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心アミロイドーシスの生存率向上に新たな治療選択肢/アルナイラム

 トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)治療薬として、2025年6月25日に国内で適応追加承認を取得した核酸医薬のブトリシラン(商品名:アムヴトラ)。この治療薬が果たす役割について、7月に開催されたアルナイラムのメディアセミナーで北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授)が解説した。高齢者心不全では心アミロイドーシスの想起を 心アミロイドーシスは心不全の原因疾患の1つで、2025年3月に発刊された『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』においてもその項目が設けられ、心不全として鑑別診断が重要な疾患として位置付けられた(推奨表57参照)。しかし現状は、「循環器医でもアミロイドーシスの概念をあまり持っていない医師も少なくない」と北岡氏は問題提起する。その理由について、「たった10年前には患者が300例ほどしかいないとされ、原因として疑うのは非常に難しい時代だった」とコメント。しかし、時代は変わり、核医学検査による診断法が確立したことで、120万人いると推定される心不全患者の10%程度をATTR-CMが占めることも明らかになってきている。とくにATTR-CMwt*は加齢に起因することから、高齢者で診断されることが“まれではない”状況になっているが、2019年に治療薬として四量体安定化薬が処方できるようになったことで、「指数関数的に治療を受けられる患者数が増加している」と説明した。*wild type(野生型)の略治療薬の使い分けにも期待 心アミロイドーシスの原因となるトランスサイレチン(TTR)は、肝臓から産生され、四量体の状態であれば甲状腺ホルモンやビタミンAを運搬する役割を果たすが、単量体に解離することでアミロイド線維を形成し、臓器に沈着する。さらに近年では、肝臓から直接ミスフォールディングされたTTRが産生されることも示唆されている。その結果、アミロイド沈着が心不全症状の発現前より始まり、時間経過とともにBNPやトロポニンなどのバイオマーカーの上昇、心機能やQOL低下などに影響を与え、生命予後を脅かすようになる。これについて同氏は「以前と比較して早期診断により生存率は高くなっているが、年齢から想定される生存率と比較すると、ATTR-CM患者の生存率はいまだに低い状況にある」と述べ、潜在患者の発掘と治療法普及の加速化が課題であることについて言及した。 しかし、今回のブトリシランの適応追加はATTR-CMに対する治療選択を広げ、心アミロイドーシス診療の追い風となるだろう。既存治療薬はTTR四量体の安定化を図るものであったが、ブトリシランはさらに上流部分に作用し、効果を発揮する。その作用機序は、ブトリシランが肝臓特異的に取り込まれRNA誘導サイレンシング複合体(RNA-induced silencing complex:RISC)と結合することで肝臓内においてTTR mRNAを分解し、TTR産生を抑制(ノックダウン)させる。本薬剤が適応追加承認に至ったHELIOS-B試験の対象者のうち約40%は、既存薬(タファミジスまたはタファミジスメグルミン)が投与されていた患者であったが、投与有無によらず主要評価項目**を達成している。この結果を踏まえ、「本薬剤により全死亡リスクが低下し、一般集団の生存率に近づいた」と同氏は説明。新たな治療薬が加わったことで、実臨床では治療薬の使い分けがトピックになっており、本薬剤がATTR-CM治療の第1選択薬となりうるとして期待されているとも話した。**全体集団/ブトリシラン単剤投与部分集団における二重盲検期間の全死因死亡および再発性心血管関連イベントの複合エンドポイントRNA干渉(RNAi)とその治療薬 RNAiは植物のペチュニアと線虫から発見された遺伝子サイレンシングで、DNA配列を変化させることなく遺伝子発現・タンパク質を抑制することができる。この原理を応用した低分子干渉RNA(small interfering RNA:siRNA)製剤は、生体内に備わる自然なプロセス(RISCを介して繰り返しmRNAを切断)において効果を発揮する。これまで、細胞内に送達されたsiRNAが体内で作用する際の課題として、(1)体内で分解されやすい、(2)細胞膜の通過が困難、(3)オフターゲット作用の懸念があったが、同社は独自のドラッグデリバリーシステム(DDS)を開発し、解決に導いたという。現在国内では同社の開発により4つのsiRNA製剤(パチシラン[商品名:オンパロット]、ギボシラン[同:ギブラーリ]、ブロリシラン[同:アムヴトラ]、インクリシラン[同:レクビオ])が発売されている。

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第278回 いよいよ本格化するOTC類似薬の保険外し議論、日本医師会の主張と現場医師の意向に微妙なズレ?(後編)

「調査対象に偏りが見受けられるため、調査結果については詳細な分析が必要」と日本医師会こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いろいろあった夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)も終わり、野球はNPBとMLBのポストシーズン進出争いにその焦点が移ってきました。気になるのはMLBのロサンゼルス・ドジャースの夏に入ってからの失速ぶりです。この週末のサンディエゴ・パドレスとの3連戦では1勝2敗と負け越し、結果、パドレスにナショナル・リーグ西地区首位に並ばれました(現地8月24日現在、25日には再び首位に)。投手陣、とくにリリーフ陣の弱さがポストシーズンに向けて最大の弱点になっています。大谷 翔平選手で視聴率を稼いできたNHKも気が気でないでしょう。開幕時はワールドシリーズ出場間違いなしと言われたスター軍団のあと1ヵ月余りの戦いぶりと、ダルビッシュ 有投手擁するパドレスのさらなる追い上げに注目したいと思います。さて、今回も前回に引き続き、三党合意(自民・公明・維新)で決まったOTC類似薬の保険外しについて書いてみたいと思います。前回は、日本医師会が8月6日の記者会見で、OTC類似薬の保険外しの動きに対し強い反対の意向を改めて表明、その理由として「経済的負担の増加」と「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」を挙げたこと、その一方で、今年7月、日本経済新聞社と日経メディカル Onlineが共同で医師に対して行った調査では「OTC類似薬の保険外しに医師の賛成6割」という意外な結果が出たことについて書きました。日本医師会は、記者会見でこの結果に対し、「調査対象に偏りが見受けられるため、調査結果については詳細な分析が必要」と苦言を呈したのですが、そんなに”偏った”調査だったのでしょうか。もう少しその内容を見てみましょう。「保険適用から外してもよい」と考える薬効群分類は「総合感冒薬」「湿布薬」「ビタミン剤」など日経メディカル Onlineは7月30日付けで「医師7,864人に聞いたOTC類似薬の保険適用除外への賛否」という記事を配信しました。対象は日経メディカル Onlineの医師会員で総回答者数は7,864人、調査期間は参議院選挙前の2025年7月1~6日です。同記事によれば、調査に回答した医師の過半数である62%が「OTC類似薬の保険適用除外」に対し賛成(「賛成」20%、「どちらかと言えば賛成」42%の合計)でした。なお、回答した医師の内訳は、病院勤務医70.1%、診療所勤務医15.2%、病院経営者1.5%、診療所開業医10.8%、研究者・行政職1.1%、その他2.4%です。病院勤務医が7割と最も多く、診療所開業医が実際の割合(病院長含め開業医の割合は医師全体の約2割程度)よりも若干低かったのですが、大きな「偏り」というほどのものではないでしょう。立場別での賛否では、病院勤務医が「賛成」の率が最も高く(69%)、次いで診療所勤務医(54%)、病院経営者(51%)の順でした。診療所開業医は「賛成」36%、「反対」が63%でした。「反対」が多いとはいえ約4割が保険適用除外に「賛成」とは、ある意味意外な結果でした。OTC類似薬のうち、「保険適用から外してもよい」と考える薬効群分類について聞いた質問では、「総合感冒薬」(51%)、「外用消炎鎮痛薬(湿布薬)」(41%)、「ビタミン剤」(37%)、「外用保湿薬(ヘパリン類似物質など)」(31%)が上位を占めました。保険適用から除外してよいと考える理由については、「増え続ける国民医療費を抑制するため」52%、「医薬品目的で受診する人を減らすため」31%、「OTC薬と効果に大きな違いがないため」27%、「多忙な診療業務の負担を軽減するため」16%という結果でした。つまり、勤務医を中心に現場の医師たちの実に半数が、増え続ける医療費をなんとかせねばと考えており、さらに、医師の働き方改革や医師偏在によって多忙を極める医師たちの一定数が、OTC類似薬の保険適用除外は医薬品目的で受診する人を減らし、診療業務を効率化するためにプラスになると考えているわけです。日本医師会の主張と現場の医師の意向のズレは、「軽症でも患者を手放さず、初診料・再診料を柱に診療報酬を確保する」ことを第一義とする(診療所開業医中心の)日医と、「本当に診療が必要な患者だけを効率的に診たい」現場医師との間にある、”診療方針のズレ”といえるかもしれません。OTCよりも危険な処方薬ですらきちんと説明が行われず、ポリファーマシーによる健康被害も起こっている日本医師会は「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」を反対の理由に挙げ、「OTC類似薬の保険適用除外は、重複投与や相互作用の問題等、診療に大きな支障を来たす懸念がある」とその危険性を指摘していますが、現実問題として重複投与や相互作用を常に気にしながら処方箋を書いている医師はどれくらいいるのでしょうか。以前(第270回 「骨太の方針2025」の注目ポイント[後編])にも書いたことですが、そもそも現状、処方箋を発行する医師は薬の説明をほぼ薬局薬剤師に丸投げし、その薬局薬剤師も印刷された薬剤情報提供書を右から左へ受け流しているだけ、というところが少なくありません(私や家族の経験からも)。OTCよりも危険な処方薬ですらきちんと説明が行われず、ポリファーマシーによる健康被害も起こっている状況はそのままに、「OTC類似薬の保険適用除外は、診療に大きな支障を来たす懸念がある」とはやや言い過ぎではないでしょうか。「経済的負担の増加」は税制などの制度変更とマイナ保険証を活用したDXで改善できるのでは?OTC類似薬の保険適用除外のもう一つの問題と言われる患者の「経済的負担の増加」ですが、こちらは税制などの制度変更とマイナ保険証を活用したDXで改善できるのではないでしょうか。今年5月の三党協議の場で、使用額が大きいOTC類似薬の上位6品目と湿布薬1品目について、通常の使用日数で患者負担額がどれくらい違うかについての厚生労働省の試算が示されています。それによれば、「ヘパリン類似物質クリーム」で市販薬はOTC類似薬の5.4倍、その他の薬でも1.1〜3.4倍という結果でした。日本医師会の江澤 和彦常任理事は8月6日の記者会見でOTC類似薬を保険適用外にすることで、患者の自己負担額で比較すると30倍以上になると指摘、「経済的な問題で国民の医療アクセスが絶たれる」と懸念を示しています。しかし、患者負担の面からみれば増加ですが、国の医療費負担の面からは削減になるわけで、セルフメディケーション税制(特定市販薬を年1万2,000円超購入した場合、超過分を8万8,000円まで控除できる制度)の限度額や対象薬剤を拡充したり、医療費控除との併用を認めるような改革を行ったりすれば、患者の経済的負担増はいくらでも軽減できると思います。セルフメディケーション税制は現行の医療費控除の「特例」のため、重複控除を避ける必要があるため「選択適用」となっていますが、それこそ今の時代に合っていない制度と言えるでしょう。なお、セルフメディケーション税制については2026年12月に制度の期限を迎えるものの、国は制度の恒久化と対象薬剤(インフルエンザ検査を追加など)の拡大を検討しています。3党合意と骨太の方針でOTC類似薬の保険適用除外が決まっているのですから、それに合わせて同制度の抜本的な見直しを期待したいところです。セルフメディケーション推進で職能の重要性が増すと考えられる薬剤師、しかし日本薬剤師会はOTC類似薬の保険適用除外になぜか「反対」また、薬局等でOTCを購入しているのが患者本人なのか、家族など第三者用なのか、というチェック等もマイナンバーカードを活用し、お薬手帳の情報などと紐付けることで、より効率的に行うことができるのではないでしょうか。さらに、セルフメディケーション税制に基づく所得控除の申告もe-Tax(国税電子申告・納税システム)で簡単にできるようにすれば、OTCの活用は今まで以上に進むはずです。要はそうした制度・仕組みをつくろう、セルフメディケーションを推進しようという意欲や熱意が国や各ステークホルダーにあるかどうかだと思います。その意味では、診療と処方権を絶対に手放したくない日本医師会はさておいて、セルフメディケーション推進でその職能の重要性が増すと考えられる薬剤師を束ねる日本薬剤師会が、OTC類似薬の保険適用除外に対して「今までの仕組みを壊すことになる」(岩月 進・日本薬剤師会会長)などとして「反対」の立場を表明(2025年2月段階)しているのがまったく解せません。薬剤師は自分たちの職能を高めたり、仕事を増やしたりすることが嫌いなのでしょうか。AIやロボットに仕事を奪われてもいいのでしょうか。OTC類似薬の保険適用除外は、2025年末までの予算編成過程を通じて具体的な検討を進め、早期に実現可能なものは2026年度から実行される予定です。そうした動きを阻止するべく日本医師会、日本薬剤師会など守旧派勢力が今後、どんなアクション起こすかが注目されます。

