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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD:Duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 定義デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、機能的ジストロフィンの欠損により、進行性の筋力低下および筋萎縮を来すX染色体潜性遺伝疾患である。小児期に発症する筋ジストロフィーの中で最も頻度が高く、重症型に位置付けられる。■ 疫学男児出生約3,500~5,000人に1人の割合で発症する。人種による発症頻度の明らかな差はない。女性保因者も骨格筋症状や心筋症を呈することがあり、定期的な評価が推奨される。■ 病因X染色体短腕(Xp21.2)に位置し、筋細胞膜直下に存在する細胞骨格タンパク質であるジストロフィン遺伝子(DMD遺伝子)の変異(欠失、重複、微小変異など)が原因である。ジストロフィンは細胞骨格と細胞外基質を連結し、筋収縮時の機械的ストレスから細胞膜を保護する役割を担う。機能的ジストロフィンが欠損することで筋細胞膜の安定性が失われ、筋線維の壊死と再生が繰り返され、最終的に筋組織が脂肪組織や結合組織に置換される。■ 症状乳幼児期から運動発達の遅れ(定頸や歩行開始の遅延など)として認識されることが多い。幼児期には転びやすい、走れない、階段昇降が困難といった症状が顕在化する。床から立ち上がる際に、自身の膝や大腿に手をついて立ち上がる登攀性起立(ガワーズ徴候)や、腓腹筋の仮性肥大が高頻度に見られる。また、認知機能や発達特性(知的障害、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症など)を合併することがある。筋力低下は体幹および近位筋から始まり、次第に遠位筋へと進行する。従来は10歳前後で歩行を喪失することが多かったが、現在ではステロイド療法などにより歩行可能期間は延長している。歩行喪失後は車椅子の使用が必要となる。病状の進行に伴い、脊柱変形(側弯症)、呼吸筋力低下による呼吸機能障害、および拡張型心筋症に類似した心筋障害を合併する。嚥下機能障害や消化管の蠕動運動低下も生じうる。さらに、長期経過では骨粗鬆症や骨折、肥満なども重要な合併症となる。■ 分類ジストロフィン遺伝子変異に起因する疾患群は「ジストロフィノパチー」と総称される。DMDはジストロフィンがほぼ完全に欠損する重症型である。その一方で、遺伝子変異があるものの、異常なジストロフィンタンパク質が一部産生され、臨床症状がより軽度で歩行機能が長期に維持されるタイプを「ベッカー型筋ジストロフィー」(BMD)と分類する。■ 予後かつては20歳前後で呼吸不全や心不全により死亡することが多かった。しかし、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)などの呼吸管理の進歩、心筋保護薬の早期導入、ステロイド治療の普及、さらに多職種による集学的ケアの確立により、歩行可能期間および生命予後は大きく改善しており、40~50代以上まで生存する患者も増えている。2 診断 (検査、鑑別診断を含む)初めに診断のフローチャートを示す(図)。図 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の診断フローチャート画像を拡大する血液検査では、筋崩壊を反映してクレアチンキナーゼ(CK)値が著明に上昇する(数千~数万IU/L)。とくに発症初期や無症状の乳幼児期においても異常高値を示すため、スクリーニングとしてきわめて有用である。偶発的な肝酵素(AST、ALT)の上昇を契機に発見されることも多く、肝疾患との鑑別においてCK値の確認が必須である。確定診断には遺伝子検査が行われる。まず、MLPA法などによりDMD遺伝子の欠失・重複変異を検索する。これで変異が同定されない場合は、次世代シークエンサー(NGS)などを用いて点変異や微小欠失・挿入などの塩基配列解析を行う。遺伝子診断で確定できない特殊例では筋生検を考慮する。鑑別診断としては、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢帯型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、先天性ミオパチー、多発性筋炎などが挙げられる。診断確定後は遺伝カウンセリングを行い、保因者診断や家族への遺伝学的情報提供についても検討する。3 治療現在、疾患を完全に治癒させる根治療法は確立していないが、病状の進行遅延を目的とした薬物療法と、合併症に対する対症療法・集学的ケアが行われる。薬物療法の基本はステロイド薬(プレドニゾロンなど)の投与である。これにより筋力低下の進行を遅らせ、歩行可能期間の延長、呼吸・心機能の低下抑制、側弯の進行防止などの効果が得られる。また、近年、特定の遺伝子変異を対象としたエクソンスキップ療法が実用化されている。これはアンチセンス核酸を用いてmRNAの成熟過程で特定のエクソンを読み飛ばし、機能は不完全ながらも一部機能するジストロフィンタンパク質を産生させる治療である。国内ではエクソン53スキッピング薬であるビルトラルセン(商品名:ビルテプソ点滴静注)が承認されている。対症療法として、関節可動域(ROM)維持、装具療法、立位保持、呼吸リハビリテーションを継続的に実施することが重要である。呼吸機能障害に対しては、早期からの呼吸機能評価とNPPVの導入、機械的咳介助が行われる。心筋障害に対しては、ACE阻害薬の早期からの投与が推奨されている。病状の進行や変化に応じて、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(エプレレノンなど)の併用などが検討される。4 今後の展望(治験中、研究中の診断法や治療薬剤など)今後の有望な治療法の1つが遺伝子治療である。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、全身投与により骨格筋および心筋へのマイクロジストロフィン遺伝子の導入を図る治療法(デランジストロゲン モキセパルボベク、商品名:エレビジス点滴静注)は、国内でも2026年2月に承認された。本来のジストロフィン遺伝子は巨大でありAAVベクターに全長を搭載できないため、マイクロジストロフィンは筋細胞膜の安定化に不可欠な最重要機能ドメイン(領域)のみを残し、全長の約3分の1に小型化した人工遺伝子である。導入後の長期的な有効性評価に加え、安全性課題として急性肝障害、血小板減少、心筋障害、および重篤な免疫性筋炎への注意とモニタリングが今後の重要な課題となっている。また、筋肉の成長を阻害するミオスタチンを標的とした抗体薬や、炎症・線維化を抑える新たな低分子化合物などの臨床試験が進行しており、病態や進行段階に応じた治療の選択肢がさらに広がることが期待される。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)小児神経科、脳神経内科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、循環器内科、呼吸器内科、臨床遺伝科など※本疾患は進行に伴い全身性の合併症や認知・発達特性を伴うため、スクリーニングで疑われた段階、あるいは確定診断後は、神経筋疾患を専門とする医療機関において、リハビリテーション、循環器、呼吸器、整形外科、栄養、心理、遺伝カウンセリングなど多職種連携による集学的治療が可能な体制へ紹介することが望ましい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考となるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報NMDポータルサイト(神経筋疾患ポータルサイト):デュシェンヌ型筋ジストロフィー(国内の神経筋疾患に関する情報を集約した総合サイト。最新の診療ガイドラインやケア、研究動向に関するリソースが網羅的に提供されている)難病情報センター 筋ジストロフィー(指定難病113)(医療費助成の対象疾患であり、公的制度の概要や申請手続きに関する基礎情報が得られる)Remudy(神経筋疾患患者登録システム)(国立精神・神経医療研究センター[NCNP]が運営する患者レジストリ。疫学データと市販後調査を区別して収集・管理しており、適切な情報提供や臨床試験の強力な基盤として機能している)MDクリニカルステーション(筋ジストロフィーの臨床研究班による、医療従事者および患者・家族向けの診療ガイドラインやケアマニュアル等の情報提供サイト)患者会情報一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会(JMDA)(患者や家族への支援、情報提供、交流活動を行う代表的な患者会組織) 1) 日本神経学会ほか監修. デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014. 南江堂:2014. 2) Komaki H, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2020;7:2393-2408. 3) Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2023;388:2368-2371. 4) Nakamura H, et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:60. 5) 難病情報センター. 筋ジストロフィー(指定難病113). 公開履歴初回2026年7月24日

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プレハビリテーションが高齢患者の脊椎固定術後の合併症を抑制

 プレハビリテーションは、術後の回復を促進する目的で術前に体力や健康状態を向上させる介入で、近年、外科医を中心とする医師の注目を集めている。こうした中、新たな研究で、脊椎固定術の前に4週間のプレハビリテーションプログラムを受けた75歳以上の患者では、術後90日以内の合併症リスクが18%低かったことが示された。首都医科大学(中国)附属宣武医院整形外科部長のShibao Lu氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に6月16日掲載された。Lu氏は、「本研究は、構造化された多面的プレハビリテーションが、高齢者における脊椎固定術後の合併症を減少させる上で有効な方法となり得ることを示した」と述べている。 脊椎固定術では、不安定性などの問題が生じている椎骨の間に人工骨や患者自身の骨などを移植し、椎骨同士を癒合・固定して安定化させる。米国整形外科学会(AAOS)によれば、この手術は主に椎間板変性症や脊椎内の神経圧迫などによる腰背部痛の治療に用いられる。研究グループは、脊椎固定術自体は比較的リスクの低い手術とされているものの、「75歳以上の患者では、若年患者と比べて術後合併症および退院遅延のリスクがおよそ2倍に増加する」と指摘する。 今回の研究では、中国の3つの病院で脊椎固定術を受ける75歳以上の患者164人を対象に、術前のプレハビリテーションプログラムおよび術後の回復強化プログラムを受ける群と、術後の回復強化プログラムのみを受ける群にランダムに割り付けた。プレハビリテーションプログラムでは、4週間にわたり、筋力トレーニング、バランス訓練、柔軟性向上運動、有酸素運動で構成された運動プログラムと、十分なカロリーおよびタンパク質の摂取を重視した食事指導が行われたほか、睡眠改善、疼痛管理、処方薬の適切な使用、心理的支援に関する介入も実施された。 最終的に159人の患者(平均年齢78.7歳、女性59%)を対象に解析が行われた。その結果、術後90日以内に1つ以上の合併症が生じた患者の割合は、プレハビリテーション群で74.7%、術後回復強化プログラムのみの群で91.2%であり、プレハビリテーション群で有意なリスク低下が認められた(リスク比0.80、95%信頼区間0.67~0.95、リスク差−18.0%、95%信頼区間−27.0~−9.0%)。また、プレハビリテーション群の術後入院期間は平均12日であり、術後回復強化プログラムのみの群の14日より短かった。さらに、プレハビリテーション群では79人中68人が術後24時間以内に離床できたのに対し、術後回復強化プログラムのみの群では80人中55人であった。サブグループ解析では、プレハビリテーションの効果は、男性より女性で、初等教育または高等教育修了者より中等教育修了者で、さらに腰椎固定術のみを受けた患者で、腰椎固定術に加えてその他の手術を受けた患者より顕著な傾向が示された。 ただし研究グループは、「栄養状態や運動習慣のベースラインには国や地域による違いがあり、入院期間や術前待機期間などの医療慣行も異なっている。そのため、本研究結果の適用性や他国での導入には慎重な検討が必要である」と述べている。

