サイト内検索|page:58

検索結果 合計:2206件 表示位置:1141 - 1160

1141.

ワクチン接種後の液性免疫の経時的低下 - 3回目booster接種必要性の基礎的エビデンス (解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

ワクチン接種後の時間経過に伴う液性免疫の低下 Levin氏らはイスラエルにおいてBNT162b2を2回接種した一般成人におけるS蛋白IgG抗体価、野生株に対する中和抗体価の時間推移を6ヵ月にわたり観察した(Levin EG, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 6. [Epub ahead of print] )。その結果、S蛋白IgG抗体価はワクチン2回接種後30日以内に最大値に達し、それ以降、IgG値はほぼ一定速度で低下し、6ヵ月後には最大値の1/18.3まで減少することが示された。野生株に対する中和抗体価の低下はS蛋白IgGと質的に異なり、中和抗体価は、2回接種後3ヵ月間は一定速度で低下、それ以降は、低下速度が緩徐となりほぼ横ばいで推移、6ヵ月後には最大値の1/3.9まで低下した。高齢、男性、併存症(高血圧、糖尿病、脂質異常症、心/腎臓/肝疾患)が2つ以上存在する場合にはS蛋白IgG抗体価ならびに中和抗体価の時間経過に伴う低下はさらに増強された。Levin氏らが示したのと同様の知見はShrotri氏らによっても報告された(Shrotri M, et al. Lancet. 2021;398:385-387. )。Shrotri氏らによると、BNT162b2の2回接種後70日(2.3ヵ月)以上経過した時点でのS蛋白IgG抗体価は最大値の1/2まで低下していた。 Shrotri氏らは、AstraZenecaのChAdOx1接種後のS蛋白IgG抗体価の時間推移についても検証し、ChAdOx1の2回接種後のS蛋白IgG抗体価の最大値はBNT162b2接種後に比べ1/10と低く、かつ、ワクチン接種後70日以上経過した時点でのS蛋白IgG抗体価は自らの最大値の1/5まで低下することを示した。 ModernaのmRNA-1273の2回接種後3ヵ月にわたるRBD-IgG抗体の低下速度は第I相試験の時に検討され、BNT162b2に比べ緩やかであることが示唆された(Widge AT, et al. N Engl J Med. 2021;384:80-82. )。さらに、mRNA-1273の2回接種後のRBD-IgG抗体価の最大値はBNT162b2の2回接種後の1.4~1.5倍高値であると報告された(Self WH, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70:1337-1343.、Richards NE, et al. JAMA Netw Open. 2021;4:e2124331. )。以上より、コロナウイルスに対するIgG抗体形成能と時間経過に伴う抗体価低下の両者を鑑みた液性免疫原性の優越性はmRNA-1273>BNT162b2>ChAdOx1の順であると結論できる。以上のようなワクチンによる液性免疫原性の違いの結果、mRNA-1273のDelta株新規感染予防効果はBNT162b2よりも優れていることが示された(Puranik A, et al. medRxiv. 2021;2021.08.06.21261707. )。しかしながら、BNT162b2とmRNA-1273の免疫原性の差に関して考慮しなければならない事実は、ワクチン接種を介して生体に導入されるmRNA量の違いである。BNT162b2では30μg、mRNA-1273では100μgを1回の接種で筋注する。すなわち、投与されるmRNA量はmRNA-1273でBNT162b2に比べ約3倍多い。この投与量の差が液性免疫の差を規定している可能性が高く、mRNA-1273に比べBNT162b2がワクチンとして劣っていることを意味するものではない。この考えの妥当性を支持する知見として全身/局所における一般的副反応もmRNA-1273接種後により多く認められることが報告されている(Chapin-Bardales J, et al. JAMA. 2021;325:2201-2202. )。 BNT162b2の2回接種によるDelta株に対する中和抗体価の最大値は野生株に対する値の1/5.8と低い。さらに、Delta株に対する中和抗体価の時間経過に伴う低下率は野生株と大きな差を認めないが、時間経過の出発点である最大値が低いがために2回目接種後100日(3.3ヵ月)経過した時点でのDelta株に対する中和抗体価が検出限界以下まで低下する症例が免疫不全を有さない一般成人の中にも存在することが判明している(Wall EC, et al. Lancet. 2021;397:2331-2333. )。以上の事実から、まん延するコロナウイルスの中心がDelta株である場合には、ワクチン(BNT162b2あるいはmRNA-1273)2回接種後の中和抗体価が3~6ヵ月後には無効域近傍まで低下する人が少なからず存在する可能性を念頭におく必要がある。3回目booster接種 ワクチン接種後のウイルス中和抗体価の予想以上に速い低下によって招来される問題を打破するために世界のワクチン先進諸国では3回目の追加ワクチン接種(booster接種)が開始されつつある。3回目のbooster接種に関しては、次の論評(山口, 田中. ワクチンの3回目Booster接種は感染/重症化予防効果を著明に改善する)で詳細に論じるので、それを参照していただきたい。本邦ではなぜ夏場の第5波を克服することができたのか? PfizerのBNT162b2を中心にコロナ感染症に対するワクチン接種は2020年12月より世界各国で積極的に進められている。本邦においても2021年4月から一般成人に対するワクチン接種(Pfizer、Moderna)が開始され、10月29日現在、全人口の71.2%(65歳以上の高齢者が最も高く90.6%、12~19歳の若年者が最も低く47.8%)が2回目接種を終了し(首相官邸ホームページ. 新型コロナワクチンについて. Oct. 29, 2021)、本邦はワクチン接種先進国(優等国)の一つに数えられるようになっている(2回接種率:カナダ、イタリアに次ぎ世界第3位)。その結果として、本邦のコロナ第5波は9月初旬より急速に終焉に向かっている。しかしながら、7月以降、ワクチン接種先進国でワクチン接種者におけるDelta株新規感染の急激な増加という新たな問題が発生しており、本邦もこの問題に早晩直面するものと考えておかなければならない。Delta株による新規感染はワクチン接種開始が早かったイスラエル、カタールなどの中東諸国、英国などの欧州諸国、米国などを中心に顕著になっており、主たる原因は、前項で述べたワクチン接種後の液性免疫の経時的低下である。ワクチン接種を早期(2020年の12月)に開始した国では、ワクチン2回接種後6ヵ月以上経過した国民の数が多くなり、これらの人々では、ワクチン接種により誘導された液性免疫が時間経過とともに低下し、Delta株を中心とする変異株感染に対する予防効果が低い状態に維持されているものと考えなければならない。一方、本邦では、ワクチン接種開始時期の遅延が幸いし、Delta株がまん延し出した2021年の6月以降になってもワクチン接種によって形成された液性免疫の低下が少なくDelta株に対する予防効果が有効域に維持されている国民が多く存在していたものと推測される。それ故、ワクチン接種を昨年の12月早々から開始した国々とは異なり、本邦では、夏場のDelta株による第5波を“運よく”乗り越えることができたものと考えることができる。しかしながら、2021年の12月以降になると、本邦でもワクチン2回接種後6ヵ月以上経過した人たちの数が増加し、3回目のワクチン接種など何らかの有効な施策を導入しない限り、液性免疫低下に起因するDelta株由来の第6波が必然的に発生するものと考えておかなければならない。ワクチン突破感染(BI:breakthrough infection)なる言葉について 最後に、ワクチン突破感染(BI)という言葉について一言コメントしておきたい。BIはワクチンの感染予防効果が十分に維持されている場合に意味ある言葉でBIを引き起こす個体の背景因子を探求するうえで重要である(山口, 田中. CareNet論評-1422)。しかしながら、ワクチンの予防効果が低下している場合には、BIは個体が有する背景因子とは無関係にワクチン予防効果の低下が“強制的に”規定因子として作用する。それ故、このような場合には、BIという言葉は不適切だと論評者らは考えている。BIの代わりに“ワクチン非接種者、不完全接種者、完全接種者における感染”と正確に記載すべきである。さらに、ワクチン接種後どの時点で発生した感染であるかを明記すべきである。BIに代わる言葉を定義するならば、ワクチン接種者における“液性免疫低下関連感染(DHIRI:decreased humoral immune response-related infection)”という言葉が適切ではないだろうか?

1142.

