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中等度リスク患者へのスタチン+降圧薬治療の効果は?/NEJM

 心血管疾患既往のない、心血管イベントリスクが中等度の患者に対し、ロスバスタチンと、カンデサルタン+ヒドロクロロチアジドを投与しコレステロール値と血圧値を下げることで、主要心血管イベントリスクは約3割減少することが示された。カナダ・Population Health Research InstituteのS. Yusuf氏らが、約1万3,000例を対象に行った無作為化プラセボ対照二重盲検試験HOPE-3の結果、明らかにした。NEJM誌オンライン版2016年4月2日号掲載の報告。ロスバスタチン+カンデサルタン/ヒドロクロロチアジドを投与し、イベント発生率を比較 研究グループは、21ヵ国228ヵ所の医療機関を通じて、55歳以上の男性と65歳以上の女性で、心血管疾患の既往がなく、(1)ウエスト・ヒップ比が高い、(2)低HDLコレステロール値、(3)最近または現在喫煙、(4)糖代謝異常、(5)早期冠動脈疾患の家族歴、(6)軽度腎機能障害のいずれか1つ以上が認められる、1万2,705例を対象に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った。 同試験では、2×2要因デザインを用いて、カンデサルタン16mg/日+ヒドロクロロチアジド12.5mg/日と、脂質低下薬ロスバスタチン10mg/日の効果を検証。本論文では、ロスバスタチン+カンデサルタン+ヒドロクロロチアジド投与群(3,180例)と、同非投与群(3,168例)について、その効果を比較した。 主要複合アウトカムは2つあり、第1主要複合アウトカムは心血管疾患死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中、第2主要複合アウトカムは、第1主要複合アウトカムに心肺停止からの蘇生、心不全、血行再建術を加えたものだった。治療群でイベントリスクは0.71倍に 追跡期間中央値は、5.6年だった。試験期間中、治療群がプラセボ群に比べLDLコレステロール値低下幅は33.7mg/dL大きく、また収縮期血圧低下幅はプラセボ群に比べ治療群が6.2mmHg大きかった。 第1主要複合アウトカムの発生率は、プラセボ群が5.0%(157例)に対し、治療群が3.6%(113例)と、有意に低率だった(ハザード比:0.71、95%信頼区間:0.56~0.90、p=0.005)。 第2主要複合アウトカムの発生率も、プラセボ群5.9%(187例)に対し、治療群が4.3%(136例)と低率だった(同:0.72、同:0.57~0.89、p=0.003)。 有害事象発生率については、筋肉症状やめまいは治療群で高率だったものの、治療中断率は両群で同等だった。

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ニーマン・ピック病C型〔NPC : Niemann-Pick disease type C〕

1 疾患概要■ 概念・定義1, 2)ニーマン・ピック病は、多様な臨床症状と発病時期を示すがスフィンゴミエリンの蓄積する疾患として、1961年CrockerによりA型からD型に分類された。A型とB型はライソゾーム内の酸性スフィンゴミエリナーゼ遺伝子の欠陥による常染色体性劣性遺伝性疾患で、ニーマン・ピック病C型は細胞内脂質輸送に関与する分子の欠陥で起こる常染色体性劣性遺伝性疾患である。D型は、カナダのNova Scotia地方に集積するG992W変異を特徴とする若年型のC型である。■ 疫学C型の頻度は人種差がないといわれ、出生10~12万人に1人といわれている。発病時期は新生児期から成人期までと幅が広い。2015年12月の時点で日本では34例の患者の生存が確認されている。同時点での人口8,170万人のドイツでは101人、人口6,500万人の英国では86例で、人口比からすると日本では現在確認されている数の約5倍の患者が存在する可能性がある。■ 病因遺伝的原因は、細胞内脂質輸送小胞の膜タンパク質であるNPC1タンパク質をコードするNPC1遺伝子、またはライソゾーム内の可溶性たんぱく質でライソゾーム内のコレステロールと結合し、NPC1タンパク質に引き渡す機能を持つNPC2タンパク質をコードするNPC2遺伝子の欠陥による。その結果、細胞内の脂質輸送の障害を生じ、ライソゾーム/後期エンドソームにスフィンゴミエリン、コレステロールや糖脂質などの蓄積を起こし、内臓症状や神経症状を引き起こす。95%の患者はNPC1遺伝子変異による。NPC2遺伝子変異によるものは5%以下であり、わが国ではNPC2変異による患者はみつかっていない。■ 症状1)周産期型出生後まもなくから数週で、肝脾腫を伴う遷延性新生児胆汁うっ滞型の黄疸がみられる。通常は生後2~4ヵ月で改善するが、10%くらいでは、肝不全に移行し、6ヵ月までに死亡する例がある。2)乳児早期型生後間もなくか1ヵ月までに肝脾腫が気付かれ、6~8ヵ月頃に発達の遅れと筋緊張低下がみられる。1~2歳で発達の遅れが明らかになり、運動機能の退行、痙性麻痺が出現する。歩行を獲得できる例は少ない。眼球運動の異常は認められないことが多い。5歳以降まで生存することはまれである。3)乳児後期型通常は3~5歳ごろ、失調による転びやすさ、歩行障害で気付かれ、笑うと力が抜けるカタプレキシーが認められることが多い。神経症状が出る前に肝脾腫を指摘されていることがある。また、検査に協力できる場合には、垂直性核上性注視麻痺を認めることもある。知的な退行、けいれんを合併する。けいれんはコントロールしづらいこともある。その後、嚥下障害、構音障害、知的障害が進行し、痙性麻痺が進行して寝たきりになる。早期に嚥下障害が起こりやすく、胃瘻、気管切開を行うことが多い。7~15歳で死亡することが多い。わが国ではこの乳児後期型が比較的多い。また、この型では早期にまばたきが消失し、眼球の乾燥を防ぐケアが必要となる。4)若年型軽度の脾腫を乳幼児期に指摘されていることがあるが、神経症状が出現する6~15歳には脾腫を認めないこともある。書字困難や集中力の低下などによる学習面の困難さに気付かれ、発達障害や学習障害と診断されることもある。垂直性核上性注視麻痺はほとんどの例で認められ、初発症状のこともある。カタプレキシーを認めることもある。不器用さ、学習の困難さに続き、失調による歩行の不安定さがみられる。歩行が可能な時期に嚥下障害によるむせやすさ、構語障害を認めることが多く、発語が少なくなる。ジストニア、けいれんがみられることが多く、進行すると痙性麻痺を合併する。30歳かそれ以上まで生存することが多い。わが国でも比較的多く認められる。5)成人型成人になって神経症状がなく、脾腫のみで診断される例もまれながら存在するが、通常は脾腫はみられないことが多い。妄想、幻視、幻聴などの精神症状、攻撃性やひきこもりなどの行動異常を示すことが多い。精神症状や行動異常がみられ、数年後に小脳失調(76%)、垂直性核上性注視麻痺(75%)、構語障害(63%)、認知障害(61%)、運動障害(58%)、脾腫(54%)、精神症状(45%)、嚥下障害(37%)などがみられる。運動障害はジストニア、コレア(舞踏病)、パーキンソン症候群などを認める。■ 予後乳児早期型は5歳前後、乳児後期型は7~15歳、若年型は30~40歳、成人型は中年までの寿命といわれているが、気管切開、喉頭気管分離術などによる誤嚥性肺炎の防止と良好なケアで寿命は延長している。また、2012年に承認になったミグルスタット(商品名: ブレーザベス)によって予後が大きく変化する可能性がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ニーマン・ピック病C型の診断の補助のためにSuspicion Indexが開発されている。これらはC型とフィリピン染色で確定した71例、フィリピン染色が陰性であった64例、少なくとも症状が1つある対照群81例について、内臓症状、神経症状、精神症状について検討し、特異性の高い症状に高いスコアを与えたスクリーニングのための指標である。この指標は便利であるが、4歳以下で神経症状の出現の少ない例では誤診する可能性のあることに注意して使用していただきたい。現在、4歳以下で使えるSuspicion Indexが開発されつつある。このSuspicion Indexは、(http://www.npc-si.jp/public/)にアクセスして使用でき、評価が可能である。一般血液生化学で特異な異常所見はない。骨髄に泡沫細胞の出現をみることが多い。皮膚の培養線維芽細胞のフィリピン染色によって、細胞内の遊離型コレステロールの蓄積を明らかにすることで診断する。LDLコレステロールが多く含まれる血清(培地)を用いることが重要である。成人型では蓄積が少なく、明らかな蓄積があるようにみえない場合もあり注意が必要である。骨髄の泡沫細胞にも遊離型コレステロールの蓄積があり、フィリピン染色で遊離型コレステロールの蓄積が確認できれば診断できる。線維芽細胞のフィリピン染色は、秋田大学医学部附属病院小児科(担当:高橋 勉、tomy@med.akita-u.ac.jp)、大阪大学大学院医学系研究科生育小児科学(担当:酒井 規夫、norio@ped.med.osaka-u.ac.jp)、鳥取大学医学部附属病院脱神経小児科(担当:成田 綾、aya.luce@nifty.com)で対応が可能である。確定診断のためにはNPC1遺伝子、NPC2遺伝子の変異を同定する。95%以上の患者はNPC1遺伝子に変異があり、NPC2遺伝子に変異のある患者のわが国での報告はまだない。NPC1/NPC2遺伝子解析は鳥取大学生命機能研究支援エンター(担当:難波 栄二、ngmc@med.tottori-u.ac.jp)で対応が可能である。近年、遊離型コレステロールが非酵素反応で形成される酸化型ステロール(7-ケトコレステロール、コレスタン-3β、5α、6βトリオール)が、C型の血清で特異的に上昇していることが知られ、迅速な診断ができるようになっている1、2)。わが国では、一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療センター(担当者:藤崎 美和、衞藤 義勝、sentanken@mt.strins.or.jp、電話044-322-0654 電子音後、内線2758)で測定可能であり、連絡して承諾が得られるようであれば、凍結血清1~2mLを送る。さらに尿に異常な胆汁酸が出現することが東北大学医学部附属病院薬剤部から報告され9)、この異常も診断的価値が高い特異的な検査の可能性があり、現在精度の検証が進められている。診断的価値が高いと考えられる場合、また精度の検証のためにも、東北大学医学部附属病院へ連絡(担当者:前川 正充、m-maekawa@hosp.tohoku.ac.jp)して、凍結尿5mLを送っていただきたい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ミグルスタット の治療効果C型の肝臓や脾臓には、遊離型コレステロール、スフィンゴミエリン、糖脂質(グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド)、遊離スフィンゴシン、スフィンガニンが蓄積している。一方、脳では、コレステロールやスフィンゴミエリンの蓄積はほとんどなく、スフィンゴ糖脂質、とくにガングリオシッドGM2とGM3の蓄積が顕著である。このような背景から、グルコシルセラミド合成酵素の阻害剤であるn-butyl-deoxynojirimycin(ミグルスタット)を用いてグルコシルセラミド合成を可逆的に阻害し、中枢神経系のグルコシルセラミドを基質とする糖脂質の合成を減少させることで、治療効果があることが動物で確認された。さらに若年型と成人型のC型患者で、嚥下障害と眼球運動が改善することが報告され、2009年EUで、2012年わが国でC型の神経症状の治療薬として承認された。ミグルスタットは、乳児後期型、若年型、成人型の嚥下機能の改善・安定化に効果があり、誤嚥を少なくし、乳児後期型から成人型C型の延命効果に大きく影響することが報告されている。また、若年型のカタプレキシーや乳児後期型の発達の改善がみられ、歩行機能、上肢機能、言語機能、核上性注視麻痺の安定化がみられることが報告されている。乳児早期型では、神経症状の出現前の早い時期に治療を開始すると効果がある可能性が指摘されているが、乳児後期型、若年型、成人型の神経症状の安定化に比較して効果が乏しい。また、脾腫や肝腫大などの内臓症状には、効果がないと報告されている。ミグルスタットの副作用として、下痢、鼓腸、腹痛などの消化器症状が、とくに治療開始後の数週間に多いと報告されている。この副作用はミグルスタットによる二糖分解酵素の阻害によって、炭水化物の分解・吸収が障害され、浸透圧性下痢、結腸発酵の結果起こると考えられている。ほとんどの場合ミグルスタット継続中に軽快することが多く、ロペラミド塩酸塩(商品名:ロペミンほか)によく反応する。また、食事中の二糖(ショ糖、乳糖、麦芽糖)の摂取を減らすことでミグルスタットの副作用を減らすことができる。さらには、ミグルスタットを少量から開始して、増量していくことで副作用を軽減できる。■ ニーマン・ピック病C型患者のその他の治療について2)C型のモデルマウスでは、細菌内毒素受容体Toll様受容体4の恒常的活性化によって、IL-6やIL-8が過剰に産生され、脳内の炎症反応が起こり、IL-6を遺伝的に抑制することで、マウスの寿命が延長することが示唆されている5)。また、モデルマウスに非ステロイド性抗炎症薬を投与すると神経症状の発症が遅延し、寿命が延長することが報告されており6)、C型患者で細菌感染を予防し、感染時の早期の抗菌薬投与と抗炎症薬の投与によって炎症を抑えることが勧められる。また、教科書には記載されていないが、C型患者では早期に瞬目反射が減弱・消失し、まばたきが減少し、この結果眼球が乾燥する。この瞬目反射の異常に対するミグルスタットの効果は不明である。C型患者のケアにあたっては、瞬目反射の減弱に注意し、減弱がある場合には、眼球の乾燥を防ぐために点眼薬を使用することが大切である。4 今後の展望シクロデキストリンは、細胞内コレステロール輸送を改善し、遊離型コレステロールの蓄積を軽減させると、静脈投与での効果が報告されている3)。シクロデキストリンは、髄液の移行が乏しく、人道的使用で髄注を行っている家族もあるが、今後アメリカを中心に臨床試験が行われる可能性がある。また、組み換えヒト熱ショックタンパク質70がニーマン・ピック病C型治療薬として開発されている。そのほか、FDAで承認された薬剤のなかでヒストン脱アセチル化阻害剤(トリコスタチンやLBH589)が、細胞レベルでコレステロールの蓄積を軽減させること4, 7)や筋小胞体からCaの遊離を抑制し、筋弛緩剤として用いられているダントロレンが変異したNPCタンパク質を安定化する8)ことなどが報告され、ミグルスタット以外の治療薬の臨床試験が始まる可能性が高い。5 主たる診療科小児科(小児神経科)、神経内科、精神科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患克服事業 ライソゾーム病(ファブリー病を含む)に関する調査研究班 ライソゾーム病に関して(各論)ニーマン・ピック病C型(医療従事者向けのまとまった情報)鳥取大学医学部N教授Website(ニーマン・ピック病C型の研究情報を多数記載。医療従事者向けのまとまった情報)NP-C Suspicion Index ツール(NPCを疑う症状のスコア化ができる。提供: アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社)The NPC-info.com Information for healthcare professionals に入り、Symptoms of niemann pick type C diseaseにて動画公開(ニーマン・ピック病C型に特徴的な症状のビデオ視聴が可能。提供: アクテリオン株式会社)患者会情報ニーマン・ピック病C型患者家族の会(患者とその患者家族の情報)1)大野耕策(編). ニーマン・ピック病C型の診断と治療.医薬ジャーナル社;2015.2)Vanier MT. Orphanet J Rare Dis.2010;5:16.3)Matsuo M, et al. Mol Genet Metab.2013;108:76-81.4)Pipalia NH, et al. Proc Natl Acad Sci USA.2011;108:5620-5625.5)Suzuki M, et al. J Neurosci.2007;27:1879-1891.6)Smith D, et al. Neurobiol Dis.2009;36:242-251.7)Maceyka M, et al. FEBS J.2013;280:6367-6372.8)Yu T, et al. Hum Mol Genet.2012;21:3205-3214.9)Maekawa M, et al. Steroids.2013;78:967-972.公開履歴初回2013年10月10日更新2016年04月19日

