サイト内検索|page:1

検索結果 合計:705件 表示位置:1 - 20

1.

残余リスク可視化へ、Lp(a)コンセンサス・ステートメント公表/日本動脈硬化学会

 日本動脈硬化学会は2026年9月15日、Lp(a)に関する日本版『コンセンサス・ステートメント』を公表した。本ステートメントは、「世界的なエビデンスと日本の疫学的および臨床的現実を統合し、将来の治療および医療システムの発展を支援しつつ、日本に合わせたLp(a)の測定、解釈、リスク層別化、および管理に関する明確な推奨事項を提供することを目標」として作成された。今回、日常診療においてLp(a)測定の普及促進を訴える、日本動脈硬化学会Lp(a)タスクフォースの吉田 雅幸氏(日本動脈硬化学会理事長/東京科学大学 生命倫理センター長・大学院先端倫理医科学分野 教授)が測定法や心血管リスク評価への具体的な活用法など、診療で実践すべき臨床的Key takeawayについて解説した。ステートメントの公表意義と日本独自の層別化 Lp(a)スクリーニングの波はすでに世界的な大きな潮流となっている。これまでに海外データから、Lp(a)の上昇は心筋梗塞や大動脈弁狭窄症などの動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の独立した強力なリスク因子であることが示されている。欧州心臓病学会(ESC)や米国心臓病学会(ACC)、中国などでは先行してステートメントが発表され、高リスク患者の特定が強く推奨されている。さらに2025年3月にLp(a)研究の世界的権威であるFlorian Kronenberg氏らが「ブリュッセル宣言」を行ったことで、危険因子としての重要性と市民への啓発が国際的に提唱されるようになった。 本邦でもこれまでいくつかの臨床試験が実施されてきたものの、測定法の標準化が不十分で、施設間や研究間の比較が困難であったため、多施設共同で測定値の標準化を行ったLEAP研究を開始。2026年5月にその成果が論文報告され、ようやく今回の本ステートメント公表1)に至ったのである。同氏は「日本人に対しても“すべての成人が生涯に一度は必ず測定すべき項目”として推奨され、日本独自の層別化カテゴリーが設定(25nmol/L未満、25~125nmol/L未満、125nmol/L以上)され、リスクに応じた適切な管理を促している」と述べ、「ガイドラインではないため、具体的な治療アルゴリズムを詳細に規定するものではないが、国内の疫学データを含む最新エビデンスに基づいた情報提供として極めて重要な意義を持つ」と強調した。日本人でのLp(a)のエビデンスと血管障害のメカニズム では、なぜLp(a)が心血管リスクを格段に高めるのか。その背景には、主に以下の4つの血管障害のメカニズムが考えられている。―――●動脈硬化形成の促進:Lp(a)はLDL粒子に類似した構造を持つため、血管壁へのコレステロール蓄積を促す。●炎症惹起作用:酸化リン脂質(OxPL)の主要キャリアとして働き、血管内皮細胞の活性化や局所炎症反応を強力に誘発する。●血栓形成の促進:apo(a)が線溶系プラスミノーゲンと構造類似性を持つため、これと競合して血栓溶解を阻害し、血栓形成を促進する。●大動脈弁の石灰化:輸送されたOxPLが大動脈弁の石灰化を直接的に進行させ、大動脈弁狭窄症を悪化させる。――― また、Lp(a)が高値となる要因には、遺伝的素因、家族性高コレステロール血症(FH)、そして腎機能低下(クリアランスの低下)などが挙げられる。東アジア人や日本人の場合、欧米の白人と比較してLp(a)の中央値が有意に低いことが疫学データで明らかにされているものの、「心血管リスク上昇率は欧米同様であるので、過小評価はできない」と同氏は注意喚起した。世界的な動向とLp(a)測定普及に向けて そんな中、日本の実臨床においてはいまだに大きな課題が残されている。それは測定する医師が少ないことである。Lp(a)の血中濃度は大部分が遺伝的に規定されるため、スタチンなどの既存薬や、食事・運動といった生活習慣の改善ではほとんど低下しないことから、「治療介入が困難」「治療薬がない」という大きな問題が実臨床での検査の普及を阻んできたという。なお、この憂慮に対し、Florian Kronenberg氏は取材インタビューにて「測らない理由なんてあるのか?」と疑問を投げかけている[参考記事:Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス~Lp(a)の今をインタビュー(後編)]。 実際、Lp(a)の測定方法に難しいことはない。Lp(a)は一般的な生化学検査の項目に含まれていることが多く、動脈硬化性疾患などの病名があれば保険診療上も3ヵ月に1回(107点)の測定が可能である。ただし、測定単位に関する技術的課題も存在する。現在多くの検査キットが質量単位(mg/dL)を用いているが、世界的には粒子濃度(nmol/L)への移行が強く推奨されており、日本国内でも標準化に向けた取り組みが過渡期を迎えている。実臨床への実装と今後の展望 次世代治療の展望として、Lp(a)を特異的かつ劇的に低下させるアンチセンス核酸医薬pelacarsenをはじめとするさまざまな作用機序の薬剤が臨床試験の最中である。とくにpelacarsenの第III相「HORIZON試験」の速報結果に注目が集まっていたが、2026年9月4日に発表された解析結果では、Lp(a)の有意な低下が認められたものの、主要評価項目(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、緊急冠血行再建術)の達成には至らなかった。この結果の解釈と今後の診療のあり方について、「ハザード比や個別エンドポイントの詳細な結果が公表されていないため、全体像の把握には詳細を待つ必要がある。しかし、今回のLp(a)介入試験のネガティブな結果を踏まえても、Lp(a)が強力な遺伝的リスク要因であることに変わりはない。現状の測定率の極端な低さを踏まえると、リスクを可視化するという測定意義を今後も継続して啓発していきたい。現状ではLp(a)を直接下げる薬剤がないからこそ、Lp(a)が高い患者を一人でも見つけたら、血縁者のカスケードスクリーニングを行うことがきわめて重要である」と同氏は強調した。 本ステートメントはタスクフォースメンバーの合議に基づいているため、厳密な意味でのガイドラインと同等のエビデンスレベルではないものの、実臨床における外来受診時での測定を強く推進し、将来的には人間ドックへの追加も視野に入れている。さらに現在、健康成人を対象とした「LEAP2研究」が進行中であり、この結果次第で今後の国内のリスク分類がさらに精緻にアップデートされる可能性がある。なお、今回を機にLp(a)の呼称を国際的に汎用されている“エルピーリトルエー”に統一することも公表された。「呼称について定められた国際基準があるわけではなく、一般的な使用状況を踏まえて、この呼び方に揃えるという趣旨である。臨床現場ではエルピースモールエー、エルピーエーなどとも呼ばれており、それも決して間違いではない」とコメントした。 Lp(a)高値患者に対しては、スタチンやPCSK9阻害薬などを用いてLDL-Cを厳格に管理するなど、修正可能なリスク因子に対する徹底的な介入が不可欠となる。すべての医師がこの「隠れたリスク」に気付き、包括的な脂質管理と、次世代治療薬の登場を見据えた標準化された診療体制の確立を目指すことが、今強く求められている。

2.

