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慢性便秘の改善にキウイが有効

 キウイは健康的なおやつ以上のものかもしれない。英国栄養士会(BDA)が新たに作成した慢性便秘に関する包括的な食事ガイドラインによれば、キウイ、ライ麦パン、特定のサプリメントは、薬に頼らずに慢性便秘を管理するのに役立つ可能性があるという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)准教授で登録栄養士でもあるEirini Dimidi氏らが作成したこのガイドラインは、「Journal of Human Nutrition and Dietetics」に10月13日掲載された。 Dimidi氏は、「本ガイドラインは医薬品ではなく、食事療法による便秘治療に焦点を当てている」と説明する。同氏は、「便秘に悩む人が、科学的エビデンスに基づいた情報を得ることで、自分で症状をコントロールして、生活の質(QOL)に多大な影響を及ぼしている症状を改善することができると感じてくれることを願っている」と話している。 慢性便秘とは、週3回未満の排便が3カ月以上続く状態と定義されている。慢性便秘の一般的な症状は、硬い便や塊状の便、膨満感、腹部不快感、吐き気などである。慢性便秘は世界人口の10%以上に影響を与えている。米国消化器病学会によると、米国だけでも年間約250万人が便秘を理由に医療機関を受診している。慢性便秘の状態では、お腹の張りや痛み、倦怠感から体を動かすことができなかったり気分に影響したりする可能性がある」と米栄養と食事のアカデミー(AND)の広報担当者で管理栄養士のSue-Ellen Anderson-Haynes氏はNBCニュースに語っている。 この研究でDimidi氏らは、慢性便秘に対する食事による介入の効果を検討した75件のランダム化比較試験(RCT)を対象に4件のシステマティックレビューとメタアナリシスを行い、その結果に基づいて、GRADEアプローチ(エビデンスの確実性と推奨の強さを評価する手法)によりガイドライン(推奨事項)を作成した。主な推奨事項は以下の通り。・キウイ:毎日3個(皮付きまたは皮なし)食べると便通が改善する。・ライ麦パン:1日6〜8枚食べると排便回数を増やすことができる。ただし、これは全ての人にとって現実的とはいえない可能性があることをDimidi氏らは指摘している。・食物繊維サプリメント:サイリウム(オオバコ)などのサプリメントを1日当たり10g以上摂取すると排便回数が増え、いきみが楽になる。・酸化マグネシウムのサプリメント:1日0.5〜1.5g摂取することで排便回数が増え、腹部膨満感や痛みが軽減される。・プロバイオティクス:プロバイオティクス全体としては一部の人で効果のある可能性があるが、個々の種または菌株ごとの効果は不明である。・ミネラル豊富な水:マグネシウムを豊富に含む水の1日0.5~1.5Lの摂取を他の治療法と組み合わせることで、効果を高めることができる。 Dimidi氏は、「このガイドラインは、『食物繊維や水の摂取量を増やしましょう』というような漠然とした既存の助言を、より具体的で研究に裏打ちされた助言に置き換えることを目的としている」と述べている。同氏らによると、慢性便秘の既存の治療計画のほとんどは薬物療法に依存しているという。Dimidi氏は、「高繊維食は、健康全般や大腸がんのリスク軽減など、腸の健康にも非常に有益であるというエビデンスはいくつもある。しかし便秘に関しては、それが便秘を改善すると断言できるほどの十分なエビデンスは存在しない」とNBCニュースに対して語っている。 このガイドラインの作成には関与していない米ミシガン大学の消化器専門医であるWilliam Chey氏は、本ガイドラインを、「主治医の診察を待つ間に自分で試すことのできることについてまとめた貴重なロードマップだ」と評している。

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お腹の張りも奥が深いのです【非専門医のための緩和ケアTips】第111回

お腹の張りも奥が深いのです「お腹の張り」を訴える患者さん、内科診療をしている方であればしばしば遭遇するでしょう。皆さんはこうしたケースにどのように対応していますか? ちょっと曖昧な訴えにも感じられ、ついつい便秘と決めがちではないでしょうか。今回の質問肝臓がんでお腹の張りを訴える患者さんがいます。毎日というわけではないですが排便はあるようで、腹水が原因かと思っています。ただ、そこまで緊満しているわけではなく、対応を悩んでいます。これは腹水が溜まっている患者さんなどでよく遭遇する状況かと思います。患者さんの訴えも曖昧で、詳しく聞いてみても「とにかくお腹が張ってつらいんです」といった訴えが続くこともよくあります。緩和ケアは高齢患者も多く、詳細な情報収集が難しいのはよくあることなので、診察や検査といった客観的な情報と総合して、アプローチを考えるのが基本です。こういった時、我々の思考プロセスとしてまず考えたいのは、「緊急性の高い疾患がないか」という点です。とくに消化管穿孔、絞扼性イレウスといったところは見逃したくないですね。私の経験上では、普段から腹痛を訴えることの多い患者さんだったものの、痛みがいつもより強いようであることに違和感を覚え、検査をしました。その結果、腫瘍破裂による、腹腔内出血でした。血液は腹膜への刺激となるため、腹痛の原因となります。その典型的な例が子宮外妊娠ですが、がん患者にも同じような機序の痛みが起こりえます。「いつもの腹痛」と片付けていれば、対応が遅れるところでした。さて、上記のような緊急性の高い疾患がないことが確認できた後は、便秘や腹水貯留といった頻度の高い病態や症状であるの可能性を念頭に置いて、排便コントロールと腹水に対する介入を複数試すことになるでしょう。腹水であれば減塩、輸液量の調整、利尿薬を追加し、それでもコントロールが難しい場合は腹腔穿刺をして排液を試みます。それでも改善が乏しければ、NSAIDsやステロイドなどで腹膜の炎症を軽減しつつ、オピオイドの使用も検討します。その経過中に便秘が生じないように、緩下薬なども調整します。いずれにしても、患者さんの主観的な症状を否定せず、可能性のある病態に対し、安全な範囲で介入しながら様子を見る、という地道な診療が続きます。看護師にも観察してもらい、ケアで工夫できることを発見してもらったり、良い変化があれば小さいことでも患者と医師に共有してもらったりすることも重要です。なかなかすっきりしない症状ではありますが、私自身はこのような対応をすることが多いです。皆さんの工夫もぜひ教えてください。今回のTips今回のTips腹部の張りは鑑別に立ち返り、試行錯誤しながら対応しましょう。

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オピオイド鎮痛薬のトラマドール、有効性と安全性に疑問

 がんによる疼痛や慢性疼痛に対して広く処方されている弱オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)のトラマドールは、期待されたほどの効果はないことが、新たな研究で明らかにされた。19件の研究を対象にしたメタアナリシスの結果、トラマドールは中等度から重度の疼痛をほとんど軽減しないことが示されたという。コペンハーゲン大学(デンマーク)附属のリグスホスピタレットのJehad Ahmad Barakji氏らによるこの研究結果は、「BMJ Evidence Based Medicine」に10月7日掲載された。研究グループは、「トラマドールの使用は最小限に抑える必要があり、それを推奨するガイドラインを再検討する必要もある」と結論付けている。 研究グループによると、トラマドールはモルヒネと同様に脳内のオピオイド受容体に結合することで鎮痛作用を発揮するが、セロトニンやアドレナリンといった脳内化学物質の再取り込みを阻害することで、抗うつ薬に似た作用も併せ持つ。トラマドールは、モルヒネ、オキシコンチン、フェンタニルといったより強力なオピオイドよりも安全で依存性が低い選択肢と見なされていることから使用が急増し、現在では米国で最もよく処方されるオピオイド鎮痛薬の一つになっているという。 Barakji氏らは今回、総計6,506人の慢性疼痛患者を対象とした19件のランダム化比較試験のデータを統合して解析した。5件の研究は神経痛、9件は変形性関節症、4件は腰痛、1件は線維筋痛症に対するトラマドールの使用を検討していた。 その結果、トラマドールは慢性疼痛の軽減に対してわずかに効果があるものの、その効果量は、NRS(Numerical Rating Scale;痛みを0〜10の数字で評価する指標)で1.0ポイントという、事前に設定した臨床における最小重要差には届かないことが明らかになった。重篤な有害事象については、トラマドール群ではプラセボ群と比較してリスクが2倍に増加しており、このリスクは、主に心臓関連イベントと新生物の発生率の高さに起因していた。その他の副作用には、吐き気、めまい、便秘、眠気などがあった。 これらの結果からBarakji氏らは、「疼痛管理のためにトラマドールを使用することで生じる潜在的な有害性は、その限られた有効性を上回る可能性が高い」と述べている。また同氏らは、対象とした研究の実施方法に鑑みると、これらの結果はトラマドールの有効性を過大評価する一方で、有害性を過小評価している可能性が高いと指摘している。 さらにBarakji氏らは、トラマドールの使用を控えるべき理由として依存と過剰摂取を挙げ、「世界中で約6000万人が依存を引き起こすオピオイドの作用を経験している。2019年には薬物使用により約60万人が死亡した。そのうちの約80%はオピオイド関連、約25%はオピオイドの過剰摂取によるものだった」と述べている。 研究グループは、「米国では、オピオイド関連の過剰摂取による死亡者数は、2019年の4万9,860人から2022年には8万1,806人に増加した。これらの傾向と今回の研究結果を考慮すると、トラマドールをはじめとするオピオイドの使用は可能な限り最小限に抑えるべきだ」と主張している。

