サイト内検索

検索結果 合計:2018件 表示位置:1 - 20

1.

致死率がより高いエムポックスウイルスの感染がコンゴで拡大

 コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)は、エムポックス(サル痘)ウイルス(MPXV)の感染者数の記録的な増加に直面している。その背景にあるのは、2022年に欧米で感染が拡大した型のMPXVよりも致死率が高いクレード(系統群)のウイルスである「クレードI」の発生だ。米疾病対策センター(CDC)のChristina Hutson氏らは、「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」5月16日号に掲載された報告書で、「クレードIのコンゴでの感染拡大は、このウイルスが国外にも拡大する可能性を懸念させるものであり、ウイルスを封じ込めるためのコンゴの取り組みを全世界で協調的かつ緊急に支援することの重要性を示している」と主張している。 2年前にアフリカから欧州や北米へと広がったMPXVは、クレードIIと呼ばれるものであった。エムポックスは痛みを伴い、重症化することもあるが、死亡率は0.1~3.6%程度であることがさまざまな研究で示されている。しかし、Hutson氏らによると、クレードIのMPXVは致死率がより高く、その死亡率は1.4~10%に上るという。 コンゴで流行中のクレードIのMPXVは、すでに多くの犠牲者を出している。同国の報告によると、2023年初頭から2024年4月14日までに「複数の地方でアウトブレイクが発生」し、推定患者数は1万9,919人、死亡者数は975人に上り、患者20人当たり1人程度が死亡したと推定されている。 今回のアウトブレイクはおそらく最も広範囲に及んでおり、「2023年から2024年にかけて、26州中25州から、そして初めて首都キンシャサからもクレードIのMPXVの症例が報告された」とHutson氏らは指摘している。特に、小児はエムポックスに対して脆弱で、報告書によると「MPXVの感染が疑われる症例の3分の2(67%)と、MPXVによる死亡が疑われる症例の4分の3以上(78%)を15歳以下の小児が占めている」という。 MPXVは密接な接触を介して感染する。通常、感染には皮膚と皮膚の接触が伴うため、性行為が感染経路となることが多い。初期症状は発熱、悪寒、疲労感、頭痛、筋力低下などで、多くの場合、こうした症状の発現後に病変を伴う発疹ができ、かさぶたになって数週間のうちに徐々に治癒する。感染する可能性は誰にでもあるが、特に男性と性行為をする男性はリスクが高く、またHIV感染者は重症化しやすい。 MPXVはサルなどの動物との接触を介してヒトに感染する可能性があり、長い間アフリカの風土病であった。最近コンゴで発生したアウトブレイクに関しては、「動物宿主からの複数回にわたるウイルスの伝播がアウトブレイクに関与していることがデータから示唆された」とHutson氏らは説明している。ただ、幸いなことに、Jynneosという商品名で製造されているMPXVのワクチンがある。同ワクチンは約1カ月の間隔を空けて2回接種する。 Hutson氏らによると、CDCは長年にわたってコンゴのMPXVのアウトブレイクとの闘いを支援する取り組みを続けてきた。今回のアウトブレイクに関しては、コンゴおよびその周辺国におけるMPXVの封じ込めとともに、米国人の間にクレードIのMPXVの感染者が発生した場合の備えを強化するための取り組みも行っているという。 Hutson氏らは、「米国や、MPXVの流行が発生していない他の国では、クレードIのMPXVの症例は報告されていない」と述べている。また、米国では動物がMPXVを保有していないこと、米国の一般的な家庭ではコンゴの家庭よりも衛生状態が良好であることなどから、米国の小児がクレードIのMPXVに感染するリスクは低いと強調している。ただし、「ゲイやバイセクシュアルの男性などのハイリスク集団では、米国においてもクレードIのMPXV感染者が発生するリスクはある」と同氏らは指摘している。

2.

臨床留学通信、ニューヨーク最終章【臨床留学通信 from NY】第61回

第61回:臨床留学通信、ニューヨーク最終章ニューヨークからボストンのハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院(MGH)に移るに当たって、書類処理に追われています。まず、アメリカの病院で働く際には、健康診断がかなりきっちりしています。過去のワクチンの証明書やMMRなどの抗体価、日本人だとツベルクリン反応が陽性になってしまうので、クォンティフェロンの採血結果(3ヵ月以内)の提出などです。日本で働いてると、友達に採血オーダーしてもらってちょっとした合間に採血して、ということは簡単ですが、こちらだとそうはいきません。自身のプライマリケアにMyChartと呼ばれるウェブサイトから、その都度ラインのように担当医に連絡してオーダーしてもらい、通ってるプライマリケアまで行って採血をする形で、結構不便です。多くの場合、かかりつけの病院と自身の勤務先の病院は離れているため、勤務先の病院で採血、というわけにはいかないのです。今回、ニューヨーク州からマサチューセッツ州へ州が変わることもあり、州用のライセンス取得のために申請が必要で、過去のUSMLEの合格証明を、発行機関にお金を払って送ってもらったりします。新しい病院で働く場合多くはHIPPA(Health Insurance Portability and Accountability Act)と呼ばれる、病院で働く際の医者の守秘義務等を履行するために、オンラインコースを延々と受けなければいけません。そのほかに、もし銃撃事件に巻き込まれたら、といった恐ろしいシミュレーションを想定したオンラインコースもあります。隠れることもできず、退路を断たれたらどうする?という質問に対して、“Fight”という選択肢をどうしても選ぶことはできませんでしたが、どうやらそれが正解のようです…。ACLS/BLSも必要で、コースを受けなければいけませんが、病院側が用意してくれたコースがあるのでお金は掛かりません。引っ越しもなかなか大変で、不動産会社を経由して、古くて狭い2LDKが現在とほぼ同等の1ヵ月2800ドル、光熱費込みで約3,000ドル(45万円)です。引っ越し料金は、引っ越し業者に頼むと1,800ドル(27万円)も掛かります。米国では小学校の格差が激しく、学区の良い地域に住むと、どうしても古くて狭くても家賃が高くなってしまうのです。現在のニューヨーク郊外も、今度のボストン郊外も、そこだけはなんとか守るようにしています。なお、皇后雅子さまが住まわれたBelmontと呼ばれる地域の近くで、この地域の公立の高校からハーバード大学に入ることも多いようです。なお、6月下旬に引っ越すのですが、家賃を6月1日から払わないとなかなか良い物件は借りられないと不動産会社に言われたこともあり、6月はほぼ2倍の家賃を払うことになってしまいます。また夏休みに日本に一時帰国するのですが、ボストンから東京への直航便は、ニューヨークより便が少ないせいか高額で、エコノミークラスでも往復で3,200ドル(48万円)もして、なんじゃこりゃと言いたいところです。フェローの給料ではなかなか厳しいものです。そんなこんなで日々追われていますが、ニューヨークのNプログラム※の会合でBBQなどがあり、最後のニューヨークステイを楽しみたいと思います。アイコンの自由の女神のあるリバティ島には大学生の時に行きましたが、この6年間は行かずじまいになりそうです。7月以降は、施設を変わると最初はどうしても大変だったりしますが、comfort zoneに甘んじることなく、いろいろな施設の違いを感じ、世界最高峰の病院の1つと呼ばれるMGHを楽しんでいきたいと思います。※Nプログラムは、東京海上日動火災保険株式会社が実施する、米国の教育病院における臨床医学レジデンシー・プログラムに日系の若手医師を派遣するプログラム。

3.

