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高リスク尿路上皮がんのニボルマブ術後補助療法をFDAが承認/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは、2021年8月20日、米国食品医薬品局(FDA)が、術前補助化学療法やリンパ節転移の有無、PD-L1の発現レベルにかかわらず、根治切除後の再発リスクが高い尿路上皮がん(UC)患者の術後補助療法として、ニボルマブを承認したと発表。 この承認は、ニボルマブとプラセボを比較した第III相CheckMate-274試験に基づいている。 同試験において、ニボルマブ群は、プラセボ群と比較して、無病生存期間(DFS)中央値を延長した(ニボルマブ群20.8ヵ月 vs.プラセボ群10.8ヵ月、ハザード比:0.70、95% CI:0.57~0.86、p=0.0008)。

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免疫チェックポイント阻害薬:“予後に影響大”の心筋炎を防ぐには? 【見落とさない!がんの心毒性】第5回

はじめにこれまでの連載ではアントラサイクリン心筋症、そしてHER2阻害薬やVEGFR-TKIといった分子標的薬による心毒性が取り上げられてきました。今回は、免疫チェックポイント阻害薬について、塩山と向井が解説します。この薬は患者さん自身の免疫系を活用することによってがん細胞を攻撃するという新しい概念の治療法です。自然免疫と獲得免疫免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の作用機序を理解するために、まずは昔に勉強した(はずの)基本的な免疫システムの復習から始めましょう。免疫系には、「自然免疫」と「獲得免疫」の2つがあります。自然免疫とは生まれつき持っている免疫反応で、細菌やウイルス、がん細胞といった異物を最初に攻撃するシステムです。病原体(抗原)を好中球やマクロファージ、NK(ナチュラルキラー)細胞といった食細胞が認識して攻撃します。それに引き続いて樹状細胞が活性化します。抗原を取り込んだ樹状細胞は、異物の断片(ペプチド)を主要組織適合遺伝子複合体(MHC :major histocompatibility complex)分子に結合してヘルパーT細胞に提示(抗原提示)します。そしてヘルパーT細胞から指令を受けたB細胞が抗体を産生し、またキラーT細胞が誘導されることで異物を攻撃するシステムが獲得免疫です(図1)。(図1)自然免疫と獲得免疫画像を拡大する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)免疫システムには免疫反応を活性化するアクセル(共刺激分子)と、抑制するブレーキ(共抑制分子)が存在します。共抑制分子は自己に対する不適切な免疫応答や過剰な免疫反応を抑制し、免疫システムが暴走することを防いでいます。T細胞上にはPD-1(Programmed cell death 1)やCTLA-4(Cytotoxic T lymphocyte- associated antigen 4)といった免疫チェックポイント分子が存在し、共抑制分子として作用しています。がん細胞に発現しているPD-L1や樹状細胞(抗原提示細胞)に発現しているB7といったリガンドがPD-1、CTLA-4にそれぞれ結合することによりT細胞の活性化が抑制され、免疫系からの攻撃を回避しています(図2:左)。ICIは免疫チェックポイント分子もしくはそのリガンドに結合してT細胞の抑制シグナル(ブレーキ)を解除することによってT細胞の活性化を誘導し、がん細胞に対する免疫応答を高めます(図2:右)。(図2)免疫チェックポイント阻害薬の作用機序画像を拡大するこの仕組みをつきとめ、がん免疫療法という新たな分野を開拓した京都大学の本庶 佑博士ならびにテキサス大学のジェームズ・アリソン博士に2018年ノーベル生理学・医学賞が授与されたことは記憶に新しいですね。現在承認されているICIには、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体の3種類があります(表1)。適応症は年々拡大しており、手術、化学療法、放射線治療に次ぐ第4の治療法として期待されています。(表1)本邦で使用可能な免疫チェックポイント阻害薬画像を拡大する免疫関連有害事象(irAE)ICIによる免疫系の活性化に伴って、自己免疫疾患に類似した副作用を引き起こすことが知られています。従来の殺細胞性抗がん剤や分子標的薬による副作用とは異なる作用機序であり、免疫関連有害事象(irAE :immune-related adverse event)と呼ばれます。irAEは、皮膚、消化器、呼吸器、内分泌、神経など、全身のあらゆる臓器に発現することが報告されています1)(図3)。(図3)ICIによる有害事象[irAE]画像を拡大する心臓におけるirAEも心筋炎、心筋症、心膜疾患、不整脈など多岐にわたりますが、中でも心筋炎は予後に影響するため注意が必要です。心筋炎の発症頻度は~1%程度と決して多くはありませんが、中には劇症化する症例が存在し、致死率は50%に達すると報告されています2)。そのため早期に発見して適切に対応することが重要です。ICIによる心筋炎の発症機序として、心筋細胞に発現しているPD-L1と、T細胞上のPD-1の結合を阻害することで過剰な免疫応答が生じている可能性が考えられますが、それ以外にもいくつかの機序が推定されており、正確なメカニズムは明らかになっていません。irAE心筋炎の診断心筋炎に特異的な症状はなく、軽微な検査値異常のみで自覚症状をまったく認めないものから、劇症型心筋炎に進行して急変する症例まで多岐にわたります。有害事象の重症度は有害事象共通用語規準(CTCAE :Common Terminology Criteria for Adverse Events) ver. 5.0に基づいてGrade 1~5に分類されています(表2)。(表2)CTCAEによる心毒性の評価画像を拡大するICI投与中には、定期的にバイオマーカー(トロポニン、BNP)、心電図、心臓超音波検査のチェックが必要です。心筋炎の発症はICI開始3ヵ月以内が多いと言われていますので、投与初期にはとくに注意する必要があります。心筋炎を発症した症例のうち、9割以上にトロポニン上昇を認めますが、約半数では左室収縮能が正常であったという報告もあり3)、心臓超音波検査はあくまで補助的な診断ツールです。現時点では心筋生検が診断のゴールドスタンダードであり、病理組織学的にCD8陽性細胞障害性T細胞(キラーT細胞)、CD68陽性マクロファージ、CD4陽性ヘルパーT細胞の浸潤が特徴とされています。ただし感度があまり高くなく、またウイルス性心筋炎との鑑別が難しいことも念頭におく必要があります。近年では心臓MRI検査によるガドリニウム遅延造影(LGE)所見やT2-STIR画像が有用とされていますが、心筋生検と同様に偽陰性が存在するため、結果の解釈には注意する必要があります4)。最終的にはこれらの所見を組み合わせて総合的に診断します5)(表3)。(表3)ICI関連心筋炎の診断画像を拡大するirAE心筋炎の治療ICI投与中にトロポニンの上昇や心電図異常が出現した場合(Grade 1)、あるいは軽微な症状の場合(Grade 2)にはICIを休薬します。休薬のみで検査値異常や自覚症状が改善すれば投与再開も考慮しますが、十分なエビデンスがあるわけではありません。息切れなどの症状が増強すれば(Grade 2-3)、ICIを休薬した上でステロイドによる治療が必要です。基本的にはプレドニゾロン1~2mg/kgで治療を行いますが、循環動態が悪化していれば(Grade 4)ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1g/日)を3日間先行します。さらに病態に応じて、心臓ペーシングや機械的な循環動態の補助が必要な症例もあります。ステロイド治療に反応しない場合には、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、インフリキシマブ、アバタセプトなどの免疫抑制剤や免疫グロブリン大量療法が有効であったという報告がありますが、エビデンスに乏しく、わが国では保険適応外です。おわりに2014年に登場したニボルマブは、がん免疫療法のブレークスルーとなり、今後もICIの開発は加速すると思われます。また2019年には患者さん自身のT細胞に遺伝子改変を行い、がん細胞を攻撃するキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor: CAR)-T細胞療法が血液がんに対して保険承認され、個別化医療への期待が高まっています。近年ではさらなる相乗効果を期待して、ICIと標準治療(手術・化学療法・放射線療法)の併用療法や、2種類のICIによる併用療法も行われています。しかし複数の薬剤を併用することでirAEが増加することが懸念されていますので、循環器内科医とがん治療医の連携が今後益々重要になってくるでしょう。1)Wang DY, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1721-1728.2)Salem JE, et al. Lancet Oncol. 2018;19:1579-1589.3)Mahmood SS, et al. J Am Coll Cardiol. 2018;71:1755-1764.4)Zhang L, et al. Eur Heart J. 2020;41;1733-1743.5)Bonaca MP, et al. Circulation. 2019;140:80-91講師紹介

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がん悪液質は非小細胞肺がんIO-Chemo治療の予後不良因子か

 がん悪液質は免疫チェックポイント阻害薬の単剤療法の予後不良因子であることが示されているが、化学免疫療法に関する、その関係の検討は少ない。京都府立医科大学の森本健司氏らは後ろ向き解析により、非小細胞肺がん(NSCLC)において、がん悪液質が化学免疫療法予後の不良因子である可能性を明らかにした。 わが国の12施設で化学免疫療法を受けたNSCLC患者を対象に医療記録を後ろ向きに解析した。がん悪液質の定義は、化学免疫療法開始前6ヵ月以内の、5%以上の全体重減少、BMI20 kg/m2の対象者では2%を超える全体重減少とした。 主な結果は以下のとおり。・対象は2019年1月~11月に登録され、解析対象に適格となった患者は196例であった。・解析対象のうち25.5%(50例)が悪液質診断の基準を満たしていた。・がん悪液質患者では非がん悪液質患者に比べ、PD-L1発現50%以上の頻度が、有意に高かった(48%、p=0.01)・がん悪液質患者の無増悪生存期間は、非がん悪液質の患者に比べ有意に短かった(p=0 .04)・全生存期間(OS)については、がん悪液質患者と非がん悪液質患者間の関係は認めなかった(p=0.14)。

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新たな薬物療法などを収載、「胃癌治療ガイドライン」が3年ぶりの改訂

 2021年7月下旬、「胃癌治療ガイドライン 第6版」が発行された。胃癌治療ガイドラインとしては前版(2017年11月発行、2018年1月改訂)から3年ぶりの改訂となる。前版で採用された構成(教科書形式による解説+CQ)を踏襲しつつ、Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017を参考とした作成方法を採用し、新たな薬剤や治療法の解説・推奨が追加された。胃癌治療ガイドラインは3年ごとを目処に改訂を予定 胃癌治療ガイドラインの前版からの主な変更点は以下のとおり。1)外科・内視鏡治療、化学療法、緩和的治療に関するCQを前版の26項目から32項目に増加(新たに設けられたCQには免疫チェックポイント阻害薬、ゲノム検査に関するものが含まれる)。2)日本胃癌学会と日本食道学会の実施した前向き研究結果に基づき、cT2-T4の食道胃接合部癌に対する手術アプローチとリンパ節郭清のアルゴリズムを示した。また食道胃接合部癌に関する3つのCQを作成し推奨を示した。3)腹腔鏡下手術およびロボット支援下手術について、最新の研究状況を踏まえた推奨を示した。4)切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法のレジメンは、「推奨されるレジメン」、「条件付きで推奨されるレジメン」として、「治療法」の章のアルゴリズムに列記した。治療選択肢は増す一方、個々のレジメントを比較したエビデンスは十分でないため、優先順位は付けず、エビデンスレベルも記載しなかった。5)免疫チェックポイント阻害薬の最新の研究成果をCQにて解説した。 胃癌治療ガイドラインの巻末には、これまでのガイドラインが臨床現場でどう使われているか、実際を知るための調査として行われている「Quality Indicatorによる胃がん医療の均てん化・実態に関する研究」のデータ解析結果が収載されている。胃癌治療ガイドラインは今後も3年ごとを目処に改訂を予定するが、重要事項は学会サイト上の速報で発表するという。■胃癌治療ガイドライン 第6版編集:日本胃癌学会定価:1,650円(税込)発行:金原出版発行日:2021年7月20日金原出版サイト

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ASCO2021 レポート 消化器がん(肝胆膵がん)

