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中等症~重症ARDS、早期神経筋遮断薬は無益か/NEJM

 中等症~重症の急性呼吸促迫症候群(ARDS)患者において、早期cisatracurium持続注入と深鎮静を行っても、ルーチンの神経筋遮断を行わず目標鎮静深度がより浅い通常治療を行った場合と比べて、90日院内死亡リスクは減少しないことが示された。米国・国立心臓・肺・血液研究所(NHLBI)が資金援助するPETALネットワーク(Clinical Trials Network for the Prevention and Early Treatment of Acute Lung Injury)が、1,000例超の患者を対象に行った無作為化比較試験で明らかにした。NEJM誌2019年5月19日号掲載の報告。両群ともに高PEEP時の戦略を含む人工呼吸管理を実施 研究グループは、中等症~重症のARDS患者(動脈酸素分圧/吸入酸素濃度比150mmHg未満、呼気終末陽圧[PEEP]8cmH2O以上と定義)を無作為に2群に分け、一方にはcisatracuriumの48時間持続注入と深鎮静を同時に行い(介入群)、もう一方にはルーチンの神経筋遮断は行わず目標鎮静深度がより浅い通常治療を行った(対照群)。人工呼吸管理に関する方針は両群で同一で、高PEEP戦略などを含んでいた。 主要エンドポイントは、90日時点のあらゆる院内死亡だった。90日院内死亡率、両群ともに約43% 本試験は、無益性を理由に2回目の中間解析後に中止となった。 2016年1月~2018年4月に、米国48病院で4,848例がスクリーニングを受けて、中等症~重症のARDSで、発症後間もない(発症後の経過時間の中央値7.6時間)1,006例が主要解析に包含された。 無作為化後48時間以内にcisatracuriumの持続注入を行ったのは、介入群501例中488例(97.4%)で、注入時間中央値は47.8時間、投与量中央値は1,807mgだった。対照群で48時間以内に神経筋遮断薬を投与されたのは、505例中86例(17.0%)で投与量中央値は38mgだった。 90日院内死亡率は、介入群42.5%(213例)、対照群42.8%(216例)であり、両群で同等だった(群間差:-0.3ポイント、95%信頼区間[CI]:-6.4~5.9、p=0.93)。 なお入院中、介入群は対照群に比べ身体活動度が低く、有害心血管イベントの発生率が高かった。3、6、12ヵ月時点に評価したエンドポイントに関する群間差は一貫して認められなかった。

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特別編 ジェラシー全開で中山 祐次郎氏と話してみた!【Dr.倉原の“俺の本棚”】第18回

【第18回 特別編】ジェラシー全開で中山 祐次郎氏と話してみた!Dr.倉原の“俺の本棚”も連載開始から1年が経過し17冊を紹介しました。その中で、2回登場している『医者の本音』、『泣くな研修医』の著者である中山 祐次郎氏。『医者の本音』出版のためのクラウドファンディングへの支援※1といった接点はあるものの、直接お話はしたことがないという2人。今回CareNet.comで対談をセッティングしました。医師と物書きという2つの顔を持つ2人に共通するものとは?―幻冬舎・見城 徹氏との交流から出版に倉原:今日はまず、中山先生の最初、つまり「なぜ書き始めたのか」を教えてもらえますか?僕が最初に中山先生の名前をお見かけしたのは、Yahoo!ニュース個人※2でした。一介の外科医というプロフィールを覚えていて、この人のブログをよく見るなと思っていて。東日本大震災後に福島の病院に駐在されたという話を聞き、その後いろんなところでお名前を聞くようになって。ずっと何がきっかけで書くようになったのか、気になっていたんですよね。中山:ありがとうございます。僕はまず、いきなり本を書いたんです。卒後5年か6年くらいの2014年ごろのことです。僕は消化器がんが専門なので、やはり患者さんが亡くなっていくんですよ。だから死について考えることが多くなって、ある日突然、「これは書かねば自分が立ち行かなくなってしまう」と、考えていることをWordに書いていったんです。とくにきっかけもなく、ただ知って欲しい、と。今思えば押し付けがましい内容だったと思うんですが、ブログでもSNSでもなくWordに書きためていったんですよね。1冊の本を目指して。倉原:日々の診療がきっかけというか。中山:そうですね。そうとも言えるかもしれない。その原稿を友人経由で出版社に持ち込んだんですけど、8ヵ月待ってボツになりましてね。激しいショックで、落ち込んで1人毎日やさぐれて酒を飲んでいたときに、当時流行していた755というSNSを始めたんです。そのアプリはホリエモンと、サイバーエージェントの社長の藤田 晋さんが作ったSNSで、その当時はテレビCMも始まって話題になっていたんですよね。ツイッターと似た感じのアプリなんですけど。それで、面白そうだなと思って、僕は「藪医師」と名乗って、医者として恋愛相談と病気の相談を受ける「藪医者外来へようこそ」というタイトルで、755をやり始めたんです。フォロワーが200人くらいになって少し注目していただくようになったころ、幻冬舎という出版社の社長の見城 徹さんも、755をやり始めたんですよ。60歳を過ぎて、初SNSを始めます、と。755上で見城さんとやり取りをさせてもらい、「すべての新しいことは、たった1人の孤独な熱狂から始まる」という言葉を目にしたとき、やっぱり出版したいという気持ちが再燃したんです。それを755上で「このボツ原稿を、諦めない」と宣言したら、見城さんが原稿を見せてみろと言ってくれて、その後3ヵ月くらいの間に出版が決まったんです。幸いにもこの本※3が3万部以上売れてくれたことでYahoo!ニュースの立場を紹介いただいたという感じです。中山 祐次郎氏:1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、同院大腸外科医師(非常勤)として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、現在福島県郡山市の総合南東北病院外科医長として、手術の日々を送る。消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。倉原:SNSがきっかけというのは今っぽいですね。1作目は存じ上げませんでした。内容は「死」について。それにしても3万部か…。医学書はヒットして1万部くらいですから。3万部…すごい…。中山:いやいや、マーケットが10倍くらい違いますから、そこは比べないでおきましょう。それよりも、倉原先生はなぜ書き始めたんですか? 倉原:僕はブログがきっかけです。2008年に後期研修医になったときに「呼吸器内科医」というブログを始めたんです。高岸※4っていう、恐ろしい量の論文を読む後輩がいて、毎日、3本とか読んでるんですよ。中山:毎日ですか!倉原:そう、毎日。彼に触発されて、自分も1日1本は読もうと決めたんです。ブログは読んだものを記録するための自己満足で始めたんですけど、続けているうちにだんだんアクセスが増えていって。それを見たシーニュっていう会社の社長から、何か書いてみませんかと声をかけてもらったんです。2013年ごろでしたね。中山:もともとお知り合いだったんですか?倉原:ううん、ブログを見て連絡をくれたんです。ひたすら論文を訳しただけのブログだったんですけど、患者さんに届けたい! みたいな熱意が伝わったって言ってもらって。最初の本※5は、結局そういう本になりました。5年目の若造が何言ってるんだと当時は叩かれてへこみましたけど。中山:それはまた、なぜ批判があったんですか?倉原:扱ったテーマが、答えのない問題ばかりだったから、ですかね。正しい選択がAかBかわからないしエビデンスもないけど、その選択の向こうにある患者さんの未来を見越して、こういうふうに選びましょうとか、そういうことを書いたんです。中山:治療上根拠はないけど、臨床医が結論を出さないといけないような選択を扱ったと。倉原:そうです。具体的に言うと、間質性肺疾患で外科的肺生検とか安易にやっちゃうじゃないですか。当時は当たり前にやられていたけど、すごく疑問に感じていて。やってもIPFの患者さんはどんどん悪くなっていく。全身麻酔をかけてまでやる意味はどこにあるんだろうと思っていて。そういうのをぶつけたんです。まあ、学会とかで本の批判をする先生方の声を聞くたびに心が折れましたよ。だけどシーニュの社長が励ましてくれて、書き続けるにいたっています。医者で本を書くのってこういう始まり方が多いんじゃないかな。1冊出して出版社とつながりができて続いていく、みたいな。―『泣くな研修医』の生みの親は“無力感”倉原:新書ではなく、なぜ小説を書こうと思ったんですか?中山:僕、生きているだけで虚無感がそれほど弱くないレベルで常にあるんです。だってみんな死ぬじゃないですか。とくにこの地球にも、日本にも、大阪にも、何の意味も残さないわけじゃないですか。死んだら全部ゼロになるのに生きるって何なの、という虚無感がひどいんですよ。その中で死を思ったりするところがあると思います。それに気付いたのは最近なんですけどね。倉原:その出口が創作に向かうってすごいですね。中山:結局小説を書いてみて思ったのは、僕が書いていたのは無力感だったなと。やるせなさ、存在しているだけで悲しい、そんなこと。倉原:オーベンを前にしたときの無力感ってありますよね。小説でとてもリアルでした。中山:オーベンは書くのに苦労したからうれしいです。倉原:男性のオーベン、岩井先生、とても冷たいじゃないですか。でも実は…というシチュエーション、現実にも結構ありますよね。中山:ありますね。倉原:いつも冷たいんだけど、飲んだときとかにポロッと出てきたりするのね。中山:そうそう、早く教えてくださいよーってなるやつ。倉原:熱いもの持ってるじゃないですか! みたいにね(笑)。ベテランになってくると動揺しないんですよ。動揺しないべきでもある。それが指導医でもある。それを研修医から見ると冷たい指導医に見えてしまうんだよね。ツンデレと言ってしまえばそれまでだけど。―気持ち悪くなるほど生々しい描写はどうやってできた?倉原:ほかにも細かい描写が、本当にリアルですよね。ストレッチャーを押していてベッドが壁にぶつかるとか。中山:そこのところは自分でも気に入っていたのですが、指摘してくれたのは先生が初めてだったのでうれしいです。倉原:サイレン待つのも嫌ですね。中山:あはは、あれは本当に嫌ですよねー。倉原:あと、「人工呼吸器に乗っている」って。乗っているって何だよ、みたいなあの表現。こういうちょっとした言い回しが本当に生々しい。研修医のころを思い出す、と言われませんか。中山:当時を思い出してつらくなるとか、嫌になるとか。気分が悪くなるっていう人も多いですね。倉原:どう勉強したらこういう生々しい文章が書けるのか、めちゃくちゃ気になります。中山:うまいかどうかは別として、村上 龍氏の受け売りですが、「正確さ」にこだわりました。登場人物の行動と人物像に矛盾が生じないようにしています。このキャラクターだったら、この服は選ばない、きっと患者さんと話すときにこういう感情が生まれるだろうという必然性を見つけていく感じ。あと、妻に読んでもらっています。彼女は医療関係ではないので、わからないところや面白くないところに率直な意見をくれるので、それを参考にすることが多いですね。―中二病だと言われても、太宰の影響は大きい!倉原:読んできた本からの影響はないんですか?中山:ベタで恥ずかしいんですけど、太宰 治。僕、太宰の人には言えないような恥ずかしい感情の動きを書いてしまうところが好きなんです。中二病っぽいですけど。ほかにも夏目 漱石とか昭和の純文学をたくさん読んでいたから、その影響もあるかもしれません。倉原先生はどんな本を読むんですか?倉原:小説はそんなに読んできていなくて、読むのはもっぱら医学書ばかりです。中山:献本も全部ですか? 倉原:ええ、頂いたものはほぼすべて読みます。中山:それだけでも膨大そうですね。それこそ医学書もたくさん出版される中で、いい本に出合うコツはあります?倉原:はっきり言えば著者でしょうか。なかでもやっぱり岩田 健太郎先生はすごい。いい意味で怪物だと思います。中山:それはどういう意味ですか? 倉原:僕、医学書ってもともと読み物ではないと思っていたんです。アメリカの医学書も読みますが、あちらの本は今でも「ですます調」の硬い文体で、内容はもちろんムズカシイから、読んで笑う要素はないんですよ。それと比べて岩田先生は、『抗菌薬の考え方、使い方』※6という本で、医学書と小説を足した、寝転んで読めるような“読み物としての医学書”というジャンルを作り出した。これが、岩田先生は怪物級にスゴイと思う理由です。読み物としての医学書というジャンルができたことで、日本の医学書出版業界のトレンド―文化ができたんだと思います。だから、平均の売上部数が数千部の医学書業界で、岩田先生の本はフツウに1万部売れますからね。医学書業界で1万部は異例中の異例ですよ。そこにきて中山先生の本は10万部超えって本当にジェラシー以外の何物でもないです※7、ほんと。ジェラシー(笑)。中山:いやいや、比べないでおきましょう…。倉原:うん、そうですね。―医学書にストーリー性は必要か?中山:医学書って基本的には情報を得るためのものであって、勉強ができればストーリー性は必要ないと思っていました。でも、今のお話だと医学書にもストーリーが必要ということでしょうか?倉原:あくまで僕個人の体験談ですが、リファレンス、辞書みたいな使い方をする本って、本棚の奥にしまって出さなくなってしまうんです。眠くなっちゃうから。でも1度通読したものは記憶に残っていて、また読む。通読した本って、物語風だったり、話し口調だったりするものですよね。坂本 壮先生※8もそうですけど、本屋で手に取ったときに読みやすそうだなと思うとすぐ買っちゃうし、読んだ後も記憶に残る。中山:ああ、なるほど。倉原:だから、今のトレンドでは、1回すべて読み通させるだけの文章力がないと売れないのかなとも思います。中山:なるほど。今後もそのトレンドは続くのでしょうか。個人的にすごく気になります。倉原:硬い医学書を好む先生も一定数いるので、すみ分けがされるという感じじゃないでしょうか。中山:すみ分けは年齢層によるものですか? 倉原:そうですね…。基本的に僕らより上の世代のベテランドクターは硬い医学書を好むように見えますし、4~5年目までくらいの若手のドクターは、圧倒的に砕けた文体の読み物を読んでいる印象を受けます。でも、年齢で区切れるかというとそうでもないんじゃないかとも思うんです。僕は14年目だけど永遠の若手の自負があるし。岩田先生以降の“読み物としての医学書”に触れてきた人たちは年齢に関係なく、読みやすいものを手に取るから。全体としては読み物のシェアが増えていくんじゃないかな、というのが僕の見方です。―やっぱり医学書が書きたい!中山:それを聞いてやる気が出ました! 僕も医学書を書きたいと思っているんです!倉原:医学書! 中山先生は一般向けに発信しているイメージが強いから、少し意外です。中山:基本は一般の方に向けたものが多いんですが、やっぱり医者なので。ちょうど、小説と医学書の中間のようなものを書いている途中です。倉原:もうすでに書き始めていると。ちなみに内容はどういったもの?中山:ずばりコンサルトの極意です! コンサルト情報の書き方や電話のかけ方とか、自分が若手のときに困ったことをまとめている感じです。倉原:それはニーズあると思うな。それこそストーリー性があったらウケそう。さすがにこれは幻冬舎ではないですよね。中山:これは専門出版社からです。あと、まだ構想でしかないですけど、今、誰からも応援されていない医療者に光を当てるようなものが書きたいですね。倉原:誰からも応援されてない医療者?中山:例えばお局さんです。新人ナース向けの本はたくさんあっても、ある程度経験年数がある看護師さんって置き去りにされている気がして。お局っていう単語自体もあんまりよくないじゃないですか。もっとポジティブな意味付けをした単語を作り出したいと思っています。倉原:それは確かに。ぽっかり抜け落ちているところですね。目のつけどころが面白い。中山:倉原先生は今後、どんなものを書く予定なんですか?倉原:今は喘息関連の本を書いています。あと…、実は僕も読み物的な医学書を書きたいとずっと思っています。でも自分には文才がないなと思って踏みとどまってます。中山:ちょっと待ってください。僕、“文才”という言葉はないと思うんです。倉原:文才という言葉はない。それかっこいいな…。中山:文才っていうと特別なものに感じてしまうけど、率直に自分の感情の動きを書ける人のことを文才がある人というんじゃないかなという気がしています。倉原:かっこつけないで書けるのが文才? それは深いな…。中山:飾らないというか、感情と言葉の間に1個もフィルターのない人。CareNet.comの倉原先生の連載も、ご自身の体験談や時々奥さんとのやりとりが入っていたりしてリアルな感じがしますよね。倉原:下ネタが?中山:そこじゃないです(笑)。なぜ急に下ネタと。倉原:ブログから書き始めたのもあって、PVを上げる方法をつい考えるんです。そうすると自然と下ネタが多くなる。はっちゃけてごまかしている感じが自分ではしていて、だいぶ恥ずかしいです。中山:下ネタは人類共通の話題ですから。でも下ネタなら何でもいいわけではないでしょう。やっぱり文章力のなせる業だと思います。倉原:憧れの小説家に言われるとすごく照れますね。でも読み物的な医学書を書きたい、目指すところが似ている気がします。中山:それはとってもありますね。倉原:そう考えると、出会うべくして出会っているのかもしれませんね。※1第9回「何もかも前代未聞な本」※2Yahoo!ニュース個人中山祐次郎※3中山祐次郎.幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと 若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日. 2015.幻冬舎新書※4第1回「エビデンスが本の中で踊っている」※5「寄り道」呼吸器診療―呼吸器科医が悩む疑問とそのエビデンス※6岩田健太郎. 抗菌薬の考え方、使い方. 2004.中外医学社※7中山祐次郎. 医者の本音.2018.SBクリエイティブ※8第5回「指導医が語る心得のような本」(取材・構成・撮影 ケアネット 安原 祥)