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中年期の筋トレ習慣が糖尿病リスク低下につながる

 中年期を通して筋力トレーニングを続けている人は、2型糖尿病(T2DM)のリスクが42%低いことが明らかになった。さらに、筋トレとともに有酸素運動を行い、テレビ視聴時間が短い人では、より大きなリスク低下が認められた。浙江大学(中国)のTianyue Zhang氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に6月22日掲載された。 有酸素運動によるT2DMのリスク抑制に関しては豊富なエビデンスがあるのに対して、筋トレのエビデンスは多くなく、特に長期間の前向き研究に基づく知見は少ない。Zhang氏らはこの点について、米国の看護師健康調査(NHSおよびNHS II)と医療従事者対象調査(HPFS)のデータを用いた検討を行った。 14万3,715人(平均年齢56.0±10.5歳、女性78.3%)を19.2±5.0年追跡したところ、1万38人がT2DMを新規発症していた。 筋トレの週当たりの実施時間で、対象者を5群(0時間、0~0.5時間、0.5~1時間、1~2時間、2時間以上)に分けてT2DMリスクを比較したところ、筋トレを週2時間以上実施している群は、交絡因子(年齢、性別、人種、喫煙・飲酒・有酸素運動の習慣、摂取エネルギー量、食事の質、糖尿病家族歴、閉経前/後など)を調整後、筋トレを行っていない群に比べて、T2DMリスクが27%低いことが示された(ハザード比〔HR〕0.73〔95%信頼区間0.66~0.81〕)。また、筋トレ時間が長いほど、T2DMリスクが低いという関連も認められた(傾向性P<0.001)。 次に、追跡期間中のトレーニング量の変化との関連を検討した結果、中年期を通じて週0.5時間以上のトレーニングを維持していた群(一貫して「高」の群)は、一貫して「低」の群に比べてT2DMリスクが42%低かった(HR0.58〔同0.45~0.74〕)。トレーニング量が「低」から「高」に増加していた群(HR0.79〔0.66~0.94〕)、「高」から「低」に減少していた群(HR0.82〔0.67~0.99〕)も有意なリスク低下が見られた。しかし、追跡期間中のトレーニング量が変動していた群と一貫して「低」の群の間で、T2DMリスクに有意差は認められなかった(HR1.02〔0.86~1.21〕)。 続いて、有酸素運動や座位行動(テレビ視聴時間)を考慮した解析を実施。筋トレを週に1時間以上、有酸素運動を15MET時/週以上、テレビ視聴時間は1日2時間未満という3条件を満たす群は、いずれも満たさない群に比べて、T2DMリスクが62%低いことが分かった(HR0.38〔0.34~0.42〕)。 Zhang氏らは、これらの結果は、糖尿病予防の生活習慣に関する推奨事項に筋トレを重要な要素として含めることを支持するものだとしている。 本報告について、米ノースウェル・ヘルスのShirin Jaggi氏は、「この研究により、筋トレが糖尿病予備群や2型糖尿病の予防に非常に重要な役割を果たしていることが明確になった」と論評。また、今回の研究結果はトレーニング量だけでなく、長期的に継続することの重要性を示唆しているとの見方を示し、「30分であれ、1時間であれ、2時間であれ、トレーニングの時間をその時間まで伸ばしたら、その状態を維持することが大切だ」と述べている。

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デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子治療薬への期待/中外

 中外製薬は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対する国内初の再生医療等製品として、デランジストロゲン モキセパルボベク(商品名:エレビジス点滴静注)を2026年2月20日に発売した。この発売によせて、本剤の概要や治療における臨床的位置付けなどについて、発売後の適正使用推進体制の説明と合わせてメディアセミナーを開催した。 DMDは、筋肉に関わるタンパク質のジストロフィン産生に影響を及ぼすDMD遺伝子の突然変異が原因で発症する希少遺伝性疾患。幼少期に発症し、徐々に筋力が低下していくことで日常生活に大きな影響を及ぼすため、早期からの適切な治療介入が求められる。未治療だと呼吸不全などを起こし、生命予後に影響する。 デランジストロゲン モキセパルボベクは、短縮型ジストロフィンの発現を介してDMDの原因に働きかけるようデザインされた薬剤である。2025年5月13日に条件及び期限付承認を取得し、2026年2月20日に薬価収載・販売された。筋機能を改善し、筋力の低下を防ぐ治療薬 はじめに同社からデランジストロゲン モキセパルボベクの製品説明が行われた。本薬剤の構造は、機能的な短縮型ジストロフィンであるデランジストロゲン モキセパルボベク マイクロジストロフィン(以下「マイクロジストロフィン」)をコードする遺伝子を含む非複製型の遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターであり、骨格筋および心筋での発現を最適化するα-ミオシン重鎖クレアチンキナーゼ7(MHCK7)プロモーター/エンハンサーにより制御する。 本薬剤の作用機序としては、搭載されたマイクロジストロフィン遺伝子が骨格筋および心筋で発現すると考えられる。また、マイクロジストロフィンが筋細胞で発現することで、筋機能を改善し、筋力の低下を防ぐと考えられている。本薬剤はすでに薬価収載・販売されているものの、条件及び期限付承認であり、第III相試験が現在行われている。生命予後が40歳に届くのが難しい希少疾病 「デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の疾患と治療、遺伝子治療の診療体制、適正使用と臨床的位置づけについて」をテーマに小牧 宏文氏(国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター センター長)が疾患概要について、講演を行った。 DMDは、ジストロフィンの欠損などにより筋肉が壊れやすく、かつ不可逆的な変性により、筋肉の再生ができない疾患。2~4歳ごろに症状が現れ始め、自然歴では5歳ごろをピークに運動能力が低下、ガワーズ徴候などがみられ、10歳前後に歩行能喪失となり車椅子が必要になる。未治療では呼吸器筋や心筋に影響があり、生命予後は10代とされる。現在でも、患者の生命予後はいまだ30歳前後を超える程度であり、根本治療が求められている。ただ、近年では、専門の医療施設で30代後半まで生命予後が延長しており、最近は大学生も多くなったほか、就労している患者もいる。 治療は、プロアクティブかつ包括的な多職種連携の診療が集学的治療(ベース治療)として確立され、患者の社会参加や就労・就学の実現に向けて治療が行われている。具体的には、呼吸管理として非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)の適切な導入と定期的モニタリング、呼吸リハビリテーションがなされ、身体機能管理として関節可動域訓練、姿勢管理、拘縮などの予防が行われている。薬物療法としてはステロイド投与による歩行可能期間の延長、全身管理としてACE阻害薬などを用いた心機能ケア、栄養指導、嚥下機能評価などが行われている。 とくに薬物治療について、2026年6月現在でステロイド、ビルトラルセン(商品名:ビルテプソ点滴静注)、そして、デランジストロゲン モキセパルボベクを用いることができる。デランジストロゲン モキセパルボベクのような遺伝子治療が求められる医学的背景として、病状管理の継続を前提としつつ、「根本原因(ジストロフィン欠損)へと直接アプローチする次世代治療の導入が臨床現場における長年の課題であった」と小牧氏は説明した。投与前、投与後でも適切なフォローが必要なデランジストロゲン モキセパルボベク デランジストロゲン モキセパルボベクによる治療の流れとしては、投与前のスクリーニングにおいて、抗AAVrh74抗体が陰性であることの確認に加え、禁忌となる特定の遺伝子変異(エクソン8および/または9の欠失)の除外が行われる。さらに、免疫抑制および有害事象予防を目的に、本薬剤の投与前よりプレドニゾロンの投与が開始される。投与後は免疫介在性筋炎などのモニタリングのために、投与後3ヵ月は継続的な血液検査が行われる。投与後は免疫抑制作用があるので基本は自宅療養となる。 本薬剤の承認のために国際共同第III相臨床試験EMBARK試験パート1が行われた。遺伝子変異が確認された4~7歳の歩行可能な男児125例を対象に、安全性と有効性を評価した国際共同第III相ランダム化二重盲検クロスオーバープラセボ対照試験。主要評価項目はノース・スター歩行能力評価(NSAA)総スコアのベースラインから52週までの変化量、主な運動機能に関連する副次評価項目は、床からの立ち上がり時間(TTR)、10m歩行/走行(10MWR)を評価した。 その結果、高いほど良好を示すNSAAによる総スコアについて、52週時点でデランジストロゲン モキセパルボベク群は2.57ポイントの向上だったのに対し、プラセボ群は1.92ポイントの向上だった(群間差:0.65、p=0.24)。また、副次評価項目であるTTR時間のベースラインから52週までの変化量では、デランジストロゲン モキセパルボベク群が-0.27秒、プラセボ群が0.37秒、群間差は-0.64秒だった(p=0.0025[名目上のp値])。 本剤では厳格な適格性確認とモニタリングが求められる継続的な管理が必要とされる。とくに投与後約90日間は肝酵素、心筋逸脱酵素、血小板などを週1回程度測定し、異常検知時はBRIDGE-NMD(神経筋疾患遺伝子治療安全性最適化ネットワーク)と即時連携がされる。その理由として、米国で非歩行患者への投与で急性肝不全が発生し、その後死亡した症例の報告があったためとされる。 わが国では、安全対策の強化として全国の患者、全国の医師と日本小児神経学会などに所属する医師をつなぎ、専門的な助言や情報提供・相談、患者への適正な治療の提供ができる体制を「Eコンサルテーション」として構築している。 今後は、レジストリを活用した長期的なエビデンス構築とともに、免疫介在性反応、海外の重篤な有害事象を集め、施設要件と適応の厳格化、BRIDGE-NMDによる全例事前評価、投与後の集中モニタリングなどを通じて、安全性リスクに対して構造的に対応する。 最後に小牧氏は、「固有のリスクを客観的に評価し、個人の経験則ではなく、国レベルの構造的なインフラによって安全性を管理する体制が稼働している。非常に今回良かった点としては、産官学連携がうまくいっていることであり、今後もしっかり安全性を重視しながら、この体制を維持していきたい」と抱負を述べ、講演を終えた。

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レトロなビデオゲームが脳卒中後の上肢の機能を改善か

 脳卒中患者の上肢(腕、手)の機能回復に、1990年代スタイルのレトロなゲームが役立つ可能性があるようだ。スクリーン上のヘリコプターを操縦して動くターゲットを攻撃するなどのタスクを行うビデオゲームを通して脳卒中患者の筋肉を再訓練することで、脳卒中後に見られる筋の同時収縮パターンが減少し、上肢機能が改善する可能性が示された。米ノースウェスタン大学神経学・神経科学教授のMarc Slutzky氏らによるこの研究の詳細は、「Neurorehabilitation and Neural Repair」に6月8日掲載された。 脳卒中により脳がダメージを受けると、脳からの運動シグナルが乱れて筋肉の協調性が低下し、異常な同時収縮が起きるようになる。そのため、上腕二頭筋が誤ったタイミングで収縮してしまい、肘をまっすぐ伸ばした状態で腕を前方へ伸ばすことが難しくなるという。 今回報告されたビデオゲームは、この異常な同時収縮を減らすことを目的に開発された、神経リハビリテーション用筋電インターフェース(myoelectric interface for neurorehabilitation;MINT)を用いたシステムである。MINTシステムでは、機能障害がある側の腕に装着した小型デバイスが、筋肉を動かす際の電気的活動を筋電図(EMG)として測定する。プレイヤー(脳卒中患者)が動かすカーソルは、このデバイスにより測定されたEMGを基に制御される。例えば、上腕二頭筋はカーソルを右に、三角筋はカーソルを上に動かす。一方、これらの筋肉が同時に収縮すると、カーソルは斜めに動く。この仕組みにより、異常な同時収縮が見られる筋群について、それぞれの筋肉を個別に活動させる訓練が行われる。 今回の研究では、脳卒中患者を、MINTシステムで2筋または3筋を個別にコントロールする訓練を行うMINT群と、1種類の筋肉のみを使用する対照群にランダムに割り付け、MINTシステムの実行可能性と有効性を検討した。MINT群は、1日90分、週6日間の訓練を、2〜3週間おきに訓練する筋肉を切り替えながら行った。 その結果、3筋をコントロールする訓練を行ったMINT群でのみ、脳卒中後の上肢機能の評価尺度であるWMFT(ウルフ・モーター・ファンクション・テスト)が6週間で約6.8秒有意に改善した。そのほかの群では、有意な改善は認められなかった。MINT群全体では4.1秒の改善が認められた。さらに、プロトコル通りに介入を受けた参加者を対象に解析すると、3筋制御群では対照群と比較して、WMFTが7.5秒有意に改善していた。また、筋の同時収縮の低下と上肢の運動機能の改善との間に有意な関連が認められた。 Slutzky氏は、「われわれは今回、従来とは異なるアプローチで研究を実施した。脳卒中患者の上肢の障害に対する直接的な治療を行い、特定の動作ができるようになるかどうかだけでなく、上肢機能そのものがどの程度改善するのかを測定した。その結果、われわれの訓練が実際に患者に改善をもたらしたことが分かった」と言う。 しかも、参加者たちはゲームを楽しんでいたという。ある参加者はアンケートで、「体験全体が楽しく、有益だった」と回答していた。また、「間違いなくこのゲームから身体的にも精神的にも良い影響を受けた」と回答した参加者もいた。 研究グループは現在、このゲームに用いるウェアラブルデバイスのワイヤレス化を進めるとともに、ゲームをより魅力的にするための改良に取り組んでいる。また、このアプローチを脳卒中患者の下肢の機能回復にも応用できるかどうかを検証する計画もあるという。

