読影するという状況ではなく、認識した個別の検査結果の異状の存在を前提に一般的に医師に要求される注意を払って判断しなければならないものと考えられる。そして、前述のとおり鑑定の結果によれば、本件異常陰影が前年度の陰影と対比して客観的に変化しているのであるから陰影の変化の有無という判断自体には裁量の余地はないものと認められ、A医師は右判断において要求される注意義務を怠ったものといわざるを得ない。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(富山地判平成6年6月1日 判時1539号118頁)ポイント解説今回からは、各論として、各診療領域における代表的な紛争を取り上げていきます。各論の最初は、健康診断です。「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない」(労働安全衛生法66条1項)と定められており、行われる健康診断の内容も、労働安全衛生規則44条において、表のように定められています。表 一般定期健康診断の内容●労働安全衛生規則(定期健康診断)第四十四条1項 事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。 一  既往歴及び業務歴の調査 二  自覚症状及び他覚症状の有無の検査 三  身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査 四  胸部エックス線検査及び喀痰検査 五  血圧の測定 六  貧血検査 七  肝機能検査 八  血中脂質検査 九  血糖検査 十  尿検査十一  心電図検査2項  第一項第三号、第四号、第六号から第九号まで及び第十一号に掲げる項目については、厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは、省略することができる。4項  第一項第三号に掲げる項目(聴力の検査に限る。)は、四十五歳未満の者(三十五歳及び四十歳の者を除く。)については、同項の規定にかかわらず、医師が適当と認める聴力(千ヘルツ又は四千ヘルツの音に係る聴力を除く。)の検査をもつて代えることができる。健康診断に関する紛争において、最も多いのが「胸部X線写真における肺がんの見落とし事例」です。ただ、医療者からしてみると、他の情報に乏しい受診者のX線フィルムのみを短時間の間に大量に読影しなければならないこと、健康診断の目的としても、明らかな異常影が発見されれば足りるものであること、通常の診療のように特定の疾患を疑って読影する場合とは異なる状況であることなどから、あまりに要求水準が高くなると現場に不可能を強いることとなりますし、本件において被告が主張しているように何でもかんでも要精密検査にせざるを得なくなります。この健康診断の特殊性については、裁判所も一定の理解を示しており、「集団健診におけるレントゲン写真を読影する医師に課せられる注意義務は、一定の疾患があると疑われる患者について、具体的な疾患を発見するために行われる精密検査の際に医師に要求される注意義務とは、自ずから異なるというべきであって、前者については、通常の集団健診における感度、特異度及び正確度を前提として読影判断した場合に、当該陰影を異常と認めないことに医学的な根拠がなく、これを異常と認めるべきことにつき読影する医師によって判断に差異が生ずる余地がないものは、異常陰影として比較読影に回し、再読影して再検査に付するかどうかを検討すべき注意義務があるけれども、これに該当しないものを異常陰影として比較読影に回すかどうかは、読影を担当した医師の判断に委ねられており、それをしなかったからといって直ちに読影判断につき過失があったとはいえないものと解するのが相当である」(仙台地判平成8年12月16日 判タ950号212頁)としたものや、傍論ではありますが、最高裁においても「多数者に対して集団的に行われるレントゲン健診における若干の過誤をもつて直ちに対象者に対する担当医師の不法行為の成立を認めるべきかどうかには問題がある」(最判昭和57年4月1日 民集36巻4号519頁)などと一般の診療とは異なる医療水準で判断すべきと判示しています。しかし、本判決は、同様に定期健康診断において読影に求められる医療水準は通常診療におけるそれとは異なるとしたものの、ひとたび医師が異常陰影を認め、前年度の写真と比較読影すると判断した段階においては、求められる医療水準は、もはや集団健診時のものではなく、通常の診療と同等のものが求められると判示しました。