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スタチン不耐容患者へのエボロクマブ vs.エゼチミブ/JAMA

 筋肉関連の有害事象によるスタチン不耐容の患者において、新規開発の脂質低下薬エボロクマブはエゼチミブと比較して、24週後のLDL-コレステロール(LDL-C)値を有意に低下したことが、米国・クリーブランドクリニックのSteven E. Nissen氏による無作為化試験「GAUSS-3」試験の結果、示された。筋肉関連の有害事象によるスタチン不耐容の患者は5~20%と報告されており、スタチンの超低用量投与や間欠的投与あるいはエゼチミブ投与などが行われるが、ガイドラインで推奨される50%超低下を達成することはまれである。PCSK9阻害薬エボロクマブは、LDL-Cの低下が顕著で、スタチン不耐容患者の代替療法となる可能性が示唆されていた。JAMA誌オンライン版2016年4月3日号掲載の報告より。24週投与し、エボロクマブとエゼチミブの脂質低下の有効性と安全性を比較 GAUSS-3試験は、スタチンを再投与し筋肉症状の発現を確認する(フェーズA)、エゼチミブとエボロクマブの2つの非スタチン薬の脂質低下の有効性を比較する(フェーズB)、2段階から成る無作為化試験であった。 2013年12月10日~14年11月28日に、LDL-C値コントロール不良、2剤以上のスタチン不耐容歴のある511例を登録。フェーズAにおいて、クロスオーバー法を用いて24週間、アトルバスタチン(20mg)あるいはプラセボを投与し、アトルバスタチン投与でのみ筋肉症状を認めた患者を確認した。2週間のウォッシュアウト後、フェーズBにおいて、患者を2対1の割合でエボロクマブ(月1回420mg皮下注)もしくはエゼチミブ(1日1回10mg経口投与)群に無作為に割り付け、24週間の投与を行った。 主要エンドポイントは2つで、LDL-C値のベースラインからの平均変化率を、22週と24週の平均値、および24週値について評価した。24週時の平均変化率、エボロクマブ群-52.8%、エゼチミブ群-16.7% フェーズAの被験者は491例であった。平均年齢60.7(SD 10.2)歳、女性246例(50.1%)、170例(34.6%)が冠動脈疾患歴あり、試験開始時の平均LDL-C値は212.3(SD 67.9)mg/dLであった。結果、アトルバスタチン服用時のみ筋肉症状が認められたのは209例(42.6%)であった。 209例のうちフェーズBには199例が参加した。また、クレアチンキナーゼ高値であった19例がフェーズBより参加し計218例で行われた。エゼチミブ群に73例、エボロクマブ群に145例が割り付けられた。試験開始時の平均LDL-C値は219.9(SD 72)mg/dLであった。 LDL-C値の22週と24週の平均値は、エゼチミブ群は183.0mg/dLで、ベースラインからの平均変化率は-16.7%(95%信頼区間[CI]:-20.5~-12.9%)、絶対変化値は-31.0mg/dLであった。一方、エボロクマブ群は103.6mg/dL、-54.5%(95%CI:-57.2~-51.8%)、-106.8mg/dLで変化が有意に大きかった(LDL-C値の両群差:-37.8%、絶対変化値差:-75.8mg/dL、p<0.001)。 また24週時のLDL-C値についても、エゼチミブ群は181.5mg/dL、平均変化率は-16.7%(95%CI:-20.8~-12.5%)、絶対変化値は-31.2mg/dLであった一方、エボロクマブ群は104.1mg/dL、-52.8%(95%CI:-55.8~-49.8%)、-102.9 mg/dLで変化が有意に大きかった(LDL-C値の両群差:-36.1%、絶対変化値差:-71.7mg/dL、p<0.001)。 筋肉症状の報告は、エゼチミブ治療群で28.8%、エボロクマブ群で20.7%で有意差はみられなかった(log-rank検討によるp=0.17)。なお、筋肉症状のために試験薬投与を中止したのは、エゼチミブ治療群73例中5例(6.8%)であったのに対し、エボロクマブ群は145例中1例(0.7%)であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「さらなる試験で、長期の有効性と安全性を評価する必要がある」とまとめている。

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中等度リスク患者、スタチンでベネフィット/NEJM

 心血管疾患既往のない、心血管イベントリスクが中程度の患者に対し、ロスバスタチン治療によりコレステロール値を低下することで、主要心血管イベントリスクは4分の3程度に低減することが示された。カナダ・Population Health Research InstituteのS. Yusuf氏らが、約1万3,000例を対象に行った、無作為化プラセボ対照二重盲検試験HOPE-3の結果、明らかにした。先行研究で、コレステロール値を低下するスタチン治療は、心血管疾患既往のない人では、心血管イベントリスクを低下することが示されているが、試験に参加したのは脂質値および炎症マーカーが高値の人で、また被験者の大半が白人であった。そのためスタチンがもたらすベネフィットが、中等度リスクで民族的に多様な心血管疾患既往のない集団でも認められるかについては明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2016年4月2日号掲載の報告。ロスバスタチン10mg/日を投与し、イベント発生率を比較 研究グループは、21ヵ国228ヵ所の医療機関を通じて、55歳以上の男性と65歳以上の女性で、心血管疾患の既往がなく、(1)ウエスト・ヒップ比が高い、(2)低HDLコレステロール値、(3)最近または現在喫煙、(4)糖代謝異常、(5)早期冠動脈疾患の家族歴、(6)軽度腎機能障害のいずれか1つ以上が認められる、1万2,705例を対象に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った。 同試験では、2×2要因デザインを用いて、カンデサルタン16mg/日+ヒドロクロロチアジド12.5mg/日と、脂質低下薬ロスバスタチン10mg/日の効果を検証した。本論では、ロスバスタチン投与群(6,361例)と、ロスバスタチン非投与群(プラセボ群、6,344例)について、その効果を比較した。 主要複合アウトカムは2つあり、第1主要複合アウトカムは心血管疾患死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中、第2主要複合アウトカムは、第1主要複合アウトカムに心肺停止からの蘇生、心不全、血行再建術を加えたものだった。スタチン投与で第1主要複合アウトカムのリスクは0.76倍に 追跡期間中央値は、5.6年だった。試験終了時のLDLコレステロール値は、ロスバスタチン群がプラセボ群に比べ、26.5%低かった。 第1主要複合アウトカムの発生率は、プラセボ群4.8%(304例)に対し、ロスバスタチン群は3.7%(235例)と、有意に低率だった(ハザード比:0.76、95%信頼区間:0.64~0.91、p=0.002)。第2主要複合アウトカムの発生率も、プラセボ群5.7%(363例)に対し、ロスバスタチン群は4.4%(277例)と有意に低率だった(同:0.75、0.64~0.88、p<0.001)。 ベースライン時の心血管リスクにより分類したサブグループや、脂質値、CRP値、血圧、人種および民族別でみたサブグループにおいても、ロスバスタチン投与により、同様の心血管イベントリスクの低減効果が認められた。 なお、ロスバスタチン群では、糖尿病やがんの増加はみられなかったものの、白内障手術率がロスバタチン群3.8% vs.プラセボ群3.1%(p=0.02)、筋肉関連症状の発症率は5.8% vs.4.7%と、いずれもロスバタチン群で有意な増加がみられた(p=0.005)。

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中等度リスク患者への降圧治療のベネフィットは?/NEJM

 心血管疾患既往のない、心血管イベントリスクが中程度の患者に対し、カンデサルタン+ヒドロクロロチアジドによる降圧治療を行っても、主要心血管イベントリスクは低下しないことが示された。カナダ・Population Health Research InstituteのEva M. Lonn氏らが、約1万3,000例を対象に行った無作為化プラセボ対照二重盲検試験HOPE-3の結果、明らかにした。降圧治療について、高リスクの人および収縮期血圧が160mmHg以上の人では、心血管イベントリスクを低下するが、中等度リスクの人および血圧が低い(160mmHg未満)人における役割については明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2016年4月2日号掲載の報告。 21ヵ国228ヵ所の医療機関で調査 研究グループは、21ヵ国228ヵ所の医療機関を通じて、55歳以上の男性と65歳以上の女性で、心血管疾患の既往がなく、(1)ウエスト・ヒップ比が高い、(2)低HDLコレステロール値、(3)最近または現在喫煙、(4)糖代謝異常、(5)早期冠動脈疾患の家族歴、(6)軽度腎機能障害のいずれか1つ以上が認められる、1万2,705例を対象に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った。 同試験では、2×2要因デザインを用いて、カンデサルタン16mg/日+ヒドロクロロチアジド12.5mg/日と、脂質低下薬ロスバスタチン10mg/日の効果を検証。本論文では、カンデサルタン+ヒドロクロロチアジド投与群(6,356例)と、同非投与群(プラセボ群、6,349例)について、その効果を比較した。 主要複合アウトカムは2つあり、第1主要複合アウトカムは心血管疾患死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中、第2主要複合アウトカムは、第1主要複合アウトカムに心肺停止からの蘇生、心不全、血行再建術を加えたものだった。第1および第2主要複合アウトカムともプラセボ群と同等 追跡期間中央値は、5.6年だった。被験者のベースライン平均血圧値は138.1/81.9mmHgだった。 試験期間中、治療群の血圧低下幅はプラセボ群に比べ6.0/3.0mmHg大きかった。 第1主要複合アウトカムの発生率は、治療群が4.1%(260例)に対し、プラセボ群は4.4%(279例)で、同等だった(ハザード比:0.93、95%信頼区間[CI]:0.79~1.10、p=0.40)。 第2主要複合アウトカムの発生率も、治療群4.9%(312人)に対し、プラセボ群5.2%(328例)と、両群で同等だった(同:0.95、0.81~1.11、p=0.51)。 なお、事前に規定した収縮期血圧値が143.5mmHg超のサブグループについて調べたところ、第1・第2主要複合アウトカムとも、治療群でプラセボ群に比べ有意に低率だった(第1主要複合アウトカムについての傾向のp=0.02、第2主要複合アウトカムについての同p=0.009)。

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HOPE-3試験:仮説が不明で、かえって混乱を招く結果となった臨床試験(解説:桑島 巖 氏)-513

 本試験の仮説がよくわからない。HOPE試験のようにACE阻害薬の“降圧を超えた心血管合併症予防効果”をARB検証するのであれば、サイアザイド利尿薬を併用せずに行うべきであったし、正常高値に対する降圧の有用性を検証するのであれば、ヒドロクロロチアジドではなく、降圧効果の確実なサイアザイド類似薬であるクロルタリドンあるいはインダパミドを併用するなり、降圧薬の用量調整をするなりして、さらに厳格に収縮期血圧で120mmHg前後まで下げるべきであった。本試験では降圧目標を設定しておらず、ただARBとサイアザイド利尿薬の固定用量を用いた場合のイベント抑制効果という、中途半端な試験である。 リスクも低く、血圧も高くない(正常高値)症例に対して、ARBと降圧利尿薬固定用量を長期間投与することはメリットがあるか否かを検証したかったとすれば、当然メリットがないことは予想された。本試験の結果は、血圧が高いほど、あるいは高リスクほど厳格な降圧が有用であり、低リスク高血圧例での積極的降圧の有用性は乏しい、という結果を示したBPLTTC試験やSPRINT試験の結果とは矛盾しない。ただし、低リスク正常高値血圧の有用性を検証するには5年間は短すぎる。 本試験の対象は非常に複雑で、ウエスト・ヒップ比が高い症例、HDLコレステロール値が低い症例、糖代謝異常、喫煙、冠疾患家族歴を有する例を対象としているが、このような肥満症例では、生活習慣の改善、あるいは脂質低下療法が有効であり、降圧治療の有用性はあまり期待できないことはある程度予想できた。 本試験では、2×2方式で行われているため、試験の仮説がかなり分散している点は否めない。このような脂質代謝障害のある症例で、コレステロール低下療法の有用性を確認したいスポンサー企業の意図を垣間見る試験ともいえなくもない。事実、ロスバスタチンの有用性が認められている。 プラセボ群との血圧値の差は、収縮期 6.0/拡張期 3.0mmHgであり、実薬群の達成血圧は、128/76前後である。下げてもメリットはないともいえるし、この程度の降圧ではメリットはあまりなく、下げるなら120mmHgまで必要かもしれないことを示しているともいえる。 本試験から得られる結論としては、低リスクの症例では、血圧143以上でなければ降圧薬追加によるメリットはない。ただし、低リスクで血圧が正常であっても、さらに120mmHgまで下げた場合のメリットは否定できない。また、さらに長期間(たとえば10年)降圧薬を投与すればメリットはあるかもしれない。 なんとも中途半端なトライアルである。2×2で、自社製品のカンデサルタンとロスバスタチンの配合薬のメリットを出そうとしたスポンサーのもくろみがあったのかもしれない。科学的にはあまり意味がなく、かえって混乱を招きかねない。