ワクチンの3回目Booster接種は感染/重症化予防効果を著明に改善する(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 前論評(山口, 田中. ワクチン接種後の液性免疫の経時的低下―3回目Booster接種必要性の基礎的エビデンス)で論じたように、ワクチン接種後の液性免疫は、野生株、従来株、Delta株を中心とする変異株の別なく、月単位で有意に低下する。この液性免疫の経時的低下によって、Delta株を中心とする新型コロナウイルスの感染拡大(第6波)が今年の12月以降の冬場に発生する可能性を論評者らは危惧している。 第6波の発生を避けるためには、ワクチン接種後の時間経過と共に低下した液性免疫を再上昇させるためのワクチン3回目接種(Booster接種)、あるいは、Delta株を中心とするコロナ変異株抑制能力が高く効果持続期間がワクチンと同等、あるいは、それ以上に長いIgG monoclonal抗体をワクチン代替薬として考慮する必要がある(山口, 田中. 日本医事新報. 2021;5088:38.、山口, 田中. CareNet論評-1440)。ただし、現時点では、免疫不全を有さない一般成人に対してIgG monoclonal抗体を“pre-exposure and post-exposure prophylaxis”、すなわち、ワクチン代替薬として用いる方法は英国以外では承認されていない(Rubin R. JAMA Medical News & Perspectives. 2021 Oct 27.)。さらに、IgG monoclonal抗体の1回分の費用は20万円以上でワクチン2回接種の約100倍の高額治療であり、不特定多数の人に適用することは難しい。それ故、本論評では国民全体を対象としても医療経済面から施行可能な3回目のワクチンBooster接種に焦点を合わせ考えていくものとする。第6波の発生とその臨床的特徴 ワクチン3回目接種を考える前に、今冬季に発生が予想されるDelta株による第6波の臨床的特徴について考察する。 Chemaitellyらは、背景ウイルスがBeta株からDelta株に置換されつつあったカタ-ルにおける検討で、BNT162b2の2回接種後5~7ヵ月が経過するとワクチンの感染予防効果がピーク時の77.5%から20%前後まで低下するが、入院/死亡に対する重症化予防効果はワクチン接種後の時間経過とは無関係に90%前後に維持されることを示した(Chemaitelly H, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 6. [Epub ahead of print])。Tartofらは米国における検討で、BNT162b2の2回接種後のDelta株に対する感染予防効果が、ピーク時の75%から4ヵ月後には53%まで低下すると報告した(Tartof SY, et al. Lancet. 2021;398:1407-1416.)。Goldbergらはイスラエルにおける検討で、Delta株の感染率は年齢とは無関係にBNT162b2ワクチン2回接種後の時間経過に依存して上昇、重症感染者比率も60歳以上の高齢者にあってはワクチン2回接種後の時間経過が長いほど高いことを報告した(Goldberg Y, et al. N Engl J Med. 2021 Oct 27. [Epub ahead of print])。しかしながら、高齢層で認められた重症感染に関する傾向は、59歳以下の若年/中年層では確認できなかった(若年/中年層における重症感染者数が少ないため統計処理が困難)。Grangeらはスコットランドにおける解析で、ワクチンの2回接種(BNT162b2、ChAdOx1)によって全体の死亡者数を軽減できるが、死亡者数は75歳以上の高齢者、男性、複数の併存症を有する人で有意に高いことを示した(Grange Z, et al. Lancet. 2021 Oct 28.)。この傾向は、非ワクチン接種者、不完全ワクチン接種者におけるDelta株感染に起因する死亡者の場合と質的に同じである。 今年の12月以降には、本邦においてもワクチン2回接種後6ヵ月以上経過した人たち(医療従事者を含む)の数が増加し、何らかの有効な施策を導入しない限り、液性免疫低下に起因するDelta株由来の第6波が必然的に発生するものと考えておかなければならない。この場合、Deltaは総称であり、原型(起源)のB.1.617.2に加え、それから派生したAY.1~AY.3、AY.4~AY.11(英国)ならびにAY.12(イスラエル)を含む(WHO. COVID-19 Weekly epidemiological update. 2021 Oct 19.)。これらのDelta株による第6波を阻止するための有効な医学的/社会的施策を講じる時間は2ヵ月ほどしか残されていない現実を、医療関係者ならびに為政者はもっと真摯に受け止める必要がある。 ただ、Delta株に起因する第6波は、国民の約70%以上がPfizer社あるいはModerna社のワクチンの2回接種を終了した状況下で発生するので、ワクチン未接種状態で発生するDelta株感染とは質的に異なる様相を呈するはずである。多くの国民がワクチンの2回接種を終了している時点で発生する第6波においては、感染者数はある程度の数に達するが、夏場の第5波よりも規模が小さいものと予想できる。第6波における感染者の重症度はワクチン未接種状況下で発生するDelta株感染に比べ、軽症者が多いという特徴を有するはずである。ワクチン接種者に発生する“液性免疫低下関連感染(DHIRI:Decreased humoral immune response-related infection)”では、ワクチンの抗ウイルス作用は完全に無効というわけではなく不完全ながらウイルスの病原性を抑制する。それ故、ワクチン接種後のDelta株感染にあっては、感染症状が弱く、症状持続期間が短く、重症化の頻度が低い比較的軽症患者が多くなるものと予想される。しかしながら、高齢層における死亡を含む重症患者数は、若年/中年層に比べ有意に多くなることも念頭に置く必要がある。ワクチン3回目Booster接種の効果 一般成人にPfizer社のBNT162b2を3回接種(2回接種後7.9~8.8ヵ月)した時のDelta株に対する中和抗体価は、2回接種後に比べ55歳以下の若年/中年者で5.5倍、65歳以上の高齢者で12.0倍高値になることが示された(Falsey AR, et al. N Engl J Med. 2021;385:1627-1629. )。Moderna社のmRNA-1273の3回接種(半量の50μg筋注、2回接種後5.9~7.5ヵ月)後の変異株(Beta株、Gamma株)に対する中和抗体価に関する検討でも、質的に同様の結果が報告されている(Wu K, et al. medRxiv. 2021 May 6.)。 本論評で取り上げたイスラエルの検討では、60歳以上の高齢者に対する3回目接種は2回目接種後と比較して新規感染リスクを11.3倍、重症化リスクを19.5倍低下させることが示された(Bar-On YM, et al. N Engl J Med. 2021;385:1393-1400.)。この結果を受け、イスラエルでは2021年7月30日以降、2回目接種後少なくとも5ヵ月以上経過した60歳以上の高齢者ならびに50歳以上の医療従事者を対象としてBNT162b2の3回目接種が開始されている(現在は、12歳以上を対象とすることに変更)。同様に、アラブ首長国連邦、ドイツ、フランスなどでも3回目接種が始まっている。 2021年9月17日、米国FDAは一般成人に対する3回目Booster接種に対してPfizer社のBNT162b2を使用することを緊急承認した。対象は、65歳以上の高齢者と16歳以上でコロナ感染による重症化因子を有する人とされた。後者には医療従事者、学校の教員など、コロナ患者との濃厚接触の確率が高い職業に従事する人たちも含まれる。Moderna社のmRNA-1273においても通常量の半量(50μg)を3回目接種に用いる緊急使用が10月14日に、Johnson & Johnson社のAdeno-vectored vaccineであるAd26.COV2.SのBooster接種(このワクチンの場合、2回目がBooster接種となる)が10月15日に承認された。さらに、米国FDAは、液性免疫原性が低いAd26.COV2.Sの代わりに、液性免疫原性が高いBNT162b2あるいはmRNA-1273をBooster接種時に使用してもよいと決定した(ハイブリッド・ワクチン)。 本邦においても、2021年9月17日、厚生労働省は3回目接種を認めることを決定し、実施の詳細について議論が開始されている。10月28日に開催された厚労省の分科会では12歳以上の国民全員を3回目接種(公費負担)の対象とすることが了承され、2回目接種後8ヵ月経過した人から順に3回目接種を施行する方向でまとまりつつある。3回目接種においてハイブリッド・ワクチンを認めるかどうかを含め、正式決定は11月中旬になされるとのことである(朝日新聞デジタル 2021年10月29日付)。 本論評では“3回目のワクチン接種”と記載したが、これはワクチン接種を3回施行すればすべての問題が解決することを意味しているわけではなく、必要に応じて4回目、5回目の接種をさらに追加する可能性を含んだ言葉だと解釈していただきたい。事実、フランス保健省は、2021年6月から臓器移植患者で3回目ワクチン接種に反応しない患者に対して4回目のワクチン接種を開始している(Rubin R. JAMA Medical News & Perspectives. 2021 Oct 27.)。 ワクチンの3回目接種による液性免疫の底上げは、免疫不全患者において絶対的に必要な手段であるが、紙面の都合上本論評では割愛する。この問題に関しては論評者らの総説を参照していただきたい(山口, 田中. 日本医事新報. 2021;5088:38.)。

1143.

第82回 今年のインフル流行危機は南半球ではなく南アジアから学べ!?その傾向と対策は

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の新規感染者報告数は減少し、すでに全国での1日の新規感染者報告数は10月末から300人を切る日が続いている。危機はほぼ去りつつあるのかどうかは、現時点ではまったくわからない。もっとも政府が新型コロナワクチンの2回接種完了者全員を3回目接種対象者としたことからもわかる通り、当面は国を挙げての新型コロナ警戒態勢が継続することは確実だ。そうした最中、11月に入り私は娘と共に今季のインフルエンザワクチン接種を済ませた。いつもワクチン接種でお世話になっているクリニックで接種したのだが、旧知の院長からは「よく予約取れたね」と言われた。このクリニックではインフルエンザワクチン接種予約はwebでできる。例年だと10月に入ってすぐ予約を入れるのだが、今年はクリニック側が予約を開始したのが10月半ば。しかも予約ページを覗くと、例年と比べ予約枠がきわめて少なく、油断していたら10月中はすべて埋まっていた。1週間前の朝8時から予約が入れられるシステムなので、10月最終週のとある日、朝8時前からクリニックのホームページを開きスタンバイして予約を入れた。予約完了確認メールがすぐ送られてきて、ほっとして再度ページを確認すると、私が予約した日の枠はすでに完全に埋まっていた。時計を見ると午前8時4分だった。そんなこんなで済ませたインフルエンザワクチンだが、新型コロナが流行し始めた昨年は、冬期シーズンを前に「新型コロナとインフルの同時流行はあるのか?」と騒がれた。結局、昨年1年間のインフルエンザ定点報告数は約56万人、一昨年の約188万人からは激減し、同時流行の懸念は杞憂に終わった。では今シーズンはどうなるだろうか? 日本感染症学会の「2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方」が一番まとまっていてわかりやすい。端的に言えば、北半球の冬の流行予測の参考になる南半球の冬、すなわち北半球の夏の時期を見ると、インフルエンザ確定患者数はごく少数なため、北半球でも冬の流行の可能性は低いのではないかというのが大枠の見方だ。ただし、ここでは一つ不安要素を挙げている。それはアジアの亜熱帯地方、具体的には南アジアのインドやバングラデシュで夏季に流行が認められたこと。このことから今後の人流増加も加味すると、これら地域からのインフルエンザ「輸入」もありうるということだ。昨シーズンに流行がなかったことなどを加味すれば、日本国内は集団免疫が乏しいと考えられ、この観点からインフルエンザワクチンの接種を推奨している。さてここで気になるのがこの南アジアでのインフルエンザ流行状況だ。世界保健機関(WHO)によるインフルエンザのサーベイランス「FluNet」を参照すると、インドとネパールは今年の第25週あたりを機にインフルエンザの増加が見られ、第33週前後にピーク、それから徐々に減少している。当初はA(H1N1)pdm09が主流で、ピークを過ぎてからB(ビクトリア系統)が徐々に出現し、第37週以降はB(ビクトリア系統)が主流だ。一方、バングラデシュは今年の第20週あたりを境に増加し、第23週にピークを迎え、そこから徐々に減少して収束したかに見えたが、第35週を境に再び増加に転じ、第38週にピークを迎えて減少傾向となっているものの今も比較的高い水準の感染状況だ。こちらの流行株は当初、B(ビクトリア系統)が中心で第35週以降の第2波がA(H1N1)pdm09とインド、ネパールとは逆である。昨今の出入国管理統計の速報値を見ると、東京五輪関係の入国もあったとみられる7月と比較して、最新の9月時点はインドからの入国者が10%増(603人)、バングラデシュからは3.8倍(181人)、ネパールからは15倍(1,110人)と絶対数はまだまだ少ないものの明らかに増加傾向にある。感染症学会が指摘する「輸入」の危険は一定程度存在する。だが、それ以上に不気味なことがある。それはインフルエンザの流行動向がやや異なるインド・ネパールとバングラデシュ共に新型コロナの新規感染者報告数がピークを過ぎ、ほぼ収束に向かった時期にインフルエンザの流行が始まっているという共通点だ。新型コロナ収束の間隙を突いてインフルエンザが流行しやすいならば、まさに今の日本がその時期である。そしてその時期に前述のように流行地域からの人流は増加傾向にある。加えて日本国内では従来からインフルエンザワクチンの接種率は約3人に1人と決して高くない。さらに言えば、今年はワクチンの品薄の影響で高齢者でもまだ接種に至っていないケースは少なくない。かなり悪い条件が揃い過ぎていると言わざるを得ない。もっともインフルエンザに関しては、新型コロナに比べれば致死率も低く、流行地域などからの入国制限のような水際対策は非現実的である。結局、最終的な解決法としてはワクチン接種率をいかに上げるかに行き着かざるを得ない。まだまだ新型コロナの脅威が去ったわけではない今、致死率が低いとはいえ新型コロナと臨床診断で鑑別しにくいインフルエンザが流行すれば、医療現場はかなりの緊張と混乱を強いられる。昨年囁かれた「新型コロナ・インフルのダブルパンデミック」が現実とならなかったのは幸いだったが、その反作用として一般人からすると、私たちメディアも医療側も結果として「オオカミ少年」になってしまった。そうした雰囲気と「コロナ疲れ」がベースにある中で、一般人にいかにインフルエンザワクチン接種の重要性を認識してもらうか。私たちは昨年以上に心してかからねばならないだろうと思っている。

