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チルゼパチド、閉塞性睡眠時無呼吸の肥満者の睡眠アウトカムを改善/NEJM

 中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸と肥満のある患者の治療において、プラセボと比較してチルゼパチド(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド[GIP]とグルカゴン様ペプチド1[GLP-1]の受容体作動薬)は、無呼吸低呼吸指数(AHI)の改善とともに体重減少をもたらし、良好な睡眠関連の患者報告アウトカムを示すことが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のAtul Malhotra氏らSURMOUNT-OSA Investigatorsが実施した「SURMOUNT-OSA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年6月21日号で報告された。PAP療法の有無別の2つの試験からなる無作為化試験 SURMOUNT-OSA試験は2022年6月~2024年3月に、9ヵ国60施設で実施した52週間の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(Eli Lillyの助成を受けた)。 中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸(AHI[睡眠中の1時間当たりの無呼吸および低呼吸の回数]≧15回/時)および肥満(BMI≧30[日本は≧27])と診断された患者469例を登録した。これらの患者を、ベースラインで気道陽圧(PAP)療法を受けていない集団(234例、試験1)と受けている集団(235例、試験2)に分け、それぞれ最大耐用量のチルゼパチド(10または15mg)を週1回皮下投与する群(試験1:114例、試験2:120例)またはプラセボ群(同120例、115例)に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、AHIのベースラインから52週までの変化量とした。PAP療法の有無を問わず、AHIが有意に低下 ベースラインにおいて試験1は平均年齢が47.9歳、男性が67.1%、白人が65.8%、平均BMIが39.1、平均AHIが51.5回/時であり、試験2はそれぞれ51.7歳、72.3%、73.1%、38.7、49.5回/時であった。 試験1では、52週時のAHIの平均変化量は、プラセボ群が-5.3回/時(95%信頼区間[CI]:-9.4~-1.1)であったのに対し、チルゼパチド群は-25.3回/時(-29.3~-21.2)であり、推定治療群間差は-20.0回/時(95%CI:-25.8~-14.2)とチルゼパチド群で有意に優れた(p<0.001)。 また、試験2のAHIの平均変化量は、プラセボ群の-5.5回/時(95%CI:-9.9~-1.2)に対し、チルゼパチド群は-29.3回/時(-33.2~-25.4)であり、推定治療群間差は-23.8回/時(95%CI:-29.6~-17.9)とチルゼパチド群で有意に良好だった(p<0.001)。体重減少、hsCRP濃度、低酸素負荷、収縮期血圧なども改善 副次エンドポイントはすべて、PAP療法の有無にかかわらずチルゼパチド群で有意に優れた。このうち主なものとして、52週時の体重の変化率(推定治療群間差は試験1:-16.1%[95%CI:-18.0~-14.2]、試験2:-17.3%[-19.3~-15.3])、高感度C反応性蛋白(hsCRP)濃度の変化量(同試験1:-0.7mg/L[-1.2~-0.2]、試験2:-17.3mg/L[-19.3~-15.3])、低酸素負荷の変化量(同試験1:-70.1%分/時[-90.9~-49.3]、試験2:-61.3%分/時[-84.7~-37.9])、48週時の収縮期血圧の変化量(同試験1:-7.6mmHg[-10.5~-4.8]、試験2:-3.7mmHg[-6.8~-0.7])が挙げられた。 また、患者報告アウトカムであるPatient-Reported Outcomes Measurement Information System(PROMIS)の短縮版Sleep-related Impairment(PROMIS-SRI)および同短縮版Sleep Disturbance(PROMIS-SD)の52週時までの試験1、2を合わせた変化量は、チルゼパチド群で良好だった(いずれもp<0.001)。 一方、チルゼパチド群では消化器系の有害事象の頻度が高く、試験1では下痢が26.3%、悪心が25.4%、嘔吐が17.5%、便秘が15.8%で発現し、試験2ではそれぞれ21.8%、21.8%、9.2%、15.1%に認めた。これらの大部分は軽度~中等度だった。また、試験2のチルゼパチド群で急性膵炎を2例確認した。甲状腺髄様がんの報告はなかった。 著者は、「2つの試験において、チルゼパチドの投与を受けた参加者では、閉塞性睡眠時無呼吸に関連する一般的な心血管リスク因子の改善とともに、睡眠呼吸障害や、主観的睡眠障害および睡眠関連障害の緩和において臨床的に意義のある変化を認めた」とまとめている。

