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第77回 「もう打たなくていい」は本当か?最新155本の研究が示すコロナワクチンの効果と安全性

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンは、今も打つ意味があるのでしょうか。JAMA誌に発表された最新の系統的レビュー論文は、2025年8月以降に公表された155本の研究を総ざらいし、ワクチンが高齢者・妊婦・乳幼児・持病のある人で入院リスクをおおむね半分に減らし続けていること、そして新たな安全性の懸念は見つからなかったことを報告しました1)。いまも「風邪」で終わらない病気新型コロナは、すでに「ただの風邪」になったと感じている方も多いかもしれません。しかし、米国の2024~25年シーズンだけで、推定1,040万~1,670万例が感染し、29万~45万例が入院、3万4千~5万3千例が亡くなったと報告されています。入院率が最も高いのは75歳以上で、次いで生後6ヵ月未満の赤ちゃんです。そしてコロナ関連死の88.4%は65歳以上に集中しています。つまり「重症化しやすい人」がはっきりしている病気なのです。今回のレビューは、米国の研究チームが2025年8月~2026年6月末に発表された論文1万1,829本から、質の基準を満たした155本を選び、最新の流行に合わせて更新されたワクチンの効果と安全性をまとめたものです。入院リスクは「およそ半分」結果をそれぞれ数字で見てみましょう。ワクチンの有効率(VE)とは、「接種した人が、しなかった人と比べて発症などのリスクをどれだけ減らせたか」を示す割合です。65歳以上の高齢者:2025~26年シーズンのワクチンで、コロナ関連の入院リスクが53.0%低下。集中治療室(ICU)入室に対しては57.0%、人工呼吸や院内死亡に対しては73.0%の減少が報告されています。18〜64歳の成人:入院リスクが54.0%低下(2024~25年シーズン)。妊娠中の接種:妊婦本人の救急外来受診が58.0%減少。さらに生まれてきた赤ちゃんの生後2ヵ月間のコロナ関連の受診も50〜54%減りました。妊娠のどの時期に打っても効果がみられています。生後9ヵ月~4歳の乳幼児:救急外来受診が76.0%減少。免疫能が低下している人(透析患者など):ICU入室や死亡といった重篤な結果が32~53%減少。医療従事者:3~5回接種した人は2回だけの人に比べ、検査で確認された感染が41.0%、いわゆる「コロナ後遺症」も57.0%少なくなっていました。注意すべきは、これらは「感染そのものをゼロにする」数字ではないことです。ワクチンの主な役割は、たとえ感染しても入院や死亡といった深刻な事態を避けることにあり、その効果は「おおむね半分に減らす」と覚えておくとよいでしょう。安全性はどうだったかワクチンの話題になると必ず出てくるのが副反応の懸念です。今回のレビューでは、心筋炎・心膜炎、心筋梗塞、ギラン・バレー症候群、脳卒中、血栓症といった「特に注目すべき有害事象」について、150万例を超える米国退役軍人のデータを含む複数の大規模研究を検証しました。結論は「新たな安全性の懸念は見つからなかった」というものです。心筋炎については、若い男性で2回目接種後にリスクが上がるという報告が以前からあり、米国では2022年2月に接種間隔を延ばす指針の変更が行われています。今回のレビューで心筋炎リスクの上昇を報告した研究は、いずれもこの変更前に接種した人を対象としたもので、変更後に限って調べた研究では新たなリスク上昇は報告されていません。妊婦では、死産、早産、低出生体重児のいずれも増加はみられず、むしろ早産はわずかに少ないという結果でした。インフルエンザワクチンとの同時接種でもリスク上昇は確認されていません。もちろん限界もあります。多くが観察研究であり、接種する人としない人の背景の違いを完全には取り除けません。また、これは米国のデータであり、接種状況や流行が異なる日本にそのまま当てはまるとは限りません。それでも、私たちが知っておきたいのは以下の点です。コロナは今も高齢者や乳幼児にとって重い病気であり、更新されたワクチンは重症化リスクをおおむね半分に減らし、その安全性は膨大なデータで裏付けられ続けている、ということです。とくに65歳以上の方、妊娠中の方、持病で免疫が下がっている方は、秋の流行シーズン前にかかりつけ医と接種について相談する価値があるでしょう。1)Lipson RA, et al. COVID-19 vaccine effectiveness and safety for the 2026-2027 respiratory season. JAMA. 2026 Sep 2. [Epub ahead of print]2)Wiegand RE, et al. Interim estimated effectiveness of 2025-2026 COVID-19 vaccines in adults using a test-negative design. JAMA Netw Open. 2026;9:e2625152.3)Ma KC, et al. Estimated effectiveness of 2024-2025 COVID-19 vaccination against severe COVID-19. JAMA Netw Open. 2026;9:e2557415.4)Eide HN, et al. COVID-19 mRNA vaccination in pregnancy and risk of infection in early childhood. Pediatrics. 2026;157:e2025073661.5)Irving SA, et al. Effectiveness of 2024-2025 COVID-19 vaccines in children in the United States-VISION, August 29, 2024-September 2, 2025. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2025;74:607-614.

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妊娠中のRSVワクチン接種は乳児の入院リスクを低減

 妊娠中のRSV融合前Fタンパク(RSVpreF)ワクチン接種は、生後90日以内の乳児におけるRSV関連入院の予防に有効であるという研究結果が、「JAMA Network Open」に6月5日掲載された。 米ピッツバーグ大学の Anne-Marie Rick 氏らは、RSVpreFワクチン承認後、最初の2シーズンにおいて、生後90日以内の乳児におけるRSV関連の急性呼吸器感染症(ARI)および下気道疾患(LRTD)による入院に対して、妊娠中のRSVpreFワクチン接種がどの程度有効であるかを推定した。解析対象は274人の乳児であった(RSV症例83人、対照191人)。 その結果、RSV症例83人中11人(13.3%)および対照191人中71人(37.2%)がRSVpreF接種歴のある母親から出生していた。ワクチン有効性は、生後0~90日におけるRSV関連ARI入院に対して67.6%、RSV関連LRTD入院に対して69.0%と推定された。生後30日以内では、RSV関連ARI入院に対するワクチン有効性はさらに高く、74.2%であった。 著者らは、「これらの知見は、妊娠中のRSVpreFワクチン接種が、乳児期早期におけるRSV関連入院に対して臨床的保護効果をもたらすことを示している。しかし、ワクチン有効性の推定値を、さらに精緻なものにするためには、継続的なデータ収集が不可欠である」と述べている。なお、複数の著者が、RSVpreFワクチンを製造し本研究に資金提供を行ったファイザー社を含むバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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11月まで要警戒!「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」改訂

 人類の多くが不快に感じる蚊。刺されれば、かゆみや腫れに悩まされる身近な存在である。一方で、蚊はデング熱やチクングニア熱などの感染症を媒介することがあり、ときに人の健康を脅かす「危険な存在」でもある。蚊は15~20℃で活動を始め、25~30℃で最も活発に行動するといわれている。近年は、気候変動などに伴う地球温暖化や残暑の長期化の影響を受け、国内におけるヒトスジシマカなどの生息域や活動期間も拡大しつつある。さらに、訪日外国人の増加などを背景に、海外から持ち込まれた蚊媒介感染症が国内で広がるリスクにも注意が必要である。 こうした状況を踏まえ、厚生労働省は2026年6月26日、『蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針』を改正した。今回の改正では、輸入症例を起点とする国内感染の拡大を想定し、自治体の平時からの備えや研究・監視体制などが強化された。輸入症例を起点とした国内感染に備える 日本では、海外で感染した「輸入症例」を起点に、国内の蚊がウイルスを媒介して感染が広がる可能性がある。そのため今回の改正では、国内に常在していない蚊媒介感染症の発生を想定した「平常時からの備え」の項が新設された。「平常時からの備え」ーーーーー 国は、空港及び海港周辺における海外からの媒介蚊の侵入状況等の調査において、国内に定着していない媒介蚊又は国内に常在しない蚊媒介感染症の病原体を保有する媒介蚊が見つかった場合に備え、平時から措置に必要な殺虫剤等の備蓄を行うものとする。 また、多くの都道府県等において輸入感染症例が発生していることを踏まえ、都道府県等及び市町村は、有効かつ適切な蚊の駆除を達成するため、国内感染症例の発生に着実に備えることが重要である。このため、都道府県等及び市町村においては、必要に応じて、平時からの殺虫剤の備蓄や散布機の整備についても検討するとともに、駆除に当たって事業者に委託する場合は、適切な知識及び技術を有すると判断される事業者を選定し、当該事業者との連携に努めることとする。 また、都道府県等及び市町村は、媒介蚊の密度調査等を実施する場合、当該調査等に従事する者が蚊媒介感染症にかかることを防止するための防蚊対策を徹底するものとする。ーーーーー 上記のとおり、国はこうした感染症を媒介する蚊が発見された場合などに備え、殺虫剤の備蓄をすることが求められ、都道府県や市町村に対しても殺虫剤や散布機の備蓄、駆除を担う事業者の確保などが求められる。また、国内で感染例が確認された場合には、自治体と国が迅速に情報を共有し、感染推定地域での蚊の密度調査や必要な対策を行い、複数の症例などから感染拡大の可能性が高いと判断される場合には、蚊の駆除や区域への立入制限などを行う。 「蚊を増やさない」ための研究、患者には献血制限も 改正では、研究開発に関する内容も拡充された。デング熱とチクングニア熱には現在、国内で承認されたワクチンがなく、ワクチン開発を含む研究の推進が求められている。さらに、媒介蚊の殺虫剤に対する抵抗性を調査した結果を踏まえて薬剤を選択する対策手法の開発、地理情報システム(GIS)や植生図を活用した媒介蚊の分布調査、外来性媒介蚊の早期検出を含めたモニタリングシステムの構築などを活用した発生リスクの把握、海外から侵入する媒介蚊の早期発見などについても、研究・監視体制の強化として盛り込まれた。また、蚊を介した二次感染の防止を図るため、蚊媒介感染症と診断された患者について、治癒後あるいは症状消失後も一定期間は献血を控えることが明記された。 かゆくて不快なだけと思われがちな蚊だが、感染症を媒介することで、個人の健康だけでなく地域への感染拡大にも関わる。「蚊に刺されるのは不快、そして危険」――身近な蚊を感染症対策の観点から捉え直すことも、蚊媒介感染症への備えにつながる。 今後は蚊の活動期間長期化やインバウンドの現状を踏まえ、発熱や皮疹を訴える患者の診察において、常に蚊媒介感染症を鑑別診断に挙げることが求められるようだ。

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第311回 生活保護の頻回受診対策、指定の医療機関以外は原則紹介へ/厚労省

