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至適INRは?(解説:後藤信哉氏)-1128

 手術時に抗凝固療法を継続するのは勇気がいる。手術による出血を最小限としつつ、静脈血栓を予防するためにはどうすればよいか? 一般に血栓イベントリスクの低い日本人の感覚と欧米人の感覚の大きく異なる領域である。欧米のデータは心房細動の脳卒中予防であっても、本論文の静脈血栓症の予防でもINRの標的を下げることの危険性を示している。私の日常診療ではINR 1.8は、標的としては高いほうである。30年も経験を蓄積しても、日本人を診ているわれわれが血栓イベントを経験することは少ない。しかし、欧米人では標的を2.6とした場合と比較して、静脈血栓症・死亡率が標的INR 1.6では著しく高くなることを本論文は示している。本論文に示された所見はおそらく事実であろう。しかし、本論文の記載が日本人に当てはまるか否かは不明である。地域差の大きな血栓性疾患では、欧米の情報を日本に直接取り込むことは難しい。日本の実態も継続的に英文論文として発表するようなシステムの構築が重要である。

402.

CABG後のグラフト不全の予防に、抗血小板薬2剤併用が有効/BMJ

 冠動脈バイパス術(CABG)を受けた患者では、アスピリンへのチカグレロルまたはクロピドグレルの追加により、アスピリン単独に比べ術後の大伏在静脈グラフト不全の予防効果が大きく改善されることが、カナダ・ウェスタン大学のKarla Solo氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年10月10日号に掲載された。アスピリンは、CABG後の大伏在静脈グラフト不全の予防に推奨される抗血小板薬である。一方、アスピリンへのP2Y12阻害薬または直接経口抗凝固薬の追加の利点については不確実性が残るという。グラフト不全と出血を評価するネットワークメタ解析 研究グループは、CABGを受けた患者の大伏在静脈グラフト不全の予防における経口抗血栓薬の有用性を評価する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2019年1月25日現在、医学関連データベース(Medline、Embase、Web of Science、CINAHL、the Cochrane Library)に登録された文献を検索した。 対象は、CABG後の大伏在静脈グラフト不全の予防として、経口抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)の投与を受けた年齢18歳以上の患者が参加する無作為化対照比較試験であった。 有効性の主要エンドポイントは大伏在静脈グラフト不全、安全性の主要エンドポイントは大出血とされた。副次エンドポイントは、心筋梗塞と死亡であった。2種の抗血小板薬2剤併用で、中等度の確実性を有するエビデンス 1979~2019年に発表された20件の無作為化対照比較試験に関する21編の論文が、ネットワークメタ解析に含まれた(4,803例、9種の介入[8種の実薬とプラセボ])。8種の実薬は、クロピドグレル、アスピリン、ビタミンK拮抗薬、チカグレロル、リバーロキサバン、アスピリン+チカグレロル、アスピリン+リバーロキサバン、アスピリン+クロピドグレルであった。 アスピリン単独と比較して、アスピリン+チカグレロル(オッズ比[OR]:0.50、95%信頼区間[CI]:0.31~0.79、治療必要数[NNT]:10例)、アスピリン+クロピドグレル(0.60、0.42~0.86、19例)の2種の併用療法は、大伏在静脈グラフト不全を有意に抑制することを支持する、中等度の確実性を有するエビデンスが得られた。 大出血、心筋梗塞、および死亡については、アスピリン単独と個々の抗血栓療法の差に関して、強力なエビデンスは認められなかった。 非推移性(intransitivity)の可能性を排除できないものの、試験間の異質性(heterogeneity)と非整合性(incoherence)は、すべての解析で低かった。また、グラフトごとのデータを用いた感度分析では、有効性の推定値に変化はなかった。 著者は「CABG後の抗血小板薬2剤併用療法は、重要な患者アウトカムへの安全性と有効性プロファイルのバランスをみながら、患者に合わせて調整する必要がある」とし、「今後のガイドラインの改訂では、CABGを受けた患者の抗血栓療法による管理を最適化する必要があり、2種の抗血小板薬2剤併用療法は、多くの患者で考慮されるべきであろう」と指摘している。

403.

1ヵ月のDAPTとその後のP2Y12阻害薬によるSAPTが標準治療となるか?(解説:上田恭敬氏)-1122

 合併症なく成功したPCI症例3,045症例を対象として、アスピリンとクロピドグレルによるDAPTを12ヵ月行う群(12ヵ月DAPT群:1,522症例)とDAPTを1ヵ月施行後にクロピドグレルによるSAPTに変更する群(1ヵ月DAPT群:1,523症例)に無作為に割り付けて、1年間の心臓死、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症、出血イベントの複合エンドポイントを主要エンドポイントとする、多施設オープンラベル無作為化比較試験であるSTOPDAPT-2試験の結果が報告された。 P2Y12阻害薬はクロピドグレルに限定し、ステントはCoCr-EES(Xience Series、Abbott Vascular)に限定している。また、ほかの抗血栓薬を必要とする症例は除外している。症例の約38%はACS症例であった。 主要エンドポイントの発生頻度は、12ヵ月DAPT群の3.70%に対して1ヵ月DAPT群では2.36%と有意に低くなり、「1ヵ月DAPT」は「12ヵ月DAPT」に比して、非劣性(p<0.001)のみならず優位性(p=0.04)が示された。有意差ではないものの、血行再建術施行頻度が、12ヵ月DAPT群で5.26%に対して、1ヵ月DAPT群で6.77%(p=0.08)とやや増加が見られる点が気になるが、ほかには副次エンドポイントの中で、1ヵ月DAPT群に有意に頻度の増加が認められる項目はなかった。 過去に報告されているDAPT試験の結果を念頭に置いて、本試験の結果を解釈する必要がある。まず、PCIを施行した患者全体を、出血リスクを考慮せずに対象として1年以内のイベントを見ると、虚血性イベントの発生頻度はDAPTの期間によって変わらず、出血性イベントは12ヵ月群で有意に多いことが本試験で示されたため、PCI後1年間については、1ヵ月のDAPTで十分であると思われる。しかし、本試験の結果は、1年以後長期にわたって生じてくる虚血性イベントを抑制するために、DAPTのほうがSAPTより優れている可能性を否定するものではない。 とくに、1年間のDAPTで出血性イベントを起こさなかった患者を対象とした場合には、出血イベントの高リスク患者を除外できるため、その後DAPTを長期間継続することが有用な可能性はDAPT試験の結果から十分に想定される。そのようなDAPTの長期使用が本当に無用あるいは有害なのかどうかについては、早急に結論するのではなく、今後の検討を待つ必要がある。もちろん、P2Y12阻害薬によるSAPTであれば、DAPTと同程度に有効である可能性もあるだろうから、その検証は非常に重要である。 さらに、有効性に個人差が大きいクロピドグレルではなく、有効性に個人差が小さく出血リスクはクロピドグレルと同程度である日本人投与量でのプラスグレルを使った場合には、さらにSAPT群に有利な結果が得られる可能性が想定されるのではないだろうか。いずれにしても、アスピリンではなく、P2Y12阻害薬の単剤投与によるSAPTの効果に対する期待は非常に大きい。

404.

