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脊髄性筋萎縮症治療薬の開発最前線

長らく治療薬のなかった脊髄性筋萎縮症(SMA)だが、2017年に日本初のアンチセンス核酸医薬であるヌシネルセン(商標名:スピンラザ)が登場して状況は一変した。SMAは、運動ニューロンの正常機能維持に必要なSMNタンパクをコードするSMN1遺伝子の変異に起因するが、ヌシネルセンはこの変異SMN1遺伝子のmRNA前駆体に作用し、正常なmRNAを産生する。遅発型SMA小児126例を対象とした第III相試験 " CHERISH " では、複数回投与により、偽手技群に比べ、15カ月後の運動機能(HFMSEスコア評価)を有意に改善した [Mercuri E et al. N Engl J Med. 2018; 378: 625] 。現在、さまざまな年齢層のSMA例を対象に、高用量ヌシネルセンによる運動機能改善作用を、低用量と比較するランダム化試験 "DEVOTE" が計画され、2月末には患者登録が始まる予定だ(NCT04089566)。わが国ではヌシネルセンを追いかける形となったのが、オナセムノジーン・アベパルボベック(AVXS-101、商標名:ゾルゲンスマ)である(米国では初のSMA治療薬)。SMN1のDNA変異部を除去し、正常DNAを導入する薬剤であるため、1回の投与で治療が完了すると考えられている。I 型SMAの15例を対象とした観察研究 "STARTS"では、単回投与により治療域に達した12例における20カ月後の、永続的補助換気を要しない生存率は100%であり、ヒストリック・コホートの8%を大きく上回った [Mendell JR et al. N Engl J Med. 2017; 377: 1713] 。2019年には4年間観察結果が米国神経学会で報告され、追加観察に同意した10例全例が、永続的補助換気なしで生存していた。同学会では、II 型SMAにおいても、同剤単回投与による運動機能改善が認められたとする、31例を対象とした第 I 相試験 "STRONG"も報告されている(NCT03381729)。一方、経口摂取が可能なリスジプラムは、SMN2のスプライシングを修飾し、正常なSMNタンパクの産生を増加させる。2019年11月には、II型、III型SMA例において、リスプラジム1年服用による運動機能改善がプラセボを有意に上回るとする、第II相試験 "SUNFISH" (NCT02908685)の結果が製造社により公表された。このデータをもとに申請の予定だとされる。

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術後せん妄予防に対するメラトニン~メタ解析

 外科の高齢患者は、術後せん妄発症リスクが高い。せん妄の予防には、非薬理学的介入が推奨されるが、せん妄の発症を減少させる確固たるエビデンスを有する薬剤は、今のところない。米国・アリゾナ大学のAshley M. Campbell氏らは、周術期のメラトニンが、外科手術を受けた高齢患者のせん妄発症率を低下させるかについて評価を行った。BMC Geriatrics誌2019年10月16日号の報告。 1990年1月~2017年10月に英語で公表された文献を、PubMed/Medline、Embase、PsycINFO、CINAHLおよびリファレンスより検索した。2人の独立したレビューアーが、タイトルおよびアブストラクトをスクリーニングし、コンセンサス生成とバイアス評価を含む文献全文レビューを行い、データを抽出した。術後入院患者(平均年齢50歳以上)のせん妄を予防するためにメラトニンまたはラメルテオンを使用し、その結果を報告した研究は組み入れ対象とした。固定効果モデルを用いてデータをプールし、フォレストプロットを生成し、せん妄発症率のサマリーオッズ比を算出した。不均一性は、Cochran's Q値およびI2値を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・335件をスクリーニングし、定性分析に6件、メタ解析に6件(1,155例)の研究を抽出した。・対象研究の患者平均年齢は、59~84歳の範囲であった。・介入群には、心臓胸部、整形外科、肝臓の手術の前夜または手術当日から1~9日間、メラトニンまたはラメルテオンを2~8mg/日投与していた。・せん妄の発症率は、介入群で0~30%、対照群で4~33%であり、メラトニン群で有意な減少が認められた。メタ解析のサマリーエフェクトによるオッズ比は0.63(95%CI:0.46~0.87、Cochran's Q=0.006、=72.1%)であった。・1つの研究を分析より削除すると、全体のオッズ比が0.310(95%CI:0.19~0.50)に減少し、不均一性も減少した(Cochran's Q=0.798、I2=0.000)。 著者らは「対象研究において、周術期のメラトニンは、高齢患者のせん妄の発症率を低下させることが示唆された。最適な投与量は明らかではないが、メラトニンおよびメラトニン受容体アゴニストの潜在的なベネフィットにより、外科手術を受けた高齢患者のせん妄予防に使用するための選択肢となりうる可能性がある」としている。

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第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第13回 糖尿病合併症の管理、高齢者では?高齢糖尿病患者は罹病期間が長い例が多く、進行した合併症を有する例も多く経験します。今回はいわゆる三大合併症について解説します。合併症の進展予防には血糖管理だけではなく、血圧、脂質など包括的な管理が必要となりますが、すべてを厳格にコントロールしようとするがあまり“ポリファーマシー”となり、症例によっては、かえって予後を悪化させる場合もありますので、実際の治療に関しては個々の症例に応じて判断していくことが重要になります。Q1 微量アルブミン尿が出現しない場合も? 糖尿病腎症の管理について教えてください。高齢糖尿病患者でも、高血糖は糖尿病腎症の発症・進展に寄与するため、定期的に尿アルブミン・尿蛋白・eGFRを測定・計算し、糖尿病腎症の病期分類を行うことが推奨されています1)。症例にもよりますが、血液検査は外来受診のたび、尿検査は3~6カ月ごとに実施していることが多いです。高齢者では筋肉量が低下している場合が多く、血清Cre値では腎機能をよく見積もってしまうことがあり、BMIが低いなど筋肉量が低下していることが予想される場合には、血清シスタチンCによるeGFR_cysで評価します。典型的な糖尿病腎症は微量アルブミン尿から顕性蛋白尿、ネフローゼ、腎不全に至ると考えられており、尿中アルブミン測定が糖尿病腎症の早期発見に重要なわけですが、実際には、微量アルブミン尿の出現を経ずに、あるいは軽度のうちから腎機能が低下してくる症例も多く経験します。高血圧による腎硬化症などが、腎機能低下に寄与していると考えられていますが、こういった蛋白尿の目立たない例を含め、糖尿病がその発症や進展に関与していると考えられるCKDをDKD (diabetic kidney disease;糖尿病性腎臓病)と呼びます。加齢により腎機能は低下するため、DKDの有病率も高齢になるほど増えてきます。イタリアでの2型糖尿病患者15万7,595例の横断調査でも、eGFRが60mL/min未満の割合は65歳未満では6.8%、65~75歳で21.7%、76歳以上では44.3%と加齢とともにその割合が増加していました2)。一方、アルブミン尿の割合は65歳未満で25.6%、 65~75歳で28.4%、76歳以上で33.7%であり、加齢による増加はそれほど目立ちませんでした。リスク因子としては、eGFR60mL/min、アルブミン尿に共通して高血圧がありました。また、本研究では80歳以上でDKDがない集団の特徴も検討されており、良好な血糖管理(平均HbA1c:7.1%)に加え良好な脂質・血圧管理、体重減少がないことが挙げられています。これらのことから、高齢者糖尿病の治療では、糖尿病腎症の抑制の面からも血糖管理だけではなく、血圧・脂質管理、栄養療法といった包括的管理が重要であるといえます。血圧管理に関しては、『高血圧治療ガイドライン2019』では成人(75歳未満)の高血圧基準は140/90 mmHg以上(診察室血圧)とされ,降圧目標は130/80 mmHg未満と設定されています3)。75歳以上でも降圧目標は140/90mmHg未満であり、糖尿病などの併存疾患などによって降圧目標が130/80mmHg未満とされる場合、忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指すとしています。しかしながら、こうした患者では収縮期血圧110mmHg未満によるふらつきなどにも注意したほうがいいと思います。降圧薬は微量アルブミン尿、蛋白尿がある場合はACE阻害薬かARBの使用が優先されますが、微量アルブミン尿や蛋白尿がない場合はCa拮抗薬、サイアザイド系利尿薬も使用します。腎症4期以上でARB、ACE阻害薬を使用する場合は、腎機能悪化や高K血症に注意が必要です。また「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、75歳以上で腎症4期以上では、CCBが第一選択薬として推奨されています4)。腎性貧血に対するエリスロポエチン製剤(ESA)の使用については、75歳以上の高齢CKD患者では「ESAと鉄剤を用い、Hb値を11g/dL以上、13g/dL未満に管理するが、症例によってはHb値9g/dL以上の管理でも許容される」となっています。高齢者ではESAを高用量使用しなければならないことも多く、その場合はHbA1c 10g/dL程度を目標に使用しています。腎臓専門医への紹介のタイミングは日本腎臓学会より示されており、蛋白尿やアルブミン尿の区分ごとに紹介基準が示されているので、ご参照ください(表)。画像を拡大するQ2 網膜症、HbA1cの目安や眼科紹介のタイミングは?高血糖が糖尿病網膜症の発症・進展因子であることは高齢者でも同様です。60歳以上の2型糖尿病患者7万1,092例(平均年齢71歳)の追跡調査では、HbA1c 7.0%以上の患者ではレーザー光凝固術の施行が10.0%以上となり、HbA1c 6.0%未満の患者と比べて約3倍以上となっています5)。また、罹病期間が10年以上の高齢者糖尿病では、10年未満の患者と比べて重症の糖尿病性眼疾患(失明、増殖性網膜症、黄斑浮腫、レーザー光凝固術施行)の頻度は高くなりますが、80歳以上ではその頻度がやや減少すると報告されています6)。このように、高齢糖尿病患者では罹病期間が長く、光凝固術の既往がある例も多く存在します。現在の血糖コントロールが良好でも、罹病期間が長い例では急激に糖尿病網膜症が進行する場合があり、初診時は必ず、その後も少なくとも1年に1回の定期受診が必要です。増殖性前網膜症以上の網膜症が存在する場合は急激な血糖コントロールにより網膜症が悪化することがあり、緩徐に血糖値をコントロールする必要があります。どのくらいの速度で血糖値を管理するかについて具体的な目安は明らかでありませんが、少なくとも低血糖を避けるため、メトホルミンやDPP-4阻害薬単剤から治療をはじめ、1~2ヵ月ごとに漸増します。インスリン依存状態などでやむを得ずインスリンを使用する場合には血糖目標を緩め、食前血糖値200mg/dL前後で許容する場合もあります。そのような場合には当然眼科医と連携をとり、頻回に診察をしていただきます。患者さんとのやりとりにおいては、定期的に眼科受診の有無を確認することが大切です。眼科との連携には糖尿病連携手帳や糖尿病眼手帳が有用です。糖尿病連携手帳を渡し、受診を促すだけでは眼科を受診していただけない場合には、近隣の眼科あての(宛名入りの)紹介状を作成(あるいは院内紹介で予約枠を取得)すると、大抵の場合は受診していただけます。また、収縮期高血圧は糖尿病網膜症進行の、高LDL血症は糖尿病黄斑症進行の危険因子として知られており、それらの管理も重要です。高齢者糖尿病の視力障害は手段的ADL低下や転倒につながることがあるので注意を要します。高齢糖尿病患者797人の横断調査では、視力0.2~0.6の視力障害でも、交通機関を使っての外出、買い物、金銭管理などの手段的ADL低下と関連がみられました7)。J-EDIT研究でも、白内障があると手段的ADL低下のリスクが1.99倍になることが示されています8)。また、コントラスト視力障害があると転倒をきたしやすくなります9)。Q3 高齢者の糖尿病神経障害の特徴や具体的な治療の進め方について教えてください。神経障害は糖尿病合併症の中で最も多く、高齢糖尿病患者でも多く見られます。自覚症状、アキレス腱反射の低下・消失、下肢振動覚低下により診断しますが、高齢者では下肢振動覚が低下しており、70歳代では9秒以内、80歳以上では8秒以内を振動覚低下とすることが提案されています10)。自律神経障害の検査としてCVR-Rがありますが、高齢者では、加齢に伴い低下しているほか、β遮断薬の内服でも低下するため、結果の解釈に注意が必要です。検査間隔は軽症例で半年~1年ごと、重症例ではそれ以上の頻度での評価が推奨されています1)。しびれなどの自覚的な症状がないまま感覚障害が進行する例もあるため、自覚症状がない場合でも定期的な評価が必要です。とくに、下肢感覚障害が高度である場合には、潰瘍形成などの確認のためフットチェックが重要です。高齢者糖尿病では末梢神経障害があると、サルコペニア、転倒、認知機能低下、うつ傾向などの老年症候群を起こしやすくなります。神経障害が進行し、重症になると感覚障害だけではなく運動障害も出現し、筋力低下やバランス障害を伴い、転倒リスクが高くなります。加えて、自律神経障害の起立性低血圧や尿失禁も転倒の誘因となります。また、自律神経障害の無緊張性膀胱は、尿閉や溢流性尿失禁を起こし、尿路感染症の誘因となります。しびれや有痛性神経障害はうつのリスクやQOLの低下だけでなく、死亡リスクにも影響します。自律神経障害が進行すると神経因性膀胱による排尿障害、便秘、下痢などが出現することがあります。さらには、無自覚低血糖、無痛性心筋虚血のリスクも高まります。無自覚低血糖がみられる場合には、血糖目標の緩和も考慮します。また、急激な血糖コントロールによりしびれや痛みが増悪する場合があり(治療後神経障害)、高血糖が長期に持続していた例などでは緩徐なコントロールを心がけています。中等度以上のしびれや痛みに対しては、デュロキセチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬が推奨されていますが、高齢者では副作用の点から三環系抗うつ薬は使用しづらく、デュロキセチンかプレガバリンを最小用量あるいはその半錠から開始し、少なくとも1週間以上の間隔をあけて漸増しています。両者とも効果にそう違いは感じませんが、共通して眠気やふらつきの副作用により転倒のリスクが高まることに注意が必要です。また、デュロキセチンでは高齢者で低Na血症のリスクが高くなることも報告されています。1)日本老年医学会・日本糖尿病学会編著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2017.南江堂; 2017.2)Russo GT,et al. BMC Geriatr. 2018;18:38.3)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版;20194)日本腎臓学会. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社会; 20185)Huang ES, et al. Diabetes Care.2011; 34:1329-1336.6)Huang ES, et al. JAMA Intern Med. 2014; 174: 251-258.7)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int. 2004;4:27-36.8)Sakurai T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012;12:117-126.9)Schwartz AV, et al. Diabetes Care. 2008;31: 391-396.10)日本糖尿病学会・日本老年医学会編著. 高齢者糖尿病ガイド2018. 文光堂; 2018.