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脊髄刺激療法で脳卒中後の上肢機能改善を確認

 脊髄への電気刺激により、脳卒中患者の上肢(腕や手)の機能が改善する可能性があるようだ。重度の運動障害を有する脳卒中患者7人を対象としたパイロット試験で、4週間にわたる脊髄刺激療法(spinal cord stimulation;SCS)により、上肢の筋力が平均32%向上し、痙縮も軽減したことが示された。痙縮とは、脳卒中や脊髄損傷後の後遺症であり、自分の意思とは無関係に筋肉が収縮して関節が固くなる運動障害である。米ピッツバーグ大学脊髄刺激研究室長のMarco Capogrosso氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」6月4日号に掲載された。 脳卒中は、米国成人における上肢の麻痺の主な原因であり、毎年、約40万人が腕や手の持続的な筋力低下に悩まされている。多くの患者は上肢の機能回復を切実に求めているが、標準的なリハビリテーションで有意な改善が得られることはまれである。 この研究では、7人の慢性期脳卒中患者を対象に、頸部硬膜外SCSの実現可能性、有効性、安全性を検討した。頸部硬膜外SCSは、頸髄を覆う硬膜の外側にある空間(硬膜外腔)に電極を埋め込み、神経回路に電気刺激を与えることで神経活動を調節する治療法である。対象患者はいずれも、上肢のFugl-Meyer Assessment(FMA)スコア(最大66点)が15〜35点で、重度の運動障害を有していた。Capogrosso氏らは、頸髄の片側の硬膜外腔に2本の電極を留置し、4週間にわたりSCSを実施した。 その結果、電気刺激中は、障害の重症度にかかわりなく筋力が平均32%向上し、FMAスコアには平均5.6点の改善が認められた。重篤な有害事象は発生しなかった。また、皮質脊髄路が残存していた3人では、手や指の運動機能の改善も認められた。 さらに、試験期間中に実施された運動訓練は平均8.6時間で、そのうちSCSを併用したのは5.5時間だった。それにもかかわらず、試験終了時のFMAスコアは試験開始時から平均6.6点改善し、全ての患者で痙縮の改善も認められた。ただし、持続的な改善効果は刺激の継続に依存しており、刺激中止の4週間後には試験終了時(4週時)と比べて改善効果が減弱していた。 Capogrosso氏は、「頸部硬膜外SCSは、主に補助的な治療技術として機能し、刺激中には運動機能の改善が得られる。脊髄を刺激することで、脳と脊髄の間に残存している神経回路を即時に、より効率的に働かせることができ、その結果として運動機能の改善が可能になる」と述べている。 研究チームは現在、長期間のSCSの効果を評価するため、規模を拡大した臨床試験の参加者を募集している。Capogrosso氏は、「本研究結果は、初期の実現可能性評価が完了したことを示すとともに、実臨床への応用に向けた重要な一歩となるものだ。われわれは、最終的には診療施設内だけでなく日常生活の中でも利用できる技術の開発を目指している。今回の結果により、SCSが脳卒中患者が最も必要とする場面で上肢を使えるよう支援する実用的な埋め込み型治療法となり得るという確信が得られた」と語っている。

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第302回 骨太方針原案、窓口負担・診療報酬調整を明記/政府