<先週の動き> 1.生活保護の頻回受診対策、指定の医療機関以外は原則紹介へ/厚労省 2.インフルエンザ全国で拡大、8月に流行入り ワクチン前倒しも可能に/厚労省 3.病床数適正化、1床当たり410万円補助 第2回申請は9月30日まで/厚労省 4.精神医療も地域医療構想へ、2028年度末までに策定/厚労省 5.病院建て替え・高額設備投資に支援要望 2027年度税制改正へ提言/日医 6.大学病院による地域病院承継へ 藤田学園と聖霊会が基本合意/愛知県 1.生活保護の頻回受診対策、指定の医療機関以外は原則紹介へ/厚労省厚生労働省は、生活保護受給者が指定された医療機関以外を受診する際、原則として紹介状を必要とする仕組みを検討することが明らかになった。生活保護受給者の過剰な受診を抑え、適正受診につなげる狙いで、2026年内に議論を取りまとめる方針。日本経済新聞の報道によると、現在も生活保護受給者の受診先は福祉事務所が指定しているが、受給者が別の医療機関を希望した場合、その受診が医学的に妥当かどうかを行政が判断することは難しかった。検討案では、日常的に受診する医療機関をあらかじめ定め、別の医療機関を受診する場合には、原則として日常的に受診する医療機関からの紹介を求める。受診先の選択に医師の判断を取り入れることで、頻回受診や重複受診の抑制と、継続的な健康管理の両立を図る。生活保護の医療扶助を巡っては、国会でも適正化を求める議論が続いている。6月の参院厚生労働委員会では、日本維新の会の猪瀬 直樹氏が、自己負担がないことが頻回受診や多剤・重複投薬につながっていると指摘し、制度の見直しを要求。生活保護受給者にも定額または定率の自己負担を求める案を示した。厚労省は自己負担導入には慎重な一方で、受診ルールや医療機関との連携を通じた適正化を進める方向だ。生活保護受給者は約200万人で、その半数以上が65歳以上。2024年度の医療扶助費は1兆8,600億円に上り、生活保護費全体の約半分を占めている。また、同じ病気で同一月に同一診療科を15日以上受診し、医師らが必要以上と判断した頻回受診者は9,371人だった。今後は、必要な医療へのアクセスを確保しつつ、紹介機能やかかりつけ医機能を活用して受診行動をどこまで適正化できるかが焦点となる。 参考 1) 生活保護の受給者、指定の受診先以外なら原則紹介必須に厚労省検討(日経新聞) 2) 医療費「生活保護受給者に自己負担を」維新・猪瀬氏上野厚労相「必要な受診抑制」と慎重(産経新聞) 3) 厚生労働省が「生活保護」最新調査結果を発表、2世帯に1世帯が高齢者世帯に。生活保護の「受給条件・保護費の決まり方・医療費の仕組み」を解説(LIMO) 2.インフルエンザ全国で拡大、8月に流行入り ワクチン前倒しも可能に/厚労省厚生労働省は、インフルエンザが例年より大幅に早く全国的な流行期に入ったとして警戒を呼びかけている。8月17~23日の定点医療機関当たり報告数は1.11人となり、流行開始の目安である1.00人を超えた。全国約3,000の定点医療機関からの報告患者数は4,094人で、前年同期の1,183人を大きく上回った。前シーズンからの流行が継続していた2023年を除外すると、1999年の現行統計開始以降で2009年に次ぐ2番目の早さとなっている。さらに8月24~30日は1.76人、患者数6,543人と前週の約1.6倍に増え、39都道府県で前週を上回った。地域別では沖縄県8.50人、岩手県4.33人、新潟県3.58人、神奈川県2.99人、青森県2.88人などで高く、局地的な夏季流行ではなく全国的な広がりがみられる。愛知県も1.10人で流行入りを発表し、前年より約1ヵ月半早い。京都府は2.26人、宮城県は2.44人で、学校では学級・学年閉鎖も相次いでいる。宮城県では0~14歳が患者の半数超を占め、夏休み明けの学校再開後の感染拡大が懸念されている。早期流行の原因は現時点で明らかではない。南半球など海外からのウイルス流入、冷房下の密閉空間、夏季にはインフルエンザを疑いにくく感染が見逃されやすいことなどが可能性として指摘されている。流行株についても現時点では確定しておらず、今後の全国的な病原体解析が必要となる。厚労省は、一時的に定点当たり1.00人を下回る可能性はあるものの、過去には一度流行入りすると冬のピークへ向かう例が多いとして推移を注視している。異例の流行を受け、厚労省は65歳以上と一定の基礎疾患がある60~64歳を対象とする定期接種について、自治体の判断で例年より繰り上げて実施するのは法令上可能である旨を周知した。9月中には今季供給見込みの6割超にあたる約3,147万回分が出荷される見通し。今季ワクチンはA型2種類、B型1種類の3価で、ワクチンの主目的は重症化予防。高齢者や基礎疾患患者などハイリスク層への接種が重要となる。医療機関では、発熱患者の増加を前提とした診療体制の確認に加え、手洗い、マスク、換気など基本的な感染対策の徹底が求められる。今季は冬の本格流行前から患者増加が始まっており、ワクチン接種時期や院内感染対策を例年の感覚で判断せず、早めに備える必要がある。 参考 1) インフルエンザ患者数 前週比1.6倍に増加“基本的な対策を”(NHK) 2) インフル、夏に異例の早さで全国流行入り 厚労省が警戒呼びかけ(Science Portal) 3) インフルエンザ予防接種「前倒し可能」 厚労省が自治体に周知(日経新聞) 3.病床数適正化、1床当たり410万円補助 第2回申請は9月30日まで/厚労省厚生労働省は9月1日、「病床数適正化緊急支援事業」の今後のスケジュールを示し、第2回の医療機関から都道府県への申請期限を9月30日とした。第3回は11月30日を予定しているが、申請状況や予算の状況によっては実施しない可能性があるとしており、活用を検討している医療機関は早めの対応が求められる。都道府県から厚労省への提出期限は、第2回が10月30日、第3回が12月28日。同事業は、2025年度補正予算で3,490億円を確保し、人口減少や医療需要の変化を踏まえて病床数の適正化を進める医療機関を支援するもの。病院の一般病床、療養病床、精神病床や有床診療所を対象に、削減する病床1床当たり410万4,000円を補助し、休床病床を削減する場合は半額の205万2,000円とする。第2回までの申請が多く、予算が枯渇すれば第3回目は行われない可能性もある。その一方で、厚労省は病床削減については参院の附帯決議などを踏まえ、「医療費削減ありき、数字ありき」で進めるものではないことを改めて強調している。各地域の医療の質の確保を前提に、人口減少に応じた合理的な病床数削減という考え方の下、地域の実情や医療提供体制への影響を十分に精査するよう求めている。さらに、医療機関の連携・再編・集約化を進める際にも、地域の医療ニーズを踏まえた対応が必要としている。また、制度に基づいて病床を削減した場合、厚生労働省令で定める場合を除き、都道府県は医療計画上の基準病床数を削減することになる。病床削減は個々の医療機関の経営改善だけでなく、地域全体の病床機能や将来の医療提供体制にも影響するため、地域医療構想との整合性を含めた慎重な判断が必要だ。病床再編を予定する医療機関は、第3回を待たず、第2回期限の9月30日を念頭に都道府県との調整を進める必要がある。 参考 1) 病床数適正化緊急支援事業の今後のスケジュールについて(厚労省) 2) 「削減病床1床あたり410万4000円」補助する病床適正化支援、2回目受付は「2026年9月30日まで」、3回目は実施しない可能性も(Gem Med) 4.精神医療も地域医療構想へ、2028年度末までに策定/厚労省厚生労働省は9月2日、2040年ごろを見据えた新たな地域医療構想に精神医療を位置付けるため、「精神医療に関する地域医療構想検討ワーキンググループ」の初会合を開いた。精神医療を含む地域医療構想の策定ガイドラインは2026年度末をめどに作成し、都道府県はこれを踏まえて2028年度末までに新たな構想を策定する。なお、一般医科の医療機関機能報告は2026年10月であるが、精神科医療機関を対象とした医療機関機能・病床機能の報告は2027年10月に始まる予定となっている。新たな地域医療構想に精神医療が位置付けられたのは、2025年12月の改正医療法成立を受けたもの。同ワーキンググループでは、精神医療の構想区域の設定、精神科病院の医療機関機能報告、必要病床数の推計方法などを議論し、2026年度内に結論を得る方針。背景には、高齢化に伴う身体合併症を持つ精神疾患患者の増加や、入院患者の年齢構成・疾病構造の変化がある。厚労省は精神科医療機関の対応力向上に加え、一般医療との連携強化を進め、精神症状を早期に安定させる体制や身体疾患を含めた診療体制の構築を目指す。また、病床や医療機関の役割を明確にし、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築も加速させる。初会合では「精神・身体合併症診療機能」の設定を求める意見が出たほか、一般医療の構想区域との整合性を重視すべきとの指摘もあった。その一方で、精神科病院や精神病床のない二次医療圏もあるため、複数の医療圏を一体として扱うなど柔軟な区域設定を求める声も出た。精神医療でも今後、単なる病床数の調整にとどまらず、急性期対応、身体合併症診療、外来・在宅支援、一般医療との連携を含めた地域での役割分担がより明確に求められることになる。人口減少に伴う患者数や病床利用率の変化も見据え、各精神科医療機関には、自院が地域で担う機能を早い段階から整理しておくことが重要となる 参考 1) 第1回精神医療に関する地域医療構想検討ワーキンググループ(厚労省) 2) 精神医療含む地域医療構想、28年度末までに策定へ ガイドラインは26年度末 厚労省(CB news) 3) 精神医療を含めた地域医療構想策定ガイドラインは今年度末に。精神医療を含めた医療機関機能報告は令和9年10月から(route “hckn”) 5.病院建て替え・高額設備投資に支援要望 2027年度税制改正へ提言/日医日本医師会は9月3日、2027年度の「医療に関する税制要望」を公表した。今回の要望では、病院の建て替えや高額設備投資に伴う消費税負担への「特段の対応」を新たに盛り込み、税制措置だけでなく補助金や融資など予算措置と一体で支援するよう求めている。要望は8月24日に厚生労働省へ提出された。現在、社会保険診療は消費税非課税のため、病院が建物や医療機器を購入した際の消費税は仕入税額控除の対象とならず、医療機関が負担する仕組みとなっている。日医は、とくに大規模な建て替えや設備投資では一時的な消費税負担がキャッシュフローを悪化させ、病院経営を圧迫すると指摘。診療所においては非課税のまま診療報酬上の補てんを継続しつつ、病院においては軽減税率による課税取引に改めることを求め、それまでの間、高額投資に別途支援措置を講じるよう要望している。設備投資関連では、地域医療構想に適合する病院建物の特別償却制度について、税額控除の導入や特別償却率の引き上げに加え、新たに病院・診療所用建物(鉄骨鉄筋コンクリート造など)の法定耐用年数について、現行の39年から31年へ短縮するよう求めた。高額医療機器についても、対象となる取得価額を160万円まで引き下げ、即時償却または10%の税額控除を選択できる制度への拡充を要望している。さらに、医療DXに伴う電子カルテや医療情報システムなどへの投資について、即時償却または10%の税額控除、固定資産税の軽減措置の創設を要求。働き方改革では勤務時間短縮用設備の税制優遇拡充、医師不足地域では医療従事者の所得税軽減なども盛り込んだ。日医は、物価や人件費、建築費が上昇する中、税制だけでは医療機関の投資余力を確保できないとしており、年末の与党税制改正大綱に向け政府・与党への働きかけを強める方針。 参考 1) 令和9年度医療に関する税制要望(日本医師会) 2) 令和9年度医療に関する税制要望について-今村英仁常任理事(同公式チャンネル)【動画】 3) 病院の高額投資に伴う消費税対応を要望 税制と予算セットで日医(CB news) 6.大学病院による地域病院承継へ 藤田学園と聖霊会が基本合意/愛知県愛知県の学校法人藤田学園と社会福祉法人聖霊会は、名古屋市昭和区の聖霊病院(194床、22診療科)の事業を藤田学園が承継することで8月31日に基本合意した。名古屋市の許認可など必要な手続きを経て、2027年4月1日の運営移行を目指す。病床数や診療科は原則維持し、訪問看護ステーションも引き継ぐ。残留を希望する職員は継続雇用する方針で、患者への診療提供を途切れさせずに経営基盤を強化する狙い。聖霊病院は1945年開院。内科、整形外科、精神科、緩和ケア科などを備え、初期医療から終末期医療まで担ってきた。約20年前の建て替えなどに伴う負債が2026年8月時点で約16億円残り、物価高や医療機器などへの投資負担、人材確保の難しさも重なって、自力での経営改善が困難となっていた。数年前から承継先を探し、緩和ケアやリハビリなど両法人の重点分野が重なることから協議が進んだ。藤田学園は藤田医科大学病院など複数の病院を運営し、グループ全体で計2,364床を有する。今回の承継は、地域医療再編の波が都市部にも及んでいることを示しており、厚生労働省の調査では、2024年度の一般病院の損益率はマイナス7.3%で、赤字施設は約7割。帝国データバンクによると、2026年上半期の医療機関倒産は39件と前年同期を上回った。物価・人件費の上昇、設備投資負担、医師・看護師不足が重なる中、中小病院単独での経営維持は難しさを増している。国も地域医療連携推進法人や病床削減支援などを通じ、病院間の連携・再編や経営効率化を後押ししている。藤田学園は愛知県内で地域医療連携推進法人の運営にも関わっており、今回の承継では大学病院グループの経営基盤と人材供給力を生かし、地域の診療機能を維持する考えだ。今後、都市部でも地域病院が大学病院や大規模医療法人の傘下・連携下に入る事例が増える可能性がある。 参考 1) 社会福祉法人聖霊会聖霊病院並びに聖霊病院訪問看護ステーションの事業承継について(聖霊病院) 2) 藤田学園 名古屋の聖霊病院を承継へ…基本合意 来年4月の移行目指す(読売新聞) 3) 名古屋 聖霊病院 藤田学園が運営引き継ぐ 経営基盤の改善へ(NHK) 4) 名古屋市昭和区の聖霊病院の事業、藤田学園が承継へ診療体制は維持(中日新聞)

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若年婦人科がん40年にわたる死亡率・罹患率の変化(NORDCANレジストリ)

 北欧諸国における若年(0~49歳)の婦人科がん患者を対象とした国際コホート研究の結果、子宮体がん、卵巣がん、子宮頸がんそれぞれ独自の動向が示された。 本研究は、スウェーデン・カロリンスカ研究所のCharlotta Riese氏ら(PredictAYAコンソーシアム)によるものであり、Gynecologic Oncology誌オンライン版2026年8月19日号で発表されている。 子宮体がん、卵巣がん、子宮頸がんは中高年女性に多くみられるが、若年女性においては特有の危険因子(肥満、経口避妊薬の使用、HPV感染など)や臨床的特徴を持つため経時変化が異なる可能性がある。しかし、若年層に焦点を当てた長期的な疫学動向は十分に解明されていなかった。婦人科がん3種の40年にわたる後方視的研究 Riese氏らは、NORDCANレジストリデータを用い、これらのがんの若年女性患者における長期的な罹患率、死亡率、生存率の推移を評価する国際共同後方視的コホート研究を行った。 対象は1980~2023年の間に北欧諸国(デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド)で診断された0~49歳の子宮体がん(7,581例)、卵巣がん(1万3,914例)、子宮頸がん(3万1,117例)患者。評価項目は年齢調整罹患率、年齢調整死亡率、5年相対生存率(RS)などであった。子宮体がん 若年女性の子宮体がん発症率は、1980~82年の10万人年当たり2.3から2022~23年には1.9へ減少した(17.4%減)。しかし、1998~2000年と2021~23年を比べると、1.4から1.9へと増加している(36%増)。 死亡率は同0.2以下で安定しており、5年RSは90~95%と高水準を維持していた。卵巣がん 若年女性の卵巣がん発症率は、調査期間(1980~2023年)において低下し、1980~82年の10万人年当たり4.2から2022~23年には2.1となった(50%減)。 死亡率も10万人年当たり1.6から0.4へと減少した(75%減)。5年RSは48~64%(1979~83年)から68~81%(2019~23年)へと大幅に改善した。子宮頸がん 若年女性の子宮頸がん発症率は、1980~82年の10万人年当たり6.5から2013~15年に6.7まで上昇。その後低下し2022~23年では5.5となった(1980~82年比15%減)。 死亡率は10万人年当たり1.5から0.5へと減少した(67%減)。5年RSは77~83%から89~93%へと改善した。 同研究により、若年女性における婦人科がんは、がん種ごとに異なる傾向を示すことが明らかになった。とくに子宮体がんの近年の増加は肥満の増加と関連している可能性が示唆される。筆者らはこれらの結果から、肥満予防、子宮頸がんスクリーニングの適正化、HPVワクチン接種の継続的な実施など、若年層をターゲットとした予防戦略の重要性が示唆されるとしている。

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ブンディブギョ型エボラ出血熱に承認済みワクチンは有効か?/Lancet

