サイト内検索|page:39

検索結果 合計:2114件 表示位置:761 - 780

761.

中学生以下はクラスで、高校生は部活感染が多い/厚労省アドバイザリーボード

 本格的な学校生活が始まり、児童生徒などへの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が懸念されている。 厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードは、5月11日に第83回の会議を開催し、その中で文部科学省から「学校における新型コロナウイルス感染症対策について」が示された。 感染状況では、幼稚園、小学校、中学校、特別支援学校いずれも同一クラス内での感染が1番多く、高等学校では同一部活内での感染が1番多いことなどが報告された。また、学校での感染対策として、臨時休業の考え方を示すとともに、オミクロン株への対応として休業期間の短縮や授業、部活動でのリスクの高い行動の抑制のほか、児童生徒などへのワクチン接種の考え方が示された。本年1月と2月で一気に児童生徒の感染が拡大 資料によると2020(令和2)年6月からの集計で2021(令和3)年12月まで5万人を超えることがなかった児童生徒のCOVID-19感染者数が、2022(令和4)年1月には13万3,026人、2月に24万2,547人、3月に13万7,158人と急増したことが報告された。いずれもオミクロン株の急速な拡大が原因と考えられているが、従来株と比べ、幼稚園児や小学生で占める割合が高いことが指摘された。 学校別の感染経路について、幼稚園の園児では家庭内感染が当初より半数を超えていたが本年に入り経路不明が48%となった。小学校の児童では、当初より家庭内感染が約60~80%だったものが本年に入り経路不明の65%に変わり、中学生もほぼ同様の結果だった。高校生では、家庭内感染、学校感染、経路不明がほぼ等分で報告されていたが本年に入り、経路不明が56%と増加した。 学校内の感染について、幼稚園、小学校、中学校、特別支援学校では同一クラス内での感染が1番多く、高等学校では同一部活動での感染が1番多かった。 教職員の学校内感染では、同一クラス(38%)での感染が1番多く、その他(26%)、職員室(17%)と続いた。オミクロン株対応に学校も変化 学校におけるCOVID-19対策として、「子供たちの健やかな学びの継続を最優先に、地域一斉の臨時休業については慎重な検討を求めるとともに、オミクロン株の特性等を踏まえ、臨時休業等に関する対応方針を見直す」、「教育活動の継続のため、基本的な感染対策の徹底に加え、感染拡大局面において対策を強化・徹底する」の2つの考え方を示し、対応を記している。 具体的には、臨時休業について「地域一斉の臨時休業」は慎重に検討することとしている。オミクロン株への対応については、臨時休業期間が7日間から5日間に短縮されるとともに、濃厚接触者の特定などに伴う臨時休業や出席停止は実施しないことになった。 また、感染リスクの高い教育活動について、音楽では室内近距離での合唱、家庭科では近距離の調理実習、部活動では密集する活動や大声、激しい呼気を伴う活動などは控えるように記している。 最後にコロナワクチンの接種については、「学校等集団接種」は保護者への説明機会の欠乏、同調圧力などを理由に「推奨しない」とし、「子供への指導など」では児童・生徒などや周囲に接種を強制しないこと、身体的理由で接種できない人もいるため、その判断を尊重することを指導するとともに、保護者にも理解を求めるとしている。その一方で教職員に対しては積極的な追加ワクチン接種(3回目)の促進を依頼している。

762.

6~11歳へのモデルナ製ワクチン、50μg2回接種が安全かつ有効/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNA-1273ワクチン(Moderna製)について、小児(6~11歳)への50μgの2回投与は安全かつ有効であることを、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのC. Buddy Creech氏らが、2つの試験の結果を踏まえて報告した。免疫応答および予防を含めて若年成人に対する非劣性が確認されたという。COVID-19予防のための小児へのワクチン接種は、緊急性の高い公衆衛生上必要な取り組みとされるが、小児におけるmRNA-1273ワクチンの安全性、免疫原性および有効性は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2022年5月11日号掲載の報告。安全性、有効性を若年成人18~25歳群と比較 2つの試験は、PART1が投与量選択のため非盲検で行われている第II~III相試験で、PART2は選択用量の評価のために延長された、観察者盲検化プラセボ対照試験。PART2では、小児(6~11歳)を3対1の割合で無作為に2群に割り付け、mRNA-1273ワクチン(1回50μg)またはプラセボを、28日間隔で2回接種した。 試験の主要な目的は、小児におけるワクチンの安全性評価および関連する第III相試験に参加する若年成人(18~25歳)と比較した試験参加小児の免疫応答の非劣性を検証することであった。副次観察評価は、症状の有無を問わず確認されたCOVID-19およびSARS-CoV-2感染の発生率などであった。 2つの試験は現在も進行中で、本報告では中間解析の結果が報告された。中和抗体価、小児1,610、若年成人1,300 PART1試験では751例の小児が50μgまたは100μg用量のmRNA-1273ワクチン接種を受け、安全性および免疫応答の結果をベースとして、PART2では50μg用量を用いることが選択された。 PART2試験では4,016例の小児が無作為化され、mRNA-1273ワクチンまたはプラセボ(いずれも50μg)の2回接種を受け、1回目接種後、中央値82日間(IQR:14~94)追跡された。 50μg用量は主に、低グレードの一過性の有害事象と関連していた。最も一般的にみられたのは、注射部位の痛み、頭痛および倦怠感であった。ワクチン関連の重篤有害事象、小児多系統炎症性症候群、心筋炎、また心膜炎は報告されなかった。 2回目接種後1ヵ月間(57日目)で、50μgのmRNA-1273ワクチン接種を受けた小児の中和抗体価は、1,610(95%信頼区間[CI]:1,457~1,780)であった。一方、100μg量の接種を受けた若年成人は1,300(1,171~1,443)であった。両群参加者ともに、血清学的反応は99.0%以上で、事前規定の非劣性基準を達成していた。 B.1.617.2(デルタ)株が優勢だった時期の推定のワクチン有効率は、初回接種後14日以上に発生したCOVID-19に対して88.0%(95%CI:70.0~95.8)であった。

763.

米モデルナワクチン、乳幼児に対する緊急使用承認をFDAに申請

 米国・モデルナ社は4月28日、COVID-19ワクチン(mRNA-1273、商品名:スパイクバックス筋注)の生後6ヵ月から2歳未満および2歳から6歳未満の乳幼児に対する緊急使用承認(EUA)を米国食品医薬品局(FDA)に申請したことを発表した。申請データは、mRNA-1273の25μgの2回接種による初回シリーズの結果に基づく。申請データは、健康な小児を対象にmRNA-1273を28日間隔で接種した際の安全性、忍容性、反応原性、有効性を、プラセボを対照として3つの年齢層(6歳から12歳未満、2歳から6歳未満、生後6ヵ月から2歳未満)に分けて評価する第II/III相臨床試験KidCOVE試験の結果に基づく。 KidCOVE試験の中間報告では、mRNA-1273の2回接種初回シリーズにより、生後6ヵ月から 6歳未満の乳幼児において強力な中和抗体反応が得られ、良好な安全性プロファイルが確認された。生後6ヵ月~23ヵ月および2歳~6歳未満の年齢別サブグループの抗体価は、COVE試験の成人との同等性に関する統計学的基準を満たし、本試験の主要目的を達成した。 SARS-CoV-2陽性が確認された症例のみの解析では、ワクチンの有効性は生後6ヵ月から2年未満では51%(95%信頼区間[CI]:21~69)、2年から6年未満では37%(95%CI:13~54)と有意に保たれていた。また、忍容性プロファイルは、6~12歳未満の小児、12~17歳の青少年および成人において観察されたものと概ね一致していたという。 なお、モデルナ社はmRNA-1273について同様の申請を各国で進めており、29日には対象を生後6ヵ月から6歳未満の乳幼児に拡大する条件付き製造販売承認(CMA)申請への変更を欧州医薬品庁(EMA)に提出したことを発表した。

764.

