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術後オピオイド、退院後の疼痛への有効性は?/Lancet

 手術後の退院時におけるオピオイドの処方は、オピオイドを使用しない鎮痛レジメンと比較して、退院後の疼痛の強度を軽減しない可能性が高く、嘔吐などの有害事象の有意な増加をもたらすことが、カナダ・マギル大学のJulio F. Fiore Jr氏らの調査で示された。研究の詳細はLancet誌2022年6月18日号に掲載された。退院後の疼痛強度、有害事象をメタ解析で評価 研究グループは、退院時のオピオイド処方が自己申告による疼痛の強度や有害事象にどの程度の影響を及ぼすかを評価する目的で、無作為化臨床試験の系統的レビューとメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]の助成を受けた)。 1990年1月1日~2021年7月8日の期間にデータベース(MEDLINE、Embase、the Cochrane Library、Scopus、AMED、Biosis、CINAHL)に登録された文献が検索された。 対象は、Physiological and Operative Severity Score for the Enumeration of Mortality and Morbidity(POSSUM)の定義(小手術、中手術、大手術、複雑な大手術)に基づく手術手技を受けた後に退院した年齢15歳以上の患者において、オピオイドを用いた鎮痛とこれを使用しない鎮痛を比較した複数回投与の無作為化対照比較試験とされた。 主要アウトカムは、退院後1日目における自己申告による疼痛強度(0~10cmの視覚アナログ尺度[VAS]で標準化)と、30日以内の嘔吐とされた。変量効果によるメタ解析が行われ、エビデンスの確実性が評価された。不満足度、再受診などには影響がない 47件の試験(合計6,607例、女性59%、平均年齢の範囲21~63歳)が解析の対象となり、36件が退院後1日目の疼痛強度の評価を、12件が手術後の嘔吐のリスクの評価を行っていた。25件(53%)は北米、11件(23%)は欧州の試験であり、30件(64%)は待機的な小手術(63%が歯科)、17件(36%)は中手術(47%が整形外科、29%が一般外科)の試験であった。企業による資金提供を受けた試験が10件(21%)含まれた。フォローアップ期間中央値は7日(IQR:4.25~10.0)だった。 オピオイドの処方は非オピオイド鎮痛薬に比べて、退院後1日目の疼痛を軽減しなかった(加重平均差:0.01cm、95%信頼区間[CI]:-0.26~0.27、エビデンスの確実性:中程度)。この95%CI値は、最小重要差(MID:患者が重要と認識する最小のスコアの変化で、VASの10cmのうち1cmの変化に相当)の閾値の範囲内であり、オピオイドが手術後の疼痛緩和に及ぼす効果が臨床的に意義のある可能性はほとんどないと示唆された。1日目以外の手術後の経過日においても、オピオイドによる疼痛緩和効果は認められなかった。 また、オピオイドの処方は、嘔吐のリスクを増大させた(発生率:10.9% vs.1.3%、相対リスク:4.50、95%CI:1.93~10.51、エビデンスの確実性:高い)。さらに、オピオイド処方により、有害事象全体のリスクが有意に増加(相対リスク:1.78、95%CI:1.20~2.66、エビデンスの確実性:低い)するとともに、吐き気(2.37、1.59~3.55、高い)、便秘(1.63、1.04~2.57、高い)、めまい(2.22、1.20~4.08、高い)、眠気(1.57、1.02~2.42、中程度)のリスクも増加した。 一方、オピオイドの処方は、そのほかのアウトカム(疼痛管理の不満足度、患者転帰[有害事象または治療無効による試験中止]、医療の再利用[再受診]、そう痒、頭痛、錯乱、下痢など)には影響しなかった。 著者は、「これらのエビデンスは、待機的な小手術(歯科、手の処置など)や中手術(低侵襲の整形外科手術、一般外科手術など)を中心とする試験に依拠しており、このような外科的処置ではオピオイドを使用しない鎮痛薬の処方を考慮してよいことが示唆される。また、大手術(肺、腸、肝臓の切除など)または複雑な大手術(胸腹部手術、多臓器切除など)を受け、退院時にオピオイドを含まない鎮痛薬が処方された患者について検討した試験はなく、データの多くがバイアスのリスクが高い試験から得られたものであった。これらの限界を考慮すると、この分野の研究の質を向上させ、領域を広げることがきわめて重要である」としている。

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糖尿病患者の便秘が冠動脈疾患に独立して関連―江戸川病院

 2型糖尿病患者の便秘が、冠動脈疾患と独立した関連のあることが報告された。江戸川病院糖尿病・代謝・腎臓内科の伊藤裕之氏らの研究結果であり、詳細は「Internal Medicine」に5月1日掲載された。 糖尿病患者は合併症の自律神経障害などの影響のために、便秘になりやすいことが知られている。ただし、糖尿病の有無にかかわらず便秘はありふれた症状であり、治療を受けていない患者が多く、疫学的な調査があまり行われていない。最近まで便秘の統一された診断基準がなかったことも、疫学データが少ない一因と考えられる。これらを背景として伊藤氏らは、同院の2型糖尿病患者を対象に便秘の有病率や関連因子を検討した。 対象は2019年8~9月に同院糖尿病外来を受診し、調査協力に同意した2型糖尿病患者410人。抗がん剤治療や緩和ケアを受けている患者、消化器がんの手術が予定されている患者、および炎症性腸疾患や認知症のある患者は除外されている。なお、消化器がんに対する内視鏡的粘膜切除術の既往者は対象に含まれている。対象者の主な特徴は、平均年齢66±12歳、女性42%、BMI25.8±4.4kg/m2、糖尿病罹病期間14±10年、HbA1c7.3±1.0%、インスリン療法27%、糖尿病性神経障害38%、冠動脈疾患13%など。 便秘の有病率は患者自身の判断と、「慢性便秘症診療ガイドライン2017」の定義に基づく診断の2通りで検討した。前者の自己判断による便秘の有病率は29%だった。ただし、便秘を医師に相談したことのある患者は14%に過ぎず、症状のある患者の半数未満だった。 ガイドラインに基づく診断では26%が慢性便秘に該当し、これに「普段から下剤を使用している」と回答した患者を加えると、有病率は36%(146人)になった。なお、自己判断で「便秘でない」と回答した患者の中にも、慢性便秘の診断基準を満たす患者が8%存在した。一方、自己判断で「便秘である」と回答した患者の32%は、診断基準を満たしていなかった。 便秘のある群は便秘でない群(264人)に比べて、高齢で女性が多く、糖尿病罹病期間が長く、それぞれ有意差が存在した。また、インスリンやスタチンが処方されている患者が多く、糖尿病性神経障害や冠動脈疾患の有病率が高いという有意差が見られた。一方、BMIは便秘のある群の方が有意に低値だった。HbA1cは有意差がなかった。 多変量ロジスティック回帰分析の結果、冠動脈疾患は便秘に独立して関連していることが明らかになった〔オッズ比(OR)2.00(95%信頼区間1.14~3.52)〕。冠動脈疾患以外の関連因子としては、インスリン療法〔OR1.80(同1.11~2.94)〕、女性〔OR1.73(同1.09~2.37)〕、糖尿病性神経障害〔OR1.60(同1.01~2.52)〕が抽出された。反対にBMIとは負の関連が認められた〔OR0.94(同0.89~1.00)〕。 糖尿病患者は冠動脈疾患のリスクが高い。今回の研究で、糖尿病患者の冠動脈疾患と便秘との間に有意な関連のあることが明らかになった。著者らは、「便秘は有病率の高い症状であるため、日常診療で注意が払われることが少ない。しかし、冠動脈疾患のリスク評価のために、糖尿病患者の便秘を積極的に診断することが望ましい」と結論付けている。

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I型SMAに対するエブリスディ:3年間の新たな成績

 第63回日本神経学会学術大会にて、症候性I型脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)の乳児を対象にエブリスディの有効性および安全性を検討した、FIREFIS試験の3年間の新たな成績が発表された。 SMAは、脊髄の運動神経細胞が選択的に障害されることによって、体幹や手足の近位部優位の筋力低下や筋萎縮などの症状が現れる。新生児~乳児期(生後0~6ヵ月)に発症するI型は重症型で、一人で坐位を保つことができず、無治療の場合は、1歳までに呼吸筋の筋力低下による呼吸不全の症状をきたす。また、治療をせず、人工呼吸器の管理を行わない状態では、90%以上が2歳までに死亡する。 今回発表されたFIREFISH試験は、I型SMAの乳児(登録時点で月齢1~7ヵ月)を対象にエブリスディの有効性と安全性を評価している。試験は用量設定パートと用量設定パートで選択された用量の安全性有効性評価パートの2パートで構成されている。プールされた母集団には承認用量を3年以上投与した乳児が含まれている。今回の長期成績は、非盲検継続投与期間1年間の成績を含む、3年間の成績である。エブリスディを投与した乳児のうち推定91%が3年後に生存していた。また、BSID-III(Bayley Scales of Infant and Toddler Development - Third Edition)の粗大運動スケールの評価で、エブリスディを投与した評価可能な乳児48名のうち32名で、24ヵ月目以降、支えなしで座位を少なくとも5秒間保持する能力を乳児が維持していた。さらに、4名が新たにその能力を獲得した。嚥下能力に関しても、エブリスディを投与した乳児のほとんどが、36ヵ月目まで経口摂取と嚥下の能力を維持していた。 主な有害事象は、発熱(60%)、上気道感染(57%)、肺炎(43%)、便秘(26%)、鼻咽頭炎(24%)、下痢(21%)、鼻炎(19%)、嘔吐(19%)および咳嗽(17%)。主な重篤な有害事象は、肺炎(36%)、呼吸窮迫(10%)、ウイルス性肺炎(9%)、急性呼吸不全(5%)および呼吸不全(5%)であった。肺炎を含む有害事象の発現および重篤な有害事象の発現は経時的に低下し、12ヵ月の投与期間毎に約50%ずつ減少し、投与開始1年目から3年目の間に78%減少していた。全体として、有害事象および重篤な有害事象は基礎疾患を反映したものであり、休薬や投与中止に至った薬剤関連の有害事象は認められなかった。 今後の展開について、FIREFISH試験の5年間の追跡と並行して、リアルワールドデータを集める臨床研究も立ち上がっている。

