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大腸菌O157:H7に起因する急性胃腸炎の経験者は、高血圧、腎障害、心血管疾患のリスクが増大していることが、カナダ・ロンドン健康科学センターのWilliam F Clark氏らが行ったコホート試験で示された。アメリカでは年間、O157:H7感染症による消化管疾患が5~12万例にみられ、そのうち2,000例以上が入院し、約60例が死亡している。O157:H7が産生するShiga toxinは腎臓や血管を傷害し、溶血性尿毒症症候群(HUS)をきたす可能性がある。O157:H7曝露によるHUSの長期的な影響は、子どもではよく知られているが、症状がみられ比較的曝露量の少ない成人では不明であったという。BMJ誌2010年11月20日号(オンライン版2010年11月17日号)掲載の報告。汚染水飲用後8年以内の高血圧、腎障害、心血管疾患のリスクを評価研究グループは、大腸菌O157:H7とカンピロバクターに汚染された水道水の飲用による胃腸炎から8年以内に、高血圧、腎障害、心血管疾患を発症するリスクの評価を目的にプロスペクティブなコホート試験を行った。2000年5月のWalkerton市(カナダ、オンタリオ州)の水道システムの汚染による胃腸炎の集団発生後、2002~2005年までにWalkerton Health Studyに登録された成人1,977人を解析の対象とした。調査、健康診断、臨床検査を通じて年ごとに情報を収集した。主要評価項目は、急性胃腸炎(3日以上持続する下痢性疾患、出血性の下痢、1日3回以上の軟便)、高血圧(≧140/90mmHg)、腎障害(微量アルブミン尿、推算糸球体濾過量<60mL/分/1.73m2)であった。自己申告後に医師によって診断された心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、うっ血性心不全)を副次評価項目とした。O157:N7胃腸炎経験者は定期的に血圧、腎機能をモニタリングすべき集団発生時の急性胃腸炎の発生率は54%(1,067/1,977人)であった。高血圧は35%(697/1,977人)で確認され、非急性胃腸炎例では32%(294/910人)であったのに対し、急性胃腸炎例では38%(403/1,067人)であった。腎障害の指標を少なくとも一つ満たした例は29%(572/1,977人)で、非急性胃腸炎例29%(266/910人)、急性胃腸炎例29%(306/1,067人)ともに同率であった。二つの指標のいずれをも満たした例は1.5%(30/1,977人)にすぎなかったが、非急性胃腸炎例の0.9%(8/910人)に対し、急性胃腸炎例では2.1%(22/1,067人)であった。心血管疾患は1.9%(33/1,749人)に認められた。急性胃腸炎の集団発生前に対する発生後の高血圧および心血管疾患の補正ハザード比は、それぞれ1.33(95%信頼区間:1.14~1.54)、2.13(同:1.03~4.43)と有意であった。腎障害の指標のいずれか一方を満たす例における急性胃腸炎発生前後の補正ハザード比は1.15(同:0.97~1.35)であったが、二つの指標の双方を満たす例では3.41(同:1.51~7.71)に上昇した。著者は、「大腸菌O157:H7とカンピロバクターに汚染された水道水の飲用による急性胃腸炎は、高血圧、腎障害、自己申告による心血管疾患のリスクの上昇と有意な相関を示した」と結論し、「大腸菌O157:H7に起因する胃腸炎を経験した患者に対しては、血圧と腎機能の定期的なモニタリングを行うべきである」と指摘する。(菅野守:医学ライター)