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心血管疾患と悪性腫瘍の相同性(解説:後藤 信哉 氏)-509

オリジナルニュース長期アスピリン使用によるがん予防効果~13万6千人の前向き研究 動脈硬化は血管の老化とされる。また、動脈壁の慢性炎症変化ともいわれる。老化した細胞では、がん化のリスクも増加する。慢性炎症は発がんとも関連する。これらの事実を踏まえて考えると、心筋梗塞発症予防効果を有する薬剤に「がん化」予防効果があることは論理的必然ともいえる。 歴史的に心筋梗塞発症予防効果が明確に確認されている薬剤は、アスピリンとスタチンである。アスピリンのほうが使用歴が長いので、長期間の観察データの蓄積がある。以前から、英国の長期間の観察研究では、アスピリン服用例のがんの転移と初発が少ないことが以前から報告されていた。 今回の研究では、13万5 ,965例にも及ぶ看護師および医療関連職の前向きコホートを用いた観察研究にて、アスピリン常用者において、悪性腫瘍の発症が低かったこと(RR:0.97、95%CI:0.94~0.99)、消化管の悪性腫瘍(RR:0.85、95%CI:0.80~0.91)、とくに、大腸がんが少なかったこと(RR:0.81、95%CI:0.75~0.88)が示された。英国の長期観察データに引き続き、米国の長期観察データでも、アスピリン常用者において消化器の悪性腫瘍発症が低率であったことは興味深い。 ピロリ菌感染と同様に、アスピリンは日本における上部消化管粘膜障害の主要な原因である。ピロリ菌発症が、胃がんと関連するのに比較して粘膜障害を惹起しても、アスピリンと胃がんの関係は報告されていない。粘膜障害は、NSAIDsとしてのアスピリンが共有する副作用であるが、心筋梗塞発症予防効果はアスピリンに限局される。アスピリンは古い薬剤であるが、奥の深い薬剤である。大腸がん予防効果が科学的事実と認定されれば、日本でも多くの人がアスピリンの服用を希望すると想定される。特許が切れ、価格の安い薬なので、メーカーは新規の適応追加試験の施行に積極的になれないと推定される。日本には膨大な検診データがあるので、前向き観察研究を行い、英国、米国と同様の傾向が確認され、医師主導の大規模仮説検証ランダム化比較試験を実施することができれば、医学的インパクトはきわめて大きいと想定される。

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ニフェジピンによるDES留置後の血管保護効果を確認

 2016年3月19日、宮城県仙台市にて開催された第80回日本循環器学会学術集会の「Late Breaking Clinical Trials/Cohort Studies III」にて、長時間作用型ニフェジピンの薬剤溶出ステント(DES)留置後の冠動脈に対する保護効果を検討した無作為化前向き試験“NOVEL study”の結果が、東北大学 循環器内科学の圓谷 隆治氏より発表された。 同氏の研究グループはこれまでに、第1世代のDESによる冠動脈過収縮反応を、長時間作用型ニフェジピンの慢性投与が抑制することが動物実験で示されたことを報告している。本試験では、現在主に臨床で使用されている第2世代のDESであるエベロリムス溶出ステントを用いて、ヒトにおける同様の効果について検討された。 対象は、左冠動脈へのDES留置を予定している146例の安定狭心症患者であった。被験者を、スタチン、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、アスピリン、クロピドグレルによる一般的な薬物治療を実施する対照群と、それらに長時間作用型ニフェジピンを追加投与する群に無作為に割り付けた。ニフェジピン群57例および対照群53例に対し、ステント留置から8~10ヵ月後、冠動脈造影のフォローアップ検査を実施し、アセチルコリン負荷試験による冠動脈の収縮反応の確認が行われた。 その結果、冠動脈過収縮反応は、非治療血管に比べ、ステントの遠位部において顕著であった(p<0.001)。また、対照群と比較して、ニフェジピン投与群においてその反応は有意に抑制された(p<0.01)。さらには、血液検査により、炎症反応に関してもニフェジピン群のみにおいて改善が認められた(p<0.05)。 圓谷氏は、本試験の対象患者は、基礎疾患などのベースライン時の特徴から、比較的高リスクであったことを説明した。そのような患者においては、血管に対するストレスが減少したとされる第2世代のDESを用いた場合でも、血管の異常反応である過収縮が認められ、それに対して長時間作用型のニフェジピンの抗炎症作用が有益な効果に関連していることを述べた。 同発表のコメンテーターである岐阜大学 循環病態学・呼吸病態学・第二内科の西垣 和彦氏は、ニフェジピンの抗炎症作用が「クラスエフェクトとしてほかのカルシウム拮抗薬にもあるのか」、また、「ステントを留置した患者の長期予後へどのような影響を及ぼすのか」、という2点が、今後のさらなる研究で明らかになることに期待を寄せた。

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ACC(米国心臓病学会)2016 注目のLate Breaking Clinical Trial

2016年4月2~4日、米国シカゴでACC2016(米国心臓病学会)が開催されます。今年のACCは、5つのLate Breaking Clinical Trialセッションと2つのFeatured Clinical Researchセッションで最新の研究が発表される予定です。ケアネットでは、聴講スケジュールの参考としていただくために、Late Breaking Trialでの注目演題のアンケートを実施いたしました。その結果をセッションごとに、北里大学医学部循環器内科学 教授 阿古潤哉氏のコメントとともにご紹介いたします。また、レストランをはじめ開催地シカゴのおすすめスポットについても、会員の方々から情報をお寄せいただきました。ぜひ、ご活用ください。開催地シカゴのおすすめスポットはこちらOpening Showcase and the Joint ACC/JACC Late-Breaking Clinical Trials<Session 401:4/2(土)8:00am~10:00am、Main Tent (North Hall B1)>Partner 2: Transcatheter Aortic Valve Replacement Compared with Surgery in Intermediate Risk Patients with Aortic Stenosis: Final Results from the Randomized Placement of Aortic Transcatheter Valves 2 StudyHOPE 3: Blood Pressure Lowering in People at Moderate RiskHOPE 3: Effects of Combined Lipid and BP-Lowering on Cardiovascular Disease in a Moderate Risk Global Primary Prevention PopulationQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はTAVRに注目が集まっている様子。最初は手術リスクが高い人にのみ行われてきたTAVRが、中等度リスクの患者でどのような結果になるか、無作為化試験に注目が集まる。結果次第では現在の適応を大きく変えていく可能性も。Joint American College of Cardiology/Journal of the American Medical Association Late-Breaking Clinical Trials<Session 404:4/3(日) 8:00am~9:15am、Main Tent (North Hall B1)>ACCELERATE: Impact of the Cholesteryl Ester Transfer Protein Inhibitor Evacetrapib on Cardiovascular Events: Results of the ACCELERATE trialGAUSS-3: Comparison of PCSK9 Inhibitor Evolocumab Versus Ezetimibe in Statin-intolerant Patients: The Goal Achievement After Utilizing an Anti-PCSK9 Antibody in Statin Intolerant Subjects 3 (GAUSS-3) TrialFH Mutations: Low-density Lipoprotein Cholesterol, Familial Hypercholesterolemia Mutation Status and Risk for Coronary Artery DiseaseStepathlon: Reproducible Impact of a Global Mobile Health (mHealth) Mass-Participation Physical Activity Intervention on Step Count, Sitting Behavior and Weight: the Stepathlon Cardiovascular Health StudyLow Risk Chest Pain: Involving Patients with Low Risk Chest Pain in Discharge Decisions: A Multicenter TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はGAUSS試験に注目が集まっている。わが国でも承認されたPCSK9阻害薬が、スタチンを投与することができない患者に対してどの程度、有効性・安全性を示すか注目される。ACCELERATEはCETP阻害薬の試験。今までHDL-Cを上げる治療はなかなか有効性が示されていないが、evacetrapibでどのような結果となるか?Joint American College of Cardiology/TCT Late-Breaking Clinical Trials<Session 405:4/3(日)10:45am~noon、Main Tent (North Hall B1)>DANish (DEFERred stent): The Third DANish Study of Optimal Acute Treatment of Patients with ST-segment Elevation Myocardial Infarction: DEFERred stent implantation in connection with primary PCIDANish (iPOST conditioning): The Third DANish Study of Optimal Acute Treatment of Patients with ST-segment Elevation Myocardial Infarction: iPOSTconditioning during primary PCIEarly-BAMI: Effect Of Early Administration Of Intravenous Beta Blockers In Patients With ST-elevation Myocardial Infarction Before Primary Percutaneous Coronary Intervention. The Early-BAMI trial.Sapien 3: Sapien 3 Transcatheter Aortic Valve Replacement versus Surgery in Intermediate-Risk Patients with Severe Aortic Stenosis: A Propensity-Matched Comparison of One-Year OutcomesTAVR Volume/Outcome: Relationship Between Procedure Volume and Outcome for Transcatheter Aortic Valve Replacement in U.S. Clinical Practice: Insights from the STS/ACC TVT RegistryQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はSTEMIに対する試験が注目されている様子である。TAVRの演題は数字上低めとなっている。しかし、この日もSapienはintermediate riskの患者のデータであり、TAVR治療の今後の広がりを考える上では注目されよう。Featured Clinical Research Session I<Session 406:4/3(日)12:30pm~1:45pm、ACC.16 Main Tent (Room S103cd)>MR: Papillary Muscle Approximation versus Undersizing Restrictive Annuloplasty Alone for Severe Ischemic Mitral Regurgitation: a Randomized Clinical TrialIsch MR: Two-year Outcomes of Surgical Treatment of Moderate Ischemic Mitral Regurgitation: A Randomized Clinical Trial from The Cardiothoracic Surgical Trials NetworkSurgery Ischemic HF: Ten-Year Outcome of Coronary Artery Bypass Graft Surgery Versus Medical Therapy in Patients with Ischemic Cardiomyopathy: Results of the Surgical Treatment for Ischemic Heart Failure Extension StudyCoreValve: 3-Year Results From the CoreValve US Pivotal High Risk Randomized Trial Comparing Self-Expanding Transcatheter and Surgical Aortic ValvesValve Deterioration: Incidence and Outcomes of Valve Hemodynamic Deterioration in Transcatheter Aortic Valve Replacement in U.S. Clinical Practice: A Report from the Society of Thoracic Surgery / American College of Cardiology Transcatheter Valve Therapy RegistryQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はischemic MRに対する試験と、虚血性心筋症に対するバイパス術と内科的治療を比較した臨床試験が注目を集めている。いずれも、clinical decision makingの助けとなる臨床試験が不足している領域であり、今後のガイドラインにも影響を与えそうな試験内容である。Joint American College of Cardiology/New England Journal of Medicine Late-Breaking Clinical Trials<Session 410:4/4(月)8:00am~9:15am、Main Tent (North Hall B1)>Resuscitation Outcomes: Antiarrhythmic Drugs for Shock-Refractory Out-of-Hospital Cardiac Arrest: The Resuscitation Outcomes Consortium Amiodarone, Lidocaine or Placebo StudyFIRE AND ICE: Largest Randomized Trial Demonstrates an Effective Ablation of Atrial Fibrillation: the FIRE AND ICE TrialRate v Rhythm: A Randomized Trial of Rate Control Versus Rhythm Control for Atrial Fibrillation after Cardiac SurgeryLATITUDE-TIMI 60: The Losmapimod To Inhibit P38 MAP Kinase As A Therapeutic Target And Modify Outcomes After An Acute Coronary Syndrome (LATITUDE-TIMI 60) Trial: Primary Results Of Part ACARIN: CMX-2043 for Prevention of Contrast Induced Acute Kidney Injury: The Primary Results of the CARIN TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はresuscitation、ablation、rate control or rhythm controlに注目が集まっているが、個人的にはLATITUDE試験の結果も興味深いのではないかと考える。Late-Breaking Clinical Trials<Session 412:4/4(月)10:45am~noon、Main Tent (North Hall B1)>ATMOSPHERE: Direct Renin-inhibition With Aliskiren Alone And In Combination With Enalapril, Compared With Enalapril, In Heart Failure (the ATMOSPHERE Trial)TRUE-AHF: Effect of Ularitide on Short- and Long-Term Clinical Course of Patients with Acutely Decompensated Heart Failure: Primary Results of the TRUE-AHF TrialIxCell-DCM: The Final Results of the IxCell-DCM Trial: Transendocardial Injection of Ixmyelocel-T in Patients with Ischemic Dilated CardiomyopathyINOVATE-HF: The Effect of Vagal Nerve Stimulation in Heart Failure: Primary Results of the INcrease Of VAgal TonE in chronic Heart Failure (INOVATE-HF) TrialIMPEDANCE-HF: Non-invasive Lung IMPEDANCE-Guided Preemptive Treatment in Chronic Heart Failure Patients: a Randomized Controlled Trial (IMPEDANCE-HF trial)Low Risk Chest Pain: Involving Patients with Low Risk Chest Pain in Discharge Decisions: A Multicenter TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日は心不全関連の演題が多く出されている。アリスキレンの演題の注目度が高いようだが、vagal stimulationなどの新たな試みも出てくるということで、心不全に関する新たな知見が期待される。Featured Clinical Research Session II<Session 416:4/4(月)2:00pm~3:30pm、Main Tent (Grand Ballroom S100bc)>PROMISE (Sex Differences): Sex Differences in Functional Stress Test vs CT Angiography Results and Prognosis in Symptomatic Patients with Suspected Coronary Artery Disease: Insights from the PROMISE TrialSTOP-CHAGAS: Short and Long Term Effects of Benznidazole, Posaconazole, Monotherapy and their Combination in Eliminating Parasites in Asymptomatic T. cruzi Carriers: The Study of Oral Posaconazole in the Treatment of Asymptomatic Chagas Disease (STOP-CHAGAS Trial)STAMPEDE: Bariatric Surgery vs. Intensive Medical Therapy for Long-term Glycemic Control and Complications of Diabetes: Final 5-Year STAMPEDE Trial ResultsVindicate: Vitamin D Supplementation Improves Cardiac Function In Patients With Chronic Heart Failure - Preliminary Results Of The Vitamin D Treating Chronic Heart Failure (vindicate) StudyRxEACH Trial: The Effect of Community Pharmacist Prescribing and Care on Cardiovascular Risk Reduction: The RxEACH Multicenter Randomized Controlled TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこのセッションにはさまざまなものが混じって入れられている。わが国にも関連があるのはsex differenceの演題かもしれないが、世界的にみるとCHAGAS病、肥満に対するbariatric surgeryなども重要な位置を占める。