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漫画で勉強【Dr. 中島の 新・徒然草】(292)

二百九十二の段 漫画で勉強年を取ると何をするのも面倒になり、つい読書よりも漫画に走ってしまいます。そんな私が発見したのが、漫画で勉強する方法です。成人スティル病とか、皮膚筋炎とか、多発性硬化症とか。漫画家自身がかかった疾患を詳細に描写しているのです。たとえば『なんびょうにっき』さとうみゆきさんという漫画家の成人スティル病闘病記です。アマゾンキンドル版なら簡単にスマホにダウンロードできます。成人スティル病が不明熱の原因となることは、誰でも知っているところですが、40℃超えの高熱が20日間以上続いて意識もうろう髪は汗で常にズブ濡れ状態サーモンピンク色のブキミな皮疹が浮き上がりカラダは衰弱。ちょっと動いただけで激痛が走るこれらが絵になっている上に、たとえ話が面白い。灼熱の砂漠に無理矢理連れてこられて力任せにきつく縛りあげられ、逆さ吊りで釜茹でされながらムチ打ちもされるというハードな拷問を受けている感じさすがに漫画家、表現が秀逸ですね。成人スティル病のサーモンピンク疹はあまりにも有名ですが、太もも一帯がびっちりと皮疹だらけで、まるでピンク色の短パンを履いているように見えた(ぷっくり隆起している)という絵が確かに印象的で、1度みたら忘れられません。アマゾンのカスタマーレビューで、71%の人が星5つを付けただけのことはあります。最後まで一気に読んでしまいました。とにかく馴染みのない病気を手っ取り早く知るのに、漫画ほど簡単で便利なものはありません。ほかにも『ふいにたてなくなりました。おひとりさま漫画家、皮膚筋炎になる』…皮膚筋炎『難病患者になりましたっ!漫画家夫婦のタハツセーコーカショーの日々』 …多発性硬化症『漫画家、パーキンソン病になる。』…パーキンソン病『ふんばれ、がんばれ、ギランバレー!』…ギラン・バレー症候群など、色々な漫画があり、アマゾンのカスタマーレビューではいずれも高評価。とりあえず私はスマホにダウンロードし、これから読み始めようといったところです。何だかこれらの難病が、急に身近なものに思えてきました。このようなジャンルがもっと充実すると、我々医師にも有難いですね。ということで最後に1句漫画家の 難病日記 超リアル

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がん慢性疼痛の薬物治療に有意な差/JCO

 がん慢性疼痛に処方するオピオイドの効果は、どれでも同じではないようだ。中国・雲南省第一人民病院のRongzhong Huang氏らは、Bayesianネットワークメタ解析にて、がん慢性疼痛治療について非オピオイド治療を含む有効性の比較を行った。その結果、現行のがん慢性疼痛治療の有効性には、有意な差があることが示されたという。また、特定の非オピオイド鎮痛薬と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)について、オピオイドと同程度の有効性を有する可能性が示唆されたことも報告した。がん慢性疼痛にはオピオイドが主要な選択肢となっている。一方で多くの非オピオイド鎮痛薬は現在、その有効性について公表されたエビデンスが少ないまま、がん慢性疼痛に処方されているという。Journal of Clinical Oncology誌2019年7月10日号掲載の報告。 検討は、がん慢性疼痛の治療において、あらゆる全身性薬剤による治療および/またはそれらの組み合わせを比較している無作為化対照試験(RCT)を、電子データベースを検索して行われた。 主要アウトカムは、オッズ比(OR)で報告されている全体的な有効性とし、副次アウトカムは、標準化平均差(SMD)で報告されている疼痛強度の変化とした。 主な結果は以下のとおり。・検索によりRCT81件、患者1万3例、11種の薬物治療のデータを、解析に包含した。・大部分のRCT(80%)は、バイアスリスクが低かった。・全体的な有効性が高い薬物クラスは上位から、非オピオイド鎮痛薬(ネットワークOR:0.30、95%確信区間[CrI]:0.13~0.67)、NSAIDs(0.44、0.22~0.90)、オピオイド(0.49、0.27~0.86)の順であった。・上位にランクされた薬物は、リドカイン(ネットワークOR:0.04、95%CrI:0.01~0.18、累積順位曲線下表面解析[SUCRA]スコア:98.1)、コデイン+アスピリン(0.22、0.08~0.63、81.1)、プレガバリン(0.29、0.08~0.92、73.8)であった。・疼痛強度の低減については、プラセボに対して優越性を示す薬物クラスを見いだせなかった。・一方で、プラセボに対して優越性を示す薬物で上位にランクされたのは、ziconotide(ネットワークSMD:-24.98、95%CrI:-32.62~-17.35、SUCRAスコア:99.8)、dezocine(-13.56、-23.37~-3.69、93.5)、ジクロフェナク(-11.22、-15.91~-5.80、92.9)であった。

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世の中を丁寧に眺めると病気に気付ける

 バイオジェン・ジャパン株式会社は、6月13日に都内において希少疾病である脊髄性筋萎縮症(以下「SMA」と略す)の啓発を目的に同社が製作した短編映画『Bon Voyage ボン・ボヤージ ~SMAの勇者、ここに誕生~』の完成記念メディアセミナーを開催した。 SMAは、運動神経に変化が起こり、次第に筋肉の力が弱くなり、生活に影響を及ぼす疾病である。そして、同社は、SMAの治療薬ヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ髄注)を製造・販売しているが、SMAの存在がまだ社会へ浸透していないことから、同社が短編映画を制作したものである。 作品は、SMAIII型の患者さんが抱える病識から診断に至るまでの課題をリアルに再現。そして、正確な診断をきっかけに自身と向き合い、夢に向かってさらに力強く生きていく姿を描いている。気付きにくい成人発症のSMAIII型 映画の試写のあと、疾患の概要について齋藤 加代子氏(東京女子医科大学附属遺伝子医療センター 所長・特任教授)が「脊髄性筋萎縮症(SMA)について」をテーマに講演を行った。 SMAは、SMN1遺伝子の欠失により、運動神経に変化が起こり、次第に筋力が低下し、生活に影響を及ぼす疾患であり、わが国では指定難病となっている。罹患率は、10万例に1~2例と考えられ、約1,400例の患者が推定されている。 本症では、発症年齢や運動機能によって、次のI~IVの4つの型に分類される。・I型:生後6ヵ月までに発症。成長後の最高到達運動機能では座位ができない。・II型:生後1歳6ヵ月までに発症。成長後の最高到達運動機能では立位ができない(座位はできる)。・III型:生後1歳6ヵ月以降で発症。成長後の最高到達運動機能は支えなしで歩ける。(a型:生後18ヵ月~3歳までに発症/b型:3歳以降に発症)・IV型(成人型):20歳以降で発症。運動発達は正常範囲。 とくにIII型のSMAについて、IIIa型では10歳までに患者の約半数が、IIIb型では30歳までに患者の約半数が歩行機能を失うこともあり、学校診断や健康診断でいかに早期に発見し、治療介入できるかが重要だという。 同氏は、成人のIII型の症例(52歳・女性)を示し、13歳で発症し、当初「神経原性筋萎縮症」と診断され、47歳の確定診断まで34年を要したという例を紹介した。なかなか社会に浸透していないIII型の特徴として、「運動機能障害がゆっくりと進行すること」「下肢から上肢に徐々に筋力の低下がみられること」「手の震え、筋肉のぴくつきがあること」がある。また、よく間違われる疾患として、「肢帯型筋ジストロフィー」「筋萎縮側索硬化症」「球脊髄性筋萎縮症」があり、確定診断には、血液による遺伝学的検査が必要になる。 最後に齋藤氏は、「治療薬の進歩もあり、治療の選択肢も多くなった。できる限り早期介入が求められる。医療者も患者もさまざまなWEBサイトをみて学び、本症を理解してもらいたい」と希望を語り、レクチャーを終えた。病気に周りが気付く、患者は自分から診療へ飛び込むことが大事 続いて、本作の完成にあたりトークセッションが行われ、三ッ橋 勇二監督、主演の中島 広稀氏、出演者でSMA患者の上田 菜々氏、演技指導で同じく患者の下島 直宏氏、そして、医学監修の齋藤氏が登壇し、作品の意図、制作の裏話や作品への思いなどが語られた。 中島氏は「患者の発症から診断まで1年分を15分に詰め込んだ作品で、演技ではSMAIII型特有の歩き方が難しかった。演じていて心の問題を感じた。患者さんはひとりで悩みを抱えないことが大事」と感想を述べた。 下島氏は、「完成した作品をみて『人生を走馬灯のように感じた』」と述べ、発症から診断確定までの自身の軌跡を振り返った。「診断では医師との出会いが大事で、自分で診療へ飛び込んでいかないと診断につながらない」と助言を寄せた。 上田氏は、「撮影は、仲良く、楽しくできた。小学生のときにSMAと診断され、引きこもるようになったが、美容に興味を持ち、すこしずつ社会に出られるようになった。作品では、患者さんの悩みや家族の葛藤も描かれていて、最後のシーンでは鳥肌が立った」と作品への賛辞を送った。 齋藤氏は、「SMAは社会に出て活躍できる疾患なので、患者さんは前向きに良い人生を送ることが重要。患者さんは自分を責めず、精神的に良い状態を保つことが大切。また、SMAの症状を見かけたら周りが気付いて、診療を勧めるなど声がけをすることが大事」と語った。 三ッ橋氏は、「作品を通じて、社会に気付きを与えることができたらと思う」と述べ、SMAについては「世の中を丁寧に眺めることで、周りの人の病気に気付くことが大事だと思う」と作品への思いを語った。 なお、本作は、国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」で上映されるほか、下記のサイトから視聴ができる。

