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パラチフスAに対するワクチンの安全性、有効性と免疫原性(解説:寺田教彦氏)

 パラチフスA菌は、世界で年間200万例以上の症例が推定され、腸チフス(Salmonella Typhi)と共に、衛生水準の整っていない地域で依然として重要な公衆衛生上の課題となっている(John J, et al. N Engl J Med. 2023;388:1491-1500.)。日本における腸チフスおよびパラチフスの報告数は年間20~30例と少なく、7~9割が輸入症例だが、渡航医療の観点では一定の診療機会が存在する。 日本の渡航前外来では、腸チフスワクチンとしてVi多糖体ワクチン(商品名:タイフィム ブイアイ)が承認されて以降、南・東南アジアを中心とする流行地域への渡航者を対象に接種が行われている。しかし、この腸チフスワクチンは腸チフスの予防には有効である一方、パラチフスはVi抗原を有さないため、パラチフスAの予防には不向きである。現在、世界的にパラチフスAに対する承認済みワクチンは存在せず(MacLennan CA, et al. Open Forum Infect Dis. 2023;10:S58-S66.)、本研究対象のCVD 1902も開発中の候補ワクチンの1つである。 本論文は、経口弱毒生パラチフスA菌ワクチンCVD 1902を用いた、第II相二重盲検無作為化プラセボ対照試験であり、さらにControlled Human Infection Model(CHIM)を用いて、有効性・免疫原性・安全性を包括的に評価した点に特徴がある。 CHIM試験とは、厳密に管理された倫理的・臨床的条件下で、健康ボランティアに病原体(または弱毒株)を意図的に曝露し、感染成立、病態、免疫応答およびワクチンなどの予防介入の防御効果を評価する臨床研究モデルである。 本研究では、健康成人72例が英国6施設から登録され、CVD 1902群とプラセボ群に1:1で割り付けられた。ワクチンまたはプラセボを14日間隔で2回経口投与し、2回目投与から28日後にS. Paratyphi A野生株(NVGH308)を経口投与して感染チャレンジを行った。主要評価項目は、チャレンジ後14日以内の感染成立(72時間以降の血液培養陽性、または12時間以上持続する38℃以上の発熱)である。 主要評価項目の結果、感染成立率はCVD 1902群21%(7/34例)、プラセボ群75%(27/36例)と大きく異なり、ワクチン有効性は73%(95%CI:46~86)だった。この防御効果は腸チフスワクチン(Ty21a、Viワクチン)を用いた既存のCHIM試験を上回るもので、有効性の高さが示された。 免疫原性では、ワクチン群においてS. Paratyphi AのO抗原に対する血清IgGおよびIgA抗体価はDay14で明確に上昇し、IgGはDay42(2回目投与28日後)でも同レベルが維持されていた。一方、FliC抗原に対する抗体応答は認められなかった。さらに、血清抗体価と防御効果との直接の相関は明確ではなく、著者らは粘膜免疫、とくにsecretory IgAの関与を示唆しており、今後の解析が期待される。 安全性については、悪心・嘔吐、全身倦怠感などの軽度から中等度の副反応がワクチン群でやや多い傾向にあったが、ワクチン関連の重篤な有害事象は認められなかった。プラセボ群と比較しても、全体として良好な忍容性が示されたと評価できる。 また、ワクチンのさらなる意義として、便中排泄率の低下が挙げられる。チャレンジ72時間以降の便培養陽性率は、CVD 1902群24%(8/34例)、プラセボ群50%(18/36例)で、ワクチン接種により排泄率が減少した。これは、流行地域のリアルワールドにおいても二次感染リスクの低減に寄与しうる可能性がある。ただし、本試験はCHIMモデルであり、実際の流行地での効果を直接証明するものではない点には留意が必要である。 腸チフス・パラチフスの流行地域では、薬剤耐性化も問題で、パラチフスAでもキノロン耐性やアジスロマイシン低感受性化が進行している。治療薬選択が制限されつつある現状において、ワクチンによる発症予防と感染伝播抑制は治療負担および耐性菌のさらなる拡大を抑えるうえで重要である。 将来的には、腸チフスとパラチフスAの双方を標的とした二価ワクチン(Typhi+Paratyphi A)の開発も期待される。本報告は、パラチフスAワクチン実用化に向けた重要な報告で、今後の臨床応用につながる基礎的データであった。

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AI時代の産業保健と法学をつなぐ―日本産業保健法学会第5回学術大会事務局長レポート【実践!産業医のしごと】

1. 「産業保健」と「法学」の接点を感じられる学会CareNet.comをご覧の医師の方、産業医の経験がある方でも、「産業保健法学の学会」と聞いて、イメージが湧くでしょうか?2025年9月、日本産業保健法学会の第5回学術大会が北里大学白金キャンパスで開かれ、著者の私は事務局長を務めさせていただきました。産業医、保健師、弁護士、社労士など、多職種が一堂に会し、「健康問題と法」を巡る実務の悩みを持ち寄った2日間でした。本学会の特徴は、「法知識をベースに多職種の知恵を借りて問題解決を図る」という趣旨を、実務の視点にまで落とし込んでいることです。具体的な特徴としては、1)各セッションに医学と法律の専門家をそれぞれ1名以上配置する2)各セッションのテーマを「マクロ・ミクロ/未然防止・事後解決」の4象限で整理し、学会全体でカバーするようにプログラムを組み立てるの2点です。産業医の日常業務で感じる「これは医療だけでは解決できない」というモヤモヤを、法学と実務でどう扱うのか、医学と法学の接点を感じられる学会といえます。2. AIを軸にした幅広いシンポジウム今回の大会の統一テーマは「AIと産業保健」でした。AIを1つの軸に据えつつ、AIを用いた労務管理やメンタルヘルス対応、健康情報の取り扱い、ハラスメント、障害者雇用、労災・安全配慮義務など、産業医が現場で直面する幅広いテーマを、法学と実務の視点から取り上げました。AIの話題も単なる未来予測にとどめず、AI活用に当たって、今の制度と何がかみ合っていないのか職場のルールや社内規程をどう書き換えるべきか産業医が面談や判定の場で、どこまでAIを活用でき、どこから人間の判断にすべきかといった、明日からの実務に持ち帰れる論点に落とし込めるよう、各セッションの先生方が努力してくれました。具体的には、下記のようなシンポジウムが開催されました。1)デジタルヘルスが産業保健にもたらすパラダイムシフトと法AIやDXが産業保健に与える変化を、単一視点では捉えきれない複合現象として整理し、法的含意も含め多面的に検討。2)生成AIは私たちの認知にどのようなインパクトを与えるか(法政策への示唆)AI時代の「認知のアップデート」を軸に、産業保健・法学・人類学の視点で対話し、人とAIが共に働く未来の視座を高める3)職場における新型コロナワクチン接種と被害者救済職域接種の社会的役割とともに、接種後健康被害救済・ハラスメント・労災認定等の法的課題を含めた「事実」を多角的に検証し、次のパンデミックへの教訓を議論。4)データ活用による健康経営推進と法的課題データ活用の期待と、個人情報保護等の法的・倫理的制約の実務ジレンマ(許容範囲が不明確)を問題意識として整理し、線引きを検討。参加者の感想を見ても、「AIというテーマから産業保健と法の『線引きの難しい領域』を正面から議論していた」「産業医として、どこまで責任を負うべきかを考えさせられた」といった声が多く、実務に沿った理解と課題解決といった目的を果たせたのではと感じています。3. 事務局の“裏側”レポートここからは少し学会運営に当たっての“裏側”の話です。これまでは学会に参加する側として、プログラムや会場運営が「当たり前に」回っているように見えていました。しかし運営側、とくに事務局の立場になって初めて、登壇者の調整、予算と採算の管理(各大会で独立採算)、後援・協賛・広報などの重要性を痛感しました。学会の肝となる登壇者の調整では、各セッションに医系と法学系の統括者が必ず登壇する「縛り」のほか、「テーマに人を当てる(=知り合いを呼ぶ)のではなく、テーマに合う人を探す」という原則を徹底するようにしました。結果として、候補者リストとにらめっこしながら「この先生はテーマの分野の法的論点をどこまで話してもらえるか」「この弁護士の方は労災問題に詳しいが、産業医向けの話にしてもらえるか」といった相談を重ねました。広報もまた地味ながら重要な仕事でした。学会のニュースレターやウェブサイトに加え、関連学会のバナー、社労士会や産業保健総合支援センターなどの後援団体にメーリングリストでの案内を依頼しました。申し込み人数の推移は常に気になります。学会は独立採算制ですから、参加者数はそのまま大会の収支に跳ね返ります。締め切りまでパソコンの前で、「今日は何人増えた」「この広報が効いたかもしれない」と一喜一憂しました。最終的に多くの先生方にご参加いただき、胸をなで下ろしました。4. 産業医へのメッセージ─線引きの難しい領域こそ一緒に考える場に大会を通じて、あらためて感じたのは、「産業保健と法学は、問題がこじれたときだけ出会うものではない」ということです。むしろ、業務起因性をどこまで見るか企業として復職・配置転換をどう判断するか健康情報をどう守りつつ、産業保健を最大化するかといった、産業医が日々悩んでいる「線引きの難しい領域」こそが、法学者や弁護士と一緒に考えるべき領域なのだと思います。産業保健法学会のセッションでは、「訴訟になったらどうなるか」だけでなく、「訴訟になる前に、どのような制度や運用を整えればよいか」「社内規程や合意形成をどう設計するか」といった、“予防としての法”の視点が繰り返し提示されました。これは、現場で奮闘する産業医にとって、大きな支えになるはずです。第5回大会の運営を担当した1人として、産業医の先生方には「困ったときの課題を解決する場」に加え、「迷っているテーマを一緒に言語化していく場」として、この学会を活用していただきたいと願っています。AIをはじめ、新しいリスクが次々と現れるこれからの時代、医療・法・実務が交差するこのプラットフォームが、働く人の健康を守る一助になればと願っています。

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成人のRSウイルスワクチンに関する見解を発表/感染症学会、呼吸器学会、ワクチン学会

 日本感染症学会(理事長:松本 哲哉氏)、日本呼吸器学会(同:高橋 和久氏)、日本ワクチン学会(同:中野 貴司氏)の3学会は合同で、「成人のRSウイルスワクチンに関する見解」を12月9日に発表した。 Respiratory syncytial virus(RSV)感染症は、新生児期から感染が始まり、2歳を迎えるまでにほとんどの人が感染するウイルスによる感染症。生涯獲得免疫はなく、成人では鼻風邪のような症状、乳幼児では多量の鼻みずと喘鳴などの症状が現れる。治療薬はなく、対症療法のみとなるが、ワクチンで予防ができる感染症である。 RSV感染症は、基礎疾患を有する成人ではインフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられており、高齢者などはワクチンの任意接種対象となっている。2026年4月からは妊婦に対しRSVワクチンが定期接種になることもあり、今後、RSV感染症の予防対策の重要性はますます高まると考えられている。 3学会では、今般の見解について、「現時点でのRSVワクチンの科学的な情報であり、また接種の必要性を考える際の参考としていただきたい」と述べている。高齢者のRSV感染症の疾患負荷をワクチンで防ぐ1)主旨 RSV感染症は、国内外の研究報告をふまえると、高齢者、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人には、インフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられている。高齢者施設やハイリスク病棟での集団感染も報告されており、公衆衛生危機管理上の重点感染症にも分類されるRSV感染症の感染対策として、高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨する。 今後、わが国でも死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。2)主なワクチン 現在、わが国で接種できるワクチンは任意接種として2つの組換えタンパク質ワクチンとmRNA(2025年5月承認、今後発売)がある。3)国内の高齢者における疾病負荷 2022年9月~2024年8月の2年間にわたり国内の4つの2次医療圏の急性期医療機関で実施された積極的サーベイランス研究で、RSV感染症による入院率は65歳以上人口10万人年当たり1年目29例、2年目36例、18歳以上のRSV感染症の院内死亡率は7.1%と報告されている。 わが国の2015~18年の医療保険データベースMedical Data Vision(MDV)を用いたRSV流行期と非流行期の時系列モデリング解析によって、全国のRSV関連入院率を推定した研究によると、65歳以上のRSV関連呼吸器疾患の入院率は10万人当たり96~157例と示されている。また、RSV感染症の文献をシステマティックレビューした報告によると、わが国の60歳以上の年間のRSVによる急性呼吸器感染症患者数は約69.8万人、入院患者数は約6.3万人、院内死亡者数は約4,500人と推定されている。4)慢性心肺疾患患者ではRSV感染症の重症化リスクが高まる 慢性心肺疾患を有する患者では、RSV感染症は重症化リスクが高まることが知られている。米国・ニューヨーク州のサーベイランス研究では、65歳以上のRSV入院率は1.37~2.56/1,000例であり、慢性閉塞性肺疾患、喘息、うっ血性心不全患者の入院率は、これらのない患者と比較して、それぞれ3.5~13.4倍、2.3~2.5倍、5.9~7.6倍高いことが報告されている1)。5)RSV感染症はインフルエンザと同程度の疾病負荷がある わが国の1,038例の呼吸器症状を有する救急入院患者を対象とした2023年7~12月に行われた前向き研究では、RSV感染症は22例が報告され、院内死亡率は13.6%(3/22)であったのに対して、インフルエンザは28例が報告され、院内死亡例はなかった2)。呼吸器症状を有しPCR検査を実施した外来および入院患者541例を対象に2022年11月~2023年11月の期間に実施された後ろ向き研究では、RSV感染症とインフルエンザの割合はそれぞれ3.3%と1.8%だった3)。また、30日間死亡率は、RSV感染症が5.6%(1/18)、インフルエンザでの死亡例はなかった。4つの2次医療圏における積極的サーベイランスの研究でも、18歳以上の肺炎または急性呼吸器感染症の入院患者におけるRSVとインフルエンザウイルスの陽性率は、それぞれ2.8%と3.3%であり、院内死亡率はそれぞれ7.1%と2.0%だった4)。6)高齢者施設ではRSVの集団感染が発生している 高齢者の介護施設などからRSVの集団感染の発生が複数報告され、重要な課題となっている。RSV感染症の小児における全国流行の時期に、高知県の老人保健施設の入所者110例中49例が発熱し、31例でRSV迅速検査が陽性を示し、基礎疾患を有する4例の高齢者がRSV感染を機に死亡した5)。また、富山県の介護老人保健施設では、入所者と職員あわせて49例に発熱や鼻汁などの症状がみられ、3人のPCR検査および遺伝子系統樹解析で同一のRSVが検出され集団感染と確定された6)。7)高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨 RSV感染症は、高齢者および慢性呼吸器疾患・慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人において、国内外でインフルエンザと同程度の重症化リスク(入院率や死亡率)があることが報告されている。RSVは、高齢者および基礎疾患を有する成人において、呼吸器感染症の主要な原因ウイルスと考えられるが、成人のRSV感染症には、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような抗ウイルス薬は存在しない。現在、複数のRSVワクチンが承認されているが、いずれも高い有効性と良好な忍容性を示しており、予防接種のベネフィットはリスクを上回ると考えられる。公衆衛生危機管理上の重点感染症7)に指定されているRSV感染症の感染対策として、RSVワクチンの接種を推奨する。なお、わが国ではRSV感染症による死亡者数をはじめ全国的な疫学データが十分ではないことから、今後わが国でも、死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。■参考文献1)Branche AR, et al. Clin Infect Dis. 2022;74:1004-1011.2)Nakamura T, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1085-1087.3)Asai N, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1156-1161.4)Maeda H, et al. medRxiv. 2025 Jun 20. [Preprint]5)武内可尚、他. 臨床とウイルス. 2022;50:139-142.6)米田哲也、他. 病原微生物検出情報月報(IASR). 2018;39:126-127.7)第94回 厚生科学審議会感染症部会. 重点感染症リストの見直しについて(2025年3月26日)■参考成人のRSウイルスワクチンに関する見解

