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女性の低体重/低栄養症候群のステートメントを公開/日本肥満学会

 日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏〔千葉大学 学長〕)は、4月17日に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)ステートメント」を公開した。 わが国の20代女性では、2割前後が低体重(BMI<18.5)であり、先進国の中でもとくに高率である。そして、こうした低体重や低栄養は骨量低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わるさまざまな障害と関連していることが知られている。その一方で、わが国では、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じ「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、これに起因する強い痩身願望があると考えられている。そのため糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。 こうした環境の中で、今まで低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であったことから日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループ(委員長:小川 渉氏〔神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授〕)を立ち上げた。 このワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。 今回公開されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。若年女性の低体重を診たらFUSを想起してみよう ステートメントは、低体重および低栄養による健康リスクや症状に触れ、具体例としてエストロゲン低下などによる骨量低下および骨粗鬆症、月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク、鉄や葉酸など微量元素やビタミン不足による健康障害、糖尿病発症となる代謝異常、筋量低下によるサルコペニア様状態、痩身願望からくる摂食障害、そのほか倦怠感や睡眠障害などの精神・神経・全身症状を挙げ、低体重などの問題点を指摘している。 そして、低体重に対する介入の枠組みが確立されていないこと、教育現場などでも啓発が十分とはいえないこと、糖尿病や肥満症治療薬が不適切使用されていることから作成されたとステートメント作成の背景を述べている。 先述のワーキンググループでは、新たな疾患概念として、女性における低体重・低栄養と健康障害の関連を示す症候群の名称として、FUSを提案し、18歳以上で閉経前までの成人女性を対象にFUSに含まれる主な疾患や状態を次のように示している。・低栄養・体組成の異常 BMI<18.5、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)・性ホルモンの異常 月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)・骨代謝の異常 低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)・その他の代謝異常 耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症・循環・血液の異常 徐脈、低血圧・精神・神経・全身症状 精神症状(抑うつ、不安など)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害など)、身体活動低下 また、ステートメントでは、FUSの提唱でスティグマを生じないように配慮すると記している。今後FUSのガイドラインを策定し、広く啓発 FUSの原因として「体質性痩せ」、「SNSなどメディアの影響によるやせ志向」、「社会経済的要因・貧困などによる低栄養」の3つを掲げ、原因ごとの対処法、たとえば、「体質性痩せ」では健康診断時の栄養指導や必要なエネルギー、ビタミンやミネラルの十分な摂取の推奨などが記されている。 そして、これからの方向性として、「ガイドラインの策定」、「健診制度への組み込み」、「教育・産業界との連携」、「戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)との連携」を掲げている。 提言では、「今後は診断基準や予防・介入プログラムの充実を図り、医療・教育・行政・産業界が一体となった総合的アプローチを推進する必要がある。これらの取り組みが、日本の若年女性の健康改善と次世代の健康促進に寄与することが期待される」と結んでいる。

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第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?【統計のそこが知りたい!】

第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?臨床研究や医学論文を読んでいる方々にとって、“PICO”と“PECO”は馴染み深いフレームワークです。しかし、意外にその意味や活用方法を改めて考える機会は少ないかもしれません。これらのフレームワークは、適切な臨床研究の設計やエビデンスの解釈においてとても重要となります。今回は、PICOとPECOの概要と、その意義や具体的な活用法について解説します。■PICOとはPICOは、臨床研究の設計や系統的レビュー、臨床診療ガイドラインの作成時に用いられるフレームワークであり、以下の要素で構成されています。P(Patient/Population/Problem)対象となる患者、集団、問題I(Intervention)介入や治療法C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PICOの各要素の詳細P(Patient/Population/Problem)対象とする患者群の特性(年齢、性別、疾患の種類やステージなど)を明確にします。たとえば、「高血圧症の成人」や「2型糖尿病の患者」など、研究の対象となる集団を具体的に設定します。I(Intervention)研究で評価する治療法や介入を明確にします。具体例として、「新規の降圧薬」や「食事療法」といったものが挙げられます。C(Comparison)介入の効果を比較する対照群を示します。プラセボや標準治療、他の治療法などが比較対象となる場合があります。対照群が存在しない場合(例:観察研究など)もあります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。主要アウトカムとして設定されるものには、死亡率、再発率、副作用などが含まれます。■PICOの具体例たとえば、「新しい降圧薬Aの効果と安全性を検討する臨床試験」のPICOのフレームワークは次のようになります。P高血圧症の成人I降圧薬ACプラセボO血圧の変化、薬の副作用PICOのフレームワークを用いることで、研究の焦点を明確にし、適切な研究デザインやエビデンスの解釈に役立てることができます。■PECOとはPECOとはPICOの変形で、とくに疫学研究や予防に関連する研究でよく用いられます。PECOは以下の要素で構成されます。P(Population)対象となる集団E(Exposure)曝露やリスク因子C(Comparison)比較対照O(Outcome)結果やアウトカム■PECOの各要素の詳細P(Population)対象となる集団を明確にします。年齢、性別、地域、疾患の有無などの基準で集団を定義します。E(Exposure)曝露やリスク因子を示します。たとえば、「喫煙習慣」や「運動不足」といった生活習慣に関するものや、「化学物質への曝露」などが含まれます。C(Comparison)比較対象群を設定します。非曝露群や別の曝露水準を持つ群が対照群となります。O(Outcome)研究で評価するアウトカムを示します。発症率や死亡率、生活の質などが主なアウトカムとなります。■PECOの具体例たとえば、「喫煙と肺がんの関連を調査するコホート研究」のPECOのフレームワークは次のようになります。P成人(男女)E喫煙者C非喫煙者O肺がんの発症率PECOのフレームワークは、観察研究においてリスク因子や曝露とアウトカムの関連性を明らかにするために役立ちます。■PICO/PECOの活用例1)PICO/PECOのフレームワーク系統的レビューとメタアナリシスにおいて、研究課題を明確に定義するための重要なステップとなります。研究課題を具体的に設定することで、適切な文献の検索と選定が行えるようになります。たとえば、糖尿病患者における新規治療薬の効果を評価する系統的レビューを行う場合、PICOのフレームワークを使うことで、次のような課題が設定できます。P2型糖尿病患者I新規治療薬XCプラセボまたは標準治療O血糖コントロール、体重変化、副作用上記の課題に基づき、関連する研究を選定し、統合した解析を行うことが可能です。2)臨床診療ガイドラインの作成臨床診療ガイドラインを作成する際にも、PICO/PECOのフレームワークは重要です。エビデンスに基づく推奨を作成するためには、まず適切な研究課題を設定する必要があります。たとえば、骨粗鬆症患者へのビタミンDサプリメントの効果を評価するためのガイドラインを作成する場合、次のようなPICOのフレームワークが考えられます。P骨粗鬆症患者IビタミンDサプリメントCプラセボまたは無治療O骨折リスクの低下、副作用上記の課題を基に関連文献を検索し、エビデンスに基づく推奨を行います。3)個別の臨床研究設計臨床研究のデザイン段階でPICO/PECOを活用することで、研究目的を明確にし、適切な対象者の選定やアウトカムの設定が可能です。これにより、バイアスの少ない信頼性の高い結果が得られます。このように、PICOとPECOのフレームワークは、臨床研究の設計、系統的レビューやメタアナリシスの実施、ガイドラインの作成など、医療統計において不可欠なツールです。これらのフレームワークを効果的に活用することで、明確な研究課題の設定と適切なエビデンスの解釈が可能となり、患者にとって有益な医療を提供するための指針となるだけではなく、論文を読む際にもこのPICOとPECOのフレームワークを知っておくと論文の理解が深まります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第4回 アンケート調査に必要なn数の決め方第5回 臨床試験で必要なn数(サンプルサイズ)「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問2 何人くらいの患者さんを対象にアンケート調査をすればよいですか?