オミクロン株とデルタ株の流行時期における、COVID-19に伴う症状の違いや入院リスク、症状持続時間について(解説:寺田教彦氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、流行株の種類により感染力や重症化率、ワクチンの効果が変化していることはニュースでも取り上げられている。これらのほかに、流行株により臨床症状が変わってきたことも医療現場では感じることがあるのではないだろうか? 例えば、2020年にイタリアから報告されたCOVID-19に伴う症状では、味覚・嗅覚障害が新型コロナウイルス感染症の50%以上に認められ、特徴的な症状の1つと考えられていたが、それに比して咽頭痛や鼻汁などの上気道症状は少なかった(Carfi A, et.al. JAMA 2020;324:603-605.)。ところが、2022年4月現在の臨床現場の感覚としては、COVID-19に伴う症状は咽頭痛や声の変化を訴える患者が増えてきており、味覚・嗅覚障害を理由に検査を新型コロナウイルスのPCR検査を受ける人はほとんどいなくなったように思われる。 本研究は、英国において、新型コロナウイルス感染症の検査結果や症状を報告するアプリ「ZOE COVID」の使用者を対象に、オミクロン株とデルタ株の流行時期のデータを比較している。 オミクロン株の症状の特徴としては、下気道症状や嗅覚異常が少なく、咽頭痛がデルタ株より多いことが報告されている(オミクロン株患者の症状報告、喉の痛みや嗅覚障害の割合は?/Lancet)。そして、Supplementary appendixのTbale S2に個々の症状についてワクチン2回接種後と3回接種後(ブースター接種済み)の患者による症状の違いもまとめられている。 デルタ株、オミクロン株の症状を比較すると、発熱は2回接種後で(44.1% vs.36.7%、[OR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.75~0.9)、3回接種後で(25.8% vs.39.2%、OR:1.09、95%CI:0.9~1.33)。 嗅覚障害は2回接種後で(41.9% vs.22.3%、OR:0.53、95%CI:0.48~0.58)、3回接種後で(32.4% vs.27.7%、OR:0.6、95%CI:0.49~0.73)。味覚障害は2回接種後で(56.7% vs.17.6%、OR:0.16、95%CI:0.14~0.18)、3回接種後で(38% vs.13.2%、OR:0.24、95%CI:0.2~0.3)と味覚・嗅覚症状はオミクロン株で減少傾向。鼻水は2回接種後で(80.9% vs.82.6%、OR:0.66、95%CI:0.59~0.74)、3回接種後で(81.8% vs.74.9%、OR:1.11、95%CI:0.89~1.39)。 嗄声は2回接種後で(39.6% vs.42.8%、OR:1.15、95%CI:1.05~1.26)、3回接種後で(31.1% vs.42%、OR:1.62、95%CI:1.35~1.94)。咽頭痛は2回接種後で(63.4% vs.71%、OR:1.42、95%CI:1.29~1.57)、3回接種後で(51% vs.68.4%、OR:2.11、95%CI:1.76~2.53)と咽頭痛や嗄声はオミクロン株で増加傾向だった。 もちろん、デルタ株とオミクロン株を比較することも重要ではあるが、本邦の患者さんやCOVID-19を診療する機会の少ない医療従事者の中には2020年ごろにニュースで取り上げられていた症状をCOVID-19の典型的な症状と捉えている方もおり、昨今の新型コロナウイルス感染症は、いわゆる風邪(急性ウイルス性上気道炎)の症状に合致し、検査を実施する以外に鑑別は困難であることも理解しておく必要があると考える。今回の報告は、オミクロン株では2020年ごろよりも発熱や味覚・嗅覚障害の症状は減少してきており、咽頭痛や鼻水などの上気道症状が多いことを実感することのできるデータであると考える。 急性期症状の持続日数についてもまとめられているが、デルタ株では平均値が8.89で中央値が8.0、95%CI:8.61~9.17に比して、オミクロン株では平均値が6.87、中央値が5.0、95%CI:6.58~7.16とオミクロン株で短縮が認められていた。本邦でも増えてきている3回接種後(ブースター接種済み)の場合では、デルタ株感染で平均7.71日、オミクロン株では4.40日が症状持続期間であった。 入院率はオミクロン変異株流行中の入院率(1.9%)のほうが、デルタ変異株流行中の入院率(2.6%)よりも有意に低下したことを指摘されているが、これも過去の報告や現場の臨床感覚に合致する内容だろう。 本論文は、全体を通して現場の臨床感覚に一致した内容だったと考える。 今回の論文では、オミクロン株では、とくにワクチン接種後では症状持続期間が短くなっていることが確認されている。適切な感染管理を行うために現場と調整する際、新型コロナウイルス感染症で難しさを感じる点に濃厚接触者となった場合や、感染した場合に一定の休業期間を要する点がある。症状持続期間が短くなっていることからは、場合によっては、感染力を有する期間も短くなっているかもしれない。 新型コロナウイルス感染症と診断された場合や、濃厚接触者となった場合でも、感染力を有する期間も短くなっていることが明らかになれば、今後の感染対策が変わりうるだろう。他に、この論文のLimitationsの4つ目に、年齢やワクチン接種状況、性別は一致させたが、他の交絡因子は一致していないことが指摘されている。流行株も変化したが、抗ウイルス薬も臨床現場で使用されることが増えている。これらの抗ウイルス薬による、症状改善時間の短縮や、感染力期間が短縮されることが明らかになれば、新型コロナウイルス感染症に対する公衆衛生上の方針にも影響を及ぼしてゆくかもしれない。

765.

コロナ既感染の高齢者、ワクチン接種後に強力な抗体反応を獲得/日本感染症学会

 高齢者介護施設の入所者と職員に対して、ファイザー製新型コロナワクチン(BNT162b2)接種後の抗体反応を検討した結果、高齢者であっても、新型コロナ既感染者であれば、ワクチン接種後に強力な抗体反応を獲得できることが示された。4月22~23日にオンラインで開催された第96回日本感染症学会総会・学術講演会で、九州大学の鄭 湧氏が発表した。本結果はJournal of Infection誌2022年3月1日号1)にも掲載されている。 本研究では、高齢入所者60例(平均年齢84.0歳、未感染者43例、既感染者17例)、施設職員66例(平均年齢46.7歳、未感染者34例、既感染者32例)の計126例を対象とし、2021年5~7月にファイザー製ワクチンを2回接種し、接種前後の検体を用いて、SARS-CoV-2スパイク蛋白特異的IgG抗体価を測定した。感染防御水準は、ワクチン製造元の指示に基づき、抗体価4,160 AU/mLとした。 研究によると、ワクチン2回接種後、ほとんどすべての未感染職員では、感染防御水準以上の抗体価を獲得したのに対し、未感染高齢入所者の約60%は獲得しておらず、抗体価が有意に低かった。一方、すべての既感染高齢入所者は、ワクチン1回目接種後の時点で、感染防御水準を超える抗体価を獲得していた。 未感染の職員および入所者では、接種1回後と2回後とも、加齢と共に抗体価は減少傾向にあった。一方、既感染の職員および入所者では、加齢による抗体価の減少も認められなかった。 さらに、既感染の職員および入所者では、コロナ感染後3~4ヵ月よりも、感染後13~15ヵ月経過してワクチン接種したほうが、接種後の抗体価が高い傾向が見られ、感染後1年以上でも、新型コロナの特異免疫を維持していることが示された。 本研究により、未感染の高齢者は、ワクチン2回接種後でも新型コロナに対し十分な抗体反応を獲得できない可能性がある一方で、既感染者では高齢であっても、感染後1年以上経過しても、ワクチン接種により迅速かつ強力な抗体反応を獲得できる可能性が示唆された。

766.

RBDダイマーベースの新規コロナワクチン、有効性を確認:第III相試験/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「ZF2001」について、大規模な成人集団において、完全接種後6ヵ月以上にわたり症候性COVID-19の発症および重症化に対する安全性と有効性が確認されたことを、中国科学院のLianpan Dai氏らが発表した。ZF2001は、武漢-Hu-1株からの重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の二量体タンデム-リピートスパイクタンパク質RBDを用いて開発されたワクチン。第I相および第II相の臨床試験で成人における安全性、忍容性および免疫原性があることが示されていた。NEJM誌オンライン版2022年5月4日号掲載の報告。ウズベキスタン、インドネシア、パキスタン、エクアドルで大規模無作為化試験 研究グループは、ZF2001の有効性および安全性を確認する第III相の無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。試験は、ウズベキスタン、インドネシア、パキスタン、エクアドルの31臨床センターで行われ、18歳以上の被験者を無作為に、25μg量のZF2001を30日間隔で3回接種する群またはプラセボ群に割り付けて追跡評価した。さらに安全性の解析が、中国の施設のみで行われた。 主要エンドポイントは、症候性COVID-19の発症(3回接種後7日以上経過しておりPCR検査で確認されたものと定義)とした。主要副次エンドポイントは、3回接種後7日以上経過時点でのCOVID-19の重症化(COVID-19関連死も含む)であった。発症に対するワクチン有効率は75.7%、重症化への有効率は87.6% 2020年12月12日~2021年12月15日に、計2万8,873例がZF2001またはプラセボの1回以上の接種を受け、安全性解析に組み込まれた。2回目のデータカットオフ(2021年12月15日)の時点で、3回接種を完了しており、約6ヵ月間の追跡評価データが得られた2万5,193例を対象に主要有効性解析のアップデートを行った。 アップデータ解析において、主要エンドポイントの発症例は、ZF2001群158/1万2,625例、プラセボ群580/1万2,568例であり、ワクチン有効率は75.7%(95%信頼区間[CI]:71.0~79.8)であった。COVID-19重症化は、ZF2001群6例、プラセボ群43例であり、ワクチン有効率は87.6%(95%CI:70.6~95.7)。COVID-19関連死はそれぞれ2例、12例であり、ワクチン有効率は86.5%(95%CI:38.9~98.5)であった。 有害事象および重篤な有害事象の発現頻度は、両群間でバランスがとれていた。またワクチン関連死は報告されなかった。ZF2001群のほとんどの副反応(98.5%)はグレード1または2であった。

767.

新しい植物由来COVID-19ワクチン、各種変異株に有効:第III相試験/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンCoVLP+AS03(カナダ・Medicago製)は、各種変異株によるCOVID-19の予防に有効で、症候性COVID-19に対する有効率は69.5%、中等症~重症COVID-19に対する有効率は78.8%であったことを、カナダ・MedicagoのKaren J. Hager氏らが第III相無作為化プラセボ対照試験の結果、報告した。CoVLP+AS03ワクチンは、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)という植物で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質を発現させ形成されたコロナウイルス様粒子(CoVLP)と、アジュバントシステム03(AS03)を組み合わせた、新しい植物由来COVID-19ワクチンである。NEJM誌オンライン版2022年5月4日号掲載の報告。2021年3月~9月、南・北米で約2万4,000人を対象に無作為化プラセボ対照試験 研究グループは、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、メキシコ、英国および米国の85施設において、SARS-CoV-2に対するワクチンの接種歴がなく、確認されたCOVID-19の既往もない18歳以上の成人を、CoVLP+AS03ワクチン群またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付け、それぞれ21日間隔で2回筋肉内注射した。 主要評価項目は、2回接種後7日以降のRT-PCR法で確認された症候性COVID-19発症に対する有効性である。事後解析として中等症~重症COVID-19に対する有効性なども評価した。 ワクチンの有効性は100×(1-発生率比)で算出し、発生率比はプラセボ群に対するワクチン群のCOVID-19発生率(人年当たり)の比と定義した。 解析は、RT-PCR法で確認されたCOVID-19症例が160例以上認められた後、中央値で2ヵ月以上の安全性追跡調査を経て行った。なお、本試験は2021年3月15日~9月2日に実施され、有効性解析および安全性解析のデータカットオフ日はそれぞれ2021年8月20日および同年10月25日であった。 計2万4,141例が無作為化され、intention-to-treat集団に含まれた(ワクチン群1万2,074例、プラセボ群1万2,067例)。対象の年齢中央値は29歳で、14.8%はベースライン時に血清陽性であった。有効率は69.5%、中等症~重症化の予防効果は78.8% 2021年8月20日時点で、RT-PCR法で確認されたCOVID-19はintention-to-treat集団で165例(ワクチン群40例、プラセボ群125例)であり、全体におけるワクチンの有効率は69.5%(95%信頼区間[CI]:56.7~78.8)であった。165例中122例でウイルスの配列が同定され、デルタ株56例(45.9%)、ガンマ株53例(43.4%)、アルファ株6例(4.9%)、ミュー株4例(3.3%)、ラムダ株3例(2.5%)であった。 事後解析の結果、ベースライン時の血清陰性集団における有効率は74.0%(95%CI:62.1~82.5)であった。また、中等症~重症COVID-19に対する有効率は、intention-to-treat集団で78.8%(55.8~90.8)、血清陰性集団で86.0%(66.2~95.1)であった。 ワクチン群では重症COVID-19は認められず、感染例におけるCOVID-19診断時のウイルス量中央値は、ワクチン群と比較してプラセボ群で100倍以上高かった(ワクチン群3.46 log10コピー/mL、プラセボ群5.65 log10コピー/mL)。 非自発的な有害事象はほとんどが軽度または中等度で、一過性であった。発現率はワクチン群がプラセボ群よりも高かった(局所有害事象:92.3% vs.45.5%、全身性有害事象:87.3% vs.65.0%)。また、自発報告による有害事象の発現率(ワクチン群vs.プラセボ群)は、接種後21日目まで(22.7% vs.20.4%)、ならびに43日目から201日目まで(4.2% vs.4.0%)のいずれも、両群で同程度であった。

