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第266回 インフルエンザ前週比1.4倍増で全国急拡大、マイコプラズマ肺炎も増加/厚労省

<先週の動き> 1.インフルエンザ前週比1.4倍増で全国急拡大、マイコプラズマ肺炎も増加/厚労省 2.高市新政権、医療機関や介護施設に支援を、報酬改定待たず措置へ/政府 3.医師臨床研修マッチング、大学病院の人気は過去最低、都市集中続く/厚労省 4.出産費用の地域差24万円 妊婦支援と医療機関維持の両立課題に/厚労省 5.高額療養費制度、70歳以上の3割負担拡大や外来特例見直しが俎上に/厚労省 6.希少がんで死去した大学生のSNS投稿が原動力に、「追悼寄付」が医療研究を支援/がん研ほか 1.インフルエンザ前週比1.4倍増で全国急拡大、マイコプラズマ肺炎も増加/厚労省全国で例年に比べて1ヵ月以上早く、インフルエンザの感染が急速に拡大しており、これに加えてマイコプラズマ肺炎も患者数を増やしていることから、医療機関と地域社会は複合的な感染症の流行に直面し、警戒を強めている。厚生労働省が発表したデータによると、10月19日までの1週間におけるインフルエンザ患者数は全国で1万2,576人に達し、前週比でおよそ1.4倍に急増した。定点医療機関当たりの報告数は3.26人と増加し、37都道府県で増加が確認されている。とくに、沖縄県(15.04人)が突出しているほか、首都圏では千葉県(6.99人)、埼玉県(6.23人)、神奈川県(5.62人)、東京都(5.59人)といった大都市圏で高い水準で感染が拡大している。東京都では、10月19日までの1週間に、休校や学級閉鎖などの措置をとった施設が71施設にのぼり、これは去年の同じ時期の6倍以上に急増した。また、愛知県(定点当たり1.44人)や滋賀県(同1.38人)では、昨年より約1ヵ月早い流行期入りが発表され、全国的な早期かつ大規模な流行が懸念されている。さらに、子供に多いマイコプラズマ肺炎も患者数が増加している。10月12日までの1週間で定点医療機関当たり1.53人と5週連続で増加しており、秋田県(8.25人)、群馬県(4.22人)などで報告が目立っている。専門家は、過去の流行状況を踏まえ、これからさらに患者が増え、大きな流行になる可能性が高いと分析している。とくに、ぜんそく発作の経験がある患者は、症状の再発に注意が必要となる。新潟県では、インフルエンザに加えてマイコプラズマ肺炎の感染者が2週連続で増加しており、複数の感染症が同時流行する「トリプル流行」の懸念が現実のものとなっている。医療現場では、小児に対し注射の痛みがなく接種回数が少ない鼻腔スプレー型インフルエンザワクチンの接種希望者が増えるなど、予防策への関心が高まっている。厚労省や各自治体は、手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策の徹底、およびインフルエンザワクチンの早めの接種を強く呼びかけている。 参考 1) インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(厚労省) 2) インフルエンザ患者数 前週比1.4倍増 37都道府県で増加(NHK) 3) マイコプラズマ肺炎 患者増加 “大きな流行の可能性 対策を”(同) 4) 都内のインフル定点報告5.59人、前週比17.2%増 臨時休業の学校など計244カ所(CB news) 2.高市新政権、医療機関や介護施設に支援を、報酬改定待たず措置へ/政府高市 早苗首相は10月24日の所信表明演説で、経営難に陥る医療機関や介護施設を対象に、診療報酬・介護報酬の改定を待たずに補助金を措置する方針を表明した。物価高や人件費上昇への対応を急ぎ、経営改善と職員処遇の改善効果を「前倒し」する狙い。年内に経済対策を策定し、補正予算案を今国会に提出する考えを示した。高市首相は、国民が安心して医療・介護サービスを受けられる体制を維持するためには「待ったなしの支援が必要」と強調。報酬改定にも物価高や賃上げ分を適切に反映させると述べた。また、給付と負担の見直しに向け、超党派の「国民会議」を新設し、税と社会保障の一体改革を進めるとした。現役世代の保険料負担を抑えるため、OTC類似薬の保険給付見直しや応能負担の徹底を検討する。一方、厚生労働大臣に就任した上野 賢一郎氏は、医療・介護現場の経営や処遇改善策を経済対策・補正予算に盛り込む方針を示した。物価高騰で医療機関の6割超が赤字に陥る中、日本医師会も早期の補正成立を要望している。上野氏は「創薬力の強化」「薬価の安定供給」を課題に挙げ、ドラッグロス解消や製薬産業の競争力強化を推進するとした。新政権は自民党と日本維新の会の連立により発足。現役世代の社会保険料率引き下げや、病院・介護施設の経営改善を柱とする社会保障改革を掲げる。高齢者の外来特例や高額療養費制度の見直しも議論が進む見通しで、持続可能な制度と公平な負担の両立が今後の焦点となる。 参考 1) 新政権の社会保障改革 現役世代の負担軽減はどうなる(NHK) 2) 高市首相、医療経営支援「補助金を措置」所信表明 介護施設も 報酬改定待たずに(CB news) 3) 新厚労相の上野氏「処遇改善や経営改善支援のための施策を経済対策や補正予算に盛り込む」(日経メディカル) 4) 高市首相、診療報酬・介護報酬に「物価高を反映」 所信表明 補助金支給で「効果を前倒し」(Joint) 5) 高市内閣発足 「病院、介護経営を好転へ」 社会保障改革で協議体(福祉新聞) 3.医師臨床研修マッチング、大学病院の人気は過去最低、都市集中続く/厚労省2025年度の医師臨床研修マッチング最終結果が10月23日に公表され、内定者数は8,910人(前年度比152人減)、内定率は92.3%だった。募集定員は1万527人、希望登録者は9,651人。大学病院本院の充足率100%は81大学中12大学にとどまり、前年度から7大学減少した。フルマッチとなったのは京都大、京都府立医科大、順天堂大、北里大、関西医科大など都市部中心で、地方大学では充足率が3割未満の大学もあり、弘前大はマッチ者ゼロだった。全体では市中病院志向が続き、大学病院に進む医学生の割合は35.2%と過去最低を更新。第1希望でマッチした割合も60.6%に減少し、2016年度から約20ポイント低下した。背景には、働き方改革を受けた労働環境や給与・QOLを重視する傾向の強まりがある。一方、厚労省は医師偏在対策として新設した「広域連携型プログラム」を導入し、医師多数県と少数県をまたぐ研修を促進。東京大、京都府立医科大などで定員を満たす成果もみられた。人気集中が続く都市部と地方の格差は依然大きく、研修医の分布と質の均衡が今後の課題となる。 参考 1) 令和7年度の医師臨床研修マッチング結果をお知らせします(厚労省) 2) 2025年度 研修プログラム別マッチング結果[2025/10/23現在](JRMP) 3) 医師臨床研修マッチング内定者152人減 25年度は計8,910人(CB news) 4) 市中病院にマッチした医学生は64.8% マッチング最終結果、大学病院のフルマッチは12施設(日経メディカル) 5) あの病院はなぜ人気? 臨床研修マッチング2025(同) 4.出産費用の地域差24万円 妊婦支援と医療機関維持の両立課題に/厚労省厚生労働省は10月23日、社会保障審議会の医療保険部会を開き、出産費用の上昇や地域格差を踏まえ、出産費用の無償化と周産期医療の集約化を柱とする制度改革の検討を開始した。厚労省側は、2026年度を目途に正常分娩費用の自己負担をなくす方向で、今冬に給付体系の骨格をまとめる方針を示した。2024年度の平均出産費用は51万9,805円で、出産育児一時金(50万円)を上回る。東京と熊本では約24万円の地域差があり、物価高騰や人件費上昇を背景に、費用は年々増加傾向にある。無償化には妊婦の負担軽減への期待が高まる一方、分娩を担う一次施設や地方の産科医院の経営悪化を懸念する声も強い。日本産婦人科医会の石渡 勇会長は「地域の一次施設を守る観点で制度設計を」と訴え、日本医師会の城守 国斗常任理事も「診療所の崩壊は産科医療の瓦解につながる」と慎重な議論を求めた。厚労省は、施設の経営実態に十分配慮しつつ、標準的出産費用の「見える化」と「標準化」を進める。一方、出産を取り扱う医療機関は減少しており、周産期医療体制の維持が困難な地域が増えている。このため厚労省は「小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」を10月23日に開き、ハイリスク妊婦以外も含めた周産期医療の集約化を検討し、遠方で出産する妊婦の交通費や宿泊費への支援、宿泊施設や家族支援の整備、島しょ部での夜間搬送体制強化などを論点に掲げた。出産費用の上昇、地域格差、分娩施設の減少という3重の課題に対し、妊婦支援と医療機関支援を両立させる制度設計が求められている。 参考 1) 医療保険制度における出産に対する支援の強化について(厚労省) 2) 小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ(同) 3) 周産期医療の集約化で妊婦への支援を検討 移動に伴う交通費・宿泊費など含め 厚労省(CB news) 4) 出産への給付体系、今冬に骨格取りまとめ 厚労省(同) 5) 平均出産費用、1.3万円増加 都道府県間で24万円の差-厚労省(時事通信) 6) 24年度出産費用、平均52万円 上昇続き家計の負担増(共同通信) 5.高額療養費制度、70歳以上の3割負担拡大や外来特例見直しが俎上に/厚労省厚生労働省は10月23日、医療保険部会を開き、70歳以上の窓口負担や高額療養費制度の見直しに関する議論を本格的に開始した。少子高齢化による医療費増大と現役世代の保険料負担の偏りを踏まえ、「年齢ではなく支払い能力に応じた公平な負担(応能負担)」を制度の柱に据える。部会では、「(1)医療費増大への対応、(2)年齢を問わない応能負担、(3)セーフティネットとしての高額療養費制度のあり方」の3点を中心に、年内に方向性をまとめる方針が示された。具体的には、70歳以上で3割負担となる現役並み所得の範囲拡大、75歳以上の外来特例の見直し、所得区分の細分化などが論点となる。高齢者ほど医療費が高い一方で、自己負担は低く抑えられており、世代間・世代内の公平性確保を求める意見が相次いだ。一方で、低所得者や長期療養患者への配慮を求める声も強く、超高額薬のコストを患者に転嫁すべきでないとの懸念も示された。高額療養費は年間約3兆円規模で、財政抑制や現役世代の負担軽減効果が焦点となる。制度改正は自民・維新連立政権の「応能負担強化」方針に合致しており、持続可能性と医療アクセス維持の両立が医療界の注目点となっている。 参考 1) 第5回「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(厚労省) 2) 高齢者の医療費負担、「3割」対象者拡大へ議論本格化…年内に方向性まとめる方針(読売新聞) 3) 支払い能力に応じた医療費負担を 70歳以上見直しで厚労省部会(共同通信) 4) 高齢者の医療費窓口負担、3割の対象拡大も含め議論へ(朝日新聞) 5) 高齢者医療の負担の議論開始、医療保険部会 現役世代の負担減求める意見相次ぐ(CB news) 6) がん患者の家計を医療費が圧迫、厚労省が事例示す 高額療養費利用しても「その他支出」の半分超(同) 7) 高額療養費は「長期療養患者、高額医薬品使用患者」で大きな恩恵受けるが、低所得者は現行制度下でも「重い負担」-高額療養費専門委員会(Gem Med) 6.希少がんで死去した大学生のSNS投稿が原動力に、「追悼寄付」が医療研究を支援/がん研ほか「グエー死んだンゴ」というわずか8文字の投稿が、若くしてがんのため亡くなった北海道大学の元学生、中山 奏琉氏(22歳)の「最期のユーモア」としてX(旧ツイッター)上で大きな波紋を広げ、がん研究機関への「追悼寄付」のムーブメントを巻き起こしている。中山氏は、新規患者が年間20人ほどの希少がん「類上皮肉腫」に罹患し、闘病。亡くなる直前に予約投稿したとみられるこのメッセージは3億回以上閲覧され、これをみた面識のない多くのネットユーザーが「香典代わりに」と、がん研究会や国立がん研究センターへ寄付を始めた。がん研究会では、投稿から5日間で1,431件、数百万円の寄付が集中し、これは平常時の半年分以上に相当する。寄付には「Xのポストを見て」「香典代わりに」といったメッセージが多数添えられ、国立がん研究センターでも寄付件数が急増し、受付番号からは1万件近い寄付があったと推定されている。この現象について専門家は、故人を偲ぶ「追悼寄付」の1つの形であり、ネット文化の中で共感を覚えた人々が感動を「寄付」という具体的な行動で示したものと分析している。中山氏の父親は、息子が治療の手立てが一切ない病気と闘った経験から、「息子のような人が減るよう、治療が難しい病気の研究が進めば」と、支援の輪の広がりを心から歓迎し、感謝を述べている。SNS上の「最期のメッセージ」が、医療研究の新たな支援の形を生み出し、希少がんを含む難病研究への社会の関心を高める契機となっている。 参考 1) 両親も知らなかった「死んだンゴ」 がんで死去した津別の元北大生・中山さん最期の日々 がん研究機関への寄付急増(北海道新聞) 2) 「グエー死んだンゴ」8文字からの寄付の輪 遺族「がん研究進めば」(朝日新聞) 3) 「グエー死んだンゴ」「香典代わりに」 がん患者最期の投稿きっかけ、研究拠点に寄付殺到(産経新聞) 4) 「グエー」、臨終のユーモアがネット揺さぶる 死の間際に投稿予約?がん研究機関に「香典」続々(時事通信)

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第285回 コロナワクチンがICI治療のOSを有意に延長

INDEXええええ!ESMO2025のProffered Paper session新型コロナmRNAワクチンへの新たな期待ええええ!ここ半月以上、自民党の総裁選とそれに伴う政局のドタバタに振り回されてしまい、何とも言えないもどかしさを感じている。本来ならばコロナ禍の影響を受けて、今やオンラインでも視聴可能になった欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)にプレス登録して聴講するはずだったが、その機会も逃してしまった。とはいえ、悔しいのでここ数日、時間を見つけては同学会の抄録を眺めていたが、その中で個人的に「ええええ!」と思う発表を見つけた。演題のタイトルは「SARS-CoV-2 mRNA vaccines sensitize tumors to immune checkpoint blockade」。端的に結論を言えば、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン接種が免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍効果を高める可能性の研究1)だ。抄録ベースだが、この研究内容を取り上げてみたい。ESMO2025のProffered Paper session発表者は米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのAdam J. Grippin氏である。mRNA関連創薬は、もともとはがんをターゲットとした治療ワクチンの開発を主軸としていて、米国・モデルナ社もこの路線でのパイプラインが形成され、たまたまコロナ禍が起きたことで、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンという形で日の目を見たことはよく知られている。Grippin氏らは、mRNAがんワクチンの研究から、同ワクチンが炎症性サイトカインへの刺激を通じて免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果の増強が得られることをヒントに、「もしかしたらがんに非特異的なmRNAワクチンでも同様の効果が得られるのではないか」と考えたらしい。そこで同センターで2017年1月~2022年9月までに生検で確定診断を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)、2019年1月~2022年12月までに治療を受けた悪性黒色腫の臨床データを抽出し、カプランマイヤー曲線、傾向スコアマッチング、およびCox比例ハザード回帰モデルを利用して全生存期間(OS)を評価したとのこと。ちなみに抄録レベルでは症例数は未記載だが、MDアンダーソンがんセンターのレベルでいい加減な臨床研究の可能性は低い。実際、抄録では研究にあたって同センターの倫理審査委員会の承認を受けていることが記載されている。その結果によると、免疫チェックポイント阻害薬による治療開始から100日以内の新型コロナmRNAワクチン接種有無で比較したOS中央値は、NSCLCで非接種群が20.6ヵ月、接種群が37.3ヵ月。3年OS率は非接種群が30.6%、接種群が55.8%だった。調整ハザード比[HR]は0.51(95%信頼区間[CI]:0.37~0.71、p<0.0001)であり、有意差が認められた。また、悪性黒色腫ではOS中央値は非接種群が26.67ヵ月、接種群が未到達。3年OS率は非接種群が44.1%、接種群が67.5%。調整HRは0.34(95%CI:0.17~0.69、p=0.0029)でこちらも有意なOS延長が認められたという。新型コロナmRNAワクチンへの新たな期待研究は明らかに後ろ向きではあるが、NSCLCでOS中央値が10ヵ月も違うことに個人的には正直驚きを隠せない。しかも、抄録によると、NSCLCではPD-L1検査(TPS)で低発現(TPS<1%)の症例でも新型コロナmRNAワクチン接種によるOSの延長効果が認められたとある。また、動物モデルでは、新型コロナmRNAワクチン接種によりI型インターフェロンの急増が誘発され、複数のがん抗原を標的とするCD8陽性T細胞のプライミングとがん細胞のPD-L1発現を上方制御することがわかった。さらに複数の動物がんモデルでも新型コロナmRNAワクチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用で、免疫チェックポイント阻害薬の効果増強を確認したという。いずれにせよこの研究結果を見る限り、がんに特異的ではない新型コロナmRNAワクチンががん特異的抗原の発現を促すということになる。現在、モデルナは日本国内でもNSCLCと悪性黒色腫の個別化がん治療ワクチンの臨床試験中だが、今回の研究で示された可能性が前向き試験でも確認されれば、結構安上がり(あくまで個別化がん治療ワクチンや昨今発売された各種がんの治療薬との比較だが)ながん治療になるのではないか。個人的にはそこそこ以上に期待してしまうのだが。1)Grippin AJ, et al. Nature. 2025 Oct 22. [Epub ahead of print]