第337回 2型糖尿病患者のスタチン早期開始で認知症予防

2型糖尿病(T2D)診断後の早めのスタチン開始と認知症を生じ難くなることの関連がデンマークでの試験で示されました1-3)。虚血性心疾患、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、がんなどの一般的な非感染症および感染症の予防・治療が進歩して世界的に寿命が延び、高齢者の域に至る人々が増えています。そのため認知症も増えており、世界の認知症患者の数は2019年に5,740万例で、2050年には1億5,280万例に達すると予想されています4)。認知症を根本治癒する術は今のところなく、診断に至る前の数十年に認知機能の低下が進みます。それゆえ、認知症の発生を遅らせるか防ぐための手段となる中年期の危険因子の対応に注目が集まっています。Lancetが招集した専門家一堂(Lancet Commission)がまとめた2024年の最新の報告によると、14の危険因子を解消することで理論的には認知症の半数近くを防ぎうるようです5)。2024年の報告では、特筆すべきことにLDLコレステロール(LDL-C)上昇が危険因子に初めて加わりました。2023年に報告された観察試験のメタ解析によると、LDL-Cの1mmol/L上昇ごとに認知症の発症が8%上昇することが関連しています6)。高コレステロール血症の有病率は高いため、LDL-C上昇の治療は最も多くの認知症予防につながると予想されています。世界での肥満の増加につれてT2Dも増えています。Lancet Commissionの危険因子にも含まれる糖尿病の患者はそうではない人に比べて高コレステロール血症をより併発します。したがって認知機能低下の症状がみられる前にスタチンで早めに高コレステロール血症の治療をすることは、認知症を遅らせるか防ぐのに不可欠かもしれません。LDL-C値をスタチンで下げることは、心血管疾患予防の確かな裏付けをもっぱらの拠り所としてT2D患者の治療の肝の1つとなっています。しかし糖尿病診断後の早期のスタチン治療が認知機能低下や認知症を帰結として長い目で見てどれだけ重要かはよくわかっていませんでした。そこでデンマーク・コペンハーゲン大学病院のTummas Ternhamar氏らは、糖尿病診断から早期(1年以内)のスタチン開始の認知症リスクが1~5年以内の遅ればせの開始または開始せずじまい(非開始)に比べて低いとの仮説を立て、デンマーク国民全員の登録情報を利用してその検証を試みました。Ternhamar氏らは2006~19年の14年間にスタチン未使用の13万2,585例を選定し、最長2021年12月31日まで追跡しました。中央値7年ほど(7.1年)の追跡期間に3%弱の2.7%(3,592例/13万2,585例)が認知症を発症しました。10年間の認知症の絶対リスクは、スタチン早期開始群3.3%、遅ればせの開始群3.5%、非開始群3.9%でした。その結果からスタチン早期開始と遅ればせの開始の相対リスクは非開始に比べてそれぞれ15%と10%低いことが示されました。LDL-C上昇をT2D診断に際して適時治療することで認知症を防ぐか遅らせうることを今回の結果は示唆しており、その確かさをより長期の無作為化試験で検討する必要があるとTernhamar氏らは言っています。今回の結果は先月末の欧州心臓病学会(ESC)年次総会で報告され2)、Lancet姉妹誌のThe Lancet Regional Health Europe誌オンライン版にも同時に掲載されました1)。参考1)Ternhamar T, et al. Lancet Reg Health Eur. 2026 Aug 27. [Epub ahead of print]2)Statins are associated with a lower risk of dementia in patients with type 2 diabetes / ESC3)Statins can reduce dementia risk by up to 15%, long-term study suggests / Guardian4)GBD 2019 Dementia Forecasting Collaborators.  Lancet Public Health. 2022;7:e105-e125.5)Livingston G, et al. Lancet. 2024;404:572-628.6)Wee J, et al. Alzheimers Dement(Amst). 2023;15:e12395.

3.

心血管疾患歴や糖尿病がない高齢者でも、高用量スタチンは心筋梗塞、脳卒中発症を予防する。しかし、認知症、フレイルの発症予防には効果なし―STAREE研究(解説:桑島巖氏)

 メルボルン在住で、心血管疾患の既往や糖尿病がない70歳以上の住民9,971例を、アトルバスタチン40mg治療群とプラセボ群にランダマイズして平均5.9年間追跡し、(1)心血管疾患発症率、心血管死および、(2)認知症、フレイル、総死亡の2つを主要エンドポイントとして評価した臨床研究である。本試験の特徴として、両群ともLDL-コレステロール平均値が、治療群では126.2±27.8mg/dL、プラセボ群では127.0±28.1mg/dLと正常範囲内であることである。すなわち、高コレステロール基準に達していない例が多いことが挙げられる。 結果として、高齢者でも高用量スタチンは、脳卒中、心筋梗塞、冠動脈血行再建術の複合エンドポイントを有意に抑制した。しかし、総死亡、フレイル、認知機能の抑制は認められなかったという結果であった。ちなみに、本試験は企業からの支援は一切受けていないという。 しかし、本試験の結果は日本の高齢者治療に参考になるのかと問われれば、“否”と言わざるを得ない。第一、わが国では高コレステロール血症のない例には保険適用がなく、ましてやアトルバスタチン40mgという用量は家族性高コレステロール血症以外には認可されていない。 本試験の参加者は、多民族性をうたう近年のオーストラリアにしては白人の比率が90%以上を占め、かつBMI 25以上の肥満例や降圧薬を服用している症例が両群とも多いのが特徴である。肥満者が比較的少なく、魚や菜食を好む傾向のある日本人高齢者では、本試験の結果は参考にならない。しかし、わが国の保険適用範囲内の少量スタチンでの有用性は、わが国で検証されてもよいかもしれない。

4.

糖尿病へのスタチン、開始時期で認知症リスクに差?/ESC2026

高齢化に伴い認知症の負担は増大しており、とくに糖尿病患者ではリスクが高いことが知られている。一方、LDLコレステロールは認知症の修正可能なリスク因子として注目されている。そこで、デンマーク・Copenhagen University Hospital-Herlev and GentofteのTummas Ternhamar氏らは、2型糖尿病診断後のスタチン開始時期と認知症リスクとの関連を検討した。その結果、診断後1年以内の「スタチン早期開始」が、全認知症リスクの有意な低下と関連することが示された。本結果は、2026年8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)で発表され、The Lancet Regional Health Europe誌オンライン版2026年8月27日号に掲載された。本研究は、デンマークの全国レジストリを用いた観察研究である。対象は、2006~19年に40歳超で2型糖尿病を発症した、スタチン未使用の13万2,585例。糖尿病診断日から、認知症、死亡、国外移住、診断後10年、または2021年12月31日のいずれか早い時点まで追跡した。Clone-Censor-Weight法を用いて、(1)診断後5年間スタチンを開始しなかった非投与群(対照)、(2)診断後1~5年に開始するスタチン後期開始群、(3)診断後1年以内に開始するスタチン早期開始群における認知症の発症率を解析した。主要評価項目は、死亡を競合リスクとして扱ったAalen-Johansen生存曲線に基づく10年時の全認知症リスクとし、副次評価項目として血管関連認知症(血管性認知症および詳細不明の認知症)およびアルツハイマー型認知症を評価した。主な結果は以下のとおり。・患者13万2,585例の内訳は、スタチン非投与群5万6,693例、スタチン早期開始群5万2,496例、スタチン後期開始群2万3,396例で、診断時の平均年齢はそれぞれ63.5歳、59.8歳、59.5歳であった。・追跡期間中央値は7.1年(四分位範囲[IQR]:3.8~9.9)で、全認知症は3,592例(2.7%)に発症した。血管関連認知症は2,532例(1.9%)、アルツハイマー型認知症は1,571例(1.2%)で、511例(0.4%)は両方の診断を受けていた。・全認知症の10年時の絶対リスクは、非投与群3.9%、早期開始群3.3%、後期開始群3.5%であった。・非投与群と比較した10年時の全認知症相対リスク(RR)は、早期開始群で15%低下(RR:0.85、95%信頼区間[CI]:0.79~0.91)、後期開始群で10%低下(RR:0.90、95%CI:0.85~0.97)であった。・10年時の絶対リスク差(対非投与群)は、早期開始群で0.59%ポイント低下(95%CI:0.34~0.86)、後期開始群で0.38%ポイント低下(95%CI:0.12~0.61)であった。・全認知症リスクは3年、5年、8年時でも非投与群で最も高く、次いで後期開始群、早期開始群の順に低かった(10年間の曲線比較:すべてp<0.001)。・血管関連認知症では早期開始群(絶対リスク差:0.61%ポイント低下)、後期開始群(同:0.44%ポイント低下)ともに段階的なリスク低下が認められたが、アルツハイマー型認知症では明確なパターンはみられなかった。本研究結果について著者らは、2型糖尿病患者におけるスタチン治療は認知症リスクの低下と関連し、その効果は早期に開始した患者で最も顕著であったとまとめている。

5.