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「働き方改革」一歩前進へ-ロボット麻酔システム-

 2019年4月16日、福井大学医学部の重見 研司氏(麻酔・蘇生学教授)、ならびに松木 悠佳氏(同、助教)とその共同研究者らは、全身麻酔の3要素である鎮静・鎮痛・筋弛緩薬をすべて自動的に制御する日本初のシステムについて厚生労働省で記者発表した。本会見には共同研究者の長田 理氏(国立国際医療研究センター麻酔科診療科長)、荻野 芳弘氏(日本光電工業株式会社 呼吸器・麻酔器事業本部専門部長)も同席し、実用化に向けた取り組みについて報告した。なぜ麻酔システムを開発したのか 近年、全身麻酔が必要な手術件数は全国的に年々増加傾向にある。他方で、医師の「働き方改革」が叫ばれているが、医師偏在など問題解決の糸口は未だ見えていない。これに対し、労働時間の削減とともに質の担保が不可欠と考える重見氏は、「血圧測定や人工呼吸は看護師による手助けを要する。しかし、容態安定時や、繰り返しになるような単純作業は、機械の助けを借りることで“ついうっかり”がなくなり、安全面にも貢献する」と述べ、「機械補助によって麻酔科医の業務負担が劇的に軽減される。働き方改革と医療の質のバランスをとるための技術が必要」と、開発の経緯を語った。機械化のメリットとは ロボット麻酔システムは、“ロボット”と銘打っているが、実は、制御用のソフトウェアのことを指す。このシステムは、脳波を用いて薬剤を自動調節するため、医療ビッグデータやAIに頼らずとも、麻酔薬を至適濃度に保つことができる。 このシステムは、1)バイタルサインを測定し、催眠レベルの数値、筋弛緩状態を出力するモニター、2)制御用コンピューター、3)麻酔薬3種を静脈に注入するシリンジポンプの3つで構成されている。また、重見氏によると「麻酔科医の生産性・患者QOL・医療経済性の向上、患者安全への寄与、さらには、“診断”を加味して“加療”するシステム」という点が特徴だという。 期待できる業務として、鎮痛・鎮静・筋弛緩薬の初回投与および投与調節、脳波による鎮静度評価、筋弛緩薬の投与調節があり、本システムは婦人科の腹腔鏡手術、甲状腺、腹部などの脳波モニターに影響を及ぼさない術野での使用が可能である。松木氏は「これらを活用することで、麻酔科医の時間的余裕が生まれ、容態急変時など患者の全身状態の看視に注力ができる」と、麻酔科医と患者の両者における有用性について語った。実用化までの道のり これまで、2017年より2つの予備研究を実施し100例近くのデータ収集を行うことで、自動制御に関するアルゴリズム改善に役立ててきた。今年3月より臨床研究法に則り、特定臨床研究として、ロボット麻酔システムを使用し、全身麻酔時に使用する静脈麻酔薬の自動投与調節の有効性と安全性の検討に関する対象無作為化並行群間比較試験を開始。目標症例数は福井大学と国立国際医療研究センターを併せて60例とし、2019年9月までを予定。現時点ですでに21例が登録を終えている。今後、治験などを経てシステム運用のための講習会の企画や2022年の発売を目指す。■関連記事ソーシャルロボットによる高齢者の認知機能検査の信頼性と受容性

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院外心停止後蘇生のNSTEMIに、即時冠動脈造影は有効か/NEJM

 院外心停止後に蘇生に成功した非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)患者では、即時的に冠動脈造影を行い、必要に応じて経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行するアプローチは、神経学的回復後に遅延的にこれを施行する戦略と比較して、90日生存率の改善は得られないことが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのJorrit S. Lemkes氏らが実施したCOACT試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年3月18日号に掲載された。院外心停止の主な原因は虚血性心疾患であり、現行の欧米のガイドラインでは、蘇生後のST上昇型心筋梗塞(STEMI)へは即時的な冠動脈造影とPCIが推奨されている。一方、蘇生後のNSTEMIへの即時的な施行に関しては、無作為化試験のデータはなく、観察研究では相反する結果の報告があるという。NSTEMIへの即時的施行を評価するオランダの無作為化試験 本研究は、オランダの19施設が参加した非盲検無作為化試験であり、2015年1月~2018年7月に患者登録が行われた(オランダ心臓研究所などの助成による)。 院外心停止から蘇生し、心電図検査でST上昇がみられない患者552例のうち、後に同意を撤回した患者を除く538例(平均年齢65.3±12.6、男性79.0%)を対象とした。 これらの患者を、即時的に冠動脈造影を行う群(273例)または神経学的回復後に行う遅延的冠動脈造影群(265例)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。両群とも、必要に応じてPCIが施行された。 主要エンドポイントは90日生存率とした。副次エンドポイントは、脳機能が良好または軽度~中等度障害の状態での90日生存率、心筋傷害、カテコールアミン投与期間、ショックのマーカー、心室頻拍の再発、人工呼吸器の使用期間、大出血、急性腎障害、腎代替療法の必要性、目標体温の到達時間、集中治療室(ICU)退室時の神経学的状態などであった。90日生存率:64.5% vs.67.2%、目標体温到達時間が長い 冠動脈造影の施行率は、即時的冠動脈造影群が97.1%、遅延的冠動脈造影群は64.9%であった。心停止から冠動脈造影施行までの時間中央値は、それぞれ2.3時間、121.9時間、無作為割り付けから冠動脈造影までの時間中央値は、0.8時間、119.9時間だった。 急性血栓性閉塞が即時群3.4%、遅延群7.6%にみられた。PCIはそれぞれ33.0%、24.2%で、CABGが6.2%、8.7%で行われ、薬物療法または保存的治療は61.5%、67.5%で実施された。 90日時の生存率は、即時群が64.5%(176/273例)、遅延群は67.2%(178/265例)と、両群に有意な差を認めなかった(オッズ比[OR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.62~1.27、p=0.51)。 副次エンドポイントのうち、目標体温到達時間中央値が、即時群5.4時間と、遅延群の4.7時間に比べ有意に長かった(幾何平均値の比:1.19、95%CI:1.04~1.36)。他の副次エンドポイントには、両群に有意な差はなかった。 著者は、「心停止後に蘇生したNSTEMIで、冠動脈造影の即時的施行により生存ベネフィットが得られたとする以前の観察研究は、選択バイアスが影響した可能性がある」と指摘している。 また、これらの結果の理由として、(1)PCIは、急性血栓性閉塞を有する冠動脈疾患患者で転帰の改善と関連し、安定冠動脈疾患ではこのような効果はないが、本試験では急性血栓性冠動脈閉塞は5%のみで、ほとんどが安定冠動脈疾患であった、(2)神経学的損傷による死亡が多く、心臓が原因の死亡の3倍以上であった、(3)目標体温到達までに長い時間を要したことが、即時的冠動脈造影の潜在的なベネフィットを弱めた可能性があるなどの点を挙げている。