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ビタミンDはCOVID-19の重症化を予防する?

 血中のビタミンDレベルが低い人では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時に重症化するリスクが高まるようだ。新たな研究で、ビタミンD欠乏症の人は新型コロナウイルス感染により入院する可能性が36%高くなることが示された。南オーストラリア大学(オーストラリア)のKerri Beckmann氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に7月18日掲載された。 2022年に報告された研究によると、米国人の約5人に1人(22%)はビタミンD欠乏症であるという。この研究では、UKバイオバンク参加者のデータを用いて、血中のビタミンDレベルと新型コロナウイルス感染およびCOVID-19による入院との関連を検討した。対象は、2006年から2010年のベースライン時にビタミンDレベルを1回以上測定し、新型コロナウイルスのPCR検査結果が記録されている15万1,543人である。ビタミンDレベルは、欠乏(0〜<24nmol/L)、不足(25〜50nmol/L)、正常(>50nmol/L)の3群に分類した。 対象者のうち、2万1,396人がPCR検査で陽性と判定されていた。解析からは、ビタミンDレベルが正常な群を基準とした場合の新型コロナウイルス感染に対する調整オッズ比は、ビタミンDレベルが不足している群で0.97(95%信頼区間0.94〜1.00)、欠乏している群で0.95(同0.90〜0.99)であり、わずかながらも感染リスクは低い傾向が認められた。一方、COVID-19の重症化の調整オッズ比については、ビタミンDレベルが不足している群で1.19(同1.08〜1.31)、欠乏している群で1.36(同1.19〜1.56)であり、リスクが有意に高いことが示された。 Beckmann氏は、「この研究では、ビタミンDが欠乏しているか不足している人では、ビタミンDレベルが正常な人と比べてCOVID-19で入院する可能性は高いものの、新型コロナウイルスに感染するリスクが高いわけではないことが示された」と述べている。その上で同氏は、「ビタミンDは免疫システムの調整に重要な役割を果たすため、ビタミンDレベルが低いと、COVID-19のような感染症に対する体の反応に影響を及ぼす可能性がある」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 Beckmann氏はまた、「COVID-19はかつてほどの脅威ではなくなったかもしれないが、依然として人々の健康に影響を与えている。最もリスクが高くなるのはどういう人なのかを理解することで、リスクの高い人のビタミンDレベルをモニタリングするなど、さらなる予防策を講じることが可能になる」と述べている。ただし同氏は、「現時点では、ビタミンDサプリメント自体がCOVID-19の重症度を軽減できるかどうかは不明である。新型コロナウイルスとの共存が続く中で、この点については、今後の研究で検討する価値が十分にあるだろう」と話している。

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薬物療法【脂肪肝のミカタ】第9回

薬物療法Q. 併存疾患に対する薬物療法は?併存疾患に対する薬物療法として、糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)、肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)、脂質異常症治療薬(スタチン、ぺマフィブラート)が肝臓の採血所見、画像所見、組織所見の改善に繋がるという報告は複数発表されている。チアゾリジン誘導体やビタミンEの肝臓の組織改善作用に関しては、近年は賛否両論がある1-3)。いずれの薬剤もMASLDに対する治療薬ではないことを把握した上で処方する必要がある。将来的な治療方針として、MASLD最大のイベントである心血管イベントの抑制まで視野に入れた治療が期待される。心血管イベント抑制作用における高いエビデンスを有する糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)の併用を視野に入れた薬剤開発が期待される(図1)4,5)。(図1)心血管系イベントにおける糖尿病治療薬の長期インパクト(2型糖尿病を対象とした海外データ)画像を拡大するQ. 今後期待される薬物療法は?最近の臨床試験の対象は、肝硬変(Stage 4)を除外した線維化進行例(Stage 2~3)である1,2)。主要評価項目も以前は肝臓の線維化改善を重視していたが、最近は活動性改善も同時に重視する傾向にある。2024年3月、経口の甲状腺ホルモン受容体β作動薬(resmetirom)がStage 2~3の線維化が進行したMASHを対象に初の治療薬として米国食品医薬品局で承認されたが2)、本邦では臨床試験が行われておらず、現時点では使用することができない。2024年11月、米国肝臓学会で、Stage 2~3の線維化が進行したMASHを対象としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドの72週の第III相プラセボ対照試験(ESSENCE Study)の成績が報告された。肝炎活動性と線維化を共に改善し、主要評価項目を達成したことが報告された(図2)6)。本臨床試験は本邦でも行われており、今後の上市が期待されている。(図2)MASH(Stage 2~3)を対象としたGLP-1受容体作動薬の治療効果[ESSENCE Study]画像を拡大する最後に、MASLDの新薬開発における将来の展望として、まずはメタボリックシンドローム由来の心血管イベントを抑制することが課題である。よって、食事/運動療法や糖代謝改善薬は肝臓の線維化進行度に関わらず重要である。さらに、肝臓の炎症や線維化が進行してくると肝疾患イベントが抑制されることも課題となる。肝臓の脂肪化、炎症、線維化を改善する薬剤を開発し、併用していく時代になると考えている(図3)。(図3)MASLD新薬開発における将来の展望画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂. 4) Marso S, et al. N Engl J Med. 2016;375;311-322. 5) Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 6) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.

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慢性蕁麻疹に最も効果的な治療薬は何?