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バターを植物油に置き換えると死亡リスク17%減

 バターがあれば何でもおいしくなる、というのは料理人の格言だが、バターは健康には良くないことが新たな研究で示された。バターの摂取量が多い人は少ない人に比べて早期死亡リスクが高いが、オリーブ油のような植物性の油を主に使っている人は早期死亡リスクが低いことが明らかになったという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のYu Zhang氏らによるこの研究結果は、「JAMA Internal Medicine」に3月6日掲載されると同時に、米国心臓協会(AHA)の生活習慣科学セッション(EPI/Lifestyle Scientific Sessions 2025、3月6~9日、米ニューオーリンズ)でも発表された。 この研究は、医療従事者を対象とした3つの長期研究で30年以上にわたって追跡調査された、22万1,054人の参加者の食事や健康状態に関するデータに基づいたものだ。参加者の中に、研究参加時にがん、心血管疾患(CVD)、糖尿病、神経変性疾患を有する人はいなかった。これらの研究では、4年ごとに食事内容に関する調査が実施されていた。調査では、バターの総摂取量として、バターとマーガリンをブレンドしたもの、バタースプレッド、家庭でのパン作りや揚げ物、炒め物などの料理に使われるバターの摂取量も調査された。植物油の摂取量は、揚げ物や炒め物、ソテー、パン作り、サラダのドレッシングに使った量に基づき推定された。 33年間の追跡期間中に5万932人が死亡していた。死因は主に、がん(1万2,241人)とCVD(1万1,240人)だった。バターまたは植物油の摂取量に応じて、参加者をそれぞれ4群に分類して解析した結果、バターの摂取量が最も多い群では、最も少ない群と比べて死亡リスクが15%高いことが示された(ハザード比1.15、95%信頼区間1.08〜1.22、P for trend<0.001)。一方、植物油の摂取量が最も多い群では、最も少ない群と比べて死亡リスクが16%低かった(同0.84、0.79〜0.90、P for trend<0.001)。さらに、毎日少量のバターを植物油に置き換えるだけでも死亡リスクが低下することが示された。具体的には、1日当たり10gのバターを植物油に置き換えることで、全死亡およびがんによる死亡のリスクがそれぞれ17%低下することが明らかになった(全死亡:同0.83、0.79〜0.86、P<0.001、がんによる死亡:同0.83、0.76〜0.90、P<0.001)。 Zhang氏は、「驚いたのは、その関連の強さだ。毎日の食事でバターを植物油に置き換えることで全死亡リスクが17%低下するというのは、健康に対してかなり大きな影響だと言える」とAHAのニュースリリースの中で述べている。 また、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院栄養学助教のDaniel Wang氏は、「バターを大豆油やオリーブ油に置き換えるというシンプルな食事内容の変更が、長期的に大きな健康効果をもたらす可能性がある。このことを人々は考慮した方が良いかもしれない」とニュースリリースの中で述べている。 Zhang氏らによる研究の背景情報によると、バターと植物油にはいくつかの種類の脂肪酸が含まれており、それぞれが体に異なる影響を与えるという。例えば、バターにはコレステロールの上昇や動脈硬化との関連が指摘されている飽和脂肪酸が多く含まれている。飽和脂肪酸は、炎症の亢進やホルモン活性の変化にも関連しており、がんのリスクを高める可能性がある。一方、植物油にはコレステロールを下げ、細胞や脳の健康を維持し、炎症を抑え、特定のビタミンの吸収を助ける不飽和脂肪酸が多く含まれている。 また、米アーカンソー医科大学疫学助教のYong-Moon Mark Park氏らが執筆した付随論評では、バター好きの人は日頃から他にも健康を損なうような食事を選択している可能性があると指摘されている。Park氏は、「バターは不健康な食習慣との関連が指摘されることが多い。一方、植物油は地中海食や植物性食品を中心とした食事など、より健康的な食習慣との関係が示されることが多い。こうした食事には、栄養価の高い食品と健康的な脂肪が豊富に含まれており、これらが相乗的に作用して慢性疾患と早期死亡のリスクを低下させる」と述べている。

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転倒予防に一番効果的な介入は?【論文から学ぶ看護の新常識】第10回

転倒予防に一番効果的な介入は?病院内での転倒予防介入の効果を調べた研究により、患者および医療従事者への教育介入のみが統計的有意に転倒を減少させる効果があることが示された。Meg E Morris氏らの研究で、Age and Ageing誌2022年5月06日号に掲載された。病院内転倒を減少させる介入:システマティックレビューとメタアナリシス研究グループは、転倒予防介入が病院内における転倒率および転倒リスクに与える影響を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタアナリシスを実施した。分析対象となったのは、入院中の成人患者を対象に転倒予防介入を行った45件の研究であり、そのうち43件がシステマティックレビュー、23件がメタアナリシスに含まれた。介入方法は、患者および医療従事者向け教育、環境改善、補助用具の使用(アラーム、センサー、歩行補助具、低床ベッドなど)、転倒予防に関連する方針・システムなどの変更、リハビリテーション、薬剤管理(ビタミンDによる栄養補助を含む)が含まれた。評価指標には、転倒率比(RaR)と転倒リスク(オッズ比[OR])が用いられ、単独介入および複合的介入(2つ以上の介入の組み合わせ)の両方を評価した。主な結果は以下の通り。教育介入のみが統計的に有意な結果を示し、転倒率(RaR:0.70、95%信頼区間[CI]:0.51~0.96、p=0.03)および転倒リスク(OR:0.62、95%CI:0.47~0.83、p=0.001)を有意に低下させた。エビデンスの質は高いと評価された(GRADE評価)。転倒予防に関するシステムについての研究(9件)は、効果量が報告されていないためメタアナリシスに含まれなかった。1時間ごとの巡回、ベッドサイドでの申し送り、電子監視または患者安全管理者の配置を調べた5つの研究では、いずれも転倒率の有意な低下は示されなかった。医学的評価とそれに基づく介入を行った研究では、1000患者日あたりの転倒率が、対照群10.6に対し、介入群1.5と有意に低下(p<0.004)した。複合的介入は、転倒率(RaR:0.8、95%CI:0.63~1.01、Z=−1.88、p=0.06)に低下傾向がみられたが、統計的有意な低下は認められなかった。スコア化転倒リスクスクリーニングツール(FRAT)は、2つの大規模RCTの結果より、スコア化を行わなくても転倒率に影響がないことが示された(統計的有意性の記載なし)。システマティックレビューに含まれた個別研究の中で、医療従事者教育、一部の複合的介入、特定のリハビリテーション、システム関連介入では、特定の介入において効果を示唆するエビデンスが報告されたが、バイアスリスクは低~中程度と評価された。院内転倒率および転倒リスクを効果的に減少させるには、患者および医療従事者への教育が最も効果的であり、複合的介入はプラスの影響をもたらす傾向があった。アラーム、センサー、スコア化転倒リスク評価ツールの使用と転倒減少との関連は確認されなかった。転倒って恐ろしいですよね…。2022年のメタアナリシス(いろんな論文を組み合わせて評価した論文)では、患者とスタッフへの教育が転倒率と転倒リスクの減少に最も効果的であることが示されました。患者教育では、入院中の転倒リスクに対する認識を高めることが重要です。65歳以上や複数の併存疾患がある50歳以上の患者は特に高リスクであり、教育プログラムを通して自身の転倒リスクを理解することで、予防行動を取ることができます。一方、スタッフ教育も重要です。転倒リスクのアセスメント、予防策の実施、転倒発生時の対応などに加えて、とくに新人や中途採用者の方には、疾患特性による転倒リスクを理解してもらうための教育が必要です。教育によるスタッフのスキル向上が、効果的な転倒予防につながります。またそれ以外の介入を組み合わせることも重要です。例えば、環境整備、補助用具の活用、リハビリテーションなど、多面的なアプローチがあります。しかし、メタアナリシスの結果では、補助用具の使用やリハビリテーションの単独での効果は限定的であり、他の介入と組み合わせることが重要だと示唆されています。入院時の環境整備や補助用具の活用、リハビリテーションによる身体機能の改善などを組み合わせることで、より効果的な転倒リスクの軽減が期待できます。転倒転落の対策は教育を軸としつつ、環境整備、補助用具、リハビリテーションなど多角的な視点からのアプローチを組み合わせることが求められます。一つの介入方法にこだわらずに、広い視野を持ちながら転倒転落を予防していきましょう!論文はこちらMorris ME, et al. Age Ageing. 2022;51(5): afac077.

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食物繊維の摂取による肥満リスク低下、男性でより顕著?

 2型糖尿病患者で、食物繊維の摂取量が多いほど肥満リスクが低下することが明らかになった。新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野のEfrem d'Avila Ferreira氏、曽根博仁氏らの研究によるもので、詳細は「Public Health Nutrition」に2月4日掲載された。 肥満の予防と管理においては、食物繊維が重要な役割を果たすことは示されているが、性別で層別化した場合に相反する結果が報告されるなど、一貫したエビデンスは得られていない。このような背景からFerreira氏らは、日本人の2型糖尿病患者集団を性別・年齢別に層別化し、食物繊維摂取量と肥満との関連を検討した。さらに、この関連に寄与する可能性のある生活および食習慣についても検討を行った。 この横断研究では、一般社団法人糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)のデータが用いられた。対象は、2014年12月~2019年12月の期間に、JDDMに参加する日本の糖尿病専門医クリニックで治療を受けた30~89歳までの外来患者とした。解析対象は1,565名(平均年齢62.3±11.6歳、男性63.1%)だった。 参加クリニックでは、希望する外来患者に対して、JDDMの開発した生活習慣に関するアンケートを実施。患者は身長・体重を自己申告し、食習慣については、それぞれ食物摂取頻度調査票(FFQ)に記入してもらった。栄養素および食品の摂取量は標準化された栄養計算ソフトウェアで計算し、1日当たりの摂取量が600kcal以下または4,000kcal以上の場合は外れ値として解析から除外した。身体活動は国際標準化身体活動質問表(IPAQ)の短縮版を用いて計算した。肥満の定義は日本肥満学会に従い、BMIが25kg/m2以上とした。 性別・年齢およびライフスタイル要因、主要栄養素の摂取量を調整した多変量解析を行った結果、全患者において食物繊維の摂取量が多いほど肥満リスクが低下することが明らかになった(オッズ比OR 0.591〔95%信頼区間0.439~0.795〕、P trend=0.002)。層別解析では、男性(P trend=0.002)および59~68歳群(P trend=0.038)で有意な逆相関の傾向が認められ、69~89歳群(P trend=0.057)でも有意傾向がみられた。一方で女性(P trend=0.338)および30~58歳群(P trend=0.366)では逆相関の傾向は認められなかった。また、男性では食物繊維の摂取量が多いほど、ライフスタイルが健康的であることも分かった。その特徴として、身体活動レベルが高いこと(p<0.001)や、喫煙率の低さ(p<0.001)が挙げられる。 食物繊維摂取量と食品群との相関関係をみると、全患者において、野菜、果物、大豆/大豆製品が強い相関を示したが、穀物は弱い相関を示した。ビタミンおよびミネラルの場合は、葉酸、カリウム、ビタミンCなどが食物繊維の摂取量と強い相関を示していた。 研究グループは本研究について、横断研究であり、日本人の2型糖尿病患者集団のみを対象としたことからも一般化できないといった限界点を挙げた上で、「肥満を効果的に管理するには、食物繊維の豊富な様々な食品を推進するような的を絞った取り組みが必要。また、多様な集団における食物繊維と肥満の関係を理解するには、さらなる研究が必要と考える」と総括している。