小脳脳内出血、血腫除去vs.保存的治療/JAMA

 小脳の脳内出血(ICH)を呈した患者において、外科的治療としての血腫除去は保存的治療と比べて、機能的アウトカムを改善しないことが、ドイツ・エアランゲン・ニュルンベルク大学のJoji B. Kuramatsu氏らによるメタ解析の結果、明らかにされた。主要アウトカムとした3ヵ月時点の機能的アウトカムについて、有意差は示されなかった。結果を受けて著者は、「血腫容量で機能的アウトカムとの関連に違いがないかを明らかにする必要はある」と述べている。JAMA誌2019年10月8日号掲載の報告。4つのICH観察研究を統合しIPDメタ解析 研究グループは、小脳ICHに対する血腫除去手術と臨床的アウトカムの関連を明らかにするため、2006~15年にドイツ国内の64病院で治療を受けた6,580例が参加した4つのICH観察研究を統合し、参加患者個々人のデータ(individual participant data:IPD)に基づくメタ解析を行った。 血腫除去手術を受けた患者と保存的治療を受けた患者を比較。主要アウトカムは、修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0[機能障害なし]~6[死亡])を用いて3ヵ月時点で評価した機能的障害(良好[mRS:0~3]vs.不良[4~6])。副次アウトカムは、3ヵ月時点および12ヵ月時点の生存率などとした。 解析は、傾向スコア適合および共変数を補正して行い、確率予測を用いて小脳ICHの治療関連カットオフ値を確認した。3ヵ月時点の機能的アウトカム、血腫除去手術群の有意な改善の可能性認められず 小脳ICHを呈した578例のうち、傾向スコア適合解析には、血腫除去手術群152例(平均年齢68.9歳、男性55.9%、経口抗凝固薬使用60.5%、ICH容量中央値20.5cm3)、保存的治療群152例(69.2歳、51.3%、63.8%、18.8cm3)を包含し比較した。 補正後、血腫除去手術群は保存的治療群と比較して、3ヵ月時点で機能的障害が有意により良好となる可能性は認められなかった(30.9% vs.35.5%、補正後オッズ比[AOR]:0.94[95%信頼区間[CI]:0.81~1.09、p=0.43]、補正後リスク差[ARD]:-3.7%[95%CI:-8.7~1.2])。 一方で、副次アウトカムの3ヵ月時点の生存率(78.3% vs.61.2%、AOR:1.25[95%CI:1.07~1.45、p=0.005]、ARD:18.5%[95%CI:13.8~23.2])、12ヵ月時点の生存率(71.7% vs.57.2%、AOR:1.21[95%CI:1.03~1.42、p=0.02]、ARD:17.0%[95%CI:11.5~22.6])は、有意により増大する可能性が認められた。 カットオフ値の容量範囲は12~15cm3であった。これより低容量(≦12cm3)では、血腫除去手術が良好な機能的アウトカムと関連する可能性は低いことが確認された(30.6% vs.62.3%[p=0.003]、ARD:-34.7%[-38.8~-30.6]、交互作用のp=0.01)。高容量(≧15cm3)では、生存率が増大する可能性が認められた(74.5% vs.45.1%[p<0.001]、ARD:28.2%[24.6~31.8]、交互作用のp=0.02)。

405.

第29回 PPIの胃酸分泌抑制作用はどのくらい差があるのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃酸分泌抑制薬にはさまざまな製品がありますが、なかでもPPIのボノプラザンはとりわけ強力な胃酸分泌抑制作用を有していることで知られています。インタビューフォームには、既存のPPIよりも塩基性が高く胃壁細胞に高濃度に長時間残存して酵素活性を阻害すること、作用発現が早いこと、代謝酵素の遺伝子多型に影響されないことなどの特徴が記載されています1)。ピロリ菌の除菌率の高さからも処方頻度が増えていますので、今回はそのボノプラザンの効果の程度と注意点について紹介します。効果については、エソメプラゾール、ラベプラゾールと胃酸分泌抑制作用を比較した研究があります2)。CYP2C19に遺伝子変異のない成人男性ボランティア20名における胃酸分泌抑制作用を評価したオープンラベルのクロスオーバーランダム化比較試験で、比較1としてボノプラザン20mgとエソメプラゾール20mg、比較2としてボノプラザン20mgとラベプラゾール10mgをそれぞれ1日1回7日間服用してpH holding time ratio(pH HTR:酸分泌抑制作用の指標となる胃内pHを一定以上に保つ時間の割合)や胃内平均pHの上昇を検討しています。胃酸分泌抑制作用は1日目と7日目の両時点ともにボノプラザンが有意に優れており、とくに7日目のpH4 HTRは比較1ではボノプラザン群85.8%に対してエソメプラゾール群61.2%と24.6%の差で、比較2ではボノプラザン群93.8%に対してラベプラゾール群65.1%と28.8%の差がありました。1~7日目の24時間pH4 HTRは、ボノプラザン群>0.8、ラベプラゾール群0.393、エソメプラゾール群0.370で、大ざっぱに捉えると胃酸分泌抑制作用はボノプラザン>ラベプラゾール≒エソメプラゾールなのかなという印象です。論文には胃内pHの変動グラフが掲載されていますが、ボノプラザンでは胃内pHが塩基性領域に入っている時間帯すらあり、胃酸分泌抑制作用の強さには目を見張ります。忍容性はいずれの薬剤も良好で、ボノプラザン群では発疹による中止が1例ありましたが中止後に回復しています。ただし、潰瘍や出血の予防といった臨床的なエンドポイントを設定した研究ではないことは念のため付言しておきます。pH上昇により併用薬の吸収や溶解性が低下する場合も注意点としては、ボノプラザンに限った話ではありませんが、胃内pHを変動させる薬剤はしばしば添付文書にはない間接的な相互作用を招く恐れがあること。薬剤師として留意しておきたい点です。まして、pHの変動幅が大きい薬剤であればなおさらです。胃内pH上昇によって、分子型・イオン型の比率の変化や薬の溶解性・胃内容排出速度の変化が生じることがあります。前者の例としては、胃内pHが上昇することでイオン型が多くなる弱酸性薬剤の溶解性が低下し、消化管吸収が落ちるとする報告があります3)。具体的には、バルビツール酸類、フェニトイン、プロプラノロール、プロベネシド、ワルファリン、レボドパ、カルビドパなどが該当します。ちなみに、パーキンソン病患者にレボドパを投与する際にレモン汁によって酸を補充して胃内pHを低下させることで、血中レボドパ濃度の改善が認められたという報告もあります4)。後者の例としては、胃内pH上昇により溶解性が低下するイトラコナゾール5)、チロシンキナーゼ阻害薬(ゲフィチニブ、エルロチニブなど)が該当します6)。ボノプラザンなどの作用時間の長いPPIは、日内で服用タイミングをずらしても相互作用を回避できるものではありません。抗がん剤使用時は胃酸分泌抑制薬が必須となるケースもあるため、相互作用を許容して併用するケースもありますが、こうした可能性を踏まえて効果の程度を類推できるとよいと思います。服用タイミングをずらした場合の影響などは患者さんからの頻出質問だと思いますので、メカニズムを理解して説明できるようにしておきたいものです。1)ボノプラザンフマル酸塩錠インタビューフォーム2)Sakurai Y, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2015;42:719-730.3)Mitra A, et al. Mol Pharm. 2013;10:3970-3979.4)Yazawa I, et al. Rinsho Shinkeigaku. 1994;34:264-266.5)Jaruratanasirikul S, et al. Eur J Clin Pharmacol. 1998;54:159-161.6)Zenke Y, et al. Clin Lung Cancer. 2016;17:412-418.