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免疫療法薬で筋層浸潤性尿路上皮がんの再発率を低減

 尿路上皮がんの外科手術後に免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボ(一般名ニボルマブ)による免疫療法を行うことで、腫瘍の再発リスクを有意に低減できることが、第3相臨床試験で示された。筋層への浸潤が生じている尿路上皮がんの患者約700人のうち、オプジーボの投与を受けた群ではプラセボ群に比べて、治療後11カ月間での再発リスクが低いことが明らかになったという。米マウントサイナイ・アイカーン医科大学、ティッシュがん研究所のMatthew Galsky氏らが実施したこの研究の結果は、米国泌尿器科学会議(AUA 2022、5月13〜16日、米ニューオーリンズ)で発表された。 今回発表された生存率データは、Galsky氏らが2021年に「The New England Journal of Medicine」で発表した初回データに基づくもの。免疫細胞の一つであるT細胞は、活性化すると細胞表面にPD-1を発現する。一方、がん細胞表面に発現したPD-L1やPD-L2は、PD-1と結合することでT細胞にブレーキをかけて、その働きを抑制する。オプジーボはPD-1に結合してPD-L1やPD-L2とPD-1との結合を阻害し、T細胞の活性化を維持するもので、通常は週に数回、1年間にわたって投与する。 Galsky氏らは、根治手術を受けた筋層浸潤性尿路上皮がん患者を、オプジーボ(240mg)を2週間ごとに最長1年にわたって投与する群(353人)と、プラセボを投与する群(356人)にランダムに割り付ける臨床試験を実施。主要評価項目は、全対象者およびPD-L1発現率が1%以上の患者(オプジーボ群140人、プラセボ群142人)における無病生存率とした。 その結果、試験開始から12カ月時点での無病生存率は、オプジーボ群で63.5%、プラセボ群で46.9%であった。また、PD-L1発現率が1%以上の患者の12カ月時点での無病生存率は、オプジーボ群で67.6%、プラセボ群で46.3%であり、いずれの場合でも無病生存率はオプジーボ群の方がプラセボ群よりも高かった。 Galsky氏は、「尿路上皮がんの患者の治療において無病生存率の有意な向上を示したのは、この免疫療法が初めてだ」と述べる。その上で、「この治療法の重要性をより強固なものとするには、長期間追跡しても一貫した結果となることを示すことが極めて重要だ」と話している。 尿路上皮がんは尿路(腎盂、尿管、膀胱、尿道)の内壁に発生するがんで、発生部位により膀胱がんや尿管がんなどに分けられる。米食品医薬品局(FDA)は、尿路上皮がんの術後補助療法としてオプジーボを承認しており、保険適用の対象となっている。尿路上皮がんが筋層やリンパ節に浸潤している場合には、膀胱、または腎臓と尿管を摘出する手術が標準治療となっている。しかし、このような患者の約半数が、致死的な転移がんを再発するという。 米ノースウェル・ヘルスがん研究所のXinhua Zhu氏によると、オプジーボに対する患者の忍容性は良好であり、副作用として悪心、便秘、貧血などが生じるが、いずれも軽症で容易に治療できるという。同氏は、「私の経験から言うと、免疫療法は従来の化学療法に比べてはるかに忍容性が高い」と述べるとともに、「今回の研究は、オプジーボの長期的なベネフィットを初めて示したものだ」と付け加えている。 さらにZhu氏は、「尿路上皮がん患者の半数で再発が起きるというのは、割合としては相当高く、このがんの悪性度の高さを示している。このがんを除去したり再発を遅らせたりできるのであれば、患者に極めて大きな恩恵をもたらすことになる」と述べている。

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モビコール配合内用剤HD新発売、モビコール配合内用剤LDとの違いは?

 EAファーマ、エーザイ、持田製薬は2022年5月20日、慢性便秘症治療薬「モビコール配合内用剤HD」(以下、モビコールHD)を新発売したことを発表した。 モビコールHDは、慢性便秘症治療薬「モビコール配合内用剤LD」(以下、モビコールLD)の2倍量が1包に包装されている高用量製剤だ。そのためモビコールLDを2包単位で使用する患者にとって、アルミ袋の開封操作の手間や経済的負担の軽減、廃棄物の削減が期待できる。 モビコールLDおよびモビコールHD(両規格あわせて以下、本剤)は、2歳以上の小児、成人で使用可能である。モビコールLDおよびモビコールHDの主成分のポリエチレングリコール(マクロゴール4000)が浸透圧効果により腸管内の水分量を増加させ、その結果、便中水分量が増加することで便が軟化、便容積が増大する。それにより、生理的に大腸の蠕動(ぜんどう)運動が活発化し、排便が促される。また、モビコールLDおよびモビコールHDは水に溶解して服用するため、適切な硬さの便がみられるまで適宜増減が可能なことも特徴だ。 便秘症は、若年層では女性に多く、高齢者では男女ともに罹患比率が高い疾患である。また小児においてはとくに重症化しやすいといわれている。排便回数の減少に加えて、残便感、硬便などの症状が認められ、慢性化することで多くの患者はQOL(生活の質)の低下に悩まされている。EAファーマ、エーザイ、持田製薬は、既存の慢性便秘症治療薬「グーフィス錠5mg」およびモビコールLDに加え、新規格のモビコールHDを販売することで、多様な病態背景を持つ慢性便秘症に対する治療選択肢を広げ、患者やその家族、医療従事者のニーズの充足とベネフィット向上に貢献していく、としている。モビコール配合内用剤LD モビコール配合内用剤HD 製品概要・製品名:モビコール配合内用剤LD、モビコール配合内用剤HD・成分名:マクロゴール4000、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム・効能・効果:慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)・用法・用量:本剤は、水で溶解して経口投与する。 通常、2歳以上7歳未満の幼児には初回用量としてモビコール配合内用剤LD(以下LD)1包を1日1回経口投与する。以降、症状に応じて適宜増減し、1日1~3回経口投与、最大投与量は1日量としてLD 4包またはモビコール配合内用剤HD(以下HD)2包まで(1回量としてLD 2包またはHD 1包まで)とする。ただし、増量は2日以上の間隔をあけて行い、増量幅は1日量としてLD 1包までとする。 通常、7歳以上12歳未満の小児には初回用量としてLD 2包またはHD 1包を1日1回経口投与する。以降、症状に応じて適宜増減し、1日1~3回経口投与、最大投与量は1日量としてLD 4包またはHD 2包まで(1回量としてLD 2包またはHD 1包まで)とする。ただし、増量は2日以上の間隔をあけて行い、増量幅は1日量としてLD 1包までとする。 通常、成人および12歳以上の小児には初回用量としてLD 2包またはHD 1包を1日1回経口投与する。以降、症状に応じて適宜増減し、1日1~3回経口投与、最大投与量は1日量としてLD 6包またはHD 3包まで(1回量としてLD 4包またはHD 2包まで)とする。ただし、増量は2日以上の間隔をあけて行い、増量幅は1日量としてLD 2包またはHD 1包までとする。 ※増量は2日以上の間隔をあけて行うこと・包装:100包・承認年月日:モビコール配合内用剤LD 2018年9月21日       モビコール配合内用剤HD 2021年1月25日・薬価基準収載日:モビコール配合内用剤LD 2018年11月20日         モビコール配合内用剤HD 2021年11月25日・薬価:モビコール配合内用剤LD 1包 75.30円    モビコール配合内用剤HD 1包 131.60円・発売日:モビコール配合内用剤LD 2018年11月29日     モビコール配合内用剤HD 2022年5月20日・製造販売元:EAファーマ株式会社・EAファーマ株式会社とのプロモーション提携:エーザイ株式会社・販売:持田製薬株式会社

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lenacapavir、多剤耐性HIV-1感染症でウイルス量が著しく減少か?/NEJM