1144.

ファイザー製ワクチン後、4ヵ月と6ヵ月で効果の差は?/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のデルタ変異株に対する免疫は、2回目のワクチン接種から数ヵ月後には全年齢層において減弱したことが、イスラエル・Technion-Israel Institute of TechnologyのYair Goldberg氏らの研究で示された。イスラエルでは、2020年12月から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するBNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech製)の集団接種キャンペーンが開始され、大流行が急激に抑制された。その後、SARS-CoV-2の感染例がほとんどない期間を経て、2021年6月中旬にCOVID-19の流行が再燃。その理由として、デルタ(B.1.617.2)変異株に対するワクチンの有効性の低下と、免疫の減弱が考えられたが、イスラエルにおけるデルタ変異株に対するBNT162b2ワクチン免疫の減弱の程度は不明であった。NEJM誌オンライン版2021年10月27日号掲載の報告。ワクチン接種完遂後の感染率と重症化率を接種時期別に比較 研究グループは、2021年6月以前にワクチン接種を完遂したすべてのイスラエル住民を対象として、全国データベースを用いて2021年7月11日~31日における、確認された感染および重症化に関するデータを収集した。 ポアソン回帰モデルを用いて、ワクチン接種時期別のSARS-CoV-2への感染と重症COVID-19の発生を、年齢で層別化し交絡因子を補正して比較検討した。ワクチン完遂が2ヵ月早い人の感染率は1.6~1.7倍 7月11日~31日における感染率は、60歳以上では、2021年1月(接種対象となった最初の時期)にワクチン接種を完遂した人のほうが、2ヵ月後の3月にワクチン接種を完遂した人より高率であった(率比:1.6、95%信頼区間[CI]:1.3~2.0)。 40~59歳でも、同年齢層の接種開始月である2月にワクチン接種を完遂した人のほうが、2ヵ月後の4月に接種した人より高率であった(率比:1.7、95%CI:1.4~2.1)。16~39歳でも、3月(同年齢層の接種開始月)にワクチン接種を完遂した人は、2ヵ月後の5月に接種した人と比較して感染率比が1.6(95%CI:1.3~2.0)であった。 重症COVID-19の発生率については同様の比較において、60歳以上では率比が1.8(95%CI:1.1~2.9)、40~59歳で2.2(0.6~7.7)であった。16~39歳では症例数が少なく率比を算出できなかった。

1145.

ファイザー製コロナワクチンBNT162b2 長期の有効性と安全性(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による第5波で多くの医療機関で災害級の対応を強いられたものと考えているが、2021年10月中旬現在において波は完全に引き潮となっている。コロナが落ち着いてきた要因はいろいろ囁かれているが、日本全土でコロナワクチン接種が普及したこと(2021年10月19日現在、日本でのコロナワクチン2回目接種終了率68.0%)は大きく影響していると考える。現場でも実際にコロナが収束傾向な状況は大変喜ばしいことと思っている。 ファイザー製コロナワクチンBNT162b2の効果としては最初に95%の発症予防効果(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.)が示され、その後もリアルワールドセッティングで感染予防効果率:92%、重症化予防効果率:92%、入院予防効果率:87%(Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)とさまざまな臨床的有用性がすでに報告されている。さらに12~15歳の若年者ではBNT162b2コロナワクチンを2回接種後に新型コロナウイルス感染症を発症した症例は1例も認めずに高い有効性や安全性も示されている(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250.)。本邦では医療従事者が先駆けてコロナワクチンを接種したことから、現場でも長期の有効性や安全性プロファイルは関心の高いところである。 本論評で取り上げた米国・ニューヨーク州立大学のThomasらの論文ではファイザー製BNT162b2コロナワクチンは6ヵ月間の経過でワクチンの有効性は低下するものの、コロナウイルスの高い予防効果を示した結果を報告した。本研究では2020年7月27日から10月29日の約3ヵ月の間に米国を中心とした152施設で16歳以上の4万4,165例と、2020年10月15日から2021年1月12日までに米国の29施設から12~15歳の2,264例を試験に登録した。症例群はBNT162b2コロナワクチン接種群とプラセボ接種群に1:1で無作為に割り付けられた。2021年3月13日をデータカットオフ日として、6ヵ月での有効性と安全性が解析された。有効性はCOVID-19発症で評価されているが、12歳以上で評価可能であった4万2,094例のうち、2回目ワクチン接種後7日経過したコロナワクチン接種群で77例、プラセボ接種群で850例が発症し、ワクチンの有効性は91.3%という結果だった。新型コロナウイルスに感染歴がある症例も含めた有効性の解析では2回目のワクチン接種後7日~2ヵ月で96.2%という高い有効性であったが、2~4ヵ月の時点90.1%、4ヵ月以降では83.7%と2ヵ月経過するごとに有効性が6%ほど減弱する結果も示された。またコロナワクチン1回接種後に重症のCOVID-19に発展した31症例中30例がプラセボ群であり、重症化予防効果率は96.7%とされた。さらにWHOがVOC(variant of concern)として定義した変異株であるB.1.351(ベータ株)が確認された南アフリカにおいて、同地域でのワクチン有効性も100%であることが報告された。 安全性の評価では局所的には注射部位の疼痛が、全身性の反応としては倦怠感がワクチン接種群で多く報告され、ほとんどが軽度~中等度であった。 モデルナ製のmRNA-1273コロナワクチンも3万人以上の解析で2回接種後5ヵ月以上にわたりCOVID-19発症を93.2%抑え、重症化予防、無症候性感染の予防にも有効であったことが示されている(El Sahly HM, et al. N Engl J Med. 2021 Sep 22. [Epub ahead of print])。 コロナワクチンの長期のデータを評価する上でいくつかの問題点が考えられる。1つは地域で流行しているウイルスが変化していることが挙げられる。今回の報告ではBNT162b2コロナワクチン接種6ヵ月後においても高いワクチン有効性が保たれていることを示した結果であったが、本邦の第5波でも猛威を振るったB.1.617.2変異(デルタ株)がほとんど存在しなかった時期の解析であることは差し引いて考える必要がある。デルタ株は2020年10月にインドにおいて初めて検出されたN501Yを有さない第3世代変異株であるが、米国では2021年5月の時点でも数%の検出にとどまっており(山口、田中 ケアネット論評1422)、本研究のデータカットオフ時はその2ヵ月も前の解析となっている。また本研究ではBNT162b2コロナワクチン接種群2万1,926例中15例(0.068%)、プラセボ群で2万1,921例中14例(0.064%)の死亡が確認されており、死因は両群で一致していると報告している。しかしながら現在世界で数多く接種されているBNT162b2コロナワクチンやモデルナ製のmRNA-1273コロナワクチンの高い有効性が証明されており、プラセボ接種群をそのまま経過観察しているということは倫理的に問題があると考えざるを得ない。もちろんワクチン接種に関連した死亡はなかったと報告されているが、実際にプラセボ群で850例のCOVID-19発症者が確認されており、明らかに不利益を被っているのは火を見るより明らかであろう。最後に本研究には12歳未満の小児や妊婦で接種した症例は含まれておらず、今後のデータの集積は引き続き必要である。

1146.

第82回 新型コロナとインフルエンザ「同時流行」の可能性は?