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日本におけるADHD児に対する薬物療法の変化

 東北大学の吉田 眞紀子氏らは、日本におけるADHD児に対する薬物療法の傾向について調査を行った。Journal of Attention Disorders誌オンライン版2019年5月5日号の報告。 2005年1月~2015年12月の健康保険請求データ367万2,951例を用いて、ADHD児7,856例の薬物治療の傾向を調査した。 主な結果は以下のとおり。・2007年に承認されたメチルフェニデート徐放性製剤の処方割合は、2009年で31.4%に達し(調整オッズ比[AOR]:2.72、95%信頼区間[CI]:2.12~3.51)、その後は頭打ちとなった(AOR:0.96、95%CI:0.94~0.98)。・アトモキセチンの処方割合は、2008年の6.1%から2014年には21.8%に上昇した(AOR:1.12、95%CI:1.13~1.18)。・アリピプラゾールおよびラメルテオンの処方割合が増加していた(傾向のp<0.001)。 著者らは「ADHD児に対する薬物療法に変化が認められた。ADHD児に使用される治療薬の安全性を監視する必要がある」としている。

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知ることから始める、多発性硬化症患者が輝く社会への転換

 2019年4月22日、バイオジェン・ジャパンとエーザイは、5月30日のWorld MS Day(世界多発性硬化症の日)に先駆け、「20-40歳代の女性に多く発症する神経疾患『多発性硬化症(MS)』~働き盛り世代の健康・家庭・仕事の両立に大きなインパクト~」と題するメディアセミナーを開催した。 多発性硬化症(以下、MS)は、日本では女性の患者数が男性の2.9倍で、20~40歳代で多く発症するとされる。この年代の女性は就職や出産、育児などのライフイベントが多く、社会への影響が大きいと考えられる。本セミナーでは、河内 泉氏(新潟大学 脳研究所・医歯学総合病院 神経内科 講師)が、MSの疾患概要と、MS患者が活躍できる社会の実現に向けた思いを語った。患者数が増えても周囲からの理解は得られにくい MSは、自己免疫因子が神経細胞に存在する髄鞘に障害を起こし(脱髄)、神経伝導を正常に行えなくすることで、さまざまな神経症状が現れる疾患である。MSの特徴としては、症状の再発と寛解を繰り返すことがある。日本では1970年代から直線的にMSの患者数が増加しており、現在は2万人以上の患者がいるとされている。 MSでは、神経の障害が起こる部位に応じて、人それぞれで異なる症状が現れる。代表的な症状としては歩行障害、視覚障害、感覚障害、うつ、疲労感、排尿障害などがある。歩行障害などは症状が表に現れるため周囲も理解しやすいが、視力障害や感覚障害などは理解されにくく、周りからのサポートも受けにくいのが現状である。MSの薬物治療の進歩 MSの治療目標は自己免疫をコントロールすることである。日本においては、2000年頃からMSの再発予防・進行抑制のための疾患修飾薬(以下、DMD)による治療が始まった。現在はインターフェロンβ1a、インターフェロンβ1b、グラチラマー酢酸塩、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、ナタリズマブの6種類のDMDが国内で承認されており、貢献度・満足度の高い薬の選択肢が増えてきている。 河内氏は、DMD治療を継続することで、身体機能が障害されない状況を維持できる患者が多くなってきていると語った。法整備は進んでも、行き届かない就労支援 難病を持つ患者にとって「仕事と治療の両立」は達成すべき大きな課題である。日本では近年、「障害者雇用促進法」の改正など、難病と就労に関する法整備が進んできている。しかし、疾患の重症度によって受けられる支援が異なり、理解されにくい症状を持つ患者は就労支援を受けにくい傾向があるという。また、36%の患者がMSのために離職や転職をした経験があるとの報告1)も紹介された。MS患者では、症状により仕事のパフォーマンスが低下するプレゼンティーズムの問題があるほか、MSに対する偏見によって不当に面接で不採用になったり、周囲から差別を受けたりすることもあるという。 河内氏は、現在でもMS患者は家族や同僚のサポートが得られにくい状況にあり、MS患者の就労のために社会の価値観を転換させていくことが今後の課題である、との見解を示した。治療と出産・子育てとの両立 1950年以前には、女性のMS患者は病気が悪化するという理由で妊娠や出産を諦めるよう指導されていた。しかし、現在では、MSは自然流産や死産、先天奇形を増やす原因にはならないことが知られている。さらにDMDの開発により疾患活動性のコントロールが可能になり、女性のMS患者の妊娠、出産、育児が可能な時代になったといえる。河内氏は、MS患者が安心して子供を産んで育てるために、プレコンセプショナル・ケアとして母性内科学を発展させたうえで、疾患や薬について患者に指導をしていくことが大切であると強調した。

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国内で開発された新規末梢性神経障害性疼痛治療薬「タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg」【下平博士のDIノート】第21回

国内で開発された新規末梢性神経障害性疼痛治療薬「タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg」今回は、「ミロガバリンベシル酸塩錠(商品名:タリージェ錠2.5mg/5mg/10mg/15mg)」を紹介します。本剤は、α2δサブユニットに強力かつ特異的に結合してカルシウムイオンの流入を抑制することで、興奮性神経伝達物質の過剰放出を抑制し、痛みを和らげることが期待されています。<効能・効果>本剤は、末梢性神経障害性疼痛の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年4月15日より販売されました。※2022年3月、添付文書改訂による「中枢性神経障害性疼痛」の効能追加に伴い、適応は「神経障害性疼痛」となりました。<用法・用量>通常、成人にはミロガバリンとして初期用量1回5mgを1日2回経口投与し、その後1回用量として5mgずつ1週間以上の間隔を空けて漸増します。維持用量は、年齢・症状により1回10~15mgの範囲で適宜増減します。なお、腎機能障害患者に投与する場合は、投与量および投与間隔の調節が必要です。<副作用>日本を含むアジアで実施された臨床試験において、糖尿病性末梢神経障害性疼痛患者を対象とした854例中267例(31.3%)、帯状疱疹後神経痛患者を対象とした553例中241例(43.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、傾眠(12.5%/19.9%)、浮動性めまい(9.0%/11.8%)、体重増加(3.2%/6.7%)などでした(承認時)。なお、弱視、視覚異常、霧視、複視などの眼障害が現れることがあるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.過敏になっている神経を鎮めることで、しびれ、電気が流れているような痛み、焼けるような痛みなど、末梢神経障害による痛みを和らげます。2.服用中は、めまい、強い眠気、意識消失などが現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作はしないでください。3.本剤の服用を長く続けたり量を増やしたりすることで、体重が増加することがあります。実際に体重が増加し始めた場合はご相談ください。4.この薬を突然中止すると、不眠、吐き気、頭痛、下痢、食欲低下などの症状が現れることがあります。自己判断で減らしたりやめたりしないでください。5.本剤を服用中に飲酒をした場合、注意力、平衡機能の低下を強める恐れがあるので注意してください。<Shimo's eyes>神経障害性疼痛は、『神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(改訂第2版)』で「体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛」とされ、神経の損傷部位によって“末梢性”と“中枢性”に分類されます。本剤の作用機序は既存薬のプレガバリンと同様ですが、神経障害性疼痛全般に使用できるプレガバリンとは異なり、本剤の適応は「末梢性神経障害性疼痛」に限られています。末梢性神経障害性疼痛の代表例としては、坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病の合併症による神経障害性疼痛(痛み・しびれ)、抗がん剤の副作用による神経障害性疼痛などがあります。本剤は低用量から開始して、有効性や安全性を確認しながら維持量に漸増します。腎機能障害のある患者さんや高齢者では副作用が発現しやすいため、慎重に症状や副作用を聞き取りましょう。とくに高齢者ではめまいなどの副作用が生じると、転倒による骨折などを起こす恐れがあるため、細やかな投与量の調節が必要です。神経障害性疼痛は罹病期間が長引きがちで、さらに不安や睡眠障害を引き起こすこともあり、患者さんのQOLに与える影響は甚大です。末梢神経障害性疼痛の治療選択肢が増え、痛みに悩む患者さんの生活に改善がもたらされるのは喜ばしいことです。なお、2019年1月時点において、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。※2022年3月、添付文書の改訂情報を基に一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 タリージェ錠2.5mg/タリージェ錠5mg/タリージェ錠10mg/タリージェ錠15mg

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せん妄のマネジメントと予防のための薬理学的介入~メタ解析

 せん妄に対する薬理学的介入については、さまざまな調査が行われているが、全体的なベネフィットや安全性はよくわかっていない。台湾・林口長庚紀念医院のYi-Cheng Wu氏らは、せん妄の治療および予防に対する薬理学的介入に関するエビデンスの評価を行った。JAMA Psychiatry誌オンライン版2019年2月27日号の報告。 せん妄の治療および予防に対する薬理学的介入を検討した、2018年5月17日までのランダム化臨床試験(RCT)を、各種データベース(PubMed、Embase、ProQuest、ScienceDirect、Cochrane Central、Web of Science、ClinicalKey、ClinicalTrials.gov)より検索した。事前リストに従いデータを抽出した。PRISMA(システマティックレビューおよびメタ解析のための優先的報告項目)ガイドラインを適用し、すべてのメタ解析は、ランダム効果モデルを用いて行った。主要アウトカムは、せん妄患者の治療反応およびせん妄リスクのある患者におけるせん妄発生率とした。 主な結果は以下のとおり。・合計58件のRCTが抽出された。内訳は、治療アウトカムを比較したRCTが20件(1,435例、平均年齢:63.5歳、男性の割合:65.1%)、予防を検討したRCTが38件(8,168例、平均年齢:70.2歳、男性の割合:53.4%)であった。・ネットワークメタ解析では、ハロペリドールとロラゼパムの併用が、プラセボや対照群と比較し、せん妄の治療に最も高い奏効率を示した(オッズ比[OR]:28.13、95%CI:2.38~333.08)。・せん妄の予防については、ラメルテオンOR:0.07、95%CI:0.01~0.66)、オランザピン(OR:0.25、95%CI:0.09~0.69)、リスペリドン(OR:0.27、95%CI:0.07~0.99)、デクスメデトミジン塩酸塩(OR:0.50、95%CI:0.31~0.80)が、プラセボや対照群と比較し、せん妄の発生率を有意に低下させた。・いずれの薬理学的介入も、プラセボや対照群と比較し、すべての原因による死亡リスクと有意な関連は認められなかった。 著者らは「せん妄の薬理学的介入において、治療にはハロペリドールとロラゼパムの併用、予防にはラメルテオンが最良の選択肢である可能性が示唆された。また、せん妄の治療および予防に対するいずれの薬理学的介入も、すべての原因による死亡率を上昇させなかった」としている。■関連記事せん妄に対する薬物治療、日本の専門家はどう考えているかせん妄治療への抗精神病薬投与のメタ解析:藤田保健衛生大せん妄ケアの重要性、死亡率への影響を検証