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第297回 パーキンソン病ワクチンの有望な第II相試験結果報告

パーキンソン病ワクチンの有望な第II相試験結果報告1972年発表のヒット曲「さそり座の女」で有名な歌手の美川 憲一氏がパーキンソン病であることを、同氏の事務所が先月11月13日に公表しました1)。その後、関連するニュースが多く報告されるようになっています。2010年代の終わりに初出して使われるようになった2)新語のパーキンソン病大流行(Parkinson pandemic/Parkinson’s pandemic)が示唆するとおり、理由はどうあれパーキンソン病は増えており、今や世界の実に約1,200万例がパーキンソン病です。先立つたった6年で2倍近く増えました3)。パーキンソン病は脳のドーパミン放出神経の消失やαシヌクレイン(a-syn)の凝集体であるレビー小体を特徴とします。そのa-synを標的とするワクチンACI-7104.056の有望な第II相試験結果が先週11日に発表されました4,5)。ACI-7104.056はスイスのバイオテクノロジー企業AC Immuneが開発しています。a-syn抗原を成分とし、パーキンソン病初期に広まって神経を損なわせる病原性の多量体a-synへの抗体を生み出します。最近になってAC Immune社はワクチン事業という表現をしなくなっており、ACI-7104.056もその方針に沿ってワクチンではなく免疫療法と表現するようになっています。しかしかつてはワクチン事業に含められていました。実際、ClinicalTrials.govへの登録情報にはACI-7104.056がワクチンであると明記されています6)。VacSYnと銘打つ同試験には、初期のパーキンソン病患者34例が組み入れられています。被験者はACI-7104.056かプラセボ群に3対1の割合で無作為に割り振られました。初回、4週後、12週後、24週後、48週後、74週後にいずれかが投与される運びとなっており6)、少なくとも12ヵ月間(48週間)の投与を経た被験者の中間解析が今回発表されました。20例は74週目の投与に至っています。ACI-7104.056投与群の抗a-syn抗体価は投与するごとに上昇し、全員が血中と脳脊髄液(CSF)中のどちらでも目安の水準に届いていました。一方、当然ながらプラセボ群の抗a-syn抗体は増えず、実質的に一定でした。脳組織のa-synが蓄積し続けるパーキンソン病の進行でCSF中のa-synは減ることが知られます。今回のVacSYn試験でのプラセボ群のCSFのa-syn濃度は低下し続けましたが、ACI-7104.056投与群は低下を免れて一定を保ちました。神経損傷の指標の神経フィラメント軽鎖(NfL)濃度は、CSFのa-synとは対照的にパーキンソン病の神経変性や神経損傷の進行につれて上昇することが報告されています。それゆえVacSYn試験のプラセボ群のNfL濃度は上昇傾向を示しました。しかしACI-7104.056投与群のNfL濃度はそうはならず、CSFのa-syn濃度と同様に一定を保ち、どうやら神経損傷/変性が食い止められていたようです。極め付きは運動症状の進行を食い止めるACI-7104.056の効果も見てとれました。運動症状を調べるMDS-UPDRS Part III検査値がプラセボ群では上昇して悪化傾向を示しました。一方、ACI-7104.056投与群の74週時点のMDS-UPDRS Part III検査値はベースラインに比べて取り立てて変わりなく、実質的な悪化傾向はみられませんでした。VacSYn試験は2部構成で、多ければ150例を募る第2部を始めるかもしれない、とAC Immune社は今夏2025年8月の決算報告に記しています7)。その開始はまだ正式に発表されていないようです。同社は今回の有望な結果を手土産にして、ACI-7104.056の承認申請に向けた今後の臨床試験の段取りを各国と話し合うつもりです4)。VacSYn試験の第2部をどうするかもその話し合いにおそらく含まれるのでしょう。サソリ毒がパーキンソン病に有効美川 憲一氏が歌った「さそり座の女」にも出てくるサソリ毒由来のペプチドに、奇しくもパーキンソン病治療効果があるらしいことが最近の研究で示唆されています8,9)。SVHRSPと呼ばれるそのペプチドは、どうやら腸の微生物を整えることで脳のドーパミン放出神経の変性を防ぐようです10)。「さそり座の女」の女性の毒と情の深さが対照的なように、サソリ毒は命を奪うほどの害がある一方でヒトの健康にも貢献しうるようです。AC Immune社のワクチンやサソリ毒成分などの研究や開発が今後うまくいき、美川 憲一氏をはじめ世界のパーキンソン病患者を救う手段がより増えることを期待します。 参考 1) 美川憲一に関するご報告 2) Albin R, et al. Mov Disord. 2023;38:2141-2144. 3) Dorsey ER, et al. J Parkinsons Dis. 2025;15:1322-1336. 4) AC Immune Positive Interim Phase 2 Data on ACI-7104.056 Support Potential Slowing of Progression of Parkinson’s Disease. 5) ACI-7104 in VαcSYn Phase 2 - Interim results 6) VacSYn試験(ClinicalTrials.gov) 7) AC Immune Reports Second Quarter 2025 Financial Results and Provides a Corporate Update 8) Zhang Y, et al. J Ethnopharmacol. 2023;312:116497. 9) Li X, et al. Br J Pharmacol. 2021;178:3553-3569. 10) Chen M, et al. NPJ Parkinsons Dis. 2025;11:43.

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mRNAインフルワクチン、不活化ワクチンに対する優越性を確認/NEJM

 ヌクレオシド修飾メッセンジャーRNA(modRNA)インフルエンザワクチンは、対照ワクチンと比較して相対的有効性に関して統計学的な優越性を示し、A/H3N2株とA/H1N1株に対する免疫応答が顕著である一方、副反応の頻度は高いことが示された。米国・East-West Medical Research InstituteのDavid Fitz-Patrick氏らが、第III相無作為化試験「Pfizer C4781004試験」の結果を報告した。modRNAインフルエンザワクチンは、インフルエンザA型とB型のそれぞれ2つの株(A/H3N2、A/H1N1、B/Yamagata、B/Victoria)のヘマグルチニンをコードする4価のワクチンである。研究の成果は、NEJM誌2025年11月20日号で報告された。3ヵ国1流行期で実施、承認済みの標準的な不活化4価インフルエンザワクチンと比較 Pfizer C4781004試験は、2022~23年のインフルエンザ流行期に米国の242施設、南アフリカ共和国の5施設、フィリピンの1施設で実施した無作為化試験(Pfizerの助成を受けた)。 年齢18~64歳の健康な成人を、modRNA群、または承認済みの標準的な不活化4価インフルエンザワクチンを接種する群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは相対的有効性とし、modRNAワクチン接種後少なくとも14日の時点でインフルエンザ様症状があり検査でインフルエンザが確認された参加者の割合が、対照群よりも低いことと定義した。相対的有効性の非劣性(両側95%信頼区間[CI]の下限値が-10%ポイント以上)および優越性(同0%ポイント以上)を検証した。 免疫原性は赤血球凝集抑制(HAI)試験で評価した。また、接種後7日以内の反応原性(副反応)、1ヵ月後までの有害事象、6ヵ月後までの重篤な有害事象の評価を行った。相対的有効性34.5%、非劣性・優越性の基準満たす 2022年10月24日~2023年1月30日に1万8,476例(平均年齢43歳、男性41.9%、白人73.6%)を登録し、9,225例をmodRNA群、9,251例を対照群に割り付けた。それぞれ9,191例および9,197例が実際にワクチンの接種を受け、全体の92.9%が6ヵ月間の追跡を完了した。 接種後14日目以降にインフルエンザ様症状が発現し検査でインフルエンザが確認された参加者は、modRNA群で57例、対照群で87例であり、対照群と比較したmodRNA群の相対的有効性は34.5%(95%CI:7.4~53.9)であった。95%CIの下限値は、非劣性および優越性の双方の基準を満たした。 インフルエンザ様症状の原因ウイルス株は、主にA/H3N2株とA/H1N1株であり、B型株が原因のものはごくわずかであった。HAI試験における抗体反応は、インフルエンザA型で非劣性が示されたが、B型では示されなかった。安全性プロファイルは2群でほぼ同様 安全性プロファイルは2つの群でほぼ同様であり、新たな安全性の懸念は確認されなかった。 反応原性(副反応)のイベントは、modRNA群で報告が多かった(局所反応:70.1%vs.43.1%、全身性イベント:65.8%vs.48.7%)。これらは全般に軽度または中等度で一過性であり、重度のイベントに両群間で臨床的に意義のある差は認めなかった。最も頻度の高い局所反応は疼痛で、最も頻度の高い全身性イベントは倦怠感と頭痛であった。発熱(≦40.0°C)は、modRNA群で5.6%、対照群で1.7%に発現した。 安全性データのカットオフ日(2023年9月29日)の時点で、ワクチン接種から4週間までの有害事象の報告は、modRNA群で6.7%、対照群で4.9%であった。ワクチン関連の有害事象は、modRNA群で3.3%、対照群で1.4%だった。 重篤かつ生命を脅かす有害事象、重篤な有害事象、試験中止に至った有害事象の頻度は低く、両群で同程度であった。modRNA群の1例で、ワクチン関連の重篤な有害事象(Grade3の接種部位反応とGrade4のアナフィラキシー反応)がみられた。接種後6ヵ月までに、16例に致死的な有害事象が発生した(modRNA群7例、対照群9例)が、いずれもワクチン関連とは判断されなかった。接種後1週間以内の死亡例の報告はなかった。 著者は、「modRNAワクチンプラットフォームが許容可能な安全性を備えた効果的なワクチンを迅速かつ大量に生産する能力は、COVID-19だけでなく、インフルエンザなどの季節性の呼吸器疾患の予防への応用においても重要である」「本試験で確認されたmodRNAワクチンによるインフルエンザの予防効果は、ヘマグルチニンのみをコードするように設計されたワクチンで達成されたが、modRNAワクチンは他のインフルエンザウイルス抗原を標的にできる可能性もある」「modRNAプラットフォームはインフルエンザワクチンの開発において有望であり、既存製品を上回る恩恵をもたらす可能性がある」としている。

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成人の肺炎球菌感染症予防の新時代、21価肺炎球菌結合型ワクチン「キャップバックス」の臨床的意義/MSD

 MSDは11月21日、成人の肺炎球菌感染症予防をテーマとしたメディアセミナーを開催した。本セミナーでは、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学分野(第二内科)教授の迎 寛氏が「成人の肺炎球菌感染症予防は新しい時代へ ―21価肺炎球菌結合型ワクチン『キャップバックス』への期待―」と題して講演した。高齢者肺炎球菌感染症のリスクや予防法、10月に発売されたキャップバックスが予防する血清型の特徴などについて解説した。高齢者肺炎の脅威:一度の罹患が招く「負のスパイラル」 迎氏はまず、日本における肺炎死亡の97.8%が65歳以上の高齢者で占められている現状を提示した。抗菌薬治療が発達した現代においても、高齢者肺炎の予後は依然として楽観できない。とくに強調されたのが、一度肺炎に罹患した高齢者が陥る「負のスパイラル」だ。 肺炎による入院はADL(日常生活動作)の低下やフレイルの進行、嚥下機能の低下を招き、退院後も再発や誤嚥性肺炎を繰り返すリスクが高まる。海外データでは、肺炎罹患群は非罹患群に比べ、その後の10年生存率が有意に低下することが示されている1)。迎氏は、高齢者肺炎においては「かかってから治す」だけでは不十分であり、「予防」がきわめて重要だと訴えた。 また迎氏は、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の重篤性についても言及した。肺炎球菌に感染した場合、4分の1の患者が髄膜炎や敗血症といったIPDを発症する。IPD発症時の致死率は約2割に達し、高齢になるほど予後が不良になる。大学病院などの高度医療機関に搬送されても入院後48時間以内に死亡するケースが半数を超えるなど、劇症化するリスクが高いことを指摘した。 さらに、インフルエンザ感染後の2次性細菌性肺炎としても肺炎球菌が最多であり、ウイルスとの重複感染が予後を著しく悪化させる点についても警鐘を鳴らした。とくに、高齢の男性が死亡しやすいというデータが示された2)。定期接種と任意接種の位置付け 現在、国内で承認されている主な成人用肺炎球菌ワクチンは以下のとおりである。・定期接種(B類疾病):23価莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)対象:65歳の者(65歳の1年間のみ)、および60〜64歳の特定の基礎疾患を有する者。※以前行われていた5歳刻みの経過措置は2024年3月末で終了しており、現在は65歳のタイミングを逃すと定期接種の対象外となるため注意が必要である。・任意接種:結合型ワクチン(PCV15、PCV20、PCV21)21価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV21、商品名:キャップバックス)やPCV20などの結合型ワクチンは、T細胞依存性の免疫応答を誘導し、免疫記憶の獲得が期待できるが、現時点では任意接種(自費)の扱いとなる。最新の接種推奨フロー(2025年9月改訂版) 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会による合同委員会が発表した「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)」では、以下の戦略が示されている3)。・PPSV23未接種者(65歳など)公費助成のあるPPSV23の定期接種を基本として推奨する。任意接種として、免疫原性の高いPCV21やPCV20を選択すること、あるいはPCV15を接種してから1〜4年以内にPPSV23を接種する「連続接種」も選択肢となる。・PPSV23既接種者すでにPPSV23を接種している場合、1年以上の間隔を空けてPCV21またはPCV20を接種(任意接種)することで、より広範な血清型のカバーと免疫記憶の誘導が期待できる。従来行われていたPPSV23の再接種(5年後)に代わり、結合型ワクチンの接種を推奨する流れとなっている。 また、迎氏は接種率向上の鍵として、医師や看護師からの推奨の重要性を強調した。高齢者が肺炎球菌ワクチンの接種に至る要因として、医師や看護師などの医療関係者からの推奨がある場合では、ない場合に比べて接種行動が約8倍高くなるというデータがある4)。このことから、定期接種対象者への案内だけでなく、基礎疾患を持つリスクの高い患者や、接種を迷っている人に対し、医療現場から積極的に声を掛けることがきわめて重要であると訴えた。既存ワクチンの課題と「血清型置換」への対応 肺炎球菌ワクチンの課題として挙げられたのが、小児へのワクチン普及に伴う「血清型置換(Serotype Replacement)」である。小児へのPCV7、PCV13導入により、ワクチンに含まれる血清型による感染は激減したが、一方でワクチンに含まれない血清型による成人IPDが増加している5)。 迎氏は「現在、従来の成人用ワクチンでカバーできる血清型の割合は低下傾向にある」と指摘した。そのうえで、新しく登場したPCV21の最大の利点として、「成人特有の疫学にフォーカスした広範なカバー率」を挙げた。PCV21の臨床的意義:IPD原因菌の約8割をカバー PCV21は、従来のPCV13、PCV15、PCV20には含まれていない8つの血清型(15A、15C、16F、23A、23B、24F、31、35B)を新たに追加している。これらは成人のIPDや市中肺炎において原因となる頻度が高く、中には致死率が高いものや薬剤耐性傾向を示すものも含まれる。 迎氏が示した国内サーベイランスデータによると、PCV21は15歳以上のIPD原因菌の80.3%をカバーしており、これはPPSV23(56.6%)やPCV15(40.0%)と比較して有意に高い数値である6)。 海外第III相試験(STRIDE-3試験)では、ワクチン未接種の50歳以上2,362例を対象に、OPA GMT比(オプソニン化貪食活性幾何平均抗体価比)を用いて、PCV21の安全性、忍容性および免疫原性を評価した。その結果、PCV21は比較対照のPCV20に対し、共通する10血清型で非劣性を示し、PCV21独自の11血清型においては優越性を示した。安全性プロファイルについても、注射部位反応や全身反応の発現率はPCV20と同程度であり、忍容性に懸念はないと報告されている7)。コロナパンデミック以降のワクチン戦略 講演の結びに迎氏は、新型コロナウイルス感染症対策の5類緩和以降、インフルエンザや肺炎球菌感染症が再流行している現状に触れ、「今冬は呼吸器感染症の増加が予想されるため、感染対策と併せて、改めてワクチン接種の啓発が必要だ。日本は世界的にみてもワクチンの信頼度が低い傾向にあるが、肺炎は予防できる疾患だ。医療従事者からの推奨がワクチン接種行動を促す最大の因子となるため、現場での積極的な働き掛けをお願いしたい」と締めくくった。■参考文献1)Eurich DT, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2015;192:597-604. 2)Tamura K, et al. Int J Infect Dis. 2024;143:107024. 3)65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)4)Sakamoto A, et al. BMC Public Health. 2018;18:1172. 5)Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010;201:32-41. 6)厚生労働省. 小児・成人の侵襲性肺炎球菌感染症の疫学情報 7)生物学的製剤基準 21価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体)キャップバックス筋注シリンジ 添付文書