<先週の動き> 1.骨太方針原案、窓口負担・診療報酬調整を明記/政府 2.医師確保計画GL通知、重点医師偏在区域を明示/厚労省 3.200床以上病院の電子カルテ導入、2028年度100%へ2年前倒し/政府 4.2040年の地域医療構想、急性期病床4割減・包括期は拡大/厚労省 5.協会けんぽ黒字拡大、医療費と後期高齢者支援金も増加/協会けんぽ 6.京都大を国際卓越研究大学に認定へ、初年度200億円支援/文科省 1.骨太方針原案、窓口負担・診療報酬調整を明記/政府政府は6月30日に経済財政諮問会議を開き、「骨太の方針2026」原案を示した。2027年度予算編成を見据え、医療・介護提供体制と社会保障負担の見直しが大きな論点となった。医療保険制度では、高齢者の受診行動や所得状況を踏まえた窓口負担の見直しについて、2027(令和9)年度予算編成過程で結論を得る方針が盛り込まれた。ただし、この記載には調整中を示す「P」マークが付いており、今後の与党調整や閣議決定までに文言が変わる可能性がある。高齢者の窓口負担をめぐっては、財政制度等審議会が「70歳以上の患者負担を原則3割とする方向を提言する」という一方で、上野 賢一郎厚労相は一律3割負担には慎重な姿勢を示しており、年末の予算編成に向けて政府・与党内で調整が続く見通し。医療現場にとっては、自己負担増大による受診抑制、慢性疾患の管理、救急受診、未治療や重症化リスクへの影響も含め、制度設計の行方を注視する必要がある。診療報酬については、経済・物価動向が2026年度改定時の見通しから大きく変動し、医療機関などの経営状況に支障が生じた場合、2027(令和9)年度予算編成過程で診療報酬上の加減算を含む追加調整を行うと明記された。物価高、人件費上昇、委託費・材料費増が病院経営を圧迫するなか、2026年度改定後も経営実態を踏まえた対応が検討対象となっている点は重要である。その一方で、医療提供体制については、2040年に向けて必要病床数を上回っているとされている一般病床と療養病床で約5万6,000床、基準病床数を超えている精神病床約5万3,000床を対象に病床数の適正化を進め、2027年度以降の地域医療構想を踏まえた医療機関の連携・再編・集約化を促進するとした。地域包括ケアシステムの深化、高齢者救急、在宅医療、中山間・人口減少地域での柔軟なサービス提供も課題に挙げられている。さらに、医師偏在対策を進め、地域の実情を考慮した2028年度以降の医学部定員削減にも取り組む方針が示された。介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定では、物価変動に対応しつつ、他職種と遜色のない処遇改善を図るとしており、医療・介護人材確保も引き続き重要課題となる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2026 原案 (経済財政諮問会議) 2) 高齢者窓口負担見直し、年末の予算編成で結論出す方針-骨太方針2026原案(医事新報) 3) 「骨太の方針」が大幅なスリム化も、医療政策の記載数は増えた?(日経メディカル) 4) 2027年度介護報酬改定では「他職種と遜色のない処遇改善の実現を図る」骨太の方針原案、病床数適正化や医学部定員削減を明記(同) 2.医師確保計画GL通知、重点医師偏在区域を明示/厚労省厚生労働省は、都道府県が2027年度から運用する第8次後期の医師確保計画策定ガイドラインを通知し、重点医師偏在対策支援区域を対象とする「医師偏在是正プラン」の考え方を示した。医師偏在は、地域間・診療科間で長年の課題とされ、地域枠を中心に医師数を増やしてきたものの、ミクロの医師不足解消には十分つながっていない。ガイドラインでは、経済的インセンティブ、地域医療機関の支え合い、医師養成過程を通じた取組みを組み合わせ、医師の勤務・生活環境や柔軟な働き方に配慮しながら、中堅・シニアを含む全世代の医師にアプローチする方針を掲げた。重点区域は、一定の定住人口が見込まれる一方で、必要な医師を確保できず、人口減少より医療機関の減少速度が速い地域などに設定し、優先的・重点的に対策を進める区域とされた。都道府県は厚労省が示す候補区域を参考に、医師偏在指標、可住地面積当たり医師数、へき地尺度、医療機関へのアクセス、診療所医師の高齢化率、住民の受診行動、人口動態などを踏まえ、地域医療対策協議会と保険者協議会で協議した上で、真に重点的な医師確保が必要な区域に限って設定する。支援対象とする医療機関については、重点区域内の全医療機関を一律に対象とするのではなく、とくに支援が必要な医療機関を選定する。選定に当たっては、設立母体にかかわらず、今後策定される新たな地域医療構想や地理的条件を踏まえ、地域医療対策協議会・保険者協議会で合意を得る必要がある。必要医師数は、候補区域を重点区域に設定する場合、原則として候補区域の要件を脱するために必要な人数を基準とする。施策面では、重点区域で診療所を承継・開業する場合の施設・設備整備や一定期間の地域定着支援、中核病院などから重点区域内の医療機関へ医師を派遣する際の費用支援、勤務医の離職防止や新規勤務医確保に向けた土日の代替医師確保支援などが示された。 参考 1) 医師確保計画策定ガイドライン~第8次(後期)~(厚労省) 2) 医師偏在是正プランの考え方を明示 確保計画策定GLで 厚労省通知(CB news) 3.200床以上病院の電子カルテ導入、2028年度100%へ2年前倒し/政府6月30日に内閣府は日本成長戦略会議を開き、取りまとめた「日本成長戦略」について公開した。この中で、医療DX基盤の整備を成長投資の重点分野に位置付け、電子カルテ導入目標を一部前倒しした。電子カルテ未導入の200床以上の病院については、療養病床などが中心の病院を除き、2028年度までに普及率100%を目指す。従来は2030年までにおおむね全医療機関への導入を目指す方針だったが、200床以上の未導入病院では期限が2年前倒しされる形となる。背景には、医療情報の共有、診療の効率化、医療の質向上に加え、創薬・医療機器開発に必要なデータ基盤の整備がある。成長戦略では、クラウドネイティブに最適化された医療DX基盤について、「大量のデータを必要とする創薬・医療機器の開発の基盤」であり、医療提供体制の効率化・質向上、サイバー攻撃への強靱性確保に不可欠と位置付けている。政府は、従来の院内サーバー管理を中心とするオンプレミス型の医療機関情報システムを、クラウドネイティブ型へ刷新する方針を示した。これにより、サイバーセキュリティ対策の強化と、全国的なデータ連携基盤の構築を図るとしている。2030年までには、電子カルテ普及率を約100%、地域の拠点病院のサイバーセキュリティ対策を100%とし、大病院向けクラウドネイティブ型製品の提供も目指す。具体策として、厚労省などが認証したクラウドネイティブ型電子カルテ製品の普及を促進し、大病院向け製品については一体的・集中的な開発と普及を支援する。また、ネットワークの外部接続点の監視、サーバー等の管理強化など、サイバーセキュリティ対策も強化する。さらに、全国医療情報プラットフォームの拡充やデータ連携基盤の整備、病院DXの推進も盛り込まれた。厚労省の調査では、2023年10月時点の電子カルテ導入率は、400床以上で93.7%、200~399床で79.2%まで進んでいる一方で、200床未満では59.0%にとどまる。今後、200床以上の未導入病院は、電子カルテ導入だけでなく、クラウド移行、標準化、サイバー対策、地域医療情報連携への対応を同時に迫られる。医療機関にとって電子カルテは、単なる院内システムではなく、診療情報共有、医療安全、経営効率化、研究・創薬基盤、BCP対策を支える基幹インフラとして再定義されつつある。 参考 1) 日本成長戦略(内閣府) 2) 電子カルテ導入 200床以上は「28年度100%」2年前倒し 政府目標(CB news) 4.2040年の地域医療構想、急性期病床4割減・包括期は拡大/厚労省厚生労働省は7月3日、2040年を見据えた新たな地域医療構想策定ガイドラインと、全国の必要病床数の機械的試算を公表した。この中で、2040年の必要病床数は、2025年度比で約10万床少ない106.9万床とされ、人口減少と医療需要の質的変化が病床再編を迫る構図が明確になった。とりわけ急性期病床は66万床から37.4万床へ約4割減少とされる一方で、高齢者救急、退院支援、早期リハビリ、在宅復帰を担う「包括期病床」は41.6万床と大きく位置付けられた。慢性期は28.0万床でおおむね維持される見通しである。背景にあるのは、85歳以上高齢者の増加と生産年齢人口の減少である。ガイドラインでは、2040年に向けて高齢者救急や在宅医療の需要が増える一方で、急性期需要は多くの地域で減少し、医師・看護職員の確保は一層困難になると整理している。従来の地域医療構想は病床機能の分化・連携が中心だったが、今回は入院に加えて外来、在宅、介護連携、人材確保までを含む「地域全体の医療提供体制」の再設計に踏み込む点が大きい。都道府県は2026年度から2027年度前半にかけて医療需要や提供体制をデータ分析し、構想区域の点検・見直しを行う。2028年度までに、急性期拠点機能を担う具体的医療機関名、各病院が2040年に担う医療機関機能、必要病床数、入院・外来・在宅・介護連携・人材確保の取組を地域医療構想として策定する。急性期拠点は人口20~30万人に1施設を目安とし、手術、救急搬送、医師確保、施設老朽化など実績と持続可能性を踏まえて協議される。病院にとっては、今後の議論が「自院の病床数」だけでなく、「地域で何を担う病院か」を問うものとなる。厚労省によると医療機関機能は、高齢者救急・地域急性期、急性期拠点、在宅医療等連携、専門等機能、大学病院本院の医育・広域診療機能に整理される。各医療機関は現在の機能、2040年に担う機能、診療実績を各都道府県に報告し、地域医療構想調整会議での協議を経て、遅くとも2028年度までに2040年の医療機関機能を決定する。高齢者救急では、誤嚥性肺炎や心不全などを受け入れ、早期からリハビリ、栄養、口腔、退院調整を行い、介護施設や在宅とつなぐ力が問われる。ガイドラインも、高齢者救急では入院早期からリハビリテーション、栄養管理、口腔管理を行い、在宅医療や介護との連携を包括的に進める必要性を示している。さらに明記すべきは、地域医療構想と医療計画の関係が変わる点である。これまで地域医療構想は医療計画の記載事項の一つだったが、新たな地域医療構想は医療計画の上位概念として位置付けられ、第9次医療計画はその具体的な実行計画となる。2次医療圏も、見直された構想区域と原則一致させる方向であり、今後の診療報酬、医師確保、救急、在宅、介護連携の議論は、この構想と連動して進む。各病院は、地域医療構想調整会議での実績データに基づく協議に備え、自院の救急受入、手術、退院支援、在宅・介護連携、人材確保の実績を可視化し、地域内での役割を早急に整理する必要がある。 参考 1) 地域医療構想策定ガイドライン(厚労省) 2) 地域医療構想でガイドライン公表 40年見据え、都道府県が策定-厚労省(時事通信) 3) 急性期の病床、40年の必要数4割減 厚労省試算(日経新聞) 4) 令和8年度都道府県医師会地域医療構想策定等ガイドライン説明会(日本医師会) 5) 1つの病院が「急性期拠点機能」と「高齢者救急・地域急性期機能」とを同時に持つことは認めない-新地域医療構想GL(1)(Gem Med) 5.協会けんぽ黒字拡大、医療費と後期高齢者支援金も増加/協会けんぽ全国健康保険協会(協会けんぽ)は、2025年度の医療分決算見込みを公表した。協会会計と国の特別会計を合わせた合算ベースで、収入は12兆3,406億円、支出は11兆6,611億円となり、単年度収支差は6,795億円の黒字となった。黒字は前年度より209億円増加し、協会けんぽ発足後でも高水準の決算となる。収入増の主因は保険料収入の伸びであり、保険料収入は11兆546億円、前年度比4,057億円増となった。背景には、賃上げによる標準報酬月額の上昇と、被保険者数の増加がある。2025年度の被保険者数は2,604.4万人で前年度比1.8%増、平均標準報酬月額は31.5万円で同1.8%増となった。その一方で、支出も増加している。保険給付費は7兆5,369億円で前年度比2,818億円増、拠出金などは3兆7,829億円で同1,634億円増となった。とくに加入者1人当たり保険給付費は3.5%増加しており、医療の高度化や受診動向の変化が影響している。また、後期高齢者支援金は2兆4,891億円に増加し、団塊の世代がすべて75歳以上となったことによる概算納付額の増加や精算負担の増加が主因とされる。今回の黒字は、賃金上昇と被保険者数増による保険料収入の増加が、医療費や高齢者医療への拠出増を上回った結果である。ただし、支出の伸び率4.2%は収入の伸び率4.1%を上回っており、財政構造が安定化したとみるのは早い。協会けんぽ自身も、2026年度診療報酬改定で本体改定率が3.09%と高い伸びとなり、2026年6月以降の医療費に反映されること、さらに平均保険料率が2026年度から10.0%から9.9%へ引き下げられることを指摘している。医療機関にとっては、協会けんぽの黒字を単純な「財政余力」と捉えるより、保険料収入の伸びに支えられながらも、医療費、後期高齢者支援金、診療報酬改定の影響が重なり、今後の保険者財政が再び厳しくなる可能性を意識すべき局面である。準備金残高は6兆5,457億円、保険給付費などの7.2ヵ月分に相当するが、加入者の平均年齢上昇、医療の高度化、後期高齢者支援金の高止まりには引き続き留意が必要である。 参考 1) 2025(令和7)年度協会けんぽの決算見込みについて(協会けんぽ) 2) 協会けんぽ、昨年度6,795億円の黒字 賃上げで保険料収入増(日経新聞) 3) 協会けんぽ 昨年度決算 6,795億円黒字 賃上げで保険料収入増加(NHK) 6.京都大を国際卓越研究大学に認定へ、初年度200億円支援/文科省文部科学省は7月3日、世界トップレベルの研究力を目指す「国際卓越研究大学」に京都大学を認定する方針を発表した。政府の総合科学技術・イノベーション会議などへの諮問を経て、今夏にも正式認定される見通しで、東北大学、東京科学大学に続く3校目となる。初年度となる2026年度の助成額は約200億円が見込まれている。国際卓越研究大学制度は、政府が設置した10兆円規模の大学ファンドの運用益を活用し、最長25年間にわたって年数百億円規模の支援を行う仕組みである。わが国の研究力が国際的に相対的低下を続けるなか、大学の研究環境や若手研究者の育成、国際競争力の強化を図ることが目的とされる。京都大学が高く評価されたのは、従来の「小講座制」から「デパートメント制」への大規模な組織改革である。教授を頂点とする約1,000の小講座・研究室単位の体制は、専門性を深める一方で、閉鎖性や若手研究者の独立性の確保が課題とされてきた。京大はこれを廃止し、学術領域ごとに約20のデパートメントへ再編する計画を示した。2029年4月までの完全移行を目指し、若手・中堅研究者が独立して研究できる環境作り、分野横断型研究の推進、研究支援体制の強化による研究時間の確保を進める。また、京大は研究成果に基づく資金配分の仕組みや、大学院教育の強化も掲げている。今後25年間で年間の博士号取得者を現在の約690~700人から約3倍の2,100人規模に増やすほか、引用回数が上位10%に入る「トップ10%論文」の割合を現状の約2倍に引き上げる目標も盛り込んだ。同大の湊長 博総長は、「世界水準の研究大学を確立し、社会課題の解決やイノベーション創出につなげたい」と考えを示している。その一方で、同じく2回目の公募に申請していた東京大学は、医学部をめぐる不祥事やガバナンス上の課題などを理由に継続審査となった。今回の京大への認定は、単なる大型助成ではなく、大学組織の統治、研究者の自立性、国際競争力を問う改革の一環といえる。医師・医学研究者にとっても、医学部・大学病院を含む研究体制や若手育成のあり方に影響する動きとして注目される。 参考 1) 国際卓越研究大学の認定等に関する有識者会議(アドバイザリーボード)における審査の結果について(概要) 2) 京大を卓越大に認定へ 200億円支援、小講座制を廃止し組織再編(朝日新聞) 3) 世界トップレベル目指す「国際卓越大」に京都大を認定へ、東北大・東京科学大に続く3校目…今年度200億円助成見通し(読売新聞) 4) 京大を「国際卓越研究大学」に認定へ 今年度200億円助成見込み(NHK)

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慢性期外傷性脳損傷に初の再生医療 バンデフィテムセル発売/サンバイオ

 サンバイオが開発した細胞治療薬バンデフィテムセル(商品名:アクーゴ)が慢性期外傷性脳損傷(TBI)の治療に承認・発売された。2026年6月に行われた「アクーゴ脳内移植用注発売メディアセミナー」で紹介された基礎と臨床の専門家の知見を詳報する。不可能だと考えられていた脳神経細胞の再活性化を実現 再生医療においては幹細胞が非常に大きな役割を果たす。幹細胞には体を構成するほぼすべての組織に分化可能な多能性幹細胞(iPS細胞やES細胞)と一定の限られた細胞種に分化する体性幹細胞(間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞など)がある。体性幹細胞は生体組織に存在するため、選択的に増やすあるいは分離することで再生医療に活用できる。 サンバイオ創業科学者で慶応義塾大学再生医療リサーチセンターの岡野 栄之氏による、神経幹細胞マーカーであるRNA結合蛋白質Musashi-1の同定からバンデフィテムセル開発の歴史は始まる。岡野氏らはMusashi-1を活用し、ヒト成人脳に幹細胞があること、脳細胞が新たにニューロンを作っていることを見いだし、サンバイオと製品化に向けた共同研究をスタートした。 バンデフィテムセルはNotch-1細胞内ドメイン遺伝子をヒト骨髄由来の間葉系幹細胞に導入したヒト体性幹細胞加工製品。同細胞は脳内に元々存在するFGF-2などの増殖因子を分泌させることで、神経細胞が本来持つ再生能力を活性化して神経細胞の増殖・分化を促進する。STEMTRA試験が証明したバンデフィテムセルによる慢性期TBIの機能改善1) 川堀 真人氏が所属する北海道大学大学院医学研究科 脳神経外科はバンデフィテムセルの臨床試験であるSTEMTRA試験で最も多くの症例を登録した。川堀氏はTBI診療の最前線で、治らないと宣告される患者の絶望を目の当たりにしてきた。TBIは転落などの日常的な原因で発生し、多様な神経・認知機能障害を伴う疾患である。日本国内では年間約6万人発症、入院患者は1万2,000人とされる。急性期から回復期においては高次脳機能障害や運動機能障害が残る。 バンデフィテムセルを用いた国際共同治験STEMTRA試験は、日・米・ウクライナの多施設で実施された。プラセボ群に偽手術を採用した厳格な二重盲検試験である。頭部外傷後12ヵ月以上経過した患者を対象に、バンデフィテムセルを0個(プラセボ)、250万個、500万個、1,000万個投与の群に無作為に割り付けた。結果として、バンデフィテムセル(500万個)投与群ではFugl-Meyer運動機能スコア(FMMスコア)がプラセボ群に比べ6点(8.3点vs.2.3点)、有意に改善した(p=0.04)。川堀氏は「改善が目で見てわかるのはFMMスコア10点程度」だと言う。FMMスコア10点改善が見られた患者はバンデフィテムセル群で40%、プラセボ群では6%であった。 TBI後の機能改善が確認されたものの、バンデフィテムセルの効果には未解明な点も多々ある。川堀氏は「どの部位に、どの程度の細胞量を投与するのが最適か、そして高次脳機能障害への具体的な効果はどの程度か。これらは今後、実際の臨床現場で医師たちがデータを蓄積し、解明していくべき課題」と述べ、今後のエビデンス構築の重要性を訴えた。再生医療とリハビリテーションの新たな融合 慶應義塾大学リハビリテーション医学教室の川上 途行氏は、再生医療とリハビリテーションの融合が今後重要になると説く。 脳損傷において、急性期と回復期の間はリハビリテーション効果が発揮されるが、この期間を過ぎて慢性期になると治療選択肢は非常に少なくなる。多くのTBI患者は、この後どうやっていけばいいのかと不安を抱えることになる。 STEMTRA試験の成績について川上氏は「通常みられるFMMスコアの改善は2~3点程度。この数値であれば、患者さんも体が動くようになっていることを実感できるのではないか。最適なリハビリテーションを上乗せしたら、スコアはさらに上がる可能性がある」と言う。未来へのビジョン―適応疾患の拡大とグローバル展開 サンバイオ代表取締役社長である森 敬太氏は、25年にわたる開発の道のりを回顧しつつ、未来を見越す。TBIからはじまり、今後は脳梗塞、認知症、アルツハイマーなど、多くのアンメット・メディカル・ニーズに応えるべくバンデフィテムセルの疾患領域を拡大していくと表明した。また、日本だけでなく米国そして世界へと展開させる意向も示した。

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術後の歩数は回復を左右する?