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また新たに創薬のターゲットにされる脂質異常症関連遺伝子(解説:興梠 貴英 氏)-495

 2013年11月に発表されたAHA(米国心臓協会)の脂質異常症治療に関するガイドラインでは、動脈硬化性心血管疾患の発症リスクを有意に減少させるのはスタチンのみである、と結論付けている。その後、IMPROVE-IT試験でエゼチミブのスタチンへの上乗せ効果が認められたこともあり、臨床現場でも脂質異常症治療として、まずLDL-C低下が治療の第1選択肢となっている。しかし、LDL-Cを十分に下げても必ずしもイベント発症を完全に予防できるわけではなく、残存リスク低減のための新しい脂質異常症治療がいまだに求められており、たとえばAPOC3やLPAをターゲットにしたアンチセンス療法の治験が進みつつある。 Dewey氏らは、LPLを阻害することで中性脂肪濃度を上昇させる作用があるANGPTL4に機能喪失型の変異があるときにTG濃度が下がることを、4万2,930人を対象にエクソームシーケンスを行うことで調べ、さらに心血管系リスクも低下することを示した。また、この研究ではANGPTL4を低下させる抗体医薬をマウスおよびサルに対して投与し、TG濃度が下がることを確認している。 一方で、Angptl4のノックアウトマウスではTG濃度は下がるものの、高脂肪食を与えた場合には、小腸由来のリンパ管や腸間膜リンパ節に乳糜腹水を伴う脂肪肉芽腫様の炎症を起こし、寿命が短くなることが報告されており1)、本研究においても抗体医薬投与を受け、高脂肪食を与えられたマウスにおいて、脂肪を蓄積したツートン型巨細胞および腸管リンパ節の腫脹を認めている。 さらに、サルでもメスにおいてのみではあるが、腸管リンパ節に脂肪の蓄積を認めている。ANGPTL4に機能喪失型の変異を有する被験者のカルテ調査をした限りでは、腹部その他のリンパ関連疾患は見つからなかった、ということであるが、今後薬剤の開発が進んでいく中では、同様の副作用が出現しないか注目する必要があるだろう。 また、ターゲット遺伝子や蛋白の発現量を下げるための手法として、アンチセンスや抗体医薬は比較的開発しやすいのかもしれないが、脂質異常症があったからといって、ただちに生命の危機につながるわけではなく、逆に、薬物によって減らせるリスクがさほど大きくないことを考えた場合、高価になりがちな治療法が現実に用いられるようになるのかはやや疑問である。LPAのようにそれ自身に酵素活性などなく、遺伝子発現を抑えるしかない場合はともかく、それ以外の場合は将来的には(発見されれば、という条件付きではあるが)低分子薬が本命となるのではないか、と考えられる。

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スタチンは心臓手術後の急性腎障害を予防するか/JAMA

 スタチン未治療、既治療を問わず、心臓手術を受ける患者への周術期の高用量アトルバスタチン(商品名:リピトールほか)投与は、術後の急性腎障害(AKI)リスクを低減しないことが判明した。米国・ヴァンダービルト大学のFrederic T. Billings IV氏らが、二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、明らかにした。全体では有意差はないものの、投与群でリスクの増大が認められ、スタチン未治療患者では開始により有意なリスク増大が示された。スタチンについては、AKI発症機序に影響を及ぼす可能性が示されており、最近のいくつかの観察研究の解析報告で、スタチン既治療患者で心臓手術後のAKIリスク低減が報告されていた。ただし、それらの解析は検証が十分なものではなかった。JAMA誌2016年3月1日号掲載の報告より。スタチン未治療、既治療患者を対象に二重盲検プラセボ対照無作為化試験 試験は、ヴァンダービルト医療センターで、2009年11月~14年10月に成人の心臓手術患者を対象に行われた。 研究グループは、スタチン未治療患者(199例)について、アトルバスタチンを手術前日80mg/手術当日朝(開始3時間以上前)40mg/術後入院期間中AM10時に40mgを投与する群(102例)、または適合プラセボ群(97例)に無作為に割り付けた。また、試験登録時にスタチン治療を受けていた患者(416例)については、手術日まで同処方投与を続け、アトルバスタチンを手術当日朝(開始3時間以上前)80mg/術後はAM10時に40mgを投与する群(206例)、または適合プラセボ群(210例)に無作為に割り付けた。既治療群は手術翌日に既処方のスタチン投与を再開した。 主要エンドポイントは、AKIの発症で、手術後48時間以内の血清クレアチニン値0.3mg/dL上昇(Acute Kidney Injury Network基準)で定義した。プラセボ群と有意差なし、未治療患者では周術期開始でリスクが増大 本試験は、スタチン未治療でアトルバスタチンを投与されたCKD(eGFR<60mL/分/1.73m2)患者でAKI発症の増大が認められ、データ・安全モニタリング委員会が早期中止を勧告した。試験を完了し解析に組み込まれた患者は615例(中央値67歳、女性30.6%、糖尿病患者32.8%)であった。 全被験者(615例)で、AKI発症は、アトルバスタチン群64/308例(20.8%)、プラセボ群60/307例(19.5%)であった(相対リスク[RR]:1.06、95%信頼区間[CI]:0.78~1.46、p=0.75)。 スタチン未治療患者(199例)では、AKI発症は、アトルバスタチン群22/102例(21.6%)、プラセボ群13/97例(13.4%)でみられた(RR:1.61、95%CI:0.86~3.01、p=0.15)。血清クレアチニン値の上昇は、アトルバスタチン群中央値0.11mg/dL(第10~90パーセンタイル値:-0.11~0.56mg/dL)、プラセボ群中央値0.05mg/dL(同:-0.12~0.33mg/dL)であった(中央値差:0.08mg/dL、95%CI:0.01~0.15mg/dL、p=0.007)。 スタチン既治療患者(416例)では、AKI発症は、アトルバスタチン群42/206例(20.4%)、プラセボ群47/210例(22.4%)であった(RR:0.91、95%CI:0.63~1.32、p=0.63)。術後の血清クレアチニン値の上昇は、両群間で有意差はなかった。 以上を踏まえて著者は、「結果は、心臓手術後のAKI予防目的のスタチン開始治療を支持しないものであった」と結論している。

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Vol. 4 No. 3 ACC/AHA 脂質管理ガイドラインコントロバーシー その経緯と現在の考え

荒井 秀典 氏国立長寿医療研究センターはじめに米国のNHLBI(National Heart, Lung, and Blood Institute)が中心となって作成したNCEP-ATP III(National Cholesterol Education Program-Adult Treatment Panel)のガイドラインが2001年に発表され、そのガイドラインが2004年に改訂された。心筋梗塞、脳卒中などの動脈硬化性疾患の予防のための脂質管理に関しては、本ガイドラインが作成された米国だけでなく、アジアを含め多くの国々で脂質管理のガイドラインとして使われてきたと思われる。2008年頃よりNCEP-ATP IIIの改訂版であるNCEP-ATP-IV作成に向けた作業が行われていたが、結局NHLBIはその作成を断念せざるをえなかったと聞く。その後、American College of Cardiology(ACC)とAmerican Heart Association(AHA)という米国を代表する循環器の学会が、NHLBIと共同で動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)のリスクを減少させるための脂質異常症治療に関するガイドラインを2013年11月に発表した1)。そのガイドラインは、これまでのガイドラインから180度転換を図るものであった。ACC/AHAガイドラインは、脂質異常症に関する3つのcritical questions(CQ)に対する回答の形で作成されており、質の高いrandomized controlled trial(RCT)とメタ解析の論文を中心に系統的にレビューし、作成された。したがって、フォローアップ期間の短いRCTやRCTのサブ解析などは採用されていない。ACC/AHAガイドラインは、これまで数多く実施されてきたスタチンによるRCTおよびそのメタ解析の結果をもとに脂質管理の指針が出された結果となっている。このため、実臨床とは解離したガイドラインとの批判もある。メタ解析についてはCholesterol Treatment Trialists' collaborationなどのメタ解析の結果から2-4)、ハイリスク群における高用量スタチンを推奨するガイドラインとなっている。スタチンによるASCVD発症予防効果が期待できる4つのグループを同定設定されたCQに対してシステマティックレビューを行った結果、スタチン治療による多くの心血管イベント抑制を示すエビデンスおよびそのメタ解析より、治療が有益と判断される以下の4つの患者群が同定された。その4つの患者群とは、「ASCVDを有する患者(2次予防患者)」、「LDL-コレステロール(LDL-C)が190mg/dL以上の患者(続発性は除く)」、「LDL-Cが70~189mg/dLで40~75歳のASCVD既往のない糖尿病患者」、「LDL-Cが70~189mg/dL、ASCVD既往も糖尿病もない40~75歳で、10年間のASCVDリスクが7.5%以上(10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる計算に基づく)の患者」である。治療方針は、図に示すようなアルゴリズムに従って決定される。まず、2次予防で75歳以下の患者に対しては高用量スタチンによる治療を行うべきであり、76歳以上の患者には中用量スタチンによる治療を行う。1次予防においては、家族性高コレステロール血症など極めて冠動脈疾患の発症リスクの高い原発性高脂血症に対する治療の必要性から、LDL-Cが190mg/dL以上で21歳以上であれば、高用量スタチン治療を行う。わが国のガイドラインにおいてもLDL-Cが180mg/dL以上ある場合には家族性高コレステロール血症の可能性が強くなるため、スタチン治療を考慮すべきであるとしているが、家族性高コレステロール血症でなければ、高用量スタチン治療を推奨しているわけではない。次に40歳から75歳までの糖尿病患者は1型、2型を問わずスタチン治療が推奨されている。なかでも10年間のASCVD発症リスクが7.5%以上の患者においては高用量スタチンが、それ以外では中用量スタチンによる治療が推奨される。4つめのグループとしては、2次予防でもLDL-C 190mg/dL以上でも糖尿病でもなくても、10年のASCVD発症リスクが7.5%以上の群であり、この基準を満たす場合にはスタチン治療の適用となる(表)。このように、治療方針決定のための判断材料としては、10年間のASCVD発症リスクを用いる以外は理解しやすく、治療を行う医師は高用量か中用量のスタチンを選べばよいということで、decision makingが容易となっている。図 動脈硬化性疾患予防のためのスタチン治療の推奨画像を拡大する表 高用量、中用量スタチンの治療対象画像を拡大するLDL-Cおよびnon HDL-Cの管理目標値は設定しない本ガイドラインでは、LDL-Cやnon HDL-Cの管理目標値を設定せず、図に示すように高用量(50%以上のLDL-C低下)あるいは中用量(30~50%のLDL-C低下)のスタチンによる治療が推奨されている。その理由は特定のLDL-Cを目標として(例えば、130mg/dL未満と100mg/dL未満でどちらのグループでよりイベント発症が少ないかなど)比較をしたRCTがないからであると説明されている。わが国の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版でも20~30%のLDL-C低下を目標とすることも考慮すると記載されており、LDL-Cの管理目標値を決定するに足るエビデンスは現状ではないことに関して異論はないが、日本の実臨床の場では管理目標値があったほうが治療しやすく、アドヒアランスを維持するためには管理目標値が必要であると考えている。したがって、動脈硬化性疾患予防ガイドラインにあるようにLDL-Cの管理目標値を考慮しながら治療にあたるというのがより実際的ではなかろうか。なお、動脈硬化性疾患予防ガイドラインではLDL-Cの管理目標を設定しているが、“脂質管理目標値は到達努力目標値である”ことも認識すべきである。すなわち、100%その値をクリアすることを求めているわけではない。また、ASCVD予防のための脂質低下治療に関しては、高用量、中用量のスタチンのみが推奨されているが、わが国の保険診療では認められていない用量が推奨されている。非常にリスクが高い場合には、高用量スタチンが選択されるであろうが、日本で認められている最大用量のスタチンを用いることになるであろう。さらに、スタチン以外の薬剤でASCVDの発症リスクを有意に減少させる、あるいはスタチンとの併用で相加的なリスク減少が得られるとのエビデンスは得られなかったとされているが、JELISやACCORD Lipidのサブ解析などのエビデンスも考慮し、わが国のガイドラインでは、スタチン以外の薬剤の使用についても妥当としている。1次予防のための包括的リスク評価本ガイドラインにおいては、米国における5つのコホート研究10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる計算に基づく。年齢、性別、人種(アフリカ系アメリカ人かそれ以外)、総コレステロール、HDL-C、収縮期血圧、降圧剤内服の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無により、その患者の10年間のASCVD発症リスクが計算される。また、生涯リスクも計算される。しかしながら、このリスクチャートをアジア人に適用することは、リスクの過大評価につながることは容易に想像できる。すでに欧米人の解析でも、NCEP-ATP IIIを適用した場合と比べて、スタチンの治療対象となる患者がかなり増加するとの試算もある。例えば、60歳以上の高齢者はほとんどがスタチンによる治療対象となるといわれている。このようにスタチン治療の適応範囲を広げることは、日本人における動脈硬化性疾患発症リスクを考えても現実的ではない。現在わが国のガイドラインでは、NIPPON DATA80を元にしたリスクチャートを用いており、これが日本人のリスク予測には妥当と考えている。ただ、死亡がエンドポイントとなっているため、今後は発症をエンドポイントとしたリスク評価手法を検討していく必要性はあろう。なおこのガイドラインでは、当然ではあるが、スタチン治療を開始する前に患者とのdiscussionが必要であると述べられており、正しい方向性である。安全性への配慮本ガイドラインでは、採用したRCTの成績に基づいて安全性に関する推奨を行っているが、特にスタチンによる糖尿病の新規発症、筋症(CK上昇を伴わないケースも多い)、認知機能低下などである。スタチンによる糖尿病の新規発症に関してはメタ解析の結果も発表されており、明らかであるが、スタチンによる心血管イベント抑制効果をしのぐものではない。また、メタ解析の結果からスタチンによる糖尿病の新規発症は用量依存性であり、スタチンの用量が少ない日本においては糖尿病の新規発症が欧米に比べ低いことが予想できる。スタチンによる糖尿病の新規発症のメカニズムは十分に明らかになっておらず、今後の検討課題である。バイオマーカーや非侵襲性検査の役割本ガイドラインにおいて、すでに述べたように年齢、性別、人種、総コレステロール、HDL-C、収縮期血圧、降圧剤内服の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無が主要な危険因子であり、これらの危険因子により計算された10年間のASCVD発症リスクが7.5%未満の際に、高感度CRP、冠動脈のカルシウムスコア、ankle brachial index(ABI)などのバイオマーカーあるいは非侵襲性検査を用いることも考慮してよいとなっているが、そもそも慢性腎臓病(CKD)がリスクとしてカウントされておらず、日本でよく使用されている頸動脈エコーについてもエビデンスの欠如から採用されていない。頸動脈エコーについては、もちろん症例を選ぶべきではあろうが、治療の意欲やアドヒアランスを考えると有用な検査であろう。もちろん、エビデンスの蓄積をさらに進めるべきである。脂質異常症ガイドラインの今後の方向性本ガイドライン作成委員は、本ガイドラインがASCVD抑制のみにフォーカスしたガイドラインであり、脂質異常症の包括的なマネジメントのためのガイドラインではないことは認めている。したがって、今後実施すべき臨床試験について以下のように記載している。すなわち、高TG血症の治療はどうすべきか、non HDL-Cを治療ターゲットとできるか、アポB、Lp(a)、LDL粒子数などのマーカーがリスク評価に使えるか、治療方針決定のための最もよい非侵襲検査はなにか、生涯ASCVDリスクは使えるか、心不全や透析患者のなかでスタチンの恩恵を受けることができるのはどのようなグループか、スタチンによる新規糖尿病発症の長期的な影響はどうなのか、RCTから除外されているグループ(HIV患者、臓器移植患者)へのスタチンの効果はどうなのか、などである。いずれも重要なテーマであるが、RCTにそぐわないものもあり、観察研究などの結果もガイドラインに反映させるべきであろう。まとめ今回のACC/AHAガイドラインの特徴の1つは、脂質管理目標値を設定しないことである。ACC/AHAガイドラインにおける治療指針はスタチンによるRCTのみに基づいているため、LDL-Cを中心とした管理のみが強調されている点は注意が必要であり、レムナントなど他の脂質マーカーにも着目して、残余リスクの管理を考慮しながら治療にあたるべきである。今後、ガイドラインの作成は、ACC/AHAガイドラインのようにRCTのみをベースとしたものになる可能性が高いが、時間、コストなどの問題を考えると観察研究などのエビデンスもある程度は取り入れながら、ガイドラインの作成を行うことが現実的ではないかと思われる。文献1)Stone NJ et al. 2013 ACC/AHA guideline on the treatment of blood cholesterol to reduce atherosclerotic cardiovascular risk in adults: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation 2014; 129: S1-45.2)Baigent C et al. Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90,056 participants in 14 randomised trials of statins. Lancet 2005; 366: 1267-1278.3)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaboration et al. Efficacy and safety of more intensive lowering of LDL cholesterol: a meta-analysis of data from 170,000 participants in 26 randomised trials. Lancet 2010; 376: 1670-1681.4)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaborators et al. The effects of lowering LDL cholesterol with statin therapy in people at low risk of vascular disease: meta-analysis of individual data from 27 randomised trials. Lancet 2012; 380: 581-590.

