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レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。虎の門病院の竹村 弘司氏が泌尿器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。ここ数年、泌尿器腫瘍領域の薬物治療における重要な研究成果はESMOで報告されることが多く、ESMO2023ではEV-302試験、ESMO2024ではNIAGARA試験の結果が報告されたことが記憶に新しい。いずれも大きな話題となり、本邦においてもこれらの臨床試験の結果が今日の日常臨床を変えた。ESMO2025では、泌尿器領域から4演題がPresidential Symposiumに採択された。いずれも近い将来の日常臨床や治療開発の方向性を変える可能性のある臨床試験である。本レポートでは、これら4演題の内容についての詳細を解説する。(表)ESMO2025 GU領域の注目演題のQuick Check画像を拡大する[目次]1.【膀胱がん】LBA22.【膀胱がん】LBA83.【前立腺がん】LBA64.【尿路上皮がん】LBA7【膀胱がん】LBA2Perioperative (periop) enfortumab vedotin (EV) plus pembrolizumab (pembro) in participants (pts) with muscle-invasive bladder cancer (MIBC) who are cisplatin-ineligible: The phase 3 KEYNOTE-905 study1.背景筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の標準治療はシスプラチンを含む術前化学療法後の根治的膀胱全摘除術(RC)であるが、腎機能障害や併存疾患のためにシスプラチン不適格となる患者が約半数を占める。このような患者群に対しては (周術期化学療法なしの)膀胱全摘術が現在の標準治療であるが、再発率が高く、予後が悪い。本試験(KEYNOTE-905)は、シスプラチン不適格または拒否例のMIBC患者を対象に、EV+ペムブロリズマブ(以下EVP療法)による周術期化学療法の有効性および安全性を検証した第III相無作為化比較試験である。2.試験デザインデザイン多施設共同、第III相、無作為化比較試験対象シスプラチン不適格または拒否したMIBC患者治療:治療EVP群:EVP療法3コース後に膀胱全摘術、術後にEV 6コース、ペムブロリズマブ14コース対照群(標準治療/膀胱全摘術±リンパ節郭清のみ)主要評価項目無イベント生存期間(EFS)副次評価項目全生存期間(OS)、病理学的完全奏効率(pCR)、安全性など3.結果EVP群170例、対照群174例に無作為割り付けされた。観察期間中央値は25.6ヵ月(範囲:11.8~53.7)。EVP群の患者の年齢中央値は74.0歳(範囲:47~87)であり、75歳以上の高齢者は45.9%含まれていた。ECOG PS 0が60%、男性が80.6%であった。シスプラチン不適格例が83.5%、拒否例が16.5%であった。病期別ではT2N0が17.6%、T3/T4が78.2%、N1症例が4.1%であった。両群間で背景に大きな差はなかった。主要評価項目であるEFS中央値はEVP群で未到達、対照群で15.7ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.40(95%信頼区間[CI]:0.28~0.57、p<0.0001)と、EVP群で有意なリスク低減が認められた。12ヵ月時点のEFS率は77.8%vs. 55.1%、24ヵ月時点では74.7%vs.39.4%であった。EFS改善効果は事前に設定されたサブグループ解析でも一貫しており、年齢、性別、PS、PD-L1発現、腎機能などにかかわらずEVP群で良好であった。OS中央値は、EVP群で未到達、対照群で41.7ヵ月であり、HR:0.50(95%CI:0.33~0.74、p=0.0002)とEVP群で有意な生存延長を認めた。12ヵ月時点での生存率は86.3%vs.75.7%、24ヵ月時点で79.7%vs.63.1%であった。pCR率は57.1%vs.8.6%(95%CI:39.5~56.5、p<0.000001)であった。本試験において、pCRは手術検体における腫瘍残存なし(pT0N0)と定義されており、手術未施行例は非奏効(non-responder)として解析されている。