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医療者と患者とメーカーの結束が創薬へ

 2月27日、ファイザー株式会社は、「世界希少・難治性疾患の日」に合わせ、「希少・難治性疾患を取り巻く現状と課題 筋ジストロフィー治療の展望・患者さんの体験談を交えて」をテーマにプレスセミナーを開催した。セミナーでは、筋ジストロフィーの概要や希少疾病患者の声が届けられた。希少疾病の解決に必要なエンパワーメント はじめに「筋ジストロフィーの現実と未来」をテーマに小牧 宏文氏(国立精神・神経医療研究センター 病院臨床研究推進部長)が、筋ジストロフィーの中でも予後が悪い、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに焦点をあて講演を行った。 神経筋疾患の多くは進行性で、遺伝子変異に由来し、脊髄前角、末梢神経、神経筋接合部、骨格筋などに影響を及ぼし、さまざまな運動機能を奪う疾患である。最近では、脊柱固定術など対症療法の進歩、人工呼吸器など医療機器の向上もあり、平均死亡年齢は17歳(1976年)から30歳以上(2006年)に伸びている。また、主な死因でみても1980年代では呼吸不全、心不全の順位だったものが、現在では心不全が1位となるなど変化をみせているという。 筋ジストロフィーは、骨格筋だけでなく、呼吸筋、心筋、平滑筋、咀嚼、骨格などに関係する全身性疾患であり、診断から治療、そして予後のフォローまで包括的な診療体制が必要となる。そのため小児科にとどまらず、脳神経内科、整形外科、リハビリテーション科など多領域にわたる連携が必要であり、自然歴を踏まえた定期検査、そして患者のケアを積み重ねていくプロアクティブケア(先回りの医療)が必要と語る。 同時に、治療薬の開発も大切で、そのためには各診療科が連携し、患者の早期発見、臨床研究の実施と個々の患者から得られる臨床データや患者の声を蓄積・シェアし、治療研究に関わることで、その結果を分かちあう仕組み作りが大切だと提案する。そして、この医薬品開発について、期限が限られた大きな目標と捉え、集団で取り組むプロジェクトと説明。成果を出すためにも医療者、患者、企業、公的機関がエンパワーメントを持って取り組むことが期待されると展望を語り、講演を終えた。患者の声を社会に届ける仲立ちに つぎに遠位型ミオパチーという希少疾病患者として織田 友理子氏(NPO法人PADM[遠位型ミオパチー患者会] 代表)が車椅子で登壇し、「超希少疾病とともに歩んだ10年」と題し講演が行われた。講演では、本症の確定診断がついた後、患者の要望などを社会に届けるべく患者会を発足させたこと、治療薬創薬に製薬メーカーへ患者の声を届けるためにNPOを立ち上げるとともに、Webサイト「車椅子ウォーカー」を開設し、同じ境遇の患者がより外へ気軽に出られるように情報提供を行っていることなどを語った。最後に同氏は「自分が今できることは患者として話すことである。患者が個々に持っている、それぞれの幸せが実現できるように、今後も“RDD JAPAN 2019”のような場で病気のこと、患者のことが社会に伝えられるように活動を続けていきたい」と抱負を語った。■参考RDD JAPAN 2019NPO法人PADM車椅子ウォーカー■関連記事希少疾病・難治性疾患特集デュシェンヌ型筋ジストロフィー

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重度アルコール離脱症候群に対する早期集中ベンゾジアゼピン療法

 アルコール離脱症候群(AWS)治療の現在のエビデンスでは、symptom-triggered therapyが支持されている。早期段階での集中的なベンゾジアゼピン(BZD)治療は、ICU在室期間を短縮させるといわれているが、在院日数への影響については、よくわかっていない。米国・カリフォルニア大学のJin A. Lee氏らは、最初の24時間での集中的なBZD治療がAWS患者の在院日数を短縮させるかどうかについて、介入前後コホート研究により検討を行った。Clinical Toxicology誌オンライン版2019年2月7日号の報告。 対象は、重度AWS患者。介入前コホート(PRE)は、2015年1~11月に入院した患者とし、鎮痛尺度(Richmond Agitation-Sedation Scale:RASS)に基づき、ジアゼパムおよびフェノバルビタールの漸増によるsymptom-triggered therapyを行った。介入後コホート(POST)は、2016年4月~2017年3月に入院した患者とし、最初の24時間(導入相)でジアゼパムおよびフェノバルビタールの漸増療法を行い、その後72時間(終了相)ですべての治療を終了させた。重度AWSの定義は、ジアゼパム30mg超を必要とする患者とした。集中治療の定義は、AWS診断後24時間以内の総ジアゼパム投与量の50%超とした。AWSの非興奮症状、ジアゼパム追加用量を評価するためRASSの補助としてSHOT尺度を用いた。主要アウトカムは、在院日数とし、副次的アウトカムは、ICU在室日数、BZD使用、人工呼吸器未使用日数とした。 主な結果は以下のとおり。・AWSプロトコルを用いて治療した患者532例中、113例が重度AWSであった。・PRE群75例、POST群38例の年齢、性別、AWS歴、疾患重症度は均一であった。・集中治療を受けたPOST群では、かなりの差が認められた(51.3%vs.73.7 %、p=0.03)。・POST群では、在院日数(14.0日vs.9.8日、p=0.03)およびICU在室日数(7.4日vs.4.4日、p=0.03)において、有意な短縮が認められた。 著者らは「重度AWS患者の対する早期集中マネジメントは、ICU在室期間や在院日数の減少させることが示唆された」としている。■関連記事アルコール依存症に対するナルメフェンの有効性・安全性~非盲検試験ベンゾジアゼピン耐性アルコール離脱症状に対するケタミン補助療法アルコール関連での緊急入院後の自殺リスクに関するコホート研究

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食道内圧ガイド下PPEPは中等~重症ARDSに推奨しない/JAMA

 中等症~重症の急性呼吸促迫症候群(ARDS)患者において、食道内圧ガイド下の呼気終末陽圧(PEEP)は経験的な高PEEPと比較し、死亡および人工呼吸器不要日数に有意差はないことが認められた。米国・コロンビア大学のJeremy R. Beitler氏らが、胸腔内圧の推定値である食道内圧(PES)を指標としたPEEP調整法(PESガイド下PEEP)が、経験的な高PEEP-吸入気酸素濃度(FiO2)法よりも有効であるかを検証する目的で、北米14ヵ所の病院で実施された多施設共同無作為化臨床試験(EPVent-2試験)の結果を報告した。胸腔内圧を相殺するためのPEEP調整は、ARDS患者の肺損傷を軽減し予後を改善する可能性があった。JAMA誌2019年2月18日号掲載の報告。食道内圧ガイド下PEEPと経験的高PEEP/FiO2を中等症~重症ARDS患者200例で比較 研究グループは、2012年10月31日~2017年9月14日に、人工呼吸器を装着している16歳以上の中等症~重症ARDS患者200例(PaO2:FiO2≦200mmHg)を登録し、食道内圧ガイド下PEEP群(102例)と、経験的高PEEP/FiO2群(98例)に無作為化し、2018年7月30日まで追跡した。患者は全例、低1回換気を受けた。 主要評価項目は、死亡と28日間生存人工呼吸器不要日数の複合エンドポイント(ランク化複合スコア)とした。また、事前に定義した副次評価項目として、28日死亡、生存人工呼吸器不要日数、レスキュー治療の必要性などを組み込んだ。食道内圧ガイド下PEEPと経験的高PEEP/FiO2両群で28日時における死亡に有意差なし 登録された200例(平均[±SD]年齢56±16歳、女性46%)が、28日間の追跡調査を完遂した。 主要評価項目である複合エンドポイントは、食道内圧ガイド下PEEPと経験的高PEEP/FiO2両群間で有意差が確認されなかった(食堂内圧ガイド下PEEPでより良好なアウトカムが得られる確率:49.6%、95%信頼区間[CI]:41.7~57.5%、p=0.92)。28日時における死亡は、食道内圧ガイド下PEEP群102例中33例(32.4%)、経験的高PEEP/FiO2群98例中30例(30.6%)で確認された(リスク差:1.7%、95%CI:-11.1~14.6%、p=0.88)。生存者の人工呼吸器不要日数にも有意差はなかった(中央値:22日[四分位範囲:15~24]vs.21日[16.5~24]、中央値の差:0日[95%CI:-1~2]、p=0.85)。食道内圧ガイド下PEEP群で、レスキュー治療を受ける割合が有意に少なかった(3.9%[4/102例]vs.12.2%[12/98例]、リスク差:-8.3%[95%CI:-15.8~-0.8]、p=0.04)。 他の事前に定義した7つの副次評価項目で有意差が確認されたものはなかった。圧外傷を含む有害事象は、食道内圧ガイド下PEEP群6例、経験的高PEEP/FiO2群5例に認められた。 著者は、これらの結果を踏まえ、「ARDSにおいてPESガイド下PEEPは支持されない」とまとめている。

