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CKDの腎と心血管疾患への悪影響はさらに広い範囲(解説:浦信行氏)

 JAMA誌において、2,750万人余りを対象としたメタ解析の結果、CKDの悪影響は従来報告されている全死因死亡、心血管死、腎代替療法を要する腎不全、脳卒中、心筋梗塞、心不全、急性腎障害にとどまらず、あらゆる入院、心房細動、末梢動脈疾患にまで及ぶことが報告された。結果の詳細はジャーナル四天王のニュース記事をご覧いただきたいが、本研究はそれ以外にもいくつかの重要な成績が示されている。 尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)とeGFRをクレアチニンのみで評価したものと、クレアチニンとシスタチンCで評価したものの各々の有害事象のリスクを対比すると、全体の傾向はヒートマップ上では同様であるが、クレアチニンのみで評価したeGFRでの結果は少し感度が悪い印象を受ける。eGFR各階層での有害事象のハザード比を表した図3においても、確かにクレアチニンのみで評価したeGFRでのハザード比の変化の傾きは緩徐であり、各有害事象に対する感度が対比上は低いと考えられる。かつ、各有害事象のハザード比は、クレアチニンでのeGFRは90~105を底値としてU字型を描いている。シスタチンCを加えたものではこのような結果を示していない。これはおそらく高齢者主体のサルコペニア・フレイル症例のリスク上昇を表すものと考えられる。したがって、症例によってはシスタチンCによるeGFRの評価を加えることが必須である。 UACRは30未満が正常範囲であるが、10未満の正常と10~29の正常高値で比較すると、正常高値ですでにリスクが高くなっている。すなわち、正常と考えられる範囲でもすでに有害事象に対する認識を持つ必要があるのかもしれない。わが国では保険診療上、尿アルブミンの評価は糖尿病症例に限られ、それ以外は尿蛋白で評価しなければならない。尿蛋白は尿細管由来のものも含むので同様の評価が可能かは不明であるが、注目すべき結果と考える。

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eGFR低下とアルブミン尿、腎不全や心血管疾患と関連/JAMA

 CKD Prognosis Consortiumの114コホートからの個人データを対象としたメタ解析において、血清クレアチニン(Cr)値に基づく推定糸球体濾過量(eGFRcr)あるいは血清Cr値と血清シスタチンC値に基づくeGFR(eGFRcr-cys)の低下、および尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)の上昇は、腎不全や心血管疾患、入院などを含む10の有害アウトカムの発生率上昇と関連していることが示された。米国・ニューヨーク大学のMorgan E. Grams氏らCKD Prognosis Consortiumの執筆グループが報告した。米国では成人の約14%が慢性腎臓病(CKD)(eGFR低下またはアルブミン尿)に罹患しているという。しかしながらeGFRの低さやアルブミン尿の重症度と有害アウトカムとの関連性については不明であった。JAMA誌2023年10月3日号掲載の報告。CKD Prognosis Consortiumのコホートから約2,750万人のデータをメタ解析 解析には、CKD Prognosis Consortiumの参加コホート(1980~2021年)から、2021 CKD Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)式を用いたeGFRcrのデータがある114コホート2,750万3,140例、2021 CKD-EPI式によるeGFRcr-cysのデータがある20コホート72万736例、およびUACRのデータがある114コホート906万7,753例の個人データが集められ包含された。 有害アウトカムの発生は、米国の診療報酬請求データベースであるOptumLabs Data Warehouse(OLDW)のデータを用いた。 主要アウトカムは、全死因死亡、心血管死、腎代替療法を要する腎不全(慢性透析または腎移植)、あらゆる入院、脳卒中、心筋梗塞、心不全、急性腎障害、心房細動あるいは末梢動脈疾患とし、Cox比例ハザードモデルを用いて腎臓の測定値と有害アウトカムとの関連を各コホート内で解析し、ランダム効果メタ解析を用いて統合した。eGFRcrまたはeGFRcr-cys低値、UACR高値で、10の有害アウトカムのリスクが上昇 eGFRcr集団(平均[±SD]年齢54±17歳、女性51%、平均追跡期間4.8±3.3年)では、平均(±SD)eGFRは90±22mL/分/1.73m2、UACR中央値は11mg/g(四分位範囲[IQR]:8~16)であった。eGFRcr-cys集団(59±12歳、53%、10.8±4.1年)では、平均eGFRは88±22mL/分/1.73m2、UACR中央値は9mg/g(6~18)であった。 eGFR(eGFRcrまたはeGFRcr-cys)の低さとUACRの高さは、CKDの最も低い重症度分類に属するものを含め、10項目の有害アウトカムの各リスク上昇とそれぞれ有意に関連していた。たとえば、UACR 10mg/g未満の患者では、eGFRcr 45~59mL/分/1.73m2の場合、eGFR 90~104mL/分/1.73m2と比較し入院率が有意に高かった(補正後ハザード比:1.3、95%信頼区間[CI]:1.2~1.3、1,000人年当たりのイベント件数161件vs.79件、過剰絶対リスク:22件/1,000人年[95%CI:19~25])。 著者は研究の限界として、GFRのほかの推定式は包括的にテストされていないこと、組み込まれたコホート試験は異なる試験デザインやプロトコールを使用していることなどを挙げている。

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アントラサイクリン系薬剤による心機能障害をアトルバスタチンは抑制したがプラセボとの差はわずかであった(解説:原田和昌氏)

 近年、Onco-cardiologyが注目されており、がん化学療法に伴う心毒性を抑制できる薬剤の探索が行われている。動物実験や小規模なランダム化比較試験では、アントラサイクリン系薬剤による左室駆出率(LVEF)低下に対する、アトルバスタチンの抑制作用が報告されていたが、乳がんを中心としたPREVENT試験では効果を示せなかった(ドキソルビシン換算の中央値、240mg/m2)。 リンパ腫患者においてアトルバスタチン(40mg/日)の投与はプラセボと比較して、アントラサイクリン系薬剤に関連する心機能障害を有意に抑制し、心不全の発生には有意な差がないことが、二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験であるSTOP-CA試験で示された(同、300mg/m2)。主要評価項目はLVEFが化学療法前後で絶対値において10%以上低下し、12ヵ月後に55%未満となった患者の割合で、プラセボ群22%対アトルバスタチン群9%であった(p=0.002)。しかし、群全体としてのEF低下幅はスタチン群4.1%で、プラセボ群5.4%との差は1.3%のみであった(p=0.029)。 がん化学療法の心毒性に対する抑制効果のメタ解析では、スピロノラクトン、エナラプリルが最も有効で、スタチン、β遮断薬がこれに続いた。また、アントラサイクリン系薬剤もしくはトラスツズマブ治療を受けた患者のコホート研究では、ACE阻害薬、β遮断薬の治療にて全死亡が少なかった。さらに、アントラサイクリン系薬剤治療に関するメタ解析では、β遮断薬によって心不全の発症が有意に低下した。 スタチンによる心保護作用についてはさまざまな機序が推定されており、その意味で本試験の結果は納得のいくものである。そもそも、最近のメタ解析によるとスタチンにはHFrEF患者の入院の抑制作用も示されている。しかし、EF低下幅の差1.3%で有意差を出すことができたのは、ひとえに試験デザインの秀逸さによるものと考えられる。

