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盲目的で残念な研究~出血リスクスコアの意義を考える~(解説:西垣 和彦 氏)-530

抗凝固薬の宿命 抗凝固薬は、心房細動により惹起される重篤な心原性脳血栓塞栓症を予防し、臨床的に有用である。しかし反面、出血という副作用の発生率は確実に助長させる。それは、いわば抗凝固薬の持つ相反性であり、宿命でもある。このことは、ワルファリンからNOAC(DOAC)にパラダイムシフトしても、出血イベントを来さない抗凝固薬はない。たとえ、ワルファリンより出血頻度がきわめて低下したアピキサバンやダビガトランであっても、やはり出血イベントを払拭できない。血栓塞栓症と出血という、まさに表裏一体の関係は、もはや抗凝固薬の性質として素直に認めざるを得ない。 そこで多くの研究者が、抗凝固薬投与前に事前に出血イベントを予測できないものかと、出血リスクスコアを開発してきた。これは一見自然な成り行きとも思えるが、はたして出血リスクスコアの開発自体は本質的に重要なことであろうか。 本論文は、バイオマーカーを取り入れたABC出血リスクスコアを提唱しているが、これを検証することで改めて出血リスクスコアの持つ意義について考えてみる。本論文のポイントは? 本論文のポイントをまとめる。心房細動患者の重大出血予測を改善するために、新たにバイオマーカーを取り入れた出血リスクスコアを、アピキサバン vs.ワルファリンの比較試験であるARISTOTLE試験患者1万4,537例(抽出コホート)を用いて開発、併せて内的妥当性検証も行った。さらに、ダビガトラン vs.ワルファリンのRE-LY試験患者8,468例(検証コホート)を用いて、外的妥当性も検証した。 新たな出血リスクスコアは、最も予測が強力であった5つの変数(cTnT-hs、GDF-15、ヘモグロビン、出血歴、年齢)を含んだABC出血リスクモデルとして構築された。また、代替バイオマーカー(cTnT-hsをcTnI-hs、ヘモグロビンをヘマトクリット、GDF-15をシスタチンCまたはeGFRにそれぞれ置換)を用いた修正ABC出血リスクスコアも構築し検証した。 その結果、抽出コホートにおいて、ABC出血リスクスコアのC統計量は0.68(95%信頼区間[CI]:0.66~0.70)であり、HAS-BLEDスコアの0.61(0.59~0.63)、ORBITスコアの0.65(0.62~0.67)と比較し、ABC出血リスクスコアの予測が有意に優れていた。検証コホートでも、ABC出血リスクスコアのC統計値は0.71(0.68~0.73)で、HAS-BLEDスコア0.62(0.59~0.64)、ORBITスコア0.68(0.65~0.70)より相互に有意差が認められた。さらに、代替バイオマーカーを用いた修正ABC出血リスクスコアも同様な結果であった。 出血リスクスコアが実臨床で使用されるのに必要な要件 出血リスクスコアを実臨床に使用するために必要な要件は、以下の3つである。 第1に、簡便なスコアで、計算しやすいものであることである。ただし、それぞれの項目に対する加重が一概に1点だの2点だのといえないところに、そもそもの問題がある。現在、よく使われているHAS-BLEDスコアは、この点を度外視し簡便性だけを追求して簡単に総得点を導き出すものである。一方、本論文にあるABC出血リスクスコアはまったくこの対極で、簡便性よりも予測能を上げることに専念している(が、後述するようにこれも十分ではない)。ABC出血リスクスコアは、スコアをノモグラムで算出する“らしい”が、どう算出すればよいのか丁寧な説明もされておらず、とても普及を目的にしているとは思えない。 第2に、予測能に優れているとの根拠であるC統計量が決して高くないことである。C統計量は、連続変数である独立変数と二分変数であるアウトカムとの関係の強さを評価するROC曲線から求められる、ROC曲線面積(AUC)に相当する。このAUC値は0.5~1.0までの値をとるが、1.0に近いほど予測能が高いといえる。現実的には、せめて0.8はほしい値である。AUC 0.5 ~0.7ではLow accuracyと呼ばれ、この値から予測することは問題外である。本論文のC統計量は、抽出コホートでABC出血リスクスコア0.68であり、HAS-BLEDスコア0.61、ORBITスコア0.65よりは少しは高いが、いずれも決して予測能が高いとはいえない値である。蛇足だが、最近はこの手の無理矢理な解析やら解釈が横行しており憂慮している。たとえば、PRASFIT-ACSで発表された心血管イベントを予測するPRUのカットオフ値262のAUCは0.58しかなく、PRUはまったく有用ではない指標であると考えられるのに、今や企業の販売促進戦略の原動力となっている。 最後に、たとえ良いスコアであっても、臨床に還元される臨床研究でなければその意義はない。われわれにこのスコアをどう利用しろというのであろうか。出血リスクスコアを利用して明確にリスクの層別化ができ、それが抗凝固薬ごとに減量する基準となり、投与後の出血イベントを抑制できた後に、晴れてその有用性を語れるものである。結論として 論文著者は、「ABC出血リスクスコアを抗凝固薬治療の意思決定支援に活用すべき」といっているが、盲目的で残念な研究である。そもそも、塞栓症リスクと出血リスクの項目が重複している以上、塞栓症リスクが高い症例は出血リスクも当然高くなり、出血リスクスコアを算出する意義すら希薄であるのが現実といわざるを得ない。

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冠動脈バイパス術が長期生命予後改善効果を有することが22年ぶりに報告された(解説:大野 貴之 氏)-524

 虚血性心筋症(EF35%以下の低心機能を伴った安定冠動脈疾患)に対する治療として、薬物治療群(602例)とCABG群(610例)を比較したランダム化試験がSTICH試験である。2011年に追跡期間5年の結果が報告されたが、心臓血管死に関してはぎりぎり有意差を検出したが、全死亡に関して有意差は検出されなかった。今回、追跡10年間の結果が報告された。その結果、全死亡は薬物群66.1%に対してCABG群58.9%(p=0.02)、心臓血管死は49.3%対して40.5%(p=0.006)であった。 CABGの真の治療効果とその大きさを評価することは、薬物治療と比較したランダム化試験により可能であると考えている。現時点では、STICH試験以外で該当するのはYusuf氏らのメタ解析(1994年報告)、MASS II試験(2010年報告)、BARI II試験試験(2010年報告)の3つしかない。全死亡は、最もハードなエンドポイントであり、CABGの治療効果をかなり正確かつ客観的に評価することが可能である。Yusuf氏らは、安定冠動脈疾患患者2,649例を対象として、追跡5年から10年間において薬物治療よりもCABGが優れていることを報告した。このレベルAのエビデンスが、その後長い期間にわたり心臓外科医が自信を持ってCABGを執刀する支えとなってきた。しかし、最近は薬物治療が古い、とくにスタチンがない時代の試験結果であるとの批判が出てきた。また、心臓外科医の立場からみれば90%は内胸動脈を使用しておらず、10年以上にわたる長期の治療効果は期待できない。また、MASS II試験はおそらく対象患者は少ないこと、BARI II試験も対象患者は少なく追跡期間も5年と短期間であることから、全死亡に関しては有意差を認めていない。 今回のSTICH試験の結果は、Yusuf氏ら以来、22年ぶりに「冠動脈バイパス術が長期生命予後改善効果を有する」ことを報告したものである。EF35%以下の低心機能を伴った安定冠動脈疾患を対象としているが、対象患者数は1,212例と比較的多く、追跡期間も内胸動脈を使用したCABGの生命予後改善効果が十分に発揮される10年に達している。また、その治療効果の大きさを治療効果発現必要症例数number needed to treat(NNT)で表すと10年間でNNT=14となる。「この10年間で、NNT=14という数字をどのように解釈するのか?」に関するコメントは難しい。参考になるエビデンスを2つ挙げる。SYNTAX試験結果、3枝病変に対するPCIと比較したCABGの生命予後改善効果の大きさは、5年間でNNT=19、FREEDOM試験では糖尿病・多枝病変に対するPCIと比較したCABGの生命予後改善効果の大きさも5年間でNNT=19となる。この2つの試験結果により、米国・ヨーロッパの新しいガイドラインは、共に3枝病変あるいは多枝病変・糖尿病患者ではCABGが第1選択であるという考え方に基づいて作成されている。

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GAUSS-3試験:PCSK9抗体による新たなコレステロール低下療法の可能性―心血管イベント抑制につながるのか?(解説:平山 篤志 氏)-523

 冠危険因子としてのLDL-コレステロール(LDL-C)をスタチンにより低下させることによって、冠動脈疾患の1次予防、2次予防が有効になされることは、多くの大規模臨床試験で示されてきた。しかし、スタチンの服用により、筋肉痛あるいは無痛性の筋肉障害があることが知られている。その頻度は、1~5%、時には20%くらいあるといわれている。このようにスタチンで筋肉症状を訴える患者のコレステロール治療としては、吸収阻害薬であるエゼチミブが用いられていた。一方、LDL-Cと結合したLDL-C受容体は、血中のPCSK9が結合すると細胞内で壊され再利用ができなくなる。PCSK9を阻害する抗体であるエボロクマブにより、スタチン服用患者でもLDL-Cが60%以上減少することが示されている。 このGAUSS-3試験では、まずアトルバスタチンで筋肉痛により服薬できない患者を選択して、エゼチミブを投与する群とエボロクマブを月に1回投与する群で無作為化盲検試験を行った。その結果、22~24週後のLCL-Cの平均変化率がエゼチミブ群で-16.7%であったのに比べて、エボロクマブ群で-54.5%と有意な低下を認め、エボロクマブ単独でのLDL-C低下作用の有効性が確認された。 ただ、イベントの減少を検討した大規模臨床試験がスタチンを用いたものであったことから、2013年のACC/AHAガイドラインでは、スタチン投与の重要性が強調され、それ以外の薬剤や目標のLDL-C値が記載されていない。スタチン以外でLDL-C低下を可能としたIMPROVE-IT試験でも、エゼチミブの効果はLDL-C低下ではなく、吸収抑制による可能性が指摘されている。 エボロクマブは、LDL-レセプターパスウェーでスタチン以外にLDL-C低下作用が示された初めての薬剤である。この薬剤の効果を検証するFOURIER試験で心血管イベントの抑制がなされれば、LDL-Cの“The Lower the betterが示されることになる。 エボロクマブが、スタチンを服用できなかった患者に大きな福音となるかどうか、大規模臨床試験の結果を見守りたい。

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封入体筋炎〔sIBM : Sporadic Inclusion Body Myositis〕