心筋梗塞PCI前のエボロクマブ、1年後LDL目標8割達成/JAMA

 PCSK9阻害薬は、心筋梗塞(MI)発症後の2次または3次の脂質低下療法としての推奨にとどまるため、その結果としてLDL-コレステロール(LDL-C)値のコントロールが不十分な期間が長期化するとされる。機械的再灌流術の前に、1次治療としてのPCSK9阻害薬の投与を、カテーテル室での判断に基づいて開始した場合に、1年後のLDL-Cのコントロールおよび臨床アウトカムが改善するかは明らかでないという。フランス・ソルボンヌ大学のGilles Montalescot氏らAMUNDSEN Investigators of the ACTION Study Groupは「AMUNDSEN試験」において、プライマリまたは緊急の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が適応の急性心筋梗塞(AMI)患者に対し、カテーテル室でエボロクマブと高強度の脂質低下療法の併用を開始したところ、1年後に80%以上の患者がガイドラインで推奨されるLDL-Cの目標値(<55mg/dLかつ≧50%減少)を達成したと報告した。研究の成果はJAMA誌オンライン版2026年8月29日号に掲載された。なお、本研究は2026年8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)で発表された。欧州6ヵ国の無作為化第IV相試験 AMUNDSEN試験は、欧州6ヵ国の48施設で実施した非盲検エンドポイント盲検無作為化第IV相試験(Amgenなどの助成を受けた)。2021年9月~2025年5月に、高リスクのST上昇型MI(STEMI[55歳以上])または1つ以上の追加の高リスク因子を有する非ST上昇型MI(NSTEMI)の成人患者を登録した。 被験者2,161例(平均年齢67歳、男性1,703例[79%])を、標準治療に加え、1年間にわたり2週間ごとにエボロクマブ140mgを皮下投与(PCI前に初回投与)する群(1,087例)、または標準治療のみを受ける群(1,074例)に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、12ヵ月の時点でLDL-C値が55mg/dL未満で、かつベースラインから50%以上減少していることとした。主要臨床評価項目として、12ヵ月時の全死因死亡と心血管系の疾患による予定外の入院を評価した。91%が6週時に推奨値に到達、重篤な有害事象には差がない 全体の入院時の平均LDL-C値は116mg/dLで、患者の32%が現喫煙者、24%が糖尿病、58%がSTEMI、42%がNSTEMIであった。96%がプライマリまたは緊急のPCIを受けた。無作為化の日に、94%がスタチン、28%がエゼチミブの投与を受けていた。また、標準治療群の41例(3.8%)が追跡期間中にPCSK9阻害薬の投与を受けた(プロトコールで許容)。 6週時点で、LDL-C中央値はエボロクマブ群が16mg/dL、標準治療群は56mg/dLであった。この差は12ヵ月後まで持続した。また、6週時には、エボロクマブ群の91%が、LDL-Cのガイドライン推奨値(<55mg/dLかつ≧50%減少)に到達した。同推奨値への到達率は、標準治療群では34%であった。 主要評価項目の達成は、エボロクマブ群970例中792例(81.6%)、標準治療群934例中370例(39.6%)で認められた(補正後オッズ比[OR]:5.54、95%信頼区間[CI]:4.50~6.82、p<0.001)。 また、主要臨床評価項目は、エボロクマブ群では1,087例中159例(14.6%)に、標準治療群では1,074例中165例(15.4%)に発生した(補正後OR:0.94、95%CI:0.73~1.19、p=0.59)。 副次評価項目である12ヵ月時のLDL-C値<40mg/dLの達成には、エボロクマブ群で970例中742例(76.5%)、標準治療群で934例中192例(20.6%)が到達した(補正後OR:9.71、95%CI:7.86~11.99)。 重篤な有害事象の発生率は、両群間に差を認めなかった。 著者は、「エボロクマブの早期の投与開始により、LDL-Cの目標値の達成率が大幅に改善したが、追跡期間の最初の1年間に、主要臨床評価項目を含む臨床的な指標に関して、有意な有益性を認めなかったことから、『PCSK9阻害薬は、急性期においてLDL-Cの抑制以外の臨床的に意義のある多面的作用(pleiotropic effect)を有する』との説を否定する結果となった」としている。

6.

高リスクASCVDのLDL-C低下、インクリシランvs.ベムペド酸/ESC2026

最大耐用量のスタチン治療を受けてもLDL-C目標値に到達しない高リスクのアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)患者を対象に、ドイツ・Deutsches Herzzentrum der ChariteのIngo Hilgendorf氏らは、インクリシランとベムペド酸を直接比較する第IV相無作為化比較試験「VICTORION-Challenge試験」を実施した。その結果、インクリシランはベムペド酸よりLDL-C低下率および目標値達成率が有意に高かった。本結果は、2026年8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)で発表され、European Heart Journal誌オンライン版2026年8月31日号に同時掲載された。本研究は、多施設共同、非盲検、並行群間、無作為化比較試験。対象は、高リスクまたは超高リスクのASCVDを有し、最大耐用量の高強度スタチン(エゼチミブ併用の有無は問わない)を4週間以上継続してもLDL-C値が70mg/dL以上であった18歳以上の患者402例。インクリシラン300mg皮下注(1日目、90日目)群、またはベムペド酸180mg1日1回経口投与群に1:1で割り付けた。主要評価項目は150日目のLDL-C低下率、主な副次評価項目はLDL-C目標値達成率(超高リスク:55mg/dL未満、高リスク:70mg/dL未満)、絶対低下量、安全性などであった。主な結果は以下のとおり。・402例が無作為化され(インクリシラン群202例、ベムペド酸群200例)、396例が試験を完了した。平均年齢63.1歳、男性64.2%、ベースライン時の平均LDL-C値は94.4mg/dLで、88.6%が超高リスクであった。・150日目のLDL-C低下率(最小二乗平均)は、インクリシラン群-56.31%、ベムペド酸群-15.35%で、群間差は-40.95%(95%信頼区間[CI]:-45.67~-36.24、p<0.0001)であった。30日目、90日目にもインクリシラン群の優位性が認められた。・150日目の個別のLDL-C目標値達成率は、インクリシラン群78.2%、ベムペド酸群20.3%であった(調整オッズ比:16.36、95%CI:9.72~27.54、p<0.0001)。・150日目のLDL-C絶対低下量は、インクリシラン群-53.42mg/dL、ベムペド酸群-17.53mg/dLであった(群間差:-35.89mg/dL、95%CI:-40.43~-31.36、p<0.0001)。PCSK9、ApoB、non-HDL-C、Lp(a)などの脂質指標もインクリシラン群でより低下した。・治療下で発現した有害事象は、インクリシラン群63.1%、ベムペド酸群59.8%であった。治験薬関連有害事象は6.4%vs.14.6%、治験薬中止に至った有害事象は0%vs.5.0%、重篤な有害事象は8.4%vs.11.6%であった。横紋筋融解症はベムペド酸群で1例認められ、インクリシラン群では0例であった。著者らは、最大耐用量のスタチン治療下でもLDL-C目標値に達していない高リスクまたは超高リスクのASCVD患者において、インクリシランはベムペド酸と比べLDL-Cを有意かつ一貫して低下させ、目標値達成率も高かったとまとめている。なお、本試験はノバルティス ファーマの支援により実施され、著者には同社社員が含まれる。

7.

70歳以上の1次予防、スタチンは有益か?/NEJM

 地域で暮らす70歳以上の高齢者を対象としたプラセボ対照無作為化試験で、アトルバスタチンは主要心血管イベントリスクを抑制したが(追跡期間中央値5.9年時点)、障害のない生存期間の延長には寄与しなかったことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のSophia Zoungas氏らSTAREE Investigatorsが、同国の一般診療所(general medical practice)で行った「STAREE試験」の結果を報告した。高リスク成人において、スタチンが心筋梗塞や虚血性脳卒中のリスクを低減させることは十分に確立されているが、臨床ガイドラインにおいて、70歳以上の高齢者へのスタチン処方を強く推奨する記述はなく、とくに75歳以上の高齢者への処方を推奨するエビデンスは乏しい。また、認知症や障害への影響に対するエビデンスも不足していることから、研究グループは、主要心血管イベントおよび障害のない生存へのアトルバスタチンの影響を評価した。NEJM誌オンライン版2026年8月29日号掲載の報告。なお、本研究は2026年8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)で発表された。アトルバスタチン40mgを1日1回vs.プラセボ STAREE試験では、心血管疾患、糖尿病、認知症の既往がない、地域で暮らす70歳以上の高齢者を対象とした。 研究グループは被験者を、アトルバスタチン40mgを1日1回またはプラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 主要評価項目は2つで、心血管死、非致死的心筋梗塞または脳卒中、冠動脈血行再建術の複合(主要心血管イベントへの影響を評価)と、全死因死亡、認知症、持続的な身体機能障害の複合(障害のない生存への影響を評価)で、階層的に評価された。主要心血管イベントは有意に減少、障害のない生存期間は延長せず 2015年7月~2023年3月に9,971例が無作為化された(アトルバスタチン群4,984例、プラセボ群4,987例)。被験者の平均年齢(SD)は74.7±4.5歳で、女性は51.9%であった。 ベースラインで、被験者の大半は現在飲酒の習慣があり、喫煙歴なしと申告した。服用薬数中央値は2(四分位範囲:1~4)で、最も多かった薬剤は降圧薬(46.3%)、胃酸関連疾患の治療薬(27.1%)などであった。過去にスタチン服用歴ありと報告した被験者は5.2%。既往歴として多かったのはがん、うつ病であった。また、認知機能スコアは良好であることが示され、88.7%の被験者が日常生活動作(ADL)の自立度を評価する修正Katz Indexの6項目について、いずれも困難はないと報告した。 追跡期間中央値5.9年後において、主要心血管イベントの発生はアトルバスタチン群297例(1,000人年当たり10.9イベント)、プラセボ群412例(1,000人年当たり15.5イベント)であった(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.61~0.82、p<0.001)。 障害のない生存への影響を評価した、全死因死亡、認知症、持続的な身体機能障害の複合の発生は、アトルバスタチン群637例(1,000人年当たり21.6イベント)、プラセボ群676例(1,000人年当たり23.0イベント)であった(HR:0.94、95%CI:0.84~1.05、p=0.25)。 重篤な有害事象の発現は、アトルバスタチン群で131例(2.7%)、プラセボ群で129例(2.7%)に認められた。筋骨格系、肝胆道系、および糖尿病関連の有害事象はアトルバスタチン群でより多く認められた。

8.