768.

第100回 手術動画を無断で提供、改正個人情報保護法に基づき調査

<先週の動き>1.手術動画を無断で提供、改正個人情報保護法に基づき調査2.4回目コロナワクチン、今月末からの開始に向けて/厚労省3.3回目用に確保したコロナワクチン、期限切れで廃棄相次ぐ4.医師偏在解消に向け「医師確保計画ガイドライン」改正/厚労省5.ヤングケアラー支援のための手引きを作成/厚労省6.有事の医薬品開発を見据えた緊急承認制度が新設1.手術動画を無断で提供、改正個人情報保護法に基づき調査全国の総合病院などに勤務する眼科医5人が、病院や患者に無断で白内障の手術動画を医療機器メーカーに提供し、去年までの3年間に現金40~105万円を受け取っていたことが明らかとなりました。画像の提供を受けていたのは白内障治療用眼内レンズを販売するスター・ジャパン社。同社が白内障手術の動画を作成するために提供を受けたとされているが、販売促進の目的の可能性があるため、業界団体がメーカーの調査に着手した。今回の動画は手術動画であり、厳密には個人情報に含まれない可能性があるが、各医療機関側は患者の同意なく外部に提供したことを把握できておらず、再発防止のためには職員に対して個人情報保護法の教育が必要となる。個人情報保護法は今年4月から改正法が施行されており、個人データの授受については研究目的であっても第三者提供記録が本人による開示請求の対象となるなど規制が強化されている。医療機関側は情報漏洩時の報告義務を負っており、医師個人も個人情報保護法のルール順守が必須となる。(参考)“手術動画”無断で外部提供か 病院側「再発防止に努めたい」(NHK)“手術動画”で医師に現金提供 業界団体がメーカーを調査(同)医療・ 介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(個人情報保護委員会)【2022年4月施行】個人情報保護法改正とは?改正点を解説!(契約Watch)2.4回目コロナワクチン、今月末からの開始に向けて/厚労省今月末に開始見込みの新型コロナウイルスワクチン4回目接種の準備に向け、厚生労働省は全国の自治体に対して10日に通知を発出した。接種の対象者は、3回目の接種完了から5ヵ月以上が経過した60歳以上の者および18歳以上60歳未満の者のうち基礎疾患を有する者やその他新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高いと医師が認める者で、自治体に対してファイザー製および武田/モデルナ製ワクチンを配布する。基礎疾患のある人については、自己申告した者のほか、申告がない一部の人にも接種券を配布できるとし、自治体側の煩雑な事務作業を減らすために、18歳以上の対象者以外への一律送付も可能となっている。(参考)4回目コロナ接種券、対象以外も 厚労省が自治体に通知(産経新聞)4回目接種券、18歳以上一律も可能に…煩雑作業避けたい自治体の要望受け厚労省容認(読売新聞)新型コロナウイルスワクチンの追加接種(4回目接種)体制整備に係る医療用物資の配布について(厚労省)新型コロナワクチン追加接種(4回目接種)の体制確保について(その2)(同)3.3回目用に確保したコロナワクチン、期限切れで廃棄相次ぐ新型コロナウイルスワクチン3回目接種のために配布されたモデルナ製ワクチンが使用されないまま有効期限を迎え、これまでに10万本以上が破棄されていることが報道された。感染状況を踏まえた複合的な理由により、配送されたワクチン数が希望者を上回っていると考えられる。一方、ファイザー製ワクチンは4月に有効期限が9ヵ月から1年に延長されて破棄を免れたが、今後進められる4回目接種は対象者が制限されるため、引き続き期限切れを迎えるワクチンの増加は避けられないだろう。確保したワクチンの有効活用のために、国民に対してワクチン接種の働きかけを強化するなど、自治体で期限切れにならないような工夫を凝らす必要がある。(参考)なぜ?新型コロナワクチン 期限切れ廃棄 次々と明らかに(NHK)余るモデルナ、止まらぬ廃棄 融通できず悩む自治体(産経新聞)京都市、モデルナワクチン期限切れで廃棄へ 8万回分(日経新聞)4.医師偏在解消に向け「医師確保計画ガイドライン」改正/厚労省厚労省は、第8次医療計画等に関する検討会の下部組織「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を11日に開催した。2018年の医療法改正により、医療資源の地域的偏在の是正のため「医師確保計画」を策定することとなっており、各都道府県は2次医療圏ごとに医師確保計画を通じた医師偏在対策を進めている。今後、医師の働き方改革や地域医療構想の実現も視野に入れつつ、キャリア形成プログラムなどを含めた検討を進め、2022年中に報告書をまとめ、年度内に「医師確保計画策定ガイドライン」の改定を行う。2024年から始まる第8次医療計画の開始とともに医師確保計画の策定を開始する予定。(参考)2024年度から「医師確保計画」も新ステージに、医師偏在解消に向け2022年内に見直し案まとめ―地域医療構想・医師確保計画WG(Gem Med)地域枠医師などサポートするキャリア形成プログラム、現場ニーズを意識した作成・運用進む―地域医療構想・医師確保計画WG(2)(同)医師確保計画を通じた医師偏在対策について(厚労省)5.ヤングケアラー支援のための手引きを作成/厚労省全国の自治体に向け、大人に代わって日常的に家事や家族の世話をするヤングケアラーについて、早期の発見や支援を行う体制などの事例をマニュアルにまとめ、ヤングケアラー支援の体制作りを働きかける通知が発出された。厚労省が2021年度に子供・子育て支援推進調査研究事業で行った全国の中高校生を対象とした調査によると、世話をしている家族が「いる」と回答したのは、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生は4.1%だった。そのうち、世話の頻度を「ほぼ毎日」と回答した者が3~6割程度、平日1日当たりで世話に費やす時間は「3時間未満」が多いものの、「7時間以上」と回答した者も約10%程度いることから、誰にも相談できずに1人で抱え込んでいるのかもしれない。今度、ヤングケアラーをいかに社会で支えるかが大きな課題となっている。(参考)ヤングケアラー支援で手引 学校や自治体連携、厚労省(日経新聞)厚労省、ヤングケアラー支援マニュアルを通知 「福祉、介護、教育など多分野の連携が重要」(JOINT)「多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル」(厚労省)6.有事の医薬品開発を見据えた緊急承認制度が新設感染症流行時などの有事にワクチンや治療薬を緊急承認する制度の創設を盛り込んだ医薬品医療機器法の改正案が、13日の参議院にて全会一致で可決され、成立した。現行制度では、海外承認された医薬品を早期承認する特例承認制度があるが、日本人への有効性が確認できる臨床データが十分集まっていない場合は国内で追加治験を行わなければならず、承認が遅れてしまう問題があった。今回新設された緊急承認制度は、国民の生命や健康に重大な影響を与える恐れがある病気の蔓延を防ぐために必要な医薬品や医療機器が対象で、ほかに代替手段がないことが条件となる。緊急時として原発事故やテロなども想定しているが、2年以内に有効性を確認できなければ承認を取り消す。(参考)薬の緊急承認制度創設へ 改正薬機法が成立 遅れたワクチン開発、反省踏まえ(産経新聞)「緊急承認制度」新設、早いワクチン実用化の実現は 改正薬機法成立(朝日新聞)改正医薬品医療機器法が成立 薬の緊急承認、新設 コロナ対応反省/信頼性課題(毎日新聞)

769.

妊娠中の新型コロナウイルス感染症へのワクチン接種は出産時合併症リスクに影響せず(解説:前田裕斗氏)

 新型コロナウイルス感染症は妊婦で重症化しやすいことが知られており、罹患によって母体死亡や帝王切開となるリスクが上昇することがすでに報告されている。一方、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が母体・胎児・出産にもたらす影響については大規模な研究報告がこれまでなかった。本研究はカナダ・オンタリオ州で行われた9万7,590人を対象とし、妊娠中にワクチン接種を行った群、産後にワクチン接種を行った群、ワクチン接種を行った記録のない群で出産時合併症の有無を比較した報告である。 結果として、産後大出血、絨毛膜羊膜炎(子宮内感染と考えてよい)、帝王切開、緊急帝王切開、NICU入院、新生児仮死いずれもワクチン接種群とその他の群の間で差は認められなかった。また、ワクチンを受けた回数、1回目に受けたワクチンの種類、ワクチン接種を受けた時期で層別化したいずれの解析でもやはり各群で合併症に差は認められなかった。 妊娠・出産合併症は頻度が低いことからワクチンの影響を見るためには大規模集団を対象とした研究が必要であり、本研究の結果は妊娠中のワクチン接種の安全性を示唆するものとして十分なものといえるだろう。もちろん、妊娠初期に接種した群が少ない、出産時合併症の診断は臨床的に行われ、しばしば過小評価されることがある点、未測定の交絡要因など研究としての限界はあるが、各種感度分析が行われており研究手法としても信頼のおけるものである。同時期に発表された北欧からの研究と併せ、妊娠中の新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種についての安全性が強く支持されたといえるだろう。

770.