確かに、健康診断における胸部X線写真の読影に求められる医療水準を2段階でとらえる裁判所の考え方は一見妥当なようにみえます。しかし、このような厳しい判決の結果、実医療現場において、従来なら比較読影の結果、「著変なし。経過観察」としていた事例が「要精密検査」とされることが増加し、本来ならば不要な検査が行われるなど、萎縮医療・過剰診療が行われるようになりました。そもそも、胸部X線撮影による肺がん検診によって、肺がんによる死亡率は減少しないという報告がなされるなど、検診自体の有効性にも疑問が呈されています。そのような中、健康診断に対する国民の「期待感」を過剰に保護することは、バランスを失することとなるのではないでしょうか。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)富山地判平成6年6月1日 判時1539号118頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。仙台地判平成8年12月16日 判タ950号212頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。最判昭和57年4月1日 民集36巻4号519頁

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原発性骨髄線維症〔 primary myelofibrosis 〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis)は、造血幹細胞レベルで生じた遺伝子異常により骨髄で巨核球と顆粒球系細胞が増殖し、骨髄に広範な線維化を来す骨髄増殖性腫瘍である。本疾患は骨髄組織における異型性のある巨核球の過形成を伴う、広範かつ過剰な反応性の膠原線維の増生による造血巣の縮小と骨硬化、および脾腫を伴う著明な髄外造血を特徴とする。■ 疫学わが国における推定新規発症例は年間40~50例で、患者数は全国で約700人と推定される。本疾患は高齢者に多く、発症年齢中央値は65歳、男女比は1.96:1である。■ 病因原発性骨髄線維症の40~50%には、サイトカインのシグナル伝達に必須なチロシンキナーゼであるJAK2において、617番目のアミノ酸がバリンからフェニルアラニンへ置換(V617F)される遺伝子変異が生じ、JAK2の活性が恒常的に亢進する。その結果、巨核球が腫瘍性に増殖し、transforming growth factor-β(TGF-β)やosteoprotegerin(OPG)を過剰に産生・放出し、二次的な骨髄の線維化と骨硬化を生じるものと考えられる。JAK2以外には、c-MPL(トロンボポエチンのレセプター)に遺伝子変異を有する症例が5~8%存在し、ほかにはTET2、C-CBL、ASXL1、EZH2などの遺伝子変異が報告されている。■ 症状初発症状のうち最も多いのが動悸、息切れ、倦怠感などの貧血症状であり、40~60%に認められる。脾腫に伴う腹部膨満感、食欲不振、腹痛などの腹部症状を20~30%に認め、ときに臍下部まで達する巨脾を来すことがある。ほかには紫斑、歯肉出血などの出血傾向や、発熱、盗汗、体重減少が初発症状になりうる。一方、20~30%の症例は診断時に無症状であり、健康診断における血液検査値異常や脾腫などで発見される。■ 分類骨髄線維症は骨髄に広範な線維化を来す疾患の総称であり、骨髄増殖性腫瘍に分類される原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis)と、基礎疾患に続発する二次性骨髄線維症(secondary myelofibrosis)に分けられる。二次性骨髄線維症は、骨髄異形成症候群、真性多血症、原発性血小板血症などの血液疾患に続発することが多く、ほかには固形腫瘍、結核などの感染症、SLEや強皮症などの膠原病に続発することもある。本稿では原発性骨髄線維症を中心に述べる。■ 予後わが国での原発性骨髄線維症466例(1999~2009年)の後方視的な検討では、5年生存率38%、平均生存期間は3.4年である。しかし、原発性骨髄線維症の臨床経過は均一ではなく、症例間によるばらつきが大きい。わが国での主な死因は、感染症27%、出血6%、白血化15%である。