安定したHFrEF患者への心エコー【日常診療アップグレード】第64回

安定したHFrEF患者への心エコー問題76歳男性。5年前に前壁心筋梗塞を発症し、左室駆出率(LVEF)低下を伴う心不全(HFrEF)のため、定期的に外来に通っている。スーパーでの買い物の際、労作性呼吸困難を自覚している。過去1年間、症状に変化はない。メトプロロールコハク酸塩、サクビトリル・バルサルタン、スピロノラクトン、ダパグリフロジン、フロセミド、アトルバスタチン、アスピリンを内服している。バイタルサインは、血圧124/72mmHg、脈拍数は68回/分であった。その他の身体所見に異常は認められない。12ヵ月前に実施された心エコー検査では、LVEF 25%、前壁無収縮、左心室拡張末期径61mmが認められた。心エコー検査の再検査をオーダーした。

9.

PREVENT時代にCACスコアは何を加えるのか―予測能と臨床的有用性を巡って(解説:野間重孝氏)

 2026年ACC/AHA/Multisociety脂質異常症ガイドラインでは、動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)の1次予防における10年リスク評価に、Predicting Risk of Cardiovascular Disease EVENTS(PREVENT)によるASCVD予測式が採用され、境界域リスク(3%以上5%未満)または中間リスク(5%以上10%未満)でスタチン開始の判断が定まらない場合には、冠動脈石灰化(coronary artery calcium:CAC)スコアを考慮することが推奨された1)。 本研究は、多民族動脈硬化研究(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis:MESA)に登録されたASCVD既往のない45~79歳の6,098例を対象として、PREVENTにCACを加えた場合の予測能を検討したものである。10年間に366例(6.0%)が心筋梗塞または脳卒中を発症し、Harrell C統計量はPREVENT単独の0.73からCAC追加後には0.75となった。改善幅は0.02、カテゴリー別net reclassification improvement(NRI)は0.095であり、著者らは、全リスク層にCACを加えた場合の改善は限定的である一方、境界域および中間リスク群に対する選択的使用は支持されると結論している2)。 一見すると、これはCACの選択的使用を支持する素直な結果にみえる。しかし、本研究を評価するうえで重要なのは、NRI 0.095という数値そのものではなく、どのような患者群がいずれの方向に再分類されたことによって、NRIが正の値となったのかという点である。 ASCVDを発症した366例では、CAC追加による上方再分類18例に対して下方再分類は39例で、event-NRIは-0.057であった。一方、非発症者5,732例では、下方再分類1,097例に対して上方再分類は224例で、nonevent-NRIは+0.152となった2)。全体NRIが0.095という正の値を示したのは、主として非発症者の下方再分類によるものであり、これが集団全体のリスク順位を改善し、C統計量を0.02上昇させた背景にあると考えられる。 event-NRIが負となったのは主として、PREVENTリスク5%以上で、すでにスタチンを含む脂質低下療法を検討すべき群に属していた発症者が、境界域へ下方再分類されたためである。下方再分類された発症者39例のうち、この群が29例(74%)を占めた。これに対し、境界域の発症者では上方再分類14例、下方再分類10例であり、10年発症率もCACスコア0の1.9%から300以上の14.3%まで明瞭に分かれた2)。したがって、event-NRIが負であったことを、境界域におけるCACの有用性の否定と見なすべきではない。むしろこの結果は、CACの役割が全リスク層の再分類ではなく、治療判断の定まらない境界域における追加的な層別化にあることを示唆している。 ただし、わずかなCACが認められるだけで、直ちに高リスクと考えることも適切ではない。CACスコア0超100未満の発症率は3.9%であり、依然として境界域にとどまっていた。明瞭な上方再分類をもたらしたのは主としてCACスコア100以上である2)。したがって、CACスコア0は低リスク側への再分類を支持し、CACスコア100以上は積極的な脂質低下療法を支持する一方、CACスコア0超100未満では、なお他の危険因子と患者の意向を含めた判断が必要となる。 なお、PREVENTによって、年齢、血圧、脂質、糖尿病、喫煙、腎機能などに基づく基礎的リスクはすでに捉えられており、CAC追加によるC統計量の改善幅が0.02にとどまったことは必ずしも意外ではない。予測リスクと実際の発症率との整合性を示す較正勾配は、1が理想とされ、PREVENT単独で1.09、CAC追加後で0.92であった。いずれも信頼区間は1を含んでおり、少なくとも較正勾配からは、CAC追加による明瞭な改善は示されなかった2)。 今回の改善幅を評価するうえで、著者らはKhanらが2023年にJAMAへ報告した冠動脈疾患予測研究を比較対象として挙げている。同研究では、統合コホート方程式(pooled cohort equations:PCE)にCACを加えることにより、冠動脈疾患を評価項目としたC統計量が0.09上昇し、カテゴリー別NRIも0.19改善した3)。これに対して、本研究の主要評価項目は心筋梗塞と脳卒中の複合であり、両者を分けた成績は示されていない。PREVENT-ASCVDを評価するうえでは整合的な設定であるが、冠動脈の解剖学的指標であるCACの付加価値を検討する際には慎重な解釈を要する。今回の改善幅が小さかった背景には、予測モデルの違いだけでなく、アウトカムの定義の違いが関係した可能性もあり、両研究の結果を単純に比較することはできない。 本研究は予測モデルの性能を検討した観察研究であり、CACに基づく治療方針の変更がASCVDイベントを減少させることを示したものではない。検査費用、放射線被曝、偶発所見などを含めた臨床的なnet benefitも検討されていない。また、MESAはPREVENTの開発にも用いられ、CAC追加モデルも同じ集団内で評価されているため、独立した外部集団における検証が必要である2)。欧米より冠動脈疾患が少なく、脳卒中の比重が大きい日本では、冠動脈の指標であるCACのASCVD予測への付加価値は、本研究で示された以上に限定的となる可能性がある4)。 本研究が示したのは、CACの価値が失われたということではない。むしろ、その役割が「すべての人のリスク予測を改善する検査」ではなく、「治療判断の難しい患者を選択的に再層別化する検査」であることを明確にした点に、本研究の意義がある。集団全体の予測能と、個々の患者における意思決定上の有用性とは同じものではない。CACについて問うべきなのは、集団全体の予測能をどれほど高めるかだけではなく、治療判断の定まらない患者に対して、実際に判断を変えうる情報を提供できるかということであろう。

10.

