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Dr.長門の5分間ワクチン

第1回 ワクチンの基礎第2回 接種の実際第3回 被接種者の背景に応じた対応第4回 接種時期・接種間隔第5回 予防接種の法律・制度第6回 Hibと肺炎球菌第7回 麻疹・風疹・おたふく第8回 水痘・BCG・4種混合第9回 肝炎・日本脳炎第10回 インフルエンザ・ロタウイルス第11回 子宮頸がんワクチン・渡航ワクチン第12回 トラブルシューティング CareNeTV総合内科専門医試験番組でお馴染みの長門直先生が、自身の専門の1つである感染症について初講義。医療者が感じているワクチンにまつわる疑問を各テーマ5分で解決していきます。テーマは「ワクチンの基礎」をはじめとした総論5回と「麻疹・風疹・おたふく」など各論7回。全12回で完結のワクチン学を、CareNeTV初お目見えのホワイトボードアニメーションでテンポよくご覧いただけます。第1回 ワクチンの基礎医療者でも意外と知らなかったり、間違って覚えていることが多いのがワクチン接種。第1回は「ワクチンの基礎」として、まず最初に押さえておきたい、「ワクチンの種類」と「ワクチンを取り扱う上で覚えておきたいこと」をまとめました。ワクチンの種類の違いは?アジュバントの意味は?ワクチンの保存方法で気を付けたいことは?「ワクチン学」の講義時間はたったの5分。CareNeTV初お目見えのホワイトボードアニメーションでテンポよく解説していきます。第2回 接種の実際今回の「ワクチン学」のテーマは「ワクチン接種の実際」。医療者からよく質問に出る「ワクチンの接種方法」と「ワクチン接種後の対応」について確認していきます。ワクチン接種方法では、皮下注射と筋肉注射の具体的な方法を確認していきます。接種部位は?使用する針の太さは?長さは?角度は?そして、ワクチン接種後の対応については、意外と知られていないことや、間違って覚えてしまっていることを解決していきます。第3回 被接種者の背景に応じた対応被接種者が抱える背景によって、ワクチン接種の可否や気を付けておきたいことを確認していきます。今回「ワクチン学」で取り上げる被接種者の背景は8つ。(1)早産児・低出生体重児(2)妊婦・成人女性(3)鶏卵アレルギーがある人(4)発熱者(5)痙攣の既往歴のある人(6)慢性疾患のある小児(7)HIV感染症の人(8)輸血・γ-グロブリン投与中の人。それぞれに応じた対応をポイントに絞り、解説していきます!第4回 接種時期・接種間隔接種時期・接種間隔は予防接種ごとに決められています。今回は、原則と被接種者からよく聞かれる質問、そしてその対応を確認します。小児の場合、不活化ワクチンの第1期接種では、なぜ複数回接種する必要があるのか?成人や高齢者の場合は?生ワクチンで押さえておきたいポイント。被接種者からよく聞かれる質問は「感染症潜伏期間の予防接種は可能かどうか」など、3つをピックアップしました。第5回 予防接種の法律・制度法律・制度の観点から定期接種、任意接種を確認します。近年の法改正の流れ、それぞれの費用負担の違い、現在の対象疾病の種類。副反応に関する制度では、報告先と救済申請先を確認。また、医療者の中でも賛否が分かれるワクチンの同時接種についても言及します。第6回 Hibと肺炎球菌今回から各論に入ります。まずはHibワクチンと肺炎球菌ワクチン。よくある質問とそれぞれの特徴を見ていきます。よくある質問は「Hibワクチンや肺炎球菌ワクチンは中耳炎の予防になるの?」「肺炎球菌ワクチンは2つあるけどどう違うの?」。それぞれの特徴では、Hibワクチンは接種スケジュールのパターン、肺炎球菌ワクチンは2種類の成分、接種対象者と接種方法を確認していきます。第7回 麻疹・風疹・おたふく今回は生ワクチンシリーズ。麻疹、風疹、MR、ムンプスを確認します。内容は、それぞれの接種時期をはじめ、2回接種する理由、非接種者が感染者と接触した場合の対応について。そして2018年に大流行した風疹についてはより具体的に「ワクチン接種者からの感染はあるのか?」「ワクチン接種した母親の母乳を飲んだ乳児への影響」「妊娠中の女性への風疹ワクチン対応」など、よくある疑問を解決していきます!第8回 水痘・BCG・4種混合今回は水痘・BCG・4種混合ワクチン。それぞれの接種回数、接種時期をはじめ、注意すべき点について触れていきます。水痘ワクチンでは2回接種する理由を確認します。そして、医療現場で課題となりやすいBCGワクチンの懸濁の仕方については、均一に溶かすポイントを紹介。さらに、4種混合ワクチンの追加接種を忘れた場合の対応、ポリオワクチンの現状について学んでいきます。第9回 肝炎・日本脳炎今回は、肝炎、日本脳炎。肝炎は渡航ワクチンとして使われる任意接種のA型肝炎ワクチンと定期接種のB型肝炎ワクチン、そして医療保険適用となる母子感染予防のB型肝炎ワクチンについて見ていきます。それぞれの接種スケジュールとB型肝炎ワクチンの現場で迷うことを解決します。日本脳炎は、接種スケジュールの確認に加え、日本小児科学会が言及している標準的接種時期以前の発症リスクについて紹介します。 第10回 インフルエンザ・ロタウイルス今回は冬から春にかけて流行するインフルエンザ、ロタウイルス。それぞれのワクチンを接種するタイミングとおさえておきたいポイントを確認します。インフルエンザワクチンは定期接種対象者、卵アレルギーの被接種者の方への対応、予防効果について。ロタウイルスワクチンは1価と5価、それぞれの有効性、接種スケジュールの違い、接種する時期、期間を学んでいきます。第11回 子宮頸がんワクチン・渡航ワクチン今回は、女性のHPV関連疾患を予防する2種類の子宮頸がんワクチンと海外渡航者に気を付けてほしい渡航ワクチンについて触れていきます。子宮頸がんワクチンは2種類の違いとそれぞれの接種スケジュール、日本における接種率激減に対するWHOの見解を確認します。渡航ワクチンは数ある中から黄熱ワクチン、狂犬病ワクチン、髄膜炎菌ワクチンの有効性と接種推奨地域を見ていきます。第12回 トラブルシューティングワクチンは通常、定期接種ですが、不慮の事態で至急打たなければならない場合があります。最終回はそのようなワクチンの“トラブルシューティング”を取り上げます。具体的には、感染者と接触した際の緊急ワクチン接種、外傷時の破傷風トキソイド接種、針刺し時の対応です。さらに、ワクチンの接種間隔に関する規定の改正など、2019年から2020年の大きなトピックを3つ取り上げてワクチン学をまとめていきます。

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米国Moderna社の新型コロナワクチン、サルでの有効性確認/NEJM

 開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「mRNA-1273」は、非ヒト霊長類において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の中和活性と上気道・下気道の速やかな保護を誘導し、肺組織の病理学的変化は認められなかった。米国・ワクチン研究センターのKizzmekia S. Corbett氏らが、アカゲザルにおけるmRNA-1273の評価結果を報告した。mRNA-1273は、SARS-CoV-2の膜融合前安定化スパイクタンパク質をコードするmRNAワクチンで、第I相試験を含むいくつかの臨床試験において安全性および免疫原性が確認されているが、上気道・下気道でのSARS-CoV-2増殖に対するmRNA-1273の有効性を、ヒトと自然免疫やB細胞・T細胞レパートリーが類似している非ヒト霊長類で評価することが重要とされていた。NEJM誌オンライン版2020年7月28日号掲載の報告。mRNA-1273の2用量を4週間間隔で2回筋肉内投与し有効性を評価 研究グループは、米国国立衛生研究所(NIH)の規定を順守し、ワクチン研究センターの動物実験委員会(Animal Care and Use Committee of the Vaccine Research Center)ならびにBioqualの承認を得て本試験を実施した。 インド原産アカゲザル(雄と雌各12匹)を3群に割り付け(性別、年齢、体重で層別化)、0週目および4週目にmRNA-1273の10μg、100μgまたはリン酸緩衝生理食塩水1mL(対照)を右後脚に筋肉内投与した。その後、8週目に、すべてのサルにSARS-CoV-2(合計7.6×105PFU)を気管内および鼻腔内投与した。 抗体およびT細胞応答をSARS-CoV-2投与前に評価するとともに、PCR法を用いて気管支肺胞洗浄(BAL)液および鼻腔スワブ検体中のウイルス複製とウイルスゲノムを評価し、肺組織検体にて病理組織学的検査とウイルス定量化を実施した。高い免疫応答の誘導と感染抑制効果を確認 mRNA-1273を2回投与後4週時の生ウイルス中和抗体価幾何平均値(reciprocal 50% inhibitory dilution:log10)は、10μg投与群で501、100μg投与群で3,481であり、ヒトの回復期血清のそれぞれ12倍および84倍高値であった。ワクチン投与によって、1型ヘルパーT細胞(Th1)に依存したCD4 T細胞応答が誘導されたが、Th2またはCD8 T細胞応答は低いかまたは検出できなかった。 10μg投与群および100μg投与群のいずれも8匹中7匹で、SARS-CoV-2投与2日目にはBAL液中のウイルス複製が検出されず、100μg投与群の8匹は、SARS-CoV-2投与2日目には鼻腔スワブ検体でもウイルス複製が検出されなかった。また、いずれのワクチン投与群も、肺検体における炎症、検出可能なウイルスゲノムや抗原は限られていた。

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インフルとCOVID-19同時流行の対策提唱/日本感染症学会