 手術から回復中の患者にとって、散歩は順調な術後回復を促す簡単な方法となるかもしれない。新たな研究で、術後の1日当たりの歩数が術前と比べて1,000歩増加するごとに、入院期間が短縮し、合併症リスクが低下することが示された。このような歩数の増加と転帰改善との関連は、患者の全身状態にかかわりなく、さまざまな種類の手術で認められたという。米オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターのTimothy Pawlik氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Surgeons」に5月6日報告された。 この研究では、入院手術を受けた成人患者のうち、術前および術後30日以上のデータが取得可能な1,965人(平均年齢50.4歳、女性69.5%)を対象に、術後の1日当たりの歩数および心拍変動(HRV)の変化と、入院期間、合併症の発生、および再入院との関連を検討した。さらに、自己申告による健康状態(ウェルネス)についても、感度分析として術後転帰との関連を検討した。歩数とHRVは、患者が所有するウェアラブルデバイスで測定された。 その結果、年齢、性別、手術リスクなどの因子を調整後も、術前と比べて術後の歩数が1日当たり1,000歩増えるごとに、合併症リスクは30日以内で17%(調整オッズ比0.83、95%信頼区間0.69~1.00)、90日以内で18%(同0.82、0.70~0.96)低下した。さらに、再入院リスクは30日以内で15%(同0.85、0.76~0.96)、90日以内で16%(同0.84、0.75~0.94)低下し、入院期間は6%短縮した(発生率比0.94、95%信頼区間0.90~0.99)。一方、術後のHRVの変化と自己申告によるウェルネスは、いずれの術後転帰とも有意な関連を認めなかった。 こうした結果からPawlik氏は、「本結果には、『鶏が先か、卵が先か』という側面はある。体調が良ければ自然と活動的になるからだ。しかし、歩数と術後回復との関連は非常に強く、歩数は単なる体調の良さの指標ではなく、回復そのものを左右する重要な要素である可能性を示している。患者の歩数低下は、理学療法の導入や経過観察の頻度増加など、早期介入の必要を示すサインとなり得る」と述べている。 またPawlik氏は、「われわれ医師は、術後は起き上がって歩く必要があると患者に伝えているが、実際に、患者がどの程度動いているのかについては把握できていない。ウェアラブルデバイスを用いれば、客観的かつ継続的に活動量を把握できる。患者に気分を尋ねる代わりに、実際に起き上がって動いているかを確認できるため、回復状況を把握する上で非常に有用な指標となる」とニュースリリースで述べている。 さらにPawlik氏は、患者と医師はこのデータを手術前後の目標設定に役立てられると指摘する。「例えば、手術前は8,000歩、術後3日目には6,000歩を目標に設定すれば、患者自身が目標を達成できているかを確認できる。患者にとって具体的な目標となるだけでなく、医師にとっても、退院可能か、あるいは在宅でさらなる支援が必要かを判断するための客観的なデータとなる」と同氏は述べている。

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HSV脳炎後の自己免疫性脳炎に注意、2026年GLでフロー新設/日本神経学会

 2026年3月、『細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014』と『単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017』を統合した『細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026』(日本神経学会・日本神経感染症学会監修、南江堂)が発刊された1)。 5月20~23日に開催された第67回日本神経学会学術大会の生涯教育セミナーにおいて、本ガイドライン作成委員会委員長を務めた中嶋 秀人氏(日本大学医学部内科学系神経内科学分野 主任教授)が「細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026の改訂のポイント」と題して講演を行った。講演レポートとして、「細菌性髄膜炎」を取り上げた前編に続き、後編では「単純ヘルペス脳炎」、そしてガイドライン外の重要なトピックである「水痘・帯状疱疹ウイルス中枢神経感染症」について紹介する。【単純ヘルペス脳炎】初期治療の迅速性と診断のゴールドスタンダード 単純ヘルペス脳炎(HSE)も細菌性髄膜炎と同様に「Time is Brain」の疾患である。発熱・意識障害・けいれんでHSEを疑ったら検査結果を待たず、受診から6時間以内にアシクロビル(ACV)投与を開始するのが望ましい。診断のゴールドスタンダードは髄液HSV PCRであり、高感度PCR(リアルタイムPCR)とFilmArray髄膜炎・脳炎パネルは、いずれも実臨床で有用である。FilmArrayは迅速診断に有用だが、検出感度はリアルタイムPCRより劣る可能性がある。なお発症72時間以内はウイルス量が少なく、4〜24%で偽陰性となりうるため、臨床的に強く疑われる場合は治療を中断せず、3〜7日後に再検する。治療はACV 10 mg/kg/回を8時間ごとに点滴静注し、髄液中HSV-DNAが高感度PCRで2回連続して陰性化するまで継続する(免疫正常例14〜21日間、免疫不全例21日間以上が目安)。HSEと自己免疫性辺縁系脳炎の鑑別 HSEは自己免疫性辺縁系脳炎(ALE)と類似の画像を示すため、初期の鑑別が課題となる。鑑別には実臨床で即座に使えるMRIの3基準が有用で、(1)拡散強調画像(DWI)での拡散制限、(2)側頭葉外(島回・前頭葉眼窩面)への病変進展、(3)ガドリニウム造影効果、のいずれも認めない(3基準すべて陰性)場合、感度95%・特異度100%でHSEを否定し、ALEを支持できる。HSE後自己免疫性脳炎(AE post-HSE) HSE後自己免疫性脳炎(AE post-HSE)は、HSE発症後2週〜3ヵ月に患者の7〜27%で発症し、HSEの治療後に症状の動揺・再燃として顕在化するため注意を要する。ウイルスの再活性化ではなく、ウイルス感染を引き金とした免疫介在性の病態であり、検出される自己抗体は抗NMDA受容体抗体が64〜70%と最多で、約3割は既知抗体陰性(未知の神経表面抗体)である。ガイドラインにはAE post-HSEのフローチャートが新設された。HSE治療後に症状の動揺・新規出現・再発がみられた場合は、まず速やかにACVを再開し、髄液HSV-DNAの高感度PCRを再検する。陰性でAEが疑われれば神経表面抗体スクリーニングを実施し、初期免疫療法(ステロイドパルス[IVMP]・IVIg・血液浄化療法)へ移行する。臨床像は年齢で異なり、乳幼児(4歳以下)では舞踏アテトーゼやジスキネジア、4歳以上の小児・成人では急性発症の異常言動・精神症状・認知機能低下が前景に立つ。HSEの後遺症とサポート HSEは適切なACV治療を行っても予後は楽観できず、生存者の18〜45%に高度な後遺症が残る。その内訳は記憶障害が34〜69%と最多で、次いで人格障害・失語・てんかん・見当識障害・嗅覚障害などがみられる。これらはQOLに甚大な影響を与えるため、認知療法・行動療法・理学療法・作業療法・言語療法を含む多角的なリハビリテーションの継続が望まれる。臨床で急増する水痘・帯状疱疹ウイルス中枢神経感染症(ガイドライン外) 本講演では、神経領域で重要性が増している新たなトピックとして、ガイドライン外である水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)中枢神経感染症についても中嶋氏が補足した。VZV感染は高齢化と免疫抑制薬の普及を背景に実臨床で急増しており、中嶋氏らの自施設における10年間(2013~22年)の解析では、成人の無菌性髄膜炎のうちVZVが約30%を占め、原因が判明した症例の中で最多であった。 診断上のピットフォールとして、VZV中枢神経感染症の約13%は特徴的な皮疹を伴わない(無疹性帯状疱疹、zoster sine herpete)。皮疹がなくとも、激しい頭痛・発熱や神経痛様疼痛があれば躊躇なく髄液PCR(VZV-DNA)を行う必要がある。また70歳以上ではVZV脳炎が増加する一方、50歳以上では頭痛・項部硬直が乏しく診断が遅れやすい。さらにVZVは血管壁に感染して炎症・血管リモデリングを起こすと考えられ、感染後数ヵ月は脳卒中リスクが上昇する。とくに眼部帯状疱疹ではそのリスクが高く(メタ解析でRR 1.91)、発症後6ヵ月間は脳血管イベントを監視する必要がある。すべての臨床医へ:「疑ったらまず治療」―予後を握る初期対応 細菌性髄膜炎、単純ヘルペス脳炎、そしてVZV中枢神経感染症は、いずれも早期診断・早期治療が転帰を決定するTime is Brainの疾患である。中嶋氏は本ガイドラインについて、「これらの疾患を専門とする医師だけでなく、プライマリケアや救急などを担当する多くの医師も鍵を握っています。『疑ったら、検査結果を待たずにまず治療を始める』―細菌性髄膜炎は1時間以内、単純ヘルペス脳炎は6時間以内、という大原則を心に留めていただければと思います。新しい診断ツールや知見を柔軟に活用しつつ、迷ったときに頼れる身近な一冊として、日常診療のそばに置いていただけたら幸いです」と展望を述べた。

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【GET!ザ・トレンド】循環器内科医が救う、筋ジストロフィー患者の予後