妊娠中の新型コロナウイルス感染症へのワクチン接種は妊娠中合併症リスクに影響せず(解説:前田裕斗氏)

 新型コロナウイルス感染症に妊娠中感染することで早産や妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症のリスクが上昇することが報告されている。一方、妊娠中のワクチン接種には根強い抵抗があり、臨床現場でもその安全性について質問される機会も多い。これまでも妊娠中ワクチン接種と妊娠合併症の関係を調査した論文は多かったが、病院ベースや高リスク群を対象としたものが多かった。そこで本研究ではノルウェー、スウェーデンのある期間中における全妊娠を対象としている。 早産(37週未満、32週未満)、死産、SGA(週数に比して低体重)、新生児仮死、NICU入院のリスクについて解析が行われ、いずれの項目についてもワクチン接種群、非接種群で発生率に差は認めなかった。むしろ、ノルウェーにおけるNICU入院はワクチン接種群でわずかに減少した。 本研究の大きな価値は2021年1月〜2022年1月の全ての妊娠を対象としたことである。これにより低リスク〜高リスク全ての妊娠が含まれ、選択バイアスが軽減された。また、国のデータベースを用いているため、幅広い交絡要因を検討することが可能である点も強みとして挙げられる。一方、分娩時合併症について報告したカナダの研究と同様、妊娠初期にワクチン接種を受けた群が少ないことが研究の限界として挙げられる。また早産やNICU入院など新型コロナウイルス感染が直接的に影響する合併症のリスクは、国ごとのコロナ対策により大きく左右される可能性があるため、日本でも同様の結果になるかどうかは不明であるが、少なくとも合併症が増す方向になる可能性は今回の結果から考えて低いことが予想される。前述したカナダからの研究とも合わせ、妊娠中の新型コロナウイルス感染症へのワクチン接種の安全性が強く支持されたといえるだろう。

771.

α1-アンチトリプシン欠乏症〔AATD:α1-antitrypsin deficiency〕

※なお、タイトル「α1-アンチトリプシン欠乏症」の「α1」は「α1」が正しい表記となる。(web上では、一部の異体字などは正確に示すことができないためご理解ください)1 疾患概要■ 定義α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)は、血液中のα1-アンチトリプシン(AAT)の欠乏により肺疾患や肝疾患を生じる常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性疾患である1)。肺では若年性に肺気腫を生じ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発症する。気管支拡張症を合併する例もある。肝臓では、新生児期に黄疸や肝機能障害を認める場合があり、成人期には肝硬変・肝不全に移行し、肝細胞がんを発症することがある。欧米では、COPDの1~2%はAATDによるとされる。頻度は少ないが、皮下脂肪織炎や肉芽腫性血管炎を合併することがある。AATDは難病法に基づいて疾病番号231番の指定難病となり、重症度に応じて医療費助成対象疾患となった。■ 疫学ほぼ世界中で報告されているが、ヨーロッパや北米では比較的多い疾患で、約1,600~5,000人出生あたり1人とされている1)。わが国では極めてまれであり、呼吸不全に関する調査研究班と日本呼吸器学会による全国疫学調査では14名(重症9人、軽症5人)の発端者が集積され、有病率は24家系(95%信頼区間:22-27)と推計された2)。■ 病因AATDは、第14染色体長腕(14q32.1)にあるSERPINA1遺伝子の異常により生じる単一遺伝子疾患である。AATは394個のアミノ酸からなる分子量約52kDaの糖タンパク質で、血清蛋白分画のα1-グロブリン分画の約9割を占める(図1)。セリンプロテアーゼインヒビタ-として機能し、生体内で最も重要な標的は好中球エラスターゼである。主に肝臓で産生されて流血中に放出されるが、他に好中球、単球、マクロファージ、肺や腸管の上皮細胞からも産生される。図1 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)患者の血清蛋白電気泳動画像を拡大する健常者(A)と比べ、AATD(B)ではα1-グロブリン分画が欠損している(矢印)。SERPINA1遺伝子は共優性co-dominantに発現して遺伝様式に寄与する。150種類以上の変異型(バリアント)が報告されており、(a)質的・量的に正常なAATを産生する正常型バリアント、(b)流血中にAATがまったく検出されないnull型バリアント、(c)減少するdeficient型バリアント、あるいは (d)機能が変化してしまうdysfunctional型バリアントなどに分類される。正常型バリアント以外の病的バリアントを両方の対立遺伝子として受け継いでいる個体はAATDを発症するが、片方が正常型バリアントである場合には血清AAT濃度の低下は軽度で、通常は肺疾患や肝疾患の発症リスクとはならず保因者と呼ばれる。AATは、遺伝子変異によるアミノ酸置換により蛋白全体の荷電状態が変化し、等電点電気泳動における泳動位置、すなわち、AATの“表現型”が変化する。泳動位置の違いから、陽極pH4に近い位置からアルファベットの若い“B”、陰極pH5に近いものを“Z”と命名される。中央部は90%以上の遺伝子頻度を占める“M”となる。新規に同定されたSERPINA1バリアントの表現型には、表現型アルファベットに下付の小文字で同定された地名が付される。AATDの原因となるバリアントの多くはdeficient型バリアントであり、欧米ではZ型(Glu342Lys)とS型(Glu264Val)が最も多いのに対し、わが国ではSiiyama型(Ser53Phe)が85%と高頻度に検出される。わが国では遺伝学的に明らかにされたZ型の報告はない。deficient型バリアントでは変異AAT分子の折りたたみ構造が変化し、肝細胞の小胞体内で重合体polymerを形成して蓄積し流血中へ分泌できなくなるため、血清中濃度が低下する。さらに、好中球エラスターゼ阻害活性自体も低下している。 dysfunctional型バリアントは血液中のAAT蛋白量は正常であるが好中球エラスターゼ阻害活性が低下したタイプで、F型(Arg223Cys)が知られている。■ 病態生理1)好中球エラスターゼ阻害活性の低下~喪失によりもたらされる影響血清AAT濃度は通常20~50μMであり、気道被覆液中に拡散し好中球エラスターゼに代表されるセリンプロテアーゼによる組織破壊に対し防御的に働いている。しかし、11μM以下(<50mg/dL)になるとプロテアーゼによる組織破壊を十分防げず肺気腫が進行する(プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡)。Z型では、血清AAT濃度は約2~10μMと著明に低下している。喫煙は、AAT正常者でもCOPD発症の最大の危険因子であるが、AATDでは喫煙感受性が非常に高く、より若年で肺気腫が進行しCOPDを発症する。一方、MZなど正常型とdeficient型のヘテロ接合型は、その中間の血清AAT濃度(>11μM)を呈するため、COPDを発症するリスクはないとされてきたが、最近の研究ではCOPD発症リスクがあるとする成果も報告されている。2)小胞体内や細胞外での変異AAT重合体の蓄積変異AATは小胞体内で重合体を形成して貯留し、小胞体ストレスとなり細胞を障害する。これが肝障害の主たる要因である。変異AAT重合体は、流血中、肺の気道被覆液中、肺組織などの組織間液中などの細胞外でも検出される。細胞外の変異AAT重合体は炎症を誘起する作用があり、好中球や単球に対する走化性因子や活性化因子として作用し、肺での炎症のみならず、脂肪織炎や血管炎の発症に関与すると考えられている。■ 臨床症状労作時息切れ、咳や痰などの呼吸器症状はもっともよくみられる初発症状であるが、本症に特異的な症状はない。肺疾患の有病率は主に患者の喫煙歴に依存し、喫煙歴のあるAATD患者では70%以上がスパイロメトリーでCOPDの基準を満たすが、非喫煙者では約20~30%程度である。AATDの肺気腫は汎細葉性肺気腫であり、細葉中心性肺気腫の病理像を示すAAT正常者とは異なる。胸部単純X線所見では、AAT正常者のCOPDと異なり下肺野優位に肺気腫を示唆する透過性亢進を認める(図2)。胸部CTでは汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域を認め、気管支拡張を伴う例もある(図3)。図2 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)の胸部X線所見画像を拡大する肺野全体の透過性亢進、血管影の減少を認めるが、両側下肺野に著しい。図3 α1-アンチトリプシン欠乏症(Siiyamaホモ接合例)の胸部高分解能CT画像画像を拡大する(A)AAT正常のCOPD症例。細葉中心性肺気腫を示唆する低吸収領域を認める。(B)Siiyamaホモ接合例。汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域を認める。(C)Siiyamaホモ接合例。汎細葉性肺気腫を示唆する広範な低吸収領域とともに気管支拡張像を認める。■ 経過と予後非喫煙AATD患者ではCOPDの発症は少なく、喫煙AATD患者より生存期間も長い。例えば、非喫煙AATDでCOPDを発症した症例の死亡年齢の中央値は65歳であるのに対し、喫煙AATDでCOPDを発症した症例は40歳と報告されている。さらに、PI*ZZ(Z型バリアントのホモ接合)のAATDの非喫者で無症状の場合は、ほぼ正常の寿命が期待できる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ どのような状況でAATDを疑い、血清AAT濃度を測定するか?AATDを疑って血清AAT濃度(ネフェロメトリー法)を測定する事が何よりも重要である 3,4)。従来から、一般的COPDとはやや異なる臨床像(若年者、非喫煙者、喫煙歴があったとしても軽度、COPDの家族歴など)を示すCOPD患者などでは血清AAT濃度を測定するべき3)とされてきた(表 ATR/ERSステートメント)。しかし、有病率の高いヨーロッパや北米でさえ、今だにAATDのunderdiagnosis状況が持続しており、2016年の成人AATD患者の管理・治療ガイドライン4)やGOLD 2022レポートでは、「すべてのCOPD患者には、年齢、人種を問わず、AATDの診断テストを行うべきである」と述べている(表)。表 どのようなときにAATDを疑い、診断のための検査を考慮するべきか?画像を拡大する■ 診断基準AATDは、血清AAT濃度<90mg/dL(ネフェロメトリー法)と定義され、AAT欠乏の程度は、軽症(血清AAT濃度50~90mg/dL)あるいは重症(<50mg/dL)の2つに分類される5)。AATは急性相反応蛋白質であるため感染症などの炎症性疾患では増加すること、一方、肝硬変、ネフローゼ症候群、タンパク漏出性胃腸症などの他の原因でも減少しうるので、診断に際してはこれらの病態を除外する必要がある。指定難病では、重症度2以上が医療費助成の対象となる。重症度の評価方法については難病情報センターを参照されたい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 予防を含めた全般的考え方肺疾患の予防には、喫煙しない、受動喫煙も含めて有害粒子の吸入曝露を避けること、が大切である。AATD患者では、定期的にスパイロメトリーあるいは胸部CTを行い、肺疾患の発症あるいは進行をモニタリングする。COPDを発症している場合には、COPDの治療と管理のガイドラインに準じて治療を行う。呼吸不全に至った症例では肺移植の適応となる。肝疾患発症の危険因子についてはよくわかっていないが、肥満は肝疾患のリスクを高め、男性は女性よりリスクが高い。AATD患者では肝炎ウイルス(HAV、HBV)のワクチン接種、アルコールを摂取しすぎない、健康的な食事を心がけることが推奨されている。AATD患者では、年1回程度の採血による肝機能のモニタリング、腹部超音波検査による肝がんのスクリーニングを適宜行う。■ AAT補充療法(augmentation therapy)病因・病態に則した治療としてAAT補充療法がある。ヒトのプール血漿から精製されたAAT製剤を週1回点滴静注(60mg/kg)する治療であり、CT画像における気腫病変の進行を遅らせる効果、死亡率を低下させる効果が報告されている。わが国では4名の重症AAT患者が参加した治験が実施され6)。欧米人で示されている安全性と薬物動態、すなわち、AAT(60mg/kg)を週1回点滴静注することにより、肺胞破壊に対し防御的な血清AAT濃度>11μM(>50mg/dL)を維持できることが示された。その結果、ヒトα1-プロテイナーゼインヒビター(商品名:リンスパッド)点滴静注用1,000mg(凍結乾燥製剤)(海外商品名:Prolastin-C)として2021年7月に上市された。ヒトα1-プロテイナーゼインヒビターは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気流閉塞を伴う肺気腫などの肺疾患を呈し、かつ、重症AATDと診断された患者[血清AAT濃度<50mg/dL(ネフェロメトリー法で測定)]に投与する。ヒトα1-プロテイナーゼインヒビター1,000mgを添付溶解液20mLで溶解し、ヒトAATとして60mg/kgを週1回、患者の様子を観察しながら約0.08mL/kg/分を超えない速度で点滴静注する。最後に、ルート内のAATすべてが患者に投与されるよう生理食塩液25mLに換えて同じ速度で点滴して終了する。体重60kgの成人では、全体で約20分以上を要する。AAT補充療法を開始するタイミングについて明確な基準はない。週1回の点滴静注を非常に長期にわたって継続する必要があるが、数十年以上にわたって投与し続けると想定した場合、長期投与における有害事象のリスクに関する情報は乏しい。成人AATDの治療と管理のガイドラインでは、FEV1<65%predの症例では、患者の意向を確認した上でAAT補充療法を検討するとされている3,4)。肝障害に対する特異的治療はなく、栄養指導、門脈圧亢進症の管理などの支持療法が主体である。門脈圧亢進症がある場合には、出血のリスクがあるためNSAIDsの投与は避ける。重症の肝不全では肝移植が適応となる。4 今後の展望患者細胞からiPS細胞を樹立し、肝細胞に分化させた後にゲノム編集で病的バリアントを正常バリアントに換えて患者に移植する研究、siRNAによる肝細胞でのSERPINA1発現のサイレンシング、異常AATのポリマー形成を阻害する薬剤などの試みがある。近年、AATDの正確な実態把握と治療効果の追跡を継続的に行い、長期的な管理戦略を構築することを目的に、欧州では多国間にわたる臨床研究協力の取り組みが始まっている。わが国においては、呼吸器財団、日本呼吸器学会、厚生労働省難治性疾患政策研究事業、難病プラットホームの4者の支援を受け、本症を含めた希少肺疾患を対象としたレジストリ(登録制度)が開設されている。希少肺疾患登録制度5 主たる診療科主たる診療科は呼吸器内科となる。肝疾患については消化器内科、脂肪織炎や肉芽腫性血管炎では皮膚科および関連する診療科と連携する必要がある。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター α1-アンチトリプシン欠乏症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Alpha-1 Foundation 米国の患者団体ホームぺージ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)希少肺疾患登録制度(医療従事者向けのレジストリ情報サイト)1)Greene CM, et al. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16051. 2)Seyama K, et al. Respir Investig. 2016;54:201-206. 3)American Thoracic Society;European Respiratory Society. Am J Respir Crit Care Med. 2003;168:818-900. 4)Sandhaus RA, et al. Chronic Obstr Pulm Dis. 2016;3:668-682.5)佐藤晋ほか、難治性呼吸器疾患・肺高血圧に関する調査研究班.α1-アンチトリプシン欠乏症診療の手引き2021 第2版. 2021.6)Seyama K, et al. Respir Investig. 2019;57:89-96. 公開履歴初回2022年5月12日