 多剤耐性ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染症の治療において、画期的新薬(first-in-class)である長時間作用型HIV-1カプシド機能阻害薬lenacapavirはプラセボと比較して、ウイルス量のベースラインからの減少幅が格段に大きく、重篤な有害事象や有害事象による投与中止は認められないため、有望な治療選択肢となる可能性があることが、米国・ニューヨーク・プレスビテリアン・クイーンズ病院のSorana Segal-Maurer氏らが実施した「CAPELLA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年5月12日号に掲載された。11ヵ国42施設の進行中の第III相試験 CAPELLAは進行中の第III相試験で、日本を含む11ヵ国の42施設が参加し、2019年11月~2021年1月の期間に参加者の登録が行われた(米国Gilead Sciencesの助成を受けた)。 対象は、年齢12歳以上、スクリーニング前の少なくとも8週間にわたり薬物療法の失敗(HIV-1 RNA量≧400コピー/mL)が継続し、抗レトロウイルス薬の4つの主要クラス(ヌクレオシド系逆転写阻害薬、非ヌクレオシド系逆転写阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、インテグラーゼ阻害薬)のうち少なくとも3剤の投与を受け、このうち2剤以上に耐性となった患者とされた。 被験者は、スクリーニング時からコホート選択の受診時までの血漿中HIV-1 RNA量の変化によって、次の2つのコホートに分けられた。 コホート1(無作為化コホート)では、この期間のウイルス量の減少が0.5 log10コピー/mL未満(治療に反応せずウイルス血症が持続)でコホート選択受診時のHIV-1 RNA量が400コピー/mL以上の患者が、失敗した基礎治療に加え、lenacapavir(1日と2日目に600mg、8日目に300mg)を14日間で経口投与する群またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた(機能的単剤療法期)。15日以降は、維持期(52週まで)として、最適化された基礎治療とともに、lenacapavir群はlenacapavirの皮下投与が6ヵ月に1回施行され、プラセボ群はlenacapavirの経口投与ののち、皮下投与が行われた。 コホート2(非無作為化コホート)では、同期間のウイルス量の減少が0.5 log10コピー/mL以上(ウイルス血症が軽減)またはコホート選択受診時のHIV-1 RNA量が400コピー/mL未満、あるいはこれら双方の患者が、非盲検下に、全例が最適化された基礎治療とともに、1~14日にlenacapavirの経口投与を受け、その後は同薬の皮下投与が6ヵ月に1回行われた。 主要エンドポイントは、コホート1における15日までにウイルス量が0.5 log10コピー/mL以上減少した患者の割合で、主な副次的エンドポイントは26週の時点でウイルス量が50コピー/mL未満の患者の割合とされた。主要エンドポイント:88% vs.17% 72例(年齢中央値52歳[範囲:23~78]、女性25%、ウイルス量中央値4.5 log10コピー/mL[範囲:1.3~5.7])が登録され、2つのコホートに36例ずつが割り付けられ、コホート1ではlenacapavir群が24例、プラセボ群は12例であった。全体の47%が、抗レトロウイルス薬の4つの主要クラスのすべてに耐性だった。 コホート1の機能的単剤療法期に、ウイルス量が0.5 log10コピー/mL以上減少した患者の割合は、lenacapavir群が88%(21/24例)と、プラセボ群の17%(2/12例)に比べ有意に良好であった(絶対群間差:71ポイント、95%信頼区間[CI]:35~90、p<0.001)。また、15日時のウイルス量の、ベースラインからの変化の最小二乗平均(±SD)は、lenacapavir群が-2.10±0.15 log10コピー/mLであったのに対し、プラセボ群は0.07±0.22 log10コピー/mLと、大きな差が認められた(最小二乗平均群間差:-2.17、95%CI:-2.74~-1.59、p<0.001)。 26週時にウイルス量が50コピー/mL未満の患者の割合は、コホート1が81%(29/36例)、コホート2は83%(30/36例)であり、この間にCD4陽性細胞数が、最小二乗平均でそれぞれ75/mm3および104/mm3増加した。この割合は、両コホートを合わせて、女性(女性94%、男性78%)、50歳未満(50歳未満89%、50歳以上77%)、ベースラインのウイルス量が10万コピー/mL以下の患者(10万コピー/mL以下86%、10万コピー/mL超64%)で高かった。 維持期に、感受性の低下を伴うlenacapavir関連のカプシドの配列置換が8例(コホート1:4例[lenacapavir群1例、プラセボ群3例]、コホート2:4例)で発現し、このうち6例はM66I置換であった。また、lenacapavir耐性となった8例中4例は、lenacapavir投与中にHIV-1 RNA量が再び50コピー/mL未満に減少し、再び減少しなかった4例のうち2例はウイルス血症が持続し、1例は10週時に死亡し、1例は4週時に投与中止となった。 コホート1の機能的単剤療法期に、少なくとも1件の有害事象が発現した患者は、lenacapavir群が38%、プラセボ群は25%であった。この期間に、両群とも重篤な有害事象やGrade3以上の有害事象は観察されず、有害事象による投与中止も認められなかった。両コホートの統合解析では、7例で重篤な有害事象がみられたが、いずれもlenacapavirとの関連は確認されなかった。 lenacapavir関連の注射部位反応は、全体の45例(62%)で認められ、このうち腫脹が31%、疼痛が31%、紅斑が25%、結節形成が24%であった。これ以外の有害事象で頻度が高かったのは、悪心(12%)、便秘(11%)、下痢(11%)、腹部膨満(10%)だった。 著者は、「この試験は症例数が少なく、追跡期間も短いという限界があるが、多剤耐性HIV-1感染症では新たな治療選択肢が求められていることから、長期データの評価を行うために本試験は現在も進行中である」としており、未治療例を対象とする試験や高リスク例に対する予防治療の試験も進められているという。

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甘くみてはいけない便秘症と便秘のみえる化/EAファーマ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)よる「巣ごもり生活」は3年目に入った。新型コロナで依然として不自由な日常生活が続く中で、運動不足や偏った食生活により「お通じに問題あり」という人が増えているという。 EAファーマ株式会社は、中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授)を講師に迎え、便秘症がもたらすリスクとその治療の重要性について、講演を行った。コロナ禍で排便状況など半数以上が「変わった」と回答 中島氏は、「巣ごもり生活で注意すべき国民病、便秘症が招く思わぬリスクと治療の重要性」をテーマに、便秘症に関する最新の知見、排便の仕組み、便秘の原因、治療などについてレクチャーを行った。 新型コロナウイルスによる外出自粛と便秘について、あるアンケート調査によれば「排便やうんちの状態が変わった」と回答した人は半数以上にのぼった。また、近年の厚生労働省の調査では、若年層では女性に多く、70歳以上では男女ともに便秘の有訴者率が増加しており、高齢者になるほど便秘の比率が増えている1)。 そして、最近の研究では便秘症と生存率に関連があることも指摘され、とくにトイレの中で非外傷性心停止なども約10%報告され2)、高齢者では「いきむ」ことで血圧が上昇しやすいこと、排便回数が少ないと脳卒中の死亡リスクが高いこと、電解質異常が慢性腎臓病とも関連するなど生命予後に影響することが指摘されている。その一方で、「患者側にはこうした情報はあまり伝わっておらず、便秘症が軽くみられていることに問題がある」と中島氏は指摘する。排便回数だけでなく、便の形状も大事 次に排便について触れ、満足度の高い排便とは「迅速」かつ「完全」であることが大切であり、理想的な排便姿勢は前かがみに斜め35度、背筋を伸ばし腹筋にだけ力をいれ、両肘は太ももの上に置くのがよいとされている。また、足元に台など置くとより効果がある。同様に排出した便の形状も重要で、ブリストル便形状スケールで3または4の正常便(バナナ状)が望まれ、短時間(30秒程度)にすっきりとこうした便が排出されることが健康な状態となる。便秘などに「お通じホルモン」の胆汁酸が関係 現在診療で使用されている「慢性便秘症診療ガイドライン 2017」によれば、便秘症とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義している。その診断基準としては、「(排便の1/4超の頻度で)強くいきむ必要/兎糞状便または硬便である/残便感を感じる/直腸肛門の閉そく感や排便困難感/摘便などの排便介助が必要、自発的な排便回数が週に3回未満」のうち2項目以上を満たした場合を便秘症と診断する。また、慢性便秘症では、「6ヵ月以上前から症状があり、最近3ヵ月間は便秘症の基準を満たしていること」を診断基準としている。 とくに高齢者では、腸管運動に関与する神経変化や生活環境の変化などにより便秘症になりやすく、便意も鈍感になる傾向にある。そして、便滞留により便が硬化、排便困難となることで便意が低下し、さらに滞便をまねくという負のスパイラルになることが危惧されている。そのため、便秘症の治療では、大腸運動の状態、便意を確認することも重要になる。 そのほか最近の研究で便秘などに胆汁酸が関係していることが明からとなり、大腸運動や大腸の水分分泌の促進などを促す、「お通じホルモン」であることがわかってきている。実際、便秘症患者は健康な人と比較し、便中胆汁酸量が少ないことが報告されている3)。便秘症治療、刺激性下剤は頓用で使う 便秘の治療では、まず「運動、食事、排便習慣」の生活習慣改善が求められる。しかし、それでも便秘状態が改善しない場合には、緩下剤(マンナなど)、強下剤(センナなど)、強強下剤(酸化マグネシウムなど)が症状に応じて使用される。 治療の際の注意点として、酸化マグネシウムの使用につき先述のガイドラインでは、「慢性便秘症に有効としながらも、定期的なマグネシウム測定を推奨する」とし、推奨の強さは「1(強い実施推奨)」、エビデンスレベルも「A(質の高いエビデンス)」となっており、高齢者では高マグネシウム血症を来す可能性が高いとされる。 ほかにも刺激性下剤の使用について同ガイドラインでは、「慢性便秘症に有効としながらも、頓用または短期間の投与を提案する」とし、推奨の強さは「2(弱い実施推奨)」、エビデンスレベルも「B(中程度の質のエビデンス)」となっており、連用での耐性、習慣性、依存性への問題回避が記され、適正使用が求められている。便秘症の診断、最近ではエコーで直腸の実施も 最後に便秘症の診断法について触れ、通常、便秘症では直腸指診が必要とされるが、最近では腹部エコーによる直腸へのエコーで慢性便秘症の診断も実施されている(なお直腸へのエコーは保険適用外)。これにより便秘診断のみえる化や患者への最適な医療が行われつつあるという。 最後に中島氏は、「現在ではスマホサイズのポケットエコーを使用すれば、在宅や往診で診療もでき、最適な便秘治療ができる時代が到来している」と語りレクチャーを終えた。