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第183回 認知症を阻止するらしい神経細胞2種類を同定

認知症を阻止するらしい神経細胞2種類を同定アルツハイマー病(AD)の病変であるアミロイド蓄積がたとえあっても認知機能が維持されて認知症になりにくいことと関連する脳の神経細胞2種類が同定されました1,2)。それらの神経細胞が死なないようにする手段を新たな成果を頼りに開発できるかもしれません。ねばねばしたアミロイドタンパク質の脳での蓄積がADの病因と広く言われています。その蓄積がやがて垢のような塊になって神経を死なせ、ついには記憶や意識を損なわせるという考えです。しかし認知機能障害を被る高齢者の誰もが脳にアミロイド塊を有するというわけではありませんし、脳にアミロイドが蓄積していると必ずADが生じるというわけでもありません。それはなぜなのかを調べるべく米国・ピッツバーグ大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らは数千人の高齢者の認知や振る舞いの推移を1994年から追っている試験・Religious Orders Study/Memory and Aging Project(ROSMAP)に目を向けました。AD病変や認知機能障害の程度がまちまちな死亡被験者427例の脳組織の前頭前皮質の細胞が活動遺伝子の配列を頼りに分類され、どこにどの細胞があるかを示す地図が作られました。その結果、認知機能全般がすこぶる良好な人に多く、逆に低下している人では乏しい細胞の集団2つが同定されました。その1つは統合失調症などの脳疾患と関連するタンパク質・リーリン(reelin)の遺伝子が発現している神経細胞、もう1つは体のあちこちの営みを調節するホルモン・ソマトスタチン(somatostatin)の遺伝子を発現する神経細胞です。認知機能が損なわれていない人ではADの特徴である脳のアミロイド大量蓄積があったとしてもそれらの神経細胞が脳に豊富に残っており、それらの細胞はAD発症を防ぐ役割をどうやら担うようです。ADの研究では電気信号を伝えて別の神経を活性化する興奮性神経細胞がもっぱら注目されてきました。しかし今回の研究で見つかった2種は興奮性神経とは正反対の抑制性神経です。抑制性神経は神経間の通信を止める働きを担います。少なくともいくらかの人のそれらリーリン/ソマトスタチン発現抑制性神経はAD病変によってとりわけ壊れやすいのではないかと研究者は考えています。今年の早くにNature Medicine誌に掲載されたリーリン遺伝子変異の報告3)はその考えを支持しています。リーリンの機能を底上げするその変異を有する男性は脳のアミロイド蓄積が半端なく大量にもかかわらず67歳になっても認知機能が正常でAD症状を示しませんでした。そういう先立つ成果があるのでリーリン発現神経に辿りついた今回の成果はそれほど驚くものではなく、一貫した成果が得られていることに安心していると研究者は言っています4)。これまでAD治療手段の開発といえば脳のアミロイド蓄積をどうにかする手段にもっぱら目が向けられていました。今回の結果はそうではなくADで壊れやすい脳細胞を守る手段を見つける取り組みを後押しするでしょう。個々の細胞の配列を読み取ってそれらの地図(atlas)を作った今回の成果は最新技術の賜物であるとカリフォルニアの研究所Sanford Burnham Prebys Medical Discovery Instituteの神経科学者Jerold Chun氏は言っています4)。AD患者は神経が発火しすぎて生じる発作を生じやすいことが知られますが、それは抑制性神経損失のせいかもしれないと同氏は想定しています。今回の研究で作られた脳細胞の地図はどの研究者も使えるように公開5)されており、それを出発点にして研究の裾野が一層広まるでしょう。参考1)Mathys H, et al. Cell. 2023;186:4365-4385.2)Decoding the complexity of Alzheimer’s disease / Massachusetts Institute of Technology3)Lopera R, et al. Nat Med. 2023;29:1243-1252.4)The brain cells linked to protection against dementia / Nature5)Single-cell transcriptomic atlas of the aged human prefrontal cortex

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脳出血後のスタチン使用は脳梗塞リスクを低下させる

 脳出血(intracerebral hemorrhage;ICH)後にコレステロール低下薬であるスタチン系薬剤(以下、スタチン)を服用すると、その後の虚血性脳卒中(脳梗塞)リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。南デンマーク大学のDavid Gaist氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に8月30日掲載された。 脳卒中は、脳内の出血により引き起こされるもの(くも膜下出血、ICH)と、脳への血流の遮断により引き起こされる脳梗塞に大別され、発生件数は脳梗塞の方が圧倒的に多い。Gaist氏は、今回の研究背景について、「過去の研究では、ICHの既往歴を有するスタチン使用者での脳卒中発症リスクについて、一致した結論が得られていない」と指摘。「われわれは、ICH後のスタチンの使用が、その後のICHや脳梗塞の発症リスクと関連するのかどうかを検討した」と説明している。 Gaist氏らは、デンマークの脳卒中レジストリを用いて、2003年1月から2021年12月の間に初発のICHにより入院し、その後30日を超えて生存した50歳以上の患者1万5,151人を特定。これらの患者を、脳卒中の再発、死亡、または追跡終了(2022年8月)に到達のいずれかが起きるまで平均3.3年にわたって追跡した上で、3つのコホート内症例対照研究を実施し、スタチンの使用と脳卒中(あらゆる脳卒中、脳梗塞、ICH)リスクとの関連を検討した。患者のスタチンの使用状況は、処方データを用いて調べた。 まず、あらゆる脳卒中を再発した1,959人(平均年齢72.6歳、女性45.3%)と年齢や性別などを一致させた、脳卒中を再発していない対照7,400人の比較を行った。脳卒中群では757人(38.6%)、対照群では3,044人(41.1%)がスタチンを使用していた。高血圧や糖尿病、飲酒などの関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用により、あらゆる脳卒中の再発リスクが12%低下することが示された(オッズ比0.88、95%信頼区間0.78〜0.99)。 次に、脳梗塞を発症した1,073人(平均年齢72.4歳、女性42.0%)と脳卒中を再発していない対照4,035人の比較を行った。脳梗塞群では427人(39.8%)、対照群では1,687人(41.8%)がスタチンを使用していた。関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用により、脳梗塞の発症リスクが21%低下することが示された(オッズ比0.79、95%信頼区間0.67〜0.92)。 最後に、ICHを再発した984人(平均年齢72.4歳、女性42.0%)と脳卒中を再発していない対照3,755人の比較を行った。ICH群では385人(39.1%)、対照群では1,532人(40.8%)がスタチンを使用していた。関連因子で調整して解析した結果、スタチンの使用と、ICH再発との間に有意な関連は認められなかった(オッズ比1.05、95%信頼区間0.88〜1.24)。 Gaist氏は、「この研究結果は、ICHの発症後にスタチンを使用している人にとっては朗報だ」と述べる。同氏は、「スタチンを使用することで、脳卒中リスクが低下することは確認されたが、その効果は、主に脳梗塞の発症に対してであったことには留意する必要がある。ただ、ICHの再発リスクについても、増加が認められたわけではない。この結果を、さらなる研究で検証する必要がある」と話している。 研究グループは、本研究の対象者がデンマーク人のみであったことに言及し、得られた知見はその他の国の人には該当しない可能性のあることも指摘している。

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スタチンC/クレアチニン比で骨粗鬆症性骨折のリスクを予測可能