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不安は治るのだろうか?(解説:岡村毅氏)-1010

 臨床経験のある方は十分におわかりだと思うが、不安症の人はさまざまな身体の症状を訴えてプライマリケアを受診する。したがって、精神科・心療内科のみならず、すべての科で不安な人に出会うと思っておいたほうがいいだろう。 本論文ではデュロキセチン、プレガバリン、ベンラファキシン、エスシタロプラムが優れているとされた。まずデュロキセチン、ベンラファキシン、エスシタロプラムは比較的新しく、また臨床でもよく使用されるSSRIあるいはSNRIであり、きわめて妥当な結論だろう。プレガバリンについてはオフラベルとなるためコメントは難しい。 次に、ここでは「良い」とされなかったベンゾジアゼピンとクエチアピンを振り返ってみよう。まずわが国では不安な人には圧倒的にベンゾジアゼピンが処方されてきた。本論文では、「効果は確かにあるが、依存などの有害事象があるのでダメ」とされている。ベンゾジアゼピンは認知症の危険をも増やしてしまうのではという報告もあり、悪名しかない状態であるが、脈々と処方されてきた背景は以前書いた(「悪名は無名に勝るとはいうけれど…ベンゾジアゼピンの憂鬱」)。クエチアピンとは、いわゆる「抗精神病薬」の中で最も有害事象が少ないとされるものである。とても効いたという報告があるが、当然ながら「良薬口に苦し」で、続かない方も多いようだ。 高齢者の精神医学を専門とする筆者からすれば、不安とは未来への戦慄である。それは究極的には死の恐怖であり、誰しもが持つものだ(そしてうつは過去へのとらわれだと続くわけだが、長くなるのでこの辺りでやめときます)。研究者としては「薬物で不安がなくなるわけではない」「多剤併用はこうやって生まれるのだ」「医療モデルの限界を認識せよ」という医療批判もわからなくはない。とはいえ患者さん方もそんなことは先刻承知で、「でも不安で生活が立ち行かないから、嫌だけれども病院に来たのだ」という人も多いのである。薬物治療は、必要なときには正しく行うべきであろう。抄録では最後に「つまり、全般性不安障害に対しては多様な薬物治療が選択可能なのであり、最初の薬剤でうまくいかなくても、薬物治療を諦める理由にはならない」とあるが、これはなかなか含蓄ある言葉といえる。不安と一口に言っても、さまざまな状態があるのだ。初めの薬物が効果的でなくとも、「あなたの不安は医療では何ともならないものです」と断じる前に、謙虚に次のものを検討せよということであろう。 おまけに個人的感想を…。本論文では中国のデータベース(Chinese National Knowledge InfrastructureおよびWanfang data)も対象とし、中国語を解する研究者が精査している。中国からの報告を組み入れても、排除しても解析結果に大きな変化はなく、質は悪くはないが、かの国ではプラセボではなく対照薬を用いる傾向がある、などといろいろ考察されている。世界は英語圏と中国語圏からなるのかとしみじみ思った次第である。

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脊髄性筋萎縮症〔SMA:spinal muscular atrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義運動神経系は、脳から脊髄の上位運動ニューロンと、脊髄から筋肉の下位運動ニューロンに大別される。脊髄性筋萎縮症(SMA)では、この脊髄の運動神経細胞(脊髄前角細胞)が選択的に障害されることにより、下位運動ニューロン障害を示す疾患である。上位運動ニューロン徴候は伴わず、体幹、四肢の近位部優位の筋力低下、筋萎縮を示す1)。■ 疫学筆者らが実施した2017年の1年間における疫学調査では、有病率は総人口10万人当たり1.16、発生率は出生1万人当たり0.6であった。■ 病因SMAの原因遺伝子はSMN1(survival motor neuron 1)遺伝子であり、第5染色体長腕5q13に存在し、同領域に向反性に重複した配列のSMN2遺伝子も存在する(図)。SMN1遺伝子は両親から欠失を受け継ぎ、ホモ接合性の欠失により発症する場合が多い。SMN1遺伝子の下流にはNAIP(neuronal apoptosis inhibitory protein)遺伝子が存在する。臨床的重症度の幅は、SMNタンパク質の発現量、すなわちSMN2遺伝子がどの程度、SMNタンパク質を産生するかで説明できる。臨床像が軽症の場合、SMN1遺伝子欠失ではなく遺伝子変換によりSMN1遺伝子がSMN2遺伝子になること、すなわちSMN2遺伝子の遺伝子産物の量が多くなり、臨床症状の重症から軽症の幅の説明となっている。図 SMAの原因遺伝子(SMN1とSMN2)画像を拡大する■ 分類SMAの分類としては表に示すように、発症年齢、臨床経過に基づき、I型(OMIM#253300)、II型(OMIM#253550)、III型(OMIM#253400)、IV型(OMIM#27115)に分類される。胎児期発症の最重症型を0型と呼ぶこともある。筆者らは運動機能に基づき、I型をIa、 Ib、II型をIIa、 IIb、III型をIIIa、 IIIbにサブタイプ分類し、それぞれの亜型間で運動機能の喪失に有意差があることを示した2)。このような細分類は、薬事承認された核酸医薬品、遺伝子治療薬をはじめ、新規治療薬の長期の有効性評価に有用である。表 最高到達運動機能によるSMAの分類画像を拡大する■ 症状舌や手指の筋線維束性収縮などの脱神経の症状と近位筋優位の骨格筋の筋萎縮を伴った筋力低下の症状を示す。次に型別の症状を示す。I型:重症型、急性乳児型、ウェルドニッヒ・ホフマン(Werdnig-Hoffmann)病筋力低下が重症で全身性である。妊娠中の胎動が弱い例も存在する。発症は生後6ヵ月まで。発症後、運動発達は停止し、体幹を動かすこともできず、筋緊張低下のために体が柔らかいフロッピーインファントの状態を呈する。肋間筋に対して横隔膜の筋力が維持されているため吸気時に腹部が膨らみ胸部が陥凹する奇異呼吸を示す。支えなしに座ることができず、哺乳困難、嚥下困難、誤嚥、呼吸不全を伴う。舌の線維束性収縮がみられる。深部腱反射は消失、上肢の末梢神経の障害によって、手の尺側偏位と手首が柔らかく屈曲する形のwrist dropが認められる。人工呼吸管理を行わない場合、死亡年齢は平均6〜9ヵ月であり、2歳までに90%以上が死亡する。II型:中間型、慢性乳児型、デュボビッツ(Dubowitz)病発症は1歳6ヵ月まで。支えなしの起立、歩行ができないが、座位保持が可能である。舌の線維束性収縮や萎縮、手指の振戦がみられる。腱反射は減弱または消失。次第に側弯が著明になる。II型のうち、より重症な症例は呼吸器感染に伴って、呼吸不全を示すことがある。III型:軽症型、慢性型、クーゲルベルグ・ウェランダー(Kugelberg-Welander)病発症は1歳6ヵ月以降。自立歩行を獲得するが、次第に転びやすい、歩けない、立てないという症状が出てくる。後に、上肢の挙上も困難になる。IV型:成人発症小児期や思春期に筋力低下を示すIII型の小児は側弯を示すが、成人発症のSMA患者では側弯は生じない。それぞれの型の中でも臨床的重症度は多様であり、分布は連続性である。■ 予後I型は無治療では1歳までに呼吸筋の筋力低下による呼吸不全の症状を来す。薬物治療をせず、人工呼吸器の管理を行わない状態では、90%以上が2歳までに死亡する。II型は呼吸器感染、無気肺を繰り返す例もあり、その際の呼吸不全が予後を左右する。III型、IV型は生命的な予後は良好である。2017年のヌシネルセン(商品名:スピンラザ)の薬事承認以降、従来のSMAの予後は大きく変貌した。2020年には遺伝子補充療法オナセムノゲンアベパルボベク(同:ゾルゲンスマ)が2歳未満を適応として薬価収載された。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)上記の臨床症状からSMAを疑う。中枢神経機能障害、関節拘縮症、外眼筋、横隔膜、心筋の障害、聴覚障害、著しい顔面筋罹患、知覚障害、血清クレアチンキナーゼ値が正常上限の10倍以上、運動神経伝導速度が正常下限の70%以下、知覚神経活動電位の異常などの所見がある場合、SMAとは考えにくい。SMAにおいて、遺伝子診断は最も広く行われる非侵襲的診断方法であり、確定診断となる。末梢血リンパ球よりDNAを抽出し、SMN1遺伝子のexon 7、8の欠失の有無にて診断し、SMN2遺伝子のコピー数にて型を推定する。SMN1遺伝子のホモ接合性の欠失はI型、II型では90%以上に認められるが、III型、IV型では低く、遺伝子的多様性が考えられる。筋生検は実施されなくなっている。遺伝学的検査によって欠失・変異が同定されなかった場合に、他の疾患の可能性も考えて実施される。SMAでは、小径萎縮筋線維の大集団、群萎縮group atrophy、I型線維の肥大を示す。筋電図では高電位で幅が広いgiant spikeなどの神経原性変化を示す。SMN遺伝子を原因としないSMAにおいて、指定難病(特定疾患)の診断として筋電図が実施される。また、ヌシネルセンなどの治療・治験の有効性評価としてC-MAPが測定されることもある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)遺伝学的検査によりSMN1遺伝子の欠失または変異を有し、SMN2遺伝子のコピー数が1以上であることが確認された患者へのアンチセンスオリゴ核酸(ASO)薬であるヌシネルセン髄腔内投与3,4)の適応が認められている。乳児型では初回投与後、2週、4週、12週、以降4ヵ月ごとの投与、乳児型以外では初回投与後、4週、12週、以降6ヵ月ごとの投与である。一方、臨床所見は発現していないが遺伝学的検査によりSMAの発症が予測される場合も含み、2歳未満の患者において抗AAV9抗体が陰性であることを確認された患者への遺伝子治療薬オナセムノゲンアベパルボベク静脈内投与が認められている。これは1回投与である。これらの治療開始は、早ければ早いほど有効性も高く、早期診断・早期治療開始が重要である。ベクター製剤の投与では肝機能障害、血小板減少などの副作用が報告されている5)。投与前日からのプレドニゾロン継続投与が必須である。I型、II型では、授乳や嚥下が困難なため経管栄養が必要となる場合がある。また、呼吸器感染、無気肺を繰り返す場合は、これが予後を大きく左右する。I型のほぼ全例で、救命のためには気管内挿管、後に気管切開と人工呼吸管理が必要であったが、上記の治療により人工呼吸管理を要さない例もみられるようになった。I型、II型において、非侵襲的陽圧換気療法(=鼻マスク陽圧換気療法:NIPPV)は有効と考えられるが、小児への使用には多くの困難を伴う。また、すべての型において、筋力に合わせた運動訓練、理学療法を行う。III型、IV型では歩行可能な状態の長期間の維持や関節拘縮の予防のために、理学療法や装具の使用などの検討が必要である。小児においても上肢の筋力が弱いため、手動より電動車椅子の使用によって活動の幅が広くなる。I型やII型では胃食道逆流の治療が必要な場合もある。脊柱変形に対しては脊柱固定術が行われる場合もある。4 今後の展望核酸医薬品はRNAに作用して転写に影響を与えるため、病態修飾治療として症状が固定する前、さらには発症の前に投与することでSMAの症状の発現を抑え、軽減化もしくは無症状化する可能性がある。薬物動態の解析により、高用量による有効性が考えられ、わが国も参加して高用量投与の国際共同治験が開始されている。ヌシネルセンと同様のメカニズムを持つ低分子医薬品経口薬(risdiplam)の開発もなされ治験が実施され、有効性があったとされている。有効性が証明されれば、投与経路が経口であることから負担が軽減するという点でも期待される。アデノ随伴ウイルス(AAV9)をベクターとする遺伝子治療は、疾患の原因であるSMN1遺伝子を静脈注射1回にて投与するもので、第II、第III相試験において乳児への有効性の報告がなされ6)2歳未満を適応として保険収載された。発症前または発症後のできるだけ早期の1回投与で永続的な有効性を示すとされ、次世代のSMA治療といえる。SMAの今後の治療・発症予防としては、遺伝学的解析による新生児スクリーニングを行い、SMN1遺伝子の両アレル性の遺伝子変異を示した例に対する治療により発症抑制を行うことが必要である。これらの治療法の進歩に伴い、SMAの有効性評価の判定にはバイオマーカーの開発が重要である。SMAの有効性評価は、運動機能評価により行われるが、SMAでは年齢や型や運動機能の幅が広く均一の評価法がない。そのために、長期間の有効性を数値などで示すことができない。そこで、均一な評価としてバイオマーカーが必須であると考え、筆者らはイメージングフローサイトメトリーによる血液細胞中のSMNタンパク質量測定を考案した。長期にわたるSMA治療の有効性の指標として有用であると考えている7)。5 主たる診療科小児期発症の場合は神経小児科、15歳以上は脳神経内科が担当する。遺伝学的検査、遺伝カウンセリングは遺伝子診療部が担当する。筆者らの所属する「ゲノム診療科」では、確定診断、出生前診断などの遺伝学的検査とともに、診断・治療・療育などのコンサルトにも対応している。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 脊髄性筋萎縮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報:SMAは国の指定難病、特定疾患に認定されている。厚生労働省補助事業として、行政・福祉・助成制度をはじめとしたさまざまな情報が掲載されている)SMARTコンソーシアム (患者登録システム)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報:筆者らの運営しているSMARTコンソーシアムは治療を目指す患者登録システム。実績として登録者による治験実施や新規治療の進歩があった)神経変性疾患領域における基盤的調査研究班(研究代表者:中島健二氏) 脊髄性筋萎縮症(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SMA(脊髄性筋萎縮症)家族の会(患者とその家族および支援者の会:1999年に設立。ホームページにおける情報提供や定期的な会合など活動を行っている)1)SMA診療マニュアル編集委員会(代表 齋藤加代子)編. 脊髄性筋萎縮症診療マニュアル 第1版. 金芳堂;2012.p.1-5.2)Kaneko K, et al. Brain Dev. 2017;39:763-773.3)Finkel RS, et al. N Engl J Med. 2017;377:1723-1732.4)Mercuri E, et al. N Engl J Med. 2018;378:625-635.5)Waldrop MA, et al. Pediatrics. 2020;146:e20200729.6)Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2017;377:1713-1722.7)Otsuki N, et al. PLoS One. 2018;13:e0201764.公開履歴初回2019年2月26日更新2021年2月2日