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第28回 原因は1つとは限らない【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)検査で異常値をみつけたからといって今回の原因とは限らない。2)検査で異常が認められないからといって異常なしとは限らない。3)症状を説明し得るか、結論付ける前に再考を!【症例】81歳男性。意識障害自宅で反応が乏しいところを仕事から帰宅した息子が発見し救急要請。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧148/81mmHg脈拍92回/分(整)呼吸18回/分SpO295%(RA)体温36.1℃瞳孔4/3.5 +/+既往歴認知症、高血圧、脂質異常症、便秘、不眠内服薬ドネペジル塩酸塩、トリクロルメチアジド、アトルバスタチンカルシウム水和物、酸化マグネシウム、ゾルピデム酒石酸塩所見顔面の麻痺ははっきりしないが、左上肢の運動障害あり検査の異常が今回の原因とは限らない採血、心電図、X線、CTなどの検査を行い異常がみつかることは、よくあります。特に高齢者の場合にはその頻度は高く、むしろまったく検査に異常が認められないことの方が多いでしょう。しかし、異常を認めるからといって今回の主訴の要因かというとそんなことはありません。腎機能障害、肝機能障害、貧血、電解質異常、中には急を要する場合もありますが、症状とは関係なく検査の異常が認められることはよくあるものです。そのため、検査結果は常に病歴や身体所見、バイタルサインを考慮した結果の解釈が重要です。以前から数値や所見が変わっていなければ、基本的には今回の症状とは関係ないことが多いですよね。慢性腎臓病患者のCr、Hb、心筋梗塞の既往のある患者の心電図など、けっして正常値でありません。急性の変化か否かが、1つのポイントとなりますので、以前の検査結果と比較することを徹底しましょう。検査で異常が認められないから原因ではないとは限らないコロナ禍となり早2年が経過しました。抗原検査、PCRなど何回施行したか覚えていないほど、皆さんも検査の機会があったと思います。抗原陰性だからコロナではない、PCR陰性だからコロナではない、そんなことないことは皆さんもよく理解していると思います。頭痛患者で頭部CTが陰性だからクモ膜下出血ではない、肺炎疑い患者でX線所見陰性だから肺炎ではない、CRPが陰性だから重篤な病気は否定的、CO中毒疑い患者の一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)が正常値だからCO中毒ではないなど、例を挙げたらきりがありません。皆さんも自身で施行した検査結果で異常の1つや2つ、経験ありますよね?!原因が1つとは限らない今回の症例の原因、皆さんは何だと思いますか? もちろんこれだけでは原因の特定は難しいかもしれませんが、高齢男性の急性経過の意識障害で麻痺もあるとなると脳梗塞や脳出血などの脳卒中が考えやすいと思います。低血糖や大動脈解離、痙攣なども“stroke mimics”の代表であるため考えますが、例えばMRI検査を実施し、画像所見が光っていたらどうでしょうか? MRIで高信号な部分があるのであれば、「原因は脳梗塞で決まり」。それでよいのでしょうか?脳梗塞の病巣から症状が完全に説明できる場合にはOKですが、「この病巣で意識障害来すかな…」「こんな症状でるのかなぁ…」こんなことってありますよね。このような場合には必ず「こんなこともあるのだろう」と思考停止するのではなく、他に症状を説明し得る原因があるのではないかと再考する必要があります。この患者さんの場合には、脳梗塞に加え低栄養状態に伴うビタミン欠乏、ゾルピデム酒石酸塩による薬剤性などの影響も考えられました。ビタミンB1欠乏に伴うウェルニッケ脳症は他疾患に合併することはけっして珍しくありません1)。また、高齢者の場合には「くすりもりすく」と考え、常に薬剤の影響を考える必要があります。きちんと薬は飲んでいるのに…患者さんが訴える症状が、内服している薬剤によるものであると疑うのは、どんなときでしょうか?新規の薬剤が導入され、その後からの症状であれば疑うことは簡単です。また、用法、用量を誤って内服してしまった場合なども、その情報が得られれば薬剤性を疑うのは容易ですよね。意外と見落とされがちなのが、腎機能や肝機能の悪化に伴う薬効の増強や電解質異常などです。フレイルの高齢者は大抵の場合、食事摂取量が減少しています。数日の単位では大きな変化はなくても、数ヵ月の単位でみると体重も減少し、食事だけでなく水分の摂取も減少していることがほとんどです。そのような場合に、「ご飯は食べてますか?」と聞くだけでは不十分で、具体的に「何をどれだけ食べているのか」「数ヵ月、半年前と比較してどの程度食事摂取量や体重が変化したか」を確認するとよいでしょう。「ご飯は食べてます」という本人や家族の返答をそのまま鵜呑みにするのではなく、具体的に確認することをお勧めします。骨粗鬆症に対するビタミンD製剤による高Ca血症、利尿薬内服に伴う脚気心、眠剤など、ありとあらゆる薬の血中濃度が増加することに伴う、さまざまな症状が引き起こされかねません。薬の変更、追加がなくても「くすりもりすく」を常に意識しておきましょう。最後に高齢者は複数の基礎疾患を併せ持ち、多数の薬剤を内服しています。そのような患者が急性疾患に罹患すると検査の異常は複数存在するでしょう。時には検査が優先される場面もあるとは思いますが、常にその変化がいつからのものなのか、症状を説明しうるものなのか、いちいち考え検査結果を解釈するようにしましょう。1)Leon G. Clinicians Who Miss Wernicke Encephalopathy Are Frequently Called Defendants. Toxicology Rounds. Emergency Medicine News. 2019;41:p.14.

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オピオイドによる便秘に新たな薬が登場【非専門医のための緩和ケアTips】第24回

第24回 オピオイドによる便秘に新たな薬が登場オピオイドを服用している患者さんで頻発し、かつ対策が必要な副作用の代表例が便秘です。そんなオピオイドが原因の便秘に対し、新たな薬が登場しています。今日の質問がん疼痛がありオピオイドを処方している患者さんの中で、便秘に悩んでいる方がいます。マグネシウム製剤や大腸刺激性下剤などを処方してみるのですが、頑固な便秘に良い対策はありますか?オピオイドを使用している際の便秘は、オピオイド誘発性便秘症(OIC:opioid-induced constipation)と呼ばれます。オピオイドは、脊髄のμオピオイド受容体に作用することで痛みの伝達をブロックし、鎮痛効果を発揮します。このμオピオイド受容体は中枢神経だけでなく、末梢にも分布しています。消化管に分布する末梢μオピオイド受容体にオピオイドが作用することで、腸管蠕動が抑制され、便秘になってしまうのです。OICはオピオイドを服用している限り、改善することはありません。基本的には「オピオイド服用中はOICが生じる」と考えて対処する必要があります。従来、薬物療法としては、一般的な便秘薬であるマグネシウム製剤や大腸刺激性下剤が用いられてきました。それで症状が緩和されればよいのですが、それでも持続する頑固な便秘もあります。そんな悩みに対して2017年に登場した薬が、今回ご紹介するナルデメジン(商品名:スインプロイク)です。ナルデメジンは先ほど出てきた末梢のμオピオイド受容体と結合することで、オピオイドと拮抗し薬理効果を発揮します。緩下剤などの対症療法と比較して、OICの原因に直接的なアプローチをする薬剤であることがわかるかと思います。ここでふと、「あれ、μオピオイド受容体に結合することでオピオイドに拮抗するなら、鎮痛作用も発揮できなくなるのでは?」と感じた方がいるかもしれません。そこは心配無用で、ナルデメジンは中枢神経のμオピオイド受容体には作用しないため、鎮痛効果は保たれます。ナルデメジンは1日1回0.2mgを内服します。内服回数が少ないことも良い点ですね。腎機能が落ちていても服用できるので、マグネシウム製剤などが使用できない方には良い選択肢です。他の便秘薬同様、処方の際は消化管閉塞がないことの確認が必要です。OICに対する比較的新しい薬剤であるナルデメジンを紹介しました。もちろん、便秘解消には薬だけでなく、食事内容や水分摂取といった生活指導も併せて大切です。今回のTips今回のTipsナルデメジンはオピオイドの副作用による便秘に対する新しい薬。排泄ケアと併せて処方を検討しよう。

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アセナピンとオランザピン、日本人統合失調症患者での治療継続率

 アセナピンは、多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)に分類される第2世代抗精神病薬であり、その薬理学的特徴はオランザピンと類似している。藤田医科大学の松崎 遥菜氏らは、実臨床データを用いて、統合失調症に対するアセナピンとオランザピンの治療継続率や中止理由についての比較を行った。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2021年12月14日号の報告。アセナピン群の6ヵ月間の治療継続率は27.3%、オランザピン群で50.8% 本研究は、レトロスペクティブ研究として実施した。主要エンドポイントは、6ヵ月間に治療継続率のカプランマイヤー推定とし、潜在的な交絡因子で調整するため傾向スコア法を用いて評価した。 統合失調症に対するアセナピンとオランザピンの治療継続率や中止理由について比較した主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者95例(アセナピン群:46例、オランザピン群:49例)を対象とし、分析を行った。・一致したデータを6つの共変量(年齢、性別、クロルプロマジン換算量、ジアゼパム換算量、クロザピンの使用歴、修正型電気けいれん療法の使用歴)を考慮し調整した。・一致したデータにおける6ヵ月間の治療継続率は、アセナピン群で27.3%(95%信頼区間[CI]:15.6~47.6)、オランザピン群で50.8%(95%CI:34.3~75.3)であった(ハザード比[HR]:0.41、95%CI:0.21~0.82、p=0.0088[Log rank検定])。・効果不十分による中止率は、アセナピン群で13.0%、オランザピン群で10.2%とほぼ同様であった。・アセナピン群のみで観察された副作用は、苦みによる中止(6.5%)、投薬方法の負担(6.5%)であり、オランザピン群のみで観察された副作用は、口渇(4.1%)や便秘(2.0%)などの抗コリン作用系副作用であった。 著者らは「実臨床におけるアセナピンの治療継続率の低さは、苦みや投薬方法などの特定の因子に関連している可能性が考えられる」としている。