 2020年8月3日、日本感染症学会は『今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて』の提言を学会ホームページ内に公開した。 新型コロナウイルスの流行を推測した研究によると、この冬、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行が予測されており、とくにインフルエンザの流行期と重なることで、重大な事態になることが危惧されている。また、インフルエンザとの混合感染は、COVID-19入院患者の4.3~49.5%に認められている1、2、3)。 そのため、本提言は、石田 直氏(インフルエンザ委員会委員長/倉敷中央病院)をワーキンググループ委員長に迎え、インフルエンザおよびCOVID-19の専門家、医師会の角田 徹氏(東京都医師会副会長/角田外科消化器科医院 院長)や釜萢 敏氏(日本医師会常任理事/小泉小児科医院 院長)が参加して作成された。開業医の視点を取り入れながら議論が進められており、検査の進め方については、両感染症の鑑別を第一とする原則を重視しながらも、流行行状況や感染者との接触、あるいは特徴的な臨床症状を考え、強く疑う感染症の検査を優先する考え方も提唱されている。 掲載内容は以下のとおり。――――――――――――――――――――――――――――I はじめにII インフルエンザとCOVID-19― インフルエンザとCOVID-19の相違(表1)― COVID-19流行レベルの定義の目安(表2)III 検査について  ―各流行レベルにおけるSARS-CoV-2検査の適応指針の目安(表3)  ―個人防護具の使用(表4)  ―鼻かみ液の使用について  ―唾液の使用について  ―鼻前庭検体の取り扱いについて   COVID-19およびインフルエンザを想定した外来診療検査のフローチャート(図)IV 治療について  ―薬剤感受性サーベイランスについて  ―バロキサビルと変異ウイルスについて  ―抗インフルエンザ薬についてV ワクチンについて小児(特に乳幼児〜小学校低学年) 2020-2021VI 基本的な考えVII 診断・検査-総論VIII 検査診断の実際  ― COVID-19流行レベルの定義の目安(表5)  ― 各流行レベルにおける SARS-CoV-2 迅速診断キット(供給状況により核酸増幅検査)の適応指針の目安(表6)  ― 施設別の検体採取部位・検体採取場所・PPE の目安(1)[感染リスクだけではなく、流行状況や診療効率を含めた総合的判定](表7-1)  ― 施設別の検体採取部位・検体採取場所・PPE の目安(2)[感染リスクだけではなく、流行状況や診療効率を含めた総合的判定](表7-2)IX 治療の実際―――――――――――――――――――――――――――― なお、本提言は7月時点での情報をもとに作成しており、検査法に関する新しい技術やエビデンスの発表を受けて適宜改訂される予定。

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新規HIV感染者ゼロを目指して(解説:岡慎一氏)-1267

 ワクチンのない現在、HIV感染を確実に防ぐ方法は2つある。1つは、感染者が治療を受けウイルス量を検出限界以下にすること(Undetectable equals Untransmittable:U=U)と、もう1つは感染リスクのある人が性行為の前に予防薬を飲むこと(Pre-Exposure Prophylaxis:PrEP)である。U=UとPrEPが実行されれば新規感染者はゼロになる、はずである。この論文は、PrEPに関する大規模RCTの結果である。もちろん世界のどんな地域でもHIV感染者より感染リスクのある人(非感染者)のほうが、圧倒的に人数が多い。したがって、PrEPへの注目度は、非常に高い。 この研究では、約5,400人もの参加者をわずか10ヵ月で集めている。当然試験結果も注目を集めるが、2019年2月22日にデータ解析を行い、3月6日に米国のエイズ学会(CROI2019)で報告している。企業の超迅速対応であり、CROI2019で最も注目を集めた演題でもあった。この後2019年の10月3日に、使用されたエムトリシタビン(FTC)/テノホビル アラフェナミド(TAF)(F/TAF)は、米国FDAからPrEPの保険適用が承認された。こちらもFDAの迅速対応である。対照薬は、すでに世界中でPrEPの有効性が確認され多くの国で承認を受けているF/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)(TVD、商品名:ツルバダ)である。もちろん、試験ではF/TAFのTVDに対する非劣性が証明されている。さらに良いことには、F/TAFのほうが有意に骨塩減少や腎障害に対する副作用が少なかったことである。PrEPは、非感染者に投与する、いわゆる飲むワクチンである。したがって、有効性のみならず安全性が非常に重要である。 ちなみに、日本はいまだに毎年1,000以上の新規感染者が出ているにもかかわらず、U=U達成までに数ヵ月以上かかってしまうこと(医療費控除を受けるための手続きに時間がかかる)や、TVDによるPrEPすら認められていない数少ない国である。数年前よりHIV感染の診断と同時に治療ができるように厚生労働省に要望を出しているがなしのつぶてであり、3年前よりPrEPの要望を出しているがこちらも遅々として進んでいない。新規感染者ゼロを目指す国の中では、日本は相当な後進国である。遅滞対応、残念。

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中国の新型コロナワクチン、第II相試験で抗体陽転率96%以上/Lancet

 中国で開発されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の、遺伝子組み換えアデノウイルス5型(Ad5)ベクター化ワクチンは、ウイルス粒子5×1010/mLの単回筋肉内投与により有意な免疫反応を誘導し、安全性は良好であることが示された。中国・江蘇省疾病管理予防センターのFeng-Cai Zhu氏らが行った第II相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。著者は、「結果は健康成人対象の第III相試験で、ウイルス粒子5×1010/mLのAd5ベクター化COVID-19ワクチンの有効性を検証することを支持するものであった」と述べている。Lancet誌オンライン版2020年7月20日号掲載の報告。中国のコロナワクチンの2つの用量とプラセボを比較 研究グループは、中国・武漢市の単一施設において、HIV陰性で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染歴がない18歳以上の健康成人を、ウイルス粒子が1×1011/mL群、5×1010/mL群、またはプラセボ群のいずれかに、2対1対1の割合で無作為に割り付け(ブロックサイズ4)、単回筋肉内注射した。被験者、治験責任医師および検査室のスタッフは、割り付けに関して盲検化された。 免疫原性の主要評価項目は、投与後28日時点の受容体結合ドメイン(RBD)特異的ELISA抗体価ならびに中和抗体価の幾何平均値(GMT)とした。安全性の主要評価項目は、投与後14日以内の有害事象であった。いずれも少なくとも1回の投与を受けたすべての被験者を解析対象とした。1×1011/mLと5×1010/mLで、抗体陽転率96%と97%、重度有害事象9%と1% 2020年4月11日~16日の期間に603例がスクリーニングされ、適格基準を満たした508例(男性50%、平均[±SD]年齢39.7±12.5歳)が、無作為に割り付けられた(1×1011/mL群253例、5×1010/mL群129例、プラセボ群126例)。 中国で開発されているコロナワクチンの1×1011/mL群および5×1010/mL群では、28日時点のRBD特異的ELISA抗体のピークはそれぞれ656.5(95%信頼区間[CI]:575.2~749.2)および571.0(467.6~697.3)、抗体陽転率は96%(93~98)および97%(92~99)であった。いずれも、生SARS-CoV-2に対する有意な中和抗体反応が誘導され、GMTは1×1011/mL群で19.5(16.8~22.7)、5×1010/mL群で18.3(14.4~23.3)であった。 コロナワクチン投与後の特異的インターフェロンγ酵素結合免疫スポットアッセイ反応は、1×1011/mL群で253例中227例(90%、95%CI:85~93)、5×1010/mL群で129例中113例(88%、81~92)に確認された。 非自発報告による有害事象は1×1011/mL群で253例中183例(72%)、5×1010/mL群で129例中96例(74%)、重度の有害事象はそれぞれ24例(9%)および1例(1%)報告された。重篤な有害事象は確認されなかった。

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COVID-19、学校・職場閉鎖などの介入の効果は?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への介入としての身体的距離(フィジカルディスタンス)の確保は、COVID-19の発生を13%抑制し、移動制限(封鎖)は実施時期が早いほうが抑制効果は大きいことが、英国・オックスフォード大学のNazrul Islam氏らが世界149ヵ国を対象に実施した自然実験で明らかとなった。研究の成果はBMJ誌2020年7月15日号に掲載された。COVID-19に有効な治療レジメンやワクチンのエビデンスがない中で、感染を最小化するための最も実践的な介入として、身体的距離の確保が推奨されてきた。この推奨の目標には、公衆衛生や保健サービスにおけるCOVID-19による負担の軽減や、この疾患の予防と管理のための時間の確保も含まれている。これらの介入の有効性に関するこれまでのエビデンスは、主にモデル化研究に基づいており、実地の患者集団レベルの有効性のデータは世界的に少ないという。分割時系列解析による自然実験の結果をメタ解析で統合 研究グループは、身体的距離の確保とCOVID-19の世界的な発生の関連を評価する目的で、国別に分割時系列解析による自然実験を行い、得られた結果をメタ解析で統合した(筆頭著者は、オックスフォード大学ナフィールド公衆衛生学科[NDPH]から給与の支援を受けた)。 解析には、欧州疾病予防管理センターから毎日報告されるCOVID-19患者のデータと、オックスフォードCOVID-19政策反応追跡(Oxford COVID-19 Government Response Tracker)からの身体的距離の確保に関するデータを用いた。対象は、2020年1月1日~5月30日の期間に、5つの身体的距離の確保(学校閉鎖、職場閉鎖、公共交通機関閉鎖、大勢の集まりや公的行事の規制、移動制限[封鎖])のうち1つ以上を、少なくとも7日間実施し、30例以上のCOVID-19患者が発生した国であった。 主要アウトカムは、身体的距離の確保による介入の導入前後のCOVID-19発生率比(IRR)とし、5月30日または介入後30日目のいずれか先に到達した日のデータを用いて推定した。IRRは、変量効果によるメタ解析を用いてすべての国のデータを統合した。公共交通機関閉鎖を除く4つと、5つ全部で抑制効果に差はない 149ヵ国が1つ以上の身体的距離確保による介入を行っていた。学校閉鎖のみのベラルーシと、学校閉鎖と大勢の集まりの規制のみのタンザニアを除く国が、3つ以上の介入を実施していた。5つ全部を実施したのが118ヵ国、4つが25ヵ国(日本は公共交通機関閉鎖以外の4つを実施)、3つが4ヵ国で行われていた。 身体的距離確保の実施により、COVID-19の発生が全体で平均13%低下した(IRR:0.87、95%信頼区間[CI]:0.85~0.89、p<0.001、149ヵ国)。日本は、4つの介入の実施によりCOVID-19の発生が6%抑制された(0.94、0.90~0.99)。 介入前と比較したCOVID-19発生の低下率は、5つの身体的距離確保を実施した国(統合IRR:0.87、95%CI:0.85~0.90、118ヵ国)と、4つを実施した国(0.85、0.82~0.89、25ヵ国)で類似していた。3つを実施した国(0.88、0.77~1.00)では、COVID-19発生率の変化が小さかったが、適用されたのは4ヵ国のみだった。 学校閉鎖、職場閉鎖、大勢の集まりの規制、移動制限が実施された場合のCOVID-19発生の低下(統合IRR:0.87、95%CI:0.84~0.91、32ヵ国)は、これに公共交通機関閉鎖を加えて5つすべての介入を行った場合(0.85、0.82~0.88、72ヵ国)とほぼ同等で、付加的な抑制効果は得られなかった。また、学校閉鎖、職場閉鎖、大勢の集まりの規制が実施された場合のCOVID-19発生の抑制効果もほぼ同様であった(0.85、0.81~0.89、11ヵ国)。 介入の順序に関しては、移動制限を早期に実施した場合(統合IRR:0.86、95%CI:0.84~0.89、105ヵ国)のほうが、他の身体的距離確保による介入後に遅れて移動制限を行った場合(0.90、0.87~0.94、41ヵ国)に比べ、COVID-19発生の抑制効果が大きかった。 著者は、「これらの知見は、各国が現在または将来、COVID-19の流行が押し寄せた場合に、身体的距離を確保するための措置の発令やその解除に備える際の、施策決定に役立つ可能性がある」としている。