406.

高齢者下肢手術、VTE予防の最適な目標INR値は/JAMA

 ワルファリン治療を受けている65歳以上高齢者の股関節・膝関節置換術後に、国際標準化比(INR)目標値を1.8としても、同目標値2.5に対して、静脈血栓症(VTE)または死亡の複合アウトカムのリスクについて、非劣性の基準を満たさなかったことが報告された。米国・ワシントン大学セントルイス校のBrian F. Gage氏らが、1,650例の患者を対象に行った無作為化比較試験「Genetic Informatics Trial(GIFT)of Warfarin to Prevent Deep Vein Thrombosis」の結果で、JAMA誌2019年9月3日号で発表した。ワルファリン治療中の関節手術を受ける患者について、VTE予防のための最適なINR値は明らかになっていなかった。米国6ヵ所の医療機関で1,650例を対象に2×2要因デザイン試験 研究グループは、2011年4月~2016年10月にかけて、米国6ヵ所の医療機関を通じて、待機的人工股関節・膝関節置換術を行う65歳以上の患者1,650例を対象に2×2要因デザイン試験を行った。 被験者を、目標INR値1.8の群(823例)と2.5の群(827例)に、またワルファリン投与量について遺伝型または臨床的ガイド群にそれぞれ無作為に割り付けた。なお治療開始当初の11日間は、ワルファリン投与は非盲検下でウェブアプリケーションによるガイド下で行われた。 主要アウトカムは、60日以内のVTE発生または30日以内の死亡の複合だった。術後に二重超音波検査法でVTEスクリーニングを実施。目標INR値1.8は同2.5に対し、非劣性であるとする仮説を立て、非劣性マージンはVTE絶対リスク差3ポイントと規定した。副次エンドポイントは、出血、INR値4以上とした。VTE発生はINR値1.8群5.1%、INR値2.5群3.8% 被験者1,650例の平均年齢は72.1歳、女性は63.6%、白人が91.0%を占めた。主要解析は、ワルファリンを1回以上投与された1,597例(96.8%)を対象に行われた。 主要複合アウトカムの発生率は、INR値1.8群は5.1%(804例中41例)に対し、INR値2.5群は3.8%(793例中30例)で、群間の絶対差は1.3%だった(片側95%信頼区間[CI]:-∞~3.05、非劣性のp=0.06)。被験者の死亡はなく、すべての主要アウトカムはVTE発生で、事前に規定した非劣性の定義は満たされなかった。 大出血の発生は、1.8群0.4%、2.5群0.9%で群間差は-0.5%(95%CI:-1.6~0.4)だった。INR値4以上の発現頻度は、それぞれ4.5%、12.2%で群間差は-7.8%(-10.5~-5.1)だった。 なお同研究グループは、同試験は検出力不足であった可能性があるとし、さらなる研究を行う必要があると指摘している。

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PCI後の心房細動、エドキサバンベース治療の安全性は?/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心房細動患者では、抗血栓薬による出血のリスクに関して、エドキサバンベースのレジメンはビタミンK拮抗薬(VKA)ベースのレジメンに対し非劣性であることが、ベルギー・ハッセルト大学のPascal Vranckx氏らが行ったENTRUST-AF PCI試験で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年9月3日号に掲載された。エドキサバンは、心房細動患者において、脳卒中および全身性塞栓症の予防効果がVKAと同等であり、出血や心血管死の発生率は有意に低いと報告されている。また、患者の観点からは、VKAよりも使用が簡便とされる。一方、PCI施行例におけるエドキサバンとP2Y12阻害薬の併用治療の効果は検討されていないという。18ヵ国186施設が参加した非劣性試験 本研究は、PCI施行心房細動患者におけるエドキサバン+P2Y12阻害薬の安全性の評価を目的に、18ヵ国186施設で実施された多施設共同非盲検無作為化非劣性第IIIb相試験であり、2017年2月24日~2018年5月7日の期間に患者登録が行われた(Daiichi Sankyoの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、安定冠動脈疾患または急性冠症候群でPCIを受け、経口抗凝固薬の投与を要する心房細動患者であった。 被験者は、PCI施行後4時間~5日の間に、エドキサバン(60mg、1日1回)+P2Y12阻害薬を12ヵ月間投与する群、またはVKA+P2Y12阻害薬+アスピリン(100mg、1日1回、1~12ヵ月)を投与する群に無作為に割り付けられた。エドキサバンの用量は、クレアチニンクリアランス15~50mL/分、体重≦60kg、特定の強力なP糖タンパク質阻害薬(シクロスポリン、dronedarone、エリスロマイシン、ケトコナゾール)の併用のうち1つ以上がみられる場合は、1日30mgに減量された。 主要エンドポイントは、12ヵ月以内の大出血または臨床的に重要な非大出血(ISTH基準)の複合とし、非劣性マージンは1.20であった。主解析はintention-to-treat集団で行い、安全性の評価は1回以上の薬剤投与を受けたすべての患者で実施した。大出血/臨床的に重要な非大出血:17% vs.20%、優越性は認めず 1,506例が登録され、エドキサバンレジメン群に751例、VKAレジメン群には755例が割り付けられた。全体の年齢中央値は70歳(IQR:63~77)で、386例(26%)が女性であった。 ベースラインで189例(13%)が脳卒中の既往歴を有しており、CHA2DS2-VAScスコア中央値は4.0(IQR:3.0~5.0)、HAS-BLEDスコア中央値は3.0(2.0~3.0)であった。456例(30%)にVKA投与歴があり、365例(24%)には新規経口抗凝固薬(NOAC)の投与歴があった。PCI施行から無作為割り付けまでの期間中央値は45.1時間(IQR:22.2~76.2)だった。 12ヵ月時の大出血または臨床的に重要な非大出血イベントの発生は、エドキサバンレジメン群が751例中128例(17%、年間イベント発生率20.7%)、VKAレジメン群は755例中152例(20%、年間イベント発生率25.6%)に認められた。ハザード比は0.83(95%信頼区間[CI]:0.65~1.05、非劣性のp=0.0010、優越性のp=0.1154)であり、エドキサバンレジメン群のVKAレジメン群に対する非劣性が確認され、優越性は認められなかった。 大出血の発生は、エドキサバンレジメン群が751例中45例(6%、年間イベント発生率6.7%)、VKAレジメン群は755例中48例(6%、年間イベント発生率7.2%)であり、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.95、95CI:0.63~1.42)。 致死的出血は、エドキサバンレジメン群が1例(<1%)、VKAレジメン群は7例(1%)に認められた。頭蓋内出血は、それぞれ4例(1%、年間イベント発生率0.6%)および9例(1%、年間イベント発生率1.3%)にみられた。 12ヵ月時の主要な有効性アウトカム(心血管死、脳卒中、全身性塞栓イベント、心筋梗塞、ステント血栓症[definite]の複合)は、エドキサバンレジメン群が49例(7%、年間イベント発生率7.3%)、VKAレジメン群は46例(6%、年間イベント発生率6.9%)に認められ、両群間に有意な差はなかった(エドキサバンのHR:1.06、95%CI:0.71~1.69)。 著者は「大出血/臨床的に重要な非大出血の発生に関して、エドキサバンベースの2剤併用抗血栓療法(DAT)は、VKAベースの3剤併用抗血栓療法(TAT)に対し非劣性であることが示された」とまとめている。

408.