 米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のMegan Halbrook氏らは、ブンディブギョ型エボラウイルス(BDBV)によるエボラウイルス病の過去最大の流行(2026 outbreak)が続いているコンゴ(旧ザイール)における縦断的コホート研究の結果、エボラウイルス(EBOV)によるエボラウイルス病に対して承認されている組み換え水疱性口内炎ウイルス-ザイールエボラウイルス糖タンパク質(rVSVΔG-ZEBOV-GP)ワクチンは、BDBVに対して交差反応性抗体反応を示したことを報告した。ただし、地域によってその反応性は異なっていた。BDBVによるエボラウイルス病に対して承認されたワクチンは存在しない。これまでに、rVSVΔG-ZEBOV-GPワクチン接種後にBDBVに対する交差反応性抗体反応が生じることはヒトにおいて示されているが、BDBV流行中に同ワクチン接種を受けた集団における反応の持続性や経時的な動態は不明であった。著者らは、「血清反応性に地域による違いがみられたことから、関連する疫学的および免疫学的要因についてさらなる研究が必要である。今回の知見は、現在のBDBV流行地の居住集団における、承認済みエボラウイルス病ワクチン接種後のBDBV血清反応性を明らかにした初めてのデータであり、本流行中にrVSVΔG-ZEBOV-GPワクチンの厳密な臨床評価を行うことを支持するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2026年8月25日号掲載の報告。接種後5年間のBDBV糖タンパク質に対する血清反応性を調査 研究グループは、赤道州のムバンダカおよび北キブ州のベニにおいて、エボラウイルス病流行により導入されたWHOのリングワクチン接種プロトコールに基づきrVSVΔG-ZEBOV-GPワクチン接種を受けた1歳以上で、エボラウイルス病の確定診断を受けた者、エボラウイルス病患者の接触者またはその2次接触者、およびエボラウイルス病の流行地域における医療従事者または最前線で働く人々を登録した。血清検体を採取して汎フィロウイルス・マルチプレックス免疫測定法を用いて抗体反応性を評価した。 登録は、ムバンダカでは2018年6月2日~7月3日、ベニでは2018年8月15~29日のワクチン接種当日に行われた。 両コホートとも5年間追跡調査し、この間に参加者は、あらかじめ設けられた7回のデータ収集期間に研究者による診察と簡単な身体検査および採血を受けた。 全検体の血清学的検査には汎フィロウイルス・マルチプレックス免疫測定法を用い、EBOVおよびBDBV糖タンパク質に対する血清反応性(蛍光強度中央値から算出した相対平均抗体価[MFI])の経時的推移を評価した。BDBV糖タンパク質に対する交差反応性抗体反応あり 2018年6月2日~2023年12月14日の5年間の追跡調査において、計1,081例から得られた血清検体5,849件を分析した(ムバンダカ:482例2,552件、ベニ:599例3,297件)。参加者は男性715例(66%)、女性366例(34%)、大半は19~55歳で、6歳未満は登録されておらず、各コホートの3分の1は医療従事者であった。 BDBV糖タンパク質に対する血清反応性は、コホート間で著しい差が認められた。 ムバンダカコホート(482例)では、ベースラインで16例(3%)がBDBV糖タンパク質に、139例(29%)がEBOV糖タンパク質に対して血清反応性を示した。 rVSVΔG-ZEBOV-GPワクチン接種後、BDBV糖タンパク質に対するMFIは、ワクチン接種後2.5年時まで変化はなかったが、2.5年時の1,238(SD 1,599)から3.5年時には4,845(SD 5,881)に有意に増加し(p<0.0001)、329例中116例(35%)がカットオフ基準に基づき血清反応性が認められた。その後は、4.2年時および5年時と有意に低下した(それぞれ、3.5年時および4.2年時との比較)。 一方、ベニコホート(599例)では、ベースラインで62例(10%)がBDBV糖タンパク質に、23例(4%)がEBOV糖タンパク質に対して血清反応性を示した。 BDBV糖タンパク質に対するMFIは、ベースラインの1,653(SD 111)から、同ワクチン接種後21日時には6,678(SD 300)に急激に増加し(p<0.0001)、52%(283/541例)が血清反応性を示した。6ヵ月時も同様に抗体価は高く(MFI:6,852[SD 6,560])、54%(270/501例)が血清反応性を示した。その後は抗体価の低下がみられたものの、BDBV糖タンパク質ならびにEBOV糖タンパク質に対する抗体価は、ワクチン接種後5年間にわたりベースライン値を上回る水準を維持していた。

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第310回 インフル異例の早期流行 新型コロナも増加、同時流行に注意/厚労省

<先週の動き> 1.インフル異例の早期流行 新型コロナも増加、同時流行に注意/厚労省 2.OTC類似薬77成分に25%の特別負担 がん・難病患者への配慮を/患者団体 3.医療費5年連続最高、49.2兆円に 75歳以上が4割、介護費も12兆円に/厚労省 4.来年度の概算要求、過去最大36兆5,803億円 医療DXに約930億円/厚労省 5.医療DX工程表を提示 28年度に200床以上病院の電子カルテほぼ100%へ/厚労省 6.「9月の給与払えない」公立病院の資金繰り危機が表面化/日野市 1.インフル異例の早期流行 新型コロナも増加、同時流行に注意/厚労省厚生労働省は8月28日、インフルエンザが全国的な流行シーズンに入ったと発表した。8月17~23日の第34週に全国約3,000ヵ所の定点医療機関から報告された患者数は4,094人、定点当たり1.11人となり、流行開始の目安である1.00人を上回った。感染症法施行後の1999年以降では、前年から流行が継続していた2023年を除き、2009年に次いで2番目に早い流行入りで、昨年の第39週より5週早い。全国の定点当たり報告数は第30週0.24人、第31週0.37人、第32週0.52人、第33週0.69人、第34週1.11人と、7月下旬以降増加が加速している。都道府県別では沖縄県4.43人が最多で、岩手県2.10人、青森県2.08人、神奈川県1.99人、埼玉県1.83人、千葉県1.80人などで高かった。東京都は1.49人で、患者の5割弱を10歳未満、8割弱を20歳未満が占めており、夏休み明けの学校・家庭内での感染拡大が懸念される。その一方で、愛知県は0.74人と現時点では流行開始目安を下回っている。厚労省の資料によると、第34週には全国約500ヵ所の基幹定点からインフルエンザによる入院患者167人が報告され、うちICU入室9人、人工呼吸器使用5人だった。高齢者や基礎疾患のある人では重症化リスクが高く、医療機関受診時や高齢者施設訪問時などにはマスク着用が推奨される。手洗い、咳エチケットなど基本的感染対策も重要となる。インフルエンザワクチンには発症抑制および重症化予防の効果があり、とくに高齢者や基礎疾患保有者への接種が重要とされる。定期接種の対象は(1)65歳以上の高齢者、(2)60~64歳で心臓・腎臓・呼吸器の機能障害やHIVによる免疫機能障害など(日常生活が極度に制限される障害)を有する者であり、新型コロナワクチンとの同日接種も可能である。 専門家は10月以降の速やかなワクチン接種を推奨している。また、新型コロナも同週に定点当たり1.18人と前週(1.12人)から増加傾向にあり、医療機関においては例年より早いインフルエンザ対応と重複流行への備えが求められる。 参考 1) インフルエンザの発生状況をお知らせいたします(厚労省) 2) インフルエンザ、全国で流行入り 2009年に次ぎ2番目の早さ(産経新聞) 3) インフルエンザが流行入り、1999年以降で2番目に早く・沖縄が最多…専門家「ワクチンを受けにいって」(読売新聞) 4) 昨年より5週早く、インフル流行開始目安到達東京都(CB news) 2.OTC類似薬77成分に25%の特別負担 がん・難病患者への配慮を/患者団体2027年3月から、OTC医薬品と同一成分などの医療用医薬品「OTC類似薬」について、患者に薬剤費の25%を特別料金として求める一部保険外療養制度が始まる。対象は2026年8月時点で77成分1,042品目(解熱鎮痛薬ロキソプロフェン、抗アレルギー薬フェキソフェナジン、保湿剤ヘパリン類似物質など)。残る75%部分には従来通り保険給付と自己負担が適用される。中間とりまとめでは、がん患者、指定難病患者、公費負担医療の対象者、入院患者、一定の長期使用などは条件付きで特別負担の対象外とする方針。ただし、がん治療終了後の短期・中期使用は扱いが曖昧で、患者団体から見直しを求める声が出ている。全国がん患者団体連合会は、乳房切除後疼痛症候群、リンパ浮腫に伴う疼痛、薬物療法後の関節痛や末梢神経障害、皮膚障害など、治療終了後にも鎮痛薬や外用薬、保湿剤などが必要となるケースを提示した。とくに問題となるのが「年間おおむね50週以上」とされる長期使用の判定である。同じ病態でも頓用・間欠投与となる患者では基準を満たさず、追加負担となる可能性がある。また、皮膚科や整形外科、かかりつけ医など、がん診療医以外が処方する場合に「がん治療との関連性」を判断しにくい点も指摘されているほか、処方時点で将来の使用期間を予測することも困難である。小児がん経験者は、治療終了後も内分泌障害や神経障害、心腎機能障害などの晩期合併症を長期間抱え、頓用薬を生涯使用する例もある。患者団体は、50週という期間だけでなく、治療歴、臓器機能、医師管理下での使用、代替可能性などを総合的に判断するよう求めている。厚労省は9月中に対象外となる患者の範囲などを取りまとめる予定。医療現場では、対象判定に加え、患者説明、処方箋・レセプト対応、システム改修も必要となるため、実務上分かりやすい基準作りが求められる。 参考 1) OTC類似薬の保険給付の見直しの実施について(厚労省) 2) OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ(同) 3) 全国がん患者団体連合会提出資料(同) 4) 対象外の範囲設定で「柔軟運用」求める声 医療保険部会 OTC類似薬の一部保険外療養巡る議論で(CB news) 5) 「OTC類似薬を使用する場合、患者特別負担がいくらになるのか」の具体例提示し、国民の不安を軽減せよ-社保審・医療保険部会(Gem Med) 3.医療費5年連続最高、49.2兆円に 75歳以上が4割、介護費も12兆円に/厚労省厚生労働省は、2025年度の概算医療費(速報値)が前年度比2.6%増の49兆2,000億円となり、5年連続で過去最高を更新したと発表した。受診延べ日数は0.7%減少した一方で、医療技術の高度化や抗がん剤など高額薬剤の使用増加が医療費を押し上げた。増加率2.6%の内訳は、医療技術の高度化など「それ以外の影響」が2.9%増、高齢化の影響が0.6%増、人口増の影響が0.5%減、診療報酬改定などの影響が0.39%減となった。診療種類別では、入院が2.3%増、入院外が1.6%増、歯科が3.5%増、調剤が3.9%増。歯科では貴金属価格上昇(歯科用貴金属医療費が10.1%増)、調剤では腫瘍用薬やホルモン剤などの使用増が影響した。年齢別では、75歳以上の医療費が20兆3,000億円(3.9%増)で全体の41.3%を占め、1人当たり医療費は98万9,000円と、75歳未満(26兆5,000億円、1人当たり26万1,000円)の3.8倍に達した。その一方で、2024年度の介護費は、高額介護サービス費などを含め12兆952億円となり、前年度比3.2%増加した。介護保険制度開始時の2000年度と比べると3.3倍の規模で、要介護・要支援認定者は720万7,000人に達した。介護給付費は居宅サービス3.4%増、地域密着型2.6%増、施設3.6%増となり、施設サービスの伸びも目立った。第1号被保険者の認定率は19.7%で、都道府県別では大阪府24.3%、茨城県16.5%と1.47倍の差がある。1人当たり介護給付費も29万6,300円と3.5%増えた。団塊世代が全員75歳以上となり、今後は85歳以上人口の比率上昇と現役世代の減少が同時に進む。医療・介護の複合ニーズが増す中、サービス確保や人材確保、質の向上に加え、給付の効率化と地域差の検証など、制度の持続可能性をどう確保するかが一段と重要になる。2027年度には介護報酬改定も予定されており、増大する需要と担い手不足をどう両立させるかが焦点となる。 参考 1) 医科医療費(電算処理分)の動向 ~令和7年度版~(厚労省) 2) 医療費総額49.2兆円、5年連続で過去最高を更新…高齢化・医療技術の高度化など要因(読売新聞) 3) 25年度の概算医療費、2.6%増49.2兆円 医療高度化で増加(日経新聞) 4) 2024年度の介護費、高額介護サービス費など含めれば12兆952億円で、前年度から3.2%の増加-介護保険事業状況報告(Gem Med) 4.来年度の概算要求、過去最大36兆5,803億円 医療DXに約930億円/厚労省厚生労働省は2027年度予算の概算要求として、2026年度当初予算比1兆5,370億円増の36兆5,803億円を計上した。要求段階では過去最大で、このうち年金・医療などの社会保障関係費は33兆6,872億円。高齢化などによる自然増として3,397億円を見込む。今回の特徴は、要求上限のない「『強く豊かな日本』投資枠」に1兆337億円を計上した点である。重点分野として、創薬・先端医療分野に約1,969億円(うち創薬スタートアップ支援・人材育成に355億円、治験・臨床試験体制強化に155億円、AI創薬環境整備に541億円)、感染症危機対応医薬品等の確保支援に2,129億円を要求した。医療DXの推進には934億円を要求し、標準仕様準拠の認証電子カルテの普及支援(604億円)やクラウドネイティブ化、全国的なデータ連携基盤整備を進める。さらに医療機関のサイバーセキュリティ対策や、医療・福祉分野におけるAI・ICTを活用した生産性向上・データ共有推進(829億円)などを盛り込んだ。その一方で、医療機関にとって最大の焦点となる物価・人件費高騰への対応は、診療報酬上の加算を含め金額を示さない「事項要求」とされた。2027年度の介護・障害福祉報酬改定も同様で、具体額は年末の予算編成で決まる。前年度の概算要求でも、物価高など重要政策は予算編成過程で検討する仕組みが示されており、病院経営が厳しさを増す中、年末にどこまで実効性ある財政支援が盛り込まれるかが注目される。 参考 1) 厚労省予算要求、最大の36兆円 創薬強化や福祉人材確保(共同通信) 2) 厚生労働省 概算要求で過去最大の36兆5,803億円を計上(NHK) 3) 厚労省概算要求、過去最大の36兆5千億円 投資枠で創薬力強化(朝日新聞) 4) 厚労省の概算要求は過去最大の33兆7,929億円に-『強く豊かな日本』投資枠に1兆337億円(日本医事新報) 5.医療DX工程表を提示 28年度に200床以上病院の電子カルテほぼ100%へ/厚労省厚生労働省は8月27日の社会保障審議会医療部会・医療保険部会を開き、医療DXの今後の工程を示す「医療情報化推進方針(案)」と電子カルテ情報共有サービスの進捗を報告した。第1期の対象期間は2026年10月1日~2030年3月31日までの3年半で、9月末までに厚生労働大臣が官報告示する予定。社会保険診療報酬支払基金は10月1日に「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(DX審査支払機構)」へ改組され、同方針に基づく中期計画を策定する予定。電子カルテ情報共有サービスは現在、全国10地域でモデル事業を実施中で、2026年度冬をめどに全国運用を開始する。共有対象はまず診療情報提供書、退院時サマリ、健診結果報告書の3文書と、傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査、処方の6情報。モデル事業では、感染症情報を患者への説明前に共有する場合の扱いや、院内コードと共有用コードの対応などの課題を検証している。運用開始時には、全国721の地域医療支援病院を対象に、電子診療録等情報の提供・利用体制の整備を努力義務とする方針であり、冬までに省令で規定する。運用開始後は普及状況を踏まえて対象を拡大する考えで、医療部会では特定機能病院や災害拠点病院、救急病院などへの拡大を求める意見も出された。厚労省の資料でも、まず地域医療支援病院を指定し、その後、普及計画の効果を見ながら努力義務の対象拡大を検討するとしている。同時に電子カルテ自体の普及も加速する。2027年度から共有サービスなどに対応する「認証クラウドネイティブ型電子カルテ」および「標準型電子カルテ(導入版)」の導入を進め、2028年度までに療養病床等が中心の病院を除く200床以上病院で普及率約100%、2030年末までに全医療機関で普及率約100%を目指す。オンプレミス型からクラウド型への移行により、業務効率化、セキュリティ強化、データの二次利用を含めた共有を推進する。医療・介護情報の連携も段階的に拡大する。2026年度から介護情報基盤を標準化対応済み自治体から順次開始し、2028年度をめどに全自治体へ広げる。あわせて2028年度には医科・DPC向け共通算定モジュールの請求支援機能や労災版モジュールの運用開始、電子カルテ情報を創薬等に二次利用するデータベースの運用開始を目指す。電子カルテ情報共有サービスでは2027年度に訪問看護指示書・計画書・報告書等を共有対象に加え、2029年度には歯科情報にも拡大する予定である。その一方で、医療部会では電子カルテの新規導入・更新費、クラウド利用時の通信費、停電や回線断絶時の事業継続性などへの懸念が相次いだ。厚労省は2027年度予算概算要求で、新規導入だけでなく更新・買い替えも含む支援を盛り込む方針。医療DXは構想段階から全国実装へ移りつつあり、医療機関には今後数年間で、システム更新時期や費用、地域連携、災害・サイバー対策を一体的に見据えた対応が求められる。 参考 1) 医療情報化推進方針案等について(厚労省) 2) 医療DXの進捗状況等について(同) 3) 2028年度までに療養除く200床以上病院で、30年度までに全医療機関で「電子カルテ導入率100%」を目指す-社保審・医療部会等(Gem Med) 4) 電子カルテ情報共有、地域医療支援病院に努力義務運用開始後に対象拡大検討 厚労省方針(CB news) 6.「9月の給与払えない」公立病院の資金繰り危機が表面化/日野市東京都日野市は、市立病院で9月の給与支払いに必要な資金が不足するとして、緊急に1億円を貸し付ける。医師、看護師ら約700人の給与は約2億7,000万円。9月の5連休で給与支給が18日に前倒しされる一方で、診療収入の入金は24日となるため、一時的に資金がショートする見通しとなった。ただし、朝日新聞の報道で原因とされている連休は直接のきっかけにすぎず、背景には長年の経営悪化がある。日野市立病院は300床の地域医療支援病院で、二次救急、周産期、災害・感染症医療などを担う。2023年策定の経営強化プランでは、病床利用率を高めて経常黒字化を目指していた。しかし、2026年5月の経営再建支援報告書によると、コロナ禍では補助金により黒字を維持したものの、補助金終了と人件費増で2023年度の経常利益率はマイナス15.2%、2024年度はマイナス18.6%、約14億円の赤字に悪化した。医業収支の赤字も約17億7,200万円で、同規模病院と比べ下位4分の1を下回る水準だった。収益面では、2024年度の病床稼働率は62.0%、DPC症例の1日単価は5万8,453円。黒字化には、単価を維持したままなら稼働率89.5%、稼働率を維持するなら1日単価8万4,401円が必要と試算され、現状との差は大きい。救急応需率も2024年度55.2%にとどまり、東京消防庁からの搬送要請を約半分断っていた。さらに、2024年度の経常収益約77億円に対し、損益分岐点は約90億円で、黒字化には約13億円の増収が必要とされた。赤字の積み重ねで手元資金が細り、市は昨年度10億円を貸し付け、今年度も別途10億円を支援する方針だった。そこへ入出金の6日間のずれが重なり、追加融資が必要となった。今回の事例は、低い病床稼働率(62.0%)、低水準の救急応需率、診療単価の低迷と高い固定費により、短期の資金ギャップを吸収できない財務体質に陥っていた結果といえる。日野市立病院は2026年4月に地方公営企業法「全部適用」へ移行して経営強化を進めていたが、全国自治体病院協議会の2025年度決算調査でも自治体病院の84%(有効回答494病院中)が経常赤字に陥っている実態が示されており、公立病院の経営難が決算上の赤字にとどまらず、日々の運転資金や給与支払いに直結する危機的局面を迎えていることを示している。 参考 1) 日野市立病院経営強化プラン(日野市立病院) 2) 令和7年度日野市立病院 経営再建支援業務委託報告書(日野市) 3) 日野市立病院「9月の給与払えない」財政難に連休も影響、市が支援へ(朝日新聞)