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脊髄性筋萎縮症〔SMA:spinal muscular atrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義運動神経系は、脳から脊髄の上位運動ニューロンと、脊髄から筋肉の下位運動ニューロンに大別される。脊髄性筋萎縮症(SMA)では、この脊髄の運動神経細胞(脊髄前角細胞)が選択的に障害されることにより、下位運動ニューロン障害を示す疾患である。上位運動ニューロン徴候は伴わず、体幹、四肢の近位部優位の筋力低下、筋萎縮を示す1)。■ 疫学筆者らが実施した2017年の1年間における疫学調査では、有病率は総人口10万人当たり1.16、発生率は出生1万人当たり0.6であった。■ 病因SMAの原因遺伝子はSMN1(survival motor neuron 1)遺伝子であり、第5染色体長腕5q13に存在し、同領域に向反性に重複した配列のSMN2遺伝子も存在する(図)。SMN1遺伝子は両親から欠失を受け継ぎ、ホモ接合性の欠失により発症する場合が多い。SMN1遺伝子の下流にはNAIP(neuronal apoptosis inhibitory protein)遺伝子が存在する。臨床的重症度の幅は、SMNタンパク質の発現量、すなわちSMN2遺伝子がどの程度、SMNタンパク質を産生するかで説明できる。臨床像が軽症の場合、SMN1遺伝子欠失ではなく遺伝子変換によりSMN1遺伝子がSMN2遺伝子になること、すなわちSMN2遺伝子の遺伝子産物の量が多くなり、臨床症状の重症から軽症の幅の説明となっている。図 SMAの原因遺伝子(SMN1とSMN2)画像を拡大する■ 分類SMAの分類としては表に示すように、発症年齢、臨床経過に基づき、I型(OMIM#253300)、II型(OMIM#253550)、III型(OMIM#253400)、IV型(OMIM#27115)に分類される。胎児期発症の最重症型を0型と呼ぶこともある。筆者らは運動機能に基づき、I型をIa、 Ib、II型をIIa、 IIb、III型をIIIa、 IIIbにサブタイプ分類し、それぞれの亜型間で運動機能の喪失に有意差があることを示した2)。このような細分類は、薬事承認された核酸医薬品、遺伝子治療薬をはじめ、新規治療薬の長期の有効性評価に有用である。表 最高到達運動機能によるSMAの分類画像を拡大する■ 症状舌や手指の筋線維束性収縮などの脱神経の症状と近位筋優位の骨格筋の筋萎縮を伴った筋力低下の症状を示す。次に型別の症状を示す。I型:重症型、急性乳児型、ウェルドニッヒ・ホフマン(Werdnig-Hoffmann)病筋力低下が重症で全身性である。妊娠中の胎動が弱い例も存在する。発症は生後6ヵ月まで。発症後、運動発達は停止し、体幹を動かすこともできず、筋緊張低下のために体が柔らかいフロッピーインファントの状態を呈する。肋間筋に対して横隔膜の筋力が維持されているため吸気時に腹部が膨らみ胸部が陥凹する奇異呼吸を示す。支えなしに座ることができず、哺乳困難、嚥下困難、誤嚥、呼吸不全を伴う。舌の線維束性収縮がみられる。深部腱反射は消失、上肢の末梢神経の障害によって、手の尺側偏位と手首が柔らかく屈曲する形のwrist dropが認められる。人工呼吸管理を行わない場合、死亡年齢は平均6〜9ヵ月であり、2歳までに90%以上が死亡する。II型:中間型、慢性乳児型、デュボビッツ(Dubowitz)病発症は1歳6ヵ月まで。支えなしの起立、歩行ができないが、座位保持が可能である。舌の線維束性収縮や萎縮、手指の振戦がみられる。腱反射は減弱または消失。次第に側弯が著明になる。II型のうち、より重症な症例は呼吸器感染に伴って、呼吸不全を示すことがある。III型:軽症型、慢性型、クーゲルベルグ・ウェランダー(Kugelberg-Welander)病発症は1歳6ヵ月以降。自立歩行を獲得するが、次第に転びやすい、歩けない、立てないという症状が出てくる。後に、上肢の挙上も困難になる。IV型:成人発症小児期や思春期に筋力低下を示すIII型の小児は側弯を示すが、成人発症のSMA患者では側弯は生じない。それぞれの型の中でも臨床的重症度は多様であり、分布は連続性である。■ 予後I型は無治療では1歳までに呼吸筋の筋力低下による呼吸不全の症状を来す。薬物治療をせず、人工呼吸器の管理を行わない状態では、90%以上が2歳までに死亡する。II型は呼吸器感染、無気肺を繰り返す例もあり、その際の呼吸不全が予後を左右する。III型、IV型は生命的な予後は良好である。2017年のヌシネルセン(商品名:スピンラザ)の薬事承認以降、従来のSMAの予後は大きく変貌した。2020年には遺伝子補充療法オナセムノゲンアベパルボベク(同:ゾルゲンスマ)が2歳未満を適応として薬価収載された。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)上記の臨床症状からSMAを疑う。中枢神経機能障害、関節拘縮症、外眼筋、横隔膜、心筋の障害、聴覚障害、著しい顔面筋罹患、知覚障害、血清クレアチンキナーゼ値が正常上限の10倍以上、運動神経伝導速度が正常下限の70%以下、知覚神経活動電位の異常などの所見がある場合、SMAとは考えにくい。SMAにおいて、遺伝子診断は最も広く行われる非侵襲的診断方法であり、確定診断となる。末梢血リンパ球よりDNAを抽出し、SMN1遺伝子のexon 7、8の欠失の有無にて診断し、SMN2遺伝子のコピー数にて型を推定する。SMN1遺伝子のホモ接合性の欠失はI型、II型では90%以上に認められるが、III型、IV型では低く、遺伝子的多様性が考えられる。筋生検は実施されなくなっている。遺伝学的検査によって欠失・変異が同定されなかった場合に、他の疾患の可能性も考えて実施される。SMAでは、小径萎縮筋線維の大集団、群萎縮group atrophy、I型線維の肥大を示す。筋電図では高電位で幅が広いgiant spikeなどの神経原性変化を示す。SMN遺伝子を原因としないSMAにおいて、指定難病(特定疾患)の診断として筋電図が実施される。また、ヌシネルセンなどの治療・治験の有効性評価としてC-MAPが測定されることもある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)遺伝学的検査によりSMN1遺伝子の欠失または変異を有し、SMN2遺伝子のコピー数が1以上であることが確認された患者へのアンチセンスオリゴ核酸(ASO)薬であるヌシネルセン髄腔内投与3,4)の適応が認められている。乳児型では初回投与後、2週、4週、12週、以降4ヵ月ごとの投与、乳児型以外では初回投与後、4週、12週、以降6ヵ月ごとの投与である。一方、臨床所見は発現していないが遺伝学的検査によりSMAの発症が予測される場合も含み、2歳未満の患者において抗AAV9抗体が陰性であることを確認された患者への遺伝子治療薬オナセムノゲンアベパルボベク静脈内投与が認められている。これは1回投与である。これらの治療開始は、早ければ早いほど有効性も高く、早期診断・早期治療開始が重要である。ベクター製剤の投与では肝機能障害、血小板減少などの副作用が報告されている5)。投与前日からのプレドニゾロン継続投与が必須である。I型、II型では、授乳や嚥下が困難なため経管栄養が必要となる場合がある。また、呼吸器感染、無気肺を繰り返す場合は、これが予後を大きく左右する。I型のほぼ全例で、救命のためには気管内挿管、後に気管切開と人工呼吸管理が必要であったが、上記の治療により人工呼吸管理を要さない例もみられるようになった。I型、II型において、非侵襲的陽圧換気療法(=鼻マスク陽圧換気療法:NIPPV)は有効と考えられるが、小児への使用には多くの困難を伴う。また、すべての型において、筋力に合わせた運動訓練、理学療法を行う。III型、IV型では歩行可能な状態の長期間の維持や関節拘縮の予防のために、理学療法や装具の使用などの検討が必要である。小児においても上肢の筋力が弱いため、手動より電動車椅子の使用によって活動の幅が広くなる。I型やII型では胃食道逆流の治療が必要な場合もある。脊柱変形に対しては脊柱固定術が行われる場合もある。4 今後の展望核酸医薬品はRNAに作用して転写に影響を与えるため、病態修飾治療として症状が固定する前、さらには発症の前に投与することでSMAの症状の発現を抑え、軽減化もしくは無症状化する可能性がある。薬物動態の解析により、高用量による有効性が考えられ、わが国も参加して高用量投与の国際共同治験が開始されている。ヌシネルセンと同様のメカニズムを持つ低分子医薬品経口薬(risdiplam)の開発もなされ治験が実施され、有効性があったとされている。有効性が証明されれば、投与経路が経口であることから負担が軽減するという点でも期待される。アデノ随伴ウイルス(AAV9)をベクターとする遺伝子治療は、疾患の原因であるSMN1遺伝子を静脈注射1回にて投与するもので、第II、第III相試験において乳児への有効性の報告がなされ6)2歳未満を適応として保険収載された。発症前または発症後のできるだけ早期の1回投与で永続的な有効性を示すとされ、次世代のSMA治療といえる。SMAの今後の治療・発症予防としては、遺伝学的解析による新生児スクリーニングを行い、SMN1遺伝子の両アレル性の遺伝子変異を示した例に対する治療により発症抑制を行うことが必要である。これらの治療法の進歩に伴い、SMAの有効性評価の判定にはバイオマーカーの開発が重要である。SMAの有効性評価は、運動機能評価により行われるが、SMAでは年齢や型や運動機能の幅が広く均一の評価法がない。そのために、長期間の有効性を数値などで示すことができない。そこで、均一な評価としてバイオマーカーが必須であると考え、筆者らはイメージングフローサイトメトリーによる血液細胞中のSMNタンパク質量測定を考案した。長期にわたるSMA治療の有効性の指標として有用であると考えている7)。5 主たる診療科小児期発症の場合は神経小児科、15歳以上は脳神経内科が担当する。遺伝学的検査、遺伝カウンセリングは遺伝子診療部が担当する。筆者らの所属する「ゲノム診療科」では、確定診断、出生前診断などの遺伝学的検査とともに、診断・治療・療育などのコンサルトにも対応している。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脊髄性筋萎縮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報:SMAは国の指定難病、特定疾患に認定されている。厚生労働省補助事業として、行政・福祉・助成制度をはじめとしたさまざまな情報が掲載されている)SMARTコンソーシアム (患者登録システム)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報:筆者らの運営しているSMARTコンソーシアムは治療を目指す患者登録システム。実績として登録者による治験実施や新規治療の進歩があった)神経変性疾患領域における基盤的調査研究班(研究代表者:中島健二氏) 脊髄性筋萎縮症(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SMA(脊髄性筋萎縮症)家族の会(患者とその家族および支援者の会:1999年に設立。ホームページにおける情報提供や定期的な会合など活動を行っている)1)SMA診療マニュアル編集委員会(代表 齋藤加代子)編. 脊髄性筋萎縮症診療マニュアル 第1版. 金芳堂;2012.p.1-5.2)Kaneko K, et al. Brain Dev. 2017;39:763-773.3)Finkel RS, et al. N Engl J Med. 2017;377:1723-1732.4)Mercuri E, et al. N Engl J Med. 2018;378:625-635.5)Waldrop MA, et al. Pediatrics. 2020;146:e20200729.6)Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2017;377:1713-1722.7)Otsuki N, et al. PLoS One. 2018;13:e0201764.公開履歴初回2019年2月26日更新2021年2月2日

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多剤耐性グラム陰性桿菌、ICUでのベストな感染予防は?/JAMA

 多剤耐性グラム陰性桿菌(MDRGNB)感染の発生率が中等度~高度のICUにおいて、人工呼吸器装着患者に対する、クロルヘキシジン(CHX)による口腔洗浄や、選択的中咽頭除菌、選択的消化管除菌の実施は、いずれも標準的ケア(CHXによる毎日の清拭とWHO推奨手指衛生プログラム)と比べて、MDRGNBによるICU血流感染の発生率を低下させないことが示された。オランダ・ユトレヒト大学病院のBastiaan H. Wittekamp氏らが行った無作為化比較試験の結果で、JAMA誌2018年11月27日号で発表した。CHXによる口腔洗浄、選択的中咽頭、消化管除菌を各1日4回実施 試験は2013年12月1日~2017年5月31日に、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌による血流感染が5%以上を占める、ヨーロッパ13ヵ所のICUで行われた。被験者は、人工呼吸器の24時間超の使用が予測された患者で、追跡調査は2017年9月20日まで行った。 標準ケアは、CHX2%による毎日の清拭とWHO推奨手指衛生プログラムの実施で、ベースラインとして6~14ヵ月実施した。その後、クロルヘキシジン1~2%による口腔洗浄、選択的中咽頭除菌(コリスチン、トブラマイシン、ナイスタチン入り口腔ペースト:SOD)、選択的消化管除菌(同口腔ペーストの使用と同種抗菌薬による胃腸混濁液:SDD)をそれぞれ1日4回、6ヵ月ずつ、無作為順序で行った。 主要評価項目は、各介入期間におけるMDRGNBによるICU血流感染の発生率で、副次評価項目は28日死亡率だった。ICU血流感染の発生率、28日死亡リスクともに低下せず 被験者総数は8,665例で、年齢中央値は64.1歳、うち男性は64.2%だった。ベースライン群、CHX群、SOD群、SDD群の被験者数は、それぞれ2,251例、2,108例、2,224例、2,082例だった。 試験期間中のMDRGNBによるICU血流感染は全体で144例(154件)に発生し、発生率はベースライン群が2.1%、CHX群が1.8%、SOD群1.5%、SDD群が1.2%。 絶対リスク減少は、ベースライン群と比較して、CHX群が0.3%(95%信頼区間[CI]:-0.6~1.1)、SOD群0.6%(-0.2~1.4)、SDD群が0.8%(0.1~1.6)だった。対ベースラインの補正後ハザード(HR)は、それぞれCHX群1.13(95%CI:0.68~1.88)、SOD群0.89(0.55~1.45)、SDD群0.70(0.43~1.14)だった。 また、補正前28日死亡リスクは、ベースライン群が31.9%、CHX群32.9%、SOD群32.4%、SDD群34.1%。28日死亡に関する対ベースラインの補正後オッズ比は、CHX群1.07(95%CI:0.86~1.32)、SOD群1.05(0.85~1.29)、SDD群1.03(0.80~1.32)だった。