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アイカルディ症候群〔AS:Aicardi syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義アイカルディ症候群は、1965年にJean Aicardiによって報告された神経疾患である。脳梁欠損、脈絡網膜裂孔、点頭てんかん (infantile spasm) を典型的な3主徴とし、主に女児に認められる。なお、Aicardi-Goutie(eはアクサン・グラーヴ)res症候群とは別の疾患である。■ 疫学まれな疾患であり、正確な頻度は不明である。民族差はないと言われており、欧米では9~17万人に1例程度との報告がある。■ 病因現時点で不明である。患者の大部分が女児であることから、X染色体顕性遺伝(男児では致死性)または常染色体上の限性発現遺伝子の異常により女児にのみ発症するとも考えられている。■ 症状脳梁欠損、脈絡網膜裂孔、点頭てんかんを典型的な3主徴とするが、必ずしも3つがそろっているとは限らない。また、この3主徴以外にもさまざまな大脳形成異常、視神経の異常、その他のタイプのけいれん、さまざまな重症度の知的障害、側弯などの骨格異常が認められる。1)神経症状てんかんは、大部分の症例(>95%)に認められる。大部分の症例は1歳未満に発症する。点頭てんかんは早期にみられ、経過中にさまざまなタイプの薬剤治療抵抗性てんかんを発症する。脳波所見として、非対称性のサプレッション・バーストや両半球間の解離を伴う非同期の多巣性てんかん様異常がよくみられる。頭部MRIでは脳梁の異形成があり、大部分は完全脳梁欠損であるが、部分欠損の場合もある。主に前頭葉と傍シルビウス裂領域の多小脳回や厚脳回は典型的である。脳室周囲と皮質内の異所性灰白質もよくみられる。大脳の左右非対称、脈絡叢乳頭腫、脳室拡大、第3脳室や脈絡叢の脳内嚢胞がしばしばみられる。2)眼症状本症候群の特徴である脈絡膜裂孔は、網膜色素上皮とその下にある脈絡膜の白色または黄白色での円形で、境界部にさまざまな濃さの色素沈着を伴う、境界明瞭な色素脱失領域であり、視神経周囲の球後極に集簇することがある。 3)頭蓋顔面症状特徴的な顔貌として、短い鼻尖、鼻先が上向きで鼻梁の角度が小さい前顎骨、大きな耳、まばらな眉毛が含まれる。斜頭、顔面非対称性、時に口唇口蓋裂も報告されている。4)骨格症状半椎体、ブロック椎体、癒合椎体、肋骨の欠損などの肋椎体の異常はよくみられる。患者の1/3が著しい側弯症になる可能性がある。5)消化器症状便秘、胃食道逆流、下痢、摂食障害が認められる。管理上、てんかんの次に大きな問題となる症状である。6)悪性腫瘍腫瘍の発生率が増加することが示唆されている。良性腫瘍として脈絡叢乳頭腫や脂肪腫など、悪性腫瘍として血管肉腫、肝芽腫、髄芽腫、胚性がん、奇形腫など、さまざまなまれなタイプの腫瘍が報告されている。7)成長身長は7歳、体重は9歳まで一般集団と同じ程度であるが、それ以降になると一般集団より低くなるとの報告がある。8)内分泌思春期早発症、思春期遅延症の報告がある。■ 分類とくになし。■ 予後生命予後は不良である。個人差が大きくけいれんの重症度にもよる。平均余命は8.3歳との報告がある一方、寿命の中央値は18.5歳との報告がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は臨床所見のみで行う。症状がそろっていれば男児でも診断される。1999年に報告されたAicardiによる診断基準案は以下の通りである。古典的3徴候の存在が本症候群の診断となる。古典的3徴候の2つに加え、少なくとも2つの他の主要な特徴または補助的な特徴の存在は、本症候群の診断を強く示唆する。■古典的3徴候での診断【古典的3徴候】点頭てんかん (infantile spasms)特徴的な脈絡膜裂孔脳梁欠損(部分的な場合もある)【主な特徴】皮質奇形(多くは小脳回)脳室周囲および皮質下の異形成症第3脳室および/または脈絡叢周囲の嚢胞視神経・視神経乳頭のコロボーマまたは低形成【支持特徴】椎骨および肋骨の異常小眼球症もしくは他の眼症状“Split-brain” 型脳波肉眼的大脳半球非対称性■研究班による診断基準わが国の研究班においても以下のような診断基準が提唱されている。【A.症状】●主要徴候1.スパズム発作[a]2.網脈絡膜ラクナ(lacunae)[b]3.視神経乳頭(と視神経)のcoloboma、しばしば一側性4.脳梁欠損(完全/部分)5.皮質形成異常(大部分は多小脳回)[b]6.脳室周囲(と皮質下)異所性灰白質[b]7.頭蓋内嚢胞(たぶん上衣性)半球間または第3脳室周囲8.脈絡叢乳頭腫●支持徴候9.椎骨と肋骨の異常10.小眼球または他の眼異常11.左右非同期性’split brain’脳波(解離性サプレッション・バースト波形)12.全体的に形態が非対称な大脳半球a.他の発作型(通常は焦点性)でも代替可能b.全例に存在(またはおそらく存在)【B.検査所見】1.画像検査所見:脳梁欠損をはじめとする中枢神経系の異常(脳回・脳室の構造異常、異所性灰白質、多小脳回、小脳低形成、全前脳胞症、孔脳症、クモ膜嚢胞、脳萎縮など)がみられる。2.生理学的所見:脳波では左右の非対称または非同期性の所見がみられる。ヒプスアリスミア、非対称性のサプレッション・バーストまたは類似波形がみられる。3.眼所見:網脈絡膜ラクナが特徴的な所見。そのほか、視神経乳頭の部分的欠損による拡大、小眼球などがみられる。4.骨格の検査:肋骨の欠損や分岐肋骨、半椎、蝶形椎、脊柱側弯などがみられる。【C.鑑別診断】以下の疾患を鑑別する:線状皮膚欠損を伴う小眼球症。先天性ウイルス感染。<診断のカテゴリー>A-1、2、4を必須とし、さらにA-5、6、7、8のいずれかの所見を認めた場合に診断できる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根本治療法はなく、対症療法のみである。スパズム発作と薬剤治療抵抗性けいれんの管理が必須である。診断時からの理学療法、作業療法、言語療法の開始が望ましい。側弯に伴う合併症予防のための適切な筋骨格系のサポートと治療が必要である。また、成長、栄養状態、発達の経過、呼吸機能と誤嚥のリスク、側弯の程度などについての定期的な評価が必要である。4 今後の展望原因遺伝子は未同定であるが、今後同定された場合には、発症のメカニズムが解明され、治療法が確立することが望まれる。5 主たる診療科小児神経科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病センター アイカルディ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター アイカルディ(Aicardi)症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Gene Reviews Aicardi syndrome(医療従事者向けのまとまった情報)OMIM Aicardi syndrome(医療従事者向けのまとまった情報)1)Adam MP, et al(eds). GeneReviews. 1993.2)Kroner B, et al. J Child Neurol. 2008;23:531-535.3)Aicardi, et al. International Pediatrics. 1999;14:5-8.4)加藤光弘. てんかん症候群 診断と治療の手引き(日本てんかん学会編集). メディカルデビュー;2023.p.21-25.5)「稀少てんかんに関する調査研究」班 アイカルディ症候群 診療ガイドライン(第2版)公開履歴初回2024年7月4日

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米国アカデミー、Long COVIDの新たな定義を発表

 米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)※は6月11日、「Long COVIDの定義:深刻な結果をもたらす慢性の全身性疾患(A Long COVID Definition A Chronic, Systemic Disease State with Profound Consequences)」を発表した。Long COVID(コロナ罹患後症状、コロナ後遺症)の定義は、これまで世界保健機構(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などから暫定的な定義や用語が提案されていたが、共通のものは確立されていなかった。そのため、戦略準備対応局(ASPR)と保健次官補室(OASH)がNASEMに要請し、コンセンサスの取れたLong COVIDの定義が策定された。全166ページの報告書となっている。本定義は、Long COVIDの一貫した診断、記録、治療を支援するために策定された。 本定義によると、「Long COVIDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後に発生する感染関連の慢性疾患であり、1つ以上の臓器系に影響を及ぼす継続的、再発・寛解的、または進行性の病状が少なくとも3ヵ月間継続する」としている。 本疾患は、世界中で医学的、社会的、経済的に深刻な影響を及ぼしているが、現在、いくつかの定義が混在しており、共通の定義がなかった。合意のなされた定義がないことは、患者、臨床医、公衆衛生従事者、研究者、政策立案者にとって課題となり、研究が妨げられ、患者の診断と治療の遅れにつながっているという。報告書を作成した委員会は、学際的な対話と患者の視点に重点を置き、策定に当たり1,300人以上が関わった。 Long COVIDの徴候、症状、診断可能な状態を完全に挙げると200項目以上に及ぶという。主な症状は以下のように記載されている。・息切れ、咳、持続的な疲労、労作後の倦怠感、集中力の低下、記憶力の低下、繰り返す頭痛、ふらつき、心拍数の上昇、睡眠障害、味覚や嗅覚の問題、膨満感、便秘、下痢などの単一または複数の症状。・間質性肺疾患および低酸素血症、心血管疾患および不整脈、認知障害、気分障害、不安、片頭痛、脳卒中、血栓、慢性腎臓病、起立性調節障害(POTS)およびその他の自律神経失調症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、線維筋痛症、結合組織疾患、脂質異常症、糖尿病、および狼瘡、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患など、単一または複数の診断可能な状態。 Long COVIDの主な特徴は以下のとおり。・無症状、軽度、または重度のSARS-CoV-2感染後に発生する可能性がある。以前の感染は認識されていた場合も、認識されていなかった場合もある。・急性SARS-CoV-2感染時から継続する場合もあれば、急性感染から完全に回復したようにみえた後に、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。・健康状態、障害、社会経済的地位、年齢、性別、ジェンダー、性的指向、人種、民族、地理的な場所に関係なく、子供と大人両方に影響を及ぼす可能性がある。・既存の健康状態を悪化させたり、新たな状態として現れたりする可能性がある。・軽度から重度までさまざま。数ヵ月かけて治まる場合もあれば、数ヵ月または数年間持続する場合もある。・臨床的根拠に基づいて診断できる。現在利用可能なバイオマーカーでは、Long COVIDの存在を決定的に証明するものはない。・仕事、学校、家族のケア、自分自身のケアなどの能力を損なう可能性がある。患者とその家族、介護者に深刻な精神的、身体的影響を及ぼす可能性がある。 報告書によると、新たなLong COVIDの定義は、臨床ケアと診断、医療サービス、保険適用、障害給付、学校や職場の宿泊施設の適格性、公衆衛生、社会サービス、政策立案、疫学とサーベイランス、民間および公的研究、とくに患者とその家族や介護者に対する一般の認識と教育など、多くの目的に適用できるという。※NASEMは、科学、工学、医学に関連する複雑な問題を解決し、公共政策の決定に役立てるために、独立した客観的な分析とアドバイスを国に提供する非営利の民間機関。同アカデミーは、リンカーン大統領が署名した1863年の米国科学アカデミーの議会憲章に基づいて運営されている。