 皮膚に強いかゆみを伴う隆起した膨疹(みみず腫れ)が生じる蕁麻疹のうち、発症後6週間以上が経過したものを慢性蕁麻疹という。このほど新たな研究で、慢性蕁麻疹のかゆみや腫れの軽減に最も効果的な治療法は、注射用抗体薬のオマリズマブと未承認の錠剤remibrutinib(レミブルチニブ)であることが示された。マクマスター大学(カナダ)医学部のDerek Chu氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology(JACI)」に7月15日掲載された。 蕁麻疹は、アレルギー反応の一環として皮膚の肥満(マスト)細胞がヒスタミンを放出することで生じる。ヒスタミンは血管の透過性を高め、毛細血管から血漿成分が皮膚に漏れ出すことで膨疹が現れる。 Chu氏らは今回、論文データベースから抽出した慢性蕁麻疹に対する全身性免疫調整薬による治療に関する93件の研究(対象者の総計1万1,398人、ランダム化比較試験83件、非ランダム化比較試験10件)を対象に、その安全性と有効性を比較検討した。これらの研究に含まれていた慢性蕁麻疹の治療法は42種類に及んだ。評価項目は、蕁麻疹活動スコア(かゆみおよび膨疹)、血管性浮腫の活動性、健康関連の生活の質(QOL)、および有害事象であった。 その結果、評価項目に対する有効性が最も高いとされた治療薬はオマリズマブ(4週おきに標準用量300mg)とremibrutinibであった。ただし、remibrutinibの安全性に関するエビデンスの確実性は低かった。また、注射薬のデュピルマブは、蕁麻疹活動性の抑制効果は認められたがQOLの改善効果は不明であり、血管性浮腫に対する効果は検討されていなかった。シクロスポリンは、蕁麻疹活動性の抑制に有効な可能性がある一方で、腎臓障害や高血圧などの有害事象の発生頻度が最も高まる可能性が示唆された。そのほか、アザチオプリン、ダプソン、ヒドロキシクロロキン、ミコフェノール酸、スルファサラジン、ビタミンDもアウトカム改善に有効な可能性が示唆された。一方、ベンラリズマブ、キリズマブ、テゼペルマブについては、有効性が確認されなかった。 Chu氏は、「慢性蕁麻疹に対する全ての先進的な治療選択肢を対象とした今回の初めての包括的な分析により、患者と臨床医が選択できる、明確でエビデンスに基づいた『治療選択肢のメニュー』を提示することが可能になった」と述べている。 研究グループは、「本研究結果は蕁麻疹の治療に関する新たな国際臨床ガイドラインの作成に役立つだろう」と述べている。

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GLP-1RAで痩せるには生活習慣改善が大切

 オゼンピックやゼップバウンドなどのGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の減量効果が高いため、注射さえしていればあとは何もしなくても体重を減らせると思っている人がいるかもしれない。しかし専門家によると、それは誤りだ。適切に体重を減らしてそれを維持するには、注射に加えて生活習慣の改善も必要だという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJoAnn Manson氏らによる、GLP-1RA治療中の生活習慣改善に関するアドバイス集が「JAMA Internal Medicine」に、患者対象情報として7月14日掲載された。 Manson氏は、「GLP-1RAによる減量治療を開始後に、多くの患者が脂肪量だけでなく筋肉量も減少してしまう。また、胃腸症状が現れて治療を中止せざるを得なくなることも多い」と述べ、GLP-1RA使用時の生活習慣改善の重要性を指摘している。例えば、GLP-1RAのみで体重を減らした場合、減った体重の25~40%は除脂肪体重(多くは筋肉)が占めるとのことだ。 筋肉を減らさないための対策として、専門家らは「毎食、魚、豆、豆腐などの食品から20~30gのタンパク質摂取を」と推奨する。「一般的な運動量の人なら、体重1kg当り1.0~1.5gのタンパク質を毎日摂取し、食欲がないときには1食につき少なくとも20gのタンパク質を含むシェイクを飲むと良い」としている。 またGLP-1RAは食欲抑制作用があるため、適切な栄養素摂取が妨げられる可能性があるという。発表されたアドバイス集では、「適量の食事と軽食(果物、ナッツ類、無糖ヨーグルトなど)を取ることで、エネルギーを維持する」ことを推奨している。さらに、「炭水化物については、血糖値の急激な変動を引き起こす精製穀物や加糖飲料ではなく、サツマイモやオートミールなどの消化の遅いものを選択する。満腹感を長続きさせるには、オリーブオイルやアボカドなどの健康的な脂質食品を食事に加えると良い」とのことだ。 GLP-1RAによる減量中には、バランスの取れた栄養価の高い食事が重要になる。不適切なカロリー制限は、不健康な体重減少、必須栄養素やビタミンの不足による栄養失調のリスクにつながるため避けなければならない。一方、GLP-1RAの副作用として多く見られる胃腸症状に対しては、以下の推奨事項が示されている。・吐き気を和らげるには、脂質の多い揚げ物や加工食品を避け、お腹に優しい少量の全粒粉トーストやシリアル、果物、ジンジャーティーを食べたり飲んだりする。・胸焼けを抑えるには、少量ずつ食べ、食後2~3時間は横にならないようにする。揚げ物よりも焼き物を選び、黒コショウ、唐辛子、ニンニクなどの刺激の強いスパイスは避ける。・便秘には、オートミール、リンゴ、野菜、ナッツなど、食物繊維が豊富な食品の摂取量を増やす。水分を十分に取り、市販の下剤や便軟化剤の使用も検討。 また、GLP-1RAが脱水傾向を招くこともあるため、こまめに水分を取る必要があり、キュウリやスイカといった水分を多く含む果物や野菜の摂取が効果的だとしている。 このほかに、筋肉量を維持するため、週に2〜3回の30分の筋力トレーニングも大切。運動は体重のリバウンドを抑えるためにも重要で、早歩き、サイクリング、軽い庭仕事など、中強度の運動を週に150分程度、筋力トレーニングに加えて行う必要がある。 著者らは、「GLP-1RAの登場は肥満治療の大きな進歩ではあるが、減量効果の長期的な維持には、個別化された食事・運動療法を並行して行わなければならない。そのような包括的なアプローチによって、副作用を軽減し、筋肉量を維持して、栄養失調を回避しつつ、持続的な減量が達成される」と述べている。

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小児期ビタミンD不足で、将来のCVDリスク増

 ビタミンD不足は心血管イベントと関連するという既報があるが、小児期におけるビタミンD値低下も成人後のアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスク増と関連している可能性があることが、新たな研究で示唆された。フィンランド・トゥルク大学のJussi Niemela氏らによる研究はEuropean Journal of Preventive Cardiology誌オンライン版2025年4月29日号に掲載された。 研究者らは、「若年フィンランド人における心血管リスクの前向き研究」(Young Finns study)の参加者を対象に、25-OHビタミンD濃度と従来の小児期のリスク因子(BMI、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、収縮期血圧、果物・野菜・魚の摂取量、身体活動、社会経済的地位、喫煙歴)を調査し、フィンランド国民全員をカバーする全国登録データベースを用いてASCVDアウトカムを追跡調査した。これらのデータから小児期のビタミンDレベルと成人発症のASCVDイベントとの関係を評価した。 主な結果は以下のとおり。・3,516例(平均年齢10.5歳、女子50.9%)が組み入れられた。参加者が3~18歳時の1980年に採取・保存された冷凍サンプルから、25-OHビタミンDの血清濃度を測定した。ビタミンD欠乏症のカットポイントは30nmol/L未満とした。・2018年までに95例(2.7%)が、少なくとも1回のASCVDイベントの診断を受けた。初回のイベント発生時の平均年齢は47歳だった。・小児期のビタミンDの低レベルは、37nmol/L(調整ハザード比[aHR]:1.84)、35nmol/L(aHR:2.19)、33nmol/L(aHR:1.76)、31nmol/L(aHR:2.07)それぞれのカットポイントで、成人期のASCVDイベントのリスク増加と有意に関連していた。・これらの結果は、従来の小児期のリスク要因の調整後、成人のビタミンDレベル調整後、ビタミンD欠乏のカットポイント30nmol/L未満を使用した場合、いずれにおいても一貫していた。 著者らは「この結果は、約40年間の追跡調査において、小児期の25-OHビタミンD濃度が37nmol/Lに満たないことが、成人期におけるASCVDイベントと関連していることを示した。小児期の最適化されたビタミンD補給を支援することで、CVDリスクを簡単かつ費用対効果の高いかたちで軽減できる可能性がある」と記している。