 腎機能の指標であるシスタチンCとクレアチニンの比が、骨粗鬆症性骨折の発生リスクの予測にも利用可能とする研究結果が報告された。吉井クリニック(高知県)の吉井一郎氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of General and Family Medicine」に4月20日掲載された。 骨粗鬆症による骨折は、生活の質(QOL)を大きく低下させ、生命予後を悪化させることも少なくない。骨粗鬆症による骨折のリスク因子として、高齢、女性、喫煙、飲酒、糖尿病などの生活習慣病、ステロイドの長期使用などが知られているが、近年、新たなリスクマーカーとして、シスタチンCとクレアチニンの比(CysC/Cr)が注目されつつある。 シスタチンCとクレアチニンはいずれも腎機能の評価指標。これらのうち、クレアチニンは骨格筋量の低下とともに低値となるために腎機能低下がマスクされやすいのに対して、シスタチンCは骨格筋量変動の影響を受けない。そのため骨格筋量が低下するとCysC/Crが上昇する。このことからCysC/Crはサルコペニアのマーカーとしての有用性が示されており、さらに続発性骨粗鬆症を来しやすい糖尿病患者の骨折リスクも予測できる可能性が報告されている。ただし、糖尿病の有無にかかわらずCysC/Crが骨折のリスクマーカーとなり得るのかは不明。吉井氏らはこの点について、後方視的コホート研究により検討した。 解析対象は、2010年11月~2015年12月の同院の患者のうち、年齢が女性は65歳以上、男性は70歳以上、ステロイド長期投与患者は50歳以上であり、腰椎と大腿骨頸部の骨密度およびシスタチンCとクレアチニンが測定されていて、長期間の追跡が可能であった175人(平均年齢70.2±14.6歳、女性78.3%)。追跡中の死亡、心血管疾患や肺炎などにより入院を要した患者、慢性腎臓病(CKD)ステージ3b以上の患者は除外されている。 平均52.9±16.9カ月の追跡で28人に、主要骨粗鬆症性骨折〔MOF(椎体骨折、大腿骨近位部骨折、上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折で定義)〕が発生していた。MOF発生までの平均期間は15.8±12.3カ月だった。 単変量解析から、MOFの発生に関連のある因子として、MOFの既往、易転倒性(歩行障害、下肢の関節の変形、パーキンソニズムなど)、生活習慣病(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、心不全、COPD、不眠症など)、ステージ3a以上のCKDとともに、CysC/Cr高値が抽出された。年齢や性別、BMI、骨密度、飲酒・喫煙習慣、骨粗鬆症治療薬・ビタミンD・ステロイドの処方、ポリファーマシー、関節リウマチ、認知症などは、MOF発生と有意な関連がなかった。 多変量解析で有意性が認められたのは、易転倒性と生活習慣病の2項目のみだった。ただし、単変量解析で有意な因子についてROC解析に基づく曲線下面積(AUC)を検討したところ、全ての因子がMOFの有意な予測能を有することが確認された。例えば、易転倒性ありの場合のAUCは0.703(P<0.001)、生活習慣病を有する場合は0.626(P<0.01)であり、CysC/Crは1.345をカットオフ値とした場合に0.614(P<0.01)だった。また、カプランマイヤー法によるハザード比はCysC/Crが6.32(95%信頼区間2.87~13.92)と最も高値であり、易転倒性が4.83(同2.16~10.21)、MOFの既往4.81(2.08~9.39)、生活習慣病3.60(1.67~7.73)、CKD2.56(1.06~6.20)と続いた。 著者らは、本研究が単施設の比較的小規模なデータに基づく解析であること、シスタチンCに影響を及ぼす悪性腫瘍の存在を考慮していないことなどの限界点を挙げた上で、「CysC/Crが1.345を上回る場合、MOFリスクが6倍以上高くなる。CysC/CrをMOFリスクのスクリーニングに利用できるのではないか」と結論付けている。

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心血管疾患や死亡のリスクの低さと関連のある6種類の食品

 世界80カ国の人々の食事関連データを解析した研究から、野菜、果物、魚などの摂取量が多いほど、全死亡(あらゆる原因による死亡)や心筋梗塞・脳卒中などの心血管疾患(CVD)発症のリスクが低いことが明らかになった。マクマスター大学(カナダ)のSalim Yusuf氏らの研究によるもので、詳細は「European Heart Journal」に7月6日掲載された。 この研究ではまず、21カ国の35~70歳の一般住民16万6,762人が参加し現在も進行中の大規模疫学研究「PURE研究」のデータを用いて、新たな食事スコアを開発。そのスコアを、5件の疫学研究(80カ国、24万4,597人)に適用し、全死亡およびCVDリスクとの関連が検討された。なお、論文の上席著者であるYusuf氏によると、「これまでにも地中海食スコアなどを用いた同様の検討が行われているが、それらのスコアは主に欧米の高所得国のデータを基に作られたものである」という。それに対してPURE研究は、「低・中・高所得国が含まれていることが特徴だ」としている。 新たに開発された食事スコアは、野菜、果物、ナッツ、豆類、魚、乳製品という6種類の食品について、対象全体の摂取量の中央値以下の場合は「0」、中央値より多い場合は「1」として、合計6点のスコアで評価するというもの。PURE研究の参加者の平均は2.95±1.50点であり、国民1人当たり所得と正相関していた(傾向性P<0.0001)。 PURE研究では、中央値9.3年(四分位範囲7.5~10.8)の追跡で全死亡1万76件、CVDイベント8,201件が記録されていた。食事スコアと全死亡およびCVDリスクとの関連の解析に際しては、交絡因子〔年齢、性別、喫煙・運動習慣、摂取エネルギー量、ウエスト・ヒップ比、糖尿病、教育歴、経済状態、スタチン・降圧薬の使用、居住環境(都市部か否か)など〕の影響を統計学的に取り除いた。その結果、スコアが1点以下の群(17.6%が該当)と比較して5点以上の群(17.0%が該当)は、全死亡〔ハザード比(HR)0.70(95%信頼区間0.63~0.77)〕、CVD〔HR0.82(同0.75~0.91)〕ともに有意に低リスクだった。 PURE研究とは別の血管障害を有する患者を対象とする3件の研究、および2件の症例対照研究のデータを用いた解析からも、同様の結果が示された。 また、PURE研究を通じて、以下のような健康的な食事パターンが明らかになった。それは、スコアが5点以上の人が摂取しているものであり、野菜と果物は毎日それぞれ2~3食分(サービング)摂取し、そのほかに1週間で豆類を3~4サービング、ナッツを7サービング、魚を2~3サービング、乳製品を14サービング摂取するというもの。ただしYusuf氏によると、これら以外にも「精製されていない全粒穀物や未加工の肉であれば、適量の範囲内である限り、健康上のメリットは変わらない」としており、それぞれ1日に1サービング程度はほかの食品と置き換えてもよいという。 なお、世界保健機関(WHO)によると、2019年には世界中で約1800万人がCVDにより死亡しており、これは全死亡者数の約32%に相当する。またCVD死の約85%は、心筋梗塞と脳卒中によるものだった。

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ASCVDリスク評価、タンパク質リスクスコアが有望/JAMA

 アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスク評価において、プロテオミクスに基づくタンパク質リスクスコア(protein risk score)は、1次および2次予防集団の双方で優れた予測能を示し、1次予防集団で臨床的リスク因子にタンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアを加えると、統計学的に有意ではあるもののわずかな改善が得られたことが、アイスランド・deCODE genetics/AmgenのHannes Helgason氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年8月22・29日合併号に掲載された。3つのリスク評価法を比較するアイスランドの研究 研究グループは、1次および2次予防集団において、ASCVDのリスクを予測するタンパク質リスクスコアを開発し、臨床的リスク因子モデルおよび多遺伝子リスクスコアと比較した。 主解析は1次予防集団の後ろ向き研究であり、募集時にプロテオミクスのデータを有し、主要なASCVDイベント既往のない年齢40~75歳のアイスランド居住者1万3,540人を対象とした。募集期間は2000年8月23日~2006年10月26日で、2018年まで追跡調査を行った。 2次予防集団の解析では、スタチン治療を受けている安定期のASCVD患者を対象とした二重盲検無作為化試験(FOURIER試験、2013~16年)の参加者で、プロテオミクスのデータを有する6,791人を対象に含めた。 4,963人の血漿タンパク質の値に基づき、1次予防集団の訓練セットを用いてタンパク質リスクスコアを開発し、冠動脈疾患と脳卒中の多遺伝子リスクスコア、および血漿採取時の年齢、性別、スタチン使用、高血圧治療、2型糖尿病、BMI、喫煙状況などを含む臨床的リスク因子のモデルと比較した。 主要アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈性心疾患死、心血管死の複合とした。Cox生存モデルと、非ASCVD死の競合リスクを考慮した判別および再分類の指標(C index)を用いて、3つのリスク評価法の性能を解析した。アフリカ/アジア系の2次予防で、MACEと有意な関連 1次予防集団のテストセット(白人4,018人[女性59.0%]、イベント発生数465件、追跡期間中央値15.8年)では、タンパク質リスクスコアの1標準偏差(SD)当たりのハザード比(HR)は1.93(95%信頼区間[CI]:1.75~2.13)であった。 また、臨床的リスク因子モデルに、タンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアを加えると、C indexが有意に上昇した(C indexの変化量:0.022、95%CI:0.007~0.038)。臨床的リスク因子モデルに、タンパク質リスクスコアのみを追加した場合も、C indexの有意な上昇を認めた(群間差:0.014、95%CI:0.002~0.028)。 2次予防集団(白人6,307人、イベント発生数432件、追跡期間中央値2.2年)では、タンパク質リスクスコアの1SD当たりのHRは1.62(95%CI:1.48~1.79)であり、臨床的リスク因子モデルにタンパク質リスクスコアを加えた場合、C indexが有意に上昇した(C indexの変化量:0.026、95%CI:0.011~0.042)。 また、2次予防集団のアフリカ系およびアジア系の人種では、タンパク質リスクスコアが主要有害心血管イベント(MACE:心筋梗塞、脳卒中、心血管死の複合)と有意な関連を示した(アフリカ系の1SD当たりのHR:1.82、p=0.001、アジア系の同HR:1.82、p=0.008)。 著者は、「タンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアが、スクリーニングを目的とした場合に臨床的に有用かを明らかにするために、さらなる検討を要する」としている。