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統合失調症に対する抗精神病薬の有効性および安全性の性差

 抗精神病薬は、精神疾患患者にとって中心的な治療薬であるが、有効性と安全性のバランスをとることが求められる。治療アウトカムを改善するためにも、抗精神病薬の有効性および安全性に影響を及ぼす個別の因子を理解することは重要である。オーストラリア・モナシュ大学のMegan Galbally氏らは、抗精神病薬に関連する有効性および忍容性における性差について、調査を行った。CNS Drugs誌オンライン版2024年5月7日号の報告。 大規模抗精神病薬比較試験であるClinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness(CATIE)の第IおよびIa相試験のデータを2次分析した。CATIE試験では、統合失調症患者を経口オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ziprasidone、ペルフェナジンによる治療にランダムに割り付け、二重盲検治療を行った。評価基準には、陽性陰性症状評価尺度(PANSS)、臨床全般印象度(CGI)、Calgary Depression Rating Scale、自己報告による副作用、服薬コンプライアンス、投与量、体重、さまざまな血液パラメータを含めた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は1,460例(女性:380例、男性:1,080例)であった。・治療反応、副作用、コンプライアンス、抗精神病薬の投与量は、男女間でほとんど差が認められなかった。・便秘(28% vs.16%)、口渇(50% vs.38%)、女性化乳房/乳汁漏出(11% vs.3%)、失禁/夜間頻尿(16% vs.8%)、自己報告による体重増加(37% vs.24%)は、女性において男性よりも有意に多く報告された(各々、p<0.001)。・リスペリドン治療群では、女性(61例)において男性(159例)よりもプロラクチンレベルの有意な上昇が認められた(p<0.001)。・臨床医の評価による測定値、体重増加、その他の臨床検査値は、全体として差が認められなかった。 著者らは「抗精神病薬の有効性および忍容性は、全体としての性差は限られていたが、リスペリドンについては、いくつかの特定の知見がみられた。抗精神病薬の試験において性差を評価することは、統合失調症患者に対する個別化治療だけでなく、有効性の向上や副作用の軽減にとっても重要である」としている。

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CKD-MBD治療の新たな方向性が議論/日本透析医学会

 日本透析医学会による『慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の診療ガイドライン』の改訂に向けたポイントについて、2024年6月9日、同学会学術集会・総会のシンポジウム「CKD-MBDガイドライン 新時代」にて発表があった。 講演冒頭に濱野 高行氏(名古屋市立大学病院 腎臓内科・人工透析部)が改訂方針について、「CKD-MBDの個別化医療を目指して、さまざまなデータを解析して検討を積み重ねてきた。新しいガイドラインでは、患者の背景に合わせた診療の実現へつなげるためのユーザーフレンドリーな内容になるよう努めていきたい」とコメント。続いて、6人の医師が今後の改訂のポイントに関して解説した。保存期CKD-MBDにおけるプラクティスポイントとは 保存期CKD-MBDについて、藤崎 毅一郎氏(飯塚病院 腎臓内科)から低カルシウム血症・高リン血症のプラクティスポイントに関する提案があった。低カルシウム血症では、「まずは補正カルシウム値を確認。その後、低カルシウム血症を誘発する薬剤の確認やintact PTH(iPTH)、リン、マグネシウムを測定し、二次性副甲状腺機能亢進症の確認を行ったうえで、カルシウム製剤または活性型ビタミンD製剤の投与を検討すること」とし、高リン血症に関しても補正カルシウム値の確認を行ったうえで、「低い場合にはカルシウム含有リン吸着薬、正常であれば鉄欠乏の有無を考慮したうえで鉄含有、非含有リン吸着薬の投与を検討すること」とコメントした。最後にガイドラインの改訂に向けて、「実臨床に則したプラクティスポイントの作成を目指して検討を続けていく」と述べた。血清カルシウム、リンの管理目標値の上限は、より厳格な管理へ 血液透析患者における血清カルシウム、リンの管理目標値について、後藤 俊介氏(神戸大学医学部附属病院 腎臓内科 腎・血液浄化センター)から提案があった。理事会へ提出された素案によると、血清カルシウムの下限は8.4mg/dL以上のまま、上限に関しては9.5mg/dL未満、血清リンに関しても下限は3.5mg/dL以上のまま、上限は5.5mg/dL未満が管理目標値として検討されている。同氏は、血清カルシウム、リンの管理について、「カルシミメティクスや骨粗鬆症治療薬によってカルシウムが下がりやすい環境にもあるため、低カルシウム血症には注意すること。血清リンに関しては年齢や栄養状態をよく考慮して検討すること。原疾患が糖尿病、動脈硬化性疾患の既往がある場合には目標値の上限を下げて管理することも検討する必要がある」とコメント。また、「CKD-MBDにそれほど関心がない先生方にとっても、フローチャートなどを使って診療の手助けになるものを示していくことが大切である」と述べた。患者の背景に応じたリン低下薬の選択を 前回のガイドライン以降、多くのリン低下薬が登場し、患者に合わせた薬剤選択の重要性が注目されている。山田 俊輔氏(九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科)からは、患者特性に基づくリン低下薬の選択について提案があった。リン低下薬を選択する際の切り口として、「リン低下だけでなく薬剤による多面的な効果、便秘などの消化器症状、PPIやH2ブロッカーなど胃酸分泌抑制薬による影響、服薬錠数や医療経済など、リン低下薬の特性だけでなく患者背景に合わせて使い分けることが大切である」と改訂に向けたポイントを述べた。プラクティスポイントとして、リン低下薬選択に関するアプローチの仕方を示した「一覧表」の紹介もあった。同氏は一覧表に関して、「基本的には患者と相談してリン低下薬を選択していくことになるが、どうやって患者に合わせて使い分けていくべきか、視覚的にわかりやすいツールがあれば判断しやすいのではないか」とコメントした。PTHの管理・治療の個別化へ向けて 血液透析患者における副甲状腺機能の評価と管理について、駒場 大峰氏(東海大学医学部 腎内分泌代謝内科学)からPTHの管理を中心に提案があった。同氏は、「PTH管理においても治療の個別化が必要である」とし、管理目標値としてiPTH 240pg/mL以下の範囲で症例ごとに個別化すること、とコメントした。具体的には、骨折リスクの高い症例(高齢・女性・低BMI・骨代謝マーカー上昇)では管理目標値を低く設定する、カルシミメティクスを使用する場合にはiPTHの下限値を設けない、活性型ビタミンD製剤を単独で使用する場合は高カルシウム血症を避けるため下限値を60pg/mLとすることなどであった。内科的治療に関しては、PTHが管理目標値より高い場合には、血清カルシウム値や患者背景に基づいて活性型ビタミンD製剤、カルシミメティクスによって管理を検討すること、血清カルシウム値が管理目標値内にあって腫大腺や65歳以上、心血管石灰化、心不全リスク、骨折リスク、高リン血症を有するなど、1つでも該当する場合にはカルシミメティクスの使用や併用をより積極的に考慮することなどを挙げた。また、内科的治療に抵抗する重度の二次性副甲状腺機能亢進症の場合には副甲状腺摘出術の適応となるが、こちらも症例ごとに検討していく必要があると述べた。透析患者における骨折リスクの評価・管理のポイントとは CKD-MBDにおける骨折リスクへの介入について、谷口 正智氏(福岡腎臓内科クリニック)からプラクティスポイントに関する解説があった。評価・管理のポイントとして、「脆弱性骨折の有無や骨密度検査および血清ALP値による骨代謝の評価を行い、骨折リスクが高い場合には、運動、転倒防止、栄養状態の改善、禁煙指導を実施したうえで、カルシミメティクスの投与を優先してPTHを低く管理することが重要である」とコメント。同氏は、それでも骨密度の改善が得られない、または骨代謝マーカーの亢進が認められる場合には、骨粗鬆症治療薬の投与を検討するよう提案した。また、透析・保存期CKD患者に対する骨粗鬆症治療薬の選択に関しては、使用制限や投与における注意点が薬剤別にまとめられた表を作成し、CKD患者においてリスクの高い骨粗鬆症治療薬もあるため、ヒートマップを活用する形で警鐘を鳴らしていくことなども必要であると述べた。腹膜透析におけるCKD-MBDの管理目標値とは 腹膜透析患者におけるMBDについて、長谷川 毅氏(昭和大学 統括研究推進センター研究推進部門/医学部内科学講座腎臓内科学部門)からガイドライン改訂に向けたポイントに関する解説があった。同氏は「リン低下薬に関しては十分なシステマティック・レビュー、メタ解析による報告がないため、血液透析患者での推奨に準拠すること。CKD-MBDの管理目標値に関しては、生命予後の観点から、リン、カルシウムを目標値内でも低めの値、残腎機能保護、血液透析への移行防止のために、リン、PTHを目標値内でも低めの値を目標とすること」と提案。また、プラクティスポイントとして、残腎機能のある症例でカルシミメティクスを使用することでリンの管理が難しくなる可能性があること、腹膜透析液のカルシウム濃度は血清カルシウム値、PTH値をみて選択することを挙げた。