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患者説明をわかりやすく!病態や治療の説明文作成術【誰でも使えるChatGPT】第4回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。第3回では、国際的な診療ガイドラインとの比較方法をご紹介しました。今回は、日常診療で最も時間を要する業務の1つである「患者さんへの説明」にChatGPTを活用する方法をご紹介します。「この病気について、もっと詳しく知りたい」「なぜこの薬を使うのか教えてほしい」―、患者さんからこうした要望を受けることは日常茶飯事です。限られた診療時間の中で、医学的に正確でありながら、患者さんにとってわかりやすい説明をすることは容易ではありません。今回は、ChatGPTを「患者教育アシスタント」として活用し、さまざまな知識レベルの患者さんに合わせた説明文を効率的に作成する方法をお伝えします。関連サイトChatGPTケース1:新しく診断された疾患の説明30代女性が尋常性乾癬と診断されました。「乾癬って何ですか?」と不安そうに質問されました。あなたは患者さんに寄り添う皮膚科専門医です。30代女性の患者さんに「尋常性乾癬」について初めて説明します。以下の要素を含めて、わかりやすく説明してください。含めるべき内容:1.どんな病気か(専門用語を避けて)2.原因(遺伝や生活習慣との関係)3.症状の特徴4.日常生活への影響5.治療の見通し6.よくある誤解の解消(感染しないことなど)条件:中学生でも理解できる言葉で不安を和らげる温かい口調で全体で400字程度最後に「一緒に治療していきましょう」というメッセージをChatGPTからの回答例 乾癬は、皮膚の細胞が通常より早く生まれ変わってしまう病気です。健康な皮膚は約1ヵ月で新しくなりますが、乾癬では数日で変わるため、古い皮膚が積み重なって赤く盛り上がり、白い粉のようなものが付きます。この病気は体質的なもので、ストレスや風邪などがきっかけで出ることがあります。大切なのは、ほかの人にうつる病気ではないということです。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返しますが、今は優れた治療法がたくさんあります。塗り薬から始めて、必要に応じてほかの治療も選べます。乾癬は慢性の病気ですが、適切な治療で普通の生活を送っている方がたくさんいらっしゃいます。あなたの生活スタイルに合った治療法を見つけて、一緒に治療していきましょう。何か心配なことがあれば、いつでもご相談ください。ケース2:治療法の選択肢を比較説明アトピー性皮膚炎の患者さんに、新しい治療選択肢(JAK阻害薬の内服)を提案する際の説明が必要です。あなたは、わかりやすい説明が得意な皮膚科医です。中等症のアトピー性皮膚炎患者さん(40代男性、会社員)に、新しい治療選択肢を説明する文章を作成してください。現在の治療ステロイド外用薬(ストロングクラス)提案する治療JAK阻害薬(リンヴォック)の内服以下の形式で説明してください:1.なぜ新しい治療を提案するのか2.JAK阻害薬とは(仕組みを簡単に)3.期待できる効果4.起こりうる副作用と対策5.費用の目安6.今の治療との違い(メリット・デメリット)条件:専門用語には必ず説明を付ける箇条書きを効果的に使う判断材料となる具体的な情報を含めるChatGPTからの回答例 【新しい治療法のご提案について】なぜ新しい治療をお勧めするのか。現在の塗り薬だけでは、かゆみのコントロールが十分でなく、お仕事にも影響が出ているとのことでしたので、より強力な治療法をご提案したいと思います。JAK阻害薬(リンヴォック)とは体の中で過剰な炎症反応を起こす信号をブロックする飲み薬です1日1回の内服で、全身のアトピー症状を改善します2021年に承認された比較的新しいお薬です期待できる効果多くの方が2週間~1ヵ月で効果を実感かゆみが早期に改善(数日~1週間)全身の皮疹が改善し、塗り薬の量を減らせる可能性注意すべき副作用感染症にかかりやすくなる(定期的な血液検査でチェック)にきびができやすくなることがあるまれに:帯状疱疹、血栓症費用について3割負担で月額約1万5,000円(薬代のみ)高額療養費制度の対象【大塚からの追加コメント】実はこの薬価情報は正確ではありません。リンヴォック(15mg)の実際の薬価は1錠約4,300円で、3割負担だと月額約3万6,590円(2025年7月現在)になります。これはChatGPTが薬価を正確に把握していないことを示す良い例です。現在の治療との比較【メリット】◎全身に効果がある◎塗る手間が省ける◎効果が早い【デメリット】×定期的な検査が必要×費用が高い×妊娠希望時は中止が必要ご不明な点があれば、お気軽にご質問ください。ケース3:検査結果の説明パッチテストの結果を患者さんに説明する必要があります。複数のアレルゲンが陽性でした。あなたは検査結果をわかりやすく説明する皮膚科医です。パッチテストの結果を患者さん(50代女性、主婦)に説明する文章を作成してください。検査結果:ニッケル:強陽性(++)コバルト:陽性(+)香料ミックス:陽性(+)ゴム系物質:陰性(-)説明に含める内容:1.パッチテストとは何か(簡潔に)2.陽性の意味3.日常生活で注意すべき具体的な物品4.今後の対策5.前向きなメッセージ条件:不安をあおらない表現具体的な生活指導を含めるイラストで示すようなわかりやすさChatGPTの回答例 【パッチテスト結果のご説明】検査の結果について今回の検査で、皮膚のかぶれの原因となる物質がわかりました。これは「どの物質に触れると皮膚が反応するか」を調べる検査です。見つかったアレルギー物質【ニッケル】★★(強い反応)アクセサリー(とくに安価なもの)時計、ベルトのバックル、メガネのフレーム硬貨、鍵【コバルト】★(反応あり)青色の染料を含む製品ビタミンB12を含むサプリメント【香料ミックス】★(反応あり)香水、化粧品芳香剤、柔軟剤日常生活での工夫◎アクセサリーは「チタン」「プラチナ」「18金以上」を選ぶ◎化粧品は「無香料」表示のものを◎金属部分が肌に触れる場合は、透明マニキュアでコーティング◎手袋(綿やビニール)で直接触れないように前向きに過ごすために原因がわかったことは大きな前進です。これらを避けることで、皮膚トラブルは確実に減っていきます。完全に避けることが難しい場合もありますが、工夫次第で快適に過ごせます。一緒に対策を考えていきましょう。患者説明のプロンプト作成のコツ1)患者さんの背景を具体的に設定年齢、性別、職業、生活環境などを明確にすることで、より適切な説明文が生成されます。2)説明のレベルを明確に指定「中学生でもわかる」「専門用語を避けて」など、具体的な指示を入れましょう。3)感情面への配慮を忘れずに「不安を和らげる」「前向きなメッセージ」など、心理的サポートの要素も重要です。4)構造化された出力を求める箇条書きや見出しを使うよう指示することで、読みやすい説明文になります。注意点1)医学的正確性の確認ChatGPTが生成した内容は必ず医学的に正しいか確認し、必要に応じて修正してください。2)個別性への配慮生成された説明文はあくまでテンプレート。患者さんの理解度や心理状態に応じて調整が必要です。3)定期的な更新治療ガイドラインや薬剤情報は変更されることがあるため、定期的に内容を見直しましょう。AIの薬価情報に関する重要な教訓ケース2で示したリンヴォックの薬価は、実際とは大きく異なっていました。これは医療現場でChatGPTを使用する際の重要な教訓を示しています。薬価・費用に関する情報はとくに注意が必要ChatGPTは薬価改定や最新の保険適用情報を把握していません。具体的な金額を患者さんに伝える前に、必ず最新の薬価を確認しましょう。「おおよその目安」として伝える場合も、実際の金額との乖離に注意します。確認すべき情報のチェックリスト◎薬価(最新の薬価基準で確認)◎用法・用量(添付文書で確認)◎保険適用の条件(適応症、施設基準など)◎併用禁忌・注意(最新の情報で確認)このような具体的な数値や規制に関わる情報は、ChatGPTの回答をうのみにせず、必ず1次情報源で確認することが患者さんの信頼を得るために不可欠です。まとめ患者説明は医療の質を左右する重要な要素です。ChatGPTを活用することで、わかりやすく、思いやりのある説明文を効率的に作成できます。ポイントは:患者さんの立場に立った言葉選び医学的正確性とわかりやすさのバランス不安を和らげる配慮これらの説明文を印刷して渡したり、診察室でタブレットを使って見せたりすることで、患者さんの理解度と満足度の向上が期待できます。

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第277回 グルテンや小麦に過敏という人の多くは実際のところそれらが平気かもしれない

グルテンや小麦に過敏という人の多くは実際のところそれらが平気かもしれない過敏性腸症候群(IBS)患者28例が完遂したカナダでのクロスオーバー無作為化試験の結果によると1-3)、グルテンや小麦に過敏と自覚している人の多くは実際のところそれらを食べても平気かもしれません。小麦は数多の食品を作るのに使われており、言わずもがな魅惑のスイーツの数々をあつらえるのに必要とされる材料の1つです。多くの人にとって小麦がもたらす食の楽しみは大きいに違いなく、小麦を食べられるならそうするにこしたことはなさそうです。それに未精製の全粒小麦を使った食品は炭水化物、食物繊維、タンパク質、ビタミン、ミネラル、その他の植物に特有な成分(ファイトケミカル)の重要な供給源であり、世界の人々の日々のエネルギー摂取や食事を健康的にするのに大いに貢献しています。小麦などの全粒穀物の摂取が健康に有益なことも示されており、たとえば肥満、2型糖尿病、心血管疾患、がん、死亡を減らすことが疫学試験で裏付けられています。一方、食品がたいていそうであるように小麦にも負の側面があり、セリアック病や小麦アレルギーなどの有害な免疫反応をもたらしうることが示されています。小麦の摂取で具合が悪くなるとのことで、セリアック病や小麦アレルギーでなくとも小麦摂取を減らすか避けるグルテンフリー食を選ぶ人も多いようです。そういう不調は非セリアック・グルテン過敏症(NCGS)と呼ばれ、小麦のタンパク質成分のグルテンがしばしばその誘引成分とみなされます。NCGSの人はもっぱら腹部の痛みや違和感、膨満感、排便周期の変化などの胃腸の症状を訴えます。より少ないながら、疲労や頭痛などの消化管以外の症状が生じることもあります。NCGSの生理指標はなく、その診断にはしばらくのグルテンフリー食の後にグルテンをあえて摂取してもらう検査を必要とします。普段の診療で決まってできる類いのものではありません。これまでの報告に基づくNCGSの有病率は自己申告が頼りゆえか相当まちまちで0.5~13%ほどです4,5)。NCGS患者はIBS様の症状を呈して受診することが多く、IBSも患うNCGS患者は多いようです。たとえば英国の成人1千人ほどを調べた試験では、NCGS患者がほとんど(93%)を占めるグルテン過敏症患者の5人に1人はIBSの診断基準を満たしました6)。他の試験結果も考慮すると、IBSとNCGSはかなり重複するようであり、IBS患者の多くがグルテンや小麦がその症状の引き金であると信じています。そこでカナダのマクマスター大学のPremysl Bercik氏らは、単なる思い込みではなく実際にそれらがIBS症状を誘発するかどうかを調べるべく試験を実施しました。試験ではグルテンフリー食で病状が良くなった経験を有するIBS患者を募りました。集まった被験者はまずグルテンフリー食を3週間続け、点数が大きいほど重症なことを意味する0~500点のIBS重症度尺度(IBS-SSS)でIBS症状がどれほどかが測定されました。その平均値は183でした。続いて全粒小麦入り、グルテン入り、そのどちらも非含有の3種類の固形食品(シリアルバー)のどれかをどれも2週間の間を挟んで1週間食べてもらいました。被験者にはそれらを食べることで症状が悪化する恐れがあると伝えました。ただし、シリアルバーに何が入っているかは知らせませんでした。症状が悪化するかもしれないと告げられているだけに、食べたのが小麦もグルテンも含まないシリアルバーであっても28例中8例(29%)がIBS-SSS点数の50点以上の悪化を示しました。小麦入りやグルテン入りのシリアルバーを食した後の悪化患者の割合はさぞ高かろうと思いきやそうはならず、小麦もグルテンも含まないシリアルバーを食した後と有意差がなく、それぞれ39%(11/28例)と36%(10/28例)でした。グルテンや小麦が正真正銘のIBS症状の引き金となることはあるでしょうが、悪化するという思い込みが実際にそうさせるノセボ効果の関与もあるようです2,3)。NCGS患者を募った欧州での最近の無作為化試験でも同様に胃腸症状へのノセボ効果の寄与が示唆されています7)。今回の試験の被験者の便を調べたところ、何人かはシリアルバーを指示どおりに食べておらず、グルテンや小麦がIBS病状に影響するほどそれらを摂取していなかったかもしれません3)。また、試験の種明かしをしたところで被験者のほとんどは考えや食事を変えはしませんでした2)。IBS患者のいくらかは心理的支援も含む手当てが必要かもしれない、と試験を指揮したPremysl Bercik氏は言っています2)。 参考 1) Seiler CL, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025 Jul 1. [Epub ahead of print] 2) Despite self-perceived sensitivities, study finds gluten and wheat safe for many people with IBS / McMaster University 3) Gluten may not actually trigger many irritable bowel syndrome cases / NewScientist 4) Cabrera-Chavez G, et al. Gastroenterol Res Pract. 2016;2016:4704309. 5) Molina-Infante J, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2015;41:807-820. 6) Aziz I, et al. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2014;26:33-39. 7) de Graaf MCG, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2024;9:110-123.