4週ごとの皮下投与が可能な補体C5阻害薬「ピアスカイ注340mg」【最新!DI情報】第16回

4週ごとの皮下投与が可能な補体C5阻害薬「ピアスカイ注340mg」今回は、pH依存的結合性ヒト化抗補体(C5)モノクローナル抗体「クロバリマブ(遺伝子組換え)点滴静注・皮下注(商品名:ピアスカイ注340mg、製造販売元:中外製薬)」を紹介します。本剤は4週間に1回の皮下投与で効果を発揮するため、発作性夜間ヘモグロビン尿症患者や介護者の負担軽減が期待されています。<効能・効果>発作性夜間ヘモグロビン尿症の適応で、2024年3月26日に製造販売承認を取得し、5月22日より販売されています。原則として、少なくとも2週間前までに髄膜炎菌に対するワクチンを接種してから本剤の投与を開始与します。<用法・用量>通常、クロバリマブ(遺伝子組換え)として、患者の体重を考慮し、1日目に1回1,000(体重40kg以上100kg未満)または1,500mg(100kg以上)を点滴静注し、2、8、15および22日目に1回340mg、29日目以降は4週ごとに1回680(40kg以上100kg未満)または1,020mg(100kg以上)を皮下投与します。<安全性>重大な副作用として、免疫複合体反応(17.8%)、Infusion reactionや注射に伴う全身反応(16.0%)、感染症(2.1%)、髄膜炎菌感染症(頻度不明)が報告されています。髄膜炎や敗血症は急激に重症化することがあるため、初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直、嘔吐、傾眠、精神症状、筋肉痛、斑・点状出血、発疹、羞明、痙攣など)の観察を十分に行う必要があります。その他の主な副作用として、白血球数減少、好中球数減(いずれも5%以上)などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、補体C5に対する抗体薬で、発作性夜間ヘモグロビン尿症によって起こる溶血を防ぎます。2.治療中は感染症にかかりやすくなる傾向がありますので、手洗い、うがいなど、感染症予防を心がけましょう。3.体調の変化を記録するために、「PIASKY Diary(ピアスカイ ダイアリー)」をご活用ください。4.急激な体調の変化を感じたときは、次の受診予定日を待たずに主治医に連絡をしてください。<ここがポイント!>発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、指定難病に指定されており、生命を脅かす危険のある後天性の慢性血液疾患です。PNH型赤血球は、正常な赤血球に存在する補体制御タンパクが欠損しており、補体に攻撃されて溶血しやすくなります。主な臨床症状には、溶血性貧血や血栓などがあり、血栓塞栓症や肺高血圧症、腎不全など重篤な合併症を引き起こすことがあります。治療には、補体C5阻害薬であるエクリズマブやラブリズマブ、C3阻害薬のペグセタコプラン、補体D因子阻害薬のダニコパンが使用されています。本剤は、補体C5モノクローナル抗体ですが、既存薬とは異なり、pH依存的な結合、抗体の表面電荷改良、FcRn結合親和性向上の3つの抗体技術により、機能的半減期の延長と投与量の低下が可能になっています。わが国では、皮下投与可能な抗補体C5抗体薬は本剤が初めてで、低用量かつ4週間に1回の投与で効果を発揮します。健康成人およびPNH患者を対象とした国際共同第I/II相試験(BP39144試験:COMPOSER試験)において、主要評価項目である薬力学(リポソーム免疫測定法を用いて測定した補体活性[CH50]、総C5および遊離型C5濃度)のCH50は初回投与から20週間後まで定量下限値(10U/mL)付近または未満でした。また、補体阻害薬未治療の患者を対象とした国際共同第III相ランダム化試験(BO42162試験:COMMODORE2試験)において、溶血コントロールを達成した患者の平均割合は本剤群で79.3%、エクリズマブ群で79.0%、オッズ比は1.02(95%信頼区間[CI]:0.57~1.82、非劣性マージン:0.2)でした。輸血回避を達成した患者の割合は本剤群で65.7%、エクリズマブ群で68.1%、調整群間差は-2.8%(95%CI:-15.67~11.14、非劣性マージン:-20%)でした。いずれの評価項目においても、95%CIの下限が事前に規定した非劣性マージンを上回ったことから、本剤群のエクリズマブ群に対する非劣性が認められました。

4.

2024年度コロナワクチン、製造株はJN.1に決定/厚労省

 厚生労働省は5月29日に、「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」を開催し、2024年度秋冬の新型コロナワクチンの定期接種で使用するワクチンの抗原構成について、JN.1系統を使用することを決定した。 秋冬の新型コロナワクチンの抗原構成をJN.1系統とする決定は、世界保健機関(WHO)の推奨の現状や、製薬企業によるワクチン開発の状況を踏まえて行われた。 WHOのTAG-CO-VAC(Technical Advisory Group on COVID-19 Vaccine Composition)が2024年4月に発表した声明において、JN.1系統およびその下位系統へのより高い中和抗体の誘導を目指すことが推奨されている。 新型コロナワクチンの製薬企業に対し、各社のmRNAワクチンまたは組換えタンパクワクチンについて、新たな抗原構成のワクチンの開発状況などのヒアリングが行われた。小委員会の資料によると、非臨床試験の結果、JN.1の成分を含む1価ワクチン接種は、XBB対応1価ワクチン接種と比較して、JN.1に対して誘導される中和抗体価が、初回接種または追加接種が完了したマウスにさらに追加して接種した場合は、約2~10倍高かったことや、初回接種として接種した場合は、約3~47倍高かったことが、製薬企業より報告された。また、JN.1の成分を含む1価ワクチン接種は、JN.1系統の他の下位系統(KP.2など)に対して、JN.1と同等程度の中和抗体価の上昇を誘導したという。 国立感染症研究所の報告によると、現在の国内の各系統の検出状況は、KP.3系統を含むJN.1系統とその亜系統、およびXDQ.1系統が国内で主流となっている。直近4週間の系統別検出数は、JN.1系統とその亜系統が約50%超、次いでXDQ.1系統が約30%検出され、直近2週間では、JN.1亜系統であるKP.3系統の割合が増加しているという。

5.

第213回 60歳以上へのRSワクチン、打つならどれ?

ここ数年、感染症のワクチンというと新型コロナウイルス感染症のワクチン開発ばかり注目されてきたが、近年、それと同時に目覚ましい進展を遂げているのがRSウイルス(RSV)ワクチンである。ご存じのようにRSVは2歳までにほぼ100%の人が感染し、発熱、鼻汁などの風邪様症状から重い肺炎までさまざまな症状を呈する。生後6ヵ月以内の初感染では細気管支炎、肺炎などに重症化しやすいほか、再感染を繰り返す中で呼吸器疾患などの基礎疾患を有する高齢者などでも重症化しやすいことが知られている。世界保健機関(WHO)の報告によると、小児の急性呼吸器感染症のうちRSV感染症は63%と筆頭となっているほか、英国・エディンバラ大学の報告では、生後60ヵ月までの死亡の50件に1件がRSVに関連すると指摘されている。一方の高齢者では、日本国内での推計値として、RSV感染症を原因とする入院は年間約6万3,000例、死亡は約4,500例と算出されている(ただし、この推計値は製薬企業グラクソ・スミスクライン[GSK]によるもの)。RSウイルスは古典的なウイルス感染症だが、ワクチン開発の試みは初期に手痛い失敗に終わっている。1960年代に行われた不活化ワクチンの臨床試験では、抗体依存性感染増強により、小児のRSV初感染時の入院率が接種群で80%、非接種群で2%と惨憺たる結果に終わり、接種群では2人の死亡者まで発生するという悲劇まで招いた。もっともこの事案からウイルスタンパク質のより詳細な構造解明の研究が行われ、昨今の新規RSVワクチンの登場に結び付いた。3つのRSワクチンを比較さて国内で見ると、2023年9月、60歳以上の高齢者を適応とするGSKの遺伝子組換えタンパクワクチンである「アレックスビー」、2024年1月には母子免疫、3月には60歳以上の高齢者も対象となったファイザーの遺伝子組換えタンパクワクチンの「アブリスボ」が承認を取得。ちょうど昨日5月30日には、モデルナがやはり60歳以上を対象としたメッセンジャーRNAワクチン「mRNA-1345」の製造販売承認の申請を行い、ほぼ役者が出そろった形だ。当然、各社とも今後は定期接種化を狙ってくるだろうと思われる。個人的にも若干興味が湧いたので、各ワクチンの第III相試験結果を改めて調べてみた。なお、有効率は接種後のRSV関連急性呼吸器疾患の予防に対する有効率で統一してみた。この有効率で統一したのは、おそらく一般の接種希望者がまずは期待するのがこのレベルだと考えたからだ。◆アレックスビーすでに市販されている。60歳以上の2万4,966例を対象に行われた第III相試験「AReSVi-006」1)の結果によると、追跡期間中央値6.7ヵ月でのプラセボ対照単回接種での有効率は71.7%。◆アブリスボ60歳以上の3万4,284 例を対象とした第III相試験「RENOIR」の中間解析結果2)によると、追跡期間中央値7ヵ月でのプラセボ対照単回接種での有効率は66.7%。◆mRNA-134560歳以上の3万5,541例を対象とした第II/III相試験「ConquerRSV」の中間解析結果3)によると、追跡期間中央値112日でプラセボ対照単回接種での有効率は68.4%。一方でワクチン接種群での有害事象の発現率を概観してみる。アレックスビーでは局所性が62.2%、全身性が49.4%。アブリスボでは局所性が12%、全身性が27%。mRNA-1345は局所性が58.7%、全身性が47.7%。いずれも主なものは局所性で注射部位疼痛、全身性で疲労感ということで共通している。このように概観してみると、有効性はほぼ同等、安全性ではややアブリスボが優位となる。なぜアブリスボで有害事象発現率が低いのかは現時点では不明である。ちなみにワクチンの有効性に関しては、ここではRSV関連急性感染症で紹介したが、論文などで紹介されている有効率は、2つ以上の徴候や症状を呈するRSV関連下気道疾患をメインで示しており、そのデータに関連してアレックスビーに比べてm-RNAワクチンのmRNA-1345は有効性の低下が早いという話も報じられている。これら3つのワクチンの登場は、これまでかなりメジャーであったものの手の施しようがなかったRSV感染症に対するブレイクスルーであることは間違いない。そしてワクチンに関して言えば、私自身は少なくとも当初は複数のモダリティによる製品があるほうが安定供給などの点から望ましいとも考えている。今後、有効性・安全性の観点から臨床現場の自然な選択が進めばよいことである。とりあえず興味と頭の整理も考えて、今回概観してみた。ちなみにワクチンマニアを自称する私はまだ50代半ばなので、接種できるのはまだ先になるが(笑)。参考1)Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.2)Walsh EE, et al. N Engl J Med. 2023;388:1465-1477.3)Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.