772.

オミクロン株BA.2などについて更新、COVID-19診療の手引き7.2版/厚労省

 5月9日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第7.2版」を公開し、全国の自治体や関係機関に通知を行った。 今版の主な改訂点は以下の通り。診療の手引き7.2版の主な改訂点【1 病原体・疫学】・オミクロン株のBA.2系統について更新・懸念される変異株の表を更新・COVID-19死亡者数の図を更新・国内発生状況でオミクロン株のBA.2系統への置き換わりについて更新・海外発生状況で世界の流行株(主にオミクロン株)と今後の公衆衛生措置などを更新【2 臨床像】・罹患後症状について定義付け、症状一覧の図を更新 (「後遺症」という用語を削除)【3 症例定義・診断・届出】・改訂点なし【4 重症度分類とマネジメント・重症度別マネジメントのまとめの図の治療薬の脚注を更新【5 薬物療法】・ソトロビマブ(ゼビュディ点滴静注液500mg)について2022年4月18日の添付文書改訂による、本剤のオミクロン株(B.1.1.529/BA.2系統)への有効性(効果減弱の可能性)について更新・ニルマトレルビル/リトナビルに関する記載について併用薬留意の文言を追加・S-217622に関する記載について開発対象と参考情報を更新【6 院内感染対策】・妊婦および新生児への対応について、帝王切開の分娩方法や感染妊婦の出生児接触の対応について更新

773.

ファイザー製COVID-19ワクチンのオミクロン株に対する4回目接種の有効性(解説:小金丸博氏)

 ファイザー製COVID-19ワクチン(BNT162b2、商品名:コミナティ筋注)の4回目接種の有効性を検討したイスラエルの研究がNEJM誌オンライン版2022年4月5日号に報告された。本研究は新型コロナウイルスのオミクロン変異株が流行していた2022年1月~3月にかけて行われた試験であり、オミクロン変異株に対する予防効果を評価したものとなっている。イスラエルでは60歳以上の方、ハイリスク患者、医療従事者に対して4回目接種が認可されており、3回目の接種から4ヵ月以上の間隔を空けて接種する。本試験では60歳以上の方を対象として、ワクチンの感染予防効果、重症化予防効果が評価された。 補正前のSARS-CoV-2感染率は、4回接種群が10万人日当たり177だったのに対して、3回接種群では361であり、疑似ポアソン回帰分析の結果、感染率は3回接種群のほうが2.0倍高かった。4回目の追加接種を行うことで一定の感染予防効果を示したが、ワクチン接種後4週間をピークに効果の減弱を認め、ワクチンの感染予防効果は経時的に低下することが示された。 補正前の重症COVID-19発生率は、4回接種群が10万人日当たり1.5だったのに対して、3回接種群では3.9であり、疑似ポアソン回帰分析の結果、重症COVID-19発生率は3回接種群のほうが3.5倍高かった。重症化予防効果に関しては、少なくとも4回目接種後6週間は減弱を認めなかった。ワクチンのブースター接種による重症化予防効果がいつまで維持されるのか、今後の研究結果を待ちたい。 本研究は世界に先駆けてCOVID-19ワクチンの4回目接種を行っているイスラエルの大規模な解析結果であり、4回目接種の議論が行われている本邦でも大変参考になるデータである。現時点では、高齢者(とくに重症化リスク因子となる基礎疾患を有する者)は重症化予防を目的にブースター接種を行うのが妥当と考えるが、4回目接種の対象者(年齢、基礎疾患など)や3回目接種との間隔については各国で意見が分かれており、議論の余地があると考える。 COVID-19ワクチンに関する今後の課題として、新たな変異株に対する有効性の評価や、ブースター接種スケジュールの確立などが挙げられる。本研究はファイザー製ワクチンの試験結果であるが、異なるCOVID-19ワクチンとの組み合わせでの有効性は興味ある点である。予防効果を維持するためにはワクチンのブースター接種は必須と考えられるため、ワクチン接種スケジュールの確立のために、さらなる知見の集積が必要である。

774.

