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ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第25回となる今回は、「リケッチア症に気を付けろッ! その3」です。前回からだいぶ時間が空いてしまいましたが、おそらく誰も気付いていないと思いますので、何食わぬ顔で続けたいと思います。今回は、ツツガムシ病と日本紅斑熱の診断と治療についてですッ!鑑別診断あれこれツツガムシ病と日本紅斑熱は、流行地域が一部重複しており、また臨床像も似ています。痂皮の大きさ、リンパ節腫脹の有無、皮疹の分布など細かい差異があることについては前回(第24回)ご説明しました。さて、それではリケッチア症以外に鑑別診断として考えるべき疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。よく流行地域で問題になっているのは、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)との鑑別ですね。SFTSは第1、2回でご紹介したとおり、西日本で発生がみられるマダニ媒介性感染症です。発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの臨床像がリケッチア症と共通しており、またまれにSFTSでも皮疹がみられることもあるようです。流行地域は異なりますが、同様の臨床像を呈する疾患として、これまた第3、4回でご紹介したBorrelia miyamotoi感染症も挙げられます。これまでのところ報告は北海道に限られていますが、北海道以外の都道府県でもmiyamotoiを保有するマダニは分布しているといわれています。さらにさらに、第22回でご紹介したヒト顆粒球アナプラズマ症も臨床像は酷似しています。これらのマダニ媒介感染症は、リケッチア症における重要な鑑別診断すべき疾患といえるでしょう。しかし、これらのマニアックな鑑別診断だけではありません。それ以外にも発熱+皮疹があり、気道症状があれば麻疹、風疹、水痘、パルボウイルスB19感染症、髄膜炎菌感染症などを考えなければなりませんし、海外渡航歴があればデング熱、チクングニア熱、ジカ熱などを考えなければなりません。これらに加えて、いわゆる「フォーカスがはっきりしない発熱」を呈する患者さんを診た場合には、表のような感染症を考えるようにしましょう。画像を拡大するどうするリケッチア症の確定診断さて、ツツガムシ病と日本紅斑熱の診断はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査または抗体価検査で診断します。コマーシャルベースでの検査としては、ツツガムシ病の血清抗体検査があります。国内のリケッチア症検査において、ツツガムシ病の血清型Orientia tsutsugamushi Kato、Karp、Gilliamの3種の抗原のみが血清診断の体外診断薬として承認、保険適用となっています。急性期血清でIgM抗体が有意に上昇しているとき、あるいは、ペア血清で抗体価が4倍以上上昇したときが陽性となりますが、注意点としては1回の抗体検査では診断がつかないことが多いため、1回目が陰性であったとしても2〜4週後にペア血清を提出すべしッ! です。また、もはや遠い過去になりましたが「リケッチア症に気を付けろッ! その1」でお話したとおりタテツツガムシによる血清型Kawasaki/Kurokiに関しては交差反応による上昇で診断するしかなく、Kato、Karp、Gilliamの3種が上昇していないからといってツツガムシ病を否定することができないのが悩ましいところです。すなわちッ! これらの抗体検査が陰性であっても強くツツガムシ病を疑う場合や日本紅斑熱を疑った際には、保健所を介して行ういわゆる「行政検査」になりますッ! 最寄りの保健所に連絡して、検査を依頼しましょう。地方衛生研究所では、抗体検査以外にもPCRが可能なことがあります。PCRを行うための検体は一般的には全血を用いますが、痂皮のPCRも有用であるという報告があります。地方衛生研究所によっては、痂皮のPCRを施行してくれるかもしれませんので確認しましょう。リケッチア症の治療このように、ツツガムシ病や日本紅斑熱は、ただちに診断がつくものではありません。だからといって診断がつくまで治療をせずにいると、重症化することも多々ありますので、これらのリケッチア症を疑った際には、エンピリック治療を開始すべきでしょう。「治療開始の遅れが、重症化のリスクファクターとなっていた」という報告もありますので、リケッチア感染症を疑い次第、ミノサイクリン(商品名:ミノマイシン)点滴もしくはドキシサイクリン(同:ビブラマイシン)内服での治療を開始しましょう。点滴であればミノサイクリン100mgを12時間ごと、内服であればドキシサイクリン100mgを1日2回になります。通常であれば72時間以内に解熱がみられることが多いとされています。妊娠や年齢などの問題でテトラサイクリン系が使用できない場合、ツツガムシ病ではアジスロマイシン(同:ジスロマック)が、日本紅斑熱ではニューキノロン系薬が第2選択薬になります。リケッチア症の種類によって第2選択薬が異なりますので、お間違えのないようにご注意ください。というわけで、3回にわたって国内の代表的なリケッチア症であるツツガムシ病と日本紅斑熱についてご紹介してきました。次回は、日本国内でみつかっているまれなリケッチア症についてご紹介したいと思いますッ! まだまだ日本には、あまり知られていないリケッチア症が存在するのですッ!!1)Lee N, et al. Am J Trop Med Hyg. 2008;78:973-978.2)Kim DM, et al. Clin Infect Dis. 2006;43:1296-1300.