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スタチン開始後の効果、高齢者では大きい!?

 高齢になってからスタチンの使用を開始した患者では、若いときにスタチンの使用を開始した患者と比べて、同薬により得られるLDLコレステロール(LDL-C)の低減効果が大きい可能性のあることが、約8万3,000人のデンマーク人患者のデータ解析から明らかになった。デンマーク国立血清研究所のMarie Lund氏らによる研究で、詳細は、「Annals of Internal Medicine」に8月1日掲載された。Lund氏は、「スタチンによる治療が必要な高齢患者は、同薬による副作用のリスクを最小限に抑えるために、低強度のスタチンから開始すると良いのではないか」との見解を示している。 スタチンは安全な薬と考えられているが、一部の人に筋肉痛や血糖値の上昇などの問題を引き起こすことがある。副作用が生じる可能性は通常、スタチンの強度が高まるほど上昇し、また、高齢者では若い人よりも副作用が起きやすい。そのため、高齢患者にとっては、低強度のスタチンで治療を開始することが「好ましい選択肢」になり得るとLund氏は言う。ただし、その際には、高齢者の健康状態や、その後の心筋梗塞や脳卒中のリスク低減の必要性といった問題を考慮する必要があることも付け加えている。 スタチンは世界的に最も広く使用されている薬剤の一つだ。同薬の使用が広がった背景には、同薬が「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDL-C値を低下させ、心筋梗塞や脳卒中の予防に役立つことが複数の臨床試験で示されていることがある。しかし、一般的に、臨床試験の対象者に70歳以上の患者はほとんど含まれていないため、高齢者に対するスタチン使用の指針につながるエビデンスは少ない。 米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルス、心血管疾患予防センターのHoward Weintraub氏によると、現行の治療ガイドラインにおいては、脳卒中や心筋梗塞の既往がある高齢者ではLDL-C値を大幅に低下させることが推奨されている。一方、心筋梗塞や脳卒中の初発予防に関しては異なった推奨が示されており、スタチンの使用に関する意思決定は全般的により個別化されたものとなっている。これは、年齢だけでスタチンの開始用量を決めるべきではないことを意味している。 今回の研究はデンマークの国民登録データを用いたもので、2008~2018年にシンバスタチン(米国での商品名ゾコール、日本での商品名リポバス)、またはアトルバスタチン(商品名リピトール)が新たに処方された8万2,958人のデンマーク人患者を対象に解析が行われた。 その結果、75歳以上の患者(1万388人)では、50歳未満の患者と比べて低~中強度のスタチンの使用を開始した後のLDL-C値の低下度が大きいことが示された。例えば、LDL-C値の平均低下率は、シンバスタチン20mgの使用を開始した人では、75歳以上で39.0%、50歳未満で33.8%、アトルバスタチン20mgの使用を開始した人では、75歳以上で44.2%、50歳未満で40.2%だった。 また、年齢やスタチンの用量などを考慮して解析したところ、50歳で低~中強度のスタチンの使用を開始した患者と比べて、75歳で開始した患者ではLDL-C値の低下度が2.62%ポイント大きかった。一方、高強度のスタチン(アトルバスタチン40mgまたは80mg)の使用を開始した人では、その差はより小さかった(アトルバスタチン40mgで1.36%ポイント、80mgで−0.58%ポイント)。 Weintraub氏は今回の研究について、高齢患者の方が若い患者よりもスタチンの使用開始後の効果が大きい可能性があることを示した点で「有益な情報」だと話す。ただし、高齢患者とより若い患者との間に認められた効果の平均差は小さいものであったと付け加えている。また、「スタチンによって高齢患者の心筋梗塞や脳卒中、死亡のリスクはどの程度低下するのか」という、より大きな疑問については答えが示されていないことも指摘。「この研究結果を受けて現行の治療法が変わるとは思えない」と話している。 Lund氏も今回の研究では、「心血管疾患のリスク低減効果について直接的な評価は行われていない」と述べている。また、スタチンの使用を開始して間もない患者のみを対象とした研究であるため、得られた結果が長年スタチンを使用している高齢患者には当てはまらないことも強調している。

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悪性リンパ腫のアントラサイクリンによる心機能障害、アトルバスタチンが抑制/JAMA

 アントラサイクリン系薬剤による治療が予定されているリンパ腫患者において、アトルバスタチンの投与はプラセボと比較して、アントラサイクリン系薬剤関連の心機能障害を有意に抑制し、心不全の発生には有意な差がないことが、米国・マサチューセッツ総合病院のTomas G. Neilan氏らが実施した「STOP-CA試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年8月8日号で報告された。北米9施設の無作為化プラセボ対照臨床試験 STOP-CA試験は、米国とカナダの9つの施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験であり、2017年1月~2021年9月の期間に患者を登録し、2022年10月に追跡調査を終了した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 年齢18歳以上の新規に診断されたリンパ腫で、アントラサイクリン系薬剤ベースの化学療法が予定されている患者を、化学療法の施行前にアトルバスタチン(40mg/日)またはプラセボの経口投与を開始し12ヵ月間投与する群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、左室駆出率(LVEF)が化学療法前の値から絶対値で10%以上低下し、12ヵ月後の最終値が55%未満となった患者の割合であった。副次評価項目は、LVEFが5%以上低下し、最終値が55%未満の患者の割合とした。 300例(平均年齢50[SD 17]歳、女性142例[47%])を登録し286例(95%)が試験を完遂した。アトルバスタチン群に150例、プラセボ群にも150例を割り付けた。ベースラインの全体の平均LVEFは63(SD 4.6)%で、追跡期間中の平均LVEFは58(SD 5.7)%であり、12ヵ月で5%低下した。また、試験薬のアドヒアランスは91%だった。重篤な有害事象の発生率は低い 12ヵ月時に、LVEFが化学療法前の値から10%以上低下し、最終値が55%未満となった患者は、全体で46例(15%)であった。主要評価項目の発生率は、プラセボ群が22%(33/150例)であったのに対し、アトルバスタチン群は9%(13/150例)と有意に低かった(p=0.002)。主要評価項目発生のオッズ(OR)はプラセボ群で約3倍高かった(OR:2.9、95%信頼区間[CI]:1.4~6.4)。 また、副次評価項目の発生率も、アトルバスタチン群で有意に低かった(13% vs.29%、p=0.001)。 24ヵ月の追跡期間中に13例(4%)で心不全イベントが発生した(主要評価項目を満たしたのは11例)。このうちアトルバスタチン群は4例(3%)、プラセボ群は9例(6%)であり、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.26)。 12ヵ月の時点で8例(各群4例ずつ)が死亡した。筋肉痛は49例(アトルバスタチン群28例[19%]、プラセボ群21例[14%]、p=0.35)で報告されたが、筋炎(クレアチンキナーゼ値上昇)は認めなかった。ASTおよびALT値上昇が51例(17%)でみられ、このうち2例(各群1例ずつ)がGrade4だった。腎不全が6例(2%、2例 vs.4例)で発現した。重篤な有害事象の発生率は低く、両群で同程度だった。 著者は、「全コホートの比較では、12ヵ月時のLVEFの群間差は1.3%とわずかであったことから、アントラサイクリン系薬剤の投与を受けた患者の中にはアトルバスタチンの有益性がほとんどない患者が含まれると示唆された。一方、アトルバスタチンは、アントラサイクリン系薬剤による心収縮機能障害のリスクが高度な患者で高い有益性を持つと考えられる」とし、「本試験の知見は、アントラサイクリン系薬剤による心機能障害のリスクが高いリンパ腫患者におけるアトルバスタチンの使用を支持する可能性がある」としている。