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ビタミンD補充、多発性硬化症の疾患活動性を抑制するか/JAMA

 ビタミンD欠乏は多発性硬化症(MS)のリスク因子であり、疾患活動性上昇のリスクと関連しているが、補充による有益性のデータは相反している。フランス・モンペリエ大学のEric Thouvenot氏らD-Lay MS Investigatorsは、プラセボと比較して高用量ビタミンD(コレカルシフェロール10万IU、2週ごと)は、clinically isolated syndrome(CIS)および再発寛解型MS(RRMS)の疾患活動性を有意に低下させることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年3月10日号に掲載された。フランス36施設の無作為化プラセボ対照第III相試験 D-Lay MS試験は、高用量コレカルシフェロール単剤療法がCIS患者の疾患活動性を抑制するか評価することを目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2013年7月~2020年12月にフランスの36のMS施設で患者を登録した(French Ministry of Healthの助成を受けた)。 年齢18~55歳、未治療、罹患期間が90日未満、血清ビタミンD濃度が100nmol/L未満で、McDonald診断基準2010年改訂版の空間的多発性の条件を満たすか、MSと一致するMRI上の2つ以上の病変を有し、脳脊髄液陽性(2つ以上のオリゴクローナルバンドの存在)の患者を対象とした。これらの患者を、コレカルシフェロール(10万IU)またはプラセボを2週ごとに24ヵ月間経口投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは疾患活動性とし、24ヵ月の追跡期間中の再発またはMRI活動性(MRI上で脳FLAIR病変または脊髄T2病変、あるいはT1強調造影病変が新たに発生、または明らかに拡大すること)で定義した。3つのMRI関連の副次アウトカムも有意に良好 316例(年齢中央値34歳[四分位範囲:28~42]、女性70%)を登録し、試験薬の投与を少なくとも1回受けた303例(95.9%)(ビタミンD群156例、プラセボ群147例)を主解析の対象とした。最終的に、288例(91.1%)が24ヵ月の試験を完了した。 疾患活動性の発現は、プラセボ群が74.1%(109例)であったのに対し、ビタミンD群は60.3%(94例)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.66[95%信頼区間[CI]:0.50~0.87]、p=0.004)。また、疾患活動性の発現までの期間中央値は、プラセボ群の224日に比べビタミンD群は432日と有意に長かった(p=0.003[log-rank検定])。 3つのMRI関連の副次アウトカムは、いずれも以下のとおり、プラセボ群に比べビタミンD群で発生率が有意に低かった。MRI活動性(ビタミンD群57.1%[89例]vs.プラセボ群65.3%[96例]、HR:0.71[95%CI:0.53~0.95]、p=0.02)、新規病変(46.2%[72例]vs.59.2%[87例]、0.61[0.44~0.84]、p=0.003)、造影病変(18.6%[29例]vs.34.0%[50例]、0.47[0.30~0.75]、p=0.001)。 一方、10項目の臨床関連の副次アウトカムはいずれも両群間に差はなく、たとえば再発についてはビタミンD群17.9%(28例)、プラセボ群21.8%(32例)であった(HR:0.69[95%CI:0.42~1.16]、p=0.16)。33件の重篤な有害事象は試験薬との関連はない 治療開始時にMcDonald診断基準2017年改訂版のRRMSの条件を満たした患者247例を対象としたサブグループ解析では、主要アウトカムはプラセボ群に比べビタミンD群で有意に良好だった(HR:0.66[95%CI:0.49~0.89]、p=0.007)。 試験期間中に、30例(ビタミンD群17例[10.9%]vs.プラセボ群13例[8.8%]、p=0.55[χ2検定])で33件の重篤な有害事象の報告があったが、いずれも高カルシウム血症を示唆するものではなく、試験薬との関連もなかった。また、腎不全および中等度・重度の高カルシウム血症(カルシウム濃度>2.88mmol/L)の報告はなかった。 著者は、「これらの結果は、追加治療としての高用量ビタミンDのパルス療法の役割の可能性を含め、さらなる検討を正当化するものである」「ビタミンDの有効性は、視神経炎を有するCIS患者とこれを有さないCIS患者で同程度であったことから、この治療の対象はすべてのCIS表現型に拡大される可能性がある」としている。

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ビタミンBが影響を及ぼす神経精神疾患〜メタ解析

 最近、食事や栄養が身体的および精神的な健康にどのような影響を及ぼすかが、注目されている。多くの研究において、ビタミンBが神経精神疾患に潜在的な影響を及ぼすことが示唆されているが、ビタミンBと神経精神疾患との関連における因果関係は不明である。中国・Shaoxing Seventh People's HospitalのMengfei Ye氏らは、ビタミンBと神経精神疾患との関連を明らかにするため、メンデルランダム化(MR)メタ解析を実施した。Neuroscience and Biobehavioral Reviews誌2025年3月号の報告。 本MRメタ解析は、これまでのMR研究、UK Biobank、FinnGenのデータを用いて行った。ビタミンB(VB6、VB12、葉酸)と神経精神疾患との関連を調査した。 主な内容は以下のとおり。・MR分析では、複雑かつ多面的な関連性が示唆された。・VB6は、アルツハイマー病の予防に有効であったが、うつ病および心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスク上昇の可能性が示唆された。・VB12は、自閉スペクトラム症(ASD)の予防に有効であったが、双極症リスクを上昇させる可能性が示唆された。・葉酸は、アルツハイマー病および知的障害に対する予防効果が示唆された。・メタ解析では、ビタミンBは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの特定の神経精神疾患の予防に有効であるが、不安症や他の精神疾患のリスク因子である可能性が示唆された。・サブグループ解析では、VB6は、てんかんおよび統合失調症の予防に有効であるが、躁病リスク上昇と関連していた。・VB12は、知的障害およびASDの予防に有効であるが、統合失調症および双極症のリスク上昇と関連していた。・葉酸は、統合失調症、アルツハイマー病、知的障害の予防に有効である可能性が示唆された。 著者らは「これらの知見は、ビタミンBのメンタルヘルスに対する影響は複雑であり、さまざまな神経精神疾患に対して異なる影響を及ぼすことが示唆された。このような複雑な関連は、神経精神疾患に対する新たな治療法の開発において、パーソナライズされた治療サプリメントの重要性を示している」と結んでいる。

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第259回 脳老化を遅らせうる薬やサプリメント13種を同定

脳老化を遅らせうる薬やサプリメント13種を同定脳がとりわけ早く老化することと7つの遺伝子がどうやら強く関連し、それらの影響を抑制しうる薬やサプリメントが見出されました。生まれてからどれだけの月日が過ぎたかを示す実年齢とMRI写真を人工知能(AI)技術で解析して推定しうる脳年齢の乖離、すなわち脳年齢のぶれ(brain age gap)は、脳がどれだけ健康かを示す指標として有望視されています。中国の浙江大学のZhengxing Huang氏とそのチームは、脳年齢のぶれを指標にして脳老化の原因となりうる遺伝子を見つけ、それら遺伝子を標的として抗老化作用を発揮しうる薬やサプリメント13種を同定しました1)。Huang氏らはUK Biobankの3万人弱(2万9,097人)のMRI情報を利用してAI技術の一種である深層学習の最新版7つをまず比較し、それらの1つの3D-ViTが脳年齢をより正確に推定しうることを確認しました。3D-ViTが同定しうる脳年齢加速兆候はレンズ核と内包後脚にとくに表れやすく、脳年齢のぶれが大きくなるほど被験者の認知機能検査の点数も低下しました。レンズ核は注意や作業記憶などの認知機能に携わり、内包後脚は大脳皮質の種々の領域と繋がっています。続いて脳年齢のぶれと関連する遺伝子を探したところ、手出しできそうな64の遺伝子が見つかり、それらのうちの7つは脳の老化の原因として最も確からしいと示唆されました。先立つ臨床試験を調べたところ、薬やサプリメントの13種がそれら7つの遺伝子の相手をして抗老化作用を発揮しうることが判明しました。ビタミンD不足へのサプリメントのコレカルシフェロール、ステロイド性抗炎症薬のヒドロコルチゾン、非ステロイド性抗炎症薬のジクロフェナク、オメガ3脂肪酸のドコサヘキサエン酸(doconexent)、ホルモン補充療法として使われるエストラジオールやテストステロン、子宮頸管熟化薬のprasterone、降圧薬のmecamylamine、赤ワインの有益成分として知られるレスベラトロール、免疫抑制に使われるシロリムス、禁煙で使われるニコチンがそれら13種に含まれます2)。特筆すべきことに、サプリメントとして売られているケルセチンと白血病治療に使われる経口薬ダサチニブも含まれます。ダサチニブとケルセチンといえば、その組み合わせで老化細胞を除去しうることが知られており、軽度認知障害があってアルツハイマー病を生じる恐れが大きい高齢者12例が参加したSTAMINAという名称の予備調査(pilot study)では有望な結果が得られています。結果はこの2月にeBioMedicine誌に掲載され、ダサチニブとケルセチンが安全に投与しうることが示されました3)。また、遂行機能や認知機能の改善が示唆されました。結果は有望ですが、あくまでも極少人数の試験結果であって、たまたま良い結果が得られただけかもしれません。その結果の確かさや老化細胞除去治療の可能性のさらなる検討が必要と著者は言っています4)。参考1)Yi F, et al. Sci Adv. 2025 Mar 14;11:eadr3757.2)The 13 drugs and supplements that could slow brain ageing / NewScientist 3)Millar CL, et al. eBioMedicine. 2025;113:105612. 4)Pilot study hints at treatment that may improve cognition in older adults at risk for Alzheimer’s disease / Eurekalert