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息切れがして歩きが遅い【漢方カンファレンス2】第8回

息切れがして歩きが遅い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】80代男性主訴呼吸困難、歩きが遅くなった既往慢性閉塞性肺疾患(COPD)、腰椎椎間板ヘルニア生活歴50歳まで喫煙、ADLは自立。病歴50歳時にCOPDと診断。呼吸器内科で吸入薬を中心とした治療を受け、咳や痰がときおりある程度で落ち着いていた。3ヵ月前に腰痛が悪化して、腰椎圧迫骨折の診断で3週間の入院加療を行った。退院後、腰痛は軽減して日常生活は問題なくできていたが、歩行時の息切れがひどくなった。以前から妻と散歩をしていたが、妻の歩きについていけなくなった。呼吸機能検査では悪化はなく、漢方治療を希望して受診した。現症身長161cm、体重52kg。体温35.4℃、血圧115/77mmHg、脈拍70回/分 整、SpO2 98%。呼吸音は異常なし、軽度の下肢浮腫あり。経過初診時「???」エキス3包 分3で治療開始。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後息切れは変わらない。夜間尿が1〜2回に減った。下肢の浮腫は減ったが冷えは変わらない。ブシ末3包 分3を追加2ヵ月後腰痛と息切れがずいぶん楽になった。散歩に行く意欲がでてきた。3ヵ月後散歩で息切れがなくなって、妻と同じ速度で散歩ができるようになったと喜んでいる。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 寒がりです。 足、とくに膝下が冷えます。 足は冷えますが、足の裏がほてることがあります。 横になりたいほどではありませんが歩くと息切れがひどくきついです。 入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか? 入浴で温まると、腰痛はどうなりますか? 冷房は苦手ですか? 入浴の時間は長いです。 入浴後は腰痛が軽くなります。 冷房は好きでも嫌いでもありません。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇く方です。 温かい飲み物が好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 胃は弱くありませんか? だいたい1日1L程度です。 食欲はあります。 胃は丈夫です。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかきますか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便は毎日出ますか? 下痢や便秘はありませんか? 汗はあまりかきません。 尿は1日12回くらいです。 夜は3回トイレに行くので困っています。 便は毎日出ます。下痢はありません。 <ほかの随伴症状> 全身倦怠感はありますか? 朝が一番きついということはありませんか? 腰痛はどうですか? よく眠れますか? 歩くときついですがじっとしていれば倦怠感はありません。 朝は調子がよいです。 腰痛は随分よくなりましたが動くとまだ痛いですね。 睡眠は問題ありません。 日中の眠気はありませんか? 目の疲れや抜け毛は多くありませんか? 足をよくつりますか? 頭痛やめまいはありませんか? 下肢はむくみませんか? 眠気はありません。 目の疲れや抜け毛はありません。 足はつりません。 頭痛やめまいはしません。 夕方になると下肢がむくみます。 風邪をひきやすいですか? 咳や痰はひどいですか? 風邪はあまりひきません。 咳はたまに出る程度です。痰も量は少ないです。 ときどき粘っこい痰が出ます。 イライラや不安はありませんか? どれくらい生活に支障が出ていますか? イライラや不安はありませんが、何をするにも億劫になりました。以前はグランドゴルフもやっていましたが、いまは散歩にいく気力もありません。 【診察】顔色は正常。脈診ではやや沈・強弱中間の脈。また、舌は暗赤色、乾燥した白苔が中等量、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力は中等度より軟弱、胸脇苦満(きょうきょうくまん)・心下痞鞕(しんかひこう)はなし、腹直筋緊張あり、上腹部と比べて下腹部の腹力が低下している小腹不仁(しょうふくふじん)を認めた。下肢に浮腫が軽度あり、触診で冷感あり。カンファレンス 今回の症例は、呼吸困難感と歩行速度の低下を訴える高齢の男性です。 COPDはコモンな疾患で、抗コリン薬やステロイドの吸入が標準的な治療ですが、それ以外の治療は乏しいです。本症例は呼吸機能検査の悪化はなく、腰椎圧迫骨折を契機に出現した症状ということで、肺というよりは体力や筋力の低下が問題で「リハビリを頑張ってください」と言いたくなりますね。 そうですね。COPDの治療には生活の質の改善や身体活動性の維持・向上が含まれますから、リハビリの強化は必要ですね。 全身倦怠感や息切れのために積極的にリハビリが行えない、意欲が低下してなかなかリハビリが進まないケースも多いですね。 そういうケースに漢方薬を使うことでリハビリがスムーズに行えるように支えることができたらよいね。 それでは、順番にみていきましょう。 下肢、とくに膝下の冷えの訴えがあるので陰証でしょうか。そのほか寒がり、入浴の時間は長い、温かい飲み物を好む、触診で下肢に冷感があるなどが陰証を示唆する所見です。ただし、横になりたいほどの倦怠感はない、脈は強弱中間であることから、少陰病や厥陰病(けついんびょう)というわけではないようです。 そうだね。ただし腰痛が入浴で温まると改善するということは、冷えの関与が考えられるね。 入浴で温まると痛みがよくなるということで附子(ぶし)を使いたくなります。 それでは漢方診療のポイント(2)の虚実はどうだろう? 脈は強弱中間、腹力は中等度より軟弱であることからやや虚証〜虚実間です。 そうですね。では気血水の異常を考えてみましょう。 歩行できついという全身倦怠感があるので気虚でしょうか? 疲れやすさは気虚と考えることができるね。ただし本症例では気虚の倦怠感の特徴である食欲低下や昼食後の眠気は目立たないね。また、風邪をひきやすいことも気虚の特徴だけど、そちらもないよね。 気虚はありそうだけど、典型的な気虚というわけでもなさそうですね。 また、朝調子が悪いという気鬱の全身倦怠感でもないようです。 血の異常はどうだろう? 抜け毛、こむら返り、目の疲れなど血虚はありません。瘀血は舌暗赤色、舌下静脈の怒張があります。 水毒の所見としては下肢の浮腫がありますね。また夜間尿3回は夜間頻尿で水毒と考えることができますね。ここまでをまとめると、太陰病で、気虚はありそうだけど典型ではない、瘀血、水毒となりますね。 散歩に行く意欲がない、何をするのも億劫というのは気鬱でしょうか? 気鬱としてもよいかもしれないね。ただし、下肢の冷え、腰痛、夜間頻尿、歩行速度の低下などと意欲の低下を一元的に考えるとどうだろう? なるほど、心身一如の漢方治療ですね。それらを加齢に伴う症状として考えると漢方医学的には腎虚(じんきょ)と捉えることができませんか? そのとおり。腎の働きが加齢とともに弱くなり、腎の機能が衰えてくることを腎虚というよ。代表的なものは腰以下の症状(冷え、腰痛、下肢痛、下肢の脱力感など)、排尿異常(夜間頻尿、頻尿や尿量減少:尿が多くても少なくてもよい)、精力減退だね。下肢(とくに膝から下)の冷えが典型だけど、手掌や足底のほてりを訴えることもあるよ。加齢に伴う症状として、聴力障害、視覚障害、呼吸器症状なども腎虚による症状だね(腎虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 腎虚といえば、坐骨神経痛や夜間頻尿など、腰下肢痛や排尿異常を思い浮かべてしまいますが、さまざまな症状が含まれるのですね。 先天の気は腎に蓄えられることから、全身倦怠感や意欲の低下といった気虚と類似した症状もあらわれることがあるのも理解できるね。 現代ではフレイルやサルコペニアなどが老化の概念として活用されていますね。とくにフレイルには多面性があって、身体的フレイル、心理・精神的フレイル、社会的フレイルに分類され、心理社会的側面な意味を含むことも腎の働きと似ていますね。 あとは細かい点だけど、足の裏がほてるという症状も腎虚で出現する症状だよ。 本症例をまとめましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?寒がり、下肢、とくに膝下が冷える、入浴は長い、下肢に冷感→陰証(太陰病)(2)虚実はどうか脈:やや強弱中間、腹:中等度より軟弱→やや虚証〜虚実間(3)気血水の異常を考える歩くと倦怠感→気虚?、舌暗赤色、舌下静脈の怒張→瘀血、下肢浮腫→水毒、下肢冷えと浮腫、腰痛、夜間頻尿、意欲の低下→腎虚(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む加齢症状、小腹不仁解答・解説【解答】本症例は、腎虚に対して用いる八味地黄丸(はちみじおうがん)で治療をしました。【解説】腎虚に対して用いる漢方薬が八味地黄丸です。古典を参考に八味丸(はちみがん)という場合もあります。八味地黄丸は、地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)が体を栄養・滋潤する作用があり、そのほか、利水作用のある茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)、駆瘀血作用のある牡丹皮(ぼたんぴ)に加え、体を温める桂皮(けいひ)と附子で構成されます。八味地黄丸は太陰病の虚証に適応となる漢方薬ですが、虚証の程度は軽く、虚実間からやや実証まで幅広く適応になります。ひどく虚弱で胃が弱い人ではしばしば胃もたれすることがあるので注意が必要です。そのため食前ではなくあえて食後に内服する、あるいは減量して用いる場合もあります。この胃もたれは構成生薬の地黄が原因です。八味地黄丸に牛膝(ごしつ)と車前子(しゃぜんし)を加えたものが牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)で浮腫やしびれが強い場合に用います。また、冷えが目立たない症例では桂皮と附子を除いた六味丸(ろくみがん)を用います。腎虚の治療の効果判定は、加齢に伴う症状ですから、内服によりすべての症状がすみやかに改善することは難しく、じっくりと月単位で内服してもらいます。八味地黄丸は軽度アルツハイマー認知症患者に対してアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に併用することで、女性や65歳以上では有意に認知機能を改善させたという前向きオープンラベル多施設ランダム化比較試験があります1)。また、精神症状に関する報告として、八味地黄丸を意欲の低下を目標に15症例に投与したところ、7割以上に有効で八味地黄丸には意欲賦活作用があるとする症例報告2)やうつ病患者の倦怠感や気力の低下に八味地黄丸や六味丸が有効であったとする報告3)があります。また呼吸器症状に関しても気管支喘息に対する八味地黄丸の効果4)やストレスに起因した慢性咳嗽に八味地黄丸が有効であった症例5)が報告されています。腎虚の治療薬は、夜間頻尿や過活動膀胱などに対する泌尿器科的な症状や牛車腎気丸が末梢神経障害に用いるといったイメージが強いですが、腎虚はもっと幅広い概念であるため、精神症状や呼吸器症状に有効であるということにも注目すべきでしょう。「腎は納気(のうき)を司(つかさ)どる」といわれ、肺だけでなく腎も呼吸にも関与しているとされているのです。今回のポイント「腎虚」の解説生命活動を営む根源的エネルギーである気(き)は「先天の気」と「後天の気」に分けられます。生まれた後は呼吸や消化によって後天の気を取り入れることができます。一方、先天の気は、生まれながらの生命力というべきもので「腎」に宿ります。腎は現代医学的な腎臓とは異なる概念で、全身の生命活動を支える根本的な臓器として、水分代謝の調整のほか、成長、発育、生殖能、呼吸機能などが含まれます。腎の働きは加齢とともに弱くなり、腎の機能が衰えてくることを腎虚といいます。代表的なものは腰以下の症状(冷え、腰痛、下肢痛、下肢の脱力感など)、排尿異常(夜間頻尿、頻尿や尿量減少:尿が多くても少なくてもよい)、精力減退です。下肢(とくに膝から下)の冷えが典型ですが、手掌や足底のほてりを訴えることもあります。加齢に伴う症状として、聴力障害、視覚障害、呼吸器症状なども腎虚による症状です。また、腎は思考力、判断力、集中力の保持にかかわっていると考えられ、腎虚ではそれらが低下して、易疲労感や意欲の低下が出現します。腎虚を示唆する身体所見として、上腹部より下腹部の腹力が減弱した小腹不仁(図)があります。今回の鑑別処方今回は八味地黄丸や牛車腎気丸から展開する漢方治療を紹介します。八味地黄丸は腎虚に対して用いる漢方薬ですが、さらにほかの漢方医学的異常を認める場合はそれぞれの病態に応じてほかの漢方薬と併用します。八味地黄丸や牛車腎気丸には附子が含まれていますが、冷えを伴わない場合は六味丸を用います。六味丸は小児の発育障害のような病態に用いられた歴史があります。逆に冷えや痛みが強い場合には八味地黄丸や牛車腎気丸にブシ末を併用して冷えや痛みに対する治療を強化します。また腰以下の冷え、とくに腰周囲や大腿部の冷えが目立つ場合は苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)を併用します。全身倦怠感が強く気虚を合併していれば、補中益気湯を併用することもあります。補中益気湯と八味地黄丸の併用はしばしば男性不妊に対する治療で用います。八味地黄丸に含まれる地黄で胃もたれを生じるような場合は人参湯(にんじんとう)と併用することがあります。また脱水傾向があるとか、気道粘膜が乾燥傾向にあって乾性咳嗽を伴う場合には、麦門冬湯(ばくもんどうとう)を併用します。麦門冬湯には滋潤(じじゅん)作用といって潤す作用があり、COPD患者で乾燥傾向があってしつこい咳嗽(喀痰はあっても少量)がある場合に適応です。今回の症例で乾性咳嗽が目立っていれば併用すればよいでしょう。この麦門冬湯と八味地黄丸の併用は煎じ薬では味麦地黄丸(みばくじおうがん)という漢方薬と類似した構成です。また、当科では「八味丸と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に持ち込めば勝ち戦」という漢方治療の口訣があります。最初は食欲低下、冷え、不眠など、それぞれの漢方治療を行うけれども、最後に八味地黄丸や桂枝茯苓丸を内服できるようになればこちらの漢方治療が上手くいったという意味です。さまざまな症状が改善して漢方医学的異常として最後に残るのは腎虚と瘀血ということで、なんとも味わい深い口訣です。漢方外来ではそれらを飲んでいて、積極的に運動をするなど、活動的な高齢者も多いです。2つの漢方薬はともに甘草を含まないことから偽アルドステロン症の恐れもなく、地黄による胃もたれや漢方薬によるアレルギーさえなければ長期内服しやすい組み合わせになります。参考文献1)Kainuma M, et al. Front Pharmacol. 2022;13:991982.2)尾﨑哲, 下村泰樹. 日東医誌. 1993;43:429-437.3)Yamada K, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2005;59:610-612.4)伊藤隆ほか. 日東医誌. 1996;47:443-449.5)木村容子ほか. 日東医誌. 2016;67:394-398.

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難治性うつ病患者、搬送後に心室頻拍に!【中毒診療の初期対応】第1回