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第20回 血液でわかる「臓器年齢」とは?長寿の鍵は脳と免疫、そして生活習慣にあり?

「○○歳だけど、それより若く見られる」、「実年齢より老けて見られるけれど、健康には自信がある」。私たちの「年齢」は、暦通りの年齢(実年齢)や外見だけでは測れない部分があります。近年の研究では、体の中にある臓器一つひとつに、実年齢とは異なる「生物学的な年齢」があり、それは臓器ごとにも異なることがわかってきています。そしてこのほど、イギリスの研究機関が報告した研究1)により、血液検査だけで11もの臓器の「年齢」を推定し、それが将来の病気のリスクや寿命と深く関わっていることが示唆されました。約4万5,000人もの大規模なデータを解析したこの研究は、私たちが健康で長生きするためのヒントを与えてくれます。「推定臓器年齢」が予測する未来の病気研究チームは、血液中に含まれる約3,000種類のタンパク質をAIで分析し、脳、心臓、肺、腎臓といった11の主要な臓器の生物学的な年齢、すなわち「臓器年齢」を推定するモデルを開発しました。この「臓器年齢」と実年齢との差(年齢ギャップ)を調べたところ、興味深い知見が次々と判明しました。たとえば、この研究で推定された「心臓年齢」が実年齢より1歳高いごとに、将来の心不全のリスクは83%も上昇していました。同様に、研究内で推定された「脳年齢」が高いことは、アルツハイマー病の強力な予測因子となっていました。とくに、脳が実年齢より著しく老化している人は、アルツハイマー病のリスクが3.1倍にもなり、これは病気の遺伝的リスクを持つ人(APOE4を1コピー持つ人)と同程度でした。逆に、脳が若い人はリスクが74%も減少し、これは遺伝的に病気になりにくい人と同等の保護効果でした。さらに、老化している臓器の数が増えれば増えるほど、死亡リスクは雪だるま式に増加して見られることもわかりました。「老化」臓器が8個以上ある人は、そうでない人に比べて死亡リスクが8.3倍にも跳ね上がっていたのです。あなたのライフスタイルが「推定臓器年齢」を大きく左右するでは、研究で推定されたこれらの「臓器年齢」は変えられない運命なのでしょうか?答えは「ノー」だと考察されています。この研究の中で評価された最も重要な知見の一つは、「推定臓器年齢」が日々のライフスタイルに密接に関連すると明らかにしたことです。研究では、以下のようなライフスタイルと推定臓器年齢の関連が示されました。臓器を「老化」させる習慣喫煙:多くの臓器の老化と関連していました。過度な飲酒:こちらも複数の臓器の老化を促進する要因でした。加工肉の摂取:日常的にソーセージやハムといった加工肉を食べる習慣は、臓器年齢を高める傾向がありました。不眠:睡眠不足や不眠の悩みは、臓器の老化にもつながっているようです。臓器を「若々しく」保つ習慣活発な運動:とくに、息が上がるような活発な運動は、多くの臓器を若々しく保つのに効果的な可能性があると考えられました。油の多い魚の摂取:いわしやサバなどの青魚に含まれる脂は、健康のアウトカムに関連すると知られていますが、臓器年齢の若返りにも貢献する可能性が示されました。鶏肉の摂取:赤身肉よりも鶏肉を選ぶことが、臓器の若さを保つ秘訣なのかもしれません。高学歴:教育レベルの高さも、臓器の若々しさと関連していました。これは、健康に対する知識やヘルスリテラシーの高さが反映されているのかもしれません。また、興味深いことに、グルコサミン、肝油(タラの肝油)、マルチビタミンビタミンCといったサプリメントや市販薬を摂取している人は、とくに腎臓、脳、膵臓が若い傾向にあることもわかりました。ただし、これらはあくまで関連性を示したもので、直接的な因果関係を証明するものではない点には注意が必要です。たとえば、こうしたものを飲んでいる人は普段から健康への意識が高い傾向があり、そうした傾向が臓器を若々しく維持するのに貢献していたのかもしれません。長寿の秘訣は「若い脳」と「若い免疫能」にあり?最後に、この研究は「どの臓器の若さが長寿に最も貢献するのか?」という問いにも答えようとしています。分析の結果、数ある臓器の中でも、「脳」と「免疫能」の推定年齢が、長寿と特に強く関連していることが示唆されました。脳だけ、あるいは免疫能だけが若い人でも死亡リスクは40%以上低下しましたが、脳と免疫の両方が若い人は、死亡リスクが56%低下することと関連していたのです。脳は全身の働きをコントロールする司令塔であり、免疫システムは病気から体を守る防御機構です。この2つのシステムの若さを保つことが、健康寿命を延ばすための鍵となりそうです。この研究は、血液という身近なサンプルから、私たちの体の内部で起きている老化のサインを読み解く新たな扉を開きました。「臓器年齢」を推定し、ライフスタイルを見直すことで、病気を未然に防ぎ、より健康な未来を自ら作り出す。そんな時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Oh HSH, et al. Plasma proteomics links brain and immune system aging with healthspan and longevity. Nat Med. 2025 Jul 9. [Epub ahead of print]

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週1回のカプセル剤が統合失調症の服薬スケジュールを簡略化

 週1回のみの服用で胃の中から徐々に薬を放出する新しいタイプのカプセル剤によって、統合失調症患者の服薬スケジュールを大幅に簡略化できる可能性が新たな研究で明らかになった。この新たに開発された長時間作用型経口リスペリドンは、患者の体内のリスペリドン濃度を一定に保ち、毎日服用する従来の治療と同程度の症状コントロールをもたらすことが臨床試験で示されたという。製薬企業のLyndra Therapeutics社の資金提供を受けて米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学准教授のGiovanni Traverso氏らが実施したこの研究の詳細は、「The Lancet Psychiatry」7月号に掲載された。 Traverso氏は、「われわれは、1日1回飲む必要があった薬を、週1回飲むだけで済むように作り変えた。この技術はさまざまな薬剤に応用可能だ」とMITのニュースリリースの中で述べている。 今回報告された最終段階の臨床試験の結果は、Traverso氏の研究室が10年以上かけて取り組んできた研究の成果だ。試験で使用されたカプセル剤は、マルチビタミンほどの大きさである。飲み込むと、胃の中でカプセル剤の6本のアームが星形に広がって胃の出口を通過できない大きさになり、そのまま胃の中で漂いながらアームから約1週間かけて徐々に薬を放出する。アームは溶解性で、最終的には分離して消化管を通過して排出される。Traverso氏の研究室は2016年、この星形の薬剤送達デバイスの開発について報告している。 試験では、米国内の5施設の統合失調症または統合失調感情障害を有する患者83人(平均年齢49.3歳、男性75%)を対象に、2種類の用量の長時間作用型経口リスペリドン「LYN-005」の有用性を検証した。リスペリドンは統合失調症の治療薬として広く使用されており、Traverso氏らによると、多くの患者が即放性のリスペリドンを1日1回服用しているという。試験参加者は、試験開始1週目は即放性リスペリドン(2mgまたは6mg)を1日1回服用する導入期間を経た後、LYN-005を週1回、計5回服用した。初回のLYN-005投与週のみ、半用量の即放性リスペリドンも併用した。試験を完遂したのは47人だった。 44人を対象に薬物動態を解析した結果、LYN-005の全用量において活性成分の持続放出が確認された。LYN-005と即放性リスペリドンの血中濃度指標における幾何平均比は、1週目の最小血中濃度(Cmin)で1.02、5週目では、Cminで1.04、最大血中濃度(Cmax)で0.84、平均血中濃度(Cavg)で1.03であり、いずれも事前に設定した薬物動体評価の基準を満たした。副作用に関しては、一部の患者に短期的な軽度の胃酸逆流や便秘が見られたが、全体的には少なく、重篤な治療関連有害事象の発生は1件だった。 こうした結果を受けてTraverso氏は、「この臨床試験では、カプセル剤が予測された薬物血中濃度を達成したことと、多くの統合失調症患者で症状をコントロールできることが確認された」としている。また、論文の筆頭著者である米ニューヨーク医科大学精神医学・行動科学臨床教授のLeslie Citrome氏は、「慢性疾患を抱える人の治療を阻む最大の問題の一つが、薬が継続的に服用されないことだ。それによって症状が悪化し、統合失調症の場合、再発や入院につながる可能性がある。薬を週に1回だけ経口摂取するという選択肢は、注射製剤よりも経口薬を好む多くの患者にとって服薬アドヒアランスの維持を助ける重要な選択肢になる」とニュースリリースの中でコメントしている。 Traverso氏らは、米食品医薬品局(FDA)に対するこのリスペリドンの投与アプローチの承認申請に先立ち、より大規模な第3相臨床試験の実施を予定している。また、避妊薬など他の薬剤の投与にもこのデバイスを用いる初期段階の臨床試験も開始予定としている。