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リンパ節腫脹の鑑別診断【1分間で学べる感染症】第36回

画像を拡大するTake home messageリンパ節腫脹の原因は「MIAMI」という語呂合わせを活用して5つのカテゴリーに分けて整理しよう。リンパ節腫脹は、内科、外科、小児科、皮膚科など、さまざまな診療科で遭遇する重要なサインです。感染症など一過性で自然軽快するものも多い一方で、悪性疾患や自己免疫疾患、薬剤性、肉芽腫性疾患などが隠れている場合もあります。鑑別診断の挙げ方は多くありますが、網羅的に大まかにカテゴリー化する方法として、「MIAMI」(Malignancies・Infections・Autoimmune・Miscellaneous・Iatrogenic)という語呂合わせが提唱されています。今回は、この5つのカテゴリーに沿って、一緒に整理してみましょう。M:Malignancies(悪性腫瘍)悪性疾患によるリンパ節腫脹は、持続性・進行性・無痛性のことが多く、とくに高齢者や全身症状(発熱、体重減少、寝汗)を伴う場合には常に念頭に置く必要があります。代表的な疾患としては、悪性リンパ腫、白血病、転移性がん、カポジ肉腫、皮膚原発の腫瘍などが挙げられます。固定性で硬く、弾力のない腫脹がみられた場合は、早期の精査が推奨されます。I:Infections(感染症)感染症は最も頻度の高い原因です。細菌性では、皮膚粘膜感染(黄色ブドウ球菌、溶連菌)、猫ひっかき病(Bartonella)、結核、梅毒、ブルセラ症、野兎病などがあり、これらは病歴聴取と局所所見が診断の手掛かりとなります。ウイルス性では、EBウイルス、サイトメガロウイルス、HIV、風疹、アデノウイルス、肝炎ウイルスなどが含まれ、とくに伝染性単核球症では頸部リンパ節腫脹が目立ちます。まれですが、真菌、寄生虫、スピロヘータなども原因となることがあり、ヒストプラズマ症、クリプトコッカス症、リケッチア症、トキソプラズマ症、ライム病などが鑑別に挙がります。A:Autoimmune(自己免疫疾患)関節リウマチ(RA)やSLE(全身性エリテマトーデス)、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、成人スティル病などの自己免疫疾患もリンパ節腫脹を来すことがあります。これらは多くの場合、他の全身症状や検査所見(関節炎、発疹、異常免疫グロブリンなど)と合わせて判断する必要があります。とくに全身性疾患の初期症状としてリンパ節腫脹が出現することもあるため、見逃さないよう注意が必要です。M:Miscellaneous(その他)まれではあるものの、Castleman病(血管濾胞性リンパ節過形成)や組織球症、川崎病、菊池病(壊死性リンパ節炎)、木村病、サルコイドーシスなども鑑別に含まれます。これらは一見すると感染症や自己免疫疾患と似た臨床像を呈することがあるため、病理診断や経過観察を要することがあります。I:Iatrogenic(医原性)薬剤による反応性リンパ節腫脹や血清病様反応なども存在します。とくに抗てんかん薬、抗菌薬、ワクチン、免疫チェックポイント阻害薬などが関与することが知られており、最近の薬剤歴の確認が不可欠です。また、ワクチン接種後の一時的なリンパ節腫脹(とくに腋窩)は、画像上の偽陽性を招くこともあるため注意が必要です。リンパ節腫脹は多彩な疾患のサインであり、その背景を見極めるためには、構造的かつ網羅的なアプローチが求められます。「MIAMI」というフレームワークを活用することで、見逃してはならない悪性疾患や慢性疾患の早期発見につながります。必要な検査や専門科紹介のタイミングを逃さないようにしましょう。1)Gaddey HL, et al. Am Fam Physician. 2016;94:896-903.

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下剤のルビプロストン、重大な副作用にアナフィラキシー追加/厚労省

 2025年10月22日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、下剤のルビプロストン(商品名:アミティーザカプセル)や帯状疱疹ワクチン(同:シングリックス筋注用)において、「重大な副作用」が追加された。 ルビプロストンについては、国内のアナフィラキシー関連症例12例を評価したところ、本剤との因果関係が否定できない症例を5例(死亡0例)認めたため、使用上の注意を改訂することが適切と判断され、「重大な副作用」の項にアナフィラキシーが追記された。 また、乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(チャイニーズハムスター卵巣細胞由来)では、ギラン・バレー症候群5例のうち因果関係が否定できない症例を1例認めたため、「重大な副作用」の項にギラン・バレー症候群が追記された。 そのほか、閉経期女性のホルモン補充療法(HRT)に用いられる15品目に対し、「臨床使用に基づく情報」の項に卵胞ホルモン製剤単剤使用における乳がんに関する注意喚起としてHRTと乳癌の危険性が追加された。

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第33回 帯状疱疹ウイルスが脳を蝕む可能性? 1億人超のデータが示す結果と「ワクチン」という希望

多くの人が子供の頃にかかる「水ぼうそう」。その原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、治った後も体内に静かに潜み続け、数十年後に「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」として再活性化することはよく知られています。しかし、この身近なウイルスが、将来の認知症リスクと深く関わっているかもしれない。そんな可能性を示唆する大規模な研究結果が、権威ある医学誌Nature Medicine誌に発表されました1)。アメリカの1億人を超える医療記録を分析したこの研究は、帯状疱疹の発症やその予防ワクチンが、認知症リスクにどう影響するのかを、かつてない規模で明らかにしています。この記事では、その研究結果の内容と私たちの健康維持にどう活かせるのかを解説していきます。神経に潜むウイルス「VZV」と帯状疱疹水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、ほとんどの成人が体内に持っている非常に一般的なウイルスです。初めての感染では「水ぼうそう」として発症しますが、症状が治まった後もウイルスは神経節(神経細胞が集まる場所)に潜伏し、生涯にわたって体内に存在し続けます。そして、加齢やストレス、免疫力の低下などをきっかけに、この潜んでいたウイルスが再び活性化することがあります。これが「帯状疱疹」で、体の片側に痛みを伴う水ぶくれが現れるのが特徴です。VZVは神経を好むウイルスであるため、帯状疱疹後神経痛のような長期的な痛みを引き起こすこともあります。近年、このVZVのような神経に入り込むウイルスが、認知症の発症に関与しているのではないかという証拠が集まりつつありました。VZVが脳内で炎症を引き起こしたり、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβのような異常タンパク質の蓄積を促したりする可能性が、実験室レベルの研究で示唆されていたのです。しかし、これが実際どれほどのリスクになるのかは、はっきりとはわかっていませんでした。1億人の記録が示す「帯状疱疹と認知症」の密接な関係今回の研究チームは、この疑問に答えるため、アメリカの巨大な電子カルテデータベースに着目しました。7,000以上の病院やクリニックから集められた、1億人以上の匿名化された個人の医療記録を、2007~23年にわたって追跡調査したのです。研究チームは、最新の機械学習技術を駆使し、年齢、性別、人種、持病、服用薬、生活習慣(喫煙など)、さらには医療機関へのアクセス頻度など、認知症リスクに影響しうる約400もの因子を厳密に調整しました。これにより、「帯状疱疹(VZVの再活性化)」という要因が、他の要因とは独立して認知症リスクにどれだけ影響するかを、高い精度で評価することを試みました。その結果、驚くべき関連性が次々と明らかになりました。まず、帯状疱疹を経験した人は、そうでない人と比べて、将来的に認知症と診断されるリスクが高いことが示されました。さらに興味深いことに、帯状疱疹を1回経験した人に比べ、2回以上繰り返した人では、認知症リスクが7〜9%も高かったのです。これは、ウイルスの再活性化による体への「負担」が大きいほど、認知症リスクも高まる可能性を示唆しています。しかし、この研究はリスクだけでなく、希望の光も示しています。帯状疱疹を予防するためのワクチンを接種した人は、接種していない人と比較して、認知症リスクが明らかに低かったのです。とくに、より効果の高い不活化ワクチン(商品名:シングリックス)を2回接種した場合では、認知症リスクが27%低減していました。とくに注目すべきは、過去に使用されていた生ワクチンの効果に関する分析です。このワクチンは帯状疱疹予防効果が時間とともに薄れることが知られていますが、研究チームがワクチン接種後15年間にわたって追跡したところ、帯状疱疹予防効果の低下と、認知症リスク低減効果の消失が、見事に相関していました。これは、「ワクチンでVZVの再活性化を抑えること」こそが、認知症リスク低減のメカニズムであることを裏付ける結果と言えます。加えて、帯状疱疹になりやすいとされる高齢者や女性においては、ワクチン接種による認知症リスクの低減効果が、全体集団よりもさらに大きい傾向が見られました。これらの結果は、さまざまな角度から帯状疱疹が認知症の進行に関わる「修正可能なリスク因子」である可能性を強く示唆しています。ただし、この研究は非常に大規模で説得力がありますが、いくつかの限界点も認識しておく必要があります。最大の点は、これが「観察研究」であるということです。つまり、「帯状疱疹の予防」と「認知症リスクの低減」の間に強い関連性を示しましたが、ワクチン接種が原因となって認知症を防いだ、という因果関係を完全に証明したわけではありません。研究チームは、考えうる他の要因の影響を統計的に最大限排除しようと試みていますが、未知の因子が影響している可能性はゼロではありません。また、電子カルテのデータに依存しているため、診断の精度や記録の網羅性にも限界があります。私たちの生活にどう活かす?この研究は、認知症予防の新たな可能性を提示するものです。認知症の原因は複雑で、遺伝や生活習慣など多くの要因が絡み合っていますが、帯状疱疹もその一つとして無視できない存在である可能性があるのです。今回の研究結果は、帯状疱疹ワクチンが認知症を「直接」予防すると断定するものではありませんが、ワクチンが帯状疱疹の発症を効果的に抑えることは明らかになっており、その結果として認知症リスクを低減する可能性が強く示唆されました。とくに日本でも現在主流となっている不活化ワクチン(シングリックス)は、高い予防効果が長期間持続すると明らかになっています。そのため、50歳以上の方は、帯状疱疹そのものの予防(さらに、厄介な神経痛の予防)という観点からも、認知症リスクを下げる観点からも、ワクチン接種について相談する価値があると言えるでしょう。また、過去に帯状疱疹を経験したことがある方は、この研究結果を踏まえ、他の認知症リスク因子(高血圧、糖尿病、喫煙、運動不足など)の管理にも、より一層注意を払うことが勧められるということなのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Polisky V, et al. Varicella-zoster virus reactivation and the risk of dementia. Nat Med. 2025 Oct 6. [Epub ahead of print]

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世界の死亡パターン、過去30年の傾向と特徴/Lancet

 米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2023 Causes of Death Collaboratorsは、過去30年の世界における死亡のパターンを、改善された推定法を用いて調査し、COVID-19パンデミックのような重大イベントの影響、さらには低所得地域での非感染性疾患(NCD)の増加といった世界で疫学的転換が進んでいることを反映した、より広範な分野にわたる傾向を明らかにした。死因の定量化は、人々の健康を改善する効果的な戦略開発に向けた基礎的な段階である。GBDは、世界の死因を時代を超えて包括的かつ体系的に解析した結果を提供するものであり、GBD 2023では年齢と死因の関連の理解を深めることを目的として、70歳未満で死亡する確率(70q0)と死因別および性別の平均死亡年齢の定量化が行われた。Lancet誌2025年10月18日号掲載の報告。1990~2023年の292の死因について定量化 GBD 2023では、1990~2023年の各年について、204の国と地域および660のサブナショナル(地方政府)地域における年齢・性別・居住地・暦年ごとに分類した292の死因の推定値を算出した。 ほとんどの死因別死亡率の算出には、GBDのために開発されたモデリングツール「Cause of Death Ensemble model:CODEm」が用いられた。また、損失生存年数(YLL)、死亡確率、死亡時平均年齢、死亡時観測年齢および推定平均年齢も算出した。結果は件数と年齢標準化率で報告された。 GBD 2023における死因推定法の改善点は、COVID-19による死亡の誤分類の修正、COVID-19推定法のアップデート、CODEmモデリングフレームワークのアップデートなどであった。 解析には5万5,761のデータソースが用いられ、人口動態登録および口頭剖検データとともに、サーベイ、国勢調査、サーベイランスシステム、がん登録などのデータが含まれている。GBD 2023では、以前のGBDに使用されたデータに加えて、新たに312ヵ国年の人口動態登録の死因データ、3ヵ国年のサーベイランスデータ、51ヵ国年の口頭剖検データ、144ヵ国年のその他のタイプのデータが追加された。死因トップは2021年のみCOVID-19、時系列的には虚血性心疾患と脳卒中が上位2つ COVID-19パンデミックの初期数年は、長年にわたる世界の主要な死因順位に入れ替わりが起き、2021年にはCOVID-19が、世界の主要なレベル3のGBD死因分類の第1位であった。2023年には、COVID-19は同20位に落ち込み、上位2つの主要な死因は時系列的には典型的な順位(すなわち虚血性心疾患と脳卒中)に戻っていた。 虚血性心疾患と脳卒中は主要な死因のままであるが、世界的に年齢標準化死亡率の低下が進んでいた。他の4つの主要な死因(下痢性疾患、結核、胃がん、麻疹)も本研究対象の30年間で世界的に年齢標準化死亡率が大きく低下していた。その他の死因、とくに一部の地域では紛争やテロによる死因について、男女間で異なるパターンがみられた。 年齢標準化率でみたYLLは、新生児疾患についてかなりの減少が起きていた。それにもかかわらず、COVID-19が一時的に主要な死因になった2021年を除き、新生児疾患は世界のYLLの主要な要因であった。1990年と比較して、多くのワクチンで予防可能な疾患、とりわけジフテリア、百日咳、破傷風、麻疹で、総YLLは著しく低下していた。死亡時平均年齢、70q0は、性別や地域で大きくばらつき 加えて本研究では、全死因死亡率と死因別死亡率の平均死亡年齢を定量化し、性別および地域によって注目すべき違いがあることが判明した。 世界全体の全死因死亡時平均年齢は、1990年の46.8歳(95%不確実性区間[UI]:46.6~47.0)から2023年には63.4歳(63.1~63.7)に上昇した。男性では、1990年45.4歳(45.1~45.7)から2023年61.2歳(60.7~61.6)に、女性は同48.5歳(48.1~48.8)から65.9歳(65.5~66.3)に上昇した。2023年の全死因死亡平均年齢が最も高かったのは高所得super-regionで、女性は80.9歳(80.9~81.0)、男性は74.8歳(74.8~74.9)に達していた。対照的に、全死因死亡時平均年齢が最も低かったのはサハラ以南のアフリカ諸国で、2023年において女性は38.0歳(37.5~38.4)、男性は35.6歳(35.2~35.9)だった。 全死因70q0は、2000年から2023年にかけて、すべてのGBD super-region・region全体で低下していたが、それらの間で大きなばらつきがあることが認められた。 女性は、薬物使用障害、紛争およびテロリズムにより70q0が著しく上昇していることが明らかになった。男性の70q0上昇の主要な要因には、薬物使用障害とともに糖尿病も含まれていた。サハラ以南のアフリカ諸国では、多くのNCDについて70q0の上昇がみられた。また、NCDによる死亡時平均年齢は、全体では予測値よりも低かった。対象的に高所得super-regionでは薬物使用障害による70q0の上昇がみられたが、観測された死亡時平均年齢は予測値よりも低年齢であった。