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2~5歳児にインフルワクチンが有効、米国では秋生まれに感染が少ない

 2~5歳児において、秋生まれの小児はインフルエンザワクチンの接種を受ける可能性が高く、インフルエンザと診断される可能性が低いという研究結果が、「JAMA Pediatrics」に6月1日掲載された。 米マサチューセッツ総合病院のChristopher M. Worsham氏らは、2016~2023年の各インフルエンザシーズンについて、秋生まれと夏生まれの2~5歳児におけるインフルエンザワクチン接種の有効性を検討した。 その結果、対象となった各インフルエンザシーズンにおいて、秋生まれの小児はインフルエンザワクチンの接種を受ける可能性が高く、インフルエンザと診断される可能性が低いことが分かった。秋生まれの小児では夏生まれの小児に比べて、インフルエンザワクチン接種率がシーズンにより絶対値で8.6~12.5パーセントポイント高く、インフルエンザ診断率は1.0~1.4パーセントポイント低かった。インフルエンザ以外のウイルス感染症の診断率に差は認められなかった。誕生日の時期の健診をきっかけにワクチン接種を受けた小児100人当たり、インフルエンザの診断例はシーズンにより9~14例少なかった。 上席著者で米ハーバード大学医学大学院のAnupam B. Jena氏は、「知りたいこと、理解したいことの全てについてランダム化比較試験を行うことは不可能である。しかし、世の中には膨大なデータがあり、今回のようなランダム化比較試験に近い状況がそのデータの中に埋もれ、発見されるのを待っている」と述べている。 なお、1人の著者がヘルスケア関連企業との、2人の著者が出版・メディア関連企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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第327回 実直でユーモア溢れるタケノコ医者、坂口力氏に献杯

INDEX連載に寄せられて最も驚いたご意見タケノコ医者の偉大な功績小泉首相に果敢に挑んだ、あるエピソード連載に寄せられて最も驚いたご意見私の本連載は読者の皆さまからご意見を受け付ける設定となっているため、実際にさまざまなご意見が届く。情報提供や好意的なご意見もあれば、半ばお叱りのようなもの、あるいはもはやイチャモンに近いもの(とくにワクチン関連)もある。そのような中、2024年1月、車椅子生活が始まりかけていた父親を介護する母親が扱える軽量車椅子の選択肢の少なさと地方在住者ゆえに実機を試せる機会が少ないことを嘆いた話を公開したことがある(第193回 両親の老老介護で思い知る「地域包括ケアシステムって何?」)なかば私の老父の介護の愚痴と言ってもいい内容なのだが、これに2件のメールをいただいた。頂いたメールのうち1通は、ある医療機器メーカーにお勤めの方がお勧めの車椅子を教えてくれたもの、そしてもう1通は頸椎打撲後にリハビリを受け、シルバーカー歩行ができるようになった方からで、シルバーカーの使い方を懇切丁寧に教えてくれた内容だった。後者のメールの冒頭には「ご意見、ごもっともだと思いながら、読み終えました」とあった。要は私の地域包括ケアシステムに対する批判への賛同と受け止めた。通常はそこで終わりなのだが、この時はこの率直な感想にやや驚いた。というのも書いた人が人だったからだ。おそらく私にこの内容を転送してきた担当編集者も同じ思いだったろう。というのもメールの送信主は、8月7日に92歳で逝去した初代厚生労働大臣の坂口力氏だったからである。坂口氏と言えば、公明党の重鎮で三重大学医学部(旧・三重県立大学医学部)卒の医師である。公明党は1999年10月に自民党、自由党(党首・小沢 一郎氏)との自自公連立政権に参加した。2000年4月には小沢氏の自由党が連立離脱を決定。これに反対した自由党の一部が保守党を結成して連立政権に残留し、新たな自公保連立政権がスタート、2000年12月に第2次森 喜朗改造内閣が成立した際に厚生大臣兼労働大臣に坂口氏が就任し、第2次小泉改造内閣成立後の2004年9月まで約4年弱、厚生労働大臣(以下、厚労相)を務めた。厚労相在任期間の最長はいまも坂口氏のままだ。タケノコ医者の偉大な功績坂口氏の最大の功績として語り継がれているのが、らい予防法違憲国家賠償請求訴訟において国の控訴断念に大きな役割を果たしたことである。日本ではハンセン病に罹患した患者について、法的には感染伝播のおそれがある存在として1907年の「法律第11号 癩(らい)予防二関スル法律」とこれを引き継いだ1931年の癩予防法(旧法「らい予防法」)、そして戦後は1953年に公布された「らい予防法」(通称:らい新法)により、強制隔離政策が行われた。すでに1960年代前半には、ハンセン病の治療法が確立され患者の強制隔離は医学的には必要なかったにもかかわらず、この隔離政策は1996年の同法廃止まで続けられてきた。同法廃止時に厚生大臣だった菅 直人氏は患者たちに謝罪をしたものの、すでに1952年の世界保健機関(WHO)第1回ハンセン病専門家委員会では、強制隔離には重大な弊害があり、できる限り避けるべきとの見解が明らかにされていたが、日本の「らい新法」公布はその翌年となった。いわば国際的にはハンセン病患者の隔離は標準的な対応ではなかったにもかかわらず、「らい新法」による強制隔離政策で患者は人権を奪われてきたとして、1998年7月、「らい新法」そのものが違憲だったとして患者13人が国を相手取って損害賠償を求める裁判を熊本地裁に提訴した。結果は2001年5月に国が敗訴の判決。通常、違憲を訴える裁判の一審で国が敗訴しても、そこであっさり判決が確定することはほぼない。国として定めた法令を違憲と判断されて国側も黙っているわけにはいかないからである。この「らい新法」に関する熊本地裁での敗訴の際も、厚生労働省も法務省も控訴の方針で動いていた。その中で矢面に立ち控訴断念を訴えたのが坂口氏である。最終的に当時の首相だった小泉 純一郎氏の決断で国の控訴断念が決定する。この時の件を坂口氏が振り返った記事がある。自らを「タケノコ医者」*と呼んだ坂口氏。私がこれを読んで率直に驚いたのは、大臣就任直後まで“「らい新法」のことを知らなかった”という事実を隠していない点だ。そもそも世に法律は数多あるため、大臣に就任した国会議員が所轄官庁の抱える法律をすべて把握していなくとも何ら不思議はない。しかし、権謀術数が渦巻き、一寸先は闇とされる政治の世界では、自らの不明を率直に語る政治家は非常にまれである。なんと素直な人だろうと思ってしまった。そして周囲が控訴一色となるなかで、辞表を胸に首相官邸に赴くところも鬼気迫るところがある。*やぶ医者にも至らない半人前という意で「タケノコ医者」とし、常に弱い立場の人に寄り添おうとしたという(朝日新聞:「『タケノコ医者』が貫いた控訴断念 坂口力さん生前語った最後の問い」より)小泉首相に果敢に挑んだ、あるエピソードさてその坂口氏だが、実はエピソードの尽きない御仁でもある。前述の「らい新法」以外では、首相だった小泉氏と“対立”もしている。具体的には規制緩和や聖域なき構造改革を主張した小泉氏が推し進めた構造改革特区のうち、医療分野の規制緩和を図る通称「医療特区」で株式会社参入を認めた件である。やや長くなるが、この時の大臣のぶら下がり会見でのやり取りを引用したい。坂口氏医療特区につきまして、われわれ株式会社の導入につきましては反対をしてまいりましたが、総理の決断によりまして自由診療におきますこの特区への参入と申しますか、株式会社として自由診療に限って行う、こういう決断が出たようでございます。総理の決断であります以上お受けする以外にないというふうに思っております。記者大臣としてはこれまでずっと反対のお立場をとられていましたが、改めて今日決定を聞いてどのような。坂口氏そうですね、昨夜も総理にかなり私の意見を申し上げました。医療の中でやはり医師に与えられた裁量というのは非常に大きいというふうに思っています。この医師の与えられた裁量といいますのは、これは医療効果を上げるという意味での裁量だというふうに思っております。そこに株式会社が導入されて、そして利益を上げる、収益を上げるということを中心になりましたときに、その医師に与えられました医療効果を上げるという、その裁量がほかの要因によって左右される。即ち経済要因によって左右されるということが大変私は心配です、危惧いたしますということを昨夜も申し上げたところでございます。今日総理が言われましたのは、そうした意味でいわゆる医療保険と関係のない自由診療の分野でありましたことは、一つの救いではあったというふうに思っております。記者自由診療に限定したとしても、何らかの影響というのは避けられないとお考えでしょうか。坂口氏やはり私は影響が出ると思っております。医療機関が厳しい中であるにもかかわらず医療法人という傘の下で一生懸命にやってくれている、それを株式会社が参入をして利益を上げてもいい、そして配当を出してもいいというようなことになってまいりますと、その医療法人という傘の中で頑張っていた人達の気持ちが崩れることがありはしないか、大変心配をいたしております。記者総理のご決断を受け入れるということではあっても、納得はしていないということでしょうか。坂口氏まあ、そうですね、心の底から納得して受け入れるということではありません。しかし総理の決断である以上お受けいたします。ちなみにこの時のぶら下がり会見では、「らい新法」での辞表問題もあったせいか、以下のような記者とのやり取りもある。記者あり得ないことだとは思うんですけれども。坂口氏あり得ないことは言わないでください。記者大臣がこれをもってお辞めになるということはございませんか。坂口氏そんなことはありません。いちいち辞めておりましたら、何遍辞めなければならないか。最後の一言に思わず爆笑してしまった。ある意味、医療という聖域を目の敵にしてきた小泉氏に、医師でありながら厚労相として仕えることがどれだけ大変だったかがうかがい知れる。一方、在任中には2004年の年金改革に向けて自分の名前を冠した「坂口試案」を発表したことでも知られる。それまでの年金制度改革は、少子高齢化で財政が厳しくなることを受けて保険料を引き上げることが中心だった。ところが坂口試案ではこれを転換し、保険料負担を先に固定し、それを超える財政悪化は、マクロ経済スライドを導入して給付水準の調整で吸収するという方式を打ち出した。この試案は現在の年金制度の骨格となっている。こうしてみると、曲がったことは嫌いで何事も思ったら言わずにはいられない、実直さが坂口氏の気性だと改めて知ることができる。そう考えれば、すでに政界から身を引いたとはいえ、かつては厚労省トップだった人物が厚労省の看板政策である「地域包括ケアシステム」を批判的に捉える言説に賛同するのもある意味納得できる。そしてそんな御仁から生前“お褒め”の言葉を頂けたのは、光栄と言うよりほかにはない。改めてご冥福をお祈りしたい。