<今回の症例>年齢・性別52歳・女性患者情報難治性うつ病の診断で某院精神科にて通院加療していた。仕事から帰宅した夫が、リビングで倒れていて呼びかけてもまったく反応がない状態であるのを発見し、救急センターに搬送された。初診時はいびき様呼吸、呼吸数22/分、SpO2 98%(フェイスマスクにて酸素3L/分)、血圧78/46mmHg、心拍数124bpm、意識レベルJCS 200、瞳孔 左右5.5mm同大、対光反射 緩慢、体温38.6℃であった。心電図モニターでは、QRS(0.18sec)およびQTc(0.50sec)の延長(図1)が認められた。身体所見では、皮膚の乾燥、腸蠕動音の減弱が認められた。気管挿管により気道を確保し、経鼻胃管を挿入したところ薬物残渣が大量に吸引された。突然、心電図モニターで心室頻拍(図2)が出現したが、脈は触知できた。上段:(図1)搬送直後の心電図下段:(図2)経鼻胃管挿入後の心電図画像を拡大する検査値・画像所見末梢血では、WBC 9.80×103/mm3、Hb 13.8g/dL、Ht 39.6%、Plt 132×103/mm3、生化学検査では、TP 6.9g/dL、AST(GOT)12IU/L、ALT(GPT)14IU/L、LDH 320IU/L、CPK 125IU/L、AMY 253IU/L、Glu 132mg/dL、BUN 11mg/dL、Cr 0.6mg/dL、Na 140mEq/L、K 3.9mEq/L、Cl 106mEq/L、動脈血ガス(フェイスマスクにて酸素3L/分)、pH 7.336、PaCO2 30.8Torr、PaO2 112.3Torr、HCO3- 16.7mmol/L、BE -3.6mmol/L、乳酸値 4.6mmol/Lであった。<問題1><解答はこちら>2.第1世代三環系抗うつ薬<問題2><解答はこちら>4.炭酸水素ナトリウム<解説はこちら>第1世代三環系抗うつ薬(tricyclic antidepressant:TCA)はセロトニン再取り込み阻害作用やノルアドレナリン再取り込み阻害作用のほかに、ヒスタミンH1受容体遮断作用、ムスカリン受容体遮断作用、α1アドレナリン受容体遮断作用、心筋の速いNaチャンネル(cardiac fast Na+ channel)阻害作用を併せ持つ。過量服用では、これらの作用が増強されて毒性を発揮する。図3に示すように、ヒスタミンH1受容体遮断作用が増強されると、鎮静作用により傾眠や昏睡などの意識障害が生じる。ムスカリン受容体遮断作用が増強されると、抗コリン毒性により高体温、皮膚の乾燥、散瞳、頻脈、腸蠕動音の減弱、便秘、麻痺性イレウス、排尿障害、尿閉、せん妄などが生じる。α1アドレナリン受容体遮断作用が増強されると、末梢血管抵抗の低下により血圧低下が生じる。心筋の速いNa+チャネル阻害作用が増強されると、心毒性によりQRSやQTcの延長や心室頻拍などの心筋伝導障害や心筋収縮力の低下、血圧低下が生じる。(図3)第1世代TCAの薬理作用と主な中毒症状 画像を拡大する本症例では鎮静作用による昏睡、抗コリン毒性による高体温、皮膚の乾燥、散瞳、頻脈、腸蠕動音の減弱、末梢血管抵抗の低下や心毒性による血圧低下、QRSやQTcの延長、心室頻拍が認められ、第1世代TCA中毒の臨床症状に合致した。問診すべき点薬物の過量服用を疑ったら、「5Wと既往歴」の問診が重要である。患者に意識障害があれば、家族や同居者などから問診する。What薬物の名称、摂取量などWho患者の性別、年齢、体重などWhy自殺企図・自傷行為による摂取か?事故による摂取か?などWhere薬物を摂取した経路(経口?経皮?経静脈?経肛門?)、状況などWhen薬物を摂取した時間既往歴肝腎傷害など身体疾患の有無、過量服用の既往歴、薬物の乱用歴、常用薬、精神科既往歴など対処法まずは、「気道閉塞があれば気管挿管する」「血圧低下があれば急速輸液や昇圧剤を投与する」などを行い、生命を脅かす生理的な徴候があれば、蘇生することが重要である。第1世代TCA中毒では、血液のpHが上昇すると、第1世代TCAの蛋白結合率が上昇、遊離体の割合が減少して毒性が減弱する。また、ナトリウム濃度が上昇すると、阻害されていないNaチャンネルが有効利用できる。そこで、「QRS時間の延長、血圧低下、心室性不整脈があれば炭酸水素ナトリウムを投与して血液のアルカリ化およびナトリウム負荷を行う」ことが推奨されている。投与法としては、「炭酸水素ナトリウム50~100mEq(1~2mEq/kg)のボーラス投与を適宜繰り返してpHを7.45~7.55とする」などが推奨されている。なお、低カリウム血症を認めた場合は、必要に応じてカリウムを補充する。鑑別診断鑑別には尿中薬物簡易スクリーニングキットが有用で、TCA(三環系抗うつ薬類)であれば陽性となる。第2世代TCAのアモキサピン(商品名:アモキサン) 、四環系抗うつ薬、クロルプロマジン(同:ウインタミン、コントミンほか) などのフェノチアジン誘導体、ジフェンヒドラミン(同:トラベルミン、レスタミンコーワほか)などの抗ヒスタミン薬、ビペリデン(同:アキネトンほか)などの抗パーキンソン薬もヒスタミンH1受容体遮断作用、ムスカリン受容体遮断作用、α1アドレナリン受容体遮断作用があるため、過量服用では同様の中毒症状が生じる。ただし、アモキサピンや四環系抗うつ薬は心毒性より中枢神経毒性のほうが強く、痙攣発作や痙攣重積発作が生じる。1)上條 吉人. 臨床中毒学第2版. 医学書院;2023.

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下剤のルビプロストン、重大な副作用にアナフィラキシー追加/厚労省

 2025年10月22日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、下剤のルビプロストン(商品名:アミティーザカプセル)や帯状疱疹ワクチン(同:シングリックス筋注用)において、「重大な副作用」が追加された。 ルビプロストンについては、国内のアナフィラキシー関連症例12例を評価したところ、本剤との因果関係が否定できない症例を5例(死亡0例)認めたため、使用上の注意を改訂することが適切と判断され、「重大な副作用」の項にアナフィラキシーが追記された。 また、乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(チャイニーズハムスター卵巣細胞由来)では、ギラン・バレー症候群5例のうち因果関係が否定できない症例を1例認めたため、「重大な副作用」の項にギラン・バレー症候群が追記された。 そのほか、閉経期女性のホルモン補充療法(HRT)に用いられる15品目に対し、「臨床使用に基づく情報」の項に卵胞ホルモン製剤単剤使用における乳がんに関する注意喚起としてHRTと乳癌の危険性が追加された。

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片頭痛発作の急性期治療と発症抑制の両方に有効な経口薬「ナルティークOD錠75mg」【最新!DI情報】第49回

片頭痛発作の急性期治療と発症抑制の両方に有効な経口薬「ナルティークOD錠75mg」今回は、経口カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬「リメゲパント(商品名:ナルティークOD錠75mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、わが国で初めての片頭痛の急性期治療および発症抑制の両方を適応とする治療薬です。<効能・効果>片頭痛発作の急性期治療および発症抑制の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>片頭痛発作の急性期治療:通常、成人にはリメゲパントとして1回75mgを片頭痛発作時に経口投与します。片頭痛発作の発症抑制:通常、成人にはリメゲパントとして75mgを隔日経口投与します。<安全性>重大な副作用として、過敏症(頻度不明)があります。その他の副作用として、便秘(1%以上)、浮動性めまい、悪心、下痢、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加(いずれも0.5~1%未満)、上気道感染、尿路感染、単純ヘルペス、前庭神経炎、白血球減少症、好中球減少症、鉄欠乏性貧血、貧血、食欲亢進、うつ病、不眠症、易刺激性、異常な夢、錯乱状態、不安、傾眠、片頭痛、頭痛、錯感覚、頭部不快感、味覚不全、ドライアイ、回転性めまい、動悸、高血圧、潮紅、呼吸困難、腹痛、嘔吐、腹部不快感、胃食道逆流性疾患、肝機能異常、脂肪肝、発疹、そう痒症、ざ瘡、多汗症、蕁麻疹、頚部痛、背部痛、頻尿、疲労、倦怠感、口渇、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、体重増加、肝酵素上昇、血中クレアチニン増加、糸球体濾過率減少、肝機能検査値上昇、血圧上昇、心電図QT延長、サンバーン(いずれも0.5%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、片頭痛発作の急性期治療および発症抑制に用いられます。「前兆のない片頭痛」および「前兆のある片頭痛」のどちらにも使用できます。2.発作時には、頓用で服用します。ただし、1日に1錠を超えての服用はできません。3.発症を予防するには、隔日(2日に1回)、決まった時間に服用します。この薬を服用した日は、急性期治療として追加服用はできません。服用前であれば、急性期治療のために頓用で服用できますが、同日中に発症予防のための追加服用はできません。服用日以外の日に発作が生じた場合は、1日1錠まで服用ができます。<ここがポイント!>片頭痛は代表的な一次性頭痛の1つで、本邦における年間有病率は約8%(前兆のない片頭痛が5.8%、前兆のある片頭痛が2.6%)と報告されています。片頭痛は、日常生活に大きな支障を来す疾患であり、多くの患者が家事や仕事の生産性低下に悩まされています。片頭痛の主な誘因としてはストレスが最も多く、その他に女性ホルモンの変動、空腹、天候の変化、睡眠不足または過眠、特定の香水やにおいなどが挙げられます。片頭痛の発症機序は完全には解明されていませんが、「三叉神経血管説」が広く受け入れられています。この説では、何らかの原因で三叉神経を構成する無髄線維(C線維)からカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が放出され、脳血管の拡張や神経の炎症を引き起こすことで痛みが生じると考えられています。リメゲパントは、CGRP受容体拮抗薬であり、CGRPによる血管拡張や神経原性炎症の誘導を阻害することで、片頭痛に伴う痛みや諸症状を軽減します。本剤の特徴は、わが国で初めて片頭痛発作の急性期治療および発症抑制の両方に適応を有する点です。急性期治療には片頭痛発作時に頓服で服用し、発症抑制には隔日で服用します。また、本剤は薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:MOH)を誘発する可能性が低いと考えられているため、MOHの発症リスクを有する患者、またはMOHの既往のある患者について、添付文書上で特別な注意喚起をしていません。急性期治療に関しては、中等度または重度の片頭痛を有する日本人患者を対象とした国内第II/III相試験(BHV3000-313/C4951022試験)において、主要評価項目である投与2時間後の疼痛消失割合は、本剤75mg群で32.4%、プラセボ群で13.0%でした。群間差(本剤群-プラセボ群)は、19.4%(95%信頼区間[CI]:12.0~26.8)で本剤群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(p<0.0001、Mantel-Haenszel検定)。一方、発症抑制に関しては、日本人患者を対象に片頭痛の予防療法を評価した国内第III相試験(BHV3000-309/4951021試験)において、主要評価項目である二重盲検期の最後の4週間(Week 9~12)での1ヵ月当たりの片頭痛日数のベースラインからの平均変化量は、本剤群で-2.4日(95%CI:-2.93~-1.96)、プラセボ群で-1.4日(95%CI:-1.87~-0.91)でした。両群間の差は-1.1日(95%CI:-1.73~-0.38)であり、本剤群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(p=0.0021、反復測定線形混合効果モデル)。

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直腸異物はどの年齢に多いか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第292回

直腸異物はどの年齢に多いか?私は普段直腸異物を診ていないのですが、直腸異物に関する論文はたぶん消化器科医よりたくさん読んでいると思います。それはそれでコワイな…。高位まで移行した物体では直腸穿孔や腹膜汚染を伴うことがあり、これらは出血や敗血症性ショックに至る重篤な合併症を引き起こしかねません。Bhasin S, et al. Rectal foreign body removal: increasing incidence and cost to the NHS. Ann R Coll Surg Engl. 2021;103:734-737.これは、イギリスにおいて2010~19年で直腸内異物除去のために病院で処置を受けた患者を対象とした研究です。イギリス国内で合計約3,500例、1年間で約389例に相当するとされています。国内では、年間約348ベッド日が使用されたと報告されています。直腸異物の患者さん、約85%が男性であり、年齢分布は20代前半と50代前半にピークがありました。10代から20代に変わるタイミングで爆増しているので、性的嗜好が大きく影響していることが推察されます。50代で多くなる理由はちょっとわかりません…。高齢化とともに便秘などの問題が増えることで、排便困難を解決しようとする過程で意図せず異物が挿入されてしまう、といったことが推測されますが、これも想像の域を出ません。小児(10~14歳)の小さなピークも観察されており、もしかすると虐待なども含まれているのかなと邪推しますが、これも理由は不明です。医療資源への財政負担もこの論文では提示されており、著者らは年間の保守的な推計で約34万ポンド(約6,800万円)と算出しています。公衆衛生的観点では、著者らは本事象の増加はインターネット上でのポルノの普及や多様な性具の入手と関連している可能性があるとしています。ただ、この統計データは手術コードに依存するため、因果まで推定できるわけではありません。確実なのは、20代で急に増えるということくらいでしょうか。