はじめに:筋肉の病気の予後は、「心臓」が握っているベッカー型筋ジストロフィー(BMD)は、ジストロフィンタンパク質が完全に欠損するデュシェンヌ型(DMD)とは異なり、機能を保持したタンパク質が一部存在するため、長年その「軽症型」と位置づけられてきた。しかし近年の研究により、遺伝子変異とフェノタイプ(臨床症状)の相関が解明されるにつれ、その極めて多様な臨床像が明らかとなってきている。特筆すべきは、骨格筋症状は軽微であるにもかかわらず、心筋症が先行して重症化する症例が少なくないという事実だ。こうしたBMDの病態解明に、モデルマウス研究や自然歴調査等を通じて尽力している、独立行政法人国立病院機構まつもと医療センターの中村昭則氏に話を伺った。同氏によれば、運動機能が良好なために筋疾患の存在が隠れ、成人後に「原因不明の心不全」として循環器内科を初診するケースがあるという。そして彼らの予後を支える鍵は、骨格筋の評価以上に、循環器内科医による早期の心不全管理にある、と語る。骨格筋症状を追い越す心筋症:「急激な進行」という現実BMD診療において、中村氏が最も警鐘を鳴らすのは、骨格筋症状の影に隠れた心不全リスクである。「過去には、骨格筋の異常が軽微であったにもかかわらず、10~20代という若さで、心不全によってともに帰らぬ人となったご兄弟のBMD患者さんがいました」と中村氏は語る。これは、骨格筋の経過に比して心筋病変の進行が先行した結果だという。運動機能が保たれていることは、決して心臓の安全を保証しない。BMDにおける骨格筋の「軽症感」が、心臓の致命的なリスクを覆い隠す事実は、「極めて重要なピットフォールに他ならない」と中村氏は指摘する。循環器内科医の視点:その「気づき」が、患者の命をつなぎ止める中村氏によれば、BMDの病態スペクトラムは驚くほど広く、そこには循環器内科の先生方にこそ知っていただきたい2つの「心筋先行型」のパターンが存在するという。1つは「運動能力の差」に紛れるケースである。幼少期から「足が遅い」「疲れやすい」といった軽微な骨格筋症状は存在するが、それが病態として認識されず、個人の資質や運動能力の差として処理されてしまうパターンである。成人後、心不全の精密検査をきっかけに、潜在していた骨格筋症状と結びつき、初めてBMDの診断に至る。もう1つは、「心不全」が独走するケースである。明らかな骨格筋障害を認めず、心筋症のみが病態の前面に押し出されるパターンで、身体が良好に動くため、医師も患者も「筋肉の病気」という選択肢を想起しにくい。そのため、「原因不明の心筋症」として治療される中で、ジストロフィン異常症という背景が見落とされ、診断の遅れにつながりやすい。こうした潜在的な症例を早期に捉えるために、原因不明の心不全や心筋肥大を呈する若年男性において、たとえ歩行能力に問題がなくとも、「CK値(クレアチンキナーゼ)」の確認をぜひ検討いただきたい、と中村氏は呼びかける。この1歩が、不可逆的な心筋線維化が進行する前の「適切なタイミング」での介入を可能にするといい、「そのタイミングを掴めるのは、循環器内科の先生方をおいて他にいません」と力を込める。家族を診る視点:母親もまた「心筋症リスク」の当事者である患者を支える家族への配慮も、BMD診療においては極めて重要である。特に見過ごされがちなのが、患者の「介護を担う母親」自身が、加齢とともに心筋症を発現するリスクを抱える当事者であるという点だ。母親が女性ジストロフィン異常症(保因者)である場合、息子(患者)の診断をきっかけに、母親の潜在的な心機能異常にも目を向ける必要がある、と中村氏は指摘する。また、母親は「息子に遺伝させてしまった」という深い心理的葛藤を抱えながら、日々のケアを担っていることが多い。その背景には、単なる筋肉の症状に留まらない複雑な困難も存在する。ジストロフィンは脳内にも発現しているため、患者が学習障害や注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)を合併する場合がある。しかし、「筋ジストロフィーは筋肉だけの病気である」という誤解から、これらが教育現場などで単なる「怠慢」や「本人の性格」として処理されてしまい、患者やその家族が孤立してしまう社会的困難も見受けられるという。「こうした家族全体の負担を理解し、身体的・精神的双方から包括的にケアしていく視点が今、求められています」と中村氏は語る。創薬の最前線:BMD研究がジストロフィン異常症治療の未来を拓くかつて「根本的な治療法がない」とされたBMDの状況は、今、確実に変わりつつある。国内では神経筋疾患患者レジストリ「Remudy(レムディ)」1)や臨床試験ネットワークの整備が加速しており、適切な診断がなされれば、将来的な治験の案内や研究情報へとつながるプラットフォームが整いつつある。現在、世界的には重症型であるDMD(デュシェンヌ型)の治療開発が先行しているが、そこでBMDの精緻な病態解明が果たしている役割は極めて大きい。例えば、DMDの遺伝子治療において鍵となる「機能的なジストロフィンタンパク質の最小構造(マイクロジストロフィン)」などは、軽症BMD患者の遺伝子変異の解析がきっかけで見出され、開発へとつながったものだ。このように、BMDの分子病態から得られる知見は、DMDの治療開発にも不可欠なエビデンスを供給し続けており、ジストロフィン異常症全体の予後を改善するための「最前線」を担っていると言っても過言ではない。また、日本筋ジストロフィー協会2)および同協会内のベッカー型筋ジストロフィー分科会3)といった患者会組織との緊密な連携により、当事者の切実な声を反映した研究開発への理解も深められている。「将来的にBMD特有の治療法が確立され、それが真に効果を発揮するためには、早期診断によって心機能を守り、患者の全身状態を良好に維持しておくことが、我々すべての医師に託された“治療への基盤作り”になります」と中村氏は語る。結びに:診療科の枠を越えBMDを「管理可能な疾患」へBMD診療において最も重要なのは、診療科の枠を越えた連携、とりわけ循環器内科による早期の心保護介入である。「筋肉の病気だから脳神経内科」、「子どもの病気だから小児科」、と完結させるのではなく、特に循環器内科の専門性が介入することで、BMDは初めて「予後を管理可能な疾患」へと進化する。中村氏は「人間対人間として、患者さんならびに家族と信頼関係を築き、診療科の枠を越えシームレスに患者を支え続ける体制こそが重要」と語る。患者さんが生涯を通じて自分らしい生活を全うできるよう、診療科の枠を越えた積極的な関わりと相互協力が今、期待される。(ケアネット 三浦 愛子) 参考 1) 神経筋疾患患者登録Remudy 2) 日本筋ジストロフィー協会 3) ベッカー型筋ジストロフィー分科会

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パーキンソン病患者を支援する遠隔診療への期待/アボット

 アボットは、2025年7月に発売したパーキンソン病(PD)などの治療に使用される脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)の治療機器、充電式脳深部刺激システム「Liberta RC DBSシステム」が、2026(令和8)年の診療報酬改定で「遠隔プログラミング」として新たに算定が追加されたことに寄せ、都内でPDの診療に関するメディアセミナーを開催した。 DBSはジスキネジア(自分の意思に反する身体の動き)などにより日常生活に支障がある患者に対し、前胸部の皮下に植え込んだ刺激装置から脳深部に電気刺激を与えることで、異常な神経信号を中断し、運動症状の改善を図る治療法。DBSの認定医は脳神経外科医の約3%程度であり、普及が進まず、遠方などの患者の通院負荷などが課題とされていた。今回のDBSの遠隔プログラミングに対する診療報酬算定追加を機に、DBSへのアクセス向上が期待される。 セミナーでは、「パーキンソン病治療の新たなフェーズ:令和8年診療報酬改定で変わる脳深部刺激療法」をテーマに、PDの診療の概要、DBS遠隔プログラミングが今後のPDの治療へもたらすメリットや臨床での使用知見、患者にもたらされる恩恵などが講演された。パーキンソン病の治療での課題は克服できるか 「失われた動きを取り戻す治療を目指して:パーキンソン病と向き合う最新テクノロジー」をテーマに服部 信孝氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 特任教授)が、PDの病態と診療の現状を講演した。 PDは、国際パーキンソン病・運動障害学会(MDS)の診断基準により診断される。絶対条件としては、「パーキソニズムがある」ことであり、支持基準として「ドパミン補充療法が有効」「レボドパ誘発性ジスキネジア」「静止時振戦」「嗅覚障害とMIBG心筋シンチ異常」の中で2つ満たすと確定診断となる。 患者数は増加しており、とくに加齢はPDのリスク因子の1つであり、加齢とともに患者数は増えていく。2015年時点で世界には690万人の患者がいるが、2040年には1,400万人になると予測されている。 PDの症状は、うつ、認知症、睡眠障害、パーキソニズム、嗅覚障害、自律神経障害、便秘など多岐にわたり、脳だけの疾患ではなく、全身疾患であると認識される。 PDの治療では、ドパミン補充療法、ドパミンアゴニスト、ドパミン放出促進薬などさまざまな治療薬がある。多くの治療薬が使える一方で、 Lドパ製剤では、大量に内服するとジスキネジアの出現、進行すると効果の時間が短くなるウェアリング・オフが課題となってくる。 また、薬物療法以外では、DBSの手術、神経栄養因子補充療法、リハビリテーション療法などもある。DBSでは、ジスキネジアをターゲットとする淡蒼球内節と薬物量減量をターゲットとする視床下核(STN)への手術がある。とくにSTNへのDBSが多く施行され、10年生存率は77%と高く、その長期治療成果が報告されている1)。 こうした手術の適応要件としては、PDと診断されていること、レボドパ反応が良好であること、適切かつ十分な内服治療を行っても、ジスキネジアやウェアリング・オフなど日内変動が大きいこと、患者本人や介護者がデバイス操作に精通できること、各治療の外科的禁忌事項(脳病変、胃瘻増設が可能かどうかなど)がないことが条件とされる。 今後の治療法では、2026年中盤以降に条件及び期限付承認でiPS治療が開始される。これは、iPS細胞をドーパミン放出神経細胞に変化させ、患者の脳に注射。ドーパミン分泌が増えて症状が改善することを目指す治療である。 おわりに服部氏は「iPS治療で治療薬不要の患者も出てくる。その一方でDBSでも治療薬不要の人もいるので、どちらが適切か、その見極めが今後重要となる」と語り、講演を終えた。患者と医師をつなぐDBSの遠隔プログラミングの有用性 「脳深部刺激療法の重要性」をテーマに波田野 琢氏(順天堂大学附属順天堂医院 脳神経内科 主任教授)が、薬物療法の限界とDBS導入のポイントを講演した。 先の服部氏の講演内容をたどりつつ、PDの治療の中心はLドパ製剤であり、患者からの薬剤の効果の話題ではLドパ製剤であることが多いという。Lドパ製剤は、PDの症状改善や生命予後の延長など恩恵もある一方で、患者の日内変動で予測不能なオフ、突然のオフ、無効化、投与終末リバウンド、オン・オフ現象など治療には限界があることが知られている。 こうした課題に対しDBSがあり、“INTREPID Study”によると登録されたPD患者313例のうち、196例がDBSを受け、191例がランダムに割り付けられた。中間解析に含まれた160例のうち、121例がアクティブ群に、39例がコントロール群に割り付けられ、盲検期間3ヵ月(その後全例open-labelへ)の観察を行った。その結果、DBSは難しいジスキネジアのないオン時間を延長することが判明した2)。 しかし、DBSの普及は進んでいないと波田野氏は現状を指摘する。その理由として適応となる運動機能障害の患者数、患者家族の有無、専門の医療機関の数・地域差・専門医の数など課題があるという。こうした課題、とくに専門医や医療機関の地域偏在などの差を埋めるものとして、遠隔プログラミングによる患者フォローが期待されている。 遠隔診療による自験例として、手術後遠隔診療をした38例についてアンケート調査を行ったところ、患者の回答として「病院へ行く負担が減った」「費用が節約できた」「医師とのコミュニケーションが増えた」という声があった。また、医師の回答として「患者とのコミュニケーションが増えた」「患者の不安を取り除けた」など双方によい結果だった3)。 同時に進行期PD患者のQOLを上げるためには、かかりつけの専門医、専門の看護師、薬剤師、理学療法士を巻き込んだ専門的なチーム治療が必要だと提言を行った。おわりに波田野氏は、「こうした遠隔診療が導入されることで、1人でも多くの患者の治療障壁が取り除かれることに期待したい」と抱負を述べ、講演を終えた。PDへの遠隔プログラムの期待 「DBS 遠隔プログラミングの実際」をテーマに梅村 淳氏(順天堂大学附属順天堂医院 脳神経外科運動障害疾患病態研究・治療講座 教授)が、遠隔プログラミングの実際や見えてきた課題について講演した。 PDにおけるDBSは、脳への電気刺激により神経回路の機能を調整してパーキンソン症状を改善させることにある。最初に外科手術を行い、術後は薬物療法とともに相補的に使用される。DBSでは症状に合わせて刺激の調整を行うことで症状を緩和する。その際に電気の強弱を合わせることを「プログラミング」といい、電極の左右で調整を変えることができる。 近年では遠隔プログラミングができるDBSデバイスも登場し、遠隔プログラミングでは、患者とビデオチャットができるスマホやタブレット端末を通じて、患者と医師が会話しながら調整する。 実際、DBSを受けたPD患者を対象とした無作為化多施設共同試験では、遠隔プログラミングは院内プログラミング(対面)のみの場合と比較し、臨床的改善までの期間を有意に短縮し、有害事象もないことが報告されている4)。 遠隔プログラミングは以前、医師のボランティアで行われていたが、今回の診療報酬改定で保険点数がついたことで拡大することが期待されている。その一方で、現状の課題として遠隔診療では神経学的診察に限界があること、通信環境やデバイスの操作能力の差があること、緊急時の対応、適応患者の選定などがあると梅村氏は指摘する。 また、梅村氏は、遠隔プログラミングの将来的な期待として以下の7項目を掲げる。1)通院負担の軽減とアクセス改善2)患者ごとの生活状況に合わせた柔軟な調整3)専門医療の地域格差の是正4)緊急時・副作用発現時の迅速な対応5)家族・介護者を含めた治療参加の促進6)医療資源の効率化7)将来的な「在宅型・個別化DBS管理」への発展 最後に梅村氏は、「DBS管理によりPDの治療は継続的に個別化・患者中心型に変わっていく可能性がある」と展望を語り、講演を終えた。