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英国の新型コロナワクチン、第I/II相試験で有望な結果/Lancet

 英国で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白を発現する、チンパンジー・アデノウイルスベクター型ワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)の第I/II相臨床試験の結果が発表された。安全性プロファイルは許容可能で、ブースター投与後の抗体反応の増加も確認されたという。英国・オックスフォード大学のPedro M. Folegatti氏らによる検討で、著者は「今回の試験結果は液性免疫と細胞性免疫の両者の誘導を示すもので、この候補ワクチンの第III相試験における大規模評価の進行を支持するものであった」と述べている。Lancet誌オンライン版2020年7月20日号掲載の報告。被験者のうち10例に2回投与 研究グループは英国5ヵ所のセンターにて、検査でSARS-CoV-2感染歴がなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)様症状がみられない健康な18~55歳を対象に単盲検無作為化比較試験を行い、ChAdOx1 nCoV-19の安全性と有効性を検証した。 被験者を無作為に1対1の割合で2群に分け、一方にはChAdOx1 nCoV-19(5×1010ウイルス粒子)を、もう一方には髄膜炎菌結合型ワクチン(MenACWY)を、それぞれ単回筋肉内投与した。 なお、5ヵ所のセンターのうち2ヵ所についてはプロトコールを修正し、予防的パラセタモールの事前投与を認めた。また、被験者の10例は、非無作為化非盲検下で割り付け、ChAdOx1 nCoV-19を初回投与28日後にブースター投与を行う2回投与群とした。 ベースラインと28日後の時点で、液性免疫応答について、標準総IgG酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)(三量体・SARS-CoV-2スパイク蛋白を測定)、マルチプレックスアッセイ、3つのSARS-CoV-2中和アッセイ(50%プラーク減少中和力価[PRNT50]、マイクロ中和力価[MNA50、MNA80、MNA90]、Marburg VN)、偽ウイルス中和アッセイを用いて評価した。また、細胞性免疫応答については、体外Enzyme-Linked ImmunoSpot(ELISpot)アッセイで測定した。 主要アウトカムは有効性と安全性の2つで、有効性はウイルス学的に確認された症候性COVID-19の症例数で評価し、安全性は重篤な有害イベントの発生数で評価した。安全性は、ワクチン投与後28日間にわたって評価した。中和抗体反応、2回投与後全員に 2020年4月23日~5月21日の間に、1,077例が登録され、ChAdOx1 nCoV-19群に543例、MenACWY群に534例が割り付けられた。このうち10例がブースター投与群に登録された。 ChAdOx1 nCoV-19に関連した重篤有害事象の発生はなかった。一方、疼痛、発熱感、悪寒、筋肉痛、頭痛、倦怠感といった局所・全身性反応は、ChAdOx1 nCoV-19群でより多く発生した(すべてのp<0.05)。また、それらの多くはパラセタモールの使用によって低下することが確認された。 ChAdOx1 nCoV-19群では、14日目にスパイク特異的T細胞反応がピークに達した(中央値:スポット形成細胞数856個/末梢血単核球100万個、IQR:493~1,802、43例)。抗スパイクIgG応答は28日目まで上昇し(中央値:157ELISA単位[EU]、96~317、127例)、その値はブースター投与後に上昇した(639EU、360~792、10例)。 SARS-CoV-2に対する中和抗体反応は、単回投与後にMNA80測定で32/35例(91%)、PRNT50測定では35例全員(100%)で検出された。ブースター投与後、全員に中和活性が認められた(42日目:MNA80測定で9/9例、56日目:Marburg VN測定で10/10例)。中和抗体反応は、ELISAで測定した抗体価と強い相関があることが確認された(Marburg VN測定でR2=0.67、p<0.001)。

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水痘、帯状疱疹ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第2回