2008年にInternational Working Group for Myelofibrosis Research and Treatmentから発表された予後不良因子と、後方視的に集積したわが国での70歳以下の症例を用いた特発性造血障害に関する調査研究班(谷本ほか)による解析を表1に示す1,2)。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)増殖した巨核球や単球から産生される種々のサイトカインが骨髄間質細胞に作用し、骨髄の線維化、血管新生および骨硬化、髄外造血による巨脾、無効造血、末梢血での涙滴状赤血球(tear drop erythrocyte)の出現、白赤芽球症(leukoerythroblastosis)などの特徴的な臨床症状を呈する。骨髄穿刺の際、骨髄液が吸引できないことが多く(dry tap)、このため骨髄生検が必須であり、HE染色にて膠原線維の増生を、あるいは鍍銀染色にて細網線維の増生を証明する。2008年のWHO診断基準を表2に示す。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)低リスク群は支持療法のみでも長期の生存が期待できるために、無症状であればwatchful waitingの方針が望ましい。中間群および高リスク群では、適切なドナーが存在する場合には、診断後早期の同種造血幹細胞移植を念頭に治療にあたる。■ 薬物療法症状を有する低リスク群、移植適応のない中間群および高リスク群では、貧血や脾腫の改善などの症状緩和を期待して薬物療法を選択する。蛋白同化ホルモンであるダナゾール(商品名: ボンゾール:600mg/日)や酢酸メテノロン(同: プリモボラン:0.25~0.5mg/kg/日)は、30~40%の症例で貧血改善に有効である。少量メルファラン(同:アルケラン、1日量2.5mg、週3回投与)、サリドマイド(同:サレド、50mg/日)+プレドニゾロン(0.5mg/kg/日)、レナリドミド(同:レブラミド、5~10mg/日、21日間投与、7日間休薬)+プレドニゾロン(15~30mg/日)は、貧血、血小板減少、脾腫の改善効果が報告されている(保険適用外)。■ 脾臓への放射線照射・脾臓摘出脾腫に伴う腹部症状の改善を目的に脾臓への放射線照射を行うと、93.9%に脾腫の縮小が認められ、その効果は平均6ヵ月(1~41ヵ月)持続した。主な副作用は血球減少であり、23例中10例(43.5%)に出現した。脾摘に関しては、脾腫による腹部症状の改善や貧血に対し効果が認められているが、周術期の死亡率が9%と高く、合併症も31%に生じていることから、適応は慎重に判断すべきである。■ 同種造血幹細胞移植原発性骨髄線維症は薬物療法による治癒は困難であり、同種造血幹細胞移植が唯一の治癒的治療法である。しかし、移植関連死亡率は27~43%と高く、それに伴い全生存率は30~40%前後にとどまっている。治療関連毒性がより少ない骨髄非破壊的幹細胞移植(ミニ移植)は、いまだ少数例の検討しかなされておらず長期予後も不明ではあるが、移植後1年の治療関連死亡は約20%、予測5年全生存率も67%であり、期待できる成績が得られている。現時点では、骨髄破壊的前治療と骨髄非破壊的前治療のどちらを選択すべきかの結論は出ておらず、今後の検討課題である。4 今後の展望今後、わが国での臨床試験を経て実地医療として期待される治療としては、pomalidomide、JAK2阻害薬などがある。新規のサリドマイド誘導体であるpomalidomideの第II相試験が行われており、pomalidomide(0.5mg/日)+プレドニゾロン投与により、22例中8例(36%)に貧血の改善がみられた。現在開発中のJAK2阻害薬であるINCB018424(Ruxolitinib)は、腫瘍クローンの著明な減少・消失は来さないものの、脾腫の改善、骨髄線維症に伴う自覚症状の改善がみられている。ただし、生命予後の改善効果の有無は、今後の検討課題である。わが国での臨床試験が待たれる薬剤として、ほかにはCEP-701(Lestautinib)、TG101209などがある。5 主たる診療科血液内科、あるいは血液・腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特発性造血障害調査に関する調査研究班(診療の参照ガイドがダウンロードできる)1)Cervantes F, et al. Blood. 2009; 113: 2895-2901.2)Okamura T, et al. Int J Hematol. 2001; 73: 194-198.