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認知症の急速悪化、服用中の薬剤が引き金に?【外来で役立つ!認知症Topics】第27回

認知症の急速進行性患者(Rapid Decliner)少なからぬ認知症の患者さん、とくにアルツハイマー病(AD)患者の外来治療は長期にわたりがちで、2年や3年はざら、時には10年ということもある。そうした中で、この病気が進行していくスピード感というものがだんだんとわかってくる。ところが、「なぜこんなにも急速に悪化するのか」という驚きと、主治医としての後ろめたさを感じてしまうような症例を少なからず経験する。こうした患者さんは、医学的には急速進行性患者(Rapid Decliner:RD)と呼ばれる。急速進行性認知症とは、本来プリオン病をプロトタイプとするが、プリオン病との鑑別で最も多いのは急速進行性のADだとされる。このようなケースでは、本人というよりも主たる介護者が、そのことを嘆かれ、治療の変更や転医などを相談されることもある。しかし担当医として容易にはお答えができず、忸怩たる思いを経験する。また新薬の治験のようにADの経過を評価する際にもRDはしばしば問題になる。というのは、こうした新薬の効果は、多くの場合、わずかなものである。そこに一般的な患者の経過から飛び抜けて悪化を示すケースがあると、「結果解析ではこうしたRDを例外として対象から除外するのか?」などの統計解析上の取り扱いが問題になると聞く。急速進行性アルツハイマー病(RD AD)の定義さて急速進行性AD(RD AD)の定義では、MMSEのような認知機能評価尺度の点数悪化や発症から死亡に至るまでの時間により示されることが多い。RD ADの定義として、MMSEの年間点の得点低下が6点以上とするものが多い1)。一般的には年間低下率は、2~3点とされるから、その倍以上である。また普通は7~8年とされるADの生存期間だが、RD ADでは、それが2年以内とされることも多い2)。つまり約3~4分の1程度も短命である。このようなRD ADを予測する要因としては、合併症として、血管性要因、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満などがある。また慢性的な心不全や閉塞性肺疾患の関与も注目されてきた。しかしいずれも確立していない。さらに一般的には若年性が悪いと思われがちだが、必ずしもそうではない。バイオマーカーでは、脳脊髄液中の総タウ、リン酸化タウの高値は予測要因の可能性があるとされる。多くの遺伝子多型も研究報告されてきた。最もよく知られた遺伝子多型のAPOEだが、この役割については賛否両論ある。以上をまとめると、RD ADの予測要因として確立したものはなさそうである。RD ADの症状:体力低下、BPSD、IADLの障害もっとも実臨床の場面でRD ADが持つ意味は上記のような医学的な定義とは少し異なる。つまり体力低下、認知症にみられる行動および神経心理学的な症状(BPSD)や道具的ADL(Instrumental Activity of Daily Living:IADL)の障害などが急速に進んで日常生活の維持が困難になって、急速進行が事例化するケースが多いと思う。たとえば、大腿骨頸部骨折や各種の肺炎後に衰弱が急に進むという訴えがある。IADLでは、排泄の後始末ができない・汚れたおむつで便器を詰まらせる、着衣失行など衣類が着られなくなった、などが多い。またBPSDでは、多くの介護者にとって、幻視や幻聴、そして妄想の出現はショックが大きい。つまり家族介護者は、認知機能の低下というよりは、衰弱やIADLの低下、衰弱や幻覚妄想による言動のように、目に見える変化が急速な悪化と感じやすい。服用中の薬剤が急速悪化の引き金にさて問題は、こうしたケースへの対応である。これには2つのポイントがある。まず診断の見直しという基本の確認である。ここでは必要に応じてセカンドピニオンも考慮すべきである。次にRDの危険因子とされた要因を点検することである。とくに注目すべきは、服用薬剤の副作用だろう。診断の見直しでは、まずビタミンB群、梅毒やHIVを含む血液検査はしておきたい。新たな脳血管障害などが加わった可能性もあるからCTやMRI等の脳画像の再検査も考慮する。また脳脊髄液検査や脳波検査も、感染症やプリオン病などの可能性を踏まえてやっておきたい。高度検査では、遺伝学的な検査、また悪性腫瘍の合併を考慮してWhole body PET-CTが必要になるケースもあるだろう。さらに炎症系の関りも視野に入れて、専門医との相談に基づいて、抗炎症治療による治療的診断として、イムノグロブリン、高用量ステロイドなどの投与もありうる。いずれにせよこれらでは、躊躇なくセカンドオピニオンが求められる。危険視の中でも、服用薬剤が重要である。まず向精神薬がある程以上に長期間にわたって投与されていれば、これらが心身の機能にも生命予後にも悪影響を及ぼす可能性がある。なお向精神薬には、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬のほかに、抗てんかん薬、抗パーキンソン薬などが含まれる。とりわけ、他科から処方されている薬剤は案外盲点かもしれない。他科の担当医はご自分の領域の治療薬に精通されていても、それが認知症に及ぼす影響まではあまり注意されていないかもしれない。それだけに「おくすり手帳」などを見せてもらう必要がある。さまざまな薬剤の中でも、とくに抗コリン薬は要注意である。これは過活動性膀胱の治療薬など泌尿器科用薬剤、循環器用薬剤に多い。またヒスタミンH2受容体拮抗薬、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、循環器系治療薬、抗菌薬などにも目配りが求められる。参考1)Soto ME, et al. Rapid cognitive decline in Alzheimer's disease. Consensus paper. J Nutr Health Aging. 2008;12:703-713. 2)Harmann P, Zerr I. Rapidly progressive dementias – aetiologies, diagnosis. Nat Rev Neurol. 2022;18:363-376.

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肺機能に有利なビタミンはどれ?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第277回

肺機能に有利なビタミンはどれ?ここで、問題です。肺機能に最も有利なビタミンは何でしょうか。「うーん、ビタミンCかビタミンBかなあ…」……違います!Chen YC, et al. Associations between vitamin A and K intake and lung function in the general US population: evidence from NHANES 2007-2012. Front Nutr . 2024 Sep 20;11:1417489.1つ目の研究は、ビタミンAとKの摂取と肺機能の関係を評価することを目的としたものです。この横断的研究は、20~79歳の成人を対象とし、2007~12年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを利用しました。肺機能は、1秒量(FEV1)、努力肺活量(FVC)、そしてこれらの比である1秒率(FEV₁/FVC)を測定することで評価しました。ビタミンAとKの摂取と結果の関連性を判断するために回帰モデルが用いられました。1万34人の参加者(米国の成人1億4,296万5,892人)のデータが分析された。関連する交絡因子を調整した後、多変量解析により、ビタミンA摂取量の1µg/日の増加ごとに、FEV1が0.03mL増加(p=0.004)し、FVCが0.04mL増加すること(p<0.001)と関連していることが明らかになりました。さらに、ビタミンK摂取量の1µg/日の増加ごとに、FEV1の0.11mL増加と有意に関連していました(p=0.022)。1秒率や気道閉塞とは関連していませんでした。以上のことから、アメリカの比較的健康な集団では、ビタミンAまたはKの摂取量が多いと、スパイロメトリーで評価した肺機能の向上と独立して関連していることが示されました。Mongey R, et al. Effect of vitamin A on adult lung function: a triangulation of evidence approachThorax. 2025 Feb 12. [Epub ahead of print]2つ目の研究は、観察データと遺伝子データの両方から得たエビデンスから、成人の肺機能に対するビタミンAの影響を調査することを目的とした、UKバイオバンクの解析です。食事によるビタミンA摂取量(総ビタミンA、カロチン、レチノール)とFVC、1秒率との関連性を調査しました。次に、メンデルランダム化を使用してこれらの関連性の因果関係を評価し、ビタミンAに関連する39の遺伝子が成人の肺機能に与える影響と、ビタミンA摂取量との相互作用を調査しました。その結果、観察分析では、カロチン摂取量とFVCのみ(100µg/日増加ごとに13.3mL、p=2.9×10-9)の間に正の相関が見られ、喫煙者では相関が強いものの、レチノール摂取量とFVCまたは1秒率との相関は見られませんでした。メンデルランダム化でも同様に、血清βカロチンがFVCのみに有益な効果を示し、血清レチノールがFVCにも1秒率にも影響を与えないことが示されました。―――というわけで、上記2つの研究からは、ビタミンAのカロチンが最も肺にイイ!ということになりますね。