今回は、ワクチンで予防できる疾患、VPD(vaccine preventable disease)の第2回のテーマとして、「水痘(水ぼうそう)と帯状疱疹」を取り上げる。医療者の多くにとって、水痘と帯状疱疹は気にも留めないようなありふれた疾患かもしれない。しかし、水痘は、時に重症化し、しかも空気感染によって容易に伝播する。成人、中でも妊婦にとっては最も避けたい感染症の1つである。また、同じ水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によって発症する帯状疱疹は、神経痛によりQOLを大きく低下させてしまう。このような水痘・帯状疱疹を予防するには、ワクチンが有効かつ重要である。現在、VZVに対してわが国で使用できるワクチンは2種類ある。従来の水痘生ワクチンと、2020年1月に発売された、帯状疱疹予防に特化した不活化ワクチンである。本稿では、水痘と帯状疱疹の特徴と疫学、そしてワクチンの活用法と注意点について取り上げたい。水痘、帯状疱疹の概要1)水痘(1)水痘の概要感染経路:空気感染、飛沫感染潜伏期:約14日間周囲に感染させうる期間:水疱が痂疲化するまで感染力(R0:基本再生産数):8-101)学校保健法:第2種(出席停止期間:すべての発しんがかさぶたになるまで)感染症法:5類(入院例に限る)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。(2)水痘の臨床症状全身性の水疱性発疹と発熱を来たし、多くは軽症で自然に軽快する。しかし成人では、肺炎などの皮膚外病変により重症化しやすく、成人の死亡率は小児の約8倍にもなる2)。成人の中でも最もハイリスクなのは、妊婦である。妊娠第1・2三半期の初感染では先天性水痘症候群(胎児水痘症候群)のリスクとなり、妊娠第3三半期の初感染では10~20%で水痘肺炎を併発し、時に致死的となる3)。さらに分娩5日前から48時間後では重篤な新生児水痘を生じうる3)。そのため、水痘未感染の妊婦への感染予防は、極めて重要である。しかしながら、水痘は感染が広がりやすく、1人の感染者から平均8~10人に感染させうる。家庭や職場での空気感染対策は困難であり、ワクチン接種は重要な感染予防策である。(3)水痘の疫学水痘の罹患率は、ワクチンの定期接種化により激減している(図)。ワクチンギャップや、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)への曝露機会の減少により、水痘の抗体を獲得しないまま成人する層が一定数いると思われる。現在、水痘の報告者数のほとんどは小児だが、今後は成人の水痘例が増加するかもしれない。図 水痘の年間患者数の推移画像を拡大する2)帯状疱疹について(1)帯状疱疹の概要と臨床症状感染経路:接触感染、空気感染周囲に感染させうる期間:皮疹が痂疲化するまでVZVは水痘罹患後に仙髄・腰髄の後根神経節に潜伏感染し、宿主の加齢や免疫力低下に伴う細胞性免疫の低下により再活性化し、帯状疱疹を起こす。発症すると皮膚分節に沿ったチクチクとした痛みに続いて、水疱を伴う皮疹を生じる。多くの場合は片側性であるが、免疫抑制者では全身に広がる汎発性帯状疱疹となりうる。皮疹は7~15日前後で痂疲化し、感染性がなくなる。合併症としては帯状疱疹後神経痛(Post herpetic neuralgia:PNH)が最も多く、ほかにラムゼイ・ハント症候群、脊髄炎、遅発性の脳梗塞などがある。(2)帯状疱疹の疫学帯状疱疹は、約3人に1人が一生のうちに1度以上経験するとされる5)。小豆島における50歳以上の成人を対象とした前向きコホートによると、帯状疱疹の罹患率は4~10人/1,000人年、PHNは2.1/1,000人で、いずれも年齢が上がるにつれて罹患率も上がる6)。帯状疱疹の罹患率は、水痘ワクチン導入後に増えており7,8)、水痘の流行規模の縮小により、自然感染によるブースターの機会が減ったことが原因ではないかと考えられている。実際に、水痘を発症した小児と暮らす成人では、10~20年後に帯状疱疹が発症するリスクは約30%減ると報告されている9)。ワクチンの概要(効果、副反応)と接種スケジュール水痘の予防には水痘生ワクチンが、帯状疱疹の予防には、水痘生ワクチンと帯状疱疹不活化ワクチンの2種類が使用される。1)水痘の予防(表1)画像を拡大する(1)効果発症予防効果は、1回接種で約80%、2回接種で93%である。重症化は、1回接種で約99%、2回接種で100%予防する1)。(2)副反応ワクチン接種により一般的な副反応のほか、水痘ワクチンに特異的な副反応としては、接種後1~3週間後に発熱、3~5%に水痘様発疹がみられることがある。(3)禁忌妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往のある人(4)注意事項生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。2)帯状疱疹の予防2種類のワクチンを使用することができる(表2)。発症予防効果は不活化ワクチンでより高い。費用が高額であること、副作用が多いことを許容できるならば、不活化ワクチンを活用したい。画像を拡大する以下、不活化ワクチンについて述べる。(1)効果帯状疱疹の発症予防効果は、水痘生ワクチンより不活化ワクチンで高いことが知られている。不活化ワクチン2回接種による帯状疱疹の発症予防効果は50歳以上で97.2%、70歳以上で89.8%、帯状疱疹後神経痛は50歳以上で100%、70歳以上で85.5%である10)。一方の水痘生ワクチンでは、50歳以上における帯状疱疹発症抑制率は51%、帯状疱疹後神経痛の減少率は66%である 。ただし、いずれも免疫原性の持続が証明されているのは10年未満11,12)であり、今後は追加接種などが議論になる。(2)副作用不活化ワクチンの方が、生ワクチンよりも副作用の頻度が高い。生ワクチンの臨床試験の結果では、局所性(注射部位)の副反応が80.8%に認められ、主なものは疼痛(78.0%)、発赤(38.1%)、腫脹(25.9%)であった。全身性の副反応は64.8%に認められ、主なものは筋肉痛(40.0%)、疲労(38.9%)、頭痛(32.6%)であった。他のワクチンに比較して局所性副反応の頻度は高いが、いずれも3日前後で消失することがわかっている10)。(3)禁忌両者とも、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往のある人。水痘生ワクチンでは妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人。(4)対象対象は慢性疾患をもつ50歳以上の成人で、とくに慢性腎不全、糖尿病、関節リウマチ、慢性呼吸器疾患をもつ人に推奨される13)。日常診療で役立つ接種ポイント1)妊娠を希望する女性に対する、水痘ワクチン先に述べたように、妊婦の水痘は重症化のリスクが高い。妊娠中の水痘は何としても防ぎたい。水痘の罹患歴がなく、かつ水痘ワクチンの接種歴のない女性が妊娠を希望する際には、プレコンセプションケアの1つとして水痘ワクチンを接種しておきたい。また、接種後2ヵ月間は妊娠を避けるように伝える必要もある。2)50歳以上に対する帯状疱疹予防のワクチン水痘の罹患歴がある50歳以上の成人には、帯状疱疹不活化ワクチンの2回接種もしくは水痘ワクチンの1回接種を勧めたい(免疫抑制者など生ワクチンが禁忌とされる場合には、帯状疱疹不活化ワクチンを選択する)。帯状疱疹は高齢者ほどリスクが高く、帯状疱疹後神経痛を発症すると著明にQOLが低下する。なお、帯状疱疹は約6.4%に再発が認められる14)ため、帯状疱疹の罹患歴がある場合の再発予防としても有効である。今後の課題・展望小児における水痘ワクチンの定期接種化により、水痘の発症者は今後も減り続けるだろう。一方で、水痘の罹患歴のある者のブースター機会も減るため、今後しばらく帯状疱疹の罹患率は上昇することが予測される。水痘はR0が8-101)と非常に感染力が強く、ワクチン接種による予防が重要である。妊婦の水痘を予防し、帯状疱疹後神経痛を予防するために、妊娠を希望する女性、また、50歳以上の高齢者へのワクチン接種を忘れないようにしたい。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト国立成育医療センター プレコンセプションケアセンター1)水痘ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版)国立感染症研究所.2)Meyer PA, et al. J Infect Dis. 2000;182:383-390.3)日本産婦人科学会、日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン-産科編2017.p.374-376.4)Morino S, et al. Vaccine. 2018;36:5977-5982.5)Schmader K, et al. Ann Intern Med. 2018;169:ITC19-ITC31.6)Takao Y et al. J Epidemiol. 2015;25:617-625.7)病原微生物検出情報(IASR).2018;39.p.139-141.8)Leung J,et al. Clin Infect Dis. 2011;52:332-340.9)Forbes H, et al. BMJ. 2020;368:l6987.10)帯状疱疹ワクチンファクトシート(平成29年2月10日版)国立感染症研究所.11)Cook SJ, et al. Clin Ther. 2015;37:2388-2397.12)Shwartz TF, et al. Hum Vaccin Immunother. 2018 ;14:1370-1377.13)David K Kim DK,et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019;68:115-118.14)Shiraki K, et al. Open Forum Infect Dis. 2017;4:ofx007.講師紹介

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9価HPVワクチンの製造販売承認を取得/MSD

 わが国では、子宮頸がんに毎年約10,000人の女性が新規罹患し、約2,800人が亡くなっている。とくに子宮頸がんは発症年齢が出産や働き盛りの年齢と重なることもあり、治療によって命を取りとめても女性の人生に大きな影響を及ぼすことが多い疾患であり、本症の予防ではワクチンの接種と定期的な検診が重要となる。 そんな予防の切り札となるワクチンにつきMSD株式会社は、7月21日、ヒトパピローマウイルス(HPV)の9つの型に対応した組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン[酵母由来](商品名:シルガード9水性懸濁筋注シリンジ)の製造販売承認を取得したことを発表した。子宮頸がんに対するHPV型のカバー率は約90% 本ワクチンは、9歳以上の女性を対象に、HPV6、11、16、18、31、33、45、52および58型の感染に起因する子宮頸がん(扁平上皮細胞がんおよび腺がん)およびその前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)1、2および3、並びに上皮内腺がん(AIS))、外陰上皮内腫瘍(VIN)1、2および3、並びに腟上皮内腫瘍(VaIN)1、2および3、尖圭コンジローマの予防を効能・効果としている。 対応している型は、従来の4価HPVワクチンが対応している4つのHPV型(6、11、16、18型)に加え、新たに5つのHPV型(31、33、45、52、58型)のVLP(Virus Like Particle;ウイルス様粒子)を含んでいる。これら9つのHPV型のうち、HPV16、18、31、33、45、52、58型の7つの型は、子宮頸がん、外陰がん、腟がんなどの原因となることが知られている。 子宮頸がんに対するHPV型のカバー率は、HPV16、18型を含む4価HPVワクチンが約65%であるのに対し、本ワクチンでは約90%となる。また、HPV6、11型は、尖圭コンジローマの原因の約90%を占めている。 同社では、「今回の承認は、日本の子宮頸がん予防において新たな道を切り開くものであり、公衆衛生の前進に大きく寄与すると考えている。今後も人々の生命を救い、生活を改善する革新的なワクチンと医薬品の開発に全力で取り組んでいく」と展望を寄せている。シルガード9製品概要製品名:シルガード9水性懸濁筋注シリンジ一般名:組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)効能・効果:ヒトパピローマウイルス6、11、16、18、31、33、45、52および58型の感染に起因する以下の疾患の予防・子宮頸がん(扁平上皮細胞がんおよび腺がん)およびその前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)1、2および3、並びに上皮内腺がん(AIS))・外陰上皮内腫瘍(VIN)1、2および3、並びに腟上皮内腫瘍(VaIN)1、2および3・尖圭コンジローマ用法・用量:9歳以上の女性に、1回0.5mLを合計3回、筋肉内に注射する。通常、2回目は初回接種の2ヵ月後、3回目は6ヵ月後に同様の用法で接種する。承認取得日:2020年7月21日製造販売:MSD株式会社なお、薬価・発売日は未定。

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第17回 ALS患者の嘱託殺人で医師逮捕、日本緩和医療学会が見解を表明