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第284回 医療界にも逆風か、連立解消で揺れる自民党のお相手探し

INDEX聞いてないよ公明党の手腕新たなカップル成立は医療界のリスクか聞いてないよ予想もしなかった「下駄の雪」*が牙をむいた。自公連立からの公明党の離脱のことである。前回の本連載を読んでいただければわかるが、私自身はまったくこのことを予想していなかった。最終的には自民党も公明党も互いにしがみつくと思っていたし、公明党が連立離脱を公にした後に会ったある自民党議員も「寝耳に水だった」と話していた。*下駄の裏にくっついた雪のように、力ある者に付いていく者を指す政界用語この離脱は医療政策にも一定の影響を及ぼすと個人的には考えている。公明党は「福祉の党」「平和の党」を金看板に掲げているが、私自身はこれを真に受けるつもりはない。以前からも国政選挙の政策比較時に言及しているが、私の端的な公明党の評価は1999年の小渕 恵三政権下で行われた地域振興券に始まる「元祖バラマキ政党」である。バラマキは商品券や給付金だけでなく、行政サービスの場合もある。そして行政サービスのバラマキでは、医療界にとっては前向きなものもある。その代表格がワクチン接種である。公明党の手腕同党は自民党、共産党と並んで地方の都道府県議会や市区町村議会に議員を送り込んでおり、その総数は2024年末時点で2,855人。野党第1党である立憲民主党でさえ839人で、その3分の1弱に過ぎない。この豊富な地方議員を使って、公明党議員が地方議会での質問、予算要求、陳情などで自治体の独自助成を勝ち取る。これを広げながら地方→都道府県→国への「上げ潮」型アプローチで定期接種化を求めていく。実例を挙げれば、2006年の東京都千代田区と北海道名寄市で高齢者向け肺炎球菌ワクチン接種費用の助成、2023年度から東京都が帯状疱疹ワクチンの接種費を助成する区市町村への補助事業を開始した時なども公明党が活発に動いている。後に両ワクチンとも国の定期接種化が実現した。また、現時点で定期接種化は実現していないが、昨今登場したRSウイルスワクチンについても、一部の自治体では接種の助成が始まっている。このうち愛知県大府市で2025年8月から始まった妊婦・高齢者での接種費用助成も公明党が盛んに議会で要望したものだ。これらは公明党のバラマキ政策の中でも功罪の「功」に属するものである。さらに、多くの医療者にとって記憶に新しいであろう今年3月の高額療養費の負担上限引き上げ凍結にも、公明党は一役買っている。この時は全国がん患者団体連合会が各方面に要望活動を展開し、凍結への大きな流れを作ったことはよく知られている。この凍結決定直後、同連合会理事長の天野 慎介氏に、私が理事を務める日本医学ジャーナリスト協会で講演してもらったことがある。その際に天野氏らはこの活動で数多くの与野党議員に会った時のことを語っている。「さまざまな法律・政策が通る時は、与党が自らそれを提案し、それに野党から批判の声が上がることがありますが、最後は結局、与党が一番強い。どれだけ野党が厳しく追及して、どれだけ世論が盛り上がろうとも、与党がその気にならなければ絶対に動かない。これは私が今まで約15年、患者団体を通じた要望活動をしてきて学んだこと。最後は与党が動いてくれないと絶対ダメ。与党が動くパターンは2つあり、1つは自民党の中から声が上がること。今回の場合は“このままじゃダメだ、参議院議員選挙に負ける”という声が上がったことが大きかった。もう1つのパターンは連立を組んでいる公明党から自民党に声がいくこと。今回の場合は斉藤 鉄夫代表が複数回にわたって総理と会って、“高額療養費を変えるべきだ、あるいは凍結すべきだ”と言っていただいたことが決定打になっている」。天野氏のこの発言は、まさに患者の命を守るために最前線で闘った人の言葉で、かつ経験と覚悟に裏打ちされた内容である。少なくともそこに嘘やごまかしが入り込む余地はないと私は考えている。このような事実を見る限り、医療関連では一定の役割を果たしてきたと言えるだろう。世間では「下駄の雪」「政教一致政党」と揶揄され、私も前述のように「元祖バラマキ政党」と批判的に捉えている部分もあるが…。新たなカップル成立は医療界のリスクかそして最新のニュースを見る限り、自民党は公明党に代わって日本維新の会に触手を伸ばしていると報じられている。日本維新の会は高額療養費の負担上限引き上げに反対はしていたものの、そもそも政策として「国民医療費総額の年間4兆円削減」を公言している。その1つがOTC類似薬の保険外しである。私自身はこの政策自体を否定はしないが、さすがに一律で対応するのは問題ありと考えている。ちなみに、日本維新の会が先日の参院選で掲げたマニフェスト内で「社会保険料を下げる改革」として記述していたものを箇条書きすると、以下のようになる。OTC類似薬の保険適用除外費用対効果に基づく医療行為や薬剤の保険適用除外の促進人口減少等により不要となる約11万床の病床を、不可逆的な措置を講じつつ次の地域医療構想までに削減(感染症等対応病床は確保)電子カルテ普及率100%達成電子カルテを通じた医療情報の社会保険診療報酬支払基金に対する電磁的提供の実現診療報酬体系の再構築後発医薬品の使用原則化医薬分業制度の見直し職種間の役割分担の見直し・タスクシフト地域フォーミュラリの導入高齢者の医療費窓口負担を原則「7割引」に見直しこども医療費の無償化さて、これらがどう動くのか? 国政から目が離せない状況になっている。

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2024~25コロナワクチンの重症化予防効果/NEJM

 2024~25年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種は、重度臨床アウトカムのリスク低下と関連していたことが、米国・Veterans Affairs(VA)St. Louis Health Care SystemのMiao Cai氏らによる退役軍人を対象としたコホート研究の結果で示された。SARS-CoV-2感染症の臨床的重症度が低下し、COVID-19ワクチンの一般接種率は毎年減少傾向にあり、臨床的に重要なアウトカムに対するワクチンの有効性に関する新たなエビデンスが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年10月8日号掲載の報告。COVID-19ワクチンとインフルエンザワクチンの同日接種vs.インフルエンザワクチン単独接種を比較 研究グループは、退役軍人省の電子医療データベースを用いて無作為化比較試験を模倣した観察研究を実施した。 対象は、2024年9月3日~12月31日にVA医療機関を受診した18歳以上の退役軍人で、2024~25年COVID-19ワクチンとインフルエンザワクチンを同日に接種した人(16万4,132例)と、インフルエンザワクチンのみを接種した人(13万1,839例)。被験者を最長180日間またはアウトカム発生のいずれか早いほうまで追跡した。 主要アウトカムは、COVID-19関連救急外来受診、COVID-19関連入院、およびCOVID-19関連死の複合とした。 逆確率加重法により介入群と対照群のベースラインの差を補正し、6ヵ月時点におけるアウトカムのリスク(1万人当たり)をロジットリンクと二項分布を用いた重み付け一般化推定方程式を用いて推定し、ワクチンの有効性(1-リスク比)を算出した。COVID-19ワクチン接種で、COVID-19関連救急外来受診・入院・死亡のリスクが減少 6ヵ月追跡時点で、COVID-19ワクチンの推定有効率(接種群vs.非接種群)はCOVID-19関連救急外来受診に関して29.3%(95%信頼区間[CI]:19.1~39.2、1万人当たりのリスク差:18.3、95%CI:10.8~27.6)、COVID-19関連入院に関して39.2%(21.6~54.5、7.5、3.4~13.0)、COVID-19関連死に関して64.0%(23.0~85.8、2.2、0.5~6.9)であった。 また、複合アウトカムに対するCOVID-19ワクチンの推定有効率は28.3%(95%CI:18.2~38.2、1万人当たりのリスク差:18.2、95%CI:10.7~27.5)であった。 COVID-19ワクチンによるアウトカムのリスク低下は、年齢(65歳未満、65~75歳、75歳以上)、主要な併存疾患の有無、および免疫状態の事前に規定されたサブグループのすべてにおいて一貫して認められた。

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DANFLU-2試験:高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果(解説:小金丸博氏)

 DANFLU-2試験は、高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果を検証した大規模臨床試験である。デンマークの全国行政健康登録を用いた実践的・非盲検・無作為化比較試験で、2022~23年から3シーズンにかけて実施された。試験には65歳以上の高齢者33万2,438人(平均年齢73.7±5.8歳)が登録され、高用量ワクチン(1株当たり抗原60μg)接種群と標準用量ワクチン(1株当たり抗原15μg)接種群に割り付けられた。その結果、高用量群では主要評価項目であるインフルエンザまたは肺炎による入院を経験した人がより少なく、相対リスクは5.9%減少したが、統計的に有意ではなかった(p=0.14)。副次評価項目として、高用量群においてインフルエンザによる入院の減少(相対リスク減少率:43.6%)、心肺疾患による入院の減少(同:5.7%)、あらゆる原因による入院の減少(同:2.1%)を示した。 近年、高齢者に対するインフルエンザ予防として「高用量ワクチン」が注目されてきた。これまでの標準用量との比較試験で、抗体応答の向上のみならず、検査確定インフルエンザの発症および入院を一定程度抑える効果が報告されてきた。DANFLU-2試験では、標準用量と比較して主要評価項目に設定した「インフルエンザあるいは肺炎による入院」を有意に低下させなかった。これは従来の試験で示されてきた高用量ワクチンの有利性と一見矛盾する結果であったが、その理由として、主要評価項目の選択が影響した可能性が考えられる。本試験ではアウトカムに「肺炎入院」を含めた複合エンドポイントを採用したため、非インフルエンザ性の肺炎(誤嚥性や細菌性肺炎)が多数を占めれば、インフルエンザワクチンの効果が相対的に希釈され得る。加えて実地条件下では、季節間のウイルス活動変動、被験者の背景免疫(過去のワクチン接種歴など)が影響した可能性がある。 同時にスペインから報告されたGALFLU試験との統合解析では、インフルエンザまたは肺炎による入院、心肺疾患による入院、検査で確認されたインフルエンザによる入院、およびあらゆる原因による入院において有意な減少が示された。これらのデータはこれまでの報告と一致して、重篤な転帰に対する高用量ワクチンの臨床的有益性を標準用量ワクチンよりも支持している。 米国や欧州では高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンがすでに導入され、各国ガイドラインでも推奨されている。本邦では2024年12月に製造販売承認を取得し、60歳以上を対象に2026年秋から使用可能となる見込みである。このワクチンが定期接種に組み込まれるか、市場に安定供給されるかによって推奨される接種対象は左右されると思われるが、要介護施設入所者(フレイル高リスク群)、虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患などの重症化リスクのある基礎疾患を持つ者、85歳以上の超高齢者や免疫不全者など抗体応答が弱いと想定される人では、積極的に高用量ワクチンを選択すべき集団として妥当であると考える。

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新型コロナは依然として高齢者に深刻な脅威、「結核・呼吸器感染症予防週間」でワクチン接種の重要性を強調/モデルナ

 モデルナ・ジャパン主催の「呼吸器感染症予防週間 特別啓発セミナー」が9月24日にオンラインで開催された。本セミナーでは、9月24~30日の「結核・呼吸器感染症予防週間」の一環として、迎 寛氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学分野[第二内科]教授)と参議院議員であり医師の秋野 公造氏が登壇し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、とくに高齢者にとって依然として深刻な脅威であると警鐘を鳴らした。新型コロナの5類移行から3年が経ち、社会の警戒感や関心が薄れているなか、継続的なワクチン接種と社会全体の意識向上の重要性を訴えた。隠れコロナ感染と高齢者の重症化リスク セミナーの冒頭では、迎氏が新型コロナの現状と高齢者が直面するリスクについて、最新のデータを交えながら解説した。 新型コロナが5類に移行して以降、定点報告上の感染者数は減少傾向にあるものの、入院患者数は依然として高止まりしている。神奈川県の下水疫学データによると、とくに2025年以降、定点報告数と下水中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)濃度との間に大きな乖離が生じており、下水データは市中に依然として不顕性を含む新型コロナウイルス感染者が多く存在することが示唆されている1)。迎氏は、定点報告では捉えきれていない「隠れコロナ感染者」が市中に多数存在し、その中から一定数の高齢者や基礎疾患を持つ人が重症化して入院に至っている可能性を指摘した。死因の第8位、死者の多くは高齢者 新型コロナは2023年と2024年の2年連続で、日本の死因第8位となっている。とくに深刻なのは高齢者の状況で、死亡者の97%が65歳以上、そのうち79%が80歳以上の高齢者で占められている2)。死亡者数はインフルエンザと比較して、新型コロナが約15倍であるという。こうしたデータから、迎氏は「コロナは風邪と同じ」という認識が誤りであるという見解を示した。また、新型コロナの感染拡大期には、高齢者のフレイル有病率も増加するという影響が懸念されている3)。 迎氏が所属する長崎大学病院には、この5年間で新型コロナにより1,047例が入院したという。臨床データからは、入院患者の死亡率は高齢になるほど顕著に高くなる一方で、ワクチン未接種の患者群は、接種済みの患者群に比べて、重症化する割合が明らかに高い結果となった。迎氏は、とくに高流量酸素療法が必要な患者や重症患者のうち、約4割がワクチン未接種者であったことは、ワクチンの重症化予防効果を明確に裏付けていると指摘した。 迎氏は日本が世界的にみてワクチンへの信頼度が低い傾向にあることに触れ4)、接種率が低下している現状を変えるためにも、9月24~30日の「結核・呼吸器感染症予防週間」を通じて、80歳以上の高齢者の死亡リスクやワクチン接種の重要性について啓発していきたいと述べた。「結核・呼吸器感染症予防週間」創設 続いて秋野氏が政策的な観点から、呼吸器感染症対策の現状と課題、そして今後の展望について語った。 秋野氏は、自身も創設に尽力した「結核・呼吸器感染症予防週間」について触れた。2024年度より、毎年9月24〜30日は、以前まで実施されていた「結核予防週間」が「結核・呼吸器感染症予防週間」に改められた。この期間には、インフルエンザや新型コロナなど、呼吸器感染症が例年流行する秋冬前に、呼吸器感染症に関する知識の普及啓発活動が行われる。秋野氏は、肺炎が依然として日本人の死因の上位を占める中で、秋冬の感染症シーズンを前に正しい知識を普及させることの重要性を強調した。普及啓発のシンボルとなる「黄色い縁取りのある緑色のリボン」のバッジや、啓発のためのポスターが5)、日本呼吸器学会、日本感染症学会、日本化学療法学会の協力のもと作成された。ワクチン定期接種は「65歳以上一律」でよいのか 秋野氏は、現在の新型コロナワクチンの定期接種制度が「65歳以上」と一律に定められている点が課題となっていることについて言及した。先に迎氏が述べたとおり、実際の死亡リスクは80歳以上で急激に高まる。研究によると、新型コロナの重症化リスクとして、「年齢(とくに80歳以上)」、「ワクチン接種から2年以上空いていること」が重要な因子となっている6)。こうした科学的知見に基づき、リスクの特性に応じた、よりきめ細やかな制度設計が必要だと主張した。とくに死亡リスクが突出して高い80歳以上に対し、費用負担のあり方や国による接種勧奨の必要性について、改めて検討すべきだと訴えた。海外のワクチン助成のあり方 さらに秋野氏は、肺炎球菌ワクチン接種に公的補助があった自治体の接種率は全国平均よりも2倍以上高いという研究を挙げ7)、公費助成とワクチン接種率には密接な関連が考えられると述べた。また、海外の新型コロナワクチン接種支援策との比較によると、米国、英国、フランス、オーストラリアなどの国々では、高齢者に対して年2回や無償での接種といった手厚い支援が行われており、接種率も高い水準を維持している。これに対し、日本の支援は年1回の定期接種で一部自己負担であり、国の助成が縮小されれば自己負担額が1万5,000円を超える可能性もあり、これが接種率低下の一因となりかねないと指摘した。 秋野氏は、「国民の命を守るため、最新の知見に基づいた柔軟な対応が必要」とし、今後も国会で働きかけていきたいと述べた。また、今回の「結核・呼吸器感染症予防週間」を通じて、新型コロナに対する現状を国民に広く知っていただき、高齢者の命を守る対策について共に考えていきたいとして、講演を終えた。■参考文献1)AdvanSentinel. 神奈川県におけるCOVID-19流行動向の多角的分析 - 下水疫学データが示す「見えざる感染リスク」(2025年7月22日)2)厚生労働省. 人口動態調査の人口動態統計月報(概数)3)Hirose T, et al. J Nutr Health Aging. 2025;29:100495.4)de Figueiredo A, et al. Lancet. 2020;396:898-908.5)厚生労働省. 感染症対策のための普及・啓発ツール6)Miyashita N, et al. Respir Investig. 2025;63:401-404.7)Naito T, et al. J Infect Chemother. 2014;20:450-453.