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ドキドキして眠れません【漢方カンファレンス2】第7回

ドキドキして眠れません以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代女性主訴不眠既往40歳、50歳に胃潰瘍生活歴パート病歴数年前に不審者が自宅に侵入した被害にあった後から不眠になった。寝つきが悪く、小さな物音でも目が覚めてしまい、中途覚醒2〜3回。また日中も動悸がある。近医を受診して心電図異常はなく、ゾルピデム5mgを処方されたが効果が不十分、できたら睡眠薬は飲みたくないと受診。現症身長158cm、体重45.1kg。体温35.8℃、血圧110/60mmHg、脈拍90回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方した。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。中途覚醒はまだある。2ヵ月後動悸、悪夢がなくなった。眠れるようになり、睡眠薬を飲まない日もある。4ヵ月後睡眠良好。睡眠薬は不要になった。1年後漢方薬も飲まずに眠れているとのことで終診。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 暑がりです。 冷えは感じません。 睡眠不足がつらくて、きついですが横になりたくはありません。 入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか? 冷房や暖房は苦手ですか? 湯船には浸からずほとんどシャワーです。冷房は苦手ではありません。暖房はすぐに顔が赤くなるので嫌いです。 入浴するとのぼせませんか? はい、すぐに顔がのぼせるので湯船に浸かることはあまりないです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどはあまり渇きません。 冷たい物、温かい物どちらも好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 1日1.5Lくらいです。 食欲はあります。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありますか? 汗はよくかきます。 尿は8〜10回/日です。 夜はトイレに行きません。 便は毎日出ます。下痢もしません。 <睡眠> 何時に寝て、何時に起きますか? 寝つきはよいですか? 途中で目が覚めますか? 悪夢をみませんか? 日中の眠気はありませんか? 毎晩23時に就寝して、6時に起きます。 1時間以上寝つけません。 2〜3度目が覚めてしまいます。 毎晩のように悪夢をみます。追いかけられるような夢です。 日中は仕事で気を張っていて眠くありません。 <ほかの随伴症状> 全身倦怠感はありますか? 帰宅後にぐったりしませんか? 朝、調子が悪いですか? きつい感じはありますが、休んでも楽にはなりません。 帰宅後もとくにぐったりする感じはありません。 帰宅しても気が休まらず、落ち着かない感じです。 とくに朝調子が悪いということはありません。 足はむくみませんか? のどのつまりはありませんか? みぞおちがつかえたり、お腹が膨れる感じはありませんか? 抜け毛が多い、皮膚の乾燥はありませんか? 動悸はありませんか? 足はむくみません。 のどはつまりません。 つかえやお腹の張る感じはありません。 抜け毛や皮膚の乾燥はありません。 動悸をよく感じます。 イライラはありませんか? 落ち込むことはありませんか? 不安を感じることが多いですか? 驚きやすくありませんか? イライラしません。 落ち込みはありません。 不安はそこまで強くないと思っています…。 小さな物音にもすぐにビクッとなります。 ほかに困っている症状はありますか? 可能であれば睡眠薬をやめたいです。 【診察】顔色は普通。脈診ではやや浮・弱の脈、脈拍も90回/分程度とやや多い(数脈[さくみゃく])。また、舌は暗赤色、湿潤した白苔が少量、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力は軟弱、胸脇苦満(きょうきょうくまん)・心下痞鞕(しんかひこう)はなし、腹直筋の緊張あり、腹部大動脈の拍動あり(心下悸[しんかき]、臍上悸[せいじょうき]、臍下悸[せいかき])、両側臍傍の圧痛なし。四肢の触診で冷感なし。カンファレンス 今回は、不眠の症例です。 不眠を訴える患者さんは多いですね。うつ病や不安障害のような精神疾患のほか、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群などの器質的疾患は見逃さないようにしています。 そうですね。若年世代ではゲームやスマホを原因とする不適切な睡眠衛生が問題となるケースも増えていますね。それでは、漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からいきましょう。 暑がりで入浴はシャワー、冷房は苦手でない、自覚的・他覚的に冷えなしと陽証です。 陽証だね。六病位はどうだろう? 陽証で太陽病の悪寒・発熱なく、陽明病を示唆する熱感、腹満、便秘もないから今回も少陽病ですね。 少陽病だね。次は漢方診療のポイント(2)の虚実の判断にいこう。 脈は弱、腹力は軟弱とあるので虚証です。 今回の症例は陽証・虚証ですね。漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 今回の症例は不審者に自宅侵入されたことをきっかけとして不眠が出現していて、気の異常と考えられますね。 「気のせいです」っていわないところが漢方治療のいいところだね。お気の毒な症例だけれども…。 気が動転してしまっている感じですね。 そう! 気が動転するように、逆走することを気逆(きぎゃく)とよぶよ(気逆については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 気逆は更年期障害、パニック発作とイメージするとわかりやすいですね。そのような症状に悩む患者さんが目に浮かびます。 本症例の気逆の症状を挙げてみてください。 顔色は普通なので顔面紅潮はありません。 ただし、「暖房は顔がすぐに赤くなるから嫌い」とあるのは気逆だね。気逆の患者さんではのぼせるから入浴や暖房が嫌という人は多いよね。 動悸や驚きやすいことも気逆ですね。 気逆の代表的な症状ですね。睡眠の特徴はどうですか? 入眠困難、中途覚醒でしょうか? 入眠困難、中途覚醒は気逆の特徴とはいえません。睡眠に関して気逆で必ず聞くことは悪夢の有無です。不眠の患者さんには必ず問診しましょう。 動悸や悪夢がある場合は竜骨(りゅうこつ)と牡蛎(ぼれい)という気を鎮める作用がある生薬が含まれる漢方薬が適応になるよ。竜骨は哺乳動物の化石、牡蛎は貝のカキの殻で、どちらも炭酸カルシウムが主成分だね。ほかの生薬より重量があるため、重鎮安神薬(じゅうちんあんじんやく)といわれます。 悪夢の有無はあまり気にしたことはありませんでした。 悪夢に加えて、気逆の他覚所見として、腹診での腹部大動脈の拍動があります。今回の症例でも、心下悸、臍上悸、臍下悸と3ヵ所で拍動が触れています。最も上部の心窩部で触れる拍動が心下悸で、この場所が触れる頻度が少ないことから病的意義が大きいとされます。腹動が触れる患者さんには、「悪夢をみませんか?」、「驚きやすいですか?」と診察中に質問するとよいですよ。 具体的には「携帯電話がなるとビクッとしませんか?」、「後ろから呼びかけられると驚きませんか?」などと聞くとよいね。 おぉ。問診のコツですね。 気逆以外に気血水の異常はありますか? 全身倦怠感は気虚ですね。眠れずにきつそうです。 気逆には、気虚が合併しやすいからね。 いつもドキドキしていると疲れてしまいますね。のどのつまり、腹満感、不安感などはなく気鬱は目立ちません。 そうですね。鬱々しているというよりビクビクした感じですね。気鬱の要素は少ないようです。 水毒はありません。 血の異常では血虚はなく、舌の暗赤色、舌下静脈の怒張が瘀血です。 そうだね。本症例をまとめよう。 解答・解説【解答】本症例は、陽証・虚証・気逆に対して用いる桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)で治療をしました。【解説】竜骨と牡蛎が含まれる漢方薬には柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)(牡蛎のみ)、桂枝加竜骨牡蛎湯があります。このうち、桂枝加竜骨牡蛎湯が最も虚証の漢方薬で、太陽病の桂枝湯(けいしとう)に竜骨と牡蛎が加わった構成です。古典にはいわゆる性的神経衰弱で、妙に性欲が亢進して夢精、夢交といった病態に用いると書かれています。添付文書では神経質、小児夜尿症、神経衰弱、遺精などのほか、陰萎にも適応になり、性的な愁訴が目立つ場合に用います。「高齢者の性的逸脱行動に桂枝加竜骨牡蛎湯が有効であった2症例」という報告もあります1)。しかし、実際の臨床では性的愁訴ではなく、虚弱で神経質な人でドキドキ、ビクビクと不安と緊張が強く、眠れない、動悸がするなどの場合に用いることが多いです。柴胡加竜骨牡蛎湯は少陽病・実証で、腹力や胸脇苦満が強く、過度のストレスによりイライラ、過緊張、抑うつが目立つ場合に用います。柴胡桂枝乾姜湯は少陽病・虚証でより華奢なタイプで、ストレスを溜め込んで疲弊している状態に用います。職場ではがんばれるけれども、家に帰ったらぐったり疲れてしまうような疲労感が特徴です。気逆はドキドキしやすいといった患者さんのもともとの性格に加え、何かショッキングなことが起こった後に生じることが多くあります。実際に、東日本大震災後のPTSD様症状に柴胡桂枝乾姜湯が有効であったRCTがあります2)。当科でも福岡西方沖地震後のめまい感に柴胡加竜骨牡蛎湯が有効であった症例を経験しました。今回のポイント「気逆」の解説気の異常は気虚(ききょ)、気鬱(きうつ)、気逆の3つに分類します。気の異常に共通して、変動性、発作的、朝調子が悪い、憂うつ感を伴うなどの特徴があります。気逆は気の循環の失調で、主に上から下へ巡る気が、逆走することによって起こります。更年期障害でみられるホットフラッシュが代表で、顔にのぼせが出現する、さらに上半身は熱いが下肢が冷える上熱下寒(じょうねつげかん)といわれる冷えのぼせがみられます。また、パニック発作のような動悸も気逆の症状です。気逆の治療は、桂皮(けいひ)、黄連(おうれん)といったのぼせを改善させる生薬や竜骨、牡蛎といった気を鎮める作用のある生薬で治療します。気が胸腹部を支点として上方へ発作性に舞い上がるという意味から、のぼせや顔面紅潮以外にも頭痛、胸満感、発作性咳嗽、嘔吐(吐き気は少ない)などの症状も気逆と考えます。麦門冬湯(ばくもんどうとう)は発作性の咳嗽に用いられますが、古典には「大逆上気(たいぎゃくじょうき)」と記載があります。また、気逆の精神症状として、驚きやすい、悪夢をみる、焦燥感があります。また気逆には程度の差はあれ、全身倦怠感などの気虚の状態を伴うことが多いです。今回の鑑別処方不眠を大きく3つ「ドキドキして不眠」、「疲労困憊で不眠」、「気が昂って不眠」に分けて考えます。「ドキドキして不眠」は動悸や悪夢を伴う気逆として竜骨や牡蛎が含まれる漢方薬で治療することを解説しました。「疲労困憊で不眠」では、第6回で解説したように、「眠るにも体力が必要」として、全身倦怠感や日中の眠気など気虚のみが目立つ場合は補中益気湯の適応です。気虚に加えて、ストレスから精神的な症状も目立つ場合には酸棗仁湯(さんそうにんとう)や加味帰脾湯(かみきひとう)を用います。酸棗仁湯や加味帰脾湯は気を補う作用以外にも酸棗仁(さんそうにん)などの精神安定作用がある生薬が含まれます。酸棗仁湯は疲れ過ぎてかえって眠れない、加味帰脾湯はあれこれとつまらないことが気になる、思い悩んで憂鬱、悲哀感がある場合に用います。酸棗仁湯が不眠に対して有効であったというRCT論文から12本を抽出したシステマティックレビュー3)や、担がん患者において加味帰脾湯を投与した群で、Insomnia Severity Indexが有意に改善したというRCTの報告4)があります。「気が昂ぶって不眠」では交感神経の過緊張状態が持続して不眠をきたしている場合で、イライラや胸脇苦満を伴えば柴胡剤(さいこざい)の適応です。抑肝散(よくかんさん)や加味逍遙散(かみしょうようさん)も柴胡が含まれることから広義の柴胡剤です。抑肝散は「怒り」が投与目標になりますが、現代の日本人は怒りをうちに秘めて、怒りの自覚がない例も多く眼瞼けいれんや舌のぴくつきなど怒りのサインを見逃さないようにする必要があります。抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)は胃腸症状を伴う場合や抑肝散よりも怒りがやや弱い場合に用います。加味逍遙散はホットフラッシュやイライラを伴う更年期障害や月経前症候群、多くの不定愁訴がある場合に適応です。柴胡加竜骨牡蛎湯や柴胡桂枝乾姜湯は柴胡剤で、かつ気逆に対する作用をもつことから「ドキドキ」と「気の昂ぶり」の要素を併せもつことになります。加味逍遙散よりもさらにイライラや顔面紅潮が強い熱感を伴う場合は、より鎮静・清熱作用の強い黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が適応になります。参考文献1)田原英一ほか. 日東医誌. 2003;54:957-961.2)Numata T, et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2014;2014:683293.3)Xie CL, et al. BMC Complement Altern Med. 2013;13:18.4)Lee JY, et al. Integr Cancer Ther. 2018;17:524-530.

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嚥下障害を起こしやすい薬剤と誤嚥性肺炎リスク

 飲食物を飲み込む機能障害である嚥下障害は、さまざまな疾患や薬物の副作用により引き起こされる可能性があり、誤嚥性肺炎のリスク因子となっている。しかし、嚥下障害を引き起こす特定の薬剤やその発現率については、これまで十分に解明されていなかった。慶應義塾大学の林 直子氏らは、添付文書の情報に基づき、嚥下障害に関連する薬剤およびその発現率、これらの薬剤を服用している患者における誤嚥性肺炎のリスク因子を特定するため、日本のレセプトデータベースの横断的分析を行った。Drugs-Real World Outcomes誌オンライン版2025年9月19日号の報告。 本研究では、嚥下障害誘発薬剤の候補(candidate dysphagia-inducing drug:CDID)を、副作用として嚥下障害が記載されている日本の添付文書より特定した。CDIDを服用している患者の年齢、性別、服用薬、併存疾患について、ジャムネットのJammNet保険データベースを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・54成分がCDIDとして特定された。・CDIDを服用している2万4,276例のうち、嚥下障害は146例(0.6%)、誤嚥性肺炎は76例(0.3%)で認められた。・誤嚥性肺炎と診断された患者のうち、23例(30%)は嚥下障害を併発していた。・対象となった54成分のうち28成分(52%)を服用している患者で、嚥下障害または誤嚥性肺炎が発現した。・さらに13成分は、嚥下障害または誤嚥性肺炎のいずれかの副作用発現率が1%以上であった。・各診断における発現率が最も高かった上位5つのCDIDは、クロバザム、バクロフェン、ゾニサミド、チアプリド塩酸塩、トピラマートであった。・複数のCDID服用は単剤のCDID服用と比較し、嚥下障害および誤嚥性肺炎の発現率が有意に高かった(p<0.05)。・ロジスティック回帰分析では、誤嚥性肺炎の発現は、男性、後期高齢者、嚥下障害の診断、便秘と有意に関連していることが示された。 著者らは「本研究結果は、CDIDを処方する際には、とくに高齢の男性患者の場合、誤嚥性肺炎のリスクに細心の注意を払う必要があることを示唆している」と結論付けている。

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ADHDとASDに対するビタミン介入の有効性〜メタ解析

 ビタミン介入は、自閉スペクトラム症(ASD)および注意欠如・多動症(ADHD)のマネジメントにおいて、費用対効果が高く利用しやすいアプローチとして、主に便秘などの消化器症状の緩和を目的として用いられる。最近の研究では、ビタミンがASDやADHDの中核症状改善にも有効である可能性が示唆されている。しかし、既存の研究のほとんどは患者と健康者との比較に焦点を当てており、臨床的に意義のあるエビデンスに基づく知見が不足していた。中国・浙江大学のYonghui Shen氏らは、ASDおよびADHD患者におけるビタミン介入に焦点を当て、メタ解析を実施した。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2025年8月30日号の報告。 PubMed、Web of Science、Cochrane Libraryより対象研究を検索した。ASDおよびADHD患者におけるビタミン介入に焦点を当て、メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・ビタミン補給は、ASDおよびADHDの両方の症状を有意に改善することが示唆された。・その効果は、ビタミンの種類や障害によって違いがあることが明らかとなった。・ビタミンB群のサプリメントは、とくにASD関連症状の軽減に有効であり、ビタミンD群のサプリメントは、ADHD症状の改善により有効であることが示唆された。 著者らは「さまざまなビタミンが、疾患特異的な治療効果を発揮することが示唆された。ASDおよびADHDに対する個別化された臨床介入を行ううえで、これらのビタミンが役立つ可能性がある」としている。