1 疾患概要■ 概念・定義封入体筋炎は中高年に発症する、特発性の筋疾患である。左右非対称の筋力低下と筋萎縮が大腿四頭筋や手指・手首屈筋にみられる。骨格筋には、縁取り空胞と呼ばれる特徴的な組織変化を生じ、炎症細胞浸潤を伴う。免疫学的治療に反応せず、かえって増悪することもある。嚥下障害や転倒・骨折に注意が必要である。■ 疫学厚生労働省難治性疾患克服研究事業「封入体筋炎(IBM)の臨床病理学的調査および診断基準の精度向上に関する研究」班(研究代表者:青木正志、平成22-23年度)および「希少難治性筋疾患に関する調査研究」班(研究代表者:青木正志、平成24-27年度)による調査では、日本には1,000~1,500人の封入体筋炎患者がいると考えられる。研究協力施設の146例の検討により男女比は1.4:1で男性にやや多く、初発年齢は64.4±8.6歳、初発症状は74%が大腿四頭筋の脱力による階段登りなどの障害であった。嚥下障害は23%にみられ、生命予後を左右する要因の1つである。顕著な左右差は、27%の症例でみられた。認知機能低下が明らかな症例はなかった。深部腱反射は正常または軽度低下する。約15%の封入体筋炎患者には全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強皮症、サルコイドーシスなどの自己免疫性の異常が存在するが、多発筋炎や皮膚筋炎と異なり、肺病変、悪性腫瘍の発生頻度上昇などは指摘されていない。血清のクレアチンキナーゼ(CK)値は正常か軽度の上昇にとどまり、通常は正常上限の10倍程度までとされる。研究班の調査ではCK値の平均は511.2±368.1 IU/Lで2,000 IU/Lを超える症例はまれであった。約20%の封入体筋炎患者は、抗核抗体が陽性とされるが、いわゆる筋炎特異的抗体は陰性である。■ 病因封入体筋炎の病態機序は不明である。筋病理学的に観察される縁取り空胞が蛋白分解経路の異常など変性の関与を、また細胞浸潤が炎症の関与を想起させるものの、変性と炎症のどちらが一次的でどちらが副次的なのかも明らかになってはいない。変性の機序の証拠としては、免疫染色でAβ蛋白、Aβ前駆蛋白(β-APP)、リン酸化タウ、プリオン蛋白、アポリポプロテイン E、α1-アンチキモトリプシン、ユビキチンやニューロフィラメントが縁取り空胞内に沈着していることが挙げられる。β-APPを筋特異的に過剰発現させたモデルマウスでは筋変性や封入体の形成がみられることも、この仮説を支持している。しかしながら、多発筋炎や皮膚筋炎の患者生検筋でもβ-APPが沈着していることから疾患特異性は高くない。筋線維の恒常性の維持は、蛋白合成と分解の微妙なバランスの上に成り立っていると想像される。封入体筋炎の病態として、Aβ仮説のようにある特定の蛋白が発現増強し、分解能力を超える可能性も考えられるが、一方で蛋白分解系が破綻し、異常蛋白が蓄積するという機序も考えられる。蛋白分解経路に重要なユビキチンE3リガーゼの1つであるRING Finger Protein 5(RNF5)の過剰発現マウスでは、筋萎縮と筋線維内の封入体形成が観察されている。骨格筋特異的にオートファジーを欠損させたマウスでは、ユビキチンE3リガーゼの発現上昇や筋変性・萎縮がみられることも報告されている。封入体筋炎の骨格筋に、家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子産物であるTDP-43およびFUS/TLSが蓄積することも観察されている。TDP-43陽性線維は、封入体筋炎患者の生検筋線維の25~32.5%と高頻度に検出され、その頻度は封入体筋炎の病理学的指標とされてきた縁取り空胞やAβ陽性線維よりも高頻度である。家族性ALS関連蛋白の蓄積は、縁取り空胞を伴う筋疾患に共通する病理学的変化であり、封入体筋炎に対する疾患特異性は低いと考えられてきている。ユビキチン結合蛋白であるp62は、TDP-43以上の頻度で封入体筋炎の筋線維に染色性が認められる。近年、骨パジェット病と前頭側頭型認知症を伴う封入体性ミオパチーの家族例において、蛋白分解系の重要な分子であるVCPの遺伝子異常が見出されたが、このVCPも蛋白分解経路の重要な因子である。蛋白分解経路の異常は、封入体筋炎の病態の重要な機序と考えられる。封入体筋炎の病態として、炎症の関与も以前より検討されてきた。炎症細胞に包囲されている筋線維の割合は、縁取り空胞やアミロイド沈着を呈する筋線維よりも頻度が高いことから、炎症の寄与も少なくないと考えられる。ムンプスウイルスの持続感染は否定されたが、HIVやHTLV-1感染者やポリオ後遺症の患者で封入体筋炎に類似した病理所見がみられる。マイクロアレイやマイクロダイセクションを用いた検討では、CD138陽性の形質細胞のクローナルな増殖が、封入体筋炎患者の筋に観察され、形質細胞の関与も示されている。炎症細胞のクローナルな増殖は、細胞障害性T細胞が介する自己免疫性疾患である可能性を示唆している。ただ、封入体筋炎は、臨床場面で免疫抑制薬の反応に乏しいことから、炎症が病態の根本であるとは考えにくい。また、多発筋炎でも観察される現象であることから、疾患特異的な現象とも言いがたい。封入体筋炎は、親子や兄妹で発症したという報告も散見され、HLAなど遺伝的背景が推定されているが、元来は孤発性の疾患である。■ 症状封入体筋炎は慢性進行性で、主に50歳以上に発症する筋疾患であり、初発症状から5年以上診断がつかない例も多い。多発筋炎・皮膚筋炎が女性に多いのと対照的に、封入体筋炎は男性にやや多い。非対称性の筋脱力と筋萎縮が大腿四頭筋や手指・手首屈筋にみられる。肩の外転筋よりも手指・手首屈筋が弱く、膝伸展や足首背屈が股関節屈曲よりも弱いことが多い。■ 分類診断基準を参照されたい。■ 予後多くの症例では四肢・体幹筋の筋力低下や嚥下障害の進行により、5~10年で車いす生活となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1975年にBohanとPeterは炎症性筋疾患の診断基準を提唱したが、当時は封入体筋炎という概念が十分に確立されていなかった。1995年にGriggsにより封入体筋炎の診断基準が提唱され、2007年のNeedhamらの診断基準とともに国際的に広く用いられている。前述の難治性疾患克服研究事業の研究班では、全国の後ろ向き調査を基に、国内外の文献を検討し、診断基準を見直した(表)。本診断基準は、日本神経学会および日本小児神経学会から承認も受けている。表 封入体筋炎(Inclusion Body Myositis:IBM)診断基準(2013)(厚労省難治性疾患克服研究事業:希少難治性筋疾患に関する調査研究班)診断に有用な特徴A.臨床的特徴a.他の部位に比して大腿四頭筋または手指屈筋(とくに深指屈筋)が侵される進行性の筋力低下および筋萎縮b.筋力低下は数ヵ月以上の経過で緩徐に進行する※多くは発症後5年前後で日常生活に支障を来す。数週間で歩行不能などの急性の経過はとらない。c.発症年齢は40歳以上d.安静時の血清CK値は2,000 IU/Lを超えない(以下は参考所見)嚥下障害がみられる針筋電図では随意収縮時の早期動員(急速動員)、線維自発電位/陽性鋭波/(複合反復放電)の存在などの筋原性変化(注:高振幅長持続時間多相性の神経原性を思わせる運動単位電位が高頻度にみられることに注意)B.筋生検所見筋内鞘への単核球浸潤を伴っており、かつ以下の所見を認めるa.縁取り空胞を伴う筋線維b.非壊死線維への単核球の侵入や単核球による包囲(以下は参考所見)筋線維の壊死・再生免疫染色が可能なら非壊死線維への単核細胞浸潤は主にCD8陽性T細胞形態学的に正常な筋線維におけるMHC classⅠ発現筋線維内のユビキチン陽性封入体とアミロイド沈着過剰リン酸化tau、p62/SQSTM1、TDP43陽性封入体の存在COX染色陰性の筋線維:年齢に比して高頻度(電子顕微鏡にて)核や細胞質における15~18nmのフィラメント状封入体の存在合併しうる病態HIV、HTLV-I、C型肝炎ウイルス感染症除外すべき疾患縁取り空胞を伴う筋疾患※(眼咽頭型筋ジストロフィー・縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー・多発筋炎を含む)他の炎症性筋疾患(多発筋炎・皮膚筋炎)筋萎縮性側索硬化症などの運動ニューロン病※Myofibrillar myopathy(FHL1、Desmin、Filamin-C、Myotilin、BAG3、ZASP、Plectin変異例)やBecker型筋ジストロフィーも縁取り空胞が出現しうるので鑑別として念頭に入れる。特に家族性の場合は検討を要する。診断カテゴリー:診断には筋生検の施行が必須であるDefinite Aのa-dおよびBのa、bの全てを満たすものProbable Aのa-dおよびBのa、bのうち、いずれか5項目を満たすものPossible Aのa-dのみ満たすもの(筋生検でBのa、bのいずれもみられないもの)注封入体筋炎の診断基準は国際的に議論がなされており、歴史的にいくつもの診断基準が提案されている。本診断基準は専門医のみならず、内科医一般に広くIBMの存在を知ってもらうことを目指し、より簡便で偽陰性の少ない項目を診断基準項目として重視した。免疫染色の各項目に関しては感度・特異度が評価未確定であり参考所見とした。ヘテロな疾患群であることを念頭に置き、臨床治験の際は最新の知見を考慮して組み入れを行う必要がある。臨床的特徴として、「a.他の部位に比して大腿四頭筋または手指屈筋(とくに深指屈筋)が侵される進行性の筋力低下および筋萎縮」、「b.筋力低下は数ヵ月以上の経過で緩徐に進行する」とし、多くは発症後5年前後で日常生活に支障を来すことを勘案した。「数週間で歩行不能」などの急性の経過はとらず、診断には病歴の聴取が重要である。また、遺伝性異常を伴う筋疾患を除外するために「c.発症年齢は40歳以上である」とした。そして、慢性の経過を反映し「d.安静時の血清CK値は2,000 IU/Lを超えない」とした。さらに診断には筋生検が必須であるとし、「筋内鞘への単核球浸潤を伴っており」、かつ「a.縁取り空胞を伴う筋線維」、「b.非壊死線維への単核球の侵入や単核球による包囲」がみられるものとした。これらの臨床的特徴・病理所見の6項目すべてがみられる場合を確実例、臨床的特徴がみられるが、病理所見のいずれかを欠く場合を疑い例、病理所見が伴わないものを可能性あり、とした。欧米で取り入れられている免疫染色や電顕所見に関しては、縁取り空胞の持つ意義と同様と考え、診断基準には含めなかった。封入体筋炎の診断の際には、臨床経過が重要な要素であり、中高齢の慢性進行性の筋疾患では常に念頭に置くべきである。封入体筋炎症例の一部は病期が早いことにより、また不適切な筋標本採取部位などによって、特徴的な封入体を確認することができず、診断確定に至らない場合があると考えられる。最近、cN1Aに対する自己抗体との関連性が報告されているが、今後、病態解明の進展に伴い疾患マーカーが確立されることが望ましい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)封入体筋炎の治療は確立されていない。ほとんどの例でステロイドの効果はみられない。CK値が減少したとしても、筋力が長期にわたって維持される例は少ない。免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)は、封入体筋炎に対し、とくに嚥下に関して限定的な効果を示す例がある。しかし、対照試験では、一般的な症状の改善はわずかで、統計学的な有意差は得られず、治療前後の筋生検所見の改善のみが報告されている。根本的な治療がない現状では、運動療法・作業療法などのリハビリテーション、歩行時の膝折れ防止や杖などの装具の活用も有効である。さらに合併症として、致死的になる可能性のある嚥下の問題に関しては、食事内容の適宜変更や胃瘻造設などが検討される。バルーンカテーテルによる輪状咽頭部拡張法(バルーン拡張法)も封入体筋炎患者での嚥下障害改善に有効な可能性がある。4 今後の展望マイオスタチンの筋萎縮シグナル阻害を目的とした、アクチビンIIB受容体拮抗剤のBYM338を用いた臨床試験もわが国で行われている。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 封入体筋炎(医療従事者向けのまとまった情報)希少難治性筋疾患に関する調査研究班班員名簿(27年度)(医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省のホームページ 指定難病 封入体筋炎の概要・診断基準(医療従事者向けのまとまった情報)1)青木正志編、内野誠監修. 筋疾患診療ハンドブック. 中外医学社; 2013: p.75-82.公開履歴初回2014年02月06日更新2016年05月03日

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HOPE3試験:あまり新規性のない結果?(解説:興梠 貴英 氏)-517

 HOPE3試験は、心血管疾患を持たないが中等度の心血管リスクを有する人間に対して、降圧治療およびLDLコレステロール低下治療を行うことで、イベントを減らすことができるのかをみた試験である。 登録基準が男性55歳以上、女性65歳以上のほかに、ウェストヒップ値高値、最近または現在の喫煙、HDL-C値低値、血糖障害、軽度腎障害、一親等の虚血性心疾患早期発症の家族歴のいずれか1つ以上を持つことで、高血圧や高脂血症は登録基準には入っていない。また、除外基準に「記録された臨床的に明らかな動脈硬化性心血管疾患」が入っているため、比較的リスクが低い(著者らは「中等度」と表現)集団を対象としている。 この集団に対して、カンデサルタン16mg + HCTZ 12.5mgもしくはプラセボ×ロスバスタチン10mgまたはプラセボの2×2、合計4群を比較したもので、(1)双方とも実薬 vs.双方ともプラセボ、(2)降圧薬 vs.プラセボ、(3)スタチン vs.プラセボの3つの論文が報告されている。 簡単に結果を要約すると(2)では有意差がつかず、(1)(3)で実薬群がプラセボ群に比較して有意にエンドポイントを低下させた、ということになる。また、低下率は(1)での29%に対して、(3)では24%と、降圧の効果は相対的に小さいことが読み取れる。さて、これらの結果からいえることは何だろうか。 実は、筆頭著者のYusuf氏は以前から、心血管疾患患者に対して、降圧薬、スタチン、低用量アスピリンはそれぞれ単独で2次予防効果があるので、それらの合剤(polypill)を一律に投与することでよりリスクが減らせるはずだという仮説を持っており、これまでにpolypillを用いた臨床試験を行ったり1)、WHOにそうした提案を行ったりしている2)。HOPE3試験は1次予防であるが、(1)の結果のみをみると、血圧、コレステロール双方低下させる(=降圧薬とスタチンの合剤を服用させる)ことで心血管リスクを低下させられる、という結論になるかもしれない。しかし、(2)(3)と考え合わせるとスタチンの効果が大きく、降圧薬は小さいか、または有意な効果がない、ということになるだろう。 ところで、低~中等度のリスクを持つ患者に対してスタチンが心血管リスクを低下させる、ということは、過去のスタチンランダム比較試験の結果をメタ解析した結果でもすでに報告されている3)。このメタ解析で興味深いのは、リスクの高低にかかわらず、スタチンによるLDL-C低下により同じくらいの割合でイベントリスクが低下することが示された一方、絶対リスクの低下量はもともと患者が持っているリスクが大きいほど大きく、小さいと低下量が大幅に小さくなることである。HOPE3試験でも絶対リスクの低下量は小さく、この結果をもって高脂血症を持つとは限らない、中等度リスク患者に対してスタチンを投与すべきか否かは、費用対効果を検討したうえで決める必要があるだろう。 また、本質的なことではないかもしれないが、3つの論文に共通して奇妙なのは主要エンドポイントのKaplan-Meier曲線が示されていないことである。

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心房細動患者の出血リスク予測に有用な新規スコア/Lancet