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全般性不安障害の治療、22剤を比較/Lancet

 英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのApril Slee氏らは、全般性不安障害(GAD)の成人患者を対象とした、各種薬剤とプラセボを比較した無作為化試験のシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行い、すべての薬物クラスでGADに有効な治療法があり、最初の治療薬での失敗が薬物療法を断念する理由にはならない可能性があることを報告した。GADは、日常の身体的・心理的・社会的機能に影響を与える疾患で、精神療法は費用やリソースが限られていることから薬物療法が第1選択となることが多いが、これまでの研究では利用可能なさまざまな治療薬の比較に関する情報が不足していた。Lancet誌オンライン版2019年1月31日号掲載の報告。大規模なシステマティックレビューとネットワークメタ解析を実施 研究グループは、MEDLINE、Web of Science、Cochrane Library、ClinicalTrials.gov、Chinese National Knowledge Infrastructure(CNKI)、Wanfang data、Drugs@FDA、製薬会社の市販後登録などを用い、GAD成人外来患者を対象としたプラセボまたは実薬との無作為化比較試験を特定し、システマティックレビューとネットワークメタ解析を実施した。データは、すべての原稿および報告書から抽出された。 主要評価項目は、有効性(ハミルトン不安評価尺度[HAM-A]スコアの変化の平均差[MD])と、受容性(あらゆる原因による試験中止)とし、ランダム効果モデルによるネットワークメタ解析を用い、治療群の差とオッズ比を推定した。デュロキセチン、プレガバリン、ベンラファキシン、エスシタロプラムは有効で受容性あり 1994年1月1日~2017年8月1日に発表された試験のうち、1,992報がスクリーニングされ、89件の試験が解析対象となった。実薬22種類またはプラセボに無作為に割り付けられた2万5,441例のデータが組み込まれた。 プラセボと比較し、デュロキセチン(MD:-3.13、95%確信区間[CrI]:-4.13~-2.13)、プレガバリン(-2.79、-3.69~-1.91)、ベンラファキシン(-2.69、-3.50~-1.89)、エスシタロプラム(-2.45、-3.27~-1.63)は、比較的受容性が良好で有効であった。 ミルタザピン、セルトラリン、fluoxetine、buspirone、agomelatineも同様に、有効で受容性も良好であったが、これらは症例数が少なく結果は限定的であった。 HAM-Aの評価では、クエチアピン(MD:-3.60、95%CrI:-4.83~-2.39)が最も有効であったが、プラセボと比較した場合に受容性(オッズ比:1.44、95%CrI:1.16~1.80)に乏しかった。同様にパロキセチン、ベンゾジアゼピン系薬も有効であったが、プラセボと比較し受容性に乏しかった。 なお、報告バイアスのリスクは低いと考えられ、極力出版バイアスを避けるため、完了したすべての試験が組み込まれた。

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第7回 敗血症でのプレセプシン定量検査で査定/甲状腺機能低下症検査の査定/末梢神経障害で処方したリリカの査定/尿意切迫で処方したトビエースの査定【レセプト査定の回避術 】

事例25 敗血症でのプレセプシン定量検査で査定敗血症(細菌性)で、プレセプシン定量の検査を実施、請求した。●査定点プレセプシン定量が査定された。解説を見る●解説点数表の解釈に、プレセプシン定量は「敗血症(細菌性)を疑う患者を対象として測定した場合に算定できる」となっています。「敗血症(細菌性)の疑い」でプレセプシン定量を検査しましたが、その後、確定したため「疑いを削除」して、確定病名として保険請求をしたもようです。対応としては、プレセプシン定量の経緯を、簡単に症状詳記することが必要でした。事例26 甲状腺機能低下症検査の査定経過観察中で甲状腺機能が落ち着いた状態の患者に、甲状腺機能低下症によるTSH、FT3、FT4の検査を実施、請求した。●査定点FT3が査定された。解説を見る●解説甲状腺機能低下症の落ち着いた状態で、FT3(T3も同様に扱われる)の追加は、保険診療上、必要性が低いとして査定されることがあります。病名の診療開始日によって、査定の対象になるので注意が必要です。事例27 末梢神経障害で処方したリリカの査定末梢神経障害でプレガバリン(商品名:リリカ)OD錠75mg 3錠 30日分を処方した。●査定点リリカOD錠75mg 3錠 30日分が査定された。解説を見る添付文書の「効能・効果」では、「神経障害性疼痛」「線維筋痛症に伴う疼痛」となっています。レセプト審査側の審査はシステムによる「コンピュータチェック」を導入して、「コード」によるチェック方法を推進しています。「コンピュータチェック」により診療内容の適否を判断して査定対象を選別しているのです。そして、厚生労働省はこのような「コンピュータチェック」を、3年後には90%まで拡大する方針です。今後の医療機関の対策としては、本件のような事例では、添付文書に記載された病名で保険請求することが求められます。事例28 尿意切迫で処方したトビエースの査定尿意切迫感で紹介された患者に尿検査をしてフィソテロジン(商品名:トビエース)錠4mg 1錠 30日分を処方した。●査定点トビエース錠4mg 1錠 30日が査定された。解説を見る●解説添付文書の「効能・効果」では、「過活動膀胱における尿意切迫感」となっています。本件では「過活動膀胱」「尿意切迫感」の病名が必要でした。

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結節性硬化症〔TS : tuberous sclerosis, Bourneville-Pringle病〕