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10月7日 おなかを大切にする日【今日は何の日?】

【10月7日 おなかを大切にする日】〔由来〕気温が下がることでお腹が冷えて腸のぜん動運動が鈍くなったり、寒暖差による自律神経の乱れから便秘など腸の不調が出やすいこの時期に、腸活への関心を高めてもらいお腹の調子を良くして健康な毎日を送ってもらおうと、ビオフェルミン製薬が「じゅうような(10)おなか(07)」の語呂合わせから制定。関連コンテンツ下痢後に急速に進行する筋力低下と腱反射低下【日常診療アップグレード】副作用編:下痢(抗がん剤治療中の下痢対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】コーヒー摂取量と便秘・下痢、IBDとの関連は?ピロリ除菌後の胃がんリスク~日本の大規模コホート餅は胃内で硬くなる!?胃に丸餅10個確認された症例

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経口orforglipron、肥満成人の減量に有効~日本を含む第III相試験/NEJM

 非糖尿病の成人肥満者において、プラセボと比較して経口低分子GLP-1受容体作動薬orforglipronは有意な体重減少をもたらすとともに、ウエスト周囲長や収縮期血圧、非HDLコレステロール値を改善し、有害事象プロファイルは他のGLP-1受容体作動薬と一致する。カナダ・McMaster UniversityのSean Wharton氏らATTAIN-1 Trial Investigatorsが、第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験「ATTAIN-1試験」の結果を報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年9月16日号で発表された。日本を含む9ヵ国137施設で実施 ATTAIN-1試験は、日本を含む9ヵ国137施設で行われた(Eli Lillyの助成を受けた)。2023年6月~2025年7月に、年齢18歳以上で、BMI値30以上、または同27~30で少なくとも1つの肥満関連合併症(高血圧、脂質異常症、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群)に罹患し、減量を目的とする食事療法に失敗した経験が1回以上あると自己報告した患者3,127例を登録した。糖尿病の診断を受けた患者と、スクリーニング前の90日以内に±5kg以上の体重の変動を認めた患者は除外した。 被験者を、健康的な食事と身体活動に加えて、orforglipron 6mgを1日1回経口投与する群(723例)、同12mg群(725例)、同36mg群(730例)、プラセボ群(949例)に無作為に割り付け、72週間投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週目までの体重の平均変化量とした。 ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は45.1(±12.1)歳、女性が2,009例(64.2%)で、平均体重は103.2kg、平均BMI値は37.0であり、参加者の36.0%が前糖尿病であった。減少率別の達成率も有意に改善 ベースラインから72週目までの体重の平均変化量は、プラセボ群が-2.1%(95%信頼区間[CI]:-2.8~-1.4)であったのに対し、orforglipron 6mg群は-7.5%(-8.2~-6.8)、同12mg群は-8.4%(-9.1~-7.7)、同36mg群は-11.2%(-12.0~-10.4)であり、用量依存性の体重減少を認めた。 体重の平均変化量のプラセボ群との群間差は、orforglipron 6mg群が-5.5%ポイント(95%CI:-6.5~-4.5)、同12mg群が-6.3%ポイント(-7.3~-5.4)、同36mg群は-9.1%ポイント(-10.1~-8.1)と、いずれの用量とも有意に優れた体重減少効果を示した(すべてのp<0.001)。 また、72週時に、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上の体重減少率を達成した患者の割合は、いずれもプラセボ群に比べorforglipronのすべての用量群で有意に高かった(多重性の調整を行っていないためp値を表記しない6mg群の減少率20%以上を除き、すべてのp<0.001)。たとえば、10%以上の体重減少を達成した患者の割合は、プラセボ群が12.9%であったのに対し、orforglipron 6mg群は33.3%、同12mg群は40.0%、同36mg群は54.6%であった。 さらに、orforglipron群では、ウエスト周囲長(72週目までの平均変化量:orforglipron 6mg群-7.1cm、同12mg群-8.2cm、同36mg群-10.0cm、プラセボ群-3.1cm、プラセボ群との比較で3つの用量群のすべてのp<0.001)、収縮期血圧(3つの用量群の統合解析とプラセボ群の変化量の群間差:-4.2mmHg、95%CI:-5.3~-3.2、p<0.001)、非HDLコレステロール値(変化率の群間差:-4.9%、95%CI:-6.7~-3.1、p<0.001)、トリグリセライド値(変化率の群間差:-11.5%、95%CI:-14.5~-8.3、p<0.001)などの心代謝系リスク因子の有意な改善を認めた。また、無作為化の時点で前糖尿病であった患者のうち72週目に正常血糖値に達した割合は、プラセボ群の44.6%に対し、3つの用量のorforglipron群では74.6~83.7%の範囲であった。軽度~中等度の消化器系有害事象が多い orforglipron群で頻度の高い有害事象は悪心、便秘、下痢、嘔吐などの消化器症状で、ほとんどは軽度~中等度であった。消化器系の有害事象による投与中止は、orforglipron群の3.5~7.0%、プラセボ群の0.4%で発生した。 重篤な有害事象は、orforglipron群の3.8~5.5%、プラセボ群の4.9%に発現し、72週目までに3例が死亡した(6mg群1例[死因不明]、12mg群1例[転移のある卵巣がん]、プラセボ群1例[肺塞栓症])。orforglipron群の5例で軽度の膵炎がみられ、orforglipron群の7例とプラセボ群の1例で正常上限値の10倍以上に達するアミノトランスフェラーゼ値の上昇が報告された。また、平均脈拍数は、orforglipron群で4.3~5.3拍/分の増加を認めたが、プラセボ群では0.8拍/分の増加だった。 著者は、「GLP-1受容体作動薬は、体重減少を誘導する作用と、体重に依存しない直接的な作用の両方によって心血管アウトカムを改善する可能性があるが、orforglipronによる体重減少とバイオマーカーの変化が心血管リスクの低減につながるかを知るには、それ専用のアウトカム試験が必要である」「低分子化合物は標的でない受容体に結合する可能性があるため、付加的な有害作用の可能性が高まるが、本薬剤の開発計画ではそのような作用は検出されておらず、安全性プロファイルはペプチド性GLP-1受容体作動薬の第III相試験の結果と一致する」としている。

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9月26日 大腸を考える日【今日は何の日?】

【9月26日 大腸を考える日】〔由来〕9の数字が大腸の形と似ていることと、「腸内フロ(26)ーラ」と読む語呂合わせから、健康の鍵である大腸の役割や生息する腸内細菌叢のバランスを健全に保つための方法を広く知ってもらうことを目的に森永乳業が制定。関連コンテンツ中等症~重症の活動性クローン病、グセルクマブ導入・維持療法が有効/Lancetコーヒー摂取量と便秘・下痢、IBDとの関連は?PPI・NSAIDs・スタチン、顕微鏡的大腸炎を誘発するか?日本人大腸がんの半数に腸内細菌が関与か、50歳未満で顕著/国立がん研究センターほか大腸がん死亡率への効果、1回の大腸内視鏡検査vs.2年ごとの便潜血検査/Lancet

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全身だるくて食後に眠い【漢方カンファレンス2】第6回

全身だるくて食後に眠い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代後半女性主訴全身倦怠感、不眠既往腹圧性尿失禁、アレルギー性鼻炎生活歴仕事:事務職(人手不足で忙しい)、入退院を繰り返す母の介護中。病歴2〜3年前から不眠に悩んでいる。午前中から眠気がつらくて体がだるく仕事がはかどらない。12月に漢方治療を希望して受診。現症身長157cm、体重49kg。体温36.3℃、血圧119/80mmHg、脈拍60回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。全身倦怠感は変わらない。2ヵ月後夜中に目が覚めなくなった。仕事中も眠くならない。4ヵ月後忙しいが体調はよい。よく眠れている。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む問診<陰陽の問診>寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?横になりたいほどの倦怠感はありませんか?寒がりの暑がりです。冷えの自覚はありません。倦怠感はありますがいつも横になりたいほどではありません。入浴は長くお湯に浸かるのが好きですか?冷房は苦手ですか?入浴で温まると体は楽になりますか?入浴時間は短いほうです。冷房は好きです。入浴してもとくに倦怠感の変化はありません。のどは渇きますか?飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きません。温かい飲み物を飲んでいます。<飲水・食事>1日どれくらい飲み物を摂っていますか?食欲はありますか?胃は丈夫ですか?だいたい1日1L程度です。食欲はあります。胃は弱くてすぐにもたれます。<汗・排尿・排便>汗はよくかくほうですか?尿は1日何回出ますか?夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか?便秘や下痢はありませんか?汗はよくかきます。尿は1日7〜8回です。夜は尿に1回行きます。便は2日に1回で、便秘です。便秘するとお腹が張りますか?お腹は張りません。<ほかの随伴症状>全身倦怠感はとくにいつが悪いですか?朝がとくにきついですか?食後に眠くなりませんか?朝はそこまできつくありません。朝は比較的元気なのですが、午後がきついです。昼食後と夕食後は眠たいです。睡眠について教えてください。悪夢はありませんか?毎晩0時頃に就寝しますが1時間以上寝つけません。午前3時くらいに目が覚めて朝まで眠れない日が多いです。悪夢はありません。動悸はしませんか?抜け毛は多いですか?集中力がなかったりしませんか?皮膚は乾燥しますか?動悸はありません。抜け毛は多くありません。集中はできています。皮膚の乾燥はありません。イライラしたりやる気がなかったりすることはありませんか?そんなことはありません。そのほかに困っていることはありませんか?風邪をひきやすくて困っています。年に5〜6回風邪をひいてしまいます。診察顔色は正常。眼に力がなく声も小さい。脈診ではやや浮で弱の脈。また、舌は淡紅色で腫大・歯痕、湿潤した薄い白苔をまだら状に認める。腹診では腹力は軟弱、軽度の胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)あり、腹部大動脈の拍動は触知せず。四肢の触診では冷感なし。カンファレンス今回は50代女性の全身倦怠感、不眠の症例です。全身倦怠感を訴える患者さんは多いですね。感染症、内分泌疾患、悪性腫瘍、薬物の副作用、うつ病など、鑑別すべき疾患が多いので苦手です。発症から持続時間を1ヵ月以内、1〜6ヵ月、6ヵ月以上と分けると絞り込みが容易になりますよ。急性では感染症、慢性の場合では抑うつや不安などの精神疾患の割合が高くなります。とくに結核、甲状腺疾患、肝炎などは要注意と学びました。しかし検査を行っても異常がないケースが1/3ほどあるといわれます。原因が特定できない、かつ精神的な不調も目立たないケース、全身倦怠感が高度で日常生活に支障をきたしている症例もあって悩ましいですね。今回の症例は不眠があって仕事や介護の負担が背景にありそうですね。うつ病の除外は必要ですね。当科が初診時に行っている漢方医学的な問診票のなかには、気持ちが沈みがちである、気力がない、物事に興味がわかない、朝調子が悪い、集中力の低下など、精神症状に関する項目が複数あります。それでは、漢方診療のポイントの順番にみていきましょう。温かい飲み物を好む、寒がりのほかは、暑がり、冷えの自覚なし、冷房を好む、他覚的な四肢の冷感なしということで陽証を示唆する所見のほうが多いです。そうですね。全体としては陽証ですね。寒がりの暑がりはどう考えるかな?陰陽の判断はつかないということでしょうか?寒がりかつ暑がりは、陰陽の判断ではなく、虚証を示唆します。体力がなくて環境の変化についていけないイメージです。六病位ではどうだろう?太陽病ではなく、陽明病の強い熱感や腹満はないので少陽病です。そうですね。漢方診療のポイント(2)虚実はどうでしょう?脈の力は弱、腹力も軟弱で闘病反応の乏しい虚証です。陽証・虚証でいいようだね。(3)気血水の異常はどうだろう?本症例は、仕事や介護の負担で疲弊しているようですね。そうだね。生体のエネルギー量が不足した状態を気虚とよぶよ(気虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられるんだ。本症例にみられる「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状だね。本症例は全身倦怠感とともに食後の眠気があるので気虚ですね。気虚以外にも全身倦怠感が生じることを覚えていますか?気鬱や水毒などでも全身倦怠感が生じるのでした。気鬱の全身倦怠感は、朝調子が悪い、抑うつ傾向、膨満感などが出現します。そのとおり。水毒の全身倦怠感は雨降り前に体が重く感じるよ。本症例ではそのほかの気虚の所見はわかるかな?風邪をひきやすいも気虚ですね。ほかには舌苔にも着目しましょう。本症例のような舌苔がまだら状になっている場合は気虚を示唆します。舌苔は消化機能を反映していると考えます。そのほかにも診察で、眼に力がない、声が小さいということも気虚を示唆するよ。江戸時代には、眼勢無力(がんせいむりょく)、語言軽微(ごげんけいび)と記されているよ。たしかに眼力があって、声が大きい人は元気ですね。漢方の診察は、五感をフルに使って行わないといけないのだ。また、本症例のように不眠がある場合は、漢方薬の鑑別のために気逆の有無を確認しています。気鬱でなく気逆ですか?ドキドキして眠れないというイメージです。どこを確認するかわかりますか?自覚症状で動悸があるかどうかでしょうか?自覚症状の動悸に加え、腹診での腹部大動脈の拍動を確認します。また悪夢が多いことも気逆になります。本症例では悪夢や腹部の動悸はありません。それでは気以外の異常はどうでしょう?気虚以外は目立ちません。脱毛、集中力の低下、皮膚の乾燥を問診していますが、血虚の症候はありません。気虚と血虚が同時にある場合は気血両虚(きけつりょうきょ)といいますが、それはなさそうですね。では本症例をまとめよう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?冷えの自覚なし、冷房好き、入浴は短い、脈:やや浮→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか寒がり・暑がり 脈:弱、腹:軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気、風邪をひきやすい、地図状の舌苔→気虚(動悸や悪夢など気逆はなし)(脱毛や集中力の低下など血虚はなし)(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む眼勢無力、語言軽微解答・解説【解答】本症例は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で治療しました。【解説】補中益気湯は、中(ちゅう:消化吸収能という意味)を補って、気(き)を益(ま)すという意味です。補中益気湯は人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)の補気作用のある生薬に加え、弛緩した筋トーヌスを引き締める作用(升堤[しょうてい]作用)をもつ生薬(柴胡[さいこ]・升麻[しょうま])が含まれることがポイントです。そのため、補中益気湯は、筋肉が弛緩傾向を示すサイン、四肢がだるい、眼に力がない、声が小さいなどが使用目標になります。最近ではあまり使われませんが内臓下垂、胃下垂といわれるような病態や子宮下垂、脱肛なども筋の弛緩傾向により生じることから、補中益気湯の適応とされています。また柴胡・升麻は抗炎症作用を併せ持ち、風邪や肺炎や尿路感染などの急性感染症が治癒した後、微熱があってなんとなく活気がない、食欲がないといった場合に良い適応になります。江戸時代の漢方医・津田玄仙は補中益気湯の8徴候として、四肢倦怠、眼勢無力、語言軽微、食失味、口中白沫、熱湯を好む、脈散大無力、臍動悸を挙げており、このうち2〜3該当すれば用いてよいと述べています。補中益気湯を投与すると、COPD患者の感冒罹患回数を減少させ、体重増加をもたらしたという報告1)があります。また、女性腹圧性尿失禁患者に対して補中益気湯の4週間の投与で尿失禁の回数が減少傾向、QOLのパラメーターや患者満足度が改善したという報告2)があり、女性下部尿路症状ガイドラインの腹圧性尿失禁に推奨グレードC1として掲載されています。今回のポイント「気虚」の解説漢方では生体内を循環する「気・血・水」の変調として病気を捉えます。気血水は陰陽・六病位とは別のパラメーターで、経度と緯度の関係にも例えられます。気血水のうち身体を巡る液体成分は血と水ですが、気は目に見えない、形がない、生命活動を営む根源的なエネルギーです。現在でも「活気がある」、「気が滅入る」などと日常で使われます。気の異常のうち、気の量的な不足、または作用力の不足を気虚といいます。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられます。また食後は食事により少ないエネルギーが消化管に集中してしまうと考えられるため、「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状です。気虚に対する基本となる漢方薬が四君子湯(しくんしとう)です。四君子湯は、茯苓、人参、白朮、甘草の4つの生薬を中心に構成されます。また気虚に対する漢方薬は人参とともに黄耆を含むことから参耆剤(じんぎざい)とよびます。補中益気湯や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)がその代表です。今回の鑑別処方人参と黄耆が含まれる漢方薬を参耆剤とよびます。人参は消化管から、黄耆は体表面から気を補うイメージです。補中益気湯は全身倦怠感・食後の眠気などの気虚に加え、四肢がだるい、声が小さい、眼力がないといった筋トーヌスの低下した徴候がある際に用います。気虚に血(けつ)が不足した状態(血虚)を合併している場合、具体的には皮膚の乾燥、脱毛が多い、目が疲れる、集中力がない、爪がもろい、頭がぼーっとするなどの症状を伴う場合は、気血両虚に対する漢方薬が適応になり、十全大補湯がその代表です。十全大補湯と類似の漢方薬に人参養栄湯(にんじんようえいとう)があります。人参養栄湯には、遠志(おんじ)、陳皮(ちんぴ)、五味子(ごみし)といった喀痰、咳嗽などの呼吸器症状に対応する生薬が含まれることが特徴です。非定型抗酸菌症に対して人参養栄湯が有効であったという報告3)があるように、慢性の感染症で体力低下に加え、呼吸器症状があるのが典型で、近年ではフレイルに対する漢方薬として注目されています。大防風湯(だいぼうふうとう)は十全大補湯に附子(ぶし)と鎮痛作用のある生薬が加わった構成で、冷えと関節痛を伴う場合に用います。疲労感を伴う関節リウマチなどの膠原病の患者にしばしば用います。帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯は気虚に加え、くよくよ思い悩んでしまう(思慮過度)、不眠、抑うつがある場合に用います。全身倦怠感が投与目標というよりも不眠や抑うつなどの精神心理症状を主体に訴える場合に用いることが多いです。加味帰脾湯は帰脾湯に柴胡、山梔子(さんしし)が加わって熱感やイライラといった症状にも対応します。その他、人参と黄耆をともに含む参耆剤には、清暑益気湯(せいしょえっきとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、当帰湯(とうきとう)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)があります。最後に気虚に冷えを合併している場合は、第5回で解説したように陰証と診断して、太陰病の人参湯(にんじんとう)や少陰病〜厥陰病(けついんびょう)の茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう:人参湯エキス+真武湯エキス)による治療が最優先であることにご注意ください。参考文献1)杉山幸比古. 日本胸部臨床. 1997;56:105-109.2)井上雅ほか. 日東医誌. 2010;61:853-855.3)Nogami T. J Family Med Prima Care. 2019;8:3025-3027.