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第263回 インフルエンザ全国で流行入り、ワクチンは11月末までに接種を/厚労省

<先週の動き> 1.インフルエンザ全国で流行入り、ワクチンは11月末までに接種を/厚労省 2.公立・大学病院の赤字拡大が過去最大に、人件費高騰で持続性に黄信号/総務省 3.機能強化型在支診・在支病を再定義へ 緊急往診・看取りなどの評価へ/中医協 4.周産期・小児医療の集約化が本格議論へ、地域単位での再編を/厚労省 5.医療事故調査制度創設10年、医療事故判断のプロセスを明文化へ/厚労省 6.有料老人ホーム、囲い込み禁止へ 登録制で参入規制強化へ/厚労省 1.インフルエンザ全国で流行入り、ワクチンは11月末までに接種を/厚労省厚生労働省は、9月22日~28日のインフルエンザの定点報告で患者数4,030人、定点当たり1.04人とし、全国流行入りを公表した。昨季より約5週早く、過去20年で2番目の早さである。定点1を超えたのは15都府県で、沖縄8.98、東京1.96、鹿児島1.68などが高かった。保育園・学校などの休校・学級閉鎖は135施設(前週比増)、東京都内でも9月だけで61件の集団感染が報告された。流行前線は、観光地を含む関東・関西・九州・沖縄で目立ち、今季は台湾・香港で夏に流行したA型(H3N2)が国内でも主流になる可能性が指摘されている。インバウンドや海外渡航を介したウイルス流入が早期流行に影響したとの見方が有力。一方、新型コロナの定点は5.87(前週比0.85倍)と2週連続の減少で、呼吸器感染症の鑑別と同時流行への備えが求められる。新型コロナウイルスの流行は例年どおり12月末~2月と見込まれているが、寒冷化とともに患者は増えるため、高齢者・基礎疾患・小児にはワクチン接種を推奨する。なお、インフルエンザワクチンとして、2~18歳には、経鼻生ワクチン(商品名:フルミスト)が昨季から接種可能で、発症リスクを約28.8%低下させる国内成績がある。副反応は、鼻閉・咳などが多く、妊娠・免疫不全・重度喘息、授乳や同居に免疫不全者がいる場合は不活化ワクチンを用いる。基本対策(手洗い、混雑場面でのマスク、体調不良時の外出回避)を徹底し、学齢期の動向に留意した上で、重症化リスクへの早期介入(抗インフルエンザ薬の適応判断、合併症監視)を行いたい。なお、定点数縮小に伴い今季は「流行レベルマップ」と全国推計患者数の公表が停止されている。 参考 1) インフルエンザ全国で流行入り 厚労省、過去20年で2番目の早さ(日経新聞) 2) インフルエンザ、はや流行期入り 昨シーズンより5週早く 厚労省(朝日新聞) 3) インフルエンザ流行入り、2023年除き2番目の早さ…専門家「訪日客の増加が影響」(読売新聞) 2.公立・大学病院の赤字拡大が過去最大に、人件費高騰で持続性に黄信号/総務省総務省が明らかにした地方公営企業決算によると、2024年度の公立病院事業の経常赤字は3,952億円と過去最大(前年2,099億円の約2倍)となった。844病院のうち83.3%が赤字に陥った。要因は賃上げによる人件費の増加、医薬品や診療材料費の上昇、エネルギー価格の高騰で、2025年度の経営状態について、各団体の試算・発言からは厳しい発言が相次いでいる。四病院団体協議会の定期調査でも、2025年6月単月の経営は前年同月よりさらに悪化しており、24年度通年も医業収支・経常収支とも悪化し、赤字病院割合の上昇が報告された。大学病院の打撃はより深刻とされており、全国医学部長病院長会議の集計では、81大学病院の24年度経常赤字は計508億円に拡大(医薬品費+14.4%、診療材料費+14.1%、給与費+7.0%)している。国立大学病院は25年度、経常赤字が400億円超へ拡大する見通しで、42病院中33病院が現金収支赤字に転落する見込み。このため医療機器の更新や建物整備の先送りが常態化し、高度医療や医学研究や人材育成に支障が出始めている。赤字拡大を受けて、病院団体からは2026年度の診療報酬改定に向けて診療報酬の引き上げ要求が相次いでいる。物価・賃金上昇の「2年分」を本体に反映する大幅プラス改定(四病協・大学病院団体は10%超~約11%を要望)、必要なら期中改定の実施も求めている。このほか、急性期の入院基本料や救急・周産期・小児などの基礎コストを底上げし、夜間・時間外、救急搬送受け入れ、重症患者対応の評価を拡充も求めている。さらに働き方改革に伴う人件費増(医師時間外上限、看護職の処遇改善など)を恒常費として補填も求めている。さらに医薬品・診療材料の市況高騰を包括点数や出来高評価に機動的に転嫁(DPC包括の原価乖離補正、材料価格スライド)するほか、高額な医薬品については費用対効果評価の厳格化・再算定を進め、真に臨床的価値の高い薬剤の適正評価を求めている。また、緊急の補正予算による機器更新・老朽施設更新の原資を確保するほか、地域医療構想のために、地域医療が弱体化しないように、過疎・離島や大学の医師派遣機能に配慮した加算の新設を求めている。同じく大学病院団体側は「このままでは高度医療・人材育成・研究の基盤が損なわれる」とし、診療報酬と公的支援の両輪による早期の資金手当てを求めている。今後、患者負担・給付と負担の議論が行われ、次年度の改定を前に政府で社会保障費について検討される見込み。 参考 1) 令和6年度地方公営企業等決算の概要(総務省) 2) 「令和6年度大学病院の経営状況」(国立大学病院長会議) 3) 全国の公立病院、24年度は過去最大の赤字 人件費増が重荷に(日経新聞) 4) 病院経営がさらに悪化、「かなり深刻」四病協調査 6月単月で(CB news) 5) 国立大病院の赤字、今年度は過去最大400億円超の見通し 物価高や人件費上昇(産経新聞) 6) 81大学病院の経常赤字は昨年より悪化、計508億円の赤字に(日経メディカル) 7) 2024年度に大学病院全体で「508億円の経常赤字」、22年度比で医薬品費が14.4%増、診療材料費が14.1%増と経営圧迫-医学部長病院長会議(Gem Med) 3.機能強化型在支診・在支病を再定義へ 緊急往診・看取りなどの評価へ/中医協厚生労働省は、10月1日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で、2026年度改定に向け在宅医療の評価見直しを議論した。2020年から2040年にかけて、85歳以上の救急搬送は75%増加し、85歳以上の在宅医療需要は62%増加することが見込まれ、これに対して在宅医療の質的な充実が求められている。連携型の機能強化型在支診・在支病について、24時間往診体制の「実質的な貢献度」に応じた評価を導入すべきだと支払側が主張する一方、診療側は撤退誘発を懸念し、反対した。厚労省提示のデータでは、連携型在支診の往診体制時間は「常時」と「極めて短い」で二極化しており、緊急往診・看取り実績は在宅緩和ケア充実加算の要件超えが多数認められ、重症患者比率が高い施設も一定数あった。これらを踏まえ、(1)地域の中核として、十分な医師配置を行い、在宅での看取りや重症対応を実施して他機関を支援し、さらに医育機能も担う在宅医療機関を評価すること、(2)在宅緩和ケア充実加算を統合して再設計すること、の2点を主要論点として位置付けた。一方、診療側は、要件を強化したり医育機能を加算の要件に組み込んだりする案に反対を示した。併せて、包括的支援加算の算定にばらつきが生じていることから、要介護度の低い患者の割合を報酬に反映させる支払側の提案に対して、診療側は「要介護度が低くても、通院困難で在宅医療が必要な患者が多数存在する」ため、要介護度のみに着目した評価に反対した。へき地診療所については、派遣元が時間外対応を担う場合に在医総管・施設総管を算定できるようにする方向で双方が賛同した。さらに、退院直後の訪問栄養食事指導を新たに評価することも検討し、入退院支援から急変対応・看取りに至るまで在宅医療を整備し、評価にメリハリを付ける方針を、改定の論点として示した。今後、これらの論点についてさらに検討の上、来年度の改定に盛り込まれる見込み。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) 在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループにおける検討事項等について(同) 3) 訪問診療の報酬に「患者の状態」反映、厚労省案 要介護度低い割合など(CB news) 4) 「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ」の初会合が開催(日経メディカル) 5) 24時間往診体制への貢献度に応じた評価に意見が分かれる(同) 4.周産期・小児医療の集約化が本格議論へ、地域単位での再編を/厚労省厚生労働省は、10月1日に「小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」を開催し、少子化と医師偏在の進行を踏まえ、周産期医療と小児医療の提供体制を抜本的に見直す方針を示した。従来の二次医療圏にこだわらず、地域の実情に応じて柔軟に医療圏を設定し、分散した医療資源を集約化する方向性である。小児医療・周産期医療のワーキンググループ(WG)で論点が示され、2025年度末までに一定の取りまとめを行う見通し。周産期医療では、ハイリスク分娩に限らず、一般的な分娩を含む医療圏の再編が検討される。出産件数の減少により、分娩取扱施設は全国で減少傾向にあり、とくに地方では産婦人科医や小児科医、助産師の確保が課題となっている。厚労省は、263ヵ所ある周産期医療圏を再構築し、妊婦健診や産後ケアを担う施設との連携を強化するとともに、周産期母子医療センターの整備や無痛分娩の安全提供体制も検討課題とした。参加した委員からは出生数が減ると分娩を取り扱う医療機関の経営が成り立たなくなるとの指摘もあり、さらに分娩施設の急減は安全確保に影響する可能性があり、早期の結論が求められている。一方、小児医療では、全国1,690病院のうち約48%が常勤小児科医2人以下にとどまり、医療資源の薄い分散配置が明らかとなった。厚労省は「小児医療圏」単位での集約化・重点化を提案し、2030年度から始まる第9次医療計画で具体化する考えを示した。小児医療圏は現行306ヵ所で、救急機能を含め常時小児診療を提供できる体制の確保を求める方針。また、地域で小児科の診療所が不足する場合には、病院の小児科が一般診療に参加し、内科医との連携やオンライン診療、「#8000」電話相談などを組み合わせて医療提供体制を維持する方策も提示された。厚労省は、今後の議論を通じて、人口減少下でも「安全に産み育てられる地域医療体制」の再構築を進める方針である。 参考 1) 第1回小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ(厚労省) 2) 常勤小児科医2人以下の病院が約半数 厚労省(CB news) 3) 周産期医療、ハイリスク分娩以外も集約化へ 年度末をめどに取りまとめ 厚労省(同) 5.医療事故調査制度創設10年、医療事故判断のプロセスを明文化へ/厚労省厚生労働省は、10月1日に開いた「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」で、医療事故調査制度の創設から10年を迎えるのに合わせ、医療機関が医療事故を判断する体制や手順を自ら定め、医療安全管理指針に明記する方針を示した。患者の予期せぬ死亡が「医療に起因するか」について医療機関と遺族が対立する事例が相次いでおり、判断の質と透明性を高める狙いがある。同制度は2015年に導入され、病院や診療所、助産所で医療に起因する、またはその疑いがある予期せぬ死亡が発生した場合、第三者機関への報告を義務付けている。しかし、事故に該当するかの判断を管理者が単独で行うことが多く、施設間で判断基準にばらつきがあった。今回の見直しでは、全死亡例を対象としたスクリーニング体制を構築し、疑義がある場合の検討過程を記録として残すことを求める。新たな指針では、医療事故に該当するかの検討を行う際の工程や、遺族からの申し出に応じて再検討する仕組みを明文化する。さらに、判断に至った理由、遺族への説明経過などを保存し、事後検証可能な形で管理することを義務付ける方針。また、厚労省は、管理者に対して医療事故調査制度の研修受講を促すとともに、未修了の場合は修了者である医師や看護師など実務担当者が支援できる体制を整えるとした。日本病院会の岡 俊明副会長は、「全死亡例を対象にスクリーニングし、判断根拠を明確に残すことが制度の信頼性向上につながる」と述べている。同制度は今年3月末までに3,338件の報告があり、厚労省は今後、関連指針の改訂を進める方針。 参考 1) 第4回医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会(厚労省) 2) 医療事故の判断、指針明記へ 遺族対応も、調査制度創設10年(共同通信) 3) 医療事故の判断プロセス、安全管理指針に明記へ 判断理由の記録も保存を 厚労省(CB news) 6.有料老人ホーム、囲い込み禁止へ 登録制で参入規制強化へ/厚労省厚生労働省は、10月3日に「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開き、有料老人ホームをめぐる規制強化の方針を示した。中重度の要介護者や医療ケアが必要な高齢者を受け入れる施設の一部について、現行の「届け出制」から「登録制」へ移行する方向で検討を進める。事業計画の不備や虐待などの行政処分歴がある事業者の参入を拒否できる仕組みを設け、質の担保と安全性確保を狙う。これまで届け出制では、行政が開設を拒めないことから、不適切な事業者が参入し、給与未払い・集団退職・転居強要などのトラブルも相次いだ。登録制では、参入要件を満たさない事業者に対し、開設制限をかけることが可能になる。同時に、介護サービス事業者との「囲い込み」の是正も進める。住宅型ホームで、入居契約時に提携する居宅介護支援事業所や介護サービスの利用を条件としたり、家賃優遇などで自法人サービスを誘導したりする行為を禁止する。さらに、かかりつけ医やケアマネジャーの変更を迫る行為も明確に禁止される。厚労省は、契約の透明化と利用者の選択権を守る観点から、契約締結・ケアプラン作成手順のガイドライン整備を義務付け、行政が事後的にチェックできる仕組みを設ける方針。今後、パブリックコメントを経て報告書をまとめ、老人福祉法改正を視野に制度化を進める。医療現場への影響としては、入居者の医療的ケア連携が明確化され、外部医師の関与が阻まれるリスクが減る点が挙げられる。今後は、地域医療連携室や在宅医が入居後も継続的に介入できる体制が求められ、医療と介護の分断是正に資する動きとなりそうだ。 参考 1) 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会 とりまとめ素案(厚労省) 2) 重度者向け老人ホームに登録制検討 厚労省、質懸念なら参入拒否(日経新聞) 3) 老人ホーム「囲い込み」是正 ケアマネ変更の誘導・強要を禁止 厚労省 ルール厳格化へ(JOINT) 4) 有料老人ホーム、家賃優遇の条件付け禁止へ「囲い込み」対策 厚労省(CB news)

