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世界的に高齢化が急速に進む中、医療資源に乏しい地域に居住する高齢者における効果的な転倒予防戦略のエビデンスは十分ではないとされる。中国・Harbin Medical UniversityのJunyi Peng氏らは、同国農村部の転倒リスクがある高齢者において、プライマリヘルスケアのシステムに組み込まれた転倒予防プログラムの有効性を評価する、12ヵ月間の実践的な非盲検クラスター無作為化並行群間比較試験「FAMILY試験」を実施し、転倒のリスクが有意に低減したことを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年8月25日号で報告された。128の農村で、バランス・機能訓練の転倒予防効果を評価 本研究は、2023年9月19日~11月15日に中国の4省128農村で被験者を登録して行われた(Harbin Medical Universityなどの助成を受けた)。これらの農村を、プライマリヘルスケアのシステムに統合された転倒予防介入として、参加者にバランス・機能訓練と地域参加型の健康教育を行う群(介入群)、または地域の積極的な関与がない通常ケアとして健康教育のみを行う群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 解析には、年齢60歳以上で、過去12ヵ月間に少なくとも1回の転倒を経験、または転倒の懸念があると自己報告した2,610例(介入群[64農村]1,311例、対照群[64農村]1,299例)が含まれた。平均追跡期間は、介入群358.4(SD 31.5)日、対照群357.7(31.1)日であった。ベースラインの参加者全体の年齢中央値は70.0歳(四分位範囲:66.4~74.2)で、1,553例(59.5%)が女性だった。1年1回以上の転倒報告が有意に少ない 主要アウトカムである、介入後12ヵ月間に少なくとも1回の転倒を報告した参加者の割合は、対照群が38.3%(497/1,298例)であったのに対し、介入群は29.7%(388/1,308例)と有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.67[95%信頼区間[CI]:0.48~0.91、p=0.01)。 6つの副次アウトカムのうち、次の5つは対照群に比べ介入群で有意に良好であった。(1)1人年当たりの平均転倒件数:介入群0.8(SD 2.4)件vs.対照群1.4(3.5)件、率比(RR):0.66(95%CI:0.46~0.94)、p=0.02 (2)転倒による身体の損傷:15.2%vs.21.6%、OR:0.65(95%CI:0.48~0.88)、p=0.005 (3)30秒椅子立ち上がりテスト(CST:≦12回で転倒リスク上昇):10.4(SD 3.8)回vs.9.9(4.0)回、RR:1.06(1.02~1.09)、p=0.003 (4)4段階バランステスト(FSBT:徐々に難しくなる4つの姿勢をそれぞれ10秒ずつ保持。臨床的に意義のある最小差[MCID]の設定はない)のすべてを完遂した参加者の割合:33.7%vs.26.5%、OR:1.49(95%CI:1.20~1.84)、p<0.001 (5)QOL(平均EQ-5D-5Lスコア):0.89(SD 0.19)点vs.0.85(0.22)点、β:0.03(95%CI:0.02~0.05)、p<0.001 ただし、(3)30秒CSTは、MCID(2回)を満たさなかった。(5)QOL(平均EQ-5D-5Lスコア)は、高齢者の転倒予防のMCID(0.03点)を満たした。TUGテストには差がない もう1つの副次アウトカムであるTimed Up and Go(TUG)テスト(椅子から立ち上がって10フィート[3メートル]歩き、向き直って椅子に戻り座る一連の動作。所要時間≧13.5秒で転倒リスク上昇)では、機能的移動能力を評価した。平均所要時間は、介入群13.3(SD 4.6)秒、対照群13.2(5.6)秒(β:0.18[95%CI:-0.26~0.62]、p=0.42)であり、両群間に差を認めなかった(MCIDは2秒の短縮)。 著者は、「プライマリヘルスケアシステムへの転倒予防プログラムの統合が、中国農村部の高齢者の自己報告による転倒のリスクを有意に低減することが明らかとなった」「このバランス訓練と機能訓練、さらに地域参加型の健康教育から成る介入は、人口の高齢化と医療資源の制約の両方に直面する低・中所得国で拡大する可能性がある」としている。