レポーター紹介今年のASCOもCOVID-19の影響でVirtual meetingとなり、2年連続Web開催となった。2021年6月4日から始まったが、いつものようなワクワク感がない。今年は、肝胆膵領域でそこまで面白い演題がなかったこともあるのだが、海外の先生と接する機会もなく質問もできないので、演題を生で聞かなきゃという気持ちに焦りもなく、あとでon demandで見ようという感じになる。また、ASCO期間中に集中して行われていたmeetingも数少なくなり、ASCOが終わって1ヵ月たってもだらだらと行われている感じである。そして、気が付いたらESMO-GI(WCGC)まで終わっているという状況であり、ASCOだという華やかさがなく、寂しさを感じた。やはり顔を見ながら、お互いの意見を突き付けてdiscussionする機会が欲しい。いろんな先生と交流の機会があることで、やる気も高まってくるものである。しかも、昨年、ASCO memberは参加費が不要だったので、今年も不要になることを信じて事前登録もしていなかったため、ASCO当日、慌てて全額を支払い、Virtual meetingに参加することとなった。当日参加は1,395ドルもかかり、非常に痛い出費である。「くっそー、COVIDの野郎め」と八つ当たりしながら、ChicagoでDeep-Dish Pizzaを食べている自分をイメージして、いつものDomino’s Pizzaを食べつつ、今年のASCOを振り返りたいと思う。肝臓がんさて、本題です。まずは肝臓がんから解説します。今年の肝胆膵領域はあまり面白い演題がなかったなというのが本音である。肝細胞がん領域では、Oral presentationに2演題が選ばれていたが、Poster discussionでは1演題も採択されていなかった。また、今年発表されるであろうと期待されていたデュルバルマブ+tremelimumabの第III相試験(HIMALAYA)やペムブロリズマブ+レンバチニブの第III相試験(LEAP-002)、tislelizumabの第III相試験(RATIONALE-301)などの大規模試験の結果を期待していたのだが、報告されなかった。そして、今年も中国からFOLFOX肝動注化学療法の第III相試験が2演題であり、中国1国のみでいくつもの第III相試験を発表しており、どんなに肝細胞がんの患者さんがいるのだろうかと感じずにはいられなかった。進行肝細胞がんに対するオキサリプラチン+フルオロウラシル併用肝動注療法とソラフェニブ療法の比較:ランダム化第III相試験(The FOHAIC-1 study)著者:Ning Lyu, et al.、Oral presentation本試験は、肝内腫瘍量が多い進行肝細胞がん症例に対する1次薬物療法として、FOLFOX肝動注療法の有効性を、ソラフェニブをコントロールとして検証するランダム化第III相試験(FOHAIC-1試験)である。主な適格基準はBarcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)Stage BまたはC、Child-Pugh分類A~B7、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)-Performance Status(PS)0~2などで、肝動注群とソラフェニブ群に1:1で割り付けられた。FOLFOX肝動注療法は、オキサリプラチン130mg/m2、ロイコボリン(LV)200mg/m2、5-フルオロウラシル(5-FU)400mg/m2および5-FU 2,400mg/m2 46時間持続投与を3週間ごとに行い、ソラフェニブ群はソラフェニブ1回400mgを1日2回内服した。ソラフェニブ群の全生存期間(OS)の中央値を8.0ヵ月、肝動注群を14ヵ月、検出力90%、両側α=0.05として、36ヵ月間の登録期間、最大60ヵ月の追跡期間として、247例の登録が必要となり、260例の登録を目標症例数として設定された。登録患者は肝動注群(130例)とソラフェニブ群(132例)に割り付けられた。患者背景は両群において有意な差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目であるOSは、ソラフェニブ群と比べて肝動注群で有意に良好であった。薬物療法によるダウンステージングは、肝動注群で16例(12.3%)、ソラフェニブ群で1例(0.8%)に認めた。また、腫瘍の肝占拠割合が50%以上または門脈本幹に腫瘍栓を有する高リスク群のOSも肝動注群で有意に良好であった。RECISTv1.1による客観的奏効割合(ORR)は肝動注群で有意に良好だった(p<0.001)。薬剤に関連したGrade3以上の有害事象はむしろソラフェニブ群で有意に多く、主な有害事象は、肝動注群のオキサリプラチン投与に伴う腹痛(40.6%)であったが、投与による有害事象で肝動注療法を中止した患者はいなかった。画像を拡大するこのように、肝内病変が進行した肝細胞がん患者を対象として、FOLFOX肝動注療法はソラフェニブと比較した第III相試験において、有意に良好なOSとORRが示された。かなり予後の厳しい肝腫瘍量が50%以上の症例や門脈本幹に腫瘍栓を有する症例でも有効であり、ダウンステージできた症例、局所療法にコンバージョンできた症例も高率に認められ、有害事象も低頻度であり、今後が期待される結果であった。しかし、本試験は中国単施設の結果で、B型肝炎の患者が90%前後を占める対象で行われた試験であり、解釈には注意が必要であることや、現在の標準治療であるアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法と比較してどうなのかなど疑問点も残っており、この試験の結果に基づきFOLFOX肝動注療法が標準治療と位置付けられるまでには至っていない。術前補助療法としてのFOLFOX肝動注療法は、ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者の予後を改善させた:多施設共同ランダム化第III相試験の中間解析著者:Li S, et al.、Oral presentationミラノ基準外のBCLC Stage A/Bの切除可能肝細胞がんに対して、術前補助療法FOLFOX肝動注療法を行った患者と肝動注療法は行わずに切除した患者の有効性と安全性を、多施設共同ランダム化第III相試験にて検討した。ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者に対して、術前補助療法としてFOLFOX肝動注療法を施行した群と、術前補助療法を行わずに直接手術を行う群に1:1でランダムに割り付けられた。術前肝動注群は2サイクルのFOLFOX肝動注療法を施行し、忍容性があれば抗腫瘍効果を確認し、完全奏効/部分奏効が得られていれば切除、安定であれば追加の2サイクルの肝動注療法を行い、増悪の場合には次治療へ移行した。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、無再発生存期間(RFS)と安全性とした。切除可能肝細胞がん患者208例が登録され、術前化療群99例、切除先行群100例が解析対象となった。患者背景において、両群間に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。術前化療群では、ORR 63.6%、病勢制御割合(DCR)96.0%で、88例(88.9%)で肝切除が施行された。術前化療群は、脈管浸潤の割合が11.4%であり、切除先行群(39.0%)と比べて低値であった。OSとPFSは術前化療群で有意に良好であったが、RFSは両群間に有意差はなかった。FOLFOX肝動注療法群の有害事象は、Grade1を59.6%、Grade2を26.3%に認めたが、Grade3以上の重篤な有害事象は認めなかった。なお、OSとPFSのサブグループ解析では、50歳以下の若い患者や腫瘍が単発である患者、AFPが400ng/mL以上と高い患者、HBV-DNAが低い患者においてより良好な結果が示された。画像を拡大する著者らは、FOLFOXによる肝動注療法は、肝細胞がんに対して効果的で安全であること、ミラノ基準外の切除可能BCLC A/Bの肝細胞がん患者に対して生存期間の延長効果が見込まれることを結論付けた。本試験の結果、肝細胞がんの術前補助療法として、FOLFOX肝動注療法の有用性が示された。この演題のDiscussantは、39%の症例が多発例であり、通常、切除しないような症例が多数含まれていることや中国の5施設の結果であり、B型肝炎の患者が中心である点については注意して解釈すべきであり、日常診療に取り入れる前に世界規模または欧米での検証が必要であろうとコメントしていた。このように、中国からFOLFOX肝動注療法に関連する2演題が発表された。ともに、中国1ヵ国での第III相試験であり、全世界で受け入れられるには、さらなる試験が必要である。しかし、これだけの試験を中国だけで、症例集積できることが驚きである。しかも、この試験のほかにも、昨年、sintilimab+ベバシズマブ-バイオシミラーの第III相試験(ORIENT-32)、donafenibの第III相試験、apatinibの第III相試験など、進行がんでも中国1ヵ国で行った試験の結果が報告されており、計り知れないほど患者さんがいて、臨床試験に参加してくれる環境ができていることを考慮すると、今後の肝細胞がんの薬物療法の開発において、中国の存在が重要になってくることが改めて予想された。また、この数年、アジアを中心に肝細胞がんに対する肝動注療法の有用性を示唆する結果が報告されてきており、肝細胞がんの薬物療法において、肝動注療法が再度、見直される日が来る可能性も十分にあることが示された。余談であるが、Q&Aセッションで、抗がん剤の投与方法についてDiscussionがあった。通常、米国では肝動注を行う場合に抗がん剤が100mL程度注入できるポンプを皮下に埋め込んで投与を行うことが多い(ポンプは結構な大きさで、皮下に埋められる米国人患者もすごいのではあるが…)。中国ではポンプの合併症はどうかという質問があり、演者らはポンプを使用していないことを説明し、腫瘍の多いところにカテーテルを挿入して投与しているとのことであった。柔軟に対応が可能で、より効率よく抗がん剤が投与できることを解説していたが、では、カテーテルを留置せず、どうやって2日間のFOLFOXを投与しているのか、私には謎であった。質問できる知り合いの先生が中国にはいなかったため答えはわからないのであるが、おそらく3週に1回、血管造影を行い、カテーテルを挿入した後は2日間、動かずに安静にして投与しているのかなと勝手に想像しているところである。胆道がん胆道がんでは、ナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-フルオロウラシル(5-FU)+ロイコボリン(LV)と5-FU/LVを比較したランダム化第II相試験がOral presentationで1演題、取り上げられていた。非常に期待できる2次治療のレジメンが報告されたが、遺伝子異常に基づく分子標的治療薬の開発に移行していた胆道がんが、また細胞障害性抗がん剤の開発に戻るのかなと、少し不安も隠せなかった。ゲムシタビン+シスプラチン併用療法後の転移性胆道がん患者に対するリポソーム型イリノテカンとフルオロウラシル、ロイコボリンの併用療法:多施設ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)著者:Yoo C, et al.、Oral presentation切除不能・転移性胆道がんに対してゲムシタビン+シスプラチン療法(GC)後に進行した症例の2次治療の標準治療は確立していない。ABC-06試験によって、2次治療としてFOLFOX療法を行うことで、積極的な症状コントロールのみを行った患者と比べて、OSが延長したことが示されたが、まだその治療成績は十分とは言い難い。ゲムシタビン耐性の膵がんに対するナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-FU/ロイコボリン(LV)療法は、NAPOLI-1試験の結果、プラセボと比較してPFSとOSの延長が示された。胆道がんでも本レジメンによる治療が有効である可能性がある。1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者を対象として、2次治療としてNal-IRI+5-FU/LVと5FU/LVを比較した多施設共同非盲検ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)が行われた。対象は、1次治療でGC療法を行って病勢の進行が確認された胆道がん患者174例であった。患者は、Nal-IRI(70mg/m2、90分)+5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群と、5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群に、1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目は盲検下の独立中央判定委員会によるPFSとして、副次評価項目は担当医師によるPFS、OS、ORR、安全性などであった。症例数設定は、Nal-IRI+5-FU/LV群のPFS中央値を3.3ヵ月、5-FU/LV群の中央値を2ヵ月、検出力80%、両側α=5%、ハザード比0.6で有意差が検出できるように設定し、総数174例が必要と判断された。患者背景において、両群に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目である独立中央判定委員会によるPFSはNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。副次評価項目である担当医師によるPFSやOSもNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。独立中央判定委員会によるORRは両群で有意差を認めなかったが、担当医師判定では統計学的な有意差を認めた。安全性について、好中球減少症と疲労は、5-FU/LV群と比較してNal-IRI+5-FU/LV群に多く認められたが、膵がんに対して行われたNAPOLI-1試験の結果と同様の結果であった。画像を拡大するNal-IRI+5FU/LV療法は、1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者に対してPFS、OS、ORRを有意に改善させた。Nal-IRI+5-FU/LV療法の有害事象は十分に管理可能で、膵がんに対するNAPOLI-1試験で示された安全性と同様の結果であった。今回の検討は韓国のみで行われた臨床試験であり、全世界に一般化できる結果ではないが、この試験の統計学的事項は十分な検出力があり、PFSやORRも中央判定で行われており、抗腫瘍効果も十分に評価できる。この試験の結果から、Nal-IRI+5-FU/LV療法はGC療法で増悪した進行胆道がん患者に対する標準治療の1つとして考慮されるべきであると著者らは結論していた。確かに、本試験の結果はNal-IRI+5-FU/LV療法は、GC療法の2次治療としてABC-06試験で優越性が示されたFOLFOXレジメンよりも良好なPFS、OS、ORRが示されており、かなり期待できるレジメンである。また、ランダム化第II相試験ではあるが、第III相試験と遜色のない試験デザインで行われている。演者であるYoo先生は知り合いなので、直接、試験デザインについて聞いてみたところ、症例数設定は第III相試験としても十分であるが、主要評価項目としてPFSを選択したので、第IIb相試験としたとコメントがあった。なるほど、第IIb相試験というあまり聞き慣れない相にしているのはそういうことであったか、と。そして、Yoo先生は、第III相試験と宣言して行えばよかったなと後悔されていた。しかし、仮に本試験が第III相試験であったとしても、韓国1ヵ国の試験であり、アジアの結果を米国のFDAや欧州のEMEAが受け入れるかどうかは微妙である。また、本試験でOSでも有意差があるといっても、PFSが主要評価項目であるランダム化第II相試験であり、OSを主解析として行った試験ではないため、この試験結果をもって標準治療とするには時期尚早と考える。今後、Nal-IRI+5-FU/LVとFOLFOXのどちらが良いのかを明らかにする検討も必要であり、IDH1変異に対するIDH阻害剤、FGFR変異に対するFGFR阻害剤など、actionableな遺伝子変異を有する患者において、どちらを先行して治療すべきかなども明らかにする必要があると思われる。膵がん膵がんでは、Oral presentationに1演題も取り上げられていなかったが、Poster discussionでは6演題、取り上げられていた。膵がんにおいては薬物療法も停滞期で、なかなか次の良い薬剤が登場してこない状況である。今回のASCO2021で何らかの目を見張る結果が報告されることを期待したが、まだ突破口が見えていない現状であった。その中でも、やはり日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)からの発表などいくつか知っておいてほしい結果があるので、取り上げて解説する。局所進行膵がんに対するmodified FOLFIRINOXとゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の無作為化比較第II相試験(JCOG1407)著者:Ozaka M, et al.、Poster discussionFOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(GEM+nab-PTX療法)は、それぞれProdige4-ACCORD11試験およびMPACT試験においてゲムシタビン単剤と比較して優越性を示したレジメンである。どちらも遠隔転移膵がんのみを対象とした試験であり、局所進行膵がんに対する評価はこれまで十分に行われていない。今回、局所進行膵がん患者を対象として、FOLFIRINOX療法の5-FUの静注とイリノテカンの投与量を150mg/m2に減量し、有害事象を軽減させたmodified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法とGEM+nab-PTX療法の有効性と安全性を検討し、より有望な治療法を選択することを目的としてランダム化第II相試験(JCOG1407)が行われた。本試験の対象は、全身化学療法歴のない局所進行膵がん患者であり、mFOLFIRINOX療法群とGEM+nab-PTX療法群に1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目はOS(1年生存割合)、副次的評価項目はPFS、無遠隔転移生存期間、ORR、CA19-9奏効割合、有害事象発生割合などであった。症例数設定は、2つの試験治療群のうち、1年生存割合が良好な群を53%、不良な群を63%と仮定し、良好な試験治療を正しく選択できる確率が85%以上となるように算出した。また、2つの試験治療群のうち、良好な群の期待1年生存割合を70%と仮定し、閾値1年生存割合を53%、片側有意水準α=5%、検出力80%とし、必要症例数は120例と算出された。mFOLFIRINOX療法群に62例、GEM+nab-PTX療法群に64例で、計126例が登録された。患者背景では、両群に大きな偏りは見られなかった。JCOG1407試験の結果を表に示す。1年生存割合はGEM+nab-PTX療法群で良好だったが、2年生存割合はmFOLFIRINOX療法群で良好であり、ハザード比は1.162(95%CI:0.737~1.831)であった。PFSと無遠隔転移生存期間は有意差を認めなかったが、mFOLFIRINOX療法群で良好な傾向であった。ORRは有意差を認めなかったが、GEM+nab-PTX療法群で良好であった。CA19-9奏効割合はGEM+nab-PTX療法群で有意に良好であった。有害事象において、Grade3~4の好中球減少/白血球減少はGEM+nab-PTX療法群で高率、全Gradeの悪心/嘔吐や下痢はmFOLFIRINOX療法群で高率に認められたが、治療関連死は見られなかった。画像を拡大する本試験は、局所進行膵がんに対する2つのレジメンを比較した最初のランダム化試験であった。GEM+nab-PTX療法群の1年生存割合はmFOLFIRINOX療法群より良好であったが、mFOLFIRINOX療法群は2年生存割合が高く、その他の項目では良かったり悪かったりとなっており、どちらが良好とは言い難い結果であった。局所進行膵がんに対しては、『膵癌診療ガイドライン2019年版』でも転移性膵がんのエビデンスに基づき、mFOLFIRINOXとGem+nab-PTXが提案されているが、しっかりしたランダム化比較試験は行われていない。今回はJCOG肝胆膵グループで行われたmFOLFIRINOXとGem+nab-PTXを比較するランダム化第II相試験の結果は、主要評価項目である1年生存割合では、Gem+nab-PTXが良好であったが、全体の生存曲線や2年生存割合ではmFOLFIRINOXが優勢であった。下痢、悪心、嘔吐などの消化器毒性はmFOLFIRINOX群で高頻度に認められたが、骨髄抑制や神経障害はGem+nab-PTX群で高頻度に認められており、優劣はつけ難い結果であった。今後、長期間の追跡調査を行い、どちらを選択すべきかを明らかにしていくことが必要である。NRG1融合遺伝子陽性の膵がんや他の固形がんに対するzenocutuzumabの有効性と安全性著者:Schram AM, et al.、Oral presentation膵がんに対するNRG1融合遺伝子に対するzenocutuzumabのpreliminaryな結果が報告されていた。zenocutuzumab(MCLA-128)はADCC活性を持つHER2、HER3を阻害する二重特異性抗体で、HER3にNRG1 fusionのEGF-likeドメインの結合を阻害することで、HER2/HER3の二量体形成を阻害し、下流のPI3K/AKT/mTORシグナルによる腫瘍増殖を阻害する抗体製剤である。NRG1融合遺伝子を有する患者に有効性が期待され、開発が進んでいる。膵がんパートに登録された12例のうち5例(42%)に奏効が得られており、11例中11例全例でCA19-9の50%以上の低下が認められ、7例(64%)においては正常値まで低下したことが報告された。有害事象はGrade1~2であり、重篤な消化器や皮膚、心毒性は認めなかったことが報告され、期待されている薬剤である。膵がんにおけるNRG1融合遺伝子の頻度は1%未満といわれており、非常にまれではあるが、60歳以下の若年者やKRAS wildの患者に多く認められることを手掛かりとして、聖マリアンナ医大と国立がん研究センター東病院を中心に、NRG1のスクリーニングが行われている。術前化学放射線療法が膵がん患者の生存期間を改善させる:多施設共同第III相試験(PREOPANC)の長期治療成績著者:Van Eijck C, et al.、Poster discussion切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対して、ゲムシタビンによる術前化学放射線療法は、切除先行と比べて、R0切除割合や無病生存期間を改善させた。生存期間においては良好な傾向は示されていたが、有意な差を認めていなかった。今回、この試験を長期フォローアップすることで、生存期間への効果が検討された。結果を表に示す。R0切除割合やN0切除割合、Intention to treatによるOS、切除できた患者のOS、補助療法を受けた患者のOSにおいて、化学放射線療法群で有意に良好な結果が示された。切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対する術前治療の有効性が示されたことにより、日本ではすでに術前治療が標準治療であるが、海外でも術前治療へよりシフトすることが推測された。画像を拡大するまとめ今年のASCO2021では、肝細胞がんでは初回薬物療法として肝動注化学療法、胆道がんでは2次治療としてNal-IRI+5-FU/LV、膵がんでは局所進行膵がんの1次治療としてmFOLFIRINOX/Gem+nab-PTX、切除可能/切除可能境界膵がんに対する術前化学放射線療法など、少し昔の時代に戻ったかのように、主要演題には細胞障害性抗がん剤による治療が席巻していた。しかし、肝胆膵がんでは分子標的治療や免疫チェックポイント阻害薬を中心に治療開発が進んでおり、今後、新たなエビデンスはこれらの治療から生まれてくると思われる。今年のASCOでは世の中を大きく変えるような結果は出てこなかったが、世界的にも注目される重要な学会であり、Web開催であろうと、みんなが参加する学会である。ぜひ来年は、COVID-19が落ち着いて、現地でみんなと一緒にFace to Faceで談笑しながら、肝胆膵のOncologyについて語り合いたいものである。1)Ning Lyu, Ming Zhao. Hepatic arterial infusion chemotherapy of oxaliplatin plus fluorouracil versus sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma: A biomolecular exploratory, randomized, phase 3 trial (The FOHAIC-1 study). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4007)2)Shaohua Li, Chong Zhong, Qiang Li, et al. Neoadjuvant transarterial infusion chemotherapy with FOLFOX could improve outcomes of resectable BCLC stage A/B hepatocellular carcinoma patients beyond Milan criteria: An interim analysis of a multi-center, phase 3, randomized, controlled clinical trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4008)3)Changhoon Yoo, Kyu-Pyo Kim, Ilhwan Kim, et al. Liposomal irinotecan (nal-IRI) in combination with fluorouracil (5-FU) and leucovorin (LV) for patients with metastatic biliary tract cancer (BTC) after progression on gemcitabine plus cisplatin (GemCis): Multicenter comparative randomized phase 2b study (NIFTY). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4006)4)Masato Ozaka, Makoto Ueno, Hiroshi Ishii, et al. Randomized phase II study of modified FOLFIRINOX versus gemcitabine plus nab-paclitaxel combination therapy for locally advanced pancreatic cancer (JCOG1407). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4017)5)Alison M. Schram, Eileen Mary O'Reilly, Grainne M. O'Kane, et al. Efficacy and safety of zenocutuzumab in advanced pancreas cancer and other solid tumors harboring NRG1 fusions. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 3003)6)Casper H.J. Van Eijck, Eva Versteijne, Mustafa Suker, et al. Preoperative chemoradiotherapy to improve overall survival in pancreatic cancer: Long-term results of the multicenter randomized phase III PREOPANC trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4016)