 心房細動患者の抗凝固薬治療に伴う出血リスクを予測するのに有用な新たなスコアが開発された。バイオマーカーベースの「ABC出血リスクスコア」と名付けられたこのスコアは、年齢(Age)、バイオマーカー(Biomarkers)、病歴(Clinical history)の、5つの予測変数(年齢、cTnT-hs、GDF-15[growth differentiation factor-15]、ヘモグロビン、出血歴)から成る。スウェーデン・ウプサラ大学のZiad Hijazi氏らが開発したもので、検証試験の結果、これまでのHAS-BLEDスコアやORBITスコアよりもパフォーマンスに優れていることが示された。著者は「ABC出血リスクスコアを、心房細動患者の抗凝固薬治療に関する意思決定支援に活用すべきである」と報告している。Lancet誌オンライン版2016年4月4日号掲載の報告。バイオマーカーベースのリスクスコアを開発、5つの予測変数を組み込む 心房細動の経口抗凝固薬治療のベネフィットは、虚血性脳卒中の減少と重大出血の増大のバランス下でもたらされることから、研究グループは、心房細動患者の重大出血予測を改善する新たなバイオマーカーベースのリスクスコアを開発し検証する試験を行った。 アピキサバン vs.ワルファリンの無作為化試験ARISTOTLE試験に参加した心房細動患者1万4,537例(抽出コホート)でスコアの開発と内的妥当性検証を行い、ダビガトラン vs.ワルファリンの無作為化試験RE-LY試験に参加した心房細動患者8,468例(検証コホート)で外的妥当性検証を行った。 無作為化時に採取した血液検体で候補バイオマーカー値を測定。重大出血イベント発生の判定は中央にて行い、Cox回帰モデルを用いてバイオマーカーおよび臨床変数の適中率を評価した。 新たなバイオマーカーベースの出血リスクスコアは、抽出コホートの総計2万5,150人年、重大出血イベント662件を基に開発された。最初にすべての候補予測因子を包含したモデルを作成し、その後、最も予測が強力であった5つの変数(cTnT-hs、GDF-15、ヘモグロビン、出血歴、年齢)を包含し最終モデルとしてABC出血リスクモデルを作り上げた。また、代替バイオマーカー(cTnT-hsをcTnI-hs、ヘモグロビンをヘマトクリット、GDF-15をシスタチンCまたはCKD-EPI式を用いて算出したeGFRにそれぞれ置き換えた)を用いた3つの追加モデルを作成してスコアの評価を行った。HAS-BLEDスコア、ORBITスコアよりも予測能にすぐれる 抽出コホートにおいて、ABC出血リスクスコアのC統計値は0.68(95%信頼区間[CI]:0.66~0.70)であった。HAS-BLEDスコアは0.61(0.59~0.63)、ORBITスコアは0.65(0.62~0.67)で、ABC出血リスクスコアの予測が有意にすぐれていた(それぞれp<0.0001、p=0.0008)。 検証コホートでも、ABC出血リスクスコアのC統計値は0.71(95%CI:0.68~0.73)で、HAS-BLEDスコア0.62(0.59~0.64)、ORBITスコア0.68(0.65~0.70)との有意差が認められた(それぞれp<0.0001、p=0.0016)。 代替バイオマーカーを用いた修正ABC出血リスクスコアも(抽出コホートでのC統計値は3モデルとも0.67、検証コホートでは0.68~0.71)、HAS-BLEDスコア、ORBITスコアよりも予測能が上回っていた。

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中等度リスク患者へのスタチン+降圧薬治療の効果は?/NEJM

 心血管疾患既往のない、心血管イベントリスクが中等度の患者に対し、ロスバスタチンと、カンデサルタン+ヒドロクロロチアジドを投与しコレステロール値と血圧値を下げることで、主要心血管イベントリスクは約3割減少することが示された。カナダ・Population Health Research InstituteのS. Yusuf氏らが、約1万3,000例を対象に行った無作為化プラセボ対照二重盲検試験HOPE-3の結果、明らかにした。NEJM誌オンライン版2016年4月2日号掲載の報告。ロスバスタチン+カンデサルタン/ヒドロクロロチアジドを投与し、イベント発生率を比較 研究グループは、21ヵ国228ヵ所の医療機関を通じて、55歳以上の男性と65歳以上の女性で、心血管疾患の既往がなく、(1)ウエスト・ヒップ比が高い、(2)低HDLコレステロール値、(3)最近または現在喫煙、(4)糖代謝異常、(5)早期冠動脈疾患の家族歴、(6)軽度腎機能障害のいずれか1つ以上が認められる、1万2,705例を対象に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った。 同試験では、2×2要因デザインを用いて、カンデサルタン16mg/日+ヒドロクロロチアジド12.5mg/日と、脂質低下薬ロスバスタチン10mg/日の効果を検証。本論文では、ロスバスタチン+カンデサルタン+ヒドロクロロチアジド投与群(3,180例)と、同非投与群(3,168例)について、その効果を比較した。 主要複合アウトカムは2つあり、第1主要複合アウトカムは心血管疾患死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中、第2主要複合アウトカムは、第1主要複合アウトカムに心肺停止からの蘇生、心不全、血行再建術を加えたものだった。治療群でイベントリスクは0.71倍に 追跡期間中央値は、5.6年だった。試験期間中、治療群がプラセボ群に比べLDLコレステロール値低下幅は33.7mg/dL大きく、また収縮期血圧低下幅はプラセボ群に比べ治療群が6.2mmHg大きかった。 第1主要複合アウトカムの発生率は、プラセボ群が5.0%(157例)に対し、治療群が3.6%(113例)と、有意に低率だった(ハザード比:0.71、95%信頼区間:0.56~0.90、p=0.005)。 第2主要複合アウトカムの発生率も、プラセボ群5.9%(187例)に対し、治療群が4.3%(136例)と低率だった(同:0.72、同:0.57~0.89、p=0.003)。 有害事象発生率については、筋肉症状やめまいは治療群で高率だったものの、治療中断率は両群で同等だった。

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ニーマン・ピック病C型〔NPC : Niemann-Pick disease type C〕

1 疾患概要■ 概念・定義1, 2)ニーマン・ピック病は、多様な臨床症状と発病時期を示すがスフィンゴミエリンの蓄積する疾患として、1961年CrockerによりA型からD型に分類された。A型とB型はライソゾーム内の酸性スフィンゴミエリナーゼ遺伝子の欠陥による常染色体性劣性遺伝性疾患で、ニーマン・ピック病C型は細胞内脂質輸送に関与する分子の欠陥で起こる常染色体性劣性遺伝性疾患である。D型は、カナダのNova Scotia地方に集積するG992W変異を特徴とする若年型のC型である。■ 疫学C型の頻度は人種差がないといわれ、出生10~12万人に1人といわれている。発病時期は新生児期から成人期までと幅が広い。2015年12月の時点で日本では34例の患者の生存が確認されている。同時点での人口8,170万人のドイツでは101人、人口6,500万人の英国では86例で、人口比からすると日本では現在確認されている数の約5倍の患者が存在する可能性がある。■ 病因遺伝的原因は、細胞内脂質輸送小胞の膜タンパク質であるNPC1タンパク質をコードするNPC1遺伝子、またはライソゾーム内の可溶性たんぱく質でライソゾーム内のコレステロールと結合し、NPC1タンパク質に引き渡す機能を持つNPC2タンパク質をコードするNPC2遺伝子の欠陥による。その結果、細胞内の脂質輸送の障害を生じ、ライソゾーム/後期エンドソームにスフィンゴミエリン、コレステロールや糖脂質などの蓄積を起こし、内臓症状や神経症状を引き起こす。95%の患者はNPC1遺伝子変異による。NPC2遺伝子変異によるものは5%以下であり、わが国ではNPC2変異による患者はみつかっていない。■ 症状1)周産期型出生後まもなくから数週で、肝脾腫を伴う遷延性新生児胆汁うっ滞型の黄疸がみられる。通常は生後2~4ヵ月で改善するが、10%くらいでは、肝不全に移行し、6ヵ月までに死亡する例がある。2)乳児早期型生後間もなくか1ヵ月までに肝脾腫が気付かれ、6~8ヵ月頃に発達の遅れと筋緊張低下がみられる。1~2歳で発達の遅れが明らかになり、運動機能の退行、痙性麻痺が出現する。歩行を獲得できる例は少ない。眼球運動の異常は認められないことが多い。5歳以降まで生存することはまれである。3)乳児後期型通常は3~5歳ごろ、失調による転びやすさ、歩行障害で気付かれ、笑うと力が抜けるカタプレキシーが認められることが多い。神経症状が出る前に肝脾腫を指摘されていることがある。また、検査に協力できる場合には、垂直性核上性注視麻痺を認めることもある。知的な退行、けいれんを合併する。けいれんはコントロールしづらいこともある。その後、嚥下障害、構音障害、知的障害が進行し、痙性麻痺が進行して寝たきりになる。早期に嚥下障害が起こりやすく、胃瘻、気管切開を行うことが多い。7~15歳で死亡することが多い。わが国ではこの乳児後期型が比較的多い。また、この型では早期にまばたきが消失し、眼球の乾燥を防ぐケアが必要となる。4)若年型軽度の脾腫を乳幼児期に指摘されていることがあるが、神経症状が出現する6~15歳には脾腫を認めないこともある。書字困難や集中力の低下などによる学習面の困難さに気付かれ、発達障害や学習障害と診断されることもある。垂直性核上性注視麻痺はほとんどの例で認められ、初発症状のこともある。カタプレキシーを認めることもある。不器用さ、学習の困難さに続き、失調による歩行の不安定さがみられる。歩行が可能な時期に嚥下障害によるむせやすさ、構語障害を認めることが多く、発語が少なくなる。ジストニア、けいれんがみられることが多く、進行すると痙性麻痺を合併する。30歳かそれ以上まで生存することが多い。わが国でも比較的多く認められる。5)成人型成人になって神経症状がなく、脾腫のみで診断される例もまれながら存在するが、通常は脾腫はみられないことが多い。妄想、幻視、幻聴などの精神症状、攻撃性やひきこもりなどの行動異常を示すことが多い。精神症状や行動異常がみられ、数年後に小脳失調(76%)、垂直性核上性注視麻痺(75%)、構語障害(63%)、認知障害(61%)、運動障害(58%)、脾腫(54%)、精神症状(45%)、嚥下障害(37%)などがみられる。運動障害はジストニア、コレア(舞踏病)、パーキンソン症候群などを認める。■ 予後乳児早期型は5歳前後、乳児後期型は7~15歳、若年型は30~40歳、成人型は中年までの寿命といわれているが、気管切開、喉頭気管分離術などによる誤嚥性肺炎の防止と良好なケアで寿命は延長している。また、2012年に承認になったミグルスタット(商品名: ブレーザベス)によって予後が大きく変化する可能性がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ニーマン・ピック病C型の診断の補助のためにSuspicion Indexが開発されている。これらはC型とフィリピン染色で確定した71例、フィリピン染色が陰性であった64例、少なくとも症状が1つある対照群81例について、内臓症状、神経症状、精神症状について検討し、特異性の高い症状に高いスコアを与えたスクリーニングのための指標である。この指標は便利であるが、4歳以下で神経症状の出現の少ない例では誤診する可能性のあることに注意して使用していただきたい。現在、4歳以下で使えるSuspicion Indexが開発されつつある。このSuspicion Indexは、(http://www.npc-si.jp/public/)にアクセスして使用でき、評価が可能である。一般血液生化学で特異な異常所見はない。骨髄に泡沫細胞の出現をみることが多い。皮膚の培養線維芽細胞のフィリピン染色によって、細胞内の遊離型コレステロールの蓄積を明らかにすることで診断する。LDLコレステロールが多く含まれる血清(培地)を用いることが重要である。成人型では蓄積が少なく、明らかな蓄積があるようにみえない場合もあり注意が必要である。骨髄の泡沫細胞にも遊離型コレステロールの蓄積があり、フィリピン染色で遊離型コレステロールの蓄積が確認できれば診断できる。線維芽細胞のフィリピン染色は、秋田大学医学部附属病院小児科(担当:高橋 勉、tomy@med.akita-u.ac.jp)、大阪大学大学院医学系研究科生育小児科学(担当:酒井 規夫、norio@ped.med.osaka-u.ac.jp)、鳥取大学医学部附属病院脱神経小児科(担当:成田 綾、aya.luce@nifty.com)で対応が可能である。確定診断のためにはNPC1遺伝子、NPC2遺伝子の変異を同定する。95%以上の患者はNPC1遺伝子に変異があり、NPC2遺伝子に変異のある患者のわが国での報告はまだない。NPC1/NPC2遺伝子解析は鳥取大学生命機能研究支援エンター(担当:難波 栄二、ngmc@med.tottori-u.ac.jp)で対応が可能である。近年、遊離型コレステロールが非酵素反応で形成される酸化型ステロール(7-ケトコレステロール、コレスタン-3β、5α、6βトリオール)が、C型の血清で特異的に上昇していることが知られ、迅速な診断ができるようになっている1、2)。わが国では、一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療センター(担当者:藤崎 美和、衞藤 義勝、sentanken@mt.strins.or.jp、電話044-322-0654 電子音後、内線2758)で測定可能であり、連絡して承諾が得られるようであれば、凍結血清1~2mLを送る。さらに尿に異常な胆汁酸が出現することが東北大学医学部附属病院薬剤部から報告され9)、この異常も診断的価値が高い特異的な検査の可能性があり、現在精度の検証が進められている。診断的価値が高いと考えられる場合、また精度の検証のためにも、東北大学医学部附属病院へ連絡(担当者:前川 正充、m-maekawa@hosp.tohoku.ac.jp)して、凍結尿5mLを送っていただきたい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ミグルスタット の治療効果C型の肝臓や脾臓には、遊離型コレステロール、スフィンゴミエリン、糖脂質(グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド)、遊離スフィンゴシン、スフィンガニンが蓄積している。一方、脳では、コレステロールやスフィンゴミエリンの蓄積はほとんどなく、スフィンゴ糖脂質、とくにガングリオシッドGM2とGM3の蓄積が顕著である。このような背景から、グルコシルセラミド合成酵素の阻害剤であるn-butyl-deoxynojirimycin(ミグルスタット)を用いてグルコシルセラミド合成を可逆的に阻害し、中枢神経系のグルコシルセラミドを基質とする糖脂質の合成を減少させることで、治療効果があることが動物で確認された。さらに若年型と成人型のC型患者で、嚥下障害と眼球運動が改善することが報告され、2009年EUで、2012年わが国でC型の神経症状の治療薬として承認された。ミグルスタットは、乳児後期型、若年型、成人型の嚥下機能の改善・安定化に効果があり、誤嚥を少なくし、乳児後期型から成人型C型の延命効果に大きく影響することが報告されている。また、若年型のカタプレキシーや乳児後期型の発達の改善がみられ、歩行機能、上肢機能、言語機能、核上性注視麻痺の安定化がみられることが報告されている。乳児早期型では、神経症状の出現前の早い時期に治療を開始すると効果がある可能性が指摘されているが、乳児後期型、若年型、成人型の神経症状の安定化に比較して効果が乏しい。また、脾腫や肝腫大などの内臓症状には、効果がないと報告されている。ミグルスタットの副作用として、下痢、鼓腸、腹痛などの消化器症状が、とくに治療開始後の数週間に多いと報告されている。この副作用はミグルスタットによる二糖分解酵素の阻害によって、炭水化物の分解・吸収が障害され、浸透圧性下痢、結腸発酵の結果起こると考えられている。ほとんどの場合ミグルスタット継続中に軽快することが多く、ロペラミド塩酸塩(商品名:ロペミンほか)によく反応する。また、食事中の二糖(ショ糖、乳糖、麦芽糖)の摂取を減らすことでミグルスタットの副作用を減らすことができる。さらには、ミグルスタットを少量から開始して、増量していくことで副作用を軽減できる。■ ニーマン・ピック病C型患者のその他の治療について2)C型のモデルマウスでは、細菌内毒素受容体Toll様受容体4の恒常的活性化によって、IL-6やIL-8が過剰に産生され、脳内の炎症反応が起こり、IL-6を遺伝的に抑制することで、マウスの寿命が延長することが示唆されている5)。また、モデルマウスに非ステロイド性抗炎症薬を投与すると神経症状の発症が遅延し、寿命が延長することが報告されており6)、C型患者で細菌感染を予防し、感染時の早期の抗菌薬投与と抗炎症薬の投与によって炎症を抑えることが勧められる。また、教科書には記載されていないが、C型患者では早期に瞬目反射が減弱・消失し、まばたきが減少し、この結果眼球が乾燥する。この瞬目反射の異常に対するミグルスタットの効果は不明である。C型患者のケアにあたっては、瞬目反射の減弱に注意し、減弱がある場合には、眼球の乾燥を防ぐために点眼薬を使用することが大切である。4 今後の展望シクロデキストリンは、細胞内コレステロール輸送を改善し、遊離型コレステロールの蓄積を軽減させると、静脈投与での効果が報告されている3)。シクロデキストリンは、髄液の移行が乏しく、人道的使用で髄注を行っている家族もあるが、今後アメリカを中心に臨床試験が行われる可能性がある。また、組み換えヒト熱ショックタンパク質70がニーマン・ピック病C型治療薬として開発されている。そのほか、FDAで承認された薬剤のなかでヒストン脱アセチル化阻害剤(トリコスタチンやLBH589)が、細胞レベルでコレステロールの蓄積を軽減させること4, 7)や筋小胞体からCaの遊離を抑制し、筋弛緩剤として用いられているダントロレンが変異したNPCタンパク質を安定化する8)ことなどが報告され、ミグルスタット以外の治療薬の臨床試験が始まる可能性が高い。5 主たる診療科小児科(小児神経科)、神経内科、精神科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患克服事業 ライソゾーム病(ファブリー病を含む)に関する調査研究班 ライソゾーム病に関して(各論)ニーマン・ピック病C型(医療従事者向けのまとまった情報)鳥取大学医学部N教授Website(ニーマン・ピック病C型の研究情報を多数記載。医療従事者向けのまとまった情報)NP-C Suspicion Index ツール(NPCを疑う症状のスコア化ができる。提供: アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社)The NPC-info.com Information for healthcare professionals に入り、Symptoms of niemann pick type C diseaseにて動画公開(ニーマン・ピック病C型に特徴的な症状のビデオ視聴が可能。提供: アクテリオン株式会社)患者会情報ニーマン・ピック病C型患者家族の会(患者とその患者家族の情報)1)大野耕策(編). ニーマン・ピック病C型の診断と治療.医薬ジャーナル社;2015.2)Vanier MT. Orphanet J Rare Dis.2010;5:16.3)Matsuo M, et al. Mol Genet Metab.2013;108:76-81.4)Pipalia NH, et al. Proc Natl Acad Sci USA.2011;108:5620-5625.5)Suzuki M, et al. J Neurosci.2007;27:1879-1891.6)Smith D, et al. Neurobiol Dis.2009;36:242-251.7)Maceyka M, et al. FEBS J.2013;280:6367-6372.8)Yu T, et al. Hum Mol Genet.2012;21:3205-3214.9)Maekawa M, et al. Steroids.2013;78:967-972.公開履歴初回2013年10月10日更新2016年04月19日