6.

帝王切開で生まれた児は2回の麻疹ワクチン接種が必要

 帝王切開で生まれた児は、初回の麻疹ワクチン接種だけでは予防効果を得にくいようだ。新たな研究で、経膣分娩で生まれた児に比べて帝王切開で生まれた児では、初回の麻疹ワクチン接種後に免疫を獲得できないワクチン効果不全に陥る可能性が2.6倍も高いことが示された。英ケンブリッジ大学遺伝学分野のHenrik Salje氏らによるこの研究結果は、「Nature Microbiology」に5月13日掲載された。 研究グループは、「麻疹ウイルスは感染力が非常に強く、たとえワクチン効果不全率が低くてもアウトブレイク発生のリスクはかなり高くなる」と説明する。麻疹は、鼻水や発熱などの風邪に似た初期症状が生じた後に特徴的な発疹が現れる。重症化すると失明、発作などの重篤な合併症を引き起こしたり、死に至ることもある。1963年にワクチン接種が導入される以前は、麻疹により毎年推定260万人が死亡していた。 この研究では、中国の母親と新生児から成るコホートと小児コホートの2つのコホートから抽出された0歳から12歳の小児1,505人の血清学的データと実証モデルを用いて、出生後の抗体の推移を調べた。これらの試験対象者は、ベースライン時とその後6回の追跡調査時(新生児コホートでは生後2・4・6・12・24・36カ月時、小児コホートでは2013〜2016年の間にほぼ6カ月おき)に静脈血を採取されていた。 その結果、対象児ごとの差異はあるものの、出生時からワクチン接種後までの麻疹ウイルスに対する抗体レベルの変化を、かなり正確に予測できることが明らかになった。また、経膣分娩で生まれた児と比べて帝王切開で生まれた児では、初回の麻疹ワクチン接種がワクチン効果不全になるオッズが2.56倍であることも示された。初回接種後にワクチン効果不全が確認された児の割合は、帝王切開で生まれた児で12%(16/133人)であったのに対し、経膣分娩で生まれた児では5%(10/217人)であった。しかし、初回接種後にワクチン効果不全が確認された児でも、2回目の接種後には強固な免疫反応が認められた。 Salje氏は、「この研究により、帝王切開か経膣分娩かという分娩法の違いが、成長過程で遭遇する疾患に対する免疫力に長期的な影響を及ぼすことが明らかになった」と述べている。同氏は、「多くの児が麻疹ワクチンを2回接種していないことが分かっている。2022年に麻疹ワクチン接種を1回しか受けていなかった児の数は世界で83%に上り、これは2008年以降で最低の数字だ。そのような状態は、本人のみならず周囲の人にも危険をもたらしかねない」と危惧を示し、「帝王切開で生まれた児は、われわれが確実にフォローアップして、麻疹ワクチンの2回目接種を受けさせるようにするべきだ」と述べている。 帝王切開で生まれた児でワクチン効果不全に陥る可能性が高い理由について、研究グループは、腸内マイクロバイオームの違いによるものではないかと推測している。経膣分娩では、母親からより多様なマイクロバイオームが児に移行する傾向があり、それが免疫系に保護的に働く。Salje氏は、「帝王切開で生まれた児では、経膣分娩で生まれた児のように母親のマイクロバイオームにさらされることはないため、腸内細菌叢の発達に時間がかかる。このことが、ワクチン接種後のプライミング効果を低下させていると考えられる」との考えを示している。

7.

ウイルスと関連するがん【1分間で学べる感染症】第4回

画像を拡大するTake home messageウイルスと関連するがんを理解しよう。HBVとHPVはワクチンにより予防可能である。がんの原因にはさまざまな因子があることが知られていますが、その中でも近年とくに注目を浴びているのが、感染症によるがんです。人間に感染症を引き起こす病原微生物は、一般的には大きく細菌・ウイルス・真菌・寄生虫と分類されますが、その中でもとくにウイルスはがんと関連するものが多く報告されています。具体的には以下の8つです。EBウイルス(EBV)・バーキットリンパ腫 ・ホジキンリンパ腫 ・鼻咽頭がん などB型肝炎ウイルス(HBV)・肝細胞がんC型肝炎ウイルス(HCV)・肝細胞がん ・非ホジキンリンパ腫HIV・カポジ肉腫 ・非ホジキンリンパ腫 ・子宮頸がん ・非AIDS関連がんヒトヘルペス8型ウイルス(HHV-8)・カポジ肉腫 ・原発性胸水性リンパ腫 ・多中心性キャッスルマン病ヒトパピローマウイルス(HPV)・肛門・子宮頸・陰茎・咽頭・膣がんHTLV-1・成人T細胞性白血病/リンパ腫メッケル細胞ポリオーマウイルス(MCPyV)・メッケル細胞がんこれらのうち、HBVとHPVに関してはワクチンが普及しており、予防可能であるといわれています。がん全体の約12~20%がウイルスと関連すると推定されており、実に大きな割合を占めています。このことを念頭に置き、必要な患者へのスクリーニングや早期発見に役立てましょう。1)Jennifer Brubaker. “The 7 Viruses That Cause Human Cancers”. American Society for Microbiology. 2019-01-25., (参照2024-05-01)

8.

島根県の呼吸器診療の未来を支えるクラウドファンディングを開始/島根大学

 島根大学医学部 呼吸器内科が中心となり「島根県の呼吸器診療の未来を支えるクラウドファンディング」を開始した。進む高齢化、不足する呼吸器専門医 島根は全国的にも高齢化が進んでいる県であり、令和4年の高齢化率は34.7%で全国第7位である1)。高齢者は免疫機能が低下していることもあり、感染症やがんなど呼吸器疾患の発症率も高い。それに対して、島根では全県的に呼吸器専門医が不足しており、地域によっては専門医がいないという深刻な状況だ。このまま地域の呼吸器専門医が不在の状態が続くと呼吸器診療体制が形成できず、早期診断、疾患予防の輪が広がらないとされる。 そのような中、島根大学医学部の呼吸器内科教授である礒部 威氏をプロジェクトリーダーとして、「呼吸器専門医の育成」「非専門医師の呼吸器疾患の知識向上」「一般の方むけの啓発」をサポートするクラウドファンディングがスタートした。難易度高い呼吸器専門メディカルスタッフの育成 高齢者は複数の慢性疾患を抱えていることが多い。高齢者が多い島根では「内科全般の知識を有する」呼吸器専門医の育成が重要な課題だ。また、呼吸器専門医の診療範囲は、感染症、がん、気管支喘息、睡眠時無呼吸症候群など多岐に及ぶ。専門性の維持・向上には、多くの専門資格の取得を目指してキャリアを積んでいく必要がある。 そのため、呼吸器専門医を目指すには、研修や学会への参加、自己研鑽が必要となる。医師の金銭的、時間的な負担は大きい。クラウドファンディングの資金で、県内の呼吸器研修医がアクセス可能なITを活用した講習会セミナーを開く予定だ。非専門医への呼吸器疾患を啓発して診療連携 呼吸器疾患は早期発見が重要となる。そのためには呼吸器専門医と非専門医の連携が重要である。非専門医の最新の呼吸器疾患の知識の補充は欠かせない。とはいえ、多忙な診療の中、専門外の知識を学習するのは容易ではない。クラウドファンディングで、非専門医が呼吸器疾患の情報をキャッチアップできるHPを作成する。呼吸器疾患の予防にカギとなる一般大衆の知識向上 呼吸器疾患は禁煙、ワクチン、検診など予防が効果的であり、一般大衆の疾患知識は予防に重要である。しかし、実際は呼吸器疾患やその予防について学ぶ機会はほとんどない。 また、高齢化が進む島根県においては、適正な医療を提供しQOLを向上するため「高齢者機能評価」の普及が重要である。 一般大衆の呼吸器疾患の予防医学や高齢者機能評価の必要性について知識を得る機会を増やすため、市民公開講座などの啓発活動もクラウドファンディングで集まった資金を使って積極的に行っていきたいという。・目標金額:400万円・資金使途:生涯教育支援費用、広報用HP作成、Zoom使用料 、啓発活動、事務局人件費・運営費、クラウドファンディング手数料 など

9.

