4.
Lillyのいわば「一挙三得」の3重アゴニストのretatrutide皮下注射が、第III相試験で肥満手術に匹敵するほどの30%近い体重低下をもたらしました1,2)。昨今の肥満薬の先駆けのNovo Nordiskのウゴービ(セマグルチド)は、糖に応じたインスリン放出を促すホルモンの一種のグルカゴン様ペプチド1(glucagon-like peptide-1:GLP-1)の受容体を活性化します。糖に応じたインスリン放出を助けるホルモンはGLP-1をはじめとしてインクレチンと総称されます。直接対決試験3)でウゴービを上回る体重減少作用を示したLillyの肥満薬ゼップバウンド(チルゼパチド)は、GLP-1受容体に加えてグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide:GIP)というもう1つのインクレチン受容体も活性化するいわば両取り効果があります。Lillyの次なる肥満薬のretatrutideはそれら2つのインクレチン受容体に加えてさらにグルカゴン(glucagon:GCG)という一味違うホルモンの受容体も活性化します。マウスでの検討結果によると、retatrutideのGCG受容体活性化はエネルギー消費を亢進させることでさらなる体重低下を引き出すようです4)。それら3つのホルモンの英語表記の頭文字がどれもGであることからretatrutideはちまたでは3G薬(triple-G)と呼ばれたりします2)。当のLillyはというと、retatrutideを先に記したとおり3重アゴニスト(triple agonist)と称しています。TRIUMPH-1と銘打つ第III相試験には、BMIが30以上の肥満か、BMIが27以上で体重に関連する疾患がある過体重の成人2,339例が参加しました5)。糖尿病患者は参加していません。retatrutide投与群の体重は用量が多いほど減りました。被験者全員が試験の決まりどおりに治療されたとみなす解析(efficacy estimand)での低用量(4mg)、中用量(9mg)、高用量(12mg)群の80週時点の体重は、ベースラインに比べてそれぞれ19.0%、25.9%、28.3%低くて済んでいました。プラセボ群の体重はほぼ変化なしで、ほんの2.2%減ったのみです。別の解析手段(treatment-regimen estimand)でのretatrutide低用量、中用量、高用量群の体重低下率は若干低めで、それぞれ17.6%、23.7%、25.0%の低下を示しました(プラセボ群は3.9%低下)。ベースラインのBMIが35以上の患者に対する24週間のretatrutide継続投与で体重は一層減り、およそ2年の104週時点で多ければ30%ほどの体重減少に至っています。retatrutideの有害事象はインクレチンのように働く薬の試験で認められるものとおおむね一致しており、胃腸系の悪心、下痢、便秘、嘔吐が多く認められました。先立つ試験で認められた神経有害事象の感覚異常(dysesthesia)は、retatrutide低用量、中用量、高用量群でそれぞれ5.1%、12.3%、12.5%に生じました。プラセボ群ではほとんど生じていません(0.9%)。感覚異常はおおむね軽~中等度で、多くは試験中に解消し、retatrutide投与はたいてい継続しました。80週時点の体重がプラセボ効果差し引きで26%ほども減れば試験名のTRIUMPH-1にふさわしく上出来なようですが、今や肥満薬への期待はどうやら天井知らずで、そうでもないとする向きもあるようです。たとえばBMO Capital Marketsのアナリスト達はretatrutide投与群のプラセボ効果差し引き体重減少を実際の26%ほどより多い27~28.5%と見込んでいました2)。当のアナリスト達は、このまま進めば今年中にretatrutideは米国で承認申請されるとみています。TRIUMPH-1試験のさらなる結果は、来月に米国のニューオーリンズで開催される米国糖尿病協会年次総会で発表されます1,6)。 参考 1) Lilly's triple agonist, retatrutide, delivered powerful weight loss in pivotal Phase 3 obesity trial / PRNewswire 2) Lilly’s triple-G drug helps patients lose roughly a quarter of weight, showcasing competitive profile / FierceBiotech 3) Aronne LJ, et al. N Engl J Med. 2025;393:26-36. 4) Coskun T, et al. Cell Metab. 2022;34:1234-1247. 5) ClinicalTrials.gov(TRIUMPH-1試験) 6) What to know about retatrutide: An investigational triple hormone receptor agonist / Eli Lilly