LDL-C<55mg/dLでもMACE再発、リスク因子は?/ESC2026

動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の2次予防では、超高リスク患者においてLDL-C<1.4mmol/L(55mg/dL)の達成が推奨されている。一方で、LDL-Cを良好に管理しても動脈硬化の進展や心血管イベントの再発は起こりうる。今回、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後にLDL-C<1.4mmol/Lを達成した冠動脈疾患(CAD)患者におけるASCVD再発の臨床的特徴を検討した結果、主要心血管イベント(MACE)は6.2%に発生し、動脈硬化性疾患(polyvascular disease:PVD)がMACEと強く関連する一方、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/L(40mg/dL)の達成はMACEリスク低下と関連していたことが明らかになった。本研究結果は、国立循環器病研究センター 循環器内科の片岡 有氏が8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)の2次予防のセッションで発表、Journal of Clinical Lipidology誌2026年8月号にも掲載された。本研究は、2017年1月1日~2022年8月31日にPCIを受けたCAD患者を対象とした多施設共同後ろ向き観察研究である。PCI後2ヵ月時点のLDL-Cデータがない患者、3年時点の臨床フォローアップがない患者、PCI後2ヵ月以内にMACEを発症した患者、非動脈硬化性のCAD患者などを除外。PCI後2ヵ月時点でLDL-C<1.4mmol/Lを達成した患者を解析対象とし、MACE発生例と非発生例の臨床背景、脂質低下療法、リスク因子管理を比較した。主要評価項目は、心臓死、非致死的心筋梗塞、非責任病変に対する臨床的適応による冠動脈血行再建からなるMACEとした。主な結果は以下のとおり。・解析対象は780例で、平均年齢70.1歳、男性81.7%であった。高血圧は73.7%、脂質異常症は65.2%、2型糖尿病は37.1%、慢性腎疾患は50.3%に認められ、心筋梗塞既往は11.9%、多枝病変は31.0%であった。・観察期間中央値1,632日(四分位範囲[IQR]:1,011~2,502)で、MACEは48例(6.2%)に発生した。内訳は、心臓死1.1%、非致死的心筋梗塞1.4%、非責任病変に対する臨床的適応による冠動脈血行再建4.7%であった。・LDL-C<1.4mmol/L達成後に発生したMACEの81.2%(39/48例)は、PCI後2年以内に発生した。また、心臓死9例はすべてPCI後6ヵ月以内に発生した。・MACE発生例では、非発生例と比較してPVDの割合が高かった(72.9%vs.17.3%、p<0.001)。下肢閉塞性動脈疾患(LEAD)もMACE発生例で多く(54.2%vs.4.0%、p<0.001)、CAD+脳血管疾患(CVD)+LEADの併存も高頻度であった(12.5%vs.1.6%、p<0.001)。一方、従来の冠危険因子および多枝病変などの臨床的特徴に有意差はみられなかった。・PCI後2ヵ月時点で、全体の94.8%がスタチン、73.3%が高強度スタチンで治療されていた。エゼチミブの使用はMACE発生例で非発生例より少なかった(45.8%vs.63.2%、p=0.023)。PCSK9阻害薬の使用割合は、MACE発生例4.1%、非発生例5.1%であった(p=0.770)。・PCI後2ヵ月時点で治療中LDL-C<1.0mmol/Lを達成していた割合は、MACE発生例で非発生例より低かった(16.7%vs.33.2%、p=0.018)。治療中LDL-CはMACE発生例で数値的に高かった(44.1±10.5 vs.41.6±9.3mg/dL、p=0.074)。・多変量Cox解析では、PVDがMACE発生と独立して関連していた(ハザード比[HR]:10.74、95%信頼区間[CI]:5.65~20.39、p<0.001)。一方、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/Lの達成はMACEリスク低下と独立して関連していた(HR:0.37、95%CI:0.17~0.80、p=0.010)。・脂質低下療法の強度を追加調整したモデルでも、PVD(HR:11.02、95%CI:5.80~20.93、p<0.001)およびLDL-C<1.0mmol/L(HR:0.39、95%CI:0.18~0.85、p=0.019)の関連は一貫していた。・PVDの表現型別では、CAD単独を基準とした場合、CVD併存はMACEリスク上昇と有意に関連しなかった(HR:1.63、95%CI:0.46~5.75、p=0.447)。一方、LEAD併存はMACEリスク上昇と強く関連し(HR:21.03、95%CI:10.74~41.17、p<0.001)、CVD+LEAD併存でも同様であった(HR:23.75、95%CI:8.51~66.26、p<0.001)。・PVDを有する162例では、32.1%がLDL-C<1.0mmol/Lを達成していた。PVD患者において、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/Lの達成はMACE発生頻度の低下と関連し(Log-rank p=0.032)、多変量解析でもMACEリスク低下と独立して関連していた(HR:0.36、95%CI:0.14~0.87、p=0.024)。本研究結果について著者らは、LDL-C<1.4mmol/Lを達成したCAD患者においても心血管リスクは残存しており、とくにPVDはMACE発生と独立して関連していたとまとめた。また、PCI後2ヵ月時点の治療中LDL-C<1.0mmol/LがMACEリスク低下と関連していたことから、CAD患者におけるASCVD再発予防では、さらに低いLDL-C目標を考慮しうると結論付けた。

11.

スタチンとARBの併用で認知症リスクは低下するのか

 高血圧と脂質異常症は、認知症の修正可能な危険因子であり、スタチンと降圧薬の併用は保護的な効果をもたらす可能性がある。しかし、特定の薬剤の組み合わせに関するエビデンスは依然として限られている。オーストラリア・タスマニア大学のEyayaw Ashete Belachew氏らは、アンジオテンシンII(Ang-II)産生を増加させる降圧薬(Ang-II産生促進薬)とスタチンの併用と、Ang-II産生を減少させる降圧薬(Ang-II産生抑制薬)とスタチンの併用を、認知症リスクとの関連について比較検討した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2026年8月号の報告。 オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の大規模な地域住民コホートである45 and Up Studyのデータを用いて、プロスペクティブに検討を行った。対象は、高血圧および脂質異常症を有し、スタチンと降圧薬を併用している45歳以上の患者であった。対象患者を、スタチンとAng-II産生促進薬(アンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]、サイアザイド系利尿薬、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬[DHP-CCB])の併用群と、スタチンとAng-II産生抑制薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬[ACEI]、β遮断薬[BB]、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬[非DHP-CCB])の併用群に分類した。薬剤への曝露は、服薬期間割合(PDC、80%以上)に基づき判定した。1対1の傾向スコアマッチングを用いて、両群のベースライン特性をマッチングさせた。食事、身体活動、併存疾患、併用薬で調整したハザード比(HR)を推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・マッチングを行った3万4,610例(各群1万7,305例、平均年齢65.8±8.8歳、平均フォローアップ期間12.4±5.1年)を対象とした解析において、スタチンとAng-II産生促進薬の併用群は、スタチンとAng-II産生抑制薬の併用群と比較し、認知症リスクの12%低下(HR:0.88、95%信頼区間[CI]:0.79~0.98)および全死亡リスクの13%低下(HR:0.87、95%CI:0.82~0.93)との関連が認められた。・ロスバスタチンまたはアトルバスタチンとAng-II産生促進薬の併用は、シンバスタチンとAng-II産生促進薬の併用と比較し、より大きな有益性を示した(各々、HR:0.43[95%CI:0.36~0.50]、HR:0.74[95%CI:0.64~0.84])。・これらの効果は男女ともに一貫して認められた。しかし、保護的な関連は65~74歳の年齢層でのみ観察された。また、ARBを含む併用療法は、ACEIを含む併用療法と比較し、より優れた有益性を示した。・死亡を競合リスクとして考慮したモデルを含む感度分析においても、これらの結果は頑健であった。 著者らは「スタチンとAng-II産生促進薬の併用は、認知症リスクの低下と関連していた。とくに、ロスバスタチンまたはアトルバスタチンとARBの併用で、より大きな有益性が確認された。このことは、認知機能への有益性が治療選択の判断材料となりうることを示唆している。今後は、ランダム化比較試験によってこれらの知見を検証し、その根底にあるメカニズムを解明する必要がある」としている。

12.

心血管疾患既往の2型糖尿病、チルゼパチドでMACEリスク32%低減/BMJ

 チルゼパチドは、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体の両方を活性化するインクレチン関連薬であり、血糖値の低下と体重減少をもたらすが、心血管系への効果については議論が続いている。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のNils Kruger氏らは、2型糖尿病とアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を有する患者では、標準治療にシタグリプチンを併用した場合と比較して、チルゼパチドの併用は主要心血管イベント(MACE)の発生を有意に抑制し、入院を要する感染症や感染症関連死のリスクも低いことを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年8月5日号で報告された。無作為化試験を基準としたコホート研究 研究グループは、糖尿病の標準治療へのチルゼパチド追加が実臨床にもたらすMACE抑制効果を評価する目的で、無作為化試験の基準とされるデザインとデータ、解析法を用いた人口ベースのコホート研究を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 解析には、米国の2つの全国的な保険請求データベースに、2022年5月~2025年5月に登録されたデータを用いた。対象は、年齢40歳以上、2型糖尿病とASCVDを有し、BMI値≧25で、心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈・頸動脈・末梢動脈疾患、または血行再建術の既往がある患者であった。 チルゼパチドの投与を開始した群(3万5,353例)と、プラセボの代替として心血管アウトカムが中立的な比較薬であるシタグリプチンの投与を開始した群(1万7,618例)について解析した。 主要評価項目は、MACE(心筋梗塞、脳卒中、全死因死亡の複合)およびその個別の構成要素とした。安全性の評価項目は、入院を要する感染症および感染症関連死などであった。心筋梗塞のリスク低下が全体を牽引 傾向スコアによるoverlap weightingで、均衡のとれた各群7,442例ずつを選出した。両群とも、平均年齢は69.8歳、女性が3,783例(50.8%)であった。また各群で、スタチンの投与を受けている患者が85.2%、SGLT-2阻害薬が21.1%、インスリンが18.1%であった。 1年の時点におけるMACEの重み付け1年リスクは、シタグリプチン群が4.4%(95%信頼区間[CI]:3.8~4.9)であったのに対し、チルゼパチド群は2.9%(95%CI:2.5~3.4)と低い値を示した。1年後のリスク差は-1.4%(95%CI:-2.1~-0.7)、治療必要数(NNT)は70であり、MACEのハザード比(HR)は0.68(95%CI:0.58~0.80)であった。2つの累積発生率曲線は3ヵ月以内に分岐し、観察期間を通じて乖離した状態で推移した。 MACEの個別の構成要素については、チルゼパチド群で心筋梗塞のリスクが低く(HR:0.67、95%CI:0.52~0.87、NNT=130)、虚血性脳卒中(HR:0.91、95%CI:0.64~1.28、NNT=2,500)では意義のある差を認めなかった。全死因死亡は、チルゼパチド群でリスクが低かった(HR:0.55、95%CI:0.42~0.72、NNT=122)。心保護効果を確認 入院を要する感染症(HR:0.64、95%CI:0.55~0.75、NNT=48)および感染症関連死(HR:0.40、95%CI:0.26~0.61、NNT=200)は、いずれもチルゼパチド群でリスクが低かった。 また、チルゼパチド群は、感染症全般(HR:0.83、95%CI:0.78~0.87、NNT=19)、尿路感染症(HR:0.83、95%CI:0.76~0.91、NNT=55)のリスクがわずかに低かったが、消化器系の有害事象(HR:1.00、95%CI:0.79~1.27、推定不能)には差がなかった。 著者は、これらの結果を踏まえ、「チルゼパチドは、実臨床において心保護効果と関連していることが示された」としている。また、「意義のある体重減少が生じる前に心血管イベントの発生率曲線が早期に分岐し始めたことは、体重減少以外のメディエーターが関与している可能性を示唆し、代謝上の有益性とは独立に作用する全身性および血管性の炎症の改善を反映している可能性がある」「感染症関連イベントの減少は、観察された有益性には、より広範な非アテローム動脈硬化性の生物学的メカニズムが寄与している可能性を示唆する」「これらの実臨床の試験に基づくエビデンスは、共有意思決定に有益な情報を提供すると考えられる」と指摘している。