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スタチン不耐容患者へのエボロクマブ vs.エゼチミブ/JAMA

 筋肉関連の有害事象によるスタチン不耐容の患者において、新規開発の脂質低下薬エボロクマブはエゼチミブと比較して、24週後のLDL-コレステロール(LDL-C)値を有意に低下したことが、米国・クリーブランドクリニックのSteven E. Nissen氏による無作為化試験「GAUSS-3」試験の結果、示された。筋肉関連の有害事象によるスタチン不耐容の患者は5~20%と報告されており、スタチンの超低用量投与や間欠的投与あるいはエゼチミブ投与などが行われるが、ガイドラインで推奨される50%超低下を達成することはまれである。PCSK9阻害薬エボロクマブは、LDL-Cの低下が顕著で、スタチン不耐容患者の代替療法となる可能性が示唆されていた。JAMA誌オンライン版2016年4月3日号掲載の報告より。24週投与し、エボロクマブとエゼチミブの脂質低下の有効性と安全性を比較 GAUSS-3試験は、スタチンを再投与し筋肉症状の発現を確認する(フェーズA)、エゼチミブとエボロクマブの2つの非スタチン薬の脂質低下の有効性を比較する(フェーズB)、2段階から成る無作為化試験であった。 2013年12月10日~14年11月28日に、LDL-C値コントロール不良、2剤以上のスタチン不耐容歴のある511例を登録。フェーズAにおいて、クロスオーバー法を用いて24週間、アトルバスタチン(20mg)あるいはプラセボを投与し、アトルバスタチン投与でのみ筋肉症状を認めた患者を確認した。2週間のウォッシュアウト後、フェーズBにおいて、患者を2対1の割合でエボロクマブ(月1回420mg皮下注)もしくはエゼチミブ(1日1回10mg経口投与)群に無作為に割り付け、24週間の投与を行った。 主要エンドポイントは2つで、LDL-C値のベースラインからの平均変化率を、22週と24週の平均値、および24週値について評価した。24週時の平均変化率、エボロクマブ群-52.8%、エゼチミブ群-16.7% フェーズAの被験者は491例であった。平均年齢60.7(SD 10.2)歳、女性246例(50.1%)、170例(34.6%)が冠動脈疾患歴あり、試験開始時の平均LDL-C値は212.3(SD 67.9)mg/dLであった。結果、アトルバスタチン服用時のみ筋肉症状が認められたのは209例(42.6%)であった。 209例のうちフェーズBには199例が参加した。また、クレアチンキナーゼ高値であった19例がフェーズBより参加し計218例で行われた。エゼチミブ群に73例、エボロクマブ群に145例が割り付けられた。試験開始時の平均LDL-C値は219.9(SD 72)mg/dLであった。 LDL-C値の22週と24週の平均値は、エゼチミブ群は183.0mg/dLで、ベースラインからの平均変化率は-16.7%(95%信頼区間[CI]:-20.5~-12.9%)、絶対変化値は-31.0mg/dLであった。一方、エボロクマブ群は103.6mg/dL、-54.5%(95%CI:-57.2~-51.8%)、-106.8mg/dLで変化が有意に大きかった(LDL-C値の両群差:-37.8%、絶対変化値差:-75.8mg/dL、p<0.001)。 また24週時のLDL-C値についても、エゼチミブ群は181.5mg/dL、平均変化率は-16.7%(95%CI:-20.8~-12.5%)、絶対変化値は-31.2mg/dLであった一方、エボロクマブ群は104.1mg/dL、-52.8%(95%CI:-55.8~-49.8%)、-102.9 mg/dLで変化が有意に大きかった(LDL-C値の両群差:-36.1%、絶対変化値差:-71.7mg/dL、p<0.001)。 筋肉症状の報告は、エゼチミブ治療群で28.8%、エボロクマブ群で20.7%で有意差はみられなかった(log-rank検討によるp=0.17)。なお、筋肉症状のために試験薬投与を中止したのは、エゼチミブ治療群73例中5例(6.8%)であったのに対し、エボロクマブ群は145例中1例(0.7%)であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「さらなる試験で、長期の有効性と安全性を評価する必要がある」とまとめている。

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中等度リスク患者、スタチンでベネフィット/NEJM

 心血管疾患既往のない、心血管イベントリスクが中程度の患者に対し、ロスバスタチン治療によりコレステロール値を低下することで、主要心血管イベントリスクは4分の3程度に低減することが示された。カナダ・Population Health Research InstituteのS. Yusuf氏らが、約1万3,000例を対象に行った、無作為化プラセボ対照二重盲検試験HOPE-3の結果、明らかにした。先行研究で、コレステロール値を低下するスタチン治療は、心血管疾患既往のない人では、心血管イベントリスクを低下することが示されているが、試験に参加したのは脂質値および炎症マーカーが高値の人で、また被験者の大半が白人であった。そのためスタチンがもたらすベネフィットが、中等度リスクで民族的に多様な心血管疾患既往のない集団でも認められるかについては明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2016年4月2日号掲載の報告。ロスバスタチン10mg/日を投与し、イベント発生率を比較 研究グループは、21ヵ国228ヵ所の医療機関を通じて、55歳以上の男性と65歳以上の女性で、心血管疾患の既往がなく、(1)ウエスト・ヒップ比が高い、(2)低HDLコレステロール値、(3)最近または現在喫煙、(4)糖代謝異常、(5)早期冠動脈疾患の家族歴、(6)軽度腎機能障害のいずれか1つ以上が認められる、1万2,705例を対象に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った。 同試験では、2×2要因デザインを用いて、カンデサルタン16mg/日+ヒドロクロロチアジド12.5mg/日と、脂質低下薬ロスバスタチン10mg/日の効果を検証した。本論では、ロスバスタチン投与群(6,361例)と、ロスバスタチン非投与群(プラセボ群、6,344例)について、その効果を比較した。 主要複合アウトカムは2つあり、第1主要複合アウトカムは心血管疾患死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中、第2主要複合アウトカムは、第1主要複合アウトカムに心肺停止からの蘇生、心不全、血行再建術を加えたものだった。スタチン投与で第1主要複合アウトカムのリスクは0.76倍に 追跡期間中央値は、5.6年だった。試験終了時のLDLコレステロール値は、ロスバスタチン群がプラセボ群に比べ、26.5%低かった。 第1主要複合アウトカムの発生率は、プラセボ群4.8%(304例)に対し、ロスバスタチン群は3.7%(235例)と、有意に低率だった(ハザード比:0.76、95%信頼区間:0.64~0.91、p=0.002)。第2主要複合アウトカムの発生率も、プラセボ群5.7%(363例)に対し、ロスバスタチン群は4.4%(277例)と有意に低率だった(同:0.75、0.64~0.88、p<0.001)。 ベースライン時の心血管リスクにより分類したサブグループや、脂質値、CRP値、血圧、人種および民族別でみたサブグループにおいても、ロスバスタチン投与により、同様の心血管イベントリスクの低減効果が認められた。 なお、ロスバスタチン群では、糖尿病やがんの増加はみられなかったものの、白内障手術率がロスバタチン群3.8% vs.プラセボ群3.1%(p=0.02)、筋肉関連症状の発症率は5.8% vs.4.7%と、いずれもロスバタチン群で有意な増加がみられた(p=0.005)。

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中等度リスク患者への降圧治療のベネフィットは?/NEJM

 心血管疾患既往のない、心血管イベントリスクが中程度の患者に対し、カンデサルタン+ヒドロクロロチアジドによる降圧治療を行っても、主要心血管イベントリスクは低下しないことが示された。カナダ・Population Health Research InstituteのEva M. Lonn氏らが、約1万3,000例を対象に行った無作為化プラセボ対照二重盲検試験HOPE-3の結果、明らかにした。降圧治療について、高リスクの人および収縮期血圧が160mmHg以上の人では、心血管イベントリスクを低下するが、中等度リスクの人および血圧が低い(160mmHg未満)人における役割については明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2016年4月2日号掲載の報告。 21ヵ国228ヵ所の医療機関で調査 研究グループは、21ヵ国228ヵ所の医療機関を通じて、55歳以上の男性と65歳以上の女性で、心血管疾患の既往がなく、(1)ウエスト・ヒップ比が高い、(2)低HDLコレステロール値、(3)最近または現在喫煙、(4)糖代謝異常、(5)早期冠動脈疾患の家族歴、(6)軽度腎機能障害のいずれか1つ以上が認められる、1万2,705例を対象に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った。 同試験では、2×2要因デザインを用いて、カンデサルタン16mg/日+ヒドロクロロチアジド12.5mg/日と、脂質低下薬ロスバスタチン10mg/日の効果を検証。本論文では、カンデサルタン+ヒドロクロロチアジド投与群(6,356例)と、同非投与群(プラセボ群、6,349例)について、その効果を比較した。 主要複合アウトカムは2つあり、第1主要複合アウトカムは心血管疾患死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中、第2主要複合アウトカムは、第1主要複合アウトカムに心肺停止からの蘇生、心不全、血行再建術を加えたものだった。第1および第2主要複合アウトカムともプラセボ群と同等 追跡期間中央値は、5.6年だった。被験者のベースライン平均血圧値は138.1/81.9mmHgだった。 試験期間中、治療群の血圧低下幅はプラセボ群に比べ6.0/3.0mmHg大きかった。 第1主要複合アウトカムの発生率は、治療群が4.1%(260例)に対し、プラセボ群は4.4%(279例)で、同等だった(ハザード比:0.93、95%信頼区間[CI]:0.79~1.10、p=0.40)。 第2主要複合アウトカムの発生率も、治療群4.9%(312人)に対し、プラセボ群5.2%(328例)と、両群で同等だった(同:0.95、0.81~1.11、p=0.51)。 なお、事前に規定した収縮期血圧値が143.5mmHg超のサブグループについて調べたところ、第1・第2主要複合アウトカムとも、治療群でプラセボ群に比べ有意に低率だった(第1主要複合アウトカムについての傾向のp=0.02、第2主要複合アウトカムについての同p=0.009)。

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HOPE-3試験:仮説が不明で、かえって混乱を招く結果となった臨床試験(解説:桑島 巖 氏)-513