1 疾患概要■ 概念・定義主に間葉系起源の異常細胞が皮膚、中枢神経など全身諸臓器に各種の過誤腫性病変を起こす遺伝性疾患である。従来、顔面の血管線維腫、痙攣発作、知能障害が3主徴とされているが、しばしば他に多くの病変を伴い、また患者間で症状に軽重の差が大きい。疾患責任遺伝子としてTSC1とTSC2が同定されている。■ 疫学わが国の患者は約15,000人と推測されている。最近軽症例の報告が比較的多い。■ 病因・発症機序常染色体性優性の遺伝性疾患で、浸透率は不完全、突然変異率が高く、孤発例が60%を占める。軽微な症例は見逃されている可能性もある。本症の80%にTSC1(9q34)遺伝子とTSC2(16p13.3)遺伝子のいずれかの変異が検出される。TSC1遺伝子変異は生成蛋白のtruncationを起こすような割合が高く、また家族発症例に多い。TSC2遺伝子変異は孤発例に、また小さな変異が多い。一般に臨床症状と遺伝子異常との関連性は明らかではない。両遺伝子産物はおのおのhamartin、tuberinと呼ばれ、前者は腫瘍抑制遺伝子産物の一種で、低分子量G蛋白Rhoを活性化し、アクチン結合蛋白であるERMファミリー蛋白と細胞膜裏打ち接着部で結合する。後者はRap1あるいはRab5のGAP(GTPase-activating protein)の触媒部位と相同性を有し、細胞増殖抑制、神経の分化など多様で重要な機能を有する。Hamartinとtuberinは複合体を形成してRheb(Ras homolog enriched in brain)のGAPとして作用Rheb-GTPを不活性化し、PI3 kinase/S6KI signaling pathwayを介してmTOR(mammalian target of rapamycin)を抑制、細胞増殖や細胞形態を制御している。Hamartinとtuberinはいずれかの変異により、m-TOR抑制機能が失われることで、本症の過誤腫性病変を惹起すると推定されている。近年、このm-TOR阻害薬(エベロリムスなど)が本症病変の治療に使われている。■ 臨床症状皮膚、中枢神経、その他の諸臓器にわたって各種病変がさまざまの頻度で経年齢的に出現する(表1)。画像を拡大する1)皮膚症状学童期前後に出現する顔面の血管線維腫が主徴で80%以上の患者にみられ頻度も高い。葉状白斑の頻度も比較的高く、乳幼児期から出現する木の葉状の不完全脱色素斑で乳幼児期に診断価値の高い症候の1つである。他に結合織母斑の粒起革様皮(Shagreen patch)、爪囲の血管線維腫であるKoenen腫瘍、白毛、懸垂状線維腫などがある。2)中枢神経症状幼小児早期より痙攣発作を起こし、精神発達遅滞、知能障害を来すことが多く、かつての3主徴の2徴候である。2012年の“Consensus Conference”で(1)脳の構造に関与する腫瘍や皮質結節病変、(2)てんかん(痙攣発作)、(3)TAND(TSC-associated neuropsychiatric disorders)の3症状に分類、整理された。(1)高頻度に大脳皮質や側脳室に硬化巣やグリア結節を生じ、石灰化像をみる。数%の患者に上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)が発生する。SEGAは小児期から思春期にかけて急速に増大することが多く、脳圧亢進症状などを来す。眼底の過誤腫や色素異常をみることもあり、通常は無症状であるが、時に視力障害を生ずる。(2)TSC患者に高頻度にみられ、生後5、6ヵ月頃に気付かれ、しばしば初発症状である。多彩な発作で、治療抵抗性のことも多い。点頭てんかんが過半数を占め、その多くが精神発達遅滞、知能障害を来す。(3)TSCに合併する攻撃的行動、自閉症・自閉的傾向、学習障害、他の神経精神症状などを総括した症状を示す。3)その他の症状学童期から中年期に後腹膜の血管筋脂肪腫で気付かれることもある。無症候性のことも多いが、時に増大して出血、壊死を来す。時に腎嚢腫、腎がんが出現する。周産期、新生児期に約半数の患者に心臓横紋筋腫を生ずるが、多くは無症候性で自然消退すると言われる。まれに、腫瘍により収縮障害、不整脈を来して突然死の原因となる。成人に肺リンパ管平滑筋腫症(lymphangiomyomatosis:LAM)や多巣性小結節性肺胞過形成(MMPH)を生ずることもある。前者は気胸を繰り返し、呼吸困難が徐々に進行、肺全体が蜂の巣状画像所見を呈し、予後不良といわれる。経過に個人差が大きい。後者(MMPH)は結核や肺がん、転移性腫瘍との鑑別が必要であるが、通常治療を要せず経過をみるだけでよい。■ 予後と経過各種病変がさまざまな頻度で経年的に出現する(表1)。それら病変がさまざまに予後に影響するが、中でも痙攣発作の有無・程度が患者の日常生活、社会生活に大きく影響する。従来、生命的予後が比較的短いといわれたが、軽症例の増加や各種治療法・ケアの進展によって生命的、また生活上の予後が改善方向に向かいつつあるという。死因は年代により異なり、10歳までは心臓横紋筋腫・同肉腫などの心血管系異常、10歳以上では腎病変が多い。SEGAなどの脳腫瘍は10代に特徴的な死因であり、40歳以上の女性では肺のLAMが増加する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)遺伝子診断が確実であり、可能であるが、未知の遺伝子が存在する可能性、検査感度の問題、遺伝子変異と症状との関連性が低く、変異のホットスポットもない点などから一般的には通常使われない。遺伝子検査を受けるときは、そのメリット、デメリットをよく理解したうえで慎重に判断する必要がある。実際の診断では、ほとんどが臨床所見と画像検査などの臨床検査による。多彩な病変が年齢の経過とともに出現するので、症状・病変を確認して診断している。2018年に日本皮膚科学会が、「結節性硬化症の新規診断基準」を発表した(表2)。画像を拡大する■ 診断のポイント従来からいわれる顔面の血管線維腫、知能障害、痙攣発作の3主徴をはじめとする諸症状をみれば、比較的容易に診断できる。乳児期に数個以上の葉状白斑や痙攣発作を認めた場合は本症を疑って精査する。■ 検査成長・加齢とともに各種臓器病変が漸次出現するので、定期的診察と検査を、あるいは適宜の検査を計画する。顔面の結節病変、血管線維腫は、通常病理組織検査などはしないが、多発性丘疹状毛包上皮腫やBirt-Hogg-Dube syndromeなどの鑑別に、また、隆起革様皮でも病理組織学的検査で他疾患、病変と鑑別することがある。痙攣発作を起こしている患者あるいは結節性硬化症の疑われる乳幼児では、脳波検査が必要である。大脳皮質や側脳室の硬化巣やグリア結節はMRI検査をする。CTでもよいが精度が落ちるという。眼底の過誤腫や色素異常は眼底検査で確認できる。乳幼児では心エコーなどで心臓腫瘍(横紋筋腫)検査を、思春期以降はCTなどで腎血管筋脂肪腫を検出する必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 基本治療方針多臓器に亘って各種病変が生ずるので複数の専門診療科の連携が重要である。成長・加齢とともに各種臓器病変が漸次出現するので定期的診察と検査を、あるいは適宜の検査を計画する。本症の治療は対症療法が基本であるが、各種治療の改良、あるいは新規治療法の開発が進んでいる。近年本症の皮膚病変や脳腫瘍、LAMに対し、m‐TOR阻害薬(エベロリムス、シロリムス)の有効性が報告され、治療薬として使われている。■ 治療(表3)画像を拡大する1)皮膚病変顔面の血管線維腫にはレーザー焼灼、削皮術、冷凍凝固術、電気凝固術、大きい腫瘤は切除して形成・再建する。最近、m-TOR阻害薬(シロリムス)の外用ゲル製剤を顔面の血管線維腫に外用できるようになっている。シャグリンパッチ、爪囲線維腫などは大きい、機能面で問題があるなどの場合は切除する。白斑は通常治療の対象にはならない。2)中枢神経病変脳の構造に関与する腫瘍、結節の中では上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)が主要な治療対象病変である。一定の大きさがあって症状のない場合、あるいは増大傾向をみる場合は、外科的に切除、あるいはm-TOR阻害薬(エベロリムス)により治療する。急速進行例は外科的切除、頭蓋内圧軽減のためにシャント術も行う。本症の重要な症状である痙攣発作の治療が重要である。点頭てんかんにはビガバトリン(同:サブリル)、副腎皮質(ACTH)などが用いられる。ケトン食治療も試みられる。痙攣発作のフォーカス部位が同定できる難治例に、外科的治療が試みられることもある。点頭てんかん以外のてんかん発作には、発作型に応じた抗てんかん薬を選択し、治療する。なお、m-TOR阻害薬(エベロリムス)は、痙攣発作に対して一定の効果があるとされる。わが国での臨床使用は今後の課題である。精神発達遅滞や時に起こる自閉症に対しては、発達訓練や療育などの支援プログラムに基づいて適切にケア、指導する。定期的な受診、症状の評価などをきちんとすることも重要である。また、行動の突然の変化などに際しては、結節性硬化症の他病変の出現、増悪などがないかをチェックする。3)その他の症状(1)後腹膜の血管筋脂肪腫(angiomyolipoma: AML)腫瘍径が4cm以上、かつ増大傾向がある場合は出血や破裂の可能性もあり、腫瘍の塞栓療法、腫瘍切除、腎部分切除などを考慮する。希少疾病用医薬品としてm-TOR阻害薬(エベロリムス)が本病変に認可されている。無症候性の病変や増大傾向がなければ検査しつつ経過を観察する。(2)周産期、新生児期の心臓横紋筋腫収縮障害、伝導障害など心障害が重篤であれば腫瘍を摘出手術する。それ以外では心エコーや心電図で検査をしつつ経過を観察する。(3)呼吸器症状LAMで肺機能異常、あるいは機能低下が継続する場合は、m-TOR阻害薬(エベロリムス)が推奨されている。肺機能の安定化、悪化抑制が目標で、治癒が期待できるわけではない。一部の患者には、抗エストロゲン(LH-RHアゴニスト)による偽閉経療法、プロゲステロン療法、卵巣摘出術など有効ともいわれる。慢性閉塞性障害への治療、気管支拡張を促す治療、気胸の治療など状態に応じて対応する。時に肺移植が検討されることもある。MMPHは、結核や肺がん、転移性腫瘍との鑑別が必要であるが、通常治療を要せず経過をみるだけでよい。4 今後の展望当面の期待は治療法の進歩と改良である。本症病変にm-TOR阻害薬(エベロリムス)が有効であることが示され、皮膚病変、SEGAとAMLなどに使用できる。本症治療の選択肢の1つとしてある程度確立されている。しかしながら効果は限定的で、治癒せしめるにはいまだ遠い感がある。病態研究の進歩とともに、新たな分子標的薬剤が模索され、より効果の高い創薬、薬剤の出現を期待したい。もとより従来の診断治療法の改善・改良の努力もされており、今後も発展するはずである。患者のケアや社会生活上の支援体制の強化が、今後さらに望まれるところである。5 主たる診療科小児科(神経)、皮膚科、形成外科、腎泌尿器科、呼吸器科 など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本結節性硬化症学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)結節性硬化症のひろば(主に患者と患者家族向けの診療情報)患者会情報TSつばさ会(患者とその家族および支援者の会)1)金田眞理ほか. 結節性硬化症の診断基準および治療ガイドライン-改訂版.日皮会誌. 2018;128:1-16.2)大塚藤男ほか. 治療指針、結節性硬化症. 厚生科学研究特定疾患対策研究事業(神経皮膚症候群の新しい治療法の開発と治療指針作成に関する研究).平成13年度研究報告書.2002:79.3)Krueger DA, et al. Pediatric Neurol. 2013;48:255-265.4)Northrup H, et al. Pediatric Neurol. 2013;49:243-254.公開履歴初回2013年2月28日更新2019年2月5日(謝辞)本稿の制作につき、日本皮膚科学会からのご支援、ご協力に深甚なる謝意を表します(編集部)。

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多発性硬化症進行、疾患修飾薬による違いは?/JAMA

 再発寛解型多発性硬化症(MS)患者において、フィンゴリモド、アレムツズマブ、ナタリズマブによる初回治療は、グラチラマー酢酸塩またはインターフェロンβ(IFNβ)による初回治療と比較し、二次性進行型MSへの移行リスクが低い。英国・ケンブリッジ大学のJ. William L. Brown氏らが、疾患修飾薬(DMT)の使用と二次性進行型MSへの移行リスクとの関連性を検証した前向きコホート研究の結果を報告した。未治療の再発寛解型MS患者の80%は20年以内に二次性進行型MSに移行するが、DMTと二次性進行型MSへの移行との関連性について妥当性が確認された定義を用いた研究はほとんどなかった。著者は今回の結果について、「DMTを選択する際に役立つ可能性がある」とまとめている。JAMA誌2019年1月15日号掲載の報告。再発寛解型MS患者約1,500例について解析 研究グループは、21ヵ国の神経センター68施設において、1988~2012年にDMTを開始(または臨床モニタリング)し最低4年以上前向きに追跡した再発寛解型MS患者を対象とするコホート研究を実施した。DMT(IFNβ、グラチラマー酢酸塩、フィンゴリモド、ナタリズマブ、アレムツズマブ)の使用・種類・時期について調査するとともに、客観的に定義された二次性進行型MSへの移行(EDSSスコア5.5以下は1ポイント増加、5.5を超える場合は0.5ポイント増加)を主要評価項目として解析した。 傾向スコアマッチング後に1,555例(女性1,123例、ベースラインの平均年齢[±SD]35±10歳)の患者が組み込まれた。最終追跡調査日は2017年2月14日であった。フィンゴリモド、アレムツズマブ、ナタリズマブで移行リスクがより低い グラチラマー酢酸塩またはIFNβで初回治療を行った患者は、マッチングした未治療患者と比較して、二次性進行型MSへの移行リスクが低下した(ハザード比[HR]:0.71[95%信頼区間[CI]:0.61~0.81]、p<0.001、5年絶対リスク:12 vs.27%、追跡期間中央値:7.6年[四分位範囲:5.8~9.6])。 フィンゴリモド(HR:0.37[0.22~0.62]、p<0.001、7 vs.32%、4.5年[4.3~5.1])、ナタリズマブ(HR:0.61[0.43~0.86]、p=0.005、19 vs.38%、4.9年[4.4~5.8])、アレムツズマブ(HR:0.52[0.32~0.85]、p=0.009、10 vs.25%、7.4年[6.0~8.6])でも同様の結果であった。フィンゴリモド、アレムツズマブ、ナタリズマブによる初回治療は、グラチラマー酢酸塩、IFNβと比較して、移行リスク低下との関連が認められた(HR:0.66[0.44~0.99]、p=0.046、7 vs.12%、5.8年[4.7~8.0])。 グラチラマー酢酸塩またはIFNβは、発症後5年以内に開始された場合、それ以降に開始された場合と比較して、移行リスクが低下した(HR:0.77[0.61~0.98]、p=0.03、3 vs.6%、13.4年[11~18.1])。グラチラマー酢酸塩またはIFNβからフィンゴリモド、アレムツズマブまたはナタリズマブへの変更が5年以内の場合も、それ以降と比較して同様の結果であった(HR:0.76[0.66~0.88]、p<0.001、8 vs.14%、5.3年[4.6~6.1])。

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ベンゾジアゼピンの使用と濫用~米国調査

 ベンゾジアゼピンの使用率、不適正使用の特徴および年齢による変化について、米国・ミシガン大学のDonovan T. Maust氏らが、調査を行った。Psychiatric Services誌オンライン版2018年12月7日号の報告。 2015、16年のNSDUH(National Survey on Drug Use and Health)のデータより、18歳以上の成人8万6,186例およびベンゾジアゼピン使用が報告された1万290例を対象に、横断的分析を行った。過去1年間のベンゾジアゼピン使用と不適正使用(医師が指示しなかった方法)、物質使用障害、精神疾患、人口統計学的特徴を測定した。不適正使用は、若年(18~49歳)と高齢(50歳以上)において比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・前年にベンゾジアゼピン使用を報告した患者は3,060万人(12.6%)であり、そのうち処方された患者が2,530万人(10.4%)、不適正使用患者が530万人(2.2%)であった。・濫用は、全体的な使用の17.2%を占めていた。・ベンゾジアゼピンを処方された患者は、50~64歳で最も多かった(12.9%)。・濫用は、18~25歳で最も多く(5.2%)、65歳以上で最も少なかった(0.6%)。・処方されたオピオイドまたは覚せい剤の濫用や依存は、ベンゾジアゼピンの濫用と強い関連が認められた。・ベンゾジアゼピン濫用の最も一般的なタイプは、処方箋なしであった。また、最も一般的な入手先は、友人や親戚であった。・50歳以上では、それ以下と比較し、処方された以上のベンゾジアゼピンを使用する傾向があり、睡眠補助のために使用されていた。 著者らは「米国におけるベンゾジアゼピン使用は、以前に報告されていたよりも高く、濫用が全体の使用の約20%を占めていた。50~64歳のベンゾジアゼピン使用は、65歳以上を上回っていた。覚せい剤またはオピオイドを処方した患者では、ベンゾジアゼピン濫用を監視する必要がある。睡眠や不安に対する行動的介入へのアクセスが改善されることで、濫用を減少させることができる」としている。■関連記事ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法はベンゾジアゼピン依存に対するラメルテオンの影響ベンゾジアゼピン使用と認知症リスク