心房細動合併安定CAD、リバーロキサバン単剤 vs.2剤併用/NEJM

 血行再建術後1年以上が経過した心房細動を合併する安定冠動脈疾患患者の治療において、リバーロキサバン単剤による抗血栓療法は、心血管イベントおよび全死因死亡に関してリバーロキサバン+抗血小板薬の2剤併用療法に対し非劣性であり、大出血のリスクは有意に低いことが、国立循環器病研究センターの安田 聡氏らが行ったAFIRE試験で示された。研究の成果は2019年9月2日、欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日のNEJM誌オンライン版に掲載された。心房細動と安定冠動脈疾患が併存する患者における最も効果的な抗血栓治療の選択は、個々の患者の虚血と出血のリスクの注意深い評価が求められる臨床的な課題とされている。日本の294施設が参加、単剤の非劣性を検証する無作為化試験 本研究は、日本の294施設が参加した多施設共同非盲検無作為化試験であり、2015年2月23日~2017年9月30日の期間に患者登録が行われた(バイエル薬品との契約を介して循環器病研究振興財団の助成を受けた)。 対象は、年齢20歳以上、心房細動と診断され、登録の1年以上前に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または冠動脈バイパス手術(CABG)を受けた患者、または冠動脈造影で血行再建術の必要がない冠動脈疾患(狭窄≧50%)と判定された患者であった。 被験者は、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬であるリバーロキサバン(クレアチニンクリアランス15~49mL/分の患者は10mgを1日1回、同≧50mL/分の患者は15mgを1日1回)の単剤療法を受ける群、またはリバーロキサバン+抗血小板薬(治療医の裁量でアスピリンまたはP2Y12阻害薬から選択)の2剤併用療法を受ける群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を要する不安定狭心症、全死因死亡の複合とし、非劣性の評価が行われた(非劣性マージンは1.46)。安全性の主要エンドポイントは、国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血とし、優越性の評価が行われた。 なお、本研究は、併用群で全死因死亡のリスクが高かったため、独立データ安全性監視委員会の勧告により2018年7月、早期中止となった。事後解析では有効性の優越性を確認 2,215例(修正intention-to-treat集団)が登録され、単剤群に1,107例が、併用群には1,108例が割り付けられた。全体の平均年齢は74歳、男性が79%であった。1,564例(70.6%)がPCI、252例(11.4%)がCABGを受けていた。 ベースラインのCHADS2スコア中央値は2、CHA2DS2-VAScスコア中央値は4、HAS-BLEDスコア中央値は2であった。併用群の778例(70.2%)がアスピリン、297例(26.8%)はP2Y12阻害薬の投与を受けていた。治療期間中央値は23.0ヵ月(IQR:15.8~31.0)、フォローアップ期間中央値は24.1ヵ月(17.3~31.5)だった。 有効性の主要エンドポイントは、単剤群が89例、併用群は121例で発生し、人年当たり発生率はそれぞれ4.14%および5.75%であり、単剤群の併用群に対する非劣性が確認された(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.55~0.95、非劣性のp<0.001)。 また、安全性の主要エンドポイントの人年当たり発生率は、単剤群が1.62%(35例)と、併用群の2.76%(58例)に比べ有意に優れ(HR:0.59、95%CI:0.39~0.89、p=0.01)、単剤群の優越性が確証された。 副次エンドポイントである全死因死亡の人年当たりの発生率は、単剤群は1.85%であり、併用群の3.37%と比較して有意に良好であった(HR:0.55、95%CI:0.38~0.81)。このうち、心血管死(1.17% vs.1.99%、0.59、0.36~0.96)および非心血管死(0.68% vs.1.39%、0.49、0.27~0.92)のいずれにおいても、単剤群が有意に優れた。 事前に規定されたサブグループ(性別、年齢、脳卒中リスク、出血リスク、腎機能など)の解析では、有効性の主要エンドポイントは全般に単剤群で一致して良好な傾向が認められ、大出血イベントに関しても、同様の効果が観察された。 著者は、「事前に規定されていない解析では、有効性の主要エンドポイントに関して、単剤群の併用群に対する優越性が確認された」としている。

409.

心房細動アブレーションは患者の予後を改善するのか(解説:今井靖氏)-1110

 本邦においても100万人近い心房細動患者が存在し、動悸、胸部不快感などの自覚症状をもたらすのみならず、脳塞栓、心不全の原因としても重要な疾患である。DOACの普及に伴い抗凝固療法の導入率が増加したが、その時流と並行して心房細動に対するカテーテルアブレーションも増加の途にある。リズムコントロールの手段として薬物療法に比して顕著に有効性が高く、薬物治療抵抗性、有症候性心房細動患者のQOL改善の手段として非常に優れた治療と考えられる。 一方、心房細動カテーテルアブレーションの長期生存率あるいは脳梗塞リスクに与える効果については今まで前向き試験として明らかにされたものはなく、CABANA試験において心房細動症例をカテーテルアブレーションあるいは薬物療法に割り付け、前者が後者に比較して予後に優れるか否かが検証された。医師主導・オープンラベルの10ヵ国にまたがる多施設国際共同研究であるが、対象として65歳以上、あるいは脳梗塞に対するリスク因子を1つ以上有する65歳未満の症候性心房細動2,204例を登録(2009年11月~2016年4月)、2017年末まで追跡がなされた。主要エンドポイントは死亡、後遺症を残す脳卒中、重症の出血あるいは心停止の複合とされ、副次エンドポイントとしては全死亡、死亡+心臓血管系入院、心房細動再発などである。2,204例(中央値68歳、女性37.2%、42.9%が発作性)が組み入れられ、カテーテルアブレーション群のうち1,006例(90.8%)が手技を受けた。一方、薬物療法群のうち301例(27.5%)が結果的にカテーテルアブレーションを受けていた。 intention-to-treat(ITT)解析では、追跡期間中央値48.5ヵ月において主要エンドポイントは、カテーテルアブレーション群89例(8.0%)、薬物療法群101例(9.2%)で、統計的有意差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.65~1.15、p=0.30)。副次エンドポイントの全死亡では差がなかったが(5.2% vs.6.1%、HR:0.85、95%CI:0.60~1.21、p=0.38)、死亡または心臓血管系入院(51.7% vs.58.1%、HR:0.83、95%CI:0.74~0.93、p=0.001)、および心房細動の再発(49.9% vs.69.5%、HR:0.52、95%CI:0.45~0.60、p<0.001)は統計的有意差をもってカテーテルアブレーション群で低率であった。残念ながらカテーテルアブレーションによる主要エンドポイント減少効果が認められなかった。 実際に治療を受けたか否かという観点でper protocol解析を行うと、主要エンドポイントにおいてカテーテルアブレーションのHRは0.74(95%CI:0.54~1.01)、12ヵ月で見た場合、0.73(95%CI:0.54~0.99)と差を認めないか僅差であった。副次エンドポイントの1つである全死亡で見ると、6ヵ月で0.69(95%CI:0.47~1.10)、12ヵ月で0.68(95%CI:0.47~0.99)であった。この試験における限界として、クロスオーバーが相当数あること、イベント発生数が期待されたよりも低率に抑えられていたことなどがあり、研究デザインなどについても検討すべき点が含まれると考えられた。しかしこの研究からの日常臨床における解釈としては、長期予後改善効果は証明されていないが、症状が強い薬物治療抵抗性の心房細動アブレーションに対する適応の妥当性は堅持されるものと考えられる。 心不全合併心房細動については、昨年報告されたCASTLE-AF試験において、カテーテルアブレーション群が薬物療法群に比較して予後を改善することが報告され注目された。心房細動が心不全の惹起因子となっている場合、心房細動の抑制が心不全改善に寄与することが期待されるが、一方、心不全・心機能悪化の結果として心房細動が生じた場合、心房細動は予後不良のマーカーであってそれをカテーテル治療で抑制しても効果が得られないという可能性もあるため、心不全合併心房細動についても症例ごとに治療適応を判断する必要性があると思われる。今回のCABANA試験、またCASTLE-AF試験においてもカテーテルアブレーション手技は5~10年前あたりからの登録症例を最近まとめた研究であり、カテーテルアブレーション技術自体は高周波アブレーションにおいても3-Dガイド、コンタクトフォースなどのさらなる技術革新、クライオ、ホット、レーザーなどのバルーン技術の積極的導入など目覚ましい進歩があり、現在の日々の診療データ集積から心房細動アブレーションの有効性・問題点について検討を続ける必要性がある。