 本試験の仮説がよくわからない。HOPE試験のようにACE阻害薬の“降圧を超えた心血管合併症予防効果”をARB検証するのであれば、サイアザイド利尿薬を併用せずに行うべきであったし、正常高値に対する降圧の有用性を検証するのであれば、ヒドロクロロチアジドではなく、降圧効果の確実なサイアザイド類似薬であるクロルタリドンあるいはインダパミドを併用するなり、降圧薬の用量調整をするなりして、さらに厳格に収縮期血圧で120mmHg前後まで下げるべきであった。本試験では降圧目標を設定しておらず、ただARBとサイアザイド利尿薬の固定用量を用いた場合のイベント抑制効果という、中途半端な試験である。 リスクも低く、血圧も高くない(正常高値)症例に対して、ARBと降圧利尿薬固定用量を長期間投与することはメリットがあるか否かを検証したかったとすれば、当然メリットがないことは予想された。本試験の結果は、血圧が高いほど、あるいは高リスクほど厳格な降圧が有用であり、低リスク高血圧例での積極的降圧の有用性は乏しい、という結果を示したBPLTTC試験やSPRINT試験の結果とは矛盾しない。ただし、低リスク正常高値血圧の有用性を検証するには5年間は短すぎる。 本試験の対象は非常に複雑で、ウエスト・ヒップ比が高い症例、HDLコレステロール値が低い症例、糖代謝異常、喫煙、冠疾患家族歴を有する例を対象としているが、このような肥満症例では、生活習慣の改善、あるいは脂質低下療法が有効であり、降圧治療の有用性はあまり期待できないことはある程度予想できた。 本試験では、2×2方式で行われているため、試験の仮説がかなり分散している点は否めない。このような脂質代謝障害のある症例で、コレステロール低下療法の有用性を確認したいスポンサー企業の意図を垣間見る試験ともいえなくもない。事実、ロスバスタチンの有用性が認められている。 プラセボ群との血圧値の差は、収縮期 6.0/拡張期 3.0mmHgであり、実薬群の達成血圧は、128/76前後である。下げてもメリットはないともいえるし、この程度の降圧ではメリットはあまりなく、下げるなら120mmHgまで必要かもしれないことを示しているともいえる。 本試験から得られる結論としては、低リスクの症例では、血圧143以上でなければ降圧薬追加によるメリットはない。ただし、低リスクで血圧が正常であっても、さらに120mmHgまで下げた場合のメリットは否定できない。また、さらに長期間(たとえば10年)降圧薬を投与すればメリットはあるかもしれない。 なんとも中途半端なトライアルである。2×2で、自社製品のカンデサルタンとロスバスタチンの配合薬のメリットを出そうとしたスポンサーのもくろみがあったのかもしれない。科学的にはあまり意味がなく、かえって混乱を招きかねない。

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心血管疾患と悪性腫瘍の相同性(解説:後藤 信哉 氏)-509

オリジナルニュース長期アスピリン使用によるがん予防効果~13万6千人の前向き研究 動脈硬化は血管の老化とされる。また、動脈壁の慢性炎症変化ともいわれる。老化した細胞では、がん化のリスクも増加する。慢性炎症は発がんとも関連する。これらの事実を踏まえて考えると、心筋梗塞発症予防効果を有する薬剤に「がん化」予防効果があることは論理的必然ともいえる。 歴史的に心筋梗塞発症予防効果が明確に確認されている薬剤は、アスピリンとスタチンである。アスピリンのほうが使用歴が長いので、長期間の観察データの蓄積がある。以前から、英国の長期間の観察研究では、アスピリン服用例のがんの転移と初発が少ないことが以前から報告されていた。 今回の研究では、13万5 ,965例にも及ぶ看護師および医療関連職の前向きコホートを用いた観察研究にて、アスピリン常用者において、悪性腫瘍の発症が低かったこと(RR:0.97、95%CI:0.94~0.99)、消化管の悪性腫瘍(RR:0.85、95%CI:0.80~0.91)、とくに、大腸がんが少なかったこと(RR:0.81、95%CI:0.75~0.88)が示された。英国の長期観察データに引き続き、米国の長期観察データでも、アスピリン常用者において消化器の悪性腫瘍発症が低率であったことは興味深い。 ピロリ菌感染と同様に、アスピリンは日本における上部消化管粘膜障害の主要な原因である。ピロリ菌発症が、胃がんと関連するのに比較して粘膜障害を惹起しても、アスピリンと胃がんの関係は報告されていない。粘膜障害は、NSAIDsとしてのアスピリンが共有する副作用であるが、心筋梗塞発症予防効果はアスピリンに限局される。アスピリンは古い薬剤であるが、奥の深い薬剤である。大腸がん予防効果が科学的事実と認定されれば、日本でも多くの人がアスピリンの服用を希望すると想定される。特許が切れ、価格の安い薬なので、メーカーは新規の適応追加試験の施行に積極的になれないと推定される。日本には膨大な検診データがあるので、前向き観察研究を行い、英国、米国と同様の傾向が確認され、医師主導の大規模仮説検証ランダム化比較試験を実施することができれば、医学的インパクトはきわめて大きいと想定される。

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ニフェジピンによるDES留置後の血管保護効果を確認

 2016年3月19日、宮城県仙台市にて開催された第80回日本循環器学会学術集会の「Late Breaking Clinical Trials/Cohort Studies III」にて、長時間作用型ニフェジピンの薬剤溶出ステント(DES)留置後の冠動脈に対する保護効果を検討した無作為化前向き試験“NOVEL study”の結果が、東北大学 循環器内科学の圓谷 隆治氏より発表された。 同氏の研究グループはこれまでに、第1世代のDESによる冠動脈過収縮反応を、長時間作用型ニフェジピンの慢性投与が抑制することが動物実験で示されたことを報告している。本試験では、現在主に臨床で使用されている第2世代のDESであるエベロリムス溶出ステントを用いて、ヒトにおける同様の効果について検討された。 対象は、左冠動脈へのDES留置を予定している146例の安定狭心症患者であった。被験者を、スタチン、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、アスピリン、クロピドグレルによる一般的な薬物治療を実施する対照群と、それらに長時間作用型ニフェジピンを追加投与する群に無作為に割り付けた。ニフェジピン群57例および対照群53例に対し、ステント留置から8~10ヵ月後、冠動脈造影のフォローアップ検査を実施し、アセチルコリン負荷試験による冠動脈の収縮反応の確認が行われた。 その結果、冠動脈過収縮反応は、非治療血管に比べ、ステントの遠位部において顕著であった(p<0.001)。また、対照群と比較して、ニフェジピン投与群においてその反応は有意に抑制された(p<0.01)。さらには、血液検査により、炎症反応に関してもニフェジピン群のみにおいて改善が認められた(p<0.05)。 圓谷氏は、本試験の対象患者は、基礎疾患などのベースライン時の特徴から、比較的高リスクであったことを説明した。そのような患者においては、血管に対するストレスが減少したとされる第2世代のDESを用いた場合でも、血管の異常反応である過収縮が認められ、それに対して長時間作用型のニフェジピンの抗炎症作用が有益な効果に関連していることを述べた。 同発表のコメンテーターである岐阜大学 循環病態学・呼吸病態学・第二内科の西垣 和彦氏は、ニフェジピンの抗炎症作用が「クラスエフェクトとしてほかのカルシウム拮抗薬にもあるのか」、また、「ステントを留置した患者の長期予後へどのような影響を及ぼすのか」、という2点が、今後のさらなる研究で明らかになることに期待を寄せた。

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ACC(米国心臓病学会)2016 注目のLate Breaking Clinical Trial

2016年4月2~4日、米国シカゴでACC2016(米国心臓病学会)が開催されます。今年のACCは、5つのLate Breaking Clinical Trialセッションと2つのFeatured Clinical Researchセッションで最新の研究が発表される予定です。ケアネットでは、聴講スケジュールの参考としていただくために、Late Breaking Trialでの注目演題のアンケートを実施いたしました。その結果をセッションごとに、北里大学医学部循環器内科学 教授 阿古潤哉氏のコメントとともにご紹介いたします。また、レストランをはじめ開催地シカゴのおすすめスポットについても、会員の方々から情報をお寄せいただきました。ぜひ、ご活用ください。開催地シカゴのおすすめスポットはこちらOpening Showcase and the Joint ACC/JACC Late-Breaking Clinical Trials<Session 401:4/2(土)8:00am~10:00am、Main Tent (North Hall B1)>Partner 2: Transcatheter Aortic Valve Replacement Compared with Surgery in Intermediate Risk Patients with Aortic Stenosis: Final Results from the Randomized Placement of Aortic Transcatheter Valves 2 StudyHOPE 3: Blood Pressure Lowering in People at Moderate RiskHOPE 3: Effects of Combined Lipid and BP-Lowering on Cardiovascular Disease in a Moderate Risk Global Primary Prevention PopulationQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はTAVRに注目が集まっている様子。最初は手術リスクが高い人にのみ行われてきたTAVRが、中等度リスクの患者でどのような結果になるか、無作為化試験に注目が集まる。結果次第では現在の適応を大きく変えていく可能性も。Joint American College of Cardiology/Journal of the American Medical Association Late-Breaking Clinical Trials<Session 404:4/3(日) 8:00am~9:15am、Main Tent (North Hall B1)>ACCELERATE: Impact of the Cholesteryl Ester Transfer Protein Inhibitor Evacetrapib on Cardiovascular Events: Results of the ACCELERATE trialGAUSS-3: Comparison of PCSK9 Inhibitor Evolocumab Versus Ezetimibe in Statin-intolerant Patients: The Goal Achievement After Utilizing an Anti-PCSK9 Antibody in Statin Intolerant Subjects 3 (GAUSS-3) TrialFH Mutations: Low-density Lipoprotein Cholesterol, Familial Hypercholesterolemia Mutation Status and Risk for Coronary Artery DiseaseStepathlon: Reproducible Impact of a Global Mobile Health (mHealth) Mass-Participation Physical Activity Intervention on Step Count, Sitting Behavior and Weight: the Stepathlon Cardiovascular Health StudyLow Risk Chest Pain: Involving Patients with Low Risk Chest Pain in Discharge Decisions: A Multicenter TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はGAUSS試験に注目が集まっている。わが国でも承認されたPCSK9阻害薬が、スタチンを投与することができない患者に対してどの程度、有効性・安全性を示すか注目される。ACCELERATEはCETP阻害薬の試験。今までHDL-Cを上げる治療はなかなか有効性が示されていないが、evacetrapibでどのような結果となるか?Joint American College of Cardiology/TCT Late-Breaking Clinical Trials<Session 405:4/3(日)10:45am~noon、Main Tent (North Hall B1)>DANish (DEFERred stent): The Third DANish Study of Optimal Acute Treatment of Patients with ST-segment Elevation Myocardial Infarction: DEFERred stent implantation in connection with primary PCIDANish (iPOST conditioning): The Third DANish Study of Optimal Acute Treatment of Patients with ST-segment Elevation Myocardial Infarction: iPOSTconditioning during primary PCIEarly-BAMI: Effect Of Early Administration Of Intravenous Beta Blockers In Patients With ST-elevation Myocardial Infarction Before Primary Percutaneous Coronary Intervention. The Early-BAMI trial.Sapien 3: Sapien 3 Transcatheter Aortic Valve Replacement versus Surgery in Intermediate-Risk Patients with Severe Aortic Stenosis: A Propensity-Matched Comparison of One-Year OutcomesTAVR Volume/Outcome: Relationship Between Procedure Volume and Outcome for Transcatheter Aortic Valve Replacement in U.S. Clinical Practice: Insights from the STS/ACC TVT RegistryQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はSTEMIに対する試験が注目されている様子である。TAVRの演題は数字上低めとなっている。しかし、この日もSapienはintermediate riskの患者のデータであり、TAVR治療の今後の広がりを考える上では注目されよう。Featured Clinical Research Session I<Session 406:4/3(日)12:30pm~1:45pm、ACC.16 Main Tent (Room S103cd)>MR: Papillary Muscle Approximation versus Undersizing Restrictive Annuloplasty Alone for Severe Ischemic Mitral Regurgitation: a Randomized Clinical TrialIsch MR: Two-year Outcomes of Surgical Treatment of Moderate Ischemic Mitral Regurgitation: A Randomized Clinical Trial from The Cardiothoracic Surgical Trials NetworkSurgery Ischemic HF: Ten-Year Outcome of Coronary Artery Bypass Graft Surgery Versus Medical Therapy in Patients with Ischemic Cardiomyopathy: Results of the Surgical Treatment for Ischemic Heart Failure Extension StudyCoreValve: 3-Year Results From the CoreValve US Pivotal High Risk Randomized Trial Comparing Self-Expanding Transcatheter and Surgical Aortic ValvesValve Deterioration: Incidence and Outcomes of Valve Hemodynamic Deterioration in Transcatheter Aortic Valve Replacement in U.S. Clinical Practice: A Report from the Society of Thoracic Surgery / American College of Cardiology Transcatheter Valve Therapy RegistryQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はischemic MRに対する試験と、虚血性心筋症に対するバイパス術と内科的治療を比較した臨床試験が注目を集めている。いずれも、clinical decision makingの助けとなる臨床試験が不足している領域であり、今後のガイドラインにも影響を与えそうな試験内容である。Joint American College of Cardiology/New England Journal of Medicine Late-Breaking Clinical Trials<Session 410:4/4(月)8:00am~9:15am、Main Tent (North Hall B1)>Resuscitation Outcomes: Antiarrhythmic Drugs for Shock-Refractory Out-of-Hospital Cardiac Arrest: The Resuscitation Outcomes Consortium Amiodarone, Lidocaine or Placebo StudyFIRE AND ICE: Largest Randomized Trial Demonstrates an Effective Ablation of Atrial Fibrillation: the FIRE AND ICE TrialRate v Rhythm: A Randomized Trial of Rate Control Versus Rhythm Control for Atrial Fibrillation after Cardiac SurgeryLATITUDE-TIMI 60: The Losmapimod To Inhibit P38 MAP Kinase As A Therapeutic Target And Modify Outcomes After An Acute Coronary Syndrome (LATITUDE-TIMI 60) Trial: Primary Results Of Part ACARIN: CMX-2043 for Prevention of Contrast Induced Acute Kidney Injury: The Primary Results of the CARIN TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日はresuscitation、ablation、rate control or rhythm controlに注目が集まっているが、個人的にはLATITUDE試験の結果も興味深いのではないかと考える。Late-Breaking Clinical Trials<Session 412:4/4(月)10:45am~noon、Main Tent (North Hall B1)>ATMOSPHERE: Direct Renin-inhibition With Aliskiren Alone And In Combination With Enalapril, Compared With Enalapril, In Heart Failure (the ATMOSPHERE Trial)TRUE-AHF: Effect of Ularitide on Short- and Long-Term Clinical Course of Patients with Acutely Decompensated Heart Failure: Primary Results of the TRUE-AHF TrialIxCell-DCM: The Final Results of the IxCell-DCM Trial: Transendocardial Injection of Ixmyelocel-T in Patients with Ischemic Dilated CardiomyopathyINOVATE-HF: The Effect of Vagal Nerve Stimulation in Heart Failure: Primary Results of the INcrease Of VAgal TonE in chronic Heart Failure (INOVATE-HF) TrialIMPEDANCE-HF: Non-invasive Lung IMPEDANCE-Guided Preemptive Treatment in Chronic Heart Failure Patients: a Randomized Controlled Trial (IMPEDANCE-HF trial)Low Risk Chest Pain: Involving Patients with Low Risk Chest Pain in Discharge Decisions: A Multicenter TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこの日は心不全関連の演題が多く出されている。アリスキレンの演題の注目度が高いようだが、vagal stimulationなどの新たな試みも出てくるということで、心不全に関する新たな知見が期待される。Featured Clinical Research Session II<Session 416:4/4(月)2:00pm~3:30pm、Main Tent (Grand Ballroom S100bc)>PROMISE (Sex Differences): Sex Differences in Functional Stress Test vs CT Angiography Results and Prognosis in Symptomatic Patients with Suspected Coronary Artery Disease: Insights from the PROMISE TrialSTOP-CHAGAS: Short and Long Term Effects of Benznidazole, Posaconazole, Monotherapy and their Combination in Eliminating Parasites in Asymptomatic T. cruzi Carriers: The Study of Oral Posaconazole in the Treatment of Asymptomatic Chagas Disease (STOP-CHAGAS Trial)STAMPEDE: Bariatric Surgery vs. Intensive Medical Therapy for Long-term Glycemic Control and Complications of Diabetes: Final 5-Year STAMPEDE Trial ResultsVindicate: Vitamin D Supplementation Improves Cardiac Function In Patients With Chronic Heart Failure - Preliminary Results Of The Vitamin D Treating Chronic Heart Failure (vindicate) StudyRxEACH Trial: The Effect of Community Pharmacist Prescribing and Care on Cardiovascular Risk Reduction: The RxEACH Multicenter Randomized Controlled TrialQ.上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=99)画像を拡大する阿古 潤哉氏のコメントこのセッションにはさまざまなものが混じって入れられている。わが国にも関連があるのはsex differenceの演題かもしれないが、世界的にみるとCHAGAS病、肥満に対するbariatric surgeryなども重要な位置を占める。