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現金給付による死亡率低下、そのメカニズムとは/Lancet

 米国・ペンシルベニア大学のAaron Richterman氏らは以前、現金給付プログラムが低・中所得国(LMIC)において、女性と幼児の死亡率を人口集団レベルで大幅に低下させることを報告している。同氏らの研究チームは今回、この死亡率の低下の背景にあるメカニズムの探索を目的に検討を行い、現金給付プログラムによって、妊産婦保健サービスの利用や子供の健康・栄養状態などに関連する12のアウトカムが大幅に改善されることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年11月10日号に掲載された。37のLMICで17のアウトカムを差分の差分分析で評価 本研究では、2段階差分の差分分析を用いて、アフリカ、中南米・カリブ海地域、東南アジアの37のLMICにおける人口動態・健康調査(DHS)の個人レベルのデータと、2000~19年の政府主導の現金給付プログラムの包括的なデータベースを統合し、プログラム導入前後で、プログラム実施国と非実施国を比較した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。 現金給付プログラムが、妊産婦保健サービスの利用(3項目)、妊孕性・生殖に関する意思決定(5項目)、養育者の健康行動(3項目)、子供の健康・栄養状態(6項目)に関連する合計17項目のアウトカムに及ぼす影響を評価した。 研究対象の37ヵ国のうち、研究期間中に20ヵ国が大規模な現金給付プログラムを導入した。生児出生215万6,464人のデータと、5歳未満児95万4,202人のデータを解析の対象とした。子供の死亡率低下に4項目が直接関連 政府主導の大規模現金給付プログラムは、評価対象の17項目のうち次の12のアウトカムについて大幅な改善をもたらした。 早期妊婦健診(現金給付による絶対変化:5.0%ポイント、95%信頼区間[CI]:2.1~7.9、padjusted=0.0019)、施設分娩(同:7.3%ポイント、95%CI:3.2~11.3、同=0.0014)、有資格者による分娩介助(7.9%ポイント、3.2~12.6、0.0027)、希望妊娠(1.9%ポイント、0.5~3.2、0.014)、分娩間隔(2.5ヵ月、1.8~3.1、0.0017)、避妊ニーズの未充足(-10.3%ポイント、-15.2~-5.3、0.0006)、完全母乳育児(14.4%ポイント、13.3~15.5、0.0004)、最低限適切な食事(7.5%ポイント、5.5~9.5、0.0009)、麻疹ワクチン接種(5.3%ポイント、1.6~8.9、0.026)、男子双生児出生(男子生児出生1,000人当たり0.8人、0.3~1.4、0.023)、下痢性疾患(-6.4%ポイント、-11.7~-1.1、0.038)、低体重栄養状態(-2.0%ポイント、-3.6~-0.4、0.029)。 これらは、妊産婦保健サービスの利用、妊孕性・生殖に関する意思決定、養育者の健康行動、子供の健康・栄養状態に影響を及ぼし、施設分娩(補正後リスク比:0.89、95%CI:0.84~0.93)、有資格者による分娩介助(0.86、0.82~0.91)、分娩間隔(0.99/月の増加、0.99~0.99)、希望妊娠(0.88、0.81~0.96)の4項目は、その後の子供の生存率向上や死亡率低下に直接関連していた。早期妊婦健診(1.00、0.95~1.05)は死亡率とは関連しなかった。 一方、次の5項目には、現金給付プログラムによる統計学的に有意な改善を認めなかった。初産年齢(現金給付による絶対変化:1.6ヵ月、95%CI:-1.3~4.4、padjusted=0.48)、意図した妊娠(同:-0.2%ポイント、95%CI:-2.8~2.3、同=0.86)、主観的に小さい出生時サイズ(0.4%ポイント、-0.7~1.4、0.53)、やせ(-2.1%ポイント、-5.0~0.9、0.17)、低身長(4.3%ポイント、-0.2~8.7、0.10)。人口集団のカバー率が高いプログラムで優れた効果 主解析の結果は、多重比較法による補正後も頑健であった。また、サブグループ解析では、人口集団のカバー率が最も高い現金給付プログラムで最大の効果が観察された。 著者は、「現金給付と死亡率の因果経路における潜在的な役割を超えて、これらすべてのアウトカム自体が、きわめて重要な関心事である」「本研究は、LMICにおける主要な健康関連指標に関して、多数の国で実施された現金給付プログラムの集団全体への影響を包括的に評価した初の試みの1つである」「多くの国が現金給付プログラムの縮小または拡大を慎重に検討する中、これらの知見は、施策立案者が現金給付プログラムの健康面での恩恵を適切に判断するうえで有用と考えられる」としている。

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【訂正】RSVワクチン─成人の呼吸器疾患関連入院を抑制(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

※2025年11月26日に配信しました内容に一部誤りがございました。ここに訂正しお詫び申し上げます。 2025年11月末現在、世界的規模で予防が推奨されているウイルス感染症としてはインフルエンザ、新型コロナ(COVID-19)の進化・変異株に加え呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory Syncytial Virus)が注目されている。インフルエンザ、新型コロナ感染症に対しては感染制御効果を有する薬物の開発が進んでいる。一方、RSV感染、とくに成人への感染に対しては治療効果を期待できる薬物の開発が遅れており、ワクチン接種による感染予防が重要である。RSVワクチンの種類 RSV感染症に対するワクチン開発には長い歴史が存在するが、新型コロナに対するワクチン生産を可能にした種々なる蛋白/遺伝子工学的手法がRSVのワクチン開発にも応用されている。米国NIHを中心にRSVの蛋白構造解析が粘り強く進められた結果、RSVが宿主細胞への侵入を規定する“膜融合前F蛋白(RSVpreF)”を標的にすることが、ワクチン生成に最も有効な方法であると示された。RSVにはA型、B型の2種類の亜型が存在し、両者のRSVPreFは蛋白構造上差異を認める。GSK社のアレックスビー筋注用(商品名)はA型、B型のF蛋白の差を考慮しない1価ワクチンであり、2023年9月に60歳以上の高齢者(50歳以上で重症化リスクを有する成人を含む)に対するRSV感染予防ワクチンとして本邦で薬事承認された。一方、Pfizer社のアブリスボ筋注用(商品名)はA型、B型のF蛋白の差を考慮した2価ワクチンであり、本邦では2024年1月に母子用、すなわち、妊娠24~36週の母体に接種し新生児のRSV感染を抑制するワクチンとして薬事承認された。2024年3月には60歳以上の高齢者に対してもアブリスボ筋注用の本邦での接種が追加承認された。上記2種類のRSVワクチンはProtein-based Vaccine(Subunit Vaccine)と定義されるものでF蛋白に関する遺伝子情報を人以外の細胞に導入しF蛋白を生成、それを人に接種するものである。一方、Moderna社のmRNAを基礎として作成された1価ワクチン、エムレスビア筋注シリンジ(mRESVIA)(商品名)はRSV膜融合前F蛋白を標的としたGene-based Vaccineで2025年5月に高齢者用RSVワクチンとして本邦でも薬事承認されたが、先発のアレックスビー筋注用、アブリスボ筋注用とのすみ分けをどのようにするかは現在のところ不明である。各RSVワクチンの基礎的特徴に関しては、ジャーナル四天王 「高齢者RSV感染における予防ワクチンの意義」、「“Real-world”での高齢者に対するRSVワクチンの効果」の2つの論評に記載してあるのでそれらを参照していただきたい。2価RSVワクチンの呼吸器疾患重症化(入院)予防効果 今回論評の対象としたLassen氏らの論文では、RSV下気道感染に誘発された種々の呼吸器疾患の重症化(入院)に対する2価RSVワクチン(Pfizer社のアブリスボ筋注用)の予防効果が検討された。対象はデンマーク在住の60歳以上の一般市民13万1,379例(デンマーク高齢者の約8.6%に相当)であり、2024年11月から12月にかけて集積された。この対象をもとに2価RSVワクチンのReal-worldでの現実的(Pragmatic)、研究者主導の第IV相無作為化非盲検並行群間比較試験が施行され、追跡期間は初回来院日の14日後から2025年5月31日までの約6ヵ月であった。最終的にワクチン接種者は6万5,642例、ワクチン非接種対照者は6万5,634例であった。解析の主要エンドポイントは種々なる呼吸器疾患患者の重症化(入院)頻度で、この指標に対するワクチンの予防効果は83.3%と臨床的に意義ある結果が得られた。本研究の特色は2価のRSVワクチン接種による単なるRSV感染予防効果ではなく、種々なる呼吸器疾患を基礎疾患として有する対象の重症化(入院)抑制効果を観察したもので、臨床的・医療経済的に意義ある内容である。 一方、1価のRSVワクチン(GSK社のアレックスビー筋注用)のRSV感染に対する予防効果はPapi氏らによって報告された(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。Papi氏らは60歳以上の高齢者2万4,966例を対象としたアレックスビー筋注用に関する国際共同プラセボ対照第III相試験を施行した。アレックスビー筋注用のRSV感染に対する全体的予防効果は82.6%、重症化因子(COPD、喘息、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患など)を有する対象におけるRSV感染予防効果は94.6%と満足のいく結果であった。しかしながら、Papi氏らの論文ではアレックスビー筋注用のRSV感染に起因する種々なる呼吸器疾患の重症化(入院)抑制効果については言及されていない。本邦におけるRSV感染症の今後を考える時、2価のRSVワクチンに加え1価のRSVワクチンを用いて呼吸器疾患を中心に種々なる基礎疾患を有する対象における重症化(入院)抑制効果を早期に解明する必要がある。 Lassen氏らは副次的・探索的解析として2価RSVワクチンによる心血管病変の重症化(入院)予防効果に関しても別論文で発表している(Lassen MCH, et al. JAMA. 2025;334:1431-1441.)。彼らの別論文によると脳卒中、心筋梗塞、心不全、心房細動による入院率には2価のRSVワクチン接種の有無により有意な差を認めなかった。すなわち、2価のRSVワクチンは呼吸器疾患の重症化(入院)を有意に抑制するが、心血管病変の重症化(入院)阻止には有効性が低いという興味深い結果が得られた。RSVワクチン接種に対する今後の施策 本邦においては、妊婦ならびに高齢者におけるRSVワクチン接種は公的補助の対象ではない(任意接種であり費用は原則自己負担。※妊婦については2026年4月から定期接種とすることが了承された)。しかしながら、完全ではないがRSVワクチンの臨床的効果(とくに、呼吸器疾患患者の重症化[入院]抑制効果)が集積されつつある現在、高齢者に対するRSVワクチンを定期接種とし公的補助の対象にすべき時代に来ているものと考えられる。 追加事項として、インフルエンザ、新型コロナに対するワクチンに関しても従来施行されてきた各ウイルスに対する単なる感染予防効果に加え、心肺疾患を中心に重症化(入院)阻止効果について前向きに検討されることを期待するものである。

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第271回 18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府