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ASCO2021 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2021 ASCO Virtual Scientific ProgramCOVID-19の影響で昨年に引き続きバーチャル開催となったASCO2021。この1年でわれわれもバーチャル開催の学会に随分慣れてしまった感があります。将来、現地開催が復活した時にはどのように感じるのでしょうか。本年のPresidential Themeは“Equity: Every Patient. Every Day. Everywhere.”ということで、いまや全世界に蔓延しているCOVID-19を強烈に意識してのことでしょうか。何はともあれ急速に進歩していくがん治療をさらに推進することももちろん重要ですが、時には足下を見直して、がん患者のケア・治療・研究の偏在をなくし、世界中の人々に平等なアクセスを可能にする努力も忘れてはならないことだと思います。さて、Scientific Programの中から注目の演題をピックアップして紹介するこのレポート、前立腺がん領域では昨年に引き続きPSMA-PET関連の重要な報告が、尿路上皮がんと腎細胞がんでも引き続き免疫チェックポイント治療の話題が中心となっています。米国におけるアフリカ系米国人の若年男性におけるPSA検診の増加は前立腺がんの転帰を改善する(Abstract #5004)上記のPresidential Themeに合致するように、racial disparityをテーマとしたアブストラクトが取り上げられています。背景として、アフリカ系米国人の男性は、前立腺がんの罹患率・死亡率ともに多人種に比べて高いことが知られています。つまり、開始年齢や頻度などスクリーニングを強化すべき対象であると考えられます。実際に家族歴などの他のリスク因子も有する場合には、アフリカ系米国人のPSA検診開始推奨年齢は40歳とされています。にもかかわらず、PSA検診に関する研究への参加者におけるアフリカ系米国人の占める割合が低いことなどがしばしば指摘され、本集団に対する適切な受診勧奨の妨げになってきました。今回の研究では55歳未満のアフリカ系米国人男性におけるPSA検診の頻度と診断時の前立腺がんリスクおよび前立腺がん特異的死亡率(PCSM)との関連を調べるために、退役軍人保健局(Veterans Health Administration、退役軍人に対する健康保険プログラムがあるため医療受給に対するバリアが低いこと、病歴情報へのアクセスが可能なシステムが構築されていること、などから本研究のような解析に適している)が有する登録データを用いて、2004~17年に前立腺がんと診断された40〜55歳のアフリカ系米国人男性を特定しました。前立腺がん診断からさかのぼること最長5年間に受けたPSA検診の頻度を算出し、診断時の転移の有無と、PCSMについてその関連を解析しました。前立腺がんと診断されたアフリカ系米国人男性が4,654例特定され、その平均年齢は51.8歳、毎年のPSA検診受診率は平均で53.2%でした。平均値を境にPSA検診受診頻度の高かったグループと低かったグループとに分けて比較すると、低グループでは高グループよりも診断時に転移を有する患者の割合が高かったとのことです(3.7% vs.1.4%、p<0.01)。PSA検診率の増加は診断時の有転移率の低下(オッズ比:0.61、95%信頼区間[CI]:0.47~0.81、p<0.01)およびPCSMのリスクの低下(サブ分布ハザード比:0.75、95%CI:0.59~0.95、p=0.02)と有意に関連していました。若年アフリカ系米国人男性に対するPSA検診は早期前立腺がん検出を促し、その転帰を改善する可能性があるという仮説を支持しています。ただし、前向きコントロール研究ではないこと、過剰診断・過剰治療の問題など、まだ解決すべき課題は残されているといえるでしょう。mCRPCに対するルテチウム-177-PSMA-617の効果:VISION Trial(Late-breaking abstract #LBA4)PSMAを標的にβ線を発する177Luを腫瘍微小環境に送達する標的放射性リガンド療法のmCRPCに対する効果を検証した国際ランダム化非盲検第III層試験(VISION Trial, NCT03511664)の結果が公表されました。対象は少なくとも1剤の新規ARシグナル阻害薬と1剤のタキサン系抗がん剤に抵抗性となったmCRPC患者で、事前に68Ga-PSMA-11 PETでPSMA陽性が確認されました。参加者は標準治療に加えて1回7.4GBqの177Lu-PSMA-617を6週間ごとに6サイクル投与する治験薬群と標準治療のみの群(標準治療群)とに2:1の割合で無作為割り付けされました。主要評価項目は、PCWG3 criteriaに基づき、独立した中央レビューによる画像評価によって判定されたrPFSと、OSでした。計831例が治験薬群(551例)あるいは標準治療群(280例)に割り付けられ、観察期間の中央値は20.9ヵ月でした。治験薬群は、標準治療群と比較して有意に長いrPFSを示しました(rPFS中央値:8.7ヵ月vs.3.4ヵ月、HR:0.40、99.2%CI:0.29~0.57、p<0.001、片側)。OSも治験薬群では標準治療群と比較して有意に延長されました(OS中央値:15.3ヵ月vs.11.3ヵ月、HR:0.62、95%CI:0.52~0.74、p<0.001、片側)。治験薬群ではGrade3以上の有害事象の発生率が標準治療群と比較して高くなりましたが(52.7% vs.38.0%)、治療の忍容性は良好でした。177Lu-PSMA-617治療は忍容性の高いレジメンであり、既存治療に対して抵抗性を獲得したPSMA陽性mCRPC患者において、標準治療単独と比較して、rPFSおよびOSの延長効果を示しました。わが国では、放射性医薬品規制の面で解決すべき課題があるものの、今後、本セッティングにおける標準治療として承認されることが期待されます。mCSPCに対する新規ARシグナル阻害薬治療時代の局所療法:PEACE-1 Trial (Abstract #5000)mCSPC患者に対する局所放射線照射は、低腫瘍量(low metastatic burden)の患者でOSベネフィットを示しており、NCCNガイドラインでも低腫瘍量患者において推奨されています。しかしこれらの根拠となった臨床試験(HORRADやSTAMPEDE)における全身治療はADTが標準でした。しかし現在、リスクにかかわらずmCSPC患者に対する全身治療はADTに新規ARシグナル阻害薬を上乗せすることが推奨されています。PEACE-1試験(NCT01957436, Abstract #5000)は、mCSPC患者に対するベースラインADT治療にアビラテロン(プレドニゾン併用)と局所放射線治療(EBRT)のいずれかあるいは両方を追加することがOSの延長につながるかどうかを、2×2の分割デザインで検証しようというものです。途中ドセタキセルの併用が許容されるなどのプロトコール変更があり、やや複雑となっていますが、基本的なデザインはmCSPC患者をADT治療のみあるいは、アビラテロンとEBRTのいずれかあるいは両方を追加する4群に無作為割り付けするというものです。主要評価項目はrPFSとOSで、今回はEBRTの有無にかかわらず、アビラテロンの有無がrPFSに与える影響を解析した結果が報告されました。アビラテロン(±EBRT)群はADT(±EBRT)群と比較してrPFSを有意に延長(HR:0.54[0.46~0.64]、p<0.0001、中央値2.2年vs.4.5年)し、その効果はドセタキセル併用群でも一貫していました(HR:0.38[0.31~0.47]、p<0.0001、中央値1.5年vs.3.2年)。今回の結果は既存のSTAMPEDE試験の結果などにそれほどの新規知見を加えるわけではありませんが、今後EBRTの有無によるrPFSあるいはOSの延長効果の解析結果が待たれるところです。腎細胞がん患者の術後補助療法としてのペムブロリズマブの効果:KEYNOTE-564 Trial(Late-breaking abstract #LBA5)淡明細胞型腎細胞がん(ccRCC)におけるペムブロリズマブの術後再発予防効果を検証した、プラセボ対照ランダム化二重盲検第III相試験(KEYNOTE-564 Trial, NCT03142334)の結果が公表されました。これまでに、ccRCCにおいて術後補助療法として明確な再発予防効果やOS延長効果を示した薬剤は存在しませんでした。本試験は、組織学的に診断された術後再発リスクの高いccRCC患者を対象として実施されました。術後再発の高リスクは、(1)pT2N0M0でグレード4あるいは肉腫様コンポーネントを有する、(2)pT3-4N0M0(組織学的悪性度は問わない)、(3)pTanyN1M0(組織学的悪性度は問わない)、(4)M1 NED(腎摘除術後1年以内に再発巣あるいは軟部組織転移巣が完全切除され残存病変を認めない)と定義されました。3週ごとのペムブロリズマブあるいはプラセボ投与は術後1年間(計17回投与)続けられました。主要評価項目は無再発生存(DFS)で全生存(OS)は副次的評価項目とされました。計994例がペムブロリズマブ群(496例)あるいはプラセボ群(498例)に割り付けられ、観察期間の中央値(範囲)は24.1ヵ月(14.9~41.5ヵ月)でした。事前に計画されていた第1回目の中間分析で、主要評価項目であるDFSにおいてペムブロリズマブ群の優位性が示されました(両群とも中央値未到達、HR:0.68、95%CI:0.53~0.87、p=0.0010、片側)。24ヵ月での推定DFS率は、ペムブロリズマブ群で77.3%、プラセボ群で68.1%でした。全体として、ペムブロリズマブ群のDFSに対する効果はサブグループ間で一貫していました。OSイベントが観察されたのは51例(ペムブロリズマブ群で18例、プラセボ群で33例)とまだ少なく、両群間のOSに統計学的な有意差は認めませんでした(両群とも中央値未到達、HR:0.54、95%CI:0.30~0.96、p=0.0164、片側)。24ヵ月での推定OSは、ペムブロリズマブ群で96.6%、プラセボ群で93.5%でした。Grade3以上の有害事象の発生頻度はペムブロリズマブ群で32.4%、プラセボ群で17.7%でした。ペムブロリズマブ群における治療関連死亡は報告されませんでした。ペムブロリズマブは、術後再発リスクの高いccRCCの患者において、プラセボと比較して、統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるDFS延長効果を示しました。OSに関しては追加のフォローアップが計画されています。今回、KEYNOTE-564試験は、RCCの術後補助療法として免疫チェックポイント阻害薬を用いた第III相試験としては初めて主要エンドポイントを満たしました。今後、本セッティングにおける新たな標準治療として期待が持てる結果といえるでしょう。長期フォローアップでOSの延長効果も示すことができるかが重要なポイントであると考えます。また、長期フォローの結果、プラセボ群の無再発生存率がどれくらいでプラトーに達するのか(プラセボ群での無再発生存率が高いということは不必要なアジュバント治療を受ける患者が多いことを示しており、対象患者のさらなる最適化が望ましいということになります)という点にも注目したいと思います。このほか腎がん領域では、上記のほかにKEYNOTE-426試験(NCT02853331)の長期(42ヵ月)フォローアップデータ(Abstract #4500)が公表されました。筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)における選択的膀胱温存療法:3つのP II試験の結果(Abstracts #4503/#4504/#4505)MIBCの標準治療はネオアジュバント化学療法に続く根治的膀胱全摘ですが、以前から膀胱を温存しながら根治を目指す治療が一部患者で可能であることは知られています。しかし、膀胱温存可能な患者の治療前からの予測が難しいこと、臨床的CRの基準が曖昧であること、そして救済膀胱全摘の意義が不明であることなどから、適応の是非が未確定な状態が続いています。今回は3つの第II相試験の結果がOral sessionで報告されています。1つ目はHCRN GU 16-257試験(NCT03558087, Abstract #4503)で、本試験ではシスプラチン適格なcT2-T4aN0M0の膀胱尿路上皮がん患者をエントリーし、ゲムシタビン+シスプラチン(GC)にニボルマブを上乗せしたレジメンを4コース施行後に画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、経尿道的生検/切除によって再評価を行っています。いずれの検査でもがんなしと判断された場合(Ta腫瘍の残存は許容)には、cCRと判断しニボルマブを2週間隔で8回投与した後に経過観察となります。主要評価項目はcCRの達成率に加え、cCRによる2年無転移性生存(MFS)の予測能となっています。また、副次的評価項目としてcCRによるMFS予測において初回TUR-BT組織を用いて解析した遺伝子変異プロファイル(TMB、ERCC2変異、FANCC変異、RB1変異、ATM変異)の有用性も評価されました。今回はcCR達成率と1年の中間解析の結果が報告されました。76例(男性79%、年齢の中央値69歳、cT2:56%、cT3:32%、cT4:12%)がエントリーされ、うち64例(84%)が4サイクルのGC+ニボルマブ治療後の再評価を受けました。64例中31例(48%、95%CI:36~61%)がcCRと判定されました。TMB≧10 mutations/Mb(p=0.02)、ERCC2変異(p=0.02)がCRと関連していました。今後より長期の観察に基づくアウトカムに期待を持たせる結果と考えられます。2つ目は放射線治療も組み合わせた、いわゆるTrimodality therapyの第II相試験(NCT02621151, Abstract #4504)で、これもcT2-T4aN0M0のMIBC患者が対象ですが、こちらは膀胱全摘拒否または不耐患者が対象となっています。シスプラチン適/不適は不問でeGFR>30mL/minが条件となっています。治療プロトコールは、ペムブロリズマブの初回投与の2~3週間後にTURによる可及的切除を行い、さらに膀胱に寡分割照射によるEBRT(52Gy/20回、IMRTを推奨)と同時に週2回(×4週間)のゲムシタビン(27mg/m2)と3週ごとのペムブロリズマブを3回投与するというものです。EBRTの12週後に画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、経尿道的生検/切除による効果判定を実施します。その後も画像検査(CT/MRI)、尿細胞診、膀胱鏡によるフォローアップを行いました。最初の6例が安全性評価の対象となり、さらに48例が治療効果評価の対象となりました。主要評価項目は2年の膀胱温存無病生存(BIDFS)でした。本研究でも腫瘍検体およびPBMCを用いた解析が行われています。予定されていた54例がエントリーされ、ステージの内訳はcT2が74%、cT3が22%、cT4が4%でした。安全性評価の対象となった最初の6例全例が治療プロトコールを完遂しました。治療効果評価の対象となった48例のうち1例(2%)がEBRTとゲムシタビンを、2例(4%)がゲムシタビンを、4例(8%)がペムロリズマブを主に副作用を理由に中断しました。48例の観察期間の中央値(範囲)は11.7ヵ月(0.6~32.2ヵ月)で、12例(25%)が何らかの様式で再発を来しました(NMIBC 6例、MIBC 0例、所属リンパ節2例、遠隔転移4例)。Grade3以上の有害事象は35%の症例で観察され、ペムブロリズマブに限るとGrade3以上の有害事象発生率は6%でした。ここまでのところ、有害事象は既報と同等で、2年フォローアップの最終解析と、バイオマーカー探索の結果が報告される予定になっています。3つ目はIMMUNOPRESERVE-SOGUG trial試験(NCT03702179, Abstract #4505)で、本試験でもcT2-T4aN0M0の膀胱尿路上皮がんを有し、膀胱全摘拒否または不耐患者が対象となっています。治療プロトコールは、まずTUR-BTを先行し、それに続くデュルバルマブ(1,500mg/body)+トレメリムマブ(75mg/body)を4週間ごとに3回投与しました。治療開始2週間後には、小骨盤に46Gy、膀胱に64~66Gyの線量で正常分割EBRTを開始しています。腫瘍残存あるいは再発例に対しては救済膀胱全摘を推奨しています。主要評価項目は経尿道的生検による筋層浸潤がんの消失によって定義されるCR達成率でした。最初の12例で6例以上がCRを達成した場合にさらに20例を追加する2段階デザインが採用されました。32例がエントリーされ、臨床病期の内訳はT2が28例(88%)、T3が3例(9%)、T4が1例(3%)でした。全例が少なくとも2コースのデュルバルマブ+トレメリムマブ治療を受け、膀胱への照射線量の中央値(範囲)は64Gy(60~65)でした。経尿道的生検によるCR達成率は81%でした。観察期間の中央値(範囲)は6.1ヵ月(2.5~20.1)で、BIDFS、DFS、OSはそれぞれ76%(95%CI:61~95%)、80%(95%CI:66~98%)、93%(95%CI:85~100%)でした。Grade3以上の有害事象は31%の症例で観察されています。前二者に比べてT2症例の割合が比較的高いものの、本レジメンも良好な成績を残しているといえるでしょう。今回の報告のほかにもさまざまなレジメンが膀胱温存療法として試されており、今後どのような治療レジメンが標準治療として残ってくるのか不透明な状態ですが、バイオマーカー探索などにより、対象症例とレジメンの最適化が進めば、MIBC患者にとって福音となることが期待されます。このほか尿路上皮がん領域ではKEYNOTE-052試験(NCT02335424, Abstract #4508)およびKEYNOTE-045試験(NCT02256436, Abstract #4532)の5年フォローアップデータが発表されております。おわりに総じて、前立腺がんではPSMA-PET関連の話題が昨年に引き続き大きなインパクトをもって報告されています。腎がんでは術後アジュバント、尿路上皮がんではネオアジュバントあるいは膀胱温存と、免疫チェックポイント阻害薬を絡めた治療が着実にEarly lineに食い込んできています。とくに尿路上皮がんではそのタイミングや併用薬、放射線治療の有無など、治療プロトコールが多様化しており、今のところは混沌としています。ゲノム関連を中心としたバイオマーカーによる個別化に進むか、それを凌駕する効果的な治療法が開発されるか、いずれにしても今後どのように最適化されてくるのか注視したいと思います。