新型コロナ自宅死亡例は高齢者が多い/アドバイザリーボード

 4月27日に開催された政府の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで「新型コロナ患者の自宅での死亡事例に関する自治体からの報告について」が公開された。 本報告では、令和4年1月1日~3月31日までの間に自宅で死亡された5態様(例:自宅療養中に死亡、入院調整中などに死亡、死亡後に陽性確認など)の新型コロナウイルス感染症患者について、都道府県を通じ、年齢、基礎疾患、同居の有無、ワクチン接種歴、死亡に至るまでの経過などを調査、集計したもの。【死亡者の概要】対象者:計555人(男性352人、女性203人)1)死亡時の年齢構成:80代(55%)、70代(24%)、60代(10%)2)基礎疾患の有無:あり(64%)、なし(25%)、不明(11%)3)ワクチン接種歴:2回(39%)、不明(38%)、未接種(16%)4)単身・同居などの状況:家族などと同居(46%)、不明(40%)、単身(14%)5)死亡直前の診断時の症状の程度については、軽症・無症状が43.4%、中等症が7.0%、重症が2.2%、不明または死亡後の診断が47.4%6)生前に陽性が判明して自宅療養中に死亡した者は65.8%、死後に陽性が判明した者は34.2%7)発生届の届出日が死亡日よりも前であった事例が36.2%、発生届の届出日が死亡日と同日であった事例が39.8%、発生届の届出日が死亡日以降であった事例が24.0%8)自宅療養の希望ありが20.4%、希望なしが11.5%、不明者および死後に陽性が判明した者が68.1%【具体的な死亡事例について(抜粋)】・陽性が判明したが、本人や家族の意思により自宅療養を希望するケースがあった。・救急搬送の搬入時の検査で陽性が判明するケースがあった。・高齢であることや末期がんであることにより自宅での看取りを希望するケースがあった。・入院調整や宿泊療養の対象となるも、直後に死亡するケースがあった。・本人の意思により医療機関での受診や検査を希望しないケースがあった。 政府は、今後の対応として、保健・医療体制を強化しながら、オミクロン株の特徴を踏まえ、自宅療養者が確実に医療を受けることができる環境整備が重要であり、自宅療養者に対応する医療機関や発熱外来の拡充、重症化リスクのある患者を対象とした経口治療薬や中和抗体薬の迅速な投与体制の確保などの対応を実施していくことで、地域における医療体制の充実に取り組むとしている。【参考:各都道府県の自宅療養への取組事例(抜粋)】(健康観察の重点化)・陽性判明後、当日届出があった患者の携帯電話あてにショートメッセージで夜間などの緊急時連絡先などを知らせるようにした。また、固定電話のみの患者への連絡を優先するようにした。・保健所から電話連絡を取る対象を、重症化リスクの高い対象に重点化するため限定した。1月下旬からは40歳未満で基礎疾患などのない、ワクチン2回接種済みの方以外、2月上旬からは50歳未満で基礎疾患等の無い方以外の方に注力。(外注による休日対応)・自宅療養者と2日間連絡が取れなかった場合、平日のみ消防局職員の協力により自宅を訪問していたが、土日についても、別事業で委託している業者に訪問の協力を依頼することとし、毎日訪問できる体制に改めた。(看取りの対応)・コロナに感染する前から基礎疾患のため終末期で、家族が自宅での看取りを希望した場合には、在宅医、訪問介護と連携し、自宅看取りの対応を行った。

775.

コロナワクチン接種率10%上がるごとに死亡率8%・発生率7%減/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種率が高いほど、集団レベルのCOVID-19による死亡率および発生率は低いことが、米国疾病予防管理センター(CDC)のAmitabh Bipin Suthar氏らによる観察研究の結果、示された。2022年4月11日現在、米国ではCOVID-19発症が約8,026万例、COVID-19関連死が98万3,237例報告されており、国内の死者数が1918年のスペイン風邪を上回る近年史上最悪のパンデミックとなった。COVID-19のワクチン接種が個人レベルの発症および重症化予防に有効であることは認められているが、ワクチン接種の拡大が公衆衛生に与える影響はまだほとんど明らかにされていなかった。BMJ誌2022年4月27日号掲載の報告。米国48州2,558郡のデータを解析 研究グループは、米国における集団レベルのCOVID-19による死亡率および発生率に対するワクチン接種拡大の影響を評価する目的で、2020年12月14日~2021年12月18日に報告された米国の郡レベルの症例サーベイランスデータおよびワクチン接種データを解析した。米国48州2,558郡のデータを解析対象とした。 主要評価項目は各郡の週ごとのCOVID-19死亡率(死亡数/人口10万人/郡週)、副次評価項目はCOVID-19発生率(症例数/人口10万人/郡週)である。ワクチン接種率別の比較には発生率比を用い、郡のワクチン接種率(18歳以上の成人がCOVID-19ワクチンを1回以上接種と定義)が10%改善した場合の影響を推定した。 また、新型コロナウイルスのアルファ株およびデルタ株が優勢な時期におけるワクチン接種率の影響を、接種率が「非常に低い」(0~9%)、「低い」(10~39%)、「中程度」(40~69%)および「高い」(70%以上)に分け比較検討した。ワクチン接種率が10%上昇するごとに、死亡率が8%、発生率が7%低下 合計13万2,791郡週において、COVID-19発症が3,064万3,878例、COVID-19関連死が43万9,682例観察された。ワクチン接種率が10%上昇するごとに、死亡率が8%(95%信頼区間:8~9)、発生率が7%(6~8)低下することが認められた。 アルファ株が優勢な時期では、7万189郡週においてCOVID-19発症が1,549万3,299例、COVID-19関連死が26万3,873例観察された。 また、デルタ株が優勢な時期では、6万2,602郡週においてCOVID-19発症が1,515万579例、COVID-19関連死が17万5,809例観察された。いずれの時期も、ワクチン接種率の高さが、死亡率および発生率の低下と関連していた。

776.

第99回 長年続く産科「一人医長」、医療事故で新生児死亡/輪島病院

<先週の動き>1.長年続く産科「一人医長」、医療事故で新生児死亡/輪島病院2.原因不明の小児急性肝炎「可能性例」、国内で計7例に/厚労省3.コロナ関連死の推計を初公表、直接死の最大3倍/WHO4.新型コロナワクチン、2.4兆円もの調達費を問題視5.健康保険組合の赤字額2,770億円、今後急速な財政悪化か/健保連6.クレベリンのウイルス除去効果は科学的根拠なし/大幸薬品1.長年続く産科「一人医長」、医療事故で新生児死亡/輪島病院石川県能登北部にある市立輪島病院が、昨年6月に同院産婦人科で新生児が死亡したことを記者会見で明らかにし、院長と市長が謝罪した。輪島市側は全面的に責任を認め、同日に開かれた市議会臨時会で遺族に損害賠償金5,825万円を支払う議案を可決した。病院側によると、入院した妊婦を早産と誤って判断して陣痛促進剤の投与を続けたが、実際は常位胎盤早期剥離を起こしていた。さらに母体および胎児の状態悪化に対して、帝王切開ではなく吸引分娩で対応したところ、新生児は重症新生児仮死状態で生まれた。即時、救命処置と金沢市内の病院へ緊急搬送を行ったが、翌日の早朝、搬送先の病院で亡くなった。なお、母親の容態は回復している。院内の医療事故調査委員会は、妊婦への説明が不十分なまま主治医が時間休を取得し病院を離れたこと、助産師らとの情報共有がされなかったことを主たる要因と結論付けている。再発防止策として、緊急時の体制整備と医療従事者同士の情報共有の徹底を挙げた。現在、輪島、珠洲、穴水、能登の四市町(奥能登)には、分娩に対応できる産科医がこの1人しかいない。院長は会見で「医師に負担がかかっているのは事実」と説明。地域医療の維持についても考えていかねばならないだろう。(参考)輪島市長、院長が謝罪 輪島病院誤診 遺族に賠償5825万円(北国新聞)【石川】医療事故で新生児死亡 市立輪島病院 5825万円を賠償(中日新聞)市立輪島病院における医療事故について(市立輪島病院)2.原因不明の小児急性肝炎「可能性例」、国内で計7例に/厚労省厚生労働省は、英国やアメリカなどで報告が相次いでいる原因不明の小児急性肝炎の疑い例について、国内で新たに16歳以下の入院症例4件が報告されたと発表した。累計での報告数は7例となり、このうち新型コロナウイルスとアデノウイルスのPCR検査でそれぞれ1件ずつ陽性が報告されたが、現時点で確定例はない。こうした症例について、先月から自治体等に対し注意喚起および情報提供依頼を出し、GW前には感染症サーベランスおよび積極的疫学調査についての事務連絡を発出して情報収集に当たっている。なお、アメリカでは昨年10月から109人の患者報告があり、うち5人が死亡。世界保健機関(WHO)は、各国に該当する症例の報告を求めている。(参考)“原因不明” 子どもの急性肝炎 国内で新たに4人が同様の症状(NHK)米CDC、原因不明の小児肝炎を調査 5人死亡(CNN)小児の原因不明の急性肝炎について(厚労省)3.コロナ関連死の推計を初公表、直接死の最大3倍/WHOWHOは、2020年1月~2021年12月の2年間で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連した死者数を約1,490万人とする推計結果を初めて公表した。少なくとも1,330万人、最大で1,660万人が亡くなったとされる。これに対し、各国がWHOに報告したCOVID-19が直接の死因となる人数の総計は同期間で542万人(22年も含めると624万人)であり、間接死も含めると最大3倍となる。なお、超過死亡の84%は東南アジア、ヨーロッパ、アメリカ大陸に集中しており、このうち約68%は世界全体でわずか10ヵ国に集中していた。死亡例は高齢者で多く、また女性よりも男性に多かった(男性57%、女性43%)。(参考)コロナ関連死、20~21年は最大1660万人 WHOが初推計(AFPBB News)新型コロナ死者1490万人 WHOが推計発表、米大学集計の3倍(朝日新聞)14.9 million excess deaths associated with the COVID-19 pandemic in2020 and 2021(WHO)4.新型コロナワクチン、2.4兆円もの調達費を問題視新型コロナウイルス感染対策として、政府がワクチン調達のために2兆4,000億円もの巨額な予算を使ったことについて批判の声が上がっている。先月の財政制度等審議会でも、国内で想定された接種回数を上回る8億8,200万回分のワクチンを購入したことについて指摘されており、岸田総理は「必要な費用だった」と答弁している。ワクチン購入以外にも感染対策として巨額な費用が投じられており、メディアも含め、国民が関心を寄せている。政府はもっと開示を行っていくべきと考える。(参考)不透明なコロナ支出 ワクチンや病床確保に16兆円、さらに膨らむ恐れ(毎日新聞)コロナワクチン調達費2.4兆円 不透明さの背景に「秘密保持契約」(同)岸田首相 ワクチン2兆4000億円かけ購入 “必要な費用だった”(NHK)5.健康保険組合の赤字額2,770億円、今後急速な財政悪化か/健保連大企業の社員らが加入する健康保険組合の赤字が問題となっている。健康保険組合連合会(健保連)が発表した2022年度予算の早期集計結果の概要によると、今年度の収支は2,770億円の赤字と、昨年度の5,028億円の赤字に比べて改善したものの、赤字組合の割合はいまだ7割を占める。健保連によると、収支改善は新型コロナウイルスによる高齢者の受診控えによって、一時的に高齢者の医療費を補うための拠出金が減少したためとし、次年度以降、高齢者拠出金が急増することは必至であり、今後急速な財政悪化が予想される。国民皆医療制度の持続可能性を左右する問題であり、保険料引き上げ以外にも政府が医療費抑制のために対策を打ってくるだろう。(参考)健保組合7割赤字 全体赤字額2770億円 来年度以降急激な悪化か(NHK)大企業の健保、22年度は赤字幅縮小へ コロナで医療費減(日経新聞)令和 4 年度 健康保険組合の予算早期集計結果(概要)について(健保連)6.クレベリンのウイルス除去効果は科学的根拠なし/大幸薬品大幸薬品は、主力製品「クレベリン」の広告内容について、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)に基づいた措置命令に従って、広告内容とパッケージを変更することを明らかにした。同社はこれまで同製品について「空間のウイルス除去・除菌・消臭に使用できる」などと広告に表示していたが、その効果を疑問視する声が寄せられていた。消費者庁は広告内容について、実際の効果よりも著しく優良あるかのよう表示したことは景品表示法に違反するとした。なお、製品の販売は続けられる方針だ。(参考)大幸薬品 「クレベリン」の広告表示 景品表示法違反を認める(NHK)クレベリンの浮遊ウイルス除去効果は「根拠ない」…大幸薬品「深くおわび」「返品は受け付けず」(読売新聞)弊社商品の表示に関するお知らせ(大幸薬品)