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第282回 次期総裁選目前!候補5人の公約を徹底比較

INDEX小泉 進次郎氏 神奈川11区・6期小林 鷹之氏 千葉2区・5期高市 早苗氏 奈良2区・10期林 芳正氏 山口3区・2期(参院・山口選挙区5期)茂木 敏充氏 栃木5区・11期7月の参院選で連立する公明党と合わせても過半数を維持できなかった自民党。1955年の結党以来、衆参両院とも自民党が属する側が過半数を割ったのは初のことであり、以来、首相である石破 茂氏の退陣を求める、いわゆる石破おろしの動きが浮上し、党内が荒れていた。しかし、9月7日に石破氏が自民党総裁辞任を発表したことで、自民党は一気に総裁選モードに移行した。9月22日に告示された総裁選には昨年も出馬した5人が再度顔をそろえた。50音順で小泉 進次郎氏(44)、小林 鷹之氏(50)、高市 早苗氏(64)、林 芳正氏(64)、茂木 敏充氏(69)。派閥解消の影響もあってか石破氏とこの5人を含む合計9人が出馬した昨年の総裁選では、全候補の社会保障、医療・介護政策を前編と後編に分けて紹介した。ということで、今回は再挑戦した5人の社会保障、医療・介護政策を前回マニフェストとの比較も含め、独断と偏見の評価も交えながらお伝えしたい。小泉 進次郎氏 神奈川11区・6期言わずと知れた、自民党内で一時「変人」と呼ばれた元首相・小泉 純一郎氏の次男である。閣僚経験は環境相、内閣府特命担当相(原子力防災担当、気候変動担当)、農林水産相で、一見すると厚生労働行政には縁もゆかりもないように見えるが、実は2018年に自民党厚生労働部会長を経験している。前回の総裁選は党刷新を前面に出したためなのか、今の日本では最重要課題と言っても過言ではない少子高齢化に伴う社会保障制度関連の政策は、マニフェスト上皆無というぶったまげたことをやってのけた御仁である。今回は「立て直す。国民の声とともに」というキャッチフレーズの下、大項目として7つの政策を打ち出した。そのうち3番目で以下のような社会保障関連、医療・介護政策に言及している。3. 社会保障・教育子供から子育て世代、お年寄りまで、すべての世代が安心できる、全世代型社会保障制度を実現する。そのために、与野党協議を真摯に進める医療・介護・保育・福祉・教育など公的分野で働く方々の物価上昇を上回る処遇改善の実現率直に言ってどちらも目新しさはない。処遇改善は自民党内外を問わずに多くの政治家や政党が掲げる政策でもある。前者の全世代型社会保障制度も現状路線の維持だが、こと小泉氏にとっては別の意味も持つと言える。というのも、現在の全世代型社会保障制度という概念の下、定着しつつある改革の方向性として「年齢ではなく経済力に応じた負担」を自民党として打ち出したのが、まさに小泉氏が党厚生労働部会長時代であり、なおかつ彼自身がこの方向性の主導者と言われているからである。なお、大項目「5.防災・治安対策」では、昨今の保守層を中心に話題となりがちな外国人問題について言及しているが、小泉氏自身のホームページではより具体的に「医療保険制度などの制度の不適切利用の是正」を掲げている。ここからは党内でも比較的リベラルと受け止められている小泉氏が支持のウイングを広げようとしている様子がうかがえる。小林 鷹之氏 千葉2区・5期前回の総裁選で彗星のごとく登場した小林氏。大蔵省(現・財務省)に入省し、在米日本大使館赴任時代の民主党政権下で日米関係が崩壊していく様子を目の当たりにした危機感から政治家を志したという。こうした経緯もあってか、今回の5人の中では高市 早苗氏と並んで保守色の強い政治家である。総裁選のキャッチフレーズは「挑戦で拓く 新しい日本」。この下で5つの主要政策項目を掲げている。社会保障関連、医療・介護政策は以下のようなものだ(数字は小林氏の政策マニフェストで記載された順番。◇は中項目)。1. 力強く成長するニッポン◇現役世代の社会保険料負担軽減医療DXの推進、重複の解消・予防インセンティブの導入、保険適用範囲の見直しなどについて、「社会保障国民会議」を設置し、国民皆保険・社会保障制度の持続など国民の安心を守りながら包括的改革◇デフレから成長経済への移行期対策医療・看護・介護等公定価格分野での人材確保・処遇改善2. 自らの手で守り抜くニッポン◇医療安全保障ドラッグラグ・ロス問題の解消原薬およびサプライチェーンの外国依存からの脱却ワクチン・診断薬・治療薬などの感染症危機対応医薬品の開発・確保の強化3.結束するニッポン◇少子化対策・こども政策出産体制確保と負担軽減の両立「ニッポン」を連発するところが保守色の強い小林氏らしさとも言える。政策の中にある「社会保障国民会議」については、前回の総裁選では「社会保障未来会議(仮称)」としていた。「現役世代の社会保険料負担軽減」は前回の総裁選とほぼ同じ政策である。前回はより給付削減を打ち出していた。また、予防インセンティブは、参院選での参政党の政策を彷彿とさせる。具体策までは踏み込んでいないが、東大から財務省というリアルな政策の場を渡り歩いてきた小林氏が、このインセンティブ政策の細部設計でさすがに参政党レベルはあり得ないだろうとは思うが、どのような構想を持っているかは個人的に興味があるところだ。「デフレから成長経済への移行期対策」は今回新たに登場したが、小泉氏のところで触れたように目新しさはない。2では新たに「医療安全保障」というワードを繰り出してきた。正直、その意味するところがわかるようなわからないような…。また、ここに書かれた各項目は、やはり保守政治家らしいと言えるが、以前から私自身は繰り返し言っているように、創薬、医薬品サプライチェーンのボーダレス化が進んでいる中では空疎にしか見えない。言っちゃ悪いが、保守層受けの良い政策を無機質に並べたようにも映る。ちなみに前回はゲノム創薬の強化を打ち出していたが、今回はその項目は消えている。また、同じく前回は「医師・診療科の偏在是正」や「医療法人改革」を掲げていたが、これも今回のマニフェストからは消えた。高市 早苗氏 奈良2区・10期前回総裁選の1回目投票で1位となりながら、決選投票で石破氏に敗れた高市氏。無所属で国会議員となり、そこから自由党(党首・柿澤 弘治氏)→自由改革連合(代表・海部 俊樹氏)→新進党(党首・海部 俊樹氏)→自民党と渡り歩き、自民党内で5度の閣僚経験、党三役の政調会長を務めたバルカン政治家である。今回のマニフェストキャッチフレーズは「日本列島を、強く豊かに。」である。マニフェストの大項目は5つだが、その大部分を1番目が占めている。社会保障、医療・介護領域の政策もすべてここに含まれている。中身は以下の通りだ。1.大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『暮らしの安全・安心』の確保と『強い経済』を実現。◇経済安全保障の強化と関連産業の育成経済安全保障に不可欠な成長分野(AI、半導体、ペロブスカイト・全固体電池、デジタル、量子、核融合、マテリアル、合成生物学・バイオ、航空・宇宙、造船、創薬、先端医療、送配電網、港湾ロジスティクスなど)に、分野毎の官民連携フレームワークにより積極投資を行ない、大胆な投資促進税制を適用◇健康医療安全保障の構築地域医療・福祉の持続・安定に向け、コスト高に応じた診療・介護報酬の見直しや人材育成支援「攻めの予防医療」(がん検診陽性者の精密検査・国民皆歯科健診の促進等)を徹底することで、医療費の適正化と健康寿命の延伸を共に実現ワクチンや医薬品については、原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制を構築再生・細胞医療、遺伝子治療分野、革新的がん医療、認知症治療等に係る研究開発と社会実装を促進長年の取組で実現した「女性の健康」ナショナルセンター機能の構築を推進この政策をざっと眺めると、小林氏とかなり相似性が高いことがわかるだろう。とくに「健康医療安全保障」という造語などが代表的だ。むしろ文言上の政策は高市氏のほうが充実していると言えるかもしれない。「コスト高に応じた診療・介護報酬の見直し」などは、ウクライナ戦争に端を発した物価高により経営難にあえぐ医療機関・介護施設の経営者にとっては首が振りきれるほど頷く政策だろう。一方で小林氏のところでも指摘した予防医療の推進とワクチン・医薬品の国産化については、個人的には「ふーん」という感じである。予防医療自体は悪いことではないが、そのコスト・パフォーマンスの悪さは医療現場に身を置く人なら誰しもが気付いていることだろうし、ワクチン・医薬品の国産化については前回の小林氏の政策のところで述べたとおりだ。一言で言うならば、「現場を知らないのだろう」という印象である。ここで高市氏と小林氏の政策についてまとめて言及すると、私個人は社会保障とは国家の存立基盤の1つであり、経済成長の有無とは関係なく持続性を持つものでなければならないと考えている。その前提に立つと、この分野の政策ほぼすべてが経済成長を視野に入れて立案されていることには、かなり違和感がある。林 芳正氏 山口3区・2期(参院・山口選挙区5期)石破内閣では内閣官房長官を務めたが、5人の候補者の中では地味めである。もっとも参院議員として4度も入閣をしたのは戦後、林氏ただ1人である。また、総裁選出馬は今回が3度目で、1回目は参院議員時代の2012年。自民党総裁選で推薦人制度導入以降に参院議員が名乗りを上げたのも林氏が初。失礼を覚悟で言えば、見た目以上に“武勇伝”がある人物なのである。今回の総裁選では「経験と実績で未来を切り拓く」をキャッチフレーズに掲げた。前回は「人にやさしい政治。」で、いずれもやはり地味である。また、余談を言うと、今回の総裁選で使っている本人の写真は右手でガッツポーズしたスタイルである。率直に言うと、このポーズは地方選挙での新人候補のポスターでこそよく見かけるパターンだが、ベテラン政治家ではあまり見かけないアピールパターンである。さてマニフェストは「林よしまさが掲げる政策 林プラン」と題したもので、大項目は6項目。その1番目と3番目に関連政策の記述がある。以下のような内容である。1.経済対策・成長戦略・教育改革創薬力の強化3.社会保障・福祉医療・介護・福祉人材の大幅な処遇改善生涯を通じた歯科検診(国民皆歯科健診)に向けた具体的取組医師・看護師確保対策経済政策としての創薬力強化は、実は岸田政権時の「創薬エコシステムサミット」開催以来の政策であり、林氏がかつて岸田派だったことを考えれば、むしろ自然な流れと言える。次なる社会保障・福祉の項目内は、ざっと見ればごくごくありきたりなモノばかりである。ちなみに国民皆歯科健診は高市氏も掲げているが、実は従来から自公政権下での骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)に記載されており、石破政権期の国政選挙の政策集にも組み込まれている。一方で、医師・看護師確保対策の具体的な記述はないが、前回の総裁選では「医師の偏在是正」「大学病院の派遣機能強化」も掲げていた。今回はこの2つの記述はないが、おそらく医師・看護師確保対策という文言に含まれているのだろう。そして直接の社会保障、医療・介護政策ではないが、私個人は大項目5番目「党・政治・行政改革」に記載された「現行の1府12省庁体制の検証、省庁再々編に向けた議論」が目に留まった。省庁再々編を議論する場合、似て非なる業務を行う旧厚生省と旧労働省を無理やり一つにした、半ばユニットバスのような厚生労働省が真っ先に的になることは必然。林氏だけでなく、そのことを視野に入れている勢力は自民党に一定程度いるのだろうと改めて認識させられた。茂木 敏充氏 栃木5区・11期もともとは旧日本新党出身という“外様”ながら、経済産業相、外相という重要閣僚、幹事長という自民党4役の要を経験し、さらには旧田中派・経世会に源流を持つ自派閥(旧茂木派)まで有していた茂木氏。今回の総裁選では真っ先に出馬に名乗りをあげた。マニフェストのキャッチフレーズは「結果を出す」。この下で実行プランと称する6つの大項目を掲げている。その最後に社会保障関連について以下のように言及している。●国家、国民を守り抜く◇社会保障、外交そして憲法改正で安心安全な国づくり負担能力に応じた誰もが安心・納得の社会保障制度の確立基本的に小泉氏と同じ全世代型社会保障制度を支持しているスタンスである。前回総裁選では、デジタル活用による負担と給付の透明化や在職老齢年金制度の見直しまで訴えていた。おそらくこの辺は本質的に変更してはいないのだろうが、高齢層から反発が予想される内容だけに文言上今回はかなりマイルドにしたのかもしれない。さてここまで5人の政策を評価したが、どうやら総裁選そのものの情勢は小泉氏vs.高市氏の2強対決に林氏が3番手に絡み票を伸ばしている状況らしい。とくに小泉陣営では、週刊文春が報じた「やらせ応援メッセージ書き込み依頼事件」もあり、それによる失票が林氏に回っている構図のようだ。いずれにせよ来週にはもう自民党総裁、いわば総理大臣最有力候補が決定している。結果はいかに?