<先週の動き>1.ALS患者の嘱託殺人で医師逮捕、日本緩和医療学会が見解を表明2.コロナ余波による医業収入の落ち込み、回復の兆し見えず3.不正入試問題の東京医大、元理事長に1億円の申告漏れが発覚4.新型コロナワクチン、入手や流通は国が一元対応する方針5.今年度の薬価調査、規模縮小の上で実施へ1.ALS患者の嘱託殺人で医師逮捕、日本緩和医療学会が見解を表明23日、指定難病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者から依頼を受け、薬物を投与し殺害したとして、2人の医師が嘱託殺人の疑いで逮捕された。報道によると、昨年11月30日、京都市中京区の患者宅に知人を装って訪問し、急性薬物中毒で死亡させた疑い。患者の遺体からは、鎮静作用のあるバルビツール酸系の薬物が検出されており、京都府警は、胃瘻チューブから薬物を投与したとみている。なお、医師らは偽名を使うことで身元が発覚しないよう警戒し、計画的に準備していた模様。逮捕された医師のうち1人は、海外の大学の医学部を卒業したとして医師国家試験を受け医師免許を取得していたが、京都府警が調査したところ、医学部の卒業の事実を確認できなかった。今後、倫理的な観点からも大きな問題となるとみられる。この事件を受け、日本緩和医療学会が、「いわゆる積極的安楽死や⾃殺幇助が緩和ケアの⼀環として⾏われることは決してありません」などとの見解を25日に表明した。なお、今回逮捕された医師 2人は本学会の会員ではない。(参考)逮捕された医師は元厚労省官僚 「高齢者は社会の負担」優生思想 京都ALS安楽死事件(京都新聞)ALS嘱託殺人事件 医師2人は偽名で女性宅訪問か(NHK)筋萎縮性側索硬化症の患者に対して2名の医師が嘱託殺⼈罪の疑いで逮捕された件について(日本緩和医療学会)2.コロナ余波による医業収入の落ち込み、回復の兆し見えず日本医師会は22日に定例記者会見を開き、新型コロナウイルス感染症対応下での医業経営の状況について発表した。これによると、2020年5月の入院外保険収入の対前年同期比は病院で11.6%減、診療所で20.2%減であった。また診療所の中には、小児科、耳鼻咽喉科では総点数が50%以上減少したと報告した施設も存在した。1ヵ月単月でも、有床診療所で360万円減、無床診療所で120万円減(小児科は300万円)の赤字。これに対し、医療法人、感染防止策を行う有床診療所には上限200万円、個人開業医、無床診療所には上限100万円の補助金があるが、いずれも1回限りであるなど対応は十分とは言えない。初診料算定回数の対前年同月比は、3月、4月、5月と減少し続けており、5月には病院、診療所とも3~4割減と、回復の兆しが見られていないままだ。(参考)新型コロナウイルス感染症対応下での医業経営の状況―2019年及び2020年3~5月レセプト調査―(日本医師会)3.不正入試問題の東京医大、元理事長に1億円の申告漏れが発覚一昨年の不正入試問題が発覚した東京医科大学の前理事長が、入試の前後に受験生の親から個人的に受け取っていた謝礼をめぐって、東京国税局からおよそ1億円の申告漏れを指摘されていることが25日明らかとなった。この事件では、女子学生や浪人生の入試採点において、合否判定を不利にするような操作が長年続けられたことが明らかになっており、前理事長は辞任している。国税局は、前理事長に一昨年までの5年間でおよそ1億円、前学長も同様に謝礼を受け取ったとして、4年間で数百万円の申告漏れを指摘し、両者ともすでに修正申告したとみられる。(参考)東京医大の前理事長 1億円の申告漏れ 不正入試の謝礼(NHK)4.新型コロナワクチン、入手や流通は国が一元対応する方針政府は、国際的に開発競争が続く新型コロナウイルスワクチンの入手や国内流通について、「安全保障上の重要課題」として、首相官邸主導の元、国家安全保障局が一元的に対応することとした。年内に、ワクチン確保を含む感染症対策の充実対策を盛り込むとしているが、議論の結論をまとめた文書は特定秘密保護法に基づく特定秘密にも指定されており、現時点では具体策などは不明である。(参考)新型コロナ NSS、ワクチン確保 安保戦略改定、一元対応へ(毎日新聞)5.今年度の薬価調査、規模縮小の上で実施へ22日に開催された中央社会保険医療協議会総会において、「2020年の薬価調査」について、規模を縮小した上で実施する方針を固めた。今後、9月を対象月とする調査の実施に向けて準備が進む。これまで、新型コロナウイルス感染症の拡大もあり、医療機関や薬局・卸事業者による納入価格交渉も十分にできていないため、対応が困難であると反対していたが、薬価調査の実施方針が政府から示されたため、条件付きでの調査実施を了承した。2021年度の薬価改定が実施されるかは、あらためて検討される見込み。(参考)令和2年度医薬品価格調査(薬価調査)について(中医協)

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新型コロナワクチン、米の第I相試験で全例が抗体獲得/NEJM

 米国・国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)とModerna(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)が共同で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)mRNAワクチン「mRNA-1273」の、第I相臨床試験の結果が発表された。全例で中和抗体が検出され、試験中止について事前に規定した安全性に関する懸念は発生しなかった。米国・カイザーパーマネンテ(Kaiser Permanente Washington Health Research Institute)のLisa A. Jackson氏らmRNA-1273 Study Groupによる報告で、著者は「結果は、本ワクチンのさらなる開発を支持するものであった」とまとめている。NEJM誌オンライン版2020年7月14日号掲載の報告。25μg、100μg、250μgを28日間隔・2回投与 研究グループは2020年3月16日~4月14日にかけて、18~55歳の健康な成人45例を対象に、第I相の用量漸増非盲検試験を行った。被験者を15例ずつ3群に分け、mRNA-1273ワクチンを、25μg、100μg、250μgのいずれかの用量で28日間隔・2回投与した。2回投与後の全身性有害事象、25μg群54%、100μg・250μg群は全例 1回投与後(29日目)の抗体反応は高用量群ほど高く、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によるS-2P抗体の幾何平均抗体価(GMT)は、25μg群が4万227、100μg群が10万9,209、250μg群が21万3,526だった。 2回投与後(57日目)のELISAによるS-2P抗体のGMTは、25μg群が29万9,751、100μg群が78万2,719、250μg群が119万2,154と上昇した。これらは、SARS-CoV-2感染回復者のGMTの14万2,140を上回っていた。 また、2回接種後、評価が行われた全被験者において、血清中和抗体は2通りの方法(pseudotyped lentivirus reporter single-round-of-infection neutralization assay[PsVNA]とplaque-reduction neutralization testing[PRNT])で検出された。同検出値は、感染回復期血清検体パネルの上半分値とほぼ同等だった。 被験者の半数以上で認められた有害事象は、疲労感、悪寒、頭痛、筋肉痛、注射部位痛だった。2回投与後の全身性有害事象の頻度は高く、低用量の25μg群では7/13例(54%)、100μg、250μg群では全員(それぞれ15例、14例)と高用量群で高かった。250μg群の3例(21%)では、1つ以上の重篤有害事象が報告された。

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第16回 世界が嘱望の新型コロナ予防ワクチン試験、質が伴うスピード感?

7月に入り第2波ではないかと噂されるほど感染者が急増している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。いま、医療従事者も一般人も一番待ち望んでいるのが予防ワクチンの登場だ。そのような中、開発中のワクチンの中では最も先行していると言われるアストラゼネカ社とオックスフォード大学の第I/II相試験結果がLancet誌に掲載1)され、メディアもこれを取り上げている。オックスフォード大のワクチン、初期の治験で効果確認(朝日新聞)新型コロナ ワクチン臨床で抗体 英・中のチーム発表(毎日新聞[共同通信配信記事])コロナワクチン臨床試験、治験者95%で抗体4倍増…英製薬大手が中間発表(読売新聞)英アストラゼネカのワクチン「強い免疫反応」 初期治験(日本経済新聞)4本の記事を比べると、読売以外は「有望」「期待」という用語を使っており、この記事を読み「いよいよワクチンが登場してくるのか」と期待を膨らませる人は少なくないはずだ。今回の試験は、COVID-19ワクチン候補を髄膜炎菌ワクチンと比較した被験者1,077例の無作為化単盲検比較試験で、うち10例は無作為化の対象とせず、ワクチンのブースター(28日の間隔を置いた2回接種)投与を受けている。また、一部の被験者ではワクチンの副反応軽減目的でアセトアミノフェンの投与が行われている。この結果、投与14日後には新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)のスパイクタンパク質に特異的なT細胞反応がピークに達し(n=43)、投与28日後のSARS-Cov-2のスパイクタンパク質に対するIgG抗体量の上昇(n=127)が確認された。抗体量は一部の単回投与例とブ―スター投与例では56日後まで上昇し続けた。また、投与28日後のSARS-Cov-2のスパイクタンパク質に対する中和抗体反応は91%(n=35)で認められ、ブースター投与9例では全例で確認されたとのこと。主な有害事象は疲労感(アセトアミノフェン非投与群70%vs.アセトアミノフェン投与群71%)と頭痛(同68%vs.61%)。このほかには筋肉痛、不快感、熱感、悪寒など(発現率は50~60%前後)で、重篤なものは認められなかった。このようにしてみると、まだ第I/II相試験ということもあり、抗体量の測定などが行われたn数も少なく、個人的には前向きには捉えられるものの、まだまだプリミティブな結果だと受け止めている。ただ、この各紙を一覧すると、細かいことを書いたらそもそも読んでもらえないという一般向け紙面の限界もあり、漠然とした希望だけを持ってしまいかねない。もっともこの中でも朝日新聞は研究チームの会見コメントとして、まだ課題も多く先行き不透明なものであることを強調している。Lancet誌の論文内ではこの点について、まず被験者の年齢中央値が35歳であることを指摘している。第I/II相試験ゆえにこうした年齢中央値になるのはやむを得ないが、COVID-19で重症化、死亡リスクが高いとされる集団の一つは高齢者である。実際、米国医師会雑誌(JAMA)に中国の国立疾病予防管理センター(中国名:中国疾病預防控制中心[中国CDC])のグループが発表した新型コロナ感染者4万4,672人の解析データ2)では、40歳代までの致死率は最大でも0.4%に過ぎないが、50歳代では1.3%、60歳代で3.6%、70歳代で8.0%、80歳代以上では14.8%と右肩上がりに上昇する。このためワクチンが登場した暁には高齢者は優先接種の対象となる可能性は高い。だが、B型肝炎ワクチンに代表されるように加齢とともに抗体価を獲得しにくいワクチンもあるため、今後高齢者を対象とした試験が必要になるはずだ。また、研究グループは論文内でベクターとして使用しているアデノウイルスに対する抗体の影響評価も必要と指摘している。そして、この試験は今年の4月23日~5月21日までに行われたもので、主要評価項目は接種後6ヵ月間のCOVID-19発症抑制と重篤な有害事象の発現率である。単純計算すれば試験終了は11月末になり、データの解析はその後ということになる。ただ、従来からアストラゼネカ社は9月には供給を開始したい旨を公表している。国内外で特例承認のようなスキームを活用すると思われるが、2009年の新型インフルエンザと違い、これまでまったくワクチンのなかったコロナウイルスに対してこのスピードはすごいと思う以上に、「???」「大丈夫?」と思ってしまう。私は最近、こうした仕事柄もあり医療に無縁な人から「新型コロナのワクチンっていつぐらいまでにできる?」と尋ねられることはよくあるが、以前から「まあ極めて順調に行って、来春ぐらいじゃない? でもできない可能性も十分あるよ」と答えている。少なくとも今回の結果を見てもこの答えに変更はない。参考1)Folegatti PM, et al. Lancet. 2020 Jul 20.[Epub ahead of print]2)Wu Z,et al. JAMA. 2020 Feb 24.[Epub ahead of print]

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バロキサビル、インフルエンザの家族間感染予防に有効/NEJM