777.

新規抗体カクテル療法のAZD7442、コロナ発症予防にも有効/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防において、AZD7442はプラセボと比較して、有害事象の頻度は同程度でほとんどが軽度~中等度であり、症候性COVID-19の発生割合は有意に低いことが、米国・コロラド大学のMyron J. Levin氏らが実施した「PROVENT試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年4月20日号に掲載された。AZD7442は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染者のB細胞から分離された抗体由来の2つの完全ヒト型SARS-CoV-2中和モノクローナル抗体(tixagevimab、cilgavimab)の併用薬である。欧米5ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験 本研究は、COVID-19の予防におけるAZD7442の安全性と有効性の評価を目的とする進行中の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2020年11月~2021年3月の期間に、5ヵ国(ベルギー、フランス、スペイン、英国、米国)の87施設で参加者の登録が行われた(英国AstraZenecaと米国政府の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上で、COVID-19ワクチン接種への反応が不十分であるリスクが高い(年齢60歳以上、肥満、免疫不全状態、うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎不全、慢性肝疾患など)、またはSARS-CoV-2への曝露リスクが高い地域や環境にある(医療従事者、食肉加工などの工場労働者、軍関係者、寮生活の学生など)、あるいはこれら双方に該当し、スクリーニング時に血清を用いた臨床現場即時検査でSARS-CoV-2陰性の集団であった。 被験者は、1日目にAZD7442 300mgの単回投与(tixagevimabとcilgavimabを別個に連続して筋肉投与)を受ける群またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。 安全性の主要エンドポイントはAZD7442投与後の有害事象の発生であり、有効性の主要エンドポイントはAZD7442投与後の症候性COVID-19(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法で確定されたSARS-CoV-2感染)とされ、183日間の経過観察が行われた。症状発現までの期間も長い 計5,197例(平均[±SD]年齢53.5±15.0歳、60歳以上43.4%、女性46.1%)が登録され、AZD7442群に3,460例、プラセボ群に1,737例が割り付けられた。ベースラインで、73.3%がCOVID-19ワクチン接種への反応が不十分であるリスクが高く、52.5%がSARS-CoV-2への曝露リスクが高いと判定され、77.5%は重症COVID-19への進展リスクが高い併存疾患を有していた。主解析は、参加者の30%が、自分が割り付けられた治療群を認識した時点で行われた。 少なくとも1件の有害事象を報告した参加者の割合は、AZD7442群が35.3%(1,221/3,461例)、プラセボ群は34.2%(593/1,736例)で、重症度はほとんどが軽度~中等度であった。とくに注目すべき有害事象のうち最も頻度が高かったのは、注射部位反応(AZD7442群2.4%、プラセボ群2.1%)であった。また、重篤な有害事象の発生率は両群で同程度だった(1.4%、1.3%)。 8例(両群4例ずつ)が死亡した。プラセボ群の2例はCOVID-19による死亡とCOVID-19関連の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)による死亡だった。違法薬物の過剰摂取による死亡が両群に2例ずつ含まれ、AZD7442群では心筋梗塞と腎不全による死亡が1例ずつみられた。 一方、症候性COVID-19の発生割合は、AZD7442群が0.2%(8/3,441例)と、プラセボ群の1.0%(17/1,731例)に比べ有意に低かった(相対リスク減少率:76.7%、95%信頼区間[CI]:46.0~90.0、p<0.001)。長期の追跡(中央値で6ヵ月)における相対リスク減少率は82.8%(95%CI:65.8~91.4)であった。 severe/critical(肺炎または低酸素血症がみられ、WHO Clinical Progression Scaleのスコアが5点以上)のCOVID-19は、AZD7442群では認められず、プラセボ群では5例にみられた。 AZD7442の有効性は、すべてのサブグループで一貫して認められた。また、症状発現までの期間は、AZD7442群がプラセボ群よりも長かった(ハザード比:0.17、95%CI:0.08~0.33)。 著者は、「これらのデータは、COVID-19の免疫予防薬としてのAZD7442の使用を支持するものである」とまとめ、「本試験の臨床および薬物動態の評価は少なくとも12ヵ月間継続される見込みである。また、緊急使用許可(EUA)の下で、免疫不全状態の集団における免疫予防薬としての本薬の有効性を評価する試験も進行中である」としている。

778.