HPVワクチン接種プログラムの効果、社会経済的格差で異なるか?/BMJ

 以前の検討によってイングランドで観察されたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種プログラムの高い予防効果は、その後12ヵ月間の追跡調査においても継続しており、とくにワクチンの定期接種を受けた女性では、社会経済的剥奪の程度5つの段階のすべてで子宮頸がんとグレード3の子宮頸部上皮内腫瘍(CIN3)の発生率が大きく低下したが、剥奪の程度が最も高い地域の女性では低下の割合が最も低い状態にあることがわかった。一方で、子宮頸がんの罹患率は、ワクチン接種女性において、未接種の女性でみられる社会経済的剥奪の程度による勾配はみられなかったことが、英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のMilena Falcaro氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年5月15日号に掲載された。イングランド居住女性の観察研究 本研究は、2006年1月1日~2020年6月30日にイングランドに居住した20~64歳の女性を解析の対象とした住民ベースの観察研究である(Cancer Research UKの助成を受けた)。 イングランドでは、2008年にHPVワクチン接種が導入され、12~13歳の女児に定期接種が行われた。また、2008~10年には、より年長で19歳未満の集団を対象に接種の遅れを取り戻すためのキャッチアップ・キャンペーンが展開された。 2006年1月1日~2020年6月30日に、2万9,968例が子宮頸がんの診断を、33万5,228例がCIN3の診断を受けた。追加追跡期間の相対リスク減少率:子宮頸がん83.9%、CIN3は94.3% 12~13歳時にHPVワクチンの定期接種を受けた集団では、追加された12ヵ月間の追跡調査(2019年7月1日~2020年6月30日)における子宮頸がんおよびCIN3の補正後年齢調整罹患率に関して、ワクチン接種を受けなかった集団と比較した相対リスク減少率が、子宮頸がんで83.9%(95%信頼区間[CI]:63.8~92.8)、CIN3で94.3%(92.6~95.7)と大幅に低下していた。 また、2020年の半ばまでに、HPVワクチン接種により、687例(95%CI:556~819)の子宮頸がんと2万3,192例(2万2,163~2万4,220)のCIN3を予防したと推定された。 社会経済的剥奪の程度が最も強い地域に居住する女性では、ワクチン接種後の子宮頸がんおよびCIN3の割合は最も高いままであったが、剥奪の5段階すべてでこれらの割合は大幅に低下していた。健康格差の縮小をもたらす可能性も キャッチアップ・キャンペーンでワクチン接種を受けた女性のCIN3予防率は、社会経済的剥奪の程度が最も弱い地域に比べ最も強い地域で低く、16~18歳時に接種した女性では40.6%に対し29.6%、14~16歳時に接種した女性では72.8%に対し67.7%であった。 また、ワクチン接種を受けていない女性における子宮頸がんの罹患率には、社会経済的剥奪の程度が強い地域から弱い地域へと下方に向かう急峻な勾配を認めたのに対し、ワクチン接種を受けた女性では、もはやこのような勾配はみられなかった。 著者は、「本研究の知見は、十分に計画を立てて実行された公衆衛生介入は、健康状態を改善するだけでなく、健康格差の縮小ももたらす可能性があることを示している」としている。

10.

任意接種を中心に記載、COVID-19ワクチンに関する提言(第9版)/日本感染症学会

 日本感染症学会 ワクチン委員会、COVID-19ワクチン・タスクフォースは、5月21日付で、「COVID-19ワクチンに関する提言(第9版)-XBB.1.5対応mRNAワクチンの任意接種について-」1)を発表した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは4月1日から定期接種B類に位置付けられ、65歳以上を対象に、2024年秋冬に1回接種することとなったが、現時点でも任意接種として6ヵ月齢以上のすべての人は自費で接種を受けることができる。今回の提言では、COVID-19ワクチンの有効性と安全性に関する科学的な情報を解説し、接種を判断する際の参考にするために作成されており、XBB.1.5対応mRNAワクチンの任意接種を中心に記載している。 本提言の主な内容は以下のとおり。任意接種に使用できるCOVID-19ワクチン・2024年4月から定期接種が秋に開始されるまでの期間で、国内の任意接種に使用できるCOVID-19ワクチンは、ファイザーとモデルナの1価XBB.1.5対応mRNAワクチンのみとなっている。・2023年秋開始接種に用いられた第一三共のmRNAワクチン ダイチロナ筋注(XBB.1.5)、ファイザーの生後6ヵ月~12歳未満用のXBB.1.5対応mRNAワクチン、武田薬品工業の組換えタンパク質ワクチン ヌバキソビッド筋注(起源株)は供給が停止され使用できない。XBB.1.5ワクチン追加接種の意義 本提言では、国内の65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人は、2023年秋開始接種でXBB.1.5ワクチンを接種した人/していない人共に、現時点でXBB.1.5ワクチンを任意接種として1回接種する意義があるとしている。また、65歳未満の健康な人でもXBB.1.5ワクチンは任意接種として接種できることから、医療従事者や高齢者施設の職員など感染リスクが高い人や発症するとハイリスク者に伝播させる機会が多い人は、接種が望まれるとしている。その根拠として以下の要因が挙げられている。・COVID-19は、2023年7~9月の第9波、2024年1~2月の第10波と大きな流行がみられた。・2024年1月に行われたSARSCoV-2抗体保有状況調査では、感染既往を示す抗N抗体保有割合は平均55.1%。60代で45.4%、70代で30.5%、80歳以上で31.6%と高齢者で低くなっているため、今後も高齢者の感染リスクは高いことが予想される。・オミクロン株になって致命率は減少したものの、高齢者やハイリスク者では基礎疾患による悪化による死亡やウイルス性肺炎による重症化がみられている。・2023年5月8日以前の国内のCOVID-19による死亡者は、3年5ヵ月間で7万4,669人であったが、人口動態調査に基づく2023年5~11月のCOVID-19による死亡数は、7ヵ月間で1万6,043人と多い状況が続いている。・新規入院患者数も2024年4月下旬の第17週だけで1,308人みられており、疾病負担が大きいことが示唆される。・米国の研究では、2022~23年秋冬シーズンにおける発症30日以内の死亡リスクは、65歳を超える高齢者ではハザード比1.78で、COVID-19のほうがインフルエンザより高いことが報告されている。・日本では2024年5月現在もJN.1の流行が続いており、2022年と23年共に、夏に大きな流行がみられたため、今後夏にかけての再増加が予想される。米国や諸外国での接種推奨状況・米国のワクチン接種に関する諮問委員会(ACIP)は2024年2月28日に、XBB.1.5ワクチンを接種して4ヵ月経過した65歳以上の成人に、もう1回のXBB.1.5ワクチン接種を推奨した。・COVID-19mRNAワクチンの効果は数ヵ月で減衰すること、追加接種によって免疫がすみやかに回復すること、XBB.1.5ワクチンは流行中のJN.1にも一定の効果がみられることなどがその根拠となっている。また、中等度~重度の免疫不全者には最終接種2ヵ月からのXBB.1.5ワクチン接種を推奨し、その後の追加接種も可能としている。・英国、フランス、スウェーデン、アイルランド、カナダ、オーストラリア、韓国、台湾、シンガポールといった諸外国でも、高齢者、高齢者施設入所者、免疫不全者などを対象に、2024年春のXBB.1.5ワクチン2回目の接種が推奨されている。COVID-19ワクチンの開発状況と今後 日本での2024年秋から定期接種で使用されるCOVID-19ワクチンは、XBB.1.5ではなく新たなワクチン株を選定して作製される。WHO(世界保健機関)のTechnical Advisory Group on COVID-19 Vaccine Composition(TAG-CO-VAC)は、4月26日に新たなワクチン株としてJN.1系統を推奨することを発表した。日本では、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会「季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」でワクチン株の選定が検討される予定で、WHOの推奨株を用いることを基本とするとされていることから、JN.1対応のワクチンが使用される見込みとなっている。選定されたワクチン株をもとに秋に使用されるワクチンの製造が各社で検討される。そのほか、国内製薬会社で組換えタンパク質ワクチン、従来の方法による不活化ワクチン、mRNAワクチン(レプリコン)の臨床試験も進んでおり、実用化が期待されている。新たな変異株 米国では4月末~5月初旬にはJN.1に替わってKP.2が28.2%、東京都でも4月中旬にはXDQが31.6%と増加しており、新たな変異株の出現が頻繁に起きている。KP.2とXDQのスパイクタンパク質のアミノ酸配列は、いずれもBA.2.86に近く、受容体結合部位のアミノ酸はJN.1といずれも2個異なっており、今後増加する場合は抗原性の検討が必要と予想されている。2023年秋開始接種のXBB.1.5ワクチンの接種率 2023年秋開始接種のXBB.1.5ワクチンの接種率は、高齢者で53.7%、全体で22.7%と十分ではなかった。接種しても罹患することがあるが、接種後にかかっても未接種者に比べて家庭内感染率が46%低下する。個人の感染予防だけでなく、周りの人に感染を広げないためにも、多くの人への接種が望まれる。ワクチン接種後にCOVID-19にかかったとしても、罹患後症状(後遺症)の発現率が43%低下するというメタアナリシスの結果も報告されている。 本提言は、「ワクチン接種を受けることで安全が保証されるわけではない。今後ともマスク、換気、身体的距離を適切に保つ、手洗い等の基本的な感染対策は可能な範囲で維持しなければならない。今後も流行が続くと予想されるCOVID-19の予防のために、COVID-19ワクチンが正しく理解され、接種が適切に継続されることを願っている」と結んでいる。なお、本提言ではXBB.1.5対応mRNAワクチンのJN.1に対する有効性のデータなども掲載している。 なお、厚生労働省が5月24日付で発表した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況」によると、COVID-19定点当たり報告数(全国)推移、および入院患者数の推移において、ゴールデンウィーク以降の5月6日~12日の週より、COVID-19報告数とCOVID-19入院患者数が増加に転じている2)。

11.