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第73回 インフルエンザワクチンが変わる? 米国で世界初の「mRNAインフルワクチン」承認

新型コロナワクチンでおなじみになった「mRNAワクチン」という技術。これをインフルエンザに応用したモデルナのワクチン「mRNA-1010(商品名:mFLUSIVA)」が、この夏、米国で承認されました1)。対象は50歳以上の成人で、米国では2026~27年シーズンからの接種開始が見込まれています。製造期間が「6ヵ月」から「6週間」に皆さまご存じのとおり、従来のインフルエンザワクチンの多くは、鶏の卵の中でウイルスを育てて作られています。この方法では製造に約6ヵ月かかるため、「今年はどの型が流行するか」という予測を、流行の半年も前、2~3月頃には決めてしまわなければなりません。ところがインフルエンザウイルスは絶えず姿を変えるため、秋になってみたら別の型が流行していて、ワクチンとの「ミスマッチ」が起きてしまうことがあります。一方、mRNAワクチンはウイルスの設計図にあたる遺伝情報を合成して作るため、製造は約6週間で済むとされます。流行の直前まで中身を調整できるわけですから、予測が外れるリスクを減らせるのではと期待されているのです。「27%減」は何を意味するのか承認の根拠となった臨床試験には、米国を含む11ヵ国で50歳以上の約4万1,000人が参加しました。半分の方がmRNAワクチンを、残り半分が従来型ワクチンを接種し、約半年間の経過をみたところ、検査で確定したインフルエンザの発症はmRNA群で約2.0%、従来型群で約2.8%。相対的にみてmRNA群が約27%少なかった、という結果です2)。ここで少し立ち止まってみたいのですが、この「27%」は割合の比較であって、「接種した人の27%が発症を免れる」という意味ではありません。100人当たりでいえば、発症が約0.8人減った計算になります。小さな差に見えるかもしれませんが、社会全体でみれば入院や死亡の減少につながりうる差ですし、リスクの高い65歳以上に限った解析でも同程度の効果が確認されています。副反応は、注射部位の痛みや倦怠感、頭痛などが従来型よりやや多かったものの、大半は軽度から中等度で、一時的なものだったと報告されています。まだわからないこと、私たちにできることもちろん、限界もあります。データはまだ1シーズン分だけで、米国で65歳以上の標準とされる「高用量ワクチン」との直接比較は行われていません。免疫能の低下した方やフレイルのある高齢者での効果も、まだ確立していません。そのため65歳以上への承認は条件付きの「迅速承認」で、今後2シーズンかけて約40万人規模の市販後試験で効果が検証される予定です。ソーシャルメディアなどでは「mRNAワクチンは効かない」といった根拠のない主張も聞かれますが、mRNAワクチンが中心だった新型コロナワクチンは、控えめに見積もっても世界で250万人以上の命を救ったと推計されており、データはむしろ逆の結果を示しています3)。日本では、インフルエンザに対するmRNAワクチンはまだ承認されていません。当面は従来型ワクチンでの接種が続きますが、米国では65歳以上は人口の2割弱ながら、インフルエンザ関連死亡の70~85%を占めるとされます。高齢の方にとって毎年の接種が大切であることは、これまでと変わりません。新しい技術の続報を待ちながら、今シーズンもまずは現行のワクチンで備えましょう。1)Rubin R. What to know about the mRNA flu vaccine, newly approved by the FDA. JAMA. 2026 Aug 14. [Epub ahead of print]2)Leroux-Roels I, et al. Efficacy and safety of an mRNA seasonal influenza vaccine in adults. N Engl J Med. 2026;394:1803-1813.3)Ioannidis JPA, et al. Global estimates of lives and life-years saved by COVID-19 vaccination during 2020-2024. JAMA Health Forum. 2025;6\:e252223.

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第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

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インフルエンザワクチンの有効性、前シーズンの感染・接種歴で変動―17シーズン解析

 前シーズンのインフルエンザ感染歴は今シーズンのワクチン有効性(VE)を高め、前シーズンの接種歴はVEを減弱させることが、日本臨床内科医会 インフルエンザ研究班の河合 直樹氏らによる日本での17シーズンにわたる前向きコミュニティベースコホート研究の解析で示された。今シーズン未接種者における罹患率(AR)は、前シーズン接種歴のある小児で14.0%、接種歴のない小児で8.6%と有意差が認められた(p<0.001)。研究成果はThe Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2026年7月11日付で発表された。日本の17シーズン、コミュニティベースコホート研究のデザインと対象 本研究は、日本で2002~03年シーズンから2018~19年シーズンにかけて実施された17シーズンにわたる前向きコミュニティベースコホート研究のデータを用いた解析である。14万8,108人・シーズン分のデータが対象となった。インフルエンザ感染の確認には迅速抗原検査が用いられた。今シーズン未接種者におけるARをベースラインリスクの代理指標として、前シーズンの感染歴および接種歴によって定義されたグループ間でARおよびVEを比較した。統計解析には多変量ロジスティック回帰が用いられ、検査確定インフルエンザA型感染(あり/なし)をアウトカムとして、調整オッズ比(aOR)および相対調整オッズ比(rOR)が推定された。今シーズンのワクチン接種効果と前シーズン歴による変動 今シーズンのワクチン接種はインフルエンザA型感染のオッズを低下させ、全体のaORは0.52(95%信頼区間[CI]:0.47~0.57)であった。前シーズンにインフルエンザ感染歴がある個人では、この効果がより顕著であり(aOR:0.35、95%CI:0.25~0.49)、前シーズンに接種歴がある個人では効果が減弱したものの依然として有効であった(aOR:0.59、95%CI:0.50~0.70)。すべてのグループでaORは1未満であり、今シーズンのワクチン接種による保護効果は各群で維持されていた。また、今シーズン未接種者のARは前シーズンの感染歴の有無によらず類似していたが、前シーズン接種歴がある場合にはARが高い傾向が認められた。罹患率とワクチン有効性を併せた解釈の重要性 本解析の結果は、前シーズンの感染歴が今シーズンのワクチン接種のVEを高める一方、前シーズンの接種歴はVEを減弱させるものの有効性は保たれることを示している。さらに、今シーズン未接種者のARが前シーズン接種歴のある集団で高かったことは、集団間のベースラインリスクの差異がVEの解釈に影響しうることを示唆している。著者らは、ARはベースラインリスクの差を反映するものであり、VEと並行してARを解釈することの重要性を強調している。インフルエンザワクチンの効果を正確に評価するうえで、前シーズンの感染・接種歴を考慮した解析の枠組みが今後さらに検討される必要がある。

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膵臓がんワクチン、高リスク者の9割で免疫応答

 膵臓がんは、特に発症リスクを大幅に高める遺伝子変異を受け継いだ人では、「サイレントキラー」となり得る。しかし、こうした高リスク者における膵管腺がん(PDAC)の予防に新たな希望が見えてきた。米ジョンズ・ホプキンス大学シドニー・キンメル総合がんセンターのElizabeth Jaffee氏らは、PDACやその前がん病変で高頻度に認められるKRAS変異を持つ細胞を免疫系が認識して排除するよう誘導するワクチンを開発し、その小規模試験の結果を、「Cancer Discovery」に7月16日付で報告した。試験では、PDACの遺伝的リスクが高い20人のうち18人でワクチンによる免疫応答が確認され、その免疫応答が長期間持続することも示されたという。 膵臓がんは、長期間にわたって症状が現れないまま進行し、治療が難しい段階になってから発見されるケースが少なくない。米国がん協会(ACS)は、米国では2026年に6万7,000人以上が膵臓がんと診断され、約5万3,000人が膵臓がんで死亡すると予測している。 PDACは膵臓がんの約90%を占め、PDAC症例の約10%では親から受け継いだ遺伝子変異が発症リスクを著しく高めている。このような人では、将来的にがんへ進展する可能性がある前がん病変が生じやすいという。論文の上席著者であるシドニー・キンメル総合がんセンターのNeeha Zaidi氏によると、現在、こうした高リスク者にとって唯一の選択肢は、「サーベイランスにより経時的に膵臓の変化を監視すること」であるという。異常が見つかった場合には、膵臓の患部を外科的に切除する。しかし、この処置によりPDACを完全に防げるわけではない。同氏は、「手術後の病変再発率は最大80%に達する。また、PDACの前がん病変の多くは顕微鏡でしか確認できない大きさであり、画像検査では検出できない」と指摘している。 KRAS変異は、PDACやその前がん病変の約90%に認められることが知られている。研究グループはこれまでに、PDACで高頻度に認められる6種類のKRAS変異を標的とするペプチドワクチン「mKRAS-VAX」を開発していた。このワクチンはこれらのKRAS変異を持つ細胞を免疫系が認識して排除するよう誘導する。 今回の試験では、遺伝的にPDACのリスクが高く、画像検査で膵臓に異常所見が認められた高リスク患者20人を対象に、mKRAS-VAXの安全性、免疫原性、およびT細胞の持続性を評価した。患者は、1週目、3週目、5週目、13週目に計4回、ワクチンの皮下注射を受けた。 その結果、20人中18人(90%)でKRAS変異に特異的なT細胞応答が誘導された。また、T細胞受容体(TCR)シーケンスという解析法でワクチンによって誘導されたKRAS特異的T細胞クローンを追跡したところ、最長2年間体内に残存していることが確認された。さらに、中央値16.5カ月の追跡期間中にPDACを発症した患者はいなかった。安全性については、グレード1~2の副作用にとどまり、重篤な副作用は確認されなかった。 Jaffee氏は、「これはまだ始まりに過ぎない。この結果は、免疫システムが活性化されていることを示唆している。取り組むべき課題はまだたくさん残されているが、これまで誰も考えたことのなかった予防を目的とするアプローチの良い第一歩となった」とニュースリリースで述べている。 ただし研究グループは、この試験は安全性とワクチンによる免疫応答を評価することを目的とした小規模試験であり、ワクチンが膵臓がんを予防することを証明したものではないと強調している。それでも、この試験の成功は、ワクチンによるPDAC予防が実現可能であることを示す「概念実証」として意義があり、今後のより大規模な臨床試験を後押しすると期待される。