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年末年始の当直・輪番当番は増えた、減った?/ケアネット

 2022年も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行する中で迎えた。とくに初冬より流行し始めたオミクロン株は感染力の強さもあり、わが国全体が不安と戸惑いの中で新しい年を迎えた。そうした環境の中で、果たして年末・年始の当直・輪番当番に大きな動きはあったのであろうか。CareNet.comは1月13日(木)にWEBアンケートで医師会員400名に年末・年始の当直・輪番当番について調査を行った。■アンケート概要実施期日:2022年1月13日(木)調査方法:インターネット対象者:医師会員400名(年齢別に20・30代/40代/50代/60代以上に区分)「年代が若い」「病床規模が大きい」の項目で当直・輪番当番が「あり」の回答が増加 質問1として「年末年始に当直当番また輪番当番があったか」(単回答)をたずねたところ、医師会員全体(n=400)で「あった」が206名(51.5%)、「ない」が194名(48.5%)とほぼ同程度だった。20・30代の医師会員(n=100)では「あった」が63名、「ない」が37名と「あった」と回答した医師が多かったが、60代以上の医師会員(n=100)では「あった」が43名、「ない」が57名と「ない」が回答を逆転した。 また、病床別では「あった」について200床以上(n=236)で146名(61.9%)、20~199床(n=81)で38名(46.9%)、0~19床(n=83)で22名(26.5%)と規模により大きく分かれた。 質問2として「年末年始の当直当番または輪番当番の頻度はどれくらいか」(単回答)をたずねたところ、医師会員全体(n=400)では「3~4日に1回程度」が83名(20.75%)と回答した医師会員が一番多かった(「なかった」を除く)。また、「4~7日に1回程度」が79名(19.75%)も2番目に多く、短期のローテーションで当番に入っていた。病床別でもほぼ同様の回答傾向だった。 質問3として「1年前の年末年始と比較して来院患者数に増減はあったか」(単回答)をたずねたところ、医師会員全体(n=400)では「同程度」が187名(46.75%)、「減った」が49名(12.25%)の順で多く、「増えた」のは37名(9.25%)だった。医師会員の回答では、例年通りの年末年始の来院者数だったことがうかがえる(不明または診療していないを除く)。病床別でもほぼ同様の回答傾向だった。 質問4として「年末年始の当直当番や輪番当番について改善すべき点」(複数回答)をたずねたところ「当番可能な医師・医療スタッフの増員」が180名、「COVID-19疑い患者用の特別外来の設置と誘導」が135名、「患者さんへの疾患啓発」が112名の回答順で多かった。 最後に自由記載として「年末年始の診療でとくに印象に残った症例や患者さんのエピソード」についてたずねたところ、「モチによる気道の閉塞」「患者の問題受診行動(例:コンビニ受診、救急車をタクシー代わりなど)」「高齢者の便秘」「切迫した急な手術」などが寄せられた。

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急性ポルフィリン症〔acute porphyria〕

1 疾患概要■ 概念・定義ポルフィリン症とはヘム合成経路に関与する8つの酵素いずれかの先天異常が病因でヘム合成経路(すなわち、律速酵素である第1番目のデルタアミノレブリン酸(ALA)合成酵素(ALAS))が亢進し生じる疾患の総称。ポルフィリン代謝異常に基づく症候を呈し、ポルフィリンやその前駆物質が大量に生産され、体内に蓄積し、尿や糞便に多量に排泄される。ポルフィリン症は、病因論的には本経路の異常が生じる主たる臓器の違いにより肝型と骨髄型の2型に大別される(図1)。臨床的には急性腹症、神経症状、精神症状などの急性発作を起こす急性ポルフィリン症(ALA脱水酵素欠損ポルフィリン症〔ADP〕、急性間欠性ポルフィリン症〔AIP〕、遺伝性コプロポルフィリン症〔HCP〕、多様性ポルフィリン症〔VP〕)および、光線過敏症を呈する皮膚ポルフィリン症(先天性骨髄性ポルフィリン症〔CEP〕、晩発性皮膚ポルフィリン症〔PCT〕、肝性骨髄性ポルフィリン症〔HEP〕、骨髄性プロトポルフィリン症〔EPP〕および、間欠期のHCPとVP)とに分けられる。AIP以外の急性ポルフィリン症は皮膚症状も呈し、皮膚ポルフィリン症でもある。また、EPPの症例で病因遺伝子がフェロキラターゼでは無く、ALAS2遺伝子の機能獲得型変異やALAS2の安定性を制御する蛋白ClpXの遺伝子異常が病因となった症例も近年報告されており、病因遺伝子異常は2種類増えた。図1 ヘム合成経路と異常症画像を拡大する■ 疫学報告は、本症の知見が高まった1966~1985年の間になされたものが大半であり、ここ10年間の報告はむしろ減少している。次第にありふれた疾患として認識されるようになり、報告が減ったと考えられ、実際はこれよりはるかに多い症例があるものと思われる。急性ポルフィリン症の半数以上がAIPで、ついでHCP、VPと続く。ADPはきわめてまれである。1980~1984年の全国調査ではポルフィリン症の有病率は、人口10万人対0.38人とされているが、その10倍との報告もある。厚生労働省遺伝性ポルフィリン症研究班による2009年の調査では、1年間の受療者は35.5人と推定されているが、欧州の発症率(5.2人/100万人)と同等として計算すると648人となることにより、わが国では多くの未診断症例が埋もれている可能性が高いと思われる。■ 病因ヘムは、生体内においては、主に骨髄と肝臓で合成されている。約70~80%のヘムは、骨髄の赤血球系細胞で合成され、グロビンに供給されヘモグロビンを形成する。残りは主に肝臓で合成され、シトクロムP450などのヘム蛋白の配合族として利用されている。ヘム合成経路の律速酵素は、第1番目の酵素であるALASであり、本酵素活性の増減が細胞内ヘム蛋白量を調整している。ALAS酵素活性は、最終産物であるヘムにより、肝臓ではネガティブフィードバックを受けており、ヘムの量は一定に保たれる。ALASの酵素活性は、ヘム合成経路で最も低い(したがって律速酵素たりうる)。ポルフィリン症の病因は、それ以外のヘム合成系酵素の活性が遺伝子異常により低下し、ALAS活性より低くなることで、本経路の異常が生じることである。ウロポルフィリン(UP)、コプロポルフィリン(CP)、プロトポルフィリン(PP)などのポルフィリンの蓄積が光線過敏性皮膚炎の病因であることは確定しているが、後に述べる急性発作(神経系の機能異常が病因)を引き起こす機序は未確定である。上流の基質であるポルフォビリノーゲン(PBG)、およびALAの増加を病因とする神経毒性前駆物質説、ならびに、ヘム蛋白やヘム酵素の機能低下を病因とするヘム欠乏説があり、どちらが主であるかの決定的なデータはいまだみられない。なお、最終産物であるヘムの低下は、ネガティブフィードバック機序を介してALASの酵素活性を増加させ、異常酵素とALASの酵素活性の逆転状況をさらに助長させる。したがって、この酵素活性のバランスに影響を与える何らかの誘因(薬物など)により、異常酵素とALASの酵素活性の逆転状況がわずかに増強されただけで、悪循環の過程を経て、急性に病状の悪化(急性発作)を生じる。誘因としては、外傷、感染症、ストレス、甲状腺ホルモン、妊娠、あるいは飢餓など(狭義の誘因)、バルビタール、サルファ薬などの誘発薬剤、ヘム合成系酵素を直接障害し、ヘム合成能力をヘムの需要量以下に低下させる(発症剤)、セドルミッド、グリセオフルビンなどが挙げられる。薬剤については、下記のウェブサイトに記載されているので参照していただきたい。The American Porphyria Foundation(APF)European Porphyria Network(EPNET)■ 症状1)急性ポルフィリン発作腹部症状、精神症状、神経症状(三徴)。急性腹症を思わせる腹部症状が初期にみられ、後にヒステリーを思わせるような精神症状を呈し、最後には四肢麻痺、球麻痺などの神経症状を呈し、死に至ることもある急性発作がみられる。このときみられる腹部症状に対応する器質的な異常は認められず、機能的異常によるものと考えられている。このように、病状の進行に応じて多彩な症候を呈するので、種々の間違った診断の下に治療されるケースが多い。(1)腹部症状:腹痛、嘔気、嘔吐、便秘、下痢、腹部膨満など(2)精神症状:不眠、不安、ヒステリー、恐怖感、興奮、傾眠、昏睡など(3)神経症状:四肢脱力、知覚異常、言語障害、嚥下(飲み込み)障害、呼吸障害など2)光線過敏性皮膚炎HCPおよびVPでは、光線過敏性皮膚炎がみられることもある。3)非発作時(間欠期)無症状■ 予後いったん発症すれば、死亡率は20%を超え、予後不良と考えられていた。これは、診断がつかないまま、バルビタールなどの使用禁忌薬やほかの誘因が重なって、病状が悪化した症例が多いことも原因であり、診断がつき、適切な治療が行われた場合、大半は完全に回復する。繰り返し発症する症例では、発症に対する不安神経症を呈することもあり、発症早期から適切な治療をすることが望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ヘム合成経路の酵素活性の低下は、その酵素による反応部位より上流の基質の増加と最終産物であるヘムの低下を引き起こす。したがって、増加した基質(ALAおよびPBG)や基質の代謝産物であるUPおよびCPなどを測定することにより、酵素異常の部位がわかる。臨床症状、検査値などを含め総合的に診断することが必要だが、検査値で考えると下に示した図2のフローチャートに従って検査を進めることになる。本症では、病因となる遺伝子異常を持っているが、いまだ発症していない人(潜在者)が少なからずみられる。その発症前診断には、上記のような代謝産物の測定および酵素活性の測定では不十分なことがあり、遺伝子診断が必要となることが多い。図2 急性ポルフィリン症診断のフローチャート画像を拡大する■ 検査成績(ポルフィリン関連)血中および尿中のPBG、ALA、ポルフィリンなどの値は、各種ポルフィリン症の病型に応じて異なるが、急性ポルフィリン症に共通する(まれな病型であるADPを除く)所見として尿中PBGの増加がある(定性的に調べる検査であるWatson-Schwartz法で陽性)。また、尿中ポルフィリンも増加し、肉眼的には特有のぶどう酒色(ポルフィリン尿)を呈する(10~30%の症例でみられる)。しかし、ADPやAIPでは、尿中ポルフィリンはあまり増加せず褐色調に留まることが多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性発作の予防誘因を避けるように指導することが大切である。飢餓が誘因となるので、十分な摂食をさせる(ダイエットは禁)。また、医療機関での薬剤投与に注意が必要となる。患者には使用可能薬剤の一覧などの携帯を勧める。月経に伴い急性発作を起こす症例では、LH-RHアナログを用いて、月経を止めることも効果がある。■ 発症時の治療1)グルコースを中心とした補液詳細な機序は不明だが、ALASの酵素活性を抑制し、急性発作を改善させるといわれている。わが国で、最も一般的に行われている治療法。インスリンを併用するとさらに効果が増す。2)ヘム製剤本薬剤はヘム製剤で、細胞内ヘムの上昇を引き起こし、ALASの酵素活性を抑え(ネガティブフィードバックにて)、ヘム合成系の相対的亢進を緩和させる。ポルフィリン症の治療としては、病態に則した治療法であり、欧米では40年来使用されており第一選択療法と位置づけられている。わが国では、2013(平成25)年8月、ヘミン(商品名:ノーモサング)が発売され、使用できるようになった。3)シメチジン作用機序は不明だが、ALAおよびPBGを減少させる効果がある。4)対症療法ポルフィリン症にみられる各種症候に対しては、下記のような対症療法が行われる。ここで大切なことは、使用禁止薬剤(誘因となる薬剤)を絶対に使用しないことである。(1)疼痛、腹痛には、クロルプロマジンおよび麻薬(2)不安、神経症には、クロナゼパム、クロルプロマジン(3)高血圧、頻脈には、ベータ遮断薬(4)抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)には、補液による電解質の補充■ 発作が頻回に起こるときの発作予防薬ギボシラン(商品名:ギブラーリ):ALAS1を標的としたsiRNA。ALAs1の発現を抑制し、急性発作の発症を予防することを目的とした薬剤。2019年に米国で承認され、わが国でも2021年に承認された。4 今後の展望ヘム製剤やギボシランが治療に使えることとなり、国際標準に追いついたと言える。また、これら治療薬は高額だが、難病指定もなされ医療費補助もあり、治療は円滑に行える。しかし、確定診断の補助となる遺伝子解析が保険収載されておらず、これが認められると診断の精度が高まるので、現在、保険収載を要望中である。5 主たる診療科内科では代謝内科、消化器内科、神経内科。皮膚症状に対しては皮膚科。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ポルフィリン症相談(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国ポルフィリン代謝障害友の会「さくら友の会」(患者と患者家族の会)1)大門 真.ポルフィリン症.In:矢崎義雄編.内科学.第11版.朝倉書店;2017. p.1815-1820.2)大門 真. ポルフィリン症の診断と分類. In: 岡庭 豊ほか編. year note 内科・外科等編 2010年版. 第19版. メディックメディア; 2009. p.719-729.3)難病情報センター ポルフィリン症(2022年1月17日アクセス)公開履歴初回2013年09月05日更新2022年01月20日