腕に貼る麻疹・風疹ワクチンは乳幼児に安全かつ有効

 予防接種の注射を嫌がる子どもに、痛みのないパッチを腕に貼るという新たなワクチンの接種方法を選択できるようになる日はそう遠くないかもしれない。マイクロニードルと呼ばれる微細な短針を並べたパッチ(microneedle patch;MNP)を腕に貼って経皮ワクチンを投与する方法(マイクロアレイパッチ技術)で麻疹・風疹ワクチン(measles and rubella vaccine;MRV)を単回接種したガンビアの乳幼児の90%以上が麻疹から保護され、全員が風疹から保護されたことが、第1/2相臨床試験で示された。英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットで乳児免疫学の責任者を務めるEd Clarke氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」に4月29日掲載された。 Clarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術による麻疹・風疹ワクチン投与(MRV-MNP)はまだ開発の初期段階にあるが、今回の試験結果は非常に有望であり、多くの関心や期待を呼んでいる。本研究により、この方法で乳幼児にワクチンを安全かつ効果的に投与できることが初めて実証された」と語る。 この臨床試験では、18〜40歳の成人45人と、生後15〜18カ月の幼児と生後9〜10カ月の乳児120人ずつを対象に、MRV-MNPの安全性と有効性、忍容性が検討された。これらの3つのコホートは、MRV-MNPとプラセボの皮下注射を受ける群(MRV-MNP群)とプラセボのMNPとMRVの皮下注射(MRV皮下注群)を受ける群に、2対1(成人コホート)、または1対1(幼児・乳児コホート)の割合でランダムに割り付けられた。 その結果、ワクチン接種から14日後の時点で、MRV-MNP群に安全性の懸念は生じておらず、忍容性のあることが示された。MRV-MNPを受けた幼児の77%と乳児の65%に接種部位の硬化が認められたが、いずれも軽症で治療の必要はなかった。乳児コホートのうち、ベースライン時には抗体を保有していなかったが接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対する抗体の出現(セロコンバージョン)が確認された対象者の割合は、MRV-MNP群でそれぞれ93%(52/56人)と100%(58/58人)、MRV皮下注群では90%(52/58人)と100%(59/59人)であった。接種後180日時点でも、MRV-MNP群では91%(52/57人)と100%(57/57人)の対象者で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンを維持していた。 一方、幼児コホートで、ベースライン時には抗体を保有していなかったが、接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンが確認された割合は、MRV-MNP群で100%(5/5人)、MRV皮下注群で80%(4/5人)であった。風疹ウイルスに対しては、研究開始時から全ての対象児が抗体を保有していた。 こうした結果を受けてClarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種としては麻疹ワクチンが最優先事項だが、この技術を用いて他のワクチンを投与することも今や現実的になった。今後の展開に期待してほしい」と話す。 研究グループは、マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種が貧困国でのワクチン接種を容易にする可能性について述べている。この形のワクチンなら、輸送が容易になるとともに冷蔵保存が不要になる可能性もあり、医療従事者による投与も必要ではなくなるからだ。論文の筆頭著者であるロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットのIkechukwu Adigweme氏は、「この接種方法が、恵まれない人々の間でのワクチン接種の公平性を高めるための重要な一歩になることをわれわれは願っている」と話す。 研究グループは、今回の試験で得られた結果を確認し、さらに多くのデータを提供するために、より大規模な臨床試験を計画中であることを明かしている。

12.

ワクチン接種、50年間で約1億5,400万人の死亡を回避/Lancet

 1974年以降、小児期の生存率は世界のあらゆる地域で大幅に向上しており、2024年までの50年間における乳幼児の生存率の改善には、拡大予防接種計画(Expanded Programme on Immunization:EPI)に基づくワクチン接種が唯一で最大の貢献をしたと推定されることが、スイス熱帯公衆衛生研究所のAndrew J. Shattock氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年5月2日号に掲載された。14種の病原菌へのワクチン接種50年の影響を定量化 研究グループは、EPI発足50周年を期に、14種の病原菌に関して、ワクチン接種による世界的な公衆衛生への影響の定量化を試みた(世界保健機関[WHO]の助成を受けた)。 モデル化した病原菌について、1974年以降に接種されたすべての定期および追加ワクチンの接種状況を考慮して、ワクチン接種がなかったと仮定した場合の死亡率と罹患率を年齢別のコホートごとに推定した。 次いで、これらのアウトカムのデータを用いて、この期間に世界的に低下した小児の死亡率に対するワクチン接種の寄与の程度を評価した。救われた生命の6割は麻疹ワクチンによる 1974年6月1日~2024年5月31日に、14種の病原菌を対象としたワクチン接種計画により、1億5,400万人の死亡を回避したと推定された。このうち1億4,600万人は5歳未満の小児で、1億100万人は1歳未満であった。 これは、ワクチン接種が90億年の生存年数と、102億年の完全な健康状態の年数(回避された障害調整生存年数[DALY])をもたらし、世界で年間2億年を超える健康な生存年数を得たことを意味する。 また、1人の死亡の回避ごとに、平均58年の生存年数と平均66年の完全な健康が得られ、102億年の完全な健康状態のうち8億年(7.8%)はポリオの回避によってもたらされた。全体として、この50年間で救われた1億5,400万人のうち9,370万人(60.8%)は麻疹ワクチンによるものであった。生存可能性の増加は、成人後期にも 世界の乳幼児死亡率の減少の40%はワクチン接種によるもので、西太平洋地域の21%からアフリカ地域の52%までの幅を認めた。この減少への相対的な寄与の程度は、EPIワクチンの原型であるBCG、3種混合(DTP)、麻疹、ポリオワクチンの適応範囲が集中的に拡大された1980年代にとくに高かった。 また、1974年以降にワクチン接種がなかったと仮定した場合と比較して、ワクチン接種を受けた場合は、2024年に10歳未満の小児が次の誕生日まで生存する確率は44%高く、25歳では35%、50歳では16%高かった。このように、ワクチン接種による生存の可能性の増加は成人後期まで観察された。 著者は、「ワクチン接種によって小児期の生存率が大幅に改善したことは、プライマリ・ヘルスケアにおける予防接種の重要性を強調するものである」と述べるとともに、「とくに麻疹ワクチンについては、未接種および接種が遅れている小児や、見逃されがちな地域にも、ワクチンの恩恵が確実に行きわたるようにすることが、将来救われる生命を最大化するためにきわめて重要である」としている。

13.