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スタチンは片頭痛予防に有効か?~メタ解析

 近年、スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)が片頭痛のリスクを低減し、予防治療として有効である可能性が示唆されているが、そのエビデンスは確証されていない。エジプト・Minia大学のHamdy A. Makhlouf氏らの研究チームは、スタチンの片頭痛の予防効果について、システマティックレビューおよびメタ解析で評価した。その結果、スタチンは片頭痛予防に有効であり、片頭痛頻度を有意に減少させることなどが判明した。The Journal of Headache and Pain誌2025年2月3日号に掲載。 本研究では、2024年10月までに公表された、HMG-CoA還元酵素(HMGCR)遺伝子と片頭痛リスクとの関連性、および片頭痛患者におけるスタチンの有効性に関する論文を、PubMed、Scopus、Web of Science、Cochrane Libraryを含む複数のデータベースで検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・13件の研究(ランダム化比較試験[RCT]6件、観察研究:メンデルランダム化研究4件、コホート研究2件、クロスセクション研究1件)がシステマティックレビューに含まれた。・メンデルランダム化研究では、HMGCRの発現が片頭痛のリスク増加と関連していることが認められた(オッズ比[OR]:1.38~1.55、p<0.001)。・スタチンと片頭痛リスクの関連を調べた3件の観察研究では、スタチン使用が片頭痛リスクを低減した(OR:0.73~0.94、p<0.001)。・RCTのメタ解析では、スタチン群はプラセボ群と比較して、月間片頭痛発作頻度(MMF)が有意に減少することが認められた(平均差:-3.16回[95%信頼区間[CI]:-5.79~-0.53]、p=0.02、I2=79%)。・スタチンは、とくに前兆を伴う片頭痛とビタミンD値が高い患者で、片頭痛リスクを大幅に低減させることが認められた。・コホート研究によると、スタチン使用者の56.7%がトリプタン使用量を30%減少した(OR:1.28、95%CI:1.19~1.38)。・スタチンと他の薬剤との比較において、シンバスタチン(20mg)とプロプラノロール(60mg)の比較では、両方とも片頭痛を有意に減少させたが、シンバスタチンのほうがより効果が大きかった(月間片頭痛日数[MMD]の平均差:-20.65日vs.-14.85日、p<0.001)。・アトルバスタチン(40mg)とバルプロ酸ナトリウム(500mg)の比較では、両方とも片頭痛の頻度・強度・持続時間を減少させた。有害事象はアトルバスタチンのほうが少なかった(32%vs.66%)。 本結果について著者らは「スタチンが片頭痛予防において、安全性プロファイルが良好で、標準治療に匹敵する有効性を示している。とくに心血管系と神経系の疾患が重複する患者にとって有望な選択肢となることを示唆している。ただし、研究デザインの異質性が大きいため、今後さらなる大規模研究が必要だ」とまとめている。

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風邪予防にビタミンDは効果なし?~メタ解析

 ビタミンD補充による急性呼吸器感染症(ARI)予防効果については、2021年に37件のランダム化比較試験(RCT)のメタ解析で有意な予防効果(オッズ比[OR]:0.92、95%信頼区間[CI]:0.86~0.99)が示されているが、それ以降に1件の大規模試験(1万5,804人)を含む6件の適格なRCTが完了している。そこで、英国・Queen Mary University of LondonのDavid A. Jolliffe氏らがRCTデータを更新し検討した結果、ビタミンD補充によるARI予防効果の点推定値は以前とほぼ同様であったが、統計学的に有意な予防効果がないことが示された。The Lancet Diabetes & Endocrinology誌オンライン版2025年2月21日号に掲載。 本研究では、ランダム効果モデルを用いて、ARI予防のためのビタミンDに関するRCTのデータを更新し、系統的レビューとメタ解析を行った。さらに、ベースラインの25-ヒドロキシビタミンD濃度、投与レジメン、年齢によってビタミンDの効果が異なるかどうかを調べるため、サブグループ解析を行った。2人の研究者が、2020年5月1日(前回のメタ解析の検索終了日)以降、2024年4月30日までに発表された研究を、MEDLINE、EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Science、ClinicalTrials.govを用いて検索した。なお、言語は制限しなかった。著者から、ベースラインの25-ヒドロキシビタミンD濃度と年齢で層別化した集計データを入手した。 主な結果は以下のとおり。・新たに同定した6件のRCT(1万9,337人)のうち、3件の新規RCTにおける1万6,085人(83.2%)のデータを入手し、前回のメタ解析で同定された43件のRCTにおける4万8,488人のデータと合わせた。・ビタミンDとプラセボとの比較で、介入がARIリスクに統計学的に有意な影響を及ぼさなかった(OR:0.94、95%CI:0.88~1.00、p=0.057、40試験、6万1,589人、I2=26.4%)。・事前に指定されたサブグループ解析において、年齢、ベースラインにおけるビタミンDの状態、投与頻度、投与量による効果修飾のエビデンスは認められなかった。・ビタミンDは、重篤な有害事象を1つ以上経験した参加者の割合に影響を及ぼさなかった(OR:0.96、95%CI:0.90~1.04、38試験、I2=0.0%)。・Funnel plotは左側非対称性を示した(p=0.0020、Eggerの検定)。

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beriberi(脚気)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第21回

言葉の由来「脚気」は英語で“beriberi”といいます。特徴的な音のこの病名、起源については諸説ありますが、最も広く受け入れられている説は「シンハラ語に由来する」というものです。シンハラ語はスリランカで話されているシンハラ人の言葉です。シンハラ語で「I can’t(私にはできない)」を意味するのが“beri”という言葉で、これを2回繰り返すことで生まれたのが“beriberi”というわけです。2回繰り返すのは「力がまったくない」「極度に弱い状態」を強調するためで、脚気の主要な症状である筋力低下や歩行困難を反映したものです。そのほかにも、患者の歩行が羊のように弱々しく見えることから、ヒンドゥー語の方言で羊を意味する言葉に由来して“beriberi”と呼ばれるようになった、などの説も存在します。脚気はビタミンB1の欠乏が原因で発生する病気で、とくにかつて精白米が主食だった地域で多く見られました。欧米では19世紀後半に植民地政策が進む中でこの病気が広く知られるようになり、アジアの地域名や言語に由来する病名が取り入れられた、という歴史的経緯があります。日本では江戸時代に白米を食べる習慣が広まったことに伴い、米ぬかに含まれるビタミンB1が不足して脚気が増加していきました。江戸を訪れた地方の大名や武士が体調を崩し、故郷に帰ると治ることから「江戸わずらい」とも呼ばれましたが、しびれや下腿浮腫による歩行困難を伴うことから、足の病気、つまり「脚気」と呼ばれるようになったとされています。併せて覚えよう! 周辺単語チアミン欠乏症thiamine deficiency湿性脚気wet beriberi乾性脚気dry beriberi末梢神経障害peripheral neuropathyこの病気、英語で説明できますか?Beriberi is a disease caused by a thiamine deficiency. It can affect the cardiovascular system (wet beriberi) or the nervous system (dry beriberi). Symptoms may include difficulty walking, loss of feeling in hands and feet, and in severe cases, heart failure. It was historically common in Asia due to diets based on polished white rice.講師紹介

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第231回 高額療養費制度の行方、医療現場はどう変わる?