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Vol. 4 No. 3 巻頭座談会 脂質管理の今を整理する  循環器医に必要な知識はなにか?

宮内 克己 氏順天堂大学大学院 医学研究科循環器内科森野 禎浩 氏岩手医科大学 内科学講座循環器内科分野2013年秋にACC/AHAが発表したコレステロール管理ガイドラインは、臨床現場に大きな議論をもたらした。LDLコレステロールの治療目標はどうあるべきか?treat to targetか? fire and forgetか?the lower, the betterの解釈は?最近のエビデンスも踏まえ、現時点の脂質管理のあり方を整理する。LDL-C高値による心血管疾患の発症リスク森野: 冠動脈疾患患者の2次予防において、脂質管理は重要な課題です。1989年に初のスタチン、2000年にストロングスタチンが登場したことで、われわれの脂質管理は大きく変化しました。一方、スタチンで抑制できない残存リスクも明らかとなり、新しい脂質異常症治療薬の開発も進んでいます。本誌の読者はすでに脂質管理について十分な知識をおもちと思いますが、そのうえで脂質管理をどう行うべきかについて、オピニオンリーダーとして多くのエビデンスを発信されている宮内先生にお話をうかがいながら、知識を深めていきたいと思います。宮内先生、よろしくお願いいたします。はじめにLDLコレステロール(LDL-C)に関する研究や考え方についてまとめていただけますでしょうか。宮内: LDL-Cが高ければ予後が悪く、下げれば予後が改善するというLDL-C仮説は、もともと高LDL-C血症が心筋梗塞のリスクであるという疫学研究、家族性高コレステロール血症(FH)では早発性の心筋梗塞が認められるという臨床的観察、動物にコレステロールを負荷すると粥状硬化が認められるという実験の3つが根拠となっています。ここでもう一度、近年の研究について見直してみます。疫学研究については、20代男子大学生約1,000人を30~40年追跡した米国の調査で、総コレステロール高値が心血管イベントに関与することが1993年に報告されました1)。この研究で注目されるのは、追跡後15~20年以降にイベント発現の差がみられ始めた点です。つまり、コレステロール高値が何年つづいているかの“積分”が重要であることを意味しています。このことは、家族性高コレステロール血症をみるとよくわかると思います。未治療の場合、非FHの脂質異常症では55歳で累積LDL-Cが心血管イベント発症閾値に達するのに対し、ヘテロ接合体FHでは35歳、ホモ接合体FHでは12.5歳で到達すると推定されています2)。日本の疫学調査としては、心血管疾患の既往歴のない一般住民を22年間追跡したCIRCS研究において、冠動脈疾患発症リスクが有意に増加するLDL-Cの閾値は80mg/dLであることが示されています3)。LDL-Cはthe lower, the better宮内: 次に、これまでのスタチンを用いた介入試験の結果をまとめると、2次予防も1次予防もイベント減少はLDL-C低下と相関していることは明らかです(図)4,5)。2次予防は70mg/dL、1次予防は100mg/dLまでのエビデンスが構築されています。CTT(Cholesterol Treatment Trialists')の2010年のメタ解析では、介入前のLDL-Cにかかわらずスタチンは心血管イベンの相対リスクを22%減少させることが認められました6)。急性冠症候群(ACS)は発症後早期からアトルバスタチン80mgを投与することで、非投与群に比べ心血管イベントが有意に低下することもMIRACL試験で示されています7)。こうしたことから、2012年のESC/EAS(欧州心臓病学会/欧州動脈硬化学会)脂質異常症管理ガイドラインでは「ハイリスク患者はLDL-C 100mg/dL以下、 2次予防ハイリスク患者はLDL-C 70mg/dL以下、ACSは入院中にストロングスタチン高用量をLDL-C値に関係なく早期に使用すること」が推奨されることになったわけです。そして、2013年、ACC/AHA(米国心臓病学会/米国心臓協会)は動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease : ASCVD)予防のためのコレステロール管理ガイドラインを発表し、スタチンの有用性が期待できる4つの患者群を示したうえで、ASCVD患者にはストロングスタチンを高用量で使用すべきと、いわゆる“fire and forget”の概念を提唱したのです。森野: この、fire and forgetの考え方はさまざまな議論を呼びましたね。宮内: これまでの研究で、LDL-C値は70mg/dL以下にすべきことはわかってきたけれども、それをターゲットにすることは、裏を返せば70mg/dL以下は介入しなくてよいということになります。しかしそのようなエビデンス、つまりどこまで下げればリスクが最も小さくなるかというエビデンスはないわけです。一方で、スタチンによりLDL-Cを下げすぎても死亡率は増加しないというデータはあります。こうしたことから、目標値は設定しないという考え方がでてきたのだと思います。英国のコホート研究でも、急性心筋梗塞(AMI)発症後にスタチンを中止すると、AMI前後ともスタチン未使用者より予後が有意に悪いことが示されています8)。この結果は、まさにfire and forgetの重要性を示唆していると思います。森野: 日本では、既往があればLDL-Cに関係なく高用量スタチンを投与するという欧米の考え方に違和感をおもちの先生方は少なくないと思いますが、その背景をあらためて振り返ってみると理解しやすいですね。宮内: LDL-Cは“lipid-modifying treatment、the lower, the better”が世界の潮流となっています。図 LDL-C値と冠動脈疾患イベント発症率の関係画像を拡大する超ハイリスク患者ではLDL-Cが低下してもスタチン継続を森野: そうしますと、2次予防ではLDL-Cが正常値でも介入が必要ということでしょうか。宮内: 2012年のCTTメタ解析では、5年間で起きる心血管イベントリスクで5群に分けてみても、リスクに関係なくスタチンによるLDL-C低下に比例して心血管イベントが減少することが示されました9)。どの群でも、心血管イベント数の減少率は同じです。しかしよくみると、絶対数は、当然ながらリスクが高いほど大きいことがわかります。また、最近、IMPROVE-IT試験の結果が発表され、ACSによる入院10日以内のハイリスク患者はスタチン+エゼチミブでLDL-C値を約55mg/dLに低下させると、スタチンのみで約70mg/dLに低下させた場合に比べ、心血管イベントのリスクが7年間で6.4%減少と、軽度ながら有意差が認められました10)。この試験は、スタチンスタチン以外の薬剤を併用することでさらなるLDL-C低下をめざした治療の有効性が示された点で、たいへん注目されています。ただし、どのような患者群で脂質低下によるイベント減少効果が大きかったかを層別解析でみてみると、有意差が認められたのは糖尿病群と非糖尿病群の間だけでした。つまり、ACSかつ糖尿病という超ハイリスク患者ではthe lower, the betterが証明されたということです。実際は、全体でみても今回の結果はこれまでの臨床試験で示されているLDL-C低下と心血管イベント低下の直線上に乗っており、the lower, the betterを示した点で非常に価値の高い試験といえます。また、この結果を導いたのが特に超ハイリスク患者であることに大きな意義があると思います。森野: 見事にほぼ直線ですね。日本人でも、このthe lower, the betterがあてはまるでしょうか。宮内: 傾きは違うと思いますが、ほぼ直線になるという印象はもっています。これまで日本人でハードエンドポイントをめざした大規模臨床試験はありませんでしたが、現在、慢性冠動脈疾患患者を対象に積極的脂質低下療法と通常療法を比較するREAL-CAD試験が行われており、その結果が出ればはっきりすると思います。日本人でも超ハイリスク患者はthe lower, the better森野: 実際のところ、日本人の場合、LDL-Cの管理はどうすべきとお考えですか。宮内: 日本人のエビデンスには、ESTABLISH、JAPAN-ACS、COSMOS試験などがあります。前2者がACS、後者が安定型冠動脈疾患を対象に、冠動脈プラークの進展・退縮を検討した試験ですが、いずれも日本で使用可能なストロングスタチンの最大用量によりLDL-C値は80mg/dLまで低下し、プラーク退縮が認められました。代替エンドポイントですが、プラーク退縮に依存してイベントが減少することが示されており、2次予防ではスタチンの最大用量を少なくともある一定期間は用いたほうがよいと考えています。森野: 実地医家の多くが最大用量は使っていないのが現状ですね。宮内: 日本人のエビデンスがないからだと思います。森野: JAPAN-ACSでは、糖尿病群でプラークの退縮率が悪かったという結果でしたね。宮内: はい。おっしゃるとおり、糖尿病患者も非糖尿病患者もLDL-Cの低下はほぼ同じでしたが、プラーク退縮率は13%および19%で、糖尿病群が低値でした。そこで当院では、より大きなLDL-C低下により退縮率がどうなるかを検討するため、ACS患者を対象にスタチン+エゼチミブ併用療法とスタチン単独を比較するZEUS(eZEtimibe Ultrasound Study)を行いました。IMPROVE-IT試験が発表される前のことです。結果は、LDL-Cの低下は糖尿病の有無にかかわらず併用群で大きかったのですが、プラーク退縮率は非糖尿病患者では単独群と併用群で差はなかったのに対し、糖尿病患者では併用群のほうが有意に大きいことが認められました11)。森野: ACSや糖尿病患者では、より厳格なLDL-C低下をめざすことで大きなベネフィットが得られるということですね。宮内: はい。ZEUSの結果が意味するところはIMPROVE-IT試験と同じであり、日本人でも超ハイリスク患者ではthe lower, the betterといえるのではないかと思っています。さらなるLDL-Cの低下をめざして森野: the lower, the betterということは、いったいどこまで下げればよいのでしょうか。宮内: 胎児レベルまでLDL-Cを低下させると心血管イベントを減少できるのではないかと考えられています。つまり、イベントがゼロになるLDL-Cのポイントがあって、それが胎児の値の25~29mg/dLといわれています12, 13)。そこで、LDL-Cを約30mg/dLまで低下させたらどうなるかという仮説のもと、盛んに研究が行われています。そのなかで注目されているのが、LDL-C受容体とPCSK9です。PCSK9は、周知のとおり2003年にFHの原因遺伝子として同定されたプロテアーゼで、LDL受容体と結合しこれを分解します。PCSK9があるとLDL-Cは肝臓表面のLDL受容体に結合し受容体ごと貪食されるため、LDL受容体のリサイクルが障害され血中からのLDL-C取り込みが低下、すなわちLDL-C値が増加しますが、PCSK9がないとLDL-Cのみが貪食されLDL受容体はリサイクルされて肝臓表面に戻るため血中からのLDL-C取り込みが高まり、LDL-C値が低下します。このメカニズムに着目して開発されたのがPCSK9阻害薬です。日本でも抗PCSK9モノクローナル抗体製剤の臨床開発が進んでいます。evolocumabはすでに2015年3月に承認申請がなされ、alirocumabは第III相試験を終了し、ほかにbococizumabとLY3015014はそれぞれ第II/III相および第II相試験が行われているところだと思います(CareNet.com編集部注:本記事は2015年9月発行誌より転載)。最近、evolocumabとalirocumabの長期成績が発表され、どちらもスタチンに併用することでLDL-Cを低下させ、心血管イベントを減少させることが示唆されました。この2剤の臨床試験24件、合計約1万例のメタ解析でも、全死亡、心血管死、心筋梗塞ともに約50%リスクを減少すると報告されています14)。