周術期EVP療法の安全性プロファイルは既報の進行期尿路上皮がん(UC)治療での報告とおおむね一致し、新たな安全性シグナルは認められなかった。また、本併用療法は根治的手術施行率を低下させなかったことも示された。4.結論周術期EVP療法は、シスプラチン不適格または拒否したMIBC患者において、EFS、OS、pCR率を有意に改善した。手術実施率への悪影響はなく、安全性も許容範囲内であった。本試験は、MIBCに対する周術期治療としてEVP療法が新たな標準治療となる可能性を初めて示した第III相試験である。5.筆者コメントEVP療法はすでに転移を有する再発UCの領域でパラダイムシフトを起こしており、予想はしていたが、KEYNOTE-905試験もpositiveな結果であった。文句なくpractice changeであるが、今後検証・確認しないといけないこととして以下が挙げられる。シスプラチン適格の患者を対象に、シスプラチンベースのレジメンと比較してもEVPが優れるかどうか。→EV-304試験の結果が待たれる。術後のEVP療法は全例に必要なのか。→術後EVP、ペムブロリズマブのみ、経過観察のみ、の3群比較ではどうなるか。今後リアルワールドデータの報告なども待たれる。周術期にEVが合計9コース投与されるため、末梢神経障害も懸念される。周術期EVP療法におけるctDNAステータスを絡めた探索的解析の結果が待たれる。【膀胱がん】LBA8IMvigor011: a Phase 3 trial of circulating tumour (ct)DNA-guided adjuvant atezolizumab vs placebo in muscle-invasive bladder cancer1.背景MIBCの術後アテゾリズマブ療法の有効性を検証したランダム化第III相試験であるIMvigor010試験はnegative studyであったが、探索的研究でctDNAが予後予測因子であることに加えてアテゾリズマブの効果予測因子であることが示唆された。そのような背景から、ctDNA-guided selectionされたコホートにおけるアテゾリズマブの有効性を検証したのがIMvigor011試験である。IMvigor011試験は、MIBC患者のうち術後ctDNAが陽性であるコホートのみを対象としたアテゾリズマブ術後療法の有効性を評価したランダム化第III相試験である。2.試験デザインデザイン多施設共同、第III相、無作為化比較試験対象膀胱全摘術後6〜24週以内のMIBC(pT2-T4aN0M0またはpT0-T4aN+M0)。術前化学療法の実施は許容された。介入:介入6週ごとのctDNA評価、12週ごとの画像評価を実施。ctDNA陽性→アテゾリズマブ(1,680mg IV 4週ごと×最大1年)vs.プラセボ(2:1)ctDNA陰性→無治療・経過観察群主要評価項目治験医師評価の無病生存期間(DFS)副次評価項目OS3.結果登録患者756例(ctDNA陽性:379例、ctDNA陰性:377例)。このうち、ctDNA陽性例250例がランダム化(アテゾリズマブ:167例、プラセボ:83例)。患者の年齢中央値は69歳(範囲:42~87)、ほぼ全例がECOG PS 0~1であった。病理学的ステージはpT3/4が約7割、リンパ節転移陽性が約6割であった。初回ctDNA評価で陽性判定されたのは約6割、フォローアップ中のctDNA評価で陽性判定されたのは約4割であった。主要評価項目である治験医師評価のDFS中央値は、アテゾリズマブ群9.9ヵ月、プラセボ群4.8ヵ月であり、HR:0.64(95%CI:0.47~0.87、p=0.0047)と統計学的に有意にアテゾリズマブ群が良好であった。12ヵ月DFS率は44.7%vs.30.0%、24ヵ月DFS率は28.0%vs.12.1%であった。OSは32.8ヵ月vs.21.1ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.39~0.90、p=0.0131)であり、24ヵ月時点のOS率は62.8%vs.46.9%と、アテゾリズマブ群で明確な上乗せ効果を示した。なお、1年間のctDNAフォロー期間においてctDNA陰性で経過したコホートでは、24ヵ月時点のDFSは88.4%、OSは97.1%で無イベントで経過していた。4.結論ctDNAガイド下アテゾリズマブ術後療法は、ctDNA陽性のMIBC患者においてDFSおよびOSを有意に改善した。非選択集団で有効性を示せなかったIMvigor010試験と異なり、ctDNAを用いた層別化戦略により免疫療法の効果を享受できるコホートを抽出することができる可能性が示唆された。5.筆者コメントMIBCの術後化学療法において、ctDNAをベースとした免疫チェックポイント阻害薬による治療戦略を構築することに成功した重要な臨床試験である。