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レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?【外来で役立つ!認知症Topics】第33回

レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?認知症には70以上もの原因疾患があるが、レビー小体型知症(DLB)はアルツハイマー病(AD)、血管性認知症に次ぎ3番目に多い。ADのMCI(軽度認知障害)の特徴はわかっていても、「MCIレベルのDLBの特徴は?」と問われると、筆者は最近まで「はて?」という状態であった。DLB研究の元祖である小阪 憲治先生の名言に「DLBを知れば知るほど、その幅広さがわかってくる」というものがある。臨床の場でこの病気の患者さんを診ていると、一言でDLBといっても、見られる症候は実にさまざまであり、この言葉はまさに至言である。また、この病気の大脳病理について経験豊かな友人が次のように教えてくれた。「レビー小体病といっても、さまざまな病変分布や病理の程度にグラデーションがあって、検査前の見込みと検査結果はしょっちゅう乖離する。ADのほうがずっと簡単」と。DLBの診断では、激しい寝ぼけ(レム睡眠行動障害)、幻視、パーキンソン症候、そして認知機能などの変動が大きいことが軸である。DLBの権威であるIan G. McKeith氏らによれば、MCIレベルのDLBには3つの表現型がある。まず「精神症状初発型」、次に「せん妄初発型」、さらに認知機能障害パターンから分類される「MCI-LB」タイプである。今回は、この3つについてまとめてみたい。1)精神症状初発型他の認知症性疾患と比べたとき、DLBの初発症状として、老年期になって初発する大うつ病や精神病は、とても際立っている。代表的な症状としては、人の姿が見えるといった幻視、家族を偽物だと思い込むような妄想や誤認がある。また、アパシー(無気力)、不安がある。こうした症状で初発する認知症性疾患は他にまずないため、これらの症状はDLBを疑う大きなヒントになる。レム睡眠行動障害(RBD)も有用な着眼点になるが、抗うつ薬を使うことによってRBDが生じることもあるので、ここは要注意である。また、DLB を疑ううえで、パーキンソン症状の中で、動作緩慢よりも振戦や筋硬直のほうが、より有用である。なお、精神病発症型のDLB発症時では、パーキンソン症候、認知機能の変動、幻視、RBDという典型症候がみられたのは、わずか3.8%にすぎなかったという報告がある1)。この数字が語るのは、目の前の患者さんは「精神疾患に間違いない、まさかDLBとは!」と誰もが思ってしまう落とし穴だろう。2)せん妄初発型認知機能の変動、意識の清明度・覚醒度の変化は、DLBの中核症状である。そのため、せん妄で初発する人も多い。これまで認知機能障害がなかった人で、いきなりせん妄が生じるのはなぜだろうか? まずDLBという病態はせん妄を来しやすい素地を持っているのかもしれないし、あるいは曇りを伴う重篤な意識の変動をせん妄とみている可能性もある。さらにはこれら両者なのかもしれないが、答えはわからない。ところで、せん妄初発のDLBの存在に留意することには別の意義もある。というのは、一般的なせん妄に対する第1選択薬は抗精神病薬とされるが、もしこの型のDLBにこうした薬剤を投与したら、症状が悪化する可能性が高いからである。なお、せん妄や意識変動はDLB患者の介護者の43%が報告するほど多く、4人に1人のDLB患者がせん妄を繰り返し、累積の回数はAD患者のそれの約4倍といわれる。また、DLBが診断される前にみられるせん妄は、ADに比べて6倍近く高い。高齢患者においてせん妄が長引く場合、実は背後にDLBが隠れていると考えるべきとされる。つまり、「病歴にせん妄が多ければDLBを想起!」である。3)MCI-LBMCIの概念は、1990年代のRonald C. Petersen氏による提唱で有名になったが、それは「アルツハイマー病前駆状態では、他の認知機能は保たれているのに記憶のみが障害される」というものであった。このオリジナルの概念に改変がなされ、現在では「記憶障害」対「非記憶の認知機能障害」、障害される認知領域が「単数」対「複数」という基準で4つのMCI亜型に分類されるようになった。Petersen氏の提唱したオリジナルMCIは、ADの予備軍における「記憶障害」+「単数」である。しかし、レビー小体型認知症の前駆状態であるMCI-LBは、「非記憶障害」が基本で、障害領域は「単数」も「複数」もある。とくに最初期には、本人も介護者も記憶障害を訴えないことが珍しくない。つまり記憶障害は比較的軽い一方で、主に注意や遂行機能障害といった前頭葉の機能障害がみられる。また錯視など、視覚認知に障害を認める例もある。いずれにせよ、記憶障害単独型MCIのADコンバートに対して、「非記憶型」のMCI-LBがADになることはまれで、その10倍もDLBになりやすい。4)その他の留意点DLBにおけるRBDの意味RBD(レム睡眠行動障害)はDLB診断において重要である。ある12年間の追跡調査では、RBDを持つ人の73.5%が、 DLBなど神経変性疾患にコンバートしたという報告もある2)。悪夢は周囲の人によって気付かれ、RBD診断の手がかりになるが、鑑別すべきものに睡眠時無呼吸症候群、睡眠中のてんかん発作などがある。確実な診断には、ポリソムノグラフィによる測定が望まれる。どんなタイプのMCIであれ、RBDを伴うときはDLBを想起すべきである。自律神経症状などDLB患者で、初診時に自律神経障害を認めることもまれではない。便秘、立ちくらみ、尿失禁、勃起障害、発汗増加、唾液増加などのどれか1つ以上が、25~50%の患者で見つかる3)。しかし、こうした症状は他のさまざまな疾患でも見られるため、それらがあるからといって必ずしもDLBだと思う必要もない。なお、無嗅覚症もDLBのMCI期によくみられるが、その原因は数多あるため(たとえば新型コロナウイルス感染症など)、診断的価値がとくに高いわけではない。1)Gunawardana CW, et al. The clinical phenotype of psychiatric-onset prodromal dementia with Lewy bodies: a scoping review. J Neurol. 2024;271:606-617.2)Postuma RB, et al. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder: a multicentre study. 2019;142:744-759.3)McKeith IG, et al. Research criteria for the diagnosis of prodromal dementia with Lewy bodies. 2020;94:743-755.