クラミジアワクチン、初期臨床試験で好成績

 クラミジアワクチンに関する初期の臨床試験において、ワクチン接種者に免疫反応が誘導され、安全性も確認されたことが報告された。研究者の間では、将来、このワクチンが性感染症(STI)の蔓延を抑えるのに役立つことへの期待が高まっている。Statens Serum Institut(国立血清学研究所、デンマーク)のJes Dietrich氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Infectious Diseases」に4月11日掲載された。 米疾病対策センター(CDC)によると、クラミジアは米国で最も一般的な細菌性STIであるが、現時点では、クラミジアに対して有効なワクチンは存在しない。全米性感染症科長連合会(National Coalition of STD Directors;NCSD)の事務局長であるDavid Harvey氏は、NBCニュースに対し、「米国でのSTIの感染率は、1950年代以来、おそらくはそれ以前から、非常に高い」と指摘し、「クラミジアワクチンは切実に必要とされている」と話す。 また、米ワイル・コーネル・メディスン人口健康科学教授であるJay Varma氏は、「クラミジアは、依然として女性の不妊症の最も一般的な原因の一つである」とNBCニュースに語っている。クラミジアを治療しないまま放置すると、骨盤内炎症性疾患が引き起こされ、妊娠しにくくなる可能性がある。さらにクラミジアは眼感染症を引き起こすこともあり、世界中で190万人の失明や視力障害の原因となっている。 今回報告された第1相試験では、健康な男性および妊娠していない女性65人(18〜45歳)を、異なる用量のクラミジアワクチン(CTH522)を2種類のリポソームアジュバント製剤(CAF01、CAF09b)のいずれかと組み合わせて筋肉内投与する5つの群(A〜E群)とプラセボのみを投与する群(F群)にランダムに割り付けた。CTH522の用量は、A〜C群およびE群で85μg、D群で15μgであり、アジュバントとしてA〜D群はCAF01、E群はCAF09bを用いた。これらの6群は、28日目と112日目に筋肉内、皮下、または点眼の投与方法で2回の追加接種を受け、さらに140日目には、免疫応答のリコールのためにワクチンまたはプラセボの点眼投与を受けた。 最終的に60人(平均年齢26.8歳、女性52%、白人71%)が試験を完了した。有害作用は865件報告されたが、重症度がグレード3(重症)だったのは7件(1%)のみで、それ以外は全て軽度から中等度であった。A〜E群では42日目までに全ての参加者で抗体陽転(セロコンバージョン)率が4倍以上に達したのに対し、F群ではセロコンバージョンは確認されなかった。CTH522に対する血清IgG抗体価は、CTH522を85μg投与した群の方が15μgを投与した群よりも高かったが、有意差は認められなかった。また、85μgのCTH522-CAF01を3回投与した群と85μgのCTH522-CAF09bを3回投与した群との間にも、抗体価に有意な差は認められなかった。 以上のような有望な結果が得られたものの、解決すべき疑問はまだ多く残されている。例えば、本研究には関与していない、米ワシントン大学医学部教授のHilary Reno氏はNBCニュースに対し、「このワクチンに、クラミジア感染を食い止める力はあるのだろうか。それとも、感染しても無症候性である可能性が高いということなのか」と疑問を呈した上で、「こうしたことが、次の段階の試験で検討されることになるだろう」と話している。 研究グループは、すでにワクチンの有効性を評価する大規模な第2相試験の開始を予定している。Dietrich氏は、「将来的には、このワクチンにより生殖器と目の両方の感染を予防できるようにしたいものだ」との希望を語っている。

14.

多くの死亡患者が電子カルテに生存者として記載

 死亡患者の5人に1人近くが電子カルテに生存者と記載されており、80%が死亡後にプライマリケアのアウトリーチを受けていることを示した研究レターが、「JAMA Internal Medicine」に12月4日掲載された。 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のNeil S. Wenger氏らは、医療機関が死亡を認識していない患者の割合を調査した。1つの学術医療システムの41の診療所を対象に、継続的に受診していた18歳以上の重症プライマリケア患者(過去1年に2回以上受診していた患者)1万1,698人の電子カルテデータを解析した。 その結果、対象患者の25%が電子カルテで死亡と記録され、5.8%は州の死亡ファイルで死亡が確認されたが電子カルテでは生存と記録されていた。死亡が認識されていなかった676人の患者のうち80%は、死亡後に未受診または未予約であり、推定で221件の電話と338件のポータルメッセージを受け取っていた。さらに、これらの患者のうち221人は、予防ケアの満たされていないニーズ(例:インフルエンザ予防接種、がん検診)に関する920通の手紙を受け取り、166人の患者は226通のその他の郵便物を受け取り、158人の患者はワクチンやその他の臨床的ケアに関する184の指示が出され、88の薬剤について130のリフィルが許可された。 著者らは、「医療システムが責任あるケアを提供するためには、死亡に関する状況をより確実に認識する必要がある」と述べている。

15.

免疫不全患者のCOVID-19長期罹患がウイルス変異の温床に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に1年半にわたって罹患していた免疫不全の男性患者が、ウイルスの新たな変異の温床となっていたとする研究結果が報告された。さらに悪いことに、確認された変異のいくつかは、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に生じていた。これは、ウイルスが現行のワクチンを回避するために進化していることを意味する。アムステルダム大学医療センター(オランダ)のMagda Vergouwe氏らによるこの研究の詳細は、欧州臨床微生物・感染症学会議(ECCMID 2024、4月27〜30日、スペイン・バルセロナ)で発表された。 Vergouwe氏は、「この症例は、免疫不全患者が新型コロナウイルスに長期にわたって感染している場合の危険性を強調するものだ。なぜなら、そうした症例から新たな変異株が出現する可能性があるからだ」と話している。研究グループによると、例えばオミクロン株は、より初期の変異株に感染した免疫不全患者の中で変異を遂げて登場したものと考えられているという。 Vergouwe氏らが報告した症例は、新型コロナウイルスへの感染が原因で2022年2月にアムステルダム大学医療センターに入院した72歳の男性患者に関するもの。この男性患者は、骨髄から白血球が過剰に産生される骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)オーバーラップ症候群に罹患しており、その治療として行われた同種造血幹細胞移植により免疫不全状態にあった。患者はその後、移植後リンパ増殖性疾患を発症し、リツキシマブによる治療を受けた。これにより、患者の体内には、通常であれば新型コロナウイルスと闘う抗体を産生するB細胞が消失していた。 この患者は、COVID-19に罹患する前に新型コロナワクチンを複数回、接種していた。しかし、入院時の検査で新型コロナウイルスに対するIgG抗体は検出されなかった。定期的なゲノムサーベイランスから、この患者はBA.1系統のオミクロン株(BA.1.17)に感染していることが分かり、ソトロビマブ、抗IL-6抗体であるサリルマブ、およびデキサメタゾンによる治療が行われた。しかしシーケンス解析からは、ソトロビマブ投与後21日目には、患者の体内の新型コロナウイルスは同薬に耐性を持つように変異していたことが判明した。また、治療から1カ月が経過しても、新型コロナウイルスに特異的なT細胞の活性化や抗スパイク抗体の産生がほとんど認められず、患者の免疫システムにはウイルスを排除する能力がないことが示唆された。最終的に、患者は613日にわたって新型コロナウイルスと闘い、その後、血液疾患により死亡した。 この男性の入院中(2022年2月〜2023年9月)に採取された27点の鼻咽頭ぬぐい液の全ゲノムシーケンスからは、現時点で世界的に広まっているBA.1系統と比べると、ACE-2受容体と結合するスパイクタンパク質の部位にL452M/KやY453Fの変異が生じるなど、ヌクレオチドに50以上の新たな変異が生じていることが明らかになった。さらに、スパイクタンパク質のN末端ドメインにはいくつかのアミノ酸の欠失が生じており、免疫回避の兆候が示唆された。 こうした調査結果を踏まえて研究グループは、「この症例では、COVID-19の罹病期間が長引いた結果、宿主の中でウイルスが広範に進化し、新規の免疫を回避する変異体が出現したものと思われる」と述べている。そして、このような症例は、「エスケープ変異株を地域社会に持ち込むリスクをはらんでおり、公衆衛生上の脅威となり得る」と付け加えている。ただし、この男性患者から他の人への新型コロナウイルス変異株の伝播は記録されていないという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

16.

経口ワクチンが抗菌薬に代わる尿路感染症の治療法に?

 新たに開発された経口投与型のワクチンが、尿路感染症(UTI)を繰り返す「再発性UTI」の患者にとって抗菌薬に代わる治療法となる可能性のあることが、英ロイヤル・バークシャーNHS財団トラストの泌尿器科専門医であるBob Yang氏らの研究で示唆された。同氏らによると、スプレーを使って舌の下にワクチンを投与した再発性UTI患者の半数以上(54%)は、その後9年にわたってUTIを再発することがなく、また目立った副作用も認められなかったという。この研究結果は、欧州泌尿器科学会(EAU 2024、4月5~8日、フランス・パリ)で発表された。 UTIは最も一般的な細菌感染症で、女性の半数、男性の5人に1人が生涯に一度は経験するとされる。UTI症例の20~30%では、抗菌薬による治療を必要とするUTIが再発する。 Yang氏は、「ワクチン接種前は、全参加者が再発性UTIに苦しんでいた。また、多くの女性患者で再発性UTIは治療困難となり得る」とニュースリリースの中で述べている。そして、「この新たなUTIワクチンを初めて接種してから9年後の時点まで、参加者のほぼ半数は感染することはなかった」と説明。また、「全体として、このワクチンは長期にわたって安全であり、参加者はUTIの再発が減少したこと、再発した場合でも重症度が低く、多くは水をたくさん飲むだけで治ったと話していた」と振り返っている。 このMV140と呼ばれるワクチンは、4種類の細菌種を含んだパイナップル風味の懸濁液で、スペインの製薬会社であるImmunotek社によって開発された。ワクチンには、感染と闘う抗体の産生を促す細菌が含まれている。ワクチンは3カ月間、毎日舌の下に2回吹きかけて投与する。 今回の研究は、英国のロイヤルバークシャー病院でUTIの治療を受けた18歳以上の女性72人と男性17人を対象としたもの。これらの患者は、MV140の臨床試験への当初からの参加者で、ワクチン投与後1年間の追跡調査の結果は2017年に報告されていた。今回の報告は、その後の9年に及ぶ追跡調査の結果である。Yang氏らは、89人の医療記録データを分析するとともに聞き取り調査を実施した。 その結果、48人の参加者が、9年間の追跡期間中にUTIを再発しなかったことが明らかになった。再発が認められなかった期間は、女性で平均54.7カ月(4年半)、男性で平均44.3カ月(3年半)だった。なお、参加者の約40%は、1年後または2年後にMV140の再接種を受けたことを報告していた。 今回の研究には関与していない専門家であるアルタ・ウロ泌尿器医療センター(スイス)教授のGernot Bonkat氏は、「これらは有望な結果だ。再発性UTIによってもたらされる経済的な負担は大きく、また、抗菌薬の過剰使用は抗菌薬耐性感染症の要因にもなり得る」と研究結果に期待を寄せる。 Bonkat氏は、「今後は、より複雑なUTIについての研究や、異なる患者のグループを対象とした研究の実施が必要だ。そこから得られる研究成果を通じて、このワクチンの使用方法を最適化できる」と話す。また同氏は、「現実的な視点を持つ必要はあるが、このワクチンはUTI予防において画期的な手段となる可能性や、従来の治療法に代わる安全で有効な治療法となる可能性を秘めている」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