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免疫不全患者の急性呼吸不全、高流量vs.標準酸素療法/JAMA

 急性低酸素血症呼吸不全(AHRF)を呈した免疫不全患者において、高流量鼻カニューレ酸素療法は標準酸素療法と比較して、28日死亡率を有意に低下しないことが示された。フランス・Hopital St-LouisのElie Azoulay氏らが行った多施設共同無作為化試験の結果で、JAMA誌オンライン版2018年10月24日号で発表された。高流量酸素療法は、AHRFに対する使用が増えている。研究グループは、免疫不全AHRF患者において、高流量鼻カニューレ酸素療法が標準酸素療法と比較して死亡率を低下するかを確認した。AHRFを呈する免疫不全成人患者を対象に、28日死亡率を評価 試験は2016年5月19日~2017年12月31日に、フランス国内32のICUで行われた。適格被験者は、AHRF(室内気でPaO2<60mmHgもしくはSpO2<90%、>30回/分の頻呼吸あるいは努力呼吸もしくは呼吸困難、必要酸素流量≧6L/分)を呈した免疫不全成人患者であった。 被験者を無作為に1対1の割合で割り付け、高流量酸素療法(介入群)または標準酸素療法(対照群)を継続した。主要評価項目は、28日死亡率。副次評価項目は、28日時点までの挿管人工呼吸管理発生、挿管後3日間のPaO2/FiO2比、呼吸数、ICU入室・入院の期間、ICU感染、患者の快適さおよび呼吸困難などであった。群間の有意差は認められず 778例(年齢中央値64歳[IQR:54~71]、女性259例[33.3%])が無作為化を受け、776例(99.7%、各群388例)が試験を完遂した。無作為化時点で、呼吸数中央値は、介入群33回/分(IQR:28~39)vs.対照群32回/分(27~38)、PaO2/FiO2比はそれぞれ136(96~187)vs.128(92~164)であった。SOFAスコア中央値は、両群とも6(IQR:4~8)であった。 28日死亡率は、介入群35.6%、対照群36.1%で群間の有意差はなかった(群間差:-0.5%[95%信頼区間[CI]:-7.3~6.3]、ハザード比[HR]:0.98[95%CI:0.77~1.24]、p=0.94)。 挿管率は、介入群38.7% vs.対照群43.8%で群間の有意差はなかった(群間差:-5.1%[95%CI:-12.3~2.0])。PaO2/FiO2比は、介入群で有意に高く(150 vs.119、群間差:19.5[95%CI:4.4~34.6])、6時間後呼吸数は、介入群で有意に低下した(25 vs.26回/分、群間差:-1.8回/分[95%CI:-3.2~-0.2])。 ICU入室期間(8 vs.6日、群間差:0.6[95%CI:-1.0~2.2])、ICU感染(10.0 vs.10.6%、-0.6[-4.6~4.1])、入院期間(24 vs.27日、-2[-7.3~3.3])、また患者の快適さおよび呼吸困難は、いずれも有意差は観察されなかった。

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ICU患者のせん妄に、抗精神病薬は効果なし/NEJM

 急性呼吸不全またはショックでICUに入室する、低活動型あるいは過活動型せん妄が認められる患者に対し、ハロペリドールまたはziprasidoneを投与しても、せん妄の発症期間を短縮する効果はないことが示された。米国・ピッツバーグ大学のTimothy D. Girard氏らが、約570例を対象に行った、無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果で、これまで、せん妄が認められるICU入室患者に対する抗精神病薬の効果について、一貫したデータは存在していなかった。NEJM誌オンライン版2018年10月22日号掲載の報告。ハロペリドールvs.ziprasidone vs.プラセボ、投与量は12時間ごとに調整 研究グループは、急性呼吸不全またはショックでICUに入室した1,183例のうち、低活動型あるいは過活動型せん妄が認められた患者566例を対象に試験を行った。 患者を無作為に3群に分け、ハロペリドール(192例、最大投与量:20mg/日)、ziprasidone(190例、同:40mg/日)またはプラセボ(184例)を、それぞれ急速静脈内投与した。試験薬とプラセボの投与量については、ICUにおけるせん妄評価法(CAM-ICU)によるせん妄の程度や、投与による副作用を基に、12時間ごとに半減、または倍量に調整した。 主要評価項目は、14日間の介入期間中のせん妄または昏睡のない生存日数だった。副次評価項目は、30日および90日生存率、人工呼吸器離脱までの期間、ICU退室までの期間、病院退院までの期間などだった。介入期間中のせん妄・昏睡のない生存日数は3群で同等 被験者566例のうち、低活動型せん妄は89%、過活動型せん妄は11%だった。試験薬・プラセボの投与日数中央値は4日(四分位範囲:3~7)だった。 14日間の介入期間中のせん妄または昏睡のない生存日数は、ハロペリドール群7.9日(95%信頼区間[CI]:4.4~9.6)、ziprasidone群8.7日(同:5.9~10.0)で、プラセボ群8.5日(同:5.6~9.9)と、3群間で有意差はなかった(試験群間全体の効果に関するp=0.26)。 ハロペリドールまたはziprasidoneとプラセボを比較した場合も、主要評価項目の発生について有意差はなかった。それぞれのオッズ比は0.88(95%CI:0.64~1.21)、1.04(同:0.73~1.48)だった。 副次評価項目および錐体外路症状の発現頻度についても、群間で有意差は認められなかった。

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第11回 内科クリニックからのミノサイクリン、レボフロキサシンの処方 (後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3疑義照会する?Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬を飲みきる キャンプ人さん(病院)母子ともに、指示された期間きちんと服用するように説明します。服用時の注意や改善しない場合の対処 清水直明さん(病院)レボフロキサシンもしくはミノサイクリンの処方が確定している場合の説明例です。「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)とともに服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」「3日ほど服用しても全く症状が改善しないか、悪化したと感じる時は、服用の途中でも一度ご相談ください」「ミノサイクリンを服用中は、めまい感があらわれることがあるので、車の運転など危険を伴う機械の操作、高所での作業などは行わないでください」「ミノサイクリンは、もしも食道にくっついてそこで溶けてしまうと食道に潰瘍ができることがありますので、多めの水でしっかり服用してください」尿の色 奥村雪男さん(薬局)ミノサイクリンは尿が青~緑に着色する場合があるので、あらかじめ伝えておいた方が無難だと思います。カルシウムと難溶性のキレートを形成するので、牛乳はミノマイシン服用後2時間程度あけて摂取するように、とも説明した方がよいでしょう。解熱鎮痛薬との併用について ふな3さん(薬局)母については、ひどいめまいや悪心・食欲不振が出た場合には、医師に相談するよう伝えます。子には抗菌薬を飲みきることと、服用期間に発熱・頭痛等が起きた場合、一部のNSAIDs で痙攣が誘発される可能性があるので、自己判断でのNSAIDsの使用を控え、重い症状であれば医師に相談するよう伝えます。飲み忘れた場合の対処 中西剛明さん(薬局)母には頭痛、めまい、倦怠感が起こる可能性について伝えます。おそらくすぐに良くなると思われるが、これらが起きたとしても途中で服用を中止しないこと、倦怠感の場合は、薬剤性肝障害の可能性もあるので受診をするように説明をしておきます。また、朝は乳製品の摂取をできるだけ控えることを伝えます。食道刺激作用があるため、服用後すぐに横にならないように、とも伝えます。子には短期間であれば関節障害の発症は心配いらないものの、アキレス腱などの腱断裂の危険があるので、治療中は激しい運動を避けるように説明します。また、朝の服用となっていますが、飲み忘れたときはすぐに飲むことと、夕から寝る前にかけて服用すると不眠や悪夢を経験する可能性があることを付け加えます。Q5 その他、気付いたことは?肺炎マイコプラズマの治療方針 奥村雪男さん(薬局)15歳以下の小児の場合日本マイコプラズマ学会の「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」では、マイコプラズマ感染症で、「マクロライド系薬が無効の肺炎には、使用する必要があると判断される場合は、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮する。ただし、8歳未満には、テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌である」とされています。マクロライドが無効との判断は、服用2~3日で解熱しなかった場合でなされるようです。必要があると判断された場合と言うのは、年齢や流行状況、重症感で判断されるのではないかと思います。ちなみに、マクロライドで症状の改善が無い場合の耐性率は90%以上、一方でマクロライドの前投与がない場合の耐性率は50%以下に留まるとの報告があります(IASR Vol.33 p.267-268:2012年10月号)。他の医療機関で治療を受けていたとの事から、すでにクラリスロマイシンなどのマクロライドを服用していたのかも知れません。小児呼吸器感染症ガイドライン2011では、全身状態が良好で、チアノーゼがなく、呼吸数正常、努力呼吸なし、胸部X線陰影が片側の1/3以下、胸水なし、SpO2>96%、循環不全なし、人工呼吸器管理不要の全てを満たす場合、外来でフォロー出来る軽症と判断するようです。治療期間は、「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」に従うと、トスフロキサシン、テトラサイクリンの場合7~14日とされるようです。5日間はやや短く、治療への反応を見ているのかも知れません。成人の場合次に母親の方ですが、親子で同じような症状であり、息子さんからの感染が考えられます。「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」によれば、成人のマクロライド耐性マイコプラズマの第1選択はテトラサイクリンとされます。成人に対するマイコプラズマ肺炎の適切な治療期間についてはエビデンスに乏しいが、エキスパートオピニオンとして7~10日間が適当であると考えられるとしています。学校で広まっている可能性も キャンプ人さん(病院)乾いた咳はマイコプラズマ肺炎の初期症状でもあり、きちんと抗菌薬を服用すること。そして他の部員にも広がっている可能性があり、学校保健法を考慮して出席停止になる可能性もあることを伝えます。小児へのミノサイクリン投与について 中西剛明さん(薬局)本来は「肺炎の場合に抗菌薬を使う」が原則ですから、肺炎に至っていたのかどうかが気になるところです。おそらく、前医でマクロライドの投薬を受けてきたのでしょう。マイコプラズマは免疫系から逃れて増殖するので、免疫に作用するミノサイクリンは、最小発育阻止濃度(MIC)はマクロライド系抗菌薬に劣るものの、十分な効果が期待できます。小児の場合、1回の服用で歯の黄染の痕跡が残るとされているので、ミノサイクリンはできるだけ避けた方がよいと考えます。ニューキノロン系抗菌薬とのリスクとベネフィットのバランスを考えると、禁忌とはいえ、必要なこともあると思います。この症例ではレボフロキサシンが選択されていますが、本当は適応症を持っているトスフロキサシンの方がよいでしょう。ニューキノロン系抗菌薬は耐性ができやすいので、できるだけ避けたいですね。鎮咳薬は必要? 中堅薬剤師さん(薬局)母子ともにデキストロメトルファン2週間の処方は、必要なのかな? と思いました。咳喘息もあるようなら、吸入薬を導入するほうがよい気がします。子に抗菌薬は不要では JITHURYOUさん(病院)子は解熱しており、レボフロキサシンが必要か疑問です。必要な場合も当然あるとは思いますが、アキレス腱炎や断裂、また動物レベルで関節異常の副作用の報告があり、成長期の子供に使用が必要か吟味することを考えました。仮に肺炎マイコプラズマによる呼吸器感染であるならば、咳の症状は強いかもしれませんが解熱していること、改善しても咳症状のみ遷延することがあるからです。結核菌を考慮すると、症状をマスクするので菌の同定がされていないうちに投与することはリスクが高いのではないのかと考えました。加えて、マスク着用、水分補給をして安静を心がけることも指導したいです。後日談2週後の時点では来局なし。3 週間後、母にだけ「麦門冬湯9g 分3 毎食前 7日分」が処方された。抗菌薬の処方はなかった。聞き取りの結果、「割と早く咳は楽にはなった、咳は続くが特に抗菌薬によるトラブルはなかった」とのことだった。[PharmaTribune 2017年2月号掲載]