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老年医学のトビラ

何となくではなく そろそろちゃんと勉強したい皆さん 5Mでひらく高齢者診療へようこそ目の前には常に高齢の患者さんがいます。老年医学の「トビラ」は、現在の高齢者診療の複雑な問題の象徴です。本書はこのトビラを開く鍵となる「5つのM」に沿って解説しています。5つのMとは、Mobility(身体機能)、Mind(認知機能・精神的側面)、Medications(薬剤)、Multicomplexity(複雑性・多疾患併存)、Matters Most(最も大切なこと)。これを軸に、転倒やせん妄、認知症、うつ病・不眠、薬剤、フレイル、尿失禁・便秘、さらに高齢者の「見えない」「聞こえない」「においがわからない」「食べられない」の訴えにアプローチしていきます。スクリーニング・予防,事前指示、ケアのゴール設定も含めて1冊で勉強できる、これが老年医学入門の「新定番」です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する老年医学のトビラ定価4,840円(税込)判型A5版頁数276頁発行2025年8月監修山田 悠史ご購入はこちらご購入はこちら電子版はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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体がだるくて横になりたい【漢方カンファレンス2】第5回

体がだるくて横になりたい以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう) 【今回の症例】 30代男性 主訴 全身倦怠感、頭痛、めまい、微熱 既往 特記事項なし 生活歴 医療従事者、喫煙なし、機会飲酒 病歴 X年8月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患。咽頭痛や38℃台の発熱があったが、合併症はなく2日後には解熱した。 その後、全身倦怠感、頭痛、ふらふらとするめまいが出現、夕方になると37℃台の微熱がでる日が続いた。疲労感が強く仕事に支障が出るようになり、休息をとったり、欠勤したりしないと体が動かない。 総合診療科で精査を受けたが明らかな異常なし。11月に漢方治療目的に受診。 現症 身長174cm、体重78.5kg。体温37.2℃、血圧110/60mmHg、脈拍56回/分 整 経過 初診時 「???(A)」エキス+「???(B)」エキス3包 分3で治療を開始。 2週後 少し動けるようになった。まだ仕事を休むことがある。 寒くなって体が冷えるようになった。 ブシ末エキス1.5g 分3を併用。 1ヵ月後 めまいや頭痛が改善した。まだ体が冷える。 「???(B)」を「???(C)」エキスに変更した。(解答は本ページ下部をチェック!) 2ヵ月後 冷えと全身倦怠感が軽くなった。 5ヵ月後 普通に働けるようになり、残業もできるようになった。 問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 感染してから寒がりになって体が冷えるようになりました。 いつも厚着をしています。 体全体が冷えます。 きつくていつも横になりたいです。 微熱はどのくらいですか? いつ出ますか? 熱っぽさはありますか? 37℃前半です。 夕方に出ることが多いです。 体熱感はありません。 熱が出る前はぞくぞくと体が冷えます。 入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか? 入浴で温まると体は楽になりますか? 冷房は苦手ですか? 入浴時間は長いです。 温まると少し楽になるのですが、入浴後はすぐに体が冷えてしまいます。 冷房は嫌いです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇きません。 温かい物を飲んでいます。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 味覚はありますか? 1日1Lくらいです。 食欲はあります。 味覚は異常ないです。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗はあまりかきません。 尿は4〜5回/日です。 布団に入ってからはトイレに行きません。 下痢気味で1日2〜3回です。 便の臭いは強いですか? 弱いですか? 嘔気はありませんか? 便の臭いは強くありません。 嘔気はありません。 <ほかの随伴症状> 頭痛やめまいはどのような感じですか? 雨や低気圧で悪化しませんか? 頭痛は頭全体が重い感じがします。 歩くとふらふらとめまいがします。 雨が降ると頭痛やめまいはひどい気がしますが、天気がよくても頭痛はあります。 全身倦怠感はとくにいつが悪いですか? とくにきついときはいつですか? 横になると楽になりますか? 日中きついですが朝がとくにぐったりします。 仕事をしたり、動いたりすると悪化します。 仕事もきつくて休みがちです。 よく眠れますか? 中途覚醒や悪夢はありませんか? 眠れますが熟睡感はありません。 中途覚醒や悪夢はありません。 咳や痰はありませんか? 昼食後に眠くなりませんか? のどのつまりはありませんか? 抜け毛が多いですか? 集中力がなかったりしませんか? 皮膚は乾燥しますか? 咳や痰はなくなりました。 昼食後は眠くなります。休みの日はほぼ1日中寝ています。 のどのつまりはありません。 抜け毛が多いです。 集中できずに、頭が働かない感じがあります。 皮膚は乾燥します。 意欲の低下や不安はありませんか? 体がきつくてやる気が出ません。 このまま治らないのではと不安です。 【診察】診察室でも厚手の上着を羽織っている。脈診では沈で反発力の非常に弱い脈。また、舌は暗赤色、湿潤した薄い白苔、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力はやや充実、両側胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、腹直筋緊張、両臍傍の圧痛を認めた。下肢の触診では冷感あり。カンファレンス 今回は30代男性のCOVID-19罹患後症状の症例です。 頻度は高くないものの、コロナ感染後にいわゆる後遺症といわれるような全身倦怠感を中心としたさまざまな症状が持続する方がいます。現代医学的にも確立された治療法がないので漢方という選択肢があるのはよいですね。 漢方治療でもCOVID-19罹患後症状は症状が多彩でまだ確立された治療があるとはいえませんが、こんなときこそ漢方診療のポイントに沿った治療が大事です。今回の症例は、全身倦怠感以外にも、頭痛、めまい、微熱、集中力の低下と症状がたくさんあります。 どこから手をつけるべきか悩ましいですね。全身倦怠感、めまい、頭痛ということで気虚や水毒が目立つ気がします。 漢方診療のポイントに沿って全体像を捉えていくことが大事だよ。 わかりました。では漢方診療のポイント(1)病態の陰陽ですが、本症例は37℃台前半の熱があることから陽証で、さらに夕方に熱が出るという病歴から少陽病の往来寒熱(おうらいかんねつ)が考えられます。 よく覚えていますね。胸脇苦満もありますし、少陽病の往来寒熱と合致しますね。 体温をそのまま熱ととってはいけないよ。漢方では体温計で測定した温度でなく、あくまで患者の自覚的な熱や冷えを重視するんだ。陰証で発熱するときに用いる漢方薬があるよ。覚えているかい? えっと、少陰病の麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。寒が主体の陰証の風邪に用いるのでした。 そのとおり。発熱はあってもゾクゾクと冷えて倦怠感が強いことが特徴でしたね。 ほかには?? …わかりません。 同じく少陰病の真武湯(しんぶとう)、さらに四逆湯(しぎゃくとう)でも発熱がみられることがあるんだ。陰証の最後のステージである厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあり、それを裏寒外熱(りかんがいねつ)とよぶよ。だから、一見すると陽証にみえることもあるんだ。 厥陰病でも発熱がみられることがあるのですね。アイスクリームの天ぷらのような状態ですね。 裏寒外熱がある場合は通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)が典型だけど、真武湯や四逆湯の適応例でも発熱する場合があるとされているよ。これらは、真の熱ではなく、見せかけの熱といった意味で虚熱(きょねつ)というよ。 患者の自覚的な熱感や冷えのほかに鑑別する方法はありますか? 入浴や飲み物などの寒熱刺激に対する情報や四肢の触診などの所見も大事だけど、最終的には脈の浮沈や反発力が頼りになるね。陰証の場合の脈は沈・弱が特徴だからね。 もう一度、本症例の漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からみていきましょう。 微熱がありますが体熱感がなく、感染後から寒がりで体が冷えるようになった、厚着、入浴時間は長い、入浴後にすぐに体が冷えるなどから陰証が揃っていますね。それに脈も沈ですから少陽病とは考えにくいですね。 そうだね。入浴で温まってもすぐに冷える、下肢の触診でも冷感があり、冷えの程度が強そうだね。六病位はどうだろう? 横になりたいほどの倦怠感からは少陰病が示唆されます。本症例の微熱を裏寒外熱とすれば、厥陰病の可能性もありますか? そうですね。脈の力が非常に弱いので厥陰病で四逆湯の適応も考えられます。ですからこの症例は少陰病〜厥陰病、虚証でよいでしょう。 「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような」軟弱無力な脈は四逆湯の診断に重要だね。当科の回診でもこの脈が四逆湯の適応だ! と強調して必ず研修に来た先生に触れてもらっているよ。 本症例の虚実ですが、脈は弱ですが、腹力は中等度より充実と一致していません。どう考えたらよいでしょうか? 脈のほうが変化が早く、現在の状態を表しているといえるので、脈の所見を重視したほうがよいだろうね。それも軟弱無力な典型的な四逆湯の脈だからね。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 全身倦怠感、昼食後の眠気は気虚です。頭痛やめまいがありますが、雨天と関連があるので水毒です。 気虚と水毒がありますね。下痢や尿の回数が4〜5回と少ないのも水毒です。ほかはどうでしょうか? 抜け毛が多い、皮膚の乾燥は血虚です。 頭が働かない感じで集中できないというのも血虚を示唆するよ。血虚は皮膚、筋肉、髪だけの問題ではないからね! COVID-19罹患後症状のブレインフォグは血虚や腎虚と考えるとよい印象があるね。 覚えておきます。とくに朝調子が悪い、やる気が起きないというのは気鬱でしょうか。 そうだね。これだけきつそうだと気鬱もあるよね。ほかにはどうだろう? 舌下静脈の怒張、臍傍圧痛は瘀血です。今回の症例は気血水の異常もたくさんありますね。 なかなか手強い症例ですね。また精査で明らかな異常はなく、30代と働き盛りなのにこれだけきつがっているのは非常につらい倦怠感で煩躁(はんそう)と考えてよさそうですね。 ハンソウ? どこかで聞いたような? 非常に苦しがっている状態を煩躁というのでしたね。煩躁といえば、考えられる処方は? …。 陽証だと大青竜湯(だいせいりゅうとう)、陰証だと呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)が代表でした。インフルエンザの症例で、麻黄湯(まおうとう)のように無汗、多関節痛に加えて、非常に苦しがっている場合に大青竜湯、頭痛で非常に苦しがっている場合に呉茱萸湯、冷えて非常につらい倦怠感を訴える場合に茯苓四逆湯が適応になるのでした。 ここはキモだから覚えておかないといけないね。その他エキス剤にはないけど、小青竜加石膏湯(しょうせいりゅうかせっこうとう)、乾姜附子湯(かんきょうぶしとう)、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)などが煩躁に適応する処方だよ。 本症例をまとめます。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?厚着、寒がり、体が冷える、下肢の冷感、横になりたいほどの倦怠感、脈:沈→陰証(少陰病〜厥陰病)×微熱、往来寒熱、胸脇苦満→脈や冷えから少陽病ではなさそう(2)虚実はどうか脈:非常に弱い、腹:やや充実→虚証(脈を優先)(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気→気虚意欲の低下、朝調子が悪い→気鬱頭痛、めまい、雨天に悪化→水毒抜け毛、皮膚の乾燥、集中力の低下→血虚舌下静脈の怒張、臍傍圧痛→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む非常につらい倦怠感、脈が軟弱無力解答・解説【解答】本症例は、茯苓四逆湯の方意でA:真武湯+B:人参湯(にんじんとう)で治療開始しました。また経過中に人参湯からC:附子理中湯(ぶしりちゅうとう)に変更しました。【解説】四逆湯は少陰病〜厥陰病に用いられる漢方薬で附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、甘草(かんぞう)で構成されます。四逆湯を現代医学で例えると、敗血症性ショックで低体温をきたした症例に保温しながら急速補液とノルアドレナリンで昇圧するイメージです。動物実験で出血性ショックモデルに対して茯苓四逆湯を投与すると心拍出量の増加と体温保持作用を示したという研究1)や四逆湯類がエンドトキシンショックに対して、血圧上昇、好中球数の上昇の抑制などによりショック予防効果を示したとする報告2)があります。現代は四逆湯を重篤な急性疾患に用いることはまれですが、慢性疾患で冷えや全身倦怠感がともに高度な場合に活用します。通脈四逆湯も四逆湯と同じく附子、乾姜、甘草で構成されますが、乾姜の比率が多くなります。乾姜はとくに消化・呼吸に関連する臓器を温めて賦活する作用が主体で、通脈四逆湯は体の中心を温めて元気をつけていくような漢方薬です。茯苓四逆湯は四逆湯に補気作用のある茯苓(ぶくりょう)と人参(にんじん)を加えたものです。茯苓四逆湯や通脈四逆湯はエキス製剤にはありませんが、茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスで代用できます。今回のポイント「少陰病・厥陰病」の解説陰証は寒が主体の病態で、少陰病になってくると寒が強く全身に及び、陰証のまっただ中になります。新陳代謝が低下して体力が衰えていることが特徴です。そのため少陰病は、生体の闘病反応が乏しく実証(じっしょう)であることはなく虚証(きょしょう)のみになります。脈も沈んで反発力が弱くなります。疲れやすくてすぐに横になりたがることが多く、「横になるところがあれば横になりたいですか?」「座るところがあったら座りたいですか?」と問診して、少陰病でないか確認します。さらに陰証の最後のステージである厥陰病に進行すると、冷えと全身倦怠感の程度が一段と強くなり、「極度の虚寒」、「極虚(きょくきょ)」といわれます。脈は沈んで、反発力が非常に弱い軟弱無力な脈で、「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような、緊張感のない脈」とたとえられます。厥陰病は急性感染症ではショック状態に陥ったような危篤状態ですが、慢性疾患では冷えと倦怠感がどちらも強度で極度に疲弊した状態を厥陰病と捉えて治療します。また厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあります(裏寒外熱)。そのため一見すると陽証にみえることもあります。少陰病や厥陰病の治療では、代表的な熱薬である附子(トリカブトの根を加熱処理して弱毒化したもの)を含む漢方薬を用いて治療します。少陰病では真武湯や麻黄附子細辛湯が代表です。さらに進行すると附子とともに乾姜(生姜を蒸して乾燥させたもの)を用いて強力に体を温める治療を行います。附子、乾姜、甘草の3つの生薬から構成される漢方薬は四逆湯が基本となり、茯苓四逆湯や通脈四逆湯を用いて治療します。今回の鑑別処方附子と乾姜はそれぞれ温める力の強い熱薬といわれる生薬です。それぞれ温める部位や作用に違いがあって附子は先天の気を貯蔵する腎とかかわりが強く、そのほかに関節痛などに対する鎮痛作用があります。乾姜は消化や呼吸にかかわる消化管や肺を温める作用があります。また温め方にも違いがあり、附子はバーナーで炙ったり、電子レンジで温めたりするような急速に体全体を温めるイメージですが、乾姜は炭火でコトコトじっくり内臓を温めるイメージです。表に附子や乾姜が含まれる代表的な漢方薬を示しました。乾姜を含む漢方薬の場合、漢方薬が合っている場合は乾姜の辛みを感じずに甘く感じることがあります。逆に乾姜を含む漢方薬を必要としない症例では、辛くて飲みづらいと訴えます。人参湯には乾姜が含まれ、さらに附子を加えると附子理中湯になります。同様に大建中湯(だいけんちゅうとう)や苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)も冷えが強ければ附子を加えて治療します。四逆湯は附子と乾姜を両方とも含みます。本症例のように茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスを併用するとエキス製剤で代用が可能です。通脈四逆湯には乾姜が多く含まれています。ちょっと苦しいですが、エキス剤のなかで比較的乾姜の量の多い苓姜朮甘湯にブシ末を併用することで代用することもあります。また実際の附子の漸増の方法として、慎重に行う場合、(1)最も気温が低下する朝1包(0.5g)増量、(2)朝夕に1包ずつ増量(1.0g)、(3)毎食後3包 分3に増量(1.5g)と順を追ってするとよいでしょう。慣れてくれば本症例のように、常用量のブシ末を一度に3包(1.5g)分3で増量することも可能です。参考文献1)木多秀彰 ほか. 日東医誌. 1995;46:251-256.2)Zhang H, et al. 和漢医薬雑誌. 1999;16:148-154.