<先週の動き> 1.18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府 2.OTC類似薬を保険から外さず 選定療養型の負担上乗せを検討/厚労省 3.インフルエンザが記録的ペースで拡大、39都道府県で警報レベルに/厚労省 4.医師偏在是正へ、自由開業原則が転換点に 都市部抑制が本格化/政府 5.病院7割赤字・診療所も利益率半減の中、診療報酬改定の基本方針まとまる/厚労省 6.介護保険の負担見直し本格化 現役世代の保険料増に対応/厚労省 1.18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府政府は11月28日、2025年度補正予算案(一般会計18.3兆円)を閣議決定した。電気・ガス料金支援や食料品価格対策など物価高対応に加え、AI開発や造船業を含む成長投資、危機管理投資を盛り込んだ大型編成となった。歳入の6割超を国債追加発行で賄う一方、補正予算案は今後の国会審議で与野党の議論に付される。野党は「規模ありきで緊要性に疑問がある項目もある」とし、効果の精査を求める姿勢。厚生労働省関連では、総額約2.3兆円を計上し、その中心となる「医療・介護等支援パッケージ」には1兆3,649億円を充てる。医療現場では物価高と人件費上昇を背景に病院の67%超が赤字に陥っており、政府は緊急的な資金投入を行う。医療機関への支援では、病院に対し1床当たり計19.5万円(賃金分8.4万円・物価分11.1万円)を交付し、救急を担う病院には受入件数などに応じて500万円~2億円の加算を認める。無床診療所には1施設32万円、薬局・訪問看護にも相応の支援額を措置し、医療従事者の賃上げと光熱費上昇分の吸収を図る。介護分野では、介護職員1人当たり最大月1.9万円の「3階建て」賃上げ支援を半年分実施する。処遇改善加算を前提とした1万円に、生産性向上の取り組みで5千円、職場環境改善で4千円を積み増す仕組みで、慢性的な人材不足に対応する狙いとなっている。一方で、今回の補正予算案は「病床適正化」を強力に後押しする構造転換型の性格も持つ。人口減少に伴い全国で11万床超が不要になると見込まれるなか、政府は「病床数適正化緊急支援基金」(3,490億円)を新設し、1床削減当たり410万4千円、休床ベッドには205万2千円を支給する。応募が殺到した昨年度補正を踏まえ、今回はより広範な病院の撤退・統合を促す政策的メッセージが込められている。日本医師会は「補正は緊急の止血措置に過ぎず、本格的な根治治療は2026年度診療報酬改定」と強調するとともに、「医療機関の経営改善には、物価・賃金上昇を踏まえた恒常的な財源措置が不可欠」と訴えている。補正予算案は12月上旬に国会へ提出される予定で、与党は成立を急ぐ。一方で、野党は財源の国債依存や事業の妥当性を追及する構えで、賃上げ・病床再編など医療政策の方向性が国会審議で問われる見通し。 参考 1) 令和7年度厚生労働省補正予算案の主要施策集(厚労省) 2) 令和7年度文部科学省関係補正予算案(文科省) 3) 25年度補正予算案18.3兆円、政府決定 物価高対策や成長投資(日経新聞) 4) 補正予算案 総額18兆円余の規模や効果 今後の国会で議論へ(NHK) 5) 厚生労働省の今年度の補正予算案2.3兆円 医療機関や介護分野への賃上げ・物価高対策の「医療・介護等支援パッケージ」に約1.3兆円(TBS) 6) 令和7年度補正予算案が閣議決定されたことを受けて見解を公表(日本医師会) 7) 介護賃上げ最大月1.9万円 医療介護支援に1.3兆円 補正予算案(朝日新聞) 2.OTC類似薬を保険から外さず、選定療養型の負担上乗せを検討/厚労省厚生労働省は、11月27日に開催された「社会保障審議会 医療保険部会」において、市販薬と成分や効能が近い「OTC類似薬」の保険給付の在り方について、医療費適正化の一環として保険適用から外す方針を変更し、自己負担を上乗せとする方向を明らかにした。日本維新の会は自民党との連立政権合意書には、「薬剤の自己負担の見直しを2025年度中に制度設計する」と明記されていたため、維新側からは「保険適用から外すべき」との主張もあった。しかし、社会保障審議会・医療保険部会や患者団体ヒアリングでは、負担増による受診控えや治療中断への懸念が強く示され、11月27日の部会では「保険給付は維持しつつ、患者に特別の自己負担を上乗せする」案が厚労省から提示され、異論なく事実上了承された。追加負担の設計にあたっては、選定療養の仕組みを参考に、通常の1~3割負担に加え一定額を患者が負担するイメージが示されている。一方で、18歳以下、指定難病やがん・アレルギーなど長期的な薬物療法を要する患者、公費負担医療の対象者、入院患者などについては、特別負担を課さない、あるいは軽減する方向での配慮が必要との意見が相次いだ。低所得者への配慮と、現役世代の保険料負担抑制のバランスが論点となる。どの薬を特別負担の対象とするかも課題である。OTC類似薬といっても、有効成分が同じでも用量や効能・効果、剤形などが市販薬と異なる場合が多く、「単一成分で、用量・適応もほぼ一致し、市販薬で代替可能な医薬品」に絞るべきとの指摘が出ている。日本医師会からは、製造工程の違いによる効果の差や、個々の患者の病態に応じた代替可能性の検証が不可欠とされ、制度が複雑化して現場負担が過度に増えないよう、シンプルな設計を求める声も挙がった。同じ部会では、「効果が乏しいとのエビデンスがある医療」として、急性気道感染症の抗菌薬投与に加え、「神経障害性疼痛を除く腰痛症へのプレガバリン投与」を医療費適正化の重点として例示する案も提示された。高齢化と医療高度化で膨張する医療費のもと、OTC類似薬の特別負担導入と低価値医療の抑制を組み合わせ、保険財政の持続可能性を確保しつつ、必要な受診や治療をどう守るかが、今後の診療報酬改定・制度改革の大きな焦点となる。 参考 1) OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について(厚労省) 2) OTC類似薬“保険給付維持 患者自己負担上乗せ検討”厚労省部会(NHK) 3) OTC類似薬、保険適用維持へ 患者負担の追加は検討 厚労省(朝日新聞) 4) OTC類似薬の保険給付維持、厚労省が軌道修正 患者に別途の負担求める方針に(CB news) 3.インフルエンザが記録的ペースで拡大、39都道府県で警報レベルに/厚労省全国でインフルエンザの流行が急拡大している。厚生労働省によると、11月17~23日の1週間に定点約3,000ヵ所から報告された患者数は19万6,895人で、1医療機関当たり51.12人と今季初めて50人を突破。前週比1.35倍と増勢が続き、現在の集計方式で最多を記録した昨年末(64.39人)に迫る水準となった。都道府県別では宮城県(89.42人)、福島県(86.71人)、岩手県(83.43人)など東北地方を中心に39都道府県で「警報レベル」の30人を超えた。愛知県で60.16人、東京都で51.69人、大阪府で38.01人など大都市圏でも増加している。学校などの休校や学級・学年閉鎖は8,817施設と前週比1.4倍に急増し、昨季比で約24倍と際立つ。流行の早期拡大により、ワクチン接種が十分に行き届く前に感染が広がった可能性が指摘されている。また、国立健康危機管理研究機構が、9月以降に解析したH3亜型からは、新たな「サブクレードK」が13検体中12検体で検出され、海外でも報告が増えている。ワクチンの有効性に大きな懸念は現時点で示されていないが、感染力がやや高い可能性があり、免疫のない層が一定数存在するとの見方がある。小児領域では、埼玉県・東京都などで入院児が増加し、小児病棟の逼迫例も報告される。インフルエンザ脳症など重症例も散見され、昨季と同様の医療逼迫が年末にかけ迫る可能性が指摘されている。専門家は、学校での換気や症状時のマスク着用、帰宅時の手洗い徹底に加え、ワクチン接種の早期検討を促している。新型コロナの感染者は減少傾向にあるが、インフルエンザの急拡大に備え、社会全体での感染対策と医療体制の確保が急務となっている。 参考 1) 2025年 11月28日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) インフル全国で流行拡大、感染者は前週の1.35倍 新たな変異も(朝日新聞) 4) インフルエンザの患者数 1医療機関当たり 今季初の50人超え(NHK) 5) インフル感染19万人、2週連続で「警報レベル」 コロナは減少(産経新聞) 4.医師偏在是正へ、自由開業原則が転換点に 都市部抑制が本格化/政府政府は、深刻化する医師偏在を是正するため、医療法などを改正する法案を衆議院本会議で可決した。今国会中の成立が見込まれている。改正案では、都市部に集中する外来医師数を抑制し、医療資源の維持が難しい地域への医師誘導を強化する内容で、開業規制の導入は戦後初の本格的措置となる。背景には、2040年前後に85歳以上の高齢者人口が急増し、救急・在宅医療需要が著しく高まる一方、生産年齢人口は全国的に減少し、地域により医療提供体制の崩壊リスクが顕在化している構造的問題がある。改正案では、都道府県が「外来医師過多区域」を指定し、当該区域で新規開業を希望する医師に対し、救急・在宅などの不足機能への従事を要請できる仕組みを導入する。開業6ヵ月前の事前届出制を新設し、要請への不従事が続く場合は医療審議会で理由説明を求め、公表や勧告、保険医療機関指定期間の短縮(6年→3年)を可能とする強力な運用が盛り込まれた。一方、医師が不足する地域については「重点医師偏在対策支援区域」を創設し、診療所承継・開業支援、地域定着支援、派遣医師への手当増額など、経済的インセンティブを付与する。財源は健康保険者の拠出とし、現役世代の保険料負担の上昇が避けられない可能性も指摘されている。また、保険医療機関の管理者には、一定の保険診療経験(臨床研修2年+病院での保険診療3年)を要件化し、医療機関の質の担保を強化する。加えて、オンライン診療の法定化、電子カルテ情報共有サービスの全国導入、美容医療の届出義務化など、医療DXを基盤とした構造改革も並行して進める。今回の法改正は、「医師の自由開業原則」に制度的な調整を加える大きな転換点であり、診療所の新規開設や地域包括ケアとの連携、勤務環境整備に大きな影響を与えるとみられる。 参考 1) 医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(厚労省) 2) 医師の偏在対策 医療法改正案が衆院本会議で可決 参院へ(NHK) 3) 医師偏在是正、衆院通過 開業抑制、DXを推進(共同通信) 5.病院7割赤字・診療所も利益率半減の中、診療報酬改定の基本方針まとまる/厚労省2026年度診療報酬改定に向け、厚労省は社会保障審議会医療部会を開き、令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)を明らかにした。これに加えて、医療経済実態調査、日本医師会からの要望が出そろい、改定論議が最終局面に入った。骨子案は4つの視点を掲げ、このうち「物価や賃金、人手不足等への対応」を「重点課題」と位置付ける。物価高騰と2年連続5%超の春闘賃上げを背景に、医療分野だけ賃上げが遅れ、人材流出リスクが高まっているとの認識だ。一方で、24年度医療経済実態調査では、一般病院の損益率(平均値)は-7.3%、一般病院の約7割が赤字と報告された。診療所も黒字は維持しつつ損益率は悪化し、医療法人診療所の利益率は前年度のほぼ半分に低下している。急性期ほど材料費比率が高く、物価高と医薬品・診療材料費の上昇が経営を直撃している構図が鮮明になった。日本医師会の松本 吉郎会長は、26年度改定では「単年度の賃金・物価上昇分を確実に上乗せする」対応を現実的選択肢とし、基本診療料(初再診料・入院基本料)を中心に反映すべきと主張する。ベースアップ評価料は対象職種が限定されており、現場の賃上げに十分つながっていないとの問題意識だ。さらに、改定のない奇数年度にも賃金・物価動向を当初予算に自動反映する「実質・毎年改定」を提案し、物価スライド的な仕組みの恒常化を求めているが、財源にも制約があるため先行きは不明。厚生労働省が示した骨子案には、物価・賃金対応に加え、「2040年頃を見据えた機能分化と地域包括ケア」「安心・安全で質の高い医療」「効率化・適正化による制度の持続可能性」を並列して掲げる。後発品・バイオ後続品の使用促進、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、費用対効果評価の活用など、負担増や給付適正化を通じた現役世代保険料抑制も明記されており、医療側が求める「救済一色」とはなっていない。医療部会では、病院団体から「過去2年分の賃上げの未達分も含めた上積み」や、医療DXとセットでの人員配置基準の柔軟化を求める声が上がる一方、保険者・経済界からは「視点1だけを重点課題とするのは違和感」「経営状況に応じたメリハリ配分を」との意見も出された。地域医療については、在宅医療・訪問看護や「治し支える医療」の評価、過疎地域の実情を踏まえた評価、かかりつけ医機能の強化などを通じ、2040年の高齢化ピークと医療人材不足に耐え得る体制構築をめざす。しかし、医療経済実態調査が示すように、一般病院も診療所もすでに利益率は薄く、「診療所の4割赤字から7割赤字の病院へ財源を振り替えても地域医療は守れない」とする日本医師会の主張も重くのしかかる。補正予算での物価・賃金対応は「大量出血に対する一時的な止血」に過ぎず、26年度本体改定でどこまで「根治療法」に踏み込めるかが焦点となる。この骨子案をもとにして、12月上旬に基本方針が正式決定され、年末の改定率、来年以降の中医協個別項目論議へと舞台は移る。医療機関の経営と人材確保に直結するため、次期改定に向けて「真水」の財源確保と、DX・タスクシフトを含む構造改革のバランスに注視する必要がある。 参考 1) 令和8年度診療報酬改定の基本方針 骨子案(厚労省) 2) 2026年度診療報酬改定「基本方針」策定論議が大詰め、「物価・人件費高騰に対応できる報酬体系」求める声も-社保審・医療部会(Gem Med) 3) 医療人材確保が困難さを増す中「多くの医療機関を対象にDX化による業務効率化を支援する」枠組みを整備-社保審・医療部会(同) 4) 日医・松本会長 26年度改定で賃金物価は単年度分上乗せが「現実的」 27年度分は大臣折衝で明確化を(ミクスオンライン) 5) 厚労省・24年度医療経済実態調査 医業費用の増加顕著 急性期機能高いほど材料費等の上昇が経営を圧迫(同) 6) 24年度の一般病院の損益率は▲7.3%、一般診療所は損益率が悪化-医療経済実態調査(日本医事新報) 6.介護保険の負担見直し本格化 現役世代の保険料増に対応/厚労省高齢化による介護給付費の増大を背景に、厚生労働省は介護保険サービス利用時に「2割負担」となる対象者の拡大を本格的に検討している。介護保険は、現在、原則1割負担で、単身年収280万円以上が2割、340万円以上が3割負担とされているが、所得基準を280万円から230~260万円へ引き下げる複数案が示され、拡大対象者は最大33万人に達する。介護保険の制度改正によって、年間で40~120億円の介護保険料の圧縮効果が見込まれ、財政面では国費20~60億円、給付費80~240億円の削減に寄与するとされる。現役世代の保険料負担が増す中で、所得や資産のある高齢者に応分の負担を求める狙いがある。一方、新たに2割負担となる利用者では、1割負担時に比べ最大月2万2,200円の負担増が生じるため、厚労省は急激な負担増を避ける「激変緩和策」として、当面は増額分を月7,000円までに抑える案を提示。預貯金額が一定額以下の利用者(単身300~700万円、または500万円以下など複数案)については申請により1割負担を据え置く仕組みも検討されている。資産要件の把握には、特別養護老人ホームの補足給付で用いられている金融機関照会の仕組みを参考に、自治体が認定証を交付する方式が想定されている。介護保険の自己負担率引き上げは、2015年の2割導入、2018年の3割導入以降も議論が続いてきたが、高齢者の負担増への反発で3度先送りされてきた。政府は、2025年末までに結論を出す方針を示し、現役世代の急速な負担増への対応は喫緊の課題となっている。26年度からは少子化対策による医療保険料上乗せも始まり、改革の遅れは賃上げ効果を相殺し国民負担をさらに押し上げる懸念が指摘される。今回の試算と緩和策の提示により、年末の社会保障審議会での議論が加速するとみられる。 参考 1) 介護保険料40~120億円圧縮 2割負担拡大巡り厚労省4案(日経新聞) 2) 介護保険料120億円減も 2割負担拡大で厚労省試算(共同通信) 3) 介護保険サービス自己負担引き上げで増額の上限を検討 厚労省(NHK)

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高齢者への高用量インフルワクチンの入院予防効果:FLUNITY-HD試験(解説:小金丸 博氏)