先週末の総選挙では、自民党単独では公示前の議席を減少させたものの、国会を安定的に運営できる「絶対安定多数」は確保した。閣僚による不祥事などが起きない限り、今後は安定的に政権を運営でき、医療界では新たな医療体制の構築や次期診療報酬改定に向けた動きが期待されている。医療界にとっての懸念は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第6波の動向と共に、今冬のインフルエンザの行方だろう。早くも、インフルエンザワクチンが新型コロナの影響で足りないという。地域によっては、インフルエンザワクチンの接種予約がかなり困難な状況で、子どもの予約を取るために、いくつもの医療機関に50回近く電話をかけ続けたという母親も。Twitterには「インフルエンザの予約が取れない。子どもはコロナ打てないんだから、インフルくらい打たせて」といった親たちの切実な叫びが綴られている。コロナ対応のあおりでインフルワクチンは供給不足日本感染症学会は9月、今年はインフルエンザが大きな流行を起こす可能性もあるとのメッセージを発信した。例年のインフルエンザの感染者数は約1,000万人だが、昨シーズンは3密回避・手洗い・うがいの徹底などが奏功して約1万4,000人にまで減少した。しかし、それによってインフルエンザの免疫を持つ人が減少し、日本全体が感染しやすい状態になっているという。12歳以下の子どもの場合、インフルエンザワクチンは2回接種が必要だが、「2週間後ぐらいに2回目接種をしないと、ワクチンが足りなくなる可能性がある」と言う医師もいる。都内のあるクリニックでは、当初10月~12月までのインフルエンザワクチンの予約を受け付けていたが、10月分から予約を制限しており、11月分の新規予約は受け付けないという。なぜワクチン不足の状況になっているのか。厚生労働省によると、今年は10月第5週の時点では全体の65%の出荷量にとどまっており、11月~12月中旬頃まで継続的にワクチンが供給される見込みだ。厚労省は9月、各都道府県にインフルエンザワクチンの供給が遅れることを通達。世界的に原料が不足している上、ワクチン製造で使う部品が新型コロナ用に回され確保が難しくなっていることから、供給が遅れる見通しだという。今季の供給予定量は、2,567~2,792万本(1本:大人2回分)の見込みで、昨シーズンの8割程度だ。経済活動再開でインド・バングラのウイルス拡散もこのような状況下、果たして新型コロナとインフルエンザの同時流行はあるのだろうか。「同時流行はあり得る」と言い切るのは、感染症専門の大学教授だ。インフルエンザ流行の可能性について、日本感染症学会は以下の2つの理由を挙げる。まず前述の通り、前のシーズンにインフルエンザがほとんど流行しなかったため、集団免疫が形成されていない可能性があること。もう1つは海外の要因だ。今夏、インドおよびバングラデシュでインフルエンザが流行しており、国境を越えた人々の移動が再開されれば、世界中にウイルスが拡散される懸念があるという。新型コロナとインフルエンザ、各々の症状には発熱と咳という共通した症状があり、同時流行が起きた場合、にわかに区別が付きにくい。そのため、インフルエンザが流行すれば医療現場に双方の患者が混在し、混乱と逼迫を招く可能性がある。厚労省によると、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンは原則、同時接種は不可だが、2週間空ければ他方のワクチンも接種可能となる。ただ、あまり双方にとらわれ過ぎると、子どもの場合、その他の疾患の早期発見に遅れを来す懸念もあるだろう。新型コロナワクチン接種率のさらなる向上や、効果の高い治療薬の登場により、感染症としての位置付けが現状のままなのか、インフルエンザ並みになっていくのかが、今後の医療体制の構築に重要なポイントになるだろう。

1147.

コロナワクチンの追加接種の見通し/厚労省

 厚生労働省は、10月29日に事務連絡として全国の自治体に「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の議論と追加接種に関する今後の見通しについて」を発出した。 これは第25回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(10月28日開催)で審議された内容を整理したものである。追加接種の対象者は2回接種完了者全員1)新型コロナワクチンの追加接種についてわが国でも追加接種は必要であり、現時点では2回目の接種を完了してからおおむね8ヵ月以上後から行うこととしつつ、今後のさらなる科学的知見を踏まえ、必要に応じて適宜見直すこと。追加接種の対象者については、2回接種完了者すべてに対して追加接種の機会を提供することが現実的であること。その上で、国内外で得られるワクチンの効果などを踏まえ、特に接種することが望ましい者について検討を進め、国民へ広報などを行うこと。また、追加接種に使用するワクチンについては、1回目・2回目に用いたワクチンの種類にかかわらず、mRNAワクチン(ファイザー社ワクチンまたは武田/モデルナ社ワクチン)を用いることが考えられるが、引き続き科学的知見を収集し、検討を行うこと。2)今後のスケジュールについて12月から開始を予定している追加接種の実施に向け、現時点で想定される今後のスケジュールは以下のとおり。2021年〔11月中旬〕・ファイザー社ワクチンの追加接種について、対象者などを定める省令改正などを厚生科学審議会に諮問・自治体説明会〔11月中下旬〕・市町村から、接種券(一体型予診票)を順次送付開始・自治体に対し、12月および1月接種分として、ファイザー社ワクチン約412万回を配分(以後、順次、必要量を配分)〔12月1日〕・追加接種の関係省令を施行。以降、市町村において順次ファイザー社ワクチンによる追加接種を開始〔12月下旬以降〕・武田/モデルナ社ワクチンの追加接種について、厚生科学審議会に諮問2022年〔1月〕・自治体などに対し、武田/モデルナ社ワクチンの配分開始(以降、順次、必要量を配分)〔2月〕・武田/モデルナ社ワクチンによる追加接種開始 なお、事務連絡では、上記のスケジュールは現時点で想定されるものであることから、今後の分科会における審議を踏まえ、変更もあり得るとしている。

1148.

HPVワクチンとCOVID-19ワクチンの優先順位【今、知っておきたいワクチンの話】特別編2

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性者の増加も落ち着き、新しい日常が始まっている。COVID-19ワクチンについても成人の2回接種率が約7割を超える(11月1日現在)とともに、12歳以上のCOVID-19ワクチン接種も進んでいる。そんな環境の中でHPVワクチン接種も引き続き定期接種として行われており、徐々にではあるが増えてきている。そのためか、定期接種の最終年にあたる高校1年生についてCOVID-19ワクチンとHPVワクチンの接種時期が重複した場合のスケジュール調整や両ワクチンのリスクなどについて相談が寄せられているという。今回本稿では、こうしたケースでの被接種者や被接種者の保護者への説明に医療者が知っておきたい事項を本コーナーの監修であり、家庭医として活躍されている中山 久仁子氏にお聞きした。※このインタビューは2021年10月23日に行いました。掲載内容もインタビュー時点の情報です。臨床現場からみた両ワクチンの接種の注意点質問:COVID-19ワクチン、HPVワクチンについて臨床の現場から最近の知見などを教えてください回答:COVID-19ワクチンについては、現在満12歳以上で接種できるようになり、接種が進んでいます。私のいる自治体では10代の接種率も80%を超えました。COVID-19は、若年者の重症化リスクは低く、無症状で経過する場合が多いです。ですから、COVID-19ワクチンはまずは基礎疾患がある方、今後受験・進学などのイベント、集団での活動を予定している方などは接種していただきたいです。また、第5波では小児は家庭内感染の一因にもなっていたため、家族への感染予防という観点からも接種のメリットがあると考えます。未成年者にCOVID-19ワクチンを接種した場合、成人と同様に局所の副反応などがあります。そして、とくに注意したいのが「心筋炎」です。発生する確率は非常に低いですが、10~20歳代の男性に接種した場合、接種後1週間ほどは激しい運動を避けていただき、接種後4日程度の間に発症のリスクが高くなりますので胸痛、動悸、息切れ、浮腫などの症状がないかの観察が必要です。ファイザー社と武田/モデルナ社のワクチンのいずれでも心筋炎は起こりますが、ファイザー社のワクチンの方が発生頻度の報告頻度は少ないですが、直接の比較検討の報告はありません。また、新型コロナ感染による心筋炎のほうが、ワクチン後のリスクよりも高いと報告されています(参考資料:令和3年10月15日厚生科学審議会資料)。海外ではより低年齢の小児への接種が承認されました。今後、日本での接種年齢が12歳未満に引き下げられるかは、臨床試験の結果と感染者数の推移などにより厚生労働省が決定しますので現段階では不明です。ただ、接種するかしないかは、「ワクチンの効果」と「COVID-19に感染したときのデメリット(症状や後遺症など)とワクチン接種でのデメリット(副反応)の比較」を考慮して被接種者に考えていただくことが大切です。被接種者が迷ったとき、不安なときには、かかりつけ医に相談していただき、正確な情報を基に判断してもらうようにしてください。次にHPVワクチンについて、本ワクチンのメインターゲットの子宮頸がんなどのHPV関連がんの発症は、HPVに感染してから時間がかかります。ワクチンによるHPV感染の減少と前がん症状の減少の効果については以前より報告がありましたが、最近子宮頸がんの減少が海外・国内1,2)から報告されています。また、ワクチン接種後の「多様な症状」とHPVワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されておらず、これらは機能性身体症状と考えられるとの見解が発表されています。名古屋スタディ3)でも「多様な症状」がHPVワクチン接種後に特有の症状ではないことが示され、海外でもワクチン接種と機能性身体症状の研究レポート4)などもでており、世界保健機関(WHO)も世界中の最新データを継続的に評価し、HPVワクチンの推奨を変更しなければならないような安全性の問題はみつかっていないと発表しています。わが国ではしばらく積極的勧奨が差し控えられていますが、今後は、HPVワクチンの接種機会が増えてくると思われます。その際、接種時に被接種者の不安や緊張感を減らすことが大切です。接種の際に、緊張させないため十分なコミュニケーションをとり、接種のメリットと起こりうる副反応についてあらかじめ説明して理解してもらい、納得した上で接種することが大切です。HPVワクチンのトピックスとして、9価ワクチン(商品名:シルガード9)が2020年に製造販売承認され、2021年2月24日に発売、使用できるようになりました。定期接種ではありませんが任意接種で使用できます。本ワクチンは世界的に主流となってきています。確認としてHPVワクチンの標準的なスケジュール(図1)と緊急の場合のスケジュール(図2)を示します。図1 HPVワクチン接種の標準スケジュール画像を拡大する図2 HPVワクチン接種 標準的な接種ができない場合のスケジュール画像を拡大する定期接種最終年であれば先にHPVワクチンを接種質問:COVID-19ワクチンとHPVワクチンが重複した場合の優先順位、スケジュールなど教えてください。回答:今問題になっているのは、11月中に高校1年生の女子学生がHPVワクチンの1回目接種をしないと3回目が定期接種の枠から外れてしまうことです。そのためHPVワクチンとCOVID-19ワクチンでは、どちらを先に接種した方がよいかという問題があります。結論から言いますと、定期接種の期間に接種するために「HPVワクチンを優先して接種した方がよい」と言えます。HPVワクチンと新型コロナワクチンの標準的なスケジュールは、4価ではHPVワクチンの初回の接種後にCOVID-19ワクチンを2回接種し、その後2回目のHPVワクチンを接種するスケジュールになります。2価は1回目と2回目の間が1ヵ月のため、1回目と2回目のHPVワクチンを接種してから、2回目の接種後2週間以降にCOVID-19の接種を開始します。期間が短くて標準的な接種ができない場合のモデルスケジュールを図3に示します。2価・4価ともに1回目と2回目の間が1ヵ月のため、HPVワクチンの1回目と2回目を接種して、2回目の接種後2週間以降にCOVID-19の接種を開始します。図3 HPVワクチンを標準的な接種ができない場合のスケジュールとCOVID-19ワクチン画像を拡大するなお、COVID-19ワクチンの接種の際に注意すべき点として、ワクチンを接種するとき前後2週間の間隔を空ける必要があります。これは、副反応などが起きた場合、どのワクチンとの関係があるかの確認のためです。また、COVID-19ワクチンの接種の際にHPVワクチンのスケジュールと情報提供を行うと、今後のスムーズな接種に役立ちます。被接種者に寄り添ったワクチン接種を最後にHPVワクチンの動向として、今後もさまざまなワクチンの効果などに関するエビデンスがでてきますので注目してほしいと思います。厚生労働省も2020年10月と21年1月に各自治体に対し「接種対象者に被接種者である旨のお知らせの送付について」事務連絡を行いました。この事務連絡により、自治体は被接種者に被接種者であることを通知できるようになりました。年間3千人もの方が子宮頸がんで亡くなっていることを考慮しますと、対象者に被接種者であるお知らせが届き、正確な情報が伝わることは大事なことです。同様に文部科学省では、2021年3月に「がん教育推進のための教材」が改訂され、がんの予防にワクチン接種による感染対策が有効であること追加されました。今後は自治体や学校など、地域においてワクチンで病気を予防することの教育や啓発を行っていっていただけると期待しています。HPVワクチンを接種する医療者は、ワクチンの効果と副反応の説明をしっかりと行い、副反応がでた場合には、その対処や必要時に紹介できる体制などをあらかじめ確認しておき、安心して接種できる環境にすることが望まれます。そして、日常診療やインフルエンザワクチンなどで接種対象者が外来などに受診した場合には、その方に必要で接種可能なワクチンについて情報提供することで、ワクチンで予防できる疾患の予防について、本人に伝えていっていただきたいと思います。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト(日本プライマリ・ケア連合学会)ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~(厚生労働省)1)Lei J, et al. N Engl J Med. 2020;14:1340-1348.