17.

コロナワクチンに不安のあるがん患者の相談相手は?

 外来で化学療法を受けるがん患者を対象に、新型コロナワクチンに関して不安を感じることの内容やその相談相手などが調査された。その結果、相談相手としてプライマリケア医が最も多いことが明らかとなった。研究グループは、薬剤師が介入できる可能性も示唆されたとしている。これは順天堂大学医学部附属順天堂医院薬剤部の畦地拓哉氏らによる研究であり、「Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences」に3月4日掲載された。 新型コロナワクチンは日本で2021年2月に承認され、がん患者において接種が推奨されている。しかし、がん患者のワクチン接種状況や副反応に焦点を当てた研究はほとんどない。患者はがん治療への影響も含めて多くの不安を抱えるため、医療職の関与が重要となる。 著者らは今回、順天堂大学医学部附属順天堂医院で外来化学療法を行い、2022年10月~2023年1月に薬剤師の服薬指導を受けたがん患者を対象としてオンライン横断調査を行った。無記名の質問紙を用いて、新型コロナワクチンの接種歴や副反応、ワクチン接種に関する不安の内容、相談相手や情報の入手源などを調べた。 調査の回答者は60人(男性16人、女性44人)であり、年齢層は40歳未満が3人、40~49歳が15人、50~59歳が21人、60~69歳が13人、70~79歳が8人。主ながんの種類は、乳がん(21人)、卵巣がん(9人)、肺がん(6人)、膵がん(5人)、子宮がん(5人)などだった。 不安の内容として、「がん治療がスケジュール通りにできないのではないか?」(29人)、「がんなので特別な副作用がでないか?」(24人)などの回答が多かった。一方、調査時点でワクチンを2回以上接種していた人の割合は96.7%(58人)であり、これは同時期の日本全体の接種率よりも高かった。副反応は注射部位の痛みが最も多く、全身症状は発熱と倦怠感が多かったが、がんの治療スケジュールに影響があった人はほとんどいなかった。 ワクチンについての相談相手・情報入手源としては、プライマリケア医(25人)、家族・親族(22人)、インターネット(15人)、テレビ・ラジオ(13人)、友人・知人(12人)の回答が多かった。その他、医療職に関する回答は、プライマリケア医以外の医師と看護師はどちらも4人、病院薬剤師は1人のみで、薬局薬剤師やケアマネジャーの回答はなかった。 さらに、各相談相手について、今後ワクチン接種に不安を感じたときにどの程度相談しやすいかが検討された。6段階の回答を点数化・平均し、医療職間で比較すると、最も相談しやすいのはプライマリケア医(3.55点)、次に看護師(3.20点)だったが、どちらも病院薬剤師(2.85点)との統計的な有意差はなかった。また、病院薬剤師とプライマリケア医以外の医師(2.50点)や薬局薬剤師(2.27点)との間にも有意差は認められなかった。 以上、病院薬剤師は相談相手としての回答自体は少なかったが、プライマリケア医、看護師の次に相談しやすいとされたことについて著者らは、「外来化学療法時の服薬指導や有害事象のモニタリングを通じて築かれた信頼関係による可能性がある」と説明。また、がん患者の多くはプライマリケア医に相談した場合にも、ワクチンに対して不安を抱いていることが示されたという。患者はワクチン接種後の発熱や治療薬との相互作用などを不安に感じるが、「一般集団との間で副反応に有意差がないことを経験として伝えることも不安を和らげる上で有益」とし、薬剤師が介入できる可能性を示す結果だったと総括している。

18.

第210回 GLP-1製剤の品薄状態、危惧する人と安堵する人

以前、こちらで取り上げたGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1製剤)のダイエット目的の濫用とそれが原因の1つであると思われる供給不安問題。品薄はダイエット目的で使いやすいであろう週1回製剤のセマグルチド(商品名:オゼンピックなど)、デュラグルチド(商品名:トリルシティ)、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)に集中していたが、今年1月15日にセマグルチド、4月22日にデュラグルチドが限定出荷から通常出荷に切り替わり、残すはチルゼパチドのみが品薄状態となっている。そして2023年のメガファーマ各社の決算内容が明らかになっているが、この3製剤の中で最も売上高が高いセマグルチドの2型糖尿病に適応をもつ注射薬「オゼンピック」の2023年売上高は138億ドル(日本円換算で2兆1,126億円、ノボ ノルディスク社の決算はデンマーク・クローネでの発表のため、ドル・円の売上高は現行レートで換算)となった。ちなみに同じセマグルチドを成分とし、同じく2型糖尿病の適応をもつ経口薬「リベルサス」は27億ドル(同4,204億円)、肥満症の適応をもつ注射薬「ウゴービ」は45億ドル(同7,025億円)。セマグルチド成分括りにした2023年総売上高は210億ドル(同3兆2,355億円)である。2023年の医療用医薬品の製品別売上高は、世界第1位が免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の250億ドル(同3兆8,911億円)、世界第2位が新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチン「コミナティ」の153億ドル(同2兆3,814億円)で、オゼンピックが世界第4位。だが、セマグルチド括りでの売上高は世界第2位となる。日本の製薬企業で考えると、国内第2位のアステラス製薬と第3位の第一三共の2024年3月期決算で発表された売上高の合算を1成分の売上高で超えてしまっているのだ。なんとも驚くべきことである。オゼンピックは2017年末のアメリカでの発売から1年強で、全世界売上高10億ドル以上のブロックバスター入りを果たし、過去4年ほどで全世界売上高は9倍以上に急伸長している。糖尿病治療薬は患者数の多さゆえにブロックバスター入りしやすいが、オゼンピックは糖尿病治療薬としては、ほぼ史上最高売上高を記録している。糖尿病治療薬の売上高を更新、“注射製剤”のなぜこの背景には、これまでブロックバスター入りした糖尿病治療薬がほぼ経口薬であり、それと比べて注射薬のオゼンピックは薬価が高いという事情はあるだろう。しかし、それだけではないはずだ。余計な一言を言えば、オゼンピックの売上高が2型糖尿病患者への処方のみで形成されていると思うウブな関係者はいないだろう。たぶんここには世界的に見ても、ダイエット・美容目的の適応外処方による売り上げが含まれていると考えられる。さて、供給不安はかなり解消されたとは言え、現場ではまださまざまな不都合が生じている模様だ。たとえば薬局薬剤師に話を聞くと、実際の週1回GLP-1製剤の処方箋は1ヵ月分、すなわち製剤としては注射キット4本の処方が多いという。しかし、市中の保険薬局では今でも入庫がスムーズではなく、処方箋受け取り時には2本のみを患者に渡し、残り2本は後日に再来局をお願いするか、配送するケースも目立つという。この背景には通常出荷になっても供給が綱渡りということもあれば、自由診療クリニックへの横流しを警戒して必要量を医薬品卸が適宜配送しているという事情もあるらしい。このようなケースで薬局側が患者宅に配送をする際は、人が直接届けるかクール便を使うという。ある薬剤師は「(薬局への)納入価に配送の人件費やクール便費用を上乗せしたら赤字になる」とため息をついていた。この現状は患者にとっても薬局にとっても迷惑千万な話だろう。この状況の解消まで考えると、完全な通常流通まではまだ時間がかかりそうだ。しかし、あまのじゃくな私は、危惧すべきは完全な通常流通が実現した後ではないか? と考えてしまう。少なくとも現状はGLP-1製剤を必要とする2型糖尿病や肥満症の患者に薬が届かないという最悪の状況は避けられている。ただ、前述のように受け取りに多少の手間暇がかかっている。その一方で、いわば「メディカルダイエット」と称したダイエット・美容目的の自由診療でのGLP-1製剤の適応外処方が極端に廃れたなどという話は、少なくとも私個人はまったく耳にしていない。ネット広告では今でもこの手の広告がじゃんじゃん表示される。余談になるが、どうやら年齢・性別の属性では中高年男性もGLP-1製剤のターゲットにされているらしく、最近は私に対してもこの種の広告と薄毛治療の広告が頻繁に表示される。そして、ご存じのように自由診療での適応外処方を法令で取り締まることはできない。つまるところGLP-1製剤で完全な通常流通が実現するということは、本当に必要な患者が困らないだけではなく、適応外処方の自由診療も栄えるということだ。通常流通を危惧する理由こんなことを考えてしまったのは、先日ある開業医と話をしていて、ため息が出るような事例を聞いてしまったからだ。この医師は都内の繁華街近くで内科クリニックを開業している。そのクリニックに昨春、強い吐き気で路上にうずくまっていたという若い女性が通行人に付き添われて来院したという。「場所柄もあり『昨夜、かなり飲みましたか?』と尋ねても本人は元々飲めないと答えるし、昼時だったので食中毒を疑って直近の食事状況を聞いたら、朝からお茶を飲んだのみで、とくに何かを食べたわけでもないと言うんですよ。そこでピンと来ました」結局、問診の結果、オンラインの自由診療でGLP-1製剤の処方を受けていたことがわかった。医師は女性にGLP-1製剤では悪心・嘔吐の副作用頻度が高いことなどを伝え、中止を促すとともに、最低限の対症療法の処方箋を発行。女性は「こんなに副作用がひどいとは思わなかった。すぐに止めます」と応じたという。ちなみに問診時に身長、体重を尋ねたところBMIは18にも満たなかったとのこと。その後、女性は来院していないため、本当に彼女がGLP-1製剤を止めたかどうかは定かではない。この医師は私に「自由診療の副作用で苦しんでいる患者でも助けなければならないとは考える。でもね、それを保険診療で対応しなければならないのはねえ…」とぼやいた。至極真っ当な指摘である。この話を聞いて私が反応してしまったのは、「朝から何も食べていない」という話だった。痩身願望のある人が我流の食事制限などを行っていることは少なくない。GLP-1製剤は、その性格上、低血糖になりにくいことがウリの一つである。しかし、それはごく普通の食生活を送っていることが前提で、その場合でもほかの血糖降下薬を併用している場合には低血糖は発生している。ということは、今後、自由診療が野放しのまま完全流通が実現すれば、この医師が経験した副作用の悪心・嘔吐レベルだけではなく、重大な低血糖発作の報告事例が増加してしまうのではないだろうか?そしてオンライン診療でかなりの適応外処方が行われている実態を考えれば、車社会である地方都市在住者でも適応外で使われることが増えるだろう。運転の最中に低血糖発作が起きたらどうなるのだろうと考えてしまった。これは私の妄想だろうか? それとも考え過ぎだろうか?