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また新たに創薬のターゲットにされる脂質異常症関連遺伝子(解説:興梠 貴英 氏)-495

 2013年11月に発表されたAHA(米国心臓協会)の脂質異常症治療に関するガイドラインでは、動脈硬化性心血管疾患の発症リスクを有意に減少させるのはスタチンのみである、と結論付けている。その後、IMPROVE-IT試験でエゼチミブのスタチンへの上乗せ効果が認められたこともあり、臨床現場でも脂質異常症治療として、まずLDL-C低下が治療の第1選択肢となっている。しかし、LDL-Cを十分に下げても必ずしもイベント発症を完全に予防できるわけではなく、残存リスク低減のための新しい脂質異常症治療がいまだに求められており、たとえばAPOC3やLPAをターゲットにしたアンチセンス療法の治験が進みつつある。 Dewey氏らは、LPLを阻害することで中性脂肪濃度を上昇させる作用があるANGPTL4に機能喪失型の変異があるときにTG濃度が下がることを、4万2,930人を対象にエクソームシーケンスを行うことで調べ、さらに心血管系リスクも低下することを示した。また、この研究ではANGPTL4を低下させる抗体医薬をマウスおよびサルに対して投与し、TG濃度が下がることを確認している。 一方で、Angptl4のノックアウトマウスではTG濃度は下がるものの、高脂肪食を与えた場合には、小腸由来のリンパ管や腸間膜リンパ節に乳糜腹水を伴う脂肪肉芽腫様の炎症を起こし、寿命が短くなることが報告されており1)、本研究においても抗体医薬投与を受け、高脂肪食を与えられたマウスにおいて、脂肪を蓄積したツートン型巨細胞および腸管リンパ節の腫脹を認めている。 さらに、サルでもメスにおいてのみではあるが、腸管リンパ節に脂肪の蓄積を認めている。ANGPTL4に機能喪失型の変異を有する被験者のカルテ調査をした限りでは、腹部その他のリンパ関連疾患は見つからなかった、ということであるが、今後薬剤の開発が進んでいく中では、同様の副作用が出現しないか注目する必要があるだろう。 また、ターゲット遺伝子や蛋白の発現量を下げるための手法として、アンチセンスや抗体医薬は比較的開発しやすいのかもしれないが、脂質異常症があったからといって、ただちに生命の危機につながるわけではなく、逆に、薬物によって減らせるリスクがさほど大きくないことを考えた場合、高価になりがちな治療法が現実に用いられるようになるのかはやや疑問である。LPAのようにそれ自身に酵素活性などなく、遺伝子発現を抑えるしかない場合はともかく、それ以外の場合は将来的には(発見されれば、という条件付きではあるが)低分子薬が本命となるのではないか、と考えられる。

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スタチンは心臓手術後の急性腎障害を予防するか/JAMA

 スタチン未治療、既治療を問わず、心臓手術を受ける患者への周術期の高用量アトルバスタチン(商品名:リピトールほか)投与は、術後の急性腎障害(AKI)リスクを低減しないことが判明した。米国・ヴァンダービルト大学のFrederic T. Billings IV氏らが、二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、明らかにした。全体では有意差はないものの、投与群でリスクの増大が認められ、スタチン未治療患者では開始により有意なリスク増大が示された。スタチンについては、AKI発症機序に影響を及ぼす可能性が示されており、最近のいくつかの観察研究の解析報告で、スタチン既治療患者で心臓手術後のAKIリスク低減が報告されていた。ただし、それらの解析は検証が十分なものではなかった。JAMA誌2016年3月1日号掲載の報告より。スタチン未治療、既治療患者を対象に二重盲検プラセボ対照無作為化試験 試験は、ヴァンダービルト医療センターで、2009年11月~14年10月に成人の心臓手術患者を対象に行われた。 研究グループは、スタチン未治療患者(199例)について、アトルバスタチンを手術前日80mg/手術当日朝(開始3時間以上前)40mg/術後入院期間中AM10時に40mgを投与する群(102例)、または適合プラセボ群(97例)に無作為に割り付けた。また、試験登録時にスタチン治療を受けていた患者(416例)については、手術日まで同処方投与を続け、アトルバスタチンを手術当日朝(開始3時間以上前)80mg/術後はAM10時に40mgを投与する群(206例)、または適合プラセボ群(210例)に無作為に割り付けた。既治療群は手術翌日に既処方のスタチン投与を再開した。 主要エンドポイントは、AKIの発症で、手術後48時間以内の血清クレアチニン値0.3mg/dL上昇(Acute Kidney Injury Network基準)で定義した。プラセボ群と有意差なし、未治療患者では周術期開始でリスクが増大 本試験は、スタチン未治療でアトルバスタチンを投与されたCKD(eGFR<60mL/分/1.73m2)患者でAKI発症の増大が認められ、データ・安全モニタリング委員会が早期中止を勧告した。試験を完了し解析に組み込まれた患者は615例(中央値67歳、女性30.6%、糖尿病患者32.8%)であった。 全被験者(615例)で、AKI発症は、アトルバスタチン群64/308例(20.8%)、プラセボ群60/307例(19.5%)であった(相対リスク[RR]:1.06、95%信頼区間[CI]:0.78~1.46、p=0.75)。 スタチン未治療患者(199例)では、AKI発症は、アトルバスタチン群22/102例(21.6%)、プラセボ群13/97例(13.4%)でみられた(RR:1.61、95%CI:0.86~3.01、p=0.15)。血清クレアチニン値の上昇は、アトルバスタチン群中央値0.11mg/dL(第10~90パーセンタイル値:-0.11~0.56mg/dL)、プラセボ群中央値0.05mg/dL(同:-0.12~0.33mg/dL)であった(中央値差:0.08mg/dL、95%CI:0.01~0.15mg/dL、p=0.007)。 スタチン既治療患者(416例)では、AKI発症は、アトルバスタチン群42/206例(20.4%)、プラセボ群47/210例(22.4%)であった(RR:0.91、95%CI:0.63~1.32、p=0.63)。術後の血清クレアチニン値の上昇は、両群間で有意差はなかった。 以上を踏まえて著者は、「結果は、心臓手術後のAKI予防目的のスタチン開始治療を支持しないものであった」と結論している。

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Vol. 4 No. 3 ACC/AHA 脂質管理ガイドラインコントロバーシー その経緯と現在の考え