森野: ここまでのところをまとめますと、LDL-Cの高さと持続期間の積分が重要という概念は理解しやすく、介入後もやはり10年、15年というスパンで考えなくてはならないことがよくわかりました。将来的にはストロングスタチンよりさらに強力にLDL-Cをコントロールできる時代が来ると思われますが、いまは高用量のストロングスタチンがベストセラピーであり、若年者ほどより早期に介入されるべきということですね。宮内: はい。若年といっても2次予防の患者さんは40代、30代後半になると思いますが、LDL-C値に関係なく積極的に介入すべきだと考えています。HDL-Cを増やしても心血管リスクは減らない森野: 次にHDLコレステロール(HDL-C)の話題に移りたいと思います。一般的に若年者はHDL-Cが低くLDL-Cはそれほど高くないので、薬物介入が難しいのが現状です。宮内: そうですね、特に若年者ではHDL低値が非常に影響することは事実だと思います。日本人を対象とした調査では、HDL-Cが40mg/dL以下で虚血性心疾患、脳梗塞の合併率が高いことが示されています。森野: 残存リスクとしてHDL-Cはやはり重要なのでしょうか。つまり、スタチンを十分使っていてもHDL-C低値はイベントリスクに関与するんでしょうか。宮内: その点について非常に重要な示唆を与えてくれるのが、TNT試験の事後解析です。LDL-Cで層別化した場合、70mg/dL未満であってもHDL-Cが最低5分位群は最高5分位群より心血管疾患リスクが高いことが示されました15)。やはりカットオフ40mg/dLを境に、HDLが低くなるとイベントが多くなることが明らかになっています。森野: そうすると、次のステップは介入ということになりますが、その方法はありますか。宮内: HDL-Cの増加にはコレステリルエステル転送タンパク(CETP)が重要と考えられています。簡単にいえば、HDL-CはCETPによって分解されるので、これを阻害すればHDL-Cが増え、LDL-Cを引き抜いてくれるだろうという理論になるわけです。実際、CETP阻害薬としてdalcetrapib、torcetrapib、anacetrapib、evacetrapibなどの開発が進められています。しかし残念ながら、dalcetrapibはHDL-Cが30~40%増加したものの心血管イベント抑制効果は認められず、torcetrapibもHDL-Cが増加しLDL-Cが減少したものの全死亡と心血管死が増加し、いずれも開発中止となりました。そのほか、ナイアシンやフィブラート系薬でも検討されていますが、いずれにおいても心血管イベント低下は示されていません。HDL-C低値は、確かに悪影響を及ぼしているけれども、薬物介入によってHDL-Cを増加させてもポジティブな結果は得られていない、というのが現状です。森野: CETP阻害薬の場合、HDLはmg/dLという量でみると増えていますが、働く粒子の数はむしろ減っているのではないかという議論がありますね。宮内: 賛否両論があって、現時点でははっきりした結論は出ていません。森野: LDL-Cをターゲットにして、結果としてHDL-Cが増加することがあると思いますが、それはどうなのでしょうか。宮内: 最近、スタチンやナイアシン投与によりHDL-Cが有意に増加するけれども、メタ回帰分析を行うとLDL-Cで調整したHDL-C増加はイベントリスクと関連していないことが報告されています16)。森野: ということは、スタチンで副次的にHDL-Cが増えることは意味がないと。宮内: はい。もともとその増加量は絶対値でみるとわずかですから、ポジティブな結果は出ないと思います。中性脂肪も介入の効果は確立されていない森野: 中性脂肪の管理についてはいかがでしょうか。LDL-Cと中性脂肪の両方が高い場合はどうするか、いまだに悩ましい問題です。宮内: 中性脂肪が残存リスクであることは間違いありません。当院で1984~1992年に血行再建を行った連続症例を約11年追跡したところ、試験開始時の空腹時中性脂肪値が心血管死と有意に関連しており17)、200mg/dLがカットオフであることが推察されました。実はPROVE IT-TIMI22試験の事後解析でも、LDL-C 70mg/dL未満の症例のみでは中性脂肪200mg/dL以上で200mg/dL未満よりACS後30日以内の心血管イベントリスクが有意に高いことが報告されています18)。これらの結果から、2次予防における中性脂肪のカットオフ値は200mg/dLと考えられます。ただし、介入試験のデータはほとんどないのが現状です。唯一、ポジティブな結果が得られているのは高リスク2型糖尿病患者を対象としたACCORD試験で、中性脂肪204mg/dL以上かつHDL-C 34mg/dL以下の患者のみフィブラート併用の有効性が認められました19)。森野: そうしますと、HDL-Cも中性脂肪も残存リスクとしての価値があることはわかっているけれども、薬物介入の有効性は証明できていないので、脂質管理において重要なのは、やはりスタチン高用量といえるわけですね。宮内: ええ。ただし、運動と食事療法が重要であることはいうまでもありません。脂肪酸の重要性と介入の可能性森野: 食事療法といえば、最近は脂肪酸がたいへん注目されています。現在、宮内先生が中心となり大規模介入試験も進行中ですが、その話題も含め脂肪酸に関する知見をまとめていただけますか。宮内: 脂肪酸が注目されるきっかけになったのは、全国11保健所を拠点に多くの医療機関が共同で行っている長期コホート研究(JPHC研究)です。この研究は、心血管疾患と癌の既往のない40~59歳の日本人約41,000人を1990年~2001年まで追跡したもので、魚食に由来するn-3系脂肪酸摂取が2.1g/日と多い群は、少ない群(0.3g/日)に比べCHD発症リスクが有意に低いことが示されました20)。興味深いことに、血中EPA・DHA濃度が高い方は脂質コアが小さくて線維性皮膜が厚く、プラーク破綻を生じにくい性状であることもわかってきました。また、久山町研究でも、血清EPA/AA比は心血管疾患発症や死亡の有意な危険因子であることが示されました。血清EPA/AA比はEPA摂取量に依存することから、やはりEPAを多く摂取するとイベントが少ないといえると思います。では介入したらどうなるか。動物実験では、ApoE欠損マウスに西洋食または西洋食+EPAを13週間投与すると、動脈硬化病変は後者が前者の1/3と有意に少ないことが認められました。経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行した脂質異常を合併する安定狭心症またはACS患者を対象にスタチンまたはスタチン+高純度EPAを投与しプラークの性状を検討した報告では、9か月後、スタチン単独群に比べEPA併用群で線維性被膜厚の有意な増加、脂質性プラークの角度と長さの有意な減少が認められ、EPAは不安定プラークを安定化することが示されています。さらに、JELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)でも、冠動脈疾患の既往歴のある患者はスタチン+EPA併用により非併用と比べ心血管イベントが19%有意に減少することが認められ、その後の解析でも血漿EPA/AA比が高い群ほど冠動脈イベントの発症リスクは低く、1番高い群(血漿EPA/AA比1.06以上)は1番低い群(血漿EPA/AA比0.55以下)に比べ、突然心臓死または心筋梗塞の発症リスクが42%有意に低下することが示されました。これらの結果を踏まえ、現在、RESPECT-EPA試験が行われています。慢性冠動脈疾患患者約4,000例を対象に、対照群(通常治療)とEPA群(通常治療+高純度EPA製剤追加投与)にランダムに割り付けし、心血管イベント抑制効果を比較検討するもので、EPA/AA比とイベント発症との関連も検証する予定です。森野: たいへん興味深い試験で、結果が楽しみです。いまおっしゃったようなデータに基づいて考えると、魚を食べるという日本の食習慣が変化してきていることに危惧を感じますね。これは食育という学校教育の課題ではないかと常々思っています。宮内: 私も同じ意見です。教育、文化の見直しは非常に重要だと感じています。脂質管理で重要なのはー今後の課題森野: 最後に、循環器医に必要な知識としてなにかメッセージをお願いいたします。宮内: わが国における現在の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、2次予防におけるLDL-Cの管理目標値が100mg/dL未満と設定されていますが、根拠となる国内の大規模臨床試験はありませんし、しかも層別化されていないので不十分だと考えています。また、1次予防でいうところのハイリスク、すなわち糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患については特に考慮すべきと思います。これらハイリスク群は、1次予防においてLDL-C 120mg/dL未満と設定されていますが、2次予防と同じように扱い、スタチンの使用や生活習慣の改善に対する介入が大切だと思います。こうしてあらためて振り返ってみますと、繰り返しになりますが、食育をはじめとした教育の問題が重要で、今後は若い人に対してどのように啓発していくかも大きな課題といえるでしょうね。森野: 本日は「脂質管理のいまを整理する」というテーマで宮内先生とお話をしてきました。LDL-C、HDL-C、中性脂肪、そして脂肪酸と幅広くレビューしていただき、脂質管理についての知識を整理するとともに、現在のわが国における脂質管理の問題点や課題も認識できたのではないかと思います。宮内先生、ありがとうございました。文献1)Klag MJ et al. N Engl J Med 1993; 328: 313-318.2)Nordestgaard BG et al. Eur Heart J 2013; 34: 3478-3490a.3)Imano H et al. Prev Med 2011; 52: 381-386.4)Rosenson RS. Exp Opin Emerg Drugs 2004; 9: 269-279.5)LaRosa JC et al. N Engl J Med 2005; 352: 1425-1435.6)CTT Collaboration. Lancet 2010; 376: 1670-1681.7)Schwartz GG et al. JAMA 2001; 285: 1711-1718.8)Daskalopoulou SS et al. Eur Heart J 2008; 29: 2083-2091.9)CTT Collaboration. Lancet 2012; 380: 581-590.10)Cannon CP et al. N Engl J Med 2015; 372: 2387-2397.11)Nakajima N et al. IJC Metab Endocr & Endocrine 2014; 3: 8-13.12)清島 満ほか. 臨床病理 1988; 36: 918-922.13)Blum CB et al. J Lipid Res 1985; 26: 755-760.14)Navarese EP et al. Ann Intern Med 2015; 163: 40-51.15)Falk E et al. N Engl J Med 2007; 357: 1301-1310.16)Hourcade-Potelleret F et al. Heart 2015; 101: 847-853.17)Kasai T et al. Heart 2013; 99: 22-29.18)Miller M et al. J Am Coll Cardiol 2008; 51: 724-730.19)ACCORD Study Group. N Engl J Med 2010; 362: 1563-1574.20)Iso H et al. Circulation 2006; 113: 195-202.

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日本初の抗PCSK9抗体が承認取得、対象患者は?