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早期乳がん術前Dato-DXd+デュルバルマブ、33%が化学療法をスキップ可(I-SPY2.2)/ASCO2024

 70遺伝子シグネチャー(MammaPrint)で高リスクのStageII/IIIの早期乳がんの術前療法として、抗TROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)+デュルバルマブ併用療法を4サイクル投与した第II相I-SPY2.2試験の結果、33%の患者が化学療法を行わずに手術が可能となったことを、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRebecca A. Shatsky氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。 I-SPY2.2試験は、高リスク早期乳がんの術前療法を評価する多施設共同第II相プラットフォーム連続多段階ランダム割付試験(Sequential Multiple Assignment Randomized Trials:SMART)※で、患者が最大の病理学的完全奏効(pCR)を得るための個別化医療を提供することを目的としている。ブロックAでDato-DXd+デュルバルマブを4サイクル投与し、MRIと生検でpCRが予測された場合は早期に手術を受けることができ、予測されない場合は化学療法や標的療法を行うブロックB/Cに進む。今回は、ブロックAの結果が報告された。※連続多段階ランダム割付試験:連続する多段階のランダム割り付けを通して、一連の動的治療計画を立てるためのデザイン 患者(すべてHER2-)は、免疫反応、DNA修復不全(DRD)、ホルモン受容体の状況に基づいて、(1)HR陽性/免疫陰性/DRD陰性、(2)HR陰性/免疫陰性/DRD陰性、(3)免疫陽性、(4)免疫陰性/DRD陽性、(5)HR+、(6)HR-の6つの腫瘍反応予測サブタイプ(RPS)に分類された。主要評価項目はpCRの達成であった。 主な結果は以下のとおり。・2022年9月~2023年8月に106例がブロックAに登録された。年齢中央値は50.0歳(範囲:25.0~77.0)、HR-が60.4%であった。・ブロックA終了後、33%(35例)が化学療法を受けることなく早期に手術に進むことができた。・Dato-DXd+デュルバルマブ治療後のRPS分類によるpCR率(95%信頼区間)と事前に設定された閾値は下記のとおり。 (1)HR陽性/免疫陰性/DRD陰性(25例):3%(0~7)、閾値15% (2)HR陰性/免疫陰性/DRD陰性(23例):13%(3~23)、閾値15% (3)免疫陽性(47例):65%(47~83)、閾値40% (4)免疫陰性/DRD陽性(11例):24%(4~44)、閾値40% (5)HR+(42例):18%(6~30)、閾値15% (6)HR-(64例):44%(32~56)、閾値40%・(3)の免疫陽性のサブタイプ(HR+もHR-も含む)のみが第III相試験へ進むための「卒業」の閾値に到達した。・安全性プロファイルは既知のものと同様であった。多く発現した有害事象(AE)は、悪心、口内炎、疲労、発疹、便秘、脱毛などで、Grade3以上のAEはまれであった。間質性肺疾患は1例に発現した。

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カリウム吸着薬の必要性を検討して薬剤性便秘を解消【うまくいく!処方提案プラクティス】第60回

 今回は、治療評価がなされずに長期服用していたカリウム吸着薬の副作用と思われる便秘に着目し、中止することで解消した症例を紹介します。患者さんや施設スタッフの負担となっていることを聴取し、服薬契機や治療評価の時期などに注目してみると、現在の治療の必要性を考えやすくなります。薬剤師の視点で考えたことを整理して、医師と意見共有してみましょう。患者情報88歳、男性(施設入居)基礎疾患認知症、脳梗塞、糖尿病、胸部大動脈瘤、大腸がん術後介護度要介護4服薬管理施設職員が管理処方内容1.アスピリン・ランソプラゾール配合錠 1錠 分1 朝食後2.ビソプロロール錠0.625mg 2錠 分1 朝食後3.ポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリー20% 25g 分1 朝食後4.トラゾドン錠25mg 1錠 分1 朝食後5.シタグリプチンリン錠50mg 1錠 分1 朝食後6.酪酸菌配合錠 3錠 分3 毎食後7.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後8.ピコスルファートNa内用液0.75% 10mL 便秘時5〜15滴で調整本症例のポイントこの患者さんは、施設入居から間もなく硬便(ブリストル便形状スケール[BSFS]1〜2)と便秘症状が強くなり、酸化マグネシウムと頓用のピコスルファートを開始して2週間が経過しました。BSFS 2および排便頻度が2〜3日のため、ピコスルファート15滴で調整を続けていましたが、便秘解消がいまひとつで不穏症状も出現していました。介護スタッフから、服薬錠数が増えると介護抵抗なども強くなるので何かよい手立てはないか、と相談がありました。現状の服用薬剤から何か減らすことで工夫はできないかという点から、薬剤性便秘の可能性を探りました。そこで着目したのが、ポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリーでした。ポリスチレンスルホン酸Caは、腸内のカリウムイオンと本剤のカルシウムイオンを交換することで、カリウムを体外に排泄する薬剤(陽イオン交換樹脂)1)ですが、便秘の副作用が多く、重大な副作用として腸管穿孔の報告2)もあります。導入の経緯を診療情報提供書にさかのぼって調査すると、カリウム値が5.6mEq/Lと高カリウム血症を発症した際に、ポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリー50g 分2 朝夕食後の処方が開始となっていました。その3週間後の採血で3.5mEq/Lに低下したことから現在の量に減量となっていました。大腸がん術後でイレウスのリスクもあることと、認知症があることから便秘増悪でせん妄リスクもあることから排便コントロールは重要です。カリウム値をモニタリングしながらポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリーを中止することで、服薬数も減らすことができ、排便コントロールも少なからずポジティブな効果になるのではないだろうかと考えました。医師への相談と経過医師に電話で、下剤調整後の現況を情報共有し、ポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリーによる弊害の可能性について相談しました。医師も、用量は少ないものの副作用報告として多いことを認識しており、中止しようと返答がありました。また、カリウム値については次回の診療で採血をしてフォローすることとなりました。指示を受けた翌日からポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリーが中止となりました。患者さんは、中止して2日後には排便があり(BSFS 3、中等量)、その後も安定して0〜1日の排便(BSFS 2〜3、中等量)で安定して経過しています。さらに、その後のカリウム値の検査結果も4.0mEq/Lと基準値内で推移していました。便秘増悪には環境変化などさまざま要因がありますが、薬剤性のアプローチは薬剤師にとって大事なアクションの1つだと実感した事例です。1)ポリスチレンスルホン酸Ca経口ゼリー20% インタビューフォーム2)「消化器内視鏡」編集委員会編. 大腸疾患アトラスupdate. 東京医学社;2020. p232.