 高齢者に対する高用量不活化インフルエンザワクチン(HD-IIV)の重症化予防効果を検証した国際共同プール解析「FLUNITY-HD試験」の結果が、Lancet誌オンライン版2025年10月17日号に報告された。標準用量インフルエンザワクチン(SD-IIV)では免疫応答が不十分なことが知られており、HD-IIVの高齢者における追加的な防御効果を明らかにすることを目的とした。 本試験は、デンマークのDANFLU-2試験(登録者:約33万人)とスペインのGALFLU試験(同:約13万人)という、同一デザインの実践的ランダム化比較試験を統合解析したものである。対象は65歳以上で、少なくとも1つの慢性疾患を有する者が約49%と重要なリスクグループが適切に含まれており、高齢者集団への一般化が可能であると思われる。いずれの試験も日常診療環境で実施され、主要評価項目は「インフルエンザまたは肺炎による入院」とされた。 その結果、HD-IIV接種群ではSD-IIV接種群と比較し、主要評価項目であるインフルエンザまたは肺炎による入院を8.8%低減させた。一方で、DANFLU-2試験単独では主要評価項目に有意差を認めなかった。HD-IIVの効果は季節や流行株の影響を受けやすい可能性があることや、インフルエンザ以外の病原体(肺炎球菌、マイコプラズマ、アデノウイルスなど)の流行が試験結果に影響した可能性が指摘されている。そのほか、副次評価項目である検査確定インフルエンザによる入院を約32%、心肺疾患による入院を約6%低減させており、インフルエンザによる入院の抑制効果は明確であった。また、HD-IIV接種群ではSD-IIV接種群と比較して、全原因による入院が2.2%減少した。これは、515人の高齢者にSD-IIVの代わりにHD-IIVを接種することで全原因による入院を1件予防できることを意味する。重篤な有害事象の発生は両群で同程度だった。 本試験は、高齢者において高用量インフルエンザワクチンが実際の重症転帰を減少させうることを大規模ランダム化試験で示した点で意義が大きい。インフルエンザワクチンの目的が「感染予防」から「重症化・入院予防」へとシフトする中で、より高い免疫原性を求める戦略として高用量ワクチンの価値が再確認された。とくに慢性心疾患や呼吸器疾患、糖尿病などの基礎疾患を有する高齢者において、インフルエンザ感染が直接的に入院や心血管イベントを誘発することを考慮すれば、臨床的意義は大きい。 米国や欧州では高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンがすでに導入され、各国ガイドラインでも推奨されている。本邦では2024年12月に製造販売承認を取得し、60歳以上を対象に2026年秋から使用可能となる見込みである。このワクチンが定期接種に組み込まれるか、市場に安定供給されるかによって推奨される接種対象は左右されると思われるが、要介護施設入所者(フレイル高リスク群)、虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患などの重症化リスクのある基礎疾患を持つ者、85歳以上の超高齢者や免疫不全者など抗体応答が弱いと想定される者では、積極的に高用量ワクチンを選択すべき集団として妥当であると考える。費用面では標準用量より高価だが、入院抑制による医療費削減効果も期待される(注:2025年11月19日の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会「予防接種基本方針部会」は、高用量ワクチンを2026年10月から75歳以上の定期接種に追加する方針を了承した)。 FLUNITY-HD試験は、高用量インフルエンザワクチンが標準用量と比較して、65歳以上の高齢者の重症転帰を有意に減少させることを示した大規模ランダム化試験である。日本でも高齢者および基礎疾患を有する群への適用を念頭に、今後の季節性インフルエンザ予防戦略における選択肢として検討すべき重要なエビデンスといえる。

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第289回 RSVワクチン、「妊婦への定期接種」迅速決定の理由とは

11月19日に開催された第72回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会は、RSウイルス(RSV)感染症に対する母子免疫目的で、妊婦への組換えRSVワクチン(商品名:アブリスボ)の定期接種を来年4月から開始する方針を了承した。アブリスボは昨年5月に日本で発売されたばかりで、ワクチン後進国とも呼ばれる日本にしては、発売から2年弱というタイミングでの定期接種化は極めて迅速な対応と言える。海外について見てみると、アメリカで疾病予防管理センター(CDC)の「予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)」とイギリスの予防接種・免疫合同委員会(JCVI)が同様の決定をしたのは2023年9月。さらにアルゼンチンは2024年4月、オーストラリアはまさに今月に決定をしている。国際共同第III相試験で示された妊娠24~36週の妊婦へのアブリスボ接種による母子免疫の有効性は、RSV関連下気道感染症に対して生後180日以内で51.3%、生後360日以内で41.0%、受診を要した重症RSV関連下気道感染症に対しては生後180日以内で69.4%。ちなみに日本人の部分集団解析では生後180日以内で前者が87.6%、後者が75.1%だった。また、接種時の母体妊娠週数別の有効性解析の結果からは、生後180日以内のRSV関連下気道感染症に対する有効性は24~27週が20.7%、28~31週が67.4%、32~36週が57.3%、受診を要した重症RSV関連下気道感染症に対しては24~27週が43.7%、28~31週が88.5%、32~36週が76.5%。この結果を踏まえ、定期接種化では妊娠28~36週の妊婦とする方針が了承された。この点、アメリカのACIPでは妊娠週数別での有効性は同様に28~31週がピークだったものの、妊娠32~36週の接種が最も安定して高い有効性を示し、かつ安全性も確保されていると判断され、32~36週での接種が推奨されている。これは有効性の95%信頼区間の幅が28~31週に比べ、32~36週のほうが狭かった、すなわちデータのばらつきが少なくより信頼性が高いと判断されたからだろう。一方、国際共同第III相試験でプラセボ群に比べて多く認められた副反応は、注射部位疼痛、筋肉痛ぐらいで、発熱や疲労感などのほかの副反応の発現率はプラセボ群と同等だった。さらに出生児での有害事象は、低出生体重児(2,500g以下)も含め、ワクチン接種群とプラセボ接種群で差はなかった。さて、日本で母子免疫を目的としたRSVワクチンの定期接種がこれほど迅速に認められた理由は何だろうと考えてみたが、おそらく接種対象者が絞られるからだろう。 多くの人がご存じのように少子高齢化の結果として、2024年の年間出生児数は68万6,061人にとどまる。約半世紀前の第2次ベビーブーム期の1973年が209万1,983人だったことを考えれば、現状はもはや見る影もない状態である。だが、それゆえに国としても予算の手当てがしやすいとも言える。アブリスボ1回の接種費用は2万7,500円(国立国際医療研究センタートラベルクリニックの場合)なので、予算規模は190億円強で済む計算になるからだ。裏を返せば、高齢者でのRSVワクチンの定期接種化は桁違いの予算規模になるため、実現したとしても、あの悪評高い5歳刻みの年齢区分による接種、かつB類疾病として自己負担が生じる形になるのかもしれない。さて、迅速とは評価したが、それでも諸外国と比べると、アブリスボの承認から定期接種化の政策決定まではアメリカ、イギリスがわずか1ヵ月、アルゼンチンが4ヵ月しかかかっていない。オーストラリアが日本とほぼ同じ。ここから考えれば、現状はワクチン後進国を脱したかもしれないが、ワクチン先進国へはあと一歩というところだろうか。

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移植後再発抑止のための新規治療開発/日本血液学会

 2025年10月10~12日に第87回日本血液学会学術集会が兵庫県にて開催された。10月11日、内田 直之氏(虎の門病院 血液内科)、Konstanze Dohner氏(ドイツ・University Hospital of Ulm)を座長に、JSH-EHA Jointシンポジウム「移植後再発抑止のための新規治療開発」が行われた。登壇者は、Luca Vago氏(イタリア・San Raffaele Scientific Institute)、河本 宏氏(京都大学医生物学研究所 再生免疫学分野)、中前 博久氏(大阪公立大学大学院医学系研究科 血液腫瘍制御学)、名島 悠峰氏(がん・感染症センター都立駒込病院 血液内科)。白血病の再発メカニズムを解明し、再発予防を目指す 急性白血病に対する同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)は、継続的に進歩している。しかし、再発は依然として大きな臨床課題であり、移植後の再発に対する普遍的に認められた標準治療はいまだ存在しない。ドナーリンパ球輸注(DLI)、サルベージ化学療法、二次移植などの介入はいずれも効果が限定的である。 また、治療耐性に関する新たな知見にも注目が集まっている。かつては、治療が十分に奏効しない場合は、薬剤の増量などで対応することが一般的であった。しかし近年は、治療そのものが腫瘍の変化を誘発し、多くの場合、初期治療で用いられた作用機序が再発メカニズムに影響を及ぼしている可能性が指摘されている。 最近の研究では、allo-HSCT後の再発は、多くの場合、白血病細胞がドナーの免疫系から逃れるために獲得した免疫回避機構に起因することが示唆されている。Vago氏は「allo-HSCTのメカニズムは非常に複雑であり、ドナーの種類や抗ウイルス薬などにより予期せぬ影響を受けると考えられる。そのため、臨床試験においては広範な適応症だけにとどまらず、個別のサブセットを対象とした検討が求められる。より詳細なデータを集積することで、さまざまな再発パターンやリスク因子をより適切に定義し、再発予防につなげることが可能となるであろう」と今後への期待を語った。多能性幹細胞から再生したT細胞製剤の開発状況 現在行われているCAR-T細胞療法をはじめとするadoptive T cell therapyは、主に「時間」「費用」「品質」という課題に直面している。これらの課題を解決するため、河本氏らは、ES細胞やiPS細胞(iPSC)といった多能性幹細胞を用いたT細胞作製法の開発を進めている。本講演では、その開発状況について解説が行われた。 まず、iPSC技術を用いて抗原特異的T細胞のクローニングと増殖を行い、抗原特異的CD8 T細胞をiPSCにリプログラム化する。さらにそのiPSCから、腫瘍抗原特異的CD8 T細胞を再生することに成功した。 また、CD8α-βヘテロダイマーを発現する強力な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を作製できる培養法も開発している。このアプローチをallo-HSCTに応用するため、T細胞由来ではないiPSCに外来性のTCR遺伝子を導入する方法も開発した。 そして現在、京都大学医学部附属病院では、2年後の開始を目指して、WT-1抗原特異的TCR導入HLAホモiPSCから再生した細胞傷害性CTLを用いた急性骨髄性白血病(AML)治療の臨床試験の準備を進めている。さらに、白血病プロジェクトと並行してCOVID-19に対するT細胞療法の開発にも着手している。COVID-19は免疫不全患者にとって依然として脅威であり、一定の頻度で長期化する。この課題に対処するため、ワクチン接種を受けた健康なボランティアから、日本人の約60%が保有するといわれているHLAクラスIアレルであるHLA-A*24:02に限定された複数のSタンパク質特異的TCR遺伝子のクローニングも行っている。その結果、Sタンパク質特異的TCRを効率的に発現するCTLは、SARS-CoV-2に感染した肺胞上皮細胞を殺傷することが示された。現在、藤田医科大学病院において本プロジェクトの臨床試験準備も進行中である。 これら複数のプロジェクトにおいてどのような結果が示されるのか、今後も注目される。Ph陽性ALLにおけるallo-HSCTの位置付けとTKI予防的投与への期待 フィラデルフィア染色体(Ph)陽性急性リンパ性白血病(ALL)は、従来の治療では困難であるとされてきた。しかし近年、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)や二重特異性抗体の登場により、治療レジメンは一変した。これに伴い、これまで必須と考えられていたallo-HSCTを行わなくても長期生存を達成できる可能性が高まっている。移植適応は、画一的なアプローチから、遺伝子解析や微小残存病変(MRD)評価に基づく個別化アプローチへと移行しつつあり、有害事象の認められる患者に限定される傾向にある。 一方、移植適応患者においては、再発リスクを低減するためのTKI予防的投与が注目されている。しかし、allo-HSCT後のMRD陰性患者に対するTKI予防的投与と、MRD陽性を契機としたTKI先制的投与との間で、予後や有害事象発現率などの違いはいまだ明確でない。また、TKIが奏効する可能性の高い患者集団の特定、最適な薬剤選択、治療開始時期・期間の設定なども課題として残されている。TKIの移植片対白血病(GVL)効果への影響や、移植片対宿主病(GVHD)リスクを見極めつつ、有害事象を最小限に抑える最適な投与レジメンの確立が求められている。 実臨床では、MRD陰性で移植を受けた患者では最低2年間のTKI投与を行う傾向があるが、とくに高リスク患者では、患者の希望も考慮したうえで無期限に治療継続することが一般的となっている。これらの戦略の妥当性については、今後さらなる検証と評価が必要である。 中前氏は「TKIと二重特異性抗体の併用療法の可能性、予後に関連する新たな遺伝子異常の同定、次世代シークエンサーを用いた高精度・高感度MRDモニタリング技術の進歩は、Ph陽性ALLの治療成績を向上させ、さらにallo-HSCTの適応をより明確にすることが可能になる」と期待を述べた。移植後再発の克服を目指した最適な維持療法を探求 allo-HSCTは、AMLや骨髄異形成症候群(MDS)といった高リスク造血器悪性腫瘍に対する治療において欠かせない治療となっている。支持療法により非再発死亡率は低下したものの、移植後の再発は依然として治療失敗の主因となっている。とくに非寛解状態、複雑核型、TP53変異といった予後不良因子を有する患者において、移植後の再発は顕著である。強度減弱前処置の普及と適応拡大は、効果的な再発予防の必要性をさらに浮き彫りにしている。名島氏は、移植後維持療法戦略のための包括的な枠組みの原則に基づき、最新の臨床エビデンスとトランスレーショナルな視点に焦点を当て、本講演を行った。 再発の多くは allo-HSCT後6ヵ月以内に発生するため、早期介入が不可欠となる。維持療法は、寛解期の患者に対する「予防的アプローチ」とMRDに基づく「先制的アプローチ」の2つに大別される。予防的アプローチは再発予防の可能性を高める一方で、過剰治療のリスクを伴う。MRDに基づく治療戦略は、より標的を絞った治療といえるが、高感度な検出や最適な治療タイミングに留意する必要がある。 アザシチジン(AZA)は、その免疫調節作用と忍容性から、維持療法の候補として注目されている。名島氏らは、移植後のAZAの実現可能性を検証するため、日本で多施設共同第I相試験を実施している。さらに、AZAとゲムツズマブ オゾガマイシンの併用療法についても評価を行い、allo-HSCT後の維持療法としてAZAレジメンが忍容性と中程度の有効性を示したことを報告した。 FLT3-ITD変異陽性AMLは高リスクサブタイプであり、現在もFLT3阻害薬の評価が活発に行われている。移植後患者を対象としたMORPHO試験では、ギルテリチニブによる維持療法が検討されており、主要評価項目である無再発生存率は全体では有意差が得られなかったものの、MRD陽性患者では改善が認められた。フォローアップ解析により、MRD陽性が、とくにNPM1遺伝子重複症例で有益性を示す強力な予測因子であることが確認され、FLT3阻害薬はMRD依存的なベネフィットを示す可能性があると示唆されている。 現在の維持療法では薬理学的戦略が主流となっているが、免疫学的アプローチも注目されている。日本で広く使用されているDLIは、これまでの経験からも明らかなように、移植後の免疫学的維持療法として有望である。 最後に名島氏は「これらさまざまな研究やすべての努力が、最終的に allo-HSCTを通じてより多くの造血器悪性腫瘍患者の命を救うことに役立つことを願っている」と自身の思いを語り、講演を締めくくった。

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小児インフルワクチン、初回2回接種の有効性は3歳未満で顕著/メタ解析