今年2月になって突然、飛び込んできた「高額療養制度の見直し」について多くの方はなぜそんなに急に? と疑念を抱かれたと思います。わが国はバブル景気の後の「失われた30年」の間、経済が停滞していた間も少子化と高齢人口の増加が続いてきました。リーマンショック後の安倍政権をきっかけに、日本経済も回復したとはいえ、2040年まで高齢化が続く中、増大する医療費や介護費のため、社会保障制度の持続可能性について検討が続いています。社会保障改革の経過の振り返り令和元(2019)年から開かれていた全世代型社会保障検討会議の最終報告からまとめられた「全世代型社会保障改革の方針」(令和2年)でも、少子化対策の子育て支援とともに、医療提供体制の改革や後期高齢者の自己負担割合の在り方について検討をすることが盛り込まれていました。これらについて政策の実際の発動は、新型コロナウイルス感染症の拡大で延期され、令和4年1月から開催された「全世代型社会保障構築会議」で、すべての世代が安心できる「全世代型社会保障制度」を目指し、働き方の変化を中心に据えながら、社会保障全般にわたる改革を検討しました。この会議の中で「給付と負担のバランス・現役世代の負担上昇の抑制」について、「高額療養費制度の見直しも併せてしっかり取り組んでいただきたい。厚生労働省からはそれを検討するという報告があったわけで、これはぜひ1つでも2つでもできるものをどんどん実現してほしい」という発言がなされていました(【第20回全世代型社会保障構築会議議事録】)。このような発言を反映してか、令和6年1月26日の社会保障審議会で「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の中で、経済情勢に対応した患者負担などの見直し(高額療養費自己負担限度額の見直し/入院時の食費の基準の見直し)が入っていました。2月に入り厚労省の社会保障審議会医療保険部会の「令和7年8月~令和9年8月にかけて段階的に実施高額療養費制度の見直し」を行うという資料【高額療養費制度の見直しについて】をもとに国会の予算審議で大きく取り上げられたのをきっかけに大きな話題となりました。画像を拡大する当然ながら、高額療養費の対象となるがんや難病の患者さんの団体から反対の声が上がり、2月7日に厚労省で鹿沼 均保険局長と患者団体が面会を行い、いったん凍結を求められました。厚労省側から改革案を部分修正する意向を示されたものの、患者団体はこれを反対するなどしばらく予算審議を進めていく中、予定通り令和7年8月からの引き上げは難しくなっています。Financial toxicityがクローズアップされている高額療養費制度はわが国の保険診療のセーフティネットとして必要なもので、これが十分に機能しているため患者さんは安心して高額な抗がん剤や先進的な治療を受けることができますが、一方で、諸外国ではこのようなシステムがないため、すでに2000年代になって画期的な新薬の承認とともに問題となっていました。高額療養費制度の見直しが必要になったのは高額な新薬の登場です。近年登場する抗がん剤は非常に高額なため、公的な保険で十分にカバーできない問題が諸外国で話題になっていました。筆者も以前、製薬企業で勤務していたときに有害事象として報告された用語に“financial toxicity”という言葉を目にしたことがあります。Financial Toxicity(ファイナンシャル・トキシシティ:経済毒性)とは、国際医薬用語集にも掲載されている用語で、医療費による経済的負担が患者さんや家族に与える悪影響を指します。高額な新薬によって医療費が増大するのを抑制するため、欧米諸国では保険制度で新薬については、適応とする患者さんの症状によっては処方制限するなどしてアクセス制限をしています。新薬が使えない場合は、患者団体がメーカー側に働きかけて医薬品価格を引き下げさせたり、欧州では医療経済学者を中心に費用対効果を審査して、薬価と効果の面で医薬品を経済評価するようになっており、新薬として承認されても保険償還について別個で審査してアクセス制限をしています。実際にイギリスでは2009年から、新規の抗がん剤への患者アクセスを改善するためにNICE(国立保健医療研究所)によって「非推奨」とされた抗がん剤を中心に対象とする薬剤を評価後にリスト収載し、それらに対する費用をCDF(Cancer Drugs Fund:英国抗がん剤基金)から拠出してきましたが、財政負担の著しい増加に対して、2016年からは新CDFを含むNICEの抗がん剤評価に関する新スキームの運用が開始され、新薬として承認を取得するすべての新規抗がん剤は、NICEにより評価され、「推奨」とされた場合には、英国国民保健サービス(NHS)から償還を受けることができますが、「非推奨」の場合には、Individual Funding Request(IFR)による1件ごとの審議となり、使用は大きく制限されています。わが国でも2014年に承認されたニボルマブ(商品名:オプジーボ)をきっかけに、主に高額な薬価をめぐって国内で大きく取り上げられました。ニボルマブの承認時の償還薬価は100mg1瓶72万8,029円と高額でしたが、その後、適応症の拡大と処方患者の増加で急速に売り上げが伸びたため、厚労省が新たに設けた特例拡大再算定などの薬価引き下げ策で、新薬承認からわずか4年で75%も安くなり【「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価収載時から76%安く】、その後も薬価は低下し、現在は当初の価格から13万1,811円(2024年4月以降)と18.1%の価格になっています。過剰な薬価抑制策にはネガティブな側面もわが国では承認された新薬の保険償還の価格を引き下げることはよくありますが、国際的にみて、新薬の価格は特許がある間は開発費を回収して、さらに画期的な新薬開発への投資を行う原資を得るために保証されているのが通常で、わが国のように日本発の新薬ですら大きく価格を抑制することは、新薬を開発する製薬会社からみて市場としては魅力的には映りません。さらに日本では薬価制度で対応しつつ、同時に新薬の承認・審査するPMDA(医薬品医療機器総合機構)は「新規作用機序を有する革新的な医薬品については、最新の科学的見地に基づく最適な使用を推進する観点から、承認に係る審査と並行して最適使用推進ガイドラインを作成し、当該医薬品の使用に係る患者及び医療機関等の要件、考え方及び留意事項を示すこととしています」とあり、また、「症例ごとに適切な処方を求めるようになっています」として、処方する専門医に対して、学会や製薬企業から情報提供がなされるようになっています。現実問題として、わが国では以前、ドラッグラグ(承認の遅れ)が目立っていましたが、薬事審査に当たってのさまざまな障壁(日本人データの要求など)が業界側や患者側からの働きかけで短縮していました。一方、最近問題となっているのはドラッグロスと言って、そもそも日本市場に参入がないことです。これについては企業側の努力不足もあるとは思いますが、大手製薬企業としては日本の薬価制度がハードルになっている以外にも、近年ベンチャー創薬によって開発されているオーファンドラッグ(希少薬品)のようにニーズはあるが売り上げが大きくない医薬品の場合、企業側の体力がないため日本での薬事承認申請まで辿り着けないなどの問題も発生しています。わが国もこのままでは新規医薬品の開発力が低下してしまうのを避けるため、日本人データを必ずしも必須としないなど条件緩和を進めていますが、医療分野でのイノベーションに見合うだけの収益が得られないため、日本の製薬企業でも海外での開発や販売を優先するケースが近年目立っています。国民の生活にかかわる政策決定には透明化も必要わが国の製薬市場が欧州やアメリカより小さいながらも、中小の製薬企業がそれぞれ得意分野で活躍して開発競争を行ってきましたが、21世紀に入った今、低分子薬を中心とした生活習慣病の開発競争から、抗がん剤など中分子~高分子の医薬品に競争分野が変化し、より高い薬価の医薬品を開発する必要があります。薬価引き下げで多くの製薬企業は特許切れの長期収載品による安定した収益を失い、より新薬開発競争を国際的に進めねばならず厳しい状態が続いています。今回の見直しのように薬価は高いけれど、効果の高い新薬を使用して治療を受けたいという国民の声に政府は応える必要があり、薬価引き下げではなく、患者自己負担を増やすことで一定のバランスを得ようとしたことはある意味正しいと考えます。しかし、高薬価の新薬の開発は続いており、続々と新薬が承認されています。ニボルマブのような強制的な薬価引き下げを続けることは、国際的にみても日本の製薬市場の縮小、ひいてはわが国の制約産業の衰退を招く可能性もあり、薬価引き下げだけでは持続可能性は乏しいと考えます。医療費用の増加は高齢化もあり、やむを得ない事情があり、経済成長に見合った形であれば社会保障費の経済的な負担増大にはつながらないのですが、今回のように患者数の増加や治療費の増加をどう抑えるかは国の中でも結論がでておらず、2024年の国政選挙でもこの話題はまったく討論されず、話の持って行き方にかなり問題があったと感じています。高額療養費の引き上げについて、厚労省の審議会では「既定路線」であったものの、患者さんやその家族にとって貧困を理由に治療が中断することは、国民のコンセンサスを得ていたとは考えにくいです。今後も増え続けるキャンサーサバイバーの患者さんのニーズに応えるためには、財源を用意する必要があります。政府の中できちんと討論した上で、患者自己負担をなるべく広く薄くなるのか、それとも患者自己負担を一定の割合で求めるか、すでに問題となっている多重受診の患者さんの自己負担や軽症疾患のビタミン剤や湿布をOTC化の促進で医療費を抑制した分を回すか、あるいは別のタバコ税や酒税のような形で財源を調達するか、何らかの形で国民に問う必要があったと考えています。すでに津川 友介氏のような一部のオピニオンリーダーからは解決策を提示する意見【「国民の健康を犠牲にすることなく、2.3~7.3兆円の医療費削減が実現可能な『5つの医療改革』」】も出ていますが、他にもさまざまな方策を考えるには絶好のタイミングだと思います。今回のように国民に知らされないまま、審議会という密室で大事な政策が決められるようなやり方を日本人は好みません。わが国は民主主義国家ですから、今年の夏から患者さんの高額療養費を引き上げるのであれば、参議院議員選挙で各政党から意見を出してもらい、どういう形をとるかを決めるべき時期かと考えています。参考1)高額療養費制度の見直しについて(厚労省)2)全世代型社会保障改革の方針[令和2年](同)3)社会保障審議会(同)4)「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」、「こども未来戦略」について(同)5)Financial Toxicityおよびがん治療[PDQ](がん情報サイト)6)「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価 収載時から76%安く(Answers News)7)最適使用推進ガイドライン(PMDA)8)レカネマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインについて(日本精神神経学会)