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HIV感染者の心血管イベント、ピタバスタチンで35%減/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者において、ピタバスタチンはプラセボと比較し、追跡期間中央値5.1年で主要有害心血管イベントのリスクを低下することが示された。米国・マサチューセッツ総合病院のSteven K. Grinspoon氏らが12ヵ国145施設で実施した無作為化二重盲検第III相試験「Randomized Trial to Prevent Vascular Events in HIV:REPRIEVE試験」の結果を報告した。HIV感染者は、一般集団と比較して心血管疾患のリスクが最大2倍高いことが知られており、HIV感染者における1次予防戦略に関するデータが求められていた。NEJM誌オンライン版2023年7月23日号掲載の報告。HIV感染者約7,800例において、主要有害心血管イベントの発生を評価 研究グループは2015年3月26日~2019年7月31日に、抗レトロウイルス療法を受けている心血管疾患リスクが低~中等度の40~75歳のHIV感染者7,769例を登録し、ピタバスタチン群(ピタバスタチンカルシウム1日4mgを1日1回経口投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。過去90日以内のスタチン使用歴があり、アテローム性動脈硬化症が認められた患者は除外した。 主要アウトカムは、主要有害心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、脳卒中、一過性脳虚血発作、末梢動脈虚血、冠動脈・頸動脈・末梢動脈の血行再建術、原因不明の死亡の複合と定義)とし、出生時の性別およびスクリーニング時のCD4数で層別化したCox比例ハザードモデルを用いたtime-to-event解析を行った。ピタバスタチンで心血管イベントが35%低下 7,769例(ピタバスタチン群3,888例、プラセボ群3,881例)の年齢中央値は50歳(四分位範囲[IQR]:45~55)、CD4数の中央値は621個/mm3(IQR:448~827)であった。また、HIV RNA量は、利用可能なデータを有する5,997例中5,250例(87.5%)で定量未満であった。 本試験は、追跡期間中央値5.1年(IQR:4.3~5.9)時点の2回目の中間解析の結果、有効性が認められ安全性の懸念はなかったことから早期に打ち切りとなった。 主要有害心血管イベントの発生頻度は、ピタバスタチン群が1,000人年当たり4.81、プラセボ群は1,000人年当たり7.32で、ハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.48~0.90、p=0.002)であった。 有害事象については、Grade3以上または治療変更を要した筋肉痛またはミオパチーがピタバスタチン群で91例(2.3%)、プラセボ群で53例(1.4%)、糖尿病がそれぞれ206例(5.3%)、155例(4.0%)に認められ、いずれもピタバスタチン群では発現率が高かった。 なお、著者は、「今回はピタバスタチンを用いた結果ではあるが、LDLコレステロールを低下させる他の戦略も同様に有用である可能性があり、さらなる大規模臨床試験においてスタチン療法単独で得られた結果と比較検証する必要がある」とまとめている。

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寄せられた疑問に答える、脂質異常症診療ガイド2023発刊/日本動脈硬化学会

 『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』が6月30日に発刊された。本ガイドは2018年版から5年ぶりの改訂となり、塚本 和久氏(帝京大学大学院医学研究科長、内科学講座 教授)が改訂点や本書の新たな取り組みについて、日本動脈硬化学会主催のプレスセミナーで解説した。動脈硬化関連の各種ガイドライン・指針に準拠 本診療ガイドは脂質異常症に特化し、非専門医が困ったときに参考となる情報をコンパクトに記載したものである。日本動脈硬化学会では『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022度版』をはじめ、『スタチン不耐に関する診療指針2018』『PCSK9阻害薬の継続使用に関する指針』などのさまざまなガイドラインや指針を発刊しており、本ガイドはそれらの内容を網羅するかたちで作成されている。そのため、主な改訂点も動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022度版に準じたものになっている。<主な改訂内容>1.随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG、中性脂肪)基準値(175mg/dL以上)を設定。2.脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアを採用。3.糖尿病がある場合のLDLコレステロールの管理目標値について、合併症がある場合の1次予防は100mg/dL未満、2次予防は70mg/dL未満に設定。4.2次予防の対象疾患として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓性脳梗塞も追加。5.薬物療法において、スタチン不耐と判断する際の注意点を記載。6.原発性脂質異常症の項を拡充。 上記の改訂内容1について、塚本氏は「脂質異常症の診断基準は“動脈硬化発症リスクを判断するためのスクリーニング値であり、治療開始のための基準値ではない”ことは、ぜひ理解しておいていただきたい」と述べ、改訂内容5については「スタチンは費用対効果も高く不必要な中止を避けたい。また、スタチン不耐と判断される患者の半数以上がスタチン不耐ではないとの報告1)もある。それゆえ、ノセボ効果には注意し、患者の筋関連症状とスタチンとの関連性をしっかり確認してほしい」と強調した。会員から寄せられた質問に答えるガイド 今回の改訂では本文の内容の充実はもちろんのこと、Q&Aを拡充し、項目数を47から61に増やしている。この中には、予防ガイドラインでは詳述されなかったポイントや比較的よく質問される疑問点、そして日本動脈硬化学会広報啓発委員会が会員ページに掲載している症例(日常臨床で診断・治療に難渋する症例)を参考に作成したケースを取り上げている。たとえば、上述の改訂内容2に関連する質問が寄せられ、それに対する回答が記載されている。―――Q25久山町スコアでは40歳未満の方は対象にはなりませんが、多くの危険因子を持つ若年の脂質異常症患者さんにはどのように対応すればよいでしょうか?A久山町スコアのアプリでは、絶対リスクとともに相対リスクも表示される。久山町スコアは40歳以上を対象としたものなので正確とは言えないが、40歳未満の対象者であっても年齢以外の因子を入力後、年齢の項を40歳と入力すれば、同世代の危険因子のない方と比べての相対リスクがわかるので、患者指導に用いると良い。――― このほかにもよく質問される疑問点として「Q21 吹田スコアで高リスクだった患者さんが久山町スコアでは中リスクとなりました。どのように対応すればよいでしょうか?」「Q22 管理目標値設定のフローチャートに記載されている『その他の脳梗塞』はどのような脳梗塞でしょうか? 心原性脳梗塞やラクナ梗塞も含まれるのでしょうか?」などが寄せられている。また、広報啓発委員会作成の会員マイページに掲載されている症例を参考とした症例としては「Q55 LDL-C 260mg/dLでアキレス腱肥厚もあったので、FHと考えスタチンで治療を始めましたが、LDL-C値はほとんど下がりません。どのように対応すればよいでしょうか?」(シトステロール血症の鑑別が必要)のようなQ&Aが作成されている。ぜひQ&Aをご一読いただきたい。遺伝子検査項目の増加、指定難病の診断に 2022年4月に原発性脂質異常症の遺伝子検査項目が5つに増えた(家族性高コレステロール血症、原発性高カイロミクロン血症、無βリポタンパク血症、家族性低βリポタンパク血症1[ホモ接合体]、タンジール病)。これを受けて、低HDLコレステロール低値の際のフローチャートを追加し、解説疾患を増やすなど、原発性脂質異常症の項を拡充。遺伝子検査項目が増えるメリットには「指定難病の確定診断がつけば、患者の登録が進み、患者のbenefitにつながる」と述べた。ガイドラインにICT導入 今回の発刊に際し情報通信技術(ICT)を積極的に導入しており、本ガイドを購入した方はデジタルブックでも閲覧できる。また、掲載されているQRコードを読み込むことで代表的な臨床比較試験、診療指針、専門医リストなどが確認できるため、web検索する手間が省ける仕組みになっている。 最後に同氏は「以上の改訂点を踏まえ、医師や管理栄養士、臨床検査技師などをはじめとする多くの医療者に活用していただきたい」とコメントした。