1149.

第76回 過労自殺の半数はうつ病発症から6日以内/過労死等防止対策白書

<先週の動き>1.過労自殺の半数はうつ病発症から6日以内/過労死等防止対策白書2.12月開始の3回目ワクチン、接種対象者は限定せず/厚労省3.新型コロナワクチンの接種率、日本は人口の7割に到達4.制度にそぐわないDPC病院に是正か退出を/中医協5.研修医マッチング、昨年に続き6割以上が大学病院外で内定1.過労自殺の半数はうつ病発症から6日以内/過労死等防止対策白書政府は、「過労死等防止対策白書」を10月26日に閣議決定した。これは2014年に成立した過労死等防止対策推進法に基づいて国会に毎年報告を行っており、過労死等の概要や政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況を取りまとめたもの。今回の白書によれば、うつ病など精神障害で労災認定された過労自殺者は、発症から6日以内と短期間で亡くなる人が半数に上るとの調査結果が明らかとなっており、より一層の対策を求めている。(参考)コロナ影響の悩み、ストレスチェックで気付きを 厚労省が過労死等防止対策白書を公表(CBnewsマネジメント)過労自殺の半数、うつなど発症から6日以内 厚労省報告(日経新聞)資料 令和3年版過労死等防止対策白書の概要(厚労省)2.12月開始の3回目ワクチン、接種対象者は限定せず/厚労省厚生労働省は、10月28日に厚生科学審議会予防接種を開催し、新型コロナウイルスワクチンの追加接種(3回目)の対応方針をめぐって議論を行った。国内外の感染動向やワクチン効果の持続期間、諸外国の対応状況から、追加接種の必要があるとした。また、追加接種の時期は2回目接種完了からおおむね8ヵ月以上経過後に実施、使用するワクチンは、原則1・2回目に用いたワクチンと同一のものを用いることとされる。3回目接種の実施対象者は、高齢者や重症化リスクのある人に限定せず、2回目接種が完了したすべての人とする方針で一致した。(参考)“3回目接種”12月から順次開始へ 気になる副反応は(NHK)3回目ワクチン接種、対象者を限定せず 2回目終えた全員に、厚科審・分科会(CBnewsマネジメント)資料 新型コロナワクチンの接種について(厚労省)3.新型コロナワクチンの接種率、日本は人口の7割に到達政府は10月26日に、新型コロナウイルスワクチンの2回目接種を終えた人が、全人口の70.1%である8,879万人に到達したと発表した。アメリカは全人口の57%、フランス68%、イギリス67%、ドイツ66%であり、G7では2位のイタリア(71%)とほぼ肩を並べ、1位のカナダ74%に次ぐトップ水準となった。(参考)新型コロナワクチンについて(内閣府)ワクチン2回接種終えた人、人口の7割超える…海外より高水準(読売新聞)人口7割がワクチン完了 G7でトップ水準(産経新聞)Which countries are on track to reach global COVID-19 vaccination targets?(Our World in Data)4.制度にそぐわないDPC病院に是正か退出を/中医協厚労省は10月27日に中央社会保険医療協議会 診療報酬基本問題小委員会を開催し、2022年度診療報酬改定に向けて検討結果の取りまとめを行った。そこでDPC病院において、診療密度や在院日数が平均から外れている病院も認められ、DPC制度にそぐわない可能性があると指摘があったことから、調査報告について、支払い側の委員から「イエローカードを出し、それでも是正がなければレッドカードを出すべきだ」と意見が出された。今後、DPC制度にそぐわない病院をどのように対処するか仕組みの検討がなされるだろう。(参考)DPC外れ値病院、当面は「退出ルール」設定でなく、「診断群分類を分ける」等の対応検討しては―入院医療分科会(Gem Med)DPC外れ値病院へ、「是正なければレッドカードを」中医協・小委で支払側委員(CBnewsマネジメント)資料 第206回 中央社会保険医療協議会 診療報酬基本問題小委員会(厚労省)5.研修医マッチング、昨年に続き6割以上が大学病院外で内定厚労省は10月28日に、2021年度「医師臨床研修マッチング」の結果を発表した。新医師臨床研修制度が2004年4月に導入され、その翌年から大学病院以外の研修病院で研修を受ける医師が半数を超えている。今回、大学病院の内定割合36.7%(前年度38.1%)に対し、大学病院以外の臨床研修病院での内定割合は63.3%(前年度61.9%)と、大学病院以外での研修がさらに浸透してきていることが明らかとなった。(参考)2022年4月からの臨床研修医、都市部6都府県以外での研修が59.2%、大学病院以外での研修が63.3%に―厚労省(Gem Med)医師臨床研修の内定者数が増加 厚労省が2021年度のマッチング結果公表(CBnewsマネジメント)資料 令和3年度 研修医マッチングの結果(医師臨床研修マッチング協議会)資料 2021年度 研修プログラム別マッチング結果(同)

1150.

12~18歳のデルタ株への感染予防効果90%、ファイザー製ワクチン/NEJM

 デルタ変異株が流行しているイスラエルで、ファイザー製ワクチンの効果を12~18歳を対象とした観察コホート研究で調べたところ、2回目接種後7~21日の感染予防の有効率は90%、発症予防の有効率は93%だった。この結果から、ファイザー製ワクチンの接種完了後数週間は、デルタ株への感染とCOVID-19発症のどちらにも非常に有効であることが示唆された。米国・Boston Children's HospitalのBen Y. Reis氏らが、NEJM誌オンライン版2021年10月21日号のCORRESPONDENCEで報告した。 著者らは、デルタ変異株に対するファイザー製ワクチン(BNT162b2 mRNAワクチン)の有効性を推定するために、イスラエル最大の医療機関であるClalit Health Servicesのデータを使用し、2021年6月8日~9月14日にワクチン接種を受けていた新型コロナウイルス感染歴のない12~18歳を対象に観察コホート研究を実施した。ワクチンの有効率は、1からリスク比を引いた数字とした。 主な結果は以下のとおり。・ワクチン接種者18万4,905人のうち、13万464人が適格要件を満たし、このうち9万4,354人がワクチン未接種の対照9万4,354人と一致した。・PCR検査の頻度は、ワクチン接種群とワクチン未接種群で同様だった。・感染のカプランマイヤー曲線は、最初の数日間はワクチン接種群と未接種群で類似していたが、その後ワクチン接種群で上昇が遅れ始めた。・新型コロナウイルス感染に対する推定有効率は、初回接種後14~20日で59%(95%信頼区間[CI]:52~65)、初回接種後21~27日で66%(同:59~72)、2回目接種後7~21日で90%(同:88~92)だった。・COVID-19発症に対する推定有効率は、初回接種後14〜20日で57%(95%CI:39〜71)、初回接種後21〜27日で82%(同:73〜91)、2回目接種後7〜21日目で93%(同:88〜97)だった。

1151.

新型コロナウイルスワクチン接種によりギラン・バレー症候群の発症リスクは4倍に高まる(解説:内山真一郎氏)

 米国食品医薬品局(FDA)は、新型コロナウイルスワクチンAd26.COV2.S(ヤンセン/ジョンソン・エンド・ジョンソン)接種後のギラン・バレー症候群(GBS)に懸念を表明しているが、2021年7月までに全米で報告された130例を分析している。平均年齢は56歳、65歳未満が86%、男性が60%であった。ワクチン接種後GBS発症までの平均日数は13日、93%は重症、死亡は1例であった。これはワクチン接種10万回に1件発症する計算になる。期待値に対する観察値の比率は4.18であり、ワクチン接種によりGBSの発症リスクは4倍以上に高まることになり、年間10万人当たり6.36例発症すると推計される。このように、ワクチン接種後の発症率は低いものの、発症リスクは有意に高まることから、本ワクチン接種には安全性に懸念を持たざるを得ないと結論している。ただし、本研究は受動登録システムによる診療記録の分析であり、GBSの確定診断も確立する必要があることを課題として挙げている。 ところで、欧州医薬品庁(EMA)は、7月末までにアストラゼネカ製ワクチン5億9,200万回のうち、GBSが833件発症したことを報告している。また、英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、10月13日までにGBSがアストラゼネカのワクチンで432件、ファイザー/ビオンテックのワクチンで59件、モデルナのワクチンで4件発症したことを報告している。日本でも厚生労働省からの報告が待たれる。

1152.