周術期における免疫チェックポイント阻害薬を含む治療の有効性を検証している他の大規模比較試験においても同様の傾向がみられるか、今後再現性の評価も重要である。一方で、ctDNA陽性の場合、介入群でも多くの患者が再発しており、今後このコホートに対するより強度の高い治療の有効性が検証されるべきであると感じた。【前立腺がん】LBA6Phase 3 trial of 177Lu-PSMA-617 combined with ADT + ARPI in patients with PSMA-positive metastatic hormone-sensitive prostate cancer (PSMAddition)1.背景177Lu-PSMA-617は、VISION試験において転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対する生存延長効果を示した。PSMAddition試験は、ホルモン感受性転移を有する前立腺がん(mHSPC)を対象に、177Lu-PSMA-617をアンドロゲン除去療法(ADT)+アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)に併用する有効性と安全性を検証した第III相無作為化試験である。2.試験デザインデザイン国際多施設共同、無作為化、第III相試験対象PSMA PET/CTで陽性のmHSPC男性(ECOG PS 0~2)介入群177Lu-PSMA-617(7.4GBq 6週ごと×最大6コース)+ADT+ARPI対照群ADT+ARPI無増悪確認後のクロスオーバー許可(BIRC評価)主要評価項目画像評価による無増悪生存期間(rPFS)副次評価項目全生存期間(OS)などESMO2025ではrPFSの第2回中間解析、OSの第1回中間解析の結果が発表された。3.結果1,529例がスクリーニングされ、PSMA陽性1,232例のうち1,144例が無作為化割り付け(177Lu-PSMA-617群572例、対照群572例)された。年齢中央値68歳(範囲:36~91歳)、70歳以上が43%、ECOG PS 0~1が97%以上であった。high volumeが68%、de novo症例が52.1%を占めた。使用ARPIはアビラテロン37.6%、アパルタミド32.9%、エンザルタミド22.1%、ダロルタミド6%であった。主要評価項目であるrPFS中央値は両群とも未到達であったが、HR:0.72(95%CI:0.58~0.90、p=0.002)と統計学的有意差をもって併用群で改善がみられた。事前に設定されたサブグループ(年齢、腫瘍量、PSA値、PSなど)によらず、一貫して併用群が優位であった。OSは中間解析時点で未到達(HR:0.84、95%CI:0.63~1.13、p=0.125)ながら、併用群で生存延長傾向を示した。その他の主要な副次評価項目の結果は以下のとおりである。奏効率(ORR) 85.3%vs.80.8%(CR:57.1%vs.42.3%)PSA進行までの期間 HR:0.42(95%CI:0.30~0.59)48週時点でのPSA<0.2ng/mL達成率 87.4%vs.74.9%mCRPCへの進行時間 HR:0.70(95%CI:0.58~0.84)有害事象(AE)は既知の177Lu-PSMA-617関連毒性とおおむね一致しており、主な毒性プロファイルを以下に示す。Grade≧3 AE 50.7%vs.43.0%177Lu-PSMA-617群でみられた主なAE:口渇(45.7%)、疲労(34.8%)、悪心(34.2%)、便秘(17.9%)、食欲低下(14.4%)、嘔吐(13.8%)、下痢(12.2%)、味覚異常(11.9%)。血液毒性:貧血(28%)、好中球減少(14.7%)、血小板減少(11.2%)と軽度の骨髄抑制がみられたが、治療関連死亡はなし。4.結論177Lu-PSMA-617をADT+ARPIに併用することにより、PSMA陽性mHSPCにおけるrPFSを有意に改善し、主要評価項目を達成した。OSは未成熟ながら改善傾向を示しており、副次評価項目(PSA応答、mCRPC進行時間など)も一貫して併用群が優れていた。安全性は既知の範囲内で、新たな毒性シグナルは認められなかった。5.筆者コメントcontrol armがARPI doubletであり、現在の標準治療に一致した治療が行われている。PFS benefitがあることは今回の結果で判明したが、OSの長期フォローアップデータが気になるところである。本邦ではmCRPCに対する177Lu-PSMA-617が保険承認されたが、日常臨床で広く利用可能になるには、まだまだ時間がかかりそうである。