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脂質異常症治療の30年を振り返って【温故知新30年】

講師紹介1. 30年前の脂質異常症治療1976年頃、スタチンを開発した遠藤章氏が、HMG-CoA阻害効果を持つ結晶粉末(後のコンパクチン)を内藤氏のところに持参し、私たちが扱っていたラットの肝細胞で効果を検討してくれという依頼があった。しかし、コンパクチンはラットの肝細胞では全く効果がないことが判明した。その後、機会を得て、1980年に米国・シカゴ大学への留学が決まった。米国では、動脈硬化研究は極めてホットな研究分野(欧米での死亡率のトップは虚血性心疾患であった)であり、しのぎを削っての競争世界であった。一方、1976年にBrown & GoldsteinのLDL-受容体(LDL-R)発見の論文が掲載された。また、同じ年に遠藤氏のコンパクチンが発表されていた。シカゴ大学の研究室ではLDL-Rの話題は極めて活発化しており、1981年の研究室内のプログレス・ミーティングで日本でのコンパクチンが話題になり、それを手に入れることはできないかとボスから尋ねられた。しかし、筆者には手に入れることはかなわず、筆者も指示されたサルでの実験はできなかった。筆者は1982年に帰国し、大学で脂質異常症の治療を始めた。その当時はもっぱらフィブラート系薬剤とニコチン酸系薬剤がわずかながら効果があるということで、食事療法や運動療法とともに、これらの薬剤を用いた治療を行っていた。また、1985年にプロブコールが発売され、そのコレステロール低下効果は驚くべきものがあったが、これらが本来の目的である動脈硬化予防に効果があるのかは疑問符がついたままであった。約40年以上前のことである。2. この30年でどのように診療が進歩したのか(30年前~10年前)30年前、すなわち1996年頃は1994年に4Sという二次予防試験、1995年にはWOSCOPSという一次予防試験が発表され、もっぱらスタチンの動脈硬化性疾患の予防効果検証の時代であった。我が国では、米国に遅れて1989年にプラバスタチンが発売されたが、発売に至るには険しい道のりがあった。プラバスタチンの効果検証の第II相試験(ダブルブラインド)において立て続けに試験対象者に脳出血の報告があったのである。やむなくこの2例に限ってオープンするという苦渋の決断になり、オープンしたところその2例とも対照薬であることが判明し、試験は継続・完了し、プラバスタチンの有効性並びに安全性も証明され、発売に至ったのである。その当時、わが国でもWOSCOPSと同様のプラバスタチンの試験を行いたいと検討をしていたが、法律家の委員の先生から我が国では慎重にすべきという助言をいただき臨床試験はできなかった。このスタチンを用いた4SやWOSCOPSが発表されると、その後続々とさまざまな対象者に対する大規模臨床試験が発表され、特に”Lower the Better”というような試験が発表されると、二次予防を熱心にしている循環器専門医が中心となって、スタチンを使用するようになった。しかし、スタチンだけではLDL-Cの低下効果は十分ではないことが指摘されていた。その後、コレステロール吸収を抑制するエゼチミブが2007年に発売され、スタチンとエゼチミブを併用することにより、より低下効果が高まり、これも大規模臨床試験で有効性が明らかになった。最近ではその配合剤も発売されこれらの薬剤が汎用されるようになった。3. この30年でどのように診療が進歩したのか(10年前~現在)2016年に、PCSK9モノクローナル抗体という新たな発想による治療薬が発売されるに及んで、最近ではLDL-Cは際限なく(つまり血中では0mg/dL近くまで)下げられること、並びにそれで安全であることも示され、新たな世界に入った感がある。この注射薬は2週間に1回の注射で十分であることが示され、患者の自己注射も可能となった。さらに、インクリシランというPCSK9の合成を抑制するsiRNAも2023年に薬剤として発売され、6ヵ月に1回の注射で十分な効果を発揮することが示され、まさに画期的であった。このほかにも、これまで2週間に1回程度のLDL-アフェレーシスしか選択肢のなかったホモ型家族性高コレステロール血症(Ho-FH)に対する治療薬としてMTP阻害薬であるロミタピドが2016年に発売されたが、Ho-FHの症例数が少ないのと(約30万人に1人の発症率といわれ、発見率も低い)、下痢などの副作用があり、脂肪食の摂取制限などの課題もあり、十分な使用実績がない。しかし、LDL-Cの低下効果は十分認められ、症例の発掘と副作用の軽減化が課題となっている。4. 私にとってのパラダイムシフトこのような治療薬のエビデンスの集積があり、日本動脈硬化学会でも脂質異常症治療のガイドライン(GL)作りが開始され、私は1997年に初めて動脈硬化性疾患診療GLに携わることとなった。そして2002年にはGL作成委員長を拝命し、以後2012年の改定まで3回の改訂作業に携わった。これまで触れてきたように、その間に多くの薬剤開発がなされ、その都度治療エビデンスも蓄積しており、それに対応すべく改定作業が行われてきた。その過程で、GLには薬剤が関与している関係から私のCOIの問題を感ずるようになった。その頃、日本医学会や日本医療機能評価機構におけるMindsというGLの指針が出てきたことにより、私の立場(その当時多くの製薬会社の協賛で寄付講座を持っていた)から、第一線を退くこととした。また、その当時は日本医学会の副会長に任命されており、さらには日本専門医機構の理事長を拝命することにより、いずれの学会の立場から離れるべきという立場となった。とはいえ、自身のクリニックでは高コレステロール血症の治療を行う立場でもあり、批判的に薬剤を使用する立場となった。そのことにより、実臨床で疑問に思うことも多々あり、GLの在り方、専門医の在り方なども深く考えるようになった。そのなかで、脂質異常症の治療薬はほぼ完成したという考えに至ったところに、新たな発想の薬剤が開発され、まだまだ今後の発展がありうると実感している。5. 次の5年で脂質異常症診療はこう変わる今後の5年では、現在の脂質異常症治療薬の使い方の徹底がなされるべきであるとともに、アンメットニーズを抉り出し、それに応じた診療を開発すべきであり、できると思う。1つは高コレステロール血症患者で治療すべき患者の選択であり、選択した患者のうちどの薬剤で、どの程度治療すべきなのか、つまりプレシジョンメディスンを実臨床で行えるようになると思う。そして、今後、さらに長期的にLDL-Cを低下させる治療法が開発され、遺伝子情報から比較的早くから一生のうち1ないし2回くらい治療すれば済むというワクチン的なLDL-C低下療法が筆者の夢である。さらには、食事の吸収に関する遺伝子が発見され、それに関連した治療薬が開発されることにより、肥満も含めて、食事療法が必要なくなる(?)という将来を筆者は夢見ている。

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第325回 予防接種法改正へ、水面下で起きていた反対論説

INDEX予防接種法改正の目的RSVの罹患率と重症化率ニルセビマブの効果、海外での位置付け法改正、地味に反対されていた理由予防接種法改正の目的先日閉会した国会では皇室典範改正や副首都法案が世を賑わせたが、医療界にとってはある重要な法案が6月30日に衆院、7月24日に参院で可決成立した。予防接種法の一部改正である。今回の法改正の要点は、従来の同法第二条で「予防接種」に用いる手段をワクチンと定めていたが、これを特定医薬品とし、その区分としてワクチンに加え、「モノクローナル抗体を有効成分として含有し、かつ、ワクチンと同程度にその効果が長期間にわたる医薬品」を含むとした点である。この法令条文だとややわかりにくいが、要は感染予防目的で使用する抗体製剤も予防接種法でカバーするということだ。ここで多くの医療者は「RSウイルス(RSV)に対する抗体製剤・ニルセビマブ(商品名:ベイフォータス)のことだろう?」と想像するに違いない。率直に言ってしまえば、ほぼ当たりである。"ほぼ"と付けたのは、あくまで厚生労働省は「将来的に登場する感染防止目的の抗体製剤も念頭に」と説明しているためだ。これについてはより詳細な説明として、参院厚生労働委員会で厚生労働大臣の上野 賢一郎氏自ら次のように語っている。「まず予防接種の対象については、すでに先進諸国ではRSV感染症を予防できる新たな手段として抗体製剤が用いられております。また、わが国においても同様の抗体製剤が薬事承認をされているにもかかわらず、現行法(予防接種法)ではワクチンのみが対象と規定され、抗体製剤に係る定期接種に向けた議論などをさらに行うことが困難となっているところであります。こうした中、審議会の提言では抗体製剤が予防接種法上の予防接種に用いる医薬品の1つの例、早期に定期接種において抗体製剤を使用できる環境が整備されることが求められているところであります。このように今般の法改正は、RSV感染症に対する抗体製剤がいわば1つの例として想定されるものでありますが、直ちに個別の製剤を定期接種に位置付けることを目的としたものではなく、当該抗体製剤を定期接種に用いることに関して審議会における議論を行うことを可能にするものであるというふうに考えております」要は各国ではすでにニルセビマブを定期予防接種の中に位置付けているにもかかわらず、現行の予防接種法の定義に沿えば、日本では議論すらできないため、まずは法改正をしたという理屈である。RSVの罹患率と重症化率日本ではニルセビマブは2024年3月、「RSVによる重篤化のおそれがある新生児、乳児、幼児での生後初回または2回目のRSV感染流行期のRSVによる下気道疾患の発症抑制、あるいは重篤化リスクのない新生児・乳児での生後初回のRSV感染流行期のRSV感染による下気道疾患の発症抑制」を適応として承認された。EU、英国では2022年11月、カナダでは2023年4月、米国では2023年7月に承認されており、日本はG7の中では最も承認が遅かった国である。ご存じのようにRSV感染症は小児ではほぼ必発の感染症で、生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%の乳幼児が最低でも1度は感染する。感染から2~8日の潜伏期間後、発熱、鼻水、咳などの症状が数日続き、初感染した乳幼児の約7割は数日のうちに軽快するが、約3割では喘鳴や呼吸困難、さらに細気管支炎の症状が出るなどの下気道症状が重症化する。2010年代には、2歳未満の乳幼児12~18万人(年間)がRSV感染症と診断され、3~5万人が入院を要したと推計されている。また、入院例の7%がなんらかの人工換気を必要としたとする報告もある。2017年にLancet誌に掲載されたシステマティックレビューに基づく推計1)によると、全世界では生後6ヵ月未満児の約4.6万人を含む、5歳未満の約10.1万人がRSV感染により死亡し、その大部分は低・中所得国で起きている。ニルセビマブの効果、海外での位置付けさて、そのニルセビマブの効果だが、在胎期間29週以上35週未満の健康な早産児を対象に行った50mg単回投与群とプラセボ投与群を比較した無作為化二重盲検第IIb相試験では、投与後150日間に受診を要した下気道感染の発現率は、ニルセビマブ群が2.6%、プラセボ群が9.5%で、ニルセビマブ群での発現率は70.1%(95%信頼区間[CI]:52.3~81.2)も有意に低下した。また、RSV感染流行期を初めて迎えた健康な正期産児および後期早産児(在胎35週以上)を対象に行われた無作為化プラセボ対照二重盲検第III相MELODY試験でも、投与後150日間に受診を要した下気道感染の発現率は、ニルセビマブ群が1.2%、プラセボ群が5%で、ニルセビマブ群での発現率は74.9%(95%CI:50.6~87.3、p<0.001)低下した2)。ご存じのようにRSVに関しては母子免疫を目的に妊婦が接種をする組換えRSVワクチン・アブリスボがすでに承認されており、過去の本連載(第289回)でも触れたように2026年4月からは妊娠28~36週の妊婦を対象に定期接種が開始された。こうした小児のRSV感染予防に向け、母子免疫ワクチンと抗体製剤が並立するのは、日本以外の先進国も同様である。ちなみに米国では、米国疾病予防管理センター(CDC)の低所得層や無保険の子供にワクチンを無償提供する連邦プログラム「Vaccines for Children(VFC)」の推奨予防接種スケジュールにニルセビマブが組み込まれた3)際、VFCでのワクチンの定義を抗体製剤も含む形に変更、また、欧州各国では医薬品の扱いのまま公的予防接種プログラムに組み込んでいる。母子免疫ワクチンと抗体製剤の相互の位置付け、使い分けに関しては、米国、欧州、オーストラリアなどでは原則どちらか一方を選択するとしている。母子免疫ワクチンを接種している母親から産まれた新生児・乳幼児には、原則は抗体製剤を投与せず、母子免疫ワクチンを接種していない場合は抗体製剤を選択できるという形だ。ただし、母親が出産直前にワクチンを接種したため抗体が十分移行していないと考えられるケースや早産で生まれてきた場合、出生児が重度の心疾患を有している場合などでは例外的に二重接種を認めている国もある。法改正、地味に反対されていた理由さて、実は今回の法改正については、衆院では「起立総員」すなわち全会一致、参院では賛成多数での可決だった。ここで「衆院は全会一致で、参院は賛成多数とは、参院では反対した政党がいたのか?」という疑問が湧く人もいるだろう。その通りである。衆院の採決結果も全会一致と記述したが、これは厳密に言えば、議場に出席した議員全員の賛成ということであり、欠席者は含まない。実際、当日の衆院本会議の議場の映像を見ると、議長に向かって右端方向に空席が目立つ。ちなみに衆参両院とも議長席に向かって左端から議席数の多い政党の議員席が配置される。さらに参院では個別議員の採決結果4)が公表されており、ここで衆院を欠席した政党・議員がほぼ予測可能になる。参院で同法改正に反対したのは参政党の15人とれいわ新選組の5人である。実際、参政党では、衆参両院の厚生労働委員会、れいわについては参院厚生労働委員会で所属議員が反対の立場から討論を行っている。以下に反対討論で述べられた理由について要約の上で箇条書きする(各人の反対理由は通し番号で列挙する)。◯牧野 俊一氏(衆院厚生労働委員会:参政党・北海道大学医学部卒)(1)高額なニルセビマブを国、自治体、保護者の負担割合が不明確なまま制度のみを先行させることには慎重であるべき(2)ニルセビマブの国際共同臨床試験では投与者の6.2%が抗薬物抗体(ADA)陽性であり、これが人体組織や細胞の一部と交差性を持ち、予期せぬ有害事象につながる可能性は否定しきれない(3)新たなモダリティを予防接種法に適用する以前に新型コロナワクチンやHPVワクチンの副反応で揺らいでいる予防接種行政への信頼回復が先決◯岩本 麻奈氏(参院厚生労働委員会 参政党・東京女子医科大学卒)(4)健康な乳幼児を含む、すべての乳幼児を対象とする根拠が十分に示されていない(5)ニルセビマブの非接種対比増分費用効果比(ICER)は643万8,000円/QALYで、日本で費用対効果の判断目安である500万円/QALYを超えている(6)新規抗体製剤ゆえ投与の有無に関連した乳幼児の安全性を継続的に検証する仕組みづくりが不可欠◯天畠 大輔氏(参院厚生労働委員会 れいわ新選組)(7)安全性の検証と被害救済が不十分(8)立法事実が曖昧なまま、ワクチンとは採用基準が異なる抗体製剤を予防接種法の対象に加えることへの懸念(9)妊婦向けの母子免疫ワクチンの安全性検証や副反応発生状況のデータが揃う前に次の抗体製剤の承認を進める二重推進への懸念以上は一見すると、一定の妥当性がある主張に見える人もいるだろう。ただ、私個人は公党の反対論拠としては疑問に感じるものが少なくない。まず、(3)と(7)の主張はかなり類似点が多い。たとえば新型コロナウイルス感染症ワクチンについては、これまで1万5,000件以上の健康被害救済制度への申請があり、その審査に時間を要し、なおかつ結果として「判定不能」となるものが多いのは事実であり、牧野、天畠氏とも反対討論前の質疑でこの点について言及している。制度のより円滑な運用を求める主張自体は妥当である。しかし、コロナワクチンに関しては、新規モダリティかつ日本国内で承認されたワクチンの中ではおそらく最も多くの国民が短期間のうちに接種したものであり、過剰反応や漠然とした不安も含め健康被害救済制度申請が多くなったやや異例の事態である。ゆえにそこでの審査遅れをもって制度全体が機能不全であるかのような指摘は、やや揚げ足取りの印象がある。また、そもそもワクチンと有害事象の因果関係を正確に判定するならば、たとえばワクチン接種者全員に対して接種前の検体採取などをしなければ、「判定不能」を減らすことはできない。しかし、そのようなオペレーションが現場でできるかは、医師である牧野氏ならばわかるはずである。そもそも新たな抗体製剤を予防接種法に位置付けるか否かという医学的な議論と予防接種に伴う健康被害救済制度の運用議論は、ある意味別次元のものでもある。そしてもし、今回の参政党やれいわの主張に沿うならば、健康被害救済制度の運用が改善されるまでは、国民は有効なワクチンや抗体製剤の恩恵を享受できないことになり、その間に感染症そのものの被害が拡大してしまう恐れがある。こちらのほうが政治としては失策である。一方、(2)、(6)、(7)、(9)はいずれも抗体製剤そのものの安全性に関する一抹の不安としては理解しうるが、これも揚げ足取りに映る。まず、岩本氏が主張する(6)は、ニルセビマブの場合、承認申請時に提出したプラセボ対照比較試験で一定程度立証済みである。このように書くと「それでは十分とは言えない」との反論もありそうだが、そもそも「どれだけの症例数・期間で、どのような結果ならば安全性が担保された」と言えるのだろうか? この問いは、よくありがちな「臨床試験上は短期的な安全性は確保されていると思われるが、長期ではわからない」という主張にも適用できるだろう。おおむねこの手の主張をする側は自分たちからは明確なエンドポイントは示さない。これでは揚げ足取りと言われても仕方ないのではと思う。また、牧野氏が主張する(2)で指摘するデータは事実だが、ADA陽性者と陰性者の抗体血中濃度は150日まではほぼ同等で、RSV感染率や安全性にも明らかな差は認められないと報告5)されている。さらに、米国食品医薬品局(FDA)の抗微生物薬専門委員会のニルセビマブに関する評価6)では、「2シーズン連続でニルセビマブを投与された被験者では、初回投与が第2シーズンの記憶ADA反応を誘導した、あるいは第1シーズンにADAを有していた被験者のADA反応を増強したことを示す証拠は認められなかった」と明記している。(1)と(5)はわかりやすく言えば、コスパである。この(5)で示されたICERは2025年10月に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会で報告された数字で、死亡と罹患中のQOL低下のみを考慮した結果である。このICERの500万円/QALYは、国内での過去の研究7)や国際比較などにより、日本での目安となった経緯があるが、金科玉条のものではない。ちなみに参考にされた研究では、日本での許容額は約500~600万円/QALYと幅のある計算になっていた。この目安に沿えば、ニルセビマブのICERはやや高めだが、前述のようにあくまで死亡と罹患中の患児のQOL低下のみを考慮し、たとえば子供が重症RSV感染症で入院したことに伴う親の経済損失などは考慮されていない。また、小委員会で示された試算では、RSV流行期直前に接種できた時のICERは274万円/QALYまで低下することも示されている。つまり使いようによってはかなり高いコスパが得られるということでもある。一方、牧野、岩本両氏が委員会審議でかなり追及したのが、このICER算定ではニルセビマブの接種費用を用量にかかわらず1回約4万5,000円としている点だ。これには驚く人もいるかもしれない。というのも、現在の国内でのニルセビマブの薬価は、体重5kg未満児向け50mgシリンジが約46万円、5kg以上児向け100mgシリンジが約90万円だからである。これに対しては、委員会の場で厚生労働省感染症対策部長の鷲見 学氏が、企業にヒアリングした結果、この算定価格を設定した旨を説明している。この価格は実は欧米の公的接種向けの卸売価格とほぼ同等であり、実際の納入価格はこれよりも安価といわれている。現在の日本の薬価がなぜこれだけ高いのかは、現状の保険適応対象が非常に限定的であり、その対象患者数の少なさを考慮して薬価設定が行われたと考えればほぼ納得できるはずだ。また、岩本氏は委員会質疑の中で過去5年のRSV感染症の年間死者数が最大29人であり、国側がその年齢別内訳のデータを持ち合わせていないことにも疑問を呈した。かみ砕いて言えば、小児の死者は少なく、その中でも早産児ではない正期産児での死者はごくわずか、すなわち健常乳幼児を幅広く接種対象とするのはコスパが悪いと言いたかったのだろう。もっとも、この点については岩本氏との質疑応答で、鷲見氏が“すべての新生児に接種した場合、絶対リスク減少値を年間の出生者数に単純に当てはめて計算すると約8,200人の入院を防げる”との試算を示している。ニルセビマブの接種で防げる乳幼児の死者はごくわずかでも、これだけの入院を防げるならば子供、親、医療者にとってもメリットは少なくないだろう。このような理由から、私には参政党、れいわ新選組の反対主張は、枝葉末節にこだわり過ぎであり、本質を見失っていると映る。れいわの天畠氏は参院厚生労働委員会の質疑冒頭で「わが党としては、経済的格差による医療アクセスの違いを解消し、子育て世代や小児医療の現場の負担を軽減しようとする政策目的には深く共感する」と発言していたが、失礼ながら今回のような重箱の隅をつつくような指摘に基づく反対によりもし法案が否決・遅延されていたならば、本来助成されるはずだった乳幼児の保護者に対し、高額な自己負担を強いることになる点をどのように考えているのだろう。目的への賛同と採決での反対という結論の間に政策選択上の矛盾が生じているようにしか思えない。いずれにせよ両党の主張については、私個人はやや厳しい言い方になるが、その発言の割には党利党略的なニオイしか感じないのである。1)Shi T, et al. Lancet. 2017;390:946-958.2)MELODY試験(ClinicalTrials.gov)3)CDC:RSV Immunization Guidance for Infants and Young Children4)衆議院:本会議投票結果(第221回国会2026年 7月 24日投票結果)5)Griffin MP, et al. N Engl J Med. 2020;383:415-425.6)AstraZeneca:Advisory Committee Briefing Document_Nirsevimab7)Ohsusa Y, et al. Iryo To Shakai. 2006;16:157-165.