第81回 週刊誌にトンデモ記事を載せないためコロナ第6波予測で重要視するのは…

医療をテーマにしたフリージャーナリストという立場になると、今回の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)関連では週刊誌からはよくコメントを求められることがある。大概は医師が捉まらない時の代役のようなものである。もっとも1ヵ月前くらいから新規感染者報告数が激減したことにより落ち着いてきたが、ここに来てまたぽつぽつと連絡が入るようになった。しかもそのすべてが判で押したように同じことを聞く。 「第6波はいつ来るんですかね?」こういう未来予測的なものが一番答えにくい。というか、こうしたことはたいてい予測通りにはならない。そもそも今回の新型コロナに関しては感染症専門医ですら悪い意味で何度も予測を外しているはずだ。具体例を挙げるなら、中国でのパンデミック勃発当初、全世界にこれほど広がるとは思っていなかっただろうし、発症前の無症状期に感染力があったというのも意外だったろう。そして比較的容易に飛沫感染するため、これまでの感染症対策としてのマスクの位置付けを大きく変えてしまった。また、ウイルスの生存原理としては変異株で感染力が増せば、ウイルスは弱毒化すると考えられているが、新型コロナの変異株では感染力も毒性も高くなっていると報告されている。唯一良い意味で予測が外れたのは、わずか1年弱でワクチンが登場したことぐらいではないか。そんなこんなもあって前述のような問いには「来る可能性はあるかもしれないが、まったく来ない可能性もあるかも」とぼやかしているが、そう答えると「では、来るとしたらいつですか?」と突っ込まれてしまう。「冬じゃないですか?」と答えると、「冬のいつですか?年内ですか、年明け以降ですか?」と続くので、結局何らかの予測を答えざるを得ない状況に追い込まれる。答えないという手もあるのだが、そうすると時に記者が完全なトンデモ系の人に流れて“トンデモ記事の一丁あがり”になることもある。自分は一応、かなり抑制的に答えているつもりなので、それを防ぐ意味でも答えざるを得なくなる。今私が答えている内容はこんな感じだ。まず、冬期は低湿度・水分摂取量の減少で気道の絨毛の働きが弱くなるため、一般論として多くの人で呼吸器感染症にかかるリスクが高まる。たとえば東京都内で見ると、平均相対湿度が50%台と最も低水準になるのは12月~3月にかけてである。一方、第6波の到来に影響を与えるのが、当然ながらワクチン接種率である。10月27日時点で全人口に占めるワクチン接種完了率は70.6%とついに7割超となった。しかし、デルタ株の基本再生産数5.0~9.5人から算出できる、今時点で必要な接種率は80~89%(集団免疫獲得に必要な全人口に占めるワクチン接種完了者率)とかなり高めで、この達成はかなり難しい。ただ、希望者全員への接種完了は11月中と予想されており、そう考えるとある意味まだフレッシュな抗体を獲得した人がいる年内に第6波は考えにくい。一方、国内で優先接種対象になった医療従事者や高齢者では徐々に抗体価が低下してくる。先日Lancet誌に公表された論文でのファイザーのコミナティ筋注の感染予防効果はワクチン接種5ヵ月後で47%である。その意味でワクチンによる感染予防効果の低下を考えると、優先接種対象者はすでにややリスクが高い状態である。もっとも医療従事者は一般人よりも厳格な感染予防対策を行っており、高齢者はそのほかの年齢層以上に冬期の外出を控えがちになるので、これらの人たちで感染が再燃して拡大する可能性は低いのではないだろうか? また、3回目のブースター接種が年内にスタートすれば、医療従事者や高齢者での感染者増加の可能性はかなり低くなると考えられる。となると高齢者や基礎疾患保有者以外の一般接種が本格化した7月から5~6ヵ月後ということになり、この点からも第6波が到来するとしたら年明けの1月以降と予測される。もっともこの予測に大きく影響を与えるファクターが2つある。1つはこれまた「ワクチン接種率」で、運よく集団免疫達成の80%ラインを超えた場合、第6波はかなり後ろにずれ込むか、来ても小規模なものになる、あるいはベストのシナリオとして「来ない」ということもありうる。もう1つのファクターが「人流の増加」で、新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が全国で解除され、今後極端に人流が増加した場合に第6波到来は年内に前倒しになるかもしれない。だが、いずれにせよワクチン接種率が7割超なのでブレイクスルー感染を考慮しても第5波に比べてかなり規模が小さくなるのではないか。これが正解であるかはわからない。むしろこの予測が良い意味では外れて「第6波到来せず」のシナリオであってほしいと本気で考えている。

1153.

ファイザー社製COVID-19ワクチンの変異株に対する有効性の経時的変化(解説:小金丸博氏)

 ファイザー社製のCOVID-19ワクチンのリアルワールドにおける有効性を評価した後ろ向きコホート研究がLancet誌に報告された。ワクチンの有効性は6ヵ月間持続するのか、デルタ変異株に対しても予防効果はあるのか、といった疑問に対する1つの答えを提示している。 ワクチンのSARS-CoV-2感染に対する有効性は73%(95%信頼区間[CI]:72~74)だったが、ワクチン接種1ヵ月後と5ヵ月後を比べると、88%(同:86~89)から47%(同:43~51)に低下した。この現象はデルタ株、非デルタ株ともに認めており、ワクチンの感染予防効果は変異株の種類にかかわらず、経時的に低下することが示された。 ワクチンのCOVID-19関連の入院に対する有効性は90%(95%信頼区間[CI]:89~92)だった。ワクチン接種6ヵ月後までのデルタ変異株によるCOVID-19関連の入院に対する予防効果は93%(同:84~96)と高率であり、入院予防効果が6ヵ月間は持続することが示された。ワクチンによる入院予防効果がいつまで維持されるのか、今後の研究結果を待ちたい。 2021年6月~7月にかけて世界中でデルタ変異株が流行した。イスラエルや米国からの報告によると、デルタ変異株に対してワクチンの有効性が低下する可能性が示唆されていたが、本研究の結果からは、ワクチン有効性の低下の原因は変異株の影響より、時間経過とともに免疫力が低下したことが主な要因と考えられた。COVID-19ワクチンに関する今後の課題として、新たな変異株に対する有効性の評価や、ブースター(追加)接種スケジュールの確立などが挙げられる。感染予防効果を維持するためにはワクチンのブースター接種は必須と考えられるため、的確なワクチン接種スケジュールの確立のために、さらなる知見の集積が必要である。

1154.

第81回 新型コロナに「新たな変異株」が確認されたロシアの今

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者数が連日3万人を超えるロシアで、デルタ株よりも感染力が強いとみられる変異株の感染が確認された。専門家によると、新たな変異株「AY.4.2」の感染力は、デルタ株を10%程度上回る可能性があり、流行すれば感染者が一層増える懸念がある。ロシア政府の国産ワクチンへのこだわり、国民のワクチンに対する不信や危機意識の薄さが、接種率の低迷(2回目は32%)、ひいては感染拡大の背景にあると指摘されている。国際的に経済活動が活発化しつつある中、ロシア発の新型変異株が拡散するようなことはあってはならない。自国ワクチンと政府に対する国民の不信ロシアは新型コロナのパンデミックに際し、世界初のワクチン生産と接種に動いた。しかし、接種は自国製ワクチンの「スプートニクV」に限定され、その有効性に対する国民の不信感もあり、接種率はすこぶる低調だ。また、9月に実施された総選挙では、野党指導者の身柄拘束や立候補禁止措置、バラ撒き政策など、政府・与党のなりふり構わぬ選挙対策が国民の政治不信を招き、これらもまたワクチン接種率が上がらない一因となっている。ロシア政府は、世界保健機関(WHO)に対し「スプートニクV」の緊急使用の申請をしたが、「承認に必要なデータや法的な手続きに不足がある」との理由で承認されず、ワクチン売り込みで競う中国製ワクチンは、すでに2種類が承認されている。11月8日から始まる米国の新たな入国規制では、入国に必要なワクチン接種証明はWHOの承認を得たものに限られるため、「スプートニクV」の接種証明では入国許可の対象外となる。ロシア政府のワクチン外交に打撃となっていることは想像に難くない。金融市場は活況でも実態経済は悪化の懸念ロシアでは昨年、新型コロナ感染対策として大都市部を中心に外出禁止令などを実施したが、実体経済に悪影響を及ぼしたため、その後は行動制限に及び腰の対応が続いた。しかし、感染拡大に歯止めが掛からない中、プーチン大統領は先ごろ、国内全土の企業や学校などを休みにする「非労働日」を設ける大統領令を発表。モスクワやサンクトペテルブルクでは、生活必需品を扱う店以外の営業を停止するなど経済活動を制限し、不要不急の外出を控えるよう市民に呼び掛けている。金融市場では、原油高や金融引き締めを追い風にルーブル相場や株価は堅調に推移しているものの、実体経済への悪影響が今後の市場環境を激変させる可能性もある。自国ワクチン偏重主義や、国民の信用が得られない政府の在り方がワクチン接種率の低迷をもたらしているロシア。政治と感染症対策が一蓮托生であるということをつくづく思い知らされる。

1155.

6~12歳未満にコロナワクチン半量投与で強い抗体、第III相試験中間解析/モデルナ

 米国・モデルナ社は10月25日付のプレスリリースで、同社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、12歳未満の小児を対象にした第II/III相試験の中間解析のデータを公表した。公表したのは6歳~12歳未満のコホートで、良好な安全性プロファイルを有するmRNA-1273ワクチン50μg(通常100μgのところ、その半量)を2回投与したところ、強い中和抗体応答を示したという。モデルナは、本解析結果を近く米国食品医薬品局(FDA)をはじめ、海外諸国の規制当局に提出する。 モデルナが6ヵ月~12歳未満の小児を対象に実施している第II/III相試験(KidCOVE試験)では、6ヵ月~2歳未満、2~6歳未満、6歳~12歳未満の3つの年齢層に分け、mRNA-1273ワクチン50μgを2回接種した際の安全性、忍容性、反応原性および有効性を評価している。このうち6歳から12歳未満のコホートには4,753例が登録。第III相COVE試験(18歳以上対象、mRNA-1273ワクチン100μg×2回接種)で得られた若年成人と本コホートを比べたSARS-Cov-2血清中和抗体価の幾何平均比(GMR)は1.5(95%信頼区間[CI]:1.3~1.8)、血清反応率は99.3%だった。2回目接種の1ヵ月後に本コホートで強い免疫応答を示し、主要評価項目である第III相COVE試験を対照群として比較した免疫原性における非劣性を達成した。有害事象の大半は軽度または中等度で、最も一般的な誘発有害事象は、疲労、頭痛、発熱、注射部位の痛みだった。KidCOVE試験では、引き続き6ヵ月~6歳未満の小児の登録を継続し、研究が続いている。 COVID-19ワクチンを巡っては、米国・ファイザー社でも小児を対象とした臨床試験を進めている。同試験では、5~11歳の小児に対し、BNT162b2ワクチンの2回接種後7日以降の発症予防率が90.7%を示すデータが先ごろ公表され、FDAの諮問委員会は10月26日、ファイザー製ワクチンの緊急使用承認(EUA)の対象を5~11歳にも拡大するよう勧告した。

1156.