【尿路上皮がん】LBA7Disitamab vedotin (DV) plus toripalimab (T) versus chemotherapy (C) in first-line (1L) locally advanced or metastatic urothelial carcinoma (la/mUC) with HER2-expression1.背景これまでに、HER2陽性UCに対して、HER2抗体薬物複合体(ADC)であるdisitamab vedotin(DV)が有効性を示し、さらに抗PD-1抗体toripalimab(T)との併用は前治療歴を問わずORR76%、PFS中央値9.3ヵ月と有望な結果が報告されている。RC48-C016試験は、未治療のHER2発現(IHC 1+以上)局所進行または転移を有するUCを対象に、DV+T併用療法の1次治療における有効性と安全性を化学療法と比較した第III相試験である。2.試験デザインデザイン中国で実施された多施設共同、オープンラベル、無作為化第III相試験対象切除不能局所進行または転移を有するHER2 IHC 1+/2+/3+ UC、ECOG 0~1介入群(DV+T群)DV(2.0mg/kg)+T(3.0mg/kg)併用療法対照群(化学療法群)シスプラチンまたはカルボプラチン+ゲムシタビン主要評価項目BIRC評価によるPFSおよびOS副次評価項目治験医師評価PFS、ORR、奏効期間(DOR)、安全性など3.結果811例がスクリーニングされ、484例が無作為化割り付けされた。年齢中央値66歳、ECOG 0~1が97%以上であった。HER2発現はIHC 1+が22.6%、IHC 2+/3+は77.4%であった。内臓転移あり、上部尿路原発、シスプラチン適格性ありの患者は、いずれも半分程度であった。PFS中央値はBIRC評価でDV+T群13.1ヵ月vs.化学療法群6.5ヵ月であり、HR:0.36(95%CI:0.28~0.46、p<0.0001)と統計学的に有意にDV+T群で良好であった。12ヵ月PFS率は54.5%vs.16.2%であった。すべての事前に設定されたサブグループ(HER2発現、PD-L1、臓器転移、年齢、PS)で一貫した有効性を示した。OSはDV+T群31.5ヵ月vs.化学療法群16.9ヵ月(95%CI:14.6~21.7)であり、HR:0.54(95%CI:0.41~0.73、p<0.0001)と統計学的に有意にDV+T群で良好であった。ランドマークOSは12ヵ月OS率79.5%vs.62.5%、18ヵ月64.6%vs.48.1%であった。ORRは76.1%vs.50.2%(CR:4.5%vs.1.2%)、DoR中央値は14.6ヵ月vs.5.6ヵ月であり、DV+T群で良好な傾向にあった。化学療法群の64.7%が後治療を受け、そのうち40.2%が抗HER2療法、50.2%がPD-1/PD-L1阻害薬を使用していた。DV+T群では27.2%が後治療を受けており、主に殺細胞性抗がん剤による治療であった。安全性についてのプロファイルは以下のとおりである。治療関連有害事象(TRAE):DV+T群98.8%、化学療法群100%Grade≧3 TRAE:55.1%vs.86.9%主なAEトランスアミナーゼ上昇(43~49%)、貧血(42%)、末梢神経障害(18%)、発疹(21%)など免疫関連AE18.9%がGrade≧3、重篤な毒性増加はなし治療中止率12.3%vs.10.4%総じてDV+T併用は化学療法より有害事象が少なく、許容可能な安全性を示した。4.結論RC48-C016試験は、HER2発現mUCにおいて、抗HER2 ADCと抗PD-1抗体の併用が化学療法と比較して有効性を示した初めての第III相試験である。DV+T療法は1次治療HER2陽性進行尿路上皮がんの新たな標準治療候補として位置付けられる。5.筆者コメント本試験はHER2発現1+以上が参加可能となっており、今後プラクティスで使用可能となった場合は適格性を有する患者の割合はそれなりに多いことが想定される。本試験は中国のみで実施されたPhaseIIIであるが、SGNDV-001試験(DV+ペムブロリズマブのPhaseIII)でも同様の有効性が実証されるか、結果が期待される。HER2発現UCの1次治療として今後標準治療に組み込まれることが期待され、EV+ペムブロリズマブ療法との使い分けなど、今後検討が必要となる。直接比較はできないが、DVは比較的毒性がマイルドである可能性があり、プラクティスを大きく変化させる可能性がある。また、DV後のEV(またはEV後のDV)といったADC製剤の逐次的治療のデータなどの蓄積も今後期待される。