 インフルエンザの家族間感染予防に、バロキサビル マルボキシル(商品名:ゾフルーザ、以下バロキサビル)の単回投与が顕著な効果を示したことが報告された。リチェルカクリニカの池松 秀之氏らによる多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で、NEJM誌オンライン版2020年7月8日号で発表された。バロキサビルは、ポリメラーゼ酸性タンパク質(PA)エンドヌクレアーゼ阻害作用を有し、合併症リスクの高い外来患者などを含む合併症のないインフルエンザの治療効果が認められている。しかし、バロキサビルの家庭内での曝露後予防効果については、明らかになっていなかった。初発家族にバロキサビルまたはプラセボを投与し、接触家族への予防効果を検証 研究グループは、日本国内52の診療所で、インフルエンザ2018~19シーズン中に、家庭内で最初にインフルエンザの感染が確認された家族(指標患者)の家庭内接触者(接触家族)における、バロキサビルの曝露後予防効果について検証した。 指標患者を1対1の割合で無作為に割り付け、バロキサビルまたはプラセボの単回投与を行った。 主要エンドポイントは、投与後10日間におけるRT-PCR検査によって臨床的に確認されたインフルエンザウイルスへの感染とした。また、感受性の低下と関連するバロキサビルに選択的なPA変異ウイルス株の発生も評価した。高リスク、小児、ワクチン未投与のグループで効果を確認 合計で指標患者545例、接触家族752例が、バロキサビル群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 指標患者において、95.6%がインフルエンザA型に感染しており、73.6%が12歳未満で、52.7%がバロキサビルの投与を受けた。 評価を受けることが可能であった患者(バロキサビル群374例、プラセボ群375例)において、臨床的にインフルエンザの感染が確認された割合は、バロキサビル群がプラセボ群よりも有意に低かった(1.9% vs.13.6%、補正後リスク比[RR]:0.14、95%信頼区間[CI]:0.06~0.30、p<0.001)。サブグループでは、高リスク、小児、ワクチン未投与のグループで、バロキサビルの効果が確認された。また、症状を問わずインフルエンザへの感染リスクは、バロキサビル群がプラセボ群よりも低かった(補正後RR:0.43、95%CI:0.32~0.58)。 有害事象の発生頻度は両群で類似していた(バロキサビル群22.2%、プラセボ群20.5%)。 バロキサビル群における変異ウイルス株の検出は、PA I38T/M変異ウイルス株が10/374例(2.7%)、PA E23K変異ウイルス株が5/374例(1.3%)であった。プラセボ群において、これらの変異ウイルス株の伝播は確認されなかったが、バロキサビル群ででは数例の伝播があったことが否めなかった。

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第16回 COVID-19食い止めにT細胞が貢献?/ジャーナル購読の莫大な費用をソフトウェア解析で節約

COVID-19食い止めにT細胞が貢献か?抗体検査のみでは感染者数過小評価の恐れ新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への抗体は検出されずともT細胞は検出される場合があり、抗体検査だけではその感染(COVID-19)者数を少なく見積もってしまう恐れがあります1)。また、SARS-CoV-2への曝露があっても軽症か発症しないケースではT細胞が貢献しているかもしれません2)。フランスの7家族を調べた試験の結果1)、SARS-CoV-2感染者と密に接したその家族8人のうち6人からはSARS-CoV-2へのT細胞が検出されましたが抗体は見つかりませんでした。スウェーデンの約200例を調べた試験では無症状か軽症のSARS-CoV-2感染者のほとんどから強いメモリーT細胞反応が検出され、それらのT細胞反応獲得者に抗体反応が欠如していることは稀ではありませんでした3)。SARS-CoV-2に曝露か感染すれば抗体がどうあれ重度COVID-19を防げるようになる可能性があるようです。また、メモリーT細胞反応は抗体反応より2倍多く認められ、抗体検査頼りだとSARS-CoV-2に対抗する免疫がどれだけ広まっているかを少なく見積もってしまうようです。SARS-CoV-2へのT細胞反応は風邪症状を引き起こす別のコロナウイルスへの感染によって備わるらしいことも示されています4)。目下のCOVID-19流行からだいぶ前の2015~18年に採取されて保管されていた血液検体を調べたところ約半数にSARS-CoV-2を認識するヘルパーT細胞が備わっていました。風邪を引き起こす4つのヒトコロナウイルスのいずれかに感染したことでSARS-CoV-2も認識しうるT細胞が発生したのだろうとLa Jolla Instituteの研究チームは考えています。そのチームはCOVID-19から回復した10人の全員からSARS-CoV-2スパイクタンパク質を認識するヘルパーT細胞が検出されたことも併せて報告しています。また、スパイクタンパク質以外のタンパク質に反応するヘルパーT細胞も検出されました。現在開発中のワクチンのほとんどはスパイクタンパク質への免疫反応を誘発することを目指しています。しかしもっと欲張った方が良さそうです。他のタンパク質に反応するヘルパーT細胞が今回確認されたことから察するに、それらのタンパク質へも免疫系を駆り立てるワクチンはいっそう有効かもしれません。1つのタンパク質だけにぞっこんにならない方が良いと米国ノースカロライナ大学の分子微生物学者Rachel Graham氏はScience誌に話しています5)。ジャーナル購読の莫大な費用をソフトウェア解析で節約可能に?今年2020年4月にニューヨーク州立大学(SUNY)はオランダの巨大出版会社Elsevier(エルゼビア)との値が張る一括購読契約を打ち切り、248雑誌の購読を中心とするこじんまりとした契約に切り替えました6)。SUNYはその絞り込みで年間購読料を500~700万ドルも減らせる見込みです。Science誌のニュースによるとUnsubというソフトウェアがその絞り込みを手伝いました7)。SUNYがそれまで年間およそ900万ドルを払っていた2,200ものElsevier発行雑誌の10分の1ほどの248雑誌を年間200万ドル払って購読すればSUNYの64施設の研究者は今後5年間に読むであろうElsevier出版論文の約7割を制限なく入手できるとUnsubは推定しました。UnsubはSUNYのそれぞれの図書館の雑誌利用データを解析し、SUNYの施設や学生がすでに無料で利用できるネット上の論文を考慮してそう推定しました。SUNYは支払いを続ける必要がある雑誌を独自に見繕い、その一覧はUnsubが打ち出した一覧と一致していました。Unsubは一大技術であり、おかげで大学の図書館がもはや大金を注ぎ込まずとも機能を保ってやっていけると分かったとSUNY図書館の運営戦略リーダーMark McBride氏は言っています。Unsubは2017年に誕生したUnpaywallというツールを発展させて去年2019年11月に発売されました。Unsubの前身のUnpaywallはネットから無料の論文を探し出し、合法的に支払いを回避して目当ての論文を読めるようにするものです。Unpaywallの欠点を解消して出来上がったUnsubの年間使用料は1,000ドルであり、Unsubを販売する学術支援企業Impactstoryの設立者の1人・Jason Priem氏によるとすでに300の図書館がUnsub使用を決めています。SUNYが踏み切ったような巨額契約打ち切りがこの夏には増え、図書館は交渉力を取り戻すことになるだろうとPriem氏は言っています。SUNYが新たな契約の下で手に入れうる論文のうちおよそ30%はオープンアクセスなのですでに無料で読むことができ、25%はSUNYが何年か契約を続けたことで入手可能です。新たな契約の下で入手不可能な論文はどうするかというと、SUNYのそれぞれの施設ごとに必要な雑誌を個別購読したり他の図書館から一時的な閲覧権を購入して読めるようにします。また、論文の単品購入もあります。それらの追加出費を含めても新たな契約は余りある節約をもたらすと前述のMcBride氏は言っています。顧客の好みがどうあれ高品質な出版物をお値打ち価格で公平にいらつかせず提供することに変わりはないとElsevierの広報担当者はScience誌に話しており、Unsubが台頭したところで同社は特に何か手を打つつもりはないようです。ところでUnsubと似た目的の1figrというソフトがあったのですが、その販売会社1Scienceとその親会社Science-MetrixがElsevierに取得された後に残念ながら姿を消しました。参考1)Intrafamilial Exposure to SARS-CoV-2 Induces Cellular Immune Response without Seroconversion. medRxiv. June 22, 20202)Scientists focus on how immune system T cells fight coronavirus in absence of antibodies / Reuters 3)Robust T cell immunity in convalescent individuals with asymptomatic or mild COVID-19. bioRxiv. June 29, 2020 4)Grifoni A, et al. Cell. 2020 Jun 25. [Epub ahead of print]5)T cells found in COVID-19 patients ‘bode well’ for long-term immunity / Science 6)State University of New York Steps Away From the “Big Deal” with Elsevier 7)This tool is saving universities millions of dollars in journal subscriptions / Science

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セルメチニブが希少疾病用医薬品に指定/アストラゼネカ

 アストラゼネカ株式会社は、セルメチニブ硫酸塩(以下「セルメチニブ」という)が希少遺伝性疾患の神経線維腫症1型(以下「NF1」という)の治療薬として、わが国で希少疾病用医薬品指定*を取得したと発表した。*希少疾病用医薬品指定とは、患者数が5万人未満で、アンメットメディカルニーズが高い疾病の治療を目的とした医薬品に対して行われている指定。通常の保険適用とは異なる。幼児期から始まり、平均余命も削る希少疾病 NF1は3,000~4,000人に1人が罹患する遺伝性疾患。NF1遺伝子の自発的あるいは遺伝的変異により発症し、皮膚あるいは皮下の柔らかい塊(皮膚の神経線維腫)、皮膚色素沈着(カフェ・オ・レ斑)、および患者の30~50%にみられる叢状神経線維腫(以下「PN」という)を含む多くの症状を伴う。これらのPNは、外見の変化、運動機能障害、疼痛、気道機能不全、視覚障害、腸や膀胱の機能不全および変形などの病的状態を引き起こす可能性がある。PNは幼児期に始まり、重症度は多岐にわたる。また、この疾患により、平均余命が8~15年短縮する可能性もある。がんの活性化を抑えるセルメチニブの特徴 治療薬として期待されるセルメチニブは、同社とMSDが共同開発、商業化を進めている薬剤で、2020年4月に「症候性かつ手術不能なPNを有する2歳以上のNF1小児患者に対する治療薬」として米国では承認されている。また、PNを有するNF1を適応症とする承認申請が欧州医薬品庁によって受理・審査中であり、その他の地域でも承認申請を検討している。なお本剤はわが国では現在未承認。 同薬剤は分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(MEK1/2阻害剤)である。MEK1/2タンパクは、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)経路の上流調節因子で、MEKとERKはともに、RASによって調節されるRAF-MEK-ERK経路の重要な構成要素であり、さまざまな種類のがんで活性化されることが多い。単剤投与で66%の客観的奏効率 米国国立がん研究所の米国癌治療評価プログラムによるSPRINT試験(手術不能なPNを有するNF1小児患者を対象にセルメチニブ単剤療法を行い、客観的奏効率や患者報告アウトカムおよび機能転機への影響を評価するもの)の第I相および第II相のStratum1における客観的奏効率(ORR)は、セルメチニブ単剤を経口投与(1日2回)したPNを有するNF1の小児患者において66%(50例中33例、部分奏効を含む)を示した。ORRは、完全奏効または20%以上の腫瘍縮小を評価基準とする部分奏効が確認された患者数から算出している。 同社では、「NF1は、ほとんどの国でその治療選択肢は限られており、今回の指定は、NF1に対する初の治療薬を日本の小児患者に提供できる重要な一歩となる」と今後の発展に期待を寄せている。■関連記事コロナワクチン接種率の違いで死亡率に大きな差/JAMA