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整形外科医が注意すべき便秘とは

整形外科の先生方は日常診療の中で、便秘のある患者さんに遭遇することが多いのではないでしょうか。整形外科の患者さんに便秘のある方が多い理由は、高齢の患者さんが多いからというだけでなく、一部の整形外科の疾患や治療が便秘を誘発するからです。整形外科医が全般的に便秘の治療を行うケースは少ないかと思いますが、中には積極的な介入が必要な場合もあります。そこで今回は、整形外科でよく見られる便秘について、その原因と介入方法をご紹介します。整形外科に多い便秘の原因とは?整形外科で遭遇する便秘の原因の多くは、脊椎脊髄疾患による膀胱直腸障害あるいは慢性疼痛治療に使用する鎮痛薬によるものです1)。これらが原因で生じる便秘は、いずれも自然治癒しないため何らかの治療介入が必要となります。では、これらの便秘に対して整形外科医はどのように介入していくべきでしょうか。どのような脊椎脊髄疾患で便秘が起こる?膀胱直腸障害をきたす脊椎脊髄疾患として、高齢の患者さんでは、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアなどの脊椎の変性疾患が多い印象で、若い患者さんでは、数は少ないですが脊髄損傷などが挙げられます。これらの疾患は、病態の進行に伴い便秘をきたすことがあります。言い換えれば、便秘は疾患の進行をとらえる一助となります。しかし、患者さんの中には、そのことを知らずに、便秘が生じても医師に伝えないことがあります。そのため、脊椎脊髄疾患のある患者さんには、疾患の進行によって便秘をきたす可能性があることを予めお伝えしておくことが必要です。膀胱直腸障害に対する治療としては、脊椎責任病巣への手術治療が第一選択となります。しかし、手術をしても膀胱直腸障害が改善するとは限らず、後遺症として便秘が残存し継続的な治療が必要となる可能性もあります1)。便秘が生じやすい慢性疼痛治療薬とは?慢性疼痛治療薬によって便秘が生じることもあります。具体的には、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、三環系抗うつ薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬などの精神神経用薬とオピオイド鎮痛薬です1)。中でも、オピオイド鎮痛薬は便秘の発現頻度が高く、オピオイド鎮痛薬で治療中の患者さんの40~80%に認められるという報告もあります2-5)。オピオイド鎮痛薬には、嘔気や嘔吐などの副作用もありますが、便秘はこれらとは異なり、耐性ができないとされています1)。また、海外のデータでは、オピオイド鎮痛薬による便秘(オピオイド誘発性便秘症:OIC)が患者さんの生活の質(QOL)低下や疼痛管理の妨げになる可能性が示唆されています6)。これらのことから、OICに対しては継続的な治療が必要と言えるでしょう。OICには整形外科医の介入が重要どのような患者さんでOICが発現しやすいかと言えば、私の経験上、特に腰痛のある方、慢性疼痛治療中の方、元々便秘のある方で、リスクが高い印象です。そのため、これらの患者さんにオピオイド鎮痛薬を処方する際は、便秘が発現または悪化するリスクをお伝えしておくことが必要です。そして、オピオイド鎮痛薬投与中は便秘が起きていないか、悪化していないか確認します。OICを認めた場合には、浸透圧性下剤や刺激性下剤などの一般的な緩下薬の他、OICの原因に対する治療薬の末梢性μオピオイド受容体拮抗薬であるスインプロイクなどが治療の選択肢となります。最後に整形外科の疾患や治療による便秘を見逃さないためには、患者さんへの声かけが重要です。先生方は、普段から治療薬に伴う副作用の注意喚起として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方する際、上部消化管障害に注意するよう患者さんにお伝えしていると思います。それに加えてこれからは、オピオイド鎮痛薬を処方する際に下部消化管の副作用に注意するよう患者さんにお伝えしていくことも重要なのではないでしょうか。1)奥田貴俊ほか. 整形外科領域の便秘. In: 中島淳編. すべての臨床医が知っておきたい便秘の診かた:羊土社;2022.p.233-238.2)Droney J, et al. Support Care Cancer. 2008;16:453-459.3)Abramowitz L, et al. J Med Econ. 2013;16:1423-1433.4)Kalso E, et al. Pain. 2004;112:372-380.5)Caldwell JR, et al. J Pain Symptom Manage. 2002;23:278-291.6)Varrassi G, et al. Pain Ther. 2021;10:1139-1153.スインプロイクの電子添文はこちら2024年4月作成SYP-LM-0006(V01)

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IBSの治療、食事法の効果が薬を上回る?

 腹痛などの過敏性腸症候群(IBS)の症状を軽減する最善の治療法は適切な食事法であることを示唆する結果が、ヨーテボリ大学サールグレンスカアカデミー(スウェーデン)のSanna Nybacka氏らが実施した臨床試験で示された。同試験では、IBSの症状に対する治療法として2種類の食事法の方が標準的な薬物治療よりも優れていることが示された。詳細は、「The Lancet Gastroenterology and Hepatology」に4月18日掲載された。 IBSは、消化器疾患の中で最も高頻度に生じる上に、治りにくい疾患の一つだ。米国人のIBSの有病率は約6%で、患者数は男性よりも女性の方が多い。IBSの症状は、腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘などの無視しがたいもので、死に至る場合もある。IBSに対しては、食事の改善のほか、便秘薬や下痢止め薬、特定の抗うつ薬、腸管内の水分の分泌を促し腸の動きを活発にする作用があるリナクロチドやルビプロストンなどの薬物による治療が行われる。 この試験で標準的な薬物治療と比較された食事法の一つは、FODMAPと呼ばれる糖質の摂取を制限する低FODMAP食だ。FODMAPは特定の乳製品や小麦、果物、野菜に含まれている、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい糖類のことである。もう一つの食事法は、食物繊維を多く摂取しつつ炭水化物の摂取は抑える糖質制限食だった。Nybacka氏は、「時間をかけて食べる、1回の食事の量を減らし食事の回数を増やす、コーヒーや紅茶、炭酸飲料、アルコール、脂肪分や香辛料の多い食品を制限するなど、食生活をよりシンプルなものに変えることを支持する研究もある。また、糖質制限食によってIBSの症状が軽減した患者がいるとの報告もあることから、いくつかの治療選択肢を比較する臨床試験を計画することにした」と説明している。 この臨床試験は、サールグレンスカアカデミーの外来クリニックで、中等度から重度のIBSに罹患している18歳以上の294人(女性241人、男性53人、平均年齢38歳)を対象に実施された。試験参加者は4週間にわたって、1)主な症状に応じて8種類のIBS治療薬のうちの1種類を投与する群(薬物治療群、101人)、2)米、ジャガイモ、キヌア、小麦を含まないパン、乳糖を含まない乳製品、魚、卵、鶏肉、牛肉、さまざまな果物や野菜などの食品から成る低FODMAP食を摂取し、IBS患者向けに伝統的に推奨されている食事法のアドバイスを受ける群(低FODMAP食群、96人)、3)牛肉、豚肉、鶏肉、魚、卵、チーズ、ヨーグルト、野菜、ナッツ類、ベリー類などの食品を中心とした低糖質かつ高脂質の食事を摂取する群(低糖質食群、97人)の3群のいずれかにランダムに割り付けられた。 その結果、介入から4週間後、低FODMAP食群の76%(73/96人)と、低糖質食群の71%(69/97人)で症状の有意な改善が認められたのに対し、薬物治療群で改善が認められたのは58%(59/101人)にとどまっていた。また、症状が改善した患者のうち低FODMAP食群と低糖質食群に割り付けられた患者では、薬物治療群に割り付けられた患者と比べて症状の改善度が大きかったという。 本研究には関与していない、米ミシガン大学医学部の消化器専門医であるWilliam Chey氏は、「この研究では、低FODMAP食がほとんどの患者のIBS症状を軽減することが示された。ただ、低FODMAP食は極めて厳しい制限を伴うことに加え、自分に合わない食品を見極めるために慎重にFODMAPが含まれる食品を一つずつ試す必要があるため、この食事法を続けるのは容易ではない」とニューヨーク・タイムズ紙に語っている。 Chey氏は、この試験によって「薬物治療と比較して食事法の効果は少なくとも同等であり、より優れている可能性もある」という臨床で多くの医師が経験していることを裏付ける「リアルデータ」が得られたと話す。その上で、今回の試験は、スウェーデンの単施設で比較的小規模な集団を対象に実施されたものであることを指摘し、「今後、より大規模かつより多様な集団で結果を検証する必要がある」と付け加えている。