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BPSDには抑肝散???【漢方カンファレンス2】第4回

BPSDには抑肝散???以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう) 【今回の症例】 90代男性 主訴 奇声、介護への抵抗 既往 高血圧、アルツハイマー型認知症 病歴 5年前に認知症が悪化して施設入所。数ヵ月前から昼夜を問わず「あ゛ーっ」といった奇声や噛みつくなどの行動が目立ち始めた。介護への抵抗やほかの入居者からのクレームもあり、連日、抗精神病薬の頓服で対応していた。漢方薬で何とかならないかと受診。 薬剤歴 ドネペジル錠5mg 1回1錠、クエチアピン錠25mg 1錠頓用(1日4〜5回使用) 現症 身長165cm、体重52kg。体温36.7℃、血圧150/60mmHg、脈拍83回/分 整 経過 初診時 「???」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!) 2週後 夜間に奇声を発することが少なくなった。 1ヵ月後 介護への抵抗がなくなった。 2ヵ月後 精神的に落ち着き、笑顔もみられるようになった。 3ヵ月後 抗精神病薬の頓服が0〜1回/日で落ち着いている。 問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 顔はのぼせませんか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 暑がりです。 冷えは自覚しません。 顔がのぼせます。 体はきつくありません。 入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか? 冷房は苦手ですか? 入浴は長くできません。 冷房は好きです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどが渇きます。 冷たい飲み物が好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 1日1.5L程度です。 食欲はあります。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗かきで顔に汗が多いです。 尿は5〜6回/日です。 夜は1〜2回トイレに行きます。 便は毎日出ます。 <ほかの随伴症状> よく眠れますか? 悪夢はありませんか? 毎晩、眠れません。 悪夢はありません。 昼食後に眠くなりませんか? 動悸はありませんか? 足をつったり抜け毛が多かったりしませんか? 昼食後の眠気はありません。 動悸はありません。 足のつりや抜け毛はありません。 ほかに困っている症状はありますか? いつもイライラしています。 自然と怒りがこみあげて大きな声が出ます。 【診察】顔色は紅潮して怒った表情。脈診では浮沈間・やや強の脈。また、舌は暗赤色、乾燥した白黄苔が中等量。腹診では腹力は中等度、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)を認めた。四肢の触診では冷感はなし。※(いつも赤ら顔で怒った表情で大声を出している。布団はかぶっていないことが多い、食欲はあり、オムツ交換時、便臭が強い、夜間も眠らず大声を出していることが多い)カンファレンス 今回はアルツハイマー型認知症で施設入所している高齢者の症例ですね。自分は訪問診療にも行っているので、このようなケースによく遭遇します。認知症の周辺症状といえば、抑肝散(よくかんさん)ですね! 病名から漢方薬に飛びついてはいけませんよ。まずBPSD(behavioral and psychological symptom of dementia)による症状は、易怒性、興奮、妄想などの「陽性症状」と抑うつ、無気力などの「陰性症状」に分けられます。抑肝散は陽性症状に用いるのが原則です1)。 認知症の症例では、コミュニケーション困難で自覚症状の問診ができないことが多いです。今回の提示した問診はできたと仮定して記載しています。実際は自覚症状の問診はできず、「診察」の項の※のような情報を参考にすることも多いです。また普段の様子をよく知る看護師や介護スタッフからの情報収集が役立つことも多いですね。 高齢者では病歴がとれずに困りますからね。 問診以外でも、脈は動脈硬化で硬くなって不明瞭、舌は開口指示に従えない、お腹はオムツで診察するのに手間がかかる、などとなかなか所見が取りづらいことも多いですね。そのぶん、望診を重視して、診察時の見た目の印象が処方決定に役立つことも多いです2)。 そのため高齢者の漢方診療では、五感をフルに使う必要があるね。患者の表情、触診で冷えを確認、オムツの中の便や尿の臭いなどで虚実を判定するよ。便や尿の臭いが強い場合は実証、臭いが少ない場合は虚証を示唆する所見だね。だけど日常的にオムツ交換をやっている看護師や介護スタッフに質問すると、臭いに耐性ができているためか実際は臭いが強くても、便臭は強くないですっていうこともあるから注意だよ。可能であれば自分で確認したほうがよいけどね。 なるほど〜。高齢者の漢方治療のコツですね。 では、いつものように漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からしてみましょう。 本症例は、暑がり、長く入浴できない、冷水を好むなどから陽証です。 そうだね。たとえ問診ができなくても、赤ら顔、布団をかぶっていないことが多い、四肢に冷えなし、便臭が強いなどの情報からも陽証だね。そのほかには乾燥した白黄苔、口渇なども熱を示唆する所見だね。 陰証の高齢患者さんは、布団にくるまっている、厚着、活気が乏しい、いつも寒がっているといった特徴がありますね。 高齢者だから、寝たきりだからといって、陰証・虚証と決めつけてはいけないよ。長生きできている高齢者だからこそ、生命力が強く体力があると考えることもできるのだ。 なんとなくイメージがわきますね。 六病位はどうですか? 陽明病ほど熱が強くないので少陽病です。ほかに腹満や便秘があることも陽明病の特徴でしたが、それらもないですね。 よくわかっているね。少陽病は慢性疾患において「川の流れがよどむ淵のように停滞する時期」といわれるんだ。陽証において、太陽病は悪寒・発熱、陽明病では身体にこもった強い熱と腹満・便秘といった特徴的な症状があるため、「慢性疾患で明らかな冷えがなければ少陽病」とも表現され、慢性疾患に対して漢方治療を行うことの多い現代では重要だよ(少陽病については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 なるほど。冷えがなくて、陰証が否定されれば、少陽病と考えることが多いのですね。納得です。 それでは、漢方診療のポイント(2)の虚実の判断に移ろう。 脈はやや強、腹力も中等度とあるので虚実間〜実証です。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 食欲不振や全身倦怠感などの気虚はありません。 赤ら顔や顔に汗は気逆と捉えることができますか? 気逆でよいね。そのほかにも気逆には、動悸、驚きやすい、焦燥感、悪夢などがあるけどそれらはないようだ。血水に関しては、舌の暗赤色と舌下静脈の怒張は瘀血で、水の異常はあまり目立たないね。 あとはイライラ、不眠といった精神症状が目立ちます。 怒りっぽいことも含めて、精神症状として漢方診療のポイント(4)のキーワードで考えよう。本症例をまとめるよ。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?暑がり、長湯はできない、顔面紅潮、冷水を好む→陽証(少陽病)(問診ができない場合)顔面紅潮、布団をかけていない、便臭強い、四肢に冷えなし→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか脈:やや強、腹:中等度→虚実間〜実証(3)気血水の異常を考える赤ら顔、顔に汗が多い→気逆舌暗赤色→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込むイライラ、不眠、怒りっぽい、心下痞鞕(+)、胸脇苦満(−)解答・解説【解答】本症例は、陽証・実証・気逆に対して用いる黄連解毒湯(おうれんげどくとう)で治療をしました。【解説】黄連解毒湯は少陽病・実証に用いる漢方薬で、のぼせの傾向があって顔面紅潮し、精神不安、不眠、イライラなどの精神症状を訴える場合に用います。黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)とすべて清熱作用をもつ生薬で構成されます。腹診では、心下痞鞕や下腹部に横断性の圧痛があるのが典型です。精神症状以外にも、のぼせを伴う鼻出血、急性胃炎、皮膚疾患などに活用されます。またお酒を飲むとすぐに顔が赤くなる人が黄連解毒湯を飲むと二日酔い予防になるといわれます。統合失調症患者の睡眠障害に対する報告3)や湿疹、皮膚炎に対する症例4)などが報告され、熱を伴うさまざまな疾患に用いられています。今回のポイント「少陽病」の解説太陽病では表(ひょう:体表面)に闘病反応がありました。少陽病は生体の内部に影響がおよび、表と裏(り:消化管)の間である半表半裏(はんぴょうはんり)が病位になります。実際は、半表半裏はのど〜上腹部あたりを指していると考えられます。そのため口が苦い、のどが乾く、ムカムカする嘔気、食欲不振などの症状が出現します。太陽病では着目しなかった舌や腹部の所見も重要になります。具体的には舌では舌苔が厚くなり(写真左)、腹診では両側季肋部に指を差し込むと抵抗感や患者の苦痛が出てきて、胸脇苦満(きょうきょうくまん)とよびます(写真右)。少陽病ではその場で闘病反応を鎮める治療を行い、「清解(せいかい)」といいます。少陽病の適応として発症から数日が経過したこじれた風邪が典型です。また、少陽病は慢性疾患において「川の流れがよどむ淵のように停滞する時期」といわれます。陽証において、太陽病は悪寒・発熱、陽明病では身体にこもった強い熱と腹満・便秘といった特徴的な症状がありますから、「慢性疾患で明らかな冷えがなければ少陽病」とも表現され、慢性疾患に対して漢方治療を行うことの多い現代では重要です。柴胡と黄芩が含まれる柴胡剤が少陽病期によく用いられ小柴胡湯(しょうさいことう)がその代表です。柴胡剤はこじれた風邪以外にも、ストレスと関連するイライラや不眠などの症状に用います。少陽病では柴胡剤以外にもさまざまな種類の漢方薬が準備されています。なお、黄連解毒湯は「赤い怒り」といわれ、赤ら顔、顔面紅潮が使用目標です。一方、抑肝散は「青い怒り」で、顔色があまりよくないのが典型です。したがって、のぼせや熱が目立つ症例では抑肝散よりも黄連解毒湯を考えてください。また、黄連解毒湯は止血作用があるので、鼻出血で顔ののぼせがあるような場合には黄連解毒湯を内服しながら、鼻を圧迫するとよいでしょう。上下部消化管内視鏡で止血困難な消化管出血の症例に黄連解毒湯を活用したという報告もあるのです5)。今回の鑑別処方BPSDの陽性症状に対して、黄連解毒湯と同じように、顔面紅潮、興奮などの精神症状があり、便秘を伴う場合には三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)が適応になります。同じ気逆の症状でも、動悸や悪夢を伴う不眠があり、イライラしているような場合は柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれうとう)を用います。この場合は腹診で胸脇苦満や腹部大動脈の拍動が触知されるのが特徴です。黄連解毒湯や三黄瀉心湯の場合は、胸脇苦満はなく心下痞鞕が目標になり、腹診所見で鑑別する場合もあります。柴胡加竜骨牡蛎湯はメーカーによって瀉下作用のある大黄(だいおう)の有無に違いがあるので便秘によって使い分ける必要があり、大黄を含むほうがより実証の漢方薬です。このように興奮や不穏に対する症状には瀉下作用のある大黄が含まれることが多いです。これは大黄には瀉下作用だけでなく鎮静作用があり、単に便秘の改善を目標にしているのではないことを意識する必要があります。古典では統合失調症のような状態に大黄を一味(将軍湯とよぶ)で煎じて鎮静させたというような記載もあります。また抑肝散よりも怒りが目立たず、活気の低下や食欲不振がある場合は釣藤散(ちょうとうさん)を考えます。釣藤散は脳血管性認知症に対する二重盲検ランダム化比較試験(DB-RCT)6)があり、夜間せん妄や不眠などに加え、会話の自発や表情の乏しさといった意欲の低下の改善を認めています。このRCTを参考に当科では「療養型病床群において釣藤散投与を契機に経管栄養状態から経口摂取が可能となった高齢者の3例」を報告しました2)。当科では、釣藤散はBPSDの抑うつ、無気力などの陰性症状や低活動性せん妄に対して用いることが多いです。 1) 桒谷圭二. 誰もが使ったことのある漢方薬 〜でもDo処方だけじゃもったいない〜 3. 抑肝散。Gノート増刊. 2017;4:1066-1076. 2) 田原英一ほか. 日東医誌. 2002;53:63-69. 3) 山田和男ほか. 日東医誌. 1997;47:827-831. 4) 堀口裕治. 日東医誌. 1999;50:471-478. 5) 坂田雅浩ほか. 日東医誌. 2017;68:47-55. 6) Terasawa K, et al. Phytomedicine. 1997;4:15-22.

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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