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レールダル本社訪問記【Dr. 中島の 新・徒然草】(236)

二百三十六の段 レールダル本社訪問記8月半ばに医療安全の国際学会出席のついでに足をのばし、ノルウェーのスタヴァンゲルにあるレールダル本社を日本人医師4人で訪問したので、その報告をいたします。レールダルというのは皆さんご存じのように、心肺蘇生トレーニング用のマネキンを製作・販売している会社です。日本をたつ前に私の勤務している大阪医療センターでの状況を調べてみると、ハートシム4000、レサシアン、リトルアンという3種類のレールダル製マネキンだけでも14台もあることが分かりました。現地に到着してまず驚かされたのは、本社といえどもこじんまりとした3階建ての建物で、家族経営の会社だということでした。現在の社長は2代目にあたり、3人の子供さんも全員この会社の社員です。社内は木を多く使った北欧らしい内装で、地下には社員食堂もあり、ノルウェー風の日本庭園までありました。なんと社長さん自ら登場して自社の歴史やミッションを熱く語ってくれました。社長「ここ本社に勤務しているのは300人、あとは全世界に支社がある。ノルウェー国内の売り上げは5%以下に過ぎない」一同「へえー!」社長「アフリカなどの低中所得国家では高価なシミュレーション機器を購入することはできない。だから全手動の新生児マネキンを作った」一同「なるほど」社長「心肺蘇生インストラクターがこちらのポンプを押すと呼吸を、もう一方のポンプを押すと脈拍を再現することができる」血圧計の送気用ポンプみたいなのが2つ付いていて、インストラクターが自在にコントロールできます。試しに新生児マネキンの臍帯を触ってみるとリアルな脈を触れ、よくできているもんだと感心させられました。社長「このような製品を作ったのは金儲けではなく、安全な出産のためだ。だから採算度外視の低価格で販売している」一同「素晴らしい!」社長「実際、助産師たちにトレーニングの機会を提供し、多くの命を救ってきた。赤ん坊だけでなく、母親の命もだ」一同「この人…本気だ」周囲の壁には個々の母子の物語が刻まれた写真入りパネルが展示されています。実際、数字よりも1例ごとのエピソードを見せられた方が説得力があります。社内見学では、若い社員さんたちが色々なマネキンを開発している部屋や、製品の組み立てを行っている部屋を見せていただきました。製品組み立ての部屋には大きく「KANBAN」という表示があり、案内してくれた人が「我々はトヨタのカンバン方式を取り入れているんだ」と教えてくれました。続いて、トレーニング用のカートを見せていただきました。これは机サイズのカートに評価用モニター画面と蘇生用マネキンベビー、成人の上半身マネキンを乗せたものです。面白いのはこれをどのように活用するか、ということです。AHA(American Heart Association:アメリカ心臓協会)は医療従事者に2年ごとのBLS(Basic Life Support:一次救命処置)やACLS(Advanced Cardiac Life Support:二次救命処置)の再トレーニングを推奨しているそうですが、残念なことにそれだけでは不十分で、トレーニングからしばらくすると受講者はすっかり内容を忘れてしまうのだそうです。そこで、3か月ごとの15分間トレーニングというのが考案されました。「君、そろそろ再トレーニングを受けなくちゃいけないよ」というメールを受け取った医療従事者は、各自このカートを使って評価を受けます。90点以上とると合格ですが、そうでなければ合格できるまで胸骨圧迫や人工呼吸のトレーニングをしなくてはなりません。社長「誰にも見られずに1人でできるから、人前で恥をかくこともないよ。皆、自分が納得いくまでやればいいんだ」そんなことをいいながら社長さん自ら胸骨圧迫をして見せてくれました。3ヶ月ごとに行う15分のトレーニングを low dose high frequency training(日本語にすると「低用量高頻度訓練」かな?)といい、2年ごとの集中的なトレーニングに比べて、より安い費用でより高い効果を得ることが証明されているそうです。社長「当社は製品を売って終わりってわけじゃない。その製品を活用してもらい、患者のためになってこそ、初めて俺たちのミッションが達成されたと言えるんだ」この訪問を通じて感じたことは、より良い製品の開発・販売、そして効果的なトレーニングプログラムの提供を通じて、世界中の人々に貢献したいというレールダルの強い思いです。「負うた子に教えられる」というか何というか、医療従事者の1人として背筋の伸びる思いでした。次回は日本における医療安全、現在の問題点、将来に向けての提案についてレールダル本社の人たちと議論した内容について紹介したいと思います。途中ですが1句ひねってノルウェーに 医療の原点 みつけたり

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ペリー症候群〔Perry syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ペリー症候群は、パーキンソニズム、うつ・アパシー、原因不明の体重減少、中枢性呼吸障害を来す常染色体優性の家族性パーキンソン病である。ペリー症候群はDCTN1遺伝子が原因遺伝子であり、病理学的にはTAR DNA-binding protein 43(TDP-43)プロテイノパチーに分類される1,2)。■ 疫学ペリー症候群は、世界でこれまでに20家系を超える報告があり、世界中に分布しているが、わが国からは5家系の報告がある。うち4家系は九州にみられるが、それぞれの変異は異なる。他の家族性パーキンソン病と比較しても、まれな疾患である。■ 病因ペリー症候群は、DCTN1遺伝子が原因遺伝子であり、DCTN1はダイナクチン複合体の最も大きなサブユニットであるp150gluedをコードする。ダイナクチン複合体は微小管に沿って細胞内輸送を行い、ペリー症候群の遺伝子変異はp150gluedの微小管結合部位あるいはその近傍に認める1)。培養細胞研究ではペリー症候群遺伝子変異を過剰発現させた細胞で微小管結合能低下が報告されている3)。病理学的検討によりパーキンソニズムは黒質のドパミン神経細胞脱落と、うつは縫線核や青斑核の神経細胞脱落と、中枢性呼吸障害は延髄腹外側のpre-Botzinger complex(注:Botzingerのoはウムラウトが付く)の神経細胞脱落との関連が報告されている4,5)。体重減少については、視床下部の神経細胞減少との関連の可能性が報告されている4)。ペリー症候群はTDP-43プロテイノパチーに分類されるが、筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症とはTDP-43凝集体の分布が異なり、ペリー症候群では脳幹部、基底核に局在するTDP-43病理がみられる。また、TDP-43凝集体は、neuronal cytoplasmic inclusions(NCIs)、neuronal intranuclear inclusions(NIIs)、dystrophic neurites(DNs)、axonal spheroids、oligodendroglial cytoplasmic inclusions(GCIs)、perivascular astrocytic inclusions(PVIs)に分類され、筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症ではNCIsやGCIsが多くみられるが、ペリー症候群ではNCIsやDNs、PVIsが多くみられる2)。ペリー症候群のTDP-43凝集体の電子顕微鏡像も筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症とは異なり、アルツハイマー病に類似している。筆者らの検討では、ペリー症候群脳ではさらにダイナクチン蛋白凝集もみられたが、これらは筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症ではみられなかった2)。以上よりペリー症候群は、筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症とは病理学的特徴が異なり、新たなTDP-43プロテイノパチーといえる。■ 症状・予後ペリー症候群は、パーキンソニズム、うつ・アパシー、原因不明の体重減少、中枢性呼吸障害の4徴候が特徴である。ペリー症候群は、孤発性パーキンソン病と比較して若年発症で経過が早く、わが国のペリー症候群の発症年齢は48歳前後で(範囲:35~70歳)、罹患期間が約5年(範囲:2~12年)である。筋強剛、動作緩慢、姿勢保持障害がみられ、体重は半年単位で10kg以上の減少がみられる症例が多い。うつやアパシーが高頻度でみられ、うつは重症であることが多い。睡眠障害の合併もみられ、不眠、中途覚醒の頻度が多い。夜間に呼吸不全に陥る症例が多く、死亡原因は呼吸不全、肺炎、自殺、突然死などである。認知機能障害や前頭葉症状、自律神経障害、嚥下障害、垂直性の眼球運動制限などの眼球運動障害の報告もある1)。これまでの家系報告では家系間において類似した臨床症状、臨床経過を呈すると報告されてきたが、大牟田家系(F52L変異)では他の家系と比較し、発症年齢が高く、進行も緩徐である1,3)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査頭部MRIで特異的な所見を示さないことが多いが、進行期に前頭葉萎縮を示す症例や脳血流SPECT検査で前頭葉に血流低下を認める症例もある1)。ドパミントランスポーターシンチグラフィやMIBG心筋シンチグラフィーでの取り込み低下の報告もある1,3)。■ 遺伝学的検査2009年に筆者らとメイヨー・クリニック(米国)のグループによりDCTN1原因遺伝子変異が発見され、現在までに9つの遺伝子変異(p.F52L、p.K56R、p.G67D、p.G71A、p.G71E、p.G71R、p.T72P、p.Q74P、p.Y78C)が報告されている。ペリー症候群の診断においてDCTN1遺伝子変異の検出が必要であるが、遺伝学的検査施行に先立って遺伝カウンセリングを行う必要がある。■ 鑑別診断他の遺伝性パーキンソン病や進行性核上性麻痺、MAPT変異を伴う前頭側頭葉変性症などが鑑別となる。病初期においては孤発性パーキンソン病と鑑別が困難な症例も存在する1,3)。垂直性眼球運動障害を呈するペリー症候群患者の症例もあり、進行性核上性麻痺との鑑別が必要である1)。わが国から、MAPT変異を伴う前頭側頭葉変性症患者で、ペリー症候群患者でみられる4徴候を呈した症例が報告されたが、剖検脳ではTDP-43病理はみられなかった6)。■ 診断基準筆者らは診断基準を作成した1)。作成した診断基準を次に示す。確実例は、(1)パーキンソニズムとパーキンソニズムの家族歴または中枢性の低換気や無呼吸の家族歴を伴い、DCTN1遺伝子変異を認める症例、(2)ペリー症候群の4徴候を認め、DCTN1遺伝子変異を認める症例、(3)ペリー症候群の4徴候を認め、神経病理学的検討で黒質の神経細胞死とTDP-43病理を認める症例である。ただし、DCTN1遺伝子変異以外の遺伝子変異がみられる場合は、黒質の神経細胞死とTDP-43病理を認めること、神経病理で他の神経変性疾患に特徴的な所見がみられた場合は、DCTN1遺伝子変異を検出する必要がある。ペリー症候群診断基準1)(A 症状)(主要症状(家族歴を含む)1)パーキンソニズム(動作緩慢、筋強剛、姿勢時振戦を含む振戦、姿勢保持障害のうち2つ以上の症状)2)うつまたはアパシー3)低換気や無呼吸などの呼吸障害(心疾患や呼吸器疾患に伴わない症状)4)原因不明の体重減少5)パーキンソニズムの家族歴または中枢性の低換気や無呼吸の家族歴支持症状1)5年以内の急速な症状の進行2)50歳未満の発症B 検査項目(遺伝子変異および病理所見)1)DCTN1遺伝子変異2)神経病理学的検討で黒質の神経細胞死とTDP-43病理(主に脳幹や基底核の神経細胞質内のTDP-43陽性の凝集体、神経細胞核やグリア細胞にTDP-43陽性凝集体が認められる)C 参考項目症状1)認知機能障害2)前頭葉症状3)眼球運動障害(垂直性の眼球運動制限など)4)自律神経障害5)睡眠障害検査所見1)頭部MRI/CTは正常もしくは前頭側頭葉の萎縮2)脳ドパミントランスポーターシンチグラフィで線条体への取り込み低下3)MIBG心筋シンチグラフィーで心筋への取り込み低下4)脳血流シンチグラフィーで前頭側頭葉の血流低下D 鑑別診断パーキンソン病、進行性核上性麻痺、MAPT変異を伴う前頭側頭葉変性症など<診断のカテゴリー>・確実1)主要症状の1)パーキンソニズムと5)パーキンソニズムの家族歴または中枢性の低換気や無呼吸の家族歴を伴い、検査項目の1)DCTN1遺伝子変異を認めること。2)主要症状の1)パーキンソニズム、2)うつまたはアパシー、3)低換気や無呼吸などの呼吸障害、4)原因不明の体重減少を伴い、検査項目の1)DCTN1遺伝子変異を認めるか、2)神経病理学的検討で黒質の神経細胞死とTDP-43病理を認めること。※DCTN1遺伝子変異以外の遺伝子変異もしくは神経病理で他の神経変性疾患に特徴的な所見がみられた場合は、検査項目の1)DCTN1遺伝子変異を認めるか、2)神経病理学的検討で黒質の神経細胞死とTDP-43病理を認めることの両方の基準を満たす必要がある。・ほぼ確実主要症状のすべての項目を満たす。・可能性がある主要症状の1)パーキンソニズムと5)パーキンソニズムの家族歴または中枢性の低換気や無呼吸の家族歴を伴い、支持症状の1)5年以内の急速な症状の進行または2)50歳未満の発症を認めること。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)L-dopa治療効果はほぼ全例にみられるが、孤発性パーキンソン病と比較して効果は乏しく、早期に運動合併症がみられる。孤発性パーキンソン病と同様にpundingや衝動制御障害の報告もある1)。うつに対して抗うつ薬などの薬物療法が考慮されるが効果は乏しい1)。中枢性呼吸障害に対しては、人工呼吸器管理が必要である。ペリー症候群患者で横隔膜ペーシングを導入した報告があり1)、人工呼吸器装着を回避できる画期的な治療法となる可能性がある。4 今後の展望ペリー症候群はパーキンソニズム、うつ・アパシー、原因不明の体重減少、中枢性呼吸障害の4徴候がみられ、DCTN1遺伝子が原因遺伝子で、病理学的にはTDP-43プロテイノパチーに分類される。筆者らは前述のようにペリー症候群の診断基準を作成し、臨床、病理、遺伝学的疾患概念としてペリー病への名称変更を提唱した1)。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター ペリー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Mishima T,et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2018;89:482-487.2)Mishima T, et al. J Neuropathol Exp Neurol. 2017;76:676-682.3)Araki E, et al. Mov Disord. 2014;29:1201-1204.4)Wider C, et al. Parkinsonism Relat Disord. 2009;15:281-286.5)Tsuboi Y, et al. Acta Neuropathol. 2008;115:263-268.6)Omoto M, et al. Neurology. 2012;78:762-764.公開履歴初回2018年07月24日