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6月5日 ロコモ予防の日【今日は何の日?】

【6月5日 ロコモ予防の日】〔由来〕「ロ(6)コ(5)モ」と「ろ(6)うご(5)」(老後)と読む語呂合わせから、ロコモティブ・シンドロームの認知度を高め、その予防に関する正しい理解を広めることを目的に「ロコモティブ・シンドローム予防推進委員会」が制定。関連コンテンツ医療・介護施設従事者のための転倒・転落事故へのアプローチこれから、ロコモ対策、何をやる(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)7つの“ロコモチェック”(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)初めて治療ゴールを示した「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン」変形性膝関節症、膝装具の追加で患者報告アウトカムが改善/BMJ

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骨折・転倒予防、CaとビタミンDに効果認めず~メタ解析/BMJ

 これまでの系統的レビューでは、カルシウムおよびビタミンDは、単独では骨折の減少をもたらさず、これらを併用しても結果に一貫性はなく、転倒に対するビタミンDの効果にもばらつきがみられる。それにもかかわらず、ガイドラインなどは筋骨格系の健康維持にビタミンD(±カルシウム)の補充を推奨し、2000年代初頭以降、これらの処方量は大幅に増加しているという。カナダ・CIUSSS du Nord-de-l’Ile-de-MontrealのOlivier Masse氏らは、骨折および転倒の予防において、カルシウム、ビタミンD、またはこれらを併用した栄養補充製品の有益性はほとんど、あるいはまったく認められないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年5月20日号で報告された。骨折・転倒の予防効果をメタ解析で評価 研究グループは、成人における骨折および転倒に対する、カルシウム、ビタミンD、またはこれらを併用した栄養補充製品の効果を評価する目的で、関連文献の系統的レビューとメタ解析を行った(特定の助成は受けていない)。 対象は、骨粗鬆症の薬物治療を受けていない成人(18歳以上)において、骨折または転倒の予防法として、カルシウム、ビタミンD、またはこれらの併用補充製品を、プラセボまたは無治療と比較した無作為化比較試験とした。全骨折の予防効果はほとんどない 69件の試験(参加者15万3,902例)を解析の対象とした。60試験(87%)は地域在住の高齢者のみ、26試験(38%)は女性のみを対象とし、50試験(72%)の参加者は骨折や転倒のリスクが高いグループには属していなかった。全体の年齢中央値は71.2歳(四分位範囲:63.8~76.9)だった。 主要アウトカムである全骨折に関して、カルシウム補充製品(11試験、参加者9,067例、リスク比:0.91[95%信頼区間[CI]:0.81~1.01]、エビデンスの確実性:中)や、ビタミンD補充製品(36試験、9万2,415例、1.00[95%CI:0.95~1.06]、高)、併用栄養補充製品(15試験、5万1,126例、0.91[95%CI:0.84~0.99]、高)のいずれにおいても、予防効果はほとんど、あるいはまったく認めなかった。 大腿骨近位部骨折、非脊椎骨折、脊椎骨折についても、3つの補充製品とも、ほとんど予防効果はなかった。転倒の予防にも効果はない、他の介入法の可能性を 転倒の予防に関しても、カルシウム補充製品(2試験、参加者2,966例、リスク比:0.91[95%CI:0.78~1.06]、エビデンスの確実性:中)、ビタミンD補充製品(32試験、6万5,234例、1.01[95%CI:0.98~1.04]、高)、併用栄養補充製品(10試験、1万1,068例、0.92[95%CI:0.84~1.00]、中)のすべてで、予防効果はみられなかった。 また、複数のサブグループ解析により、異質性に関して広範な検討を行ったが、上記の知見の頑健性は保持されていた。 一方、高リスク例や在宅看護を要する患者については、カルシウム単独療法および併用補充療法の多くのアウトカムに関して、エビデンスは十分ではなかった。 著者は、「これらの知見は、骨折や転倒の予防を目的とするカルシウム、ビタミンD、これらを併用した栄養補充製品の日常的な摂取を支持しない」としている。また、「本研究の結果は、特定の骨疾患を有する患者、あるいは骨粗鬆症の薬物治療や、長期にわたりコルチコステロイドを使用している患者には一般化できない可能性がある」「今後は、骨折や転倒の予防に、これら以外の介入法の評価が行われる可能性があり、検討が期待される分野として、食事療法、医薬品の再評価、教育や行動変容へのアプローチ、多面的な介入、および転倒予防のためのデジタルツールなどが挙げられる」と指摘している。

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医師のランチ事情、ベテランは「時短」、若手は「節約」を優先/医師1,000人アンケート

 日々の外来や手術、急患対応などに追われる医師の勤務環境において、「昼食(ランチ)」は貴重な休息とエネルギー補給の時間である。しかし、急な呼び出しや処置の延長など、業務の都合に左右されやすい。今回、CareNet.comでは「医師のランチ事情」と題したアンケートを実施し、勤務日の昼食時間や内容、仕事による中断の頻度、ランチ選びの優先事項などを聞いた。対象はケアネット会員医師1,012人で、20代以上の各年代層から回答を得た。上の世代ほど短時間ランチ、外科系はさらにタイト Q1では「勤務日の昼食休憩(純粋に食事に充てられる時間)」を聞いた。全体では「15分〜30分未満」が36%で最多、次いで「5分〜15分未満」が30%、「30分~1時間未満」が20%と続く。「5分未満」と回答した医師は6%を占めていた。全体の約3分の1の医師が15分以内で昼食を取っていることがわかった。 興味深いのは、年代が上がるにつれて昼食時間がさらに短縮化する傾向が見られる点だ。15分未満(「5分未満」と「5〜15分未満」の合計)で昼食を済ませる割合は、20代で27%にとどまるのに対し、30代では35%、40代では38%、50代では36%、70代以上では38%へと上昇する。20代の若手医師においては「15分〜30分未満」が49%と約半数を占めており、上の世代に比べれば、一定の食事時間を確保できている。 また、診療科系統別では、外科系医師において「5分〜15分未満」が33%、「5分未満」が8%となり、内科系(それぞれ29%、5%)を上回った。診療科の特性が、休憩時間の逼迫、あるいは「早食い」の習慣化につながっている可能性が推察される。過半数の医師が定期的にランチを「中断」、30代は7割 Q2では「昼食中、仕事(呼び出しや相談)で『中断』される頻度」を聞いた。全体では「ほとんどない」が41%である一方、「ほぼ毎日」が7%、「週に2~3回程度」が21%、「週に1回程度」が28%となり、全体の56%と過半数の医師がランチを定期的に中断されていることがわかった。 この中断頻度は、年代や病床数によって差が見られる。「ほぼ毎日」「週に2~3回程度」「週に1回程度」の合計で見ると、年代別では、20代・30代・40代では6割を超える。とくに30代では70%に達した。また、50代では「ほぼ毎日」中断される人が10%であった。病床数別で見ると、20~99床の病院では「ほぼ毎日」「週に2~3回程度」「週に1回程度」の合計が66%、200床以上の大規模病院では65%と高くなっている。定番は「お弁当」と「院内食堂」、過半数が予算500円未満 Q3で「最も頻度が高い昼食内容」を尋ねたところ、最も多かったのは「自作・家族作の弁当」で33%、次いで「院内食堂」が26%、「コンビニ・スーパー・売店で購入」が23%と続いた。年代別では、20代と50代でお弁当の持参率が高く(それぞれ43%、41%)、院内食堂の利用率が低めであった(それぞれ16%、18%)。 予算(Q5)に関しては、「500〜1,000円未満」が37%で最多、次いで「500円未満」が32%、「0円(弁当持参、病院支給・検食など)」が24%となり、1,000円未満で収めている医師が9割を超えた。過半数が昼食の予算を500円未満に抑えていた。若手は「コスト」、ベテラン層は「栄養バランス」を最優先 Q4で「昼食を選ぶ際、最も優先していること」を聞いた。全体では「栄養バランス」が34%で最多、次いで「スピード」が27%、「コスト」が21%となった。 これを年代別で比較すると、明確な意識のグラデーションが見られる。20代では「コスト」を最優先する割合が46%と半数近くに達しているのに対し、年齢が上がるにつれてその割合は低下する。20代の昼食代の予算は0円が32%に上るなど、若手層の強い節約志向がお弁当持参という行動に直結していることが読み取れる。 対照的に、同じくお弁当持参率の高い50代では、昼食代を0円に抑えている割合が29%を占めるものの、優先事項で「コスト」を挙げる人は17%にとどまる。40代以上のベテラン層では「栄養バランス」を重視する割合は上昇し、70代以上では43%と全世代で最も高くなる。ベテラン層におけるお弁当の持参や低予算は、節約志向というよりも、健康への配慮や、自由回答にもみられた「お弁当を作ってくれるパートナーへの感謝」といった要因が背景にあると考えられる。若手のコスト重視と、ベテラン層の健康志向へのシフトが対照的に表れる結果となった。ランチに関する医師たちの本音 Q6の自由回答では、限られた時間の中で食事をやりくりする医師たちの切実な日常やこだわりが語られた。以下に主なコメントを抜粋する。【時間や業務による制約】・食事中呼ばれたときに中断できるもの、後から食べられるものを選んで食べております(50代、呼吸器内科)・研修医時代、15分で食べろと言われて驚いた(50代、精神科)・30代前半はとくに忙しかったので、ポケットに入れておいたカロリーメイトでしたね(60代、耳鼻咽喉科)・たまにカップ麺に湯を注いだ後に呼ばれることがあり、これは本当につらい(40代、臨床研修医)・夕方時間外になってからの昼食も多く、生活リズムが安定しません(50代、整形外科)・患者に指導する資格はないような、ジャンクで偏った食事しか取っていません(60代、内科)・食べようとすると、インスタント・コンビニに限定されるので、食べていない(60代、小児科)【調達手段やコスト、工夫など】・今の病院に勤務するようになり、職員食堂の素晴らしさに感動しています。安くて美味しくて今のところまったく文句ありません(40代、麻酔科)・病院で出してくれて、以前の弁当を買っていた時より体調がいい(30代、精神科)・院内食堂の値段、メニューなどがどんどん改悪されている(60代、内科)・物価高で食費がかさむ(40代、膠原病・リウマチ科)・院内にコンビニが入っているのですが、昨今の昼食が高い。ワンコインでは済まない1,000円弱になってしまった。おにぎりが高い(50代、心療内科)・妻がお弁当を作ってくれるようになって、健康と感じることが多くなった。感謝です(30代、内科)・毎週末、冷凍弁当を作っています(30代、リハビリテーション科)・見栄えが気にならないスープジャーなので、冷ご飯でも残り物でもなんでも入れられます(40代、小児科)・コンビニやデリバリーで無駄なお金を払いたくないので、普段からオートミールなどを医局に置いて支出を減らしている(30代、糖尿病・代謝・内分泌内科)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。医師のランチ事情/医師1,000人アンケート