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頭頸部扁平上皮がん1次治療、ニボルマブ+イピリムマブの第III相試験の結果(CheckMate-651)/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは、2021年7月16日、プラチナ療法に適格な再発または転移のある頭頸部扁平上皮がん(SCCHN)患者の1次治療としてニボルマブ(製品名:オプジーボ)とイピリムマブ(製品名:ヤーボイ)の併用療法をEXTREMEレジメン(セツキシマブ+シスプラチン/カルボプラチン+フルオロウラシルと)と比較した第III相CheckMate-651試験の最新情報を発表した。 オプジーボとヤーボイの併用療法は、のPD-L1陽性(CPS20以上)患者における全生存期間で明確かつ肯定的な改善傾向を示したが、主要評価項目は達成できなかった。 同試験における同併用療法の安全性プロファイルは、これまでの固形腫瘍ので報告と一貫していた。 ニボルマブの単剤療法は、これまでにプラチナ製剤を含む治療後の再発または転移のあるSCCHN成人患者を対象としたCheckMate-141試験において生存ベネフィットを示している。これらの結果に基づき、米国食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)は、2016年にこの適応症でニボルマブを承認した。

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化学療法+ニボルマブ+ベバシズマブによる非扁平上皮NSCLC1次治療の成績(ONO-4538-52/TASUKI-52)/Ann Oncol

 非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療において、ニボルマブとプラチナ含有化学療法およびベバシズマブの併用を評価する国際無作為化二重盲検第III相試験ONO-4538-52/TASUKI-52試験の結果がAnnals of Oncology誌に発表された。TASUKI-52試験のPFS中央値はニボルマブ群12.1ヵ月・対象:未治療のStage IIIB/IVの非扁平上皮NSCLC患者(PD-L1発現問わず)・試験群:ニボルマブ(360mg)+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ(3週間ごと6サイクル)→ニボルマブ+ベバシズマブ(ニボルマブ群)・対照群:プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ→プラセボ+ベバシズマブ(プラセボ群) ニボルマブ/プラセボ+ベバシズマブは、疾患進行または許容できない毒性発現まで継続・評価項目:[主要評価項目]独立放射線審査委員会(IRRC)評価の無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、全奏効率(ORR)、安全性 TASUKI-52試験の主な結果は以下のとおり。・2017年6月~2019年7月に、日本、韓国、台湾から550例が登録され、ニボルマブ群とプラセボ群に無作為に割り付られた。・追跡期間中央値13.7ヵ月であった。・IRRC評価のPFS中央値はニボルマブ群12.1ヵ月に対し、プラセボ群8.1ヵ月と、ニボルマブ群で有意に長かった(ハザード比:0.56、96.4%信頼区間:0.43~0.71、p<0.0001)。・サブグループ解析では、PD-L1発現レベルを問わず、ニボルマブ群でPFS良好であった。・IRRC評価のORRは、ニボルマブ群で61.5%、プラセボ群で50.5%であった。・OS中央値は両群とも未到達であった。・治療関連有害事象の発現率は、全Grade、Grade3/4ともに両群で同等であった。

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化学療法・ニボルマブ(オプジーボ)併用が胃がんと食道がんに対する標準治療となるか(解説:上村直実氏)

 今年5月のコメント1382で抗PD-L1阻害薬ニボルマブ(商品名:オプジーボ)が進行食道がんに対する1次治療に使用される可能性を記述したが、今回、HER2陰性の進行胃がんと食道胃接合部がんに対する1次治療の有用性がLancet誌にて報告された。日本を含む国際共同CheckMate試験の結果、1次治療として化学療法単独群と比較してオプジーボ・化学療法併用群が生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが示されている。 通常、外科的切除不能な胃がんや食道腺がんに対する化学療法において抗PD-L1阻害薬は複数の化学療法が無効であった場合の3次治療として使用されている。すなわち、国内においてオプジーボは9つのがん種で承認されているが、胃がんや食道がんなどに対する適応は「がん化学療法後に増悪した根治切除不能な進行がん」に限定されているのが現状である。 一方、最近の臨床試験では、複数の治療歴を有する切除不能進行がん・再発胃がん・食道胃接合部がんにおいてオプジーボはプラセボと比較して有意なOSの延長を認め、アジアの臨床研究においては化学療法との併用が1次治療として有望な抗腫瘍効果を示したところに今回の研究結果である。 今回の無作為化対照比較試験の研究対象はアジアを含む29ヵ国でリクルートされた未治療の切除不能進行胃がん・食道胃接合部がん1,581例であり、PD-L1 の発現率にかかわらず化学療法単独群に比べてオプジーボと化学療法の併用群は主要評価項目のOSとPFSともに有意な延長を示している。この研究結果を基に米国食品医薬品局(FDA)はPD-L1発現率にかかわらず、進行または転移のある胃がん、食道胃接合部がんおよび食道腺がんの1次治療薬として承認した。作用機序の異なる抗がん剤とオプジーボの併用療法が進行胃がん・食道腺がんに対する新たな標準治療となりうる画期的な結果と期待される一方、医療費の高騰や未知の有害事象の出現など課題も多く、さらなる注意深い観察が必要と思われる。 最後に、前回のコメントでも述べたように、日本における上部消化管がん診療は欧米とは大きく異なって早期発見による死亡率低下に注力しており、内視鏡検査により小さな早期がんを発見し、内視鏡的切除術(内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD)により根治することも可能となっていることを知っておく必要がある。