 世界保健機関(WHO)は、インフルエンザワクチン未接種の生後6ヵ月~9歳未満の小児に対し、少なくとも4週間の間隔を空けて2回接種し、その後は毎年1回接種することを推奨している。オーストラリア・メルボルン大学のJessie J. Goldsmith氏らは、既接種歴のない小児を対象に、1回と2回接種の効果の違いをメタ解析により検証した。JAMA Network Open誌2025年10月3日号掲載の報告。 研究者らは、MEDLINE、EMBASE、CINAHLで創刊から2025年3月24日までに発表された論文を対象に検索を行った。研究対象シーズン以前にインフルエンザワクチンを接種したことがない9歳未満の小児を対象に、1回接種と2回接種におけるワクチン有効性(VE)とその差を推定した。 主な結果は以下のとおり。・本メタ分析では51研究、41万5,050例の参加者が対象となった。・不活化インフルエンザワクチンにおいて、2回目接種による追加的VEは、9歳未満では15パーセントポイント(pp)(95%信頼区間[CI]:−2.8~33)であった一方、3歳未満では28pp(95%CI:4.7~51)であった。3歳未満の小児では、統計的に有意なワクチン有効性の向上が推定されたが、対象年齢を9歳未満の児童に拡大した場合、有意な増加は認められなかった。・生ワクチンの2回目接種に伴う追加的効果を評価するには、十分な推定値が得られなかった。 研究者らは「われわれの知見は、不活化インフルエンザワクチンの2回接種が、3歳未満のインフルエンザワクチン未接種児に対して追加的な保護効果をもたらすものの、その効果は年齢と共に減弱することを示唆している。2回接種が有益な年齢層を特定するためには、両ワクチンタイプにおける年齢別の2回接種の影響を評価する高品質の研究が追加で必要である」とまとめた。

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第269回 2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省

<先週の動き> 1.2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省 2.インフルエンザ12週連続増加 5県で警報レベル、過去2番目の早さで流行拡大/厚労省 3.医師少数区域を再定義、へき地尺度の導入で支援対象を拡大/厚労省 4.大学病院の医師処遇改善へ、給与体系見直しと研究時間確保に向け取りまとめ/政府 5.12月2日からマイナ保険証へ全面移行 期限切れ保険証は3月末まで有効に/厚労省 6.高齢者3割負担拡大も議論加速へ、金融所得の保険料反映が本格化/政府 1.2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省2026年度の診療報酬改定に向け、財務省が「診療所・調剤薬局の適正化」を強く打ち出し、開業医を巡る環境が一段と厳しくなりつつある。焦点は、今年度スタートした「かかりつけ医機能報告制度」を土台に、機能を十分に果たしていない診療所の報酬を減算し、機能を発揮する診療所に評価を集中させる方向性だ。具体的には、報告制度上の「1号機能」を持たない医療機関の初診・再診料を減算し、【機能強化加算】【外来管理加算】は廃止、【地域包括診療料・加算】は認知症地域包括診療料などと統合し、発展的改組という案が財政制度等審議会で示されている。かかりつけ医機能報告制度では、研修修了や総合診療専門医の有無、17診療領域・40疾患の1次診療対応、患者からの相談対応などを「1号機能」として毎年報告し、時間外診療・在宅・介護連携などを「2号機能」として申告する。かかりつけ医機能報告制度は今年度始まったばかりで、初回報告が2026(令和8)年1月頃に予定されている。その結果が今後の加算要件・減算判定の「物差し」となる可能性が高い。これにより、機能強化加算と地域包括診療料などの加算要件が報告制度と整合的に整理される可能性がある。財務省は、診療所は過去に「高い利益率を維持してきた」とし、物価・賃上げ対応は病院に重点配分すべきと主張する一方、無床診療所などの経常利益率は中央値2.5%、最頻値0~1%と低水準であり、インフレ下で悪化しているとの日本医師会のデータも示されている。日本医師会の松本 吉郎会長は、開業医の高収入イメージを強調する財務省資料は「恣意的」と強く批判し、補助金終了後の厳しい経営実態を踏まえた「真水」の財源確保と十分な改定率を求めている。開業医にとって当面の実務ポイントは、「報告制度への対応」ならびに「収益構造の見直し」となる。まず、報告制度は、自院がどの診療領域・疾患まで1次診療を担うか、相談窓口としてどこまで責任を負うか、時間外・在宅・介護連携をどう位置付けるかを棚卸しするツールと捉えたい。1号機能の対応領域が限定的であれば、今後の診療報酬上の評価が縮小しかねない。研修修了者の配置や、地域包括診療料・生活習慣病管理料・在宅医療の組み合わせも含め、自院の「かかりつけ医像」を描き直す必要がある。同時に、機能強化加算・外来管理加算への依存度が高いクリニックは要注意となる。これらが縮小・廃止された場合に備え、地域包括診療料・加算への移行、逆紹介の受け皿としての役割強化、連携強化診療情報提供料や在宅関連の評価、オンライン診療(D to P with Nなど)の活用など、収益を強化する戦略が求められる。今年度始まったばかりの「かかりつけ医機能報告制度」、どのように対応するかが、次期改定以降の経営戦略の出発点になりそうだ。 参考 1) かかりつけ医機能報告制度にかかる研修(日本医師会) 2) かかりつけ医「未対応なら報酬減」 財務省、登録制にらみ改革提起(日経新聞) 3) 日医・松本会長 財政審を批判「医療界の分断を招く」開業医の高給与水準は「恣意的にイメージ先行」(ミクスオンライン) 4) 機能強化加算と地域包括診療料・加算を「かかりつけ医機能報告制度」と対応させ整理か(日経メディカル) 2.インフルエンザ12週連続増加 5県で警報レベル、過去2番目の早さで流行拡大/厚労省インフルエンザの感染拡大が全国で続いており、厚生労働省が発表した最新データでは、11月3~9日の1週間の患者数が1医療機関当たり21.82人と、前週の約1.5倍で12週連続の増加となった。注意報レベル(10人)を大きく上回り、宮城県(47.11人)、埼玉県(45.78人)など5県で警報レベル(30人)超。東京都も都独自基準で警報を発表した。全国で3,584校が休校・学級閉鎖となり、前週比1.5倍以上の増加と、教育現場での感染も拡大している。今年の流行は例年より1ヵ月以上早く、過去20年で2番目の早さ。近畿地方・徳島県でも注意報レベルに達する地域が急増し、地域差を超えて全国的に拡大している。クリニックでもワクチン接種希望者が急増しており、現場からは「1~2ヵ月早い流行」との声が上がる。流行の背景には、近年のインバウンドの増加に加え、各地で開催されるイベントや大阪万国博覧会など国際的な催事により、海外からのウイルス流入が増えた可能性が指摘されている。一方、新型コロナウイルスは全国で1医療機関当たり1.95人と前週比14%減で減少傾向にあるが、感染症専門家は「別系統のインフルエンザ流行やコロナ再増加もあり得る」とし、 来年2月までの警戒を継続すべきと警鐘を鳴らしている。厚労省でも引き続き、「手洗い・マスク・換気」など基本的感染対策の徹底を呼びかけている。 参考 1) 2025年 11月14日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) インフルエンザ感染者が前週の1.46倍、感染拡大続く…新型コロナは減少(読売新聞) 4) インフルエンザ患者数は8.4万人に 万全な感染予防を(ウェザーニュース) 5) インフルエンザ流行警報、全国6自治体が発令…首都圏・東北で拡大(リセマム) 3.医師少数区域を再定義、へき地尺度の導入で支援対象を拡大/厚労省厚生労働省は、11月14日に開かれた「地域医療構想・医療計画等に関する検討会」で、次期医師確保計画(2025年度以降)で用いる医師偏在指標の見直し案を提示した。現行指標が抱える「地理的条件を十分に反映できない」という課題を踏まえ、人口密度、最寄り2次救急医療機関までの距離、離島・豪雪地帯といった条件を数値化し「へき地尺度(Rurality Index for Japan:RIJ)」を併用し、医師少数区域を再定義する方針。具体的には、現行の医師偏在指標で下位3分の1に該当する区域に加え、中位3分の1のうちへき地尺度が上位10%の区域を「医師少数区域」に追加する案が示された。RIJは(1)人口密度、(2)2次救急病院への距離、(3)離島、(4)特別豪雪地帯の4要素により構成され、へき地度の高い地域では、医師が対応すべき診療範囲が広がる傾向が明確になっている。構成員からは、地理的要素を反映できる点についておおむね評価が示され、一方で「算定式が複雑で現場への説明が難しい」との懸念も上がった。また、全国の医師数自体は増加しているため、偏在指標の下位3分の1基準を固定的に運用すると、多くの都道府県が基準外となる可能性も指摘された。厚労省は、次期計画では医師偏在指標とへき地尺度の双方を踏まえ、都道府県が「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、医師確保に向けた重点支援を行う仕組みを強化する方針である。支援対象医療機関の選定においても、へき地医療・救急医療・在宅医療など地域の医療提供体制上の役割を考慮し、地域医療対策協議会および保険者協議会の合意を前提とする。医師偏在は、都市部と地方の医療格差を生み、地域住民のライフラインに影響するため政策課題である。今回の指標見直しは、「人数ベースの偏在」から「地理的ハンディキャップを加味した偏在」へと視点を転換する試みといえ、へき地を抱える地域にとっては実態に即した区域指定につながる可能性が高い。今後は、新指標の丁寧な説明と自治体の運用力が問われる局面となる。 参考 1) 医師確保計画の見直しについて(厚労省) 2) 医師偏在指標に「へき地尺度」併用へ 地域医療構想・医療計画検討会(CB news) 4.大学病院の医師処遇改善へ、給与体系見直しと研究時間確保に向け取りまとめ/政府高市 早苗総理大臣は11月10日の衆院予算委員会で、大学病院勤務医の給与水準や研究時間の不足が深刻な問題となっている現状を受け、「年度内に大学病院教員の処遇改善と適切な給与体系の方針をまとめる」と表明した。自民・維新の連立合意書に基づくもので、教育・研究・診療を担う大学病院の機能強化を社会保障改革の重要項目として位置付ける。質疑では、日本維新の会の梅村 聡議員が、53歳国立大学外科教授の手取りが33万円という給与明細を示し「収入確保のため土日や平日昼にアルバイトせざるを得ず、研究・教育に時間を割けない」と窮状を訴えた。医局員12人中常勤4人、非常勤8人で外来・手術を回す実態も示され、高市首相は「このままでは人材流出につながる」と強い危機感を示した。松本 洋平文部科学大臣は、国公私立81大学病院の2024年度の経常赤字が508億円に達し、診療偏重で教育・研究が圧迫されている現状を説明。大学病院の本来的な機能が損なわれているとの認識を共有した。大学の研究力低下も指摘され、自然科学系上位10%論文数が20年前の世界4位から13位へ後退したこと、医療関連貿易赤字が1990年の約2,800億円から2023年には4兆9,664億円に拡大したとのデータも示された。高市総理はこれらを受け、「大学に対する基盤的経費は必要な財源を確保する」とし、研究開発と人材育成は国の成長戦略そのものであると強調した。さらに、社会保障改革の議論の中で、高齢者層が多く負担する税(例:相続税)を含む財源の再設計についても「1つの提案として受け止める」と前向きな姿勢を見せた。今回の議論は、大学病院の経営改善だけでなく、診療・教育・研究の三位一体機能を再建し、医師の働き方・キャリア形成、ひいてはわが国の医学研究力の立て直しに直結する政策課題として位置付けられつつある。 参考 1) 高市首相、大学病院教員の処遇改善「年度内に方針」人材流出の懸念も表明(CB news) 2) 高市首相 「大学病院勤務医の適切な給与体系の構築含む機能強化」に意欲 経営状況厳しく(ミクスオンライン) 5.12月2日からマイナ保険証へ全面移行 期限切れ保険証は3月末まで有効に/厚労省12月2日から従来の健康保険証が廃止され「マイナ保険証」へ完全移行する中、厚生労働省は移行期の混乱回避を目的に、2026年3月末まで期限切れ保険証の使用を認める特例措置を全国の医療機関に通知した。昨年12月に保険証の新規発行が停止され、最長1年の経過措置が終了するため、12月1日をもって協会けんぽ・健保組合加入者約7,700万人の従来の保険証は形式上すべて期限切れとなるが、資格確認さえできれば10割負担を求めない。すでに7月に期限切れとなった後期高齢者医療制度・国保加入者に続き、今回の通知で全加入者が特例の対象となった。厚労省は医療機関に対し、期限切れ保険証を提示した患者がいた場合、保険資格の確認後、通常の負担割合でレセプト請求するよう要請。一方で、特例は公式な一般向け周知は行わず、原則は「マイナ保険証」または自動送付される「資格確認書」で受診する体制へ移行する方針は変わらない。資格確認書は保険証の代替として使用可能だが、「資格情報のお知らせ」とは異なり、後者では受診できない点を現場で説明する必要がある。背景には、周知不足による混乱リスクがある。国保で期限切れ直後の8月、18.5%の医療機関が「期限切れ保険証の持参が増えた」と回答しており、12月以降は同様の事例が増加することが確実視されている。さらに、マイナ保険証の利用率は10月時点で37.1%にとどまり、若年層や働き盛り世代では周知が届いていない。「期限を知らない」「カードを持ち歩かない」「登録方法を把握していない」といった声も多く、受診機会の確保には医療機関による実務的な対応が不可欠となる。マイナ保険証は、診療・薬剤情報の参照、限度額適用の自動反映、救急現場での活用など医療的メリットが期待される一方、制度への不信も根強く利用が伸びない。完全移行の初動は、現場負担の増加が避けられないが、厚労省は年度末までの特例運用を「移行期の安全策」と位置付けている。医療機関は、資格確認の確実な運用、窓口の説明強化、患者への資格確認書の案内など、年末から春にかけての実務準備が求められる。 参考 1) マイナ保険証を基本とする仕組みへの移行について(厚労省) 2) 「マイナ保険証」完全移行へ、26年3月末までは従来保険証でも使える特例措置…厚労省が周知(読売新聞) 3) 従来の健康保険証、期限切れでも10割負担にならず 26年3月まで(毎日新聞) 4) 12月1日で使えなく…ならない「紙の保険証」 政府が「特例」認めて来年3月末まで使用OK 周知不足で混乱必至(東京新聞) 6.高齢者3割負担拡大も議論加速へ、金融所得の保険料反映が本格化/政府政府・与党内で社会保障制度改革の議論が一気に加速している。最大の論点は、医療・介護保険料の算定に「金融所得」を反映させる新たな仕組みの導入である。現行制度では、上場株式の配当や利子収入などの金融所得は、確定申告を行った場合のみ保険料に反映される。一方、申告を行わない場合は算定から完全に外れ、金額ベースで約9割が把握されない状況だ。厚生労働省や各自治体は確定申告されていない金融所得を把握する手段がなく、「同じ所得でも申告の有無で負担が変わるのは不公平」との指摘が続いていた。これを受け、厚労省は証券会社などが国税庁へ提出する税務調書を活用し、市町村が参照できる「法定調書データベース(仮称)」を創設する案を提示。自民党および日本維新の会も協議で導入の方向性に一致しており、年末までに一定の結論をまとめる見通しだ。上野 賢一郎厚生労働大臣も「前向きに取り組む」と明言しており、制度化に向けた動きが本格化している。同時に議論が進むのが高齢者の医療費自己負担(現役並み所得の3割負担)の拡大である。現行では、単身年収383万円以上などの比較的高所得層が対象だが、高齢者の所得増や受診日数減少を踏まえ、基準の見直しを求める意見が厚労省部会で相次いだ。一方で「高齢者への過度な負担増」への懸念も根強く、慎重な検討が必要との声も大きい。加えて、自民・維新協議では「OTC類似薬」の保険適用見直しも初期の重要論点となっている。湿布薬や風邪薬など市販薬と効果が重複する医薬品を保険給付外とする案だが、利用者負担の増加や日本医師会などの反対もあり調整は難航が予想される。超高齢社会において、医療・介護費の伸びを抑え現役世代の負担をどう軽減するかは避けて通れない課題である。金融所得の把握強化と高齢者負担の見直しという2つの柱は、今後の社会保障制度改革の中核テーマとなり、年末に向けて政策の具体像が示される見込みだ。 参考 1) 社会保障(2)(財務省) 2) 社会保障制度改革 “新たな仕組み導入へ検討進める” 厚労相(NHK) 3) 金融所得、保険料に反映 厚労省検討 税務調書を活用(日経新聞) 4) 社会保障改革めぐる自民・維新の協議 どのテーマでぶつかる? OTC類似薬、高齢者の負担増、保険料引き下げ(東京新聞)