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気管切開の事故防止に向け提言 医療安全調査機構

 気管切開チューブ挿入患者のケアには常に注意を要するが、とくに気管切開術後早期*のチューブ交換時に、再挿入が困難になるリスクが高いことから、日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)では、この時期のチューブ逸脱・迷入による事故防止のための提言(医療事故の再発防止に向けた提言 第4号)を公表している(6月5日)。逸脱を防ぐための移動・体位変換時の注意事項や、逸脱・迷入が生じてしまったときの具体的対応などについて、以下の7つの提言が示された。*本提言では、気管切開孔が安定するまでの時期とし、気管切開術当日からおよそ2 週間程度と定義。そのうえで、「術後 2 週間を過ぎれば生じないということではない」と注意喚起している。 提言1(リスクの把握):気管切開術後早期(およそ 2 週間程度)は、気管切開チューブの逸脱・迷入により生命の危険に陥りやすいことをすべての医療従事者が認識する。 提言2 (気管切開術):待機的気管切開術は、急変対応可能な環境で、気管切開チューブ逸脱・迷入に関する患者ごとの危険性を考慮した方法で実施する。 提言3(気管切開チューブ逸脱に注意した患者移動・体位変換):気管切開術後早期の患者移動や体位変換は、気管切開チューブに直接張力がかかる人工呼吸器回路や接続器具を可能な限り外して実施する。 提言4 (気管切開チューブ逸脱の察知・確認):「カフが見える」「呼吸状態の異常」「人工呼吸器の作動異常」を認めた場合は、気管切開チューブ逸脱・迷入を疑い、吸引カテーテルの挿入などで、気管切開チューブが気管内に留置されているかどうかを確認する。 提言5 (気管切開チューブ逸脱・迷入が生じたときの対応)気管切開術後早期に気管切開チューブ逸脱・迷入が生じた場合は、気管切開孔からの再挿入に固執せず、経口でのバッグバルブマスクによる換気や経口挿管に切り替える。 提言6 (気管切開チューブの交換時期):気管切開術後早期の気管切開チューブ交換は、気管切開チューブの閉塞やカフの損傷などが生じていなければ、気管切開孔が安定するまで避けることが望ましい。 提言7(院内体制の整備):気管切開術後早期の患者管理および気管切開チューブ逸脱・迷入時の具体的な対応策を整備し、安全教育を推進する。 この提言は、医療事故調査制度のもと収集した院内調査結果報告書を整理・分析し、再発防止策としてまとめているもの。これまでに「中心静脈穿刺合併症」、「急性肺血栓塞栓症」、「注射剤によるアナフィラキシー」をテーマとした各号が公表されている。 今回の第4号では、同制度開始の2015年10月から2018年2 月までの期間に、同機構に提出された院内調査結果報告書607件のうち、「気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例」」として報告された5事例を分析。“死亡に至ることを回避する”という視点で、同様の事象の再発防止を目的としてまとめられている。■参考日本医療安全調査機構:医療事故の再発防止に向けた提言 第4号■関連記事注射剤のアナフィラキシーについて提言 医療安全調査機構中心静脈穿刺の事故防止に向けて提言公表 医療安全調査機構

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第5回 地域連携室とつながっています【はらこしなみの在宅訪問日誌】

在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。担当ケアマネがいない方への訪問指示をもらう先日から、A病院受診の方と契約し訪問しています。要支援ですが、介護サービスを利用していないため、担当ケアマネさんがいません。高齢者専用住宅に入居されており、そこのスタッフさんから相談がありました。息子さんは医薬業界の方だとか・・じいちゃん、お薬は持ってきてもらえるんだよ!と言われたそうです。A病院には地域連携室があり、そちらに連絡するとスムーズに話が進みました。月1回診療情報提供書をもらうこと、報告書の送付は直接医師に、などとともに医師の訪問指示を確認。薬局の書式を見たい、と言われたので「診療情報提供書・訪問依頼書」をFAXしました。人工呼吸器と腸ろうのALS患者さんを担当します話は変わって...。ALSの患者さんが自宅に戻る方向で調整が進んでいます。お薬をお届けする予定です。人工呼吸器を装着し、腸ろう...なかなか目にすることがありません。誤解を恐れずに言えば、とっても不安です...!!病院主催の緩和ケア勉強会で、この患者さんの話になりました。専門用語が飛び交う中、訪問看護師さんが「人工呼吸器を扱ったことがないので...」と発言し、(わたしもです!)と心の中で叫びました。「じゃ、勉強会したら?」と先生。勉強会への参加をお願いしました。気管切開の方を訪問しています訪問しているBさんは気管切開し、カニューレを装着しています。スピーチバルブを装着して喉のふるえで、音にします。私は全然聞き取れません(涙)Cさんも気管切開されており、訪問看護師さんがカニューレ交換をされますが、うぐぐ~ごぼ、ヒュー、ズボッ...。ゴメンナサイ、怖くて見ていられませんでした(涙)

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医師の政治信条、終末期治療に影響を及ぼすか/BMJ

 米国では、医師の政党支持は、全国規模の医療施策に関する見解の違いと関連することが知られている。米国・ハーバード大学医学大学院のAnupam B. Jena氏らは、医師の政党支持と入院患者への終末期治療の関連を検討し、支持政党の違いは終末期の支出や強化終末期治療の施行状況などに影響を及ぼさないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2018年4月11日号に掲載された。医師の政党支持は、二極化した医療上の争点を反映した仮想的な臨床シナリオにおいて、治療の推奨と関連するとの報告があるが、医師の政治信条の終末期の治療への影響は、これまで知られていないという。支持政党別の終末期治療の違いを後ろ向きに検討 研究グループは、メディケア加入の入院患者への内科医による終末期治療を、支持政党別(共和党、民主党)に後ろ向きに比較する観察研究を行った(外部からの助成は受けていない)。 2008~12年の期間に、一般的な病態で入院し、その後病院で、または退院後早期に死亡したメディケア加入者のデータを収集した。 病院で死亡した患者および退院後にホスピスを紹介されたが30日以内の死亡リスクが高いと予測された患者における、総入院費、集中治療室の使用、強化終末期治療(挿管・人工呼吸器装着、気管切開、胃瘻管挿入、血液透析、経腸栄養、心肺蘇生)を主要アウトカムとした。医師は、連邦政治献金データを用いて共和党支持、民主党支持、支持政党なしに分類された。 解析の対象となった148万808例のうち、9万3,976例(6.3%)が1,523人の民主党を支持する医師に、5万8,876例(4.0%)が768人の共和党支持の医師に、132万7,956例(89.6%)は2万3,627人の支持政党なしの医師による治療を受けた。 5万1,621例(3.5%)が病院で死亡した。退院後30日、60日、90日以内の死亡は、それぞれ14万8,457例(10.0%)、21万1,604例(14.3%)、25万4,856例(17.2%)だった。早期死亡リスクの高い患者のホスピス入所率にも差はない 患者の人口統計学的および臨床的な背景因子は3群間でほぼ同様であった。平均年齢は、民主党支持の医師の治療を受けた患者が74.4歳、共和党支持の医師の治療を受けた患者は75.3歳(p=0.002)で、女性がそれぞれ58.8%、60.2%(p=0.002)、白人が80.1%、83.3%(p=0.002)であり、主な慢性疾患では高血圧が89.2%、90.2%(p=0.002)、急性心筋梗塞が68%、69.4%(p=0.03)などと有意な差がみられたものの、その差はわずかであり、一定の方向性もないため、重大な交絡因子となる可能性はないと考えられた。 民主党支持の医師は共和党支持の医師に比べ、平均年齢が若く(48.8 vs.51.0歳、p<0.001)、女性が多く(24.6 vs.14.7%、p<0.001)、米国の医学校の上位20校の卒業生が多かった(14.8 vs.6.4%、p<0.001)。支持政党なしの医師は、支持政党ありの医師に比べ平均年齢が若く(43.0歳、p<0.001)、女性が多く(36.8%、p<0.001)、上位20校の卒業生が少なかった(5.7%、p<0.001)。 患者の共変量と病院別の固定効果で調整後の終末期の平均支出は、民主党支持の医師が1万7,938ドル(1万2,872ポンド、1万4,612ユーロ、95%信頼区間[CI]:1万7,176~1万8,700ドル)、共和党支持の医師は1万8,409ドル(95%CI:1万7,362~1万9,456)であり、補正後群間差は472ドル(95%CI:-803~1,747ドル、p=0.47)と、有意な差は認めなかった。 病院で死亡した患者における終末期の集中治療室の使用(民主党支持の医師:52.5% vs.共和党支持の医師:54.6%、p=0.22)および強化終末期治療(38.0 vs.40.6%、p=0.14)には、医師の支持政党の違いによる差はみられなかった。 退院後にホスピスに入所した患者の割合にも、医師の支持政党による差はなかった。たとえば、退院後30日以内の予測死亡リスクが高い上位5%の患者7万4,048例の補正後ホスピス入所率は、民主党支持の医師の患者が15.8%、共和党支持の医師の患者が15.0%、支持政党なしの医師の患者は15.2%であった(民主党支持と共和党支持の補正後群間差:-0.8%、95%CI:−2.7~0.9%、p=0.43)。 著者は、「医師の政治的な好みによる、外来患者や、医療に関する政治的議論のある他の領域への影響を理解するために、さらなる検討を要する」としている。