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第30回 なぜトランプ氏は「タイレノールが自閉症の原因」と発言したのか?専門家報酬、訴訟、SNS…科学的根拠なき主張の裏側を徹底解剖

トランプ大統領と保健福祉長官であるロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、世界中の妊婦やその家族を震撼させる警告を発しました1)。「タイレノールを飲んではいけない」「それを避けるために必死で戦ってほしい」。その理由は、妊娠中のタイレノール(主成分:アセトアミノフェン)の使用と、子供の自閉症との間に因果関係があるというものでした。 この発言は、長年、妊娠中の痛みや発熱に対して最も安全な選択肢の一つとされてきたアセトアミノフェンへの信頼を根底から揺るがし、大きな混乱と不安を引き起こしました。しかし、彼らが「科学的根拠」として提示した証拠は、信頼に足るものだったのでしょうか。本記事では、これまでの報道内容を基に、この主張がいかにして構築され、なぜ発せられたのか、その裏側を掘り下げていきたいと思います。「ハーバード大学学部長」の研究が根拠? 覆された「科学的証拠」の実態トランプ政権が主張の最大の拠り所としたのは、ハーバード大学公衆衛生大学院の学部長であるアンドレア・バッカレッリ氏らによるレビュー論文でした2)。現役のハーバード大学学部長の名前が挙がったことで、多くの人々がその主張に一定の信憑性を感じたかもしれません。しかし、その背景を調べると、単純な科学的見解とは言い難い複雑な事情が浮かび上がってきます。バッカレッリ氏は、タイレノールの製造元を相手取った集団訴訟で、原告側の「専門家証人」として、少なくとも15万ドル(約2,250万円)の報酬を受け取っていたことが、裁判資料から明らかになっています3)。彼は訴訟のための専門家報告書の中で、アセトアミノフェンと自閉症などの神経発達障害との間に「因果関係がある」と断定的な見解を記していました。しかし、最も重要な事実は、彼が関わったこれらの訴訟が、連邦裁判所の判事によって「信頼できる科学的証拠の欠如」を理由に棄却されていたことです。判事は判決の中で、バッカレッリ氏が「研究結果を都合よく抜き出し(チェリー・ピッキング)、誤って伝えている」とさえ指摘しています。つまり、トランプ政権が「根拠」とした専門家の意見は、司法の場においてすでにその信頼性を否定されていたのです。事実、これまで因果関係を明確に示した研究は報告されていません。また興味深いことに、ホワイトハウスでの会見後、バッカレッリ氏自身が出した声明は、訴訟での断定的な態度から一転し、「因果関係を決定するためにはさらなる研究が必要」と、非常に慎重なトーンに変わっていました。この一貫性のなさは、彼の見解が置かれた立場によって揺れ動く可能性を示唆しています。世論を揺さぶる情報戦――古いSNS投稿の利用と専門家たちの反論科学的根拠が揺らぐ中、政権側は世論を味方につけるための情報戦を仕掛けます。保健福祉省やホワイトハウスの公式Xアカウントは、タイレノールの公式アカウントが2017年に行った「妊娠中に我々の製品を摂取することはお勧めしません」という古い投稿を、「キャプションは不要」という一言と共に再投稿しました4)。これは、あたかも製造会社自身が2017年からすでに危険性を認めているかのような印象を与える巧みな手法でした。しかし、タイレノールの親会社であるKenvue社は即座に声明を発表。この投稿は、ある顧客からの問い合わせに対する断片的な返信であり、「文脈から切り離されている」と反論しました。そして、「アセトアミノフェンは妊娠全期間を通じて、妊婦にとって最も安全な解熱鎮痛薬の選択肢」であるという公式見解を改めて示し、ただし「どんな市販薬であっても、使用前には医師に相談すべき」という、医学の基本原則を付け加えました5)。つまり、過去の投稿はあくまで、医師に相談せずに買える市販薬(=「われわれの製品」)を自己判断で摂取することをお勧めしないという内容だったのです。この騒動に対し、米国の産科婦人科学会(ACOG)をはじめとする専門学会は、トランプ政権の主張に強く反発しました6)。「信頼できるデータに裏付けられていない」「妊娠中のアセトアミノフェン使用が神経発達障害を引き起こすと結論づけた信頼できる研究は一つもない」と断言。さらに、妊娠中の高熱を放置すること自体が、胎児の神経管閉鎖障害などの先天異常リスクを高めることは何十年もの研究で知られており、アセトアミノフェンはそのリスクを管理するための数少ない安全な手段であると強調しました。科学より「個人の信念」――トランプ氏の発言の背景にあるもの信頼できる科学的証拠が乏しく、医学界の総意とも異なる主張を、なぜトランプ氏はこれほど強く推し進めるのでしょうか。その答えは、彼の個人的な信条と政治スタイルにありそうです。報道によれば、この問題はトランプ氏にとって「個人的な関心ごと」であり、彼は以前から自閉症やワクチンに対して、科学的コンセンサスとは異なる強い持論を持っていたことで知られています7)。そして、今回、保健福祉長官に任命されたロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、長年にわたりワクチンと自閉症の関連を主張してきた、反ワクチン運動の最も著名な活動家の一人です。この人選自体が、政権の方向性を物語っています。つまり、今回の発言は、特定の科学論文を客観的に評価した結果というよりも、トランプ氏とケネディ氏が共有する「既存の医療や科学の権威に対する不信感」という世界観の表れと見るのが自然でしょう。彼らの言動は、科学的データよりも個人の信念や逸話を重視し、複雑な問題を単純な「敵」と「味方」の構図に落とし込むことで支持者からの共感を呼ぶ、という政治戦略の一環なのです。このような単純化は、このSNS時代に共感を呼びやすいことをよく理解したうえでやっていると思います。結論として、タイレノールに関するトランプ政権の警告は、司法に退けられた「専門家」の意見を根拠とし、文脈を無視したSNS情報を利用して増幅され、医学界の明確な反対を押し切る形で行われました。この一件は、科学的真実が、個人の強い信念や政治的思惑によっていかに歪められ、公衆の健康をいたずらに危険にさらしうるかを示す、象徴的な事例といえるのではないでしょうか。 参考文献・参考サイト 1) BBC. Trump makes unproven link between autism and Tylenol. 2) Prada D, et al. Evaluation of the evidence on acetaminophen use and neurodevelopmental disorders using the Navigation Guide methodology. Environ Health. 2025;24:56. 3) The New York Times. Harvard Dean Was Paid $150,000 as an Expert Witness in Tylenol Lawsuits. 4) The White House. X投稿. 2025 Sep 24. 5) Kenvue. Should I be concerned about acetaminophen and autism? 6) ACOG Affirms Safety and Benefits of Acetaminophen during Pregnancy. 2025 Sep 22. 7) The New York Times. Trump Issues Warning Based on Unproven Link Between Tylenol and Autism.

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60歳以上への2価RSVワクチン、全心肺疾患による入院も抑制/JAMA

 60歳以上の高齢者における呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症に対する2価RSV融合前Fタンパク(RSVpreF)ワクチン接種は、同ワクチンを接種しなかった場合と比較し、全心肺疾患による入院を有意に減少させた。デンマーク・Copenhagen University Hospital-Herlev and GentofteのMats C. Hojbjerg Lassen氏らが、DAN-RSV試験の事前に規定された2次解析の結果を報告した。RSV感染は、とくに心血管疾患(CVD)の既往を有する患者で心血管リスクの上昇と関連している。最近、RSVpreFワクチンがRSV関連下気道疾患の予防として承認されたが、心血管アウトカムに対する有効性を評価した無作為化試験はなかった。著者は、「今回の結果は、全CVDによる入院に対する効果は有意ではなかったものの、RSVワクチン接種が心肺疾患に対しても有用である可能性を示唆している」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年8月30日号掲載の報告。デンマークの60歳以上、約13万例をRSVpreFワクチン接種群と未接種群に無作為化 DAN-RSV試験は、研究者主導のプラグマティックな第IV相無作為化非盲検並行群間比較試験で、2024~25年冬季シーズンにデンマーク在住で市民登録番号を有する60歳以上の高齢者を、RSVpreFワクチン接種群(単回筋肉内投与、RSVpreF群)またはワクチン未接種群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 主要エンドポイントはRSV関連呼吸器疾患による入院で、結果は別途報告されている(ジャーナル四天王「60歳以上への2価RSVワクチン、RSV関連呼吸器疾患による入院を抑制/NEJM」)。 本論では、副次エンドポイントである全心肺疾患による入院について評価し、さらに、RSVpreFワクチンの有効性を全心肺疾患の2つの構成要素(全呼吸器疾患による入院[副次エンドポイント]、全CVDによる入院[探索的エンドポイント])と、全CVDの各項目(心不全、心筋梗塞、心房細動、脳卒中による入院)に関して評価した。 ベースラインデータおよびアウトカムデータは、デンマーク登録番号を介し各種全国医療レジストリから収集した。2024年11月18日に最初の参加者が登録され、初回試験来院予定日の14日後から2025年5月31日まで追跡調査が行われた。 DAN-RSV試験のITT集団は13万1,276例(RSVpreF群6万5,642例、対照群6万5,634例、平均年齢69.4[SD 6.5]歳、男性50.3%)で、このうち2万8,662例(21.8%)(RSVpreF群1万4,377例、対照群1万4,285例、平均年齢71.8[SD 6.9]歳、男性64.3%)がベースラインでCVD既往であった。1,000人年当たりの全心肺疾患入院26.3 vs.29.2、全CVD入院16.4 vs.17.7 ITT集団において、全心肺疾患による入院の発生率は、1,000人年当たりRSVpreF群26.3、対照群29.2であり、RSVpreF群で有意に低かった(絶対発生率減少:1,000人年当たり2.90[95%信頼区間[CI]:0.10~5.71]、ワクチン有効率9.9%[95%CI:0.3~18.7]、p=0.04)。この効果は、ベースラインにおけるCVDの有無による有意な相互作用は認められなかった(ワクチン有効率:CVDあり5.0%[95%CI:-11.2~16.7]、CVDなし15.2%[2.2~27.1]、相互作用のp=0.27)。 全CVDによる入院の発生率は1,000人年当たりRSVpreF群16.4、対照群17.7(ワクチン有効率7.4%、95%CI:-5.5~18.8、p=0.24)、脳卒中による入院の発生率は1,000人年当たりそれぞれ3.0と3.8(19.4%、-8.6~40.4、p=0.14)であった。心筋梗塞、心不全ならびに心房細動による入院についても統計学的な有意差はなかった。

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第262回 風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO

<先週の動き> 1.風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO 2.全国で「マイナ救急」導入、救急現場で医療情報を共有可能に/消防庁 3.分娩可能な病院は1,245施設に、34年連続減少/厚労省 4.高額レセプトの件数が過去最高に、健康保険組合は半数近くが赤字/健保連 5.アセトアミノフェンと自閉症 トランプ大統領の発表で懸念拡大/米国 6.救急搬送に選定療養費 軽症患者が2割減、救急車の適正利用進む/茨城・松阪 1.風疹流行から10年 ワクチン推進で日本が「排除」認定/WHO厚生労働省は9月26日、「わが国が風疹の『排除状態』にあると世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局から認定を受けた」と発表した。「排除」とは、国内に定着した風疹ウイルスによる感染が3年間確認されないことを指し、わが国では2020年3月を最後に土着株の感染例が報告されていなかった。風疹は、発熱や発疹を引き起こす感染症で、妊婦が感染すると先天性風疹症候群を発症した子供が生まれるリスクがある。国内では2013年に約1万4千人が感染し、2018~19年にも流行が発生。過去には妊婦の感染により、45例の先天性風疹症候群が報告されていた。流行の中心は予防接種の機会がなかった40~50代の男性であり、国は2019年度からこの世代を対象に無料の抗体検査とワクチン接種を実施した。その結果、2021年以降は年間感染者数が10人前後に抑えられ、感染拡大は収束した。今回の認定はこうした取り組みの成果を示すもので、厚労省は「引き続き適切な監視体制を維持し、ワクチン接種を推進する」としている。一方で、海外からの輸入例は依然としてリスクが残る。今後も免疫のない世代や妊婦への周知徹底が課題となる。風疹排除はわが国の公衆衛生政策の大きな成果だが、維持のためには医療現場と行政が協力し続ける必要がある。 参考 1) 世界保健機関西太平洋地域事務局により日本の風しんの排除が認定されました(厚労省) 2) 風疹の土着ウイルス、日本は「排除状態」とWHO認定…2020年を最後に確認されず(読売新聞) 3) WHO 日本を風疹が流行していない地域を示す「排除」状態に認定(NHK) 4) 日本は風疹「排除状態」、WHO認定 土着株の感染例確認されず(朝日新聞) 2.全国で「マイナ救急」導入、救急現場で医療情報を共有可能に/消防庁救急現場での情報確認を迅速化する「マイナ救急」が、10月1日から全国の消防本部で導入される。マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」を活用し、救急隊員が、患者の受診歴や処方薬情報を即時に確認できる仕組みである。患者本人や家族が説明できない状況でも、カードリーダーで情報を読み取り、オンライン資格確認システムに接続して必要な医療情報を閲覧できるようになる。これにより、救急隊は持病や服薬を把握した上で適切な搬送先を選定し、受け入れ先の医療機関では治療準備を事前に進めることが可能となる。患者が意識不明の場合には、例外的に同意なしで情報参照が認められる。2024年5月から実施された実証事業では、救急隊員から「服薬歴の把握が容易になり、搬送判断に役立つ」との評価が寄せられた。わが国では高齢化に伴い、多疾患併存やポリファーマシーの患者が増加している。救急現場での服薬歴不明は治療遅延や薬剤相互作用のリスクにつながるため、本制度は臨床現場の安全性向上に資する。その一方で、救急時に確実に活用するためには、患者自身がマイナ保険証を常時携帯することが前提となる。厚生労働省と消防庁は「とくに高齢者や持病のある方は日頃から携帯してほしい」と呼びかけている。マイナ保険証の登録件数は、2025年7月末時点で約8,500万件に達しているが、依然として所持率や利用登録の偏りは残る。医師にとっては、救急現場から搬送される患者情報がより早く共有されることで、初期対応の迅速化や医療安全の強化が期待される。他方、情報取得の精度やシステム障害時の対応など、運用上の課題にも注意が必要となる。「マイナ救急」は、地域を越えて情報を共有し、救急医療の質を底上げする国家的インフラの一環であり、今後の運用実績を踏まえ、医療DXの具体的成果として浸透するかが注目される。 参考 1) あなたの命を守る「マイナ救急」(総務省) 2) 救急搬送時、マイナ保険証活用 隊員が受診歴など把握し適切対応(共同通信) 3) 「マイナ救急」10月から全国で 受診歴や服用薬、現場で確認(時事通信) 3.分娩可能な病院は1,245施設に、34年連続減少/厚労省厚生労働省が公表した「令和6年医療施設(動態)調査・病院報告」によれば、2024年10月1日現在、全国の一般病院で産婦人科や産科を掲げる施設は計1,245施設となり、前年より9施設減、34年連続の減少で統計開始以来の最少を更新した。小児科を有する一般病院も2,427施設と29施設減少し、31年連続の減少となった。全国的に病院数そのものが減少傾向にあり、とくに周産期・小児医療を担う診療科の縮小は地域医療体制に大きな影響を及ぼすとみられる。調査全体では、全国の医療施設総数は18万2,026施設で、うち活動中は17万9,645施設。病院は8,060施設で前年比62施設の減、一般病院は7,003施設と62施設の減、診療所は10万5,207施設で微増、歯科診療所は6万6,378施設で440施設の減となった。病床数でも全体で約1万4,663床減少し、とくに療養病床と一般病床が減少した。病院標榜科の内訳をみると、内科(92.9%)、リハビリテーション科(80.5%)、整形外科(69.1%)が多い一方で、小児科は34.7%、産婦人科15.0%、産科2.8%にとどまる。産婦人科と産科を合わせた比率は17.8%であり、地域により分娩を担う施設が極端に限られる状況が続いている。また、病院報告では、1日当たりの外来患者数が前年比1.7%減の121万2,243人と減少した一方、在院患者数は113万3,196人で0.8%増加し、平均在院日数は25.6日と0.7日短縮した。医療需要は依然高水準である一方で、入院期間短縮と医療資源の集約化が進む姿が浮かんだ。今回の結果は、産科・小児科医師の偏在や医師不足が長期的に続いている現実を裏付けるものであり、医師にとっては、地域における出産・小児救急の受け皿が細り続ける中で、救急搬送の広域化や勤務負担の増大が避けられない。各地域での分娩体制再編や周産期医療ネットワーク強化の重要性が一層高まっている。 参考 1) 令和6年医療施設(動態)調査・病院報告の概況(厚労省) 2) 産婦人科・産科が最少更新 34年連続、厚労省調査(東京新聞) 3) 産婦人科・産科がある病院1,245施設に、34年連続の減少で最少を更新 厚労省調査(産経新聞) 4.高額レセプトの件数が過去最高に、健康保険組合は半数近くが赤字/健保連健康保険組合連合会(健保連)は9月25日、「令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要」を発表した。1ヵ月の医療費が1,000万円を超える件数は2,328件(前年度比+8%)で10年連続の最多更新となり、過去10年で6倍超に増加した。上位疾患の約8割は悪性腫瘍で、CAR-T療法や遺伝子治療薬などの登場が背景にある。最高額は約1億6,900万円で、単回投与型の薬剤を用いた希少疾患治療が占めた。これらの薬剤は患者に新たな治療選択肢を提供し、長期生存やQOL改善につながる一方で、健保組合の財政に直結する。健保連の制度により高額事例は共同で負担される仕組みだが、件数増加は拠出金を押し上げ、結果として保険料率や現役世代の負担増につながる。実際に2024年度の平均保険料率は9.31%と過去最高となり、1/4の組合は「解散ライン」とされる10%を超えた。臨床現場にとっても影響は現実に及ぶ。新規薬剤を希望する患者からの説明要請が増えており、医師は「なぜこの薬が高額なのか」「自分に適応があるのか」「高額療養費制度でどこまで自己負担が軽減されるのか」といった質問に直面している。加えて、長期投与が前提となる免疫療法や分子標的薬では、累積コストや再投与リスクについても説明が欠かせない。患者や家族が治療継続の是非を判断する際、経済的側面を含めた十分な情報提供が求められる。今後は、がん免疫治療の投与拡大、希少疾患への新規遺伝子治療薬導入などにより、高額レセプトはさらに増加すると予測される。薬価改定で一定の調整は行われるが、医療費全体に占める薬剤費の比重は確実に高まり、制度改革や患者負担の見直し議論は避けられない。現場の医師には、エビデンスに基づく適正使用とともに、経済的影響を含めた説明責任がより重くのしかかる局面にある。 参考 1) 令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要(健保連) 2) 高額レセプト10年連続で最多更新 24年度は2,328件 健保連(CB news) 3) 「1,000万円以上」の高額医療8%増 費用対効果の検証不可欠(日経新聞) 4) 綱渡りの健康保険 組合の4分の1、保険料率10%の「解散水準」に(同) 5) 健保1,378組合の半数近く赤字、保険料率が過去最高の月収9.3%…1人あたりの年間保険料54万146円(読売新聞) 6) 健保連 昨年度決算見込み 全体は黒字も 半数近くの組合が赤字(NHK) 5.アセトアミノフェンと自閉症 トランプ大統領の発表で懸念拡大/米国米国トランプ大統領は9月22日、解熱鎮痛薬アセトアミノフェン(パラセタモール)が「妊婦で自閉スペクトラム症(ASD)リスクを大幅に上げる」として服用自粛を促した。これに対し、わが国の自閉スペクトラム学会は「十分な科学的根拠に基づく主張とは言い難い」と懸念を表明している。米国産科婦人科学会(ACOG)も「妊娠中に最も安全な第一選択肢」と反論。WHO、EU医薬品庁、英国規制当局はいずれも「一貫した関連は確認されていない」とし、現行推奨の変更不要とした。一方、米国の現政権は葉酸関連製剤ロイコボリンのASD治療薬化にも言及したが、大規模試験の根拠は乏しい。わが国の医療現場にも余波は広がり、妊婦・家族からの不安相談が増加する懸念や、自己判断での服用中止による解熱の遅延、SNS起点の誤情報拡散が想定されている。妊娠中の高熱は、胎児に不利益を与え得るため、わが国の実務ではアセトアミノフェンは適応・用量を守り「必要最小量・最短期間」で使用するのが原則となっている。他剤(NSAIDs)は妊娠後期で禁忌・慎重投与が多く、安易な切り替えは避けるべきとされる。診療現場では、現時点で因果を支持する一貫した証拠はないこと、高熱の速やかな改善の利点、自己中断せず受診・相談すること、市販薬も含む総服薬量の確認を丁寧に説明することが求められる。ASDの有病増加には、診断基準変更やスクリーニング拡充も影響し、単一因子で説明できない点もあり、過度な警告は受療行動を阻害し得る。医師には、ガイドラインや専門学会の公的見解に基づく対応が求められる。 参考 1) 自閉症の原因と治療に関するアメリカ政府の発表に関する声明(自閉スペクトラム学会) 2) WHO アセトアミノフェンと自閉症「関連性は確認されず」(NHK) 3) トランプ政権“妊婦が鎮痛解熱剤 自閉症リスク高” 学会が反対(同) 4) トランプ氏「妊婦の鎮痛剤、自閉症リスク増」主張に日本の学会が懸念(日経新聞) 5) 解熱剤と自閉症の関連主張 トランプ大統領に批判集中(共同通信) 6) 「鎮痛剤が自閉症に関係」 トランプ政権が注意喚起へ(時事通信) 6.救急搬送に選定療養費 軽症患者が2割減、救急車の適正利用進む/茨城・松阪救急搬送の「選定療養費」徴収を導入した2つの自治体で、適正利用の進展が確認された。三重県松阪地区では、2024年6月~2025年5月に基幹3病院で入院に至らなかった救急搬送患者の一部から7,700円の徴収を開始した。1年間の救急出動は1万4,184件で前年同期比-10.2%、搬送件数も-10.6%。軽症率は55.4%から50.0%へ-5.4ポイント、1日50件以上の多発日は86から36日へ減少した。搬送1万4,786人(乳幼児193人を含む)のうち帰宅は7,585人(51.3%)、徴収は1,467人(全体の9.9%)。疼痛・打撲・めまいなどが多かった。並行して1次救急(休日・夜間応急診療所)受診が31%、救急相談ダイヤル利用が34%増え、受診先の振り分けが進んだ。茨城県の検証(2025年6~8月)でも、対象22病院の徴収率は3.3%(673/20,707)と限定的ながら、県全体の救急搬送は-8.3%、うち軽症などは-19.0%、中等症以上は+1.7%と、救急資源の選別利用が進んだ。近隣5県より減少幅が大きく、呼び控えによる重症化や大きなトラブルの報告は認められなかった。なお、電話相談で「出動推奨」だった例は徴収対象外とし、誤徴収は月1件程度で返金対応としている。現場の医師は、徴収対象と除外基準の周知徹底、乳幼児や高齢者などへの配慮のほか、1次救急・電話相談との連携による適正振り分け、会計時の説明の一貫性などが課題となる。今後は「安易な利用抑制」と「必要時にためらわず利用できる安心感」の両立を、医師と行政が協働して救急現場に反映させることが問われている。 参考 1) 救急搬送における選定療養費の徴収に関する検証の結果について(概要版)(茨城県) 2) 一次二次救急医療体制あり方検討について(第四次報告)(松阪市) 3) 軽症者の救急搬送19%減 茨城県が「選定療養費制度」を検証(毎日新聞) 4) 選定療養費 軽症搬送、前年比2割減 6~8月 茨城県調査「一定の効果」(茨城新聞) 5) 救急搬送の一部患者から費用徴収、出動件数は1年間で10.2%減 松阪市「適正利用が進んだ」(中日新聞) 6) 救急車「有料化」で出動数1割減 「持続可能な医療に寄与」と松阪市(朝日新聞)