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開発中の経口パラチフスA菌ワクチン、有効性・安全性を確認/NEJM

 パラチフスA菌(Salmonella enterica serovar Paratyphi A[S. Paratyphi A])は年間200万例を超える腸チフスの原因となっている。現在承認されたワクチンはなく、いくつかのワクチンが開発中である。その1つ、経口投与型の弱毒生パラチフスA菌ワクチン(CVD 1902)について、英国・オックスフォードワクチングループのNaina McCann氏らVASP Study Teamは、同国の健康ボランティア成人を集めて、制御されたヒト感染モデル(controlled human infection model)を用いた第II相の二重盲検無作為化プラセボ対照試験を行い、CVD 1902の2回投与により、安全性への懸念を伴うことなくパラチフスA菌に対する防御能獲得に結び付いたことを報告した。NEJM誌2025年10月29日号掲載の報告。CVD 1902を14日間隔で2回投与、チャレンジ試験で有効性、安全性などを評価 試験は英国内6ヵ所(オックスフォード、バーミンガム、サウサンプトン、ブリストル、シェフィールド、リバプール)の研究センターで、腸チフスの既往がない18~55歳の健康ボランティアを集めて行われた。ボランティアにはオンライン質問票への回答が求められ、電話インタビューで受診歴が確認された後、対面調査で詳細な参加資格の評価が行われた。参加者の募集と追跡調査は各センターで行われ、パラチフスA菌の経口チャレンジ試験はオックスフォードで行われた。 被験者は、CVD 1902を14日間隔で2回投与を受ける群またはプラセボの投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。2回目の投与から28日後に、パラチフスA菌の経口チャレンジ試験が行われた。 主要エンドポイントは、チャレンジ試験後14日以内のパラチフスA菌感染症の診断とされた。副次エンドポイントは、安全性および免疫原性などであった。O抗原に対する血清IgG、IgA反応を誘導、ワクチンの有効率は69% 2022年4月~2023年11月に健康ボランティア1,589例が適格性について評価された。うち171例が対面調査でスクリーニングを受け、72例が無作為化された(CVD 1902群35例、プラセボ群37例)。被験者の年齢中央値は32歳(範囲:20~54)、46%が女性であった。チャレンジ試験は、CVD 1902群34例、プラセボ群36例が受けた(各群1例が初回投与後に試験を離脱)。 有害事象の発現数は両群で類似しており、ワクチン関連の重篤な有害事象は確認されなかった。 CVD 1902は、パラチフスA菌のO抗原に対する血清IgG反応および血清IgA反応を誘導したことが認められた。プラセボ群では、血清IgGおよびIgAの力価上昇は認められなかった。 ITT集団(70例)において、チャレンジ試験後14日以内のパラチフスA菌感染症の診断率は、CVD 1902群21%、プラセボ群75%であり(p<0.001)、ワクチンの有効率は73%(95%信頼区間[CI]:46~86)であった。per-protocol解析(プラセボ群に割り付けられたがワクチン2回投与を受けた1例をCVD 1902群に組み込み解析)では、ワクチンの有効率は69%(95%CI:42~84)であった。

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第288回 日本で異常事態の “ある感染症”、その理由と対策法とは

INDEXつい気になった別の感染症の発生動向流行ウイルスは輸入型、ワクチン対象者拡大がカギ?つい気になった別の感染症の発生動向先日、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関する記事を執筆した際、国立健康危機管理研究機構が発表している感染症発生動向調査週報を参照したのだが、その際、ちょっと気になることがあったので、今回はそのことについて触れてみたい。私個人は仕事柄というか生まれつき、さまざまなことに興味を持つ性分である。悪く言えば「熱しやすく冷めやすい」、酷評すれば「何かをやらねばならない時につい横道に逸れてしまいがち」だ。前述の時もついついSFTS以外の全数報告感染症のデータをまじまじと眺めてしまった。その時に気になったのが、今年の麻疹の発生動向である。最新の第44週(10月27日~11月2日)までの全国での累計感染者数は232例。コロナ禍前年の2019年の流行時に年間744例が報告されたこともがあったが、それ以後の最多は2024年の45例であり、今年は明らかに異常事態である。第44週までの感染者報告の多い地域は、神奈川県の40例、東京都の30例、茨城県・千葉県・福岡県の各22例などである。厚生労働省もこの点に危機感を持ったのか、健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課長と予防接種課長の連名通知(感感発1003第1号、感予発1003第1号)「麻しん及び風しんの定期接種対象者に対する積極的な接種勧奨等について(依頼)」1)を10月3日付で発出した。同通知では令和6年度(2024年4月1日~2025年3月31日)のワクチン定期接種対象者の接種率が第1期は92.7%、第2期は91.0%であることにも言及している。ご存じのように感染力が強い麻疹の基本再生産数から算出される集団免疫獲得に必要なワクチン接種率は95%以上であり、厚生労働省の「麻しんに関する特定感染症予防指針」2)でもこの目標を掲げているが、現時点では達成できていない。都道府県別の接種率を見ると、95%以上を達成しているのは第1期で福島県の95.1%のみ。感染報告数トップ2の神奈川県は94.8%、東京都は94.3%とわずかに届かない。第2期では95%以上の都道府県はなく、最高でも94.2%にとどまる。全国的な動向を俯瞰すると、東高西低で九州・沖縄地方では第1期段階でも接種率90%未満の県が散見される。そして前出の通知では、厚生労働省側が文部科学省を通じ学校などでの接種勧奨に注力していることもわかる。率直に言って、95%という目標を実現するのは並大抵の労力では実現しえない。たとえて言うならば、100点満点のテストで平均50点の人を平均60点に引き上げるよりも、平均90点の人を平均95点に引き上げるほうが実際にはかなり困難なのと同じだ。各方面から接種勧奨という、半ば砂地に水をまくような努力を繰り返してようやく達成できるかどうかと言える。ただ、これをやらねば現状の維持すら難しいのは、多くの人が理解できるだろう。流行ウイルスは輸入型、ワクチン対象者拡大がカギ?一方、東京都感染症情報センターが公表している最新の麻疹流行状況3)を参照すると、麻疹流行のセキュリティーホールらしきモノが見えてくる。それを端的に示しているのが、推定感染地域も含む遺伝子型検査結果だ。麻疹ウイルスは20種類以上の遺伝子型が知られており、日本の土着株は遺伝子型D5だが、この結果を見れば現在D5は検出されていない。そもそも長きにわたって国内でD5検出事例はなく、それがゆえに日本は世界保健機関(WHO)から麻疹排除国として認定されている。そして東京都の遺伝子型検査結果からは、今の国内流行の主流となっているのは、アフリカや欧州を中心に確認されている遺伝子型B3と南アジア・東南アジアを中心に確認されている遺伝子型D8、つまり輸入例である。加えて推定感染地域として目立つのがベトナムだ。現在、日本とベトナムの人的交流はかなり活発である。日本政府観光局の公表データによると、2024年の訪日ベトナム人推計値は62万1,100人、これに対しベトナムを訪れた日本人は約70万人である。また、訪日ベトナム人は観光や商用目的の一時滞在ばかりではなく、技能実習や特定技能での労働目的も多いことは周知の事実である。出入国在留管理庁の公表数字では、2024年末現在、技能実習21万2,141人、特定技能13万3,478人を含む63万4,361人の在留ベトナム人がいる。この人数は在留外国人の国籍別で第2位だ。そのベトナムだが、WHOの報告では約5年おきに麻疹の流行が起き、最新の流行は昨年から今年にかけてである。この背景にはコロナ禍中のワクチンの在庫不足で小児の麻疹ワクチン接種率が2023年には82%まで落ち込んだことが大きく影響しているようだ。また、ベトナム国内では年齢層や居住地域によるワクチンギャップも指摘されている。このような事情や、ベトナム人に限らず日本国内で就労する外国人は当面増えることはあっても減ることはないことを考え合わせれば、従来の枠にとどまらない麻疹流行対策も浮かんでくるはずだ。具体的には技能実習や特定技能での来日者やその雇用主へのワクチン接種の積極的勧奨、さらにはそうした労働者が多い企業に関わる産業医などへの啓発である。場合によっては、雇用主に対しこうした来日者へのワクチン接種費用の一部公的助成などの施策も考えられる。このように書くと、いわゆる「日本人ファースト」的な人たちからは「公費で外国人に…」とお叱りを受けそうだが、これは日本の公衆衛生のためでもあり、また来日した人たちの母国への国際貢献や意識改革などにもつながる良策だと思うのだが。 1) 厚生労働省:麻しん及び風しんの定期接種対象者に対する積極的な接種勧奨等について(依頼) 2) 厚生労働省:麻しんに関する特定感染症予防指針 3) 東京都感染症情報センター:麻しんの流行状況(東京都 2025年)

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11月14日 アンチエイジングの日【今日は何の日?】

【11月14日 アンチエイジングの日】 〔由来〕 「いい(11)とし(14)」(良い歳)と読む語呂合わせから、アンチエイジングネットワークが2007年に制定。生活習慣病を予防する予防医学の定着と、年齢を経ても「見た目の若さ」を保ち続ける方法の認知拡大が目的。関連コンテンツ 継続のコツ ~筋トレ編~【Dr. 中島の 新・徒然草】 未来の自分への最高の投資は「食事」にあり!科学が解き明かす“健康的な加齢”の秘訣【NYから木曜日】 治療ワクチンで超高齢社会を乗り越える!~医療の2050年問題解決に向けて 眠気の正体とは?昼間の眠気は異常?/日本抗加齢医学会 世界初の軟骨伝導集音器、補聴器との違いや利便性とは

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帯状疱疹ワクチンは心臓病、認知症、死亡リスクの低減にも有効

 帯状疱疹ワクチンは中年や高齢者を厄介な発疹から守るだけではないようだ。新たな研究で、このワクチンは心臓病、認知症、死亡のリスクも低下させる可能性が示された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部の内科医であるAli Dehghani氏らによるこの研究結果は、米国感染症学会年次総会(IDWeek 2025、10月19〜22日、米アトランタ)で発表された。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国では3人に1人が帯状疱疹に罹患することから、現在、50歳以上の成人には帯状疱疹ワクチンの2回接種が推奨されている。帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)の既往歴がある人に発症するが、CDCは、ワクチン接種に当たり水痘罹患歴を確認する必要はないとしている。1980年以前に生まれた米国人の99%以上は水痘・帯状疱疹ウイルスに感染しているからだ。 水痘・帯状疱疹ウイルスは、数十年間にわたって人の免疫システム内に潜伏し、その後、再び活性化して帯状疱疹と呼ばれる痛みやチクチク感、痒みを伴う発疹を引き起こす。水痘への罹患経験がある人なら年齢を問わず帯状疱疹を発症する可能性があるが、通常は、ストレスにさらされ、免疫力が低下している50歳以上の人に多く発症する。 Dehghani氏らは、米国の107の医療システムから収集した17万4,000人以上の成人の健康記録を分析し、帯状疱疹ワクチン接種者の健康アウトカムをワクチン非接種者のアウトカムと比較した。ワクチン接種者は接種後3カ月〜7年間追跡された。 その結果、帯状疱疹ワクチンの接種により、以下の効果が得られる可能性が示された。・血流障害による認知症のリスクが50%低下・血栓のリスクが27%低下・心筋梗塞や脳卒中のリスクが25%低下・死亡リスクが21%低下 Dehghani氏は、「帯状疱疹は単なる発疹ではない。心臓や脳に深刻な問題を引き起こすリスクを高める可能性がある。われわれの研究結果は、帯状疱疹ワクチンが、特に心筋梗塞や脳卒中のリスクがすでに高い人において、それらのリスクを低下させる可能性があることを示している」とニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、これまでの研究でも、帯状疱疹への罹患が心臓や脳の合併症を引き起こす可能性のあることが指摘されているという。専門家は、この新たな知見は、帯状疱疹ワクチンが帯状疱疹そのものだけでなく、それらの合併症の予防にも役立つ可能性があることを示唆しているとの見方を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第268回 高市首相、補正予算で病院支援明言 賃上げ・経営改善を前倒し実施/政府