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ASCO2021 レポート 肺がん

レポーター紹介2021年のASCOは、昨年に引き続き完全Webでの開催であり、肺がん領域については周術期での重要な発表がいくつかあったものの、進行期については真新しい話題は乏しい印象であった。本稿では、その中からIMpower010試験、IMPACT(WJOG6410L)試験、CheckMate9LA試験、amivantamab+lazertinib併用療法Phase I試験、patritumab deruxtecan(HER3-DXd)Phase I試験、JCOG1210/TORG1528試験について解説したい。IMpower010試験完全切除後の非小細胞肺がんを対象として、標準治療としてシスプラチン+ペメトレキセド/ゲムシタビン/ドセタキセル/ビノレルビンを最大4サイクル実施した後に、経過観察群と、アテゾリズマブ1,200mg/body 16サイクルを比較する第III相試験の結果が、Heather A. Wakelee先生から報告された。本試験では、完全切除後の非小細胞肺がん、病理病期StageIB~IIIA、1,280例が1:1にランダム化され、無病生存期間を主要評価項目として実施された。本試験はヒエラルキカルに3つの主要評価項目、順にPD-L1 TC≧1%のII~IIIA期における無病生存期間、II~IIIA期全体での無病生存期間、IB~IIIA期、最後に全生存期間の解析が実施されるプロトコールとなっている。今回報告されたのは、無病生存期間の第1回中間解析の結果である。最初の解析対象となるPD-L1 TC≧1%のII~IIIA期においては、ハザード比が0.66、95%信頼区間0.50~0.88、無病生存期間中央値がアテゾリズマブ群で未到達、経過観察群で35.3ヵ月という結果であり、統計学的にも有意に優越性が示されている。次の対象となるII~IIIA期全体での無病生存期間においても、ハザード比が0.79、95%信頼区間0.64~0.96、無病生存期間中央値がアテゾリズマブ群42.3ヵ月、経過観察群35.3ヵ月という結果であり、統計学的にも有意に優越性が示された。一方、IB~IIIA期においては、ハザード比が0.81、95%信頼区間0.67~0.99、無病生存期間中央値がアテゾリズマブ群未到達、経過観察群37.2ヵ月という結果であり、今回の中間解析では統計学的な優越性は示されなかった。この結果に基づき、全生存期間の解析は現時点では公式なものではないが、両群で明らかな差はないという結果が報告されている。有害事象に関しては、アテゾリズマブで従来報告されていた内容と大きな違いは認められなかった。周術期治療においては、免疫チェックポイント阻害剤を用いた術前、術後、さらには術前+術後の臨床試験が実施されている。その中でも、今回のIMpower010試験が、術後療法についてはいち早く報告された。PD-L1 TC≧1%のII~IIIA期の集団において、無病生存期間で明確な利益が示されているだけでなく、今後観察期間が延長された段階での無病生存期間の中間解析、さらには、全生存期間の結果を期待したい。IMPACT(WJOG6410L)試験WJOGで実施された、完全切除後のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんを対象として、標準治療としてのシスプラチン+ビノレルビン療法と試験治療としてのゲフィチニブを比較する第III相試験の結果を多田先生が報告された。本試験では、完全切除後に病理病期でII期もしくはIII期と診断されたEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん、230例が1:1にランダム化され、無病生存期間を主要評価項目として実施された。完全切除後のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんにおける、EGFR-TKIを用いたPhase III試験としては、アストラゼネカ社が主導したADAURA試験、中国で実施されたADJUVANT(CTONG1104)試験がすでに報告されている。ADAURA試験では第3世代EGFR-TKIのオシメルチニブが、ADJUVANT試験ではIMPACT試験同様にゲフィチニブが、EGFR-TKIとして用いられている。とくにADAURA試験では、無病生存期間においてオシメルチニブの明らかな優越性が示されたものの、進行肺がんでのEGFR-TKIの治療成績を踏まえて、全生存期間ではその差が解消されてしまうのではないか等の見解が示され議論を呼んでいる。一方、ゲフィチニブを用いたAJUVANT試験においては、ゲフィチニブのシスプラチン+ビノレルビンに対する、無病生存期間での優越性がハザード比0.60、95%信頼区間0.42~0.87で示されている。中国で行われたADJUVANT試験に比べても、いち早く立案されたIMPACT試験の結果は、日本国内だけでなく、世界的にも注目を集めていた。今回、残念ながら主要評価項目である無病生存期間、今後追跡される予定である副次評価項目の全生存期間いずれにおいても、試験治療であるゲフィチニブの優越性は示されないという結果であり、驚きをもって迎えられている。無病生存期間については、ハザード比0.92(p値0.63)、期間中央値はゲフィチニブで35.9ヵ月、シスプラチン+ビノレルビン療法で25.0ヵ月であり、全生存期間については、ハザード比1.03(p値0.89)、期間中央値は両群とも未到達という結果であった。同様のデザインで実施されたADJUVANT試験では、4年時点で両群ともに無病生存がほぼゼロとなっていたのに比べ、IMPACT試験の無病生存曲線は、5年目以降、約30%のところで平坦になり3人に1人で根治が得られていることが示唆されている。さらに、ADJUVANT試験においては、標準治療群のシスプラチン+ビノレルビンの無病生存期間中央値が18.0ヵ月、ゲフィチニブ群で28.7ヵ月であったのに対し、IMPACT試験では標準治療群でも25.0ヵ月、試験治療群では35.9ヵ月と明らかに異なる結果であった。ADAURA試験においては、プラチナ併用療法による術後療法を実施していない患者も含む解析での標準治療群の無病生存期間中央値は20.4ヵ月(II~IIIA期)であり、プラチナ併用療法による術後療法を実施された患者集団での無病生存期間中央値は22.1ヵ月(ただしこちらはIB期含む)という結果であった。これらの試験結果より、IMPACT試験において、標準治療群のシスプラチン+ビノレルビンによる無病生存期間が最も良好であることが、主要評価項目を達成できなかった1つの要因となっていると考えられる。さらに、試験治療群についても、ゲフィチニブに比べオシメルチニブの有効性が高いことが示唆される。IMPACT試験は、残念ながら主要評価項目を達成できなかったものの、今後もフォローアップの結果が得られ、また、実臨床にも応用される可能性のあるEGFR-TKIによる術後療法について、考察を深めるために必須の情報をもたらした重要な試験と評価でき、追加解析の結果含め期待したい。CheckMate9LA試験CheckMate9LA試験は、未治療進行非小細胞肺がん患者を対象として、標準治療としてのプラチナ併用療法(腺がんプラチナ+ペメトレキセド、扁平上皮がんカルボプラチン+パクリタキセル、いずれも3週おき4サイクル、ペメトレキセドは維持療法あり)、試験治療としてのプラチナ併用療法(3週おき2サイクル)にニボルマブ(Nivo、360mg/body、3週おき)、イピリムマブ(Ipi、1mg/kg、6週おき)を追加し、Nivo+Ipiについては増悪もしくは2年までの維持療法実施を比較する第III相試験であり、Martin Reck先生が報告された。本試験では、EGFR陰性、ALK陰性、PS 0~1のIV期もしくは再発の非小細胞肺がん、719例が1:1にランダム化され、全生存期間を主要評価項目として実施された。2020年のASCOでの初回報告から、追跡期間を延長し最短でも2年の追跡がされたデータセットでのアップデート報告である。進行非小細胞肺がんにおいては、プラチナ併用療法に対するNivo+Ipiの優越性を示したCheckMate227試験の結果も併せて、日本においてもNivo+Ipi、Nivo+Ipi+プラチナ併用療法が承認され、実臨床で実施可能な状態となっている。今回、CheckMate227試験は、4年のフォローアップ結果がポスター発表されており、PD-L1 TPS≧1%、<1%のそれぞれの群における4年の全生存割合が29%、24%であり、長期生存につながることが示されている。CheckMate9LA試験の2年フォローアップ結果では、全生存期間については、ハザード比0.72、95%信頼区間が0.61~0.86、全生存期間中央値はNivo+Ipi+プラチナ併用療法群で15.8ヵ月、プラチナ併用療法群で11.0ヵ月であり、無増悪生存期間については、ハザード比0.67、95%信頼区間が0.56~0.79、無増悪生存期間中央値は試験治療群で6.7ヵ月、標準治療群で5.3ヵ月であった。2年の全生存割合については、全体集団、PD-L1 TPS≧1%、≦1%においてそれぞれ、38%、41%、37%、2年の無増悪生存割合についても同様の順番で、20%、20%、20%であった。この結果は、PD-L1の発現状況によらず維持されており、従来指摘されているPD-1とCTLA-4の双方を阻害する併用療法の特徴が再現されている。有害事象に関しては、すべてのGrade3/4について試験治療群48%、標準治療群で38%、いずれかの治療の中止に関連したすべての有害事象が試験治療群で22%、標準治療群で8%、治療関連死が両群ともそれぞれ2例であった。昨年の報告時と比べ、有害事象の頻度はほとんど変動しておらず、Nivo+Ipi併用療法に懸念されている有害事象も、多くは1年以内に発生していることが示唆された。フォローアップ期間が延長されるたびに、いわゆるTail plateauと呼ばれる生存曲線後半がフラットになっているかが注目され、今回のCheckMate9LA試験では従来に比べ曲線がフラットになっていない印象があることが話題になっている。ただ、生存曲線の後半の部分は、打ち切り症例の影響を受けやすく、最も信頼できない部分でもあり、他の免疫チェックポイント阻害剤の試験と同様に、5年などの長期の結果を待たなければならない。CheckMate9LAについては、プラチナ併用療法が含まれていないものの、同様の併用療法であるCheckMate227試験の4年のデータが、ある程度長期の成績を占うものとして参考になると考えられる。amivantamab+lazertinib近年、オシメルチニブ耐性後のEGFR遺伝子変異陽性肺がん患者を対象とした、次世代の治療について期待の持てる結果が報告されている。オシメルチニブ耐性後の患者に対して、amivantamabとlazertinibの併用療法を検討するCHRYSALIS Phase I試験について有効性に関するアップデートと、バイオマーカー解析の結果が報告された。amivantamabはEGFRとMETを標的としたBispecific抗体であり、EGFRやMETそのものに対する効果だけでなく、免疫細胞を介在した効果(immune cell-directing activity)も期待されている薬剤である。lazertinibはオシメルチニブ同様第3世代EGFR-TKIに位置付けられる薬剤である。今回の報告では、EGFR経路の耐性機序、METに関連する耐性機序を有することがバイオマーカー解析の結果判明した集団と、それらの耐性機序が明らかではない集団での有効性が示された。EGFRやMETに何らかのオシメルチニブ耐性機序が出現していた集団での奏効割合は47%、他の耐性機序が報告されている患者集団での奏効割合が29%であった。全体集団での奏効割合は36%、無増悪生存期間中央値が4.9ヵ月であった。今回有害事象に関する追加データは乏しかったものの、amivantamabには従来EGFR抗体として特徴的な皮疹等の有害事象に加え、比較的高い割合の患者で注入に伴う反応が報告されており、適切な支持療法の併用が求められる。今回の結果から、従来示されているように多様な耐性機序が混在するオシメルチニブ治療後の患者集団においても一定の効果が期待されるものの、可能な限り耐性機序を明らかにすることにより、より高い有効性を追求することができることも明らかになった。patritumab deruxtecan(HER3-DXd)オシメルチニブを中心としたEGFR-TKI耐性化後の治療薬として注目されているもうひとつのカテゴリーが、抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate:ADC)である。複数のADCが開発中であるが、その中でも注目を集めている薬剤がpatritumab deruxtecan(HER3-DXd)である。HER3に対する完全ヒト化モノクローナル抗体であるpatritumabに、トラスツズマブ デルクステカンでも用いられているトポイソメラーゼ阻害剤をペイロードとして付加したADCである。今回は、Phase I試験のうち、用量漸増パートと、拡大コホートの結果が報告された。オシメルチニブだけでなくさまざまなEGFR-TKI耐性化後の患者が登録され、有効性については前治療によらず39%の奏効割合が報告され、無増悪生存期間中央値も8.2ヵ月と、オシメルチニブ後の治療薬として期待される結果であった。耐性機序別にみても、オシメルチニブ等EGFR-TKIに対する多様な耐性に対応できることが示されている。また、今回は、脳転移を有する患者に関するサブグループ解析も報告されたが、脳転移を有する集団においても同様の有効性が示されていた。HER3を標的としたADCであることから、HER3の発現状況によって有効性に違いがあるのではと従来指摘されていたが、今回の報告では、H-scoreで評価したHER3の発現の強度によらず効果が示されていることが示された。Grade3以上の有害事象としては、血小板減少、好中球減少、倦怠感、貧血等が報告されており、有害事象による治療中止は10%前後であった。トラスツズマブ デルクステカンで注目されている肺障害についても、今回、全体集団で出現割合が5%とされており、注意は要するものの大きな懸念は示されなかった。今後単剤での開発だけでなく、オシメルチニブとの併用療法等の開発も検討されており、期待したい。JCOG1210/TORG1528試験JCOG肺がん内科グループ、TORGのインターグループ試験として実施された、71歳以上の高齢、進展型小細胞肺がん患者を対象として、標準治療としてのカルボプラチン+エトポシド(CE療法、カルボプラチンAUC5、エトポシド80mg/m2)、試験治療としてのカルボプラチン+イリノテカン(CI療法、カルボプラチンAUC4、イリノテカン50mg/m2)を比較する第II/III相試験の結果を、研究事務局の下川先生が報告された。本試験では、71歳以上の進展型小細胞肺がん、258例が1:1にランダム化され、全生存期間を主要評価項目として実施された。高齢者進展型小細胞肺がんにおいては、JCOG9702試験の結果に基づき、日常診療で幅広くCE療法が実施されている。本試験は、JCOG9511試験において、シスプラチンの併用療法薬としてエトポシドに対する優越性を示したイリノテカンを、高齢者においても検討することを目的に実施されている。残念ながら主要評価項目である全生存期間、副次評価項目である無増悪生存期間いずれにおいても、試験治療であるCI療法の優越性は示されず、CE療法が変わらず標準治療とされるという結論であった。全生存期間については、ハザード比0.848、95%信頼区間が0.650~1.105、全生存期間中央値はCE療法で12.0ヵ月、CI療法で13.2ヵ月であり、無増悪生存期間については、ハザード比0.851、95%信頼区間が0.664~1.090、無増悪生存期間中央値はCE療法で4.4ヵ月、CI療法で4.9ヵ月であった。有害事象(Grade3以上)に関しては、CE療法、CI療法それぞれについて、白血球減少59.2%、16.1%、好中球減少87.2%、46.0%、貧血28.0%、12.9%、血小板減少27.2%、12.9%、発熱性好中球減少症11.2%、9.7%であった。残念ながら高齢者進展型小細胞肺がんにおいて、新たなプラチナ併用療法の有効性が示されることはなかったものの、アテゾリズマブ、デュルバルマブ等免疫チェックポイント阻害剤との併用療法の登場で使用頻度の増えたCE療法について、高齢者も含め国内多施設臨床試験での有効性、安全性のデータが得られ、今後の追加解析の結果が待たれる。さいごに昨年に続くVirtual meetingであり、発表者、司会者、聴講者ともに、Webでの学会運営への習熟が明らかなASCOであった。おそらく今後も、Webでのライブ配信は継続されるのではないかと思われるが、来年こそはシカゴで開催したいという参加者の熱意が感じられた。昨今の状況が一刻も早く解決され、会場に集えない方がVirtualで、また、会場に集える場合は現地で、同じように最新のエビデンスを体感できる時代が来ることを祈念している。

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非小細胞肺がん、ニボルマブ+化学療法の術前補助療法(CheckMate816)/ASCO2021

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)の術前補助療法において、ニボルマブ(NIVO)+化学療法と化学療法を比較する無作為化化第3相試験CheckMate816の結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)で発表された。・対象:Stage IB~IIIAの切除可能なNSCLC(ECOGPS≦1)・試験薬群:ニボルマブ360mg+プラチナダブレット化学療法 3週ごと3サイクル→手術(n=179)・対照薬群:プラチナダブレット化学療法 3週ごと3サイクル→手術(n=179) 根治手術は治療から6週間以内に行われた・評価項目:[主要評価項目]盲検化独立委員会評価の病理学的完全奏効(pCR)および無イベント生存率[探索的評価項目]手術実施状況、手術関連有害事象 主な結果は以下のとおり。・pCR達成率は、NIVO+化学療法群24.0%、化学療法群2.2%と、NIVO+化学療法群で有意に優れていた(オッズ比:13.94、99%信頼区間:3.49~55.75、p<0.0001)。(既報)・根治的手術率は、ニボルマブ+化学療法83%、化学療法群では75%であった。・肺葉切除術はNIVO+化学療法群の77%、化学療法群の61%で実施され、肺全摘はNIVO+化学療法の17%、化学療法群の25%で実施された。・R0切除はNIVO+化学療法群83%、化学療法群78%で達成され、原発巣の残存生存腫瘍率はニボルマブ+化学療法10%に対し、化学療法群では74%であった。・全Gradeの手術関連有害事象の発現はNIVO+化学療法群41%、化学療法群47%であり、Grade3/4はそれぞれ11%、15%で発現した。 CheckMate816において、NIVO+化学療法の術前補助療法は、pCRを有意に改善した。また、同治療は忍容性が高く、ニボルマブの追加により術後合併症が増えることもなかった。この結果は、ニボルマブ+化学療法のNSCLC術前補助療法の選択肢としての可能性を支持するものだと。発表者は結んでいる。