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2型糖尿病患者の消化器症状は不眠症と関連

 糖尿病患者には、上部消化器症状(胸やけ、胃痛、胃もたれなど)や下部消化器症状(便秘、下痢など)がしばしば見られる。日本人の2型糖尿病患者を対象とした研究で、これらの消化器症状が患者の不眠症と強く関連していることが判明した。これは京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の南田慈氏、岡田博史氏、福井道明氏らによる研究結果であり、「Journal of Diabetes Investigation」に3月5日掲載された。 消化器症状は、糖尿病患者におけるQOL低下の一因である。一方、夜間頻尿により睡眠が中断されることや、糖尿病神経障害による痛み、夜間の血糖値の急激な変化、抑うつなどを伴うことで、糖尿病患者には不眠症が生じ得ることも報告されている。しかし、糖尿病患者における消化器症状と不眠症の関係についてはこれまでにほとんど検討されていない。 そこで著者らは、「KAMOGAWA-DMコホート研究」に参加している2型糖尿病患者を2014年1月~2022年1月に登録し、横断研究を行った。消化器症状の評価には、胸やけ、胃痛、胃もたれ、便秘、下痢の5つの症状を評価する「出雲スケール」を用いた(各症状とも3つの質問項目から0~15点で評価され、スコアが高いほど症状が悪い)。また、睡眠は「アテネ不眠症尺度」で評価し、合計スコア6点以上または睡眠薬を使用している場合を不眠症と定義した。 解析対象者は175人(男性100人、女性75人)、年齢中央値は66歳(四分位範囲57~73歳)で、そのうち68人が不眠症に該当した。不眠症の人はそうでない人と比べ、収縮期血圧および拡張期血圧が有意に高かった。 出雲スケールの結果を比較すると、総スコアの中央値(四分位範囲)は、不眠症の人の方がそうでない人よりも有意に高く、それぞれ14点(5.25~20.75点)と5点(2~10点)だった。症状ごとの結果も同様で、胸やけは2点(0~4点)と0点(0~1点)、胃痛は0点(0~4点)と0点(0~0点)、胃もたれは2点(0~4点)と0点(0~2点)、便秘は4点(2~6点)と2点(0~4点)、下痢は3点(1~5点)と1点(0~3点)であり、全て不眠症の人の方が有意に高かった。 次に、不眠症と関連する要因がロジスティック回帰分析により検討された。年齢、性別、BMI、収縮期血圧、HbA1c、糖尿病神経障害、インスリン療法、夜間頻尿の影響を調整した解析の結果、出雲スケール総スコアの1点上昇ごとのオッズ比(95%信頼区間)は1.10(1.06~1.16)であり、不眠症と有意に関連することが明らかとなった。同様に、症状ごとのスコアについても有意な関連が認められ、オッズ比は胸やけ1.32(1.13~1.55)、胃痛1.38(1.16~1.63)、胃もたれ1.33(1.13~1.56)、便秘1.21(1.08~1.36)、下痢1.29(1.12~1.47)だった。 以上の結果から著者らは、「消化器症状は2型糖尿病患者の不眠症と強く関連している」と結論。また、糖尿病患者の睡眠障害は血糖コントロールやQOLに影響を及ぼす可能性があることから、「消化器症状の管理に注意を払う必要がある」と指摘している。

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腹痛を区分する

患者さん、それは…神経痛による腹痛かもしれません!「腹痛」は、①突発痛 ②疝痛(周期的に反復する発作的な痛み) ③持続痛に区分されます。以下、該当するものはありますか?●どんな痛みですか?□数日前からある□3時間以上続く □特定の時間帯に出現する□強い痛みと弱い痛みが繰り返す□痛みが消える時もある□腹痛以外の症状(吐き気、発熱)もある●症状はどの辺りにありますか?□お腹(上のほう)□お腹(下のほう)□お腹以外に胸/背中/腰なども痛い□脇腹□表面(皮膚)□分からない◆その腹痛は…神経の痛みかも!?• 2ヵ月以上続く慢性の腹痛は、腹壁の神経由来の可能性があります• 筋肉や骨、腹壁に原因があると、体をひねった時に痛みがひどくなります• 指一本で痛い場所を示すことができ、皮膚に感覚異常(しびれやピリピリ感)があれば神経痛の可能性があります出典:プライマ・ケア外来診断目利き術50監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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オピオイド鎮痛薬による疼痛治療を円滑に進めるために重要なこととは?

慢性疼痛の治療目的は、痛みの管理を行いながら、患者の生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)を向上させることです1)。この治療目的を達成するために、薬物療法は重要です。しかし、慢性疼痛治療で使用される薬剤の中には、副作用の発現頻度が高いものもあります。副作用は、患者さんのQOL低下に繋がるだけでなく、疼痛治療の妨げになることがあるため、見逃さずに対処することが必要です。そこで今回は、副作用の発現頻度が比較的高いことで知られるオピオイド鎮痛薬で、特に注意が必要な副作用とそれに対する対処方法についてご紹介します。オピオイド鎮痛薬の副作用で頻度の高いものは?オピオイド鎮痛薬によって生じる副作用としては、悪心・嘔吐、便秘、眠気、掻痒感、めまい・ふらつき、排尿障害、発汗、せん妄、多幸感などがあり、80%の患者さんがこれらいずれかの副作用を経験しているとされています2)。私の経験からは、頻度の高い副作用は、悪心、便秘、めまいであり、いずれも約半数の患者さんに認められる印象です。悪心やめまいは、オピオイド鎮痛薬投与開始後あるいは増量後当日中に発現し、発症後数日から1~2週間で消失するため、継続的な治療が必要になることはほんどありません。ただ悪心に対しては、投与開始後1~2週間ほどオピオイド鎮痛薬と併せて制吐剤を予防的に処方しておくこともあります。一方便秘は、悪心やめまいに比べて見逃されやすい傾向にあるかもしれません。なぜなら、元々便秘のある方は、オピオイド鎮痛薬に起因する便秘でも「いつもの便秘」と判断し医師に伝えないことがあるからです。しかし、オピオイド鎮痛薬に起因する便秘が自然に軽快することは稀であるため、何らかの対処が必要です。便秘はオピオイド鎮痛薬の治療継続を妨げるオピオイド鎮痛薬による便秘(オピオイド誘発性便秘症:OIC)をそのままにしておくと、患者さんのQOL低下に繋がるだけでなく、疼痛治療の妨げとなる可能性があります。オピオイド鎮痛薬使用中の患者さんを対象に、OICが疼痛治療に与える影響を調査したところ、53%の慢性疼痛患者さんがOICによってオピオイド鎮痛薬での治療が妨げられたと回答しました。具体的には、オピオイドの使用を1回分飛ばした(30%)、短期間休薬した(30%)、オピオイドの使用量又は回数を処方より減らした(27%)などでした(図1)3)。画像を拡大するオピオイド鎮痛薬の急な減量・中止は離脱症状を誘発するオピオイド鎮痛薬を急に減量・中止すると、「そわそわする」、「冷や汗が出る」といった離脱症状が現れることがあります。そのため、患者さんの自己判断による減量・中止は避けていただかなければなりません。また、患者さんが自己判断で用量調整をしてしまうと疼痛管理がうまくいかなくなります。その結果、医師がオピオイド鎮痛薬の効果を誤って判定してしまう可能性があるという危険もあります。したがって、オピオイド鎮痛薬使用中は、副作用を予測・予防すること、また患者さんに治療継続の弊害となるような副作用は起きていないか、処方通りに服薬できているかをよく確認することが重要です。そして副作用が起きていれば対処し、オピオイド鎮痛薬の減量・中止が必要な場合は、医師の指導のもとで計画的に行います。OICへの対処法は?まずは便秘を見逃さないことが重要です。そのため、元々便秘のある患者さんに対しては、単に便秘の有無を尋ねるのではなく、「いつもの便秘が悪化していないか」などとオピオイド鎮痛薬の使用前後での変化を尋ねると良いでしょう。便秘の発現・悪化が認められ、OICと診断された場合には、「便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症」を参考に治療方針を検討します。本ガイドラインでは、「OICが疑われる患者さんには、浸透圧性下剤、刺激性下剤、ナルデメジン、ルビプロストンが有効であり、薬剤選択の際は個々の病態を鑑みながら、その安全性やコスト、投与されているオピオイドの種類なども考慮し検討すること」が推奨されています4)。私は、元々便秘があり普段から緩下剤を使用している患者さんには、まずは普段使用している緩下剤で様子を見ていただき、症状が改善しない場合にスインプロイク(ナルデメジン)を処方しています。緩下剤を使用していない患者さんや元々便秘がある患者さんで症状の悪化を懸念する患者さんに対しては、はじめからOICにはスインプロイクで対応しています。オピオイド鎮痛薬による円滑な疼痛治療のためにオピオイド鎮痛薬使用中の患者さんの多くが、何らかの副作用を経験します。便秘は副作用の中でも見逃されやすいうえに、オピオイド鎮痛薬での治療の妨げとなる可能性があります。そのため、医師は患者さんからの訴えがなくても、気になる症状はないか、便秘の発現・悪化はないか、よく確認することが必要になります。そして、OICが認められた際には、緩下剤やスインプロイクなどを用いていち早く対処することで、円滑な疼痛治療につなげていっていただきたいと思います。1)慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ編. 慢性疼痛診療ガイドライン:真興交易医書出版;2021.p25-26.2)日本ペインクリニック学会編. 非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン 改訂第2版:真興交易医書出版部;2017.p46.3)Varrassi G, et al. Pain Ther. 2021;10:1139-1153.4)日本消化管学会. 便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症:南江堂;2023.p101-102.スインプロイクの電子添文はこちら2024年4月作成SYP-LM-0005(V01)