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新型コロナ・インフルワクチンの同時接種で有害事象は増えず

 この秋は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とインフルエンザの対策が一度で済むかもしれない。新たな研究で、新型コロナウイルスワクチン(以下、新型コロナワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種しても、インフルエンザワクチンのみを接種した場合と比べて安全上のリスクは増加しないことが示された。米ワシントン大学医学部および米VA St. Louis Health Care SystemのYan Xie氏らによるこの研究は、「Annals of Internal Medicine」に6月30日掲載された。 この研究では、米国の退役軍人(VA)約250万人の電子医療記録データを用いて、新型コロナワクチン(二価ワクチン、XBB対応ワクチン、およびKP対応ワクチン)とインフルエンザワクチンを同時接種した場合とインフルエンザワクチンを単独接種した場合とで、接種後90日以内の有害事象の発生について比較・評価した。2022年9月1日から2025年8月26日の間に70万5,124人が2種類のワクチンを同時接種し、181万3,205人はインフルエンザワクチンのみを接種していた。 有害事象は46種類を対象とし、重症度に応じて、1)重症で生命を脅かす事象(Tier 1)、2)臨床的に重要な事象(Tier 2)、3)比較的軽度または自己限定性の事象(Tier 3)の3段階に分類した。有害事象の具体的な例は、Tier 1では脳静脈洞血栓症や心筋梗塞、肺塞栓症など、Tier 2では心房細動や心房粗動、深部静脈血栓症など、Tier 3ではベル麻痺、失神、耳鳴りなどである。 解析の結果、重症度のレベルにかかわりなく、有害事象リスクについて同時接種群と単独接種群の間に統計学的な有意差は認められなかった。リスク比は、Tier 1で1.03(95%信頼区間0.99~1.09)、Tier 2で0.99(同0.96~1.03)、Tier 3で0.99(同0.96~1.02)であった。3種類の新型コロナワクチンが使用された期間別に解析しても、同時接種は有害事象のリスク増加と関連していなかった。 著者らは、「今回の結果は、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンを同時接種することの短期的な安全性を支持するものであり、今後のワクチン接種に関する推奨を策定する際にも役立つ可能性がある」と述べている。

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認知症リスクを考慮した帯状疱疹ワクチン、最適なタイミングは

 これまでの観察研究において、帯状疱疹ワクチン接種と認知症との間に予防的な関連があることが報告されている。しかし、これらの研究には方法論的な限界がある、あるいは米国では現在利用できない生ワクチンが対象となっていた。米国・Brown UniversityのKaleen N. Hayes氏らは、亜急性期ケアまたは長期ケアを目的として専門看護施設に最近入所した高齢者を対象に、入所後12ヵ月以内または退所後の遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチン接種(RZV)と認知症との関連を推定するため、本研究を実施した。Annals of Internal Medicine誌7月号の報告。 対象は、2017~22年に専門看護施設に入所し、ナーシングホームの電子健康記録(EHR)データとの連結が可能で、認知症の診断がなく、RZV接種の対象となる66歳以上のMedicare fee-for-service受給者。施設内または退所した場合は入所後12ヵ月以内に1回以上のRZV接種を受けた群を介入群とし、RZV未接種者を対照群とした。EHRデータと連結されたMedicareの診療報酬請求データを使用し、ターゲット試験エミュレーションおよびclone-censor-weightアプローチを用いたコホート研究を実施した。対象者は、認知症の発症、Medicare資格の喪失、死亡のいずれかが生じるまで、最長4年間のフォローアップを行った。プールされたロジスティック回帰モデルによる効果の推定には、clone-censor-weightの逆確率を適用した。測定項目には、妥当性が確認された認知症診断、ベースライン時および経時的に変化する57項目の共変量を含めた。 主な結果は以下のとおり。・研究コホートには、50万9,926例(平均年齢:79歳)の参加者が含まれた。・入所後12ヵ月以内に1回以上のRZV接種を受けた患者の割合は1.73%(8,843例)、そのうち退所後にRZV接種を受けた患者の割合は87.0%であった。・RZV接種は、認知症リスクの5.8パーセントポイント低下(95%信頼区間[CI]:3.9~7.5パーセントポイント低下)と関連していた(リスク比:0.76[95%CI:0.69~0.84]、4年間のリスク:RZV接種群18.8%vs.非接種群24.6%)。・男性および過去に生帯状疱疹ワクチンの接種歴がある患者では、この関連は弱まった。・本研究の限界は、ネガティブコントロール解析の結果、何らかの残存交絡が存在する可能性が示唆された点である。 著者らは「専門看護施設への入所中または入所後12ヵ月以内のRZV接種は、認知症リスクの低下と関連している」としている。

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PSSA菌血症治療の常識は変わるか?(解説:栗原宏氏)

Strong point・PSSA治療に抗ブドウ球菌ペニシリン系薬という長年の慣習とリスク回避策に一石を投じた・多施設、国際共同RCTでエビデンスレベルが高い・主要評価項目を培養陰性化や解熱ではなく、90日全死因死亡率に設定し、実臨床に即した評価となっている・厳格な判定方法で真のPSSAのみが対象となっているWeak point・早期終了/オープンラベル/厳格な検査体制という条件付きの結果なので、一般化には注意が必要・PSSAの判定方法が厳密であり、日本で主に用いられている自動感受性試験のみでは本論文の内容を適用しづらい 現在のPSSA(Penicillin-Susceptible Staphylococcus aureus)を取り巻く環境は10年前とはかなり変化している。欧米を中心に、かつてはまれとされていたPSSAの割合が再増加傾向であることが本研究の背景となっている。PSSAであれば、治療としてペニシリンGは、最も狭域で抗菌活性が高く、内服アモキシシリンへの移行が容易、腎障害・肝障害・静脈炎が少ない可能性があるなど利点が多い。その一方で、低レベルペニシリナーゼ産生菌がPSSAと誤判定されていた場合の治療失敗リスクを踏まえて、抗ブドウ球菌ペニシリン系薬が第1選択とされていた。本研究はPSSAに対して「念のために抗ブドウ球菌ペニシリンを使う」という従来の治療戦略に再考を促す結果となった点で意義が大きい。 本研究は、世界8ヵ国67施設が参加した国際共同RCTであり、PSSA菌血症患者281例をペニシリンG群と抗ブドウ球菌ペニシリン群に1:1で割り付け、90日全死因死亡率を主要評価項目としてペニシリンGの非劣性を検証した。 ペニシリンG群の非劣性の事後確率は96.1%、優越性の事後確率は88.9%であった。事前に設定された非劣性判定基準(99%)には達しなかったものの、ペニシリンGを治療選択肢として支持する結果と考えられる。 PSSAの判定は日本の医療機関で主流の自動感受性試験とは異なり、ペニシリンディスク拡散試験、阻止円縁の評価、blaZ遺伝子PCRなどのペニシリナーゼ産生菌除外の厳密な判定が行われている点には注意が必要である。 本邦では、flucloxacillinおよびクロキサシリンは承認されておらず、PSSAを含むMSSA菌血症にはセファゾリンが標準的に使用されている。CloCeBa試験1)によればMSSA治療に関して、セファゾリンはクロキサシリンと比較して急性腎障害の発生リスクは低く、治療効果は非劣性であることが示されているが、PSSAに対するペニシリンGとセファゾリンを直接比較した研究はない。 現時点では、厳密なPSSA判定が可能な施設ではペニシリンGを選択肢として検討できる一方、日本の診療環境ではセファゾリンを第1選択とする従来の治療戦略も引き続き妥当と考えられる。

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第323回 学会で質問殺到、コロナの予防投薬は誰にいつする?