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糖尿病予備群は食後高血糖是正により心血管転帰が改善

 食後高血糖への介入が転帰改善につながる可能性を示唆するデータが報告された。国内で実施された多施設共同研究「DIANA研究」終了後の追跡観察調査が行われ、国立循環器病研究センター心臓血管内科部門冠疾患科の片岡有氏らによる論文が、「Journal of Diabetes and its Complications」5月号に掲載された。 糖尿病では食後のみでなく食前の血糖値も高くなるが、糖尿病予備群と言われる75gブドウ糖負荷試験にて診断可能な耐糖能異常(impaired glucose tolerance;IGT)や初期の糖尿病は、食前の血糖値は正常だが食後の高血糖を伴う。食後の高血糖は心血管疾患発症のリスク因子であることを示唆する多くの疫学研究結果が報告されている。しかしながら、食後高血糖への治療介入により、心血管疾患発症リスクが抑制されるかという点については、いまだ十分に明らかになっていない。 大阪府済生会富田林病院の宮崎俊一氏は、冠動脈疾患(CAD)を合併したIGTあるいは初期糖尿病患者を対象として、食後高血糖を改善させる薬剤による冠動脈硬化の進展抑制効果を食事・運動療法と比較する前向き無作為化試験「DIANA研究」を実施した。その研究では、食事・運動療法と比較して1年間の食後高血糖に対する薬物治療の冠動脈硬化進展抑制効果は認められなかった。しかしながら、薬物あるいは食事・運動療法いずれの治療下においても、治療開始から1年後に食後高血糖が改善していた症例は、冠動脈硬化進展が有意に抑制されていた。今回の報告は、DIANA研究終了後に実施された追跡観察調査の結果であり、1年間の食後高血糖への治療介入が、その後の約10年間の心血管疾患発症に及ぼす効果について検討された。 DIANA研究では302人の患者を、α-グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース)群、グリニド薬(ナテグリニド)群、あるいは食事・運動療法群の3群に無作為に割り付け、1年間の介入終了後は主治医の裁量による治療が継続されていた。このうち、243人が追跡調査の解析対象とされ、その平均年齢は64.6±9.3歳、女性が13.6%であり、IGTが58.9%、初期の2型糖尿病は41.1%であった。主要評価項目は、観察期間中の全死亡、非致死性心筋梗塞、緊急冠動脈血行再建術を含めた主要心血管イベント(MACE)の発生率と定義された。 中央値9.8年(範囲7.1~12.8)の観察期間におけるMACE発生件数は91件であった。DIANA研究において食後血糖改善を目指した薬物治療群のMACE発生率は、食事・運動療法群と有意差を認めなかった〔ボグリボース群はハザード比(HR)1.07(95%信頼区間0.69~1.66)、ナテグリニド群はHR0.99(同0.64~1.55)〕。MACEを構成する全死亡、非致死性心筋梗塞、血行再建術それぞれの発生率についても、薬物治療群と食事・運動療法群の間に有意差は見られなかった。IGT、初期糖尿病それぞれにおいても、薬物治療群のMACE発生率は食事・運動療法群と同等であった。 本研究では、薬物あるいは食事・運動療法いずれの治療下においても、治療開始から1年後における糖代謝改善の有無(IGTから正常耐糖能への変化、糖尿病からIGTあるいは正常耐糖能への変化)により対象症例を2群に分類しMACEの発生率が比較された。対象症例の55.9%は糖代謝改善を認めたが、MACE発生率は非改善群と有意差を認めなかった〔HR0.78(0.51~1.18)〕。 対象症例を、IGT、初期糖尿病に層別化して検討を行った。IGTの症例においては、IGTから正常耐糖能へ改善していた群は、非改善群に比して観察期間中のMACE発生率が有意に低率であった〔HR0.55(0.31~0.97)〕。年齢、性別、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、血圧、スタチンやβ遮断薬使用を調整後も、結果は同様であった〔HR0.44(0.23~0.86)〕。一方、初期糖尿病症例では、IGTあるいは正常耐糖能へ改善していた群のMACE発生率は、非改善群と比較して有意差を認めなかった〔HR1.49(0.70~3.19)〕。 著者らは本研究の限界点として、post-hocの事後解析であること、無作為化割り付けによる介入期間が1年間と比較的短いこと、観察期間中の糖代謝の変化のデータは収集していないことなどを挙げている。α-グルコシダーゼ阻害薬のアカルボースによる心血管イベント発生率の減少を報告した先行研究「STOP-NIDDM」は介入期間が長く、IGTのみを対象としており、CADを有する症例は4.8%のみであった。一方、本研究はCADをすでに有しているIGTあるいは初期糖尿病症例を対象としていることから、著者らは、α-グルコシダーゼ阻害薬の心血管疾患発症に対する効果が異なった可能性を述べている。これらの考察の上で論文の結論は、「CADのあるIGT患者の長期予後改善においては、正常耐糖能への改善を目指した介入治療が必要と考えられる」と記されている。

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動脈硬化疾患の1次予防に積極的な脂質管理の幅が広がった(解説:平山篤志氏)

 脂質低下療法にスタチンが広く用いられるが、筋肉痛などの副作用を訴える場合があり、スタチン不耐性と呼ばれ使用できない患者がいて、脂質への介入がなされていない場合がある。心血管疾患の既往のある患者の2次予防では、エゼチミブあるいはPCSK9阻害薬を使用してでも脂質低下が行われる。しかし、1次予防の動脈硬化疾患発症リスクの高い対象、たとえば糖尿病患者では脂質低下療法が行われていないことが多く、さらにスタチン不耐性では放置されていることが多い。 本論文は副作用でスタチンを服用できないスタチン不耐性患者を対象に、ベムペド酸(bempedoic acid)を投与したアウトカム試験、CLEAR試験のサブ解析である。CLEAR試験は心血管疾患の既往のある2次予防患者と既往のないハイリスクの1次予防患者を対象としており、ベムペド酸投与によりプラセボと比較してLDL-コレステロールと高感度CRPを有意に低下させ、4ポイントMACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、脳卒中、血行再建術)を有意に減少させることを示した。あらかじめ規定されていたサブ解析でも、2次予防だけでなく1次予防でもベムペド酸の有効性が示されていたが、今回は1次予防患者の詳細な結果が報告されている。 CLEAR試験にエントリーされたうちの心血管イベントの既往のない患者4,206例で、計算されたリスクスコアが高い、冠動脈の石灰化が著明、糖尿病がある、などの動脈硬化疾患のリスクが高い対象である。平均LDL-Cが142.2mg/dLで、糖尿病患者が3分の2近く含まれていた。LDL-Cと高感度CRPの低下とともに、心血管イベントの有意な抑制がベムペド酸投与により示された。また、その低下効果も本試験より大であった。この対象群ではNNTが42~44と十分な有効性があった。 実臨床で、どうしても1次予防になると患者教育も難しく、また、副作用の懸念があると脂質低下に逡巡するが、この結果はハイリスク症例、とくに糖尿病患者に積極的な介入が必要であることを痛感させる。ただ、残念ながら、わが国では動脈硬化疾患の発生リスクが低いこと、エビデンスがないことから、どうしても脂質低下療法に消極的になる傾向がある。健康寿命の重要性が叫ばれる今日、目の前にいる患者が10年、20年先に健康でいられるようにするには、今から積極的な介入が必要なのかもしれない。ベムペド酸はそのための1つの武器となりえるかもしれない。