荒井 秀典 氏国立長寿医療研究センターはじめに米国のNHLBI(National Heart, Lung, and Blood Institute)が中心となって作成したNCEP-ATP III(National Cholesterol Education Program-Adult Treatment Panel)のガイドラインが2001年に発表され、そのガイドラインが2004年に改訂された。心筋梗塞、脳卒中などの動脈硬化性疾患の予防のための脂質管理に関しては、本ガイドラインが作成された米国だけでなく、アジアを含め多くの国々で脂質管理のガイドラインとして使われてきたと思われる。2008年頃よりNCEP-ATP IIIの改訂版であるNCEP-ATP-IV作成に向けた作業が行われていたが、結局NHLBIはその作成を断念せざるをえなかったと聞く。その後、American College of Cardiology(ACC)とAmerican Heart Association(AHA)という米国を代表する循環器の学会が、NHLBIと共同で動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)のリスクを減少させるための脂質異常症治療に関するガイドラインを2013年11月に発表した1)。そのガイドラインは、これまでのガイドラインから180度転換を図るものであった。ACC/AHAガイドラインは、脂質異常症に関する3つのcritical questions(CQ)に対する回答の形で作成されており、質の高いrandomized controlled trial(RCT)とメタ解析の論文を中心に系統的にレビューし、作成された。したがって、フォローアップ期間の短いRCTやRCTのサブ解析などは採用されていない。ACC/AHAガイドラインは、これまで数多く実施されてきたスタチンによるRCTおよびそのメタ解析の結果をもとに脂質管理の指針が出された結果となっている。このため、実臨床とは解離したガイドラインとの批判もある。メタ解析についてはCholesterol Treatment Trialists' collaborationなどのメタ解析の結果から2-4)、ハイリスク群における高用量スタチンを推奨するガイドラインとなっている。スタチンによるASCVD発症予防効果が期待できる4つのグループを同定設定されたCQに対してシステマティックレビューを行った結果、スタチン治療による多くの心血管イベント抑制を示すエビデンスおよびそのメタ解析より、治療が有益と判断される以下の4つの患者群が同定された。その4つの患者群とは、「ASCVDを有する患者(2次予防患者)」、「LDL-コレステロール(LDL-C)が190mg/dL以上の患者(続発性は除く)」、「LDL-Cが70~189mg/dLで40~75歳のASCVD既往のない糖尿病患者」、「LDL-Cが70~189mg/dL、ASCVD既往も糖尿病もない40~75歳で、10年間のASCVDリスクが7.5%以上(10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる計算に基づく)の患者」である。治療方針は、図に示すようなアルゴリズムに従って決定される。まず、2次予防で75歳以下の患者に対しては高用量スタチンによる治療を行うべきであり、76歳以上の患者には中用量スタチンによる治療を行う。1次予防においては、家族性高コレステロール血症など極めて冠動脈疾患の発症リスクの高い原発性高脂血症に対する治療の必要性から、LDL-Cが190mg/dL以上で21歳以上であれば、高用量スタチン治療を行う。わが国のガイドラインにおいてもLDL-Cが180mg/dL以上ある場合には家族性高コレステロール血症の可能性が強くなるため、スタチン治療を考慮すべきであるとしているが、家族性高コレステロール血症でなければ、高用量スタチン治療を推奨しているわけではない。次に40歳から75歳までの糖尿病患者は1型、2型を問わずスタチン治療が推奨されている。なかでも10年間のASCVD発症リスクが7.5%以上の患者においては高用量スタチンが、それ以外では中用量スタチンによる治療が推奨される。4つめのグループとしては、2次予防でもLDL-C 190mg/dL以上でも糖尿病でもなくても、10年のASCVD発症リスクが7.5%以上の群であり、この基準を満たす場合にはスタチン治療の適用となる(表)。このように、治療方針決定のための判断材料としては、10年間のASCVD発症リスクを用いる以外は理解しやすく、治療を行う医師は高用量か中用量のスタチンを選べばよいということで、decision makingが容易となっている。図 動脈硬化性疾患予防のためのスタチン治療の推奨画像を拡大する表 高用量、中用量スタチンの治療対象画像を拡大するLDL-Cおよびnon HDL-Cの管理目標値は設定しない本ガイドラインでは、LDL-Cやnon HDL-Cの管理目標値を設定せず、図に示すように高用量(50%以上のLDL-C低下)あるいは中用量(30~50%のLDL-C低下)のスタチンによる治療が推奨されている。その理由は特定のLDL-Cを目標として(例えば、130mg/dL未満と100mg/dL未満でどちらのグループでよりイベント発症が少ないかなど)比較をしたRCTがないからであると説明されている。わが国の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版でも20~30%のLDL-C低下を目標とすることも考慮すると記載されており、LDL-Cの管理目標値を決定するに足るエビデンスは現状ではないことに関して異論はないが、日本の実臨床の場では管理目標値があったほうが治療しやすく、アドヒアランスを維持するためには管理目標値が必要であると考えている。したがって、動脈硬化性疾患予防ガイドラインにあるようにLDL-Cの管理目標値を考慮しながら治療にあたるというのがより実際的ではなかろうか。なお、動脈硬化性疾患予防ガイドラインではLDL-Cの管理目標を設定しているが、“脂質管理目標値は到達努力目標値である”ことも認識すべきである。すなわち、100%その値をクリアすることを求めているわけではない。また、ASCVD予防のための脂質低下治療に関しては、高用量、中用量のスタチンのみが推奨されているが、わが国の保険診療では認められていない用量が推奨されている。非常にリスクが高い場合には、高用量スタチンが選択されるであろうが、日本で認められている最大用量のスタチンを用いることになるであろう。さらに、スタチン以外の薬剤でASCVDの発症リスクを有意に減少させる、あるいはスタチンとの併用で相加的なリスク減少が得られるとのエビデンスは得られなかったとされているが、JELISやACCORD Lipidのサブ解析などのエビデンスも考慮し、わが国のガイドラインでは、スタチン以外の薬剤の使用についても妥当としている。1次予防のための包括的リスク評価本ガイドラインにおいては、米国における5つのコホート研究10年のASCVD発症リスクはPooled Cohort Equationsによる計算に基づく。年齢、性別、人種(アフリカ系アメリカ人かそれ以外)、総コレステロール、HDL-C、収縮期血圧、降圧剤内服の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無により、その患者の10年間のASCVD発症リスクが計算される。また、生涯リスクも計算される。しかしながら、このリスクチャートをアジア人に適用することは、リスクの過大評価につながることは容易に想像できる。すでに欧米人の解析でも、NCEP-ATP IIIを適用した場合と比べて、スタチンの治療対象となる患者がかなり増加するとの試算もある。例えば、60歳以上の高齢者はほとんどがスタチンによる治療対象となるといわれている。このようにスタチン治療の適応範囲を広げることは、日本人における動脈硬化性疾患発症リスクを考えても現実的ではない。現在わが国のガイドラインでは、NIPPON DATA80を元にしたリスクチャートを用いており、これが日本人のリスク予測には妥当と考えている。ただ、死亡がエンドポイントとなっているため、今後は発症をエンドポイントとしたリスク評価手法を検討していく必要性はあろう。なおこのガイドラインでは、当然ではあるが、スタチン治療を開始する前に患者とのdiscussionが必要であると述べられており、正しい方向性である。安全性への配慮本ガイドラインでは、採用したRCTの成績に基づいて安全性に関する推奨を行っているが、特にスタチンによる糖尿病の新規発症、筋症(CK上昇を伴わないケースも多い)、認知機能低下などである。スタチンによる糖尿病の新規発症に関してはメタ解析の結果も発表されており、明らかであるが、スタチンによる心血管イベント抑制効果をしのぐものではない。また、メタ解析の結果からスタチンによる糖尿病の新規発症は用量依存性であり、スタチンの用量が少ない日本においては糖尿病の新規発症が欧米に比べ低いことが予想できる。スタチンによる糖尿病の新規発症のメカニズムは十分に明らかになっておらず、今後の検討課題である。バイオマーカーや非侵襲性検査の役割本ガイドラインにおいて、すでに述べたように年齢、性別、人種、総コレステロール、HDL-C、収縮期血圧、降圧剤内服の有無、喫煙の有無、糖尿病の有無が主要な危険因子であり、これらの危険因子により計算された10年間のASCVD発症リスクが7.5%未満の際に、高感度CRP、冠動脈のカルシウムスコア、ankle brachial index(ABI)などのバイオマーカーあるいは非侵襲性検査を用いることも考慮してよいとなっているが、そもそも慢性腎臓病(CKD)がリスクとしてカウントされておらず、日本でよく使用されている頸動脈エコーについてもエビデンスの欠如から採用されていない。頸動脈エコーについては、もちろん症例を選ぶべきではあろうが、治療の意欲やアドヒアランスを考えると有用な検査であろう。もちろん、エビデンスの蓄積をさらに進めるべきである。脂質異常症ガイドラインの今後の方向性本ガイドライン作成委員は、本ガイドラインがASCVD抑制のみにフォーカスしたガイドラインであり、脂質異常症の包括的なマネジメントのためのガイドラインではないことは認めている。したがって、今後実施すべき臨床試験について以下のように記載している。すなわち、高TG血症の治療はどうすべきか、non HDL-Cを治療ターゲットとできるか、アポB、Lp(a)、LDL粒子数などのマーカーがリスク評価に使えるか、治療方針決定のための最もよい非侵襲検査はなにか、生涯ASCVDリスクは使えるか、心不全や透析患者のなかでスタチンの恩恵を受けることができるのはどのようなグループか、スタチンによる新規糖尿病発症の長期的な影響はどうなのか、RCTから除外されているグループ(HIV患者、臓器移植患者)へのスタチンの効果はどうなのか、などである。いずれも重要なテーマであるが、RCTにそぐわないものもあり、観察研究などの結果もガイドラインに反映させるべきであろう。まとめ今回のACC/AHAガイドラインの特徴の1つは、脂質管理目標値を設定しないことである。ACC/AHAガイドラインにおける治療指針はスタチンによるRCTのみに基づいているため、LDL-Cを中心とした管理のみが強調されている点は注意が必要であり、レムナントなど他の脂質マーカーにも着目して、残余リスクの管理を考慮しながら治療にあたるべきである。今後、ガイドラインの作成は、ACC/AHAガイドラインのようにRCTのみをベースとしたものになる可能性が高いが、時間、コストなどの問題を考えると観察研究などのエビデンスもある程度は取り入れながら、ガイドラインの作成を行うことが現実的ではないかと思われる。文献1)Stone NJ et al. 2013 ACC/AHA guideline on the treatment of blood cholesterol to reduce atherosclerotic cardiovascular risk in adults: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circulation 2014; 129: S1-45.2)Baigent C et al. Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90,056 participants in 14 randomised trials of statins. Lancet 2005; 366: 1267-1278.3)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaboration et al. Efficacy and safety of more intensive lowering of LDL cholesterol: a meta-analysis of data from 170,000 participants in 26 randomised trials. Lancet 2010; 376: 1670-1681.4)Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaborators et al. The effects of lowering LDL cholesterol with statin therapy in people at low risk of vascular disease: meta-analysis of individual data from 27 randomised trials. Lancet 2012; 380: 581-590.

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Vol. 4 No. 3 巻頭座談会 脂質管理の今を整理する  循環器医に必要な知識はなにか?