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ASCO2021 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介これまでは高齢がん患者を対象とした臨床試験が乏しいといわれてきたが、徐々に高齢者を対象とした第III相試験のデータが発表されつつある。ASCO2021では、高齢者進展型小細胞肺がんに対するカルボプラチン+エトポシド併用療法(CE療法)とカルボプラチン+イリノテカン併用療法(CI療法)のランダム化比較第II/III相試験(JCOG1201/TORG1528:#8571)、高齢者化学療法未施行IIIB/IV期扁平上皮肺がんに対するnab-パクリタキセル・カルボプラチン併用療法とドセタキセル単剤療法のランダム化第III相試験(#9031)、76歳以上の切除不能膵がんに対する非手術療法の前向き観察研究(#4123)など、高齢者を対象とした臨床研究の結果が複数、発表されている。これら治療開発に関する第III相試験の情報はさまざまな場所で得られると思われるため詳述はせず、ここでは老年腫瘍学に特徴的な研究を紹介する。高齢者の多様性を示すかのように、今回の発表内容も多様であった。高齢がん患者に対する高齢者総合的機能評価および介入に関するランダム化比較試験(THE 5C STUDY)高齢者総合的機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)は、患者が有する身体的・精神的・社会的な機能を多角的に評価し、脆弱な点が見つかれば、それに対するサポートを行う診療手法である。NCCNガイドライン1)をはじめ、高齢がん患者に対してCGAを実施することが推奨されている。これまで、がん領域では高齢者の機能の「評価」だけが注目されることが多かったが、最近では、「脆弱性に対するサポート」まで含めた診療の有用性を評価すべきという風潮になっている。昨年のASCOでは、「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」の有用性を評価するランダム化比較試験が4つ発表され、その有用性が検証されつつある。今回、世界的にも注目されていた第5のランダム化比較試験、THE 5C STUDY2)がシンポジウムで発表された。画像を拡大する主な適格規準は、70歳以上、がん薬物治療が予定されている患者(術前補助化学療法、術後補助化学療法は問わず、また分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬も対象)、PS:0~2など。標準診療群は「通常の診療」、試験診療群は「高齢者総合的機能評価および介入(CGAに加え、通常の腫瘍治療に加えて老年医学の訓練を受けたチームによるフォローアップ)を行う診療」である。primary endpointはEORTC QLQ-C30のGlobal health status(項目29および30)で評価した健康関連の生活の質(HR-QOL)であり、key secondary endpointは手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living:IADL)。primary endpointについてはパターン混合モデルを使用した(0、3、6ヵ月目)。カナダの8つの病院から351例の参加者が登録され、治療開始翌日以降に介入が行われた(患者の要望に合わせた研究であるため)。HR-QOLスコアの変化は両群で差がなく(p=0.90)、またIADLも両群間で差はなかった(p=0.54)。筆者はlimitationとして、CGAを実施したタイミングが悪かったことを挙げている。本研究では、患者の利便性を考えて、「治療開始時」または「治療開始後」にCGAを実施していたが、一般的には、治療方針を決定する前にCGAを実施すれば、患者の脆弱性を考慮して適切な治療を選択できると考えられている。しかし、今回は治療開始時または治療開始後にCGAを実施された患者が多かったため、CGAの意義が乏しかった可能性があるという理屈である。その他、COVID-19により、十分な介入ができなかったこと、またHR-QOLが影響を受けた可能性があること、そもそも「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」の有用性を評価するためのアウトカムとしてEORTC QLQ-C30のGlobal health statusが適切でなかった可能性などをlimitationに挙げている。昨年のASCOで発表された研究では「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」の有用性が示されたが、残念ながら、本試験ではその有用性は検証できなかった。しかし、研究デザインに問題があること、またひと言で「高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療」といっても、その内容はさまざまであることなどから、本試験がnegative studyであるからといって、その有用性が否定されたわけではないだろう。個人的には、筆者がlimitationで挙げているとおり、治療開始「前」にCGAを実施できていれば、より適切な治療が選択され、その結果、介入もより効果的になって、本試験の結果も変わっていたのではないかと想像してしまう。高齢者総合的機能評価と局所進行頭頸部扁平上皮がんの治療方針単施設の後ろ向き研究ではあるが、THE 5C STUDYのlimitationと関係するため、ここで紹介する。要は、治療開始「前」に高齢がん患者を包括的に評価することで、適切な治療を選択できる可能性があるという発表である3)。局所進行頭頸部扁平上皮がん(LA-HNSCC)を伴う高齢者を対象として、2016~18年の間に通常の診療を受けた集団(通常診療コホート)と、2018~20年の間にCGAを実施された集団(CGAコホート)を比較し、実際に受けた治療(標準治療、毒性を弱めた治療、緩和目的の治療、ベストサポーティブケア)、治療完遂割合、奏効割合などを評価した。通常診療コホート96例、CGAコホート81例の計197例の患者が対象となった。CGAコホートでは、通常診療コホートと比較して、標準治療を受ける患者が多かったが(36% vs.21%、p=0.048)、治療完遂割合(84% vs.86%、p=0.805)や奏効割合(73.9% vs.66.7%、p=0.082)に有意な差は認めなかった。これまでは、CGAを実施することで過剰な治療を防ぐことができるという、いわば脆弱な患者を守る方向で議論されることが多いと感じていた。しかし、本研究では、CGAを実施することで標準的な治療を受けることができた患者が増え、またベストサポーティブケアを受ける患者が少なくなるということが示されたことで、CGAにより、過小な治療を受けていた患者が適切な治療を受けられることが示唆されたといえる。つまり、治療開始「前」に高齢がん患者を包括的に評価することは大事という話。Choosing Unwisely(賢くない選択):高齢者における骨髄異形成症候群の確定診断Choosing Wiselyとは科学的な裏付けのない診療を受けないように賢い選択をしましょうという国際的なキャンペーンだが、本研究ではChoosing Unwiselyとして、高齢者に対して骨髄異形成症候群(MDS)の正確な診断をすること、を挙げている4)。MDSに正確な診断(Complete Diagnostic Evaluation:CDE)をするためには、骨髄生検、蛍光 in situ ハイブリダイゼーション、染色体分析が必要だが、この意義があるか否かを2011~14年のメディケアデータベースを用いて検討した。対象は、2011~14年の間に66歳以上でメディケアを受けている患者のうち、MDSの診断を受けており、1種類以上の骨髄細胞減少を有し、MDS診断前後16週間に輸血を受けていない集団(1万6,779例)。CDEが臨床的に正当化されない患者の要因の組み合わせを特定するために、機械学習の手法であるCART(Classification and Regression Tree)分析を行い、CDEの有無による生存率の比較を行うためにCox比例ハザード回帰分析を行った。結果、1種類の血球減少(例:貧血のみ)を有する集団のうち、66~79歳の57.7%(1,156例)、80歳以上の46.0%(860例)がCDEを受けていた。また、血球減少がない患者3,890例のうち、866例がCDEを受けていた。背景因子を調整後の解析では、CDEを受けたことによる生存率の向上は認められなかった(p=0.24)。筆者は、高齢者のMDSに対して不要なCDEを減らすことを提案している。COVID-19患者の全米データベースの「がんコホート」高齢者に限定した研究ではないが、知っておくべきデータだと思うので簡単に紹介する。米国国立衛生研究所(NIH)が運営している全米COVIDコホート共同研究(National COVID Cohort Collaborative:N3C)のデータベースのうち、がん患者のみのコホートが公表された5,6)。N3Cコホートから合計37万2,883例の成人がん患者が同定され、5万4,642例(14.7%)がCOVID-19陽性。入院中のCOVID-19陽性患者の平均在院日数は6日(SD 23.1日)で、COVID-19の初回入院中に死亡した患者は7.0%、侵襲的人工呼吸が必要な患者は4.5%、体外式膜型人工肺(ECMO)が必要な患者は0.1%であった。生存割合は、10日目で86.4%、30日目で63.6%であった。65歳以上の高齢者(HR:6.1、95%CI:4.3~8.7)、併存症スコア2以上(HR:1.15、95%CI:1.1~1.2)などが全死因死亡のリスク増加と関連していた。18~29歳を基準とした場合、30~49歳のHRは1.09(0.67~1.76)、50~64歳では1.13(0.72~1.77)に対して、65歳以上ではHR:6.1と異常に高いことから、これまで以上に、高齢がん患者ではCOVID-19に注意を払う必要があると感じた。もちろん、併存症スコアが上昇するにつれ死亡割合が上昇していることから、暦年齢は併存症スコアに関連している可能性があり、暦年齢だけの問題ではない可能性はある。参考1)NCCN GUIDELINES FOR SPECIFIC POPULATIONS: Older Adult Oncology2)Comprehensive geriatric assessment and management for Canadian elders with Cancer: The 5C study.3)Impact of comprehensive geriatric assesment (CGA) in the treatment decision and outcome of older patients with locally advanced head and neck squamous cell carcinoma (LA-HNSCC).4)Choosing unwisely: Low-value care in older adults with a diagnosis of myelodysplastic syndrome.5)Outcomes of COVID-19 in cancer patients: Report from the National COVID Cohort Collaborative (N3C).6)Sharafeldin N, et al. J Clin Oncol. 2021:Jun 4. [Epub ahead of print]

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ASCO2021 レポート 消化器がん(上部・下部消化管)

レポーター紹介食道がん本邦における進行・転移性食道扁平上皮がん1次治療の第1選択は、これまでフルオロウラシル+シスプラチン(FP療法)であった(『食道癌診療ガイドライン 2017年版』)。20年以上も標準治療が変わらなかったわけであるが、ESMO virtual congress 2020で進行・転移性食道がん(扁平上皮がんが7割強、腺がんが3割弱)のFP療法に対する抗PD-1抗体薬ペムブロリズマブ(PEM)の有効性を見たランダム化盲検第III相試験KEYNOTE-590がすでに報告されており、全体集団で全生存期間(OS)中央値が12.4ヵ月vs.9.8ヵ月(HR:0.73、p<0.0001)と有効性を検証した。2021年3月には米国で承認となっている(本邦でも2020年11月に一変申請済み)が、今回ニボルマブ(NIVO)についても第III相試験の結果が報告された。CheckMate 648CheckMate 648は、進行・転移性食道扁平上皮がんの1次治療において、通常の化学療法(FP療法)に対する、化学療法+NIVOの併用とイピリムマブ(IPI)+NIVOの有効性を見たランダム化第III相試験である。主要評価項目は腫瘍細胞のPD-L1≧1%の症例におけるOSと無増悪生存期間(PFS)であり、副次評価項目としてその他の有効性が評価された。結果を化学療法+NIVO群vs.化学療法群から見ていくと、OSにおいて主要評価項目のPD-L1≧1%の症例でOS中央値15.4ヵ月vs.9.1ヵ月(HR:0.54、p<0.0001)、全ランダム化症例でOS中央値13.2ヵ月vs.10.7ヵ月(HR:0.74、p=0.0021)と、いずれも統計学的有意差をもって化学療法+NIVO群が優れていた。PFSにおいても主要評価項目のPD-L1≧1%の症例でPFS中央値6.9ヵ月vs.4.4ヵ月(HR:0.65、p=0.0023)、全ランダム化症例でPFS中央値5.8ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:0.81、p=0.0355)と、PD-L1≧1%の症例で統計学的有意差を認めたものの、全ランダム化症例では事前に設定した統計学的有意差を示すことができなかった。全奏効率(ORR)はPD-L1≧1%の症例で53% vs.20%、全ランダム化症例で47% vs.27%と、NIVOの併用によるメリットが認められた。次にIPI+NIVO群vs.化学療法群を見ていくと、OSにおいて主要評価項目のPD-L1≧1%の症例でOS中央値13.7ヵ月vs.9.1ヵ月(HR:0.64、p=0.0010)、全ランダム化症例でOS中央値12.8ヵ月vs.10.7ヵ月(HR:0.78、p=0.0110)と、いずれも生存曲線で最初は化学療法群が上を行っている傾向があったが、統計学的有意差をもってIPI+NIVO群が優れていた。PFSにおいては、主要評価項目のPD-L1≧1%の症例でPFS中央値4.0ヵ月vs.4.4ヵ月(HR:1.02、p=0.8958)、全ランダム化症例でPFS中央値2.9ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:1.26)と、統計学的有意差を認めなかった。ORRはPD-L1≧1%の症例で35% vs.20%、全ランダム化症例で28% vs.27%と、IPI+NIVO群が化学療法群より優れていたが、化学療法+NIVO群よりも劣る結果であった。毒性に関しては、これまで他がん種で行われた化学療法+NIVOやIPI+NIVOと大きな違いはなかった。本試験では化学療法+NIVO群、IPI+NIVO群いずれもOSで有意差を示しており、いずれも今後承認が期待される。一方、IPI+NIVO群は、もうひとつの主要評価項目であるPD-L1≧1%の症例におけるPFSで有効性を検証することができず、また生存曲線で最初は化学療法群の下を行くことを考えると、化学療法+NIVOのほうがより好んで使われることが予測される。KEYNOTE-590の結果と併せて、PEMとNIVO両者が承認された後は、化学療法+PEMまたは化学療法+NIVOが最も使われるレジメンになるであろう。CheckMate 577の追加解析切除可能進行食道・食道胃接合部がんに対して、術前化学放射線療法(CRT)後の手術は、海外では重要な標準治療の1つであり、ランダム化第III相試験であるCheckMate 577は、術後のNIVOの1年間投与が無病生存期間(DFS)を有意に改善(NIVO群vs.プラセボ群で中央値22.4ヵ月vs.11.0ヵ月、HR:0.69、p=0.0003)することをすでに報告している。今回、有効性、安全性、QOLの追加解析が報告された。DFSのサブグループ解析では、年齢、性別、人種、PS、術前ステージ、原発の部位、組織型、リンパ節転移、組織のPD-L1発現、いずれのグループにおいてもNIVOの上乗せ効果が認められ、NIVOによるQOLの低下も認めなかった。食道がんにおける本邦の標準治療は、術前化学療法の後の手術である。本試験は日本人症例の登録が行われているが、この結果を本邦の実臨床に適用していけるかは解釈が分かれるところである。本邦でNIVOが術後補助療法というかたちで承認されれば、本邦の実臨床に適用する臨床試験をぜひ行ってほしい。胃がんHER2陰性の切除不能進行胃がんにおいては、PEMがKEYNOTE-062で1次治療の有効性が検証できなかった一方で、NIVOは全世界で行われたCheckMate 649や東アジアで行われたATTRACTION-4で、有効性(ATTRACTION-4のOSはnegative)が検証できたことがESMO virtual congress 2020ですでに報告されている。CheckMate 649の追加解析CheckMate 649は、HER2陰性の切除不能胃がんの1次治療において化学療法+NIVOと化学療法を比較した(IPI+NIVO群は途中で登録中止)ランダム化第III相試験であり、主要評価項目であるPD-L1 CPS≧5症例のOSとPFS、副次評価項目であるCPS≧1、全ランダム化症例のOSとPFSにおいて、化学療法+NIVO群が化学療法群より優れていることが報告されている。今回、さらなる有効性の解析が報告された。1,581例のランダム化された症例で最低でも12.1ヵ月以上フォローアップされた段階で、NIVO+化学療法群は全ランダム化症例でOS中央値13.8ヵ月vs.11.6ヵ月(HR:0.80、p=0.0002)、PFS中央値7.7ヵ月vs.6.9ヵ月(HR:0.77)と改善を認めた。ORRは58% vs.46%と化学療法+NIVO群で良好な結果であり、PD-L1 CPSはOS、PFSが良好な症例の選別に有効であることも示された。さらに、化学療法+NIVO群は臨床症状の悪化までの期間についても有意な改善を認めた(HR:0.77)。米国では化学療法+NIVOが2021年4月16日に、CPSにかかわらずすべての切除不能胃がんの1次治療として承認となっており、本邦でも2020年12月に一変申請がすでに提出されている。承認後は本邦でも切除不能胃がんの第1選択になっていくものと考える。KEYNOTE-811の奏効割合の報告KEYNOTE-811はHER2陽性の切除不能胃腺がんの1次治療において、化学療法+トラスツズマブ(Tmab)+PEMと化学療法+Tmab+プラセボを比較したランダム化第III相試験である。合計692例が登録予定で主要評価項目はOSとPFSであるが、最初の260例が8.5ヵ月以上フォローアップされたところで1回目の中間解析が行われた。有効性の評価対象は264例、安全性の評価対象は433例であった。ORRにおいて化学療法+Tmab+PEM群で74.4%、化学療法+Tmab+プラセボ群で51.9%とPEM併用によって22.7%(p=0.00006)も奏効例の増加が認められ、完全奏効例が11%も認められるなど深い奏効が得られていた。安全性において新たに懸念される事項は認められなかった。この結果をもって米国では化学療法+Tmab+PEMが2021年5月に迅速承認を得たが、本邦で同様の承認が得られるか不明である(本邦には同様の迅速承認制度はなく、また本邦において胃がんは希少疾患ではないため難しいと思われる)。今後OS、PFSなどの主要評価項目の有効性を確認し、正式な承認が得られていくものと考える。大腸がん高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)転移性大腸がんの1次治療において、PEM単剤と通常の化学療法を比較するランダム化第III相試験であるKEYNOTE-177試験では、すでに主要評価項目の1つであるPFSの有意な改善が報告されていて、米国、欧州で1次治療として承認を得ている(本邦では2020年9月に一変申請済み)。今回、最終解析としてもうひとつの主要評価項目であるOSの報告が行われた。KEYNOTE-177試験の生存データの最終解析PEM群200mg/3週間ごととmFOLFOX6/FOLFIRI±ベバシズマブ/セツキシマブ2週間ごと(化学療法群)を1対1に割り付け、化学療法群は病勢進行(PD)後、PEMのcrossoverがプロトコール治療として認められていた。OSはp値が0.0246を下回ったとき有意と判定されることとなっていた。最終解析ではPEM群と化学療法群でPFS中央値16.5ヵ月vs.8.2ヵ月(HR:0.59)であり、化学療法群のうち56例(36.4%)がPEMにcrossoverされ、さらに37例にプロトコール治療外でPD-1/PD-L1抗体が投与されたため、合計60.4%の症例がcrossoverとなった。OS中央値はPEM群と化学療法群で、到達せずvs.36.7ヵ月(HR:0.74、p=0.0359)とPEM群で良好な結果であったが、事前に設定された統計学的な有意差は検証できなかった。以上より、MSI-H転移性大腸がんの1次治療においてPEMはPFSで統計学的に有意に優れており毒性は軽かった。化学療法群でcrossoverした症例が多く、また、想定していたOSイベント数に到達しない段階での解析であることもあり、統計学的有意差は検証できなかったが、OSにおいても明らかに優れた結果であった。本邦でも、承認後はMSI-H転移性大腸がんの1次治療における標準治療になるであろう。TRUSTY試験転移性大腸がんの3次治療以降の選択肢としてトリフルリジン・チピラシル(FTD/TPI)+ベバシズマブ(BEV)の有効性がすでに複数の試験で報告されており、『NCCNガイドライン』にも記載されている。今回、本邦において、2次治療でFTD/TPI+BEVとFOLFIRIまたはS-1+イリノテカン(IRI)+BEVを比較する第II/III相臨床試験が実施された。1次治療においてオキサリプラチン/フルオロピリミジン+BEVまたは抗EGFR抗体薬(RAS野生型の場合)を行った症例を対象とし、FTD/TPI+BEV(試験群)とFOLFIRIまたはS-1+IRI+BEV(対照群)に1対1に割り付けを行った。主要評価項目はOSで、非劣性マージンのハザード比を1.33に設定した。副次評価項目はPFS、ORR、病勢制御割合(DCR)などであった。目標症例数は524例であったが、397例を登録した時点の中間解析で中止が勧告され、登録終了となった。試験群と対照群で、OS中央値は14.8ヵ月vs.18.1ヵ月(HR:1.38、p=0.5920)であり非劣性を示すことはできず、むしろ試験群が劣っている傾向であった。PFS中央値は4.5ヵ月vs.6.0ヵ月(HR:1.45)、ORRは3.8% vs.7.1%、DCRは61.2% vs.71.7%であった。次治療の実施率は59.9% vs.52.3%であった。サブグループで見ると、OSにおいてS-1+IRI+BEV例で試験群vs.対照群が13.2ヵ月vs.未到達(HR:2.14)とS-1+IRI+BEVが良好である一方で、FOLFIRI例では16.4ヵ月vs.17.5ヵ月(HR:1.07)であり、レジメンによる大きな差を認めた。転移性大腸がん2次治療としてのFTD/TPI+BEVはフルオロピリミジン+IRI+BEVに対して非劣性を検証できず、今後も2次治療の標準治療はフルオロピリミジン+IRI+BEVである。S-1+IRI+BEV例で対照群が良好であった理由は結論が出ないが、RAS変異症例の割合、前治療の抗EGFR抗体薬の使用割合などに偏りがあり、それらが影響している可能性が考えられる。DESTINY-CRC01試験の最終解析HER2遺伝子増幅を認める大腸がんは、転移性大腸がんの2~3%に存在し、抗HER2療法が有効であることが報告されている。トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は、すでにHER2陽性の乳がん・胃がんで標準治療となっているが、大腸がんにおいてもその有効性を見るDESTINY-CRC01が2020 ASCO virtualで報告されており、今回、最終解析の結果が報告された。HER2 IHC3+ or IHC2+/ISH+の症例においては、確定されたORRが45.3%、PFS中央値6.9ヵ月、OS中央値15.5ヵ月と優れた結果であり、前治療の抗HER2治療にかかわらず有効性を認めた。一方、HER2 IHC2+/ISH-、HER2 IHC1+の症例は奏効例が1例もおらず、有効性は認めなかった。毒性ではやはり間質性肺障害の頻度が9.3%と懸念される結果であった。現在、T-DXdの用量を5.4mg/kg Q3Wで6.4mg/kg Q3Wをランダム化比較する第II相試験であるDESTINY-CRC02が進行中である。終わりにこの1~2年の報告で、食道がん、胃がん、MSI-H大腸がんの1次治療で抗PD-1抗体の有効性が検証されたことにより、間もなくこれらの消化管がんの1次治療で抗PD-1抗体を第1選択で使う時代が来るだろう。NIVO、PEM、IPIの有効性の検証が一巡した現在、新たな治療標的に対する分子標的薬やADC製剤の開発や、ウイルス療法、光免疫療法など、まったく新しい発想の治療が消化管がんにおいて積極的に開発されることを期待したい。