19.

2024年の医師のコロナワクチン、接種する/しないの二極化進む/医師1,000人アンケート

 新型コロナワクチンの全額公費による接種は2024年3月31日で終了した。令和6年度(2024年度)は、秋冬期に自治体による定期接種が開始される。定期接種の対象となるのは65歳以上、および60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な人で、対象者の自己負担額は最大で7,000円となっている。なお、定期接種の対象者以外の希望者は、任意接種として全額自費で接種することとなり、2024年3月15日時点の厚生労働省の資料によると、接種費用はワクチン代1万1,600円程度と手技料3,740円で合計1万5,300円程度の見込みとなっている1)。この状況を踏まえ、医師のこれまでのコロナワクチン接種状況と、今後の接種意向を把握するため、主に内科系の会員医師1,011人を対象に『2024年度 医師のコロナワクチン接種に関するアンケート』を4月1日に実施した。 Q1では、コロナの診療に現在携わっているかについて聞いた。「診療している」が79%、「診療していない」が21%だった。年代別で「診療している」と答えた割合は、40代(86%)、60代(83%)、30代(81%)の順に多かった。診療科別では、血液内科(94%)、呼吸器内科(94%)、救急科(92%)、総合診療科(90%)、腎臓内科(88%)、神経内科(88%)、内科(85%)、小児科(83%)、消化器内科(81%)、糖尿病・代謝・内分泌内科(80%)、臨床研修医(80%)の順に多かった。年齢が低い医師ほど、コロナに感染した割合が高い Q2では、これまでの新型コロナの感染歴を聞いた。感染したことがある医師は全体の45%、感染したことがない/感染したかわからない医師は55%であった。感染したことがある医師は年齢が低いほど、感染した割合が高く、20代は60%、30代は55%、40代は51%、50代は44%、60代は35%、70代以上は24%だった。臨床数別では、病床数が多いほうが感染した医師の割合が高く、20床以上で感染したのは49%、0~19床では34%だった。また、コロナ診療状況別では、コロナを診療している医師では47%、診療していない医師では37%に感染歴があった。昨年は20~40代の接種率が50%弱 Q3では、2023年秋冬接種でのXBB.1.5対応ワクチンの接種状況を聞いた。全体では「接種した」が58%、「接種していない」が42%だった。年代別で「接種した」と答えた割合は、多い順に70代以上(77%)、60代(72%)、50代(61%)、20代(50%)となり、30代(45%)と40代(48%)は50%未満であった。コロナ診療状況別の接種率は、診療している医師は62%、診療していない医師は46%であった。前年の傾向を引き継ぎ、接種する人と接種しない人の二極化進む Q4では、2024年度にコロナワクチンを接種する予定かどうかを聞いた。全体では「接種する予定」が33%、「接種する予定はない」が41%、「わからない」が26%となった。年代別では、「接種する予定」と答えた割合が過半数となったのは70代以上(56%)のみで、ほかは多い順に60代(44%)、50代(31%)、40代(28%)、20代(28%)、30代(23%)であった。30代では「接種する予定はない」が54%となり過半数を占めた。2023年コロナワクチン接種状況別で、2023年に接種した人では「2024年度に接種する予定」が53%、「2024年度に接種する予定はない」が16%となった。対して、2023年に接種していない人では、「接種する予定」が6%、「接種する予定はない」が74%となり、今回のアンケートで最も顕著な差が認められ、医師のなかでもコロナワクチンを接種する人と接種しない人の二極化が進んでいることがわかった。 Q5では、自身が受ける2024年度のコロナワクチンの費用は、病院負担か自己負担のどちらになるか、これまでのインフルワクチンなどの対応を踏まえ推測を交えて聞いた。「おそらく全額病院負担」が22%、「おそらく一部自己負担」が22%、「おそらく全額自己負担」が23%、「わからない」が33%となり、全体的に均等な割合となった。2024年度にワクチンを接種する予定の人のうち「全額病院負担」35%、「一部自己負担」29%、「全額自己負担」16%だったのに対し、接種する予定はない人は「全額病院負担」12%、「一部自己負担」20%、「全額自己負担」30%であった。ワクチンの必要性や高額な治療薬について、患者にどう説明するか Q6の自由回答のコメントでは、新型コロナに関して現在困っていることや知りたい情報を聞いた。主な回答は以下のとおり。ワクチンについて・ワクチンで感染予防が成り立たないのは明白。ただし重症予防は十分成り立っていたと思うので、高齢者と持病多い人は無料で受けられるようにしてほしい(40代、循環器内科)・接種の必要性をよく質問されるが、正直な所、自分も勧めてよいのか迷っている(40代、小児科)・今後新たに使用可能となるワクチンの種類とその効果など(60代、内科)・公費負担が終了すると被接種者は減少すると思われるが、今後の流行予測は?(70代以上、内科)・医療従事者のワクチン接種費用について(50代、内科)治療薬について・抗ウイルス薬の値段が高い事の説明をどうするか(60代、内科)・コロナ治療薬の処方が減り、対症療法が増えると思う(70代以上、内科)・抗ウイルス薬の適応と思われる患者さんが、高額のため投薬拒否された時のことを考えると頭が痛い(50代、消化器内科)流行状況、院内対策などについて・現在の感染状況の情報発信が少なくなり、新型コロナ感染症に対する世間の認識が乏しくなり、感染増加を招いていること(40代、呼吸器内科)・感染対策の立場として、職場での接種をどうするか悩んでいる(40代、感染症内科)・発熱外来の体制に悩んでいる(30代、呼吸器内科)・後遺症に関する診断(40代、呼吸器内科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。2024年度 医師のコロナワクチン接種に関するアンケート

検索結果 合計:2018件 表示位置:1 - 20