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更年期障害のHRTに保険適用を有する黄体ホルモン製剤「エフメノカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第88回

更年期障害のHRTに保険適用を有する黄体ホルモン製剤「エフメノカプセル100mg」今回は、天然型黄体ホルモン製剤「プロゲステロン(商品名:エフメノカプセル100mg、製造販売元:富士製薬工業)」を紹介します。本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状のホルモン補充療法(HRT)に使用される卵胞ホルモン剤による子宮内膜増殖症の発症を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン剤投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制の適応で、2021年9月27日に承認され、同年11月29日に発売されました。<用法・用量>卵胞ホルモン剤との併用において、以下のいずれかを選択します。持続的投与法:卵胞ホルモン剤の投与開始日からプロゲステロンとして100mgを1日1回就寝前に経口投与。周期的投与法:卵胞ホルモン剤の投与開始日を1日目として、卵胞ホルモン剤の投与15~28日目までプロゲステロンとして200mgを1日1回就寝前に経口投与。これを1周期とし、以後この周期を繰り返す。<安全性>国内第III相試験において報告された主な副作用は、不正子宮出血117例(33.5%)、乳房不快感16例(4.6%)、頭痛11例(3.2%)、下腹部痛、浮動性めまい各10例(2.9%)、腹部膨満、便秘各8例(2.3%)、腟分泌物7例(2.0%)などでした。なお、重大な副作用として、血栓症(頻度不明)が報告されており、心筋梗塞、脳血管障害、動脈または静脈の血栓塞栓症(静脈血栓塞栓症または肺塞栓症)、血栓性静脈炎、網膜血栓症が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、更年期障害などに伴う症状を軽減する目的で投与される卵胞ホルモン剤とともに服用することで、卵胞ホルモン剤による子宮内膜への影響を軽減します。2.ふくらはぎの痛み・腫れ、手足のしびれ、鋭い胸の痛み、突然の息切れなどの症状が現れた場合、血栓症を引き起こしている可能性があるので、直ちに医師・薬剤師に連絡してください。自己判断での中止や量の調節はしないでください。3.眠気や浮動性めまいを引き起こすことがあるので、自動車などの危険を伴う機械の操作には注意してください。4.突然服用を中止すると、不安や気分変化を引き起こす恐れがあります。<Shimo's eyes>本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン剤投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制を目的とした天然型黄体ホルモン製剤です。経口投与では吸収されにくい天然型黄体ホルモンをマイクロナイズド化(微粒子化)することで吸収率を上げています。ホルモン補充療法(HRT)は、エストロゲン欠乏に伴う更年期障害などの諸症状や疾患の予防・治療に有用です。しかし、エストロゲン製剤を単独投与すると、子宮内膜増殖作用により子宮内膜がんを発症する懸念が高まります。エストロゲン製剤に黄体ホルモン製剤を併用することで、子宮内膜がんの発症が抑制されるという報告を踏まえ、現在では子宮を有する患者にHRTを行う際には、黄体ホルモン製剤を併用することが一般的です。国際閉経学会などでは、天然型黄体ホルモンは乳がんリスクや血栓症リスクが低いことが示唆されています。しかし、わが国では子宮内膜増殖抑制に関する適応のある経口剤はなく、これまで適応外で合成黄体ホルモン製剤が使用されてきました。このような背景から、日本産科婦人科学会および日本更年期医学会(現:日本女性医学学会)から開発の要望書が提出され、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の評価に基づき、厚生労働省が製薬企業を募集し、開発されました。用法としては、エストロゲン製剤と本剤を初めから併用する「持続的投与法」と、最初の2週間はエストロゲン製剤単独で、あとの2週間は本剤も併用する「周期的投与法」のいずれかを選択します。本剤は食後投与では絶食下に比べてAUCとCmaxが上昇し、服用後1~3時間は一過性の傾眠・めまいを起こす可能性があるため、就寝前に服用します。副作用では、不正性器出血が高い頻度で報告されています。継続服用に伴い徐々に軽減してゆくので、服薬を中断しないように前もって説明する必要があります。重大な副作用としては、血栓症に注意が必要です。血栓症の初期症状について説明するほか、定期的に体を動かしてこまめに水分補給をするなどの生活上の工夫も伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 エフメノカプセル100mg

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「ブスコパン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第80回

第80回 「ブスコパン」の名称の由来は?販売名ブスコパン®錠10mg※ブスコパン注20mgは錠剤のインタビューフォームと異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])ブチルスコポラミン臭化物 (JAN)効能又は効果下記疾患における痙攣並びに運動機能亢進胃・十二指腸潰瘍、食道痙攣、幽門痙攣、胃炎、腸炎、腸疝痛、痙攣性便秘、機能性下痢、胆のう・胆管炎、胆石症、胆道ジスキネジー、胆のう切除後の後遺症、尿路結石症、膀胱炎、月経困難症用法及び用量通常成人には1回1~2錠 (ブチルスコポラミン臭化物として10~20mg) を1日3~5回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】(1)出血性大腸炎の患者[腸管出血性大腸菌(O157等)や赤痢菌等の重篤な細菌性下痢患者では、症状の悪化、治療期間の延長をきたすおそれがある。](2)閉塞隅角緑内障の患者[抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状を悪化させることがある。](3)前立腺肥大による排尿障害のある患者[更に尿を出にくくすることがある。] (4)重篤な心疾患のある患者[心拍数を増加させ、症状を悪化させるおそれがある。](5)麻痺性イレウスの患者[消化管運動を抑制し、症状を悪化させるおそれがある。](6)本剤に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年12月1日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年7月(改訂第6版)医薬品インタビューフォーム「ブスコパン®錠10mg」2)サノフィe-MR:製品情報

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第86回 COVID-19後遺症、感染と関連したのは無嗅覚のみ?