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サン・アントニオ2018レポート

レポーター紹介2018年のサン・アントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)は、12月4~8日の5日間で開催された。天候は連日曇りで肌寒く、後半は雨で、会場周辺の風も強かった。最近はどのがん種においても免疫チェックポイント阻害剤の話題が花盛りであるが、乳がん領域でも報告が目立ってきた。それに伴ってTIL(Tumor Infiltrating Lymphocyte)やPD-L1の免疫染色の報告も多くなったように思う。また、原発巣と転移巣の遺伝子変化の違いが徐々に明らかにされ、CTCs (Circulating Tumor Cells)とcfDNA(cell free DNA)を同時に測定してその違いをみるような報告もあり、遺伝子検索が当たり前のように、われわれの臨床に取り込まれつつある。また、私たちの臨床に有用な発表も多くあり、かなり充実した内容であったと思う。アナストロゾール5年終了後さらに5年の追加投与の有効性を検証する本邦の臨床試験(AERAS、N-SAS BC 05)なんと言っても最初に取り上げたい報告である。日本発の大規模無作為化比較試験である。広島市民病院の大谷 彰一郎先生が素晴らしいパフォーマンスで発表され、会場が笑いで包まれていた。もちろんその内容も充実したものであった。試験名はAERAS(Arimidex Extended adjuvant RAndomized Study)であり、その意味はギリシャ語で“風”である。アナストロゾール(ANA)を約5年使用した方が対象だが、タモキシフェン(TAM)からANAに切り替えて2年以上使用した方も許容している。主要評価項目はDFSで1,697例が2群に割り付けされた。ステージはT1が約50%、N0が約78%であった。TAM→ANAは約9%と少数であった。中央観察期間4.9年でDFSはコントロール群(84.4%)と比較しANA群(91.9%)で良好であった(HR=0.548、p=0.0004)。DDFS(HR=0.514、p=0.0077)も同様であった。OSには差はなかったが(HR=1.389、p=0.665)、症例数、患者背景、観察期間が影響しているものと思われる、会場でも質問があったが、第2がん(対側乳がんを除く)の発生がANA群で1.5%(コントロール群4.3%)と低かった理由は不明である。一般的に考えられることは、他がんの発生リスクに影響するような遺伝的、環境的因子までは層別化できないので、症例数が多いといえども若干の偏りが起こりうることは否定できず、ANAの効果とは通常は考えられないだろう。有害事象も少ないが、これはANAを5年完遂した方が対象であるためであろうと推測される。私自身はとくに臨床が変わることはなく、TAM延長と同様に高リスクに対してANAを含めたAI剤の延長を提案している。EBCTCGメタアナリシス − 内分泌療法5年終了後のアロマターゼ阻害剤追加効果EBCTCGメタアナリシスで、11の比較試験で2万2,192例の女性が対象となっている。これは3つに分類され、簡単にまとめると、a)TAM5年のみ:7,500例→全再発、遠隔転移、乳がん特異的死亡率に有意差ありb)TAMからAIへのスイッチで5~10年:12,600例→全再発のみに有意差ありc)AI5年のみ:4,800例→全再発のみに有意差ありであった。当然のことながら、リンパ節転移が多いほど絶対差が大きくなっていた。AIの延長により骨折率が有意に上昇していたが、再発以外の死亡率には差がなかった。今回の解析にはAERASのデータは残念ながら含まれていなかったが、今後さらに複数の結果が統合され再解析されるだろう。AERAS試験の解説で述べたように、やはり高リスク群でAI延長の価値があるものと考えられる。乳管内新生物の再発予防のための低用量タモキシフェンこれは私にとって驚くべき臨床試験であった。タモキシフェン(TAM)に対して副作用の強い患者は決して少なくなく、アドヒアランスの低下につながっていた。そのため、どうしても副作用をマネジメントしきれない患者に対しては、実臨床上本来20mg/日のところを10mg/日に下げて使用することもあった。もちろん治療効果の低下につながる可能性も否定できないことを伝えての話である。しかし、TAMは一定の血中濃度を保たないとまったく効果がなくなるというおそらく不適切な知識をどこかで得て、10mgの使用をやめた経緯がある。あらためて『乳癌のホルモン療法4 抗エストロゲン剤(SERM)』(医学図書出版、野村 雍夫著)をひもとくと、かなり古くから10mg/日以下の低用量TAMが有効で、有害事象も少ない可能性が指摘されていた。またKi67の低下は1mg、5mg、20mgでまったく異ならなかった(Decensi A, et al. J Natl Cancer Inst. 2003;95:779-790. )。そして高リスクDCISの再発は10mgでも十分に抑制していた(Guerreri Gonzaga et al.Int J Cancer.2016;139:2127-2134.)。研究デザインはADH、LCIS、ER+のDCISでイタリア14施設から500例を集積しTAM 5mgとプラセボを無作為化割り付けし、3年の治療と少なくともさらに2年の経過観察を行った。中央観察期間は5.1年であった。その結果、乳房の全イベント、対側乳がんの発生ともに十分な抑制効果が得られていた。重篤な有害事象はほとんど差がなく、むしろプラセボ群のほうが多かったくらいである。ホットフラッシュはTAMでやや頻度が高かった。膣乾燥、筋骨格系の痛み、関節痛は有意差を認めなかった。またアドヒアランスもまったく差がなかった。本研究によりDCIS等で局所再発および対側乳がん発症抑制のための術後内分泌療法を提案しやすくなった。また、これは本研究の内容とは話がずれてしまうが、20mgで副作用が強く生活に大きな支障を来している乳がん患者にとっても10mgというオプションを提案することができる。治療は1か0ではない。1ほどでなくても0より十分高い効果が得られるのであれば、それを使用する価値が私はあると考えている。オキシブチニンによるホットフラッシュ抑制効果をみる二重盲検プラセボ対象無作為化試験(ACCRU SC-1603)オキシブチニンは尿失禁・尿意切迫感・頻尿治療剤として古くから使われている抗コリン薬であり、汗を減少させるため多汗症に有効とされている。難治性のホットフラッシュに対しても後方視的、前方視的研究で有効性が示されていた。ただし、15mg/日では毒性も無視できないものであった。本試験はTAMまたはAIを内服していて、ホットフラッシュが1週間に28回以上で30日以上持続している女性を対象に、オキシブチニン2.5mg、5mg、プラセボの3群に分けて比較している。過去の試験とともに比較するとホットフラッシュの改善度は、クロニジン、フルオキセチン、シタロプラム、ハラヴェン、ベンラファキシン、プレガバリンよりも大きかった、オキシブチニンの用量による差を正式にはみていないが、5mgの方がホットフラッシュ改善度、QOL尺度の改善度ともに大きく、毒性も許容範囲であった。本研究でよくわからないのは、過去のどの研究を比較対象にしたのか記載がないことと、詳細な有害事象の記録がないことであった。いずれにしてもオキシブチニンは本邦でも安価で低用量から使えるので、尿失禁の病名が今後増えるかもしれない。HR陽性浸潤がんに対しては、まずTAMは20mgの標準量で開始し、ホットフラッシュが強ければオキシブチニンで対応してみる。他の副作用とともにコントロールが難しくアドヒアランスが保てない状況では、低用量TAMの提案も考慮する。一方DCISであれば、最初から低用量TAM3年予定で開始するのも許容されるだろう。EBCTCGメタアナリシス−領域リンパ節照射EBCTCGメタアナリシスで、14試験、1万3,500例の女性が対象となっている。領域照射は腋窩、内胸、鎖骨上が含まれる。実際の照射は領域だけでなく、乳房や胸壁への照射もほとんどが同時に行われていたと思われる。今回の解析では古い試験(1961~78年)と最近の試験(1989~2003年)に分けて解析されたが、その理由は照射の技術が大きく異なり心臓への影響が異なると予想されるからである。最近の試験では10年の乳がん特異的死亡率はN0~3個では差がなくN4個以上で有意差(7.9%の絶対差)が認められた。ただし、Forest plotでは照射の効果は転移個数によらず一定していることから、N1~3個では症例を選択して照射を考慮するのがよいだろう。すなわち悪性度の高いタイプでは、胸壁を含めた照射の候補となろう。術前化学療法を施行している場合は、悪性度の高い浸潤がんで効果が弱く、胸壁やリンパ節に残存している症例に対して有効であろう。センチネルリンパ節生検陽性に対し、腋窩郭清群と照射群を比較した試験-AMAROS試験の10年の結果5年の結果はASCO2013 乳がん会員聴講レポートにて既に報告しているので、研究の詳細はそちらを参照して欲しい。腋窩照射の範囲はlevel I+II+III+鎖骨上内側であり、全摘症例も約20%含まれている。今回10年という長期成績であるが、結論は変わらず腋窩再発は両群ともきわめてわずかであった(郭清群0.43%[5yrs]→0.93%[10yrs] vs.照射群1.19%→1.82%)。もちろんDFS、DDFS、OSとも差はなかった。リンパ浮腫は5年で24.5% vs.11.9%であり、照射群での出現率が半分以下である。リンパ浮腫治療を要する割合も18.2% vs.6.6%であり、照射群での程度の軽さをうかがわせる。肩の機能は両群で差はなかった。このことから全摘症例でセンチネルリンパ節生検陽性でも、もはや郭清は不要で、腋窩照射の適応となろう。考慮すべき問題はZ0011と合わせて、照射範囲をどこまで行うかである。むやみやたらと鎖骨上まで照射するのも考えものである。1つの目安として腋窩リンパ節転移4個以上を予測するKatzのノモグラムが参考になる。Validationもしっかり行われている。(Katz A,et al.J Clin Oncol. 2008;26:2093-2098.)。計算式は原発巣浸潤径 (cm) x 2.6 +(センチネルリンパ節転移陽性数 x 9.2)+11 リンパ管侵襲+のとき+11 i小葉がんのとき+11 iリンパ節節外浸潤+のとき+16 iリンパ節転移相の最大径> 2mmのとき-8.6 センチネルリンパ節1個以上のとき-58であり、合計0で4個以上の確率50%である。これくらいの確率があれば、胸壁と鎖骨上まで照射する価値が十分あるかもしれない(ここは意見の違いがあるだろう)。悪性度の高いサブタイプも考慮に入れるべきである。術前化学療法が行われた場合には、リンパ節転移残存、原発巣浸潤がん残存、悪性度の高いサブタイプ、となろうか。細胞診や針生検で腋窩転移があらかじめわかっている症例はどうするか。この場合は陽性リンパ節+αのlower axillary dissectionを行い、病理結果からKatzのノモグラムと合わせて照射の範囲を決定してはどうか。これらはあくまで1つの提案であり、各施設でよく議論して決めていくべきである。トリプルネガティブ乳がんに対する標準化学療法へのカペシタビンの上乗せ効果スペインからの報告である。標準化学療法を終えた後にカペシタビンを8サイクル行うか経過観察するかの第III相無作為化比較試験であり、主要評価項目はDFSである。スペインおよび中南米の8ヵ国から876例が無作為化され、N0が約55%であった。結果として5年DFSは79.6% vs.76.8%であり、有意差は認められなかった。サブセット解析ではBasalでは差がないものの、Non-basalで82.6% vs.72.9%(HR=0.53、p=0.02)と有意にカペシタビン群で良好であった。OSもNon-basalで89.5% vs.79.6%(p=0.007)と有意であった。サブセット解析のためあくまで参考データではあり、今後の研究が待たれる。CREATE-Xでは術前化学療法でnon-PCRに対してカペシタビンが追加され、その効果が証明された(Masuda N, et al.N Engl J Med.2017;376:2147-2159.)。サブセット解析ではTNBCで差が大きかった。こちらについてもBasal vs.Non-basalで比較してみると面白そうである。いずれにしてもTNBCではなるべく術前化学療法で効果判定をして、カペシタビンの使用を考えるのが賢明であろう。トリプルネガティブ乳がんに対して術後補助化学療法の遅れが与えるインパクト2004~2014年にトリプルネガティブ乳がん(TNBC)と診断され、術後補助化学療法を行った687例を対象に、手術から最初の化学療法開始までの期間を130日以内(189例、27.5%)、31~60日(329例、47.9%)、61~90日(115例、16.7%)、91日以上(54例、7.9%)の4グループに分類して予後をみた。年齢中央値は48歳、ステージはIIが60%、化学療法はAnthracycline-Taxaneが54.6%、Anthracycline41.5%であった。OS、DFSともに、30日以内が最も良好であった。多変量解析でも独立した因子であった。10年OSは30日以内とそれ以上で10%以上の絶対差があった。化学療法の遅れと予後に関する研究を一部紹介する。Zhan QH, et al. Oncotarget.2017;9:2739-2751.システマティックレビューとメタアナリシスであり、最終的に12研究(15の解析グループ)が選択され、12グループではOS、5グループではDFSが検討された。4週間遅れるごとに、OS、DFSともに予後不良と関連していた。総合解析では、2週から18週までの間で、1週間遅れるごとにOSが低下していく傾向がみられた。2つの研究ではサブタイプについても検討され、TNBCにおいて61日以上の遅れは、30日までと比較しOSが不良であった。HER2タイプで有意差が出なかったのは、トラスツズマブの使用にばらつきがあるかもしれないと考察している。Gallagher CM, et al. Breast Cancer Res Treat.2016;157:145-156.米国国務省健康保険請求データベースから抽出された2,749例のHER2陽性乳がん患者において、診断から術後トラスツズマブ使用までの間隔が6ヵ月を超える例(552例)では、6ヵ月以下(2,197例)と比較して、再発、OS、RFSとも不良であった。Riba LA, et al. Ann Surg Oncol. 2018;25:1904-1911.米国国立がんデータベースから抽出された16万6,681例の乳がん女性患者を対象に、術後90日以上の化学療法の遅れに関連した外科的因子を解析している。4.3%が90日を超えていて、関連する因子は術後の予期しない再入院、より小さな切除量、自家組織再建を伴う全摘、断端陽性であった。また90日以上の遅れは5年のOSの低下と関連していた。予後不良因子としては、より高齢、より高い併存疾患指数、より大きい腫瘍径、より多いリンパ節転移、HR-/HER2+、TNBCであった。これらの研究は当然のことながら、すべてnon-RCTである。しかし、いずれもほぼ一貫した結果となっており、より高悪性度の腫瘍、とくにTNBCやトラスツズマブ使用を前提としたHER2陽性(HR陰性)では、できるだけ早期に化学療法が行えるよう配慮していくことが求められる。化学療法の遅れは、手術からだけではなく、初診から、さらには異常発見時からの期間も関係している可能性がある。乳がんに限らず、これらすべての流れが円滑に行えるようなシステムの構築が、病院、地域、国単位で必要であろう。6ヵ月と12ヵ月のトラスツズマブ投与を比較するPHARE試験の最終結果非劣性試験で、マージンは1.15と設定されていて、3,384例の患者が無作為化割り付けされた。3.5年の観察期間での結果は以前に論文化されており、非劣性は証明されなかった。Pivot X, et al. Lancet Oncol. 2013;14:741-748.今回は7.5年の経過観察で最終解析であり、HR=1.08、95%CI 0.93~1.25、p=0.39であった。生存率曲線はほぼぴったりとくっついているものの、やはり非劣性は証明されなかったということである。演者が語っていたのは他試験との非劣性マージンの設定の違いである。PERSEPHONE試験ではマージンを1.25に設定していたために、非劣性を証明できた。結果はほぼ同様なのに、この違いで非劣性を証明できなかったことを結論で述べていた。確かにその通りである。結局は私たち臨床家がどの程度の非劣性マージンを許容するかにかかっている。心毒性は長期投与のほうが増えることは確実である。多くの試験結果が揃ってきたので、これらの結果に基づいて臨床的にどのように対応するべきか私たちはよく話し合う必要がある。私自身のスタンスは以前から変わっておらず、ASCO 2017乳がん会員聴講レポートのShort-HER試験のところで述べた。予後良好群ではタキサンとHERの同時併用3ヵ月で終了するが、より予後の悪い群では従来通り12ヵ月使用する。現時点で6ヵ月のオプションは提示していない。トラスツズマブを受けるHER2陽性乳がん患者の心毒性予防としてのアンジオテンシン変換酵素阻害薬(リシノプリル)とβブロッカー(カルベジロール)の無作為化地域密着型試験小規模の研究からACE阻害薬とβブロッカーの心毒性予防効果が示唆されていた。本研究は無作為化二重盲検プラセボ対照多施設地域密着型試験であり、主要評価項目は52週のトラスツズマブ使用中から終了後1年以内の心毒性率である。アントラサイクリンを含むレジメンではプラセボよりもリシノプリルとカルベジロール使用群で心毒性のない生存率が良好であった。それに対してアントラサイクリンを含まないレジメンでは差がなかった。リシノプリルとカルベジロールでは有意な差はなかったが、絶対差としてカルベジロールのほうが良好な傾向であった。心毒性以外の有害事象として、疲労、めまい、頭痛、咳、低血圧ともにカルベジロールのほうが低頻度であった。本結果からカルベジロールとリシノプリルはトラスツズマブによる心毒性を抑制できることがわかり、十分に使用する価値がある。トラスツズマブを含む術前化学療法にて浸潤がんが残存した乳がんに対する術後補助療法としてのトラスツズマブとT-DM1の比較-KATHERINE試験からの初回報告本試験は、HER2陽性乳がんでHER2標的薬を含む術前化学療法により、浸潤がんが残存した場合に、T-DM1またはトラスツズマブを無作為化割り付けし、いずれも14サイクル行った場合の生存率をみたもので、発表後すぐに論文化された(Von Minckwitz G, et al. N Engl J Med. 2018 Dec 5.)。主要評価項目はIDFSで、1,486例が無作為化割り付けされた。HR陽性が72%で、術前化学療法後のリンパ節転移陽性が46%であった。また術前に使われたHER2標的剤トラスツズマブ単独が80%であったが、残りはペルツズマブ等が併用されていた。中央観察期間は41ヵ月で、3年IDFSはT-DM1群が有意に良好であった(77.0% vs.88.3%、HR=0.50、p