411.

第2回 心房細動の早期発見、プライマリケア医の協力が不可欠

循環器疾患に関連した学会は数多く存在するが、そのなかでも教育活動に力を注いでいるのが日本心臓病学会である。9月13~15日の学術集会開催を前に、本学会の教育委員長を務める清水 渉氏(日本医科大学大学院医学研究科循環器内科学分野 大学院教授)が本学会の強みについて語った。若手医師、非専門医への心臓病診療の普及を目指すプライマリケアの現場で診療される先生方の患者には、糖尿病や脂質異常症を合併している方や高齢者が多くいらっしゃるのではないでしょうか。近年、心房細動と心原性脳梗塞の発症数は増加傾向にあります。どちらもQOLを低下させ、健康寿命を縮める要因になります。CKDや睡眠時無呼吸症候群などの既往がある患者で発症しやすい心房細動は、不整脈の1つです。国内では100万人もの患者が存在し、高齢者では10~20人に1人が発症しています。これ自体は命に関わるような危険な不整脈ではありませんが、長生きすることで心不全へ発展してしまうため、大きな問題になっています。高齢者の心房細動発症者は自覚症状に乏しく「疲れやすい」「動けないのは歳のせい」などの表現をする患者もいるため、早期発見が難しく、80~90歳代の患者が心不全を発症して、緊急搬送される事例もあります。また、心原性脳梗塞の患者の場合、治療により症状が安定すれば抗凝固療法を継続した状態で退院します。とくに高齢者の場合は、脳梗塞予防として抗凝固療法の長期継続が必要になるため、退院後のフォローにはプライマリケア医の協力、つまり、病診連携が頼みの綱となるわけです。このような現状を踏まえ、高齢者や合併症を有する患者を抱える非専門医の方々にも、心房細動などの自覚症状を見極める能力や問診力を培っていただける、診断や治療に役立つ知識を共有してもらえるように、日本心臓病学会では教育講演などの企画に努めています。プライマリケア医がおさえておくべき循環器疾患の現状もう一つ、心臓病診療のトレンドを多くの医療者にしっかり理解いただくことも本学会の大きな目的です。たとえば、私の専門である不整脈治療におけるカテーテルアブレーション実施件数は、2010年に約3.5万件だったのが、この10年で2倍以上も増加し、現在は約9万件も実施されています。一方で、心筋梗塞の治療法の1つであるPCI(経皮的冠動脈インターベンション)は、技術の進歩によって再狭窄リスクが低下したため、実施件数が横ばいになっています。なぜ、このようにアブレーション件数が増えているかというと、2012年に発表された「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」から「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年版改訂)」に改訂された際に、適応疾患が拡大し、動悸などの症状を有していれば、カテーテルアブレーションを第1選択できるようになったためです。そのため、心房細動患者に対するアブレーション件数は年々増加を続け、この領域は薬物療法から非薬物療法へ変遷を経ています。非会員でも参加できる教育セミナー今回の学術集会とは離れますが、本学会は、日ごろから医療者に対する教育に力を入れています。会員のみならず非会員でも参加できる仕組みを作り、学術集会での教育講演のほかに、「教育セミナー」に注力しています。教育セミナーは年に2回、2月と6月に開催され、アドバンスコース(専門医向け)とファンダメンタルコース(非専門医、医療者向け)の2つのコースを設け、毎回200~300名の方が受講する盛況ぶりです。受講内容は毎年変わり、不整脈、虚血性心疾患、心不全、動脈疾患など循環器疾患全般を幅広く網羅しています。「脳卒中・循環器病対策基本法」が昨年12月に成立したことを踏まえ、今後は、本学会でも若手医師や非専門医の方々に、この法律の重要性を理解してもらえるような取り組みも行っていく予定です。メッセージ(動画)

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本邦初、心房細動による脳卒中を予防する「WATCHMAN左心耳閉鎖システム」発売

 ボストン・サイエンティフィック ジャパンは、本邦初となる左心耳閉鎖システム「WATCHMAN左心耳閉鎖システム」を2019年9月2日に発売した。本製品は、非弁膜症性心房細動による血栓形成の主な原因とされる「左心耳」を閉鎖し、脳卒中を予防する医療機器である。非弁膜症性心房細動で長期間の抗凝固薬の服用ができない患者に対して、1回の手技で心房細動による脳卒中を予防するという、新しい治療の選択肢を提供する。 心房細動により、心臓にできた血栓が原因となる心原性脳卒中の場合、血栓形成の約9割が左心房にある「左心耳」に起因するといわれている。WATCHMANは、開心術の必要がなく、鼠径部の静脈からカテーテルを通して心臓に挿入され、左心耳を閉鎖し、脳卒中のリスクを低減する。また、出血リスクを伴うワルファリンの服用を中止できる可能性がある。 なお、本製品に関しては、日本循環器学会より適正使用指針および実施施設認定のフローが定められている。WATCHMANの臨床試験成績 1,114例を対象としたPROTECT AF試験および PREVAIL試験の2件のランダム化臨床試験により、ワルファリンと比較して出血性脳卒中リスク低減に加えて、長期的な出血性イベントの低減が確認された。ワルファリンとの比較において、心血管死/原因不明の死亡は 52%低減(p=0.006)、手技6ヵ月以降の大出血は 72%低減(p<0.001)、出血性脳卒中は78%低減(p=0.004)という結果が報告されている。また、PROTECT-AF試験およびPREVAIL試験のメタ解析によって、WATCHMAN留置期間が長いほど、出血性イベントが低減するとともに、WATCHMAN群はワルファリン群に比べて手技6ヵ月後の大出血が72%少ないことが確認された(1.0 vs.3.5、p<0.001)。 また、日本人42例を対象としたSALUTE試験においても、有効性に関して脳卒中、全身性塞栓症、心血管死の発現率、安全性に関して周術期の重篤な合併症の発現率を評価し、それぞれの主要評価項目が確認された。また、全症例でワルファリンの服用が中止された。手技から1年後の経過を調べた試験結果では、虚血性脳卒中が2例(4.8%)認められたが、いずれも身体に障害は認められず、入院も必要ない軽度のものであったことから、WATCHMANとの関連はきわめて低く、塞栓性の脳梗塞ではないと判断された。また、出血性脳卒中や全身性塞栓症、心血管死は認められなかった。左心耳の閉鎖については、経食道心エコーにより全例で留置1年後まで左心耳が適切に閉鎖されていることが確認された。