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英語で「四十肩」ってどう言う?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第61回

医学用語紹介:四十肩 adhesive capsulitis日本語の「四十肩」「五十肩」は年齢に由来する俗称ですが、英語でそのまま“40-year-old shoulder”と言っても「40歳の肩」という意味にしかならないため、相手を困惑させてしまうでしょう。一方で、正式な診断名であるadhesive capsulitis(癒着性関節包炎)だと専門的すぎて、一般の方にはまず伝わりません。では、どのように伝えるのがよいでしょうか?講師紹介

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プレハビリテーションにより術後合併症が減少

 手術前に、運動や栄養管理をベースにしたプレハビリテーションを実施することで、術後合併症のリスクが大幅に低下することが、新たな研究で明らかになった。そのようなプレハビリテーションを実施した患者では、術後の入院期間も半日程度短縮したという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デヴィッド・ゲフィン医科大学のJustine Lee氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Surgeons」に4月29日掲載された。Lee氏は、「今回の結果は、特に合併症リスクの高い患者や、手術前に追加のサポートが有益と考えられる患者に対するプレハビリテーションプログラムの有用性を裏付けるものだ」と述べている。 運動や栄養、心理的サポートを通じて手術に備えるプログラムであるプレハビリテーションは、比較的新しい医学的概念である。近年、プレハビリテーションプログラムを導入する医療機関は増加しているという。 今回の研究では、論文データベースを用いて、手術前の運動や栄養管理をベースにしたプレハビリテーションプログラムに関する研究を検索し、基準を満たした23件のランダム化比較試験(参加者総数2,182人)を対象に、その効果が検討された。主要評価項目は、入院期間(LOS)と術後合併症の発生とされた。23件の試験のうち、18件は運動、5件は栄養管理をベースにしたプレハビリテーションに焦点を当てていた。運動ベースのプログラムは複数の手術領域で評価されていたが、特に整形外科手術で多く用いられていた(44.4%)。一方、栄養管理ベースのプログラムは、消化器外科および心臓手術で実施される傾向が認められた。 解析の結果、運動または栄養管理ベースのプレハビリテーションの実施により、標準ケアと比較して、術後合併症は有意に減少し(オッズ比0.52、95%信頼区間0.35~0.78、P<0.002)、LOSは平均0.44日短縮した(平均差−0.44日、95%信頼区間−0.78~−0.11、P=0.01)。介入内容別に検討すると、運動ベースのプレハビリテーションでは合併症リスクの低下が顕著であった(オッズ比0.45、95%信頼区間0.28~0.74、P<0.001)。一方、栄養管理ベースのプレハビリテーションは運動ベースのプレハビリテーションよりもLOSの短縮効果が大きかった(栄養:平均差−1.09日、95%信頼区間−1.72~−0.47、運動:平均差−0.21日、同−0.51~0.09、P=0.01)。運動ベースのプレハビリテーションでは、生活の質(QOL)の指標にも改善が認められた。 筆頭著者であるUCLAデヴィッド・ゲフィン医科大学のCatherine Cascavita氏は、「栄養または運動をベースにしたいずれのプレハビリテーションも術後回復を改善し得るが、それぞれ異なる利点を持つ可能性がある。患者ごと、また患者が受ける手術の種類に適したプログラムを明らかにするためには、さらなる研究が必要だ」と述べている。 研究グループは、「今後の研究は、プロトコルの標準化や費用・保険適用といった障壁の解消を通じて、プレハビリテーションをより広く普及させることに焦点を当てる必要がある」としている。Lee氏は、「手術前の段階で術後転帰をどのように改善できるかについては、まだ理解が始まったばかりだ」と述べている。

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ライフスタイル関連の認知症危険因子――Lancetの14の危険因子を読み解く(その4)【外来で役立つ!認知症Topics】第41回

前回は、病理の進行を直接抑える「表街道」と、脳の予備能を高める「援護射撃」という視点で各因子を紐解いてきた。「Lancetの14の危険因子を読み解く」シリーズの完結編となる今回は、日常の選択が脳の未来を左右する6つの因子を整理する。脳の「炎症」を助長する因子今回取り上げる6つの因子のうち、肥満、喫煙、過度な飲酒、そして大気汚染の4つは、主に神経炎症や酸化ストレスを介して認知症の悪化を加速させる危険因子である。肥満:伝統的な食事で予防中年期の肥満は、認知症のリスクを最大3倍も増加させる。肥満の原因は、高カロリーやジャンクフードといった不適切な食生活、運動不足、睡眠不足、慢性ストレスなどである。脳への悪影響のメカニズムとして、運動不足やストレスに加え、睡眠時無呼吸症候群に伴う低酸素刺激、さらにはミクログリア炎症などの脳内炎症との関連も注目されている。計画的な体重減少は認知機能を改善させる。減量には食事や運動が基本だが、最近ではセマグルチドなど、いわゆる「痩せ薬」の有用性も注目されている。ただし、筋肉喪失と骨の脆弱化を防ぐために、年間3~4kg程度の緩やかな体重減少に留めるのが望ましい。ここで興味深いデータがある。先進諸国の肥満率を比較すると、アメリカが42.9%と最高であるのに対し、日本は最低の4.9%というものである1)。その背景には、伝統的な食生活と活動的なライフスタイルが指摘されている。前者は、日本食が地中海食と同様に生活習慣病予防食である事と関連するだろう。後者については勤勉を尊ぶ日本人の伝統的な価値観が関わっているのかもしれない。喫煙:禁煙5年でリスクをリセット今現在の喫煙者は非喫煙者に比べて、認知症リスクが30~50%高い。やはり喫煙は「やめるしかない」のである。以前からCOPD予防の文脈で、禁煙すれば呼吸器系がクリーニングされると知られていた。認知症に関しても、禁煙の効果を示す報告がある。印象的なのは、禁煙の5~7年以内に、吸わない者と同程度まで認知症のリスクが低下するという報告だ2)。なお禁煙による体重の増加には留意したい。禁煙しても体重が増加すればリスク低減効果は相殺されてしまう。治療では、薬理学的治療と行動療法が組み合わされる。最近では電子タバコが良いとも言われるが、実は酸化ストレスと脳の慢性炎症をもたらす点では、従来のタバコとあまり変わらない。過度な飲酒:不定期の大量飲酒に注意飲酒については適切な基準の把握が欠かせない。純アルコール10g (ビールで200mL 日本酒で0.5合、焼酎で40mL)を1単位とした場合、1週間に14単位を超える飲酒は認知症リスクを大幅に増加させる。飲酒の安全基準には男女差があり、男性は1日2単位、女性では1日1単位である。過度の飲酒は、記憶関連の大脳領域を萎縮させ、脳内のメッセージ伝達能力を障害する。さらに高血圧や心臓病、脳卒中のリスクを増加させる。注意すべきは、定期的な飲酒以上に、不定期に大量飲酒するほうが脳への悪影響が大きいことである。飲酒の認知機能への影響について、興味深い大規模なコホート研究がある3)。軽度~中等度の継続的な飲酒者は、ずっと非飲酒者より認知症のリスクが低減する。さらに、飲酒量を多量から中等量へと節酒することで、ずっと飲まない者に比べて認知症のリスクがさらに低下するという。もっとも、認知症予防のために、わざわざ飲酒を開始すべきではないことは言うまでもない。大気汚染:PM2.5とレビー小体型認知症大気汚染、とくにPM2.5は、認知症の危険因子だと認識される。それが脳に到達するのに3つの経路が考えられる。まず肺から血液吸収され脳に至るもの、次に鼻から直接脳に到達するもの、そして血流を通して脳に至って血液脳関門(BBB)を破壊するものである。PM2.5は高齢者にとってとくに危険だが、この濃度は交通量の多い道路周辺で最高である。しかし主要道路から100メートル離れるごとに曝露量は10~15%軽減し、300メートルで30~40%低減する。大通りを避けて住宅街の裏道の利用が望ましい。また室内で空気清浄機を活用すると、PM2.5を半分以下にできる。ところでPM2.5について斬新な最近の報告がある5)。PM2.5がレビー小体型認知症(DLB)の病理学的特徴であるαシヌクレインの異常な折り畳みを引き起こし、PM2.5の曝露量が多いとDLBやパーキンソン病発症リスクが高まるという。脳への「インプット」を阻害する因子残る2つの孤独と視力障害は、脳へのインプットを阻害する因子であり、これらへの対策は認知予備能を高める側面が強い。孤独:脳の萎縮を防ぐ「社会との接点」孤独とは主観的な感覚であり、社会的孤立は交流のない状態だが、いずれも認知機能低下と強く関連する。孤独感は全認知症リスクを31%増加させる。アルツハイマー病で14%、血管性認知症で17%、軽度認知障害で12%の増加をもたらす。また社会的孤立は孤独とは独立に26~50%の増加をもたらす。孤独感が単なる「気持ちの持ちよう」というレベルではないことを示す脳画像研究がある4)。前頭前野背外側部などの大脳部位は、共感や思いやりとの関連が知られているが、これらの脳部位の萎縮と、孤独が相関するという。つまり、共感・思いやりと孤独は表裏一体をなす脳活動なのだろう。対策としては、共通の関心事に基づくグループ参加が最も効果的だとされる。筆者が経験的に良いと思うのは、ペット(ペットロボットも含む)、趣味(読書、ガーデニング、手作業)のグループを探すこと。あるいは図書館や学校(登校・放課後の見守り)などのボランティア、地域で日常的に行われているラジオ体操などもいいだろう。視力低下:認知負荷を強いる「見えにくさ」の罠視力障害のある高齢者は正常視力の人と比べ、認知症発症リスクが1.5~2.3倍高い。想定されるメカニズムとして、視覚障害により脳への感覚入力が減少し、視覚処理領域の神経萎縮が起こり、脳刺激の減少、神経細胞の消失と連鎖していくことが考えられる。また視力障害と認知低下は、基礎的なプロセスに共通性があるかもしれない。たとえば脳血管障害、アミロイドβ蓄積、慢性炎症や神経変性である。さらに、視力低下により他の認知的リソースを使って情報を得なければならないため、本来の認知能力がその分減るとする「認知負荷仮説」も考えられる。目というと視力と考えがちだが、最近では「コントラスト感度」、つまり明暗を判別する能力が重要だとされる6)。たとえば夜間の活動には、高いコントラスト感度が必要だ。また照度が低い状態や、霧、眩しさのある状況ではその感度が鈍り、転倒・転落や交通事故のリスクが高まる。視力障害への対応は、白内障手術や眼鏡処方、低視力リハビリテーションが代表的である。これらにより、臨床リスクを30%低減できる可能性がある。今回をもって「Lancetの14の危険因子を読み解く」シリーズは終了となる。繰り返しになるが、この危険因子とはアルツハイマー病のみならず、すべての認知症に対するものである。また危険因子は、古典的なアミロイド仮説に関連するもののみならず、認知予備能仮説のように最大限に脳を守る・活用していくという方向に大別される。 1) WorldAtlas. The Most Obese Countries In The World In 2024. 2) Chen H, et al. Smoking Cessation, Weight Change, and Risk of Dementia: A Prospective Cohort Study. medRxiv. 2025 Nov 6. [preprint] 3) Jeon KH, et al. Changes in Alcohol Consumption and Risk of Dementia in a Nationwide Cohort in South Korea. JAMA Netw Open. 2023;6:e2254771. 4) Lam JA, et al. Neurobiology of loneliness: a systematic review. Neuropsychopharmacology. 2021;46:1873-1887. 5) Zhang X, et al. Lewy body dementia promotion by air pollutants. Science. 2025;389:eadu4132. 6) Risacher SL, et al. Visual contrast sensitivity in Alzheimer's disease, mild cognitive impairment, and older adults with cognitive complaints. Neurobiol Aging. 2013;34:1133-1144.

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