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サルコペニア・フレイル、十分なエビデンスのある栄養療法とは?初の栄養管理ガイドライン刊行

 サルコペニア・フレイルに対し有効性が示された薬物療法はいまだなく、さまざまな栄養療法の有効性についての報告があるが、十分なエビデンスがあるかどうかは明確になっていない。現時点でのエビデンスを整理することを目的に包括的なシステマティックレビューを実施し、栄養管理に特化したガイドラインとしては初の「サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025」が2025年4月に刊行された。ガイドライン作成組織代表を務めた葛谷 雅文氏(名鉄病院)に、ガイドラインで推奨された栄養療法と、実臨床での活用について話を聞いた。「推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A」とされた栄養素は 本ガイドラインでは、4つのエネルギー産生栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質、アミノ酸)、2つの微量栄養素(ビタミン、ミネラル)、およびプロ・プレバイオティクスについて、サルコペニア・フレイルの治療に対する介入の有効性が検討された。その中で、エビデンスが十分にあり強い推奨(推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A)とされたのは、以下の2つのステートメントである:サルコペニアならびにフレイルへのたんぱく質の栄養介入は、特に運動療法との併用において筋肉量と筋力を改善することが示されており、行うことを推奨する(CQ4a) 葛谷氏は、「今までの観察研究で十分なたんぱく質の摂取がサルコペニアやフレイルの予防に重要であるという報告は蓄積されている。一方、すでにサルコぺニアやフレイルに陥っている対象者へのたんぱく質の栄養介入のみによる確実性の高いエビデンスは十分ではなく、運動との併用による明確な効果が、システマティックレビューの結果示された」と説明。実臨床でのたんぱく質摂取の指導に関しては、1食当たり25g(=75g/日)または1.2 g/kg体重/日を目安として「肉や魚100g当たりたんぱく質は1~2割程度」と説明することが多いとし、1日トータルで必要量をとることも大切だが、朝昼晩の各食事でまんべんなく摂取することが重要とした。また、とにかく肉を食べなければいけないというイメージが根強いが、魚や大豆製品・チーズなどの乳製品からも摂取は可能であり、日本人の食生活として取り入れることが難しいものではないと話した。サルコペニアへのロイシンおよびその代謝産物であるHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)を主としたアミノ酸を含む栄養介入は、筋肉量、筋力、身体機能を改善するため、行うことを推奨する(CQ5a) ロイシンはたんぱく質を構成する必須アミノ酸の1つで、とくにサプリメントからの摂取について多くのエビデンスが蓄積されている。ただし実臨床では、サプリメントの活用も1つの選択肢ではあるものの、まずは食品からの摂取が推奨されると葛谷氏は話し、その際の目安として「アミノ酸スコア」が参考になるとした。「アミノ酸スコア」は各食品に含まれる必須アミノ酸の含有バランスを評価した指標。スコアの最大値は100で、100に近いほど質の高いたんぱく質源とされる。スコア100の食品の例としては、牛肉・豚肉・鶏肉、魚類、牛乳、卵、豆腐などがある。 その他の栄養素については、「サルコペニアへのビタミンDの単独介入の効果は明らかでないが、ビタミンD不足状態にあるときの運動やたんぱく質との複合介入は筋力や身体機能の改善への効果が期待できるため、行うことを推奨する(CQ6a)」が、「推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B」とした。葛谷氏は、疫学的にはビタミンD欠乏がサルコペニアと関連するという報告はあるが、ビタミンDを強化することによる筋力に対する効果についてのエビデンスはまだ十分ではないとし、ステートメントにあるように、不足状態にあるときに運動やたんぱく質と組み合わせた複合介入をすることが望ましいと話した。CKD、肝硬変、心不全など併存疾患がある場合の栄養療法 本ガイドラインでは、慢性腎臓病(CKD)、肝硬変、慢性心不全、慢性呼吸不全(COPDなど)、糖尿病の5つの疾患を取り上げ、これらを伴うサルコペニアとフレイルの予防・治療に対する栄養療法についてもCQを設定してシステマティックレビューを実施している。この中で「推奨の強さ:強」とされたのは、肝硬変患者および糖尿病患者に対する以下の4つのステートメントであった。[肝硬変]・合併するサルコペニア・フレイルに対する就寝前補食や分岐鎖アミノ酸の介入[CQ14b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:A]・合併するサルコペニア・フレイルに対するHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)の介入[CQ14b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B]・サルコペニア・フレイルを合併した肝硬変患者の転帰(入院期間や感染症、およびADL)改善を目的としたHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)の介入[CQ14c、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B][糖尿病]・サルコペニア・フレイルを合併した2型糖尿病患者に対し、身体機能の改善を目的とした栄養指導とレジスタンス運動の併用[CQ17b、推奨の強さ:強、エビデンスの確実性:B] 葛谷氏は、「領域によってエビデンスが十分ではない部分があることが明らかになった」と話し、今後のエビデンス蓄積に期待を寄せた。サルコペニア・フレイルの診断時点ではまだ引き返せる、早めの介入を 高齢患者の中にはまだメタボを過度に気にする人がいると葛谷氏は話し、「メタボの概念は非常に重要なものではあるが、75歳以上の高齢者では頭を切り替える必要がある」とした。高齢になって体重が減少し始めた時点およびフレイル・サルコペニアの診断がついた時点ではまだ可逆的な状況である可能性が高いので、食事・運動療法および社会性を保つための介入が重要となると指摘した。 また同領域の研究の進捗に関して、今回のシステマティックレビューの結果、各栄養素単体の摂取の有効性についてのエビデンスはまだまだ不足していることが明らかになったと話し、前向き研究・介入研究が不足しているとした。さらに栄養療法の実施による、身体機能障害や入院・死亡といった転帰不良に対する効果を検証する介入研究が、今後必要となるだろうと展望を述べた。

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カロリー制限食は抑うつ気分を高める?

 カロリー計算は単に気が滅入る作業であるだけでなく、実際にうつ病のリスクを高める可能性があるようだ。新たな研究で、カロリー制限食を実践している人では、特定の食事法を実践していない人と比べて抑うつ症状のスコアが高かったことが示された。トロント大学(カナダ)精神医学准教授のVenkat Bhat氏らによるこの研究の詳細は、「BMJ Nutrition Prevention & Health」に6月3日掲載された。 Bhat氏らは今回、2007年から2018年にかけての米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した2万8,525人の健康状態を追跡した。参加者は抑うつ症状を評価する質問票であるPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)に回答していたほか、実践している食事療法の有無についても調査が行われていた。 調査の結果、参加者の7.79%が抑うつ症状のあることを報告していた。参加者を食事パターンに基づき分類したところ、実践している特定の食事法はないと回答した参加者が全体の87.23%を占めていた。残る8.10%はカロリー制限食、2.90%が特定の栄養素の制限を伴う食事(以下、栄養制限食)、1.77%が健康問題の管理を目的とした食事を実践していた。 食事パターンと抑うつ症状の関係について分析した結果、カロリー制限食を実践している人では、特定の食事法を実践していない人と比べてPHQ-9スコアが0.29点高かった。特に、過体重の人では、カロリー制限食はPHQ-9スコアの0.46点の上昇、栄養制限食は同スコアの0.61点の上昇と関連していた。また、何らかの食事法を実践している男性では実践していない男性に比べて身体症状のスコアが高く、さらに、栄養制限食を実践している男性では、食事法を実践していない女性と比べて認知・情動症状スコアが0.40点高いことも示された。 Bhat氏らは、「カロリー制限食が抑うつ症状スコアの上昇と関連することを示した本研究結果は、これまでに報告されている対照研究の結果とは大きく異なっている」と述べている。そして、「このような(結果の)不一致は、先行研究の多くがランダム化比較試験であり、参加者が栄養バランスの取れた、綿密に計画された食事を遵守していたために生じた可能性がある」と付け加えている。 実生活では、カロリー制限食はしばしば栄養不足やストレスを引き起こし、それが抑うつ症状を悪化させることは少なくないとBhat氏らは指摘する。また、このような食事法を実践している人は、減量の失敗や体重のリバウンドを経験することで抑うつ状態に陥る可能性もあるという。さらに同氏らは、グルコースや脂肪酸は脳の健康に不可欠であるが、「炭水化物(グルコース)や脂肪(オメガ3脂肪酸)が少ない食事は理論上、脳の機能を低下させ、認知・感情症状を悪化させる可能性がある。特に、より多くの栄養を必要とする男性ではその傾向が強まるかもしれない」と述べている。 英国のNNEdPro食品・栄養・健康グローバル研究所のチーフサイエンティスト兼エグゼクティブ・ディレクターであるSumantra Ray氏は、この新たな研究によって、「食事パターンとメンタルヘルスの関連を示すエビデンスの蓄積がさらに進んだ。また、認知機能に有益と考えられているオメガ3脂肪酸やビタミンB12といった栄養素が少ない食事制限が抑うつ症状を誘発する可能性についての重要な示唆も得られた」とコメントしている。  ただしRay氏は、この研究で認められた抑うつ症状への影響は比較的小さかった点を指摘し、「今後、食事摂取を正確に把握し、偶然の影響や交絡因子の影響を最小限に抑えた、適切にデザインされたさらなる研究により、この重要な分野の理解を深める必要がある」とニュースリリースの中で述べている。