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50代の半数がフレイルに相当!早めの対策が重要/ツムラ

 2月1日は「フレイルの日」。ツムラはこの日に先立つ1月30日に「50歳からのフレイルアクション」プロジェクトの発足を発表し、フレイル対策の重要性を啓発するメディア発表会を開催した。セミナーでは東京都健康長寿医療センターの秋下 雅弘氏がフレイルの基本概念と対策の重要性について講演し、ツムラのコーポレート・コミュニケーション室長・北村 誠氏がプロジェクト概要を説明、そしてタレントの山口 もえ氏を交えてトークディスカッションを行った。秋下氏の講演「中年世代から大切なフレイル対策-ライフコースアプローチの観点から」の概要を紹介する。 平均寿命が延伸するとともに、日常生活に制限なく生活できる年齢である「健康寿命」や身体的・精神的・社会的に良好な状態を示す「ウェルビーイング」の重要性が高まっている。これを阻害する要因の1つである「フレイル」とは、歳とともに体力・気力が低下した、いわば健康と要介護の間の状態を指す。 フレイルの症状には、筋力が低下して転びやすくなるといった「身体的な問題」、もの忘れや気分の落ち込みが続くといった「心理・認知的な問題」、社会交流の減少や経済的な困窮といった「社会的な問題」という3つの要素がある。これらは別々に存在しているわけではなく、知恵の輪のように複雑に絡まり合っている。「加齢によるもの」と説明すると不可逆的なものと捉えられることが多いが、適切な対策を講じることで健康な状態に戻ることが可能という点が重要だ。 今回、ツムラは40~69歳の男女を対象に、厚生労働省が作成した「基本チェックリスト」に基づいてアンケート調査を行った1)。結果としては、50代の回答者の半数以上がフレイル相当で、前段階のプレフレイル相当を合わせると該当者は約9割に上った。このチェックリストは高齢者を対象としたもので、該当者がそのままフレイルというわけではないが、対策をせずにそのまま年齢を重ねれば確実にフレイルとなる可能性が高い予備軍だ。実際、フレイル/プレフレイル該当者のうち、約9割が「対策を行っていない」と回答した。50代は働き盛りで「自分はまだまだ大丈夫」という意識があるうえ、ポストコロナでのリモート生活の影響で運動量が減っているという要因もありそうだ。 フレイル対策はシンプルだ。栄養、運動、社会参加が3つの基本となる。栄養は朝昼夜の食事をバランス良く食べ、とくにタンパク質とビタミンDを意識的に摂取し、口腔衛生を保つこと。運動はウォーキングのような有酸素運動と筋トレのようなレジスタンス運動を併用して継続すること。社会参加は休日の外出や趣味や習い事などで人とのつながりを持つことが重要だ。患者説明用スライド「フレイルの定義と対策」※ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘氏講演資料より 50代は筋力、筋肉量は減少してくるものの、通常はまだ生活に影響するほどではない。また、職場の健康診断もメタボリックシンドロームなどの生活習慣病による心血管病の予防と、がんの早期発見に重点が置かれ、フレイルなど高齢期の問題まで行き届いているとは言えない。しかし、50代という変化の大きな時期に何も対策を講じないでいると、60~70代でさらに筋肉は減少し、少しの動作や生活にも影響が出るようになり、また気分的にも行動変化に結び付けるのが難しい、まさに取り返しのつかない状況に陥るリスクがある。ライフコースアプローチの観点からも50代であればまだ十分に加齢変化を止め、あるいは回復までも期待できる。「まだ間に合う」という意味で、ぜひ50代からフレイル対策をはじめてほしい。 秋下氏は医師へのメッセージとしては、「体調不良を訴える中高年の診察時には、フレイルを気に留め、上記の栄養、運動、社会参加についてのアドバイスをしてほしい。また疲れやすさや気持ちの落ち込みといったよくある訴えの裏に、がんなどの疾患が潜んでいることもある。よくある主訴の背後にあるものを見逃さず、必要に応じて専門医につないでほしい」とした。フレイルのチェック方法患者説明用スライド「フレイルのチェックリスト」※ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘氏講演資料より1)基本チェックリスト/厚生労働省7項目25の質問からなるチェックリストで、介護支援事業者が高齢者を対象に生活機能評価を行うために作成されたもの。2)J-CHS基準のチェックリスト国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが、J-CHS基準を一部改訂したもの。3)5項目のフレイルチェックJ-CHS基準をもとに秋下氏が監修し、よりわかりやすい表現にしたフレイルチェックリスト。5項目のうち1つでも該当するとフレイルの可能性がある。4)ペットボトルチェック筋力低下を測る1つの目安が握力とされており、男性は28kg以下、女性は18kg以下だとフレイルの可能性があると言われている。女性の握力目安と同じ程度とされているのがペットボトルのふたを開ける動作で、身近にチェックできる方法の1つ。一般的な「側腹つまみ」で開けられなかったら要注意。

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脳の健康維持のために患者と医師が問うべき12の質問とは?

 米国神経学会(AAN)の「脳の健康イニシアチブ(Brain Health Initiative)は、人生のあらゆる段階において脳の健康に影響を与える12の要因についてまとめた論文を、「Neurology」に2024年12月16日発表した。論文には、神経科医が患者の脳の健康を向上させるために活用できる、スクリーニング評価や予防的介入の実践的アプローチに関する内容も含まれている。 脳の健康に関わる12の要因、およびそれを評価するための質問は、以下の通りである。これらについて自分自身に問うとともに、医師とも話し合うとよいだろう。1. 睡眠:「睡眠により十分に体を休めることができていますか?」 日中の眠気、シフトワークの影響、夜間の痛み、不眠症、昼寝の習慣などについて医師と話し合おう。2. 感情、気分、メンタルヘルス:「自分の感情、気分、ストレスについて心配がありますか?」 医師は患者の抑うつや不安を評価するべきだが、患者が自分から相談できるよう準備しておくことも大切だ。3. 食品、食事、サプリメント:「十分な量の食品や健康的な食事の確保に心配がありますか?サプリメントやビタミンの摂取について聞きたいことはありますか?」4. 運動:「生活の中に運動を取り入れられていますか?」 身体活動に加え、動き、バランス、自立性を維持する方法について医師と相談しよう。5. 支えとなる社会的つながり:「親しい友人や家族と定期的に連絡を取り合っていますか?周りの人から十分なサポートを受けていますか?」6. 事故や外傷の回避:「運転時にシートベルトやヘルメットを着用していますか?子どもがいる人はチャイルドシートを使用していますか?」 職業上のリスクがある人は、それについて話し合うことも重要だ。7. 血圧:「自宅で高血圧に気付いたり、病院で高血圧を指摘されたりしたことはありますか?血圧の治療や家庭用血圧計について疑問がありますか?」 高血圧の二次的原因や薬と血圧の関係について医師に相談しよう。8. 遺伝的リスクと代謝的リスク:「血糖値やコレステロール値のコントロールに問題がありますか?神経疾患の家族歴がありますか?」 遺伝的リスクを調べて認識し、必要に応じて脂質や糖尿病の管理、健康的な体重の維持について質問すること。9. 医療のアフォーダビリティ(支払いのしやすさ)とアドヒアランス:「薬代が大きな負担になっていませんか?」 保険の支払いに関わり得る年齢の変化については医師が確認を取るはずだが、保険内容に変更がある場合は必ず医師に伝えること。10. 感染症:「ワクチンは最新のものを接種していますか?また、それらのワクチンについて十分な情報を持っていますか?」11. 悪影響のある曝露:「喫煙、1日に1~2杯以上の飲酒、市販薬の使用、井戸水の摂取、空気や水の汚染が知られている地域に居住、これらの中に該当するものはありますか?」 毎回の診察は、喫煙、飲酒、市販薬の使用に関する問題を評価する機会となる。12. 健康の社会的決定要因:「住居、交通手段、医療や医療保険へのアクセス、身体的または精神的な安全性について心配がありますか?」 この論文の筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校のLinda Selwa氏は、「科学的研究への資金提供や医療へのアクセス改善などに向けた神経科医の継続的な取り組みは、国家レベルで脳の健康を改善する。われわれの論文は、脳の健康を個人レベルで改善する方法が数多くあることを示している。新年に脳の健康改善を決意することは、素晴らしい第一歩だ」とAANのニュースリリースで述べている。

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フレイルの定義と対策

そもそも フレイルとはフレイルとは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す “frailty” の日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語である。自立フレイルは、要介護状態に至る前段階として位置づけられるが、頑健・健常フレイル加齢要介護身体的脆弱性のみならず精神・心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する。適切な対策で、健康な状態に戻ることも可能です。「フレイル診療ガイド 2018 年版」(日本老年医学会/国立長寿医療研究センター、2018)ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 3つの基本栄養運動社会参加ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 栄養朝、昼、晩バランスよく食べる。筋肉をつくる「たんぱく質」と骨の発育に大切な「ビタミンD」を摂る。栄養口の中を清潔に保ち、定期的に歯科を受診する。ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 運動ウォーキングや水泳などの「有酸素運動」。筋力トレーニングのような「レジスタンス運動」。運動体調や体力に合った運動を継続する。ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 社会参加休日は外出をして体のリズムを整える。趣味や習い事などの楽しみをつくる。社会参加人とのつながりをもち脳に刺激を与える。ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料より

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2型糖尿病患者はビタミン、ミネラルが不足している

 2型糖尿病患者の半数近くが、微量栄養素不足の状態にあるとする論文が、「BMJ Nutrition, Prevention & Health」に1月29日掲載された。国際健康管理研究所(インド)のDaya Krishan Mangal氏らが行ったシステマティックレビューとメタ解析の結果であり、特に、ビタミンD、マグネシウム、鉄、ビタミンB12の不足の有病率が高いという。研究を主導した同氏は、「この結果は2型糖尿病患者における、栄養不良の二重負荷の実態を表している」と述べ、糖尿病治療のための食事療法が栄養不良につながるリスクを指摘している。 この研究では、システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に準拠して、Embase、ProQuest、PubMed、Scopus、コクランライブラリ、およびGoogle Scholarといった文献データベースを用いた検索が行われた。また、灰色文献(学術的ジャーナルに正式に発表されていない報告書や資料など)も、包括基準(2型糖尿病患者〔合併症の有無は問わない〕でのランダム化比較試験、縦断研究、横断研究、コホート研究)に照らし合わせて採用した。なお、1型糖尿病や妊娠糖尿病、18歳未満の2型糖尿病での研究、症例報告、レビュー論文などは除外した。 2人の研究者が独立してスクリーニング等を行い、最終的に132件(研究対象者数は合計5万2,501人)の報告を抽出した。メタ解析の結果、2型糖尿病患者における微量栄養素不足の有病率は45.30%(95%信頼区間40.35~50.30)と計算された。性別にみると、男性の42.53%(同36.34~48.72)に対して女性は48.62%(42.55~54.70)であり、女性の方が高値を示した。 微量栄養素不足の分布を正規分布に近づけるための統計学的処理の後、不足の有病率が最も高い微量栄養素はビタミンD(60.45%〔55.17~65.60〕)で、次いでマグネシウムが(41.95%〔27.68~56.93〕)であり、鉄が27.81%(7.04~55.57)、ビタミンB12が22.01%(16.93~27.57)だった。これらのうちビタミンB12については、メトホルミンが処方されている患者に限ると、26.85%(19.32~35.12)とより高値となった。 以上の結果に基づき著者らは、「2型糖尿病の食事療法では、エネルギー出納や主要栄養素の摂取量を重視する傾向がある。しかし本研究によって、いくつかの微量栄養素不足の有病率が高いことが明らかになった。栄養バランスを総合的に把握した上での最適化が、常に優先されるべきであることを再認識する必要がある」と総括している。 また、代謝にはさまざまな栄養素が関わっているため、微量栄養素の不足が糖尿病を悪化させたり、糖尿病以外の健康問題を引き起こしたりすることもあるという。さらに、「微量栄養素の不足は糖代謝とインスリンシグナル伝達経路に影響を及ぼし、2型糖尿病の発症と進行につながることも考えられる」と述べ、栄養不良自体が2型糖尿病の潜在的なリスク因子である可能性を指摘している。