13.

第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

14.

スタチン使用に伴う重篤な筋障害はまれ

 スタチンによる重篤な筋障害への懸念は過大視されている可能性があるようだ。英オックスフォード大学の研究グループが開発した新たなリスク予測モデルでスタチン治療の適応となる成人の重篤な筋障害リスクを推定したところ、98%超が低リスクであることが示された。この研究結果は、「The Lancet Digital Health」に6月25日掲載された。筆頭著者である同大学のTing Cai氏はニュースリリースで、「重篤な筋障害は、スタチンに関して最も広く懸念されている副作用の一つである。しかし今回の結果から、スタチン治療の効果を期待できる大多数の人では、そのリスクは極めて低いことが示唆された」と述べている。 スタチン使用に伴う副作用として最も多いのは筋肉痛であり、インターネット上では「スタチンは活動的な中高年や高齢者の活動を妨げるのではないか」といった懸念が広がっている。そこで研究グループは、こうした懸念に根拠があるのかを検証するため、1998年1月1日から2018年12月31日の間にイングランドで収集された178万5,207人分の電子健康記録(EHR)を用いて、スタチン使用に伴う入院または死亡に関連する重篤な筋障害の1年・5年・10年間の発症リスクを予測するモデルを開発した。このモデルでは、年齢、性別、筋障害の既往、ビタミンD欠乏、併用薬など、日常診療で記録される22項目の情報を用いてリスクを評価する。さらに別の388万9,504人の検証コホートでこのモデルの予測精度を確認した。 その結果、検証コホートの99.6%で10年間の重篤な筋障害の発症リスクは10%未満と予測され、スタチン使用に伴う重篤な筋障害の発生は極めてまれであることが示された。また、臨床的にスタチン治療の適応が確認された患者でも98.1%は10年間の重篤な筋障害リスクが10%未満であり、大半が低リスクと推定された。 Cai氏は、「個々の患者のリスクを把握することは、スタチンにまつわる懸念を適切にとらえることにつながり、十分な情報に基づく治療方針の決定を支え、患者に安心感を与えることができる。リスクが比較的高い少数の患者においては、経過観察や検査、あるいは代替治療について医師と相談するための、より明確な判断材料になる」と述べている。 本研究では重篤な筋障害に焦点を当てているが、研究グループは、筋肉痛や筋肉の違和感といった軽度の症状の多くは、通常、スタチンが原因ではないことにも言及している。また、スタチン治療の適応がある患者の62.5%が、心血管疾患リスクが高いにもかかわらず、実際にはスタチンを処方されていないことも明らかになった。 論文の上席著者であるニコシア大学(キプロス)医学部医療統計学分野のConstantinos Koshiaris氏はニュースリリースで、「治療方針は治療効果の予測に基づいて決定されることが多いが、潜在的な有害事象を理解することも同様に重要である。このモデルは、個々の患者のリスクを定量的に評価できるため、治療選択肢に関するバランスの取れた話し合いを支援するものとなる」と述べている。

15.

「よく転ぶようになった」と言う80歳女性、現処方6剤のうち見直すべきは?【高齢者処方のデザイン】第5回

【症例】患者80歳・女性80歳女性。10年前にうつ病と診断され、前医からアミトリプチリン50mg/日を継続投与されている。既往に高血圧、軽度認知機能低下、脂質異常症、変形性膝関節症、10年前からの便秘症があり、降圧にヒドロクロロチアジド(HCTZ)12.5mgとアムロジピン5mg、便秘に酸化マグネシウム 約1.0g/日、脂質異常症にアトルバスタチン10 mg、変形性膝関節症の疼痛時にアセトアミノフェン500mg 頓用が処方されている。家族に付き添われて来院し、「半年で2回転倒した」「口がいつも乾く」「便が出にくい」「立ちくらみがする」と訴える。本人は「最近忘れっぽい」と自覚するが、抑うつ症状は安定している。診察上、臥位血圧138/82に対し起立3分で108/64と起立性低血圧を認め、脈拍上昇は乏しい。eGFR 55、Na 138、K 3.9、ALT 21、補正Ca 9.2。MMSE 24/30。【Before:前医の処方箋】A)アミトリプチリン 25mg 1日2回 朝食後・就寝前B)ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1日1回 朝食後C)アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後D)酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後E)アトルバスタチン 10mg 1日1回 夕食後F)アセトアミノフェン 500mg 疼痛時頓用A)アミトリプチリン 25mg 1日2回 朝食後・就寝前B)ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1日1回 朝食後C)アムロジピン 5mg 1日1回 朝食後D)酸化マグネシウム 330mg 1日3回 毎食後E)アトルバスタチン 10mg 1日1回 夕食後F)アセトアミノフェン 500mg 疼痛時頓用この6剤の中で、まず見直すべき薬はどれか? 1) 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023;71:2052-2081. 2) Boustani M, et al. Aging Health. 2008;4:311-320. 3) Coupland C, et al. BMJ. 2011;343:d4551. 4) Mori H, et al. J Clin Biochem Nutr. 2019;65(1):76-81. 5) Musini VM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD003824. 講師紹介

16.

健康的な脳の老化にはDHAが重要~EPAとの比較

 高齢者では脳萎縮が認知機能低下に先行することが多いため、脳構造の評価は神経保護の中間バイオマーカーとなる。近年、n-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)、とくにドコサヘキサエン酸(DHA)の血中濃度は、脳の構造的完全性との関連が示唆されている。しかし、魚の摂取量が多く、n-3系PUFA濃度がかなり高い日本人のデータは少なく、また、脳構造との関連でDHAとエイコサペンタエン酸(EPA)を比較した研究はほとんどない。今回、滋賀医科大学NCD疫学研究センターの近藤 慶子氏らが、高齢日本人女性においてEPA、DHA、EPA+DHAの血清濃度と脳容積の関連を検討したところ、DHAはEPAよりも灰白質容積との関連が強く、EPAとの関連は限定的なことがわかった。Journal of Nutrition誌オンライン版2026年7月25日号に掲載。 本研究は、滋賀県草津市在住の60~85歳の女性527人(平均年齢:74.2歳)を対象した横断研究である。EPAおよびDHAの血清濃度をガスクロマトグラフィー法により測定した。脳容積(全脳・灰白質・白質・海馬の容積)は、1.5テスラ磁気共鳴画像法を用いて評価した。共分散分析を行い、EPA、DHA、EPA+DHA濃度の四分位に基づいて調整した脳容積の平均値を比較した。共変量には年齢、全頭蓋内容積、BMI、教育年数、喫煙・飲酒状況、歩数、糖尿病、高血圧、スタチン使用を含めた。 主な結果は以下のとおり。・血清DHA濃度は灰白質容積と有意な正相関を示した(傾向のp=0.036)が、血清EPA濃度は相関が認められなかった。EPA+DHA濃度は灰白質容積と正相関の傾向を示した(傾向のp=0.085)。・EPA、DHA、EPA+DHAの血清濃度と、白質容積、全脳容積、海馬容積との間には有意な関連は認められなかった。 今回の結果から、著者らは「DHAが豊富な食事が健康的な脳の老化にとって重要であることが裏付けられた」と結論している。

17.