宮内 克己 氏順天堂大学大学院 医学研究科循環器内科森野 禎浩 氏岩手医科大学 内科学講座循環器内科分野2013年秋にACC/AHAが発表したコレステロール管理ガイドラインは、臨床現場に大きな議論をもたらした。LDLコレステロールの治療目標はどうあるべきか?treat to targetか? fire and forgetか?the lower, the betterの解釈は?最近のエビデンスも踏まえ、現時点の脂質管理のあり方を整理する。LDL-C高値による心血管疾患の発症リスク森野: 冠動脈疾患患者の2次予防において、脂質管理は重要な課題です。1989年に初のスタチン、2000年にストロングスタチンが登場したことで、われわれの脂質管理は大きく変化しました。一方、スタチンで抑制できない残存リスクも明らかとなり、新しい脂質異常症治療薬の開発も進んでいます。本誌の読者はすでに脂質管理について十分な知識をおもちと思いますが、そのうえで脂質管理をどう行うべきかについて、オピニオンリーダーとして多くのエビデンスを発信されている宮内先生にお話をうかがいながら、知識を深めていきたいと思います。宮内先生、よろしくお願いいたします。はじめにLDLコレステロール(LDL-C)に関する研究や考え方についてまとめていただけますでしょうか。宮内: LDL-Cが高ければ予後が悪く、下げれば予後が改善するというLDL-C仮説は、もともと高LDL-C血症が心筋梗塞のリスクであるという疫学研究、家族性高コレステロール血症(FH)では早発性の心筋梗塞が認められるという臨床的観察、動物にコレステロールを負荷すると粥状硬化が認められるという実験の3つが根拠となっています。ここでもう一度、近年の研究について見直してみます。疫学研究については、20代男子大学生約1,000人を30~40年追跡した米国の調査で、総コレステロール高値が心血管イベントに関与することが1993年に報告されました1)。この研究で注目されるのは、追跡後15~20年以降にイベント発現の差がみられ始めた点です。つまり、コレステロール高値が何年つづいているかの“積分”が重要であることを意味しています。このことは、家族性高コレステロール血症をみるとよくわかると思います。未治療の場合、非FHの脂質異常症では55歳で累積LDL-Cが心血管イベント発症閾値に達するのに対し、ヘテロ接合体FHでは35歳、ホモ接合体FHでは12.5歳で到達すると推定されています2)。日本の疫学調査としては、心血管疾患の既往歴のない一般住民を22年間追跡したCIRCS研究において、冠動脈疾患発症リスクが有意に増加するLDL-Cの閾値は80mg/dLであることが示されています3)。LDL-Cはthe lower, the better宮内: 次に、これまでのスタチンを用いた介入試験の結果をまとめると、2次予防も1次予防もイベント減少はLDL-C低下と相関していることは明らかです(図)4,5)。2次予防は70mg/dL、1次予防は100mg/dLまでのエビデンスが構築されています。CTT(Cholesterol Treatment Trialists')の2010年のメタ解析では、介入前のLDL-Cにかかわらずスタチンは心血管イベンの相対リスクを22%減少させることが認められました6)。急性冠症候群(ACS)は発症後早期からアトルバスタチン80mgを投与することで、非投与群に比べ心血管イベントが有意に低下することもMIRACL試験で示されています7)。こうしたことから、2012年のESC/EAS(欧州心臓病学会/欧州動脈硬化学会)脂質異常症管理ガイドラインでは「ハイリスク患者はLDL-C 100mg/dL以下、 2次予防ハイリスク患者はLDL-C 70mg/dL以下、ACSは入院中にストロングスタチン高用量をLDL-C値に関係なく早期に使用すること」が推奨されることになったわけです。そして、2013年、ACC/AHA(米国心臓病学会/米国心臓協会)は動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease : ASCVD)予防のためのコレステロール管理ガイドラインを発表し、スタチンの有用性が期待できる4つの患者群を示したうえで、ASCVD患者にはストロングスタチンを高用量で使用すべきと、いわゆる“fire and forget”の概念を提唱したのです。森野: この、fire and forgetの考え方はさまざまな議論を呼びましたね。宮内: これまでの研究で、LDL-C値は70mg/dL以下にすべきことはわかってきたけれども、それをターゲットにすることは、裏を返せば70mg/dL以下は介入しなくてよいということになります。しかしそのようなエビデンス、つまりどこまで下げればリスクが最も小さくなるかというエビデンスはないわけです。一方で、スタチンによりLDL-Cを下げすぎても死亡率は増加しないというデータはあります。こうしたことから、目標値は設定しないという考え方がでてきたのだと思います。英国のコホート研究でも、急性心筋梗塞(AMI)発症後にスタチンを中止すると、AMI前後ともスタチン未使用者より予後が有意に悪いことが示されています8)。この結果は、まさにfire and forgetの重要性を示唆していると思います。森野: 日本では、既往があればLDL-Cに関係なく高用量スタチンを投与するという欧米の考え方に違和感をおもちの先生方は少なくないと思いますが、その背景をあらためて振り返ってみると理解しやすいですね。宮内: LDL-Cは“lipid-modifying treatment、the lower, the better”が世界の潮流となっています。図 LDL-C値と冠動脈疾患イベント発症率の関係画像を拡大する超ハイリスク患者ではLDL-Cが低下してもスタチン継続を森野: そうしますと、2次予防ではLDL-Cが正常値でも介入が必要ということでしょうか。宮内: 2012年のCTTメタ解析では、5年間で起きる心血管イベントリスクで5群に分けてみても、リスクに関係なくスタチンによるLDL-C低下に比例して心血管イベントが減少することが示されました9)。どの群でも、心血管イベント数の減少率は同じです。しかしよくみると、絶対数は、当然ながらリスクが高いほど大きいことがわかります。また、最近、IMPROVE-IT試験の結果が発表され、ACSによる入院10日以内のハイリスク患者はスタチン+エゼチミブでLDL-C値を約55mg/dLに低下させると、スタチンのみで約70mg/dLに低下させた場合に比べ、心血管イベントのリスクが7年間で6.4%減少と、軽度ながら有意差が認められました10)。この試験は、スタチンスタチン以外の薬剤を併用することでさらなるLDL-C低下をめざした治療の有効性が示された点で、たいへん注目されています。ただし、どのような患者群で脂質低下によるイベント減少効果が大きかったかを層別解析でみてみると、有意差が認められたのは糖尿病群と非糖尿病群の間だけでした。つまり、ACSかつ糖尿病という超ハイリスク患者ではthe lower, the betterが証明されたということです。実際は、全体でみても今回の結果はこれまでの臨床試験で示されているLDL-C低下と心血管イベント低下の直線上に乗っており、the lower, the betterを示した点で非常に価値の高い試験といえます。また、この結果を導いたのが特に超ハイリスク患者であることに大きな意義があると思います。森野: 見事にほぼ直線ですね。日本人でも、このthe lower, the betterがあてはまるでしょうか。宮内: 傾きは違うと思いますが、ほぼ直線になるという印象はもっています。これまで日本人でハードエンドポイントをめざした大規模臨床試験はありませんでしたが、現在、慢性冠動脈疾患患者を対象に積極的脂質低下療法と通常療法を比較するREAL-CAD試験が行われており、その結果が出ればはっきりすると思います。日本人でも超ハイリスク患者はthe lower, the better森野: 実際のところ、日本人の場合、LDL-Cの管理はどうすべきとお考えですか。宮内: 日本人のエビデンスには、ESTABLISH、JAPAN-ACS、COSMOS試験などがあります。前2者がACS、後者が安定型冠動脈疾患を対象に、冠動脈プラークの進展・退縮を検討した試験ですが、いずれも日本で使用可能なストロングスタチンの最大用量によりLDL-C値は80mg/dLまで低下し、プラーク退縮が認められました。代替エンドポイントですが、プラーク退縮に依存してイベントが減少することが示されており、2次予防ではスタチンの最大用量を少なくともある一定期間は用いたほうがよいと考えています。森野: 実地医家の多くが最大用量は使っていないのが現状ですね。宮内: 日本人のエビデンスがないからだと思います。森野: JAPAN-ACSでは、糖尿病群でプラークの退縮率が悪かったという結果でしたね。宮内: はい。おっしゃるとおり、糖尿病患者も非糖尿病患者もLDL-Cの低下はほぼ同じでしたが、プラーク退縮率は13%および19%で、糖尿病群が低値でした。そこで当院では、より大きなLDL-C低下により退縮率がどうなるかを検討するため、ACS患者を対象にスタチン+エゼチミブ併用療法とスタチン単独を比較するZEUS(eZEtimibe Ultrasound Study)を行いました。IMPROVE-IT試験が発表される前のことです。結果は、LDL-Cの低下は糖尿病の有無にかかわらず併用群で大きかったのですが、プラーク退縮率は非糖尿病患者では単独群と併用群で差はなかったのに対し、糖尿病患者では併用群のほうが有意に大きいことが認められました11)。森野: ACSや糖尿病患者では、より厳格なLDL-C低下をめざすことで大きなベネフィットが得られるということですね。宮内: はい。ZEUSの結果が意味するところはIMPROVE-IT試験と同じであり、日本人でも超ハイリスク患者ではthe lower, the betterといえるのではないかと思っています。さらなるLDL-Cの低下をめざして森野: the lower, the betterということは、いったいどこまで下げればよいのでしょうか。宮内: 胎児レベルまでLDL-Cを低下させると心血管イベントを減少できるのではないかと考えられています。つまり、イベントがゼロになるLDL-Cのポイントがあって、それが胎児の値の25~29mg/dLといわれています12, 13)。そこで、LDL-Cを約30mg/dLまで低下させたらどうなるかという仮説のもと、盛んに研究が行われています。そのなかで注目されているのが、LDL-C受容体とPCSK9です。PCSK9は、周知のとおり2003年にFHの原因遺伝子として同定されたプロテアーゼで、LDL受容体と結合しこれを分解します。PCSK9があるとLDL-Cは肝臓表面のLDL受容体に結合し受容体ごと貪食されるため、LDL受容体のリサイクルが障害され血中からのLDL-C取り込みが低下、すなわちLDL-C値が増加しますが、PCSK9がないとLDL-Cのみが貪食されLDL受容体はリサイクルされて肝臓表面に戻るため血中からのLDL-C取り込みが高まり、LDL-C値が低下します。このメカニズムに着目して開発されたのがPCSK9阻害薬です。日本でも抗PCSK9モノクローナル抗体製剤の臨床開発が進んでいます。evolocumabはすでに2015年3月に承認申請がなされ、alirocumabは第III相試験を終了し、ほかにbococizumabとLY3015014はそれぞれ第II/III相および第II相試験が行われているところだと思います(CareNet.com編集部注:本記事は2015年9月発行誌より転載)。最近、evolocumabとalirocumabの長期成績が発表され、どちらもスタチンに併用することでLDL-Cを低下させ、心血管イベントを減少させることが示唆されました。この2剤の臨床試験24件、合計約1万例のメタ解析でも、全死亡、心血管死、心筋梗塞ともに約50%リスクを減少すると報告されています14)。森野: ここまでのところをまとめますと、LDL-Cの高さと持続期間の積分が重要という概念は理解しやすく、介入後もやはり10年、15年というスパンで考えなくてはならないことがよくわかりました。将来的にはストロングスタチンよりさらに強力にLDL-Cをコントロールできる時代が来ると思われますが、いまは高用量のストロングスタチンがベストセラピーであり、若年者ほどより早期に介入されるべきということですね。宮内: はい。若年といっても2次予防の患者さんは40代、30代後半になると思いますが、LDL-C値に関係なく積極的に介入すべきだと考えています。HDL-Cを増やしても心血管リスクは減らない森野: 次にHDLコレステロール(HDL-C)の話題に移りたいと思います。一般的に若年者はHDL-Cが低くLDL-Cはそれほど高くないので、薬物介入が難しいのが現状です。宮内: そうですね、特に若年者ではHDL低値が非常に影響することは事実だと思います。日本人を対象とした調査では、HDL-Cが40mg/dL以下で虚血性心疾患、脳梗塞の合併率が高いことが示されています。森野: 残存リスクとしてHDL-Cはやはり重要なのでしょうか。つまり、スタチンを十分使っていてもHDL-C低値はイベントリスクに関与するんでしょうか。宮内: その点について非常に重要な示唆を与えてくれるのが、TNT試験の事後解析です。LDL-Cで層別化した場合、70mg/dL未満であってもHDL-Cが最低5分位群は最高5分位群より心血管疾患リスクが高いことが示されました15)。やはりカットオフ40mg/dLを境に、HDLが低くなるとイベントが多くなることが明らかになっています。森野: そうすると、次のステップは介入ということになりますが、その方法はありますか。宮内: HDL-Cの増加にはコレステリルエステル転送タンパク(CETP)が重要と考えられています。簡単にいえば、HDL-CはCETPによって分解されるので、これを阻害すればHDL-Cが増え、LDL-Cを引き抜いてくれるだろうという理論になるわけです。実際、CETP阻害薬としてdalcetrapib、torcetrapib、anacetrapib、evacetrapibなどの開発が進められています。しかし残念ながら、dalcetrapibはHDL-Cが30~40%増加したものの心血管イベント抑制効果は認められず、torcetrapibもHDL-Cが増加しLDL-Cが減少したものの全死亡と心血管死が増加し、いずれも開発中止となりました。そのほか、ナイアシンやフィブラート系薬でも検討されていますが、いずれにおいても心血管イベント低下は示されていません。HDL-C低値は、確かに悪影響を及ぼしているけれども、薬物介入によってHDL-Cを増加させてもポジティブな結果は得られていない、というのが現状です。森野: CETP阻害薬の場合、HDLはmg/dLという量でみると増えていますが、働く粒子の数はむしろ減っているのではないかという議論がありますね。宮内: 賛否両論があって、現時点でははっきりした結論は出ていません。森野: LDL-Cをターゲットにして、結果としてHDL-Cが増加することがあると思いますが、それはどうなのでしょうか。宮内: 最近、スタチンやナイアシン投与によりHDL-Cが有意に増加するけれども、メタ回帰分析を行うとLDL-Cで調整したHDL-C増加はイベントリスクと関連していないことが報告されています16)。森野: ということは、スタチンで副次的にHDL-Cが増えることは意味がないと。宮内: はい。もともとその増加量は絶対値でみるとわずかですから、ポジティブな結果は出ないと思います。中性脂肪も介入の効果は確立されていない森野: 中性脂肪の管理についてはいかがでしょうか。LDL-Cと中性脂肪の両方が高い場合はどうするか、いまだに悩ましい問題です。宮内: 中性脂肪が残存リスクであることは間違いありません。当院で1984~1992年に血行再建を行った連続症例を約11年追跡したところ、試験開始時の空腹時中性脂肪値が心血管死と有意に関連しており17)、200mg/dLがカットオフであることが推察されました。実はPROVE IT-TIMI22試験の事後解析でも、LDL-C 70mg/dL未満の症例のみでは中性脂肪200mg/dL以上で200mg/dL未満よりACS後30日以内の心血管イベントリスクが有意に高いことが報告されています18)。これらの結果から、2次予防における中性脂肪のカットオフ値は200mg/dLと考えられます。ただし、介入試験のデータはほとんどないのが現状です。唯一、ポジティブな結果が得られているのは高リスク2型糖尿病患者を対象としたACCORD試験で、中性脂肪204mg/dL以上かつHDL-C 34mg/dL以下の患者のみフィブラート併用の有効性が認められました19)。森野: そうしますと、HDL-Cも中性脂肪も残存リスクとしての価値があることはわかっているけれども、薬物介入の有効性は証明できていないので、脂質管理において重要なのは、やはりスタチン高用量といえるわけですね。宮内: ええ。ただし、運動と食事療法が重要であることはいうまでもありません。脂肪酸の重要性と介入の可能性森野: 食事療法といえば、最近は脂肪酸がたいへん注目されています。現在、宮内先生が中心となり大規模介入試験も進行中ですが、その話題も含め脂肪酸に関する知見をまとめていただけますか。宮内: 脂肪酸が注目されるきっかけになったのは、全国11保健所を拠点に多くの医療機関が共同で行っている長期コホート研究(JPHC研究)です。この研究は、心血管疾患と癌の既往のない40~59歳の日本人約41,000人を1990年~2001年まで追跡したもので、魚食に由来するn-3系脂肪酸摂取が2.1g/日と多い群は、少ない群(0.3g/日)に比べCHD発症リスクが有意に低いことが示されました20)。興味深いことに、血中EPA・DHA濃度が高い方は脂質コアが小さくて線維性皮膜が厚く、プラーク破綻を生じにくい性状であることもわかってきました。また、久山町研究でも、血清EPA/AA比は心血管疾患発症や死亡の有意な危険因子であることが示されました。血清EPA/AA比はEPA摂取量に依存することから、やはりEPAを多く摂取するとイベントが少ないといえると思います。では介入したらどうなるか。動物実験では、ApoE欠損マウスに西洋食または西洋食+EPAを13週間投与すると、動脈硬化病変は後者が前者の1/3と有意に少ないことが認められました。経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行した脂質異常を合併する安定狭心症またはACS患者を対象にスタチンまたはスタチン+高純度EPAを投与しプラークの性状を検討した報告では、9か月後、スタチン単独群に比べEPA併用群で線維性被膜厚の有意な増加、脂質性プラークの角度と長さの有意な減少が認められ、EPAは不安定プラークを安定化することが示されています。さらに、JELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)でも、冠動脈疾患の既往歴のある患者はスタチン+EPA併用により非併用と比べ心血管イベントが19%有意に減少することが認められ、その後の解析でも血漿EPA/AA比が高い群ほど冠動脈イベントの発症リスクは低く、1番高い群(血漿EPA/AA比1.06以上)は1番低い群(血漿EPA/AA比0.55以下)に比べ、突然心臓死または心筋梗塞の発症リスクが42%有意に低下することが示されました。これらの結果を踏まえ、現在、RESPECT-EPA試験が行われています。慢性冠動脈疾患患者約4,000例を対象に、対照群(通常治療)とEPA群(通常治療+高純度EPA製剤追加投与)にランダムに割り付けし、心血管イベント抑制効果を比較検討するもので、EPA/AA比とイベント発症との関連も検証する予定です。森野: たいへん興味深い試験で、結果が楽しみです。いまおっしゃったようなデータに基づいて考えると、魚を食べるという日本の食習慣が変化してきていることに危惧を感じますね。これは食育という学校教育の課題ではないかと常々思っています。宮内: 私も同じ意見です。教育、文化の見直しは非常に重要だと感じています。脂質管理で重要なのはー今後の課題森野: 最後に、循環器医に必要な知識としてなにかメッセージをお願いいたします。宮内: わが国における現在の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、2次予防におけるLDL-Cの管理目標値が100mg/dL未満と設定されていますが、根拠となる国内の大規模臨床試験はありませんし、しかも層別化されていないので不十分だと考えています。また、1次予防でいうところのハイリスク、すなわち糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患については特に考慮すべきと思います。これらハイリスク群は、1次予防においてLDL-C 120mg/dL未満と設定されていますが、2次予防と同じように扱い、スタチンの使用や生活習慣の改善に対する介入が大切だと思います。こうしてあらためて振り返ってみますと、繰り返しになりますが、食育をはじめとした教育の問題が重要で、今後は若い人に対してどのように啓発していくかも大きな課題といえるでしょうね。森野: 本日は「脂質管理のいまを整理する」というテーマで宮内先生とお話をしてきました。LDL-C、HDL-C、中性脂肪、そして脂肪酸と幅広くレビューしていただき、脂質管理についての知識を整理するとともに、現在のわが国における脂質管理の問題点や課題も認識できたのではないかと思います。宮内先生、ありがとうございました。文献1)Klag MJ et al. N Engl J Med 1993; 328: 313-318.2)Nordestgaard BG et al. Eur Heart J 2013; 34: 3478-3490a.3)Imano H et al. Prev Med 2011; 52: 381-386.4)Rosenson RS. Exp Opin Emerg Drugs 2004; 9: 269-279.5)LaRosa JC et al. N Engl J Med 2005; 352: 1425-1435.6)CTT Collaboration. Lancet 2010; 376: 1670-1681.7)Schwartz GG et al. JAMA 2001; 285: 1711-1718.8)Daskalopoulou SS et al. Eur Heart J 2008; 29: 2083-2091.9)CTT Collaboration. Lancet 2012; 380: 581-590.10)Cannon CP et al. N Engl J Med 2015; 372: 2387-2397.11)Nakajima N et al. IJC Metab Endocr & Endocrine 2014; 3: 8-13.12)清島 満ほか. 臨床病理 1988; 36: 918-922.13)Blum CB et al. J Lipid Res 1985; 26: 755-760.14)Navarese EP et al. Ann Intern Med 2015; 163: 40-51.15)Falk E et al. N Engl J Med 2007; 357: 1301-1310.16)Hourcade-Potelleret F et al. Heart 2015; 101: 847-853.17)Kasai T et al. Heart 2013; 99: 22-29.18)Miller M et al. J Am Coll Cardiol 2008; 51: 724-730.19)ACCORD Study Group. N Engl J Med 2010; 362: 1563-1574.20)Iso H et al. 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