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慢性リンパ性白血病に対して国内初の分子標的薬

 白血病の1つである慢性リンパ性白血病(CLL)は、わが国の患者数が約2,000人と推計されている希少疾病である。治療はフルダラビンやシクロホスファミドを用いた化学療法が第一選択であるが、これらに効果がない場合や再発した場合の新たな治療選択肢として、分子標的薬であるアーゼラ(一般名:オファツムマブ)が今年5月24日に発売された(適応は「再発または難治性のCD20陽性のCLL」)。  7月9日に東京都内で開催された記者発表会では、CLL治療の現状と課題についてがん研有明病院血液腫瘍科 部長 畠 清彦氏が、また、アーゼラの試験成績について東海大学医学部内科学系血液・腫瘍内科 准教授・診療科長 小川 吉明氏が講演した(主催:グラクソ・スミスクライン株式会社)。■白血病は分子標的治療薬で治療成績が飛躍的に向上しつつある 畠氏はまず、白血病は死に至るイメージが強いが、近年、移植療法の進歩や分子標的治療薬の登場により、治療成績が飛躍的に向上しつつあることを紹介した。白血病は、骨髄性とリンパ性、慢性と急性により4つのタイプに分けられる。患者数の割合は、急性骨髄性白血病(AML)が約6割と最も多く、慢性骨髄性白血病(CML)と急性リンパ性白血病(ALL)が約2割ずつ、CLLは約3%と少ない。また、日本人におけるCLL罹患率は10万人に約0.5人と、欧米の約4.4人に比べてきわめて少ないことから、わが国では他のタイプの白血病に比べて、新たな治療法の研究・開発が遅れていた。実際、AML、CML、ALLではすでに分子標的治療薬が使用されているが、CLLではアーゼラが日本で初の分子標的治療薬となる。■CLLの治療と課題 CLLの初期は自覚症状がなく、健康診断でみつかる場合が多い。症状の進行に伴ってリンパ節腫脹、易疲労感、盗汗、発熱、体重減少、易感染性、貧血、血小板減少などが認められる。症状のない低リスク(Rai病期分類0やBinet病期分類A)の場合は経過観察を行い、貧血/血小板減少の進行・増悪、脾腫、リンパ節腫脹、リンパ球増加、自己免疫性貧血・血小板減少症、全身症状が発現した場合に治療を開始する。 日本における薬物治療の第一選択は、フルダラビン単剤療法、フルダラビンを中心とした多剤併用療法、シクロホスファミドと他の薬剤の併用療法であるが、今回、再発または難治性のCD20陽性のCLLに対してアーゼラが承認された。 日本におけるCLL治療の課題として、畠氏は、CLLは薬物療法では治癒が難しく再発することの多い難治性の血液腫瘍であること、CLLに適応を有する薬剤が少なく治療選択肢が限られていること、再発または難治性のCLLに対する標準的な治療法が確立していないことを挙げ、「標準治療の確立のため、ガイドラインの作成が急がれる」と結んだ。■再発・難治性のCLLの新たな治療選択肢として期待 続いて、アーゼラの作用機序と臨床成績について小川氏が紹介した。 アーゼラは、CLLの腫瘍性B細胞の表面に発現しているCD20抗原を標的とした、完全ヒト型のモノクローナル抗体である。CD20は大ループと小ループの2つのループから成るが、アーゼラは両ループに結合することにより補体依存性細胞傷害作用を示す(in vitro)。 日韓共同で実施された第I/II相試験では、過去に1レジメン以上のCLL治療を受けた経験のある、再発または難治性のCLL患者10例(日本人9例、韓国人1例)に対して、アーゼラを単剤で投与(点滴静注、全12回)したところ、10例中7例に奏効を認めた(部分寛解7例、安定3例)。また、10例中8例は病勢進行が認められなかった。主な副作用は、血球減少症、インフュージョンリアクションであった。インフュージョンリアクションについては、多くは1回目と2回目の投与時に認められたが、5~7回目にも発現していることに注意が必要、と小川氏は指摘した。 最後に小川氏は、「再発・難治性のCLL患者さんに対して、アーゼラ単独療法で高い効果が期待できる。有効な治療選択肢がなく、無治療や現状維持を目指していたCLL患者さんに対しても積極的に治療が検討できる新たな治療選択肢となる」と期待を示した。

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