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ASCO2021レポート 乳がん

レポーター紹介2021年6月4日から8日まで5日間にわたり、2021 ASCO Annual Meetingが昨年と同じく完全バーチャルで実施された。昨年はプレナリーセッションのQAのみがライブ配信され、他の演題は口演を含め開会と同時にオンデマンドで見ることができたが、今年は口演の録画+リアルタイムQAが実施された。参加された方は実感されていると思うが、米国の日中はほぼ日本の深夜〜明け方である。日本からリアルタイムで参加するのに骨が折れるのは言うまでもない。2021年のテーマは“Equity: Every Patient. Every Day. Everywhere.”であった。COVID-19は世界中の日常を変えてしまったが、図らずも人種や地域によって受けられる治療に差があることを明らかにしてしまった。がん領域においても公平な治療は非常に重要な概念である(公平でないからこそテーマとなっている、ともいえる)。さて、乳がん領域ではプレナリーで日常臨床を変える結果が発表され、Local/Regional/Adjuvantで重要な演題が多く発表された。その一方で、Metastaticでは目玉となる発表は少なかったように思う。乳がんの演題について、プレナリーセッションの1題、Local/Adjuvantから3演題、Metastaticから1演題を紹介する。生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異陽性のHER2陰性再発高リスク早期乳がんに対する周術期化学療法後の術後オラパリブ療法の二重盲検化比較第III相試験(OlympiA試験, LBA1)生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異陽性(gBRCAmt)のHER2陰性転移乳がんに対しては、OlympiAD試験でオラパリブの主治医選択治療(化学療法)に対する無増悪生存期間(PFS)における優越性が示され、現在実臨床でも使用されている(Robson M, et al. N Engl J Med. 2017;377:523-533.)。オラパリブはPARP阻害薬であり、gBRCAmtの乳がん患者では合成致死と呼ばれる機序でがん細胞の細胞死を誘導する。OlympiA試験ではgBRCAmtを持つHER2陰性再発高リスク乳がん(術前化学療法を受けた患者では、トリプルネガティブ乳がん[TNBC]でnon-pCR、HR+でnon-pCRかつCPS-EG≧3、術後化学療法を受けた患者では、TNBCでpT2以上またはpN1以上、HR+でN≧4個)を、オラパリブ300mg 2回/日 内服1年間とプラセボに割り付けた。1,836例が登録され、オラパリブ921例、プラセボ915例に割り付けられた。遺伝子変異はBRCA1が70%強であり、ホルモン受容体は陽性が20%弱であった。主要評価項目の無浸潤疾患生存(iDFS)において、3年で85.9% vs.77.1%(ハザード比[HR]:0.58、95%CI:0.41~0.82、p<0.0001)と10%近い差をつけてオラパリブ群で良好であった。副次評価項目の遠隔無病生存(DDFS)においても、3年で87.5% vs.80.4%(HR:0.57、95%CI:0.39~0.83、p<0.0001)であり、iDFSと同様の傾向であった(DDFSとOSの評価ではαが再利用されている)。3年全生存(OS)では92.0% vs.88.3%(HR:0.68、95%CI:0.44~1.05、p=0.024)(有意水準はp<0.01)と統計学的有意差こそ示されなかったものの、オラパリブ群で良好な傾向であった。患者がリスク低減手術を受けたかどうかにもよるが、オラパリブがHBOC関連の他がんの発症を抑えていることが、OSで良好な傾向を認めた理由かもしれない。毒性については悪心、倦怠感、貧血が主なものであり、Grade3の貧血には注意が必要なものの、これまでに示されている有害事象と同様で、いずれも管理可能なものである。PARP阻害薬を早期がんに使用する際の懸念点としてMDS/AMLならびに2次がんの発症があるが、発表時点ではオラパリブでそれぞれ0.2%、2.2%、プラセボで0.3%、3.5%であり、とくにオラパリブ群での増加は認めなかった。ただし、こちらについてはより長期のフォローを経たデータを見て再度検討が必要であろう。またEORTC QLQ-C30を用いたQOL評価が実施されており、オラパリブ群とプラセボ群でQOLのスコアの差は認められなかった。本試験は今年のASCOの発表の中で間違いなく日常臨床を変える結果の1つであった。承認されるとBRCA1/2の遺伝学的検査の頻度が今以上に増えることが予想される。患者本人に対するリスク低減手術はもちろん、治療適応の判断を目的とした検査の結果として、未発症保因者が増えてくると考えられる。未発症保因者に対するサーベイランスや化学予防、リスク低減手術の体制や保険の整備がより重要となってくるであろう。gBRCAmt HER2陰性乳がんを対象としたtalazoparib術前薬物療法のphase II試験(NEOTALA試験)HBOC関連の話題をもうひとつ取り上げる。talazoparibはgBRCAmt転移乳がんに対して有効性の示されているもうひとつのPARP阻害薬である(本邦未承認)。NEOTALA試験はgBRCAmt HER2陰性早期乳がんを対象として、talazoparib 1mg/日を24週間術前薬物として内服する単アームのphase II試験である。病理学的完全奏効(pCR)率を主要評価項目とし、pCRは浸潤がんの遺残がないものと定義された。当初112例を予定症例数としていたが、進捗が悪かったため60例に修正された。最終的に61例が解析対象となり、78.7%がBRCA1を、21.3%がBRCA2を有していた。talazoparibを80%以上内服し、手術を受けてpCRの評価が可能であった症例がevaluable populationとされ、48例(78.7%)が該当した。evaluable populationにおけるpCR率は45.8%であり、通常の術前化学療法に匹敵するpCRが得られた。90%以上が20週以上talazoparibを内服できていた。有害事象は倦怠感、悪心、脱毛、貧血、頭痛が主なものであるが、Grade3の貧血を39.3%で認めており注意が必要である。あくまでphase IIの結果が得られた段階であるが、今後はgBRCAmtにおいてはPARP阻害薬による術前薬物療法の開発が期待される。70遺伝子シグネチャで超ローリスクであった症例の予後(MINDACT試験)早期乳がんでは術後薬物療法の適応が問題となる。とくにホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんではホルモン療法感受性の高い集団と化学療法感受性の高い集団が存在し、化学療法の適応を検討する試験が多数行われている。早期乳がんにおいてmRNAを測定し遺伝子シグネチャによる予後予測ならびに治療効果予測が研究されている。MINDACT試験もその1つであり、臨床的なリスク層別と腫瘍の70遺伝子によるgenomic riskによる層別化を実施し、臨床的あるいはgenomicのどちらかでハイリスクとなった症例を術後化学療法あり・なしにランダム化し、化学療法の上乗せを検証する臨床試験である。この発表では70遺伝子シグネチャでハイリスク、ローリスク、超ローリスクと分類された症例の予後を比較した。8.7年の観察期間中央値で、8年生存率はハイリスクで89.2%、ローリスクで94.5%、超ローリスクで97.0%であった。超ローリスクとローリスクの比較ではHR 0.65(95%CI:0.45~0.94)と、ローリスクと比較しても超ローリスクは非常に良い予後を有していた。8年乳がん特異的生存は超ローリスクで99.6%(ローリスクでは98.2%)であり、きわめて良好であった。超ローリスクであった症例の特徴として、50歳以上、リンパ節転移陰性、腫瘍径2cm以下、グレード1 or 2、ホルモン受容体陽性HER2陰性のサブタイプなどが挙げられた。16%は一切の術後治療を受けていなかった。遺伝子シグネチャで超ローリスクであった場合に臨床的リスクがどのように影響するかについても検討され、遠隔転移については2.6%程度、乳がん特異的生存には差を認めなかった。超ローリスクで術後無治療の場合の8年無遠隔転移生存は97.8%、ホルモン療法のみでも97.4%であった。文字通り、超ローリスクは非常に良好な予後を持っており、再発のリスクはきわめて低いといえる。超ローリスクでは術後ホルモン療法すら不要である可能性があり、less toxicな治療開発(というよりも治療省略)が進む領域といえよう。術前化学療法でpCRが得られなかったトリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する術後プラチナ製剤とカペシタビンの比較第III相試験(EA1101試験)近年、術前化学療法の治療効果(pCRかnon-pCRか)によって術後治療を変更するレスポンスガイド治療が広く実施されるようになっている。HER2陰性乳がんではCREATE-X試験で、non-pCRの場合にカペシタビン1,250mg/m2 2週投与1週休薬6~8コースが、無治療と比較してDFS、OSを改善し、とくにTNBCにおいて良好な傾向であったことが示されており(Masuda N, et al. N Engl J Med. 2017;376:2147-2159.)、HER2陽性においてもnon-pCRの場合に術後治療をT-DM1に変更することが、DFS、OSを改善することが示されている(von Minckwitz G, et al. N Engl J Med. 2019;380:617-628.)。本試験はTNBCで有望とされているプラチナ製剤のnon-pCRにおける有効性を検証した試験である。PAM50を用いたTNBCのサブタイピング(basalとnon-basal)も実施されている。プラチナ製剤(CBDCA AUC 6またはCDDP 75mg/m2)4サイクルと、カペシタビン1,000mg/m2 2週投与1週休薬(米国で通常使用されている用量)6サイクルに1:1に割り付けられた。当初は無治療群が設定されていたが、CREATE-Xの結果を受けて2群比較とされた。主要評価項目はiDFSで、プラチナ製剤のカペシタビンに対する非劣性が証明された場合に優越性を検証するハイブリッドデザインが(なぜか)採用された。5回目の中間解析でプラチナ製剤とカペシタビンのHRは1.09であり、非劣性が示されないと判断され、効果安全性委員会に中止が勧告され試験中止となった。中止時点で308例が登録され、78%がbasalタイプであった。主要評価項目の3年iDFSにおいて、プラチナ群の42%に対しカペシタビン群は49%(HR:1.06、95%CI:0.62~1.81)であり、プラチナ群のカペシタビン群に対する非劣性は示されなかった。basalとnon-basalの比較では3年iDFSは45.8% vs.55.5%(HR:1.71、95%CI:1.10~.67)であり、non-basal群で有意に良好であった。また、non-basal群では、よりカペシタビンで良好な傾向を認めた。無再発生存やOSは両群間での差を認めなかった。有害事象はプラチナ群で貧血や白血球減少が多く、カペシタビンで下痢や手足症候群が多かったが、Grade3以上の有害事象の頻度は低かった。プラチナ製剤はTNBCにおいてpCR率を改善するなど、有効性が期待される薬剤であっただけに、本試験の結果は残念であった。今後もnon-pCRのTNBCに対してはカペシタビンの術後薬物療法が標準である。一方この領域では術前化学療法に免疫チェックポイント阻害薬の有効性が示されるなど、さまざまな薬剤の開発が活発に進んでいる。non-pCRの術後薬物療法についてもアンメットニーズが増加している。ホルモン受容体陽性HER2陰性転移乳がんに対するパルボシクリブ+フルベストラント療法のOSアップデート(PALOMA-3)ホルモン受容体陽性HER2陰性転移乳がんでは、ホルモン療法とCDK4/6阻害薬の併用が標準治療となっている。PALOMA-3試験は術後内分泌療法、あるいは転移乳がんに対する内分泌療法中に増悪を認めた症例を対象に、パルボシクリブ+フルベストラントの優越性を検証した二重盲検化比較第III相試験である。主要評価項目のPFSで優越性を示し、すでに本邦でも承認され日常臨床で使用されている。また、OSにおいては統計学的有意差を示せなかったものの、パルボシクリブ群で良好な傾向であった(Turner NC, et al. N Engl J Med. 2018;379:1926-1936.)。今回の発表はそのOSデータのアップデートである。44.8ヵ月の観察期間中央値で、全生存期間中央値(MST)は34.9ヵ月vs.28.0ヵ月(HR:0.81、95%CI:0.64~1.03、p=0.0429)であり有意差を認めなかったが、観察期間中央値73.3ヵ月では34.8ヵ月vs.28.0ヵ月(HR:0.81、95%CI:0.65~0.99、p=0.0221)であった。5年生存率はパルボシクリブ群で23.3%に対し、プラセボ群では16.8%であった。サブグループ解析では、前治療のホルモン療法に感受性がある、化学療法を受けたことがない、内臓転移がない、閉経後、無病期間24ヵ月以上などが挙げられた。これを基に、進行乳がんに対する化学療法のあり・なしでの追加解析が実施され、化学療法歴のない症例ではパルボシクリブ群でMST 39.3ヵ月に対しプラセボ群で29.7ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.55~0.92、p=0.008)とパルボシクリブ群で良好であったが、化学療法歴がある場合は24.6ヵ月vs. 24.3ヵ月と両群間の差を認めなかった。また、この発表ではctDNAを用いたESR1、PIK3CA、TP53の変異の有無による探索的な解析が実施された。ESR1、PIK3CA、TP53変異はそれ自体が予後因子であるが、パルボシクリブはこれらの遺伝子変異の有無にかかわらずOSを改善させる傾向を認めた。今回の結果はこれまでの報告と同様であり、パルボシクリブ+フルベストラント療法は、変わらずホルモン療法2次治療の標準治療の1つであり続けるであろう。