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スタチン、ゾコーバなど、重大な副作用追加で添付文書改訂/厚労省

 厚生労働省は7月20日、HMG-CoA還元酵素阻害薬を含有する医薬品(スタチン)、エンシトレルビルなどの添付文書について、使用上の注意改訂指示を発出した。HMG-CoA還元酵素阻害薬を含有する医薬品 国内副作用症例において、スタチンと重症筋無力症との因果関係が否定できない症例が認められた。また、公表文献において、スタチンの再投与で重症筋無力症の症状が再発した症例、スタチンの中止で重症筋無力症の症状が消失した症例など、スタチンと重症筋無力症との因果関係が否定できない症例が報告されていることを踏まえ、改訂が適切と判断された。<改訂点>1.「特定の背景を有する患者に関する注意」(新記載要領)または「慎重投与」(旧記載要領)の項に「重症筋無力症又はその既往歴のある患者」を追記2.「重大な副作用」の項に「重症筋無力症」を追記<該当医薬品>(1)アトルバスタチンカルシウム水和物(商品名:リピトール錠 ほか)(2)シンバスタチン(リポバス錠 ほか)(3)ピタバスタチンカルシウム水和物(リバロ錠 ほか)(4)プラバスタチンナトリウム(メバロチン錠 ほか)(5)フルバスタチンナトリウム(ローコール錠 ほか)(6)ロスバスタチンカルシウム(クレストール錠 ほか)(7)アムロジピンベシル酸塩・アトルバスタチンカルシウム水和物(カデュエット配合錠1~4番 ほか)(8)エゼチミブ・アトルバスタチンカルシウム水和物(アトーゼット配合錠LD/HD ほか)(9)エゼチミブ・ロスバスタチンカルシウム(ロスーゼット配合錠LD/HD)(10)ピタバスタチンカルシウム水和物・エゼチミブ(リバゼブ配合錠LD/HD)エンシトレルビル フマル酸(ゾコーバ錠) アナフィラキシー関連の国内症例として3例が報告されており、うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例は1例(死亡0例)であった。しかし、異物である本剤に対するアナフィラキシーの発現は潜在的リスクとして自明であり、緊急承認品目として遅滞ない安全対策措置が重要と、さらなる症例集積を待たずに改訂が判断された。<改訂点>「重大な副作用」の項に「アナフィラキシー」を追記 このほか、チルゼパチド(マンジャロ皮下注)の重大な副作用の項に「アナフィラキシー、血管性浮腫」が追加。ミノサイクリン(ミノマイシンカプセル ほか)の重大な副作用の項「全身性紅斑性狼瘡(SLE)様症状の増悪」を「ループス様症候群」へ変更し、長期投与例における当該事象の発現に関する注意喚起が追加された。

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bempedoic acid、高リスクのスタチン不耐患者の1次予防に有効/JAMA

 心血管イベントのリスクが高いスタチン不耐の患者の1次予防において、bempedoic acidはプラセボと比較して、4項目の主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建)の発生率が有意に低く、有害事象の頻度は全般に同程度であることが、米国・クリーブランドクリニックのSteven E. Nissen氏らが実施した「CLEAR Outcomes試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年6月24日号に掲載された。32ヵ国1,250施設の無作為化臨床試験 CLEAR Outcomes試験は、32ヵ国1,250施設が参加した無作為化臨床試験であり、2016年12月~2019年8月の期間に、患者の登録が行われた(Esperion Therapeuticsの助成を受けた)。 対象は、年齢18~85歳、LDLコレステロール(LDL-C)値が100mg/dL(2.59mmol/L)以上で、初発の心血管イベントのリスクが高い臨床的特徴を有し、スタチン不耐で臨床的イベントの既往歴のない1次予防の患者であった。 被験者は、bempedoic acid(180mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要アウトカムは、無作為化から、4項目MACEのいずれかが最初に発生するまでの期間であった。 スタチン不耐の1万3,970例(最大の解析対象集団)のうち、4,206例(30%)が1次予防の基準を満たした。2,100例がbempedoic acid群に、2,106例はプラセボ群に割り付けられた。1次予防患者全体の平均年齢は67.9(SD 6.8)歳、59.0%が女性で、66.1%は糖尿病であり、19.3%はスタチン、8.0%はエゼチミブの投与を受けていた。平均LDL-C値は142.5mg/dL、平均HDL-C値は51.0mg/dL、トリグリセライドの中央値は161.8mg/dLだった。6ヵ月でLDL-C値が21.3%、hsCPRが21.5%減少 治療開始から6ヵ月後に、LDL-C値は、bempedoic acid群ではベースラインの142.2mg/dLから108.2mg/dLへと34.0mg/dL(最小二乗平均[LSM])低下し、プラセボ群では142.7mg/dLから138.6mg/dLへと3.8mg/dL(LSM)低下しており、プラセボ群と比較してbempedoic acid群は30.2mg/dL(LSM)(21.3%)低かった。 また、高感度C反応性蛋白(hsCRP)は、bempedoic acid群ではベースラインの2.39mg/Lから6ヵ月後には1.75mg/Lへと0.34mg/L(LSM)低下し、プラセボ群では2.44mg/Lから2.52mg/Lへと0.01mg/L(LSM)増加しており、プラセボ群と比較してbempedoic acid群は0.56mg/L(LSM)(21.5%)低かった。 フォローアップ期間中央値39.9ヵ月の時点で、主要エンドポイント(4項目MACE)の発生率は、プラセボ群が7.6%(161イベント)であったのに対し、bempedoic acid群は5.3%(111イベント)と有意に低かった(補正後ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.55~0.89、p=0.002)。 副次エンドポイントである3項目MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)の発生率は、bempedoic acid群が良好であった(bempedoic acid群4.0% vs.プラセボ群6.4%、HR:0.64[95%CI:0.48~0.84]、p<0.001)。また、致死的または非致死的心筋梗塞(1.4% vs.2.2%、HR:0.61[95%CI:0.39~0.98])、心血管死(1.8% vs.3.1%、0.61[0.41~0.92])、全死因死亡(3.6% vs.5.2%、0.73[0.54~0.98])の発生率も、bempedoic acid群で優れた。 一方、致死的または非致死的脳卒中(bempedoic acid群1.3% vs.プラセボ群1.8%、HR:0.76[95%CI:0.46~1.26])と、冠動脈血行再建(2.4% vs.3.2%、0.71[0.49~1.03])の頻度には両群間に差を認めなかった。 重篤な有害事象(bempedoic acid群19.9% vs.プラセボ群20.8%)や投与中止をもたらした有害事象(9.9% vs.9.9%)の頻度は両群間で同程度であった。肝酵素上昇(4.5% vs.2.6%)や腎臓の有害事象(10.3% vs.8.1%)はbempedoic acid群で多かった。また、高尿酸血症(12.1% vs.6.3%)、痛風(2.6% vs.2.0%)、胆石症(2.5% vs.1.1%)もbempedoic acid群で高頻度だった。 著者は、「この研究は大規模臨床試験のサブグループのアウトカムを報告したものであり、今回の結果は有益性の決定的なエビデンスというより、仮説を生成するものとして解釈すべきである」としている。