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まず冷静にエビデンスを求める(解説:野間重孝 氏)-842

 わが国の救命救急士制度は米国の制度に倣う形で1991年に創設された。このモデルとされた米国のパラメディックには気管挿管が認められていたが、わが国では主として麻酔科学会の強い反対から許可されず、救命救急士は点滴、除細動、器具を使った気道確保だけが許可される形でスタートした。 ところが2001年に報道されたニュースにより、救命救急士の業務に対して大きな議論が巻き起こることになった。秋田県の消防では救命救急士が日常的に気管挿管を行っており、しかもそれが秋田県の消防の組織ぐるみの行為であることが明らかになったからだ。この問題の根は深く、その後の調査で、1996年から6年間にわたり、14の消防本部で心肺停止患者2,007人の8割、1,592人に気管挿管が行われていたことが明らかになるに至った。結局この問題はさまざまな議論の末、世論に押される形で2004年に「全身麻酔の臨床30例以上の成功」という条件付きで救命救急士の気管挿管が許可されることとなり、現在に至っている。 心肺停止患者蘇生時の気管挿管は、しばしば問題になる嘔吐への対応を容易にするだけでなく、心臓マッサージとの同期に必要以上気を使う必要もない。つまり、きちんと挿管されさえすれば、その後の作業がやりやすいのである。しかし同時に、これは救命救急士だけではなく医師も含めて、設備の整わない慌ただしい環境下での気管挿管には常に危険がつきまとうことも事実である。食道挿管や片肺挿管となっていて長時間気づかれなかったなどという、通常の臨床現場ではあり得ないような事故も決して珍しくはない。 この論文評を上記のような社会問題から書き起こしたが、このような救急処置の問題を論ずる場合には救命救急士がどうといった、「誰が」が問題なのではなく、エビデンスが問題なのであって、エビデンスがないならば医師でも行うべきではないという議論の方向こそ“まともな”議論の方向なのではないかと思うのである。評者には今世紀はじまりの一連の議論は、エビデンスがはっきりしないままの感情論であった気がしてならない(実は救急医学会では「気管挿管には救命率向上のエビデンスがない」という議論がむしろ主流だったともいわれる…)。 本論文の主旨はきわめて単純である。院外心肺停止患者約2,000例を対象として、バックマスクにより人工呼吸を行った場合と気管挿管を行った場合とで、28日後に神経学的な生存率を比較したもので、少なくとも気管挿管に優位性は見られなかったと結論したものである。研究の対象から統計学的に複雑な問題は発生しようがなく、著者らは謙虚に研究の限界を提示してはいるが、結果は明らかであろう。気管挿管にその後の操作上のメリットがあることは確かであるにせよ、たまたまきわめて気管挿管に熟練した術者が居合わせたといったまれなケースを例外として、心肺蘇生時の人工呼吸はバッグマスクで行うことが適当で、それが“医師であろうと救命救急士であろうと”原則無理な挿管は試みるべきではない、というのが結論であり、現場へのメッセージである。同時に、議論を蒸し返すようだが、エビデンスのない感情論には意味がないことを言外に教授したものといえる。 何か問題が起こったら頭を冷やして、冷静にエビデンスを求める。この当たり前のことを当たり前にやってみせた論文として、高く評価したい。

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敗血症性ショック、ステロイド2剤併用で死亡率低下/NEJM

 敗血症性ショック患者に対する検討で、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与はプラセボ投与と比較して、90日全死因死亡率が低いことが示された。フランス・Raymond Poincare病院のDjillali Annane氏らが、1,241例を対象に行った多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を、NEJM誌2018年3月1日号で発表した。敗血症性ショックは、感染に対する宿主反応の調節不全が特徴で、循環異常、細胞異常、代謝異常を呈する。研究グループは、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンによる治療、または活性型drotrecogin αによる治療は、宿主反応を調節可能であり、敗血症性ショック患者の臨床的アウトカムを改善する可能性があるとの仮説を立てて、検証試験を行った。昇圧薬非使用日数、人工呼吸器非装着日数なども比較 試験は2×2要因デザインにて、集中治療室(ICU)の入院患者で、24時間未満に敗血症性ショックと診断された患者(疑い例含む)を対象に行われた。 対象患者を無作為に分け、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン療法、活性型drotrecogin α単独療法、これら3剤の併用療法、各療法に適合させたプラセボを投与した。 主要評価項目は、90日全死因死亡率。副次的評価項目は、ICU退室時および退院時、28日時点、180日時点の各時点における死亡率と、生存日数、昇圧薬非使用日数、人工呼吸器非装着日数、臓器不全の非発生日数とした。 同試験は、中途で活性型drotrecogin αが市場から撤退したため、その後は2群並行デザインで継続した。ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン療法を行った群と、両薬を投与しなかったプラセボ群について比較分析した。ICU退室時死亡率・退院時死亡率は約6ポイント減少 試験に組み入れた被験者1,241例(ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群614例、プラセボ群627例)において、90日死亡率は、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群が43.0%に対し、プラセボ群は49.1%と高率だった(p=0.03)。ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群の死亡に関する相対リスクは、0.88(95%信頼区間[CI]:0.78~0.99)だった。 また、ICU退室時死亡率も、プラセボ群41.0%に対しヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群は35.4%(p=0.04)、退院時死亡率はそれぞれ45.3%と39.0%(p=0.02)、180日死亡率は52.5%と46.6%(p=0.04)で、いずれもヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群が有意に低率だった。一方で28日死亡率については、38.9%、33.7%と、両群で有意差はなかった(p=0.06)。 28日目までの昇圧薬非使用日数は、プラセボ群が15日に対しヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群は17日(p<0.001)、臓器不全非発生日数もそれぞれ12日、14日で(p=0.003)、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群で有意に長かった。一方で人工呼吸器非装着日数は、それぞれ10日、11日と両群間で差はなかった(p=0.07)。 重篤有害事象の発生頻度は両群で同程度だったが、高血糖症の発生頻度がヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン群で高かった。

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敗血症性ショックに対するグルココルチコイドの投与:長い議論の転機となるか(解説:吉田 敦 氏)-813

 敗血症性ショックにおいてグルココルチコイドの投与が有効であるかについては、長い間議論が続いてきた。グルココルチコイドの種類・量・投与法のみならず、何をもって有効とするかなど、介入と評価法についてもばらつきがあり、一方でこのような重症病態での副腎機能の評価について限界があったことも根底にある。今回大規模なランダム化比較試験が行われ、その結果が報告された。 オーストラリア、英国、ニュージーランド、サウジアラビア、デンマークのICUに敗血症性ショックで入室し、人工呼吸器管理を受けた18歳以上の患者3,800例を、無作為にヒドロコルチゾン(200mg/日)投与群とプラセボ投与群とに割り付けた。この際、SIRSの基準を2項目以上満たすこと、昇圧薬ないし変力作用のある薬剤を4時間以上投与されたことを条件とした。ヒドロコルチゾンは200mgを24時間以上かけて持続静注し、最長で7日間あるいはICU退室ないしは死亡までの投与とした。ランダム化から90日までの死亡をプライマリーアウトカム、さらに28日までの死亡、ショックの再発、ICU入室期間、入院期間、人工呼吸器管理の回数と期間、腎代替療法の回数と期間、新規の菌血症・真菌血症発症、ICUでの輸血をセカンダリーアウトカムとし、原疾患による死亡は除いた。 患者の平均年齢は約62歳、外科手術が行われた後に入室した患者は約31%、感染巣は肺(35%)、腹部(25%)、血液(7%)、皮膚軟部組織(7%)、尿路(7%)の順であり、介入前の基礎パラメーターや各検査値に2群間で差はなかった。なおショック発症からランダム化までは平均約20時間、ランダム化から薬剤投与開始までは0.8時間(中央値)であり、ヒドロコルチゾンの投与期間は5.1日(中央値)であった。 まずプライマリーアウトカムとしての90日死亡率は、ヒドロコルチゾン投与群では27.9%(1,832例中511例)、プラセボ投与群では28.8%(1,826例中526例)であり、有意差はなかった。次いでセカンダリーアウトカムでは、ショックから回復するまでの期間も、ICU退室までの期間も、さらに1回目の人工呼吸器管理の期間もヒドロコルチゾン投与群で有意に短かった(それぞれ3日と4日、p<0.001、10日と12日、p<0.001、6日と7日、p<0.001)。ただし再度人工呼吸器管理が必要な患者もおり、人工呼吸器を要しなかった期間としてみると差はなかった。輸血を要した割合も前者で少なかったが(37.0%と41.7%、p=0.004)、その他、28日死亡率やショックの再発率、退院までの日数、ICU退室後の生存期間、人工呼吸器管理の再導入率、腎代替療法の施行率・期間、菌血症・真菌血症発生率に差はなかった。 これまでの検討では、グルココルチコイドは高用量よりは低用量のほうが成績がよかったものの、二重盲検ランダム化比較試験では一致した結果が得られなかった1,2)。現行のガイドラインでも“十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態の安定が得られない例”に対し、エビデンスが弱い推奨として記載されている3)。本検討は、上記のランダム化比較試験よりも症例数がかなり増えているのが特徴であり、2群で比較が可能であった項目も多い。したがって、グルココルチコイド投与の目的—改善を目指す指標—をより詳しく評価できたともいえる。一方で21例対6例と少数ではあるが、グルココルチコイド群で副作用が多く、中にはミオパチーなど重症例も存在した。グルココルチコイドとの相関の可能性を含んで、この結果は解釈したほうがよいであろう。本検討は、これまでの議論の転機となり、マネジメントや指針の再考につながるであろうか。これからの動向に注目したい。

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