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第281回 コロナ治療薬の今、有効性・後遺症への効果・家庭内感染予防(後編)

INDEXレムデシビルエンシトレルビル感染症法上の5類移行後、これまでの新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の動向について、感染者数、入院者数、死亡者数から薬剤に関するNature誌、Science誌、Lancet誌、NEJM誌、BMJ誌、JAMA誌とその系列学術誌に掲載され、比較対照群の設定がある研究を紹介した(参考:第277回、第278回、第279回、第280回)。今回はようやく最終回として前回と同じ6誌とその系列学術誌を中心に掲載されたレムデシビル(商品名:ベクルリー)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)に関する比較対照群を設定した研究を紹介する。レムデシビル新型コロナウイルス感染症の治療薬として初めて承認された同薬。当初は重症患者のみが適応だったが、その後の臨床試験結果などを受けて、現在は軽症者も適応となっている。新型コロナ治療薬の中で、日本の新型コロナウイルス感染症診療の手引き1)に定義される軽症、中等症I、中等症II、重症までのすべてをカバーするのはこの薬だけである。この薬に関して前述6誌の中で2023年5月以降に掲載された研究は、2024年6月のLancet Infectious Diseases誌に掲載された香港大学のグループによる研究2)である。この研究は評価したい因果効果をみるのに理想的な無作為化比較試験(target trial)をイメージして、可能な限りそれに近づけるように観察データ分析をデザインしていく手法「target trial emulation study」を採用したもの。利用したのはオミクロン株系統が感染の主流となっていた2022年3~12月の香港・HA Statistics保有の電子健康記録。この中からレムデシビル単独療法群(4,232例)、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群(1万3,656例)、併用療法群(308例)の3群を抽出し、主要評価項目を全死因死亡率(90日間追跡、中央値84日)として比較した。レムデシビル単独療法群と比較したハザード比(HR)は、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.18(95%信頼区間[CI]:0.15~0.20)、併用療法群が0.66(95%CI:0.49~0.89)でいずれも有意に死亡率は低下していた。副次評価項目については、ICU入室・人工呼吸器使用の累積発生率でのHRが、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.09(95%CI:0.07~0.11)、併用療法群が0.68(95%CI:0.42~1.12)、人工呼吸器使用率はニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.07(95%CI:0.05~0.10)、併用療法群が0.55(95%CI:0.32~0.94)で、いずれもレムデシビル投与群に比べ有意に低かった。ただし、ICU入室率のみでは、ニルマトレルビル/リトナビル単独療法群が0.09(95%CI:0.07~0.12)と有意に低かったものの、併用療法群では0.63(95%CI:0.28~1.38)で有意差はなかった。この臨床研究は結果として、レムデシビルに対するニルマトレルビル/リトナビルの優越性を示しただけで、オミクロン株系統以降のレムデシビルそのものの有効性評価とは言い難いのは明らかである。だが、対象6誌とその系列学術誌では、オミクロン株優勢期のレムデシビルの有効性を純粋に追求した研究は見当たらなかった。対象学術誌の範囲を広げて見つかるのが、2024年のClinical Infectious Diseases誌に製造販売元であるギリアド・サイエンシズの研究者が発表した研究3)だ。これはオミクロン株系統優勢期である2021年12月~2024年2月の米国・PINC AI Healthcare Databaseから抽出した後向きコホートで、新型コロナで入院し、生存退院した18歳以上の患者を対象にしている。レムデシビル投与群が10万9,551例、レムデシビル非投与群が10万1,035例と対象症例規模は大きく、主要評価項目は30日以内の新型コロナ関連再入院率。結果はオッズ比が0.78(95%CI:0.75~0.80、p<0.0001)で、レムデシビル群の再入院率は有意に低下していた。再入院率の有意な低下は、入院中の酸素投与レベルに関係なく認められ、65歳以上の高齢者集団、免疫不全患者集団でのサブグループ解析でも同様の結果だった。もっとも前述したように、製造販売元による研究であることに加え、対象者のワクチン接種歴や過去の感染歴が不明という点でイマイチ感が残る。一方、オミクロン株系統優勢期での後遺症に対するレムデシビルの有効性を評価した研究は対象6誌では見当たらない。オミクロン株系統優勢期という縛りを外すと、世界保健機関(WHO)が主導した無作為化比較試験「SOLIDARITY試験」の追跡研究として、Nature誌の姉妹誌Communications Medicine誌に2024年11月に掲載されたノルウェー・オスロ大学による研究4)がある。無作為化後、3ヵ月時点での呼吸器症状を中心とする後遺症を調査したものだが、対症療法単独群(一部ヒドロキシクロロキン投与例を含む53例)と対症療法+レムデシビル投与群(27例)との比較では有意差は認められなかった。エンシトレルビル言わずと知れた新型コロナウイルスに対する国産の抗ウイルス薬である。その承認時には主要評価項目の変更などで物議を醸した。該当6誌で研究を探して見つかったのは、JAMA Network Open誌に掲載された同薬の第II/III相臨床試験Phase3 part(SCORPIO-SR試験)の結果、まさに日本での緊急承認時に使用されたデータ5)のみである。改めてその内容を記述すると、発症から72時間未満にいずれも5日間投与されたエンシトレルビル1日125mg群(347例)、1日250mg群(340例)、プラセボ群(343例)の3群でオミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、疲労感)が消失するまでの時間を主要評価項目としている。この結果、エンシトレルビル群はプラセボ群と比較して5症状消失までの時間を有意に短縮(p=0.04)。症状消失までの時間の中央値は、125mg群で167.9時間(95%CI:145.0~197.6時間)、プラセボ群で192.2時間(95%CI:174.5~238.3時間)だった。また、副次評価項目では、ウイルスRNA量の変化が125mg投与群では投与4日目でプラセボ群と比較して有意に減少(p<0.0001)、感染性を有する新型コロナウイルス(ウイルス力価)の陰性化が最初に確認されるまでの時間がプラセボ群と比較して有意に短縮した(p<0.001)。ウイルス力価陰性化までの時間の中央値は、125mg群が36.2時間、プラセボ群が65.3時間だった。なお、エンシトレルビルに関しては米国での上市を念頭に置き、北米、南米、欧州、アフリカ、日本を含むアジアで軽症・中等症の非入院成人(ほとんどがワクチン接種済み)の新型コロナ感染者を対象にした第III相の無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SCORPIO-HR試験」(患者登録期間:2022年8月~2023年12月)も行われ、2025年7月にClinical Infectious Diseases誌に論文6)が掲載された。主要評価項目は新型コロナの15症状が持続的(2日以上)に消失するまでの平均時間だったが、エンシトレルビル群(1,018例)とプラセボ群(1,029例)との間で有意差は認められなかった。この主要評価項目はエンシトレルビルの承認申請を前提に米国食品医薬品局(FDA)との合意で決定されたものだったため、この結果を受けてエンシトレルビルの承認申請は行われていない。一方で塩野義製薬側は、ターゲットを曝露後予防にしたプラセボ対照二重盲検第III相試験「SCORPIO-PEP試験」を2023年から開始。同社の発表によると、試験は米国、南米、アフリカ、日本を含むアジアで実施し、新型コロナウイルス検査で陰性が確認された新型コロナ感染者の12歳以上の同居家族または共同生活者2,387例が登録された。同試験の結果は論文化されておらず、あくまで塩野義製薬の発表になるが、主要評価項目である「投与後10日までの新型コロナ発症者の割合」はエンシトレルビル群が2.9%、プラセボ群が9.0%であり、エンシトレルビル群は統計学的に有意に相対リスクを低下させたという(リスク比:0.33、95%CI:0.22~0.49、p<0.0001)。今後、塩野義製薬は各国で曝露後予防への適応拡大を目指す考えである。 参考 1) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症診療の手引き(第10.1版)(厚生労働省 2024年4月23日発行) 2) Choi MH, et al. Lancet Infect Dis. 2024;11:1213-1224. 3) Mozaffari E, et al. Clin Infect Dis. 2024;79:S167-S177. 4) Hovdun Patrick-Brown TDJ, et al. Commun Med (Lond). 2024;4:231. 5) Yotsuyanagi H, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2354991. 6) Luetkemeyer AF, et al. Clin Infect Dis. 2025;80:1235-1244.

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帯状疱疹ワクチンは心血管イベントリスクを低下させる?