フランスのおよそ3万人(26,823人)の試験の結果、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したと自己申告した人は調べた20近いさまざまな症状のほぼすべてのいずれかを長く(8週間以上)経験していましたが、抗体検査や医師の診断等で裏が取れたSARS-CoV-2感染と関連した症状は嗅覚消失の1つのみでした1,2)。調べた症状は睡眠障害、関節痛、背痛、胃腸異常(胃痛、下痢、便秘)、筋肉痛、疲労、注意困難、皮膚の異常、感覚症状(ヒリヒリしたり焼けるような感じ等)、聴覚障害、頭痛、呼吸困難、動悸、めまい、胸痛、咳、無嗅覚、その他の18項目で、SARS-CoV-2感染の自認は聴覚障害と睡眠障害を除く他全部と関連しました。対照的に、感染したことを裏付ける抗体検査陽性はただ1つ無嗅覚(嗅覚消失)とのみ関連しました。抗体検査陽性の人数は1,091人で、そのうち4割ほどの453人が感染を自認していました。医師や臨床検査(laboratory test)による判断でSARS-CoV-2感染が確認されていることも抗体検査陽性と同様に無嗅覚とのみ唯一関連しました。それらの結果によると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後に長く続く症状は感染そのものより感染したという念に駆られること(belief in having experienced COVID-19)とより関連するようです。SARS-CoV-2自体のせいではなさそうなCOVID-19後の長患いが生じる仕組みを今後の研究で調べる必要があります。大学の運動部学生のCOVID-19後遺症は稀感染したという思い込みに起因するものを含めて理由はどうあれCOVID-19後の患者の多くが後遺症を被ります。たとえばスイスのジュネーブの外来患者を調べた試験ではCOVID-19診断から30~45日時点の少なくとも約3人に1人(32%)に長引く症状が認められています3)。しかし、常に体を鍛えている若者にCOVID-19後遺症が付け入る余地はどうやらほとんどないらしく、米国の大学の運動部の学生3千人超を調べたところSARS-CoV-2感染後の後遺症はほとんど認められませんでした4)。発症から3週間を超えて症状が続いた学生の割合は1.2%(44/3,529人)、12週間を超えて症状が続いていた割合は僅か0.06%(2/3,529人)でした。部活に復帰してからの胸痛、息切れ、疲労、動悸等の労作性症状の割合も低く4%(137/3,393人)でした。ただし、部活に復帰してから胸痛があって心臓MRI検査を受けた学生のうち21%(5/24人)におそらくまたは確実な心臓の支障が見つかりました。運動部の大学生のCOVID-19後遺症は少ないと分かって一安心ですが、感染後に部活に復帰した選手の体調は気をつけて見守って把握し5)、もし労作性の胸痛があれば心臓MRI検査を検討するべきでしょう。参考1)Long COVID symptoms may have causes other than SARS-CoV-2 / University of Minnesota2)Matta J, et al. JAMA Intern Med.2021 Nov 8. [Epub ahead of print]3)Nehme M, et al.Ann Intern Med2021 May;174:723-725.4)Petek BJ, et al.Br J Sports Med. 2021 Nov 1:bjsports-2021-104644. 5)Lingering COVID symptoms in young, competitive athletes rare, large study finds / Eurekalert

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4週に1回の投与で片頭痛発作を予防する「アイモビーグ皮下注70mgペン」【下平博士のDIノート】第85回

4週に1回の投与で片頭痛発作を予防する「アイモビーグ皮下注70mgペン」今回は、ヒト抗CGRP受容体モノクローナル抗体製剤「エレヌマブ(遺伝子組換え)(商品名:アイモビーグ皮下注70mgペン、製造販売元:アムジェン)」を紹介します。本剤は、4週間に1回の投与で、片頭痛発作の発症を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、片頭痛発作の発症抑制の適応で、2021年6月23日に承認され、8月12日に発売されました。片頭痛発作の前兆の有無にかかわらず月に複数回以上発現している、または慢性片頭痛であることを確認したうえで本剤の適用を考慮します。なお、非薬物療法、片頭痛発作の急性期治療などを適切に行っても日常生活に支障を来している患者にのみ投与できます。<用法・用量>通常、成人にはエレヌマブ(遺伝子組換え)として70mgを4週間に1回皮下投与します。なお、本剤投与開始後3ヵ月が経過しても症状の改善が認められない場合や、頭痛発作発現の消失・軽減などにより日常生活に支障を来さなくなった場合は、本剤の投与中止を考慮します。<安全性>片頭痛患者を対象とした国内第III相試験において、副作用はプラセボ群で3.1%(4/131例)、本剤投与群で8.5%(11/130例)が認められました。主な副作用は、便秘、注射部位反応(紅斑、そう痒感、疼痛、腫脹など)、傾眠などでした。なお、重大な副作用として、発疹、血管浮腫およびアナフィラキシーを含む重篤な過敏症反応と重篤な合併症(腸閉塞、糞塊、腹部膨満およびイレウスなど)を伴う便秘が海外で報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、片頭痛に関与するとされる神経ペプチドの受容体をブロックすることで、片頭痛発作の発現を予防します。2.発熱、発疹、まぶたや口唇周囲の腫れ、呼吸困難など、アナフィラキシーが疑われる症状が現れた場合は、すぐに報告・受診してください。注射後1週間以上経過してから発現することもあります。3.注射した部位に、赤み、かゆみ、痛み、腫れなどの症状が現れることがあります。これらの症状が長引く場合は、ご相談ください。4.お薬のせいで眠くなることがあります。車の運転や機械の操作、高所での作業などを行う場合はご注意ください。5.本剤の使用中に、血圧が上昇したり高血圧が悪化したりすることがあります。自宅で血圧計を用いるなど、血圧の変動に注意してください。6.まれに重い便秘症状が現れることがあります。とくに初回投与後は便通の変化に注意し、便秘症状が続く場合には早めにご連絡ください。<Shimo's eyes>片頭痛が起きる成因として、三叉神経から放出された神経ペプチドであるCGRPがCGRP受容体に結合することで、血管が過度に拡張して炎症が波及して片頭痛発作が起こるという説が有力です。予防にはロメリジン、バルプロ酸、プロプラノロール、アミトリプチリン、ベラパミルなどが用いられています。効果を得られない患者も少なくありませんでしたが、抗体医薬品が登場したことにより、片頭痛の治療選択肢が広がりました。本剤は、世界で初めて承認されたカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連の抗体医薬品であり、わが国では2021年4月にガルカネズマブ(商品名:エムガルティ)、同年8月にフレマネズマブ(同:アジョビ)が発売されました。この2剤はCGRPに結合して活性を阻害しますが、本剤はCGRPの受容体に直接作用し、CGRPの結合を防いでシグナル伝達を阻害します。CGRP関連薬剤は4週間に1度(フレマネズマブは4週間に1度あるいは12週間に1度)の皮下投与で予防効果を発揮します。なお、すでに発現している片頭痛発作を緩解する薬剤ではないため、本剤投与中に発作が発現した場合には、必要に応じてトリプタンなどの急性期治療薬を使用します。本剤の注射針カバーは天然ゴム(ラテックス)を含み、アレルギー反応を起こす恐れがあるため、投与に際してはアレルギー歴の確認が必要です。デバイスはオートインジェクターであり、外箱を冷蔵庫から取り出し、30分以上待って室温に戻してから使用します。現状は自己注射が認められておらず、原則として外来受診時の投与となります。主な副作用として、便秘、注射部位反応、傾眠などが報告されています。便秘の既往歴を有する患者および消化管運動低下を伴う薬剤を併用している患者では発現リスクが高くなる恐れがあるので注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 アイモビーグ皮下注70mgペン

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非がん性疼痛へのトラマドール、コデインより死亡リスク高い?/JAMA