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不適切な医療行為は一部の医師に集中~日本のプライマリケア

 日本のプライマリケアにおける「Low-Value Care(LVC:医療的価値の低い診療行為)」の実態を明らかにした大規模研究が、JAMA Health Forum誌2025年6月7日号に掲載された。筑波大学の宮脇 敦士氏らによる本研究によると、抗菌薬や骨粗鬆症への骨密度検査などのLVCを約10人に1人の患者が年1回以上受けており、その提供は一部の医師に集中していたという。 LVCとは、特定の臨床状況において、科学的根拠が乏しく、患者にとって有益性がほとんどない、あるいは害を及ぼす可能性のある医療行為を指す。過剰診断・過剰治療につながりやすく、医療資源の浪費や有害事象のリスク増加の原因にもなる。本研究で分析されたLVCは既存のガイドラインや先行研究を基に定義され、以下をはじめ10種類が含まれた。 ●急性上気道炎に対する去痰薬、抗菌薬、コデインの処方 ●腰痛に対するプレガバリン処方 ●腰痛に対する注射 ●糖尿病性神経障害に対するビタミンB12薬 ●骨粗鬆症への短期間の骨密度再検査 ●慢性腎疾患などの適応がない患者へのビタミンD検査 ●消化不良や便秘に対する内視鏡検査 研究者らは全国の診療所から収集された電子カルテのレセプト連結データ(日本臨床実態調査:JAMDAS)を用い、成人患者約254万例を対象に、LVCの提供頻度と医師の特性との関連を解析した。 主な結果は以下のとおり。・1,019例のプライマリケア医(平均年齢56.4歳、男性90.4%)により、254万2,630例の患者(平均年齢51.6歳、女性58.2%)に対する43万6,317件のLVCが特定された。・約11%の患者が年間1回以上LVCを受けていた。LVCの提供頻度は患者100人当たり17.2件/年で、とくに去痰薬(6.9件)、抗菌薬(5.0件)、腰痛に対する注射(2.0件)が多かった。・LVCの提供は偏在的であり、上位10%の医師が全体の45.2%を提供しており、上位30%で78.6%を占めた。・年齢や専門医資格、診療件数、地域によってLVC提供率に差が見られた。患者背景などを統計的に調整した上で、以下の医師群はLVCの提供が有意に多かった。 ●年齢60歳以上:LVC提供率が若手医師(40歳未満)に比べ+2.1件/100人当たり ●専門医資格なし:総合内科専門医に比べ+0.8件/100人当たり ●診療件数多:1日当たりの診療数が多い医師は、少ない医師に比べ+2.3件/100人当たり ●西日本の診療所勤務:東日本と比較して+1.0件/100人当たり・医師の性別による有意差はなかった。 著者らは、「本分析の結果は、日本においてLVCが一般的であり、少数のプライマリケア医師に集中していることを示唆している。とくに、高齢の医師や専門医資格を持たない医師がLVCを提供しやすい傾向が認められた。LVCを大量に提供する特定のタイプの医師を標的とした政策介入は、すべての医師を対象とした一律の介入よりも効果的かつ効率的である可能性がある」としている。

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ビタミンD3は生物学的な老化を抑制する?

 ビタミンD3サプリメント(以下、サプリ)は、本当に「若返りの泉」となって人間の生物学的な老化を遅らせることができる可能性のあることが、新たな臨床試験で示された。ビタミンD3を毎日摂取している人は、染色体の末端にありDNAを保護する役割を果たしているテロメアの摩耗が抑えられていたことが確認されたという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院予防医学部門長のJoAnn Manson氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Clinical Nutrition」に5月21日掲載された。 靴ひもの先端をカバーするプラスチック製の覆いに例えられるテロメアは、加齢とともに劣化する。そのため研究者は、出生から経過した年数に基づく暦年齢ではなく、実際に体がどれだけ老化したかを表す生物学的年齢の指標としてテロメアを用いている。 この臨床試験では、ビタミンD3サプリおよびオメガ3脂肪酸サプリの効果の検証を目的とした大規模臨床試験であるVITAL試験(試験参加者2万5,871人)のデータが用いられた。VITAL試験では、試験参加者がビタミンD3(1日2,000IU)またはオメガ3脂肪酸(1日1g)のサプリを毎日摂取する群にランダムに割り付けられていた。今回は、VITAL試験参加者のうち、試験開始時とサプリの摂取開始から2年後および4年後にテロメアの長さが評価された1,054人を解析対象とした。研究グループによると、テロメアが短くなると遺伝子の安定性が低下し、がんや心疾患、死亡、慢性疾患のリスクが高まると考えられている。 臨床試験からは、ビタミンD3サプリの摂取群で、プラセボ摂取群と比べて4年間のテロメア短縮が有意に抑制されていたことが明らかになった。一方、オメガ3脂肪酸摂取群では、テロメアの長さに対する明確な効果は見られなかった。 研究論文の筆頭著者である米オーガスタ大学ジョージア医科大学のHaidong Zhu氏は、「今後さらなる研究が必要ではあるが、この結果は、特定の対象に絞ったビタミンDの補給が生物学的な老化のプロセスに対抗する有望な戦略となり得ることを示唆している」とマス・ジェネラル・ヘルスのニュースリリースの中で述べている。 ただし、まだビタミンD3の錠剤を買いだめするのは時期尚早だとManson氏らは警告するとともに、今回の試験で示されたポジティブな効果を、他の研究で検証する必要があるとの見解を示している。Manson氏は、「われわれは、今回の結果は有望であり、さらなる研究の実施に値するものだと考えている。ただし、ビタミンD摂取に関するガイドラインを変更する前に、再現性を確認することが重要だ」とWashington Post紙に語っている。また同氏は、ビタミンD3のサプリ摂取がテロメアに有益な影響をもたらす可能性はあるものの、健康的な食事や日常的な運動の代わりとして位置付けられるべきではないと強調している。 Manson氏は、「繰り返し指摘してきたが、重点を置くべきはサプリではなく、食事と生活習慣である」とWashington Post紙に語っている。その上で、「炎症レベルが高い人や、明らかに炎症に関連した慢性疾患のリスクが高い人などのハイリスク層では、特定のビタミンD3の補給が有益である可能性がある」と付け加えている。

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セマグルチドは代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の予後を改善する(解説:住谷哲氏)

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)へ、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)へと呼称が変更されてから約2年が経過した。“alcoholic”および“fatty”が不適切な表現であるのが変更の理由らしい。この2年間に米国のFDAは甲状腺ホルモン受容体β作動薬であるresmetiromをMASHの治療薬として条件付きで承認している。わが国でresmetiromの承認に向けて治験が開始されているか否かは寡聞にして筆者は知らないが、本論文で用いられたセマグルチドはわが国でも使用可能であり臨床的意義は大きい。 本試験ESSENCEはpart1およびpart2から構成されており、本論文はセマグルチド投与72週後のMASHの組織学的変化を主要評価項目としたpart1についての報告である。part2の主要評価項目は240週後のcirrhosis-free survivalとされており、part1はESSENCEの中間解析の位置付けである1)。 これまでにMASHへの薬物介入を試みた試験としては、ピオグリタゾンまたはビタミンEの有効性を検討したNASH-CRNがある2)。本論文と同じく組織学的変化を主要評価項目としたが、ビタミンEはプラセボに比較して有意な組織学的改善を認めたがピオグリタゾンでは認めなかった。しかしこの試験では2型糖尿病患者は対象から除外されており、試験の結果が2型糖尿病患者に適用できるかは不明であった。一方、本試験では患者の56%と半数以上が2型糖尿病を合併しており、Supplementにあるサブグループ解析では2型糖尿病の有無で有効性に差はない。したがって、2型糖尿病を合併したMASHでもセマグルチドは有効と考えられる。 組織学的改善は代替エンドポイントであり、厳密にはpart2終了後のcirrhosis-free survivalの結果を待つ必要がある。しかし、MASH患者の予後を決定する要因として心血管イベントは無視できない。これまでのセマグルチドの臨床試験の結果から、おそらくMASH患者の心血管イベントもセマグルチドの投与により有意に減少する可能性は高い。したがって、代替エンドポイントではあるがMASH治療薬としてのセマグルチドは現時点で正当化されると思われる。わが国でも早期の承認が期待される。

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COVID-19パンデミック期の軽症~中等症患者に対する治療を振り返ってみると(解説:栗原宏氏)

