術中左心耳閉鎖術併用で、脳卒中/塞栓症リスクが低減/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2021/05/31

 

 多くが経口抗凝固薬の投与を受けている心房細動の患者集団において、冠動脈バイパス術や弁置換術などの心臓手術の術中に左心耳閉鎖術を併用すると、これを併用しない場合と比較して、虚血性脳卒中/全身性塞栓症のリスクが低下することが、カナダ・ハミルトン総合病院のRichard P. Whitlock氏らが実施した「LAAOS III試験」で示された。NEJM誌オンライン版2021年5月15日号掲載の報告。

27ヵ国105施設の無作為化試験

 本研究は、心臓手術時の脳卒中予防における左心耳閉鎖術の有効性と安全性の検証を目的とする無作為化試験であり、2012年7月~2018年10月の期間に、27ヵ国105施設で患者登録が行われた(カナダ健康研究所などの助成による)。

 対象は、年齢18歳以上、心房細動以外の適応で人工心肺装置を用いた心臓手術が予定される、心房細動既往、CHA2DS2-VAScスコア(0~9点、点数が高いほど脳卒中のリスクが高い)が2点以上の患者であった。

 被験者は、術中に左心耳閉鎖術を受ける群またはこれを受けない群に無作為に割り付けられた。全例が、追跡期間中に経口抗凝固薬などによる通常治療を受けることとした。

 主要アウトカムは、虚血性脳卒中(神経画像検査で一過性脳虚血発作がみられる患者を含む)または全身性塞栓症の発現とした。患者、試験関連職員、患者のケアに携わる医師(外科医を除く)には、治療割り付け情報が知らされなかった。

 本試験は、有効性に関する2回目の正式な中間解析の後、2021年1月28日に、データ安全性監視委員会により、試験の中止と結果の報告が勧告された。

30日以降で効果発現、大出血/心不全/死亡に差はない

 主解析には、左心耳閉鎖術併用群2,379例と非併用群2,391例が含まれた。全体の平均年齢は71歳、男性が67.5%、平均CHA2DS2-VAScスコアは4.2点であり、約半数が経口抗凝固薬を服用していた。平均追跡期間は3.8年であり、92.1%が割り付けられた手術を受け、3年の時点で76.8%が経口抗凝固薬の投与を受けていた。

 虚血性脳卒中/全身性塞栓症は、併用群で114例(4.8%)、非併用群では168例(7.0%)に発現し、併用群で頻度が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.53~0.85、p=0.001)。

 また、虚血性脳卒中/全身性塞栓症の発現は、術後30日以内(2.2% vs.2.7%、HR:0.82、95%CI:0.57~1.18)では両群間に差はなかったが、30日以降(2.7% vs.4.6%、0.58、0.42~0.80)で差が認められた。虚血性脳卒中(4.6% vs.6.9%、0.66、0.52~0.84)は併用群で頻度が低かったが、全身性塞栓症(0.3% vs.0.3%、0.86、0.29~2.55)には差がみられなかった。

 一方、周術期の大出血(10.4% vs.11.2%、HR:0.93、95%CI:0.78~1.11)、心不全による入院(7.7% vs.6.8%、1.13、0.92~1.40)、全死因死亡(22.6% vs.22.5%、1.00、95%CI:0.89~1.13)には、両群間に差はなかった。

 著者は、「本試験は、左心耳閉鎖術と経口抗凝固薬を比較するものではないため、心臓手術時の閉鎖術の併用を、経口抗凝固薬の代替法として考慮すべきと考えるのは正しくない。経口抗凝固薬に加えて閉鎖術を行うことで、相加的な脳卒中予防効果が得られたと考えられる」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 高月 誠司( たかつき せいじ ) 氏

慶應義塾大学医学部循環器内科准教授

J-CLEAR推薦コメンテーター