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コロナ禍での肺癌診療を考える【肺がんインタビュー】 第65回

第65回 コロナ禍での肺癌診療を考える出演<ファシリテーター>(聖マリアンナ医科大学 古屋 直樹氏)<パネリスト>(日本鋼管病院 田中 希宇人氏)(仙台厚生病院 中村 敦氏)(Kanormas Cancer Institute 長阪 美沙子氏)(神奈川県立がんセンター 村上 修司氏)新型コロナ禍におけるがん診療には十分なエビデンスはないが、臨床現場では原則に基づき施設ごとに実践的に対応している。しかし、「自施設での対応は適切か」「ほかの施設ではどうやっているのか」といった懸念や疑問があると聞く。そのような疑問や経験を共有するため、肺がん診療におけるCOVID-19対応にテーマを絞り、4名のパネリストが意見交換。その内容をハイライトで提供する。

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TN乳がんの術前化学療法、デュルバルマブ併用でOS改善(GeparNUEVO)/ASCO2021

 トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するデュルバルマブ+化学療法の術前治療の予後に関する有望な結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)において、ドイツ・German Breast Group(GBG)のSibylle Loibl氏から報告された。 本試験(GeparNUEVO試験)は、ドイツの臨床試験グループ(GBGとAGO-B)により実施された多施設共同のプラセボ対照第II相無作為化比較試験である。すでに2019年に、その主要評価項目である病理学的奏効率(pCR率)については報告されており、今回はその生存期間に関する追加報告である。・対象:腫瘍径2cm以上の未治療のTNBC(閉経状況、リンパ節転移状況は問わず)・試験群:デュルバルマブ1,500mg 4週ごと+nab-パクリタキセル125mg/m2/週 12週→針生検→デュルバルマブ1,500mg 4週ごと+エピルビシン・シクロホスファミド(EC)2週ごと8週→手術(Durva群:88例)・対照群:上記投与スケジュールと同様にデュルバルマブのプラセボを投与(化学療法は実薬投与)(Pla群:86例)・評価項目:[主要評価項目]pCR率(完全に残存腫瘍のないypT0 ypN0での割合)[副次評価項目]無浸潤疾患生存期間(iDFS)、遠隔無再発生存期間(DDFS)、全生存期間(OS)、安全性、バイオマーカー検索など 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、年齢中央値49.5歳、N+が約30%、核異型度3が約80%、デュルバルマブやプラセボの単剤投与歴ありが67%あった。・追跡期間中央値43.7ヵ月時点での3年iDFS率は、Durva群85.6%、Pla群77.2%、ハザード比(HR)は0.48(95%信頼区間[CI]:0.24~0.97)、p=0.0398、3年OS率は、Durva群95.2%、Pla群83.5%、HRは0.24(95%CI:0.08~0.72)、p=0.0108と、Durva群で有意に良好であった。・各群においてpCRが得られた症例と、得られなかった症例のOSを3年OS率でみると、Pla群ではnon-pCR例78.8%、pCR例88.9%、Durva群ではnon-pCR例92.0%、pCR例100%と、いずれの群でもpCR獲得症例で予後が良好であった(HR:0.27、p=0.012)。・これはiDFSでもDDFSでも同様の結果であった。 演者のLoibl氏は「TNBCへの術前化学療法へのデュルバルマブの併用は、DFS、OS共に有意に延長することが判明した。しかし、免疫チェックポイント阻害薬(CPI)によるpCR獲得例と長期予後との関連性や、CPIを用いた術後療法についてはさらなる検討が必要である」と述べた。

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筋層浸潤性膀胱がんに対するGC+ニボルマブの有用性評価/ASCO2021

 筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)を対象に、シスプラチン+ゲムシタビン+ニボルマブ併用投与の有用性評価と、膀胱温存が可能な症例の予測に関する報告が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)において、米国・Icahn School of Medicine at Mount SainaiのMatthew D. Galsky氏よりなされた。 本試験(HCRN GU16-257)は米国で行われた多施設共同第II相試験である。MIBCでは、プラチナベースの術前化学療法により30~40%の症例が病理学的完全奏効(pCR)を得られることと、そのpCR症例は予後良好であることが知られているが、そのpCRが明らかになるのは膀胱摘除後である。また過去のレトロスペクティブ研究によると、その10年生存率は膀胱全摘65%、部分切除73%、切除なし75%と大きな差はなく、部分切除例では53%、切除なし例では61%が、膀胱温存したままで10年生存を得ていたという報告がある。・対象:シスプラチン(CDDP)の投与適格のcT2-4a/N0/M0のMIBC・介入:CDDP+ゲムシタビン+ニボルマブ 4サイクル(GC+Nivo)臨床的完全奏効(cCR)症例はニボルマブの追加投与(4ヵ月)、その後局所再発をきたした時点で膀胱摘除術実施。Non-cCR症例は膀胱摘除術を実施・評価項目[主要評価項目]cCRの割合、治療ベネフィット予測因子としてのcCRの可能性評価(2年間の無転移生存、または膀胱摘除時にpCRが確認された場合を治療ベネフィットとした)[その他評価項目]初診時のTURBT検体におけるDNA損傷修復関連遺伝子(ERCC2、FANCC、ATM、RB1)変異およびTMBとcCRの相関性 主な結果は以下のとおり。・2018年8月~2020年11月に76例が登録された。年齢中央値69歳、男性79%、臨床病期はcT2が57%、cT3が32%、cT4が12%であった。・4サイクルの薬物治療を完遂できたのは64例で、48%(31例)がcCRを達成した。・cCR達成31例中30例が膀胱温存。残りの1例とNon-cCR症例(33例)が膀胱摘除術を受けた。・cCR獲得後の膀胱温存症例では8例に局所再発が認められ、6例に膀胱摘除術が施行された。その際、50%は病理学的ステージがpT1N0以下であった。・Non-cCR症例で膀胱摘除術を受けた症例の36%がpT1N0以下で、32%がpN+であった。・有害事象プロファイルは、他のGC+Nivo試験での報告と同様であった。・TMB高値(≧10mut/Mb)と、ERCC2変異でcCRまたはpCRとの相関が認められた(いずれもp=0.02)。  最後に発表者は、MIBCに対するGC+Nivo療法は、cCRを達成できるレジメンであり、このcCRが膀胱を温存したままでの長期の無再発生存につながる可能性がある、と述べた。

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F1 CDx、MSI-Hightがんのコンパニオン診断として承認/中外

 中外製薬は、2021年06月22日、遺伝子変異解析プログラム「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」について、ニボルマブおよび、:ペムブロリズマブの高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有するがんに対するコンパニオン診断として厚生労厚生労働省より承認を取得したと発表。 今回の承認により、FoundationOne CDx がんゲノムプロファイルにて、ニボルマブの「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸癌」、およびペムブロリズマブの「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」に対し各々の薬剤の適応判定補助として利用が可能となる。

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食道扁平上皮がん1次治療におけるNIVO+IPI、NIVO+ChemoのOS結果(CheckMate 648)/ASCO2021

 英国・Royal Marsden HospitalのIan Chau氏が、「CheckMate 648試験」の初となる解析結果を、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)で発表。進行食道扁平上皮がん(ESCC)の1次治療として、ニボルマブ(NIVO)+イピリムマブ(IPI)併用療法およびNIVO+化学療法(Chemo)の併用療法はいずれも、Chemo単独と比べて全生存期間(OS)を有意に延長することを報告した。 すでにニボルマブ単剤が化学療法と比べて全生存期間(OS)を有意に延長することは「ATTRACTION-3試験」で示されている。CheckMate 648試験は、進行ESCCにおけるNIVO併用療法の有効性と安全性を世界で最初に評価した第III相非盲検無作為化比較試験。・対象:切除不能の進行または転移を有するESCC、PS 0~1、970例・試験群:NIVO(240mg、2週ごと)+Chemo(フルオロウラシル+シスプラチン、4週ごと)(321例)、NIVO(3mg/kg、2週ごと)+IPI(1mg/kg、6週ごと)(325例)、・対照群:Chemo単独(324例)・評価項目:[主要評価項目]OSおよび無増悪生存(PFS)(腫瘍PD-L1≧1%患者)[副次評価項目]OSおよびPFS(全無作為化患者)、奏効率(ORR)(腫瘍PD-L1≧1%患者および全無作為化患者) 主な結果は以下のとおり。・PD-L1≧1%患者は、NIVO+Chemo群49%、NIVO+IPI群49%、Chemo群48%であった。・データカットオフ日(2021年1月18日、最短追跡期間12.9ヵ月)におけるOSは、Chemo群9.1ヵ月に対して、NIVO+Chemo群15.4ヵ月(ハザード比[HR]:0.54、99.5%信頼区間[CI]:0.37~0.80、p<0.0001)、NIVO+IPI群13.7ヵ月(HR:0.64、p=0.0010)であり、Chemo群に対していずれの併用療法も有意に延長した。・主要評価項目のPFSは、Chemo群4.4ヵ月に対して、NIVO+Chemo群6.9ヵ月(HR:0.65、98.5%CI:0.46~0.92、p=0.0023)と有意な延長が認められたが、NIVO+IPI群は4.0ヵ月(HR:1.02、p=0.8958)と延長は認められなかった。・全無作為化患者におけるOSは、Chemo群10.7ヵ月に対して、NIVO+Chemo群13.2ヵ月(HR:0.74、99.1%CI:0.58~0.96、p=0.0021)、NIVO+IPI群12.8ヵ月(HR:0.78、p=0.0110)であった。・同様にPFSは、Chemo群5.6ヵ月に対して、NIVO+Chemo群5.8ヵ月(HR:0.81、98.5%CI:0.64~1.04、p=0.0355)、NIVO+IPI群は2.9ヵ月(HR:1.26)であった。・ORRは、PD-L1≧1%患者でNIVO+Chemo群53%、NIVO+IPI群35%、Chemo群20%であった。・奏効期間(DoR)中央値は、PD-L1≧1%患者でNIVO+Chemo群8.4ヵ月、NIVO+IPI群11.8ヵ月、Chemo群5.7ヵ月であった。・治療関連の有害事象は、NIVO+Chemo群5例(2%)、NIVO+IPI群5例(2%)、Chemo群4例(1%)であった。・安全性に関する新たな問題は認められなかった。 Chau氏は、「進行ESCC患者において、NIVO+Chemo併用療法およびNIVO+IPI併用療法はいずれも、1次治療の新たな標準治療となり得ることが示された」とまとめた。

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胃、食道腺がん1次治療のニボルマブ+化学療法、全無作為化患者集団の成績(CheckMate 649)/ASCO2021

 ニボルマブ+化学療法(NIVO+Chemo)による胃がん、胃食道接合部がんおよび食道腺がんの1次治療については、第III相CheckMate-649試験の結果が昨年の欧州臨床腫瘍学会年次総会(ESMO Virtual Congress 2020)で発表され、PD-L1 CPS≧5患者における無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)が統計学的に有意に延長することが報告された。この結果に基づき、1次治療として米国FDAの承認を取得した。今回の米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)では、ドイツ・Johannes-Gutenberg大学のMarkus Moehler氏が、全無作為化患者における有効性と安全性に関する解析結果を発表。OSの統計学的に有意な延長を認めたと報告した。CheckMate-649試験の全無作為化患者のOSとPFSを評価・対象:未治療のHER2陰性進行または転移を有する胃/胃食道接合部/食道腺がん、PS 0~1・試験群:NIVO+Chemo(NIVO 360mg+XELOX[3週ごと]、またはNIVO 240mg+FOLFOX[2週ごと])789例・対照群:上記の化学療法単独のいずれか(Chemo群)792例・評価項目:[主要評価項目]PD-L1 CPS≧5患者のPFSとOS[副次評価項目]PD-L1 CPS≧1、≧10、ならびに全無作為化患者のOSとPFS、全奏効率(ORR)[探索的評価項目]安全性、QOL CheckMate-649試験の全無作為化患者における有効性と安全性に関する主な結果は以下のとおり。・CheckMate-649試験の全無作為化患者(データカットオフ日2020年5月27日、最短追跡期間12.1ヵ月)のOS中央値は、NIVO+Chemo群13.8ヵ月、Chemo群11.6ヵ月であり、NIVO+Chemo群で有意なOSの延長を認めた(HR:0.80、99.3%CI:0.68~0.94、p=0.0002)。・12ヵ月OS率は、NIVO+Chemo群55%、Chemo群48%であった。・CheckMate-649試験の全無作為化患者のPFS中央値は、NIVO+Chemo群7.7ヵ月、Chemo群6.9ヵ月であり、NIVO+Chemo群で臨床的に意義のあるPFSの延長を認めた(HR:0.77、95%CI:0.68~0.87)。・12ヵ月PFS率は、NIVO+Chemo群33%、Chemo群23%であった。・事前に規定したすべてのサブグループの解析において、一貫してOSはNIVO+Chemo群が良好であった。・NIVO+Chemo群における免疫関連のGrade3/4治療関連有害事象(TRAE)は、すべての器官別で5%以下であり、非内分泌系の事象のほとんどは管理アルゴリズムにより回復した(回復までの期間中央値2~23週間)。・症状悪化までの期間中央値は、NIVO+Chemo群が未到達、Chemo群が21.0ヵ月であり、NIVO+Chemo群であった(HR:0.77、95%CI:0.63~0.95、p=0.0129)。 Moehler氏は、「データはHER2陰性の進行胃/胃食道接合部/食道腺がん患者の新たな標準1次治療として、NIVO+Chemoを支持するものであった」とまとめている。

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