 欧米では、非がん性慢性疼痛の治療にトラマドールが使用される機会が増えているが、安全性を他のオピオイドと比較した研究はほとんどないという。英国・オックスフォード大学のJunqing Xie氏らは、トラマドールの新規処方調剤はコデインと比較して、全死因死亡や心血管イベント、骨折のリスクを上昇させることを示した。便秘やせん妄、転倒、オピオイド乱用/依存、睡眠障害には両薬で差はなかった。研究の成果は、JAMA誌2021年10月19日号に掲載された。スペインの後ろ向きコホート研究 研究グループは、外来で使用されるトラマドールとコデインについて、死亡および他の有害なアウトカムの発生状況を比較する目的で、人口ベースの後ろ向きコホート研究を実施した(IDIAP Jordi Gol Foundationの助成を受けた)。 解析には、System for the Development of Research in Primary Care(SIDIAP)のデータが用いられた。SIDIAPは、スペイン・カタルーニャ地方(人口約600万人)の人口の80%以上を対象とし、匿名化したうえで日常的に収集される医療・調剤の記録が登録されたプライマリケアのデータベースである。 対象は、年齢18歳以上で、1年以上のデータがあり、2007~17年の期間にトラマドールまたはコデインが新規に調剤された患者であった。両薬が同じ日に調剤された患者は除外された。 評価項目は、初回調剤から1年以内の全死因死亡、心血管イベント(脳卒中、不整脈、心筋梗塞、心不全)、骨折(大腿骨近位部、脊椎、その他)、便秘、せん妄、転倒、オピオイド乱用/依存、睡眠障害とされた。解析の対象は、傾向スコアマッチング法で選出された。また、原因別Cox比例ハザード回帰モデルで、絶対発生率差(ARD)とハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)が算出された。若年患者で死亡の、女性で心血管イベントのリスクが高い 109万3,064例が登録され、このうち32万6,921例がトラマドール群、76万2,492例がコデイン群であり、3,651例は両方の薬剤が調剤されていた。傾向スコアマッチング法で選出された36万8,960例(両群18万4,480例ずつ、平均年齢53.1歳、女性57.3%)が解析に含まれた。 トラマドール群はコデイン群に比べ、1年後の全死因死亡(発生率:13.00 vs.5.61/1,000人年、HR:2.31[95%CI:2.08~2.56]、ARD:7.37[95%CI:6.09~8.78]/1,000人年)、心血管イベント(10.03 vs.8.67/1,000人年、1.15[1.05~1.27]、1.36[0.45~2.36]/1,000人年)、骨折(12.26 vs.8.13/1,000人年、1.50[1.37~1.65]、4.10[3.02~5.29]/1,000人年)のリスクが有意に高かった。 便秘(発生率:6.98 vs.6.41/1,000人年)、せん妄(0.21 vs.0.20/1,000人年)、転倒(2.75 vs.2.32/1,000人年)、オピオイド乱用/依存(0.12 vs.0.06/1,000人年)、睡眠障害(2.22 vs.2.08/1,000人年)には両群に差はみられなかった。 トラマドールによる死亡リスクの上昇は、若年患者(18~39歳)が高齢患者(60歳以上)に比べて大きかった(HR:3.14[95%CI:1.82~5.41]vs.2.39[2.20~2.60]、pinteraction<0.001)。心血管イベントのリスク上昇は、女性が男性よりも大きかった(1.32[1.19~1.46]vs.1.03[0.93~1.13]、pinteraction<0.001)。また、併存疾患が最も多い患者(チャールソン併存疾患指数[CCI]≧3点)は最も少ない患者(CCI=0点)に比べ、骨折のリスクの上昇が大きかった(HR:2.20[95%CI:1.57~3.09]vs.1.47[1.35~1.59]、pinteraction=0.004)。 著者は、「未評価の交絡因子が残存している可能性があるため、これらの知見の解釈には注意を要する」としている。

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副作用の説明にこんな工夫【非専門医のための緩和ケアTips】第14回

第14回 副作用の説明にこんな工夫患者さんに新しい薬を処方するとき、いつも以上に慎重な説明が求められますよね。とくに副作用についてはしっかりと説明しておかないと、後から「聞いてなかった!」なんてクレームにもなりかねません。今回はそんな副作用の説明についてです。今日の質問外来でフォロー中の進行がん患者さん。腫瘍が増大傾向で現在の鎮痛薬では効果不十分と判断してオピオイドを勧めました。眠気、吐き気、便秘といった副作用を説明したところ顔を曇らせ、「そんなに副作用がある薬は飲みたくないです」と拒否されてしまいました。副作用を伝えないわけにはいかないと思いますが、どうすればよかったのでしょうか?今回のご質問も緩和ケアの実践ではよくあるテーマですね。まずはこういった病状の方の外来診療をしっかりされていることや、地域の診療所で緩和ケアが届けられるようご尽力いただいていることに感謝を申し上げたいと思います。さて、この「しっかり説明すると不安にさせてしまう」という問題、なかなか難しいのですが、工夫の余地はありそうです。人にはそれぞれ「バイアス」が存在します。何かをやった結果としての「良いこと」と「悪いこと」を比較すると、悪いことの影響のほうを大きく感じることが知られています。行動経済学ではこういった特性を「損失回避」という言葉で説明しています。「人は何かしたせいで良くないことが起きることを嫌う傾向が強い」というわけです。処方の時点で、医師としては使用するメリットが副作用のデメリットよりも大きいと判断しているわけです。医師側は自明と思いがちですが、その点をあらためて患者さんに伝えましょう。「メリット」と「デメリット」の説明量を同じにすると患者さんはデメリットのほうを強く感じます。まして、「後々にトラブルにならないよう、副作用についてしっかり説明した」といった説明量のバランスであれば、おそらく患者さんを「めちゃくちゃビビらせる」説明になっていることでしょう。ではどうすればよいか、具体例を少し考えてみましょう。「今の症状に対して、オピオイドを使用したほうがいいと思います(=明確に言い切る)。症状に悩まされる時間が少なくなるはずです(=メリットを先に)。人によっては眠気や吐き気といった症状が出ることがありますが(=デメリットを事実ベースで)、予防薬もあるので安心してください。便秘が続く場合も便秘薬を調整しながら経過を見ます(=デメリットにも対処できる)。今の症状を減らすことで、ご自宅でより過ごしやすく、夜も眠りやすくなると思うので、試してみませんか?(=再びメリットを伝えたうえで、最終判断は委ねるというトーン)」いかがでしょう? 私もまだまだ試行錯誤中なので、皆さんの工夫もぜひ教えていただければと思います。今回のTips今回のTips薬剤の説明はメリットを先に。副作用などのデメリットも共有しつつ、安心感が伝わるコミュニケーションを工夫しよう。

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胃腸症状とうつ病との関連~米国健康栄養調査

 最近、多くの調査において、うつ病の病因としてのマイクロバイオームの役割がトピックスとなっている。調査結果によると、腸内細菌叢による一般的な症状である腸内尿毒症が胃腸症状の問題の根底にあり、これがうつ病と関連していることが示唆されている。米国・タフツ大学のSarah J. Eustis氏らは、胃腸症状の徴候が認められる人では、抑うつ症状のオッズ比(OR)が有意に高いかどうかを検証するため、本研究を実施した。Journal of the Academy of Consultation-Liaison Psychiatry誌オンライン版2021年8月27日号の報告。 2005~16年に実施された米国健康栄養調査(3万6,287人)より、成人3万1,191人のデータを分析した。アウトカムには、過去1ヵ月間の粘液性または液性の排便および胃疾患、過去1年間の下痢、1週間当たりの排便回数を含めた。本分析では、マイクロバイオームのサンプルは含まず、自己申告による胃腸症状のみとした。抑うつ症状は、こころとからだの質問票(PHQ-9)を用いて評価した。中等度、中等度~重度、重度のスコアは、肯定的なアウトカムとしてレコード化した。 主な結果は以下のとおり。・中等度~重度の抑うつ症状を有する人は、抑うつ症状のない人と比較し、以下の胃腸症状のORが高かった。 ●腸粘液(OR:2.78、95%CI:1.82~4.24) ●腸液(OR:2.16、95%CI:1.63~2.86) ●胃疾患(OR:1.82、95%CI:1.31~2.53) ●下痢(時々あり対なしのOR:1.72、95%CI:1.30~2.29) ●便秘(時々あり対なしのOR:2.76、95%CI:2.11~3.62)・全体として、胃腸症状を有する人では、抑うつ症状を示す可能性が有意に高かった。 著者らは「複雑な脳腸軸(brain-gut axis)については、分子レベルで調査されている。そのような中で、抑うつ症状と腸内尿毒症の徴候との関連を示唆する本研究結果は、さらなるエビデンスの蓄積に貢献し、医療従事者や患者にとって有益な情報となる可能性がある」としている。

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事例035 加味逍遙散エキスの査定【斬らレセプト シーズン2】

解説不定愁訴を訴えていた64歳男性が更年期障害と診断され、投与された加味逍遙散エキスがC事由(医学的理由による不適当)にて査定となりました。医師は査定事由に思い当たることがないとのことで、査定された理由を調べるために、当該医療機関が使用している加味逍遙散エキスの添付文書をみてみました。効能または効果の欄には、「体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく(中略)、時に便秘の傾向がある次の諸症」とあり、諸症の中に更年期障害も含まれていました。傷病名の適用はあると考えましたが、文の前段に「婦人」と表現されています。主に女性に対して使用される漢方薬であって、男性への投与は適用外として判断されたものであろうと推測しました。複数他社の添付文書を参照したところ、同じ加味逍遙散エキスでも男女の区別がない場合もあるなど効能および効果の差が確認できました。男女が異なっていても加味逍遙散エキスは複数社が販売しています。添付文書の証と事例の身体状況が特徴的に一致しており、診断病名も添付文書に表示されていたため、適用があるものと考え、著効があったことを加えて再審査請求をしましたが、原審通りでした。保険診療における医薬品の使用は、療養担当規則第19条に、厚生労働大臣の定める医薬品以外の原則使用禁止が定められています。この表現の中には、医薬品ごとに承認された効能・効果・用法・用量なども含まれます。「など」には、性差や年齢も含まれるとして、規則が厳格に適用されたものと考えられます。薬剤システムとレセプトシステムに、男性への投与時に注意が表示されるように設定変更をして査定対策としました。(※ 販売元社名は割愛しました)

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