脂質異常症治療の30年を振り返って【温故知新30年】

講師紹介1. 30年前の脂質異常症治療1976年頃、スタチンを開発した遠藤章氏が、HMG-CoA阻害効果を持つ結晶粉末(後のコンパクチン)を内藤氏のところに持参し、私たちが扱っていたラットの肝細胞で効果を検討してくれという依頼があった。しかし、コンパクチンはラットの肝細胞では全く効果がないことが判明した。その後、機会を得て、1980年に米国・シカゴ大学への留学が決まった。米国では、動脈硬化研究は極めてホットな研究分野(欧米での死亡率のトップは虚血性心疾患であった)であり、しのぎを削っての競争世界であった。一方、1976年にBrown & GoldsteinのLDL-受容体(LDL-R)発見の論文が掲載された。また、同じ年に遠藤氏のコンパクチンが発表されていた。シカゴ大学の研究室ではLDL-Rの話題は極めて活発化しており、1981年の研究室内のプログレス・ミーティングで日本でのコンパクチンが話題になり、それを手に入れることはできないかとボスから尋ねられた。しかし、筆者には手に入れることはかなわず、筆者も指示されたサルでの実験はできなかった。筆者は1982年に帰国し、大学で脂質異常症の治療を始めた。その当時はもっぱらフィブラート系薬剤とニコチン酸系薬剤がわずかながら効果があるということで、食事療法や運動療法とともに、これらの薬剤を用いた治療を行っていた。また、1985年にプロブコールが発売され、そのコレステロール低下効果は驚くべきものがあったが、これらが本来の目的である動脈硬化予防に効果があるのかは疑問符がついたままであった。約40年以上前のことである。2. この30年でどのように診療が進歩したのか(30年前~10年前)30年前、すなわち1996年頃は1994年に4Sという二次予防試験、1995年にはWOSCOPSという一次予防試験が発表され、もっぱらスタチンの動脈硬化性疾患の予防効果検証の時代であった。我が国では、米国に遅れて1989年にプラバスタチンが発売されたが、発売に至るには険しい道のりがあった。プラバスタチンの効果検証の第II相試験(ダブルブラインド)において立て続けに試験対象者に脳出血の報告があったのである。やむなくこの2例に限ってオープンするという苦渋の決断になり、オープンしたところその2例とも対照薬であることが判明し、試験は継続・完了し、プラバスタチンの有効性並びに安全性も証明され、発売に至ったのである。その当時、わが国でもWOSCOPSと同様のプラバスタチンの試験を行いたいと検討をしていたが、法律家の委員の先生から我が国では慎重にすべきという助言をいただき臨床試験はできなかった。このスタチンを用いた4SやWOSCOPSが発表されると、その後続々とさまざまな対象者に対する大規模臨床試験が発表され、特に”Lower the Better”というような試験が発表されると、二次予防を熱心にしている循環器専門医が中心となって、スタチンを使用するようになった。しかし、スタチンだけではLDL-Cの低下効果は十分ではないことが指摘されていた。その後、コレステロール吸収を抑制するエゼチミブが2007年に発売され、スタチンとエゼチミブを併用することにより、より低下効果が高まり、これも大規模臨床試験で有効性が明らかになった。最近ではその配合剤も発売されこれらの薬剤が汎用されるようになった。3. この30年でどのように診療が進歩したのか(10年前~現在)2016年に、PCSK9モノクローナル抗体という新たな発想による治療薬が発売されるに及んで、最近ではLDL-Cは際限なく(つまり血中では0mg/dL近くまで)下げられること、並びにそれで安全であることも示され、新たな世界に入った感がある。この注射薬は2週間に1回の注射で十分であることが示され、患者の自己注射も可能となった。さらに、インクリシランというPCSK9の合成を抑制するsiRNAも2023年に薬剤として発売され、6ヵ月に1回の注射で十分な効果を発揮することが示され、まさに画期的であった。このほかにも、これまで2週間に1回程度のLDL-アフェレーシスしか選択肢のなかったホモ型家族性高コレステロール血症(Ho-FH)に対する治療薬としてMTP阻害薬であるロミタピドが2016年に発売されたが、Ho-FHの症例数が少ないのと(約30万人に1人の発症率といわれ、発見率も低い)、下痢などの副作用があり、脂肪食の摂取制限などの課題もあり、十分な使用実績がない。しかし、LDL-Cの低下効果は十分認められ、症例の発掘と副作用の軽減化が課題となっている。4. 私にとってのパラダイムシフトこのような治療薬のエビデンスの集積があり、日本動脈硬化学会でも脂質異常症治療のガイドライン(GL)作りが開始され、私は1997年に初めて動脈硬化性疾患診療GLに携わることとなった。そして2002年にはGL作成委員長を拝命し、以後2012年の改定まで3回の改訂作業に携わった。これまで触れてきたように、その間に多くの薬剤開発がなされ、その都度治療エビデンスも蓄積しており、それに対応すべく改定作業が行われてきた。その過程で、GLには薬剤が関与している関係から私のCOIの問題を感ずるようになった。その頃、日本医学会や日本医療機能評価機構におけるMindsというGLの指針が出てきたことにより、私の立場(その当時多くの製薬会社の協賛で寄付講座を持っていた)から、第一線を退くこととした。また、その当時は日本医学会の副会長に任命されており、さらには日本専門医機構の理事長を拝命することにより、いずれの学会の立場から離れるべきという立場となった。とはいえ、自身のクリニックでは高コレステロール血症の治療を行う立場でもあり、批判的に薬剤を使用する立場となった。そのことにより、実臨床で疑問に思うことも多々あり、GLの在り方、専門医の在り方なども深く考えるようになった。そのなかで、脂質異常症の治療薬はほぼ完成したという考えに至ったところに、新たな発想の薬剤が開発され、まだまだ今後の発展がありうると実感している。5. 次の5年で脂質異常症診療はこう変わる今後の5年では、現在の脂質異常症治療薬の使い方の徹底がなされるべきであるとともに、アンメットニーズを抉り出し、それに応じた診療を開発すべきであり、できると思う。1つは高コレステロール血症患者で治療すべき患者の選択であり、選択した患者のうちどの薬剤で、どの程度治療すべきなのか、つまりプレシジョンメディスンを実臨床で行えるようになると思う。そして、今後、さらに長期的にLDL-Cを低下させる治療法が開発され、遺伝子情報から比較的早くから一生のうち1ないし2回くらい治療すれば済むというワクチン的なLDL-C低下療法が筆者の夢である。さらには、食事の吸収に関する遺伝子が発見され、それに関連した治療薬が開発されることにより、肥満も含めて、食事療法が必要なくなる(?)という将来を筆者は夢見ている。

18.

orforglipronはSGLT2阻害薬を超えた存在になるか?:ACHIEVE-2試験から(解説:永井聡氏)

 orforglipronは、空腹時の服用や飲水制限といった条件が不要で、食後投与が可能な経口GLP-1受容体作動薬である。本剤の2型糖尿病に対する実薬対照RCTとしてはすでにACHIEVE-3試験が発表されており、低用量(12mg)でも経口セマグルチド14mgに対して有意なHbA1c低下を示し「勝利」を収めている1)。 今回取り上げるACHIEVE-2試験は、メトホルミンでコントロール不十分な2型糖尿病患者を対象に、orforglipron(3/12/36mgカプセル)とSGLT2阻害薬ダパグリフロジン10mgを比較した国際多施設共同試験である。結果は、orforglipronが全用量においてダパグリフロジンに対し血糖降下作用の非劣性および優越性を示し、再び「完全勝利」となった。PIONEER 2試験において経口セマグルチド14mgがエンパグリフロジン25mgを凌駕したことを踏まえれば2)、この結果は想定内とも言えるが、実臨床に与える影響は小さくない。 本邦の2型糖尿病の薬物治療アルゴリズム3)では、病態に応じた薬剤選択(肥満)の推奨薬として、メトホルミン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の順に記載されている。SGLT2阻害薬が優先される理由は、豊富な心血管・腎臓への保護効果のエビデンスに加え、既存の経口GLP-1受容体作動薬が服用条件に制約があるのに対し、処方や内服が容易であるためである。しかし、他の降圧薬等と一包化も可能で服薬条件に縛られないorforglipronの登場は、血糖降下作用と利便性の両面でSGLT2阻害薬を上回る存在になりうる。現在実施中の心血管アウトカム試験(ACHIEVE-4)の結果次第では、将来的に推奨順位が逆転する可能性もある。 一方で、試験結果の解釈は慎重にすべき点もある。第一に、orforglipron群は盲検化されたがダパグリフロジン群は非盲検であったため、新薬への「期待バイアス」が生じた可能性は否めず、orforglipronの臨床効果は過大評価となった可能性である。第二に、消化器症状による脱落率の高さである。本試験では、ダパグリフロジン群の6%に対し、orforglipron群では15%以上と高率であった。継続できなければ期待される恩恵にあやかれない。第三に、DECLARE-TIMI 58やDAPA-CKDなどで確立された長期安全性や心腎保護、二次予防の観点では、依然としてダパグリフロジンに軍配が上がることである。新薬への「期待バイアス」は患者だけではなく処方する医師にも起こりうる。さらに盲点となるのが薬物相互作用である。CYP3A4に関連する薬剤(クラリスロマイシンやイトラコナゾール)などではorforglipronとの併用注意・併用回避が必要な場合があり、多剤併用中の高齢者への処方はとくに注意が必要である。 ともあれ、かつて脂質異常症の治療は食事療法が主体であったが、ストロングスタチンの登場により、厳格な食事指導が緩和された歴史がある。糖尿病においても食事療法が基本であることに変わりはないが、強力な食事制限なしに血糖値と体重の改善をもたらすorforglipronは、まさに糖尿病領域における「ストロングスタチン」となる可能性がある。日進月歩でGLP-1関連薬は次々と新薬開発が進むが、個々のライフスタイルに合わせた処方や早期介入が進むことで、糖尿病寛解が夢物語でなくなることを願うばかりである。