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第15回 COVID-19でも顕在化か、ワクチン不信/血液脳関門の定説を覆す結果!?

COVID-19ワクチン接種予定の米国人はわずか2人に1人~ワクチン信用の底上げが必要1月20日に米国で初めて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)が確認されるやいなや、反ワクチン活動家はすぐに腰を上げ、そんなウイルスは実在せず、ワクチンで稼ぐためのでっちあげだとのツイッターを投稿しはじめました1)。それから半年近くが過ぎ、世界の科学者たちはCOVID-19ワクチン開発に勤しみ、反ワクチン活動家からの大量の誤った情報は増加の一途を辿っています。そういった情報に惑わされることなく、COVID-19ワクチンを受け入れてもらうための土壌作りを今からはじめる必要があると健康情報の専門家は言っています。実際、今のままだと米国でのCOVID-19ワクチンの普及はあまり期待できそうにありません。最近の調査でCOVID-19ワクチンが使えるようになったら接種すると答えたのはわずかに2人に1人(49%)のみでした。5人に1人(20%)は接種しないと答え、約3~4人に1人(31%)は決めかねていると答えました。そのような調査結果を背景にして、アメリカ疾病管理センター(CDC)はワクチンの信用底上げに取り組むことを計画しています。ワクチン不信は米国に限った問題ではなく、世界の健康機関もワクチンに反対する人々を翻意させるためのあの手この手の取り組みをしています。世界保健機関(WHO)もそれを承知であり、2019年にはワクチン拒否を最も心配な10の公衆衛生問題の1つに数えています。ワクチン不信を取り除くためには、反ワクチン活動家も使うツイッター等のソーシャルメディアを駆使したデジタル世界での取り組みも必要でしょうが、電話でのワクチン接種案内等の血の通った地道な働きかけがより有効かもしれないとノースカロライナ大学の行動科学者Noel Brewer氏はScienceに話しています。また、公衆衛生機関はさまざまな人の輪のリーダーと話して意思疎通をはかり、ワクチンを医療機関に来てもらって接種するのではなく職場や店舗に自ら出向いていって接種することも検討すべきだろうとジョンズホプキンス大学の医学人類学者Monica Schoch-Spana氏は言っています。定説に反し、老化するほど血液脳関門はタンパク質を通し難くなる~若い脳ほど取り込みが旺盛血液脳関門(BBB)は老化につれてより通過しやすくなるとこれまで考えられていましたが、どうやらそうとも限らないようで、若い健康なマウスの脳は血液中のタンパク質を思ったより多く受け入れており、老化は脳に入る血漿タンパク質をむしろ減らすと分かりました2,3)。今回の研究では、マウスの生来の血漿中タンパク質一揃いに印を付けてその行き先を追跡しました。その結果、若いマウスの脳にはこれまでの想定以上の量の血漿タンパク質が移行しました。それらのタンパク質は神経回路とおそらく相互作用しており、全身のタンパク質の有り様は行動や情緒などの神経機能を変化させるようです。今回のような生来のタンパク質ではない、作り物の標識分子を用いたかつての実験では、老化につれてBBBは通過しやすくなることが示されていましたが、生来のタンパク質の動向を追った今回の研究では逆に老化マウスの脳は血漿タンパク質を受け入れ難くなっていました。老化した脳にタンパク質が入り難いことに寄与するBBB経細胞輸送の変化も、今回の研究では把握されています。血液中のタンパク質がBBBの内皮細胞を横断して脳に入る経路は、目当てのタンパク質を取り込む受容体が携わる経細胞輸送が若い頃には優勢ですが、老化すると受容体の媒介がめっきり減って受容体を介さないやみくもな経細胞輸送が優勢になります。ゆえに老化すると脳に入り込むタンパク質はより雑多になり、老化した脳は目当てのタンパク質を若い頃のようにはおそらく受け取れなくなります。過去の作り物の分子を用いた実験ではおそらくやみくもな経細胞輸送のみが測定されていたため、若い脳への血漿タンパク質移行量が過少になっていたようです。若い脳で優勢と今回の研究で判明した受容体媒介経細胞輸送は脳への治療薬投与に利用されています。たとえば米国サンフランシスコ拠点のバイオテック企業Denali Therapeutics社はBBBのトランスフェリン受容体に運ばれて脳に届く薬DNL310を開発しており、ハンター症候群小児対象の第1/2相試験(NCT04251026)が間もなく始まる予定です4)。ALPLというタンパク質を阻害するとトランスフェリン受容体を介した経細胞輸送が向上しうることが今回の研究で判明しており、ALPL阻害剤とDNL310の併用は一層効果的かもしれません。また、ALPLは老齢マウスの脳ほど発現が多く、ALPL阻害は高齢者脳へのトランスフェリン受容体を介した治療薬運搬にとりわけ役立ちそうです。参考1)Just 50% of Americans plan to get a COVID-19 vaccine. Here’s how to win over the rest / Science 2)Unexpected amount of blood-borne protein enters the young brain / Nature3)Andrew C Yang,et al. Nature.2020 Jul 1. [Epub ahead of print]4) Denali Therapeutics Announces Publication of Two New Papers Describing Its Blood-Brain Barrier Delivery Technology in Science Translational Medicine / GlobeNewswire

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第13回 自由診療の抗体検査がもたらす市民の勘違い

本連載もようやく新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から離れつつあったが、ちょっと再び戻らせてもらう。なぜかというと、最近、SNS上や報道で目にする抗体検査について不安を覚えるようになったからだ。自治体などが今後の対策のための疫学調査として抗体検査を行うことは何ら問題ないと考えている。しかし、企業が従業員に対して一斉実施したり、市中の医療機関が自由診療で抗体検査を行ったりすることに現時点では何ら意義を感じないからだ。そもそも抗体検査の結果が分かった時に人間はどんな反応を示すだろうか? まず、陰性だった場合は、「感染してなかった」と思いほっとする人、「まだ感染していないのか」とやや不安になる人の2つに分かれるだろう。だが、この陰性という結果が無駄な安心を与えてしまう事例も既に明らかになっている。6月10日に判明した名古屋市での女性の感染例だ。この女性は発熱の症状を訴え、COVID-19の抗体検査を受け陰性と判明した。その翌日は勤務先を休んだものの、解熱したとして翌々日から3日間勤務に復帰。その後、味覚・嗅覚の異常を訴え、最終的に抗体検査から1週間後にPCR検査で感染の事実が判明している。要は抗体検査で陰性の発熱だったのでCOVID-19ではないと勘違いしてしまった事例である。では陽性だったらどうだろう? そもそも市中の医療機関の自由診療でCOVID-19の抗体検査を受けに行く人の多くは、前述の名古屋の事例のような現在進行形の類似症状のあるケースよりも過去に類似の症状を経験したか、単に興味本位という人だろう。そうした人が陽性と分かったら、最初は驚き、思い当たる感染時期がないか振り返るに違いない。ただ、入院も必要もなく軽症あるいは無症状で済んだことに加え、抗体があるという事実から安心しきってしまう人がほとんどではないだろうか。ところがこの安心はかなり的外れである可能性が浮上している。新型コロナの抗体価は持続しにくい?先ごろ、nature medicineに発表された中国の重慶医科大学の研究グループによるCOVID-19感染者の血中抗体価を追跡した研究結果が明らかになった。それによると感染者の退院8週間後のCOVID-19特異的IgG抗体は、無症候者の93.3%、有症状者の96.8%で減少し、抗体減少率の中央値は無症候者で71.1%、有症状者で76.2%。また、中和抗体量は無症候者の81.1%、有症状者の62.2%で減少し、抗体減少率の中央値は無症候者で8.3%、有症状者で11.7%だった。この事実からすれば、抗体検査で陽性であっても長期的な「免疫パスポート」にはならない可能性が高いことになる。しかも、現時点では特異的な治療薬、ワクチンも存在しないという現実。つまるところ、抗体検査を受けた人は結果が陰性であれ、陽性であれ、今後注意すべきことは変わらないということである。にもかかわらず最近では大都市圏のクリニックを中心にこのCOVID-19の抗体検査を行う医療機関が増えている。少なくとも通常よりもややお金がかかる自由診療で検査を受けようとする人の心中は「何らかの安心を得たい」ことがほとんどだろう。しかし、医学的に見て何らかの安心が得られる状況ではないのは既に書いたとおりだ。逆にこうした医療機関には、自由診療で抗体検査を行うことで患者側にどんなメリットがあるのか、と問いたい。むしろ一時的かつ張りボテの安心感を与えることで、その後の感染リスクを高める害のほうが多いのではないかと考える。少なくとも私のオツムではどうしてもこの検査にメリットについて明快な答えを提示できないのである。