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TAVI周術期の脳卒中は減少していない(解説:上妻謙氏)-1109

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は高齢者心不全の原因の1つとなっている大動脈弁狭窄症(AS)に対する根本的介入を行うもので、手術ハイリスク、超高齢者に対する治療として早くから第1選択となっていたが、すでに無作為化試験のエビデンスがそろって、米国FDAは手術低リスクの症例にまで適応を拡大した。本論文は米国の胸部外科学会(STS)と米国心臓病学会(ACC)の合同で行われている経カテーテル弁膜症治療に関するTranscatheter Valve Therapy(STS/ACC TVT)Registryデータを用いた、大規模データベース研究の結果である。 今回発表されたHudedらによるJAMAの論文は、全米521病院の2011年11月~2017年5月までの10万例を超えるTAVIの30日データを検討している。結果、脳卒中の発症頻度はデバイスの進歩にもかかわらず2012年から2017年の経年でほとんど変化しておらず、TIA平均は0.4%、脳卒中全体平均で2.3%であった。脳卒中発生の中央値は2.0日で、約半数が1日以内に発生しており、68.4%が3日以内の発生であった。年間症例数100件未満と100件以上で比較しても発生率は差がなく、症例規模にかかわらず一定の割合で発生していることがわかる。脳卒中発生患者は非発生患者に比べて高齢で、女性に多く、脳卒中既往患者、末梢動脈疾患・高血圧・全周性石灰化大動脈・頸動脈狭窄の合併などで多かったが、心房細動の既往の有無では差がなかった。ただし、術後に発生する新規の心房細動は脳卒中患者に多かった。大腿動脈アプローチのほうが脳卒中は少なく、STSスコアが高い、全身麻酔、自己拡張型人工弁が、脳卒中発生のグループに多かった。また抗血小板薬と抗凝固薬の服用に関しては脳卒中の発症頻度に影響がなかった。 本論文の結果をみると、TAVIに伴う脳卒中はデバイスの大動脈あるいは大動脈弁通過に伴う機械的な血管壁のダメージが原因と考えられる。これは日本でも大幅に症例数が増えても、脳梗塞発症率が1%前後から低下していないことから同様に考える必要がある。今後TAVIの適応拡大を進めていくに当たっては、脳保護デバイスや血管壁に優しい細いデバイスなどの開発が必要と考えられる。

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short DAPTとlong DAPTの新しいメタ解析:この議論、いつまで続けるの?(解説:中野明彦氏)-1105

【はじめに】 PCI(ステント留置)後の適正DAPT期間の議論が、まだ、続いている。 ステントを留置することで高まる局所の血栓性や五月雨式に生じる他部位での血栓性イベントと、強力な抗血小板状態で危険に晒される全身の出血リスクの分水嶺を、ある程度のsafety marginをとって見極める作業である。幾多のランダム化試験やメタ解析によって改定され続けた世界の最新の見解は「2017 ESC ガイドライン」1)に集約されている。そのkey messageは、・安定型狭心症は1~6ヵ月、ACSでは12ヵ月間のDAPTを基本とするが、その延長は虚血/出血リスクにより個別的に検討されるべきである(DAPT score・PRECISE DAPT score)。・ステントの種類(BMS/DES)は考慮しない。・DAPTのアスピリンの相方として、安定型狭心症ではクロピドグレル、ACSではチカグレロル>プラスグレルが推奨される。 一方本邦のガイドラインは、安定型狭心症で6ヵ月、ACSでは6~12ヵ月間を標準治療とし、long DAPTには否定的である。 言うまでもないが、DAPTの直接の目的はステント血栓症予防である。ステント血栓症の原因は複合的で、病態(ACS vs.安定型狭心症)のほかにも、患者因子(抗血小板薬への反応性・糖尿病・慢性腎臓病・左室収縮能など)、病変因子(血管径・病変長・分岐部病変など)、ステントの種類(BMS、第1世代DES、第2世代以降のDES)、さらには手技的因子(stent underexpansion、malappositionなど)が関連すると報告されている。そしてステント血栓症は留置からの期間によって主たるメカニズムが異なり、頻度も変わる2)。1年以降(VLST:Very Late Stent Thrombosis)の発生頻度は1%をはるかに下回り、in-stent neoatherosclerosisが主役となる。またVLSTの数倍も他病変からのspontaneous MIが発症するといわれている。こうした点がDAPTの個別的対応の背景であろう。【本メタ解析について】 ステント留置後のadverse eventは時代とともに減少し、したがって数千例規模のRCT でもsmall sample sizeがlimitationになってしまう。これを補完すべく2014年頃からRCTのメタ解析が年2~3本のペースで誌上に登場してきた。本文はその最新版で、これまでで最多の17-RCT(n=46,864)を解析した。DAPTはアスピリン+クロピドグレルに限定し、単剤抗血小板療法(SAPT)はアスピリンである。従来の「short DAPT=12ヵ月以内」を細分化して「short(3~6ヵ月)」と「standard(12ヵ月)」に分離、これを「long(>12ヵ月)」と比較する3アーム方式で議論を進めている。 その結論・主張は、(1)総死亡・心臓死・脳卒中・net adverse clinical eventsはDAPT期間で差がない(2)long DAPTはshort DAPTに比して非心臓死や大出血を増やす(だからlong DAPTは極力避けたほうがいい)(3)short DAPTとstandard DAPTではACSであってもステント血栓症や心筋梗塞に差がない(だからshort DAPTでいい) などである。しかし一方、long DAPTの超遅発性ステント血栓症・心筋梗塞抑制効果についてはほとんど触れられておらず、short DAPTに肩入れしている印象を受ける。筆者が、おそらく虚血患者に接する機会が少ないであろう臨床薬理学センター所属のためだろうか? 本メタ解析の構図は「DAPTに関するACC/AHA systematic review report(2017)」3)に似ていて、これに2016年以降発表されたRCTを中心に6報加えて議論を展開している。long DAPTほど血栓性イベント抑制に勝り出血性合併症が増える結論は同じだが、ACC/AHA reportはテーラーメードを意識してかリスクによる選択の余地を強調している。 さらにいくつか気になる点がある。評者もご多分に漏れず統計音痴なので、その指摘は的を射ていないかもしれないけれど、できれば本文をダウンロードしてご意見をいただきたい。 たとえば、MIやステント血栓症はlong DAPTで有意に抑制しているのに心臓死はshort DAPTで少ない傾向にあったこと。あるいは非心臓死(有意差あり)・心臓死のOdd Ratioが共に総死亡より大きかったこと。これらは各エンドポイントが試験により含まれたり含まれなかったりしていたためらしい。 また、たとえば各試験でのevent ratioが大きく異なること。同じshort vs.standard DAPTの試験でも12ヵ月MI発症率が0%(IVUS-XPL)~3.9%(I-LOVE-IT2)と幅がある。調べてみるとperiprocedural MIを含めるかどうかなど、そもそも定義が異なるようである。 そして、例えばランダム化の時期である。short vs.standardのほとんどがPCI前後に振り分けているのに対し、standard vs.longはすべてで急性期イベントが終了した12ヵ月後に振り分けランドマーク解析している。これでもshort vs.longの図式が成り立つのだろうか?【まとめ】 DAPT有用性の議論はあのゴツイPalmaz-Schatz stentから始まった。第1世代DESも確かに分厚かった。しかし技術の粋を集め1年以内のステント血栓症が大幅に減少した現時点において、short DAPTにシフトするのは異論がないところであろう。とりわけcoronary imagingを駆使してoptimal stentingを目指すことができる本邦においては、なおさらである。しかし一方、心筋梗塞二次予防に特化したメタ解析4)では、long DAPTが致死性出血や非心臓死を増やすことなく心臓死やMI・脳卒中を有意に抑制した、との結果だった。 ステント血栓症が減ったからこそ、二次予防に抗血小板薬(DAPT)をどう活かすかという視点も必要であろう。解析の精度はさておき「short term DAPT could be considered for most patients after PCI with DES」と結論付けたSAPT(アスピリン)vs.DAPT(アスピリン+クロピドグレル)の議論はそろそろ終わりにしても良いのではないだろうか。 現在はアスピリンの代わりにクロピドグレルやP2Y12 receptor inhibitor(チカグレロル)によるSAPT、少量DOACの有効性も検討されて、PCI後の抗血栓療法は新しい時代に入ろうとしている。 木ばかりでなく森を見るようにしたいと思う。