第83回 小児にCOVID-19抗体は生じ難い~ワクチンは有望で効果91%

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した成人はほとんど(90%超)が抗体反応を示し、それらの抗体は少なくとも12ヵ月間は持続するようです1)。感染を経て抗体ができた成人の更なる感染は7~9割ほど少なくて済むようになることが示されています2,3)。一方、SARS-CoV-2感染(COVID-19)小児のどれほどが抗体を備えるかはわかっていませんでした。無症状や軽症の小児はなおさらそうです。そこでオーストラリアのMurdoch Children’s Research Instituteの感染/免疫研究者Paul Licciardi氏等は同国メルボルンの非入院の無症状か軽症のSARS-CoV-2感染患者108人を募って小児の抗体反応が成人とどう違うかを調べました4,5)。その結果、小児と成人のウイルス量は同程度だったにもかかわらずSARS-CoV-2への抗体ができていた小児の割合は成人のおよそ半分ほどでしかありませんでした。小児57人の年齢中央値は4歳で、それらのうち解析が可能だった54人のおよそ4割(37%;20/54人)にしかSARS-CoV-2への抗体ができていませんでした。成人は51人(年齢中央値37歳)のうち解析が可能だった42人の8割ほど(76%;32/42人)に抗体ができていました。抗体ができていた成人には細胞免疫も認められましたが、小児はそうなっておらず、小児が感染で確かな細胞免疫を確立することは難しいのかもしれません。SARS-CoV-2感染小児のほとんどは無症状か軽症で済んでいて入院を必要とすることはほとんどありません。しかしデルタ変異株をはじめとするSARS-CoV-2変異株の出現を受けて小児のSARS-CoV-2感染は2021年になって増えており、小児の免疫を危ぶむ声も上がっています。SARS-CoV-2に感染しても抗体ができなかった小児は再感染する恐れがあり、抗体ができ難い小児は長い目で見て成人に比べてSARS-CoV-2感染をより許してしまうのかもしれません。今回の結果によると小児をCOVID-19から守るためにワクチン接種を含む手立てを講じる必要があるようです5)。実際COVID-19ワクチンは成人や10代の若者と同様に幼い小児の感染予防の手立てとなりうることが今週開催される米国FDA諮問委員会に先立って先週末に公表された解析結果6,7)で示されています。第II/III相試験の第1集団2,268人の10月8日までのデータ解析の結果、Pfizer/BioNTechのmRNAワクチンBNT162b2は5~11歳小児のCOVID-19発症のほとんどを防ぎました。2,268人は2対1の割合でBNT162b2かプラセボに割り付けられ、BNT162b2投与群は1,518人、プラセボ群はその約半数の750人となりました。先立つ感染経験がない小児のCOVID-19発症数はBNT162b2投与群ではわずか3人でした。一方、プラセボ群はBNT162b2投与群より人数が少ないにもかかわらず16人がCOVID-19を発症し、BNT162b2は先立つ感染経験がない5~11歳小児のCOVID-19発症の90.7%を防ぎました。米国FDAの承認や疾病管理予防センター(CDC)の後押しが得られて事がすべてうまく運べば同国の5~11歳小児へのワクチン接種は来月11月の最初の週かその次の週には可能になるだろうと同国政府感染症対策のリーダーAnthony Fauci(アンソニー・ファウチ)氏は述べています8)。参考1)Feng C,et al. Nat Commun. 2021 Aug 17;12:4984.2)Rovida F,et al. Int J Infect Dis. 2021 Aug;109:199-202.3)Lumley SF, et al. N Engl J Med. 2021 Feb 11;384:533-540.4)Children with mild COVID-19 may lack antibodies afterward / Reuters5)Reduced seroconversion in children compared to adults with mild COVID-19. medRxiv. October 18, 20216)Pfizer Briefing Document / Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee Meeting October 26, 20217)FDA Briefing Document / Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee Meeting October 26, 20218)Wuhan research theory 'molecularly impossible': Fauci / abcNEWS

1157.

COVID-19に対する薬物治療の考え方 第9版公開/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:四柳 宏氏[東京大学医学部教授])は、10月11日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬について指針として「COVID-19に対する薬物治療の考え方第9版」をまとめ、同会のホームページで公開した。 今回の改訂では、前回8版以降の新しい知見やエビデンスの追加のほか、抗ウイルス薬、中和抗体薬に関しての追記、とくにソトロビマブが新しく追加された。中和抗体薬の項目をさらに厚く解説 新しく改訂、追加された項目は下記の通り。【抗ウイルス薬】 レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注液100mgなど)についてRCTの記載が追加。軽症肺炎例を対象にしたレムデシビル5日投与群、レムデシビル10日投与群、標準治療群の3群に割り付け、11日目の評価にて5日投与群は標準治療群と比較し有意に臨床的改善を認めた患者が多かったものの、10日治療群ではプラセボ群に比し有意差が認められなかった。また、入手方法についても、2021年10月18日より一般流通することが追加された。 ファビピラビル(商品名:アビガン錠200mg)については、海外での臨床報告が追加された。 インドで行われたRCTで、主要評価項目であるPCR陰性化までの期間の中央値がファビピラビル投与群で5日、標準治療群では7日だった(P=0.129)。また、副次評価項目である臨床的軽快までの期間の中央値が前者で3日、後者で5日(P=0.030)だった。 また、国内での臨床報告として発熱から10日以内の中等症I患者156例を対象としたプラセボ対照単盲検RCT(企業治験)では、主要評価項目(解熱、酸素飽和度改善、胸部画像改善、PCR陰性化の複合アウトカム)の達成がファビピラビル群で11.9日、プラセボ群で14.7日であった(P=0.0136)ことが追加された。【中和抗体薬】 新しく特例承認されたソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)が追加された。ソトロビマブはSARS(重症急性呼吸器症候群)に感染した患者から得られた抗体を基にしたモノクローナル抗体。少なくとも1つ以上の重症化リスク因子を持つ軽症COVID-19患者を対象とした第III相のランダム化比較試験では、中間解析においてソトロビマブ500mg単回投与群(291例)では、プラセボ投与群(292例)と比較して、主要評価項目である投与29日目までの入院または死亡が85%減少した(p=0.002)。また、重篤な有害事象は,ソトロビマブ投与群で2%、プラセボ投与群で6%と,ソトロビマブ投与群のほうが少なかった。・投与方法通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、ソトロビマブ(遺伝子組換え)として 500mg を単回点滴静注する。・投与時の注意点カシリビマブ/イムデビマブ参照・入手方法本剤は、一般流通は行わず、厚生労働省が所有した上で、対象となる患者が発生した医療機関からの依頼に基づき、無償で譲渡される。■関連記事ゾコーバ緊急承認を反映、コロナ薬物治療の考え方第15版/日本感染症学会

1158.

細胞培養由来4価ワクチン、小児で良好なインフル予防効果/NEJM

 インフルエンザ流行期の健康な小児/青少年における感染予防では、細胞培養由来4価不活化インフルエンザワクチン(IIV4c、Flucelvax Quadrivalent、英国・Seqirus製)は非インフルエンザワクチンと比較して、インフルエンザワクチン接種歴の有無を問わず良好な有効性が認められ、有害事象の発現は両者でほぼ同様であることが、オーストラリア・メルボルン大学のTerence Nolan氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年10月14日号で報告された。3回の流行期、8ヵ国の無作為化第III/IV相試験 研究グループは、8ヵ国の小児/青少年において、Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞株を用いたIIV4c(A/H1N1、A/H3N2、B/Yamagata、B/Victoria)の有効性、免疫原性、安全性の、非インフルエンザワクチン(髄膜炎菌ACWY[A、C、W-135、Y群]ワクチン)との比較を目的に、観察者盲検化層別無作為化第III/IV相試験を行った(Seqirusの助成による)。 3回のインフルエンザ流行期に、8ヵ国(39施設)で参加者(2~<18歳)が募集された。各流行期の参加国は、シーズン1(2017年の南半球の流行期[~2017年12月31日])がオーストラリア、フィリピン、タイ、シーズン2(2017~18年の北半球の流行期[~2018年6月30日])がエストニアとフィンランドで、シーズン3(2018~19年の北半球の流行期[~2019年6月30日])はエストニア、フィンランド、リトアニア、ポーランド、スペインだった。 参加者は、IIV4cまたは髄膜炎菌ACWYワクチンの接種を受ける群(比較群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。全参加者が、試験ワクチンの1回目の接種を受けた。インフルエンザワクチン接種歴がなく、IIV4c群に割り付けられた2~<9歳の小児は、29日目に2回目の接種を受け、比較群に割り付けられた小児にはプラセボが接種された。有効性と安全性に関して、少なくとも180日間の追跡が行われた。 インフルエンザ様疾患に罹患した参加者は、鼻咽頭拭い液を採取され、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法およびウイルス培養でインフルエンザウイルスの有無が確定された。 主要エンドポイントは、2~<18歳の集団における、最終接種から14日以降、流行期最終日までに検査で確認されたA型またはB型インフルエンザの初回発生であった。有効率は、A/H1N1が80.7%、A/H3N2は42.1%、B型は47.6% 3回の流行期に4,514例(平均[SD]年齢8.8±4.1歳、女性48.5%)が登録され、IIV4c群に2,258例、比較群に2,256例が割り付けられた。全体の65.9%がインフルエンザワクチン接種歴を有し、50.7%が2~<9歳であった。 全体のインフルエンザウイルス感染者は、IIV4c群が7.8%(175/2,257例)、比較群は16.2%(364/2,252例)であり、IIV4c群の有効率は54.6%(95%信頼区間[CI]:45.7~62.1)であった。 A型インフルエンザのうちA/H1N1に対するIIV4c群の有効率は80.7%(95%CI:69.2~87.9)、A/H3N2に対する有効率は42.1%(20.3~57.9)であり、B型インフルエンザに対する有効率は47.6%(31.4~60.0)であった。年齢別、性別、人種別、インフルエンザワクチン接種歴の有無別のサブグループで、IIV4c群の有効性(有効率42.1~82.3%)が一貫して認められた。 免疫原性の評価には721例(2~<9歳、IIV4c群364例、比較群357例)が含まれた。IIV4c群における2つの流行期(シーズン2と3)のワクチン接種後の幾何平均抗体価(GMT)は、A/H1N1で283.5から380.7へ、B/Victoriaで45.3から66.8へ、B/Yamagataでは52.8から108.5へと、それぞれ増加した。比較群では、シーズン2と3で接種後のGMT増加は観察されなかった。 接種後6時間~7日までに非自発的に報告された有害事象の割合は、IIV4c群が51.4%、比較群は48.6%であった。発熱(体温≧38.0℃)は、IIV4c群が5.3%、比較群は4.5%にみられ、重度発熱(≧40.0℃)はそれぞれ0.3%および0.2%で発現した。また、重篤な有害事象は、1.1%および1.3%に認められた。担当医によってワクチン関連と判定された有害事象はなく、試験中止の原因となった有害事象もなかった。 著者は、「IIV4cは、卵を使用しないインフルエンザワクチン製造プラットフォームで作製されており、卵馴化変異の回避や、新型のインフルエンザウイルス発生時の対応に要する時間の短縮など、一定の利点を有する」と指摘している。