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便秘なのに下痢? 不思議な病態を知っていますか?【非専門医のための緩和ケアTips】第73回

第73回 便秘なのに下痢?不思議な病態を知っていますか?緩和ケアは高齢者を診る機会が多く、しばしば遭遇する症状に「便秘」があります。そして、これは時に非常に悩まされる症状でもあります。今回は、便秘の中でもちょっと意外なパターンを紹介します。今回の質問訪問診療で診ている高齢の患者さん。先日、看護師より「下痢が続いている」と相談がありました。診察すると確かにオムツの中に泥状の便が確認され、1週間ほど続いているとのことでした。普段から便秘がちの方で、下剤が効き過ぎたのかと思って下剤を中止したところ、今度はひどい便秘になってしまいました。どのように対応するべきだったのでしょうか?貴重な経験に基づいたご質問、ありがとうございます。こうして振り返ることは非常に大切ですよね。ご質問の内容だけから確信を持ってコメントするのは難しいのですが、これは「溢流(いつりゅう)性便秘」に注意が必要なパターンに感じました。溢流性便秘って聞いたことがありますか? あまり知られてないようなので、この機会に紹介させてください。「溢流」は「あふれ出る」という意味で、言葉通り、「便があふれ出ている便秘」です。「便秘なのに便があふれ出る」とはどういうことでしょうか? それは、硬くなった便塊により、大腸内が宿便でいっぱいになった状態に起因します。そうすると、便が宿便よりも口側に長時間貯留してしまいます。その結果、腸が炎症を起こし、下痢便になるのです。口側にどんどん下痢便が貯留し、限界に達すると、宿便の脇からあふれた下痢便が肛門から排出されます。この現象により、「下痢が続いている」という奇妙な便秘が生じるのです。つまり、溢流性便秘は、便秘としては非常に重症なのです。溢流性便秘を疑った時には、摘便などで経直腸的に大腸内の宿便を解除することが重要です。物理的な閉塞が解除されれば、口側に溜まっていた下痢便もスムーズに排出されます。あとは通常の便秘に準じた薬物療法を検討しましょう。この溢流性便秘という病態には「落とし穴」があります。それは、「下剤による下痢」だと評価して下剤を中止すると、むしろ悪化してしまう点です。見分けるのはなかなか難しいですが、今回の症例であれば「便秘が続く中で生じた下痢だった」という点が、気付くきっかけになったかもしれません。時々見かける病態である、下痢は出ているけどむしろ重度の便秘である「溢流性便秘」について考えてみました。ぜひ頭の片隅に留めておいてください。どこかできっと出合うと思います。今回のTips今回のTips便秘なのに下痢便が出る、溢流性便秘という病態に注意しよう。

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新規機序のホモ接合体家族性高コレステロール血症薬「エヴキーザ点滴静注液345mg」【最新!DI情報】第12回

新規機序のホモ接合体家族性高コレステロール血症薬「エヴキーザ点滴静注液345mg」今回は、ヒト化抗ANGPTL3モノクローナル抗体「エビナクマブ(遺伝子組換え)注射液(商品名:エヴキーザ点滴静注液345mg、製造販売元:Ultragenyx Japan)」を紹介します。本剤は、LDL受容体非依存的にLDL-コレステロールを低下させるため、既存薬で効果不十分であったホモ接合体家族性高コレステロール血症患者の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>ホモ接合体家族性高コレステロール血症の適応で、2024年1月18日に製造販売承認を取得しました。本剤投与の要否は、HMG-CoA還元酵素阻害薬で効果不十分または忍容性が不良な場合に検討します。<用法・用量>通常、エビナクマブ(遺伝子組換え)として15mg/kgを4週に1回、60分以上かけて点滴静注します。なお、HMG-CoA還元酵素阻害薬などによる治療が適さない場合を除き、ほかの脂質低下療法と併用します。<安全性>重大な副作用として、アナフィラキシーや注入部位そう痒感を含むinfusion reaction(4.8%)が報告されています。主な副作用である上咽頭炎(1~10%未満)のほか、浮動性めまい、鼻漏、悪心、腹痛、便秘、背部痛、インフルエンザ様疾患が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ホモ接合体家族性高コレステロール血症の治療に用いる注射薬です。2.ほかの治療薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬)で効果が不十分な場合または副作用のため治療ができない場合に使用されます。3.「ANGPTL3」というタンパク質を阻害することで脂質代謝を促進し、LDL-コレステロールを低下させます。4.妊娠する可能性がある女性は、この薬を使用している間および使用終了から少なくとも5ヵ月間は、適切な避妊を行ってください。<ここがポイント!>家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolaemia:FH)は、早発性冠動脈疾患と腱・皮膚黄色腫を高率に合併する常染色体優性遺伝性の高LDL-コレステロール血症です。ホモ接合体FH(homozygous FH:HoFH)は重度の高LDL-コレステロール血症(LDL-コレステロール値>500mg/dL[13mmol/L])を呈するまれな疾患であり、早発性の心血管系疾患(CVD)や未治療患者の若年死亡などを引き起こす可能性があります。治療にはLDL-コレステロール低下作用を持つスタチンやPCSK9阻害薬が用いられますが、LDL受容体活性が低いHoFH患者では治療抵抗性があります。本剤は遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体で、脂質代謝の調節に関与しているアンジオポエチン様蛋白3(ANGPTL3)を特異的に阻害します。ANGPTL3の阻害により、LDL形成の上流に位置するVLDLのプロセシングおよびクリアランスを促し、LDL受容体非依存的にLDL-コレステロールを低下させると考えられています。成人および青年HoFH患者(12歳以上)を対象とした国際共同第III相試験(R1500-CL-1629試験)において、ベースラインから投与24週後のLDL-コレステロールの変化率(LS平均値)は、本剤群-47.1%、プラセボ群+1.9%で、LS平均値の群間差は-49.0%(95%信頼区間:-65.0~-33.1)であり、本剤群はプラセボ群に比べ有意なLDL-コレステロール低下を示しました。

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便通異常症 慢性便秘(12)薬物療法:漢方【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q110

便通異常症 慢性便秘(12)薬物療法:漢方Q110慢性便秘で困っている42歳女性。とくに既往がなく、器質的な原因もないようだ。下剤を希望されているが、こだわりが強く西洋薬ではなく漢方薬を希望されている。腹部診察時、臍部に手を当てると冷感が強い。何を処方しようか?