Strong points1. 大規模かつ包括的なデータ259件の臨床試験、合計約17万例の患者データが解析対象となっており、複数の主要データベースが網羅的に検索されている。2. 堅牢な研究デザイン系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス(NMA)という、臨床研究においてエビデンスレベルの高い手法が採用されている。3. 軽症~中等症患者が対象日常診療において遭遇する頻度の高い患者層が対象となっており、臨床的意義が高い。Weak points1. 元研究のバイアスリスク各原著論文のバイアスリスクや結果の不正確さが、メタアナリシス全体の精度に影響している可能性がある。2. 重大イベントの発生数が少ない非重症患者が対象であるため、入院・死亡・人工呼吸器管理といった重篤なアウトカムのイベント数が少なく、効果推定の精度が制限される可能性がある。3. アウトカム評価の不均一性「症状消失までの時間」などのアウトカムは、原著における測定方法や報告形式が不統一であり、統合評価が困難である。その他の留意点1. ワクチン普及の影響は考慮されていない。2. ウイルスのサブタイプは考慮されていない。――――――――――――――――――― 本システマティックレビューでは、Epistemonikos Foundation(L·OVEプラットフォーム)、WHO COVID-19データベース、中国の6つのデータベースを用い、2019年12月1日から2023年6月28日までに公表された研究が対象とされている。当時未知の疾患に対し、様々な治療方法が模索され、そこで使用された40種類の薬剤(代表的なもので抗ウイルス薬、ステロイド、抗菌薬、アスピリン、イベルメクチン、スタチン、ビタミンD、JAK阻害薬など)が評価対象となっている。 調査対象となった「軽症~中等症」は、WHO基準(酸素飽和度≧90%、呼吸数≦30、呼吸困難、ARDS、敗血症、または敗血症性ショックを認めない)に準じて定義されている。 入院抑制効果に関してNNTを算出すると、ニルマトレルビル/リトナビル(NNT=40)、レムデシビル(同:50)、コルチコステロイド(同:67)、モルヌピラビル(同:104)であり、いずれも劇的に有効と評価するには限定的である。 標準治療に比して、症状解消までの時間を短縮したのは、アジスロマイシン(4日)、コルチコステロイド(3.5日)、モルヌピラビル(2.3日)、ファビピラビル(2.1日)であった。アジスロマイシンが有症状期間を短縮しているが、薬理学的な作用機序は不明であること、耐性菌の問題も踏まえると、COVID-19感染を理由に安易に処方することは望ましくないと思われる。 パンデミック当時に一部メディアやインターネット上で有効性が喧伝されたイベルメクチンについては、症状改善期間の短縮、死亡率の低下、人工呼吸器使用率、静脈血栓塞栓症の抑制といったアウトカムにおいて、いずれも有効性が認められなかった。 著者らは、異なる変異株の影響は限定的であるとしている。COVID-19に対する抗ウイルス薬の多くはウイルスの複製過程を標的としており、株による薬効の変化は理論上少ないとされる。ただし、ウイルスの変異により病原性が低下した場合、相対的な薬効の低下あるいは見かけ上の効果増強が生じる可能性は否定できない。 本調査は、非常に多数の研究を対象とした包括的なシステマティックレビューであり、2019年から2023年当時におけるエビデンスの集約である。パンデミックが世界的に深刻化した2020年以降と、2025年現在とでは、COVID-19は感染力・病原性ともに大きく様相を変えている。治療法も、新薬やワクチンの開発・知見の蓄積により今後も変化していくと考えられるため、本レビューで評価された治療法はあくまでその時点での知見に基づくものであることに留意が必要である。

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不定愁訴、魚介類の摂取不足が原因か

 女性は男性よりも原因不明の体調不良(不定愁訴)を訴える可能性が高い。今回、日本の若い女性における不定愁訴と抑うつ症状の重症度が、魚介類の摂取量と逆相関するという研究結果が報告された。研究は和洋女子大学健康栄養学科の鈴木敏和氏らによるもので、詳細は「Nutrients」に4月3日掲載された。 不定愁訴は、器質的な疾患背景を伴わない、全身の倦怠感、疲労感、動悸、息切れ、脳のもやもやなどの症状を指す。これらの症状は、検査で原因が特定できない場合が多く、心身のストレスや自律神経の乱れが関与していると考えられている。過去50年間に行われた様々な横断研究より、不健康なライフスタイルとそれに伴う栄養摂取の影響が不定愁訴に関連することが報告されている。しかし、不定愁訴と特定の食品、栄養素との関連は未だ明らかにされていない。このような背景を踏まえ、著者らは不定愁訴および抑うつ症状を定量化し、これらの症状の重症度と関連する栄養素や食品を特定することを目的として、日本の若年女性を対象とした横断的調査を実施した。 質問調査は2023年6~12月にかけて行われた。和洋女子大学に所属する18~27歳までの学部生86人が対象となり、参加者は同日に微量栄養素欠乏症関連愁訴質問票(MDCQ)、食物摂取頻度調査票(FFQg)、日本版ベック抑うつ質問票(BDI-II)の3種類の質問票に回答した。MDCQのスコアは26をカットオフとし、スコア26以下の参加者を愁訴の訴えが少ない群(LC群)、スコア27以上を訴えが多い群(HC群)とした。HC群では微量栄養素欠乏症の可能性があることを示す。BDI-IIスコアは、13をカットオフとし、13以下の参加者を抑うつ度の低い群(LD群)、14以上を抑うつ度の高い群(HD群)に分類した。2群間の比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。 FFQgから得られた86人の体組成、栄養摂取量は、2019年の国民健康・栄養調査報告(厚生労働省)から引用した20~29歳の日本人女性のそれとほぼ同等であった。参加者はMDCQスコア(≤26:LC群、≥27:HC群)とBDI-IIスコア(≤13:LD群、≥14:HD群)に基づいて2つのグループに分類された。摂取していた栄養素について、HC群とLC群およびHD群とLD群を比較したところ、HC群とHD群ではエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ビタミンD、ビタミンB12の摂取量が有意に少ないことが分かった。これらの栄養素は日本人において主に魚から摂取されているため、両群の魚介類の摂取量を比較した。その結果、HC群の魚介類の摂取量(中央値〔範囲〕)は有意にLC群より低かった(35.9〔0~107.7〕g vs 53.8〔2.6~148.7〕g、P=0.005)。HD群とLD群を比較した場合でも、同様の低下が認められた(35.9〔0~107.7〕g vs 53.8〔0~148.7〕g、P=0.006)。 参加者はさらに、愁訴の訴えが少なくかつ抑うつ度の低いLC-LD群(MDCQ≦26かつBDI-II≦13)と愁訴の訴えが多くかつ抑うつ度の高いHC-HD群(MDCQ≧27かつBDI-II≧14)の2群に分けられた。両群の栄養素・食品摂取量を比較したところ、HC-HD群のEPA、DHA、ビタミンD、ビタミンB12の摂取量はLC-LD群よりも有意に低かった。さらに、HC-HD群では、亜鉛、セレン、モリブデン、パントテン酸といったその他の微量栄養素も有意に減少していた。食品摂取量に関しては、HC-HD群の魚介類の摂取量は、LC-LD群よりも75%低かった(12.8〔0~107.7〕g vs 53.8〔2.6~148.7〕g、P=0.001)。 本研究について著者らは、「本研究から、魚介類の摂取量は、不定愁訴の重症度および抑うつ状態に関連があることが分かった。魚介類の摂取または、EPA、DHA、ビタミンDなどの摂取が、精神神経疾患の不定愁訴およびうつ病の予防・管理に有効であるかどうかを検証するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。 本研究の限界点については、推定された栄養素および食品量は絶対値でなく概算値であったこと、食事の質や抑うつ症状の有病率に影響する社会経済的地位のような共変量を考慮していないことなどを挙げている。

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キウイを毎日食べると心が健康になる

 キウイフルーツは身近なフルーツとして日常で食す機会も多い。では、このキウイフルーツの摂取は、われわれの健康にどのような影響を与えるのであろうか。オーストラリア・アデレード大学の心理学研究科のMichael Billows氏らの研究グループは、ビタミンCが豊富なキウイフルーツの摂取が、高度気分障害の人に対し心理的ウェルビーイングを改善するか検討した。その結果、キウイフルーツは、気分障害の軽減に潜在的に有益性があることが示唆された。この結果は、Nutrients誌2025年4月18日号に掲載された。4週間のキウイフルーツの摂取で気分障害が改善 研究グループは、軽度~中等度の気分障害を有する18~60歳の成人26例を無作為に割り付け、2週間の休薬期間を設けた。各4週間の期間中、参加者はキウイフルーツを1日2個、または通常の食事を摂取した。主要アウトカムは、キウイフルーツ摂取期間と通常食摂取期間との気分障害総スコアの平均変化とした。副次的アウトカムは、血中ビタミンC濃度、ウェルビーイング、活力、消化器症状。2期にわたり非盲検クロスオーバー試験を実施した。 主な結果は以下のとおり。・各スコアは、通常の食事と比較しキウイフルーツ摂取時のほうが有意に改善した。気分障害の総スコアは65.2%(p<0.001)、ウェルビーイングは10.5%(p<0.01)、活力は17.3%(p=0.001)改善した。 ・血中ビタミンC濃度は27.5%(p=0.002)改善し、消化器症状は16.2%(p=0.003)軽減した。・重篤な有害事象は認められなかった。 ・キウイフルーツの摂取により、気分障害の総スコアが有意に低下し、ウェルビーイング、活力、ビタミンC濃度が改善した。 ・消化器症状の重症度も有意に減少した。 これらの結果から研究グループは、「この結果は、成人集団におけるキウイフルーツの気分障害の軽減に対する潜在的な有益性の予備的証拠を提供するもので、臨床集団を含む多様なグループにおけるさらなる研究が必要」と結論付けている。

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認知症の予防はお口の健康から(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者最近、もの忘れが増えてきて…。それに、歯の調子も良くなくて…医師 それは心配ですね。実は、お口の健康も認知症と関連していますよ!患者 えっ、そうなんですか!?医師 はい。歯の本数が少ない人は、認知症になりやすいそうですよ。患者 えっ、どうしてですか?医師 歯の本数が減ると、ものをかむ筋肉(咀嚼筋)や歯(歯根膜)からの脳への刺激が減るそうです。画 いわみせいじそれに…(身振り手振りを加えながら)患者 それに?医師 生野菜などを摂らなくなり、ビタミンなどの栄養不足を招きます。ほかにも…。患者 まだ、あるんですか?医師 タバコを吸う人や糖尿病の人は歯周病で歯が抜けやすいですし、軽度認知障害(MCI)があると、歯磨きなどをきちんとしなくなり、歯周病や虫歯になるリスクが高くなります。患者 歯は大切にしないといけないんですね。一度、歯医者さんに診てもらいます(嬉しそうな顔)ポイントお口の健康と認知症との関連を説明した後に、対策を一緒に考えます。Copyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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