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新型コロナウイルスの感染伝播防止に有効な対策(解説:小金丸博氏)-1252

 COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は人と人との密な接触で広がっていく。本稿執筆時点では、有効性が示された治療薬や予防ワクチンはなく、感染拡大をいかにして防止するかは重要なテーマである。今回、COVID-19、SARS、MERSの原因ウイルスの伝播防止に、身体的距離、マスクの着用、眼の防護が有効な対策となりうることを示したシステマティックレビューとメタ解析がLancet誌オンライン版より報告された。これまでのメタ解析は、季節性インフルエンザなどの呼吸器系ウイルスに関するランダム化試験や不正確なデータを基にし、医療施設内での予防効果に焦点を合わせたものであったが、本論文ではSARS-CoV-2を含むコロナウイルスのデータに絞り、医療施設内のみでなく市中での感染予防効果に関するデータを含んでいることが特徴である。 結果の概要は以下のとおりであった。身体的距離 人と人との距離が1m未満と1m以上を比較した場合、感染伝播するリスクはそれぞれ12.8%と2.6%であり、距離を1m以上とることで感染リスクは大幅に低下した(群間リスク差:-10.2%、調整オッズ比:0.18)。この感染予防効果はマスクの着用の有無にかかわらず認め、距離が1m離れるごとに2.02倍に増大した。マスクの着用 マスクを着用しない場合と着用する場合を比較した場合、感染伝播するリスクはそれぞれ17.4%と3.1%であり、マスクを着用することで感染リスクは大幅に低下した(群間リスク差:-14.3%、調整オッズ比:0.15)。N95マスクや同等の効果が期待できる類似のマスクは、サージカルマスクと比較して、強い感染防止効果を認めた。N95マスクの感染予防効果に関しては、医療施設内での評価を検討した論文のみ用いられた。マスク着用による感染伝播を防止する効果は、とくに医療施設内での使用で強い効果を示した。眼の防護 眼を防護しない場合と防護する場合を比較した場合、感染伝播するリスクはそれぞれ16.0%と5.5%であり、ゴーグルなどで眼を防護することで感染リスクは大幅に低下した(群間リスク差:-10.6%、非補正相対危険度:0.34)。眼の防護の感染予防効果を評価するために13本の論文が用いられたが、COVID-19に関する論文は1本のみであった。 新型コロナウイルスの流行がいつまで続くかわからない現状において、感染リスクを減らすために人と人との距離を最低1m(できれば2m以上)とることやマスク着用の根拠になりうる研究結果である。本論文で有効性を認めた対策に手指衛生などの対策を追加することで、さらなるウイルス伝播防止効果を期待できると考える。今回のメタ解析にはランダム化比較試験は一つも含まれておらず、より強固なエビデンスを得るためにはさらなる研究が待たれる。

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第13回 ワクチン治験の対象に医療従事者は妥当?大阪ワクチン報道で考えたこと

DNAワクチンの治験始動こんにちは。 医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月25日に国の緊急事態宣言が全面解除されたのに次いで、6月11日には都の「東京アラート」が解除されました。それから約3週間、東京ディズニーランドの再開も決まり、皆さん、あちこちに繰り出すようになってきました。東京で感染者数が漸増しているのは気になりますが、かく言う私も久しぶりにテントを担いで、昔の山仲間とともに奥多摩の石尾根を登ってきました。こういうときは、日頃からテント山行をしていると、山小屋の密も避けられていいものです。ちなみに今回は全員1人用テント持参、テントの外で食事を作り、宴会もテント外で行いました。もっとも深夜から土砂降りで、翌朝、濡れたテントを畳み、カッパを着て即下山しました。濡れ鼠にはなりましたが、初夏の山を堪能してきました。さて、今回気になったのは、ケアネットでも報道されていたアンジェスのワクチンの治験のニュースです。6月20日のケアネットでは、「待ち望まれる国産の新型コロナワクチン実現に王手か―。大阪府は6月17日の記者会見で、大阪大学などと共に産官学連携で開発に取り組んできた、新型コロナウイルスの予防ワクチンの治験を6月30日に開始することを明らかにした。新型コロナウイルスを巡っては、世界規模で予防ワクチンの開発が進行中であり、1日も早い実現が待たれる状況だが、ヒトへの投与が実施されるのは国内初となるという」と書いています。その後アンジェスは、6月25日に同社が大阪大学などと共同開発している新型コロナウイルス感染症に対するDNAプラスミドベースのワクチンについて、大阪市立大学医学部附属病院の治験審査委員会が第I/II相臨床試験の実施を承認し、同病院と治験契約を締結したと発表しました。第I/II相臨床試験は、同ワクチンの安全性と免疫原性を評価するもので、実施期間は、2020年6月末から2021年7月末の予定だそうです。”前のめり”の吉村知事この大阪のワクチンに関する一連の報道を読んで、心がざわつくことが2点ほどありました。1つは大阪市大の倫理委員会が承認する前に、大阪府の吉村 洋文知事がその内容や日程、実用化のめどなどを記者会見で公表してしまったことです。17日の記者会見で吉村知事は、「なんとか国産のワクチンを開発し、日本における新型コロナウイルスとの闘いを大きく反転攻勢させていきたい。30日は人への投与を実施することになるが、これを皮切りに大阪で実現させたい」と熱く語っていました。通常、治験は実施される医療機関で承認を受けた後、日程などの計画が公表されます。承認もされていない段階での吉村知事の”前のめり”過ぎる姿勢や発言に24日の毎日新聞は「日程発表が審査に先行する異例の展開に市大関係者から『医療でなく政治の話になっているのではないか』と不安の声が上がる」と報道しています。臨床試験は純粋に医学の問題であり、それに1人の政治家が私見を述べたり、過度な期待をかけたりすることはあってはならないでしょう。しかも、第I/II相臨床試験という、まだモノになるかどうかも全くわからない段階での吉村知事の発言は、プロ野球の春のキャンプで「今年のタイガースは違うぞ!」と書く在阪スポーツ紙のようなものです。また、4月前半、安倍 晋三首相が「アビガン、アビガン」と言っていたことも思い出させます。4月7日、緊急事態宣言を発令した日に開いた記者会見で安倍首相は、富士フイルム富山化学のアビガン錠について、「観察研究の仕組みのもと、希望する患者への使用をできる限り拡大する」との考えを示しました。本来、アビガンの適応外使用は、臨床研究法に定められた特定臨床研究に該当しますが、アビガンなどの投与を通常の診療行為と解釈、観察研究という”甘い”扱いとしたわけです。結果、並行して行われていた臨床研究での患者数は集まらず、結果データも集まらずで、アビガンの臨床試験は遅れに遅れています。この遅れ、安倍首相の”前のめり”が招いた結果と言えなくもないでしょう。同じようなことが、大阪のワクチンでも起こらないことを願うばかりです。医療従事者はADEのリスク高い?もう1つざわついたのは、当初、治験の対象者が「市大病院の医療従事者20~30人」と報道されていたことです。一部には「研修医から選ぶらしい」との噂も流れていました。ワクチンは、そもそも非常にセンシティブな薬です。すでに承認され、市販されているワクチンですら重大な副反応が皆無とは言い切れません。さらに、新型コロナウイルスのワクチン開発では、ADE(Antibody Dependent Enhancement:抗体依存性感染増強)発生の危険性も指摘されています。そう考えると、治験の対象者に医療従事者、それも研修医を選ぶというのは妥当なのでしょうか?ADEとは、ワクチン接種後に、実際のウイルスに自然感染すると、通常よりもウイルスを取り込みやすくなる現象のことです。ワクチン接種などで中途半端な免疫応答が誘導された場合に起こる、と考えられています。2016年にフィリピンにおいて、フランス・サノフィ社が開発していたデング熱ワクチン接種後に数十人の小児が死亡する、という事故が起こり、ADEはその原因の1つとして知られています。WHOも新型コロナウイルスに関する研究開発のロードマップを示した資料において、「感染増強の可能性の評価が重要」と指摘しています。医療従事者は新型コロナウイルスに感染する可能性が一般の人より高いことを考えると、仮に臨床試験で仮に中途半端な免疫しか獲得できなかった場合、ADEを起こす危険性が高いかもしれません。なお、その後、アンジェスの治験の対象者については、「大阪市大の医療従事者に限っているわけではない」と報道も出て、真相はうかがい知れません。とは言え、病院内での立場や発言力が弱い研修医等の医療従事者に半強制的に治験参加を呼びかけたりしていないか、少々気になります。開発競争だけでなく政治や報道も加熱気味ところで、アンジェスが開発するDNAワクチンは、大量生産が可能というメリットの一方で、中和抗体の発現効率が低く、アジュバントなどで増強する必要があると言われています(アンジェスの治験でも免疫原性を高めるためアジュバントを添加するとのこと)。また、人体用に承認されたDNAワクチンはまだ世界に1つもありません(ウマ用、イヌ用、ニワトリ用などはあるようです)。6月27日の朝日新聞は新型コロナワクチンの開発について「国内外で競争が激しくなる中、実用化の見通しが立つ前から量産体制を確立しようとする異例の動き」が出てきたとして、「培養タンク争奪戦」が始まっていると報道しています。また、同日の日本経済新聞は「英製薬大手アストラゼネカの日本法人は26日、英オックスフォード大と開発中の新型コロナウイルスワクチンについて、日本への供給に向けて日本政府と協議を進めることで合意したと発表した」と報じました。新型コロナウイルスのワクチンを巡っては、開発競争だけでなく、政治家やマスコミ報道も少々加熱気味のようです。ただし相手はまだまだ未知な点が多いウイルスです。さらに、どんなワクチンも常に副反応と隣り合わせであり、日本のワクチン行政には苦い歴史もあります。”前のめり”や”期待”より、安全性、有効性を優先した開発を進めてもらいたいものです。

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