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便通異常症 慢性便秘(11)薬物療法:酸化マグネシウム【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q109

便通異常症 慢性便秘(11)薬物療法:酸化マグネシウムQ109浸透圧性下剤の1つである酸化マグネシウムは本邦で広く使われている。『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』において、本薬剤が使用禁忌・慎重投与と記載されている腎機能はどれくらいか。

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第201回 避難所のトイレ問題、医療者からの提言求む!

先日、ついに能登半島最深部の珠洲市に入った。ペーパードライバーの私は公共交通機関を使うしかなく、北陸鉄道が運行する特急バスで珠洲市を目指した。このバスは3月15日までは北陸鉄道の計らいにより無料。座席以上の乗車希望者がいた場合は現地の被災者と親族が優先乗車する。私が金沢駅で乗り込んだ時は、幸い乗車希望者が座席数を下回っており、難なく乗車することができた。通常、金沢駅から珠洲市役所までは2時間半程度で到着するが、道路事情や途中の停車バス停の関係などで約4時間かかった。現地は被災から2ヵ月を経過した今も大部分の地域で断水が続いている。私はとある場所に間借りで寝起きをさせてもらったが、2泊3日の滞在中の寝床は床にアルミホイル製ブランケット2枚を敷き布団と掛け布団代わりにして過ごした。その割に6時間はきっちり眠ったが…。食事は持ち込んだインスタント麺とパック入りご飯、補助食品のカロリーメイトが中心。上下水道が使えない断水状態のため、排水をすることができずにインスタント麺の汁はすべて飲み干しである。以前書いたことがあるかもしれないが、私はインスタント食品の中ではカップ焼きそばが大好きな人間だが、湯切り前提のカップ焼きそばを断水地域で食べるなどもってのほかである。これらの食品は飲料のお茶などとともに大部分は東京から最も大きなレジ袋に入れて持ち込んだ。金沢での現地調達も可能だが、東京のほうが安価なディスカウントストアを知っているという貧乏根性が働いてしまったのだ。ちなみにインスタント麺の汁飲み干しも前提に摂取水分量は1日2Lと計算して飲料も持ち込んだ。ほぼ完璧に計算したつもりだったが、その想定はやや狂った。何かというと、歯磨きの口すすぎの水が計算から漏れていたのである。おかげで最初の晩は、歯磨き後の口すすぎをペットボトルの緑茶でやる羽目になった(2日目は取材していた支援チームが大量に保有していた500mLのペットボトル入りミネラルウォーターを分けてもらったが)。さて、上下水道が機能していないのに歯磨きの口すすぎの水はどこに掃きだしていたのかとなるが、それはやむなく洗面所で吐き出すしかなかった。私が滞在していた場所には各種支援チームも滞在していたが、周囲もそうだった。これ以外に滞在先でやむなく排水となっていたものがある。まず、男子トイレの小便用器である。小便用器に用を足した後は、目の前に置かれた2Lサイズのペットボトルに入った水を便器にかけて流す決まりになっていた。また、その後の手洗いもトイレの洗面台に設置された、折り畳み式ポリ容器のコックをひねり、中から出てくる水で洗うため、洗面台の排水管に流すしかなかったのである。ちなみに、トイレについては滞在先の敷地内に3台のトイレ専用車も設置されていたが、滞在者数に対して数が少なく、周囲の住民も利用するため、常に利用できるわけではなかった。そして男性の大便用のほうは、建物のトイレ内に設置された簡易トイレに専用のビニール袋を1回ごとにセットし、用を足し終わると凝固剤を加えて密封したうえでトイレ内の大型ポリ容器に捨てる。女性の場合は大小便ともに男性の大便用と同じような使用・処理方法となる。大型ポリ容器内には予め大きな黒いポリ袋が設置されているため、用を足した後に各人が捨てた排泄物は、2時間おきに建物内のトイレ清掃担当班が口を縛って、屋外の廃棄物置き場に運搬していた。ある時、この作業の様子を撮影していると、「ちょっと持ってみます?」と担当班の人から廃棄物置き場運搬前の黒いポリ袋を渡されたが、軽量のダンベルよりは明らかに重かった。「思ったより重いですね」とダンベルを持ち上げる動作のように上げ下ろししてみたが、中は排泄物だと思い直してすぐに相手に戻した。念のために付け加えておくと、当然ながら現地では基本的に入浴はできない。なぜこんなことを書いたかというと、実は思っているほど現地の断水に伴う状況が伝わっていないこと、さらに公衆衛生の観点からもこの点は伝えておかねばと思ったからである。医学的にも重要な避難所のトイレ問題実は東日本大震災の時も感じたことだが、断水が続く地域でのトイレ問題は深刻である。そもそもトイレが仮設、かつこれに加えてぱっと見で汚いと感じると、排泄を控えようとする人は少なくない。そうなると飲食を控えることに行き着きがちだ。これ自体が健康問題に直結することを考えれば、たかがトイレとは言えないはず。とくに排泄の場合、必然的に小便の頻度が多くなるので、このような状況では水分摂取を控えがちになる。これは心血管系疾患を基礎疾患として有することが多い高齢者では時に致命的になる。しかし、いくら医療従事者が「水分摂取を過度に控えないように」と忠告しても、トイレがこの状況では「糠に釘」状態になってしまう。そして東日本大震災での取材経験も踏まえると、同じ断水地域でも市町村、あるいは避難所単位での「トイレガチャ」がある。端的に言うと、こうした仮設トイレは提供する企業、支援自治体によってかなりスペックに差がある。たとえば、珠洲市に先立って私が訪問していた輪島市門前町のある避難所では、屋外に工事現場にあるような仮設トイレが設置されていた。このトイレを実際に使ってみたが、内部は洋式で恐ろしく狭い。トイレの扉には男性の小便も便座に座ってするように注意書きが貼ってあったが、内部に正面から入って扉を閉めた後に便座に座ろうとすると、方向転換に苦労するほどの狭さなのだ。しかも屋外なので、トイレの床は利用者の靴底に付着した泥などで汚れている。ここでは予め小便の場合は何も流さず、大便の場合は用を足し終わった後、屋外に設置されたビニールプールから桶で水を掬って、再びトイレに戻って流すように指示されていた。小と大で対応をわけているのは、仮設トイレの排泄物タンクの容量をひっ迫させないためだろう。実際、私は小便で使ったが流さなくて済む反面、便器底部のタンクにつながる蓋が小便の重みで何度もバタンバタンと音を立てるのは正直気分が良いものではなかった。さらに言えば、この蓋の動作で体感はしていなくとも小便を含む飛沫が、自分の内股などに付いている可能性はある。さらに大便に関して言えば、現地で活動していた女性薬剤師が後日、「水を汲みに行って流しに戻るということは、大便をしたということが周囲にわかってしまいますよね。あれで私はなかなか用が足せず、数日間は便秘気味になりました」と語ったことでハッとした。この「トイレガチャ」は被災者の健康問題まで発展した場合、そのツケを払わされる当事者には間違いなく医療従事者も含まれる。その意味では各自治体の災害対応・訓練などに関わっている医療従事者の皆さんには、平時から災害時のトイレ問題を今まで以上に心を配って検討しておいてほしいと思っている次第だ。

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