 帯状疱疹ワクチンは、痛みを伴う皮膚感染症を予防するだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスクも低下させる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。帯状疱疹ワクチンのシングリックスを製造販売するグラクソ・スミスクライン(GSK)社のワクチン担当グローバル・メディカル・アフェアーズ・アソシエイト・メディカル・ディレクターのCharles Williams氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表された。 帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって引き起こされる。水痘に罹患すると、治癒後もウイルスが神経系に潜伏し続け、加齢に伴い免疫力が低下すると、ウイルスが再活性化して帯状疱疹を引き起こすことがある。研究グループによると、水痘罹患経験者の約3人に1人は、ワクチンを接種しなければ帯状疱疹を発症する可能性があるという。米疾病対策センター(CDC)は、50歳以上の人に対して帯状疱疹ワクチンの接種を推奨しているほか、免疫不全状態にある19歳以上の人にも接種を推奨している。さらに研究グループによると、帯状疱疹の発症は心筋梗塞リスクを高める可能性や、ウイルスが頭部の大小の血管に侵入して脳卒中リスクを高める可能性も示唆されているという。 今回の研究でWilliams氏らは、帯状疱疹ワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン、生弱毒化帯状疱疹ワクチン)の心血管イベントに対する効果を検討した研究を検索し、基準を満たした9件(観察研究8件、ランダム化比較試験1件)のデータを統合してメタアナリシスを実施した。9件の研究の参加者は男性が53.3%を占め、平均年齢は53.6~74歳だった。 その結果、帯状疱疹ワクチンを接種した群では未接種の群に比べて、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントの発生リスクが有意に低下することが明らかになった。リスク低下の大きさは、18歳以上の人では18%、50歳以上の人では16%であった。 これらの結果からWilliams氏は、「現時点で入手可能なエビデンスを検討した結果、帯状疱疹ワクチンの接種は心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスク低下と関連していることが分かった」と述べている。ただし研究グループは、対象とした9件の研究のうち8件は観察研究であるため、本研究によりワクチン接種と心血管イベントの発生リスク低下との間に因果関係があることを証明することはできないと指摘している。 さらにWilliams氏は、「メタアナリシスに用いられた研究は全て、一般集団における帯状疱疹予防の手段としてのワクチンの効果を調べることを目的としたものである。それゆえ、今回の結果を、心血管イベントリスクが高い集団に一般化するには限界がある可能性がある。これは、帯状疱疹ワクチンの接種と心血管イベントとの関連を検討するためのさらなる研究が必要であることを意味する」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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RSウイルスワクチンの1回接種は高齢者を2シーズン連続で守る

 米国では、60歳以上の人に対するRSウイルス感染症を予防するワクチン(RSウイルスワクチン)が2023年より接種可能となった。米疾病対策センター(CDC)は、75歳以上の全ての人と、RSウイルス感染症の重症化リスクがある60〜74歳の人は1回接種を推奨している。このほど新たな研究で、高齢者はRSウイルスワクチンの1回接種により2シーズン連続でRSウイルス関連の入院を予防できる可能性のあることが示された。米ヴァンダービルト大学医療センターのWesley Self氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月30日掲載された。 Self氏は、「これらの結果は、RSウイルスワクチンにより高齢者のRSウイルス感染による入院や重症化を予防できることを明確に示している。この新しいワクチン接種プログラムが公衆衛生に有益であることを目の当たりにするのは本当に喜ばしいことだ」と話している。 研究グループによると、RSウイルス感染症は秋から冬にかけて60歳以上の高齢者に深刻な影響を及ぼし、毎年15万人が入院、8,000人が死亡しているという。Self氏らは今回、2023年10月1日~2024年3月31日、または2024年10月1日~2025年4月30日のRSウイルス流行期に急性呼吸器疾患により米国20州の26病院に入院した60歳以上の人6,958人(年齢中央値72歳、女性50.8%)を対象に、RSウイルス関連の入院に対するワクチンの有効性を検討した。対象者のうち、821人(11.8%)はRSウイルス感染症症例(症例群)、6,137人が対照群とされた。また、1,829人(26.3%)は免疫抑制状態にあった。 RSウイルスワクチンを接種していたのは、症例群で63人(7.7%)、対照群で966人(15.7%)だった。2シーズンを合わせたワクチンの有効性は58%と推定された。また、RSウイルス感染症の発症と同じシーズンに接種した場合のワクチンの有効性は69%、前シーズンに接種した場合の有効性は48%であったが、この差は統計学的に有意ではなかった(P=0.06)。さらに、2シーズンを合わせたワクチンの有効性は、免疫抑制状態にない群で67%であったのに対し、免疫抑制状態にある群では30%と有意に低かった。同様に、非心血管疾患患者でのワクチン有効性は80%であったのに対し、心血管疾患を有する群では56%と有意に低かった。 Self氏は、「われわれのデータは、RSウイルスワクチンの有益な効果は時間の経過とともに弱まる傾向があることを示している」とヴァンダービルド大学のニュースリリースで述べている。 CDCのウェブサイトには、「すでに1回接種を受けた人(昨年を含む)はワクチン接種を完了と見なされ、現時点で追加の接種を受ける必要はない」と記載されている。Self氏は、「本研究結果は、ガイドラインの見直しが必要である可能性があることを示している。初回接種後、一定の間隔を置いてワクチンを再接種することは、より長期間にわたりRSウイルスに対する予防効果を維持するための戦略となり得る」と述べている。その上で同氏は、「単回接種後の効果の持続期間や再接種の必要性について理解するために、ワクチンの有効性を今後も綿密にモニタリングしていくことが重要だろう」との見方を示している。

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ChatGPTでPubMedの英語論文検索!【タイパ時代のAI英語革命】第7回

ChatGPTでPubMedの英語論文検索!今回は、ChatGPTを活用した具体的な方法を解説します。正しく使えば、ChatGPTは非常に強力なツールになります。ただし、ChatGPT単体では正確な文献情報を直接取得できないことも多いため、論文検索ツールとの連携が重要です。今回は、世界で最も広く利用されている論文検索ツール「PubMed」とChatGPTの連携方法について、具体的にご紹介します。1. まずは「自分の疑問」を検索可能な英語に変換しようPubMedなど英語ベースのデータベースで論文を検索するには、まず検索したいテーマを英語に変換する必要があります。ChatGPTを使うと、自然な医学英語表現を提案してくれます。ここでは「高齢者とインフルエンザのワクチン」というテーマを例に、手順を説明していきましょう。まず、ChatGPTに以下のように日本語で入力します。プロンプト例「高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果」を、医学論文で使用されるような英語のタイトルにしてください。 このとき、プロンプトに「医学論文で使用されるような」という一言を入れておくのがポイントです。最終的には、この変換された英語を基にPubMedで検索を行うことになるため、「どのような英語表現を使うか」が非常に重要です。たとえば、「ワクチン」は日常英語ではshotと表現されることもありますが、医学英語としてはvaccinationが適切です。英語の医学論文においては、間違いなくvaccinationが使われているため、こうした医療英語に変換しておくステップが不可欠です。こうした違いを考慮しながらチャットボックスに入力すると、ChatGPTが“Efficacy of influenza vaccination in elderly patients”といったように提案してくれます。訳は少し異なる場合がありますが、これはAIのStochastic Generation(第1回参照)の原理に基づくものなので問題ありません。これで最初のステップは完了です。2. ChatGPTの「GPT」機能を使いこなそう!ChatGPTは非常に賢くはありますが、あくまで過去のデータからパターンを推測することで回答を出すという手法を取るため、「事実」を検索するような分野は苦手です。以前の章 でも説明したハルシネーションのリスクが高い確率で付きまといます。ハルシネーションとは、AIがでっち上げで、存在しないものを作り出してしまうことでしたね。したがって、確実で正確な論文を得るには、あくまでも「PubMedとの連携に対応した」専用のChatGPTを利用することが重要です。ここでご紹介したいのが「カスタムGPT(マイGPT)」という機能です。「カスタムGPT」は、ChatGPT Plus(有料版)ユーザーが使える機能です(無料版は一部機能のみ利用可)。でも、心配要りません。これから紹介する機能は無料版ユーザーも使えます。まずは有料版における「カスタムGPT」の簡単な説明をすると、プロンプトが事前に組み込まれた、自分好みのChatGPTを作り出すことができる機能です。簡単な例を挙げましょう。ChatGPT画面の左メニューにある「GPT」をクリック し、その先の右上の「+作成する」を選び、画面の指示に従って、「指示」の部分にプロンプトを入力します。「医学論文で使用されるような英語のタイトルにします」というプロンプトを事前に設定し、それを「カスタムGPT」として保存しておけば、作成後いつでも呼び出すことができます。この「カスタムGPT」を呼び出せば、最初の画面で「高齢者におけるインフルエンザワクチンの効果」と打つだけで、英語に変換してくれるツールとして使えるようになります。ただ、今回その作成は行わず、もっと簡単な方法を使います。この機能のすごいところは、過去に誰かがプロンプトを作成してある「カスタムGPT」を、そのまま自分のChatGPT内で使うことができる点です。そして、こちらは無料版ユーザーも使用できます。3. GPTでPubMed Buddyを読み込む「GPT」をクリックした後の画面は、このようになっているかと思います。画像を拡大するこの「GPTを検索する」という中央の検索窓から、誰かが過去に作って共有している「マイGPT」を探すことができます。私がいろいろ使用した中で信頼できるGPTの1つ、「PubMed Buddy」というカスタムGPTを紹介します。検索画面で「PubMed Buddy」と入力してみてください。画像を拡大するいくつか似たGPTが出てくるかもしれませんが、こんなロゴのGPTが表示されていればOKです。そして、「チャットを開始する」というボタンをクリックすれば、設定完了です!このチャット画面内で、1回チャットを投稿すると、自分のChatGPTアカウントの左側に「PubMed Buddy」が追加されます。これをクリックすることで、今後いつでもすぐに「PubMed Buddy」を呼び出すことができます。4. PubMed Buddyの使い方「PubMed Buddy」は、PubMedの論文検索に特化したGPTで、PubMedのデータベースと連携し、実際の検索結果をChatGPT内で提示してくれる優れたツールです。ただ、これはSamuelさんという個人がプロンプトを作って一般公開している「カスタムGPT」ですので、検索結果の最終的な判断は自己責任でお願いします。「PubMed Buddy」はテーマを英語で入力すると、リアルなPubMedの検索結果を要約して提示してくれます。先ほど作った英語のテーマ「高齢者のインフルエンザワクチン」を入力してみましょう。Efficacy of influenza vaccination in elderly patientsこれをチャットに入力すると、次のような形式のメッセージが表示されます:To find the most relevant articles on the efficacy of influenza vaccination in elderly patients, I'll begin by searching PubMed sorted by relevance.Before I start, would you like to apply any of the following filters?Article type: Review, Clinical Trial, Meta-analysis, etc.Date range: e.g., last 5 years, last 10 years, custom rangeSpecific population: e.g., nursing home residents, immunocompromised elderlyOther preferences: Open Access only, human studies, etc.Let me know your preferences, or I can proceed with a general search.これは英語で「さらに検索を絞りますか?」と提案してくれている状態です(GPTによる生成なので、文章は毎回少し変わります)。探したい論文をここからさらに絞りたい場合は、指示に従って論文の種類や発表年などをチャット欄に追加しましょう。例:Clinical Trial, last 10 yearsとくに絞る必要がないという方は、ここで「no」や「no preference」と入力すればOKです。その後、続行を確認する画面が出てきますので、「許可する」をクリックすれば完了です。関連する論文のPubMedのID(PMID)が一気に表示されます。この「PMID:XXXXXXXX」をコピペしてウェブ検索にかけるか、リンクが出ている場合はクリックすれば直接PubMedの論文ページへアクセスできます。いかがでしたでしょうか?最初の設定が少し面倒だと感じる方もいるかもしれませんが、一度設定してしまえば、ChatGPTを開くたびに左側にPubMed Buddyが表示され、クリックするだけですぐに検索を始められるようになります!5. PubMed検索式(Boolean検索式)をChatGPTに作らせるそうはいっても、「使い慣れているし、直接PubMedから検索したい」というあなたへ。ChatGPTを利用すれば、PubMed検索に最適な構造化検索式である「Boolean検索式」を生成することができます。過去にレビュー論文などを書いたことがある方はご存じかと思いますが、PubMedのトップページには「Advanced」というタブがあり、これをクリックすることで、「AND」や「OR」といった演算子とキーワードを組み合わせた、より詳細な論文検索を行うことができます。これがいわゆる「Boolean検索」と呼ばれる方法です。画像を拡大するレビュー論文によっては、この検索方法自体を論文内に記載する必要があります。この検索式を作成するのは意外と複雑で、突き詰めるとかなり専門的な知識が必要になってきます。そこで、この検索式をChatGPTに作ってもらいましょう。まずは、1)の手順に従い、検索したいテーマを英語に変換します。Efficacy of influenza vaccination in elderly patients次に、ChatGPTに以下のように依頼します。これらのキーワードを基に、PubMed用のBoolean検索式を作成してください。すると、以下のような詳細検索式が出てきます:("influenza vaccines"[MeSH Terms] OR "influenza vaccine"[All Fields]) AND (efficacy[All Fields] OR effectiveness[All Fields]) AND ("aged"[MeSH Terms] OR elderly[All Fields] OR "older adults"[All Fields] OR "older people"[All Fields])このような検索式をそのままPubMedに貼り付ければ完了です。簡単に、より精度の高い文献検索が可能になります。もちろん、論文などに使用する検索式を作成する際には、必ず自分の目で確認、修正してくださいね。このように、AIを使いこなせば、英語論文の探索は従来よりも格段に簡単かつ効率的に行えるようになります。

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高齢者への高用量インフルワクチン、肺炎などの入院減少せず/NEJM

 インフルエンザの不活化ワクチンでは、標準用量と比較して高用量で優れた感染予防効果が示されているが、重症のアウトカムに対する高用量ワクチンの有効性に関する無作為化試験のデータは十分でないという。デンマーク・コペンハーゲン大学病院のNiklas Dyrby Johansen氏らの研究チームは、高齢者におけるインフルエンザ感染の重症アウトカム(入院)に対する高用量ワクチンの有効性の評価を目的に、実践的なレジストリに基づく非盲検無作為化対照比較試験「DANFLU-2試験」を実施。高齢者への高用量インフルエンザ不活化ワクチン投与は、標準用量と比較してインフルエンザまたは肺炎による入院率を低下させなかったことを報告した。なお、「副次エンドポイントについては決定的な結論は導き出せないものの、高用量ワクチンは、インフルエンザによる入院および心肺系疾患による入院の予防において有益性を示す可能性がある」としている。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年8月30日号で発表された。デンマークの流行期3回の調査 研究グループは、デンマークの直近3回のインフルエンザ流行期(2022~23年、2023~24年、2024~25年)に、年齢65歳以上の高齢者を高用量または標準用量の4価インフルエンザ不活化ワクチンの接種を受ける群に無作為に割り付け、ワクチン接種後14日目から翌年5月31日までに発生したインフルエンザまたは肺炎による入院の割合(主要エンドポイント)を比較した(Sanofiの助成を受けた)。 3回の流行期に合計33万2,438例(平均[±SD]年齢73.7[±5.8]歳、女性16万1,538例[48.6%])を登録し、高用量ワクチン群に16万6,218例、標準用量ワクチン群に16万6,220例を割り付けた。主要エンドポイントに差はない 主要エンドポイントのイベントは、高用量群で1,138例(0.68%)、標準用量群で1,210例(0.73%)に発生し(相対ワクチン有効率[(1−相対リスク)×100%]:5.9%、95.2%信頼区間[CI]:-2.1~13.4)、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.14)。 また、主要エンドポイントの個別の構成要素を含む5つの副次エンドポイントの結果は次のとおりだった。(1)インフルエンザによる入院:高用量群0.06%vs.標準用量群0.11%、相対ワクチン有効率:43.6%(95.2%CI:27.5~56.3)、(2)肺炎による入院:0.63%vs.0.63%、0.5%(-8.6~8.8)、(3)心肺系疾患による入院:2.25%vs.2.38%、5.7%(1.4~9.9)、(4)あらゆる入院:9.38%vs.9.58%、2.1%(-0.1~4.3)、(5)全死因死亡:0.67%vs.0.66%、-2.5%(-11.6~5.9)。重篤な有害事象は同程度 ワクチン接種後3ヵ月間の安全性評価期間中に観察された重篤な有害事象(入院または死亡)の発生状況は両群で同程度であった。重篤な有害事象は2万5,953件発現し、少なくとも1件の重篤な有害事象を認めたのは高用量群で9,814例(5.91%)、標準用量群で9,804例(5.91%)だった(p=0.95)。このうち盲検下の評価で132件が試験治療関連と判定され、両群間に差を認めなかった(高用量群75件vs.標準用量群57件、p=0.16)。 予期せぬ重篤な有害反応が疑われる事例が高用量群で2件発生した(接種後3日目の抗合成酵素症候群、接種後1日目の心膜炎)。この2例は、同じ日にCOVID-19ワクチンの接種も受けていた。また、安全性評価期間中に682例が死亡したが、試験治療と関連があると判定されたものはなかった。 著者は、「最近の無作為化試験のメタ解析では、標準用量に比べ高用量ワクチンはインフルエンザまたは肺炎による入院を23.5%低下させたと報告されている。この本試験との不一致は、COVID-19の世界的流行以降、呼吸機能検査の増加によりインフルエンザの検出および診断の精度が向上し、試験期間中のインフルエンザによる入院率がCOVID-19流行前に比べほぼ倍増したという事実で説明が可能と考えられる」としている。

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