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治療の中止も重要な介入(解説:後藤信哉氏)-1095

 刑事裁判では冤罪を起こさないことが、犯罪者を見落とさないことより重要との立場がある。長年医師をしていると、「予後を改善させるかもしれない介入」よりも「予後を悪化させない介入」が重要に思えてくる。日本では静脈血栓塞栓症の頻度は少ないが、発症してしまった症例には血栓性素因がある場合が多い。活性化プロテインC抵抗性のfactor V Leidenの多い欧米人では入院、安静のみにて静脈血栓が起こる。このような症例には3ヵ月の抗凝固療法で十分かもしれない。本論文は、欧米人であってもunprovoked VTEでは抗凝固薬中止後の血栓イベントが無視できないことを示唆している。 抗凝固薬の中止は重要な介入である。介入による予後の悪化を避けることを重視する立場に立てば、日本ではとくに、血栓性素因を完全に同定し、その素因を完全に排除できない限り、抗凝固薬の中止はしないほうが良いと筆者は考える。筆者は抗凝固薬の開始には慎重であるが、中止時も開始時と同様に慎重な対応を進めたい。

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飽くことなき向上心(解説:今中和人氏)-1093

 全米521施設での、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)のstroke発生率の経時的推移を見た論文である。対象は2011年11月~2017年5月まで5年余の間の10万1,430例(年齢中央値83歳、女性47%)で、20%に中等度以上の弁逆流があり、三尖以外の形態の弁が10%、透析患者が4%含まれていた。塞栓防止フィルターの使用については、本文中には詳細な記述がない。 全調査期間のstroke発生率は2.3%(うち約5%が出血性梗塞)、一過性脳虚血は0.4%で、イベント発生はTAVR当日が半数、中央値は2日だった。発生率は調査期間を通じて不変で、リスク因子は、有意ではあるが年齢も84歳vs.82歳。そのほか、女性、stroke既往、PAD合併、頸動脈狭窄合併、STSスコア高値などが挙がっていて、n数が大きいので有意差はついたが、臨床の現場でselectionに資するほどの違いはない。施設ごとの経験症例数(カットオフ100例)や、いかにも関係ありそうな糖尿病や心筋梗塞既往、腎障害や心房細動の有無もstroke発生率に有意差はなかった。過日、問題となった血栓弁と抗凝固療法についても、観察期間が30日とごく短いこともあってstrokeと無関係だった。 塞栓防止フィルター関連の論文だと、MRIでの新規病変を検討したりするのでstroke発生率は10%内外となるが、臨床的に問題となるdisabling strokeについては、大抵1~2%程度である。本論文の著者らは、stroke発生頻度に目立った減少傾向がないことを「残念な現状」というニュアンスで書いているが、外科的大動脈弁置換を行う立場からすると、あんなゴリゴリに石灰化した弁を強引にへし折るようなまねをして、この程度しかstrokeが起きないことのほうが驚きであり、ご立派としか言いようがない。 外科的弁置換では石灰化病変を破砕・露出させるうえ、必ずしも健常でない大動脈に遮断鉗子をかけ、切開し、縫合する。近年は上行大動脈の性状が悪い患者が増えていることもあり、同程度にstrokeが発生する。コマゴマした破片も神経質につまみ出し、こぼれ落ちたかもしれない破片を排除すべく、祈りを込めて何度も洗浄している私たち外科医って一体何やってるんだろう、と、TAVRの2%内外という成績に技術革新の波動を体感する思いがする。TAVRという治療の荒っぽさを思えばおのずと限界はあるはずで、すでにその限界近くに到達している気もするが、2%を容認せずさらなる低下を目指す「飽くことなき向上心」をたたえ、今後の展開に期待したい。 本邦では本稿執筆時点で170弱のTAVR実施施設が認定されており、極端な施設や地域では外科的大動脈弁置換という術式がほぼ消滅したとも聞く。感染症例は言うに及ばず、二尖弁では塊状の石灰化がまれでないためかstrokeは多少増えるようだし、機械弁が適している症例も少なくないはずで、医者側も患者側も、そこまでの傾倒はいかがなものかと思う。先行する欧米もそんな状況にはなっていない。弁輪破裂などの重大事故のほか、いまだ高率な房室ブロックやリークなどの課題、デバイスがきわめて高額なこと(しかも最新鋭ではない!)など、TAVRも良いことずくめではないが、低侵襲性は議論の余地もない。急ピッチのデバイス改良が続き、今やターゲットはintermediate surgical riskからlow riskの患者へと移りつつある。スムーズな治療経過が次の症例を呼び込むわけなので、TAVRが導入されないままの循環器部門は、今後、施設集約化の波にのみ込まれてゆく可能性が高いと思われる。

418.