INDEXコロナ治療薬、今はどうなっている?NEJM誌掲載の“今”の予防方法学会セッションでも質問殺到コロナ治療薬、今はどうなっている?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法上の5類に分類されてから3年以上が経過した。基礎疾患を有する高齢者にとってはいまだ脅威となる感染症だが、世間全般で見れば、もはやコロナ禍なぞどこ吹く風である。そしてやや酷な言い方をしてしまえば、コロナ禍中に世を賑わせた新型コロナに対する治療も“後退”を余儀なくされている。ご存じのようにコロナ禍中は、外資系のメガファーマを中心に国から特例・緊急承認を受け、その後に通常承認へと移行した治療薬も相次いだ。これまで何らかの形で承認されたのは以下の通りだ。抗ウイルス薬としては、第一弾で静脈注射のレムデシビル(商品名:ベクルリー)が登場し、経口薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)、エンシトレルビル(ゾコーバ)の順で上市された。また、これ以外にも中和抗体薬としてカシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)を皮切りにソトロビマブ(ゼビュディ)、チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)、新型コロナによる肺炎に対して経口JAK阻害薬バリシチニブ(オルミエント)、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体のトシリズマブ(アクテムラ)も承認された。しかし、mRNAワクチンの登場に加え、感染主流株が病原性の低いオミクロン株系統へと移行した結果、治療の景色は一変した。まず、デルタ株からオミクロン株への変遷で、ウイルス表面のスパイクタンパク質の変異が大きかったことから中和抗体薬はほぼ無効になり、事実上の退場となった。オミクロン株系統では肺炎患者が大幅に減ったことからバリシチニブ、トシリズマブも活用機会も激減した。そしてもっとも主力となる経口抗ウイルス薬の4種類については、いずれも公的な費用対効果分析ではネガティブな評価を下され、薬価が引き下げとなった。NEJM誌掲載の“今”の予防方法そのような中で新型コロナの治療に関して比較的明るい話題としては、今年3月にエンシトレルビルが新型コロナ感染者との接触者に対する予防投与の適応で承認追加となったことぐらいだろう。この承認のもとになった臨床試験結果は今年5月にNEJM誌に論文1)が掲載されている。COVID-19患者の同居家族、エンシトレルビルで発症予防/NEJM本連載を過去から長らくお読みの方は、私個人がエンシトレルビルの緊急承認時の有効性にはかなり懐疑的だったことをご記憶の方もいるかもしれないが、この点は今でもほぼ変わっていない。一方でこの曝露後予防に関する結果については、ほぼ額面通りに受け止めている。以前、本連載で新型コロナの治療なども含め現在地を取りまとめたことがあった(第280回、第281回)が、その当時はこのエンシトレルビルに関して、いわばトップジャーナルでの掲載論文がほとんどないことがやや悩みだった。ほかの治療薬と比べて、エビデンス上、アンバランス感が否めなかったからだ。しかし、今回は堂々のNEJM誌掲載であり、一定の評価はしている。もっとも敢えて言うならば、この数字を適用すれば、新型コロナ感染者に接触した人が100人いる場合、何もせずにいれば9人が発症し、エンシトレルビルを5日間服用すればそれが3人に抑えられる計算になる。そしてうち91人はもともと発症しない。そのうえで適応が承認されたとはいえ予防投与の薬剤費は、5日間で4万9,630円の全額自己負担。個人的感想としては「高齢者で新型コロナ感染時に重症化因子となる基礎疾患が複数ある人などを除けば、効果の割にはかなり高額の自己負担が必要」とややネガティブな評価になる。これが現在の季節性インフルエンザに対する抗ウイルス薬・オセルタミビル(タミフルほか)くらいの薬価なら、かなりコスパが良いとなるのだが…。もっとも医療機関を受診して新型コロナ感染が判明した人の家族や同居者が予防投与を開始するか否かは、インフォームド・コンセント(IC)を行ったうえで本人たちの意思に委ねれば、おおむね解決できると言えるだろう。ただ、入院患者で発症した場合、院内感染対策として同室患者に処方するか否かという場面が生じた際には、医療機関にとってかなり悩ましいことになる。インフルエンザについては、多床室で感染者が発生した場合、少なからぬ病院では持ち出しで同室者にオセルタミビルを予防処方しているのが実態だ。それもこれもジェネリック品ならば、1カプセルの薬価は104.1~108円であり、予防内服は7~10日間で薬剤費は最大1人1,080円で済むからである。現在の多床室で一般的な4人部屋で考えると、最初にインフルエンザに感染した人は保険診療で対応し、残る3人を持ち出しで予防内服をさせても、支出は3,240円である。先発品を使ったとしても5,169円にとどまる。最悪、患者に事情を説明し、自己負担をお願いしたとしても「まあ、しょうがないか」と応じてくれる人もそれなりにいるだろう。しかし、エンシトレルビルではそうはいかないことは明らかだ。同じように4人部屋で1人感染者が発生し、ほかの患者への予防内服を病院持ち出しにすると、その金額はオセルタミビルの実に28倍超の14万6,670円となる。昨今の物価・人件費の高騰により、経営苦境が極度に顕在化している現状では、病院側がすんなり持ち出しをできる金額ではない。そして患者に負担をお願いするとしても約5万円という金額を即答で応じてくれる人は皆無ではないだろうか?学会セッションでも質問殺到実は先日、横浜市で開催された第41回日本環境感染学会総会・学術集会では「緊急企画・医療機関におけるCOVID-19伝播に対する抗ウイルス薬の予防投与」と題したセッションでこのことが話題となった。同セッションで登壇した泉川 公一氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授)は「理想的には同室者全員に投与することが望ましいとは思うが、より現実的には重症化リスクの重み付けなどを検討してもよいのかもしれない。たとえば糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの基礎疾患、あるいは免疫不全の有無などをスコアリングし、よりスコアの高い患者を優先的にという考え方、さらにこれに加えワクチン未接種者、施設入所者といったファクターも加味させてもよいのかもしれない」との見解を示した。理論上は筋が通っているものの、この時会場にいた人の中で、この発言に歯切れの悪さを感じたのは自分だけではないだろう。もちろんこれは泉川氏のせいではなく、薬価も含めて極めて悩ましい外部環境があるからである。また、同じくこのセッションに登壇した掛屋 弘氏(大阪公立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学教授)は、「現状でエンシトレルビルを採用していない病院はあるかもしれないものの、予防投与の適応が承認された以上、病院としてはやはり準備(採用)しておくことは必要」との認識を強調。そのうえで予防投与の院内ルールの検討を行うべきとの見解を示した。掛屋氏によると、大阪公立大学医学部附属病院の場合、総務企画課、医事運営課、血液内科、感染制御部が合同で予防投与の運用検討会議を開催している。現在までの予防投与の院内ルール検討では、事務方から一律病院負担で広く予防投与することの了承は得られていないという。そのうえで掛屋氏は私案として病室での孤発例の場合は患者自己負担、クラスター発生時はその拡大を防ぐという意味での病院負担という考え方の一例を提示した。具体的には孤発、クラスターいずれのケースでも、まず陽性者確認の段階で接触者の抽出と個々の接触者の重症化リスク評価を実施。患者自己負担が原則の孤発ケースでは、接触者全員にエンシトレルビルによる予防投与の手段があること、予防投与を選択しなくても発症した場合は迅速に対応することを説明する。また、クラスター対応時の接触者の病室管理については、原則としては個室収容が望ましいものの、同室者の中で予防投与患者と非予防投与患者が混在した場合、予防投与のメリットが低減することを考慮し、予防投与した患者を優先的に個室収容するという対応もあり得るとした。このセッションでは会場からも数多くの質問が寄せられた。その一部を要約して紹介したい。―古い病院では、大部屋にトイレがなくて洗面所や休憩室も一緒な場合がある。この場合、予防投与の範囲をどう考えるべきか?「非常に難しいが、トイレですれ違ったなどのレベルでは感染が成立する可能性は低いと考えられるので、やはり同室の方(の予防)が中心になると思う」(掛屋氏)―ワクチンの追加接種歴があれば、曝露しても重症化リスクが低下する。重症化リスクではワクチン接種歴をどの程度加味するべきか?「原則、ワクチン接種歴は勘案しない。というのも従来から行われているインフルエンザの院内感染対策での予防内服の場合、ワクチン接種歴を考慮していない。また、ワクチン接種で100%予防できるわけではないので、改めて予防投与での判断要素とはしない」(登壇者:國島 広之氏[聖マリアンナ医科大学感染症学講座 主任教授])「私も基本的に國島先生と同じ考え。ケースバイケースで半年以内の接種有無、最新流行株のワクチン接種歴は聴取するかもしれないが、昨年の定期接種での65歳以上の新型コロナワクチン接種率は約10%と言われているので、ほぼ全員が接種していない前提で考えている」(掛屋氏)―(新型コロナ陽性の)スタッフと患者との接触では、その日に(そのスタッフの)受け持ちだった(患者)ということになると、かなり広範囲の患者(が対象)になってしまう。マスク着用の有無も含め、そこをどのように判断するのか「マスクをせずに接触する事態はあるかもしれないが、まずは私たちの側に明らかな非を作らないことが大事。今、一部にはもう皆でマスクを外しても良いのではないかという考えもあるようだが、むしろ院内感染リスクの観点では逆の考え方もあると思う」(掛屋氏)正直、これら質疑応答のやり取りにも絶対の正解はないのだろう。いずれにせよ技術革新、医療の進歩が新たなジレンマを生み出したことだけは確かである。参考1)Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2026;394:1905-1915.

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第70回 あなたの体は何歳ですか?「老化時計」が明かす、臓器ごとに進む老いの正体

この100年で人間の平均寿命はおよそ2倍になりました。ところが、健康に過ごせる期間(健康寿命)は同じペースでは延びておらず、心臓病やがん、認知症、身体の障害などを抱えて暮らす人はむしろ増えています。この「長生きするけれど健康ではない」というギャップを埋める鍵として注目されているのが、老化の速さそのものを数値で測る「生物学的時計」です。今回はそんな概念を取り扱った論文をもとに最新の知見をシェアしていきます1)。老化は「一定のスピード」では進まないかつて老化は、誰の体でも年齢とともに一定の速さで進むものと考えられてきました。しかし近年の大規模な研究で、その常識は覆されつつあります。血液中のタンパク質やDNAの変化を数万人規模で追跡すると、老化は一定ではなく、人生のなかで何度か「波」となって加速することがわかってきたのです2)。論文の中では、成人期におよそ3つの大きな転換期があると指摘されています。目安は「30~40歳ごろ」「60~70歳ごろ」「80歳前後」。この時期に体内の分子レベルの変化が一気に進むことが、複数の独立した研究で繰り返し確認されています。つまり老化は坂道をなだらかに下るというより、階段を数段まとめて下りるようなイメージに近いのです。この転換期は、生活を見直したり対策を打ったりする「介入の窓」にもなりうると期待されています。脳と免疫の「若さ」が寿命を左右するもう1つの重要な発見が、同じ人の体の中でも臓器ごとに老化のスピードが違うということです。心臓は実年齢より若いのに、肝臓は老けている、といったことが実際に起こります。英国の大規模データを用いた研究では、ある臓器が実年齢より「老けている」人ほど、その臓器に関連する病気や死亡のリスクが高いことが示されました。とくに3つ以上の臓器で老化が進んでいる人では、その傾向がはっきりと強まります。また、脳の生物学的な老化が進んでいる人では、アルツハイマー病を発症するリスクが約3.1倍に上ったと報告されています。逆に、脳や免疫が「若い」状態を保っている人は長生きしやすい傾向がありました3)。老化時計を活用することで、症状が出るより何年も前に、リスクの高い人を見つけ出せる可能性もあるわけです。老化時計は遅らせられる?では、この時計の進み方は変えられるのでしょうか。論文によれば、運動、適度なカロリー制限、オメガ3脂肪酸やビタミンDの摂取などが、DNAの老化の指標をわずかに遅らせる可能性が報告されています4)。また、少し有名な話になりましたが、帯状疱疹ワクチンの接種者で認知症が少なく、老化が緩やかだったという研究も複数あります5)。糖尿病や肥満の治療に使われるGLP-1受容体作動薬にも、老化を遅らせる働きの可能性が指摘されています。ただし、過度な期待は禁物です。これらの効果は示されているとしてもまだ「わずか」で、長期的に寿命や健康寿命を本当に延ばすのかは未確認です。また、市販されている老化測定検査は測定方法がバラバラで標準化されておらず、同じ人が受けても結果が大きく食い違うことがあります。現時点では、個人が一度の検査結果に一喜一憂する段階にはありません。大切なのはおそらく、特別な検査を受けることよりも、運動・睡眠・食事といった昔から知られた生活習慣が、体の「老化時計」の進み方に確かに影響するという事実です。ただし、ここでご紹介した「老化時計」は、病気になってから治す「後追いの医療」から、リスクを早期に見つけて防ぐ「先手の医療」へと転換する、次の大きな一歩になろうとしているのもまた事実だと思います。1)Wyss-Coray T, et al. Biological aging clocks in health and disease. Nat Med. 2026;32:2383-2394.2)Oh HS, et al. Organ aging signatures in the plasma proteome track health and disease. Nature. 2023;624:164-172.3)Balachandran A, et al. Pace of aging associations of healthspan and lifespan in older adults in the US and UK. Nat Aging. 2025;5:1132-1142.4)Belsky DW, et al. DunedinPACE, a DNA methylation biomarker of the pace of aging. eLife. 2021;11:e73420.5)Kim JK, et al. Association between shingles vaccination and slower biological aging: evidence from a U.S. population-based cohort study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2026;81:glag008.

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