第107回 医療者の成功事例求む!ワクチン接種をやる気に導く方法

わが家は18歳の娘も含め家族全員が2月中に新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の3回目のワクチン接種を終えているが、2ヵ月ぶりに娘にワクチンを接種することになった。何かというと日本脳炎のワクチンである。私の娘の場合、2005年の日本脳炎ワクチン接種後に認められた「因果関係が否定できない急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の確認による接種勧奨中止」が本人の定期接種時期に当たったため、接種機会を逃していたのである。というか、接種勧奨再開時に本来通知が来ていたはずだが、私も妻もまったくに近いくらい記憶がない。私自身はちょうど勧奨再開時期に多忙を極めていたため、その点は妻に任せきりだったことも影響している。ちょうど昨年、ヒトパピロ―マウイルス(HPV)ワクチンの接種勧奨再開方針が決まった際に、改めて母子手帳を確認したところ、ワクチン接種のページに妙な空白を見つけ、未接種が発覚したというお粗末な顛末である。もっとも私が気付いた時期は、企業の製造工程不備により日本脳炎ワクチンの供給量が不安定な状態が続いていた。そんな最中にキャッチアップ対象に過ぎない娘の接種を医療機関にお願いすることもできない。昨年末に製造体制が復活したのは知っていたが供給が安定するのには時間がかかるだろうと思い、これまではずっとスタンバイ状態にしていた。最近になって流通もかなり改善しているだろうと思い、区役所に連絡を取って、支所に出向き予診票を発行してもらった次第だ。しかし、娘は大の注射嫌いで新型コロナワクチンの接種時でさえ、腕をまくって接種を待つ間、「あああ、あああ」と声を上げながらしかめっ面をし、看護師の皆さんが飛んできてなだめたほどの困ったちゃんである。とは言え、好き嫌いとは別に新型コロナに関しては、高校の大切な思い出作りの修学旅行の中止という状況まで経験しているので、本人もその必要性は認識していた。しかし、普段は病名としてすら馴染みのない日本脳炎のワクチンを改めて接種するとなるとそうもいかない。しかもすでに民法改正で成人となった18歳という年齢を考えると、幼少期のように親の一存で何も説明せずに済むとは思えない。そこで娘には率直に状況を説明した。まずは感染者のうち100~1,000人に1人が発症し、日本でも今も年間10例以内の発症者がいると話すと、「年10例? そんなんだったら必要ないじゃん」との第一声。これは予想された反応だったので、未だ首都圏周辺ですら養豚場のブタの抗体陽性率は高く、発症した場合は20~40%の人が命を落とすこと、さらに無事救命できたとしても半数前後に後遺症が出ると説明し、本人をなだめた。結局、接種当日にクリニックへ到着すると、すでに眉間にしわが寄っている。本人から「コロナのワクチンと比べて痛い?」との問い。いやー、これは答えにくい。本音を言えば、筋肉注射の新型コロナワクチンと皮下注射の日本脳炎ワクチンを比べれば、皮下注射のほうが痛みはあるに決まっている。私はそれに直接答えずに「まあ、チクっとするくらいだよ」と返した。接種を待つ間、もう18歳にもなったというのに父親の私の手を握っている。ようやく呼ばれて、私も同席して針が刺された瞬間の娘の顔は般若の形相。私は内心「あー、やっぱり痛いんだな」と思うしかない。終わって待合室に戻ってきてからは、「今までで一番痛かったよ」と半べそである。私は「まあその時々によっても差があったりするからね」と誤魔化しておいた。なんせ1週間後には2回目の接種を控えているので。ちなみに、その娘が思いもかけずワクチン接種後にニコニコしていたことがある。それは新型コロナの3回目接種の時である。この時、娘の接種が終わるまで私はクリニックの外で待っていたのだが、本人が「今日は何ともなかったわ」と言いながら、接種時の様子を頼みもしないのに話してくれた。本人によると接種をしたのは女医さんで、予診票を目を見開いて凝視しながら「あら、もしかして医療従事者?」と言われたとか。非医療従事者で娘の年齢だと、2月時点は2回接種完了から半年が経過していない例がほとんどだが、わが家の場合は自称「ワクチンマニア」の私が駆けずり回って、キャンセル待ちで緊急に受けられるところを探して登録したため、娘は同年代と比べて格段に接種時期が早い。実際、当時娘のクラスでは誰一人まだワクチンを接種しておらず、娘自身は「ズルしたかのように誤解されるのは嫌だ」ということでワクチン接種完了を担任教師にも友達にも隠していたほどだ。この女医さんが驚いたのも無理はなかろうと思う。本人も「違います」と答えたが、女医さんからは「でも、きちんとその年齢でワクチン接種に来ることはとても良いことですよ」とお褒めにあずかったらしい。筋肉注射という痛みが少ない方式だったことに加え、この褒められ効果が本人の心理に影響を与えたことは確かだったようだ。まあ、もっともこうしたことは接種というところまで辿り着いたから言えることで、問題は接種をためらう層へのアプローチである。その意味で私自身は今の状況をある種の懸念を持って眺めている。新型コロナワクチンに関しては、医学的知見を踏まえて2回接種が3回接種になり、今後は一部対象者に4回目の接種が行われようとしている。まだ未解明のことも少なくない新型コロナウイルスに対してはやむを得ないことではあるが、一般人の理解、以前も触れたが臨機応変な政策変更という状況に慣れていない日本人では、こうしたアジャイルさは必ずしも素直に受け止めてもらえるわけではない。そのことは3回目接種率の上昇の鈍さにも表れていると思う。これが新型コロナワクチンという限定的なものではなく、ワクチン全体への不安や疑念に広がってしまうと非常に厄介である。私が懸念するのはこの点だ。そしてもしこの危惧が現実になった際には、日本脳炎ワクチンのように対象の感染症自体の報告数が少ないものでは余計に「不必要論」が浸透してしまいやすいように思える。もちろん前述のように首都圏ですら養豚場の豚の抗体陽性率の高いという疫学的データから見れば、定期接種という形でややdo接種されているからこそ年間10例未満で収まっているのだと理解はできるはず。だが、一般向けの情報発信を常に行っているものとしては、そう簡単とは思えない。念のため、日本脳炎ワクチンについてTwitterなどで検索してみると、比較的接種に肯定的な親御さんは多いようだ。しかし、4月に岐阜県で日本脳炎ワクチン希望の5歳児への新型コロナワクチンの誤接種を巡って新型コロナワクチン否定派の人たちがあれやこれやと騒いでいるツイートも目にする。SNS上ではこうしたちょっとした事件が思いもかけないほど負の影響を拡大再生産することはよくあることだ。そうした中で日本脳炎ワクチンの供給量が改善してきた今、一般向けの啓発記事を書こうかとも思っているが、こうした「空気のようなワクチン」についてどのように情報発信すべきかとやや悩み始めている。その意味では接種を躊躇する方に対する医療従事者の成功事例があれば知りたいところだが、あちこち情報を検索していてもなかなかこれというものが見つからないというジレンマに陥っている(もし「こんな事例がありました」というのがあれば、ぜひ教えていただきたいとも思っている)。

779.

ワクチン接種後の解熱鎮痛剤使用は抗体獲得に影響しない/日本感染症学会

 第96回日本感染症学会総会・学術講演会(会長:前崎 繁文氏[埼玉医科大学 感染症科・感染制御科])が、4月22日~23日の期日でオンライン開催された。 本稿では、同学術講演会の口演より、谷 直樹氏(九州大学大学院)の「BNT162b2 mRNAワクチン接種後の副反応と解熱鎮痛剤内服が抗体反応に与える影響の検討」の概要をレポートする。 新型コロナウイルスワクチン接種後の副反応は一般的なワクチンの接種後と比較して出現頻度が高いことが知られており、ワクチン接種後の症状軽減のため解熱鎮痛剤が使用されることも多い。そのような背景を踏まえ、ファイザー製ワクチン(BNT162b2)接種後の副反応の程度と誘導された抗体の関係性を調査すること、解熱鎮痛剤の使用が抗体反応に与える影響を調査することを目的として本研究が実施された。 解析対象は、BNT162b2を2回接種かつ2回目接種から14日以上経過した福岡市民病院職員のうち、感染・感染疑い歴のある者、ワクチン接種24時間以内に解熱鎮痛剤を内服した者を除く335人(うち235人から副反応情報を取得)とした。2回接種後に採血を行いSARS-CoV-2特異的スパイク蛋白IgG(S-IgG)抗体価を測定し、ワクチン接種後の副反応(発熱、倦怠感、頭痛、注射部位の痛みや腫れなど計13項目)に関する質問、および副反応に対して使用した解熱鎮痛剤について調査を行った。 口演で報告された主な結果は以下のとおり。・解熱鎮痛剤は全体の約45%で使用されており、発熱を認めた集団の80%以上が使用していた。・単変量解析において、局所の副反応は抗体価と相関を示さなかった。全身性副反応のうち1回目接種後の皮疹、2回目接種後の発熱、倦怠感、頭痛、悪寒の有無が抗体価と有意な関連を示した。・単変量解析で有意になった項目を用いて多変量解析を行った結果、2回目接種後の発熱の程度(β=0.301、p<0.0001)、女性(β=0.196、p=0.0014)、年齢(β=-0.119、p=0.0495)と抗体価の相関が認められた。・2回目接種後に体温が38度以上に上昇した集団は37度未満の集団より約1.8倍抗体価が高く、性別、年齢別のいずれの解析においても、2回目接種後の発熱が強いほど抗体価がより高くなる傾向が見られた。・解熱鎮痛剤を使用しても抗体価の低下は認められず、発熱の程度による違いも認められなかった。

780.

第110回 天然痘を撲滅したワクチンの効果に皮膚共生細菌がどうやら貢献

生身のワクシニアウイルスを皮内にちくちくと刺し入れるワクチン接種の甲斐あって天然痘は世界から実質的に姿を消し、世界保健機関(WHO)は1980年にその根絶を宣言しました。その宣言から数十年が経つ今になってようやくワクチン皮内投与後の免疫反応の後ろ盾と思しき仕組みがマウス実験で示唆されました1,2)。その仕組みとはワクチン接種部位への皮膚共生細菌の集合です。英国ケンブリッジ大学等の研究チームは無菌マウスや非無菌マウスにワクシニアウイルスを接種し、その免疫反応を調べました。また、非無菌マウスに細菌駆除薬・抗生物質を投与したときのワクチンへの影響も検討しました。接種から6日後にどのマウスにもワクチン接種皮膚領域に人への接種と同様に傷跡(lesion)が生じました。しかし、ワクチンが効いていることの証拠とこれまでみなされてきたその傷跡の大きさは一様ではなく、抗生物質非投与マウスの傷跡は他のマウスより大きめでした。今回のマウス実験によるとこれまで理由が不明だったその傷跡はワクチン接種部位に寄り付く細菌の大幅な増加に端を発するようです。細菌が寄り付く接種部位には細菌感染の特徴である好中球動員が認められました。研究リーダーのGeoffrey Smith氏によるとそれら好中球や他の細胞が傷跡の形成を促すのであり、つまり傷跡はワクシニアウイルスによるのではなく細菌を原因とします3)。ワクチン接種部位への免疫細胞の動員は抗生物質投与マウスでは乏しく、傷跡がより大きいことと好中球や特定のT細胞がより多く集っていることが関連しました。また、ワクチン接種後しばらくすると白血球の幾つかは減少に転じましたが、抗生物質非投与マウスの好中球は例外で、むしろ増え続けました。皮膚共生細菌は感染阻止抗体の生成にも貢献しているようです。ワクチンは抗生物質投与や菌保有の有無にかかわらずマウスの感染も防ぎましたが、無菌ではないマウスへのワクチン接種後の感染阻止抗体活性は無菌マウスへの接種を3倍上回りました。それらの結果によると、ワクチン接種部位に寄り付く細菌がワクチン接種に伴う免疫反応の拠り所の一つとなっているのでしょう。ただしまだ断言はできません。というのも実験で使われた無菌マウスは微生物と無縁ゆえ免疫系が未熟かもしれず、得られた結果は微生物欠如ではなく免疫の未熟さに起因するとも言えなくもないからです。今では使われなくなった天然痘ワクチンのような皮内投与ワクチンは世界の多くでもはや出番が減っていて意義が薄れています。皮内投与ワクチンは非常に有効ですがとても痛く、筋注ワクチンの方が好まれるからです。そういう意義はさておき皮膚細菌のいっそうの協力は皮内投与ワクチンをさらに有効にする手立てになりそうです。細菌を後ろ盾とする免疫反応強化で皮内ワクチンの効果を高めうると今回の研究を率いたSmith氏は考えています3)。参考1)Shmeleva EV, et al. PLoS Pathog. 2022 Apr 21;18:e1009854.2)Skin bacteria may boost immune response of mice infected with smallpox vaccine / Eurekalert3)Smallpox Vaccine Recruits Skin Bacteria to Fight Disease / TheScientist

検索結果 合計:2114件 表示位置:761 - 780