 日本初の抗PCSK9(ヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)抗体として、高コレステロール血症治療薬「レパーサ皮下注」(一般名:エボロクマブ)が1月に製造承認を取得した。本剤の適応となる患者は、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)で効果不十分な、家族性高コレステロール血症(FH)または高コレステロール血症の患者である。では、心血管イベントのリスクが高い患者とはどのような患者なのだろうか。2月8日、都内で開催されたプレスカンファランス(主催:アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社)より、中村 正人氏(東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 教授)の講演をご紹介する。動脈硬化疾患の動向 動脈硬化による心疾患や脳梗塞が増加傾向にある中、致死的イベントにつながる不安定プラークの理解が進んでいる。しかし、不安定プラークから致死的イベントの予測は困難である。一方、プラークの進展が急激だとリスクが高いことが示唆されており、不安定なプラークを検出するよりも、リスクの高い患者を同定するほうがメリットが大きい、と中村氏は述べた。リスクの高い症例とは? これまでに、大規模研究により、複数の血管床にアテローム血栓症を有するpolyvascular disease、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、急性冠症候群(ACS)がリスク因子として挙げられている。これらの因子に加えて、これまで注目されていなかった因子として、家族性コレステロール血症(FH)が挙げられる。 FHヘテロ接合体はポピュラーな遺伝子疾患であり、北陸地方における調査では、LDLR変異またはPCSK9変異を有するFHヘテロ接合体患者は199人に1人であった。しかし、わが国でのFHの診断率は1%未満と低く、ほとんど診断されずにいると中村氏は指摘した。また、国内の研究において、ACS患者の少なくとも7~8人に1人がFHヘテロ接合体患者であることが示唆されている。 FHが見過ごされている理由として、中村氏は、急性心筋梗塞発症直後にLDL値が低下してしまっていること、スタチンの普及により疾患がマスクされていること、ルーチンでの診断(アキレス腱厚と家族歴の確認)が軽視されていることを挙げた。スタチン高用量でもリスクが残存 冠動脈疾患による死亡リスクを減少させるには、コレステロールの低下が最も寄与が大きいことが米国の研究で示唆されている。しかしながら、スタチン高用量を用いても、依然としてリスクが残存している。中村氏は、「ハイリスクの患者の治療において最も有効かつ確実な方法はLDLを低下させることである」と述べ、「抗PCSK9抗体という新しい選択肢が増えることは治療に有益である」と期待を示した。

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食道腺がん診断後のスタチン使用、死亡リスク低下に関連

 大規模な集団ベースコホート研究により、食道腺がんと診断された後のスタチン使用が、食道がん特異的死亡率と全死因死亡率の減少に関連しているということを、英国・ノーフォーク&ノリッチ大学病院のLeo Alexandre氏らが明らかにした。Gastroenterology誌オンライン版2016年1月8日号掲載の報告。 一般的にスタチンは、心血管疾患の予防や、アポトーシスの促進、食道がん細胞株の増殖抑制のために処方される。そこで著者らは、食道がんと診断された後のスタチン使用が、食道がん特異的死亡率と全死因死亡率の減少に関連しているかどうか調査した。 著者らは、一般診療研究データベース(GPRD)を使って2000年1月~2009年11月までの間に、食道がんと診断された英国の男性と女性(4,445例)のコホートを特定した。全国がんレジストリと国家統計局のデータセットにより、組織学的サブタイプ、がん特異的死亡率をそれぞれ割り出した。食道がんと診断された後のスタチン使用と、食道がん特異的死亡率および全死因死亡率との関係を、時間依存型Cox比例ハザード回帰分析により推定した。 主な結果は以下のとおり。・コホート全体の生存期間中央値は、9.2ヵ月(四分位範囲[IQR]:3.7~23.2ヵ月)だった。・食道がんと診断された後のスタチン使用者における生存期間中央値は14.9ヵ月(IQR:7.1~52.3ヵ月)で、スタチン非使用者では8.1ヵ月(IQR:3.3~20)だった。・コホート全体における診断後のスタチン使用は、食道がん特異的死亡リスクの減少(補正ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.44~0.86)、ならびに全死因死亡リスクの減少(HR:0.67、95%CI:0.58~0.77)に関連していた。・食道腺がん患者における診断後のスタチン使用は、食道がん特異的死亡リスクの減少(HR:0.61、95%CI:0.38~0.96)、ならびに全死因死亡リスクの減少(HR:0.63、95%CI:0.43~0.92)に関連していた。・この効果は、食道扁平上皮がん患者では認められなかった。・がん診断前にスタチンを使用した群では、効果修飾のエビデンスはなかった。

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高コレステロール血症治療に新風 国内初のPCSK9 阻害薬「エボロクマブ」承認

 アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社(本社:東京、代表取締役社長:高橋栄一)とアステラス製薬株式会社(本社:東京、代表取締役社長:畑中好彦)は、アステラス・アムジェン・バイオファーマが2016年1月22 日、高コレステロール血症治療薬エボロクマブ(遺伝子組換え)(商品名:レパーサ皮下注)について、厚生労働省より製造販売承認を取得した旨発表した。 エボロクマブはヒト IgG2 モノクローナル抗体で、ヒトプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を阻害する。PCSK9 は、LDL-Cを血中から取り除く肝臓の働きを低下させるタンパク質。心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA 還元酵素阻害剤(スタチン)で効果不十分な、家族性高コレステロール血症(FH)または高コレステロール血症を効能・効果とした皮下注射剤である。 複数の国内第III相試験において、スタチンなどの脂質低下療法にエボロクマブを追加したところ、LDL-C値の顕著な低下がみられた。心血管系リスク及びLDL-C値の高い日本人患者を対象とした第III相試験 YUKAWA-2試験では、異なる1日用量のアトルバスタチン併用下で、エボロクマブ投与群(140mg を2週間に1回または420mgを 4週間に1回)とプラセボ投与群を比較したところ、12週時点および10週と12週時点の平均のLDL-Cのベースラインからの低下率は67%~76%であった。エボロクマブ投与群で2%を超えて認められた有害事象は、鼻咽頭炎(エボロクマブ投与群16.8%、プラセボ投与群17.8%)、胃腸炎(エボロクマブ投与群3.0%、プラセボ投与群1.0%)および咽頭炎(エボロクマブ投与群、プラセボ投与群共に2.5%)であった。 家族性高コレステロール血症ホモ接合体(HoFH)の患者を対象とした国際共同非盲検単群試験 TAUSSIG試験では、LDL-Cのベースラインからの低下率は約23%であった。エボロクマブ投与患者で5%を超えて認められた有害事象は、鼻咽頭炎(9.0%)およびインフルエンザ(7.0%)であった。効能・効果家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症、ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA 還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る。効能・効果に関連する使用上の注意(1)適用の前に十分な診察及び検査を実施し、家族性高コレステロール血症又は高コレステロール血症であることを確認した上で本剤の適用を考慮すること。(2)家族性高コレステロール血症以外の患者では、冠動脈疾患、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、糖尿病、慢性腎臓病等の罹患又は既往歴等から、心血管イベントの発現リスクが高いことを確認し、本剤投与の要否を判断すること。用法・用量●家族性高コレステロール血症へテロ接合体及び高コレステロール血症:通常、成人にはエボロクマブ(遺伝子組換え)として140mgを2週間に1回又は420mgを4週間に1回皮下投与する。●家族性高コレステロール血症ホモ接合体:通常、成人にはエボロクマブ(遺伝子組み換え)として420mgを4週間に1回皮下投与する。効果不十分な場合には420mgを2週間に1回皮下投与できる。なお、LDL アフェレーシスの補助として本剤を使用する場合は、開始用量として420mgを2週間に1回皮下投与することができる。用法・用量に関連する使用上の注意HMG-CoA 還元酵素阻害剤と併用すること。[日本人における本剤単独投与での有効性及び安全性は確立していない。]アステラス製薬 プレスリリースはこちら(PDF)。

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肺/消化管の神経内分泌腫瘍へのエベロリムスの効果:RADIANT-4/Lancet

 肺または消化管原発の進行性神経内分泌腫瘍に対しエベロリムス(商品名:アフィニトール)を投与することで、病勢進行/死亡リスクは半減し、無増悪生存を有意に改善することが示された。安全性に関する所見は、エベロリムスにみられる既知の副作用だった。米国・テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターのJames C. Yao氏らが行った第III相の無作為化プラセボ対照二重盲検試験「RADIANT-4」の結果、報告した。肺または消化管原発の高分化型進行性神経内分泌腫瘍患者への効果的な全身療法はなかったが、今回の結果を踏まえて著者は「エベロリムスが同疾患に対する初となる標的薬剤である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2015年12月15日号掲載の報告。無増悪生存期間について画像中央判定 試験は2012年4月3日~13年8月23日にかけて、25ヵ国、97ヵ所の医療施設を通じ、肺または消化管の高分化型進行性神経内分泌腫瘍の患者302例を登録して行われた。 被験者を無作為に2対1に分け、205例にエベロリムス10mg/日を、97例にプラセボを投与し、いずれにも併せて最適な支持療法を行った。被験者は、腫瘍の原発部位、全身状態、ソマトスタチンアナログ製剤治療歴により階層化した。 主要エンドポイントは、無増悪生存期間(PFS)で、画像中央判定で評価した。キー副次エンドポイントは、全生存期間(OS)だった。PFS中央値、エベロリムス群11.0ヵ月、プラセボ群3.9ヵ月 結果、PFSの中央値は、プラセボ群が3.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:3.6~7.4)だったのに対し、エベロリムス群は11.0ヵ月(同:9.2~13.3)だった。エベロリムス群は、病勢進行または死亡リスクが52%低減した(ハザード比:0.48、同:0.35~0.67、p<0.00001)。 なお、当初の計画通りに行った全死因死亡リスクに関する中間分析の結果、エベロリムス群の死亡ハザード比は0.64(95%CI:0.40~1.05)で、有意差は認められなかった(片側検定p=0.037)。 Grade3/4の有害事象の発生率は、口内炎がエベロリムス群で9%に対しプラセボ群で0%、下痢がそれぞれ7%と2%、感染症が7%と0%など、いずれも低率だった。

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発症年齢、HbA1c、CKDが2型糖尿病患者の生命予後を規定する(解説:住谷 哲 氏)-453

 2型糖尿病患者の生命予後を改善するためのアプローチとしては、(1)2型糖尿病発症予防、(2)多因子介入(multifactorial approach)、(3)診断直後からの介入(legacy effect)が有用と考えられてきた。スウェーデンにおけるコホート研究である本論文は、これらのアプローチが正しかったことを支持すると同時に、その限界をも明らかにした点で重要である。 スウェーデン全国糖尿病レジスター(Swedish National Diabetes Register)に登録された2型糖尿病患者約40万例と、年齢・性別・居住地をマッチさせた対照患者約200万例を約5年間追跡した。これにより、スウェーデンにおけるほとんどの2型糖尿患者が網羅された。追跡期間中の総死亡率および心血管死亡率が比較されたが、重要なのは登録時の年齢、追跡期間中のHbA1c、アルブミン尿、eGFRによる層別解析がなされている点である。 2型糖尿病患者において、総死亡率の増加は年齢に関係なくHbA1cの上昇と単調に相関しており、全体ではHbA1cが1%上昇するごとに総死亡率は12%増加した。これはUKPDS35における疫学的検討の結果(総死亡率はHbA1c 1%の上昇につき14%増加)1)と一致していた。さらに総死亡率に関して、年齢とHbA1cとの間には交互作用を認めたが(p<0.001)、性別とHbA1cとの間には交互作用を認めなかった(p=0.21)。つまり、血糖コントロールが総死亡率に及ぼす影響は、年齢により異なるが性別による差はないことになる。表(原著Table 3)を詳細にみると、若年(<55歳)2型糖尿病患者においては、血糖コントロールが良好群(HbA1c<7.0%)の総死亡率のハザード比(HR)が1.92(95%信頼区間1.75~2.11)であり、不良群(HbA1c≧9.7%)では同4.23(3.56~5.02)であった。一方、高齢(≧75歳)2型糖尿病患者においてはそれぞれ0.95(0.94~0.96)、1.55(1.47~1.63)であり、血糖コントロールが総死亡率に及ぼす影響が、若年者に比較して減弱していることが示唆された。アルブミン尿、eGFRについても同様の解析がなされたが、HbA1cと同様に、高齢者においては若年者に比較して両者が総死亡率に及ぼす影響は減弱していた。 高齢(≧75歳)2型糖尿病患者におけるHbA1cの目標値を、どこに設定すべきか現時点でコンセンサスはない。この問題に対して、本論文は1つの答えを与えてくれると思われる。HbA1c 7.9~8.7%群における総死亡率のHRは、正常アルブミン尿群では1.01(0.97~1.05)、eGFR>60mL/min群では1.00(0.97~1.04)であり、対照群と差はなかった。したがって、正常アルブミン尿かつeGFR>60mL/minの高齢(≧75歳)2型糖尿病患者におけるHbA1cの目標値を8.7%以下とするのが1つの基準となるだろう。 これに反して、若年(<55歳)2型糖尿病患者においては、血糖コントロール良好(HbA1c<7.0%)かつ正常アルブミン尿群における総死亡率のHRは1.60(1.40~1.82)、HbA1c<7.0%かつeGFR>60mL/min 群においては1.73(1.55~1.92)であり、対照群に比較して有意に高値であった。この理由は明らかではないが、若年2型糖尿病患者群におけるスタチンおよびレニン・アンジオテンシンン・アルドステロン系阻害薬の服用率が、対照群に比較してそれぞれ8倍および5倍であったことを考慮すると、冒頭に述べた多因子介入のみでは、若年2型糖尿病患者における総死亡率抑制には不十分であることが示唆される。著者らが述べているように、禁煙の徹底、身体活動量の増加、新しい心血管保護薬の開発が必要であろう。 2型糖尿病患者の総死亡率は、対照群と比較して依然として高い。本論文により2型糖尿病発症年齢、血糖コントロール、アルブミン尿およびeGFRで規定される慢性腎臓病CKDが総死亡率の増加に関連することが再確認された。したがって2型糖尿病の発症をできるだけ遅らせること、早期からの多因子介入により良好な血糖コントロールを維持するとともに、CKD発症を予防することがきわめて重要であることも再認識する必要があろう。

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国の所得格差と心血管疾患2次予防薬の入手のしやすさ/Lancet

