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透析中の自転車漕ぎ運動で心臓の調子が改善透析患者は年々増えており、2019年の調査では日本人のおよそ1,000人に3人(100万人当たり2,732人)が慢性透析患者でした1)。それら透析頼りの患者の死亡原因で最も多かったのは心不全であり、死亡原因の22.7%を占め、心不全に加えて脳血管障害と心筋梗塞も含む心血管疾患全般は死亡原因の約1/3の32.3%を占めました。慢性疾患患者の心血管疾患予防には運動が良いことが報告されています。血液透析頼りの末期腎疾患(ESRD)患者はとくにじっとしていがちであり、運動で心血管機能や体調の改善が期待できるでしょう。とはいえ透析に出向いて4時間透析を受けて帰宅することを多くの場合週に3回繰り返す患者がその他のことをする時間は非常に限られています2)。ではその長い透析の最中に運動してもらったらいいじゃないかということで実施されて好成績を収めた無作為化試験の結果が国際腎臓学会(ISN)発行のKidney International誌に掲載されました3)。試験は英国の血液透析センター3ヵ所で実施され、130人が参加しました。半数の65人は週3回の透析中に30分間自転車漕ぎ運動をしてもらい、残り半数はいつもの治療を受けました。6ヵ月後のMRI写真を調べたところ自転車漕ぎ運動をした患者の心臓の大きさは正常化しており、心臓の瘢痕が減っていました。血管にも良い影響を及ぼしたらしく大動脈硬化の指標が改善しました。また、自転車漕ぎ運動をした患者の入院はより減り、1人当たりの6ヵ月間の医療費はそうしなかった患者に比べて諸費用・装置導入や人件費(理学療法士の給与)差し引きで1,418ポンド少なくて済みました4)。透析の都度自転車漕ぎ運動をすれば否が応でも運動習慣を身につけることができ、長い透析がより有意義なものになるでしょう2)。透析中の自転車漕ぎ運動は心血管の調子を改善するようであり、果ては生存改善につながるかどうかを今後の試験で調べる必要があると著者は言っています。血栓症をAZ社ワクチンの非常に稀な副作用と欧州が判断~J&Jワクチンでも同様の血栓症が発生血小板減少を伴う普通じゃない血栓症をAstraZeneca社COVID-19ワクチンVaxzevria(AZD1222)の非常に稀な副作用と欧州医薬品庁(EMA)が結論しました5,6)。およそ2,500万人がAstraZenecaワクチン接種済みの欧州地域から主に自主的に3月22日までに報告された脳静脈洞血栓症(CVST)62例と内臓静脈血栓症(splanchnic vein thrombosis)24例を詳しく調べてEMAはその結論に至りました。欧州連合(EU)の薬剤安全性データベースEudraVigilanceに集まったそれら86例のうちおよそ5例に1例(18例)は死亡しています。その約2週間後の4月4日時点でのEudraVigilanceへのCVST報告数は3月22日までより3倍近い169例、内臓静脈血栓症は2倍以上の53例に増えています。とはいえ血小板減少を伴う血栓症は非常に稀であり、AstraZenecaワクチンのCOVID-19予防効果は副作用リスクを上回るとEMAは依然として考えています。先週紹介したヘパリン起因性血小板減少症(HIT)様の免疫反応を原因の一つとEMAは想定しています。心配なことにJ&JのCOVID-19ワクチンでも同様の血栓症が発生してEMAは調査を開始しています7)。また、AstraZenecaワクチンの別の安全性懸念・毛細管漏出症候群の調査も始まっています。毛細管漏出症候群は血管の液漏れを特徴とし、組織を腫らして血圧低下を招きます。参考1)新田孝作ほか. 透析会誌. 53:579~632,2020 2)Cycling study transforms heart health of dialysis patients / Eurekalert 3)Matthew P.M.et al. Kidney International. April 08, 2021. [Epub ahead of print]4)Daniel S. M.et al.Kidney International. April 08, 2021.[Epub ahead of print]5)AstraZeneca’s COVID-19 vaccine: EMA finds possible link to very rare cases of unusual blood clots with low blood platelets / EMA6)Blood Clots a Very Rare Side Effect of AstraZeneca Vaccine: EMA / TheScientists7)Meeting highlights from the Pharmacovigilance Risk Assessment Committee (PRAC) 6-9 April 2021 / EMA