1159.

第75回 新たに81件のワクチン健康被害が救済認定、計147件に/厚労省

<先週の動き>1.新たに81件のワクチン健康被害が救済認定、計147件に/厚労省2.国保、高所得者の保険料上限額を年3万円引き上げへ/厚労省3.主治医による小児アレルギーの情報提供が診療報酬の対象に/中医協4.帝王切開を架空請求、沖縄の産婦人科医院長を逮捕/沖縄県警5.贈収賄事件で製薬企業の会員資格停止、再発防止を/製薬協6.日大背任事件、大学理事長にも6,000万円の資金還流か/特捜部1.新たに81件のワクチン健康被害が救済認定、計147件に/厚労省厚生労働省は、22日に「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」を開催し、新型コロナウイルスのワクチン接種後に「アナフィラキシー」などを発症した81例について、予防接種との因果関係を審議し、全件を認定した。今回認定された81件のうち、70件が女性で、男女合わせた年齢別では40代が22件ともっとも多く、その次は20代・50代がそれぞれ15件、30代・60代は11件であった。このうちアナフィラキシーが45件、アナフィラキシー様症状が18件として認定された。これにより、新型コロナワクチン接種に関する健康被害の救済認定は計147人となった。(参考)コロナワクチン接種 81人を救済認定 医療費など支給へ 厚労省(NHK)アナフィラキシーなど「接種が原因」、新たに81人認定…国の救済適用計147人に(読売新聞)資料 副反応疑い報告の状況について(第71回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会)2.国保、高所得者の保険料上限額を年3万円引き上げへ/厚労省厚労省は、22日に社会保障審議会医療保険部会を開催し、国民健康保険の加入者のうち、高所得者の保険料について、財政基盤の安定化、保険料の国民負担に関する公平性の確保のため、高所得者が保険料の賦課限度額までしか負担しない仕組みを改め、保険料の賦課限度額を引き上げるべきとして、保険料上限を現在の年99万円から3万円引き上げ、102万円とする案を示した。引き上げは、2022年度に実施する方針で、2年ぶりとなる。(参考)国民健康保険 高所得者の保険料上限額 引き上げ案了承(NHK)国民保険料の限度額上げ 厚労省案、3万円増え102万円に(日経新聞)資料 国民健康保険の保険料(税)の賦課(課税)限度額について(厚労省)3.主治医による小児アレルギーの情報提供が診療報酬の対象に/中医協厚労省は、22日に開催された中央社会保険医療協議会において、アレルギー疾患を持つ子供の主治医が、生活の注意点などを記載した文書を作り、学校や保育所に提供した場合、新たに診療報酬対象とすることについて提案し、了承された。今後、厚労省は来年4月の診療報酬改定に向け、対象となる学校など施設の範囲、年齢、疾患などの具体的調整を進める。(参考)アレルギー対応保険適用へ 主治医と学校の連携強化 来年4月にも、厚労省(産経新聞)アレルギー疾患の情報提供、診療報酬で評価へ 中医協・総会(CBnewsマネジメント)4.帝王切開を架空請求、沖縄の産婦人科医院長を逮捕/沖縄県警沖縄県警は、帝王切開を行ったように装って診療報酬を受け取った沖縄市内の産婦人科医師を20日に詐欺容疑で逮捕した。この医師は2018年6月に自らが経営する産婦人科医院で、自然分娩の妊婦について、緊急帝王切開術を行ったと偽って診療報酬を請求し、82万円を保険団体から受け取っていた。警察は、関係者からの情報を受け、今年の7月に病院から資料を押収し、捜査を進めて本事件が発覚した。その後の捜査によって、妊婦健康診査でも、実際には診察を行っていないのに、行ったとカルテを偽造し、架空請求を繰り返したことも明らかとなっている。(参考)診療報酬不正で産婦人科医を逮捕 詐欺容疑で沖縄県警(琉球新報)診療報酬だまし取った疑い 沖縄市の産婦人科院長を逮捕(NHK)妊婦健診でも架空請求か 「私一人だけで少なくとも50件」 複数の関係者が証言(沖縄タイムス)5.贈収賄事件で製薬企業の会員資格停止、再発防止を/製薬協日本製薬工業協会は21日の記者会見において、小野薬品工業による資金提供を受けた三重大学の贈収賄事件を受け、再発防止を目的に奨学寄付金の提供の在り方について再徹底するよう通知を発出した。製薬協は、奨学寄付金を自社医薬品に関する臨床研究に対する資金提供の方法として用いないことや、営業部門から独立した組織で利益相反を十分確認のうえ決定することなどの遵守を求めている。日本製薬工業協会は、社員2名が贈賄罪の有罪判決になったのを受け、小野薬品の製薬協の会員資格停止を9月に公表している。(参考)会員会社に対する処分について(製薬協)「処方拡大の見返り」賄賂認定…奨学寄付金の落とし穴(Answers)製薬協 奨学寄附金の在り方再徹底で通知発出 第三者供賄で小野薬品の会員資格停止受け(ミクスonline)6.日大背任事件、大学理事長にも6,000万円の資金還流か/特捜部日本大学附属病院の建て替え工事をめぐって、大学の資金2億円超を流出させた事件で逮捕された大阪の医療法人グループ理事長が、日本大学の理事長に「現金3,000万円を2回渡した」と供述していることが明らかになった。大阪の理事長は、業者選定前に大学側から入手した内部資料を都内の設計事務所に提供したことも明らかになっている。さらに、逮捕された日大元理事が、付属病院の医療機器調達に絡んで大学に約1億5,000万円を不正に支出させた疑いが23日に発覚し、特捜部は真相解明のために捜査を続けている。(参考)日大背任事件 元理事 実態のない契約書作り資金の一部還流か(NHK)「日大理事長に5000万円」複数回提供も供述 理事長は否定(産経新聞)「日大理事長側に6000万円」本人は否定、医療法人元トップ供述(日経新聞)医療機器巡り資金流出か 背任容疑の日大元理事1.5億円、地検解明へ(同)

1160.

J&Jコロナワクチン、ギラン・バレー症候群発症が約4倍/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するAd26.COV2.Sワクチン(Janssen/Johnson & Johnson製)の接種により、ギラン・バレー症候群の発症リスクがわずかではあるものの統計学的に有意に高まることが、米国食品医薬品局(FDA)のEmily Jane Woo氏らの解析で明らかとなった。FDAは、承認後安全性サーベイランスにおいてAd26.COV2.Sワクチン接種後のギラン・バレー症候群発症に関し懸念を示していた。なお、著者は今回の結果について、「受動的な報告システムと推定症例の定義の限界があり、確定診断を下すための医療記録の分析が終わるまでは予備的なものと考えなければならない」との見解を述べている。JAMA誌オンライン版2021年10月7日号掲載の報告。ワクチン有害事象報告システム(VAERS)のデータを解析 研究グループは、米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)を用い、2021年2月~7月の期間で、Ad26.COV2.Sワクチン接種後に発生したギラン・バレー症候群と推定される症例を特定し、患者背景、臨床所見ならびに関連病歴などについて調査した。 報告率を推定するとともに、ワクチン接種データと自然発生率の公表データを用いて、年齢で層別化したワクチン接種後42日および21日のリスク期間でO/E(observed to expected)解析を行った。O/E解析では、自発的な報告による観察値と、標準化された症例定義に基づいて推定・公表された一般集団(ワクチン未接種者)におけるギラン・バレー症候群の自然発生率に基づく期待値の率比を算出した。自然発生率と比較すると、ワクチン接種後の報告例は約4倍多い 2021年7月24日時点で、VAERSにおいてAd26.COV2.Sワクチン接種後のギラン・バレー症候群(推定)発症の報告は130例確認された。年齢中央値は56歳(四分位範囲[IQR]:45~62歳)、65歳未満が111例(86.0%)、男性が77例(59.7%)であった。ワクチン接種後発症までの期間中央値は13日(IQR:10~18日)で、105例(81.4%)が21日以内、123例(95.3%)が42日以内に発症した。121例(93.1%)は重篤で、うち1例は死亡した。 米国成人におけるワクチン接種回数は約1,320万9,858回であることから、推定粗報告率は接種10万回当たり1例であった。42日間のリスク期間における全体の推定率比は4.18(95%信頼区間[CI]:3.47~4.98)となり、18歳以上の成人を対象とした最悪シナリオ解析の場合、推定絶対頻度として10万人年当たり6.36の増加に相当した(自然発生では10万人年当たり約2、ワクチン接種後は10万人年当たり約8.36[147万2,162人年で123例の報告に基づく])。いずれのリスク期間においても、18~29歳を除くすべての年齢層で率比が上昇していた。

検索結果 合計:2206件 表示位置:1141 - 1160