 世界の中・低所得国では、いまだに心血管疾患の2次予防薬が入手できない地域が多く、また世帯収入に比べ価格が高く入手しにくい状況も多いことが明らかにされた。パレスチナ・ビルゼイト大学のRasha Khatib氏らが、18ヵ国596ヵ所の都市部・農村部コミュニティが参加した前向き疫学調査「PURE研究」の結果、報告した。すでにPURE研究の結果として、心血管疾患の2次予防薬の利用率が世界的に低いことが報告されている。一方でWHOでは2025年までに、心血管疾患の2次予防薬が入手可能な地域の割合を80%に、服用適応者の服用率を50%にそれぞれ引き上げることを目標に掲げている。Lancet誌オンライン版2015年10月20日号掲載の報告より。世帯支払い能力の20%未満を「手頃」と定義 研究グループは2003~13年にかけて、PURE研究に参加するコミュニティを対象に、アスピリン、β遮断薬、ACE阻害薬、スタチンそれぞれの、入手可能性と価格について調査を行った。 調査時点で、薬が薬局にある場合には「入手可能」とし、また価格が世帯の支払い能力の20%未満であれば「手頃な価格」と定義した。低所得国では都市部25%、農村部3%のみで入手可能 その結果、高所得国では、4種の心血管疾患薬すべてが、61/64ヵ所(95%)の都市部で、27/30ヵ所(90%)の農村部で入手可能だった。高位中所得国で入手可能だったのは、都市部で53/66ヵ所(80%)、農村部で43/59ヵ所(73%)、低位中所得国ではそれぞれ69/111ヵ所(62%)、42/114ヵ所(37%)だった。さらにインドを除く低所得国ではそれぞれ、8/32ヵ所(25%)、1/30ヵ所(3%)だった。インドでは、都市部34/38ヵ所(89%)、農村部42/52ヵ所(81%)だった。 4種の心血管疾患薬の価格が「手頃」ではない可能性がある家庭の割合は、高所得国の0.14%、高中所得国の25%、低中所得国の33%、低所得国の60%、インドの59%だった。 また、中・低所得国では、4種すべての薬が入手不可能の場合、心血管疾患歴のある人が同4種の薬を服用する傾向は低く、オッズ比は0.16(95%信頼区間:0.04~0.57)だった。同4種すべてが入手可能であるコミュニティでは、価格が手頃ではない家庭で使用する傾向が低く、オッズ比は0.16(同:0.04~0.55)だった。

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常染色体優性多発性嚢胞腎〔ADPKD : autosomal dominant polycystic kidney disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義PKD1またはPKD2遺伝子の変異により、両側の腎臓に多数の嚢胞が発生・増大する疾患。■ 診断基準ADPKD診断基準(厚生労働省進行性腎障害調査研究班「常染色体優性多発性嚢胞腎ガイドライン(第2版)」)1)家族内発生が確認されている場合(1)超音波断層像で両腎に各々3個以上確認されているもの(2)CT、MRIでは、両腎に嚢胞が各々5個以上確認されているもの2)家族内発生が確認されていない場合(1)15歳以下では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々3個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合(2)16歳以上では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合※除外すべき疾患多発性単純性腎嚢胞(multiple simple renal cyst)腎尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis)多嚢胞腎(multicystic kidney 〔多嚢胞性異形成腎 multicystic dysplastic kidney〕)多房性腎嚢胞(multilocular cysts of the kidney)髄質嚢胞性疾患(medullary cystic disease of the kidney〔若年性ネフロン癆 juvenile nephronophthisis〕)多嚢胞化萎縮腎(後天性嚢胞性腎疾患)(acquired cystic disease of the kidney)常染色体劣性多発性嚢胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease)【Ravineの診断基準】(表)(家族歴がある場合の画像診断基準)画像を拡大する■ 疫学一般人口中に占める多発性嚢胞腎患者数(有病率)は、病院受診者数を基に調査した結果では一般人口3,000~7,000人に1人である。病院患者数に占める多発性嚢胞腎患者数は3,500~5,000人に1人、病院での剖検結果では被剖検患者約400人に1人である。メイヨー病院があるオルムステッド郡(米国)で1年間に新たに診断された患者数(発症率)は、一般人口1,000~1,250人あたり1人である。調査方法、調査年代、調査場所などにより、結果に差異が認められる。今後、治療薬が利用可能になると受療する患者数が増加し、有病率も増える可能性がある。■ 病因(図を参照)画像を拡大するPKD1またはPKD2遺伝子の変異による。PKD1は16p13.3、PKD2は4q21-23に位置する。PKD1とPKD2の遺伝子産物 polycystin 1(PC 1)とPC2はtransient receptor potential channel for polycystin(TRPP)subfamilyで、Caチャネルである。PC1とPC2は腎臓、肝臓、膵臓、乳腺の管上皮細胞、平滑筋と血管内皮細胞、脳の星状細胞に存在する。PCは腎臓上皮細胞、血管内皮細胞、胆管細胞などの繊毛に存在する。尿細管腔の内側に存在する繊毛は、尿細管液の流れに反応して屈曲する。屈曲によるshear stressはPCや繊毛機能に関係する蛋白を活性化し、細胞外と小胞体からCaイオンを細胞質内へ流入させ、細胞質内Ca濃度を高める。繊毛機能に関係する蛋白をコードする遺伝子異常が嚢胞性腎疾患をもたらすことが明らかとなり、繊毛疾患(ciliopathy)として概括されている。PKD細胞ではPC機能異常により、尿細管上皮細胞のCa濃度は低値である。細胞内Ca濃度が低下すると、cyclicAMP(cAMP)分解酵素(PDE)活性が低下し、またcAMPを産生するadenyl cyclase(AC)活性が高まり、細胞内cAMP濃度が高まる。その結果、cAMP依存性protein kinase A(PKA)機能が高まり、種々のシグナル経路(EGF/EGFR、Wnt、Raf/MEK/ERK、JAK/STAT、mTORなど)が活性化され細胞増殖が起きる。繊毛は細胞極性(尿細管構造形成)に関与しており、細胞極性機能を失った細胞増殖が起きる結果、嚢胞が形成される。また、PKAはcystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)を刺激し、嚢胞内へのCl分泌を高める。腎尿細管(集合管)に存在するバソプレシン(AVP)V2受容体は、AVPの作用を受け、ACおよびcAMP、PKAを介して水透過性を高める。この過程でcAMPは嚢胞を増大させる。ソマトスタチンはACを抑制するので、治療薬として期待される。■ 症状多くの患者は30~40代までは無症状で経過する。1)腎機能低下腎機能の低下と総腎容積は相関し、総腎容積が3,000mLを超えると腎不全になる確率が高い。しかし、3,000mLを超えない場合でも腎不全になる場合もある。腎不全による症状(疲労、貧血、食欲低下、皮膚搔痒など)は、他疾患による腎不全症状と同じである。透析導入平均年齢は55歳位であったが、最近では60歳近くになっている。患者全体では70歳で約50%が終末期腎不全になる。2)高血圧血管内皮機能の異常により高血圧を来すと考えられ、腎機能が低下する以前から発症する。60~80%の患者が高血圧に罹患している。高血圧になっている患者では腎臓腫大と腎機能低下の進行が速い。3)圧迫症状腎臓や肝臓の嚢胞(60~80%の患者に嚢胞肝が併存)が腫大するにつれて、腹部膨満感、少し食べるとお腹が張る、前屈が困難になる、背腰部痛、腹部痛などの圧迫症状が出現する。腎嚢胞は平均年5~6%の割合で増大するので、加齢とともに症状は進行する。4)脳血管障害脳出血、くも膜下出血、脳梗塞の発症頻度が高い。脳出血の原因として高血圧がある。脳動脈瘤の発生頻度(約8%)は一般より高い。5)血尿・尿路感染症血管の構築異常により血管が裂け、嚢胞内に出血し、疼痛を引き起こす。出血巣と尿路が交通すると血尿になる。また、変形した尿路のために尿路感染症を起こしやすい。嚢胞感染が起きると抗菌薬が嚢胞内に移行しにくいので難治性になることがある。6)その他尿路結石、鼠径ヘルニア、大腸憩室、心臓弁膜機能異常などの頻度が高い。■ 分類遺伝子の変異部位に応じて、PKD1とPKD2に分かれる。約85%はPKD1である。PKD1の方が症状は強く、腎不全になる平均年齢も若い。■ 予後生命予後に関するデータはない。腎機能に関しては症状の項参照。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断基準に準ずる。家族歴と画像検査(超音波、CT、MRIなど)で比較的正確に診断できるが、中には診断に迷う症例もあり、遺伝子診断が有用な場合もある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)トルバプタン(商品名: サムスカ)による治療AVP V2受容体拮抗薬トルバプタンは、ナトリウム利尿をあまり伴わない水利尿作用があり、低ナトリウム血症、体液貯留の治療薬として開発され、わが国では、2010年に心不全による体液貯留、2013年に肝硬変による体液貯留への治療薬として承認を受けている。2003年にモザバプタン(トルバプタンの前段階の薬)が、多発性嚢胞腎モデル動物に有効であると発表され、2007年から多発性嚢胞腎患者1,445名を対象として、トルバプタンの有効性と安全性を検討する国際共同治験が行われた。腎臓容積増大速度を約50%、腎機能低下速度を約30%緩和する結果が2012年秋に発表され、わが国において2014年3月に多発性嚢胞腎治療薬として承認され、臨床使用が始まっている。わが国での投薬適応基準は、総腎容積≧750mL、総腎容積増大速度≧年5%、eGFR≧15 mL/min/1.73m2などである。服用開始時には入院が必要で、その後月1回の血液検査で肝機能(5%程度に肝機能障害が発生する)、血清Na値(飲水不足で高Na血症になる)、尿酸値(上昇する)などのモニターが必要である。また、トルバプタンの処方医はWeb講習を受講し、登録する必要がある。2)高血圧の治療ARBが第1選択薬として推奨される。標準的降圧目標(120/70~130/80)とより低い降圧目標(95/60~110/75)との2群を5年間追跡したところ、より低い降圧群での総腎容積増大速度が低かったことが報告されているので、可能なら収縮期血圧を110未満にコントロールすることが望ましい。3)Na摂取制限Na摂取と腎嚢胞増大速度は相関するので、Na摂取は制限したほうがよい。4)飲水動物実験では飲水によって嚢胞の増大抑制効果が認められているが、人で飲水を奨励した結果では、逆に嚢胞増大速度とeGFR低下速度が増大したことが報告されている。水道水では、消毒用塩素の副産物ジクロロ酢酸に嚢胞増大作用があることが報告されている。多発性嚢胞腎患者では、腎機能が低下するにしたがい血清浸透圧とAVPが高くなることが報告されている。人における飲水効果には疑問があるが、脱水によるAVP上昇は避けるべきである。5)カフェインや抗うつ薬カフェインはPDEを抑制しcAMP濃度を上昇させ、嚢胞増大を促進する可能性がある。SSRI、三環系抗うつ薬などはAVPの放出を促進するため、多発性嚢胞腎では嚢胞増大を促進することが考えられる。6)開発中の薬剤(1)トルバプタン〔AVP V2受容体阻害薬〕は、大規模な臨床試験で腎嚢胞増大と腎機能悪化を抑制する効果が示され1)、わが国では2014年3月、カナダ、ヨーロッパでは2015年3月に認可が下りている。(2)ソマトスタチンアナログは小規模な臨床試験で肝臓と腎臓の嚢胞増大に有効と報告されているが、当局への申請を目的とする大規模な臨床試験は行われていない。(3)mTOR阻害薬であるシロリムスとエベロリムスの臨床試験が行われたが、副作用が強く臨床効果が認められなかった。7)腎動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: TAE)腎動脈を塞栓し、腎臓を縮小させることで症状の緩和をもたらす。すでに透析が導入され、尿量が1日500mL以下の患者が対象となる。8)腹腔鏡下腎嚢胞開創術、腎摘除術抗菌薬抵抗性または反復感染の原因になっている嚢胞が特定される場合、あるいは数個の嚢胞が特別に大きくなり圧迫症状が強い場合、腹腔鏡下に特定の嚢胞を開窓する手術が適応となる。出血が強い場合や、反復する嚢胞感染がある場合、患者に腎機能の予後をよく説明したうえで同意を前提として腎摘除術(腹腔鏡下腎摘除術も行われる)が選択肢となる。4 今後の展望1)最近の研究では、総腎容積増大速度が5%/年以下でも、腎不全に進行することが示されている。トルバプタン適応基準となった総腎容積増大速度≧5%/年の基準では、これら腎不全に進行する患者を除外することになる。2)トルバプタンの作用として利尿作用があるが、利尿作用を少なくする薬剤が望まれる。3)多発性嚢胞腎の進展機序は、cAMP-PKAを介する経路のみではないので、cAMP-PKA非依存性経路を抑制する薬剤開発が望まれる。4)肝臓嚢胞に有効なソマトスタチンアナログの臨床開発が望まれる。5 主たる診療科腎臓内科、泌尿器科、脳動脈瘤があれば脳外科(多発性嚢胞腎に関心の高い医師の存在)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報多発性嚢胞腎啓発ウエブサイト(杏林大学多発性嚢胞腎研究講座)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発性嚢胞腎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)常染色体多発性嚢胞腎(順天堂大学医学部泌尿器科)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ADPKD.JP (~多発性嚢胞腎についてよくわかるサイト~/大塚製薬株式会社)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報PKDの会(患者と患者家族の会)1)Torres VE,et al.N Engl J Med.2012;367:2407-2418.2)東原英二 編著.多発性嚢胞腎~進化する治療最前線~.医薬ジャーナル;2015.3)Irazabal MV, et al. J Am Soc Nephrol.2015;26:160-172.公開履歴初回2013年04月18日更新2015年10月27日

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