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多遺伝子リスクスコアと冠動脈石灰化スコアを比較することは適当なのか?(解説:野間重孝氏)

 pooled cohort equations(PCE)はACC/AHA心血管ガイドラインの一部門であるリスク評価作業部会によって開発されたもので、2013年のガイドラインにおいて、これを使用して一次治療においてアテローム性動脈硬化性心血管病のリスクが高いと判断された患者(7.5%以上)に対する高強度、中強度のスタチンレジメンが推奨され話題となった。現在PCEを計算するためのサイトが公開されているので、興味のある方は開いてみることをお勧めする(https://globalrph.com/medcalcs/pooled-cohort-2018-revised-10-year-risk/)。わが国であまり用いられないのは国情の相違によるものだろうが、米国ではPCE計算に用いられていない付加的指標を組み合わせることにより、精度の向上が議論されることが多く、現在その対象として注目されているのが冠動脈石灰化スコア(CACS)と多遺伝子リスクスコアだと考えて論文を読んでいただけると理解しやすいのではないかと思う。 「多遺伝子リスクスコア」とは一体何なのか、と疑問を持たれている方も多いのではないかと思う。少々極端なたとえになるが、臨床医ならばだれしも初診患者の診察をする際に家族歴を尋ねるのではないだろうか。また、少し年配の方で疫学に関係したことのある方なら、心筋症の家族歴の調査にかなりの時間を費やした経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思う。そこに2003年、ヒトゲノムが解読されるという大事件が起こったのである。その発症に遺伝が関係すると考えられる疾患の基礎研究で、研究方法がゲノム解析に向かって大きく舵を切られたことが容易に理解されるだろう。 一部のがんや難病では単一のドライバー遺伝子変異もしくは原因遺伝子によって説明できることがあるが、糖尿病・心筋梗塞・喘息・関節リウマチ・アルツハイマー認知症etc.など多くの問題疾患はいずれも多因子疾患であり、多数の遺伝的バリアントによって構成される多遺伝子モデル(ポリジェニック・モデル)に従うと考えられる。間接的、網羅的ゲノム解析であるSNPアレイを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)により、この15年ほどの間に多くの多因子疾患の遺伝性を明らかにされた。さらに近年、数万人を超える大規模なGWASによって、非常に多数の遺伝因子を用いて多遺伝子モデルに従う予測スコア、すなわちいわゆる多遺伝子スコア(ポリジェニック・スコア)が構築され、医療への応用可能性を論じることが可能となってきた。しかしその一方で問題点や限界も明らかになってきており、直接的な臨床応用にはまだ限界があることを考えておかなければならない。また、GWASは主に欧州系の白人を対象に研究された経緯から、他の人種にどのように応用できるかには検討の余地がある。本研究で取り上げられた2つの大規模臨床モデルがいずれも欧州系白人を対象としているのは、このような理由によるものと考えられる。 一方冠動脈石灰化スコア(CACS)は造影剤を用いない心電図同期CTで計測可能な指標で、冠動脈全体の石灰化プラークの程度について石灰化の量にCT値で重み付けすることにより求められ、現在冠動脈全体の動脈硬化負荷の代替指標として確立しているといえる。しかし心筋梗塞や不安定狭心症は必ずしも高度狭窄から起こるわけではなく、プラークの不安定性を評価する指標も必要となる。CCTAでもプラークの不安定性を示す指標がいくつか知られているが、臨床応用にはまだ研究の余地があるといえる。とはいえ、FFR-CTまで含め、冠動脈CT検査は直接的な臨床応用が可能である点がゲノム解析にはない利点であることは確かだといえる。実際ゲノム解析には大変な手間・費用が掛かり、その将来性を否定するものではないが、現段階においてはその臨床応用範囲が、まだ限定的であることは否定できないだろう。 なお、多遺伝子リスクスコアがPCEに加えられることによって予想確度が上がるか否かについては2020年の段階で意見が分かれており、いずれもジャーナル四天王で取り上げられているのでご参考願いたい (「多遺伝子リスクスコアの追加、CADリスク予測をやや改善/JAMA」、「CHD予測モデルにおける多遺伝子リスクスコアの価値とは/JAMA」)。 今回の研究はさまざまな議論を踏まえ、多遺伝子リスクスコアを加えること、CACSを加えることのいずれがPCE予測値をより改善するかを検討したものである。結果は多遺伝子リスクスコア、CACSそれぞれ単独では冠動脈疾患発生を有意に予測したが、PCEに多遺伝子リスクスコアを加えても予測確度は上昇しなかった。一方CACSを加えることによりPCEの予測確度は有意に上昇した。 この研究の結論はそれ自体としては大変わかりやすいものなのだが、そもそも多遺伝子リスクスコアとCACSを同じ土俵で比較することが適当なのか、という疑問が残る。何故なら多遺伝子リスクスコアは原因・素因というべきであり、CACSはいわば結果であるからだ。素因と現にそこに起こっている現象とでは意味が違うのではないだろうか。こうした批判は関係する後天的な因子の果たす役割の大きい生活習慣病を考える場合、重要な視点なのではないかと思う。普段ゲノム研究を覗く機会の少ないものとしては大変勉強になる論文ではあったが、そんな素朴な疑問が残った。

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スタチンで肝疾患を予防できる可能性の高い人は

 スタチン服用が肝疾患を予防する可能性が示唆されている。今回、ドイツ・University Hospital RWTH AachenのMara Sophie Vell氏らは、肝疾患・肝細胞がん発症の減少、および肝臓関連死亡の減少と関連するかどうかを3つのコホートで検討した。その結果、スタチン服用者は非服用者に比べ、肝疾患発症リスクが15%低く、肝細胞がん発症リスクについては最大74%低かった。また、このスタチンのベネフィットは、とくに男性、糖尿病患者、肝疾患の遺伝的リスクがある人で得られる可能性が高いことが示唆された。JAMA Network Open誌2023年6月26日号に掲載。 本コホート研究には、UK Biobank(2006~10年のベースラインから2021年5月の追跡終了まで登録、37~73歳)、TriNetX(2011~20年のベースラインから2022年9月の追跡終了まで登録、18~90歳)、およびPenn Medicine Biobank(2013年から2020年12月の追跡終了まで登録、18~102歳)のデータを使用した。年齢、性別、BMI、民族、糖尿病(インスリンもしくはビグアナイドの使用の有無)、高血圧、虚血性心疾患、脂質異常症、アスピリン服用、処方薬剤数により、傾向スコアマッチングを用いて登録者をマッチングした。主要アウトカムは肝疾患および肝細胞がんの発症と肝臓関連死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・マッチングされた178万5,491例を評価した。追跡期間中に肝臓関連死亡581例、肝細胞がん発症472例、肝疾患発症9万8,497例が登録された。平均年齢は55〜61歳で、男性の割合がやや高かった(最大56%)。・肝疾患の診断を受けたことがないUK Biobankの登録患者(20万5,057例)において、スタチン服用者(5万6,109例)は肝疾患発症リスクが15%低かった(ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.78~0.92、p<0.001)。また、スタチン服用者は肝臓関連死亡リスクが28%低く(HR:0.72、95%CI:0.59~0.88、p=0.001)、肝細胞がん発症リスクが42%低かった(HR:0.58、95%CI:0.35~0.96、p=0.04)。・TriNetX(156万8,794例)では、スタチン服用者の肝細胞がん発症リスクが74%低かった(HR:0.26、95%CI:0.22~0.31、p=0.003)。・スタチンの肝保護作用は時間と用量に依存し、Penn Medicine Biobank(1万1,640例)では、スタチン服用1年後に肝疾患発症リスクが有意に低下した(HR:0.76、95%CI:0.59~0.98、p=0.03)。・男性、糖尿病患者、ベースライン時にFibrosis-4 indexが高かった患者で、とくにスタチンが有用だった。また、PNPLA3 rs738409リスク対立遺伝子のヘテロ接合体保因者においてスタチンが有用で、肝細胞がん発症リスクは69%低かった(UK Biobank、HR:0.31、95%CI:0.11~0.85、p=0.02)。 今回の3つのコホート研究の結果、スタチンと肝疾患予防に有意な関連が示され、とくに男性、糖尿病患者、肝疾患の遺伝的リスクのある人で有用だった。著者らは「特定のリスクカテゴリーに該当する人はスタチンで大きなベネフィットを得る可能性が高いので、スタチンの適応があるかどうかを判断するために十分に評価を受ける必要がある」としている。

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