<先週の動き> 1.高市首相、補正予算で病院支援明言 賃上げ・経営改善を前倒し実施/政府 2.インフルエンザ、全国で急拡大 定点14.9人、注意報レベルに/厚労省 3.出生数減少、上半期31.9万人で過去最少 小児・産科医療は集約化へ/厚労省 4.「かかりつけ医」機能のないクリニックに初再診料減算を提案/財政制度等審議会 5.国立大病院の赤字が過去最大規模に、学長らが国に緊急要望/国立大学病院長会議 6.有料老人ホーム「登録制」へ、頻回訪問の濫用是正、囲い込みも禁止/厚労省 1.高市首相、補正予算で病院支援明言 賃上げ・経営改善を前倒し実施/政府高市 早苗首相は11月7日の衆院予算委員会で、物価高の影響により経営が悪化している医療機関や介護施設を支援するため、2026年度の診療報酬改定を待たず、今国会に提出予定の2025年度補正予算で対応する方針を示した。政府が策定する経済対策では、食材費や光熱水費の高騰に苦しむ医療・介護事業者に対し、経営改善を目的とした補助金を支給し、職員の賃上げにも充てる。あわせて産科・小児科の体制維持、電子カルテや電子処方箋の普及促進、病床削減の支援なども盛り込まれる見通し。厚生労働省によると、2024年度決算速報では民間病院の約49%が赤字に転落し、前年度比で8ポイント近く悪化した。人件費や物価上昇に報酬改定が追いつかず、医療・介護現場では他産業に比べ賃上げが遅れている。一方、四病院団体協議会は10月29日、厚労省に対し「補正予算での早急な病院支援」「26年度に10%超のプラス改定」「消費税補填のばらつき是正」を求める要望書を提出。とくに大規模急性期病院で補填不足が顕著とする調査結果を示した。また、11月5日に開かれた国民医療推進協議会総会では、日本医師会など43団体が「補正」「26年度予算」「真水による抜本対応」を政府に求める決議を採択。政府は今国会での補正予算成立を目指し、年末までに診療報酬改定率を決定する方針で、医療従事者の処遇改善が焦点となる。 参考 1) 医療介護の経営改善に補助金 食費などの高騰対応、支援策判明(共同通信) 2) 医療従事者らの賃上げ後押しへ 補正予算案に補助金調整 厚労省(NHK) 3) 病院への早急な経営支援など求める 四病協 消費税負担、補填ばらつき解消の抜本策も(CB news) 4) 令和7年度補正予算及び令和8年度予算編成で“真水”による対応を求める決議を採択(日医) 2.インフルエンザ、全国で急拡大 定点14.9人、注意報レベルに/厚労省厚生労働省によると、第44週(10月27日~11月2日)のインフルエンザ定点当たり報告数は14.90人で、前週の6.29人から約2.4倍に急増し、注意報基準(10人)を今季初めて超えた。患者報告は5万7,424人に上り、すべての都道府県で増加した。流行入りは10月3日で、昨季より約1ヵ月早い。都道府県別では宮城県で28.58、神奈川県で28.47、埼玉県で27.91、千葉県で25.04、北海道で24.99、沖縄県で23.80、東京都で23.69と続き、神奈川県・宮城県では警報基準(30人)に迫る水準に達した。すでに学校などの休校、学年・学級閉鎖は約2,300施設と、前週の2倍超に拡大している。専門家は、今季はA香港型(H3N2)の割合が高く、集団免疫の低下により高水準がしばらく続く可能性を指摘している。厚労省は、手洗い、適切なマスク着用、咳エチケットなどの基本的な感染対策を呼びかけている。とくに空気が乾燥する季節に入り、室内の換気と湿度50~60%の維持が推奨される。高齢者や基礎疾患のある人は重症化リスクが高く、早期のワクチン接種や、体調不良時の登校・出勤回避、早めの受診が求められる。なお、今年度から定点医療機関は約3,000ヵ所に減少しており、過去との単純比較には注意が必要。 参考 1) 全国インフル定点報告 前週比約2.4倍増 14.90人(CB news) 2) インフル流行「注意報レベル」前週比2倍超、全国で増加 厚労省発表(産経新聞) 3) インフルエンザの流行拡大、注意報レベルに 昨季よりも6週も早く(朝日新聞) 3.出生数減少、上半期31.9万人で過去最少 小児・産科医療は集約化へ/厚労省厚生労働省が11月4日に公表した人口動態統計(概数)によると、2025年上半期(1~6月)の出生数は31万9,079人で、前年同期比3.3%減と過去最少を更新した。外国人を除く数値であり、下半期も同様の傾向が続けば、年間出生数は2年連続で70万人を下回る見通し。2024年は68万6,173人で、1899年の統計開始以来の最少を記録していた。一方、上半期の死亡数は82万3,343人で2.9%増。出生数との差である「自然減」は50万4,264人と、前年より3万人以上増加した。婚姻件数も4.3%減の23万166件にとどまり、晩婚・非婚化の進行が出生数の減少を加速させている。政府は「次元の異なる少子化対策」として児童手当の拡充などを進めているが、現時点で効果は限定的とみられている。こうした急速な少子化を踏まえ、厚労省の「小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」では、小児科・産科医療機関の集約化と連携強化を軸とした体制再編の議論が開始された。第9次医療計画(2030~35年度)を見据え、症例減少に対応しつつ、医療の質と安全を維持する方針。議論では、地域中核病院の機能強化、オンライン診療や「#8000」相談事業の活用、遠方受診時の交通費支援などの組み合わせ、アクセス低下を防ぐ方策も検討する。厚労省では、出産費用の無償化や産後ケア支援などと併せ、医療提供体制の持続性を確保する構想を進めている。 参考 1) 人口動態統計(厚労省) 2) 小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ(同) 3) 上半期の出生数、31万9千人 2年連続で70万人割れの可能性(共同通信) 4) 上半期の出生数、過去最少ペース…厚労省・人口動態統計(リセマム) 5) 想定超えた少子化が進む中で、小児医療機関、産科・産婦人科医療機関の「集約化、大規模化」をさらに進めよ-小児・周産期WG(Gem Med) 4.「かかりつけ医」機能のないクリニックに初再診料減算を提案/財政制度等審議会財務省は11月5日に財政制度等審議会を開き、2026年度診療報酬改定に向けた外来改革案を提示した。柱は「かかりつけ医機能」の抜本的な見直しで、日常診療を総合・継続的に担う“1号機能”を整備していない診療所に対し、初診料・再診料の減算を求める一方、機能を十分に果たす医療機関をシンプルに高評価する設計への転換を促す。評価項目の簡素化とともに、機能強化加算(80点)は「有効性・効率性に疑義」として廃止を軸に検討、外来管理加算(52点)は即時廃止または地域包括診療料などへの包括化を提起した。制度面では、2025年度に開始となるかかりつけ医機能報告制度を踏まえた公的認定と患者の登録制、包括払い(包括評価)との連動を提案。さらに外来の受診行動の最適化として「受診時定額自己負担」の再検討を要請し、かかりつけ医療機関以外の受診では定額を上積みする二段構えの案も示した。資源配分では、経営状態の悪化している病院に重点配分するため診療所・調剤の「適正化」を主張。無床診療所の24年度経常利益率(平均)6.4%に対し、病院は0.1%と乖離があるとして、機能・病床規模に応じたきめ細かな配点を求めた。ただ、これらは財務省案であり、厚生労働省・与党協議を経て年末の大臣折衝、来年度の個別点数議論に反映される。これまでに受診時の定額負担は過去に「受診抑制」を懸念され、頓挫した経緯もあり、合意されるかは流動的な見通し。 参考 1) 財政制度分科会(財務省) 2) かかりつけ医機能報告制度(厚労省) 3) 「かかりつけ医機能」ない診療所は初再診料減算を 財務省 患者の登録制も提言(CB news) 4) 外来受診時定額負担導入の検討求める、財務省「かかりつけ」以外の受診と金額に差(同) 5) 診療所の診療報酬「適正化不可欠」 財務省主張 病院への重点的な支援を行うため(同) 6) かかりつけ医機能報告制度を、もう「過渡期扱い」した財務省の本音(日経メディカル) 5.国立大病院の赤字が過去最大規模に、学長らが国に緊急要望/国立大学病院長会議国立大学の附属病院の経営悪化が深刻化している。全国44の国立大学学長は11月7日、文部科学省と厚生労働省に対し、運営費交付金や診療報酬の大幅引き上げなどを求める緊急要望を提出した。声明では「大学病院の機能を維持できず、医学研究の停滞や地域医療の崩壊を招きかねない危機的状況」と訴えている。国立大学病院長会議(会長:大鳥 精司千葉大病院長)によると、2025年度の経常損益は全国で400億円を超える赤字となる見込みで、法人化以降で最大規模。2024年度も42病院のうち7割が赤字に陥り、赤字総額は286億円に達した。医薬品や医療機器の高騰、人件費上昇、診療報酬との乖離が要因で、「診療すればするほど赤字が増える構造」となっている。赤字補填は大学本体の財源に依存しており、学長らは「大学全体の経営にも波及する」と危機感を示している。日本記者クラブで会見した大鳥会長らは「経営改善の自己努力だけでは限界」「大学病院は最後のとりで」と強調。最先端医療の提供に加え、教育・研究、地域への医師派遣といった公益的機能を維持するために国の支援を求めた。一方、北海道大の宝金 清博総長は「物価上昇率を考えれば診療報酬を10%上げなければ赤字解消は難しい。1~2%では焼け石に水」と指摘。医療界では、地域偏在や医師の働き方改革への対応など大学病院が抱える多重課題への抜本策が急務との見方が広がっている。 参考 1) 「付属病院の赤字が急増し経営危機」 国立大学長らが国に緊急要望(朝日新聞) 2) 国立大病院の経営「危機的」、44学長らが緊急要望 文科相と厚労相に(日経新聞) 3) 日本記者クラブにて国立大学病院長会議が記者会見を行いました(国立大学病院長会議) 6.有料老人ホーム「登録制」へ、頻回訪問の濫用是正、囲い込みも禁止/厚労省厚生労働省は一部の有料老人ホームで過剰な介護サービスが提供されている問題について検討会を設けて、有料老人ホームのあり方について議論を重ねてきた結果、「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会とりまとめ」を公表した。これによると、有料老人ホーム(とくに要介護3以上や医療的ケア・認知症対応など中重度者を受け入れる類型)に登録制を導入し、基準不適合時は更新拒否・事業停止も可能としている。全施設で契約書に入居可能な要介護度、医療必要度、認知症・看取り可否などの明記と公表を義務化し、職員配置・設備の法定基準、看取り指針の整備も進めるほか、資本関係のある介護事業所の利用を入居条件化する“囲い込み”を契約に盛り込む行為は禁止とする。さらに入居紹介については優良事業者の認定制度を創設し、手数料は賃貸住宅の仲介に準じた算定を促すこととした。一方、ホスピス型住宅で主治医に「頻繁な訪問看護」を一律記載させる要請が判明し、出来高払いを悪用した過剰請求疑念が浮上しており、厚労省では“頻回”は医師が必要性を明示した場合に限定する方向で審議している。現場の医師には、頻回指示の医学的根拠・目標・期間の明記、状態変化に応じた見直し、記録の整合性点検が求められることとなる。また、10月29日に開催された「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」では「在宅医療に積極的役割を担う医療機関」は病院・診療所を基本とし、地域の協力医療機関体制の実装を加速することとなった。急増する有料老人ホーム(全国1万7千超、定員約67万人)に対し、質の担保と監督強化、支払方式の見直し(包括化含む)が医療側の持続可能性を左右するとして引き続き規制が強化される見通し。 参考 1) 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会とりまとめ(厚労省) 2) 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(同) 3) 在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ(同) 4) 有料老人ホーム、規制強化へ 登録制や更新拒否など導入(福祉新聞) 5) 有料老人ホーム、登録制導入へ 規制強化でサービスの質確保 厚労省(朝日新聞) 6) 有料老人ホーム検討会、取りまとめ案を大筋了承 登録制導入や紹介事業者の認定制度も提言(CB news) 7) 【在宅医療において積極的役割を担う医療機関】病院・診療所「以外」を位置づけることは好ましくない-在宅医療、医療・介護連携WG(Gem Med)

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第35回 コロナワクチンが「がん治療」の効果を劇的に向上させる可能性

がん治療の切り札として登場した「免疫チェックポイント阻害薬」は、多くの患者さんの命を救う一方で、すべての人に効果があるわけではありません。とくに、免疫細胞ががんを敵として認識していない「冷たいがん」と呼ばれるタイプの腫瘍には効果が薄いことが、大きな課題でした。しかし、この状況を一変させるかもしれない驚くべき研究結果が、Nature誌に発表されました1)。なんと、私たちが新型コロナウイルス対策で接種したmRNAワクチンが、がん細胞を標的とするものではないにもかかわらず、がんを免疫チェックポイント阻害薬に反応しやすい「熱いがん」に変え、治療効果を劇的に高める可能性が示されたのです。ワクチン接種と生存期間の延長が関連この研究では、米国のがん専門病院であるMDアンダーソンがんセンターの臨床データが分析されています。研究チームは、非小細胞肺がんや悪性黒色腫(メラノーマ)の患者さんで、免疫チェックポイント阻害薬を開始する前後100日以内にコロナのmRNAワクチンを接種したグループと、接種しなかったグループの予後を比較しました。すると、非小細胞肺がんの患者さんを比較したところ、ワクチンを接種したグループの3年生存率が55.7%であったのに対し、未接種のグループでは30.8%と、明らかな差がみられました。同様の生存率の改善は、メラノーマの患者でも確認されました。この効果は、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを免疫チェックポイント阻害薬の前後で接種した患者さんではみられませんでした。このことは、観察された生存率の改善が、単に「ワクチンを接種する」という行為や、健康意識の高さだけによるものではなく、mRNAワクチンが持つ特有の強力な免疫反応によって引き起こされている可能性を示唆しています。なぜコロナワクチンががんに効くのか?では、なぜがんとは無関係のコロナウイルスを標的とするワクチンが、がんに対する免疫療法の効果を高めるのでしょうか? 研究チームは、動物モデルや健常人の血液サンプルを用いて、そのメカニズムを詳細に解明しました。鍵を握っていたのは、「I型インターフェロン」という物質でした。まず、mRNAワクチンが体内に投与されると、ウイルスに感染した時と似たような「偽の緊急事態」が引き起こされます。これにより、体内でI型インターフェロンが爆発的に放出されます。このI型インターフェロンの急増が、全身の免疫細胞、とくに「抗原提示細胞」と呼ばれる偵察役の細胞を「覚醒」させます。覚醒した偵察役の細胞は、リンパ節などの免疫器官に移動し、そこでT細胞(免疫の実行部隊)に対し、「敵(抗原)」の情報を伝達します。この時、偵察役の細胞はウイルスの情報(スパイクタンパク)だけでなく、体内に存在する「がん抗原」の情報も同時にT細胞に提示し始めることがわかりました。がんの情報をキャッチしたT細胞は、増殖して腫瘍組織へと侵入していきます。これにより、これまでT細胞が存在しなかった「冷たいがん」が、T細胞が豊富に存在する「熱いがん」へと変化します。しかし、T細胞の攻撃にさらされたがん細胞は、生き残るために「PD-L1」というバリアを表面に出して、T細胞の攻撃を無力化しようとします。しかし実際、ワクチンを接種した患者さんのがん組織では、このPD-L1の発現が著しく増加していることが確認されました。ここで免疫チェックポイント阻害薬が登場します。免疫チェックポイント阻害薬は、まさにこのPD-L1のバリアを無効化する薬剤です。つまり、mRNAワクチンがT細胞をがんへ誘導し、免疫チェックポイント阻害薬がそのT細胞が働けるように「最後のバリア」を取り除く。この見事な連携プレーによって、がんに対する強力な免疫応答が引き起こされ、治療効果が飛躍的に高まると考えられます。今後の展望と研究の限界この研究の最大の意義は、がん患者さんごとに製造する必要がある高価な「個別化mRNAがんワクチン」でなくても、すでに臨床で広く利用可能な「既製のmRNAワクチン」が、がん免疫療法を増強する強力なツールになりうることを示した点にあります。とくに、これまで免疫チェックポイント阻害薬が効きにくかったPD-L1陰性の「冷たいがん」の患者さんに対しても、生存期間を改善する可能性が示されたことは大きな希望です。一方で、この研究の限界も認識しておく必要があります。最も重要なのは、患者さんを対象とした解析が「後ろ向き観察研究」である点です。つまり、過去のデータを集めて解析したものであり、「mRNAワクチン接種」と「生存期間の延長」の間に強い関連があることは示せましたが、mRNAワクチンが原因となって生存期間が延びたという因果関係を完全に証明したわけではありません。たとえば、「治療中にあえてコロナワクチンも接種しよう」と考える患者さんは、全般的に健康意識が高く、それ以外の要因(たとえば、栄養状態や運動習慣など)が生存期間に影響した可能性(交絡因子)も否定できません。研究チームは、インフルエンザワクチンなど他のワクチンとの比較や、さまざまな統計的手法(傾向スコアマッチングなど)を用いて、これらの偏りを可能な限り排除しようと試みていますが、未知の交絡因子が残っている可能性があります。この発見をさらに確実なものとするためには、今後、患者さんをランダムに「mRNAワクチン接種+免疫チェックポイント阻害薬群」と「免疫チェックポイント阻害薬単独群」に分けて比較するような、前向きの臨床試験で有効性を確認することが不可欠です。とはいえ、mRNAワクチンががん治療の新たな扉を開く可能性を示した本研究のインパクトは大きいでしょう。感染症予防という枠を超え、がん免疫療法の「増強剤」として、既製のmRNAワクチンが活用されるという場面も、今後訪れるのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Grippin AJ, et al. SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumours to immune checkpoint blockade. Nature. 2025 Oct 22. [Epub ahead of print]

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