抗凝固療法終了後のVTE、10年で3分の1以上が再発/BMJ

 非誘発性の静脈血栓塞栓症(VTE)の初回エピソードを発症し、3ヵ月を超える抗凝固療法を終了した患者における累積VTE再発率は、2年で16%、5年で25%、10年では36%に達することが、カナダ・オタワ大学のFaizan Khan氏らMARVELOUS共同研究グループの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年7月24日号に掲載された。抗凝固療法は、非誘発性VTEの初回エピソード後のVTE再発リスクの抑制において高い効果を発揮するが、この臨床的な有益性は抗凝固療法を中止すると維持されなくなる。抗凝固療法を無期限に中止または継続すべきかの判断には、中止した場合のVTE再発と、継続した場合の大出血という長期的なリスクとのバランスの考慮が求められるが、中止後のVTE再発の長期的なリスクは明確でないという。中止後の長期のVTE再発率をメタ解析で評価 研究グループは、非誘発性VTEの初回エピソード例において、抗凝固療法中止後のVTE再発を評価し、最長10年の累積VTE再発率を検討する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成による)。 2019年3月15日までに、医学データベースに登録された文献を検索した。対象は、非誘発性VTEの初回イベントを発症し、3ヵ月以上の抗凝固療法を終了した患者において、治療中止後の症候性VTEの再発について報告した、無作為化対照比較試験または前向きコホート研究とした。 2人の研究者が独立的に試験選出・データ抽出を行い、バイアスリスクを評価。適格と判定された試験のデータについて、各論文執筆者に確認を求めた。個々の研究の抗凝固療法中止後のVTE再発イベントの発生率および追跡期間の人年を算出し、変量効果メタ解析でデータを統合した。男性で再発率が高い傾向、再発による死亡は4% 18件の研究(7,515例)が解析に含まれた。4件が前向き観察コホート研究、14件は無作為化対照比較試験であった。すべての研究が、Newcastle-Ottawaスケールで「質が高い」と判定された。 抗凝固療法中止後100人年当たりのVTE再発率は、1年時が10.3件(95%信頼区間[CI]:8.6~12.1)、2年時が6.3件(5.1~7.7)、3~5年が3.8件/年(3.2~4.5)、6~10年は3.1件/年(1.7~4.9)であった。また、累積VTE再発率は、2年時が16%(13~19)、5年時が25%(21~29)、10年時は36%(28~45)であった。 男女別の抗凝固療法中止後1年の100人年当たりのVTE再発率は、男性が11.9件(95%CI:9.6~14.4)、女性は8.9件(6.8~11.3)であり、10年時の累積再発率はそれぞれ41%(28~56)および29%(20~38)であった。 VTE再発率は、孤立性肺塞栓症患者と比較して、近位深部静脈血栓症患者(率比:1.4、95%CI:1.1~1.7)および肺塞栓症+深部静脈血栓症患者(1.5、1.1~1.9)で高かった。また、遠位深部静脈血栓症患者における中止後1年時の100人年当たりのVTE再発率は1.9件(95%CI:0.5~4.3)であった。VTE再発による死亡率は4%(2~6)だった。 著者は、「これらのデータは、非誘発性VTEの診療ガイドラインの策定に役立ち、患者に予後を説明する際の信頼度を高め、長期のマネジメントに関する意思決定の支援に有用と考えられる」としている。

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循環器医もがんを診る時代~がん血栓症診療~/日本動脈硬化学会

 がん患者に起こる“がん関連VTE(Venous Thromboembolism、静脈血栓塞栓症)”というと、腫瘍科のトピックであり、循環器診療とはかけ離れた印象を抱く方は多いのではないだろうか? 2019年7月11~12日に開催された、第51回日本動脈硬化学会総会・学術集会の日本腫瘍循環器病学会合同シンポジウム『がん関連血栓症の現状と未来』において、山下 侑吾氏(京都大学大学院医学研究科循環器内科)が「がん関連静脈血栓塞栓症の現状と課題~COMMAND VTE Registryより~」について講演し、循環器医らに対して、がん関連VTE診療の重要性を訴えた。なぜ循環器医にとって、がん関連VTEが重要なのか 循環器医は、虚血性心疾患、不整脈、および心不全などの循環器疾患を主に診療しているが、血栓症/塞栓症のような“血の固まる病気”への専門家として、わが国ではVTE診療における中心的な役割を担っている。VTEは循環器医にとって日常臨床で遭遇する機会の多い身近な疾患であり、山下氏は「VTE診療は循環器医にとって重要であるが、その中でもがん関連VTEの割合は高く、とくに重要である」と述べた。発症原因のはっきりしないVTEでは、がんに要注意! 「循環器医の立場としては、VTEの発症原因が不明で、なおかつVTEを再発するような患者では、後にがんが発見される可能性があり、日常臨床で経験する事もある」と述べた同氏は、VTE患者でのがん発見・発症割合1)を示し、VTEの原因としての“がん”の重要性を注意喚起した。さらに同氏は、所属する京都大学医学部附属病院で2010~2015年の5年間に、肺塞栓症やDVT(Deep Vein Thrombosis、深部静脈血栓症)の保険病名が付けられた診療科をまとめた資料を提示し、循環器内科を除外した場合には、産婦人科、呼吸器科、消化器科および血液内科などの腫瘍を多く扱う診療科でVTEの遭遇率が高かったことを説明した。 近年では、がん治療の進歩によりがんサバイバーが増加し、経過観察期間にVTEを発症する例が増えているという。がん患者と非がん患者でVTE発症率を調査した研究2)でも、がん患者のVTE発症率が経年的に増加している事が報告されており、VTE患者全体に占めるがん患者の割合は高く、循環器医にとって、「VTEの背景疾患として、がんは重要であり、日常臨床においては、循環器医と腫瘍医との連携・協調が何よりも重要」と同氏は強調した。がん関連VTEの日本の現状と課題 本病態が重要にも関わらず、現時点での日本における、がん関連VTEに関する報告は極めて少なく、その実態は不明点が多い状況であった。そこで同氏らは、国内29施設において急性症候性VTEと診断された3,027例を対象とした日本最大規模のVTEの多施設共同研究『COMMAND VTE Registry』を実施し、以下のような結果が明らかとなった。・活動性を有するがん患者は、VTE患者の中で23%(695例)存在した(がんの活動性:がん治療中[化学療法・放射線療法など]、がん手術が予定されている、他臓器への遠隔転移、終末期の状態を示す)。・がんの原発巣の内訳は、肺16.4%(114例)、大腸12.7%(88例)、造血器8.9%(62例)が多く、欧米では多い前立腺5.2%(36例)や乳房3.7%(26例)は比較的少数であった。・がん患者のVTE再発率は非常に高く、活動性を有するがん患者ではVTE診断後1年時点で11.8%再発し、なかでも遠隔転移を起こしている患者では22.1%と極めて高い再発率であった。・がん患者の総死亡率は極めて高く、とくに活動性を有するがん患者では49.6%がVTE診断後1年時点で亡くなっていた。・死亡した活動性を有するがん患者(464例)の死因は、がん死が81.7%(379例)で最多であったが、それに次いで、肺塞栓症4.3%(20例)、出血3.9%(18例)であった。 この結果を踏まえ、「再発率だけでなく、死亡率も高いがん関連VTE患者を、どこまでどのように介入するか、今後も解決しなければならない大きな問題である」とし、がん治療中のVTEマネジメントが腫瘍医および循環器医の双方にとって今後の課題であることを示した。 欧米でVTE治療に推奨されている低分子ヘパリンは、残念ながら日本では使用できず、ワルファリンやDOACが使用されている。しかし、ワルファリンは化学療法の薬物相互作用などによりINRの変動が激しく、用量コントロールにも難渋する。また、前述の研究の結果によると、活動性を有するがん患者ではワルファリンによる治療域達成度は低かった。このような患者に対し、VTE治療のガイドライン3)では抗凝固療法の長期継続を推奨しているが、「実際は中止率が高く、抗凝固療法の継続が難しい群であった」と現状との乖離について危惧し、「DOAC時代となった日本でも、がん関連VTEに対する最適な治療方針を探索する研究が必要であり、わが国から世界に向けた情報発信も期待される」と締めくくった。

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