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適切な感染症管理が認知症のリスクを下げる

 認知症は本人だけでなく介護者にも深刻な苦痛をもたらす疾患であり、世界での認知症による経済的損失は推定1兆ドル(1ドル155円換算で約155兆円)を超えるという。しかし、現在のところ、認知症に対する治療は対症療法のみであり、根本療法の開発が待たれる。そんな中、英ケンブリッジ大学医学部精神科のBenjamin Underwood氏らの最新の研究で、感染症の予防や治療が認知症を予防する重要な手段となり得ることが示唆された。 Underwood氏によると、「過去の認知症患者に関する報告を解析した結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬の使用は、いずれも認知症リスクの低下と関連していることが判明した」という。この研究結果は、同氏を筆頭著者として、「Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に1月21日掲載された。 認知症の治療薬開発には各製薬企業が注力しているものの、根本的な治療につながる薬剤は誕生していない。このような背景から、認知症以外の疾患に使用されている既存の薬剤を、認知症治療薬に転用する研究が注目を集めている。この方法の場合、薬剤投与時の安全性がすでに確認されているので、臨床試験のプロセスが大幅に短縮される可能性がある。 Underwood氏らは、1億3000万人以上の個人、100万症例以上の症例を含む14の研究を対象としたシステマティックレビューを行い、他の疾患で使用される薬剤の認知症治療薬への転用可能性について検討を行った。 文献検索には、MEDLINE、Embase、PsycINFOのデータベースを用いた。包括条件は、成人における処方薬の使用と標準化された基準に基づいて診断された全原因認知症、およびそのサブタイプの発症との関連を検討した文献とした。また、認知症の発症に関連する薬剤(降圧薬、抗精神病薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬など)と認知症リスクとの関連を調べている文献は除外した。 検索の結果、4,194件の文献がヒットし、2人の査読者の独立したスクリーニングにより、最終的に14件の文献が抽出された。対象の文献で薬剤と認知症リスクとの関連を調べた結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬が認知症リスクの低減に関連していることが明らかになった。一方、糖尿病治療薬、ビタミン剤・サプリメント、抗精神病薬は認知症リスクの増加と関連していた。また、降圧薬と抗うつ薬については、結果に一貫性がなく、発症リスクとの関連について明確に結論付けられなかった。 Underwood氏は、「認知症の原因として、ウイルスや細菌による感染症が原因であるという仮説が提唱されており、それは今回得られたデータからも裏付けられている。これらの膨大なデータセットを統合することで、どの薬剤を最初に試すべきかを判断するための重要な証拠が得られる。これにより、認知症の新しい治療法を見つけ出し、患者への提供プロセスを加速できることを期待する」と述べた。 また、ケンブリッジ大学と共同で研究を主導した英エクセター大学のIlianna Lourida氏は、ケンブリッジ大学のプレスリリースの中で、「特定の薬剤が認知症リスクの変化と関連しているからといって、それが必ずしも認知症を引き起こす、あるいは実際に認知症に効くということを意味するわけではない。全ての薬にはベネフィットとリスクがあることを念頭に置くことが重要である」と付け加えている。

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医師介入が死亡率に影響?がん患者診療のための栄養治療ガイドライン発刊

 日本人がん患者の栄養管理は、2022年より周術期栄養管理加算や外来栄養食事指導料が算定できるようになったことで、その管理体制は改善傾向にある。しかし、栄養治療が必要な患者に十分届いているとは言い難く、適切な栄養管理によってより良い予後をもたらすことが日本栄養治療学会(JSPEN)としての喫緊の課題になっている。そんな最中、2024年10月に『がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編』が発刊されたため、作成ワーキンググループのガイドライン委員会前委員長である小谷 穣治氏(神戸大学大学院医学研究科外科系講座 災害・救急医学分野 教授)にがん患者の栄養管理の実際やガイドラインで押さえておくべき内容について話を聞いた。がん患者への栄養管理の意味 がん患者の場合、がんの病状変化や治療により経口摂取に支障が生じ、体重減少を伴う低栄養に陥りやすくなるため、「食事摂取量を改善させる」「代謝障害を抑制する」「筋肉量と身体活動を増加させる」ことを目的として栄養治療が行われる。 国内におけるがん治療に対する栄養治療は、食道癌診療ガイドラインや膵癌診療ガイドラインなど臓器別のガイドラインではすでに示されているが、海外にならって臓器横断的な視点と多職種連携を重要視したガイドラインを作成するべく、今回、JSPENがその役割を担った。本書では、重要臨床課題として「周術期のがん患者には、どのような栄養治療が適切か?」「放射線療法を受けるがん患者には、どのような栄養治療が適切か?」といった事柄をピックアップし、Minds*方式で作成された4つのClinical Question(CQ)を設定している。本書の大部分を占める背景知識では現況のエビデンス解説が行われ、患者団体から集まった疑問に答えるコラムが加わったことも特徴である。*厚生労働省委託業務EBM普及推進事業、Medical Information Distribution Service なお、がん患者に対する栄養治療が「がん」を増殖させるという解釈は、臨床的に明らかな知見ではないため、“栄養治療を適切に行うべき”と本書に記されている。医師に求められる栄養治療 医師が栄養治療に介入するタイミングについて、p.39~40に記された医師の役割の項目を踏まえ、小谷氏は「(1)診断時、(2)治療開始前、(3)治療中、(4)治療終了後[入院期間中、退院後]と分けることができるが、どの段階でも介入が不足しているのではないか。とくに治療開始前の介入は、予後が改善されるエビデンスが多数あるにもかかわらず(p.34~35参照)、介入しきれていない印象を持っている。ただし、入院治療が始まる前から食欲低下による痩せが認められる場合には、微量元素やビタミン類を含めた血液検査がなされるなどの介入ができていると見受けられる」とコメントした。 介入するうえでの臨床疑問はCQで示されており、CQ1-1(頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、術前の一般的な栄養治療を行うことは推奨されるか?[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:弱い])については、日本外科感染症学会が編集する『消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン』のCQ3-4(頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、術前の一般的な栄養治療[経口・経腸栄養、静脈栄養]を行うことは推奨されるか?)と同様に術前介入について言及している。これに対し同氏は「両者に目を通す際、日本外科感染症学会で評価されたアウトカムはSSI※であり、本ガイドラインでの評価アウトカム(術後合併症数、術後死亡率、術後在院日数など)とは異なることに注意が必要」と述べた。※Surgical Site Infectionの略、手術部位感染 また、CQ1-2(頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、周術期に免疫栄養療法を行うことは推奨されるか?[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性:中程度])で触れられている免疫栄養療法については、「アルギニン、n3系脂肪酸、グルタミンが用いられるが、成分ごとに比較した評価はなく、どの成分が術後合併症の発生率低下や費用対効果として推奨されるのかは不明」と説明しながら、「今回の益と害のバランス評価において、免疫栄養療法を実施することによって術後合併症が22%減少、術後在院日数が1.52日短縮することが示された。また、術後の免疫栄養療法では術後の非感染性合併症も減少する可能性が示された(p.135)」と説明した。<目次>―――――――――――――――――――第1章:本ガイドラインの基本理念・概要第2章:背景知識 1. がん資料における代謝・栄養学 2. 栄養評価と治療の実際 3. 特定の患者カテゴリーへの介入第3章:臨床疑問 CQ1-1:頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、術前の一般的な栄養治療(経口・経腸栄養、静脈栄養)を行うことは推奨されるか? CQ1-2:頭頸部・消化管がんで予定手術を受ける成人患者に対して、周術期に免疫栄養療法を行うことは推奨されるか? CQ2:成人の根治目的の癌治療を終了したがん罹患経験者(再発を経験した者を除く)に対して、栄養治療を行うことは推奨されるか? CQ3:根治不能な進行性・再発性がんに罹患し、抗がん薬治療に不応・不耐となった成人患者に対して、管理栄養士などによる栄養カウンセリングを行うことは推奨されるか?第4章:コラム――――――――――――――――――― 最後に同氏は、「現代は2人に1人はがんになると言われているが、もともとがん患者は栄養不良のことが多い。また、その栄養不良ががんを悪化させ、栄養不良そのもので亡くなるケースもある。周術期や治療前にすでに栄養状態が悪くなっている場合もあることから、栄養管理の重要性を理解するためにも、がんに関わる医療者全員に本書を読んでいただきたい」と締めくくった。

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