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睡眠薬の長期使用に関する10年間のフォローアップ調査

 催眠鎮静薬の長期使用は、非常によく行われているが、ガイドラインでは推奨されていない。新規睡眠薬使用患者における長期使用への移行率は、十分に研究されているわけではなく、現時点では、有益だと考えられる推奨薬は不明である。イスラエル・テルアビブ大学のYochai Schonmann氏らは、新規睡眠薬使用患者における長期使用リスクを定量化し、睡眠薬の選択とその後の使用パターンとの関連性を検討した。European Journal of Clinical Pharmacology誌オンライン版2018年8月8日号の報告。 イスラエル最大のヘルスケアプロバイダーのデータベースを用い、検討を行った。2000~05年に催眠鎮静薬を新たに使用した患者23万6,597例を対象に、10年間フォローアップを行った。2年目、5年目、10年目の処方箋が記録された。初回の睡眠薬選択(ベンゾジアゼピン/Z薬[非ベンゾジアゼピン系])と長期使用との関連は、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・新規睡眠薬使用患者の平均年齢は、63.7歳(SD±16.4歳)であった。・女性の割合は、58.6%であった。・ベンゾジアゼピンは、15万4,929例(65.5%)に使用されていた。・ベンゾジアゼピン使用患者は、Z薬使用患者と比較し、より高齢であり、社会経済的状態もより低かった(p<0.001)。・10年目において、新規ベンゾジアゼピン使用患者の66.8%(10万3,912例)が30DDD(defined daily dose:規定1日用量)以下、20.4%(3万1,724例)が長期使用(180DDD/年以上)、0.5%(828例)が過量投与(720DDD/年以上)であった。・Z薬の使用は、長期使用リスクの増加と関連していた(p<0.0001)。 2年目:17.3% vs.12.4%、RR=1.40(1.37~1.43) 5年目:21.9% vs.13.9%、RR=1.58(1.55~1.61) 10年目:25. 1% vs.17.7%、RR=1.42(1.39~1.45)・Z薬使用患者における日常的投与および過量投与についても、同様の結果が観察された(p<0.001)。 著者らは「新規催眠鎮静薬使用患者のうち約20%が長期使用となっていた。また、過量投与は、0.5%に認められた。そして、Z薬の使用は、長期使用リスク増加と関連が認められた」としている。■関連記事ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は高齢者へのZ薬と転倒・骨折リスクに関するメタ解析ベンゾジアゼピン依存に対するラメルテオンの影響

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寝返りができない軽症型SMAの現実

 2018年8月27日、バイオジェン・ジャパン株式会社は、脊髄性筋萎縮症治療薬ヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ髄注12mg)が発売から1年を超えたのを期し、「新薬の登場により、SMA治療が変わる」をテーマとする、第2回目のメディアセミナーを都内で開催した。セミナーでは、主に成人の脊髄性筋萎縮症(以下「SMA」と略す)患者について、日常の様子や治療効果などの説明が行われた。軽症でも30歳までに患者の約半数が歩行機能を喪失 講演では、斎藤 利雄氏(刀根山病院 神経内科・小児神経内科 神経内科医長/臨床研究部神経筋研究室長)を講師に迎え、「脊髄性筋萎縮症と神経内科 ヌシネルセン投与でどう変わる?」をテーマにレクチャーが行われた。 SMAは、進行性の運動ニューロン病として、体幹・四肢の近位部優位の筋力が低下する疾患で、指定難病の指定を受けている。斎藤氏の所属する刀根山病院では、生後6ヵ月までに発症する重症のI型が8例、生後1歳6ヵ月までに発症する中間型のII型が32例、生後1歳6ヵ月以降に発症する軽症型のIII型が8例と全48例のSMA患児・患者が治療を受けている。 今回解説されたIII型の病型は、運動機能発達のマイルストーンの最高到達点が「支えなしでの歩行」であり、平均余命は健康な人と同様であるなど、ほかのI・II型と比較すると予後はよいとされている。ただし、運動機能について、IIIa型(生後18ヵ月~3歳までに発症)では10歳までに、IIIb型(12歳未満発症)では30歳までに、その約半数が歩行機能を喪失するとされている1)。SMAの軽症型はけっして軽症ではない 講演では9歳、12歳、32歳、49歳の症例を挙げ、実際、いずれの症例でも歩行障害があり、成人例では中学生のころから健康な人と同じ運動ができなくなり、徐々に運動機能が低下する経過が説明されたほか、顕著な運動障害として「寝返りができない」「コップを持ち上げて飲めない」「座るときへたり込むように座る」など、障害が患者QOLに与える影響を報告した。SMAのIII型は軽症とされているが、健康な人ならば簡単にできる動作でも、困難を伴い、日常生活に苦慮している状況を説明した。さらに、この運動機能の低下が、「患者の就労などに大きなハードルとなっている」と齋藤氏は指摘する。とくに本症では、精神遅滞などがないため、就業への意欲があっても道が閉ざされる患者の失望や運動機能のさらなる悪化へ不安を覚える患者の声なども報告された。 つぎに32歳・男性へのヌシネルセン投与例について自験例を説明。運動機能の回復は認められなかったが、易疲労感の減少などはあったと紹介した。 最後に齋藤氏は、「ヌシネルセンの登場によりSMA患児・患者の予後が変わるかもしれないが、そのためには新生児期からの早期診断・早期介入が必要である。また、小児科と神経内科の連携、麻酔科など他科との連携も必要で医療的ケアの充実も求められる。解決すべき問題としては、本剤の髄腔内投与の方法や長期投与による諸臓器への影響、薬価など課題も多いが、患者の生活をどう変えるか長い目でみていきたい」と期待を語り、講演を終えた。■文献1)Wadman RI,et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2017;88:365-367.■参考SMA特設サイト(バイオジェン・ジャパン株式会社提供)SMA患者登録システムSMART(SMARTコンソーシアム)■関連記事SMA患児の運動機能が大きく変わった

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