19.

AHA/ACC脂質異常症GL改訂、スタチンによる1次予防の対象が大幅に拡大/JAMA

 米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)による2026年版の脂質異常症ガイドラインでは、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の推定リスクおよび1次予防においてスタチンが適応となる集団について新たな推奨事項が提示された。米国・ピッツバーグ大学のTimothy S. Anderson氏らは、2018年版から2026年版への変更により、ASCVDの1次予防を目的とするスタチン療法の対象となる米国の人口が推定2,150万人拡大し、結果として30~79歳の非妊娠成人の半数以上が現在、1次予防におけるスタチンの適応となっており、新たな適応集団の多くは、ASCVDの推定10年リスクが3%未満(平均値3.1%)であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年7月20日号に掲載された。2026年版の変更が公衆衛生に及ぼす影響を検討 研究グループは、2026年版AHA/ACC脂質異常症ガイドラインに基づくスタチン療法による1次予防が、公衆衛生に及ぼす影響の評価を目的に、米国の国民健康栄養調査(NHANES)の全国的な代表的データを用いて検討を行った(米国国立老化研究所[NIA]の助成を受けた)。 対象は、2017~23年にNHANESに参加し、ASCVDを有さず、年齢30~79歳の非妊娠成人の横断的サンプルとした。データの解析は、2026年3~5月に行った。 主要評価項目として、1次予防におけるスタチン療法の適応基準の変更の影響を、2026年版と2018年版のガイドラインを比較することで評価した。8.6%がASCVDリスクとは独立にスタチンの適応、適応外は37.9% 加重サンプルには、米国の成人1億5,450万人(加重平均年齢51歳、女性52.0%、白人62.2%、ヒスパニック系16.4%、黒人10.5%、アジア系6.3%)を代表する4,366人のNHANES参加者が含まれた。 2026年版ガイドラインに基づくと、このうち860万人(5.5%、95%信頼区間[CI]:4.7~6.6)が、未治療でLDLコレステロール(LDL-C)値<70mg/dLであり、スタチンは推奨されない集団であった。2,760万人(17.8%、95%CI:16.3~19.5)は、すでにスタチンの投与を受けていた。 また、1,330万人(8.6%、95%CI:7.6~9.8)は、それぞれLDL-C値≧190mg/dL(360万人[2.3%、95%CI:1.6~3.3])、40~75歳で糖尿病(780万人[5.0%、95%CI:4.3~5.8])、40~75歳でステージ3以上の慢性腎臓病(200万人[1.3%、95%CI:0.9~1.8])であり、ASCVDリスクとは独立にスタチン投与の適格基準を満たし、いずれもストロングスタチンが推奨された。 残りの1億510万人(68.0%、95%CI:65.9~70.0)が、ガイドラインの推定ASCVDリスクに基づく判定基準によりスタチン適応の可否が決まる集団であった。 10年ASCVDリスクが高(≧10%)の集団は320万人(2.0%、95%CI:1.5~2.7)であり、中(5~<10%)が1,140万人(7.4%、95%CI:6.5~8.4)、境界型(3~<5%)が1,290万人(8.4%、95%CI:7.2~9.7)、低(<3%)は7,760万人(50.2%、95%CI:47.7~52.7)であった。 10年ASCVD低リスク集団のうち、LDL-C値<160mg/dLで、30年リスク<10%の集団(5,850万人、37.9%、95%CI:35.8~40.0)はスタチン適応外であるが、これ以外の参加者はストロングまたは中強度スタチンが推奨された。スタチンによる1次予防の対象が大幅に拡大 8,750万人(56.6%、95%CI:54.2~58.9)が2026年版ガイドラインに基づきスタチンの適応となり、このうち新たに適応となったのは2,150万人(13.9%、95%CI:12.5~15.5)であった。 また、70~79歳の93.5%および60~69歳の85.0%が、スタチンによる1次予防の対象となるのに対し、30~39歳では11.1%と少なかった。 従来からスタチン療法が推奨されていた集団に比べ、新たにスタチンの適応となった集団は、全般に若年層であり、リスクも低かった(推定10年ASCVDリスクの平均値:新規スタチン適応集団3.1%[95%CI:2.7~3.5]、従来スタチン適応集団6.1%[95%CI:5.8~6.4])。 著者は、「2026年版の脂質異常症ガイドラインは、主に低リスクの集団を対象に、スタチンによる1次予防が推奨される米国の成人集団を大幅に拡大している」とまとめている。また、「今回の解析では、現在、薬物療法を受けている患者の大多数が、2026年版ガイドラインでもスタチンの『強い』または『中等度』の適応を保持していることを確認した」としている。

20.

CKDの生命予後・腎予後に対するmGFR評価の意義とeGFRの有用性(解説:浦信行氏)

 腎機能評価にはmGFRが最も有用であるが、その煩雑性から生命予後・腎予後との関連を示した成績は少ない。スウェーデンの成人のイオヘキソールを用いたmGFR値とこれらの関連を後ろ向きに評価し、併せてeGFRの有用性を後ろ向きに評価した成績がJAMA誌オンライン版で発表され、追跡期間中央値5.9年の概要がジャーナル四天王(2026年7月3日配信)に掲載された。その結果、mGFR90の群に対してmGFR60ですでに死亡率は1.21倍、腎代替療法導入では実に2.85倍の高頻度であった。この成績はmGFRで60がCKDの閾値であることを明らかにした意義のある研究である。 評価の簡便性により実臨床で頻用されるeGFRでの評価も同時に行っており、mGFRを基準として予後評価を行っている。最も頻用されている血漿クレアチニン値で算出したeGFRcrとシスタチンCで評価したeGFRcysの両者を検討したが、クレアチニンは筋肉量の影響を受け、シスタチンCは炎症、喫煙、肥満、ステロイド治療などの影響を受ける。その結果算出されたeGFRcrは筋肉量減少で実際より高値になり、eGFRcysは肥満などで高値を示す。結果的に両eGFRの平均値がmGFRでの成績に一致した。したがって、サルコペニアや肥満などの背景を有する例に対しては、両者を測定することが重要との成績である。 この報告はmGFRの予後評価における有用性を示した優れた論文であるが、eGFRについてはすでに英国のバーミンガム大学を中心とした多施設共同研究で正確な腎機能変化の評価にはクレアチニンとシスタチンCの両者を用いた方法が優れることを3年間の前向き研究で明らかにし、ジャーナル四天王(2026年4月2日配信)にその概要が掲載されている。中等度CKDのクレアチニンとシスタチンCを半年ごとに測定し、Log変換した値を用いてeGFRの3年間のスロープを評価した結果、eGFRcrとeGFRcys各々で評価した値よりは両者を併用した値が基準値であるmGFRにより近似していたと報告されており、両者を同時評価することの重要性を示唆している。日本腎臓学会でも評価方法は異なるが両者を用いたeGFRの同時評価を先行して行ってイヌリンクリアランスと対比し、2012年のCKD診療ガイドラインに両者の平均eGFRの正確度が高いと報告している。しかし、両者の平均値で評価するのも症例によっては限界がある。 超高齢化社会を迎えたわが国ではサルコペニアなどによりeGFRcrが極端に高値の場合も珍しくない。両者の併用の意義は理解できるが、症例の病態やADLを考慮した評価も念頭に置く必要があると考える。

検索結果 合計:705件 表示位置:1 - 20